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魚類標本の作製と管理マニュアル - 鹿児島大学総合研究博物館

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 の 生 物 多 様 性 を 記 録 するボランティア 養 成 教 材<br />

魚 類 標 本 の 作 製 と 管 理 マニュアル<br />

本 村 浩 之 / 編<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

1


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Fish Collection Building and Procedures Manual<br />

edited by Hiroyuki Motomura<br />

Kagoshima University Museum<br />

27 March 2009<br />

2


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

序<br />

鹿 児 島 県 は 県 土 が 南 北 600 km におよび,<br />

温 帯 性 と 熱 帯 性 魚 類 の 分 布 の 境 界 に 位 置 し<br />

ます.また, 本 県 は 水 深 200 m を 超 える 閉<br />

鎖 的 な 鹿 児 島 湾 や 多 数 の 島 嶼 域 などきわめ<br />

て 多 様 な 環 境 も 有 しています.さらに, 奄<br />

美 大 島 と 種 子 島 ・ 屋 久 島 の 間 に 位 置 する 有<br />

名 な 渡 瀬 線 をはじめ, 鹿 児 島 県 には 海 産 魚<br />

類 に 関 して,2 つの 動 物 地 理 学 的 区 分 線 が<br />

あります.これら 2 区 分 線 で 分 けられる 3<br />

つの 異 なる 魚 類 相 を 有 する 鹿 児 島 県 は, 日<br />

本 で 最 も 魚 類 の 種 多 様 性 が 高 い 県 であると<br />

いえます.このように, 鹿 児 島 県 は 多 種 多<br />

様 な 魚 類 が 生 息 する 学 術 的 にも 興 味 深 い 貴<br />

重 な 地 域 であるにもかかわらず,これまで<br />

再 現 性 のある 標 本 に 基 づく 包 括 的 な 魚 類 の<br />

研 究 はほとんど 行 われていません. 鹿 児 島<br />

県 におよそ 何 種 の 魚 が 生 息 するのか,とい<br />

う 単 純 な 疑 問 にさえ 答 えられる 人 はいない<br />

のです.<br />

近 年 の 急 激 な 環 境 の 破 壊 や 悪 化 に 伴 い,<br />

鹿 児 島 県 でも 生 物 の 多 様 性 が 低 くなってい<br />

ると 懸 念 されています. 生 物 多 様 性 を 保 全<br />

するためにも, 多 様 性 の「 現 状 把 握 」は 急<br />

務 です.そして, 生 物 多 様 性 の 現 状 を 標 本<br />

や 資 料 ( 画 像 など)として 記 録 し, 人 類 共<br />

有 の 財 産 として 後 世 に 伝 えるのが 博 物 館 の<br />

役 割 です.<br />

このように 標 本 ・ 資 料 を 収 集 し, 管 理 す<br />

ることは, 博 物 館 業 務 の 根 幹 ですが, 現 実<br />

的 には 限 られたスタッフ 数 で 膨 大 な 数 の 標<br />

本 を 収 集 から 管 理 まで 行 うことは 不 可 能 で<br />

す.スミソニアン 自 然 史 博 物 館 などの 一 部<br />

の 巨 大 な 博 物 館 を 除 き, 多 くの 自 然 史 博 物<br />

館 では 地 元 の 市 民 ボランティアが 標 本 ・ 資<br />

料 関 連 業 務 を 支 えていると 言 っても 過 言 で<br />

はありません. 博 物 館 の 標 本 ・ 資 料 は 人 類<br />

共 有 の 財 産 ですが, 博 物 館 ボランティアは<br />

博 物 館 の 財 産 です.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 でも, 魚 類 専<br />

門 のスタッフは 私 1 人 ですが, 地 元 の 一 般<br />

市 民 や 漁 師 , 水 族 館 職 員 ,ダイバー, 学 生<br />

など 多 くのボランティアの 協 力 で, 短 期 間<br />

で 巨 大 な 鹿 児 島 の 魚 類 コレクションを 構 築<br />

することができました.これまで 鹿 児 島 県<br />

の 魚 類 があまり 調 査 されていなかったせい<br />

もあり,ボランティア 活 動 中 は 毎 日 驚 きと<br />

新 発 見 の 連 続 です.<br />

魚 類 ボランティアは「 鹿 児 島 県 の 魚 類<br />

相 を 明 らかにする」という 目 標 に 向 かっ<br />

て, 魚 類 の 採 集 から 標 本 処 理 までを 精 力 的<br />

に 行 っています. 毎 年 2 ~ 4 回 ボランティ<br />

ア 学 習 会 を 開 催 し, 魚 類 学 や 博 物 館 学 を 学<br />

ぶとともに,そこで 得 た 知 識 や 標 本 処 理 で<br />

培 った 経 験 を 元 に, 生 き 物 観 察 会 など 地 元<br />

3


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

の 様 々な 教 育 普 及 活 動 にも 参 加 していま<br />

す.<br />

本 書 は, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 の 魚<br />

類 ボランティアが 実 際 に 毎 日 行 っている 標<br />

本 処 理 作 業 の 手 順 を 解 説 したものです. 本<br />

書 に 書 かれている 方 法 や 手 順 が 標 本 処 理 の<br />

理 想 ではありませんが, 地 方 博 物 館 の 現 状<br />

や 予 算 などに 即 した 現 実 的 な 内 容 です.さ<br />

らに, 標 本 処 理 に 使 用 する 様 々な 用 具 や 機<br />

材 についても,なるべく 詳 しい 情 報 (メー<br />

カや 機 種 など)も 掲 載 しました.そのため,<br />

実 際 にこれから 魚 類 コレクションを 構 築 し<br />

ようとしている 人 や 現 在 コレクションを 管<br />

理 している 人 ,さらには 全 国 各 地 の 博 物 館<br />

ボランティアにとっては 大 いに 参 考 になる<br />

のではないでしょうか.また, 鹿 児 島 大 学<br />

でも 全 学 的 に 学 芸 員 養 成 過 程 がスタートし<br />

ましたが, 学 芸 員 資 格 取 得 を 目 指 す 学 生 に<br />

とって, 本 書 は 博 物 館 実 習 の 実 務 的 な 教 材<br />

になることと 思 います.<br />

今 日 , 自 然 史 標 本 の 作 製 ・ 管 理 方 法 を 解<br />

説 した 書 物 が 多 く 出 版 されていますが, 魚<br />

類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 方 法 だけが 詳 しく 書 か<br />

れた 本 はありません.そういう 意 味 でも 本<br />

書 を 参 考 に,より 多 くの 美 しい 魚 類 標 本 が<br />

作 製 され, 保 管 されることを 願 っています.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 行 われてい<br />

る 魚 類 標 本 の 作 製 方 法 は, 私 が 学 生 時 代 か<br />

らお 世 話 になった 多 くの 研 究 者 や 博 物 館 学<br />

芸 員 から 学 んだことに 基 づいています. 特<br />

に, 国 立 科 学 博 物 館 の 松 浦 啓 一 博 士 , 神 奈<br />

川 県 立 生 命 の 星 ・ 地 球 博 物 館 の 瀬 能 宏<br />

博 士 , 三 重 大 学 の 木 村 清 志 博 士 , 宮 崎 大 学<br />

の 岩 槻 幸 雄 博 士 , 高 知 大 学 の 遠 藤 広 光 博 士<br />

には 標 本 に 関 する 様 々なご 教 授 を 頂 きまし<br />

た. 心 より 感 謝 申 し 上 げます.また,オー<br />

ストラリア 博 物 館 の Mark McGrouther 氏 ,<br />

カリフォルニア 科 学 アカデミーの David<br />

Catania 氏 ,ロンドン 自 然 史 博 物 館 の James<br />

Maclaine 氏 をはじめとする 世 界 各 国 の 博 物<br />

館 コレクションマネージャーのみなさまに<br />

は 標 本 ラベルやビンに 関 する 様 々な 情 報 を<br />

頂 きました.ここに 感 謝 致 します.<br />

最 後 に, 本 書 の 執 筆 陣 に 加 わらなかった<br />

高 山 真 由 美 さんや 田 中 葉 子 さんをはじめと<br />

する 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 のボラン<br />

ティアのみなさんに 感 謝 致 します.<br />

本 書 は, 鹿 児 島 大 学 の「 平 成 20 年 度 ボ<br />

ランティア 教 材 開 発 助 成 」に 採 択 された<br />

テーマ「 鹿 児 島 の 生 物 多 様 性 を 記 録 するボ<br />

ランティア 養 成 教 材 の 開 発 」の 成 果 として<br />

刊 行 されました.<br />

本 村 浩 之<br />

4


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

目 次<br />

Step 1 運 搬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 6<br />

Information 1 標 本 用 麻 酔 薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 藍 澤 正 宏 8<br />

Step 2 冷 凍 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 目 黒 昌 利 ・ 本 村 浩 之 9<br />

Step 3 解 凍 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 目 黒 昌 利 ・ 山 下 真 弘 11<br />

Step 4 洗 浄 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 ・ 目 黒 昌 利 12<br />

Step 5 タグの 割 り 当 て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 13<br />

Step 6 組 織 切 片 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 ・ 栗 岩 薫 15<br />

Step 7 展 鰭 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松 沼 瑞 樹 ・ 本 村 浩 之 17<br />

Step 8 撮 影 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 27<br />

Information 2 標 本 撮 影 の 技 術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 栗 岩 薫 33<br />

Information 3 フィールドでの 撮 影 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 44<br />

Information 4 横 からの 撮 影 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 45<br />

Step 9 タグ 付 け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松 沼 瑞 樹 ・ 本 村 浩 之 46<br />

Step 10 測 定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 荻 原 豪 太 50<br />

Step 11 同 定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 荻 原 豪 太 ・ 本 村 浩 之 51<br />

Step 12 固 定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 52<br />

Step 13 置 換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 54<br />

Step 14 保 管 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 55<br />

Information 5 標 本 ラベル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 57<br />

Step 15 入 力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 60<br />

Step 16 画 像 処 理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 61<br />

Step 17 貸 出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本 村 浩 之 64<br />

Volunteers' comments<br />

魚 類 ボランティアを 経 験 して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 原 口 百 合 子 66<br />

漁 師 としての 魚 類 ボランティア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 伊 東 正 英 67<br />

学 生 ボランティアとしての 立 場 から・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 吉 田 朋 弘 68<br />

5


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 1 運 搬 transport<br />

本 村 浩 之<br />

魚 を 採 集 した 後 , 標 本 を 作 製 する 場 所 ( 大<br />

学 の 場 合 , 研 究 室 )まで 適 切 な 方 法 で 運 ば<br />

なくてはなりません. 魚 の 運 搬 方 法 は 時 と<br />

場 合 によって 使 い 分 ける 必 要 がありますの<br />

で,ここでは 運 搬 方 法 をいくつか 紹 介 しま<br />

す.<br />

美 しい 標 本 を 作 製 するために 最 も 良 い 方<br />

法 は, 魚 を 生 かしたまま 標 本 を 処 理 する 場<br />

所 に 持 ち 込 むことです. 魚 体 が 傷 つかない<br />

ように, 数 個 体 ごとビニールで 小 分 けして<br />

運 びます. 例 えば,ハゼとカサゴを 同 じ 袋<br />

にいれてしまうと,ハゼが 捕 食 される 可 能<br />

性 があるだけではなく,ハゼの 鰭 が 擦 れて<br />

ボロボロになってしまうこともあるからで<br />

す.<br />

生 かしたままの 運 搬 は, 標 本 作 製 の 上 で<br />

最 良 の 方 法 ですが, 大 きなリスクも 伴 いま<br />

す. 十 分 なエアレーションを 心 がけないと,<br />

運 搬 中 に 魚 が 死 んでしまいます. 酸 欠 の 場<br />

合 , 多 くの 魚 は 口 と 鰓 蓋 を 大 きく 広 げて<br />

死 亡 します. 死 後 硬 直 が 始 まると, 広 がっ<br />

た 口 と 鰓 を 元 の 状 態 に 戻 すことが 困 難 にな<br />

り, 後 の 正 確 な 標 準 体 長 の 計 測 (Step 10<br />

を 参 照 )すら 不 可 能 になり, 学 術 標 本 とし<br />

ての 価 値 も 低 くなってしまいます.さらに,<br />

常 温 の 海 水 ( 淡 水 ) 中 で 酸 欠 によって 死 亡<br />

すると, 体 色 が 著 しく 退 色 し, 生 時 ・ 生 鮮<br />

時 の 鮮 やかな 体 色 を 記 録 することができな<br />

くなってしまいます.<br />

もう 一 つ 注 意 が 必 要 なことは, 生 かした<br />

まま 運 搬 することが 法 律 上 できない 魚 種 が<br />

いることです. 環 境 省 の 外 来 生 物 法 ( 正 式<br />

名 : 特 定 外 来 生 物 による 生 態 系 等 に 係 る 被<br />

害 の 防 止 に 関 する 法 律 )で, 特 定 外 来 生 物<br />

に 指 定 されているオオクチバスやブルーギ<br />

ルなどは 生 かしたままの 運 搬 が 厳 しく 規 制<br />

数 個 体 ずつビニールで 小 分 けして 運 搬<br />

特 定 外 来 生 物 に 指 定 されているオオクチバス<br />

(KAUM-I. 500, 標 準 体 長 114.7 mm)<br />

6


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

特 定 外 来 生 物 に 指 定 されているブルーギル(KAUM-I.<br />

499, 標 準 体 長 123.9 mm) 標 本 処 理 を 待 つ 時 間 が 短 い 場 合 は 氷 水 ( 海 水 )に 浸 け<br />

ておくと 良 い<br />

クーラーに 氷 水 を 満 たして 鮮 魚 を 運 搬<br />

されています. 生 かしたまま 運 搬 する 際 は,<br />

特 定 外 来 生 物 に 指 定 されている 種 が 含 まれ<br />

ていないか, 確 認 して 下 さい.<br />

首 尾 よく 魚 を 生 かしたまま 標 本 作 製 部 屋<br />

に 搬 入 することができたら, 氷 水 で 絞 める<br />

か 麻 酔 を 使 って 作 業 を 開 始 します. 麻 酔 薬<br />

の 作 製 ・ 使 用 方 法 は Information 1 を 参 照 し<br />

て 下 さい.<br />

採 集 後 ,すぐに 標 本 処 理 が 出 来 ない 場 合 ,<br />

あるいは 魚 市 場 などで 既 に 死 亡 している 魚<br />

を 入 手 する 場 合 は, 氷 水 ( 海 水 魚 の 場 合 は<br />

海 水 , 淡 水 魚 の 場 合 は 真 水 )を 入 れたクー<br />

ラーボックスで 運 搬 します. 水 を 入 れない<br />

で 魚 を 直 接 氷 の 下 あるいは 上 に 置 くと, 氷<br />

と 接 している 部 分 だけ 体 表 の 色 が 変 わって<br />

しまうことがあるので 注 意 が 必 要 です.<br />

採 集 した 魚 を 処 理 するまで 数 分 から 数 十<br />

分 間 一 時 的 に 置 く 際 にも 標 本 の 鮮 度 を 保 つ<br />

ために 氷 水 は 必 須 です.<br />

魚 を 採 集 した 後 , 長 期 間 標 本 処 理 が 出 来<br />

ない 場 合 ,あるいは 遠 方 からクール 宅 急 便<br />

で 運 搬 しなければならない 時 は, 魚 を 冷 凍<br />

する 必 要 があります. 冷 凍 方 法 は Step 2 を<br />

参 照 して 下 さい. 長 期 間 「 冷 蔵 」すると 内<br />

臓 から 腐 っていきますので, 採 集 後 1 ~ 2<br />

日 以 上 標 本 処 理 が 出 来 ない 時 は, 冷 蔵 では<br />

なく 必 ず 冷 凍 して 下 さい.<br />

1 魚 を 生 かしたまま 持 ち 帰 り,すぐに 標<br />

本 処 理 ができる 場 合<br />

→ Information 1 へ<br />

2 標 本 処 理 ができないため, 長 期 間 保 存<br />

する 必 要 がある 場 合<br />

→ Step 2 へ<br />

3 新 鮮 な 魚 ( 死 亡 )を 持 ち 帰 り,すぐに<br />

標 本 処 理 ができる 場 合<br />

→ Step 4 へ<br />

7


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Information 1 標 本 用 麻 酔 薬 anesthetic for fish specimens<br />

藍 澤 正 宏<br />

魚 類 の 麻 酔 薬 として,かゆみ 止 めとして<br />

使 用 されている 4- アミン 安 息 香 酸 エチル<br />

NH2C6H4COOC2H5(p- アミン 安 息 香 酸 エチ<br />

ル, 白 色 粉 末 )が 有 効 です.500 g で 7000<br />

~ 8000 円 程 度 で 入 手 できるのも 魅 力 です.<br />

4- アミン 安 息 香 酸 エチルは 魚 類 の 呼 吸 器 系<br />

に 作 用 するようです.<br />

4- アミン 安 息 香 酸 エチル 20 g を 95% エ<br />

チルアルコール 100 cc 程 度 に 溶 かして, 原<br />

液 として 使 用 します.この 原 液 を 水 ( 真 水 ・<br />

海 水 どちらでかまいません)500 cc に 対 し<br />

て 1 ~ 2 cc 加 えて 使 用 します. 魚 が 動 かな<br />

くなったら(ある 程 度 時 間 がかかります),<br />

真 水 で 洗 って(Step 4 を 参 照 ), 展 鰭 (Step<br />

7 を 参 照 )します. 死 後 すぐには 硬 直 しま<br />

せんので,そのままホルマリンを 張 った 発<br />

泡 トレーに 並 べれば, 鰭 は 半 開 きになりま<br />

す.<br />

この 麻 酔 により,バラタナゴなどのタナ<br />

ゴ 類 やコイ 科 では 婚 姻 色 が 明 瞭 に 出 ます.<br />

しかし,スズメダイ 科 やヨシノボリ 類 は 体<br />

色 が 黒 くなることがありますので,これら<br />

の 魚 は 麻 酔 より, 氷 で 絞 めた 方 が 良 いかも<br />

しれません.なお,サケ・マス 類 では 通 常<br />

の 半 分 の 量 でも 効 果 があります.<br />

4- アミン 安 息 香 酸 エチルは, 熱 水 やエチ<br />

ルアルコールによく 溶 けますが, 水 にはあ<br />

まり 溶 けません. 水 に 溶 いた 4- アミン 安<br />

息 香 酸 エチル( 麻 酔 に 使 った 水 )は, 時 間<br />

が 経 つと 再 結 晶 し 白 濁 します.また,4- ア<br />

ミン 安 息 香 酸 エチルはホルマリンと 混 ざる<br />

と 白 色 結 晶 化 してしまいます. 魚 の 麻 酔 後<br />

には 必 ず 水 で 洗 って 下 さい.<br />

水 温 が 高 いと 効 き 目 が 強 くなるように 思<br />

われます.また 魚 の 活 性 ( 酸 素 要 求 量 など)<br />

によっても 変 わります.<br />

魚 に 麻 酔 が 効 いたら<br />

→<br />

Step 4 へ<br />

8


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 2 冷 凍 freezing<br />

目 黒 昌 利 ・ 本 村 浩 之<br />

標 本 を 良 い 状 態 で 長 期 間 保 管 するために<br />

は, 新 鮮 な 魚 を 標 本 にすることが 重 要 です.<br />

しかし 常 に 新 鮮 な 魚 を 標 本 にすることがで<br />

きるとは 限 りません. 鮮 魚 を 標 本 処 理 が 可<br />

能 な 日 まで 長 期 間 保 存 する 唯 一 の 方 法 が 冷<br />

凍 です.ただし, 冷 凍 保 存 にむかない 魚 種<br />

( 鰭 膜 が 破 損 しやすいハゼ 科 やイソギンポ<br />

科 , 鱗 が 脱 落 しやすくなるニシン 科 など)<br />

もありますので, 冷 凍 保 存 は 最 終 手 段 と 考<br />

えて 下 さい.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では 魚 の 冷<br />

凍 に National NR-FC28FG ディープフリー<br />

ザー( 極 低 温 槽 )を 使 用 しています.NR-<br />

FC28FG は- 20℃ 以 下 で 魚 を 冷 凍 保 存 でき<br />

ますが, 理 想 は- 80℃ 以 下 での 保 存 です.<br />

保 存 温 度 が 低 いほど 魚 を 解 凍 した 時 に 眼 が<br />

白 濁 することを 防 ぐことができます. 家 庭<br />

用 冷 凍 庫 でも 魚 の 長 期 保 存 が 可 能 ですが,<br />

温 度 が 高 いため, 特 にベラ 科 の 魚 などは 眼<br />

が 白 濁 してしまい,きれいな 写 真 を 撮 るこ<br />

とができません.<br />

魚 をそのまま 冷 凍 して 長 期 間 保 存 してお<br />

魚 類 冷 凍 保 存 用 の 超 低 温 槽<br />

「 冷 凍 焼 け」した 標 本 . 各 鰭 は 乾 燥 のため 硬 くなり, 広 げることができない<br />

9


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

海 水 を 満 たした 冷 凍 保 存 中 の 標 本 .ヨメヒメジの 尾 鰭<br />

先 端 が 曲 がってしまっており, 理 想 の 保 存 状 態 ではな<br />

い.<br />

海 水 を 満 たした 冷 凍 保 存 中 の 標 本 . 理 想 的 な 状 態 .<br />

2007 年 から 冷 凍 保 存 しているが,2009 年 に 解 凍 して<br />

も 問 題 なく 処 理 ができた.<br />

くと 魚 体 は 固 まってしまい, 解 凍 後 も 元 に<br />

は 戻 りません.「 冷 凍 焼 け」と 呼 ばれるこ<br />

の 現 象 は, 凍 結 中 の 乾 燥 によってタンパ<br />

ク 質 が 脱 水 変 性 する 不 可 逆 的 な 変 化 ですの<br />

で, 解 凍 後 に 水 を 加 えても 再 吸 収 せず, 固<br />

まったままになってしまいます. 冷 凍 焼 け<br />

した 魚 は 展 鰭 (Step 7)できず, 鰭 の 色 彩<br />

などを 記 録 することができなくなります.<br />

冷 凍 焼 けを 完 全 に 防 ぐことは 難 しいです<br />

が, 海 水 魚 の 場 合 は 海 水 を, 淡 水 魚 の 場 合<br />

は 真 水 を 一 緒 に 袋 に 入 れ, 魚 体 が 水 からで<br />

ないようにした 状 態 で 冷 凍 すると, 冷 凍 焼<br />

けの 程 度 を 軽 減 することができます.<br />

冷 凍 する 際 には 必 ず 魚 の 採 集 データを 同<br />

封 する 必 要 があります. 冷 凍 するのは, 比<br />

較 的 長 期 間 標 本 処 理 ができない 場 合 ですの<br />

で, 採 集 データを 記 しておかないと 忘 れて<br />

しまいます. 面 倒 でも, 忙 しくても,どん<br />

な 場 合 でも 必 ずデータは 書 いて 下 さい.こ<br />

れは 標 本 を 扱 う 上 で 何 よりも 重 要 なことで<br />

す. 必 要 なデータは, 採 集 場 所 , 採 集 日 ,<br />

採 集 者 , 採 集 方 法 , 採 集 された 水 深 ,など<br />

できるだけ 詳 しい 情 報 です.<br />

データを 記 入 する 際 にも 注 意 が 必 要 で<br />

す.ボールペンで 普 通 紙 にデータを 記 入<br />

すると, 解 凍 時 に 紙 やインクが 水 に 溶 けて<br />

データが 読 めなくなってしまいますので,<br />

データは 必 ず 鉛 筆 かシャープペンシルで 耐<br />

水 紙 に 記 入 して 下 さい.せっかくの 貴 重 な<br />

標 本 も 採 集 データがなければその 価 値 も 半<br />

減 してしまいます( 研 究 内 容 によっては 標<br />

本 の 価 値 がゼロになってしまいます).<br />

ところで,DNA 解 析 用 に 魚 体 をまるご<br />

と 冷 凍 保 存 する 場 合 があります. 最 近 は 分<br />

子 論 文 でも 根 拠 となる 標 本 を 博 物 館 などの<br />

研 究 機 関 に 登 録 しなければなりません.あ<br />

まりに 長 い 期 間 冷 凍 保 存 した 標 本 は, 美 し<br />

い 標 本 作 製 ができないばかりか, 冷 凍 焼 け<br />

によって 正 確 な 同 定 が 不 可 能 になる 場 合 も<br />

あります.DNA 解 析 用 の 組 織 を 採 った 後 ,<br />

魚 自 体 はなるべく 早 く 適 切 な 処 置 をして 保<br />

存 するのが 良 いでしょう.<br />

冷 凍 標 本 の 処 理 を 開 始 する 場 合<br />

→ Step 3 へ<br />

10


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 3 解 凍 defrosting<br />

目 黒 昌 利 ・ 山 下 真 弘<br />

長 期 間 冷 凍 保 存 していた 魚 を 標 本 処 理 す<br />

る 第 一 段 階 は 解 凍 作 業 です. 単 なる 解 凍 で<br />

すが,タイミングが 重 要 で 難 しいものです.<br />

標 本 処 理 を 開 始 する 時 間 に 完 全 に 解 凍 され<br />

るよう 気 温 や 氷 の 量 を 考 えて 冷 凍 庫 から 出<br />

す 必 要 があります. 解 凍 を 早 く 始 めすぎる<br />

と, 標 本 処 理 時 には 腐 ってしまいますし( 特<br />

に 内 臓 は 腐 りやすいので 注 意 ), 遅 すぎる<br />

とつい 半 解 の 氷 を 魚 体 からはがして, 鱗 や<br />

表 皮 の 一 部 を 損 失 してしまうことになりま<br />

す.<br />

複 数 の 冷 凍 袋 から 解 凍 する 場 合 は,デー<br />

タが 混 合 しないように 特 に 細 心 の 注 意 が 必<br />

要 です.<br />

流 水 で 解 凍 中<br />

魚 の 解 凍 が 終 わったら<br />

→<br />

Step 4 へ<br />

11


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 4 洗 浄<br />

rinse<br />

本 村 浩 之 ・ 目 黒 昌 利<br />

このステップでは, 解 凍 した 魚 の 体 表 に<br />

付 着 しているゴミや 粘 膜 を 落 とすための 洗<br />

浄 方 法 と 注 意 点 を 説 明 します. 長 期 間 冷 凍<br />

されていた 魚 は 特 に 鱗 がはがれ 易 く,また<br />

鰭 膜 が 破 れやすくなっているため, 細 心 の<br />

注 意 を 払 って 洗 浄 します. 通 常 , 指 先 で 軽<br />

くこするように 体 表 の 付 着 物 を 取 り 除 きま<br />

すが, 必 要 な 場 合 は 毛 先 の 柔 らかい 筆 も 使<br />

用 します. 特 に 体 表 の 粘 膜 はこの 段 階 で 注<br />

意 して 完 全 に 取 り 除 く 必 要 があります. 鮮<br />

魚 の 粘 膜 は 透 明 で 見 えづらいですが, 展<br />

鰭 (Step 7 参 照 )のためにホルマリンを 塗<br />

布 すると 粘 膜 が 固 定 されて 白 濁 し,それに<br />

よって 体 表 の 本 来 の 色 彩 を 記 録 (Step 8 を<br />

参 照 )することができなくなってしまいま<br />

す.<br />

Information 1 に 従 って 麻 酔 した 魚 は, 体<br />

表 に 無 数 の 白 点 (4- アミン 安 息 香 酸 エチル<br />

の 結 晶 )が 付 着 します. 筆 などを 使 って 根<br />

気 良 く 結 晶 を 除 去 します.<br />

魚 の 洗 浄 が 終 わったら<br />

→ Step 5 へ<br />

体 表 の 粘 膜 を 除 去 しないで 撮 影 されたナマズ(KAUM-I. 3508, 標 準 体 長 451.8 mm). 頭 部 背 面 後 方 の 黒 色 域 は, 粘 膜<br />

