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こちら - 東京大学 大学院薬学系研究科・薬学部

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1.発表者:<br />

酸化ストレス誘導性の細胞死を制御する新たなメカニズムを解明<br />

一條秀憲(<strong>東京大学</strong>大学院薬学系研究科 薬科学専攻 教授)<br />

関根悠介(<strong>東京大学</strong>大学院薬学系研究科 薬科学専攻 助教)<br />

2.発表内容:<br />

<br />

生体内での活性酸素種の過剰な産生は、生体を構成するタンパク質や核酸、脂質などに傷害<br />

を与え、その機能不全を引き起こす危険性があります。生物は活性酸素種を適切に解毒するさ<br />

まざまな防御機構を備えていますが、それでも処理しきれない重篤な酸化ストレスが生じた場<br />

合、細胞死が誘導されます。このような細胞死は、神経変性疾患や代謝性疾患、がんなどヒト<br />

のさまざまな疾患の病態に関与することが知られています。しかしながら、どのような分子機<br />

構で酸化ストレスによって細胞死が誘導されているかについては、不明な点が残されていまし<br />

た。今回、<strong>東京大学</strong>大学院薬学系研究科の一條秀憲教授と関根悠介助教らの研究グループは、<br />

同研究科の三浦正幸教授らの研究グループとの共同研究によって酸化ストレスによって引き起<br />

こされる細胞死の分子機構の解明に取り組みました。<br />

<br />

これまでに一條教授らは、ASK1 という細胞内のシグナル伝達を担うタンパク質が、活性酸<br />

素種に応答して活性化し、細胞死を誘導することを明らかにしていました。しかしながら、酸<br />

化ストレス依存的な ASK1 の活性化がどのような分子機構で制御されているかについては不<br />

明な点が多く残されていました。そこで、ASK1 の活性を制御する新たなタンパク質の探索を、<br />

遺伝学的研究に広く用いられているショウジョウバエを用いて行いました。その結果、<br />

KLHDC10 というタンパク質が ASK1 を活性化することを明らかにしました。続いて、<br />

KLHDC10 がどのように ASK1 を活性化しているのかを明らかにするために、KLHDC10 と<br />

結合する分子の探索を行った結果、PP5 というタンパク質を同定しました。一條教授らは以<br />

前の研究で、PP5 は酸化ストレス依存的に ASK1 に結合し、ASK1 の機能を抑制する分子で<br />

あることを明らかにしていました。そこで、KLHDC10 が ASK1 を活性化する分子機構とし<br />

て、KLHDC10 が PP5 の ASK1 抑制効果を阻害することで、ASK1 を活性化しているのでは<br />

ないかと仮説を立て、検証を行いました。その結果、KLHDC10 は酸化ストレス依存的に<br />

PP5 に結合すること、KLHDC10 は PP5 の活性を抑制することができること、KLHDC10 の<br />

発現を抑制した細胞では、酸化ストレス依存的な ASK1 の持続的な活性化ならびに細胞死が<br />

抑制され、その効果は PP5 の発現を同時に抑制することでキャンセルされることを明らかに<br />

しました。これらの結果は、KLHDC10 が PP5 の活性を阻害することで、酸化ストレス依存<br />

的な ASK1 の持続的な活性化を可能にし、細胞死を誘導していることを示唆しています。


今回の研究成果の重要な点のひとつは、酸化ストレス誘導性の細胞死に重要な新たなタンパ<br />

ク質を発見したことです。酸化ストレスによって引き起こされる細胞死は、パーキンソン病や<br />

アルツハイマー病といった神経変性疾患をはじめヒトの様々な疾患の病態に関与することがし<br />

られています。また、ASK1 の遺伝子を欠損させたマウスの解析から、ASK1 も酸化ストレス<br />

が関与するさまざまな疾患において、細胞死を誘導することでその病態に関与していることが<br />

示唆されています。今後さらに詳細な解析を行うことで、KLHDC10 による ASK1 活性制御<br />

をターゲットとした新たな治療薬開発につながることが期待されます。<br />

3.発表雑誌:<br />

雑誌名:Molecular Cell<br />

論文タイトル:<br />

The kelch repeat protein KLHDC10 regulates oxidative stress-induced ASK1 activation by<br />

suppressing PP5.<br />

著者:<br />

Yusuke Sekine, Ryo Hatanaka, Takeshi Watanabe, Naoki Sono, Shun-ichro Iemura, Tohru<br />

Natsume, Erina Kuranaga, Masayuki Miura, Kohsuke Takeda and Hidenori Ichijo<br />

4.問い合わせ先:<br />

一條秀憲 教授<br />

〒113-0033 文京区本郷 7-3-1<br />

<strong>東京大学</strong>・大学院薬学系研究科 薬科学専攻 細胞情報学教室<br />

Tel:03-5841-4859 Fax:03-5841-4778<br />

E-mail: ichijo@mol.f.u-tokyo.ac.jp<br />

一條不在時<br />

関根悠介 助教<br />

<strong>東京大学</strong>・大学院薬学系研究科 薬科学専攻 細胞情報学教室<br />

Tel:03-5841-4858 Fax:03-5841-4798<br />

E-mail: sekine@mol.f.u-tokyo.ac.jp<br />

※「文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム」に関するお問い合わせ<br />

脳科学研究戦略推進プログラム 事務局 (担当:大塩)<br />

TEL:03-5282-5145 FAX:03-5282-5146<br />

E-mail:srpbs@nips.ac.jp


5.添付資料:<br />

図1 酸化ストレス依存的なASK1の活性化におけるKLHDC10の役割<br />

ASK1<br />

ASK1<br />

P P<br />

PP5による<br />

ASK1の不活性化<br />

PP5<br />

酸化ストレス<br />

ASK1の活性化<br />

P P<br />

ASK1<br />

ASK1<br />

KLHDC10による<br />

PP5の阻害<br />

KLHDC10<br />

PP5<br />

ASK1の活性化持続<br />

P P<br />

ASK1<br />

ASK1<br />

細胞死の誘導<br />

酸化ストレスが生じるとASK1が活性化します。活性化したASK1は、PP5によって不活性化されると、もとの<br />

状態に戻ります。KLHDC10が存在する場合には、PP5を抑制することでASK1の持続的な活性化を可能に<br />

し、細胞死を誘導します。

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