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第 2 章 衛 星 画 像 で 観 測 される 雲 パターンと<br />

水 蒸 気 パターン *<br />

うコンマ 状 の 雲 」、C1 のような 雲 域 を「 正 渦 度 極<br />

大 に 伴 うコンマ 状 の 雲 」と 呼 ぶ。<br />

2.1 雲 パターン<br />

雲 パターンは、その 場 の 大 気 の 流 れ、 温 度 ・ 水<br />

蒸 気 分 布 及 び 鉛 直 安 定 度 などと 密 接 に 関 連 してい<br />

る。そのため、 大 気 の 立 体 構 造 を 把 握 する 上 で 雲<br />

パターンの 解 析 は 重 要 である。<br />

航 空 気 象 の 分 野 では、 乱 気 流 に 代 表 されるよう<br />

に、 大 気 上 層 への 関 心 が 強 いため、 特 に Ci の 特 徴<br />

を 細 かに 着 目 することが 多 い。したがって、 本 章<br />

では 主 に Ci のパターンについて 述 べる。<br />

2.1.1 コンマ 状 の 雲 (Comma clouds)<br />

図 2-1-1 に 示 した 雲 域 C1、C2、C3 が「コンマ<br />

状 の 雲 」である。C2、C3 は 傾 圧 帯 で 発 生 ・ 発 達<br />

した 低 気 圧 に 伴 う 総 観 スケールのコンマ 状 の 雲 で<br />

ある。<br />

一 方 、C1 は C2 後 面 の 寒 気 場 内 で、 対 流 圏 中 層<br />

の 正 渦 度 移 流 の 極 大 域 付 近 で 発 生 し、 発 達 した。<br />

C1 のような 雲 は 一 般 に「コンマ 形 雲 」と 呼 ばれ、<br />

十 分 に 発 達 すると 地 上 低 気 圧 が 解 析 され、 総 観 ス<br />

ケールの 低 気 圧 に 発 達 することもあるが、 多 くは<br />

総 観 スケールよりはやや 小 さい( 気 象 衛 星 センタ<br />

ー、1993a)。C1 は 総 観 スケールまで 発 達 している。<br />

本 書 では C2、C3 のような 雲 域 を「 低 気 圧 に 伴<br />

2.1.2 Ci ストリーク(Ci streaks)<br />

細 長 く 筋 状 の Ci を「Ci ストリーク」と 呼 ぶ。<br />

Ci ストリークは、ジェット 気 流 に 代 表 される 上 層<br />

の 流 れに 沿 う 場 合 が 多 い。 上 層 トラフの 前 面 に 発<br />

生 し、 下 層 の 雲 域 と 重 なって 雲 域 全 体 が 発 達 する<br />

こともある。<br />

加 藤 ・ 山 本 (1989)は、 発 達 した 雲 域 の 極 側 縁<br />

に 位 置 する Ci ストリークを 調 査 した。それによる<br />

と、Ci ストリークは 等 圧 面 上 の 流 れではなく、 等<br />

温 位 面 における 系 に 相 対 的 な 流 線 (P23 のコラム<br />

参 照 )に 一 致 し、ほぼジェット 軸 に 対 応 していた。<br />

図 2-1-2( 左 )は Ci ストリークの 例 である。 本<br />

州 付 近 から 東 海 上 には 濃 密 な Ci で 構 成 された 雲<br />

域 、すなわち「Ci シールド」が 広 がっており、こ<br />

の 極 側 縁 には 高 気 圧 性 曲 率 を 示 す Ci ストリーク<br />

C1 が 見 られる。また、 日 本 のはるか 東 海 上 にも 別<br />

の Ci シールドの 極 側 縁 に Ci ストリーク C3 が 見<br />

られる。さらに 北 海 道 の 東 海 上 には 単 独 のほぼま<br />

っすぐな Ci ストリーク C2 が 見 られる。このよう<br />

に、Ci ストリークには C1、C3 のように Ci シール<br />

ドの 極 側 縁 に 高 気 圧 性 曲 率 を 持 って 発 現 するもの<br />

と、C2 のように 他 の 雲 域 とは 別 に 単 独 で 発 現 する<br />

ものがある。<br />

図 2-1-1 コンマ 状 の 雲<br />

( 左 )1999 年 1 月 5 日 03UTC の 赤 外 画 像<br />

C1: 正 渦 度 極 大 に 伴 うコンマ 状 の 雲 (コンマ 形 雲 ) C2: 低 気 圧 に 伴 うコンマ 状 の 雲<br />

( 右 )1997 年 1 月 25 日 18UTC の 赤 外 画 像 C3: 低 気 圧 に 伴 うコンマ 状 の 雲<br />

* 池 田 博 文 、 江 上 公 ( 現 静 岡 地 方 気 象 台 )<br />

9


また、C1、C2、C3 はいずれも 数 値 予 報 領 域 モ<br />

デル(RSM)では、ほぼジェット 気 流 J1、J2、J3<br />

に 沿 っている( 図 2-1-2 右 )。<br />

図 2-1-3 は 同 時 刻 の RSM 鉛 直 断 面 図 である。A<br />

-B に 沿 った 断 面 図 ( 図 2-1-3 左 )では、C1 に 対<br />

応 してジェット 気 流 J1 が 高 度 250~300hPa、 相 当<br />

温 位 320~325K に 解 析 できるが、J2 は 不 明 瞭 であ<br />

る。<br />

一 方 、C-D に 沿 った 断 面 図 ( 図 2-1-3 右 )では、<br />

C2 に 対 応 して J2 が 高 度 300~400hPa、 相 当 温 位<br />

図 2-1-2 Ci ストリーク<br />

( 左 )1998 年 12 月 1 日 21UTC の 赤 外 画 像 ● 印 C2: 単 独 に 発 生 した Ci ストリーク<br />

○ 印 C1、◎ 印 C3:Ci シールドの 極 側 縁 で 発 生 した Ci ストリーク<br />

( 右 ) 同 赤 外 画 像 と RSM300hPa の 等 風 速 線 (10kt 毎 )の 重 ね 合 わせ<br />

J1、J2、J3:ジェット 気 流 A-B: 図 2-1-3( 左 )の 断 面 位 置 C-D: 図 2-1-3( 右 )の 断 面 位 置<br />

図 2-1-3 1998 年 12 月 1 日 21UTC の RSM 鉛 直 断 面 図<br />

( 左 ) 図 2-1-2 右 の A-B に 沿 った 断 面 ( 右 ) 図 2-1-2 右 の C-D に 沿 った 断 面<br />

細 実 線 (15K 毎 に 太 実 線 ): 相 当 温 位 (K) 破 線 : 等 風 速 線 (kt) 太 実 線 :TBB<br />

J1、J2、J3:ジェット 気 流<br />

C1、C2、C3:Ci ストリーク 対 応 の TBB の 極 大<br />

10


310K 前 後 に、また、C3 に 対 応 してジェット 気 流<br />

J3 が 高 度 250hPa 付 近 、 相 当 温 位 320~325K に 解<br />

析 できる。したがって、 相 当 温 位 の 異 なる J1 と<br />

J2 は 別 系 のジェット 気 流 である。<br />

2.1.3 トランスバースバンド( Transverse<br />

bands)<br />

衛 星 画 像 にはしばしば 波 状 の 雲 列 が 見 られる。<br />

ここでは、 風 の 流 れに 対 しほぼ 直 角 方 向 に 並 んだ<br />

波 状 の Ci の 雲 列 を「トランスバースバンド」と 呼<br />

ぶ。トランスバースバンドには、ジェット 気 流 に<br />

伴 って 発 生 するもの、 雲 バンドの 東 縁 や 南 縁 で 発<br />

生 するもの、「デルタ 型 」の 雲 域 で 発 生 するものが<br />

ある。<br />

1 ジェット 気 流 に 伴 って 発 生 するもの<br />

図 2-1-4( 下 )の 雲 バンド A 中 に 見 られる A の<br />

走 向 に 直 交 した 雲 列 が、このタイプのトランスバ<br />

ースバンドである。モデル 図 ( 図 2-1-4 左 上 )に<br />

示 したように、ジェット 軸 に 直 交 した 方 向 の 長 さ<br />

が 3~5°lat 程 度 、 間 隔 が 20~30km の 雲 列 が Ci<br />

主 体 の A 中 にみられ、 約 千 km にわたって 存 在 し<br />

ている。この A の 極 側 縁 が、 図 2-1-4( 右 上 )に<br />

示 したジェット 気 流 J1 に 対 応 している。<br />

図 2-1-5( 左 )では 二 つの Ci 域 B、C が 見 られ<br />

図 2-1-4 ジェット 気 流 に 伴 って 発 生 するトランスバースバンド<br />

( 左 上 )モデル 図 (Bader et al.(1995)を 一 部 修 正 ) 太 矢 印 (JET):ジェット 軸 陰 影 部 : 雲 域<br />

JET CIRRUS CLOUD BAND:ジェット 気 流 に 伴 う Ci 主 体 の 雲 バンド<br />

TRANSVERSE BANDS:トランスバースバンド SCALLOPS:2.1.4 項 参 照<br />

( 右 上 )1998 年 12 月 8 日 00UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 赤 外 画 像 A: 雲 バンド( 雲 域 中 に 多 数 のトランスバースバンドが 見 られる)<br />