が 剥 れており,そこだけ 本 来 の 体 色 がみえる<br />

体 表 の 粘 膜 が 完 全 に 除 去 されたナマズ(KAUM-I. 4806, 標 準 体 長 72.9 mm)<br />

12


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 5 タグの 割 当 assigning tag to specimen<br />

本 村 浩 之<br />

洗 浄 が 終 わったら,この 段 階 で 各 標 本 を<br />

個 体 識 別 して 扱 います. 複 数 の 冷 凍 標 本 を<br />

扱 い, 袋 ごとに 採 集 データが 異 なる 場 合 は,<br />

どの 袋 から 出 した 標 本 なのか 識 別 する 必 要<br />

がありますし, 後 の DNA 解 析 用 組 織 切 片<br />

を 採 取 する 際 (Step 6),あるいは 撮 影 する<br />

際 ( Step 8)に 1 標 本 毎 に 番 号 (タグ)を 振 っ<br />

ておく 必 要 があります.この 段 階 ではタグ<br />

を 標 本 に 縫 付 けないようにして 下 さい. 標<br />

本 にタグが 付 いていると, 撮 影 する 際 に 外<br />

さなければならず(Step 8), 二 度 手 間 です.<br />

各 標 本 にタグを 割 り 当 てると 同 時 に,タ<br />

グ 番 号 とそれに 割 り 当 てられた 標 本 の 採 集<br />

データを 標 本 台 帳 に 記 入 します. 台 帳 は 半<br />

永 久 的 に 残 す 必 要 があるので, 必 ず 鉛 筆 か<br />

シャープペンシルで 記 入 します( 詳 しくは<br />

Step 2 のデータ 記 入 方 法 を 参 照 ). 瞬 時 に<br />

同 定 できない 標 本 については, 撮 影 後 に 同<br />

定 し(Step 11), 種 名 を 台 帳 に 記 入 します.<br />

この 段 階 で 同 定 に 時 間 をかけると, 標 本 の<br />

鮮 度 が 下 がり, 本 来 の 生 鮮 時 の 体 色 が 記 録<br />

できなくなりますので, 気 をつけて 下 さい.<br />

■ 標 本 タグの 作 製 方 法<br />

タグ 用 の 布 としては,インクが 良 く 染 み<br />

込 み, 伸 縮 性 が 低 く,ほつれにくい 性 質 を<br />

もつキャラコ 布 が 最 適 です. 白 地 のキャ<br />

ラコにナンバリングで 印 字 します. 番 号<br />

印 字 の 後 , 各 番 号 の 前 に 国 際 研 究 機 関 略<br />

号 ( 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 の 場 合 は<br />

Kagoshima University Museum-Ichthyology を<br />

略 した KAUM-I.)を 顔 料 インクでスタン<br />

プします.その 後 ,1 日 以 上 放 置 し, 完 全<br />

にインクが 乾 いたら,コロジオンの 原 液 で<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 使 用 されている 標 本 タ<br />

グ.ここから 1 番 号 ずつ 切 り 取 って 標 本 に 割 り 当 てる<br />

左 図 はナンバリング(ライオン 事 務 器 社 製 D-51). 右<br />

図 は KAUM-I. スタンプを 押 す 際 のスタンプ 台<br />

13


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

番 号 と 機 関 略 号 がスタンプされたキャラコ 布 標 本 タグ<br />

(コロジオン 塗 布 の 前 ). 左 下 図 はコロジオン<br />

布 全 体 をコートし, 洗<br />

濯 物 を 干 すように 洗 濯<br />

ばさみなどで 挟 んで 乾<br />

燥 させます.インクが<br />

十 分 に 乾 燥 する 前 にコ<br />

ロジオンを 塗 ってしま<br />

うと, 印 字 がにじんで<br />

しまいますので, 十 分<br />

に 気 をつける 必 要 があ<br />

ります.もし 印 字 がに<br />

じんで 数 字 が 読 み 取 れ<br />

ない 場 合 ,あるいはタ<br />

グ 自 体 を 紛 失 してしまった 場 合 は,1 タグ<br />

分 だけ 作 り 直 す 必 要 があります.その 際 ,<br />

ナンバリングが 複 数 あれば 良 いのですが,<br />

1 コしかない 場 合 は, 作 り 直 す 必 要 がある<br />

タグをテープライター(テプラ)で 作 製 し<br />

ます.ナンバリングの 番 号 を 再 作 製 タグ 番<br />

号 まで 遡 って 設 定 し,1 タグを 作 製 すると,<br />

本 来 の 番 号 に 戻 す 際 の 誤 りで 同 じ 番 号 が 複<br />

数 出 来 てしまう 危 険 があります.ナンバリ<br />

ングは 実 際 に 設 定 した 番 号 の 次 の 番 号 から<br />

印 字 される 仕 組 みになっており, 番 号 の 欠<br />

落 や 重 複 は 多 いミスです.タグの 追 加 は,<br />

ナンバリングを 追 加 で 購 入 するかテプラを<br />

オリエント・エンタプライズ 社 製 ダイモテープライ<br />

ター(DM1585-B)と 作 製 したタグ( 幅 9 mm)<br />

完 成 したタグは 30 ~ 50 単 位 に 切 って 丸 めて 保 管 して<br />

おくと 便 利<br />

使 用 することを 強 く 勧 めます.<br />

コロジオンを 塗 布 し, 完 全 に 乾 燥 したタ<br />

グは, 硬 い 膜 で 覆 われますので,タグ 布 の<br />

カットが 容 易 になります.また,コロジオ<br />

ンは 耐 水 性 ですので, 水 につけても 印 字 が<br />

にじむことはありません( 耐 アルコール 性<br />

の 程 度 は 不 明 ).<br />

1 DNA 解 析 用 筋 組 織 切 片 が 必 要 な 場 合<br />

2 組 織 切 片 が 必 要 ない 場 合<br />

→<br />

→<br />

Step 6 へ<br />

Step 7 へ<br />

14


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 6 組 織 切 片 taking tissue samples<br />

本 村 浩 之 ・ 栗 岩 薫<br />

現 在 , 生 物 の DNA を 解 析 する 研 究 が 精<br />

力 的 に 行 われています. 多 くの 博 物 館 では,<br />

標 本 それ 自 体 の 他 に,DNA 解 析 用 の 組 織<br />

切 片 も 採 取 ・ 管 理 しています.ここでは,<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 が 行 っている 魚<br />

類 組 織 切 片 の 採 取 ・ 管 理 の 方 法 を 紹 介 しま<br />

す.<br />

組 織 切 片 の 採 取 は,Step 5 の 個 体 識 別 (タ<br />

グの 割 り 当 て)と Step 7 の 展 鰭 の 間 でのみ<br />

可 能 です.これは, 切 片 を 採 取 した 魚 のタ<br />

グ 番 号 と 同 じ 番 号 で 管 理 していることと,<br />

DNA は 展 鰭 作 業 で 使 うホルマリンに 浸 け<br />

ると 解 析 ができなくなってしまうからで<br />

す.<br />

魚 類 の 分 類 学 的 研 究 では 常 に 魚 体 の 左 側<br />

を 使 うため, 左 側 は 完 全 な 状 態 で 保 存 しな<br />

ければなりません.そのため, 組 織 切 片 は<br />

必 ず 魚 体 の 右 側 から 採 取 します.さらに,<br />

魚 体 の 右 側 から 切 片 を 採 取 する 際 , 計 数 形<br />

質 として 重 要 な 側 線 や 胸 鰭 を 傷 つけないよ<br />

うに 注 意 します.ヘビギンポ 科 などのよう<br />

に 小 型 の 種 は, 体 側 からの 組 織 切 片 採 取 が<br />

組 織 切 片 を 採 取 した 後 の 標 本 ( 魚 体 の 右 側 ). 背 中 央<br />

の 白 色 部 が 採 取 跡 .<br />

組 織 切 片 とデータ( 標 本 番 号 と 種 名 )を 入 れたスク<br />

リュー 管<br />

組 織 切 片 を 保 存 するスクリュー 管 (ラボラン スクリュ<br />

ウ 管 瓶 No.5,20 cc,55 本 入 )<br />

データ( 標 本 番 号 , 種 名 , 産 地 )が 記 入 されたスクリュー<br />

管 の 蓋<br />

15


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

難 しいため, 筋 組 織 の 代 わりに 右 側 の 腹 鰭<br />

を 切 除 し, 保 存 します. 分 類 学 上 , 対 鰭 で<br />

ある 胸 鰭 と 腹 鰭 のうち, 後 者 の 形 質 は 比 較<br />

的 変 異 が 少 なく(アルファ 分 類 ではあまり<br />

使 われない 形 質 の 一 つ), 右 側 を 切 除 して<br />

も 問 題 ありません.<br />

得 られた 切 片 は 99.5% エチルアルコー<br />

ル(エタノール)で 満 たしたスクリュー 管<br />

(ラボラン)に 入 れています.この 時 , 耐<br />

水 紙 に 採 取 元 の 標 本 番 号 と 種 名 を 鉛 筆 で 記<br />

入 し, 同 封 します.5 mm ほどの 切 片 でも<br />

DNA は 十 分 に 抽 出 できますが, 複 数 回 抽<br />

出 する 場 合 に 備 えて 1 cm 角 程 度 の 切 片 を<br />

切 ります.20 cc のスクリュー 管 では 1 cm<br />

角 程 度 の 切 片 が 適 しています. 切 片 全 体 ( 中<br />

まで)に 高 濃 度 のエタノールが 染 み 渡 るよ<br />

う,あまり 切 片 を 大 きく 切 り 過 ぎないよう<br />

に 注 意 して 下 さい.<br />

切 片 をスクリュー 管 に 入 れる 際 , 表 皮 ・<br />

脂 肪 ・ 血 液 などは 入 れないようにします( 小<br />

型 魚 の 場 合 は 仕 方 がありませんが). 表 皮<br />

は 色 素 が 抜 けてエタノールが 汚 れるのを 避<br />

けるため, 脂 肪 と 血 液 は 抽 出 される DNA<br />

の 精 製 度 が 落 ちるのを 避 けるためです.な<br />

お, 昔 は 新 鮮 な 魚 体 から 組 織 片 を 切 り 出 す<br />

場 合 に,よく 肝 臓 を 用 いました. 肝 臓 は 全<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

組 織 の 中 でおそらく 最 も 大 量 の DNA が 取<br />

れますが, 脂 肪 や 糖 タンパクも 多 く 含 むた<br />

め, 近 年 ではあまり 用 いられなくなってい<br />

るようです.<br />

切 片 を 入 れたスクリュー 管 は, 長 期 保 管<br />

する 前 に 最 低 一 度 , 中 のエタノールを 新 し<br />

いものに 交 換 します.これは, 切 片 が 脱 水<br />

されることでエタノールの 濃 度 が 低 くなっ<br />

てしまうことと, 切 片 を 入 れることでエタ<br />

ノールが 汚 れてしまうためです.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では,スク<br />

