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電気学会論文誌D Vol.131 No.2,pp.144-150 (2011) - 長岡技術科学大学

電気学会論文誌D Vol.131 No.2,pp.144-150 (2011) - 長岡技術科学大学

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論 文 誌 テンプレート<br />

Ver.2009.04.06<br />

論 文<br />

瞬 時 空 間 ベクトル 図 を 用 いた<br />

マトリックスコンバータのスイッチングパターンの 可 視 化<br />

学 生 員 春 名 順 之 介<br />

*<br />

正 員 伊 東 淳 一<br />

*<br />

Method for Visualizing Switching Patterns for a Matrix Converter<br />

Using Instantaneous Space Vector Diagrams<br />

Junnosuke Haruna * , Student Member, Jun-ichi Itoh * , Member<br />

This paper discusses the characteristics of a matrix converter determined using instantaneous space vector diagrams. Since 27<br />

switching patterns are available for the matrix converter, 27 types of output voltages and input currents can be obtained. The<br />

instantaneous output voltages and input currents are plotted on an instantaneous output voltage diagram and an input current<br />

diagram, respectively. Then, the switching patterns of the matrix converter are visualized. From the instantaneous space vector<br />

diagrams, the output voltage ripple and input current ripple can be determined on the basis of the vector selected from among 27<br />

instantaneous output voltage / input current vectors. In addition, the instantaneous space vector diagrams can be used to analyze<br />

the switching times.<br />

In this study, six different of control methods for the matrix converter are evaluated by using instantaneous space vector<br />

diagrams and the total harmonic distortion of the output voltage and input current. The results lead to the conclusion that<br />

characteristics of the matrix converter can be effectively evaluated using the instantaneous space vector diagrams.<br />

キーワード:マトリックスコンバータ, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 ,スイッチングパターン<br />

Keywords:matrix converter, instantaneous space vector diagrams, switching pattern<br />

1. はじめに<br />

近 年 , 直 流 リンクを 介 さずに 商 用 電 源 から 任 意 の 振 幅 ,<br />

周 波 数 を 持 つ 交 流 へ 直 接 変 換 できるマトリックスコンバー<br />

タが 注 目 を 浴 び, 盛 んに 研 究 されている (1-10) 。マトリックス<br />

コンバータは 従 来 の PWM 整 流 器 とインバータを 組 み 合 わ<br />

せた Back-to-Back システムと 比 較 すると,エネルギーバッ<br />

ファである 大 形 の 電 解 コンデンサを 使 用 しないこと,1 回 の<br />

電 力 変 換 回 数 で 任 意 の 交 流 電 力 を 出 力 できることなどか<br />

ら, 小 形 , 軽 量 , 高 効 率 , 長 寿 命 化 を 達 成 できる。また,<br />

マトリックスコンバータの 双 方 向 スイッチを 実 現 するため<br />

に 逆 耐 圧 を 持 つ IGBT が 開 発 され, 様 々な 用 途 へのマトリッ<br />

クスコンバータの 適 用 が 考 えられている。<br />

マトリックスコンバータは 出 力 電 圧 と 入 力 電 流 の 同 時 制<br />

御 を 行 うことができ, 出 力 電 圧 の VVVF 動 作 と 同 時 に, 入<br />

力 電 流 の 正 弦 波 化 , 入 力 力 率 の 制 御 ,および, 電 源 回 生 が<br />

可 能 である。これまでに, 入 出 力 波 形 の 制 御 法 として 種 々<br />

の 方 式 が 提 案 されており (1-6,9-10) , 制 御 アルゴリズムの 簡 単<br />

*<br />

長 岡 技 術 科 学 大 学<br />

〒940-2188 新 潟 県 長 岡 市 上 富 岡 町 1603-1<br />

Nagaoka University of Technology<br />

1603-1, Kamitomioka-cho, Nagaoka, Niigata 940-2188, Japan<br />

化 ,スイッチング 回 数 の 低 減 , 出 力 電 圧 特 性 の 向 上 などの<br />

観 点 から 様 々な 制 御 方 式 が 考 案 されている。 各 制 御 方 式 の<br />

性 能 評 価 は, 入 出 力 波 形 のひずみ, 効 率 , 演 算 時 間 などの<br />

観 点 から 個 別 に 行 われており, 制 御 方 式 によって 様 々であ<br />

る。<br />

一 方 , 種 々の 制 御 アルゴリズムに 基 づいて 出 力 されるス<br />

イッチングパターンに 着 目 すると, 各 制 御 方 式 に 応 じた 特<br />

徴 が 存 在 するかどうかは 定 かではない。 単 純 に 各 論 文 の 結<br />

果 同 士 を 比 較 しても, 定 格 電 圧 , 容 量 ,フィルタの 設 計 ,<br />

転 流 方 法 の 相 違 などにより, 同 一 条 件 で 制 御 性 能 を 比 較 す<br />

ることは 困 難 である。 加 えて, 異 なる 制 御 アルゴリズムを<br />

用 いても, 最 終 的 に 出 力 されるスイッチングパターンにど<br />

のような 差 違 が 現 れるかどうかは 不 明 であり, 場 合 によっ<br />

ては 異 なるアプローチでも 結 局 得 られるスイッチングパタ<br />

ーンは 同 一 である 可 能 性 も 考 えられる。<br />

さらに, 出 力 電 圧 や 入 力 電 流 のひずみに 関 する 議 論 は 個<br />

別 に 行 われているが, 出 力 電 圧 の 制 御 と 入 力 電 流 の 制 御 の<br />

どちらかを 優 先 するかでスイッチングパターンは 異 なる。<br />

各 種 スイッチングパターンとマトリックスコンバータの 入<br />

出 力 制 御 性 能 の 関 係 は, 筆 者 らの 知 る 限 り 明 確 な 議 論 がさ<br />

れておらず,これらの 解 析 は,マトリックスコンバータの<br />

© 200● The Institute of Electrical Engineers of Japan. 1


制 御 方 式 を 理 解 する 一 助 となると 共 に, 実 際 にどの 制 御 方<br />

式 を 採 用 するかを 検 討 する 上 で 非 常 に 有 用 であると 考 え<br />

る。<br />

そこで 本 論 文 では, 各 制 御 方 式 の 性 能 を 定 性 的 に 比 較 し,<br />

各 制 御 方 式 の 相 違 点 を 明 確 にすることを 目 的 とし, 瞬 時 空<br />

間 ベクトル 図 を 用 いてマトリックスコンバータのスイッチ<br />

ングパターンを 可 視 化 する。 瞬 時 空 間 ベクトル 図 上 には,<br />

ある 電 源 位 相 , 負 荷 位 相 時 におけるマトリックスコンバー<br />

タの 取 り 得 るすべてのスイッチングパターンが 瞬 時 出 力 電<br />

圧 ベクトル, 瞬 時 入 力 電 流 ベクトルとして 現 れ, 出 力 電 圧<br />

指 令 ベクトルと 入 力 電 流 指 令 ベクトルに 対 して,スイッチ<br />

ングパターンに 応 じた 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル, 瞬 時 入 力 電<br />

