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ハイビジョンと映画のメディアミックス に関する研究 - 電気通信大学学術 ...

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ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 研 究石 田 武 久電 気 通 信 大 学2011 年 3 月


ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 研 究石 田 武 久電 気 通 信 大 学 大 学 院 電 気 通 信 学 研 究 科博 士 ( 学 術 )の 学 位 申 請 論 文2011 年 3 月


ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 研 究博 士 論 文 審 査 委 員主 査 兼 子 正 勝 教 授委 員 中 嶋 信 生 教 授委 員 高 橋 裕 樹 准 教 授委 員 坂 本 真 樹 准 教 授委 員 三 木 哲 也 学 長 特 別 顧 問


著 作 権 所 有 者石 田 武 久2011 年 3 月


A study on Media Mix development of HDTV and MovieTakehisa IshidaAbstactThis paper outlines research relating to the development of video mediawhich has achieved great success synergizing HDTV and Movie (we call“media mix development” that kind of development synergizing more thantwo media), which are two types of media that originally had differingbackgrounds and characteristics. Mixing both media types has achievedcontent production results such as new production techniques,nonconventional and innovative visual imagery, and revised workflows. Inaddition, mixing both media types has technically revolutionized contentdelivery and projection methods, causing a large impact on screening andperformance aspects in the Movie industry. Based on a large number ofpractical case studies, this paper specifically examines and discussesvarious “content production” and “content delivery” problems thatarose and effects that were achieved when HDTV and Movie media mixing wascarried out.In order to discuss these issues, this paper first studies the type of relationshipbetween HDTV and Movie prior to the media mix of both media types started. Then, thediverse kinds of equipment needed to media mix of both media are examined, lookingat, for example, how HDTV and film converters have been developed. A wide varietyof technical problems that arise in the media mix process are also examined, suchas the varying aspect ratio and differing number of images per second between HDTVand film. In addition, other issues that will be examined and discussed, drawing ona large number of practical case studies, include a look at how the wide variety oftechnology and knowledge developed and accumulated through the media mix of HDTV andMovie have influenced and been put to use in the expansion of video media driven bythe rapid advancement of digitalization. Lastly, this paper will discuss and lookto the future of video media development..


ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 研 究石 田 武 久概 要映 画 とテレビは、 動 画 を 視 聴 するという 点 では 非 常 に 近 いメディアだが、 両 者の 情 報 量 は 大 きく 違 い、 物 理 特 性 や 視 聴 形 態 が 異 なっており、 互 いに 影 響 しつつも 相 互 交 流 することは 少 なく、 別 々のメディアとして 成 長 してきた。しかし 1980年 代 初 頭 、 次 世 代 テレビとして、 映 画 に 匹 敵 する 情 報 量 を 持 ち、ワイド・ 大 画 面向 きという 特 徴 を 持 つハイビジョン( 当 初 高 品 位 テレビとも 呼 ばれた)が 開 発 され、ハイビジョンと 映 画 を 双 方 向 交 流 させることにより、コンテンツ 制 作 および流 通 の 両 面 において、 従 来 とは 違 う 新 たな 映 像 メディアの 展 開 をするようになってきた。「メディア」に 関 する 従 来 の 理 解 には、1960 年 代 のマクルーハンらの「 個 々のメディアが 特 性 によって 区 別 される」ことを 重 視 する 立 場 と、 近 年 の「メディアの 区 別 が 薄 れ 全 体 として 交 じり 合 っている」ことを 重 視 する 立 場 がある。本 研 究 では、この 二 つの 間 の 移 行 形 態 として「 個 々のメディアがそれぞれの 特性 を 保 持 しながら、 相 互 に 歩 み 寄 り 相 互 変 換 や 相 互 交 流 をおこなう 状 態 」を「メディアミックス」の 用 語 でとらえ、その 具 体 的 な 事 例 として、1980 年 代 から 90 年代 におこなわれたハイビジョンと 映 画 の 双 方 向 的 交 流 を 考 察 し、その 技 術 史 的 ・表 現 史 的 意 味 づけを 明 らかにしている。本 論 文 では、ハイビジョンと 映 画 という 元 来 素 性 も 特 性 も 違 う 二 つのメディアをミックスするために 行 われた 様 々な 技 術 開 発 や 課 題 の 解 決 策 について、そしてその 成 果 として 行 われたコンテンツ 制 作 と 配 信 の 両 面 においてなされた 技 法 やノウハウの 開 発 について、 当 時 行 われた 多 くの 実 践 を 通 して 具 体 的 に 検 証 し 論 じている。そしてそれらが、その 後 今 日 から 近 未 来 に 至 る 映 像 メディアの 展 開 に 与 えた 影 響 や 効 果 についても 考 察 し、 展 望 している。まず、 標 準 テレビ 時 代 における 映 画 とテレビの 関 係 について 当 時 のメディア 状況 を 技 術 史 的 に 明 らかにしている。そしてハイビジョンが 開 発 されて 以 降 の 両 メディア 関 係 については 同 じ 動 画 像 を 扱 い 情 報 量 が 近 いとは 言 え、 化 学 メディアである 映 画 と 電 子 メディアのハイビジョンは、 画 像 を 形 成 する 仕 組 みが 異 なっており、 毎 秒 コマ 数 やアスペクト 比 、 色 再 現 性 や 階 調 再 現 性 、 鮮 鋭 度 やノイズなどの画 調 も 違 っており、 両 者 をメディアミックスするための F⇔V 変 換 系 、 両 者 のトー


ンを 合 わせるための 映 像 調 整 系 、そして 両 者 をメディアミックスすることで 相 乗効 果 を 発 揮 させる 映 像 加 工 ・ 合 成 系 などハード 系 の 開 発 について 詳 細 に 述 べている。さらに 両 メディアを 相 互 交 流 する 上 で 問 題 となる 技 術 的 要 件 を 調 べ、 上 述 のハード 系 をたくみに 使 いこなすための 技 法 、ノウハウについても 論 じている。その 次 に、これらのハードウエアおよびノウハウの 開 発 の 蓄 積 をベースに、1980年 代 から 1990 年 代 半 ば 頃 まで 行 われた 数 多 くのコンテンツ 制 作 において、どのような 問 題 に 遭 遇 し 如 何 に 課 題 を 克 服 し、 新 たな 制 作 技 法 を 編 み 出 し、どのような斬 新 的 な 映 像 表 現 を 創 り 出 してきたのか、10 数 本 の 作 品 を 選 び 具 体 的 に 検 証 している。それらの 中 の 代 表 的 ポイントとして、 映 画 におけるオプティカル 法 では 困難 だったが、 電 子 メディアのハイビジョンがその 威 力 を 存 分 に 発 揮 することができた 制 作 技 法 、すなわちリアルタイムに 高 精 度 に 高 画 質 で 行 うことができる 映 像合 成 ・ 加 工 処 理 法 について、 実 践 例 にもとづき 問 題 点 と 成 果 を 明 らかにした。それらの 技 法 を 使 うことでなされた 映 像 表 現 力 の 向 上 、ワークフローに 与 えた 影 響 、さらに 効 率 性 向 上 への 寄 与 などについて 具 体 例 に 基 づき 明 らかにしている。そしてその 次 に、このようなメディアミックスにより 制 作 されたコンテンツを電 子 的 方 法 、チャンネルにより 配 給 、 配 信 する 側 面 について、 当 時 行 われた 数 々の 実 践 例 を 詳 細 に 検 証 し、 問 題 点 と 共 に 得 られた 成 果 を 明 らかにした。あわせて、当 時 全 国 各 地 に 構 築 されたハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホール、ハイビジョンギャラリーの 技 術 動 向 や 課 題 について 明 らかにし、さらにそれらがトータル的 に 当 時 の 映 像 産 業 的 側 面 に 与 えた 影 響 について 論 じている。そして、ここまで 論 じてきたメディアミックスの 問 題 点 や 成 果 が、1990 年 代 半ば 頃 から 急 速 に 進 んだデジタル 化 にどのような 影 響 を 与 え、どのように 成 長 を 遂げ、2000 年 代 半 ば 頃 から 急 展 開 し 始 めたデジタルシネマにどう 繋 がっているかについて 明 らかにした。その 上 で、 決 してとどまることなく 成 長 を 続 ける 映 像 メディアがこれからどのような 展 開 をして 行 くのかについて 展 望 を 加 えている。「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」に 関 して、 技 術 史 ・ 映 像 表 現 史 、さらに 映 像 産 業 的 な 視 点 から 総 合 的 に 考 察 し 意 味 づけした 研 究 は 他 に 類 がなく、 独自 性 は 高 い。その 論 述 、 考 察 のベースは、NHK 技 術 研 究 所 においてハイビジョンシステムの 研 究 開 発 や 機 器 開 発 を 担 当 し、 放 送 技 術 局 などにおいて 多 くのコンテンツ 制 作 の 実 践 や 配 信 ・ 上 映 に 関 する 研 究 調 査 に 携 わってきた 筆 者 の 経 験 、 知 見 に基 づいている。それらを 通 して 得 られた 研 究 成 果 は、 国 際 会 議 やテレビジョン 学会 、 映 画 テレビ 技 術 協 会 などの 場 において 報 告 ・ 公 開 され 映 像 メディアの 進 展 に貢 献 した。 本 論 文 執 筆 は 自 身 の 研 究 現 場 や 制 作 現 場 における 長 期 にわたる 広 範 な


研 究 活 動 を 通 して 蓄 積 した 知 見 をベースに、 膨 大 な 文 献 や 資 料 、 関 係 者 から 入 手した 情 報 を 綿 密 に 調 査 、 検 証 し 書 いている。それらは 網 羅 性 、 普 遍 性 があり 資 料的 な 価 値 を 持 っており、 本 研 究 の 成 果 物 で 意 義 のひとつである。


目 次第 1 章 序 論 11.1 本 研 究 の 社 会 的 背 景 と 研 究 の 目 的 ......................................11.2 本 研 究 の 学 術 的 背 景 と 目 的 ............................................31.3 本 論 文 の 構 成 ........................................................7第 2 章 標 準 テレビ 時 代 におけるテレビと 映 画 の 関 係 122.1 はじめに...........................................................122.2 標 準 テレビにおけるフィルムの 利 用 ...................................122.3 標 準 テレビにおけるフィルム 送 像 システム.............................142.4 標 準 テレビにおけるフィルム 録 画 システム.............................142.5 標 準 テレビにおけるフィルムとテレビのメディアミックス...............15第 3 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 するハードウエア 173.1 はじめに...........................................................173.2 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 課 題 と 効 果 ...................183.2.1 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 至 る映 画 システムの 成 長 .............................................183.2.2 メディアミックスを 前 提 にした 映 画 フィルムについての 調 査 と 評 価 ...193.2.3 映 画 とのメディアミックスに 至 るハイビジョンの 開 発 と 成 長 .........213.2.4 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 進 展 .....................243.3 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 対 する 推 進 策 .................253.4 ハイビジョンフィルム 送 像 システムの 開 発 .............................283.4.1 70mm フィルム 3 ビジコンテレシネ...............................283.4.2 70mm フィルムレーザーテレシネ.................................293.4.3 35mm フィルムレーザーテレシネ.................................333.4.4 その 他 のハイビジョン 用 テレシネ................................393.5 ハイビジョンフィルム 録 画 システム....................................393.5.1 ハイビジョンフィルム 録 画 システム..............................403.5.2 電 子 ビームフィルム 録 画 システム................................423.6 ハイビジョンカメラの 開 発 と 成 長 ......................................443.7 ハイビジョンVTRの 開 発 と 成 長 ......................................463.8 ハイビジョン 合 成 ・ 加 工 ・ 処 理 システム................................483.8.1 映 像 合 成 用 機 器 ................................................483.8.2 映 像 加 工 ・ 処 理 用 機 器 ..........................................513.8.3 コンピュータ 技 術 の 活 用 システム................................533.9 ハイビジョン 大 画 面 ディスプレイ......................................543.10 コンテンツ 配 信 系 ..................................................57i


3.11 まとめ............................................................58第 4 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 要 件 624.1 はじめに............................................................624.2 ハイビジョンとフィルム 変 換 に 伴 う 問 題 ................................624.2.1 ハイビジョンと 映 画 の 毎 秒 コマ 数 の 違 いに 伴 う 問 題 ................624.2.2 画 面 の 横 縦 比 (アスペクト 比 )に 関 する 問 題 ......................704.3 フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 画 質 に 関 する 問 題 ....................744.4 フィルムとハイビジョン 映 像 合 成 ・ 加 工 ・ 処 理 に 関 する 問 題 ..............794.5 まとめ.............................................................81第 5 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスによるコンテンツ 制 作 の 実 践 835.1 はじめに............................................................835.2 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 実 践 例 ........................845.3 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおける 制 作 技 法 および映 像 表 現 .........................................................1015.3.1 多 種 多 様 な 映 像 素 材 を 混 在 し 制 作 した 最 初 のハイビジョン利 用 の 本 格 的 商 業 映 画 『 西 遊 記 』.............................1015.3.2 最 先 端 の 合 成 技 術 を 多 用 した NHK 初 のエレクトロ・シネマ『 出 発 』...................................................1095.3.3 絢 爛 豪 華 な 映 像 美 の 世 界 を 描 いた 日 英 共 同 作 品『プロスペローの 本 』.......................................1145.3.4 コンピュータ 技 術 を 投 入 し、 新 たな 映 像 ジャンルを開 いた 作 品 .................................................1205.3.4.1 "Ten Seconds After"....................................1215.3.4.2 "The Screw and the Wall"...............................1255.3.4.3 本 節 のまとめ...........................................1285.4 本 章 のまとめ.......................................................129第 6 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおけるコンテンツ 配 信 ・ 上 映に 関 する 実 践 1326.1 はじめに...........................................................1326.2 ハイビジョンシアター 展 開 に 向 けて 行 われた 実 践 .......................1336.2.1 1990 年 代 以 前 の 映 画 産 業 の 状 況 とビデオシアターの 動 向 ...........1336.2.2 大 型 映 像 シアターに 向 けた 研 究 調 査 ..............................1346.2.3 ハイビジョン・ 大 型 映 像 シアターに 向 けた 様 々なメディアミックスの 実 践 ......................................1366.2.4 本 節 のまとめ..................................................1436.3 電 子 メディアの 特 徴 を 活 かしたコンテンツ 配 信 ・ 上 映 ....................144ii


6.3.1 ハイビジョンによるコンテンツ 配 信 の 実 践 例 .....................1446.3.2 コンテンツ 配 信 実 践 のまとめ...................................1546.4 ハイビジョンシアターについての 考 察 .................................1556.4.1 ハイビジョンシアターを 巡 る 状 況 ...............................1556.4.2 国 内 外 におけるハイビジョンシアターの 状 況 と 展 望 ...............1566.4.3 ハイビジョンシアターの 実 践 のまとめ...........................1596.5 本 章 の 考 察 とまとめ.................................................160第 7 章 新 たな 映 像 メディアの 成 長 と 今 後 の 展 望 1637.1 はじめに...........................................................1637.2 メディアミックス 時 代 からデジタル 技 術 時 代 へ.........................1637. 3 デジタル 技 術 が 映 像 メディアに 与 えた 影 響 と 効 果 .......................1667. 4 デジタルシネマの 登 場 と 成 長 .........................................1677.4 .1 デジタルシネマの 登 場 .......................................1677.4 .2 デジタルシネマの 意 味 、 定 義 .................................1687.4 .3 デジタルシネマの 規 格 化 、 標 準 化 に 関 する 動 向 .................1707.4 .4 デジタルシネマに 向 けたハードウエア・システムの 成 長 .........1727.4 .4.1 F→V 変 換 システム...................................1737.4 .4.2 V→F 変 換 システム...................................1787.4 .4.3 デジタルシネマカメラの 成 長 ...........................1807.4 .4.4 コンテンツ 制 作 系 の 動 向 、 状 況 .........................1837.4 .4.5 コンテンツ 記 録 ・ 再 生 系 ...............................1847.4 .4.6 デジタル 符 号 化 技 術 とコンテンツ 配 信 ・ 伝 送 の 実 践 例 .....1867.4 .4.7 コンテンツサーバ 系 ...................................1887.4 .4.8 コンテンツ 上 映 ディスプレイ...........................1887.4 .5 デジタルシネマの 今 後 の 展 望 .................................1897.5 今 後 の 映 像 情 報 メディアの 展 望 .......................................1907.5.1 今 後 、 映 像 情 報 メディアが 目 指 す 目 標 ・ 方 向 .....................1907.5.2 3D・ 立 体 映 像 メディアの 展 望 ...................................1917.5.3 超 臨 場 感 映 像 メディア「スーパーハイビジョン SHV」の 展 望 ........1967.6 まとめ..............................................................200第 8 章 まとめとむすび 2038.1 はじめに............................................................2038.2 本 研 究 論 文 のまとめ..................................................2048.3 むすび..............................................................209謝 辞 ........................................................................211参 考 文 献 ......................................................................212研 究 業 績 ......................................................................218iii


付 録 編付 録 1 第 3 章 関 連 写 真 ........................................................1付 録 2 第 5 章 関 連 写 真 ........................................................5付 録 3 第 6 章 関 連 写 真 .......................................................13付 録 4 第 7 章 関 連 写 真 .......................................................19付 録 5 ハイビジョン 技 術 史 ...................................................25付 録 6 コンテンツリスト.....................................................29iv


第 1 章 序 論1.1 本 研 究 の 社 会 的 背 景 と 研 究 の 目 的近 年 、デジタル 技 術 をベースに、ネットワークのワイドバンド 化 やインターネットの 普 及 に 合 わせ、テレビ 番 組 や 映 画 作 品 、ゲームソフトといった 映 像 コンテンツが 様 々なチャンネルで 配 信 ・ 流 通 されるようになっている。 従 来 、 別 々の 役割 を 担 い、 別 々の 業 態 だった 放 送 と 通 信 の 両 業 界 において「 放 送 と 通 信 の 融 合 」 1 ということがしばしば 語 られ、それらを 推 進 する 国 の 施 策 も 進 んでいる 2 。 昨 今 、ラジオ、テレビに 代 表 される 放 送 メディアと 電 話 、 携 帯 電 話 、インターネットなどの 通 信 メディアが 相 互 に 乗 り 入 れ、 新 たな 映 像 情 報 サービスが 急 速 に 進 んでいる。具 体 的 なサービス 形 態 として、テレビと IP(Internet Protocol)を 融 合 した IPTV放 送 、ネットと 電 波 を 併 用 するワンセグ 放 送 や VOD(Video On Demand)サービスなどが 始 まっている。ワイドバンドのネットワーク 環 境 も 利 用 したコンテンツの 制作 コラボレーションや 配 信 など、 今 後 ますますメディアの 融 合 による 多 種 多 彩 な展 開 が 予 想 されている 3 。しかし「メディアの 融 合 」は 放 送 と 通 信 という 特 定 のメディア、 分 野 に 限 ったことではなく、 技 術 面 だけに 局 限 されるものでもない。レフ・マノビッチは「ポスト・メディアの 美 学 」 4 において、マクルーハン 的 な 個 別 メディア(medium) 5 の差 異 がなくなる 状 況 を 描 き 出 し 理 論 化 している。マクルーハンのメディア 論 6 が 主張 したのは、 音 声 や 活 字 、ラジオやテレビといった 個 別 メディアは、それぞれ 情報 を 伝 達 する 特 性 、 特 徴 を 異 にしており、 違 うやり 方 で 人 間 や 社 会 集 団 に 影 響 を与 え、それらを 組 織 化 していくということだった。マクルーハンが 言 う「メディアはメッセージである」 7 のメディアとは 原 語 では「 個 別 メディア(medium)」のことであり、 個 々のメディアはそれぞれの 特 性 によって 区 別 されるということが基 本 になっている。そのことは、 例 えば、アートとかメディアを 教 える 大 学 の 学科 構 成 が、 絵 画 、 彫 刻 、 写 真 、 映 画 、デザイン、 放 送 など 個 別 メディアごとに 分かれているように、 学 問 や 社 会 制 度 にも 反 映 されていた。しかし、マノビッチはメディアの「 区 分 」、「 領 域 」が 近 年 、 時 代 と 共 に 曖 昧 になっていると 指 摘 する。ビデオアート、インスタレーション、コンセプチュアルアート、メディアアートなど 従 来 の 学 問 分 野 では 分 類 できないような 実 践 が、1970年 代 以 降 増 えてきている。さらに 最 近 のデジタル 技 術 の 進 展 により、 写 真 や 絵 画( 広 義 の)においても 制 作 過 程 でデジタル 画 像 処 理 が 自 由 に 使 われ、 映 画 やテレビ、インターネット、 携 帯 電 話 など 多 様 なチャンネルにデジタル 動 画 が 同 じよう1


に 流 される 状 況 になっている。「 個 別 メディア」は 従 来 のように 区 別 することができないばかりか、 多 数 の 個 別 メディアが 共 生 するような「メディア 環 境 」 全 体 を単 位 にして 考 えた 方 が 良 いというのがマノビッチの 論 である。最 近 の 国 内 外 における 様 々なデジタルメディアに 関 連 するコンベンション・エキジビションやイベントなどにおける 動 向 を 見 れば、マノビッチの 論 に 当 てはまるようなメディアの 状 況 が 生 まれている。 例 えば、 携 帯 電 話 は 今 や 単 なる 電 話 の端 末 ではなくなり、 放 送 、インターネット、 映 画 、ゲームなどあらゆる 映 像 ・ 情報 を 入 手 し 発 信 する 総 合 情 報 端 末 となっており、その 象 徴 としてスマートフォンなど 従 来 にない 情 報 ツールも 出 現 している。また 印 刷 、 出 版 の 世 界 では、 電 子 書籍 の 登 場 に 見 られるように、 紙 に 代 わる 電 子 ディスプレイ、 本 屋 での 物 販 に 替 わるネットでの 配 信 と 言 うように、 大 きなメディアの 変 化 が 起 きている。さらに、静 止 画 を 扱 う 写 真 と 動 画 を 扱 う 映 画 やテレビと 言 うように、 従 来 は 別 のメディアであったのに、 最 近 では、プロカメラマンの 間 にもデジタルカメラによる 動 画 撮影 が 急 速 に 進 展 し、それらのメディア 間 の 垣 根 が 低 くなるメディア 融 合 が 進 んでいる。このような 事 例 に 見 られるように、マノビッチが 唱 えるメディア 状 況 は 現在 の 実 社 会 の 中 で 実 証 されつつある。本 論 文 では、マクルーハンが 分 析 したような「 個 々のメディアがそれぞれの 特性 を 持 って 並 存 している」 状 態 から、マノビッチが 語 ったような「 個 別 メディアの 間 の 垣 根 がなくなる」 状 態 への 移 行 の 過 程 で、「 個 々のメディアがそれぞれの 特性 を 保 持 しながら、 相 互 に 歩 み 寄 り 相 互 変 換 や 相 互 交 流 を 行 う」 状 態 を「メディアミックス」の 用 語 で 表 し、その 代 表 的 な 事 例 として 1980 年 代 から 1990 年 代 にいたるハイビジョンと 映 画 の 関 係 を 考 察 する。なお、この「 個 別 メディアの 並 存 とメディア 融 合 の 中 間 形 態 」をあらわす 用 語は、 学 術 的 に 定 まっているわけではない。 一 般 的 に「 個 々のメディアがそれぞれの 特 性 をある 程 度 持 ったままで 交 叉 したり 混 じりあったりする」ことを「メディアミックス」あるいは「クロスメディア」と 言 うが、 両 者 の 用 語 とも 現 在 では、複 数 メディアを 通 じて 広 告 や 商 品 開 発 を 展 開 するビジネスモデルを 指 して 使 われることが 多 い。 例 えば、 漫 画 や 小 説 を 映 画 やテレビドラマ 化 したり、 同 じキャラクターを、ゲームから 映 画 、 人 形 、さらには 衣 類 や 装 身 具 に 用 いたりするような場 合 である。 最 近 の 象 徴 的 な 事 例 として、デジタル 技 術 が 大 きく 進 展 した 2005 年に 開 催 された 愛 知 万 博 での 試 みがある。 既 存 のメディアであったネットワーク 系(WEB(PC)、 携 帯 電 話 、 場 内 情 報 提 示 装 置 など)、 放 送 系 ( 地 上 デジタル 放 送 、CATV、海 外 放 送 系 など)、およびパッケージ・ 活 字 系 ( 自 治 体 大 型 映 像 表 示 装 置 、DVD・CD、2


万 博 新 聞 、 電 光 ニュースなど)に 対 して、NHK、 民 放 、 新 聞 、 電 通 などが 共 同 して情 報 を 収 集 、 編 集 、 編 成 し 配 信 する 実 験 を 行 った 8 が、これも 現 代 版 メディアミックスであるということができる。本 論 文 では、 前 述 のような「 複 数 メディアにまたがる 事 業 展 開 」というビジネスモデルないしはマーケティングの 用 語 としての 意 味 合 いを 包 含 しながら、「メディアミックス」と 言 う 言 葉 を「 複 数 メディアが 混 じりあう」という 語 の 本 来 の意 味 で 使 用 する。そのような「メディアミックス」が 進 むために、それぞれのメディアがどう 成 長 し、どのように 相 互 に 交 流 し、 相 乗 効 果 としてどのような 成 果を 上 げてきたのかを 検 証 する。 本 編 で 詳 述 するように、その 過 程 で 行 われたプロセスは 紆 余 曲 折 に 富 み、 課 題 は 多 くそれらを 解 決 するためになされた 技 術 開 発 、努 力 の 蓄 積 があってはじめて「 複 数 メディアの 融 合 」が 可 能 になったと 考 える。本 論 文 で 論 じる「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」の 実 践 は 主 に 1980年 代 から 1990 年 代 半 ばに 行 われたものを 取 り 上 げているが、 筆 者 は「 単 なるハイビジョンの 映 画 への 応 用 」と 言 うより、ハイビジョンと 映 画 の 二 つのメディアが双 方 向 交 流 することにより 相 乗 効 果 を 発 揮 しつつ 共 に 成 長 し、 新 たなメディア 展開 がなされると 考 え、 本 論 文 ではその 意 を 汲 み「メディアミックス」と 言 う 用 語を 使 っている。また、その 場 合 のメディアミックスの 範 囲 としては、2 つのメディアをミックスし「コンテンツを 制 作 する 側 面 」と、 制 作 されたコンテンツを「 配信 ・ 上 映 ・ 興 行 する 側 面 」の 両 面 を 含 んでおり、それぞれについて 当 時 行 われた実 践 例 をベースに 具 体 的 に 検 証 し 論 じることにする。ただし 当 時 行 なわれたメディアミックスの 試 みは 90 年 代 半 ばで 終 焉 したものではなく、 当 然 その 後 の 映 像 メディアの 展 開 に 影 響 を 与 えて 行 くことになる。 本 論文 では、その 後 、 今 日 に 至 る 映 像 メディアの 進 展 に、 当 時 の 実 践 がどのように 影響 し、 寄 与 してきたのかについても 検 証 し、さらに 今 後 、 近 未 来 に 向 けて 映 像 メディアがどう 展 開 していくのかについての 展 望 も 行 っている。1.2 本 研 究 の 学 術 的 背 景 と 研 究 の 目 的1800 年 代 末 期 に 生 み 出 され 1900 年 代 に 成 長 を 遂 げた 映 画 、そして 1920 年 代 に開 発 され 1950 年 代 放 送 を 始 めたテレビ、 両 者 は 別 々の 映 像 メディアとして 成 長 してきた。 同 じ 動 画 像 を 扱 うとは 言 え、 一 方 はフィルムを 媒 体 とする 化 学 メディア、他 方 は 電 気 信 号 を 媒 体 とする 電 子 的 メディアで、 両 者 の 特 徴 、 特 性 は 大 きく 異 なっている。 本 研 究 は、 動 画 メディアの 主 役 の 座 を 担 ってきた「 映 画 」と「テレビ」二 つの 映 像 メディアが、それぞれどのような 成 長 を 遂 げつつ 発 展 し、その 過 程 に3


おいて 両 者 がどう 影 響 しあい、 互 いに 利 用 してきたのか、そして 現 在 どのような状 況 にあり、 今 後 さらにどう 発 展 していくのかについて、 考 察 し、 論 じるものである。本 論 文 の 主 題 である「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」において、 核となるハイビジョンは、1960 年 代 末 に NHK 総 合 技 術 研 究 所 ( 以 下 NHK 技 研 )が 次世 代 テレビを 目 指 し 開 発 し、80 年 代 から 90 年 代 にかけ 大 きく 成 長 した 新 たな 映 像メディアである。その 開 発 の 経 緯 、その 後 の 成 長 の 過 程 については 第 3 章 にて 詳述 する。「ハイビジョン」と 言 う 呼 称 はつくば 科 学 博 (1985)を 機 に 命 名 されたもので、それ 以 前 の 次 世 代 テレビは 呼 び 方 が 定 まっていなかったが、 本 稿 では 基 本的 に「ハイビジョン」の 表 記 を 使 うことにする。ハイビジョンは 映 像 メディアの形 態 としてはテレビ( 当 時 は 現 行 テレビと 呼 んでいたが、 本 稿 では 標 準 テレビと称 する)のひとつであるが、 高 精 細 度 で 大 画 面 向 きの 表 現 力 からしても 当 時 の 標準 テレビとはまったく 性 格 の 違 う 映 像 メディアであると 考 える。本 論 文 では、「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 論 じるのに、 映 画とテレビの 二 つの 映 像 メディアの 態 様 の 時 間 的 変 遷 をベースに 考 える。 図 1.1 は映 像 メディアの 変 遷 の 概 念 を 示 すもので、 元 々は 特 徴 、 特 性 、 役 割 が 異 なる 個 別1900映 画映 像 メディアの 変 遷1950態 様 の 変 化テレビメディアの 成 長個 別 メディア1980一 方 向 的 利 用標 準 テレビメディアミックス双 方 向 交 流ハイビジョン2000メディアフュージョンデジタルシネマ2020未 来 メディア 空 間3D・SHV図 1.1 映 像 メディアの 変 遷 の 概 念 図4


的 な 映 像 メディア、すなわち 先 発 する 映 画 と 後 発 のテレビ、さらにテレビの 発 展形 としてのハイビジョンが、 時 間 の 経 過 と 共 に 互 いに 影 響 しつつそれぞれの 特性 ・ 機 能 を 成 長 させ、メディア 間 の 相 互 関 係 を 変 化 させ、 一 方 向 的 利 用 から 徐 々に 様 々な 方 法 、 領 域 で 双 方 向 交 流 が 進 んでいく。この 状 態 をメディアミックスと捉 えている。やがてそれぞれのメディアの 境 界 は 重 なり 合 いメディアフュージョン( 融 合 )の 状 態 になっていく。標 準 テレビ 時 代 においては、 映 画 とテレビは 情 報 量 が 違 いすぎるため、 映 画 をテレビに 一 方 向 的 に 利 用 をすることはあっても、テレビを 映 画 が 利 用 することはほとんど 行 われなかった。しかし、 映 画 を 目 標 に 開 発 され、 情 報 量 が 35mm 映 画 と同 程 度 で 標 準 テレビにはない 迫 力 ・ 臨 場 感 を 有 する 新 たなメディア「ハイビジョン」の 登 場 により、 映 像 メディアの 様 相 は 大 きく 変 わっていき、テレビと 映 画 の双 方 向 的 交 流 がなされメディアミックスが 進 んで 行 くようになっていく。本 編 で 詳 述 するように、ハイビジョンと 映 画 は 毎 秒 コマ 数 や 画 調 など 両 者 の 特徴 、 特 性 はまったく 違 っており、 双 方 向 交 流 のためのハードウエアの 開 発 、 両 メディアをクロスする 上 での 様 々な 問 題 を 克 服 しなければならなかった。それらのメディアミックスの 成 果 として、 従 来 にない 斬 新 な 映 像 表 現 が 実 現 され、 新 たなワークフローにより 多 種 多 彩 なコンテンツが 制 作 された。またメディアミックスはコンテンツの 配 信 や 上 映 面 においても、 従 来 のフィルムよる 配 給 方 法 に 加 え、電 子 メディアによる 配 信 ・ 上 映 も 可 能 になって 行 く。 当 時 、メディアミックスに向 け、 様 々な 研 究 調 査 、 各 種 イベント・ 活 動 が 行 われたが、それらは 本 論 文 の 主題 に 関 連 する 一 種 の 社 会 的 実 験 であり、それらの 意 義 、 成 果 などについて 本 編 の中 で 具 体 的 に 論 じている。 当 時 行 われた 様 々なメディアミックスの 実 践 は、 映 像業 界 の 態 様 、 産 業 的 側 面 にも 変 化 をもたらし、 新 たな 映 像 ビジネスを 誘 発 し、その 後 の 映 像 メディアの 展 開 に 大 きな 影 響 を 与 えていくことになった。本 論 文 で 扱 うハイビジョンと 映 画 のメディアミックスは、 主 に 80 年 代 半 ばから90 年 代 半 ば 頃 までに 行 われたものだが、それらを 通 しての 経 験 や 得 られた 成 果 は、その 後 、 制 作 系 、 配 信 系 、 上 映 系 のあらゆる 分 野 で 急 進 展 したデジタル 化 に 伴 う映 像 メディアの 展 開 に 大 きな 影 響 を 与 え、さらに 2000 年 代 における 映 画 とテレビのメディアフュージョンともいえるデジタルシネマへとつながっていく。さらに、技 術 の 進 歩 はとどまることを 知 らず、 映 像 メディアの 様 相 はこれからも 変 容 し、未 来 に 向 け 新 たな 展 開 をしていくと 考 える。 本 論 文 ではそれらの 一 連 の 映 像 メディアの 変 遷 、 成 長 について 考 察 し、 論 じている。5


ここで 本 研 究 のテーマに 関 連 する 先 行 研 究 について 触 れておく。 映 画 部 門 に 関して、 映 画 作 品 や 制 作 技 法 について 論 じた 研 究 ・ 調 査 報 告 は 数 多 いが、それらは個 々の 作 品 あるいは 個 別 メディアとしての 映 画 に 視 点 を 置 いたもので、 映 画 とテレビの 関 係 についてメディア 論 的 に 論 じたものではない。また 映 画 とテレビの 関係 において、 標 準 テレビ 時 代 の F→V 変 換 もしくは V→F 変 換 系 についての 技 術 面での 研 究 報 告 9 は 多 々 見 られるが、 本 研 究 の 主 題 のように 二 つのメディアを 相 関 づけメディア 論 的 に 論 じたものではない。 次 世 代 テレビの 研 究 開 発 を 始 めた 頃 、 医療 分 野 や 航 空 撮 影 、シミュレータなどの 分 野 で 高 精 細 度 テレビ 技 術 について 提 案あるいは 実 験 された 研 究 報 告 は 散 見 されるが、それらについては 草 創 期 の 次 世 代テレビ 用 のディスプレイやカメラの 試 作 開 発 ・ 実 験 の 参 考 にされている 10 。本 研 究 の 主 題 である「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」に 関 しては、次 世 代 テレビ 草 創 期 の 頃 、それに 関 する 研 究 をやっていたのは NHK 技 研 の 一 部 所だけで、しかもその 中 でフィルムに 関 する 研 究 テーマを 担 当 していたのは 筆 者 を含 めきわめて 少 人 数 だけであり、 本 研 究 テーマに 関 する 研 究 を 始 めた 当 時 、 他 に先 行 研 究 事 例 はほとんどなかった。そのため 筆 者 は 映 画 に 関 連 する 情 報 収 集 、 文献 調 査 研 究 から 始 め、そのひとつの 例 として『70mm 映 画 の 調 査 と 評 価 11 』をまとめ、その 後 の 本 研 究 に 関 するハード 開 発 やそれらを 使 ったコンテンツ 制 作 の 基 礎 データとしての 出 発 点 になった。その 後 も 含 め、 当 時 、 行 なわれ 本 研 究 に 関 する 研 究成 果 については、 学 会 報 告 や 各 種 活 動 を 通 じて 公 開 し、この 分 野 における 実 践 に貢 献 してきた。本 論 文 の 中 での 論 述 のベースになっているのは 筆 者 の 経 歴 とそれを 通 しての 研究 業 績 に 拠 っている。 筆 者 は 70 年 代 半 ばから 80 年 代 半 ばまで、NHK 技 研 にてハイビジョンシステムの 研 究 、とりわけハイビジョンと 映 画 フィルムに 関 するテーマを 担 当 した。ハイビジョンが 実 用 化 される 段 階 で 放 送 センターに 異 動 し、 衛 星 放送 やハイビジョン 放 送 の 実 用 化 を 推 進 し、 多 くのハイビジョン 番 組 制 作 にも 関 りを 持 ち、 一 時 期 、 出 向 した( 財 )NHK エンジニアリングサービスにてハイビジョンの 産 業 応 用 とりわけ 映 画 応 用 を 担 当 した。これらの 経 歴 を 通 して、 本 編 で 述 べるように 様 々な 技 術 開 発 や 作 品 制 作 に 関 与 し、あわせて NHK 内 外 で 行 われた 各 種 研究 会 やイベントにも 様 々な 役 割 、 担 当 で 参 画 した。このように 本 研 究 分 野 に 関 係する 業 務 に 長 年 にわたり 継 続 して 従 事 し、それらを 通 して 蓄 積 した 経 験 や 知 見 、さらに 局 内 外 に 築 いた 豊 富 な 人 脈 は、 本 研 究 を 進 める 上 で 役 に 立 っただけではなく、 微 力 ながら 映 像 メディアの 進 展 に 貢 献 してきた。本 論 文 執 筆 に 際 しては、 客 観 性 を 重 視 すべく 多 くの 事 例 を 裏 付 ける 膨 大 な 数 の6


文 献 や 資 料 を 調 査 、 参 照 し、その 上 で 単 に 事 例 を 紹 介 するのではなく、 筆 者 が 関与 し 経 験 、 蓄 積 してきた 知 見 をベースに、 自 身 の 視 点 、 判 断 を 投 入 し 考 察 、 論 じている。 本 論 に 記 した 参 考 文 献 、 引 用 文 献 などは 多 くの 実 践 に 関 わって 来 た 過 程で 筆 者 自 身 が 長 年 にわたり 蓄 積 してきたものが 多 いが、 本 研 究 のため NHK、 民 放 、映 画 界 、 映 像 業 界 、 関 連 機 器 メーカなどの 多 くの 関 係 者 に 取 材 し 入 手 したものもある。 本 論 文 に 記 した 実 践 が 行 われた 時 点 からかなり 年 月 が 経 過 している 事 例 については、 資 料 が 散 逸 しかかっているものもあり、 関 係 者 の 記 憶 が 薄 らいでいるものも 多 い。その 意 味 において、 本 論 文 で 論 述 のために 参 考 にした 膨 大 な 文 献 や資 料 を 整 理 し 保 存 することは、 学 術 史 的 記 録 として 本 研 究 の 重 要 な 意 義 のひとつである。なお、 論 文 では 多 くの 図 面 、 写 真 を 貼 付 してあるが、それらはそれぞれの 論 点 を 理 解 しやすくする 意 味 もあるが、 前 述 の 文 献 資 料 と 共 に 本 研 究 の 成 果 物でもある。1.3 本 論 文 の 構 成本 論 文 は 本 編 の 8 章 と 付 録 資 料 編 で 構 成 される。本 研 究 の 大 まかな 流 れを 理 解 しやすくするため、 映 画 とテレビの 二 つの 映 像 メディアの 技 術 的 成 長 の 経 緯 と、 本 論 文 の 各 章 で 論 述 する 内 容 との 関 係 、それらがどのような 社 会 的 イベントのもとで 行 われていたのか、 時 間 的 相 対 関 係 を 表 1 にまとめておく。この 表 に 示 す 大 きな 流 れに 添 い、 以 下 、 各 章 ごとの 論 点 概 要 を 整理 しておく。第 1 章 では、 本 研 究 の 社 会 的 および 学 術 的 意 味 、 研 究 の 目 的 、 進 め 方 、 本 論 文全 体 の 構 成 について 概 略 説 明 を 行 っている。その 中 で 本 研 究 の 社 会 的 背 景 として「 放 送 と 通 信 の 融 合 」に 象 徴 されるようにメディアミックス 化 が 進 む 映 像 メディアの 状 況 について 考 察 し、その 状 況 下 で 行 われた「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」の 意 義 、 意 味 について 考 察 している。 本 論 文 全 体 を 通 して、 元 々、 素性 、 特 性 の 異 なる 二 つの 映 像 メディアがメディアミックスからメディアフュージョンへと 態 様 を 移 行 していく 経 緯 に 添 い 論 じていく。さらに 本 研 究 の 主 題 に 関 連する 先 行 研 究 、また 各 論 点 を 論 じる 上 でベースになっている 筆 者 の 研 究 履 歴 についても 触 れている。第 2 章 では、 本 論 文 の 主 題 の「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 論じる 前 提 として、1950 年 代 から 1970 年 代 頃 の 標 準 テレビにおけるフィルムとテレビの 関 係 について 述 べている。その 時 代 、 映 画 とテレビは 別 の 映 像 メディアで、フィルムをテレビの 取 材 ・ 制 作 用 に 使 うとか、 映 画 を 放 送 番 組 素 材 に 活 用 すると7


表 1 映 画 とハイビジョンメディアの 進 展 と 本 研 究 の 関 係イベント 映 画 テレビ・ハイビジョン 本 研 究 との 関 係映 画 の 誕 生 (1895)ルミエール 第 3 章テレビ 開 発 ・ 高 柳 「イ」 表 示 (1926) 第 3 章テレビ 放 送開 始 (1954)・ワイド、 大 画 面化 (50 年 代 )・ 茶 の 間 にて 小 画 面 で 視 聴 第 2 章 、SDTV 時 代 のフィルムとの 交 流東 京 オリン・ 低 落 傾 向 ・ 普 及 進 む、カラー 化 第 3 章 、 一 方 向 的 交 流ピック次 世 代 テレビ 研 究 開 始第 3 章 、HV 草 創 期(1964)・ 高 品 位 テレビ 機 器 開 発 、双 方 向 交 流 進 むコンテンツ 制 作 始 まるつくば 科 学・「ハイビジョン」 命 名 、第 3 章 、 第 5 章 、博 (1985)暫 定 仕 様 、 実 用 機 器 開 発HV 実 用 期コンテンツ 制 作 進 むソウルオリ・HV 利 用 の 映 画・ 定 時 実 験 放 送 、HV 街 頭第 4 章 、 第 5 章 、(1988)制 作 始 まるテレビ、 衛 星 生 中 継メディアミックスに映 画 応 用 進 みだすよるコンテンツ 制 作ビッグバン・ 映 画 館 への 電 子・HV 産 業 応 用 進 展 、コンテ第 6 章 、 国 内 外 で 各 種(1991、1992)配 信 実 験 実 施ンツ 配 信 ・ 伝 送 実 験伝 送 実 験 、HV ギャラリー、 多 目 的 ホールデジタル 放・デジタルシネマ・ハイビジョンが 基 幹 メディ第 7 章 、メディアフュ送 (BS:2000、の 流 れ、DI プアに、データ 放 送 、ワンセージョンからデジタ地 上 波 :03)ロセス 普 及グ、サーバ 型 放 送ルシネマの 進 展愛 知 博 (05)、NAB(07~)・3D 映 画 盛 んに ・SHV 国 内 外 で 展 示 公 開 、急 速 に 展 開 進 む 3D第 7 章 、 近 未 来 の 映 像メディアの 展 望 、3D、 超 臨 場 感 映 像か 放 送 番 組 をフィルムで 記 録 すると 言 うように、 一 方 向 的 交 流 はなされていた。そのために 使 われたフィルム 送 像 装 置 およびフィルム 録 画 装 置 の 動 向 について、また 当 時 行 われたフィルムとテレビの 交 流 の 事 例 についても 述 べてある。第 3 章 では、80 年 代 から 90 年 代 半 ば 頃 までに 行 われた「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 実 践 するために 必 要 な 各 種 ハードウエアの 開 発 経 緯 、 技 術動 向 について 論 じている。まず、 本 研 究 の 主 題 であるハイビジョンと 映 画 をメディアミックスすることの 意 義 を 考 察 し、そのための 課 題 とそれにより 得 られる 効8


果 について 論 じている。それを 行 う 前 提 として、 両 者 のメディアミックスがなされる 以 前 の 映 画 システムと 映 画 フィルムについて、また 次 世 代 テレビとしてのハイビジョンが 開 発 された 経 緯 とその 後 の 成 長 について、さらにハイビジョンの 放送 と 産 業 応 用 両 面 での 進 展 の 経 緯 について、 当 時 行 われた 研 究 活 動 や 推 進 施 策 もあわせて 述 べてある。そのあとで、 両 メディアのミックスにとって 重 要 機 器 であるハイビジョン 用 フィルム 送 像 とフィルム 録 画 システム、コンテンツ 制 作 用 ハイビジョンカメラや VTR について、また 二 つの 映 像 メディアをミックスする 上 で 効果 を 発 揮 すると 期 待 された 映 像 加 工 、 合 成 、 処 理 システムに 関 しての 開 発 、 成 長の 経 緯 、それらを 活 用 することで 得 られた 利 点 や 機 能 性 について、さらにメディアミックスで 制 作 されたコンテンツを 上 映 するコンテンツ 配 信 系 や 各 種 ディスプレイについて、それぞれの 開 発 経 緯 、 成 長 過 程 を 具 体 的 に 詳 しく 述 べてある。第 4 章 では、 第 3 章 に 記 したハードウエアを 使 い、ハイビジョンと 映 画 をメディアミックスする 際 の 様 々な 技 術 的 問 題 や 要 件 について 考 察 している。 具 体 的 ポイントとしては、フィルムとハイビジョンの 変 換 の 際 の 異 なる 毎 秒 コマ 数 に 関 する 問 題 が 大 きいが、その 点 に 関 して NHK、SMPTE、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 が 行 った 研 究 成 果 とその 意 義 について 検 証 してある。 次 に、 映 像 メディアによって 異 なる 画 面 のアスペクト 比 に 関 して、 一 体 化 制 作 ( 標 準 テレビとハイビジョン 番 組 を一 体 的 に 制 作 する 手 法 )の 際 の 問 題 、 映 画 とハイビジョンで 異 なるアスペクト 比に 伴 う 問 題 点 と 対 応 策 について 論 じてある。 次 に、フィルム 画 像 とハイビジョン映 像 で 異 なる 画 質 に 関 する 問 題 と、それらを 混 在 使 用 する 場 合 の 画 調 をあわせるため 制 作 技 法 について 論 じてある。さらに、メディアミックスにとって 大 きなメリットして 期 待 されたフィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 合 成 ・ 加 工 処 理 する 場合 の 問 題 点 や 特 徴 についても 論 じている。第 5 章 では、 本 研 究 の 主 題 である「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」の 中 で 重 要 な 点 である「コンテンツ 制 作 の 側 面 」について 論 じている。 第 3 章 で述 べた 制 作 用 の 各 種 機 器 、システムを 使 い、 第 4 章 で 述 べたメディアミックスに伴 い 派 生 する 様 々な 問 題 を 乗 り 越 えつつ、1980 年 代 から 1990 年 代 前 半 において 行われた 膨 大 な 数 の 制 作 実 践 の 中 から、 特 に 重 要 と 思 われる 作 品 を 取 り 上 げ、それぞれの 作 品 毎 にどのような 技 術 が 使 われ、どのような 問 題 に 遭 遇 しそれらをどう克 服 したのか、それらの 成 果 としてどのような 制 作 技 法 が 編 み 出 され、どのような 斬 新 な 映 像 表 現 が 創 られたのか、さらに 制 作 ワークフローにどのような 影 響 を与 え、 効 果 をもたらしたのかなどについて、 当 時 の 制 作 例 ついて 検 証 し 論 じている。そしてそれらの 実 践 を 通 して 得 られた 経 験 、 知 見 がその 後 の 映 像 メディアの9


成 長 に 与 えた 影 響 についても 考 察 を 加 えてある。第 6 章 では、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスのもうひとつの 重 要 な 側面 である「コンテンツの 配 信 、 上 映 系 の 問 題 」について 論 じている。 両 者 のメディアミックスが 進 展 することにより、 制 作 されたコンテンツは、 従 来 の 映 画 におけるフィルムでの 配 給 と 上 映 、ハイビジョンによる 電 子 的 な 配 信 と 上 映 、さらに両 者 を 混 在 するケースと 多 様 化 していく。 同 章 では、 当 時 行 われたこれらの 多 種多 彩 な 実 践 例 をベースにして 論 じているが、その 前 提 として、まず 標 準 テレビ 段階 におけるビデオシアターの 進 展 の 経 緯 、 動 向 を 整 理 し、それらの 発 展 形 としてのハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールなどの 促 進 のため 行 われた 様 々な 試行 実 験 や 研 究 調 査 活 動 の 意 義 や 成 果 を 検 証 している。それらの 活 動 成 果 として 全国 各 地 に 構 築 された 数 々の 多 目 的 映 像 ホールやハイビジョンギャラリーに 関 し、その 技 術 面 、 映 像 産 業 面 での 意 味 、 意 義 について 論 じている。その 次 に、コンテンツ 配 信 に 関 し、 電 子 メディアとしてのメリットを 活 かすべく 国 内 外 で 行 われた映 画 やハイビジョンの 配 信 ・ 伝 送 実 験 について 具 体 的 に 検 証 している。それらの実 践 は、それまでの 映 像 業 界 の 態 様 、 産 業 的 側 面 に 変 革 をもたらし、 新 たなビジネスを 掘 り 起 し、 映 像 メディアの 展 開 に 大 きな 影 響 を 与 えていくことになった。その 上 であらためてハイビジョンシアターのフィージビリティを 考 え、 今 日 に 至る 映 像 メディアに 与 えた 貢 献 、 影 響 について 考 察 している。第 7 章 では、 第 6 章 まで 論 じてきた 数 多 くのメディアミックスの 実 践 以 降 の 今日 までの 映 像 メディアの 技 術 動 向 や 進 展 状 況 について 論 じ、さらに 今 日 から 将 来に 向 けての 映 像 メディアの 展 開 についての 展 望 を 語 っている。その 前 提 として、メディアミックス 時 代 に 開 発 された 映 像 メディア 展 開 の 何 が 次 の 時 代 にどのように 引 き 継 がれ、90 年 代 後 半 頃 からあらゆる 分 野 で 急 速 に 進 展 したデジタル 技 術 によりどのように 影 響 を 受 け、さらなる 成 長 を 遂 げていったのかについて 論 じている。デジタル 化 により 映 像 信 号 は 単 なるデータとなり、 映 像 システムはファイル化 が 進 み、 各 プロセスはネットワークでリンクされ、コンテンツ 素 材 の 共 有 、 共用 化 が 進 んでいる。コンテンツの 制 作 から 配 信 、 放 送 まで、 映 像 メディアは 大 きく 変 容 し、 従 来 のような 個 別 メディアの 境 界 はさらに 低 くなり、メディアフュージョンが 進 んでいく 状 況 について 論 じている。その 象 徴 的 事 例 として、 最 近 大 きな 注 目 を 集 め 定 着 しつつあるデジタルシネマに 関 して、 映 像 メディア 論 的 意 味 、 規 格 化 ・ 標 準 化 の 経 緯 、 国 内 外 におけるハードウエア(F⇔V 変 換 系 、4K カメラやディスプレイなど)の 開 発 状 況 について 詳 細に 調 査 し、それをベースに 今 後 の 展 開 について 展 望 をしている。そして 最 後 に、10


これからの 映 像 メディアが 目 指 すべき 目 標 、 方 向 について、 今 進 みつつあるメディアの 状 況 、 学 会 や 映 像 業 界 で 論 じられている 論 議 を 踏 まえ、 筆 者 の 経 験 、 知 見をベースに 考 察 し、その 具 体 例 として 発 展 途 上 にある「3D 映 像 」と 次 世 代 の 超 臨場 感 映 像 システム「スーパーハイビジョン」について、 今 後 の 進 展 を 展 望 する。第 8 章 では 本 論 文 のむすびとして 全 体 的 まとめを 書 いてある。「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」に 関 して、80 年 代 から 90 年 代 にかけ 行 われた「コンテンツ 制 作 面 および 配 信 ・ 上 映 面 」における 様 々な 実 践 を 通 して、 何 が 得 られ、何 が 明 らかになったのか、そしてそれらがその 後 の 映 像 メディアの 展 開 に 与 えた影 響 や 効 果 について、 本 研 究 の 成 果 のまとめを 書 いてある。さらに 本 論 文 を 書 く上 で 参 考 にした 文 献 リスト、 本 研 究 のベースになった 筆 者 の 研 究 業 績 および 関 係各 位 に 対 する 謝 辞 も 記 してある。なお、 本 論 文 全 体 に 関 わる 補 足 資 料 として、 付 録 編 で 各 章 の 論 述 に 関 連 する 写真 類 、 本 論 文 の 主 題 に 関 連 する「ハイビジョン 技 術 史 」およびメディアミックスのコンテンツ 制 作 実 践 に 関 連 する「コンテンツリスト」をまとめてある。これらの 技 術 資 料 や 文 献 リストを 整 理 、 記 録 、 保 存 することも 本 研 究 の 学 術 史 的 成 果 である。1 音 好 弘 「 放 送 メディアの 現 代 的 展 開 」ニューメディア、pp.59-64、20072平 成 19 年 版 「 情 報 通 信 白 書 」 総 務 省 、pp.250-253、20083本 間 祐 次 「IPTV 通 信 ・ 放 送 融 合 サービスの 大 本 命 」ニューメディア、pp.99-111、20074Lev Manovich, "Post-media Aesthetics" 、http://www.manovich.net/5周 知 のように、 日 本 語 の「メディア」に 対 応 する 語 は、 英 語 (あるいはその 元 になったラテン 語 、そこから 派 生 したフランス 語 など)では 単 数 形 medium の 複 数 形 media である。 個 々の「 媒 体 ・ 媒 介 」は medium であり、 複 数 の medium をまとめて 論 じる 時 に mediaの 語 を 使 う。 日 本 語 には 両 者 を 区 別 する 考 え 方 がないため、 本 論 文 では 便 宜 的 に mediumを「 個 別 メディア」とあらわしている6マーシャル・マクルーハン「メディア 論 」、みずず 書 房 、1987(Marchal MacLuhan,Understanding Media,MacGraw-Hill Book Company,1964)7マーシャル 前 掲 書 、pp.78音 前 掲 書 、pp.163-1799杉 浦 幸 雄 、 元 木 紀 雄 「レーザーを 用 いたカラーフィルム 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、VOL31、No5、pp.35-42、197710林 宏 三 「 高 精 細 度 テレビジョン」テレビジョン 学 会 誌 、VOL28、No9、pp.2-7、197411石 田 武 久 他 「70mm 映 画 フィルムによる 高 品 位 テレビ 動 画 像 の 評 価 」テレビジョン 学 会技 術 報 告 、1975/911


第 2 章 標 準 テレビ 時 代 におけるテレビと 映 画 の 関 係2.1 はじめに第 3 章 で 詳 細 に 述 べるが、 次 世 代 テレビとしてのハイビジョンは、 標 準 テレビが 東 京 オリンピックを 機 にカラー 化 が 始 まった 頃 、NHK 技 研 で 研 究 が 開 始 され、 標準 テレビから 成 長 、 発 展 したものである。 本 章 では 本 研 究 の 主 題 のテーマである「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 考 察 する 前 提 として、 標 準 テレビ時 代 においてテレビと 映 画 がどのような 関 係 にあり、どのような 役 割 分 担 、 交 流をしていたのかについて 整 理 しておく。2.2 標 準 テレビにおけるフィルムの 利 用わが 国 でテレビ 放 送 が 始 まったのは 1953 年 のことである。 当 時 、 主 に 使 われていたテレビカメラは 撮 像 管 にイメージオルシコンを 使 った 大 型 のもので、 感 度 は低 く、 機 動 性 が 悪 く、フィールドでの 撮 影 には 適 さず、ほとんどのテレビ 番 組 はスタジオからの 生 放 送 が 当 たり 前 だった。しかし、テレビ 放 送 の 成 長 にあわせ、様 々な 番 組 が 制 作 、 放 送 されるようになるにつれ、ニュース 報 道 、ドキュメンタリー、 自 然 ・ 紀 行 ものなど 多 くのジャンルの 番 組 で、 機 動 性 、 操 作 性 に 優 れた 16mmフィルムカメラが 使 われるようになった。 海 外 取 材 など 大 型 の 企 画 番 組 などでは、画 質 を 重 視 し 35mm フィルムが 使 われることもあった。1960 年 代 になり、 小 形 の 光 導 電 型 撮 像 管 が 開 発 され、 初 期 モデルのビジコンからプランビコンやサチコンへと 代 わり 性 能 が 向 上 し、それらを 搭 載 しテレビカメラは 小 型 化 、 高 画 質 化 が 進 んでいく。その 後 、 信 頼 性 の 向 上 、 一 層 の 小 型 化 を 目指 し、 映 像 プロセッサーは 真 空 管 からトランジスター 化 されていく。1970 年 代 になりショルダー 型 、ハンディカメラが 開 発 され、フィールドでのテレビカメラの使 用 が 急 速 に 増 えていった。70 年 代 半 ば 頃 になると、 取 材 した 映 像 素 材 をいかに早 くオンエアするか、 迅 速 な 報 道 取 材 への 要 望 が 高 まり、 小 型 カメラと 携 帯 型 VTRを 組 み 合 わせた 電 子 的 ニュース 取 材 システム ENG(Electronic News Gathering)が 登 場 1 し、 報 道 番 組 の 取 材 法 はフィルム 撮 影 から 小 型 テレビカメラへと 変 わっていくことになった。しかし 緊 急 性 が 求 められるニュース 報 道 以 外 の 一 般 番 組 では、相 変 わらず 機 動 性 の 高 いフィルムカメラが 盛 んに 使 われていた。その 後 、1980 年代 半 ばから 1990 年 代 にかけ、 撮 像 デバイスは 撮 像 管 から 固 体 素 子 にかわりテレビカメラは 一 層 小 型 化 され、90 年 代 にはカメラヘッドと VTR が 一 体 化 されたカメラ( 通 称 カムコーダ)も 登 場 し 機 動 性 が 大 きく 向 上 することになった。それにつれ、12


テレビカメラ 取 材 が 主 流 となっていき、フィルムカメラは 高 速 度 撮 影 や 高 感 度 撮影 など 特 殊 な 場 合 を 除 き 徐 々に 使 われなくなっていった。一 方 、 標 準 テレビの 草 創 期 、まだ VTR が 開 発 されていなかった 頃 、テレビ 番 組を 記 録 する 唯 一 の 方 法 として、 後 述 するフィルム 録 画 装 置 が 再 放 送 や 番 組 保 存 のために 大 いに 使 われていた。1960 年 代 に VTR が 開 発 され 2 番 組 記 録 、 再 生 に 使 われるようになると、 番 組 制 作 や 放 送 送 出 のやり 方 は 大 きく 変 わっていく。 生 放 送 番組 のように 時 系 列 で 順 番 に 撮 影 する 必 要 はなくなり、 順 不 同 でカット 毎 に 撮 影 した 映 像 素 材 を 編 集 して 番 組 が 制 作 できるようになり、 番 組 制 作 効 率 は 格 段 に 向 上すると 共 に 表 現 手 法 や 番 組 品 質 も 高 くなった。 放 送 送 出 においても、 時 差 放 送 や再 放 送 が 可 能 になり 番 組 編 成 は 柔 軟 にできるようになった。このように 放 送 メディアは VTR の 登 場 により 革 命 的 に 変 質 していった。VTR により 放 送 番 組 制 作 や 送 出 法 が 変 わるのにあわせ、フィルム 録 画 の 利 用 法 も次 第 に 変 わっていった。VTR が 開 発 されてからしばらくの 間 は、VTR テープはかなり 高 価 だったので、 放 送 での 番 組 再 生 が 終 わるとテープを 消 去 し 次 の 番 組 に 再 利用 するのが 普 通 で、 放 送 済 み 番 組 を VTR テープにより 保 存 することはほとんどなかった。そのため 1960 年 代 半 ば 頃 まで、 番 組 保 存 用 記 録 メディアとしては 相 変 わらずフィルム 録 画 が 使 われていた。そのおかげで、 当 時 の 放 送 番 組 がフィルム 録画 装 置 でフィルムに 記 録 保 存 され、 貴 重 な 映 像 遺 産 として 残 されている 文 化 的 意義 は 大 きいものがある。 国 内 で VTR の 利 用 がかなり 進 んだ 1970 年 代 になっても、VTR 普 及 があまり 進 んでいなかった 海 外 放 送 局 との 番 組 交 換 はフィルムでなされることが 多 かった。1972 年 開 催 の 札 幌 オリンピックの 際 には、 海 外 放 送 局 向 けに競 技 映 像 やサマリー 映 像 をキネレコでフィルム 化 し 提 供 することが 行 なわれた。このようにテレビ 放 送 草 創 期 にフィルム 録 画 が 果 たした 役 割 は 大 きい。しかしその 後 、 年 々VTR の 普 及 が 進 みテープが 安 価 になるにつれ、 番 組 制 作 はもちろん 番 組保 存 もテープで 行 われるようになっていくようになり、フィルム 録 画 はほとんど使 われなくなっていった。 映 像 メディアの 変 遷 の 象 徴 的 事 例 のひとつである。一 方 で、フィルムは 草 創 期 のテレビ 時 代 に 番 組 取 材 や 記 録 、 保 存 用 に 使 われただけでなく、テレビ 放 送 が 開 始 される 以 前 や 以 後 に、 科 学 用 や 産 業 用 にフィルムで 撮 影 された 映 像 資 料 や 映 像 資 産 も 多 く、それらを 放 送 用 素 材 として 活 用 することも 重 要 なことだった。さらに 映 画 館 公 開 用 に 制 作 された 映 画 作 品 は、 大 変 良 質の 放 送 番 組 素 材 として 視 聴 者 の 人 気 は 高 く、 放 送 が 始 まった 頃 から 大 いに 利 用 されてきた。また、 民 放 局 のドラマや 時 代 劇 、CM 素 材 の 撮 影 に、 最 近 でもフィルムが 使 われるケースがあり、さらに 海 外 の 放 送 局 やハリウッドなどのプロダクショ13


にするレーザーでカラーフィルムに 直 接 露 光 する LBR(Laser Beam Recorder) 方 式の 研 究 を 始 め、70 年 代 半 ば、 標 準 テレビ 用 の 16mm フィルム 録 画 機 を 開 発 した 7 。この 方 式 は、 収 束 性 の 良 い 高 輝 度 のレーザービームで 直 接 フィルムに 画 像 を 録 画するもので、 低 感 度 、 微 粒 子 の 高 解 像 度 のポジフィルムにも 直 接 録 画 することもでき、 従 来 のキネレコに 比 べ 大 幅 に 画 質 が 向 上 した。この 装 置 が 開 発 された 頃 には VTR が 普 及 し 始 めており、 本 来 の 開 発 目 的 だった 番 組 録 画 用 に 使 われることは少 なかったが、VTR 台 数 に 限 りがある 状 況 下 、 繰 り 返 し 使 われることが 多 い 短 時 間のスポット 番 組 やニュース 番 組 のタイトル 再 生 用 などにしばしば 使 われた。この 装 置 は 実 用 化 のタイミングが 遅 れたため 本 来 の 目 的 に 使 われることは 少 なかったが、このシステム 開 発 に 使 われた 技 術 は 後 述 するレーザー 光 学 録 音 や 第 3章 で 述 べるハイビジョン 用 フィルム 送 像 装 置 や 録 画 装 置 の 開 発 へとつながり、 映画 とハイビジョンのメディアミックスにおいて、 大 いに 寄 与 することになった。ところで、 従 来 、 映 画 サウンド 用 の 光 学 録 音 は、フィルム 上 の 音 声 トラックの濃 度 変 化 を 用 いる 可 変 濃 度 式 と 面 積 変 化 を 用 いる 可 変 面 積 式 が 使 われていた。NHK技 研 は、 上 述 のレーザー 技 術 を 応 用 したレーザー 光 学 録 音 方 式 を 開 発 した 8 。 従 来の 光 学 録 音 式 に 比 べ、 低 感 度 のポジフィルムへの 直 接 録 音 も 可 能 で、 高 域 特 性 、SN 比 (Signal to Noise Ratio)などの 点 で 音 質 が 格 段 に 向 上 し、 従 来 難 しかった16mm フィルムへの 高 品 質 ステレオ 録 音 も 可 能 になった。 実 用 化 されたレーザー 光学 録 音 装 置 はイマジカに 納 入 され、 映 画 作 品 の 音 声 トラック 用 やインターバル 用の CM フィルムなどに 使 われた。レーザー 技 術 が 映 画 分 野 において 寄 与 した 最 初 の事 例 である。2.5 標 準 テレビにおけるフィルムとテレビの 交 流これまで 述 べてきたように、 標 準 テレビにおいてはフィルム 画 像 をテレシネで変 換 しテレビ 番 組 の 素 材 に 利 用 する、あるいはテレビ 映 像 をキネレコでフィルム画 像 にして 記 録 、 保 存 する、と 言 うように 一 方 向 的 利 用 は 頻 繁 に 行 われた。しかしフィルムとテレビを 相 互 交 流 し 両 者 がメディアミックスすることはほとんど 行われなかった。その 主 な 理 由 としては、 基 本 的 に 当 時 の 標 準 テレビは 映 画 系 に 比べると 情 報 量 が 低 すぎる 点 にあったが、それ 以 外 の 要 因 として 鮮 鋭 度 、ダイナミックレンジ、 階 調 再 現 性 、 色 再 現 性 など 画 質 の 違 いに 加 え、 機 器 の 機 動 性 ・ 操 作性 の 問 題 があり、テレビが 映 画 フィルムを 利 用 することはあっても、 映 画 がテレビを 利 用 するメリットは 少 なかったことにある。その 後 、テレビ 系 の 機 器 の 高 画質 化 、 高 機 能 化 は 大 幅 に 進 んだが、テレビ 方 式 によって 決 まる 情 報 量 の 差 は 如 何15


ともしがたく、 映 画 におけるテレビの 利 用 は 以 下 に 記 すように 限 定 的 で、 両 者 のメディアミックスは 後 述 するハイビジョンの 登 場 まで 待 たねばならなかった。映 画 におけるテレビの 利 用 としては、 画 質 の 不 十 分 さはあるとしても 映 画 制 作時 のモニターに 使 うとか、プロモーション 用 作 品 に 使 うなど 限 定 的 なものだった。またメディアミックスには 当 たらないが、 前 述 したようにテレビ 草 創 期 にテレビ番 組 を 記 録 ・ 保 存 する 方 法 としてキネレコが 多 用 されたこと、それにより 多 くの貴 重 な 草 創 期 の 放 送 番 組 が 映 像 遺 産 として 残 され、 現 在 でも 活 用 されている 点 で、フィルム 録 画 が 果 たした 功 績 、 意 義 は 大 きかった。さらにそこで 培 ったレーザー技 術 は 後 にメディアミックスに 重 要 な 役 を 果 たし、ハイビジョンの F→V→F 変 換装 置 の 開 発 に 寄 与 した 点 で 意 義 は 大 きい。標 準 テレビ 時 代 にテレビを 映 画 に 応 用 した 例 として、ビデオシアターがある。ビデオシアターは 80 年 代 半 ば 頃 、 全 国 で 約 30 館 が 開 設 され、 気 軽 に 映 画 が 楽 しめると 言 うことでそれなりの 人 気 はあったが、 画 質 や 迫 力 などの 点 で 従 来 型 の 映画 館 に 比 べ 物 足 りず、あまり 普 及 しなかった。より 高 解 像 度 で 高 画 質 、 迫 力 がある 上 映 システムが 望 まれ、その 後 のハイビジョンの 登 場 が 待 たれた。この 間 の 経緯 、 状 況 については 第 6 章 で 詳 しく 述 べる。1 NHK 放 送 文 化 研 究 所 『 放 送 の 20 世 紀 』NHK 出 版 協 会 、pp.225-226、2002、2木 原 信 敏 『ビデオテープレコーダ』 日 刊 工 業 新 聞 社 、19683高 木 卓 四 郎 他 『フィルム 技 術 ・フィルム 送 像 』NHK 出 版 協 会 、pp.41-153、19834石 田 武 久 『 第 124 回 SMPTE 大 会 の 概 要 と 欧 米 におけるフィルム-ビデオ 変 換 技 術の 動 向 』NHK 技 研 月 報 、Vol26、No.7、pp.17-22、19835石 田 『 最 近 のテレシネ 技 術 の 動 向 』テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1983/36高 木 前 掲 書 、『フィルム 技 術 《フィルム 録 画 》』pp.155-1677杉 浦 幸 雄 、 元 木 紀 雄 『レーザーを 用 いたカラーフィルム 録 画 』テレビジョン 学 会 誌 、VOL31、No.5、pp.35-42、19778高 木 前 掲 書 『フィルム 技 術 《レーザー 光 学 録 音 》』pp.185-18916


第 3 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 するハードウエア3.1 はじめにハイビジョンは 次 世 代 のテレビ 放 送 を 目 指 し 開 発 されたものだが、 標 準 テレビの 5 倍 の 情 報 量 を 持 ち、 高 精 細 度 で 大 画 面 向 きの 映 像 メディアと 言 うことで、 放送 以 外 の 映 画 、 印 刷 、 出 版 、 美 術 館 ギャラリー、 医 療 など 広 範 な 産 業 分 野 への 応用 が 期 待 され、1980 年 代 から 1990 年 代 にかけて、 実 際 に 様 々な 試 行 が 行 われた。それらの 中 でとりわけ 活 発 な 取 り 組 みがなされたのが 映 画 への 応 用 だった。当 時 、ハイビジョンの 映 画 応 用 について 検 討 、 試 行 をしていた 筆 者 らは、 単 に「ハイビジョンの 映 画 への 応 用 」と 言 うより、 図 3.1 に 示 すようにハイビジョンと 映 画 を 双 方 向 的 に 交 流 することにより、ハイビジョンと 映 画 の 双 方 が 成 長 すると 共 に 相 乗 効 果 を 発 揮 し、 新 たなメディア 展 開 することを 目 指 した。その 状 態 を「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」と 捉 え、 同 図 に 示 されるようにハイビジョンと 映 画 のメディアミックスは、F→V 変 換 および V→F 変 換 を 通 して 交 流 しつつ、 撮 影 、 制 作 、 分 配 ・ 配 給 、 上 映 ・ 映 写 段 階 まで 多 岐 にわたっている。本 章 では、 本 論 文 の 主 題 である 1980 年 代 から 90 年 代 半 ば 頃 において 行 われた「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」にとっての 課 題 とそれにより 得 られた 効 果 、メディアミックスに 必 要 なハイビジョンシステムおよび 各 種 機 器 の 開発 ・ 成 長 の 経 緯 や 問 題 点 について 述 べる。 先 行 し 成 熟 していたメディアである 映図 3.1:「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」のプロセス 117


画 に 対 して、 後 発 のメディアであるハイビジョンがどのように 開 発 され、メディアミックスに 必 要 な 各 種 機 器 開 発 がどう 行 われ、どのような 課 題 を 持 っていたのか、さらにメディアミックスすることで 得 られた 成 果 について 論 じる。これらのシステム、 機 器 の 開 発 は 一 朝 一 夕 になされたものではなく、 第 5、6 章 で 述 べる 数 々のメディアミックスの 実 践 の 経 緯 の 中 で、 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ、 改 善 改 良 が 加 えられ 成 長 してきたものである。その 過 程 で 開 発 された 技 術 やノウハウの 中 には、その 後 、 第 7 章 に 述 べるようにデジタル 化 時 代 のシステムに 継 承 され、 現 在 では汎 用 的 な 技 術 になっているものも 多 い。3.2 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 課 題 と 効 果ハイビジョンと 映 画 は、 元 々 素 性 の 異 なる 映 像 メディアで、それらがメディアミックスしていくためには、 幾 つかの 条 件 が 整 う 必 要 があった。まずハイビジョンと 映 画 の 情 報 量 がほぼ 同 程 度 になること、 次 にハイビジョンの 映 像 信 号 とフィルム 画 像 を 双 方 向 的 に 交 流 できる 変 換 系 が 必 要 で、 両 者 の 役 割 分 担 が 可 能 になることである。しかし、より 重 要 なことは 両 メディアがミックスすることにより、両 者 にとってメリットが 出 ること、とりわけ 映 像 メディアとして 先 行 していた 映画 にとって 後 発 メディアのハイビジョンを 利 用 する 利 点 、 効 果 がなければその 進展 はなかったのである。ハイビジョンにとって、 映 画 とメディアミックスすることのメリットとしては、ハイビジョンの 応 用 分 野 が 広 がり、ハイビジョンの 実 用 化 、 普 及 が 促 進 されること、 映 画 のノウハウを 活 用 することでハイビジョンの 技 術 力 を 向 上 させ、 表 現 力を 高 めることにあった。 一 方 、 映 画 にとっては、ハイビジョンと 言 う 新 しい 映 像メディアの 技 術 力 、 制 作 技 法 を 活 用 し、 従 来 の 映 画 とは 違 う 斬 新 な 表 現 法 を 創 出しワークフローを 変 え 制 作 効 率 を 向 上 させること、フィルム 物 流 による 作 品 配 給とは 異 なる 衛 星 やネットによる 電 子 配 給 の 可 能 性 を 探 り、 映 写 施 設 の 自 動 化 、 省力 化 に 寄 与 すること、そしてそれらの 相 乗 効 果 として 長 期 低 落 傾 向 にあった 映 画産 業 を 回 復 させることが 期 待 されたのである。3.2.1 ハイビジョンとのメディアミックスに 至 る 映 画 システムの 成 長ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスを 論 じる 前 に、 映 画 がどのような 成 長の 経 緯 をたどって 来 たのか 整 理 しておく 2 。1891 年 、エジソンはセルロイドベースの 帯 状 フィルムに 引 っかき 穴 (パーフォレーション)をあけ、フィルムを 駆 動 する 動 画 像 再 生 機 「キネトスコープ」を 発18


明 した。これは 動 く 画 像 を 箱 の 中 を 覗 き 込 むように 見 る 仕 掛 けで、シカゴ 万 博 に出 展 され 大 評 判 になった。ルミエール 兄 弟 ( 仏 )は、このキネトスコープに 刺 戟を 受 け、フィルムを 間 欠 的 に 送 りそれと 同 期 して 開 閉 するシャッター 付 き 幻 灯 機でスクリーン 上 に 拡 大 映 写 する 装 置 を 開 発 し、1895 年 パリで 公 開 した。これは「 動く 画 像 を 大 勢 の 人 達 が 同 時 に 見 る」と 言 う 新 たな 映 像 メディアの 誕 生 を 意 味 し、これが 映 画 誕 生 となっており、この 時 使 われた 装 置 「シネマトグラフ」が 映 画 の源 名 になっている。日 本 への 映 画 の 伝 来 は 大 変 早 く、1896 年 にキネトスコープが 神 戸 で、 翌 年 シネマトグラフが 大 阪 と 横 浜 で 公 開 されている。1897 年 には 撮 影 カメラも 輸 入 され、日 本 初 の 映 画 『 日 本 の 鉄 道 馬 車 』が 制 作 され、1903 年 には 日 本 最 初 の 映 画 館 「 浅草 電 気 館 」が 開 業 し、 大 衆 映 像 メディアとして「 活 動 写 真 」の 人 気 は 急 速 に 高 まって 行 った。その 後 、 長 い 年 月 を 経 て、 映 画 はサイレントからトーキー、 白 黒 からカラー、スタンダードから 大 画 面 へと 技 術 的 進 歩 を 経 て 成 長 し、 現 在 に 至 るまで 映 像 メディアとして 大 きな 役 割 を 担 ってきた。映 画 が 映 像 メディアとして 全 盛 期 のさなかにあった 1950 年 代 、 新 参 のテレビが登 場 してきた。 当 初 テレビは 電 気 紙 芝 居 と 揶 揄 もされ、 普 及 するとは 思 われなかったが、 映 画 館 や 劇 場 に 行 かなくても 茶 の 間 で 映 像 が 見 られるということで、 大衆 に 受 け 入 れられやがて 急 速 に 普 及 していった。その 反 動 で 映 画 は 徐 々に 低 落 傾向 を 辿 ることになり、その 先 行 きに 危 機 感 を 抱 いた 映 画 業 界 は、その 状 況 を 打 破すべくテレビにできない 迫 力 と 臨 場 感 の 高 い 映 像 表 現 を 求 めて、 立 体 映 画 、ワイド・ 大 画 面 化 を 図 って 行 く。そしてシネラマ、シネマスコープ、ビスタビジョン、70mm 映 画 など 各 種 大 型 映 画 が 次 々と 開 発 され、それらに 対 応 する 数 々の 映 画 作 品が 制 作 され 公 開 された。それらにより 映 画 の 映 像 メディアとしての 表 現 力 は 格 段に 向 上 し、『エデンの 東 』(シネマスコープ、1955)、『 北 北 西 に 進 路 をとれ』(ビスタビジョン、1959)、『アラビアのロレンス』(70mm 映 画 、1962)など 後 世 に 残 る 大作 、 名 作 が 数 多 く 制 作 された。それらの 効 が 上 がり、 映 画 館 への 入 場 者 が 戻 り 映画 産 業 は 一 時 期 盛 り 返 したが、 長 期 的 には 国 内 外 ともに 映 画 館 数 、 観 客 数 の 漸 減傾 向 はまぬがれえず、 近 年 になりシネマコンプレックスやデジタルシネマなどの技 術 革 新 により 再 び 上 昇 傾 向 になるまで 半 世 紀 近 くを 要 するのである。3.2.2 メディアミックスを 前 提 にした 映 画 フィルムについての 調 査 と 評 価NHK 技 研 で 次 世 代 テレビの 研 究 が 始 められた 頃 、その 目 標 は 大 画 面 で 迫 力 ある 映画 のようなテレビだった。 当 時 、 技 研 における 映 画 に 対 する 知 見 は 必 ずしも 十 分19


とは 言 えず、 筆 者 はまず 映 画 フィルムや 画 面 フォーマットなど 映 画 技 術 について、各 種 映 画 関 係 の 文 献 や 資 料 類 をくまなく 調 べ、 映 画 関 係 者 への 取 材 など、 調 査 研究 3 することから 始 めた。その 調 査 結 果 を 踏 まえ、 次 世 代 のテレビシステムの 研 究対 象 に 相 応 しいフィルム 素 材 として、 多 種 多 様 の 映 画 フィルムの 中 からワイド 画面 で 高 精 細 の 70mm フィルムを 選 択 した。 研 究 部 員 揃 って 実 際 に 映 画 館 に 出 かけ数 々の 70mm 映 画 を 見 て、 大 画 面 映 像 が 人 間 に 与 える 心 理 的 要 因 や 画 質 要 因 などについて 分 析 、 評 価 することも 行 なった。さらに、より 詳 細 な 評 価 をするため、また 次 世 代 テレビ 用 の 動 画 像 信 号 源 を 確保 するため、 映 画 館 で 老 朽 化 し 廃 棄 された 70mm 映 写 機 を 譲 り 受 け、 研 究 室 内 にスクリーンと 共 に 設 置 し 様 々な 実 験 も 行 った。 映 画 配 給 会 社 から 借 用 した 公 開 済 み予 告 編 数 本 の 70mm 映 画 フィルムを 使 い、ワイド 大 画 面 における 画 像 の 鮮 明 さ、 迫力 や 臨 場 感 、 好 ましい 画 面 サイズ、 動 画 像 の 目 まぐるしさなど 様 々な 要 素 について 評 価 試 験 を 行 なった 4 。それらの 評 価 結 果 については、 部 内 外 で 公 開 すると 共 に本 章 で 後 述 する 70mm フィルム 送 像 装 置 の 開 発 や 第 4 章 で 述 べるテレビ 方 式 パラメータを 決 める 際 の 評 価 試 験 などにも 使 われた。また、フィルムの 物 理 的 特 性 やフィルム 画 像 の 画 質 要 因 をより 詳 細 に 調 べるため、NHK 撮 影 部 の 協 力 を 得 て、 実 験 ・ 調 査 用 サンプルフィルムを 制 作 し、 各 種 データの 測 定 や 画 質 評 価 も 行 なわれた。まず 第 1 段 階 として、フィルムの 物 理 的 特 性 を 調 べるため、ネガフィルムのイメージサイズが 異 なる 各 種 カメラ(スタンダード《 標 準 的 35mm カメラ》、ビスタビジョン《 横 走 り 35mm カメラ: 通 常 の 35mm 映 画 よりイメージサイズが 大 きい》、スーパー16mm《 通 常 の 16mm よりイメージサイズが 大 きい》)を 使 い、 各 種 レンズ( 単 焦 点 、ズーム、アナモフィック《シネマスコープを 想 定 》)により、フィルムのタイプ(ネガフィルム、リバーサルフィルム、マスターポジ《 通 常 撮 影 には 使わない 低 感 度 微 粒 子 フィルム》)を 使 い、 各 種 テストチャート( 解 像 度 パターン、グレースケール、カラーチャートパターン)の 撮 影 を 行 った。 撮 影 されたフィルムは 現 像 後 、70mm フィルムにブローアップ・プリントされ、 写 真 測 定 用 のミクロフォトメータを 使 い、 解 像 度 ( 中 心 部 と 周 辺 部 )、 図 形 歪 、 粒 状 性 ノイズ、 階 調 再5現 性 やコントラスト 比 、 色 再 現 性 などの 測 定 を 行 い、 部 内 部 外 6 で 報 告 された。これらの 測 定 データは、 次 世 代 テレビの 方 式 研 究 のため、また 後 述 の FV 変 換 装 置 の基 本 設 計 のための 基 礎 データとして 使 われた。また 第 2 段 階 として、 箱 根 や 伊 豆 などにロケをし、 風 景 、 花 やシャボテン、 動物 、 高 層 ビル、 海 の 波 浪 やサーフィンなど 様 々な 被 写 体 を、 上 述 のフィルム 特 性20


測 定 用 と 同 じ 要 領 でイメージサイズの 異 なる 各 種 カメラ、 各 種 レンズ、 各 種 フィルムを 使 い、 露 光 条 件 を 変 え、さらに 毎 秒 コマ 数 を 24 コマと 30 コマの 両 方 について 撮 影 した。そしてそれらの 映 像 素 材 をネガ 編 集 し、35mm への 密 着 プリントと70mm へのブローアップを 行 なった。こうして 制 作 されたサンプルフィルムコンテンツ『 伊 豆 ・ 箱 根 』 7 は、ハイビジョンシステムの 画 質 要 因 の 研 究 評 価 用 や 技 研 公開 用 にも 使 われた。3.2.3 映 画 とのメディアミックスに 至 るハイビジョンの 開 発 と 成 長映 画 全 盛 時 代 の 50 年 代 半 ばに 登 場 したテレビは、 今 起 きている 事 象 を 自 宅 で 見られると 言 う 日 常 性 、 即 時 性 のメディアである。 国 民 に 関 心 の 高 いイベントだった「 皇 太 子 ( 現 天 皇 )ご 成 婚 」(1959)や「 東 京 オリンピック 生 中 継 」(1964)放 送 はその 典 型 例 で、テレビの 普 及 に 大 きな 弾 みをつけ 放 送 メディア 史 に 大 きな足 跡 を 残 した。とりわけ 東 京 オリンピックは、 技 術 オリンピックとも 言 われたように、テレビ 放 送 史 上 初 めてカラー 生 中 継 と 米 国 への 衛 星 生 中 継 が 実 施 された。これを 機 にカラーテレビの 普 及 が 進 み、 衛 星 中 継 は 放 送 メディアのグローバル 化を 促 進 することになり、さらにはその 後 の 衛 星 放 送 へとつながっていった。ハイビジョンはカラーテレビが 徐 々に 普 及 し 始 めた 60 年 代 後 半 、NHK 技 研 において 次 世 代 テレビとしての 研 究 が 始 められた。 当 時 、 標 準 テレビ 放 送 に 使 われていた NTSC 方 式 は、 現 在 に 至 るまで 半 世 紀 以 上 にわたって 使 われてきた 優 れたものだが、 当 時 の 技 術 的 制 約 のもと 開 発 されたもので 必 ずしも 最 善 の 映 像 システムとは 言 えず、 解 像 度 不 足 やクロスカラーなどの 問 題 を 抱 えていた。そこで NHK 技 研では 一 切 の 技 術 的 制 約 に 捉 われずに「 次 世 代 テレビはどうあるべきか」という 視点 にたって 基 本 的 検 討 が 行 われた。そして 次 世 代 テレビが 目 指 す 方 向 性 として 浮 かび 上 ったのが、ひとつは「 情 報の 多 様 化 」であり、もうひとつが「 情 報 の 高 品 質 化 、 濃 密 化 」だった。 前 者 から「テレビ 音 声 多 重 放 送 」、「 文 字 多 重 放 送 」、「 静 止 画 放 送 」などが 生 まれ、80 年 代から 90 年 代 頃 までのテレビ 放 送 の 一 翼 を 担 い、やがてそれらはデジタル 放 送 時 代の 重 要 な 映 像 ・ 音 声 ・ 情 報 メディアとして 成 長 していくことになった。もうひとつの 方 向 性 としてターゲットに 上 がったのが、 従 来 のテレビにはない迫 力 ・ 臨 場 感 を 持 つ「 大 画 面 ・ 高 精 細 度 テレビ」だった 8 。それに 向 けて、 画 面 形状 ( 画 面 サイズやアスペクト 比 )や 方 式 パラメータ( 走 査 線 数 や 毎 秒 像 数 )を 探 るため、スライド 画 像 や 写 真 、 高 精 細 度 の 印 刷 物 やコンピュータグラフィックス、さらに 70mm 映 画 フィルムなどを 使 い、 後 述 するような 様 々な 視 覚 ・ 心 理 評 価 試 験21


やシミュレーションが 行 なわれた 9 。それらの 結 果 に 基 づき、 走 査 線 数 など 仮 の 仕様 を 定 めカメラやディスプレイなどの 機 器 を 試 作 し、それらを 使 いテレビシステムとしての 評 価 を 行 った。 当 時 、その 呼 称 は 定 まっておらず「 高 精 細 度 テレビ(High-Definition Television)」とか「 高 品 位 テレビ(High-Fidelity Television)」と 呼 ばれていた。「ハイビジョン(Hi-Vision)」の 呼 称 は、1985 年 つくば 科 学 博 を機 に 命 名 されたものである。次 世 代 テレビに 向 けた 研 究 、 開 発 は、 当 初 主 に NHK 技 研 内 で 進 められていたが、1985 年 、 科 学 技 術 をメインテーマにした 国 家 的 大 イベント「つくば 科 学 技 術 博 覧会 」 10 を 機 に 大 きく 進 展 することになった。 同 博 覧 会 には、 日 本 が 世 界 に 問 うニューメディアとして「 高 度 情 報 通 信 システム(INS)」や「 光 総 合 情 報 システム」と共 に「ハイビジョン」が 出 展 された。 国 の 施 策 に 添 い、 多 くの 電 子 機 器 、 光 学 機器 メーカなどがハイビジョン 機 器 開 発 へ 参 入 することになり、「つくば 博 暫 定 規 格11 」が 決 められ、それに 基 づいて 実 用 レベルのカメラ、VTR、ディスプレイ、スイッチャー、DVE、フィルム 送 像 装 置 、 方 式 変 換 装 置 などほとんどのハイビジョン 機器 の 開 発 が 行 なわれた 12 。それらの 機 器 を 使 いハイビジョンの 番 組 制 作 も 行 われ、 政 府 館 の EXPO センター・コズミックホールで 公 開 され、 限 定 的 ながらも 地 上 でのハイビジョン 実 験 放送 も 行 われた。 科 学 博 会 場 内 での 12GHz 帯 でのミューズ 方 式 ( 後 述 )による 実 験放 送 、さらに INS 光 ファイバー 網 で 東 京 、 大 阪 、 名 古 屋 へも 配 信 されサテライト会 場 でもハイビジョン 作 品 が 公 開 された。 科 学 博 会 場 内 だけでなく、 全 国 各 地 で公 開 された 高 精 細 で 迫 力 ある 大 型 映 像 を 多 くの 人 達 が 目 にすることになり、ハイビジョンが 新 たな 映 像 メディアとして 認 知 される 絶 好 の 機 会 になった。つくば 科学 博 は、 新 たな 放 送 ・ 映 像 メディアの 進 展 にとって 最 初 の 大 きな 実 験 、 実 践 の 場となった。 新 しい 映 像 メディアとして 大 きな 可 能 性 が 高 く 評 価 され、ハイビジョンシステム、 機 器 の 開 発 は 一 層 加 速 され 13 ていくことになった。当 時 のハイビジョンの 仕 様 は、 映 像 信 号 帯 域 が 30MHz で 標 準 テレビの 約 5 倍 の情 報 量 14 を 持 ち、 地 上 波 の 帯 域 では 放 送 できず、 同 じ 時 期 に 研 究 が 進 められていた衛 星 放 送 (BS)の 12GHz 帯 チャンネルを 使 うことが 検 討 された。BS の 1 チャンネルの 伝 送 帯 域 は 27MHz で、その 帯 域 内 で 伝 送 するために 開 発 された 帯 域 圧 縮 法 が「ミューズ 方 式 」 15 である。これは 30MHz の 広 帯 域 の 映 像 信 号 を、 視 覚 心 理 特 性 を 巧 みに 利 用 しデジタル 信 号 処 理 により 約 8MHz に 圧 縮 する 符 号 化 方 式 で、これを 使 うことで BS の 1 チャンネルで 放 送 できるようになった。ミューズは、 信 号 処 理 はデジタルでなされているが、 放 送 が FM 変 調 方 式 のため、90 年 代 半 ば 頃 なされたデジ・22


アナ 論 争 の 際 にやり 玉 にあげられた 論 拠 になったのである。しかし、デジタル 符号 化 技 術 、デジタル 放 送 方 式 が 標 準 化 されていない 当 時 、このミューズ 方 式 が 開発 されたおかげで、1988 年 からの 実 験 放 送 、 試 験 放 送 (1991)、 実 用 化 試 験 放 送 を経 て 本 放 送 (1997)が 実 施 され、ハイビジョンが 大 きく 成 長 してきたのである。さらにこのミューズ 方 式 は、 放 送 以 外 の 分 野 においても、 第 6 章 に 述 べるハイビジョンコンテンツ 配 信 実 験 用 の 圧 縮 符 号 化 にも 使 われた。80 年 代 半 ばから 90 年代 末 期 まで、この 方 法 によりハイビジョン 放 送 および 産 業 面 での 応 用 がなされたことが、 次 の 時 代 の 新 たな 高 精 細 度 の 映 像 システムを 成 長 させるもとになり、2000年 代 以 降 のデジタル 時 代 への 橋 渡 しをしたのである。ハイビジョンのコンテンツ制 作 に 関 しては、80 年 代 のアナログ 機 器 を 使 おうが 90 年 代 に 普 及 し 始 めたデジタル 機 器 を 使 おうが、 走 査 線 数 やアスペクト 比 などの 基 本 的 信 号 フォーマットは 同じ 条 件 ( 一 時 期 つくば 科 学 博 用 の 暫 定 規 格 が 使 われ、 有 効 走 査 線 数 やアスペクト比 が 異 なる)で、 上 述 のデジ・アナ 論 争 は 無 意 味 なことである。ハイビジョンメディアの 進 展 にとって、つくば 博 に 次 ぐ 2 番 目 の 大 きな 起 爆 剤になったのが、1988 年 のソゥルオリンピックだった。 第 6 章 で 詳 述 するが、ソゥルオリンピックでのハイビジョンへの 取 り 組 みは 国 家 的 規 模 で 行 われ、ミューズ方 式 による 現 地 からの 生 中 継 や 定 時 的 なハイビジョン 実 験 放 送 が 行 われ、 開 閉 会式 や 各 競 技 映 像 は 全 国 各 地 200 箇 所 に 設 置 された 大 画 面 ハイビジョンディスプレイで 公 開 展 示 された 16 。この 時 の 状 況 は、 標 準 テレビ 草 創 期 の 頃 の 街 頭 テレビと 同じようなハイビジョン 街 頭 テレビの 情 景 だったが、 国 内 各 地 で 多 くの 人 達 がハイビジョン 放 送 に 接 することになり、ハイビジョンの 普 及 が 促 進 される 大 きな 弾 みになった。その 後 、ハイビジョンは 実 用 化 試 験 放 送 から 本 放 送 へ、そして 後 のデジタルハイビジョン 17 へと 発 展 していくのである。ところで、 国 際 的 な 場 における 次 世 代 テレビ HDTV の 動 向 18 については、1974 年CCIR に て 日 本 か ら の 提 案 を 受 け 「 高 精 細 度 テ レ ビ HDTV(High-DefinitionTelevision)」が 研 究 課 題 として 取 り 上 げることが 決 まり、1990 年 にスタジオ 規 格19 ( 番 組 制 作 用 《1125/60p、 有 効 画 素 数 1920 など》)として 勧 告 化 され、 実 際 に採 択 されたのは 2000 年 のことである。 国 内 外 の HDTV の 動 向 、 経 緯 の 詳 細 については 他 の 文 献 20 を 参 照 されたい。 国 際 的 場 での 呼 称 については、 日 本 提 案 方 式 も 含め HDTV が 使 われるため、 本 論 文 の 中 では 基 本 的 にこの 表 記 をとっているが、 海 外においても 一 部 プロダクションや 作 品 表 記 に Hi-Vision が 使 われたこともあり、文 脈 の 都 合 にあわせ 弾 力 的 に 使 うことにする。23


3.2.4 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 進 展ここまでハイビジョンと 映 画 がメディアミックスするまでに、 両 メディアがどのように 成 長 して 来 たのかについて 述 べてきた。 本 項 では 実 際 にメディアミックスが 進 んでいくための 条 件 、 経 緯 について 述 べる。映 画 館 の 暗 い 環 境 下 で 大 画 面 で 見 る 映 画 に 対 して、テレビは 家 庭 の 明 るい 環 境の 中 で 小 さい 画 面 で 見 るというように、 映 画 とテレビは 映 像 メディアとしての 性格 、 役 割 、 特 性 、 情 報 量 、 視 聴 条 件 が 異 なっている。 標 準 テレビの 情 報 量 は 16mmフィルム 画 像 に 相 当 し、フィルムをテレビ 番 組 の 取 材 ・ 制 作 用 に 使 うとか、 番 組素 材 として 映 画 作 品 の 活 用 、テレビ 番 組 の 記 録 保 存 メディア 用 にフィルム 録 画 するなど 一 方 向 的 交 流 は 行 なわれたが、 映 画 にテレビを 使 う 逆 方 向 の 交 流 はほとんど 行 われなかった 所 以 である。35mm 映 画 フィルムと 同 等 の 情 報 量 21 を 持 つハイビジョンの 登 場 により、 両 者 の 双方 向 交 流 が 行 われメディアミックスが 進 むようになっていく。しかし、ハイビジョンと 映 画 は、 一 方 はフィルムを 記 録 媒 体 とする 化 学 メディア、 他 方 は 電 気 信 号を 媒 体 とする 電 子 メディアで、 情 報 量 以 外 に 毎 秒 像 数 、アスペクト 比 、 画 調 、 機器 性 能 、 制 作 手 法 など 両 者 の 特 徴 、 特 性 はまったく 違 っている。そのため、 実 際にメディアミックスを 行 うには、 双 方 向 交 流 のための 様 々なハードウエアを 開 発し、 特 性 の 異 なるふたつの 映 像 メディアを 相 互 交 流 する 上 での 様 々な 技 術 的 要 因 、課 題 を 克 服 しなければならなかった。その 上 で、それらのメディアミックスによる 実 践 の 成 果 として、 斬 新 的 な 映 像 表 現 が 実 現 され、 多 種 多 彩 なコンテンツが 制作 されたのである。そしてそれらの 実 践 の 過 程 を 通 し、 様 々なハードウエアやノウハウが 生 み 出 され、さらに 成 長 を 遂 げて 行 くのである。一 方 、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスは、コンテンツ 制 作 面 だけでなくコンテンツの 配 信 や 上 映 ・ 興 行 にも 大 きな 影 響 を 与 えた。すなわちメディアミックスで 制 作 されたコンテンツは、 従 来 の 映 画 型 による 方 法 で 配 給 し 上 映 されるケース、 新 たな 電 子 メディアであるハイビジョンにより 配 信 し 上 映 されるケース、さらに 両 者 を 混 在 するケースと 多 様 化 される。こそのような 社 会 的 ニーズに 応 えるため、 後 述 するように 様 々な 社 会 実 験 や 研 究 調 査 が 実 施 され、そしてそれらの受 け 皿 として 全 国 各 地 に 多 くの 映 像 多 目 的 施 設 などが 構 築 された。それらに 関 し行 われた 実 践 例 については 第 6 章 で 詳 細 に 論 じるが、 従 来 の 映 像 業 界 の 態 様 、 産業 的 側 面 に 変 化 をもたらし、 新 たな 映 像 ビジネスを 作 り 出 し、 映 像 メディアの 展開 に 大 きな 影 響 を 与 えていくことになった。ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 上 述 の 二 つの 側 面 における 実 践 は、24