リュー 管 を 箱 に 入 れて 保 存 しているため,<br />

スクリュー 管 の 蓋 にも 番 号 と 種 名 を 書 い<br />

て, 利 用 し 易 く( 探 し 易 く)しています.<br />

普 通 のサインペンではエタノールがかかる<br />

と 消 えてしまいますので,アルコール 耐<br />

性 ペンを 使 っています. 組 織 切 片 は,スク<br />

リュー 管 が 入 った 箱 ごと 超 低 温 槽 (Step 2<br />

を 参 照 )に 入 れて 長 期 保 管 しています.<br />

組 織 切 片 を 入 れたスクリュー 管 . 箱 の 蓋 をしめて,そ<br />

のまま 超 低 温 槽 に 保 管<br />

DNA 解 析 用 組 織 切 片 の 採 取 と 処 理 が 終<br />

わったら<br />

→ Step 7 へ<br />

16


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 7 展 鰭 pre-fixation<br />

松 沼 瑞 樹 ・ 本 村 浩 之<br />

魚 類 標 本 は 研 究 目 的 に 使 用 されますの<br />

で, 計 測 や 計 数 など 観 察 をする 際 に, 体 が<br />

まっすぐに,かつ 各 鰭 が 広 がっている 状 態<br />

で 固 定 されていると 便 利 です. 固 定 状 態 の<br />

悪 い 標 本 ですと, 正 確 な 測 定 値 を 得 るこ<br />

とができません.また,ハモ 科 やウミヘビ<br />

科 など 背 鰭 と 臀 鰭 の 基 底 がきわめて 長 い 魚<br />

は, 鰭 がたたまれた 状 態 で 固 定 されると 鰭<br />

条 を 計 数 する 際 にたいへん 苦 労 します. 標<br />

本 は 理 想 的 な 固 定 状 態 である 方 が, 学 術 的<br />

価 値 は 各 段 に 高 まります.<br />

固 定 状 態 の 悪 いイソカサゴ 標 本 . 口 と 鰓 蓋 が 開 いたま<br />

ま 固 定 されているため, 正 確 な 体 長 ですら 計 測 できな<br />

い<br />

理 想 的 な 固 定 状 態 のイソカサゴ 標 本 (KAUM-I. 4371,<br />

標 準 体 長 48.2 mm)<br />

■ 標 本 作 製 用 品<br />

◆ 針<br />

魚 類 標 本 を 展 鰭 する 上 で,もっとも 重 要<br />

なものです. 一 般 的 に 昆 虫 標 本 を 作 製 する<br />

際 に 使 われる 昆 虫 針 を 使 用 します. 志 賀 昆<br />

虫 普 及 社 製 の「 有 頭 / 無 頭 シガ 昆 虫 針<br />

00–6 号 ( 最 上 質 ステンレス 製 )」,または「シ<br />

ガ 微 針 ステンレス 製 無 頭 」が, 錆 びな<br />

い 点 や,さまざまな 太 さの 針 がある 点 で 扱<br />

いやすく 展 鰭 に 最 適 です.シガ 昆 虫 針 の 太<br />

さは 0.30 mm から 0.65 mm まであり, 号 数<br />

が 大 きくなるほど 太 くなります. 魚 の 大 き<br />

さや 鰭 膜 の 強 度 に 合 わせて 使 い 分 けるとよ<br />

いでしょう.また,00 号 針 よりもさらに<br />

細 い 針 としてシガ 微 針 があり,ハゼ 科 やヘ<br />

ビギンポ 科 などきわめて 小 型 , 鰭 膜 がもろ<br />

い 魚 の 展 鰭 にも 対 応 できます.シガ 微 針 は<br />

きわめて 細 く 短 いため,ピンセットを 用 い<br />

て 扱 います. 発 泡 スチロールの 板 や, 食 品<br />

トレーに 刺 すと 針 先 が 損 傷 しやすいため,<br />

シガ 微 針 で 展 鰭 する 際 には 後 述 する 軟 質 ス<br />

ポンジ 製 の 板 を 用 いた 方 が 無 難 です.<br />

サバ 科 など, 大 型 で 体 幅 の 広 い 魚 の 展<br />

鰭 には, 金 属 製 の 針 ではなく 竹 串 を 用 い<br />

ることもあります. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究<br />

博 物 館 では, 大 型 魚 の 展 鰭 に,Australian<br />

Entomological Supplies 製 の 全 長 70 mm, 幅<br />

17


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

有 頭 シガ 昆 虫 5 号 針 のパッケージと 中 身<br />

食 品 用 リサイクルトレーにホルマリンを 張 って 展 鰭 す<br />

るところ<br />

◆ 発 泡 スチロールの 板<br />

量 販 店 などで, 鮮 魚 を 輸 送 する 際 に 使 用<br />

する 発 泡 スチロール 製 の 箱 の 蓋 をもらうと<br />

よいでしょう.さまざまな 大 きさのものを<br />

用 意 しておくと 便 利 です. 最 低 でも 3 cm<br />

ほどの 厚 みがあるものが 理 想 です.<br />

有 頭 シガ 昆 虫 針 00 ~ 6 号 針 と AES 製 極 太 針<br />

1.37 mm の 太 く 長 いステンレス 針 (E979<br />

Needle 70 mm -stainless steel, solid head, 1.37<br />

mm thick, 50 本 30AU ドル)を 使 用 してい<br />

ます.<br />

志 賀 昆 虫 普 及 社 の 各 針 の 太 さ 長 さは 以 下<br />

の 通 りです.<br />

・ 無 頭 シガ 微 針 (ステンレス 製 )<br />

太 さ 0.18 mm, 長 さ 17.5 mm<br />

・ 有 頭 シガ 昆 虫 針 ( 最 上 質 ステンレス 製 )<br />

00 号 太 さ 0.30 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

0 号 太 さ 0.35 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

1 号 太 さ 0.40 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

2 号 太 さ 0.45 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

3 号 太 さ 0.50 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

4 号 太 さ 0.55 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

5 号 太 さ 0.60 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

6 号 太 さ 0.65 mm, 長 さ 約 40 mm<br />

◆ 食 品 用 トレー<br />

小 型 の 魚 をホルマリン 溶 液 に 浸 して 固 定<br />

する 際 に 使 用 します. 底 が 平 らな 形 状 のも<br />

のを 選 んで 使 います.さまざまな 大 きさの<br />

ものをストックしておき, 魚 の 大 きさにあ<br />

わせて 使 用 できるようにすると 便 利 です.<br />

何 度 も 使 用 しているうちに 針 を 刺 すことで<br />

トレーの 底 に 穴 が 空 き,ホルマリンが 漏 れ<br />

てしまうことがありますが, 同 じ 形 状 のト<br />

レーを 重 ねて 使 用 することで 漏 れを 回 避 し<br />

ます.あるいは,プラスティック 製 バット<br />

の 中 にトレーを 置 いて 作 業 を 行 うと 安 全 で<br />

す.<br />

◆ 軟 質 スポンジ 製 の 板 と 容 器<br />

シガ 微 針 など 微 細 な 針 を 用 いて 小 型 の 魚<br />

を 展 鰭 するとき, 発 泡 スチロールや 食 品 用<br />

トレーなど 硬 い 材 質 のものでは, 抜 き 刺 し<br />

の 際 に 抵 抗 がかかり 鰭 膜 を 破 ったり, 針 先<br />

18


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

黒 色 の 軟 スポンジ 板 をプラスティック 製 タッパーに 接<br />

着 したもの<br />

展 鰭 用 原 液 ホルマリンの 小 分 容 器<br />

ぺんてる 製 えふでネオセーブル( 丸 筆 ). 上 から 18,<br />

14,6 号<br />

を 損 傷 する 可 能 性 があります. 材 質 が 軟 ら<br />

かいスポンジ 材 質 の 板 を 用 いることで, 標<br />

本 ・ 針 の 双 方 へのダメージを 軽 減 します.<br />

スポンジ 製 の 板 は 透 明 な 鰭 膜 がよく 見 え<br />

るように 黒 色 のものを 使 用 し, 底 が 水 平 な<br />

容 器 に 耐 水 性 の 接 着 剤 で 接 着 します. 容 器<br />

は 陶 器 製 の 生 け 花 用 の 花 器 や 食 品 保 存 用 の<br />

タッパーを 利 用 します.<br />

◆ 筆<br />

筆 先 がほどよく 柔 らかく, 水 気 を 多 く 含<br />

むことができるものを 使 用 します. 文 房 具<br />

品 店 で 入 手 することが 可 能 な 絵 筆 や 書 道 筆<br />

を 利 用 します. 毛 筆 がかたすぎると, 魚 の<br />

体 表 に 傷 がついたり, 鱗 がはがれる 場 合 が<br />

あるので 注 意 が 必 要 です. 鹿 児 島 大 学 総 合<br />

研 究 博 物 館 では,ぺんてる 製 の「えふで<br />

ネオセーブル 丸 筆 0 ~ 18 号 」を 使 用<br />

しています.これは, 毛 筆 がやわらかく 標<br />

本 作 製 に 最 適 ですし, 約 3 ~ 10 mm とさ<br />

固 定 中 の 標 本 の 乾 燥 を 防 ぐために 欠 かせない 霧 吹 き<br />

まざまな 穂 先 の 太 さの 製 品 があるため, 魚<br />

の 大 きさに 応 じて 使 い 分 けることができま<br />

す.<br />

◆ホルマリン<br />

魚 類 標 本 の 展 鰭 には 原 液 ホルマリンを 使<br />

用 します. 密 封 可 能 な 小 さな 容 器 に 小 分 け<br />

にしておくと, 大 人 数 で 作 業 する 際 に 便 利<br />

です. 毒 性 が 高 いため, 換 気 を 十 分 にし,<br />

扱 いには 注 意 してください.また, 小 型 の<br />

魚 を 食 品 用 トレーの 中 で 展 鰭 する 際 には,<br />

10% に 希 釈 したホルマリン 溶 液 を 使 用 しま<br />

す.<br />

19


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

◆ 霧 吹 き<br />

固 定 中 の 標 本 が 乾 燥 することによりダ<br />

メージを 受 けることを 防 ぐため, 湿 らせる<br />

際 に 使 用 します. 園 芸 用 品 店 で 購 入 するこ<br />

とが 可 能 ですが, 適 当 なものが 手 元 に 無 い<br />

場 合 は, 布 製 品 用 の 消 臭 剤 の 空 き 容 器 で 代<br />

用 することもできます.<br />

展 鰭 の 作 業 では, 上 記 の 他 にバットやピ<br />

ンセットなど 一 般 的 な 実 験 用 具 も 使 用 しま<br />

す.<br />

■ 展 鰭 の 下 準 備<br />

展 鰭 をする 前 に, 魚 の 体 表 についている<br />

粘 液 やゴミを 流 水 中 で 落 とします( 詳 しく<br />

は Step 4 を 参 照 ).ヒメジ 科 など, 一 部 の<br />

魚 は 鱗 がはがれやすいため, 慎 重 にやさし<br />

く 洗 う 必 要 があります. 一 方 でサメ・エイ<br />

類 などの 軟 骨 魚 類 やタイワンドジョウ 科 は<br />

体 表 が 頑 強 ですので,しっかり 強 く 洗 って<br />

も 標 本 にダメージを 与 える 心 配 は 少 なく,<br />

スポンジと 家 庭 用 洗 剤 を 用 いて 洗 うと 効 果<br />

的 です. 粘 液 は 鰓 孔 や 口 のまわり, 各 鰭 の<br />

基 部 に 残 りやすいので,そのような 部 位 を<br />

念 入 りに 洗 浄 します.また, 解 凍 直 後 , 死<br />

後 硬 直 中 の 魚 は, 洗 浄 中 に 体 を 優 しくほぐ<br />

してやると 固 定 が 容 易 になります.<br />

洗 浄 後 は, 魚 の 体 表 についた 余 分 な 水 気<br />

をキッチンペーパーなどで 吸 い 取 ります.<br />

魚 体 が 多 分 に 水 気 をおびていると,ホルマ<br />

リンを 塗 布 した 際 に,ホルマリンが 体 表 を<br />

つたい 落 ち, 発 泡 スチロールにひろく 流 れ<br />

臭 気 がひどくなります.また, 後 述 します<br />

がヒラメ 科 やカレイ 科 などの 異 体 類 は, 展<br />

鰭 を 行 う 前 に 背 鰭 と 臀 鰭 の 始 部 を 確 認 して<br />

おくと, 鰭 の 立 て 忘 れがなくなります.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

大 量 の 魚 を 処 理 する 場 合 には, 鰭 立 てを<br />

行 う 順 番 を 考 慮 する 必 要 があります. 体 が<br />

頑 強 で 傷 みにくいフサカサゴ 科 やイットウ<br />

ダイ 科 の 魚 にくらべ, 魚 体 が 傷 みやすい 肉<br />

質 のニシン・カタクチイワシ 科 や 小 型 のハ<br />

ゼ 科 の 魚 は, 早 い 段 階 で 処 理 した 方 が 無<br />

難 です. 魚 の 種 類 や 体 サイズによって 優 先<br />

順 位 を 決 めることで, 良 い 状 態 の 標 本 を 作<br />

製 することができます.また, 魚 体 の 傷 み<br />

を 軽 減 するため 展 鰭 待 ちの 魚 は,クーラー<br />

ボックスに 入 れ 氷 中 で 保 存 することをおす<br />

すめします(Step 1 を 参 照 ).<br />

■ 展 鰭 作 業 の 流 れ<br />

魚 類 の 体 型 はグループによって 千 差 万 別<br />

ですので, 種 によって 展 鰭 の 方 法 も 異 なり<br />

ます.したがって, 正 しい 展 鰭 を 行 うため<br />

には,その 魚 の 形 を 熟 知 している 必 要 があ<br />

るといえます.まず, 一 般 的 な 展 鰭 の 工 程<br />

について 説 明 し, 特 殊 な 展 鰭 の 方 法 を 必 要<br />

とするグループについては 個 別 に 紹 介 しま<br />

す.<br />

1 魚 体 の 定 置<br />

慣 習 的 に 魚 類 標 本 は, 左 体 側 を 基 準 とし<br />

て 展 鰭 を 行 います. 魚 体 の 中 心 線 が 水 平 に<br />

なるように 魚 の 右 体 側 を 下 に, 左 体 側 が 上<br />

になるように 発 砲 スチロールに 置 きます.<br />

ただし,アンコウ 科 や 異 体 類 などは 背 面 を<br />

上 にして 展 鰭 します.<br />

魚 をまっすぐに 置 いたら, 魚 体 の 四 隅 に<br />

やや 太 い 針 を 打 ち, 展 鰭 中 に 魚 体 がずれな<br />

いようにします.また, 口 が 完 全 に 閉 じな<br />

い 場 合 は, 口 を 閉 じた 状 態 で 両 顎 をおさえ<br />

るように 針 を 打 ちます.これで 魚 体 の 定 置<br />

20


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

1 体 軸 を 固 定 する<br />

2 尾 鰭 を 広 げて 固 定<br />

3 背 鰭 軟 条 部 を 後 ろから 広 げて 固 定 する<br />

4 臀 鰭 を 後 ろから 広 げて 固 定 する<br />

5 背 鰭 棘 条 部 を 広 げて 固 定 する<br />

6 腹 鰭 を 広 げて 固 定 する<br />

カンパチ 標 本 の 展 鰭 作 業 の 手 順<br />

左 図 はネズッポ 科 の 展 鰭 . 上 が 展 鰭 前 , 下 が 展 鰭 完 了<br />

21


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

展 鰭 作 業 中<br />

展 鰭 し,ホルマリンを 塗 布 する 直 前<br />

は 完 了 です.ニシン 科 やサバ 科 など, 体 が<br />

長 細 く, 駆 幹 部 の 断 面 が 円 形 の 魚 は, 頭 が<br />

下 にもたれるので, 頭 を 下 から 持 ち 上 げる<br />

ように 針 を 打 って 体 の 中 心 線 が 湾 曲 しない<br />

ようにします.もしくは, 発 泡 スチロール<br />

の 欠 片 をかませるのもよいでしょう.<br />

また,ウミヘビ 科 やハモ 科 など 体 がき<br />

わめて 細 長 い 魚 では,「コ」の 形 ,あるい<br />

は S 字 になるように 定 置 する 場 合 がありま<br />

す.さらに,タツノオトシゴ 類 の 尾 部 は,<br />

自 然 な 形 になるように 丸 めた 状 態 で 定 置 し<br />

ます.<br />

2 鰭 立 て<br />

次 に 鰭 立 てを 行 います. 鰭 立 てでは 鰭 膜<br />

へのダメージを 最 小 限 にとどめるため, 可<br />

能 なかぎり 細 い 針 を 使 用 し,なるべく 鰭 膜<br />

の 真 ん 中 ではなく 鰭 条 に 沿 って 基 部 付 近 に<br />

針 を 打 つようにします. 鰭 膜 の 目 立 つ 部 分<br />

に 穴 をあけると,この 後 の 写 真 撮 影 で 美<br />

しい 写 真 が 撮 れなくなるので 注 意 が 必 要 で<br />

す.<br />

まず, 尾 鰭 を 展 鰭 します. 尾 鰭 を 自 然 な<br />

状 態 で 完 全 に 開 き, 両 葉 の 端 に 針 を 打 ちま<br />

す. 尾 鰭 を 先 にたてることで, 背 鰭 ・ 臀 鰭<br />

を 立 てた 際 に 魚 体 が 前 方 へずれなくなりま<br />

す. 特 にトレーを 用 いてホルマリン 溶 液 中<br />

で 小 型 の 標 本 を 展 鰭 する 際 には, 浮 力 のは<br />

たらきで 魚 体 がずれやすくなるので, 必 ず<br />

最 初 に 尾 鰭 から 立 てるようにします. 次 に,<br />

背 鰭 と 臀 鰭 を 立 てます. 後 方 の 鰭 条 から 立<br />

てていくと,たわむことなくきれいに 立 て<br />

ることができます.なるべく 鰭 条 に 沿 って<br />

針 を 打 ち, 鰭 膜 に 目 立 つ 穴 を 開 けないよう<br />

にします.さらに, 左 側 の 腹 鰭 を 自 然 な 形<br />

で 完 全 に 開 いて 針 を 打 ちます. 右 側 の 腹 鰭<br />

は 体 側 にぴったり 沿 うように 針 を 打 ち, 上<br />

から 見 たときに 体 の 後 ろに 隠 れるようにし<br />

ます. 最 後 に, 胸 鰭 を 開 きます. 胸 鰭 は 自<br />

然 な 形 で 完 全 に 開 くよう, 指 で 整 形 します.<br />

また, 一 部 の 魚 は 胸 鰭 に 遊 離 軟 条 を 有 し,<br />

ホウボウ 科 やフサカサゴ 科 などカサゴ 目 の<br />

魚 ではこれを 立 てず, 一 方 でツバメコノシ<br />

ロ 科 などでは 重 要 な 分 類 形 質 となるため 自<br />

然 な 展 開 状 態 になるように 固 定 します.<br />

顎 にひげをもつヒメジ 科 やゴンズイ 科 な<br />

どの 魚 は,ひげを 立 てます.それぞれのひ<br />

げの 立 てる 角 度 を 調 整 して, 上 から 見 たと<br />

きに 全 てのひげが 確 認 できるように 立 てま<br />

す.<br />

22


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

筆 でホルマリンを 塗 布<br />

3ホルマリンの 塗 布<br />

展 鰭 の 後 , 筆 を 使 ってホルマリンの 原 液<br />

を 塗 布 します. 大 型 の 魚 で 鰭 膜 が 厚 く 丈 夫<br />

な 魚 では, 鰭 全 体 にホルマリンを 塗 布 しま<br />

す. 小 型 の 魚 で 鰭 膜 がうすく 脆 い 魚 では,<br />

鰭 膜 にホルマリンを 過 剰 に 塗 布 すると 固 定<br />

後 に 鰭 膜 が 収 縮 して 破 れる 恐 れがあるた<br />

め, 各 鰭 の 基 部 に 塗 布 するにとどめたほう<br />

がよいでしょう.さらに, 口 がとじた 状 態<br />

で 固 定 されるように 顎 のまわりにもホルマ<br />

リンを 塗 布 します. 固 定 にかかる 時 間 は 魚<br />

の 大 きさによります. 体 長 10 cm 未 満 の 小<br />

さな 標 本 であれば,5 ~ 10 分 ほどで 十 分<br />

です. 大 きな 標 本 でも 15 分 ほどで 完 全 に<br />

固 定 されます.<br />

体 が 大 きく 肉 厚 の 魚 は, 体 表 にホルマリ<br />

ンを 塗 布 しただけでは 十 分 に 固 定 されない<br />

場 合 があります(とくに 腹 鰭 や 顎 ).そこで,<br />

ホルマリンを 染 み 込 ませたキッチンペー<br />

パーなどで 各 鰭 の 基 部 や 顎 のまわりを 覆 う<br />

ようにすると,ホルマリンが 体 表 を 伝 い 落<br />

ちるのを 防 ぎ, 完 全 に 固 定 することができ<br />

ます.<br />

ホルマリンを 塗 布 した 後 は, 魚 体 が 乾 燥<br />

するのを 防 ぐため,キッチンペーパーで 体<br />

全 体 を 覆 い, 霧 吹 きで 十 分 に 湿 らせます.<br />

大 型 標 本 の 腹 鰭 は 固 まりづらいため,ホルマリンを 染<br />

み 込 ませたキムタオルなどで 覆 っておくと 固 まり 易 い<br />

イトヨリダイ 科 など 腹 鰭 が 伸 長 する 魚 は,<br />

湿 ったキッチンペーパーの 重 みで 鰭 条 の 先<br />

端 が 下 にたれる 恐 れがあるため, 鰭 先 のま<br />

わりに 長 い 針 を 打 って 支 えにします.<br />

固 定 が 完 了 した 後 に, 針 を 抜 く 時 にも 注<br />

意 が 必 要 です.たとえ,きれいに 鰭 立 てが<br />

できたとしても,ぞんざいに 針 を 抜 いて 魚<br />

体 を 傷 つけたのでは 元 も 子 もありません.<br />

鰭 膜 の 穴 をよけいに 広 げることがないよう<br />

魚 体 の 乾 燥 を 防 ぐため, 水 で 湿 らせたキムタオルで 体<br />

全 体 を 覆 う. 頻 繁 に 霧 吹 きで 水 をかける<br />

23


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

に, 慎 重 に 針 を 抜 きます.また,ホルマリ<br />

ンを 塗 布 した 後 に 標 本 を 長 時 間 放 置 してお<br />

くと, 眼 が 白 濁 し, 体 色 が 不 鮮 明 になるた<br />

め, 展 鰭 後 は 直 ちに 次 のステップに 進 む 必<br />

要 があります.<br />

4 洗 浄<br />

ホルマリンを 塗 布 した 後 , 再 度 の 洗 浄 を<br />

行 って 写 真 撮 影 に 備 えます. 大 量 のサンプ<br />

ルを 処 理 する 際 , 写 真 撮 影 の 順 番 待 ちにな<br />

る 場 合 は, 短 期 間 であれば 氷 水 の 中 で 保 管<br />

すると 魚 体 へのダメージが 軽 減 します.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

◆ 体 サイズがきわめて 小 さい 魚 (ハゼ 科 ・<br />

ヘビギンポ 科 ・メダカ 科 など)<br />

体 のサイズが 小 さな 魚 や 仔 魚 は 鰭 膜 がも<br />

ろく 乾 燥 にも 弱 いため,10% に 希 釈 したホ<br />

ルマリン 溶 液 を 満 たした 食 品 用 トレー,あ<br />

るいは 軟 質 スポンジ 板 を 張 った 容 器 の 中 で<br />

鰭 立 てを 行 います.ホルマリン 溶 液 中 では<br />

浮 力 によって 魚 体 がずれやすくなるため<br />

(とくにハゼ 科 ), 魚 体 の 定 置 の 際 に, 口 の<br />

間 に 挟 まるようにやや 太 い 針 を 打 ち, 魚 体<br />

■ 特 別 な 展 鰭 の 方 法<br />

一 部 のグループの 魚 は,その 形 態 的 特 徴<br />

にあわせた 展 鰭 を 行 う 必 要 があります.<br />

ホウボウの 右 体 側 の 胸 鰭 ( 内 側 )<br />

食 品 用 トレーにホルマリンを 張 って, 展 鰭 していると<br />

ころ<br />

黒 色 の 軟 スポンジ 板 をプラスティック 製 トレーに 接 着<br />

し,ホルマリンを 張 って, 展 鰭 しているところ<br />

オニオコゼの 右 体 側 の 胸 鰭 ( 内 側 )<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

◆ 胸 鰭 に 模 様 がある 魚 (ホウボウ 科 ・ト<br />

ビウオ 科 ・オニオコゼ 科 など)<br />

胸 鰭 に 分 類 形 質 となる 模 様 がある 魚 は,<br />

右 体 側 の 胸 鰭 を 切 除 して 展 鰭 し, 写 真 撮 影<br />

を 行 っておくと, 後 に 同 定 する 際 や 分 類 学<br />

的 な 研 究 に 用 いる 際 に 便 利 です.<br />

大 型 ホタテウミヘビの 展 鰭 作 業<br />

が 前 方 にずれないようにします. 各 鰭 を 立<br />

て 終 わった 時 点 で 口 に 挟 んでいた 針 を 抜<br />

き, 両 顎 を 上 下 から 挟 むように 針 を 打 ちま<br />

す. 展 鰭 に 用 いる 針 は, 可 能 なかぎり 細 い<br />

針 を 使 用 します.シガ 微 針 を 用 いるときは,<br />

ピンセットを 使 って 慎 重 に 扱 います.<br />

◆ 背 鰭 と 臀 鰭 の 基 底 が 長 い 魚 (ウミヘビ<br />

科 ・ハモ 科 ・タチウオ 科 など)<br />

体 がきわめて 細 長 く, 背 鰭 と 臀 鰭 の 基 底<br />

が 長 い 魚 は, 後 方 の 鰭 条 から 順 に 立 ててい<br />

くと 鰭 膜 がたわむことなくきれいに 展 鰭 す<br />

ることができます.このとき, 体 の 上 下 ど<br />

ちらかに 引 力 が 偏 らないように, 背 鰭 と 臀<br />

鰭 の 両 方 を 等 間 隔 に 同 時 に 立 てていくこと<br />

が 重 要 です.<br />

10% ホルマリン 溶 液 を 満 たした 発 砲 クーラーボックスの 中 で 展 鰭 中 のミノカサゴ.この 方 法 は, 皮 弁 や 鰭 膜 が 長 い<br />

種 の 展 鰭 に 最 適<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

軟 骨 魚 類 は 展 鰭 する 必 要 がない<br />

ハナミノカサゴの 展 鰭 後 の 写 真 . 鰭 膜 や 皮 弁 が 美 しく<br />

広 がっている<br />

◆ 体 が 著 しく 縦 扁 している 魚 (ヒラメ 科 ・<br />

ササウシノシタ 科 など)<br />

体 が 平 らな 異 体 類 は, 展 鰭 の 際 に 背 鰭 と<br />

臀 鰭 の 最 前 部 の 鰭 条 の 立 て 忘 れをしやすい<br />

グループです. 鰭 条 数 が 重 要 な 分 類 形 質 に<br />

なるため,たたんだまま 固 定 しないように<br />

注 意 します. 必 ず 鰭 立 ての 前 に, 各 鰭 が 体<br />

のどこまで 達 しているのかを 確 認 しましょ<br />

う. 前 方 の 鰭 条 は 立 てにくいため,ピンセッ<br />

トを 用 いて 魚 体 の 下 から 引 き 出 すようにし<br />

て 針 を 打 ちます. 上 記 の「 背 鰭 と 臀 鰭 の 基<br />

底 が 長 い 魚 」と 同 様 に, 背 鰭 と 臀 鰭 を 後 方<br />

から 同 時 に 等 間 隔 に 立 てると, 鰭 膜 がたわ<br />

むことなく 展 鰭 することができます.<br />

◆ 展 鰭 の 必 要 のない 魚 (サメ・エイ 類 )<br />

サメ・エイ 類 などの 軟 骨 魚 類 は, 展 鰭 す<br />

る 必 要 がありません.<br />

◆ 皮 弁 や 伸 長 した 鰭 条 をもつ 魚 (ミノカ<br />

サゴ・イトヒキアジ 類 など)<br />

皮 弁 をもつフサカサゴ 科 魚 類 (とくにミ<br />

ノカサゴ 類 )や, 伸 長 した 鰭 条 をもつイト<br />

ヒキアジ 類 の 仔 魚 は, 魚 体 を 10% ホルマ<br />

リン 溶 液 で 満 たした 発 砲 スチロールの 箱 の<br />

中 に 入 れて 展 鰭 することで, 針 ではきれい<br />

に 立 てることのできない 皮 弁 や 長 い 鰭 条 を<br />

美 しく 立 てることができます.<br />

展 鰭 が 終 わったら<br />

→<br />

Step 8 へ<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 8 撮 影 photograpy<br />

本 村 浩 之<br />

標 本 作 製 の 手 順 の 中 で 最 も 神 経 を 使 うの<br />

が 標 本 撮 影 です. 魚 類 標 本 はホルマリン<br />

固 定 (Step 12)し,アルコール 保 存 (Step<br />

13)しますが,この 過 程 で, 黒 色 色 素 以 外<br />

の 生 鮮 時 の 体 色 はほぼ 全 て 消 失 してしまい<br />

ます.ですから, 標 本 の 体 色 を 記 録 するチャ<br />

ンスは 一 度 しかありません.ここでは, 撮<br />

影 の 手 順 を 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 実<br />

際 に 使 っている 機 材 を 紹 介 しながら 解 説 し<br />

ます. 標 本 撮 影 やカメラの 技 術 的 な 基 礎 知<br />

識 は Information 2 を 参 照 して 下 さい.<br />

■ 接 写 台<br />

魚 類 標 本 は 体 幅 があるため, 被 写 界 深<br />

度 を 深 くする 必 要 があります( 詳 しくは<br />

Information 2 を 参 照 ). 被 写 界 深 度 を 深 く<br />

するために 絞 り 込 みますので,シャッター<br />

スピードが 遅 くなります.そのため, 標 本<br />

撮 影 には 必 ず 接 写 台 (コピースタンド)を<br />

用 います.<br />

■ 照 明<br />

魚 類 標 本 は, 室 内 で, 絞 り 込 んで 撮 影 さ<br />

れますので, 美 しい 標 本 写 真 を 撮 影 するた<br />

めには, 照 明 がたいへん 重 要 な 要 素 にな<br />

ります. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では.<br />

2007 年 まで 写 真 用 レフランプを 使 用 して<br />

いましたが, 熱 量 が 大 きすぎること( 夏 場<br />

は 暑 すぎて 撮 影 が 困 難 ), 電 球 自 体 の 寿 命<br />

が 短 いこと( 頻 繁 にオンオフするため)か<br />

ら, 現 在 は 蛍 光 灯 に 代 えました. 最 近 のデ<br />

ジタル 一 眼 レフカメラは,ホワイトバラン<br />

スをしっかりと 調 整 すれば, 蛍 光 灯 でも 十<br />

分 な 質 の 写 真 が 撮 影 できます.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 使 用 してい<br />

る 標 本 撮 影 用 蛍 光 灯 は 以 下 の 通 りです.<br />

中 大 型 魚 類 撮 影 用 の 接 写 台 , 照 明 ,ガラス 水 槽<br />

小 型 魚 類 撮 影 用 の 接 写 台 , 照 明 ,ガラス 水 槽<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

中 大 型 標 本 撮 影 用<br />

LPL 社 製 コピーライト<br />

FL-217, L18527<br />

JAN コード:4988115, 185309<br />

小 型 標 本 撮 影 用<br />

LPL 社 製 ウェブドットスタジオライト<br />

WL-230, L18552<br />

JAN コード:4988115, 185521<br />

■ガラス 水 槽<br />

展 鰭 (Step 7)が 終 わったら 速 やかに 撮<br />

影 作 業 に 移 ります.ここで,Step 4 の 手 順<br />

に 従 ってもう 一 度 標 本 を 洗 浄 し, 水 を 張 っ<br />

たガラス 水 槽 に 魚 を 沈 めます. 鹿 児 島 大 学<br />

総 合 研 究 博 物 館 では, 魚 の 大 きさによって<br />

大 中 小 3 種 類 の 水 槽 を 使 い 分 けています.<br />

小 型 : 幅 20 cm× 奥 行 15 cm× 高 さ 5 cm<br />

中 型 : 幅 30 cm× 奥 行 20 cm× 高 さ 10 cm<br />

大 型 : 幅 60 cm× 奥 行 30 cm× 高 さ 20 cm<br />

水 槽 はオーダーメイドですが, 大 型 水 槽<br />

は 約 1 万 円 , 小 中 型 水 槽 は 約 5 千 円 と 比 較<br />

的 安 価 です.ガラス 水 槽 を 特 注 する 際 に,<br />

ガラス 水 槽 は, 接 写 台 の 台 座 に 敷 いた 白 色 板 から 離 し<br />

て 設 置 . 水 槽 の 足 として 角 材 を 使 用<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

透 明 シリコンで 各 ガラス 板 を 接 着 してもら<br />

うことが 重 要 です. 通 常 の 白 色 シリコンで<br />

は, 撮 影 時 の 照 明 で 影 ができてしまい, 美<br />

しい 写 真 が 撮 れなくなってしまうからで<br />

す.<br />

アクリル 水 槽 はガラス 水 槽 と 比 べて, 軽<br />

く, 手 軽 ですが, 表 面 に 傷 が 付 き 易 いため<br />

( 傷 が 写 真 に 写 りこんでしまう)お 勧 めし<br />

ません. 一 方 ,ガラス 水 槽 は 重 く, 割 れ 易<br />

いため, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では,<br />

研 究 室 ではガラス 水 槽 ,フィールド( 持 ち<br />

出 し)ではアクリル 水 槽 を 使 っています.<br />

ガラス 水 槽 はちょっとした 不 注 意 で 割 れて<br />

しまいます. 貴 重 な 標 本 を 入 手 した 際 に,<br />

水 槽 が 割 れてしまえば, 生 鮮 時 の 色 彩 を 記<br />

録 することができなくなってしまいます.<br />

リスクを 回 避 するため, 鹿 児 島 大 学 総 合 研<br />

究 博 物 館 では,ガラス 水 槽 の 各 サイズを 2<br />

コずつ 所 持 しています.<br />

ガラス 水 槽 に 水 を 張 ったら, 接 写 台 に 置<br />

きます.その 際 , 接 写 台 の 台 座 の 上 にきれ<br />

いな 白 色 板 ( 光 沢 がないもの)を 置 き,さ<br />

らにその 上 に 水 槽 の 足 となる 角 材 などを<br />

置 きます. 白 色 板 は, 標 本 写 真 の 白 バック<br />

( 詳 しくは 後 述 )となります. 水 槽 をその<br />

まま 白 色 板 に 乗 せると 魚 体 の 影 が 白 色 板 に<br />

映 ってしまうため, 水 槽 は 必 ず 白 色 板 から<br />

3 cm ~ 10 cm 程 度 浮 かせます.<br />

フサカサゴ 科 や 深 海 魚 など, 浮 き 袋 が 発<br />

達 していない 魚 は 水 槽 に 安 定 した 状 態 で 沈<br />

めることができますが, 浅 海 性 のスズキ 目<br />

魚 類 などは, 水 槽 に 入 れても 浮 かんでしま<br />

い, 安 定 しないことがしばしばあります.<br />

その 様 な 時 は, 魚 体 の 腹 部 右 側 から 針 で 刺<br />

して 浮 き 袋 の 空 気 を 抜 いてから 再 度 水 に 沈<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

