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タンパク質の二次構造安定化に寄与する因子の研究

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タンパク 質 の 二 次 構 造 安 定 化 に 寄 与 する 因 子 の 研 究<br />

Factors contributing to the stability of secondary structures in proteins<br />

07D5603 山 本 未 央<br />

指 導 教 授 名 池 口 雅 道<br />

SYNOPSIS<br />

The α-helix and β-sheet are the most common protein secondary structures. The long-range<br />

interactions are important to form the secondary structures in proteins. In this study, in order<br />

to investigate the long-range interactions responsible for secondary structure formation, equine<br />

β-lactoglobulin (ELG) at acidic pH was used as a model. ELG is a 162-residue β-sheet protein. At<br />

acidic pH and low temperatures, ELG is a partially folded state (C state) and has helices. It has<br />

been known that the short fragments corresponding to helical structures in the C state do not form<br />

stable helices and a longer fragment, CHIBL (residues 88-142), has a structure similar to that of<br />

C state. In order to understand the helical structures in CHIBL, the structure of a shorter CHIBL,<br />

CHIBL∆F (residues 97-142), was investigated using circular dichroism and nuclear magnetic resonance<br />

spectroscopy. The secondary chemical shifts of CHIBL∆F showed that helices are present in two<br />

different regions, residues 99-107 and 114-135. Two helices are stabilized by disulfide bond. It<br />

has been known that α-helices in C state are transformed to β-sheet (α → β transitions) at room<br />

temperature, indicating that hydrophobic interactions outside CHIBL sequence are essential for the<br />

α → β transitions. I have characterized some mutants which have different polypeptide lengths in<br />

order to locate the site in which the side chain interactions contribute to the α → β transitions.<br />

The longer the polypeptide, the more stable β-sheet is. This result indicated that the multiple<br />

hydrophobic residues in the outside CHIBL sequence non-specifically interact with the hydrophobic<br />

residues in the β-sheet region.<br />

Keyword: Secondary structure, α-Helix, α→β Transition, Circular dichroism, Nuclear magnetic<br />

resonance<br />

1. 緒 言<br />

成 及 び 安 定 化 のメカニズムを 調 べる 研 究 が 盛 んに 行 われ<br />

タンパク 質 とは 20 種 類 のアミノ 酸 が 様 々な 順 序 と 長 た。しかしながら、タンパク 質 中 に 観 測 されるα-helix<br />

さで 重 合 した 高 分 子 化 合 物 (ポリペプチド 鎖 )である。ポ やβ-sheet といった 最 少 の 2 次 構 造 領 域 の 配 列 のみを 用<br />

リエチレングリコールなどの 人 工 の 高 分 子 化 合 物 とは 異 いた 短 いペプチド 単 独 では、 天 然 構 造 と 同 様 の 安 定 な2<br />

なり、 特 異 的 な 立 体 構 造 を 形 成 するポリペプチド 鎖 は 自 次 構 造 を 形 成 することができなかった 5,6 。この 結 果 は、<br />

然 界 が 産 み 出 した 秀 逸 な 高 分 子 化 合 物 である。その 特 異 天 然 構 造 中 に 観 測 される2 次 構 造 の 形 成 には 上 述 したも<br />

的 な 立 体 構 造 ( 天 然 構 造 )はX 線 結 晶 構 造 解 析 や 核 磁 気 共 のとは 別 の 因 子 が 必 須 であることを 示 した。その 因 子 と<br />

鳴 (NMR)スペクトルによって 詳 細 な 情 報 が 明 らかとなっ はアミノ 酸 配 列 上 離 れた 残 基 との 間 に 起 こる long-range<br />

ている。タンパク 質 の 立 体 構 造 の 構 成 要 素 である 2 次 構 の 相 互 作 用 である。この long-range 相 互 作 用 を 明 らかに<br />

