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DNADNA ULUL1mRNAQ uartz-Seq Quartz-Seq細 胞 1 個 のすべてのmRNAを 解 析 し、細 胞 の 個 性 を 知 るDNAmRNAcDNADNA cDNA1mRNAcDNAPCRAA A A A AT T T T T T 7 MA A A A AT T T T T T 7 MT T T T T T 7 MAA A A AMT T T T TT 7MDNA1mRNAQuartz-Seq 1 mRNA Quartz-Seq1mRNA8090mRNAmRNAmRNAMPCRcDNAA APCR A バイオインフォマティクスとは、 生 物に 関 わる 情 報 をコンピュータで 解 析 する研 究 分 野 である。 生 命 科 学 研 究 を 支 える 重 要 な 基 盤 技 術 として、 近 年 、 急 速にその 需 要 が 高 まっている。 二 階 堂 ULは、 生 命 科 学 に 革 新 をもたらすようなバイオインフォマティクス 技 術 を 開 発 し、多 くの 人 に 使 ってもらうことを 目 指 し、2013 年 4 月 、 理 研 の 情 報 基 盤 センターにバイオインフォマティクス 研 究 開 発 ユニットを 立 ち 上 げた。「 実 験 を 行 ってデータを 出 す 生 物 学 の研 究 者 と、データを 解 析 するバイオインフォマティクスの 研 究 者 が 一 緒 にいるというのが、このユニットの 特 徴 です。 実験 と 解 析 は 別 々の 研 究 室 が 専 業 で 行 うことが 多 く、 特 に 研 究 室 主 宰 者 がバイオインフォマティクス 研 究 者 というのは 世界 的 にも 珍 しい 構 成 です」と 二 階 堂 UL。なぜ、そのような 構 成 にしたのだろうか。「 実 験 装 置 や 技 術 が 進 歩 し、 大 量 の実 験 データが 得 られるようになりました。 一 方 で、 解 析 に 時 間 がかかり 過 ぎたり、 解 析 結 果 をどう 解 釈 したらよいか 分からない、といった 問 題 が 起 きています。大 量 の 実 験 データから 意 味 のある 結 論を 引 き 出 すには、 戦 略 を 立 てて 実 験 をデザインすることが 重 要 です。それには、02 RIKEN NEWS 2015 January
STUDIO CAC 19772013どういうデータが 必 要 でどのような 解 析をすればよいかを 知 っているバイオインフォマティクス 研 究 者 と、どういう 実 験を 行 えばそのデータを 得 られるかを 知 っている 生 物 学 研 究 者 が、 隣 にいて 常 に話 し 合 える 環 境 が 不 可 欠 だと 考 えているからです」。 二 階 堂 ULはバイオインフォマティクスが 専 門 だ。 実 験 生 物 学 の中 核 を 担 っているのが、 笹 川 洋 平 上 級センター 研 究 員 である。 1mRNA今 、 最 も 力 を 注 いでいるのが、1 細 胞のmRNA 解 析 の 技 術 開 発 である。「 細胞 は1 個 1 個 、 個 性 があります。 細 胞 の個 性 はどのようにして 生 まれるのか、その 仕 組 みに 興 味 があり、 理 研 発 生 ・ 再生 科 学 総 合 研 究 センター(CDB: 現 多細 胞 システム 形 成 研 究 センター)の 先 端技 術 支 援 ・ 開 発 プログラム 機 能 ゲノミクスユニット( 上 田 泰 己 UL)の 研 究 員 だった2010 年 ごろから、 笹 川 さんと 一 緒 に取 り 組 んでいます」と 二 階 堂 UL。私 たちの 体 は、 約 400 種 類 、 約 37 兆個 の 細 胞 からできている。それらの 細 胞はすべて、1 個 の 受 精 卵 から 分 化 、 増 殖したものである。そのため、それぞれの細 胞 が 持 っている 遺 伝 情 報 、DNAは 同じだ。にもかかわらず 細 胞 が 種 類 ごとに異 なる 機 能 を 発 揮 するのは、 働 いている遺 伝 子 が 違 うからである。DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4 種 類 の 塩 基 で 構 成 されており、その 中 でタンパク 質 の 設 計 図 となっている 領 域 が 遺 伝 子 だ。ヒトには2万 3000 個 ほどの 遺 伝 子 がある。「 最 近 では、 同 一 種 の 細 胞 であっても、個 々の 細 胞 で 働 いている 遺 伝 子 が 少 しずつ 違 っていることが 分 かってきました。 細 胞 の 個 性 を 知 るには、 集 団 ではなく、1 個 ずつ 調 べる 必 要 があるのです」細 胞 で 働 いている 遺 伝 子 を 調 べる 方 法で 最 もよく 使 われているのが、mRNAシーケンス 解 析 だ。 遺 伝 子 が 働 くときには、 遺 伝 子 領 域 のDNAがmRNAに 転写 され、mRNAの 塩 基 配 列 に 従 ってアミノ 酸 が 連 なり、タンパク 質 がつくられる。どのmRNAがどのくらいあるかを 調 べることで、 遺 伝 子 の 発 現 パターンが 分 かる。しかし、mRNAは 不 安 定 で 扱 いにくい。そこで、mRNAを 逆 転 写 して 相 補 的 な塩 基 配 列 を 持 つcDNA( 相 補 的 DNA)をつくり、 次 世 代 DNAシーケンサーで塩 基 配 列 を 読 み 取 っていく。 連 続 して 読み 取 ることができる 塩 基 は50~300 個 ほどなので、コンピュータを 用 いてデータ解 析 してつなぎ 合 わせ、データベースと照 合 してどの 遺 伝 子 かを 特 定 する。「1 細 胞 のmRNA 解 析 には、スウェーデンのカロリンスカ 研 究 所 が 開 発 したESlog2FPKM+10 4 8 12Sox2NanogPou5f1Zfp42Lefty1AlplNodalFgf4Foxh1ErasGata4Dab2Gata6Sox17PdgfraFoxa2Sox7GapdhACTBGnb2l1Eef1b2Dnmt1Dppa3TbpDppa1ESS ス mart-Seq マ ー ト ・ セ ッ ク法 が 多 く 使 われています。