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なぜ消費者は流行が終わったと感じるのか - C-faculty - 中央大学

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中 央 大 学 商 学 部 久 保 知 一 研 究 室 第 4 期 生 卒 業 論 文<br />

なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

前 田 芽 美<br />

中 央 大 学 商 学 部 久 保 知 一 研 究 室 第 4 期<br />

E-mail: gre_sybns_ommemi@yahoo.co.jp<br />

要 約 : 毎 年 、 分 野 を 問 わず 様 々な 流 行 が 生 まれ、 消 滅 していく。 流 行 を 長 続<br />

きさせる 鍵 を 見 つけるという 点 において、 流 行 の 終 わりについて 解 明 するこ<br />

とはマーケティングを 行 う 上 で 重 要 課 題 であるといえる。 本 論 では 流 行 の 終<br />

わりに 焦 点 を 当 て、 消 費 者 行 動 の 視 点 から、 消 費 者 が 流 行 の 終 わりを 知 覚 す<br />

る 要 因 を 解 明 することを 目 的 とする。そこで、 独 自 のモデルを 構 築 し、 消 費<br />

者 調 査 からのデータを 用 いて 実 証 分 析 を 行 うことで、モデルの 経 験 的 妥 当 性<br />

を 吟 味 する。 本 論 では、 多 母 集 団 同 時 分 析 を 行 い、その 結 果 、 知 覚 新 奇 性 、<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 への 普 及 感 、 周 囲 の 不 採 用 度 が、 知 覚 流 行 終 息 度 に 影 響 を 与<br />