造 (α-helixとβ-sheet)に 関 する 研 究 は 古 くから 行 われて する 手 段 として、 温 和 な 変 性 条 件 が 用 いられてきた。 酸<br />

おり、1951 年 にPaulingらによってこれらの 構 造 が 提 唱 変 性 条 件 下 において、long-range 相 互 作 用 によって 2 次<br />

され 1,2 、その 後 、タンパク 質 のX 線 回 折 によって 証 明 され 構 造 が 安 定 化 される 例 としてミオグロビンやα-ラクトア<br />

た。α-helixはi 番 目 のカルボニル 基 とi+4 番 目 のアミド ルブミンの 研 究 ある。 両 タンパク 質 では 隣 り 合 う helix<br />

基 との 間 に 水 素 結 合 を 形 成 する。α-helixはN 末 端 が 正 でC 間 のパッキングが helix の 安 定 化 に 必 須 であることが 示<br />

末 端 が 負 の 巨 大 な 双 極 子 モーメントを 持 つため、タンパ された 7,8 。また、その 相 互 作 用 が 特 異 的 であるか 非 特 異<br />

ク 質 中 ではα-helixのN 末 端 側 には 酸 性 アミノ 酸 、C 末 端 側 的 であるかという 論 議 がなされており、いまだ 解 決 され<br />

には 塩 基 性 アミノ 酸 が 存 在 する 傾 向 が 高 い 3 。β-sheetの ていない。そこで 本 研 究 ではウマβ-ラクトグロブリン<br />

基 本 単 位 はβ-strandであり、あるβ-strandのカルボニル (ELG)を 用 いることにした。ELG は 酸 変 性 状 態 で 非 天 然 2<br />

基 とそれに 隣 接 するβ-strandのアミド 基 の 間 で 水 素 結 合 次 構 造 を 形 成 するため、 非 天 然 の 2 次 構 造 形 成 に 関 与 す<br />

する。アミノ 酸 のα-helixとβ-sheet 構 造 のとりやすさは る 相 互 作 用 は 非 特 異 的 であると 期 待 される。<br />

個 々のアミノ 酸 の 側 鎖 の 化 学 的 構 造 によって 異 なる 4 。 例 ELG は 8 本 の 逆 平 行 β-strand(labeled A-H)が 形 成 する<br />

えば、Alaはα-helix に 適 しており、Valはβ-sheetに 適 し β-barrel と H-strand 下 流 に C-terminal helix を 持 つ 162<br />

ている。 特 にα-helixの 場 合 は、helixの 両 末 端 に 配 置 さ 残 基 の 球 状 タンパク 質 で、2 本 のジスルフィド 結 合<br />

れやすいアミノ 酸 が 存 在 する 3 。また、α-helix 及 び (Cys66-Cys160, Cys106-Cys119)を 有 する。ジスルフィド<br />

β-sheet 形 成 において 側 鎖 間 どうしの 相 互 作 用 は 非 常 に 結 合 を 1 本 欠 損 させた 変 異 体 (C66A/C160A)は 酸 性 pH、 塩<br />

重 要 である 4 。 側 鎖 間 相 互 作 用 には 疎 水 性 相 互 作 用 、 静 電 非 存 在 下 において 天 然 構 造 とは 異 なる 鎖 状 構 造 (C 状 態 )<br />

相 互 作 用 などがあげられる。これらの 因 子 が 2 次 構 造 の を 持 つ。C 状 態 は 部 分 的 (F-, G-, and H-strand と<br />