11


る。B は 黄 海 から 能 登 半 島 付 近 に 東 西 に 伸 びてお<br />

り、 図 2-1-5( 右 )では 200hPa の 強 風 軸 ( 亜 熱 帯<br />

ジェット 気 流 のジェット 軸 に 一 致 )にほぼ 対 応 し<br />

ている。B 中 には 流 れの 方 向 にほぼ 直 交 した 多 数<br />

の 小 さな 雲 列 が 見 られる。この 雲 列 もこのタイプ<br />

のトランスバースバンドに 含 まれる。<br />

B は 図 2-1-4( 下 )の A に 比 べると 雲 域 の 幅 が<br />

狭 く、トランスバースバンドもモデル 図 ( 図 2-1-4<br />

左 上 )のように 長 くない。B のようなトランスバ<br />

ースバンドを 持 つ 全 体 としてライン 状 の 雲 を、 特<br />

に「トランスバースライン(Transverse lines)」と<br />

呼 んでいる。 一 般 に、トランスバースラインはジ<br />

ェット 気 流 に 沿 って 発 現 し、80kt 以 上 の 風 速 を 伴<br />

っていることが 多 い。<br />

トランスバースラインは、 大 野 ・ 三 浦 (1982)に<br />

よると、 圏 界 面 直 下 で 励 起 されたケルビンヘルム<br />

ホルツ(K-H) 波 (P35 のコラム 参 照 )が 可 視 化<br />

されたものである。また、 庄 司 (2000)は、 圏 界<br />

面 及 び 前 線 内 では 鉛 直 シヤ-が 大 きい 場 合 に、ま<br />

た、 上 層 トラフ 後 面 では 鉛 直 シヤ-が 小 さくても<br />

前 線 面 下 にできる 低 鉛 直 安 定 度 層 内 でトランスバ<br />

ースラインが 発 現 しているとしている。<br />

このほか、 発 達 中 の 台 風 から 吹 き 出 すトランス<br />

バースラインが 見 られる 場 合 がある。 台 風 の 上 層<br />

発 散 に 伴 う 流 れに 関 係 していると 思 われるが 詳 し<br />

い 調 査 は 行 われていない。 図 2-1-5( 左 )では、 父<br />

島 付 近 の 台 風 からの 吹 き 出 しに 対 応 してトランス<br />

バースライン C が 見 られる。<br />

2 雲 バンドの 東 縁 や 南 縁 で 発 生 するもの<br />

低 気 圧 に 伴 うコンマ 状 の 雲 を 含 む 雲 バンドの 東<br />

縁 ( 上 層 リッジの 下 流 側 に 当 たる)や、 亜 熱 帯 ジ<br />

ェット 気 流 に 沿 った Ci 主 体 の 雲 バンド 南 側 の 負<br />

渦 度 域 に 沿 って 列 状 に 伸 びる Ci をこのタイプの<br />

トランスバースバンドという( 注 このタイプの<br />

み、Ci の 先 端 部 の 走 向 が 上 層 の 流 れにほぼ 平 行 で<br />

あるが、Ellrod(1985)や Bader et al.(1995)はこ<br />

れもトランスバースバンドと 呼 んでいる)。<br />

図 2-1-6( 下 )の 雲 域 A は 上 層 リッジの 下 流 側<br />

に 現 れたトランスバースバンドである。モデル 図<br />

( 図 2-1-6 左 上 )に 示 したように、 日 本 海 から 西<br />

日 本 にある 厚 い 雲 域 から、 東 日 本 から 日 本 の 南 に<br />

かけて、 北 西 ― 南 東 の 走 向 を 持 つ Ci が 列 状 に 伸 び<br />

ている。<br />

図 2-1-5 トランスバースライン<br />

( 左 )1998 年 8 月 30 日 03UTC の 赤 外 画 像 ( 右 ) 同 日 00UTC の 200hPa 天 気 図<br />

B:ジェット 気 流 に 伴 うトランスバースライン<br />

C: 台 風 の 吹 き 出 しに 伴 うトランスバースライン<br />

矢 印 :200hPa の 強 風 軸 (ほぼ 亜 熱 帯 ジェット 気 流 のジェット 軸 に 一 致 )<br />

12


300hPa 天 気 図 ( 図 2-1-6 右 上 )を 見 ると、この<br />

Ci はジェット 気 流 J1 前 面 の 東 経 135 度 付 近 にあ<br />

る 上 層 リッジ 付 近 から 発 生 している。<br />

図 2-1-7( 左 )の Ci 域 A が 負 渦 度 域 に 伴 うトラ<br />

ンスバースバンドである。 本 州 南 岸 を 東 西 にひろ<br />

がる Ci 主 体 の 雲 バンドから 日 本 の 南 にかけて Ci<br />

が 列 状 に 伸 びている。<br />

200hPa 天 気 図 ( 図 2-1-7 右 )を 見 ると、A は 強<br />

風 軸 (ほぼ 亜 熱 帯 ジェット 気 流 のジェット 軸 に 一<br />

致 ) 南 側 の 水 平 シヤーの 大 きい 領 域 、すなわち 負<br />

渦 度 域 で 発 生 している。<br />

図 2-1-6 上 層 リッジの 東 側 で 発 生 するトランスバースバンド<br />

( 左 上 )モデル 図 (Bader et al.(1995)を 一 部 修 正 ) 太 矢 印 (JET):ジェット 軸<br />

TRANSVERSE BANDS:トランスバースバンド 細 矢 印 : 流 線 陰 影 部 : 雲 域<br />

( 右 上 )1999 年 4 月 12 日 00UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 赤 外 画 像 A:トランスバースバンド<br />

13


図 2-1-7 雲 バンド 南 側 の 負 渦 度 域 で 発 生 するトランスバースバンド<br />

( 左 )1998 年 10 月 10 日 01UTC の 赤 外 画 像 A:トランスバースバンド<br />

( 右 ) 同 日 00UTC の 200hPa 天 気 図 太 矢 印 と 矢 印 : 強 風 軸 (ほぼ 亜 熱 帯 ジェット 気 流 の<br />

ジェット 軸 に 一 致 )<br />

ジェット 気 流<br />

WMO の 高 層 委 員 会 では「ジェット 気 流 」を 次 のように 定 義 している。<br />

1 対 流 圏 上 部 または 成 層 圏 内 でほぼ 水 平 な 軸 に 集 中 している 強 くて 狭 い 風 の 流 れである。<br />

2 鉛 直 及 び 水 平 方 向 に 強 い 風 のシヤーを 持 ち、 一 つあるいはそれ 以 上 の 風 速 極 大 域 (ジェットコア)が<br />

ある。<br />

3 数 千 km の 長 さ、 数 百 km の 幅 、および 数 km の 深 さを 持 っている。<br />

4 鉛 直 シヤーが 1km につき 5~10m/s、 水 平 シヤーが 100km につき 5m/s 程 度 ある。<br />

5 ジェット 軸 に 沿 う 風 速 は 30m/s 以 上 である。<br />

ジェット 気 流 は、その 成 因 によって 寒 帯 前 線 ジェット 気 流 (Jp)と 亜 熱 帯 ジェット 気 流 (Js)に 分 類 さ<br />

れる。ジェット 軸 の 高 度 は、おおむね Jp が 300hPa、Js が 200~250hPa である。ただし、ジェット 軸 は、<br />

南 北 に 蛇 行 するとともにその 高 度 も 変 動 、すなわち 3 次 元 的 な 分 布 をしている。 通 常 、その 高 度 は 上 層 ト<br />

ラフ 付 近 で 相 対 的 に 低 く、 上 層 リッジ 付 近 で 高 くなるような 分 布 である。したがって、ジェット 軸 の 解 析<br />

は、 一 枚 の 等 圧 面 天 気 図 ( 例 えば 300hPa 天 気 図 )のみによる 解 析 では 難 しく、 断 面 図 等 を 併 用 して 決 定<br />

するのが 一 般 的 である。<br />

本 書 では 便 宜 上 、ジェット 気 流 について 300hPa 天 気 図 上 で 議 論 することが 多 い。ここでは 断 面 図 等 を<br />

併 用 して 300hPa 面 で 解 析 したジェット 気 流 を「300hPa のジェット 気 流 」と 呼 び、この 場 合 に 限 り 300hPa<br />

天 気 図 で 見 られる 風 速 極 大 域 を「300hPa のジェットコア」と 呼 ぶことにする。<br />

一 方 、その 他 の 等 圧 面 ( 例 えば 200、250、400hPa) 上 で 風 の 流 れを 議 論 する 場 合 には、 強 風 帯 の 中 心 を<br />

