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三木則尚Norihisa Miki - 慶応義塾大学理工学部

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http://www.st.keio.ac.jp/kyurizukai<br />

新 版<br />

2010 MARCH<br />

03<br />

no.<br />

マイクロ・ナノ 工 学


研 究 紹 介<br />

今 回 登 場 するのは、MEMS 技 術 を 使 って、 既 存 の 技 術 では 果 たせなかった<br />

新 しいデバイスの 開 発 に 取 り 組 む、 三 木 則 尚 専 任 講 師 です。<br />

寝 たきりの 人 が「お 茶 が 飲 みたい」と 思 った 時 、ポットと 湯 飲 みに 目 をやることで<br />

その 意 図 を 人 に 伝 えることができる。 老 人 や 子 どもがどこを 見 ているかがわかれば、<br />

より 安 全 な 都 市 設 計 に 役 立 つ。ディスプレイに 写 る 商 品 の 感 触 がわかれば、インター<br />

ネットショッピングの 可 能 性 が 大 きく 広 がる。<br />

今 、この 視 覚 や 触 覚 などの 感 覚 的 な 情 報 を 数 値 化 し、コミュニケーション 手 段 に 役<br />

立 てようという 試 みがなされている。そのキーデバイスの 製 作 を 担 うのが MEMS だ。<br />

そんなデバイスを 実 際 に 作 っている 慶 應 義 塾 大 学 理 工 学 部 機 械 工 学 科 の 三 木 専 任 講 師<br />

に 話 を 聞 いた。<br />

自 動 車 用 エアバッグの 動 作 制 御 といった<br />

人 命 に 関 わる 分 野 で 活 用 されるなど、 広<br />

範 な 分 野 で 使 われている。<br />

「MEMS の 技 術 は、 衝 撃 検 知 セ ン サ、<br />

加 速 度 センサ、 流 量 センサといった 計 測<br />

分 野 の 技 術 革 新 に 大 きく 貢 献 しており、<br />

その 技 術 は 自 動 車 から 携 帯 電 話 まで 幅 広<br />

く 使 われています。コントローラーを 野<br />

産 業 界 で 活 躍 する MEMS 技 術<br />

1987 年 、 米 国 AT&T(アメリカ 電 話<br />

電 信 会 社 )ベル 研 究 所 が 直 径 0.2mm に<br />

満 たないシリコン 製 のマイクロ 歯 車 を<br />

発 表 してから 約 20 年 、その 間 に MEMS<br />

(Microelectromechanical Systems: 微 小<br />

電 気 機 械 システム)は 着 実 に 進 化 し、 今<br />

や 産 業 界 に 欠 かせない 技 術 へと 成 長 し<br />

ている。 身 近 なところではポータブル<br />

ゲーム 機 が 好 例 だろう。ゲーム 機 を 傾 け<br />

ると、 画 面 の 中 に 描 かれたボールがふい<br />

に、ころころっと 転 がりだす。ゲーム 機<br />

を 水 平 に 戻 すと、ボールはすーっと 止 ま<br />

る。この 感 覚 的 な 動 きをよりリアルにし<br />

ているのが MEMS 技 術 である。 他 にも<br />

球 のバットやテニスラケットのように 振<br />

り 回 して 遊 ぶゲームがありますが、あ<br />

の 中 にも MEMS 技 術 が 使 われています」<br />

と 三 木 則 尚 専 任 講 師 が 語 る。<br />

MEMS とはマイクロメートルを 単 位<br />

とする 微 細 な 世 界 の “もの 作 り” に 欠 か<br />

せない 技 術 で、 三 木 研 究 室 ではこの 技 術<br />

を 活 用 し、 今 までにない 新 しい 機 能 を 備<br />

えたデバイスを 開 発 している。<br />

人 の 視 線 を 検 出 する<br />

❶ 凝 視 点 の 検 出<br />

凝 視 点 は 被 験 者 の 顔 の 方 向 と<br />

視 線 の 方 向 を 重 ねることで 得<br />

られる。<br />

三 木 研 究 室 が 取 り 組 む 研 究 内 容 は 情<br />

報 ・ 通 信 分 野 から、 医 療 ・ 福 祉 領 域 と 幅<br />

広 い。この 幅 広 さは、MEMS の 活 用 領<br />

域 の 広 さを 表 しているが、その 取 り 組 み<br />

の 1 つが 人 間 の 視 線 をキーボードやタッ<br />

チパネルに 代 わるインタフェースデバイ<br />

スにする 試 みだ。<br />

メガネ 型 視 線 検 出 装 置<br />

CCDカメラ<br />

凝 視 点<br />

瞳 の 位 置<br />

❷ 瞳 の 位 置 を 把 握<br />

メガネ 型 視 線 検 出 装 置 のレンズ 上 に 配 置 した 光 セン<br />

サで 左 右 の 瞳 の 位 置 を 把 握 し、その 位 置 関 係 から 視 線<br />

の 方 向 を 検 出 する。<br />

❸ 被 験 者 の 正 面 映 像 と 視 線 を 重 ねる<br />

CCD カメラで 被 験 者 の 正 面 映 像 を 取 得 し、その 映 像<br />

に❷ で 検 出 した 視 線 を 重 ねる。<br />

2


「 人 間 の 視 線 検 出 については、これま<br />

でも 多 くの 研 究 がありましたが、 視 線 を<br />

捉 えるために 両 眼 の 前 に 小 型 カメラを 置<br />

くなど、 被 験 者 にプレッシャーを 与 える<br />

ような 大 がかりな 実 験 装 置 が 必 要 だった<br />

のです。そこで 被 験 者 の 負 担 を 減 らし、<br />

自 然 な 状 態 で 実 験 できるシステムを 作 ろ<br />

うと 考 えたのです」。<br />

視 線 検 出 を 考 えていた 当 初 、 具 体 的 な<br />

アプリケーションとして、アニメ「ドラ<br />

ゴンボール」に 登 場 するスカウターをイ<br />

メージしていたという。スカウターとは<br />

19 世 紀 の 欧 州 で 流 行 した 片 眼 鏡 に 似 た<br />

道 具 で、レンズ 越 しに 対 象 を 注 視 すると<br />

スカウターが 視 線 の 先 にあるモノを 認 識<br />

