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きりつぼ いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひ ... - Penguin Group

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が身はか弱く、ものはかなきありさまにて、なかなかなるもの思ひをぞしたま<br />

ふ。<br />

御局は桐壼なり。あまたの御方々を過ぎさせたまひて、隙なき御前渡りに、人<br />

の御心を尽くしたまふも、げにことわりと見えたり。参う上りたまふにも、あ<br />

まりうちしきるをりをりは、打橋渡殿のここかしこの道に、あやしきわざをし<br />

つつ、御送り迎への人の衣の裾、たへがたく、まさなきこともあり。またある<br />

時には、え避らぬ馬道の戸を鎖しこめ、こなたかなた、心を合はせて、はした<br />

なめわづらはせたまふ時も多かり。事にふれて、数知らず苦しきことのみまさ<br />

れば、いといたう思ひわびたるを、いとどあはれと御覧じて、後涼殿にもとよ<br />

りさぶらひたまふ更衣の曹司を、ほかに移させたまひて、上局に賜はす。その<br />

恨みましてやらむ方なし。<br />

この皇子三つになりたまふ年、御袴着のこと、一の宮の奉りしに劣らず、内蔵<br />

寮納殿の物を尽くして、いみじうせさせたまふ。<br />

それにつけても、世のそしりのみ多かれど、この皇子のおよすけもておはする<br />

御容貌心ばへ、ありがたくめづらしきまで見えたまふを、えそねみあへたまは<br />

ず。ものの心知りたまふ人は、かかる人も世に出でおはするものなりけりと、<br />

あさましきまで目を驚かしたまふ。<br />

その年の夏、御息所、はかなき心地にわづらひて、まかでなんとしたまふを、<br />

暇さらにゆるさせたまはず。年ごろ、常のあつしさになりたまへれば、御目馴<br />

れて、「なほしばしこころみよ」とのみのたまはするに、日々に重りたまひて<br />

、ただ五六日のほどに、いと弱うなれば、母君泣く泣く奏して、まかでさせた<br />

てまつりたまふ。かかるをりにも、あるまじき恥もこそと、心づかひして、皇<br />

子をば止めたてまつりて、忍びてぞ出でたまふ。<br />

限りあれば、さのみもえ止めさせたまはず、御覧じだに送らぬおぼつかなさを<br />

、言ふ方なく思ほさる。いとにほひやかに、うつくしげなる人の、いたう面痩<br />

せて、いとあはれとものを思ひしみながら、言に出でても聞こえやらず、ある<br />

かなきかに消え入りつつ、ものしたまふを、御覧ずるに、来し方行く末思しめ<br />

されず、よろづのことを、泣く泣く契りのたまはすれど、御答へもえ聞こえた<br />

まはず。まみなどもいとたゆげにて、いとどなよなよと、われかの気色に臥し<br />

たれば、いかさまにと思しめしまどはる。輦車の宣旨などのたまはせても、ま<br />

た入らせたまひて、さらにえゆるさせたまはず。<br />

「限りあらむ道にも、後れ先立たじと、契らせたまひけるを。さりともうち棄<br />

てては、え行きやらじ」とのたまはするを、女もいといみじと見たてまつりて<br />

、「かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけりいとかく思ひた<br />

まへましかば」と息も絶えつつ、聞こえまほしげなることはありげなれど、い<br />

と苦しげにたゆげなれば、かくながら、ともかくもならむを御覧じはてむ、と<br />

思しめすに、「今日はじむべき祈祷ども、さるべき人々うけたまはれる、今宵

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