当日配布資料 - 東北学院大学土樋情報処理センター

東北学院大学オープン・リサーチ・センター2010 年度合同研究会 2010 年 8 月 26 日
1,はじめに
カルケドン裁判考
1-1 本報告の背景:4 世紀のローマ帝国政治史
・アウグストゥスの帝政樹立以来皇帝の権力基盤は第一に軍団
政治史の様々な場面で軍団・武官の影響力が重視
・コンスタンティヌス以来の民政・軍政分離
⇒政治史において文官と武官の対立という観念が登場
小坂俊介
東北大学博士課程後期 1 年・日本学術振興会特別研究員(DC1)
1-2 本報告の検討対象:カルケドン裁判
・カルケドン裁判:361 年末~362 年初頭にかけて開催された裁判
360 年「背教者」ユリアヌスの正帝僭称⇒コンスタンティウス 2 世との対立
しかし 361 年 11 月コンスタンティウス 2 世が病死,ユリアヌスを後継者に指名
ユリアヌスの単独支配開始直後にカルケドン市で裁判開催
コンスタンティウス 2 世の側近の多数が処罰を受ける
・カルケドン裁判をとりあげる理由
①軍団・武官の影響力重視の事例としてとりあげられてきた
②ユリアヌス帝支配の特殊性の一端を解明することにつながる
1-3 本報告の目的
・カルケドン裁判に軍団の影響力を見出すことは難しいことを主張
・地方の有力者がカルケドン裁判の判決に影響を与えたことを示す
shunsuke@sal.tohoku.ac.jp
2,先行研究と批判的検討:武官と文官の対立?
2-1 先行研究におけるカルケドン裁判の位置づけ=政権交代に伴う政治的粛正の場
Thompson,1947:武官主導の判決
カルケドン裁判で告発されたのはほとんどが文官(表 1)裁判官の過半数は武官(表 2)
ウルスルスは冤罪(史料 1下線部;史料 2下線部)
アルビティオの主導を強調(史料 1 波下線部)⇒Matthews,1989 が賛同
Kaegi,1966:Thompson 説の発展,ユリアヌスの関与を認める
ユリアヌスは東部軍団の支持を得るため判決を黙認
⇒Blockley,1972; Browning,1975; Bowersock,1978; Hunt,1998b; Tougher,2007 など
特にBowersock:「権力が所有者を代えるときの常として加えねばならない復讐」
「カルケドンの法廷は軍事法廷であり…軍の決議を代弁するもの」(新田訳)
1

・先行研究の背景:コンスタンティウス 2 世支配期=文官が台頭という考え
宦官エウセビオス,書記官パウルスの権勢(表 1 参照)
警察官吏 agentes in rebus の隆盛(cf.浦野,1991)
⇒武官の影響力低下,不満が醸成されたとされる
○先行研究の想定である軍団の大きな影響力,またその前提となる文武の対立は実際に
存在したのだろうか?⇒次節から検討
2-2 武官と文官の対立?①コンスタンティウス 2 世支配下の武官と文官
・コンスタンティウス 2 世支配期の武官と文官…必ずしも対立していたわけではない
Ex)355 年歩兵軍団長シルヴァヌスに反乱の疑い
⇒フローレンティウス(表 1:当時警察官吏)が容疑晴らす(史料 3)
・騎兵軍団長アルビティオに文官と対立する要素は見られない
むしろその経歴からはカルケドン裁判での被告らとの協力が見える
Ex)354 年エウセビウスとともにガッルス指揮下の兵士らを審問(史料 4)
・359 年以来コンスタンティウス 2 世は対ペルシア戦に従事(cf.Blockley,1980)
コンスタンティウス 2 世は東部戦線で軍団と共に駐屯
⇒東部の武官らとは緊密な関係保つ
∴コンスタンティウス 2 世下で武官の不満が醸成された可能性は低い
2-3 武官と文官の対立?②ウルスルスは冤罪?
・先行研究:ウルスルスの冤罪=過去の発言に対する軍団の復讐とみなす(史料 5)
・ウルスルス処刑に関するアンミアヌス史料(史料 1下線部)
←なぜカルケドン裁判まで告発されなかったのかが説明できない
・ウルスルス冤罪の根拠=娘への財産分与許可(史料 2下線部)
しかし後期ローマ帝国においては有罪宣告後の財産一部分与が法制化(史料 6)
⇒ウルスルス冤罪の根拠とはならない
・ウルスルスの罪状:軍団への下賜金横領(史料 2下線部)
⇒ウルスルスの官職にも合致(帝室財務長官 comes sacrarum largitionum:下賜金を扱う)
2-4 小括
・先行研究が想定する文武の対立という可能性⇒低い
武官に彼らを告発する理由なし⇒軍団が判決に影響を与えたと想定する必要はない
・先行研究で言及される他の論点について検討(レジュメ 2-5,2-6 節)
2-5 ガッルス処刑に対する復讐?(史料 1・2 二重下線部)
・ガッルス:ユリアヌスの兄
コンスタンティウス 2 世によって副帝とされるが 354 年処刑
・多くの先行研究がこの理由を挙げるがペンタディウスの無罪が難点
2

2-6 内乱中断の影響?
・コンスタンティウス 2 世とユリアヌスとの内戦:前者の死去によって衝突回避
⇒新たな支配に禍根を残さないための権力者粛清?(Bowersock,1978)
Ex)コンスタンティヌスとリキニウスの内戦,後者の二度の敗北
⇒二度とも副帝処刑(cf.Barnes,1981)
・しかしカルケドン裁判で告発されなかった前政権の有力者も存在
Ex) ドミティウス=モデストゥス Domitius Modestus
358-362 年オリエンス総監(comes Orientis)
→362-363 年コンスタンティノポリス首都長官(praefectus urbis Constantinopolitanae)
⇒告発された人々と彼らとの違いを考慮に入れる必要あり
2-7 小括
・先行研究による説明では不十分な点が多数存在
・告発の有無を分けた点は何か?⇒次章で考察
3,カルケドン裁判の背景
3-1 被告らの「不正」
・エウナピオス史料(史料 7)に着目:「不正」に対する処罰だったことを示唆
←先行研究にも言及されるがエウセビウス・パウルスのみに適用(e.g.Bowersock,1975)
他の人物らについて検討せず
⇒検討の余地あり
・処刑された 5 人中 4 人に地方からの収奪行為が確認できる
エウセビウス:属州の有力者に対する不当な濫訴(史料 8)
パウルス:コリント都市参事会員アリストファネスに対する拷問(史料 9)
スキュトポリスにおける反逆罪審理での濫訴(史料 10)
ウルスルス:シリア属州総督トリュフォニアヌスの財産没収(史料 11)
フローレンティウス:ガリアでの公金横領,属州民からの告発(史料 12)
⇒被害者にとっては「不正」そのもの
地方民は彼らに対し怨恨を抱いていたはず
3-2 告発理由と告発の主体
・前節での検討より:告発理由は彼らの「不正」,告発者は被害者である地方民?