えていることが 明 らかになった。<br />

キーワード: 流 行 トリクルダウン・セオリー 多 母 集 団 同 時 分 析<br />

1. イントロダクション<br />

流 行 は、どのようにして 終 わりを 迎 えるのか。 消 費 者 行 動 の 見 地 から 言 えば、 消 費 者<br />

は、 流 行 の 終 わりをどのように 知 覚 するのだろうか。 本 論 では、 流 行 の「 終 わり」に 焦<br />

点 を 当 てる。 本 節 ではまず、 流 行 そのものについて 議 論 する。<br />

過 去 に 流 行 した 製 品 といえば、 何 を 思 い 浮 かべるであろうか。 例 えば、1999 年 6 月<br />

に 発 売 されたソニーのペット 型 ロボット「AIBO」は、1 体 25 万 円 という 価 格 にもかか<br />

わらず、インターネット 限 定 販 売 の 3000 台 がわずか 20 分 で 完 売 するヒット 商 品 となっ<br />

た ( 松 井 , 2004)。その 他 にも、「ファービー 人 形 」、「たまごっち」、「 生 キャラメル」<br />

などは、 社 会 的 に 大 ヒットしたという 強 烈 な 印 象 が 残 っている。しかし、それらは 希 少<br />

1


前 田 芽 美<br />

な 例 外 である。 残 念 なことに 流 行 した 製 品 の 多 くは、 流 行 が 廃 れるとあっという 間 に 消<br />

費 者 に 忘 れ 去 られる。 一 時 的 な 流 行 を 超 えて 社 会 的 に 普 及 するものも 稀 にあるが、その<br />

際 には 消 費 者 の 中 でその 製 品 が「 流 行 している」という 感 覚 は 消 え 去 り、 存 在 している<br />

ことが 普 通 であるという 感 覚 に 変 わる。「 流 行 」は、 相 当 な 人 気 を 集 めるが、 束 の 間 し<br />

か 保 てない (Best, 2006)。しかし、たとえ 流 行 が 短 期 間 であって、そのほとんどが 廃 れ<br />

てしまうとしても、その 人 気 を 少 しでも 長 続 きさせることは、 企 業 戦 略 上 重 要 な 課 題 で<br />

あるといえるだろう。<br />

ところで、この 流 行 現 象 について、 日 本 語 では「 流 行 」という 言 葉 でひとくくりにし<br />

てしまうが、「 流 行 」というニュアンスを 示 す 外 来 語 は 多 く 存 在 する。そして、その 境<br />

界 は 曖 昧 で、 定 義 も 研 究 者 によって 異 なる。 一 般 的 に 流 行 といえば、「ファッション<br />

(fashion)」か「ファッド (fad)」を 示 すことが 多 いが、この 2 つに 関 する 定 義 も 多 数 存 在<br />

する。Best (2006) では、 厳 密 に 境 界 を 引 くことはできないとしながらも、ファッドは<br />

エピソード 的 なのに 対 し、ファッションは 系 統 的 (システマティック) であるとし、こ<br />

の 2 つは 異 なる 現 象 として 捉 えられている 1 。また、Blumer (1969) も、ファッションが<br />

発 生 する 条 件 として、 歴 史 的 連 続 性 を 有 する 社 会 構 造 を 挙 げたうえで、ファッドは 歴 史<br />

的 な 連 続 性 を 持 たず、 後 継 者 ( 同 じカテゴリーで 次 に 取 って 替 わるもの) が 発 生 しない<br />

ものであると 述 べ、ファッドよりもファッションを 重 要 視 している。<br />

これに 対 して、 中 島 (1998) では、ファッドを 流 行 の 小 規 模 なものとし、ファッショ<br />

ンとファッドが 異 なった 現 象 であるというよりは、ファッドがファッションに 包 摂 され<br />

る 関 係 であると 述 べている。また、 鈴 木 (1977) も、ファッドの 基 本 的 性 格 がファッシ<br />

ョンのそれと 同 じであることはほとんどの 論 者 の 一 致 するところであるとしている。そ<br />

こで 本 論 では、 鈴 木 (1977) の 議 論 を 採 用 し、ファッションとファッドをほぼ 同 じもの<br />

と 定 義 し、 総 称 して「 流 行 」と 呼 ぶことにする。<br />

流 行 についての 研 究 は 古 くから 数 多 く 存 在 する (e.g. Tarde, 1890; Simmel, 1904; 川 本 ,<br />

1981; McCracken, 1988)。 流 行 は 必 ず 消 滅 するものであるため、 流 行 の 研 究 を 行 うこと 自<br />

体 、その 終 わりを 視 野 に 入 れていることになる。しかしながら、そのように 包 括 的 には<br />

流 行 の 終 わりを 捉 えていても、 流 行 の 終 わりのみに 焦 点 を 当 てた 研 究 は、 筆 者 が 知 りう<br />

る 限 りではほとんど 存 在 しない。そこで、 本 論 では 消 費 者 行 動 論 の 視 点 から、 消 費 者 が<br />

どのように 流 行 の 終 わりを 知 覚 するのかを 解 明 していきたい。<br />

本 論 は 以 下 のように 構 成 される。 第 2 節 では、 流 行 に 関 する 先 行 研 究 のレビューを 行<br />

う。 第 3 節 では、 先 行 研 究 のレビューをもとに 独 自 のモデルを 構 築 し 仮 説 を 提 唱 する。<br />

第 4 節 では 調 査 方 法 に 言 及 し、 第 5 節 では 分 析 結 果 について 検 討 する。 最 終 節 では、 分<br />

析 結 果 の 考 察 を 行 い、 本 論 の 限 界 および 研 究 課 題 について 言 及 する。<br />

1 Best (2006) によれば、エピソード 的 というのは、1 回 限 りの 熱 狂 のことを 指 す。あるひとつの<br />

熱 狂 が 醒 めても 必 ずしも 何 かがそれに 取 って 代 わるわけではない。これに 対 し、 系 統 的 というの<br />

は 映 画 や 服 装 ファッションのように、 連 続 する 熱 狂 のことを 指 す。これらは、 次 に 予 定 されてい<br />

る 創 作 物 に 人 気 を 譲 ることで 熱 狂 が 醒 める。<br />

2


なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

2. 先 行 研 究 のレビュー<br />

本 節 では、 流 行 の 先 行 研 究 についてレビューする。<br />

○トリクルダウン・セオリー<br />

トリクルダウン・セオリーは、Simmel (1904) によって 提 唱 された、 服 飾 の 流 行 を 説<br />