し、その 戦 闘 能 力 やそこまでの 距 離 、 方<br />

角 といった 情 報 を 数 値 化 してレンズ 上 に<br />

表 示 する 優 れものである。<br />

「 人 間 の 視 線 を 正 確 に 把 握 する 技 術 が<br />

あれば、スカウターに 近 い 装 置 も 夢 じゃ<br />

ありません。 将 来 的 にも 面 白 い 技 術 にな<br />

ると 考 え、 視 線 検 出 デバイスを MEMS<br />

で 作 ろうとしたのです。 例 えば、 対 象 を<br />

視 線 でポイントし、 注 視 でクリック、ダ<br />

まばた<br />

ブルクリックは 瞬 き 2 回 。 情 報 の 取 得<br />

を 見 るだけで 完 結 できるのです」と、 楽<br />

しそうに 語 る 三 木 さんだが、「 素 人 の 発<br />

想 で 始 め、 玄 人 の 技 術 で 実 現 する」と 気<br />

持 ちは 真 剣 だ。<br />

そして 三 木 研 究 室 は、メガネ 型 の 視 線<br />

検 出 システムの 開 発 に 着 手 する。 瞳 の 位<br />

置 を 把 握 するため、メガネの 左 右 のレン<br />

ズ 上 に 透 明 で 微 細 な 光 センサを 一 定 間 隔<br />

で 並 べ、センサからの 情 報 をもとに 視 線<br />

を 検 出 する 方 法 を 考 えついた。<br />

既 存 の 技 術 では 難 しい 微 細 なセンサを<br />

ガラス 上 に 並 べるという 作 業 も MEMS<br />

でクリアし、メガネ 型 で 装 着 も 簡 単 な 視<br />

線 検 出 システムを 実 現 したのである。そ<br />

れは 新 たなコミュニケーションツールや<br />

ヒューマンインタフェースデバイスとし<br />

て 期 待 されている。<br />

触 覚 を 再 現 する<br />

MEMS の 技 術 は、 視 線 検 知 システム<br />

のように 人 間 の 感 覚 を 数 値 化 するだけに<br />

とどまらない。 人 間 の 皮 膚 に 刺 激 を 直 接<br />

入 力 できる 装 置 の 開 発 にも 使 われている。<br />

その 1 つが 触 覚 ディスプレイである。<br />

「 人 間 の 視 聴 覚 を 刺 激 する 映 像 や 音 声<br />

は 非 常 に 高 いレベルで 実 現 できています<br />

が、 触 覚 については 長 い 間 黎 明 期 のまま<br />

でした。というのも 物 理 的 な 刺 激 を 皮 膚<br />

に 直 接 与 える 必 要 があったからです。し<br />

かも 刺 激 を 感 じるには 数 十 ミクロンから<br />

100 ミクロン 程 度 の 変 化 が 必 要 なので<br />

すが、MEMS は 数 ミクロン 単 位 で 動 か<br />

すことは 得 意 でも、 数 十 ミクロン 単 位 で<br />

の 動 作 は 苦 手 という 課 題 に 直 面 していた<br />

のです」。<br />

この 課 題 を 解 決 するために、 油 圧 シス<br />

テムの 原 理 を 応 用 したアクチュエータを<br />

開 発 。 数 ミクロンの 運 動 量 を 100 ミク<br />

ロンに 増 幅 するシステムの 開 発 に 成 功 す<br />

る。これにより 実 験 室 レベルではあるが、<br />

点 字 ディスプレイとしては 実 用 性 の 高 い<br />

装 置 を 開 発 できたのである。<br />

「 最 近 の 研 究 では、 皮 膚 に 刺 激 を 与 え<br />

る 場 合 、 細 かく 上 下 に 振 動 させると、 単<br />

純 に 押 し 当 てる 時 よりも 少 ないエネルギ<br />

で 刺 激 を 知 覚 できることが 分 かっていま<br />

す。 今 は 前 後 左 右 を 含 めた 空 間 的 な 振 動<br />

を 加 えたら、さらに 少 ないエネルギです<br />

むのではないかと 考 え、その 研 究 に 取 り<br />

組 んでいるところです。 細 かく 動 かすこ<br />

とは MEMS の 得 意 分 野 ですから…」。<br />

こうした 成 果 を 踏 まえ、 今 後 はいろい<br />

ろな 種 類 の 刺 激 を 与 え、それをどのよう<br />

な 触 覚 として 人 間 が 認 識 するのかを 明 ら<br />

かにしていく 予 定 である。<br />

MEMS の 世 界 での “もの 作 り”<br />

視 覚 情 報 の 数 値 化 や 外 界 からの 情 報 を<br />

触 覚 として 伝 える 技 術 など、ヒューマン<br />

インタフェースの 方 法 や 形 はさまざま<br />

だが、 究 極 的 には BMI(Brain Machine<br />

Interface)に 行 き 着 くのではと 三 木 さ<br />

んは 考 えている。「 生 命 情 報 学 科 の 牛 場<br />

先 生 がやられている BMI は 私 も 関 心 を<br />

持 っており、MEMS で 脳 波 を 検 出 する<br />

ための 電 極 用 の 針 を 共 同 研 究 で 作 りまし<br />

た( 詳 しくは「 新 版 窮 理 図 解 」no.01 を<br />

参 照 )。 電 気 情 報 を 阻 害 する 皮 膚 表 面 の<br />

角 質 層 は 突 き 破 り、でも 痛 点 には 届 かな<br />

いという 長 さ 200 ミクロンの 小 さな 針<br />

です。ポイントは、ちゃんと 皮 膚 に 刺 さ<br />

<br />

触 覚 ディスプレイの 基 本 的 な 構 造<br />

触 覚 ディスプレイの 表 面 はフラットだが、 小 型 アク<br />

チュエータが 動 作 すると 刺 激 提 示 素 子 が 飛 び 出 し、 指<br />

先 や 皮 膚 に 刺 激 を 与 える 仕 組 み。この 小 型 アクチュ<br />

エータの 製 造 と 制 御 に MEMS 技 術 が 使 われている。<br />

今 後 の 展 開 としては、 点 字 ディスプレイのほか、 布 地<br />

に 触 れた 触 感 の 再 現 、 冷 たさや 温 かさの 再 現 といった<br />

分 野 での 研 究 が 期 待 されている。<br />

5mm 100µm<br />

Carvature radius : ~36µm<br />