・属州民だけでは官職保持者に対する告発は困難
裁判にかかる多額の費用,時間の長さ(cf.長谷川,2009)
⇒属州民は彼らのパトロンである有力者に救済を依頼
Ex)史料 11:トリュフォニアヌスの救済をオリエンス総監モデストゥス(レジュメ 2-6 節参照)
に依頼する書簡
3

・地方有力者にとっても官職保持者に対する告発は困難
後期ローマ帝国の支配体制:いわゆる「官僚制」
地方に干渉する官職保持者らの活動は皇帝権力によって正統性を保証される
⇒「不正」はあくまで被害者にとっての「不正」
権力者に認められた特権・帝国に対する奉仕の見返り(cf.浦野,1991etc.)
しかしユリアヌスの登位によって大きく状況が変化
3-3 ユリアヌス支配期の地方有力者:異教徒哲学者
・ユリアヌスと地方との直接のつながり=異教徒哲学者の存在
ユリアヌス:青年期を東部諸属州で遊学しつつ過ごす(cf.Bowersock,1978)
異教徒哲学者:ユリアヌスの学友,教師としての役割がもっぱら強調(e.g.Smith,1995)
しかし彼らは同時に地方の名望家,都市参事会員身分の出身(史料 13)
地方名望家:地方権益の代弁者,パトロンとして活動(cf.Liebeschuetz,1972)
Ex)ユリアヌスに招聘されたマクシモスに対する,地方有力者・民衆の働きかけ(史料 14)
・ユリアヌスの側近となった異教徒哲学者:東部出身・在住が多数
Ex)リバニオス(アンティオキア出身・在住)オレイバシオス(ペルガモン出身)
マクシモス(ペルガモン在住)
エウセビウス・パウルス・ウルスルス:東部地方民・有力者と対立
⇒東部の地方民らはパトロンである有力者=哲学者に働きかけ
・哲学者らは地方名望家の一員として,直接中央に働きかけが可能に(cf.史料 9)
⇒敵対する官職保持者らの告発が可能に
3-4 小括
・告発理由:官職保持者たちの「不正」
・告発主体:被害をこうむっていた地方民とその代弁者たる異教徒哲学者たち
・告発の背景:ユリアヌスの登位による中央と地方との直接対話が実現
⇒コンスタンティウス 2 世期には不可能だった官職保持者の告発可能に
4,おわりに:ユリアヌス帝の支配構造の特色
4-1 これまでのまとめ
・カルケドン裁判の特徴:先行研究は武官と文官の対立とみなす
しかしその実態は官職保持者の不法行為に対する処罰
=彼らによって不利益を被っていた地方名望家に有利な判決
・ユリアヌスの登位:他の皇帝は持たなかった地方権力者との直接のつながり
⇒地方民による官職保持者に対する告発可能に
4

4-2 ユリアヌス支配の特徴
・先行研究:ユリアヌス支配の特徴=都市の復興
ユリアヌスのヘレニズム精神に由来(Athanasiadi,1981)
←近年の研究発展は都市復興をユリアヌスのみならず後期ローマ帝国の諸皇帝全員に
共通する要素とみなす(cf.Tougher,2007)
⇒ヘレニズム精神の有無は都市復興政策の説明とはならない
・カルケドン裁判はその規模において類を見ない事例(表 3)
⇒ユリアヌスと他の皇帝との違いは何だったのか?
・ユリアヌスを除く 4 世紀の諸皇帝=全員が武官経歴 or 宮廷で成長し帝位継承
Ex)コンスタンティヌス:ディオクレティアヌス,ガレリウスのもと武官として活躍
コンスタンティウス 2 世:宮廷で成長し父親の死後帝位世襲
テオドシウス:ウァレンティニアヌスのもと武官として活躍
⇒地方有力者との人脈なし,地方との接触には官職保持者の仲介はさむ
・ユリアヌスは副帝任命以前の公職経歴なし
東部遊学の過程で多くの哲学者たちと交流
⇒地方有力者との人脈形成,のちに側近として招聘
4-3 これからの展望
・コンスタンティウス 2 世期の支配構造・政治史の解明
後期ローマ帝国支配構造の確立に重要な役割を果たしたと考えられている
しかし研究は少なく包括的な検討が求められている
・アンミアヌス史料の再検討
近年アンミアヌス叙述の信頼性に対する疑問提出(Barns,1998; Kelly,2008)
アンミアヌス史料に依拠してきた政治史の再考必要に
・ユリアヌス期の支配構造解明
異教徒哲学者が果たした地方の利害代弁者としての役割に着目すべき
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東北学院大学オープン・リサーチ・センター2010 年度合同研究会 2010 年 8 月 26 日
表 1:カルケドン裁判における被告の経歴一覧
名前 判決 官職経歴(ゴシック体は武官を示す)
Apodemius 火刑 警察官吏(354-55)
Cyrinus 追放刑 書記官(361 以前)
Evagrius 追放刑 帝室財産管理長官(360-61)
Eusebius 処刑 寝室長(337-361)
Florentius 追放刑 前官房長官付き警察官吏(355)→官房長官(358-61)
小坂報告 参考資料
Flavius Florentius 処刑 近侍(345)→ガリア道長官(357-360)→イリュリクム道長官(360-61)→コンスル(361)
Palladius 追放刑 書記官(350)→官房長官(351/4)
Paulus”Catena” 火刑 書記官(353-61)
Pentadius 無罪 書記官(354)→官房長官(358-60)
Flavius Saturuninus
Taurus
追放刑 軍勤務(350)→軍馬徴発係官(361 以前)→野戦機動軍指揮総監(373)
→騎兵軍団長(377-78)→騎兵・歩兵両軍団長(382-83)→コンスル(383)
追放刑 書記官→第一級の近侍(345)→法制長官(354)→イタリア・アフリカ道長官(355-61)
→コンスル(361)
Ursulus 処刑 帝室財務長官(355-61)
表 2:カルケドン裁判における裁判官の経歴一覧
名前 官職経歴(ゴシック体は武官を示す)
Secundus Salutius
属州アクィターニア長官→起草局長→第一級の近侍→アフリカ属州総督
→枢密院における第一級の近侍にして財務官→オリエンス道長官(361-65)
Claudius Mamertinus 帝室財務長官(361)→イタリア・アフリカ・イリュリクム道長官(361-64)→コンスル(362)
Flavius Arbitio 軍団兵→方面軍団長→騎兵軍団長(351)→コンスル(355)→騎兵軍団長(-361)
Agilo 軍馬徴発隊長(354)→属州兵並びに盾近衛兵隊長(354/360)→歩兵軍団長(360-62)
Flavius Nevitta 隊長(358)→騎兵軍団長(361-63/64)→コンスル(362)
Flavius Iovinus 騎兵軍団長(361-9)
表 3:4 世紀の官職保持者処罰事例
名前 年代 官職 処罰事由 典拠
Abellius 306 ローマ首都代官 マクセンティウス反乱に反対し殺害 Zos.II.9.3.