しかし、Smart-Seq 法 では 細 胞 に 含 まれるmRNAの20~30%しか 捉 えることができません。 細 胞 の 個 性 を 知 るには 不 十 分です。それならば、 高 精 度 の 新 しい 手法 を 自 分 たちでつくってしまおうと 考 えたのです」ES_01ES_02ES_03ES_04ES_05ES_06ES_07ES_08ES_09ES_10ES_11ES_12PE_01PE_02PE_03PE_04PE_05PE_06PE_07PE_08PE_09PE_10PE_11PE_12 Quartz-Seq「 従 来 の 方 法 ではなぜmRNAの20~30%しか 捉 えられないのか、その 原 因 を突 き 止 めることから 始 めました。その 結果 、cDNAを 増 やす 過 程 に 問 題 があることが 分 かりました」と 二 階 堂 UL。DNAシーケンサーは、100ng(n=ナノは10 億 分 の1) 以 上 のDNAがなければ 解 析 できない。しかし、 細 胞 1 個 に 含まれるmRNAはわずか0.1pg(p=ピコは1 兆 分 の1)だ。1 細 胞 のmRNAを 解析 するには、mRNAから 逆 転 写 反 応 によってつくったcDNAを、PCRという 方法 で 大 量 に 増 やす 必 要 がある。 一 方 で、逆 転 写 反 応 を 起 こすには、mRNAにプライマーという 特 定 の 塩 基 配 列 を 持 った0 11 ES 12 ES12 Quartz-Seq1 mRNA ES RIKEN NEWS 2015 January 03
iPSmRNATCGGTCAQuartz-Seq21mRNAiPSiPSQuartz-SeqiPSDNA 断 片 を 結 合 させなければならない。少 ないmRNAが 漏 れなく 逆 転 写 反 応 を起 こすようにmRNAの 数 よりはるかに多 いプライマーを 添 加 するため、 大 量 のプライマーがmRNAに 結 合 しないで残 ってしまう。その 結 果 、 増 幅 時 にプライマーばかり 増 えてしまい、 肝 心 のcDNAが 増 えないのだ。不 要 なプライマーが 増 幅 されるのを 防ぐため、まずmRNAとプライマーを 結合 させる 温 度 を 最 適 化 し、 結 合 せずに残 ってしまうプライマーを 減 らした。さらに、プライマーの 末 端 の 塩 基 配 列 を 設計 し、 残 ったプライマーは 末 端 同 士 が 結合 して 増 幅 しないようにした。また、 微量 しか 存 在 しないcDNAも 効 率 よく 増 幅できるDNA 合 成 酵 素 を 選 び 出 した。「そうした 改 良 の 結 果 、 細 胞 1 個 に 含 まれるmRNAの80~90%を 捉 えることができるようになりました」と 二 階 堂 UL。 簡 便さも 重 要 な 課 題 だった。「 従 来 の 方 法 は何 度 も 精 製 が 必 要 で、 作 業 が 複 雑 でした。 私 たちの 方 法 は、 逆 転 写 反 応 から精 製 まで1 本 のマイクロチューブで 済 み、とても 簡 単 です。この 手 法 をQ ク ォ uartz-Seqー ツ ・ セ ッ ク法 と 名 付 けました」() 二 階 堂 ULらは、マウスのES 細 胞 ( 胚性 幹 細 胞 )とES 細 胞 から 分 化 した 原 始内 胚 葉 細 胞 について、Quartz-Seq 法 を用 いて1 細 胞 ずつmRNA 解 析 を 行 った。すると、ES 細 胞 と 原 始 内 胚 葉 細 胞 では発 現 している 遺 伝 子 の 種 類 や 量 が 異 なることが 明 らかになった(1)。さらに、 同 じ 条 件 で 培 養 したマウスのES 細 胞 を、 細 胞 分 裂 の 細 胞 周 期 ごとに分 けて 解 析 した。 種 類 が 異 なる 細 胞 同士 の 違 いより 小 さいが、 遺 伝 子 発 現 パターンに 違 いがあることが 分 かった。Quartz-Seq 法 は、 細 胞 の 種 類 だけでなく、 細 胞 周 期 も 区 別 できるのだ。次 に、 同 じ 条 件 で 培 養 した 同 じ 細 胞周 期 にあるマウスのES 細 胞 を 解 析 。すると、 細 胞 周 期 が 異 なる 細 胞 同 士 の 違いより 小 さい、わずかな 遺 伝 子 発 現 パターンの 違 いを 検 出 した。それは、 解 析の 誤 差 ではないことも 確 かめられている。「mRNAの20~30%しか 捉 えることができない 従 来 の 方 法 では、こうした 遺伝 子 発 現 パターンのわずかな 揺 らぎを 検出 することはできません。しかし、 単 に性 能 が 良 いだけでQuarts-Seq 法 が 普 及するとは 限 りません。キット 化 して 使 いや すくす ることも 重 要 で す。1 細 胞mRNA 解 析 の 主 流 をQuartz-Seq 法 に 変えることを 狙 っています」 Quartz-Seq 法 は、 従 来 の 手 法 よりはるかに 高 精 度 で 簡 便 だが、 二 階 堂 ULらはまだ 満 足 していない。「やはり100%を 目指 したいですよね。 私 たちは 究 極 まで 性能 を 突 き 詰 めていくのが 好 きなんです。さらなる 改 良 に 取 り 組 んでいます」林 哲 太 郎 センター 研 究 員 と 笹 川 上級 センター 研 究 員 と 共 に 取 り 組 んでいるのは、 新 しい 逆 転 写 反 応 の 開 発 である。「1 細 胞 mRNA 解 析 法 を 開 発 している 人の 多 くは、 増 幅 の 改 良 に 注 力 しています。しかし、mRNAを 取 りこぼしなくcDNAにすることができなければ、いくら 増 幅 を 改 良 してもmRNAを100% 捉 えることはできません」と 二 階 堂 ULは 指摘 する。さまざまな 検 討 を 行 った 結 果 、ある 試薬 を 加 えると、 逆 転 写 反 応 の 効 率 が 大幅 に 向 上 することが 明 らかになった。 普通 は1 個 のmRNAからcDNAは1 個 しかできないが、その 試 薬 を 加 えると10~100 個 のcDNAができるのだ。「 細 胞 に含 まれるmRNAのうち10~20%が 捉 えられていませんでしたが、それを 数 %に減 らせる 見 込 みが 出 てきました。 