流 ベクトルが 選 択 される。さらに, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 上<br />

の 指 令 ベクトルとスイッチングパターンの 位 置 関 係 と 移 動<br />

順 序 を 検 証 することで, 各 制 御 方 式 の 入 出 力 特 性 やスイッ<br />

チング 回 数 が 解 析 できる。 従 って, 選 択 された 瞬 時 出 力 電<br />

圧 ベクトル, 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル,および, 出 力 順 番 を<br />

比 較 することで, 各 制 御 方 式 の 相 違 点 が 明 確 化 できる。 例<br />

えば, 制 御 方 式 が 異 なっても 全 く 同 じベクトルが 選 択 され,<br />

かつ 出 力 順 番 も 同 じ 場 合 , 両 者 の 制 御 特 性 は 全 く 同 一 と 判<br />

断 できる。<br />

本 稿 では, 参 考 文 献 (1)から(6)までの 制 御 方 式 に 対 して 瞬<br />

時 空 間 ベクトル 図 を 用 いたスイッチングパターンの 検 証 を<br />

行 う。 同 時 に, 各 制 御 方 式 における 出 力 電 圧 , 入 力 電 流 の<br />

ひずみ 率 を 比 較 することで, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 の 比 較 に<br />

よる 定 性 的 な 検 討 と,ひずみ 率 の 比 較 による 定 量 的 な 評 価<br />

の 関 係 を 示 し, 相 関 を 示 す。 以 上 より, 各 制 御 方 式 の 特 徴<br />

について 検 討 するとともに, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 の 評 価 が<br />

