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宮城県及び山形県におけるジュズダマ探索・収集

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原 著 論 文<br />

〔 植 探 報 Vol. 28 : 59 ~ 69,2012〕<br />

宮 城 県 及 び 山 形 県 におけるジュズダマ 探 索 ・ 収 集<br />

本 田 裕<br />

東 北 農 業 研 究 センター 畑 作 園 芸 研 究 領 域<br />

Exploration of Job’s tears Genetic Resources in Miyagi and<br />

Yamagata Prefectures<br />

Yutaka HONDA<br />

Field crop and Horticulture Research Division, NARO Tohoku Agricultural Research Center,<br />

4 Akahira, Shimokuriyagawa, Morioka, Iwate 020-0198, Japan.<br />

Summary<br />

Exploration for local varieties of Job’s tears was undertaken on Miyagi and Yamagata<br />

prefectures to utilize as genetic resources for improvement of edible Job’s tears. The exploration<br />

was conducted intermittently from June to October in these prefectures. A total of 10 samples<br />

of Job’s tears and two samples of edible Job’s tears were collected for conservation.<br />

Job’s tears are used as stuffing material for bean bags, Chinese medicine and flowers for<br />

the tea ceremony. Job’s tears is faced to crisis of extinction because the ridges of paddy fields<br />

are cleaned by herbicide or cutters. The systematic exploration of Job’s tears is needed.<br />

KEY WORDS : Job’s tears, edible Job’s tears, bean bags, Chinese medicine, Yamagata, Miyagi<br />

1.はじめに<br />

山 形 県 小 国 町 の 伝 承 に「ジュズダマを 植 えると 病 人 が 絶 えない」とある 1) .そして, 植 物 図 鑑<br />

のジュズダマの 生 息 地 は 本 州 以 南 の 水 辺 とある 2) . 東 北 地 方 のジュズダマの 報 告 例 は 極 めて 少 な<br />

く,その 存 在 について 十 分 に 理 解 されていないのが 現 状 である 3) .<br />

ジュズダマ(Coix lacryma-jobi var. lacryma-jobi)は,ハトムギ(C. lacryma-jobi subsp. mayuen)の<br />

祖 先 種 と 考 えられていたが, 最 近 の 報 告 によれば,ジュズダマ 属 には 7 種 の 植 物 があり<br />

(Table 1),ジュズダマ 種 は 3 つの 変 種 (ジュズダマ,モニリファ 変 種 ,ステノカルパ 変 種 ) 及<br />

び 1 つの 亜 種 (ハトムギ)により 構 成 されている.ハトムギのみが 栽 培 種 であり,ジュズダマ<br />

を 含 めた 他 6 種 は 野 生 植 物 として 分 類 されている 4) .<br />

ジュズダマはハトムギと 交 配 可 能 な 種 であり, 現 在 のハトムギの 品 種 改 良 は 中 里 在 来 , 黒 石 在<br />

来 , 岡 山 在 来 等 の 数 少 ない 在 来 集 団 より 出 発 しているため, 育 種 素 材 が 圧 倒 的 に 不 足 している.<br />

- 59 -


Table 1. Botanical classification in/Coix /genera.<br />

表 1.ジュズダマ 属 の 分 類<br />

学 名 呼 び 方 雄 花 の 特 徴<br />

雌 花 ( 種 子 ) の 特 徴<br />

かたさ<br />

形<br />

Coix aquatica アクアティカ 種 翼 が 大 きい かたい 楕 円 形<br />

Coix gigantea ギガンティア 種 翼 が 大 きい かたい 楕 円 形<br />

Coix puellarum プエラルム 種 翼 が 小 さい かたい 球 形<br />

Coix lacryma-jobi var. lacryma-jobi ジュズダマ 種 翼 が 小 さい かたい 楕 円 形<br />

var. monilifer モニリファ 変 種 翼 が 小 さい かたい 球 形<br />

var. stenocarpa ステノカルパ 変 種 翼 が 小 さい かたい びん 形 , 円 筒 形<br />

subsp. ma-yuen ハトムギ 種 翼 が 小 さい やわらかい 楕 円 形<br />

資 料 : 落 合 (2005) を 加 筆 修 正<br />

その 反 面 , 生 産 者 からは, 葉 枯 れ 病 や 黒 穂 病 抵 抗 性 品 種 の 開 発 要 望 が 強 い. 国 内 に 広 く 適 応 し,<br />