安 定 化 に 寄 与 するのである。<br />

C-terminal helix)に 2 次 構 造 を 持 ち、その 領 域 はα-helix<br />

1980 年 頃 から 短 いモデルペプチドを 用 いた 2 次 構 造 形 を 形 成 している 事 が 報 告 されている。


Figure 1 本 研 究 で 用 いたさまざまな 長 さの 変 異 体<br />

ELG の 天 然 構 造 中 の A から I strand 及 び C terminal helix をボックス 表 示 した。<br />

また 同 じ 条 件 下 では、 短 いペプチド 断 片<br />

(residue:111-128, 124-138)は 安 定 な helix を 形 成 でき<br />

ないが、C160A/C160A が 構 造 を 形 成 する F-strand から<br />

C-terminal helix 領 域 までの 長 いペプチド 断 片 、CHIBL<br />

(residue:88-142)は C66A/C160A の C 状 態 と 似 た 構 造 を 持<br />

つことが 明 らかとなった 9 。<br />

本 研 究 では、2 次 構 造 の 安 定 化 に 寄 与 する 因 子 が 何 で<br />

あるのかを 明 らかにすることを 目 的 とした。 第 2 章 では、<br />

2 種 類 のペプチド 断 片 (residue:97-110, 111-138)と<br />

F-strand 削 除 CHIBL(CHIBL∆F, residue:97-142)を 作 製 し、<br />

NMR 及 び 円 二 色 性 (CD)スペクトルを 用 いて 詳 細 な 構 造 解<br />

析 を 行 い、C 状 態 におけるα-helix の 安 定 化 に 寄 与 する 因<br />

子 を 調 べた。<br />

さらに C66A/C160A は 酸 性 pH、 塩 存 在 下 において C 状 態<br />

とは 異 なるコンパクトな 構 造 (A 状 態 )を 持 ち、F-,<br />

G-strand 領 域 はα-helix ではなく β-sheet を 形 成 してい<br />

ることが 知 られている。つまり、C から A 状 態 への 移 行<br />

の 過 程 で 構 造 転 移 (α→β 転 移 )が 引 き 起 こされる。そこで<br />

第 3 章 では 様 々な N 末 端 削 除 変 異 体 を 作 製 し、α→β 転 移<br />

するためにはどの 部 位 の 相 互 作 用 が 必 須 であるのかを 調<br />

べた。 作 製 した 変 異 体 のアミノ 酸 配 列 を Figure 1 に 示 す。<br />

2. α-helix 安 定 化 機 構<br />

短 いペプチド 断 片 では helix が 形 成 されないにも 関 わ<br />

らず、CHIBL では C 状 態 と 同 様 の 構 造 を 形 成 する。この<br />

結 果 は、 短 いペプチド 断 片 の 配 列 が 有 する helix 形 成 傾<br />

向 以 外 の long-range 相 互 作 用 が CHIBL の helix の 安 定 化<br />

に 寄 与 することを 示 した。この 相 互 作 用 が 何 かを 予 想 す<br />

るには、まず NMR を 用 いて CHIBL の 残 基 レベルの 構 造 情<br />

報 を 得 ることが 必 須 である。しかしながら CHIBL は 発 現<br />

量 が 低 いため、 測 定 に 十 分 な 量 の 15 N/ 13 C ラベルしたタン<br />

パクを 入 手 することが 難 しい。そこで 本 実 験 では、NMR<br />

を 用 いて 発 現 量 の 高 い CHIBL∆F の 残 基 レベルの 2 次 構 造<br />

情 報 を 得 ることで、 起 こり 得 る 相 互 作 用 を 予 想 し、その<br />

可 能 性 を 検 証 した。<br />

< 結 果 ><br />

CHIBL∆F の 2 次 構 造 の 種 類 と 含 量 を 見 積 もるため<br />

CHIBL∆F の CD スペクトルを 測 定 した。その 結 果 CHIBL∆F<br />

は helix に 富 むスペクトルを 示 し(Figure 2)、CHIBL の<br />

スペクトルと 非 常 によく 似 ていた。<br />