ガラス 水 槽 の 底 で 安 定 していない 標 本 を 撮 影 した 写<br />

真 . 背 側 に 傾 いてしまっており, 真 横 から 写 真 が 撮 れ<br />

ていない. 悪 い 写 真 の 例<br />

水 を 張 ったガラス 水 槽 の 底 で 安 定 して 横 たわっている<br />

標 本 . 上 図 は 背 面 から 見 たところ. 下 図 は 前 面 から 見<br />

たところ<br />

針 によって 体 を 安 定 させている 標 本 . 針 が 胸 鰭 と 重 な<br />

らないように 注 意 する<br />

体 の 多 少 の 傾 きは, 消 しゴムなどをかませて 調 整 する<br />

めてみて 下 さい.それでも 沈 まない 場 合 は,<br />

右 体 側 腹 部 を 切 開 し, 腹 腔 内 の 空 気 を 抜 き<br />

ます. 小 型 魚 の 場 合 , 腹 腔 を 切 開 しても 魚<br />

体 が 水 に 沈 まない,あるいは 沈 んでも 魚 体<br />

が 斜 めに 傾 いてしまうことがあります.こ<br />

のような 場 合 は, 最 終 手 段 として, 腹 部 や<br />

胸 部 に 太 目 の 針 を 刺 し, 針 の 重 みで 魚 体 を<br />

安 定 させる 方 法 をとります. 針 を 刺 す 際 ,<br />

胸 鰭 や 腹 鰭 と 針 が 重 ならないようにするこ<br />

とが 大 切 です. 鰭 膜 を 通 して 透 けて 針 が 見<br />

えるようになってしまうと, 後 の 画 像 加 工<br />

(Step 16)が 出 来 なくなってしまいます.<br />

■ 撮 影<br />

一 般 的 な 標 本 撮 影 の 技 術 とカメラ 特 性<br />

については Information 2 を 参 照 して 下 さ<br />

い.ここでは, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

で 使 用 しているデジタル 一 眼 レフカメラ<br />

(Pentax K100D Super)を 例 に 実 際 の 撮 影 手<br />

順 を 紹 介 します.<br />

レンズは 標 準 ズームレンズ(DA18-55<br />

mm F3.5-5.6AL)とマクロレンズ(D FA<br />

MACRO 50 mm F2.8)の 2 種 類 を 使 用 して<br />

おり,これらカメラ 本 体 とレンズ 2 種 を 3<br />

セット 準 備 していますので, 学 生 やボラン<br />

ティアが 同 時 に 複 数 のフィールドに 行 く 際<br />

にも 対 応 可 能 です.<br />

1カメラを 接 写 台 の 支 柱 に 取 り 付 けま<br />

す.カメラが 傾 いていないか,メモリーカー<br />

ドが 挿 入 されているか 確 認 します. 小 型 魚<br />

を 撮 影 する 場 合 は,マクロレンズに 交 換 し<br />

ます.AC アダプターをカメラの 外 部 電 源<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

撮 影 準 備 完 了 ( 照 明 は 未 点 灯 ). 被 写 体 はヨメヒメジ. 接 写 台 支 柱 の 後 ろにぶら 下 がっているのは,レリーズ<br />

端 子 に 接 続 します. 電 池 で 撮 影 すると, 電<br />

池 が 切 れる 寸 前 の 写 真 が 適 切 に 撮 影 されま<br />

せんし, 後 述 の 設 定 内 容 が 電 池 切 れで 消 え<br />

てしまうこともありますので,カメラは 電<br />

源 に 繫 いで 使 用 することをお 勧 めします.<br />

AC アダプターは 240 ボルトまで 対 応 して<br />

いますので, 海 外 でもそのまま 使 用 できま<br />

す.<br />

2 絞 り 優 先 モード(Av)に 設 定 します.<br />

被 写 界 深 度 を 深 くして, 魚 体 全 体 にピント<br />

が 合 うようにするためです.ダイヤルボタ<br />

ンで 絞 り 値 を 設 定 します(どのくらい 絞 れ<br />

ば 良 いかは, 魚 の 大 きさや 厚 さによって 異<br />

なりますので,Information 2 の 例 を 参 照 し<br />

てください).<br />

3 照 明 を 点 灯 し,ホワイトバランスを 調<br />

整 します. 照 明 が 前 回 の 撮 影 時 と 同 じなら<br />

毎 回 設 定 する 必 要 はありません(カメラの<br />

電 源 を 切 っても 設 定 は 変 わりません).ス<br />

トロボは 使 用 しません.<br />

4モニターの 横 にあるファンクションボ<br />

タン(Fn)を 押 して,オートブラケット<br />

機 能 を 使 います(この 設 定 は 電 源 を 入 れる<br />

たびに 繰 り 返 す 必 要 があります).オート<br />

ブラケットとは,1 回 シャッターを 押 すだ<br />

けで, 連 続 して 露 出 の 異 なる 3 枚 の 写 真 が<br />

撮 影 できる 機 能 です. 初 めてこの 機 能 を 使<br />

う 際 には,「メニュー」の「 設 定 」で 連 続<br />

撮 影 する 3 枚 の 露 出 を 0.5 ステップずつ 変<br />

えるように 設 定 します(この 設 定 は 電 源 を<br />

切 っても 記 憶 されています).<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

撮 影 の 最 初 の 1 枚 は, 標 本 と 割 り 当 てたタグを 一 緒 に<br />

撮 影<br />

5カメラにレリーズを 装 着 します. 標<br />

本 写 真 は 絞 り 優 先 モードで 撮 影 するため,<br />

シャッタースピードが 遅 く,シャッターボ<br />

タンを 押 す 際 のわずかな 揺 れでも 写 真 がぼ<br />

やけてしまいます.また,オートブラケッ<br />

ト 機 能 により,3 連 写 しますので, 長 い 間<br />

シャッターボタンを 押 し 続 けなればなりま<br />

せん.そのため,レリーズは 必 ず 装 着 しま<br />

す.<br />

6カメラのレンズと 接 写 台 の 支 柱 を 調 節<br />

して, 水 槽 に 沈 められた 魚 がファインダー<br />

から 見 て 視 野 に 収 まるようにします.ファ<br />

インダーを 覗 いて 見 える 領 域 と 実 際 の 写 真<br />

が 一 致 する 視 野 率 100% というカメラはな<br />

かなかありませんので, 撮 影 時 に 幾 分 の 考<br />

慮 が 必 要 です.Pentax K100D Super の 場 合 ,<br />

視 野 率 は 96% ですので, 実 際 の 写 真 の 外<br />

縁 4% はファインダーからは 見 えないこと<br />

になります.<br />

7 最 初 の 1 枚 は, 魚 体 とその 標 本 に 割 り<br />

当 てた 標 本 タグ(Step 5 を 参 照 )を 一 緒 に<br />

撮 影 します.2 枚 目 からはオートブラケッ<br />

ト 機 能 で 3 連 写 します. 白 バックの 時 には<br />

オートブラケット 初 値 を 0 に 設 定 して 撮 影<br />

黒 バックでの 撮 影 . 黒 色 ボードを 白 色 板 と 水 槽 の 間 に<br />

挿 入 して 撮 影 . 天 井 の 模 様 や 照 明 が 水 槽 の 底 面 に 反 射<br />

して 映 るため, 必 ず 大 きな 黒 色 ボードをカメラの 上 に<br />

かざし, 反 射 を 防 ぐ<br />

します(4で 0.5 ステップに 設 定 している<br />

ため,0, +0.5, +1.0 の 3 段 階 の 露 出 で 撮 影<br />

されることになります).<br />

8 白 バックで 3 枚 撮 影 した 後 , 水 槽 と 白<br />

色 板 の 間 に 黒 色 板 (あるいはビロード 布 )<br />

を 挿 入 し, 黒 バックで 3 連 写 します. 各 標<br />

本 は 必 ず, 白 バックと 黒 バックの 両 方 を 撮<br />

影 します. 白 色 部 ( 鰭 など)は 白 バックで<br />

は 明 瞭 に 写 りませんし, 黒 色 部 ( 鰭 膜 の 黒<br />

斑 など)は 黒 バックでは 写 りません.<br />

黒 バックの 場 合 ,オートブラケット 初 値<br />

を 0 に 設 定 して 撮 影 すると, 明 るすぎて 標<br />

本 が 白 飛 びしまうことがありますので, 初<br />

値 を -1.5 に 設 定 して 撮 影 します(-1.5, -1.0,<br />

-0.5 の 3 段 階 の 露 出 で 撮 影 されることにな<br />

ります).ただし,これはカメラの 機 種 や<br />

照 明 の 明 るさによります.<br />

黒 バックで 撮 影 する 時 は, 水 槽 の 底 面 ガ<br />

ラスや 魚 体 の 一 部 に 天 井 の 照 明 や 模 様 が 映<br />

り 込 んでしまいますので, 反 射 を 避 ける 工<br />

夫 が 必 要 です. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

では, 接 写 台 に 設 置 されたカメラの 上 に 大<br />

型 の 黒 色 ボードをかざして, 天 井 の 反 射 を<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

防 いでいます.<br />

これで 撮 影 は 終 了 です.カメラのメモ<br />

リーカードには 1 標 本 につき,タグと 標 本<br />

が 写 った 写 真 1 枚 ( 白 バック), 白 バック<br />

の 標 本 写 真 3 枚 (3 ステップの 露 出 補 正 ),<br />

黒 バックの 標 本 写 真 3 枚 (3 ステップの 露<br />

出 補 正 )の 計 7 枚 が 記 録 されたことになり<br />

ます.もちろん,デジタル 画 像 ですので,<br />

パソコン 上 で 露 出 の 調 整 はできますが, 露<br />

出 オーバーで 完 全 に 白 飛 びしまった 画 像 は<br />

その 部 分 の 情 報 が 記 録 されていないため,<br />

パソコンを 使 っても 修 正 できません. 特 に<br />

アジ 科 やタチウオ 科 の 魚 などは 体 表 が 銀 白<br />

色 で 光 が 反 射 しやすいため, 露 出 オーバー<br />

にならないよう 気 をつけて 下 さい.このよ<br />

うな 魚 種 も 3 ステップ 撮 影 しておけば 安 心<br />

です.<br />

接 写 台 に 収 まらない 超 大 型 標 本 (サメや<br />

タチウオなど)は 床 においてそのまま 撮 影<br />

します.2 m のタチウオを 撮 影 した 際 には,<br />

タチウオを 地 面 に 置 いて,2 階 のベランダ<br />

から 撮 影 しました.このように 野 外 で 撮 影<br />

する 場 合 ,ネコに 標 本 を 持 っていかれない<br />

よう 監 視 しましょう.<br />

1 詳 しい 標 本 撮 影 の 技 術 を 知 りたい 場 合<br />

→ Information 2 へ<br />

2 他 の 撮 影 方 法 を 知 りたい 場 合<br />

→ Information 3 へ<br />

3 撮 影 が 終 了 したら<br />

→<br />

Step 9 へ<br />

4 撮 影 した 画 像 を 処 理 する 場 合<br />

→ Step 12 へ<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Information 2 標 本 撮 影 の 技 術 Photography technique<br />

栗 岩 薫<br />

■カメラとレンズの 選 択<br />

◆コンパクト 機 か 一 眼 レフか<br />

一 般 の 人 が 手 にするデジタルカメラに<br />

は, 大 きく 分 けてコンパクトデジカメと 呼<br />

ばれるレンズ 一 体 式 のものと, 一 眼 レフと<br />

呼 ばれるレンズ 交 換 式 のものがあります.<br />

標 本 写 真 を 撮 るにはどちらが 良 いのでしょ<br />

うか?<br />

コンパクト 機 は 何 と 言 ってもその 手 軽 さ<br />

が 魅 力 です. 小 さく, 軽 く,どこにでも 持<br />

ち 出 せます. 面 倒 な 設 定 もなく, 誰 でもす<br />

ぐに 使 えることでしょう. 基 本 的 にパン<br />

フォーカス( 手 前 から 奥 までピントが 合 っ<br />

ていること)で, 絞 りやシャッタースピー<br />

ドをいじることはありません. 一 方 , 一 眼<br />

レフは 用 途 によってレンズを 交 換 せねばな<br />

らず,コンパクト 機 に 比 べると 大 きく 重 く<br />

なります. 絞 りとシャッタースピードに<br />

よって 露 出 を 決 めなければならず, 被 写 界<br />

深 度 (ピントの 合 う 奥 行 き・ 深 さ)にも 気<br />

をつけなくてはなりません.したがって,<br />

きちんとしたものを 撮 るにはある 程 度 の 知<br />

識 と 腕 が 必 要 になります. 両 者 とも 年 々 高<br />

性 能 化 してきていますが, 実 はどれだけ 高<br />

性 能 化 しても, 根 本 的 な 部 分 には 依 然 とし<br />

て 大 きな 違 いがあります.それは 受 光 部 で<br />

ある 撮 像 素 子 (センサー)のサイズと,レ<br />

ンズの 口 径 サイズです.<br />

カメラはセンサーで 光 情 報 を 受 け 取 りま<br />

すが,コンパクト 機 と 一 眼 レフではこのセ<br />

ンサーサイズに 大 きな 差 があります( 図 1).<br />

例 えば 同 じ 1000 万 画 素 のコンパクト 機 と<br />

一 眼 レフがあったとします.センサーで 受<br />

光 した 光 情 報 を,1000 万 画 素 機 なら 1000<br />

万 個 のドットに 区 切 って 画 像 ができあが<br />

ります. 一 般 的 な 普 及 タイプのコンパクト<br />

機 のセンサーは 5.7 mm × 4.3 mm(1/2.5 型<br />

CCD センサー), 一 般 的 な 一 眼 レフのセン<br />

サーは 約 24 mm × 16 mm(APS 機 )となり,<br />

その 面 積 には 15 倍 以 上 の 差 があります.<br />

つまり, 同 じ 1000 万 画 素 機 でもそれぞれ<br />

の1 画 素 がもつ 光 情 報 量 には 大 きな 差 があ<br />

ることになり, 被 写 体 を 忠 実 に 再 現 できる,<br />

あるいは 被 写 体 を 精 細 に 表 現 できるのは 当<br />

然 情 報 量 の 多 い 一 眼 レフとなります.テー<br />

ブルサイズのケーキを 10 人 で 分 けて 食 べ<br />

図 1.コンパクト 機 と 一 眼 レフの 撮 像 素 子 (センサー)<br />

サイズの 比 較<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

るのと, 直 径 20 cm のケーキを 10 人 で 分<br />

けて 食 べるのでは,どちらが 一 人 当 たり<br />

の 分 量 が 多 いか, 言 うまでもないでしょう<br />

(ケーキのサイズをセンサーサイズ, 人 数<br />

を 画 素 数 , 一 人 当 たりの 分 量 を 光 情 報 量 に<br />

置 き 換 えて 考 えてみてください).さらに,<br />

コンパクト 機 と 一 眼 レフではレンズの 口 径<br />

にも 差 があり, 口 径 が 大 きい 一 眼 レフの 方<br />

が 高 い 分 解 能 をもちます.<br />

学 術 目 的 の 標 本 写 真 は,しっかりとした<br />

撮 影 セットを 組 んで 解 像 度 の 高 いものを 撮<br />

る 必 要 があります.そのためには,やはり<br />

一 眼 レフを 用 いる 方 が 良 いでしょう.<br />

◆ APS 機 かフルサイズか<br />

ところで, 一 眼 レフデジカメにも 実 は 大<br />

きく 分 けて 3 種 類 のセンサーサイズがあり<br />

ます( 図 1). 35 mm フィルムカメラと 同<br />

じ 規 格 (センサーサイズが 同 じ)でフルサ<br />

イズと 呼 ばれるもの,APS フィルムカメラ<br />

と 同 じ 規 格 で APS サイズと 呼 ばれるもの,<br />

主 にオリンパスで 採 用 されているフォー<br />

サーズと 呼 ばれるものです.フルサイズは<br />

今 のところ 数 社 (ニコン,キヤノン,ソニー)<br />

の 上 位 機 種 のみで 採 用 されており,APS サ<br />

図 2.フルサイズ 機 と APS 機 の 有 効 撮 影 画 角 の 違 い<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

イズはそれ 以 外 の 一 眼 レフに 採 用 されてい<br />

ます.ここではフルサイズ 機 と APS 機 に<br />

限 って 話 を 進 めていくことにします.<br />

フルサイズ 機 と APS 機 では, 同 じ 焦 点<br />

距 離 のレンズを 使 って 撮 影 した 場 合 に 写<br />

る 範 囲 ( 画 角 )が 変 わってきます( 図 2).<br />

これは 両 者 のセンサーサイズの 差 によるも<br />

ので, 例 えば 焦 点 距 離 50 mm のレンズを<br />

用 いた 場 合 ,フルサイズ 機 ではそのまま<br />

50 mm の 画 角 になりますが,APS 機 では 約<br />

1.5 倍 小 さい 約 75 mm の 画 角 (= 有 効 撮 影<br />

画 角 )となります. 普 通 , 焦 点 距 離 は 35<br />

mm フィルムカメラ(=フルサイズ 機 )の<br />

画 角 を 基 準 に 表 します.APS 機 で 使 用 する<br />

レンズの 焦 点 距 離 の 説 明 に,35 mm カメラ<br />

換 算 ○○ mm などとあるのはこれを 示 して<br />

います.つまり,“ 焦 点 距 離 50 mm のレン<br />

ズを APS 機 で 使 うと,35 mm フィルムカ<br />

メラでの 約 75 mm に 相 当 する 画 角 になる ”<br />

という 意 味 です.ただし, 実 際 には 画 角 を<br />

約 1.5 倍 に 拡 小 しているのではなく, 簡 単<br />

に 言 えばフルサイズ 機 で 見 える 50 mm の<br />

画 角 を,APS 機 では 約 75 mm の 画 角 とな<br />

るようトリミングしている,ということで<br />

す.<br />

ではフルサイズ 機 と APS 機 のどちらを<br />

選 ぶか,これは 両 者 の 特 徴 をもとに 好 みで<br />

選 べば 良 いでしょう.フルサイズ 機 の 利 点<br />

は,センサーサイズが 大 きいため 感 度 に<br />

優 れること, 階 調 性 に 富 むこと, 広 角 側 で<br />

有 利 であることなどが 挙 げられます. 不 利<br />

な 点 としては, 高 価 で 大 型 ,また 周 辺 減 光<br />

が 目 立 つ 場 合 があることなどが 挙 げられま<br />

す. 一 方 ,APS 機 は, 望 遠 側 で 有 利 なこと,<br />

フルサイズ 機 の 画 角 をトリミングするため<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

中 央 の 解 像 度 の 高 い 部 分 を 使 えること, 小<br />

型 ・ 軽 量 ・ 安 価 であることなどが 挙 げられ<br />

ます. 不 利 な 点 としては,レンズの 焦 点 距<br />

離 そのままの 画 角 ではなく 35 mm カメラ<br />

換 算 での 画 角 になる( 例 えば 50 mm のレ<br />

ンズを 50 mm として 使 えない)などの 点<br />

があります.また, 同 一 の 有 効 撮 影 画 角 で<br />

比 べた 際 に 同 じ 絞 り 効 果 を 得 るためには,<br />

フルサイズ 機 の 方 が 約 1 段 程 度 絞 り 込 む 必<br />

要 がある,つまり 同 一 絞 り 値 (F 値 , 図 8<br />

で 後 述 )での 被 写 界 深 度 に 差 があることに<br />

は 留 意 する 必 要 があるでしょう.<br />

◆ズームレンズかマクロレンズか<br />

レンズにはズームレンズと 単 焦 点 レンズ<br />

があります. 違 いを 一 言 で 言 うと, 焦 点 距<br />

離 を 変 えられるか 変 えられないかです.カ<br />

メラの 位 置 を 変 えずに 焦 点 距 離 を 変 えられ<br />

るズームレンズは 非 常 に 便 利 ですが, 一 般<br />

的 に 単 焦 点 レンズに 対 して 開 放 F 値 ( 最 大<br />

絞 り, 図 8 で 後 述 )が 暗 いことや 解 像 力 が<br />

落 ちることなどには 注 意 しなければなりま<br />

せん. 開 放 F 値 が 暗 いことは, 絞 り 込 む<br />

ことが 多 い 標 本 撮 影 には 不 利 な 点 です.ま<br />

た, 解 像 力 は 標 本 撮 影 における 重 要 な 要 素<br />

ですので,これもやはり 不 利 な 点 といえる<br />

でしょう.さらに,ズームレンズは 中 間 の<br />

焦 点 域 では 最 も 収 差 が 抑 えられますが, 端<br />

側 の 焦 点 域 では 収 差 が 大 きくなります( 広<br />

角 端 ではタル 型 , 望 遠 端 では 糸 巻 き 型 の 像<br />

面 歪 曲 収 差 ).これらに 対 し, 単 焦 点 レン<br />

ズでマクロレンズと 呼 ばれるものは, 標 本<br />

撮 影 において 最 適 であると 思 われます.<br />

マクロレンズの 特 徴 として,(1) 近 接 撮<br />

影 で 高 い 解 像 力 が 得 られること,(2) 最 大<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

撮 影 倍 率 が 高 いこと( 等 倍 あるいはそれに<br />

近 い 倍 率 での 撮 影 ができる),(3) 諸 収 差 ( 特<br />

に 歪 曲 収 差 )が 極 力 抑 えられていること,<br />

があります. 近 接 撮 影 での 解 像 力 という 点<br />

では,マクロレンズはズームレンズと 一 線<br />

を 画 くほどの 高 性 能 をもちます.ズーム 機<br />

能 を 備 えたマクロレンズ(ズームマクロと<br />

呼 ばれます)や,マクロ 機 能 を 備 えたズー<br />

ムレンズもありますが,やはり 解 像 力 では<br />

単 焦 点 のマクロレンズには 及 びません.ま<br />

た, 最 大 撮 影 倍 率 もマクロレンズの 1/1 倍<br />

( 等 倍 )や 1/2 倍 に 対 して,ズームレンズ<br />

のマクロ 機 能 では 1/4 倍 程 度 と 差 がありま<br />

す.<br />

マクロレンズのラインナップには, 各 社<br />

から 標 準 域 ( 焦 点 距 離 50 mm 前 後 ), 中 望<br />

遠 域 (100 mm 前 後 ), 望 遠 域 (150 mm 以<br />

上 )などさまざまなものが 販 売 されていま<br />

すが, 標 本 撮 影 においては, 標 本 の 大 きさ<br />

によって 適 するレンズの 焦 点 距 離 が 異 なっ<br />

てきます.これは, 標 本 撮 影 は 三 脚 や 撮 影<br />

台 を 使 って 真 上 から 撮 影 するためで, 後 述<br />

する 撮 影 距 離 が 問 題 になります.センサー<br />

から 被 写 体 までの 距 離 を 撮 影 距 離 といい<br />

( 図 3), 一 般 的 に 焦 点 距 離 の 短 いレンズは<br />

最 短 撮 影 距 離 が 短 く, 焦 点 距 離 の 長 いレン<br />

ズは 最 短 撮 影 距 離 が 長 くなります. 大 きな<br />

標 本 を 撮 影 する 際 に 焦 点 距 離 の 長 いレンズ<br />

図 3. 撮 影 距 離 とワーキングディスタンス<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

図 4.フルサイズ 機 と APS 機 の 有 効 撮 影 画 角 の 違 い( 実<br />

践 編 ).ニコン D700,AF-S Micro Nikkor 60 mm F2.8G( 絞<br />

り 値 F16)<br />

図 5.フルサイズ 機 と APS 機 の 有 効 撮 影 画 角 の 違 い( 実<br />

践 編 ).ニコン D60,AF-S Micro Nikkor 60 mm F2.8G( 絞<br />

り 値 F8)<br />

を 使 うと, 高 さ( 撮 影 距 離 )が 足 りずに 画<br />

面 に 収 めきれなくなってしまいます.APS<br />

機 では 実 際 の 焦 点 距 離 ( 有 効 撮 影 画 角 )が<br />

35 mm 換 算 の 値 になりますので, 特 に 注 意<br />

が 必 要 です.また,レンズ 先 端 から 被 写 体<br />

までの 距 離 をワーキングディスタンスとい<br />

います( 図 3). 各 社 のレンズ 性 能 の 説 明<br />

には 最 短 撮 影 距 離 は 載 っていますが,ワー<br />

キングディスタンスは 載 っていません. 最<br />

短 撮 影 距 離 が 同 じでもレンズの 全 長 が 異 な<br />

るものを 比 べれば, 当 然 ワーキングディス<br />

タンスは 変 わりますので 注 意 しましょう.<br />

なお, 被 写 体 をどのくらい 大 きく 写 せるか<br />

は 最 大 撮 影 倍 率 で 示 され, 焦 点 距 離 は 関 係<br />

ありません. 同 じ 最 大 撮 影 倍 率 で 焦 点 距 離<br />

が 異 なるレンズを 比 べた 場 合 , 最 大 撮 影 倍<br />

率 で 写 すための 撮 影 距 離 が 異 なるだけとな<br />

ります.<br />

前 述 の 通 り,APS 機 では, 焦 点 距 離 60<br />

mm の 標 準 域 マクロを 使 っても 有 効 撮 影 画<br />

角 は 35 mm 換 算 90 mm の 中 望 遠 マクロと<br />

なります.90 mm クラスの 中 望 遠 マクロ<br />

では 全 長 40 ~ 50 cm 以 上 の 標 本 になると<br />

撮 影 距 離 が 足 りなくなり, 画 面 に 収 めきれ<br />

なくなります. 先 ほどの 図 2 を 思 い 出 して<br />

下 さい.このセンサーサイズの 違 いによる<br />

画 角 の 違 いが 実 際 の 撮 影 ではどのように<br />

なるか, 図 4 と 5 に 示 しました.カメラの<br />

位 置 を 固 定 し, 同 じ 焦 点 距 離 のレンズ(60<br />

mm)を 使 い,フルサイズ 機 と APS 機 の 両<br />

方 で 撮 影 したものです( 標 本 は 標 準 体 長<br />

26.0 cm). 図 4 はフルサイズ 機 で 撮 影 した<br />

もので, 画 角 はレンズの 焦 点 距 離 そのまま<br />

の 60 mm, 図 5 は APS 機 で 撮 影 したもの<br />

で,35 mm 換 算 90 mm の 有 効 撮 影 画 角 に<br />

なります.APS 機 で 図 4 と 同 じ 範 囲 を 写<br />

すためには, 焦 点 距 離 40 mm(35 mm 換<br />

算 60 mm)のレンズを 使 うか,カメラの 位<br />

置 を 上 げて 撮 影 しなければなりません. 標<br />

本 のサイズが 大 きくなると,フルサイズ 機<br />

では 写 せても APS 機 では 撮 影 できない 状<br />

況 もありえます( 高 さが 足 りなくなる 状 況<br />

です). 標 本 がさらに 大 型 になると,フル<br />

サイズ 機 ,APS 機 を 問 わず,マクロレンズ<br />

では 対 応 しきれなくなります.この 場 合 に<br />

はズームレンズを 使 用 することになります<br />

が, 前 述 の 通 りズームレンズは 端 側 で 収 差<br />

が 大 きくなるため,なるべく 中 間 の 焦 点 域<br />

に 近 い 域 で 撮 影 するようにしましょう.<br />

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鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