明 するための 理 論 である。これは、 社 会 階 層 での 階 級 差 別 化 によって 生 じる。 社 会 階 層<br />

の 上 位 グループ、いわゆるエリートクラスの 人 々が 下 位 グループとの 差 別 化 のために、<br />

新 しい 服 装 や 装 飾 を 採 用 する。すると、 社 会 階 層 の 下 位 グループの 人 々は、そのエリー<br />

トたちの 衣 服 を 模 倣 することによって、 自 分 たちのステイタスを 確 立 しようとする。 自<br />

分 たちのファッションを 模 倣 された 上 位 グループは、 下 位 グループと 自 分 たちを 再 び 差<br />

別 化 するために、また 新 たな 服 装 や 装 飾 を 採 用 する。そしてそれが 下 位 グループによっ<br />

て 模 倣 される…。このように、 服 飾 は 上 位 階 級 から 下 位 階 級 へと“ 滴 り 落 ちる”ように 流<br />

行 するのである。この 模 倣 と 差 別 化 からなる 連 続 革 新 プロセスが、 流 行 を 前 へ 前 へと 駆<br />

り 立 てるエンジンを 作 り 出 す (McCracken, 1988)。つまり、 流 行 の 波 及 は、 創 造 と 模 倣<br />

のプロセスなのである。ただし、この 理 論 は 17~19 世 紀 ヨーロッパの 一 部 階 層 構 造 の<br />

ドレスファッションのみにしか 適 応 されないという 批 判 や 2 、スタイルの 差 異 化 はもは<br />

や 社 会 階 級 に 関 係 なく 行 われているなどの 批 判 もある 3 。しかし、 見 直 しの 余 地 がある<br />

にしろ、 消 費 やライフスタイルへの 態 度 ・ 価 値 観 における 模 倣 と 差 別 化 といった 形 で、<br />

トリクルダウン・セオリーは 現 代 でも 本 質 的 には 受 け 継 がれているといえる ( 加 藤 ,<br />

2003)。<br />

○ 流 行 現 象 の 分 類<br />

先 にも 述 べたように、 一 口 に「 流 行 」といっても、その 定 義 は 客 観 的 な 基 準 が 曖 昧 で<br />

( 中 島 , 1998)、 様 々に 存 在 する。 流 行 現 象 を 指 し 示 す 用 語 は、ファッドとファッション<br />

以 外 にもいくつか 存 在 する。 川 本 (1981) では、 流 行 現 象 を 表 す 用 語 をファッション<br />

(fashion)、モード (mode)、スタイル (style)、ファッド (fad)、クレイズ (craze)、ヴォー<br />

グ (vogue)、ブーム (boom) の 7 つに 分 類 し、その 違 いを 説 明 している。また、 中 島 (1998)<br />

は、ヴォーグを 除 く 6 つに 分 類 し、それぞれの 特 徴 を 述 べている ( 表 1)。<br />

2 Blumer (1969) 参 照 。<br />

3 King and Ring (1980) 参 照 。<br />

3


前 田 芽 美<br />

表 1 流 行 現 象 の 分 類<br />

ファッション<br />

(fashion)<br />

モード<br />

(mode)<br />

スタイル<br />

(style)<br />

ファッド<br />

(fad)<br />

クレイズ<br />

(craze)<br />

ヴォーグ<br />

(vogue)<br />

ブーム<br />

(boom)<br />

川 本 (1981) 中 島 (1998)<br />

その 時 代 時 代 の、もっとも 一 般 的<br />

な 普 遍 的 行 動 様 式 をつくりあげ<br />

る 流 行 のことである。 通 常 は 特 に<br />

服 飾 などの 流 行 を 指 す。<br />

主 として 服 装 などの 流 行 を 指 す。<br />

モードに 非 常 に 近 いが、モードは<br />

趣 味 的 なニュアンスをもつのに<br />

対 して、スタイルは 型 に 関 する 流<br />

行 の 意 味 が 強 い。<br />

一 時 的 に 流 行 し、すぐ 廃 れるとい<br />

った 型 の 流 行 現 象 である。<br />

広 範 囲 に 影 響 を 及 ぼす 熱 狂 的 流<br />

行 を 指 す。<br />

気 まぐれや 新 しさを 強 調 する 流<br />

行 の 意 味 に 用 いられる。<br />

主 として 経 済 現 象 に 用 いられる。<br />

いわゆる 服 飾 の 流 行 を 指 す 場 合 が 多 い<br />

が、 一 般 的 に 我 々が 流 行 と 呼 ぶものを 指<br />

す 代 表 的 な 表 現 である。<br />

広 義 的 には、 流 行 全 般 を 指 すファッショ<br />

ンとほぼ 同 じ 意 味 で 使 用 される。 狭 義 的<br />

には、 多 くの 場 合 、 短 期 間 の 服 装 の 流 行<br />

を 指 す。<br />

特 定 の 事 象 に 支 配 的 あるいは 優 勢 で 特<br />

徴 的 な 様 式 、 考 え 方 、 方 法 などの 前 提 と<br />

なる「 型 」を 指 す。<br />

流 行 の 小 規 模 なもので、 伝 播 範 囲 が 狭 く<br />

持 続 性 の 短 いものを 指 す。<br />

熱 狂 状 態 で 殺 到 する 集 合 行 動 の 1 つであ<br />

る。 流 行 の 特 殊 な 形 態 で 大 量 の 群 集 の 興<br />

奮 ないし 情 動 を 伴 う 熱 狂 的 流 行 といえ<br />

る。<br />

比 較 的 持 続 性 があり、 個 別 の 特 殊 性 に 起<br />

因 するもので、 偶 然 、 幸 運 、 直 感 といっ<br />

た 要 素 も 含 まれる。 本 来 は 経 済 領 域 に 出<br />

現 するものとされるが、 近 年 では、マス<br />

メディアの 影 響 を 受 けて、それ 以 外 の 領<br />

域 にもよく 見 られる。<br />

川 本 (1981)、 中 島 (1998) より 筆 者 作 成 。<br />

○ 流 行 の 特 徴<br />

鈴 木 (1977) では、 一 般 的 な 製 品 普 及 過 程 には 見 られない 流 行 現 象 独 特 の 特 徴 として、<br />

(1) 新 奇 性 (novelty)、(2) 効 用 (utility) からの 独 立 、(3) 短 命 性 (transitoriness)、(4) 瑣<br />

末 性 (triviality)、(5) 機 能 的 選 択 肢 (functional alternatives) の 存 在 、(6) 周 期 性 (cycle) の<br />