生 育 可 能 なジュズダマは,ハトムギ 育 種 の 遺 伝 資 源 , 育 種 素 材 として, 今 一 度 見 直 すべき 対 象 で<br />

ある.<br />

一 方 , 栽 培 種 のハトムギは 北 海 道 東 部 オホーツク 地 方 , 道 北 名 寄 市 まで 栽 培 され, 北 限 域 が 拡<br />

大 している.それに 対 し,ジュズダマ 種 の 生 息 地 を 狭 い 範 囲 に 限 定 し,ジュズダマ 種 の 北 限 域 の<br />

調 査 ・ 探 索 に 十 分 に 取 り 組 んでこなかったと 考 えられる. 当 初 の 聞 き 取 りの 中 で, 東 北 地 方 では<br />

ジュズダマの 種 子 をお 手 玉 の 材 料 に 用 いることは 一 般 のことであり, 農 家 の 老 人 等 には 昔 は 庭 先<br />

に 植 えられていた 等 の, 証 言 も 多 い.<br />

東 北 地 方 のジュズダマの 探 索 を 行 った 結 果 ,いくつかの 遺 伝 資 源 を 得 たので, 一 つの 資 料 とし<br />

て, 報 告 したい.<br />

2. 探 索 方 法<br />

1) 河 川 調 査<br />

ジュズダマは 関 東 以 南 の 河 川 で 広 範 に 自 生 するため, 東 北 地 方 でも 河 川 域 で 調 査 を 行 った. 国<br />

土 交 通 省 は, 地 方 整 備 局 所 管 の 代 表 的 な 1 級 及 び 2 級 河 川 において, 植 物 , 魚 介 類 , 底 生 動 物<br />

等 の 生 物 相 の 調 査 を 実 施 している. 東 北 地 方 整 備 局 管 内 では, 北 上 川 , 最 上 川 , 鳴 瀬 川 等 ,11<br />

の 水 系 で 調 査 が 断 続 的 に 実 施 されている. 今 回 探 索 予 定 の 宮 城 県 , 山 形 県 の「 他 の 植 物 相 調<br />

査 」を 検 索 したところ,1995 年 7 月 鳴 瀬 川 木 間 塚 大 橋 中 州 ( 宮 城 県 大 崎 市 及 び 美 里 町 境 ) 及 び<br />

2002 年 9 月 北 上 川 太 田 橋 下 流 右 岸 ( 岩 手 県 盛 岡 市 ) 調 査 にジュズダマが 記 載 されていた.この<br />

結 果 から 2011 年 7 月 に 盛 岡 市 太 田 橋 ,2011 年 10 月 に 大 崎 市 木 間 塚 大 橋 の 探 索 を 実 施 した.<br />

2) 農 家 庭 先 等 の 調 査<br />

2011 年 7 月 , 山 形 県 内 の 最 上 川 沿 い 河 川 敷 , 米 沢 市 郊 外 の 農 家 庭 先 等 を 調 査 した.<br />

3)インターネットによる 探 索<br />

6 月 ~ 7 月 の 探 索 結 果 から, 自 生 地 のようなジュズダマ 集 団 を 探 索 する 手 法 は, 困 難 であると<br />

考 えられた. 河 川 の 植 物 相 調 査 や 山 間 の 農 家 訪 問 等 の 探 索 手 法 を 改 めて 見 直 す 必 要 性 が 生 まれた.<br />