Martinianus 324 官房長官 リキニウスに与しコンスタンティヌスにより処刑 Aur.Vict.Caes.41.9.
Fl.Ablabius 337/8 道長官 コンスタンティウス 2 世帝により処刑 Eun.V.Soph.VI 3.10.
Ambrosius 340 道長官 コンスタンティヌス 2 世治下で処刑? Paulin.V.Amb.II.4.
Fl.Philippus 348 道長官 マグネンティウスに捕縛されたまま死亡 Athan.Hist.Ar.7.
Nunechius 350 道長官 簒奪者マグネンティウスに与しその後捕縛 Petr.Patr.fr.16.
1

Martinus 353/4 ブリタニア代官 鎖のパウルス殺害を試みるも失敗し自殺 Amm.Marc.XIV.5.7-8.
Domitianus 353/4 道長官 ガッルス帝治下で民衆暴動により暴行死 Amm.Marc.XIV.7.9-11.16.
Montius Magnus 353/4 法制長官 ガッルス帝下で軍団兵により暴行死 Amm.Marc.XIV.7.12-18.
Rufinus 356/7 下僚団主席 濫訴と姦通の罪により処刑 Amm.Marc.XVI.8.3-6.
Domnus 359 下僚団主席 告発されるがリバニオスは潔白とする Lib.Ep.363.
Spectatus 361 将校にして
書記官
公に不名誉を受け退職 Lib.Ep.618.
Iulianus 362 ローマ首都代官 コンスタンティウス 2 世への叛乱,処刑 Amm.Marc.XXII.11.1
Paulus “Catena” 362 書記官 カルケドン裁判で処刑 Amm.Marc.XXII.3.
Fl.Taurus 362 道長官 カルケドン裁判で追放 Amm.Marc.XXII.3.
Fl.Florentius 362 道長官 カルケドン裁判で処刑宣告されるも逃亡 Amm.Marc.XXII.3.
Florentius 362 官房長官 カルケドン裁判で追放 Amm.Marc.XXII.3.
Palladius 362 官房長官 カルケドン裁判で追放 Amm.Marc.XXII.3.
Pentadius 362 官房長官 カルケドン裁判で告発されるも無罪 Amm.Marc.XXII.3.
Eusebius 362 寝室長 カルケドン裁判で処刑 Amm.Marc.XXII.3.
Evagrius 362 帝室財産管理長官 カルケドン裁判で追放 Amm.Marc.XXII.3.
Apodemius 362 警察官吏 カルケドン裁判で処刑 Amm.Marc.XXII.3.
Gaudentius 362 書記官 ユリアヌス帝に反抗したため処刑 Amm.Marc.XXII.11.1.
Rhodanus 364 寝室長 ウァレンティニアヌス帝下で不正を告発され処刑 Eun.fr.30.
Cl.Mamertinus 365 道長官 横領を告発され失脚 Amm.Marc.XXVII.7.1.
Caesarius 365 首都長官 プロコピウスに反抗したため監禁される Amm.Marc.XXVI 7.4.
Diocles 365? 元イリュリクム
財務長官
違法行為,あるいは職務上の過失のため処刑 Amm.Marc.XXVII 7.5.
Diodorus 365? 元警察官吏 総監への命令不服従のため処刑される Amm.Marc.XXVII.7.5.
Araxius 365/6 道長官
Andronicus 365/6 トラキア代官
簒奪者プロコピウスに与したため追放されるが
まもなく許される
プロコピウスに与しその後ヴァレンス帝に
より処刑され財産没収
Amm.Marc.XXVI.10.7.
Lib.Or.LXII. 58-60.
Eugenius 365~ 簒奪者プロコピウスを支持したため宮廷より追放 Zos.IV.5.3-4.
Iul.Fest.Hymetius 368 アフリカ総督 飢饉の際詐欺行為を働いたとして罰せられる Amm.Marc.XXVIII.1.17-8.
同人 370/1 引退後 反逆罪のかどでダルマティアへと追放 Amm.Marc.XXVIII.1.19-23.
Fl.Hypatius 371 首都代官 アンティオキアで反逆罪を告発され追放 Amm.Marc.XXIX.2.9-16.
Anatolius 371 宮廷官吏 アンティオキアで横領を告発される Amm.Marc.XXIX.1.5.
Spudasius 371 宮廷官吏 アンティオキアで横領を告発される Amm.Marc.XXIX.1.5.
Euserius 371 アシア代官 アンティオキアで反逆罪を告発され処刑
Alypius 371/2 元ブリタニア代官 息子とともに魔術使用を告発され財産を
没収され追放,しかしすぐ許される
2
Amm.Marc.XXIX.1.9.10.;
34-5.:38.
Amm.Marc.XXIX.1.44.

Palladius 373~ 書記官 引退後告発され召喚されるも自殺 Amm.Marc.XXVIII.6.26-7.
Remigius 374/5 官房長官 引退後違法行為を告発され自殺 Amm.Marc.XXX.2.11-12.
Marcellus 374/5 警察官吏 ローマで反逆罪を告発され処刑 Amm.Marc.XXVIII.1.44-5.
Faustinus 375 書記官 魔術使用と反逆罪に問われ処刑 Amm.Marc.XXX.5.11-12.
Aginatius 375 ローマ首都代官 引退後姦通と魔術使用を告発され処刑 Amm.Marc.XXVIII.1.50-6
Flavius Simplicius 375 ローマ首都代官 処刑 Amm.Marc.XXVIII.1.57.
Doryphorianus 375/6 ローマ首都代官 処刑 同上
Macedonius 384 官房長官
グラティアヌス帝死後告発され教会へ逃亡するも
逮捕.しかし裁判を逃れる
Paulin.V.Amb.37.;
Symm.Rel.36.
Calligonus 386~ 寝室長 不品行により処刑 Aug.c.Iul.Pel.VI.14.41.
Alexander 387/8 将校にして書記官 簒奪者マグヌス=マクシムスに仕え後に解任 Symm.Ep.v 39.
Eusebius 388 官房長官 反逆罪で告発されるも無罪 Lib.Ep.844.
Gessius 388 ? 官職引退後占い行為を告発され処刑 Palladas, Anth.Gr.VII.
Fl.Eutolmius
Tatianus
Proculus6 392 首都長官
392 道長官 ルフィヌスの策謀により失脚,追放 Zos.IV.52, Eun.fr.59.
Fl.Eutolmius Tatianus の息子.父親の失脚時
共に逃亡するが帰還,処刑
Zos.IV.52.
Lucianus 393 オリエンス総監 道長官ルフィヌスにより殺害 Zos.v.2.1-4.
Virius Nicomachus
Flavianus
394 道長官
Flavius Rufinus 395 道長官
Aurelianus 399 道長官
簒奪者エウゲニウスに与しその死後自殺を
強要される
アルカディウス帝の宮廷で権力を振るい暗殺
死後多数の告発受ける
ガイナスと敵対し財産没収なしの追放.しかしす
ぐに復帰
Soz.VII.22;Ruf.HE.II.33.