主 に 90 年 代 半 ば 頃 までに 行 われたものだが、その 頃 からデジタル 放 送 のデジタル化 に 呼 応 し、コンテンツ 制 作 、 配 信 、 上 映 系 のあらゆる 分 野 でデジタル 化 が 急 速に 進 展 し 始 めた。 本 研 究 で 取 り 上 げた 数 々のメディアミックスでの 経 験 や 成 果 は、当 時 の 映 像 メディアの 進 展 に 大 きな 影 響 を 与 え、 活 かされていった。そしてそれらの 集 大 成 として、2000 年 代 における 映 画 とテレビ 技 術 のメディアフュージョンの 段 階 に 至 り、その 象 徴 とも 言 えるデジタルシネマへとつながって 行 き、さらに、技 術 の 進 歩 はとどまることを 知 らず、 映 像 メディアの 様 相 はこれからも 変 容 し 未来 に 向 け 新 たな 展 開 をして 行 く。3.3 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 対 する 推 進 策これまでも 述 べてきたように、ハイビジョンは 次 世 代 テレビ 放 送 を 目 指 し NHK技 研 が 開 発 を 進 めてきたものだが、その 実 用 化 、 普 及 には、NHK 全 体 としての 理 解( 当 初 NHK 内 ですらハイビジョンへの 理 解 は 十 分 と 言 えなかった)はもちろん 放送 業 界 、 視 聴 者 の 理 解 が 重 要 で、 国 の 支 援 や 機 器 メーカの 協 力 も 必 要 だし、 規 格化 ・ 標 準 化 のためには 国 際 的 な 理 解 も 必 要 だった。 前 述 のつくば 科 学 博 やソゥルオリンピックはそのために 大 いに 役 に 立 ったが、それ 以 外 にも 後 述 するように 国内 外 でのコンベンションやイベントなど 様 々な 取 り 組 みが 行 われた。ハイビジョンは 高 精 細 度 で 大 画 面 向 きの 映 像 メディアと 言 うことで、 様 々な 産業 分 野 への 応 用 が 期 待 された 22 。NHK や 国 はハイビジョンの 実 用 化 、 普 及 をできるだけ 早 く 実 現 するため、 放 送 と 産 業 応 用 を 車 の 両 輪 として 推 進 することにした。放 送 実 用 化 に 向 けての 経 緯 は 前 述 した 通 りだが、 産 業 応 用 に 対 しても NHK、 国 や 自治 体 などの 様 々な 推 進 ・ 支 援 策 が 講 じられ、その 効 が 奏 しハイビジョンは 放 送 以外 にも 映 画 、 印 刷 ・ 出 版 、 広 告 ・ 宣 伝 、 医 療 、 電 子 ・ 光 学 機 器 メーカなど 広 範 な業 界 へ 広 がり 始 めた。そしてハイビジョンの 産 業 応 用 に 向 け、 多 くの 研 究 会 やプロジェクトが 作 られ、 以 下 に 示 すように 様 々な 研 究 調 査 活 動 が 行 われた。これらは 新 たなメディアにとっての 社 会 実 験 と 言 えるもので、 筆 者 はこれらの 活 動 に 直接 参 加 し、 当 時 行 われたプロジェクト 活 動 の 意 義 、 経 緯 、 社 会 的 影 響 などについて、 自 身 の 経 験 、 知 見 も 踏 まえて 述 べている。(1)NVS 研 究 会 の 活 動ハイビジョンの 産 業 分 野 への 応 用 を 研 究 するため、1985 年 、( 財 )NHK エンジニアリングサービス(NHK-ES)が 主 導 し、 電 機 ・ 光 学 メーカ、 映 画 、 印 刷 、 制 作 プロダクションなどの 業 界 から 多 くの 企 業 が 参 加 し「NVS(New Video System) 研 究 会 」23 が 発 足 した。この 研 究 会 には 幾 つかの 研 究 テーマが 設 定 され、 映 画 への 応 用 に 関25


する「エレクトロ・シネマトグラフ 技 術 小 委 員 会 」と「ビデオシアター 技 術 小 委員 会 」、 後 述 のハイビジョンギャラリーに 関 連 する「 電 子 出 版 技 術 小 委 員 会 」が 作られ、 約 10 年 間 にわたり 精 力 的 に 活 動 が 行 なわれた。 前 者 はハイビジョンによる映 画 応 用 を 研 究 するもので、その 活 動 成 果 の 一 つとして 第 5 章 で 述 べるハイビジョン 映 画 『 東 京 幻 夢 』を 制 作 した。 後 者 のビデオシアター 小 委 員 会 では、 本 研 究のテーマにも 密 接 に 関 連 あるハイビジョンシアターシステムについて 研 究 するものだった。またハイビジョンシアターを 想 定 したハイビジョンテレシネ 変 換 映 像の 評 価 や 衛 星 等 による 映 画 配 信 実 験 、ハイビジョンによる 映 像 多 目 的 ホールの 技術 的 シアターなどについての 研 究 も 行 われたが、それらについては 第 6 章 にて 述べることにする。なお 同 じ 時 期 にハイビジョンのコンテンツ・ソフト 面 を 研 究 するため、NHK エンタープライズ(NHK-EP)が 中 心 になり、 民 放 、NTT、ケーブル・ 衛 星 放 送 業 界 などによる「ハイビジョン 総 合 研 究 会 」も 創 設 された。 本 研 究 会 と NVS 研 究 会 は、 産業 分 野 におけるソフト、ハード 両 面 を 総 合 的 に 研 究 するため、しばしば 合 同 研 究会 を 催 すなど 密 接 に 連 係 しながら 活 動 を 行 なっていた。 国 内 外 の 専 門 家 、 有 識 者を 講 師 に 招 聘 し、ハイビジョンも 含 め 最 新 映 像 メディアの 進 展 状 況 、 産 業 応 用 用ハイビジョン 機 器 の 開 発 状 況 、 制 作 されたハイビジョン 作 品 の 制 作 談 と 試 写 会 などが 開 催 され、 毎 回 、 各 業 界 から 大 勢 の 参 加 者 があり 大 盛 況 だった。それらの 研究 ・ 活 動 成 果 については 広 範 な 産 業 分 野 で 様 々な 形 態 で 活 用 され、ハイビジョンの 産 業 応 用 を 強 力 に 推 進 するのに 大 いに 貢 献 した。 当 時 行 われたハイビジョン 合同 研 究 会 の 盛 況 な 様 子 24 を 補 足 資 料 編 の 写 真 3.1 に 示 す。(2)ハイビジョン 普 及 支 援 センターの 活 動つくば 科 学 博 での 成 功 によりハイビジョンは 大 きな 弾 みがつき、 前 項 に 記 したような NHK 主 導 の 研 究 会 活 動 も 成 果 を 挙 げつつある 状 況 下 、 通 産 省 は 産 業 応 用 分野 でのハイビジョン 普 及 を 推 進 するため、1987 年 「( 財 )ハイビジョン 普 及 支 援 センター(HVC)」 25 をつくり 活 動 を 始 めた。 国 の 施 策 ということで、HVC には NVS 研究 会 より 広 範 な 業 界 から 多 くの 企 業 が 参 画 (NHK-ES も 参 加 )し、 多 彩 な 産 業 分 野への 応 用 を 研 究 することになった。ハイビジョン 応 用 としての 博 物 館 研 究 会 、 医療 研 究 会 、シアター 研 究 会 、マルチメディア 研 究 会 などが 作 られ 活 発 な 活 動 が 行なわれた。この 中 で 本 論 文 の 趣 旨 に 関 連 するのは 主 に 博 物 館 研 究 会 とシアター 委員 会 で、 前 者 ではハイビジョンギャラリーなどについて、 後 者 ではハイビジョンの 映 画 への 幅 広 い 応 用 について、 様 々な 研 究 活 動 や 公 的 支 援 策 が 講 じられた。これらの 研 究 会 で 行 われた 具 体 的 な 活 動 状 況 、 成 果 については 第 6 章 で 述 べる。26


(3) 新 映 像 トータルシステム 研 究 会 の 研 究 調 査 活 動ハイビジョンがつくば 科 学 博 を 機 に 進 展 し 始 めた 頃 、 映 画 業 界 においても 新 たな 映 像 メディア 状 況 に 応 える 研 究 会 活 動 が 行 われた。ハイビジョン 機 器 が 概 ね 出 そろい 実 用 化 が 進 みつつあった 1986 年 、 日 本 映 画 機械 工 業 会 と 映 画 テレビ 技 術 協 会 は 協 力 し「 新 映 像 トータルシステム 開 発 委 員 会 」の 活 動 26 を 行 なった。その 目 的 は、 実 用 化 されつつあったハイビジョン 技 術 を、 映画 の 撮 影 ・ 加 工 処 理 プロセスに 導 入 し、さらに 精 密 機 械 、 光 学 、エレクトロニクスを 駆 使 する 新 しい 映 画 映 写 方 式 を 開 発 し、 生 産 性 ・ 経 済 性 の 高 い 映 像 トータルシステムを 目 指 すというものだった。研 究 テーマとしては「テレビカメラの 制 作 テクニックの 導 入 による 多 彩 な 映 像表 現 の 技 術 的 可 能 性 と 生 産 性 」、「テレビの 特 殊 効 果 、 編 集 、デジタル 技 術 やレーザー 技 術 などを 総 合 した 映 像 加 工 の 技 術 的 可 能 性 と 生 産 性 」、「 小 型 軽 量 、 低 騒 音 、高 操 作 性 、 高 音 質 の 映 写 機 の 技 術 的 可 能 性 と 生 産 性 の 追 及 」などで、それぞれのテーマについて、 映 画 ・ハイビジョン・ 映 像 関 係 業 界 が 共 同 研 究 し 各 種 機 器 の 開発 を 行 った。 具 体 的 には、 後 にデジタルシネマへと 繋 がっていく 映 画 制 作 用 ハイビジョンカメラ( 池 上 通 信 機 )、 同 カメラに 搭 載 する 単 焦 点 レンズ(ニコン)、 屋外 移 動 型 ハイビジョンデジタル VTR( 日 立 製 作 所 )、ハイビジョンデジタル 合 成 編集 装 置 (NEC)、30/24 コマ 変 換 画 像 処 理 装 置 (ナック)、 映 画 字 幕 作 成 ・ 表 示 装 置(ナック)、デジタル 制 御 35mm フィルム 映 写 機 (ビクター 音 響 )などを 開 発 し、トータルシステムとして 90 年 2 月 に 一 般 公 開 された。いずれのテーマもハイビジョンと 映 画 技 術 の 融 合 を 目 指 したもので、これらの 膨 大 な 研 究 ・ 開 発 の 成 果 は、一 般 公 開 されると 共 に 詳 細 な 報 告 書 27 が 出 され、その 概 要 は 映 画 テレビ 技 術 誌 28 でも 報 告 された。 当 時 、 成 熟 していた 映 画 技 術 に、 台 頭 しつつあったハイビジョン技 術 ・デジタル 技 術 を 導 入 し、 映 画 業 界 に 改 革 を 引 き 起 こそうという 試 みだった。得 られた 活 動 成 果 は 映 画 ・ 映 像 業 界 に 導 入 され、 第 5 章 に 記 した 番 組 制 作 の 実 践や 第 6 章 に 記 したハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールにおいて 活 かされていくことになった。そしてそれらはその 後 の 映 像 制 作 、 上 映 システムの 進 展 に 大きく 影 響 を 与 え、ハイビジョンの 産 業 応 用 を 推 進 したばかりでなく、その 後 、 今日 につながるデジタルシネマにも 影 響 を 与 えて 行 くことに 繋 がっている。27


3.4 ハイビジョンフィルム 送 像 システムの 開 発ハイビジョン 用 フィルム 送 像 システム(テレシネ)は、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおいて 最 も 重 要 な 機 器 である。 本 節 では NHK 技 研 において 開発 されたハイビジョン 用 テレシネの 開 発 経 緯 、 課 題 、 得 られた 成 果 、およびその他 の 方 式 のハイビジョンテレシネの 動 向 について 具 体 的 に 述 べる。3.4.1 70mm フィルム3ビジコンテレシネ当 初 、 技 研 で 試 作 された 高 精 細 度 カメラは、3.6 節 で 述 べるように 解 像 度 はまあまあの 値 が 得 られたが S/N は 低 く、 残 像 が 大 きく 研 究 室 内 で 高 精 細 な 写 真 やカレンダーなどの 撮 影 に 使 われ、 動 画 撮 影 には 適 さなかった。これらのカメラで 撮 影された 映 像 は 非 常 に 鮮 明 で、 静 止 画 像 とは 言 え 新 しいテレビの 大 きな 可 能 性 を 示すことになったが、トータル 的 なハイビジョンシステムの 研 究 開 発 推 進 のために高 精 細 動 画 像 への 要 望 が 強 く、70mm フィルム 3 ビジコンテレシネが 開 発 されることになった。(1) 70mm 映 画 フィルムについて次 世 代 テレビ 開 発 の 草 創 期 に、 前 述 したように 高 精 細 度 テレビに 相 応 しい 動 画素 材 として 70mm 映 画 を 選 択 しテレビ 方 式 の 研 究 用 に 利 用 した。70mmフィルムは画 質 的 には 良 いのだが、 実 際 に 研 究 用 素 材 に 70mm フィルムを 入 手 するのは 難 しく、人 脈 を 頼 り 映 画 業 界 の 協 力 を 得 て"The days of HEAVEN"や『アラビアのロレンス』などの 予 告 編 フィルムを 借 用 して 研 究 に 利 用 した。また 当 初 からハイビジョンの良 き 理 解 者 だったフランシス・コッポラ 監 督 の 好 意 により『 地 獄 の 黙 示 録 』の 本編 フィルムも 研 究 用 に 利 用 させて 貰 ったこともある。しかし、 上 述 の 2 作 品 のように 撮 影 に 65mm ネガフィルムを 使 う 純 正 の 高 画 質 の 70mm 映 画 フィルムの 入 手 は特 に 困 難 で、 画 質 的 にはベストとは 言 えないまでも 35mm ネガフィルムで 撮 影 し70mm フィルムにブローアップした 70mm 映 画 作 品 ( 当 時 この 方 法 で 多 くの 作 品 が 制作 された)を 使 うことが 多 かった。さらに 前 述 したように NHK 撮 影 部 の 協 力 を 得て、 実 験 用 サンプルフィルムを 制 作 したのに 加 え、NHK ホールでの 音 楽 番 組 や 屋 外でのスポーツ 競 技 などを 35mm フィルムで 撮 影 し、ブローアップした 70mm フィルムを 研 究 用 素 材 として 使 うことも 行 った。(2) 70mm フィルムビジコンテレシネの 開 発1975 年 頃 、 後 述 の NHK 技 研 製 高 精 細 度 カメラ 1 号 機 である 1.5"ビジコンカメラと 70mm 映 写 機 を 組 み 合 わせ、フィルム 送 像 装 置 29 が 開 発 された。 本 装 置 に 使 われた 撮 像 管 ビジコンカメラは、 解 像 度 は 1100TV 本 と 十 分 だったが S/N は 30dB 程 度28


と 低 く 残 像 が 大 きかった。テレシネ 用 カメラとしては、フィルム 画 像 は 基 本 的 に静 止 画 のため 残 像 の 影 響 は 少 なく、 低 い S/N に 対 してはキセノン 光 源 の 光 量 を 高めることで 対 処 した。このカメラと 組 み 合 わせた 70mm 映 写 機 は 映 画 館 で 使 われていたもので、フィルム 送 給 は 毎 秒 24 コマ、2 回 照 射 による 毎 秒 48 コマ 映 写 というものだった。この 映写 機 をハイビジョン 用 フィルム 送 像 装 置 として 使 うためには、 毎 秒 24 コマのフィルム 画 像 を 毎 秒 60 フィールドに 変 換 する 必 要 があった。そのために、 標 準 テレビ用 35mm テレシネで 使 われていた 2-3 プルダウン 方 式 にならい、フィルム 掻 落 し 機構 部 を 改 造 しモータ 駆 動 系 の 改 修 を 試 みたが、 大 判 の 70mm フィルム 用 の 機 構 部 を改 造 することは 非 常 に 困 難 だった。 次 に 試 みた 方 法 は、フィルム 走 行 系 をそのままとし、 映 写 光 源 をフラッシュランプに 替 えフィルム 照 射 タイミングを 毎 秒 60 回にするやり 方 だったが、このやり 方 も 所 定 の 性 能 が 得 られず 断 念 せざるを 得 なかった。やむを 得 ず、フィルム 掻 き 落 し 機 構 部 、 光 源 部 はそのままにし、 映 写 機 の駆 動 モータの 周 波 数 を 変 え 毎 秒 25 コマ 送 給 とし、それにあわせてテレシネカメラとハイビジョンディスプレイのフィールド 周 波 数 を 50 フィールドに 改 修 し 対 処 することにした。 試 作 した 70mm3V テレシネ 装 置 を 写 真 3.2 に 示 す。このような 悪 戦 苦 闘 の 末 、ようやく 70mm 映 画 フィルムから 高 精 細 映 像 への 変 換が 可 能 になり、1975 年 の 技 研 公 開 の 際 、 第 4 章 の 図 4.8 に 示 す 高 品 位 テレビ 用 ワイドディスプレイ 30 を 使 い 公 開 した。 初 めてハイビジョンで 上 映 された 大 画 面 、 高精 細 度 の 70mm 映 画 は、 画 質 的 には 必 ずしも 十 分 とは 言 えなかったが、 映 画 作 品 自身 の 魅 力 と 迫 力 を 充 分 示 すものとして 技 研 公 開 見 学 者 に 大 きなインパクトを 与 えた。このテレシネ 装 置 はその 後 もハイビジョン 方 式 を 研 究 するための 動 画 信 号 源として 日 常 的 に 利 用 された 他 、 技 研 見 学 コースの 目 玉 展 示 に 組 み 込 まれ、 国 内 外からの 見 学 者 へのデモ 用 に 大 いに 活 躍 した。 当 時 ほとんど 知 られていなかったハイビジョンを 多 くの 人 達 に 見 てもらったこと、とりわけ 海 外 から 訪 れた 多 くの 放送 関 係 や 映 画 関 係 の VIP などに HDTV の 認 知 度 を 高 めることができたことは、その後 のハイビジョンの 普 及 や HDTV の 標 準 化 の 推 進 に 大 いに 貢 献 した。3.4.2 70mm フィルムレーザーテレシネ前 項 の 70mm3V テレシネは 草 創 期 のハイビジョンの 基 礎 的 研 究 や 内 外 へのプレゼンテーションに 大 いに 役 に 立 ったが、フィルムの 毎 秒 送 給 速 度 が 25 コマでテレビ系 のフィールド 周 波 数 が 50Hz だったこと、SN 比 が 30dB と 低 かったことなどの 問題 点 があり、 新 たなフィルム 送 像 装 置 の 開 発 が 求 められた。29


(1) 70mm フィルムレーザーテレシネの 構 成その 要 望 に 応 え、 技 研 では 当 時 、レーザーディスプレイ 31 やレーザー 録 画 機 の 開発 32 を 通 じて、レーザー 光 の 偏 向 、 変 調 技 術 を 蓄 積 していたため、それらの 技 術 を活 用 し 1970 年 代 後 半 から 80 年 代 初 頭 にかけ、 従 来 にないまったく 新 しい 方 式 による 70mm フィルムレーザーテレシネを 開 発 した 33 。 写 3.3 に 試 作 装 置 の 外 観 を 示すが、 光 学 ベンチ 上 にレーザーやレンズなどの 光 学 素 子 と 70mm フィルム 走 行 系 を並 べたまさに 手 作 りの 実 験 装 置 そのものだった。本 レーザーテレシネの 基 本 構 成 34 を 図 3.2 に 示 す。R,G,B 3 本 のレーザービームはダイクロイックミラーにより 重 ね 合 わされ 1 本 のビームになり、 水 平 および 垂直 偏 向 を 受 けレーザー 光 による 光 学 的 ラスターを 形 成 する。このラスターは 追 従偏 向 系 により 連 続 走 行 する 70mm フィルム 画 面 を 追 従 する。フィルムを 透 過 したレーザー 光 は R,G,B に 3 色 分 解 され、それぞれ 光 電 子 増 倍 管 により 電 気 信 号 に 変 換される。 映 像 プロセッサーによりレベル 調 整 、ガンマ 補 正 、アパーチャー 補 正 等の 処 理 を 受 け 映 像 信 号 として 出 力 される。レーザービームを 偏 向 するやり 方 として、 電 気 光 学 的 方 法 や 音 響 光 学 的 方 法 もあるが、 本 装 置 では 高 速 走 査 が 可 能 で 波 長 依 存 性 がなく 高 解 像 度 が 得 られるミラー 方 式 を 採 用 した。 水 平 偏 向 器 にはハイビジョンの 高 速 走 査 ( 毎 秒 1125 本 )に 適う 高 速 回 転 (81,000rpm)するエアベア 軸 受 け 式 回 転 多 面 鏡 (25 面 体 )を 使 い、 垂直 偏 向 用 には 低 速 駆 動 の 微 小 ミラーのガルバノメーターを 使 った。 水 平 および 垂直 偏 向 により 形 成 されたレーザー 光 ラスターは、フィルムの 走 行 と 同 期 して 回 転する 追 従 偏 向 系 を 経 て 連 続 走 行 する 70mm フィルム 面 上 に 結 像 される。この 追 従 偏向 系 には 低 速 回 転 (30rpm)する 回 転 多 面 鏡 (48 面 体 )を 使 用 した。35図 3.2:70mm レーザーテレシネの 基 本 構 成30


(2)レーザーによるフィルム 走 査 の 特 徴レーザー 光 は 単 色 性 が 高 いため、 図 3.3 に 示 すように 小 口 径 の 単 レンズで 微 小スポットに 収 束 でき、このスポットでフィルム 画 像 を 走 査 することにより 高 い 解像 度 が 得 られる。レーザー 光 は 輝 度 が 高 いので 光 電 変 換 系 におけるノイズ 発 生 は少 ないが、そのままではレーザー 特 有 のノイズを 有 しているため、 図 3.4 に 示 すように 光 変 調 器 を 用 いてノイズ 成 分 を 軽 減 している。レーザー 光 の 波 長 はレーザーの 種 類 により 異 なるが、 本 装 置 では 図 3.5 に 示 すように、カラーフィルムの 分光 色 素 濃 度 特 性 に 適 した 3 色 の 波 長 のレーザー 光 、すなわち R 用 には 波 長 632.8nmの He-Ne レーザー、G 用 には 514.5nm の Ar レーザー、B 用 には 441.6nm の He-Cdレーザーを 選 択 した。このような 特 徴 を 有 するレーザー 光 を 使 いフィルムを 走 査し 画 像 を 読 み 取 ることにより、 高 解 像 度 と 高 SN 比 が 共 に 得 られ、 優 れた 色 再 現 性も 得 られる。36図 3.3:レーザービームの 高 収 束 性図 3.4:レーザーノイズ 補 正 系3738図 3.5:フィルムの 分 光 濃 度 特 性 とレーザーの 波 長31


(3)ラップディゾルブ 式 コマ 数 変 換 法本 テレシネにおけるフィルムからテレビ 系 へのコマ 数 を 変 換 する 方 法 を 図 3.6に 示 す。 同 図 はレーザービームによるラスターが 追 従 偏 向 系 を 経 て 連 続 走 行 するフィルムを 追 従 する 様 子 を 示 している。 図 3.2 に 示 した 本 装 置 の 構 成 図 において、垂 直 偏 向 用 ガルバノメーターと 追 従 用 回 転 多 面 鏡 の 鏡 面 は 光 学 的 共 役 点 の 関 係 にあり、この 点 を 中 心 とする 円 弧 状 の 面 上 を 70mm フィルムが 連 続 走 行 する。図 (a)はレーザービームの 反 射 点 が 多 面 鏡 の 鏡 面 中 心 部 にあり、フィルム 面 上 にラスターが 1 個 生 じている 状 態 を 示 す。この 状 態 から 多 面 鏡 が 少 し 回 転 すると、同 図 (b)に 示 すように 鏡 面 の 稜 によりビームの 一 部 が 分 割 され 2 本 のビームになり、 新 しく 生 じたビームは 次 のフィルムの 同 じ 点 を 走 査 する。さらに 回 転 するにつれビームの 分 割 比 を 変 えながら 図 (c)を 経 て(d)へ、すなわち(a)の 状 態 に 戻 る。ビームの 分 割 比 は 変 わるが 全 光 量 の 和 は 変 わらない。このようにしてフィルムのコマからコマへのラスターの 切 り 替 えはフリッカーを 生 ずることなくラップディゾルブしながら 滑 らかに 行 われる。フィルムの 走 行 と 追 従 用 多 面 鏡 の 回 転 の 同 期を 取 ることにより、フィルムの 走 行 速 度 にもテレビのフレーム 周 波 数 にも 制 約 されずにフィルムおよびハイビジョンの 毎 秒 コマ 数 を 自 由 に 選 択 することができる。この 点 は 本 テレシネ 装 置 の 大 きな 特 徴 であり、 前 述 の 70mm3 ビジコンテレシネにおける 毎 秒 コマ 数 (25)、フィールド 数 (50)の 問 題 を 解 決 することができた。39図 3.6:ラップディゾルブ 式 コマ 数 変 換 法32


本 装 置 を 使 い 70mm フィルムから 変 換 された 高 品 質 の 映 像 は、1982 年 の 技 研 公 開で 初 めて 公 開 されたが、 迫 力 と 臨 場 感 あふれる 高 精 細 映 像 は 大 きな 評 判 になった。本 装 置 は 前 述 の 70mm3V テレシネに 替 わり、ハイビジョンの 方 式 の 研 究 や 国 内 外 の多 くの 見 学 者 に 70mm フィルムの 力 を 通 してハイビジョンの 可 能 性 、 魅 力 を 実 感 してもらうのに 大 いに 役 に 立 った。この 時 の 研 究 成 果 は 1982 年 ニューヨークで 開 催 された SMPTE (Society of Motion Picture and Television Engineers)において 報 告 40 された。その 時 の 発 表 の 様 子 を 写 3.4 に 示 す。3.4.3 35mm フィルムレーザーテレシネ(1)35mm フィルムの 選 択前 項 まで、70mm フィルム 用 の 2 種 類 のテレシネについて 見 てきた。しかし 前 述したように 70mm 映 画 フィルムの 入 手 は 大 変 困 難 で、 研 究 用 に 使 える 作 品 は 限 られていた。80 年 代 半 ば 頃 、フィルム 素 材 が 入 手 しやすく、 作 品 選 択 の 可 能 性 が 広 い35mm フィルムにシフトすることになった。 図 3.7 はフィルムサイズによるフィルムのレスポンスを 比 較 したものだが、ハイビジョンの 映 像 信 号 の 周 波 数 帯 域 20~30MHz に 対 して、35mm フィルムのレスポンス 41 は 20MHz で 約 60%、30MHz で 約 40%と 70mm フィルムに 比 べれば 低 いが、 映 画 作 品 が 豊 富 でフィルムが 入 手 しやすいこと、さらに 新 たに 番 組 素 材 を 撮 影 することも 考 慮 すると 小 形 で 機 能 性 が 高 い 35mmフィルムが 妥 当 であると 判 断 した。その 判 断 に 基 づき、より 実 用 性 が 高 い 35mm フィルム 用 レーザーテレシネの 開 発 を 行 うことになった。42図 3.7:フィルムサイズによるレスポンスの 比 較33


(2)35mm フィルムレーザーテレシネの 構 成こうして 1984 年 、 技 研 で 開 発 された 35mm フィルムレーザーテレシネ 43 の 基 本 構成 を 図 3.8 に 装 置 外 観 を 写 3.5 に 示 す。70mm 装 置 が 平 置 きのベンチ 上 にレーザー光 源 、 各 種 光 学 素 子 、フィルム 送 給 系 を 配 置 したいわば 光 学 実 験 セットの 感 があったのに 対 し、35mm 装 置 はフィルム 送 給 系 を 垂 直 構 造 にし、レーザー 光 源 や 光 学素 子 もすべて 縦 型 配 置 にした。レーザーは 小 形 機 種 を 採 用 し、 水 平 偏 向 用 回 転 多面 鏡 は 基 本 的 に 70mm 装 置 と 同 じものを 使 ったが、3 色 合 成 ・ 分 解 用 光 学 系 、 光 電変 換 系 などを 全 て 小 形 化 し、 安 定 性 、 操 作 性 も 向 上 した。35mm フィルム 走 行 系 は小 型 コンパクトにしただけでなく、フィルム 走 行 むらによる 画 ぶれを 軽 減 するため、フィルム 送 給 系 や 駆 動 制 御 系 を 高 性 能 、 高 安 定 化 した。レーザー 走 査 に 伴 う 特 徴 は 基 本 的 には 70mm 装 置 の 場 合 と 変 わらない。R,G,B3 本 のレーザービームは 3 色 合 成 光 学 系 で 1 本 に 合 成 された 後 、 回 転 多 面 鏡 により水 平 偏 向 を 受 ける。ただし、 垂 直 偏 向 は 70mm 装 置 と 異 なり、 連 続 走 行 するフィルム 自 身 が 受 け 持 つ。 図 3.8 に 示 した 補 助 偏 向 とはフィルム 上 の 画 像 の 有 効 画 面 高およびフィルムの 走 行 方 向 、 走 行 速 度 に 応 じてレーザービームの 垂 直 方 向 走 査 位置 を 微 細 に 調 整 するためのもので、 微 小 ミラーのガルバノメーターを 使 っている。なお 本 装 置 では、 当 時 かなり 使 われていた 35mm スライドフィルム 画 像 も 読 むために 別 途 垂 直 偏 向 系 も 備 えていた。 同 図 の 中 で、G レーザービームにおける G'とは、後 述 する 光 学 的 輪 郭 補 償 のための 副 走 査 ビームである。44図 3.8:35mm フィルムレーザーテレシネの 基 本 構 成34


(3)35mm フィルムレーザーテレシネにおけるコマ 数 の 変 換フィルムとハイビジョンで 異 なる 毎 秒 コマ 数 の 変 換 に 関 する 基 本 的 なことについては 第 4 章 で 述 べるが、 本 項 では 35mm フィルムレーザーテレシネ 装 置 におけるコマ 数 変 換 について 説 明 する。フィルムからハイビジョンへのコマ 数 変 換 は、70mm フィルムレーザーテレシネでは 前 述 のような 光 学 的 方 法 でなされたが、 本 35mm 装 置 ではフレームメモリーを搭 載 した 方 式 変 換 系 45 により 純 電 気 的 な 方 法 で 行 われた。その 変 換 方 法 を 図 3.9に 示 す。 同 図 (a)は 通 常 の 走 行 速 度 24 コマを 60 フィールドへ 変 換 する 場 合 のフレームメモリーの 動 作 を 示 している。フレームメモリーは 2 フレーム 分 を 持 っており、フィルム 画 像 は 1 コマずつそれぞれのフレームメモリーへ 順 次 書 き 込 まれ、その 後 、それぞれのフレームメモリーから 2 フィールド、3 フィールド 分 が 交 互 に読 み 出 される。 基 本 的 にはフィルムの 2 コマがハイビジョンの 5 フィールドに 変換 される。この 変 換 は 2-3 変 換 と 呼 ばれ、 変 換 に 際 して 動 きの 不 自 然 さジャダーが 発 生 する。なお、 本 装 置 では 特 殊 効 果 用 に 使 われるフィルムへの 対 応 も 想 定 し、 通 常 の 24コマ 以 外 の 低 速 あるいは 高 速 走 行 速 度 にも 対 応 できるようになっていた。 低 速 、高 速 走 行 の 場 合 の 動 作 を 同 図 (b)、(c)に 示 す。 毎 秒 3 コマおよび 毎 秒 6 コマと 低速 の 場 合 は、フィルムの 1 コマをそれぞれ 20 および 10 フィールドに 変 換 し、 毎秒 60 コマや 120 コマの 高 速 走 行 の 場 合 は、フィルムの 2 コマあるいは 4 コマのうち 第 1のコマのみフレームメモリーへ 書 き 込 み、その 1 コマを 2 フィールドに 変換 する。ところでこれらの 毎 秒 像 数 の 変 換 においては、 連 続 走 行 するフィルムのコマの位 置 を 正 確 に 検 出 して、フレームメモリーへの 書 き 込 みスタートタイミングおよび 前 述 した 補 助 偏 向 のスタートタイミングを 決 める 必 要 がある。 毎 秒 24 コマの 走行 速 度 の 場 合 、そのタイミングは 方 式 変 換 系 のリファレンス 信 号 (24Hz)を 基 準 にして 行 われる。 一 方 、フィルム 走 行 系 ではこのリファレンス 信 号 とダミースプロケット 軸 に 取 り 付 けたロータリーエンコーダから 出 力 される 24Hz 信 号 の 位 相 差 が常 に 一 定 になるようにキャプスタン 駆 動 を 制 御 する。 毎 秒 24 コマ 以 外 の 低 速 あるいは 高 速 の 場 合 には、ロータリーエンコーダから 発 生 するパルスによりフィルム走 行 速 度 およびコマの 位 置 を 検 出 し、それに 応 じてフレームメモリーの 書 き 込 みタイミングおよび 補 助 偏 向 のスタートタイミングを 決 定 する 方 法 がとられている。35


46図 3.9(a): 毎 秒 24 コマから 60 フィールドへの 変 換 法図 3.9(b) 低 速 走 行 時 のコマ 数 変 換図 3.9(c) 高 速 走 行 時 のコマ 数 変 換(4)35mm フィルムレーザーテレシネにおけるアスペクト 比 の 変 換36


第 4 章 で 述 べるように 映 画 には 各 種 フォーマットがあり、イメージサイズ(フィルム 面 上 、 映 写 機 のアパーチャー)、 横 縦 比 (アスペクト 比 )も 異 なっている。本 35mm レーザーテレシネでは 方 式 変 換 系 により 異 なるフォーマットのアスペクト比 に 対 応 するようにした。 本 装 置 が 開 発 された 80 年 代 半 ば、ハイビジョンのアスペクト 比 は 現 在 の 規 格 とは 異 なっていて、つくば 科 学 博 暫 定 仕 様 の 5:3 だった。それにあわせ、 本 装 置 は 図 3.10 に 示 すようにスタンダードとワイド(ビスタビジョン 方 式 )フォーマットのフィルムに 対 し、 作 品 の 演 出 意 図 にあわせ 3 つの 変 換モードを 選 択 できるようになっていた。同 図 のモード A は、フィルム 画 像 の 横 幅 を 21mm と 規 定 し、それを 表 示 画 面 いっぱいに 再 現 する 方 式 である。フレームメモリーへの 書 き 込 み/ 読 み 出 しクロック周 波 数 を 同 じにし、スタンダードフォーマットの 場 合 は 天 地 、 上 下 それぞれ 10%の 画 像 をカットし、ワイドフォーマットの 場 合 は 天 地 上 下 にそれぞれ 5%の 黒 信 号を 付 加 する。モード B はワイドフォーマットフィルム 画 像 の 縦 寸 法 を 基 準 にし、それを 表 示 画 面 の 上 下 一 杯 に 再 生 する 方 式 で、フレームメモリーのクロック 周 波数 を 書 き 込 み 時 より 読 み 込 み 時 に 下 げることにより、 左 右 それぞれ 約 5.5%カットする。モード C はスタンダードフォーマットの 画 像 をカットすることなく 再 現 する 方 式 で、 書 き 込 み 時 より 読 み 込 み 時 の 周 波 数 を 上 げ、 左 右 それぞれに 約 8%の 黒信 号 を 付 加 する。このような 3 種 類 のモードが 選 択 された。47図 3.10 フィルムのアスペクトに 対 する 変 換 法(5)35mm フィルムレーザーテレシネにおける 光 学 的 輪 郭 補 償37


テレビカメラは 基 本 的 に 有 限 な 直 径 の 電 子 ビームで 画 像 を 走 査 することにより高 域 部 のレスポンスが 低 下 するため、それを 補 正 するのに 電 気 的 な 輪 郭 補 償 が 施される。 本 テレシネでは、 鮮 鋭 度 を 改 善 する 方 法 としてレーザー 方 式 の 特 徴 を 活かしたユニークな 光 学 的 輪 郭 補 償 法 を 開 発 した 48 。 図 3.8 の 基 本 構 成 にあるように、G ビームを 分 離 し 主 ビームと 直 行 する 偏 波 面 を 有 しかつビーム 径 の 異 なる 副 ビーム G'を 形 成 し、 両 ビームを 重 ね 合 わせてフィルム 画 像 を 同 時 に 走 査 する。 主 ・ 副ビームでの 両 信 号 の 差 分 から 輪 郭 信 号 を 抽 出 し、それにより 輪 郭 補 償 する 方 式 である。 簡 単 な 構 成 により 自 然 感 のある 2 次 元 輪 郭 補 償 が 得 られた。(6)35mm フィルムレーザーテレシネにおけるカラーコレクションフィルム 番 組 は 作 品 により、また 同 じ 作 品 でもシーンにより、フィルム 画 像 の濃 度 範 囲 、 階 調 、 色 バランスなどがかなり 異 なっており、F→V 変 換 の 際 にその 補正 が 必 要 である。 本 装 置 では 実 用 性 を 重 視 し、シーン 毎 に 再 生 条 件 を 最 適 にセットできるカラーコレクション 機 能 を 開 発 し 導 入 した 49 。F→V 変 換 作 業 の 試 写 段 階 で、フィルムコマ 数 をカウントしカット 点 を 指 定 し、カット 毎 に 画 質 を 調 整 しその 補正 データを 記 録 しておき、 本 番 変 換 時 に 記 録 されたデータによりに R,G,B 各 信 号のセットアップ、 信 号 レベル、ガンマなどが 自 動 的 に 調 整 される 仕 組 みである。このカラーコレクション 機 能 は 後 述 の 実 用 機 に 導 入 され、その 後 、 汎 用 的 技 術 になっているが 当 時 のハイビジョン 機 器 ではあまり 例 のないことで、 試 行 的 に 開 発した 技 術 が 後 に 実 用 化 されたひとつの 事 例 である。(7)35mm フィルムレーザーテレシネ 実 用 機 の 開 発 とそれを 用 いたF→V 変 換以 上 述 べてきた 35mm レーザーテレシネは、70mm 装 置 で 蓄 積 したレーザー 技 術 と当 時 進 みつつあったデジタル 技 術 を 投 入 し 開 発 した 実 験 機 だった。 様 々な 試 行 錯誤 を 経 た 上 で 所 要 の 性 能 、 機 能 を 達 成 し、 当 時 として 斬 新 なアイディアも 盛 り 込み 開 発 され、ハイビジョン 方 式 の 研 究 のための 信 号 源 として 大 いに 使 われた。この 試 作 機 開 発 を 経 て 蓄 積 された 技 術 やノウハウを 全 面 的 に 盛 り 込 み、1985 年つくば 科 学 博 を 機 に 写 3.6 に 示 すような 実 用 機 がナック 社 により 製 作 され、つくば 学 園 都 市 のコズミックホールに 納 入 された。この 装 置 を 使 いつくば 博 用 に 松 本零 士 監 督 が 制 作 した 35mm アニメーション 映 画 作 品 『アレイの 鏡 』などが F→V 変換 され、 写 3.7 に 示 すように 当 時 世 界 最 大 の 400 インチハイビジョンディスプレイで 公 開 され 来 館 者 の 好 評 を 博 した。 本 作 品 の 制 作 時 、 技 研 の 実 験 機 を 使 い 事 前の 色 合 わせのテストを 行 った 際 、 同 監 督 は 画 調 や 色 再 現 に 大 変 厳 しく、 自 身 のイメージにあう 色 がハイビジョンで 再 現 されるまでパラメータを 少 しずつ 変 え 何 度も F→V 変 換 作 業 を 行 った。この 時 の 監 督 からの 要 望 が、 前 述 のカラーコレクター38


の 開 発 につながったのである。その 後 、35mm フィルムレーザーテレシネはさらに 性 能 、 機 能 向 上 が 図 られ、NHK放 送 センターや 横 浜 シネマに 納 入 され、 第 5 章 で 述 べる 数 々の 映 画 とハイビジョンのメディアミックス 実 践 の 場 で 使 われた 50 。3.4.4 その 他 のハイビジョン 用 テレシネハイビジョンテレシネは、 前 述 のように NHK 技 研 においてレーザー 方 式 の 開 発が 進 められ NAC で 実 用 化 された 一 方 で、 外 部 ではそれ 以 外 の 方 式 の 機 種 が 実 用 化され 使 われていた。池 上 通 信 機 のハイビジョンテレシネ 51 は、 従 来 式 とも 言 えるサチコンカメラと35mm フィルム 映 写 機 を 組 み 合 わせた 構 成 で、24 コマ/ 秒 および 30 コマ/ 秒 のフィルムに 対 して、それぞれ 2-3、2-2 プルダウンに 対 応 するものだった。またネガおよびポジフィルムに 対 応 し、シーンごとの 色 補 正 機 能 を 有 していた。 同 機 はソニーPCLに 納 入 され、 第 5 章 に 述 べる 多 くのハイビジョン 利 用 の 映 画 制 作 に 使 われた。写 3.8 に 同 機 の 外 観 を 示 す。テレシネ 装 置 の 老 舗 のランク・シンテル( 英 )は、 第 2 章 に 記 したように 標 準テレビ 時 代 、キャプスタン 駆 動 により 連 続 走 行 するフィルムを CRT 管 面 上 の FSS(Flying Spot Scanner)で 追 従 するテレシネ 装 置 を 開 発 し、 世 界 各 国 の 放 送 局 やプロダクションハウスで 使 われていた 52 。その 後 、90 年 代 になり HDTV モデルを 開発 し 53 、 国 内 ではイマジカにて 使 われた。 同 機 の 外 観 を 写 3.9 に 示 す。 当 時 HDTVの 普 及 が 遅 れていた 海 外 において、 本 装 置 が 使 われた 実 績 は 少 なかったが、 第 6章 に 記 した"CLUB THEATER NETWORK"( 米 国 )で HDTV シアターでの F→V 変 換 用 装置 として 使 われた。その 後 のテレシネ 装 置 の 発 展 状 況 については 第 7 章 で 述 べる。3.5 ハイビジョンフィルム 録 画 システム標 準 テレビ 時 代 におけるフィルム 録 画 機 (キネレコ)については、 第 2 章 にて述 べた。 画 質 は 十 分 ではなかったが、VTR が 普 及 する 以 前 、テレビ 番 組 の 記 録 ・ 保存 や 海 外 との 番 組 交 流 のためなどにしばしば 使 われたが、 低 画 質 なことと 現 像 処理 を 伴 う 運 用 性 の 問 題 もあり、VTR の 普 及 と 共 に 全 く 使 われなくなってしまった。ところが 高 精 細 度 のハイビジョンが 登 場 し、 映 画 への 応 用 の 可 能 性 が 出 てきたことにより、ハイビジョン 映 像 をフィルムに 記 録 するフィルム 録 画 系 が 再 び 脚 光を 浴 びるようになってきた。 映 画 並 みの 高 画 質 のフィルム 録 画 への 要 望 が 高 くなり、それに 応 え NHK 技 研 はレーザー 方 式 を 開 発 した。これに 使 われた 基 本 技 術 は、39


前 節 で 述 べたフィルム 送 像 システムと 技 術 的 に 共 通 のものがあり、 両 研 究 は 常 に連 携 協 力 しながら 進 められた。 一 方 、ソニーは 後 述 するように 電 子 ビーム 方 式 フィルム 録 画 装 置 を 開 発 した。3.5.1 レーザービームフィルム 録 画 方 式(1) レーザービーム 録 画 方 式 の 特 徴NHK 技 研 は、 第 2 章 で 述 べたようにキネレコの 画 質 を 改 善 するため、70 年 代 半ば、レーザー 光 でフィルムに 直 接 画 像 を 記 録 する 方 式 の 16mm カラーフィルム 録 画機 を 開 発 した。80 年 代 半 ばには、 各 種 ハイビジョン 機 器 の 開 発 が 進 みハイビジョンの 映 画 応 用 も 期 待 されるようになり、それまでに 蓄 積 していたレーザー 技 術 を発 展 させ、ハイビジョン 用 35mm フィルム 録 画 機 LBR(Laser Beam Recorder)を 開発 した 54 。レーザー 録 画 方 式 はレーザー 光 の 高 輝 度 性 、 高 い 収 束 性 、 単 色 性 により、解 像 度 、 粒 状 性 ノイズ、 色 再 現 性 などの 点 で 高 画 質 が 得 られる 上 、 撮 影 用 ネガフィルムだけでなく 低 感 度 の 微 粒 子 ポジフィルムにリアルタイムで 録 画 することも可 能 という 特 徴 を 持 っていた。(2) 35mm フィルムレーザー 録 画 装 置NHK 技 研 のハイビジョン 用 35mm フィルムレーザー 録 画 機 LBR 55 の 基 本 構 成 56 を 図3.11 に、 装 置 の 外 観 を 写 3.10 に 示 す。 本 装 置 の 動 作 の 概 略 は 次 の 通 りである 57 。レーザー 光 源 には、 図 3.12 に 示 す 映 画 フィルムの 分 光 感 度 特 性 を 考 え、R 用 には波 長 632.8nm の He-Ne レーザー、G 用 には 514.5nm の Ar レーザー、B 用 には 441.6nmの He-Cd レーザーが 使 われた。R,G,B3 本 のレーザービームは、 前 項 のレーザーテレシネと 同 じようにレーザーノイズを 軽 減 した 後 、 光 変 調 器 により R,G,B 映 像 信 号 に 応 じて 強 度 変 調 される。光 変 調 器 には 電 気 光 学 結 晶 の 複 屈 折 性 を 利 用 する「 電 気 光 学 式 」と 超 音 波 媒 体 中の 回 折 光 の 強 度 変 化 を 利 用 する「 音 響 光 学 式 」があるが、 本 機 では 駆 動 電 圧 が 低く 高 いコントラスト 比 が 得 られる 音 響 光 学 式 が 使 われた。 強 度 変 調 を 受 けた 3 本のレーザービームは 3 色 合 成 光 学 系 で1 本 のビームに 合 成 され、レーザーテレシネと 同 じ 仕 様 の 回 転 多 面 鏡 により 水 平 偏 向 され、 収 束 レンズにより 35mm フィルム上 に 焦 点 を 結 ぶ。フィルム 面 にラスターを 描 くための 垂 直 偏 向 は 行 わず、 録 画 カメラの 連 続 走 行 するフィルムが 垂 直 偏 向 を 代 行 している。フィルムの 1 フレーム内 にハイビジョンの 1000 本 以 上 の 有 効 走 査 線 を 描 くため、フィルム 送 給 系 は 高 い走 行 精 度 、 安 定 性 が 必 要 で、 特 製 の 録 画 カメラが 使 われた。40


58図 3.11:35mm フィルムレーザー 録 画 機 基 本 系 統 図59図 3.12 映 画 フィルムの 分 光 感 度 特 性(3) ハイジョンからフィルムへの 毎 秒 コマ 数 の 変 換本 装 置 ではフィールド 周 波 数 60Hz のハイビジョン 信 号 を 毎 秒 24 コマのフィルム 画 像 として 記 録 するのに 方 式 変 換 系 が 使 われた。 毎 秒 60 フィールドから 24 コマへのコマ 数 変 換 は、 図 3.13 に 示 すようにハイビジョンの 5 フィールドをフィルムの 2 コマに 変 換 する。ハイビジョンのフィールド12からフィルムのフレーム(1)を 作 成 し、ハイビジョンのフィールド3は 使 わない。ハイビジョンのフィールド45からフィルムのフレーム(2)を、ハイビジョンのフィールド67からフィル41


ムのフレーム(3)を 作 り、8は 使 わない。これをくり 返 してハイビジョンの 5 フレームをフィルムの 4 コマに 変 換 する。このような 3-2 変 換 (F→V 変 換 の 場 合 の 2-3変 換 とは 逆 )を 行 うため、テレシネとは 逆 の 動 きの 不 自 然 さが 発 生 する。 本 装 置ではハイビジョンの 数 フィールドを 時 間 軸 方 向 の 距 離 に 応 じて 重 みつけ 加 算 し、フィルムの 1 フレームの 画 像 を 形 成 しており、 多 重 像 になり 動 き 部 分 はぼけるが動 きの 不 自 然 さは 目 立 ちにくくなる。より 厳 格 な 変 換 法 として 動 き 画 像 から 動 きベクトルを 検 出 し、その 変 化 量 、 動き 方 向 にあわせ 補 間 する 動 き 補 正 方 式 がある。 実 験 は 行 われたが、 映 画 の 上 映 は毎 秒 24 コマの 画 像 が 毎 秒 48 コマの 2 回 繰 り 返 し 照 射 で 行 われため、 元 々V→F 変換 に 伴 う 動 きの 不 自 然 さはマスクされ、 実 効 性 が 低 く 実 用 化 は 行 われなかった 60 。61図 3.13:ハイビジョンからフィルムへのコマ 数 変 換(4)35mm フィルムレーザー 録 画 装 置 の 実 用 化これまで 述 べてきた 35mm レーザー 録 画 装 置 は、 技 研 においてかなりの 期 間 にわたる 基 礎 研 究 と 各 種 実 験 を 経 て 試 作 機 としてほぼ 完 成 の 域 に 達 し、 第 5 章 で 述 べる 草 創 期 のハイビジョン 利 用 の 映 画 制 作 でもしばしば 使 われた。LBR は 80 年 代 後半 にナックにより 写 3.11 に 示 すような 実 用 機 が 開 発 され 62 、イマジカ、ヨコシネに 納 入 され、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 実 践 の 場 において 大 いに利 用 された。3.5.2 電 子 ビームフィルム 録 画 システム(1) 電 子 ビーム 録 画 方 式 の 特 徴ソニーはハイビジョン 用 フィルム 録 画 システムとして 電 子 ビームを 使 う EBR(Electron Beam Recorder)を 開 発 した 63 。 電 子 ビームの 波 長 は 可 視 光 の 数 万 分 の1 と 短 くカラーフィルムに 直 接 録 画 できないため、 白 黒 フィルム 上 に R,G,B 信 号 に42


対 応 する 画 像 をフレーム 順 次 で 記 録 する。 真 空 中 でフィルムを 走 らせ 記 録 する 必要 があるが、 電 子 ビームを 使 うため 光 学 系 を 必 要 とせず、また 電 子 ビームは 焦 点深 度 が 深 く、 偏 向 や 強 度 変 調 が 高 精 度 に 容 易 に 行 うことができる。このような 特徴 を 活 かし、 水 平 方 向 についてはサンプリングレートを 2 倍 にし、デジタル 補 間処 理 をして 解 像 度 を 上 げ、 垂 直 方 向 については 走 査 ビーム 径 を 半 分 にし、1125 本の 2 倍 の 2250 本 の 走 査 線 で 記 録 することで 走 査 線 のすき 間 をなくし 見 掛 け 上 の 垂直 鮮 鋭 度 を 改 善 している。また 映 像 信 号 の 階 調 再 現 性 については、 非 線 形 ガンマ補 正 とすることで、ハイビジョン 映 像 にありがちな 暗 部 と 明 部 のつぶれを 軽 減 し、映 画 フィルムのトーンに 近 づける 工 夫 を 施 している。(2) 電 子 ビーム 録 画 装 置電 子 ビーム 録 画 装 置 (EBR)の 系 統 を 図 3.14 に 示 す。ハイビジョン 映 像 信 号 は本 装 置 用 に 開 発 された 低 速 度 VTR から 再 生 し、 写 3.12 に 示 すようにハイビジョン1 フレームに 該 当 する R,G,B の 3 コマの 画 像 が 白 黒 フィルム 上 に 順 次 記 録 される。この 白 黒 画 像 は 映 画 のテクニカラー 方 式 と 同 様 にステッププリンターでカラーインターネガフィルムにプリントされる。 実 時 間 録 画 はできず、フィルム 材 料 費 、現 像 代 、 光 学 プリント 費 用 がかかるが、 解 像 度 、 粒 状 性 の 良 い 複 数 のカラーインターネガフィルムにプリントすることで、オリジナルネガ 原 版 は 劣 化 することなく 長 期 保 存 することも 可 能 である。64図 3.14:EBR 基 本 系 統 図43


デジタル 技 術 を 導 入 し 一 層 性 能 アップされた EBR 装 置 はソニーPCL に 納 入 65 され、第 5 章 で 述 べる 多 くのハイビジョン 利 用 の 映 画 制 作 で 使 われた。 同 機 の 外 観 を 写3.13 に 示 す。663.6 ハイビジョンカメラの 開 発 と 成 長ハイビジョンに 相 応 しい 高 精 細 度 で 高 S/N の 映 像 を 撮 影 できるハイビジョンカメラの 開 発 には 多 くの 技 術 的 ブレークスルーとかなり 長 い 時 間 を 必 要 とした。ここでは 第 5 章 に 述 べるようなハイビジョンコンテンツの 制 作 に 不 可 欠 なハイビジョンカメラの 開 発 ・ 成 長 の 経 緯 を 整 理 しておく。(1) 黎 明 期 の 高 精 細 度 カメラ 67次 世 代 テレビの 研 究 が 始 まってまもない 1960 年 代 末 期 、NHK 技 研 で 試 作 された高 精 細 度 テレビカメラは、 撮 像 管 に 1,5"ビジコンを 使 い、 解 像 度 は 1100TV 本 、SN比 33dB、 感 度 19000lx(F4)、 残 像 40%という 性 能 が 得 られ 1969 年 技 研 公 開 で 初 公開 された。 次 に 開 発 されたのが、より 高 解 像 度 を 目 指 し、 撮 像 管 に 大 口 径 の 2"RBS(リターンビームサチコン)を 採 用 したカメラで、 解 像 度 1500TV 本 、SN 比 38dB、感 度 2000lx(F5.6)、 残 像 37%と 言 う 高 性 能 が 得 られ、70 年 代 初 頭 に 公 開 された。これらのカメラは 当 時 高 品 位 テレビと 呼 ばれた 研 究 開 発 に 役 に 立 ったが、 残 像 が大 きくもっぱら 静 止 画 像 専 用 で 動 画 撮 影 には 適 さず 番 組 制 作 には 使 われなかった。このうち 1,5"ビジコンカメラは 前 述 のように 70mmフィルムハイビジョンテレシネに 使 われた。その 後 、フィールドでの 動 画 撮 影 に 使 えるハイビジョンカメラを 目 指 し、1980年 初 頭 、 撮 像 管 に 1"サチコンを 採 用 した 写 3.14 に 示 すハイビジョン 第 1 号 カメラが 開 発 された。 解 像 度 1200TV 本 、SN 比 44db、 残 像 1% 以 下 の 性 能 が 得 られ、 第 5章 に 記 した『ハイビジョンの 幾 つかのイメージ』など 黎 明 期 のハイビジョン 作 品の 制 作 に 使 われた。(2) 草 創 期 から 成 長 ・ 発 展 期 のハイビジョンカメラ当 初 、 高 品 位 テレビの 機 器 開 発 は NHK 技 研 で 行 われていたが、80 年 代 になると徐 々にメーカの 参 入 も 見 られるようになり、83 年 、 実 用 レベルのカメラ(HDC-100、ソニー)が 開 発 された。 撮 像 管 に 1"サチコンを 使 い、 解 像 度 1000TV 本 、SN 比 44db、感 度 F2.8 (2000lx)と 言 う 性 能 が 得 られた。 同 機 は、 同 年 暮 の『 紅 白 歌 合 戦 』で 初めて 使 われ、その 後 、 第 5 章 に 記 した『オニリコン』や『 秋 京 都 』など 草 創 期 のハイビジョン 史 に 残 る 多 くの 番 組 制 作 で 使 われた。その 後 、85 年 のつくば 科 学 博を 機 に 68 ハイビジョン 機 器 の 充 実 が 進 み、 解 像 度 1200TV 本 、 感 度 F4.7 と 性 能 アッ44


プした 写 3.15 に 示 す 可 搬 型 カメラ(HDC-300、ソニー)が 開 発 された。また NHK技 研 が 開 発 したハープ 撮 像 管 (2/3")を 搭 載 し、 解 像 度 は 800TV 本 とやや 低 いが感 度 を F8 と 向 上 した 小 型 カメラ(HL-1125、 池 上 通 信 機 )も 開 発 された。これらのカメラは 草 創 期 のカメラに 比 べ 性 能 、 機 能 共 向 上 し、つくば 博 用 の 番 組 始 め 80 年代 後 半 の 成 長 ・ 発 展 期 のハイビジョン 番 組 の 制 作 に 大 いに 使 われた。90 年 代 になると、 撮 像 素 子 は 撮 像 管 から CCD に 変 わっていき 69 、SN 比 は 54dB 程度 と 大 きく 向 上 し、 感 度 も F8~F10 程 度 と 高 くアイリスワークがやりやすくなり豊 かな 映 像 表 現 が 可 能 になった。CCD 素 子 のサイズは 1"から 2/3"、 画 素 数 は 200万 から 220 万 、130 万 (G チャンネル 画 素 ずらしで 解 像 度 を 改 善 )と 多 様 で、 撮 像管 方 式 に 比 べ 写 3.16 に 示 すように 小 型 、 軽 量 化 が 進 み 機 動 性 が 高 まり、ハイビジョン 制 作 が 一 層 やりやすくなっていった。これらの 機 種 は 第 5 章 に 記 した 作 品 の中 で、90 年 代 後 半 以 降 の 制 作 に 使 われた。90 年 代 半 ばになると、 撮 像 管 カメラは高 感 度 用 など 特 殊 ケースを 除 いて 使 われなくなり、CCD や C-MOS へと 固 体 化 され、撮 像 素 子 は 高 密 度 化 によりイメージサイズは 1/2"、1/3"と 小 形 化 され、カメラ 自体 もショルダー 型 からハンディ 型 へと 進 み、ハイビジョン 作 品 も 従 来 の 標 準 テレビ 並 みに 効 率 的 に 気 軽 に 制 作 されていくようになっていく。 一 方 で、 半 導 体 技 術の 進 歩 、デジタル 技 術 の 進 歩 に 伴 い、 一 層 高 精 細 度 カメラも 開 発 されていくが、その 後 の 進 展 については 第 7 章 で 述 べることとする。(3) ハイビジョンの 応 用 分 野 を 広 げた 高 感 度 カメラハイビジョンカメラの 高 画 質 化 、 小 型 化 が 進 む 一 方 で、 産 業 応 用 など 特 殊 用 途の 高 感 度 カメラへのニーズも 強 くなっていった。NHK 技 研 は、 光 導 電 型 撮 像 管 の 一種 でアモルファスセレン 系 の 光 導 電 膜 に 強 電 界 をかけた 時 に 発 生 するアバランシェ 増 倍 現 象 を 利 用 し、 高 解 像 度 と 高 感 度 を 両 立 できる 画 期 的 な 高 感 度 撮 像 デバイス HARP(High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor) を 開 発 した。この 素 子 を 使 い、まず 標 準 テレビ 用 高 感 度 カメラが 開 発 され、 夜 間 の 報 道 取 材 や科 学 番 組 で 夜 行 性 動 物 の 生 態 撮 影 などで 威 力 を 発 揮 した。その 後 、ハイビジョン用 ハープカメラが 開 発 され、88 年 ソゥルオリンピックの 時 に 初 めて 使 われた。さらに 光 導 電 膜 を 厚 くし 電 界 をより 高 くし 増 倍 率 を 高 め、 通 常 のハイビジョン CCDカメラの 200 倍 もの 超 高 感 度 スーパーハープカメラも 開 発 された 70 ( 写 3.17)。このカメラは 放 送 番 組 以 外 の 分 野 でも、 映 画 での 夜 間 シーン 撮 影 、 明 かりの 届 かない 深 海 探 査 や 宇 宙 観 測 、 医 療 分 野 などで 画 期 的 な 使 われ 方 がなされ、ハイビジョンの 映 像 メディアとしての 可 能 性 、 応 用 範 囲 が 一 層 広 がることになり、2000 年 代 の超 高 精 細 度 、 高 感 度 、 高 速 度 カメラの 開 発 へと 繋 がっていった。45


713.7 ハイビジョン VTR の 開 発 と 成 長VTR は 番 組 制 作 や 送 出 のための 記 録 ・ 再 生 機 器 として 不 可 欠 なキーコンポーネントである。ハイビジョン VTR は 当 然 ながら 標 準 テレビ 用 VTR の 技 術 を 導 入 しながら 成 長 してきた。 標 準 テレビ(6MHz)の 約 5 倍 と 言 う 広 帯 域 の 映 像 信 号 を 記 録 再 生するため、 当 時 の 最 先 端 技 術 がつぎ 込 まれた。VTR テープに 記 録 可 能 な 信 号 周 波 数は、F=v/f(ヘッド・テープ 間 相 対 速 度 / 記 録 波 長 )と 言 う 関 係 があり、 広 帯 域 のハイビジョン 信 号 を 記 録 するためには、テープとヘッド 間 の 相 対 速 度 を 上 げると共 に 記 録 波 長 を 短 くする 必 要 がある。 相 対 速 度 を 上 げるためにはテープ 走 行 速 度とヘッド 回 転 数 を 共 に 上 げ、 記 録 波 長 を 下 げるためにはテープ 磁 性 層 の 抗 磁 力 を高 める 必 要 がある。それらの 実 現 には 様 々な 技 術 開 発 が 必 要 で、 当 時 の 技 術 力 では 一 朝 一 夕 には 行かず、 映 像 帯 域 を 多 チャンネルに 分 割 しヘッド 数 を 増 やすとか、 輝 度 信 号 と 色 度信 号 を 別 チャンネルに 記 録 するとか、 時 間 軸 の 圧 縮 ・ 伸 張 技 術 を 投 入 するなど 様 々な 技 術 が 組 み 合 わされ、ハイビジョン VTR は 開 発 された。その 後 は、 技 術 の 進 歩に 伴 い、 大 型 の 1"オープン 型 から 小 型 カセット 型 へ、ダビング 特 性 の 悪 いアナログ VTR から 高 画 質 のデジタル VTR へ、 非 圧 縮 式 から 圧 縮 方 式 へというように、 年 々性 能 ・ 機 能 が 向 上 し、 番 組 、コンテンツの 質 向 上 に 寄 与 している。(1)NHK 技 研 製 試 作 VTR1981 年 、NHK 技 研 が 黎 明 期 のハイビジョン 時 代 に 試 作 開 発 した VTR 72 は、 当 時 標準 テレビ 用 に 使 われていた 1"C フォーマット VTR を 改 造 し、テープ 走 行 速 度 を 2倍 、ヘッド 回 転 数 を 4 倍 に 上 げ、 高 抗 磁 力 の 酸 化 物 テープ(まだメタルテープは使 えなかった)を 使 った。 広 帯 域 の 映 像 信 号 を 記 録 するため、 輝 度 信 号 と 色 信 号を 時 分 割 多 重 ( 記 録 時 に 時 間 軸 圧 縮 し 再 生 時 に 伸 張 し 元 の 信 号 に 戻 す、 色 信 号 については 線 順 次 としデータ 量 を 縮 減 )し、2 ヘッドを 使 い FM 記 録 を 行 った。コンポジット 信 号 をそのまま 記 録 していた 標 準 テレビ VTR に 比 べれば、 信 号 処 理 は 複雑 になるが 全 体 としてのデータ 圧 縮 効 果 は 大 きく、 比 較 的 単 純 な 構 成 によりハイビジョン VTR を 実 現 した。 手 作 りの 試 作 機 で、 操 作 性 、 安 定 性 は 良 くなかったが、第 5 章 に 記 したハイビジョン 番 組 『 日 本 の 美 』などの 制 作 に 使 われた。(2)1"アナログコンポーネント VTR(つくば 博 仕 様 )つくば 科 学 博 を 控 えた 1984 年 、 科 学 博 暫 定 規 格 に 沿 い 実 用 性 の 高 いアナログコンポーネント VTR(HDV-1000、ソニー)が 開 発 された 73 。その 外 観 を 写 3.18 に 示 す。この VTR は 4CH マルチトラック(G,R,B および 輝 度 (Y) 高 域 成 分 )で、G,Y 高 域 信号 は 時 間 軸 を 圧 縮 ・ 伸 張 し 記 録 周 波 数 を 下 げている。 当 時 の 標 準 テレビ 用 主 力 機46


をベースにテープ 走 行 速 度 を 2 倍 にし、 記 録 時 間 長 は 約 96 分 だった。 映 像 信 号 帯域 は Y:20Mhz、C:10Mhz で、SN 比 は 41dB(Y)で、 機 能 性 、 操 作 性 も 良 く、80 年代 後 半 にかけ 番 組 制 作 ・ 送 出 用 の 主 力 VTR となり、 第 5 章 で 述 べた 多 くのハイビジョン 番 組 の 制 作 で 使 われた。(3) 小 型 カセットユニハイ VTR80 年 代 後 半 、 進 展 し 始 めていたハイビジョンシアターやハイビジョン 多 目 的 ホールなどでの 利 用 をターゲットに、NHK-ES が 主 導 し 関 連 メーカ 9 社 (ソニー、 松下 電 器 など)により、 写 3.19 に 示 すような 小 型 で 操 作 性 の 良 いユニハイ VTR を 共同 開 発 した 74 。3/4"カセット 型 、アナログコンポーネントの Y/C 時 分 割 多 重 方 式 で、第 6 章 に 記 すように 主 に 展 示 展 博 用 再 生 VTR として 使 われたが、 小 型 で 可 搬 性 の特 徴 を 活 かし NHK では V ロケ 用 にも 活 用 された。(4)1" 非 圧 縮 デジタル VTR上 述 のアナログ VTR は、 第 5 章 に 記 したように 80 年 代 の 多 くの 番 組 制 作 に 使 われたが、SN 比 が 低 くダビング 特 性 が 悪 く 複 雑 な 多 重 合 成 用 には 使 えなかった。80年 代 後 半 、 高 度 な 番 組 の 制 作 や 映 画 応 用 が 進 むに 伴 い、 複 雑 な 映 像 合 成 、 加 工 処理 への 要 望 が 高 まり、ダビング 特 性 の 良 いデジタル VTR への 要 望 が 高 くなってきた。1982 年 、 標 準 テレビのデジタルコンポーネント 規 格 (D-1 フォーマット)が 国際 標 準 化 されたのにあわせ、ハイビジョンと 標 準 テレビとの 互 換 性 に 配 慮 し、1989年 デジタル 標 準 規 格 に 沿 った 写 3.20 に 示 す 非 圧 縮 デジタル VTR 75 が 開 発 された。主 な 仕 様 は、1"メタルテープを 使 い、テープ 走 行 速 度 はアナログ VTR の 2 倍 で記 録 時 間 長 は 96 分 、サンプリング 周 波 数 は Y:74.25MHz、C:37.125MHz、 映 像 信号 帯 域 は Y:25MHz、C:12.5MHz で、SN 比 は 56dB(Y 信 号 )と、 性 能 は 前 述 のアナログ VTR より 圧 倒 的 に 高 くなった。90 年 代 前 半 頃 から、NHK では 番 組 制 作 用 、 送出 用 の 主 力 機 として 使 われるようになっていく。 第 5 章 に 記 す 実 践 作 品 の 中 では、『 夢 の 涯 てまでも』、『プロスペローの 本 』や 中 沢 の 作 品 で、デジタル VTR のダビング 特 性 の 良 さの 特 徴 を 活 かし、 複 雑 高 度 な 多 重 合 成 の 制 作 処 理 などで 大 いに 威力 を 発 揮 した。(5) カセット 型 圧 縮 デジタル VTR90 年 代 半 ばになると、ハイビジョン VTR 技 術 は 一 層 進 み、1/2"カセット 型 で 圧縮 式 のデジタル VTR が 開 発 され、 運 用 性 、 機 動 性 が 大 幅 に 向 上 し、 主 力 VTR として 使 われていくようになった。ひとつは 写 3.21 に 示 した 1996 年 実 用 化 された HD-D5( 松 下 )で、 映 像 符 号 化 にフィールド 内 DCT を 採 用 し、 圧 縮 率 は 約 1/5 で、 当 時 は 主 に 送 出 用 主 力 機 として47


使 われた。もうひとつの 機 種 は 写 3.22 に 示 した 1997 年 実 用 化 された HD カム(ソニー)で、 圧 縮 率 は 約 1/7 で、 主 にフィールドでの 取 材 や 編 集 制 作 系 の 主 力 機 として 使 われた。その 後 も VTR の 成 長 は 続 き、テープ 幅 は 1/4"へとさらに 小 型 化 され、 圧 縮 率 も 高 めた 小 型 機 種 が 次 々に 実 用 化 されていく。 標 準 テレビ 用 VTR に 比べかなり 劣 っていた 操 作 性 、 機 能 性 も 遜 色 なくなり、ハイビジョンの 番 組 制 作 でも 自 由 自 在 に 行 えるようになっていった。(6) テープレス 記 録 システムここまで 述 べてきた VTR は、 長 手 テープを 使 うためリニア 系 とも 呼 ばれ、テープからテープへ 映 像 信 号 をコピーするのが 基 本 である。アナログ VTR はもちろんのこと、 例 えデジタル VTR だとしてもダビング 回 数 が 増 えれば、それに 伴 う 画 質劣 化 は 避 けられず、しかも 信 号 コピーには 実 時 間 が 必 要 である。 一 方 、ノンリニア 系 と 呼 ばれるテープレスシステムは、 編 集 点 のアドレスを 指 定 するだけでコピープロセスがないため、 編 集 に 伴 う 劣 化 はなく、アクセス 性 が 良 く 効 率 的 に 作 業ができる。ノンリニアシステムはそのような 優 れた 特 徴 を 持 つため、90 年 頃 から、複 雑 な 加 工 処 理 を 必 要 とする 番 組 制 作 ではディスク・ 半 導 体 メモリーが 使 われるようになった。 第 5 章 に 述 べる 制 作 実 践 においても『プロスペローの 本 』などで部 分 的 に 使 われた。2000 年 代 以 降 になると、 高 画 質 コンテンツの 制 作 においてはディスクベースが 主 流 になって 行 き、さらには 取 材 系 、 送 出 ・ 配 信 系 もテープレスシステムになっていく。テープレス 系 の 技 術 動 向 、 状 況 については 第 7 章 にて詳 しく 述 べる。3.8 ハイビジョン 映 像 加 工 ・ 合 成 ・ 処 理 システムハイビジョンを 映 画 制 作 に 使 う 最 大 のメリットは、 従 来 の 映 画 におけるオプティカル 法 に 比 べ、 複 雑 で 高 度 な 映 像 表 現 が 効 率 的 に 高 品 質 に 制 作 できる 電 子 的 映像 合 成 にあると 期 待 されたことにある。ここでは 第 5 章 に 示 す 実 践 例 において 使われた 各 種 装 置 、システムがどのように 開 発 され、その 後 、どのように 改 善 され、その 後 の 映 像 制 作 にどう 影 響 してきたのか、 開 発 ・ 成 長 の 経 緯 、 特 徴 や 課 題 などについて 論 じる。3.8.1 映 像 合 成 用 機 器電 子 メディアであるハイビジョンによる 映 像 合 成 は、 映 画 におけるオプティカル 法 に 比 べ 多 くの 利 点 を 持 つが、それらの 機 器 は、 第 5 章 に 記 すような 制 作 実 践の 過 程 の 中 で、 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ 改 善 、 改 良 が 加 えられたものもある。80 年 代48


から 90 年 代 にかけ 開 発 された 技 術 やノウハウの 中 には、その 後 汎 用 的 な 技 術 となり、 現 在 では 当 たり 前 のものになっているものも 多 い。 当 時 行 われたメディアミックスの 実 践 が、その 後 の 映 像 メディアの 成 長 に 与 えた 影 響 は 大 きい。(1) クロマキー、アルチマット映 画 制 作 において、ブルースクリーンを 使 った 合 成 やマット 技 法 は 従 来 から 現在 にいたるまで 大 いに 使 われている 76 。 一 方 、 標 準 テレビ 時 代 に、 映 画 の 合 成 技 法にならい、テレビ 用 の 映 像 合 成 法 として「クロマキー」が 開 発 され 長 年 使 われてきた 77 。ブルースクリーン 前 で 撮 影 された 前 景 映 像 信 号 のクロマ 成 分 から 色 相 差 を使 ってキー 信 号 を 作 り、そのキー 信 号 を 使 い 前 景 および 背 景 信 号 を 切 り 取 り、 映像 をはめ 換 え 合 成 する 手 法 である。NTSC 信 号 の 場 合 、コンポジット 信 号 で 合 成 するラインクロマキー、カメラ 出 力 信 号 から 直 接 行 う RGB クロマキーがあるが、 基本 的 にアルゴリズムが 未 熟 な 上 、 解 像 度 不 足 や 繊 細 なキー 信 号 の 確 保 、 信 号 レベル 調 整 とミックス 法 などの 点 で 良 質 の 映 像 合 成 は 困 難 だった。しかし 簡 便 に 効 果的 な 映 像 表 現 ができることから 近 年 に 至 るまでしばしば 使 われてきた。その 後 、アルチマット 社 ( 米 )が 独 自 アルゴリズムにより 高 精 度 のキー 信 号 (マットとも 言 う)によるリニアミックス 法 で 映 像 信 号 を 合 成 する「アルチマット」 78を 開 発 した。 毛 髪 のように 細 かい 被 写 体 、ガラスや 煙 など 半 透 明 な 被 写 体 や 影 がついた 人 物 像 など、 従 来 のクロマキーでは 困 難 だった 合 成 もきれいにできるようになった。アルチマットシステムの 性 能 ・ 機 能 は 年 々 向 上 し、 世 界 中 で 多 くのテレビ 番 組 の 制 作 で 使 われるようになり、やがてハイビジョン 仕 様 の 機 器 も 開 発 された。NTSC のコンポジット 信 号 に 対 し、ハイビジョンはコンポーネント 信 号 のため 本 来 的 に 高 精 度 で 良 質 のキー 信 号 が 得 られ、それだけ 高 品 質 の 映 像 合 成 が 可 能になる。しかし 前 景 となる 被 写 体 や 背 景 スクリーンに 照 明 むらがあると 合 成 映 像に 不 要 な 影 やゴミが 現 われ、 大 画 面 で 高 精 細 のハイビジョンでは 自 然 感 が 損 なわれてしまう。 実 際 の 映 像 合 成 制 作 においては、ハード 性 能 を 十 分 使 うこなす 技 量はもちろん、 綿 密 なセッティングとチェックが 必 要 である。これらの 合 成 システムは 当 時 から 今 に 至 るも 番 組 制 作 にとって 不 可 欠 のツールであり、 第 5 章 に 述 べる 多 くの 作 品 制 作 で 使 われている。(2) ビデオマットアルチマットは 合 成 のためのキー 信 号 を 得 るのに 色 の 違 いを 利 用 するため、ブルーやグリーンなど 特 定 の 色 のスクリーンの 前 で 前 景 となる 被 写 体 を 撮 影 しなければならない。そのため 背 景 スクリーンに 近 い 色 の 被 写 体 は 使 えず、 色 相 の 分 離が 悪 いと 合 成 映 像 の 品 質 が 低 下 する。もちろん 別 々に 撮 影 された 一 般 映 像 同 士 の49


合 成 には 使 えない。それに 対 し、NHK はコンピュータ 技 術 を 利 用 し、 映 像 信 号 をライトペンでなぞることにより 任 意 の 形 のマット 信 号 を 作 成 し、その 信 号 を 使 い 異 なる 映 像 同 士 を 合成 する「ビデオマット」 装 置 を 開 発 した。クロマキーやアルチマット 合 成 のようにブルースクリーンの 前 での 撮 影 を 必 要 とせず、 写 3.23 に 示 すように 普 通 に 撮 影された 映 像 同 士 でも 合 成 できる。 従 来 のアルチマット 合 成 では、 屋 外 で 合 成 映 像を 作 成 しようとすると 大 きなスクリーンを 設 営 しなければならず、その 上 、 良 質の 合 成 映 像 を 得 るためには 照 明 のセッティングも 大 変 である。そこで、このビデオマットを 使 えば、どのような 場 所 、 条 件 で 撮 られた 映 像 、 例 えばスケールの 大きな 建 造 物 や 風 景 同 士 でも 自 然 感 のある 映 像 合 成 が 可 能 になる。このビデオマットは、80 年 代 半 ば 頃 、 現 場 の 番 組 制 作 技 術 者 の 手 により 標 準 テレビ 用 の 試 作 機 が 開 発 され 79 、 放 送 センター 内 の 高 品 質 編 集 室 (コンポーネントデジタル 信 号 の D1 規 格 による 特 別 の 編 集 室 )に 設 置 され、 大 河 ドラマなど 数 々の 番組 の 制 作 に 使 われた。その 後 、ハイビジョン 仕 様 のモデルが 開 発 された 80 。その 基 本 系 統 は 図 3.15 に示 すように、 当 時 の CCIR 勧 告 のハイビジョンスタジオ 規 格 により 設 計 され、 前 景(FG 入 力 信 号 )および 背 景 (BG 入 力 信 号 )の RGB コンポーネント 信 号 はそれぞれA/D 変 換 され、 内 部 処 理 は 全 てフルデジタルで 行 われる。FG 系 にはフレームメモリーを 有 しフリーズ 映 像 で 加 工 処 理 が 行 われ、 合 成 用 キー 信 号 はハイビジョンモニター 画 面 に 表 示 されている 入 力 映 像 を 見 ながら、マウスを 操 作 し 切 り 絵 をする81図 3.15 ハイビジョン 用 ビデオマット 系 統 図50


ように 作 成 する。リアルで 自 然 感 のある 合 成 ができるように、FG と BG の 境 界 部 分をモニターしながらキー 信 号 をソフト 化 するためシェーディング 処 理 をする。シェーディングの 量 は 水 平 、 垂 直 方 向 が 独 立 に 制 御 でき、 自 然 感 のある 合 成 映 像 になるようにその 大 きさを 設 定 する。これらの 制 御 はバックグラウンドでコンピュータが 行 い、 制 作 者 は 軽 度 なトレーニングで 操 作 でき、 映 像 モニターの 画 面 を 見ながらクリエイティブな 作 業 に 専 念 できる。 本 装 置 は 第 5 章 に 述 べる『 出 発 』や"Ten Seconds After"などでリアル 感 のある 複 雑 な 多 重 合 成 に 使 われ 大 いに 威 力 を発 揮 した。(3) ムービーマットビデオマットは 動 画 には 対 応 していなかったため、 動 画 像 の 合 成 をする 場 合 には、フレーム 毎 にキー 信 号 を 作 り 外 部 記 録 装 置 と 組 み 合 わせ、コマ 取 りして 動 画に 対 応 するため 長 時 間 の 作 業 を 必 要 とした。そこで 現 場 の 制 作 技 術 者 がビデオマットを 改 善 し 動 画 にも 対 応 する「ムービーマット」を 開 発 した 82 。 映 像 モニター 画面 上 で 映 像 を 見 ながらタブレットを 操 作 し、 入 力 映 像 の 最 初 の 2 フィールドから抽 出 したい 対 象 物 の 境 界 を 太 い 線 で 大 まかになぞり、この 太 い 境 界 線 を 画 像 のエッジ 情 報 を 用 いて 自 動 的 に 細 線 化 し 対 象 物 を 抽 出 する。 細 線 化 した 境 界 線 を 再 び太 線 化 して 次 のフィールドの 荒 い 境 界 線 とすることで、 順 次 動 きのある 対 象 物 を自 動 的 に 抽 出 していく。VTR から 映 像 を 取 り 込 み、 対 象 物 の 追 跡 と 抽 出 をし、 動 くキー 映 像 のキーディスクへの 蓄 積 を 指 定 カットの 全 フレームにわたって 順 次 自 動的 に 行 う。 合 成 本 番 時 に 編 集 機 からの 制 御 により 蓄 積 されたキー 信 号 をリアルタイムに 再 生 し、スイッチャーで 映 像 合 成 するという 仕 組 みである。しかし HD ムービーマットは 実 用 化 された 時 期 が 遅 かったため、 第 5 章 で 述 べた作 品 の 制 作 では 使 われなかったが、その 後 の NHK の 多 くの 作 品 で 活 用 されている。その 後 もシステムの 改 善 改 良 がなされ、この 技 術 やノウハウはその 後 今 日 にいたるまで 汎 用 的 に 使 われるようになっている。3.8.2 映 像 加 工 ・ 処 理 用 機 器ハイビジョン 制 作 において、 前 項 の 映 像 合 成 と 共 に 豊 かな 映 像 表 現 を 実 現 し、画 質 を 向 上 するための 様 々な 映 像 加 工 、 処 理 システムも 重 要 なツールである。これらの 装 置 も 現 場 制 作 者 の 創 意 と 技 術 力 から 生 み 出 され、 性 能 アップしたものが多 く、その 後 、 今 日 に 至 る 映 像 制 作 技 法 の 向 上 に 大 きく 寄 与 している。(1)DVE(Digital Video Effect)DVE は、 入 力 信 号 をデジタル 信 号 にして 取 り 込 み、フレームメモリーへのデータ51


のやり 取 りをしながら、 数 学 的 演 算 処 理 、フィルタ 処 理 を 行 い 様 々な 効 果 画 面 を作 成 する 装 置 である。 標 準 テレビにおいては、 特 殊 効 果 画 面 を 作 成 する 汎 用 ツールとして 日 常 的 に 使 われていた。80 年 代 半 ば、 当 初 シンプルだったハイビジョン番 組 制 作 においても 映 像 効 果 的 画 面 が 求 められるようになり、 制 作 現 場 の 要 望 を盛 り 込 みつつハイビジョン DVE が 開 発 された。ハイビジョン DVE が 扱 う 信 号 は、ハイビジョンデジタル 信 号 規 格 に 添 い、 量 子 化 ビット 数 が 10bit、サンプリング 周波 数 は 74.25MHz と 非 常 に 高 く、 開 発 当 初 は 高 速 処 理 が 間 に 合 わず、 標 準 テレビ 用機 器 に 比 べ 映 像 効 果 も 限 られ 機 能 性 、 操 作 性 は 低 く、 信 頼 性 、 安 定 性 にもやや 難があり、しばしば 開 発 担 当 者 が 制 作 時 にスタンバイするような 状 況 だった。80 年 代 後 半 から 90 年 代 にかけ、 第 5 章 に 示 したように 高 品 質 のハイビジョン 番組 が 盛 んに 制 作 されるのにあわせ、ハイビジョン DVE の 性 能 、 機 能 は 年 々 向 上 し、やがて 機 能 面 では 標 準 テレビ 用 機 種 に 並 ぶようになっていった。90 年 代 のハイビジョン DVE が 扱 える 特 殊 効 果 としては、フレーム 内 の 拡 大 や 縮 小 、ズーム、マルチ 画 面 、 画 面 切 り 替 えのスライドやワイプ、 残 像 効 果 、Z 軸 方 向 の 処 理 も 加 えた 遠近 感 効 果 や 回 転 効 果 、ページめくり、 球 面 貼 り 付 け、 時 間 軸 方 向 の 信 号 処 理 によるフリーズやコマ 落 とし 効 果 などと 多 種 多 彩 になっていった。これらの 映 像 効 果 を 作 品 の 演 出 意 図 に 合 わせ、 適 宜 選 択 し 組 み 合 わせ、 多 種 多彩 な 映 像 表 現 が 多 くの 作 品 の 中 で 効 果 的 に 使 われた。DVE による 映 像 加 工 ・ 処 理 の制 作 は 高 度 で 熟 練 を 要 するが、 標 準 テレビ 時 代 の 経 験 を 踏 まえ、 制 作 スタッフの人 材 育 成 やノウハウの 向 上 に 努 めた。ハイビジョンならではの 特 殊 効 果 映 像 を 創り 出 すため、オペレータは 斬 新 的 映 像 効 果 を 生 み 出 すハードウエアを 使 いこなす技 術 力 を 高 め、クリエイティブな 制 作 作 業 に 対 する 感 性 と 強 い 意 欲 、さらに 長 時間 にわたる 忍 耐 力 向 上 にも 励 んだ。 第 5 で 述 べるほとんどのコンテンツ 制 作 の 場において、 多 かれ 少 なかれハイビジョン DVE による 効 果 映 像 が 使 われている。(2)エンハンサー、カラーコレクター、ノイズリデューサーフィルム 画 像 とテレビ 映 像 は、 第 4 章 にて 述 べるように 元 々 両 者 の 画 像 を 形 成する 仕 組 みが 違 っており、 画 調 、 色 調 は 異 なっている。そのためフィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 混 在 使 用 し 一 本 の 作 品 として 仕 上 げる 場 合 、 両 者 のトーンを厳 密 に 合 わせることはできないが、できるだけ 違 和 感 が 少 ないように 統 一 することが 望 ましい。そのために 視 覚 的 な 鮮 鋭 度 の 違 いに 対 してはエンハンサー、 色 調の 違 いに 対 してはカラーコレクター、ノイズに 対 してはノイズリデューサーが 使われる。80 年 代 、ハイビジョン 番 組 の 制 作 が 始 まった 頃 にはハイビジョンの 画 質 を 調 整52


することができる 高 性 能 機 器 はまだ 開 発 されておらず、 標 準 テレビ 用 の 機 器 をハイビジョン 仕 様 に 改 修 したり、 試 作 装 置 を 使 ったりした。ハイビジョン 番 組 制 作が 盛 んに 行 われるにつれ、 徐 々にハードウエアの 整 備 が 進 み 制 作 ノウハウも 高 まり、 自 然 感 のある 映 像 表 現 が 制 作 されるようになっていった。 当 時 、 制 作 現 場 においてなされた 試 行 錯 誤 、 改 善 、 改 良 をベースに、90 年 代 初 頭 にはハイビジョン仕 様 の 映 像 調 整 機 器 の 実 用 化 が 進 み、 作 品 の 質 も 高 まって 行 った。これらの 技 術 、ノウハウはやがて 近 年 のフルデジタル 化 された 極 めて 高 度 な 機 器 、システムへ 成長 し、 継 承 されて 行 くことになる。3.8.3 コンピュータ 技 術 の 活 用 システム90 年 代 になると、 制 作 分 野 においてコンピュータ 技 術 が 汎 用 的 に 使 われるようになり、 従 来 とは 違 う 映 像 表 現 技 法 が 開 発 され、またカメラによる 実 写 映 像 だけでなく、CG(Computer Graphics) 画 像 との 合 成 も 多 用 されていくようになった。(1) バーチャルスタジオセットNHK は、 標 準 テレビ 時 代 、より 自 然 なクロマキー 合 成 を 実 現 するため、 前 景 を 撮影 するカメラの 動 きと 背 景 映 像 を 連 動 させる「シンセビジョン」を 開 発 し、 語 学番 組 や 子 供 向 け 番 組 『 天 才 テレビくん』などに 使 われていた 83 。90 年 頃 から 前 景 や背 景 映 像 に CG が 使 われるようになり、 実 写 映 像 と CG 画 像 を 混 在 使 用 する 機 会 も増 えてきて、 電 子 大 道 具 とかバーチャルセットと 言 った 映 像 表 現 法 が 開 発 された。91 年 制 作 の『ナノ・スペース』では、 実 写 と 背 景 映 像 の CG を 高 精 度 に 連 動 させる84図 3.16 バーチャルセットシステム 系 統 図53


ため、パン、チルト、ズームなどのカメラワークデータをカメラクレーンやレンズに 装 着 したロータリーエンコーダで 検 出 し、そのデータを 基 にして CG を 生 成 し実 写 映 像 と 合 成 する 制 作 手 法 がとられた 85 。その 後 、このシステムの 機 能 ・ 性 能 を一 層 向 上 させたハイビジョン 用 合 成 技 術 が 開 発 され、『 驚 異 の 小 宇 宙 ・ 人 体 Ⅱ』 86や『 生 命 ・40 億 年 はるかな 旅 』 87 などの 制 作 にも 使 われた。それらの 成 果 については 北 京 で 行 われたシンポジウム 88 や Inter BEE での 国 際 シンポジウムなどの 場 などでも 報 告 された 89 。これらの 番 組 制 作 に 使 われたシステムの 基 本 構 成 を 図 3.16に、人 体 Ⅱにおける 合 成 画 像 の 1 例 を 写 3.24 に 示 す。(2)モーション・コントロール・システムモーション・コントロール・システムは、コンピュータ 制 御 により 何 度 でも 同じカメラワークや 被 写 体 の 動 きを 再 現 できるシステムで、 複 雑 な 合 成 をする 特 撮映 画 用 に 開 発 された 技 術 である。 米 国 で『スターウオーズ』などで 使 われ 始 め、現 在 に 至 るも 多 くの 映 画 制 作 に 使 われている。システムの 基 本 はコンピュータ 数値 制 御 によりサーボモータやステッピングモータでクレーンやカメラの 動 きを 精密 にコントロールする。そのため 何 度 でも 同 じカメラワークが 再 現 でき、 複 雑 な多 重 合 成 シーンの 撮 影 などに 使 われる。 国 内 では 80 年 代 半 ば 頃 、イマジカは 写 3.25に 示 すようなコンピュータ 制 御 カメラ C-CAM を 開 発 し 90 、その 後 、 改 善 改 良 が 進 み数 々の 特 撮 映 画 の 制 作 に 使 われている。標 準 テレビ 時 代 のテレビ 番 組 制 作 では、 特 撮 映 画 のような 複 雑 な 合 成 がなされることは 少 なく、 大 掛 かりなモーション・コントロール・システムが 使 われることはあまりなかった。NHK は 前 述 のバーチャルセット 技 術 と 上 述 のモーション・コントロール・システムを 連 携 し、 検 出 したカメラワークデータを 使 いカメラやクレーンの 動 きをコンピュータ 制 御 することで、 実 写 と CG さらに 実 写 映 像 同 士 を 合成 する 技 法 を 開 発 した。このシステムを 使 えば 何 度 でも 同 じカメラワークが 再 現でき、 複 雑 な 多 重 合 成 が 可 能 となる。 通 常 番 組 で 使 われることは 少 なかったが、第 5 章 で 述 べる"Ten Second After"や"The Screw and the Wall"などで 多 重 合 成映 像 の 制 作 に 使 われ、 斬 新 で 効 果 的 な 映 像 表 現 を 実 現 するのに 大 いに 役 に 立 った。3.9 ハイビジョン 大 画 面 ディスプレイ映 画 とハイビジョンのメディアミックスにより 制 作 された 作 品 を 上 映 する 方 法として、フィルムによるケースとハイビジョン 映 像 を 使 うケースがある。 前 者 に使 うフィルム 録 画 装 置 については 前 述 したので、ここでは 1980 年 代 半 ばから 90年 代 にかけ 大 画 面 映 写 用 に 使 われたハイビジョンディスプレイについて 述 べる 91 。54


ハイビジョンディスプレイには 種 々の 方 式 、 構 成 のものがありそれぞれ 異 なる特 徴 、 性 能 を 有 しており、 映 写 に 適 した 画 面 サイズも 異 なっている。 劇 場 、シアターや 映 像 ホールの 規 模 、 目 的 に 合 わせて 適 切 に 選 択 される 必 要 がある。(1) CRT 投 射 型 ディスプレイCRT 上 の 小 画 面 の 映 像 を 光 学 的 に 拡 大 投 射 する 方 式 で、ハイビジョンの 初 期 の 頃から 90 年 代 半 ば 頃 まで、 大 画 面 用 ディスプレイとして 最 も 多 く 使 われて 来 た。CRT投 射 型 ディスプレイは 直 視 型 CRT に 比 べ、CRT 投 射 管 の 輝 度 はずっと 高 いが、その構 造 上 により CRT 管 面 と 投 射 光 学 系 との 境 界 面 や 光 学 系 内 部 での 不 要 反 射 があり、スクリーンにおける 反 射 または 透 過 に 伴 う 劣 化 やホール 内 アンビアンス 光 などのフレア 成 分 が 増 え、 暗 部 や 明 部 の 階 調 再 現 性 が 劣 化 しコントラストレンジも 狭 くなる。90 年 代 になりこれらの 劣 化 要 因 を 極 力 減 らし、 画 質 向 上 を 図 った 機 種 が 増えてきたが、フィルムによる 上 映 に 比 べると 十 分 とは 言 えなかった。スクリーン 上 で 所 要 の 輝 度 を 得 るため、1 スタック(3 管 式 )から 2 スタック(6管 式 )、4 スタック(12 管 式 )の 構 成 があり、シアターの 規 模 や 画 面 サイズにあわせて 選 択 された。 当 時 、ハイビジョン 作 品 の 展 示 に 使 われた 小 規 模 のホールでスリーンサイズが 110" 程 度 の 場 合 には 写 3.26 に 示 すような 1 スタック 式 が 使 われ、200"サイズでは 2 スタック 式 が、 当 時 世 界 最 大 だったつくば 科 学 博 エキスポホールのスクリーンサイズ 400"では 写 3.28 に 示 すような 4 スタック 式 が 使 われた。このような 複 数 管 投 射 型 ディスプレイでは、 鮮 鋭 度 劣 化 を 避 けるためスクリーン 上 で RGB 各 色 のコンバージェンスをとる 必 要 がある。その 調 整 に 初 期 の 機 種 は偏 向 波 形 に 補 正 信 号 を 重 畳 し 画 面 を 見 ながら 手 動 で 調 整 するアナログ 式 が 使 われていたが、 映 写 の 度 ごとに 長 時 間 の 調 整 と 熟 練 作 業 が 必 要 だった。その 後 、 調 整時 間 の 節 約 と 精 度 向 上 のためにデジタル 式 コンバージェンス 調 整 システムが 開 発され 使 われるようになり、 操 作 性 と 共 に 上 映 画 質 が 向 上 した。スクリーンサイズにあわせスタック 数 が 多 くなると、 同 色 同 士 のコンバージェンス 合 わせが 必 要 になるが、 異 色 同 士 の 場 合 に 比 べ 調 整 に 時 間 がかかるうえ 精 度 が 出 にくい。その 対策 として、エキスポセンターの 4 スタック 12 管 式 ディスプレイでは、スクリーン上 に 投 影 されたレジ 調 整 パターンを 別 カメラで 撮 影 し、そのパターンを 使 い 自 動調 整 する 仕 組 みが 開 発 され 使 われた。ここに 記 した 調 整 システムは、 現 場 レベルのアイディアから 生 み 出 されたもので、その 後 の 大 型 上 映 システムの 中 に 継 承 されていく。55


(2) ライトバルブ 型 ディスプレイライトバルブ 型 ディスプレイとは、その 名 が 表 すように 光 の 量 をバルブ( 弁 )で 制 御 し 映 像 表 示 する 方 式 で、 光 源 の 明 るさを 強 くすることで 大 画 面 上 映 に 向 いている。 光 を 制 御 する 媒 体 、 方 式 には 多 種 多 様 あるが、 実 用 化 されたのは 光 の 変調 媒 体 に 油 膜 を 使 う「アイドホール」と「タラリア」である。アイドホール(グレタグ 社 、スイス)は 1950 年 代 に 開 発 された 投 射 型 大 画 面 ディスプレイで、 標 準 テレビ 時 代 、イベントなどで 使 われていた。その 構 造 ・ 原 理は 凹 面 鏡 表 面 に 油 膜 を 塗 布 し、 映 像 信 号 で 変 調 した 電 子 ビームで 走 査 し 油 膜 表 面に 歪 を 与 え、R,G,B に 3 色 分 解 されたキセノン 光 源 の 光 が 油 膜 の 歪 程 度 に 応 じて 散乱 しミラーバーをすり 抜 けスクリーン 上 に 映 像 を 映 し 出 す 仕 組 みである。80 年 代初 頭 、ハイビジョンの 高 速 スキャンに 合 った 粘 性 と 導 電 性 を 有 する 油 膜 を 使 ったハイビジョンモデルが 開 発 され、 大 画 面 ディスプレイとして 83 年 NHK に 導 入 された。アイドホールの 外 観 を 写 3.28 に 示 す。この 装 置 は 大 画 面 で 明 るいという 特 徴を 持 っていたが、 安 定 性 が 低 く 調 整 に 時 間 と 熟 練 技 術 を 要 し、 良 好 な 画 質 を 表 示することはきわめて 難 しかった 92 。そこで 画 質 改 善 のための 専 用 プロセッサーと、操 作 性 向 上 のためのデジタル 補 正 系 を 開 発 し 導 入 した。 同 機 は 放 送 センターのオーディションルームに 設 置 されたが、スクリーンサイズは 240"と 当 時 のハイビジョンディスプレイとしては 最 大 級 だった。 完 成 したハイビジョン 作 品 の 試 写 や 国内 外 からの 多 くの 見 学 者 向 けのプレゼンテーションに 使 われたが、いわば 世 界 初のハイビジョンシアターと 言 えるものだった。このシアターでは 連 日 ハイビジョン 作 品 の 上 映 が 行 われ、 国 内 外 多 くの 人 達 がハイビジョンの 魅 力 を 目 にする 機 会となり、 当 時 ハイビジョンの 推 進 に 大 いに 役 に 立 った。もうひとつのライトバルブ 型 ディスプレイであるタラリア(GE 社 、 米 )は、 光制 御 媒 体 に 同 じく 油 膜 を 使 うが、アイドホールとは 構 造 、 原 理 はかなり 違 っている 93 。 透 過 型 構 成 で 油 膜 上 に 形 成 した 回 折 格 子 による 回 折 光 を 投 射 に 使 い、 色 の 分離 は 回 折 格 子 の 方 向 およびピッチを 変 えて 行 う。 光 源 にキセノン 光 源 を 使 い 輝 度が 高 いため 200"インチ 以 上 の 大 画 面 に 対 応 できた。しかし 画 質 面 では 色 シェーディングと 黒 、 白 の 階 調 再 現 性 にやや 難 があり、 映 像 調 整 に 熟 練 技 能 を 要 した。 画面 サイズの 応 じて 単 管 式 と 2 管 式 があり、 装 置 は 写 3.29 に 外 観 を 示 すようにコンパクトな 一 体 型 で、 可 搬 性 があり 取 り 扱 いも 比 較 的 容 易 だったので、NHK でも 前 述のアイドホールの 後 継 機 として 使 われたが、 第 6 章 に 記 した 国 内 外 の 各 種 イベント、ハイビジョンシアターや 多 目 的 ホールなどでしばしば 使 われた。56