ジュズダマ( 数 珠 玉 ), 山 形 県 , 宮 城 県 等 のキーワードで Web 検 索 をかけたところ, 山 形 県 内 ,<br />

宮 城 県 内 のいくつかの 施 設 ・ 団 体 , 個 人 等 がジュズダマを 栽 培 し,お 手 玉 や 工 芸 品 製 造 に 関 わっ<br />

ていることが, 判 明 した. 特 に,ジュズダマはお 手 玉 の 内 容 物 として, 重 視 されている 材 料 であ<br />

ることがわかった.<br />

遺 伝 資 源 を 収 集 した 地 点 は Fig.1 に, 収 集 サンプルのリストは Table 2 に 示 した.<br />

- 60 -


1<br />

●<br />

8<br />

●<br />

9<br />

7<br />

●<br />

●<br />

5<br />

●<br />

2<br />

●<br />

4<br />

●<br />

3<br />

● ●<br />

6,10<br />

Fig. 1. Investigated sites of genetic resources.<br />

● : Investigated site of Job’s tears<br />

3. 結 果<br />

1) 河 川 調 査<br />

(1) 盛 岡 市 太 田 橋 右 岸<br />

2011 年 7 月 , 盛 岡 市 内 の 太 田 橋 右 岸 を 調 査 した. 現 地 は,ゴルフ 場 ,テニスコート, 野 球 の<br />

グラウンド 等 のスポーツ 施 設 の 他 に 盛 岡 桑 田 株 式 会 社 ( 旧 盛 岡 藩 士 の 救 済 事 業 に 由 来 する 会 社 )<br />

管 理 による 市 民 農 園 があった.その 1 区 画 にジュズダマが 生 育 しており(Photo 1), 野 良 生 え<br />

を 収 集 した.その 後 , 盛 岡 桑 田 ( 株 )を 訪 問 し,その 区 画 の 契 約 者 の 連 絡 先 を 伺 い, 種 子 の 由 来<br />

について 調 査 した. 約 10 年 前 に 市 内 の 友 人 から 譲 渡 を 受 けたもので,こぼれ 種 の 野 良 生 えによ<br />

り, 維 持 されているということであった.また, 友 人 はその 数 年 前 に 近 くの 農 家 の 庭 先 で 芽 が 出<br />

ていたジュズダマ 苗 を 貰 い 受 けたとのことであった.しかし, 現 在 は,その 農 家 にはないとのこ<br />

とである. 少 なくとも 10 年 は, 岩 手 県 盛 岡 市 内 で 維 持 されている 集 団 であった. 利 用 としては,<br />

お 手 玉 の 製 作 等 に 用 いるということであった.<br />

(2) 大 崎 市 鳴 瀬 川 木 間 塚 大 橋 中 州<br />

2011 年 10 月 , 鳴 瀬 川 木 間 塚 大 橋 を 調 査 した. 事 前 に 国 土 交 通 省 北 上 川 河 川 事 務 所 に 連 絡 を<br />

取 ったところ 特 段 の 採 集 許 可 , 注 意 事 項 等 の 指 摘 はなかった. 中 州 は 大 小 数 個 の 州 より 構 成 され<br />

ていたが, 当 日 は 増 水 し, 主 要 な 中 州 には 渡 れなかった. 一 部 の 美 里 町 側 の 小 規 模 の 中 州 に 飛 び<br />

降 り, 調 査 した.1 ヶ 月 前 に 東 北 地 方 に 襲 来 した 台 風 15 号 による 豪 雨 のため, 中 州 の 植 物 は 増<br />

水 によりなぎ 倒 され, 優 占 草 種 としてオギ,アシ,ススキ 等 が 認 められ,ジュズダマは 発 見 され<br />

なかった.<br />

2) 農 家 の 庭 先<br />

山 形 県 米 沢 市 において 探 索 途 中 , 米 沢 市 南 部 の 普 門 院 近 くの 農 家 の 自 家 圃 場 で 栽 培 しているの<br />

を 偶 然 発 見 した(Photo 2).ちょうど 出 穂 開 花 を 迎 えた 集 団 であった. 作 業 をしている 農 家 婦 人<br />

に 事 情 を 説 明 したところ, 快 く 数 株 分 譲 していただけた. 由 来 としては,お 手 玉 製 作 のため, 数<br />

年 前 友 人 からもらい 受 けたとのことであった. 近 くで 自 生 している 河 川 はないか,と 問 うたとこ<br />

- 61 -


ろ,「この 近 辺 で 栽 培 している 農 家 は 知 らない,わからない.」との 返 事 であった. 当 方 の 問 いに<br />

対 して「 栽 培 している」との 回 答 が 一 つのキーポイントであった.<br />

3)インターネットによる 事 前 調 査 による 探 索<br />

(1) 福 祉 施 設 のジュズダマ<br />

7 月 以 降 ,ジュズダマがお 手 玉 等 の 工 芸 品 材 料 であること,インターネットや 地 域 のバザー 等<br />

で 販 売 されていることがわかってきた.ジュズダマ 探 索 の 目 標 として,これら 工 芸 品 を 販 売 する<br />

施 設 , 団 体 等 に 問 合 せ, 訪 問 した.<br />

8 月 14 日 , 宮 城 県 大 郷 町 の 社 会 福 祉 法 人 を 訪 れた.ここでは, 障 害 者 の 就 労 のため, 野 菜 の 他 ,<br />

