第1章：象徴機能の発生①

[ 発 達 心 理 学 特 論 ] 第 5 講 第 Ⅰ 章 NO.1
世 界 認 識 の 形 成 の 開 始
ヸ 象 徴 機 能 の 発 生 ヸ
1. 外 界 ーモノやコトーの 知 り 方
内 田 伸 子
uchida.nobuko@ocha.ac.jp

人 間 発 達 の 過 程
Ⅰ. 発 達 過 程 はどのように 生 ずるか;
(1)< 個 体 発 生 >と< 系 統 発 生 >
(2)< 連 続 説 >か< 段 階 説 >か

人 間 発 達 の 過 程
Flavell(1971);「 段 階 」とは?
1 発 達 段 階 は 質 的 変 化 によって 区 別 される。
2ある 段 階 から 他 の 段 階 への 移 行 は 子 どもの 行 動 の
各 側 面 のかなり 多 くの 部 分 が 同 時 的 に 変 化 することに
よって 特 徴 づけられる。
3ある 段 階 から 次 の 段 階 への 変 化 が 起 こる 時 は 急 激 で
あり、 急 激 な 移 行 のあと、 身 体 的 ヷ 行 動 的 な 諸 特 徴 に
比 較 的 安 定 した 時 期 が 続 く。
4ある 段 階 の 出 現 を 示 す 行 動 的 ヷ 身 体 的 な 変 化 は
一 定 のパタヸンを 示 す。

人 間 発 達 の 過 程
Ⅰ. 発 達 の 源 泉 は 何 か;→「 血 筋 ( 氏 )か 育 ちか」
(1) 成 熟 説
◆ 子 どもの 発 達 は、 成 熟 、つまり、 遺 伝 的 に 規 定 された
変 化 のパタヸン 通 りに 自 生 的 に 展 開 していく。
e.g., Gesell , A . (1940)
「 環 境 は 機 会 と 強 度 と、 行 動 のさまざまな 相 関 関 係 を
規 定 しているが、 行 動 発 達 の 進 行 の 原 因 とはなら
ない。 行 動 発 達 の 進 行 は 内 的 な 成 熟 のメカニズムに
よって 規 定 されている。」

人 間 発 達 の 過 程
Ⅰ. 発 達 の 源 泉 は 何 か;→「 血 筋 ( 氏 )か 育 ちか」
(2) 環 境 説
◆ 発 達 的 変 化 の 主 要 要 因 は 環 境 から 不 えられる 外 因
によって 生 ずる。
e.g., Watson , J . B . (1940)
「12 人 の 赤 ん 坊 ; 望 み 次 第 の 人 にしてみせよう」
行 動 主 義 心 理 学 の 台 頭
刺 激 と 反 応 ;ブラックボックス( 媒 介 過 程 )について
の 仮 定 はなるべく 禁 欲 的 に

人 間 発 達 の 過 程
Ⅰ. 発 達 の 源 泉 は 何 か;→「 血 筋 ( 氏 )か 育 ちか」
(3) 相 互 作 用 説 ( 輻 輳 説 )
◆ 成 熟 要 因 と 環 境 要 因 は 相 補 的 に 働 く。
e.g., Piaget , J . (1973)
子 どもの 成 熟 段 階 に 依 存 して 環 境 の 影 響 の 仕 方 は
変 化 する。
現 代 ; 文 化 文 脈 依 存 説 へ
現 代 ; 遺 伝 も 環 境 も 輻 輳 的 に 働 く⇔どこまでが 遺 伝 要 因
によりどこまでが 環 境 要 因 によっているか

人 間 発 達 の 過 程
Ⅰ. 発 達 の 源 泉 は 何 か;→「 血 筋 ( 氏 )か 育 ちか」
(4) 文 化 ヷ 文 脈 依 存 説
◆ 子 どもを 取 り 巻 く 文 化 や 社 会 環 境 の 重 要 性 を 指 摘 。
環 境 要 因 や 生 物 的 要 因 ( 遺 伝 要 因 )は
それが 働 く 文 脈 次 第 で 異 なった 発 達 をもたらす。
★どこまでが 遺 伝 でどこまでが 環 境 か?
→どのように 絡 み 合 っているか、それぞれの 要 因 の
働 き 方 のメカニズムまで 問 う
☆ 発 達 心 理 学 と 脳 科 学 との 結 びつき

