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San Diego Yu Yu, June 1, 2018

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食 べ 物 とともに 記 憶 に 残 る 作 品 がある。 食 べ<br />

物 を 通 して 描 かれる 人 々の 暮 らしがある。そんな<br />

名 作 の「 味 」を 求 めて、 世 界 各 地 を 訪 ねる。<br />

X X X X X X X X X X X X X X<br />

曲 がりくねった 坂 道 をバスで 上 ると、 山 肌 に 張 り<br />

付 いたような 町 並 みが 見 えてきた。 眼 下 には 青 い<br />

海 が 広 がり、 美 しい 入 り 江 の 島 々が 浮 かぶ。 台 湾 北<br />

部 の 九 份 ( 新 北 市 )。<br />

かつて 金 鉱 で 栄 え、<br />

レトロな 風 情 が 漂 う<br />

人 気 の 観 光 地 で、 台<br />

湾 映 画 の 名 作 「 悲 情<br />

城 市 」の 舞 台 として<br />

も 知 られている。<br />

九 份 のメインスト<br />

リートは、 急 な 斜 面<br />

を 縦 横 に 走 る 細 長 い<br />

小 道 。そ の 両 側 は、<br />

「 悲 情 城 市 」の 看 板 ( 右 上 )が<br />

掲 げられ、 赤 いちょうちんが 下<br />

スイーツや 小 籠 包 な<br />

がる 九 份 のメインストリート。 どを 出 す 食 堂 、 土 産<br />

国 内 外 から 多 くの 観 光 客 が 訪<br />

れている = 台 湾 ・ 新 北 市<br />

物 店 が 連 なり、 観 光<br />

客 でにぎわっていた。<br />

この 町 は 19 世 紀 末 に 金 鉱 が 見 つかり 発 展 したが、<br />

採 掘 量 が 減 るにつれ 衰 退 。 台 湾 屈 指 の 観 光 地 に 変 貌<br />

したのは「 悲 情 城 市 」の 撮 影 がきっかけだった。<br />

この 映 画 は、 日 本 による 植 民 地 支 配 が 終 わっ<br />

た 1945 年 から 4 年 間 の 台 湾 社 会 を、 歴 史 に 翻<br />

弄 される 家 族 の 悲 劇 を 通 して 描 く。89 年 に 公 開<br />

され、 世 界 三 大 映 画 祭 の 一 つベネチア 国 際 映 画<br />

祭 でグランプリに 輝 いた。<br />

スープの 入 った 大 鍋 とお 総 菜 を 囲 む 大 家 族 、 料 理<br />

をつつきながら 密 談 する 男 たち、お 供 えの 菓 子 をつ<br />

まみ 食 いする 兄 弟 …。 映 画 には 物 を 食 べるシーンが<br />

たびたび 登 場 する。「 家 族 や 友 人 が 次 々と 殺 され 行<br />

方 不 明 になる 物 語 ですが、 残 された 者 は 食 べずに<br />

は 生 きていけ な い 。 人 間 の 悲 しさが 際 立 つようで す」<br />

独 り 暮 らしの 高 齢 者 が 集 まって、 毎 週 開 かれている 食 事<br />

会 。お 総 菜 とスープの 鍋 を 囲 んで 和 やかな 雰 囲 気 = 台 湾 ・<br />

新 北 市<br />

未 来 託 す 伝 統 の 食<br />

映 画 「 悲 情 城 市 」のちまき<br />

と、ロケ 地 などを 案 内 してくれた 通 訳 の 林 家 瑋 さん。<br />

印 象 的 なのが、 主 人 公 の 家 に 集 まった 青 年 たちが、<br />

大 陸 からやって 来 た 役 人 らの 横 暴 に 対 する 不 満 や 将<br />

来 の 希 望 を 熱 く 語 りながら、ちまきをほおばる 場 面 だ。<br />

ちまきは 台 湾 で 縁 起 がいいとされ、 幸 運 を 祈 って 口 に<br />

する 伝 統 食 。 理 想 を 追 い 求 めながらも、どうにもなら<br />

ない 現 実 に 巻 き 込 まれ、 悲 しい 運 命 をたどる 若 者 らの、<br />

ささやかな 願 いが 込 められているようだ。<br />

そのちまきを 味 わってみようと、40 年 前 から 家<br />

族 で 手 作 りし、 九 份 などで 行 商 してきた 曽 文 瑞 さ<br />

ん(68)の 調 理 場 を 訪 ねた。よく 煮 込 んだ 豚 ば<br />

ら 肉 や 卵 、しみ 豆 腐 などの 具 を、しょうゆ 味 に 炊<br />

いたご 飯 で 丹 念 に 包 む 作 業 の 最 中 だった。それを<br />

ササの 葉 でくるみ、 蒸 して 仕 上 げるという。<br />

かつては 家 庭 料 理 の 定 番 だったが、「 手 間 が 掛<br />

台 湾 ・ 九 份<br />

ちまきを 手 作 りする 曽 文 瑞 さん( 中 央 奥 )と 家 族 。 台 湾 では 端 午 の 節 句 などに 食 べる。 受 験 生 や 選 挙 の 候 補 者 への 贈 り 物<br />