■ 撮 影 方 法 と 設 定<br />

◆ 画 像 の 保 存 形 式<br />

デジタルカメラで 撮 った 画 像 の 保 存 形 式<br />

に は,RAW,TIFF,JPG といったものが<br />

あります.RAW 形 式 とはその 字 の 通 り 生<br />

の 撮 影 データファイルのことで,それを 画<br />

像 ファイルである TIFF 形 式 や JPG 形 式 に<br />

現 像 します.「 現 像 」といってもあくまで<br />

PC 上 で RAW ファイルを TIFF や JPG に 変<br />

換 することです.TIFF は 現 像 の 際 に 圧 縮<br />

しないため 画 質 が 良 く, 反 面 非 常 に 重 く<br />

なります.JPG は 圧 縮 して 現 像 するため,<br />

ファイルサイズは 小 さくなりますが 画 質 は<br />

TIFF に 劣 ります.このようにそれぞれ 特<br />

徴 がありますが,どの 形 式 で 撮 るのが 良 い<br />

のでしょうか?<br />

前 述 の 通 り,RAW データは 生 の 撮 影 デー<br />

タファイルであり,センサーからの 出 力 信<br />

号 をデジタル 化 しただけのものです. 各 カ<br />

メラがカメラ 内 の 画 像 処 理 エンジンで 各 種<br />

調 整 する 前 のデータですので, 画 質 を 劣 化<br />

させることなくいくらでもレタッチがきき<br />

ます.それに 対 し,TIFF や JPG は 画 像 処<br />

理 した 後 の 画 像 データファイルで, 基 本 的<br />

にレタッチすればするほど 画 質 は 劣 化 して<br />

いきます. 例 えるなら, 料 理 のために 集 め<br />

た 素 材 が RAW で, 調 理 済 みの 料 理 が TIFF<br />

や JPG です. 調 理 済 みの 料 理 を 使 って 作 り<br />

直 すことはできないのと 同 じことです.<br />

RAW データは 露 出 ,ホワイトバランス,<br />

ノイズや 色 調 整 などさまざまな 条 件 を 後 か<br />

ら 変 えられますので, 自 由 度 という 面 で<br />

は TIFF や JPG とは 比 較 になりません.レ<br />

タッチを 前 提 とするなら,やはり RAW で<br />

保 存 することが 最 良 です. 撮 影 した 標 本 写<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

真 を 論 文 などで 使 用 する 場 合 は 背 景 の 処 理<br />

を 行 うことが 多 いでしょうし, 画 像 サイズ<br />

もまず 間 違 いなく 変 えることでしょう.し<br />

たがって,RAW で 撮 って 保 存 しておくこ<br />

とをお 勧 めします. 一 方 ,RAW データは<br />

容 量 が 非 常 に 大 きく,JPG 保 存 に 対 して 現<br />

像 という 手 間 が 余 計 にかかります.そのた<br />

め, 大 量 の 標 本 を 撮 影 する 場 合 は 基 本 的 に<br />

は JPG で 保 存 して, 事 前 に 論 文 などで 使 用<br />

するのが 分 かっている 標 本 のみ RAW で 撮<br />

る,というのも 一 つの 手 です. 標 本 の 色 合<br />

いに 関 してはホワイトバランスが 非 常 に 重<br />

要 ですので,JPG 保 存 の 場 合 は 特 に 気 をつ<br />

けて 撮 影 するようにしましょう.<br />

◆カメラの 設 置 とライティング<br />

標 本 の 撮 影 方 法 には, 水 を 張 ったガラス<br />

の 透 明 水 槽 に 入 れて 撮 影 する 方 法 ( 図 6)と ,<br />

無 反 射 ガラス 上 に 置 いて 陸 上 で 撮 影 する<br />

方 法 ( 図 7)が 主 に 用 いられます.フサカ<br />

サゴ 科 やアンコウ 科 など 皮 弁 の 多 い 分 類 群<br />

は, 水 中 で 撮 影 しないと 皮 弁 の 様 子 を 正 確<br />

に 写 すことができません. 水 槽 に 入 りきら<br />

ない 大 型 の 魚 は 必 然 的 に 後 者 になります.<br />

水 中 に 入 れた 状 態 で 撮 影 する 場 合 ,ライ<br />

ティングが 非 常 に 大 事 になります.ストロ<br />

ボのライトを 左 右 から 当 てますが, 魚 体 に<br />

直 接 光 が 当 たって 反 射 しないようにしま<br />

す. 影 ができないようにも 気 をつけます.<br />

光 が 柔 らかくなるようトレーシングペー<br />

パーをライト 前 に 貼 るのも 良 いでしょう.<br />

ストロボを 当 てた 状 態 で 露 出 をはかり, 部<br />

屋 の 電 気 を 消 してストロボの 光 のみで 撮 影<br />

します. 魚 の 表 皮 と 鰭 の 色 によって, 背 景<br />

が 黒 い 方 が 良 いか 白 い 方 が 良 いかを 判 断 し<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

図 6. 標 本 を 水 中 に 入 れての 撮 影 方 法<br />

図 7. 陸 上 での 撮 影 方 法<br />

ますが,できるだけ 両 方 で 撮 っておくのが<br />

良 いでしょう.なお, 鰾 あるいは 腹 腔 内 に<br />

空 気 が 入 っていると, 標 本 が 水 面 に 浮 いた<br />

り 水 槽 内 で 傾 いたりします.その 場 合 は 右<br />

体 側 面 からメスを 入 れ, 中 の 空 気 を 抜 きま<br />

す. 内 蔵 を 傷 つけると 水 槽 内 の 水 がすぐに<br />

汚 れてしまうため 気 をつけます.もし 傷 つ<br />

けてしまった 場 合 は 一 度 流 水 で 流 した 方 が<br />

良 いでしょう. 水 槽 はアクリル 製 だと 傷 が<br />

ついて 曇 りやすいため,ガラス 製 を 用 いま<br />

す.<br />

陸 上 で 撮 影 する 場 合 は, 必 ず 野 外 の 日 陰<br />

で 行 います. 日 陰 でも 標 本 の 影 が 写 ってし<br />

まうことがあるため, 注 意 が 必 要 です.ホ<br />

ワイトバランスにも 注 意 し, 実 物 の 色 表 現<br />

を 正 確 に 描 写 するよう 設 定 しましょう. 魚<br />

は 水 の 中 の 生 物 ですので, 乾 燥 を 防 ぐため<br />

に 頻 繁 に 霧 吹 きなどで 水 を 吹 きかけます.<br />

ただし, 撮 影 する 際 は 体 表 の 水 で 光 が 反 射<br />

しないよう, 直 前 に 表 面 を 軽 くふき 取 って<br />

から 写 します.<br />

◆ブレを 抑 える<br />

撮 影 の 際 はブレを 極 力 抑 える 必 要 があり<br />

ます.そのために, 三 脚 あるいは 撮 影 台 と,<br />

レリーズの 使 用 が 必 須 となります.その<br />

際 ,できれば 水 準 器 も 用 意 してカメラが 水<br />

平 になるようにセットします. 標 本 撮 影 で<br />

は 絞 り 込 むことが 多 いと 前 述 しましたが,<br />

絞 り 込 むということはその 分 シャッタース<br />

ピードが 遅 くなるということです( 図 8 で<br />

後 述 ).シャッタースピードが 遅 くなると<br />

手 ブレが 大 きくなってしまい, 手 持 ち 撮 影<br />

では 対 応 できません. 手 ブレを 軽 減 するた<br />

めの 機 能 として 各 社 それぞれの 手 ブレ 補 正<br />

機 能 がありますが,あくまで 手 持 ち 撮 影 で<br />

のブレを “ 軽 減 ” するためのものであり,<br />

その 程 度 には 限 界 があります. 標 本 撮 影 で<br />

は, 手 ブレ 補 正 機 能 で 対 応 できるシャッ<br />

タースピードの 限 界 をはるかに 超 えてしま<br />

います.なお, 三 脚 使 用 時 に 手 ブレ 補 正 機<br />

能 を ON にしていると,その 補 正 機 能 の 動<br />

作 によって 新 たなブレを 生 じてしまいます<br />

ので,“ 必 ず ”OFF にしましょう.レリー<br />

ズはシャッターを 押 す 際 のブレを 防 ぐため<br />

に 用 いますが,ない 場 合 は 2 秒 程 度 のセル<br />

フタイマーで 撮 影 するか,リモコンを 使 用<br />

しましょう.<br />

一 眼 レフカメラにはミラーが 組 み 込 まれ<br />

ており,シャッターを 押 した 瞬 間 にミラー<br />

が 跳 ね 上 がってミラー 後 方 にあるセンサー<br />

に 光 が 取 り 込 まれます.そしてこのミラー<br />

38


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

が 跳 ね 上 がる 瞬 間 にわずかな 振 動 が 生 じま<br />

す(ミラーショックと 呼 びます).これは,<br />

三 脚 あるいは 撮 影 台 ,レリーズやセルフ<br />

タイマーを 使 用 しても 防 げませんし, 手 ブ<br />

レ 補 正 機 能 でも 防 げません(ブレの 種 類 が<br />

異 なります).ミラーショックを 防 ぐため<br />

には,シャッターを 押 す 前 にミラーを 先 に<br />

上 げて 撮 影 するミラーアップ 撮 影 を 行 いま<br />

す. 標 本 撮 影 では 非 常 に 有 効 な 方 法 です.<br />

ただし,ミラーアップ 撮 影 が 可 能 な 機 種 は<br />

各 メーカーとも 限 られており,どのカメラ<br />

でも 可 能 な 撮 影 方 法 ではありません.ちな<br />

みにニコンには 露 出 ディレイモードという<br />

設 定 があります( 下 位 機 種 はなし).これ<br />

はシャッターボタンを 押 すとまずミラーが<br />

上 がり, 約 0.4 秒 後 にシャッターが 切 れる<br />

というもので,ミラーアップ 撮 影 と 同 様 に<br />

ミラーショックを 抑 えるための 撮 影 方 法 で<br />

す.<br />

■ 撮 影<br />

◆ 露 出<br />

露 出 は 絞 りとシャッタースピードによっ<br />

て 決 められます. 標 本 撮 影 では, 被 写 界 深<br />

度 とも 相 関 する 絞 りの 値 が 非 常 に 大 事 にな<br />

りますので, 露 出 はマニュアルか 絞 り 優 先<br />

オートで 決 めることになります.マニュア<br />

ル 露 出 は 絞 り 値 とシャッタースピード 両 方<br />

を 任 意 で 決 める 方 法 , 絞 り 優 先 オートは 絞<br />

り 値 を 任 意 で 決 めてカメラ 側 が 自 動 的 にそ<br />

れに 合 ったシャッタースピードを 決 める 方<br />

法 です. 自 分 の 目 でヒストグラムを 確 認 し<br />

ながら 適 正 露 出 を 決 めていきましょう.<br />

図 8 は, 絞 り, 被 写 界 深 度 , 取 り 込 む 光<br />

の 量 ,シャッタースピードの 相 関 図 です.<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

絞 りの 値 (F 値 )は,1 から 始 まり 順 に √2(≒<br />

1.4)を 掛 けていった 値 です(1 と 1.4 の 倍<br />

数 が 交 互 に 並 ぶ,とも 言 えます). 絞 りを<br />

一 段 絞 るごとに, 光 量 は 2 倍 ずつ 減 ってい<br />

きます.したがって, 絞 りを 一 段 絞 って 同<br />

じ 露 出 にするためには,その 分 シャッター<br />

スピードを 1/2 倍 に 遅 くします(シャッター<br />

スピードの 数 値 は 2 の 倍 数 表 示 になってい<br />

ます).<br />

露 出 が 明 るすぎると 白 飛 びし, 暗 すぎる<br />

と 黒 つぶれします.デジタルカメラは 特 に<br />

白 飛 びしやすい 傾 向 にあるので 注 意 が 必 要<br />

です.RAW で 撮 っていれば, 白 飛 び・ 黒<br />

つぶれした 部 分 の 露 出 をあとから 補 正 して<br />

情 報 を 取 り 出 すことができます(JPG 撮 り<br />

では 取 り 出 せません).しかし, 完 全 に 白<br />

飛 び・ 黒 つぶれしてしまうと,その 部 分 は<br />

各 色 の 要 素 が 飽 和 してしまっているため,<br />

RAW であっても 何 も 情 報 は 取 り 出 せませ<br />

ん. 各 メーカーあるいはカメラごとにファ<br />

インダーでの 画 像 の 見 え 方 には 特 徴 がある<br />

ため, 暗 めから 明 るめまで 露 出 を 変 えて 数<br />

枚 ずつ 撮 るようにしましょう.カメラが 測<br />

光 した 露 出 を 自 動 的 に 前 後 数 枚 ずつ 撮 る,<br />

オートブラケット 機 能 を 使 うのも 良 いで<br />

しょう(キヤノンでは AEB 機 能 と 呼 んで<br />

います).<br />

図 8. 絞 り, 被 写 界 深 度 , 光 量 ,シャッタースピード<br />

の 相 関 図<br />

39


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

図 9.F 値 による 被 写 界 深 度 の 違 い(1). 標 本 は 標 準 体 長 2.2 cm・ 全 長 2.7 cm, 撮 影 距 離 は 約 20 cm.ニコン D700,<br />

AF-S Micro Nikkor 60 mm F2.8G<br />

◆ 絞 りと 被 写 界 深 度<br />

魚 は 奥 行 きがあるため, 絞 りを 絞 って 被<br />

写 界 深 度 を 深 くする 必 要 があります( 図<br />

8). 一 般 的 な 人 物 写 真 と 同 様 に 標 本 写 真 も<br />

( 魚 の) 眼 にピントを 合 わせますが, 被 写<br />

界 深 度 が 足 りずに 各 鰭 がピンボケしている<br />

ものは 学 術 的 な 標 本 写 真 としては 使 えませ<br />

ん.したがって, 標 本 撮 影 では 基 本 的 に 絞<br />

り 込 んで 撮 ることになります.ただし, 絞<br />

りを 絞 りすぎると, 回 折 現 象 による 解 像 度<br />

の 低 下 が 起 こります.これを 小 絞 りボケと<br />

も 言 います. 絞 りを 絞 るとレンズにおける<br />

光 の 通 り 道 が 狭 くなりますが, 絞 りすぎる<br />

と 絞 り 羽 の 裏 側 にも 光 が 回 りこみ,これが<br />

像 に 干 渉 することによって 解 像 度 が 低 下 す<br />

るのです. 回 折 現 象 はフィルム,デジタル<br />

40


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

図 10.F 値 による 被 写 界 深 度 の 違 い(1 の 続 き). 撮 影 条 件 は 図 9 と 同 じ<br />

を 問 わず 起 こりますが,デジタルではより<br />

顕 著 に 影 響 が 出 ます.これはセンサーサイ<br />

ズが 小 さいほど 回 折 の 影 響 を 受 けやすいた<br />

めで, 特 に APS 機 が 大 きな 影 響 を 受 けます.<br />

回 折 現 象 による 解 像 度 の 低 下 とは, 具 体 的<br />

には 主 にコントラストが 落 ちることを 意 味<br />

します.「 白 ・ 黒 ・ 白 」と 見 えていたもの<br />

が「 白 ・ 灰 色 ・ 白 」となるのを 想 像 してみ<br />

て 下 さい.<br />

被 写 界 深 度 は, 絞 りだけでなく 撮 影 距 離<br />

にも 依 存 します. 撮 影 距 離 が 長 いと 被 写 界<br />

深 度 は 深 くなり, 逆 に 撮 影 距 離 が 短 いと 被<br />

写 界 深 度 は 浅 くなります.このため,マク<br />

ロレンズを 用 いる 近 接 撮 影 では 被 写 界 深 度<br />

が 極 端 に 浅 くなります. 一 般 的 にレンズ 自<br />

体 の 解 像 度 のピークは F5.6 ~ F8 ですが,<br />

41


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

図 11.F 値 による 被 写 界 深 度 の 違 い(2). 撮 影 距 離 は 約 35 cm.それ 以 外 の 撮 影 条 件 は 図 9 と 同 じ<br />

その 付 近 の F 値 で 魚 の 眼 および 頭 部 にピ<br />

ントが 合 っていても, 尾 鰭 や 臀 鰭 軟 条 など<br />

がボケてしまうことがあります.それでは<br />

と, 絞 りを F32 などに 大 きく 絞 ると, 今 度<br />

はレンズの 解 像 度 が 低 下 し, 同 時 に 絞 りす<br />

ぎによる 回 折 現 象 の 影 響 でやはり 解 像 度 の<br />

低 下 が 起 こります.ファインダーを 拡 大 し<br />

てピントの 具 合 を 確 認 しながら, 適 切 な F<br />

値 と 被 写 界 深 度 を 探 る 必 要 があります.な<br />

お, 被 写 界 深 度 はレンズの 焦 点 距 離 にも 依<br />

存 します. 焦 点 距 離 が 短 いほど 被 写 界 深 度<br />

は 深 くなり( 広 角 レンズ), 焦 点 距 離 が 長<br />

いほど 被 写 界 深 度 は 浅 くなります( 望 遠 レ<br />

ンズ).<br />

◆ 実 例<br />

適 切 な F 値 と 被 写 界 深 度 を 探 るための<br />

実 例 を 見 ていきましょう. 図 9 ~ 11 に 例<br />

として 挙 げた 写 真 はフルサイズ 機 で 撮 影 し<br />

たものですが,センサーサイズの 異 なる<br />

APS 機 とは, 同 一 の 有 効 撮 影 画 角 で 同 一 の<br />

絞 り 効 果 を 表 すための F 値 が 1 段 ほど 異 な<br />

ります.そのため, 以 降 の 説 明 では「 実 例<br />

(フルサイズ 機 )で F8,これは APS 機 で<br />

は F5.6 に 相 当 する」=「F8(APS;F5.6)」<br />

のように 表 記 します.<br />

図 9 と 10 に,F8 ~ F54(APS;F5.6 ~<br />

F38)で 撮 った 各 標 本 写 真 を 並 べました.<br />

用 いた 標 本 は 標 準 体 長 2.2 cm( 全 長 2.7<br />

cm),すべて 眼 にピントを 合 わせてありま<br />

す.ほぼ 近 接 撮 影 の 限 界 で,レンズ 先 端 が<br />

標 本 を 入 れた 水 槽 の 水 面 に 付 きそうなく<br />

らいまで 寄 っています( 撮 影 距 離 は 約 20<br />

cm). 左 列 が 全 体 像 , 中 央 列 は 左 の 各 F 値<br />

での 撮 影 画 像 から 頭 部 をトリミングしたも<br />

の, 右 列 は 同 様 に 尾 鰭 をトリミングしたも<br />

のです.まず 尾 鰭 に 注 目 してみると,F8 ~<br />

F16(APS;F5.6 ~ F11)では 明 らかに 被<br />

写 界 深 度 が 不 足 しています. F22(APS;<br />

F16)で 尾 鰭 にもピントが 合 いはじめ,F32<br />

(APS;F22)で 十 分 になるのが 分 かります.<br />

一 方 , 頭 部 を 見 てみると,F32(APS;F22)<br />

から 回 折 現 象 による 解 像 度 の 低 下 が 見 えは<br />

じめます. 特 に F45 と F54(APS;F32 と<br />

F38)では 顕 著 です.これら 被 写 界 深 度 と<br />

回 折 現 象 の 影 響 は 元 画 像 を 大 きなサイズで<br />

42


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

見 ての 判 断 であり,ここで 示 したように 画<br />

像 サイズを 縮 小 してみるとどちらの 影 響 も<br />

分 かりにくくなります.とは 言 え, 縮 小 画<br />

像 で 見 ても 被 写 界 深 度 の 差 の 方 がより 大 き<br />

く 見 た 目 に 表 れているのが 分 かると 思 いま<br />

す. 現 在 のデジタルカメラでは, 回 折 現 象<br />

の 影 響 をかなり 抑 えることができるのかも<br />

しれません.<br />

次 に, 図 11 ではレンズを 離 して 同 じ 標<br />

本 写 真 を 撮 ったものを 並 べました. 撮 影 距<br />

離 は 約 35 cm です. 図 9 および 10 と, 図<br />

11 での 全 体 像 の 見 え 方 ( 左 列 )に 注 目 し<br />

て 下 さい. 被 写 体 までの 距 離 が 大 きくなっ<br />

たため, 図 9 および 10 に 比 べて 小 さい F<br />

値 でも 深 い 被 写 界 深 度 が 得 られています.<br />

図 11 の F8(APS;F5.6)が 図 9 での F22(APS;<br />

F16)と 同 程 度 , 図 11 の F11(APS;F8)<br />

が 図 10 での F32(APS;F22)と 同 程 度 で<br />

す. 用 いた 標 本 は 一 見 それほど 体 の 厚 み(=<br />

頭 部 と 尾 鰭 の 高 さの 差 )は 感 じませんが,<br />

近 接 撮 影 では 数 ミリの 差 が 非 常 に 大 きく 効<br />

いてきます. 撮 影 距 離 20 cm( 図 9 および<br />

10)と 35 cm( 図 11)で 適 正 F 値 が 大 きく<br />

変 わることからも 分 かります.<br />

小 さな 魚 , 例 えば 数 センチの 魚 を 画 面 上<br />

に 大 きく 撮 る 場 合 , 被 写 体 にかなり 寄 るた<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