200µm<br />

100µm<br />

脳 波 を 検 出 する 微 小 電 極<br />

簡 単 に 装 着 でき、 脳 波 を 正 確 に 読 み 取 れる 微 小 電 極 。<br />

µ<br />

この 電 極 部 の 開 発 にも MEMS が 役 立 っている。<br />

るけれど、 人 が 動 いても 折 れたり 外 れた<br />

りしない “ 程 よい” 堅 さ。 微 細 な 世 界 で<br />

の “ 程 よいバランス” の 追 求 は 体 系 的 に<br />

研 究 されておらず、メカニクス 的 な 観 点<br />

からも 面 白 いテーマです。 機 械 工 学 科 の<br />

材 料 力 学 の 研 究 室 とも 共 同 研 究 をしてい<br />

ます」。<br />

MEMS はその 微 細 さゆえに、スケー<br />

ル 効 果 による 特 性 の 変 化 など、 通 常 の “も<br />

の 作 り” のルールが 通 用 しない 難 しさも<br />

ある。この 難 しさを 解 決 していく 過 程 に<br />

こそ、 三 木 さんが 語 る 面 白 さがあるのだ<br />

ろう。 小 さく 見 えるが 広 がりの 大 きい<br />

MEMS に 期 待 が 高 まる。<br />

( 取 材 ・ 構 成 渡 辺 馨 )<br />

3


インタビュー<br />

三 木 則 尚 専 任 講 師 に 聞 く<br />

<br />

<br />

<br />

MEMS<br />

<br />

―― 幼 い 頃 から 研 究 者 になろうと 思 われ<br />

ていたのですか?<br />

いいえ( 笑 )。 僕 は 兵 庫 県 龍 野 市 の 生<br />

まれなのですが、 実 家 は 醤 油 づくりを 営<br />

む 老 舗 で、 研 究 とはまったく 縁 のない 環<br />

境 で 育 ちました。 幸 運 にも 成 績 は 良 かっ<br />

たので、 小 学 校 のときからスパルタ 教 育<br />

で 有 名 な 進 学 塾 に 通 い、 中 高 一 貫 の 進 学<br />

校 に 進 み、 流 されるままに 東 大 工 学 部 に<br />

入 ったという 感 じです( 笑 )。 勉 強 が 好<br />

きだったというよりも、 仲 間 がいたおか<br />

げで、 競 いながら 楽 しんで 勉 強 に 取 り 組<br />

むことができました。<br />

―― 勉 強 では 苦 労 されなかったのです<br />

ね?<br />

今 の 方 がよっぽど 苦 労 しています<br />

( 笑 )。 僕 は 器 用 貧 乏 で、ズバ 抜 けてでき<br />

るものはないけれど、なんでもそこそこ<br />

できてしまう。そうしたわけで 進 路 もな<br />

んとなく 決 めた 感 じでした。 大 学 1 ~ 2<br />

年 の 頃 は、 生 物 や 素 粒 子 物 理 学 に 興 味 を<br />

もちましたが、ちょうど 学 部 に 進 むころ、<br />

「バーチャルリアリティ」という 新 しい<br />

研 究 分 野 が 脚 光 を 浴 びていて、 面 白 そう<br />

だなと 思 って 機 械 情 報 工 学 科 への 進 学 を<br />

決 めたのです。その 後 はロボットに 興 味<br />

をもつようになり、4 年 生 のゼミ 配 属 で<br />

は、ロボット 研 究 の 第 一 人 者 である 三 浦<br />

宏 文 先 生 ・ 下 山 勲 先 生 の 研 究 室 に 入 りま<br />

した。<br />

当 時 はまだホンダの ASIMO が 発 表 さ<br />

れる 前 で、2 足 歩 行 ロボットや 人 工 知 能<br />

の 研 究 が 行 き 詰 まるなか、 突 破 口 を 見 つ<br />

けようと、この 研 究 室 ではマイクロロ<br />

ボットの 研 究 を 手 がけはじめたところで<br />

した。2 足 歩 行 ロボットの 手 本 が 人 間 な<br />

ら、マイクロロボットの 手 本 は 昆 虫 だろ<br />

うと、MEMS を 使 った 昆 虫 型 ロボット<br />

の 研 究 を 手 がけることになったのです。<br />

小 さいものを 研 究 する 面 白 さは、サイ<br />

ズによってきいてくる 力 が 変 わってくる<br />

点 です。たとえば、モノの 大 きさが 10<br />

分 の 1 になると、 表 面 積 は 100 分 の 1<br />

になりますが、 一 方 で、 体 積 は 1000 分<br />

の 1 になる。つまり 重 力 の 影 響 がぐん<br />

と 小 さくなる。だからノミは 自 分 の 身 長<br />

の 50 倍 くらい 高 く 飛 ぶことが 可 能 なん<br />

ですね。そうしたことから、スケールに<br />

あったデザインが 見 えてくる。たとえば、<br />

飛 行 機 の 羽 根 と 昆 虫 の 羽 根 の 違 いという<br />

のは、スケールの 違 いからくるものとい<br />

えます。ちなみに 卒 論 は、 生 きた 昆 虫 自<br />

身 が 操 縦 するロボットでした。ボールの<br />

上 を 昆 虫 が 歩 くと、ロボットがその 動 き<br />

に 追 随 して 動 くというものです。<br />

――そこで 生 物 への 興 味 が 生 かされたわ<br />

けですね。<br />

そうやって 興 味 の 赴 くままにやってき<br />

たのですが、その 頃 になってようやく 将<br />

来 について 考 えるようになりました。 実<br />

家 の 家 業 を 継 ぐことや、メーカーへの 就<br />

職 も 選 択 肢 の 1 つでしたが、 修 士 のと<br />

き、 先 生 方 のお 供 で 海 外 の 学 会 に 参 加 す<br />

る 機 会 があり、 先 生 が 海 外 の 研 究 者 と 握<br />

手 をして 気 さくに 話 をしている 様 子 を 見<br />

て、「かっこいいなぁ」と 思 い、 博 士 課<br />

程 に 進 もうと( 笑 )。 実 際 に、ドクター<br />

の 生 活 はとても 充 実 していました。<br />

当 時 、 異 業 種 交 流 会 などに 参 加 する 機<br />

会 が 多 かったのですが、さまざまな 職 種<br />

の 人 と 話 をするうち、それまでは 長 いも<br />

のには 巻 かれよ、といった 人 生 でしたが、<br />

