SDGs Design School: Exploration 1.0
(Japanese Version) 気候変動、高齢化、絶滅危惧種、食糧不足などの問題は、世界中で、そ して我々の地域社会でも、重要な課題となっています。次の世代により明る い未来を残すために、持続可能な開発目標はかつてないほど喫緊の課題 となっています。この課題に取り組むには、一部の人だけではなく、人類全 体の協力が必要です。 我々は、若い世代が世界の持続可能な発展に貢献する能力と創造性を 持っていると信じています。教育は、生徒を持続可能な開発問題に触れさ せ、彼らの視点から解決策を考えさせる、重要な役割を担っています。 九州大学大学院芸術工学研究院SDGsデザインユニットは、2019年か ら福岡市立福翔高校と連携し、17名の生徒を対象とした「SDGsチャレン ジプロジェクト」という短期ワークショップを実施しました。2021年には、 福翔高校の高校三年生全員を対象とした、半年間にわたる全校プログラム に発展しました。SDGsチャレンジプロジェクトの参加者は、ごく限られた 時間の中で、創造力と想像力を駆使し、持続可能な開発問題の解決に向 けて、たくさんの興味深いアイデアを提案しました。 このハンドブックを通じて、2019年から2021年にかけて、SDGsチャレ ンジプロジェクトを企画し、設計し、実施したこれまでの過程と経験を共 有したいと思います。教育や学術関係の方々など、身近なコミュニティであ なた自身のSDGsチャレンジプロジェクトを実施する際に、このハンドブッ クが少しでもお役に立てることを願っています。Created by SDGs Design School (https://www.mirai.design.kyushu-u.ac.jp/en/sdgsds/top/)
(Japanese Version)
気候変動、高齢化、絶滅危惧種、食糧不足などの問題は、世界中で、そ して我々の地域社会でも、重要な課題となっています。次の世代により明る い未来を残すために、持続可能な開発目標はかつてないほど喫緊の課題 となっています。この課題に取り組むには、一部の人だけではなく、人類全 体の協力が必要です。
我々は、若い世代が世界の持続可能な発展に貢献する能力と創造性を 持っていると信じています。教育は、生徒を持続可能な開発問題に触れさ せ、彼らの視点から解決策を考えさせる、重要な役割を担っています。
九州大学大学院芸術工学研究院SDGsデザインユニットは、2019年か ら福岡市立福翔高校と連携し、17名の生徒を対象とした「SDGsチャレン ジプロジェクト」という短期ワークショップを実施しました。2021年には、 福翔高校の高校三年生全員を対象とした、半年間にわたる全校プログラム に発展しました。SDGsチャレンジプロジェクトの参加者は、ごく限られた 時間の中で、創造力と想像力を駆使し、持続可能な開発問題の解決に向 けて、たくさんの興味深いアイデアを提案しました。
このハンドブックを通じて、2019年から2021年にかけて、SDGsチャレ ンジプロジェクトを企画し、設計し、実施したこれまでの過程と経験を共 有したいと思います。教育や学術関係の方々など、身近なコミュニティであ なた自身のSDGsチャレンジプロジェクトを実施する際に、このハンドブッ クが少しでもお役に立てることを願っています。Created by SDGs Design School (https://www.mirai.design.kyushu-u.ac.jp/en/sdgsds/top/)
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<strong>SDGs</strong> <strong>Design</strong> <strong>School</strong><br />
<strong>Exploration</strong> <strong>1.0</strong>
目 次<br />
はじめに 5<br />
一 般 教 育 におけるデザイン 7<br />
<strong>SDGs</strong>について 13<br />
<strong>SDGs</strong> 教 育 をすべての 人 へ 16<br />
福 翔 高 等 学 校 における「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」 19<br />
2019 年 度 <strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトグローバル 経 営 プログラムでの 実 践 23<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト 総 合 的 な 探 究 の 時 間 での 実 践 28<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト 総 合 的 な 探 究 の 時 間 教 員 の 振 り 返 り 31<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト 総 合 的 な 探 究 の 時 間 生 徒 の 振 り 返 り 34<br />
高 校 生 に<strong>SDGs</strong> 意 識 を 浸 透 させる デザイン 教 育 の 導 入 39<br />
「 問 題 」の 発 見 から 始 まる 高 校 生 の 主 体 性 を 伸 ばすデザイン 教 育 43<br />
<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムのためのツールデザイン 49<br />
STEA M 教 育 としての<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト 53<br />
おわりに 57<br />
謝 辞 59
はじめに<br />
気 候 変 動 、 高 齢 化 、 絶 滅 危 惧 種 、 食 糧 不 足 などの 問 題 は、 世 界 中 で、そ<br />
して 我 々の 地 域 社 会 でも、 重 要 な 課 題 となっています。 次 の 世 代 により 明 る<br />
い 未 来 を 残 すために、 持 続 可 能 な 開 発 目 標 はかつてないほど 喫 緊 の 課 題<br />
となっています。この 課 題 に 取 り 組 むには、 一 部 の 人 だけではなく、 人 類 全<br />
体 の 協 力 が 必 要 です。<br />
我 々は、 若 い 世 代 が 世 界 の 持 続 可 能 な 発 展 に 貢 献 する 能 力 と 創 造 性 を<br />
持 っていると 信 じています。 教 育 は、 生 徒 を 持 続 可 能 な 開 発 問 題 に 触 れさ<br />
せ、 彼 らの 視 点 から 解 決 策 を 考 えさせる、 重 要 な 役 割 を 担 っています。<br />
九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 <strong>SDGs</strong>デザインユニットは、2019 年 か<br />
ら 福 岡 市 立 福 翔 高 校 と 連 携 し、17 名 の 生 徒 を 対 象 とした「<strong>SDGs</strong>チャレン<br />
ジプロジェクト」という 短 期 ワークショップを 実 施 しました。2021 年 には、<br />
福 翔 高 校 の 高 校 三 年 生 全 員 を 対 象 とした、 半 年 間 にわたる 全 校 プログラム<br />
に 発 展 しました。<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトの 参 加 者 は、ごく 限 られた<br />
時 間 の 中 で、 創 造 力 と 想 像 力 を 駆 使 し、 持 続 可 能 な 開 発 問 題 の 解 決 に 向<br />
けて、たくさん の 興 味 深 いアイデ アを 提 案 しました。<br />
このハンドブックを 通 じて、2019 年 から2021 年 にかけて、<strong>SDGs</strong>チャレ<br />
ンジプロジェクトを 企 画 し、 設 計 し、 実 施 したこれまでの 過 程 と 経 験 を 共<br />
有 したいと 思 います。 教 育 や 学 術 関 係 の 方 々など、 身 近 なコミュニティであ<br />
なた 自 身 の<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトを 実 施 する 際 に、このハンドブッ<br />
クが 少 しでもお 役 に 立 てることを 願 っています。
一 般 教 育 におけるデザイン<br />
Leon Loh<br />
はじめに<br />
21 世 紀 を 生 きる 生 徒 は、 複 雑 で 不 確 実 な 未 来 に 直 面 しています。 世 界<br />
情 勢 が 不 透 明 な 中 、 日 本 の 高 校 教 育 では 新 たな 方 向 性 として、1 社 会 と 地<br />
域 とのつながり、2 思 考 力 ・ 判 断 力 ・ 表 現 力 の 育 成 、3 道 徳 教 育 ・ 体 験 学 習<br />
の 充 実 、という 三 つの 教 育 目 標 が 重 視 されています。デザイン 教 育 は、 上 記<br />
の 三 つの 重 要 な 教 育 目 的 を 達 成 するのに 適 しています。 海 外 では、デザイ<br />
ン 教 育 を 中 学 ・ 高 校 の 一 般 教 育 の 一 科 目 として、「デザインと 技 術 」や「 技<br />
術 教 育 」の 科 目 の 中 で 実 施 しています。しかし、 日 本 では、 主 に 高 等 教 育 で<br />
デザイン 教 育 が 行 われています。「 技 術 教 育 」は 日 本 の 中 学 校 でも 実 施 さ<br />
れていますが、 技 術 的 な 知 識 や 技 能 を 中 心 とした 科 目 であり、 海 外 と 比 較<br />
すると、デザインに 関 する 学 習 は 多 くありません。 本 章 では、 一 般 教 育 とし<br />
てのデザイン 教 育 がどのように 提 供 され、デザイン 活 動 を 通 じてどのように<br />
思 考 力 が 養 われるのかを 紹 介 したいと 思 います。<br />
一 般 教 育 としてのデザイン 教 育<br />
デザイン 教 育 についての 一 般 的 な 既 成 概 念 は、 生 徒 をデザインの 専 門<br />
家 として 育 成 するための 専 門 教 育 に 関 するものでしたが、Nigel Crossは<br />
『<strong>Design</strong>erly Ways of Knowing』で、デザインの 価 値 を 万 人 のための<br />
一 般 教 養 として 正 当 化 しました 1) 。また、C r o s s は、 生 徒 が デ ザインを 通 し<br />
て、 一 般 的 に 自 然 科 学 や 人 文 科 学 で 明 確 に 定 義 されている 問 題 とは 異 なっ<br />
た、 明 確 に 定 義 されていない 問 題 を 解 決 する 能 力 を 育 成 することができる<br />
とも 説 明 しました。ある 意 味 デザインは、 明 確 に 定 義 されていない 現 実 問 題
への 取 り 組 みの 一 形 態 ではありますが、すべての 問 題 解 決 にデザインが 含<br />
まれるわけではありません 2)~3) 。<br />
デザインを 通 じて 現 実 問 題 に 取 り 組 む 学 習 活 動 として、「デザインと 技<br />
術 」と「 技 術 教 育 」があります。「デザインと 技 術 」と「 技 術 教 育 」は、 工 芸<br />
教 育 が 起 源 ですが、 近 年 では 工 芸 教 育 から 離 れ、21 世 紀 型 スキルを 育 成<br />
する 科 目 としてデザイン 活 動 の 割 合 が 徐 々に 増 しています 4) 。「 デ ザ イ ンと<br />
技 術 」や「 技 術 教 育 」は、 欧 米 、オセアニア、アジア 等 の 世 界 各 国 では 一 般<br />
教 育 科 目 ですが、 一 般 的 には 政 治 的 ・ 社 会 的 ・ 学 校 的 ・ 個 人 的 文 脈 によっ<br />
て、 教 育 の 焦 点 が 異 なります 5)~9) 。「デザインと 技 術 」や「 技 術 教 育 」では、<br />
生 徒 はコミュニケーションデザイン、プロダクトデザイン、テキスタイル・フ<br />
ァッションなどのデザイン 分 野 に 触 れることができます。 一 方 、 一 般 教 育 で<br />
は、 最 終 的 な 成 果 物 よりも、プロトタイプなどの、デザインプロセスにおけ<br />
る 学 習 効 果 を 重 視 しており、 職 業 訓 練 を 目 的 としたものではなく、 思 想 力<br />
や21 世 紀 型 スキルを 身 につけるアプローチが 中 心 となります 10) 。 最 終 的 な<br />
成 果 物 よりもプロセスに 焦 点 を 当 てて 評 価 します 11) 。「 デ ザ イ ンと 技 術 」と<br />
「 技 術 教 育 」に 関 するさまざまな 研 究 によると、 一 般 教 育 におけるデザイ<br />
ン 教 育 の 本 質 を 以 下 のように 示 すことができます。<br />
• デザイン 活 動 を 学 ぶことを 通 して、 批 判 的 思 考 力 、 創 造 的 思 考 力 、シ<br />
ステム 思 考 力 、 問 題 解 決 力 などの 高 次 の 思 考 力 を 養 うことができま<br />
す 12)~16) 。また、 企 画 力 、 実 行 力 、 評 価 力 を 養 うことができます 17) 。<br />
• 議 論 や 会 話 を 通 して 社 会 文 化 的 な 学 習 を 促 進 します 18) 。<br />
• 明 確 に 定 義 されていない 現 実 問 題 を 解 決 することは、 自 然 科 学 、 数<br />
学 、 計 算 機 科 学 などの 他 科 目 のカリキュラムの 学 習 を 強 化 します。さら<br />
に、 実 際 の 問 題 を 解 決 することで、 知 識 やスキルを 現 実 世 界 での 応 用<br />
に 結 びつけることができます。このように、 問 題 とニーズを 結 び 付 ける<br />
ことで、「 社 会 性 と 情 動 の 学 習 」を 発 展 させることができます 19)~20) 。<br />
• 学 習 に 対 する 生 徒 を 中 心 とした 構 成 主 義 的 アプローチ 21) が 可 能 とな<br />
ります。<br />
デザイン 活 動 を 通 じて、デザイン 思 考 をはじめとする 思 考 力<br />
を 養 う<br />
8<br />
デザイン 思 考 という 言 葉 を 聞 いたことがあるでしょうか?デザイン 思 考<br />
の 語 源 を 辿 ると、1960 年 代 後 半 に 登 場 しています 22) 。G e o r g i e v 23) によれ<br />
ば、デザイン 思 考 の 概 念 はLawson 24) によって 明 示 的 に 用 いられ、Cross 25)<br />
とSchön 26) によって 発 展 させたものであると 言 われています。デザイン 思 考<br />
は、 少 なくとも、1デザイナーの 分 析 と 2 人 間 中 心 の 問 題 解 決 、という 二 つ<br />
の 視 点 に 区 別 することができます 27) 。 前 者 は 活 躍 中 のデザイナーの 実 践 に<br />
関 する 研 究 に 対 して、 後 者 は 意 思 決 定 者 が 難 解 な 現 実 問 題 を 解 決 するた<br />
めに 用 いる、 人 間 中 心 の「 開 放 的 」な 問 題 解 決 プ ロセスと 言 えます 28) 。 歴<br />
史 的 な 観 点 から 見 ると、デザイン 思 考 には 多 様 な 理 解 があります。デザイン<br />
思 考 を 決 定 的 に 定 義 付 けすることは 難 しいのですが、デザイン 思 考 には 以<br />
下 のいくつかの 観 点 が 含 まれています 29) 。
• 理 解 力 としての 応 用<br />
• 内 省 的 思 考 アプローチ<br />
• 多 様 な 思 考 法 や 媒 体 の 使 用<br />
• 難 解 な 問 題 へのアプローチ<br />
• 問 題 解 決 の 枠 を 超 えた 活 動<br />
• 多 様 なスキルや 知 性 の 包 含<br />
• 情 報 処 理 の 構 造 化 された 実 践<br />
• 情 報 処 理 の 認 知 方 式<br />
• 明 確 でない 問 題 (「 厄 介 な 問 題 」とも 呼 ばれる)に 対 処 するための<br />
戦 略<br />
デザイン 思 考 を 身 につけるためには、 問 題 発 見 とソリューションを 展 開 す<br />
る 発 散 プロセスと、 発 散 したアイデアをまとめたり 評 価 する 収 束 プロセスを<br />
繰 り 返 します 30) 。 例 えば、「デザインと 技 術 」の 演 習 授 業 は、デザイン 思 考 を<br />
発 展 させる 良 い 機 会 となるでしょう。ここでは 主 に、 理 由 づけと 内 省 的 思 考<br />
力 を 育 てます。それでは、 理 由 づけと 内 省 的 思 考 力 は 一 つ 一 つの 活 動 を 通<br />
してどのように 養 われるのでしょうか?この 活 動 は、デザインプロセスに 従 っ<br />
て 常 に 発 散 と 収 束 の 思 考 プロセスを 行 います。デザインプロセスを 経 ること<br />
で、デザイン 思 考 のスキルを 身 につけることができます<br />
図 1は、デザインプロセスを 示 す 概 念 図 で、 一 般 的 に 以 下 の 項 目 で 構 成<br />
されています。<br />
a. 問 題 発 見<br />
b. アイデアの 概 念 化<br />
c. デザイン 開 発<br />
d. プ ロトタイプ( 現 実 化 )<br />
e. 問 題 の 解 決 策 に 対 する 評 価<br />
図 1 デザインプロセス<br />
9
問 題 発 見 のプロセスでは、 生 徒 はマインドマップや 問 題 をリスト 化 する<br />
ことで、さまざまな 問 題 を 探 索 します。その 後 、なぜその 問 題 が 最 重 要 の 問<br />
題 なのか 合 理 的 に 説 明 するためのリサーチを 行 います。このリサーチ 段 階<br />
では、さまざまな 質 問 をすることで、 生 徒 は 合 理 的 な 理 由 づけをできるよう<br />
になっていきます。<br />
問 題 を 定 義 する 際 に、あらゆるデザインプロセスの 最 初 のステップは 質<br />
問 することから 始 まります 31) 。 問 題 を 定 義 する 際 になされる 議 論 が、 正 しい<br />
前 提 に 基 づいているか、 論 理 的 に 破 綻 していないかを 判 断 するためには、<br />
批 判 的 思 考 で 考 える 必 要 があります 32) 。リサ ー チ を 通 して、 生 徒 は 自 分 の<br />
主 張 に 根 拠 を 示 すことができます。ButterworthとThwaitesによると、 生<br />
徒 は 理 由 づけのプロセスを 習 得 することで、 既 に 知 っている 知 識 を 用 いる<br />
段 階 から、 新 しい 知 識 と 理 解 を 得 る 段 階 へ 進 み、その 理 解 を 用 いて、 確 信<br />
を 持 って 決 定 と 判 断 を 行 うことができるようになります 33) 。 理 由 づ けは 批<br />
判 的 思 考 の 重 要 なプロセスなのです。<br />
批 判 的 思 考 、 問 題 解 決 、 意 思 決 定 はすべて 内 省 的 思 考 の 一 部 と 言 える<br />
でしょう 34) 。 内 省 的 思 考 に 取 り 組 む 際 、 生 徒 は 衝 動 的 に 決 定 を 下 すのでは<br />
なく、 代 替 案 を 慎 重 に 検 討 し、 結 果 を 吟 味 し、 利 用 可 能 な 根 拠 を 比 較 し、<br />
結 論 を 導 き 出 し、 仮 説 を 検 証 するなどの 作 業 を 行 う 必 要 があります。デザイ<br />
ンプロセスでは、 生 徒 は 評 価 と 意 思 決 定 をするための、 内 省 的 思 考 を 修 得<br />
します。<br />
デザインプロセスにおける 理 由 づけと 内 省 的 思 考 力 の 修 得 は、 主<br />
に 最 終 的 に 提 案 される 解 決 策 を 研 ぎ 澄 ますために 行 われる、 発 散 と<br />
収 束 の 反 復 プロセスによって 完 成 されます。 任 意 のテーマを 設 定 し、そ<br />
のテーマに 関 する 問 題 を 発 見 する 際 に、 生 徒 はまず「どのような 問 題<br />
がこのテーマに 関 連 しているのか?」という 問 いに 答 える 必 要 がありま<br />
す。この 問 いかけから 始 まり、テーマに 関 連 している 問 題 と 関 連 してい<br />
ない 問 題 が 混 在 している 状 況 の 下 で、 問 題 探 索 を 行 うことが 一 般 的 で<br />
す。D y m、A g o g i n o 、E r i s 、F r e y、L e i fe r は、デザイン 活 動 で 問 われ る 質<br />
問 には、 真 偽 に 関 わらず 複 数 の 既 知 の 答 えと、 未 知 のあり 得 るかもしれな<br />
い 答 えが 存 在 すると 言 います 35) 。 質 問 者 が 既 知 の 答 え か ら 、そ れ らを 統 合<br />
した 未 知 の 答 えを 導 き 出 そうとする 時 、 発 散 型 思 考 では 質 問 をすることで<br />
既 知 の 事 実 から 新 たな 未 知 の 可 能 性 を 引 き 出 します。<br />
10<br />
同 様 に、デザインプロセスの 中 のアイデアの 概 念 化 プロセスでは、 生 徒 は<br />
「 求 められる 機 能 に 合 った 形 、 技 術 、 色 、 製 造 方 法 、プロセスなどはどのよ<br />
うなものか?」という 問 いかけから 探 索 を 始 めます。それぞれの 発 散 型 思 考<br />
プロセスの 間 に、 生 徒 は 収 束 させるための 質 問 を 通 して、 取 捨 選 択 しなが<br />
