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BRNewsVol8No2.pdf#search='シジュウカラの警戒声+カラスだ、ヘビだ、ひっこめ、とびだせ!+Bird+Research+News+8[2]:3

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バードリサーチ<br />

ニュース<br />

Anser albifrons<br />

Photo by Shimada Tetsuo<br />

2011 年 2 月 号 Vol.8 No.2<br />

参 加 型 調 査<br />

今 年 のツグミの 飛 来 状 況 はいかが?<br />

ちょっと 違 う 今 年 のツグミ<br />

植 田 睦 之 ・ 平 野 敏 明<br />

この 冬 ,モニタリングサイト1000の 陸 生 鳥 類 調 査 の 研 修 会<br />

で 北 海 道 , 愛 知 , 大 阪 , 岡 山 , 大 分 をまわってきました.その<br />

際 に 皆 さんから「 今 年 はツグミが 多 いよ」とか,「 飛 来 が 早<br />

かった」と 聞 きました.<br />

バードリサーチの 事 務 所 のまわりでも12 月 下 旬 から1 月 上<br />

旬 にかけて, 例 年 になく,たくさんのツグミが 群 れで 採 食 して<br />

いるのが 見 られました.また, 季 節 前 線 ウォッチの 情 報 でも<br />

例 年 より 早 くからツグミの 情 報 が 届 いていました( 図 1).この<br />

ように 今 年 の 冬 のツグミが 例 年 と 違 うことを 感 じていました<br />

ので,その 状 況 を 知 りたいと 思 い,ベランダバードウォッチの<br />

今 年 のデータを 集 計 し, 過 年 度 の 結 果 と 比 べてみました.<br />

- 10 月 10 日<br />

10 月 11 日 - 10 月 20 日<br />

10 月 21 日 - 10 月 31 日<br />

11 月 01 日 - 11 月 15 日<br />

11 月 15 日 - 11 月 30 日<br />

12 月 01 日 -<br />

2009 年 2010 年<br />

図 1.<br />

2009 年 秋 と<br />

2010 年 秋 の<br />

ツグミの 季<br />

節 前 線 . 今<br />

シーズンは<br />

10 月 の 初 認<br />

が 目 立 つ.<br />

ベランダバードウォッチの 調 査 結 果 から<br />

もう1つの 代 表 的 な 身 近 な 冬 鳥 ジョウビタキと 比 べて,ツグ<br />

ミは 年 による 越 冬 状 況 の 変 動 が 大 きい 鳥 です.これはしっ<br />

かりとしたなわばりを 構 えるジョウビタキに 対 して, 群 れでも<br />

行 動 するという 生 態 の 違 いのために,ツグミの 方 が,よりその<br />

年 の 食 物 の 状 況 に 飛 来 状 況 が 影 響 されることが 原 因 だと<br />

考 えられます.このように<br />

年 変 動 の 大 きいツグミで<br />

すが,それでも 今 年 は 昨<br />

年 や 一 昨 年 と 比 べて,11<br />

月 上 旬 から12 月 下 旬 に<br />

かけての 期 間 の 個 体 数<br />

が 明 らかに 多 く,1 月 にな<br />

ると 平 年 並 みになってい<br />

る 様 子 が 伺 えます( 図 2).<br />

写 真 1.ツグミ. [ Photo by 大 塚 啓 子 ]<br />

4<br />

平<br />

均 3<br />

個<br />

体<br />

数<br />

2<br />

ラ<br />

ン 1<br />

ク<br />

0<br />

10/11 冬<br />

09/10 冬<br />

08/09 冬<br />

上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下<br />

10 月 11 月 12 月 1 月 2 月<br />

図 2.ベランダバードウォッチの15か 所 の 調 査 地 をもとにした, 今 年 のツ<br />

グミの 飛 来 状 況 と 過 去 の 飛 来 状 況 との 比 較 .<br />

個 体 数 ランクは,0:いない,1: 時 々いる,2:1~2 羽 ,3:3~5 羽 ,<br />

4:6~20 羽 ,5:21~99 羽 ,6:100 羽 以 上 .<br />

アンケートへのご 協 力 お 願 いします!<br />

ベランダバードウォッチの 結 果 から 今 年 のツグミの 様 子 が<br />

少 し 見 えてきましたが, 結 果 が 毎 年 得 られている 調 査 地 は<br />

少 なく, 全 国 的 にこういう 状 況 なのかというと, 実 際 のところ,<br />

よくわかりません.そこで,アンケート 形 式 で 全 国 の 情 報 をと<br />

りまとめたいと 思 います. 全 国 の 情 報 が 集 まれば,ツグミの<br />

多 かった 場 所 などの 情 報 をもとにその 原 因 が 推 測 できたり,<br />

多 かった 時 期 の 情 報 を 基 にツグミの 群 れの 移 動 の 状 況 な<br />

どが 推 測 できたりするかもしれません.ぜひ, 調 査 へのご 協<br />

力 をお 願 いいたします.ご 協 力 いただける 方 は, 以 下 の<br />

ホームページより 情 報 をお 寄 せください.<br />

■ツグミの 越 冬 状 況 調 査 アンケートページ<br />

http://www.bird-research.jp/1/tsugumi.html<br />

冬 鳥 ウォッチにもご 参 加 ください!<br />