6 つを 挙 げている。<br />

(1) 新 奇 性 は、 流 行 現 象 を 支 える 最 大 の 要 件 のひとつである。 一 般 的 に 普 及 現 象 もそ<br />

の 初 期 段 階 では「 新 しい」ものであるが、 流 行 現 象 においては、 当 事 者 の 感 じる 新 奇 性<br />

の 度 合 いがかなり 強 いことが 多 い 4 。(2) 効 用 からの 独 立 とは、 流 行 そのものが 客 観 的 な<br />

効 用 に 依 存 しないことである。 極 端 な 場 合 、その 製 品 の 垂 直 的 属 性 が 前 製 品 より 退 化 し<br />

4 ただし、 鈴 木 は 新 奇 な 印 象 さえ 与 えれば、 必 ずしも 実 際 に 新 奇 性 がある 必 要 はないとしている。<br />

4


なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

ていたとしても、 流 行 する 可 能 性 はある。(3) 短 命 性 とは、 流 行 が 極 めて 速 やかに 移 り<br />

変 わりやすいという 特 徴 を 持 つことである。 鈴 木 は、 流 行 している 製 品 は、その 耐 用 年<br />

数 が 経 過 するより 早 くに 使 用 されなくなってしまうことを 示 唆 している。また、 流 行 の<br />

末 に 広 く 普 及 し、そのまま 定 着 してしまった 製 品 は、もはや 流 行 とは 呼 ばれなくなり、<br />

通 常 「 慣 習 (custom)」と 呼 ばれるようになる。それゆえ、 流 行 は 必 ず 終 わるのである。<br />

(4) 瑣 末 性 について、Simmel (1904) は、 流 行 は「 非 合 理 性 が 害 にならない 外 部 や 表 層<br />

に 関 するものである」と 述 べている。 普 及 しないということは、 結 局 は 消 費 者 にとって、<br />

重 要 度 の 低 いものであったということなのであろう。(5) 機 能 的 選 択 肢 の 存 在 について<br />

は、もしそれ 以 外 のものを 選 択 する 可 能 性 がない 場 合 の 普 及 は、 流 行 現 象 ではないとし<br />

ている。つまり、 流 行 は、 他 の 選 択 肢 があってこそ 成 り 立 つのである。そして、 最 後 の<br />

(6) 周 期 性 については、 流 行 には 反 復 する 現 象 が 多 くみられるが、これは 必 ずしも 当 て<br />

はまるものではないとしている。また、Aguirre (1988) も 流 行 の 特 徴 を 7 つ 挙 げている<br />

が、その 議 論 はおおむね 鈴 木 と 一 致 するものである 5 。<br />

以 上 、 流 行 についての 先 行 研 究 レビューを 行 った。 流 行 については、かなり 古 くから<br />

活 発 に 議 論 されてきた。また、 流 行 と 一 見 すると 似 ている 現 象 との 違 いも 明 示 されてい<br />

る。それにもかかわらず、 先 にも 述 べたように 流 行 の「 終 わり」のみに 焦 点 を 当 てた 研<br />

究 は 蓄 積 されていない。 例 えば、Simmel のように 流 行 を 包 括 的 に 捉 える 議 論 は、 流 行<br />

現 象 の 初 めから 終 わりまでの 現 象 全 体 を 説 明 する 枠 組 みとしては 適 しているだろう。し<br />

かし、あえてミクロ 的 な 視 点 で、 流 行 の「 終 わり」のみに 着 目 することで、そのほとん<br />

どがすぐに 廃 れてしまう 流 行 を 少 しでも 長 引 かせるための、より 有 効 で 具 体 的 な 布 石 を<br />

打 つことが 可 能 になるのではないだろうか。ここに、 流 行 の 終 わりのみに 焦 点 を 当 てる<br />

本 論 の 意 義 が 見 出 されるだろう。<br />

3. 仮 説 の 提 唱<br />

本 節 では、 前 節 で 行 ったレビューを 踏 まえ、 独 自 の 仮 説 を 提 唱 し、 因 果 モデルを 導 出<br />

する。<br />

先 にも 述 べたように、 消 費 者 が 新 奇 性 、つまり「 新 しさ」や「 珍 しさ」を 感 じること<br />

は、 流 行 現 象 において 重 要 な 要 件 である。あまり 見 聞 きしたことのない 商 品 には、どこ<br />

となく 新 鮮 さを 感 じ、 購 買 行 動 に 駆 り 立 てられる ( 加 藤 , 2003)。 一 方 で 鈴 木 (1977) は、<br />

流 行 は 新 奇 性 という 重 要 な 特 性 を 失 うことによって 消 滅 へ 向 かうと 述 べている。すなわ<br />

ち、 消 費 者 は 新 奇 性 を 感 じなくなると、 流 行 は 終 わったと 知 覚 するものと 考 えられる。<br />

また、 例 えば Rogers (1962) が 提 案 した 採 用 者 カテゴリーでいうイノベーターやアー<br />

リーアダプターといった 流 行 に 敏 感 であろう 人 々は、 新 製 品 をいち 早 く 採 用 する 傾 向 が<br />

ある 6 。そのため、 流 行 に 敏 感 な 人 々の 方 が、 新 奇 性 に 対 して 敏 感 だと 考 えられる。し<br />

5 ただし、Aguirre は fashion ではなく fads と 表 記 している。<br />

6<br />

小 野 (2010) 参 照 。<br />

5


たがって、 以 下 の 仮 説 を 提 唱 する。<br />

前 田 芽 美<br />

H1 : 流 行 に 敏 感 な 人 の「 知 覚 新 奇 性 」は「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 負 の 影 響 を 与 える。<br />

H2 : 流 行 に 鈍 感 な 人 の「 知 覚 新 奇 性 」は「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 負 の 影 響 を 与 える。<br />

H3 : 流 行 に 鈍 感 な 人 より、 流 行 に 敏 感 な 人 の 方 が、「 知 覚 新 奇 性 」が「 知 覚 流 行 終 息<br />

度 」に 強 い 負 の 影 響 を 与 える。<br />

前 節 で 説 明 したトリクルダウン・セオリーでは、 自 分 より 下 位 グループに 模 倣 される<br />

と、 上 位 グループは 下 位 グループとの 差 別 化 のための 工 夫 をする。つまり、 消 費 者 は 自<br />

分 よりも 流 行 に 鈍 感 だと 感 じている 他 人 が 流 行 している 製 品 を 使 用 し 始 めると、 流 行 の<br />

終 わりを 知 覚 すると 考 えられる。そしてその 傾 向 は、 模 倣 される 立 場 にある 上 位 グルー<br />

プほど、つまり 流 行 に 敏 感 な 人 々ほど 強 いと 考 えられる。したがって、 以 下 の 仮 説 を 提<br />

唱 する。<br />

H4 : 流 行 に 敏 感 な 人 にとって、「 流 行 に 鈍 感 な 人 への 普 及 感 」は、「 知 覚 流 行 終 息 度 」<br />

に 正 の 影 響 を 与 える。<br />

H5 : 流 行 に 鈍 感 な 人 にとって、「 流 行 に 鈍 感 な 人 への 普 及 感 」は、「 知 覚 流 行 終 息 度 」<br />

に 正 の 影 響 を 与 える。<br />

H6 : 流 行 に 鈍 感 な 人 より、 流 行 に 敏 感 な 人 の 方 が、「 流 行 に 鈍 感 な 人 への 普 及 感 」が<br />

「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 強 い 正 の 影 響 を 与 える。<br />

加 藤 (2003) は、 消 費 者 は 社 会 と 他 者 のつながりによって 自 分 の 購 買 の 妥 当 性 を 判 断<br />

するとした。その 上 で、 多 くの 購 買 行 動 は、 世 間 で 話 題 になっている 製 品 の 消 費 に 自 分<br />

も 参 加 して、 大 衆 の 仲 間 入 りをしたいという 共 鳴 によって 起 こると 述 べている。 個 人 と<br />

して 行 動 する 場 合 よりも、 大 衆 の 中 の 一 員 として 行 動 する 方 が、 個 人 的 な 責 任 を 問 われ<br />

ないため、 消 費 者 は、 大 衆 の 中 の 方 が 気 軽 に 行 動 できるのである。 加 藤 は、それが 消 費<br />

者 の 流 行 参 加 意 図 につながるとしている。つまり、 周 囲 の 人 間 がその 製 品 を 使 用 してい<br />

れば、 自 分 も 使 用 したくなり、また、 皆 が 使 用 しているから 堂 々と 自 分 も 使 用 できると<br />

いうことである。 水 野 (2009) が 指 摘 するように、 流 行 の 機 能 は 社 会 的 な「 安 全 シェル<br />

ター」なのである。そのため、 周 囲 の 人 間 が 流 行 している 製 品 を 使 用 しなくなったと 感<br />

じると、そのシェルターからはじき 出 されることを 恐 れた 消 費 者 は、 流 行 が 終 わったと<br />

知 覚 すると 考 えられる。<br />

また、 購 買 選 択 時 に 他 者 の 影 響 を 強 く 受 ける 消 費 者 は、 購 買 選 択 時 の 意 思 決 定 におい<br />

て、 自 身 の 基 準 だけでなく、 時 に 友 人 ・ 知 人 といった 他 者 の 基 準 を 参 考 にする ( 三 浦 ,<br />

2008)。これは 裏 を 返 せば、 購 買 選 択 時 に 他 者 の 影 響 を 受 けにくい 消 費 者 ( 情 報 を 発 信<br />

する 側 、すなわち 採 用 者 カテゴリーでいえばイノベーターやアーリーアダプター) は、<br />

6


なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

自 分 の 基 準 を 重 視 して 購 買 意 思 決 定 をするとも 解 釈 できる。このことから、 流 行 に 鈍 感<br />

な 人 の 方 が、 周 囲 の 人 間 の 基 準 を 参 考 にすると 考 えられる。したがって、 以 下 の 仮 説 を<br />

提 唱 する。<br />

H7 : 流 行 に 敏 感 な 人 にとって、「 周 囲 の 不 採 用 度 」は「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 正 の 影 響<br />

を 与 える。<br />

H8 : 流 行 に 鈍 感 な 人 にとって、「 周 囲 の 不 採 用 度 」は「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 正 の 影 響<br />