Zos.V.1.
Zos.V.18.
※表 1,2,3 は Jones and Morris,1971 を参考に作成.表 3 は同書巻末 Fasti を参考に各項目より作成し,処罰された年代順に名
前,処罰された時点で当該人物が任ぜられていた官職,告発・処罰理由,その典拠となる史料を示した.抽出対象として
はディオクレティアヌス帝,コンスタンティヌス帝以降新設されたとされるいわゆる帝国官吏に絞り,Fasti 中の Praefecti
praetorio, Magistri Officiorum, Quaestores Sacri Palatii, Res Privata, Comites Rei Privatae, Res Privata (diocesan), Res Privata
(provincial), Palatini Rerum Privatarum, Summa Res(central)260-340, Comites Sacrarum Largitionum, Financial (diocesan), Palatini
Sacrarum Largitionum, Praepositi Sacri Cubicli Primicerii Sacri Cubiculi, Castrenses Sacri Palatii, Cubicularii and Castrensiani, other
Palatini, Primicerii Notariorum, Notarii, Agentes In Rebus,Vicarii Urbis Romae, Vicarii of the PUR, Vicarii Italiae, Vicarii Africae,
Vicarii Hispaniarum, Vicarii Britanniarum, Vicarii (in Gaul), Vicarii Macedoniae, Vicarii Thraciarum, Vicarii Asiae, Vicarii Ponticae,
Comites Orientis に名の挙がる人々を対象とした.
3

史料 1,アンミアヌス=マルケリヌス『歴史』第 22 巻第 3 章 3 節
1, Breui deinde Secundo Salutio promoto praefecto praetorio summam quaestionum agitandarum ut fido commisit
Mamertino et Arbitione et Agilone atque Neuitta adiunctis itidem que Iouino magistro equitum per Illyricum recens
prouecto. 2, qui omnes transgressi Calchedona | praesentibus Iouianorum Herculianorum que principiis et tribunis |
causas uehementius aequo bono que spectauerunt praeter paucas, ubi ueritas reos nocentissimos offerebat.3, et
Palladium primum ex magistro officiorum in Britannos exterminarunt suspicione tenus insimulatum | quaedam in
Gallum composuisse apud Constantium, dum sub eodem Caesare officiorum esset magister.4, dein Taurum ex
praefecto praetorio in exsilium egere Vercellum, cuius factum apud iudices iustorum iniustorum que distinctores
uideri potuit uenia dignum. quid enim deliquit, si ortum turbinem ueritus ad tutelam principis sui confugit? et acta
super eo gesta non sine magno legebantur horrore, cum id uoluminis publici contineret exordium: "consulatu Tauri
et Florenti inducto sub praeconibus Tauro".5, ad exitium itidem tale Pentadius trahebatur, cui id obiectum est, quod
a Constantio missus notis excepit, quae propinquante pernicie super multis interrogatus responderat Gallus. 6,sed
cum se iuste defenderet, tandem abiit innoxius. iniquitate simili Florentius tunc magister officiorum, Nigriniani
filius, contrusus est in insulam Delmatiae Boas. alter enim Florentius, ex praefecto praetorio consul etiamtum,
rerum mutatione subita territus cum coniuge periculis exemptus diu delituit nec redire ante mortem potuit Iuliani;
capitis crimine tamen damnatus est absens. 7, pari sorte Euagrius comes rei priuatae et Saturninus ex cura palatii et
Cyrinus ex notario portati sunt in exsilium. Vrsuli uero necem largitionum comitis ipsa mihi uidetur flesse Iustitia
imperatorem arguens ut ingratum. cum enim Caesar in partes mitteretur occiduas omni tenacitate stringendus nulla
que potestate militi quidquam donandi delata, ut pateret ad motus asperiores exercitus, hic idem Vrsulus datis
litteris ad eum, qui Gallicanos tuebatur thesauros, quidquid posceret Caesar, | procul dubio cesserat dari. 8, quo
exstincto cum maledictis exsecrationi que multorum se Iulianus sentiret expositum, impurgabile crimen excusari
posse existimans absque conscientia sua hominem affirmabat occisum praetendens, quod eum militaris ira deleuit
memor, quae dixerat, ut ante rettulimus, cum Amidam uidisset excisam. 9, ideo que timidus uidebatur uel parum
intellegens, quid conueniret, cum Arbitionem semper ambiguum et praetumidum his quaestionibus praefecisset,
aliis specie tenus cum principiis legionum praesentibus, quem primum omnium saluti suae norat obiectum, ut
decuit uictoriarum ciuilium participem fortem. 10, Et quamquam haec, quae rettulimus, eius displicuere fautoribus,
| sequentia tamen seueritatis recto uigore sunt gesta. 11, Apodemium enim ex agente in rebus, quem in Siluani
necem et Galli effrenatius arsisse docuimus, Paulum que notarium cognomento Catenam cum multorum gemitu
nominandum uiuos exustos, qui sperari debuit, oppressit euentus. 12, Eusebium super his, cui erat Constantiani
thalami cura commissa, alte spirantem addixere et dirum poenae letali, quem ab ima sorte ad usque iubendum
imperatoria paene elatum ideo que intolerabilem humanorum spectatrix Adrastia aurem, quod dicitur, uellens
monens que, ut castigatius uiueret, reluctantem praecipitem tamquam e rupe quadam egit excelsa.
1,さて(ユリアヌスは)セクンドゥス=サルティウスを道長官に昇進させた後,私が信じるところ,開催
された法廷の最高位を彼に委ねた.ユリアヌスはその裁判官として,マメルティヌス,アルビティオ,
アギロ,ネウィッタ,また同じくその頃にイリュリクム騎兵軍司令官に昇進したヨウィヌスをも加えた.