また, 今 年 も 冬 鳥 ウォッチ<br />

を 継 続 しています.カシラダ<br />

カ,マヒワ,アトリ,イスカ,ハ<br />

ギマシコ,カワラヒワの 今 年<br />

の 越 冬 状 況 もお 知 らせくだ<br />

さい.バードリサーチでは 長<br />

崎 県 の 池 島 という 炭 鉱 の 島<br />

で, 鳥 の 飛 行 状 況 と 気 象 の<br />

関 係 についての 継 続 調 査<br />

を 行 なっていますが,この 冬 はそこでも100 羽 を 越 えるハギ<br />

マシコが 見 られました.ほかの 地 域 はいかがでしょう? ぜひ<br />

お 知 らせください.<br />

■ 冬 鳥 ウォッチのホームページ<br />

http://www.bird-research.jp/1/fuyudori.html<br />

写 真 2. 長 崎 県 池 島 でツワブキの 種<br />

を 食 べるハギマシコ .<br />

1


Bird Research News Vol.8 No.2 2011.2.21.<br />

海 外 情 報<br />

バタフライで 泳 ぐサンショウミワシ<br />

アフリカ 東 部 のビクトリア 湖 の 少 し 西 に, 大 地 溝 帯 の 一 角<br />

をなすエドワード 湖 とジョージ 湖 を 結 ぶ,カバと 野 鳥 で 有 名<br />

な 天 然 の 運 河 があります. 私 はこの 近 くにあるカリンズ 森 林<br />

保 護 区 で 長 年 野 生 チンパンジーの 調 査 をしているのです<br />

が,ここのボートツアーにでかけるのが 最 大 の 楽 しみです.<br />

30 人 ほどが 乗 れるボートにウガンダ 人 のガイドが 同 乗 し,<br />

岸 に 沿 って2 時 間 ほど 走 りながら, 次 々に 現 れる 数 え 切 れ<br />

ないほどの 種 類 の 鳥 獣 の 解 説 をしてくれます.<br />

今 年 1 月 4 日 の18 時 すぎ,「ほら,あそこでフィッシュイーグ<br />

ルが 泳 いでるよ」と,ガイドが 前 方 を 指 さしました. 特 に 興 奮<br />

した 声 でもないので,そ<br />

れほど 珍 しくもない 光 景<br />

なのかなと 思 ってカメラ<br />

を 向 けた 私 は, 思 わず<br />

目 を 見 張 りました.なん<br />

と,サンショウミワシ<br />

Haliaeetus vocifer が,<br />

見 事 なバタフライで 泳 い<br />

でいたのです( 写 真 1).<br />

古 市 剛 史 京 都 大 学 霊 長 類 研 究 所<br />

写 真 1.バタフライのように 泳 ぐサンショ<br />

クウミワシ.<br />

大 きなナマズを 捕 まえたため 飛<br />

び 立 てなくなったウミワシは, 遠 く<br />

離 れた 岸 に 向 かって 一 心 不 乱 に<br />

泳 いでいます. 大 きな 翼 を 広 げた<br />

姿 は 一 流 の 水 泳 選 手 の 姿 そのも<br />

の.スピードもかなりのもので,わ<br />

ずか2 分 たらずで100メートルほど<br />

を 泳 ぎ 切 ってしまったのです.<br />

岸 についたウミワシは, 最 後 の 力<br />

を 振 り 絞 るように 羽 ばたき,ようやく<br />

ナマズをひきずり 上 げます.しかし<br />

まだ 終 わったわけではありません.<br />

今 度 はそれを,いつも 魚 を 食 べる<br />

写 真 2.ナマズを 持 ち 上 げ<br />

ようと 羽 ばたくが,どうして<br />

も 持 ち 上 がらない.<br />

アカシアの 木 の 上 にもって 上 がらなくてはならないのです.<br />

乾 いた 翼 をはばたかせて 何 度 も 何 度 も 飛 び 上 がろうと 挑 戦<br />

しますが,1メートルと 持 ち 上 がりません( 写 真 2). 結 局 ウミ<br />

ワシは,あきらめて 地 面 でナマズを 食 べはじめました.<br />

この 運 河 には,ナイルワニも 棲 んでおり, 泳 いでいるとこ<br />

ろを 襲 われたらひとたまりもありません. 陸 に 上 がっても,ま<br />

だヒョウなどに 襲 われる 危 険 性 があります.しばしば 食 物 網<br />

の 頂 点 に 描 かれるワシが, 命 がけで 獲 物 を 運 ぶ 姿 には, 深<br />

く 考 えさせられるものがありました.<br />

■YouTubeで 鮮 明 な 動 画 をご 覧 いただくことができます.<br />

http://www.youtube.com/watch?v=3aRr8kvh9J0<br />

お 知 らせ<br />

2012 年 のカレンダー テーマは“ 愛 ”!<br />

会 員 さんから 早 めにテーマ<br />

を 知 らせて 欲 しい!という 声<br />

が 届 きましたので,いつもより<br />

かなり 早 いのですが, 来 年<br />

2012 年 用 の カ レ ン ダ ー の<br />

テーマを 決 定 しました. 今 回<br />

の テ ー マ は「 愛 」で す.ど ん<br />

卓 上 カレンダーのデザイン.<br />

なにむくわれなくても 貫 き 通<br />

す 純 愛 , 仲 睦 まじい 夫 婦 愛 , 親 が 子 をいつくしむ 慈 愛 , 群<br />

れの 仲 間 を 思 う 友 愛 ・・・.カレンダー 用 の 写 真 を,ご 応 募<br />

いただく 際 は, 写 真 が 捉 えた「 愛 」について,コメントをお 願<br />

いします.いろいろな 愛 の 形 が 集 まることを 楽 しみにしてい<br />

ます.ご 協 力 のほど,どうぞよろしくお 願 いいたします.<br />

● カレンダー 用 写 真 の 送 付 要 綱<br />