(3) その 他 の 大 画 面 ディスプレイ90 年 代 になると、 前 述 したタイプと 別 の 仕 組 みの 大 画 面 ディスプレイも 登 場 するようになった。 投 射 管 に CRT の 代 わりに 液 晶 板 を 使 うコンパクトな 液 晶 投 射 型プロジェクターが 開 発 され、CRT 型 に 比 べ 当 初 は 画 質 的 にやや 難 もあったが 徐 々に性 能 が 上 がり、コンパクトで 運 用 性 も 良 く 低 価 格 ということで、 多 くのハイビジョンギャラリーや 多 目 的 ホールなどで 多 用 された。90 年 代 半 ばになると、まったく 原 理 を 異 にする 高 精 細 度 の 大 画 面 ディスプレイが 開 発 され 登 場 して 来 たが、それらについては 第 7 章 にて 述 べることにする。(4) フロント 投 射 とリア 投 射ところで 投 射 型 ディスプレイの 場 合 、 利 用 目 的 、 設 置 場 所 に 応 じて、 明 るい 環境 で 上 映 するか、 暗 室 状 態 で 映 写 するかで 投 射 方 法 やスクリーンのタイプが 違 ってくる。ハイビジョンシアターのように 暗 室 環 境 の 場 合 は、プロジェクターは 観客 側 に 設 置 し 反 射 タイプのクリーンに 映 写 するが、アンビエントライトの 影 響 を受 けやすいと 言 う 難 点 があった。ハイビジョンギャラリーや 多 目 的 ホールの 場 合は、 明 るい 環 境 で 映 像 コンテンツを 鑑 賞 することが 多 く、 透 過 式 スクリーンの 背面 から 投 射 する。 透 過 式 スクリーンは 透 過 光 の 散 乱 やフレアによる 影 響 が 少 なく、鑑 賞 者 側 で 光 が 広 がらないようにスクリーンゲインの 高 いレンチキュラーレンズ同 士 あるいはフレンネルレンズと 組 み 合 わせた 構 造 になっている。さらに 室 内 の直 接 反 射 光 を 軽 減 するため、スクリーンの 鑑 賞 側 はブラックストライプ 処 理 がなされている。 透 過 式 スクリーンは 反 射 式 に 比 べ 複 雑 な 構 造 になり 設 置 工 事 も 大 変で 一 般 的 には 高 価 格 になるが、 第 6 章 に 述 べる 多 くのハイビジョンギャラリーや多 目 的 映 像 ホールで 使 われた。3.10 コンテンツ 配 信 系前 述 したように、80 年 代 半 ば NHK 技 研 においてハイビジョン 放 送 のためのミューズ 方 式 が 開 発 され、88 年 の 実 験 放 送 から 97 年 の 本 放 送 で 使 われ、まさにハイビジョン 放 送 の 牽 引 役 を 担 ってきた。一 方 、90 年 代 半 ば 頃 まで 国 内 外 で 催 されたハイビジョン 利 用 の 各 種 イベントなどにおいて、 情 報 量 が 大 きく 広 帯 域 信 号 のハイビジョンコンテンツを 光 ネット 回線 や 通 信 衛 星 により 伝 送 、 配 信 する 際 の 圧 縮 符 号 化 には、 当 時 、その 後 標 準 化 されていく 符 号 化 技 術 がまだ 未 成 熟 だったため、 特 殊 なケースを 除 きほとんどの 場合 、ミューズ 方 式 が 使 われた。 具 体 的 に 行 われた 数 々の 伝 送 ・ 配 信 実 験 の 実 践 例57


については 第 6 章 にて 詳 述 する。また、その 後 、 開 発 が 進 み、 現 在 使 われているデジタル 符 号 化 方 式 については 第 7 章 で 述 べる。3.11 まとめ本 章 では、 本 論 文 の 主 題 である「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」が進 展 するために 必 要 なハードウエア、システム 面 に 関 し、 各 種 機 器 開 発 の 経 緯 や課 題 、その 後 の 成 長 について 述 べてきた。本 章 の 冒 頭 では、 両 者 のメディアミックスがなされるための 必 要 条 件 として、映 画 に 比 べ 情 報 量 が 不 足 していたテレビがハイビジョンを 機 にどのように 進 歩 、成 長 してきたのか、 時 間 的 経 緯 を 追 いながら 述 べた。 次 世 代 テレビを 目 指 したハイビジョンは、テレビに 対 する 既 成 概 念 や 技 術 的 制 約 に 縛 られず、 技 研 の 若 手 研究 者 らの 自 由 な 発 想 から 誕 生 し、その 後 、 数 々の 難 題 に 遭 遇 し、 様 々な 試 行 錯 誤を 重 ねつつ 課 題 を 克 服 し、 成 長 してきた 新 たな 映 像 メディアである。その 上 で、 元 々 別 の 映 像 メディアだったハイビジョンと 映 画 がそれぞれの 特 性 、特 徴 を 生 かしつつ、メディアミックスするための 各 種 ハードウエアとして、フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 双 方 向 交 流 するための F→V→F 変 換 系 、メディアミックスに 際 して 電 子 メディアとしてのメリットを 活 かすようなコンテンツ 制 作系 、とりわけ 映 画 のオプティカル 法 に 比 べ 利 点 が 大 きい 映 像 合 成 ・ 加 工 処 理 系 などについて、それぞれの 成 長 とその 後 の 発 展 の 経 緯 について 述 べてきた。 本 章 に記 した 事 がらは、 第 5 章 、 第 6 章 で 述 べるメディアミックス 時 代 のコンテンツ 制作 やコンテンツ 配 信 ・ 上 映 における 論 述 、さらに 第 7 章 のデジタルシネマ 時 代 の映 像 メディアの 進 展 を 考 える 上 でベースになるものである。12345678910石 田 武 久 「ハイビジョン 産 業 応 用 の 技 術 動 向 」クロマ 誌 、pp.26-30、1990/2日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 「 日 本 映 画 技 術 史 」1997石 田 「 高 品 位 テレビ 用 フィルム 信 号 源 としての 70mm 映 画 の 調 査 および 検討 」NHK 技 研 ・ 研 究 談 話 会 資 料 、1975/2石 田 他 「70mm 映 画 フィルムによる 高 品 位 テレビ 動 画 像 の 評 価 」テレビジョン 学 会 技 術報 告 、1975/9石 田 前 掲 書 、NHK 技 研 ・ 研 究 談 話 会 資 料石 田 他 「70mm 映 画 と 高 品 位 テレビ」 画 像 工 学 コンファレンス、1975/11サンプルフィルムの 制 作 は 企 画 、 演 出 、 測 定 まで 全 て 筆 者 が 担 当 、 付 録 編 のコンテンツリスト 参 照NHK 放 送 技 術 研 究 所 前 掲 書 、林 宏 三 「 高 品 位 テレビジョン」NHK 技 研 創 立 記 念 講 演 会 、1978/6三 橋 哲 雄 他 「 高 品 位 テレビジョンの 画 質 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.36、No.10、pp.13-21、1982伊 原 義 徳 他 「 特 集 : 国 際 科 学 技 術 博 覧 会 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.36、No.7、pp.2-81、198558


11つくば 博 暫 定 規 格 概 要 : 走 査 線 数 1125 本 ( 有 効 1035)、アスペクト 比 5:312藤 尾 孝 他 「 小 特 集 : 高 品 位 テレビ 機 器 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.2-42、198513藤 尾 他 「 特 集 :「ハイビジョン」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.9-106、199114当 時 の 暫 定 仕 様 ( 規 格 化 されておらず)は、 走 査 線 数 は SDTV の 525 本 に 対 して 1125本 、アスペクト 比 は 3:4 に 対 して 3:5、 情 報 量 で 言 えば SDTV の 約 5 倍 になる15二 宮 佑 一 「MUSE 方 式 の 開 発 」NHK 技 術 研 究 、No.2、pp.18-52、198616沼 野 芳 脩 「ソゥル 五 輪 中 継 」 日 経 ニューメディア・ 最 前 線 レポート、 日 経 BP 社pp.128-133、1988/1117制 作 フォーマットは 基 本 的 には 90 年 代 のアナログ 時 代 と 言 われるハイビジョンと 同 じで、 放 送 チャンネルの 伝 送 帯 域 に 合 わせる 帯 域 圧 縮 法 がミューズからMPEG2 に 変 わり、 放 送 変 調 方 式 が FM 変 調 からデジタル 変 調 に 変 わった18日 経 ニューメディア・ 最 前 線 レポート「ハイビジョン 規 格 、 技 術 、 事 業 化 、 制 作 現場 」 日 経 BP 社 、pp.6-32、1988/11、19 西 澤 台 次 「ハイビジョンスタジオ 規 格 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.26-33、199120 志 賀 信 夫 、 隈 部 紀 生 「デジタル HDTV の 時 代 」NHK 出 版 協 会 、pp.108-165、199821石 田 「ハイビジョン 産 業 応 用 の 技 術 動 向 」クロマ 誌 、No.1、pp.13-17、199022"This is HI-VISION Industrial Application" NHK Enterprises、198723ニュービデオシステム 研 究 会 「NVS 研 究 会 10 年 の 歩 み」1995/10筆 者 は 一 時 期 、 本 研 究 会 の 事 務 局 長 、 小 委 員 会 委 員 を 担 当24合 同 研 究 会 は 毎 年 開 催 され、 筆 者 はしばしば 総 合 司 会 を 担 当25ハイビジョン 普 及 支 援 センター「HVC NEWS」No.1、1989、筆 者 は 博 物 館 研 究 会 、シアター 研 究 会 委 員 として 参 加26新 映 像 トータルシステム 研 究 会 :( 財 ) 機 械 システム 振 興 協 会 の 1986 年 委 託 事 業筆 者 はハイビジョン 専 門 委 員 として 参 加27( 社 ) 日 本 映 画 機 械 工 業 会 「 新 映 像 トータルシステムに 関 する 調 査 研 究 」 報 告 書 、1987/328小 林 正 恒 「 新 映 像 トータルシステム」 映 画 テレビ 技 術 誌 、No.7、pp.44-50、199029石 田 他 「70mm 映 画 と 高 品 位 フィルム 送 像 」NHK 技 研 月 報 、Vol.18、No.11、pp.22-25、197530佐 藤 昭 一 他 「 高 精 細 度 カラーワイドディスプレイ」NHK 技 研 月 報 、Vol.18、No.11、pp.118-21、197531種 田 悌 一 「レーザー 技 術 の 高 品 位 テレビへの 応 用 」NHK 技 研 創 立 記 念 講 演 、1982/632杉 浦 幸 雄 、 元 木 紀 雄 「レーザーを 用 いたカラーフィルム 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.31、No.5、pp.35-42、197733石 田 他 「 高 品 位 テレビ 用 70mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.21、No.11、pp.6-10197834 石 田 他 「70mm フィルムレーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.24、No.11、pp.39-43,198135図 面 引 用 : 前 掲 文 献 3436図 面 引 用 : 前 掲 文 献 3337 図 面 引 用 : 前 掲 文 献 3338図 面 引 用 : 前 掲 文 献 3339図 面 引 用 : 前 掲 文 献 3340Takehisa Ishida et al."A 70mm Film Laser Telecine for High-DefinitionTelevision" SMPTE Journal Vol.92,No.6, pp.629-635,198341石 田 他 「フィルム 送 像 ・ 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.28、198542図 面 引 用 : 文 献 4143石 田 、 平 林 洋 志 「 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.28、No.10、pp.6-12、198544図 面 引 用 : 文 献 4145平 林 、 石 田 他 「 高 品 位 テレビレーザーテレシネ 用 方 式 変 換 装 置 の 開 発 」59


テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1985/346図 面 引 用 : 文 献 4347図 面 引 用 : 文 献 4348林 健 一 他 「レーザー 走 査 によるフィルム 画 像 の 読 み 出 し」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1985/149末 岡 多 加 志 、 石 田 他 「ハイビジョンレーザーテレシネ 用 カラーコレクターの 開 発 」、テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1985/750 田 村 茂 「ハイビジョン 35mm レーザーテレシネ」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1988/151棚 田 詢 他 「ハイビジョンサチコンテレシネ」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1988/152石 田 「 最 近 のテレシネ 技 術 の 動 向 」、テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1983/353大 里 英 夫 他 「ランクシンテルハイビジョン 対 応 型 フライングスポットテレシネ」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1988/154Yukio Sugiura,et al."HDTV Lase Beam Recording on 35mm Color Film and itsApplication to Electro-Cinemtography" SMPTE Journal Vol.93,No.7,pp.42-651,198455野 尻 祐 司 、 岡 田 清 孝 他 「ハイビジョン 用 レーザー 録 画 装 置 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1986/956杉 浦 幸 雄 、 石 田 他 「フィルム 送 像 ・ 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp28-32、198557杉 浦 幸 雄 「ハイビジョン 技 術 『レーザーフィルム 録 画 』」 日 本 放 送 協 会 出 版 協 会 、pp.294-306、198858図 面 引 用 : 前 掲 文 献 5659図 面 引 用 : 前 掲 文 献 5760杉 浦 幸 雄 「テレシネとフィルム 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.43、No.2、pp.70-72、198961図 面 引 用 : 文 献 5762熊 田 宏 章 「ハイビジョン 用 35mm レーザーフィルムレコーダー」 映 画 テレビ 技 術 、No.3、pp.29-34、198863尾 崎 義 夫 「フィルム 送 像 ・ 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.29-32、198564図 面 引 用 : 文 献 6365尾 又 富 雄 「デジタル EBR システム」 放 送 技 術 誌 、No.3、pp.152-158、199266 森 岡 義 博 他 「ハイビジョンカメラ] テレビジョン 学 会 誌 、Vol.50、No.2、pp.9-38、199667熊 田 純 二 他 「 高 品 位 テレビカメラ」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.36、No.10、pp.43-47、198268倉 重 光 宏 他 「 小 特 集 : 高 品 位 テレビジョン 機 器 ・カメラ」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.7-12、198569棚 田 詢 「ハイビジョン 機 器 ・カメラ」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、 pp.71-75、199170谷 岡 健 吉 「 超 高 感 度 撮 像 デバイス 研 究 の 現 状 と 今 後 」VIEW 誌 、No.11、pp.1-5、200371 佐 々 木 清 志 他 「ハイビジョン VTR」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.50、No.2、pp.34-48、199672柴 谷 弘 道 他 「 高 品 位 テレビジョン 機 器 の 開 発 ・VTR」NHK 技 研 月 報 、No.11、pp.53-56、198173柴 谷 弘 道 「 小 特 集 : 高 品 位 テレビジョン 機 器 ・ 記 録 機 器 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp. 13-17、198574上 原 省 吾 「ハイビジョン 機 器 ・ 記 録 機 器 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.76-77、199175上 原 前 掲 書 、78-79 頁76ジョン・ブロスナン 著 、 福 住 治 夫 訳 「SFX 映 画 物 語 」フィルムアート 社 、1990/1277徳 田 英 「 番 組 制 作 におけるキー/マット 処 理 の 変 遷 と 現 状 」クロマ 誌 、No.7、pp.26-32、199478アルチマット 社 ( 米 国 )が 開 発 した 映 像 合 成 装 置 の 一 種 で、 従 来 のクロマキーより高 品 質 合 成 が 可 能 、 今 ではシステム 名 さらに 合 成 技 法 としても 使 われている60


798081828384858687888990919293桝 井 修 平 他 「ビデオマットによる 動 画 合 成 」 放 送 技 術 誌 、No.3、pp.76-81、1988吉 田 勝 「ハイビジョンビデオマット」 月 報 技 術 (NHK 部 内 誌 )、No.12、pp.12-15、1988図 面 引 用 : 文 献 80徳 田 前 掲 書 、29-30 頁青 木 清 隆 「シンセビジョンのスタジオシステム 化 と 番 組 制 作 への 利 用 」クロマ 誌 、No.8、pp.45-49、1993図 面 引 用 : 文 献 88山 内 結 子 他 「 電 子 スタジオシステム~ 番 組 『ナノ・スペース』への 適 用 ~」、テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、pp.1-6、1992/3長 谷 波 一 史 「NHK スペシャル『 人 体 Ⅱ』における 電 子 セットシステム」PIXEL、No.134、pp.110-113、1993重 永 明 義 「NHK スペシャル『 生 命 ・40 億 年 はるかな 旅 』の SFX 映 像 制 作 、放 送 技 術 誌 、No.9、pp.59-65、1994T.Ishida "Application 0f HDTV Technology in Film Production"、BeijingInternational Synposium、1989石 田 「テレビ 番 組 における 多 彩 な 映 像 表 現 」 国 際 放 送 機 器 展 30 周 年 記 念 特 別イベント・ 国 際 シンポジウムでの 講 演 、1994/11イマジカ 広 報 資 料石 田 「ビデオシアター 用 ディスプレイの 技 術 動 向 」 映 画 テレビ 技 術 誌 、No.7、pp.38-43、1987筆 者 は 当 時 、ディスプレイの 運 用 責 任 者 で、メンテナンスや 画 質 改 善 を 担 当石 田 「 大 画 面 用 ディスプレイ・タラリア」クロマ 誌 、No.12、pp.52-55、199161


第 4 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 要 件4.1 はじめに前 章 では、ハイビジョンと 映 画 をメディアミックスする 上 で 必 要 なハードウエアについて、 開 発 、 成 長 の 経 緯 について 見 てきた。 本 章 では、ハイビジョンと 映画 と 言 う 特 性 、 特 徴 が 異 なる 別 の 映 像 メディアだったものをメディアミックスする 上 での 様 々な 技 術 的 な 問 題 点 、 要 件 について 考 える。具 体 的 には、 映 画 とハイビジョンの 2 つのメディアの 特 徴 の 違 いに 伴 う 基 本 的問 題 すなわちフィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 毎 秒 コマ 数 の 違 いに 伴 う 問 題 、両 者 の 画 面 の 横 縦 比 (アスペクト 比 )の 違 いに 伴 う 問 題 、 両 者 の 画 質 ・ 画 調 の 違いに 関 する 問 題 、またフィルム 上 映 とハイビジョン 映 写 の 相 違 と 特 徴 、さらに 映画 のオプティカル 技 法 に 対 するとハイビジョンの 映 像 加 工 ・ 処 理 技 術 に 関 する 問題 などについて 論 じる。4.2 ハイビジョンとフィルム 変 換 における 問 題本 節 では、ハイビジョンと 映 画 を 双 方 向 交 流 、メディアミックスする 場 合 の 基本 的 な 問 題 、すなわちフィルム 画 像 とテレビ 映 像 信 号 の 特 徴 、 相 違 に 起 因 する 問題 について 考 える。4.2.1 ハイビジョンと 映 画 の 毎 秒 コマ 数 の 違 いに 伴 う 問 題ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおいて、フィルム 画 像 とテレビ 映 像信 号 を 混 在 使 用 する 際 、 最 も 基 本 的 な 問 題 は 両 者 の 毎 秒 コマ 数 の 違 いに 因 るものである。(1) ハイビジョンの 毎 秒 コマ 数 (フィールド 周 波 数 )について映 画 フィルムは 通 常 、 毎 秒 24 コマで 撮 影 され、 映 写 時 にはフリッカーを 避 けるため、ひとコマを 2 回 照 射 し 毎 秒 48 コマで 映 写 される。 一 方 、ハイビジョンの 毎秒 フィールド 周 波 数 は 60Hz、フレーム 周 波 数 は 30Hz である。フィルムからハイビジョン、ハイビジョンからフィルムへ 変 換 する 場 合 、 両 者 の 毎 秒 コマ 数 が 違 うため 以 下 に 述 べるような 問 題 が 発 生 する。映 画 の 毎 秒 コマ 数 1 は 仮 現 運 動 2 の 限 界 から 当 初 16 コマだったが、サイレントからトーキー 時 代 になり、 音 質 を 向 上 するため 毎 秒 24 コマになり 今 日 に 至 っている。一 方 、ハイビジョンの 毎 秒 コマ 数 が 決 まった 経 緯 はかなり 複 雑 である。 次 世 代テレビとしてのハイビジョンの 開 発 を 目 指 した 当 時 、 標 準 テレビのフィールド 周62


波 数 は、 日 、 米 、 韓 などの NTSC 圏 の 60Hz( 厳 密 には 59.94Hz)と 欧 州 、ロシア、中 国 などの PAL/SECAM 圏 の 50Hz が 並 存 していた。この 毎 秒 フィールド 数 の 違 いは、国 際 的 な 番 組 の 共 同 制 作 や 番 組 交 流 の 際 に、テレビ 方 式 変 換 の 煩 雑 さ、 動 き 画 像の 劣 化 などの 問 題 を 引 き 起 していた。そのため、 次 世 代 テレビとしての HDTV(ハイビジョン) 規 格 は 統 一 されるべきだとの 日 本 の 考 え 方 については、 各 国 とも 総論 賛 成 の 共 通 認 識 だった。しかし 日 米 と 欧 州 諸 国 はフィールド 周 波 数 について、それぞれ 自 国 の 標 準 テレビとの 互 換 性 を 重 視 しなかなか 折 り 合 いがつかなかった。大 画 面 の 次 世 代 テレビは 明 るくなればフリッカーが 一 層 目 立 つことになるため、日 米 陣 営 はフィールド 周 波 数 を 60Hz にすべきだと 主 張 した。しかし、やや 暗 い 室内 環 境 下 でのテレビ 視 聴 に 慣 れていた 欧 州 諸 国 は、50HZ でもフリッカーは 問 題 ないとし、 仮 にフィールド 周 波 数 が 60Hz になった 場 合 には 50Hz に 方 式 変 換 しなければならず、その 変 換 による 画 質 劣 化 が 問 題 である 主 張 した。この 欧 州 諸 国 からの 問 題 提 起 に 対 し、NHK 技 研 は 60→50Hz の 方 式 変 換 をしても画 質 劣 化 が 少 ないことを 検 証 するため、 動 き 補 正 方 式 を 採 用 した 方 式 変 換 装 置 を開 発 し、その 装 置 を 用 いて HDTV から PAL へ 方 式 変 換 した 映 像 の 評 価 を 行 った 3 。この 評 価 テストは、NHK 技 研 と BBC( 英 )との 共 同 で 行 われ、 技 術 的 にはこの 方 式 変換 の 有 効 性 は 実 証 されたのだが、その 後 、 日 米 対 欧 州 との 政 治 的 、 経 済 的 問 題 に波 及 し、 結 果 的 に 60Hz 圏 と 50Hz 圏 両 陣 営 の 妥 協 は 困 難 になった 4 。しかし HDTVの 規 格 論 争 が 紛 糾 していた 頃 、 欧 州 陣 営 が 独 自 のユーレカ 方 式 規 格 5 (50Hz)で 製造 した 一 部 の 機 器 (ほとんど 普 及 しなかった)を 除 き、 実 際 に 製 造 され 番 組 制 作に 使 われた HDTV 機 器 はほとんどが 日 本 製 だったため、フィールド 周 波 数 はデファクト 的 に 60Hz が 主 流 を 占 めるようになっていった。(2) F→V 変 換 における 毎 秒 コマ 数 の 問 題毎 秒 24 コマで 撮 影 された 映 画 フィルムを 毎 秒 60 フィールドのハイビジョンで使 うには、フィルムの 24 コマ/ 秒 を 60 フィールド/ 秒 に 変 換 しなければならない。その 基 本 動 作 6 は 図 4.1 に 示 されるように、フィルムの 最 初 のコマを 2 フィールドに、 次 のコマを 3 フィールドに 変 換 する「2-3 変 換 法 」がとられる。この 方 法 で 変換 されたハイビジョン 映 像 をフレーム 単 位 で 見 ると、 最 初 と 2 番 目 のフレームにはフィルムのひとコマ 目 とふたコマ 目 の 同 じ 画 像 が 入 るが、3 番 目 のフレームでは奇 数 フィールドと 偶 数 フィールドで 時 間 がわずかに 違 う 隣 りあったフィルムのコマの 画 像 になっている。このシーケンスは、フィルムで 見 ると 4 コマ、ハイビジョンで 見 ると 5 フレームすなわち 10 フィールドで 一 順 する。そのままハイビジョンモニターで 変 換 された 映 像 を 見 ると 動 きの 滑 らかさが 損 なわれる「ジャダー」63


と 呼 ばれる 現 象 が 発 生 する。この 動 きの 不 自 然 さは 標 準 テレビの 場 合 にもあったのだが、 解 像 度 が 低 く 画 面 サイズがあまり 大 きくなかったため 問 題 視 されることは 少 なかったが、 画 面 サイズが 大 きく 鮮 鋭 度 が 高 いハイビジョンではかなり 気 になる 現 象 である。7図 4.1:F→V 変 換 におけるコマ 数 変 換第 3 章 に 記 したハイビジョン 用 に 開 発 された 70mm フィルム 3 ビジコンテレシネは、ハード 的 な 事 情 によりフィルムは 毎 秒 25 コマで 動 かし、ハイビジョンシステム 側 を 50 フィールドとし、フィルムの 2 コマをハイビジョンの 2 フィールドにするいわゆる 2-2 変 換 法 を 採 用 していた。 厳 密 には 24 コマ/ 秒 で 撮 影 されたフィルム 画 像 を 25 コマ/ 秒 で 変 換 するので、 動 き 速 度 は 撮 影 時 に 比 べわずか 違 うのだが、視 覚 的 ・ 聴 感 的 にはほとんど 問 題 にならなかった。この 場 合 、2-3 変 換 の 場 合 のような 不 自 然 なジャダーが 発 生 せず、 動 きの 不 自 然 さは 少 なかった。 次 に 開 発 された 70mm レーザーテレシネ 装 置 8 では、 前 述 したようにフィルムのコマから 次 のコマへ 光 学 的 にラップディゾルブしながら 切 り 替 える 方 式 のため、フィルムコマ 数およびテレビフィールド 数 に 自 由 に 対 応 でき、 毎 秒 24 コマのフィルム 画 像 をハイビジョンの 60 フィールド/ 秒 に 変 換 しても、 映 像 の 動 きは 滑 らかでジャダーはまったく 発 生 しなかった。その 後 、 実 用 機 として 開 発 された 35mm レーザーテレシネ 装 置 9 では、フレームメモリーを 使 い 24 コマ/ 秒 のフィルムをハイビジョンの 60 フィールド/ 秒 に 変 換していたが、 上 述 した 2-3 変 換 に 伴 うジャダーが 発 生 した。その 解 決 策 として「 動き 補 正 方 式 コマ 数 変 換 法 」を 開 発 した 10 。これは 図 4.2 に 示 すように、フィルムの 2 コマをハイビジョンの 5 フィールドに 変 換 する 際 、2 コマの 画 像 データをリアルタイムに 演 算 処 理 し、 時 間 的 に 等 間 隔 となる 新 たなフィールドの 映 像 を 作 り 出す 方 法 である。この 方 法 は NTSC と PAL のような 標 準 テレビ 方 式 間 で、 異 なるフィールド 周 波 数 (60⇔50 フィールド)を 変 換 する 際 に 使 われた 技 術 で、 前 項 に 述 べたハイビジョンから PAL への 方 式 変 換 の 評 価 テストにも 使 われ、 同 じ 手 法 を 24 コマ/ 秒 を 60 フィールド/ 秒 に 変 換 するテレシネ 装 置 に 応 用 したのである。この 方 法により F→V 変 換 の 際 のジャダーは 軽 減 され、 動 画 像 の 画 質 は 大 幅 に 向 上 した。64


11図 4.2:2-3 方 式 と 動 き 補 正 方 式(3) V→F 変 換 における 毎 秒 コマ 数 の 問 題ハイビジョン 映 像 を 映 画 フィルムに 変 換 する 場 合 には、 上 述 の F→V 変 換 とは 逆のコマ 数 の 違 いに 伴 う 問 題 が 発 生 する。 毎 秒 60 フィールド、30 フレームのハイビジョン 映 像 を 毎 秒 24 コマの 映 画 フィルムに 変 換 するには、 基 本 的 には 図 4.3 に 示すように、ハイビジョンの 5 フィールドをフィルムの 2 コマに、シーケンスとしては 10 フィールドを 4 コマに 変 換 する。このような 変 換 法 では、F→V 変 換 の 場 合と 見 え 方 が 異 なるが、 毎 秒 コマ 数 が 元 の 映 像 より 少 なくなることにより 動 きが 不自 然 になる。 技 研 が 開 発 した 35mm レーザー 録 画 装 置 におけるコマ 数 変 換 法 12 については、 変 換 に 伴 う 動 き 劣 化 が 少 ない 方 法 としてハイビジョンの 2 フィールドの映 像 をそれぞれの 時 間 的 距 離 に 応 じて 重 み 付 け 加 算 し、フィルムの1フレームに記 録 する 方 法 をとっていた。 動 画 像 部 分 は 多 重 化 されボケ 画 像 になるが 動 きの 不自 然 さは、 単 純 変 換 の 場 合 よりはかなり 目 立 たなくなる。13図 4.3:V→F 変 換 におけるコマ 数 変 換65


(4) F→V→F 変 換 における 毎 秒 コマ 数 の 問 題フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 混 在 する 場 合 のコマ 数 変 換 の 方 法 14 を 図4.4 に 示 すが、 両 者 のコマ 数 の 違 いは 様 々な 問 題 を 引 き 起 こす。ハイビジョンと 映画 のメディアミックスが 進 みだした 80 年 代 末 頃 、NHK では 全 局 的 な「ハイビジョン・フィルム 利 用 技 術 推 進 プロジェクト」を 作 り、F→V→F 変 換 における 毎 秒 コマ数 の 問 題 などについての 研 究 、 検 討 を 行 った 15 。 筆 者 はこのプロジェクトに 中 核メンバーとして 参 加 したが、 第 3 章 に 記 した 実 験 用 サンプルフィルムを 使 って 得た 測 定 結 果 、 知 見 も 基 礎 データとして 反 映 した。フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 混 在 使 用 する 際 の 変 換 法 として、24 コマ/秒 のフィルムをハイビジョンの 60 フィールド/ 秒 に 2-3 変 換 し、それをハイビジョンで 編 集 し 再 びフィルムの 24 コマ/ 秒 に 戻 す 場 合 、F→V 変 換 時 に 付 加 したフィールドを V→F 変 換 で 使 わないようにしないと、 最 終 的 な 画 像 の 動 きは 一 層 不 自 然になる。そこで、 付 加 されたフィールドをハイビジョン 編 集 段 階 で 正 確 に 削 除 するための 5 フィールドシーケンスの 編 集 システムの 検 討 が 行 われた。しかし、 一般 的 番 組 制 作 において 編 集 段 階 で 映 像 効 果 や 加 工 処 理 するためデジタル 機 器 を 使うと、 信 号 処 理 に 伴 いフレーム 単 位 での 信 号 遅 延 が 生 じる。そのことも 含 めて 不要 フィールドの 処 理 を 行 わせようとすると、 編 集 作 業 は 一 層 複 雑 になる。5 フィールドシーケンスの 編 集 システムについての 技 術 的 検 討 は 行 なわれたが、システム改 修 がかなり 大 掛 かりになること、しかも 日 常 的 に 汎 用 リソースとして 運 用 される 編 集 施 設 を 特 別 な 利 用 目 的 にあわせ 改 修 することは 難 しく、 仮 にシステム 改 修がなされたとしても 編 集 点 を 5 フィールド 単 位 にすることは、 編 集 作 業 が 煩 雑 に16図 4.4:F→V→F 変 換 におけるコマ 数 変 換66


なることに 加 え 演 出 的 に 制 約 が 生 じるという 問 題 点 もあり、 机 上 検 討 が 行 われただけで 実 際 に 装 置 を 改 修 するまでには 至 らなかった。そこで 制 作 現 場 で 編 み 出 された 対 処 法 が、フィルム 撮 影 を 30 コマ/ 秒 で 行 い、F→V 変 換 を 2-2 で 行 うやり 方 である。この 場 合 、 上 で 述 べたように 余 分 なフィールドが 付 加 されることはなくジャダーも 生 じない。その 上 、 編 集 作 業 は 通 常 の 作 業の 場 合 と 同 じように 何 の 制 約 もなく 自 由 に 行 うことができる。ただし、 厳 密 に 言えば、30 コマで 撮 影 し F→V 変 換 されたハイビジョン 映 像 を 編 集 した 後 、フィルム録 画 機 でフィルムに 記 録 する 際 には 毎 秒 24 コマとなるので、 通 常 通 り 毎 秒 24 コマで 撮 影 された 直 のフィルム 画 像 と 混 在 すると、 動 き 速 度 が 少 し 変 わることになる。 実 際 の 制 作 においては、この 動 き 速 度 が 変 わることをあらかじめ 考 慮 し、 違和 感 の 少 なくなるような 動 きの 被 写 体 の 撮 影 を 行 った。この 30 コマ 撮 影 法 は 当 時としては 様 々な 検 討 、 実 験 を 経 て 編 み 出 された 現 場 的 なノウハウで、 第 5 章 で 述べる『 西 遊 記 』など 多 くの 作 品 の 制 作 の 際 に 使 われた。(5) SMPTE における 毎 秒 コマ 数 に 関 する 調 査 研 究HDTV の 国 際 的 標 準 化 を 進 める 過 程 において、 日 米 両 国 は HDTV 規 格 に 関 して 毎 秒コマ 数 を 60 フィールドで 共 同 提 案 した 経 緯 もあり、 米 国 SMPTE は 1985 年 、HDTVとの 整 合 性 を 図 るため 映 画 システムを 30 コマにした 場 合 の 問 題 について 研 究 を 行った。ただし NTSC との 関 係 においてフィルムの 24 コマ/ 秒 からテレビ 系 の 30 フレームへの 変 換 に 伴 う 問 題 点 はかなり 知 られているとのことで、この 時 の 研 究 テーマは 主 に「 映 画 の 30 コマ/ 秒 化 がどのような 利 益 を 与 えるのか、 劇 場 上 映 を 含む 諸 々の 問 題 点 」に 絞 られた。そのための 研 究 課 題 を 満 たすようなテスト 基 準 を作 成 し、それに 添 う 評 価 用 フィルムを 撮 影 し 評 価 を 行 った。 制 作 されたテストフィルムは、1986 年 、SMPTE 技 術 会 議 やロンドン 国 立 映 画 劇 場 で 開 催 された 国 際 委員 会 などで 公 開 試 写 された。1987 年 の SMPTE 特 別 部 会 ではハリウッドのアカデミー 劇 場 に 多 数 の 出 席 者 を 集 め、 反 応 調 査 が 行 われ 評 価 結 果 も 報 告 された。その 内容 については、SMPTE と 密 接 な 関 係 にある「 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 」の 場 でも 報告 されたが 17 、その 概 要 は 以 下 の 通 りである。評 価 目 的 に 添 うような 画 像 内 容 の 異 なる 3 本 のサンプルフィルムを 使 い、24 コマ/ 秒 (48 コマ/ 映 写 )と 30 コマ/ 秒 (60 コマ/ 映 写 )の 場 合 について、 映 写 画 面におけるフリッカー、ストロボ 効 果 、 粒 状 性 ノイズ、 解 像 度 それぞれについて 評価 を 行 った。その 評 価 結 果 は、どのフィルムにおいてもフリッカーやストロボ 効果 は 30 コマが 圧 倒 的 に 高 く、 粒 状 性 や 解 像 度 についてはかなりの 程 度 で 30 コマの 方 が 良 かった。その 一 方 、30 コマの 場 合 の 問 題 点 として、 撮 影 カメラのフィル67


ム 送 り 速 度 が 上 がることによりカメラ 騒 音 が 増 えサウンド 収 録 に 支 障 が 出 ること、フィルム 使 用 量 の 増 加 や 編 集 装 置 の 改 修 により 制 作 費 が 上 がること、 映 画 館 の 映写 機 の 改 造 が 必 要 になり 映 画 業 界 全 体 として 経 済 的 負 担 が 増 すことなどが 指 摘 された。 映 画 館 の 映 写 機 の 改 修 策 については、フィルム 駆 動 モーターの 駆 動 電 源 周波 数 を 60Hz から 75Hz に 上 げるやり 方 、ベルトドライブの 部 品 の 交 換 方 法 など 具体 的 に 検 討 され、 改 修 費 用 の 試 算 もなされた。しかし、 欧 州 など PAL や SECAM 方 式 の 50Hz 圏 諸 国 からは、 映 画 の 30 コマ 化 は映 画 館 の 映 写 機 のみならず、 放 送 局 のテレシネ 装 置 の 改 修 も 必 要 になると 指 摘 された。50Hz 圏 諸 国 では、 従 来 、テレビ 放 映 用 フィルムは 25 コマ/ 秒 で 撮 影 し、 劇場 用 24 コマ 撮 影 の 映 画 はテレシネで 25 コマを 2-2 変 換 し、50 フィールドでテレビ 放 映 されている。 仮 に 映 画 フィルムが 30 コマ 化 されると、フィルムの 30 コマを 3-2 変 換 により 50 フィールドに 変 換 せざるを 得 なくなると 言 う 従 来 NTSC 圏 が抱 えていたのとは 逆 の 悩 みを 持 つことになる。 欧 州 諸 国 が 30 コマ 化 に 消 極 的 だった 所 以 である。(6) 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 における 毎 秒 コマ 数 に 関 する 調 査 研 究SMPTE における 30 コマ 問 題 の 調 査 研 究 を 受 け、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 も 30 コマ 問 題 について 研 究 することになった。1988、ハイビジョン 普 及 支 援 センター、日 本 映 画 撮 影 監 督 協 会 などと 共 同 し、「30 コマ 問 題 研 究 会 」を 発 足 し、 当 時 進 行 しつつあったハイビジョンと 映 画 の 相 互 利 用 に 関 し、24 コマと 30 コマ 両 方 についての 調 査 研 究 が 行 なわれた 18 。 具 体 的 には 24 コマと 30 コマで 様 々なシーンを 撮 影し、 直 のフィルム 画 像 とそれらを F→V 変 換 したハイビジョン 映 像 を 比 較 評 価 することにした。 評 価 用 に 制 作 された 実 験 ソフトは、 毎 秒 コマ 数 の 影 響 を 評 価 しやすいように、フリッカーを 検 知 しやすい 高 輝 度 域 を 含 むショット、ちらつき(ステレオ・スコピックと 表 現 されているが SMPTE の 場 合 のストロボ 効 果 と 同 義 と 思 われる) 現 象 が 生 じやすい 動 く 被 写 体 およびパニングショット、 粒 状 性 ノイズを 視 認しやすい 大 面 積 の 低 輝 度 域 のあるショット、 解 像 度 を 比 較 しやすい 静 止 画 のショットなどである。これらのショットがスーパー16mm と 35mm フィルムを 使 い、 毎 秒24 コマと 30 コマ 両 方 で 撮 影 され、ハイビジョンへの 変 換 は 第 3 章 に 記 した 撮 像 管式 テレシネ(ソニーPCL)で 行 われた。制 作 、 編 集 された 完 成 ソフトの 評 価 は、 映 画 テレビ 技 術 協 会 とハイビジョン 普及 支 援 センター 合 同 で 行 われ、 映 画 、ハイビジョン 業 界 などからの 100 名 を 越 える 専 門 家 が 参 加 した。 当 時 としては 最 大 級 の 200 インチサイズのスクリーンに、フィルムとハイビジョンそれぞれの 24 コマおよび 30 コマの 映 像 が 順 次 映 写 され、68


評 価 された。それらの 結 果 の 概 要 は 以 下 の 通 りである。フィルム 上 映 では、24 コマに 比 べ 30 コマは、ストロボ 効 果 とフリッカーについてかなり 改 善 されるとの 評 価 が 多 く、 解 像 度 もやや 改 善 され( 露 光 時 間 が 短 くなることにより 動 きボケが 軽 減 されると 推 定 )、 粒 状 性 ノイズ( 積 分 効 果 によりランダムノイズの 見 え 方 が 軽 減 されると 推 定 )、 階 調 、 質 感 の 点 については 若 干 改 善 されるがその 効 果 は 少 ないとの 意 見 が 多 かった。 総 合 評 価 としては 30 コマの 優 位 性を 指 摘 した 意 見 が 圧 倒 的 に 多 かった。ハイビジョンで 映 写 した 場 合 についても 評価 されたが、24 コマ 撮 影 で 60 フィールド 映 写 (2-3 変 換 )に 比 べ、30 コマ 撮 影 で60 フィールド 映 写 (2-2 変 換 )の 方 がジャダーによる 動 き 劣 化 が 大 幅 に 改 善 され、解 像 度 も 向 上 し、SN 比 、 階 調 ・ 質 感 ともやや 優 ると 評 価 された。 総 合 評 価 としてはフィルム 上 映 の 場 合 と 同 様 に 30 コマの 評 価 が 大 変 高 かった。一 方 、30 コマの 画 質 面 でのメリットは 認 めつつも、 撮 影 カメラの 駆 動 スピードが 高 くなることにより 騒 音 が 若 干 増 えること、フィルム 消 費 量 が 約 25% 増 え 経 費増 になること、 編 集 卓 や 映 画 館 の 映 写 機 を 30 コマ 対 応 に 改 修 する 費 用 が 掛 かることなど、SMPTE での 評 価 と 同 じように 数 々の 問 題 点 も 指 摘 された。 調 査 研 究 成 果 として 画 質 の 点 では 30 コマの 利 点 は 明 らかになったが、フィルム 使 用 量 や 機 器 改 修に 伴 う 経 済 的 側 面 をどうするか、 映 画 業 界 全 体 としての 大 きな 課 題 が 認 識 された。(7) 毎 秒 コマ 数 に 関 する 研 究 の 技 術 的 、 歴 史 的 意 義以 上 述 べたように、 筆 者 が 技 研 時 代 に 行 った 研 究 ・ 実 験 、NHK 内 のプロジェクト、SMPTE、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 のいずれの 研 究 ・ 調 査 においても、 上 述 のように30 コマの 利 点 は 高 く 評 価 されたが、フィルム 消 費 量 や 機 器 改 修 に 伴 う 経 済 的 側 面 、欧 州 諸 国 の 反 対 など 課 題 が 多 く、 国 内 外 の 映 画 業 界 での 30 コマ 化 はほとんど 進 展しなかった。しかし、ハイビジョン(HDTV)と 映 画 のメディアミックスが 国 内 外で 進 展 しつつあった 状 況 下 に、 映 画 界 とテレビ 界 が 協 力 しつつ、 上 述 のような 実験 、 評 価 を 行 い、 一 定 の 研 究 成 果 を 出 したことの 意 義 は 大 変 大 きかった。その 後もコマ 数 問 題 は 映 画 、テレビメディアにおける 大 きな 伏 流 水 になり 続 けたが、 第 7章 に 述 べるように、 近 年 、デジタル 技 術 の 導 入 によりコマ 数 変 換 技 術 の 性 能 が 進歩 し、フィルム 系 の 24、30 コマ、テレビ 系 の 50、60 フィールドという 規 格 の 違いによる 毎 秒 コマ 数 の 壁 は 以 前 ほど 問 題 視 されることは 少 なくなっている。 当 時行 われた、 調 査 研 究 や 制 作 実 践 は、その 後 のデジタルシネマの 進 展 につながっていることを 考 えると、 前 述 の 試 行 実 験 は 技 術 的 にも 学 術 的 にも 大 きい 意 義 があったと 言 える。69


4.2.2 画 面 の 横 縦 比 (アスペクト 比 )に 関 する 問 題ハイビジョンと 映 画 をメディアミックスする 場 合 、 両 者 で 異 なる 画 面 の 横 縦 比(アスペクト 比 )は 制 作 段 階 、 送 出 、 上 映 段 階 において 大 きな 問 題 で、 以 下 に 述べるように 様 々な 対 応 策 がとられた。 本 項 ではこの 問 題 について 考 える。(1) 映 画 画 面 のアスペクト 比 について映 画 館 で 上 映 されている 映 画 のフォーマットは、 図 4.5 に 示 すようにスタンダード(アカデミーサイズと 呼 ばれることもある)、ビスタビジョン、シネマスコープ、70mm などと 多 種 多 様 で、それらの 画 面 のアスペクト 比 はそれぞれ 1.37:1、1.85:1(1.66:1、1.75:1もあり)、2.35:1(2.55:1 もあり)、2.2:1(2.275:1 もあり)である。これらの 横 縦 比 が 異 なるフィルム 画 像 をアスペクト 比 5:3(つくば暫 定 規 格 、 後 に 16:9 に 標 準 化 された)のハイビジョン 映 像 に 変 換 する 場 合 、 作 品の 演 出 意 図 、 画 像 の 構 図 に 配 慮 し、フィルム 画 像 の 一 部 を 削 除 するか、ハイビジョン 画 面 に 黒 味 を 付 加 するか、 選 択 する 必 要 があった。19図 4.5: 映 画 画 面 とハイビジョンのアスペクト 比(2) ハイビジョンのアスペクト 比 について次 にハイビジョンのアスペクト 比 について 考 えてみる。 映 像 から 受 ける 臨 場 感や 迫 力 は、 画 面 サイズとアスペクト 比 に 依 存 している。 次 世 代 テレビの 開 発 を 目指 した 時 、NHK 技 研 では、 方 式 の 重 要 な 要 素 であるアスペクト 比 をいくらにすべきかを 探 るため、 画 角 ( 画 面 を 見 込 む 角 度 )と 臨 場 感 の 関 係 を 調 べる 評 価 試 験 を 行った 20 。 図 4.6 に 示 すような 仕 組 みにより 実 験 したところ、 映 像 に 誘 引 される 効果 ( 視 覚 心 理 的 には 臨 場 感 )は、 画 角 が 20 度 程 度 から 現 れ、30 度 程 度 で 顕 著 にな70


ることが 分 かった。またスライド 画 像 や 70mm 映 画 を 使 い、 画 面 の 縦 横 比 に 対 する好 ましさを 調 べたところ、 図 4.7 に 示 すように 3:5~3:6 が 好 まれ、 画 面 面 積 が 大きくなるほど 横 長 の 画 面 が 好 まれることも 分 かった。これらの 評 価 結 果 に 添 い、実 際 にハイビジョンテレビの 開 発 を 目 指 したが、 当 時 の 技 術 力 ではアスペクト 比5:3、 画 面 サイズが 26~30 インチ 程 度 の CRT を 製 造 するのが 限 度 だった。そこで図 4.8 のような 3 本 の 26 インチ CRT 画 面 をハーフミラーで 合 成 し、 全 体 としてアスペクト 比 2:1、 画 面 サイズが 50×100cm の 大 画 面 ワイドディスプレイを 開 発 した21 。このディプレイは 開 発 以 来 しばらくの 間 、ハイビジョンの 方 式 研 究 や 前 述 した 70mm 映 画 フィルムによるプレゼンテーションなどに 使 われた。1985 年 のつくば 科 学 博 の 時 には、 当 時 の 機 器 開 発 の 技 術 的 制 約 に 配 慮 しハイビジョン 暫 定 規 格 としてアスペクト 比 5:3 が 採 用 され、それに 基 づき 各 種 機 器 開 発が 行 われ、それらを 使 い 草 創 期 のハイビジョン 作 品 の 制 作 が 行 われた。その 後 、主 に 米 国 映 画 界 から 各 種 映 画 フィルム 画 面 との 整 合 性 に 配 慮 し、HDTV のアスペクト 比 を 16:9 にすべきとの 提 案 があり、 世 界 標 準 化 を 目 指 すべくその 提 案 を 受 け 入れ、それ 以 降 に 製 造 された 機 器 ・システム、 制 作 されるコンテンツはすべてこの規 格 にあわせるようになった。そして 1990 年 、CCIR の HDTV スタジオ 規 格 勧 告 案でアスペクト 比 は 16:9 になり 22 、2000 年 に 世 界 標 準 規 格 となった。このような経 緯 を 辿 ったため、80 年 代 半 ばから 90 年 代 にかけて、 両 方 の 仕 様 の 機 器 が 並 存 し、制 作 されたハイビジョン 作 品 も 制 作 時 期 、 制 作 に 使 われた 機 器 により 5:3 と 16:923図 4.6: 臨 場 感 の 評 価 試 験図 4.7:アスペクト 比 の 好 ましさ71


24図 4.8:3 管 合 成 式 大 画 面 ディスプレイのと 構 造 と 外 観の 2 種 類 のアスペクト 比 が 混 在 することになった。このことは、 当 時 かなりの 期間 にわたって、 制 作 現 場 や 送 出 現 場 に 混 乱 を 起 こし 適 宜 臨 機 応 変 に 弾 力 的 な 対 応がとられていた。 時 間 が 経 過 するつれ 16:9 の 作 品 制 作 が 主 流 になるのにあわせ、あまり 問 題 視 されなくなっていった。(3) 標 準 テレビとハイビジョンのアスペクト 比 に 関 する 問 題ハイビジョンのアスペクト 比 は 標 準 テレビの 4:3 と 異 なっており、 映 画 との 関係 だけでなく 標 準 テレビとの 関 係 においても 問 題 だった。ハイビジョン 草 創 期 の80 年 代 においては、ハイビジョン 番 組 はハイビジョンのことだけを 考 えて 制 作 すれば 良 かった。しかし 80 年 代 末 期 頃 になりハイビジョン 番 組 の 制 作 が 増 えるにつれ、 番 組 制 作 要 員 や 制 作 経 費 軽 減 のため、ハイビジョンで 制 作 した 番 組 を 標 準 テレビでも 放 送 する「 一 体 化 制 作 」と 呼 ばれた 制 作 法 をとることが 多 くなり 25 、アスペクト 比 の 違 いは 大 きな 問 題 点 だった。しかも、 当 時 、ハイビジョンのアスペクト 比 は 上 述 したように 5:3(つくば 科 学 博 の 暫 定 規 格 )と 16:9( 標 準 規 格 )が混 在 していたので 一 層 複 雑 な 状 況 だった。ハイビジョンで 制 作 された 作 品 を 標 準 テレビで 放 送 する 場 合 には、 図 4.9 に 示図 4.9: 変 換 モード 26(a)エッジクリップ (b)レターボックスモード72


すように(a)エッジクリップモード(ハイビジョンの 左 右 の 映 像 を 削 除 する)か、または(b) 縮 小 モード(ハイビジョンの 映 像 をカットせずに 全 体 を 縮 小 し 横 幅 を 合わせ 天 地 に 黒 味 を 付 加 する 方 法 でレターボックスとも 呼 ばれた)のどちらかを 選択 しなければならなかった。 例 外 的 に 水 平 方 向 のみを 縮 小 するスクイーズモードがとられたこともある。ハイビジョンによる 制 作 段 階 では、 標 準 テレビの 放 送 がどちらのモードを 選 択 しても 違 和 感 が 少 なく、かつできるだけ 迫 力 を 損 ねることがないように、 撮 影 や 編 集 段 階 においてフレームや 構 図 、 人 物 配 置 などに 配 慮 しながら 制 作 する 必 要 があった。そのための 現 場 的 な 対 処 法 として、 撮 影 や 編 集 制作 現 場 で 使 う 映 像 モニター 画 面 上 に 5:3(16:9)と 4:3 両 方 のアスペクト 比 に 相 当する 画 枠 のマークを 描 き、それを 目 安 に 絵 創 りを 行 う 方 法 がとられた。さらに、 時には 妥 協 策 として 双 方 の 中 間 のアスペクト 比 に 統 一 して 撮 影 するという 簡 易 手 法もとられた。さらに 最 終 的 に 放 送 するメディアのフォーマットに 合 わせ、 手 間 と時 間 がかかったが、 作 品 意 図 に 添 うようにシーンごとにサイズや 位 置 をトリミングしながらダウンコンバートし 編 集 する 制 作 法 をとることもあった。一 方 、 逆 に 標 準 テレビ 映 像 をハイビジョン 映 像 の 素 材 に 使 うケースもしばしばあったが、その 場 合 にはアスペクト 比 に 関 して 逆 の 考 慮 をしつつアップコンバートしなければならなかった。このように 標 準 テレビとハイビジョンのアスペクト比 の 違 いに 伴 う 映 像 制 作 の 問 題 は、 当 時 、 制 作 ・ 送 出 現 場 においては 大 きな 悩 みで、 上 述 のように 現 場 的 なノウハウが 編 み 出 され 使 われた。この 問 題 は 基 本 的 には 当 時 からその 後 も 解 消 されてはいないのだが、ハイビジョン 制 作 (EDTV ワイドテレビも 含 め)が 主 流 になるにつれ、この 問 題 はあまり 大 きく 問 題 視 されることは 少 なくなっていった。(4) 映 画 とハイビジョンのアスペクト 比 に 関 する 問 題前 述 したように、 当 時 、 映 画 館 で 上 映 されている 映 画 にはスタンダード、ビスタビジョン、シネマスコープ、70mm などがあり、それらの 画 面 のアスペクト 比 はそれぞれ 違 っている。これら 多 様 なフィルム 画 像 をハイビジョンに 変 換 する 場 合 、 画 像 の 構図 などに 配 慮 し 様 々な 方 法 がとられた。アスペクト 比 が 標 準 テレビに 近 いスタンダード 映 画 の 場 合 は、 上 述 した 標 準 テレビの 場 合 と 同 じような 考 え 方 で 対 処 した。シネマスコープは 元 々オリジナル 画像 がアナモフィックレンズで 水 平 方 向 が 圧 縮 されており、 上 映 時 に 逆 特 性 のアナモフィックレンズを 使 い 正 像 に 戻 す 方 式 で、アスペクト 比 が 大 き 過 ぎることとアナモフィックレンズの 特 性 により 周 辺 部 の 鮮 鋭 度 が 低 く、ハイビジョン 変 換 にはもともと 適 していないためハイビジョン 用 素 材 に 使 われることは 少 なかった。ア73


スペクト 比 がハイビジョンと 大 きく 異 なる 70mm 映 画 の 場 合 、 第 3 章 に 記 した 70mmレーザーテレシネでは、フィルム 画 面 上 のラスターサイズを 調 整 しエッジクロップかレターボックスのいずれかを 作 品 に 応 じて 選 択 し 対 処 した。アスペクト 比 がハイビジョンにやや 近 いビスタビジョンの 場 合 は、 基 本 的 には 同 様 の 考 え 方 によるが、 第 3 章 に 記 した 35mm レーザーテレシネでは、 方 式 変 換 系 によりスタンダードとビスタビジョンの 2 種 類 のアスペクト 比 に 対 応 できるようになっていた。ハイビジョンで 制 作 された 映 像 をフィルム 画 像 に 戻 す 場 合 には 逆 の 問 題 が 生 じる。 映 画 とハイビジョンのメディアミックスによりフィルム 画 像 とハイビジョン映 像 を 混 在 使 用 し、 最 終 的 にフィルムにし 完 成 作 品 に 仕 上 げる 場 合 には、 最 終 的映 画 の 縦 横 比 にあわせ、 素 材 の 撮 影 、F→V 変 換 、 編 集 、V→F 変 換 の 各 段 階 において 画 枠 や 構 図 などに 配 慮 しなければならず、メディアミックスにおける 大 きな 問題 だった。これらのような 映 像 の 処 理 は、 機 械 的 な 単 純 作 業 ではなくそれなりにクリエイティブな 制 作 プロセスだった。4.3 フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 画 質 に 関 する 問 題映 画 とハイビジョンはもともと 別 の 映 像 メディアで、 両 者 の 画 調 とか 画 質 は 異なっている。それらの 点 に 関 しては、 第 3 章 に 記 した 実 験 フィルムによる 測 定 評価 や 本 稿 で 後 述 するような 様 々な 調 査 研 究 が 行 われた。また 第 5 章 に 記 すようにメディアミックスの 実 践 段 階 においても、 多 くの 試 行 錯 誤 のもと、 以 下 示 すように 技 術 開 発 やノウハウが 編 み 出 され 投 入 された。それらは 後 の 90 年 代 半 ば 以 降 の映 像 メディアの 展 開 に 大 きな 影 響 を 与 えていくことになった。(1)フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 画 質 の 違 い映 画 とハイビジョンのメディアミックスする 場 合 、 両 者 の 画 質 の 違 いは 大 きな問 題 である。フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 はもともと 画 像 を 形 成 する 仕 組 みが 異 なっており、いわゆるフィルムトーンとかビデオルックと 言 われるように、基 本 的 に 画 調 ( 鮮 鋭 度 、 色 調 、 階 調 、ノイズなどの 要 因 による)が 違 っている。フィルム 画 像 は 面 内 に 2 次 元 的 にランダムに 分 布 する 色 素 粒 子 像 で 形 成 され、減 法 混 色 系 であるのに 対 し、ハイビジョン 映 像 は 水 平 ・ 垂 直 の 走 査 線 で 構 成 されるディスプレイ 面 上 に 規 則 的 に 配 置 される 画 素 構 造 の 3 色 蛍 光 体 による 加 法 混 色系 である。そのため、フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 は、 画 質 の 要 素 である 鮮鋭 度 、 階 調 、ダイナミックレンジ、 色 調 、ノイズなど 物 理 的 特 性 が 異 なり、 視 覚的 な 見 え 方 も 違 っている。 映 画 とハイビジョンのメディアミックスにおいて、フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 混 在 使 用 し 作 品 として 仕 上 げる 場 合 、 両 者 の 画74


調 を 完 全 に 合 わせることはできないにしても、できるだけ 統 一 し 違 和 感 が 少 なくなるようにする 必 要 があった。(2)フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 鮮 鋭 度画 像 のシャープさ、 鮮 鋭 度 は、レスポンス( 空 間 周 波 数 特 性 )、 明 るさ( 輝 度 )、コントラスト 比 (ダイナミックレンジ)などに 依 存 し 27 、フィルム 系 とテレビ 系では 異 なっている。これらの 要 因 の 中 で、フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 空間 周 波 数 特 性 は 図 4.10 に 示 すように 大 きく 異 なっている 28 。フィルム 系 では、 撮 影 用 シネカメラの 光 学 系 とフィルム 自 身 のレスポンスに 依存 するが、 同 図 の(1)に 示 すように 中 域 からなだらかに 低 下 し 高 域 まで 延 びていて限 界 解 像 度 は 高 い。それに 対 して、テレビ 系 ではテレビカメラの 光 学 系 のレスポンス、 撮 像 管 のアパーチャー 特 性 ( 有 限 な 径 の 電 子 ビームで 走 査 することにより高 域 部 で 低 下 する)、 記 録 、 伝 送 系 の 周 波 数 特 性 などに 依 存 し、トータルでのレスポンス 特 性 は 帯 域 制 限 されており 限 界 解 像 度 は 低 い。しかし 視 覚 的 な 鮮 鋭 度 は 限界 解 像 度 で 決 まるのではなく、レスポンス 特 性 の 形 状 、 特 に 視 覚 に 敏 感 な 中 域 成分 に 大 きく 影 響 される。そこでテレビ 系 では 人 間 の 視 覚 の 特 性 にあわせ、 遅 延 線やメモリーを 用 い 水 平 および 垂 直 方 向 の 輪 郭 を 補 正 することにより 同 図 の(2)に示 すように 見 掛 け 上 の 鮮 鋭 度 を 改 善 する 方 法 がとられている。フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を 混 在 する 場 合 、 両 者 のレスポンス 特 性 の 違い、 輪 郭 補 償 の 程 度 により 視 覚 的 な 鮮 鋭 度 が 異 なり 違 和 感 が 生 じる。それをできるだけ 軽 減 するため、ハイビジョン 撮 影 、テレシネでの F→V 変 換 、フィルム 録 画機 での V→F 変 換 の 各 段 階 において、フィルム 画 像 にあわせハイビジョンの 輪 郭 補正 量 を 適 切 に 調 整 する。 第 5 章 に 記 した 実 践 例 では、 制 作 現 場 のノウハウとしてそれぞれ 適 切 な 設 定 がなされたのである。29図 4.10:フィルム 系 とテレビ 系 のレスポンス 比 較75


(3)フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 のコントラストレンジ、 階 調 再 現 性映 画 系 のコントラスト 比 (ダイナミックレンジ)や 階 調 再 現 性 は、 基 本 的 にはフィルムの 特 性 で 決 まる。 一 般 的 な 映 画 フィルムの 濃 度 範 囲 は 3.0 程 度 で、 再 現できるコントラスト 比 は 約 1000 対 1 程 度 である。 実 際 に 映 画 館 で 上 映 される 映 画の 場 合 には、フィルムの 特 性 に 加 え、シネカメラレンズ 系 の 特 性 、 映 写 機 の 光 学系 やスクリーンの 特 性 、アンビエントライトなどにより、この 数 字 よりかなり 下がる。それに 対 してテレビ 系 では、テレビカメラの 特 性 (ダイナミックレンジ、S/N、ガンマ 特 性 、フレアなど)、 映 像 モニターやディスプレイの 表 示 特 性 、 周 囲光 に 依 存 する。80 年 代 後 半 頃 、 番 組 制 作 に 使 われていたハイビジョンカメラの SN比 は 概 ね 40dB 程 度 と 低 く、 再 現 できるコントラスト 範 囲 は 100 対 1 程 度 とかなり狭 かった。その 後 、カメラの 性 能 は 徐 々に 向 上 したとは 言 え、フィルムのコントラスト 比 にはなかなか 及 ばなかった。ハイビジョンディスプレイについては、 撮 影 や 編 集 室 の 映 像 モニターは 暗 部 や白 の 再 現 性 が 良 い CRT が 使 われ、 周 囲 光 が 少 ない 条 件 下 で 使 われたため、 暗 部 、明 部 の 階 調 再 現 性 はかなり 良 く、 映 像 監 視 、 調 整 には 十 分 だった。しかし、 第 5章 に 述 べたメディアミックスの 実 践 が 行 われた 頃 、 作 品 を 上 映 するため 使 われた大 画 面 ディスプレイは、CRT 投 射 管 や 投 射 光 学 系 のフレア 成 分 が 多 く、 十 分 なダイナミックレンジや 良 好 な 階 調 再 現 性 は 得 られなかった。また、 当 時 のハイビジョンシアターは、 映 画 館 とは 違 いある 程 度 明 るい 環 境 で 視 聴 すると 言 うコンセプトだったため、 上 映 されたハイビジョン 映 像 は 暗 部 、 明 部 ともつぶれ 再 現 範 囲 が 低下 するという 状 況 が 多 かった。また、 同 じハイビジョンプロセスで 制 作 された 作 品 でも、V→F 変 換 しフィルムで 上 映 した 場 合 と、そのままハイビジョンで 映 写 した 場 合 では、かなり 画 調 や 印象 は 違 っていた。そのため NHK のレーザーフィルム 録 画 装 置 で V→F 変 換 する 場 合には、フィルム 上 映 に 相 応 しいようにハイビジョン 信 号 を 非 直 線 ガンマ 補 正 により 白 伸 張 や 黒 伸 張 補 正 を 行 い、 視 覚 的 に 本 来 のフィルム 画 調 に 近 づくような 処 理を 施 し、ハイビジョン 制 作 しフィルムに 変 換 した 映 像 と 直 のフィルム 画 像 を 混 在する 場 合 でも、 比 較 的 両 者 のトーンが 近 く 違 和 感 が 少 なくするような 処 理 を 施 していた。このように 当 時 現 場 的 に 編 み 出 された 様 々なノウハウは、その 後 のメディアミックスの 実 践 の 場 で 有 効 に 活 かされていった。76


(4) フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 のノイズフィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 では、ノイズの 発 生 要 因 が 異 なるためノイズ成 分 、 大 きさ、 見 え 方 も 違 っており、 両 者 を 混 在 使 用 した 場 合 、 違 和 感 が 生 じる。フィルム 系 のノイズ 30 は、フィルム 画 像 自 身 によるものと F→V 変 換 系 で 発 生 する成 分 から 成 る。 前 者 はフィルム 面 内 にランダムに 分 布 する 色 素 粒 子 構 造 から 成 る粒 状 性 ノイズがメインで、ネガ、リバーサル、ポジフィルムの 種 類 、 露 光 濃 度 によって 異 なり、 低 周 波 域 で 大 きく 周 波 数 の 増 加 とともになだらかに 低 下 する。 視覚 的 にはハーフトーン(フィルム 濃 度 1.2 位 、 映 像 レベルで 40% 位 )で 目 立 ち、暗 部 や 明 部 で 目 立 ちにくい。またフィルム 特 有 の 不 規 則 なノイズとしてゴミやキズによるものがあるが、 視 覚 的 に 粒 状 性 ノイズと 分 離 してみえるためか、 気 にはなるが 当 時 はあまり 問 題 にはされなかった。後 者 の F→V 変 換 系 のノイズについては、 撮 像 管 テレシネの 場 合 は 撮 像 管 のショットノイズ、プリアンプや 映 像 処 理 系 におけるサーマルノイズがあるが、 粒 状 性ノイズよりは 小 さく 視 覚 的 には 目 立 ちにくい。レーザーテレシネの 場 合 は、 第 3章 で 述 べたように 高 輝 度 のレーザー 光 で 走 査 し 光 電 子 増 倍 管 で 光 電 変 換 するため、F→V 変 換 におけるノイズは 目 立 たず、フィルムの 粒 状 性 ノイズがほとんどだった。ハイビジョン 映 像 のノイズはフィルム 系 のノイズと 性 格 、 見 え 方 が 違 うため、両 者 を 混 在 使 用 する 場 合 まったく 違 和 感 がないようにすることは 困 難 で、 少 しでもノイズを 目 立 ちにくくするために F→V 変 換 段 階 でノイズリデューサを 使 い 補 正した。テレビ 系 のノイズは 時 空 間 的 に 相 関 性 のないランダムノイズなのに 対 し、フィルムの 粒 状 性 ノイズは 画 面 内 に 固 定 されておりフィルムのコマとコマの 間 ではまったく 相 関 性 がない。このような 特 徴 を 利 用 し、フレーム 内 の 小 エリアで 積分 しフレーム 間 で 蓄 積 補 間 することにより、ノイズを 目 立 ちにくくすることができる。 一 般 的 には F→V 変 換 する 際 にノイズリデュースするが、 補 正 を 過 度 に 行 うと 鮮 鋭 度 が 下 がり、 動 きボケや 残 像 現 象 が 生 じる。そのため、F→V 変 換 担 当 者 は、絵 柄 や 画 像 のトーンにあわせ、 視 覚 的 に 最 適 に 調 整 する 必 要 があり、これも 制 作現 場 段 階 における 大 事 なスキルで、 重 要 なノウハウだった。(5) フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 色 調 、 色 再 現 性フィルムとハイビジョンでは 色 再 現 の 仕 組 みが 異 なっている。フィルム 系 は 減法 混 色 法 によっており、トータル 的 な 色 再 現 性 はネガフィルムの 分 光 感 度 およびポジフィルムの 分 光 濃 度 特 性 に 依 存 する。ハイビジョン 系 は 加 法 混 色 法 により、基 本 的 にはカメラの 分 光 感 度 特 性 、ディスプレイの 蛍 光 体 の 発 光 特 性 に 依 存 する。色 再 現 のプロセスがまったく 異 なるため、 両 者 を 混 在 使 用 した 際 に 色 調 を 厳 密 に77


合 わせることは 不 可 能 だが、 撮 影 、F→V 変 換 、 編 集 プロセス、V→F 変 換 の 各 段 階において、カラーコレクターを 使 い RGB 各 信 号 のセットアップ、レベル、ガンマなどを 調 整 し、 両 者 の 色 相 や 彩 度 など、できるだけ 視 覚 的 に 違 和 感 が 少 なく、しかも 最 良 になるようなセッティングをする 必 要 があった。そのためカラーコレクション 担 当 者 は 高 い 技 術 力 とクリエイティブな 感 性 が 求 められ、トータルの 制 作上 重 要 な 役 割 を 担 っていた。(6) フィルム 変 換 とハイビジョン 映 写 の 総 合 評 価第 3 章 に 記 した NVS 研 究 会 の「ビデオシアター 技 術 委 員 会 」では、ハイビジョンテレシネによる FV 変 換 からハイビジョン 上 映 に 至 るトータルにおける 画 質 改 善を 目 指 し「F-V 変 換 系 の 総 合 特 性 調 査 」を 行 った 31 。 総 合 的 な 画 質 評 価 ができるように、35mm フィルムで 暗 部 から 明 部 までコントラストレンジの 広 い、 階 調 再 現性 の 難 しいショットなど 様 々な 被 写 体 を 選 定 し、 評 価 テスト 用 サンプルフィルムを 制 作 した。そして 当 時 、 民 間 プロダクションで 運 用 されていたハイビジョン 用のテレシネ 装 置 のうち、レーザーテレシネ(ヨコシネ)、HD-FSS(イマジカ)および HD サチコンテレシネ(ソニーPCL)それぞれで F→V 変 換 し、ハイビジョン・ビデオディスクに 記 録 した。F→V 変 換 はネガフィルム、マスターポジフィルム、プリントフィルム 3 種 類 のそれぞれについて 行 われた。それらのハイビジョンに 変 換 された 映 像 は、30"CRT モニターおよび 各 種 大 画 面のハイビジョンディスプレイ(CRT 前 面 / 背 面 投 射 型 、LCD 前 面 投 射 型 )で 映 写 され、 各 種 画 質 要 素 について NVS 小 委 員 会 委 員 により 画 質 評 価 が 行 なわれた。フィルムのタイプによる 階 調 、 鮮 鋭 度 、 色 調 、ノイズなどの 差 異 、テレシネ 装 置 の 特性 あるいはセッティング 法 による 差 異 など、 絵 柄 によっては 若 干 の 質 の 違 いが 認められた。しかし 本 来 の 実 験 目 的 であった F→V 変 換 における 映 像 セッティングの方 法 、ハイビジョンディスプレイによる 映 像 再 現 性 の 特 徴 などについて 詳 細 な 評価 を 行 い、 多 くの 知 見 、ノウハウを 得 ることができた。それらの 成 果 については同 研 究 会 で 報 告 、 公 開 された。 当 時 、このような 現 場 レベルでの 詳 細 な 画 質 評 価は 他 に 類 がなく、しかもビジネス 面 で 競 合 関 係 にあった 各 社 がそれぞれのノウハウを 提 供 しあい 共 同 作 業 を 行 ったことは、その 後 のハイビジョンと 映 画 のメディアミックスのための 基 礎 データとして 関 係 業 界 において 有 効 に 使 われただけでなく、 業 界 の 連 携 ・ 協 力 関 係 構 築 の 進 展 にも 大 いに 役 に 立 った。78


4.4 フィルムとハイビジョン 映 像 合 成 ・ 加 工 ・ 処 理 に 関 する 問 題80 年 代 後 半 、 当 時 、 既 に 成 熟 した 映 像 メディアだった 映 画 の 制 作 に 新 参 のハイビジョンを 敢 えて 使 おうとした 主 な 理 由 は、 電 子 メディアとしてのハイビジョンの 特 徴 を 活 かし 映 像 の 合 成 や 加 工 処 理 により 映 像 表 現 が 豊 かになり、 作 業 の 効 率性 も 向 上 するなど、 従 来 のオプティカルプロセスに 比 べ 大 きな 利 点 があると 期 待されたからである。そのために 使 うハイビジョン 映 像 合 成 や 加 工 処 理 機 器 やシステムについては 第 3 章 に 記 してある。ここではハイビジョンをこのような 目 的 に使 用 する 上 での 問 題 、メリットや 特 徴 、その 後 の 成 長 などについて 論 じてみたい。「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」が 行 われた 頃 、 映 画 における 特 殊効 果 、 合 成 技 術 については、それまでの 長 い 蓄 積 の 上 に 積 み 上 げられ 完 成 度 が 高かった。しかし 従 来 の 映 画 制 作 におけるオプティカル 法 では、 何 重 にもわたる 高度 な 多 重 合 成 や 細 かい 被 写 体 同 士 での 合 成 などは 難 しく、 前 景 と 背 景 の 動 きを 連動 させることも 難 しかった。 何 よりも 撮 影 や 画 像 加 工 段 階 でリアルタイムにチェックすることはできず、 事 後 にラッシュフィルムででき 具 合 を 確 認 し、 不 具 合 があれば 撮 りなおすか 妥 協 せざるを 得 なかった。その 間 、スタジオセットはそのまま 保 存 しなければならず、 俳 優 やスタッフは 拘 束 しなおさなければならない。さらに 合 成 マシンである 高 機 能 、 高 精 度 なオプティカルプリンターは 大 変 高 価 な 上 、オペレータには 高 度 な 熟 練 技 術 が 求 められ 32 、 長 い 処 理 時 間 を 必 要 とした。 当 時 、使 われていたオプティカルプリンターの 構 成 と 概 観 を 図 4.11a,b に 示 す。図 4.11a:オプティカルプリンターの 構 成79


図 4.11b:オプティカルプリンター(イマジカ)それに 対 して、 電 子 メディアであるハイビジョン 技 術 を 使 うと、オプティカル技 法 では 困 難 だった 映 像 表 現 の 合 成 が、 比 較 的 簡 便 に 効 率 的 に 実 現 できた。 詳 細については 第 5 章 の 実 践 例 で 述 べるが、 例 えば、オプティカル 法 では 難 しい 髪 の毛 のような 細 かい 被 写 体 や 半 透 明 とか 影 のある 被 写 体 でも、ハイビジョン 技 術 を使 うと 自 然 感 のある 合 成 ができ、また 前 景 と 背 景 の 動 きを 連 動 させるとか、 何 重にもわたる 多 重 合 成 なども 可 能 だった。そのため、 映 像 表 現 は 従 来 技 法 に 比 べ 格段 に 豊 かになり、 様 々な 斬 新 な 映 像 効 果 も 生 み 出 されるようになった。またハイビジョンによる 合 成 技 法 が 映 画 の 場 合 と 大 きく 違 っている 点 は、 制 作段 階 における 映 像 効 果 や 映 像 表 現 のでき 具 合 を、オペレータや 技 術 者 だけでなく監 督 や 制 作 スタッフが 制 作 現 場 でリアルタイムに 確 認 しながら 作 業 することができることである。そのため、より 高 度 の 映 像 効 果 や 表 現 にチャレンジすることもできるし、 合 成 映 像 の 品 質 も 高 くなる。 技 術 的 あるいは 演 出 的 に 不 具 合 があったり、 新 たな 要 求 が 出 ても、その 場 で 修 正 し 最 適 な 設 定 をすることもできる。 結 果的 に 制 作 のやり 直 しは 少 なくなり、 一 連 のシーンの 撮 影 、 制 作 が 済 めば 次 のシーンの 制 作 に 移 ることができ、セットの 取 壊 しや 造 り 変 えも 可 能 となる。さらには俳 優 や 制 作 スタッフの 拘 束 も 短 くて 済 むと 言 うように 多 くの 利 点 を 持 っていた。当 時 、これらの 映 像 合 成 や 加 工 、 処 理 に 使 用 された 各 種 ハイビジョン 機 器 は、メーカにより 完 成 された 製 品 モデルは 少 なく、 第 5 章 で 述 べるように 実 際 のコンテンツ 制 作 の 実 践 を 通 じて、 制 作 担 当 者 のアイディアと 技 術 力 をベースに、 試 行錯 誤 の 上 で 開 発 、 改 善 ・ 改 良 されたものが 多 かった。 映 画 のオプティカル 技 法 に比 べると、ハイビジョン 用 機 器 はある 程 度 の 技 術 力 、 習 熟 が 必 要 だとしても 特 別に 高 度 な 熟 練 と 年 期 が 必 要 ではなく、 標 準 テレビ 時 代 に 培 った 技 術 力 をさらに 高80


めることで 対 応 した。それらのノウハウや 技 術 力 は 多 くの 制 作 実 践 を 通 して 蓄 積され 徐 々に 高 度 になっていった。 映 像 合 成 分 野 にハイビジョン 技 術 を 使 ったことにより、コンテンツの 質 を 向 上 し 完 成 度 が 高 まっただけでなく、トータル 的 に 制作 時 間 の 短 縮 、 経 費 削 減 に 繋 がり、 作 品 制 作 のワークフローに 大 きな 影 響 を 与 えることになった。90 年 代 頃 になると、 映 画 制 作 やテレビ 番 組 の 制 作 においても、デジタル 技 術 、コンピュータ 制 御 技 術 や CG の 活 用 などが 急 速 に 進 むようになった。それに 伴 い、作 品 の 表 現 力 は 一 層 高 まり、 制 作 効 率 も 向 上 することになった。それらは 2000 年年 代 半 ばのデジタルシネマの 成 長 へと 繋 がって 行 くことになったが、それらの 経緯 については 第 7 章 にて 述 べることにする。4.5 まとめ本 章 では、 元 々 素 性 が 違 い、 性 質 の 異 なるハイビジョンと 映 画 と 言 う 二 つの 映像 メディアをメディアミックスする 上 で、 派 生 する 様 々な 技 術 的 要 件 に 関 し、 問題 点 や 解 決 策 について 論 じてきた。 具 体 的 な 論 点 としては、フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 とで 異 なる 毎 秒 コマ 数 、アスペクト 比 、 画 質 に 伴 う 様 々な 問 題 について、 分 析 し 論 じた。それらの 中 で、 両 メディアで 異 なる 毎 秒 コマ 数 に 伴 う 問 題に 関 して、NHK、SMPTE、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 が 行 った 研 究 調 査 については、その 成 果 、 意 義 を 詳 細 に 述 べてある。コマ 数 問 題 以 外 の 諸 点 については 二 つの 映像 メディアが 本 来 持 っている 基 本 的 な 特 性 であり、 完 全 にクリアできるものではないが、 二 つの 映 像 メディアをミックスする 上 で、できるだけ 違 和 感 を 少 なくし、不 自 然 さの 少 ない 統 一 された 映 像 を 目 指 すために 試 行 錯 誤 のすえ 行 った 様 々な 技術 開 発 やノウハウについても 詳 細 に 論 じている。その 上 で、 異 なる 二 つの 映 像 メディアをミックスすることで、 相 乗 効 果 を 発 揮 し、 新 たな 映 像 効 果 や 映 像 表 現 を実 現 するための 問 題 点 や 制 作 技 法 、さらにはメディアミックスすることによるメリットなどについても 論 じている。 本 章 で 考 察 したこれらの 事 がらは、 次 章 以 降での 実 践 例 を 検 証 する 上 で 重 要 な 論 拠 になっている。さらに 当 時 、 多 くの 実 践 を 通 じ、 生 み 出 された 技 術 やノウハウ、 経 験 や 知 見 は、その 後 の 映 像 制 作 技 術 の 発 展 に 大 きく 寄 与 し、2000 年 代 に 花 開 くデジタルシネマの 展 開にも 繋 がっており、 今 日 に 至 る 映 像 メディアの 成 長 、 発 展 に 果 たした 役 割 、 意 義 は 大きかったと 言 える。81


1牛 窪 正 「 映 画 のフィルムはなぜ 24 コマなの?」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.56、No.4、pp.46-47、20022視 覚 の 残 像 により、 静 止 画 像 を 一 定 周 期 で 提 示 すると 動 画 像 として 見 える 現 象3田 中 豊 他 「ハイビジョン-PAL 方 式 変 換 装 置 」NHK 技 術 研 究 、No.2、pp.54-71、19864杉 本 昌 穂 他 「HDTV の 海 外 動 向 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp. 21-25、19915欧 州 の HDTV 計 画 (EUREKA EU95)に 添 う 規 格 (1250/50)6石 田 武 久 「 映 画 への 応 用 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.97-102、19917図 面 引 用 : 前 掲 文 献 68石 田 他 「 高 品 位 テレビ 用 70mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.21、No.11、pp.7、19789 Takehisa Ishida et al."Laser Telecine for High-Definition Television"NHK Lab.Note,No.324,Dec. pp.1-15、198510平 林 洋 志 、 野 尻 祐 司 他 「レーザーテレシネ 用 動 き 補 正 型 フレーム 数 変 換 」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、pp.207-208、198811図 面 引 用 : 前 掲 文 献 612杉 浦 幸 雄 「テレシネとフィルム 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol43、No.2、pp.70-72、198913図 面 引 用 : 前 掲 文 献 614石 田 前 掲 文 献 615 「ハイビジョン・フィルム 利 用 技 術 推 進 プロジェクト」NHK 内 部 資 料 、1990、筆 者 はプロジェクトリーダー16図 面 引 用 : 前 掲 文 献 617 エドモンド・M・ディジュリオ「SMPTE30 こま 問 題 研 究 会 の 最 終 報 告 書 」八 木 信 忠 訳 、 映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.87-93、198818 30 こま 問 題 研 究 会 「24 こま/30 こま 比 較 実 験 映 像 報 告 」 映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.47-57、1989、 本 研 究 調 査 には 筆 者 も 委 員 として 参 加19図 面 引 用 : 石 田 「ハイビジョン 産 業 応 用 の 技 術 動 向 」クロマ 誌 、No.2、pp.27、199020 NHK 技 術 研 究 所 編 「ハイビジョン 技 術 」pp.9-25、198721佐 藤 昭 一 他 「 高 精 細 度 カラーワイドディスプレイ」NHK 技 研 月 報 、VOL.18、No.11、197522西 澤 台 次 「ハイビジョンの 規 格 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.26-33、199123図 面 引 用 : 文 献 2024図 面 引 用 : 文 献 2125新 濱 悌 二 「 一 体 化 制 作 番 組 『おしゃれ 工 房 』に 見 るハイビジョン 制 作 技 法 」クロマ 誌 、No.12、pp.36-39、199526図 面 引 用 :NHK 編 「ハイビジョン」pp.59、198627樋 渡 涓 二 「 視 覚 とテレビジョン」NHK 出 版 協 会 、pp.157-164、196728高 木 卓 四 郎 他 「フィルム 技 術 」NHK 出 版 協 会 、pp.63-6529図 面 引 用 : 文 献 2830高 木 前 掲 書 「フィルム 技 術 」NHK 出 版 協 会 、pp.62-6331ニュービデオシステム 研 究 会 「ハイビジョン・ビデオシアター 技 術 小 委 員 会 」 報 告 書 、pp.4-18、1993/5、 筆 者 はワーキンググループの 主 査 担 当32当 時 、 筆 者 は 映 画 の 特 殊 効 果 制 作 を 行 っていたイマジカ、 東 京 現 像 所 、ソニーPCL、デンフィルム( 円 谷 プロ 傘 下 )などと 緊 密 な 関 係 にあり、しばしば 制 作 作 業 を 見 学する 機 会 があり、 制 作 担 当 者 やオペレータと 情 報 交 流 をしていた82


第 5 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスによるコンテンツ 制 作 の 実 践5.1 はじめに第 3 章 にて「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」をするために 必 要 な 種 々の 機 器 やシステムを、 第 4 章 にてメディアミックスの 際 に 問 題 となる 様 々な 技 術的 要 件 について 述 べてきた。 本 章 では、それらを 活 用 し 行 われた 多 くのメディアミックスの 実 践 に 関 し、 代 表 的 な 作 品 を 選 び 問 題 点 や 得 られた 成 果 などについて具 体 的 に 論 じる。なお、ハイビジョンの 呼 称 は 第 3 章 で 述 べたように、1985 年 「つくば 科 学 博 」を 機 に 名 づけられたものだが、ここではそれ 以 前 に 行 われた 実 践 例にもハイビジョンの 呼 称 を 使 い、 国 際 的 な 場 に 関 連 する 場 合 には 原 則 として HDTVと 呼 ぶこととする。最 初 のハイビジョン 番 組 の 制 作 は、NHK 技 研 における 次 世 代 テレビ 方 式 研 究 のための 映 像 素 材 を 得 るため、さらには 試 作 開 発 された 機 器 の 性 能 、 機 能 をテストするため、そして 次 世 代 テレビとしての 可 能 性 を 探 るため、1980 年 代 初 頭 頃 実 験 的に 行 われたものである。その 後 、ハイビジョンが 80 年 代 半 ばに 始 まった 実 験 放 送 、90 年 代 の 試 験 放 送 、そして 本 放 送 へと 進 展 するのに 伴 い、それまで 主 に NHK 主 体で 行 われていたハイビジョン 番 組 の 制 作 は 徐 々に NHK 外 にも 広 がりを 見 せるようになった。そして 標 準 テレビにはない 大 画 面 向 き 映 像 制 作 のノウハウを 蓄 積 しつつ、ハイビジョンらしい 高 品 質 の 作 品 の 制 作 が 続 いていく。 国 内 外 でハイビジョン( 国 際 的 には HDTV)への 理 解 が 進 み、 国 内 においては 民 放 局 、 映 画 会 社 、 番 組 制作 会 社 、 機 器 メーカーが、 海 外 では 放 送 局 や 番 組 プロダクションなどが、 多 種 多彩 な 作 品 を 制 作 するようになっていった。これらの 作 品 の 多 くは、 当 初 、 性 能 や 機 能 が 十 分 と 言 えないハイビジョン 機 器を 使 い、 制 作 技 法 も 未 成 熟 だった 中 で 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ 制 作 されたものだった。年 々、 機 器 の 性 能 、 機 能 の 向 上 にあわせ 制 作 技 法 も 向 上 し、ハイビジョンらしい斬 新 な 映 像 表 現 が 盛 り 込 まれた 多 種 多 彩 な 数 多 くの 作 品 が 制 作 されるようになった。1980 年 代 から 90 年 代 までのほぼ 10 年 間 に 制 作 されたハイビジョンコンテンツは 膨 大 な 数 に 上 るが、 主 なハイビジョン 作 品 のリストを 付 録 6 に 示 してある。本 章 では、それらの 作 品 の 中 から 本 研 究 の 主 題 に 相 応 しいと 思 われる 10 数 本 の作 品 を 選 び、 概 ね 時 系 列 的 にそれぞれの 作 品 毎 にどのような 技 術 が 使 われ、どのような 問 題 に 遭 遇 し、それらをどう 克 服 したのか、それらの 成 果 としてどのような 制 作 技 法 が 編 み 出 され、どのような 斬 新 な 映 像 表 現 が 創 られ、どのようなワー83


クフローがとられたのかなどについて 詳 細 に 検 証 し、それらがその 後 の 映 像 メディアに 与 えた 影 響 について 考 察 する。ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスと言 っても、「 従 来 のテレビ 番 組 と 違 う 映 画 的 な 表 現 を 指 向 したもの」、「 映 画 とハイビジョン 双 方 の 技 法 を 融 合 し 生 み 出 された 新 たなジャンルの 作 品 」、「 映 画フィルムとハイビジョン 映 像 を 相 互 交 流 して 制 作 し 最 終 的 に 映 画 となった 作 品 」などと 多 種 多 彩 だった。 本 章 では 大 きく 二 つの 段 落 にわけ、 前 段 落 ではハイビジョンと 映 画 のメディアミックス 的 な 実 践 例 を 選 び 概 説 し、 後 段 では 特 に 新 たな 制作 技 法 により 従 来 にない 斬 新 な 表 現 を 実 現 した 実 践 例 を 選 び 詳 しく 分 析 し 評 価 している。筆 者 は 当 時 、 放 送 技 術 局 の「ハイビジョンプロジェクト」に 属 し、 主 にポスプロや F⇔V 変 換 を 担 当 し、 本 章 で 述 べる NHK のハイビジョン 作 品 の 制 作 に 関 わりを持 ち、しばしば 制 作 現 場 に 立 会 い、 制 作 状 況 を 自 身 の 目 で 見 て 制 作 スタッフと 情報 を 共 有 していた。また、テレビジョン 学 会 や 映 画 テレビ 技 術 協 会 、 前 述 の NVS研 究 会 や HVC での 活 動 などを 通 じて、NHK 以 外 の 制 作 スタッフとの 交 流 もあり、 制作 現 場 の 見 学 や 作 品 試 写 へ 参 加 する 機 会 も 多 かった。 本 章 に 記 した 論 述 や 考 察 のベースは、これらの 自 身 の 経 験 や 知 見 に 拠 っている。5.2 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 実 践 例本 節 では、ハイビジョン 草 創 期 の 80 年 代 初 頭 から 成 長 期 の 90 年 代 初 頭 までに行 われたメディアミックスの 実 践 例 として 11 作 品 を 選 び、 制 作 手 法 や 得 られた 映像 表 現 について 具 体 的 に 検 証 する。(1)『ハイビジョンの 幾 つかのイメージ』NHK 技 研 で 次 世 代 テレビを 目 指 した 研 究 が 始 まって 間 もない 黎 明 期 の 1982 年 、技 研 研 究 者 の 手 つくりのような 試 作 機 器 を 使 って 制 作 されたハイビジョン 第 1 号作 品 である 1 。 監 督 はそれまでにも NHK の 数 々のドラマやドキュメンタリー 作 品 などを 制 作 していた 岡 崎 栄 が 担 当 した。 岡 崎 はその 後 も 多 くの 番 組 を 制 作 しているが、 最 近 でも『 大 地 の 子 』(1995)や『はるかなる 絆 』(2009)など 優 れた 作 品 を 手がけている NHK 屈 指 の 演 出 家 である。 岡 崎 は、 当 時 NHK 局 内 ですらほとんど 知 られていなかったハイビジョンが 新 たな 映 像 メディアとして、どのような 表 現 能 力を 発 揮 し、どれだけの 可 能 性 を 持 ちえるのかを 探 るべく、まさに 実 験 的 なチャレンジを 行 った 2 。第 3 章 に 記 した 技 研 製 の 試 作 カメラや VTR を 廃 車 寸 前 のテレビ 中 継 車 に 積 み 込み、 房 総 、 富 士 五 湖 、 能 登 、 京 都 など 国 内 各 地 をロケしながら 撮 影 、 収 録 を 行 っ84


た。もちろん 岡 崎 以 下 、 制 作 スタッフ 全 員 がハイビジョン 初 体 験 で、あらゆることが 初 めての 試 みだった。この 時 使 われたカメラはレンズを 含 めると 重 量 が 数10Kg を 超 え、VTR は 操 作 性 、 安 定 性 が 悪 く、 技 研 の 研 究 者 が 操 作 やメンテナンスのため 撮 影 ロケに 同 行 する 状 況 だった。 悪 戦 苦 闘 の 連 続 のすえ、 制 作 されたハイビジョン 第 一 作 は 同 年 の 技 研 公 開 で 公 開 されたが、 従 来 の 標 準 テレビでは 得 られない 高 精 細 度 と 広 いワイドアスペクト 比 による 迫 力 ある 大 型 映 像 は、 視 る 人 に 大きなインパクトを 与 え、 次 世 代 テレビとしての 可 能 性 を 十 分 実 証 するものだった。またこの 時 の 素 材 を 編 集 しなおし 制 作 した『 日 本 の 美 』は、 同 年 アイルランドで開 催 された EBU( 欧 州 放 送 連 合 ) 総 会 にて 公 開 され 3 、 初 めて 目 にする 高 精 細 な 映像 は 大 きな 反 響 を 呼 び、 次 項 の RAI のチャレンジに 見 られるようにその 後 の HDTVの 世 界 進 出 の 出 発 点 になった 意 義 が 大 きい 作 品 である。この 作 品 制 作 後 、ハイビジョン 機 器 は 年 々 改 善 改 良 が 進 められ、 岡 崎 らは 1983年 『チロヌップの 狐 』、『 網 走 の 夏 』などの 制 作 を 重 ね、ハイビジョン 番 組 制 作 技術 力 の 向 上 と 人 材 の 育 成 を 進 めた 4 。 同 年 後 半 、メーカーによりようやく 実 用 レベルのカメラ(HDC-100、ソニー)と VTR〈HDV-1000、 同 左 )が 開 発 され、『 紅 白 歌 合戦 』(1983)の 撮 影 収 録 や 初 の 海 外 ロケによるスポーツ 中 継 『ロサンジェルス・オリンピック』(1984)などにも 使 われた。(2)『オニリコン』イタリア 放 送 協 会 (RAI)は、 上 述 の EBU 総 会 の 時 の HDTV の 公 開 を 目 にし、 誕 生したばかりの 新 しい 映 像 メディアの 高 画 質 、 大 画 面 性 に 大 いに 着 目 した。RAI は 放送 局 ながらテレビ 番 組 だけでなく 映 画 制 作 の 実 績 も 高 く、 自 局 の 映 画 制 作 に HDTVを 利 用 できないかと 検 討 を 始 めた。そして 前 述 した NHK の 北 海 道 ロケに、 制 作 スタッフを 参 加 させハイビジョン 技 術 の 習 得 に 努 めた。そして 1985 年 、NHK の 自 然紀 行 ものやドキュメンタリー 作 品 とはまったく 違 う、HDTV による 実 験 的 短 編 映 画『オニリコン』( 監 督 :エンゾラフィーニ・タルクィーニ)を 制 作 5 した。この 作 品は、イタリアの 石 造 りの 街 の 中 で、 夢 と 現 実 を 行 きかいつつ 交 わされる 男 女 の 深層 心 理 を 映 像 美 の 中 で 描 いたサスペンスタッチの 短 編 ドラマで、HDTV 草 創 期 の 作品 ながら、HDTV を 映 画 技 法 の 中 で 巧 みに 活 かしたとして 高 く 評 価 されている。映 画 制 作 の 経 験 が 豊 富 な RAI のスタッフは、 十 分 な 性 能 、 機 能 とはいえない 機器 を 使 い、 草 創 期 の HDTV が 映 画 制 作 にどれだけ 応 えられるのか、 当 時 のテレビ 番組 とはかなり 異 なる 映 像 表 現 にこだわりを 持 って 制 作 した。マルチカメラ 制 作 、テレビ 的 照 明 や 映 像 設 計 に 慣 れ 親 しんでいた NHK のハイビジョン 陣 営 にとっては、彼 らの 制 作 手 法 はとても 新 鮮 で 大 きなインパクトを 与 えた。85


当 時 の HDTV にとってはやや 不 得 手 だったが、 心 理 的 不 安 、 恐 怖 感 を 表 すような黒 を 基 調 としたショットと、 平 穏 、 安 心 感 を 現 す 光 いっぱいの 明 るい 情 景 を 随 所で 対 比 させた。 作 品 の 中 では、 暗 闇 の 石 造 りの 街 路 を 歩 く 女 と 背 後 からついて 行く 黒 い 服 の 男 、わずかに 光 る 石 畳 の 反 射 する 光 を 通 して 映 る 女 のシルエット、 追いかける 男 の 微 かに 浮 かび 上 がる 薄 汚 い 風 貌 、 何 か 不 吉 なことが 起 きるのを 予 感させる 絵 つくりだった。 一 方 、 夢 から 覚 めた 朝 の 明 るい 陽 のもとカフェーでくつろぐシーンでは、 女 の 穏 やかな 横 顔 とライトに 映 えるつやと 光 沢 のあるグラスやカラフルなワイン 壜 などが、HDTV ならではの 高 精 細 で 質 感 高 い 映 像 として 表 現 された。そして 舞 台 は 再 び 暗 転 し、 暗 い 土 砂 降 りの 雨 に 煙 る 線 路 を 走 る 男 、 背 後 に迫 る 女 。 暗 闇 の 中 で 光 る 電 車 のアップと 急 ブレーキの 音 。その 時 、 鳴 り 響 く 目 覚まし 時 計 の 音 、 朝 のまどろみの 中 で 見 つめあう 中 年 夫 婦 、そしていつも 通 りの 倦怠 な 一 日 が 始 まる。 一 度 ならず 三 度 までも 夢 の 中 で 夢 を 見 る。 中 年 夫 婦 の 倦 怠 感と 相 手 への 不 平 不 満 が、 夢 の 中 で 互 いに 殺 意 となって 現 われる。イタリアの 石 造りの 街 の 中 で 演 じられる 恐 怖 とラストカットでのどんでん 返 し。どの 夫 婦 にもありそうな 深 層 心 理 を、 暗 いシーンと 明 るいシーンを 対 比 させ、HDTV の 映 像 美 の 中で 見 事 に 表 現 した 作 品 で 傑 作 と 評 価 された 所 以 である。この 作 品 の 撮 影 は 全 てロケーションで 行 われたが、 使 われた HDTV 機 器 は 前 述 の実 用 1 号 カメラと VTR で、 前 作 品 で 使 われた 技 研 製 の 試 作 機 に 比 べれば 性 能 はかなりアップしたとは 言 え、 感 度 や SN 比 などは 不 十 分 で、 操 作 性 、 機 動 性 も 十 分 とは 言 えなかった。 当 時 使 われていた 映 画 用 シネカメラに 比 べ、HDTV カメラはサイズ、 重 量 ともかなり 大 きく、CCU(カメラ 制 御 部 Camera Control Unit)とつなぐケーブルも 必 要 で 機 動 性 、 操 作 性 は 低 かった。ビューファインダーの 性 能 は 低 く、アイリス 調 整 やフォーカスフォローはカメラマンや 助 手 だけでは 十 分 でなく、 中継 車 内 で VE(Video Engineer)がモニターや 大 画 面 ディスプレイによりチェックしながら 撮 影 が 行 なわれた 6 。またこの 作 品 では 夜 間 撮 影 が 多 かったが、 当 時 の HDTVカメラの 感 度 が 低 かったこともあるが、 奥 行 き 感 のある 映 像 表 現 にするため、RAIの 照 明 スタッフはテレビ 制 作 では 異 例 の 強 力 な 照 明 機 器 (140 キロ 電 源 車 2 台 と60 キロ 電 源 車 1 台 をフルに 使 用 )を 使 った。またハイライトシーンの 土 砂 降 りのシーンでは 地 元 消 防 署 の 全 面 的 協 力 でなされ、この 作 品 制 作 に 込 めた 監 督 らの 意気 込 みが 感 じられた。完 成 した 作 品 は、NHK においても 当 時 最 大 サイズの 110"CRT 投 射 型 ハイビジョンディスプレイで 公 開 されたが、 先 生 役 のつもりだった NHK のハイビジョンスタッフ 以 上 にハイビジョンを 使 いこなした 作 品 としての 質 の 高 さは、NHK 陣 営 に 大 きな86