を 与 える。<br />

H9 : 流 行 に 敏 感 な 人 より、 流 行 に 鈍 感 な 人 の 方 が、「 周 囲 の 不 採 用 度 」が「 知 覚 流 行<br />

終 息 度 」に 強 い 正 の 影 響 を 与 える。<br />

ここまで 提 唱 された 仮 説 は、 以 下 のモデルで 表 現 される ( 図 1)。<br />

図 1 因 果 モデル<br />

【 流 行 に 敏 感 】<br />

知 覚 新 奇 性<br />

(--)<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 へ<br />

の 普 及 感<br />

周 囲 の 不 採 用 度<br />

(++)<br />

(+)<br />

知 覚<br />

流 行 終 息 度<br />

【 流 行 に 鈍 感 】<br />

知 覚 新 奇 性<br />

(--)<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 へ<br />

の 普 及 感<br />

(+)<br />

(++)<br />

知 覚<br />

流 行 終 息 度<br />

周 囲 の 不 採 用 度<br />

7


前 田 芽 美<br />

4. 調 査 方 法<br />

前 節 で 提 唱 された 仮 説 の 経 験 的 妥 当 性 をテストするために、 都 内 私 立 大 学 の 学 生 を 対<br />

象 に 質 問 票 調 査 を 行 った。 調 査 対 象 を 大 学 生 に 絞 ったのは、できるだけ 年 齢 層 の 幅 を 狭<br />

めるためである。 年 齢 が 近 い 方 が、 流 行 に 対 する 直 観 的 な 視 点 が 似 ていると 考 えられる。<br />

もちろん、 今 回 用 いる 多 母 集 団 同 時 分 析 という 分 析 技 法 上 、 調 査 対 象 の 流 行 に 対 する 感<br />

度 の 差 はある 方 が 好 ましい。しかし、 例 えば 50 代 と 20 代 では 時 代 的 な 経 験 が 異 なる。<br />

体 験 してきた 社 会 的 歴 史 が 大 きく 違 うと、 余 計 なバイアスがかかってしまうかもしれな<br />

い。 同 じ 世 代 を 調 査 対 象 とすることで、そのようなバイアスを 回 避 できるため、ある 程<br />

度 の 統 制 をした 方 が 有 意 な 結 果 が 示 されると 判 断 した。 調 査 の 題 材 には「 食 べるラー 油 」<br />

を 用 いることにした。 選 定 理 由 としては、『 日 経 ヒット 商 品 番 付 1971-2010』 7 に、2010<br />

年 のヒット 商 品 として 掲 載 されており、2012 年 現 在 でこの 商 品 に 関 して、まだ 流 行 し<br />

ていると 感 じる 消 費 者 と、もう 流 行 が 終 わったと 感 じる 消 費 者 の 両 方 が 存 在 すると 考 え<br />

られるためである。 測 定 尺 度 の 作 成 にあたっては、すべての 項 目 について 筆 者 が 独 自 に<br />

開 発 した。<br />

調 査 設 計 の 妥 当 性 の 吟 味 のため、 東 京 都 内 に 通 う 大 学 生 を 対 象 にプリテスト (n=20)<br />

を 行 った 後 、 質 問 票 の 質 問 文 の 更 なる 検 討 、 測 定 尺 度 の 調 整 が 行 われた。<br />

本 テストはプリテスト 同 様 、 東 京 都 内 に 通 う 大 学 生 を 対 象 に 質 問 票 を 用 いた 調 査 を 行<br />

った。なお、 調 査 期 間 は、2012 年 1 月 5 日 ~1 月 11 日 までとし、 質 問 票 については、<br />

紙 面 と WEB 上 で 作 成 したものを 併 用 した。 回 収 された 質 問 票 から、 欠 損 値 のあるもの<br />

や 著 しく 回 答 に 隔 たりのあるものはなく、 有 効 回 答 は 384 ( 有 効 回 答 率 100%) であった。<br />

5. 分 析 結 果<br />

図 1 に 示 されたモデルを、IBM SPSS Statistics 19 及 び Amos 19.0 を 用 いて 共 分 散 構 造<br />

分 析 によって 経 験 的 妥 当 性 を 吟 味 した。 具 体 的 には、 消 費 者 を「 流 行 に 敏 感 / 鈍 感 」に<br />

分 類 し、 多 母 集 団 の 同 時 分 析 を 行 った。なお、「 流 行 に 敏 感 / 鈍 感 」の 分 類 は 質 問 票 上<br />

の 設 問 にて 区 分 した。まず、 信 頼 性 分 析 を 行 ったところ、クロンバックの 係 数 は 以 下<br />

の 表 2 のような 結 果 になった。 若 干 甘 い 基 準 ではあるが、すべての 構 成 概 念 が 基 準 を 満<br />

たしていた。<br />

7<br />

日 本 経 済 新 聞 社 が 毎 年 発 表 する「ヒット 商 品 番 付 」をまとめたもの。 消 費 者 動 向 や 世 相 を 踏 ま<br />

えた 上 で、 売 れ 行 き、 開 発 の 着 眼 点 、 価 格 、 産 業 構 造 や 生 活 者 心 理 に 与 えた 影 響 などを 総 合 的 に<br />