逆 転 写反 応 の 効 率 向 上 は、RNAを 扱 うさまざまな 研 究 にも 役 立 ちます」検 出 可 能 な 遺 伝 子 の 割 合 を 上 げる 一方 で、 解 析 できる 細 胞 の 数 を 増 やすために、ロボットによる 自 動 化 にも 取 り 組 んでいる。また、 現 在 は1 個 の 細 胞 を1 本のマイクロチューブで 反 応 させているが、 逆 転 写 反 応 の 際 にDNAに 目 印 を 付けることで、それ 以 降 の 反 応 を 数 百 個 の細 胞 をまとめて1 本 のマイクロチューブで 行 わせる 技 術 も 開 発 中 だ。「 高 精 度 なQuartz-Seq 法 で、たくさんの 細 胞 を 解 析 できるようになれば、 再 生医 療 などにも 貢 献 できます」と 二 階 堂UL。 再 生 医 療 では、iPS 細 胞 ( 人 工 多 能性 幹 細 胞 )やES 細 胞 から 必 要 な 種 類 の細 胞 をつくって 患 者 さんに 移 植 することで、 病 気 やけがなどによって 失 われた 機能 を 回 復 させる。 分 化 させた 細 胞 の 遺伝 子 発 現 パターンを 調 べることで、 必 要な 種 類 の 細 胞 だけを、しかも 状 態 の 良 い細 胞 を 選 んで 移 植 できる(2)。また、現 在 の 再 生 医 療 では、iPS 細 胞 やES 細胞 からいかに 簡 単 ・ 確 実 に 必 要 な 種 類04 RIKEN NEWS 2015 January
IMS TLBTダイナミックな 免 疫 応 答 を 可 視 化 し、 追 跡 する 「 自 分 の 目 で 見 なければ 分 からないことって、ありますよね」と 岡 田 TLは 言 う。「 私 は、どの 免 疫 細 胞 が、いつ、どこで、何 をしているのかを 生 きた 組 織 で 見 ることで、 免 疫 応 答 がどのように 制 御 されているのかを 解 き 明 かそうとしています」免 疫 とは、 外 界 から 生 体 内 に 侵 入 してきた 細 菌 やウイルスなどの 病 原 体 、 花粉 などの 異 物 ( 抗 原 )を 排 除 して 生 体 を防 御 するシステムである。「 免 疫 応 答 には、たくさんの 種 類 の 細 胞 が 関 わっていTBBBcl6BTTます。しかも 体 内 を 動 き 回 り、 細 胞 間 でコミュニケーションしながら 働 いています。 免 疫 応 答 は 複 雑 でダイナミックな 現象 だからこそ、 可 視 化 によって 初 めて 分かることがたくさんあるのです」 免 疫 細 胞 の 中 で 岡 田 TLがまず 注 目 したのは、B 細 胞 である。B 細 胞 は、 体 内に 侵 入 した 抗 原 だけに 結 合 する 抗 体 をつくって 分 泌 する。 抗 体 が 結 合 した 抗原 は、 免 疫 細 胞 のマクロファージなどによって 分 解 される。B 細 胞 が 抗 体 をつくるまでの 流 れを、簡 単 に 説 明 しよう。B 細 胞 は、 骨 髄 で 造ひ ぞ う血 幹 細 胞 からつくられ、 脾 臓 やリンパ 管の 途 中 にあるリンパ 節 などの 免 疫 組 織 にろ ほ う分 布 している。リンパ 節 では 濾 胞 と 呼 ばれる 領 域 に 集 まっている()。抗 原 がリンパ 管 を 介 してリンパ 節 に 運 ばれ、B 細 胞 の 表 面 にある 抗 原 受 容 体 に 結合 すると 免 疫 応 答 がスタートし、B 細 胞は 活 性 化 する。いくつかの 過 程 を 経 て 分化 したB 細 胞 はやがて 濾 胞 の 中 央 へ 移動 していき、 胚 中 心 と 呼 ばれる 構 造 ができる。 胚 中 心 では、 抗 体 の 遺 伝 子 に 変異 が 起 こり、さまざまな 抗 体 を 持 つB 細胞 がつくられる。その 中 から 抗 原 に 結 合する 能 力 の 高 い 抗 体 を 持 つB 細 胞 が 選別 され、 抗 体 を 大 量 につくる 細 胞 ( 抗 体産 生 細 胞 )へと 分 化 する。また、 胚 中 心のB 細 胞 の 一 部 はメモリーB 細 胞 となっ06 RIKEN NEWS 2015 January
Bcl62BBcl62BBBGCBcl6BBcl6B胚 中 心 から 出 ていってしまう(3)。ものは 胚 中 心 へ 移 動 する。「TFH 細 胞 が胚 中 心 に 移 動 するのにもBcl6の 発 現 が必 須 であることが 確 かめられました。しかし 意 外 なことに、 胚 中 心 に 移 動 したTFH 細 胞 の 多 くは、やがてBcl6の 発 現を 低 下 させていくのです」胚 中 心 にあるB 細 胞 はずっとBcl6を 発現 している。B 細 胞 は、 胚 中 心 で 抗 体 を改 良 し、 選 別 を 受 け、 抗 体 産 生 細 胞 へ分 化 しなければならない。そのためにはBcl6を 発 現 し 続 ける 必 要 があるのだ。では、TFH 細 胞 でBcl6の 発 現 が 低 下するのはなぜか。 岡 田 TLの 考 えはこうだ。「 胚 中 心 の 反 応 が 進 むにつれて、 抗原 に 結 合 する 能 力 の 高 い 抗 体 を 持 つB細 胞 だけが 残 ります。それでもさらに抗 原 への 結 合 能 力 を 高 めるために、 遺伝 子 変 異 と 選 別 は 続 きます。 選 ばれた者 同 士 のさらに 熾 烈 な 競 争 です。このとき、B 細 胞 を 助 けるTFH 細 胞 の 数 が多 過 ぎると 選 別 が 甘 くなります。そうならないために、 必 要 数 以 上 のTFH 細胞 はBcl6の 発 現 を 低 下 させて、 胚 中 心から 出 ていくのではないでしょうか」Bcl6の 発 現 を 低 下 させたTFH 細 胞 では、インターロイキン7というサイトカインに 対 する 受 容 体 が 発 現 する。それは、免 疫 記 憶 を 担 うメモリーT 細 胞 の 特 徴 の一 つだ。「 胚 中 心 で 選 別 者 としての 役 割を 終 えたT 細 胞 は、メモリーT 細 胞 となって 血 液 中 などで 抗 原 の 再 侵 入 に 備えるのでしょう」 T「Bcl6の 発 現 を 調 べることで、B 細 胞とT 細 胞 が 分 化 する 場 所 、そして 胚 中心 への 移 動 経 路 が 明 らかになりました。