乳 児 は 人 や 声 に 敏 感 !
視 力 0.02
色 彩 知 覚 : 出 生 後 2 週 目 ~
明 暗 のコントラストで 対 象 を 見 分 ける
人 にはヷヷヷ 目 がとろんとして、 姿 勢 はリラックス
表 情 がゆるみ( 表 情 筋 の 活 動 )
口 をあける。
物 にはヷヷヷ 凝 視 して、 姿 勢 は 緊 張
口 をつぼめて 固 い 表 情

目 は 心 の 窓

乳 児 は 顔 を 長 く 注 視 する

(Sackett,1966)
アカゲザルは 複 雑 な 図 を 注 視 する
図 1.アカゲザルの 注 視 時 間 (2 週 ・4 週 ・6 週 )

乳 児 は 人 や 声 に 敏 感 !
視 力 0.02
色 彩 知 覚 : 出 生 後 2 週 目 ~
明 暗 のコントラストで 対 象 を 見 分 ける
人 にはヷヷヷ 目 がとろんとして、 姿 勢 はリラックス
表 情 がゆるみ( 表 情 筋 の 活 動 )
口 をあける。
物 にはヷヷヷ 凝 視 して、 姿 勢 は 緊 張
口 をつぼめて 固 い 表 情

乳 児 は 表 情 を「 模 倣 」する

共 鳴 動 作 ヸ「 他 者 の 解 釈 のしくみ」

共 同 注 意 >
Bob!
Mam!
Mam!
Aah!
Look!
Look!
Too late!
eye contact presenting pointing gaze following

*
共 同 注 意 ( 反 射 成 分 )

共 同 注 意 ( 反 射 成 分 )
検
出
時
間
(
ミ
リ
秒
)
600
500
400
300
中 立
一 致
反 対
200
定 型 発 達 HFA ASP
[ 共 同 注 意 ](+) (-) (+)
自 閉 症 アスペルガヸ

音 素 のカテゴリヸ 的 な 知 覚

乳 児 の 音 声 知 覚 を 調 べる 実 験

発 声 ~ 発 語 へ
1.「 産 声 」
こき 吸 気 ?それとも 呼 気 ?
2.「 吸 喚 音 期 」 ( 呼 吸 に 混 じって 偶 然 発 声 )
3.「 丌 規 則 的 な 発 声 期 」
( 呼 気 の 調 節 が 始 まる)
★ 手 の 上 下 運 動 と 発 声 が 同 期 する
→ 約 一 ヶ 月 続 くと 発 声 の 音 質 が 変 化
4.「 規 準 喃 語 (canonical babbling) 期 」
(6ヶ 月 頃 ~)CV 構 造 を 持 った 発 声

1. 音 声 の 発 達 過 程
母 語 音 素 に 収 斂 される 過 程 における
身 体 運 動 のリズムの 役 割
1 胎 児 期 (3ヶ 月 ~) 母 親 の 心 拍 のリズム
や 体 液 の 流 動 のリズム, 外 から 聞 こえて
くることばの 音 系 列 をからだに 刻 む

1. 音 声 の 発 達 過 程
「 規 準 喃 語 」(CV 構 造 をもったリズミカルな
発 話 )の 出 現 の1ヶ 月 前 に 発 声 と 手 の 上
下 運 動 が 同 期 する.
この 時 期 を 経 て 母 語 の 音 素 からなる「 規 準
喃 語 」の 発 声 が 可 能 となる
( 江 尻 ヷ 内 田 ,1999)
(Ejiri & Uchida, 2005)

音 声 とリズミカルな 運 動 の 同 期
各 リズミカルな 運 動 の 月 別 頻 度
ー 規 準 喃 語 との 関 連 でー

音 声 とリズミカルな 運 動 の 同 期
(Ejiri & Uchida, 2005)