衝 撃 を 与 えた。 標 準 テレビの 小 さな 画 面 での 映 像 に 慣 れていた 目 には、 大 画 面 でワイド、 高 精 細 ディスプレイで 見 る 映 画 的 な 映 像 に 大 きな 衝 撃 を 受 けたものだった。さらにこの 完 成 作 品 は、 第 3 章 に 記 した EBR(ソニーPCL)および 技 研 の LBR で35mm フィルムに 変 換 され 公 開 されたが、ハイビジョンディスプレイでは 充 分 に 再現 しきれない 暗 部 からハイライトまでの 広 いダイナミックレンジや 微 妙 な 階 調 、鮮 やかな 色 調 がフィルムでは 再 現 されているとの 評 価 が 多 かった。RAI が 制 作 したこの 作 品 により、ハイビジョンが 映 画 制 作 へ 利 用 できることが 実 証 されたのである。この HDTV 作 品 はブタペストで 開 催 された 第 14 回 技 術 映 画 祭 (1986)においてグランプリを 受 賞 し、その 後 の 映 画 指 向 を 目 指 す 数 々のハイビジョン 作 品 制 作の 引 き 金 にもなった 点 で、 大 きな 意 義 ある 作 品 である。 写 5.1 に 同 作 品 の 撮 影 時の 情 景 と 同 作 品 の 中 の 1 シーンの 映 像 を 示 す。(3)『 秋 ・ 京 都 』NHK の 初 期 のハイビジョン 作 品 は、 現 行 テレビにはない 映 像 表 現 としてワイド、大 画 面 に 相 応 しい 作 品 を 目 指 し、 前 述 した 紀 行 ものや 自 然 ものなどのジャンルの作 品 が 多 かった。しかし RAI が 映 画 的 制 作 手 法 で 映 画 的 表 現 を 目 指 した『オニリコン』を 制 作 し 内 外 で 大 きな 評 判 になったことに 刺 激 を 受 け、NHK も 新 たなジャンルのハイビジョン 制 作 にトライすることになった。また、その 背 景 には 当 時 国 内でも 言 われ 始 めていたハイビジョンの 映 画 応 用 指 向 ( 当 時 エレクトロ・シネマと呼 ばれることもあった)があったことも 影 響 していた。そして 1985 年 、 初 の 実 験 的 ハイビジョンドラマ『 秋 ・ 京 都 』( 統 括 ・ 沼 野 芳 脩 、演 出 ・ 村 上 佑 二 )を 制 作 した 7 。 秋 の 京 都 を 舞 台 に、 若 い 男 女 が 織 りなす 葛 藤 を 文楽 や 西 陣 織 という 伝 統 芸 能 や 工 芸 を 通 し、 幻 想 的 な 映 像 詩 として 描 いた 18 分 長 の作 品 であるが、たぶんに RAI の『オニリコン』を 意 識 して 制 作 されたことは 否 めない。 当 時 、 十 分 とは 言 えないハイビジョン 機 器 の 性 能 限 界 を 探 りつつ、それまでの NHK のハイビジョン 作 品 と 違 う 映 画 的 な 映 像 表 現 を 目 指 し 以 下 のような 様 々な 実 験 的 取 り 組 みを 行 った。 当 時 の 大 型 で 機 動 性 の 悪 いハイビジョン 機 器 では 難しかった「 秋 の 空 に 映 える 紅 葉 の 山 道 を 疾 走 するオートバイのトラックショット」とか、 低 感 度 で、 低 い S/N、ダイナミックレンジが 狭 いカメラでは 難 しいとされていた「 夜 の 暗 闇 に 淡 く 浮 かぶ 寺 の 白 壁 と 光 る 石 畳 」、「 障 子 越 しに 差 し 込 む 光 の 畳に 座 る 逆 光 の 女 の 表 情 」や「 竹 林 の 木 漏 れ 陽 の 中 での 二 人 が 演 ずる 幻 想 的 なシーン」など、 明 るい 光 と 陰 影 をふんだんに 使 い 当 時 の NHK 作 品 としては 斬 新 的 な 映像 表 現 を 実 現 した。ハイビジョン 機 材 は 前 作 品 と 同 じ 機 種 のカメラ、VTR が 使 われたが、いずれも 大87


型 で 扱 いにくく、 演 出 の 狙 いを 生 かし 機 動 的 にフィールド 撮 影 ができるように、カメラヘッドと CCU は 多 芯 ケーブルと 光 ケーブルを 適 宜 使 い 分 け 撮 影 した 8 。この作 品 では 写 5.2 にその 代 表 的 シーンを 示 すが、 室 内 での 逆 光 シーン、ナイトシーンや 竹 やぶの 暗 いシーンなど、 当 時 のハイビジョンカメラの 感 度 、S/N では 難 しいショットだったがあえて 挑 戦 することにした。この 時 使 用 した 照 明 機 材 は、 前 述の『オニリコン』にはおよばなかったが、 当 時 の NHK のテレビ 制 作 としては 異 例の 規 模 だった。完 成 した 作 品 は、NHK のオーディションルームの 大 型 のハイビジョンディスプレイで 公 開 されたが、 当 時 の NHK の 番 組 ではあまり 見 られない 映 像 表 現 は 大 きな 評判 になった。さらにこの 作 品 は 技 研 のレーザー 録 画 機 LBR で 35mm フィルムに 変 換され、 技 研 公 開 など 様 々なイベントでも 公 開 された。このフィルムへの 変 換 に 際し、 第 4 章 に 記 したように 綿 密 な 映 像 処 理 を 施 したこともあり、ハイビジョン 上映 に 比 べ、フィルム 映 写 の 方 が 暗 部 やハイライト 部 などの 階 調 再 現 性 、 色 再 現 性が 良 好 だとの 評 価 が 多 かった。この 作 品 での 制 作 実 践 を 通 して、 機 器 の 機 動 性 や画 質 の 点 など 様 々な 課 題 を 明 らかにし、 多 くのノウハウを 蓄 積 することができ、後 述 する『 出 発 』など 多 くの 番 組 制 作 で 活 かされることになった。(4)『 東 京 幻 夢 』この 作 品 は、 第 3 章 に 記 したハイビジョンの 産 業 応 用 を 研 究 するため 設 立 された NVS 研 究 会 の「エレクトロ・シネマトグラフ 技 術 小 委 員 会 」の 活 動 成 果 として、1986 年 、 実 相 寺 昭 雄 映 画 監 督 、 中 堀 正 夫 撮 影 監 督 により 制 作 されたものである 9 。本 作 品 は 映 画 とハイビジョン 両 陣 営 のスタッフが 共 同 して 制 作 した 日 本 では 最 初の 作 品 である 10 。古 き 東 京 への 郷 愁 を 探 し 求 める 青 年 カメラマンの 現 実 と 夢 が 交 錯 する 心 情 を、ベートーベンのクロイツェルソナタのメロディにのせて 幻 想 的 映 像 美 として 表 現した。 東 京 世 田 谷 の 東 宝 スタジオや 都 内 ロケにて、 全 編 ハイビジョンで 制 作 された。カメラや 照 明 のオペレーションは 実 相 寺 組 と 呼 ばれた 映 画 スタッフが、ビデオ 調 整 や VTR 収 録 を NHK のハイビジョンスタッフが 担 当 した。 前 述 までと 同 じ 第 1世 代 のカメラ、VTR が 使 われたが、 映 画 制 作 スタイルにならいワンカメ・ワン V方 式 で 制 作 された。この 作 品 では、『 東 京 幻 夢 』のタイトル 名 に 象 徴 されるように、 実 相 寺 監 督 独 特のくすんだような 古 く 懐 かしい 映 像 のトーンが 重 視 され、 監 督 の 意 に 添 うような映 像 表 現 をハイビジョンで 如 何 に 実 現 するかに 腐 心 しつつ 制 作 された。 都 内 の Vロケでは、 作 品 のコンセプトに 合 うような 情 景 を 求 めて、 昭 和 初 期 の 景 観 を 残 す88


木 造 の 建 物 や 古 い 街 並 み、 古 風 な 写 真 館 や 風 呂 屋 、 古 いレンガ 塀 や 路 地 裏 の 地 蔵などを 探 し 撮 影 が 行 われた。その 一 方 で、 対 照 的 に 新 しい 東 京 を 象 徴 する 明 るいショットを 撮 るため、 新 宿 や 銀 座 のガラス 張 りのビルなどの 撮 影 も 行 われた。それらの 撮 影 ショットの 例 を 写 5.3 に 示 す。 作 品 の 中 で 重 要 な 舞 台 となった 写 真 館のシーンは、 古 い 洋 館 を 借 り 切 り、 部 屋 の 雰 囲 気 を 大 正 時 代 風 に 作 り 変 え、 天 井から 下 がる 電 球 や 家 具 などを 古 風 なものにしつらえ 撮 影 された。その 写 真 館 の 中のあるシーンでは、カメラのビューファインダーから 覗 く 被 写 体 の 家 族 の 中 の 老婆 が 若 かりし 頃 の 裸 の 女 性 に 変 わるなど、カメラマンの 深 層 心 理 をあぶり 出 すような 映 像 の 撮 影 も 行 われた。また 古 い 面 影 を 偲 ばせるため、 色 あせた 古 い 絵 葉 書や 絵 が 風 に 舞 い 上 がるような 映 像 がしばしば 使 われたが、 実 景 映 像 となじませるためスモークによる 効 果 などをポスプロ 段 階 で 付 加 することなども 行 われた。東 宝 スタジオでのラストシーンの 撮 影 では、 世 を 儚 んだ 青 年 カメラマンが 己 を爆 破 するショットだったが、ブルーバックの 前 に 立 ちすくむカメラマンが 物 思 いに 沈 むうち、 時 間 が 止 まったように 動 きがフィックスし、 突 如 カメラのフラッシュが 炊 かれたように 身 体 ごと 爆 発 してしまう。このシーンは 部 屋 の 中 に 座 り 込 む青 年 から、 石 膏 で 作 られた 実 物 大 の 人 型 の 化 石 像 へとディゾルブし、 中 に 仕 込 まれた 火 薬 が 爆 発 し 青 年 の 肉 塊 が 飛 散 するさまがリアルに 撮 影 された。この 作 品 の制 作 では 監 督 の 演 出 意 図 なのか、 電 子 メディアとしてのハイビジョンのメリットを 生 かすような 特 殊 合 成 技 術 はあまり 使 われず、ほとんどはセットや 模 型 を 使 って 実 写 で 撮 影 された。このようにスタジオや 都 内 ロケで 収 録 された 各 種 素 材 を 使 った 映 像 加 工 処 理 はNHK テクニカルサービスのハイビジョン 編 集 室 で 約 10 日 間 かけて 行 われた。 現 場で 撮 影 された 映 像 素 材 を 使 いリアルな 映 像 表 現 にするため、 味 付 けのための 様 々な 映 像 処 理 が 施 された。 新 しい 東 京 から 古 い 東 京 へカットバックし、 青 年 の 意 識の 中 の「 幻 夢 」を 表 現 するため、 様 々な 映 像 素 材 をモンタージュし、1 フレームや2 フレームといった 極 端 に 短 いカットをはめ 込 むことも 多 用 された。また、 時 間 を越 えた 異 次 元 の 夢 を 象 徴 するのに 針 のない 古 い 時 計 を 使 ったり、 歪 んだ 時 空 間 の東 京 を 表 現 するためか、フィルムミラーを 使 って 撮 影 された 映 像 を DVE で 加 工 処理 しわざとひずませるような 映 像 効 果 も 使 われた。こうして 完 成 された 作 品 は、NVS 研 究 会 で 当 時 最 大 の 110 インチサイズのディスプレイを 使 い 上 映 された。 制 作 を 担 当 した 監 督 やカメラマンから、ハイビジョンカメラの 機 動 性 の 悪 さ、 感 度 不 足 による 照 明 問 題 や 開 放 に 近 いレンズアイリス、被 写 界 深 度 の 浅 さ、 貧 弱 なビューファインダーによるフォーカス 合 わせのやりに89


くさ、フィルムに 比 べて 狭 いダイナミックレンジとグラデーションなど 多 くの 問題 点 が 指 摘 された。その 一 方 、ハイビジョン 映 像 のワイドで 大 画 面 、 黒 のしまりや 色 艶 の 表 現 性 、 映 画 のオプティカル 作 業 に 比 べると 格 段 に 簡 便 な 映 像 合 成 、 編集 のスピードなど、ハイビジョン 利 用 のメリットや 特 徴 については 高 い 評 価 が 与えられた。また 完 成 作 品 は 技 研 の LBR で 35mm フィルムに 変 換 され、NVS 委 員 会 委 員 や 同 作品 の 制 作 スタッフを 含 めた 見 学 者 を 対 象 に、ハイビジョンでの 上 映 と 比 較 評 価 も行 なわれた。 試 写 後 の 評 価 では、 階 調 再 現 性 や 色 調 などの 点 では、ハイビジョン上 映 よりフィルム 映 写 の 方 が 勝 っているとの 感 想 が 多 かった。また 後 日 、 都 心 にある 大 規 模 映 画 館 で 技 研 担 当 者 や 作 品 制 作 スタッフ、 映 画 ・ハイビジョン 関 係 者などを 対 象 に、 変 換 されたフィルムによる 非 公 開 の 試 写 会 も 行 われたが、その 時の 評 価 では 大 画 面 映 画 としても 十 分 使 えるとの 意 見 が 多 かった。このように、 本作 品 での 制 作 および 映 写 実 践 はハイビジョンの 映 画 応 用 への 技 術 的 可 能 性 を 確 認しただけでなく、それまでほとんど 交 流 がなかった 映 画 界 とハイビジョン 関 係 者の 橋 渡 しする 上 でも 大 変 役 に 立 ち、その 後 のハイビジョンと 映 画 のメディアミックスを 促 進 することに 繋 がっていった。(5)『イマジン』"Imagine"前 述 した EBU での HDTV の 公 開 の 前 年 の 1981 年 、NHK は 米 国 においてもサンフランシスコでの SMPTE、ロサンジェルスやニューヨークさらにワシントンで HDTV の公 開 展 示 を 行 った 11 。これらの 会 場 には 米 国 内 のみならず 世 界 各 国 の 放 送 関 係 、 映像 業 界 、 映 画 業 界 、 電 子 機 器 メーカー、さらには 米 国 議 会 や FCC からも 大 勢 の 参加 者 があり HDTV 映 像 を 見 学 した。その 時 の 公 開 の 時 の 様 子 を 写 5.4 に 示 すが、 見学 者 の 中 には HDTV のよき 理 解 者 でもあったフランシス・コッポラ 監 督 もおり、その 後 の HDTV 推 進 に 大 いに 協 力 してもらった。 米 国 内 で 初 の HDTV の 公 開 展 示 は、新 たな 映 像 メディアの 登 場 と 言 うことで 大 きな 反 響 を 集 め、 世 界 における HDTV の推 進 に 大 きく 寄 与 することになった。この 時 の 公 開 の 状 況 からも 分 かるように、 米 国 においては 当 初 から 新 たなメディア HDTV に 対 する 関 心 が 大 変 高 く、かなり 初 期 の 段 階 から 多 くの 作 品 制 作 が 行 われた。その 中 で、ミュージックビデオ 制 作 で 著 名 なバリー・リボは、 新 しい 映 像表 現 ツールとして HDTV に 強 い 関 心 を 持 ち、1986 年 ニューヨークにリボ・スタジオを 設 立 した 12 。そして、 後 述 するポーランド 出 身 のズビグニェフ・リプチンスキー監 督 と 組 んで 制 作 した 最 初 の HDTV 作 品 が『イマジン』(1986)である。ジョン・レノンのイマジンの 曲 に 合 わせ、 人 間 の 一 生 をパロディ 風 にたわいの 無 いものと90


して 表 現 した 3 分 くらいの 短 編 作 品 である。 当 時 としては 斬 新 的 な 映 像 効 果 を 使い、 作 品 的 にも 技 術 的 にもそれまで 見 たことがない 新 鮮 なアイディアで、 作 品 を見 た 人 に 強 烈 な 印 象 を 与 え、 草 創 期 の HDTV 作 品 の 中 で 国 内 外 で 大 きな 注 目 を 集 めた 作 品 である 13 。いたずらっ 子 の 男 の 子 が、マンハッタンのビルが 林 立 する 高 層 ビルの 窓 から 部屋 の 中 に 入 ってくる。 出 だしから 驚 かせる 映 像 表 現 である。 部 屋 の 中 にはなぜか 3輪 車 が 置 かれていて、 男 の 子 は 3 輪 車 に 乗 りドアを 開 け 隣 の 部 屋 に 入 っていく。カメラはその 動 きに 合 わせトラッキングしていくと 男 の 子 は 少 年 になっていて 家族 と 生 活 をしている。またドアを 開 け 次 の 部 屋 に 行 くと 少 年 は 青 年 に 成 長 していて、 部 屋 に 若 い 女 性 が 現 れベッドシーンになる。 女 は 身 ごもり、さらに 隣 の 部 屋に 行 くと 子 供 が 生 まれている。これらのシーンは 連 続 して 一 つのシーンとして 続き、カメラは 同 じアングルで 同 じ 部 屋 を 捉 え、まるで 川 の 流 れのように 人 生 の 流れが 展 開 していく。そしてお 定 まりの 浮 気 話 と 夫 婦 喧 嘩 。そうこうしている 内 に夫 も 妻 も 年 をとり、 最 後 の 部 屋 に 入 るとそこには 白 い 馬 がいて 馬 糞 をする。 掃 除人 が 現 れ、ちりとりで 馬 糞 を 拾 い 窓 から 外 に 捨 ててしまう。しばらくすると 窓 の外 から、また 男 の 子 が 部 屋 に 入 ってきて、 作 品 は 一 巡 する。なんともしゃれたセンスがみなぎっていて、 見 る 人 を 随 所 で 笑 わせながら、ほろ 苦 い 人 生 のたわいのなさを 思 い 知 らせてくれる 作 品 である。この 作 品 は、ニューヨークのウエストサイド 倉 庫 街 の 中 にあるあまり 大 きくないリボ・スタジオ 14 で 制 作 された。その 一 室 に 部 屋 のセットが 組 み 立 てられ、 大 きな 映 像 合 成 用 ブルーマットと 手 前 にカメラトラック 用 のレールが 設 置 された。 上述 した 部 屋 から 部 屋 を 渡 り 歩 く 20 カットのシーンは、すべてこのひと 部 屋 の 中 で演 じられている。 窓 の 外 の 背 景 にはマンハッタンのビルの 景 観 がはめ 込 まれ、 室内 の 演 技 者 の 動 きは 手 作 業 でレールカメラをトラックし、アルチマットによる 合成 で 連 続 的 映 像 として 構 成 された。この 時 、 使 われたトラックショット 用 カメラの 移 動 は 電 動 化 されておらず、すべて 熟 練 した 制 作 スタッフが 人 力 で 行 なった。部 屋 の 境 目 の 扉 を 抜 けた 所 で 映 像 をワイプ 編 集 し、 不 自 然 さが 目 立 たないように繋 いでいる。それにしてもこれだけの 同 じ 動 きのトラッキングショットを 位 置 的にもスピード 的 にも、 精 度 高 く 人 力 でやったことに 驚 きつつも、 斬 新 な 映 像 表 現を 得 るために 試 みられた 技 術 力 と 労 力 、 何 よりも 強 い 執 念 に 感 心 させられた。 写5.5 にスタジオの 様 子 と 作 品 の 1 シーンを 示 す。リボは 後 に 以 下 のように 語 っている 15 。91


このような 映 像 効 果 は 従 来 の 映 画 フィルム 制 作 でも 相 当 の 時 間 と 手 間 をかければ 実 現 できるかもしれない。しかし HDTV を 利 用 したことにより、 撮 影 、収 録 現 場 で 合 成 効 果 を 毎 回 確 認 しながら 行 い、 小 さなスタジオでわずか 3 日 間の 作 業 で 完 了 した。 同 じような 映 像 効 果 を 作 るのに、 従 来 の 映 画 フィルムのやり 方 でやれば 恐 らく 半 年 はかかり、 制 作 費 も 20 倍 掛 かっただろう。当 時 の HDTV 作 品 の 中 で、 斬 新 的 な 映 像 効 果 のでき 上 がり 具 合 もさることながら、HDTV 利 用 により 制 作 日 数 、 制 作 費 とも 大 幅 に 軽 減 できた 点 で 画 期 的 なチャレンジでもあり、その 後 の HDTV の 映 画 応 用 に 大 きな 影 響 を 与 えた。本 作 品 は、 作 品 のシナリオコンセプトと 斬 新 的 な 映 像 効 果 が 表 現 されていることで 評 価 が 高 く、この 制 作 を 通 じて 得 られた 知 見 やノウハウは、 後 述 するリプチンスキーや 中 沢 の 作 品 へと 発 展 、 継 承 されて 行 く。 本 作 品 は、1987 年 、モントルーで 開 催 された 第 1 回 HDTV 国 際 映 像 祭 で 招 待 公 開 され 高 い 評 価 を 得 た。バリー・リボはハイビジョン 草 創 期 の 頃 から NHK と 良 好 な 関 係 にあり、NHK 向 けも 含 め 数 多くの HDTV 作 品 を 制 作 し、ハイビジョン 推 進 に 貢 献 した 功 績 が 評 価 されハイビジョン・アオードを 受 賞 している。(6) "Julia and Julia"本 作 品 は RAI が 1987 年 、 前 述 の 実 験 作 品 『オニリコン』での 制 作 経 験 を 活 かし、HDTV を 利 用 し 制 作 した 本 格 的 長 編 (90 分 ) 映 画 である 16 。 監 督 は 当 時 イタリアで高 く 嘱 望 されていたピーター・デル・モンテ、 撮 影 監 督 はジュセッペ・ロトゥンノ、 俳 優 にはアメリカのトップスターのキャサリン・ターナーとスティング( 有名 なロック 歌 手 )を 配 した。カメラマンやフォーカスマンなどの 制 作 スタッフは『オニリコン』の 時 の 経 験 者 が 担 当 した。この 作 品 も 心 理 的 サスペンスもので、ある 結 婚 式 の 場 面 から 始 まる。 幸 せな 笑顔 を 振 りまきながらハネムーンに 出 発 する 二 人 。そこに 一 陣 の 風 が 吹 き 抜 け、 女のスカーフが 吹 き 飛 ばされ 空 に 舞 う。この 印 象 的 な 出 だしのショットが 二 人 の 不穏 な 行 く 末 を 暗 示 していた。 幸 せいっぱいの 二 人 は 美 しいイタリアの 海 岸 線 を 車で 疾 走 する。その 時 、 二 人 の 車 の 前 に 現 れた 大 型 トラック、 急 ハンドルを 切 るがかわし 切 れず 横 転 する 車 。 車 外 に 放 り 出 された 女 が 気 がつくと、ハンドルを 握 ったまま 気 を 失 っている 男 、 助 け 出 そうとするその 瞬 間 、 車 は 大 音 響 と 共 に 火 に 包まれる。それから 数 年 の 時 が 経 ち、 傷 心 癒 え 始 めていた 女 の 前 に 一 人 の 男 が 現 われ、 新 たな 恋 が 芽 生 え、 再 び 幸 せな 日 が 巡 ってくるかのように 見 えた。ある 日 、女 は 恋 人 に 会 いに 車 を 飛 ばす。 途 中 で 止 められた 工 事 中 のトンネルから 噴 出 する92


白 煙 に 女 の 意 識 は 混 濁 し 始 め、またも 人 生 は 暗 転 する。 今 の 恋 人 と 昔 死 んだはずの 夫 、 現 実 と 夢 の 中 を 錯 綜 し、 見 ている 観 客 も 混 乱 してしまう、このような 筋 立てだ。 写 5.6 に 作 品 の 中 の 1 シーンと 制 作 状 況 を 示 す。この 作 品 の 撮 影 はほとんど HDTV で 行 われたが 17 、 出 だしの 暗 示 的 なスカーフが空 に 舞 うショットは、 当 時 の HDTV でスロー 映 像 は 実 現 できなかったので、ハイスピード 35mm フィルムカメラで 撮 影 した。また 海 岸 線 を 疾 走 する 車 の 走 りを 捉 えた空 撮 シーンは、 重 くて 大 きい HDTV カメラや VTR をヘリコプターに 搭 載 できず、このショットも 35mm フィルムで 撮 影 された。 車 が 炎 上 爆 発 するシーンは 撮 影 チャンスを 逃 さないため、HDTV と 35mm フィルム 両 方 で 撮 影 され、 炎 のシーンや 破 片 が 舞い 落 ちるスロー 映 像 は 高 速 度 フィルムカメラで 撮 影 し、F→V 変 換 され、 各 種 映 像素 材 は HDTV ポストプロダクションで 合 成 された。HDTV で 編 集 され 完 成 した 作 品 はソニーPCL の EBR でフィルムに 変 換 され、 全 世界 の 映 画 館 で 上 映 された。HDTV で 制 作 し、 映 画 興 業 的 にも 成 功 した 本 格 的 商 業 映画 としては 最 初 の 作 品 と 言 える。この 作 品 は 1987 年 、 第 1 回 HDTV 国 際 映 像 祭 に招 待 公 開 され、また 同 年 秋 の 第 2 回 東 京 国 際 映 画 祭 でも 公 開 されたが、 美 しい 景観 とサスペンスタッチの 筋 立 てに、ほとんどの 観 客 は HDTV とかフィルムを 意 識 することなく、 映 画 として 楽 しんでいた。RAI がこの 作 品 制 作 で HDTV を 使 用 した 意 図 は、 前 作 のオニリコンでの 実 験 結 果をさらにアップし、フィルム 制 作 に 比 べ HDTV による 編 集 や 合 成 のやりやすさを 確かめたかったことにある。 技 術 的 には 当 時 の HDTV は 色 々 問 題 あったが、このような 点 でも 映 画 とハイビジョンのメディアミックスが 成 功 した 実 践 例 のひとつである。 上 述 の 東 京 国 際 映 画 祭 シンポジゥムにて、 責 任 者 のフランコ・ビジンティは次 のように 語 っている 18 。作 品 の 中 で 春 夏 秋 冬 の 美 しいイタリアの 景 観 が 使 われているが、アメリカのトップスターを 年 間 通 して 拘 束 することは 莫 大 な 金 額 になる。 背 景 となる 四 季の 風 景 をあらかじめ HDTV で 撮 っておき、スターが 登 場 する 場 面 は 別 撮 りして 合成 した。おかげで 俳 優 の 拘 束 はわずか 3 週 間 のセット 撮 りとロケ 3 週 間 で 済 み、俳 優 のギャラや 撮 影 経 費 を 大 幅 に 軽 減 できた。(7)『 帝 都 物 語 』この 作 品 は 荒 俣 宏 の SF 小 説 『 帝 都 物 語 』を 原 作 とする 日 本 では 最 初 の 本 格 的 ハイビジョン VFX 映 画 で、1987 年 に 実 相 寺 監 督 、 中 堀 カメラマンのコンビにより 制93


作 された 19 。 監 督 は 前 述 の『 東 京 玄 夢 』での 経 験 を 踏 まえ、 全 編 をハイビジョンで制 作 との 話 もあったが、ハイスピードやコマ 撮 りショットなどが 当 時 のハイビジョン 技 術 ではできなかったため、フィルムと 適 材 適 所 で 使 い 分 け、ハイビジョンは 主 に 合 成 部 分 に 使 うことにした 20 。この 作 品 はフィルムとハイビジョンが 混 在 使用 され、 完 成 版 はフィルムで 上 映 されることから、 制 作 担 当 スタッフは 両 者 で 異なる 様 々な 要 素 、すなわち 画 角 やイメージサイズ、 感 度 やトーン、 鮮 鋭 度 、それらに 対 する 適 正 な 輪 郭 補 正 や 色 あわせ、レンズの 歪 や 被 写 界 深 度 などについて、実 際 にテスト 撮 影 し 比 較 評 価 するなど 事 前 準 備 を 行 い 本 番 に 臨 んだ。本 番 では、フィルム 素 材 の 撮 影 は 主 に 東 宝 スタジオで、ハイビジョンによるクロマキー 合 成 部 分 などの 特 撮 はソニーPCL で 行 われた 21 。 使 われたハイビジョン 機材 は 前 作 までと 同 じカメラと VTR が 2 式 ずつ、 他 に 30"モニター、クロマキー、HDアルチマットなどである。ハイビジョン 撮 影 は 映 画 手 法 に 倣 い、ほとんどのシーンが 単 焦 点 レンズを 使 って 行 われた。その 理 由 は、 事 前 テストの 結 果 、 単 焦 点 レンズはズームレンズに 比 べ 歪 が 少 なく、 周 辺 解 像 度 も 高 く、35mm シネカメラの 18mmレンズとハイビジョンの 11.5mm レンズがほぼ 同 じサイズであることなどを 確 認 し、フォーカスフォローを 映 画 スタイルでやることなどを 考 慮 したためである。この 作 品 の 制 作 では、 作 品 の 時 代 背 景 や 監 督 の 求 める 映 像 表 現 のためか、 画 調はローキーを 重 視 するシーンが 多 く、さらに 異 様 な 雰 囲 気 を 醸 し 出 すためスモーク 効 果 も 多 用 された。ハイビジョン 制 作 担 当 者 によると、 当 時 のハイビジョンはもともと 暗 部 の 再 現 性 が 不 得 手 だったのに、スモークにより 一 層 黒 が 浮 いたようなトーンになってしまったので、 視 覚 的 に 適 切 になるように 映 像 信 号 のセットアップ 値 や 暗 部 のガンマ 量 を、 通 常 の 映 像 設 定 とはかなり 変 え 柔 軟 に 調 整 し 演 出 の狙 いを 満 たすように 心 がけたそうだ。 写 5.7 にハイビジョン 撮 影 状 況 と 作 品 の 中の 合 成 シーンを 示 す。この 制 作 における 映 像 合 成 はクロマキーと HD アルチマットを 適 宜 使 い 分 けて 行われたが、 標 準 テレビ 用 機 器 をハイビジョン 用 に 改 修 したもので 十 分 な 性 能 を 持ちえなかった。また 収 録 や 編 集 に 使 われた VTR は、アナログ 方 式 のため SN 比 の 点でダビング 回 数 に 制 約 があり、 最 大 で 4 重 合 成 くらいが 限 度 だった。このような機 器 の 状 況 を 考 慮 し、 映 像 合 成 は 現 場 の 撮 影 、 収 録 段 階 で 効 果 映 像 のでき 具 合 を綿 密 に 確 認 し、できるだけ 撮 影 時 に 完 成 度 を 高 めるようにした。このような 制 作法 をとったことにより、 事 後 の 取 り 直 しなども 避 けられ、 制 作 作 業 は 映 画 のオプティカル 法 よりもずっと 効 率 的 に 進 み、しかも 高 品 質 の 映 像 表 現 ができた。ハイビジョンで 編 集 されたハイビジョン 映 像 はソニーPCL の EBR で 35mm フィル94


ムに 変 換 され、 最 終 的 にフィルムで 編 集 され 完 成 版 になった。フィルム 直 のカットとハイビジョンから 変 換 されたフィルムが 混 在 していたが、 東 宝 で 行 われた 試写 会 ではどの 部 分 がハイビジョンで 制 作 されたか 識 別 できた 人 は 稀 だった。その後 、 本 作 品 は 一 般 の 映 画 館 で 公 開 され 好 評 を 博 した。ここの 記 したことは 学 会 発表 や 前 述 の『 帝 都 物 語 』 以 来 の 監 督 やカメラマン、VFX アドバイザー、ハイビジョン 制 作 担 当 のソニーPCL スタッフとの 交 流 関 係 で 入 手 したものである。この 作 品 は 劇 場 公 開 とは 別 に、 完 成 作 品 をあらためてテレシネで F→V 化 したハイビジョンバージョンも 作 り、 渋 谷 のレストランに 仮 設 されたハイビジョンシアターで 公 開 された。いわばテンポラルなレストランシアターの 実 験 的 試 みだったが、 詳 細 については 第 6 章 にて 述 べる。この 作 品 によりハイビジョンの 映 画 応 用 がビジネス 的 に 見 ても 成 立 することが実 証 されたということで、 同 じ 頃 『 舞 姫 』( 篠 田 正 浩 監 督 、1988)、『 大 霊 界 』( 丹波 哲 郎 監 督 、1989)、『 水 の 旅 人 』( 大 林 宣 彦 監 督 、1993)など 多 くの 作 品 制 作 にハイビジョンが 使 われていくきっかけになった 点 でも 大 きな 意 義 があった。(8)『 日 中 美 ・その 融 合 』日 本 と 中 国 間 で、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 試 みも 行 われた。1988 年 、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 と 中 国 電 影 電 視 技 術 学 会 は「 日 中 映 画 テレビ 技術 協 力 」のもとに、 中 国 からの 技 術 研 修 生 受 け 入 れと 共 にハイビジョンを 利 用 した 日 中 合 作 映 画 を 制 作 することになった 22 。 国 内 ではハイビジョン、 映 画 関 係 者 らによる 委 員 会 が 組 織 され 作 品 の 制 作 方 法 や 実 験 項 目 の 検 討 が 綿 密 に 行 われた。そして 日 中 共 同 により 新 橋 演 舞 場 で 歌 舞 伎 と 京 劇 の 合 同 公 演 がなされることになり、その 演 目 だった「リュウオー」を 取 上 げることになり、 作 品 のタイトルは『 日 中美 ・その 融 合 』( 監 修 : 八 木 信 忠 )になった 23 。中 国 での 素 材 の 撮 影 は 35mm フィルムでなされ、 松 竹 演 舞 場 での 撮 影 は 35mm フィルムとハイビジョンの 両 方 で 行 われ、 特 撮 およびポスプロ 作 業 はイマジカのスタジオで 行 なわれた。 制 作 されたハイビジョン 映 像 はイマジカの LBR でフィルムに 変 換 され、 直 に 撮 影 されたフィルム 素 材 と 合 わせフィルムで 編 集 され 完 成 版 となった。また 音 声 系 のダビング 作 業 は 日 大 芸 術 学 部 映 画 学 科 でなされ、フィルムへの 録 音 は 第 2 章 に 記 したレーザー 光 学 録 音 を 使 って 行 われた。 写 5.8 に 作 品 の中 の 1 シーンと 合 成 部 分 の 撮 影 状 況 を 示 す。こうして 完 成 された 作 品 は、1989 年 5 月 の 映 画 テレビ 技 術 協 会 総 会 で 公 開 され、さらに 上 記 委 員 会 での 作 品 評 価 と 共 にハイビジョンカメラの 感 度 、フィルムとハイビジョンの 特 性 の 違 いに 伴 うトーン 合 わせ、 映 像 モニターのセッティング 法 な95


ど 様 々な 技 術 的 問 題 点 の 検 証 も 行 なわれ 報 告 された。さらに 同 作 品 は 同 年 秋 、カナダのモントリオールで 開 催 された 国 際 フォーラム「ユニアテック(フランス 語で 映 画 技 術 関 連 の 国 際 連 合 機 関 )」の 場 で、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 から 公 開 、 報告 された 24 。 当 時 世 界 的 には 例 が 少 なかった「 映 画 と HDTV 技 術 の 融 合 」と 言 うこともあり 大 きな 反 応 と 高 い 評 価 が 与 えられた。 日 中 の 両 団 体 が 国 際 協 力 し、 映 画とハイビジョンを 融 合 し 合 作 映 画 を 制 作 したことはまさに「 融 合 」というタイトル 名 を 象 徴 する 意 義 高 い 取 り 組 みだった。(9)『 夢 』"DREAMS": 日 米 合 作 のハイビジョン 利 用 の 映 画スティーブン・スピルバーグ 総 指 揮 、 黒 沢 明 監 督 の 両 巨 匠 のもと、1989 年 、 日 米合 作 でハイビジョンを 利 用 し 制 作 された 映 画 ( 米 国 での 作 品 名 "DREAMS")である。8 話 のオムニバス 構 成 の 作 品 で、その 中 の「 鴉 」 編 でハイビジョン 技 術 が 大 変 効 果的 に 使 われた 25 。 寺 尾 聡 演 じる 画 学 生 が 展 覧 会 場 に 飾 られたゴッホの 絵 に 見 入 るうち、いつの 間 にか 絵 の 中 に 入 り 込 み 自 由 に 動 き 回 る 映 像 表 現 をハイビジョン 技 術により 実 現 した。 最 近 のテレビ 番 組 や CM 作 品 では、このような 絵 画 の 静 止 画 像 と動 画 の 合 成 はそれほど 珍 しくないが、 当 時 としてはハイビジョン 特 殊 合 成 技 術 を活 用 し 実 現 した 大 変 斬 新 的 な 映 像 表 現 だった。背 景 となるゴッホの 絵 画 は 8"×10"の 高 解 像 度 フィルムで 撮 影 され、 印 刷 用 スキャナーでハイビジョン 映 像 化 され、この 静 止 画 像 とハイビジョンカメラで 撮 影 した 動 き 回 る 学 生 の 映 像 が 合 成 された。 合 成 に 使 う 前 景 の 撮 影 は 東 宝 スタジオ 最 大の 第 8 ステージで 行 われ、 壁 面 いっぱいに 大 型 ブルースクリーンが 設 置 され、その 前 で 俳 優 の 演 技 が 行 われた。 平 面 的 な 絵 画 の 中 を 実 写 映 像 の 人 物 が 動 き 回 る 際 、できるだけ 自 然 感 が 出 るように、 絵 画 のパーツを 分 解 し 前 後 関 係 を 作 り、その 中間 部 に 人 物 を 貼 り 付 け 立 体 感 を 出 すとか、 動 く 人 物 の 影 を 背 景 に 貼 り 付 け、イフェクト 用 に 煙 を 重 ね 合 わせるなど 様 々な 工 夫 が 施 された。このような 効 果 映 像 にはスロー 映 像 が 使 われたが、その 素 材 の 撮 影 は 高 速 度 シネカメラで 行 われた。この 作 品 では 多 種 多 彩 な 映 像 効 果 が 使 われているが、その 中 の 圧 巻 の 映 像 表 現はゴッホの 有 名 な「 麦 畑 」の 絵 のシーンである。 画 学 生 がゴッホを 追 いかけ 麦 畑の 中 へ 入 っていくと 周 囲 から 沢 山 の 鴉 が 飛 び 立 ち 空 を 舞 う。このショットの 撮 影は 北 海 道 の 本 物 の 麦 畑 の 中 で 行 われ、 画 学 生 が 歩 くそばから 本 物 の 鴉 をあちらこちらから 放 ち、ハイビジョンカメラと 35mm フィルム 両 方 で 撮 影 し、アルチマットを 使 って 多 重 合 成 され、 鴉 は 何 百 羽 にも 増 やされた。 写 5.9 に 制 作 状 況 と 合 成 により 制 作 された 映 像 を 示 す。従 来 の 単 純 なブルーマット 合 成 では、 背 景 と 前 景 となる 人 物 の 動 き 連 動 させる96


ことは 難 しかったが、この 作 品 では 背 景 と 前 景 をシンクロさせて 自 然 な 移 動 ショットを 実 現 した。 動 きのある 複 雑 な 多 重 合 成 を 行 うため、モーション・コントロール 制 御 によるハイビジョンカメラで 撮 影 した。しかしこの 時 使 ったシステムはまだ 開 発 途 上 で、まだ 十 分 なコンピュータ 制 御 ができず 手 動 による 操 作 が 多 かったが、 従 来 の 合 成 法 よりは 格 段 に 自 然 観 のある 映 像 表 現 が 実 現 できた。その 後 、このシステムは 改 善 改 良 が 加 えられ、1 年 後 には 完 全 なコンピュータ 制 御 になり、他 の 作 品 の 制 作 で 有 効 に 使 われていった。またこの 作 品 では、 色 調 、 階 調 、 鮮 鋭 度 やノイズなど 画 質 が 異 なる 高 精 細 写 真フィルムや 映 画 フィルム、ハイビジョン 映 像 が 混 在 して 使 われたが、 全 体 を 通 してトーンをできるだけ 統 一 するためフレーム 単 位 で 綿 密 な 画 質 調 整 が 行 なわれた。上 述 した 合 成 画 面 の 作 成 や 映 像 画 質 の 調 整 などの 作 業 は、 制 作 現 場 においてハイビジョンモニター 上 で 映 像 を 細 かく 確 認 しながら 行 われたが、このようなやり 方は 映 画 のオプティカル 法 では 不 可 能 なことだった。 電 子 メディアであるハイビジョンを 活 用 したことにより 演 出 的 にも 技 術 的 にも 作 品 の 質 を 高 め、 制 作 効 率 を 大幅 に 向 上 し 制 作 時 間 や 制 作 費 を 軽 減 することができたのである。ここで 述 べた「 鴉 」 編 も 含 め 完 成 した『 夢 』は、1990 年 日 米 で 公 開 され 高 い 評価 を 得 た。ハイビジョンと 写 真 、 映 画 フィルムを 見 事 にメディアミックスし 制 作した 格 好 の 実 践 例 であり、この 作 品 を 通 じて 開 発 された 映 像 表 現 技 術 やノウハウは、その 後 の 作 品 制 作 に 生 かされていき、 今 日 では 映 画 だけでなくテレビ 番 組 やCM 作 品 などでもしばしば 眼 にする 表 現 技 法 になっている。ここに 記 した 情 報 は 学会 発 表 での 報 告 とハイビジョン 制 作 担 当 者 から 直 接 入 手 したものである。この 作 品 制 作 の 約 2 年 後 、 黒 澤 監 督 は 前 作 での 経 験 を 経 て、さらにハイビジョンによる 合 成 技 術 を 多 用 した『 八 月 の 狂 詩 曲 (ラプソディ)』を 制 作 している 26 。その 作 品 の 中 の 代 表 的 合 成 シーンを 写 5.10 に 示 す。この 作 品 のハイビジョン 制 作および VFX アドバイザーは『 夢 』と 同 じスタッフで 行 われた。(10)『オーケストラ』"The Orchestra"ポーランド 出 身 の 鬼 才 と 言 われた 映 画 監 督 ズビグニェフ・リプチンスキーは、 東欧 諸 国 に 自 由 化 の 嵐 が 吹 き 荒 れた 頃 「 連 帯 」のメンバーになり、1982 年 アメリカに 亡 命 した。まもなくニューヨークで 前 述 のバリー・リボと 会 い、 新 たな 映 像 メディアとしての HDTV に 接 し、 前 述 の『イマジン』の 制 作 に 参 画 した。その 後 、 自身 のスタジオ「ズビック・ビジョン」を 創 設 し 本 格 的 に 創 作 を 始 めた。 元 々 映 画のオプティカル 技 法 の 専 門 家 でもあり、それと 高 画 質 で 効 率 的 制 作 が 可 能 な HDTV技 術 の 融 合 を 試 みようとした。97


リプチンスキーは『イマジン』で 試 みた 手 法 をさらに 発 展 させ、1990 年 、 奇 想天 外 な 映 像 表 現 を 盛 り 込 んだ HDTV 作 品 『オーケストラ』を 制 作 した 27 。 一 切 セリフがなく、 誰 もが 耳 にしたことのあるクラシックの 名 曲 に 合 わせ、 不 可 思 議 な 映像 の 世 界 が 次 々と 展 開 される。ショパンの「 葬 送 行 進 曲 」では、 少 女 や 若 いカップル、 老 夫 婦 など 様 々な 人 達 が、ピアノ 鍵 盤 を 途 切 れることなく 叩 き、 絶 え 間 なく 続 く 横 移 動 のトラッキングショットの 中 で、 入 れ 替 わり 立 ちかわり 現 れては 消える。シューベルトの「アベ・マリア」のシーンでは、 優 雅 なメロディに 合 わせ、写 5.11 に 示 すに 示 すように 二 人 の 男 女 が 教 会 の 中 を 優 雅 に 浮 遊 する。 二 人 は 直 立したまま 静 かに 空 中 に 舞 い 上 がり、やがてゆっくりと 教 会 の 空 間 の 中 を 遊 泳 し、太 い 円 柱 の 背 面 を 通 り 再 び 正 面 に 現 れる。 直 立 したままの 姿 で 真 逆 様 に 舞 うかと思 うと、 両 手 を 広 げて 寝 たままの 姿 で 空 中 を 舞 う。 何 とも 不 可 思 議 だが 優 雅 な 映像 である。ロッシーニの「どろぼうかささぎ」 序 曲 では、ルーブル 美 術 館 の 中 で若 い 兵 士 と 乙 女 たちが 恋 の 戦 争 を 繰 り 広 げる。ラベルの「ボレロ」では、 大 勢 の老 若 男 女 が 音 にあわせ 空 中 に 浮 遊 する 無 限 に 続 く 階 段 を 上 っていく。 全 編 を 通 しセリフはなく、 作 家 リプチンスキー 自 身 の 頭 の 中 のイメージが 不 可 思 議 な 映 像 の世 界 に 投 影 されている。 観 客 は 奇 想 天 外 な 映 像 展 開 に 度 肝 を 抜 かれ、そして 不 思議 な 魔 力 に 引 き 込 まれてゆく。このような 幻 想 的 で 不 思 議 な 映 像 世 界 を 表 現 するため 使 われたシステムは 次 の通 りである。 連 続 的 に 繰 り 返 し 演 じられるアクションの 撮 影 は、リプチンスキーが 独 自 に 開 発 したモーション・コントロールシステムが 使 われた。 合 成 映 像 撮 影用 にスタジオ 壁 面 一 杯 にブルースクリーンを 設 置 し、フラット 照 明 によりホリゾントの 照 度 が 一 様 にかつ 被 写 体 へのかぶりを 軽 減 するように 約 20 度 位 傾 けた 構 造になっている。カメラのパン、チルト、ズームおよびフォーカスはモーション・コントロールシステムのデータによりコンピュータ 制 御 され、 背 景 映 像 とシンクロし、パースペクティブも 合 致 するように、 自 然 な 合 成 映 像 が 実 現 されている。前 景 と 背 景 映 像 の 合 成 装 置 にはアルチマットを 使 い、その 他 の HDTV 機 材 としては、第 2 世 代 のカメラ(HDC-300)1 台 とアナログ VTR4 台 、スイッチャー、 編 集 機 とかなりコンパクトな 構 成 だった。これらのシステムを 使 い、リプチンスキーは 独 特の「ナマ 合 成 編 集 」 技 法 を 活 用 した。これはブルーバック 前 で 撮 った 映 像 をその場 で 合 成 し、それに 新 たに 合 成 を 重 ねていき、5 重 、6 重 、 時 には 15 重 にもなる多 重 合 成 を 行 い、 最 後 のカットを 合 成 したら 作 品 が 完 成 するという、ほとんどポストプロダクション 作 業 を 必 要 としない 独 特 の 制 作 手 法 だった。 当 時 のアナログシステムの 性 能 、 機 能 性 からして、この 手 法 はかなり 難 しいことだったと 思 われ98


るが、リプチンスキーは HDTV を 利 用 することにより 従 来 の 映 画 制 作 法 では 不 可 能だった 斬 新 な 映 像 効 果 を 高 画 質 で 効 率 的 に 創 りえることを 実 証 した。この 作 品 での 制 作 手 法 は 次 作 品 の"KAFCA"(1991)や 後 述 する 中 沢 英 夫 の 作 品 に 大 きな 影 響 を与 えることになった。この 作 品 は 世 界 各 国 の 映 画 館 で 公 開 され 大 きな 反 響 を 集 めた。また 特 別 の 試 みとして、90 年 秋 、 日 本 初 のハイビジョン 有 料 シアター「 渋 谷 パルコ・スペース・パート3」でも 公 開 され、 一 般 興 行 としても 成 功 をおさめたが、そのことについては 第 6 章 で 述 べる。これはこの 作 品 が 新 しい 映 像 の 世 界 を 創 りだした 点 で、 数 多いハイビジョン 作 品 の 中 で 高 く 評 価 されている 証 し でもある。(11)『 夢 の 涯 てまでも』"Until the End of the World"1991 年 、NHK は 海 外 の 著 名 監 督 のヴィム・ヴェンダースと 後 述 するピーター・グリナウェイ 監 督 と 共 同 で 2 本 のハイビジョン 利 用 の 映 画 を 制 作 した。その 1 本 が、『ベルリン・ 天 使 の 詩 』で 世 界 中 の 絶 賛 を 浴 びたドイツの 鬼 才 ヴィム・ヴェンダース 監 督 が、 長 年 にわたり 暖 めていた 構 想 をハイビジョンを 使 って実 現 した 作 品 『 夢 の 涯 てまでも』である 28 。 時 は 21 世 紀 を 目 前 にして 危 機 感 と 期待 感 の 交 錯 する 近 未 来 の 世 界 を 舞 台 に、 老 いた 夫 婦 の 死 と 若 い 恋 人 たちの 愛 と 別れ、そして 家 族 の 絆 を 描 いた 作 品 で、 現 代 人 が 忘 れかけている「 夢 」の 力 を 問 いかける 叙 事 詩 のような 作 品 である。 日 、 米 、 独 、 仏 、 豪 の 5 カ 国 合 作 で、フランス、ドイツ、アメリカ、 日 本 、オーストラリアなど 10 カ 国 以 上 にわたる 横 断 ロケが 重 ねられ、スケールの 大 きさでも 話 題 を 呼 んだ。この 作 品 の 中 で 重 要 なシーンの 映 像 表 現 に、ヴェンダースは 新 たな 映 像 ツールとして、 注 目 を 集 め 始 めていたハイビジョンを 利 用 した 29 。 作 品 の 中 で、 全 盲 となった 母 のため「イメージを 大 脳 に 直 接 映 し 出 す」マシンを 抱 え、 両 親 が 若 い 頃 に旅 した 場 所 の 景 色 を 収 録 し、 従 来 の 映 画 では 登 場 したことのない 夢 のイメージを、ハイビジョン 技 術 を 使 って 映 像 化 した。ヴェンダース 自 身 が 撮 ったフィルムやビデオなどの 映 像 素 材 は、この 頃 から 使 われ 始 めていたハイビジョンデジタル VTR(HDD1000)に 収 録 され、 第 4 章 に 記 したペイントボックスやマットボックス、カラーコレクターなどをフルに 使 い、 複 雑 な 映 像 処 理 が 繰 り 返 された。 画 家 で 写 真家 でもあるヴェンダースは、 自 身 でこれらの 映 像 加 工 処 理 作 業 に 立 ち 会 い、 画 像によっては 数 10 回 以 上 にもわたるデジタル 処 理 合 成 を 重 ね、 元 の 映 像 素 材 とイメージは 同 じでもまったく 違 う、 独 自 の 光 と 色 を 持 つ 点 描 画 のような 映 像 を 創 りあげた。 印 象 派 絵 画 のテクスチャーを 感 じさせる 動 く 絵 画 とでも 言 うべき 斬 新 な 映像 表 現 だった。 写 5.12 に NHK ハイビジョン 編 集 室 での 制 作 状 況 と 制 作 された 映 像99


表 現 例 を 示 す。ヴェンダースはハイビジョンでの 映 像 加 工 ・ 処 理 と 出 来 上 がった 映 像 表 現 について、 制 作 後 、 次 のように 語 っている 30 。 映 画 の 中 でハイビジョンが 発 揮 した 力 、特 徴 を 如 実 に 語 っているので 監 督 の 談 の 抜 粋 を 上 げておく。眠 っている 人 間 の 脳 の 働 き、 動 きは 実 に 不 可 思 議 で 何 の 法 則 もなく、 脳 はその 人 間 の 意 思 と 無 関 係 の 独 立 した 存 在 である。 半 分 はイメージがジャンクヤードの 中 にごちゃごちゃに 押 し 込 まれている 状 態 で、あとの 半 分 は 視 覚 的 な 予 知機 能 とでも 言 えるような、あるいは「 語 」から 成 り 立 っていると 考 えた。そこで 我 々がやったのは、 電 子 媒 体 を 解 き 放 し、 画 像 を 構 成 している 何 百 万 という画 素 を 自 由 に 動 かしてみたらどうなるだろうか、あるいは 画 家 がごく 自 然 に 絵筆 やチョーク、 絵 の 具 を 使 うようにコントロールした 場 合 どうなるだろうかということだった。 実 験 を 重 ねるうち 次 第 にデジタル 処 理 のメカニズムが 理 解 できるようになり、 試 行 錯 誤 を 何 度 も 繰 り 返 した 後 にハイビジョンは 驚 くべき 画像 を 見 せてくれるようになった。 鮮 明 な 色 彩 を 持 ち、 信 じ 難 いほどの 光 度 と 高品 位 の 画 像 だった。 素 材 として 使 ったものと 同 じでありながらそこに 現 れていたのは、 独 自 のクオリティを 持 った 画 像 だった。ハイテクの 粋 を 集 めたハイビジョン 編 集 室 にいながら、 実 際 に 画 家 たちが 訪 ねてきたような 気 がした。まず 印 象 派 の 画 家 達 が 現 れ、 次 に 点 描 画 の 画 家 達 も 登場 し、キュービズムや 未 来 派 の 画 家 達 も 訪 れた。あのターナーがちょっと 顔 を出 し、ルノアールやスーラが「こんにちは」と 言 い、ドガは 画 面 から 手 を 振 った。ピカソとカンディングスキーは 我 々のそばを 歩 いていた。あるイメージは「エレクトロニック・モナ・リザ」とまで 呼 んだものだった。 無 論 、 絵 画 の 巨匠 達 と 同 じ 様 に「 絵 を 描 くことが 出 来 た」などというつもりはないし、そう 考えること 自 体 突 拍 子 もないことだと 思 う。ただ、 我 々は 全 く 新 しい 分 野 に 挑 戦することが 出 来 たし、ハイビジョンが 芸 術 の 分 野 でも 様 々な 可 能 性 を 持 っていることや、それがまぎれもなく 映 画 をより 豊 かなものにしていく 力 になり、ひいては 21 世 紀 の 映 像 言 語 たりえるということを 現 実 に 示 すことが 出 来 たことを誇 りに 思 っている。いつの 日 か 画 家 達 も 実 際 にこの 媒 体 を 使 った 仕 事 が 出 来 る可 能 性 を 示 せたように 思 う。この 監 督 自 身 の 話 にもあるように、ハイビジョンはその 可 能 性 の 高 さゆえに 新たな 映 像 表 現 法 たりえるものとして 高 く 評 価 された。 完 成 された 3 時 間 の 長 編 作100


は、1991 年 9 月 開 催 されたベルリン 映 画 祭 のメイン 会 場 でヴェンダース 監 督 以 下 、主 な 出 演 者 やスタッフ 参 加 のもと 公 開 された 31 。 作 品 上 映 終 了 後 、 壇 上 に 上 がったヴェンダースらに 対 し 拍 手 が 鳴 り 止 まぬほどの 絶 賛 だったそうだ。その 後 、ドイツ 国 内 を 皮 切 りに 世 界 各 国 で 公 開 され 好 評 を 博 したと 報 じられている。 日 本 では同 年 10 月 開 催 の 東 京 国 際 映 画 祭 のクロージングを 飾 り、それまで 見 たことも 無 い映 像 詩 、 映 像 美 に 対 して 映 画 界 、ハイビジョン 界 含 め 一 般 の 来 場 者 から 高 い 評 価が 与 えられた。5.3 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおける 制 作 技 法および 映 像 表 現前 節 では、80 年 代 初 頭 から 90 年 代 半 ば 頭 まで 行 われたハイビジョンと 映 画 のメディアミックス 実 践 例 の 中 で、 主 な 11 作 品 を 選 び、それぞれについて 概 括 的 に 述べた。これらの 実 践 は、 黎 明 期 の 頃 の 手 作 りの 技 研 製 試 作 機 に 始 まり、その 後 、メーカーによる 実 用 機 を 経 て 年 々 機 器 の 性 能 、 機 能 は 向 上 し、アナログ 式 からデジタル 式 へと 制 作 環 境 が 変 わる 中 で 行 われたものである。それぞれの 制 作 条 件 、制 作 のやり 方 、ワークフローも 異 なり、それらの 実 践 を 通 じて 制 作 されたコンテンツは 多 種 多 様 で、 実 現 された 映 像 表 現 も 多 彩 である。本 節 では、 当 時 行 われた 多 くの 制 作 実 践 の 中 で、とりわけメディアミックスの色 合 いが 濃 く、その 後 の 他 の 作 品 に 大 きな 影 響 を 与 えた 事 例 を 取 り 上 げ、それぞれの 実 践 の 中 で 遭 遇 した 問 題 と 解 決 策 、どのような 技 術 やノウハウが 編 み 出 され、どのような 制 作 技 法 をとり 斬 新 な 映 像 表 現 が 実 現 されたのかなどについて、 具 体的 に 詳 細 に 検 証 し、 考 察 してみたい。5.3.1 多 種 多 様 な 映 像 素 材 を 混 在 し 制 作 した 最 初 のハイビジョン 利 用 の本 格 的 商 業 映 画 『 西 遊 記 』この 作 品 は 中 国 古 典 の 名 作 『 西 遊 記 』を 原 作 とし、その 中 の「 火 焔 山 編 」を 子供 向 けにアレンジしたもので、 松 竹 と NHK グループが 1988 年 、 共 同 制 作 した 商 業映 画 である。フィルムとハイビジョン 映 像 を 混 在 使 用 し、 様 々な 問 題 点 を 克 服 し制 作 されたメディアミックス 初 期 の 作 品 である。(1) 作 品 、 制 作 のポイント数 々の CM 作 品 の 制 作 で 特 撮 を 手 がけ、カンヌ 国 際 広 告 映 画 祭 などで 受 賞 暦 を 持つ 内 田 健 太 郎 監 督 が、 映 画 とハイビジョン 両 分 野 の 制 作 スタッフを 束 ねて 制 作 した 作 品 32 で、 国 内 ではハイビジョン 利 用 による 最 初 の 商 業 映 画 である。それまでフ101


ィルム 制 作 をベースにしていた 監 督 が、まだ 技 術 的 に 未 成 熟 だったハイビジョンを 使 おうとした 主 な 理 由 は、 合 成 映 像 の 制 作 に 従 来 のオプティカル 技 法 のかわりに、 電 子 メディアとしてのハイビジョンを 活 用 したいと 考 えた 点 にある。この 作 品 の 制 作 プロセスを 図 5.1 に 示 すが、 以 下 のような 多 種 多 様 な 映 像 素 材 が混 在 して 使 用 された 33 。・フィルムで 撮 影 され、そのまま 直 で 使 われたフィルム 画 像・フィルムで 撮 られ、テレシネで 変 換 されたハイビジョン 映 像・ハイビジョンカメラで 撮 影 されたハイビジョン 映 像・ 別 の 作 品 に 使 われたハイビジョン 映 像・ 別 の 標 準 テレビ 作 品 の 素 材 をアップコンバートしたハイビジョン 映 像これらの 素 材 を、 性 能 、 機 能 も 十 分 とはいえなかったハイビジョン 機 材 を 使 い、それまで 試 みたことがないような 映 像 効 果 、 映 像 表 現 を 目 指 し、 事 前 準 備 から 本番 まで 数 々の 実 験 、テスト、 試 行 錯 誤 を 重 ね、 制 作 が 行 なわれた。ハイビジョンで 編 集 された 映 像 はフィルムに 変 換 され、 直 のフィルム 素 材 とあわせてフィルム編 集 が 行 われ、 音 入 れされて 完 成 版 となった。図 5.1:『 西 遊 記 』の 制 作 プロセス 34(2) 事 前 準 備 およびスタジオでの 撮 影 収 録本 作 品 は、 映 画 とハイビジョンそれぞれの 専 門 の 混 成 チームが、 多 種 多 彩 な 映像 素 材 を 使 い、それぞれの 専 門 性 をベースに 新 たな 手 法 、 映 像 表 現 を 編 み 出 しながら 制 作 を 行 った。しかし 映 画 の 世 界 とハイビジョン 業 界 では、それぞれの 制 作のやり 方 は 違 うし 初 めての 試 みも 多 かったため、シネカメラとハイビジョンカメ102


ラ、それぞれのレンズの 準 備 、 事 前 テストを 両 陣 営 が 協 力 しながら 十 分 に 行 い、その 上 で 本 番 制 作 においても 様 々な 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ 制 作 が 行 われた。フィルムおよびハイビジョンでの 主 なシーンの 撮 影 は、 松 竹 大 船 撮 影 所 で 行 われた 35 。 同 所 の 第 10 ステージは、この 作 品 の 制 作 のため 改 修 が 加 えられ、 正 面 ホリゾントはクロマキー 合 成 のために 均 一 なブルーで 全 面 塗 装 し 直 された。その 横手 を 暗 幕 テントで 仕 切 り、 映 像 確 認 用 に 120"サイズの 大 型 ハイビジョンディスプレイを 設 置 した。またスタジオの 外 にプレハブ 小 屋 を 仮 設 し、その 中 に 映 像 処 理プロセッサー、VTR、 映 像 モニター、 各 種 ハイビジョン 機 器 を 並 べた。これらの 機器 や 大 型 ディスプレイは、 撮 影 中 のカメラワーク、 構 図 、フレーム、レンズのフォーカスなどのチェックなどとともに、 映 像 信 号 のレベルやガンマ、 色 調 の 調 整だけでなく 映 像 合 成 効 果 のでき 具 合 の 確 認 にも 使 われた。 現 場 での 制 作 状 況 を 写5.13a~e に 示 す。(3) フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 が 混 在 する 際 の 問 題本 作 品 は 前 述 のように、 様 々な 素 性 の 特 性 や 画 質 が 異 なるフィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 を、F→V 変 換 および V→F 変 換 を 通 しつつ 混 在 使 用 し 制 作 が 行 なわれた。そのため 以 下 に 述 べるような 様 々な 問 題 に 遭 遇 したが、 事 前 準 備 、 本 番 ともそれらを 考 慮 しテストを 重 ね 制 作 を 行 った。第 1の 問 題 は、 第 4 章 にて 述 べたフィルムとハイビジョンの 毎 秒 コマ 数 の 違 いに 伴 う 点 である。 制 作 に 際 して、フィルム 撮 影 を 毎 秒 何 コマで 行 うか 検 討 され、第 4 章 に 記 した NHK 局 内 の「ハイビジョン・フィルム 利 用 技 術 推 進 プロジェクト」での 検 討 結 果 を 参 考 にし、ハイビジョンとの 合 成 に 使 うフィルム 素 材 は 毎 秒 30 コマで 撮 影 することにした。それに 応 じてハイビジョンテレシネでのフィルム 走 行は 毎 秒 30 コマとし、2-2 変 換 で 60 フィールドに 変 換 した。この 方 法 をとったことにより、フィルム 素 材 のハイビジョン 編 集 は、 何 の 制 約 もなく 通 常 通 り 自 由 に 効率 的 に 行 うことができるようになった。第 2 の 問 題 は、ハイビジョンとフィルムのアスペクト 比 、 画 枠 (シネカメラや映 写 機 のアパーチャーゲート 枠 )の 違 いに 伴 う 点 である。アスペクト 比 に 関 する基 本 的 なことについては 第 4 章 に 述 べたが、それよりも 実 際 的 な 問 題 だったのは、フィルムとハイビジョンで 撮 影 に 使 うカメラやレンズによりイメージサイズが 違うことだった。その 違 いがどの 程 度 あるのかを 確 認 するため、 制 作 に 使 うシネカメラとハイビジョンカメラ それぞれについて、 幾 つかのレンズを 使 い 実 際 にテストパターンを 撮 影 し 比 較 評 価 を 行 った 36 。その 結 果 、 両 者 のレンズの 関 係 について、およそ[ハイビジョンレンズの 焦 点 距 離 ≒フィルムレンズの 焦 点 距 離 ×0.6]の 関 係103


があることを 確 認 し、それを 目 安 に 本 番 の 撮 影 を 行 なうことにした。もうひとつの 制 作 上 の 実 際 的 な 問 題 は 画 枠 の 点 で、F→V 変 換 用 テレシネ 装 置 と V→F 変 換 用 フィルム 録 画 機 のブランキングによるセーフティゾーンとフィルム 映 写 機 のアパーチャーゲート(フィルムのフォーマットにより 異 なる)について 考 慮 しなければならなかったことである。テストをした 結 果 、ハイビジョンのブランキング 期 間に 関 して、 水 平 方 向 で 左 右 約 5%ずつ、 垂 直 方 向 で 上 下 約 10%ずつのけられを 見込 む 必 要 があることを 確 認 し、 本 番 ではその 点 を 考 慮 し 制 作 した。これらの 事 前 テストの 結 果 を 踏 まえ、 本 番 制 作 の 時 には 合 成 用 の 前 景 、 背 景 の撮 影 に 際 して、 上 述 の 関 係 に 近 いレンズを 選 択 し、その 上 でカメラのビューファインダーや 映 像 モニター 画 面 上 に、セーフティゾーンを 示 すマーカを 貼 りそれを目 安 として 撮 影 を 行 った。第 3 の 点 は 多 種 多 様 な 映 像 素 材 の 画 質 の 問 題 で、 基 本 的 なことについては 第 4章 にて 述 べてある。この 作 品 では、 前 述 のように 様 々なプロセスを 経 たフィルム画 像 とハイビジョン 映 像 が 混 在 使 用 され、 最 終 的 に 完 成 版 はフィルムになった。そのため、 映 像 素 材 の 素 性 によって 異 なる 鮮 鋭 度 、 階 調 、トーンや 色 調 などの 画調 をできるだけ 統 一 し 違 和 感 が 少 なくなるように 考 慮 しなければならなかった。そこで 準 備 段 階 において、 各 種 テストチャートやミニチュアセット、さらに 女 性の 顔 などをフィルムカメラとハイビジョンカメラ 双 方 で 撮 影 し、それらをフィルム 映 写 機 およびハイビジョンディスプレイ 両 方 で 映 し 比 較 評 価 を 行 った。それらのテスト 結 果 に 基 づき、シネカメラおよびハイビジョンカメラでの 撮 影 段 階 、F→V 変 換 および V→F 変 換 のそれぞれの 段 階 において、 画 調 や 色 調 、エンハンス 量 やノイズリデュース 量 など、 各 種 パラメータの 設 定 を 綿 密 かつ 適 切 に 行 なうことにした。もともとフィルム 画 像 に 比 べハイビジョン 映 像 のダイナミックレンジは 狭く、 階 調 再 現 性 とりわけ 暗 部 の 再 現 性 が 悪 く 黒 つぶれ 気 味 になるため、 撮 影 の 際に 照 明 比 を 小 さくややフラットにすることとし、さらにガンマ 補 正 量 を 適 切 に 調整 することで 暗 部 のディテールを 出 す 工 夫 を 行 った。また 合 成 素 材 用 フィルムの F→V 変 換 には、オリジナルネガフィルムへのゴミやキズのトラブルを 避 けるため、さらに F→V 変 換 時 の 調 整 のやりやすさを 考 え、プリントしたポジフィルムを 使 うことにした。 基 本 的 にポジフィルムはネガフィルムに 比 べ 硬 い 調 子 になることを 考 え、 実 際 の 撮 影 では 通 常 の 映 画 撮 影 の 場 合 に 比べて、コントラスト 比 を 狭 く 押 さえ 気 味 になるように 照 明 条 件 を 設 定 した。第 4の 問 題 はフィルムの 画 ぶれである。 映 画 フィルムはパーフォレーション 駆動 のため 画 ぶれは 避 けられないが、 通 常 の 映 写 の 場 合 はあまり 問 題 にされず 一 般104


的 には 許 容 されている。しかし 本 作 品 のように、 画 ぶれがあるフィルム 画 像 と 画ぶれがないハイビジョン 映 像 を 合 成 する 場 合 、 絵 柄 によってはかなり 気 になることがある。フィルムの 画 ぶれは、カメラ、プリンター、テレシネの 各 機 器 で 発 生するので、 事 前 準 備 の 際 に、 複 数 台 の 中 から 画 ぶれの 少 ないシネカメラを 選 び、ポジフィルムへのプリントは 通 常 の 密 着 焼 付 けをやめステッププリンターを 使 い毎 秒 数 コマ 程 度 の 低 速 で 行 った。また F→V 変 換 に 使 ったレーザーテレシネについては、 一 部 改 修 を 加 えてフィルムの 走 行 精 度 を 高 め、さらに 本 番 で 使 うポジフィルムにあわせ 念 入 りに 機 構 系 を 調 整 し 作 業 を 行 った 37 。このような 対 策 を 採 った 結 果 、 本 番 制 作 では 画 ぶれの 影 響 は 概 ね 許 容 できる 程度 におさまった。しかしこの 時 の 制 作 を 通 した 経 験 を 踏 まえ、より 高 精 度 の 合 成にも 耐 えられるように、レーザーテレシネの 機 械 的 精 度 を 一 層 向 上 するとともに、後 に 電 子 的 画 ぶれ 補 正 装 置 「 電 子 的 スタビライザー」 38 を 開 発 し NHK の 設 備 に 導 入した。 画 ぶれの 問 題 に 関 して、 本 作 品 の 制 作 を 通 じて 得 られた 知 見 は、 後 述 する『プロスペローの 本 』など 他 の 作 品 の 制 作 において 活 かされた。これらの 経 験 は、後 年 、プロダクションハウスでの CM 作 品 や 映 画 応 用 などに 使 うテレシネにも 影 響を 与 え、デジタル 映 像 処 理 を 活 用 した 電 子 的 画 ぶれ 補 正 系 が 標 準 装 備 されるようになっていった。(4) 本 作 品 における 映 像 合 成本 作 品 の 制 作 では、 監 督 の 意 向 を 汲 み、 電 子 メディアとしてのハイビジョンの特 徴 を 活 かすような 特 殊 効 果 、 映 像 合 成 が 多 用 された。 結 果 的 には 映 画 におけるオプティカル 法 では 時 間 と 手 間 が 掛 かり、 難 しいような 映 像 効 果 が 比 較 的 軽 度 な作 業 で 実 現 することができた。しかし 制 作 過 程 においては、 色 々な 問 題 もあり、その 都 度 、 様 々な 技 術 や 手 法 を 編 み 出 し、 工 夫 を 盛 り 込 んで 制 作 が 行 われたのである。スタジオ 横 の 仮 設 小 屋 内 に、 映 像 合 成 用 アルチマット、 特 殊 イフェクト 用の DVE、 色 合 わせのためのカラーコレクター、CRT 映 像 モニターなどを 設 置 し、 映像 の 調 整 やカメラフレームや 合 成 映 像 のでき 具 合 をシーンごとにチェックしながら 制 作 するというような 作 業 法 もとられた。スタジオの 横 幅 11mの 大 きなホリゾント 一 面 がクロマキー 塗 料 で 均 一 に 塗 りなおされ、 撮 影 段 階 では 背 景 映 像 に 色 むらやシェーディングが 出 ないようにブルースクリーンにフラットな 照 明 が 施 こされた。 前 景 となる 被 写 体 には、クロマキーで 抜 いた 時 に 輪 郭 が 柔 らかく 自 然 な 感 じが 出 るようにソフトな 照 明 とし、 映 像 処理 がしやすいように 前 景 のレッドやグリーン 色 に 対 して 60% 以 上 のクロマの 分 離差 が 確 保 できるように 設 定 した。またピント 合 わせが 不 十 分 だとエッジの 抜 けが105


悪 く、 髪 の 毛 などの 細 かいディテールが 失 われ 合 成 映 像 の 自 然 さが 損 なわれるため、カメラのフォーカス 合 わせはビューファインダーだけでなく、 機 器 室 内 の 映像 モニターとスタジオ 横 に 設 置 した 大 型 ディスプレイも 使 い 綿 密 に 確 認 しながら行 った。スタジオでの 制 作 作 業 の 状 況 を 写 5.13e に 示 す。前 景 となる 縫 いぐるみや 人 形 の 演 技 は、ほとんどがこのブルースクリーン 前 で行 われ、 背 景 にはあらかじめハイビジョンカメラで 撮 られた 映 像 やフィルムで 撮影 されハイビジョン 化 された 映 像 が 使 われた。 前 述 したように、 合 成 用 に 使 われるフィルムは 基 本 的 には 毎 秒 30 コマで 撮 られたが、スケール 感 を 出 し 特 殊 な 効 果を 出 すために 60、90 コマでの 高 速 撮 影 (スロー 映 像 として 使 う)やコマ 撮 りした映 像 も 使 われた。 当 時 のハイビジョンカメラは 可 変 速 撮 影 ができなかったため、このような 効 果 に 使 う 映 像 の 撮 影 にはフィルムカメラが 使 われた。さらにこの 作品 では、 新 たな 試 みとして 標 準 テレビの 番 組 『 大 黄 河 』(16mm フィルムで 撮 影 しNTSC 化 )や『 地 球 大 紀 行 』に 使 われた 映 像 素 材 、 既 存 のハイビジョン 作 品 『トルコ・シリア』の 映 像 も 使 われた。これらの 作 品 には、 雲 や 砂 漠 の 砂 嵐 、 空 からの山 河 の 光 景 、 爆 発 シーンなど 背 景 映 像 に 使 えそうなシーンが 多 く、これらの 映 像を 西 遊 記 の 舞 台 である 中 国 でロケすることは 当 然 ながら 経 費 的 にも 時 間 的 にも 不可 能 なことだったので、それらの 映 像 素 材 を 流 用 することにしたのである。スタジオ 作 業 前 に、 合 成 に 使 うフィルム 映 像 はあらかじめレーザーテレシネでハイビジョンに 変 換 され、また 標 準 テレビ 番 組 の 映 像 素 材 はハイビジョン 信 号 にアップコンバートし 使 われた。 撮 影 現 場 では 合 成 映 像 の 効 果 や 出 来 具 合 を 確 認 しながら 撮 影 、 収 録 が 進 められ、 綿 密 な 映 像 合 成 はポストプロダクション 段 階 で 行われた。スタジオでの 撮 影 時 には、 監 督 以 下 の 映 画 スタッフ、ハイビジョンスタッフがスタジオ 内 に 設 置 した 大 画 面 ハイビジョンディスプレイや 機 器 室 の 映 像 モニターで、 映 像 を 確 認 、チェックしながら 作 業 を 続 けた。そのため、 技 術 的 あるいは 演 出 的 に 不 具 合 があったり、 監 督 から 新 たな 要 望 があってもその 場 で 修 正 することができた。 後 日 のやり 直 しはほとんどなくなり、そのカットの 撮 影 ・ 収 録が 済 めば、 大 道 具 や 小 道 具 セットを 入 れ 替 え、 次 のカットの 撮 影 に 移 れるというように 撮 影 現 場 作 業 が 大 変 効 率 的 にできた。このようなやり 方 は 映 画 におけるオプティカル 法 ではとりえないことで、ハイビジョンを 利 用 する 大 きな 利 点 だった。本 格 的 な 精 密 な 合 成 、 加 工 作 業 は、NHK テクニカルサービスのハイビジョン 編 集室 で 行 われた。 松 竹 のスタジオで 収 録 された 多 くの 素 材 を 使 い、ポストプロダクション 段 階 できめ 細 かく 念 入 りに 編 集 することで 合 成 映 像 の 完 成 度 を 高 めた。このような 制 作 プロセスをとったことにより、 最 終 的 な 合 成 映 像 の 完 成 度 や 質 は 高106


くなり、トータル 的 に 制 作 時 間 の 短 縮 、 制 作 経 費 の 軽 減 にも 役 立 ち、 監 督 の 当 初の 思 惑 通 りハイビジョンの 威 力 を 大 いに 発 揮 したといえる。(5) 本 作 品 ならではの 合 成 技 法 と 映 像 表 現このようにして 制 作 された 作 品 の 中 で、 注 目 すべき 映 像 合 成 技 や 実 現 された 映像 表 現 のポイントについて、 具 体 的 に 見 てみたい。この 作 品 では 縫 いぐるみを 使 った 合 成 が 頻 繁 に 行 われたが、 合 成 画 面 が 貼 り 絵のようにならず 奥 行 き 感 のある 自 然 な 映 像 にするため、 前 景 となるキャラクターの 表 情 や 動 きを 細 部 にわたってリアルに 撮 影 することを 心 がけた。またフィルム画 像 とハイビジョン 映 像 を 合 成 した 時 、エッジ 部 が 不 自 然 にならないようにするためハイビジョン 映 像 の 輪 郭 補 正 を 抑 え 気 味 にし、 背 景 映 像 のフォーカスや 鮮 鋭度 に 対 して 両 者 の 映 像 が 自 然 になじむように 心 がけた。シーンによっては、 光 の方 向 性 を 強 調 し 故 意 にエッジをつけ、 部 分 的 に 色 を 付 加 することで 映 像 効 果 を 高めるといった 工 夫 も 行 なわれた。 合 成 映 像 の 例 を 写 5.12f に 示 す。妖 怪 や 化 け 物 たちの 宴 会 のシーンでは、 縫 いぐるみや 人 形 による 演 技 をブルーバックで 撮 影 し、ミニチュアやセットを 使 って 撮 影 した 背 景 映 像 と 合 成 した。 撮影 作 業 を 効 率 的 に 行 うため、 一 体 の 人 形 で 何 通 りかのショットを 撮 影 し DVE を 使ってサイズや 位 置 を 変 え、 多 重 合 成 により 数 を 増 やすといった 工 夫 も 行 われた。このような 複 雑 な 合 成 の 場 合 、 使 用 したアナログ VTR ではダビング 回 数 が 増 えるにつれ SN 比 が 低 下 し 映 像 が 荒 れるため、この 時 の 制 作 ではせいぜい 5 重 合 成 くらいが 限 度 だった。 画 質 劣 化 を 避 けつつ 効 果 的 な 映 像 にするため、 合 成 する 順 番 や手 順 、レイヤーなどを 綿 密 に 計 算 しながら 制 作 を 行 った。これらはアナログ 方 式の 限 界 であり、 後 述 するようにデジタル 方 式 で 制 作 された"Ten Seconds After"などの 作 品 に 比 べれば、 本 作 品 では 多 重 合 成 の 回 数 を 少 なくせざるを 得 なかった。本 作 品 では 孫 悟 空 がきんとう 雲 に 乗 り 空 を 飛 ぶシーンがしばしば 登 場 するが、背 景 映 像 には 雲 とか 下 界 に 見 える 山 や 河 、 砂 漠 の 砂 嵐 などを 使 った。これらの 映像 素 材 として、 前 述 したように 標 準 テレビ 番 組 の 映 像 も 流 用 したが、NTSC 映 像 をハイビジョンにアップコンバートするとモザイク 状 歪 やノイズがかなり 目 立 った。そこでアップコンバートした 映 像 をハイビジョンモニターに 映 し、それをハイビジョンカメラで 再 撮 して 使 うことにした。 予 想 通 り 背 景 のノイズが 目 立 ちにくくなり、その 上 、 演 出 意 図 に 合 わせ 背 景 映 像 をぼかし 適 当 にトリミングすることもでき、 自 然 で 違 和 感 の 少 ない 合 成 映 像 を 実 現 することができた。その 合 成 映 像 の例 を 写 5.13g、h に 示 す。その 一 方 で、ハイビジョン 番 組 『シリア』をそのまま 使った 場 合 には、 背 景 映 像 が 鮮 明 すぎることと 画 像 の 動 きなどの 点 で、 前 景 になじ107


みにくいことが 生 じることも 分 かった。このように 背 景 映 像 に 別 の 目 的 で 撮 られた 素 材 を 使 う 場 合 には、 絵 柄 や 画 質 に 応 じて 適 切 な 処 理 、 手 法 を 取 る 必 要 があることも 新 らたなノウハウの 発 見 だった。あるカットで、セットの 怪 獣 に 乗 る 羅 刹 女 ( 魔 女 )と 孫 悟 空 が 対 決 する 場 面 では、 自 ら 吐 いた 火 焔 が 孫 悟 空 の 持 つ 鏡 で 反 射 し 自 身 が 空 中 爆 発 するシーンを 表 現するのに、 標 準 テレビ 番 組 の『 地 球 大 紀 行 』の 中 の 隕 石 の 爆 発 するシーンの 映 像をはめ 込 んで 使 った。 爆 発 した 白 い 光 が 青 い 空 中 に 溶 け 込 み 消 えてゆく 様 子 は、魔 性 の 女 の 最 後 に 相 応 しい 映 像 表 現 を 実 現 することができた。 羅 刹 女 が 残 した 芭蕉 扇 が 空 からひらひら 舞 い 落 ちるシーンでは、 高 速 度 フィルムカメラで 撮 影 しハイビジョン 化 したスロー 映 像 を 使 うというように、 現 場 で 編 み 出 された 様 々な 工夫 も 盛 り 込 まれ、 大 変 効 果 的 な 映 像 表 現 が 実 現 できたと 言 うのが 監 督 以 下 スタッフの 評 価 だった。(6) 本 作 品 制 作 実 践 のまとめこの 作 品 は 80 年 代 後 半 、ハイビジョンがまだ 成 熟 していない 頃 、ハイビジョン技 術 を 映 画 制 作 に 応 用 しようと 試 みられたものである。ハイビジョンカメラの 性能 ・ 機 能 は 十 分 とはいえず、VTR やポストプロダクションシステムはアナログ 方 式のため、ダビングに 伴 う 画 質 劣 化 があり、しかも 映 画 とハイビジョンが 連 携 し 制作 するノウハウもなかったため、 事 前 準 備 から 本 番 制 作 まで 試 行 錯 誤 を 重 ねつつも 映 画 とハイビジョン 両 技 術 を 持 ち 合 わせて 制 作 したもので、まさに「 映 画 とハイビジョンのメディアミックス」の 走 りの 作 品 だった。この 作 品 の 時 間 長 は 約 100 分 、カット 数 は 約 700 だったが、その 中 で 合 成 部 分は 約 35 分 、270 カットにわたり、それらに 要 した 作 業 期 間 は 事 前 テストや 準 備 を除 き、 撮 影 、 収 録 、FV 変 換 、ポスプロ、VF 変 換 などを 通 し、 実 質 的 に 約 4 週 間 位だった。 多 種 多 様 な 映 像 素 材 を 使 い、 複 雑 で 煩 雑 な 制 作 作 業 をこのような 短 期 間で 成 し 遂 げえたことは、 綿 密 な 事 前 準 備 の 効 果 もあったが、 撮 影 時 における 合 成のでき 具 合 を 凡 そ 確 認 しポスプロで 本 格 的 合 成 、 加 工 を 行 う 作 業 法 をとったこと、映 画 とハイビジョンス 両 タッフが 緊 密 な 連 係 プレイをとったことなどが 効 いたと考 えられる。その 結 果 、 映 画 のオプティカル 法 では 困 難 で 高 品 質 の 効 果 映 像 を、ハイビジョンを 使 うことにより 効 率 的 に 短 期 間 で 実 現 することができた。この 初期 のメディアミックスの 制 作 実 践 過 程 を 通 じ、 前 述 したように 多 くの 問 題 を 克 服し、 様 々な 制 作 ノウハウを 編 み 出 し、 作 品 の 完 成 度 を 高 めることができた。それらの 成 果 はテレビ 学 会 等 を 通 じて 広 く 公 開 され、その 後 の 他 の 作 品 の 制 作 法 や 表現 法 にも 活 用 され、メディアミックスの 進 展 に 寄 与 することができた。108


5.3.2 最 先 端 の 合 成 技 術 を 多 用 した NHK 初 のエレクトロ・シネマ『 出 発 』前 述 したように、NHK は RAI の 映 画 指 向 の 作 品 『オニリコン』に 刺 激 を 受 け、 実験 的 ドラマ 作 品 『 秋 ・ 京 都 』を 制 作 した。そしてその 経 験 の 積 み 重 ねの 上 に、1988年 、エレクトロ・シネマを 謳 った 本 格 的 ハイビジョン 長 編 ドラマが『 出 発 (たびたち)』を 制 作 した 39 。(1) 作 品 、 制 作 のポイント本 作 品 は、 大 河 ドラマ『 樅 の 木 は 残 った』などを 制 作 し、その 後 、 草 創 期 からハイビジョン 推 進 のリーダー 役 になり「ハイビジョンの 伝 道 師 」とも 呼 ばれた 沼野 芳 脩 40 が 統 括 し、ドラマ 部 長 だった 中 村 克 史 が 制 作 、 大 河 ドラマ『 独 眼 流 正 宗 』(1987)の 吉 村 芳 之 が 演 出 と 言 うように NHK ドラマ 制 作 陣 の 総 力 を 結 集 して 制 作 された。 制 作 技 術 スタッフも 第 一 線 で 活 躍 中 の 最 精 鋭 を 集 め、 映 画 技 術 と 当 時 のハイビジョンの 最 先 端 技 術 やノウハウを 融 合 し 制 作 を 行 った 41 。13 歳 の 少 年 が 様 々なトラブルに 巻 き 込 まれつつ、 一 人 旅 をしながら 大 人 へと 自立 して 行 く 様 を 追 った 長 編 ドラマである。 初 めて 乗 った 飛 行 機 が 搭 乗 券 の 取 り 違えから、 長 崎 へ 行 くつもりが 出 雲 空 港 におりてしまい、はからずも 長 距 離 トラックに 乗 って 旅 をすることになる。 長 距 離 トラック 運 転 手 との 心 温 まる 出 会 い、 旅の 途 中 に 聞 いた 写 5.14a に 示 す「 怪 談 耳 なし 芳 一 」の 話 、これがこのドラマの 大きな 伏 線 になっている。なお、このトラック 運 転 手 と 平 家 の 若 武 者 という 重 要 な役 回 りを 演 じたのが、『 独 眼 流 正 宗 』の 主 役 だった 渡 辺 謙 である。大 型 のハイビジョン 機 材 を 使 い 疾 走 するトラックを 追 走 しつつ、 広 大 で 美 しい光 景 をスケール 感 と 自 然 感 をどうリアルに 表 現 するか、さらにこの 作 品 のハイライトを 彩 る 劇 中 劇 では、 幻 想 的 な 雰 囲 気 をどのように 表 現 するのか、ハイビジョン 制 作 としては 初 めての 試 みだった。 現 代 と 中 世 時 代 を 対 比 させる 物 語 のコンセプトに 相 応 しい 絵 創 りを 目 指 し、 演 出 的 にも 技 術 的 にも 様 々な 挑 戦 が 行 なわれた。特 にこの 作 品 では、 実 写 映 像 だけでは 表 現 しきれないシーンが 多 く、ハイビジョンならではの 特 殊 効 果 ・ 映 像 合 成 の 技 法 を 随 所 に 盛 り 込 んで 制 作 が 行 われた。(2)エレクトロ・シネマを 指 向 した 制 作 法この 作 品 は 当 初 からエレクトロ・シネマを 謳 っていただけに、できるだけ 映 画的 表 現 を 目 指 し、 映 画 手 法 に 倣 った 制 作 法 がとられた 42 。 演 出 の 吉 村 も 含 め、スタッフは 当 時 NHK のドラマ 制 作 の 第 一 線 で 活 躍 していたとは 言 え、ハイビジョン 制作 の 経 験 は 浅 く、それまで 慣 れ 親 しんできた 標 準 テレビとは 違 う 演 出 、 制 作 法 を指 向 し、ドラマタイトルの 名 のようにまさにハイビジョンドラマの 新 たな 出 発 を目 指 した 作 品 だった。109


当 時 、 標 準 テレビの 番 組 制 作 ではマルチカメラによる 撮 影 が 主 流 だったし、ズームレンズを 使 いまわすことが 一 般 的 なやり 方 だった。それに 対 しこの 作 品 では、ハイビジョンを 映 画 的 に 使 いこなし 制 作 すると 言 う 方 針 のもと、 標 準 テレビとは違 う 様 々な 制 作 手 法 が 投 入 された。 実 際 に 制 作 に 使 ったハイビジョン 用 撮 影 ・ 収録 機 材 は、 当 時 の 映 画 や 標 準 テレビの 機 材 に 比 べると、 大 型 で 機 能 性 ・ 機 動 性 も低 かった。またハイビジョンと 言 うことで、 照 明 の 仕 方 、セットの 作 り 方 、メークのやり 方 も 標 準 テレビとはかなり 違 っていた。それまでの 映 像 作 りは、カメラマンやビデオエンジニア、 照 明 マンに 任 されていたが、この 作 品 では NHK では 初めての 試 みとして、 総 合 的 に 映 像 を 統 括 する「 映 像 設 計 」と 言 う 役 割 のベテランカメラマンを 配 し 制 作 を 行 った 43 。これは 映 画 における「 撮 影 監 督 」に 相 当 するが、作 品 全 体 の 映 像 に 責 任 を 持 つと 言 うことで、 撮 影 からポスプロまでを 通 し、 映 像の 統 一 性 に 目 を 配 り 表 現 力 を 高 めるだけでなく、スタッフの 力 が 最 大 限 発 揮 できるように 気 を 配 るアシスタントディレクター 的 役 割 も 担 っていた。本 作 品 は、 大 画 面 の 映 画 館 でも 上 映 できる 高 い 品 質 を 目 標 に 制 作 された。そのため 画 面 の 隅 々まで 鮮 明 な 映 像 を 狙 い、しかも 平 面 的 でなく 奥 行 き 感 のあるリアルな 映 像 を 創 ることを 目 指 した。そこでズームレンズ(12~84mm)の 使 用 は 極 力少 なくし、 各 種 単 焦 点 レンズ(11.5、20、28、35、56mm など)を 使 いわけ、 映 画の 撮 影 法 に 倣 いワンカット、ワンカットずつ 念 入 りに 撮 影 を 行 なうことにした。ハイビジョンカメラには 機 動 性 の 良 いポータブル 型 を 使 い、カメラビューファインダーでのピント 合 わせは 難 しいため、 従 来 のテレビ 制 作 では 例 がなかったが、この 制 作 では 映 画 のやり 方 に 倣 いフォーカスマンを 配 した。さらにワイド 画 面 にマッチするように 背 景 の 中 に 人 物 を 配 置 し、 被 写 界 深 度 を 計 算 に 入 れ 奥 行 き 感 を出 すことに 気 を 配 った。またフィルムに 比 べて、ハイビジョンの 弱 点 である 黒 づまりと 白 とび、 狭 いダイナミックレンジについては、 波 形 モニターで 映 像 信 号 のセットアップ、 振 幅 レベル、ガンマ 補 正 を 細 かく 調 整 し、さらには 最 適 調 整 された 映 像 モニターを 見 ながら 視 覚 的 にも 良 好 になるような 設 定 を 行 った。この 作 品 ではロケによる 屋 外 撮影 が 多 かったが、 当 然 ながら 自 然 光 の 明 るさ、 方 向 、 色 温 度 に 気 を 配 り、 撮 影 情況 にあわせ 最 適 な 照 明 をセットし、その 上 で 全 体 的 に 統 一 されバランスが 良 くなるような 映 像 設 計 を 心 がけた。(3)トラックを 追 走 しながらのハイビジョン 撮 影この 作 品 は、 長 崎 に 行 くつもりだった 少 年 がトラブルで 出 雲 空 港 に 下 り 立 ったところから 始 まる。バスやタクシーを 乗 り 継 いでの 移 動 、トラック 運 転 手 との 出110


会 いから 始 まった 大 型 長 距 離 トラックでの 移 動 など、 映 画 や 標 準 テレビではそれほど 問 題 ない 撮 影 でも、 当 時 の 大 型 で 機 動 性 の 低 いハイビジョン 機 材 での 撮 影 は大 変 なことだった。カメラや CCU、アナログ VTR など 合 わせると 500kg を 超 える 機材 を 中 継 車 に 積 み 込 み、 様 々な 初 の 試 みに 工 夫 を 盛 り 込 みながらロケでの 撮 影 、収 録 を 乗 り 切 った。タクシーやバスの 車 内 撮 影 は、 移 動 する 車 と 中 継 車 との 間 にケーブルを 張 り 渡し 併 走 しながら 撮 影 した。 大 型 トラックの 運 転 席 での 撮 影 は、たまたま 大 型 免 許を 持 っていた 運 転 手 役 の 渡 辺 謙 が 自 分 自 身 でトラックを 運 転 し、 運 転 席 後 ろの 仮眠 用 ベッド 内 にハイビジョンカメラを 据 えて 撮 影 した。この 狭 いスペースにカメラマン、 音 声 、 照 明 マンが 入 り、 感 度 が 低 いカメラに 合 わせた 照 明 ライトから 発する 熱 に、 制 作 スタッフ、 俳 優 ともども 汗 だくの 撮 影 だったそうだ。また 別 のショットでは、トレーラーの 荷 台 にトラックと 同 じ 運 転 席 のセットを 固 定 し、 横 に取 り 付 けた 張 り 出 し 台 の 上 にカメラを 据 えて 撮 影 することも 行 った。このように、なかなか 条 件 が 揃 わない 中 で、それぞれの 状 況 にあわせ 様 々な 工 夫 を 施 し 撮 影 を行 ったことで、 臨 場 感 と 迫 力 あるダイナミックなハイビジョン 映 像 を 撮 ることができたのである。ロケ 現 場 での 撮 影 状 況 を 写 5.14b 示 す。(4)ハイビジョンならではの 映 像 合 成 がふんだんに 盛 り 込 まれた 映 像 表 現この 作 品 では、それまでの 標 準 テレビのドラマの 枠 をはるかに 超 え、 大 画 面 の映 画 に 匹 敵 しうる 映 像 を 目 指 し、 様 々な 新 たな 試 みを 投 入 し 制 作 が 行 われた。その 大 きな 技 術 的 ポイントが、 映 画 のオプティカル 法 では 難 しい 映 像 表 現 を、電 子 メディアとしてのハイビジョンの 特 徴 を 最 大 限 活 かし 映 像 合 成 により 実 現 することだった 44 。 最 終 的 に 大 画 面 での 上 映 を 前 提 にしていた 本 作 品 では、 見 る 人 に合 成 されていることを 気 づかせず、 自 然 で 臨 場 感 、 迫 力 ある 映 像 表 現 を 目 指 した。85 分 の 作 品 全 体 を 通 して 約 70 ヶ 所 にもおよぶ 映 像 合 成 が 随 所 で 使 われたが、そのための 技 法 としては、 第 4 章 に 記 した HD アルチマットによるクロマキー、 新 たに開 発 したハイビジョン・ビデオマットが 主 に 使 われた。この 作 品 の 中 で、これらのシステムがどう 使 われ、どのような 映 像 表 現 が 得 られたか、 具 体 的 に 見 ていくことにする。完 成 作 品 の 中 ではラストカットになるが、 制 作 段 階 では 最 初 に 撮 影 されたのが長 崎 造 船 所 のシーンである。 物 語 の 中 で、 少 年 の 父 親 が 船 長 を 勤 める 巨 大 タンカーが、たまたま 同 造 船 所 の 第 2 ドックに 係 留 することになり、その 機 を 逃 さず 制作 スケジュールを 調 整 し 撮 影 することにした。 作 品 の 中 では、タンカー 横 の 岸 壁に 少 年 が 乗 せてもらった 大 型 トラックが 到 着 し、 離 ればなれだった 親 子 が 久 しぶ111


りに 感 動 的 な 対 面 をする 重 要 なショットだ。しかし 現 地 での 撮 影 には 様 々な 制 約もあり、トラックがドックに 乗 りいれることができず、しかも 本 物 のタンカーは巨 大 で 大 型 トラックとは 言 え 大 きさが 違 いすぎ、ましてやその 回 りの 人 物 は 豆 粒のようになってしまう。そのような 状 況 下 で、ねらいのショットを 撮 ることは 困難 だった。そこで、できるだけ 効 果 的 な 映 像 表 現 にするため、 映 像 合 成 で 制 作 することにした。まず 映 像 全 体 のスケール 感 を 出 すため、 広 大 なドックと 巨 大 なタンカー 全体 を 見 渡 せるように、 近 くの 小 高 いところにあった 風 力 発 電 所 のテラスから、20mmの 単 焦 点 ワイドレンズで 全 体 を 撮 影 した。そして 長 距 離 トラックやその 周 りを 歩く 人 物 は 別 の 日 に 別 の 場 所 で 撮 影 し、これらの 映 像 をポスプロ 段 階 でビデオマットを 使 い 多 重 合 成 し 創 りあげた。 出 来 上 がった 合 成 映 像 は 不 自 然 さがまったくなく、まるで 現 場 でそのまま 撮 影 したような 映 像 表 現 が 得 られた。 当 然 ながらこのような 広 大 な 屋 外 での 映 像 効 果 は 従 来 のブルーマット 合 成 では 絶 対 に 実 現 できないものだった。 現 場 での 撮 影 ショットと 合 成 映 像 を 写 5.14c~d に 示 す。また 夜 間 の 屋 外 カットで、 膨 大 な 照 明 をあてても 撮 りきれないような 大 きなビルなどのナイトシーンの 映 像 も 同 様 の 多 重 合 成 で 作 られた。 少 年 の 家 族 が 住 む 家は、 川 崎 郊 外 の 傾 斜 地 に 建 つ 10 階 建 て 位 の 大 きな 階 段 状 マンションで、そのベランダや 室 内 で 演 じられる 夜 間 の 情 景 を 撮 影 することになった。 傾 斜 地 に 建 つ 大 きな 建 物 のため、 撮 影 条 件 や 照 明 条 件 は 極 めて 悪 く、なかなか 狙 い 通 りのショットは 撮 れなかった。そこでベースとなる 広 大 な 建 物 の 外 観 を 昼 間 に 撮 影 し、その 映像 に 夜 間 に 局 所 的 に 照 明 をあてて 撮 影 した 映 像 を 重 ね 合 わせることで 擬 似 的 だがリアルな 夜 景 映 像 を 実 現 した 45 。 明 るい 情 景 と 薄 ぼんやり 光 るマンションの 外 観 、遠 くにうっすら 見 える 鉄 塔 など、 通 常 では 撮 影 できないような 映 像 表 現 だった。この 制 作 技 法 はハイビジョン・ナイトとも 呼 ばれ、 別 のカットで 少 年 がトラックに 便 乗 し 山 陰 地 方 を 旅 する 時 、 広 大 な 海 岸 沿 いの 港 の 夜 景 のシーンの 撮 影 でも 使われた。トラックのヘッドライトしか 見 えなかった 道 路 沿 いの 海 と 山 並 みがうっすらと 浮 かび 上 がり、すれ 違 う 対 向 車 が 赤 いテールランプを 光 らせつつ 闇 に 消 えて 行 く。このようなシーンの 撮 影 は、 当 時 使 ったハイビジョンカメラでは 感 度 不足 で、 照 明 をいくら 強 力 にしてもリアル 感 のある 映 像 は 不 可 能 だった。このような 効 果 的 なナイトシーンの 表 現 をするのに 開 発 されたばかりのビデオマットが 使われた。 少 人 数 のスタッフで 小 規 模 の 照 明 で 簡 便 に 実 現 することができたのである。このように 昼 間 の 映 像 と 夜 間 に 撮 った 部 分 的 映 像 を 重 ね 合 わせる 方 法 は、 最近 の 制 作 ではしばしば 取 られる 技 法 だが、 当 時 としては 画 期 的 な 技 法 だった。112


