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定時制高校生の自己肯定感を高める要因に関する一研究

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定 時 制 高 校 生 の 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因 に 関 する 一 研 究( 青 戸 泰 子 , 村 瀬 まき)女 は,2 年 生 になると 相 談 室 へ 登 校 を 始 め,熱 心 な 教 員 が 頻 繁 に 様 子 を 見 に 来 ていたと 語る。 勉 強 は 全 体 的 に 得 意 ではなかったが, 相談 室 へ 来 る 教 員 に 教 えてもらうなどしていて,「 嫌 いって 言 うほどじゃなかった」という。部 活 は 美 術 部 に 所 属 していたが,こちらも「とりあえずっていう 感 じで」 籍 を 置 いていたが,参 加 はあまりしなかったらしい。 友 人 を 尋 ねたところ「 少 なかった」としたあとで,「 女子 はグループを 作 る」から,「それがなんて言 うか, 嫌 」で, 無 理 に 新 しいグループへ 入ることはしなかったと 話 した。3 高 校 時 代 の 様 子A さんが 定 時 制 高 校 を 選 択 したのは,「きちんと 課 題 をやらないといけない 通 信 制 より, 毎 日 授 業 がある 定 時 制 の 方 が 続 けられそうと 感 じた」という 理 由 だった。 教 員 は 親 身になってくれて,「 勉 強 も 結 構 できた」という。入 学 してからは 遊 びに 行 ったりする 友 人 も「いっぱいできた」という。 中 学 との 違 いは,「 中 学 は 女 子 のグループがあるけど, 高 校 は誰 と 話 しても OK みたいな」であった。 学 校が 終 わってから,「1 時 間 くらいかかる 道 を,友 達 としゃべりながら 帰 った」こともある。部 活 は 1 年 生 から 写 真 部 に 所 属 し,「 先 輩 達は, 雑 誌 に 投 稿 していた」と 回 想 する。4 中 学 と 高 校 の 様 子 の 変 化〈 教 員 〉 中 学 と 高 校 の 両 方 で 理 解 のある 教 員と 出 会 っている。〈 学 習 〉 中 学 では 相 談 室 で 勉 強 を 教 えてもらい, 得 意 ではないが 嫌 いでもなかった。 高 校 では 特 に 数 学 と 英 語 が 習 熟度 別 のクラスになっており, 分 かりやすかったという。〈 友 人 〉 中 学 では 女 子 のグループに 入 っていけなかったが, 高 校 ではグループもなく 誰 とでも 話 せる 環 境 だった。〈その 他 〉 中 学 での 部 活 は 籍 を 置 いているだけだったが, 高 校 では 周 囲 の 様 子にも 関 心 を 持 って 参 加 している。5 学 校 生 活 満 足 度 の 変 容図 1 に 示 した 通 り, 中 学 生 活 と 高 校 生 活 で特 に 大 きな 変 化 があるのは「 勉 強 や 運 動 などで 認 められている」「 仲 の 良 いグループの 中では 中 心 的 なメンバーである」「 学 校 生 活 で充 実 感 や 満 足 感 を 覚 えることがある」などで図 1.Aさんの 学 校 生 活 満 足 度 尺 度 の 変 容― 47 ―


定 時 制 高 校 生 の 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因 に 関 する 一 研 究( 青 戸 泰 子 , 村 瀬 まき)められていると 思 う」の 項 目 が 高 くなっているのも,その 表 れであろう。また, 元 々 否 定的 な 言 葉 はなかった 教 員 との 関 係 においても, 高 校 での 感 想 の 方 がより 肯 定 的 であった。高 校 の 教 員 は,より 親 身 になってくれたという 経 験 から, 図 1 の「 学 校 内 に 私 を 認 めてくれる 先 生 がいる」との 項 目 が 高 くなっていると 考 えられる。 