め 適 正 F 値 が 大 きくなりがちです.これ<br />

に 対 し, 大 きな 魚 を 撮 る 場 合 は 必 然 的 に 被<br />

写 体 との 距 離 が 大 きくなるので,それほど<br />

絞 り 込 まずに 適 正 な 被 写 界 深 度 が 得 られま<br />

す. 図 12 は 体 にあまり 厚 みのない 標 本 ( 標<br />

準 体 長 18.6 cm, 全 長 22.7 cm)をフルサ<br />

イズ 機 で 撮 ったもので, 撮 影 距 離 は 約 56<br />

cm, 絞 り 値 は F11 です(APS;F8). 図 13<br />

は 体 に 厚 みのある 標 本 ( 標 準 体 長 13.9 cm,<br />

全 長 17.1 cm)を APS 機 で 撮 ったもので,<br />

撮 影 距 離 は 約 68 cm, 絞 り 値 は F16 です(フ<br />

ルサイズ;F22).<br />

以 上 の 実 例 から, 数 センチ 以 上 の 魚 で<br />

あれば,フルサイズ 機 で 最 大 F32,APS 機<br />

で F22 くらいまででほとんど 対 応 できるこ<br />

とが 分 かります(それ 以 上 小 さい 魚 になる<br />

と, 一 眼 レフではなくマイクロスコープで<br />

撮 るのが 適 しています). 魚 種 によって 体<br />

の 厚 みは 異 なりますので, 撮 影 した 写 真 を<br />

ファインダーで 確 認 しながらその 都 度 適 正<br />

F 値 を 探 っていきましょう. 何 度 も 撮 影 し<br />

ていれば, 標 本 のサイズ, 体 型 ( 体 の 厚 み),<br />

撮 影 距 離 などから,シャッターを 押 す 前 で<br />

もおおよその 目 安 をつかめるようになって<br />

くるでしょう.<br />

図 12. 体 に 厚 みのない 標 本 . 標 準 体 長 18.6 cm・ 全<br />

長 22.7 cm, 撮 影 距 離 は 約 56 cm.ニコン D700,AF-S<br />

Micro Nikkor 60 mm F2.8G( 絞 り 値 F11)<br />

図 13. 体 に 厚 みのある 標 本 . 標 準 体 長 13.9 cm・ 全<br />

長 17.1 cm, 撮 影 距 離 は 約 68 cm.ニコン D60,AF-S<br />

Micro Nikkor 60 mm F2.8G( 絞 り 値 F16)<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Information 3 フィールドでの 撮 影 photography in field<br />

本 村 浩 之<br />

フィールドに 出 かけて 採 集 をし,その 場<br />

で 標 本 撮 影 をする 場 合 について 紹 介 しま<br />

す. 国 内 外 を 問 わず, 現 地 の 博 物 館 や 大 学<br />

などの 研 究 機 関 の 施 設 を 利 用 できれば(そ<br />

して 接 写 台 や 照 明 などの 機 材 が 揃 っていれ<br />

ば ), Step 8 で 紹 介 した 手 順 に 従 ってセッ<br />

トアップし, 撮 影 することが 可 能 です.し<br />

かし, 現 地 にそのような 機 関 が 無 い 場 合 は,<br />

滞 在 先 のホテルなどで 標 本 撮 影 をしなけれ<br />

ばなりません.このような 場 合 は, 小 型 の<br />

折 りたたみ 式 接 写 台 と 小 型 のライトを 現 地<br />

に 持 参 します.そして,ホテルなどの 室 内<br />

にある 机 や 椅 子 を 利 用 して 撮 影 機 材 をセッ<br />

トします.<br />

現 地 の 研 究 機 関 の 施 設 が 使 用 可 能 な 場 合<br />

でも, 撮 影 機 材 が 揃 っていないことがあり<br />

ます. 短 期 の 滞 在 でしたら, 上 記 のホテル<br />

内 撮 影 と 同 じようにすれば 問 題 ありませ<br />

ん. 長 期 の 場 合 , 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物<br />

館 では, 事 前 に 適 切 にカットしたアクリル<br />

板 を 持 参 し, 現 地 で 組 み 立 てを 行 っていま<br />

す.ガラス 水 槽 と 比 べて,アクリルは 軽 量<br />

で 割 れにくく, 組 み 立 てが 容 易 ですから 便<br />

利 です.また, 照 明 は 現 地 で 市 販 されてい<br />

る 卓 上 蛍 光 灯 を 2 灯 購 入 し, 使 用 します.<br />

これなら 変 圧 器 も 必 要 ありません. 接 写 台<br />

は 分 解 して 持 参 します.<br />

ホテル 客 室 の 机 を 利 用 した 撮 影<br />

ホテル 客 室 の 椅 子 とテーブルを 利 用 した 撮 影<br />

海 外 での 水 槽 作 製 .アクリル 板 をビニールテープで 仮<br />

固 定 し, 注 射 器 で 接 着 剤 を 流 し 込 む. 翌 日 から 使 用 可<br />

能<br />

44


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Information 4 横 からの 撮 影 photography-2<br />

本 村 浩 之<br />

Step 8 と Information 2 では 標 本 を 上 から<br />

撮 影 する 方 法 を 記 しましたが, 横 から 撮 影<br />

する 方 法 もありますので,ここに 紹 介 しま<br />

す. 下 図 のように 魚 をガラス 板 (あるいは<br />

アクリル 板 )と 水 槽 の 前 面 の 間 に 挟 んで 固<br />

定 し, 横 から 撮 影 します.ガラス 板 は 魚 体<br />

の 幅 に 応 じて 角 度 や 位 置 を 変 えるため, 調<br />

節 し 易 いよう 洗 濯 ばさみなどで 固 定 しま<br />

す.<br />

この 方 法 は, 魚 から 出 るゴミや 付 着 物 が<br />

水 槽 の 下 に 沈 殿 するため, 上 からの 撮 影 に<br />

比 べて 水 替 えの 頻 度 が 少 なく 済 むこと, 浮<br />

き 袋 や 腹 腔 の 空 気 を 抜 かなくても 魚 体 が 安<br />

定 することなどのメリットがあります.し<br />

かし, 微 小 な 魚 などをきちんと 安 定 させ<br />

ることが 難 しいこと,ガラス 面 で 挟 み 込 む<br />

ため, 体 表 がガラス 面 に 押 し 付 けられてい<br />

る 状 態 が 写 り 込 んでしまうことなどがデメ<br />

リットとして 挙 げられます. 特 に, 後 者 は<br />

胸 鰭 の 表 面 に 皮 弁 がある 魚 などの 場 合 , 皮<br />

弁 がガラス 面 に 押 し 付 けられた 状 態 で 撮 影<br />

されてしまうため, 問 題 があります.<br />

この 撮 影 方 法 はスミソニアン 自 然 史 博 物<br />

館 や 三 重 大 学 水 産 実 験 所 などで 採 用 されて<br />

います.<br />

ガラス 水 槽 を 正 面 から 見 たところ. 水 槽 の 後 ろに 見 え<br />

る 黒 色 ボードは, 黒 バック 撮 影 の 際 に 使 用 される<br />

スミソニアン 自 然 史 博 物 館 Museum Support Center の 標<br />

本 撮 影 室 .タイプ 標 本 を 横 から 撮 影 しているところ.<br />

カメラは 三 脚 で 固 定 され, 照 明 はストロボを 使 用 . 撮<br />

影 された 画 像 は 直 接 パソコンに 取 り 込 まれる<br />

ガラス 水 槽 を 横 から 見 たところ. 魚 がガラス 板 と 水 槽<br />

前 面 の 間 に 挟 まれて 固 定 されている<br />

45


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 9 タグ 付 け taging<br />

松 沼 瑞 樹 ・ 本 村 浩 之<br />

所 蔵 機 関 によって, 標 本 の 管 理 体 制 は<br />

様 々です.1 標 本 ビンごとに1ロットの 標<br />

本 を 保 管 し, 標 本 のデータシートを 1 枚 ず<br />

つビンに 入 れる 方 法 や, 種 ・ 科 ごとに 標 本<br />

ビンを 分 けて 1 標 本 ごとに 登 録 番 号 のタグ<br />

を 付 けた 標 本 を 保 管 する 方 法 などがありま<br />

す. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では 後 者 の<br />

方 法 を 用 いており,1 標 本 ごとにタグを 付<br />

けて, 種 ごとにまとめて 標 本 ビンに 入 れて<br />

横 田 株 式 会 社 製 「 家 庭 糸 太 口 」. 強 度 と 価 格 のバラン<br />

スを 考 えるとタグ 付 けの 糸 として 最 適<br />

保 管 しています.ここでは, 標 本 タグの 取<br />

り 付 け 方 法 を 説 明 します.<br />

撮 影 (Step 8)が 終 わったら, 速 やかに<br />

登 録 番 号 を 印 字 したタグを 標 本 に 取 りつけ<br />

ます. 標 本 タグの 素 材 と 作 製 方 法 は Step 5<br />

を 参 照 して 下 さい.<br />

一 般 に 標 本 タグは, 魚 体 の 右 側 の 鰓 孔 か<br />

ら 口 に 糸 を 通 して 取 りつけ,なるべく 魚 体<br />

にダメージを 与 えないようにします. 鹿 児<br />

島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では, 糸 は 横 田 株 式<br />

会 社 製 の「ダルマ 家 庭 糸 太 口 ( 白 色 )」<br />

を 使 用 していますが, 丈 夫 であれば 糸 の 種<br />

類 は 問 いません. 縫 い 針 は( 株 ) 夏 目 製 作<br />

所 の「 外 科 用 強 弯 角 針 1/2 サークル バ<br />

ネ 穴 」の 0 号 から 10 号 を 使 用 しています.<br />

この 針 は, 針 頭 の 凹 みに 糸 を 押 し 込 む 方 式<br />

(バネ 穴 )であるため 糸 を 通 しやすく,か<br />

つ 針 が 半 孤 の 形 をしており 鰓 孔 を 通 しやす<br />

夏 目 製 作 所 製 「 外 科 用 強 弯 角 針 」.バネ 穴 と 湾 曲 具 合<br />

がタグ 付 けに 最 適<br />

典 型 的 なタグの 付 け 方 . 右 側 鰓 孔 から 口 へ 糸 を 通 す<br />

46


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

いため,たいへん 便 利 です.<br />

まず, 縫 い 針 と 糸 , 標 本 タグを 用 意 しま<br />

す. 魚 の 右 側 の 鰓 孔 を 指 で 開 き, 糸 とタグ<br />

を 通 した 縫 い 針 を 鰓 孔 から 口 に 通 します.<br />

次 に, 適 当 な 長 さに 糸 を 切 って, 解 けない<br />

ように 結 んで 完 成 です. 魚 の 種 類 によって<br />

は 鰓 孔 から 口 に 糸 を 通 すことが 困 難 である<br />

ため, 場 合 に 応 じた 方 法 をとりますので 以<br />

下 に 説 明 します.<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鰓 孔 から 口 までの 距 離 が 長 いフグ 科 などの 場 合 は, 鰓<br />

孔 付 近 を 貫 通 させてタグを 縫 付 ける<br />

■ 大 型 の 魚 ・ 鰓 孔 と 口 が 離 れている 魚<br />

大 きなサイズの 魚 で 鰓 孔 から 口 に 針 を 通<br />

すことが 困 難 である 場 合 は. 下 顎 を 貫 通 さ<br />

せてタグを 取 りつけます. 歯 骨 の 間 の 皮 膜<br />

に 針 を 通 してタグを 付 けます.また, 鰓 孔<br />

が 小 さく, 鰓 孔 から 口 までの 距 離 が 長 いフ<br />

グ 科 やアンコウ 科 の 魚 は, 鰓 孔 付 近 を 貫 通<br />

してタグを 付 けます.<br />

ジップロックに 入 れて 保 存 している 標 本 .タグは 魚 に<br />

縫 付 けずにジップロックに 同 封 する<br />

下 顎 を 貫 通 させてタグを 付 ける 方 法 . 歯 骨 間 の 骨 がな<br />

い 場 所 に 針 を 刺 す<br />

スクリュー 管 に 標 本 とタグを 入 れて 保 管 .<br />

47


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

サメやエイの 仲 間 の 場 合 , 右 側 の 腹 鰭 の 基 部 にタグを<br />

縫 付 けます<br />

ヨウジウオの 仲 間 の 場 合 , 体 節 の 溝 にタグを 縛 り 付 け<br />

ます<br />

■ 小 型 の 魚<br />

体 サイズが 小 さい 魚 で, 無 理 に 鰓 孔 と 口<br />

を 通 してタグを 付 けると 下 顎 が 損 傷 する 可<br />

能 性 が 高 い 場 合 は, 魚 体 と 標 本 タグを 一 緒<br />

にジップロック(チャック 付 きのポリエチ<br />

レン 袋 )に 入 れて 保 存 します.ジップロッ<br />

クは( 株 ) 生 産 日 本 社 製 (セイニチ)の「ユ<br />

ニパック」が,さまざまなサイズの 製 品 が<br />

ある 点 で 適 当 です.また, 学 術 的 な 価 値 の<br />

高 い 標 本 や, 魚 体 が 脆 く 破 損 しやすい 稚 ・<br />

仔 魚 なども 標 本 の 保 護 を 目 的 としてジップ<br />

ロックに 入 れて 保 存 します.ジップロック<br />

の 他 に,スクリュー 管 や 試 験 管 に 標 本 を 保<br />

存 することもあります.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 使 用 している 産 地 タグ.<br />

作 成 方 法 は 番 号 タグと 同 じ<br />

■ 軟 骨 魚 類<br />

サメ・エイ 類 は 一 般 に 魚 体 が 大 きく 鰓 孔<br />

から 口 を 通 して 標 本 タグを 付 けることが 困<br />

難 であるため, 右 側 の 腹 鰭 の 基 部 を 貫 通 さ<br />

せてタグを 取 りつけます.<br />

■ヨウジウオ 科 など 体 が 細 長 い 魚<br />

ヨウジウオ 科 など 鰓 孔 と 口 が 極 端 に 小 さ<br />

い 魚 は, 尾 部 に 標 本 タグを 糸 で 縛 って 取 り<br />

つけます. 体 節 の 溝 の 部 分 で 糸 を 縛 るよう<br />

にすると 脱 落 の 心 配 が 少 なくなります.<br />

48


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

産 地 タグ 用 ゴム 印<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 独 自 の 試 みと<br />

して, 番 号 タグの 他 に 産 地 タグの 使 用 が 挙<br />

げられます. 地 方 博 物 館 (あるいは 地 方 大<br />

学 )の 使 命 は 地 元 の 自 然 を 記 録 することで<br />

す. 鹿 児 島 大 学 が 大 西 洋 の 魚 を 集 めてもあ<br />

まり 意 味 がありません.それより,いかに<br />

地 元 鹿 児 島 の 魚 を 収 集 し, 管 理 していくか<br />

が 重 要 となります.そのため, 採 集 場 所 は<br />

ある 程 度 限 られており, 事 前 に 産 地 タグを<br />

作 製 しておくことが 可 能 です.<br />

中 央 の 大 型 博 物 館 ( 国 立 科 学 博 物 館 な<br />

ど)や 欧 米 の 博 物 館 では 産 地 情 報 などが<br />

記 載 された 標 本 ラベル(Information 5 を 参<br />

照 )を 標 本 ビンに 入 れて 標 本 管 理 をしてい<br />

るため, 標 本 ビンを 手 に 取 るだけでどこで<br />

採 集 された 標 本 なのかが 分 かります.しか<br />

し, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では, 標 本<br />

を 種 ごとに 標 本 ビンを 分 けて 保 存 している<br />

ため, 標 本 番 号 をメモして,データベース<br />

を 検 索 しないかぎり, 標 本 の 採 集 場 所 が 分<br />

かりません.そこで, 主 なフィールド 調 査<br />

地 のタグを 事 前 に 作 製 しておいて, 番 号 タ<br />

グと 一 緒 に 標 本 に 付 けています. 標 本 を 一<br />

目 見 るだけでどこで 採 集 されたものか 分 か<br />

るので 大 変 便 利 です. 産 地 タグ(ゴム 印 )は,<br />

1 コ 105 円 ほどでオーダーできます.イン<br />

番 号 タグと 産 地 タグを 一 緒 に 付 けた 標 本 . 小 さい 方 の<br />

タグが 産 地 タグ.データベースを 調 べることなく, 標<br />

本 の 産 地 が 分 かり 便 利<br />

ターネットでオーダーすると 24 時 間 以 内<br />

に 郵 送 されてきますので, 急 のフィールド<br />

調 査 でも 対 応 が 可 能 です.<br />

タグ 付 けが 終 わったら<br />

→<br />

Step 10 へ<br />

49


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 10 測 定 measuring<br />

荻 原 豪 太<br />

撮 影 (Step 8)が 終 了 し,タグを 付 け(Step<br />

9)を 終 えたら,ノギスで 標 本 の 大 きさを<br />

測 定 します. 測 定 単 位 はミリメートルで,<br />

小 数 点 以 下 第 1 位 まで 記 録 します.<br />

魚 類 の 計 測 方 法 は, 分 類 群 によって 大 き<br />

く 異 なっています.サメ 類 では, 投 影 法 と<br />

いう 立 体 の 物 を 平 面 に 測 定 する 方 法 を 用<br />

い, 全 長 (Total length: 吻 の 先 端 から 尾 鰭<br />

の 先 端 までの 距 離 )を 計 測 します.エイ 類<br />

では, 尾 部 の 先 端 が 切 れている( 市 場 では<br />

よく 切 られている)ことが 多 いため, 全 長<br />

の 正 確 な 値 が 常 に 得 られるわけではありま<br />

せん.そこで, 体 盤 幅 (Disc width: 左 右<br />

の 各 胸 鰭 間 の 最 大 距 離 )も 計 測 します. 硬<br />

骨 魚 類 では, 標 準 体 長 (Standard length:<br />

上 顎 の 先 端 から 下 尾 骨 後 端 までの 最 短 距<br />

離 )を 計 測 します. 下 尾 骨 後 端 は, 魚 の 尾<br />

鰭 を 左 体 側 に 曲 げた 時 に 尾 柄 にできる 線 に<br />

より 認 識 できます.オニオコゼ 科 ,ハタ 科 ,<br />

サヨリ 科 などの 魚 類 のように 上 顎 より 下 顎<br />

が 前 に 出 ている 場 合 でも 上 顎 の 先 端 から 計<br />

測 をします.アジ 科 のような 稜 鱗 がある 魚<br />

は, 下 尾 骨 後 端 が 分 かりにくいため 尾 叉 長<br />

(Fork length: 上 顎 の 先 端 から 尾 鰭 の 最 も 湾<br />

入 したところまでの 最 短 距 離 )を 計 測 する<br />

こともあります.<br />

測 定 データは, 後 のステップでパソコン<br />

のデータベースに 入 力 され, 登 録 されます<br />

ので, 標 本 作 成 時 に 測 定 をしておくと 様 々<br />

な 点 でひじょうに 便 利 です. 例 えば, 登 録<br />

された 標 本 を 探 す 時 に 大 きさが 分 かれば,<br />

多 数 の 個 体 が 入 っている 標 本 瓶 の 中 から 大<br />

きさを 目 安 に 探 すことができます.また,<br />

外 部 からの 依 頼 で 所 蔵 標 本 を 調 査 する 場 合<br />

や 自 機 関 の 所 蔵 状 況 を 調 べる 際 にも, 標 本<br />

を 再 チェックすることなく,データベース<br />

の 検 索 だけで 回 答 および 状 況 把 握 ができま<br />

す.さらに,データベース 上 で 体 長 と 採 集<br />

日 をチェックすることにより,ある 種 の 成<br />

長 の 速 度 や 各 成 長 段 階 における 出 現 時 期 な<br />

ど, 様 々な 現 象 を 一 目 で 把 握 することもで<br />

きます. 大 型 標 本 の 場 合 は, 頻 繁 に 標 本 ビ<br />

ンから 出 し 入 れするのが 困 難 なため, 標 本<br />

作 成 時 に 大 きさを 測 定 しておかないと 後 に<br />

苦 労 します.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 使 用 しているノギス. 上<br />