人 と 違 う 道 を 進 むのも 悪 くないなと 思 う<br />

ようになりました。ほとんどの 同 期 が 就<br />

職 する 中 、 博 士 課 程 に 進 学 したわけです<br />

が、それもよかったな、と。 研 究 にも 力<br />

が 入 るようになり、 午 前 中 から 明 け 方 ま<br />

で 研 究 して、カラスが 鳴 き 出 すころ、だ<br />

いたい 3 時 すぎですが、ようやく 研 究<br />

室 を 出 るという 毎 日 でした。<br />

このとき 手 がけていたのは、 外 部 から<br />

磁 界 を 与 えて 空 を 飛 ぶ、1cm 以 下 のマ<br />

イクロヘリコプタです。 飛 ぶということ<br />

を 考 えると、 実 は 昆 虫 をまねて 羽 ばたく<br />

よりも、 回 転 させたほうが 効 率 がいいの<br />

です。 世 界 で 一 番 小 さいヘリコプタじゃ<br />

ないでしょうか。<br />

また、この 頃 から、 国 内 外 で 開 催 され<br />

る 国 際 学 会 に 参 加 するようになり、 若 い<br />

研 究 者 たちと 親 交 を 深 めることができま<br />

した。 今 でも 彼 らとの 交 流 が 続 いており、<br />

情 報 交 換 できるいい 仲 間 です。<br />

4


―― 博 士 課 程 修 了 後 の 2001 年 に、マサ<br />

チューセッツ 工 科 大 学 (MIT)へ 就 職 さ<br />

れましたね。<br />

ドクターを 修 了 したら、 次 は 海 外 だと<br />

自 由 な 発 想 で MEMS 技 術 の<br />

新 しい 領 域 を 開 く<br />

いう 勝 手 な 思 い 込 みがあったのですが、<br />

当 時 興 味 があった「MIT マイクロエン<br />

ジンプロジェクト」の 教 授 が 僕 の 所 属 す<br />

る 研 究 室 に 来 る 機 会 がありました。その<br />

折 に 研 究 員 の 空 きがあるかどうか 尋 ねて<br />

みたところ、 書 類 を 送 るように 言 われ、<br />

その 後 面 接 に 呼 ばれ、 晴 れて「マイクロ<br />

エンジンプロジェクト」に 雇 われること<br />

になったのです。<br />

――お 話 によると 順 調 に 歩 まれてきた 感<br />

じですね。<br />

そもそも、 挫 折 するようなことがあっ<br />

ても、 気 にしない 性 格 なんだと 思 います。<br />

僕 は、 挫 折 したから 強 くなったなんて 言<br />

うのは 大 嫌 いです。 挫 けたって 折 れなけ<br />

ればいいというのが 僕 の 信 念 です。<br />

MIT 時 代 は 楽 しかったですね。マイ<br />

クロエンジンプロジェクトでは、 携 帯 電<br />

話 の 電 源 やマイクロロケットのバッテリ<br />

用 に、シリコンを 使 ったボタンサイズ<br />

の 小 さなガスタービンを 作 っていました。<br />

ビッグプロジェクトで 設 備 も 環 境 も 最 高<br />

に 恵 まれていました。<br />

また、ボストンには、MIT だけでなく、<br />

ハーバード 大 学 、ボストン 大 学 などもあ<br />

り、さまざまな 分 野 から 選 ばれた 日 本<br />

人 が 集 まっていて、 月 に 1 ~ 2 回 開 催<br />

される 日 本 人 研 究 者 交 流 会 を 通 じて、 多<br />

くの 人 と 話 をする 機 会 を 得 ることができ、<br />

ぐっと 視 野 が 広 がりました。<br />

それから、2 年 目 に 日 本 人 の 研 究 者 で<br />

アイスホッケーチームを 作 ったことも 大<br />

きなイベントでした。アイスホッケー<br />

なんてやったこともなくて、そもそも<br />

スケートも 全 然 滑 れなかったのですが、<br />

かっこいいからやってみようと…。とい<br />

うのも、アメリカ 人 って、どんなに 下<br />

手 でも、 努 力 していれば、 必 ず “Good<br />

job!” って 言 ってくれるんですよ。それ<br />

が 嬉 しくて、どうせやるなら 自 分 が 中 心<br />

になってチームを 作 ろうと 思 ったのです。<br />

名 前 は、 日 本 人 チームらしく「Sushis(ス<br />

シーズ)」。ちなみに、うちのチームは 見<br />

学 不 可 なんですよ。1 回 見 学 してから 入<br />

団 を 決 めるというのはナシで、まずはと<br />

にかく 一 緒 にやってみようというのが<br />

Sushis のポリシーです。<br />

――MIT での 生 活 を 本 当 に 楽 しまれたよ<br />

うですが、3 年 後 に 日 本 に 帰 国 され、 慶<br />

應 義 塾 大 学 へ 来 られたわけですね。<br />

現 在 、 慶 應 義 塾 大 学 にきて 6 年 目 に<br />

なりますが、せっかく 研 究 をするなら 自<br />

分 が 興 味 をもてる 面 白 いことをやろうと<br />

いうことで、 自 由 な 発 想 で 研 究 に 取 り 組<br />

んでいます。 現 在 は、MEMS をベース<br />

にしたヒューマンインタフェースをテー<br />

マに、 視 線 検 出 や 触 覚 ディスプレイ、 味<br />

覚 ・ 嗅 覚 センサなど、 多 岐 にわたるテー<br />

マを 扱 っているところです。モットーは、<br />

指 導 教 官 だった 下 山 先 生 の 教 えでもあ<br />

る「 素 人 の 発 想 、 玄 人 の 仕 事 」です。 何<br />

にでもチャレンジしてみようという 素 人<br />

の 発 想 をもちつつも、 研 究 成 果 をきちん<br />

と 出 すために、 仕 事 はプロの 技 に 徹 する、<br />

ということですね。<br />

研 究 室 には 20 名 の 学 生 がいますがに<br />

ぎやかにワイワイやっています。 合 宿 で<br />

は 毎 年 趣 向 を 凝 らし、ペイントボールと<br />

いって 銃 でペイント 弾 を 打 ち 合 うゲーム<br />

やラフティング( 川 下 り)、ソフトボー<br />

ルなどをやったりして 楽 しんでいます。<br />

もっとも、 研 究 をするときには 真 剣 にや<br />