なぜ 同 期 するか?
大 脳 の 機 能 局 在 化
●ネットワヸク 化
髄 鞘 化 (ミエリン 鞘 )
↓
発 声 と 手 の 制 御 系 の
分 化

発 声 ~ 発 語 へ
5.「ジャヸゴン 期 」(7,8ヶ 月 ~)
( 母 語 のリズムとイントネヸション,
アクセントを 備 えた 無 意 味 な 発 声 )
6.「 有 意 味 語 出 現 期 」(10ヶ 月 ~)
7.「 母 語 音 素 発 声 ヷ 弁 別 期 」(12ヶ 月 )
( 二 足 歩 行 開 始 による 共 鳴 腔 の 拡 大 )
8.「 語 彙 爆 発 期 」(1 歳 半 ~)
( 呼 吸 や 摂 食 の 器 官 を 発 声 器 官 へと 改 造
語 彙 が 爆 発 的 に 発 話 される)

モノやコトの 知 り 方
1. 環 境 に 繰 り 返 し 働 きかけて 知 る
第 一 次 循 環 反 応 (Piaget,J);
第 二 次 循 環 反 応
第 三 次 循 環 反 応
10ヶ 月 ごろ~
反 射 ⇔ 快 ; 接 近 ヷ 丌 快 ; 回 避
★ 随 意 性 6ヶ 月 ごろ~
★ 試 行 錯 誤 的 に 実 験
2. 反 復 して 体 験 する 外 界 の 反 応 から「 規 則 性 」
を 抽 出 する⇔ 関 係 ヷ 構 造 ( 因 果 構 造 )の 抽 出

感 覚 運 動 知 能 by Piaget, J.
• 感 覚 運 動 発 達 は 乳 児 の 行 為 (action)から 漸
進 的 に 複 雑 な 実 用 的 知 能 へと 体 制 化 される.
• 「 感 覚 運 動 知 能 」とは、
⇔ 行 動 と 対 象 についての 概 念
• 概 念 は 実 世 界 で 対 象 を 操 作 することにより
発 生 する.

乳 児 の 隠 されたモノに 対 する 反 応

記 憶 能 力 の 発 達
• 2つの 別 個 の 記 憶 システム
(1) 広 義 の 記 憶 ; 誕 生 時 から
(2) 狭 義 の 記 憶 ;「エピソヸド 記 憶 」
⇔ 特 定 の 場 所 と 時 間 における
特 定 の 出 来 事 の 記 憶
• 大 脳 の 記 憶 を 司 る 部 位
a. 扁 桃 体 と 海 馬 生 後 10ヶ 月 から
b. 前 頭 野 のワヸキングメモリ
★a & b ネットワヸク 化 5 歳 後 半 ごろ

海 馬 ・ 扁 桃 体 ・ワーキングメモリ
ワーキング
メモリ
→
★
Amygdala
扁 桃 体
Hippocampus
海 馬

記 憶 能 力 の 発 達
• 大 脳 の 記 憶 を 司 る 部 位
a. 扁 桃 体 と 海 馬 生 後 10ヶ 月 から
b. 前 頭 野 のワヸキングメモリ
★a & b ネットワヸク 化 5 歳 後 半 ごろ
⇔ 記 憶 はこれらの 部 位 の
発 達 過 程 と 同 じ 軌 道 を 進 む

3ヶ 月 の 乳 児 の 記 憶 能 力 の 発 達
Rovee-Collier,et al.(1980a;1980b)
1. 手 がかり 再 生 のパラダイム;
実 験 デザイン
モビヸルで 遊 ぶ 経 験 を 思 い 出 せるか
モビヸル( 同 一 ヷ 異 )×
再 生 期 間 (1~4 日 :24h, 48h, 72h, 96h)→8 条 件
2. 被 験 者 ;
満 期 出 産 の 乳 児 40 名 ( 男 19ヷ 女 21 名 )
平 均 90.6 日 (3ヶ 月 )

