2011 年度森基金成果活動報告書 - 慶應義塾大学SFC研究所
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<strong>2011</strong> 年 度 森 基 金 成 果 活 動 報 告 書<br />
慶 應 義 塾 大 学 政 策 ・メディア 研 究 科 修 士 課 程 2 年<br />
81024253 江 口 洋 喜<br />
研 究 テーマ:「 海 外 におけるソーシャルビジネスへの 個 人 出 資 者 の 属 性 及 び 阻 害 要 因 の 抽<br />
出 と 提 案 」<br />
1. はじめに<br />
1-1. 論 文 における 用 語<br />
• ソーシャルビジネス: 環 境 問 題 や 貧 困 問 題 といった 社 会 的 な 課 題 を、 収 益 を 挙 げな<br />
がら 解 決 を 目 指 す 事 業<br />
• 市 民 出 資 : 直 接 金 融 という 手 法 を 通 して 社 会 問 題 の 解 決 を 目 指 す 事 業 。 例 として、<br />
環 境 では 自 然 エネルギーの 普 及 推 進 や 森 林 保 護 事 業 を 進 めるファンドがある<br />
1-2. 問 題 意 識 、 背 景<br />
■ 社 会 貢 献 を 志 向 する 風 土 の 醸 成 (CSR)<br />
・ 企 業 :インパクト・インベストメント( 財 務 的 な 収 益 を 生 み 出 すとともに、 社 会 的 課 題<br />
や 環 境 問 題 の 解 決 を 目 指 す 投 資 )、ボランティア( 植 林 、 震 災 復 興 )<br />
・ 個 人 : 社 会 への 貢 献 意 識 は 過 去 最 高<br />
( 内 閣 府 「 社 会 貢 献 に 関 する 意 識 調 査 」)<br />
■ 貧 困 問 題 と 環 境 問 題 ( 人 口 増 加 と 貧 困 撲 滅 → 資 源 の 開 発 → 環 境 悪 化 )<br />
2. 目 的<br />
世 界 全 体 の 問 題 として 環 境 問 題 や 途 上 国 の 貧 困 問 題 が 挙 げられる。これらの 問 題 を 解 決<br />
するためには、 政 府 や 国 際 機 関 のみならず、 企 業 や 個 人 が 協 力 して 取 り 組 むことが 重 要 で<br />
ある。 現 に 世 界 的 な 課 題 を 解 決 する 手 法 として、BOP ビジネスを 代 表 に、 民 間 企 業 と 個 人<br />
が 中 心 となった 方 法 が 注 目 されている。 本 修 士 研 究 では、 途 上 国 の 貧 困 問 題 の 解 決 という<br />
目 標 に 関 して 個 人 出 資 に 着 目 した。 本 修 士 研 究 の 目 的 は 今 後 、 個 人 出 資 の 市 場 を 拡 大 する<br />
にあたり 個 人 出 資 者 の 出 資 動 機 及 び、その 出 資 阻 害 要 因 を 明 らかにすることである。<br />
3. 市 民 出 資 に 着 目 する 理 由<br />
1 途 上 国 支 援 を 取 り 巻 く 環 境 の 変 化<br />
• 政 府 : 財 政 状 況 の 悪 化 (ODA 予 算 の 減 少 )<br />
• 民 間 企 業 : 支 援 が 必 要 な 層 に 手 が 届 いていない、 途 上 国 進 出 リスク(カントリー、<br />
為 替 )<br />
• NGO/NPO: 上 記 の 穴 を 埋 める 存 在 として 重 要 だが、 資 金 難
⇒インパクト・インベストメント 志 向 した 債 権 の 発 行 数 は 年 々 増 加 と 投 資 家 割 合 は 機 関 投<br />
資 家 12%、 個 人 投 資 家 88%であり、 資 金 の 出 し 手 としての 個 人 に 着 目<br />
2 日 本 の 個 人 金 融 資 産 の 活 用<br />
図 表 1 からわかるように、 日 本 の 個 人 金 融 資 産 はここ 数 年 約 1500 兆 円 で 推 移 しており、<br />
この 資 産 を 活 用 しようと 政 府 も 様 々な 政 策 を 立 てている。<br />
図 表 1. 日 本 の 個 人 金 融 資 産 残 高 の 推 移<br />
4. 市 民 出 資 事 業 者 が 抱 える 課 題<br />
( 出 典 : 日 本 銀 行 )<br />
4-1. 市 民 出 資 事 業 者 が 抱 える 課 題<br />