本 作 品 のハイライトは、 何 と 言 っても 劇 中 劇 のラフカディオ・ハーンの 怪 談 「 耳なし 芳 一 」のシーンで、 様 々な 映 像 合 成 技 法 がふんだんに 使 われた。 時 代 が 中 世と 言 うこともあり、 少 年 が 旅 をする 現 実 世 界 とまったく 違 うトーンの 幻 想 的 な 雰囲 気 をかもし 出 すような 絵 創 りが 行 われた。ほとんどの 映 像 合 成 シーンの 撮 影 は、 放 送 センターのスタジオで 行 われた。 中でも 圧 巻 のシーンは、 身 体 中 に 経 文 を 描 かれた 芳 一 が 平 家 の 若 武 者 に 平 家 の 館 に連 れて 行 かれ、 大 勢 の 貴 族 や 武 者 、 女 官 達 ( 実 は 全 て 亡 霊 達 )の 前 で 琵 琶 を 奏 でるシーンである。エキストラの 人 数 、 衣 装 や 小 道 具 類 の 数 は 少 なく、スペースも限 られていたため、 芳 一 の 琵 琶 の 音 に 聴 きいる 武 者 や 女 官 を 少 ない 人 数 で 撮 影 し、衣 装 や 位 置 を 変 えて 何 度 も 撮 影 を 繰 り 返 し、それらの 映 像 素 材 を 境 界 部 が 目 立 たないように 処 理 しつつ 多 重 合 成 により 人 数 を 増 やし、スペース 感 を 出 した。スタジオでの 撮 影 映 像 と 合 成 後 の 映 像 を 写 5.14e~f に 示 す。この 映 像 は 目 が 見 えない芳 一 の 幻 想 の 世 界 のイメージなのだが、 実 際 には 墓 場 の 中 で 亡 霊 達 の 前 で 奏 でられたシーンである。 霊 界 の 異 様 な 情 景 を 表 現 するため、 数 少 ない 墓 石 を 傾 斜 地 に並 べ、それらの 撮 影 を 繰 り 返 し、 先 のシーンと 同 じ 手 法 で 墓 石 を 増 やし、スケール 感 を 出 した。さらにおどろおどろしい 雰 囲 気 を 出 すため、 鬼 火 や 風 雨 ・ 雷 光 などのイフェクト 映 像 を 付 加 し、 全 体 を 多 重 合 成 することで 幻 想 的 な 映 像 表 現 を 創り 上 げた。また、 壇 ノ 浦 で 大 勢 の 女 官 達 が 豪 華 な 衣 装 をまとったまま 次 々に 入 水 するシーンでも 似 たような 手 法 が 使 われた。 水 中 シーンでの 撮 影 は 危 険 なため、 衣 装 を 身につけたプロのスタントマンが 一 人 ずつプールに 飛 び 込 み、それを 水 中 カメラで撮 影 し、それらの 複 数 の 映 像 素 材 を 多 重 合 成 することで、 全 体 として 効 果 的 な 映像 表 現 を 実 現 することができた。その 素 材 映 像 と 合 成 映 像 表 現 を 写 5.14g に 示 す。このような 映 像 表 現 を 実 現 するため、 当 時 の 映 像 合 成 、 加 工 、 処 理 技 術 が 総 結集 されたが、その 鍵 になったのが 第 4 章 に 記 したビデオマットだった。ビデオマットはこの 作 品 の 制 作 時 、 標 準 テレビ 用 機 器 として 開 発 されて 間 もなかったのだが、 急 遽 ハイビジョン 用 に 改 修 され、この 作 品 で 始 めて 本 格 的 に 使 われた。このビデオマットは 前 述 したように、 屋 外 の 広 大 な 屋 外 ショットで 巨 大 なブルースクリーンを 設 置 することができないようなシーン、 屋 外 のナイトシーンで 大 規 模 な照 明 を 使 っても 感 度 不 足 のカメラでは 撮 影 できないようなシーン、また 少 ない 人数 の 武 者 や 女 官 達 とか 墓 石 の 数 を 増 やすシーンなどの 映 像 制 作 で 大 いに 威 力 を 発揮 した。またこれらの 映 像 合 成 で、 不 自 然 さが 少 なくリアルな 映 像 表 現 とするためには、ビデオマットによるマット 合 成 に 加 え、 様 々なイフェクト 映 像 を 付 加 し、113


DVE により 各 種 イフェクト 効 果 をつけ、さらには 地 味 な 作 業 ながら 合 成 素 材 映 像 のレベルや 色 調 、エッジの 処 理 、サイズなどを 綿 密 に 調 整 する 必 要 があった。 写 5.13hにスタジオ、ポスプロでの 制 作 作 業 状 況 を 示 す。(5) 本 作 品 実 践 についてのまとめNHK としては 初 のエレクトロ・シネマ 作 品 と 言 うことで、 標 準 テレビのドラマとは 異 なる 制 作 体 制 、 違 う 制 作 手 法 で、 最 先 端 のハイビジョン 合 成 技 術 をふんだんに 投 入 し、 従 来 とはまったく 違 った 映 画 志 向 の 作 品 を 制 作 することができた。本 文 で 述 べたような 映 像 効 果 は、 映 画 のオプティカル 法 では 非 常 に 難 しく、 仮にやったとしても、この 作 品 ほどの 合 成 品 質 の 実 現 は 困 難 だったし、 途 方 もない時 間 と 人 手 を 要 したと 思 われる。それを 当 時 、 十 分 とはいえないハイビジョン 機材 を 活 用 し、 試 行 錯 誤 を 繰 り 返 しつつ 実 現 することができたのである。 少 人 数 の出 演 者 や 小 規 模 のセットからリアルでスケール 感 のある 大 規 模 な 映 像 効 果 を 得 ることが 可 能 になり、 映 像 表 現 が 豊 かになっただけでなく、 番 組 制 作 時 間 の 短 縮 や経 費 の 削 減 にも 大 いに 効 果 を 上 げ、ハイビジョンと 言 う 電 子 メディアの 威 力 が 大いに 発 揮 された 例 である。この 作 品 で 使 われた 開 発 されて 間 もなかったビデオマットなどのハードウエア、それらを 巧 みに 効 果 的 に 使 いこなした 制 作 技 法 やノウハウは、 当 時 としては 大 変斬 新 なもので、その 威 力 を 大 いに 発 揮 することができた。それらのハード 技 術 、制 作 技 法 はその 後 もさらに 改 善 、 改 良 が 加 えられて 行 き、NHK の 多 くの 番 組 制 作 でさらなる 効 果 を 上 げただけではなく、この 作 品 の 実 践 を 通 じて 得 られた 成 果 、 情報 はテレビ 学 会 や 映 画 テレビ 技 術 協 会 等 を 通 じて 公 開 され、 外 部 の 多 くの 作 品 制作 にも 活 かされて 行 くことになった。 本 作 品 で 使 われたビデオマットはその 後 ムービーマットに 成 長 するなど、 当 時 開 発 した 技 術 はその 後 のデジタル 技 術 によりさらに 成 長 を 続 け、 今 では 汎 用 的 に 使 われているものも 多 い。5.3.3 絢 爛 豪 華 な 映 像 美 の 世 界 を 描 いた 日 英 共 同 作 品 『プロスペローの 本 』『プロスペローの 本 』は、 前 述 したように 1991 年 、NHK が 海 外 の 著 名 監 督 と 共同 制 作 したうちの 1 本 で、 英 国 映 画 界 の 鬼 才 ピーター・グリナウェイが 監 督 をした 作 品 である。NHK 側 のハイビジョン 陣 営 の 統 括 は 沼 野 芳 脩 ( 当 時 NHK-エンタープライズ)、 技 術 コーディネータを 為 ケ 谷 秀 一 ( 当 時 MICO: 国 際 メディアコーポレーション)が 担 当 した。 筆 者 はハイビジョンプロジェクトメンバーとして、F→V→F 技 術 のアドバイザーとして、 事 前 準 備 から 本 番 制 作 に 関 与 した。 本 作 品 の 制 作では、 従 来 の 映 画 手 法 とハイビジョン 技 術 を 巧 みに 融 合 し、 従 来 にない 斬 新 な 映114


像 表 現 を 実 現 し、 国 内 外 で 高 い 評 価 を 得 た。 本 作 品 の 制 作 実 践 における、フィルム 画 像 とハイビジョン 映 像 の 変 換 に 関 する 問 題 、 電 子 メディアとしてのハイビジョンの 映 像 合 成 や 加 工 処 理 に 関 するポイント、 制 作 ワークフロー、 実 現 された 映像 表 現 などついて、 以 下 、 詳 細 に 論 じてみたい。(1) 作 品 、 制 作 のポイント『コックと 泥 棒 、その 妻 と 愛 人 』(1989)など 独 特 の 映 像 美 で 世 界 の 映 画 界 をリードしてきたグリナウェイ 監 督 が、 新 しく 登 場 した 映 像 メディア「ハイビジョン」の 可 能 性 に 注 目 し、 映 画 とハイビジョン 技 術 を 融 合 し 制 作 したのが『プロスペローの 本 』である。 英 国 の 映 画 技 術 と 日 本 で 生 まれたハイビジョン 技 術 をハードウエアだけでなく、 制 作 技 法 、 人 材 面 で 交 流 しつつ 国 際 共 同 で 制 作 した 最 初 の 本 格的 映 画 作 品 である。本 作 品 はシェークスピア 最 後 の 戯 曲 「テンペスト」を 原 作 とし、 妖 精 や 妖 怪 が跋 扈 する 絶 海 の 孤 島 で 演 じられる 壮 絶 な 復 讐 劇 を 映 画 化 したものである。 陰 謀 によりミラノ 大 公 の 地 位 を 追 われたプロスペロー 王 は、 幽 閉 された 島 の 古 城 の 中 で、24 冊 の 魔 法 の 本 を 読 みふけるうち 偉 大 な 力 を 身 につけるようになり、それらを 駆使 し 復 讐 をとげるという 筋 立 てある。 主 役 のプロスペロー 役 は、シェークスピアを 演 じさせれば 右 に 出 るものがないと 評 判 のサー・ジョン・ギールグッドが 演 じた。 監 督 は、 原 作 の 持 つ 幻 想 的 、 怪 異 的 、 夢 幻 的 な 世 界 を、 映 像 として 具 現 化 するために、 映 画 技 術 にハイビジョン 技 術 を 融 合 し 表 現 することを 目 指 した。2 時 間超 の 作 品 の 中 で、 全 体 の 4 分 の 1、 約 30 分 にハイビジョンの 特 殊 効 果 技 術 が 投 入され、 従 来 の 映 画 のオプティカル 技 術 ではなし 得 なかった 映 像 表 現 を 実 現 した 46 。本 作 品 の 映 像 表 現 の 雰 囲 気 を 写 5.15a に 示 す。(2) 事 前 準 備 およびスタジオでの 撮 影 ・ 収 録本 作 品 制 作 の 企 画 がまとまった 段 階 で、NHK の 担 当 スタッフはグリナウェイ 監 督からの 要 望 にできるだけ 対 応 できるように 体 制 を 整 え、 様 々な 点 について 事 前 検討 や 準 備 を 始 めた。フィルムとハイビジョンの 双 方 向 変 換 に 伴 う 問 題 の 技 術 的 検証 、ハイビジョンによる 合 成 技 法 の 準 備 、さらに 映 画 制 作 におけるハイビジョン演 出 手 法 の 開 発 などである。 世 界 的 に 著 名 な 監 督 との 共 同 制 作 に 備 え、この 作 品の 中 で 重 要 な 役 割 を 担 うことになる F→V→F 変 換 技 術 、ハイビジョン 合 成 技 術 など、これまで NHK が 積 み 重 ねてきたハイビジョン 技 術 やノウハウを 総 結 集 することとした。115


(3)F→V 変 換 に 伴 う 問 題本 編 およびハイビジョンでの 合 成 に 使 うフィルム 素 材 は、アムステルダムのスタジオで 35mm フィルムにより 毎 秒 24 コマで 撮 影 された。フィルム 画 像 の 縦 横 比については、ハイビジョンのアスペクト 比 16:9(1.78:1)に 近 い 1.75:1(ビスタビジョンの 一 種 )で 行 われた。NHK に 持 ち 込 まれた 撮 影 済 みフィルムは、NHK のレーザーテレシネによりハイビジョンに 変 換 された 47 。F→V 変 換 では、できるだけ 画 質 劣 化 を 軽 減 すること、プリント 時 のゴミやキズを 避 けるためオリジナルネガフィルムをそのまま 使 うことになった。そのため F→V 変 換 作 業 に 際 して、トラブルが 起 きないように 慎 重 に 扱 う必 要 があったし、 色 の 基 準 が 分 からないため、 後 の 映 像 合 成 やポスプロ 処 理 のことを 考 慮 し、 監 督 やエディターも 立 会 い、 変 換 後 の 映 像 信 号 レベルの 調 整 、 色 補正 、トータルのトーン 合 わせをしながら 変 換 作 業 を 行 った。またショットによっては、 演 出 の 意 図 にあわせコントラストの 強 い 映 像 を 得 るため、 高 感 度 のネガフィルムを 使 って 撮 影 されたが、 通 常 のフィルムに 比 べると 粒 状 性 ノイズが 目 立 つため、F→V 変 換 に 際 してノイズリデュース 量 やイメージエンハンサーの 輪 郭 補 正量 を、 画 質 を 見 ながら 視 覚 的 に 最 適 になるような 設 定 を 行 なった。また 当 然 ながら F→V 変 換 に 際 して、アムステルダムで 撮 影 された 時 のフィルム 画 像 の 一 部 でも削 除 されることがないように、 画 枠 を 確 認 しながらハイビジョンのフレーム 内 に全 画 像 を 取 り 込 むようにした。この 作 品 の 制 作 においても、フィルムの 画 ぶれの 問 題 があった。ポスプロの 段階 で、フィルム 画 像 とコンピュータグラフィックスやペイントボックスで 作 成 された 画 像 を 合 成 した 際 、フィルムの 画 ぶれが 認 められた。 画 ぶれについては、 前述 の『 西 遊 記 』での 際 の 経 験 を 踏 まえ、NHK のレーザーテレシネには 電 子 的 画 像 処理 による 画 ぶれ 補 正 用 のスタビライザー 機 能 が 装 備 されていたが、 必 ずしも 完 璧には 効 かなかった。その 理 由 として、この 作 品 の 場 合 は 合 成 する 映 像 が 全 くぶれのない 静 止 画 像 なので、 西 遊 記 の 場 合 のような 通 常 の 動 画 像 より 画 ぶれが 視 覚 的にシビアに 見 えること、さらにこのスタビライザーはフィルム 画 像 内 の 動 かない部 分 を 基 準 にしてフレーム 全 体 を 補 正 する 方 式 のため、パニング 映 像 のように 静止 点 が 無 いような 場 合 には 補 正 は 十 分 効 かなかったためと 思 われる。しかし 最 終 的 にフィルムに 変 換 し、 映 写 機 で 上 映 された 合 成 画 面 を 見 た 際 には、元 々の 画 ぶれの 絶 対 値 が 小 さかったこともあるが、 映 写 機 自 身 で 発 生 する 画 ぶれにマスクされたのか、ポスプロ 作 業 の 時 にハイビジョンモニターをかぶりつきで見 た 場 合 ほどには 気 にならないとの 評 価 だった。116


(4)ハイビジョンならではの 映 像 合 成 がふんだんに 盛 り 込 まれたこの 作 品 における 演 出 的 、 技 術 的 ポイントは、 電 子 メディアとしてのハイビジョンの 機 能 を 活 かした 映 像 合 成 により 制 作 された 映 像 表 現 にある。フィルムから F→V 変 換 された 映 像 とハイビジョンカメラで 撮 影 された 映 像 を 使 い、 様 々な 映 像 加工 、 処 理 や 合 成 が 行 われ、それまでの 映 画 では 見 られなかったような 斬 新 で 多 彩な 映 像 表 現 が 創 り 上 げられた。そのために 使 われたハイビジョン 制 作 の 核 になった 機 器 は、 静 止 画 作 成 やアニメーション 作 りのためのペイントボックス、 合 成 用のアルチマットやビデオマット、イフェクト 用 の DVE などで、 周 辺 に 記 録 機 器 として 開 発 されて 日 が 浅 いダビング 特 性 の 優 れたデジタル VTR や 静 止 画 ディスクメモリーを 配 し、 当 時 の NHK の 最 新 機 器 が 総 動 員 された 48 。これらのシステムを 使 い 制 作 された 映 像 表 現 やそれを 実 現 するための 制 作 技 法のポイントについて、 以 下 具 体 的 に 述 べる。本 作 品 の 特 徴 的 な 映 像 表 現 の 最 初 のポイントは、「24 冊 の 魔 法 の 本 」のページの中 の 絵 創 りで、 大 変 重 要 な 制 作 プロセスである。 魔 法 の 本 は、 実 際 に 小 道 具 セットとして 作 られたものも 一 部 あるが、 大 半 はペイントボックスで 創 られ 現 実 には存 在 しないバーチャルセットである。ハイビジョンは 毎 秒 30 フレームからなるが、その1フレームを 1 枚 のキャンバスと 考 え、 電 子 パレットにより 絵 を 描 いていった。 例 えば 5 秒 間 の 映 像 を 作 るには、150 枚 (30×5)の 絵 を 作 成 し 1 枚 1 枚 を 加工 処 理 しなければならず、 制 作 のために 膨 大 な 時 間 と 体 力 、 根 気 と 絵 創 りのセンスが 必 要 だった。あるカットでは、ハイビジョンで 撮 影 した 本 物 の 動 物 の 内 臓 の絵 をペイントボックスに 取 り 込 み、それを 1 枚 1 枚 加 工 処 理 するなど、 写 5.15bに 示 すようなおどろおどろしい 映 像 表 現 も 作 成 した。このようなペイントボックスを 使 った 絵 創 りを 担 当 したのはイブ・ランボス 女史 で、グリナウェイ 監 督 はこれらの 映 像 表 現 へのこだわりが 大 きく、 写 5.15c に示 すように 映 像 制 作 作 業 にもしばしば 立 ち 会 っていた。こうして 作 成 された 本 の 1ページ 1 ページの 絵 を 使 い、 動 くアニメーション 映 像 にしたが、この 作 業 過 程 では 画 質 劣 化 を 極 力 抑 え、 効 率 的 に 作 業 をするため、 記 録 装 置 に 光 ディスクメモリーを 使 い、ある 程 度 の 時 間 のまとまりとなった 映 像 素 材 をハイビジョンデジタルVTR に 収 録 した。このようにして、 本 のページの 中 の 絵 の 人 物 や 妖 怪 、 神 話 上 の 生き 物 達 がまるで 生 きているように 動 きまわった。さらにイフェクトとして、 別 途スタジオで 水 フィルターを 使 って 撮 った 水 面 の 波 紋 と 重 ね、ゆらぐような 幻 想 的な 映 像 表 現 なども 創 り 出 された。117


またこの 作 品 で 評 判 になった 映 像 表 現 は、 写 5.15d に 示 すようなプロスペローが 着 ている 青 いマントが、 同 じカットの 中 で 己 の 感 情 の 動 きにあわせ、 色 が 茶 色へさらに 赤 へと 変 化 していくシーンである。この 映 像 効 果 は、 衣 装 担 当 の 和 田 エミがデザインした 精 巧 な 刺 繍 が 施 されたブルーのマントの 下 地 をブルーマットに見 立 て、カラーコレクターで 色 を 変 え、より 自 然 な 質 感 を 出 すためオリジナル 映像 をオーバーラップさせるなどして 制 作 した。 監 督 は 色 に 対 しても 大 変 厳 しく、絶 対 的 な 色 あいだけでなく 色 が 変 化 して 行 く 際 のグラディエーションにも 強 いこだわりを 持 っていた。しかし 当 時 使 っていたハイビジョンシステムでは、このような 細 かい 映 像 処 理 で 同 じ 再 現 性 を 確 保 することは 困 難 で、 監 督 が 満 足 するまで少 しずつパラメータやタイミングを 変 えながら、 何 度 も 同 じような 作 業 を 繰 り 返すことが 多 かった。あるカットでは 監 督 の 意 向 を 汲 み、 映 像 効 果 をさらに 高 めるため 雷 光 をイフェクトとして 使 うこともあった。ところが 雷 光 を 擬 した 照 明 光 を 使 ったら、 雷 が 光るたびに 光 に 含 まれるブルー 成 分 のため、 全 体 の 抜 けが 変 わってしまい 思 うような 映 像 効 果 が 得 られなかった。そこで、 試 行 錯 誤 の 末 、ペイントボックスでひとコマずつ 光 のマスクを 描 き、それにより 合 成 することで、 期 待 するような 映 像 表現 が 実 現 できた。また 圧 巻 の 映 像 表 現 は 約 15 分 にわたるラストシーケンスで、プロスペローが 魔 法 の 本 をめくりながら 切 り 裂 いていくシーンは、 前 述 のプロセスで 作 られた 連 続 する 静 止 画 像 からなる 本 の 1 ページ 1 ページを、DVE などを 駆 使 し紙 面 の 形 状 を 変 えたり 湾 曲 させたり、 本 物 の 本 をめくるように 動 画 化 された。この 作 品 のように、 前 景 の 人 物 だけでなく 背 景 映 像 も 変 わる 条 件 下 での 合 成 とか、 同 じカットの 中 でマントの 中 の 一 部 の 色 が 連 続 的 に 変 わるような 映 像 効 果 は、オプティカル 法 では 不 可 能 なことで、ハイビジョン 用 アルチマットやビデオマット DVE などを 使 って 始 めて 実 現 できたといえる。またこの 時 の 制 作 では、 開 発 されて 間 もないダビング 特 性 の 良 いデジタル VTR が 使 われたが、その 効 果 も 大 きかった。しかしアナログ VTR に 比 べダビングによる S/N 劣 化 は 小 さいとは 言 え、 合成 のジェネレーションが 増 えれば 少 なからず 画 質 は 劣 化 する。 実 際 の 映 像 合 成 、加 工 処 理 に 際 しては、 監 督 と 編 集 担 当 者 とで 合 成 手 順 を 練 り、なるべくダビング回 数 を 少 なくしつつ、 監 督 の 狙 い 通 りの 映 像 効 果 、 映 像 表 現 のイメージを 実 現 する 工 夫 がなされた。しかし 編 集 作 業 をしている 最 中 に、 監 督 のイメージは 次 々にふくらみ、 合 成 のレイヤーの 順 番 を 変 更 したり、 合 成 イメージを 変 えたいと 要 求されることもあった。 近 年 盛 んに 使 われるノンリニア 編 集 系 と 異 なり、VTR 編 集 の場 合 、レイヤーの 順 番 を 変 えるのは 作 業 のやり 直 しになるし、とりわけ 何 重 にも118


わたる 多 重 合 成 の 場 合 は 大 ごとだった。そのため、それぞれの 合 成 カットについてシミュレーションを 行 い、 手 順 を 検 討 し、 仮 合 成 を 行 い、 監 督 はタイミングを決 めると 共 に 合 成 イメージが 思 った 通 りのものか 判 断 し、 編 集 者 はそのデータをもとに 本 編 集 するといった 作 業 を 重 ねることになった。このように、 映 像 制 作 はクリエイティブなアイディアと 根 気 のいる 長 時 間 作 業が 必 要 だったが、そのでき 具 合 は 監 督 以 下 スタッフ 皆 が 満 足 できるものになった。(5)「ついに 映 画 の 世 界 とテレビの 世 界 が 結 合 した」ハイビジョンで 合 成 、 加 工 、 編 集 された 映 像 は、イマジカの LBR でフィルム 画像 に 変 換 され、 最 終 的 に 直 のフィルム 素 材 とあわせフィルム 編 集 され 完 成 版 になり、 世 界 各 国 で 公 開 された。本 作 品 は 1991 年 5 月 に 開 催 されたカンヌ 国 際 映 画 祭 に 特 別 出 品 され、 世 界 最 大級 の 映 画 館 「グランド・オーディトリアム・リュミエール」の 巨 大 なスクリーン( 縦 10.5m、 横 20m)で 上 映 されたが、 従 来 のオプティカル 手 法 では 実 現 し 得 ない映 像 表 現 は 芸 術 的 にも 技 術 的 にも 大 変 高 い 評 価 を 受 けた 49 。この 試 写 会 の 席 上 、グリナウェイ 監 督 は「NHK の 高 度 な HDTV 技 術 によって、ついに 映 画 の 世 界 とテレビの 世 界 を 結 合 させることが 可 能 になった」と 語 った。またこれだけの 大 画 面 で 上映 しても、HDTV で 処 理 した 部 分 がどの 部 分 なのか 分 からないくらい、フィルム 映画 としてまったく 違 和 感 がなかったそうだ。 実 はもともとこの 作 品 は、 映 画 祭 のグランプリ 候 補 として 前 評 判 が 高 かったのだが、 監 督 の 作 品 に 込 めた 思 い 入 れと完 璧 主 義 のためか、 完 成 版 が 期 限 に 間 に 合 わず、 約 20 分 の 短 縮 版 が 特 別 出 品 され上 映 されたのである。ところで 完 成 版 全 編 は、 第 6 章 で 述 べるように、91 年 10 月 、 東 京 国 際 映 画 祭 併催 イベントの「ハイビジョン・ビッグバン'91」 50 の 中 で、 渋 谷 文 化 村 シアターにて 映 画 業 界 、ハイビジョン 関 係 者 など 対 象 に 特 別 公 開 された。グリナウェイ 監 督がハイビジョンを 駆 使 して 制 作 した 豪 華 絢 爛 なシェークスピアの 世 界 に、 斬 新 な映 像 表 現 に 対 する 賛 美 と 共 に、どこがフィルムでどこにハイビジョンが 使 われたのか 判 別 できないでき 栄 えだと 評 された。まさにハイビジョンと 映 画 がそれぞれの 力 量 を 発 揮 し 融 合 し 制 作 された 成 功 事 例 だったといえる。またこの 時 併 催 された「ハイビジョンシンポジウム」では、 本 作 品 の 制 作 総 指 揮 のキース・カサンダー 氏 、ペイントボックスによる 画 像 制 作 を 担 当 したイブ・ランボス 女 史 、ハイビジョン 技 術 コーディネータを 担 当 した 為 ケ 谷 秀 一 氏 らにより、 同 作 品 の 制 作 プロセスや 映 像 表 現 についての 報 告 とパネルディスカッションも 開 催 された 51 。その 中では、 上 述 したような 制 作 上 の 問 題 点 やその 解 決 策 、ハイビジョンを 利 用 したこ119


とにより 実 現 できた 映 像 表 現 のことやワークフローのことなどが 具 体 的 に 語 られ、参 加 者 も 交 え 活 発 な 討 論 も 行 われた。(6) 本 作 品 実 践 についてのまとめ本 作 品 は 英 国 の 映 画 界 と 日 本 のハイビジョン 界 が、それぞれの 技 術 、ノウハウを 融 合 し 制 作 した 初 の 国 際 共 同 制 作 の 本 格 的 映 画 である。NHK が 培 って 来 たハイビジョン・アルチマットやビデオマットの 合 成 技 術 に、ペイントボックスによる 静止 画 像 作 成 ・ 加 工 技 術 、さらに 開 発 されて 間 もなかったデジタル VTR などを 駆 使し、それぞれの 専 門 家 が 高 い 技 術 力 とノウハウを 投 入 し、 従 来 技 術 ではできないような 斬 新 な 映 像 表 現 を 実 現 した。 英 国 の 映 画 スタッフと NHK のハイビジョン 陣が 協 力 し 合 い、 双 方 の 技 術 、ノウハウを 結 集 し 文 字 通 り「 映 画 とハイビジョンのメディアミックス」を 成 し 遂 げ、その 後 の 作 品 制 作 にとって 大 きな 礎 になった。いみじくも 監 督 自 身 が 語 っているように「ハイビジョンにより 映 画 とテレビの 世界 の 融 合 が 図 られ」そして 次 の 発 展 へと 繫 がって 行 ったのである。実 際 の 編 集 作 業 は、 上 述 のようなきめの 細 かい 綿 密 な 作 業 を 行 ったことにより、大 変 斬 新 で 高 品 質 の 映 像 表 現 が 実 現 できた。ハイビジョンスタッフからみると、根 気 のいる 長 時 間 にわたる 細 かい 作 業 が 必 要 だったが、 著 名 な 監 督 以 下 、 高 い 力量 を 持 つ 映 画 スタッフと 一 緒 にクリエイティブな 制 作 実 践 を 行 ったことは、 作 品の 質 、 完 成 度 を 高 めたことはもちろんだが、 自 分 達 自 身 の 技 術 力 と 感 性 を 高 め、ノウハウを 蓄 積 することにも 大 いに 役 立 った。5.3.4 コンピュータ 技 術 を 投 入 し、 新 たな 映 像 ジャンルを 開 いた 作 品NHK は 1993 年 から 1994 年 にかけ、コンピュータ 技 術 を 巧 みに 使 い、それまでの作 品 とはまったく 趣 の 違 うハイビジョン 版 ミュージック・バラエティ 的 な2 作 品を 続 けて 制 作 した 52 。 監 督 およびシナリオを 担 当 したのは、 前 述 したバリー・リボのリボ・スタジオやリプチンスキーのズビッグビジョンスタジオでの 制 作 に 参 加した 経 験 を 持 つ 中 沢 英 夫 53 で、その 留 学 時 の 体 験 とそれまでの 自 身 の 豊 富 な 番 組 制作 経 験 を 結 集 し、 大 変 ユニークな 作 品 を 創 り 上 げた。その 制 作 の 鍵 になったのは、モーション・コントロールシステムを 駆 使 した 多 重 合 成 技 術 で、それまでの NHKの 作 品 はもちろん 当 時 の 国 内 外 の 作 品 としてもまったく 例 のない、 大 変 斬 新 な 映像 表 現 を 具 現 化 した 作 品 だった。120


5.3.4.1 "Ten Seconds After"(1) 作 品 コンセプトと 制 作 のポイント一 作 目 の 作 品 が"Ten Seconds After"である。 作 品 のコンセプトは、 中 沢 のユニークな 発 想 に 基 づく 大 変 斬 新 なものだった。 大 きな 部 屋 の 中 に 大 きなスクリーンがあり、その 画 面 にはリアル 世 界 の 部 屋 の 中 で 起 きている 現 実 の 10 秒 後 に 起 きる事 象 の 映 像 が 映 っている。部 屋 の 中 の 人 物 はリアル 空 間 とディスプレイの 中 の 10 秒 後 の 映 像 空 間 を 行 き 来することができる。カメラは 現 実 の 世 界 とスクリーンの 中 の 10 秒 後 の 世 界 を 同 時に 映 し 出 し、そのスクリーンの 中 にあるスクリーンの 映 像 空 間 にはさらに 10 秒 後のシーンを 映 すスクリーンがあり、と 言 うように 未 来 に 続 く 時 間 のトンネルの 映像 は、 作 品 を 見 る 人 の 頭 を 混 乱 に 落 としいれる。この 作 品 のラストシーンで、 時間 のトンネルを 抜 けて 未 来 に 上 って 行 くと、そこには 恐 ろしい 破 滅 の 時 が 待 ち 受けていることが 明 らかになる。 未 来 から 送 られて 来 るメッセージを 読 み 取 れない人 間 の 愚 かさ、 哀 れな 宿 命 を 暗 示 する 映 像 を"The End of the World"のテーマ 曲にのせ、ハイビジョンの 超 多 重 合 成 を 駆 使 した 映 像 で 描 いた 作 品 である。(2) 制 作 システムの 状 況写 5.16a,b にスタジオでの 制 作 状 況 を 示 す。 中 沢 は 現 実 の 空 間 とスクリーンに 映し 出 される 10 秒 後 の 世 界 、 時 間 を 越 えて 絡 み 合 う 不 可 思 議 な 世 界 を 表 現 するために、モーション・コントロールシステムを 使 い、 次 元 の 異 なる 映 像 空 間 を 何 度 にも 分 けて 撮 影 し、それらの 映 像 素 材 を 多 重 合 成 することで 創 り 上 げた。 前 述 した『イマジン』や『オーケストラ』、 上 述 の『 西 遊 記 』の 制 作 当 時 に 比 べ、この 作 品の 制 作 に 使 われたハイビジョン 機 器 の 性 能 、 機 能 は 大 きく 進 歩 していた。カメラは CCD 化 により 小 型 になり 機 動 性 も 向 上 し、より 高 解 像 度 、 高 SN 比 となり、VTRはデジタル 化 によりダビング 特 性 が 向 上 し、 合 成 用 アルチマットや 画 像 加 工 用 DVEは 高 性 能 ・ 高 機 能 化 され、さらに 動 画 用 画 像 合 成 用 のビデオマットや 静 止 画 加 工用 ペイントボックスも 自 由 に 使 える 状 況 になっていた。 高 性 能 化 が 進 んだ 機 器 をフルに 使 い、 画 質 劣 化 をあまり 気 にせずに 合 成 のジェネレーションを 重 ねることにより、それまでは 実 現 できなかったような 映 像 表 現 を 創 り 上 げた。(3) モーション・コントロールシステムによる 多 重 合 成この 作 品 の 物 語 は 大 きく 分 けると 8 つの 部 屋 のカットで 構 成 されるが、 全 てのカットの 撮 影 は 大 きなスクリーンを 設 置 したひとつの 部 屋 の 中 で 行 われた。このような 手 法 は 前 述 の『イマジン』の 制 作 を 体 験 した 中 沢 の 経 験 がベースにあったと 思 われる。 種 々 雑 多 なセットが 置 かれた 部 屋 の 中 で、 正 面 の 大 きなスクリーン121


や 壁 面 の 一 部 がブルースクリーンで 覆 われ、その 空 間 の 前 で 役 者 の 演 技 が 行 われ、ブルースクリーン 部 分 に 他 の 映 像 がはめ 込 まれ 合 成 された。この 作 品 ではこれまでにない 多 重 合 成 が 頻 繁 に 行 われたが、 複 雑 で 多 数 回 におよぶ映 像 合 成 を 精 度 高 く 行 うため、 全 てのシーンの 撮 影 はコンピュータ 制 御 のモーション・コントロール・カメラを 使 って 行 われた。システムは 第 3 章 に 記 したように、カメラのパンやチルト、レンズのズームやフォーカス、クレーンのパン、チルト、ドリーなどのカメラワークのデータを 記 録 保 存 し、そのデータを 使 いコンピュータ 制 御 でカメラを 自 動 操 縦 するため、 何 度 でも 同 じカメラワークが 再 現 できる。このシステムを 使 ったことにより、 大 画 面 スクリーンや 室 内 の 多 数 のセット 内 で、 部 分 的 に 何 度 にも 分 けて 撮 影 される 人 物 の 演 技 を、 背 景 映 像 にあわせ 高 精 度 に 多 重 合 成 することが 可能 になった。本 作 品 では 監 督 の 演 出 意 図 に 合 わせ、カメラの 動 きとしてはパニング、チルト、トラックは 少 なく、ほとんど 前 後 方 向 のドリーとズーミングが 多 かった。その 場 合 、 合成 された 映 像 の 中 で 視 覚 的 に 自 然 な 奥 行 き 感 を 出 すため、 壁 面 や 天 井 のパースペクティブを 強 調 し 床 面 を 市 松 模 様 にする 工 夫 もなされていた。 部 屋 の 中 にはカット 毎 の 演出 にあわせて 様 々な 小 道 具 セットやオブジェが 適 宜 置 かれ、その 狭 い 空 間 の 中 で 役 者の 演 技 が 行 われ、クレーンに 乗 せたモーション・コントロール・カメラがレール 上 を自 在 に 動 き 回 って 撮 影 が 行 われた。(4) 制 作 された 映 像 効 果 、 映 像 表 現この 作 品 における 特 徴 的 な 映 像 効 果 、 映 像 表 現 、それらを 実 現 するための 制 作技 法 について 54 、 以 下 具 体 的 に 説 明 する。最 初 のポイントは、この 作 品 の 中 で 効 果 的 な 映 像 表 現 として、 重 要 な 役 回 りを演 ずるコソ 泥 がスクリーンを 通 して 現 実 の 世 界 と 10 秒 後 の 映 像 空 間 を 行 き 来 するシーンである。そのカットの 撮 影 では、 幻 想 的 だが 自 然 感 のある 映 像 とするため、以 下 に 述 べるような 様 々な 工 夫 が 盛 り 込 まれた。スクリーンの 質 感 を 出 すため、わざとスクリーンのメッシュ 構 造 を 浮 きたたせ、コソ 泥 がスクリーンを 通 り 抜 ける 際 には、 次 元 の 違 う 世 界 に 行 く 雰 囲 気 を 出 すため、スクリーン 表 面 に 波 紋 状 の 波 がじわじわっと 広 がる 映 像 効 果 を 使 った。そのような 映 像 表 現 を 実 現 するため、スクリーンに 入 り 込 む 人 物 を 縮 小 し、DVE 効 果 のひとつであるウエーブをかけた 画 面 と 効 果 をかけないストレートの 画 面 を、 次 々に 発 生 する 波 紋 状 のキー 信 号 を 使 いリアル 世 界 と 10 秒 後 の 世 界 の 映 像 を 合 成 した。リアルな 部 屋 の 人 物 とスクリーンに 入 り 込 む 人 物 像 の 輪 郭 を 切 り 分 ける 波 紋 状 のキー 信 号 は、ペイントボックスを 使 いフレーム 単 位 で 念 入 りに 作 成 した。1 回 のス122


クリーンを 通 り 抜 ける 映 像 効 果 を 作 るのに 30~50 フレームの 映 像 加 工 処 理 が 必 要で、そのためには 忍 耐 つよい 綿 密 な 長 時 間 作 業 が 必 要 だった。どの 部 屋 のシーンの 制 作 も 実 際 には 同 じひとつの 部 屋 で 行 われたため、 部 屋 のカットが 変 わるたびに 室 内 のセットやオブジェは 入 れ 替 えられ、その 度 に 様 々な効 果 的 な 映 像 表 現 のための 複 雑 な 合 成 が 行 われた。ある 部 屋 のカットでは、ソファの 回 りで 男 と 女 が 踊 り、コソ 泥 がその 周 囲 をこそこそ 動 きまわり、 素 早 いカメラワークでの 精 密 な 合 成 が 必 要 だった。 映 像 合 成 における 不 自 然 さを 目 立 ちにくくするため、 雲 や 煙 、 別 の 光 のシャワーなど 色 々な 効 果 映 像 を 重 ね 合 わせることも 行 なわれた。 踊 る 男 女 のシーンでは 演 出 効 果 を 高 めるため 鮮 烈 な 光 芒 があてられたが、そのままでは 明 るい 光 が 邪 魔 し 合 成 映 像 が 損 なわれたため、 光 の 効 果 は別 に 撮 影 して 別 途 合 成 した。コソ 泥 は 部 屋 の 中 をあちらこちら 動 きまわるので 同じショット 内 で 連 続 しての 撮 影 はできず、ブルーバックの 前 で 部 分 的 にカットを分 けて 撮 影 した。 手 前 のソファや 左 手 の 水 槽 など 狭 い 室 内 に 多 くのセットが 並 ぶ中 での 演 技 は 数 多 く 分 割 され、 全 てモーション・コントロール・カメラを 使 い 撮影 、 収 録 され、 映 像 素 材 は 最 終 的 にポスプロ 段 階 において 数 10 回 を 超 える 多 重 合成 が 行 われ 複 雑 な 映 像 表 現 が 実 現 された。 各 部 屋 の 様 子 と 合 成 映 像 を 写 5.16c,dに 示 す。また 別 の 部 屋 のカットでは、 光 芒 を 放 つ 不 可 思 議 な 形 状 をしたオブジェが 部 屋中 に 一 見 ランダムに 並 び、その 中 で 演 技 がなされた。そのカットでは、 監 督 のイメージに 合 う 映 像 表 現 とするため、フィルム 素 材 を 映 画 のオプティカル 技 法 で 加工 処 理 した 映 像 も 敢 えて 使 われた。かきつばたの 花 の 中 から 飛 び 出 したりんごを稲 光 や 光 が 包 むシーンとか、 別 のカットでは 火 の 玉 が 光 るシーンなどである。ここで 使 われたフィルム 画 像 は、あらかじめレーザーテレシネでハイビジョン 信 号に 変 換 され 合 成 に 使 われた。この 場 合 、 映 画 とハイビジョンそれぞれのスタッフが 別 の 場 所 で 映 像 の 加 工 処 理 を 行 なうことになったため、 両 者 間 で 行 き 違 いが 生じないように、しかも 効 率 的 に 作 業 が 進 むようにする 工 夫 が 必 要 だった。そこで、仮 合 成 した 映 像 に 合 成 時 の 目 安 となるカーソルを 付 加 したハイビジョン 映 像 をダウンコンバートし、S-VHS に 収 録 した 素 材 を 映 画 のオプティカル 担 当 スタッフに 提供 し、フィルム 側 の 加 工 処 理 を 行 うというような 作 業 手 順 もとられた。スクリーンの 中 のスクリーンの 10 秒 後 の 映 像 世 界 を 何 度 も 辿 り、 行 き 着 いた 未来 世 界 は、 人 類 の 行 く 末 を 象 徴 するかのような 廃 墟 の 光 景 だった。そのセットの様 子 と 合 成 映 像 を 写 5.16e,f に 示 す。この 最 後 の 部 屋 での 爆 発 シーン、 廃 墟 の 中でコソ 泥 がりんごを 投 げつけるシーン、そのりんごが 最 後 に 元 に 復 元 するシーン、123


廃 墟 の 空 など、 他 の 部 屋 とは 全 く 違 う 雰 囲 気 の 映 像 効 果 をリアルに 出 す 必 要 があった。そのために 部 屋 中 を 特 製 のセットやオブジェで 飾 り、 部 分 的 にブルーパネルを 設 置 し、そこに 別 撮 りの 映 像 をはめこんだ。この 際 、 上 述 のオプティカルで加 工 したフィルム 画 像 も 含 め、 煙 やほこりといったイフェクト 映 像 を 加 えながら、できるだけリアル 感 があるように 多 重 合 成 された。また 作 品 のエンディングカットで、 廃 墟 のシーンから 各 部 屋 へカットバックするシーンがあるが、 食 べ 終 わったりんごが 元 に 復 元 する 映 像 は、りんごの 模 型 を 数 種 類 作 り、それらをモーション・コントロール・カメラで 順 次 撮 影 し、タイミングをあわせ 逆 戻 りの 連 続 的 映像 として 仕 上 げた。この 際 、りんごを 支 える 棒 など 不 要 なものを 消 すため、キー信 号 を 別 に 作 り 合 成 することで 処 理 した。また 部 屋 から 部 屋 へ 映 像 をつなぐ 場 合などで、 時 には 連 続 性 が 損 なわれ 不 自 然 さが 気 になるケースもあったが、3 次 元DVE を 使 い 前 後 の 映 像 のサイズや 動 きを 調 整 することで 対 処 した。(5) 本 作 品 制 作 についてのまとめこの 作 品 の 制 作 は、 主 たる 部 屋 のカットの 撮 影 は 三 鷹 スタジオと 放 送 センターのスタジオで、 事 前 テストも 含 め 約 4 週 間 かけて 行 われた。その 後 の 本 番 合 成 などのポスプロ 作 業 は、NHK のハイビジョン 編 集 室 で 約 4 週 間 かけて 行 われた。ただし、この 時 使 われた 編 集 設 備 は 簡 易 デジタルシステムだったので、 多 数 回 ダビングによる 画 質 劣 化 を 極 力 軽 減 するため、アルチマット、 簡 易 デジタルスイッチャー、DVE などのシステム 系 統 を、 作 業 内 容 にあわせ 何 度 も 組 み 替 える 必 要 があり、本 質 的 なクリエイティブな 仕 事 以 外 の 煩 雑 な 作 業 が 強 いられることもあった。この 作 品 は 多 重 合 成 こそが 鍵 だったが、 多 彩 な 映 像 効 果 、 映 像 表 現 を 実 現 するため、 多 重 合 成 の 回 数 が 30 回 を 超 えたシーンも 多 かった。そのためポスプロ 作 業は 当 初 2 週 間 を 見 込 んでいたのだが、 複 雑 な 合 成 が 多 かったことや 想 定 外 の 修 正や 新 たな 加 工 処 理 などもあり、また 上 述 したシステム 組 み 換 えなどもあり、 実 際には 約 4 週 間 を 要 することになった。それでも、この 作 品 でなされた 映 像 合 成 の複 雑 さ、 多 様 さ、 出 来 上 がりの 品 質 の 高 さを 考 えれば、ハイビジョンの 威 力 を 大いに 発 揮 し、 大 変 効 率 的 に 制 作 できたということができる。この 作 品 の 制 作 を 通 して 試 みられた 超 多 重 合 成 技 術 などは、 制 作 技 法 の 大 きな蓄 積 となり、 次 項 で 述 べる 作 品 の 制 作 に 利 用 され、その 後 も NHK の 作 品 や 外 部 の作 品 制 作 においても 有 効 に 活 かされていった。124


5.3.4.2 "The Screw and the Wall"翌 94 年 、 中 沢 は 前 作 にも 増 して 多 種 多 彩 な 技 法 を 盛 り 込 み、 一 層 風 変 りで 斬 新な 映 像 表 現 を 盛 り 込 んだ 作 品 を 制 作 した 55 。(1) 作 品 のコンセプトと 制 作 のポイント当 時 、 世 界 的 に 大 きな 課 題 になっていた 民 族 の 価 値 観 の 対 立 や 融 合 をテーマにした 作 品 で、そのコンセプトにあわせ、 出 演 者 15 人 のうち 日 本 人 は 2 人 だけ、 他はアメリカ、カナダ、インド、イスラエル、イラン、ザイールなど 多 国 籍 の 人 達が 演 じた。 撮 影 現 場 でのコミュニケーションの 共 通 語 は、 作 品 のテーマを 象 徴 するかのように、 英 語 でも 日 本 語 でもなくボディーランゲージだったそうだ。大 きな 茸 のような 形 をした 円 筒 状 の 家 に 厚 い 壁 で 仕 切 られた 4 つの 部 屋 があり、文 化 、 風 習 が 異 なる 日 本 、ヨーロッパ、アラブ、アフリカの4 家 族 が 暮 らしており、 物 語 は 厚 い 壁 を 超 えて 行 き 来 しながら 進 む。 写 5.17a にそのセットを 示 す。この 塔 のような 家 は、それ 自 体 が、 地 球 が 自 転 するように 回 転 運 動 をしており、カメラの 視 点 は 塔 の 中 にある 扇 形 状 の 各 部 屋 の 周 囲 の 外 壁 を 移 動 し、それぞれの部 屋 に 入 ったり 出 たりしながら 物 語 が 進 んで 行 く。この 作 品 の 制 作 では 前 作 以 上に 複 雑 な 映 像 合 成 がふんだんに 行 われ、 奇 想 天 外 な 映 像 表 現 が 創 られた 56 。(2) 大 映 スタジオでの 撮 影 ・ 制 作 システムほとんどの 撮 影 、 収 録 は 調 布 の 大 映 スタジオの 最 も 広 い 第 3 ステージで 行 われた。 複 雑 な 多 重 合 成 を 高 精 度 に 行 うため、 撮 影 は 全 てモーション・コントロール・カメラシステムを 使 って 行 われた。この 時 のシステムは、 前 作 品 で 使 われたものよりひとまわり 大 きい 高 性 能 の 映 画 用 の 装 置 で、カメラ 台 車 は 長 さ 40m、 幅 6mものレール 上 を 前 後 、 左 右 、 上 下 に 自 由 に 動 くことができた。カメラ 台 車 にハイビジョンカメラが 据 え 付 けられ、ドリー、パン、チルト、レンズのズームやフォーカスなどが、 全 て 数 値 制 御 のステッピングモーターで 駆 動 される 最 新 鋭 のものだった。 写 5.17b~d に 撮 影 制 作 現 場 の 様 子 を 示 す。現 場 では、 前 作 と 同 じ CCD カメラ 2 台 、デジタル VTR3 台 を 使 って 撮 影 収 録 が 行われた。スタジオの 一 郭 の 小 部 屋 には、 写 5.17e,f に 示 すように、カメラ CCU や映 像 モニター、VTR、 合 成 用 アルチマットなどのハイビジョン 機 材 が 所 狭 しと 並 べられ、 撮 影 時 の 映 像 調 整 や 合 成 映 像 の 確 認 などに 使 われた。広 いスタジオには、 実 物 大 の 部 屋 と 1/6、1/40、1/100 の 大 中 小 3 種 類 のミニチュアセットが 設 置 され、 演 出 に 合 わせて 使 い 分 けられた。ミニチュアと 言 ってもかなり 大 きく、 人 間 も 乗 ることができる 大 きなターンテーブルの 上 に 組 み 立 てられ、その 動 きもコンピュータで 制 御 された。 実 物 大 の 部 屋 のセットやこれらのミ125


ニチュアセットに 適 宜 ブルースクリーンを 張 り、 複 雑 な 多 重 合 成 をするために 撮影 は 全 てモーション・コントロールシステムを 使 って 行 われた。それまでの 制 作では 使 ったことがなかった 大 掛 かりで 高 性 能 の 映 画 用 システムを 使 ったことにより、 複 雑 で 迫 力 ある 効 果 的 な 映 像 表 現 が 可 能 になったのである。(3) 放 送 センター 編 集 室 でのポストプロダクションポストプロダクション 作 業 は、 写 5.17g に 示 すような、 当 時 、NHK でただ 一 室 しかなかったフルデジタル 編 集 室 で 行 なわれた。ここで 使 われたハイビジョン 機 材は、 大 映 スタジオの 撮 影 現 場 で 使 われた 上 述 の 各 種 機 器 に 加 え、 動 画 キー 信 号 生成 用 の HD ビデオマット、 静 止 画 像 加 工 ・ 処 理 用 ペイントボックス、 多 重 合 成 時 に効 果 的 なダビング 特 性 の 良 い 静 止 画 メモリー、 固 体 スロー 装 置 など、 当 時 NHK の最 新 機 器 がフル 動 員 された。さらに、 演 出 の 要 求 に 迅 速 かつ 柔 軟 に 応 え、 効 率 的 な 作 業 ができるように、デジタル VTR は 常 設 の 4 台 に 2 台 増 設 し 計 6 台 を 使 って 制 作 が 行 われた。フルデジタルの 編 集 室 なので、いずれの 機 器 ともデジタル 信 号 で 受 け 渡 しができ、 前 作 品の 時 のようにシステムを 組 みかえる 必 要 がなく、 画 質 を 気 にすることなく 映 像 表現 を 優 先 しクリエイティブな 制 作 作 業 に 専 念 することができた。(4) 活 用 された 制 作 手 法 と 得 られた 映 像 表 現この 作 品 における 特 徴 的 な 映 像 効 果 、 映 像 表 現 、それらを 実 現 するためにとられた 制 作 手 法 について、 以 下 具 体 的 に 説 明 する。物 語 の 中 で、ひとつの 部 屋 から 隣 の 部 屋 へ 移 動 するには、 写 5.17h に 示 すようなロケットのような 一 風 変 わった 格 好 をしたマシンが 厚 い 壁 に 大 きな 穴 を 開 けながら 進 むシーンが 何 度 も 登 場 する。あるカットでは、 火 や 煙 を 吹 き 上 げながら 壁に 穴 を 開 け 通 り 抜 け、そのマシンの 回 りでは、 人 間 達 が 驚 いたり 慌 てふためいたり 大 騒 ぎをする。 中 沢 は 地 球 上 に 存 在 する 文 化 、 風 習 、 価 値 観 の 異 なる 多 様 な 民族 が、 境 界 を 超 えて 移 動 したり、 共 存 することが 如 何 に 難 しいことかを、 各 部 屋を 隔 てる 壁 を 突 き 破 って 進 むこのマシンの 動 きで 表 現 しようとしたと 思 われる。民 族 の 生 活 習 慣 や 文 化 の 違 いを 現 すため、 部 屋 ごとに 造 りや 雰 囲 気 をがらりと変 え、 壁 や 床 面 の 材 質 や 色 、 室 内 の 家 具 やオブジェを 差 し 替 えた。 部 屋 により 役者 の 肌 の 色 や 衣 装 も 振 舞 いも 全 く 異 なり、その 都 度 ユニークで 色 々 変 わった 表 現が 盛 り 込 まれた。 演 出 の 意 図 をより 効 果 的 に 表 現 するため、 単 に 前 景 と 背 景 映 像を 合 成 するだけでなく、 人 物 の 動 きのスピードを 変 えたり、 実 物 大 セットとミニチュアセットを 使 い 分 け、CG 画 像 との 合 成 やイフェクト 用 の 映 像 を 付 加 したり、まさに 特 殊 映 像 効 果 がふんだんに 盛 り 込 み 制 作 された。126


ある 部 屋 では 写 5.17k に 示 すようにバラが 床 面 から 芽 を 出 し、 見 る 見 るうちに茎 が 伸 び 花 が 咲 くというシーンがある。そのような 映 像 を 表 現 するため、 花 の 映像 をペイントボックスで 作 成 し、 部 屋 の 中 のセット、オブジェにはめ 込 み、 実 写撮 影 による 人 物 と 合 成 した。 他 のシーンでは、 時 には 見 る 人 の 度 肝 を 抜 くため、時 には 合 成 映 像 の 自 然 感 を 増 すため、 煙 や 火 花 、 雷 光 などのイフェクト 映 像 を 付け 足 すこともしばしば 行 われた。またあるカットでは 固 体 スロー 装 置 を 使 い 映 像をコマ 落 ちさせてテンポアップしたり 逆 にスローにすることで、コミカル 的 な 動きにするなどの 表 現 も 使 われた。 合 成 時 に 付 加 されるイフェクト 用 の 映 像 素 材 の多 くは、 監 督 の 思 い 入 れもあるのか 前 作 の 時 と 同 じようにフィルムで 撮 影 され、レーザーテレシネでハイビジョン 映 像 化 され 合 成 に 使 われた。実 物 大 の 室 内 セットで 人 物 が 演 技 する 場 合 、 写 5.17l に 示 すようにブルースクリーンを 窓 枠 にセットし、その 前 で 演 じられる 前 景 をモーション・コントロール・カメラで 撮 影 し 背 景 映 像 と 合 成 したり、ミニチュアセットで 撮 られた 映 像 と 切 り替 えて 合 成 したりした。ミニチュアセットは 前 述 のように 3 種 類 のサイズのものがあり、それぞれの 演 出 意 図 、 映 像 効 果 にあわせ 使 い 分 けられた。 時 にはミニチュアセットを 大 きなターンテーブルに 乗 せ、 回 転 させ、モーション・コントロール・カメラで 撮 影 し、 別 に 撮 影 した 他 の 映 像 と 合 成 した。しかしそのような 場 合 、異 なる 複 数 のセットを 使 って 撮 影 するため、 使 用 するレンズのフォーカスや 被 写界 深 度 も 異 なり、フレーム 画 枠 の 違 いに 加 え、ターンテーブルの 回 転 速 度 などが撮 影 のたびに 微 妙 に 異 なり、そのまま 合 成 しカットを 切 り 替 えると、 奥 行 き 感 が変 わり、イメージサイズや 動 きが 不 連 続 になることもあった。しかし 撮 影 、 収 録段 階 でそれらを 厳 密 にあわせることは 至 難 のことで 制 作 効 率 も 下 がるので、ポスプロ 段 階 でサイズや 動 きのスピードを 微 調 整 し、 合 成 による 不 自 然 さを 軽 減 するようにした。そのためポスプロでの 映 像 加 工 処 理 、 修 正 作 業 は 想 定 以 上 の 時 間 を要 したが、 映 画 のオプティカル 法 ではこのような 処 理 はできないことで、ハイビジョン 技 術 を 使 ったからこそ 可 能 になったのである。ラストカットで、カメラが 回 転 する 円 筒 状 の 家 を 徐 々に 引 いて 行 きロングショットになると、 茸 の 格 好 をした 家 が 実 は 地 球 儀 を 台 にとめているネジ(Screw)であることが 明 らかになる。このシーンの 撮 影 は 小 型 のミニチュアセットを 使 い、カメラの 寄 りと 引 きの 一 連 の 動 作 をしっかりフォーカス 合 わせしながら 撮 らねばならず、 高 度 な 撮 影 技 術 が 必 要 だった。 最 後 にはこの 回 転 するネジが 芯 棒 からはずれ、 丸 い 地 球 儀 がころげ 落 ちてエンドとなる。 中 沢 はこの 作 品 でも、 前 作 同 様に 我 ら 人 類 の 破 滅 的 な 未 来 を 暗 示 したかったようだ。127


(5) 本 作 品 制 作 についてのまとめこの 作 品 の 制 作 は、 撮 影 は 大 映 スタジオで、ポスプロは NHK の 編 集 室 で、 映 画スタッフとハイビジョンスタッフが 協 力 しながら 行 われた。 前 作 にまさる 多 彩 で高 度 な 映 像 効 果 ・ 表 現 を 効 率 的 に 実 現 するため、 両 者 の 連 携 プレイが 緊 密 に 行 われ、 撮 影 と 編 集 の 中 核 となる 制 作 スタッフは 事 前 テストから 本 番 制 作 まで 両 方 の作 業 に 関 るようにし、 各 段 階 を 通 じてコミュニケーションを 十 分 とりながら 制 作が 進 められた。しかし 準 備 万 端 を 整 えたつもりでも、 本 番 撮 影 さらに 編 集 段 階 になると 予 想 外 のことが 頻 発 し、その 度 毎 に 試 行 錯 誤 しつつ、 監 督 以 下 、 映 画 とハイビジョン 両 スタッフが 協 力 し、 粘 り 強 い 長 時 間 の 制 作 作 業 が 行 なわれた。ちなみに 大 映 スタジオでの 撮 影 、 収 録 は 機 器 セットや 事 前 準 備 も 含 め 約 2 週 間 に 対 して、NHK 編 集 室 でのポスプロ 作 業 は 連 日 の 深 夜 作 業 を 重 ね 約 5 週 間 にのぼった。このようにハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおいては、 単 にハードウエアや 技 術 を 共 用 するだけでなく、それぞれの 業 界 の 経 験 、 知 見 、ノウハウを 共有 しつつ 連 携 、 協 力 し 相 乗 効 果 を 上 げることが 非 常 に 重 要 で、そのことを 実 際 の作 品 制 作 の 中 で 実 証 した 格 好 の 実 践 例 だったと 言 える。5.3.4.3 本 節 のまとめ中 沢 が 制 作 した"Ten Seconds After"と"The Screw and the Wall"は、1993 年 と1994 年 にハイビジョン 国 際 映 像 祭 (IECF) 57 でグランプリを 連 続 受 賞 するなど 国 内外 で 高 い 評 価 を 得 た。 中 沢 はそれ 以 前 も 以 後 も、ユニークで 質 の 高 い 作 品 を 制 作しているが、この 2 作 品 を 制 作 した 後 で 次 のような 提 言 をしている 58 。以 前 からコンピュータを 活 用 した 映 像 制 作 が、ハイビジョンの 優 秀 性 を 活 かすのに 非 常 に 効 果 的 だと 考 えていたが、モーション・コントロールシステムを使 った 作 品 制 作 を 続 けてきて、この 2 本 の 作 品 で 大 きく 結 実 することができた。そのことは2 作 品 とも 国 内 外 で 高 く 評 価 されたことからしても 実 証 されたと 考えている。さらに 中 沢 は、 当 時 、まだハイビジョンと CG システムが 十 分 に 有 機的 につながっていないことを 嘆 き、 恐 るべき 速 さで 進 化 しているコンピュータの 画 像 処 理 能 力 をハイビジョンはもっと 生 かすべきである。このことは、 制 作 者 として 当 時 の 映 像 制 作 状 況 を 最 前 線 で 見 ていたからこそ 言えたことで、 次 世 代 に 向 けて 率 直 で 真 摯 な 提 言 だった。このことは、その 後 、 映画 やハイビジョンの 制 作 において、CG 技 術 の 利 用 が 急 速 に 進 展 してきた 状 況 を 見128


れば、この 時 の 実 践 が 結 実 してきたと 言 えるし、 今 から 振 り 返 ると 中 沢 の 見 通 しは 見 事 に 当 たっていたと 言 うことができる。5.4 本 章 のまとめ本 章 では、80 年 代 から 90 年 代 にかけて 行 われた「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」の 制 作 実 践 例 について 具 体 的 に 述 べた。 前 段 では 主 な 11 作 品 を 選 び、概 ね 時 系 列 に 概 説 し、 後 段 では 特 にメディアミックスの 意 味 合 いが 高 く、 従 来 以上 の 斬 新 な 表 現 を 実 現 した 特 徴 的 な 5 作 品 を 取 り 上 げ、それぞれの 実 践 における技 術 的 な 問 題 、 実 現 した 映 像 表 現 とそれらを 実 現 するために 開 発 された 制 作 技 法 、それに 伴 い 影 響 を 受 けたワークフロー、 作 品 に 対 する 評 価 などを 詳 細 に 論 じた。それぞれの 実 践 例 のところで 述 べたように、フィルムとハイビジョンで 異 なる 毎秒 コマ 数 やアスペクト 比 に 対 するハードおよびソフト 面 での 対 応 策 、 素 材 により異 なる 画 調 をできるだけ 統 一 する 対 応 策 、さらに 映 像 表 現 を 豊 かにし 制 作 効 率 を一 層 高 めるための 機 器 の 改 善 改 良 と 制 作 技 法 の 開 発 など、 各 作 品 制 作 を 重 ねるごとに 制 作 技 量 の 向 上 と 作 品 の 質 が 高 くなっていった。このように、 多 くの 制 作 実 践 の 過 程 を 通 じ、 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ 数 々の 課 題 を克 服 し、ハイビジョンの 威 力 を 発 揮 し 制 作 された 作 品 は、 前 述 したように 国 内 外の 映 画 祭 などで 高 く 評 価 され、 実 際 の 興 行 面 でも 好 評 を 博 し 好 成 績 を 達 成 するなど、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスとして 大 きな 成 果 を 上 げることができた。そしてこれらの 実 践 過 程 を 通 じて 得 られた 技 術 的 成 果 やノウハウは、その後 一 層 本 格 的 に 行 われるようになったハイビジョン 番 組 の 制 作 や 映 画 とのメディアミックスにおいて 有 効 に 活 用 されただけではなく、 第 7 章 にて 述 べる 2000 年 代のデジタルシネマに 象 徴 される 新 たな 映 像 メディアの 展 開 にもつながって 行 くことになった。123456789志 賀 信 夫 、 沼 野 芳 脩 『ハイビジョンソフト 入 門 』、NHK 出 版 協 会 、pp.190-195、1988志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.43-45藤 尾 孝 「 高 品 位 テレビジョンの 開 発 と 将 来 」テレビジョン 学 会 誌 、vol.36、No.10、pp.3-12、1982吉 沢 章 「 高 品 位 テレビによる 番 組 制 作 の 現 状 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.38-42、1985、志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.23-28、pp.115-117、タイトルは「 夢 」を 意 味 している鈴 木 昭 男 「HDTV 番 組 の 制 作 」 放 送 技 術 誌 、No.12、pp.77-83、1986同 氏 とは 懇 意 でしばしば 情 報 交 流 する 関 係 にあった志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.48-54平 島 幸 夫 「ハイビジョンドラマ『 秋 ・ 京 都 』の 撮 影 と 照 明 」 映 画 テレビ 技 術 、No.3、pp.21-28、1986、 筆 者 はハイビジョン 担 当 として 関 与志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.152-155129


10111213141516171819202122232425262728293031323334353637383940414243ニュービデオシステム 研 究 会 「エレクトロ・シネマトグラフ 技 術 省 委 員 会 調 査 」 報 告 書pp.1-17、1987/5、 筆 者 は NVS 委 員 として 制 作 や 評 価 に 参 加藤 尾 孝 「 将 来 の 放 送 と 高 品 位 テレビジョン」NHK 技 研 月 報 、Vol.24、No.11、pp.9、1981志 賀 信 生 ・ 隈 部 紀 生 『デジタル HDTV の 時 代 』NHK 出 版 協 会 、pp.144-145、1998/11文 献 12、pp.144、 文 献 15、pp.117-119石 田 「リボ/プロダクション」 米 国 ハイビジョン 調 査 報 告 、pp.38-40、1988/10バリー・リボ 氏 とは 筆 者 は 以 前 から 懇 意 な 関 係 にあった志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、「ハイビジョンソフト 入 門 」pp.33-37、pp.117-119志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.29-33高 尾 隆 「イタリア RAI 放 送 局 ハイビジョンドラマ 制 作 現 場 から」 映 画 テレビ 技 術 、No.2、pp.18-23、1987志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.31-32志 賀 ・ 沼 野 前 掲 書 、pp.155-157中 堀 正 夫 、 中 野 稔 「『 帝 都 物 語 』の 撮 影 と 視 覚 効 果 」 映 画 テレビ 技 術 、No.4、pp.72-76、1988、 両 氏 とは 懇 意 な 関 係 、 本 作 品 の 制 作 に 関 しても 情 報 交 流 あった鈴 木 昭 男 「『 帝 都 物 語 』の HDTV 技 術 」 放 送 技 術 誌 、No.3、pp.65-70、1988、 同 氏 とは 懇意 な 関 係 で 技 術 的 情 報 を 交 流 があった八 木 信 忠 ( 元 映 テレ 協 会 理 事 長 )「 日 中 ハイビジョン 映 画 技 術 協 力 『 美 ・その 融 合 』」HVC NEWS N0.4、1989/7、ハイビジョン 草 創 期 の 頃 から 今 日 にまで 懇 意 な 関 係 にあり、情 報 を 共 有 、 交 流 してきた八 木 信 忠 「 日 中 共 同 製 作 によるハイビジョンの 映 画 利 用 実 験 映 画 『 美 ・その 融 合 』の 製 作 報 告 」 映 画 テレビ 技 術 誌 、No.10、pp.39-47、1989、 筆 者 も 委 員 として 参 加伊 藤 二 良 ( 元 映 テレ 協 会 理 事 長 )「 第 17 回 ユニアテック 国 際 会 議 に 出 席 して」映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp.39-42、1990鈴 木 昭 男 「 黒 澤 映 画 『 夢 』におけるハイビジョンの 利 用 」 放 送 技 術 誌 別 刷 り、No.3、1990鈴 木 昭 男 他 「 黒 澤 映 画 『 八 月 の 狂 詩 曲 』におけるハイビジョン 技 術 」 放 送 技 術 誌 、No.6、pp.119-124、1991沼 野 芳 脩 「 奇 想 天 外 な 映 像 展 開 はナマ 合 成 編 集 から 生 まれた」、『ニューメディア』No.12、pp.48-51、1990沼 野 「エレクトロニック・パレットの 誕 生 」ニューメディア 誌 別 刷 り、1991/10沼 野 「 映 画 制 作 とハイビジョン」クロマ 誌 、No.1、pp.50-52、1992筆 者 は 本 作 品 制 作 のポスプロ 担 当 として 関 与ヴィム・ヴェンダース「ポートフォリオ」からの 抜 粋 、1992/2稲 垣 都 々 世 「 新 作 、 夢 の 涯 てまでも」FEATURE2、pp.6-9、1992川 村 尚 敬 「ハイビジョン SFX『 西 遊 記 』のトライアル」 電 気 通 信 誌 、No.10、pp.31-35、1988石 田 他 「ハイビジョン 利 用 による 映 画 『 西 遊 記 』の 制 作 」テレジョン 学 会 技 術 報 告 、pp.23-28、1989/1、FVF 変 換 技 術 アドバイザーとして 制 作 に 参 加図 面 引 用 : 石 田 「ハイビジョン 産 業 応 用 の 技 術 動 向 」クロマ 誌 、No.2、pp.27、1990上 松 廣 美 「『 西 遊 記 』の 制 作 に 当 たって」 電 気 通 信 誌 、No.10、pp.36-41、1988上 松 他 「『 西 遊 記 』の 制 作 に 当 たって」NHK 内 部 資 料 、1988/6石 田 「『 西 遊 記 』 制 作 における F→V 変 換 について」NHK 内 部 資 料 、1988/5田 村 茂 NAC 社 「レーザーテレシネ 用 画 ぶれ 補 正 装 置 」NHK 内 部 資 料 、1991/1中 村 克 史 「『 出 発 』 特 殊 効 果 を 活 用 した 初 の 本 格 ドラマ」 日 経 ニューメディア最 前 線 レポート、pp.135-140、1988/11志 賀 信 夫 「 映 像 の 先 駆 者 『 沼 野 芳 脩 』」NHK 出 版 協 会 、pp.170-173、2003/3、技 研 時 代 から 交 流 あり、 筆 者 が 番 組 制 作 に 関 わることになったのは 同 氏 との 縁 による志 賀 ・ 沼 野 「ハイビジョンソフト 入 門 」NHK 出 版 協 会 、pp.209-210、1988/7、ハイビジョンプロジェクトメンバーとして 制 作 に 関 与門 条 由 男 、 秋 山 雅 和 「エレクトロ・シネマ『 出 発 』の 制 作 手 法 」テレビジョン 学 会 技 術報 告 、pp. 11-16、1989/1松 原 武 司 「『 出 発 』~Lohg Way from Home の 制 作 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp. 16-17、1988130


44門 条 「エレクトロ・シネマ『 出 発 』の 映 像 効 果 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp.28-30、198845平 嶋 幸 夫 「『 出 発 』の 照 明 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp.20-22、198846為 ケ 谷 秀 一 「 映 画 『プロスペローの 本 』とハイビジョン」クロマ 誌 、No.1、pp.46-49、1992、フランス「ル・モンド」 紙 に 高 い 評 価 掲 載47制 作 技 術 センター、 映 像 技 術 「HV 映 画 『プロスペローの 本 』 編 集 作 業 報 告 」NHK 内 部 報 告 書 、1991/348飯 野 俊 幸 他 「ハイビジョンシステムを 利 用 した『プロスペローの 本 』の 制 作 」、NHK 内 部 業 務 報 告 書 、1991/3、 技 術 統 括 、FVF 担 当 として 制 作 に 参 加49 為 ケ 谷 前 掲 書 、pp.47-4850 HVC「ハイビジョン・ビッグバン'91」 事 業 報 告 書51同 上 報 告 書 、pp.79-8452石 田 「テレビ 番 組 における 多 彩 な 映 像 表 現 」InterBEE'94、30 周 年 記 念 国 際 シンポジウム、 放 送 技 術 誌 、No.9、pp.72-75、199553沼 野 「 奇 想 天 外 な 映 像 展 開 はナマ 合 成 編 集 から 生 まれた」ニューメディア 誌 、No.12、pp.50、199054丸 山 雅 久 他 「"TEN SECONDS AFTER"の 制 作 」NHK 内 部 業 務 報 告 、1993、技 術 統 括 として 制 作 に 参 加55中 沢 英 夫 「ハイビジョンソフト 裏 話 "The Screw and the Wall"」HVC ニュース、199456菊 池 智 浩 「"The Screw and the Wall"の 制 作 を 終 えて」NHK 内 部 業 務 報 告 、1994/6技 術 統 括 として 制 作 に 参 加57ハイビジョン 国 際 映 像 祭 日 本 委 員 会 「ハイビジョン 国 際 映 像 祭 事 業 報 告 書 」200358中 沢 「 映 像 の 未 来 方 向 」NHK 内 部 報 告 、1994/7131


第 6 章 ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスにおけるコンテンツ 配 信 ・ 上 映 に 関 する 実 践1 はじめに第 5 章 では、80 年 代 から 90 年 代 に 行 われたハイビジョンと 映 画 のメディアミックスによるコンテンツの 制 作 面 について 具 体 的 実 践 例 をもとに 論 じた。 本 章 では「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」に 関 するもうひとつの 側 面 である「コンテンツの 配 信 ・ 上 映 ・ 興 行 」について、 当 時 行 われた 実 践 例 について、 経 緯 、得 られた 成 果 、その 後 の 映 像 メディアに 与 えた 影 響 などについて 考 えて 見 たい。従 来 の 映 画 の 場 合 、 映 画 作 品 はフィルムにより 配 給 され、 映 画 館 の 映 写 機 でスクリーン 上 に 上 映 される。テレビ 放 送 の 場 合 、テレビ 番 組 は 電 波 やネットにより配 信 され、 家 庭 のテレビや 映 像 ホールなどのディスプレイで 視 聴 される。 本 論 文の 主 題 であるメディアミックスで 制 作 されたコンテンツは、 最 終 的 完 成 版 がフィルムの 場 合 は 映 画 フィルムと 同 じルートをとり、 完 成 版 がハイビジョンの 場 合 はハイビジョン 上 映 設 備 を 備 えた 映 像 ホールやシアターにテープやディスクでの 配給 、または 衛 星 やネットで 配 信 され、ハイビジョンディスプレイで 上 映 される。コンテンツを 上 映 するシアターあるいは 映 像 多 目 的 ホールによっては、 両 方 の 設備 を 持 つところもあり、 両 者 を 混 在 するケースもある。電 子 メディアとしての 特 徴 を 最 大 限 活 かすには 2 ないし 3 番 目 のケースが 望 ましいが、 当 初 ハイビジョンコンテンツを 上 映 公 開 できる 場 所 は 極 めて 限 られていた。そこでそのような 場 所 や 上 映 の 機 会 を 増 やすべく、ハイビジョンシアターなどを 進 展 させるため 様 々な 研 究 調 査 活 動 や 試 行 実 験 、 各 種 イベントが 行 われた。それらの 活 動 成 果 を 踏 まえ、80 年 代 後 半 頃 から 公 共 施 設 にあるいは 公 的 支 援 を 受けつつ 全 国 各 地 に 多 目 的 映 像 ホールやハイビジョン・ギャラリーなどが 次 々と 開設 され、 電 子 メディアのメリットを 活 かしハイビジョンコンテンツの 上 映 だけでなくイベントのライブ 中 継 なども 行 われるようになっていった。本 章 では、ハイビジョンシアターを 論 じる 前 提 として、 標 準 テレビによるビデオシアターの 動 向 、 経 緯 を 振 り 返 り、 次 にハイビジョンシアターの 推 進 に 向 け 行われた 数 々の 研 究 調 査 活 動 の 成 果 と、それらが 映 像 メディアの 展 開 に 与 えた 影 響について 取 り 上 げる。そして 実 際 に 全 国 規 模 で 映 画 館 や 多 目 的 ホールなどで 行 なわれた 映 画 やハイビジョン 作 品 の 配 信 、 上 映 興 行 の 試 行 実 験 について 述 べる。その 上 で、その 後 、 全 国 各 地 に 構 築 された 数 々のハイビジョンを 利 用 した 映 像 多 目的 ホールやハイビジョンシアター、 多 くの 美 術 館 や 博 物 館 に 開 設 されたハイビジ132


ョン・ギャラリーなどについて、システムの 技 術 動 向 や 進 展 状 況 さらにそれらのトータル 的 波 及 効 果 としての 映 像 産 業 的 側 面 についても 考 察 する。そして 本 章 の後 半 では、 電 子 メディアとしてのメリットを 活 かすようなコンテンツ 配 信 に 関 し、国 内 外 を 通 信 衛 星 などで 結 び 行 われた 数 々の 伝 送 実 験 について 検 証 する。筆 者 は、 本 章 で 述 べる 研 究 調 査 活 動 、イベントや 実 験 に 様 々な 立 場 、 役 割 で 関わり、また NHK-ES 出 向 時 、 映 像 多 目 的 ホールやハイビジョンシアターなどの 構 築や 運 用 保 守 を 担 当 していたこともあり、 本 章 での 論 述 は、 当 時 まとめられた 膨 大な 報 告 等 をベースに、 自 身 の 経 験 、 知 見 も 含 めて 行 っている。6.2 ハイビジョンシアター 展 開 に 向 けて 行 われた 実 践本 節 では、メディアミックスで 制 作 されたコンテンツの 配 信 、 上 映 について 考える 前 提 として、まず 当 時 の 映 画 産 業 の 状 況 がどうだったのか、 台 頭 し 始 めたビデオシアターの 動 向 や 展 開 について 振 り 返 っておく。その 上 で 本 論 のハイビジョンや 大 型 映 像 シアターの 推 進 、 構 築 に 向 けて 行 われた 様 々な 研 究 調 査 活 動 や 映 画とハイビジョン 業 界 が 共 同 して 取 り 組 んだ 数 々の 試 行 実 験 について 述 べる。6.2.1 1990 年 代 以 前 の 映 画 産 業 の 状 況 とビデオシアターの 動 向つくば 博 を 機 にハイビジョンが 普 及 し 始 めた 1987 年 、 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会は 通 産 省 の 委 託 により「 映 画 を 取 り 巻 く 社 会 環 境 の 変 化 」や「 映 画 産 業 の 現 状 と今 後 の 展 望 」など 映 画 産 業 に 関 する 調 査 研 究 1 を 行 った。その 結 果 に 基 づき 映 画 の状 況 とビデオシアターの 展 開 について 考 えてみる。日 本 における 映 画 産 業 の 推 移 2 によると、 観 客 動 員 数 ( 日 本 映 画 産 業 統 計 による)は、1959 年 の 11 億 2700 万 をピークに 年 々 減 少 し、 東 京 オリンピックを 機 にテレビが 普 及 し 始 めた 60 年 代 半 ばには 4 億 3000 万 となり、その 後 も 漸 減 低 落 傾 向 を辿 り、ハイビジョンが 開 発 された 80 年 頃 には 1 億 6000 万 となり、 映 画 とのメディアミックスが 試 みられた 80 年 代 後 半 には 過 去 最 低 の 1 億 4400 万 を 記 録 することになった。 映 画 館 数 で 見 ると、70 年 代 半 ば 2500 館 を 越 えていたのが、80 年 頃には 2300 館 に 減 り、80 年 代 後 半 には 2000 館 を 切 ってしまった。その 後 も 映 画 館数 の 減 少 傾 向 はとまらず、とりわけ 地 方 都 市 においては 映 画 館 のない 都 市 が 半 数にもなる 状 況 になってしまった。その 一 方 、90 年 代 、 東 京 や 大 阪 といった 大 都 市 部 においては、 館 数 は 減 少 する中 で 観 客 数 100~300 人 程 度 のミニシアターが 増 えてきた。いわゆる「シネマ・コンプレックス」と 呼 ばれる 複 合 型 映 画 館 の 登 場 である。 小 規 模 の 映 画 館 を 同 じ 建133


物 内 に 配 置 し、 最 小 限 のスタッフで 全 体 施 設 を 管 理 運 用 し、 映 写 装 置 を 自 動 制 御し、 作 品 の 人 気 、 客 の 入 りに 合 わせて 柔 軟 に 上 映 興 業 するスタイルだった。90 年代 半 ばから 2000 年 にかけ、シネマ・コンプレックスの 増 加 のおかげで、スクリーン 数 でみると 絶 対 数 は 大 きくはないが 連 続 的 に 増 加 する 傾 向 になってきた 3 。それらの 中 には、 映 画 をフィルムによらずビデオ 信 号 で 上 映 するいわゆるビデオシアターも 現 われて 来 た。80 年 代 半 ばに 登 場 したビデオシアターは、90 年 代 初頭 には「 浦 安 市 民 プラザ Wave101」、「 港 南 台 シネサロン」など 40 館 位 になっていた 4 。これらのビデオシアターは、デパートやショッピングセンターなどに 開 設 され、 気 軽 に 映 画 が 楽 しめると 言 うことで 主 婦 や 家 族 連 れ、 若 者 などに 人 気 があった。 当 時 のビデオシアターの 様 子 を 写 6.1a,b に 示 す。当 時 、ビデオシアターの 上 映 システム 5 としては、「ニューシネマ"CINEMA21"」(パナソニック)と「シネマチック・シアター」(ソニー)の 2 方 式 があった。 前 者 はEDTV のひとつだったクリアビジョン 方 式 で 行 われ、3 管 CRT 投 射 型 ディスプレイを 使 い、スクリーンサイズは 150" 程 度 、 再 生 機 は MⅡ 型 VTR と 言 う 構 成 だった。後 者 は 映 画 作 品 の 不 法 コピーを 防 止 すること、さらに 高 画 質 を 求 め 少 しでも 走 査線 数 を 多 くするため PAL 方 式 を 採 用 し、ディスプレイは 3 管 CRT 投 射 型 、スクリーンサイズは 150" 相 当 、 再 生 VTR はベータカム SP が 使 われた。いずれの 方 式 も 当時 の 最 新 技 術 が 盛 り 込 まれていたが、 標 準 テレビ 方 式 の 限 界 による 精 細 度 不 足 のため 上 映 スクリーンサイズはせいぜい 100"~150" 程 度 が 限 度 で、 明 るさ、ダイナミックレンジ、 色 再 現 性 など 画 質 の 面 でも 物 足 りなさがあり、ビデオシアターは期 待 されたほどには 普 及 せず、より 高 画 質 のハイビジョンシアターの 実 用 化 が 待たれたのである。6.2.2 大 型 映 像 シアターに 向 けた 研 究 調 査映 画 産 業 ・ 映 像 業 界 が 上 述 のような 状 況 にあった 80 年 代 半 ば 頃 、 高 精 細 度 で 大画 面 向 きの 映 像 メディアのハイビジョンが 登 場 し、 次 世 代 ビデオシアターへの 期待 が 大 いに 高 まってきた。そしてハイビジョンシアターや 多 目 的 映 像 ホールの 実現 へ 向 けて、 様 々な 研 究 調 査 や 実 際 に 試 行 、 実 験 が 行 なわれた。当 時 ディスプレイや VTR などシアター 用 に 使 うハイビジョン 機 材 は 大 変 高 価 で、比 較 的 廉 価 だった 35mm フィルム 映 写 システムを 更 新 するのは、 既 存 の 映 画 興 行 業界 にとってビジネス 的 に 困 難 だった。しかし、フィルム 物 流 に 代 わり 電 子 配 給 になれば、フィルムのプリントやフィルム 配 送 が 不 要 になり、 上 映 システムの 自 動化 や 省 力 化 もやりやすくなり、さらに 電 子 化 は 進 展 しつつあったシネマ・コンプ134


レックス 化 との 親 和 性 が 良 いといった 利 点 も 多 く、 映 画 業 界 の 関 心 はかなり 高 くなってきた。さらに、 新 たなビジネス 展 開 としてのハイビジョンによるコンテンツ 配 信 や 上 映 シアターへの 期 待 はますます 大 きくなっていき、そのような 状 況 に応 えるべく、 以 下 のような 様 々な 研 究 調 査 、 試 行 実 験 が 活 発 に 行 なわれた。それらの 活 動 、 実 験 の 成 果 は、ハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホール 構 築 の 機 運を 高 め、その 後 の 大 型 映 像 システムの 進 展 に 大 きな 影 響 を 与 えていき、やがては2000 年 代 のデジタルシネマの 展 開 へと 繋 がって 行 くことになる。(1)「 新 映 像 トータルシステム 開 発 委 員 会 」の 活 動第 3 章 に 記 したが、 日 本 映 画 機 械 工 業 会 の「 新 映 像 トータルシステム 開 発 委 員会 」は、80 年 代 後 半 に 当 時 急 速 に 進 歩 を 遂 げ 始 めていたデジタル 技 術 やハイビジョンの 実 用 化 を 受 け、 時 代 に 相 応 しい 効 率 性 ・ 経 済 性 の 高 い「 新 映 像 トータルシステム」の 研 究 開 発 を 行 った。 具 体 的 には、 映 画 の 撮 影 ・ 加 工 処 理 用 各 種 ハイビジョン 機 器 、さらに 最 新 デジタル 技 術 を 駆 使 した 映 画 映 写 方 式 を 研 究 し、 実 際 にシステムを 開 発 し 公 開 した。それらの 成 果 はその 後 の 映 像 制 作 や 上 映 システムの進 歩 に 影 響 を 与 え、2000 年 代 のデジタルシネマの 展 開 にも 繋 がっている。(2)「 複 合 型 映 像 制 作 拠 点 整 備 事 業 」による 研 究 調 査1987 年 、 映 画 テレビ 技 術 協 会 は 通 産 省 からの 委 託 により「 複 合 型 映 像 制 作 拠 点 」の 整 備 事 業 に 関 し 大 規 模 な 調 査 6 を 行 った。まず 開 設 中 の 国 内 外 の 映 像 関 連 施 設 の実 態 に 関 して、 映 像 博 物 館 や 映 像 ライブラリーについて「 英 国 国 立 写 真 ・ 映 画 ・テレビ 博 物 館 」やわが 国 初 のハイビジョン・ギャラリーを 導 入 したばかりの「 岐阜 県 立 美 術 館 」などを、テーマパークについては「ユニバーサルスタジオ」や「 東映 太 秦 映 画 村 」などを、 研 究 ・ 教 育 施 設 として「 英 国 王 立 映 画 学 校 」や「ベルリン 映 画 ・テレビ 学 校 」などについて、 施 設 規 模 や 運 用 状 況 などを 詳 細 に 調 査 した。そしてそれらの 調 査 結 果 をもとに、 新 しい 時 代 に 応 えるような 大 型 映 像 システム構 想 を 提 案 した。その 中 には 既 存 メディアであるテレビやフィルム 技 術 に 加 え、ニューメディアとして 注 目 され 始 めていたハイビジョンやコンピュータグラフィックスも 含 め、 最 先 端 技 術 を 有 機 的 に 連 携 できるようなクリエーティブ 施 設 の 構想 も 盛 込 まれた。これらはその 後 、ハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールのような 大 型 映 像 システムを 構 築 する 際 の 基 礎 データとして 使 われた。(3)「コミュニティ・シアター・システム」に 関 する 研 究 調 査日 本 映 画 機 械 工 業 会 および 日 本 機 械 工 業 連 合 会 は、1989 年 通 産 省 からの 委 託 により、 地 域 社 会 の 産 業 と 文 化 を 結 合 した 多 目 的 映 像 スペースの 創 造 を 目 的 にした調 査 研 究 7 を 行 なった。フィルム 映 像 とハイビジョンなどの 電 子 映 像 を 複 合 したシ135


アター 構 築 に 向 け、「フィルムとビデオに 関 る 画 質 上 の 問 題 」、「フィルムとビデオの 複 合 映 写 システムの 技 術 的 問 題 」などについて、 映 画 、ハイビジョン 両 分 野 の専 門 家 が 協 力 して、 様 々なテーマを 研 究 調 査 しまとめた。その 中 で、 他 に 類 のない 試 みとして、NHK のスタジオにて 35mm 映 写 機 によるフィルム 上 映 とタラリアによるハイビジョン 映 像 の 比 較 評 価 実 験 も 行 なった。これはハイビジョンシアターの 展 開 を 視 野 に 入 れた 初 めての 試 みで、 委 員 会 だけでなく 映 像 業 界 関 係 に 公 開 され、その 後 の 映 像 メディアの 進 展 に 向 けた 基 礎 データとして 有 効 に 使 われた。(4) NVS 研 究 会 「ハイビジョンビデオシアター 技 術 小 委 員 会 」第 3 章 に 記 した NVS 研 究 会 の 活 動 のひとつとして、ハイビジョンシアターに 関する 研 究 調 査 が 活 発 に 行 われた。その 中 では、 現 行 方 式 のビデオシアターの 実 態調 査 、ハイビジョンシアターのフィージビリティの 調 査 研 究 が 行 われた。 前 者 については 前 項 に 記 した 通 りである。 後 者 についてはハイビジョンシアターに 使 えそうな 大 画 面 用 ディスプレイの 動 向 調 査 と 評 価 、 既 に 開 設 済 みのハイビジョンによる 多 目 的 ホールの 実 情 調 査 、さらにコンテンツの 配 信 に 使 う 伝 送 方 式 の 調 査 も行 った。また 小 委 員 会 分 科 会 では、フィルム 素 材 をテレシネでハイビジョンに 変換 し、それをハイビジョンディスプレイで 上 映 した 場 合 の 画 質 、 色 調 、 画 調 について、 変 換 実 験 および 上 映 評 価 実 験 も 行 った 8 。それらの 研 究 成 果 については 第 4章 に 述 べてある。6.2.3 ハイビジョン・ 大 型 映 像 シアターに 向 けたメディアミックスの 実 践前 項 までに 記 した 各 種 研 究 調 査 活 動 などの 成 果 を 受 け、 以 下 のような 多 くの 活動 、 実 験 が 行 われた。これらは 映 像 メディアに 関 する 社 会 的 実 験 、シミュレーションであり、 得 られた 成 果 、 経 験 はその 後 の 映 像 メディアの 展 開 に 大 きな 影 響 を与 えて 行 くことになる。これらの 活 動 にも 筆 者 は 色 々な 役 割 、 立 場 で 参 加 し、それらを 通 して 得 た 知 見 、 経 験 は 本 論 文 の 中 の 論 述 のベースになっている。(1)「ハイビジョン・ビッグバン'91」におけるメディアミックスの 実 践ハイビジョンの 産 業 応 用 が 盛 んに 行 われ 始 めていた 1991 年 秋 、 通 産 省 が 後 援 し、ハイビジョン 普 及 支 援 センターが 主 催 し、NHK や 多 くの 企 業 の 協 力 のもと、 東 京 国際 映 画 祭 にあわせて 全 国 的 規 模 の 大 イベント「ハイビジョン・ビッグバン」が 開催 された 9 。ハイビジョンによる 新 しい 映 像 空 間 の 開 発 を 目 指 し 行 われた 実 験 事 業で、 全 国 各 地 の 映 画 館 や 公 共 ・ 商 業 施 設 あわせ 32 会 場 において、270 日 間 にわたって 実 施 された。イベント 期 間 を 通 じ、9 万 人 近 い 人 々がハイビジョン 作 品 や 映 画のメディアミックスによる 作 品 を 見 て、ハイビジョン 技 術 の 有 効 性 と 魅 力 を 体 験136


することになり、その 後 のハイビジョンシアターや 多 目 的 ホールなど 大 型 映 像 システムの 展 開 に 大 きな 影 響 を 与 えることになった。このイベントには、 映 像 メディアとしての 大 きな 可 能 性 を 持 つハイビジョンにより、 新 たな 発 展 を 目 指 したい 映 画 業 界 も 全 面 的 に 協 力 した。 公 開 場 所 となった映 画 館 は、 東 京 地 区 のシネセゾン 渋 谷 、 渋 谷 東 急 3、 渋 谷 松 竹 セントラル、 新 宿 東宝 ビレッジ 1、 名 古 屋 のシネプラザ 2、 大 阪 のテアトル 梅 田 2、 広 島 のシネ・ツインなどとかなりの 数 になった。 映 画 館 の 選 定 にあたっては、 当 時 のハイビジョン映 像 のクオリティー、 機 器 の 性 能 ・ 機 能 を 考 慮 し、200 人 前 後 の 客 席 を 持 つ 中 規 模館 で、 今 回 の 実 験 に 相 応 しい 条 件 環 境 を 持 ち、かつ 一 般 興 行 のさなかに 本 事 業 への協 力 が 得 られる 映 画 館 が 選 ばれた。これらの 映 画 館 では 後 述 の 映 画 作 品 が、 一 般興 行 の 合 間 を 縫 い 4 日 間 にわたり 有 料 で 公 開 された。この 時 、 上 映 された 作 品 は 写 6.2 に 示 す 映 画 の『 福 沢 諭 吉 』や『 戦 争 と 青 春 』、『 波 の 数 ほど 抱 きしめて』、『ニューシネマ・パラダイス』の 4 本 と 第 5 章 に 記 したハイビジョン 作 品 『オーケストラ』などである。 邦 画 3 作 品 については、 事 前に 映 画 制 作 担 当 者 が 立 会 い 厳 密 な 画 質 管 理 のもとにイマジカ、ソニーPCL のテレシネを 使 い、ネガフィルムまたはインターネガフィルムからハイビジョン 映 像 に 変換 された。 上 映 に 使 われたハイビジョンディスプレイは、 第 3 章 に 記 した CRT 投射 型 (ソニー、 松 下 、 東 芝 )、ライトバルブ 型 タラリア(ナック)、 液 晶 プロジェクター( 三 洋 )の 3 タイプだった。スクリーンサイズは 上 映 館 の 条 件 、 使 用 したディスプレイの 性 能 にあわせ、CRT 型 では 200" 程 度 、タラリアでは 250" 程 度 、 液晶 型 は 110" 程 度 だった。 作 品 の 再 生 には、 第 3 章 に 記 したカセット 型 VTR ユニハイが 使 われたが、 収 録 に 使 った VTR と 再 生 VTR の 互 換 性 に 問 題 があり、 音 声 ノイズが 混 入 するなど、 実 運 用 の 場 合 における 問 題 点 も 明 らかになった。映 画 館 以 外 の 公 開 場 所 として 選 ばれた 公 共 施 設 としては、 本 章 で 後 述 する 川 崎市 産 業 振 興 会 館 、 北 九 州 国 際 会 議 場 、NHK 展 示 プラザ、 通 産 省 本 館 ロビー、テピアホールなどで、さらに 一 般 の 商 業 施 設 として、 電 通 ギャラリー、 情 報 面 積 ソミド(ソニー)、 東 芝 銀 座 セブンなどの 他 、イベント 協 力 企 業 の 展 示 ショールームなどでも 多 くのハイビジョン 作 品 が 無 料 で 公 開 された。 使 われたハイビジョン 設 備 は施 設 、 企 業 によって 多 種 多 様 で、 公 開 されたハイビジョンソフトは、NHK や 民 放 、多 くのプロダクションが 制 作 した『 金 閣 ・ 銀 閣 』、『 風 の 又 三 郎 』、『いきいきベンダース』、『 飛 騨 ・ 高 山 祭 り』などだった。このイベントは、 映 画 とハイビジョンをビジネスレベルで 融 合 する 初 めての 全国 規 模 での 大 きな 試 みで、 前 述 のように 行 政 、NHK や 民 放 局 、ハイビジョン 関 係 業137


界 、 映 画 界 、 機 器 メーカが 協 力 して 行 われたものである。 事 後 の 調 査 報 告 10 によると、この 実 験 事 業 を 通 じ 観 客 の 評 価 はまあまあで、 新 たな 映 像 メディアの 展 開 としてのハイビジョンシアターが、 技 術 的 にもビジネス 面 においても 可 能 性 があることを 実 証 し、 映 画 業 界 関 係 者 もハイビジョンシアターの 可 能 性 を 実 感 することになった。 一 方 、 実 際 にビジネスとして 実 践 する 場 合 、 上 映 用 のディスプレイの設 定 や 調 整 法 、 再 生 用 VTR の 性 能 ・ 機 能 面 、 特 に VTR の 互 換 性 など、 数 々の 問 題と 解 決 すべき 課 題 があることも 明 らかにすることができた。これらの 実 験 を 通 して 得 られた 成 果 は、その 後 のハイビジョンと 映 画 のメディアミックス、 大 型 映 像システム、ハイビジョンシアターの 展 開 にとって 多 くの 基 礎 データになり、 非 常に 大 きな 意 義 のある 実 践 だった。(2)「ハイビジョン・シンポジウム」 映 画 とのメディアミックスの 実 践東 京 国 際 映 画 祭 '91 との 併 催 行 事 として、 渋 谷 文 化 村 のシアターでハイビジョン・シンポジュウムが 開 催 された。この 催 しの 中 で、 第 5 章 で 述 べた 日 英 共 同 制作 ハイビジョン 映 画 『プロスペローの 本 』ノーカット 版 も 公 開 上 映 、あわせて 同作 品 の 関 係 者 によるパネルディスカッションも 催 された。翌 92 年 の 東 京 国 際 映 画 祭 の 際 にも、 渋 谷 道 玄 坂 に 近 い「 渋 谷 ビーム」で、 写 6.3に 示 すようにハイビジョン・シンポジウムが 開 催 された 11 。この 時 のメインテーマは「 映 画 とハイビジョンの 共 生 」と 言 うことで、 映 画 、ハイビジョン 両 分 野 の 専 門家 の 講 演 やパネルディスカッションが 行 われ、 参 加 者 はのべ 数 百 人 を 越 えた。この 施 設 は 様 々なイベントに 使 われる 円 形 の 階 段 状 の 多 目 的 ホールを 持 ち、そこに12 管 式 CRT フロント 投 射 型 ハイビジョンディスプレイと 300"の 大 スクリーンが 設置 され、メインテーマに 相 応 しい 映 画 やハイビジョン 作 品 が 上 映 された。 上 映 された 作 品 は、ハイビジョンテレシネで 変 換 されたハリウッド 映 画 『バグジー』(1991、監 督 ウォーレン・ベイティ)や 泉 鏡 花 の「 星 女 郎 」を 原 作 としライトビジョン 制作 (NHK EP 協 力 )のハイビジョン 映 画 『 鏡 花 狂 恋 』(1992、 監 督 服 部 光 則 )、ハイビジョン 作 品 "Vision of Light"(1992、AFI and NHK)などだった。これらのコンテンツはユニハイ VTR やミューズ 方 式 レーザーディスクプレイヤーを 使 い 再 生 された。このように 2 年 続 けて、 東 京 国 際 映 画 祭 にあわせてハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 するイベントが 開 催 されたが、 新 しい 映 像 時 代 の 風 潮 にマッチしたのか、 両 年 ともハイビジョン 関 係 者 や 映 画 業 界 の 技 術 者 、 経 営 者 だけでなく、次 世 代 を 担 う 若 者 も 数 多 く 参 加 し 大 盛 況 だった。その 意 味 ではその 後 の 映 像 メディアの 展 開 にとって 非 常 に 有 益 な 実 践 だったと 言 える。138