妥 当 であることを 確 認 する。<br />

2. 瞬 時 空 間 ベクトル 図 によるスイッチングパタ<br />

ーンの 可 視 化<br />

図 1 にマトリックスコンバータの 回 路 構 成 を 示 す。マト<br />

リックスコンバータは LC フィルタと 9 つの 双 方 向 スイッチ<br />

によって 構 成 される。 本 稿 では, 系 統 電 源 と LC フィルタが<br />

接 続 される 方 を 入 力 側 とする。 双 方 向 スイッチは 逆 耐 圧 を<br />

有 する 逆 阻 止 IGBT を 逆 並 列 接 続 した 構 成 となっており, 出<br />

力 1 相 に 対 して 入 力 3 相 が 双 方 向 スイッチによって 接 続 さ<br />

れる。 以 上 の 構 成 により,マトリックスコンバータの 出 力<br />

電 圧 は 入 力 電 圧 の PWM 制 御 により 所 望 の 振 幅 , 周 波 数 の 電<br />

圧 に 制 御 され, 同 時 に, 入 力 電 流 は 出 力 電 流 の PWM 制 御 と<br />

LC フィルタにより 正 弦 波 に 制 御 される。<br />

マトリックスコンバータの 入 力 m(r,s,t) 相 , 出 力 n(u,v,<br />

w) 相 の 間 に 接 続 されている 双 方 向 スイッチを S mn とし,その<br />

スイッチング 関 数 を s mn とすると, 出 力 相 電 圧<br />

t [v u v v v w ], 入<br />

力 電 流<br />

t [i r i s i t ]は, 入 力 相 電 圧<br />

t [v r v s v t ], 出 力 電 流<br />

t [i u i v i w ]を<br />

用 いてそれぞれ,(1),(2) 式 で 表 現 できる。ただし, t は 転 置<br />

記 号 ,スイッチング 関 数 s mn =1 で 双 方 向 スイッチ S mn がオン,<br />

s mn =0 で S mn がオフとする。<br />

Input filter<br />

r<br />

s<br />

t<br />

S ru<br />

S su<br />

S tu<br />

S rv<br />

S sv<br />

S tv<br />

S rw<br />

S sw<br />

S tw<br />

Matrix converter<br />

Fig. 1. Matrix converter.<br />

V out<br />

*<br />

u<br />

v<br />

w<br />

=<br />

Bi-directional<br />

switch<br />

I in<br />

*<br />

(a) Output voltage.<br />

(b) Input current.<br />

Fig. 2. Instantaneous space vector diagrams of the matrix<br />

converter.<br />

⎡vu<br />

⎤ ⎡s<br />

⎢ ⎥ ⎢<br />

⎢<br />

vv<br />

⎥<br />

=<br />

⎢<br />

s<br />

⎢<br />

⎣v<br />

⎥<br />

⎦<br />

⎢<br />

w ⎣s<br />

⎡ir<br />

⎤ ⎡s<br />

⎢ ⎥ ⎢<br />

⎢<br />

is<br />

⎥<br />

=<br />

⎢<br />

s<br />

⎢<br />

⎣i<br />

⎥<br />

⎦<br />

⎢<br />

t ⎣s<br />

t<br />

ru<br />

rv<br />

rw<br />

ru<br />

rv<br />

rw<br />

s<br />

s<br />

s<br />

s<br />

s<br />

s<br />

su<br />

sv<br />

sw<br />

su<br />

sv<br />

sw<br />

stu<br />

⎤⎡vr<br />

⎤<br />

⎥⎢<br />

⎥<br />

stv<br />

⎥⎢<br />

vs<br />

⎥ ............................................(1)<br />

s ⎥<br />

⎦<br />

⎢<br />

⎣<br />

⎥<br />

tw<br />

vt<br />

⎦<br />

stu<br />

⎤⎡iu<br />

⎤<br />

⎥⎢<br />

⎥<br />

stv<br />

⎥⎢<br />

iv<br />

⎥<br />

..............................................(2)<br />

s ⎥<br />

⎦<br />

⎢<br />

⎣<br />

⎥<br />

tw<br />

iw⎦<br />

(1)より, 出 力 線 間 電 圧<br />

t [v uv v vw v wu ]は(3) 式 となる。<br />

⎡v<br />

⎢<br />

⎢<br />

v<br />

⎢<br />

⎣v<br />

uv<br />

vw<br />

wu<br />

⎤ ⎡s<br />

⎥ ⎢<br />

⎥<br />

=<br />

⎢<br />

s<br />

⎥<br />

⎦<br />

⎢<br />

⎣s<br />

ru<br />

rv<br />

rw<br />

− s<br />

− s<br />

− s<br />

rv<br />

rw<br />

ru<br />

s<br />

s<br />

s<br />

su<br />

sv<br />

sw<br />

− s<br />

− s<br />

− s<br />

sv<br />

sw<br />

su<br />

stu<br />

− stv<br />

⎤⎡vr<br />

⎤<br />

⎥⎢<br />

⎥<br />

stv<br />

− stw<br />

⎥⎢<br />

vs<br />

⎥ ....................(3)<br />

s − ⎥<br />

⎦<br />

⎢<br />

⎣<br />

⎥<br />

tw<br />

stu<br />

vt<br />

⎦<br />

マトリックスコンバータは 9 つの 双 方 向 スイッチを 持 つ<br />

ため,オンとオフの 2 つの 状 態 を 考 慮 するとそのスイッチ<br />

ングパターンは 全 部 で 2 9 =512 通 り 存 在 する。しかし, 電 源<br />

の 短 絡 をしてはならないこと,および, 負 荷 電 流 が 連 続 で<br />

あることの 2 つ 制 約 条 件 より, 出 力 1 相 に 対 して, 入 力 側<br />

のどれか 1 相 に 接 続 する 双 方 向 スイッチが 必 ずオンする 動<br />

作 となる。この 結 果 ,スイッチングパターンは 512 通 りか<br />

ら 3 3 =27 通 りに 制 限 される。<br />

(2),(3) 式 に 入 力 相 電 圧 , 出 力 電 流 を 入 力 し,さらに 27<br />

通 りのスイッチングパターンに 対 応 したスイッチング 関 数<br />

を 入 力 することで,ある 電 源 位 相 , 負 荷 位 相 におけるマト<br />

リックスコンバータの 取 り 得 る 27 つの 瞬 時 出 力 電 圧 , 瞬 時<br />

入 力 電 流 が 計 算 できる。これらを 三 相 - 静 止 座 標 変 換 するこ<br />

とで, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 が 表 現 できる。(4) 式 に,a 相 が 0°<br />

2 IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●


表 題 を 簡 略 化 した 題<br />

の 時 をα 軸 とした 静 止 座 標 上 における 三 相 - 二 相 変 換 式 を 示<br />

す。<br />

⎡<br />

⎢ 1<br />

⎡α<br />

⎤ 2<br />

⎢ ⎥ = ⎢<br />

⎣β<br />

⎦ 3 ⎢0<br />

⎢⎣<br />

1<br />

−<br />

2<br />

3<br />

2<br />

1 ⎤<br />

− ⎡a⎤<br />

2<br />

⎥⎢<br />

⎥<br />

⎥⎢<br />

b<br />

⎥ .......................................(4)<br />

3<br />

− ⎥⎢<br />

⎣<br />

⎥<br />

⎥<br />

c<br />

2 ⎦ ⎦<br />

ここでは 電 圧 , 電 流 の 値 を 一 定 とするために 相 対 変 換 を 採<br />

用 している。(4) 式 の a,b,c に 三 相 出 力 電 圧 または 入 力 電<br />

流 を 代 入 して 静 止 座 標 変 換 することで,αβ 座 標 上 に 瞬 時 空<br />

間 ベクトル 図 が 表 現 できる。<br />

図 2 に 瞬 時 空 間 ベクトル 図 を 示 す。 図 2(a)は 瞬 時 出 力 電 圧<br />

ベクトル 図 ,(b)は 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル 図 である。 本 稿 で<br />

は, 図 中 の 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトルと 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル<br />

の 先 端 を●または○で 表 すこととする。 瞬 時 空 間 ベクトル<br />

図 は,27 種 類 の 瞬 時 ベクトル(●), 指 令 ベクトル(→), 選 択<br />

ベクトル(○)から 構 成 される。ただし, 瞬 時 出 力 電 圧 ベクト<br />

ル 図 は 入 力 r 相 電 圧 をα 軸 の 基 準 とし, 瞬 時 入 力 電 流 ベクト<br />

ル 図 は 出 力 u 相 の 電 流 をα 軸 の 基 準 とした。 瞬 時 ベクトルは,<br />

六 角 形 の 頂 点 からゼロ 点 を 通 り,もう 一 方 の 頂 点 を 結 ぶ 同<br />

一 直 線 上 を 移 動 する 単 振 動 ベクトル(18 通 り),ベクトル 図 中<br />

を 正 転 あるいは 逆 転 する 回 転 ベクトル(6 通 り),ゼロベクト<br />

ル(3 通 り)の 3 種 類 に 分 類 される。 選 択 ベクトルの 位 置 は 電<br />

源 位 相 , 負 荷 位 相 に 応 じて 時 々 刻 々と 変 化 する。 選 択 ベク<br />

トルは 指 令 ベクトルに 対 して, 瞬 時 ベクトル 中 より 選 択 さ<br />

れたベクトルを 意 味 している。<br />

各 制 御 方 式 によって 生 成 されるスイッチングパターン<br />

は, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 上 の 選 択 ベクトルで 表 されるため,<br />

スイッチングパターンが 可 視 化 されたといえる。 従 って,<br />

同 じ 条 件 の 下 で 各 制 御 方 式 から 生 成 されたスイッチングパ<br />

ターンを 比 較 するには, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 上 の 選 択 ベク<br />