2,彼らは皆,ヨウィアニ・ヘルクリアニ両軍団の主席と隊長らが管理していたカルケドンへと渡った.正
義が被告の罪深さを示したので,わずかな例外はあったが,非常に厳格な彼らがそれらの訴訟を公正に
また誠実に吟味した.3,まず元官房長官のパッラディウスがブリタニアへと追放された.彼は副帝ガッル
4

スの官房長官だったが,副帝とコンスタンティウス 2 世と敵対させた疑いから告発されたのだ.4,次い
で元道長官タウルスがウェルケルムに追放された.正と不正を見分ける裁判官の前での彼の適切な行動
が,彼らの好意を獲得したのだ.彼は罪を犯していたのに,混乱が始まったことにおびえて,皇帝の保
護へ逃れたのだろうか.公文書の書き出しが彼の行為と業績をまとめていたが,それが読み上げられた
とき,恐れおののいたに違いない.「タウルスとフローレンティウスがコーンスルの年,タウルスが執達
吏により呼び出され…」5,同じく前述のペンタディウスにも破滅が迫っていた.コンスタンティウス 2
世が彼を派遣してガッルスを審問させ,迫りくる破滅に対するガッルスの弁明を書き留めたために彼は
告発されたのだ.しかし彼は正当に主張したので,結局無罪で済んだ.6,ニグリニアヌスの息子であり
当時官房長官だったフローレンティウスは,不当にも属州ダルマティアのボアス島に追放された.名前
を同じくするもう一人のフローレンティウスは,その頃元道長官にしてコーンスルだった.しかし彼は
突然の状況の変化を恐れたのか,訴訟を欠席して妻とともにずっと隠れており,ユリアヌス帝の死去ま
で戻ることができなかった.しかしながら欠席者には死刑判決が下された.7,同じように帝室財産管理
長官エウァグリウス,元軍馬徴発係官サトゥルニヌス,元書記官キュリヌスらが追放刑に処された.そ
の一方で帝室財務長官ウルスルスの刑死については,ユスティティア女神が恩を忘れた皇帝(ユリアヌ
ス)を非難し,嘆いていたように思える.というのも,副帝(ユリアヌス)が西部へ派遣されたころ,
彼はあらゆる強情さに厳しく束縛され,軍事の命令権も与えられていなかった.さらに軍団兵は下賜金
を与えられなかったため,彼らはより深刻な動きを見せるかに思われたのである.だがこうした状況下
でウルスルスはある人物,すなわちガリアの国庫管理者に,副帝が欲するあらゆるものを世話するよう
指示する書状をしたためたので,間違いなく危険は遠ざかったのだった.8,(ウルスルスの)殺害を非
難されて多くの怨言が向けられたことをユリアヌスは知った.彼は容易に清められない罪でも弁護され
得ると考え,また罪の意識からウルスルス殺害の理由について,私が以前述べたように,ウルスルスが
失われたアミダを見たときの,彼への怒りを忘れることがなかった軍団が判決を下したのだと断言し
た.9,このことはユリアヌスの臆病さや浅はかさを示しているし,彼が法廷を任せた,常に信頼できず
ひどく傲慢なアルビティオに,また違った見方をすれば同席した軍団長らに利用されたとも言える.ア
ルビティオは国家の勝利者に強く協力した人にふさわしく,自身の安全に対し障害となるものを誰より
も熟知していたのだ.10,とはいえ私が記憶するところユリアヌス支持者らにとっても不快だったこの
処刑ののち,厳格な結果が熱心に正しくもたらされた.すなわち元警察官吏アポデミウス,彼はシルヴ
ァヌスとガッルスの早急な死を激しく求めた人物と私はみなしているが,それから「鎖」なる添え名の
元書記官パウルスが,多数の悲嘆のゆえに告発され,生きたまま火に焼かれるという結果になった.そ
れは間違いなく望まれたことだった.12,エウセビウスについては,コンスタンティウス 2 世の寝室長
の職を委ねられており,ひどく傲慢で気味悪い人物だった.裁判官らは彼に極刑を宣告した.彼は最も
卑しい身分からあたかも皇帝のように命令を発する地位にまで上り詰めた.人類の観察者である女神ア
ドラスティアはそれを見過ごせず,いわく彼の耳を引っ張り,節度ある生き方をするよう戒めた.しか
し彼はそれに逆らったので,女神は彼をまっさかさまに突き落としたのだ,まるで高い崖からのように.
史料 2, リバニオス『第 18 番弁論』152-153 節
152,Φέρε δὴ καὶ περὶ τῶν δίκην δεδωκότων σκεψώμεθα.Οὐκοῦν τριῶν ὄντων οἳ σφαγαῖς
ἐτελεύτησαν ὁ μὲν συκοφαντῶν ἐπεληλύθει τὴν οἰκουμένην καὶ ταῖς ἠπείροις ἀμφοτέραις μυρίους
5

θανάτους ὤφειλεν, ὥστʹ ἤλγουν οἱ τὸν ἄνθρωπον εἰδότες, ὅτι μὴ οἷόν τε ἦν καὶ τεθνεῶτα κτεῖναι
καὶ τρὶς τοῦτο ποιῆσαι καὶ πολλάκις. ὁ δʹ ἄνευ τοῦ τὸν Κωνστάντιον δεδουλῶσθαι δοῦλος αὐτὸς ὢν
καὶ τὸ τοῦδε δεινότερον, εὐνοῦχος, αἰτιώτατος ἐγεγόνει τῷ Γάλλῳ τῆς ὠμοτάτης τελευτῆς. ὅ γε μὴν
τρίτος ὀργῇ μὲν τῆς στρατιᾶς ἀνηρπάσθη δώρων βασιλικῶν αὐτούς, ὡς ἔλεγον, ἀπεστερηκώς,
ἔτυχε δὲ καὶ μεταστὰς παραμυθίας τινὸς τῇ θυγατρὶ τοῦ βασιλέως μοῖραν οὐ μικρὰν τῶν πατρῴων
ἀφέντος. 153,οἵ γε μὴν εἰς αὐτὸν ὑβρικότες, ἦσαν γάρ, ἦσαν οἳ παρεκάλουν τινὰς ἐπὶ τὸ σκῆπτρον,
οὐδενὸς κατʹ οὐδὲν φειδόμενοι ῥήματος τὴν μὲν ἀξίαν δίκην οὐκ ἔδοσαν, οὔκουν ἀπέθανον, νήσοις
δὲ ἐνδιατρίβοντες τῆς γλώττης ἐπαιδεύοντο κρατεῖν. οὕτως ἐκεῖνος ἑτέροις μὲν ἠδικημένοις
ἠπίστατο τιμωρεῖν καλῶς, ἐν δὲ τοῖς εἰς αὐτὸν μεγαλόψυχος ἦν.
152,さてここで加えて,処罰された人々について考えてみましょう.すなわち,処刑された三人の中の
一人は,嘘の告発をなしつつ世界を旅し,大陸の両側に幾千もの死を広めて周ったのです.その男を知
っていた人々は死んだ彼を三度のみならず何度も殺すことができず悔やみました.コンスタンティウス
を奴隷にすることなしにその奴隷とはならず,一層おぞましいことに宦官だった人は,ガッルスのあま
りにも無情な結末に最たる責任を負っていたのです.さらに三人目の人物は,軍団の怒りに襲われ,彼
らが述べるには皇帝の贈り物を軍団から奪っていたとのことでしたが,皇帝の慰めはその娘に父親の財
産からある程度を与えてやったのです.153,しかし,皇帝に対し傲慢だった人々は,帝権を狙う人を呼
び出したのですが,彼らの言葉に対して助命されない人は無く,ふさわしい判決は下されませんでした.
処刑はされませんでしたが,離島で生きることとなり,その口を噤むことを学んだのです.このように
皇帝は過失を犯した人には縄をもって復讐することを知ったのですが,一方でそうでない人に対しては
寛大だったのです.