しかし、Bcl6は 遺 伝 子 の 発 現 を 調 節 する 転 写 因 子 であり、 細 胞 の 分 化 や 移 動 を直 接 制 御 しているわけではありません。その 機 構 を 明 らかにするには 分 化 や 移 動に 直 接 関 わっている 因 子 を 突 き 止 める 必要 があります」と 岡 田 TLは 指 摘 する。細 胞 移 動 に 直 接 関 わっているのは 普通 、 細 胞 の 表 面 にある 受 容 体 である。T細 胞 が 濾 胞 に 移 動 する 際 、ケモカインというタンパク 質 の 受 容 体 CXCR5が 重 要であることが 知 られていた(1)。しかし、CXCR5を 欠 損 させてもTFH 細 胞は 胚 中 心 に 移 動 する。「TFH 細 胞 が 胚 中 心 に 移 動 するには、CXCR5のほかにも 重 要 な 受 容 体 があるはずだと 考 えました。 胚 中 心 のTFH 細胞 に 多 く 発 現 している 受 容 体 を 探 すと、脂 質 の 一 種 であるスフィンゴシン-1-リン 酸 の 受 容 体 S1PR2が 見 つかりました。そこで、S1PR2を 発 現 した 細 胞 が 蛍 光を 発 する 遺 伝 子 改 変 マウスを 作 製 し、T 細 胞 でのS1PR2の 発 現 や 移 動 を 調 べました」。その 結 果 、TFH 細 胞 が 胚 中心 に 移 動 し、そこにとど まるに は、S1PR2の 発 現 が 重 要 であることが 分かった(1)。S1PR2が 発 現 しているTFH 細 胞 は 胚 中 心 にとどまろうとするが、S1PR2が 欠 損 しているTFH 細 胞 は 「TFH 細 胞 が 胚 中 心 にとどまるのに 重要 な 因 子 の 発 見 は、 高 性 能 な 抗 体 の 産生 を 促 すという 新 しいワクチンの 開 発 につながる 可 能 性 があります」と 岡 田 TL。抗 体 は 多 様 で、 侵 入 してくるあらゆる抗 原 に 対 応 できるようになっている。しかし、ヒト 免 疫 不 全 ウイルス(HIV)やインフルエンザウイルスは 頻 繁 に 大 きな変 異 を 起 こすため、 抗 体 が 対 応 できない 場 合 があり、 予 防 や 治 療 上 の 問 題 になっている。 一 方 で 最 近 、 変 異 したウイルスにも 対 応 できる 高 性 能 な 抗 体 、 広 域中 和 抗 体 を 産 生 している 人 が、ごくわずかだがいることが 分 かってきた。「 広 域中 和 抗 体 は、 従 来 の 抗 体 では 考 えられないほど 遺 伝 子 に 変 異 が 起 きています。胚 中 心 でB 細 胞 の 抗 体 の 遺 伝 子 に 変 異が 起 こり 改 良 されていくので、 胚 中 心 に長 くいれば、 変 異 が 蓄 積 し、 広 域 中 和抗 体 ができる 可 能 性 があります」B 細 胞 の 抗 体 の 遺 伝 子 に 変 異 が 起 きたり、 抗 体 の 型 によって 選 別 を 受 けたりするには、TFH 細 胞 の 助 けが 必 要 だ。また、TFH 細 胞 がなくなると、 胚 中 心が 消 失 してしまうことが 知 られている。「TFH 細 胞 のS1PR2の 発 現 を 制 御 できれば、TFH 細 胞 を 胚 中 心 にとどめておくことで 胚 中 心 を 長 く 維 持 し、 反 応 を 継続 させることができます。 先 ほど、 抗 原により 強 く 結 合 するB 細 胞 を 厳 しく 選 別するためにTFH 細 胞 は 徐 々に 胚 中 心 から 出 ていくのではないか、と 言 いました。しかし 広 域 中 和 抗 体 は、 必 ずしもほかの08 RIKEN NEWS 2015 January
桜 井 正 光 × 野 依 良 治 産 学 官 連 携 によるイノベーションで持 続 可 能 な 社 会 を 築 く ── 本 日 は、 理 研 と 深 いつながりがある 株 式 会 社 リコーの 桜 井 正 光 特 別 顧 問 をお 迎 えしております。 今 日 は 野 依 理 事長 が 掲 げる「 世 の 中 の 役 に 立 つ 理 研 」を 推 進 するために、 理 研と 産 業 界 がどのように 連 携 すべきかについて 意 見 を 交 わしていただきたいと 思 います。まず、 日 本 の 科 学 技 術 イノベーションの 現 状 について、私 の 危 機 感 を 述 べさせていただきます。わが 国 では 基 礎 科 学 の成 果 が 多 く 出 ていますが、それが 世 の 中 の 役 に 立 つ 形 にうまくつながっていません。 何 かが 欠 けていると 思 います。欧 米 では、「 役 に 立 たない」といわれる 基 礎 科 学 が 大 きなイノベーションをもたらしています。 例 えば、2013 年 のノーベル 物理 学 賞 はヒッグス 粒 子 の 研 究 に 贈 られましたが、その 発 見 をもたらしたヨーロッパ 原 子 核 研 究 機 構 (CERN)の 活 動 から、インターネットのワールド・ワイド・ウェブ(WWW)、タッチス1942RICOH EUROPE B.V.19962007420134クリーン、がん 検 診 などに 使 われるPET( 陽 電 子 放 出 断 層 画 像法 )が 生 まれました。一 方 、 日 本 では、 昨 年 7 月 に 発 明 協 会 が「 戦 後 日 本 のイノベーション100 選 」の 第 1 回 分 として38のイノベーションを 選 び、 発表 しましたが、そのほとんどが 産 業 界 から 生 まれたものです。発 光 ダイオード(LED)がベスト10に 入 ったものの、アカデミア( 学 術 界 ) 発 のイノベーションはとても 少 ない。 国 家 戦 略 の 欠如 を 感 じます。 今 こそ、ベンチャー 企 業 の 父 である 大 河 内 正 敏先 生 ( 財 団 法 人 理 化 学 研 究 所 第 三 代 所 長 )の 理 研 精 神 を 学 び直 すべきだと 考 えております。リコーは、 理 研 発 の 会 社 です。 大 河 内 先 生 の 時 代 に 理す え化 学 興 業 ㈱がつくられ、 理 研 の 桜 井 季お雄し博 士 が 発 明 した 紫色 の 陽 画 感 光 紙 を 発 売 しました。