判 断 して 日 経 MJ 編 集 部 が 選 定 している。<br />

8


なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

表 2 観 測 変 数 と 信 頼 性 係 数 (n=384)<br />

潜 在 変 数 観 測 変 数 ( 質 問 項 目 : 1-7 の 7 点 尺 度 で 測 定 )<br />

知 覚 流 行 終 息 度<br />

知 覚 新 奇 性<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 へ<br />

の 普 及 感<br />

周 囲 の 不 採 用 度<br />

食 べるラー 油 は、すでに 流 行 が 終 わっている。<br />

食 べるラー 油 は、 流 行 遅 れである。<br />

食 べるラー 油 は、 少 し 前 に 流 行 した 製 品 である。<br />

食 べるラー 油 は、もう 流 行 していない。<br />

食 べるラー 油 は、 新 しくて 珍 しいものだと 思 う。<br />

食 べるラー 油 は、 最 新 のものだと 思 う。<br />

現 時 点 で 食 べるラー 油 を 食 べている 人 は、 流 行 お<br />

くれだと 思 う。<br />

今 から 食 べるラー 油 を 食 べ 始 める 人 は、 流 行 に 乗<br />

れていないと 思 う。<br />

食 べるラー 油 にはまっている 人 は、 流 行 おくれだ<br />

と 思 う。<br />

今 頃 食 べるラー 油 について 自 慢 してくる 人 は、 流<br />

行 に 乗 り 遅 れていると 思 う。<br />

食 べるラー 油 は、 前 に 比 べて 周 りの 人 が 食 べてい<br />

ない。<br />

食 べるラー 油 を 使 った 料 理 は、 前 に 比 べて 飲 食 店<br />

などで 見 なくなった。<br />

食 べるラー 油 は、もうみんなわざわざ 選 んで 食 べ<br />

ていない。<br />

食 べるラー 油 は、 自 分 の 周 りの 人 はもう 利 用 して<br />

いない。<br />

クロンバックの<br />

係 数<br />

.782<br />

.806<br />

.790<br />

.712<br />

妥 当 性 のチェックのため、 確 認 的 因 子 分 析 が 行 われた (n=384)。 2 値 は 643.127 で、<br />

自 由 度 は 171、 有 意 確 率 は.000 であった。 適 合 度 指 標 GFI および 自 由 度 調 整 適 合 度 指 標<br />

AGFI は、 各 々.816 および.774 で、 適 合 度 はやや 低 かった。 平 均 二 乗 誤 差 平 方 根 RMSEA<br />

は.085 となり、やや 適 合 度 は 低 いものの、このデータがモデルに 適 合 していると 判 断 し<br />

た。<br />

続 いて、 構 造 方 程 式 を 共 分 散 構 造 分 析 によって 推 定 した (n=384)。まず、このモデル<br />

の 全 体 的 評 価 を 行 う。 2 値 は 668.831 で、 自 由 度 は 172、 有 意 確 率 は.000 であった。 適<br />

合 度 指 標 GFI および 自 由 度 調 整 適 合 度 指 標 AGFI は、 各 々.812 および.770 で、 残 念 なが<br />

ら 適 合 度 はやや 低 かった。 平 均 二 乗 誤 差 平 方 根 RMSEA は.087 であり、やや 適 合 度 は 低<br />

いものの、このデータがモデルに 適 合 していると 判 断 した。<br />

次 に、モデルの 部 分 的 評 価 を 行 う。まず、 流 行 に 敏 感 (n=173) のモデルの 場 合 、「 知<br />

覚 新 奇 性 」は、「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 負 の 影 響 を 与 えていた (= -.192, t= -2.526, p


前 田 芽 美<br />

持 する 結 果 である。 次 に、「 周 囲 の 不 採 用 度 」は、「 知 覚 流 行 終 息 度 」に 正 の 影 響 を 与<br />

えていた (=.623, t=6.484, p


なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

表 5 パラメーター 間 の 差 の 評 価<br />

パス 係 数<br />

推 定 値<br />

知 覚 新 奇 性 → 知 覚 流 行 終 息 度 -.250<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 への 普 及 感 → 知 覚 流 行 終 息 度 -2.596*<br />