「 強 風 軸 」、 風 速 極 大 域 を「 強 風 核 」と 呼 ぶことにする。<br />

( 池 田 博 文 )<br />

14


3 「デルタ 型 」の 雲 域 で 発 生 するもの<br />

図 2-1-8( 下 )の 雲 域 A が「デルタ 型 」の 雲 域<br />

である。モデル 図 ( 図 2-1-8 左 上 )に 示 したよう<br />

に、 東 シナ 海 北 部 から 北 西 の 流 れに 沿 って 南 下 す<br />

る Ci 域 C と、その 下 流 側 で 直 交 方 向 に 広 がる Ci<br />

域 T(トランスバースバンド)で 三 角 形 の 雲 域 を<br />

形 成 している。この 事 例 では C と T の 間 に 晴 天 域<br />

が 存 在 しているが、すべてが 雲 域 で 覆 われること<br />

もあり、 湿 りの 状 態 によって 様 々である。デルタ<br />

型 の 雲 域 は 変 形 域 の 存 在 を 示 唆 している。300hPa<br />

天 気 図 ( 図 2-1-8 右 上 )では、 東 シナ 海 北 部 のジ<br />

ェット 気 流 J1 から 分 流 した 流 れが 減 速 しながら<br />

北 西 流 となって 沖 縄 付 近 に 達 している。 天 気 図 上<br />

では 変 形 域 は 不 明 瞭 であるが、 画 像 を 動 画 にして<br />

詳 細 に 解 析 すると、 雲 の 動 きから 変 形 域 の 存 在 が<br />

確 認 できる。 詳 しくは 3.1 節 で 述 べる。<br />

図 2-1-8 「デルタ 型 」の 雲 域 とトランスバースバンド<br />

( 左 上 )モデル 図 (Bader et al.(1995)を 一 部 修 正 ) 太 矢 印 (JET):ジェット 軸<br />

細 矢 印 : 系 に 相 対 的 な 流 線<br />

陰 影 部 : 雲 域<br />

( 右 上 )1998 年 10 月 19 日 12UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 日 09UTC の 赤 外 画 像 実 線 A:「デルタ 型 」の 雲 域 破 線 C:Ci 域<br />

T:トランスバースバンド<br />

15


2.1.4 スキャロップ(Scallops)パターンの Ci<br />

「スキャロップパターン」は、ジェット 気 流 に<br />

伴 う Ci 主 体 の 雲 バンドの 極 側 縁 が 凸 凹 した 状 態<br />

を 指 す。 図 2-1-9( 下 )で 示 すように、 雲 域 の 極 側<br />

縁 が 粒 状 の Ci が 連 なったように 見 える 雲 A がス<br />

キャロップパターンの Ci である。モデル 図 ( 図<br />

2-1-9 左 上 )のようにトランスバースバンドととも<br />

に 現 れることが 多 く、この 事 例 でも 不 明 瞭 ながら<br />

トランスバースバンド T が 見 られる。また、スキ<br />

ャロップパターンの Ci は 雲 バンドとは 離 れて 粒<br />

状 の Ci として 存 在 することもある。この 場 合 は<br />

Cb との 区 別 が 難 しい 場 合 もある。 一 般 に Ci のほ<br />

うが Cb より 速 く 移 動 するので、 移 動 速 度 の 違 い<br />

により、Ci か Cb かを 判 別 する。<br />

300hPa 天 気 図 ( 図 2-1-9 右 上 )では、A はほぼ<br />

ジェット 気 流 J1 に 沿 っている。また、Ci ストリ<br />

ーク B はジェット 気 流 J2 に 対 応 している。<br />

図 2-1-9 スキャロップパターンの Ci<br />

( 左 上 )モデル 図 (Bader et al.(1995)を 一 部 修 正 ) 太 矢 印 (JET):ジェット 軸 陰 影 部 : 雲 域<br />

SCALLOPS:スキャロップパターンの Ci<br />

TRANSVERSE BANDS:トランスバースバンド<br />

JET CIRRUS CLOUD BAND:ジェット 気 流 に 伴 う Ci 主 体 の 雲 バンド<br />

( 右 上 )2000 年 4 月 8 日 12UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3、J4:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 赤 外 画 像 A:スキャロップパターンの Ci B:Ci ストリーク<br />