ら 最 重 要 の 問 題 やソリューションを 導 き 出 します。Dymらは、 収 束 型 思 考<br />
の 特 徴 は、 収 束 に 向 かう 質 問 を 繰 り 返 しながら 答 えを 導 くことで 事 実 が 明<br />
らかになると 説 明 しています 36) 。 収 束 させるための 質 問 に 対 する 答 えは、 検<br />
証 を 重 ねて 確 からしさを 持 つことが 期 待 されます。このように、 生 徒 はデザ<br />
インプロセスのリサーチを 通 して、さまざまな 手 法 を 用 いて 事 実 を 明 らかに
したり、 検 証 しながら 自 らの 提 案 の 正 当 性 を 確 信 することで、 仮 定 や 仮 説<br />
を 更 新 することができます。デザイン 活 動 においてデザイン 思 考 力 を 育 む<br />
には、 発 散 と 収 束 のための 質 問 を 展 開 しながら、 理 由 づけと 内 省 的 思 考 力<br />
を 身 につけることが 不 可 欠 です。<br />
参 考 文 献<br />
1). Cross, N.: <strong>Design</strong>erly ways of knowing. <strong>Design</strong> Studies, 3(4), pp.221-227<br />
(1982)<br />
2). Jonasson, D.H.: Instructional <strong>Design</strong> Models for Well-Structured and<br />
Ill-Structured Problem-Solving Learning Outcomes, Educational Technology<br />
Research and Development, 45(1), pp.65-94 (1997)<br />
3). Jonasson, D.H.: Towards a design theory of problem solving. Educational<br />
Technology, Research and Development, 48(4), pp.63-85 (2000)<br />
4). Marc. De Vries: Technology Education: An international history, Handbook<br />
of Technology Education, Springer international handbooks of<br />
education, pp.73-84 (2018)<br />
5). Chia, S.C., Tan, S.C.J.: Teaching design & technology to develop students<br />
as persons: A Singapore vision. PATT Sessions at ITEEA Annual<br />
Conference 2012 proceedings, 26 (2), pp.1-6 (2012)<br />
6). Lin, K.Y., Chang, L.T., Tsai, F.H., Kao, C.P.: Examining the gaps between<br />
teaching and learning in the technology curriculum within Taiwan’s<br />
9-year articulated curriculum reform from the perspective of curriculum<br />
implementation, International Journal of Technology and <strong>Design</strong> Education,<br />
25(3), pp.363-385 (2015)<br />
7). Rasinen, A.: An analysis of the technology education curriculum of six<br />
countries, Journal of Technology Education, 15(1), pp.31-47 (2003)<br />
8). Banks, F., Williams, J.: International perspectives on technology education,<br />
Debates in <strong>Design</strong> and Technology Education, pp.31-48 (2013)<br />
9). Wakefield, D., Owen-Jackson, G.: Government policies and design and<br />
technology education, Debates in design and technology education,<br />
pp.7-20 (2013)<br />
10). Roberts, P.: The aims of design education, <strong>Design</strong> Education: a vision<br />
for the future, UK: Loughborough <strong>Design</strong> Press Ltd., pp.34-50 (2013)<br />
11). Stables, K.: Assessment in design and technology: Authenticity and management<br />
issues, Issues in <strong>Design</strong> and Technology Teaching, pp.129-<br />
149 (2002)<br />
12). Dow, W.: The role of implicit theories in the development of creative<br />
classroom, Data International Research Conference 2004, pp. 61-66<br />
(2004)<br />
13). Feng, W.W., Siu, K.W.M.: Meeting the challenges of education of education<br />
reform: Curriculum development of technology education in mainland<br />
China and Hong Kong, International conference on technology<br />
education in the Asia Pacific Region conference proceedings: Less if<br />
more, pp.447-457 (2009)<br />
14). Middleton, H.: Creative thinking, values and design and technology<br />
education, International Journal of Technology and <strong>Design</strong> Education,<br />
15(1), pp.61-71 (2005)<br />
15). Rutland, M., Barlex, D.: Perspectives on pupil creativity in design and<br />
technology in the lower secondary school curriculum in England, International<br />
Journal of Technology and <strong>Design</strong> Education, 18(2), pp.139-<br />
165 (2008)<br />
16). Barak, M.: Teaching and Learning Technology in different domains:<br />
tradition and future developments, Handbook of Technology Education,<br />
Springer international handbooks of education, pp.283-287 (2018)<br />
11
12<br />
17). 前 掲 7), pp.43-44.<br />
18). Fox-Turnbull, W.: Learning in technology, Technology Education for<br />
Teachers, The Netherlands: Sense Publisher, pp.55-92 (2012)<br />
19). 前 掲 16), pp.284<br />
20). 前 掲 18), pp.55-89.<br />
21). 前 掲 19)<br />
22). Hassi, L., Laakso, M.: Conceptions of design thinking in the design and<br />
management discourse: Open questions and possible directions for research,<br />
Proceedings of the IASDR 2011, the 4th World Conference on<br />
<strong>Design</strong> Research, 31 Oct.-4 Nov, (2011)<br />
23). Georgiev, G.V.: <strong>Design</strong> thinking: An overview, Special Issue of Japanese<br />
Society For The Science of <strong>Design</strong>, 20(1), pp.70-77 (2012)<br />
24). Lawson, B.: How designers think: The design process demystified, London:<br />
Architectural Press, (1980)<br />
25). 前 掲 1), pp.221-227.<br />
26). Schön, D.A.: The reflective practitioner: How professionals think in action,<br />
New York: Basic Books, (1983)<br />
27). 前 掲 23), pp.70-77.<br />
28). Melles, G.: Curriculum design thinking: A new name for old ways of<br />
thinking and practice?, Proceedings of the 8th <strong>Design</strong> Thinking Research<br />
Symposium (DTRS8) Interpreting <strong>Design</strong> Thinking, Sydney, 19-<br />
20 October, pp.299-308 (2010)<br />
29). 前 掲 23), pp.70-77.<br />
30). Lindberg, T., Meinel, C., Wagner, R.: <strong>Design</strong> thinking: A fruitful concept<br />
for IT development, <strong>Design</strong> Thinking: Understand-Improve-Apply,<br />
Understanding Innovation, Springer-Verlag Berlin Heidelberg, pp. 3-18<br />
(2011)<br />
31). Dym, C.L., Little, L.: Engineering design: A project-based introduction<br />
(2nd ed.), New York: John Wiley, (2003)<br />
32). Huges, W., Lavery, J., Dorn, K.: Critical thinking: An introduction to the<br />
basic skills (6th ed.), Canada: Broadview Press, (2010)<br />
33). Butterworh, J., Thwaites, G.: Thinking skills: Critical thinking and problem<br />
solving (2nd ed.), Cambridge University Press, (2013)<br />
34). 前 掲 33)<br />
35). Dym, C.L., Agogino, A.M., Eris, O., Frey, D.D., Leifer, L.J.: Engineering<br />
design thinking, teaching, and learning, Journal of Engineering Education,<br />
94(1), pp. 103-120 (2005)<br />
36). 前 掲 35)
<strong>SDGs</strong>について<br />
張 彦 芳<br />
デザインは 教 育 課 題 に 対 して 何 ができるのか<br />
21 世 紀 、 環 境 や 気 候 の 変 動 による 大 規 模 な 自 然 災 害 、 高 齢 化 社 会 、 少<br />
子 化 問 題 、 社 会 の 不 平 等 などさまざまな 社 会 的 課 題 があるなかで、 子 ども<br />
たちはこの 複 雑 で 不 確 実 な 未 来 にどう 直 面 すべきでしょうか。この 時 代 に<br />
合 わせた、 適 切 に 改 善 された 主 体 的 ・ 能 動 的 な 教 育 プログラムを 作 らなけ<br />
ればなりません。 多 くの 高 等 学 校 が 実 施 する 総 合 的 な 探 究 の 時 間 では、<br />
このような 新 しい 教 育 プログラムを 開 発 しています。 私 たちの 高 大 連 携<br />
<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムも 同 じ 取 り 組 みです。 長 期 視 点 でさまざまな 分 野 の<br />
教 育 者 が 協 力 して、 子 どもたちが 社 会 的 視 点 、 創 造 性 、コミュニケーション<br />
スキルなどの21 世 紀 型 スキルを 身 につけ、 自 発 的 に 提 案 できるような 教 育<br />
イノベーションを 促 進 する 教 育 プログラムの 開 発 を 目 指 しています。<br />
<strong>SDGs</strong>は 何 でしょうか<br />
<strong>SDGs</strong>は、Sustainable Development Goals( 持 続 可 能 な 開 発 目 標 )<br />
の 略 語 で、2015 年 9 月 の 国 連 サミットで 採 択 された「 持 続 可 能 な 開 発 のた<br />
めの2030アジェンダ」に 記 載 された2016 年 から2030 年 までの 目 標 です。<br />
“ 地 球 上 の 誰 一 人 として 取 り 残 さない”を 合 言 葉 に、 持 続 可 能 な 世 界 を 実 現<br />
するために、17のゴールから 構 成 されています( 図 1)。それぞれのゴールの<br />
中 にはさらに 細 かいターゲットが 設 定 されており、 全 部 で169のターゲット<br />
があります。 詳 細 内 容 については、 国 連 開 発 計 画 のウェブサイト 1) から 確 認<br />
できます。
<strong>SDGs</strong>が 定 められたことで、 世 界 の 共 通 目 標 として、さまざまな 背 景 の 人<br />
が 分 野 の 枠 を 超 えて 連 携 して、この<strong>SDGs</strong>の 目 標 に 向 かって 取 り 組 み 始 め<br />
ています。このハンドブックの 目 的 は、<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムを 作 ることに<br />
よって、 高 校 生 の 社 会 課 題 の 理 解 や 行 動 力 などに 繋 がる 教 育 に 貢 献 するこ<br />
とです。<br />
図 1 Sustainable Development Goalsの17のゴール<br />
なぜ<strong>SDGs</strong>が 必 要 でしょうか<br />
私 たちの 住 む 世 界 では、 実 際 にどのようなことが 起 こっているか 知 って<br />
いますか? 地 球 はどのような 非 常 事 態 に 直 面 しているか 知 っていますか?こ<br />
こで 少 し 例 をあげてみましょう。<br />
• 8 億 人 以 上 の 人 々が 既 に 気 候 変 動 による 被 害 ( 干 ば つ、 洪 水 、 異 常 気<br />
象 など )に 晒 されています。<br />
• 海 面 上 昇 率 は 年 平 均 3ミリという、3,000 年 で 最 大 の 速 度 で 上 昇 して<br />
います。<br />
• 全 世 界 の 野 生 生 物 の 数 は、 人 類 の 影 響 により 過 去 40 年 間 で60% 減<br />
少 しました。100 万 もの 動 植 物 の 種 が 数 十 年 以 内 に 絶 滅 に 瀕 すると<br />
言 われています。<br />
• 世 界 の 熱 帯 林 は 驚 異 的 な 速 さで 減 少 し、1 分 間 に30のフットボール<br />
競 技 場 に 相 当 する 面 積 を 失 っています。<br />
• 7 億 人 以 上 の 人 々が1 日 に2 米 ドル 未 満 という 極 端 な 貧 困 状 態 で 暮 ら<br />
しています。<br />
• 全 世 界 で1 億 5,200 万 人 以 上 が 児 童 労 働 を 強 いられています。<br />
14
このように 大 規 模 な 社 会 課 題 は 山 積 みの 状 態 です。 日 本 でも 同 様 に、<br />
生 産 消 費 は 増 加 傾 向 にあり、 過 度 な 消 費 や 大 量 のゴミ、フードロスなどの<br />
課 題 は 非 常 に 深 刻 になってきています。 地 球 人 にとっては 他 人 事 ではない<br />
緊 急 事 態 です。いち 早 く 世 界 の 人 々が 一 丸 となり、 連 携 して<strong>SDGs</strong>に 取 り 組<br />
まないと、 私 たちの 地 球 は 未 来 がないでしょう。<br />
どのように<strong>SDGs</strong>に 取 り 組 むのでしょうか<br />
<strong>SDGs</strong>の 目 標 はそれぞれ 非 常 に 大 きいもので、 容 易 に 達 成 することは 難<br />
しいですが、みんなの 力 を 合 わせて 一 緒 に 課 題 に 向 き 合 って、ともに 解 決<br />
策 を 模 索 することが 大 事 です。<br />
九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 は 得 意 とするデザイン 思 考 を 活 かし<br />
て、さまざまな 取 り 組 みを 行 っています。 例 えば、Global Goals Jam 2) と<br />
いうワークショップを2016 年 から 毎 年 行 なっています。このワークショップ<br />
は、<strong>SDGs</strong>の 達 成 に 向 け、グローバルな 視 点 で 持 続 可 能 性 を 考 え、ローカル<br />
な 課 題 解 決 のアイデアを 生 み 出 す2 日 間 の 国 際 的 な 市 民 参 加 型 ワークショ<br />
ップ です。2 日 間 のグル ープ ワークを 通 じて、S D G sへと 繋 がるサービス・プ<br />
ロダクト・アイデアを 作 っていきます。これまでに200 回 以 上 のワークショッ<br />
プが 開 催 され、7000 人 以 上 が 参 加 し、1000 以 上 のアイデアが 生 み 出 され<br />
ています。デ ザイナ ー 、プ ログラマー 、エンジニア、 研 究 者 、 市 民 など、さま<br />
ざまな 人 がクリエイティブな 発 想 や 力 を 持 ち 寄 り、<strong>SDGs</strong>へ 貢 献 する 世 界 規<br />
模 の 取 り 組 みです。 他 にも<strong>SDGs</strong>デザインスクールや<strong>SDGs</strong>デザインインタ<br />
ーナショナルアワードなど 多 くの 取 り 組 みを 行 なっています。<br />
<strong>SDGs</strong>は、 国 、 企 業 、 学 校 などの 組 織 の 取 組 みだけではなく、 生 活 者 一<br />
人 ひとりの 日 常 生 活 の 中 でもできることがたくさんあります。 例 えば、 不 要<br />
な 電 気 をつけっぱなしにしない、 食 事 をする 際 に 食 べ 残 しをしないなど、 普<br />
段 の 生 活 の 中 で 工 夫 すれば、フードロス、ゴミ 問 題 など 大 きい 社 会 課 題 に<br />
貢 献 することができます。<br />
大 事 なのはTHINK BIG, START SMALL, MOVE FASTです。<br />
一 緒 に 取 り 組 みましょう。<br />
<strong>SDGs</strong>を。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). 国 連 開 発 計 画 (UNDP) 駐 日 代 表 事 務 所 ウェブサイトhttps://www.jp.undp.org/<br />
content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html ( 最 終 閲 覧<br />
日 :2022.218)<br />
