木質バイオマスガス化試験の概要について - 九州大学演習林

木質バイオマスガス化試験の概要について
西日本環境エネルギー㈱ 新規事業推進部 辻本敬吾 原田達朗
九州電力㈱ 総合研究所 新エネルギーG 下河義秀 石井日出男
1. はじめに
近年,化石燃料の枯渇や地球温暖化が懸念される中,再生可能でカーボンニュートラルなエネ
ルギー源としてバイオマスが注目されている。特に木質バイオマスは,国内資源が豊富であるこ
とから,電力等への高効率エネルギー変換技術の確立が求められている。
木質バイオマス燃焼ボイラ・蒸気タービン発電方式の場合,効率向上には,木質バイオマスの
大規模な収集による大型化が必要となる。しかし,木質バイオマスは薄く広く散在しているため,
大規模な収集は困難であることが多い。よって,大規模な収集を必要とせずかつ高効率なエネル
ギー変換技術として小型木質バイオマスガス化・内燃機関発電方式の開発が期待されている。
平成 14 年度に(財)福岡県環境保全公社リサイクル総合研究センターを中心に,九州大学新
キャンパスへの小型木質バイオマスガス化発電システムの適用性等について FS を実施した。
本 FS 成果を基に,平成 15 年度から九州電力㈱,西日本環境エネルギー㈱は,NEDO 技術開発
機構との共同研究として,ガス化炉本体およびガス化装置システム設計,実証機製作・九州大学
農学部付属演習林内への据付・実証試験等を実施している。
2. 試験装置
ガス化炉の型式は,上部密閉型二重管式噴流床である。
本型式は,①比重の異なる流動媒体と木材チップの流動
が可能,②流動媒体の循環部分のガス流速が非常に小さ
いため,ガス化反応に要する時間が十分に得られる,等の
利点がある。(図 1)
上部密閉型二重管式噴流床の原型および基本計画(仕
様)(表 1)を基に,木質バイオマスのガス化に適したガ
ス化炉本体構造等について小型模型等を用いて検討した。
さらに,ガス化炉本体の他,木材投入装置,熱交換器,
ファン・ブロア,集塵器,温水ボイラ,温室等を製作し,
九州大学農学部付属演習林内へ据付けた。(図 2)
表 1 基本計画(仕様)
温室
温水ボイラ
熱交換器,ファン・
ブロア,集塵器
図 1 上部密閉型二重管式噴流床の構造
制御室
図 2 試験装置立面図
ガス化炉本体
木材投入装置
3. 実証試験
原料となる木材チップは福岡県内の廃木材処理業者より購入した。廃木材であるため,比較
的水分が少なく,発熱量が大きいことが特徴として挙げられる。(表 2)
ガス化炉内温度 600℃以上まで昇温後,木材チップを投入し,ガス化試験を行った。しかし,ガ
ス化炉昇温後,ガス化炉内の流動媒体の流動が殆ど停止する不具合が発生した。流動が殆ど停止
した状態で,木材チップを投入したが,木材チップはガス化炉下部方向へ殆ど循環せず,ガス化炉

上部に堆積し,ガス化炉内温度の上下方向の温度
差が大きくなった。
流動が殆ど停止した状態で木材チップを投
入し,発生ガスを採取・分析した。別に実施し
た小型試験機の結果と比較すると,水素,一酸
化炭素が少なく,二酸化炭素,窒素が多いため,
発熱量は低くなった。(表 3)
現在,流動媒体の流動を改善するため,ガス
化炉の調整を行い,安定的なガス化運転の確立,
連続運転を目指した試験を実施中である。
今後,本課題を解決し,効率的なガス化条件
(木材組成・投入量,空気量,温度等)
を検討・評価する予定である。
4. 発生ガス有効利用に関する試算
本試験装置では,ガス化技術確立に重
点を置いているため,発電機は設置して
いない。将来,発電機(ガスエンジン,
マイクロガスタービン,ディーゼルエン
ジン,燃料電池)を設置する場合を想定
し,電気出力,熱出力,発電効率等を試
算した。
試験装置より発生するガス
の発熱量は 4.8MJ/Nm 3 (約 1100kcal/Nm 3 )
程度の低カロリーガスと想定されるため,
発生ガス単独では内燃機関の駆動は困難
である。よって,LPG を発生ガス
に加え,発熱量を大きくした場
合(ガスエンジン,マイクロガ
スタービン)および着火用の軽
油を供給した場合(ディーゼル
エンジン),低カロリーガスで発
電可能な燃料電池が開発された
場合を想定した。
試算結果は,電気出力は約 50
~60kW,熱出力は約 50~110kW,
発電効率は約 18~29%となり,組
合せにより特に熱出力が大きく
異なることがわかった。(図 3)
適用先の電力需要・熱需要,保
有設備等に応じて, ガス化装置
とガスエンジン,マイクロガス
タービン,ディーゼルエンジン,
燃料電池との最適の組合せを選
出力(kW)
120
100
80
60
40
20
0
発生ガス寄与率:66%
発電効率:22%
表 2 木材チップ組成・発熱量分析結果
表 3 発生ガス分析結果
発生ガス寄与率:66%
発電効率:18%
発生ガス寄与率:80%
発電効率:24%
電気出力
熱出力
発生ガス寄与率:100%
発電効率:29%
ガスエンジン マイクロガスタービン ディーゼルエンジン 燃料電池(SOFC)
注)図中の発生ガス寄与率は,全入熱量に対する
発生ガス熱量の割合を示す。
図 3 発生ガス有効利用試算結果
択することが必要となる。今後,ガスエンジン,マイクロガスタービン,ディーゼルエンジンに
ついて,具体的な機種を調査・選定する予定である。
5. 謝辞
本実証試験は, 九州大学農学部付属演習林の関係各位の支援を受け,NEDO 技術開発機構との
共同研究「バイオマスエネルギーを活用した未来型キャンパスの創造事業」として実施したもの
である。ここに記して謝意を表す。