Figure 2 CHIBL∆F( 酸 化 型 ; 細 線 , 還 元 型 ; 太 線 ),<br />

97-110(□) 111-138 (○),97-110 と 111-138 のスペクト<br />

ル 和 (△)の CD スペクトル<br />

CD スペクトルの 結 果 から CHIBL∆F は CHIBL と 同 様 の 構 造<br />

を 持 つと 考 えられたので、NMR 分 光 器 を 用 いて 15 N/ 13 C ラ<br />

ベルした CHIBL∆F の 1 H- 15 N HSQC, HNCACB, CBCA(CO)NH,<br />

HNCO, HN(CA)CO, C(CO)NH, 15 N-edited TOCSY スペクトル<br />

測 定 を 行 った。 全 残 基 Cα, Cβ, CO, Hα, N, HN のアサイ<br />

メントを 行 った。Cα, Cβ, Hαの 3 核 種 の 化 学 シフトを 用<br />

いて secondary structure propensity (SSP) score を 算<br />

出 した(Figure 3)。<br />

Figure 3 CHIBL∆F の SSP score


SSP score とは 複 数 の 核 種 の 化 学 シフトから 算 出 される<br />

α-もしくはβ- 構 造 の 割 合 を 示 すパラメータである。SSP<br />

score が 1 を 示 すと 100% α-helix、 反 対 に-1 を 示 すと<br />

100% β-sheet である 事 を 意 味 する。 算 出 の 結 果 、 残 基 番<br />

号 98-107(G-strand) 及 び 114-135(H-strand から<br />

C-terminal helix の 一 部 ) 領 域 に 約 50%helix が 形 成 され<br />

ている 事 が 示 された。 以 前 は H-strand と C-terminal<br />

helix は 独 立 していると 考 えられていたが、 本 研 究 の 結<br />

果 により H-strand から C-terminal helix まで 長 い 1 本<br />

の helix を 形 成 している 事 が 示 された。また 15 N-edited<br />

NOESY スペクトルを 測 定 した 結 果 、2 本 の helix 間 に NOE<br />

が 観 測 されなかった。 従 って、 両 helix が 互 いに packing<br />

した 構 造 をとっていない 事 が 示 唆 された。MODELLER を 用<br />

いて 作 成 した CHIBL∆F のモデル 図 を Figure 4 に 示 した。<br />

次 に 両 helix をつなぐ Cys106-Cys119 の helix 安 定 化<br />

効 果 を 調 べた。Figure 2 に CHIBL∆F のジスルフィド 結 合<br />

酸 化 型 、 還 元 型 、 及 び、helix 形 成 領 域 をカバーするペ<br />

プチド 97-110 と 111-138 と 2 つのペプチドのスペクトル<br />

和 の CD スペクトルを 示 した。 還 元 型 CHIBL∆F の helix 含<br />

量 は 酸 化 型 よりも 激 しく 減 少 したことからジスルフィド<br />

結 合 が CHIBL∆F の helix 構 造 を 安 定 化 していることが 示<br />

された。また、 他 の 短 いペプチド 断 片 同 様 に、97-110 と<br />

111-138 は 安 定 な helix を 形 成 せず、 面 白 い 事 に 還 元 型<br />

CHIBL∆F の CD スペクトルは 2 つのペプチドのスペクトル<br />

の 和 とよく 似 ていた。 以 上 の 結 果 より、 還 元 型 CHIBL∆F<br />

における helix は 局 所 的 な 相 互 作 用 (アミノ 酸 配 列 の<br />

helix 傾 向 )によって 誘 起 されていることが 示 唆 された。<br />

一 方 、 酸 化 型 CHIBL∆F では Cys106-Cys119 が 98-107 及 び<br />

114-135 の helix を 安 定 化 する 事 が 示 された。Helix 形 成<br />