2). Global Goals Jam 公 式 サイト https://globalgoalsjam.org ( 最 終 閲 覧<br />
日 :2022.218)<br />
15
<strong>SDGs</strong> 教 育 をすべての 人 へ<br />
下 村 萌<br />
楽 しく、クリエイティブに<strong>SDGs</strong>を 知 ることから 始 めてみま<br />
せんか?<br />
九 州 大 学 <strong>SDGs</strong>デザインスクール 1) は、S D G sを 知 らない 方 や、S D G sに<br />
向 けてこれから 何 か 始 めたいと 思 う 方 、これからの 社 会 をつくる 子 どもや<br />
若 者 に、デザインの 考 え 方 を 使 いながら<strong>SDGs</strong>を 学 び、 実 践 する 教 育 プロ<br />
グラムを 提 供 しています。<br />
このスクールは、2019 年 に 設 立 した 九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究<br />
院 <strong>SDGs</strong>デザインユニットが 行 う 教 育 活 動 です。 子 どもから 大 人 までさ<br />
まざまな 人 を 対 象 に 地 域 の 学 校 や 公 民 館 、オンラインなどで 活 動 してお<br />
り、<strong>SDGs</strong>に 対 して、デザインの 領 域 で 貢 献 することを 目 指 しています。<br />
私 たちは2019 年 からケーススタディとして 小 学 生 、 高 校 生 、 大 学 生 向 け<br />
の<strong>SDGs</strong>デザインスクールを 開 講 してきました。そこでは、 生 徒 が 社 会 課 題<br />
を 発 見 し 、 解 決 策 を 考 えるというプ ロセスを 経 て、 自 分 の 身 近 なことから<br />
<strong>SDGs</strong>に 貢 献 できると 気 づくことができるようになります。 具 体 的 には 教<br />
育 、 健 康 、 貧 困 、 労 働 環 境 、 気 候 変 動 、 環 境 保 護 など 社 会 で 起 きているさ<br />
まざまな 課 題 を 見 つけ、その 課 題 の 核 心 が 何 であるか 深 く 知 るための 調 査<br />
を 行 います。 次 にグループでアイデアを 出 し 合 いながらその 課 題 をどうやっ<br />
て 解 決 するか 考 えます。<br />
他 の 科 目 と 違 い、ここでは 正 解 の 解 答 はありません。 教 員 が 生 徒 のディ<br />
スカッションを 促 したり、 違 う 視 点 を 与 えたり、 共 に 考 える 伴 奏 者 として 寄<br />
り 添 い、さまざまな 角 度 から 実 践 的 もしくはスペキュラティブな 解 決 策 を
生 み 出 します。 生 徒 は、こうしたプログラムを 通 して、21 世 紀 型 スキルと 呼<br />
ばれる、コミュニケーションスキル・ 創 造 性 ・ 批 判 的 思 考 ・ 社 会 性 と 情 動 の<br />
学 習 (Social Emotional Learning)を 身 につけます。<br />
<strong>SDGs</strong>デザインスクールのメリットは 生 徒 のためだけではありません。 生<br />
徒 を 指 導 する 教 員 にとっても、 地 域 の 多 様 なニーズや 社 会 の 急 激 な 変 化 に<br />
合 わせた<strong>SDGs</strong>の 新 しい 授 業 を 実 施 できる 利 点 があります。<strong>SDGs</strong>デザイン<br />
スクールの 授 業 に 登 壇 した 教 員 は「 生 徒 が 積 極 的 に 意 見 を 述 べたり 興 味 を<br />
持 って 課 題 を 進 めている 様 子 を 見 て、これからの 学 びは 答 えを 教 えるのでは<br />
なく、 今 回 のような( 正 解 のない) 形 なのかもしれない」と 振 り 返 りました。<br />
<strong>SDGs</strong>デザインユニットのメンバーは 教 壇 には 立 ちません。 私 たちの 役<br />
割 は、 創 造 性 を 育 む<strong>SDGs</strong> 教 育 を 実 践 するためのサポートです。<strong>SDGs</strong> 教 育<br />
を 実 現 するために、カリキュラムの 構 築 、 授 業 で 使 用 するツールの 開 発 、 創<br />
造 的 なアイデアを 引 き 出 すための 教 員 へのアドバイスなどを 行 います。<br />
これまでに 実 施 したケーススタディから 得 られた 知 見 や 成 果 を 誰 でも 使<br />
えるオープンソースの 教 育 パッケージとして 世 界 に 発 信 する 予 定 です。 教 育<br />
パッケージには 教 育 プログラムのガイドブック、 生 徒 が 使 用 するワークシー<br />
ト、 教 員 が 使 う 指 導 ツール、 参 考 資 料 などが 入 ります。 教 育 関 係 者 だけで<br />
なく、 地 域 のプロジェクトや 企 業 などでもぜひ<strong>SDGs</strong>デザインスクールの 教<br />
育 パッケージを 使 ってみてください。そして、さまざまな 視 点 からのご 意 見 や<br />
17
事 例 をお 寄 せください。<strong>SDGs</strong>に 向 かってさまざまなアクションが 生 まれる<br />
ことを 期 待 しています。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). 九 州 大 学 <strong>SDGs</strong>デザインスクール, 九 州 大 学 <strong>SDGs</strong>デザインユニット<br />
https:/www.sdgs.design.kyushu-u.ac.jp/2019/11/01/%E4%-<br />
B9%9D%E5%B7%9E%E5%A4%A7%E5%AD%A6s-<br />
dgs%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%-<br />
82B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB/ ( 最 終 閲 覧 日 : 2022.3.7)<br />
18
福 翔 高 等 学 校 における<br />
「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」<br />
手 島 政 則 吉 井 宏 平<br />
はじめに<br />
「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」という 科 目 をご 存 じですか?この 科 目 は2018<br />
年 の 学 習 指 導 要 領 改 訂 により 高 等 学 校 の「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 」が 名 称<br />
変 更 した 科 目 です。この 科 目 は「 探 究 の 見 方 ・ 考 え 方 」を 働 かせ、 横 断 的 ・<br />
総 合 的 な 学 習 を 行 うことを 通 して、 自 己 の 在 り 方 生 き 方 を 考 えながら、 課 題<br />
を 発 見 し 解 決 していくための 資 質 ・ 能 力 を 育 成 することを 目 的 としています<br />
1)<br />
。このような 授 業 が 行 われる 背 景 には、 凄 まじい 勢 いで 発 展 するAI 技 術<br />
の 進 歩 やグローバル 化 の 進 展 に 伴 う 社 会 構 造 の 変 化 があります。 近 い 将<br />
来 、Society5.0と 呼 ばれる 超 スマート 社 会 が 到 来 するとも 言 われており、<br />
今 まであった 多 くの 仕 事 がAIに 代 替 されるようになると 指 摘 されています 2)<br />
。 変 化 の 激 しい 予 測 困 難 な 社 会 の 中 で 学 校 教 育 には、 子 どもたちがさまざ<br />
まな 変 化 に 積 極 的 に 向 き 合 い、 他 者 と 協 働 して 課 題 を 解 決 していくことや、<br />
さまざまな 情 報 を 見 極 め、 知 識 の 概 念 的 な 理 解 を 実 現 し、 情 報 を 再 構 成 す<br />
るなどして 新 たな 価 値 につなげていくこと、 複 雑 な 状 況 変 化 の 中 で 目 的 を<br />
再 構 築 できるようにすることが 求 められています 3) 。その 中 で、 日 ごろ 学 ん<br />
でいる 科 目 の 学 習 の 深 化 はもちろん、それらを 総 合 的 、 横 断 的 に 活 用 して<br />
主 体 的 に 物 事 を 捉 え 探 究 する 態 度 の 育 成 が 必 要 になります。「 総 合 的 な 探<br />
究 の 時 間 」はそうした 形 での 授 業 の 展 開 に 適 した 科 目 であると 言 えます。<br />
福 岡 市 立 福 翔 高 等 学 校 について<br />
福 岡 市 立 福 翔 高 等 学 校 ( 以 下 福 翔 高 校 )は1900 年 に 福 岡 市 商 業 学 校<br />
として 設 立 されました。 福 岡 商 業 時 代 は、 明 治 ・ 大 正 ・ 昭 和 ・ 平 成 と 激 動 の<br />
中 、100 年 に 亘 り、 常 に 進 取 の 気 性 と 自 由 闊 達 の 気 風 に 富 み、 国 際 的 な 視
野 を 持 つ 産 業 人 育 成 を 牽 引 してきました。2000 年 、 社 会 情 勢 の 変 化 や 進<br />
路 希 望 の 多 様 化 に 応 え、21 世 紀 を 支 える 人 材 育 成 を 視 野 に 商 業 科 ・ 情 報<br />
処 理 科 ・ 普 通 科 から 総 合 学 科 へ 改 編 し、 校 名 も 福 翔 に 変 更 し 新 たなスター<br />
トを 切 りました。2020 年 度 までに 卒 業 生 は 約 3 万 6 千 人 を 数 え、 福 博 の 街<br />
を 支 える 政 財 界 人 を 多 数 輩 出 しています。<br />
2000 年 度 より 福 岡 都 市 圏 初 の 総 合 学 科 高 校 として 生 まれ 変 わった 福<br />
翔 高 校 は、2006 年 度 にコース 制 を 導 入 した「セカンドステージ」をスタート<br />
し、さらなる 進 化 を 目 指 し、 進 学 型 の 総 合 学 科 として「サードステージ」を<br />
2013 年 度 よりスタートさせています。そして2019 年 度 より「サードステージ<br />
第 2 章 」として 従 来 のコースに 加 えて、3つの 進 学 支 援 プログラム( 特 別 文<br />
理 ・スポーツ 文 化 ・グ ローバル 経 営 )を 導 入 しました 。<br />
福 翔 高 校 では10 年 以 上 前 からコミュニケーションプログラムと 称 し、 行<br />
事 や 授 業 において 学 校 生 活 でインプットした 知 識 をアウトプットする 取 り 組<br />
みを 行 っています。この 取 り 組 みは、 単 にコミュニケーション 能 力 の 育 成 と<br />
いうだ け で はなく、 課 題 解 決 のために 意 見 交 換 をし、 意 思 決 定 を 図 り、 課<br />
題 に 対 する 最 適 解 を 求 めるといった 実 践 的 な 内 容 を 取 り 入 れています。<br />
その 中 の 代 表 的 な 活 動 としてSCP(Student Company Program) 4) とい<br />
う 会 社 経 営 について 実 践 的 に 学 ぶプログラムがあります。この 取 り 組 みで<br />
は 経 営 のスキルを 学 びながらコミュニケーション 能 力 や 課 題 解 決 能 力 を 身<br />
につけることができます。また、これ 以 外 にもさまざまな 取 り 組 みを 実 践 し<br />
ており、 社 会 の 変 化 に 対 応 した 人 材 育 成 に 努 めています( 図 1)。<br />
取 組 内 容<br />
科 目 「 日 本 語 コミュニケー<br />
ション」<br />
ジュニア・アチーブメントプ<br />
J S ,M E S E<br />
ログラムジョブシャドウ,<br />
SCP:H20~<br />
M ESE ,SCP<br />
ロジカルシンキング 講 座<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジ<br />
ェクト<br />
R8 0( 一 部 の 科 目 )<br />
導 入 年 度<br />
H12 H18 H19 H29 H31 R2<br />
~ H24<br />
目 指 す 育 成 能 力<br />
1<br />
1<br />
2<br />
3<br />
4<br />
5<br />
思 考 力 ・ 判 断 力 ・<br />
表 現 力<br />
目 指 す 育 成 能 力 :1コミュニケーション 能 力 ,2 課 題 解 決 能 力 , 課 題 分 析<br />
能 力 ,3 論 理 的 思 考 能 力 ,4 課 題 発 見 能 力 , 課 題 探 究 能 力 ,5 読 解 力<br />
図 1 キャリア 教 育 (コミュニケーションプログラム)の 変 遷 について<br />
「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」と「21 世 紀 型 スキル」<br />
20<br />
福 翔 高 校 が 取 り 組 んできたキャリア 教 育 は、 総 合 的 な 探 究 の 時 間 が 導<br />
入 され るまで、 問 題 解 決 能 力 の 育 成 を 主 としており、 問 題 を 発 見 する 力 の 育<br />
成 についてはあまり 取 り 組 んでいませんでした。「21 世 紀 型 スキル」という
グローバル 社 会 を 生 き 抜 くために 必 要 とされる 能 力 がありますが、この 能<br />
力 の 中 核 を 担 う 力 に「 人 間 関 係 形 成 力 」「 問 題 解 決 力 」そして「 問 題 発 見<br />
力 」があります 5) 。これらの 力 は、 現 状 を 分 析 し 目 的 や 課 題 を 明 らかにする<br />
点 において 有 益 であり、 今 後 社 会 で 求 められる 力 であると 言 われています。<br />
こうした 力 を 福 翔 高 校 の 学 習 にも 取 り 入 れ、 生 徒 に 身 につけさせることが<br />
できないかと 考 えていたところ、デザイン 思 考 を 用 いて 問 題 解 決 能 力 や 問<br />
題 発 見 能 力 、さらには 成 果 発 表 といったア ウトプットまでを 実 践 的 に 育 成 す<br />
ることができる、 九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 <strong>SDGs</strong>デザインユニット<br />
の 教 育 プログラム「<strong>SDGs</strong>デザインスクール」を 知 りました。このプログラム<br />
はデザイン 思 考 を 用 いて 個 人 の 探 究 活 動 とグループ 活 動 を 組 み 合 わせる 内<br />
容 になっており、 生 徒 がさまざまな 知 恵 を 出 し 合 い、アイデアに 深 みを 増 す<br />
ことを 可 能 にしています。このプログラムでは 上 記 に 示 したような 力 「21 世<br />
紀 型 スキル」を 身 につけさせることができる 取 り 組 みであるといえます。<br />
このプログラムの 導 入 にあたっては<strong>SDGs</strong>デザインユニットと 協 議 を<br />
重 ね、 福 翔 型 のカリキュラムに 内 容 を 改 良 しました。このカリキュラムは<br />
「<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト」という 名 称 をつけ、2019 年 度 からグロー<br />
バル 経 営 プログラムの 生 徒 を 対 象 に 実 践 を 開 始 しています。これにより、<br />
デザイン 思 考 を 使 って 問 題 を 発 見 し 社 会 問 題 を 解 決 するプロセスを 学 ぶこ<br />
とができます。また、このプロジェクトを 全 校 的 に 取 り 組 むことができるよ<br />
うに 内 容 を 改 良 し、2021 年 度 からは「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」において3 学<br />
年 すべての 生 徒 に 向 け 実 践 を 始 めています。<br />
総 合 的 な 探 究 の 時 間 「<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト」が<br />
もたらしたもの<br />
福 翔 高 校 で「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」の 授 業 がスタートし、2019 年 に 入<br />
学 したグローバル 経 営 プログラムの 生 徒 は3 年 間 <strong>SDGs</strong>チャレンジプロジ<br />
ェクトを 実 践 しました。この 生 徒 たちは2 年 次 に 福 翔 高 校 のコミュニケーシ<br />
ョンプログラムのひとつであるSCPに 参 加 するのですが、その 活 動 におい<br />
て 生 徒 の 様 子 に 大 きな 変 化 が 見 られました。<br />
SCPとは、 生 徒 が 学 校 の 中 に 資 本 金 2 万 円 (2015 年 度 までは1 万 円 )で<br />
模 擬 の 株 式 会 社 を 設 立 し、 商 品 の 開 発 ・ 生 産 ・ 販 売 などを 行 って 株 主 総 会<br />
で 経 営 成 果 を 発 表 するプログラムです。 福 翔 高 校 では2009 年 度 から 導 入<br />
し、2016 年 度 からは2 年 生 の 教 育 課 程 の 中 で「SCP 経 営 演 習 」という 名 称<br />
で 授 業 として 実 施 しています。このプログラムは、 教 師 が 一 方 的 に 教 え 進 め<br />
ていくのものではなく、 生 徒 たちが 協 働 で 主 体 的 に 行 っていかなければな<br />
りません。そのため、 正 解 を 教 師 から 学 ぶのではなく、 最 適 解 を 生 徒 たち<br />
自 身 で 導 き 出 す 必 要 があります。SCPでは、 実 際 に 社 長 ・ 副 社 長 をはじめ<br />
生 産 ・ 販 売 ( 営 業 )・ 経 理 ・ 人 事 の 部 門 を 置 いて 会 社 を 経 営 します。 経 営 を<br />
行 いながら 企 業 の 仕 組 みや 経 営 の 知 識 を 学 ぶことができるとともに、 課 題<br />
分 析 や 問 題 解 決 能 力 ・コミュニケーション 能 力 などを 身 につけることがで<br />
きます。さらに、 校 内 で 行 われる 中 間 決 算 の 発 表 会 や 株 主 総 会 発 表 会 に<br />
おいて、 決 算 書 類 や 販 売 実 績 など 活 動 の 成 果 を 発 表 する 機 会 もあります。<br />
21
年 度 末 には 会 社 を 清 算 して1 年 間 のプログラムが 終 了 します。<br />
この 活 動 において、<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトを 受 講 した 生 徒 たち<br />
は、 設 立 する 会 社 の 企 業 理 念 に<strong>SDGs</strong>の 内 容 を 盛 り 込 むようになり、 環 境<br />
に 配 慮 する 商 品 開 発 や 持 続 可 能 性 を 意 識 した 会 社 運 営 など、これまでには<br />
見 られなかった 取 り 組 みを 行 うようになりました。 社 会 課 題 に 対 しても 高 い<br />
意 識 を 持 つようになり、 企 業 としてどのようにそうした 課 題 に 向 き 合 ってい<br />
くかを 真 剣 に 考 えていました。こうした 変 化 はSCPだけに 留 まらず、 学 校 の<br />
さまざまな 場 所 で 起 こり 始 めています。 今 後 も、<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェ<br />
クトが 学 校 に 大 きな 変 革 をもたらしてくれることでしょう。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). 文 部 科 学 省 :「 第 1 章 総 説 第 2 節 総 合 的 な 探 究 の 時 間 改 訂 の 趣 旨 及 び 要<br />
点 2 改 訂 の 要 点 (2) 目 標 の 改 善 」 『【 総 合 的 な 探 究 の 時 間 編 】 高 等<br />
学 校 学 習 指 導 要 領 ,( 平 成 3 0 年 告 示 )』, https://www.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf<br />
( 最 終 閲 覧 日 : 2022.3.7)<br />
2). Frey, C. B., Osborne, M. A.: The future of employment: How susceptible<br />
are jobs to computerisation? (2013), https://www.oxfordmartin.ox.ac.<br />
uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf ( 最 終 閲 覧 日 :<br />
2022.3.7)<br />
3). 文 部 科 学 省 :「 第 1 章 総 説 第 1 節 改 訂 の 経 緯 及 び 基 本 方 針 1 改 訂 の 経 緯 」<br />