3ヶ 月 の 乳 児 の 記 憶 能 力 の 発 達
Rovee-Collier,et al.(1980a;1980b)
3. 手 続 き;オペラント 条 件 づけ
(c.f., 古 典 的 条 件 づけ)
4. 訓 練 スケジュヸル;1 回 15 分
3 分 強 化 なし→9 分 強 化 →3 分 強 化 なし
24 時 間 あけて2 回 訓 練 ;
強 化 =モビヸルで 遊 ぶ
5. 再 生 テストのインタヸバル
1~4 日 (24h, 48h, 72h, 96h)

再 生 テスト
4. 再 生 テストの 手 続 き;
Same: 訓 練 と 同 一 のモビールを 使 用 する
Different: 訓 練 と 異 なるモビールを 使 用 する
↓
★ 再 生 の 手 がかり;
足 に 紐 で 連 結 しないモビールを3 分 間 提 示 して
乳 児 はモビールで 楽 しく 遊 んだ 経 験 を 想 起 で
きるか(⇔キックするか)

実 験 結 果
1. 条 件 の 主 効 果 は 有 意 ;same>different
2.インタヸバルで 差 はない
⇔4 日 間 は 記 憶 保 持
3. 条 件 ×セッションの 交 互 作 用 は 有 意
Same S3>S2,S1
Different S2>S1,S3
4.インタヸバル× 条 件 の 交 互 作 用 は 有 意
24/48/72h Same>Different
96h Same≒Different

1 分 当 たりのキックの 回 数

生 後 3ヶ 月 ごろの 赤 ちゃんの 記 憶
RQ: モビヸルで 楽 しく 遊 んだ 経 験 をいつまで
覚 えていられるか?
4 日 間 くらい 経 つと、
乳 児 はモビールで 遊 んだ 経 験 は
覚 えているが、
視 覚 的 な 区 別 ができなくなる。

Rovee-Collier et al. (1980b)の 実 験
• 3ヶ 月 児 なら1~2 週 間 はモビヸルで 遊 んだ 経
験 を 覚 えている。
• 1ヵ 月 後 はどうか?
( 完 全 に 想 起 できなくなった 頃 )
実 験 群 には 再 生 テストの 前 日 、 短 時 間 (6 分
間 )モビヸルで 遊 ばせる
→ 翌 日 のテストではキックした!
⇔ 記 憶 は 保 持 されていた!
アクセス( 接 近 )できなかっただけなのだ!

Rovee-Collier et al. (1980b)の 実 験
(1) 特 定 の 出 来 事 を 記 憶 できる
異 モビヸル 群 ; 別 のモビヸルで 再 生 テスト
キックしない
⇔ 特 定 のモビールを 記 憶 していたのだ
(2) 一 般 的 な 特 性 も 記 憶 できる
異 モビヸル 群 ⇔キックをしない
そこで 新 しいモビヸルで 遊 ばせる
★4 日 後 に、この 新 しいモビヸルとは 別 のモビヸルで
再 生 テストを 行 うとすぐにキックした.
⇔ 転 移 (transfer)が 起 った!

第 一 次 認 知 革 命 ( 生 後 10ヶ 月 )
イメヸジの 誕 生 →( 見 立 て 遊 びや 延 滞 模 倣 )
エピソヸド 記 憶 の 出 現 ←( 海 馬 のネットワヸク 化 )
物 理 認 識 の 始 まり⇔モノの 同 一 性 認 識
(モノは 見 えなくなっても 存 在 )
社 会 的 参 照 ⇔( 他 者 への 問 い 合 わせ)
⇒ 環 境 の 変 化 に 気 づいた 赤 ちゃんは
「あれ、なに?」というような 表 情 で
傍 にいる 養 育 者 の 顔 を 仰 ぎ 見 る

ビデオセッションー 乳 児 の 実 験 法
■
記 憶
• 共 鳴 動 作
• 母 親 の 感 情 の 伝 達
• 声 による 母 子 コミュニケーション
• 親 子 の 絆
• 父 親 と 母 親 の 役 割 の 違 い
• 社 会 的 参 照 - 視 覚 的 断 崖 実 験