には helix に 適 した 2 面 角 を 持 つ 残 基 が 連 続 して 3 つ 並<br />

び、helix 核 を 形 成 することが 必 要 である。ジスルフィ<br />

ド 結 合 による 14 残 基 の 閉 環 構 造 は、 開 環 構 造 に 比 べて 選<br />

択 可 能 なコンフォメーション 数 が 少 ないため helix 核 形<br />

成 におけるエントロピーコストが 低 く 抑 えられたと 考 え<br />

られる。その 結 果 、helix 核 形 成 を 誘 発 したのではない<br />

かと 考 えられる。<br />

Figure 4 CHIBL∆F のモデル 構 造<br />

各 2 次 構 造 領 域 の 色 分 けは 天 然 構 造 における<br />

G-strand( 濃 灰 色 ), H-strand( 黒 ), C terminal helix( 薄<br />

灰 色 )を 示 し、Cys106-Cys119 をスティック 表 示 している。<br />

3. α→β 転 移 機 構<br />

酸 性 pH・ 室 温 条 件 下 において 全 長 の C66A/C160A の 構<br />

造 は 塩 濃 度 に 依 存 し、 塩 存 在 下 では A 状 態 構 造 をとり、<br />

塩 非 存 在 下 では C 状 態 構 造 をとる 9,10 。 従 って 低 イオン 強<br />

度 下 に 存 在 する 静 電 反 発 を 抑 制 することが F,G-strand<br />

領 域 のα→β 転 移 を 引 き 起 こすと 考 えられる。また、 酸 性<br />

pH・ 塩 存 在 下 でも、 低 温 では C 状 態 構 造 をとることが 知<br />

られている 9 。 低 温 では 疎 水 性 相 互 作 用 が 弱 くなるため 11 、<br />

低 温 における 疎 水 性 相 互 作 用 の 低 下 が 分 子 形 態 を 拡 大 さ<br />

せ F,G-strand 領 域 のβ→α 転 移 を 引 き 起 こすと 考 えられ<br />

ている。 全 長 より 短 い CHIBL(residue:88-142)の 構 造 は<br />

塩 濃 度 や 温 度 に 依 存 せず、 常 に C 状 態 様 の 構 造 を 持 つ。<br />

従 って F,G-strand 領 域 にβ-sheet が 形 成 されるためには<br />

CHIBL 領 域 とその 外 側 の 領 域 との 相 互 作 用 が 必 須 である<br />

ことが 示 唆 されるが、 面 白 い 事 に CHIBL の 外 側 の 領 域 に<br />

は 特 定 の 2 次 構 造 が 存 在 しない 12 。 特 定 の 構 造 を 有 しない<br />

ポリペプチド 鎖 がどのように 相 互 作 用 することでα→β 転<br />

移 するのだろうかN 末 端 領 域 (1-87)の「ある 特 定 の 疎<br />

水 性 残 基 と F,G-strand 領 域 が 特 異 的 に 相 互 作 用 する」こ<br />

とで、F,G-strand 領 域 がα→β 転 移 するのだろうかもし<br />

そうならば、N 末 端 削 除 変 異 体 (residue: 60-162,30-162)<br />

が F,G-strand を 形 成 するか 否 かを 調 べる 事 で、 相 互 作 用<br />

している 特 定 の 残 基 部 位 を 絞 り 込 むことができると 期 待<br />

して、 研 究 を 行 った。<br />

< 結 果 ><br />

C66A/C160A は 塩 存 在 下 で 温 度 低 下 に 伴 って 222nm にお<br />

ける CD 強 度 が 協 同 的 な 変 化 を 示 す 9 。N 末 端 削 除 変 異 体 も<br />

同 様 に 協 同 的 な CD 値 の 温 度 依 存 を 示 すかを 調 べた<br />

(Figure 5)。<br />

Figure 5 各 変 異 体 の 温 度 依 存 塩 非 存 在 下 (A)と 塩 存 在 下<br />

(B)<br />

CHIBL(□),60-162( 太 線 ),30-162( 中 線 ),C66A/C160A(○)<br />

塩 非 存 在 下 において 60-162 及 び 30-162 の CD 値 は 温 度<br />