周 囲 の 不 採 用 度 → 知 覚 流 行 終 息 度 2.687*<br />

* : 5% 水 準 で 有 意<br />

図 2 モデルの 分 析 結 果<br />

【 流 行 に 敏 感 】<br />

知 覚 新 奇 性<br />

-.192*<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 へ<br />

の 普 及 感<br />

.490**<br />

.623**<br />

知 覚<br />

流 行 終 息 度<br />

周 囲 の 不 採 用 度<br />

【 流 行 に 鈍 感 】<br />

知 覚 新 奇 性<br />

-.190*<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 へ<br />

の 普 及 感<br />

.175*<br />

.825**<br />

知 覚<br />

流 行 終 息 度<br />

周 囲 の 不 採 用 度<br />

* : 5% 水 準 で 有 意 、** : 1% 水 準 で 有 意<br />

2 =668.831 (d.f.=172), p


前 田 芽 美<br />

りの 知 覚 に 強 い 影 響 を 与 えている。 両 グループともこの 影 響 が 強 かったことから、この<br />

ことは 集 団 への 同 調 行 動 をとる 傾 向 、つまり 集 団 主 義 的 傾 向 をもつという 日 本 人 の 特 性<br />

8 が 関 係 している 結 果 となったとも 考 えられる。<br />

また、 知 覚 新 奇 性 が 知 覚 流 行 終 息 度 に 与 える 負 の 影 響 は、 予 想 よりも 推 定 値 が 低 く、<br />

さらにグループ 間 で 有 意 な 差 が 出 なかった。これは、 消 費 者 が 流 行 の 終 わりを 知 覚 する<br />

際 に、その 製 品 の 新 しさや 物 珍 しさはほとんど 判 断 材 料 にならないことを 示 す 結 果 とな<br />

った。<br />

6. 本 論 の 知 見 と 今 後 の 課 題<br />

終 わらない 流 行 はない。 流 行 は、それが 発 生 すると 同 時 に 消 滅 あるいは 普 及 に 向 かっ<br />

て 進 んでいく。 運 よく 普 及 に 向 かってくれれば 良 いが、それは 非 常 に 稀 なことであり、<br />

流 行 のほとんどはいずれ 廃 れて 消 滅 してしまうだろう。しかし、 消 滅 は 喰 い 止 められな<br />

いかもしれないが、 消 費 者 がどのように 流 行 の 終 わりを 知 覚 するのかが 判 明 すれば、 流<br />

行 を 長 引 かせることはできるかもしれない。<br />

例 えば、 流 行 に 敏 感 な 人 は、 自 分 より 流 行 に 鈍 感 な 人 が 製 品 を 使 用 していると 知 覚 す<br />

ると、 流 行 が 終 わったと 知 覚 してしまう。そこで、 製 品 のターゲットをイノベーターの<br />

みに 絞 り、 他 のセグメントにとっては 魅 力 的 ではないようなニッチ 製 品 を 提 供 すれば、<br />

流 行 に 鈍 感 な 人 はその 製 品 を 購 買 しないであろう。さらに、イノベーターは 新 製 品 に 対<br />

しての 価 格 弾 力 性 が 小 さいため、 価 格 設 定 を 高 めにすることで、 高 利 益 を 獲 得 すること<br />

も 可 能 である。これは 新 製 品 を 相 対 的 に 高 価 格 で 販 売 して、 高 いマージンを 得 るという<br />

スキミング 戦 略 の 新 たなバリエーションになるであろう。ただし、この 戦 略 を 実 行 する<br />

にあたっては、 流 行 に 鈍 感 な 人 を 意 図 的 にできる 限 りシャットアウトしなければならな<br />

い。なぜなら、 流 行 に 鈍 感 な 人 に 使 用 されてしまうと、イノベーターは 流 行 の 終 わりを<br />

知 覚 してしまう 危 険 性 があるからである。このニッチ 戦 略 を 採 用 すれば、 流 行 を 長 引 か<br />

せることも 可 能 だと 考 えられるだろう。<br />

本 論 では、 独 自 の 因 果 モデルを 作 成 し、 消 費 者 が 流 行 の 終 わりを 知 覚 する 要 因 の 検 討<br />

を 試 みた。その 結 果 、 流 行 に 敏 感 であっても 鈍 感 であっても、 周 囲 の 人 間 が 流 行 してい<br />

る 製 品 を 使 っているかどうかの 知 覚 は、 消 費 者 が 流 行 の 終 わりを 知 覚 する 大 きな 要 素 で<br />

あることが 実 証 された。また、 両 グループともに、 製 品 の 新 奇 性 は、 流 行 の 終 わりの 知<br />

覚 にあまり 影 響 を 与 えていなかった。このことから、 流 行 を 長 引 かせるためには、 製 品<br />

の 新 奇 性 、つまり 物 珍 しさや 目 新 しさを 消 費 者 に 知 覚 させることを 追 求 するよりも、1<br />

人 1 人 の 消 費 者 にその 製 品 をいかに 長 く 使 用 させるかが 鍵 となるといえるだろう。<br />

また、 流 行 に 敏 感 な 人 の 方 が、 流 行 に 鈍 感 な 人 よりも、 自 分 より 流 行 に 鈍 感 な 人 が 使<br />

用 しているという 知 覚 が 流 行 の 終 わりの 知 覚 に 与 える 影 響 が 大 きかった。この 結 果 につ<br />

いて、 流 行 に 敏 感 な 人 を 上 位 グループ、 流 行 に 鈍 感 な 人 を 下 位 グループと 当 てはめると、<br />

8<br />

三 浦 (2008) 参 照 。<br />

12


なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

Simmel の 提 唱 したトリクルダウン・セオリーが、 現 代 においても 有 用 性 があることを、<br />

実 証 的 に 証 明 することができた。<br />

本 論 には、 以 下 のような 限 界 が 存 在 する。 第 1 に、 調 査 設 計 についてである。 本 論 で<br />

は、 測 定 尺 度 についてすべて 独 自 に 開 発 した。 信 頼 性 分 析 などにより、 一 定 の 基 準 は 満<br />

たしてはいるが、 独 自 の 尺 度 であるため、 更 にプリテストなどを 重 ね 質 問 項 目 の 精 緻 化<br />

の 必 要 性 があると 考 えられる。また、 消 費 者 分 類 についてもサンプル 収 集 の 限 界 があり、<br />

「 流 行 に 敏 感 な 人 / 流 行 に 鈍 感 な 人 」の 2 分 類 しかできなかったことは 悔 やまれる。こ<br />

れについては、より 細 分 化 する 余 地 が 残 されている。<br />

第 2 に、 消 費 者 が 流 行 の 終 わりを 知 覚 する 他 の 要 因 についてである。 本 論 では、3 つ<br />

の 要 因 を 挙 げた。しかし 現 代 社 会 では、メディアという 社 会 的 に 大 きな 影 響 を 与 えると<br />

考 えられる 媒 体 が 発 達 しており、この 要 因 も 考 慮 し 組 み 込 んでいくことは、 今 後 の 研 究<br />

においての 課 題 となる。<br />

しかし、 以 上 の 限 界 を 考 慮 しても、 本 論 が 流 行 の 終 わりのみに 焦 点 を 当 て、 消 費 者 が<br />

流 行 の 終 わりを 知 覚 する 要 因 の 解 明 を 試 みた 数 少 ない 研 究 であるという 点 で、 意 義 のあ<br />

るものと 主 張 できる。<br />

( 記 ) 本 論 の 執 筆 にあたり、 中 央 大 学 商 学 部 久 保 知 一 先 生 、 慶 應 義 塾 大 学 大 学 院 商 学<br />

研 究 科 修 士 課 程 白 石 秀 壽 氏 には、ご 指 導 を 頂 いたことに 厚 く 御 礼 を 申 し 上 げたい。<br />

また、 多 くのご 助 言 を 下 さった 久 保 知 一 研 究 室 の 皆 様 にも、 感 謝 の 意 を 表 する。<br />

参 考 文 献<br />

Aguirre, Benigno E., Enrico L. Quarantelli, & Jorge L. Mendoza (1988), “The Collective<br />

Behavior of Fads: The Characteristics, Effects, and Career of Streaking,” American<br />

Sociological Review, 53(4), pp.569-584.<br />

Blumer, Herbert. (1969), “Fashion: From Class Differentiation to Collective Selection,”<br />

Sociological Quarterly, 10(3), pp.275-291.<br />

Joel, Best (2006), FLAVOR OF THE MONTH Why smart people fall for fads, University of<br />

California Press, 林 大 (2009) 訳 、『なぜ 賢 い 人 も 流 行 にはまるのか』、 白 揚 社 。<br />

加 藤 祥 子 (2003)、「 流 行 の 波 及 と 購 買 態 度 への 影 響 - 消 費 者 の 参 加 を 促 す 2 段 階 プロセ<br />

ス-」、『 商 品 研 究 』、52(3・4)、pp.11-20。<br />

川 本 勝 (1981)、『 流 行 の 社 会 心 理 』、 勁 草 書 房 。<br />

King, Charles W. & Lawrence J. Ring (1980), “The Dynamics of Style and Taste Adoption and<br />

Diffusion: Contributions from Fashion Theory,” Advances in Consumer Research, 7,<br />

pp.13-16.<br />

13


前 田 芽 美<br />

McCracken, Grant (1988), Culture and Consumption: New-Approaches to the Symbolic<br />

Character of Consumer Goods and Activities, Bloomington: Indiana University Press, 小<br />