友 人 関 係 を 見 ると, 高 校 では不 適 応 感 を 示 していた 女 子 のグループもなくなり, 幅 広 い 交 友 関 係 が 築 けていたと 思 われる。 一 方 で, 図 2 の 学 校 生 活 満 足 度 尺 度 を 見ると,A さんは 高 校 でも 学 校 生 活 不 満 足 群 に属 している。しかし, 個 人 面 談 などの 支 援 が必 要 とされる「 要 支 援 群 」からは 脱 しており,学 校 に 対 する 不 満 足 はいくらか 改 善 されていると 言 える。城 所 ・ 酒 井 (2006)は,「 生 徒 たちは 定 時制 高 校 が 提 供 する 生 活 や 学 習 の 枠 組 みがもたらす 編 成 資 源 を 利 用 しながら, 不 断 に 自 己 を再 定 義 していく 意 識 と 態 度 を 持 つ 主 体 である」と 述 べている。A さんは, 学 習 などにおいて 周 囲 から 認 められ, 教 員 や 友 人 とも 良 好な 関 係 を 築 きながら 高 校 生 活 をすごしたことによって 自 信 がつき, 自 分 を 見 つめ 直 した 結果 , 図 5 の「 自 己 に 対 して 肯 定 的 で, 好 ましく 思 うような 態 度 や 感 情 」である 自 己 肯 定 感が, 高 くなったのではないだろうか。 2 B1 事 例 の 概 要B さんは 中 学 1 年 のとき, 同 級 生 からのいじめを 受 け, 夏 休 みから 不 登 校 になった。その 後 は 担 任 に 勧 められて 3 年 から 相 談 室 へ 登校 し,そこで 友 達 もできた。 私 立 の 高 校 も 受験 し 合 格 したが, 最 終 的 に 定 時 制 高 校 を 選 択した。2 中 学 時 代 の 様 子1 年 の 1 学 期 は 登 校 したが,「あとは 全 然 行かなかった」というBさん。1,2 年 は 担 任 が持 ち 上 がりで, 登 校 しなくても 担 任 から 積 極的 な 働 きかけはなかった。3 年 になって 変わった 担 任 に 相 談 室 を 勧 められ, 同 じく 相 談室 登 校 だった 生 徒 と 仲 良 くなった。3 年 の 担任 はあまり 相 談 室 には 顔 を 出 さず,「たまに,教 室 どう? みたいな 感 じで 来 る」 程 度 だったという。 勉 強 は 親 も 特 に 何 も 言 わなかったため,「 全 くしてなかった」と 話 す。クラスの 様 子 を 尋 ねると,「(3 年 の 時 は)いてもいなくても 変 わらないっていうか」と,クラスの 中 で 存 在 が 希 薄 だったことを 窺 わせた。 中学 時 代 を 振 り 返 って,B さんは「( 中 学 は)とにかく 浅 く 浅 くで…」「 特 にこれといったことはなかった」と 述 べた。3 高 校 時 代 の 様 子高 校 は 私 立 も 併 願 して 受 験 し,どちらも 合格 したが,「 学 校 見 学 で( 感 じた) 雰 囲 気 がよくて」 定 時 制 を 選 択 したという。「 先 生 と生 徒 が 友 達 みたいで, 面 接 でそれをいったら試 験 官 の 先 生 に 笑 われたけどね」と B さんは回 想 する。 入 学 で 席 が 隣 だった 生 徒 と 仲 良 くなり, 入 学 をきっかけに,「( 学 校 に) 行 こうと 思 った」と, 不 登 校 だった 中 学 時 代 から 変わろうとする 意 識 を 持 っている。また,クラスの 様 子 について B さんは,「 全 員 としゃべれたかな。 変 に 気 遣 うこともなくて, 自 分 のありのままでいられた」という。「 定 時 制 (の生 徒 )は 同 じ 経 験 してるから,『 自 分 は( 中学 時 代 )こんなんだったんだよ』っていえる」のだ。 中 学 では 1 学 期 だけしか 参 加 しなかった 部 活 も, 高 校 では 陸 上 部 のマネージャーを務 め,「 顧 問 の 先 生 とも 関 われたから, 悪 い経 験 じゃなかった」と 述 べた。 教 員 との 関 係は,「よかったと 思 う」。「 高 校 の 先 生 はね,卒 業 してからも 連 絡 すると 時 間 を 取 って 会 ってくれた」と, 定 時 制 高 校 の 教 員 は 学 校 内 だ― 49 ―


