Listener - 極東書店

文 芸 誌 としての Listener
Listener は 新 人 作 家 の 発 掘 でも 大 きな 役 割 を 果 たしましたが、これは 文 芸 欄 の 編 集 者 J.R. Ackerley の 功 績 に 帰 せ
られると 言 われています。Listener に 作 品 を 発 表 した 夥 しい 数 に 上 る 作 家 の 中 には、W.H. オーデン, S.プラス, C. イ
シャーウッド, S. スペンダー, P. ラーキンらがいます。また Listener は、 詩 人 の 新 作 を 掲 載 したことでもよく 知 ら
れています。 新 作 の 詩 とこれに 対 する 作 家 の 批 評 を 読 むことで、 詩 が 公 表 された 時 の 文 脈 を 発 見 することができ
るでしょう。BBC が 放 送 する 教 養 番 組 の 一 つに 作 家 へのインタビューがありますが、Listener はインタビューのス
クリプトを 多 数 掲 載 しました。1950 年 代 のキングズリー・エイミス, 1960 年 代 のナボコフ, 1970 年 代 の I.マキュー
アンのものが 代 表 的 なものです。
ソルジェニーツィンへの 国 外 追 放 後 初 めてのテレビインタビューも Listener に 掲 載 されました。これらは 作 家 の
伝 記 にとっての 貴 重 な 資 料 であるとともに、インタビューの 中 で 引 き 出 される 作 家 の 生 の 声 は、その 作 品 を 理 解
する 鍵 を 提 供 するでしょう。Listener の 作 家 として、E.M. フォースターの 名 前 を 忘 れることはできません。
1930 年 頃 から 1970 年 頃 まで 40 年 間 に 亘 るフォースターの Listener での 批
評 は、 書 下 ろしの 書 評 から、BBC ラジオ 番 組 での 作 家 論 、『インドへの 道 』
刊 行 25 周 年 を 機 に 再 訪 したインド 紀 行 など 多 方 面 に 及 びます。さらに、
Listener には 多 くの 批 評 作 品 が 掲 載 されました。 後 に『 言 語 と 沈 黙 Language
and Silence」』に 収 録 される 批 評 家 ジョージ・スタイナーの『 言 葉 からの 退 却
(The Retreat from the Word)』は、BBC の 第 三 プログラムで 放 送 されたものが
Listener に 二 回 に 亘 り 掲 載 されたのが 初 出 です。その 他 、『 青 髭 の 城 にて(In
Bluebeard’s Castle)』など、スタイナーの 重 要 テキストが Listener には 掲 載 さ
れています。
政 治 、 経 済 から 科 学 技 術 、 文 学 、 芸 術 、 大 衆 文 化 、 宗 教 、 旅 行 、
料 理 、ガーデニングまで 広 範 なテーマ
Listener が 掲 載 したのは 書 評 や 文 芸 関 係 の 記 事 だけではありません。BBC の 放 送 番 組 の 多 様 さがそのまま
Listener の 記 事 の 多 様 さになっています。 国 民 医 療 サービス(NHS)の 開 始 を 告 げるアトリー 首 相 の 国 民 向 け 演 説 、
経 済 学 者 ケインズの 時 論 、 物 理 学 者 ロバート・オッペンハイマーの 講 義 、 美 術 史 家 ケネス・クラークの 記 念 碑 的
「 文 明 」シリーズ 講 義 、 動 物 学 者 デヴィッド・アッテンボローの 講 義 など、 広 範 なテーマに 及 びます。
人 々がどのように 戦 争 に 動 員 されたか
「 戦 時 下 のメディア」 研 究 の 恰 好 の 資 料
第 二 次 世 界 大 戦 は、 参 戦 した 各 国 では 前 線 の 兵 士 だけでなく 銃 後 の
国 民 も 戦 時 統 制 に 組 み 込 まれ、 国 民 総 力 を 挙 げて 戦 われた 総 力 戦 とし
て 知 られています。もちろん、メディアも 戦 時 統 制 下 に 置 かれました。
1936 年 に 始 められたテレビ 放 送 が 国 防 上 の 理 由 から 中 断 させられる
と、BBC ラジオが 情 報 のライフラインとしてイギリスの 国 民 生 活 を 支
える 上 で 大 きな 役 割 を 果 たしました。
BBC は 対 外 宣 伝 放 送 に 知 識 人 をはじめ 多 くの 人 々を 動 員 しました
が、 中 でもジョージ・オーウェルの 活 動 はよく 知 られているところで
す。Listener にはオーウェルの BBC ラジオ 放 送 番 組 のスクリプトが 掲
載 されています。また BBC は、 疎 開 児 童 向 けに 教 育 番 組 を 提 供 する
ことで 教 材 の 不 足 を 補 い、 一 般 市 民 の 生 活 に 役 立 つ 番 組 を 提 供 するこ
とで 物 資 や 食 糧 の 欠 乏 を 補 いました。 一 例 を 挙 げると、1940 年 に
Listener で 始 まった”The Housewife in War Time”は 主 として 料 理 のレシピを 提 供 するコラムで 毎 週 掲 載 されました
が、 戦 後 は”Advice for the Housewife”, “Recipes for the Housewife”, “Broadcast Suggestions for the Housewife”と 名 称 を
変 更 し、Listener の 長 期 連 載 記 事 になりました。
メディア、イギリス 史 、イギリス 文 学 の 研 究 者 のための 資 料
Listener が BBC のラジオ、テレビ 番 組 に 基 づいて 刊 行 されたことを 考 えると、メディア、マスコミの 研 究 者 が
主 要 な 利 用 者 として 考 えられますが、 先 に 述 べた 通 り、BBC が 国 内 ではイギリス 人 の 生 活 に 深 く 根 付 き、 対 外 的
にはイギリスブランドを 象 徴 する 存 在 として 表 象 され、また Listener という 雑 誌 が 極 めてイギリス 的 な 雑 誌 である
ことを 考 えると、「イギリス( 人 )とは 何 か」、「イギリス 史 ( 文 化 、 文 学 )とは 何 か」、という 問 いを 潜 在 的 に 発
する 学 問 であるイギリス 史 、 並 びにイギリス 文 学 の 研 究 者 が、Listener の 本 来 の 読 者 である 言 えるでしょう。
The Listener Historical Archive 1929-1991
株 式 会 社 極 東 書 店