送 付 方 法 : メールのタイトルを「カレンダー 用 写 真 送 付 」<br />

として, 写 真 をメールに 添 付 してお 送 りください<br />

写 真 送 付 先 : 卓 上 カレンダー 担 当 高 木 憲 太 郎<br />

( takagi@bird-research.jp )<br />

締 め 切 り: 7 月 31 日<br />

写 真 テーマ: 「 愛 」<br />

枚 数 : 1 人 4 枚 まで<br />

解 像 度 : 縦 1200× 横 1800ピクセル 以 上<br />

ファイル 名 : 撮 影 年 月 , 種 名 , 撮 影 した 都 道 府 県 , 撮 影 者 名<br />

例 ) 「200905オナガ 東 京 都 高 木 憲 太 郎 .jpg」<br />

ファイル 形 式 : JPEG<br />

選 定 : バードリサーチのスタッフで 選 ばせていただきます<br />

特 典 : 写 真 を 採 用 させていただいた 方 には, 写 真 1 枚<br />

につき,カレンダーを3 部 差 し 上 げます<br />

バードリサーチ 身 近 な 鳥 図 鑑<br />

昨 年 7 月 号 でご 協 力 をお 願 いした「 身 近 な 鳥 図 鑑 」。 何 人<br />

かの 方 のご 協 力 によって, 充 実 してきました。これまでに60<br />

種 の 鳥 を 掲 載 し, 姿 や 鳴 き 声 , 類 似 種 との 見 分 けのポイン<br />

トなどを 見 ることができます。 「 小 鳥 で 嘴 が 細 長 い 鳥 」,<br />

「 中 型 で 茶 色 っぽい 鳥 」など 選 択 すると, 候 補 になりそうな<br />

鳥 を 調 べられる 構 成 になっています。まだ 身 近 な 鳥 の 識 別<br />

に 自 信 がなくてベランダバードウォッチに 参 加 できないで<br />

いる 方 は,ぜひ,これを 使 いながら, 調 査 にご 参 加<br />

2<br />

ください。また, 記 載 内 容 にご 不 満 のあ<br />

る 方 , 身 近 な 鳥 図 鑑 の 作 成 に 加 わって<br />

ください。お 問 い 合 わせはメールにて,<br />

平 野 ( hirano@bird-research.jp )まで.<br />

■バードリサーチ 身 近 な 鳥 図 鑑<br />

http://www.bird-research.jp/1/torizukan.html<br />

■ベランダバードウォッチのページ<br />

http://www.bird-research.jp/1/veranda.html


Bird Research News Vol.8 No.2 2011.2.21.<br />

論 文 紹 介<br />

シジュウカラの 警 戒 声<br />

カラスだ,ヘビだ,ひっこめ,とびだせ!<br />

はじめまして, 立 教 大 学 大 学 院 の 鈴 木 俊 貴 です. 私 は,<br />

シジュウカラの 親 が2 種 類 の 警 戒 の 声 を 使 い 分 け,ヒナに<br />

適 切 な 捕 食 者 回 避 行 動 を 導 くという 興 味 深 い 現 象 をみつ<br />

けました.その 研 究 の 概 要 を 紹 介 させていただきます.<br />

Suzuki, T.N. 2011.<br />

Parental alarm calls warn nestlings about different predatory<br />

threats. Curr. Biol. 21:R15—R16.<br />

シジュウカラは, 都 市 から 山 地 にかけ<br />

て 広 く 生 息 する,とても 身 近 な 小 鳥 で<br />

す. 彼 らは 春 になると 樹 木 にあいた 洞<br />

( 樹 洞 )などに 巣 をつくり, 卵 を 産 み,ヒ<br />

ナを 育 てます. 樹 洞 とはいえ 安 全 では<br />

なく, 時 折 , 捕 食 者 がヒナを 襲 いに<br />

やってきます.ハシブトガラスは 巣 の 入<br />

り 口 から 嘴 でヒナをつまみ 出 して 食 べ<br />

てしまうし,アオダイショウは 樹 洞 に 侵<br />

入 しヒナを 丸 呑 みにしてしまいます. 写 真 .シジュウカラ.<br />

シジュウカラの 親 は, 巣 に 近 づいてきた 捕 食 者 をみつけ<br />

ると, 警 戒 して 繰 り 返 し 鳴 き 声 を 発 します. 巣 の 周 りで 鳴 い<br />

てしまうと, 他 の 捕 食 者 に 巣 のありかを 気 づかせてしまうか<br />

もしれません.それなのに,なぜ 親 鳥 は 警 戒 声 を 発 するの<br />

でしょうか? 親 鳥 は 警 戒 声 を 発 することで, 樹 洞 のなかのヒ<br />

ナに 外 界 の 危 険 を 知 らせているのかもしれません.ヒナは<br />

警 戒 声 をたよりに 捕 食 を 回 避 できるかもしれません. 私 は,<br />

ハシブトガラス,アオダイショウを 発 見 したときの 親 鳥 の 警<br />

戒 声 と,それに 対 するヒナの 反 応 を 調 べました.<br />

異 なる 警 戒 声 に 異 なるヒナの 反 応<br />

自 然 状 態 での 捕 食 の 現 場 を 観 察 するのは 困 難 なので,<br />

実 験 的 にその 状 況 をつくりだしました.まず,シジュウカラ<br />

が 繁 殖 に 利 用 している 巣 箱<br />

の 前 に,ハシブトガラスの<br />

剥 製 ,もしくは 生 きたアオダ<br />

イショウを 透 明 なアクリル<br />

ケースに 入 れたものを 提 示<br />

しました. 親 鳥 は 巣 にもどっ<br />

てくると,それに 警 戒 して 鳴<br />

き 声 を 発 したので,マイクと<br />

レコーダーで 録 音 しまし<br />

た. 同 時 に, 巣 箱 のなかに<br />