ジュズダマも 栽 培 し, 消 臭 袋 ,ブレスレット 等 の 工 芸 品 (Photo 3)の 材 料 として, 利 用 されていた.<br />

ジュズダマについては, 播 種 から 収 穫 に 向 けた 栽 培 体 系 ではなく, 前 年 のこぼれ 種 の 野 良 生 えを<br />

圃 場 に 移 植 し, 栽 培 している 体 系 であった.こぼれ 種 , 野 良 生 えが 頗 る 多 く, 除 草 管 理 が 大 変 で<br />

ある,という 担 当 者 の 声 があった.ここでは, 野 良 生 えを 数 株 もらい 受 けた.<br />

8 月 16 日 , 山 形 県 長 井 市 の 社 会 福 祉 法 人 では 上 記 と 同 様 に 野 菜 の 他 ,ジュズダマを 栽 培 し,<br />

お 手 玉 を 製 作 しているという 情 報 があったため, 訪 問 した. 繁 忙 期 のため, 施 設 内 でジュズダ<br />

マの 栽 培 状 況 を 伺 った.10 年 以 上 前 から,ジュズダマによるお 手 玉 の 製 造 販 売 を 手 がけている.<br />

この 種 の 施 設 の 現 金 収 入 のためには 必 要 な 仕 事 であるとのことで,10 年 前 には 最 上 川 河 川 敷 か<br />

ら,ジュズダマを 採 集 し, 製 造 していた.しかし, 最 近 は 自 然 のものは 手 に 入 らなくなったため,<br />

栽 培 し, 収 穫 している.ただ, 厳 密 な 播 種 期 等 があるわけでなく, 暖 かくなってきたら 播 種 をす<br />

るような 栽 培 状 況 であった.ここで, 自 生 の 可 能 性 が 指 摘 されたが, 担 当 者 は,つい 最 近 見 に 行<br />

ったが,そこにはもうないとのことで, 自 生 地 だったかどうかは, 現 在 不 明 である.ここでは,<br />

300 g 程 度 のジュズダマ 種 子 を 得 た.<br />

(2) 日 本 庭 園 のジュズダマ<br />

ジュズダマは 夏 の 花 として, 茶 席 等 では 良 く 用 いられる 植 物 である 5) . 仙 台 市 内 等 の 茶 会 では,<br />

ジュズダマが 飾 られることがある.ジュズダマは 単 に 河 川 敷 の 自 生 植 物 としてではなく, 季 節 を<br />

表 す, 草 花 として 愛 でられることも 多 い. 秋 保 温 泉 の 日 本 庭 園 では,ジュズダマが 栽 培 されてい<br />

る(Photo 4). 一 株 程 度 しかなく, 了 解 を 得 て, 分 げつを 1 本 もらい 受 け, 所 内 の 温 室 でポッ<br />

ト 移 植 したところ, 発 根 し, 植 物 体 の 維 持 に 成 功 した.<br />

(3) 薬 用 植 物 としてのジュズダマ<br />

仙 台 の 野 草 園 ( 青 葉 区 )では,2010 年 の 企 画 展 の 中 で,ジュズダマを 紹 介 していた. 問 合 せ<br />

たところ, 東 北 大 学 薬 学 部 付 属 薬 用 植 物 園 から 譲 渡 を 受 け, 企 画 したものであり, 野 草 園 で 栽 培<br />

しているわけではないことがわかった. 改 めて, 東 北 大 に 問 合 せ,10 月 に 訪 問 した.ジュズダマは,<br />

漢 方 に 用 いられる 薬 用 植 物 として 認 識 されている. 利 用 法 としては, 種 子 はハトムギと 同 じよう<br />

にヨクイニンとして, 煎 じて 茶 として 飲 用 される 他 , 根 を 乾 燥 させ, 煎 じて 飲 用 する. 神 経 痛 等<br />

に 効 能 があるとされる. 薬 学 部 には 大 学 設 置 基 準 により 薬 用 植 物 園 が 設 置 されるとのことであり,<br />