『【 総 合 的 な 探 究 の 時 間 編 】 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 ( 平 成 30 年 告 示 )』,https://<br />
www.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf ( 最 終 閲 覧 日 : 2022.3.7)<br />
4). 公 益 社 団 法 人 ジュニア・アチーブメント 日 本 が 提 供 する 教 育 プログラムhttps://<br />
www.ja-japan.org/programs/studentCompanyProgram.html ( 最 終 閲 覧<br />
日 : 2022.3.7)<br />
5). 国 立 教 育 政 策 研 究 所 :「 教 育 課 程 の 編 成 に 関 する 基 礎 的 研 究 報 告 書 7 資 質 や<br />
能 力 の 包 括 的 育 成 に 向 けた 教 育 課 程 の 基 準 の 原 理 [ 改 訂 版 ]」 平 成 26 年 ,<br />
(2014)https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h25/2_1_<br />
allb.pdf ( 最 終 閲 覧 日 : 2022.3.7)<br />
22
2019 年 度 <strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト<br />
グローバル 経 営 プログラムでの 実 践<br />
手 島 政 則 吉 井 宏 平<br />
はじめに<br />
アクティブラーナーとは 何 でしょう? 日 本 語 では「 能 動 的 学 習 者 」と 言 い<br />
換 えることができるのではないでしょうか。 文 部 科 学 省 も 新 学 習 指 導 要 領<br />
において「 主 体 的 で 対 話 的 で 深 い 学 びの 実 現 」1)の 重 要 性 について 言 及 し<br />
ています。 私 たち 教 員 にとって、 学 習 に 対 してアクティブで 協 働 的 で 多 角 的<br />
な 視 点 を 持 った 生 徒 を 育 成 することが 理 想 であることは 言 うまでもありま<br />
せんが、 実 際 、 教 育 現 場 において 主 体 性 をどのように 育 んでいくかは 大 きな<br />
課 題 と 言 えます。この 章 では、そうしたアクティブラーナーを 育 成 する 教 育<br />
の 取 り 組 みを 紹 介 していきます。<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトのはじまり<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは2019 年 度 からアクティブラーナーの 育<br />
成 を 目 指 してスタートしました。このプロジェクトの 導 入 の 背 景 には、 福 翔 高<br />
校 の 生 徒 たちが 社 会 問 題 について、 興 味 関 心 が 希 薄 であると 言 った 点 があ<br />
り、そのような 問 題 に 興 味 関 心 を 持 ってもらいたいという 教 員 側 の 強 い 思 い<br />
がありました。 社 会 問 題 に 対 し、 生 徒 が 自 分 のこととして 捉 えられるように<br />
なり、 論 理 的 ・ 批 判 的 な 思 考 力 を 用 いながら 課 題 発 見 ・ 解 決 を 行 うことが<br />
できれば、 生 徒 一 人 ひとりの 将 来 に 向 けた 生 き 方 や 在 り 方 を 考 えるきっか<br />
けになり、 生 徒 の 社 会 へ 参 画 する 精 神 や 能 力 を 身 につけることにつながり<br />
ます。 社 会 問 題 を 考 えるうえで、 特 に、<strong>SDGs</strong>についてはこれからの 社 会 で<br />
最 低 限 必 要 な 知 識 、 考 え 方 であり、 日 本 だけでなく 全 世 界 で 共 通 の 社 会 問<br />
題 であるため、これを 柱 に 取 り 組 むことが 最 適 であると 考 えました。
こうした 学 習 の 機 会 を 模 索 していると、さまざまな 企 業 や 学 校 が<strong>SDGs</strong><br />
を 題 材 とした 学 習 に 取 り 組 んでいることを 知 りました。そこで 九 州 大 学 大<br />
学 院 芸 術 工 学 研 究 院 の<strong>SDGs</strong>デザインユニットにおいて<strong>SDGs</strong>デザインス<br />
クールといった 素 晴 らしい 取 り 組 みを 行 っているということを 知 り、 同 ユニ<br />
ットの 張 先 生 に 相 談 したところ、 福 翔 高 校 の 取 り 組 みや 熱 意 に 共 感 しても<br />
らうことができました。その 後 、 福 翔 高 校 と 九 州 大 学 で 連 携 してチームを<br />
組 み、「<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト」をスタートすることができました。こ<br />
れは 当 初 、 思 いもかけなかった 大 きなプロジェクトへと 発 展 しました。<br />
グローバル 経 営 プログラムにおける 実 践 のはじまり<br />
S D G s チャレンジ プ ロジェクト 導 入 当 初 は、 福 翔 高 校 グ ローバル 経 営 プ<br />
ログラムに 所 属 している17 名 の 生 徒 を 対 象 として「 産 業 社 会 と 人 間 」 2) とい<br />
う 授 業 を 活 用 して 実 践 されました。このプロジェクトは2 年 後 の2021 年 に「<br />
総 合 的 な 探 究 の 時 間 」の2 単 位 で 実 施 することを 想 定 し、この 授 業 のプロ<br />
トタイプとして 始 まりました。 当 初 は S D G sという 言 葉 は 現 在 ほど 一 般 的 に<br />
は 使 われておらず、 生 徒 はもちろん 高 校 の 教 員 でさえも、 聞 いたことはあっ<br />
ても 説 明 できる 人 は 少 ない 状 況 でした。そこで、まず 九 州 大 学 の 先 生 から<br />
<strong>SDGs</strong>の 知 識 と 指 導 のノウハウについてレクチャーを 受 け、 福 翔 高 校 のカリ<br />
キュラムにおいてどのように 実 践 すればよいか 模 索 していきました。その 後<br />
も、 何 度 も 打 ち 合 わせを 重 ねながら 教 材 の 開 発 や 指 導 案 の 作 成 など 準 備<br />
を 重 ね、 授 業 の 実 践 を 行 いました。 授 業 後 には、 現 場 の 状 況 を 九 州 大 学 に<br />
フィードバックし、 指 導 内 容 の 検 証 と 改 善 、ワークシートの 共 同 制 作 などを<br />
行 いました。<br />
S D G s チャレンジプロジェクトの 実 践 実 績 について、 以 下 のようにまとめ<br />
ています。<br />
1 実 践<br />
2019 年 度 1 年 生 :グローバル 経 営 プログラム1 期 生 17 名<br />
1 年 生 :グローバル 経 営 プログラム2 期 生 20 名<br />
2020 年 度<br />
2 年 生 :グローバル 経 営 プログラム1 期 生 17 名<br />
3 年 生 : 国 公 立 大 学 進 学 希 望 者 27 名<br />
2 年 生 :グローバル 経 営 プログラム2 期 生 20 名<br />
2021 年 度<br />
3 年 生 :グローバル 経 営 プログラム1 期 生 17 名<br />
3 年 生 : 総 合 的 な 探 究 の 時 間 314 名<br />
2 受 賞<br />
2021 年 <strong>SDGs</strong>デザインインターナショナルアワード 高 校 生 特 別 賞 受 賞<br />
24
福 翔 高 校 グローバル 経 営 プログラム<br />
グローバル 経 営 プログラムは、2019 年 度 より「 福 翔 高 校 総 合 学 科 サー<br />
ドステージ 第 2 章 」として 導 入 した 三 つの 進 学 支 援 プログラムのうちの 一 つ<br />
です。 高 校 3 年 間 で「 簿 記 」や「 情 報 処 理 」など 経 営 に 必 要 なビジネススキ<br />
ルを 身 につけながら、 英 語 だけでなくアジア 言 語 ( 韓 国 語 または 中 国 語 )<br />
を 学 習 します。また、 東 南 アジアの 高 校 生 や 大 学 生 との 交 流 やさまざまな<br />
プロジェクトを 通 じて 異 文 化 を 理 解 できる 機 会 を 設 けることで、 豊 かな 国<br />
際 感 覚 と 広 い 国 際 的 視 野 を 身 に 付 け、21 世 紀 をリード する 高 い「 志 」をもっ<br />
て、 広 い 視 野 から 自 らの 目 指 すべきキャリア 像 を 描 き、 将 来 世 界 を 舞 台 に<br />
活 躍 する 高 校 生 を 育 成 することを 目 的 としています。<br />
◆ 目 指 す 生 徒 像<br />
グローバルな 視 点 を 持 ち<br />
◇ 広 い 視 野 を 持 ち、 様 々な 情 報 を 処 理 し 分 析 できる<br />
◇ 英 語 やアジア 言 語 を 活 用 し、コミュニケーションがとれる<br />
◇ 多 様 な 価 値 観 を 共 有 できるようになる<br />
◇ 経 営 感 覚 をもっている<br />
こ の プ ロ グ ラ ム は「 経 営 」「 英 語 」「 ア ジ ア 」の 三 つ を キ ー ワ ード に して お<br />
り、そ れ ぞ れ 以 下 のような 目 標 を 設 定 して いま す( 図 1 )。<br />
【 経 営 】<br />
1 年 次 か ら「 簿 記 」を 学 習 し 、 企 業 の<br />
経 営 状 態 などを 理 解 ・ 分 析 する 能 力 を<br />
身 につけ、さらに、2 年 次 から「 情 報 処<br />
理 」を 学 習 し、 情 報 を 主 体 的 、 実 践 的 に<br />
活 用 する 能 力 を 身 に 付 け、 経 営 リテラシ<br />
ーを 学 びます。<br />
【アジア】<br />
中 国 語 や 韓 国 語 などの「アジア 言 語 」を 学<br />
習 し、 外 国 人 とのコミュニケーションを 通 し<br />
て、 実 践 的 な 語 学 力 や 異 文 化 への 理 解 を 深<br />
めます。<br />
【 英 語 】<br />
1 年 次 から「 英 語 」の 学 習 をして、 大 学<br />
入 試 に 対 応 できる 能 力 を 身 に 付 けなが<br />
ら、 外 国 人 とのコミュニケーションを 通<br />
して、 実 践 的 な 語 学 力 や 異 文 化 へ の 理<br />
解 を 深 めます。また、ビジネス 英 語 も 学<br />
習 します。<br />
◆ 特 色<br />
◇ 異 文 化 体 験 研 修<br />
◇ 高 大 連 携 による 留 学 生 との 交 流<br />
◇ 外 国 語 による 研 究 発 表<br />
図 1 グローバル 経 営 プログラムの 概 要<br />
25
「 指 導 する」から「 導 く」へ<br />
導 入 初 年 度 の 授 業 では、 生 徒 に「ごみ 問 題 」と「 気 候 変 動 」の 二 つの 課<br />
題 を 与 え、5 名 から7 名 のグループを 編 成 しました。その 後 、 生 徒 はワークシ<br />
ートを 用 いて、その 問 題 に 関 する 日 常 の 疑 問 や 困 っていることについて、そ<br />
の 理 由 も 含 めて 記 入 し、 課 題 設 定 への 意 識 を 高 めました。そして、グループ<br />
内 で 生 徒 が 感 じた 問 題 を 付 箋 に 書 き 出 させ、 模 造 紙 に 貼 り 付 けながら 共<br />
有 し、 議 論 を 重 ねながらグループで 課 題 を 一 つ 設 定 しました。それから、 何<br />
を 用 いて 誰 に 向 けて 課 題 が 解 決 できるのかを 考 え、コンセプトボードの 作<br />
成 と 課 題 解 決 に 向 けてのアイデア 展 開 を 行 いました。 最 終 的 にはグループ<br />
でアイデアを 一 つに 絞 り、アイデア 検 証 シートで 他 者 の 視 点 を 加 えながらア<br />
イデアの 改 良 を 行 いました。アイデア 決 定 後 はポスターを 作 成 し、アイデア<br />
が<strong>SDGs</strong>のどのゴールに 該 当 するかを 考 えました。ポスター 作 成 の 際 には、<br />
色 彩 やイラストなどを 用 いると 分 かりやすいポスターになるということを 伝<br />
え、 生 徒 も 工 夫 を 凝 らしていたようでした。 最 後 に、クラス 内 でプレゼンテ<br />
ーションを 行 い、グループや 自 分 の 考 えを 述 べ、 聞 き 手 の 生 徒 はコメントカ<br />
ードに 批 評 や 感 想 を 記 入 し、 発 表 者 にフィードバックしました。<br />
■ 授 業 の 実 践 のプロセス<br />
テーマの 提 示 → グループ 編 成 → 個 人 による 問 題 発 見 →<br />
問 題 発 見 の 共 有 → 課 題 解 決 のためのアイデア 出 し → アイデアの 改 良 →<br />
ポスターの 作 成 → プレゼンテーション 発 表 → フィードバック( 他 者 評 価 )<br />
26<br />
このプロジェクトで 生 徒 のグループはそれぞれ「 幸 せになるゴミ 箱 プロ<br />
ジ ェクト」「 P o w e r g e n e r a t i n gs c h o o l 」「# ポ イ 捨 て を 減 らす た め に 」と<br />
いうアイデアを 考 え 出 しました。 生 徒 はアイデアを 考 える 過 程 で、 付 箋 にア<br />
イデ アを 書 き 出 しながら 模 造 紙 に 貼 り、 意 見 を 集 約 していくブレインストー<br />
ミング3)とKJ 法 4)を 使 いました。 最 初 は 苦 戦 しながらも、 自 分 自 身 のアイデ<br />
アを 考 え 出 し、グループで 議 論 を 深 めていました。グループワークの 際 に 印<br />
象 的 だったのは、 議 論 が 進 むにつれて「ゴミ 問 題 はなぜ 起 こっているのか」<br />
「 現 在 の 制 度 はどのようになっているのか」など 教 員 が 誘 導 せずとも 自 然<br />
と 課 題 の 本 質 や 社 会 問 題 について 議 論 するようになっていたことです。 生<br />
徒 にとっては 課 題 解 決 を 行 うことで、 日 常 では 気 がつかなかった 問 題 に 目<br />
が 向 くようになったのでしょう。また、 授 業 後 半 になると 生 徒 の 中 でさまざ<br />
まな 意 見 が 飛 び 交 い、 私 たち 教 員 が 思 っていた 以 上 に、 生 徒 は 学 習 に 主 体<br />
的 に 取 り 組 むようになっていました。 生 徒 が 考 え 出 したアイデアは、まだ 粗<br />
削 りな 点 も 多 く 見 えるものの、 高 校 1 年 生 ということを 考 えると、とても 独<br />
創 的 で 楽 しいアイデアに 仕 上 がっていました。 中 でも 目 に 留 まったのは「 幸<br />
せになるゴミ 箱 プロジェクト」です。このアイデアはロボット 型 のゴミ 箱 が 地<br />
域 を 掃 除 して 回 り、 地 域 住 民 や 通 行 人 もゴミを 捨 てることができるというア<br />
イデアです。ゴミを 捨 てると 音 声 で「ありがとうございました。」とお 礼 を 言<br />
う 仕 組 みを 考 えており、 通 勤 時 間 帯 などでは「おはようございます。いって
らっしゃい 。」と 言 葉 を 変 えるなど、 楽 しくゴミを 捨 てる 為 の 仕 組 みを 考 え<br />
ていました。また、ロボットと 子 どもが 接 触 しても 痛 くないように、クッショ<br />
ン 性 のある 素 材 をゴミ 箱 に 使 ったらよいのではないかというアイデアも 魅<br />
力 的 でした。<br />
このプロジェクトを 始 める 前 は、 私 たち 教 員 も 初 めて 取 り 組 む 授 業 で、<br />
うまくいくのか?、 生 徒 は 理 解 できるのか?といった 不 安 が 多 くありました。<br />
しかし、 実 際 に 取 り 組 んでみると、 生 徒 は 懸 命 に 努 力 し、 最 後 には 時 間 が 足<br />
りなくなるほど 議 論 を 重 ね、 考 え 出 したアイデアも 九 州 大 学 の 先 生 方 から<br />
もとても 高 い 評 価 を 受 けるほど 充 実 した 成 果 を 上 げることができました。<br />
生 徒 主 体 の 学 習 では 教 員 側 は 少 なからず 不 安 があるものですが、「 指 導 す<br />
る」という 発 想 から「 導 く」という 思 考 に 切 り 替 えて 授 業 を 行 うことで、 授<br />
業 の 成 功 に 繋 げることができたと 感 じています。 大 切 なのは「 生 徒 を 信 じ<br />
る 気 持 ち」ではないでしょうか。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). 文 部 科 学 省 「 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 ( 平 成 30 年 告 示 )」<br />
2). 主 に 総 合 学 科 で 開 設 されている 授 業 の 名 称 文 部 科 学 省 「 総 合 学 科 に<br />
ついて」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/seido/1258029.htm<br />
( 最 終 閲 覧 日 : 2022.3.7)<br />
3). ブレインストーミングとはアレックス・F・オズボーン 氏 により 考 案 された 会 議 方 式 。<br />
集 団 でたくさんの 意 見 を 出 し 合 いながら 議 論 していくことで 創 造 的 な 発 想 を 生 み 出<br />
すことを 期 待 する 技 法 。<br />
4). KJ 法 とは、 文 化 人 類 学 者 の 川 喜 田 二 郎 氏 によって 考 案 された 情 報 の 分 析 法 。ブレ<br />
インストーミングにより 発 案 された 意 見 をグループ 化 し、 系 統 別 にまとめ 整 理 して<br />
いく 事 により、 意 見 を 可 視 化 し 論 理 的 に 考 え、 問 題 点 を 整 理 する 際 に 活 用 される。<br />
27
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト<br />
総 合 的 な 探 究 の 時 間 での 実 践<br />
吉 井 宏 平<br />
授 業 を 円 滑 に 進 めるために<br />
福 翔 高 校 では2019 年 度 の 入 学 生 から 総 合 的 な 探 究 ( 以 下 、 総 探 )の 授<br />
業 をカリキュラムに 組 み 込 んでおり、2021 年 度 の3 年 生 の 総 探 の 授 業 にお<br />
いては 前 章 で 述 べた「<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト」の 内 容 を 改 良 し 実 施<br />
しました。この 授 業 は314 名 の 生 徒 を5~6 名 のグループに 分 け、 国 語 科 、<br />
英 語 科 、 数 学 科 、 理 科 、 社 会 科 、 保 健 体 育 科 、 家 庭 科 、 芸 術 科 から27 名 の<br />
教 員 が 一 人 当 たり2、3グループを 受 け 持 つ 形 で 実 践 されました。 指 導 に 当<br />
たる 教 員 の 多 くがこうした 形 式 の 授 業 に 参 加 するのは 初 めてであり、 指 導<br />
に 対 して 不 安 を 持 っている 教 員 も 少 なくありませんでした。また、 生 徒 にお<br />
いても 高 等 学 校 の 授 業 で 課 題 発 見 、 解 決 型 の 学 習 に 臨 むのは 初 めてとい<br />
った 生 徒 も 多 くいました。<br />
私 は 進 路 部 キャリア 教 育 課 の 総 探 担 当 としてカリキュラム 作 成 と 全 体<br />
運 営 に 携 わりましたが、 今 回 は 前 章 で 述 べたような 少 人 数 での 授 業 ではな<br />
く、また、 初 めて 関 わる 教 員 も 多 くいるため、どのように 授 業 全 体 の 運 営 を<br />
行 っていくか 非 常 に 頭 を 悩 ませました。なぜなら、 総 探 には 他 の 教 科 のよう<br />
1)<br />
に 検 定 教 科 書 がないため、 授 業 を 実 践 する 際 に 基 準 となる 教 材 がなかっ<br />
たからです。そこで、 教 科 書 に 代 わるワークシートを 作 成 することにしまし<br />
た。これまで 行 ってきた<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトでは、いくつかのワー<br />
クシートはあったものの、それらを 体 系 化 したものがありませんでした。 授<br />
業 での 用 語 解 説 や 生 徒 が 調 べた 内 容 を 記 入 するワークシートを 作 成 し、 体<br />
系 化 し、 冊 子 にすることで、 教 員 にとっても 授 業 を 進 めるに 当 たっての 指 標<br />
となり、 生 徒 も 体 系 化 されたプロセスで 学 習 を 進 めることができると 考 え
ました。その 結 果 、 授 業 の 大 筋 はワークシートで 示 すことが でき、 授 業 にお<br />
いても 流 れに 沿 って 学 習 を 進 めることができました。<br />
授 業 を 実 践 して<br />
2021 年 度 の<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは4 月 から10 月 までの7ヵ 月 と<br />