その 感 光 紙 部 門 の 部 長 として活 躍 した 市 村 清 が、1936 年 に 感 光 紙 事 業 を 独 立 させて、 理 研感 光 紙 ㈱を 設 立 しました(1)。それがリコーの 誕 生 です。── 理 研 は 財 団 法 人 時 代 (1917~48 年 )に 数 多 くのベンチャー 企 業 を 生 み 出 し、リコーをはじめ 現 在 も 大 いに 活 躍 されている 企 業 がたくさんあります。それら 理 研 とゆかりのある 企業 を 含 む100 社 余 りとの 交 流 の 場 として「 理 化 学 研 究 所 と 親 しむ 会 ( 以 下 、 親 しむ 会 )」があり、 現 在 、 桜 井 特 別 顧 問 に 会 長をお 願 いしております。「 親 しむ 会 」という 名 前 がね……( 笑 )。 交 流 は 大 事 ですが、この 会 の 目 的 は、「 世 の 中 の 役 に 立 つ 理 研 」を 推 進 すること、私 たち 企 業 人 の 言 葉 で 言 えば 基 礎 科 学 の 成 果 を 事 業 化 することです。「 親 しむ 会 」は、 今 後 もさらなる 努 力 を 重 ねてまいりたいと 思 います。それにはまず、 理 研 にどんな 宝 があるのか、 企業 側 が 事 業 化 できそうな 理 研 の 研 究 成 果 を 積 極 的 に 探 す 必 要があります。そして、 事 業 化 に 何 が 不 足 しているのかをつかみ出 し、 理 研 と 企 業 が 協 力 して 事 業 化 を 進 める。さらに、その 中から 出 てきた 成 功 事 例 を 互 いに 学 び 合 うことが 大 事 です。こ ん紺10 RIKEN NEWS 2015 January
1 本 質 を 捉 えた 基 礎 科 学 の 成 果 の 中 に、10 年 後 、20 年 後の 社 会 に 大 きな 変 革 をもたらすイノベーションの 種 が 絶 対 にあけ い が んるはずです。その 種 を 企 業 家 の 慧 眼 をもってぜひ 拾 い 上 げていただきたいと 思 います。 ── 産 業 界 との 連 携 に 関 する 理 研 の 取 り 組 みについて、理 事 長 からご 紹 介 いただけますでしょうか(2)。キーワードは「バトンゾーン」です。 陸 上 競 技 のリレーに例 え、 理 研 が 持 つバトンを 次 の 走 者 である 産 業 界 に 併 走 しながら 受 け 渡 していきます。そのために、「 産 業 界 との 融 合 的 連 携 研 究 制 度 」を2004 年 に開 始 しました。これは 企 業 側 から 市 場 ニーズに 基 づく 研 究 課 題とチームリーダーを 受 け 入 れ、 理 研 の 研 究 者 が 副 チームリーダーとなって 融 合 的 な 連 携 研 究 を 行 う 制 度 です。 研 究 予 算 は 双方 で 負 担 し、 理 研 の 研 究 設 備 を 活 用 して 研 究 を 進 めます。 企業 の 人 がチームリーダーになることで 研 究 のスピードが 格 段 に加 速 します。これまでに 図 形 処 理 の 簡 易 化 ソフトの 商 品 化 などの 成 功 例 が 出 ています。2007 年 には、 企 業 名 をセンター 名 に 入 れた「 産 業 界 との 連 携センター 制 度 」を 立 ち 上 げました。これはやや 大 型 で、 中 ・ 長期 の 連 携 を 特 徴 とする 制 度 です。そして2010 年 に 社 会 知 創 成 事 業 を 設 立 しました。 創 薬 ・ 医療 技 術 基 盤 プログラムや 予 防 医 療 ・ 診 断 技 術 開 発 プログラムなど 組 織 横 断 型 の 研 究 体 制 で、 理 研 の 成 果 を 社 会 に 還 元 する 取り 組 みを 進 めています。バトンゾーンには 大 いに 期 待 しています。 技 術 移 転 という 言 葉 は 良 くないですね。 移 転 するのではなく、 研 究 者 と 企 業が 一 緒 になって 事 業 化 を 進 めることが 重 要 です。私 は 経 済 同 友 会 の 代 表 幹 事 を 務 めていた2008 年 に、「 世 界から 信 頼 されるものづくりを 目 指 して」という 提 言 書 をまとめました。そこで、 欧 米 の 事 例 を 調 べて「リサーチ・コミュニティー」というイノベーションの 方 法 を 紹 介 しました。 基 礎 科 学の 成 果 をどのような 形 で 応 用 するのかという 応 用 研 究 の 段 階で、 複 数 の 企 業 が 参 加 したリサーチ・コミュニティーをつくり、非 独 占 的 に 共 同 研 究 を 行 う 方 法 です。そこで 応 用 の 形 が 具 体的 に 見 えてきた 後 は、それぞれの 企 業 が 独 占 的 に 商 品 開 発 を 進めます。リサーチ・コミュニティーをつくることで、 一 つの 基 礎 科 学の 成 果 に 対 し、 応 用 の 可 能 性 を 複 数 の 企 業 が 検 討 して、 幅 広 く社 会 に 活 用 することができます。ところが 日 本 企 業 は 応 用 研 究の 段 階 から1 社 独 占 で 進 めたいというところが 多 いですね。1 社 で 囲 い 込 むと 安 心 してしまい、 覚 悟 して 進 めなくなりますね。 複 数 の 企 業 が 集 まると 競 争 意 識 が 働 きます。 本 当 にそうです。 理 研 にも、もっと 多 くの 企 業 が 応 用 研究 に 参 加 してオープンに 進 める 制 度 があっていいと 思 います。 理 研 には、 複 数 の 企 業 から 資 金 を 受 け 入 れて 運 営 する「 特 別 研 究 室 制 度 」があります。 例 えば、 腸 内 細 菌 の 研 究 を 行 っのべ んている 辨 野 特 別 研 究 室 には、 多 くの 企 業 から 人 が 集 まっています。また、 創 発 物 性 科 学 研 究 センターでも、さまざまな 企 業 から 人 を 積 極 的 に 受 け 入 れようとしています。 理 研 の 連 携 制 度 をもっと 宣 伝 して、 数 多 くの 企 業 が 参 加するようにしていく 必 要 がありますね。 企 業 に 比 べて、 理 研 には 最 新 の 装 置 がそろっています。 事 業 化 を 行 うには、 人 材 確 保や 装 置 などの 設 備 投 資 に 相 当 なコストが 掛 かります。 理 研 の 研究 者 と 共 に 最 新 の 装 置 を 活 用 し 事 業 化 に 向 けた 研 究 が 行 えるこ193820032001RIKEN NEWS 2015 January 11
