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ターナー症候群と思春期の性発達 横谷 進 国立成育医療研究センター ...

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ターナー 症 候 群 と 思 春 期 の 性 発 達<br />

横 谷 <strong>進</strong><br />

国 立 成 育 医 療 研 究 センター 内 科 系 専 門 診 療 部<br />

【 思 春 期 の 性 発 達 と 性 腺 機 能 低 下 症 】<br />

男 女 の 思 春 期 に 起 こる 身 体 的 変 化 は、 内 分 泌 のしくみによって 支 えられている。すなわち、 内 分<br />

泌 腺 と 呼 ばれる 器 官 から 血 中 に 放 出 された 微 量 物 質 (ホルモン)が 標 的 器 官 に 働 いて、 標 的 器 官<br />

のもつ 機 能 を 調 節 するしくみが 内 分 泌 系 である。 内 分 泌 系 の 中 心 になるのが 脳 下 垂 体 で、 脳 下 垂<br />

体 から 分 泌 される 性 腺 刺 激 ホルモンは、 性 腺 ( 女 性 の 場 合 は 卵 巣 、 男 性 の 場 合 は 精 巣 )に 働 いて、<br />

性 ホルモン( 女 性 では 主 に 女 性 ホルモン、 男 性 では 主 に 男 性 ホルモン)を 分 泌 させる。 思 春 期 に 増<br />

加 した 女 性 ホルモンは、 女 子 において、 乳 房 発 達 、 子 宮 発 達 ・ 月 経 を 起 こさせる。 男 性 ホルモンは、<br />

男 性 において、 陰 茎 腫 大 、 陰 嚢 発 達 、 陰 毛 ・ 腋 毛 発 生 を 起 こさせる。 思 春 期 の 骨 に 起 こる 成 長 促<br />

<strong>進</strong> 、 骨 成 熟 、 骨 塩 量 増 加 は、 男 女 とともに 主 に 女 性 ホルモンによっている。 思 春 期 年 齢 になる 前 は、<br />

性 腺 刺 激 ホルモンの 分 泌 はわずかであるが、 思 春 期 年 齢 に 達 すると、 分 泌 が 盛 んになる。 性 腺 刺<br />

激 ホルモンは、 脳 下 垂 体 より 上 部 にある 視 床 下 部 から 分 泌 されるホルモンによってコントロールされ<br />

ており、このホルモンの 増 加 が、 性 腺 刺 激 ホルモン、 性 ホルモンの 増 加 を 通 して 思 春 期 の 身 体 的 変<br />

化 を 起 こさせていると 言 える( 図 1)。<br />

思 春 期 の 男 女 に 起 こる 体 表 の 性 成 熟 の 過 程 は、タナー(Tanner) 分 類 によって 評 価 できる。 思 春<br />

期 が 始 まる 前 を 1 度 、 完 全 な 成 熟 を 5 度 と 表 現 する。 乳 房 の 2 度 は、 乳 輪 が 隆 起 するが 乳 房 全 体<br />

のふくらみはわずかである 場 合 に 定 義 される。この 2 度 が 思 春 期 の 始 まりで、 日 本 人 では、 平 均 9.5<br />

歳 で 起 こることが 報 告 されている。 男 子 の 外 陰 部 の 性 成 熟 のうち、 精 巣 の 腫 大 が 最 も 早 く 起 こり、 腫<br />

大 の 始 まり( 精 巣 容 積 が 3.5ml ないし 4ml 以 上 )は、 平 均 11.5 歳 である。このように、 思 春 期 の 始 ま<br />

りは 男 女 で 約 2 年 の 差 がある。 身 長 が 最 も 急 速 に 伸 びる 年 齢 も、 女 子 11 歳 、 男 子 13 歳 である。 女<br />

子 では、 初 経 年 齢 の 平 均 (50% 既 潮 率 )は、12.2 歳 である。<br />

このような 思 春 期 の 身 体 兆 候 の 現 れる 年 齢 には 個 人 差 がある。たとえば、 乳 房 発 達 の 始 まり<br />

(Tanner 2 度 )の 年 齢 の 分 布 を 調 べると、9.5 歳 を 中 心 に、その 前 後 に 対 称 の 広 がりを 示 す 正 規 分<br />

布 にきわめて 近 い 分 布 を 示 すが、その 標 準 偏 差 (SD)は、1.1 歳 である。9.5 歳 の 前 後 2.2 年 (±<br />

2SD)、すなわち 7.3~11.7 歳 の 間 には 約 95%の 女 子 に 乳 房 の 発 達 が 始 まっていることになる。 乳<br />

房 2 度 の 年 齢 に 限 らず、 初 経 年 齢 、 最 大 成 長 速 度 の 年 齢 など、 男 女 の 性 成 熟 兆 候 の 年 齢 はそれ<br />

ぞれ 正 規 分 布 すると 考 えてよく、いずれも SD は 約 1 年 である。<br />

このような 性 成 熟 の 起 こる 範 囲 を 超 えて、 性 成 熟 の 現 れが 遅 れている 場 合 を 思 春 期 遅 発 症 と 呼<br />

んでいる。 思 春 期 遅 発 症 は、 思 春 期 が 遅 れて 起 こるだけで 病 気 らしくないもの( 狭 義 の 思 春 期 遅 発<br />

症 、いわゆる 体 質 性 思 春 期 遅 発 症 )と、 永 続 的 に 思 春 期 の 兆 候 が 現 れないもの( 性 腺 機 能 低 下<br />

症 )に 分 類 される。 後 者 の 性 腺 機 能 低 下 症 の 中 には、 中 枢 性 ( 性 腺 刺 激 ホルモンの 低 下 )と、 原 発<br />