る。メリハリが 大 事 だということです。<br />

一 方 で 毎 週 1 回 輪 講 のときに、 研 究<br />

室 で 一 般 教 養 テストをしています。 問 題<br />

は 国 の 首 都 名 でも、 漢 字 でも、 歴 史 でも、<br />

映 画 でもなんでもありで、 皆 が 順 番 に 出<br />

題 します。というのも、 一 般 教 養 とい<br />

うのはとても 人 生 を 豊 かにしてくれるも<br />

三 木 則 尚 Norihisa <strong>Miki</strong><br />

MEMS(Microelectromechanical Systems: 微 小<br />

電 気 機 械 システム) 技 術 をベースに、ICT、 医 療 、<br />

環 境 分 野 へ 幅 広 く 研 究 を 展 開 中 。1974 年 兵 庫 県<br />

龍 野 市 生 まれ。2001 年 東 京 大 学 大 学 院 工 学 系 研<br />

究 科 博 士 課 程 修 了 。2001 年 から 2004 年 までマ<br />

サチューセッツ 工 科 大 学 航 空 宇 宙 工 学 科 ポスド<br />

ク 研 究 員 、リサーチエンジニア。2004 年 より 現<br />

職 。 高 校 時 代 はヘビーメタルに、 大 学 時 代 は 麻<br />

雀 と 釣 りに、その 後 はゴルフにはまっている。<br />

のだと 思 うからです。 面 白 いことに、 受<br />

験 勉 強 が 意 外 と 一 般 教 養 につながってい<br />

るんです。 僕 自 身 、 受 験 英 語 のベースが<br />

あったからこそ、 学 会 発 表 や 海 外 生 活 で<br />

役 立 った。 詰 め 込 みの 受 験 勉 強 は 意 味 が<br />

ないなんていうけれど、 教 養 として 身 に<br />

ついていれば、ちゃんと 使 うことができ<br />

ます。<br />

実 際 に、 海 外 の 人 と 話 をする 場 合 にも、<br />

一 般 教 養 はたいへん 役 立 っています。 江<br />

戸 時 代 の 鎖 国 の 話 とか、うけますよ。 教<br />

養 は、 研 究 の 幅 を 広 げることにも 役 立 つ<br />

はず。 研 究 者 としての 基 礎 はもちろんで<br />

すが、そうした 視 野 の 広 い 人 間 を 育 てて<br />

いきたいと 思 っています。<br />

◎ちょっと 一 言 ◎<br />

● 学 生 さんから:いつも 明 るくて、やさし<br />

くて、 頼 りがいのある 先 生 です。 先 生 の<br />

背 中 を 見 ながら、 僕 らもメリハリのある<br />

学 生 生 活 を 楽 しんでいます。<br />

( 取 材 ・ 構 成 田 井 中 麻 都 佳 )<br />

さらに 詳 しい 内 容 は<br />

http://www.st.keio.ac.jp/kyurizukai<br />

5


印 象 に 残 っている<br />

国 際 会 議 ベスト 5<br />

国 内 外 様 々な 場 所 で 開 催 される<br />

学 会 に 参 加 するのも 大 学 教 員 の 仕 事 です。<br />

印 象 深 かった 学 会 を<br />

いくつかピックアップしてみました。<br />

その 時 撮 影 した 写 真 と 一 緒 に 紹 介 します。<br />

A<br />

BEST1( 写 真 A )<br />

アリゾナ 州 ツーソン<br />

(Tucson, Arizona, USA):<br />

MEMS2008<br />

砂 漠 とサボテンと 夕 陽 に 完 璧 に 打 ちのめさ<br />

れ、なんとか 記 録 しようと 写 真 家 気 どりです。<br />

観 光 ではなかなか 訪 れないような 場 所 で 開 催<br />

されるのも 国 際 学 会 の 魅 力 です。ちなみに<br />

MIT 時 代 の 同 僚 達 と 再 会 したのですが、「 髪 、<br />

白 く 染 めたの?」と 言 われました( 笑 )。 慶 應<br />

での4 年 間 でいったい 何 が…。<br />

BEST2<br />

パリ(Paris, France):<br />

microTAS2007<br />

学 会 中 はバンケット(Banquet)といって 学<br />

会 参 加 者 用 の 食 事 会 があります。 学 会 開 催 地<br />

うずまさ の 特 色 あるイベント( 京 都 だと 太 秦 のチャン<br />

バラ、スイスだとヨーデルとか)があるので<br />

すが、この 学 会 ではなんと!オルセー 美 術 館<br />

が 貸 切 りでした。なんと 贅 沢 なんでしょう。<br />

( 写 真 は 映 画 『アメリ』の 舞 台 となったカフェ)<br />

BEST3<br />

( 写 真 B )<br />

( 写 真 C )<br />

ルーベン(Leuven,Belgium):<br />

ICRA98<br />

私 が 初 めて 発 表 した 国 際 会 議 です。 初 めて<br />

のヨーロッパに 浮 かれ、 発 表 の 緊 張 はどこへ<br />

やら。 行 きに 英 国 ヒースロー 空 港 で 買 った 革<br />

靴 がぼろぼろになるぐらい 街 中 を 散 策 しまし<br />

た。 学 会 の 後 にフランス、マルセイユのフラ<br />

ンス 国 立 科 学 技 術 センター(CNRS)を 訪 問 し<br />

ました。<br />

( 写 真 はマルセイユ)<br />

BEST4( 写 真 D )<br />

ヒルトンヘッド 島<br />

(Hilton Head Island, SC, USA):<br />

Hilton Head 2002<br />

MEMS 関 連 のアメリカ 国 内 学 会 です。 何 がす<br />

ごいかというと、ネクタイ 禁 止 なんです。 日<br />

本 人 は 特 に 学 会 ではスーツにネクタイなんで<br />

すが、この 学 会 ではみんなポロシャツに 短 パ<br />

ン。 私 は 気 合 いを 入 れてスーツを 着 て 部 屋 を<br />

出 た 瞬 間 に、 他 の 参 加 者 に「おいおい、ネク<br />

タイ 切 られちゃうよ!」と 部 屋 に 追 い 返 され<br />

ました。 服 装 のせいかみんなとてもフランク<br />

で、 先 生 と 学 生 の 境 なく 活 発 に 議 論 していま<br />