T:トランスバースバンド<br />

16


2.1.5 Ci バルジ(Ci bulges)<br />

「バルジ」は、 前 線 性 の 雲 バンドが 高 気 圧 性 曲<br />

率 を 示 す( 寒 気 側 に 凸 状 に 膨 らむ) 現 象 を 指 し、<br />

低 気 圧 前 面 の 活 発 な 暖 気 移 流 により 形 成 された 背<br />

の 高 い 厚 い 雲 域 で 形 成 される。 暖 気 移 流 の 強 まり<br />

により 凸 状 の 膨 らみは 増 す。このようにバルジは、<br />

低 気 圧 の 発 達 期 に 現 れる 現 象 を 指 すのが 原 義 であ<br />

る。したがって、 低 気 圧 の 発 達 を 伴 わない 雲 域 の<br />

単 なる 膨 らみは、バルジと 呼 ばないのが 一 般 的 で<br />

ある。<br />

本 書 では、Ci だけの 形 状 に 着 目 し、Ci の 極 側 縁<br />

が 高 気 圧 性 曲 率 を 示 すパターンを「Ci バルジ」と<br />

呼 ぶ。こうしたパターンは、 上 層 トラフやジェッ<br />

ト 軸 に 伴 って 現 れることが 多 い。 図 2-1-10( 左 )<br />

は Ci バルジの 例 である。 日 本 海 北 部 からオホーツ<br />

ク 海 にかけて 極 側 縁 が 極 側 に 膨 らんだ 雲 域 A が 見<br />

られる。<br />

300hPa 天 気 図 ( 図 2-1-10 右 )では、この Ci バ<br />

ルジの 極 側 縁 はジェット 気 流 J3 に 対 応 している。<br />

図 2-1-10 Ci バルジ<br />

( 左 )2000 年 11 月 7 日 00UTC の 赤 外 画 像 A:Ci 主 体 の 雲 域<br />

( 右 ) 同 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3、J4:ジェット 気 流<br />

17


2.2 水 蒸 気 パターン<br />

水 蒸 気 画 像 では 雲 がなくても 水 蒸 気 をトレーサ<br />

ーとして 上 ・ 中 層 の 大 気 の 流 れを 可 視 化 できる。<br />

水 蒸 気 画 像 で 現 れる 明 ・ 暗 域 のパターンを 水 蒸 気<br />

パターンという。 明 域 と 暗 域 の 境 界 を「バウンダ<br />

リー」と 呼 ぶ。バウンダリーは 上 ・ 中 層 における<br />

異 なる 湿 りを 持 つ 気 塊 の 境 界 を 示 している。 空 間<br />

的 に 湿 りが 著 しく 変 化 すれば 明 ・ 暗 域 のコントラ<br />

ストが 鮮 明 となり、バウンダリーは 明 瞭 に 現 れる。<br />

水 蒸 気 画 像 で 現 れるバウンダリーは、 大 気 の 鉛 直<br />

方 向 の 運 動 や 水 平 方 向 の 変 形 運 動 により 形 成 され、<br />

いくつかの 特 有 なパターンを 示 す。<br />

Weldon・Holmes(1991、( 気 象 衛 星 センターに<br />

よる 和 訳 (1993b)がある)は、バウンダリーを7<br />

種 類 のパターンに 分 類 し( 表 2-2-1)、その 特 徴 を<br />

述 べている。これらのバウンダリーは、 成 因 や 構 造<br />

から「ジェット 気 流 に 関 連 するもの」「ブロッキン<br />

グに 関 連 するもの」「サージを 示 すもの」「その 他 」<br />

に 分 けられる。なお、バウンダリーは 常 に 同 じ 性<br />

質 を 保 つものではなく 変 化 する。 例 えばベースサ<br />

ージバウンダリーからインサイドバウンダリーに<br />

移 行 する 場 合 や、バウンダリーの 上 流 部 分 はドラ<br />

イサージバウンダリーだが 下 流 部 分 は 傾 圧 リーフ<br />

バウンダリーである 場 合 など、 時 間 的 にも 空 間 的<br />

にも 変 化 することに 留 意 が 必 要 である。<br />

以 下 、 各 バウンダリーについて 述 べる(リター<br />

ンモイスチャーバウンダリーは 本 書 には 直 接 関 係<br />

ないので 除 く)。<br />

2.2.1 ジェット 気 流 に 関 連 したバウンダリー<br />

水 蒸 気 画 像 の 最 も 有 効 な 利 用 法 のひとつに、ジ<br />

ェット 気 流 の 動 向 の 把 握 がある。 一 般 に 上 ・ 中 層<br />

では、ジェット 気 流 を 境 に 極 側 の 気 団 は 赤 道 側 の<br />

気 団 より 冷 たく 乾 燥 した 暗 域 、 赤 道 側 では 暖 かく<br />

湿 った( 雲 域 が 存 在 する 場 合 もある) 明 域 を 形 成<br />

することでバウンダリーが 現 れる。<br />

図 2-2-1 に 亜 熱 帯 前 線 (Subtropical fronts)と 寒<br />

帯 前 線 (Polar fronts)の 概 念 図 (Ramond et al., 1981)<br />

を 示 す。ジェット 気 流 近 傍 の 前 線 帯 上 空 の 極 側 で<br />