が 下 がるにつれて 徐 々に CD 値 が 減 少 した(Figure 5(A))。<br />

一 方 、 塩 存 在 下 において 60-162 及 び 30-162 の CD 値 は 温<br />

度 が 下 がるにつれて 協 同 的 に 減 少 し、-5℃ 付 近 の CD 値 は<br />

塩 非 存 在 下 の CD 値 と 一 致 した(Figure 5(B))。これらは<br />

C66A/C160A と 一 致 した 傾 向 である。 塩 存 在 下 において、<br />

温 度 低 下 に 伴 う 構 造 変 化 の 協 同 性 は CHIBL からポリペプ<br />

チド 鎖 が 長 くなるにつれて 徐 々に 高 くなり、C66A/C160A<br />

が 最 も 高 い 事 が 示 された。<br />

次 に、60-162 及 び 30-162 の F,G-strand 領 域 は 塩 存 在<br />

下 において β-sheet を 形 成 しているかどうかを 調 べるた<br />

め、G-strand のプローブとして Leu103 を Pro に 置 換 し<br />

た 変 異 体 (60-162_L103P, 30-162_L103P)を 作 製 した。Pro<br />

はその 構 造 上 、2 次 構 造 を 形 成 しにくいアミノ 酸 で、<br />

α-helix やβ-sheet の 形 成 領 域 に 挿 入 されるとその 部 分<br />

の 構 造 を 壊 す。そのため Pro 置 換 部 位 が 何 らかの 2 次 構<br />

造 を 持 っているならば、 野 生 型 と Pro 置 換 変 異 体 との 間<br />

で 2 次 構 造 を 反 映 する CD スペクトルに 強 度 や 形 状 の 変 化<br />

が 観 測 される 事 が 期 待 される。 各 長 さの 変 異 体 について<br />

野 生 型 と L103P 間 の 差 スペクトルを Figure 6 に 示 した。<br />

塩 非 存 在 下 の 差 スペクトル(Figure 6(A))はポリペプチ<br />

ドの 長 さによらずα-helix 型 を 示 し、ポリペプチド 鎖 の<br />

鎖 長 によらず G-strand 領 域 に 形 成 される helix の 安 定 性<br />

は 一 定 である 事 を 示 唆 した。 一 方 、 塩 存 在 下 における 差<br />

スペクトル(Figure 6(B))の 形 状 はポリペプチド 鎖 が


CHIBL から C66A/C160A へと 長 くなるにつれてα-helix 型<br />

からβ -sheet 型 へと 変 化 した。CHIBL ではα-helix を 形 成<br />

していた F,G-strand 領 域 は、ポリペプチド 鎖 が 長 くな<br />

るにつれてα-helix からβ-sheet へと 徐 々に 構 造 変 化 し、<br />

全 長 である C66A/C160A ではほぼβ-sheet を 形 成 している<br />

と 考 えられる。<br />

Figure 6 各 変 異 体 の L103P 変 異 体 と 野 生 型 との 差 スペク<br />

トル 塩 非 存 在 下 (A)と 塩 存 在 下 (B)<br />

CHIBL(□),60-162( 太 線 ),30-162( 中 線 ),C66A/C160A(○)<br />

「α-helixからβ-sheetへの 構 造 変 化 が 鎖 長 の 増 加 に 伴<br />

い 徐 々に 起 こる」という 結 果 は、「 特 定 の 残 基 との 相 互<br />

作 用 によってF,G-strandが 形 成 されるのではない」 事 を<br />

示 唆 し、この 場 合 F,G-strandが 形 成 される 要 因 として 以<br />

下 の 2 つの 可 能 性 が 示 唆 される。1 一 つ 目 に、CHIBL 内 の<br />

残 基 と 特 異 的 に 相 互 作 用 する 疎 水 性 領 域 がN 末 端 領 域<br />

(1-29, 30-59, 60-87)に 複 数 存 在 する 可 能 性 がある。こ<br />

の 場 合 、 相 互 作 用 する 疎 水 性 領 域 は 各 域 (1-29, 30-59,<br />

60-87)に 最 低 1 か 所 ずつ、 少 なくとも 計 3 か 所 は 存 在 し、<br />