性 ( 性 腺 自 体 の 異 常 による 性 ホルモンの 低 下 )がある。 中 枢 性 には、 生 まれつきの 原 因 によるものが<br />

1


あるが、 脳 腫 瘍 や 小 児 がんの 治 療 後 の 小 児 ( 小 児 がん 経 験 者 Childhood Cancer Survivors)に 起 こ<br />

るのも 少 なくなく、 近 年 その 重 要 性 が 増 している。 原 発 性 では、 女 性 にみられるターナー(Turner)<br />

症 候 群 と、 男 性 にみられるクラインフェルター(Klinefelter)の 頻 度 が 高 い(それぞれ、 約 2,000 人 に<br />

1 人 )。ここでは、 女 性 の 性 腺 機 能 低 下 症 の 代 表 として、ターナー 症 候 群 についてやや 詳 しく 述 べ<br />

る。<br />

【ターナー 症 候 群 】<br />

ターナー 症 候 群 を 一 言 で 説 明 すれば、1 身 長 が 低 く、2 卵 巣 がよく 働 かないことが 多 く( 月 経 が<br />

始 まらない 割 合 は 約 80%)、3 詳 しく 診 察 すると 身 体 に 小 さな 特 徴 (ターナー 兆 候 )や、 時 に 合 併 症<br />

がある、しかし、4「ふつうの 子 」である。 原 因 は、 多 くの 女 性 では 2 本 あるX 染 色 体 のうちの 1 本 の、<br />

全 体 か 一 部 が 欠 失 していることによる。 通 常 は、 遺 伝 によるものではなく、 受 精 卵 ができる 前 後 の 頃<br />

に、ある 確 率 で 偶 然 に 起 こるものである。<br />

低 身 長 に 対 しては、 未 治 療 の 場 合 の 成 人 身 長 が 平 均 142cm ほどであるのに 対 して、 遅 れずに<br />

成 長 ホルモンを 開 始 すれば 平 均 148-149cm の 身 長 に 到 達 することができるようになった。<br />

性 腺 機 能 低 下 ( 卵 巣 機 能 不 全 )のために、 二 次 性 徴 (はじめに 現 れるはずなのは 乳 房 の 隆 起 )が<br />

始 まらないことが 多 いので、クラスメートからあまり 遅 れずに 12-14 歳 ( 最 近 の 欧 米 のガイドラインでは<br />

とくに 理 由 がなければ 12 歳 )で 女 性 ホルモン( 正 しくは、 卵 胞 ホルモン、または、エストロゲンと 呼 ぶ)<br />

を 少 量 から 開 始 し、2 年 間 ほどで 成 人 量 まで 6-12 か 月 ごとに 段 階 的 に 増 量 する 方 法 が 勧 められて<br />

いる( 図 2)。この 方 法 であれば、 自 然 と 同 様 の 速 さで 二 次 性 徴 が <strong>進</strong> 行 する。また、 増 量 がゆっくりで<br />

あるので、エストロゲンによる 骨 成 熟 の 促 <strong>進</strong> のために 身 長 が 低 いままで 成 人 になる 心 配 も、しなくて<br />

よい。<br />

ターナー 症 候 群 は、エストロゲンの 補 充 療 法 や 合 併 症 の 管 理 が 成 人 後 にも 必 要 であるので、 小<br />

児 科 医 や 小 児 内 分 泌 科 医 から 成 人 診 療 医 ( 内 分 泌 科 医 等 )にスムーズに 移 行 (トランジション)す<br />

ることが 大 切 である。<br />

【まとめ】<br />

1. 女 子 の 思 春 期 の 性 発 達 は、 主 に 卵 巣 から 分 泌 されるエストロゲンによる。<br />

2. 卵 巣 機 能 不 全 では、エストロゲンが 不 足 するので、 乳 房 発 達 などの 二 次 性 徴 が 起 こらない。<br />

3. ターナー 症 候 群 は、「 小 柄 なふつうの 女 の 子 」であるが、 多 くの 場 合 に 卵 巣 機 能 不 全 を 伴 う。<br />

4. 思 春 期 の 卵 巣 機 能 不 全 の 治 療 には、エストロゲン 製 剤 を 少 量 から 段 階 的 に 増 量 する 方 法 によ<br />

り、クラスメートから 遅 れずに、ふつうの 速 さで 二 次 性 徴 を <strong>進</strong> め、 完 成 することができる。<br />

5. ターナー 症 候 群 では、 成 人 診 療 科 への 移 行 と 一 生 の 健 康 管 理 も 大 切 である。<br />

2


図 1.ホルモンによる 性 発 達 の 調 節<br />

エストラーナ(0.72mg) 貼 付 1/8 枚 1/4 枚 1/2 枚 1 枚<br />

ジュリナ(0.5mg/ 錠 ) 0.25 錠 0.5 錠 1 錠 2 錠<br />

プレマリン(0.625mg/ 錠 ) 0.1 錠 0.2 錠 0.5 錠 1-2 錠<br />

図 2. 少 量 からの 段 階 的 増 量 によるエストロゲン 補 充 療 法<br />

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