いう 長 期 間 に 亘 る 授 業 であったため、ワークシートの 内 容 は 細 かくセクシ<br />
ョンを 区 切 り、 個 人 作 業 とグループによる 協 働 作 業 を 組 み 合 わせて 展 開 す<br />
る 形 にしました。まず、 生 徒 は 身 の 回 りにある 困 りごとから 課 題 を 考 え、グ<br />
ループで 共 有 し、 取 り 組 む 課 題 を 明 確 化 しました。 前 章 でも 述 べたように<br />
共 有 の 際 はブレインストーミングとKJ 法 を 使 ってデザイン 思 考 を 意 識 するよ<br />
うに 指 導 して いま す。 次 に 、そ の 課 題 の 背 景 に つ いて 歴 史 的 視 点 と 社 会 的<br />
視 点 から 調 べ 学 習 を 行 いました。 福 翔 高 校 には2020 年 度 の 冬 から 一 人 一<br />
台 のICT 端 末 (iPad)が 配 備 されており、 生 徒 が 調 べ 学 習 を 行 う 際 には 主<br />
にインターネットを 利 用 し、 同 時 に 図 書 館 も 活 用 しました。それから 課 題 解<br />
決 のターゲットを 決 め、 先 行 事 例 の 調 査 を 行 いました。その 上 で、 個 人 で 課<br />
題 解 決 のアイデアを 出 し、それをもとにグループで 話 し 合 いながらアイデア<br />
を 集 約 し、その 内 容 をスライドやポスターにまとめました。ここまで 進 んだ<br />
段 階 で7 月 を 迎 えており、1 学 期 の 終 わりでもあることから、 生 徒 が 考 えた<br />
アイデアを 発 表 する 中 間 発 表 会 を 企 画 しました。 中 間 発 表 会 には 大 学 、 専<br />
門 学 校 、 高 等 学 校 、 行 政 機 関 や 企 業 など、 学 外 から 約 50 名 の 講 師 をお 招 き<br />
し、 生 徒 発 表 に 対 して 質 疑 や 講 評 をして 頂 きました。 生 徒 は 学 外 の 講 師 に<br />
緊 張 しながらも 自 分 たちの 考 えたアイデアを 堂 々と 発 表 していました。 中 間<br />
発 表 ということもあり、 多 くの 指 摘 を 受 けたグループもあったようですが、<br />
この 取 り 組 み 以 降 、 生 徒 のモチベーションが 格 段 に 上 がり、2 学 期 からの<br />
活 動 では、より 主 体 性 を 持 って 学 習 に 取 り 組 む 姿 が 見 られました。9 月 から<br />
は 中 間 発 表 を 受 けてのアイデアの 改 良 、プロトタイプの 作 成 を 経 て、 最 終<br />
発 表 会 を 行 いました。 最 終 発 表 会 でも 学 外 から40 名 程 度 の 講 師 をお 招 き<br />
し、 発 表 を 聞 いて 頂 きました。 最 終 発 表 会 後 のアンケートでは、 高 校 生 なら<br />
ではの 独 創 的 なアイデアや 探 究 へ 向 かう 姿 勢 、プレゼンの 内 容 などについ<br />
て 肯 定 的 な 意 見 を 多 く 頂 くことができました。<br />
授 業 を 振 り 返 ってみると、1 学 期 にはなかなか 学 習 が 進 まなかった 生 徒<br />
も、6 月 頃 からデザイン 思 考 や 探 究 のプロセスを 理 解 し 始 め、 中 間 発 表 を 経<br />
て、2 学 期 には 主 体 的 に 学 習 に 取 り 組 むことができていました。 中 間 発 表<br />
会 や 最 終 発 表 会 で 指 摘 やアドバイスを 頂 いた 事 が、 生 徒 の 主 体 性 の 伸 長 に<br />
大 きな 影 響 を 与 えたように 思 います。 正 直 なところ、 私 も 生 徒 がここまで 素<br />
晴 らしいアイデアを 出 せるとは 思 っていませんでした。 実 施 初 年 度 にここま<br />
での 成 果 を 挙 げられたことは 大 変 うれしく 思 うと 共 に、 高 校 生 の 持 つポテ<br />
ンシャルの 高 さを 改 めて 感 じました。ただ、 同 時 に、 生 徒 の 課 題 設 定 の 甘 さ<br />
や、アイデアの 実 現 可 能 性 のなさなど、さまざまな 課 題 も 見 つかったため、<br />
授 業 プロセスを 改 めて 見 直 していきたいと 思 います。 教 員 の 世 界 では「 授<br />
業 は 生 き 物 」と 言 われますが、 正 にその 通 り。 毎 年 授 業 をブラッシュアップ<br />
していくことが 大 切 だと 思 います。<br />
29
注 および 参 考 文 献<br />
1). 文 部 科 学 省 『 教 科 書 検 定 制 度 について』 学 校 教 育 法 により、 小 ・ 中 ・ 高 等<br />
学 校 等 の 教 科 書 について 教 科 書 検 定 制 度 が 採 用 されている。 教 科 書 の 検 定 と<br />
は、 民 間 で 著 作 ・ 編 集 された 図 書 について、 文 部 科 学 大 臣 が 教 科 書 として 適 切<br />
か 否 かを 審 査 し、これに 合 格 したものを 教 科 書 として 使 用 することを 認 めるこ<br />
とができる。https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/003/gijiroku/08052214/001.htm<br />
( 最 終 閲 覧 日 : 2022.3.7)<br />
30
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト<br />
総 合 的 な 探 究 の 時 間 教 員 の 振 り 返 り<br />
吉 井 宏 平<br />
プロジェクトに 携 わった 教 員<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトがスタートした2019 年 、 指 導 を 行 った 教<br />
員 は 商 業 科 、 英 語 科 、 美 術 科 ( 筆 者 )の3 名 でした。3 名 それぞれの 役 割 と<br />
して 主 幹 教 諭 である 商 業 科 の 教 員 が 九 州 大 学 との 連 絡 窓 口 、 受 講 する 生<br />
徒 のクラスの 担 任 である 英 語 科 の 教 員 が 生 徒 との 連 絡 調 整 、 美 術 科 の 教<br />
員 が 授 業 の 実 践 を 行 いました。 元 々、2 年 後 にはこのプロジェクトを 学 年 の<br />
授 業 に 組 み 込 んで 実 践 することも 計 画 していた 為 、 授 業 は 公 開 授 業 とし、<br />
授 業 には 毎 回 4、5 名 の 教 員 が 参 観 に 来 ていました。 次 年 度 の2020 年 には<br />
1 年 生 から3 年 生 の 小 規 模 クラスでプロジェクトを 実 施 し、 教 員 も 英 語 科 か<br />
ら1 名 教 員 に 参 加 してもらい 授 業 を 担 当 してもらいました。そうした 準 備 段<br />
階 を 経 て、いよいよ2021 年 には3 学 年 「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」において 生<br />
徒 314 名 が<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトを 行 い、それに 伴 い、 教 員 も 英 語<br />
科 、 国 語 科 、 数 学 科 、 理 科 、 社 会 科 、 家 庭 科 、 芸 術 科 、 保 健 体 育 科 から 総 勢<br />
27 名 の 教 員 が 授 業 担 当 者 として 加 わり、 授 業 を 実 践 しました。<br />
授 業 を 行 っての 課 題<br />
授 業 の 後 、 担 当 教 員 に 向 けて 振 り 返 りのアンケートを 行 いました。その<br />
中 では 以 下 のような 課 題 が 挙 げられていました。<br />
振 り 返 りアンケート( 抜 粋 )<br />
• 気 になったのは、 話 し 合 いや 作 業 がスムーズにいったグループと 時 間 が
かかったグループがあり、 若 干 時 間 を 持 て 余 していた 生 徒 もいたことです。<br />
• どこまで 生 徒 に 指 示 を 出 すべきか、アドバイスを 出 すべきか、 判 断 に 迷<br />
う 時 もありました。<br />
• 生 徒 たちが 課 題 を 決 め、その 解 決 に 向 けた 取 り 組 みを 模 索 していくわけ<br />
で す が 、i P a d が 常 に 手 元 に あ るため 、どこか の w e b サイトから 引 用 して<br />
いるのではないか、この 道 筋 が 本 当 に 生 徒 のオリジナルな 内 容 なのかも<br />
声 掛 けに 困 りました。<br />
「 生 徒 の 考 え 出 したアイデ アに 対 してどの 程 度 、 教 員 が 意 見 する べき<br />
か?」と 言 った 課 題 は 上 記 以 外 にも 見 られ、 授 業 を 実 践 していた 際 にも 多<br />
く 寄 せられた 質 問 でした。これは 生 徒 主 体 の 学 習 において、とても 難 しい<br />
点 だと 言 えま す。 生 徒 たちは 一 生 懸 命 に 考 え、アイデ アを 出 して い る ので す<br />
が、 時 に 生 徒 の 出 したアイデアに 多 くの 問 題 点 がある 場 合 があります。そう<br />
した 点 に 気 が 付 いた 教 員 が 指 摘 してしまう 事 により、 生 徒 が 自 ら 考 える 機<br />
会 を 奪 ってしまうことにもなりかねず、 時 には 生 徒 のモチベーションを 下 げ<br />
てしまう 場 合 もあります。しかし、 指 摘 せず 問 題 点 をそのままにしておくと<br />
アイデアを 展 開 していく 際 に 行 き 詰 まり、アイデアが 表 層 的 なものになって<br />
しまうことも 考 えられます。この 課 題 について 明 確 な 答 えを 出 すことは 非 常<br />
に 難 しいですが、 大 切 なことは 教 員 が「 生 徒 と 同 じ 目 線 で 共 に 考 える」と 言<br />
った 考 え 方 ではないでしょうか。 特 に<strong>SDGs</strong>を 取 り 扱 った 社 会 課 題 は 子 ども<br />
たちだけではなく、 私 たち 教 員 も 直 面 している 問 題 です。もちろん 課 題 に 対<br />
して 明 確 な 答 えなどなく、 生 徒 と 一 緒 に 悩 み 考 え、 現 状 を 的 確 に 捉 え、 最<br />
適 解 に 近 づけてあげることが 必 要 なのではないでしょうか。また、 福 翔 高<br />
校 では 生 徒 が 一 人 一 台 のiPadを 持 っており 情 報 収 集 などさまざまな 場 面<br />
で 活 用 してきました。しかし、 安 易 にインターネットに 頼 ってしまい、インター<br />
ネットの 情 報 が 正 しいかを 判 断 しないまま 活 用 してしまった 生 徒 がいたこと<br />
も 事 実 で す。また、インターネットに より 簡 単 に 情 報 収 集 が で きてしまう 事<br />
から 自 分 の 足 や 目 で 見 た 体 験 などを 行 わないまま 活 動 をしていた 生 徒 もお<br />
り、 課 題 に 対 して 当 事 者 意 識 が 薄 くなってしまうことにもつながりました。<br />
インターネットは 大 変 便 利 なツールですが、そうした 情 報 と 同 時 にフィール<br />
ドワークを 行 うなど、 生 徒 に 実 体 験 を 多 く 積 ませることにより、より 良 い 課<br />
題 解 決 に 導 けるのではないでしょうか。<br />
授 業 を 行 っての 成 果<br />
授 業 の 成 果 としてアンケートには 下 記 のような 回 答 が 見 られました。<br />
振 り 返 りアンケート( 抜 粋 )<br />
32<br />
• 生 徒 たちも1 学 期 当 初 はグループワークに 慣 れず、ぎこちなく 話 し 合 いを<br />
行 っていましたが、 回 を 重 ねるにつれて 話 し 合 いが 活 発 化 し、 学 期 末 に<br />
は 人 前 で 堂 々と 発 表 をで きるようになって いました 。そ の 成 長 を 見 守 る<br />
ことが で き、とても 喜 ばしか ったで す。
• ほとんどの 生 徒 が 協 力 し 合 い、アイデアも 素 晴 らしいものが 出 ていたの<br />
で、 高 校 生 の 柔 軟 な 考 え 方 に 感 心 した 部 分 が 大 きかったです。<br />
• 生 徒 のマンネリと 妥 協 を 打 破 して 下 さったのは 外 部 講 師 のお 力 でした。<br />
今 後 とも 続 けていただけると 嬉 しいです。<br />
• 生 徒 と 共 に<strong>SDGs</strong>について 深 く 学 ぶことができて、 多 様 な 意 見 や 考 えを<br />
共 有 して 協 働 的 に 学 ぶこと 自 体 が 必 要 な 経 験 だったと 思 います。 中 身 に<br />
ついても、 社 会 問 題 を 本 質 的 に 理 解 するきっかけになったので、とても<br />
良 かったと 思 います。<br />
「 生 徒 の 柔 軟 な 発 想 に 感 心 した」「 生 徒 たちの 成 長 が 見 て 取 れた」とい<br />
った 意 見 が 多 く 見 られたように 感 じます。 私 は 授 業 を 俯 瞰 してみる 立 場 で<br />
あった 為 、 生 徒 の 細 かな 活 動 まで 見 たわけではありませんが、 教 室 の 外 か<br />
ら 見 ても 生 徒 たちが 授 業 の 回 数 を 重 ねるにつれて 活 発 に 意 見 交 換 し、さま<br />
ざまな 発 想 からアイデアを 生 み 出 していました。この 活 動 を 通 して 生 徒 は 着<br />
実 に 力 を 身 につけ 成 長 していきました。 教 員 にとって 生 徒 の 成 長 を 見 ること<br />
ができるのは 何 より 喜 ばしいことです。この 授 業 はそうした 教 員 にとっての<br />
「やりがい」を 感 じる 事 ができた 授 業 ではないでしょうか。<br />
33
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト<br />
総 合 的 な 探 究 の 時 間 生 徒 の 振 り 返 り<br />
吉 井 宏 平<br />
福 翔 高 校 の 生 徒 の 実 態<br />
福 翔 高 校 は 進 学 型 総 合 学 科 です。 生 徒 の 約 9 割 が 大 学 、 短 大 などの 上<br />
級 学 校 への 進 学 を 目 指 しています。また、 部 活 動 も 盛 んであり、25の 部 活<br />
動 と4つの 同 好 会 が 存 在 し、 放 課 後 は 生 徒 たちが 学 校 のさまざまな 場 所<br />
で 活 動 を 行 っています。 生 徒 全 体 の 雰 囲 気 は 明 るく、 活 発 な 生 徒 が 多 く 在<br />
籍 しています。1 年 次 にはキャリア 教 育 に 関 する 科 目 である「 産 業 社 会 と 人<br />
間 」があり、 将 来 について 考 え、コミュニケーション 力 の 育 成 など 社 会 人 ス<br />
キルを 身 に 付 けることができます。 一 方 で、 社 会 問 題 に 関 する 批 判 的 視 点<br />
や 創 造 性 については 課 題 があり、 総 探 の 授 業 を 行 うことによってそれらの<br />
課 題 を 解 決 していきたいと 考 えました。<br />
学 習 開 始 当 初<br />
前 章 で 述 べたように、グローバル 経 営 プログラムの 一 部 生 徒 は、1 年 次<br />
から<strong>SDGs</strong>に 関 する 学 習 を 行 う 機 会 がありました。しかし、それ 以 外 の 生 徒<br />
は 授 業 で<strong>SDGs</strong>に 触 れる 機 会 が 少 なく、 生 徒 のアンケートを 振 り 返 ってみ<br />
ると、 総 合 的 な 探 究 科 目 の 学 習 以 前 に<strong>SDGs</strong>について 知 っていたかという<br />
問 いに 対 して、 約 半 数 の 生 徒 が「 知 らなかった」という 回 答 をしていました。<br />
そ のため 、カリキュラム 開 始 前 の2 年 次 に、S D G s に 関 するガイダ ンスを 実<br />
施 し、 調 べ 学 習 を 行 わせるなど、 授 業 までに<strong>SDGs</strong>について 知 る 機 会 を 設<br />
けました。このカリキュラムではグループ 学 習 を 中 心 に 実 施 をしましたが、<br />
グループ 分 けの 際 にあえて 文 系 、 理 系 の 生 徒 を 同 じグループで 配 置 しまし<br />
た 。さまざ まな 課 題 解 決 を 行 うに あたって、 多 様 な 視 点 から 学 ぶ 必 要 性 が<br />
あると 考 えたからです。しかし、 普 段 の 授 業 では 同 じ 教 室 で 学 ぶ 機 会 が 少
ないため、なかなかグループメンバーで 打 ち 解 けるまで 時 間 がかかることも<br />
あったようでした。また、コロナ 禍 ということもあり、 対 面 でのグループワー<br />
クができないなど、さまざまな 問 題 点 もありました。<br />
協 働 的 な 学 びを 通 じて<br />
学 習 開 始 当 初 はぎこちなさが 見 えた 生 徒 たちですが、 学 習 を 重 ねるにつ<br />
れて 積 極 的 にコミュニケーションを 取 るようになり、アイデア 展 開 を 行 う 頃<br />
には、 多 くのグループが 良 好 な 人 間 関 係 を 確 立 することができました。ま<br />
た、 中 間 発 表 が 終 わり2 学 期 に 入 った 頃 には、グループワークにもかなり 慣<br />
れてきて、デザイン 思 考 を 使 いながらスムーズに 活 動 を 行 えていました。 総<br />
探 の 振 り 返 りアンケートを 見 てみると、 多 く 生 徒 が 自 分 以 外 の 生 徒 と 協 働 的<br />
に 学 んだことの 意 義 について 言 及 している 文 章 が 多 く 見 られ、この 学 習 を 通<br />
してコミュニケーション 能 力 を 身 に 着 けさせることができたようでした。<br />
● 授 業 後 アンケート( 抜 粋 )<br />
• アイデアを 考 える 中 で、 同 じグループの 人 と 意 見 を 出 し 合 うことで、 一 人<br />
では 浮 かばなかったような 意 見 を 知 ることができ、より 深 めていくこと<br />
ができたと 思 います。 一 人 では 難 しくても、 協 力 することでとても 良 いア<br />
イデアを 考 えることができました。 簡 単 に 終 わらせるのではなく、より 良<br />
いものになるように 考 え 続 けようとすることはもちろん、 周 りの 人 と 協 力<br />
し 合 うことの 大 切 さを 改 めて 実 感 できたように 思 います。たくさん 成 長<br />
できたので 良 かったです。<br />
• クラスが 混 合 だったので、 今 まで 話 したことがなかった 人 とも 関 わる 機 会<br />
が 増 え、 積 極 的 にコミュニケーションを 図 ろうとすることができました。<br />
• グループには 初 対 面 の 人 がいて、その 中 で 理 系 と 文 系 それぞれいるの<br />
で、 課 題 に 対 して 様 々な 面 から 意 見 を 交 わすことができた。また、<strong>SDGs</strong><br />
を 知 り、より 深 く 学 ぼうというきっかけにもなった。<br />
• 普 段 自 分 が 考 えないことを 友 達 と 話 し 合 うことで 様 々なことを 知 ること<br />
ができたので 良 い 経 験 になりました。<br />
• 授 業 を 重 ねていくごとにグループのメンバーとも 仲 を 深 める 事 ができ、よ<br />
り 積 極 的 にディスカッションする 事 に 繋 がった。アイデアが 形 になった 後<br />
に 先 生 方 にアドバイスを 求 めてインタビューした 事 も 良 い 経 験 になった。<br />
• 毎 週 話 し 合 いがあるので、みんなと 交 流 を 深 めることができたし、 話 し<br />
合 いの 仕 方 もだんだんわかってきて、 最 終 的 には 円 滑 に 話 し 合 いを 進<br />
めることができました。この 経 験 を 生 かして、 大 学 ではグループディスカ<br />
ッションの 時 に 率 先 して 話 し 合 いを 進 めていきたいです。<br />
社 会 問 題 に 対 する 意 識 向 上<br />
生 徒 の 考 え 出 したアイデアは 多 種 多 様 な 内 容 でした。 中 には 授 業 当 初<br />
に 設 定 した 課 題 と 考 え 出 したアイデアにズレが 生 じているグループもあり<br />
ましたが、 中 間 発 表 での 指 摘 を 受 け 最 終 発 表 までには 修 正 を 行 うことがで<br />
35
きていました。こうした 学 習 を 通 じて、 生 徒 たちの 社 会 問 題 に 関 する 意 識 は<br />
大 きく 変 わってきたようでした。<br />
● 授 業 後 アンケート( 抜 粋 )<br />
• <strong>SDGs</strong>を 通 して 小 さなことからでも 知 ることが 大 事 だと 学 びました。 知 ら<br />
なければ 今 何 が 問 題 でその 原 因 も 解 決 策 も 分 からないままだと 思 いま<br />
す。そのため 今 起 きている 問 題 に 目 を 向 けて 小 さなことから 知 識 を 増 や<br />
していくことが 解 決 の 第 一 歩 だと 考 えています。<br />