トルの 位 置 を 確 認 すればよい。<br />

3. 瞬 時 空 間 ベクトル 図 による 解 析 手 順<br />

瞬 時 空 間 ベクトル 図 を 用 いることで,マトリックスコン<br />

バータの 各 制 御 方 式 を 可 視 化 するだけでなく, 各 制 御 方 式<br />

の 特 徴 や 性 能 も 評 価 可 能 となる。 以 下 にその 評 価 方 法 を 示<br />

す。<br />

〈3・1〉 入 出 力 制 御 の 可 否 判 定<br />

マトリックスコンバータの 各 制 御 方 式 は 出 力 電 圧 指 令 ,<br />

入 力 電 流 指 令 通 りに 制 御 するために, 種 々の 制 御 アルゴリ<br />

ズムに 基 づいて 所 望 の 出 力 電 圧 , 入 力 電 流 が 得 られるスイ<br />

ッチングパターンを 生 成 する。 瞬 時 空 間 ベクトル 図 上 にお<br />

いては, 選 択 ベクトルはそのオン 時 間 との 積 によってベク<br />

トル 長 が 調 整 され,さらに 選 択 ベクトル 同 士 を 加 算 するこ<br />

とで 指 令 ベクトルが 表 現 される。 従 って, 選 択 ベクトル 同<br />

士 のベクトル 加 算 を 行 っても 指 令 ベクトルを 表 現 できない<br />

場 合 は 制 御 が 不 可 能 となる。これらの 条 件 は 瞬 時 空 間 ベク<br />

トル 図 上 において, 選 択 ベクトル 同 士 を 結 んだ 多 角 形 内 に<br />

指 令 ベクトルが 入 っている 場 合 に 相 当 する。 一 方 , 選 択 ベ<br />

クトルによる 多 角 形 内 に 指 令 ベクトルがない 場 合 は 制 御 不<br />

V out<br />

*<br />

I in<br />

*<br />

(a) Output voltage.<br />

(b) Input current (out of control).<br />

Fig. 3. Instantaneous space vector diagrams of the matrix<br />

converter (out of control).<br />

V out<br />

*<br />

V out<br />

*<br />

(a) Small ripple.<br />

(b) Large ripple.<br />

Fig. 4. Relationship among reference vectors, selected vectors<br />

and Instantaneous ripple.<br />

可 能 であり 波 形 がひずむ。 以 上 の 判 定 を 瞬 時 出 力 電 圧 ベク<br />

トル 図 , 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル 図 の 両 方 で 行 うことで, 入<br />

出 力 制 御 の 可 否 判 定 ができる。 例 えば, 図 2 の 状 態 におい<br />

て, 各 指 令 ベクトルは 各 選 択 ベクトルに 囲 まれており, 入<br />

出 力 の 制 御 が 可 能 であることがわかる。<br />

図 3 に 制 御 が 不 可 能 な 場 合 の 瞬 時 空 間 ベクトル 図 を 示 す。<br />

図 3(a)の 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル 図 を 見 ると, 選 択 ベクトル<br />

(○)からなる 多 角 形 の 中 に 出 力 電 圧 指 令 ベクトル(→)が 入 っ<br />

ているため 出 力 電 圧 の 制 御 は 可 能 であるが,(b)の 瞬 時 入 力<br />

電 流 ベクトル 図 では, 選 択 ベクトル(○)からなる 多 角 形 内 に<br />

入 力 電 流 指 令 ベクトル(→)がないため, 入 力 電 流 制 御 ができ<br />

ず 波 形 が 大 きくひずむ。<br />

〈3・2〉 出 力 電 圧 , 入 力 電 流 のリプル 判 定<br />

マトリックスコンバータの 出 力 電 圧 , 入 力 電 流 は PWM 制<br />

御 により 合 成 されるため, 瞬 時 的 なリプルが 発 生 する。こ<br />

れは 前 節 で 述 べたとおり, 指 令 ベクトルを 表 現 するために<br />

選 択 ベクトルを 時 々 刻 々と 切 り 替 えているからである。こ<br />

こで, 選 択 ベクトルの 移 動 に 伴 う 状 態 変 化 量 に 着 目 すると,<br />

選 択 ベクトルと 指 令 ベクトルが 離 れている 場 合 は 瞬 時 的 な<br />

変 化 量 が 大 きいため,リプルが 大 きくなる。リプルは 出 力<br />

電 圧 , 入 力 電 流 の 高 調 波 に 等 しいため, 入 出 力 制 御 の 精 度<br />

向 上 のためには, 指 令 ベクトルにより 近 いベクトルを 選 択<br />

する 必 要 がある。 選 択 ベクトルの 多 くは 単 振 動 ベクトルか<br />

ら 選 択 されるため,60°ごとに 6 個 ある 単 振 動 ベクトルか<br />

電 学 論 ●,●● 巻 ● 号 ,●●● 年 3


らなるセクタの 一 つに, 指 令 ベクトルが 配 置 されていると<br />

リプルが 小 さくなる。<br />

図 4 に 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル 図 における, 選 択 ベクトル<br />

と 指 令 ベクトルの 位 置 とリプルの 関 係 を 示 す。(a)では 指 令<br />

ベクトル(→)に 対 して 一 つのセクタの 中 からベクトルが 選<br />

択 されている。さらに, 選 択 ベクトルのベクトル 長 が 指 令<br />

ベクトル(→)に 近 いベクトルが 選 択 されている。 一 方 ,(b)<br />

では 指 令 ベクトル(→)に 対 して 2 つのセクタから 選 択 ベクト<br />

ルが 使 用 されている。(a)と(b)の 指 令 ベクトルに 対 する 選 択<br />

ベクトル 同 士 の 移 動 距 離 について 考 えると,(b)の 方 が 移 動<br />

距 離 は 明 らかに 大 きい。 従 って,(a)の 方 がリプルは 小 さく,<br />

出 力 電 圧 特 性 がよいといえる。<br />

〈3・3〉 出 力 電 圧 ベクトルと 入 力 電 流 ベクトルの 関 係<br />

図 5 に 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル 図 と 入 力 電 流 ベクトル 図 の<br />

関 係 を 示 す。ただし, 図 5 は 瞬 時 空 間 ベクトル 図 の 一 部 を<br />

抜 き 出 した 図 である。 図 中 の 瞬 時 ベクトル(●)に 付 随 するア<br />

ルファベットは 各 出 力 相 にどの 入 力 相 が 接 続 されるかを 示<br />

している。 例 えば,RRS というベクトルであれば, 出 力 u<br />

相 と v 相 に 入 力 r 相 が, 出 力 w 相 には 入 力 s 相 が 接 続 された<br />

状 態 を 表 す。 図 5 では, 入 出 力 制 御 が 可 能 であり,かつ,<br />

出 力 電 圧 性 能 を 向 上 するために, 出 力 電 圧 指 令 ベクトルに<br />

対 して 近 傍 の 瞬 時 ベクトルが 選 択 されているものとする。<br />

図 5(a)の 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル 図 と(b)の 瞬 時 入 力 電 流 ベク<br />