小 型 カメラを 仕 掛 け, 親 の<br />

声 に 対 するヒナの 反 応 を 録<br />

画 しました.21つがいの 親<br />

とそのヒナを 対 象 に 実 験 を<br />

おこないました.11 巣 では<br />

ハシブトガラスを,10 巣 では<br />

アオダイショウを,それぞれ<br />

周 波 数 (kHz)<br />

周 波 数 (kHz)<br />

20<br />

10<br />

0<br />

20<br />

10<br />

0<br />

A<br />

B<br />

0 時 間 ( 秒 ) 1<br />

図 1. シジュウカラの 警 戒 声 の 声<br />

紋 .(A)チカチカ,(B)ジャー<br />

ジャー.<br />

1 回 ずつ 提 示 しました. 実 験 はすべて,ヒナの 巣 立 ち 間 近<br />

( 孵 化 後 17 日 目 )に 行 いました.<br />

シジュウカラの 親 は,ハシブトガラスとアオダイショウを 警<br />

戒 するとき, 異 なる 種 類 の 鳴 き 声 を 発 しました. 親 は,ハシ<br />

ブトガラスをみつけると「チカチカ」と 繰 り 返 し 鳴 きました.こ<br />

の 声 は, 周 波 数 帯 の 狭 いいくつかの 音 声 要 素 で 構 成 され<br />

ていました( 図 1A). 一 方 ,アオダイショウをみつけると<br />

「ジャージャー」と 繰 り 返 し 鳴 きました.この 声 は 周 波 数 帯 の<br />

広 い 音 声 要 素 が 連 なって 構 成 されていました( 図 1B).<br />

ヒナはこれら2 種 類 の 警 戒 声 に 対 して 異 なる 行 動 で 反 応<br />

しました.ハシブトガラスを 提 示 した 試 行 では,ヒナは「チカ<br />

チカ」を 聞 いて 巣 箱 の 底 にぎゅっとうずくまりました( 図<br />

2A).ハシブトガラスは 巣 の 入 り 口 から 襲 ってくるので,ヒナ<br />

はうずくまることで, 嘴 でつまみ 出 される 危 険 性 を 軽 減 させ<br />

ることができるのです.ハシブトガラスを 提 示 した11 巣 すべ<br />

てにおいてヒナはこの 反 応 を<br />

示 しました. 一 方 ,アオダイ<br />

ショウを 提 示 した 試 行 では,ヒ<br />

ナは「ジャージャー」という 警<br />

戒 声 を 聞 くと 一 斉 に 巣 箱 から<br />

飛 び 出 しました( 図 2B).アオ<br />

ダイショウは 樹 洞 に 侵 入 する<br />

ので,その 前 に 巣 を 脱 出 する<br />

ことが 捕 食 を 回 避 する 唯 一 の<br />

方 法 です.もちろん, 巣 立 ち<br />

には 若 干 早 い 時 期 ではありま<br />

すが, 巣 に 残 っていれば,ほ<br />

ぼ 確 実 にアオダイショウに 丸<br />

呑 みにされてしまうでしょう.ア<br />

オダイショウを 提 示 した10 巣<br />

すべてで 同 様 の 反 応 がみら<br />

れました.<br />

巧 妙 な 親 子 間 コミュニケーション<br />

いくつかの 鳴 禽 類 で, 親 の 警 戒 声 にヒナの 餌 乞 いの 鳴 き<br />

声 をしずめる 効 果 があることが 知 られています.これによ<br />

り, 捕 食 者 は 巣 の 位 置 を 特 定 しづらくなると 考 えられます.<br />

一 方 ,シジュウカラのヒナは 異 なる2 種 類 の 警 戒 声 を 聞 き 分<br />

け, 異 なる 行 動 をとりました.この 反 応 は,2 種 の 捕 食 者 を<br />

選 択 的 に 回 避 する 上 で 適 切 なものでした.ヒナの 捕 食 は 親<br />

鳥 にとっても 大 きな 損 失 です. 異 なる 複 数 の 捕 食 者 の 存 在<br />

が,シジュウカラの 親 子 間 コミュニケーションを 複 雑 に 進 化<br />

させたと 考 えられます.<br />

今 回 ,シジュウカラが,ヒナの 捕 食 を 避 けるために 巧 妙 な<br />

方 法 で 警 戒 声 を 使 い 分 けることが 明 らかになりました.これ<br />

は, 今 まで 他 には 知 られていない 発 見 です. 今 後 は, 親 が<br />

ヒナに 対 して, 捕 食 者 の 種 類 以 外 にどのような 情 報 を 伝 え<br />

る 事 ができるのか,また, 他 の 鳥 ではどのようなコミュニケー<br />

ションがみられるのか,といったことを 中 心 に, 研 究 を 進 め<br />

ていく 予 定 です. 【 立 教 大 ・ 院 ・ 理 鈴 木 俊 貴 】<br />

■CurrentBiologyのサイト (ヒナの 反 応 が 動 画 で 見 れます)<br />

http://www.cell.com/current-biology/supplemental/S0960-9822(10)01452-1<br />

A<br />

B<br />

図 2. 親 の 警 戒 声 に 対 するヒナ<br />

の 反 応 .(A)うずくまるヒナ,<br />

(B) 巣 口 ( 画 面 上 )から 飛 び<br />

出 すヒナ.<br />

3


Bird Research News Vol.8 No.2 2011.2.21.<br />

ムクドリ<br />

英 :Grey Starling 学 :Sturnus cineraceus<br />

1. 分 類 と 形 態<br />

営 巣 中 は 巣 の 周 囲 数 mほどに 排 他 的 ななわばりを 形 成 す<br />

る.<br />

分 類 : スズメ 目 ムクドリ 科<br />

全 長 : 238mm (225-243)<br />

翼 長 : ♂ 128.9±2.8mm ♀ 124.9±2.6mm<br />