• 現 在 の 日 本 における 諸 問 題 に 関 して、 自 分 達 でも 解 決 する 為 の 足 掛 かり<br />
を 作 る 事 ができると 実 感 出 来 た 事 。 実 際 に 出 来 るかどうかはさておき、<br />
まずは 思 いついたアイデアをグループで 出 し 合 う 事 により、イノベーティ<br />
ブなアイデアを 作 る 事 が 出 来 たと 思 う。<br />
• <strong>SDGs</strong>を 考 えるうえで、「 自 然 環 境 」や「 教 育 」といったグループ 分 けは<br />
あったけれど、 自 然 環 境 も 教 育 に 通 ずる 面 があったり、 教 育 によって 自<br />
然 環 境 の 維 持 に 繋 がることもあるように、 様 々な 問 題 が 密 接 に 結 びつ<br />
いているという 事 を 強 く 感 じた。しかし、その 広 範 囲 に 渡 る 地 球 規 模 の<br />
問 題 を 抱 えているいま、どこかひとつの 立 場 からその 問 題 を 見 つめるこ<br />
とによって、より 深 く、 実 現 すれば 大 きく 地 球 に 貢 献 しうるアイデアが 浮<br />
かんだのだと 思 う。そして 各 分 野 のアイデアを 皆 が 持 ち 寄 り、 各 方 面 に<br />
とっていいバランスで 採 用 されていけば、<strong>SDGs</strong>の 目 標 により 近 づくのだ<br />
と 思 う。<br />
• 最 初 はあまり 乗 り 気 ではなかったけど、 回 数 を 重 ね、 考 えを 深 めるにつ<br />
れて 週 2 時 間 では 足 りないと 思 うほどのめり 込 んでいました。また、 授 業<br />
を 通 して 世 の 中 には 私 の 知 らないところで 大 きな 課 題 に 直 面 している 人<br />
達 がいて、そういった 課 題 は 私 たち 一 人 ひとりが 現 状 を 正 しく 知 り、 少 し<br />
気 にかけるだけでかなり 課 題 解 決 に 繋 がることが 改 めてよくわかりまし<br />
た。 直 接 自 分 に 関 係 がなくても、 正 しい 知 識 を 持 ち、ほんの 少 しでも 協<br />
力 できるように 常 にアンテナを 張 っていたいと 思 います。<br />
• 最 初 は<strong>SDGs</strong>の 一 つ 一 つの 目 標 を 達 成 することは 簡 単 なことではないと<br />
他 人 事 のように 考 えてしまっていたところが あったけど、 活 動 を 通 してど<br />
んなに 小 さなことでも 自 分 にできることを 行 動 に 移 していくことが 目 標<br />
達 成 の 第 一 歩 なんだと 思 いました。また 今 の 現 状 について 調 べて 知 ろう<br />
とすることで、 少 しずつでも 良 い 方 向 に 向 かっていくのではないかと 思 い<br />
ました。 総 探 の 授 業 を 通 して<strong>SDGs</strong>についてたくさん 触 れることができ<br />
たことは 私 にとってすごく 良 い 機 会 になったと 思 うので、ここで 終 わりで<br />
はなく、これからも<strong>SDGs</strong>について 知 ろうとすることを 大 切 にしたいです。<br />
• 今 まで、 街 中 に 落 ちているゴミに 対 して、「 汚 いな」や「 誰 がなんで 捨 て<br />
るんだろう」と 思 ったことはあったけど、 実 際 に 自 分 で 解 決 策 を 考 えたこ<br />
とは ありませんでした 。 今 回 の 授 業 を 通 して、 自 分 が 知 らな かった、 目 に<br />
ついていなかった 世 界 や 日 本 のゴミ 問 題 について 知 り、 自 分 たちなりの<br />
解 決 策 を 考 えることでポイ 捨 てに 対 する 見 方 も 変 わり、 自 分 にできるこ<br />
とをしようと 思 うようになりました。 将 来 自 分 たちのアイデアが 実 現 し、<br />
36
人 々のゴミ 問 題 についての 理 解 を 深 め、 住 みやすい 世 界 を 作 っていける<br />
と 良 いなと 思 います。<br />
• 環 境 問 題 について、とても 身 近 に 感 じました。 言 葉 だけでなく 実 際 に 自<br />
分 が 今 できることを 具 体 的 に 考 えた 貴 重 な 時 間 になりました。 自 分 たち<br />
の 考 えたアイデアは 規 模 が 大 きく、 実 現 は 難 しいかもしれませんが、 小<br />
さなことでもプラスチック 問 題 などは 今 の 自 分 でも 対 策 や 活 動 に 参 加 す<br />
ることは 出 来 るので 行 動 に 移 します。<br />
また、 生 徒 の 考 え 出 したアイデアは 高 校 生 ならではの 柔 軟 で 独 創 的 な<br />
発 想 を 用 いたものが 多 くあり、 最 終 発 表 会 にご 参 加 いただいたコメンテー<br />
ターのアンケートにもその 点 が 多 く 言 及 されていました。<br />
● 最 終 発 表 会 ご 意 見 ・ご 感 想 入 力 フォーム( 抜 粋 )<br />
• どの 発 表 も 思 考 が 柔 軟 で、オリジナリティにあふれており、 感 心 しました。<br />
• 高 校 生 とは 思 えないほどの 発 表 力 と、 大 人 には 思 いつかないアイデアに<br />
驚 きました。<br />
• 柔 軟 な 発 想 でとても 面 白 かったです。 大 人 になるにつれてリアルに 考 え<br />
すぎてあれはこうだから 無 理 か…などと 規 模 を 縮 小 したり、 実 用 的 に 考<br />
えすぎることが 増 えがちな 中 、2030 年 に 実 現 できるかも!という 設 定<br />
で 面 白 い 企 画 ばかりでした。<br />
• フレッシュなアイデアに 満 ち 溢 れていて、 発 表 としての 質 も 期 待 していた<br />
以 上 で、す ばらし い 成 果 だったと 感 じ ました 。<br />
学 習 を 通 じて 身 に 付 けたもの<br />
こうした 学 習 を 通 じて 生 徒 はいったいどのような 力 を 身 に 付 けたのでし<br />
ょうか?アンケートの「 学 習 を 通 じて 身 に 付 けた 力 は 何 ですか」という 問 い<br />
に 対 し「コミュ ニ ケ ー シ ョン 能 力 」「 アイデ ア の 発 想 力 」「 伝 え る 力 」「 先 の こ<br />
とを 見 通 す 力 」などさまざまな 回 答 が 見 られました。<br />
● 授 業 後 アンケート( 抜 粋 )「 学 習 を 通 じて 身 に 付 けた 力 は 何 ですか」に<br />
対 して<br />
〇 協 働 性 に 関 する 回 答<br />
・ コミュニケーション 能 力<br />
・ 話 合 う 力<br />
・ 発 言 力<br />
・ 意 見 を 積 極 的 に 出 す 力<br />
・ 意 見 をまとめる 力<br />
・ 協 働 力<br />
・ 相 手 の 意 見 を 理 解 する 力<br />
37
〇 探 究 に 関 する 回 答<br />
・ アイデアを 生 み 出 す 力<br />
・ 多 角 的 に 物 事 を 見 る 力<br />
・ 発 想 力<br />
・ 課 題 発 見 能 力<br />
・ 一 つのことについて 掘 り 下 げて 考 える 力<br />
・ 先 のことを 考 える 力<br />
〇 アウトプットに 関 する 回 答<br />
・ 文 章 力<br />
・ 資 料 をつくる 力<br />
・ プレゼンテーション 能 力<br />
この 学 習 がもたらした 効 果 は、 私 たち 教 員 が 授 業 開 始 当 初 に 予 想 して<br />
いた 効 果 を 遥 かに 上 回 るものでした。 高 校 3 年 生 がここで 身 に 付 けた 力 を<br />
次 のステージで 発 揮 してほしいと 願 うばかりです。<br />
38
高 校 生 に<strong>SDGs</strong> 意 識 を 浸 透 させる<br />
デザイン 教 育 の 導 入<br />
Leon Loh<br />
はじめに<br />
福 翔 高 校 で 実 施 された<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは、 日 本 の 高 校<br />
において、デザイン 教 育 を 一 般 教 育 として 実 践 する 可 能 性 を 提 示 していま<br />
す。<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは、「デザインと 技 術 」や「 技 術 教 育 」 科<br />
目 にみられるように、デザイン 教 育 を 分 割 し、その 本 質 的 な 理 解 に 基 づい<br />
て 設 計 されています。<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトをデザイン 教 育 プログ<br />
ラムとして 設 計 することで1<strong>SDGs</strong> 意 識 の 促 進 ・ 育 成 、221 世 紀 型 スキル<br />
の 育 成 、3 社 会 性 と 情 動 的 学 習 の 育 成 、という 三 つの 重 要 な 目 標 の 達 成 を<br />
目 指 すことができます。この 章 では、 一 般 教 育 としてのデザイン 教 育 の 一 形<br />
態 である<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトの 概 念 化 に 向 けた 考 察 を 紹 介 して<br />
いきます。<br />
デザイン 教 育 としての<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトの 構 想<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは、 問 題 解 決 能 力 ・ 創 造 性 ・ 批 判 的 思 考 ・<br />
デザイン 思 考 を 身 につけることができるプロジェクトで、 以 下 のポイントに<br />
留 意 して 設 計 されました。<br />
• 生 徒 が<strong>SDGs</strong>に 関 連 する 現 実 問 題 を 解 決 すること<br />
• 問 題 解 決 にデザイン 思 考 またはデザインプロセスを 応 用 すること<br />
• 教 師 と 生 徒 の 議 論 のアプローチを 通 じて 解 決 策 を 構 想 すること<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは、 上 記 の 要 素 に 基 づき、 問 題 解 決 プロ<br />
セスの 中 心 となるデザインプロセスによって 構 成 されています。 図 1はこの
プロジェクトの 構 想 を 示 しています。このプロジェクトは 四 つの 段 階 で 構 成<br />
されており、 各 段 階 は 次 のように 説 明 できます。<br />
図 1 <strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトの 構 想<br />
第 一 段 階 : 問 題 の 発 見 と 選 択<br />
この 段 階 では、 生 徒 は<strong>SDGs</strong>に 関 連 する 地 域 社 会 の 問 題 を 探 索 し、 特<br />
定 します。 多 くの 生 徒 はデ ザインプ ロセスに 触 れたことが ないため、 教 師 が<br />
地 域 社 会 で 見 られる 問 題 の 例 をいくつか 提 示 する 必 要 があるでしょう。そ<br />
うすることで、 生 徒 は 身 の 回 りに 存 在 する 問 題 への 意 識 を 高 めることがで<br />
きます。マインドマップなどのさまざまな 手 法 を 用 いて、 生 徒 はブレーンスト<br />
ーミングを 行 い、 身 の 回 りの 問 題 を 探 します。<br />
生 徒 は、 問 題 を 理 解 するリサーチを 行 うために、 身 の 回 りの 問 題 を 探 す<br />
ことから 始 めます。このリサー チ の 手 法 は、 観 察 、 現 地 調 査 、インタビュー<br />
などがあります。これらのリサーチを 通 して、 生 徒 は 関 係 者 への 共 感 を 深<br />
め、 問 題 をより 深 く 理 解 できるようになります。あまり 身 近 でない 問 題 をリ<br />
サーチしようとすると、 問 題 の 理 解 を 深 めるのに 有 用 なインタビューや、 現<br />
地 調 査 による 情 報 収 集 が 困 難 になるので 注 意 しましょう。<br />
問 題 を 探 索 した 後 に、 生 徒 はどの 問 題 が 最 も 重 要 な 問 題 かを 決 める 必<br />
要 があります。 生 徒 の 意 思 決 定 を 促 すには、 質 問 方 式 が 効 果 的 であると 言<br />
えるでしょう。<br />
第 二 段 階 :アイデアの 概 念 化<br />
40<br />
この 段 階 では、 生 徒 は 問 題 解 決 するための 新 しいアイデアを 考 える 前<br />
に、 問 題 または 問 題 の 一 部 を 解 決 できる 既 存 の 解 決 策 を 調 査 します。こう<br />
することで、 生 徒 は 既 に 実 現 されているアイデアを 知 らずに 似 たようなアイ
デアを 考 える 手 間 を 省 くことができます。また、 既 存 の 解 決 策 から 学 び、 新<br />
しい 解 決 策 を 提 案 することで 既 存 の 解 決 策 を 改 善 することができる 可 能<br />
性 もあります。<br />
次 に、ブレーンストーミングを 行 い、できるだけ 多 くの 創 造 的 な 解 決 策 を<br />
模 索 します。その 後 、どの 解 決 策 が 問 題 解 決 に 最 も 適 しているかを 判 断 し<br />
ます。<br />
問 題 解 決 のための 創 造 的 なアイデアを 考 える 際 に、 生 徒 は 他 の 科 目 で 勉<br />
強 したさまざまな 知 識 やスキルを 活 用 する 必 要 があります。さまざまな 科 目<br />
で 学 んだ 知 識 やスキルを 使 うことで、 生 徒 は 知 識 とスキルを 統 合 し、アイデ<br />
アを 実 現 可 能 な 解 決 策 に 概 念 化 する 応 用 力 を 身 につけることができます。<br />
教 師 は、 生 徒 がアイデアを 構 想 する 際 に 答 えを 教 えるのではなく、メン<br />
ターまたはファシリテーターとして、 生 徒 が 自 ら 答 えを 見 つけられるように<br />
導 く 役 割 を 担 います。また、 教 師 は、 生 徒 が 答 えを 見 つけられるように、 質<br />
問 のフレーム 作 りを 手 助 けすることもあるでしょう。このように、「 師 弟 関<br />
係 」のように 教 師 が 生 徒 に 指 示 を 与 えて 解 決 策 を 生 み 出 すので はなく、 教<br />
師 と 生 徒 は 創 造 的 な 解 決 策 を「コ・デザイン」していくのです。<br />
生 徒 が 最 適 な 解 決 策 を 選 択 できるようにするために、 教 師 は 生 徒 がそ<br />
れぞれの 解 決 策 を 評 価 できるフレームワークを 作 成 して 手 助 けすることが<br />
できます。このフレームワークは、1 解 決 策 が 果 たすべき 目 的 、2 利 用 者 と<br />
利 害 関 係 者 による 評 価 、3 解 決 策 が 生 み 出 す 正 の 影 響 、4 解 決 策 が 生 み<br />
出 す 負 の 影 響 、5 解 決 策 の 持 続 可 能 性 という 五 つの 項 目 に 基 づいて、 生 徒<br />
が、 解 決 策 を 評 価 できるように 導 きます。この 評 価 基 準 は 網 羅 的 なもので<br />
なく、 生 徒 がいつでも 評 価 基 準 に 関 連 項 目 を 追 加 することができる 柔 軟 な<br />
ものと 考 えてください。<br />
第 三 段 階 :アイデアの 発 展<br />
最 適 な 解 決 策 を 決 定 した 後 、その 解 決 策 をさらに 改 善 ・ 発 展 させるため<br />
に、 解 決 策 の 詳 細 について 検 討 します。 詳 細 に 検 討 することで、 解 決 策 を<br />
可 能 な 限 り 実 現 可 能 なものにすることができます。 生 徒 は、プレゼンテーシ<br />
ョンボードに 可 能 な 限 り 詳 細 に 書 き 込 み、 解 決 策 がどのように 問 題 を 解 決<br />
するかを 説 明 します。 場 合 によっては、 解 決 策 がどのように 機 能 するかを 説<br />
明 するために 簡 単 なモデルを 作 成 することも 有 効 です。 生 徒 によっては、 簡<br />
単 なモデルを 作 ることで、 解 決 策 がどのように 機 能 するかをより 明 確 にイメ<br />
ージできることもあるでしょう。<br />
第 四 段 階 : 構 想 の 最 終 発 表<br />
最 終 段 階 では、 生 徒 は 自 分 たちの 解 決 策 を 同 級 生 や 関 係 者 に 発 表 する<br />
ことが 求 められます。 生 徒 は、 自 分 たちで 考 えた 解 決 策 の 構 想 を 明 確 かつ<br />
効 果 的 に 説 明 する 必 要 があるので、どのような 情 報 を 提 示 すべきか 吟 味 し<br />
41
なければなりません。また、プレゼンテーションの 内 容 を 論 理 的 、かつ、 首<br />
尾 一 貫 した 内 容 に 整 理 する 必 要 もあります。プレゼンテーションを 通 して、<br />
重 要 なコミュニケーション 能 力 とプレゼンテーション 能 力 を 身 につけること<br />
ができます。<br />
デザイン 思 考 による 問 題 解 決 プロセスの 反 復 性<br />
生 徒 がデザイン 思 考 に 取 り 組 む 際 に、 問 題 発 見 から 始 まり、その 解 決 策<br />
に 至 るまでのデザインプロセスは、 直 線 的 ではないことを 念 頭 に 置 いてお<br />
くことが 大 切 です。 時 には、 生 徒 が 問 題 の 理 解 を 深 めていく 中 で、たとえリ<br />
サーチの 途 中 であっても、スタート 地 点 に 立 ち 戻 って 問 題 を 再 定 義 すること<br />
もあり 得 ます。また、 解 決 すべきより 本 質 的 な 問 題 が 他 にもあるかもしれな<br />
いと 気 づいて、 別 の 問 題 に 焦 点 を 当 てて 進 路 変 更 する 場 合 もあります。こ<br />
のように、デザイン 思 考 では、いつでも 問 題 と 解 決 策 を 再 検 討 し、 焦 点 を 修<br />
正 し、 興 味 のある 問 題 を 解 決 するための 創 造 的 な 解 決 策 に 向 かうことがで<br />
きます。<br />
42
「 問 題 」の 発 見 から 始 まる<br />
高 校 生 の 主 体 性 を 伸 ばすデザイン 教 育<br />
菊 澤 育 代<br />
背 景<br />
新 しい 学 習 指 導 要 領 では、 予 測 困 難 な 社 会 で 求 められる 資 質 ・ 能 力 を 身<br />
につけ、 生 涯 にわたって 能 動 的 に 探 究 を 深 めることの 重 要 性 が 指 摘 されて<br />
います 1) 。この 能 力 ・ 資 質 の 習 得 には、 生 徒 が 社 会 とのつながりを 感 じ、 主<br />
体 的 に 問 題 を 発 見 し 解 決 に 繋 げる 学 びの 場 が 求 められます。<br />
福 翔 高 校 では、 九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 <strong>SDGs</strong>デザインユニッ<br />
トとともに、2019 年 からデザイン 思 考 教 育 のスキームを 取 り 入 れた「<strong>SDGs</strong><br />
チャレンジプロジェクト」に 取 り 組 んできました。 私 は 外 部 観 察 者 という 立<br />
場 で 参 加 させていただき、 客 観 的 に 取 り 組 みを 観 察 してきました。このプロ<br />
ジェクトでは、<strong>SDGs</strong>に 関 連 するテーマの 中 から 生 徒 自 ら 課 題 を 発 見 し、 特<br />
定 し、 解 決 策 を 洗 い 出 し、 抽 出 するという 一 連 の 流 れを 体 験 します。 貧 困 、<br />
ごみ 問 題 、いじめ、 食 品 ロスなど、 国 や 世 代 を 超 えた 世 界 の 多 様 な 問 題 の 中<br />
で、Black Lives Matter 運 動 などに 代 表 される 人 種 差 別 や、 待 機 児 童 問 題<br />
など、 高 校 生 にとって 直 接 的 な 経 験 の 少 ない 社 会 問 題 にも 触 れます。この、<br />
直 接 的 な 経 験 が 不 足 した 状 態 で、 問 題 の 本 質 を 理 解 し 問 題 を 適 切 な 対 象 ・<br />
範 囲 に 落 とし 込 むプロセスは 困 難 を 極 めます。しかし、この 問 題 設 定 が、そ<br />
の 後 の 主 体 的 な 探 究 の 原 動 力 となります。 本 稿 では、こうした 生 徒 の“ 問 題 ”<br />
の 受 け 止 め 方 に 注 目 し、 主 体 的 な 探 究 を 進 めるヒントを 模 索 します。<br />
課 題 認 識<br />
ここでは、あるグループの 活 動 プロセスを 例 として 取 り 上 げ、 生 徒 の 問<br />
題 に 対 する 認 識 を 整 理 します。 食 品 ロスをテーマにしたこのグループでは、
「 飢 餓 」、「 世 界 の 貧 困 」、「 食 べ 残 し 」、「 売 れ 残 り」な ど の 課 題 が 挙 が り<br />
ました。 続 く 先 行 事 例 の 調 査 では、「 食 品 業 界 の 消 費 期 限 の 表 示 見 直 しに<br />