岐 阜 女 子 大 学 紀 要 第 42 号 (2013. 3. )けの 関 わりではないと 語 った。 授 業 は,「 好きな 先 生 の 授 業 とかは, 俄 然 やる 気 」になり,学 習 に 対 する 意 欲 も 現 れている。また「 友 達がしてたから」 興 味 を 持 って 始 めたアルバイトでも, 言 葉 遣 いや 上 下 関 係 , 金 銭 感 覚 など多 くのことを 学 んだという。「( 高 校 は) 遠 足とか, 修 学 旅 行 とか, 文 化 祭 とか, 行 事 ごとが 多 くて 楽 しかった」と 変 化 に 富 んだ 高 校 生活 を 振 り 返 る B さんは, 一 方 で「でも 日 常 でちょっと( 授 業 を)サボって 友 達 と 話 したりするのも,よかったなぁ」と 語 った。4 中 学 と 高 校 の 様 子 の 変 化〈 教 員 〉 中 学 ではやや 担 任 との 間 にも 距 離 があったが, 高 校 では 担 任 以 外 でも 信頼 関 係 を 築 ける 教 員 がいた。〈 学 習 〉 中 学 では 興 味 もなく 全 く 勉 強 しなかった。 高 校 では 担 当 の 教 員 に 違 いがあるが, 積 極 的 な 姿 勢 を 見 せている。〈 友 人 〉 中 学 では「 浅 く 浅 く」,あまり 関 わらなかった 周 囲 とも, 高 校 では 入 学 式から 友 人 を 作 るなど, 積 極 的 に 関 わっている。〈その 他 〉 部 活 動 ではマネージャーを 務 め,アルバイトも 続 けた。 中 学 では 特に 思 い 出 になるようなことはなかったが, 高 校 では 行 事 の 一 つ 一つが 楽 しかったと 振 り 返 っている。5 学 校 生 活 満 足 度 の 変 容図 4 に 示 した 通 り,B さんの 学 校 生 活 満 足度 は 中 学 より 高 校 のほうが 高 くなっている。特 に「 学 校 内 で 私 を 認 めてくれる 先 生 がいる」「 学 校 内 に 自 分 の 本 音 や 悩 みを 話 せる 友 人 がいる」「クラスの 中 で 孤 立 感 を 覚 えることがある * 」などに 大 きな 差 があった。また, 図 5に 示 したように,B さんは, 中 学 では「 学 校生 活 不 満 足 群 」の 中 でも, 特 別 な 支 援 が 必 要とされる「 要 支 援 群 」に 属 していたが, 高 校ではほぼ 真 逆 である「 学 校 満 足 群 」の 高 い 位置 へと 変 化 している。6 自 己 肯 定 感 の 変 容図 6 の 通 り,B さんの 自 己 肯 定 感 は, 中 学より 高 校 のほうが 高 くなっている。 特 に,「 今の 自 分 に 満 足 している」「いくつかの 長 所 があると 思 う」「 自 分 に 自 信 がある」「 自 分 のこ図 4.Bさんの 学 校 生 活 満 足 度 の 変 容― 50 ―


定 時 制 高 校 生 の 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因 に 関 する 一 研 究( 青 戸 泰 子 , 村 瀬 まき)図 5.Bさん「 学 校 生 活 満 足 度 尺 度 」の 変 容図 6.Bさんの 自 己 肯 定 感 の 変 容とが 好 きだ」という 項 目 に 変 化 が 見 られる。6 考 察B さんは 図 6 の 学 校 生 活 満 足 度 において,すべての 項 目 が 高 くなっていることから, 中学 よりも 高 校 の 方 が 学 校 生 活 に 対 する 満 足 度が 高 いことが 分 かる。 図 7 を 見 ても, 中 学 では「 要 支 援 群 」に 属 していたが, 高 校 では「 学校 生 活 満 足 群 」へと 変 化 している。B さんへのインタビューでキーワードとなるのは, 教 員 および 友 人 との 関 係 ,そしてアルバイトについてであろう。信 頼 関 係 を 築 ける 教 員 がいることは, 定 時制 高 校 に 限 らず 重 要 なことであるが, 特 に Bさんの 場 合 「 好 きな 先 生 の 授 業 は, 俄 然 やる気 が 出 た」と 述 べているように, 連 鎖 的 に 学習 への 意 欲 が 高 まっている。それは, 学 習 が大 半 を 占 める 学 校 生 活 への 不 適 応 感 を 緩 和 する 要 素 として, 無 視 のできないことだ。さらに, 卒 業 後 も 気 軽 に 連 絡 を 取 り 合 える 教 員 がいることは, 守 られた 場 である 定 時 制 高 校 から 開 かれた 社 会 へと 移 っていく 生 徒 たちにとって, 大 きな 支 えになっているといえる。友 人 について,B さんは「ここ( 定 時 制 )の 人 じゃなかったら, 友 達 にはなれなかった― 51 ―