はミツトヨ 製 M 型 標 準 ノギス VC–30. 下 はミツトヨ<br />

製 500 シリーズ ABS デジマチックキャリパ CD–SC<br />

(ソーラタイプ)<br />

測 定 が 終 わったら<br />

→<br />

Step 11 へ<br />

50


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 11 同 定 identifying<br />

荻 原 豪 太 ・ 本 村 浩 之<br />

同 定 とは, 生 物 の 分 類 において 名 前 ( 学<br />

名 )を 決 定 することです.ここでは, 鹿 児<br />

島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で 行 っている 同 定 の<br />

手 順 を 紹 介 します.Step 5 の「タグの 割 当 」<br />

から Step 10 の「 測 定 」までの 間 で 同 定 可<br />

能 なら 台 帳 に 種 名 を 記 入 します.しかし,<br />

簡 単 に 同 定 ができない 場 合 は, 途 中 のス<br />

テップで 同 定 に 時 間 をかけてしまうと 標 本<br />

の 鮮 度 がおちてしまい,きれいな 写 真 が 撮<br />

れなくなる 可 能 性 があるので,Step 11 ま<br />

では 同 定 を 保 留 するのが 無 難 です.<br />

魚 に 詳 しくないボランティアによる 同 定<br />

手 順 として,まずは 同 定 したい 標 本 が 何 の<br />

仲 間 であるかを 調 べます( 科 や 属 レベルの<br />

同 定 ).カラー 写 真 が 掲 載 されている 図 鑑<br />

を 用 いて, 標 本 と 写 真 を 見 比 べながら 形 ( 形<br />

態 )や 色 ( 色 彩 パターン)が 似 たものを 探<br />

し 当 てる 専 門 知 識 を 必 要 としない 方 法 で,<br />

私 達 は「 絵 合 わせ 同 定 」と 呼 んでいます.<br />

鹿 児 島 県 の 魚 を 絵 合 わせ 同 定 する 際 に 便 利<br />

な 図 書 は 以 下 のとおりです.<br />

日 本 産 魚 類 大 図 鑑 東 海 大 学 出 版 会<br />

日 本 の 海 水 魚 山 と 渓 谷 社<br />

以 布 利 黒 潮 の 魚 ジンベエザメからマンボウまで 海 遊 館<br />

決 定 版 日 本 のハゼ 平 凡 社<br />

絵 合 わせ 同 定 によっておおよその 科 (あ<br />

るいは 属 )の 見 当 がついたら, 日 本 産 魚 類<br />

検 索 全 種 の 同 定 第 二 版 ( 東 海 大 学 出 版 会 )<br />

を 用 いて,あたりを 付 けた 科 (あるいは 属 )<br />

のページで 検 索 を 開 始 します.この 本 は,<br />

分 類 形 質 ( 分 類 群 を 区 別 する 際 に 使 う 形 質<br />

のこと)が 図 示 されているため, 使 い 易 い<br />

のですが,ある 程 度 の 専 門 知 識 が 必 要 です.<br />

日 本 産 魚 類 検 索 を 使 っても 同 定 ができな<br />

い 場 合 は, 各 分 類 群 それぞれの 学 術 論 文 ( 多<br />

くの 場 合 は 英 文 )を 参 照 する 必 要 がありま<br />

すが, 熟 練 のボランティアでないと 難 しい<br />

かもしれません. 学 術 論 文 を 調 べても 同 定<br />

が 出 来 ない 場 合 は,その 魚 が 属 する 分 類 群<br />

を 専 門 にしている 研 究 者 に 同 定 を 依 頼 しま<br />

す.それでも 同 定 ができない 場 合 は, 未 記<br />

載 種 ( 新 種 )の 可 能 性 があります.<br />

なお, 同 定 には 主 に 外 部 形 態 を 用 います<br />

が, 外 部 形 態 に 明 瞭 な 分 類 形 質 が 現 れない<br />

分 類 群 ( 例 えば,ウツボ 科 やニベ 科 など)<br />

では,X 線 写 真 による 脊 椎 骨 の 数 の 相 違 や<br />

解 剖 による 内 部 形 態 ( 耳 石 や 鰾 など)の 相<br />

違 を 調 べる 必 要 があります.<br />

同 定 が 終 わったら<br />

→ Step 12 へ<br />

51


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 12 固 定 fixation<br />

本 村 浩 之<br />

同 定 (Step 11)が 終 わったら, 直 ちに 標<br />

本 を 固 定 します. 固 定 にはホルムアルデヒ<br />

ド 水 溶 液 (ホルマリン)を 使 用 します.ホ<br />

ルマリンは 通 常 37% 程 度 のものが 市 販 さ<br />

れており,これを「 原 液 ホルマリン」と 呼<br />

びます. 魚 類 標 本 の 固 定 には 原 液 ホルマ<br />

リンを 10 倍 に 希 釈 した 溶 液 を 使 用 します.<br />

これは「10% ホルマリン」と 呼 ばれますが,<br />

実 際 のこの 溶 液 中 のホルムアルデヒド 含 有<br />

量 は 3.7% です.<br />

10% ホルマリンに 標 本 を 完 全 に 浸 けて 固<br />

定 を 行 います. 標 本 をホルマリンに 浸 ける<br />

際 , 中 型 標 本 は, 右 体 側 腹 部 に 切 り 込 みを<br />

入 れ,ホルマリンが 染 み 込 み 易 いようにし<br />

ます. 大 型 標 本 の 場 合 は,さらに 右 体 側 背<br />

部 にも 切 り 込 みを 入 れると 良 いでしょう.<br />

多 くの 研 究 機 関 では, 腹 部 を 切 開 するので<br />

はなく, 注 射 器 を 用 いて,ホルマリンを 腹<br />

腔 内 に 注 射 する 方 法 をとっていますが, 鹿<br />

児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では, 多 くの 一 般<br />

ボランティアが 作 業 に 参 加 するため,メス<br />

や 注 射 器 の 使 用 は 行 っていません.メスや<br />

注 射 器 はそれ 自 身 が 危 険 である 上 に, 注 射<br />

時 に 力 加 減 を 誤 るとホルマリンが 飛 散 し,<br />

目 に 入 る 危 険 もあります.ホルマリンは 労<br />

働 安 全 衛 生 法 施 行 令 および 特 定 化 学 物 質 障<br />

害 予 防 規 則 等 によって, 劇 毒 物 ( 特 定 化 学<br />

物 質 第 2 類 )に 指 定 されており, 扱 いには<br />

細 心 の 注 意 が 必 要 です.<br />

小 型 標 本 はそのままホルマリンに 浸 けて<br />

も 良 いですが, 標 本 の 破 損 を 防 ぐため, 中<br />

37% ホルマリン 溶 液 .「 原 液 ホルマリン」と 呼 ばれて<br />

いる. 写 真 の 製 品 は「 第 3 類 」と 書 かれているが, 現<br />

在 は「 第 2 類 」に 指 定 されている<br />

ホルマリン 固 定 中 の 中 ~ 大 型 標 本<br />

52


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

~ 大 型 標 本 とは 別 の 容 器 で 固 定 します. 鹿<br />

児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では, 超 大 型 標 本<br />

やオオウナギやリュウグウノツカイなどの<br />

まっすぐ 固 定 したい 長 い 標 本 は, 屋 外 に 設<br />

置 した 大 型 タンクで 固 定 しており, 中 ~ 大<br />

型 標 本 は 蓋 付 きトロバコ, 小 型 標 本 はタッ<br />

パーウェアーで 固 定 しています.<br />

魚 の 体 はほぼ 水 分 から 成 っているため,<br />

ホルマリン 固 定 容 器 に 標 本 を 入 れれば 入 れ<br />

るほどホルマリン 溶 液 が 希 釈 されていきま<br />

す.そこで, 新 規 に 浸 けた 標 本 の 数 や 大 き<br />

さを 考 慮 して, 定 期 的 にホルマリン 原 液 を<br />

追 加 する 必 要 があります.ホルマリンの 追<br />

加 をせずに, 標 本 を 多 く 入 れ 続 けると, 標<br />

本 が 固 定 されず, 腐 ってしまいます.ホル<br />

ホルマリン 固 定 中 の 小 型 標 本<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

マリン 溶 液 の 表 面 に 少 しでも 泡 が 浮 かんで<br />

いたら 腐 敗 が 進 行 し 始 めたサインです. 一<br />

度 ホルマリン 溶 液 内 で 腐 敗 が 進 行 した 標 本<br />

は, 高 濃 度 のホルマリンに 浸 け 直 しても 腐<br />

敗 の 進 行 は 止 まりません.このような 場 合 ,<br />

裏 技 として, 腐 敗 進 行 中 の 標 本 を 98% エ<br />

タノールに 浸 けるとしっかり 固 定 され, 腐<br />

敗 は 停 止 します.しかし, 使 用 したエタノー<br />

ルは 悪 臭 が 酷 く, 再 利 用 できませんので,<br />

やはり 腐 敗 を 起 こさないようホルマリン 濃<br />

度 の 監 視 が 重 要 です.<br />

標 本 をホルマリンに 浸 けておく 期 間 ( 固<br />

定 期 間 )は, 研 究 機 関 によって 様 々です.<br />

7 日 間 ~ 3 週 間 ほどの 場 合 がほとんどです<br />

が, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 は 10 日 間<br />

を 目 安 にしています.7 日 間 の 固 定 だと,<br />

後 にアルコール 置 換 (Step 13)した 際 , 固<br />

定 が 十 分 でないため,アルコールによる 脱<br />

水 作 用 が 強 く 働 いて, 標 本 の 体 表 に 大 量 の<br />

皺 が 発 生 したり, 標 本 自 体 が 硬 くなって<br />

しまいます( 特 にアジ 科 魚 類 など).また,<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では 常 に 膨 大 な<br />

数 の 標 本 を 新 規 作 成 しているため, 数 週 間<br />

も 固 定 し 続 けるだけのホルマリン 固 定 用 容<br />

器 (の 置 き 場 所 )がありません.そこで,<br />

固 定 もしっかりとでき, 標 本 作 製 の 回 転 も<br />

良 い 10 日 間 の 固 定 を 行 っています.<br />

大 型 標 本 固 定 用 のタンク. 屋 外 (ベランダ)に 設 置 し<br />

ているため, 鍵 をかけて 管 理<br />

固 定 が 終 わったら<br />

→<br />

Step 13 へ<br />

53


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 13 置 換 replacing with alcohol<br />

本 村 浩 之<br />

ホルマリン 固 定 が 終 わったら,アルコー<br />

ルに 置 換 して 標 本 を 長 期 保 存 します.アル<br />

コールに 置 換 する 理 由 はいくつかありま<br />

す.1ホルマリンは 徐 々に 酸 化 してギ 酸 を<br />

生 じるため、 魚 類 の 骨 など 硬 組 織 を 侵 食 し<br />

てしまう,2ホルマリンは 刺 激 臭 が 強 く,<br />

毒 性 が 強 いため,ホルマリン 標 本 を 調 査 し<br />

続 けるのは 難 しい,などが 挙 げられます.<br />

しかし,アルコールはホルマリンと 比 べて<br />

高 価 なため, 大 量 のアルコールを 必 要 とす<br />

る 大 型 標 本 については,ホルマリン 溶 液 に<br />

浸 けたまま(アルコール 置 換 せずに) 保 存<br />

する 研 究 機 関 も 多 いのが 現 状 です.ホルマ<br />

リンのまま 保 存 する 場 合 ,1の 骨 組 織 の 劣<br />

化 を 防 ぐために,ホルマリンに 炭 酸 水 素 ナ<br />

トリウム( 重 曹 )やヘキサメチレンテトラ<br />

ミンなどを 溶 解 させて,ギ 酸 を 中 和 してか<br />

ら 使 用 します.<br />

ホルマリン 固 定 標 本 をそのままアルコー<br />

ルに 浸 けると, 単 純 に 考 えても 魚 体 の 体 積<br />

分 のホルマリンがアルコールに 溶 け 出 すこ<br />

とになり, 後 に 標 本 を 調 べる 際 にやっかい<br />

です.そこで,ホルマリン 固 定 標 本 を 丸 1<br />

日 真 水 に 浸 けて, 標 本 からホルマリンを 抜<br />

きます.その 後 , 真 水 に 浸 けてあった 標 本<br />

を「 置 換 用 アルコール」に 数 日 間 浸 けます.<br />

使 い 古 したアルコールを 置 換 用 アルコール<br />

として 使 用 します.この 段 階 で, 標 本 に 染<br />

み 込 んでいたホルマリンや 真 水 がようやく<br />

完 全 に 抜 けてアルコールに 置 換 されたこと<br />

になります. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 で<br />

使 用 しているアルコールは, 九 州 経 済 産 業<br />

局 から 認 可 された「 一 般 アルコール エチ<br />

ルアルコール 99 度 合 成 無 変 性 18L<br />

TNS 缶 」です.<br />

ホルマリン 固 定 標 本 をアルコールに 置 換 する 際 に 最 初<br />

に 行 われるホルマリン 抜 きの 作 業 . 真 水 に 丸 1 日 浸 け<br />

る<br />

アルコール 置 換 が 終 わったら<br />

→ Step 14 へ<br />

54


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 14 保 管 storing<br />

本 村 浩 之<br />

標 本 をアルコールに 置 換 したら, 保 管 用<br />

標 本 ビンに 入 れてアルコール 保 存 します.<br />

外 国 の 博 物 館 ではガラス 製 の 標 本 ビンを 使<br />

用 していますが, 日 本 では 適 当 なサイズ<br />

と 価 格 のガラスビンが 販 売 されていないた<br />

め, 国 内 の 博 物 館 の 多 くはポリ 塩 化 ビニル<br />

製 の 標 本 ビンを 使 用 しています. 鹿 児 島 大<br />

学 総 合 研 究 博 物 館 で 実 際 に 使 用 している 標<br />

本 ビンは 以 下 のとおりで, 保 存 する 標 本 の<br />

大 きさによって 使 い 分 けています.3 リッ<br />

トル 広 口 T 型 瓶 ( 下 記 リスト 参 照 )は 胴 径<br />

が 広 いため,キンチャクダイなどの 体 高 が<br />

高 い 魚 の 保 存 に 便 利 ですが, 気 密 性 が 低 い<br />

のが 欠 点 です.3 リットル 広 口 T 型 瓶 だけ<br />

は,フタを 持 ってアルコールを 満 たした 瓶<br />

を 動 かすとフタが 外 れてしまうことがある<br />

ので 注 意 して 下 さい.<br />

アズワン 社 製<br />

広 口 T 型 瓶 パッキン 付 き( 透 明 エンビ 製 )<br />

・0.3 リットル( 胴 径 75 mm× 全 高 92 mm)<br />

・0.5 リットル( 胴 径 90 mm× 全 高 118 mm)<br />

・1 リットル( 胴 径 97 mm× 全 高 167 mm)<br />

・2 リットル( 胴 径 112 mm× 全 高 255 mm)<br />

・3 リットル( 胴 径 134 mm× 全 高 263 mm)<br />

クリア 広 口 瓶 中 フタ 付 き( 透 明 エンビ 製 )<br />

・0.1 リットル( 胴 径 48 mm× 全 高 82 mm)<br />

・0.25 リットル( 胴 径 61 mm× 全 高 119 mm)<br />

BB 型 広 口 瓶 活 栓 なし<br />

・20 リットル<br />

ポリタル<br />

・75 リットル<br />

アズワン 社 製 標 本 ビン. 左 から 順 に,0.25 リットル,<br />

1 リットル,2 リットルビン<br />

三 甲 株 式 会 社 製<br />

プラスチックドラム(オープンタイプ)<br />

・25 リットル( 胴 径 296 mm× 全 高 522 mm)<br />

・30 リットル( 胴 径 312 mm× 全 高 502 mm)<br />

・120 リットル( 胴 径 490 mm× 全 高 792 mm)<br />

・210 リットル( 胴 径 580 mm× 全 高 974 mm)<br />

パワードラム(オープンタイプ)<br />

・60 リットル( 胴 径 400 mm× 全 高 618 mm)<br />

55


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

中 ~ 大 型 標 本 保 存 容 器 . 上 列 が BB 型 広 口 瓶 20 リット<br />

ル, 下 列 がプラスチックドラム 25 リットル. 容 器 表<br />

面 に 白 色 ビニールテープを 貼 り,アルコール 耐 性 があ<br />

る Sharpie Fine Point( 欧 米 で 流 通 しているサインペン)<br />

で 科 番 号 と 科 名 (あるいは 種 名 )を 記 入<br />

科 番 号 と 種 名 ラベルを 貼 った 標 本 ビン( 広 口 T 型 瓶 2<br />

リットル)<br />

標 本 ビンに 貼 るラベル 用 熱 転 写 プリンター(CASIO<br />

Name Land). 一 般 標 本 は 黒 字 ,タイプ 標 本 は 赤 字 で<br />

印 字 .0.5 ~ 3 リットル 標 本 ビンには 幅 12 mm のテープ,<br />

0.25 リットルの 標 本 ビンには 9 mm を 使 用<br />

標 本 ビンには 科 番 号 と 種 名 を 記 載 した<br />

ラベルを 貼 り, 科 番 号 の 順 番 に 配 架 して<br />

います. 標 本 の 作 製 や 配 架 はボランティア<br />

主 導 で 行 われるため, 種 名 には 学 名 ではな<br />

く 標 準 和 名 を 使 っています.このラベルは<br />

熱 転 写 プリンターの 1 種 である CASIO の<br />

Name Land で 印 字 されています. 熱 転 写 プ<br />

リンターはアルコール 耐 性 に 優 れており<br />

(Information 5 を 参 照 ), 印 字 が 消 える 心 配<br />

はありません.<br />

99% エタノールで 固 定 中 の 標 本 (DNA 解 析 用 ).ラベ<br />

ルは 熱 転 写 プリンターで 印 字 しているため,アルコー<br />

ルに 浸 けていても 印 字 は 劣 化 ・ 脱 落 しない. 右 図 は 標<br />

本 ビン 陳 列 棚<br />

56


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Information 5 標 本 ラベル specimen data labels<br />