トル 図 を 比 較 すると,(a)の 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル 図 ではリ<br />

プルを 最 小 限 とするベクトルが 選 択 されているが,(b)の 瞬<br />

時 入 力 電 流 ベクトル 図 では 指 令 ベクトルに 対 して 大 きく 離<br />

れたベクトルが 選 択 されている。 従 って, 出 力 電 圧 のリプ<br />

ルは 小 さくなるが, 一 方 で, 入 力 電 流 のリプルは 大 きくな<br />

る。<br />

〈3・4〉 選 択 ベクトルの 移 動 とスイッチング 損 失<br />

指 令 ベクトルを 表 現 する 上 では 瞬 時 ベクトルの 選 択 と 移<br />

動 は 基 本 的 に 自 由 であるが,マトリックスコンバータのス<br />

イッチング 損 失 を 低 減 する 観 点 から, 選 択 ベクトル 同 士 の<br />

移 動 にはなるべくスイッチング 回 数 の 少 ない 経 路 を 選 択 す<br />

ることが 望 ましい。そこで, 各 選 択 ベクトルの 接 続 状 態 に<br />

着 目 し, 選 択 ベクトル 同 士 の 移 動 順 序 とスイッチングの 変<br />

化 を 観 測 し, 各 制 御 法 の 特 徴 とスイッチング 回 数 を 評 価 す<br />

る。<br />

図 6 に 選 択 ベクトル 同 士 の 選 択 順 序 とスイッチング 回 数<br />

の 関 係 の 一 例 を 示 す。●は 瞬 時 ベクトルを 表 し, 瞬 時 ベク<br />

トルに 付 随 するアルファベットは 各 ベクトルのスイッチン<br />

グ 状 態 を 表 す。また, 瞬 時 ベクトル 同 士 を 結 ぶ 矢 印 は 各 ベ<br />

クトル 間 の 移 動 経 路 を 表 し, 矢 印 に 付 随 する 数 字 は 移 動 に<br />

伴 うスイッチング 回 数 を 表 す。 例 えば,STT のベクトルか<br />

ら RSS のベクトルへ 移 動 する 場 合 はすべての 相 のスイッチ<br />

が 切 り 替 わるため,スイッチング 回 数 は 3 回 となる。スイ<br />

ッチング 回 数 が 1 回 で 移 動 できる 経 路 は, 図 6 中 の 1 の 経<br />

路 とゼロベクトルからの 移 動 のみである。ただし,ゼロベ<br />

クトルから 各 ベクトルへ 移 動 する 場 合 は,3 種 類 のうちどの<br />

ゼロベクトルから 移 動 するかによって,スイッチング 回 数<br />

(a) Output voltage diagram. (b) Input current diagram.<br />

Fig. 5. Relationship between output voltage and input current.<br />

Fig. 6. Number of switching times between each space<br />

vectors.<br />

Table 1. Simulation conditions.<br />

が 変 化 する。 以 上 より, 選 択 ベクトル 同 士 の 移 動 に 伴 うス<br />

イッチング 回 数 を 計 算 することで, 各 制 御 方 式 のスイッチ<br />

ング 回 数 が 評 価 できる。<br />

4. 評 価 結 果<br />

本 章 では, 参 考 文 献 (1)から(6)までの 制 御 方 式 を 用 いてマ<br />

トリックスコンバータのシミュレーションを 行 い, 瞬 時 空<br />

間 ベクトル 図 を 用 いて 制 御 特 性 を 評 価 する。ただし,マト<br />

リックスコンバータの 入 力 フィルタは, 容 量 や 用 途 , 減 衰<br />

係 数 の 設 定 によって 動 作 が 大 きく 異 なる。その 他 にも, 電<br />

源 インピーダンスや 転 流 方 式 など 様 々な 影 響 によって 波 形<br />

ひずみは 発 生 する。そこで, 本 稿 では 制 御 方 式 の 違 いのみ<br />

に 起 因 するひずみの 違 いを 評 価 するために,マトリックス<br />

コンバータの LC フィルタを 外 し, 転 流 方 式 を 理 想 転 流 とし<br />

た 理 想 状 態 でシミュレーションを 行 う。これにより, 入 力<br />

フィルタや 電 源 インピーダンス, 転 流 方 式 がシミュレーシ<br />

4 IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●


表 題 を 簡 略 化 した 題<br />

(a) Virtual AC/DC/AC method with variable carrier (1) .<br />

(b) Virtual AC/DC/AC method with pulse sorting (2) .<br />

I in<br />

*<br />

I in<br />

*<br />

V out<br />

*<br />

V out<br />

*<br />

Switching times: 10<br />

(c) Virtual AC/DC/AC method with PAM (3) .<br />

Switching times: 8<br />

(d) AC direct modulation method (4) .<br />

I in<br />

*<br />

I in<br />

*<br />

V out<br />

*<br />

V out<br />

*<br />

Switching times: 6<br />

(e) Space vector modulation method (5) .<br />

Switching times: 6<br />

(f) Modulation method based on switching time reduction (6) .<br />

Fig. 7. Analysis results obtained using space vector diagrams.<br />

ョン 結 果 に 影 響 しない。 表 1 にその 他 のシミュレーション は 入 力 線 間 電 圧 の 振 幅 で, 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル 図 は 出 力<br />

条 件 を 示 す。 表 1 では 一 例 として, 変 調 率 ( 入 力 電 圧 と 出 力 電 流 の 振 幅 で 規 格 化 している。それぞれのベクトル 図 にお<br />

電 圧 の 比 )を 0.75 に 設 定 している。これは, 変 調 率 が 高 い 領 いて, 瞬 時 ベクトルを●で, 選 択 ベクトルを○で 表 す。ま<br />

域 では,マトリックスコンバータの 各 制 御 方 式 によって, た,Switching times は PWM1 周 期 におけるスイッチング 回<br />