岐 阜 女 子 大 学 紀 要 第 42 号 (2013. 3. )し, 学 校 も 行 けなかったかも」と 語 っている。「ここの 人 」という 表 現 は, 彼 女 の 語 りからすると「 同 じ 経 験 をした 人 」,また 何 らかの事 情 を 抱 えているという 点 で, 定 時 制 高 校 に通 う 生 徒 を 自 分 と「 同 じ」と 感 じる 視 点 があると 思 われる。 全 日 制 に 適 応 できず 定 時 制 を選 択 した 生 徒 たちの 中 で,B さんは 不 登 校 であった 自 分 を 否 定 されることなく, 周 囲 と 過去 を 語 り 合 うことができた。それは「 過 去 の自 己 や 他 者 を, 自 己 の 経 験 や 価 値 観 と 対 比 させることで 自 己 の 再 定 義 をする 様 」( 城 所 ・酒 井 ,2006)であり,その 中 で B さんは「ありのまま」の 自 分 に 対 する 肯 定 感 を 持 つようになったと 考 えられる。また,アルバイトに 関 しても,B さんは 肯定 的 である。 始 めた 動 機 こそ「 友 達 がしてたから」というものだったが, 実 際 に 働 き 始 めると 言 葉 遣 いや 上 下 関 係 など,「 先 生 と 生 徒が 友 達 のよう」な 規 則 の 緩 い 定 時 制 高 校 では学 べないことが 多 いことに 気 付 いたという。また,「 学 校 だけだとダラダラ 行 って, 帰 って」になる 生 活 も,アルバイトをすることによって「 一 週 間 のメリハリ」がついたようだ。さらに 働 いて 給 料 を 受 け 取 ることで,「 無 駄 遣いはしないよね」と, 金 銭 感 覚 が 身 についたことも 自 身 の 成 長 であると 述 べている。B さんは 定 時 制 高 校 で 自 分 と 向 き 合 い,アルバイトで 社 会 性 を 養 うというバランスのとれた 高 校 生 活 を 送 っている。つまり 学 校 内 外での 人 間 関 係 や 体 験 が, 学 校 生 活 満 足 度 および 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因 になったのではないだろうか。6. 総 合 的 考 察本 研 究 を 通 して, 定 時 制 高 校 に 通 う 生 徒 たちは 友 人 や 教 員 , 社 会 との 関 わりによって 生活 に 対 する 充 実 感 や 満 足 感 ,また 自 己 への 自信 を 持 つようになったと 考 えられる。そして,それらの 要 因 が, 自 己 肯 定 感 を 高 めるきっかけとなったのではないだろうか。文 献 研 究 により, 現 代 の 定 時 制 高 校 には,様 々な 事 情 を 抱 えて 入 学 してくる 生 徒 が 多 数いること,またその 多 くが 条 件 的 な 制 約 から定 時 制 高 校 を 選 ばざるを 得 ず,その 時 点 で 社会 的 に 低 い 評 価 を 受 けている 層 であることが分 かった。 生 徒 たちを 学 校 に 定 着 させるために 教 員 が 行 う 教 育 的 営 為 についても,すべての 学 校 で 一 律 なのではなく, 教 員 はそれぞれの 現 場 で「 守 るべき 生 徒 」と「 学 校 的 規 律 」とのジレンマを 抱 えながら 生 徒 と 向 き 合 っていることが 示 されている。そうした 環 境 づくりは, 本 研 究 において 学 校 生 活 満 足 度 が 中 学より 高 校 のほうが 有 意 に 高 いという 結 果 がからも, 一 定 の 成 果 を 収 めているのではないかと 考 えられる。