した。そしてなんとこの 学 会 のゴルフ 大 会 で<br />

優 勝 してしまいました! 参 加 者 全 員 の 前 で 優<br />

勝 カ ップ に 口 づ け で す( 笑 )。<br />

BEST5<br />

( 写 真 E )<br />

宮 崎 シーガイア( 日 本 ):<br />

MEMS2000<br />

場 所 は 国 内 なのですが、とても 印 象 に 残 って<br />

います。 当 時 の 指 導 教 官 が 主 催 者 だった&カ<br />

ラ オ ケ(!)の お か げ で、 本 当 に た くさ ん の 友<br />

達 ができました。 今 でも 親 交 は 続 いていて、<br />

つい 先 日 香 港 で 開 催 された 国 際 学 会 でも 再<br />

会 してきました。ちなみに 次 の 年 インターラー<br />

ケン(スイス)で 行 われた MEMS2001 のとき<br />

は、みんなでクラブに 行 きました。<br />

( 写 真 はインターラーケン)<br />

ランク 外 ですが…。<br />

バンコク(Bangkok, Thailand):<br />

クアラルンプール(Kuala Lumpur,<br />

Malaysia):MJISAT2007<br />

同 僚 の 牛 場 先 生 、 堀 田 先 生 と 参 加 しまし<br />

IEEE-NEMS2007<br />

宮 崎 で 友 達 になったタイ 人 の 友 人 が 主 催<br />

した 学 会 です。 夜 はワシントン 大 学 の 先<br />

た。 夜 の 屋 台 街 にて。 ( 写 真 F ) 生 とムエタイ 観 戦 。<br />

( 写 真 G )<br />

D<br />

B<br />

C<br />

E<br />

F<br />

G<br />

6


●アット・ザ・ヘルム 研 究 者 が 自 分 の 研 究 室 を 持 つ 時 の 心 構 えを 伝 える 名 著 。ヘル<br />

ム(helm)は 船 の 舵 のことです。 大 学 の 教 員 は、 教 員 になるまではグループで 研 究 する<br />

ことはあっても 基 本 的 に 個 人 プレーの 研 究 者 です。 学 生 の 指 導 なんてしたこともありませ<br />

ん。ところが 教 員 になった 途 端 に 自 分 の 研 究 室 を 持 つことになり、いきなり 何 名 もの 学 生<br />

を 抱 え、 彼 らに 研 究 させ、 無 事 に 卒 業 させるのが 仕 事 になります。この 変 化 に 戸 惑 う 人 は<br />

私 を 含 めたくさんいると 思 います。 試 行 錯 誤 の 続 く 中 、 大 学 時 代 の 先 輩 がこの 本 を 紹 介 し<br />

てくれました。どのような 研 究 室 を 目 指 したい<br />

● ワンピース 落 ち 込 んだ 時 の<br />

特 効 薬 です。 自 分 の 中 の 冒 険 心 をか<br />

き 立 ててくれる 名 著 です! 三 木 研 究<br />

室 には 私 が 寄 贈 したものも 含 め 漫 画<br />

がたくさんあります。 研 究 に 行 き 詰<br />

まったときの 気 分 転 換 になればと。<br />

でも、あくまで 気 分 転 換 用 ですから、<br />

学 生 諸 君 、 研 究 はしっかり 頑 張 って<br />

くださいね( 笑 )。<br />

● MICROSYSTEM DESIGN 元<br />

MIT 教 授 で、MEMS 分 野 の 大 親 分<br />

Senturia 教 授 が 書 いた 名 著 。 世 界 各<br />

地 で 教 科 書 として 使 われていて、 私<br />

も 国 際 コ ー ス の「MEMS :Design<br />

のか、またどうやってそれを 実 現 していくのか、<br />

とても 勉 強 になりました。ちなみに 私 は「 笑 い<br />

と 汗 と 歓 声 の 絶 えない 研 究 室 」にしたいな、と<br />

思 っています。<br />

● 臨 床 検 査 法 提 要 これから MEMS 技<br />

術 の 応 用 が 最 も 期 待 されるのが 医 療 分 野 で<br />

す。ボストン 時 代 に 仲 良 くなった 医 者 の 方<br />

に、 医 療 の、 特 に 検 査 技 術 について 詳 しい<br />

本 と 紹 介 されました。 時 々 手 にとって 研 究<br />

のネタはないか、 探 しています。 三 木 研 究<br />

室 では 今 回 紹 介 した 研 究 の 他 に、1 ナノメー<br />

トルの 孔 をもつ 膜 とマイクロ 流 路 を 組 み 合<br />

わせた 人 工 腎 臓 や、マイクロ 旋 回 流 を 用 い<br />

た 細 胞 集 積 技 術 など、MEMS 技 術 の 医 療 応<br />

用 にも 力 を 入 れています。<br />

● MEMS/NEMS Handbook 私 が 初 めて 執 筆 (1 章 だけ ● ウバメガシ 奥 に 見 える<br />

ですが)した 本 です。MIT 時 代 の 研 究 テーマについて 書 きまし<br />

た。こんな 風 にハードカバーの 本 になって 手 元 に 送 られてきた<br />

ときには、 感 慨 もひとしおでした。 残 念 ながら 書 店 に 並 ぶよう<br />

な 人 気 書 籍 ではないですし、1 冊 1,200 ドル 以 上 します( 笑 )が、<br />

興 味 のある 人 は 是 非 購 入 してみてください。 大 学 の 教 員 となっ<br />

たからには、いずれは 自 分 で 教 科 書 も 書 いてみたいと 思 ってい<br />

ます。そのためには 分 野 の 第 一 人 者 になるか、 自 分 で 新 しい 分<br />

野 を 立 ち 上 げなくてはいけません。まだまだ 先 は 長 いです。<br />

のはドングリの 木 です。 研 究 室<br />

が 大 きく 発 展 するように、と<br />

願 いを 込 めて 1 年 半 ほど 前 に<br />

苗 木 を 買 いました。 今 まです<br />

くすくと 順 調 に 育 っています。<br />

私 が 退 職 するころには 10 メー<br />

トルを 超 える 大 木 になってい<br />

ることでしょう!<br />

and Fabrication」で 使 用 しています( 授 業 は 英 語 です!)。 今 アメリカ ● ヘリコプタ 入 門 博 士 課 程 では 全 長 7.5mm のマイクロヘ<br />