史料 3, アンミアヌス『歴史』第 15 巻 5 章 12 節
12 his que cognitis statuit imperator dispicientibus consistorianis et militaribus uniuersis in negotium praeterinquiri.
| cum que iudices resedissent, Florentius Nigriniani filius agens tunc pro magistro officiorum contemplans
diligentius scripta apicum que pristinorum quasi quandam umbram repperiens animaduertit, ut factum est, priore
textu interpolato longe alia, quam dictarat Siluanus, ex libidine consarcinatae falsitatis ascripta.
12. このことが調べられてから,コンシストリウム員と軍人が全員で審理を行い,事態がさらに調査され
るべきと皇帝は決定を下した.ニグリアヌスの息子であり当時官房長官の使者官だったフローレンティ
ウスが書状の元の文章を仔細に観察し,まるで幻を見た人のように以下の事実を発見した.すなわちシ
ルヴァヌスが命令を下した他の誰かが,そこに偽りを縫い込んで書き加えようと考え,元の文章の大部
分を書き直したのである,と.
史料 4, アンミアヌス『歴史』第 15 巻 3 章 2 節
2 ad quos audiendos Arbitio missus est et Eusebius cubiculi tunc praepositus, ambo inconsideratae iactantiae,
iniusti pariter et cruenti.qui nullo perspicaciter inquisito sine innocentium sontium que differentia alios uerberibus
uel tormentis afflictos exsulari poena damnarunt, quosdam ad infimam trusere militiam, residuos capitalibus
addixere suppliciis.impletis que funerum bustis reuersi uelut ouantes gesta rettulerunt ad principem | erga haec et
similia palam obstinatum et grauem.
6

2.彼らの聴取のためにアルビティオと,当時寝室長だったエウセビウスが派遣された.見境なく高慢な両
者は,等しく邪悪で血に飢えていた.誰も詳細に取り調べられず,無罪か有罪かの違いも存在せず,鞭
や縄に打たれた人には追放刑が宣告された.またある人を最下位の兵士階級にまで突き落とし,他の人
には頭格刑処罰の判決を下した.墓所をいっぱいにしてから彼らは勝利を祝うかのように帰還し,皇帝
に事情を報告した.これらに対しても同じような別の事情に対しても,皇帝は明らかに微動だにせず厳
粛であった.
史料 5,アンミアヌス『歴史』第 20 巻 11 章 5 節
ibi tunc forte Vrsulus praesens, qui aerarium tuebatur, dolore percitus exclamauit: "en quibus animis urbes a milite
defenduntur, cui ut abundare stipendium possit, imperii opes iam fatiscunt!" quod dictum ita amarum militaris
multitudo postea apud Calchedona recordata ad eius exitium consurrexit.
そこにちょうどウルスルスも居合わせた.彼は下賜金を管理していた人だが,悲しみに突き動かされて
こう叫んだのだ.「おお,軍団に守られていた都市よ,軍団の士気は金で満たされているというのに.帝
国の力も今となっては失われてしまったのか!」この言葉は多くの兵士が苦々しく記憶しており,のち
カルケドンでウルスルスの死が望まれる結果を招いた.
史料 6, 『テオドシウス法典』第 9 巻 42 章第 2 法文
IMP. CONSTANTIUS A. ET IULIANUS CAES. AD POPULUM. Si quem forte gladius ultor adflixerit aliave
quaelibet vitam adimens poena consumpserit, usque ad tertium gradum generis copulationis eiusdem successio
deferatur fisco penitus quiescente, ut accipiat hereditatem, qui eam iure civili vel praetorio poterat vindicare, de
numero videlicet personarum, quas legis huius excepit auctoritas, sed ita, ut alia sit condicio damnatorum ex
crimine maiestatis aut magicae. In his enim, etiamsi liberos damnatus habeat vel parentes, non condentes poenam,
sed relinquentes antiquam, fisco fieri locum praecipimus. DAT. VIII ID. MART. MEDIOLANO CONSTANTIO A.
VIII ET IULIANO CAES. CONSS.
正帝コンスタンティウスと副帝ユリアヌスより人々へ.もし不運にして復讐の剣に結びあわされた者,
あるいは他の生命を奪う罰が何ぴとかをおそった場合,同人の相続人は三親等のつながりまで,そのつ
ながりを市民法あるいは政務官法に基づき証明できたなら,その相続財産を国庫の干渉なしに取得する
べきである.しかし言うまでもなく人々の境遇によって,反逆罪あるいは魔術の罪で有罪とされた人に
ついては本法令の権威からは除かれるべきである.その場合に関しては,たとえ有罪とされた人が父権
から解放された子らや親を持つとしても,刑罰を定めるのではなく,古法に則り,国庫が相続権を所有
するものと定める.正帝コンスタンティウスが八度目にして副帝ユリアヌスがコーンスルの年(356 年)
3 月 8 日メディオラヌムで付与す.
史料 7, エウナピオス断片 25.1.
Ἐπὶ τὸν Ἰουλιανὸν πολλαὶ δίκαι ἐχώρουν, χανδὸν ἐμφορουμένων τῶν ἀνθρώπων τῆς δικαιοσύνης
τοῦ κρίνοντος· ἀναβολαί τε οὐκ ἦσαν ἐπʹ αὐταῖς, ὅσαι νόμιμον ἐκ τῶν συνήθων γραμμάτων τὸ
ἄδικον ἴσχουσιν ἐις βοήθειαν τῶν ἀδικούντων καὶ προειληφότων· ἀλλʹ ἢ παραχρῆμα ἔδει τὸ ἴσον
ἐλέγχεσθαι κατὰ φύσιν, ἢ τὸ μέλλον καὶ διωθούμενον ἐις τὸν χρόνον ὕποπτον ἦν. βαρὺς μὲν οὖν
7

καὶ λυπηρὸς ἐτύγχανε, καὶ ἐπὶ τοῖσδε καὶ τὸ τῶν πονηρῶν ἔθνος καὶ ἀδικούντων διηγείρετο· οὐ γὰρ
ἀδικεῖν ἐξῆν, οὐδὲ λανθάνειν ἀδικοῦσι. βαρύτερον δὲ αὐτὸν ἀπεδείκνυε τοῖς μοχθηροῖς καὶ τὸ
εὐπρόσοδον. οἷα γὰρ προϊόντος μὲν πολλάκις διὰ τὰς ἱερομηνίας καὶ θυσίας, ἡμέρου δὲ φύσει πρὸς
πᾶσαν ἔντευξιν τυγχάνοντος, ἀκώλυτον τοὺς δεομένους λόγου τυχεῖν. ὁ μὲν οὖν ἐλάχιστον τῆς ὑπὸ
τῶν πονηρῶν ταύτης βλασφημίας τε καὶ ὀργῆς ᾐσθάνετο καὶ ἐφρόντιζε.