事 例 研 究 では, 中 学 と 高 校 では A さん,Bさんともに 友 人 ・ 教 員 との 関 係 が 変 化 していることが 分 かった。 友 人 や 教 員 との 信 頼 関 係や 受 容 感 は, 自 己 への 自 信 にも 繋 がると 思 われ, 一 方 で B さんのように 教 員 との 良 好 な 関係 が 学 習 への 意 欲 にも 繋 がっていることを 考えれば, 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因 とは 何 かについて, 一 つに 特 定 されるものではなく, 複雑 に 絡 み 合 いながら 存 在 していると 考 えられる。 城 所 ・ 酒 井 (2006)は, 定 時 制 高 校 という 枠 組 みがもたらすものを「 編 成 資 源 」と 述べているが,これは 複 雑 な 要 素 を 内 包 する 表現 として 適 当 であるといえよう。その「 編 成資 源 」を 利 用 することで, 生 徒 たちは 自 己 に与 えられたネガティブな 定 義 を 打 ち 破 り, 新たな 意 味 づけをしていくのであろう。インタビューを 行 った A さんにとっての「 編 成 資 源 」は 主 に「 友 人 と 教 員 」,「 学 習 」そして「 部 活 動 」であった。 高 校 進 学 時 , 全日 制 が 選 択 肢 になかったというAさんは, 片― 52 ―


定 時 制 高 校 生 の 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因 に 関 する 一 研 究( 青 戸 泰 子 , 村 瀬 まき)岡 (1994)が 述 べた「 定 時 制 第 一 志 望 グループ」に 分 類 される。 片 岡 によると,「このグループは 様 々な 要 因 から 定 時 制 高 校 以 外 に 行 き 場のなかったグループであり, 彼 らにとって 定時 制 にいることは 将 来 の 希 望 のもとである」という。 彼 らは 比 較 基 準 を 外 に 求 めないことから, 教 員 や 友 人 といった「 編 成 資 源 」が 定時 制 に 対 する 意 味 づけを 補 強 する。A さんが「 定 時 制 の 学 校 生 活 が 最 も 有 効 に 機 能 する」グループであると 考 えられることから,「 編成 資 源 」も 学 校 内 を 中 心 としていると 考 えられる。 次 に,B さんにとって「 編 成 資 源 」といえるものは,「 友 人 と 教 員 」,「 学 習 」,「 部活 動 」に 加 え「アルバイト」である。 私 立 の全 日 制 高 校 も 受 験 し, 合 格 したのちに 定 時 制を 選 択 していることから,B さんは 学 力 的 には 全 日 制 に 進 学 できた 階 層 である。 不 登 校 であったとはいえ, 一 度 全 日 制 高 校 を 志 望 したという 経 歴 上 , 彼 女 はAさんと 異 なり 世 界 は外 に 向 かって 開 かれている( 片 岡 ,1994)。よって,B さんの「 編 成 資 源 」はアルバイトとして, 学 校 外 にもより 積 極 的 な 広 がりを 見 せているのではないか。以 上 のことから, 定 時 制 高 校 生 の 自 己 肯 定感 を 高 める 要 因 になり 得 るのは, 例 えば1 生徒 に 対 して「サポーティブであろうとする」教 員 の 体 制 2 豊 かな 個 性 を 持 ちながら, 根 柢で 類 似 した 経 験 を 持 つ 生 徒 集 団 3 自 由 になる時 間 などであると 考 えられる。それら 多 くの資 源 を 生 徒 たちは 自 ら 選 び 取 っていく。A さんの 場 合 はそれが 友 人 や 教 員 との 関 係 , 学 習であり,B さんはそれにアルバイトを 加 えた。城 所 ・ 酒 井 (2006)が「 学 校 や 大 人 になることの 意 味 づけは, 予 め 用 意 された 何 らかの 解釈 図 式 から 説 明 されるのではなく, 様 々な 経験 を 通 じて 各 人 が 見 出 すのであった」と 述 べているように, 生 徒 たちはもたらされる 選 択肢 に 自 己 決 定 を 繰 り 返 し,その 中 で 自 己 責 任図 7. 