図 2. 市 民 出 資 事 業 者 が 抱 える 課 題<br />
日 本<br />
• 認 知 度<br />
• 資 金<br />
• 人 材<br />
外 国<br />
• 認 知 度<br />
• 投 資 先 の 選 定<br />
• 資 金<br />
国 内 、 海 外 におけるソーシャルビジネスを 行 う 事 業 者 の 主 要 な 課 題 は 上 記 の 図 の 通 りで<br />
ある。これらの 課 題 を 比 較 すると、 第 一 に 国 内 、 海 外 でも 一 般 消 費 者 の 認 知 度 が 低 いこと、<br />
そして 第 二 に 認 知 度 が 低 いことが 一 因 で 事 業 に 資 金 が 集 まりにくく、 資 金 不 足 という 課 題
を 抱 えていると 言 える。 第 三 に 認 知 度 の 低 さは 資 金 に 余 裕 がないことから 広 報 費 に 資 金 を<br />
回 すことができず、 認 知 度 を 上 げる 方 策 を 講 ずることができないという 悪 循 環 が 発 生 して<br />
いる、と 話 す 事 業 者 もいた。<br />
これらの 課 題 比 較 から 日 本 、 海 外 を 問 わずソーシャルビジネスを 推 進 していくためには<br />
資 金 面 での 課 題 を 解 決 することが 肝 要 である。<br />
4-2. 市 民 出 資 事 業 者 が 抱 える 資 金 面 の 課 題<br />
1 事 業 には 数 億 円 の 資 金 が 必 要 ( 運 営 費 、 設 備 費 )<br />
2 現 状 では、 社 会 的 事 業 の 担 い 手 には NPO 法 人 が 多 く 含 まれるが、これらの 組 織 は 信 用<br />
保 証 制 度 の 対 象 外 となるケースが 多 い<br />
3 融 資 の 限 度 額 は 数 100 万 年 ~5000 万 円<br />
⇒ 公 的 機 関 、 民 間 金 融 機 関 以 外 からの 資 金 調 達 が 必 要<br />
5. 先 行 研 究<br />
1「 市 民 風 車 に 誰 が 出 資 したのか?- 市 民 風 車 出 資 者 の 比 較 調 査 -」( 京 都 教 育 大 学 )<br />
→ 出 資 者 の 動 機 に 関 しては「 環 境 運 動 因 子 」、「My 風 車 因 子 」、「 経 済 因 子 」の 3 つ<br />
2「 自 然 エネルギー 事 業 への 出 資 における 非 金 銭 的 投 資 誘 因 の 可 視 化 」( 慶 應 義 塾 大 学 修<br />
士 論 文 )<br />
→「 環 境 貢 献 への 関 与 」、「 地 域 との 連 帯 感 」、「 日 常 生 活 の 意 味 づけ」の 3 つ<br />
⇒ 上 記 の 2 つの 先 行 研 究 は 国 内 の 市 民 出 資 動 機 を 明 らかにしたもので、 海 外 の 市 民 出 資 動<br />
機 を 明 らかにした 先 行 研 究 はない<br />
6. 仮 説<br />
海 外 におけるソーシャルビジネスへの 個 人 出 資 者 の 出 資 動 機 は1 金 銭 的 配 当 、2 成 果 の 可<br />
視 化 、3 社 会 貢 献 である<br />
7. アンケート<br />
7-1. 仮 説 を 基 にした 商 品 設 計
金 融 商 品 1 金 融 商 品 2 金 融 商 品 3<br />
1 口 価 格 :50000 円 、 元 本 保 証 なし、 為 替 リスクを 事 業 者 が 負 うこ<br />
共 通 点<br />
と、 天 候 リスクあり<br />
配 当 利 回 り 5% 1% 1%<br />
出 資 者 特 典<br />
現 地 への 効 果<br />
金 銭 的 配 当<br />
特 に 明 記 なし<br />
・ 現 地 で 生 産 した<br />
製 品<br />
・ 現 地 ツアーへの<br />
参 加 権<br />
特 に 明 記 なし<br />
金 銭 的 配 当<br />
・ 子 どもたちの 学<br />
習 機 会 の 増 加<br />
・ 屋 内 の 大 気 清 浄<br />
化 及 び、 住 民 の 健<br />
康 状 態 改 善<br />
・ JICAとの 共 同 事<br />
業 であり、 現 地 の<br />
広 範 囲 に 影 響 を 及<br />
ぼすことができる<br />
7-2. アンケート 概 要<br />
・ 方 法 :インターネット 及 び 紙 によるアンケート 用 紙 の 配 布 及 び 集 計<br />