関 す る 取 り 組 み 」、「 生 産 を 調 整 す る 技 術 」、「 廃 棄 食 品 を 再 加 工 し て 再 度<br />
食 品 として 提 供 する 取 り 組 み」、「 食 品 パッケージの 環 境 配 慮 」などが 挙 げ<br />
られました( 図 1)。<br />
飢 餓<br />
食 べ 残 し<br />
問 題<br />
世 界 の 貧 困 (1 日 200<br />
円 以 下 で 生 活 )<br />
国 内 の 子 どもの<br />
貧 困<br />
売 れ 残 り<br />
持 続 可 能 な 生 産<br />
消 費 期 限 の 見 直 し<br />
生 産 抑 制<br />
事 例<br />
食 品 パッケージの<br />
環 境 配 慮<br />
廃 棄 食 品 の 加 工 に<br />
よる 再 利 用<br />
解 決 策<br />
家 庭 での 食 品 の<br />
延 命 化 技 術<br />
図 1 活 動 プロセスの 例<br />
これらは 一 見 、 全 て 食 品 ロスというテーマに 関 連 しているように 見 えま<br />
すが、 実 はそれぞれの 問 題 と 事 例 は 一 部 しか 重 なり 合 っていません。 問 題 ・<br />
事 例 ・ 解 決 策 を 整 理 すると、 飢 餓 や 世 界 の 貧 困 は「 食 料 不 足 」に 関 する 問<br />
題 であり、 食 べ 残 しや 売 れ 残 りは「 食 料 の 廃 棄 」に 関 する 問 題 です( 図 2)<br />
。さらに、これらを 俯 瞰 すると、 一 方 では 食 料 が 不 足 し 一 方 では 廃 棄 されて<br />
いるという「 不 均 衡 」の 問 題 も 見 えてきます。しかし、 先 行 事 例 調 査 では 消<br />
費 期 限 の 見 直 しや 生 産 の 抑 制 など、 主 に「 売 れ 残 り」に 関 する 事 例 のほか、<br />
問 題 とは 直 接 的 な 関 係 が 認 められない「 食 品 パッケージの 環 境 配 慮 」など<br />
も 挙 げられました。<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトの 授 業 計 画 では、 問 題 の<br />
決 定 ( 絞 り 込 み) 後 に 先 行 事 例 調 査 を 行 いますが、こうした 結 果 は、 問 題 の<br />
絞 り 込 みが 十 分 ではなかったことが 示 唆 されます。そしてこのグループが<br />
最 終 的 に 導 き 出 した 解 決 策 は「 家 庭 で 食 品 の 延 命 化 を 図 る 技 術 」でした。<br />
この 技 術 は、 問 題 発 掘 のステージで 挙 げられた 食 べ 残 しや 売 れ 残 りではな<br />
く、「 家 庭 での 食 品 廃 棄 」という 見 えない 課 題 が 想 定 されているようです。<br />
44
1 2<br />
食 料 不 足 の 問 題 ?<br />
食 料 廃 棄 の 問 題 ?<br />
飢 餓<br />
世 界 の 貧 困 (1 日 200<br />
円 以 下 で 生 活 )<br />
3<br />
不 均 衡 の 問 題 ?<br />
食 べ 残 し<br />
売 れ 残 り<br />
問 題<br />
国 内 の 子 どもの<br />
貧 困<br />
家 庭 での 食 品 廃 棄 ?<br />
?<br />
?<br />
持 続 可 能 な 生 産<br />
消 費 期 限 の 見 直 し<br />
生 産 抑 制<br />
事 例<br />
食 品 パッケージの<br />
環 境 配 慮<br />
廃 棄 食 品 の 加 工 に<br />
よる 再 利 用<br />
解 決 策<br />
家 庭 での 食 品 の<br />
延 命 化 技 術<br />
図 2 問 題 ・ 事 例 ・ 解 決 策 の 関 係 性<br />
二 つの 共 感<br />
こうしたズレが 発 生 する 要 因 として、デザイン 思 考 の 第 一 のステップで<br />
ある「 課 題 の 洗 い 出 し」で 求 められ る「 共 感 」の 不 足 が 考 えられます 2) 。「<br />
共 感 」は、 対 象 者 の 視 点 や 立 場 で 問 題 をより 詳 細 に 観 察 するプロセスです<br />
が、これが 不 足 すると、 問 題 ・ 対 象 ・ 解 決 策 などの 間 に 齟 齬 が 生 じます。 実<br />
社 会 では、 解 決 策 に 合 わせて 問 題 を 置 き 替 えることはできませんが、 学 習<br />
のプロセスとしては、 行 ったり 来 たりしながら 問 題 自 体 を 見 直 すことも 必 要<br />
になるでしょう。<br />
この「 共 感 」を 掘 り 下 げてみると、「 相 手 の 心 の 状 態 を 推 論 し 理 解 する」<br />
といういわばクールな< 認 知 的 共 感 >と「 相 手 の 状 態 を 感 情 的 に 共 有 する」<br />
というホットな< 情 動 的 共 感 >という 二 つの 機 能 的 要 素 に 分 けられます 3) 。<br />
本 プロジェクトのような 課 題 解 決 型 の 学 びにおいては、 問 題 を 抱 える 対<br />
象 者 の 立 場 から 見 た 問 題 の 深 掘 りという 側 面 において< 認 知 的 共 感 >が 必<br />
要 となり、 問 題 解 決 のプロセスにおいて 対 象 者 に 寄 り 添 い 問 題 に 関 心 を 持<br />
つ 姿 勢 には< 情 動 的 共 感 >が 求 められます。 論 理 性 や 有 効 性 のある 解 決<br />
策 を 導 くためには< 認 知 的 共 感 >が、 自 分 ごとに 捉 える 主 体 性 の 形 成 には<br />
< 情 動 的 共 感 >が 重 要 である、と 言 い 換 えられるかもしれません。<br />
こうした 共 感 を 高 めるためにはどのような 方 法 があるでしょうか。ここで<br />
は、 共 感 の 形 成 に 寄 与 すると 思 われる 手 法 について 紹 介 します。<br />
45
「 共 感 」をサ ポートする 手 法<br />
アンカー 体 験<br />
新 しい 学 習 指 導 要 領 では、 学 力 の3 要 素 ( 知 識 ・ 技 術 、 思 考 力 ・ 判 断<br />
力 ・ 表 現 力 、 主 体 性 ・ 協 働 性 ・ 多 様 性 )に 連 動 して「 習 得 ・ 活 用 ・ 探 究 」の3<br />
段 階 の 学 習 が 提 示 されています。このうち、「 習 得 」と「 活 用 」で は「 与 えら<br />
れた 問 いを 解 く」のに 対 して、「 探 究 」では 生 徒 自 らが「 問 いを 立 てる」とい<br />
う 違 いがあります 4) 。デザイン 思 考 では、「 共 感 」を 軸 に 問 いを 立 てるとこ<br />
ろから 始 まります。 問 いを 立 てることの 重 要 性 は 認 められつつも、その 問 い<br />
の 本 質 的 な 価 値 を 生 徒 が 理 解 する 難 しさも 一 方 で 指 摘 されています 5) 。そ<br />
うした 場 合 に 有 効 とされるのが、 学 習 のその 後 の 展 開 の 支 えともなるアン<br />
カー 体 験 (anchoring experience)です。アンカー 体 験 とは、その 単 語 の<br />
意 味 する 通 り、 錨 を 使 って 船 を 係 留 させるように、その 問 いを 探 究 するため<br />
の 礎 となる 体 験 です。 例 えば、 細 胞 や 病 気 に 関 する 学 習 において、「 親 友 は<br />
僕 を 病 気 にするのか?」という 問 いを 設 定 し、 先 生 は 生 徒 に、 南 アフリカで<br />
エイズに 感 染 した 少 年 の 物 語 を 読 み、 議 論 することを 促 します 6) 。この 物 語<br />
は、 病 気 が 彼 らにどのように 関 係 しているかという 文 脈 を 理 解 させるための<br />
アンカー 体 験 となります。つまり、 生 徒 に 特 定 の 経 験 を 疑 似 的 に 体 験 させ、<br />
問 いに 向 かうためのスターティングポイントとなる 杭 を 打 つ 試 みです。これ<br />
は、なぜどのようにその 問 題 が 自 分 に 関 係 するのかを 認 識 することで 認 知<br />
的 共 感 を 促 し、またそのストーリーに 感 情 移 入 するほどに 情 動 的 共 感 を 高<br />
められると 考 えられます。<br />
ペルソナ 手 法 による 対 象 の 具 現 化<br />
「 共 感 」には、 問 題 を 主 体 的 にとらえる 視 点 が 欠 か せません。 問 題 に 直<br />
面 している 対 象 者 がその 事 象 にどのような 考 えや 感 情 を 持 っているのか、<br />
その 考 え 方 の 背 景 にどのような 価 値 観 があるのかといった、 人 間 性 に 関 わ<br />
る 部 分 までも 深 く 理 解 することが 共 感 につながります。そのためには、 一 般<br />
的 なモデルを 想 定 するのではなく、「 特 定 の 誰 か」を 対 象 に 設 定 するという<br />
手 法 が 用 いられます。<br />
これは、ペルソナと 呼 ばれ、「 本 物 の 人 間 ではないけれど、デザインのプ<br />
ロセスの 過 程 で 本 物 の 人 間 のかわりになるもの」と 定 義 されます 7) 。 想 像 上<br />
の 対 象 を 厳 密 かつ 詳 細 に 定 義 づけることで、 人 間 中 心 の 設 計 が 可 能 とな<br />
り、サービスに 求 められる 具 体 的 な 機 能 やユーザーインターフェースが 検 討<br />
できるようになります。 例 えば、ペルソナの 出 身 地 、 趣 味 、 性 格 、 価 値 観 など<br />
具 体 的 なプ ロフィール を 設 定 し 、そ の ペ ルソ ナ が サ ービ スをどのように 使 用<br />
するかを 時 系 列 に 検 討 します 8) 。こうした 手 法 は、 実 際 の 現 場 の 問 題 を 正 し<br />
く 認 識 するという 意 識 を 向 上 させ、 認 知 的 共 感 で 言 われる「 相 手 の 心 の 状<br />
態 を 推 論 し 理 解 する」ことにつながります。<br />
46
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトのあるグループは、 自 動 車 から 排 出 され<br />
るCO 2 の 抑 制 に 着 目 し、 問 題 の 対 象 を「 車 に 乗 る 人 みんな」と 設 定 しまし<br />
た。しかし、これを「 平 日 は 他 県 への 通 勤 に、 週 末 は 家 族 での 買 い 物 に 自<br />
家 用 車 を 利 用 するAさん 家 族 」など、 具 体 的 なペルソナに 落 とし 込 むこと<br />
で、 解 決 策 自 体 も、 低 燃 費 な 自 動 車 の 選 択 から、カーシェアなど 利 用 形 態<br />
の 転 換 、 自 動 車 から 他 の 移 動 手 段 への 切 り 替 えなど、 全 く 異 なる 提 案 が 出<br />
てくることも 予 想 されます。 自 身 の 知 り 合 いなどを 思 い 浮 かべることで 情 動<br />
的 共 感 を 刺 激 することも 考 えられます。<br />
マインドマッピング<br />
最 後 はマインドマッピングです。マインドマッピングは、アイデア 間 の 関<br />
係 を 視 覚 的 に 表 現 する 手 法 で、 書 面 や 口 頭 での 説 明 よりも、 瞬 間 的 にその<br />
シーンの 要 点 を 認 識 させたり、 空 間 構 造 を 説 明 することに 長 けています 9) 。<br />
それに 対 し、 言 語 的 な 表 現 は、 抽 象 的 なアイデア 間 の 複 雑 な 論 理 関 係 を 補<br />
足 し、 条 件 付 きのアクションについても 説 明 することが できます 10) 。マイン<br />
ドマッピングは、 視 覚 的 な 図 式 とそれを 補 強 する 言 語 表 現 を 組 み 合 わせる<br />
ことで、 問 題 の 位 置 付 けや 影 響 し 合 うオブジェクトとの 関 係 性 を 理 解 しや<br />
すくなります。<br />
先 述 の 食 品 ロスを 取 り 上 げたグループでも、「 食 べ 残 し」や「 売 れ 残 り」<br />
がターゲットや 先 行 事 例 とどんな 関 係 にあるのか、どのような 論 理 関 係 で<br />
結 ばれているのか、といった 構 造 をマインドマッピングで 表 現 することで、<br />
理 解 が 深 まるでしょう。このように、 対 象 者 と 結 ばれる 各 オブジェクト( 例 え<br />
ば 、 問 題 ・ 事 例 ・ 影 響 など )との 関 係 を 視 覚 化 し 言 語 化 することで、 認 知 的<br />
共 感 を 高 め、 論 理 性 のある 問 題 解 決 につながることが 期 待 されます。<br />
さいごに<br />
生 徒 が 生 涯 にわたって 能 動 的 に 探 究 を 深 めるためには、 社 会 課 題 に 関<br />
心 を 持 ち、それを 自 身 や 自 身 の 生 活 とのつながりを 持 って 考 えることが 重<br />
要 になります。 立 体 的 に 事 象 の 関 係 性 を 把 握 し 表 現 する< 認 識 的 共 感 ><br />
と、 問 題 や 対 象 を 当 事 者 目 線 で 感 じ 取 る< 情 動 的 共 感 >は、いずれも 生 徒<br />
が 社 会 とのつながりを 実 感 することに 役 立 つと 考 えられます。「 共 感 」とい<br />
うのは、 問 題 に 向 き 合 う 最 初 のとっかかりであり、 主 体 的 に 探 究 を 続 ける<br />
エネルギーともなります。これを 高 めることで、 正 解 のない 社 会 において 柔<br />
軟 な 発 想 で 解 決 策 を 模 索 し、かつ 影 響 を 受 ける 個 々 人 を 思 いやる 配 慮 が 育<br />
まれるのではないでしょうか。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). 文 部 科 学 省 . 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 ( 平 成 30 年 告 示 ) 解 説 総 合 的 な 探 究 の 時 間<br />
編 . (2018)<br />
2). 菊 澤 育 代 : イノベーション 力 を 育 む 多 様 な 学 び : ICT 教 育 、STEAM 教 育 、デザイン<br />
思 考 教 育 の 考 察 を 通 して, 都 市 政 策 研 究 , 22, pp.21–31 (2021)<br />
47
48<br />
3). 梅 田 聡 : 共 感 の 理 論 と 脳 内 メカニズム, 高 次 脳 機 能 研 究 ( 旧 失 語 症 研 究 ), 38(2),<br />
pp.133–8 (2018)<br />
4). 友 野 伸 一 郎 : 探 究 活 動 において 生 徒 が 「 自 ら 問 いを 立 てる」には 主 体 性 と 問 題 意<br />
識 の 育 成 が 欠 かせない, キャリアガイダンス. リクルート 進 学 総 研 (2018)<br />
5). Krajcik, J.S., Blumenfeld, P.C.: Project-based learning, Cambridge University<br />
Press, pp.317–334 (2012)<br />
6). 前 掲 5)<br />
7). Cooper, A., 山 形 浩 生 : コンピュータは、むずかしすぎて 使 えない!, 翔 泳 社<br />
(2000) https://cir.nii.ac.jp/ja/crid/1130282269572875776.bib ( 最 終 閲 覧<br />
日 : 2022,1,18)<br />
8). 大 迫 周 平 , 亀 井 靖 高 , 細 合 晋 太 郎 , 加 藤 公 敬 , 石 塚 昭 彦 , 坂 口 和 敏 , et al.: PBL に<br />
おけるデザイン 思 考 適 用 の 効 果 と 課 題 , 情 報 処 理 学 会 研 究 報 告 , 2014(2), pp.1–7<br />
(2014)<br />
9). Ware, C.: Visual thinking for design. Elsevier (2010)<br />
10). 前 掲 9)
<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムのための<br />
ツールデザイン<br />
張 彦 芳<br />
九 州 大 学 <strong>SDGs</strong>デザインユニットは、 前 章 で 説 明 した<strong>SDGs</strong>デザイン<br />
スクールの 活 動 の 一 環 である 高 大 連 携 で 培 われた 知 見 や 経 験 を 活 かし<br />
て、<strong>SDGs</strong> 教 育 のツール 開 発 の 可 能 性 を 探 っています。さらに、 開 発 したツ<br />
ールを 含 めた 教 育 手 法 を、オープンソースで 世 界 に 発 信 することを 目 指 して<br />
1)<br />
います。<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムのツールを 開 発 するために、デザイン 思 考<br />
の 専 門 家 と 高 校 教 育 の 教 員 が 連 携 しながら、<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムを 実 施<br />
することができるツールをデザインしました。このツールは、 自 ら 問 題 を 提<br />
起 すること、グループディスカッション、 応 用 、 評 価 などに 活 用 できます。<br />
まず、 教 育 現 場 におけるデザイン 思 考 を 活 かした 教 育 プロセスの 六 つの<br />
ステップに 必 要 なツールを 考 えました( 図 1)。デザイン 思 考 のプロセスは、<br />
「 着 想 」、「 アイ デ ア 化 」、「 実 現 」の 三 つ の ス テ ッ プ に 沿 って 進 み 、そ れ ぞ<br />
れの 段 階 において 必 要 なツールは 異 なります。 具 体 的 に<strong>SDGs</strong> 教 育 プログ<br />
ラムで 使 用 したツールの 一 部 を 例 として 紹 介 します。<br />
図 1 教 育 プロセスの 六 つのステップに 必 要 なツール 例
「 着 想 」ステップのツール 例<br />
生 徒 は、 設 定 した 課 題 に 関 する 先 行 事 例 調 査 ( 図 書 、インターネット 検<br />
索 、 電 話 、インタビューなど)を、「 事 例 調 査 」シート( 図 2)に 記 入 します。<br />
こ の シ ー ト に は 、( 1 )グ ル ー プ で 設 定 し た 課 題 、( 2 ) 設 定 し た 課 題 解 決 に<br />
向 けた 既 存 の 取 り 組 みを 最 大 2 件 書 き 込 む 自 由 記 述 欄 を 設 けました。<br />
「アイデア 化 」ステップのツール 例<br />
グループ 内 で 出 された 多 くのアイデアから 一 案 または 数 案 に 絞 るため<br />
に、 出 され たアイデ アを 取 捨 選 択 する 必 要 が ありま す。そ の ため の 評 価 指<br />
標 として、「アイデア 選 択 のチェック 項 目 」シート( 図 3)を 作 成 しました。<br />
「 実 現 」ステップのツール 例<br />
アイデアに 対 する 第 三 者 評 価 を 行 うため、コメントやアドバイスを 集 約<br />
し、 検 証 するための「アイデア 検 証 」シート( 図 4)を 作 成 しました。(1)グ<br />
ループのアイデア(2)そのアイデアについてどう 思 うか、についてヒアリン<br />
グした 結 果 を 書 き 込 める 自 由 記 述 様 式 を 設 けました。<br />
図 2 事 例 調 査 シート<br />
図 3 アイデア 選 択 のチェック<br />
項 目 シート<br />
図 4 アイデア 検 証 シート<br />
これらのワークシートに 加 えて、 教 育 現 場 でデザイン 思 考 のプロセスを<br />
より 深 く 理 解 するために、デザイン 思 考 の 六 つのステップの 総 括 的 なツール<br />
として、 高 等 学 校 教 員 用 メソッドカードと 生 徒 用 クエスチョンカードの2 種<br />
類 のカードを 開 発 しました。<br />
教 員 用 メソッドカード<br />
50<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトを 検 証 し、 高 等 学 校 の 教 育 現 場 で 利 用<br />
できる 教 員 用 メソッドカードを 開 発 しました( 図 5)。これは、 国 際 的 な<br />
<strong>SDGs</strong>ワークショップであるGlobal Goals Jam 2) で 使 用 されているJam<br />
キットを 参 考 にしました 。 具 体 的 には、 使 用 頻 度 の 高 いデ ザイン 手 法 であ<br />
る「フィールドワーク」、「K J 法 」、「ペルソナ」、「ブレインストーミング」、
「WWWWWH」、「バックキャスティング」、「ダブルダイヤモンド」、「コ<br />
ン セ プ トス ケ ッ チ 」、「 ス テ ー ク ホ ル ダ ー マ ッ プ 」、「 ペ ー パ ー プ ロト タ イ ピ ン<br />
グ 」、「 スト ー リ ー ボ ード 」、「 第 三 者 評 価 」の 1 2 種 類 を カ ード に し まし た 。<br />
図 5 メソッドカード<br />
生 徒 用 クエスチョンカード<br />
<strong>SDGs</strong> 教 育 において、 生 徒 がより 深 いディスカッションを 行 うための 生<br />