定 時 制 高 校 の 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因を 担 っていく。それは「 大 人 として 自 立 し,適 応 していく」ために 必 要 なプロセスといえるだろう。定 時 制 高 校 という 場 は, 西 村 (2002)が 述べたように「 不 参 加 の 自 由 」が 少 なからず 存在 する。 用 意 された 枠 組 みを, 生 徒 自 身 が「 選ばない」ことが 許 されるのだ。 生 徒 の 取 捨 選択 の 結 果 を, 教 員 をはじめ 全 体 で 認 めていこうとする 定 時 制 高 校 は, 支 援 を 必 要 とする 生徒 たちにとって 必 要 不 可 欠 な 土 壌 である。本 研 究 を 通 して 総 合 的 な 考 察 のまとめとして, 定 時 制 高 校 生 の 自 己 肯 定 感 を 高 める 要 因を 図 7 に 示 す。7.おわりに変 化 のめまぐるしい 現 代 社 会 で, 従 来 の 高校 教 育 では 対 応 しきれない 生 徒 たちを 受 け 入れ, 自 立 を 促 していく 柔 軟 な 定 時 制 高 校 の 教育 は,いまだ 同 一 性 や 固 定 制 を 持 つ 学 校 の 枠組 みが 多 い 中 , 更 なるニーズを 呼 ぶのではないかと 考 える。今 後 の 課 題 として, 対 象 者 である 定 時 制 高校 生 の 人 数 を 増 やした 検 討 およびより 多 くの事 例 を 集 め, 幅 広 い 視 点 から 自 己 肯 定 感 に 関する 要 因 について 検 討 することが 必 要 である。― 53 ―


岐 阜 女 子 大 学 紀 要 第 42 号 (2013. 3. )引 用 文 献アリスW. ホープ・スーザン M. ミッキヘル・W.エドワード . クレイグヘッド 1992 自 尊心 の 発 達 と 認 知 行 動 療 法 ― 子 どもの 自信 ・ 自 立 ・ 自 主 性 を 高 める― 高 山 巌 ( 監訳 ) 岩 崎 学 術 出 版 社星 野 命 1970 感 情 の 心 理 と 教 育 児 童 心 理24,1264―1283久 芳 美 恵 子 ・ 齊 藤 真 沙 美 ・ 小 林 正 幸 高 校 生 の自 己 肯 定 感 と 性 受 容 に 関 する 研 究 ― 社 会 的性 意 識 と 父 母 像 との 関 連 ―片 岡 栄 美 1994 学 校 世 界 とスティグマ― 定 時 制 高 校 における 社 会 的 サポートと 学 校 世界 への 意 味 付 与 ― 関 東 学 院 大 学 人 文 科 学研 究 報河 村 茂 雄 1999 生 徒 の 援 助 ニーズを 把 握 するための 尺 度 の 開 発 ― 学 校 生 活 満 足 度 尺 度( 高 校 生 用 )の 作 成 ― 岩 手 大 学 教 育 学 部研 究 年 報 第 59 巻 第 1 号河 村 茂 雄 1999 生 徒 の 援 助 ニーズを 把 握 するための 尺 度 の 活 用 ( 高 校 生 用 ) 岩 手 大 学 教育 学 部 研 究 年 報 第 59 巻 第 2 号松 井 賢 二 ・ 佐 藤 優 子 2000 中 学 生 の 学 校 適 応と 進 路 (キャリア) 成 熟 , 自 己 肯 定 感 との関 係 新 潟 大 学 教 育 人 間 科 学 部 紀 要 3(1),157―166城 所 章 子 ・ 酒 井 朗 2006 夜 間 定 時 制 高 校 生 の自 己 の 再 定 義 過 程 に 関 する 質 的 研 究 ―「 編成 資 源 」を 手 がかりに― 教 育 社 会 学 研 究 第78 集西 村 貴 之 2002 いま, 定 時 制 高 校 は 青 年 にとってどんな 場 か 教 育 科 学 研 究 会 編 国土 社高 垣 忠 一 郎 2004 生 きることと 自 己 肯 定 感新 日 本 出 版 社田 中 道 弘 2005 自 己 肯 定 感 尺 度 の 作 成 と 項 目の 検 討 人 間 科 学 論 究 第 13 号― 54 ―

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