(3)ハイビジョン 多 目 的 ホールの 実 践 例前 述 のようなイベントでの 実 績 にも 拘 らず、 映 画 上 映 専 用 のハイビジョンシアターの 開 設 はなかなか 進 まなかった。その 一 方 で、ハイビジョンシステムを 導 入した 大 型 映 像 多 目 的 ホールや 次 項 に 述 べる 美 術 館 などにおけるハイビジョン・ギャラリーは、80 年 年 代 後 半 から 90 年 代 初 頭 にかけて 全 国 各 地 に 数 多 く 開 設 された。それらの 中 で 代 表 的 な 実 践 例 をもとに、システムの 技 術 動 向 や 特 徴 、 課 題 、 有 効性 や 波 及 効 果 などについて 具 体 的 に 論 じてみたい。川 崎 市 は 通 産 省 のハイビジョン・モデルシティに 指 定 され、 当 初 からハイビジョン 推 進 に 大 変 熱 心 で、1988 年 「 川 崎 市 産 業 振 興 会 館 12 」に 国 内 で 最 初 のハイビジョン 施 設 を 導 入 した 13 。 写 6.4 に 示 す 座 席 数 300 の 大 ホールには 200"サイズの CRTフロント 投 射 型 ハイビジョンディスプレイが 設 置 され、バックヤードには 記 録 再生 用 1 インチ VTR( 東 芝 )などの 各 種 ハイビジョン 機 器 が 整 備 された。この 施 設 はNHK-ESが 運 用 ・ 保 守 を 担 当 し、 第 3 章 に 記 したハイビジョン 普 及 支 援 センター(HVC)に 隣 接 すると 言 う 地 の 利 もあり、 当 時 、 年 間 を 通 し 多 くのハイビジョンや 映 像 業界 関 係 者 が 集 い、ハイビジョン 推 進 の 拠 点 施 設 のような 役 割 を 担 っていた。 年 間を 通 しハイビジョンを 活 用 した 国 内 外 の 会 議 やシンポジウム、 学 会 などが 開 催 され、 国 内 で 最 も 活 発 に 活 動 が 行 われていた。また 同 ホールでは、NHK 制 作 のハイビジョン 作 品 や 川 崎 市 にゆかりのあるハイビジョンソフトの 公 開 も 行 われ、 一 種 のハイビジョンシアターとしてハイビジョン 展 開 の 推 進 にも 貢 献 していた。北 九 州 市 もハイビジョン・モデルシティに 指 定 されたのを 機 に、1990 年 「 北 九州 国 際 会 議 場 」にハイジョンによる 大 規 模 な 多 目 的 ホールを 開 設 14 した。 座 席 数 600のメインホールには、200"サイズのリア 投 射 型 タラリア 3 式 が 設 置 され、ライブ用 ハイビジョンカメラやコンテンツ 記 録 再 生 用 VTR やビデオディスクなど 最 先 端の 各 種 ハイビジョン 機 器 が 整 備 された。 中 小 会 議 室 にも 多 くのハイビジョンシステムが 整 備 され、さらに 衛 星 やネットワーク 設 備 も 整 備 され、 国 内 では 最 大 規 模の 多 目 的 ハイビジョンホールとなった。ここでは 国 内 外 の 他 の 施 設 とも 通 信 衛 星やネットワークを 経 てリンクし、 写 6.5 に 示 すようなハイビジョンを 活 用 した 国際 会 議 やシンポジゥム、 学 会 、 講 演 会 、 映 画 やハイビジョン 作 品 の 上 映 会 、 映 像音 楽 祭 など 多 種 多 彩 な 催 しが 年 間 を 通 じ 開 催 された。 同 施 設 の 稼 働 率 は 大 変 高 く、公 的 施 設 とは 言 え 十 分 ビジネスベースに 乗 るハイビジョン 多 目 的 ホールとしての成 功 モデルとして 大 きな 注 目 を 集 め、 年 間 通 して 国 内 外 からの 見 学 者 が 絶 えず、多 くの 各 種 映 像 ホールでの 展 開 に 影 響 を 与 えることになった。これらのふたつの 例 は 公 的 施 設 だったが、 民 間 ベースによる 実 践 例 も 多 かった。139


それらの 代 表 例 として、 大 鰐 スキー 場 にある「 青 森 ロイヤルホテル」は 1990 年 、このような 施 設 としては 異 例 とも 言 える 大 規 模 なハイビジョンシステムを 導 入 した 15 。 会 議 やコンサート、 結 婚 披 露 宴 やパーティなど 各 種 イベントが 開 ける 大 ホールには、200"フロント 投 射 型 ディスプレイやハイビジョンカメラ、ユニハイ VTRなどが 整 備 された。そのホールでは 写 6.6 に 示 すように、ハイビジョンを 利 用 したコンファレンスがしばしば 開 催 された。さらに 中 会 議 室 には、60"リア 型 ディスプレイ、ビデオディスクや 静 止 画 再 生 装 置 などから 成 るハイビジョン・ギャラリーも 開 設 された。 同 ホテルはリゾート 地 にあるホテルという 性 格 を 活 かし、ハイビジョンカラオケとかハイビジョンゲームなど 他 に 類 のない 設 備 も 整 備 された。夏 はゴルフ、 冬 はスキー、さらに 会 議 や 結 婚 式 など 年 間 を 通 じてかなり 客 が 多 く、ハイビジョンがビジネスチャンスを 拡 げる 事 例 として 評 判 になり、 国 内 外 からの見 学 者 も 多 かった。その 結 果 、ミサワリゾートギャラリーなど 他 の 民 間 施 設 における 大 型 映 像 システム 導 入 の 動 機 付 けになりハイビジョンの 推 進 、 普 及 にも 貢 献することになった。(4)ハイビジョン・ギャラリーの 展 開前 項 のハイビジョン 映 像 多 目 的 ホールの 進 展 と 時 期 をほぼ 同 じくして、 美 術 館や 博 物 館 の 展 示 用 システムとして、 全 国 各 地 にハイビジョン・ギャラリーが 数 多く 構 築 された。 一 般 的 に 美 術 館 や 博 物 館 では、 多 数 の 収 蔵 品 のうちスペースの 制約 などのため 一 部 の 作 品 しか 展 示 できず、 従 来 から 補 助 的 に VHS テープやレーザーディスクなどによるビデオ 公 開 も 使 われていた。しかし 標 準 テレビによるビデオシステムでは 画 質 が 低 く、 来 場 者 にとっても 館 にとっても 満 足 が 得 られるものではなかった。そこで 高 精 細 度 で 大 画 面 映 像 表 示 に 適 し、しかも 電 子 メディアとして 作 品 や 情 報 の 検 索 性 に 優 れているハイビジョンを 活 用 することに 大 きな 期 待が 寄 せられ、 多 くの 施 設 に 導 入 が 進 むことになったのである。その 機 運 に 応 え、ハイビジョン 普 及 支 援 センターや NHK グループ、 関 連 企 業 間でハイビジョン・ギャラリーシステムの 標 準 化 が 進 められ、 数 多 い 施 設 にシステム 導 入 が 進 んだ。それらの 中 で 代 表 的 な 例 について、システムの 技 術 動 向 や 特 徴などについて 見 ておきたい。ハイビジョン・ギャラリー 第 1 号 は、1989 年 「 岐 阜 県 立 美 術 館 」に 導 入 された 16 。ハード 系 の 構 築 およびコンテンツの 制 作 は、NHK-ES、NHK-EP、 大 日 本 印 刷 、 日 本ビクター、 池 上 通 信 機 の 5 者 が 連 携 して 行 なった。 電 子 メディアとしてのハイビジョンのメリットを 最 大 限 に 活 かすべく、「プログラム 型 」と「データベース 型 」のふたつの 機 能 で 構 成 された。 図 6.1 にハイビジョン・ギャラリーのシステム 構140


17図 6.1:ハイビジョン・ギャラリーのシステム 構 成成 を、 写 6.7 にハイビジョン・ギャラリーの 様 子 とコンテンツを 示 す 18 。前 者 のプログラム 型 は、 当 時 ハイビジョンディスプレイとしては 最 大 級 の 110"サイズのリア 投 射 型 プロジェクターを 備 えた 大 ギャラリーと、60"リアボックス 型ディスプレイを 備 えた 中 ギャラリーで 成 っていた。 提 示 されたハイビジョンコンテンツは 美 術 作 品 の 画 像 と 音 楽 、ナレーションで 構 成 された 5 分 位 の 内 容 で、30本 位 の 作 品 が 用 意 され、 来 館 者 は 鑑 賞 したい 作 品 をメニュー 画 面 から 自 由 に 選 択し、 鑑 賞 できるようになっていた。コンテンツはすべてデジタル 化 され、ランダムムアクセス 可 能 なハイビジョン 静 止 画 ディスク 装 置 (CD-ROM/MO)に 記 録 され、見 学 者 の 要 求 に 応 じてランダムに 再 生 することができた。ディスクへ 記 録 されたデータは 単 なる 静 止 画 像 だが、 映 像 プロセッサーの 制 御 によりスクロールやワイプで 画 面 を 転 換 することで、 擬 似 的 に 動 画 効 果 を 持 たせていた。 現 代 的 に 言 うとまさにマルチメディア 的 コンテンツのはしりだった。さらにユニハイ VTR やレーザーディスクプレイヤーも 備 えていて、 別 途 制 作 されたハイビジョン 映 像 作 品 も再 生 し 鑑 賞 することができるようになっていた。もうひとつの 機 能 であるデータベース 型 ギャラリーは、 記 録 メディアに 光 磁 気ディスク(MO)を 採 用 し、コンテンツは 所 蔵 作 品 の 画 像 と 詳 しい 解 説 情 報 から 成り、 利 用 者 は 中 型 のハイビジョンモニター 画 面 を 見 ながら 見 たい 作 品 の 画 像 や 情報 を 自 由 に 検 索 することができるようになっていた。同 館 に 導 入 ・ 設 置 されたハイビジョン・ギャラリーは 充 分 ビジネスベースにのり、ハイビジョンシステムを 導 入 することにより 大 幅 な 見 学 者 増 をもたらした。141


その 実 績 は 評 判 になり、 国 内 外 から 年 間 を 通 じ 大 勢 の 見 学 者 が 訪 れた。その 後 、同 様 のハイビジョン・ギャラリーは、NHK-ES などにより 西 武 セゾン 美 術 館 、 東 京多 摩 国 際 美 術 館 、 町 田 市 立 版 画 美 術 館 、 新 潟 県 立 美 術 館 、 宮 崎 県 立 美 術 館 など 多くの 美 術 館 や 博 物 館 へ 続 々と 導 入 されていく。これらの 導 入 事 例 を 写 6.8 に 示 す。それぞれ 施 設 の 規 模 や 館 の 目 的 、 施 工 業 者 、公 開 コンテンツに 応 じて、システムや 機 器 構 成 、 運 用 形 態 は 少 しずつ 異 なっている。ハイビジョン・ギャラリーは、 新 しいメディアであるハイビジョン 技 術 によりそれまでの 美 術 館 や 博 物 館 における 展 示 法 を 革 命 的 に 変 えた 大 きなイノベーションだった。また、ハイビジョン・ギャラリーは、 収 蔵 品 をハイビジョンで 展 示公 開 すると 言 う 本 来 の 目 的 の 他 に、 大 型 映 像 システムを 活 用 し、 地 域 における 新たな 映 像 メディア 展 開 の 拠 点 的 な 役 割 も 果 たし、 後 の 映 像 システムの 展 開 、 普 及にも 貢 献 していくことに 繋 がった。(5) 海 外 におけるハイビジョン・ギャラリーの 展 開前 項 に 述 べた 日 本 国 内 におけるハイビジョン・ギャラリーの 実 績 、 評 価 は 国 外にも 伝 わり、 欧 米 の 美 術 館 や 博 物 館 でも HDTV ギャラリーシステムに 対 する 関 心 が高 くなってきた。それを 受 け、NHK-ES は 後 述 するカナダのオタワで 開 催 された 国際 シンポジュウム「HDTV 90 カナダコロキアム」において、ハイビジョン・ギャラリーシステムと 日 本 における 進 展 状 況 について 報 告 を 行 った 19 。 前 述 した 岐 阜 美 術館 のケースを 例 にハイビジョン・ギャラリーのシステム、 実 際 のコンテンツ 内 容 、運 用 上 の 問 題 、 導 入 による 効 果 などをハイビジョン 映 像 も 使 い 報 告 した。 講 演 後 、会 場 からの 多 くの 質 問 に 加 え 事 後 のレスポンスもかなりあり、 資 料 提 供 などを 求められギャラリーシステムへ 高 い 関 心 が 寄 せられた。この 講 演 とは 別 に、 写 6.9 に 示 すようにケベック 州 の 市 立 博 物 館 や 美 術 館 関 係者 に 対 して、HDTV ギャラリーシステムのプレゼンテーションも 行 った。これは 日本 におけるハイビジョン・ギャラリーの 進 展 について、 関 係 者 からの 要 望 に 応 えたもので、 直 接 現 地 の 博 物 館 を 訪 問 し 施 設 のオーナーや 学 芸 員 らを 対 象 にプレゼンテーションを 行 った。それを 聴 講 した 参 加 者 からは、 博 物 館 や 美 術 館 における新 たな 展 示 システムとしてのハイビジョン・ギャラリーに 対 して 高 い 評 価 と 強 い関 心 が 寄 せられた。また 1991 年 、ラスベガスで 開 催 された NAB'91 での"HDTV World"では、NHK 技 研のオープンハウスが 開 設 され、 当 時 のハイビジョンのトータルシステムが 展 示 公開 された。その 中 で、NHK-ES はハイビジョン・ギャラリーシステムの 実 機 を 現 地に 搬 入 し、 写 6.10 に 示 すようにハードウエアおよびコンテンツの 公 開 を 行 った。142


展 示 に 使 われたシステムは 美 術 館 に 導 入 されたものと 同 じもので、 来 場 者 に 本 番と 同 じ 様 に 体 験 してもらった。50"サイズのリア 型 ハイビジョンディスプレイに 再生 されるハイビジョン・ギャラリーのコンテンツ( 絵 画 や 彫 刻 、 美 術 品 や 工 芸 品など)の 映 像 は、 見 学 者 から 実 物 以 上 に 鮮 明 だなどと 高 い 評 価 と 大 きな 感 嘆 が 寄せられた。 我 らはこの 公 開 に 際 し、 見 学 者 に 対 して HDTV ギャラリーシステムに 対するニーズ、 要 望 などについてマーケット・リサーチを 行 った。その 調 査 結 果 によると 20 、 米 国 だけでなくカナダや 中 米 、さらに 欧 州 各 国 からの 見 学 者 も 多 く、システムの 完 成 度 の 高 さ、コンテンツの 品 質 の 高 さ、 導 入 コストや 運 用 保 守 面 など、多 岐 にわたる 質 問 や 要 望 が 寄 せられた。その 後 、 見 学 者 だけでなく 各 施 設 責 任 者ともハイビジョン・ギャラリーの 展 開 に 向 けフォローを 継 続 し、プロモーション活 動 を 精 力 的 に 行 った。 接 触 した 担 当 レベルでの 関 心 は 大 変 高 く、ギャラリーシステム 導 入 に 積 極 的 な 施 設 も 多 かったが、 当 時 、 世 界 的 には HDTV の 認 知 度 は 必 ずしも 高 くなかったこと、 機 器 は 高 価 だったこと、システム 導 入 後 の 保 守 、メンテナンス 性 などに 対 する 懸 念 などで、なかなか 折 り 合 いがつかず、 実 際 に 施 設 への導 入 までには 至 らなかった。世 界 的 には 標 準 テレビが 基 幹 的 映 像 メディアだった 当 時 、 新 たな 映 像 メディアである HDTV が 放 送 以 外 の 分 野 でも 大 きな 可 能 性 を 持 つことを 世 界 的 大 イベントのカナダコロキアムや NAB の 場 でプレゼンテーションした 意 義 は 大 変 高 いものがあった。いずれも 世 界 各 国 から 大 勢 の 参 加 者 があり、 日 本 が 開 発 したハイビジョン・ギャラリーの 性 能 、 機 能 性 に 対 する 評 価 は 高 く、また 海 外 においても 大 きなニーズがあり、 十 分 展 開 可 能 だとの 印 象 を 強 く 感 じた。それと 共 にこれらの 国 際 的 な場 で、 各 国 の 有 識 者 に 対 して 日 本 の HDTV の 実 システムを 公 開 し、 多 くの 情 報 交 流や 人 的 交 流 をしたことは、その 後 、HDTV を 世 界 の 場 で 展 開 を 進 める 上 で 大 いに 役に 立 ったと 言 える。6.2.4 本 節 のまとめ本 節 では、 新 たなビジネス 展 開 を 目 指 し、 映 画 業 界 やハイビジョン 業 界 が 連 携して 行 なった 数 々の 研 究 調 査 活 動 、 試 行 実 験 について 述 べた。それらを 通 じて 得られた 成 果 は、 官 主 導 や 民 間 ベースによるハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホール、ハイビジョン・ギャラリーの 構 築 を 促 進 し、それらの 場 において 多 種 多 彩な 映 像 展 開 がなされた。 本 節 で 取 り 上 げた 事 例 は、 当 時 行 われた 数 々の 例 の 中 の特 徴 的 なもので、その 他 にも 多 くの 実 践 が 全 国 規 模 で 行 われていた。そのような 状況 と 成 功 事 例 は 国 内 のみならず、 海 外 においても 大 きな 関 心 を 引 き 起 していった。143


当 時 行 われた 数 々の 実 践 は、その 後 の 大 型 映 像 システムの 進 展 に 影 響 を 与 え、やがて 2000 年 代 のデジタルシネマの 展 開 へと 繋 がって 行 くことになるが、それらについては 後 述 する。6.3 電 子 メディアの 特 徴 を 活 かしたコンテンツ 配 信 ・ 上 映前 節 では 90 年 代 当 時 、ハイビジョンシアター、 映 像 多 目 的 ホールハイビジョンギャラリーなどに 関 し、 官 ・ 民 ベースで 行 われた 様 々な 動 き、 業 界 の 動 向 、 構 築された 多 くの 施 設 状 況 などについて 述 べた。 当 時 、 各 地 に 導 入 、 構 築 されたハイビジョン 施 設 は 多 種 多 様 で、 一 部 にネットワークを 利 用 する 施 設 もあったが、 多くはスタンドアローン 型 で 公 開 コンテンツもパッケージに 収 納 されたその 施 設 固有 のものが 多 く 他 施 設 と 共 用 のケースは 少 なかった。しかし、 電 子 メディアであるハイビジョンシアターや 多 目 的 ホールが 目 指 すべき 形 態 は、 作 品 やコンテンツの 配 信 は 物 流 によるだけではなく、 通 信 衛 星 や 光 ネットなどでリンクするネットワーク 型 にするのが 望 ましいと 考 えるのは 自 然 なことである。そのようなインフラが 整 備 されれば、 公 開 、 上 映 されるコンテンツは美 術 作 品 や 映 画 作 品 だけでなく、スポーツやコンサートなどのライブ 中 継 にも 使えるようになり、ハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールは、 映 画 館 や 従 来 型映 像 ホールに 比 べ、 大 きく 利 用 法 ・ 範 囲 は 広 がり、 付 加 価 値 はずっと 高 いものになっていく。それを 目 指 すような 実 践 が 数 多 く 行 われた。6.3.1 ハイビジョンによるコンテンツ 配 信 の 実 践 例本 項 では、80 年 代 末 から 90 年 にかけて 行 われた、ハイビジョンコンテンツを 通信 衛 星 や 光 ネットワークで 伝 送 、 配 信 した 数 々の 実 践 例 について 具 体 的 に 論 じる。大 画 面 向 き 高 精 細 度 のハイビジョンコンテンツは、 映 像 信 号 帯 域 が 30MHz と 標 準テレビの 5 倍 にもなり、 伝 送 ・ 配 信 に 際 して 何 らかのデータ 圧 縮 が 必 要 である。当 時 デジタル 圧 縮 方 式 はまだ 十 分 に 実 用 化 されておらず、 以 下 に 示 す 国 内 外 で 行われた 数 々の 通 信 衛 星 伝 送 実 験 では、ほとんどの 場 合 、 第 3 章 で 述 べた BS ハイビジョン 放 送 用 に 開 発 されたミューズ 方 式 が 使 われた。当 時 、 放 送 用 途 以 外 に 使 うミューズエンコーダー・デコーダ 装 置 は、 台 数 が 少なく 機 材 をやりくりするのも 難 しい 状 況 で、しかもかなり 大 型 で 安 定 性 、 操 作 性も 十 分 とは 言 えなかった。 本 項 では、 当 時 行 われたコンテンツ 配 信 の 実 践 例 について、 伝 送 実 験 の 目 的 や 意 義 、システムの 構 成 や 特 徴 、 公 開 上 映 時 の 反 応 、さらにその 後 の 映 像 メディアの 進 展 に 与 えた 影 響 などについて 具 体 的 に 見 てみたい。144


(1) 奈 良 とオーストラリアを 結 んだ「 国 際 ハイビジョン 伝 送 」HDTV が 国 際 的 広 がりを 見 せつつあった 1988 年 、オーストラリア 建 国 200 年 を 祝いブリスベーンにて「 技 術 時 代 におけるレジャー」をテーマにした 万 国 博 覧 会 が開 催 された。そのさなかの 7 月 、「レジャー 博 」 会 場 とおりしも 奈 良 で 開 催 されていた「シルクロード 博 」 会 場 とを 結 び 国 際 ハイビジョン 生 中 継 伝 送 が 行 われた。伝 送 系 統 は 図 6.2 に 示 すように、 奈 良 会 場 で 撮 影 された 映 像 をミューズ 信 号 に 圧縮 し、NTT の 車 載 局 から 国 内 CS で 茨 城 の KDD 地 球 局 に 送 り、 太 平 洋 上 のインテルサット 衛 星 経 由 でオーストラリア OTC 地 球 局 に 送 り、それをオーストラリアの 国内 衛 星 AUSSAT 経 由 でブリスベーンに 送 り、そのまま 地 上 FPU にて 万 博 会 場 に 伝 送しハイビジョン 信 号 に 復 調 すると 言 う 多 段 中 継 による 大 掛 かりなものだった 21 。万 博 会 場 内 の 日 本 政 府 館 には、135"の 3 面 のハイビジョンマルチスクリーンを中 心 とした 縦 5m、 横 21mの 18 面 の 大 スクリーン( 周 囲 のディスプレイは SDTV方 式 と 35mm フィルムプロジェクターで 構 成 )が 設 置 され、シルクロード 博 会 場 から 送 られて 来 たライブ 映 像 と 会 場 内 に 設 置 したハイビジョンカメラで 撮 影 した 映像 とでハイビジョンライブのコラボレーションが 行 われた 22 。ブリスベーン 会 場 の様 子 は、インド 洋 上 インテルサット 経 由 で KDD の 山 口 地 球 局 受 信 し 東 京 に 送 られBS で 放 送 され、 奈 良 会 場 でそれを 受 信 することで 両 会 場 を 結 んだ 双 方 向 交 信 が 成立 した。この 北 半 球 と 南 半 球 で 太 平 洋 、インド 洋 を 超 えたハイビジョン 双 方 向23図 6.2: 奈 良 ・ブリスベーン 国 際 伝 送 系 統145


交 流 は、ライブによるコンテンツ 配 信 の 可 能 性 を 実 証 したものとして、 日 本 、オーストラリア 両 国 内 でテレビや 新 聞 でも 取 り 上 げられ 評 判 になった。この 伝 送 実 験 はまだハイビジョン 実 用 化 初 期 の 頃 行 われた 事 例 だが、 多 目 的 ホールや 新 たなハイビジョンシアターなどでの 大 型 映 像 の 使 い 方 として 注 目 され、その 後 のハイビジョン 推 進 の 大 きな 弾 みになり、 大 変 意 義 のある 試 みだった。 筆者 はブリスベーンの 万 博 会 場 にてこの 双 方 向 伝 送 実 験 に 携 わったが、 会 場 内 大 画面 に 映 し 出 されたハイビジョン 映 像 は、 奈 良 から 3 段 中 継 を 経 てきたとは 思 えないほど 高 画 質 で、 大 画 面 ・ 高 精 細 のハイビジョン 利 用 の 大 きな 可 能 性 を 実 証 し、自 身 でそれを 実 感 することになった。 万 博 会 場 での 大 画 面 映 像 の 様 子 と 現 地 送 受信 設 備 を 写 6.11a,b に 示 す。(2)ハイビジョンを 大 きく 飛 躍 させた「ソゥルオリンピック 国 際 中 継 」前 項 と 同 じ 年 の 10 月 、ソゥルオリンピックが 開 催 された。オリンピックは 放 送メディアにとって 最 大 最 高 のイベントで、1964 年 東 京 オリンピックが 標 準 テレビを 大 きく 普 及 するきっかけになったのにならい、ソゥルオリンピックをハイビジョン 飛 躍 の 絶 好 の 機 会 にしようと、NHK だけでなく 国 家 的 プロジェクト 体 制 を 組 んで 取 り 組 みが 行 われた 24 。ソゥル 大 会 では、つくば 博 を 機 に 実 用 化 が 進 んだハイビジョン 機 器 をフルに 活用 し、 競 技 収 録 、 現 地 での 展 示 、 日 本 への 伝 送 、そして 国 内 各 地 での 公 開 展 示 が行 われた。それまでハイビジョン 実 験 放 送 は BS 放 送 に 間 借 りするように 不 定 期 に行 われていたが、この 時 には 1 日 1 時 間 だけだったが 定 時 的 な 放 送 が 実 施 された。NHK は 現 地 での 取 材 ・ 収 録 、 伝 送 ・ 展 示 、 国 内 での 制 作 ・ 実 験 放 送 ・ 展 示 公 開 とそれまでにないハイビジョン 実 施 体 制 を 組 み 取 り 組 んだ。このオリンピック 中 継 に 使 われたハイビジョン 機 材 としては、 当 時 番 組 制 作 に使 われていたカメラ(HDC-300、HDC-100)に 加 え、NHK 技 研 で 開 発 されたばかりの2/3"ハープ 撮 像 管 を 搭 載 した 小 型 、 高 感 度 ハープカメラ( 従 来 比 10 倍 の 高 感 度 )も 初 めて 使 われた。この 高 感 度 カメラは 従 来 型 カメラに 対 し、 照 度 不 足 の 屋 内 競技 や 最 終 日 の 夜 に 行 われた 閉 会 式 などでの 撮 影 に 使 われ 大 活 躍 した。 閉 会 式 が 催された 陸 上 競 技 場 でセッティング 中 の 高 感 度 カメラを 写 6.12a に 示 す。競 技 は 現 地 で VTR に 収 録 され、1 日 200 本 を 超 える 収 録 済 みハイビジョンテープは 毎 日 2 便 日 本 に 空 輸 され、 放 送 センターで 編 集 後 、1 日 遅 れで 放 送 された。 開 ・閉 会 式 だけは 衛 星 生 中 継 することになり、メインスタジアムに 置 かれた 中 継 車 から、 光 ファイバーにて IBC( 国 際 放 送 センター)にコンポーネントハイビジョン 信号 で 送 られ、そこでミューズ 信 号 にエンコードされ、KTA( 韓 国 電 気 通 信 公 社 ) 地146


25図 6.3:ソウルからのハイビジョン 伝 送 系 統 図上 局 からインテルサット 衛 星 経 由 で 日 本 に 伝 送 された 26 。その 中 継 系 統 を 図 6.3 に、写 6.12b に IBC のハイビジョン 送 出 センターの 様 子 を、 写 6.12c にアップリンク送 信 設 備 を 示 す。 日 本 側 では KDD の 代 々 木 局 および 山 口 局 ( 予 備 系 )で 受 信 され、放 送 センターから 放 送 衛 星 にアップされハイビジョン 放 送 された。当 時 、ハイビジョン 受 像 機 の 普 及 は 極 めて 少 なく、 全 国 81 ヶ 所 の 県 市 庁 舎 など公 共 的 な 場 所 やデパート、ショッピングセンターなどの 商 業 施 設 、メーカのショールームなどに、 写 6.12d に 示 すような 大 型 のハイビジョンディスプレイが 設 置され 一 般 公 開 された。この 時 の 情 景 はまるで 標 準 テレビ 草 創 期 の 頃 の 街 頭 テレビと 同 じようなハイビジョン 街 頭 テレビの 様 相 だったが、 多 くの 国 民 がハイビジョン 映 像 を 直 接 目 にすることになり、その 後 のハイビジョンの 普 及 、 推 進 に 大 きく寄 与 することになった。一 方 、ソゥルオリンピック 開 催 当 時 は、HDTV を 巡 る 国 際 的 な 規 格 論 争 が 顕 在 化していた 頃 で、NHK は HDTV の 国 際 的 理 解 を 促 進 すべく、 世 界 各 国 の 放 送 機 関 やオリンピック 関 係 者 、 一 般 市 民 向 けに、IBC およびソゥル 市 内 3 箇 所 でオリンピック中 継 映 像 や NHK 制 作 のハイビジョン 作 品 の 公 開 展 示 を 行 なった。110"や 54"の 大 画面 ディスプレイで 公 開 されたが、どの 会 場 にも 多 くの 見 学 者 が 詰 め 掛 け、 初 めて見 る 鮮 明 で 迫 力 ある 大 画 面 映 像 に 感 嘆 の 声 が 上 がっていた。 現 地 でのハイビジョン 公 開 の 様 子 を 写 6.12e,f に 示 す。筆 者 はこの 時 、 事 前 準 備 、 本 番 から 撤 収 までほぼ 60 日 間 ソゥルに 滞 在 し、IBC147


での 送 出 、 日 本 への 伝 送 、さらに 市 内 での 中 継 や 展 示 業 務 を 技 術 統 括 の 立 場 で 担当 した。 当 時 ハイビジョンは、 世 界 的 な HDTV 規 格 論 争 のさなかだったこともあり、ハイビジョンクルーは 主 力 の 標 準 テレビの 中 継 クルーとは 別 組 織 として 結 成 され、オリンピックのホストブロードキャスターの NBC( 米 )、KBS( 韓 国 放 送 協 会 )やKTA( 韓 国 電 気 通 信 公 社 )など 海 外 放 送 機 関 とは 大 変 微 妙 な 難 しい 関 係 にあった。ハイビジョン 機 材 の 設 置 場 所 、 国 際 伝 送 中 継 のセッティング、 伝 送 割 り 当 てなどにおいて、 様 々な 軋 轢 に 遭 遇 し 非 常 に 面 倒 な 折 衝 を 迫 られ、HDTV の 置 かれた 厳 しい 状 況 を 身 をもって 体 験 することになった。当 時 の HDTV を 巡 る 複 雑 で 難 題 だらけの 状 況 を 越 えて、ソゥル・ 東 京 間 ハイビジョン 生 中 継 を 成 功 させ、ソゥル 現 地 でも 公 開 展 示 を 行 ったことは、 国 際 的 には 各国 に HDTV の 実 効 性 、 実 用 性 を 知 らしめ、その 後 の 標 準 化 をする 上 で 大 いに 役 に 立った。また 国 内 的 にはハイビジョン 実 験 放 送 を 多 くの 国 民 が 眼 にすることになり、その 後 の 普 及 に 大 いに 役 に 立 った。このようにソゥルオリンピックは、 国 際 的 にも 国 内 的 にも、HDTV、ハイビジョンの 理 解 促 進 に 大 きく 寄 与 し、 後 の 進 展 に 繋 がる 大 きなターニングポイントだった。(3) 映 画 テレビ 技 術 協 会 の「ハイビジョン 衛 星 伝 送 実 験 」1988 年 、ハイビジョンによる 通 信 衛 星 を 利 用 した 大 掛 かりな 映 画 配 信 実 験 が 行われた 27 。 映 画 テレビ 技 術 協 会 が 主 導 し、 松 竹 、 東 宝 、 東 映 、 日 本 ヘラルドなどの映 画 各 社 、NHK、フジテレビ、TBS などの 放 送 各 社 、 宇 宙 通 信 、ナック、イマジカなど 広 範 な 業 界 の 多 くの 企 業 が 協 力 ・ 連 携 し 実 施 された。そのシステム 構 成 を28図 6.4:ハイビジョンによる 映 画 配 信 実 験148


図 6.4 に 示 す。フジテレビ 構 内 に 設 置 された 移 動 地 上 局 から 太 平 洋 上 のインテルサット 衛 星 に 打 上 げられ、 写 6.13a の 仮 設 アンテナで 受 信 し、 写 6.13b に 示 した名 古 屋 ヘラルドのシネチカ 劇 場 とメイテック 名 古 屋 テクノセンターの 2 ヶ 所 で 公開 された。ハイビジョン 映 像 の 伝 送 のための 圧 縮 にはミューズが 使 われ、 映 写 用プロジェクターにはタラリアが 使 われた。 配 信 されたコンテンツはフジテレビ 制作 の 映 画 『 子 猫 物 語 』、 東 宝 の『 火 垂 るの 墓 』、 東 映 の『 肉 体 の 門 』、 松 竹 の『 父 、母 』、それと NHK のハイビジョンプロモーション 作 品 の"This is Hi-Vision"、などだった。この 時 の 実 験 では、 衛 星 による 電 子 配 信 と 共 にパッケージでの 配 給 も想 定 し、ハイビジョン VTR 再 生 による 直 接 上 映 も 行 われた。さらにハイビジョンとフィルム 上 映 による 画 質 を 比 較 評 価 するためフィルム 映 写 機 による 映 写 も 行 われた。この 時 の 映 写 室 の 様 子 を 写 6.13c に 示 すが、 左 がハイビジョンプロジェクターのタラリア、 右 が 35mm 映 写 機 である。この 時 の 伝 送 、 公 開 実 験 には 映 画 関 係 者 、ハイビジョン 関 係 者 ら 1800 人 ほどが参 加 し、 委 員 による 評 価 と 来 場 者 によるアンケート 調 査 も 行 われた 29 。 委 員 の 評 価では、 衛 星 経 由 で 伝 送 されたハイビジョン 映 像 は、フィルム 直 の 上 映 に 比 べ、 解像 度 、 色 再 現 、 階 調 再 現 とも 低 い 結 果 だった。この 時 のハイビジョンはレーザーテレシネによる F→V 変 換 、 伝 送 のための 信 号 圧 縮 、 衛 星 伝 送 、デコーダでの 復 号 、そしてタラリアでの 上 映 と、 何 段 にもわたるプロセスを 経 ており、 各 プロセスが最 適 にチューニングされていなかったこと、 画 質 がタラリアの 調 整 に 依 存 していたことなど 十 分 満 足 されるものではなかった。また 来 場 者 のアンケート 結 果 では、実 験 ではフィルムの 方 がきれいだったと 言 う 感 想 が 多 かったが、その 一 方 で 将 来 、ハイビジョンシアターに 対 する 期 待 は 非 常 に 大 きいことも 明 らかになった。このように、 画 質 の 面 では 必 ずしも 十 分 ではなかったが、ハイビジョンシアターの 技 術 的 実 現 性 、 映 画 の 電 子 配 信 への 可 能 性 十 分 実 証 された 点 で 意 義 ある 試 みだったと 言 える。この 配 信 実 験 は NHK や 中 京 テレビなどのニュースでも 取 り 上 げられ 社 会 的 にも 高 い 関 心 を 呼 んだ。(4)SMPTE と 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 の「HDTV 国 際 伝 送 共 同 実 験 」SMPTE は 前 項 の 映 画 テレビ 技 術 協 会 が 行 ったハイビジョンによる 映 画 配 信 実 験に 高 い 関 心 を 持 ち、 翌 89 年 、SMPTE ロサンジェルス 大 会 にあわせ、 両 者 共 同 で 日米 間 HDTV 衛 星 伝 送 実 験 を 行 なった 30 。 埼 玉 県 の KDD 研 究 所 の 移 動 地 球 局 からインテルサット 衛 星 経 由 でロサンジェルスのコンベンションセンターの 地 上 局 に 伝 送された。 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 から SMPTE 向 けのメッセージに 続 き、 第 5 章 に記 した 日 中 共 同 制 作 の『 日 中 ・ 美 の 融 合 』や『 玄 妙 』、そしてハイビジョン 映 画 『 舞149


姫 』のハイライトシーンを 約 10 分 間 に 編 集 したコンテンツが VTR から 再 生 され、衛 星 経 由 で 伝 送 された。この 時 の 衛 星 中 継 の 様 子 を 写 6.14 に 示 す。この 時 の 伝 送 に 使 われた 圧 縮 方 式 は、 従 来 同 種 の 実 験 で 使 われていたミューズ伝 送 装 置 がたまたまジュネーブの ITU-COM と 競 合 し 使 えなかったため、KDD とキャノンが 共 同 開 発 したデジタル 圧 縮 方 式 が 使 われた。ロスのコンベンションセンターに 設 置 された 直 径 7m の 大 きなパラボラアンテナで 受 信 され、 復 号 された HDTV信 号 は、SMPTE 会 場 内 に 設 置 された 40 インチ HDTV 受 像 機 9 台 に 映 し 出 された。 会場 で 実 験 を 体 験 した 日 米 の 映 画 関 係 者 やテレビ 関 係 者 の 評 価 31 では、 画 質 的 にはさらに 改 善 は 必 要 なものの 伝 送 品 質 は 概 ね 満 足 され、HDTV 伝 送 サービスの 実 現 性 が実 証 され、その 後 の 展 開 に 向 け 大 きな 期 待 が 集 まったと 報 告 されている。これらの 映 画 テレビ 技 術 協 会 が 行 ったふたつの 衛 星 実 験 の 成 果 は、 協 会 誌 などで 広 く 公 開 されたが、その 後 のハイビジョンと 映 画 のメディアミックスや 近 年 のデジタルシネマの 進 展 に 大 きく 繋 がって 行 くことになったと 言 える。(5)「HDTV90 カナダコロキアム」での 双 方 向 伝 送世 界 的 に HDTV 標 準 化 が 検 討 されていた 1990 年 6 月 、カナダオタワで「HDTV'90カナダコロキアム」が 開 催 された 32 。 以 前 から NHK と 番 組 共 同 制 作 などを 通 じ、 日本 の HDTV 推 進 に 好 意 的 だった CBC(カナダ 放 送 協 会 )とテレサットカナダ 共 催 の 国際 的 大 イベントだった。 機 器 展 示 では 日 、 米 、 欧 各 陣 営 からそれぞれの HDTV 規 格による 機 器 やシステムが 展 示 された。 当 時 、 技 術 面 で 圧 倒 的 にリードしていた 日本 からは、NHK のミューズ 方 式 のデモも 含 め、カメラ、VTR、ディスプレイなどハイビジョンのトータルシステムが 公 開 された。 欧 米 からの 展 示 はわずかに HD-MAC 33の 伝 送 システム、CCD テレシネ 装 置 (ボッシュ、 独 )くらいと 少 なく、 日 本 の 技 術力 の 優 位 性 、ハイビジョンの 完 成 度 を 際 立 たせることになった。国 際 シンポジウムでは 日 、 米 、 加 、 欧 州 各 国 からそれぞれの HDTV 推 進 の 基 本 戦略 や 進 展 状 況 について 報 告 されたが、ここでも 日 本 から 具 体 的 に 進 んでいる 放 送計 画 や 産 業 応 用 などの 報 告 がなされ 注 目 された。その 中 で、 筆 者 は 日 本 におけるハイビジョンの 産 業 応 用 に 関 し「ハイビジョンの 映 画 への 応 用 」と「ハイビジョン・ギャラリー」( 前 述 )について、ハイビジョン 映 像 を 見 せながら 報 告 とプレゼンテーションを 行 った 34 。 欧 米 各 国 から、 日 本 ではハイビジョンが 放 送 だけでなく産 業 応 用 面 でも 既 に 進 んでいる 状 況 に 強 い 関 心 が 寄 せられた。大 会 期 間 中 に、 日 本 ・カナダ 双 方 向 の HDTV 伝 送 実 験 も 実 施 され、 欧 米 各 国 からの 大 会 参 加 者 に 公 開 された 35 。この 時 の 伝 送 系 は 図 6.5 に 示 すように、 太 平 洋 上 インテルサット 5 号 とカナダ 国 内 衛 星 ANIK-C2 を 使 って 行 われ、カナダ 側 の 地 上150


36図 6.5: 日 本 ・オタワ 双 方 向 伝 送 系 統 図施 設 としてはテレサットカナダの 送 受 信 施 設 および HDTV 中 継 車 が 使 われた。 東 京から 送 られたハイビジョン 映 像 は、セッション 会 場 内 に 設 置 されたタラリアにより 200"の 大 画 面 に 上 映 された。カナダ 側 からは 大 会 会 場 に 隣 接 するホテルのホールで 上 演 されたライブショーが 東 京 に 伝 送 され、 国 内 でハイビジョン 生 放 送 された。 筆 者 はカナダ 現 地 側 でこの 伝 送 実 験 に 立 会 い、 日 本 から 送 られてきたハイビジョン 映 像 を 大 画 面 で 見 たが、2 段 中 継 された 映 像 とは 思 えないほど 高 品 質 で 安 定していて、 会 場 内 にいた 各 国 の 参 加 者 から 高 い 賞 賛 を 浴 びた。この 時 のシンポジウムや 伝 送 中 継 の 様 子 を 写 6.15 に 示 す。各 国 からの HDTV 機 器 の 展 示 、シンポジゥムでの 報 告 、 双 方 向 伝 送 実 験 いずれを見 ても、 日 本 のハイビジョン 技 術 の 高 さ、 完 成 度 をまざまざと 見 せつけることになった。この 大 会 には 世 界 各 国 の 放 送 業 界 、 映 像 業 界 の VIP、 専 門 家 らが 多 数 参 加していたが、その 後 の 世 界 における HDTV の 行 方 に 大 きな 影 響 を 与 えることになった 点 で 意 義 があった。HDTV 規 格 の 標 準 化 はその 後 も 国 際 的 な 場 で 審 議 が 続 けられていくが、 政 治 的 、 経 済 的 な 面 で 紛 糾 し 中 々 進 まなかったが、 日 本 提 案 の HDTV 方式 の 優 位 性 は 欧 米 の 追 随 を 許 さず、 第 3 章 に 記 したように 様 々な 紆 余 曲 折 を 経 ながら 最 終 的 には 2000 年 に 日 本 提 案 の HDTV スタジオ 規 格 が 世 界 標 準 となった。(6)「 花 と 緑 の 国 際 博 覧 会 」における 全 国 各 地 へのハイビジョン 配 信大 阪 万 博 から 20 年 、つくば 科 学 博 から 5 年 を 経 た 1990 年 、 大 阪 にて 83 カ 国 が参 加 し 国 際 花 と 緑 の 博 覧 会 「 花 の 万 博 」が 開 催 された 37 。 前 述 のオーストラリアでのレジャー 博 やソゥルオリンピックで 盛 り 上 ったハイビジョンの 勢 いを 加 速 すべ151


く、 郵 政 省 や 通 産 省 、HVC、NHK グループも 含 め 官 から 民 の 情 報 産 業 、 電 子 機 械 工業 会 など 多 くの 企 業 、 団 体 が 参 集 し、オールジャパンとも 言 える 大 掛 かりな 取 組みが 行 われた。 写 6.16a に 花 博 でのイベントの 情 景 を 示 す。当 時 、BS ハイビジョンはまだ 実 験 放 送 中 で 花 博 関 連 の 放 送 時 間 枠 は 少 なかったが、 花 博 期 間 中 には 会 場 内 だけでなく 全 国 主 要 都 市 向 けに、 連 日 にわたって 1 日 9時 間 のハイビジョン 番 組 を 配 信 した。このような 長 時 間 枠 を 埋 めるため、NHK や 民放 制 作 の 既 存 番 組 や 期 間 中 に 制 作 された 花 博 用 新 番 組 に 加 え、 花 博 会 場 からの 生中 継 もしばしば 行 われた 38 。前 述 の 第 2 世 代 のハイビジョンカメラ、 高 感 度 カメラ、デジタル VTR を 写 6.16bに 示 したハイビジョン 中 継 車 「 花 の 万 博 号 」に 積 み 込 み、 連 日 広 い 会 場 内 を 巡 り生 中 継 や 素 材 収 録 が 行 なわれた。それらの 映 像 信 号 は 場 内 に 張 り 巡 らされた 光 ケーブルでプレスセンターに 送 られ、 調 整 ・ 編 集 制 作 されミューズ 方 式 で 圧 縮 し 配信 された。 会 場 内 のパビリオンとしては、 国 際 陳 列 館 の 200" 大 画 面 ディスプレイ初 め、 政 府 館 、 大 阪 府 いちょう 館 、 迎 賓 館 、 各 企 業 パビリオンなどに、50"~60"サイズのハイビジョンディスプレイが 多 数 設 置 され、ミューズで 配 信 されてきた信 号 を 復 号 しハイビジョン 作 品 を 上 映 した。数 々の 展 示 施 設 の 中 で 圧 巻 だったのは 日 立 グループ 館 で、 客 席 数 400 人 の 大 ホールの 壁 面 いっぱいに、 写 6.16c に 示 すような 250"の 背 面 投 写 型 ハイビジョンディスプレイを 6 面 繋 げ、 全 体 として 縦 3.1m、 横 幅 35m の 超 ワイド 大 画 面 を 造 り 上げた。コンテンツ 再 生 用 には、 開 発 されて 間 もないハイビジョンデジタル VTR6 台(HV-1200、 日 立 )を 同 期 運 転 し 大 画 面 映 像 を 構 成 した 39 。 当 時 、アイマックスなどフィルム 上 映 が 主 流 だった 大 画 面 映 写 の 中 にあって、 超 巨 大 ワイド 画 面 に 映 し出 されたハイビジョン 映 像 の 迫 力 は 素 晴 らしいと 評 判 になった。ユニバーサルスタジオの R・スタンフ 副 社 長 (SMPTE の 大 物 委 員 で HDTV 推 進 者 )は 会 場 内 の 大 型 映像 を 中 心 に 見 て 回 ったが、この 大 画 面 映 像 を 見 て「 米 国 のシネマコンプレックス・ビジネスに 応 用 できる」と 絶 賛 したと 伝 えられている。ハリウッドの 大 物 で 米 国における HDTV の 強 力 な 推 進 者 の 一 人 である 氏 の 発 言 40 は 影 響 力 を 持 っており 評 判になった。この 時 の 万 博 を 見 ても、 展 示 ・ 展 博 用 の 大 型 映 像 が 従 来 のフィルム 映写 方 式 からハイビジョン 映 写 方 式 へシフトしつつある 映 像 メディアの 大 きな 潮 流の 変 化 を 感 じさせた。そのことはハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールの 進展 にも 好 影 響 を 与 えることになった。この 時 のハイビジョン 映 像 の 公 開 は 万 博 会 場 内 にとどまらず、 大 阪 、 東 京 などの 13 ヶ 所 の「 花 の 万 博 サテライト 会 場 」にも 配 信 され、 万 博 会 場 からライブ 上 映152


された。さらに 全 国 主 要 都 市 の「 緑 のサテライト 会 場 」101 ヶ 所 にはハイビジョンディスプレイが 設 置 され、 花 博 関 連 ソフトが VTR や 光 ディスクなどパッケージメディアを 使 って 再 生 され、 連 日 一 般 公 開 された。このようにコンテンツはネットによる 配 信 とパッケージによる 物 流 の 両 方 が 行 われ、 図 らずも 将 来 のハイビジョンシアターでのコンテンツ 配 給 の 実 験 場 となったのである。 結 果 的 には、つくば科 学 博 の 時 以 上 に、 日 本 中 で 多 くの 人 がハイビジョン 映 像 を 目 にすることになり、ハイビジョンへの 期 待 が 大 いに 高 まり、その 後 、ハイビジョンは 実 験 放 送 から 本 放送 に 向 け 加 速 されていくことになった。それと 共 に、 前 述 のようにハイビジョンシアター 展 開 への 刺 激 剤 にもなったのである。またこの 花 博 では、ハイビジョン 産 業 応 用 のもうひとつの 実 験 として、「ハイビジョンと 新 聞 のメディアミックス」の 試 みも 行 われた 41 。その 概 要 は、ハイビジョンで 収 録 したイベント 映 像 とワープロで 作 成 した 文 字 データをあわせ、 大 阪 市 内の 印 刷 工 場 にデジタル 信 号 で 伝 送 し、その 日 のうちにカラー 印 刷 され「ハイビジョングラフ」として 万 博 来 場 者 に 配 布 された。 当 時 例 のない 初 めての 試 みで、 会場 内 だけでなく 関 係 業 界 で 大 きな 話 題 になった。この 時 の 現 地 での 様 子 を 写 6.16dに 示 す。このように 花 の 万 博 では、 前 述 の「ハイビジョンコンテンツの 配 信 」と「 新 聞とのメディアミックス」のふたつの 実 験 が 行 われたが、いずれも 成 功 裏 に 終 わり、ハイビジョンにとって 放 送 、 産 業 応 用 の 両 面 において 大 きな 推 進 役 になった 点 で、大 きな 意 義 のあるイベントだった。(7) 映 像 多 目 的 ホール 向 けたコンテンツ 配 信 の 試 みと 映 像 産 業 的 側 面ハイビジョン 映 像 を 活 用 する 映 像 多 目 的 ホールは、1990 年 頃 から 全 国 各 地 に続 々と 開 設 されるようになっていった。 地 域 の 事 情 、 施 設 の 開 設 目 的 、 機 器 設 備の 規 模 や 構 成 は 様 々だが、ハイビジョン 利 用 によるコンファレンスや 学 会 、ハイビジョン 作 品 や 映 画 の 上 映 会 など 様 々な 応 用 が 行 われた。それらの 施 設 は 当 初 スタンドアローン 型 が 多 かったが、 徐 々にネットワーク 環 境 を 整 備 し 外 部 とリンクできるようにした 施 設 も 増 えていった。その 状 況 に 伴 いネットワーク 設 備 を 持 つ 映 像 ホールむけに、ビジネスとして 有料 のスポーツ 中 継 や 各 種 イベントのライブ 中 継 などを 配 信 する 試 みが 行 われるようになってきた。 日 本 テレビは 1991 年 11 月 ハイビジョンウイークのさなか、 写6.17 に 示 すように、 日 本 武 道 館 で 開 催 された 全 日 本 プロレス 優 勝 決 定 戦 をハイビジョンで 全 国 19 の 会 場 に 生 中 継 した 42 。ハイビジョン 映 像 はミューズ 方 式 で 圧 縮され JC-SAT の 通 信 衛 星 経 由 で 配 信 され、 各 会 場 には 110"~455"サイズの 大 画 面 デ153


ィスプレイが 設 置 され、 有 料 で 公 開 された。 全 国 の 会 場 には 約 4500 人 のプロレスフアンが 集 まり、ハイビジョンの 大 画 面 と 4CH サラウンド 音 響 で、 武 道 館 に 劣 らぬ 迫 力 と 臨 場 感 を 体 感 できたと 報 じられている。 海 外 においても、ラスベガスで行 われたボクシングタイトルマッチを 他 の 施 設 にも HDTV で 配 信 した 例 がある。 配信 されたどの 映 像 ホールでも、 大 勢 の 来 場 者 を 集 め、 臨 場 感 あふれる 大 画 面 映 像と 音 響 により、メイン 会 場 に 劣 らない 盛 り 上 がりだったと 伝 えられている。これらの 実 践 例 に 見 られるように、 配 信 されたハイビジョンによる 大 型 映 像 は実 会 場 に 劣 らない 臨 場 感 があり、イベント 内 容 にもよるが 集 客 力 があり、 十 分 ビジネスになることが 実 証 された。 各 映 像 多 目 的 ホールにとって、ハイビジョン 作 品や 映 画 上 映 だけでなく 多 種 多 様 な 用 途 に 使 えることは、ハイビジョンを 導 入 する大 きなモチベーションになる。これらのコンテンツ 配 信 実 践 例 での 成 功 は、 近 年のデジタルシネマを 整 備 しようとする 映 画 館 にとって、ビジネスモデルを 探 る 上での 伏 線 にもなっている。 最 近 のワールドカップサッカーなどのライブ 中 継 などでの 大 盛 況 の 状 況 を 見 ると、ハイビジョン 映 像 配 信 はビジネスとして 十 分 成 り 立つ 可 能 性 があることが 実 証 されている。6.3.2 コンテンツ 配 信 実 践 のまとめ前 節 でハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールに 関 する 多 くの 事 例 について述 べたが、それらの 多 くはスタンドアローン 的 な 施 設 が 多 かった。 本 節 では、それらの 施 設 の 機 能 を 一 層 高 め、 付 加 価 値 を 広 げることになる「ネットワークによるコンテンツ 配 信 」に 関 する 主 な 実 践 例 について 述 べた。そのことによりハイビジョンシアターや 多 目 的 ホールは、 映 画 館 や 従 来 型 映 像 ホールに 比 べ、 大 きく 利用 法 が 広 がることになり、ビジネス 的 価 値 はずっと 高 いものになっていった。 本節 で 述 べた 数 々のコンテンツ 配 信 の 実 験 は、2000 年 代 のデジタルシネマなどその後 の 映 像 メディアの 展 開 にとって、 極 めて 重 要 な 実 践 の 前 段 とも 言 える 試 みだった。 当 時 行 われた 実 践 での 経 験 、 問 題 点 の 抽 出 、それらの 克 服 など 多 くの 知 見 の蓄 積 を 重 ねたからこそ、2000 年 代 になりそれらの 成 果 が 実 って 行 ったと 考 える。当 時 行 われた 伝 送 実 験 において、 高 精 細 度 で 大 画 面 向 きのコンテンツの 配 信 に使 われた 圧 縮 方 式 は、 当 時 としては 最 先 端 の 圧 縮 技 術 であるミューズ 方 式 だった。ミューズは 第 3 章 で 述 べたように 信 号 処 理 にデジタル 技 術 をふんだんに 盛 り 込 んで 80 年 代 半 ばに BS によるハイビジョン 放 送 用 に 開 発 された 圧 縮 方 式 だが、90 年代 半 ばに 台 頭 し 始 めた MPEG などのデジタル 圧 縮 技 術 とはアルゴリズムが 異 なっており 汎 用 性 がなく、 当 時 、アナログ・デジタル 論 争 を 巻 き 起 こし 利 用 は 限 定 され、154


やがてはデジタル 方 式 へと 変 わっていくことになる。しかし、 当 時 、 他 にほとんど 選 択 肢 がない 中 で、ミューズが 多 くの 実 践 の 場 で 利 用 されたことは、 映 像 メディアとしてのハイビジョンを 大 きく 成 長 させ、 多 くの 高 品 質 のコンテンツを 生 み出 し、コンテンツ 産 業 を 盛 んにし、その 後 の 新 たな 映 像 メディアの 展 開 につながっていった 点 で 大 きな 意 義 があったと 考 える。90 年 代 末 頃 になると 符 号 化 技 術 、 伝 送 技 術 は 大 きく 成 長 、 発 展 し、2000 年 代 以降 には、HDTV 以 上 の 高 精 細 度 映 像 にも 対 応 できる 高 圧 縮 、 高 画 質 の 符 号 化 技 術 、効 率 的 で 信 頼 性 の 高 いネットワーク 技 術 の 実 用 化 が 進 んでいく。その 流 れの 中 で、ハイビジョン 放 送 の 符 号 化 技 術 はミューズから MPEG2 へと 変 わり、コンテンツ 配信 系 も H.264 とか JPEG2000 など 一 層 、 高 画 質 、 高 効 率 的 な 圧 縮 方 式 へと 変 わっていく。これらの 技 術 動 向 、 状 況 の 推 移 については、 第 7 章 で 述 べることにする。6.4 ハイビジョンシアターについての 考 察ここまで、コンテンツを 公 開 、 上 映 するためのハイビジョンシアターや 映 像 多目 的 ホールに 関 して 行 われた 様 々な 研 究 活 動 や 各 種 イベントでの 試 み、 構 築 された 各 施 設 のシステムやハードウエアの 技 術 動 向 や 稼 動 状 況 、そしてコンテンツ 配信 のために 行 われたシステム 動 向 や 実 践 状 況 などについて 述 べてきた。 本 節 では、それらの 実 践 例 を 踏 まえて、 当 時 のハイビジョンシアターの 展 開 についてあらためて 考 えてみることにする。6.4.1 ハイビジョンシアターを 巡 る 状 況当 時 、ハイビジョンシアターに 使 う 機 器 は、 従 来 の 映 画 の 上 映 システムに 比 べれば 大 変 高 価 で、 本 格 的 ハイビジョンシアターへの 転 換 はなかなか 進 まなかった。しかし、フィルムベースから 電 子 化 にシフトすれば、フィルムのプリントや 物 流にかかる 経 費 、 法 律 で 定 められていた 映 写 技 師 の 人 件 費 が 軽 減 され、システムの自 動 運 用 がしやすくなり、ワンマンオペレーションによる 複 数 スクリーンでのコンテンツの 使 い 回 しも 可 能 となる。その 上 ライブ 中 継 など 多 目 的 な 利 用 を 考 えると、トータル 的 にはハイビジョンによる 電 子 化 はメリットがあり、ハイビジョンシアターへの 期 待 は 大 きくなり、 展 開 する 可 能 性 は 大 いにあると 考 えられた。前 述 したように、 標 準 テレビ 時 代 にビデオシアターの 上 映 設 備 を 多 目 的 ホールなどに 納 めていたソニーとパナソニックは、このような 状 況 に 対 応 するため、ハイビジョン 機 器 による 旧 施 設 からの 更 新 や 新 規 施 設 への 導 入 を 目 指 し、シアター向 けハイビジョンシステムを 開 発 し、 映 画 業 界 への 展 開 を 推 進 した。しかし、シ155


ステム 移 行 に 必 要 な 初 期 設 備 投 資 が 大 きく、その 後 の 減 価 償 却 と 運 用 コスト 的 に採 算 性 が 確 保 できるかどうか 見 通 しがつきにくい 中 、 当 時 、 産 業 的 に 厳 しい 状 況下 にあった 映 画 業 界 にとってハードルは 高 く、 従 来 型 映 画 館 におけるハイビジョンシアターの 構 築 はほとんど 進 まず、 結 果 的 には 前 節 で 述 べたように、 純 粋 のハイビジョンシアターというよりは 映 画 館 以 外 の 施 設 におけるハイビジョンによる映 像 多 目 的 ホールの 構 築 が 進 んでいくことになった。そのような 状 況 ではあったが、 次 項 に 述 べるようなテンポラルだがハイビジョンシアターに 向 けた 挑 戦 的 な 試 みが 国 内 外 で 行 われていった。そしてそれらは2000 年 代 に 至 り、 機 器 コストの 低 廉 化 、 機 能 性 の 向 上 に 伴 い、さらにデジタルシネマの 進 展 とも 相 まって、 電 子 的 上 映 に 対 する 映 画 ・ 映 像 業 界 全 体 の 機 運 が 高 まっていくのである。それらについては 第 7 章 で 論 じることにする。6.4.2 国 内 外 におけるハイビジョンシアターの 状 況 と 展 望(1) 国 内 でのハイビジョンシアターの 状 況 と 展 望前 述 のように、 従 来 型 映 画 館 でのハイビジョンシステムの 導 入 は 進 まなかったが、ハイビジョンシアターと 銘 打 った 施 設 は「 群 馬 こどもの 国 児 童 会 館 」、「 厚 木市 子 供 科 学 館 」、「 逓 信 総 合 博 物 館 」、「 千 葉 市 文 化 センター」など 全 国 的 に 多 数 開設 された 43 。それらの 実 態 は 前 述 したハイビジョン 利 用 の 多 目 的 ホールと 同 じようなもので、 随 時 に 映 画 作 品 を 上 映 することはあっても、いわゆる 映 画 館 型 のハイビジョンシアターと 言 えるものではなかった。一 方 、ハイビジョンシアターを 指 向 した、テンポラルな 実 験 的 な 試 みはかなり行 われた。その 中 で 挑 戦 的 なトライアルと 言 えるのは、1988 年 、 渋 谷 のレストラン「セイヨー 広 場 」に 開 設 された 仮 設 ハイビジョンシアターである。かなり 広 いレストランのフロアに、 明 るい 環 境 にも 強 いリア 投 射 型 110"サイズのハイビジョンディスプレイが 設 置 され、バックヤードには 1"VTR( 本 番 、 予 備 の 2 台 )を 据 付け、それを 使 って 作 品 が 再 生 された。 上 映 作 品 は、 第 5 章 に 記 したハイビジョン映 画 『 帝 都 物 語 』で、 映 画 館 での 興 行 用 のフィルムを 再 度 F→V 化 したハイビジョン 版 だった。食 事 後 に 映 画 を 鑑 賞 するという、いわばレストランシアターの 初 めての 試 みだったが、100 人 位 の 映 画 関 係 者 、ハイビジョン 関 係 者 向 けに 特 別 公 開 された。この作 品 は 第 5 章 で 述 べたように、 実 相 寺 監 督 流 のややアンダー 気 味 の 映 像 のトーンと、おどろおどろしい 映 像 表 現 が 多 く、さすがに 食 事 をとりながら 鑑 賞 するにはあまり 適 当 じゃなく、 食 後 、コーヒーを 飲 みながらの 視 聴 となった。この 時 の 取156


り 組 みは「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」の 可 能 性 を 検 証 する 実 験 として 限 定 的 に 行 われたものだが、NHK や HVC のハイビジョン 関 係 者 や 映 画 関 係 者 、新 聞 、 広 告 メディア 業 界 などから 定 員 一 杯 の 参 加 者 があった。この 試 みはハイビジョンの 映 画 への 応 用 のひとつの 実 践 例 として 関 心 が 高 まり NHK のニュースでもとり 上 げられ 評 判 になった。ハイビジョンにより 制 作 した 映 画 を 従 来 の 映 画 館 での 興 行 とはまったく 異 なる 方 法 、 環 境 で 上 映 した 試 みは、ハイビジョンシアターや 進 展 しつつあったシネマ・コンプレックスの 動 きへ 刺 激 を 与 えることになった。この 時 のレストランシアターの 雰 囲 気 を 写 6.18 に 示 す。また 1990 年 秋 、 既 存 の 映 画 館 「 渋 谷 パルコ・スペース・パート3」にて、ハイビジョンシアターの 実 験 が 行 われた 44 。 観 客 席 ( 約 230 席 )フロアの 一 部 を 仕 切 りCRT 投 射 型 プロジェクターを 設 置 し、200"サイズのスクリーンに 前 面 投 射 で 上 映 された。この 時 の 試 みは、 上 述 のレストランシアターのような 一 時 的 なものではなく、 約 1 ヶ 月 間 、25 回 にわたり 本 格 的 な 有 料 興 行 として 実 施 された 45 。 上 映 された作 品 は、 第 5 章 で 述 べたリプチンスキー 制 作 のハイビジョン 映 画 『オーケストラ』で、コンテンツ 再 生 には 小 形 のカセット 型 ユニハイ VTR が 使 われた。 世 界 各 国 で大 きな 反 響 を 集 めていた 作 品 でもあり、ハイビジョンシアターという 新 しい 映 像メディアの 登 場 に 社 会 的 な 評 判 も 高 まり、 毎 日 夜 9 時 からのレイトショーだったのだが、 若 者 達 をメインに 連 日 100 人 を 超 える 盛 況 だった。 関 係 者 の 事 前 の 予 想では 採 算 性 を 懸 念 する 声 もあったが、 実 際 に 行 われた 興 行 結 果 は 大 成 功 で、ハイビジョンシアターの 実 現 性 を 十 分 実 証 することになった。この 時 の 様 子 を 写 6.19に 示 す。ここでは 当 時 試 みられたテンポラルな 二 つのハイビジョンシアターの 実 践 例 について 述 べたが、 二 つの 試 みはいずれも 実 験 としては 成 功 し、 映 画 業 界 では 大 きな 話 題 になり、 新 たなビジネスチャンスへのモチベーションを 高 めた。しかし、当 時 、ハイビジョン 機 器 は 従 来 型 のフィルム 映 写 システムに 比 べ、 大 変 高 価 で 経営 環 境 が 厳 しかった 映 画 業 界 にとっては、 初 期 設 備 投 資 、 採 算 性 の 点 で 重 荷 だったこと、さらに 時 期 的 に 経 済 状 況 の 先 行 きが 見 通 しにくくなり 始 めたこととも 重なり、 国 内 における 本 格 的 ハイビジョンシアターの 進 展 はあまり 進 まなかった。(2) 米 国 における HDTV シアターの 実 践 例米 国 では 80 年 代 から 標 準 テレビによるビデオシアターがかなり 普 及 しており、90 年 代 になり HDTV 機 器 が 登 場 するのにあわせ、 市 場 のニーズはあるとの 見 通 しのもと、ビジネスとして HDTV シアターを 目 指 す 動 きが 出 てきた。その 具 体 的 事 例 として、 米 国 映 像 産 業 を 支 えるスタジオやビデオ・プロダクシ157


ョンが 集 まっていたフロリダに 拠 点 がある"CLUB THEATER NETWORK(CTN)" 46 は、80年 代 末 から 90 年 代 にかけて HDTV シアター 構 想 を 打 ち 上 げた 47 。 前 述 した 日 本 国 内における 映 像 多 目 的 ホールや 青 森 ロイヤルホテル、 仮 設 シアターなどの 状 況 を 十分 検 証 した 上 でビジネス 戦 略 が 練 られたと 思 われる。そのビジネスコンセプトのターゲットは、 将 来 を 見 据 えたネットワーク 化 された 映 画 興 行 用 の 常 設 館 だった。そのために 配 慮 したポイントは、 上 映 はフィルムに 替 え 電 子 メディアによること、その 画 質 は 35mm フィルム 並 みかそれ 以 上 であること、 作 品 配 給 は 物 流 ではなくネット 配 信 によること、さらにシアターの 付 加 価 値 を 上 げるため 映 画 だけでなくスポーツやコンサートなどライブ 中 継 も 挿 入 することだった。そして 徐 々に 同 規 模 、同 仕 様 のシアターを 増 やし、それらをネットでリンクすることにより、トータル的 に 採 算 性 を 確 保 すると 言 う 考 え 方 だった。マイアミにあるシェラトン・ボナベンチャー・コンベンションセンター 内 に HDTVシアター 第 1 号 館 をオープンした。シアターは 写 6.20a に 示 すように 50 席 程 度 と小 規 模 のもので、BARCO(ベルギー) 製 の CRT 型 HDTV プロジェクターを 天 井 に 設置 し、 横 幅 12ft、 縦 6ft サイズのスクリーンにフロント 投 射 方 式 で 上 映 した。 公開 された 映 画 作 品 は、 当 初 は 映 画 フィルムを 日 本 に 送 り HDTV に 変 換 していたが、経 費 がかさむこともあり、その 後 ハリウッドから 潤 沢 なソフトが 供 給 されるようになったのを 機 に 厳 格 な 画 質 管 理 を 社 内 で 行 うため、 第 3 章 に 記 した HDTV 用 テレシネ 装 置 (RANK CINTEL、 英 )を 導 入 し F→V 変 換 を 行 うようになった。バックヤードには 写 6.20b のように 1 インチアナログ VTR などを 整 備 し、F→V 変 換 した HDTV映 像 の 記 録 、タイトル 作 成 、 簡 易 編 集 および 作 品 再 生 用 に 使 った。CTN はわが 国 で 行 われた 各 種 の 試 行 実 験 を 参 考 にしたと 思 われ、ホテル 内 のレストランで 食 事 をとった 後 で、 隣 室 のシアターで 映 画 を 鑑 賞 するやり 方 をとった。当 時 の 高 価 格 の HDTV 設 備 ではシアター 単 独 で 採 算 を 取 るのは 難 しく、レストランと 組 み 合 わせ 付 加 価 値 をつけるという 考 え 方 だった。さらに 同 社 は、2 年 以 内 にシアターを 10 館 以 上 に 増 やし、ネットワークでリンクさせるとの 計 画 があり、いずれ HDTV 機 器 の 価 格 は 下 がると 見 込 み、その 場 合 には 映 画 館 だけでなく、ホームシアターへの 展 開 も 考 えていたと 思 われる。 当 時 、 住 宅 事 情 に 恵 まれていた 米 国 では、 従 来 から 家 庭 で 映 画 を 楽 しむ 風 潮 もあり、 元 々ホームシアターがかなり 普 及していた。 米 国 の 経 済 状 況 が 良 かったこともあり、ビデオマニアの 中 には 大 型 ディスプレイや 再 生 VTR など 高 価 格 の HDTV 機 器 を 使 うホームシアターへのニーズはあると 見 込 んでいた。 同 社 は 第 2 号 館 を 同 じフロリダに 開 設 し、Southern Bell 社の 通 信 衛 星 を 使 いリンクしたが、1990 年 アトランタで 開 催 された NAB ではドナル158


ド・ラットナー 社 長 は 光 通 信 網 により 全 米 5000 館 という 途 方 もない 構 想 も 発 表 した 48 。しかし、その 後 、それ 以 上 の 事 業 展 開 の 情 報 はほとんどないところから 判 断すると、 想 定 通 りには 進 まなかったようだ。しかし、 同 社 がニュービジネスとしてトライした HDTV シアター 構 想 は、 時 間 的な 見 通 しはやや 楽 観 的 だったとの 感 はあるが、 当 時 行 った 果 敢 な 挑 戦 はその 後 の映 像 メディアの 展 開 に 影 響 を 与 えた 点 で 意 義 があった。ハイビジョン 先 進 国 の 日本 でハイビジョンシアターに 向 け 色 々 試 みられたが、ビジネスとしての 成 立 がなかなか 見 えなかった 90 年 代 前 半 に、まだ HDTV の 認 知 度 が 低 かった 米 国 において、ネットワーク 型 の HDTV シアターを 構 築 しようとした 構 想 は、 敬 服 に 値 する。 同 社は、HDTV は 必 ず 進 展 していくと 見 込 み、 高 価 格 のシステム 経 費 もいずれ 低 減 しニュービジネスは 十 分 採 算 性 が 取 れるとの 経 営 判 断 をしたと 思 われる。同 社 が 当 時 挑 戦 しようとしたことは、 必 ずしも 思 惑 通 りに 進 まなかったが、その 後 、HDTV の 機 器 価 格 は 年 々 低 廉 化 し、2000 年 代 に 至 り、 米 国 内 に 起 きてきたデジタルシネマに 象 徴 される 映 像 メディアの 展 開 を 見 ると、 時 間 的 にはともかく 経営 判 断 としての 方 向 性 は 決 して 間 違 っていなかったと 考 える。6.4.3 ハイビジョンシアターの 実 践 のまとめ本 節 では、なかなか 進 展 が 見 られなかったハイビジョンシアターの 状 況 下 において、それを 目 指 して 行 われた 幾 つかの 事 例 について 述 べた。ここに 記 した 国 内での 実 践 例 の 中 のレストランシアターでは、 新 たなハイビジョンシアターへのアプローチとして、 映 画 やハイビジョンなど 広 範 な 映 像 業 界 関 係 者 の 高 い 評 価 と 関心 を 呼 び、その 後 の 事 業 化 への 機 運 を 高 めることに 役 立 った。また、 実 際 の 映 画館 に 仮 設 したハイビジョンシステムによる 長 期 間 にわたる 実 践 は、ハイビジョンシアターがビジネス 的 にも 採 算 ベースに 乗 ることを 実 証 した。これらの 成 功 事 例は、テレビや 新 聞 メディアからも 注 目 され、その 後 の 展 開 に 貢 献 した。さらにこれらの 事 例 は 米 国 の HDTV シアターの 進 展 に 直 接 的 な 影 響 を 与 え 実 践 が 行 われた。しかし、90 年 代 、 国 内 外 の 経 済 的 状 況 が 厳 しくなり、これらの 実 践 が 本 格 的 ビジネスとして 継 続 されることは 難 しくなっていくが、2000 年 代 になりデジタルシネマが 進 展 する 状 況 になり、 本 稿 に 記 した 当 時 行 われた 実 践 における 経 験 と 知 見は、 今 日 の 映 画 館 のデジタル 化 の 動 きへと 継 承 されていくことになった。その 経緯 については 第 7 章 にて 述 べることとする。159


6.5 本 章 のまとめと 考 察1980 年 代 末 頃 から 1990 年 代 半 ばにかけ、 各 地 の 公 的 および 民 間 施 設 に 数 々のハイビジョン 設 備 が 導 入 され、それらを 使 い 映 像 コンテンツを 活 用 した 様 々の 実 践が 行 われてきた。 当 時 、 新 たな 映 像 メディアとして 登 場 したハイビジョンが 大 きな 能 力 と 魅 力 があったことは 間 違 いないし、 公 的 支 援 があったとは 言 え、かなり予 算 が 必 要 だった 事 業 がこれほど 各 地 の 施 設 に 広 がったことは 驚 異 的 なことである。 本 章 に 書 いたように、 導 入 した 設 備 、 制 作 されたコンテンツを 有 効 に 活 用 し、高 い 成 果 、 効 果 を 上 げた 所 も 多 い。スタンドアローン 的 に 自 館 内 だけでコンテンツの 利 用 、 提 示 がなされるケースが 多 い 中 で、ネットワークにより 他 の 施 設 とリンクし 共 同 でイベントを 催 したり、ライブ 中 継 を 行 ったりするところもあった。しかし 現 実 的 には、 施 設 によっては 機 器 導 入 時 の 予 算 は 確 保 しても、その 後 の保 守 、 機 器 整 備 に 手 が 回 らず、さらにコンテンツのリニューアルも 進 まず、リピーターの 来 館 が 少 なくなり、やむなく 運 用 停 止 した 所 がかなり 多 いのが 実 態 である。これらの 状 況 は 現 時 点 から 振 り 返 ってみると、90 年 初 頭 頃 までのいわゆるバブル 期 に 設 備 構 築 やコンテンツ 制 作 がなされ、その 後 バブルがはじけ 不 況 に 向 かう 経 済 状 況 を 反 映 していたとも 考 えられる。しかし、あの 当 時 、ハイビジョンシアター、 多 目 的 映 像 ホール、ハイビジョン・ギャラリーなどが 幅 広 く 全 国 各 地 に 数 多 く 設 置 され、 大 型 映 像 システムを 使 った映 像 展 示 や、 時 にはネットワークを 利 用 し 従 来 型 映 画 館 では 不 可 能 だったような様 々な 実 践 が 行 われたことは、ハイビジョンという 高 精 細 度 で 大 画 面 向 きの 電 子的 映 像 メディアの 登 場 があったればこそ 可 能 だったと 言 える。それらは 90 年 代 以降 の 映 像 メディアの 展 開 、さらに 今 日 のデジタルシネマの 進 展 へとつながるベースになったことは 疑 いのないことである。その 意 味 で、 当 時 、 国 内 外 で 行 われた様 々な 実 践 は 大 変 大 きな 意 義 があったと 言 える。80 年 代 から 90 年 代 のハイビジョンの 状 況 は、 標 準 テレビの 草 創 期 の 頃 に 似 ていると 言 える。まだ 家 庭 へのテレビ 受 像 機 の 普 及 が 少 なかった 頃 、プロレスや 野 球中 継 など 街 頭 テレビで、 新 しい 映 像 メディアの 魅 力 を 目 にする 機 会 が 増 え、テレビは 急 速 に 普 及 を 始 めやがて 最 大 、 最 強 の 映 像 メディアになっていった。ハイビジョンも 本 章 で 見 てきたように、 草 創 期 から 普 及 期 にかけて 多 くの 実 践 事 例 を 重ねてきた。 新 しいメディアであったハイビジョンが 本 章 で 述 べてきた 数 々の 実 践の 積 み 重 ねを 経 て、2000 年 代 に 映 像 メディアの 中 核 になり、やがて 次 章 で 述 べるデジタルシネマに 象 徴 される 今 日 に 見 る 新 しいメディアの 展 開 へとつながって 行く、そしてそれらは 今 後 も 未 来 に 向 け 大 きく 羽 ばたいて 行 くと 考 える。160


1( 社 ) 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 「サービス 産 業 構 造 における 競 争 要 因 に 関 する 調 査( 映 画 産 業 )」1988/3、 筆 者 は 専 門 委 員 として 参 加2中 橋 真 紀 人 「 前 項 報 告 書 概 要 」 映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.54-57、19883岡 田 祐 介 「シネマ・コンプレックスとデジタルシネマ」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、VOL55、No.7、pp.5-6、20014前 沢 哲 爾 「ハイビジョン 時 代 の 到 来 」 映 像 新 聞 、1992/10/265ニュービデオシステム 研 究 会 「ハイビジョンビデオシアター 技 術 委 員 会 」 資 料 、1990/12 、 筆 者 は 委 員 として 参 加6日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 「 大 型 ニュービジネス 開 発 研 究 開 発 調 査 ・ 複 合 型 映 像 制作 拠 点 整 備 事 業 」 報 告 書 、1987/3、 筆 者 は 専 門 委 員 として 参 加7日 本 機 械 工 業 連 合 会 、 日 本 映 画 機 械 工 業 会 「ニューコミュニティ・シアターシステム」に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 、1990/5、 筆 者 は 副 主 査 を 担 当8ニュービデオシステム 研 究 会 「ハイビジョンビデオシアター 技 術 委 員 会 」 報 告 書 、1993/5、 筆 者 はワーキンググループ 主 査 を 担 当9ハイビジョン 普 及 支 援 センター「ハイビジョン・ビッグバン'91 事 業 報 告 書 」、筆 者 は 専 門 委 員 として 参 加10塚 越 義 純 「 映 画 興 行 の 世 界 に 受 け 入 れられたハイビジョン~ハイビジョン・ビッグバン'91 レポート~」 映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp.55-64、199211前 沢 哲 爾 「ハイビジョン 時 代 の 到 来 」 映 像 新 聞 、1992/10/19、 筆 者 もシンポジウムに参 加12 「 特 集 ・ハイビジョンシアター」ニューメディア 誌 、No.5、pp.121、199113滝 沢 重 行 他 「 川 崎 市 産 業 振 興 会 館 のハイビジョンシステム」VIEW 誌 、Vol.8、No.1、pp.12-19、1989、NHK-ES が 構 築 、 保 守 担 当14渡 辺 幸 雄 「 北 九 州 国 際 会 議 場 のハイビジョン 設 備 」クロマ 誌 、No.3、pp.18-23、1991、NHK-ES が 構 築 、 保 守 担 当15「 特 集 ハイビジョンシアター」ニューメディア 誌 、No.5、pp.67、1991、NHK-ES 構 築16滝 沢 重 行 他 「 岐 阜 県 美 術 館 ハイビジョン・ギャラリーシステム」VIEW 誌 、Vol.9、No.1、pp.3-6、1990、NHK-ES が 構 築 、 保 守 運 用 担 当17 図 面 引 用 文 献 1818岐 阜 美 術 館 「ハイビジョン・ギャラリー」 公 開 資 料19Ryo Mochizuki et al."An Introduction of HDTV Still Picture in Art Museum"、HDTV Colloquium in CANADA、June 1990、 講 演 は 筆 者 が 代 行20石 田 武 久 「NHK-ES 内 部 報 告 書 」、 筆 者 は 展 示 責 任 者 だった21千 葉 孝 雄 他 「オーストラリア 国 際 レジャー 博 覧 会 へのハイビジョン 国 際 中 継 伝 送実 験 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1988/1022塚 本 芳 和 「オーストラリアにおけるハイビジョン 調 査 報 告 書 」ハイビジョンオーストラリア 調 査 団 、1988/9、 筆 者 も 団 員 として 参 加 、 現 地 対 応23 図 面 引 用 文 献 2124沼 野 芳 脩 「ソゥル 五 輪 中 継 」 日 経 ニューメディア・ 最 前 線 レポート、 日 経 BP、pp.128-13425図 面 引 用 文 献 2626近 藤 達 彦 他 「ソゥルオリンピック、ハイビジョン 取 材 ・ 伝 送 」 映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp. 39-43、198927中 山 秀 一 「ハイビジョンシアター 通 信 衛 星 配 信 実 験 」 映 画 テレビ 技 術 、No.7、pp.66-71、198828 図 面 引 用 文 献 2729中 山 前 掲 書 、pp.69-70、 筆 者 も 委 員 として 評 価 に 参 加30HVC NEWS No.7「 日 米 ハイビジョン 伝 送 実 験 に 成 功 」1990.Jan.31八 木 信 忠 「SMPTE 第 131 年 次 大 会 への HDTV によるメッセージ 衛 星 伝 送 実 験 報 告 」映 画 テレビ 技 術 、No.2、pp. 36-39、199032石 田 武 久 「HDTV90 カナダコロキアム」VIEW 誌 、Vol.9、N0.5、14-17pp. 199033欧 州 における 衛 星 による HDTV 放 送 方 式 、 提 案 されたが 実 現 せず34Takehisa Ishida et al "Present Status of HDTV Application for Movies inJapan" HDTV Colloquium in CANADA、June 1990161


35石 田 武 久 「HDTV90 カナダコロキアム」 映 画 テレビ 技 術 、No.11、pp. 36-40、199036 図 面 引 用 文 献 3237 「 壮 大 な 実 験 ・ 膨 大 な 成 果 、 花 ハイビジョン・プロジェクト 実 践 報 告 」ニューメディア 誌 1990/12、pp.52-57、 筆 者 は HVC 専 門 委 員 として 参 加38岡 田 二 三 夫 「 国 際 花 と 緑 の 博 覧 会 」におけるハイビジョン 展 開 、VIEW 誌 、Vol.9、N0.5、pp.10-13、199039北 村 貞 夫 他 「250"6 面 マルチシステム」ニューメディア 誌 、No.12、pp.41-44、199040北 村 前 掲 書41大 庭 幸 雄 "Hi-Vision Graph"ニューメディア 誌 、No.12、pp.81-83、199042日 本 テレビ「 全 日 本 プロレス 衛 星 生 中 継 」 国 際 エレクトロニック・シネマフェスティバル 資 料 、pp.1943「 特 集 ・ハイビジョンシアター 全 事 例 」ニューメディア 誌 、No.5、pp.51-125、199144金 子 学 「 渋 谷 パルコ・レイトショー」ニューメディア 誌 、No.12、pp.46、199045石 田 武 久 「ハイビジョンの 映 画 応 用 の 動 向 と 課 題 」 映 画 テレビ 技 術 、No.5、pp.50-57、199246http://www.encyclopedia.com/doc/1G1-9091621.html47"New THEATER Business" Theater Living 誌 、1990/11、pp.32-39、 本 項 に 関 する 論 述は 同 誌 記 者 へのインタビューに 拠 っている48天 野 昭 「デジタル 化 と HD「90 年 代 の 波 」に 乗 れるかアメリカ 放 送 業 」ニューメディア 誌 、No.6、pp.8-11、1990162


第 7 章 デジタル 時 代 新 たな 映 像 メディアの 成 長 と 展 望7.1 はじめに第 3 章 では「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 行 うために 必 要 なハードウエアについて、 第 4 章 ではフィルムとハイビジョンと 言 う 異 なる 性 質 、 特性 の 二 つのメディアをミックスするために 問 題 になる 様 々な 技 術 的 要 件 について述 べた。そして 第 5 章 ではそれらのハードを 使 い、 技 術 的 課 題 を 克 服 しつつ、80~90 年 代 にかけて 行 われた「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」により 制作 された 多 種 多 彩 なコンテンツについて、 第 6 章 ではこうして 制 作 されたコンテンツを 配 信 し 上 映 するハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホールなどに 関 する 問題 について、それぞれの 実 践 例 に 添 い 具 体 的 に 述 べてきた。本 章 では、まず、 前 章 までに 述 べてきたハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 問 題 点 や 成 果 が、1990 年 代 半 ば 頃 から 急 速 に 進 んだデジタル 化 にどのような影 響 を 与 え、どのように 成 長 を 遂 げてきたのかについて 検 証 し、さらに 2000 年 代半 ば 頃 から、 急 速 に 展 開 を 始 めたメディア 融 合 の 象 徴 とも 言 える「デジタルシネマ」にどう 繋 がっているのかについて、 成 長 の 経 緯 、 進 展 状 況 について 論 じる。その 上 で、 決 してとどまることなく 成 長 を 続 ける 映 像 メディアがこれからどのような 展 開 をして 行 くのかについて、 考 察 し 展 望 をする。7.2 メディアミックス 時 代 からデジタル 技 術 時 代 へ本 節 では、まず 80 年 代 から 90 年 代 初 頭 までに 行 われた「ハイビジョンと 映 画のメディアミックス」を 通 して 開 発 し 蓄 積 された 技 術 や 技 法 が、90 年 代 半 ばから急 速 に 進 んだデジタル 化 を 機 にどのように 成 長 、 発 展 してきたのか、そしてそれらが 2000 年 代 半 ば 展 開 を 始 めた「デジタルシネマ」にどのように 継 承 されてきたのかについて 整 理 しておく。それらの 技 術 的 ポイントについて 別 表 7.1 にまとめてある。最 も 基 本 的 な 点 として、 筆 者 らが 試 みた 映 画 とハイビジョンのメディアミックスのコンセプトが、2000 年 代 当 初 に 提 唱 されたデジタルシネマのプロセスに 継 承されていることが 上 げられる。具 体 的 点 で 見 ると、メディアミックス 時 代 の 中 核 的 ハードウエアだった F→V および V→F 変 換 機 器 に 関 して、 高 画 質 のもとになるレーザー 走 査 はガスレーザーから 小 型 の 半 導 体 レーザーへと 変 わったが、 技 術 的 には 共 通 点 が 多 い。コマ 数 の 違いに 伴 う 問 題 については、 当 時 開 発 された 動 き 補 正 技 術 はその 後 のデジタル 信 号163


表 7.1:メディアミックス 時 代 と 現 在 のデジタル 時 代 の 問 題 点 の 比 較項 目 メディアミックス 時 代 現 在 のデジタル 時 代基 本 コンセプトF→V 変 換 法V→F 変 換 法コマ 数 問 題アスペクト比 問 題F→V→F によるメディアミックス法 の 開 発レーザー 走 査リアルタイムが 基 本 、レーザー、 電 子 ビーム、リアルタイム 録 画 が 基 本大 きな 問 題 、 動 きの 不 自 然 さ 対策 、 動 き 補 正 法 の 開 発制 作 段 階 では 煩 雑 な 問 題 、 様 々なノウハウで 対 処DI プロセスへと 継 承 、デジタルシネマへと 昇 華半 導 体 レーザー、リアルタイム/ 低速 変 換 による 高 画 質 化半 導 体 レーザー、DILA や SXRD で 記録 、 低 速 録 画 が 基 本デジタル 処 理 により 自 由 自 在特 に 問 題 ないデジタル 処 理 によりトリミング 自由 自 在画 素 数 1920×1080 専 用 HD( 1920×1080)、2K(2048×1080)、4K(4096×2160)フィールド周 波 数画 質 調 整60i 専 用手 間 と 時 間 、プリミティブなノウハウ 開 発60i/p、24p、48p フリー基 本 的 ノウハウ 継 承 し 高 機 能 、 高 画質 、 高 効 率 化 へ 継 承画 ぶれ 対 策 機 械 精 度 問 題 、 電 子 的 処 理 開 発 デジタル 処 理 で 問 題 なしゴミ、キズ 難 題 、ウエットゲート 式 光 拡 散 法 、 信 号 処 理 で 対 応制 作 系映 像 符 号 化 ( 高圧 縮 法 )映 像 合 成 ・ 加工 ・ 処 理ディスプレイコンポーネントベースバンド、リニア(テープベース) 系 基 本ミューズが 主 流 、 一 部 にデジタル圧 縮 が 出 はじめアルチマット、ビデオマット( 静止 画 対 応 )、 手 間 と 時 間 、モーションコントロール 開 発CRT 投 射 、タラリア画 質 に 難 ありファイルベース、ネットワークノンリニア(ディスク、 半 導 体 )MPEG 2、H.264JPEG2000デジタル 処 理 で 高 度 、 自 由 自 在 、バーチャルスタジオ、 高 度 なモーションコントロール・キャプチャーDLP、DILA、PDP、LCD高 画 質伝 送 配 信 CS、 光 ケーブル CS、IP ネット放 送 方 式 FM(アナログ 変 調 ) QPSK(デジタル 変 調 )信164


処 理 によりさらに 高 度 化 され、 今 や F⇔V 変 換 系 だけでなく 最 近 のディスプレイの表 示 系 においても 使 われる 汎 用 技 術 になっている。メディアミックス 制 作 において 大 きな 問 題 だったフィルムの 画 ぶれについては、 当 時 開 発 された 電 子 式 スタビライザーはデジタル 信 号 処 理 で 一 層 高 精 度 化 され、 現 在 ではほとんど 問 題 にならない 程 度 に 補 正 できるようになっている。またプリミティブな 問 題 だったフィルムのゴミ、キズについても、デジタル 信 号 処 理 により 許 容 限 以 下 に 調 整 できるようになっている。以 前 、メディアミックス 時 代 に 手 間 と 熟 練 技 術 を 要 した 画 質 加 工 処 理 については、 当 時 、 試 行 錯 誤 したカラーコレクションやエンハンス 技 術 などは、デジタル化 により 一 層 高 機 能 化 され CPU ソフトウエアで 処 理 する 極 めてクリエイティブな作 業 をするシステムに 成 長 している。また 第 5 章 のコンテンツ 制 作 に 使 ったビデオマットなどの 映 像 合 成 加 工 機 器 は、その 後 、デジタル 技 術 をふんだんに 盛 り 込み、 複 雑 高 度 な 多 重 合 成 にも 対 応 できるようになっている。メディアミックス 時代 に 使 われ 始 めたモーションコントロールやバーチャルスタジオシステムは、その 後 のコンピュータ 技 術 、ソフトウエアの 高 度 化 により、 当 時 より 格 段 に 成 長 、発 展 し、 今 や 高 度 なコンテンツ 制 作 には 欠 かせない 技 術 になっている。映 像 システムにとって 最 も 基 本 的 なパラメータについては、デジタルシネマにおいても 画 素 数 は 当 時 のハイビジョンのスタジオ 規 格 (1920×1080)がベースになっており、フィールド 数 については 60i から 60p、24p、48p と 多 様 なフォーマットに 対 応 可 能 になっている。 映 像 信 号 の 圧 縮 符 号 化 技 術 については、 当 時 のハイビジョン 放 送 や 産 業 応 用 に 使 われたミューズから 世 界 標 準 化 が 進 んだ MPEG2、H.264、JPEG2000 などへと 高 画 質 化 、 高 効 率 化 が 進 んでいる。このようにメディアミックス 時 代 に 開 発 し、 蓄 積 された 技 術 やノウハウは、その 後 のデジタル 技 術 の 成 長 にあわせ、 考 え 方 が 継 承 されつつ、より 高 度 化 、 高 性能 化 されたものへと 成 長 し、さらに 新 たに 生 み 出 されたものなどもあり 多 様 になっている。しかし、どのような 技 術 もいきなり 出 現 したものではなく、それまでの 技 術 的 蓄 積 、 試 行 錯 誤 の 結 果 として、 改 善 改 良 が 重 ねられ 成 長 発 展 してきたものである。その 意 味 では、80 年 代 から 90 年 代 にかけ 試 みられた 多 くのメディアミックスの 実 践 が、 現 在 の 映 像 メディアの 進 展 につながっていると 言 うことができる。165


7.3 デジタル 技 術 が 映 像 メディアに 与 えた 影 響 と 効 果80 年 代 ~90 年 代 にも DVE などデジタル 機 器 は 使 われていたが、 多 くはスタンドアローン 的 でトータルで 見 るとアナログシステムが 基 本 だった。90 年 代 半 ばになると 世 界 的 なデジタル 放 送 の 流 れに 添 いデジタル 符 号 化 技 術 が 進 歩 し、それと 共に 映 像 はビデオ 信 号 からデジタルデータとなり、 記 録 メディアは VTR テープからテープレス 化 が 進 み、 取 材 、 制 作 、 配 信 システムはファイル 化 、ネットワーク 化が 進 み、 映 像 制 作 ・ 放 送 環 境 は 大 きく 変 わりつつある。デジタルメディアを 考 える 前 に、まずデジタル 技 術 の 導 入 が 映 像 メディアに 与えた 効 果 、 特 徴 について 整 理 しておく。・ 従 来 の 制 作 システムでは、 単 体 の 機 器 、 装 置 がアナログ 式 であれ、デジタル式 であれ、 基 本 的 にはベースバンドの 映 像 信 号 を 扱 う。それに 対 して 新 たなデジタルシステム 環 境 ではデジタルデータファイルにより 処 理 される・それに 伴 い、 取 材 系 、 制 作 系 、 配 信 ・ 送 出 系 とも、 従 来 のテープベースからファイルベースと 親 和 性 の 高 いテープレス 化 が 進 み、 仕 事 のやり 方 やワークフローが 大 きく 変 わっていく・ 編 集 、 制 作 系 において、 信 号 ダビングに 伴 う S/N 劣 化 はデジタル 化 により 少なくなり、 画 質 劣 化 をあまり 気 にせずに 複 雑 高 度 な 処 理 を 何 度 でもできるようになり、 従 来 以 上 に 斬 新 で 効 果 的 な 映 像 表 現 が 実 現 できるようになる、さらにノンリニア 系 の 特 徴 を 活 かし 高 度 な 作 業 が 効 率 的 に 可 能 になる・ 映 像 フォーマット( 走 査 線 数 や 毎 秒 フレーム 数 など)フリーになり、 標 準 テレビ、ハイビジョン、 映 画 さらに 4K デジタルシネマと 言 った 映 像 メディアの境 界 は 低 くなり、 素 材 の 共 有 、 共 用 化 が 可 能 になり、メディアミックスはさらに 進 みメディアフュージョンへとつながっていく・ 制 作 系 や 送 出 系 さらに 上 映 系 やアーカイブス 系 まで、 各 システムは 従 来 のスタンドアローン 型 からネットワークでリンクされる 統 合 型 になっていくデジタル 化 とは「 画 質 が 向 上 する、 操 作 がやりすい、 安 定 性 向 上 に 役 立 つ」と言 うことだけではなく、 従 来 とは 違 う 制 作 手 法 、 配 信 法 が 出 現 することにより、従 来 、 難 しかった 映 像 表 現 が 実 現 され、 各 プロセスのワークフローも 変 わることを 意 味 している。90 年 代 半 ば 頃 からのデジタル 化 による 具 体 的 な 技 術 的 変 化 、 動向 を 見 ると、 制 作 システムは 高 画 質 の 映 像 加 工 ・ 処 理 が 効 率 的 にできるテープレス 化 が 進 み、2000 年 代 になるとネットワークのブロードバンド 化 や IPTV の 進 展 に伴 い、 撮 影 ・ 取 材 から 制 作 、 送 出 ・ 上 映 まで、コンテンツをファイルベースで 管166


理 、 処 理 するようになっている。ネット 経 由 で 素 材 を 共 有 しコラボレーションによりコンテンツを 制 作 、 配 信 し 利 用 することも 可 能 になっており、トータル 的 に制 作 効 率 の 向 上 、 制 作 時 間 の 短 縮 、 経 費 の 縮 減 に 繋 がることになる。このような状 況 においては、 従 来 の 各 メディアにあった 境 界 はますます 低 くなり、まさにメディアミックス、メディアフージョンが 促 進 されることになる。 放 送 ・ 通 信 、 映画 、 制 作 プロダクション、 機 器 メーカなど 映 像 に 関 係 するあらゆる 業 界 に 様 々な態 様 の 変 化 を 促 すことになり、 結 果 的 に 映 像 産 業 の 構 造 も 変 わっていく。コンテンツ 制 作 や 放 送 ・ 配 信 ・ 興 行 のワークフローは 大 きく 変 わり、コンテンツビジネスのボーダーレス 化 も 進 んでいく。このような 状 況 を 生 み 出 した 最 大 の 要 因 は 言うまでもなくデジタル 技 術 である。7.4 デジタルシネマの 登 場 と 成 長このように、デジタル 技 術 により 映 像 メディアの 態 様 は 大 きく 変 化 を 遂 げつつある。 本 節 では、その 象 徴 的 事 例 として、 近 年 、 国 内 外 で 大 きな 注 目 を 集 め、 今や 定 着 しつつあるデジタルシネマについて、 成 長 の 経 緯 、 技 術 的 問 題 、メディア的 意 味 、さらに 今 後 の 展 望 について 論 じることとする。7.4.1 デジタルシネマの 登 場 、それ 以 前 の 映 画 メディアの 状 況かって 映 画 制 作 において、オプティカル 手 法 やミニチュア、セットなどを 使 った 特 殊 撮 影 (SFX: Special Effects) 1 により、 実 写 だけでは 実 現 できない 斬 新 的 な映 像 表 現 が 編 み 出 され、 古 くは『キングコング』(1933)などが、その 後 『 十 戒 』(1956)や『ゴジラ』(1954)など 数 多 くの 傑 作 、 名 作 が 制 作 されてきた。70 年 代 後半 になると、 化 学 的 ・ 光 学 的 映 像 メディアだった 映 画 の 世 界 においても、 電 子 メディアの 大 きな 特 徴 であるデジタル 技 術 やコンピュータ 技 術 が 活 用 されるようになってきた。スティーブン・スピルバーグの『 未 知 への 遭 遇 』(1977)が 初 めてコンピュータ 技 術 を 利 用 した 作 品 といわれており、その 後 、ジョージ・ルーカスは『スター・ウオーズ』(1977~)シリーズでデジタル 制 御 技 術 、コンピュータ・グラフィックス(CG)を 多 用 し、それまでにない 斬 新 で 迫 力 ある 映 像 表 現 を 実 現 した。1980 年 代 になり、ジェームス・キャメロンの『ターミネーターⅡ』(1984)、スティーブン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』(1993)など、デジタル VFX(Visual Effects)と 呼 ばれるデジタル 技 術 やコンピュータ・グラフィックスを 多用 した 映 画 作 品 が 続 々と 制 作 されるようになっていった。そして 1999 年 、ジョージ・ルーカスの『スター・ウオーズ・エピソード1』が167