企 業 経 営 者 として、「 死 の 谷 」を 経 験 しました。しかし、「 死 の 谷 」との 遭 遇 は 事 業 化 への 準 備 不 足 に 原 因 があると 思 っています。応 用 技 術 の 開 発 段 階 から 事 業 構 想 を 描 き 出 し、 商 品 開 発 段 階では 新 しい 事 業 モデルを 明 確 にしていくなど、 事 業 化 に 必 要 な重 点 事 項 を 定 めておくことが、「 死 の 谷 」との 遭 遇 を 防 ぎ、 脱 却の 可 能 性 を 増 やすことにつながると 信 じています。 ── 未 来 社 会 のニーズやビジョンを 描 くことに 深 く 関 連しますが、 桜 井 特 別 顧 問 はリコーの 社 長 に 就 任 されたときから、 積 極 的 に 環 境 問 題 に 取 り 組 まれました。1996 年 に 社 長 になる 前 、8 年 間 ほど 英 国 やオランダに 赴任 していました。そこで、 地 球 環 境 問 題 に 対 する 欧 州 と 日 本 の" 感 度 "の 違 いを 実 感 しました。 例 えばドイツでは、オゾン 層 を破 壊 しない 代 替 フロンを 使 った 自 動 車 をベンツがつくると、 価格 が 十 数 万 円 高 くても、みんながこぞって 買 います。ドイツ 人はものを 大 切 にする 習 慣 もさることながら、 日 本 人 以 上 に 地 球環 境 保 全 に 対 する 意 識 が 身 に 付 いていると 感 じました。" 合 理 的 もったいない 精 神 "ですね。そうです。ところが 日 本 に 帰 ってくると、 地 球 環 境 問 題への 対 策 を 行 うと 競 争 力 を 失 う、 経 済 成 長 にマイナスだなどという 考 え 方 がとても 強 く、どの 企 業 も 積 極 的 に 取 り 組 んでいませんでした。それはリコーも 同 じでした。私 は 管 理 工 学 の 出 身 で、リコーに 入 社 してすぐに 工 場 の 生 産性 向 上 に 取 り 組 みました。そこで、 部 品 点 数 や 材 料 が 少 ない 商品 を 設 計 し、 生 産 ラインを 短 くし、 製 造 にかかるエネルギーを減 らすといった 活 動 に 長 年 従 事 しておりました。 実 はそれは、省 資 源 ・ 省 エネルギーという 地 球 環 境 保 全 に 必 要 な 活 動 とまったく 同 じ 活 動 なのです。 生 産 性 を 向 上 させて 利 益 を 上 げることが、 地 球 環 境 の 保 全 につながるのです。 私 は、 社 長 に 就 任 して2 年 後 の1998 年 に、それを「 環 境 経 営 」と 呼 び、 当 社 の 経 営方 針 の 一 つに 組 み 込 みました。 環 境 対 策 は 経 済 成 長 にマイナスだと、たじろぐ 必 要 はないのです。 日 本 を 代 表 する 企 業 が、 人 類 社 会 が 直 面 する 課 題 に 率先 して 取 り 組 まれたことに 敬 意 を 表 します。 環 境 経 営 が 産 業 界全 体 で 実 践 されることを 願 っています。 国 連 のIPCC( 気 候 変 動 に 関 する 政 府 間 パネル)は 第 5次 評 価 報 告 書 で 重 要 な 指 摘 をしています。 地 球 温 暖 化 による被 害 の 深 刻 化 を 防 ぐため、 国 際 社 会 は 世 界 平 均 気 温 の 上 昇 を産 業 革 命 前 と 比 べて2℃ 未 満 にすることを 目 指 しています。それには2100 年 までの 二 酸 化 炭 素 (CO 2)の 累 積 排 出 量 を 約7900 億 トン( 炭 素 換 算 )に 抑 える 必 要 があると 予 測 し、すでにその3 分 の2が 排 出 されていること、このままのペースでは 今後 30 年 弱 で 上 限 に 達 してしまうことを、IPCCは 報 告 しているき っ き んのです。 温 暖 化 防 止 活 動 は 喫 緊 の 課 題 だということです。私 は2014 年 9 月 にニューヨークで 開 かれた 国 連 の 気 候 サミットに 招 待 され 世 界 各 国 の 人 たちと 意 見 交 換 をしましたが、 欧 米諸 国 のグローバル 企 業 の 経 営 者 たちは、 温 暖 化 防 止 は 今 後 の国 際 社 会 の 明 確 なニーズになるとの 認 識 のもとに、これをビジネスチャンスとして 生 かそうと、 新 たな 積 極 的 活 動 に 入 ったとの 印 象 を 持 ちました。技 術 革 新 で 後 手 に 回 ると 大 変 なことになります。 温 暖 化 防 止に 焦 点 を 合 わせた 技 術 革 新 を 進 めなければ、 日 本 の 成 長 はあり得 ません。 理 研 と 産 業 界 との 連 携 も、 省 資 源 や 省 エネルギー、再 生 可 能 エネルギーの 開 発 など、 温 暖 化 対 策 に 関 係 する 研 究テーマに 力 を 入 れていくことが 重 要 だと 思 います。 全 面 的 に 賛 成 です。 地 球 温 暖 化 や 気 候 変 動 は、 文 明 の持 続 可 能 性 の 問 題 に 直 結 します。それらの 問 題 解 決 を 目 指 す 上で 科 学 技 術 に 対 する 期 待 は 大 きく、 理 研 のような 公 的 研 究 機 関や 大 学 はそのための 取 り 組 みを 積 極 的 に 推 進 しなければなりません。持 続 可 能 な 社 会 を 築 くことは、 後 継 世 代 に 対 するわれわれ 世代 の 避 けられない 責 任 だと 私 は 考 えています。ただし、それは一 個 人 や 一 企 業 、 一 国 家 の 力 だけで 実 現 できるものではありません。 単 なる 経 済 成 長 のためではなく、 本 来 、そのような 人 類共 通 の 課 題 を 解 決 するためにこそ、 国 際 協 力 や 産 学 官 の 連 携 を進 めるべきです。 持 続 可 能 な 社 会 を 実 現 するには、 自 分 たちの 世 代 の 生活 のために 資 源 を 使 い 尽 くすのではなく、 孫 やひ 孫 の 世 代 のための 資 源 を 残 しておく 必 要 があります。 世 界 の70 億 の 人 々が 米 国 人 と 同 じ 様 式 の 生 活 をするには 地 球 が5 個 、 日 本 人 の 水 準 なら3 個 必 要 だといわれます。 明RIKEN NEWS 2015 January 13