この 方 面 から 探 索 することが 可 能 であるとの 助 言 を 得 た.ここのジュズダマは, 故 竹 本 常 松 名 誉<br />

教 授 ( 東 北 大 学 薬 学 部 初 代 学 部 長 )が 収 集 したもので, 導 入 の 経 緯 等 , 今 はわからないとのこと<br />

であった. 丁 度 , 薬 学 部 学 生 の 実 習 ため,ジュズダマ 植 物 を 圃 場 に 残 してあった(Photo 5).こ<br />

こでは,ジュズダマとハトムギの 種 子 の 分 譲 を 受 けた.<br />

(4) 天 童 市 西 沼 田 遺 跡 公 園 のジュズダマ<br />

山 形 県 天 童 市 の 西 沼 田 遺 跡 公 園 では, 古 墳 時 代 遺 跡 の 一 部 を 圃 場 とし,ジュズダマを 栽 培 して<br />

いる(Photo 6). 同 公 園 でジュズダマ 栽 培 に 取 り 組 む 理 由 として, 遺 跡 の 発 掘 調 査 のときの 花 粉<br />

- 62 -


分 析 から,ジュズダマ 花 粉 が 見 いだされたことにある.2008 年 開 園 の 公 園 であり, 栽 培 されて<br />

いるジュズダマは, 同 年 近 隣 の 農 家 から 分 譲 を 受 けたものであった.その 農 家 は,お 手 玉 の 内 容<br />

物 を 播 種 したものであった. 古 代 遺 跡 でジュズダマ 花 粉 が 見 いだされたことは, 山 形 県 下 でジュ<br />

ズダマ 自 生 の 可 能 性 がないわけではないと 考 えられる.<br />

(5) 個 人 が 栽 培 し, 観 察 , 撮 影 するジュズダマ<br />

Web 検 索 で, 山 形 県 鶴 岡 市 の 自 営 業 , 朝 日 町 の 農 家 の 方 々がジュズダマの 画 像 を 掲 載 してい<br />

ることがあり, 電 話 等 で 問 合 せ,2012 年 1 月 に 訪 問 し, 分 譲 を 受 けた.<br />

4. 所 感<br />

1) 東 北 地 方 におけるジュズダマ<br />

東 北 地 方 のジュズダマの 探 索 は 報 告 例 が 少 なく, 当 初 から 困 難 が 予 想 された. 探 索 に 出 かけた<br />

際 , 河 川 敷 あるいは 休 耕 田 ( 耕 作 放 棄 地 ) 等 の 植 生 を 観 察 したが,オギ,ススキ,アシ 等 の 大 型<br />

のイネ 科 草 本 の 生 育 が 著 しく, 熱 帯 , 亜 熱 帯 由 来 のジュズダマが, 春 先 の 東 北 地 方 特 有 の 寒 冷 気<br />

象 を 克 服 した 上 で,これらイネ 科 植 物 との 生 存 競 争 に 勝 てる 余 地 は 少 ないことが 推 察 された.<br />

しかし, 農 家 の 証 言 等 を 改 めて 見 直 し, 考 察 にすることにより, 東 北 地 方 でのジュズダマの 生<br />

育 状 況 を 理 解 することが 可 能 であった.つまり, 東 北 地 方 では, 農 家 自 身 の 意 志 や 意 図 とは 別 と<br />

して, 人 間 との 関 わり,つまり, 栽 培 することによって, 東 北 地 方 に 根 付 いた 植 物 であると 考 え<br />

られる. 通 常 に 採 食 するものではなく,お 手 玉 といっても 換 金 性 が 低 いため, 作 物 としての 意 識<br />

は 極 めて 低 いと 考 えられるが,お 手 玉 に 利 用 するという, 明 確 な 目 標 により, 生 きのびてきた 作<br />

物 である.ジュズダマは 純 粋 な 野 生 種 でなく, 人 の 手 の 入 った 撹 乱 状 況 で 生 長 する,もしくは 栽<br />

培 状 況 下 で, 生 息 可 能 な 栽 培 植 物 である.<br />