にいる MEMS 研 究 者 の 多 くが、Senturia 教 授 の 教 え 子 か、そのまた 教<br />

え 子 です。 学 会 ではいつも 率 先 して 厳 しい(!) 質 問 を 浴 びせること<br />

でも 有 名 です。 彼 が 立 ち 上 がった 瞬 間 、 発 表 者 は 一 気 に 緊 張 200% アッ<br />

プです( 笑 )。でも 普 段 の 教 授 はとても 温 厚 な 紳 士 です。 私 が MIT に 就<br />

職 するときにもいろいろとお 世 話 になりました。 数 年 前 にこれまでに<br />

培 ってきた 技 術 をベースに、ご 自 分 で 会 社 を 興 されました。 教 授 の 会<br />

社 が 開 発 したセンサが、 月 面 探 査 に 使 われているそうですよ。<br />

リコプタの 研 究 を 行 いました。この 本 を 読 んでヘリコプタの 歴 史<br />

や 関 連 する 力 学 を 勉 強 しました。 私 が 研 究 していたマイクロヘリ<br />

コプタは、 翼 が 磁 性 材 料 で 作 られていて、 外 部 から 交 流 磁 場 を 与<br />

えると 回 転 し、 推 力 を 生 み 出 します。 翼 の 回 転 数 が 毎 秒 540 回 転<br />

のとき、 推 力 が 自 重 を 超 えて 浮 上 に 成 功 しました。 博 士 課 程 3 年<br />

目 の 初 秋 の 夜 だったでしょうか。 誰 もいない 実 験 室 で 成 功 の 喜 び<br />

を 味 わいました。おそらく 世 界 で 最 も 小 さなヘリコプタです。<br />

7


科 学 ・ 技 術 と 映 画<br />

今 回 特 集 した 三 木 専 任 講 師 は 研 究 を 触 発 された 映 画 として『ミクロの 決 死 圏 』<br />

をあげています。<br />

これは 1966 年 の 米 国 映 画 で、 脳 内 出 血 を 起 こした 要 人 を 救 うため 医 療 チー<br />

ムが 縮 小 された 潜 航 艇 に 乗 り 込 んで 体 内 に 入 り 込 むというストーリーです。CG な<br />

ど 存 在 しない 時 代 に 幻 想 的 な 人 体 の 内 部 を 創 り 上 げ 高 い 評 価 を 得 ました。<br />

科 学 ・ 技 術 をテーマにした 映 画 というと、『アバター』やこの 映 画 のような SF<br />

ものがすぐ 連 想 されます。 日 本 でも 漫 画 『 鉄 腕 アトム』に 刺 激 されてロボット 研<br />

究 者 になった 人 が 多 くいます。<br />

しかし、SF やコミックとは 別 に 米 国 では 実 在 の 科 学 者 ・ 技 術 者 を 主 人 公 にした<br />

シリアスな 作 品 も 数 多 く 作 られ 若 い 人 に 刺 激 を 与 え 続 けています。<br />

古 くは、 研 究 に 没 頭 する 医 学 者 をヒーローにしたジョン・フォード 監 督 の『 人<br />

いたる<br />

類 の 戦 士 』(1932 年 )があります。 日 本 の 分 子 生 物 学 の 草 分 け、 故 渡 辺 格 ・ 慶<br />

應 義 塾 大 学 名 誉 教 授 は 若 い 頃 この 映 画 を 観 て 感 動 し 医 学 を 志 したと 回 想 してい<br />

ます。<br />

『タッカー』(1988 年 )は 1940 年 代 に 独 創 的 なメカニズムで 新 しい 車 作 りを<br />

目 指 したもののビッグ 3 の 妨 害 にあって 挫 折 したエンジニアの 物 語 。こうした “ 地<br />

味 な” 映 画 を G・ルーカス 製 作 総 指 揮 、F・F・コッポラ 監 督 という、そうそうた<br />

るメンバーで 作 るところに 米 国 人 の 車 や 技 術 に 対 する 思 い 入 れがうかがえます。<br />

『 遠 い 空 の 向 こうに』(1999 年 )は 実 在 の 米 航 空 宇 宙 局 (NASA)のエンジニ<br />

アがヒーロー。 田 舎 町 の 高 校 生 がソ 連 の 人 類 初 の 人 工 衛 星 スプートニクに 刺 激 さ<br />

れてロケット 作 りを 目 指 すというストーリーです。<br />

科 学 技 術 立 国 を 掲 げる 日 本 ですが 実 在 の 科 学 者 や 技 術 者 をヒーロー、ヒロイ<br />

ンにした 映 画 はあまり 見 かけないのは 残 念 です。 矢 上 を 舞 台 に 研 究 者 を 主 人 公<br />

にした 映 画 、ビデオを 企 画 して 世 界 に 発 信 しようという 人 はいないでしょうか?<br />

世 界 初 の 人 工 衛 星 スプートニク 1 号<br />

( NASA/Asif A. Siddgi より)<br />

理 工 学<br />

Information<br />