らかに 持 続 不 可 能 です。そうした 現 状 をしっかりと 認 識 する 必要 があります。やはり 教 育 が 重 要 です。CO 2 排 出 を 抑 制 することは、 新 しい 時 代 の 道 徳 だといえます。さらに 税 制 も 変 えていく 必 要 がありますね。 炭 素 税 やCO 2の 排 出 権 取 引 などは 新 しい 時 代 の 経 済 システムとして 受 け 入 れなければいけません。 今 までの 経 済 は、エネルギーを 買 うときにはコストが 掛 かりますが、 消 費 してCO 2が 発 生 するときにはコストが 掛 かりません。 新 しい 時 代 の経 済 では、CO 2の 発 生 時 にも 排 出 権 取 引 や 税 などの 形 でコストが 掛 かる 仕 組 みに 変 えていく 必 要 があります。私 たちの 事 業 でいえば、お 客 さまがコピー 機 やプリンターを使 用 するときに、 電 力 消 費 に 伴 いCO 2が 発 生 します。そこでコストが 掛 かるようになると、できるだけ 消 費 電 力 の 少 ない 商 品をお 客 さまは 選 ぶようになります。 技 術 革 新 などによって 排 出量 の 削 減 に 努 力 した 企 業 は、 売 り 上 げの 増 大 につながり 努 力 が報 われることになります。お 客 さまも、さらに 排 出 コストの 安 い商 品 を 選 択 できる、という 経 済 システムに 変 えていくべきです。 理 研 では、 特 長 である 総 合 力 を 生 かしてグリーン・イノベーションに 貢 献 しようとしています。 植 物 科 学 、ケミカルバイオロジー、 触 媒 化 学 などを 融 合 した 環 境 資 源 科 学 研 究 センターを2013 年 に 設 立 しました。そこでは、 光 合 成 を 利 用 してラン 藻 に 水 素 を 高 効 率 で 発 生 させてエネルギーとして 利 用 する 研究 などを 進 めています。また2010 年 4 月 に、 社 会 知 創 成 事 業 として、 企 業 や 大 学 などと 連 携 した 課 題 解 決 型 の 横 断 プログラムであるバイオマス 工 学 研 究 プログラムを 立 ち 上 げ、バイオプラスチックの 研 究 などを 進 めています。このほか、 有 機 半 導 体 を使 った 塗 布 型 の 太 陽 電 池 や 省 エネルギー 関 連 技 術 の 研 究 を 創発 物 性 科 学 研 究 センターで 進 めています。ぜひ、 頑 張 っていただきたいですね。バイオマスや 再 生可 能 エネルギーの 研 究 は、 世 界 各 国 の 研 究 機 関 も 積 極 的 に 取 り組 んでいますね。それら 各 国 の 研 究 機 関 が 連 携 してイノベーションを 進 めている 例 はあるのですか。 国 際 連 携 によるイノベーションも 積 極 的 に 進 めていかなければいけませんが、 各 国 とも 国 の 研 究 機 関 は 仕 事 の 範 囲 が 定められており、 自 由 な 連 携 がしにくい 面 があります。より 自 由度 の 高 いシステムに 変 えていく 必 要 があります。 ──さて、2017 年 は 理 研 創 立 百 周 年 に 当 たり、「 親 しむ 会 」結 成 30 周 年 という 節 目 を 迎 えます。また、リコーは、2016 年 に創 立 80 周 年 を 迎 えられますね。 私 が 社 長 を 務 めていた70 周 年 のときに、やりたくてもできなかったのが、リコーの 商 品 の 歴 史 を 集 めた 博 物 館 をつくることです。 大 事 なことですね。ヨーロッパなどの 博 物 館 で 科 学 技 術史 に 関 する 歴 史 的 な 展 示 物 を 見 ると、 先 人 の 努 力 のおかげで 今日 の 私 たちの 社 会 があるという 認 識 が 深 まります。そうですね。 歴 代 の 商 品 とともに、 私 は 創 業 者 である 市村 清 の 資 料 も 集 めたいと 思 っています。 市 村 は、「 人 を 愛 し、国 を 愛 し、 勤 めを 愛 す」という 三 愛 精 神 を 唱 えました。 私 も 若いころにはその 意 味 がよく 分 かりませんでしたが、 会 社 を 経 営する 身 になって 初 めて 理 解 できました。 難 しい 経 営 判 断 を 下 すとき、 創 業 者 の 市 村 だったらどうするだろう、と 考 えました。「 人を 愛 し」「 国 を 愛 し」「 勤 めを 愛 す」とは「 他 人 (ひと)のために」「 社 会 のために」「 仕 事 をもって…」、ということです。 意 思 決 定で 迷 ったときは、 創 業 の 精 神 に 立 ち 返 り 判 断 を 行 いました。 私 たちも 大 河 内 先 生 の 理 研 精 神 を 常 に 心 に 留 め、 運 営 を行 ってきましたが、 伝 統 と 革 新 の 両 方 が 大 事 です。これから 百年 をどう 進 むべきか、 理 研 百 周 年 を 自 らの 使 命 を 設 定 し 直 す 機会 にしたいと 思 います。持 続 可 能 な 社 会 を 実 現 するための 課 題 は 多 岐 にわたります。社 会 的 なものに 限 れば、わが 国 では 少 子 高 齢 化 への 対 応 、 世界 に 目 を 向 ければ、 貧 困 からの 脱 却 が 最 重 要 課 題 だと 思 います。 広 く 言 えば、 国 の 内 外 を 問 わず 基 本 的 人 権 を 保 全 することです。 研 究 者 個 人 も 理 研 も 国 も、その 力 は 限 定 的 ですが、 諦 めてはいけません。 人 類 が 生 き 抜 いていくために、 科 学 者 社 会 だけではなく、 一 般 社 会 、あるいは 世 界 との 絆 をこれまで 以 上 に強 め、 新 しい 時 代 の 世 界 標 準 モデルの 研 究 体 制 を 築 き、 理 研の 使 命 を 全 うしていきたいと 思 っております。これからもリーダーシップを 発 揮 され、「 世 の 中 の 役 に 立つ 理 研 」を 推 進 してください。 応 援 します。 本 日 はありがとうございました。 STUDIO CAC14 RIKEN NEWS 2015 January