尾 長 : ♂ 65.9±2.2mm ♀ 62.5±2.9mm<br />

全 嘴 峰 長 : 26mm (24-27) ふしょ 長 : 30mm (27-31)<br />

体 重 : 23.0g (18.0-26.0)<br />

※ 自 然 翼 長 と 尾 長 は 神 奈 川 県 相 模 原 での 計 測 値 (♂272 個 体 ,<br />

♀299 個 体 ).その 他 は, 榎 本 (1941).<br />

羽 色 :<br />

雌 雄 ほぼ 同 色 . 背 は 黒 褐 色<br />

で, 腹 は 淡 く, 頭 頂 , 翼 , 尾 は 黒<br />

味 が 強 い. 頭 頂 から 頬 に 不 規 則<br />

な 白 色 部 がある. 全 体 に 暗 い 色<br />

調 の 中 で, 脚 と 嘴 は 鮮 やかな 橙<br />

色 で 目 立 つ. 腰 は 白 色 で, 飛 ん<br />

でいるときなどよく 目 立 つ. 繁 殖<br />

期 にはオスは 濃 淡 がはっきりし,<br />

橙 色 も 鮮 やかになる. 一 方 ,メス<br />

はオスに 比 べて 全 体 にぼんやり<br />

した 色 彩 となり 橙 色 部 分 もそれほ<br />

ど 鮮 やかでない, 雌 雄 並 んでい<br />

れば 明 確 に 区 別 ができるが, 色<br />

の 変 異 の 範 囲 が 大 きく, 単 一 で<br />

の 識 別 は 容 易 でない.<br />

鳴 き 声 :<br />

キュルキュル,ジャージャーなど,さまざまな 声 を 出 す. 後<br />

述 のねぐらの 追 い 払 い 等 に 使 われている 鳴 き 声 はディスト<br />

レスコール( 遭 難 声 )といって, 天 敵 に 捕 まったときに 出 す<br />

悲 鳴 である.<br />

2.<br />

分 布 と 生 息 環 境<br />

写 真 1.ムクドリのオス( 上 )と<br />

メスと 思 われる 個 体 .<br />

分 布 :<br />

日 本 と 中 国 北 部 ・ 沿 海 州 (モンゴル,シベリア, 朝 鮮 )で 繁<br />

殖 し, 冬 は 中 国 南 部 ・ 台 湾 ・ 西 南 日 本 に 南 下 . 日 本 では 全<br />

国 各 地 で 留 鳥 として 生 息 するが, 九 州 以 南 では 多 くない.<br />

北 海 道 では 夏 鳥 であったが, 近 年 は 道 南 や 道 央 で 越 冬 す<br />

るものが 増 えている.<br />

生 息 環 境 :<br />

低 地 の 平 野 や 低 山 地 にかけて 広 く 生 息 し, 農 耕 地 , 公<br />

園 , 庭 園 , 牧 場 , 村 落 付 近 の 林 , 果 樹 園 ,ゴルフ 場 など 人<br />

との 生 活 に 密 接 した 地 域 によく 見 られる.<br />

巣 :<br />

疎 林 の 樹 洞 や 人 家 の 戸 袋 , 建 造 物 の 屋 根 などのすき<br />

間 , 石 垣 の 間 ,キツツキ 類 の 古 巣 穴 などに, 枯 れ 草 , 落 ち<br />

葉 などを 敷 き 詰 め, 羽 毛 , 獣 毛 ,セロハン 紙 ,ナイロン 片 な<br />

どで 産 座 を 造 る.<br />

卵 :<br />

一 腹 卵 数 は4-7 個 . 第 1 回 繁 殖 の<br />

ほうが 第 2 回 繁 殖 より 卵 数 が 多 い.<br />

卵 は 薄 い 青 緑 色 で 基 本 的 に 卵 形 だ<br />

が, 色 や 大 きさ, 形 に 個 体 差 がある.<br />

4.<br />

雑 食 性 で, 動 物 質 ではミミズや 昆 虫 を 食 べ, 植 物 質 では<br />

初 夏 には 桜 の 実 , 秋 にはハナミズキ,エンジュ,ネズミモチ<br />

などの 木 の 実 を 食 べる. 果 樹 のモモ,ナシ,ブドウ,リンゴ,<br />

カキなども 食 べるが,かんきつ 類 は 食 べない. 秋 , 冬 には<br />

大 群 で 農 耕 地 に 下 り, 地 上 を 交 互 歩 行 しながら, 土 の 中 に<br />

嘴 を 差 し 込 むようにして 畑 や 草 地 の 昆 虫 などを 食 べる.<br />

5.<br />

食 性 と 採 食 行 動<br />

写 真 2.ムクドリの 卵 .<br />

抱 卵 ・ 育 雛 期 間 :<br />

雌 雄 で 抱 卵 するが, 夜 間 はメスのみが 行 い, 約 12 日 間 で<br />

孵 化 する. 育 雛 は 雌 雄 共 同 で 行 い, 約 23 日 で 巣 立 つ. 巣<br />

立 ち 雛 はその 後 , 親 とともに 家 族 群 で 行 動 するが, 約 1ヶ<br />

月 後 には 独 立 して 若 鳥 群 で 採 食 したり, 成 鳥 とともに 集 団<br />

で 夏 ねぐらを 形 成 する.<br />

ねぐら:<br />

ムクドリの 集 団 ねぐらは, 大 きく 夏 ねぐらと 冬 ねぐらに 分 け<br />

られる. 夏 から 秋 にかけての 夕 方 , 就 塒 前 行 動 として,ねぐ<br />

らの 上 空 を 大 群 で 飛 び 交 うさまは 圧 巻 である.かつて 夏 ね<br />

ぐらは 郊 外 の 笹 藪 や 雑 木 林 ,ヨシ 原 などであり,ヨシが 枯 れ<br />

たり 雑 木 林 が 落 葉 したりすると, 冬 ねぐらとしてまとまった 竹<br />

林 がそれに 代 わって 利 用 されていた.しかし, 近 年 は 夏 ね<br />

ぐらの 多 くは 郊 外 ではなく, 都 市 部 , 特 に 駅 前 の 街 路 樹 が<br />

多 く 使 われるようになり,そのため 騒 音 と 糞 害 などにより, 人<br />

との 軋 轢 が 生 じ, 様 々な 方 法 で 追 い 払 いが 行 われている.<br />