は 沈 降 が 強 く、 乾 燥 域 が 圏 界 面 から 下 方 へ 伸 びる。<br />

ジェット 気 流 極 側 の 暗 域 はこの 乾 燥 域 に 対 応 し、<br />

明 瞭 なコントラストを 持 つバウンダリーを 形 成 す<br />

る。 一 般 に 亜 熱 帯 前 線 は 幅 が 広 く 傾 斜 も 急 なので、<br />

寒 帯 前 線 より 幅 が 広 く 明 瞭 なバウンダリーが 形 成<br />

されやすい。ただし、 気 象 衛 星 センター(1996)<br />

によれば、 寒 候 期 では 亜 熱 帯 前 線 対 応 のバウンダ<br />

リーは 水 蒸 気 画 像 から 判 断 できない 場 合 が 多 い。<br />

図 2-2-1 前 線 の 概 念 図 (Ramond et al.(1981)に 加 筆 )<br />

J:ジェット 気 流 点 線 : 前 線 層<br />

一 点 鎖 線 : 圏 界 面 二 重 線 : 沈 降 層<br />

表 2-2-1 バウンダリーの 種 類<br />

18


(1)ジェット 気 流 平 行 型 バウンダリー<br />

このバウンダリーは、モデル 図 ( 図 2-2-2 左 上 )<br />

にあるようにジェット 気 流 に 伴 う 雲 域 ( 明 域 )と<br />

極 側 の 暗 域 との 境 界 で 形 成 され、コントラストは<br />

明 瞭 でほぼ 直 線 的 な 形 状 を 示 すことが 多 い。 暗 域<br />

はジェット 気 流 の 極 側 に 帯 状 に 現 れることが 多 い。<br />

ジェット 軸 はバウンダリーの 位 置 にほぼ 一 致 する<br />

が、バウンダリーの 西 端 は 形 状 やコントラストが<br />

東 端 よりやや 不 明 瞭 だったり、ジェット 軸 と 一 致<br />

しないことがある。<br />

図 2-2-2( 右 上 、 下 )にジェット 気 流 平 行 型 バウ<br />

ンダリーの 例 を 示 す。 日 本 海 に 見 られるバウンダ<br />

リー( 図 中 ○ 印 )が 黄 海 から 日 本 海 北 部 に 伸 びて<br />

おり、ほぼジェット 気 流 J1 に 一 致 している。<br />

図 2-2-2 ジェット 気 流 平 行 型 バウンダリー<br />

( 左 上 )モデル 図 . 陰 影 部 が 暗 域 、 白 い 部 分 が 明 域 、 点 彩 域 は 雲 域 を 含 む 明 域 を 示 す.<br />

太 線 :バウンダリー 細 矢 印 : 上 層 の 流 線 黒 三 角 :ジェット 軸<br />

( 右 上 )1998 年 10 月 15 日 00UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 水 蒸 気 画 像 ○ 印 :ジェット 気 流 平 行 型 バウンダリー<br />

19


(2) 傾 圧 リーフバウンダリー<br />

傾 圧 リーフバウンダリーは、ジェット 気 流 平 行<br />

型 バウンダリーのうち、 偏 西 風 帯 の 中 の 低 気 圧 の<br />

発 達 初 期 に 現 れる 木 の 葉 状 雲 域 (クラウドリーフ)<br />

の 極 側 のバウンダリーを 指 す。モデル 図 ( 図 2-2-3<br />

左 上 )にあるように、 低 気 圧 の 発 達 初 期 には 暖 湿<br />

な 気 流 である WCB(ウォームコンベヤベルト)<br />

により、トラフ 前 面 で 雲 域 がリーフパターンとな<br />

り、その 極 側 のバウンダリーはS 字 形 状 を 示 す。 一<br />

般 にS 字 形 状 を 示 す 明 域 が 極 側 に 膨 らんだ 境 界 付<br />

近 ではジェット 軸 に 一 致 するが、 赤 道 側 にへこん<br />

だ 境 界 付 近 はジェット 軸 と 平 行 でない 場 合 がある。<br />

図 2-2-3( 右 上 、 下 )に 傾 圧 リーフバウンダリー<br />

の 例 を 示 す。 日 本 付 近 に 発 生 期 の 低 気 圧 に 対 応 す<br />

る 木 の 葉 状 の 雲 域 があり、 極 側 縁 には 高 気 圧 性 曲<br />

率 を 持 つバウンダリー( 図 中 ○ 印 )がみられる。<br />

バウンダリーはほぼジェット 気 流 J2 に 一 致 して<br />

いる。この 例 では 近 接 して 別 系 のジェット 気 流 J3<br />

に 対 応 するジェット 気 流 平 行 型 バウンダリー( 図<br />

中 □ 印 )が 見 られる。なお、ジェット 気 流 J1 対 応<br />

のバウンダリーは 不 明 瞭 である。<br />

図 2-2-3 傾 圧 リーフバウンダリー<br />

( 左 上 )モデル 図 . 陰 影 部 が 暗 域 、 白 い 部 分 が 明 域 、 点 彩 域 は 雲 域 を 含 む 明 域 を 示 す.<br />

太 線 :バウンダリー 細 矢 印 : 上 層 の 流 線 黒 三 角 :ジェット 軸<br />

( 右 上 )1999 年 2 月 11 日 00UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 水 蒸 気 画 像 ○ 印 : 傾 圧 リーフバウンダリー □ 印 :ジェット 気 流 平 行 型 バウンダリー<br />