回 転 ベクトルや 最 大 のベクトル 長 となる 単 振 動 ベクトルを 数 の 積 算 値 を 示 す。 図 7(a)から(f)はそれぞれ 参 考 文 献 の(1)<br />

積 極 的 に 利 用 するなど, 各 制 御 方 式 の 入 出 力 特 性 が 顕 著 に から(6)で 提 案 されている 制 御 方 式 である。それぞれの 特 徴<br />

表 れるためである。 同 時 に, 出 力 電 圧 と 入 力 電 流 の PWM 波 を 簡 単 にまとめると,(a)は 変 形 キャリアを 用 いた 仮 想<br />

形 より 周 波 数 解 析 を 行 い,ひずみ 率 を 測 定 する。 以 上 より, AC/DC/AC 変 換 方 式 (1) ,(b)はスイッチング 損 失 の 低 減 のため<br />

瞬 時 空 間 ベクトル 図 による 定 性 的 な 評 価 と, 出 力 電 圧 , 入 に, 最 大 , 中 間 , 最 小 相 に 接 続 する 順 序 を 並 べ 替 える 仮 想<br />

力 電 流 のひずみ 率 による 定 量 的 な 評 価 を 検 証 することで, AC/DC/AC 変 換 方 式 (2) ,(c)は 仮 想 整 流 器 側 で 出 力 電 圧 の 振 幅<br />

本 論 文 の 有 用 性 を 検 討 する。<br />

を 制 御 し, 仮 想 インバータ 側 で 周 波 数 を 制 御 する 仮 想<br />

〈4・1〉 瞬 時 空 間 ベクトルによる 解 析 結 果<br />

AC/DC/AC 変 換 方 式 (3) ,(d)は 入 力 電 流 の 分 配 率 に 基 づいて 制<br />

御 する 直 接 AC/AC 変 換 方 式 (4) ,(e)は 出 力 電 圧 特 性 を 考 慮 し<br />

図 7 に 表 1 の 条 件 における 各 制 御 法 の 解 析 結 果 を 示 す。<br />

た 空 間 ベクトル 変 調 方 式 (5) ,(f)はスイッチング 回 数 低 減 と 出<br />

図 7 中 のベクトル 図 は 左 側 が 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトル 図 , 右<br />

力 電 圧 特 性 を 考 慮 した AC/AC 直 接 変 換 方 式 (6) である。<br />

側 が 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル 図 である。 瞬 時 電 圧 ベクトル 図<br />