その 結 果 ,ねぐら 場 所 が 落 葉 樹 から 常 緑 樹 そしてビルの 屋<br />

上 の 看 板 や 電 線 などの 人 工 物 に 移 動 する 例 が 増 加 しつつ<br />

あり, 夏 ねぐらと 冬 ねぐらの 区 別 がなく, 夏 から 冬 まで 同 じ<br />

場 所 でねぐらをとる 例 も 増 加 している.<br />

興 味 深 い 生 態 や 行 動 , 保 護 上 の 課 題<br />

3.<br />

生 活 史<br />

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月<br />

繁 殖 期<br />

非 繁 殖 期<br />

繁 殖 システム:<br />

繁 殖 期 は3 月 下 旬 から7 月 で 年 に1~2 回 繁 殖 する. 一 夫<br />

一 妻 だが,まれに 一 夫 二 妻 あるいは 一 妻 二 夫 が 生 じる. 越<br />

冬 群 の 中 で 番 の 確 認 行 動 が 見 られることから, 繁 殖 にさき<br />

がけて 番 を 形 成 しているものもいると 思 われる.3 月 には 好<br />

4 適 な 巣 場 所 を 巡 る 激 しい 争 いが 観 察 される.また<br />

● 種 内 托 卵<br />

自 分 の 卵 を 他 の 種 の 巣 に 産 みつける 托 卵 を 行 う 鳥 はカッ<br />

コウやホトトギスなど 日 本 では4 種 ほど 知 られているが, 同<br />

じことを 同 じ 種 の 中 で 行 う 場 合 を 種 内 托 卵 と 呼 び,この 場<br />

合 も 托 卵 と 同 様 に, 抱 卵 も 育 雛 も 全 て 他 人 任 せとなる. 種<br />

内 托 卵 をする 種 は 全 世 界 で200 種 を 超 え,さらに 多 くの 鳥<br />

が 種 内 托 卵 をしているものと 考 えられており, 日 本 ではムク<br />

ドリがこの 種 内 托 卵 をすることが 分 かっている. 神 奈 川 県 相


Bird Research News Vol.8 No.2 2011.2.21.<br />

生 態 図 鑑<br />

模 原 市 のゴルフ 場 内 に 巣 箱 180 個 をかけ,そこで 繁 殖 する<br />

ムクドリについて 調 べたところ, 約 2 割 の 巣 で 托 卵 が 起 こっ<br />

ており, 種 内 托 卵 する 他 の 鳥 と 比 べても 高 い 頻 度 であっ<br />

た. 托 卵 される 側 ( 以 下 , 宿 主 )の 繁 殖 ステージが 産 卵 期<br />

か 育 雛 期 の 初 期 に 托 卵 された 卵 では, 通 常 の 卵 と 比 べて<br />

孵 化 率 は 変 わらず, 孵 ったヒナが 巣 立 つことも 確 認 した.<br />

抱 卵 期 前 期 に 托 卵 された 卵 は, 孵 化 するものの, 宿 主 の<br />

他 の 雛 と 比 べて 孵 化 日 が 遅 いことにより, 体 が 小 さく 数 日<br />

で 死 亡 するものが 多 かった. 抱 卵 期 後 期 以 降 に 托 卵 され<br />

たものは, 抱 卵 日 数 が 足 りないため, 孵 化 しなかった( 図<br />

1). 托 卵 する 側 としては, 宿 主 の 産 卵 期 に 托 卵 する 必 要<br />

があるが, 抱 卵 期 に 入 っても 托 卵 が 行 われており, 宿 主 を<br />

観 察 して 適 切 な 時 期 に 托 卵 するというより, 場 当 たり 的 な 印<br />

象 が 強 い.<br />

12<br />

図 1.<br />

托 卵 される 側 の<br />

繁 殖 ステージに<br />

おける 托 卵 数 と<br />

托 卵 のその 後<br />

(Yamaguchi & Saitou<br />

1997より 作 成 ).<br />

10<br />

托<br />

卵 8<br />

の<br />

数<br />

6<br />

● 人 との 関 わり<br />

4<br />

2<br />

0<br />

1 3 5 7 9 111315171921232527293133353739<br />

産 卵 期 抱 卵 期 育 雛 期<br />

托 卵 される 側 の 繁 殖 ステージ<br />

未 ふ 化<br />

ふ 化 後 死 亡<br />

ふ 化 失 敗<br />

抱 卵 期 放 棄<br />

産 卵 期 放 棄<br />

ふ 化<br />

次 に 宿 主 にとって 托 卵 されることは, 自 分 の 卵 より 多 い 数<br />

の 卵 をあたため, 多 い 数 のヒナを 育 てなくてはならず, 何 ら<br />

かの 影 響 を 被 っていると 考 えられる. 托 卵 されなかった 巣 と<br />

托 卵 された 巣 で, 孵 化<br />

率 と 巣 立 ち 率 を 比 較 し<br />

た. 孵 化 率 は 有 意 差 が<br />

なく,どちらも 高 く, 抱<br />

卵 に 及 ぼす 影 響 はな<br />

いと 考 えられたが, 巣<br />

立 ち 率 では 托 卵 された<br />

巣 で 有 意 に 低 くなり,<br />

育 雛 については 大 きな<br />

影 響 があり, 托 卵 され<br />

た 巣 では, 巣 立 ちさせ<br />

るヒナの 数 が 少 なく<br />

なっていた( 図 2).<br />

100<br />

80<br />

60<br />

40<br />

20<br />

0<br />

N=63 13 59 12<br />

非 托 卵 巣 托 卵 巣 非 托 卵 巣 托 卵 巣<br />

ふ 化 率 (%) 巣 ⽴ち 率 (%)<br />

図 2. 托 卵 された 巣 と 托 卵 されなかった<br />

巣 における 孵 化 率 と 巣 立 ち 率<br />