ユリアヌスのもとに多数の訴訟が提起された.なぜなら,人々はユリアヌスの卓越した公正さをしきり
に求めて,それに満たされていたので.そしてそれらが先送りされることはなかった.それらが先送り
される限り,通例の書類を用いた不正な習慣は,過ちを犯し早まった判断を下す原因となるのだ.その
先送り以外にも,告発された同じ人々をその内容に従って直ちに取り調べることが必要とされた.また
それを遅らせたり拒否して時間をかければ,疑いを招くものである.実際厳しく酷いことがおこなわれ,
その上で悪意ある罪を犯した連中が集められた.全く,罪を犯すことはできても,犯した罪がばれない
ことはないのだ.
史料 8, アンミアヌス『歴史』第 16 巻 8 章 8-13 節(抄訳)
8 Tunc illud apud Aquitanos euenit, quod latior fama uulgarat. ueterator quidam ad lautum conuiuium rogatus et
mundum, qualia sunt in his regionibus plurima, cum uidisset linteorum toralium purpureos clauos ita latissimos, ut
sibi uicissim arte ministrantium cohaererent, | mensam que operimentis paribus tectam, anteriorem chlamydis
partem utraque manu uehens intrinsecus structuram omnem ut amictus adornauerat principalis. quae res
patrimonium diues euertit. 9 Malignitate simili quidam agens in rebus in Hispania ad cenam itidem inuitatus, cum
inferentes uespertina lumina pueros exclamasse audisset ex usu "uincamus", uerbum sollemne interpretatum
atrociter | deleuit nobilem domum. 13 sub hoc enim ordinum singulorum auctore infinita cupidine diuitiarum
arserunt sine iustitiae distinctione uel recti, inter ordinarios iudices Rufinus primus praefectus praetorio et inter
militares equitum magister Arbitio praepositus que cubiculi laps--- ---anus quaestor et in urbe Anicii, quorum
aemulationem posteritas tendens satiari numquam potuit cum possessione multo maiore.
8, この当時アクィターニアで起こったことは,より大きな噂となって広まった.優雅で洗練された饗宴
に招待されたある老獪な人物がいたが,そうした宴会はこの地方では頻繁に開かれていた.彼は絹のテ
ーブルクロスの緋色の縞がとても幅広いことに気付いたが,その布は職人の手によって一つにつなぎ合
わされ,その布の一部でテーブルが覆われていた.彼は自分のマントの前側を内側にしてその布全体を
纏い,まるで皇帝の衣装のようにして着飾ったのだ.この行いが父祖の裕福な遺産を破滅させたのであ
る.9, 同様に夕食に招待されていた,同じような悪意を秘めたヒスパニアの警察官吏がおり,夕焼けの
光を差し込ませていた青年らがこのように叫ぶのを耳にしたのである,「我々は勝利者」.彼はこの言葉
に神聖な意味を与えて残酷に解釈し,立派な邸宅を荒らしたのである.…13, 実際に彼(コンスタンティ
ウス 2 世)のもと,それぞれの階層の権力者らが際限ない富への欲望に燃え立ち,そこには正義や公正
の区別も無かった.その中に常に含まれていたのは第一に道長官ルフィヌスであり,軍人では騎兵軍団
長アルビティオ,そして寝室長(エウセビウス)…法制長官…アヌス,そして首都ではアニキウス家で
ある.彼らの若い世代は他を凌ごうと努め,非常に多くの財産をもってしても決して満たされることが
なかった.
8

史料 9, リバニオス『14 番弁論』15 節
Ἐν τοιαύτῃ δὲ προαιρέσει ζῶντος ἐπεθύμησε δυστυχῶς τῆς Αἰγυπτίων ἀρχῆς Παρνάσιος καὶ
μετέσχεν Ἀριστοφάνης τῆς τύχης, εἵπετο γὰρ Μουσωνίου πέμποντος, διότι μέν, οὐκ οἶδα, τοσοῦτον
δὲ ἐπίσταμαι, ὅτι πέπονθε μέν, ἃ μέχρι νῦν, ὦ βασιλεῦ, δακρύει, λαβεῖν δὲ μικρὸν μὲν ᾐτιάθη
χρυσίον, ἔλαβε δὲ οὐδὲ τόδε, πληγὰς μέντοι πολλὰς καὶ χαλεπὰς καὶ πολλαχοῦ τῆς γῆς ταῖς ἐκ
μολίβδου σφαίραις, ἃς ἡγήσατο Παῦλος εἰς θάνατον ἀρκέσειν. καὶ ἅμα ταῦτά τε ἔπασχε καὶ παρὰ
Κορινθίοις ἐλειτούργει τὰ τῶν καλουμένων στρατηγῶν· οὕτω γὰρ Ἀνατόλιος ἔγνω.
彼(=アリストファネス)が公職に就いて生きていた間に,パルナシオスが折悪しくエジプトでの官職
を望み,アリストファネスもその運命に与ったのでした.彼はムソニウスの派遣に従って,そうなった
事情については,私はその多くを知ってはいますが述べはしません.彼は,皇帝陛下,わずかばかりの
金を受け取ったとして告発され,それも全くのでたらめなのですが,まさに今この時もこの地上のいた
るところで,パウルスが彼を死に至らしめるに十分だろうと考えた沢山の鉛による耐えがたい打撃に涙
を流しているのです.またこれらに耐えるのと同時に,コリントにおいて呼び出されてストラテーゴス
の奉仕に就いておりました,アナトリオスの知るところとなったために.
史料 10, アンミアヌス『歴史』第 19 巻 12 章抄訳
1 Inter has tamen sollicitudines uelut ex recepto quodam antiquitus more ad uicem bellorum ciuilium inflabant litui
quaedam colorata laesae crimina maiestatis, quorum exsecutor et administer saepe dictus tartareus ille notarius
missus est Paulus, qui peritus artium cruentarum ut lanista ex commerciis Libitinae uel ludi ipse quoque ex eculeo
uel carnifice quaestum fructum que captabat. 13 Et hos quidem alios que paucos aequa sors ueritatis adiutrix
periculis exemit abruptis. criminibus uero serpentibus latius per implicatos nexus sine fine distentos quidam
corporibus laniatis exstinguebantur, alii poenis ulterioribus damnati sunt bonis ereptis Paulo succentore fabularum
crudelium quasi e promptuaria cella fallaciarum et nocendi species suggerente complures, cuius ex nutu, prope
dixerim, pendebat incidentium omnium salus.
1. しかし上述の不安のなかである古の慣習に定められるように,彩られたラッパが反逆罪の企てに対し
て響いた.彼らの処刑人にして奉仕者,常々黄泉の使者と呼ばれるあの書記官パウルスが派遣された.
彼は血に塗れた技術に長け,剣闘士養成人が葬送と試合の取引に喜ぶように,自らは拷問木馬と吊り下
げ台から喜ばしい利益を得た.…13, 実際これらの人々と他の少数を突然の危機より救ったのは,真実の
友人である運命の助けだった.しかし罪と蛇が際限なく拡大し絡み合った鎖によって,身体を切り刻ま
れた殺された人もいた.また極刑を宣告された人もおり,良き人が残虐な筋書きの奨励者パウルスによ
って奪われ,まるで策略と害悪の監獄から多くの幻が補充されているかのようだった.彼の首肯に,以
前述べたように,出会う人全員の幸福が左右されたのである.