としても 人 気 という = 台 湾 ・ 新 北 市<br />

ちまきを 手 にする 張 美 如 さん( 中 央 )。エキストラとして<br />

映 画 「 悲 情 城 市 」に 出 演 した 経 験 は「 子 ども 時 代 のいい<br />

思 い 出 」と 言 う = 台 湾 ・ 新 北 市<br />

九 份 の 急 な 階 段 を 上 った 先 に あ る 茶 店 「 阿 妹 ( あまい)<br />

茶 酒 館 」。 食 事 メニューもあり、 日 本 人 観 光 客 も 多 く 訪<br />

れる = 台 湾 ・ 新 北 市<br />

かるので、 今 では 買 って 済 ませる 人 が 多 い」と 曽<br />

さん。 蒸 し 上 がった 一 つを 手 に 取 ると、ほんのり<br />

八 角 の 香 り。もっちりとしたご 飯 と 具 材 の 甘 みが<br />

絶 妙 に 混 ざり 合 って、 口 いっぱいに 広 がった。<br />

曽 さんは「 持 ち 運 びしやすくて 腹 持 ちもいい。よく<br />

鉱 山 の 労 働 者 が 買 ってくれたよ」。 当 時 、 九 份 にあっ<br />

た 賭 博 場 からも 注 文 が 入 ったという。「ちまきなら、 右<br />

手 でばくちを 打 ちながら 左 手 で 食 べられるからね」<br />

男 たちが 賭 け 事 に 興 じるシーンは「 悲 情 城 市 」で<br />

も 描 かれる。そこに 子 役 のエキストラとして 出 演 して<br />

いた、 張 美 如 さん(42)に 会 うことができた。6 人<br />

き ょ う だ い で 、 父 親 は 鉱 山 で 働 い て い た と い う 。「 家<br />

族 みんなで 庭 の 丸 テーブルに 座 って、 夕 食 を 食 べた<br />

のが 楽 しい 思 い 出 」と 当 時 を 振 り 返 る。メニューは<br />

たいてい、お 総 菜 と 大 鍋 に 入 ったスープだった。<br />

まさに「 悲 情 城 市 」に 登 場 するような、 大 家 族<br />

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肩 を 寄 せ 合 うようにして 立 つ 九 份 の 家 々。 坂 の 上 から<br />

見 下 ろす 風 景 は、 映 画 「 悲 情 城 市 」のシーンそのまま<br />

だ = 台 湾 ・ 新 北 市<br />

で 囲 んだ 定 番 の 料 理 。ただ 近 年 では、 台 湾 でも<br />

少 子 高 齢 化 が 進 み、 食 卓 を 囲 むそんな 光 景 は、<br />

日 常 から 遠 ざかりつつある。<br />

九 份 の 近 くにある 住 宅 街 の 集 会 所 に 立 ち 寄 ると、<br />

独 り 暮 らしのお 年 寄 りが 集 まる 食 事 会 が 毎 週 催 され、<br />

お 総 菜 とスープが 振 る 舞 われていた。 林 陳 雪 娥 さん<br />

(84)は「みんなと 食 べるとおいしいから、 欠 かさず<br />

参 加 してるよ」と 話 し、ゆっくり 坂 道 を 下 って 行 った。<br />

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DV D「 悲 情 城 市 」<br />

( 紀 伊 国 屋 書 店 )<br />

「わたしの 歴 史 そのもの」<br />

台 湾 人 の 心 情 描 く<br />

「この 島 の 者 は 哀 れだ。 日 本 人 の 次 は 中 国 人 。<br />

食 われて、 踏 まれて、 捨 てられる」<br />

映 画 「 悲 情 城 市 」( 侯 孝 賢 監 督 )の 主 人 公 の 兄 が、<br />

吐 き 捨 てるように 言 うせりふは、 戦 後 台 湾 人 のや<br />

りきれなさを 端 的 に 表 していた。 半 世 紀 にわたる<br />

日 本 の 植 民 地 時 代 が 終 結 。 人 々は 未 来 に 希 望 を<br />

抱 いたが、 大 陸 から 来 た 国 民 党 政 府 の 抑 圧 により<br />

裏 切 られたからだ。<br />

戦 前 から 九 份 で 暮 らしてきた 許 俊 郁 さん(86)<br />

は「 台 湾 の 人 間 は、 中 国 人 から “ 日 本 統 治 時 代 の<br />

お 荷 物 ” として 扱 われた。あのせりふはわたしの<br />

歴 史 そのもの」と 話 す。 映 画 はドキュメンタリーの<br />

ようだったという。<br />

記 事 & 写 真 提 供 : 共 同 通 信 社<br />

SAN DIEGO YU-YU JUNE 1, <strong>2018</strong> 29

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