慶 應 義 塾 先 端 科 学 技 術<br />

研 究 セ ン タ ー( KLL)<br />

http://www.kll.keio.ac.jp/<br />

KLL は、 理 工 学 部 ・ 理 工 学 研 究 科 における<br />

産 官 学 連 携 活 動 を 推 進 ・ 支 援 する 窓 口 として、<br />

2000 年 4 月 に 設 立 されました。<br />

企 業 等 から KLL に 寄 せられるニーズに 対<br />

し、 学 内 の 研 究 者 や 研 究 成 果 とのマッチング<br />

を 行 うほか、 毎 年 12 月 開 催 の KEIO TECHNO-<br />

MALL( 慶 應 科 学 技 術 展 )や 年 3 回 実 施 してい<br />

る 産 学 連 携 セミナーを 通 じて、 交 流 の 場 を 提<br />

供 しています。<br />

第 19 回<br />

慶 應 義 塾 大 学 理 工 学 部 市 民 講 座<br />

「 量 子 を 見 る、 宇 宙 を 見 る、そして<br />

世 界 を 彩 る」<br />

日 時 :2010 年 6 月 19 日 ( 土 ) 午 後 ( 詳 細 未 定 )<br />

会 場 : 日 吉 キャンパス 協 生 館 藤 原 洋 記 念<br />

ホール<br />

参 加 費 無 料 ・ 事 前 申 込 制<br />

身 近 で 旬 なテーマを 題 材 に、 理 工 学 部 を 中<br />

心 とした 慶 應 義 塾 大 学 の 研 究 成 果 を 市 民 ・ 地<br />

域 に 還 元 することを 目 的 として、1992 年 か<br />

ら 続 けられご 好 評 いただいている 講 座 を 今 年<br />

も 開 催 いたします。 今 回 は 3 人 の 研 究 者 から、<br />

ナノスケールの 量 子 と 生 命 の 世 界 や 広 大 な 宇<br />

宙 を 電 磁 波 を 駆 使 して 見 る 技 術 と、 自 然 の 驚<br />

異 を 具 現 化 し 芸 術 に 昇 華 する 試 みのひとつと<br />

しての 宇 宙 線 を 利 用 したアート 作 品 をご 紹 介<br />

します。 詳 細 は 理 工 学 部 ウェブサイトに 5 月<br />

初 旬 UP 予 定 です。<br />

新<br />

版<br />

03<br />

編 集 後 記<br />

3 月 生 まれの 三 木 専 任 講 師 が 第 3 号 に 登 場 です。マイクロ・ナノレベルの 研 究 を 行 っ<br />

ている 研 究 室 のメンバーはさぞや 几 帳 面 ぞろいに 違 いない、と 研 究 室 をたずねたら、<br />

とっくに 年 が 明 けたのにクリスマスの 三 角 帽 子 が!ちょうど 論 文 作 成 の 忙 しい 時 期<br />

だったので、 片 付 けるのも 忘 れて 研 究 に 没 頭 していたのかしら、と 微 笑 ましく 感 じま<br />

した。<br />

冗 談 を 言 ったり、わざと 話 を 脱 線 させたり、サービス 精 神 が 旺 盛 で 楽 しい 三 木 専 任<br />

講 師 は、 終 始 なごやかにインタビューに 応 じていましたが、 表 紙 写 真 の 撮 影 では、 緊<br />

張 のあまり「 何 か 面 白 いこと 言 って!」と 助 けを 求 めるシャイな 一 面 をのぞかせまし<br />

た。そういえば、 三 木 専 任 講 師 と 楽 しげに 話 していた 学 生 達 にいざ「 三 木 先 生 ってど<br />

んな 人 ?」と 聞 くと、とたんに 照 れて 口 数 が 減 っていたような。 同 じ 分 野 のことを 考<br />

え、 同 じ 時 間 を 過 ごしていると 性 格 も 似 てくるのでしょうか。<br />

さて、 駆 け 足 で 発 行 した 創 刊 号 からの 3 号 も、ここで 一 息 です。 来 年 度 、 新 入 生<br />

のにぎやかな 声 に 緑 が 映 えるころ、またお 会 いしましょう。<br />

( 平 良 沙 織 )<br />

新 版<br />

No.03 2010 March<br />

編 集 新 版 窮 理 図 解 編 集 委 員 会<br />

写 真 邑 口 京 一 郎<br />

イラスト TomoNarashima Tane+1 LLC<br />

デザイン 八 十 島 博 明 (GRID)<br />

編 集 協 力 サイテック・コミュニケーションズ<br />

発 行 者 青 山 藤 詞 郎<br />

発 行 慶 應 義 塾 大 学 理 工 学 部<br />

〒 223-8522 横 浜 市 港 北 区 日 吉 3-14-1<br />

web 版 http://www.st.keio.ac.jp/kyurizukai

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