(Yamaguchi & Saitou 1997より 作 成 ).<br />

棒 の 中 の 数 字 は 巣 数 .<br />

このような 負 の 影 響 があるため, 托 卵 を 防 ぐ 行 動 の 獲 得<br />

が 考 えられる. 托 卵 を 防 ぐためには, 托 卵 された 卵 を 見<br />

破 って 巣 から 除 去 することや 托 卵 されないよう 防 衛 すること<br />

が 考 えられるが,そのような 行 動 は 見 られなかった.<br />

托 卵 する 個 体 であるが, 実 験 的 に 巣 箱 の 数 を 少 なくし,<br />

巣 箱 で 繁 殖 出 来 ない 個 体 を 多 く 作 ったところ 托 卵 される 巣<br />

の 割 合 が 増 加 した.このことは, 繁 殖 できる 状 況 にありなが<br />

ら, 巣 場 所 の 問 題 などで 繁 殖 できない 個 体 が 種 内 托 卵 を<br />

しているかもしれないことを 示 唆 している.<br />

古 くは 田 畑 にて 害 虫 を 多 く 食 べることより 益 鳥 とされてい<br />

た.しかし,1960 年 代 以 降 になるとナシへの 被 害 が 問 題 に<br />

なり, 他 の 果 樹 にも 被 害 を 出 すようになったことから 現 在 で<br />

は 害 鳥 と 位 置 づけられることが 多 い. 近 年 では, 農 作 物 へ<br />

の 被 害 より, 都 市 部 でのねぐら 問 題 が 大 きく, 毎 年 のように<br />

夏 から 秋 にかけてマスコミが 取 り 上 げている. 駅 前 の 街 路<br />

樹 などでは, 大 規 模 枝 打 ち,ネットかけ,ディストレスコール<br />

などにより, 強 い 人 為 的 圧 力 をかけ 追 い 払 っているが,そ<br />

の 移 動 先 は 郊 外 ではなく 近 くの 別 の 街 路 樹 や 人 工 物 ,あ<br />

るいは 他 の 自 治 体 の 駅 前 であり,ねぐらを 分 散 させ, 事 態<br />

をより 悪 化 させていることが 多 い. 初 めにねぐらが 出 来 た 自<br />

治 体 や 付 近 の 住 民 にとっては,そこからいなくなることが 解<br />

決 のように 思 われるが,もっと 広 域 に 考 えるとそれは 解 決 で<br />

はなく 問 題 の 転 嫁 でしかない. 最 近 では, 一 部 の 自 治 体 で<br />

は 全 てのムクドリを 追 い 払 うことはせず, 被 害 のひどいとこ<br />

ろだけを 排 除 し, 比 較 的 被 害 の 少 ないねぐらは 残 していく<br />

ような 共 存 の 道 を 模 索 している.<br />

● ギンムクドリとの 雑 種<br />

日 本 では,ムクドリ 科 はムクドリ 以 外 に 主 にギンムクドリ,シ<br />

ベリアムクドリ,コムクドリ,カラムクドリ,ホシムクドリが 観 察 さ<br />

れており,ムクドリとギンムクドリの 交 雑 個 体 と 思 われる 羽 色<br />

を 持 つ 個 体 が 観 察 されていた.2009 年 , 高 知 県 宿 毛 市 に<br />

おいて,ムクドリの 雌 とギンムクドリの 雄 が 同 じ 巣 穴 に 入 り,<br />

雛 への 給 餌 も 確 認 され, 交 雑 個 体 と 考 えられる 巣 立 ち 雛 が<br />

この 巣 穴 から 出 てくるところも 確 認 された. 宿 毛 市 において<br />

は,2007 年 からギンムクドリが 確 認 されており, 両 種 の 生 息<br />

環 境 や 生 態 が 重 なることから 交 雑 しやすい 状 況 にあったと<br />

考 えられる. 今 後 ,ギンムクドリに 限 らず, 他 の 地 域 でもムク<br />

ドリ 科 内 における 交 雑 個 体 の 出 現 に 注 視 したい.<br />

6.<br />

榎 本 佳 樹 . 1941. 野 鳥 便 覧 ( 下 ). 日 本 野 鳥 の 会 大 阪 支 部 . 大 阪 .<br />

越 川 重 治 .2006. 駅 前 のムクドリの 集 団 塒 は 何 故 , 増 えたか.- 安 易 な 追 い<br />

払 いが 駅 前 塒 や 人 工 物 塒 を 増 やす-.Urban Birds 23:27-40.<br />

齋 藤 隆 史 .1986.ムクドリにおける 一 繁 殖 期 内 の 一 夫 二 妻 あるいは 一 妻 二 夫<br />

鳥 類 の 繁 殖 戦 略 ( 上 )( 山 岸 哲 編 ), pp107-129. 東 海 大 学 出 版 会 , 東 京 .<br />

佐 藤 重 穂 ・ 木 村 宏 ・ 平 田 幸 ・ 岡 井 義 明 .2010. 高 知 県 宿 毛 市 におけるムクドリと<br />

ギンムクドリの 異 種 間 つがいによる 繁 殖 事 例 . 日 本 鳥 学 会 誌 59:76-79.<br />

Yamaguchi, Y. & Saitou, T. 1997. Intraspecific nest parasitism in the grey<br />

starling (Sturnus cineraceus ). Ecological Research 12:211-221.<br />

Yamaguchi, Y. 1997. Intraspecific nest parasitism and anti-parasite behavior<br />

in the Grey starling, Sturnus cineraceus. Journal of Ethology 15:61-68.<br />

Yamaguchi, Y. 2000. Parasitism strategy of the grey starling, Sturnus<br />

cineraceus : Selection based on host characters and nest location. Ecological<br />