20


2.2.2 ブロッキングに 関 連 したバウンダリー<br />

このタイプのバウンダリーは、 上 層 の 比 較 的 弱<br />

風 域 内 において、 周 囲 の 風 と 反 対 方 向 の 風 の 場 を<br />

もつ 循 環 が 発 達 することにより 形 成 される。 周 囲<br />

の 風 を 拒 むような 循 環 場 が 形 成 されることから、<br />

ブロッキングの 状 態 を 表 すバウンダリーとして 分<br />

類 される。 循 環 場 の 成 因 から、 低 気 圧 の 形 成 に 関<br />

連 する「ヘッドバウンダリー」と、 高 気 圧 の 形 成<br />

に 関 連 する「インサイドバウンダリー」がある。<br />

(1)ヘッドバウンダリー<br />

ヘッドバウンダリーは 凸 状 の 明 域 と 周 囲 にある<br />

暗 域 との 境 界 で 形 成 される。バウンダリーの 動 き<br />

や 変 化 は 遅 い。このバウンダリーは 低 気 圧 に 伴 う<br />

総 観 スケールの 流 れにより 形 成 される。モデル 図<br />

( 図 2-2-4 左 上 )にあるように、 低 気 圧 により、<br />

下 層 から 湿 った 気 塊 が 上 昇 し、ヘッド 状 の 明 域 を<br />

形 成 する。 明 域 は 低 気 圧 に 伴 う 流 れと 低 気 圧 極 側<br />

の 高 気 圧 性 の 流 れへと 分 流 する。この 明 域 の 流 れ<br />

は 周 囲 の 乾 燥 した 西 風 にブロックされ、 境 界 で 下<br />

降 流 となる。 上 層 の 流 れの 場 でみると、 変 形 場 の<br />

伸 長 軸 に 沿 ってバウンダリーが 形 成 される。 詳 し<br />

くは 3.1 節 で 述 べる。<br />

ヘッドバウンダリーの 例 を 示 す( 図 2-2-4 右 上 、<br />

下 )。 朝 鮮 半 島 から 日 本 海 にかけ、バウンダリー( 図<br />

中 ○ 印 )がみられる。これは 九 州 北 部 付 近 にある<br />

上 層 渦 V の 低 気 圧 性 循 環 に 伴 う 東 風 と 大 陸 からの<br />

北 西 風 との 境 界 で 形 成 されたものである。 天 気 図<br />

だけからは 判 断 しにくい 上 層 の 低 気 圧 の 存 在 やそ<br />

のスケールが、バウンダリーを 通 して 容 易 に 推 定<br />

できる。<br />

図 2-2-4 ヘッドバウンダリー<br />

( 左 上 )モデル 図 . 陰 影 部 が 暗 域 、 白 い 部 分 が 明 域 を 示 す.<br />

太 線 :バウンダリー 細 矢 印 : 上 層 の 流 線 黒 三 角 :ジェット 軸<br />

( 右 上 )1999 年 4 月 10 日 12UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 水 蒸 気 画 像 ○ 印 :ヘッドバウンダリー<br />

21


(2)インサイドバウンダリー<br />

上 層 の 高 気 圧 による 沈 降 で 形 成 される 乾 燥 域 が<br />

広 がるとき、 上 流 側 の 上 層 トラフに 伴 う 比 較 的 湿<br />

った 流 れとの 間 で 境 界 を 形 成 する。 高 気 圧 性 循 環<br />

内 の 流 れで 形 成 されるこの 境 界 をインサイドバウ<br />

ンダリーと 呼 ぶ。モデル 図 ( 図 2-2-5 左 上 )にあ<br />

るように、バウンダリーは 上 流 側 に 向 かって 凸 状<br />

の 暗 域 と 周 囲 の 明 域 との 間 に 形 成 される。バウン<br />

ダリーの 動 きや 変 化 は 遅 い。インサイドバウンダ<br />

リーはブロッキング 高 気 圧 の 消 長 や 動 向 の 監 視 に<br />

利 用 できる。<br />

図 2-2-5( 右 上 、 下 )にインサイドバウンダリー<br />

の 例 を 示 す。 大 陸 には 東 経 125~130 度 線 に 沿 って<br />

南 北 に 伸 びた 上 層 リッジが 発 達 し、ジェット 気 流<br />

J2 が 大 きく 蛇 行 している。この 上 層 リッジに 対 応<br />

して、 日 本 海 西 部 には 不 明 瞭 ながら 上 層 の 高 気 圧<br />

H に 伴 う 高 気 圧 性 循 環 がみられ、 下 流 側 には 暗 域<br />

( 乾 燥 域 )が 広 がっている。この 上 層 の 高 気 圧 に<br />

伴 う 高 気 圧 性 の 流 れとその 上 流 側 にあるトラフ 前<br />

面 の 明 域 ( 湿 った 西 風 )との 間 にインサイドバウ<br />

ンダリー( 図 中 ○ 印 )が 形 成 されている。<br />

なお、 本 州 南 岸 から 日 本 の 東 にはベースサージ<br />

バウンダリー( 図 中 ● 印 :2.2.3 項 の(2) 参 照 )<br />

が 見 られる。<br />

図 2-2-5 インサイドバウンダリー<br />

( 左 上 )モデル 図 . 陰 影 部 が 暗 域 、 白 い 部 分 が 明 域 、 点 彩 域 は 雲 域 を 含 む 明 域 を 示 す.<br />

太 線 :バウンダリー 細 矢 印 : 上 層 の 流 線 黒 三 角 :ジェット 軸<br />

( 右 上 )1998 年 5 月 21 日 12UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 水 蒸 気 画 像 ○ 印 :インサイドバウンダリー ● 印 :ベースサージバウンダリー<br />