(a)から(d)までの 制 御 方 法 は 同 じ 指 令 ベクトル(→)に 対 し<br />

電 学 論 ●,●● 巻 ● 号 ,●●● 年 5


て 異 なるベクトルを 選 択 しており, 制 御 アルゴリズムだけ<br />

でなく, 発 生 しているスイッチングパターンも 異 なってい<br />

ることがわかる。 一 方 ,(e)と(f)は 全 く 同 じベクトルが 選 択<br />

されており,この 領 域 においては, 全 く 同 一 の 制 御 性 能 と<br />

なる。このように, 異 なる 制 御 アルゴリズムにおいても 同<br />

じスイッチングパターンが 選 択 される 場 合 があることがわ<br />

かる。なお,このシミュレーション 条 件 では,(e)と(f)は 同<br />

一 の PWM を 発 生 するが, 例 えば 低 電 圧 を 出 力 するときには<br />

異 なるベクトルを 選 択 しており,すべての 領 域 において 同<br />

一 のスイッチングパターンを 選 択 しているわけではないこ<br />

とを 確 認 している。<br />

まず, 瞬 時 出 力 電 圧 ベクトルについて 着 目 する。 瞬 時 空<br />

間 ベクトル 図 の 評 価 方 法 は 3.2 節 で 述 べたとおり, 瞬 時 空 間<br />

ベクトル 図 中 の 指 令 ベクトルの 先 端 と 選 択 ベクトルの 先 端<br />

との 距 離 により 行 う。 指 令 ベクトルを 囲 む 選 択 ベクトルの<br />

距 離 が 短 いと, 選 択 ベクトルの 移 動 に 伴 う 状 態 変 化 量 が 小<br />

さくなり,リプルが 小 さくなる。 図 7 においては,どの 方<br />

式 も 指 令 ベクトルを 囲 む 60°ごとのセクタの 一 つからベク<br />

トルが 選 択 されており, 出 力 電 圧 リプルが 小 さくなるベク<br />

トルを 選 択 しているのがわかる。(a)の 方 式 では, 回 転 ベク<br />

トルを 選 択 していないが,その 他 の 方 式 では, 回 転 ベクト<br />

ルを 選 択 している。(b)から(f)の 方 式 で 選 択 されている 回 転<br />

ベクトルは,(a)で 選 択 されている 各 単 振 動 ベクトル(α 軸 を<br />

基 準 に-30°の 方 向 に 位 置 するベクトル)よりも, 指 令 値 から<br />

の 距 離 が 短 い。 従 って,(b)から(f)の 方 式 は(a)の 方 式 より 出<br />

力 電 圧 リプルは 小 さくなる。また,(b)と(d)の 方 式 で 選 択 さ<br />

れている 単 振 動 ベクトル(-30° 方 向 に 位 置 し, 最 も 大 きいベ<br />

クトル)は,(c),(e),(f)の 方 式 では 選 択 していない。よって,<br />

単 振 動 ベクトルへの 移 動 に 伴 う 電 圧 変 動 を 低 減 でき, 結 果<br />

的 に(c),(e),(f)の 方 式 は 出 力 電 圧 リプルを 低 減 できる。 最<br />

後 に,(c)の 方 式 と,(e),(f)の 方 式 を 比 較 すると,(e),(f)の<br />

方 式 は-30°のすべての 単 振 動 ベクトルとゼロベクトルを 使<br />

用 しない。この 結 果 ,(e),(f)の 方 式 は 選 択 されたベクトル<br />

の 先 端 で 作 る 多 角 形 が 最 も 小 さくなり, 出 力 電 圧 リプルは<br />

最 も 小 さくなる。<br />

次 に,スイッチングの 順 序 と 回 数 について 着 目 すると,(b)<br />

から(f)の 方 式 では,ベクトルの 移 動 時 にスイッチング 回 数<br />

がすべて 1 回 となるベクトルを 選 択 しているのが 確 認 でき<br />

る。 一 方 ,(a)の 方 式 では,ゼロベクトル 出 力 中 にすべての<br />

スイッチを 切 り 替 えてゼロベクトルを 出 力 しており,スイ<br />

ッチング 回 数 が 他 の 方 式 より 多 い。これは,(a)の 方 式 が 変<br />

形 キャリアを 用 いており, 等 価 的 なスイッチング 周 波 数 が 2<br />

倍 となり,ゼロベクトル 期 間 が 多 く 発 生 するためである。<br />

最 後 に, 瞬 時 入 力 電 流 ベクトル 図 についてみると,(a)の<br />

方 式 では, 選 択 ベクトル(○)は 一 つのセクタ 内 の 単 振 動 ベク<br />

トルのみから 構 成 されているため, 入 力 電 流 リプルが 小 さ<br />

くなると 考 えられる。(d)の 方 式 も 一 つのセクタからベクト<br />

ルが 選 択 されているが, 回 転 ベクトルが 選 択 されているた<br />

め, 回 転 ベクトルがないセクタに 指 令 ベクトルが 存 在 する<br />

ときは,リプルが 大 きくなると 考 えられる。その 他 の 方 式<br />

Total harmonic distortion<br />

Table 2. Evaluation results for the six control methods on the<br />

basis of space vector diagrams.<br />

Fig. 8. Total harmonic distortion of output voltage and input<br />

current.<br />

では,2 つのセクタからベクトルが 選 択 されているため, 入<br />

力 電 流 リプルが 大 きい。<br />

表 2 に 瞬 時 空 間 ベクトル 図 より 得 られた 各 制 御 方 式 の 特<br />

徴 をまとめる。 表 2 より,(e)と(f)の 方 式 がスイッチング 回<br />

数 , 出 力 電 圧 特 性 がよく,(a)と(d)の 方 式 が 入 力 電 流 特 性 が<br />

よいといえる。<br />

〈4・2〉 ひずみ 率 による 定 量 的 評 価<br />

4.1 節 において, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 を 用 いたスイッチン<br />

グパターンの 定 性 的 評 価 を 行 った。 本 節 では 出 力 電 圧 , 入<br />

力 電 流 のひずみ 率 を 用 いて 各 制 御 方 式 の 定 量 的 な 評 価 を 行<br />

い, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 の 評 価 結 果 と 比 較 し, 瞬 時 空 間 ベ<br />

クトル 図 による 評 価 方 法 の 妥 当 性 を 検 討 する。<br />

図 8 に 各 制 御 方 式 の 出 力 電 圧 ひずみと 入 力 電 流 ひずみを<br />

示 す。 各 ひずみ 率 は 入 力 電 流 および 出 力 電 圧 の PWM 波 形 を<br />

フーリエ 変 換 し,スイッチング 周 波 数 の 8 倍 までで 計 算 し<br />

た。この 結 果 ,(f)の 出 力 電 圧 ひずみが 小 さく, 次 いで,(e),<br />

(c),(b),(d),(a)の 順 となることがわかった。 一 方 , 入 力 電<br />

流 ひずみは,(a)の 方 式 が 一 番 小 さく, 次 いで,(d),(b),(c),<br />

(e),(f)の 順 となる。 以 上 より, 出 力 電 圧 ひずみと 入 力 電 流<br />

ひずみはトレードオフの 関 係 であるのが 確 認 できる。また,<br />

表 2 に 示 す 瞬 時 空 間 ベクトル 図 の 評 価 結 果 と 一 致 する。こ<br />

れは 定 量 的 な 評 価 と 定 性 的 な 評 価 が 一 致 することを 意 味 し<br />

ており, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 による 評 価 が 妥 当 であること<br />

を 示 している。<br />

これまでの 評 価 の 結 果 より,マトリックスコンバータの<br />

各 制 御 法 とその 用 途 について 考 察 する。マトリックスコン<br />

バータは 出 力 電 圧 特 性 と 入 力 電 流 特 性 はトレードオフを 持<br />

つため, 目 的 によって 制 御 方 式 を 使 い 分 けることが 重 要 で<br />

ある。 例 えば, 出 力 電 圧 精 度 を 要 求 されるモータ 制 御 など<br />

の 用 途 では(e)や(f)の 方 式 が 有 効 と 思 われる。また, 入 力 高<br />

調 波 特 性 を 優 先 する 用 途 では(a)の 方 式 が 有 効 であると 考 え<br />

られる。<br />

6 IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●


表 題 を 簡 略 化 した 題<br />

5. まとめ<br />

本 論 文 では,マトリックスコンバータの 各 制 御 方 式 によ<br />

り 出 力 されるスイッチングパターンを 瞬 時 空 間 ベクトル 図<br />

により 可 視 化 することで,マトリックスコンバータの 各 制<br />

御 方 式 を 視 覚 的 に 評 価 する 方 式 について 検 討 した。<br />

瞬 時 空 間 ベクトル 図 を 用 いることで, 各 制 御 方 式 が 制 御<br />

可 能 であるかの 判 定 , 出 力 電 圧 , 入 力 電 流 特 性 ,スイッチ<br />

ング 回 数 が 評 価 可 能 となり,これらの 評 価 はこれまで 行 わ<br />

れてきた 出 力 電 圧 , 入 力 電 流 のひずみ 率 による 定 量 的 な 評<br />

価 と 一 致 した。 瞬 時 空 間 ベクトル 図 による 各 制 御 方 式 の 評<br />

価 を 6 種 類 の 制 御 方 式 に 適 用 して 各 制 御 方 式 が 持 つ 特 徴 を<br />

評 価 し, 各 制 御 方 式 に 適 した 用 途 についても 言 及 した。 以<br />

上 より, 瞬 時 空 間 ベクトル 図 によるスイッチングパターン<br />

の 評 価 はマトリックスコンバータの 制 御 方 式 を 解 析 する 手<br />

段 として 有 用 であると 考 える。<br />

( 平 成 ●● 年 ● 月 ● 日 受 付 , 平 成 ●● 年 ● 月 ● 日 再 受 付 )<br />

文<br />

(1) J. Itoh, I. Sato, H. Ohguchi, K. Sato, A. Odaka and N. Eguchi: “A Control<br />