F,G-strandの 疎 水 性 領 域 と 直 接 相 互 作 用 しているだろう。<br />

2 二 つ 目 に、CHIBL 領 域 以 外 のポリペプチドは 単 に<br />

F,G-strandの 疎 水 表 面 を 溶 媒 から 隔 てるために 存 在 する<br />

可 能 性 がある。1-29 及 び 30-59 領 域 には 側 鎖 の 大 きな 疎<br />

水 性 残 基 が 複 数 存 在 し、60-87 領 域 にも 少 数 ではあるが<br />

疎 水 性 残 基 が 存 在 する(Figure 1)。これらの 疎 水 性 残 基<br />

がF,G-strand 領 域 の 疎 水 性 残 基 と 接 触 するのではないだ<br />

ろうか。この 接 触 (つまり 疎 水 性 相 互 作 用 )が 非 極 性 残 基<br />

のaccessible surface area (ASA np )を 小 さくするために<br />

F,G-strand 領 域 はα→β 転 移 を 引 き 起 こすのではないだろ<br />

うか。 天 然 構 造 中 において 以 下 に 示 す 疎 水 性 残 基 は<br />

F,G-strand 間 で 密 集 し、タイトなpackingが 存 在 する。<br />

Packingを 構 成 するアミノ 酸 はVal92, Ala94(F-strand)<br />

と Leu105, Met107(G-strand) 、 及 び Phe93,<br />

Leu95(F-strand)とTyr102, Phe104(G-strand)である。 一<br />

方 、CHIBL∆F におけるG-strand 領 域 の 非 天 然 helix は<br />

H-strand 領 域 のhelixとタイトなpackingは 見 られず、 疎<br />

水 性 残 基 が 露 出 している 事 が 2 章 で 示 唆 された(Figure<br />

4)。 従 ってF,G-strand 領 域 はhelixよりもβ-sheetの 方 が<br />

疎 水 性 残 基 が 密 集 する。1-87 領 域 の 疎 水 性 アミノ 酸 1 残<br />

基 当 たりがF,G-strand 領 域 の 露 出 疎 水 面 をカバーする 効<br />

率 はβ-sheetの 方 が 高 い。またポリペプチド 鎖 が 長 くなる<br />

につれて 疎 水 性 残 基 は 増 加 するため、 疎 水 性 残 基 が<br />

F,G-strandと 接 触 する 確 率 が 増 える。 従 ってポリペプチ<br />

ド 鎖 の 長 さに 比 例 してF,G-strandが 徐 々に 形 成 されたも<br />

のと 考 えられる。<br />

現 在 、これら 2 つの 可 能 性 のいずれかを 特 定 する 事 は<br />

できないが、1-87 領 域 に 特 定 の 2 次 構 造 が 存 在 しない 事<br />

を 考 慮 すると1は 起 こりそうにない。 特 定 の 2 次 構 造 が<br />

存 在 しない 1-87 領 域 はランダムコイル 状 態 に 近 い 事 を<br />

示 唆 し、ランダムコイル 状 態 は 多 様 なコンフォメーショ<br />

ンのアンサンブルである。A 状 態 は 分 子 形 態 がコンパク<br />

トであるが、 特 定 の 2 次 構 造 を 持 たない 1-87 領 域 が<br />

F,G-strand 領 域 と 特 異 的 に 相 互 作 用 するという 現 象 は 考<br />

えにくい。<br />

4. 結 論<br />

NMR を 用 いた 詳 細 な 構 造 解 析 の 結 果 、CHIBL∆F は 98-107<br />

及 び 114-135 に 約 50%の helix を 形 成 し、 両 helix は 互<br />

いに packing した 構 造 ではない 事 が 示 された。 還 元 型<br />

CHIBL∆F とペプチド 断 片 97-110 及 び 111-138 との 間 に 加<br />

成 性 が 成 り 立 つ 事 から、 還 元 型 CHIBL∆F における helix<br />

はアミノ 酸 配 列 の helix 傾 向 によってのみ 安 定 化 されて<br />

いる 事 が 示 唆 された。 一 方 、 酸 化 型 CHIBL∆F では<br />