デジタル 技 術 によりリカバリーされ、 全 米 4 ヵ 所 で 開 発 間 もないデジタルプロジェクターDLP を 使 い 上 映 された 2 。これらの 作 品 では、 最 新 のデジタル 加 工 ・ 処 理により、オリジナル 版 では 実 現 困 難 だった 映 像 効 果 や 映 像 表 現 も 新 たに 盛 り 込 まれ 制 作 された。このリメーク 版 の 興 行 にあわせ、デジタル 映 画 に 関 する 特 別 講 演会 やパネル 討 論 会 など 様 々なイベントが 開 催 された。これが「デジタルシネマ」という 呼 称 が 使 われた 最 初 と 言 われ、その 後 、デジタルシネマに 関 する 動 きが 米 国を 中 心 に 世 界 各 国 で 活 発 になっていった。7.4.2 デジタルシネマの 意 味 、 定 義デジタルシネマという 呼 称 は、2000 年 代 初 頭 頃 からわが 国 でも 映 像 情 報 メディア 学 会 等 において 耳 にするようになったが、その 意 味 するところ、 使 われ 方 、その 実 態 は、 各 国 の 映 画 ・ 映 像 産 業 の 事 情 、 市 場 のニーズ、ハード 開 発 状 況 などによって 様 々だった。デジタルシネマに 対 する 受 け 止 め 方 は、ハリウッドという 巨大 な 映 画 産 業 を 持 つ 米 国 と、ハイビジョンという 強 力 なハード 技 術 力 を 持 つ 日 本では 異 なり、また 標 準 テレビ 準 拠 のビデオシアターが 普 及 しつつあった 欧 州 各 国や 中 国 、インドなどとは 各 国 の 環 境 、 事 情 がかなり 違 っていた。 当 時 、デジタルシネマの 概 念 は 世 界 的 に 必 ずしも 統 一 されたものではなかった 3 。わが 国 では、2000 年 代 初 頭 、 国 の「 知 的 財 産 推 進 計 画 」のもとコンテンツ 産 業振 興 策 が 活 発 になり、2004 年 デジタルシネマによる 映 画 産 業 振 興 が 答 申 され、それを 受 け 経 済 産 業 省 は「デジタルシネマ 推 進 フォーラム」を、 総 務 省 は「デジタルシネマ 実 験 推 進 協 議 会 」を、 文 部 科 学 省 は「デジタルシネマの 標 準 技 術 に 関 する 研 究 プロジェクト」を 立 ち 上 げそれぞれ 活 動 を 始 めた 4 。この 動 きに 呼 応 し、 大学 、 民 間 、 映 画 界 において「デジタルシネマ・コンソーシアム 5 (DCCJ:Digital CinemaConsortium of Japan)」など、デジタルシネマに 関 する 様 々な 団 体 、プロジェクトが 結 成 され、それぞれが 独 立 あるいは 連 携 して 研 究 ・ 調 査 ・ 実 証 実 験 など 活 発な 活 動 を 始 めた。しかしこの 頃 に 至 っても、 国 内 におけるデジタルシネマの 意 味 、定 義 は、 明 確 ではなかった。 一 般 的 概 念 としては「35mm フィルムを 映 写 機 で 上 映するのと 同 等 以 上 の 画 質 ・ 音 質 をもたらす 電 子 映 写 による 映 画 」といわれ、2000年 頃 考 えられたデジタルシネマのコンセプトは、 図 7.1 に 示 すような 構 成 6 で、「 撮影 、 制 作 段 階 、 配 給 ・ 映 写 段 階 の 一 部 あるいは 全 部 にデジタルシステムが 含 まれていること」 7 とかなり 幅 広 いものだった。同 図 に 示 したデジタルシネマの 概 念 は、 第 3 章 に 記 した「ハイビジョンと 映 画のメディアミックス」のプロセス、すなわちフィルム 画 像 やハイビジョン 映 像 を168


8図 7.1:2000 年 初 期 のデジタルシネマの 概 念取 り 込 み、 電 子 的 に 加 工 処 理 しフィルムまたはビデオ 映 像 として 出 力 すると 言 うコンセプトに 非 常 に 近 い。デジタルシネマの 具 体 的 プロセス 例 として、 後 述 する図 7.2 に 示 すデジタル・インターミディエイト(DI)と、 図 3.1 に 示 したメディアミックスのプロセスは、 使 われているハード、システムは 違 うが、 基 本 的 なフローとしては 共 通 するものがある。このことに 示 されるように、 筆 者 らが 80 年 代 後半 から 90 年 代 に 行 ったメディアミックスの 試 みは、その 後 、デジタル 化 を 機 にさらに 成 長 、 発 展 を 遂 げ、デジタルシネマに 継 承 されてきたと 言 うことができる。その 後 のデジタルシネマとしての 映 像 メディアの 進 展 は、 高 精 細 映 像 システムとしてのデジタルメディアと 映 画 の 垣 根 を 一 層 低 くすることになり、さらにはインターネット、ゲームなどマルチメディアへの 展 開 も 期 待 できるようになり、 映像 メディアを 巡 るビジネスチャンスを 大 きく 広 げることにつながっていく。その流 れはとどまることはなく、 今 後 もさらに 大 きくなり、まさにトータル 的 なメディアフュージョンの 進 展 につながって 行 くと 考 えられる。その 結 果 、 新 たな 映 像 メディアの 展 開 に 使 う 撮 影 カメラや 制 作 システム、コンテンツ 配 信 や 上 映 用 システム、それらに 関 係 する 機 器 メーカ、コンテンツを 制 作するプロダクション 業 界 、 完 成 された 作 品 を 配 給 ・ 配 信 する 通 信 業 界 、それらを上 映 する 興 行 界 と 言 うように、 関 連 する 産 業 分 野 、 業 界 の 拡 がりは、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス 時 代 よりはるかに 大 きくなっている。デジタルシネマとは、デジタル 技 術 による 高 精 細 度 で 大 画 面 映 像 メディアのことを 意 味 するが、単 に 映 画 がフィルムから 電 子 化 されるという 技 術 的 側 面 に 局 限 されるのではなく、映 像 産 業 そのものが 変 貌 し 大 きく 発 展 していくことを 意 味 している。169


7.4.3 デジタルシネマの 規 格 化 、 標 準 化 に 関 する 動 向(1) 国 内 におけるデジタルシネマの 状 況デジタルシネマの 規 格 化 、 標 準 化 を 論 じる 前 に、2000 年 代 初 頭 、デジタルシネマが 台 頭 し 始 めた 頃 のわが 国 における 映 像 メディアの 状 況 、 技 術 動 向 について 整理 しておく。当 時 、わが 国 ではハイビジョンはデジタル 放 送 の 基 幹 的 メディアになり、ハイビジョン 機 器 や 制 作 技 術 はほとんど 成 熟 段 階 に 達 していた。そのため、デジタルシネマが 試 行 され 始 めた 時 には、スペックがハイビジョン 規 格 (1920×1080、60i)に 近 くハードウエアを 転 用 しやすい 2K システム(2048×1080、24P)を 使 い 様 々な取 り 組 みが 行 われた。その 一 例 として、 映 画 界 、ハイビジョン 関 係 業 界 、 大 学 が 共 同 して 行 った 取 り組 み 9 を 上 げておく。ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 大 変 熱 心 で、ハイビジョン 利 用 の 映 画 『 舞 姫 』(1988)を 制 作 した 経 験 を 持 つ 篠 田 正 浩 監 督 は、NTT、早 稲 田 大 学 、NEC などと 共 同 し、 日 本 最 初 のデジタルシネマを 謳 った 作 品 『スパイ・ゾルゲ』(2002)を 制 作 した。 全 編 を 24P 対 応 のハイビジョン 準 拠 のカメラで 撮 影し、 映 像 デジタルデータを 非 圧 縮 のまま HDD レコーダに 収 録 し、 膨 大 なデジタルデータをコンピュータ・グラフィックスとあわせ 合 成 処 理 、 加 工 し 作 品 を 完 成 させた。このわが 国 最 初 のデジタルシネマ 作 品 といえる 映 画 は、 一 般 公 開 に 先 立 ち 東 宝撮 影 所 試 写 室 にて、2K プロジェクターにより 400"サイズの 大 画 面 スクリーンに 上映 された。 大 学 関 係 、 東 京 国 際 映 画 祭 関 係 、 映 画 業 界 、NHK や DCAJ など 様 々な 分野 から 多 くの 関 係 者 が 参 加 10 した。 完 成 作 品 の 上 映 後 、 制 作 担 当 者 からの 技 術 的報 告 がなされ、 参 加 者 も 交 え 活 発 な 質 疑 討 論 が 行 われた。 非 圧 縮 のデジタル 信 号で 加 工 され、また 映 画 のフィルムルックに 合 うように 映 像 処 理 され、2K デジタルプロジェクターで 上 映 された 大 画 面 映 像 は、 映 画 館 における 映 画 上 映 に 比 べても 決して 遜 色 のない 素 晴 らしいでき 栄 えだった。 専 門 家 からも 高 い 評 価 を 受 け、 近 い将 来 のデジタルシネマの 発 展 性 を 伺 わせる 貴 重 な 経 験 となった。この 時 の 試 みは 国 内 の 映 像 業 界 に 大 きな 刺 激 を 与 え、その 後 、デジタルシステム 推 進 のための 様 々な 活 動 が 続 けられるきっかけになった。この 作 品 制 作 、 上 映で 使 われた 2K システムは、 当 時 のハイビジョン 技 術 を 比 較 的 容 易 に 転 用 でき、 映画 制 作 や 上 映 のための 機 器 整 備 の 点 および 経 済 性 の 点 で 有 利 だったため、2K システムによりデジタルシネマを 推 進 しようとの 流 れは 強 いものがあった。しかしその 一 方 で、 標 準 的 な 映 画 館 の 大 画 面 には 2K ではやや 解 像 度 不 足 との 評 価 もあり、170


国 内 で 統 一 されることはなく、 実 際 の 映 画 興 行 ビジネスとしては、2K によるデジタルシネマはあまり 進 展 しなかった。そして 後 述 するように 米 国 でのデジタルシネマの 流 れが 4K 主 流 になるのにあわせ、わが 国 でも 4K システムの 研 究 、 推 進 の動 きが 強 くなっていった。(2) 米 国 におけるデジタルシネマの 推 進 状 況米 国 では 90 年 代 末 頃 まで HDTV への 関 心 は 高 く、 第 5 章 に 記 したように 多 くのHDTV 番 組 が 制 作 されていた。しかし 世 界 の 映 画 業 界 を 実 質 的 にリードし、35mm フィルム 映 画 の 画 像 品 質 に 強 いこだわりを 持 っていたハリウッドでは、HDTV や 2K では 彼 らの 映 画 を 超 えられないとの 評 価 が 多 かった。そしてハリウッドのメジャーは、デジタルシネマの 位 置 づけとして、 最 上 位 レベルは 35mm オリジナルネガの 画像 品 質 を 充 分 に 維 持 できること、 上 位 レベルは 35mm 上 映 フィルムの 画 像 品 質 と 同程 度 、 中 位 レベルとして HDTV(1920×1080)を、そして 下 位 レベルとして SDTV をと 4 段 階 に 階 層 化 する 案 を 提 案 11 した。その 中 で 米 国 映 画 界 は、デジタルシネマは 元 々 一 般 映 画 館 規 模 での 上 映 を 想 定 しており、 鮮 鋭 度 は 2K(2048×1080)では 不足 とし、HDTV の 4 倍 以 上 の 情 報 量 を 持 つ 4K( 画 素 数 4096×2160)システムについての 検 討 を 行 うことになった。そしてメジャー 映 画 7 社 は、2002 年 、 米 政 府 の 支 援 のもと 任 意 団 体 の DCI(Digital Cinema Initiative)を 設 立 し、デジタルシネマ 標 準 化 に 向 けた 活 動 を始 めた。デジタルシネマ 技 術 に 関 する 技 術 評 価 やデモを 重 ね、 何 段 階 かのバージョンを 経 て 2004 年 、DCI 仕 様 (Ver4.2)としてまとめた 12 。その 主 たるパラメータを 以 下 に 示 す。・ 画 素 数 :4096×2160、2048×1080・ 画 素 あたりビット 数 :12bit×3( 各 色 )・ 色 解 像 度 (G,R,B のサンプリング 周 波 数 比 ):4:4:4・ 毎 秒 フレーム 数 :24fps(4096×2160、2048×1080)、48fps(2048×1080)・ 圧 縮 符 号 化 方 式 :JPEG2000・ 音 声 :24bit、16CH、サンプリング 周 波 数 (48、96KHz)この DCI の 提 案 を 受 け、SMPTE はデジタルシネマの 規 格 化 に 向 け、2004 年 小 委員 会 を 設 置 し、 上 記 の 基 本 パラメータに 加 え、 上 映 フォーマット、データ 形 式 、セキュリティなどの 項 目 も 含 め、 検 討 、 審 議 を 始 めた 13 。その 後 、 制 作 側 に 加 え、興 行 側 の 映 画 館 主 協 会 (NATO:National Association of Theater Owners)の 意 見 、要 望 も 組 み 入 れ、 審 議 を 進 めている 状 況 14 である。2010 年 現 在 まだ 最 終 的 に 規 格化 されていないが、4K 仕 様 の 機 器 やシステムはデファクトスタンダードとして 最171


近 の NAB や Inter BEE などに 数 多 く 出 展 され、それらを 使 った 作 品 制 作 が 活 発 に行 われており、 今 や 4K デジタルシネマは 完 全 に 定 着 していると 言 ってよい。(3) HDTV とデジタルシネマの 関 係ここで HDTV とデジタルシネマの 関 係 15 について 整 理 しておく。 最 も 基 本 的 なパラメータである 画 素 数 について、デジタルシネマは 4K と 2K が 選 択 可 能 となっている。HDTV と 2K は 画 素 数 が 近 いので、しばしば 混 同 して 使 われることがあるが、厳 密 なスペックは 異 なっている。 画 素 数 については、HDTV は 1920×1080 なのに 対し 2K は 2048×1080 である。これは 2K の 方 が 映 画 で 使 われてきたアスペクト 比 との 親 和 性 が 高 いためと 言 われている。 色 解 像 度 (G 信 号 に 対 する R,B 信 号 のサンプリング 周 波 数 比 )については、HDTV が 4:2:2 なのに 対 して 2K は 4:4:4 である。2Kの 色 解 像 度 が 高 いのは、 映 画 制 作 において 映 像 加 工 、 処 理 の 際 に 画 質 劣 化 を 軽 減するため 色 信 号 の 情 報 量 を 多 くしているためである。 毎 秒 フレーム 数 については、2K は 解 像 度 により 24fps および 48fps のみで、HDTV の 30/25 fps は 含 まれていない。また 圧 縮 符 号 化 方 式 については、デジタルハイビジョン 放 送 の MPEG2、 民 生 用記 録 メディアとして 普 及 している BD の AVC-H.264 に 対 し、デジタルシネマはより高 画 質 で 圧 縮 効 率 の 高 い JPEG2000 を 採 用 している。2000 年 代 前 半 、HDTV 機 器 は 成 熟 しており 容 易 に 転 用 可 能 だったが、2K はもちろん 4K に 使 える 機 器 がほとんどなかった 頃 に、ハリウッドメジャーが 主 導 する DCIは、 日 本 が 主 導 的 に 開 発 し 放 送 メディアとして 定 着 しつつあった HDTV とデジタルシネマは 厳 密 に 区 別 すべきだと 主 張 した。このことは、ハードオリエントの 日 本とソフトオリエントで 新 たな 映 像 メディアとしてのデジタルシネマの 主 導 権 を 取りたい 米 国 の 間 で、90 年 代 に HDTV を 巡 ってなされた 論 争 とやや 共 通 する 側 面 があったと 考 えられる。そのため 米 国 では、HDTV による 映 画 作 品 の 上 映 は 小 劇 場 向 きシステムとして 位 置 づけられ、しかも 2K のデジタルシネマとは「e シネマ」と 区別 されることもあった。7.4.4 デジタルシネマに 向 けたハードウエア・システムの 成 長ここまでデジタルシネマに 至 るまでの 映 像 メディアを 巡 る 国 内 外 の 状 況 を 見 てきた。 本 項 では、 第 5、6 章 に 記 したハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 実践 において 使 われた 機 器 やシステムが、その 後 、 今 日 のデジタルシネマに 象 徴 される 映 像 メディア 時 代 に 向 けて、どのように 成 長 、 発 展 してきたのかについて 具体 的 に 見 てみたい。172


7.4.4.1 F→V 変 換 システム本 項 では、 急 速 に 進 展 しているデジタルプロセス 系 の 映 像 素 材 の 入 力 装 置 としての F→V 変 換 システムの 技 術 動 向 、 状 況 、 今 後 の 展 望 について 述 べる。(1)F→V 変 換 の 概 念 、 役 割 、 機 能 の 変 化第 2 章 に 記 したように 標 準 テレビ 時 代 の 初 期 の 頃 、テレビ 番 組 取 材 用 記 録 媒 体に 使 ったフィルムや 放 送 番 組 素 材 としての 映 画 フィルムをビデオ 信 号 に 変 換 するテレシネは 主 に 放 送 局 で 使 われていた。90 年 代 以 降 になると、テレビ 番 組 の 制 作はほとんどビデオが 主 流 になり、フィルムの 利 用 は、NHK では 特 殊 な 番 組 において、民 放 局 では 一 部 のドラマや 時 代 劇 、 高 品 質 の CM 制 作 などに 限 られるようになっていった。そのような 状 況 が 進 むに 連 れ、テレシネは 従 来 のような 単 なる F→V 変 換装 置 というより、デジタル 技 術 を 投 入 した 高 機 能 、 高 価 格 のハイエンドの 映 像 変換 システムへと 成 長 していき、 主 にプロダクションハウスやラボで 使 われていくようになっていった。 放 送 番 組 に 使 う 映 画 作 品 は、 外 部 でビデオ 化 され 放 送 局 に納 品 されるのが 一 般 的 になり、NHK も 含 め 国 内 の 放 送 局 において F→V 変 換 作 業 はほとんど 行 われなくなってテレシネを 扱 える 専 門 技 術 者 も 少 なくなり、テレシネ機 器 はほとんど 廃 棄 されている 状 況 になっていった。2000 年 代 になり、あらゆるプロセスにおいてデジタル 技 術 が 使 われるようになるにつれ、F→V 変 換 の 概 念 、 役 割 は 変 わっていき、テレシネと 言 う 呼 び 方 もあまり 使 われなくなっている。さらにデジタルシネマの 進 展 にあわせて、 映 画 や CM の制 作 プロセスの 際 にフィルムで 撮 影 した 映 像 素 材 をデジタル 信 号 に 変 換 し、デジタルプロセスにより 加 工 、 処 理 してそのままデジタルデータとして 出 力 、あるいは 再 びフィルム 画 像 に 変 換 して 出 力 する 方 法 が 使 われるようになってきた。このような 制 作 プロセスでは、フィルム 映 像 素 材 の 入 力 用 としてフィルム・スキャナー( 従 来 のテレシネに 相 当 )が 重 要 な 装 置 として 使 われ、 変 換 された 映 像中 間 素 材 はデジタル・インターミディエイト(DI:Digital Intermediate)と 呼ばれている。この 場 合 、フィルム 上 のアナログ 的 粒 子 画 像 は、 以 前 のテレシネのように 映 像 信 号 に 変 換 されるということではなく、デジタルデータに 変 換 されることになる。F→V 変 換 は 従 来 同 様 に 毎 秒 24 コマのリアルタイムで 行 われることもあるが、データ 量 が 大 きいためひとコマ 数 秒 と 言 う 低 速 で 行 なわれることが 多 くなっている。この DI データを 使 って 処 理 される DI 制 作 プロセスの 構 成 は、 制 作プロダクションにより 異 なるが、その 一 例 を 図 7.2 に 示 す 16 。 下 段 にあるフィルム・スキャナー"ARRISCAN"で 変 換 されたデジタルデータは、 上 段 にある 各 種 映 像処 理 系 "Pablo"( 高 画 質 の 映 像 プロセッサー)などとネットワークでつながり、フ173


図 7.2 デジタル・インターミディエイト 制 作 プロセス( 東 京 現 像 所 資 料 )ァイル 化 されたデジタルデータは 中 段 のサーバ 系 ("GenePool"、"SAN")により 共有 ・ 共 用 化 され、 加 工 ・ 処 理 されたデータは 下 段 のフィルムレコーダ"ARRILASER"によりフィルムに 変 換 される。このようなプロセスを 採 ることにより、メディアミックス 時 代 の F→V 変 換 系 で 起 きていた 様 々な 問 題 は、デジタル 処 理 によりほとんど 解 決 できるようになっている。すなわちフィルム 画 像 とビデオ 信 号 (ハイビジョン 信 号 もそのひとつ) 間 の 毎秒 コマ 数 の 違 いやアスペクト 比 の 違 い、さらには 階 調 や 色 調 の 相 違 などもデジタル 信 号 処 理 により 自 由 にしかも 効 率 的 にできるようになってきた。 従 来 熟 練 の 技術 と 長 時 間 作 業 を 要 したカラー 調 整 についても、F→V 変 換 時 にはフィルムへのダメージを 極 力 防 ぐため 標 準 的 設 定 値 で 短 時 間 に 行 い、デジタルデータへ 変 換 後 に高 機 能 の 映 像 処 理 機 を 使 い LUT(Look up Table)を 参 照 しつつ、 高 画 質 の 映 像 モニターで 確 認 しながら 念 入 りに 行 うのが 一 般 的 なワークフローになっている。また 以 前 、フィルム 画 像 におけるプリミティブな 問 題 だったゴミやキズによる画 質 劣 化 については 光 学 的 あるいは 電 子 的 処 理 により 軽 減 され、 画 ぶれについてはピンレジストレーションによる 低 速 走 行 で 安 定 化 され、さらに 電 子 的 スタビライザーによりほとんど 問 題 がない 程 度 になっている。このように F→V 変 換 系 の 性能 、 機 能 性 は、90 年 代 までのメディアミックス 時 代 よりデジタル 技 術 により 大 幅に 向 上 し、その 目 的 や 役 割 も 従 来 のテレシネとは 様 変 わりし、 変 換 作 業 における専 門 性 やワークフローも 変 わってきている。174


(2)F→V 変 換 装 置 の 技 術 動 向 、 状 況前 項 で 述 べたように、F→V 変 換 装 置 は 今 日 のデジタルシネマ 時 代 においても 重要 な 制 作 システムの 一 翼 を 担 っている。 第 3 章 に 記 したメディアミックス 時 代 のテレシネが、90 年 代 以 降 にデジタル 技 術 によりどのように 改 善 改 良 され、 今 どのような 技 術 動 向 、 状 況 にあるかを 具 体 的 に 見 ておく。テレシネの 分 野 で 世 界 的 リーディングメーカーだったシンテル( 英 、 旧 称 ランク・シンテル)は、 標 準 テレビ 時 代 に FSS 方 式 テレシネを 出 し、 日 本 も 含 め 世 界中 の 放 送 局 やプロダクションで 最 も 多 く 使 われてきた。90 年 代 になり 世 界 的 なHDTV の 進 展 にあわせ、 第 3 章 に 記 した HDTV 仕 様 のモデルを 開 発 17 したが、 欧 州では 期 待 されたように HDTV が 普 及 しなかったこともあり、この 装 置 が 使 われた 実績 は 少 ない。 同 機 は 第 6 章 に 記 した 米 国 フロリダの"CLUB THEATER NETWORK"で、ハリウッド 映 画 作 品 を 高 品 質 で HDTV 化 するために 使 われていた。2000 年 代 になり、 光 電 変 換 素 子 として 以 前 使 っていたフォト・マルチプライヤーをアバランシェ・フォトダイオードに 替 え 画 質 を 向 上 し、デジタル 技 術 により映 像 処 理 を 一 層 高 度 化 し、 世 界 中 の SDTV および HDTV のマルチフォーマット(1080i、720P)に 対 応 する"C-Reality"シリーズ 18 を 製 品 化 した。 同 モデルは 優 れた 性 能 が高 く 評 価 され、 現 在 、 世 界 中 の 多 くのプロダクションハウスなどで 使 われており、国 内 ではヨコシネ、イマジカ、 東 京 現 像 所 などでも 運 用 されている。その 後 同 社は、 前 述 の DI プロセスによる 制 作 法 の 普 及 、デジタルシネマの 進 展 にあわせ、より 高 画 質 化 を 目 指 し 4K 解 像 度 に 対 応 するモデルを 開 発 し、 既 に 国 内 外 で 数 多 く 稼動 されている。2010 年 4 月 、 米 国 ラスベガスで 開 催 された NAB では、 写 7.1 に 示す 最 新 モデルとして、 光 源 に RGB LED を 使 い 光 電 変 換 素 子 に 低 ノイズの CCD を 使い、2K/4K 両 方 の 解 像 度 に 対 応 し、アパーチャーゲート 部 を 交 換 し 35mm だけでなく 70mm、16mm フィルムのネガ・インターネガ・ポジ 各 フィルムに 対 応 する 機 種 を出 展 し 高 い 関 心 を 集 めていた。一 方 、テレシネ 分 野 でランク・シンテルと 競 合 関 係 にあったボッシュ・フェルンゼー( 独 )は、1980 年 代 の 標 準 テレビ 時 代 、 連 続 走 行 するフィルムをキセノンランプ 光 源 で 照 射 しライン CCD により 光 電 変 換 し、 方 式 変 換 系 でテレビ 信 号 に 変換 するテレシネ 装 置 を 開 発 した。 当 時 としては、 最 先 端 技 術 を 盛 り 込 んだモデルとして 評 判 になり、 欧 米 諸 国 の 放 送 局 などで 使 われていた。その 後 90 年 代 になり、テレシネ 関 連 業 務 の 事 業 主 体 はフィリップス(オランダ)、トムソン・グラスバレー( 仏 、 米 )へと 代 わってきたが、90 年 代 になり HDTV 仕 様 のモデル"Sprit Data Cine"シリーズ 19 で 再 登 場 してきた。2000 年 代 になると、 世 界 の HDTV、SDTV のマルチ175


フォーマットに 対 応 し、さらにデジタルシネマの 進 展 にあわせ 4K フォーマットにも 対 応 する"Sprit 4K"を 開 発 し、 写 7.2 に 示 すように 最 近 の NAB にも 出 展 している。 同 機 に 使 われている CCD 素 子 は 4K(4096 ピクセル)のラインセンサーで、データ 出 力 は DCI 仕 様 (4K/12bit)を 超 える 4K/16bit で 出 力 され、2K および 最 近 の映 画 制 作 法 で 使 われている DI 制 作 プロセスにも 対 応 する。またこのモデルには 拡散 光 効 果 によりフィルムのゴミ、キズの 影 響 を 軽 減 する 光 学 的 補 正 機 能 もついている。 同 機 はハリウッドをメインに 映 画 の 合 成 素 材 つくりや、 国 内 ではイマジカ、ソニーPCL など 国 内 外 の 多 くのプロダクションハウスで 使 われている。世 界 的 な 映 画 機 材 最 大 の 老 舗 であるアリフレックス(ARRI、 独 )は、90 年 代 末頃 から 2000 年 代 にかけ、 映 画 制 作 へのデジタル 化 の 進 展 にあわせ、 様 々なデジタル 機 器 の 開 発 を 進 めてきた。そのひとつがフィルム 画 像 をデジタル 信 号 に 変 換 するフィルム・スキャナー"ARRISCAN"で、ここ 数 年 、 写 7.3 に 示 すように、NAB などでも 公 開 され 好 評 を 博 している。 光 源 には RGB LED を 使 い、 光 電 変 換 素 子 として3K/2K の CMOS を 搭 載 し、 優 れた 色 再 現 性 と 高 SN 比 、 高 画 質 を 実 現 した。 解 像 度 については 2K のみならず、 画 素 ずらし 法 により 4K、6K 高 解 像 度 にも 対 応 し、 読 み取 り 速 度 は 4K の 場 合 、 秒 あたり 4 コマで、ピンレジストレーション 式 フィルム 走行 により 画 ぶれを 軽 減 している。 図 7.2 に 示 したように、フィルム 画 像 をデジタル 信 号 に 変 換 し 電 子 的 に 各 種 信 号 処 理 、 加 工 をする DI 制 作 プロセスに 採 用 されるようになり、 現 在 、 世 界 各 国 の 多 くのプロダクションハウスで 使 われており、 国内 では 東 京 現 像 所 など 20 で 稼 動 している。ソニーPCL は、 第 5 章 に 記 したハイビジョンによる 映 画 制 作 などにおいて、90年 代 中 頃 まで 間 欠 走 行 式 35mm 映 写 機 と 撮 像 管 カメラを 組 み 合 わせたテレシネ( 池上 通 信 機 製 )を 使 っていた。90 年 代 末 、 光 源 に 複 数 の LED を 使 い、 光 電 変 換 に 有効 画 素 数 1920×1080 のエリア CCD を 採 用 し、SDTV とハイビジョンに 対 応 する 新 方式 のテレシネ「ビアルタ」を 開 発 し 21 運 用 を 始 めた。 同 機 は 当 時 盛 んに 行 われた映 画 応 用 にも 対 応 するべく 毎 秒 24 コマ 撮 影 のフィルムをそのまま 1080/24P の 映像 信 号 に 変 換 することもできた。16/35mm フィルムはスプロケット 駆 動 の 間 欠 走 行とし、 独 自 開 発 の Optical Picture Stabilizer によりフィルムの 画 ぶれを 軽 減 していた。また 複 数 の LED による 拡 散 光 学 法 によりフィルムのキズやゴミの 影 響 を軽 減 する 機 能 も 備 えていた。 本 装 置 はソニーPCL 以 外 のプロダクションハウスにも複 数 台 納 入 され、CM 素 材 や 映 画 作 品 の DVD などのパッケージ 化 の 変 換 作 業 などに使 われている。176


(3)F→V 変 換 システムの 今 後 の 展 望ここまで90 年 代 半 ば 以 降 、 今 日 に 至 るまでのF→V 変 換 系 の 成 長 、 発 展 の 経 緯 、技 術 動 向 や 利 用 状 況 を 見 てきた。90 年 代 当 時 と 比 べ、その 役 割 、 機 器 の 機 能 は 大きく 変 わってきている。 当 時 、F→V 変 換 はリアルタイム 処 理 が 普 通 だったが、 最近 ではフィルム 低 速 走 行 による 変 換 法 が 増 えている。また 従 来 、F→V 変 換 時 に 行なわれたカラーコレクションは、ポスプロ 段 階 で 時 間 をかけて 念 入 りに 行 われるように、ワークフローが 変 わってきている。 以 前 大 きな 問 題 だったフィルムの 画ぶれについては、 前 述 のように 低 速 走 行 に 加 えピンレジストレーション 式 や 電 子的 スタビレーション 機 能 により 大 幅 に 軽 減 されている。またフィルムのゴミ、キズについても 光 学 的 補 正 や 高 度 なデジタルノイズ 処 理 により、 視 覚 的 にほとんど問 題 ないくらいになっている。このようにこの10 数 年 を 見 てもF→V 変 換 系 の 性能 ・ 機 能 は 大 幅 に 向 上 している。ではこれからのF→V 変 換 系 はどうなるだろうか。 世 界 的 なデジタルシネマの 進展 に 伴 い、 映 画 制 作 における 撮 影 はフィルムからテレビカメラへとシフトしつつある。 米 国 でもその 傾 向 が 強 くなっている。しかしハリウッドのシンジケート、ユニオンとの 関 係 、 周 辺 の 映 像 業 界 の 態 様 (フィルム 関 連 設 備 および 専 門 要 員 を多 く 抱 えている 事 情 )もあり、まだまだフィルム 撮 影 への 要 望 は 強 い。またDVDやBDの 普 及 に 伴 い 旧 作 映 画 のビデオ 化 が 進 んでいるが、 映 像 処 理 がHDTVからDIへのシフトが 進 み、それに 対 応 するため、 当 分 の 間 はF→V 変 換 へのニーズはある。しかし、 後 述 するように 高 性 能 、 高 機 能 のデジタルシネマカメラの 普 及 に 伴 い、 徐 々にフィルム 撮 影 からビデオ 撮 影 へのシフトが 進 んでおり、その 一 方 で 旧 作 品 のデジタルデータ 化 が 既 にどんどん 進 んでいることから、 旧 作 のビデオ 化 の 業 務 量 も減 少 し、いずれF→V 変 換 作 業 の 市 場 規 模 は 小 さくなっていくと 考 えられる。ハリウッドほど 映 画 制 作 業 界 のしがらみが 強 くないわが 国 では、 映 画 制 作 やテレビ 番 組 、CM 制 作 は 元 々ビデオ 化 が 進 んでおり、とりわけ 最 近 のデジタルシネマの 進 展 によりその 勢 いは 加 速 されており、フィルムによる 新 作 撮 影 は 年 々 減 っており、 対 応 するF→V 変 換 作 業 も 少 なくなっている。 以 前 にフィルム 撮 影 された 旧作 品 のテレビ 番 組 の 利 用 についてはまだ 高 い 要 望 があるが、 既 にビデオ 化 されたものも 多 い。 近 年 、 高 画 質 のデジタル 放 送 にあわせ、さらに 高 画 質 、 大 容 量 のBDレコーダ・プレーヤーの 普 及 も 進 み、 最 近 では 以 前 にビデオ 化 された 旧 バージョンを 高 画 質 の 最 新 機 器 を 使 いリニューアルするケースが 増 えており、その 分 の 変換 作 業 は 当 分 ある。しかしその 作 業 量 は 一 時 的 なもので、いずれは 大 きく 減 少 していく。 映 像 メディアの 状 況 はこのような 実 態 のため、F→V 変 換 業 務 へのニーズ177


はまだしばらくはあるが、いずれは 米 国 と 同 じようにこの 分 野 の 市 場 規 模 は 縮 小して 行 くと 考 えられる。7.4.4.2 V→F 変 換 システム本 項 では、 前 項 に 記 した F→V 変 換 系 と 対 をなすデジタルプロセス 系 の 出 力 装 置としての V→F 変 換 系 の 技 術 動 向 、 状 況 、 今 後 の 展 望 について 論 じる。(1) V→F 変 換 装 置 の 技 術 動 向 、 運 用 状 況第 3 章 にて、90 年 代 半 ば 頃 までハイビジョン 映 像 をフィルムに 記 録 する 装 置 として 使 われていたレーザービームレコーダ LBR(NHK 技 研 )と 電 子 ビームレコーダEBR(ソニー)について 述 べた。これらの 装 置 は 第 5 章 に 記 したように、 当 時 行 われた 多 くのハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 実 践 において 使 われた。その 後 、LBR はナックにより 実 用 化 されイマジカに 導 入 され 10 数 年 活 躍 したが 2000年 代 半 ばに 老 朽 化 により 運 用 停 止 され、 一 方 、ヨコシネ DIA に 納 入 された 装 置 は2010 年 現 在 もリアルタイム・フィルムレコーダとして 使 われている。またソニーが 開 発 した EBR は、ソニーPCL にて 多 くのメディアミックスの 実 践 で 使 われたが、2000 年 代 初 頭 、フィルムの 廃 液 処 理 が 社 会 的 に 環 境 問 題 化 したのを 機 に、 社 内 でのフィルム 処 理 業 務 を 全 面 的 に 取 りやめたのにあわせ EBR の 運 用 も 停 止 された。ここに 記 したどちらのフィルム 録 画 装 置 も、 部 分 的 にデジタル 技 術 を 使 っていたとは 言 え、 基 本 的 にはビデオ 信 号 を 扱 う 点 でアナログシステムで、 性 能 的 にも機 能 的 にもおのずと 限 界 があった。2000 年 代 になり、 前 述 の DI プロセスが 汎 用 的に 使 われるようになり、さらにデジタルシネマの 進 展 にあわせ、デジタルプロセスで 制 作 された 映 画 作 品 をフィルムに 録 画 するニーズは 大 幅 に 高 まっている。その 状 況 に 対 応 するための 高 性 能 、 高 機 能 のフィルムレコーダが 各 社 で 開 発 されており、 最 近 の NAB などでも 様 々な 機 種 が 公 開 されている。それらは 映 画 、 映 像 業界 などから 高 い 関 心 を 集 め、 現 在 、 国 内 外 の 多 くの 制 作 会 社 で 稼 動 している。 最近 のフィルムレコーダの 技 術 動 向 、 運 用 状 況 について、 具 体 的 に 見 てみたい。アリフレックスは 前 項 に 記 した DI プロセスの 出 力 装 置 として、 半 導 体 レーザーを 使 うフィルムレコーダ"ARRILASER" 22 を 出 している。 第 3 章 に 記 した NHK 技 研 のLBR は、 光 源 にガスレーザーを 使 っていたが、この 機 種 では 小 型 の 半 導 体 レーザーを 使 っている。 半 導 体 レーザーはガスレーザー 同 様 に 単 色 性 で 高 輝 度 のため、 高画 質 なことに 加 え、 低 消 費 電 力 なうえ 長 寿 命 で 小 形 なため、 装 置 全 体 も 小 型 になり、 操 作 性 、 安 定 性 、 運 用 ・ 保 守 性 も 高 くなっている。 各 CH のレーザー 光 は 音 響光 学 式 光 変 調 器 によりデジタルデータに 応 じて 強 度 変 調 され、 高 精 度 のメカニカ178


ル 偏 向 器 により 偏 向 され、リニアモーターにより 駆 動 される 超 精 密 ステージ 上 を走 行 するフィルム 上 に、1 ラインずつ 画 像 を 記 録 していく。フィルム 画 像 の 元 になるデジタルデータは、 非 圧 縮 の 16bit と 階 調 再 現 性 が 良 くダイナミックレンジも広 く、 技 研 の LBR 時 代 に 比 べずっと 高 画 質 になった。レーザーは 高 輝 度 のため、 低 感 度 で 粒 状 性 ノイズの 少 ないインター・ミディエイト・フィルムにも 記 録 でき、 高 画 質 のフィルム 画 像 が 得 られる。 入 力 デジタル信 号 としては 2K および 4K フォーマットに 対 応 し、 膨 大 な 記 録 データ 量 と 求 められる 録 画 品 質 を 考 え、フィルムへの 記 録 はひとコマ 2 秒 程 度 の 低 速 で 行 われる。90 年 代 半 ば 頃 まで 使 われていたリアルタイム 記 録 の LBR や EBR( 実 際 には 前 述 のように 色 順 次 方 式 のため 1/3 倍 速 )に 比 べれば、 録 画 に 要 する 時 間 は 長 くなっている。このフィルムレコーダはデジタルシネマ 用 変 換 装 置 として 現 在 世 界 的 に 最も 多 く 使 われており、 国 内 では 写 7.4 に 示 すように 東 京 現 像 所 やイマジカなどで稼 動 している。一 方 、 前 述 したように LBR を 実 用 化 したナックは、その 時 に 培 った 経 験 、 技 術力 をベースに、DI プロセス、デジタルシネマによる 映 画 制 作 が 一 層 活 発 化 していく 状 況 に 応 え、 新 方 式 のフィルムレコーダを 開 発 した。 本 章 で 後 述 する 4K デジタルシネマ 用 ディスプレイ SXRD(ソニー)と 35mm 可 変 速 度 カメラ(ARRI)を 組 み 合わせたもので、4K フォーマットの 映 像 をリアルタイムで 35mm ネガフィルムに 録 画可 能 である。SXRD 本 来 のプロジェクター 用 モデルでは、 高 輝 度 を 得 るため 光 源 にキセノンを 使 っているが、 本 装 置 では 安 定 性 、 運 用 性 向 上 のため 光 源 を 3 色 LEDに 代 え、さらにプロジェクターとフィルムカメラをつなぐ 特 別 設 計 のリレーレンズ 系 で 構 成 されている。 入 力 信 号 としては、HD-SDI(1080/24P)に 対 応 し、フィルムの 画 角 サイズも 調 整 可 能 となっている。このモデルはヨコシネと 東 京 現 像 所 に納 入 され、 映 画 制 作 用 などで 大 いに 使 われている。なお 東 京 現 像 所 は 同 機 に 加 え、写 7.5 に 示 す DILA 式 モデルのバラクーダ(ナック 製 )の 整 備 も 進 めており 2010年 から 運 用 を 始 めている。イマジカは LBR を 使 っていたが 2000 年 代 に 老 朽 化 したため、その 後 継 機 として写 7.6 に 示 すフィルムレコーダ"IMAGICA レコーダ realtime"を 自 社 開 発 し 運 用 している。 同 機 は、 後 述 するデジタルシネマ 用 プロジェクターDILA(JVC)とフィルムカメラをリレーレンズで 組 み 合 わせる 構 造 で、24P のフル HD 信 号 をリアルタイムに 録 画 することができる。 同 社 はフィルム 録 画 装 置 として、 前 述 の 低 速 記 録"ARRILASER"とを 使 い 分 け、 本 装 置 は 制 作 を 急 ぐ 予 告 編 やローコストの 本 編 の 録 画用 に 使 われている。179


(2) V→F 変 換 システムの 今 後 の 展 望デジタルシネマが 今 後 どのように 進 展 して 行 くのかについては、 本 章 後 半 で 論じるが、 完 成 作 品 の 上 映 がフィルムによるかデジタルによるかによって、V→F 変換 系 の 今 後 の 展 望 は 変 わってくる。2000 年 代 半 ば 以 降 の DI プロセス、デジタルシネマの 進 展 の 勢 いを 見 れば、 米 国 や 日 本 においてデジタル 上 映 館 は 今 後 も 年 々増 えて 行 く。しかし 既 存 映 画 館 の 映 写 設 備 がすべてデジタル 化 されていくとは 考えられず、かなりの 期 間 、フィルム 上 映 とデジタル 上 映 は 併 存 すると 思 われる。そのような 状 況 では、 最 終 的 にフィルムで 上 映 するために、 完 成 作 品 を V→F 変換 するフィルムレコーダは 相 変 わらず 重 要 な 役 割 を 担 うことになり、その 変 換 作業 へのニーズはまだかなり 高 い。その 状 況 に 応 え、フィルムレコーダは 今 後 もかなりの 期 間 使 われ、システムの 性 能 、 機 能 性 の 向 上 はまだ 進 むと 考 えられる。7.4.4.3 デジタルシネマカメラの 成 長第 5 章 に 記 したメディアミックスの 実 践 で 使 われたカメラは、 元 来 はハイビジョン 番 組 制 作 を 目 的 に 開 発 されたもので、80 年 代 の 大 型 撮 像 管 式 カメラから 始 まり、80 年 代 半 ばの 小 型 撮 像 管 カメラ、90 年 代 になり 撮 像 デバイスが 撮 像 管 から CCDや C-MOS へと 固 体 素 子 に 変 わり、それに 伴 い 高 画 質 化 、 小 型 化 、 高 安 定 化 、 高 機動 性 化 が 進 んでいった。それにあわせ、ハイビジョンの 映 画 制 作 への 応 用 は 一 層進 むようになった。一 方 、 初 めから 映 画 応 用 を 考 えたハイビジョンカメラの 開 発 も 行 われた。 第 3章 に 記 した「 新 映 像 トータルシステム 調 査 研 究 」の 活 動 成 果 をもとに、 映 画 制 作用 に 開 発 された 電 子 カメラ"EC-35"(Electronic Cinematography、 池 上 通 信 機 ) 23もその 一 例 である。フィルムルックの 画 調 とするための 映 像 処 理 が 施 こされ、シネカメラ 用 各 種 レンズが 使 えるレンズマウント 構 造 とし、それを 使 い 実 験 的 な 映画 制 作 も 行 われた。これが 後 に 国 内 におけるデジタルシネマ 用 カメラへつながる第 一 歩 だった。2000 年 代 になり、 撮 像 素 子 の 高 密 度 化 ・ 多 画 素 化 、 記 録 メディアの 大 容 量 ・ 高 速 化 、 高 圧 縮 ・ 高 効 率 のデータ 圧 縮 技 術 、 高 度 な 信 号 処 理 技 術 などの 進 歩 、 性 能 向 上 に 伴 い、 進 展 しつつあった 映 画 制 作 にも 使 える 高 性 能 のハイビジョンカメラが 次 々と 開 発 されていき、 映 画 とのメディアミックスが 一 層 盛 んに行 われるようになって 行 く。そして 2000 年 代 以 降 のデジタルシネマの 進 展 にあわせ、 超 高 解 像 度 で 高 機 能 のカメラが 日 本 、 欧 米 企 業 で 次 々に 開 発 されるようになった。それらは 最 近 の NABや Inter BEE などにも 出 展 され 注 目 を 集 め 24 、 多 くの 機 種 は 既 にデジタルシネマ180


コンテンツ 制 作 用 に 使 われている。90 年 代 末 頃 、 放 送 番 組 だけでなく 映 画 や 高 品 質 の CM 制 作 にも 使 える 高 画 質 で 機動 性 の 高 い 一 体 型 カムコーダ(ソニー)が 登 場 した。SDTV から HDTV のあらゆるフォーマットに 対 応 し、インタレースとプログレッシブ 走 査 が 選 択 でき、さらに 1/48の 電 子 シャッターを 使 い 動 きボケを 軽 減 し、 映 画 制 作 用 も 想 定 し 24 コマ 撮 影 も 可能 とした。 既 存 のテレビカメラレンズとの 互 換 性 を 考 え 2/3"サイズの CCD3 板 を 採用 し、フィルム 並 みの 階 調 再 現 性 を 得 るため 12 ビット 処 理 を 取 っている。2000 年 代 半 ばには、シネカメラの 使 い 勝 手 と 制 作 手 法 を 取 り 入 れつつ、デジタルならではの 多 彩 な 撮 影 ・ 表 現 モードを 持 ち、 従 来 以 上 の 映 像 表 現 を 可 能 にした映 画 制 作 用 のハイエンドモデルのカメラ(ソニー)が 開 発 された。 写 7.7 に 示 すシネアルタと 呼 ばれる2モデル"F23"および"F35"で、 前 者 は 2/3"3 板 CCD を 搭 載し 14 ビット A/D と 言 う 高 画 質 で、 後 者 はスーパー35mm と 同 等 サイズの 単 板 CCD を搭 載 し、シネカメラの 多 種 多 彩 なレンズやアクセサリーが 使 え、 独 自 ガンマ 補 正によりフィルム 並 みの 広 いダイナミックレンジと 階 調 再 現 性 を 実 現 した。どちらの 機 種 も、RGB 4:4:4 と 色 情 報 が 豊 かなため 高 品 質 の 映 像 加 工 ・ 処 理 ができ、1~60Fps と 可 変 速 撮 影 可 能 なためコマ 落 しからスロー 映 像 まで 特 殊 な 撮 影 にも 対 応できる。これらのカメラは 既 に 国 内 外 で 映 画 制 作 用 に 盛 んに 使 われている。一 方 、 高 画 質 化 が 進 み、デジタルシネマが 展 開 する 映 像 メディア 状 況 に 応 え、 映画 制 作 や 高 品 質 の CM 制 作 にも 使 える 写 7.8 に 示 すような HD カメラレコーダ、バリカム(パナソニック)が 製 品 化 された。2/3"サイズの 3CCD を 搭 載 し、 画 素 数 はフル HD の 220 万 画 素 (1920×1080)、RGB 4:4;4/10 ビットでフィルムの 広 いダイナミックレンジと 良 好 な 階 調 再 現 性 に 応 えることができる。さらにインタレースまたはプログレシッブ 走 査 が 選 択 可 能 で、フレームレートは 1~30fps 可 変 速 で 毎 秒24 コマにも 対 応 し、 既 に 映 画 制 作 にかなり 使 われている。欧 米 のカメラメーカは、DCI 仕 様 が 提 案 された 2004 年 頃 、デジタルシネマの 本格 的 な 進 展 を 見 通 し、HDTV をベースにしていた 日 本 企 業 とは 別 のアプローチにより 高 精 細 度 の 2K、4K 対 応 カメラの 開 発 を 活 発 に 行 うようになった。 産 業 ・ 学 術 系の 映 像 分 野 で 実 績 ある VISION RESEARCH( 米 )は、 写 7.9 に 示 すような 超 高 解 像 度CMOS(4096×2440)を 搭 載 し、 可 変 速 撮 影 (1~125fps) 可 能 な 4K デジタルシネマカメラ"Phantom"シリーズを 出 している。 小 型 コンパクトで 機 能 性 、 性 能 も 高 く、 映画 、 放 送 番 組 だけでなく CM、ゲームコンテンツなど 様 々な 映 像 制 作 に 利 用 されている。また 同 じく 産 業 分 野 機 器 で 実 績 ある DALSA( 加 )は、 写 7.10 に 示 すような181


独 自 のデジタル 画 像 処 理 技 術 を 活 かしたデジタルシネマカメ"ORIGIN"シリーズを出 し、 映 像 業 界 での 使 用 実 績 は 高 い。デジタルシネマ 分 野 で 世 界 的 に 最 も 積 極 的 に 展 開 している RED DIGITAL( 米 )は、写 7.11 に 示 すようなデジタルシネマカメラ"RED ONE"を 出 し、 現 在 、 各 国 で 多 くの 映 画 制 作 に 使 われている。 主 な 仕 様 は 撮 像 素 子 に CMOS(4096×2306)を 搭 載 し、4K および 2K、HD/SD(1080P、720P)に 対 応 し、 符 号 化 方 式 として 12bit、 歪 やノイズの 少 ないウエーブレット 圧 縮 を 採 用 し、1~60 fps まで 可 変 速 となっている。最 近 、カメラのラインナップを 増 やしており、さらに 4K RAW データをリアルタイムに 処 理 できる 汎 用 の 映 像 処 理 プロセッサー"RED Rocket"も 開 発 し、 撮 影 だけでなく 制 作 領 域 にも 乗 り 出 している。 同 社 は 既 に 世 界 的 なアライアンスを 組 みデジタルシネマ 活 動 を 始 め、 各 国 でコンソーシアム 構 築 を 進 めており、 映 画 制 作 分 野で 世 界 的 に 大 きな 影 響 力 を 持 っている。シネカメラ 老 舗 のアリフレックスは、2000 年 頃 から 到 来 する 映 画 制 作 のデジタル 化 に 備 え、 映 画 制 作 用 デジタルカメラの 開 発 を 始 め、2004 年 頃 、 実 用 モデル D-20を 発 表 した。フィルムカメラスタイルの 筺 体 に 35mm フイルムサイズ 相 当 の 単 板CMOS( 画 素 数 2880×2160)を 搭 載 し、 最 速 150F/S までの 可 変 速 で HD(1920×1080、16:9)にも 対 応 した。その 後 、 画 質 、 機 能 性 を 向 上 させたデジタルシネマ 用 カメラD-21 25 は、PL マウントで 多 彩 な 35mm 用 レンズや 各 種 アクセサリーが 使 え、アナモレンズと 組 み 合 わせシネマスコープフォーマットの 撮 影 も 可 能 とした。 映 画 のトーンにあわせ、 諧 調 やダイナミックレンジはフィルム 並 みの 特 性 をもち、シネカメラと 同 じ 光 学 式 ビューファインダにより 鮮 明 で 歪 のない 画 像 を 見 ることができ、 確 実 なフォーカスフォローもできるようになっていた。 最 近 のモデルでは、デジタル 信 号 をそのまま 記 録 蓄 積 できるフィルムマガジンの 形 状 に 似 た HDD レコーダ( 計 測 技 研 )と 一 体 化 し、ケーブルレスとし 機 動 性 を 高 めた 機 種 も 開 発 され、国 内 外 での 最 近 の 映 画 制 作 に 大 いに 使 われている。そして 2010 年 、 写 7.12 に 示 すニューモデルのデジタルシネマカメラ"ALEXA"をNAB に 出 展 し 大 きな 注 目 を 集 めた。 撮 像 素 子 に 新 開 発 の 35mm フィルムと 同 等 サイズで 高 解 像 度 (3.5K)の CMOS センサーを 使 いシネカメラレンズが 使 え、シネマカメラ 同 等 の 被 写 界 深 度 が 得 られるようになり、HD/2K/DI のマルチフォーマットに 対応 する。 低 ノイズでダイナミックレンジが 広 くフィルムルックの 映 像 が 得 られ、その 上 、 小 型 軽 量 、 堅 牢 な 構 造 ということで、 映 画 や 高 品 質 のテレビドラマ 制 作などへの 利 用 が 大 いに 期 待 される。182


7.4.4.4 コンテンツ 制 作 系 の 動 向 、 状 況前 述 した DI プロセス、デジタルシネマの 進 展 にあわせ、 制 作 システムの 技 術 動向 、 制 作 ワークフローも 大 きく 変 わりつつある。 最 近 の NAB などに 見 られるように 26 、デジタル 技 術 の 導 入 により 従 来 の 制 作 系 に 比 べ、 高 度 な 映 像 表 現 が 効 率 的にできるシステムの 開 発 が 進 み、ドラマや 映 画 制 作 などで 大 いに 使 われている。最 近 の 制 作 システムの 主 な 技 術 動 向 を 見 ておきたい。第 5 章 に 記 した 映 像 加 工 用 ペイントボックスなどを 出 していたクオンテル( 英 )は、2000 年 代 以 降 、 一 層 進 んだデジタル 技 術 やコンピュータ 技 術 を 取 り 込 み、 複雑 高 度 な 画 像 加 工 ・ 処 理 用 の 多 種 多 彩 なシステムを 製 品 化 している。 最 新 の DI システムでは、ディスクサーバを 核 に、HD、2K や 4K も 含 め 複 数 の 解 像 度 の 映 像 フォーマットの 加 工 処 理 やカラーコレクション、フィニッシングなどが 同 時 ・ 並 行 的に 行 えるようになっている。 各 プロジェクト( 同 じ 素 材 を 使 い 別 の 作 品 を 同 時 並行 的 に 制 作 するケース) 間 で 映 像 素 材 のコピーは 不 要 となり、 写 7.13 に 示 すコンテンツ 加 工 ・ 処 理 システム"Pablo"( 国 内 外 の 制 作 現 場 で 広 く 使 われている)などを 使 い、 高 画 質 で 複 雑 高 度 な 制 作 が 効 率 的 にできるようになっている。また 90 年 代 、クオンテルに 並 び 高 度 な 映 像 制 作 システムを 出 していたオートデスク( 加 、 旧 ディスクリート・ロジック)は、 写 7.14 に 示 すようにデジタルシネマ 用 の 数 々の 高 度 な 合 成 ・ 加 工 ・ 処 理 システムを 出 し、 世 界 各 国 の 多 くの 映 画 制作 に 使 われている。また 90 年 代 頃 、ノンリニア・オフライン 編 集 系 で 世 界 的 に 高いシェアを 得 ていたアビッド( 米 )は、その 後 、オンライン 系 の 映 像 加 工 の 分 野にも 進 出 し、 今 や 全 世 界 の 多 くの 制 作 現 場 で 使 われている。第 3 章 で 初 期 のバーチャルセットシステムについて、 第 5 章 ではそれらを 使 った作 品 制 作 の 実 践 例 を 述 べた。90 年 代 には 映 画 の 世 界 においても、コンピュータ 技術 を 応 用 したシステムが 多 くの 作 品 制 作 で 活 躍 するようになっていた。これらの技 術 は、2000 年 代 に 至 り 一 層 進 化 したデジタル 技 術 、コンピュータ 制 御 技 術 、コンピュータ・グラフィックス(CG)などの 進 歩 に 伴 い、それらを 使 った 制 作 システムの 利 用 によりコンテンツの 表 現 力 は 一 層 斬 新 的 でより 高 いものになってきた。それらの 中 で 最 近 の NAB や Inter BEE で 評 価 が 高 く 注 目 されているのが、 朋 栄のバーチャルスタジオシステムである。 同 社 は 90 年 代 頃 からブルーバック 合 成 装置 などを 手 がけ、 多 くの 放 送 局 の 制 作 現 場 で 高 い 利 用 実 績 を 上 げてきた。 最 近 、Brainstorm Multimedia 社 のバーチャルシステムソフトウエア"VRCAM"を 使 い、 被写 体 の 位 置 や 奥 行 き 情 報 を 検 出 するため 不 可 欠 だった 外 部 カメラセンサーを 使 用せず、"Brainstorm e Studio" 上 に 設 定 した 仮 想 カメラを 動 かすことで、 前 景 とな183


る 実 写 映 像 と 別 撮 りあるいは CG で 制 作 した 背 景 映 像 を 合 成 することができる写 .15 に 示 すようなシステムを NAB などで 公 開 している。 例 えば、ブルーマットを背 に 踊 るひょっとこがお 城 の 中 の 金 屏 風 を 背 に 自 由 自 在 に 踊 るようなショットやニュースキャスターが CG によるバーチャルセットの 中 を 動 き 回 りコメントを 読 むなど、 通 常 のカメラワークでは 実 現 できない 自 然 感 のある 映 像 効 果 が、 従 来 に 比べれば 比 較 的 容 易 に 実 現 できるようになっている。第 5 章 に 述 べたように 90 年 代 、 大 掛 かりなシステムを 使 い、 多 くの 人 手 と 手 間 、長 時 間 にわたる 作 業 を 必 要 とした 合 成 ・ 加 工 制 作 業 務 が、 今 や 最 新 のデジタル 技術 、CG 技 術 の 結 集 により、 従 来 に 比 べコンパクトなシステムと 軽 微 な 手 間 と 少 ない 人 手 により、 短 時 間 で 実 現 できるようになっている。7.4.4.5 コンテンツ 記 録 ・ 再 生 系90 年 代 まで、 標 準 テレビおよびハイビジョン 番 組 を 記 録 ・ 再 生 する 媒 体 としては、ほとんどの 場 合 VTR テープが 使 われていた。しかし 第 5 章 のコンテンツ 制 作のところで 延 べたように、VTR はダビングによる S/N 劣 化 が 問 題 で、 何 度 もダビングを 繰 り 返 すような 高 度 な 編 集 や 複 雑 な 映 像 処 理 を 必 要 とするようなケースでは、画 質 劣 化 が 少 なく 効 率 的 な 作 業 ができるディスクベースのシステムが 部 分 的 に 使われていた。90 年 代 半 ば 頃 になり、 複 雑 高 度 な 合 成 や 加 工 をするような 番 組 制 作が 増 えるにつれ、それらに 対 応 する 高 機 能 のトータルディスクベースの 制 作 システムが 盛 んに 使 われるようになってきた。また 記 録 メディアについては、 近 年 の技 術 的 進 歩 によりハードディスク(HDD)、 光 ディスク、 半 導 体 、ホログラムなど多 種 多 様 な 記 録 メディアが 大 きく 成 長 してきた。そして 放 送 のデジタル 化 の 進 展と 共 に、 制 作 ・ 送 出 環 境 のネットワーク 化 、ファイルベース 化 の 進 展 とあわせ、その 環 境 と 親 和 性 が 高 いテープレスシステムへと 変 わりつつある。テープレス 化 とは 単 に 記 録 メディアが 磁 気 テープから 別 の 媒 体 に 変 わると 言 うことではなく、 番 組 の 高 画 質 化 、 高 度 化 に 有 効 なうえ、 番 組 素 材 を 共 有 ・ 共 用 することにより 制 作 ・ 送 出 の 作 業 性 も 向 上 し、ワークフローにも 大 きな 変 化 を 与 えることになる。そして 従 来 のテープベースのシステムに 比 べ、コンテンツ 制 作 系のハードおよび 人 的 リソースの 効 率 的 運 用 が 可 能 となり、トータル 的 に 経 済 性 も向 上 する。このような 傾 向 は 放 送 番 組 の 制 作 や 送 出 だけに 限 らず、 映 画 の 制 作 や興 行 にも 波 及 し、 最 近 のデジタルシネマの 世 界 ではより 顕 著 に 起 きている。以 下 にテープ 以 外 の 記 録 メディアの 成 長 の 経 緯 、 最 近 の 技 術 動 向 27 について 具体 的 に 整 理 しておく。184


(1) HDDHDD は 70 年 代 頃 からコンピュータの 外 部 メモリーとして 使 われてきたが、90 年代 になり 記 録 媒 体 のディスクの 薄 膜 化 、 磁 気 抵 抗 効 果 ヘッドの 開 発 、デジタル 信号 処 理 技 術 などにより、 記 録 密 度 の 向 上 、 記 録 容 量 の 増 加 が 大 幅 に 進 んだ。それに 伴 い、ノンリニア 編 集 系 や 前 述 したような 高 度 、 高 品 質 の 制 作 システムの 主 力メモリーとして 使 われるようになってきた。さらに 2000 年 代 以 降 になり、 従 来 の面 内 磁 気 記 録 方 式 から 垂 直 磁 気 記 録 方 式 へと 変 り、デジタル 信 号 処 理 やサーボ 制御 技 術 も 高 度 化 され、 年 々 一 層 の 大 容 量 化 、 小 型 化 、 高 速 化 が 進 んでいる。最 近 では 高 密 度 ・ 小 型 化 の 動 向 を 活 かし、HDD を 記 録 メディアに 使 うカムコーダ( 池 上 通 信 機 、グラスバレー)、テレビ 内 蔵 型 レコーダやモバイルメモリー(iVDR、日 立 )としての 利 用 も 増 えている。 写 7.16 に 最 近 の AV 機 器 に 使 われている 小 型 コンパクトな HDD を 示 す。さらには 低 価 格 で 大 容 量 ・ 高 速 記 録 メディアとしての 特徴 を 活 かし、 進 展 しつつあるデジタルシネマやスーパーハイビジョンなど 超 高 精細 度 映 像 の 記 録 再 生 用 に 利 用 されるようになっている。 写 7.17 に 愛 知 万 博 (2005)の 時 、SHV の 記 録 メディアに 使 われたハードディスクによる 記 録 ・ 再 生 装 置 を 示 すが、その 後 、 大 容 量 化 、 高 密 度 化 が 進 み、 今 や 大 幅 に 小 型 化 されている。(2) 光 ディスク青 紫 色 レーザーを 用 い 大 容 量 化 した 次 世 代 DVD は、2000 年 代 初 頭 から 2 方 式 が覇 を 競 っていたが、2008 年 、 記 録 容 量 の 差 が 決 め 手 になりブルーレイディスク(BD)に 一 本 化 された。 世 界 的 なデジタル 放 送 の 進 展 ともあいまって 高 画 質 、 長 時 間 のHDTV 番 組 や 映 画 コンテンツが 増 える 中 、 主 に 民 生 用 レコーダとして 急 速 に 普 及 が進 んできた。また BD 準 拠 のプロフェッショナル 光 ディスクを 記 録 メディアに 搭 載したカムコーダ(ソニー)も 既 に 実 用 化 されている。現 在 の BD 規 格 では、 記 録 容 量 は 単 層 25GB、2 層 で 50GB だが、 最 近 では 大 容 量化 の 要 求 に 応 え 多 層 化 が 進 み、 写 7.18 に 示 すように 2010 年 CEATEC でも 公 開 されたが、BD 拡 張 仕 様 (BDXL)による 3 層 100GB、4 層 128GB モデルも 開 発 されている。データ 転 送 速 度 については、 今 の BD 規 格 ではノーマルで 36 Mbps、2 倍 速 で 72 Mbpsとなっているが、これと 互 換 性 を 持 ち 4~6 倍 速 のモデルも 実 現 されている。さらに NHK 技 研 では 一 層 の 高 速 化 ・ 大 容 量 化 に 向 け、 写 7.19 に 示 すように 0.1mm 厚 の基 板 を 用 いた 薄 型 光 ディスクの 開 発 も 進 められており、 放 送 用 ハイビジョン VTR並 みの 250Mbps と 言 う 高 速 記 録 を 実 現 している 28 。 今 後 、デジタルシネマや 3D コンテンツの 普 及 も 見 込 まれ、 民 生 用 のみならず 業 務 用 パッケージメディアとしての 利 用 が 広 がりそうである。185


(3) 半 導 体 メモリー半 導 体 メモリーDRAM は、 従 来 コンピュータの 内 部 メモリーとして 使 われていたが、 近 年 、 不 揮 発 性 で 書 換 え 可 能 な NAND 型 フラッシュメモリーなどが 映 像 記 録 用に 使 われるようになってきた 29 。 本 来 、 半 導 体 メモリーは 高 速 アクセス、 高 密 度 、小 型 、 低 消 費 電 力 、 低 価 格 と 多 くの 優 れた 特 徴 を 持 っており、デジタルカメラやモバイル 機 器 のメモリーに 使 われていた。 最 近 では、 写 7.20 に 示 すような 小 型 コンパクトの 放 送 ・ 映 画 制 作 用 カムコーダ(ソニー、パナソニック、 池 上 通 信 機 、グラスバレーなど)や 写 7.21 に 示 すように 高 速 大 容 量 の 制 作 系 のビデオサーバ( 東芝 など)への 利 用 も 進 みつつある。 高 速 で 大 容 量 を 必 要 とするデジタルシネマや 3Dの 進 展 にあわせ、 半 導 体 メモリーの 出 番 は 今 後 一 層 高 まってくると 考 えられる。(4) ホログラムHDD や 光 ディスクの 高 密 度 化 、 大 容 量 化 は 着 実 に 進 んでいるが、 物 理 的 にはほぼ限 界 に 近 づいている。デジタルシネマや SHV など、 今 後 の 高 精 細 度 映 像 時 代 に 向け、さらなる 大 容 量 メモリーとしてホログラムへの 期 待 が 高 まっている。ホログラムの 開 発 は 60 年 代 と 古 いが、その 利 用 は 特 殊 分 野 に 限 られ、 映 像 分 野 での 実 用化 はなかなか 進 まなかった。 最 近 の 動 向 ( 日 立 マクセル、In-phase Technology)では、 写 7.22 に 示 す 開 発 ロードマップによると 第 1 世 代 で 記 録 容 量 300GB、 転 送速 度 160Mbps、 第 2 世 代 (09 年 )で 800GB/640Mbps、 第 3 世 代 (11 年 頃 )には1.6TB/960Mbps を 目 指 していると 報 じられている 30 。また NHK 技 研 では SHV を 視野 に 入 れ、さらに 高 密 度 で 超 大 容 量 のホログラムメモリーの 実 用 化 に 向 けた 研 究もなされている 31 。 開 発 中 の 実 験 装 置 を 写 7.23 に 示 す。このようにホログラムは次 世 代 の 記 録 メディアとして 大 きな 期 待 を 集 めている。7.4.4.6 デジタル 符 号 化 技 術 とコンテンツ 配 信 ・ 伝 送 の 実 践 例デジタルシネマの 進 展 にあわせ、コンテンツを 電 子 的 に 配 信 、 伝 送 することは、映 画 館 へのフィルム 物 流 に 掛 かる 経 費 、 時 間 が 不 要 になること、 配 給 元 から 各 映画 館 へ 一 斉 配 信 できるなど 利 点 が 大 きい。またデジタルシネマ 化 は、 映 画 館 にとって 映 画 作 品 以 外 にもスポーツやライブコンサートなどのイベントも 上 映 できることになり、 新 たなビジネスチャンスの 到 来 を 意 味 し、 映 画 業 界 にとって 大 きなモチベーションになっている。第 6 章 に 記 した 90 年 代 に 行 われた 数 々の 伝 送 実 験 で 主 に 使 われた 圧 縮 方 式 は、BS でハイビジョン 放 送 するために 開 発 されたミューズである。この 方 式 は、 日 本独 自 のもので 国 際 的 な 汎 用 性 はなく、その 後 、 世 界 的 なデジタル 化 進 展 にあわせ、186


MPEG2(Moving Pictures Experts Group)、AVC-H.264(Advanced Video Coding、H.264 は 国 連 機 関 の ITU-T の 呼 び 方 、 以 下 H.264)、JPEG2000(Joint PhotographicExperts Group、ISO と ITU の 共 同 組 織 )など 数 々のデジタル 圧 縮 符 号 化 技 術 が 開 発された。これらの 方 式 はいずれも 国 際 標 準 化 され、カメラ、レコーダ、 伝 送 系 など 様 々な 機 器 、システムで 使 われるようになり、 世 界 中 のデジタル 制 作 、 伝 送 ・配 信 を 大 いに 進 めることになっている。MPEG2 は 符 号 化 アルゴリズムに DCT (Discrete Cosine Transform)と 動 き 補 償 予測 をベースにする 優 れた 符 号 化 法 で、 放 送 、 映 像 業 界 で 90 年 代 半 ばから 多 用 され、現 在 、 地 上 波 デジタル 放 送 や 番 組 アーカイブ、DVD 用 記 録 方 式 として 使 われている。H.264 は 低 ビットから 高 ビットレートまでカバーし、 圧 縮 効 率 が 高 く 高 画 質 の 符 号化 法 で、ワンセグ 放 送 用 からテープレスカムコーダ、ノンリニア 編 集 などの 各 種制 作 システム、BD 記 録 用 など 幅 広 い 分 野 で 使 われている。JPEG 2000 は 最 近 注 目 されている 高 画 質 の 動 画 像 符 号 化 技 術 で、データ 圧 縮 にDCT の 代 わりにウエーブレット 変 換 を 採 用 している。DCT に 比 べ、 低 域 部 でのブロックノイズが 目 立 ちにくく、 高 域 部 で 量 子 化 が 粗 くてもモスキートノイズが 目 立ちにくく、 低 遅 延 で 可 逆 性 がある。また 空 間 スケーラビリティがあり、ひとつの符 号 化 データからサイズの 異 なる 画 像 を 再 生 できるといった 特 徴 も 持 っている。高 画 質 で 効 率 性 が 高 い 特 徴 を 持 ち、ハイビジョン 映 像 素 材 の 伝 送 やデジタル FPU用 にも 使 われており、デジタルシネマ 用 の DCI 仕 様 にも 採 用 されている。これらのデジタル 符 号 化 技 術 を 使 い、 最 近 行 われたデジタルシネマの 配 信 実 験の 具 体 例 を 見 ておこう。2000 年 代 初 頭 、 前 述 のデジタルシネマ・コンソーシアム(DCCJ)は、 映 画 館 向 けに 作 品 をデジタル 化 してネットワーク 経 由 で 配 信 する 実 験 を 行 った。 当 時 、 画 素数 200 万 のハイビジョンが 主 流 だったが、この 時 の 実 践 では 画 素 数 800 万 級 (3840×2840)のシステムにより 伝 送 実 験 を 行 った 32 。35mm 映 画 フィルムから JPEG2000で 変 換 されたデジタルデータを、NTT 開 発 の 超 高 精 細 動 画 配 信 システム(SHD:SuperHigh Definition Images)によりギガネット 経 由 で 伝 送 し、 受 信 側 でデコードし800 万 画 素 のプロジェクターで 上 映 された。また 2004 年 には 東 京 国 際 映 画 祭 と 連携 し 本 格 的 なデジタルシネマ 配 信 実 験 も 行 なわれた 33 。 情 報 通 信 機 構 (NICT)のサーバから 再 生 された 4K デジタルシネマ 映 像 は、NTT 大 阪 から 東 京 大 手 町 までギガネット 回 線 JGN2 で 伝 送 され、 映 画 祭 会 場 の 六 本 木 タワーに 設 置 されたフル 4KプロジェクターD-ILA(4096×2160、JVC)で 275"サイズの 大 画 面 に 上 映 された。この 時 の 上 映 は 提 案 されたばかりの DCI 仕 様 によるわが 国 初 の 試 みだった。187


このような 映 像 メディアの 進 展 状 況 に 応 えるべく 通 信 ・ネット 業 界 においても活 発 な 動 きが 出 てきている。NTT グループは 高 画 質 の H.264 HD/SD リアルタイムエンコーダ/デコーダ、IP 伝 送 用 H.264 エンコーダ/デコーダなどに 加 え、4K 映 像 のリアルタイム 配 信 のための JPEG2000 コーデックなどを、 写 7.24 に 示 すように 最近 の NAB などで 公 開 している 34 。フレーム 単 位 での 編 集 が 可 能 で 高 画 質 を 要 する素 材 伝 送 に 適 し、 多 様 なフォーマット(4096/3840 画 素 、24P/30P)に 対 応 しており、 高 精 細 映 像 制 作 のコラボレーションやコンテンツ 配 信 、イベントのライブ 中継 などに 使 え、 今 後 のデジタルシネマの 展 開 に 大 いに 役 に 立 つ。7.4.4.7 コンテンツサーバ 系パッケージメディアやネットで 映 画 館 や 映 像 多 目 的 ホールに 配 給 ・ 配 信 されるデジタルシネマ 作 品 やイベントなどの 高 精 細 映 像 は、 一 般 的 にはサーバに 記 録 され、 再 生 、 上 映 される。 商 業 ベースで 運 用 されるサーバとしては、 記 録 容 量 や 転送 速 度 などの 基 本 性 能 だけでなく、 信 頼 性 や 操 作 性 も 重 要 な 要 素 である。2000 年代 半 ばには、デジタルシネマの DCI 仕 様 に 添 い JPEG2000 を 採 用 するサーバとして、写 7.25 に 示 すような Doremi( 米 )のデジタルシネマ・サーバ( 容 量 約 1TB)、ハリウッドと 縁 の 深 い QuVIS( 米 )の"Cinema Player"( 容 量 約 600GB)などが 登 場し、 国 内 外 のデジタルシアターで 既 に 使 われている 35 。 現 在 記 録 メディアには 主に HDD が 使 われているが、デジタルシネマの 展 開 がさらに 進 めばホログラムなど、より 大 容 量 の 記 録 メディアを 搭 載 したサーバへの 要 求 が 高 まってくると 考 える。7.4.4.8 コンテンツ 上 映 ディスプレイ90 年 代 半 ば 頃 まで 多 目 的 ホールなどで 使 われた 大 画 面 用 ハイビジョンディスプレイについては 第 3 章 で 述 べたが、90 年 代 後 半 頃 から、 従 来 の CRT や 液 晶 投 射 型プロジェクターに 代 わり、 新 方 式 の 高 精 細 度 で 高 画 質 の 大 画 面 用 ディスプレイが次 々に 登 場 してきた。さらに 2000 年 代 になると、デジタルシネマの 進 展 にあわせ、従 来 モデルとは 原 理 や 構 造 が 異 なる 様 々なタイプの 高 解 像 度 、 大 画 面 用 ディスプレイが 次 々と 登 場 するようになった。そのひとつが"DLP"(Digital Light Processing)プロジェクターである。DMD 素子 (Digital Micro-mirror Device、テキサス・インスツルメント( 米 ))を 使 い、基 板 上 に 形 成 した 極 微 小 のミラーひとつひとつを 磁 歪 効 果 により 制 御 し、 光 を 反射 しスクリーン 上 に 映 像 を 投 影 する 仕 組 みである 36 。 光 源 にキセノンランプを 使い 輝 度 が 高 く、フレア 成 分 が 少 なくコントラスト 比 も 高 い。ミラー 素 子 を 高 密 度 ・188


多 画 素 化 することで 解 像 度 を 高 くでき、 高 速 動 作 のため 動 画 応 答 性 も 優 れている。このような 特 徴 を 持 つ DMD を 搭 載 した 高 精 細 ・ 大 画 面 用 ディスプレイ DLP は、 写7.26 に 示 すように 国 内 外 多 くの 企 業 から HDTV 仕 様 、デジタルシネマ 仕 様 のモデルが 製 品 化 され、 世 界 中 のシアターや 映 像 ホールなどで 最 も 多 く 使 われている。もうひとつの 大 画 面 向 き 高 精 細 度 ディスプレイは、 液 晶 型 プロジェクターの 一種 である"D-ILA"(Direct-Drive Image Light Amplifier、JVC)である。シリコン膜 上 に 形 成 した 液 晶 素 子 LCOS(Liquid Crystal on Silicon)により、キセノン 光 源の 光 を 反 射 させスクリーン 上 に 映 像 を 投 影 する 仕 組 みである 37 。 垂 直 配 向 型 液 晶を 使 い 反 射 式 とすることで、 液 晶 の 欠 点 とされた 応 答 性 と 暗 部 再 現 性 ( 黒 浮 き)を 大 幅 に 改 善 し、 高 コントラスト、 高 輝 度 、 高 解 像 度 に 加 え、 優 れた 動 画 再 現 性 、良 好 な 色 再 現 性 を 実 現 した。 当 初 ハイビジョン 仕 様 だったが、 後 に 解 像 度 を 2K から 4K に 高 めた 写 7.27 に 示 すような 機 種 も 登 場 し、デジタルシネマ 用 ディスプレイとしてかなり 使 われている。また 写 7.28 に 外 観 を 示 すが、DILA と 構 造 はやや 異 なるが 同 じ LCOS 素 子 を 使 う4K 対 応 の"SXRD"(Silicon X-tal Reflective Display、ソニー)プロジェクターは、現 在 国 内 外 の 多 くの 映 画 館 、シアターでデジタルシネマ 用 に 最 も 多 く 使 われている 高 画 質 、 大 画 面 用 ディスプレイである。7.4.5 デジタルシネマの 今 後 の 展 望デジタルシネマの 規 格 はまだ 審 議 中 だが、 前 項 まで 見 てきたように、デファクトスタンダードとして、4K カメラ、 記 録 ・ 再 生 系 、 符 号 化 技 術 、コンテンツ 制 作系 、 伝 送 系 、ディスプレイなど 多 くの 機 器 ・システムが 実 用 化 され、それらを 使ったデジタルシネマ・コンテンツが 数 多 く 制 作 されている。それらのコンテンツを 上 映 するデジタルシネマ 対 応 のシアターは、 世 界 的 にとりわけ 米 国 で 年 々 増 えており、2010 年 時 点 で 世 界 のデジタルシネマのスクリーンは 16000 を 超 え 38 、 国内 ではで 商 業 映 画 館 の 約 3400 スクリーンのうち 2009 年 末 には 約 410 スクリーン39 でデジタル 上 映 可 能 になっている。このような 映 像 メディア 界 の 状 況 に 見 られるように、 今 後 デジタルシネマがさらに 大 きく 進 展 していくことは 疑 いない。しかし、 近 い 将 来 すべての 映 画 がデジタルシネマで 制 作 され、デジタルで 上 映 されるかどうかについては 議 論 が 分 かれるところである。 世 界 の 映 画 界 をリードしているハリウッドはデジタルシネマに積 極 的 な 面 もあるが、 一 方 で 長 年 培 ってきた 従 来 の 映 画 制 作 技 術 力 の 蓄 積 、 人 材 、ユニオンの 問 題 もある。 世 界 的 に 見 ても、 国 、 地 域 の 事 情 は 異 なり、 映 画 館 上 映189


システム 更 新 と 言 う 経 済 的 側 面 、 全 体 としての 映 画 産 業 構 造 の 問 題 もある。そのため、 従 来 の 映 画 がデジタルシネマに 一 気 に 代 わると 言 うよりは、 経 済 面 、 地 域の 事 情 、 人 的 資 源 の 面 も 含 め、 徐 々に 展 開 が 進 められていくと 考 えるのが 妥 当 であろう。 映 像 産 業 はデジタルシネマが 推 進 力 となり、 従 来 のフィルムによる 映 画メディアとデジタル 技 術 をベースにする 電 子 メディアが 適 材 適 所 で 役 割 分 担 しつつメディアフュージョンを 起 こし、より 一 層 大 きく 成 長 していくと 考 える。7.5 今 後 の 映 像 情 報 メディアの 展 望前 節 では、90 年 代 半 ばから 2000 年 代 にかけ、デジタル 技 術 、コンピュータ 技 術 、ネットワーク、IT 技 術 などが 大 きく 成 長 し、それと 機 を 同 じくして 大 きな 展 開 を始 めているデジタルシネマに 関 して、 成 長 の 経 緯 、 動 向 、 今 後 の 展 望 について 論じてきた。 新 たな 世 紀 になり 10 年 、 映 像 メディアはこれからも 留 まることなく、より 広 範 な 分 野 で 多 様 な 展 開 をしていくことは 間 違 いない。では、 今 後 の 映 像 メディアは 何 を 目 標 にどの 方 向 に 進 むのだろうか。この 点 については 様 々な 見 方 があることは 当 然 であろう。その 方 向 性 を 示 唆 する 例 として、これまで 日 本 の 映 像 情 報 メディアの 成 長 を 推 進 し、オピニオンリーダーでもある「 映 像 情 報 メディア 学 会 」は、2010 年 1 月 「 映 像 情 報 メディアの 未 来 ビジョン」と 題 する 特 集 40 を 組 んでいる。その 中 で 今 後 の 映 像 情 報 メディアについて 多 くの識 者 の 考 えや 意 見 、 展 望 が 語 られている。 本 章 ではそれらを 踏 まえ、その 上 で 長年 、 映 像 メディアの 展 開 を 見 てきた 筆 者 自 身 の 経 験 、 知 見 をもとに 今 後 の 映 像 メディアの 展 望 について 論 じてみたい。これからの 映 像 メディアの 展 開 は 従 来 以 上に 多 岐 にわたるが、ここでは 本 研 究 分 野 とも 関 連 があるテーマとして、 現 在 既 に進 行 途 上 にある 3D、そして 今 後 大 きな 展 開 をしていくと 思 われるスーパーハイビジョン(SHV)にしぼり 論 じてみたい。7.5.1 今 後 、 映 像 情 報 メディアが 目 指 す 目 標 ・ 方 向今 後 の 映 像 情 報 メディアを 考 える 前 提 として、まず 現 在 の 状 況 について 見 ておく。 映 像 メディアは、 今 、 大 きく 変 容 しつつある 41 。まず 第 1に 映 像 情 報 の 流 通媒 体 は、 従 来 のテレビのように 電 波 に 限 らず、DVD などのパッケージメディア、インターネットをメインにするネットワーク、 携 帯 などのモバイル 端 末 と 多 様 化 している。 第 2 に 映 像 情 報 メディアの 利 用 者 の 要 望 も 多 様 化 している。 第 3 点 はネットワーク 上 に 展 開 されるコミュニケーション 文 化 も 変 容 しつつある。 第 4 点 として、モバイルメディアの 普 及 は 映 像 情 報 メディアの 可 能 性 をさらに 広 げ、 利 用190


者 の 行 動 範 囲 は 広 がり、 変 わる 行 動 態 様 にも 対 応 していかなければならない。さらに 第 5 点 として、 映 像 情 報 メディアは 心 豊 かな 社 会 の 実 現 へ 向 けた 貢 献 も 求 められている。すなわち 映 像 情 報 メディアを 考 える 際 には、 単 なる 技 術 的 動 向 だけでなく 映 像 文 化 ( 映 像 アートも 含 む)の 視 点 も 重 要 である。その 上 で、 将 来 の 映 像 情 報 メディアが 目 指 すべき 方 向 42 として、 第 1に 考 えられるのはより 感 動 的 なメディアであること、 具 体 的 なテーマとしては「 高 臨 場 感映 像 ・ 音 響 システム」 43 や「 立 体 映 像 システム」、そして「 五 感 コミュニケーションシステム」などである。 第 2 の 方 向 としてはより 便 利 なメディアで、いつでもどこでも 情 報 のやり 取 りができる「ユビキタス 映 像 システム」や「ユーザー 環 境適 応 型 サービスシステム」、そして 高 齢 者 やハンディキャップ 者 向 けの「 人 にやさしい 情 報 システム」であり、「 安 全 ・ 安 心 をサービスする 情 報 システム」が 考 えられる。 本 章 では 本 論 文 と 関 連 深 い 第 1 の 方 向 について 論 じることにする。これからの 映 像 情 報 メディアは、 単 に 情 報 を 伝 達 するだけではなく 人 を 感 動 させる 要 素 も 重 要 になってくる。その 具 体 的 なものとして 本 節 では、 本 論 文 の 主 題に 関 係 の 強 い 3D 映 像 と 超 臨 場 感 あふれる SHV を 取 り 上 げて 見 たい。そしてそれらの 映 像 コンテンツには、 人 を 感 動 させるアート 性 も 強 く 求 められるようになる 44 。本 論 文 で 見 てきたようにテクノロジーは 年 々 進 歩 し 留 まることを 知 らないが、その 進 化 は 映 像 の 表 現 力 を 高 め 表 現 領 域 を 画 期 的 に 広 げ、 映 像 メディアの 質 を 大 きく 変 えつつある。7.5.2 3D・ 立 体 映 像 メディアの 展 望3D、 立 体 映 像 は、これまで 古 今 東 西 、 何 度 も 消 長 を 繰 り 返 してきたが、2000 年代 半 ば、デジタルシネマが 展 開 する 中 から、 再 浮 上 し 今 や 大 きな 映 像 メディアの流 れになっている。 本 節 では、 急 速 に 進 展 しつつある 3D メディアの 成 長 の 経 緯 と現 在 の 状 況 、3D 映 像 システムの 技 術 動 向 、それらを 使 い 制 作 、 公 開 されている 3Dコンテンツについて、 今 後 の 展 望 も 含 めて 論 じてみたい。(1) 立 体 映 画 、 立 体 テレビ 成 長 の 経 緯立 体 映 画 の 歴 史 は 古 く、1930 年 代 にアナグリフ 式 のものが 登 場 45 している。 日本 ではまだカラー 映 画 も 始 まっていない 頃 で、 世 界 的 にも 機 が 熟 しておらずほとんど 一 般 的 にはならなかった。1950 年 代 になると、 米 国 ではテレビが 普 及 しだし映 画 人 口 が 減 少 傾 向 を 辿 り 始 め、その 対 抗 策 のひとつとしてハリウッドは 立 体 映画 を 登 場 させた。これが 第 1 次 立 体 映 画 ブームと 呼 ばれるもので、『ダイヤルMを回 せ』(ヒッチコック 1954)など 約 100 本 位 の 立 体 映 画 が 制 作 され 世 界 中 で 大 きな191


流 行 ブームになった 46 。しかし 単 なる「 飛 び 出 す 映 画 」 的 な 奇 をてらう 作 品 が 多く、 質 が 高 い 3D 作 品 が 極 めて 少 なかったこと、 視 覚 ・ 心 理 的 疲 労 を 伴 ったことに加 え、 同 じ 頃 にワイド・ 大 画 面 向 きで 立 体 感 、 臨 場 感 のあるシネラマやシネマスコープなどが 登 場 し、それらの 質 の 高 い 作 品 の 魅 力 にはかなわず、この 時 の 立 体映 画 ブームはわずか 3 年 位 で 終 わってしまった。その 後 も 立 体 映 画 ブームは 何 度かあったが、いつも 長 続 きせず 一 時 的 流 行 に 終 わっている。一 方 、テレビ 放 送 業 界 は 第 1 次 立 体 映 画 ブームの 頃 、 映 画 界 の 動 きに 対 抗 し 立体 テレビを 開 発 し 公 開 した 47 。ABC とポラロイド 社 はパッシブステレオ 方 式 の 立体 テレビを 開 発 し、1953 年 、NARTV(NAB の 前 身 ) 総 会 で 公 開 実 験 を 行 ったが、 立体 テレビ 放 送 実 現 には 伝 送 チャンネルなど 課 題 が 多 く、クローズド 実 験 に 終 わった。70 年 代 後 半 、プルフリッヒ 効 果 48 を 利 用 した 立 体 テレビ 放 送 が 日 本 テレビとフジテレビで、80 年 代 に 米 国 (フォックステレビなど)で、90 年 代 に 英 国 (BBC)で 放 送 されている。NHK 技 研 では 60 年 代 初 頭 頃 、 視 覚 心 理 面 の 基 礎 研 究 として 立 体 テレビの 研 究 を始 めた。60 年 代 後 半 、 次 世 代 テレビの 目 標 のひとつとして 立 体 テレビが 研 究 テーマに 取 り 上 げられ、80 年 代 半 ば、ハイビジョンの 成 長 にあわせハイビジョン 立 体テレビの 研 究 にシフトすることになった。1986 年 には NHK テクニカルサービス( 現NHK メディアテクノロジー、NHK-MT)と 共 同 で、 初 の 3D ハイビジョン 作 品 『ジュディ・オング・ショー』を 制 作 し 49 、 技 研 公 開 などで 公 開 した。この 時 、 使 われた3D ハイビジョンカメラは 第 3 章 に 記 した 実 用 1 号 機 (HDC100)で、2 台 のカメラレンズの 光 軸 間 隔 が 広 すぎ 立 体 テレビの 問 題 点 である「 箱 庭 現 象 」とか「 小 人 効果 」が 大 きかったが、 初 めて 実 現 した 高 精 細 な 立 体 映 像 は 大 きなインパクトを 与えた。その 後 、 小 型 ハイビジョンカメラ(HL1125:2/3"HARP)を 使 い、 光 軸 間 隔を 狭 くし、1990 年 、 写 7.29 に 示 す 本 格 的 3D ハイビジョンドラマ『ワッフン』が制 作 され、 当 時 開 設 されたばかりの 長 崎 オランダ 村 や NHK などで 公 開 され 好 評 を博 した。これが 本 格 的 立 体 ハイビジョンの 幕 開 けと 言 ってよい。その 後 も、NHK 技 研 は 立 体 映 像 の 人 間 に 与 える 視 覚 心 理 効 果 、 疲 労 現 象 など 生 体面 の 基 礎 的 研 究 を 続 け、NHK テクニカルサービスはそれらをベースに、 当 時 から 今日 にいたるまで、 写 7.30 に 示 すような 3D 作 品 制 作 用 の 機 材 の 開 発 、 改 善 改 良 を進 め、それらを 使 いドラマ、アニメーション、 紀 行 もの、スポーツ、ライブイベント、 医 療 応 用 など 多 種 多 彩 な 3D ハイビジョンコンテンツの 制 作 を 重 ねてきた。それらを 通 じて 得 られた 課 題 や 成 果 は 広 く 国 内 外 に 公 開 され、 今 日 、 映 像 業 界 に広 がる 3D 映 像 の 隆 盛 に 大 きく 貢 献 して 来 た。192


(2) 今 日 の 3D 映 像 メディアの 状 況前 節 でデジタルシネマの 展 開 について 見 てきたが、2000 年 代 後 半 になるとデジタルシネマは 高 精 細 度 だけではなく、 映 像 表 現 力 の 一 層 の 向 上 、 新 たな 映 像 ビジネス 創 出 を 目 指 し、3D 映 像 へのアプローチが 大 きな 流 れになってきた。 最 近 の NABやシーテックなど 国 内 外 の 展 示 会 においては、3D 関 係 の 出 展 物 が 非 常 に 多 くなり3D シアターは 見 学 者 が 列 を 連 ねるといった 状 況 になっている。 今 や 世 界 のデジタルシネマ 対 応 のスクリーンのうち、 約 半 数 が 3D 対 応 になっている 50 ことからも、3D 映 像 メディアの 流 れ、 行 く 末 が 伺 われるところである。最 初 の 本 格 的 な 3D 映 画 『チキン・リトル』が 制 作 されたのは 2005 年 のことで、その 後 大 型 3D 作 品 の 制 作 が 続 々と 続 き 立 体 映 像 による 表 現 力 そのものへの 魅 力 が高 く 評 価 されるようになり、2008 年 頃 にはハリウッド 映 画 の 10% 以 上 が 3D 作 品といわれる 状 況 になってきた。そして 映 画 界 に 強 烈 なインパクトを 与 えたのが、2009 年 、それまでデジタルシネマの 強 力 な 推 進 者 だったジェームス・キャメロン監 督 が 制 作 した『アバター』である。 同 作 品 は 公 開 されるや 否 や、その 興 行 成 績はそれまでの 記 録 だった 同 監 督 の『タイタニック』をあっという 間 に 破 り、その後 も 記 録 更 新 を 続 けている。 映 画 としての 素 晴 らしさもあるが、 高 品 質 の 3D 映 像自 体 が 大 きく 評 判 を 呼 び 社 会 的 3D ブームを 引 き 起 こす 引 き 金 になった。2010 年 1 月 、 世 界 最 大 の 家 電 ショーCES(Consumer Electronics Show、ラスベガス)では、 薄 型 テレビや BD レコーダ、パソコン 関 係 など 民 生 部 門 の 出 展 物 の 中 で、3D が 最 大 のトピックスになり、2010 年 は 家 庭 向 け 3D 対 応 テレビが 市 場 に 出 回 り「3D 元 年 」になると 報 じられた。そして 映 像 メディアの 展 開 を 占 う 世 界 最 大 のデジタルメディアコンベンションである NAB においても、3D は 最 大 のテーマになった 51 。オープニングセレモニーでは 宇 宙 ステーションからの 3D 中 継 があり、 基 調講 演 の 中 で 世 界 的 なリーディングカンパニーになっているソニーが 経 営 戦 略 として 3D を 高 らかに 謳 い、SMPTE と EBU 共 催 の「デジタルシネマサミット」ではほとんどの 議 題 、 報 告 が 3D 関 連 だった。 恒 例 の「コンテンツシアター」では、3D に 関するシンポジウムが 連 日 開 催 され、"Football Game"(ESPN: 米 国 のスポーツチャンネル)、"Alice in Wonderland"(Walt Disney Studios)、IMAX による『ハッブル望 遠 鏡 による 外 宇 宙 の 3D 映 像 』など 多 彩 な 3D コンテンツが 上 映 され、3D に 対 する 関 心 の 高 さを 反 映 し 写 7.31 に 示 すように 聴 講 者 が 長 蛇 の 列 をなすという 状 況 だった。これらのことにも 今 の 3D を 巡 るメディア 状 況 が 如 実 に 現 われている。ここであらためて、3D 機 器 の 技 術 動 向 、 現 状 について 概 観 して 見 る。 世 界 中 の多 くの 企 業 から、 多 種 多 彩 な3D 用 カメラ、コンテンツ 制 作 システム、ディスプレ193


イなどが 出 されている。2000 年 代 半 ばの3D 用 の 機 器 に 比 べると、 写 7.32の 小 型 3Dカメラに 見 られるように 高 品 質 の3Dコンテンツが 効 率 的 に 低 コストで 制 作 、 配 信できるようになっている。また3Dは、BDなどパッケージメディアから 再 生 されるクローズドシステムが 多 いが、 最 近 では 写 7.33に 見 られるようにネットワーク 経由 の3Dライブ 中 継 52 も 行 われており、これからの 映 像 メディアの 展 開 にとって 有力 なビジネスチャンスになる。また3D 映 像 の 一 般 への 普 及 や 商 用 化 、3D 技 術 の 規格 化 などをしている 国 際 団 体 "3D@Home Consortium"の 活 動 も 活 発 化 しており、 民生 部 門 における3D 熱 も 高 まりを 見 せ、 写 7.34に 示 すような 家 庭 用 3Dテレビや3D 再生 用 BDプレイヤーも 製 品 化 され、まさに3D 元 年 を 裏 付 ける 状 況 になっている。3Dの 進 展 は 産 業 分 野 でも 進 んでいる。 元 々、 機 械 や 自 動 車 設 計 などのデザイン、CAD、CAMの 世 界 では、3D 技 術 は 大 いに 利 用 されてきたが、 最 近 はコンピュータ 技術 の 一 層 の 進 歩 や 高 精 細 映 像 の 活 用 により、 従 来 以 上 に3D 映 像 が 使 われるようになってきている。 例 年 開 催 される「バーチャルリアリティ 展 」においても、 写 7.35に 示 すように 多 種 多 彩 な3D 映 像 の 応 用 例 が 数 多 く 見 られるようになっている。(3)3D 映 像 メディアの 技 術 動 向ここまで3D 映 像 をひと 括 りで 論 じてきたが、3D 技 術 には 多 種 多 様 な 方 式 53 がある。それらの 中 で 現 在 使 われている 主 な 方 式 としては、 大 きく 分 けて 両 眼 視 差 を利 用 する 眼 鏡 式 と 眼 鏡 なし 式 がある。 前 者 には 古 典 的 なアナグリフ 方 式 ( 補 色 方式 )、 最 近 登 場 した 波 長 分 割 方 式 54 、 現 在 最 も 汎 用 的 に 使 われている 偏 光 方 式(L/R2CH 映 像 を 偏 波 面 が 垂 直 / 水 平 で 異 なる 偏 光 フィルターを 通 して 映 写 し、 左 右異 なる 偏 波 面 の 偏 光 眼 鏡 を 通 してみる 方 式 、 最 近 では 直 線 偏 光 に 代 わり 円 偏 波 方式 が 増 えている)、 最 近 の 展 示 会 などでよく 見 られる 時 分 割 シャッター 方 式 (L/R2CH 映 像 を 倍 速 の120Hzまたは4 倍 速 240Hzで 表 示 しそれと 同 期 するアクティブシャッター 眼 鏡 で 見 る)がある。後 者 の 眼 鏡 なし 式 にはパララックス 方 式 やレンチキュラー 方 式 、 空 間 像 再 生 式(インテグラル 式 )と 多 種 多 様 ある。 写 7.36に 示 すようにシーテック2010で 初 公開 され 大 評 判 になった 裸 眼 式 3D( 東 芝 ) 55 は、RGB 縦 配 列 の3D 専 用 液 晶 パネルと 垂直 レンチキュラーで 構 成 され、 画 素 数 はフルHDの4 倍 の 約 830 万 画 素 あり、フレーム 内 の 画 像 からリアルタイムに 作 成 した9 枚 の 画 像 を9 視 差 映 像 に 対 応 し 同 時 表 示(1280×720)させることで、 眼 鏡 なしで 立 体 像 を 見 せる 仕 組 みである。9 視 差 映 像 はスーパーコンピューターに 使 われる 高 機 能 半 導 体 セルにより 高 速 演 算 処 理 で 生 成される。 従 来 の 裸 眼 レンチキュラー 式 に 比 べると、 精 細 度 が 高 く 干 渉 もなく 自 然感 がある。 画 面 サイズは20"と12" 型 で、これらは3Dテレビ 元 年 の2010 年 末 に 量 販194