2)いもち 病 感 染 源 としてのジュズダマ<br />

関 東 以 南 では, 河 川 敷 での 自 生 植 物 としてジュズダマが 認 識 されているが,もう 一 つ, 重 要 な<br />

生 育 相 がある. 水 田 圃 場 畦 畔 には 数 十 前 には 多 くのジュズダマが 生 育 していた.ある 意 味 , 雑 草<br />

として 捉 えられていたが, 今 考 えると, 畦 畔 に 自 生 するという 認 識 の 方 が 誤 りに 近 く,これも 人<br />

の 手 が 入 ることにより, 生 きのびてきたと 考 えられる.<br />

しかし, 近 年 の 水 田 圃 場 は, 基 盤 整 備 事 業 により 大 規 模 区 画 で 整 備 され, 移 植 から 収 穫 まで 農<br />

業 機 械 で 効 率 よく 栽 培 される 体 系 となっている.さらに, 畦 畔 の 雑 草 は, 病 害 虫 の 感 染 源 , 温 床<br />

として, 刈 払 い 機 もしくは 除 草 剤 により,きれいに 除 草 されている.また,ジュズダマはいもち<br />

病 菌 の 通 過 植 物 であることも 判 明 している 6) .これらのことから, 水 田 の 畦 畔 のジュズダマは 消<br />

滅 した,もしくは 消 滅 しつつある,と 考 えられる.<br />

3) 福 祉 施 設 とジュズダマ<br />

ジュズダマは 農 業 とは 別 個 に 人 間 との 関 わりの 中 で, 生 きのびている. 自 然 状 況 から 手 に 入 り<br />

にくくなったジュズダマを 積 極 的 に 栽 培 する 事 例 が 見 いだされてきた. 社 会 福 祉 施 設 では,お 手<br />

玉 や 工 芸 品 材 料 として,ジュズダマ 加 工 品 は 貴 重 な 現 金 収 入 となっている.お 手 玉 は 日 本 人 に 馴<br />

染 みのある 遊 び 道 具 でありこれ 自 体 は 消 滅 することはない,と 考 えられる.ジュズダマは 今 後 も<br />

お 手 玉 材 料 として 需 要 は 見 込 まれる.<br />

4) 日 本 文 化 としてのジュズダマ<br />

華 美 な 現 代 華 道 と 異 なり, 茶 花 としては 侘 び 寂 びのある 落 ち 着 いた 草 花 が 求 められる.ジュズ<br />

ダマの 花 は, 茶 花 としても 存 在 感 がある. 今 後 も, 茶 道 家 の 庭 先 で 栽 培 され, 季 節 感 を 表 す 草 花<br />

として 利 用 される,と 考 えられる.さらに 和 風 庭 園 の 風 景 としても 利 用 されるであろう. 日 本 文<br />

化 の 中 で,ジュズダマは 生 き 残 ると 考 えられる.<br />

- 63 -


5.おわりに<br />

収 集 したジュズダマの 種 子 の 一 部 を 示 した(Photo 7).これらジュズダマの 種 子 には, 極 大 粒<br />

からハトムギに 類 似 した 形 状 のものまであり, 東 北 地 域 の 宮 城 県 , 山 形 県 において 多 様 な 種 子 を<br />

収 集 した.<br />

しかし, 上 で 述 べたように 水 田 畦 畔 や 河 川 敷 等 消 滅 の 危 機 にもあるジュズダマ 集 団 がある. 同<br />

時 に,お 手 玉 材 料 として, 日 本 文 化 の 景 色 としてジュズダマは 欠 かせない 存 在 である.<br />

インターネット 上 では, 消 滅 の 危 機 にある 雑 穀 類 , 作 物 , 植 物 の 取 引 が 大 々 的 に 行 われている.<br />

自 生 集 団 , 古 くからの 在 来 集 団 とは 異 なる 植 物 集 団 が 日 本 の 中 を 大 規 模 に 移 動 し, 自 生 集 団 や 在<br />