池 和 子 (1990) 訳 、『 文 化 と 消 費 とシンボルと』、 勁 草 書 房 。<br />

松 井 剛 (2004)、「『 癒 し』ブームにおける 企 業 の 模 倣 行 動 : 制 度 化 プロセスとしての<br />

ブーム」、『 流 通 研 究 』、7(1)、pp.1-14。<br />

三 浦 俊 彦 (2010)、「 感 情 型 属 性 志 向 と 集 団 主 義 : 日 本 の 流 行 メカニズム~ 日 中 欧 米 消<br />

費 者 調 査 の 結 果 を 踏 まえて~」、『マーケティングジャーナル』、21(1)、pp.56-68。<br />

水 野 由 多 加 (2000)、「『 流 行 』メカニズムの 今 日 的 解 題 へ 向 けて~ 消 費 者 が 行 う 多 数<br />

派 推 定 の 持 つマーケティング 的 意 味 ~」、『マーケティングジャーナル』、20(3)、<br />

pp.21-32。<br />

中 島 純 一 (1998)、『メディアと 流 行 の 心 理 』、 金 子 書 房 。<br />

日 経 MJ 編 (2010)、『 日 経 ヒット 商 品 番 付 1971-2010』、 日 本 経 済 新 聞 出 版 社 。<br />

小 野 晃 典 (2010)、「ホビー 市 場 における 消 費 者 行 動 と 社 会 的 相 互 作 用 」、『 三 田 商 学<br />

研 究 』、53(4)、pp.11-33。<br />

Rogers, Everett M. (1962), Diffusion of Innovation, New York: The Free Press, 藤 竹 暁 (1966)<br />

訳 、『 技 術 革 新 の 普 及 過 程 』、 培 風 館 。<br />

Simmel, Georg (1904), “Fashion,” International Quarterly, 10, pp.133-155.<br />

鈴 木 裕 久 (1977)、「 流 行 」、 池 内 一 編 、『 講 座 社 会 心 理 学 第 3 巻 集 合 現 象 』、 第 3<br />

章 、 東 京 大 学 出 版 会 。<br />

Tarde, Gabriel de (1890), Les lois de l’imitation: Etude sociologique, Paris: Félix Alcan, 池 田<br />

祥 英 ・ 沢 村 真 保 (2007) 訳 、『 模 倣 の 法 則 』、 河 出 書 房 新 社 。<br />

14


○ごあいさつ<br />

なぜ 消 費 者 は 流 行 が 終 わったと 感 じるのか<br />

- 流 行 消 滅 要 因 についての 実 証 分 析 -<br />

食 べるラー 油 についての 調 査<br />

中 央 大 学 商 学 部 4 年 久 保 知 一 研 究 室<br />

前 田 芽 美<br />

現 在 、 私 は 卒 業 論 文 で 食 べるラー 油 に 関 する 研 究 を 進 めています。このたび、 調 査 にご 協 力 をお<br />

願 いしたく、 以 下 のアンケートを 作 成 いたしました。なお、 回 答 結 果 はコンピュータで 統 計 的 に<br />

処 理 され、プライバシーは 保 護 されます。<br />

また、 学 術 研 究 以 外 の 目 的 で 今 回 のデータが 使 用 されることはなく、 研 究 終 了 後 、 回 収 したアン<br />

ケートは 処 分 いたします。 大 変 お 手 数 ではございますが、 趣 旨 をご 理 解 の 上 、ご 協 力 の 程 、よろ<br />

しくお 願 いいたします。<br />

○ 調 査 概 要<br />

今 回 は、まず 皆 様 の 流 行 への 関 心 について 伺 います。その 後 、 食 べるラー 油 についていくつか<br />

質 問 をさせていただきます。<br />

Ⅰ. 流 行 について<br />

皆 様 の 流 行 への 関 心 についてお 伺 いいたします。 以 下 の 質 問 について、あてはまる 方<br />

に○ 印 をお 付 けください。<br />

0101 新 商 品 が 出 たら、 早 めにチェックするほうだ 1. はい / 2. いいえ<br />

0102 新 商 品 がいつも 気 になる 1. はい / 2. いいえ<br />

0103 新 商 品 が 出 たら、 周 りの 人 より 早 めに 使 ってみるほうだ 1. はい / 2. いいえ<br />

15


前 田 芽 美<br />

Ⅱ. 食 べるラー 油 について<br />

【 食 べるラー 油 とは】<br />

ラー 油 の 中 にニンニクのスライスを 揚 げたフライドガーリックなどがたっぷり 入 っており、ご<br />

飯 などにかけて 食 べられるラー 油 のこと。<br />

2009 年 8 月 に、 桃 屋 が「 辛 そうで 辛 くない 少 し 辛 いラー 油 」 発 売 したのを 皮 切 りに、 各 食 品 メ<br />

ーカーが 次 々と 食 べるラー 油 を 発 売 し、 品 薄 状 態 が 続 いた。<br />

上 の 文 章 を 踏 まえ、」 以 下 の 質 問 について、<br />

あてはまる 番 号 に○ 印 をお 付 けください。<br />

【7-6-5-4-3-2-1】<br />

そう 思 う<br />

そう 思 わな<br />

0201 食 べるラー 油 は、すでに 流 行 が 終 わっている。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0202 食 べるラー 油 は、 流 行 遅 れである。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0203 食 べるラー 油 は、 少 し 前 に 流 行 した 製 品 である。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0204 食 べるラー 油 は、もう 流 行 していない。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0301 食 べるラー 油 は、 新 しくて 珍 しいものだと 思 う。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0302 食 べるラー 油 は、 最 新 のものだと 思 う。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0303 食 べるラー 油 を 食 べることは、 私 にとって 新 鮮 だ。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0401 現 時 点 で 食 べるラー 油 を 食 べている 人 は、 流 行 おくれだと 思 7-6-5-4-3-2-1<br />

う。<br />

0402 今 から 食 べるラー 油 を 食 べ 始 める 人 は、 流 行 に 乗 れていない 7-6-5-4-3-2-1<br />

と 思 う。<br />

0403 食 べるラー 油 にはまっている 人 は、 流 行 おくれだと 思 う。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0404 今 頃 食 べるラー 油 について 自 慢 してくる 人 は、 流 行 に 乗 り 遅 7-6-5-4-3-2-1<br />

れていると 思 う。<br />

0501 食 べるラー 油 は、 前 に 比 べて 周 りの 人 が 食 べていない。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0502 食 べるラー 油 を 使 った 料 理 は、 前 に 比 べて 飲 食 店 などで 見 な 7-6-5-4-3-2-1<br />

くなった。<br />

0503 食 べるラー 油 は、もうみんなわざわざ 選 んで 食 べていない。 7-6-5-4-3-2-1<br />

0504 食 べるラー 油 は、 自 分 の 周 りの 人 はもう 利 用 していない。 7-6-5-4-3-2-1<br />

質 問 は 以 上 です。<br />

ご 協 力 ありがとうございました。<br />

16

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