・ 有 効 回 答 数 :157<br />
・アンケート 結 果 を 基 に、 各 属 性 ( 性 別 、 世 帯 年 収 、 投 資 経 験 など)ごとの 資 金 供 給 意 欲<br />
を 測 定 するにあたり 以 下 の 方 法 を 用 いた。「 出 資 」、「 寄 付 」、「 出 資 、 寄 付 ともに 興 味<br />
がある」:2 点 、「 資 金 を 出 さないが 条 件 次 第 では 出 資 に 興 味 がある」、「 資 金 を 出 さない<br />
が 条 件 次 第 では 寄 付 に 興 味 がある」を 1 点 とし、 点 数 に 人 数 を 乗 じた 数 を 総 得 点 とした。<br />
7-3. アンケート 結 果
図 表 3. 各 属 性 のアンケート 結 果 まとめ<br />
世 帯 収 入<br />
寄 付 経 験<br />
東 日 本 大 震 災 へ<br />
の 寄 付 経 験<br />
ボランティア 経<br />
験<br />
東 日 本 大 震 災 へ<br />
のボランティア<br />
経 験<br />
投 資 経 験<br />
市 民 出 資 への 出<br />
資 経 験<br />
年 代<br />
出 資 意 向 寄 付 意 向 出 資 の 阻 害 要 因<br />
・ 低 所 得 者 層 :プロ<br />
ジェクト1<br />
・ 中 所 得 者 層 :プロ<br />
ジェクト1<br />
・ 高 所 得 者 層 :プロ<br />
ジェクト3<br />
寄 付 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らずプロジェクト1<br />
寄 付 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らずプロジェクト1<br />
ボランティア 経 験 の 有<br />
無 に 関 わらずプロジェ<br />
クト1<br />
ボランティア 経 験 の 有<br />
無 に 関 わらずプロジェ<br />
クト1<br />
投 資 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らず、プロジェクト2<br />
プロジェクト3<br />
寄 付 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らずプロジェクト3<br />
寄 付 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らずプロジェクト2<br />
ボランティア 経 験 の 有<br />
無 に 関 わらずプロジェ<br />
クト3<br />
ボランティア 経 験 の 有<br />
無 に 関 わらずプロジェ<br />
クト3<br />
投 資 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らず、プロジェクト1<br />
出 資 経 験 なし:プロ 出 資 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
ジェクト1<br />
らず、プロジェクト3<br />
・40 代 以 外 :プロジェ ・10 代 以 外 :プロジェ<br />
クト1<br />
クト3<br />
・40 代 :プロジェクト3 ・10 代 :プロジェクト<br />
1、プロジェクト2<br />
・プロジェクト1:ど<br />
の 所 得 者 層 も 資 金 に 余<br />
裕 がないこと<br />
・プロジェクト2: 事<br />
業 者 や 事 業 自 体 の 信 頼<br />
性 のないこと<br />
・プロジェクト3: 資<br />
金 面 の 余 裕 と 事 業 者 の<br />
信 頼 性 がないこと<br />
寄 付 経 験 の 有 無 に 関 わ<br />
らず 資 金 面 の 余 裕 のな<br />
さや 事 業 者 の 信 頼 性 、<br />
貧 困 問 題 に 関 心 がない<br />
こと。<br />
判 断 できず<br />
ボランティア 経 験 の 有<br />
無 に 関 わらず、 資 金 に<br />
の 余 裕 と 事 業 者 の 信 頼<br />
性 がないこと。<br />
判 断 できず<br />
・ 投 資 経 験 がある 層 :<br />
資 金 の 余 裕 と 事 業 者 の<br />