来 集 団 との 交 雑 を 繰 り 返 す 時 代 となったと 考 えられる.ジュズダマも 例 外 でなく, 種 子 の 売 買 が<br />

行 われている.これら 一 部 のジュズダマ 集 団 は 国 内 で 優 占 集 団 となっていくと 考 えられるが,そ<br />

の 影 響 で 自 生 や 在 来 集 団 は 消 えつつある.ジュズダマを 雑 草 という 観 点 でなく, 日 本 文 化 に 貢 献<br />

する 在 来 作 物 と 認 識 することも 遺 伝 資 源 としての 重 要 な 観 点 である. 本 探 索 は,ハトムギの 育 種<br />

素 材 , 遺 伝 資 源 としての 重 要 性 の 認 識 からの 収 集 であったが,ジュズダマの 文 化 的 価 値 ,ジュズ<br />

ダマそのものが 危 機 的 状 況 にあることが 改 めてわかった. 今 後 も 組 織 的 にジュズダマを 収 集 する<br />

ことが 重 要 であると 思 われる.<br />

6. 謝 辞<br />

東 北 農 業 研 究 センター 畑 作 園 芸 研 究 領 域 川 崎 光 代 研 究 員 , 研 究 支 援 センター 業 務 1 科 木 村 力<br />

也 畑 作 物 育 種 班 長 ならびに 佐 藤 卓 見 専 門 員 には,ジュズダマ 収 集 時 に 多 大 なるご 協 力 ・ご 支 援 を<br />

得 た.また, 鹿 児 島 大 学 総 合 博 物 館 准 教 授 落 合 雪 乃 博 士 には 貴 重 なご 助 言 を 得 た.そして,ジュ<br />

ズダマ 種 子 の 分 譲 には 東 北 大 学 大 学 院 薬 学 研 究 科 ・ 薬 学 部 附 属 薬 用 植 物 園 早 坂 英 紀 専 門 技 術 職 員 ,<br />

天 童 市 西 沼 田 遺 跡 公 園 渡 邉 淑 恵 学 芸 員 , 社 会 福 祉 法 人 みんなの 家 (わ・は・わ 大 郷 ), 長 井 市 社<br />

会 福 祉 協 議 会 授 産 施 設 「せせらぎの 家 」, 秋 保 温 泉 「 緑 水 亭 」, 仙 台 市 お 手 玉 サークル 講 師 菊 池 氏 ,<br />

山 形 県 朝 日 町 倉 澤 氏 , 鶴 岡 市 齋 藤 氏 , 岩 手 県 盛 岡 市 木 坂 氏 他 の 皆 さまのご 厚 意 によるものである.<br />

この 場 に 記 して, 厚 くお 礼 申 し 上 げます.<br />

7. 引 用 文 献<br />

1) 成 城 大 学 民 俗 学 研 究 会 1977. 山 形 県 -- 風 俗 ・ 習 慣 ; 小 国 町 ( 山 形 県 ).45-47. 成 城 大 学<br />