H: 上 層 高 気 圧 V: 上 層 渦<br />

22


2.2.3 サージを 示 すバウンダリー<br />

水 蒸 気 画 像 で、 暗 域 が 流 れに 沿 って 上 流 から 一<br />

気 に 押 し 寄 せてくるようにみえることをサージと<br />

呼 ぶ。この 暗 域 と 進 行 前 面 の 明 域 とで 形 成 される<br />

バウンダリーを「サージバウンダリー」と 呼 ぶ。<br />

サージバウンダリーは 変 形 域 の 存 在 を 示 唆 してい<br />

る。 詳 しくは 3.1 節 で 述 べる。<br />

サージバウンダリーには、 暗 域 が 東 側 に 向 かっ<br />

て 凸 状 に 広 がる「ドライサージバウンダリー」と<br />

暗 域 が 赤 道 側 に 向 かって 凸 状 に 広 がる「ベースサ<br />

ージバウンダリー」とがある。サージに 伴 うバウ<br />

ンダリーは、 上 層 に 乾 燥 した 気 塊 を 伴 うことによ<br />

り 対 流 活 動 を 助 長 したり 乱 気 流 を 伴 ったりするた<br />

め、 水 蒸 気 画 像 解 析 では 重 要 な 概 念 の 一 つである。<br />

「 系 に 相 対 的 な 流 線 」と 雲<br />

このコラムは、 主 として 小 倉 (2000)からの 引 用 である。<br />

大 気 の 流 れと 雲 の 関 係 を 見 る 際 には、 系 (じょう 乱 )に 相 対 的 な 流 れを 考 えると 理 解 しやすい。 付 図 (a)は<br />

中 緯 度 の 500hPa 等 圧 面 上 のトラフに 伴 う 流 線 ( 等 高 度 )を 示 しており、 流 れは 蛇 行 している。このトラフがあ<br />

る 速 度 で 東 進 しているとして、 各 地 点 の 風 速 からトラフの 移 動 速 度 を 差 し 引 いてトラフに 相 対 的 な 流 線 を 描 く<br />

と 付 図 (b)のようになる。この 流 線 は 付 図 (a)とは 違 ったものに 見 える。<br />

さらに 重 要 なことは、 大 気 中 の 運 動 は 3 次 元 的 に 起 こっており、ほとんどの 場 合 に 雲 は 上 昇 流 を 伴 って 発 生<br />

し、 下 降 流 に 伴 って 消 滅 していることである。したがって、 流 れと 雲 の 関 係 を 見 るためには、 付 図 (b)の 流 れ<br />

に 鉛 直 流 を 加 える 必 要 がある。 流 れが 上 昇 または 下 降 している 場 合 には 流 れは 等 圧 面 を 横 切 るから、 等 圧 面 天<br />

気 図 では 現 象 を 理 解 しにくい。その 点 で 等 温 位 面 上 で 断 熱 運 動 をしている 空 気 塊 の 流 線 解 析 を 行 うと 理 解 しや<br />

すくなる。 付 図 (c)は 適 当 な 等 温 位 面 上 で 3 次 元 的 な 流 れを 描 いたものである。トラフの 前 方 には 上 昇 流 のベ<br />

ルト(A-A’の 経 路 )が、 後 方 には 下 降 流 のベルト(D-D’の 経 路 )がある。これらをコンベヤーベルトと 呼 び、<br />

とくに A-A’は 南 方 に 発 し 暖 気 を 北 に 運 ぶので、ウォームコンベヤーベルト(WCB)と 呼 ばれ、 雲 をつくる 主<br />

要 な 気 流 である。 付 図 (c)ではトラフはトラフの 軸 上 の 風 速 と 同 じ 速 度 で 移 動 しているとして 図 を 描 いている<br />

が、 風 速 の 方 が 大 きいときには、ある 空 気 塊 は D-C-A’のようなトラフを 横 切 った 経 路 をとる。<br />

本 書 では、 付 図 (c)のような 3 次 元 的 な 流 れを 真 上 から 2 次 元 的 に 見 て 描 いたものを「 系 に 相 対 的 な 流 線 」<br />

と 呼 ぶ。 衛 星 画 像 を 動 画 にした 時 に 雲 境 界 や 湿 潤 境 界 で 見 られる 流 れは「 系 に 相 対 的 な 流 線 」に 沿 っている。<br />