徒 用 クエスチョンカードを 開 発 しました( 図 6)。これは 授 業 の 際 に、 事 例<br />
調 査 シートなど 他 のツールと 組 み 合 わせて 利 用 することができます。デザ<br />
イン 思 考 のプロセスとクリティカルシンキングのプロセスを 組 み 合 わせ、「<br />
理 解 」、「 課 題 定 義 」、「 アイ デ ア 展 開 」、「 テ スト」の 四 つ の ス テ ッ プ に 合 わ<br />
せ、 各 4 種 類 のカードで 構 成 されています。それぞれのステップには、「 知<br />
識 」と「 応 用 」があり、 生 徒 のスキルや 授 業 の 目 的 に 応 じて 選 択 できる 内 容<br />
になっています。これらのカードを 利 用 することで、 生 徒 はするべきことを<br />
より 深 く 理 解 することができ、 体 系 的 な 考 えに 導 くことができます。<br />
理 解 カード ( 表 ) 理 解 カード ( 裏 )<br />
課 題 定 義 カード ( 表 )<br />
課 題 定 義 カード ( 裏 )<br />
51
アイデア 展 開 カード ( 表 ) アイデア 展 開 カード ( 裏 )<br />
テストカード ( 表 )<br />
テストカード ( 裏 )<br />
図 6 クエスチョンカード<br />
上 述 の 、「 事 例 調 査 」シ ート 、「 アイ デ ア 検 証 」シ ート 、「 アイ デ ア 選 択 の<br />
チェック 項 目 」シート、コメントカード、アンケート、メソッドカード、クエスチ<br />
ョンカード、 評 価 シートの 教 育 ツールを 活 用 した 双 方 向 性 の 授 業 を 行 うこと<br />
は、 知 識 先 行 ではなく、 主 体 的 、 協 働 的 に 新 たな 価 値 を 創 造 する 人 材 育 成<br />
の 助 けとなります。また、 教 員 がデザイン 思 考 のノウハウを 把 握 し、 自 ら 授 業<br />
を 指 導 できるように、ツール 利 用 のマニュアル 開 発 も 計 画 しています。<br />
今 後 は<strong>SDGs</strong> 教 育 プログラムのツールをさらに 多 くの 高 等 学 校 で 展 開 で<br />
きるように、 実 践 と 評 価 を 経 てパッケージ 化 する 予 定 です。 高 等 学 校 の 総 合<br />
的 な 探 究 の 時 間 などの 授 業 において、 現 場 の 教 員 の 一 助 となること、そして<br />
生 徒 の21 世 紀 型 スキルの 習 得 に 貢 献 できることを 願 っています。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). ティム・ブラウン:『デザイン 思 考 が 世 界 を 変 える』, 早 川 書 房 出 版 (2014)<br />
2). Global Goals Jam 公 式 サイト https://globalgoalsjam.org ( 最 終 閲 覧<br />
日 :2022.218)<br />
52
STEA M 教 育 としての<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト<br />
鷹 野 典 子<br />
STEM はScience、Technology、Engineering、Mathematicsの 頭<br />
文 字 をとったもので、2001 年 に 米 国 NSF (National Science Foundation)<br />
のJudith A. Ramaleyが 提 唱 しました 1) 。アメリカで は 19 8 0 年 代 から 教<br />
育 における 科 学 と 数 学 の 重 要 性 が 多 くの 教 育 提 言 の 中 で 論 じられてお<br />
り、2015 年 にSTEM 教 育 法 が 制 定 されました。さらに2006 年 にSTEMに<br />
Artを 加 えたSTEAMという 用 語 がGeorgette Yakmanにより 初 めて 使 わ<br />
れ、STEA M 教 育 の 枠 組 みとカリキュラムが 作 られました 2)3) 。S T E A M 教<br />
育 は、これらの 分 野 を 横 断 的 に 学 び、それらを 応 用 して、 想 像 力 や 創 造 的 な<br />
方 法 で 問 題 解 決 できる 人 材 を 育 成 する 教 育 として 世 界 に 広 がっています。<br />
日 本 においては、 経 済 産 業 省 が 令 和 の 教 育 改 革 に 向 けた「 未 来 の 教 育 ビ<br />
ジョン」として、1 学 びのSTEAM 化 、2 学 びの 自 立 化 ・ 個 別 最 適 化 、3 新 し<br />
い 学 習 基 盤 づくりを 三 つの 柱 に 提 言 しています。「 学 びのSTEAM 化 」は、 一<br />
人 ひとりのわくわくする 感 覚 を 呼 び 覚 まし、 文 理 問 わず 必 要 な 教 科 知 識 ・ 専<br />
門 知 識 を 習 得 し(= 知 る)、 探 究 ・プロジェクト 型 学 習 による 課 題 発 見 ・ 解 決<br />
の 試 行 錯 誤 し(= 創 る)、これら「 知 る」と「 創 る」が 循 環 する 学 びを 指 してい<br />
ます。 文 部 科 学 省 においても「S T E A M 教 育 等 の 各 教 科 等 横 断 的 な 学 習 の<br />
推 進 」の 中 で、AIやIoTなどの 急 速 な 技 術 の 進 展 で 社 会 が 激 しく 変 化 し 多<br />
様 な 課 題 が 生 じている 現 代 において、これらの 課 題 に 対 応 して 求 められる 資<br />
質 ・ 能 力 を 育 成 するためにSTEAM 教 育 の 必 要 性 をあげています。STEAM<br />
教 育 の 中 のArtには「 芸 術 」に 近 いArt、そして「 教 養 」に 近 いArts (Liberal<br />
Arts)という、 大 きく 分 けて 二 つの 概 念 がありますが、 文 部 科 学 省 において<br />
は 芸 術 、 文 化 のみならず、 生 活 、 経 済 、 法 律 、 政 治 、 倫 理 等 を 含 めた 広 い 範<br />
囲 (Liberal Arts)で 定 義 し、 推 進 することが 重 要 であると 述 べています。
2017 年 の 学 習 指 導 要 領 の 改 訂 において「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び」<br />
を 目 指 すことが 示 され、 高 等 学 校 では「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 」が「 総 合 的<br />
な 探 究 の 時 間 」に 変 更 となり、2022 年 度 から 本 格 実 施 となります。 文 部 科<br />
学 省 中 央 教 育 審 議 会 答 申 ( 令 和 3 年 1 月 26 日 )の 中 では、「 高 等 学 校 におい<br />
ては、 新 学 習 指 導 要 領 に 新 たに 位 置 付 けられた『 総 合 的 な 探 究 の 時 間 』や<br />
『 理 数 探 究 』が 実 生 活 、 実 社 会 における 複 雑 な 文 脈 の 中 に 存 在 する 事 象<br />
などを 対 象 として 教 科 等 横 断 的 な 課 題 を 設 定 する 点 や、 課 題 の 解 決 に 際 し<br />
て、 各 教 科 等 で 学 んだことを 総 合 的 に 働 かせながら、 探 究 のプロセスを 展<br />
開 する 点 などから、STEAM 教 育 が 狙 いとするところと 多 くの 共 通 点 があ<br />
り、 各 高 等 学 校 において、これらの 科 目 等 を 中 心 としてSTEAM 教 育 に 取<br />
り 組 むことが 期 待 され る」とあります。<br />
福 翔 学 校 では、2022 年 の「 総 合 的 な 探 究 の 時 間 」の 本 格 的 な 実 施 に<br />
向 けた 準 備 として、2019 年 よりデザイン 思 考 を 取 り 入 れた<strong>SDGs</strong>チャレン<br />
ジプロジェクトを 行 なっています。デザイン 思 考 を 用 いたこのプロジェクト<br />
は、「 発 散 」と「 収 束 」を 繰 り 返 す 試 行 錯 誤 のプロセス、グループワークの<br />
作 業 が 中 心 となる 形 、 固 定 概 念 の 排 除 によるイノベーティブなアイデア 出<br />
しなど、S T E A M 教 育 の 特 性 を 含 んでいます。また、S D G sはさまざまな 現<br />
代 の 課 題 を 含 んでおり、 解 決 を 思 考 するためには 教 科 横 断 的 な 知 識 が 必<br />
要 となります 4) 。さらにデザイン 思 考 をサステナビリティ 研 究 に 取 り 入 れるこ<br />
とで、 必 要 な 学 際 性 を 高 めることができることも 示 されており 5) 、こ れらも<br />
STEA M 教 育 の 特 性 となっています。したがって、 福 翔 高 等 学 校 で 実 施 され<br />
ているデザイン 思 考 を 用 いた<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトは、「 総 合 的 な<br />
探 究 の 時 間 」で 求 められているSTEAM 教 育 の 一 つのよいモデルになると<br />
考 えられます。<br />
注 および 参 考 文 献<br />
1). Breiner, J. M. et al.: What Is STEM? A discussion about conceptions of<br />
STEM in education and partnerships, <strong>School</strong> Science and Mathematics,<br />
112(1), pp.3-11. (2012)<br />
2). Yakman, G.: STΣ@M Education: an overview of creating a model of integrative<br />
education. Pupils Attitudes Towards Technology 2008 Annual<br />
Proceedings. (2008)<br />
3). 胸 組 虎 胤 : STEM 教 育 とSTEAM 教 育 , 鳴 門 教 育 大 学 研 究 紀 要 , 第 34 巻 , pp.58-<br />
72 (2019)<br />
4). Annan-Diab, F., Molinari, C.: Interdisciplinarity: Practical approach to<br />
advancing education for sustainability and for the sustainable development<br />
goals. The International Journal of Management Education, 15(2),<br />
pp.73-83. (2017)<br />
5). Maher, R. et al.: Integrating design thinking with sustainability science:<br />
a research through design approach. Sustainability Science, 13(6),<br />
pp.1565-1587 (2018)<br />
54
おわりに<br />
自 然 環 境 と 人 間 環 境 の 持 続 可 能 性 に 関 する 課 題 を 抱 える 未 来 に 向 け<br />
て、 生 徒 に 近 い 将 来 への 備 えと 情 報 を 与 える 新 しい 学 習 体 験 を 提 供 するこ<br />
とは 非 常 に 重 要 です。 教 育 は、 生 徒 の 当 面 のニーズを 満 たすと 同 時 に、 彼 ら<br />
をアクティブラーナーとして 育 て、 将 来 への 準 備 を 後 押 しすることができま<br />
す。 私 たちは、このような 目 的 を 念 頭 に 置 いてこの<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジ<br />
ェクトを 企 画 しました。<br />
このハンドブックが、 教 壇 に 立 つ 先 生 方 にとって、<strong>SDGs</strong>チャレンジプロ<br />
ジェクトを 企 画 、 設 計 、 実 施 する 際 の 道 標 となることを 願 っています。また、<br />
教 育 関 係 や 学 術 関 係 の 皆 様 には、このハンドブックで 言 及 したアイデアを<br />
拡 大 ・ 発 展 させ、 活 用 していただくことを 期 待 しています。
謝 辞<br />
まず 何 よりも、プロジェクトの 中 心 メンバーが2019 年 の 当 初 から 粘 り 強<br />
く 努 力 してくれたことに 心 から 感 謝 したいと 思 います。COVID-19パンデミ<br />
ックの 影 響 により、このプロジェクトで 実 施 する 教 育 プログラムを 大 幅 に 変<br />
更 することになりましたが、メンバー 全 員 の 決 意 のおかげで、この 難 局 を 乗<br />
り 越 えることができました。<br />
学 校 で 大 規 模 な 教 育 プログラムを 計 画 し 実 施 するには、 実 現 させよ<br />
うという 強 い 意 志 を 持 った 人 々の 力 が 欠 かせません。この 場 をお 借 りし<br />
て、<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクトの 実 施 を 許 可 してくださった 福 翔 高 校 の<br />
校 長 先 生 に 感 謝 を 申 し 上 げます。<br />
次 に、このプログラムの 実 現 に 関 わったすべての 先 生 方 、 研 究 者 、 生 徒<br />
の 皆 さんに 感 謝 します。このプロジェクトの 運 営 に 尽 力 してくださった、 第<br />
一 線 で 活 躍 されている 教 育 者 の 先 生 方 なくして、このプロジェクトは 実 現<br />
できませんでした。<br />
最 後 になりますが、このプロジェクトを 実 現 するために 貢 献 してくださっ<br />
たすべての 方 々に 感 謝 を 申 し 上 げます。 今 後 も、 私 たちの 経 験 を<strong>SDGs</strong>チャ<br />
レンジプロジェクトの 実 施 に 興 味 を 持 つすべての 教 育 者 の 皆 様 と 共 有 して<br />
いきたいと 思 います。
索 引<br />
<strong>SDGs</strong>チャレンジプロジェクト 5<br />
デザイン 教 育 7<br />
デザイン 思 考 9<br />
デザインプロセス 9<br />
<strong>SDGs</strong> 13<br />
持 続 可 能 な 開 発 目 14<br />
<strong>SDGs</strong> 教 育 16<br />
<strong>SDGs</strong>デザインスクール 16<br />
教 育 パッケージ 17<br />
総 合 的 な 探 究 の 時 間 19<br />
総 合 的 な 学 習 の 時 間 19<br />
Society5.0 19<br />
福 岡 立 福 翔 高 等 学 校 19<br />
SCP 20<br />
キャリア 教 育 20<br />
21 世 紀 型 スキル 21<br />
アクティブラーナー 23<br />
能 動 的 学 習 者 23<br />
グローバル 経 営 プログラム 25<br />
ワークシート 28<br />
学 習 指 導 要 領 43<br />
共 感 45<br />
情 動 の 共 感 45<br />
アンカー 体 験 46<br />
ペルソナ 46<br />
マインドマッピング 47<br />
ツールデザイン 49<br />
「 事 例 調 査 」シート 50<br />
「アイデア 選 択 のチェック 項 目 」シート 50<br />
「アイデ ア 検 証 」シート 5 0<br />
メソッドカード 50<br />
クエスチョンカード 51<br />
STEAM 53<br />
STEAM 教 育 53<br />
未 来 の 教 育 ビジョン 53<br />
学 びのSTEAM 化 53
執 筆 者<br />
Leon Loh<br />
張 彦 芳<br />
下 村 萌<br />
九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 助 教 。 主<br />
な 研 究 テ ーマ は デ ザイン 教 育 。プ ロダクト<br />
デザイン 教 育 、 一 般 教 育 としてのデザイン<br />
教 育 について 研 究 している。デザイン 活 動<br />
を 通 して、 小 学 生 、 中 学 生 、 高 校 生 に 批 判<br />
的 思 考 と 創 造 性 を 身 につけさせることが 研<br />
究 の 目 的 である。<br />
九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 講 師 。 芸<br />
術 工 学 博 士 、 専 門 分 野 はユニバーサルデザ<br />
イン、ソーシャルデザイン。デザイン 現 場 に<br />
て 様 々な 分 野 でユニバーサルデザインを 実<br />
践 した 後 、 現 在 は 、 教 育 現 場 で、 多 様 性 を<br />
尊 敬 しながら 共 にデザインし、 共 に 成 長 す<br />
る 仕 組 みづくり、 社 会 実 装 の 手 法 や 可 能 性<br />
を 研 究 している。<br />
九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 芸 工 イ<br />
ンターナショナルオフィス 助 教 。 専 門 分 野<br />
は 行 政 デ ザイン、 国 際 関 係 。 九 州 大 学 芸<br />
術 工 学 部 を 卒 業 後 、デザインファームGK<br />
TECHにてデザイナーとして 従 事 。 現 在<br />
は 、 日 本 とフィン ランドの 子 育 て 支 援 に 関<br />
する 行 政 サービスデザインの 研 究 と 実 践 に<br />
取 り 組 む。<br />
手 島 政 則<br />
吉 井 宏 平<br />
菊 澤 育 代<br />
福 岡 市 立 福 翔 高 等 学 校 主 幹 教 諭 。 経 済 学<br />
修 士 。 専 門 教 科 は 商 業 及 び 情 報 。1993 年<br />
より 福 岡 市 立 高 等 学 校 に 勤 務 。2010 年<br />
福 岡 市 教 育 委 員 会 主 任 指 導 主 事 を 拝 命 し<br />
2013 年 より 現 職 。2008 年 からキャリア 教<br />
育 に 従 事 しており 学 校 改 革 担 当 として 学 校<br />
の 魅 力 向 上 のためのプログラム 開 発 に 取 り<br />
組 んでいる。2019 年 文 部 科 学 大 臣 優 秀 教<br />
職 員 表 彰 受 賞 。<br />
福 岡 市 立 福 翔 高 等 学 校 教 諭 。 専 門 教 科 は<br />
美 術 、 九 州 産 業 大 学 大 学 院 博 士 後 期 課 程<br />
を 修 了 し 博 士 号 を 取 得 。 画 家 としても 活 動<br />
し 東 京 や 福 岡 で 個 展 を8 回 開 催 。 清 須 市 第<br />
7 回 はるひ 絵 画 トリエンナーレで 優 秀 賞 、<br />
シェル 美 術 賞 2014で 審 査 員 奨 励 賞 を 受<br />
賞 。2 016 年 より 美 術 科 教 諭 として 福 岡 市<br />
に 勤 務 、2019 年 よりキャリア 教 育 に 従 事 。<br />
福 岡 アジア 都 市 研 究 所 研 究 主 査 。カナダ・<br />
ダルハウジー 大 学 大 学 院 修 了 、 九 州 大 学 大<br />
学 院 芸 術 工 学 府 博 士 後 期 課 程 修 了 、 芸 術<br />
工 学 博 士 。 地 球 環 境 戦 略 研 究 機 関 にて 環<br />
境 政 策 研 究 に 従 事 。 現 在 は 、プ ラスチック<br />
を 中 心 とした 循 環 型 社 会 形 成 のほか、 外 国<br />
人 防 災 や 都 市 のイノベーション 研 究 に 取 り<br />
組 む。2 018 年 4 月 より 現 職 。<br />
鷹 野 典 子<br />
九 州 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科 修 了 。 九 州 大<br />
学 大 学 院 生 物 資 源 環 境 科 学 府 にて 学 位 取<br />
得 後 、 九 州 大 学 大 学 院 医 学 研 究 院 テクニカ<br />
ルスタッフを 経 て、 現 在 、 九 州 大 学 大 学 院<br />
芸 術 工 学 研 究 院 学 術 研 究 員 。 専 門 分 野 :<br />
分 子 遺 伝 学 。<br />
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<strong>SDGs</strong>デザインスクール | <strong>Exploration</strong> <strong>1.0</strong><br />
2022 年 3 月 31 日 発 行<br />
著 者 :Leon LOH、 張 彦 芳 、 下 村 萌 、 菊 澤 育 代 、 手 島 政 則 、<br />
吉 井 宏 平 、 鷹 野 典 子<br />
編 集 :Leon LOH、 張 彦 芳 、 下 村 萌 、 鷹 野 典 子<br />
デザイン:Francisco Sánchez<br />
発 行 : 九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院<br />
福 岡 県 福 岡 市 南 区 塩 原 4-9-1