史料 11, リバニオス書簡 163 番 1-3 節
Μοδέστῳ. 1,Καλά γε περιμένει τοὺς ἄρχοντας τὰ ἆθλα, εἴγε ταλαιπωρήσονται μὲν καὶ τὰ αὑτῶν
χείρω ποιήσουσι τῶν κοινῶν ἐπιμελούμενοι, λήψονται δὲ ἀμοιβὰς ὕβριν καὶ καταδίκην καὶ ἀτιμίαν
καὶ κινδύνους. 2,ταῦτα γὰρ κεκύκλωκε νῦν τὸν ὑπὸ σοῦ μὲν οὐδὲν ἀτιμασθέντα, μεθʹ ἡμῶν δὲ
βεβιωκότα Τρυφωνιανόν. ἦν μὲν γὰρ ἕτοιμος χωρεῖν ἐπὶ Χαλκίδος, ὅπως ἀναγκάζοι τὰ δέοντα
9

ποιεῖν τοὺς αὐτόθι γεωργούς, ἑστηκότα δὲ ἐπὶ τῆς βαλβῖδος περιέσχε νέφος ἀρθὲν ἐκ τῶν
Οὐρσουάλου χειρῶν. 3,προσπεσόντες γὰρ ἄνθρωποί τινες ἐκεῖθεν ἥκοντες καὶ θρασέως
εἰσελθόντες οὗ καθεύδει χρυσόν τε ἐζήτουν καὶ καταβάλλειν ἐβόων πόσον, οἴει, χρυσόν; μὴ
φαινομένου δὲ σήμαντρα πανταχοῦ, καὶ πολὺς ὁ θόρυβος, ἡ γυνὴ δὲ ἐν ἐκπλήξει καὶ τὸ βρέφος
μικροῦ τῆς νηδύος οὐ κατὰ νόμον ἐξέδραμεν.
モデストゥスへ.1, 素晴らしい報酬が総督を待ち受けているものです,もし彼が公共奉仕のために自ら
の財産を費やして精勤し,その見返りとして暴行や科料,不名誉や危険を得るのならば.2, このような
状況が,あなたから不興を買ったこともなく,我々と親交があったトリュフォニアノスを今取り囲んで
おります.彼はカルキスへと出発する準備をしていました,現地で農民たちに義務を果たさせるべく.
そして玄関に立ったとき,ウルスルスの手によって遣わされた連中が彼を取り囲みました.3, やって来
たこの連中はそれから,厚かましくも寝室にまで押し入って金を探し,金を払えと声高に叫びました.
その額たるや推して知るべし,印章があらゆる場所に押されました.大きな混乱のなか,奥方は驚きの
あまり法に反して,月が満ちないままに赤ん坊を産んだのです.
史料 12 リバニオス『第 18 番弁論』84 節
Ἐν τούτῳ δὲ ὄντος κλοπῆς ἐδίωκεν ἄρχοντα ἀρχόμενος, Φλωρέντιος δέ, ὡς μὲν ὕπαρχος, ἐδίκαζεν,
ὡς κλέπτειν δὲ εἰδὼς καὶ τότε εἰληφώς, ἐπὶ τὸν γραψάμενον τὴν ὀργὴν ἦγεν αἰδούμενος τὸν
ὁμότεχνον. ὡς δὲ οὐκ ἐλάνθανεν ἀδικῶν, ἀλλʹ ἦσαν οἱ πρὸς ἀλλήλους φθεγγόμενοι καὶ ὁ θροῦς
αὐτῷ τὰ ὦτα ἐκέντει, τὸν βασιλέα δικαστὴν ἐκάθιζεν. ὁ δὲ τὰ πρῶτα ἔφευγεν, οὐ γὰρ αὑτῷ καὶ
τοῦτο δεδόσθαι.
この間に,属州民が道長官を横領から告発し始めました.フローレンティウスは,総督として裁判を取
り仕切っていましたが,盗みを知りつつ着服しており,その怒りを請願者へと向けたのです,同僚への
面目なさから.この不正が明るみに出たので人々は噂しました,そしてそのざわめきが彼自身の耳へと
刺さるようになり,皇帝を裁判官として着席させたのです.皇帝ははじめ拒絶しました,そのようなこ
とは自分に認められていないのだ,と.
史料 13 エウナピオス『哲学者およびソフィスト列伝』抄訳(戸塚訳,2001,pp.284-355.)
ところで,マクシモスは名門の出で,あり余る富を手にしていた.また,彼には実の兄弟がいたが,
彼自身が最高の位置にあるため,兄弟たちがその位置にくる妨げとなっていた.兄弟たちとは,アレク
サンドレイアに居を構え,そこで教えていたクラウディアノスと,スミュルナでソフィストとして頭角
を現わしたニュンピディアノスの二人である.マクシモスは,アイデシオスの知識に染まっている者の
一人であった.彼は,皇帝ユリアヌスの教師となる栄誉を与えられた.
…リバニオスは,いわゆるコイレ・シュリアの首都アンティオケイアに生まれた.この都市は,ニカト
ルと渾名されたセレウコスが建設したものである.リバニオスは名門の出で,市の主要な人物の一人に
数えられていた.…(リバニオスに対する賞賛の文章,報告者注)このような理由から,ユリアヌス皇
帝も彼に感服したのであるし,また,およそこの世にある人間のすべても,彼の弁論が持っている魅力
に感嘆したのである.
…オレイバシオスは,両親のいずれの家系から見ても,名門の出であった.…オレイバシオスは若い頃
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から名が知れていたから,ユリアヌスは,副帝の地位に進んだとき,その専門知識を生かすために彼を
同行させた.
史料 14 エウナピオス『哲学者およびソフィスト列伝』抄訳(戸塚訳,2001,pp.292-294)
さて,コンスタンティウスの専制を倒し,また,あたかも目の前に現れて望みを叶えてくれた神を送
り帰すかのように,祭司をギリシアに送り帰し,祭司と一緒に,皇帝の名に恥じない贈物と,ギリシア
の神社を世話するための奉仕係の一団を送ると,ユリアヌスは,直ちに使いを出してマクシモスとクリ
ュサンティオスを呼び寄せた.…このような訳で,アジアでは,すべての人々がすぐさまマクシモスの
許に馳せ参じた.彼らの中には,官職にある者も,すでに官職を解かれた者もいれば,各元老院(都市
参事会のこと.報告者注)の中枢にある人々も含まれていた.また,民衆はマクシモス家の前の通りを
埋めつくし,声を上げてぴょんぴょん飛び跳ねていた.これは,大衆が誰かに目をかけてもらおうとす
るときに,長い間やってきた習慣である.
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※Maas,M.(ed.) Readings in Late Antiquity,London and New York,2000,map V を利用して作成.
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