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開設時期の異なる林道での植生へのエッジ効果の比較 - 九州大学演習林

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1.はじめに<br />

<strong>開設時期の異なる林道での植生へのエッジ効果の比較</strong><br />

九州大学農学部付属演習林 楠本聞太郎、榎木勉<br />

愛媛大学農学部 五十嵐秀一 琉球大学農学部 辻和希<br />

沖縄県北部、通称山原(以後やんばる)には、世界的にも稀な湿潤亜熱帯島嶼性の森林が<br />

広がっており、多くの希少野生生物、固有種が生息している。やんばるの森は、規模は小さ<br />

いが、熱帯林に匹敵する生物多様性を持つといわれている。一方で、開発による森林生態系<br />

の破壊が、近年問題視されている。やんばるでは、アスファルトで舗装された林道が無数に<br />

建設されており、野生動物の生息場所を分断している。また、植生の面では、本来森林内に<br />

生息しない種や外来種の、林縁部への侵入が見られる。<br />

本研究では、林道開設が森林生態系へ与える影響に着目した。林道開設は、設置面におけ<br />

る物理的な環境の改変だけでなく、林道周辺の生態系にも影響を与えると考えられる。例え<br />

ば、林道周辺では、光や空気の林内への侵入が増加し、林縁部での温度上昇や湿度低下が予<br />

測される。物理環境の変化に伴い、生物相も林縁部と林内で変化すると考えられる。このよ<br />

うな、攪乱により、林縁部と林内で異なる物理環境や生物相が形成される現象は、攪乱のエ<br />

ッジ効果と呼ばれる。<br />

森林に対するエッジ効果は、時間経過によって変化すると考えられる。自然攪乱の場合で<br />

は、物理環境や森林構造はギャップ形成後の遷移進行に伴って回復する。しかし、林道開設<br />

は、設置面での更新が起こらず、攪乱によるエッジ効果が長期にわたり継続するという点で、<br />

自然攪乱と異なる。<br />

本研究では、林道設置の森林生態系への影響と、それらの時間に伴う変化を明らかにする<br />

ために、開設時期の異なる林道で、物理環境及び植生を調査した。各林道のデータを比較し、<br />

エッジ効果の林道開設からの経過時間に伴う変化について検証した。<br />

2.調査方法<br />

調査は沖縄県北部の国頭村及び大宜味村に位置する林道沿いで行った。林道に対して直角<br />

に、トランセクトを、開設後3年未満の伊地林道と宇嘉林道にそれぞれ5本、大国林道の、<br />

開設後 10 年の区間と開設後 20 年の区間にそれぞれ 10 本ずつ設置した。各トランセクトにお<br />

いて、林縁を起点とし、5mおきに調査点を設置した。各調査点で以下の項目を計測した。1)<br />

林床の温度・湿度:晴れか曇りの日の日中(午前 10 時~午後 3 時の間)に全地点で、デジタ<br />

ル温湿度計を用いて地面から約 5 ㎝上を測定した。測定は 2004 年 6、9、11 月に月 2 回、計 6<br />

回行った。2)樹冠の開空度:2004 年 9 月に 1 回、各調査点の地面から約 2m の高さで、魚眼<br />

レンズを着けたデジタルカメラを用い、撮影した画像を画像解析ソフト(WINPHOTO)で解析<br />

し算出した。3)林冠高:各トランセクト上で1m おきに最も高い位置にある葉の高さを測定


した。各調査点上での値と各調査点前後 2 箇所での値の合計5つの値を算術平均し、林縁か<br />

ら 5m おきの林冠高とした。4)毎木調査:各調査点を中心に 5m x5m の範囲で樹高 2m 以上の<br />

木本を対象に種の同定と胸高直径の測定を行った。5)下層植生調査:各杭を中心に 2mx2m<br />

の範囲に出現する全ての植物種(草本、シダ、木本)の種名を記録した。<br />

3.結果<br />

温度はいずれのトランセクトでも林縁部で高く、林内へ向けて低下する傾向が見られた。<br />

湿度は、林縁で低く、林内へ向けて上昇する傾向が見られた。伊地では他の森林に比べ、全<br />

体的に平均気温が高く、湿度が低い傾向が見られたが、その他の森林では有意な差は見られ<br />

なかった。<br />

開空度はいずれのトランセクトでも林縁部で高く、林内では 10%程度であった。伊地林道が<br />

他の林道よりもとくに林縁付近での開空率が高く、林縁から 10mの地点でも 15%と、高い値<br />

を示した。他の場所では、林縁のみが高い値を示し、林縁から 5m よりも奥では 10%程度でラ<br />

イン間のばらつきも小さかった。<br />

林道開設後 3 年では林縁からの距離に対する林冠高の変化は見られなかった。開設後 10 年<br />

と 20 年では、林縁で林冠高が低く,林内へ向けて高くなる傾向が見られた。胸高断面積は、<br />

林道開設後 3 年では林縁からの距離に対する明瞭な変化は見られなかった。開設後 10 年およ<br />

び 20 年では林縁の胸高断面積合計が林内よりも小さい傾向が見られた。<br />

林道開設後経過年数に寄らず、林縁からの距離に対する下層植生の出現種数の明瞭な変化は見<br />

られなかった。しかし、草本植物に限れば、いずれのライントランセクトにおいても林縁および<br />

林縁から 5m の地点の方が森林内よりも種数が多かった。<br />

4.考察<br />

林道開設における、温度と湿度の変化は林縁から 15m 付近まで見られた。この変化は、時間が経<br />

過しても森林内部へ拡大することはないと考えられる。しかし、林道から 15mの範囲では時間<br />

が経過しても回復せず、長期にわたって攪乱の影響を受け続けていると考えられる。林道設置に<br />

より、林内の開空度が高くなるが、時間経過に伴い回復するものと考えられた。林冠高は、開設<br />

後 3 年目の林道では、林縁から林内に向けての変化は見られなかったが、10 年目と 20 年目の林<br />

道では、林縁部で低くなる傾向が見られた。これは、開設後 3 年目では林冠木の立ち枯れが進行<br />

していないが、時間経過とともに林縁部で立ち枯れが起こることを示しているかもしれない。<br />

下層植生の出現種数は、林道開設後 10 年と 20 年の林縁で若干大きな数字を示しているが、林<br />

縁からの距離や林道開設後の年数では大きな変化はなかった。しかし、種構成は、林縁から林内<br />

へ向けて変化していた。林縁では、先駆性樹種の稚樹や、イネ科を中心とした草本種、外来種が<br />

多く見られた。今回の調査地全体での総出現数は非常に多いが、プロット単位で見ると出現種は<br />

場所により大きく異なる。種あたりの出現頻度が低い種が多く、経過時間の異なる林道間で違い<br />

は有るものの、林道設置前の植生や立地環境が現在の分布に影響していると考えられる。時間経<br />

過による植生の変化を見るためには、更なる調査が必要であろう。

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