TOPICSnano tech 2015 14201512830nano tech2015 14nano tech 201420151283010001700456&3-11-1 nano tech3,000WEBhttp://www.nanotechexpo.jp/main/index.html TEL048-462-5475E-mailcs-office@riken.jp3D LCP STARTSCLIM X 2015219183020001800 B 10B01+023-1JR150201412102015216URLhttp://www.riken.jp/pr/events/events/20150219/ TEL048-467-9954FAX048-462-4715E-mailriken-science-seminarriken.jpRIKEN NEWS 2015 January 15
A Scientific Mind かつて 小 学 校 2 年 生 の 息 子 に 聞 かれました。息 子 :「 人 間 は 何 で 自 分 を 持 ち 上 げられないの?」は り父 :「 体 にひもを 付 けて、 上 にある 梁 に 引 っ 掛 けて 引 っ 張れば 持 ち 上 がるよ」息 子 (お 風 呂 から 出 たばかりなので、 素 っ 裸 、ちんちん 丸出 しです。 腰 に 手 を 当 てて、 爪 先 立 ちになり):「こうやって 持 ち 上 げられないのはなぜ?」父 ( 息 子 の 質 問 の 真 髄 を 理 解 ):「……お 母 さんに 聞 いてみなさい」( 母 は 京 都 大 学 の 原 子 核 理 論 の 教 員 です)息 子 は、ちんちん 丸 出 しのままお 母 さんのところへ。息 子 :「 聞 いてもらえなかった」娘 ( 小 学 校 5 年 生 ):「ひもで 引 っ 張 るとひもが 重 くなるの。体 に 手 を 当 てると 重 くなるものがないの」息 子 ・ 父 :「……」娘 ( 内 緒 話 で 父 に):「 分 かんないけど、 適 当 に 答 えた」この 後 、 会 話 は 別 の 方 向 へ。 父 はいまだに2 年 生 への 説明 ができなくて 困 っています。 娘 の 発 言 は、ある 意 味 、 作用 ・ 反 作 用 の 法 則 を 体 現 しているのですが、 息 子 は 納 得しなかったみたいです。 皆 さんならどう 説 明 しますか?▪もう 一 つ 子 どもネタ。テレビで「Music Station」( 人 気 の 歌番 組 です)を 見 ていました。息 子 :「あの 動 き 回 る 光 はなーに?」父 :「レーザーだよ。お 父 さんやお 母 さんがお 話 をするとき 使 うやつと 一 緒 だ」息 子 :「 普 通 の 光 と 何 が 違 うの?」父 :「……」(ようやく 答 え 方 にたどり 着 き)「 砂 を 握 って 投げると 飛 び 散 るでしょ。あれが 普 通 の 光 。お 団 子 にして 投げると 真 っすぐ 飛 ぶでしょ。あれがレーザー」息 子 :「お 団 子 は 真 っすぐに 飛 ばないよ」父 :「それは 重 力 があるからで、 重 力 がないと、 真 っすぐに 飛 ぶよ」息 子 :「どうやって 光 をお 団 子 にするの?」父 :「……」 •20その 後 、 寝 てしまいました。 次 の 日 に 説 明 を 試 みましたが、失 敗 しました。お 団 子 まではナイスだったのですけれど。▪た い じ子 どもと 対 峙 していると、 不 思 議 なことに 対 する「なぜだろう」という 興 味 は、すべての 人 間 が 等 しく 持 っているもののような 気 がしてきます。その 興 味 の 大 小 で 研 究 者 になったりするのだと 思 います。 三 つ 子 の 魂 百 まで、ということではないでしょうか。ところが、 残 念 なことに、 科 学 はちょっと 進 み 過 ぎたようです。タダみたいなお 金 で、ラジコンヘリコプターすら 買 えます。「これが 無 線 で 動 くのは 不思 議 だねー」と 言 うと、 子 どもは「 携 帯 電 話 と 同 じでしょ」と 答 えます。ピアノを 習 いだした 息 子 には「 先 生 のピアノは 何 で 電 気 コードが 付 いてないのに 鳴 るの?」と 聞 かれる始 末 です。 生 活 の 中 で、 子 どもが 素 直 な 疑 問 を 持 ち、それを「あー、そうなのか」と 理 解 する 喜 び、それを 拒 絶 するような「 不 思 議 な 製 品 」で 世 の 中 が 満 ちあふれています。▪私 の 子 どものころは、「 鉄 人 28 号 」の 放 送 に 間 に 合 うよう電 気 屋 さんがやって 来 て、テレビを 開 け、 真 空 管 を 取 り 換え、 目 の 前 で 直 してくれました。 今 や 買 い 替 えるしかありません。 間 に 合 わなかったら、 携 帯 のワンセグで 見 ればよいのです。この 事 態 が「 理 科 離 れ」の 根 本 にあることは 明らかだと 思 います。でも、 私 はあまり 心 配 していません。この 時 代 に 合 った「あー、そうなのか」という 理 解 する 喜びに 達 する 子 どもたちが 必 ず 残 り、その 子 たちが 先 の 世 代の 研 究 をつないでいってくれるのだと 信 じています。 科 学する 心 はどこにでもあります。20112p.57No.403 January 20152716 351-019821Tel048-467-4094Emailriken_news@riken.jp http://www.riken.jpRIKEN 2015-001 Tel048-462-4955 Emailkifu-info@riken.jphttp://www.riken.jp/