Cys106-Cys119 が helix を 大 きく 安 定 化 した。ジスルフ<br />

ィド 結 合 によるエントロピー 効 果 がα-helix を 安 定 化 す<br />

るという 現 象 は 本 研 究 で 初 めて 示 された。<br />

ポリペプチド 鎖 という 鎖 状 の 高 分 子 中 で、 残 基 同 士 が<br />

接 触 する 確 率 はアミノ 酸 配 列 上 で 離 れるに 従 い 減 少 して<br />

いく、つまり 配 列 上 近 距 離 残 基 ほど 接 触 し、 相 互 作 用 が<br />

起 こる 確 率 が 上 がる。 特 定 の 2 次 構 造 を 持 たない 非 特 異<br />

的 な 遠 距 離 疎 水 性 残 基 が 局 所 2 次 構 造 転 移 を 促 すという<br />

本 研 究 の 示 唆 は、α→β 転 移 のメカニズムを 理 解 する 上 で<br />

考 慮 されるべきポリペプチド 鎖 の 新 たな 効 果 である。<br />

本 研 究 ではポリペプチド 鎖 の 物 理 化 学 的 性 質 である 2<br />

次 構 造 の 安 定 化 に 寄 与 する 新 たな 因 子 を 発 見 した。 様 々<br />

な 因 子 が 複 雑 に 寄 与 することで 天 然 構 造 は 安 定 化 されて<br />

いるため、 個 々の 因 子 を 理 解 することは 物 理 化 学 的 に 重<br />

要 である。ポリペプチド 鎖 の 物 理 化 学 的 な 理 解 は、タン<br />

パク 質 工 学 の 基 礎 知 識 となる。<br />

参 考 文 献<br />

1. Pauling, L.; Corey, R. B.; Branson, H. R. Proc Natl Acad<br />

Sci U S A 1951, 37, 205-211.<br />

2. Pauling, L.; Corey, R. B. Proc Natl Acad Sci U S A 1951, 37,<br />

251-256.<br />

3. Richardson, J. S.; Richardson, D. C. Science 1988, 240,<br />

1648-1652.<br />

4. Serrano, L. Adv Protein Chem 2000, 53, 49-85.<br />

5. Scholtz, J. M.; Baldwin, R. L. Annu Rev Biophys Biomol<br />

Struct 1992, 21, 95-118.<br />

6. Blanco, F.; Ramirez-Alvarado, M.; Serrano, L. Curr Opin<br />

Struct Biol 1998, 8, 107-111.<br />

7. Shin, H. C.; Merutka, G.; Waltho, J. P.; Tennant, L. L.;<br />

Dyson, H. J.; Wright, P. E. Biochemistry 1993, 32, 6356-6364.<br />

8. Demarest, S. J.; Boice, J. A.; Fairman, R.; Raleigh, D. P. J<br />

Mol Biol 1999, 294, 213-221.<br />

9. Nakagawa, K.; Yamada, Y.; Fujiwara, K.; Ikeguchi, M. J<br />

Mol Biol 2007, 367, 1205-1214.<br />

10. Yamada, Y.; Yajima, T.; Tsukamoto, S.; Nakagawa, K.;<br />

Fujiwara, K.; Kihara, H.; Ikeguchi, M. J Appl Crystallogr<br />

2007, 40, S213-S216.<br />

11. Privalov, P. L.; Gill, S. J. Adv Protein Chem 1988, 39,<br />

191-234.<br />

12. Nakagawa, K.; Tokushima, A.; Fujiwara, K.; Ikeguchi, M.<br />

Biochemistry 2006, 45, 15468-15473.

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