信 頼 性 がないこと。<br />
・ 投 資 経 験 がない 層 :<br />
資 金 の 余 裕 、 事 業 者 の<br />
信 頼 性 、 元 本 が 保 証 さ<br />
れていないこと。<br />
判 断 できず<br />
判 断 できず<br />
潜 在 的 出 資 層 へ<br />
の 有 効 策<br />
条 件 付 き 出 資 を<br />
考 えている 層 を<br />
出 資 層 にするに<br />
は、1 口 5000 円 の<br />
出 資 を 可 能 に<br />
し、 償 還 期 間 を<br />
短 くすることが<br />
有 効 である。<br />
条 件 付 き 出 資 を<br />
考 えている 層 を<br />
出 資 層 にするに<br />
は、1 口 5000 円 ~<br />
10000 円 からの 出<br />
資 を 可 能 にし、<br />
配 当 を3~5%に<br />
することが 有 効<br />
である。<br />
条 件 付 き 出 資 層<br />
が 出 資 層 に 移 行<br />
するかを 調 査 す<br />
るには、 回 答 数<br />
の 間 に 差 が 少 な<br />
いため 判 断 でき<br />
なかった。<br />
ボ ラ ン テ ィ ア 経<br />
験 がある 層 :1 口<br />
の 価 格 を10000 円<br />
円 未 満 、 配 当 を3<br />
~5%、 償 還 期 間<br />
を 3 年 に す る こ<br />
と。<br />
ボランティア 経<br />
験 がない 層 : 求<br />
める 条 件 の 趣 向<br />
が 多 様 のため 判<br />
断 できず。<br />
判 断 できず<br />
・ 投 資 経 験 があ<br />
る 層 : 配 当 を3~<br />
5%、 償 還 期 間 を<br />
3~5 年 もしくは<br />
現 状 維 持 にする<br />
こと<br />
・ 投 資 経 験 がな<br />
い 層 : 求 める 条<br />
件 の 趣 向 が 多 様<br />
のため 判 断 でき<br />
ず。<br />
判 断 できず<br />
判 断 できず
8. 考 察 と 提 案<br />
8-1. 商 品 設 計<br />
1 経 済 的 な 配 当 が 良 いプロジェクトに 対 しては 出 資 を 募 り、 社 会 貢 献 性 が 高 いプロジェク<br />
トに 対 しては 寄 付 を 募 ることが 有 効<br />
2 条 件 付 きで 出 資 を 考 えている 層 を 出 資 層 に 移 行 させるには1 口 の 価 格 を 10000 円 未 満 に<br />
することと、 配 当 を 3~5%に 設 定 することが 有 効<br />
8-2. 事 業 者<br />
1 口 あたりの 価 格 を 抑 えると 出 資 意 向 が 増 加 するが、その 分 諸 経 費 とのバランスで 事 業 費 が<br />
増 大<br />
⇒ 広 い 層 から 出 資 を 募 ることや、インターネットで 商 品 の 説 明 やファンドの 購 入 などの 手<br />
続 きができるようにすること、 及 び 事 業 を 運 営 するにあたりボランティアや 寄 付 を 活 用 す<br />
ることが 有 効<br />
8-3. 政 策<br />
1 国 や 自 治 体 からの 支 援 : 銀 行 からの 借 り 入 れが 困 難 なため 補 助 金 や 受 託 事 業 が 必 要 。ま<br />
たアンケートの 結 果 からも 望 む 声 が 多 い。 知 名 度 が 未 だに 低 い 現 状 を 考 えると、JICA など<br />
と 提 携 してセミナーを 開 催 すれば、 知 名 度 の 向 上 にも 寄 与<br />
2 二 国 間 排 出 権 取 引 制 度 の 創 設<br />
3 税 の 控 除 : 寄 付 税 の 引 き 下 げ、 事 業 にかかる 税 の 免 除<br />
9. 今 後 の 課 題<br />
今 回 は 資 金 面 の 課 題 を 主 に 取 り 上 げたが、アンケート 結 果 から 抽 出 されたように、 事 業<br />
者 や 事 業 自 体 の 信 頼 性 をいかに 高 めるか、という 課 題 が 挙 げられる。
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