Research 15:113-120.<br />

執 筆 者<br />

山 口 恭 弘<br />

引 用 ・ 参 考 文 献<br />

( 独 ) 農 業 ・ 食 品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構<br />

中 央 農 業 総 合 研 究 センター・ 鳥 獣 害 研 究 サブチーム<br />

ムクドリは 大 学 院 時 代 の 研 究 テー<br />

マでした. 繁 殖 期 は 朝 から 日 が 暮<br />

れるまで 調 査 漬 けの 毎 日 で 大 変 で<br />

したが, 今 考 えると, 何 も 考 えずに<br />

研 究 に 没 頭 できる 環 境 の 貴 重 さを<br />

感 じます.いつまでも 探 求 心 を<br />

持 って 研 究 を 続 けていけたらと 思 う<br />

今 日 このごろです.<br />

自 宅 の 隣 の 雑 木 林 で 娘 の<br />

紬 実 (3か 月 )と 一 緒 に. 5


Bird Research News Vol.8 No.2 2011.2.21.<br />

活 動 報 告<br />

地 道 な 調 査 が 役 に 立 つとき?<br />

希 少 鳥 類 の 保 護 状 況 の 調 査 を 受 託<br />

高 木 憲 太 郎<br />

今 年 度 ,といっても 残 りわずかですが, 日 本 の 希 少 鳥 類<br />

の 今 後 の 保 護 に 役 立 てるために,これらの 種 の 保 護 状 況<br />

を 調 べるという 業 務 を 環 境 省 から 受 託 しましたので,ご 紹 介<br />

します.<br />

希 少 鳥 類 の 分 布 情 報 を 集 める<br />

日 本 の 希 少 鳥 類 の 保 護 状 況 を 調 べるといっても, 一 から<br />

現 地 調 査 するわけではありません.すでに 調 査 が 行 われて<br />

いて, 分 布 や 個 体 数 のデータが 存 在 する 鳥 を 対 象 に, 鳥<br />

獣 保 護 区 などとの 関 係 を 分 析 します.<br />

希 少 鳥 類 のうち 分 布 のあまり 広 くない 鳥 は, 環 境 省 の 保<br />

護 増 殖 事 業 によって, 個 々の 種 を 対 象 に 生 息 状 況 などが<br />

調 査 されていたり,それ 以 外 にもNGOやNPO, 個 人 の 研 究<br />

者 などが 独 自 に 調 査 して, 生 息 状 況 が 把 握 されている 鳥<br />

がいます.これらの 種 については, 関 係 者 の 協 力 のもと,<br />

個 別 にデータの 提 供 や,それが 難 しい 場 合 は,データ 所<br />

有 者 の 方 に 解 析 の 協 力 を 依 頼 します.<br />

一 方 , 分 布 が 広 い 鳥 の 場 合 は,どこにいて,どこにいな<br />

いのかを 捉 えられている 調 査 データが 必 要 です.そこで,<br />

モニタリングサイト1000のシギ・チドリ 類 やガンカモ 類 の 調<br />

査 など, 全 国 の 主 要 な 渡 来 地 や 繁 殖 地 を 網 羅 している 調<br />

査 のデータを 提 供 していただき 利 用 します.<br />

鳥 獣 保 護 区 などの 保 護 下 にあるのは?<br />

「 鳥 」のデータと 比 較 する「 保 護 」の 側 のデータは, 鳥 獣 保<br />

護 区 や 国 立 ・ 国 定 公 園 などです.「 鳥 」 側 のデータは,ある<br />

ものは 渡 来 地 ごとの 個 体 数 であり,あるものはメッシュごと<br />

の 繁 殖 の 有 無 についての 情 報 ですが,どれくらいの 個 体<br />

数 や 繁 殖 地 が 鳥 獣 保 護 区 などの 保 護 のもとにあるのかを,<br />

「 鳥 」と「 保 護 」の 両 方 のデータをGIS 上 で 重 ねて 調 べます.<br />

こうした 調 査 ができるのは,GISが 普 及 して 鳥 獣 保 護 区 な<br />

どのデータが 整 備 されてきたことと,なによりも, 鳥 の 分 布<br />

などの 基 礎 的 な 調 査 の 積 み 重 ねがあったからです. 希 少<br />

鳥 類 の 生 息 状 況 などの 情 報 は, 一 般 に 公 開 するべきでは<br />

ないものが 多 く, 今 回 の 調 査 の<br />

結 果 についても 環 境 省 でも 公<br />

表 は 予 定 していないそうです.<br />

しかし, 淡 々と 続 けられた 調 査<br />

の 積 み 重 ねが, 今 回 のような 分<br />

析 に 活 かされ, 国 の 施 策 にも<br />

反 映 されるかもしれない,という<br />

ことを 皆 さんに 知 っていただき<br />

たいと 思 います.ですので, 希<br />

少 鳥 類 の 保 護 に 支 障 をきたさ<br />

ない 範 囲 で, 何 かしらご 報 告 で<br />

きたらいいなと 思 っています.<br />

図 .GISによる 分 析 のイメージ.<br />

鳥 のポイント&メッシュデータ<br />

に 保 護 区 の 情 報 を 結 合 する.<br />

コラム 鳥 獣 保 護 区 の 分 布<br />

鳥 獣 保 護 区 は, 国 が 指 定 しているものと, 都 道 府 県 が<br />

指 定 しているものがあります. 全 国 地 図 で 見 てみると, 国<br />

が 指 定 している 鳥 獣 保 護 区 は,ひとつひとつは 比 較 的<br />

大 きいのですが, 指 定 されている 地 域 の 数 は 意 外 と 少 な<br />

いのです( 図 ). 逆 に, 都 道 府 県 が 指 定 している 鳥 獣 保<br />

護 区 がこんなにたくさんあることに 驚 きました.<br />

今 回 の 調 査 で 使 用 する 鳥 獣 保 護 区 や 国 立 ・ 国 定 公 園<br />

のGISデータは 最 新 のものですが, 少 し 古 いものであれ<br />

ば, 国 土 数 値 情 報 のサイトから,ダウンロードすることが<br />

できます. 皆 さんの 手 持 ちのデータと 重 ね 合 わせてみる<br />

と 面 白 いかもしれません.<br />

■ 国 土 数 値 情 報 ダウンロードサービスのページ<br />

http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/jpgis/jpgis_datalist.html<br />

図 . 国 指 定 ( 茶 )と 都 道 府 県 指 定 ( 緑 )の 鳥 獣 保 護 区 の 分 布 の 例 .こ<br />

こに 図 示 していない 地 域 もほぼ 同 じような 状 況 .<br />

平 成 21 年 度 に 国 土 交 通 省 が 作 成 した 国 土 数 値 情 報 ( 鳥 獣 保 護<br />

区 データ) をもとに 作 図 した.<br />

バードリサーチニュース 2011 年 2 月 号 Vol.8 No.2<br />

2011 年 2 月 21 日 発 行<br />

発 行 元 : 特 定 非 営 利 活 動 法 人 バードリサーチ<br />

〒183-0034 東 京 都 府 中 市 住 吉 町 1-29-9<br />

TEL & FAX 042-401-8661<br />

E-mail: br@bird-research.jp URL: http://www.bird-research.jp<br />

発 行 者 : 植 田 睦 之 編 集 者 : 高 木 憲 太 郎 表 紙 の 写 真 : マガン<br />

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