( 池 田 博 文 )<br />

付 図 (a):500hPa の 等 圧 面 上 のトラフにおける 流 線<br />

(b):(a)からトラフの 移 動 速 度 を 差 し 引 いたトラフに 相 対 的 な 流 線<br />

(c): 移 動 中 のトラフに 相 対 的 な 等 温 位 面 上 の 流 れを 鳥 瞰 図 的 に 示 したもの( 小 倉 、2000)<br />

23


(1)ドライサージバウンダリー<br />

ドライサージバウンダリーは、 下 降 流 の 発 達 に<br />

よる 急 速 な 暗 化 により 形 成 される。 下 降 流 を 発 達<br />

させる 要 因 としては、 上 ・ 中 層 の 寒 気 移 流 、ジェッ<br />

トコア 下 流 における 減 速 、 発 達 した 低 気 圧 後 面 で<br />

の 沈 降 などがある。こうした 下 降 流 に 伴 う 暗 域 は、<br />

前 面 の 低 気 圧 システムに 伴 う 雲 域 との 間 に 明 瞭 な<br />

境 界 を 形 成 する。この 境 界 はドライサージバウン<br />

ダリーと 呼 ばれる。モデル 図 ( 図 2-2-6 左 上 )に<br />

あるように、バウンダリーは 下 流 に 向 かって 凸 状<br />

となり、 速 い 速 度 で 動 く。<br />

ドライサージバウンダリーでは、 上 層 の 乾 燥 気<br />

塊 が 流 入 し 対 流 不 安 定 が 強 化 される。 下 層 に 暖 湿<br />

な 気 塊 が 存 在 するとき、このバウンダリー 付 近 で<br />

は 対 流 雲 が 発 達 する 場 合 があるので 注 意 が 必 要 で<br />

ある。<br />

図 2-2-6( 下 )にドライサージバウンダリーの 例<br />

を 示 す。 大 陸 から 南 東 進 する 暗 域 の 先 端 が、 三 陸 沖<br />

にある 発 達 中 の 低 気 圧 の 雲 域 後 面 でバウンダリー<br />

を 形 成 している。この 暗 域 は 乾 燥 した 寒 気 に 対 応<br />

し、 暗 化 しながら 速 い 速 度 で 南 東 進 しており、 低 気<br />

圧 後 面 での 下 降 流 が 強 いことを 表 している。<br />

300hPa 天 気 図 ( 図 2-2-6 右 上 )ではバウンダリ<br />

ーの 上 流 にはジェット 気 流 J4 に 伴 うジェットコ<br />

アが 見 られ、 暗 域 付 近 は 減 速 場 となっている。<br />

図 2-2-6 ドライサージバウンダリー<br />

( 左 上 )モデル 図 . 陰 影 部 が 暗 域 、 白 い 部 分 が 明 域 、 点 彩 域 は 雲 域 を 含 む 明 域 を 示 す.<br />

太 線 :バウンダリー 細 矢 印 : 上 層 の 流 線 黒 三 角 :ジェット 軸<br />

( 右 上 )1998 年 12 月 26 日 00UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2、J3、J4:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 水 蒸 気 画 像 ○ 印 :ドライサージバウンダリー<br />

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(2)ベースサージバウンダリー<br />

ベースサージバウンダリーは、 上 層 リッジの 強<br />

まりによりリッジ 東 側 で 北 風 成 分 が 増 大 し、 乾 燥<br />

気 塊 が 南 下 して 赤 道 側 の 湿 潤 気 塊 との 間 に 形 成 さ<br />

れる。 当 初 バウンダリーは 幅 の 狭 い 帯 状 の 形 態 を<br />

示 すが、 上 層 リッジの 強 化 に 対 応 してモデル 図 ( 図<br />

2-2-7 左 上 )にあるように、 乾 燥 域 ( 暗 域 )が 南 下 、<br />

拡 大 する。ベースサージバウンダリーは、ITCZ<br />

付 近 まで 南 下 して 対 流 活 動 を 活 発 化 させるなど、<br />

特 に 熱 帯 域 では 対 流 システムの 発 生 ・ 発 達 にこの<br />

バウンダリーの 監 視 は 重 要 である。<br />

図 2-2-7( 右 上 、 下 )にベースサージバウンダリ<br />

ーの 例 を 示 す。 東 経 110~120 度 付 近 で 発 達 した 上<br />

層 リッジから 南 下 する 乾 燥 気 塊 ( 暗 域 )が、その 南<br />

にある 湿 潤 気 塊 ( 明 域 )との 間 にベースサージバ<br />

ウンダリーを 形 成 している。また、バウンダリー<br />

の 上 流 にはジェット 気 流 J1 が 見 られ、 暗 域 は 減 速<br />

場 となっている。<br />

図 2-2-7 ベースサージバウンダリー<br />

( 左 上 )モデル 図 . 陰 影 部 が 暗 域 、 白 い 部 分 が 明 域 、 点 彩 域 は 雲 域 を 含 む 明 域 を 示 す.<br />

太 線 :バウンダリー 細 矢 印 : 上 層 の 流 線 黒 三 角 :ジェット 軸<br />

( 右 上 )1998 年 9 月 16 日 00UTC の 300hPa 天 気 図 矢 印 J1、J2:ジェット 気 流<br />

( 下 ) 同 水 蒸 気 画 像 ○ 印 :ベースサージバウンダリー<br />

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衛 星 画 像 と 変 形 域<br />

衛 星 画 像 では、 変 形 域 は 雲 境 界 や 湿 潤 境 界 として 明 瞭 に 現 れることがある。<br />

付 図 (a)は 静 止 またはゆっくり 動 いている 系 における 単 純 な 変 形 域 を 示 している。 変 形 域 の D1、D2( 陰<br />

影 部 )では、 空 気 塊 は 一 方 向 へ 収 縮 するとともに、 直 交 方 向 へ 伸 長 する。D1 では 東 西 方 向 が 伸 長 軸 、 南 北 方<br />

向 が 収 縮 軸 、D2 ではそれぞれ 収 縮 軸 、 伸 長 軸 になる。<br />

付 図 (b)は、(a)に 一 様 な 西 風 を 加 えたものである。これは、(a)のパターンが 一 様 な 西 風 によって 東 に<br />

移 動 していることに 相 当 する。(a)では 変 形 域 だった D1、D2 が、(b)ではそれぞれ 合 流 場 及 び 分 流 場 とな<br />

る。 逆 に 言 えば、 合 流 場 や 分 流 場 は、 変 形 に 一 様 な 風 が 加 わったものと 見 ることができる。<br />

付 図 (a)では、 低 気 圧 に 正 の 渦 度 、 高 気 圧 に 負 の 渦 度 が 対 応 する。この 渦 度 パターンは、 一 様 な 西 風 を 加<br />

えた(b)でも 変 わらないので、(a)の 実 線 は(b)における 渦 度 の 等 値 線 でもある。<br />

付 図 (a)の D1 と D2 には、それぞれの 図 3-1-4(31 ページ) の D1 と D2 が 対 応 し、 付 図 (b)では、D1<br />

の 下 流 側 の 合 流 による 強 風 に 図 3-1-4 のジェットコア A、B が 対 応 すると 見 ることができる。 実 際 の 風 の 分<br />

布 はこのような、 変 形 に 一 様 な 風 が 加 わるというような 単 純 なものではないが( 注 )、 図 3-1-4 のような 雲 パ<br />

ターンが 出 現 している 時 には、 逆 にこの 雲 パターンから 変 形 を 推 定 できる。<br />

注 : 風 の 場 は、 回 転 ( 渦 度 )、 収 束 、 変 形 及 び 併 進 運 動 ( 一 様 な 風 )で 表 すことができる。<br />

( 池 田 博 文 )<br />

付 図 変 形 域 (Badar et al., 1995)<br />

(a) 静 止 またはゆっくり 動 いている 系<br />

実 線 : 等 圧 線 H: 高 気 圧 中 心 L: 低 気 圧 中 心 矢 印 : 流 れ<br />

(b) 動 いている 系<br />

実 線 : 渦 度 パターン X: 正 渦 度 中 心 N: 負 渦 度 中 心<br />

矢 印 : 流 れ((a)の 流 れに 系 の 移 動 速 度 を 加 えたもの)<br />

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