本 村 浩 之<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では, 標 本 室<br />

のスペースの 都 合 上 , 魚 類 の 液 浸 標 本 1 個<br />

体 に 1 番 号 タグを 割 り 当 て, 種 ごとにまと<br />

めて 標 本 ビンに 入 れて 保 管 ・ 管 理 をしてい<br />

ます.しかし, 海 外 の 多 くの 自 然 史 博 物 館<br />

や 東 京 の 国 立 科 学 博 物 館 などは 1 ロット 1<br />

標 本 ビンで 保 管 しているため, 標 本 ビンに<br />

は 標 本 と 一 緒 に 様 々なデータが 記 載 された<br />

ラベル( 標 本 ラベル)が 入 れられています.<br />

ここでは, 標 本 ラベルについて 紹 介 します.<br />

液 浸 標 本 はアルコールというとても 揮 発<br />

性 が 強 い 特 殊 な 溶 液 に 浸 して 保 存 するた<br />

め, 使 用 するラベルやインクにもその 特 性<br />

を 考 慮 した 選 択 が 必 要 です.しかも, 標 本<br />

は 人 類 共 有 の 財 産 として 後 世 に 残 さなけれ<br />

ばいけませんので, 数 年 , 数 十 年 レベルで<br />

はなく, 数 百 年 後 でも 適 切 に 保 存 されてい<br />

る 状 況 が 必 要 です.<br />

現 在 , 大 きく 分 けて 以 下 の 4 タイプのプ<br />

リンターが 市 販 されています.<br />

◆インクジェット/バブルジェットプリン<br />

ター(インクを「 紙 に 吹 き 付 ける」 印 字 方 式 )<br />

通 常 のインクですと,アルコールに 浸 け<br />

るとにじんでしまいますが, 最 近 は 特 殊 な<br />

アルコール 耐 性 インクが 市 販 されており,<br />

ロンドン 自 然 史 博 物 館 では,インクジェッ<br />

アメリカのスミソニアン 自 然 史 博 物 館 で 使 用 されてい<br />

る 標 本 ラベル<br />

イギリスのロンドン 自 然 史 博 物 館 で 使 用 されているイ<br />

ンクジェットプリンター+アルコール 耐 性 インクで 印<br />

字 された 標 本 ラベル(Photo by J. Maclaine)<br />

57


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

トプリンターで 標 本 ラベルを 印 字 してい<br />

ます.しかし,アルコール 耐 性 インクが 将<br />

来 紙 から 脱 落 しないかどうか 疑 問 が 残 りま<br />

す.<br />

◆レーザプリンター( 感 光 ドラムにレーザ<br />

光 線 で 画 像 を 照 射 し、 静 電 気 を 利 用 してド<br />

ラムにトナーを 付 着 させ、 紙 に 転 写 する 印<br />

字 方 式 )<br />

圧 力 をかけて 紙 に 印 字 していないため,<br />

アルコールに 浸 けるとインクが 脱 落 してし<br />

まいます.しかし,オーストラリア 博 物 館<br />

やノーザンテリトリー 博 物 館 では 印 字 した<br />

標 本 ラベルをオーブンで 過 熱 し,インクを<br />

紙 に 染 み 込 ませてからアルコールに 浸 けて<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

います. 後 述 するアクリルコート 紙 にはイ<br />

ンクが 染 み 込 まないため, 使 用 できません.<br />

フィールド 博 物 館 などでは,アルコー<br />

ル 耐 性 インクトナーを 用 いて 印 字 し, 非<br />

加 熱 処 理 のまま 標 本 ラベルを 使 用 していま<br />

す.また,ミシガン 大 学 博 物 館 やフィラデ<br />

ルフィア 科 学 アカデミーなどは 普 通 のイン<br />

クトナーを 用 いて 印 字 し, 標 本 ラベルをス<br />

プレー(Krylon Matte Finish など)でアク<br />

リルコートして 使 用 しています.しかし,<br />

アクリルコートは 標 本 からにじみ 出 る 脂 分<br />

( 特 に 軟 骨 魚 類 )で 分 解 されてしまうため,<br />

実 用 向 きではありません.<br />

台 湾 の 生 物 多 様 性 研 究 センターでは, 普<br />

通 のインクトナーを 用 いて 印 字 した 標 本 ラ<br />

ベルをラミネートしてアルコールに 浸 けて<br />

いますが,いずれはラミネートが 剥 れてし<br />

まうと 考 えられますし,コストと 手 間 を 考<br />

えるとお 勧 めではありません.<br />

アメリカのフィラデルフィア 科 学 アカデミーで 使 用 さ<br />

れているレーザープリンター+ 普 通 のインクで 印 字 さ<br />

れた 標 本 ラベル.アクリルコートを 施 している<br />

◆ドットインパクトプリンター(インクを<br />

染 み 込 ませたリボンに 圧 力 を 加 えて,ドッ<br />

ト ( 点 ) で 描 く 印 字 方 式 )<br />

アルコールに 浸 してもにじみにくく、 脱<br />

落 もしにくいのですが, 解 像 度 が 低 いため,<br />

きれいな 印 刷 は 期 待 できません.ドットイ<br />

レーザープリンター+ 普 通 のインクで 印 字 された 標 本<br />

ラベル. 印 字 が 脱 落 している(Photo by D. Catania)<br />

ドットインパクトプリンター+アルコール 耐 性 インク<br />

で 印 字 された 標 本 ラベル. 印 字 が 薄 くて 見 難 い(Photo<br />

by D. Catania)<br />

58


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

熱 転 写 プリンター Datamax I Class Thermal Printer(Photo<br />

by D. Catania)<br />

Datamax I Class Thermal Printer で 印 字 した 標 本 ラベル<br />

(Photo by D. Catania)<br />

ベルを 作 製 する 際 に 熱 転 写 プリンターを 使<br />

用 するのが 主 流 です.<br />

Datamax I Class Thermal Printer. 黒 いロールがインク<br />

リボン, 白 いロールがアクリルコート 紙 (Photo by D.<br />

Catania)<br />

ンパクトプリンターは, 従 来 ,カリフォル<br />

ニア 科 学 アカデミーなどで 幅 広 く 使 用 され<br />

ていましたが,アルコール 耐 性 インクリボ<br />

ンが 製 造 中 止 になったため, 現 在 ではアル<br />

コール 耐 性 インクリボンの 在 庫 がある 博 物<br />

館 でのみ 使 用 されています.<br />

◆ 熱 転 写 プリンター(フィルム 上 のインク<br />

リボンに 熱 を 加 えて 紙 に 転 写 する 印 字 方<br />

式 )<br />

アルコールに 浸 してもにじみにくく、 脱<br />

落 もしにくいのが 特 徴 で, 標 本 ラベルを 作<br />

製 するプリンターとしては 最 適 ですが,イ<br />

ンクリボンの 消 費 コストが 割 高 であるのが<br />

欠 点 です.アメリカの 博 物 館 では, 標 本 ラ<br />

上 記 のように, 博 物 館 によって 様 々な 方<br />

法 で 標 本 ラベルが 作 製 されています.プリ<br />

ンターやインクの 開 発 や 従 来 の 製 品 の 製 造<br />

中 止 も 急 速 に 進 んでおり,どの 製 品 を 選 ぶ<br />

かはそれぞれ 一 長 一 短 であると 言 えます.<br />

しかし, 現 在 最 も 安 全 で( 長 期 間 印 字 が 脱<br />

落 しない), 見 易 い( 印 字 がクリアー)と<br />

考 えられているのが 熱 転 写 プリンターを<br />

使 ってアクリルコート 紙 ( 厚 手 の 光 沢 があ<br />

る 耐 水 紙 )に 印 字 する 方 法 です.アメリカ<br />

の Alpha Systems 社 が 博 物 館 の 液 浸 標 本 用<br />

に 開 発 ・ 販 売 している 熱 転 写 プリンター<br />

Datamax シリーズはアメリカの 多 くの 博 物<br />

館 で 使 用 されいます.<br />

熱 転 写 プリンター 用 のインクリボンには<br />

ワックスリボン, 樹 脂 リボン,ワックス・<br />

樹 脂 混 合 リボンの 3 種 類 があります. 樹 脂<br />

リボンは 印 字 が 薄 く,ワックスリボンは 脱<br />

落 する 可 能 性 があるということで, 標 本 ラ<br />

ベル 印 字 用 には 混 合 リボンが 適 していると<br />

いわれています.<br />

59


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 15 入 力 database<br />

本 村 浩 之<br />

一 連 の 標 本 作 製 作 業 が 終 わったら 直 ちに<br />

データを 入 力 します. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究<br />

博 物 館 では,データベースソフトとして<br />

FileMaker Pro 9 を 使 用 し, 学 内 であればど<br />

のパソコンからもアクセスしてデータの 入<br />

力 や 検 索 をするとことが 出 来 るように 設 定<br />

しています.<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 では, 魚 類 の<br />

科 名 ( 和 名 とラテン 語 名 )と 種 名 ( 標 準 和<br />

名 と 学 名 )を 全 てリンクさせた 辞 書 ファイ<br />

ルを 作 成 し,データベース 上 で 種 の 標 準 和<br />

名 を 入 力 すると, 科 の 和 名 ・ラテン 語 名 と<br />

種 の 学 名 ( 属 名 ・ 種 小 名 )が 自 動 的 に 入 力<br />

されます. 正 しい 標 準 和 名 を 入 力 しなけれ<br />

ば 自 動 入 力 されませんし, 間 違 い 易 い 学 名<br />

の 入 力 は 必 要 ない<br />

ため, 入 力 ミスを<br />

ほぼ 100% なくす<br />

ことができます.<br />

採 集 エリア( 太 平<br />

洋 側 や 日 本 海 側 な<br />

ど)や 生 息 環 境 ( 海<br />

水 ・ 淡 水 ・ 汽 水 な<br />

ど), 採 集 方 法 ( 刺<br />

網 , 定 置 網 , 釣 り<br />

など), 写 真 撮 影<br />

の 有 無 はポップ<br />

60<br />

アップの 選 択 方 式 を 使 っており, 選 択 する<br />

だけですので,こちらも 入 力 の 手 間 が 省 け<br />

ます.<br />

データを 長 期 間 安 全 に 管 理 するため, 入<br />

力 したデータを 1000 件 単 位 でプリントし,<br />

製 本 して 保 存 しています.<br />

リスト 形 式 表 示 の 画 面 . 上 から 2 列 目 に 標 準 和 名 (カ<br />

タカナ)を 入 力 すると,1 列 目 と 3 列 目 に 科 名 と 種 名<br />

が 自 動 的 に 現 れます. 上 図 は 生 息 環 境 をポップアップ<br />

で 選 択 している 最 中 です<br />

表 形 式 表 示 の 画 面 .FileMaker Pro ではリスト 形 式 , 表 形 式 ,フォーム 形 式 の 3 形 式 でデー<br />

タベースの 入 力 ・ 検 索 作 業 が 出 来 ます


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

Step 16 画 像 処 理 processing images<br />

本 村 浩 之<br />

ここでは,Step 8 で 撮 影 した 写 真 の 画 像<br />

処 理 ( 加 工 )の 仕 方 を, 鹿 児 島 大 学 総 合 研<br />

究 博 物 館 で 実 際 に 行 っている 手 順 に 従 って<br />

説 明 します.ソフトは Adobe Photoshop 7.0<br />

を 使 っていますが,どのバージョンでも 基<br />

本 操 作 は 変 わりません. 以 下 の 手 順 は 一 見<br />

煩 雑 ですが, 慣 れてくると 1 画 像 3 分 ほど<br />

で 加 工 できるようになります.<br />

白 バック 写 真 の 場 合 は,4と5のステッ<br />

プを 飛 ばして 作 業 します.<br />

1 未 処 理 の 元 画 像<br />

2 標 本 がクリアーに 見 えるようレベル 補 正 をします.<br />

「イメージ」→「 色 調 補 正 」→「レベル 補 正 」を 選 択<br />

すると 上 図 のダイヤログが 現 れますので, 三 角 マーク<br />

を 移 動 させながら 補 正 します<br />

3 画 像 を 回 転 させて 標 本 が 水 平 に 位 置 するよう 調 節 し<br />

ます.「イメージ」→「カンバスの 回 転 」→「 角 度 入 力 」<br />

を 選 択 すると 上 図 のダイヤログが 現 れますので, 数 字<br />

( 角 度 )を 入 力 して 調 節 します<br />

4 背 景 を 大 まかに 黒 く 塗 ります.「 鉛 筆 ツール」を 選<br />

択 し,メインブラシの 直 径 を 大 きめにして 黒 くベタ 塗<br />

りします. 標 本 の 近 くを 塗 る 必 要 はありません<br />

61


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

5 画 像 を 適 時 拡 大 して 背 景 を 黒 く 塗 ります.「 長 方 形<br />

選 択 ツール」で 標 本 と 背 景 の 境 界 を 一 部 選 択 し,「 塗<br />

りつぶしツール」を 使 って 選 択 範 囲 内 をクリックしま<br />

す. 標 本 にまで 黒 塗 りがかかってしまう 場 合 は,「 許<br />

容 値 」を 小 さくして 再 度 選 択 範 囲 内 をクリックします<br />

6 背 景 を 完 全 に 黒 塗 りできたら,「 切 り 抜 きツール」<br />

で 余 分 な 背 景 をカットします<br />

7「 切 り 抜 きツール」で 余 分 な 背 景 をカットした 画 像<br />

8 保 存 する 前 に 解 像 度 と 画 像 サイズを 調 整 します.「イ<br />

メージ」→「 画 像 解 像 度 」を 選 択 すると 上 図 のダイヤ<br />

ログが 現 れます. 上 図 の 場 合 , 解 像 度 が 72 pixel/inch,<br />

幅 が 804.33 mm で,ピクセル 数 が 8.64M になっていま<br />

す.まずは 解 像 度 を 72 から 300 pixel/inch に 変 更 しま<br />

す<br />

9 解 像 度 を 上 げるとピクセル 数 の 値 が 大 きくなります<br />

ので,ピクセル 数 を 解 像 度 変 更 前 と 同 等 まで 下 げるた<br />

めに 幅 の 値 を 下 げます(ピクセル 数 をいくら 大 きくし<br />

たところで 元 画 像 より 画 質 が 上 がることはない). 上<br />

図 では 幅 を 804.33 mm から 190 mm に 変 更 したところ,<br />

ピクセル 数 が 変 更 前 (8.64M)とほぼ 同 じ(8.37M)に<br />

なりました. 幅 190 mm, 解 像 度 300 であればほぼど<br />

んな 印 刷 にも 耐 えうる 画 質 です<br />

10 最 後 に「ファイル」→「 別 名 で 保 存 」を 選 択 して,<br />

上 図 の 画 質 を 12 に 設 定 し,「 最 高 ( 低 圧 縮 率 )」になっ<br />

ていることを 確 認 します.オプションは「ベースライ<br />

ン( 標 準 )を 選 択 します<br />

62


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

未 処 理 の 元 画 像<br />

処 理 後 の 黒 バック<br />

画 像<br />

処 理 後 の 白 バック<br />

画 像<br />

63


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Step 17 貸 出 loan<br />

本 村 浩 之<br />

保 存 ・ 管 理 されている 標 本 は,ただ 保 存<br />

されていくだけではなく, 生 物 多 様 性 や 分<br />

類 , 生 態 などの 様 々な 研 究 分 野 で 活 用 され<br />

ます. 研 究 者 が 直 接 標 本 所 蔵 機 関 を 訪 問 し<br />

て 標 本 を 調 査 する 場 合 もありますが, 多 く<br />

の 場 合 , 研 究 者 は 自 身 の 所 属 機 関 で 標 本 を<br />

調 べるために 標 本 の 借 用 をします. 鹿 児 島<br />

大 学 総 合 研 究 博 物 館 では,2008 年 度 だけ<br />

で 52 件 681 標 本 の 借 用 依 頼 がありました<br />

( 膨 大 な 学 内 利 用 を 除 く).<br />

そこで,ここでは 標 本 の 郵 送 方 法 を 紹 介<br />

します. 標 本 は 1 個 体 ごと 20% アルコー<br />

ルで 湿 らせたガーゼで 丁 寧 に 包 みます. 高<br />

濃 度 のアルコール 輸 送 は Special Provision<br />

A58 of the IATA Dangerous Goods Regulations<br />

等 で 禁 止 されていますので, 必 ず 20% に<br />

希 釈 します.ガーゼで 包 んだ 標 本 を 厚 手 の<br />

ビニールで 三 重 にパックします.パッキン<br />

グにはシーラーを 使 用 します.シールする<br />

際 には,ビニール 中 に 空 気 をなるべく 入 れ<br />

ないように 注 意 します.ジップロックや 薄<br />

手 のビニールではちょっとした 気 圧 の 変 化<br />

でもアルコールが 漏 れ 出 しますので 使 用 で<br />

きません.<br />

アルコールで 湿 らせたガーゼで 標 本 を 包 み,それをビ<br />

ニールでパッキングする<br />

白 光 株 式 会 社 製 FV-801 シーラー. 標 本 を 入 れたビニー<br />

ルをシールする<br />

パッキングした 標 本 を 緩 衝 材 を 満 たした 段 ボール 箱 に<br />

入 れる<br />

64


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

次 に,シーラーで 密 閉 した 標 本 を 緩 衝 材<br />

で 満 たした 段 ボール 箱 に 入 れます.ダン<br />

ボールは, 頑 丈 なものを 選 ばないと 標 本 が<br />

損 傷 する 可 能 性 があるので 気 をつけて 下 さ<br />

い.<br />

国 外 に 郵 送 する 場 合 は, 段 ボール 箱 の<br />

上 面 か 側 面 に 透 明 なジップロックを 貼 り,<br />

ジップロックの 中 にインボイス( 中 身 の 明<br />

細 書 )を 入 れます. 税 関 でインボイスを 取<br />

り 出 して, 段 ボール 箱 の 中 身 がワシント<br />

ン 条 約 (CITES)の 附 属 書 にリストされて<br />

いる 生 物 ではないことや,( 税 金 が 掛 かる)<br />

商 業 品 ではないことを 確 認 できるようにす<br />

るためです. 国 際 小 包 の 宛 名 ラベルには 中<br />

身 の 価 格 を 書 く 欄 がありますが,そこには<br />

NCV(No commercial value の 意 ),あるい<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

は 1 標 本 につき US$20 以 下 の 価 格 を 記 入<br />

します.US$20 以 上 ですと 税 金 がかかりま<br />

す.<br />

インボイスを 貼 り 付 けても 税 関 で 中 身 が<br />

チェックされることがあります.その 際 ,<br />

ビニールが 開 封 される 恐 れがありますの<br />

で, 段 ボール 箱 の 中 に 下 図 のような 注 意 書<br />

きを 同 封 します.ここには,「ホルマリン<br />

固 定 された 研 究 目 的 の 標 本 であるため, 検<br />

疫 上 の 問 題 がない」こと,「CITES にリス<br />

トされていない 種 である」こと,「 商 業 価<br />

値 がない」こと,「20% アルコールで 保 存<br />

されている」こと,そして 最 も 重 要 な 一 文<br />

である「もしビニールを 開 封 した 場 合 , 直<br />

ちにシールし 直 して 下 さい」ということを<br />

明 記 します.<br />

段 ボール 箱 に 貼 ったインボイスの 他 に 同<br />

じインボイスを 2 枚 別 便 で 郵 送 します.1<br />

枚 は 標 本 借 用 者 が 保 管 し,もう 1 枚 は 借 用<br />

者 が 受 け 取 りのサインをして 貸 し 出 し 機 関<br />

に 返 送 します. 借 用 者 は, 標 本 を 返 却 する<br />

際 にインボイスのコピーに 再 同 定 結 果 を 書<br />

いて 同 封 するのが 普 通 です. 一 般 標 本 の 場<br />

合 , 借 用 ・ 貸 出 期 間 は 通 常 1 年 です.<br />

標 本 の 貸 し 出 し 明 細 書 (インボイス). 貸 し 出 し 標 本<br />

のデータや 貸 し 出 し 期 間 などが 記 載 されている<br />

ダンボール 箱 に 同 封 する 重 要 なメモ<br />

65


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

Volunteers' comments<br />

魚 類 ボランティアを 経 験 して<br />

原 口 百 合 子<br />

私 の 携 帯 には,246 枚 の 魚 の 画 像 データ<br />

が 入 っています. 初 めて 見 る 魚 , 形 のおも<br />

しろい 魚 , 美 しい 色 をした 魚 など 驚 きと 感<br />

動 を 残 したいと, 撮 り 続 けてきたものです.<br />

私 が 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 の 魚 類 ボラ<br />

ンティアを 始 めるきっかけになったのは,<br />

「 鹿 児 島 の 海 の 魅 力 を 伝 えるための 魚 類 図<br />

鑑 を 作 りたい.それには 標 本 の 作 製 , 登 録 ,<br />

管 理 が 欠 かせないので, 協 力 してほしい」<br />

という 博 物 館 職 員 の 呼 びかけを 知 ったから<br />

です. 興 味 はあるものの, 標 本 作 製 は 初 め<br />

てでした. 解 凍 処 理 された 魚 を 水 できれい<br />

に 洗 い, 鰭 を 虫 ピンで 広 げホルマリンを 塗<br />

り 固 定 するのですが,あるべき 鰭 を 見 落 と<br />

し, 薬 品 を 塗 り 忘 れて 失 敗 した 苦 い 経 験 も<br />

ありました.<br />

やはり 作 製 作 業 の 中 で 時 間 がかかるのが<br />

同 定 です. 知 っている 魚 ならまだいいので<br />

すが, 初 めて 見 る 魚 は,まず 写 真 などで 絵<br />

合 わせをして 目 安 をつけます.さらに 検 索<br />

図 鑑 を 使 って 各 形 質 を 確 認 しながら 次 へと<br />

進 むのですが,これが 容 易 ではありません.<br />

パズルを 解 いていくような 面 白 さもありま<br />

すが, 分 からなくなると 迷 路 の 中 を 彷 徨 っ<br />

ている 感 じで, 誰 かに 助 けを 求 めてしまい<br />

たくなります.なぜなら, 魚 も 乾 燥 して 状<br />

態 が 悪 くなってしまうからです.1 匹 の 魚<br />

と 向 き 合 って 4 時 間 , 初 めての 標 本 作 製 は<br />

長 い 時 間 がかかってしまいました.でも,<br />

終 わったときの 安 堵 感 と 達 成 感 は 今 も 覚 え<br />

ています.<br />

ボランティア 活 動 は 標 本 の 作 製 以 外 に<br />

も, 魚 類 の 採 集 や,スキルアップのための<br />

学 習 会 , 地 域 行 事 への 参 加 や 参 画 など, 学<br />

んだ 知 識 を 生 かし 幅 広 く 活 動 する 機 会 を 与<br />

えてくれました. 昨 年 は,ボランティア 活<br />

動 中 に 発 見 した 新 知 見 を,1 人 1 種 の 担 当<br />

で, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 のニューズ<br />

レター No 16 にて 報 告 することができまし<br />

た. 魚 類 の 計 測 方 法 や 文 献 調 査 の 仕 方 を 学<br />

び 苦 労 の 連 続 でしたが, 最 後 まで 諦 めず 書<br />

き 上 げたことは, 大 きな 成 果 だと 思 ってお<br />

ります.<br />

近 年 , 生 活 様 式 や 生 活 意 識 の 変 化 に 伴 い,<br />

生 き 甲 斐 のある 充 実 した 日 々を 求 めて,ボ<br />

ランティア 活 動 などを 通 した 社 会 への 貢 献<br />

を 望 む 人 々が 増 えているようです. 総 務 省<br />

統 計 局 の 調 査 によると, 鹿 児 島 県 はボラン<br />

ティア 活 動 の 行 動 者 率 が 40.1%で 全 国 1 位<br />

( 平 成 13 年 社 会 生 活 基 本 調 査 )でした. 私<br />

はこのような 結 果 と 県 民 のボランティアに<br />

対 する 意 識 の 高 さを 知 りうれしく 思 いまし<br />

た. 今 後 はボランティア 活 動 で 得 た 様 々な<br />

経 験 を 活 かし, 後 世 のため 役 立 つ 標 本 を 残<br />

すという 目 的 をしっかり 持 って, 活 動 を 続<br />

けていきたいと 思 っています.<br />

最 期 に,2006 年 4 月 に 始 まって 今 日 まで,<br />

ボランティア 活 動 を 続 けられたのは, 多 く<br />

66


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

の 人 の 支 えがあったからだと 感 じておりま<br />

す. 熱 心 にご 指 導 いただいた 博 物 館 の 先 生<br />

をはじめ, 博 物 館 関 係 者 の 方 々, 魚 類 分 類<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

学 研 究 室 の 学 生 の 皆 さんや 他 のボランテイ<br />

アさんに 感 謝 したいと 思 います.<br />

漁 師 としての 魚 類 ボランティア<br />

伊 東 正 英<br />

私 は 鹿 児 島 県 内 で 定 置 網 漁 業 に 従 事 して<br />

いる 漁 師 です. 定 置 網 漁 業 とはその 字 の 通<br />

り, 定 められた 場 所 に 網 を 設 置 して 魚 を 獲<br />

る 漁 法 です. 定 置 網 は 台 風 の 接 近 時 以 外 年<br />

中 設 置 され,1 日 24 時 間 フル 稼 働 してい<br />

ます.そして 網 に 入 った 魚 介 類 を 毎 朝 漁 獲<br />

しています. 定 置 網 ではさまざまな 種 類 の<br />

魚 が 獲 れ, 水 揚 げされない( 売 れない) 魚<br />

も 含 め,1 日 で 約 30 ~ 50 種 , 年 間 で 250<br />

種 程 の 魚 が 獲 れ, 今 までにトータルで 500<br />

種 を 超 える 魚 と 出 会 ってきました.<br />

私 は 以 前 から 魚 の 生 態 が 好 きでしたが,<br />

毎 日 獲 れる 魚 をチェックし, 写 真 に 収 めて<br />

いくうちに 魚 類 の 分 類 学 に 興 味 が 移 りまし<br />

た. 獲 れた 魚 の 写 真 は 500 種 を 超 え, 鹿 児<br />

島 県 の 魚 種 の 豊 富 さを 実 感 しています.ま<br />

た、 見 た 事 のない 魚 や 名 前 の 分 からない 魚<br />

に 出 会 い,その 頃 はとにかく 写 真 にさえ 収<br />

めていれば 後 に 判 明 するだろうと 思 って<br />

いました.ところが 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博<br />

物 館 の 先 生 と 出 会 い, 分 からない 魚 種 を 写<br />

真 で 同 定 依 頼 したのですが, 標 本 が 無 いこ<br />

とで 判 明 しませんでした. 魚 類 の 同 定 は 写<br />

真 からでは 難 しく, 標 本 を 精 査 しないとで<br />

きないということです.この 時 , 初 めて 標<br />

本 の 意 味 , 重 要 性 を 知 りました. 私 が 今 ま<br />

でしてきた 事 が 魚 種 を 同 定 するという 点 で<br />

は 役 に 立 たない 事 を 実 感 しました. 私 は 漁<br />

師 であり 魚 類 分 類 学 という 意 味 では 素 人 で<br />

あっても 良 いのですが,ただ 魚 が 好 きとい<br />

うだけで 無 く,もっと 深 く,もっと 詳 しく<br />

知 りたいという 欲 求 が 魚 類 ボランティアへ<br />

と 足 を 運 ばせました.<br />

当 初 , 博 物 館 の 先 生 からは 漁 獲 される 魚<br />

の 標 本 収 集 を 依 頼 されました. 魚 の 標 本 を<br />

5 年 程 収 集 し, 将 来 的 には 鹿 児 島 の 魚 類 図<br />

鑑 を 作 るという 発 想 でした. 私 も 鹿 児 島 の<br />

魚 類 図 鑑 の 作 成 に 大 変 に 興 味 があり, 協 力<br />

というよりも 携 わりたく,こんなに 魚 種 が<br />

豊 富 な 鹿 児 島 を 皆 さんに 知 って 頂 く 為 にも<br />

図 鑑 の 完 成 を 目 標 とし, 魚 類 ボランティア<br />

へは 参 加 しています. 魚 類 ボランティアで<br />

は 水 産 学 部 の 学 生 のほか 一 般 の 方 が 参 加 し<br />

ています. 私 も 一 般 人 ですが 漁 師 であり,<br />

毎 日 数 多 くの 魚 を 扱 っています.ボラン<br />

ティアスタッフの 中 では 一 番 数 多 くの 魚 を<br />

見 ています. 学 生 が 毎 週 1 回 漁 船 に 乗 り 標<br />

本 収 集 していますが, 私 は 毎 日 標 本 収 集 が<br />

できます. 魚 類 の 標 本 収 集 はボランティア<br />

スタッフも 自 ら 行 ないますが 限 界 があり,<br />

67


魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

どうしても 漁 業 者 の 協 力 が 必 要 です.です<br />

から 標 本 収 集 という 点 では 私 はとても 重 要<br />

な 位 置 にいると 実 感 しています. 特 に 漁 師<br />

が 見 向 きもしない 外 道 とされる 魚 種 は 入 手<br />

困 難 なので, 私 は 特 に 見 落 とすことなく 注<br />

意 して 毎 日 観 察 しています.また,よく 似<br />

た 魚 も 多 いので, 違 いが 分 かるように 自 ら<br />

勉 強 し, 少 しでも 標 本 収 集 に 貢 献 できるよ<br />

うに 努 力 しています.<br />

また, 魚 類 ボランティアでは 標 本 の 作 製<br />

や 登 録 作 業 を 行 なっています.ボランティ<br />

ア 活 動 に 参 加 していくうちに 標 本 を 残 す,<br />

登 録 する 重 要 性 を 改 めて 認 識 しました. 研<br />

究 論 文 や 報 告 書 には 必 ず 標 本 が 必 要 であ<br />

り,それの 無 いものは 学 術 的 に 意 味 があり<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

ません.また, 標 本 は 公 共 のものと 捉 え,<br />

管 理 を 徹 底 しなければならないと 認 識 して<br />

います. 今 は 皆 さんに 鹿 児 島 の 魚 種 の 豊 富<br />

さを 知 って 頂 く 為 にも 鹿 児 島 魚 類 図 鑑 の 完<br />

成 を 目 標 にボランティア 活 動 を 続 け, 今 後<br />

は 活 動 で 得 た 様 々な 知 識 を 漁 業 にも 活 か<br />

し, 資 源 保 護 や 環 境 問 題 などにも 取 り 組 ん<br />

で 行 ければと 思 っております. 最 期 に 本 村<br />

先 生 には 熱 心 にご 指 導 いただき 自 身 初 の 報<br />

告 書 の 雑 誌 投 稿 という 経 験 をさせて 頂 き,<br />

とても 感 謝 いたしております.また, 鹿 児<br />

島 総 合 研 究 博 物 館 , 魚 類 分 類 学 研 究 室 , 他<br />

のボランティアスタッフ 全 ての 皆 さんに 感<br />

謝 したいと 思 います.<br />

学 生 ボランティアとしての 立 場 から<br />

吉 田 朋 弘<br />

魚 について 学 びたいと 思 い, 鹿 児 島 に 来<br />

ました.そんな 時 に 魚 類 ボランティアを 知<br />

り, 最 初 はリュウグウノツカイでも 見 られ<br />

たら 良 いな,という 軽 い 気 持 ちで 参 加 して<br />

みました. 何 気 なく 毎 週 参 加 しただけなの<br />

に,いつの 間 にか 魚 類 分 類 学 を 卒 業 研 究 の<br />

テーマに 選 び, 今 では 魚 にどっぷり 浸 かっ<br />

た 生 活 をしています.<br />

図 鑑 などでしか 見 ることのなかったリュ<br />

ウグウノツカイを, 実 際 に 見 たり 触 れたり<br />

した 時 には,とても 感 動 したのを 今 でも 覚<br />

えています. 標 本 を 製 作 する 活 動 だけでは<br />

なく, 屋 久 島 や 奄 美 大 島 などへ 行 き, 採 集<br />

も 行 いました. 屋 久 島 の 澄 んだ 青 い 海 では,<br />

その 綺 麗 さに 目 を 奪 われ, 採 集 を 忘 れて 泳<br />

ぎました.たまに 漁 師 さんにわけて 頂 いた<br />

魚 を 食 べるという 楽 しみもあります.<br />

ボランティアなので,お 金 は 貰 えませ<br />

ん.しかし,お 金 には 代 えられない 経 験 や<br />

感 動 が 得 られます. 魚 や 海 に 興 味 がある 人<br />

にとっては,とてもおもしろくやりがいの<br />

ある 活 動 だと 思 います.<br />

68


鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

■ 著 者 紹 介<br />

藍 澤 正 宏 (あいざわ まさひろ)<br />

1957 年 生 まれ<br />

宮 内 庁 侍 従 職<br />

専 門 : 魚 類 全 般 の 分 類 学<br />

伊 東 正 英 (いとう まさひで)<br />

1968 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 県 南 さつま 市 笠 沙 町 漁 業 協 同 組 合<br />

丸 世 大 吉 漁 業 生 産 組 合<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

荻 原 豪 太 (おぎはら ごうた)<br />

1983 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 大 学 院 水 産 学 研 究 科 修 士 1 年<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

専 門 :オニオコゼ 科 魚 類 の 分 類<br />

栗 岩 薫 (くりいわ かおる)<br />

1974 年 生 まれ<br />

国 立 科 学 博 物 館 支 援 研 究 員 博 士 ( 農 学 )<br />

専 門 : 魚 類 の 分 子 系 統 学 ・ 進 化 学<br />

原 口 百 合 子 (はらぐち ゆりこ)<br />

1962 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

松 沼 瑞 樹 (まつぬま みずき)<br />

1986 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 大 学 院 水 産 学 研 究 科 修 士 1 年<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

専 門 :ミノカサゴ 亜 科 魚 類 の 分 類<br />

目 黒 昌 利 (めぐろ まさとし)<br />

1985 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 大 学 院 水 産 学 研 究 科 修 士 1 年<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

専 門 :ヘビギンポ 属 魚 類 の 分 類<br />

山 下 真 弘 (やました まさひろ)<br />

1987 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 水 産 学 部 3 年<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

吉 田 朋 弘 (よしだ ともひろ)<br />

1986 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 水 産 学 部 3 年<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ボランティア<br />

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魚 類 標 本 の 作 製 ・ 管 理 マニュアル<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

■ 編 著 者 紹 介<br />

本 村 浩 之 (もとむら ひろゆき)<br />

1973 年 生 まれ<br />

鹿 児 島 大 学 大 学 院 連 合 農 学 研 究 科 ( 宮 崎 大 学 ) 修 了 博 士 ( 農 学 )<br />

国 立 科 学 博 物 館 ( 新 宿 ),オーストラリア 博 物 館 (シドニー),<br />

オーストラリア 連 邦 科 学 産 業 研 究 機 構 (ホバート)を 経 て, 現 在 ,<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 准 教 授 . 鹿 児 島 大 学 大 学 院 水 産 学<br />

研 究 科 と 大 学 院 連 合 農 学 研 究 科 を 兼 任 ( 魚 類 分 類 学 研 究 室 )<br />

専 門 熱 帯 ・ 亜 熱 帯 性 海 産 魚 類 と 東 南 アジア 淡 水 魚 類 の 分 類<br />

( 主 な 対 象 分 類 群 :ツバメコノシロ 科 ・フサカサゴ 科 )<br />

著 著 『Threadfins of the world (family Polynemidae)』( FAO,<br />

Rome),『 Fishes of Australia's southern coast』( 共 著 New Holland<br />

Press, Chatswood),『 Fishes of Andaman Sea』( 共 著 National<br />

Museum of Nature and Science, Tokyo)<br />

鹿 児 島 の 生 物 多 様 性 を 記 録 するボランティア 養 成 教 材<br />

魚 類 標 本 の 作 製 と 管 理 マニュアル<br />

2009 年 ( 平 成 21 年 )3 月 27 日 発 行<br />

編 集 者 本 村 浩 之<br />

〒 890–0065 鹿 児 島 市 郡 元 1–21–30<br />

鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

TEL: 099–285–8111 FAX: 099–285–7267<br />

発 行 所 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館<br />

印 刷 所 株 式 会 社 朝 日 印 刷<br />

〒 890–0055 鹿 児 島 市 上 荒 田 町 854–1<br />

TEL: 099–251–2191 FAX: 099–253–7331<br />

© 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 2009<br />

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