民 俗 調 査 報 告 書 第 2 集 . pp90.<br />

2) 牧 野 富 太 郎 1989.ジュズダマ.P971. 改 訂 増 補 牧 野 新 日 本 植 物 図 鑑 .( 株 ) 北 隆 館<br />

pp1453.<br />

3) 手 塚 隆 久 ・ 松 井 勝 弘 ・ 原 貴 洋 2011. 各 地 で 収 集 したジュズダマの 特 性 . 九 州 農 業 研 究<br />

74. 28.<br />

4) 落 合 雪 野 2005. 飾 る 植 物 - 東 南 アジア 大 陸 部 山 地 における 種 子 ビーズ 利 用 の 文 化 . 自 然<br />

の 資 源 化 ( 資 源 人 類 学 06). 123-159.pp350.<br />

5) 塚 本 洋 太 郎 1988.ジュズダマ.P488. 原 色 茶 花 大 事 典 . 淡 光 社 .pp804+860.<br />

6) 佐 々 木 健 , 佐 々 木 一 誠 , 生 井 恒 雄 2004.ジュズダマに 接 種 した 後 に 再 分 離 して 得 られた<br />

イネいもち 病 菌 の 変 異 株 について. 日 本 植 物 病 理 学 会 報 70(1), 49.<br />

- 64 -


Table 2. List of /Coix/ genetic resources collected in this exploitation.<br />

表 2. ジュズダマ 等 の 遺 伝 資 源 収 集<br />

地 点 品 種 名 保 存 番 号 JP 番 号 場 所 月 日 状 況 生 育 状 況 備 考<br />

1 COL/IWATE/2011/TARC/001 30051321 244511 岩 手 県 盛 岡 市 太 田 橋 周 辺 7/9 市 民 農 園 栄 養 成 長 期<br />

2 COL/YAMAGATA/2011/TARC/002 30051322 244512 山 形 県 米 沢 市 7/31 農 家 自 家 用 菜 園 開 花 期<br />

3 COL/MIYAGI/2011/TARC/003 30051323 244513 宮 城 県 仙 台 市 太 白 区 秋 保 8/13 日 本 庭 園 内 開 花 期<br />

4 COL/MIYAGI/2011/TARC/004 30051324 244514 宮 城 県 大 郷 町 8/13 福 祉 施 設 圃 場 開 花 期<br />

5 COL/YAMAGATA/2011/TARC/005 30051325 244515 山 形 県 長 井 市 8/16 福 祉 施 設 圃 場 - 種 子 受 領<br />

6 COL/MIYAGI/2011/TARC/006 30051326 244516 宮 城 県 仙 台 市 10/24 東 北 大 学 薬 用 植 物 園 枯 熟 期<br />

COL/MIYAGI/2011/TARC/007 30051327 244517 同 上 同 上 同 上 同 上 ハトムギ<br />

7 COL/YAMAGATA/2011/TARC/008 30051328 244518 山 形 県 天 童 市 10/25 西 沼 田 遺 跡 公 園 枯 熟 期<br />

- 65 -<br />

8 COL/YAMAGATA/2011/TARC/009 30051329 244519 山 形 県 鶴 岡 市 1/23 家 庭 菜 園 保 存 種 子 種 子 受 領<br />

9 COL/YAMAGATA/2011/TARC/010 30051330 244520 山 形 県 朝 日 町 1/24 農 家 自 家 用 菜 園 保 存 種 子 種 子 受 領<br />

COL/YAMAGATA/2011/TARC/011 30051331 244521 同 上 同 上 同 上 - ハトムギ<br />

10 COL/MIYAGI/2011/TARC/012 30051332 244522 仙 台 市 8/10 - 種 子 送 付


Photo 1. Farm of citizens under of Ohtabashi<br />

bridge in Morioka city.<br />

写 真 1. 盛 岡 市 太 田 橋 の 市 民 農 園 の 一 角<br />

(2011.7.9)<br />

Photo 2. Farmer’s kitchen garden in Yonezawa<br />

city.<br />

写 真 2. 米 沢 市 普 門 院 前 の 農 家 の 自 家 菜 園 圃 場<br />

(2011.7.31)<br />

Photo 3. Job’s tears handcrafts made by welfare<br />

facility in Ohsato town.<br />

写 真 3. 宮 城 県 大 郷 町 の 福 祉 施 設 のジュズダマ 工<br />

芸 品 (2011.8.14)<br />

Photo 4. Japanese garden in Akiu –<br />

spa in Sendai.<br />

写 真 4. 仙 台 市 秋 保 温 泉 の 日 本 庭 園<br />

(2011.8.13)<br />

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Photo 5. Experimental station for<br />

medicinal plants in Tohoku Univ.<br />

写 真 5. 東 北 大 学 薬 学 部 附 属 薬 用 植<br />

物 園 (2011.10.24)<br />

Photo 6. Job’s tears field in Tendo city<br />

Nishinumata Site Park.<br />

写 真 6. 天 童 市 西 沼 田 遺 跡 公 園 の 圃 場<br />

(2011.10.25)<br />

Photo 7. Some of Job’s tears genetic resources<br />

collected in 2011.<br />

写 真 7. 収 集 したジュズダマ 遺 伝 資 源 の 一 部<br />

左 上 : 山 形 県 長 井 市<br />

右 上 : 山 形 県 鶴 岡 市<br />

左 下 : 東 北 大 学 薬 学 部 附 属 植 物 園<br />

右 下 : 宮 城 県 大 郷 町<br />

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