Method for the Matrix Converter Based on Virtual AC/DC/AC Conversion<br />

Using Carrier Comparison Method”, IEEJ Trans., Vol.124-D, No.5,<br />

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伊 東 淳 一 ・ 佐 藤 以 久 也 ・ 大 口 英 樹 ・ 佐 藤 和 久 ・ 小 高 章 弘 ・ 江 口 直 也 :<br />

「キャリア 比 較 方 式 を 用 いた 仮 想 AC/DC/AC 変 換 方 式 によるマトリ<br />

ックスコンバータの 制 御 法 」, 電 学 論 D,Vol.124,No.5,pp.457-463<br />

(2004)<br />

(2) J. Itoh, H. Kodachi, A. Odaka, I. Sato, H. Ohguchi and H. Umida: “A High<br />

Performance Control Method for the Matrix Converter Based on PWM<br />

generation of Virtual AC/DC/AC Conversion”, JIASC IEEJ,<br />

pp.I-303-I-308 (2004)<br />

伊 東 淳 一 ・ 小 太 刀 博 和 ・ 小 高 章 弘 ・ 佐 藤 以 久 也 ・ 大 口 英 樹 ・ 海 田 英<br />

俊 :「パルスパターンに 着 目 した 仮 想 AC/DC/AC 変 換 方 式 によるマ<br />

トリックスコンバータの 高 性 能 化 」, 平 成 16 年 電 気 学 会 産 業 応 用 部<br />

門 大 会 ,pp.I-303-I-308 (2004)<br />

(3) A. Odaka, I. Sato, H. Ohguchi, Y. Tamai, H. Mine and J. Itoh: “A PAM<br />

Control Method for the Matrix Converter Based on Virtual AC/DC/AC<br />

Conversion Method”, IEEJ Trans., Vol.126-D, No.9, pp.1185-1192 (2006)<br />

小 高 章 弘 ・ 佐 藤 以 久 也 ・ 大 口 英 樹 ・ 玉 井 康 寛 ・ 美 根 宏 則 ・ 伊 東 淳 一 :<br />

「 仮 想 AC/DC/AC 変 換 方 式 に 基 づいたマトリックスコンバータの<br />

PAM 制 御 法 」, 電 学 論 D,Vol.126,No.9,pp.1185-1192 (2006)<br />

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On-line Control of Matrix Converter”, IEEJ Trans., Vol.116-D, No.6,<br />

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小 山 純 ・ 夏 暁 戒 ・ 樋 口 剛 ・ 黒 木 恒 二 ・ 山 田 英 二 ・ 古 賀 高 志 :「PWM<br />

サイクロコンバータの VVVF オンライン 制 御 」, 電 学 論 D,Vol.116,<br />

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竹 下 隆 晴 ・ 安 藤 雄 介 :「 三 相 / 三 相 マトリックスコンバータの 転 流 回<br />

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(7) J. Haruna and J. Itoh: “Comparison of Switching Pattern for the Matrix<br />

Converter Based on Instantaneous Space Vector”, JIASC IEEJ,<br />

献<br />

pp.I-201-I-204 (2006)<br />

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バータのスイッチングパターンの 比 較 」, 平 成 18 年 電 気 学 会 産 業 応<br />

用 部 門 大 会 ,pp.I-201-I-204 (2006)<br />

(8) J. Itoh and K. Fujita: “An Analysis Method of AC-AC Direct Converters<br />

by Using Switch Matrix”, IEEJ Trans., Vol.119-D, No.3, pp.351-358<br />

(1999)<br />

伊 東 淳 一 ・ 藤 田 光 悦 :「スイッチマトリックスを 用 いた AC-AC 直 接<br />

変 換 回 路 の 解 析 法 」, 電 学 論 D,Vol.119,No.3,pp.351-358 (1999)<br />

(9) J. Itoh, A. Odaka, I. Sato, H. Ohguchi and N. Eguchi: “A Comparison of<br />

PWM Pattern for Matrix Converter”, IEEJ Trans., Vol.126-D, No.9,<br />

pp.1178-1184 (2006)<br />

伊 東 淳 一 ・ 小 高 章 弘 ・ 佐 藤 以 久 也 ・ 大 口 英 樹 ・ 江 口 直 也 :「マトリッ<br />

クスコンバータにおける PWM パターンの 比 較 」, 電 学 論 D,Vol.126,<br />

No.9,pp.1178-1184 (2006)<br />

(10) H. Hara, E. Yamamoto, M. Zenke, J. Kang and T. Kume: “An<br />

Improvement of Output Voltage Control Performance for Low Voltage<br />

Region of Matrix Converter”, JIASC IEEJ, pp.I-313-I-316 (2004)<br />

原 英 則 ・ 山 本 栄 治 ・ 善 家 充 彦 ・ 姜 俊 求 ・ 久 米 常 生 :「 低 電 圧 領 域 にお<br />

けるマトリクスコンバータの 電 圧 改 善 の 一 方 策 」, 平 成 16 年 電 気 学<br />

会 産 業 応 用 部 門 大 会 ,pp.I-313-I-316 (2004)<br />

春 名 順 之 介 ( 学 生 員 ) 1983 年 7 月 6 日 生 。2006 年 3 月<br />

長 岡 技 術 科 学 大 学 電 気 電 子 情 報 工 学 課 程 卒 業 。<br />

2008 年 3 月 同 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 修 士 課 程 電<br />

気 電 子 情 報 工 学 専 攻 修 了 。 同 年 4 月 博 士 後 期 課<br />

程 エネルギー・ 環 境 工 学 専 攻 に 進 学 。 主 に 電 力<br />

変 換 回 路 に 関 する 研 究 に 従 事 。<br />

伊 東 淳 一<br />

( 正 員 ) 1972 年 生 。1996 年 3 月 長 岡 技 術 科 学<br />

大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 修 士 課 程 修 了 。 同 年 4 月 ,<br />

富 士 電 機 ( 株 ) 入 社 。2004 年 4 月 長 岡 技 術 科 学 大<br />

学 電 気 系 准 教 授 。 現 在 に 至 る。 主 に 電 力 変 換 回<br />

路 , 電 動 機 制 御 の 研 究 に 従 事 。 博 士 ( 工 学 )( 長 岡<br />

技 術 科 学 大 学 )。2007 年 第 63 回 電 気 学 術 振 興 賞<br />

進 歩 賞 受 賞 。IEEE 会 員 。<br />

電 学 論 ●,●● 巻 ● 号 ,●●● 年 7

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