店 で 販 売 が 始 まっている。上 述 の 各 種 の3D 方 式 は、 原 理 、 方 法 、 特 徴 が 異 なっており、 方 式 によって 撮 影カメラ、コンテンツ 制 作 法 、 上 映 法 も 異 なっている。 今 後 、これらの 中 でどの 方式 が 主 流 になるのかあるいは 並 存 するのか、 現 時 点 では 分 からない。(4)3D 映 像 メディアの 今 後 の 展 望将 来 に 向 け 興 味 のある 3D 方 式 の 研 究 開 発 が NHK 技 研 や NICT( 情 報 通 信 研 究 機 構 )で 進 められている 56 。ホログラフィ 3D と 同 様 の 空 間 像 形 成 方 式 の 一 種 で、 眼 鏡 を使 わないインテグラル 立 体 方 式 で、 将 来 の 3D 放 送 を 見 据 えて 研 究 開 発 中 のものである。システムの 基 本 構 成 は 図 7.3 に 示 すように、マイクロレンズアレイを 通 して 後 述 するスーパーハイビジョン(SHV)カメラで 撮 影 し、 上 映 時 に 同 様 のレンズアレイを 通 して SHV プロジェクターを 使 って 映 写 する 方 式 である。 他 と 原 理 を 異にする 眼 鏡 なし 立 体 方 式 で、あたかも 実 物 が 眼 前 にあるかのような 自 然 な 立 体 像を 再 現 し、 観 察 者 が 動 いてもその 位 置 に 応 じた 立 体 像 を 見 ることができる。2010年 技 研 公 開 で 展 示 された 写 7.37 に 示 す 立 体 画 像 57 は、 画 素 数 が 400×250 と 解 像度 不 足 で 一 層 のステップアップには 何 らかのブレークスルーが 必 要 だが、 将 来 の立 体 放 送 実 現 に 向 け 期 待 したい。図 7.3:インテグラル 立 体 テレビ 方 式 の 基 本 構 成 ( 技 研 公 開 パネルから)立 体 映 像 はこれまで 何 度 も 消 長 を 繰 り 返 してきたが、 最 近 見 られる 3D を 巡 る 流れはこれまでとは 違 っていると 考 える。3D に 対 する 映 画 業 界 や 放 送 業 界 の 動 向 、各 種 展 示 会 での 3D 出 展 状 況 や 盛 り 上 がりを 見 ると、3D の 潮 流 はこれまでになく 大きく、 広 範 囲 に 及 んでいる。 技 術 的 成 熟 度 も 高 く、 社 会 的 ニーズも 大 きくなっている。 映 画 、ゲーム、 放 送 を 取 り 巻 く 映 像 業 界 全 般 に 止 まらず、 産 業 、 医 療 、 広告 (デジタルサイネージ)など 幅 広 い 分 野 に 広 がっている。3D 関 係 の 機 器 開 発 を195


行 っているメーカから 3D コンテンツを 制 作 する 業 界 、それらを 支 援 するソフト 業界 、さらに 3D コンテンツを 配 給 ・ 上 映 する 映 画 界 、 家 庭 で 再 生 ・ 視 聴 する 3D テレビや BD プレイヤーと 民 生 領 域 にまで 広 がっている。しかし 3D が 定 着 しさらに進 展 するためには、3D 映 像 表 現 法 の 巧 拙 や 3D コンテンツの 質 の 高 さに 加 え、3D映 像 特 有 の 問 題 である「 人 間 の 生 体 への 安 全 性 」、「 快 適 性 や 臨 場 感 」に 対 する 配慮 が 重 要 で、そのための 視 覚 心 理 的 研 究 調 査 、 生 体 系 にやさしいコンテンツ 制 作手 法 の 開 発 や 評 価 法 が 映 像 情 報 メディア 学 会 、NHK や NICT、NHK アート 58 などで精 力 的 に 進 められている。3D 映 像 メディアの 今 後 の 展 開 については 様 々な 見 方 があるが、 前 述 のような 最近 の 3D を 取 り 巻 く 状 況 を 見 ると、 立 体 映 画 が 一 時 的 ブームに 終 わった 昔 の 状 況 とはまったく 異 なっており「 古 くて 新 しい 映 像 メディア」として、 今 度 こそ 定 着 し、さらに 成 長 、 発 展 していくものと 考 える。7.5.3 超 臨 場 感 映 像 メディア「スーパーハイビジョン(SHV)」の 展 望上 述 したように、これからの 映 像 メディアにとって 大 変 重 要 な 要 素 が「 人 に 感動 を 与 えること」であり、その 例 として「 超 臨 場 感 映 像 メディア」がある。そしてその 究 極 とも 言 えるのが「スーパーハイビジョン 59 (SHV:Super Hi-Vision)」である。SHV は 次 世 代 の 放 送 ・ 映 像 メディアを 目 指 し、NHK 技 研 で 着 々と 研 究 が 進められており、 国 内 外 で 公 開 される 機 会 も 増 え 認 知 度 も 高 まり、その 迫 力 、 魅 力に 対 する 期 待 が 大 きく 膨 らんでいる。(1) 超 臨 場 感 映 像 メディア"SHV"の 登 場現 在 、ハイビジョンが 基 幹 的 映 像 メディアとなり、 前 節 に 記 したデジタルシネマが 定 着 し、 前 項 で 述 べた 3D 映 像 が 成 長 、 発 展 しつつある 状 況 下 、 将 来 の 放 送 ・映 像 メディアにとって、もうひとつの 大 きなターゲットが 超 臨 場 感 あふれるスーパーハイビジョン 60 である。NHK 技 研 は、1960 年 代 半 ば、 東 京 オリンピックを 機 に 飛 躍 を 始 めた 標 準 テレビ時 代 に、 次 世 代 テレビを 目 指 しハイビジョンの 研 究 を 始 めた。そしてそれから 30年 後 、ハイビジョンが 大 きく 成 長 途 上 にあった 1990 年 代 半 ば、 次 世 代 ハイビジョンを 目 指 し SHV の 研 究 を 始 めたのである。ハイビジョンが 標 準 テレビを 大 きく 超え、ワイド、 大 画 面 の 映 画 を 目 標 にしたのと 同 じように、SHV は、ハイビジョンはもちろん 今 進 展 途 上 にある 4K デジタルシネマをはるかに 越 え、 現 在 最 高 の 大 画面 ・ 高 精 細 度 の 映 像 である I-MAX を 凌 ぐ 超 臨 場 感 映 像 メディアを 目 指 し 開 発 されているものである。その 基 本 仕 様 は 走 査 線 数 4320(1080×4)、 水 平 方 向 画 素 数 7680196


(1920×4)、60P でハイビジョンの 16 倍 、4K デジタルシネマの 約 4 倍 の 情 報 量 を持 ち、450" 以 上 の 大 画 面 に 鮮 明 な 映 像 を 映 写 できる。また 臨 場 感 に 大 きく 寄 与 する 音 響 系 については 22.2CH サラウンドとなっている。SHV は 90 年 代 後 半 の 基 礎 的 研 究 段 階 を 経 て、 新 しい 世 紀 となった 2002 年 の 技 研公 開 で 初 公 開 され、 写 7.38 に 示 すように 2005 年 「 愛 ・ 地 球 博 ( 愛 知 万 博 )」に出 展 61 された。その 後 も、カメラやディスプレイ、コンテンツ 制 作 系 や 伝 送 システムなどの 機 器 開 発 が 重 ねられ、 写 7.39 に 示 すように 最 近 の NAB や IBC、シーテックなど 国 内 外 のイベントでも 公 開 されている。2008 年 IBC ではロンドン/アムステルダム 間 のライブ 中 継 に 対 して 特 別 賞 が、2009 年 NAB において"TechnicalInnovation Award"を 受 賞 するなど 海 外 でも 高 い 評 価 を 受 けている。また SHV の 規格 ・ 標 準 化 については、2006 年 頃 から ARIB( 電 波 産 業 会 )、ITU-R( 国 際 電 気 通 信連 合 )や SMPTE において、 審 議 ・ 検 討 が 進 められている。(2) SHV の 動 向 と 現 在 の 状 況大 画 面 、 超 高 精 細 な 映 像 を 実 現 するための SHV 機 器 、システムの 研 究 開 発 は 年 々精 力 的 に 進 められており、 例 年 の 技 研 公 開 や 上 述 のような 国 内 外 の 展 示 会 の 場 で展 示 公 開 されている 62 。SHV カメラは、 研 究 開 発 当 初 は 800 万 画 素 の CCD を 4 枚 使 った G-CH 画 素 ずらし(Dual Green) 方 式 で、カメラヘッドおよびレンズを 含 めかなり 大 型 だった。その後 、 年 々、 改 善 改 良 が 進 み、2010 年 技 研 公 開 に 出 展 された 最 新 機 種 は、 写 7.40 に示 すように 3 板 CMOS、フル 解 像 度 (3300 万 画 素 )と 高 画 質 化 され、 分 離 していたカメラヘッドと CCU が 一 体 化 され 機 動 性 も 向 上 した。このように SHV カメラが 高画 質 で 小 型 、 高 機 動 になったことで、フィールドでの 番 組 制 作 がやりやすくなり、これまで 自 然 紀 行 物 をメインに 何 本 かの 実 験 的 作 品 が 制 作 されている。 第 5 章 で述 べたように、ハイビジョンが 映 画 を 目 標 に 試 行 錯 誤 しながら 多 種 多 彩 な 作 品 制作 を 続 けさらなる 技 術 改 善 をし、 数 多 い 優 れたハイビジョン 作 品 を 蓄 積 してきたように、SHV もデジタルシネマを 越 える 作 品 に 挑 戦 して 行 くことになる。SHV 用 ディスプレイは、 初 期 にはカメラと 同 じように 800 万 画 素 、 画 素 ずらしによるプロジェクターD-ILA 2 管 式 (JVC)を 使 っていたが、 現 在 は 写 7.41 に 示 すようにフル 解 像 度 化 されている。また 膨 大 なデータ 量 の SHV 映 像 を 記 録 ・ 再 生 するレコーダには、ディスクレコーダ( 計 測 技 研 )が 使 われている。将 来 の SHV 放 送 の 実 現 に 向 けた 符 号 化 技 術 、 伝 送 技 術 の 研 究 開 発 も 進 んでいる。2009 年 技 研 公 開 時 には、SHV 信 号 (Dual Green 式 24Gbps)を AVC/H.264 で 100Mbpsに 圧 縮 し、 広 帯 域 衛 星 「きずな」とギガネット 回 線 を 使 い 札 幌 から 技 研 まで 伝 送197


し、 写 7.42 に 示 すアンテナで 受 信 、 復 号 した SHV 映 像 を 公 開 した。2010 年 には 衛星 、IP ネット、 地 上 波 伝 送 系 共 用 の 60P の SHV 信 号 をリアルタイムに 符 号 化 / 復 号する 高 効 率 符 号 化 装 置 を 公 開 している。さらに 局 内 でスタジオや 編 集 室 などの 間で 複 数 チャンネルのフル SHV 信 号 を 伝 送 する 超 高 速 光 ネットワーク 系 、また 将 来の 大 容 量 放 送 サービス 用 ケーブルテレビ 伝 送 技 術 も 公 開 されている。一 方 、SHV 放 送 を 家 庭 で 視 聴 するための 研 究 開 発 も 着 々と 進 んでいる。 家 庭 用 の100"サイズのディスプレイで SHV の 映 像 を 表 示 するには、 画 素 ピッチを 0.3mm 位にする 必 要 があるが、2009 年 公 開 では 0.6mm で 画 素 数 3840×2160、 対 角 103 インチの PDP が、2010 年 には 写 7.43 に 示 すように 0.33mm と 微 細 化 した 58"サイズの 4K高 精 細 モデルが 公 開 された。フルスペックで 大 画 面 化 にはまだ 課 題 があるが、これまでの 開 発 ペースを 見 ると、かなり 早 く 実 現 しそうだ。また 家 庭 環 境 にあわせ、少 ない 数 のスピーカーで SHV のサラウンド 音 響 を 再 現 する 研 究 も 行 われている。SHV の 22.2CH の 音 声 信 号 を 処 理 し 4 個 あるいは 9 個 ( 低 音 効 果 用 1CH 含 む)のスピーカーでサラウンド 音 響 を 実 現 する 研 究 が 2010 年 に 公 開 された。このように 家庭 用 SHV 映 像 、 音 響 機 器 の 研 究 開 発 も 進 んでおり、 近 い 将 来 、SHV による 高 臨 場 感ホームシアターの 実 現 が 期 待 されている。(3)SHV の 今 後 の 展 開 と 展 望SHV 放 送 は NHK が 想 定 するマイルストーンによると、2020 年 、21GHz 帯 衛 星 により 試 験 放 送 開 始 を 目 標 にしている。その 目 標 に 向 けて、 前 述 したように 撮 影 カメラ、 記 録 装 置 やディスプレイ、 衛 星 放 送 ・ 局 内 外 の 伝 送 システムの 開 発 、 符 号 化技 術 と 言 うようにトータル 的 放 送 システムの 研 究 が 着 々と 進 められている。 前 述のように 衛 星 や 光 ネットを 経 由 し、SHV 伝 送 ・ 配 信 実 験 も 行 なわれている。 国 際 的な 標 準 化 に 向 け、 認 知 度 を 高 めるべく NAB や IBC などでの 展 示 公 開 、BBC などとの共 同 研 究 、 本 格 的 放 送 に 向 けて ITU や ARIB での 標 準 化 ・ 規 格 化 への 貢 献 も 精 力 的に 続 けている。このように 次 世 代 の 放 送 を 目 指 し、SHV の 研 究 開 発 が 着 々と 進 められている 状 況は、 約 30 年 前 のハイビジョンの 進 展 状 況 に 似 ているとも 言 えるし、 時 代 、 社 会 状況 が 違 うとも 言 え、 今 後 の 展 開 については 評 価 が 分 かれるところである。草 創 期 のハイビジョンの 研 究 を 進 めていた 頃 、 映 像 業 界 や 一 般 視 聴 者 からは、ハイビジョンの 大 きな 可 能 性 、 有 効 性 を 認 めつつも、 一 方 では 家 庭 のテレビとしてこんな 大 型 のテレビ( 当 時 50"サイズを 目 標 に 掲 げた)は 必 要 ないとか、 当 時 の技 術 力 では 実 現 は 無 理 だとか、 経 済 性 の 点 で 問 題 だなどと 言 った 意 見 も 多 かった。だが、NHK 技 研 は 映 像 メディアとしてベストと 言 えない 標 準 テレビがそのまま 続 く198


はずはないとの 確 信 を 持 ち、ハイビジョンの 開 発 を 進 め 徐 々にその 理 解 は 広 がっていった。その 後 、 前 章 まで 述 べてきたように 国 の 支 援 も 含 め NHK、 産 業 界 、 映 像業 界 の 力 を 結 集 することで 多 くの 課 題 を 克 服 し、ハイビジョンはまもなくわが 国で 次 世 代 放 送 として 定 着 し、 今 や 世 界 の 場 においても 基 幹 的 メディアとなり、 産業 分 野 においても 多 種 多 様 な 展 開 がなされている。そして、 本 論 文 で 詳 述 したように、 映 画 とのメディアミックスが 活 発 に 行 われ、その 後 、2000 年 代 に 至 りデジタルシネマの 進 展 へとつながっているのである。では、 現 在 研 究 開 発 段 階 にある SHV は 今 後 どのように 進 展 するのだろうか。「 百聞 は 一 見 に 如 かず」の 例 え 通 り、 国 内 外 展 示 などで SHV 映 像 を 見 た 人 の 多 くは、感 嘆 し、 高 い 評 価 を 与 える。しかし、いざそれが 放 送 として 家 庭 に 入 るかと 言 うと 様 々な 意 見 があるのも 実 態 である。 今 のところ、SHV の 開 発 研 究 は NHK 技 研 主 導で 開 発 が 進 められているが、 前 述 のように 国 際 的 な 場 での 認 知 度 は 高 まり、 世 界標 準 化 にむけた 審 議 も 進 められている。SHV を 機 に 開 発 された 技 術 は、 先 行 する4K デジタルシネマにおける 機 器 ・システム 開 発 を 加 速 することにもつながっている。2010 年 7 月 、 総 務 省 は「ホワイトスペース」( 地 上 波 テレビ 放 送 などの 空 き 帯域 や 利 用 可 能 領 域 )における 先 行 モデル 11 案 件 を 決 定 したが、そのひとつに NHK技 研 が 提 案 していた SHV の 実 験 も 入 っている 63 。いずれ、その 実 験 の 成 果 も 今 後の 実 用 化 に 活 かされていくはずである。このように、SHV はハイビジョンの 成 長 期 、 発 展 期 の 状 況 に 比 べれば、 国 内 外 での 認 知 も 標 準 化 も 速 いペースで 進 みつつあり、 機 器 開 発 ペースはかなり 速 く、それらを 使 った 優 れた SHV コンテンツも 制 作 されている。 現 在 進 行 しつつある SHVの 技 術 進 歩 の 速 度 はかなり 速 く、それらが 機 器 メーカや 映 像 業 界 へ 与 えるインパクト、 影 響 、 波 及 効 果 も 大 きい。 新 たな 映 像 メディア SHV に 対 する 社 会 的 な 期 待 、ニーズを 考 えると、その 実 用 化 は 想 定 されているマイルストーンより 速 くなるのではなかろうかとの 期 待 も 出 てきている。SHV は 家 庭 向 けの 放 送 形 態 としての 展 開 がどうなるかはやや 不 透 明 ながら、ポストハイビジョン、ポストデジタルとして 新 たな 映 像 メディアの 展 開 をしていくことが 十 分 に 期 待 される。199


7.6 まとめ映 像 メディアは、19 世 紀 末 に 誕 生 した 映 画 に 始 まり、1950 年 代 半 ばに 放 送 開 始されたテレビ、その 後 80 年 代 から 90 年 代 に 隆 盛 を 遂 げたハイビジョン、そして本 論 の 主 題 であるハイビジョンと 映 画 とのメディアミックス、2000 年 初 頭 から 今に 至 るデジタル 放 送 、そして 映 画 の 世 界 を 革 命 的 に 変 えつつあるデジタルシネマ、と 言 うように 時 代 時 代 の 技 術 の 進 歩 、 社 会 のニーズに 応 え、 大 きく 飛 躍 ・ 発 展 を継 続 して 果 たしてきた。本 章 では、 新 たな 映 像 メディアの 成 長 と 今 後 の 展 望 ということで、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスで 得 られた 多 くの 成 果 がデジタル 技 術 によりさらに成 長 し、その 後 の 映 像 メディアに 与 えた 影 響 や 効 果 について 論 じ、 次 にデジタル技 術 による 映 画 とテレビのメディアフュージョンの 象 徴 としてのデジタルシネマに 関 して、その 成 長 の 経 緯 や 意 義 、 様 々なハードウエア・システムについて 具 体的 に 見 てきた。 本 論 で 述 べたようにデジタルシネマは 映 像 メディアとして 登 場 してまだ 日 は 浅 いが、この 間 のハード、ソフト 両 面 の 成 長 は 目 覚 しいものがあり、今 や 完 全 に 定 着 し 今 後 のさらなる 展 開 が 大 いに 期 待 される。そして、 今 日 以 降 、これからの 映 像 メディアの 目 指 すべき 目 標 、 方 向 について考 察 し、それらの 中 で 具 体 的 なテーマとして、 今 、 社 会 的 に 大 きな 盛 り 上 がりを見 せている 3D 映 像 と 次 世 代 の 放 送 ・ 映 像 メディアとしての 期 待 が 膨 らむ 超 臨 場 感映 像 メディア SHV について 今 後 の 展 開 に 向 けた 展 望 を 行 った。技 術 の 進 歩 、そこにベースをおく 映 像 メディアの 進 歩 、 成 長 は 今 後 もとどまることはない。 本 章 で 論 じた 各 種 映 像 メディアは 今 後 もさらなる 進 歩 により、 新 たな 進 展 、 展 開 を 遂 げていくと 考 える。200


1SFX( 特 殊 撮 影 手 法 )に 対 し、コンピュータ 技 術 を 多 用 しポスプロ 段 階 で 付 加 される特 殊 効 果 を VFX( 視 覚 効 果 )というが、 実 際 には 混 同 されて 使 われることも 多 い。2デジタルシネマ 研 究 会 編 「デジタルシネマ」 米 田 出 版 、pp. 121-123、2005/3、3スキップシティ・ビジュアルプラザ「 海 外 におけるデジタルシネマのビジネスモデル」シンポジュウム、2005/24石 田 武 久 「デジタルシネマを 含 む 超 高 精 細 映 像 の 動 向 調 査 」2005/3、NHK 技 研 向 け 調 査 報 告 書 (NHK-ES 文 責 石 田 )5 「NPO デジタルシネマ・コンソーシアム 組 織 概 要 」Digital Cinema Consortium ofJapan Newsletter 第 5 号 、2004/126中 嶋 正 之 「デジタルシネマ、 映 像 メディアの 究 極 の 技 術 分 野 」 映 像 情 報 メディア 学 会誌 、Vol.55、No.7、pp.2-4、20017大 口 孝 之 「デジタルシネマの 現 状 と 将 来 動 向 」HVC 調 査 報 告 書 、2001/38図 面 引 用 : 文 献 69東 京 国 際 映 画 祭 (2002)のサブイベントとして 非 公 開 実 験10同 試 写 会 にはハイビジョン 関 係 者 として 筆 者 も 参 加 、コンテンツ 制 作 担 当 者 、2K システム・ 機 器 開 発 者 、 映 画 業 界 関 係 者 らと 情 報 交 流11藤 井 哲 郎 「デジタルシネマ 標 準 化 とその 際 新 動 向 」 情 報 処 理 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.1157-1163、200412小 野 定 康 「デジタルシネマの 規 格 化 の 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.59、No.2、pp.24-27、200513杉 沼 浩 志 「SMPTE テクニカル・コンファレンスに 見 るデジタルシネマの 現 状 」、映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp.47-52、200514為 ヶ 谷 秀 一 「NAB レポート・デジタルシネマサミット」FDI 誌 、Vol.105、No.6、pp.16-17、200815杉 沼 前 掲 書 12、pp.49 頁16東 京 現 像 所 における 制 作 システム( 同 社 資 料 )17大 里 英 夫 他 「ランクシンテルハイビジョン 対 応 型 フライングスポットテレシネ」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1988/118永 井 弘 史 「シンテル 社 、 新 世 代 テレシネ/スキャナ"C-Reality"」 放 送 技 術 誌 、No.11、pp.81-94、199919川 角 徹 也 「HD テレシネシステムの 全 貌 "Spirit Data Cine"」 放 送 技 術 誌 、No.11、pp.59-73、199920東 京 現 像 所 :http://www.tokyolab.co.jp/digitalwork/scaning.html21三 上 泰 彦 「1080/24p 制 作 システムとマルチレゾリューション・テレシネ」、放 送 技 術 誌 、No.11、pp.74-80、199922NAC 社 :http://filmdigital.nacinc.jp/common/pdf/arrilaser_catalog_JP.pdf23 ( 社 ) 日 本 映 画 機 械 工 業 会 「 新 映 像 トータルシステムに 関 する 調 査 研 究 」 報 告 書 、1987/3、pp.50-6324石 田 「NAB SHOW 2010 に 見 た 映 像 技 術 動 向 」 放 送 技 術 誌 、No.7、pp.71-73、201025川 嶋 尚 士 「ハイエンド・フィルムスタイル・デジタルカメラ"アリフレックス D-21"」映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.28-32、200826石 田 「NAB SHOW 2010 に 見 た 映 像 技 術 動 向 」 放 送 技 術 誌 、No.7、pp.75-78、201027石 田 「テープレス 化 の 技 術 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.63、No.1、pp.28-33、200928NHK 技 研 「 研 究 年 報 2009」pp.30、2010/529石 田 前 掲 書 27、pp.3230石 田 「Inter BEE 2006 レポート」 放 送 技 術 誌 、No.1、pp.98-105、200731「NHK 技 研 公 開 2010」 放 送 技 術 誌 、No.8、pp.102-103、201032 デジタルシネマ 研 究 会 編 前 掲 書 、pp.114-11533 「 東 京 デジタルシネマ・シンポジウム 2004 配 信 実 験 報 告 」Digital CinemaConsortium of Japan Newsletter 第 5 号 、2004/12201


34石 田 前 掲 書 26、pp.78-7935石 田 前 掲 書 27、pp.3236 デジタルシネマ 研 究 会 編 「デジタルシネマ」 米 田 出 版 、2005/3、pp.123-12937前 掲 書 36、pp.129-13338為 ヶ 谷 秀 一 「2010NAB Show レポート」 放 送 技 術 誌 、No.7、pp.60-66、201039八 木 信 忠 他 「 座 談 会 デジタルシネマの 今 後 の 行 方 」 映 画 テレビ 技 術 、No.3、pp.17-23、201040映 像 情 報 メディア 学 会 60 周 年 記 念 特 集 「 映 像 情 報 メディアの 未 来 ビジョン」映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.64、No.1、pp.2-56、201041前 掲 書 40、 原 島 博 「 未 来 を 創 る 映 像 情 報 メディアへ」、pp.2-442前 掲 書 40、 榎 並 和 雅 他 「メディアと 技 術 」、pp.5-1243榎 並 「 高 臨 場 感 映 像 ・ 音 響 システム」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.61、Vol.5、pp.2-6、200744前 掲 書 40、 為 ヶ 谷 秀 一 「メディアとアート」、pp.19-2045大 口 孝 之 「1930 年 代 とパッシブステレオの 誕 生 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp.53-61、2008、46大 口 孝 之 「 第 1 次 立 体 映 画 ブーム」 映 画 テレビ 技 術 、No.4、pp.32-38、201047大 口 孝 之 「 立 体 テレビの 歴 史 」 映 画 テレビ 技 術 、No.4、pp.21-31、200848稲 田 修 一 他 「 三 次 元 映 像 」 昭 晃 堂 、pp.3-6、1991プルフリッヒ 効 果 :ドイツの 物 理 学 者 カール・プルフリッヒが 発 見 した 現 象 、眼 に 写 った 像 の 脳 への 伝 達 速 度 が 像 の 明 るさにより 異 なる( 輝 度 が 低 いと 遅 い)ため 濃 淡 の 違 う 眼 鏡 を 通 して 平 面 運 動 する 物 体 を 見 ると、 左 右 の 両 眼 視 差 により立 体 感 が 生 じる49石 田 「NHK-MT における 3D 制 作 」ビデオα 誌 、No.7、pp.21-26、200950為 ヶ 谷 前 掲 書 38、pp.64-6651石 田 前 掲 書 24、pp.67-8052 NHK-MT と NICT は 共 同 で、 道 後 温 泉 から 幕 張 メッセまでギガネット 回 線 経 由 で 3Dハイビジョンの IP 生 伝 送 実 験 を 行 った53稲 田 前 掲 書 「 三 次 元 映 像 」 昭 晃 堂54 ドルビー3D: 特 殊 なカラーフィルター 眼 鏡 使 用 、NAB2010 に 出 展 され 注 目http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0709/27/news044.html55石 田 「シーテック 2010 に 見 る 映 像 技 術 動 向 」 放 送 技 術 誌 、No.12、pp.115-121、201056岡 野 文 男 「インテグラル 立 体 テレビ」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.61、No.5、pp.44-45、200757「NHK 技 研 公 開 2010」 放 送 技 術 誌 、No.8、pp.92-93、201058国 重 静 司 「 立 体 だからできるハイビジョン 3D デジタル 映 像 コンテンツ 制 作 について」第 53 回 移 動 体 通 信 研 究 会 、pp.109-135、2010/859野 尻 祐 司 他 「スーパーハイビジョンの 最 新 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.61、No.5、pp.20-35、200760 NAB では Ultra-HDTV の 呼 称 が 使 われ、IBC では Super Hi-Vision が 使 われている61安 藤 孝 他 「 地 球 博 スーパーハイビジョンシアター」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.59、No.4、pp.16-19、200562 「NHK 技 研 公 開 2010」 放 送 技 術 誌 、No.8、pp.90-91、201063総 務 省 「ホワイトスペース」http://www.soumu.go.jp/main_content/000077016.pdf202


第 8 章 本 研 究 のまとめとむすび8.1 はじめに本 章 は 本 論 文 のまとめとして、 本 研 究 で 何 を 研 究 し、 何 を 明 らかにし、 何 が 得られたのかについて、またそれらの 成 果 として、 当 時 の 映 像 メディアに、さらにはその 後 の 映 像 メディアの 展 開 にどのような 影 響 を 与 え、どう 活 かされていったのかについて 述 べている。19 世 紀 末 に 誕 生 した 映 画 、20 世 紀 半 ばに 放 送 を 始 めたテレビ、 両 者 は 同 じ 動 画像 を 扱 うとは 言 え、 一 方 はフィルムを 媒 体 とする 化 学 メディア、 他 方 は 電 気 信 号を 媒 体 とする 電 子 メディアで、 両 者 の 情 報 量 は 異 なり 視 聴 形 態 も 違 い、 素 性 も 特性 も 異 なるふたつの 映 像 メディアである。そのため 標 準 テレビ 時 代 、 両 者 を 双 方的 に 交 流 することはほとんど 行 われず、 別 々の 映 像 メディアとして 成 長 してきた。しかし 1980 年 代 初 頭 、 次 世 代 テレビを 目 指 し 開 発 されたハイビジョンが 登 場 すると 映 像 メディアの 様 相 は 大 きく 変 わり 始 めた。ハイビジョンは 情 報 量 が 35mm 映画 と 同 程 度 で、ワイド・ 大 画 面 向 き 映 像 メディアと 言 う 特 徴 を 持 ち、 映 画 との 双方 向 交 流 が 行 われるようになっていった。 本 研 究 では、この 状 況 のメディアの 態様 を「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」と 捉 え、 両 メディアが 双 方 向 交流 を 重 ねる 中 でどのような 問 題 に 遭 遇 し、それらをどのように 克 服 し、どのような 成 果 を 生 み 出 してきたのかについて、 主 に 80 年 代 から 90 年 代 半 ば 頃 まで、コンテンツ 制 作 およびコンテンツ 配 信 の 分 野 において 行 われた 多 くの 実 践 をもとに具 体 的 に 論 じている。そして、これらのメディアミックスで 得 られた 問 題 や 成 果 は、90 年 代 半 ば 以 降に 急 速 に 進 展 したデジタル 化 と 共 にさらに 成 長 を 遂 げ、2000 年 代 に 登 場 したデジタルシネマにも 継 承 されていくのである。さらに 技 術 の 進 歩 、 成 長 はとどまることを 知 らず、 今 後 も 新 たな 展 開 をしていく 未 来 の 映 像 メディアにもついて 影 響 を与 えていく。本 研 究 は、「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 通 して、 標 準 テレビ時 代 から、メディアミックス 時 代 、そしてデジタルシネマ 時 代 から 近 未 来 のメディアまで、 半 世 紀 を 越 える 一 連 の「 映 像 メディアの 展 開 」を 詳 細 に 検 証 しまとめたものである。このような 長 期 にわたる 映 像 メディアの 成 長 、 進 展 について、 多くの 実 践 を 元 に 具 体 的 に 考 察 し、 論 じた 研 究 は 他 に 例 を 見 ないもので、 長 年 にわたり 継 続 して 映 像 メディアの 成 長 に 関 わってきた 筆 者 自 身 の 研 究 業 績 、 経 験 、 知見 をベースにしている。203


8.2 本 研 究 論 文 のまとめ本 節 では、 各 章 ごとに 何 を 研 究 し、 何 を 論 じ、 考 察 しているか、 何 を 明 らかにし、 何 を 得 たのかについて 概 略 を 述 べる。第 1 章 では、まず 本 研 究 の 主 題 である「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」の 学 術 的 意 味 、 社 会 的 背 景 および 本 研 究 の 目 的 について 明 らかにしている。標 題 の 中 にある「メディア」の 概 念 としては、1960 年 代 のマクルーハンらの「 個 々のメディアが 特 性 によって 区 別 される」ことを 重 視 する 立 場 と、1980 年 代 以 降 の「メディアの 区 別 が 薄 れ 全 体 として 交 じり 合 っている」ことを 重 視 する 立 場 がある。 本 論文 では、この 二 つの 間 の 移 行 形 態 として、 個 々のメディアがそれぞれの 特 性 を 保 ちながら 歩 み 寄 り、 相 互 変 換 や 相 互 交 流 をおこなう 状 態 を「メディアミックス」の 概 念 でとらえ、その 具 体 的 な 事 例 として「ハイビジョンと 映 画 の 双 方 向 的 交 流 」を 研 究 の 柱にたて、 映 画 とハイビジョンと 言 うメディア 間 の 垣 根 が 低 くなりやがて 融 合 していく過 程 における 技 術 史 的 意 味 を 明 らかにしている。また 本 論 文 における 考 察 や 論 述 のベースになっている 筆 者 の 研 究 業 績 、それを 通 して 培 った 経 験 と 知 見 についても 述 べている。そして 本 論 文 の 構 成 として、 各 章 の 概 略 について 順 次 述 べている。第 2 章 では、 標 準 テレビ 時 代 におけるテレビと 映 画 の 関 係 について 述 べている。わが 国 でテレビ 放 送 が 始 まったのは 1950 年 代 半 ばのことだが、 映 画 と 当 時 のテレビは 情 報 量 が 違 いすぎるため、 映 画 をテレビに 利 用 をすることはあってもその 逆 はほとんどなかったが、 第 3 章 以 下 の「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックス」を 論ずる 前 提 として、 標 準 テレビ 時 代 の 映 画 とテレビの 役 割 分 担 、フィルム 送 像 装 置 とフィルム 録 画 装 置 、さらにビデオシアターの 状 況 について 述 べている。第 3 章 では、 本 論 文 の 主 題 であるハイビジョンと 映 画 のメディアミックスを 進めるために 必 要 だったハードウエア 面 に 関 し、 各 種 機 器 開 発 の 経 緯 、 課 題 について 詳 細 に 具 体 的 に 論 じている。ハード 面 について 論 議 をする 前 に、 本 研 究 におけるメディアミックスの 意 味 について 整 理 してある。すなわち 1980 年 代 半 ば 筆 者 らが 考 えたコンセプトは、ハイビジョン 技 術 を 単 に 映 画 制 作 に 利 用 するということではなく、 両 メディアが F⇔V 変換 を 通 し 双 方 向 的 に 交 流 しメディアミックスされると 言 うことで、さらにメディアミックスの 範 囲 として、コンテンツの 制 作 面 だけでなく、コンテンツを 配 信 ・上 映 する 側 面 まで 多 岐 にわたるメディアの 展 開 を 明 らかにした。その 論 議 のために、まずメディアミックスの 対 象 である「 映 画 」と「ハイビジョン」の 両 メディアについて、それぞれがどのように 成 長 してきたのか、 映 像 メディアとしてどのような 特 徴 を 持 っているのかについて 論 じている。 特 にメディ204


アミックスの 核 となるハイビジョンが、どのように 開 発 され、どのように 成 長 し、放 送 実 現 に 至 ったのかについて、 時 系 列 的 に 述 べている。その 過 程 の 中 で、 次 世 代テレビを 目 指 し 開 発 されたハイビジョンは、35mm 映 画 に 匹 敵 する 情 報 量 を 持 ち、 高 精細 度 でワイド・ 大 画 面 向 きという 映 像 メディアとしての 特 徴 を 持 っていため、 放 送 だけでなく 様 々な 産 業 分 野 への 応 用 が 試 行 された。その 中 で、とりわけ 活 発 に 行 われたのが 映 画 への 応 用 だったが、それを 促 進 するため NVS 研 究 会 や HVC など、 活 発 に 行 われた 各 種 研 究 活 動 について 具 体 的 に 述 べてある。それらの 論 議 を 踏 まえた 上 で、 両 メディアをメディアミックスするために 開 発 された 多 種 多 彩 な 機 器 やシステムの 開 発 経 緯 や 技 術 動 向 について 具 体 的 に 述 べている。その 中 で、 両 者 のメディアミックスにとって 最 も 基 本 的 なツールであるフィルム 変 換 系について、 特 に、 特 性 の 異 なるフィルム 画 像 とハイビジョン 信 号 をできるだけ 高 画 質で 変 換 する 装 置 として 開 発 した、 従 来 とはまったく 違 う 原 理 、 方 式 によるハイビジョン 用 レーザーテレシネとレーザー 録 画 機 について 詳 述 している。これらの F⇔V 機 器については、 当 時 行 われたメディアミックスの 実 践 において 大 きな 威 力 を 発 揮 しただけでなく、 後 述 のデジタルシネマ 時 代 の 変 換 システムに 基 本 的 技 術 や 課 題 が 継 承 されたこともあり、 開 発 の 経 緯 、 特 徴 、ハード 上 の 問 題 点 、 得 られた 成 果 などについて 詳細 に 述 べている。また 第 5 章 のコンテンツ 制 作 で 活 用 した、フィルムとハイビジョンで 異 なる 特 性 や画 質 をできるだけ 統 一 させるためのカラーコレクターやノイズリデューサ、エンハンサーなど 映 像 調 整 装 置 、さらに 両 者 をメディアミックスすることで 相 乗 効 果 を 発 揮 するのに 有 効 だったビデオマット、DVE、アルチマットなど 映 像 加 工 ・ 処 理 ・ 合 成 系 についても 具 体 的 に 述 べている。さらに 第 6 章 で 論 じたハイビジョンシアターや 映 像 多 目的 ホールなどでコンテンツ 上 映 、 配 信 用 に 使 われた 各 種 大 画 面 用 ディスプレイや 配 信系 の 技 術 動 向 、 状 況 についても 論 じている。これらの 機 器 、システムは、 第 5 章 や 第6 章 で 述 べるコンテンツ 制 作 や 配 信 ・ 上 映 の 場 で、 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ 現 場 のアイディアが 投 入 され 開 発 されたものも 多 く、それらは 第 7 章 で 述 べるその 後 のデジタル 時代 の 映 像 システムに 継 承 されていくことになる。第 4 章 では、 元 々 素 性 、 特 性 が 異 なるハイビジョンと 映 画 をメディアミックスする上 で 派 生 する 様 々な 技 術 的 問 題 点 や 要 件 について 考 察 し 論 じている。 映 画 とハイビジョンは、 画 像 を 形 成 する 仕 組 みが 違 っており、 毎 秒 コマ 数 やアスペクト 比 といった 基本 的 フォーマットは 異 なっている。 中 でも 大 きな 問 題 だった 毎 秒 コマ 数 については、NHK、SMPTE、 映 画 テレビ 技 術 協 会 などで 詳 細 な 研 究 調 査 が 行 われたが、それらの 研 究成 果 について 検 証 している。その 上 で 前 述 の F⇔V 変 換 時 のコマ 数 変 換 に 伴 い 発 生 す205


る 動 きの 不 自 然 さを 軽 減 するための 技 術 開 発 や 変 換 技 法 について 詳 述 してある。フィルムとハイビジョンで 異 なる 鮮 鋭 度 やダイナミックレンジ、 色 再 現 性 といった 画 質 、 画 調 については、 技 術 的 な 問 題 点 を 分 析 し、 実 際 の 番 組 制 作 を 通 じて 編 み 出した 様 々ノウハウや 解 決 策 などについても 明 らかにした。 当 時 、 提 起 された 問 題 や 開発 された 技 術 は、 後 のデジタル 時 代 にさらに 改 善 改 良 が 進 み、 今 日 のデジタルシネマに 継 承 されているものも 多 い。第 5 章 では、 第 4 章 までに 論 じたメディアミックスのために 開 発 されたハードウエアおよびノウハウの 蓄 積 をベースに、1980 年 代 から 1990 年 代 半 ば 頃 まで 行 われたコンテンツ 制 作 面 について 述 べている。コンテンツの 制 作 過 程 を 通 し、どのような 問 題に 遭 遇 しそれらをどのように 克 服 し、 新 たな 制 作 技 法 を 編 み 出 し、どのような 斬 新 的映 像 表 現 を 創 り 出 してきたのかについて、10 数 本 の 作 品 を 選 び 具 体 的 に 論 じている。本 章 で 実 践 例 として 取 り 上 げた 作 品 としては、ハイビジョン 研 究 草 創 期 にシステム 研究 用 、 映 像 評 価 用 素 材 として 制 作 した 作 品 、 徐 々に 機 器 の 性 能 、 機 能 が 向 上 しノウハウを 重 ねつつ 表 現 力 を 高 めていった 作 品 、ハイビジョン 技 術 を 巧 みに 使 いこなし 海 外放 送 機 関 などが 制 作 し 評 判 になった 作 品 、 電 子 メディアとしての 特 徴 を 発 揮 し 映 像 合成 により 従 来 にない 映 像 効 果 を 実 現 した 作 品 、さらにデジタル 技 術 、コンピュータ 技術 を 活 用 し 斬 新 な 映 像 表 現 を 実 現 した 作 品 など、 多 種 多 様 である。これらのコンテンツの 制 作 をする 過 程 を 通 じ、ハイビジョン 機 器 の 改 善 改 良 が 大 いに 進 み、 新 たな 制 作 技 法 やノウハウも 開 発 され、ワークフローにも 影 響 を 与 え 従 来 とは 違 う 映 像 表 現 が 可 能 になってきたが、それらに 使 われたハードウエアや 制 作 技 法 、そして 得 られた 成 果 などについて 検 証 し 述 べている。それらの 中 でとりわけ 重 要 だったポイントは、 電 子 メディアとしてのハイビジョンの 特 徴 を 発 揮 した 映 像 合 成 、 加 工 処 理 技 術 である。 本 章 では、それらの 威 力 を 存 分 に活 かした 実 践 例 として 数 本 を 選 び、 作 品 ごとに 制 作 技 法 、 遭 遇 した 問 題 と 解 決 法 、 得られた 映 像 表 現 、ワークフローなどについて 詳 細 に 具 体 的 に 検 証 し、メディアミックスする 上 での 問 題 点 と 得 られた 成 果 を 述 べている。 高 画 質 で 電 子 メディアである 故 にリアルタイムに 高 精 度 に 高 画 質 で 行 うことができる 映 像 合 成 ・ 加 工 処 理 法 は、 従 来 の映 画 におけるオプティカル 法 ではなしえないことで、 各 作 品 の 実 践 例 にもとづき 制 作技 法 の 問 題 と 成 果 を 明 らかにした。このように、 多 くの 制 作 実 践 の 過 程 を 通 じ 試 行 錯 誤 を 重 ねつつ 課 題 を 克 服 し、制 作 された 作 品 の 多 くは 国 内 外 の 映 画 祭 などで 高 く 評 価 され、 実 際 の 興 行 面 においても 好 評 を 博 し、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 促 進 にとっても 大きな 成 果 を 上 げた。そしてこれらの 実 践 過 程 を 通 じて 得 られた 問 題 提 起 や 技 術 的206


成 果 ・ノウハウは、その 後 さらに 成 長 を 遂 げ、 第 7 章 にて 述 べたデジタルシネマに 象 徴 される 新 たな 映 像 メディアの 展 開 につながって 行 くことになった。第 6 章 では、 第 5 章 で 述 べたメディアミックスにより 制 作 されたコンテンツを 電 子的 方 法 、チャンネルにより 配 給 、 配 信 する 側 面 について、 当 時 行 われた 数 々の 実 践 例を 詳 細 に 検 証 し、 問 題 点 と 得 られた 成 果 を 明 らかにした。まず、ハイビジョンシアターや 大 型 映 像 ホールの 推 進 に 向 け、NVS 研 究 会 などでの研 究 調 査 活 動 、ハイビジョンビッグバンなどなどでのイベントや 試 行 実 験 などを 通 じ、明 らかになった 問 題 点 や 成 果 を 明 確 にした。そしてそれらの 結 果 、 当 時 全 国 各 地 に 構築 された 多 くのハイビジョンシアターや 映 像 多 目 的 ホール、ハイビジョンギャラリーなどの 技 術 動 向 や 課 題 、 運 用 状 況 について 検 証 している。これらの 映 像 関 連 施 設 に 対する 関 心 は 国 内 だけにとどまらず、 海 外 においても 評 判 になり、 具 体 例 としてカナダや NAB でのハイビジョンギャラリーに 関 するプレゼンテーションの 状 況 や 国 外 における 推 進 の 課 題 についても 述 べている。次 にメディアミックスにより 制 作 された 映 画 やハイビジョン 作 品 を、 電 子 メディアの 特 徴 を 活 かし、どのように 配 給 、 配 信 し、 上 映 するのかについて 具 体 的 に論 じている。ハイビジョンによるコンテンツ 配 信 の 実 践 例 として、 日 豪 国 際 伝 送実 験 やソゥルオリンピック 衛 星 生 中 継 、また 国 内 あるいは 日 米 間 で 行 われたハイビジョンによる 映 画 作 品 の 衛 星 配 信 実 験 などを 取 り 上 げ、それぞれの 技 術 的 問 題点 や 成 果 、それらに 対 する 評 価 などを 明 らかにした。 当 時 、 高 精 細 の 映 像 信 号 を限 られた 衛 星 ・ 光 チャンネルで 配 信 、 伝 送 するために 圧 縮 符 号 化 技 術 に 使 われたのは、BS ハイビジョン 放 送 用 に 開 発 されたミューズ 方 式 だが、これは 国 際 的 標 準化 されておらず 様 々な 技 術 的 制 約 もあったが、 当 時 、 他 に 選 択 肢 がない 中 で 上 げた 成 果 は 大 きく、その 後 のメディア 展 開 に 与 えた 影 響 についても 明 らかにした。その 上 で、あらためて 国 内 外 におけるハイビジョンシアターのフィージビリティについての 分 析 、 評 価 を 行 なった。上 述 の 具 体 的 実 践 例 では 当 時 の 最 先 端 技 術 が 盛 り 込 まれ、 映 画 とハイビジョン関 係 業 界 が、メディアミックス 推 進 のため 協 力 して 行 われたもので、それらは 当時 の 映 像 メディア 業 界 に 大 きな 刺 激 を 与 え、 全 国 各 地 に 多 くの 映 像 関 連 施 設 も 構築 され、その 後 、 今 日 に 至 る 映 像 メディアの 展 開 にも 大 きな 影 響 を 与 えることになった 経 緯 、 状 況 についても 述 べている。第 7 章 では、 上 述 したようなハイビジョンと 映 画 のメディアミックスの 実 践 を通 じて 明 らかにした 問 題 点 や 得 られた 成 果 が、1990 年 代 半 ば 頃 から 急 速 に 進 んだデジタル 化 時 代 のメディア 展 開 にどのような 影 響 を 与 え、どのように 成 長 を 遂 げ207


てきたのか、さらに 2000 年 代 半 ば 頃 から 急 速 に 展 開 を 始 めた「デジタルシネマ」にどう 継 承 されているのかについて 明 らかにした。基 本 的 な 点 として、 前 章 までに 論 じたハイビジョンと 映 画 のメディアミックスのコンセプトは、 現 在 進 展 中 のデジタルシネマの 考 えと 基 本 的 に 共 通 していることを 明 らかにした。 具 体 的 な 点 では、メディアミックス 時 代 に 開 発 した 各 種 ハードウエアや 様 々なノウハウが、90 年 代 半 ばから 今 日 までデジタル 技 術 によりどのように 成 長 してきたか、 現 在 の 技 術 動 向 に 与 えた 影 響 について、 機 器 、システムごとに 明 らかにした。 中 でも、メディアミックス 時 代 のハードウエアで 重 要 なツールであった F⇔V 変 換 系 については、レーザースキャンなど 当 時 の 基 本 技 術 がデジタル 時 代 の 機 器 に 継 承 され、その 上 で 当 時 抱 えていた 多 くの 課 題 がデジタル 技術 の 投 入 により 概 ね 解 決 されていることを 明 らかにした。また、その 他 の 制 作 用機 器 、 合 成 用 システムについても、メディアミックス 時 代 に 遭 遇 した 多 くの 課 題がデジタル 技 術 により 改 善 改 良 がなされ、 大 きく 成 長 している 状 況 を 明 らかにした。さらにコンテンツ 配 信 に 使 う 伝 送 用 符 号 化 技 術 、コンテンツ 上 映 に 使 う 大 画面 用 ディスプレイについても、デジタル 技 術 の 投 入 により 大 きく 進 歩 している 技術 動 向 、 利 用 状 況 を 明 らかにした。これらの 技 術 的 成 長 をベースに、2000 年 代 に 登 場 し 今 や 定 着 しつつある「デジタルシネマ」については、その 誕 生 からその 後 の 成 長 の 経 緯 、 標 準 化 に 向 けた 映画 界 の 動 き、 映 像 メディアとしての 特 性 や 特 徴 、さらに DI(デジタルインターミディエイト)プロセスも 含 めた 現 在 の 制 作 システムやコンテンツ 配 信 システムについて、 最 新 情 報 も 含 め 最 近 の 映 像 メディアの 進 展 状 況 を 明 らかにした。 映 像 メディアの 技 術 的 進 歩 はこれからもとどまることはなく、 映 像 メディアに 対 する 社会 的 ニーズはますます 多 様 化 、 高 度 化 しており、それに 応 えるように 新 たな 映 像メディアの 展 開 が 始 まっている。メディアミックス 時 代 の 成 果 がデジタル 化 により 一 層 成 長 し、これからのメディア 展 開 に 影 響 していくことは 明 白 で、これからのメディアの 進 展 についても、 本 章 までの 論 述 をベースに 考 察 し 展 望 を 行 っている。第 8 章 では、 本 研 究 を 通 して 何 を 研 究 し、 何 を 明 らかにし、どのような 成 果 が得 られたのかについて 総 括 的 なまとめを 行 っている。その 第 1 は、ハイビジョンと 映 画 の 双 方 向 交 流 のためのハードウエアを 開 発 し 変 換 に 伴 う 問 題 と 解 決 法 を 明らかにしたことである。 第 2 のポイントは、それらのハードウエア、 変 換 のノウハウを 活 用 し、ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスによる 相 乗 効 果 を 発 揮 し、従 来 実 現 困 難 だった 映 像 表 現 を 生 み 出 しワークフローに 与 えた 影 響 を 明 らかにし208


たことである。 第 3 の 成 果 としては、コンテンツ 配 信 ・ 上 映 に 関 し、 従 来 のフィルム 物 流 より 多 くのメリットが 期 待 される 電 子 配 信 への 道 を 開 いたこと、そしてそれらの 波 及 効 果 として 全 国 各 地 に 多 くの 映 像 拠 点 となる 施 設 が 開 設 されその 後の 映 像 メディア 展 開 に 大 いに 貢 献 した 経 緯 、 状 況 を 明 らかにしたことである。そしてハイビジョンと 映 画 のメディアミックスを 通 して 開 発 した 各 種 技 術 や 技 法 、映 像 表 現 力 などの 成 果 が、その 後 の 今 日 に 至 るデジタル 時 代 の 映 像 メディアに 影響 し 継 承 されていることを 明 確 にしている。8.3 むすび本 研 究 は、ハイビジョンと 言 う 映 像 メディアを 中 核 に、 長 期 間 にわたる 映 像 メディアの 変 遷 、 展 開 について、その 間 に 行 われた 数 々の 実 践 例 を 通 し、 具 体 的 に検 証 し、 考 察 し、 論 じたものである。 本 論 文 で 論 述 する 上 でベースになっているのは 長 い 間 映 像 メディアに 関 りを 持 ってきた 筆 者 自 身 の 経 歴 にあり、その 間 に 果たした 研 究 実 績 、 経 験 とそれらを 通 して 蓄 積 した 知 見 に 拠 っている。筆 者 は NHK 技 研 にて 次 世 代 テレビとしてのハイビジョンの 研 究 開 発 に 従 事 し、主 にハイビジョンとフィルム 関 係 の 研 究 業 務 を 担 当 し、 放 送 技 術 局 ではハイビジョン 試 験 放 送 から 本 放 送 までの 推 進 を 担 当 し、 多 くのハイビジョン 番 組 制 作 にも関 った。また NHK-ES 時 代 にはハイビジョンの 産 業 応 用 とりわけ 映 画 応 用 やハイビジョンギャラリーの 推 進 、 構 築 などを 担 当 した。これらの 期 間 を 通 し、ソゥルオリンピック、ブリスベーン 博 、 中 国 での 国 際 シンポジウム、カナダ HDTV コロキアム、NAB での HDTV 公 開 など 多 くの 国 際 会 議 やイベントにも 参 加 してきた。また HVC や 映 画 テレビ 技 術 協 会 など 多 くの 各 種 研 究 調査 活 動 、ハイビジョン 伝 送 実 験 や 各 種 イベントにも 参 加 し 活 動 に 寄 与 してきた。NHK リタイア 後 もフリージャーナリストとして 映 像 メディアの 世 界 に 身 をおき、 最新 技 術 、メディア 動 向 について 調 査 、 研 究 を 続 けている。このような 経 歴 、 経 験 を 通 して 蓄 積 した 知 見 、 人 脈 は、 本 研 究 を 進 める 上 で 大いに 役 に 立 ち、 本 研 究 の 独 自 性 のベースになっている。また、 本 論 文 を 執 筆 する上 で 参 考 にした 多 くの 文 献 資 料 は 主 に 筆 者 自 身 が 長 年 にわたり 蓄 積 保 存 していたものが 多 いが、あらためて 関 係 各 所 、 関 係 各 位 に 取 材 、 入 手 した 資 料 ・ 情 報 もある。それらの 中 には、 時 間 の 経 過 により 散 逸 しかねないものも 見 られる。 本 研 究を 通 して、それらの 膨 大 な 文 献 、 資 料 、 情 報 を 整 理 し 記 録 に 残 したことは 学 術 的 、社 会 的 にも 意 義 あることで、 本 研 究 の 重 要 な 目 的 のひとつである。なお、 最 後 に 本 編 での 論 述 を 補 足 し 説 明 を 理 解 しやすくするため、 各 章 ごとの209


引 用 文 献 および 全 体 的 参 考 文 献 、 本 研 究 のベースになっている 筆 者 の 研 究 業 績 、さらに 付 録 編 として 各 章 に 関 連 する 参 考 写 真 類 、ハイビジョン 技 術 史 、コンテンツリストについてもまとめてある。210


謝 辞本 研 究 論 文 は 長 年 にわたり 映 像 メディアに 関 わってきた 筆 者 の 経 験 、 知 見 をベースにまとめ 上 げたもので、 本 研 究 を 進 め、 論 文 としてまとめるにあたり、 多 くの 方 々にご 指 導 、ご 鞭 撻 、ご 支 援 を 賜 った。ここに 深 く 謝 意 を 表 したい。本 研 究 の 指 導 教 官 として 直 接 ご 指 導 いただいた 電 気 通 信 大 学 教 授 兼 子 正 勝 氏 には 深 く 感 謝 する。 研 究 論 文 の 審 査 を 担 当 された 同 大 教 授 中 嶋 信 生 氏 、 准 教 授 高 橋裕 樹 氏 、 准 教 授 坂 本 真 樹 氏 に 謝 意 を 表 したい。また 社 会 人 大 学 院 生 として 本 研 究の 機 会 を 与 えていただき、 日 頃 ご 指 導 、ご 鞭 撻 を 賜 った 同 大 学 長 特 別 顧 問 三 木 哲也 氏 には 深 く 感 謝 する。NHK 技 研 時 代 に、ハイビジョン 研 究 開 発 でご 指 導 いただいた 林 宏 三 氏 ( 元 NHK 基礎 研 究 所 所 長 )、 藤 尾 孝 氏 ( 元 NHK 放 送 技 術 研 究 所 所 長 )、 故 杉 本 昌 穂 氏 ( 同 元所 長 )あらためて 謝 意 を 申 したい。また 共 に 研 究 開 発 を 行 った 種 田 悌 一 氏 ( 元 主任 研 究 員 )、 故 斉 藤 利 也 氏 ( 同 )、 元 木 紀 雄 氏 ( 同 )、 故 杉 浦 幸 雄 氏 ( 同 )、 林建 一 氏 ( 元 研 究 員 )、 野 尻 祐 司 氏 ( 現 研 究 主 幹 )、 平 林 洋 志 氏 ( 現 技 術 局 専 任 部長 )、 岡 田 清 孝 氏 ( 元 主 任 研 究 員 )に 深 く 感 謝 する。NHK 放 送 技 術 局 時 代 に、ハイビジョン 放 送 推 進 や 番 組 制 作 などでご 指 導 いただいた 故 沼 野 芳 脩 氏 ( 元 主 幹 )、為 ヶ 谷 秀 一 氏 ( 女 子 美 術 大 学 大 学 院 教 授 )、 隈 部 紀 生 氏 ( 元 ハイビジョン 推 進 協会 理 事 長 )に 深 く 感 謝 する。また 制 作 現 場 にて 番 組 制 作 等 でお 世 話 になった 小 助川 静 男 氏 ( 元 放 送 技 術 局 )、 安 藤 孝 氏 ( 現 NHK アイテック)、 桝 井 修 平 氏 ( 現 NHKアイテック)、 上 松 広 美 氏 ( 元 放 送 技 術 局 )の 各 位 に 感 謝 する。NHK-ES 出 向 、 転 籍 時 代 に、ハイビジョンの 産 業 応 用 面 でご 指 導 いただいた 故 中村 有 光 氏 ( 元 NHK 技 師 長 、 元 NHK-ES 理 事 長 )、 本 間 秀 夫 氏 ( 元 技 研 所 長 、 元 NHK-ES理 事 長 )、 和 久 井 幸 太 郎 氏 ( 元 技 術 主 幹 )、 望 月 亮 氏 ( 元 技 術 主 幹 )に 感 謝 したい。また 共 に 産 業 応 用 業 務 に 関 わった 捧 亮 平 氏 ( 元 NHK-ES 部 長 )、 岩 鼻 幸 雄 氏 ( 現NHK-ES 放 送 技 術 部 長 )に 謝 意 を 表 したい。映 画 応 用 関 係 の 研 究 、 活 動 をする 上 で、 長 年 にわたりご 指 導 いただいた 八 木 信忠 氏 ( 元 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 理 事 長 、 日 本 大 学 名 誉 教 授 )に 深 く 謝 意 を 表 したい。ハイビジョン 機 器 の 開 発 、 番 組 制 作 、 各 種 調 査 会 活 動 でお 世 話 になった 上貞 良 三 氏 ( 元 ナック 技 師 長 )、 秋 山 雅 和 氏 ( 日 本 大 学 客 員 教 授 )、 田 中 博 氏 ( 元ソニーPCL 技 師 長 )、また 最 新 の 技 術 動 向 、 情 報 収 集 にご 支 援 いただいた 藤 井 義 光氏 ( 現 ヨコシネ DIA 取 締 役 )、 木 下 良 仁 氏 ( 現 東 京 現 像 所 取 締 役 )、 遠 藤 和 彦 氏( 現 ナック)、 石 井 亜 土 氏 ( 現 イマジカ) 他 多 くの 方 々に 深 く 感 謝 したい。211


参 考 文 献1. 単 行 本・ 有 田 勝 美 「デジタル SFX の 世 界 」 日 経 BP 出 版 センター、1995・ 石 田 武 久 「 映 像 アラカルト 今 昔 」 兼 六 館 出 版 、2006・ 稲 田 修 一 他 「 三 次 元 映 像 」 昭 晃 堂 、1991・NHK「ハイビジョンのすべて」NHK 出 版 協 会 、1996・NHK「NHK は 何 を 伝 えてきたか」NHK 出 版 協 会 、2003・NHK 放 送 技 術 研 究 所 「 研 究 史 '80~89」、1990・NHK 放 送 技 術 研 究 所 「 研 究 史 '90~99」、2000・NHK 放 送 技 術 研 究 所 「 研 究 年 報 2005~2009」・NHK 放 送 技 術 研 究 所 「ハイビジョン」NHK 出 版 協 会 、1986・NHK 放 送 技 術 研 究 所 編 「ハイビジョン 技 術 」NHK 出 版 協 会 、1988・NHK 放 送 技 術 研 究 所 編 「デジタルテレビ 技 術 」NHK 出 版 協 会 、1990・NHK 放 送 文 化 研 究 所 「 放 送 の 20 世 紀 」NHK 出 版 協 会 、2002・NHK 放 送 文 化 研 究 所 「テレビ 視 聴 の 50 年 」NHK 出 版 協 会 、2003・ 音 好 弘 「 放 送 メディアの 現 代 的 展 開 」ニューメディア、2007・ 木 原 信 敏 「ビデオテープレコーダ」 日 刊 工 業 新 聞 社 、1968・ 斉 藤 嘉 博 「メディアの 技 術 史 」 東 京 電 機 大 学 出 版 局 、1999・ 志 賀 信 夫 、 沼 野 芳 脩 編 著 「ハイビジョンソフト 入 門 」NHK 出 版 協 会 、1988・ 志 賀 信 夫 「 多 メディア 時 代 を 考 える」 電 波 新 聞 社 、1991・ 志 賀 信 生 ・ 隈 部 紀 生 「デジタル HDTV の 時 代 」NHK 出 版 協 会 、1998・ジョン、ブロスナン 著 、 福 住 治 夫 訳 「SFX 映 画 物 語 」フィルムアート 社 、1990・ 須 乃 部 淑 男 「 放 送 とニューメディア」NHK 出 版 協 会 、1984・ 高 木 卓 四 郎 他 「フィルム 技 術 」NHK 出 版 協 会 、1983・デジタルシネマ 研 究 会 編 「デジタルシネマ」 米 田 出 版 、2005・ 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 「 日 本 映 画 技 術 史 」1997・ 日 本 経 済 新 聞 社 編 「 高 品 位 テレビ・ビジネス」1990・ 日 研 産 業 新 聞 編 「マルチメディア 革 命 」 日 本 経 済 新 聞 社 、1993・ハイビジョンの 推 進 に 関 する 懇 談 会 編 「ハイビジョン」 第 1 法 規 、1986・ 羽 物 俊 秀 他 「VTR 技 術 」NHK 出 版 協 会 、1981・ 樋 渡 涓 二 「 視 覚 とテレビジョン」NHK 出 版 協 会 、1967・ 本 間 祐 次 「IPTV 通 信 ・ 放 送 融 合 サービスの 大 本 命 」ニューメディア、2007・マーシャル・マクルーハン「メディア 論 」、みずず 書 房 、1987・マルチメディア 通 信 研 究 会 編 「ハイビジョン 新 時 代 HDTV 最 前 線 」朝 日 新 聞 社 、1993・マルチメディア 時 代 における 放 送 の 在 り 方 に 関 する 懇 談 会 編 「 放 送 革 命 」日 刊 工 業 新 聞 社 、1995・ 和 久 井 幸 太 郎 「エレクトロニクスがメディアを 変 える」NHK ブックス、19862. 論 文・Takehisa Ishida et al."A 70mm Film Laser Telecine for High-DefinitionTelevision" SMPTE Journal,Vol.92,No.6,pp.629-635,1983・Yukio Sugiura,et al."HDTV Lase Beam Recording on 35mm Color Film andits Application to Electro-Cinemtography" SMPTE JournalVol.93, No.7, pp.42-651,1984・ 石 田 武 久 「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 歴 史 的 考 察 」映 像 学 、 日 本 映 像 学 会 、82 号 、pp.82-100、2009212


3. 国 際 会 議 、シンポジウム・Takehisa Ishida "Applicaton of HDTV Technology in film production"BEIJING International SYMPOSIUM、1989/10・Takehisa Ishida "Present Status of HDTV Application for Movies in Japan"HDTV COLLOQUIM 90 CANADA、1990/6・ 石 田 武 久 『 多 彩 な 映 像 メディアにおける 映 像 表 現 の 最 前 線 』国 際 放 送 機 器 展 、30 周 年 記 念 特 別 イベント「 国 際 シンポジウム」、1994/114. 学 会 報 告・ 安 藤 孝 他 「 地 球 博 スーパーハイビジョンシアター」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.59、N0.4、pp.16-19、2005・ 石 田 武 久 他 「70mm 映 画 フィルムによる 高 品 位 テレビ 動 画 像 の 評 価 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1975/9・ 石 田 武 久 「70mm 映 画 と 高 品 位 テレビ」 画 像 工 学 コンファレンス、1975/11・ 石 田 武 久 他 「 連 続 式 レーザーテレシネ」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1978/7・ 石 田 武 久 「 最 近 のテレシネ 技 術 の 動 向 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1983/3・ 石 田 武 久 「 高 品 位 テレビの 現 況 とその 応 用 」 医 用 画 像 情 報 学 会 、1984/9・ 石 田 武 久 「ハイビジョン 利 用 による 映 画 『 西 遊 記 』の 制 作 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1989/1・ 石 田 武 久 「 映 画 への 応 用 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.97-102、1991・ 石 田 武 久 「テープレス 化 の 技 術 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.63、No.1、pp.28-33、2009・ 牛 窪 正 「 映 画 フィルムはなぜ 24 コマなの」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.56、No.4、pp.46-47、2002・ 上 松 廣 美 「『 西 遊 記 』の 制 作 に 当 たって」 電 気 通 信 誌 、No.10、pp.36-41、1988・ 榎 並 和 雅 「 高 臨 場 感 映 像 ・ 音 響 システム」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.61、Vol.5、pp.2-6、2007・ 大 場 吉 延 他 「ハイビジョンカメラと VTR」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.50,N0.2,pp.2-48、1996・ 岡 田 祐 介 「シネマ・コンプレックスとデジタルシネマ」 映 像 情 報 メディア 学 会誌 、VOL55、No.7、pp.5-6、2001・ 岡 野 文 男 「インテグラル 立 体 テレビ」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.61、No.5、pp.44-45、2007・ 小 野 定 康 「デジタルシネマの 規 格 化 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.59、No.2、pp.24-27、2005・ 川 村 尚 敬 「ハイビジョン SFX『 西 遊 記 』のトライアル」 電 気 通 信 誌 、No.10、pp.31-35、1988・ 国 重 静 司 「 立 体 だからできるハイビジョン 3D デジタル 映 像 コンテンツ 制 作 について」 第 53 回 移 動 体 通 信 研 究 会 予 稿 、pp.109-135、2010/8・ 熊 田 純 二 他 「 高 品 位 テレビカメラ」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.36、No.10、pp.43-47、1982・ 倉 重 光 宏 他 「 小 特 集 : 高 品 位 テレビジョン 機 器 ・カメラ」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.7-12、1985・ 杉 浦 幸 雄 、 元 木 紀 雄 「レーザーを 用 いたカラーフィルム 録 画 」テレビジョン 学会 誌 、VOL31、No5、pp.35-42、1977・ 杉 浦 幸 雄 、 石 田 武 久 「フィルム 送 像 ・ 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp28-32、1985・ 杉 浦 幸 雄 「テレシネとフィルム 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.43、No.2、213


pp.70-72、1989・ 杉 本 昌 穂 他 「HDTV の 海 外 動 向 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.21-25、1991・ 棚 田 詢 「ハイビジョン 機 器 ・カメラ」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.71-75、1991・ 為 ヶ 谷 秀 一 「メディアとアート」、 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.64、No.1、pp.19-20、2010・ 中 嶋 正 之 「デジタルシネマ、 映 像 メディアの 究 極 の 技 術 分 野 」映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.55、No.7、pp.2-4、2001・ 西 澤 台 次 「ハイビジョンスタジオ 規 格 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.26-33、1991・ 野 尻 祐 司 他 「スーパーハイビジョンの 最 新 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.61、No.5、pp.20-35、2007・ 林 宏 三 「 高 精 細 度 テレビジョン」テレビジョン 学 会 誌 、VOL28、No9、pp.2-7、1974・ 原 島 博 他 、60 周 年 記 念 特 集 「 映 像 情 報 メディアの 未 来 ビジョン」映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.64、No.1、pp.2-56、2010・ 平 林 洋 志 、 石 田 武 久 「 高 品 位 テレビレーザーテレシネの 開 発 」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1984/7・ 平 林 洋 志 、 石 田 武 久 「 高 品 位 テレビレーザーテレシネ 用 方 式 変 換 装 置 の 開 発 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1985/3・ 平 林 洋 志 、 野 尻 祐 司 他 「レーザーテレシネ 用 動 き 補 正 型 フレーム 数 変 換 」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1988・ 藤 井 哲 郎 「デジタルシネマ 標 準 化 とその 際 新 動 向 」 情 報 処 理 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.1157-1163、2004・ 藤 尾 孝 「 高 品 位 テレビジョンの 開 発 と 将 来 」テレビジョン 学 会 誌 、vol.36、No.10、pp.3-12、1982・ 藤 尾 孝 他 「 小 特 集 : 高 品 位 テレビジョン 機 器 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.2-42、1985・ 藤 尾 孝 他 「 特 集 :ハイビジョン」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、pp.9-106、1991・ 三 橋 哲 雄 他 「 高 品 位 テレビジョンの 画 質 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.36、No.10、pp.13-21、1982・ 吉 沢 章 「 高 品 位 テレビによる 番 組 制 作 の 現 状 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、pp.38-42、19855.その 他 の 報 告・ 天 野 昭 「デジタル 化 と HD、90 年 代 の 波 に 乗 れるかアメリカ 放 送 業 」ニューメディア 誌 、No.6、pp.8-11、1990・ 石 田 武 久 他 「70mm 映 画 と 高 品 位 フィルム 送 像 」NHK 技 研 月 報 、Vol.18、No.11、pp.22-25、1975・ 石 田 武 久 「 高 品 位 テレビ 70mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.21、No.11、pp.6-10、1978・ 石 田 武 久 「 第 124 回 SMPTE 大 会 の 概 要 と 欧 米 におけるフィルム-ビデオ 変 換 技 術の 動 向 」NHK 技 研 月 報 、Vol26、No.7、pp.17-22、1983・ 石 田 、 平 林 洋 志 「 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.28、No.10、pp.6-12、1985・ 石 田 武 久 「HDTV90 カナダコロキアム」 映 画 テレビ 技 術 、No.11、pp. 36-40、1990・ 石 田 武 久 「HDTV90 カナダコロキアム」View 誌 、Vol.9、N0.5、pp.14-17、1990214


・ 石 田 武 久 「ハイビジョンの 映 画 応 用 の 動 向 と 課 題 」 映 画 テレビ 技 術 、No.5、pp.50-57、1992・ 石 田 武 久 「テレビ 番 組 における 多 彩 な 映 像 表 現 」 放 送 技 術 誌 、No.9、pp.72-75、1995・ 石 田 武 久 「Inter BEE 2006 レポート」 放 送 技 術 誌 、 No.1、pp.98-105、2007・ 石 田 武 久 「NHK-MT における 3D 制 作 」ビデオα 誌 、No.7、pp.21-26、2009・ 石 田 武 久 「NAB SHOW 2010 に 見 た 映 像 技 術 動 向 」」 放 送 技 術 誌 、No.7、pp.71-73、2010・エドモンド・M・ディジュリオ、 八 木 信 忠 訳 、「SMPTE30 こま 問 題 研 究 会 の最 終 報 告 書 」 映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.87-93、1988・NHK 技 術 研 究 所 「NHK 技 研 公 開 2010」 放 送 技 術 誌 、No.8、pp.60-103、2010・ 岡 田 二 三 夫 「 国 際 花 と 緑 の 博 覧 会 におけるハイビジョン 展 開 」View 誌 、Vol.9、N0.5、pp.10-13、1990・ 大 口 孝 之 「1930 年 代 とパッシブステレオの 誕 生 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp.53-61、2008、・ 大 口 孝 之 「 立 体 テレビの 歴 史 」 映 画 テレビ 技 術 、No.4、pp.21-31、2008・ 大 口 孝 之 第 1 次 立 体 映 画 ブーム」 映 画 テレビ 技 術 、No.4、pp.32-38、2010・ 尾 又 富 雄 「デジタル EBR システム」 放 送 技 術 誌 、No.3、pp.152-158、1992・ 川 嶋 尚 士 「ハイエンド・フィルムスタイル・デジタルカメラ"アリフレックスD-21"」 映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.28-32、2008・ 川 角 徹 也 「HD テレシネシステムの 全 貌 "Spirit Data Cine"」 放 送 技 術 誌 、No.11、pp.59-73、1999・ 熊 田 宏 章 「ハイビジョン 用 35mm レーザーフィルムレコーダ」 映 画 テレビ 技 術 、No.3、pp.29-34、1988・ 小 林 正 恒 「 新 映 像 トータルシステム 報 告 」 映 画 テレビ 技 術 誌 、No.7、pp.44-50、1990・ 近 藤 達 彦 他 「ソゥルオリンピック、ハイビジョン 取 材 ・ 伝 送 」 映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp. 39-43、1989・ 佐 藤 昭 一 他 「 高 精 細 度 カラーワイドディスプレイ」NHK 技 研 月 報 、Vol.18、No.11、pp.118-21、1975・30 こま 問 題 研 究 会 「24 こま/30 こま 比 較 実 験 映 像 報 告 」 映 画 テレビ 技 術 、No.9、pp.47-57、1989、・ 杉 沼 浩 志 「SMPTE テクニカル・コンファレンスに 見 るデジタルシネマの 現 状 」映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp.47-52、2005・ 鈴 木 昭 男 「HDTV 番 組 の 制 作 」 放 送 技 術 誌 、No.12、pp.77-83、1986・ 鈴 木 昭 男 「『 帝 都 物 語 』の HDTV 技 術 」 放 送 技 術 誌 、No.3、pp.65-70、1988・ 鈴 木 昭 男 「 黒 澤 映 画 『 夢 』におけるハイビジョンの 利 用 」 放 送 技 術 誌 別 刷 り、No.3、1990・ 鈴 木 昭 男 他 「 黒 澤 映 画 『 八 月 の 狂 詩 曲 』におけるハイビジョン 技 術 」放 送 技 術 誌 、No.6、pp.119-124、1991・ 高 尾 隆 「イタリア RAI 放 送 局 ハイビジョンドラマ 制 作 現 場 から」 映 画 テレビ技 術 、No.2、pp.18-23、1987・ 滝 沢 重 行 他 「 川 崎 市 産 業 振 興 会 館 のハイビジョンシステム」VIEW 誌 、Vol.8、No.1、pp.12-19、1989・ 滝 沢 重 行 他 「 岐 阜 県 美 術 館 ハイビジョン・ギャラリーシステム」VIEW 誌 、Vol.9、No.1、pp.3-6、1990・ 田 中 豊 他 「ハイビジョン-PAL 方 式 変 換 装 置 』NHK 技 術 研 究 、No.2、pp.54-71、1986・ 谷 岡 健 吉 「 超 高 感 度 撮 像 デバイス 研 究 の 現 状 と 今 後 の 展 開 」VIEW 誌 、No.11、215


pp.1-5、2003・ 種 田 悌 一 「レーザー 技 術 の 高 品 位 テレビへの 応 用 」NHK 技 研 公 開 講 演 、1982/6・ 為 ケ 谷 秀 一 「 映 画 『プロスペローの 本 』とハイビジョン」クロマ 誌 、No.1、pp.46-49、 1992・ 為 ヶ 谷 秀 一 「NAB レポート・デジタルシネマサミット」FDI 誌 、Vol.105、No.6、pp.16-17、2008・ 為 ヶ 谷 秀 一 「2010NAB Show レポート」 放 送 技 術 誌 、No.7、pp.60-66、2010・ 塚 越 義 純 「『 映 画 興 行 の 世 界 に 受 け 入 れられたハイビジョン~ハイビジョン・ビッグバン'91 レポート~」 映 画 テレビ 技 術 、No.1、pp.55-64、1992・ 永 井 弘 史 「シンテル 社 、 新 世 代 テレシネ/スキャナ C-Reality」 放 送 技 術 誌 、No.11、pp.81-94、1999・ 中 堀 正 夫 、 中 野 稔 「『 帝 都 物 語 』の 撮 影 と 視 覚 効 果 」 映 画 テレビ 技 術 、No.4、pp.72-76、1988・ 中 山 秀 一 「ハイビジョンシアター 通 信 衛 星 配 信 実 験 ・ 報 告 」 映 画 テレビ 技 術 、No.7、pp.66-71、1988・ 新 濱 悌 二 「 一 体 化 制 作 番 組 『おしゃれ 工 房 』に 見 るハイビジョン 制 作 技 法 」クロマ 誌 、No.12、pp.36-39、1995・ニューメディア 誌 「 特 集 ・ハイビジョンシアター」No.5、1991・ニューメディア 誌 「 壮 大 な 実 験 ・ 膨 大 な 成 果 、 花 ハイビジョン・プロジェクト実 践 報 告 」No.12、pp.52-57、1990・ニューメディア 誌 「 特 集 ・ハイビジョンシアター 全 事 例 」1991/5・ 二 宮 佑 一 「MUSE 方 式 の 開 発 』NHK 技 術 研 究 、No.2、pp.18-52、1986・ 沼 野 芳 脩 「 映 画 制 作 とハイビジョン」クロマ 誌 、No.1、pp.50-52、1992・ 林 宏 三 「 高 品 位 テレビジョン」NHK 技 研 公 開 特 別 講 演 、1978/6・ 平 嶋 幸 夫 「ハイビジョンドラマ《 秋 ・ 京 都 》の 撮 影 と 照 明 」 映 画 テレビ 技 術 、No.3、pp.21-28、1986・ 平 嶋 幸 夫 「『 出 発 』の 照 明 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp.20-22、1988・ 藤 尾 孝 「 将 来 の 放 送 と 高 品 位 テレビジョン』NHK 技 研 月 報 、Vol.24、No.11、1981・ 藤 尾 孝 「 高 品 位 テレビ 研 究 開 発 の 現 状 と 将 来 」NHK 技 研 公 開 特 別 講 演 、1982/6・ 松 原 武 司 「『 出 発 』~Long Way from Home の 制 作 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp. 16-17、1988・ 三 上 泰 彦 「1080/24p 制 作 システムとマルチレゾリューション・テレシネ」放 送 技 術 誌 、No.11、pp.74-80、1999・ 門 条 由 男 「エレクトロ・シネマ『 出 発 』の 映 像 効 果 」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、pp.28-30、1988・ 八 木 信 忠 「 日 中 共 同 製 作 によるハイビジョンの 映 画 利 用 実 験 映 画 『 美 ・その融 合 』の 製 作 報 告 」 映 画 テレビ 技 術 誌 、No.10、pp.39-47、1989・ 八 木 信 忠 「SMPTE 第 131 年 次 大 会 への HDTV によるメッセージ 衛 星 伝 送 実 験 報 告 」映 画 テレビ 技 術 、No.2、pp. 36-39、1990・ 八 木 信 忠 他 「デジタルシネマの 今 後 の 行 方 」 映 画 テレビ 技 術 、No.3、pp.17-23、2010・ 渡 辺 幸 雄 「 北 九 州 国 際 会 議 場 のハイビジョン 設 備 」クロマ 誌 、No.3、 bpp.18-23、19916. 各 種 研 究 調 査 会 報 告 等・「 米 国 ハイビジョン 事 情 調 査 」 報 告 書 、1988/10・「デジタルシネマの 現 状 と 将 来 動 向 」HVC 調 査 報 告 書 、2001/3・International Electronic Cinema Festival(IECF) Tokyo-Montreux「ハイビジョンの 作 品 コンテストとシンポジウム」レポート、1992216


・( 財 ) 機 械 システム 振 興 協 会 、( 社 ) 日 本 映 画 機 械 工 業 会 「 新 映 像 トータルシステムに 関 する 調 査 研 究 報 告 書 」:1986/3・Digital Cinema Consortium of Japan「 東 京 デジタルシネマ・シンポジウム'2004配 信 実 験 報 告 」2004/12・ ハイビジョンオーストラリア 調 査 団 「オーストラリアにおけるハイビジョン 調 査 」報 告 書 、1988/9・NVS 研 究 会 「70mm 映 画 フィルムによる 高 品 位 テレビ 動 画 像 の 評 価 」 報 告 書 、1988/9・ 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 「 大 型 ニュービジネス 開 発 研 究 開 発 調 査 ・ 複 合 型 映 像制 作 拠 点 整 備 事 業 」 報 告 書 1987/3・( 社 ) 日 本 映 画 テレビ 技 術 協 会 「サービス 産 業 構 造 における 競 争 要 因 に 関 する調 査 ( 映 画 産 業 )」 報 告 書 、1988/3・ 日 経 ニューメディア「 最 前 線 レポート、ハイビジョン( 規 格 、 技 術 、 事 業 化 、制 作 現 場 )」 日 経 BP 社 、1988/11・ 日 本 機 械 工 業 連 合 会 、 日 本 映 画 機 械 工 業 会 「ニューコミュニティ・シアターシステム」に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 、1990/5・NVS 研 究 会 「エレクトロ・シネマトグラフ 技 術 小 委 員 会 」 報 告 書 、1987/5・NVS 研 究 会 「ハイビジョン・ビデオシアター 技 術 小 委 員 会 」 報 告 書 、1993/5・HVC 事 業 報 告 書 「ハイビジョン・ビッグバン'91」1991・ハイビジョン 国 際 映 像 祭 日 本 委 員 会 「ハイビジョン 国 際 映 像 祭 事 業 」 報 告 書 、2003217


研 究 業 績1. 論 文・"A 70mm Film Laser Telecine for High-Definition Television"SMPTE Journal、Vol.92,N0.6,1983,・「ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 歴 史 的 考 察 」日 本 映 像 学 会 、 映 像 学 誌 、82 号 、2009・"HDTV and Movies in Japan"HD WORLD REVIEW、Vol.2,No.4,1991・"Amazing Imaging for Television Programs"Inter BEE International Symposium,Japan Electronics Show Association , CD Version,1994/112. 研 究 発 表 、 講 演・「70mm 映 画 フィルムによる 高 品 位 テレビ 動 画 像 の 評 価 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1975/9・「70mm 映 画 と 高 品 位 テレビ」 画 像 工 学 コンファレンス、1975/11・「70mm レーザーフライングスポットテレシネ」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1978/3・「 連 続 式 レーザーテレシネ」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1978/7・「 高 品 位 テレビ 用 70mm レーザーテレシネ」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1981/2・「 高 品 位 テレビ 用 70mm レーザーテレシネ 装 置 の 基 本 性 能 」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1981/7・「 高 品 位 テレビのテレシネ・フィルム 記 録 の 現 状 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1982/10・"A 70mm Film Laser Telecine for High-Definition Television"SMPTE Technical Conference ,Nov.1982・「 最 近 のテレシネの 技 術 動 向 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1983/3・「レーザーテレシネにおける 光 学 的 2 次 元 輪 郭 補 償 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1983/11・「 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーテレシネの 開 発 」テレビジョン 学 会 全 国 大 会 、1984/7・「 高 品 位 テレビの 現 況 とその 応 用 」 医 用 画 像 情 報 学 会 、1984/9・「レーザー 走 査 によるフィルム 画 像 読 出 し」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1985/1・「 高 品 位 テレビレーザーテレシネ 用 方 式 変 換 装 置 の 開 発 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1985/3・「ハイビジョン 利 用 による『 西 遊 記 』の 制 作 」テレビジョン 学 会 技 術 報 告 、1989/1・"Application of HDTV Technology in film production"BEIJING International Symposium,Oct.1989・"Present Status of HDTV Application for Movies in Japan"HDTV COLLOQUIM 90 CANADA、June,1990・「 多 彩 な 映 像 メディアにおける 映 像 表 現 の 最 前 線 」国 際 放 送 機 器 展 30 周 年 記 念 特 別 イベント「 国 際 シンポジウム」、1994/11・「テレビの 成 長 と 発 展 」電 気 通 信 大 学 調 布 祭 公 開 ゼミナール、2006・「 映 像 情 報 メディア テレビの 成 長 と 発 展 」第 50 回 移 動 体 通 信 研 究 会 ( 目 黒 会 主 催 )、2007218


3. 執 筆 、 著 述・「70mm 映 画 と 高 品 位 フィルム 送 像 」NHK 技 研 月 報 、Vol.18、No.11、1975・「 高 品 位 テレビ 70mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.21、No.11、1978・Takehisa Ishida et al."70mm Film Laser Telecine" NHK TECHNICAL MONOGRAPHN0.32,1982/6・「 第 124 回 SMPTE 大 会 の 概 要 と 欧 米 におけるフィルム-ビデオ 変 換 技 術の 動 向 」NHK 技 研 月 報 、Vol26、No.7、1983・「レーザー 技 術 を 用 いた 高 品 位 テレビのフィルム-ビデオ 相 互 変 換 」オプトロニクス 誌 、1983・「レーザー 技 術 を 用 いた 高 品 位 テレビのフィルム-ビデオ 相 互 変 換 」オプトロニクス 誌 、No.2、1983・"LASER TELECINE for HIGH-DEFINITION TELEVISIN" NHK LABORATORIES NOTE No.324、1985/12・「 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーテレシネ」NHK 技 研 月 報 、Vol.28、No.10、1985・「フィルム 送 像 ・ 録 画 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.39、No.8、1985・「 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーテレシネ 装 置 の 開 発 」 映 画 テレビ 技 術 、No.6、1985・「ビデオシアター 用 ディスプレイの 技 術 動 向 」 映 画 テレビ 技 術 No.4、1987・「ハイビジョン 産 業 応 用 の 技 術 動 向 機 器 開 発 状 況 」クロマ 誌 、No.1,No.2、1990・「HDTV90 カナダコロキアム」 映 画 テレビ 技 術 、No.11、1990・「HDTV90 カナダコロキアム」View 誌 、Vol.9、N0.5、1990・「HDTV90 カナダコロキアム・レポート」 映 画 テレビ 技 術 、No.11、1991・「 映 画 への 応 用 」テレビジョン 学 会 誌 、Vol.45、No.11、1991・「ハイビジョンの 映 画 応 用 の 動 向 と 課 題 」 映 画 テレビ 技 術 、No.5、1992・「ハイビジョン 方 式 変 換 技 術 と 番 組 への 応 用 」クロマ 誌 、No.2、1992・「 電 子 技 術 の 映 画 利 用 」ビデオα 誌 、No.1、1993・"REFERENCE GUIDE for CCD TECHNOLOGY" ABU TECHNICAL MONOGRAPH、(ABU のワーキンググループ 主 査 として 執 筆 )1994/11・「テレビ 番 組 における 多 彩 な 映 像 表 現 」 放 送 技 術 誌 、No.9、1995・「ノンリニア 制 作 ・ 送 出 環 境 」クロマ 誌 、No.2、1996・「16:9/4:3 混 在 時 代 からワイド 時 代 へ」クロマ 誌 、No.2、1996・「 放 送 番 組 センター、 放 送 ライブラリーシステム」 放 送 技 術 誌 、No.4、2002・「 放 送 メディアの 成 長 と 発 展 」Chofu Network( 目 黒 会 報 )2005/12・「 放 送 よもやま 話 」Chofu Network( 目 黒 会 報 )2006 年 4 月 から 毎 号 連 載 継 続 中・「 映 像 アラカルト 今 昔 」 兼 六 館 出 版 、2006・「 成 長 ・ 発 展 する 映 像 情 報 メディア」 映 画 テレビ 技 術 、2006/4~2009/3 毎 号 連 載・「NAB レポート」 放 送 技 術 誌 、2006/7~2010/7 毎 年 連 載 中・「NHK 放 送 技 術 研 究 所 公 開 レポート」 放 送 技 術 誌 、2006/8~2010/8、 毎 回 連 載 中・「シーテックに 見 る 最 新 技 術 動 向 」 放 送 技 術 誌 、2006/12~2010/12、 毎 回 連 載 中・「Inter BEE レポート」 放 送 技 術 誌 、2007/1~2011/1、 毎 回 連 載 中・「NHK 番 組 技 術 展 レポート」 放 送 技 術 誌 、2007/4~2011/4、 毎 回 連 載 中・「 放 送 / 映 像 制 作 業 界 の 状 況 と 技 術 動 向 」ビデオα 誌 、2008/3・「 視 聴 環 境 における HD24P 技 術 動 向 」ビデオα 誌 、No.5、2008・「2008 NAB SHOW に 見 るディスプレイの 動 向 」ビデオα 誌 、No.6、2008・「テープレス 化 の 技 術 動 向 」 映 像 情 報 メディア 学 会 誌 、Vol.63、No.1、2009・「NHK メディアテクノロジーにおける 3D 制 作 」ビデオα 誌 、No.8、2009・「 昨 今 メディア 事 情 」 映 画 テレビ 技 術 、2009/4 から 毎 号 連 載 中・「テレビこの 10 年 (700 号 特 集 特 別 記 事 )」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、2010・「ディスプレイこの 10 年 (700 号 特 集 特 別 記 事 )」 映 画 テレビ 技 術 、No.12、2010219


・「 私 が 見 た 映 像 技 術 動 向 」2007/7 から NAB、Inter BEE レポート、 連 載 継 続 中InterBEE Online Magazine:Inter BEE 協 会 公 式 ページ、http://www.inter-bee.com/ja/magazine/index.html4. 講 師 歴・ 映 画 テレビ 技 術 協 会 セミナー:1989、1990「 最 近 のハイビジョン 応 用 技 術 の 動 向 」・ 東 京 情 報 大 学 特 別 集 中 講 座 :1998「デジタル 時 代 の 放 送 メディア」・ 東 海 ネットスクール 特 別 講 座 :2006「デジタル 時 代 の 放 送 メディア」・ 滝 学 園 集 中 講 座 :2007「 変 わり 行 く 映 像 情 報 メディア テレビの 誕 生 とデジタル 化 」・NHK 放 送 センター 研 修 講 師 、2006、2007、その 他 にも 多 数 回「ハイビジョンの 成 長 と 最 新 技 術 動 向 」など・ 日 本 工 業 大 学 専 門 職 大 学 院 集 中 講 義 、2007、2008「 放 送 と 通 信 の 連 携 ・ 融 合 」5. 受 賞 歴・「 高 品 位 テレビジョンの 開 発 」NHK 会 長 特 別 団 体 表 彰 、1982/3・「 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーテレシネの 開 発 」 映 画 テレビ 技 術 協 会 賞 、1985/56. 履 歴(1) 学 歴・1965 年 : 電 気 通 信 大 学 大 学 電 気 通 信 学 部 卒 業・1967 年 : 電 気 通 信 大 学 大 学 大 学 院 電 気 通 信 研 究 科 電 子 工 学 専 攻 修 士 課 程 修 了・2007 年 : 電 気 通 信 大 学 大 学 大 学 院 電 気 通 信 学 研 究 科 博 士 課 程 入 学(2) 経 歴・1967 年 : 日 本 放 送 協 会 入 局・1974 年 :NHK 技 術 研 究 所ハイビジョン 開 発 研 究 に 従 事 、 主 にハイビジョンとフィルム 関 係・1986 年 :NHK 放 送 技 術 局 にて、ハイビジョン 実 用 化 業 務 に 従 事 、ハイビジョン 実 験 放 送 から 本 放 送 、デジタル 放 送 まで 担 当 、ハイビジョン 番 組 制 作 に 従 事海 外 出 張 : 米 国 、 英 国 、ドイツ、ソウル、カナダ、 中 国 ( 上 海 、 北 京 、 広 東 )、オーストラリア、メキシコNHK-ES に 出 向 中 にハイビジョンの 産 業 応 用 担 当・1999 年 :NHK-ES に 転 籍ハイビジョンギャラリー、 映 像 多 目 的 ホール、デジタルアーカイブ 構 築 保 守・2005 年 :NHK-ES 退 職映 像 技 術 ジャーナリスト(フリーランス)として 執 筆 評 論 活 動・2007~2008: 大 宏 電 機 アドバイザー(NHK-ES 委 託 )「 映 像 情 報 メディアの 技 術 動 向 」・2009 年 ~: 東 京 造 形 大 学 、 非 常 勤 講 師「 映 像 科 学 」 担 当220


ハイビジョンと 映 画 のメディアミックスに 関 する 研 究 付 録 編付 録 1 第 3 章 関 連 写 真 ...............................................1付 録 2 第 5 章 関 連 写 真 ...............................................5付 録 3 第 6 章 関 連 写 真 ..............................................13付 録 4 第 7 章 関 連 写 真 ..............................................19付 録 5 ハイビジョン 技 術 史 ..........................................25付 録 6 コンテンツリスト............................................29


付 録 1第 3 章 関 連 写 真注 : 特 に 引 用 明 記 ない 写 真 は 筆 者 の 提 供写 3.1:ハイビジョン 合 同 研 究 会 ( 右 端 筆 者 、 総 合 司 会 担 当 )写 3.2:70mm3Vテレシネ 写 3.3:70mm レーザーテレシネ( 右 、 筆 者 )写 3.4:SMPTE での 筆 者 発 表 情 景 写 3.5:35mm レーザーテレシネ( 技 研 )1


写 3.6: 同 実 用 機 (つくば 博 、NAC)写 3.7:つくばコズミックホール『アレイの 鏡 』写 3.8:HV サチコンテレシネ(ソニーPCL) 写 3.9:HV-FSS テレシネ (イマジカ)写 3.10:NHK 技 研 製 のハイビジョン LBR写 3.11:LBR 実 用 機 (イマジカ)写 3.12:EBR により 白黒 フィルム 上 に 記 録 された RGB 画 像写 3.13:デジタル EBR(ソニーPCL)2


写 3.14:HV1 号 カメラ( 放 送 博 物 館 )写 3.15: 可 搬 型 HV カメラ(ソニー)写 3.16:HV-CCD カメラ(ソニー) 写 3.17: 超 高 感 度 HV ハープカメラ( 技 研 )写 3.19 カセット 型 VTR写 3.18 アナログ VTR写 3.20 デジタル VTR写 3.21: 圧 縮 HDD5( 松 下 電 器 )写 3.22: 圧 縮 HD カム(ソニー)3


左 写 3.23:HV ビデオマットによる 合 成上 写 3.24:ハイビジョンと CG の 合 成 例上 3.26:CRT 投 射 型 HV ディスプレイ(NHK)左 3.25:モーションコントロール 系 (イマジカ)写 3.27:400"、12 管 式 大 画 面 ディスプレイ(つくば 万 博 )写 3.28:アイドホール写 3.29:タラリア4


付 録 2第 5 章 関 連 写 真写 5.1:『オニリコン』 撮 影 情 景 ;1HDTV の 質 感 、 奥 行 き 感 、 光 と 影 の 対 比写 5.2:『 秋 ・ 京 都 』;2、 暗 闇 と 光 る 白 壁逆 光 を 背 に 座 る 女 の 表 情写 5.3:『 東 京 幻 夢 』;3、 古 い 東 京 の 路 地 と 近 代 的 な 東 京 の 近 代 的 ビルの 撮 影写 5.4:サンフランシスコでの HDTV 公 開コッポラ 監 督 と 藤 尾 技 研 所 長 ;45


写 5.5:『イマジン』のトップシーンリボ・スタジオでのバリー・リボ 氏写 5.6:"Julia and Julia" 逆 光 シーン トリエステでの 撮 影 光 景 ;5写 5.7:『 帝 都 物 語 』ハイビジョン 撮 影 情 景 ;6ハイビジョンによる 合 成 シーン写 5.8「 日 中 美 の 融 合 」の1シーン;7合 成 ショットの 撮 影 (イマジカ);86


写 5.9:『 夢 』ロケ 撮 影 状 況スタジオでの 合 成 ショットの 撮 影 状 況絵 画 に 入 り 込 む 人 物 像 の 合 成 ;9麦 畑 の 多 重 合 成 シーン写 5.10:『8 月 の 狂 詩 曲 』での 合 成 シーン;10 写 5.11:『ザ・オーケストラ』 空 中 浮 揚 ;11写 5.12:『 夢 の 涯 までも』ハイビジョン 編 集 室 にて 夢 の 映 像 ;127


写 5.13a:『 西 遊 記 』 合 成 のためのステージb: 暗 幕 で 仕 切 り 大 型 ディスプレイ 設 置c:スタジオ 外 の 仮 設 機 器 室d:ブルースクリーン 前 での 撮 影 状 況e: 縫 ぐるみによる 映 像 制 作 状 況 f:アップの 映 像 と 炎 の 合 成g: SDTV 映 像 の 砂 漠 をバックに 合 成 h: 火 焔 山 上 空 を 飛 ぶ 孫 悟 空 の 合 成8


写 5.14a:『 出 発 』「 怪 談 耳 なし 芳 一 」;13 b: 大 型 中 継 車 でのロケ 撮 影 状 況 ;14c: 別 々に 撮 影 された 実 写 映 像 d: 自 然 観 のある 合 成 映 像e: 平 家 の 亡 霊 の 撮 影 シーン( 合 成 前 ) f: 多 重 合 成 により 人 数 を 増 やす( 合 成 後 )g: 多 重 合 成 による 入 水 シーン h:スタジオ 副 調 整 室 での 制 作 作 業 状 況9


写 5.15a:『プロスペローの 本 』b:ペイントボックスで 作 成 された 画 像c:ペイントボックスでの 作 業 の 様 子 ;15d: 同 じカットの 中 で 色 が 変 化 するマント写 5.16a:"Ten Seconds After";16 b:ブルースクリーンとモーションコントロールカメラc:リアルな 世 界 と 10" 後 の 世 界10d: 様 々なセットやオブジェが 置 かれた 部 屋


e: 廃 墟 のシーンのセット f: 未 来 の 世 界 は 廃 墟 の 光 景写 5.17a:"The Screw and the Wall" 茸 のような 家 b: 前 後 左 右 に 移 動 のレールc: 台 車 上 のモーションコントロールカメラ d:アフリカの 部 屋 での 撮 影 状 況e:スタジオ 内 に 設 置 のカメラ CCU とモニター f: 現 場 に 設 置 されたデジタル VTR3 式11


g:フルデジタルハイビジョン 編 集 室h: 壁 をぶち 抜 いて 進 むロケットマシンk:CG 合 成 により 床 から 花 が 咲 くシーンl: 実 物 大 セットの 合 成 、 外 景 をはめ 込 む写 真 引 用 : 引 用 明 記 ない 写 真 は 筆 者 提 供1: 本 編 文 献 62: 本 編 文 献 83: 本 編 文 献 104: NHK 技 研 編 「テレビ 放 送 技 術 のあゆみ」5: 本 編 文 献 176: 本 編 文 献 217: 本 編 文 献 228: 本 編 文 献 239: 本 編 文 献 2510: 本 編 文 献 2611: 本 編 文 献 2712: 本 編 文 献 3013: 作 品 パンフレット14: 本 編 文 献 4215: 本 編 文 献 4716: 本 編 文 献 5512


付 録 3第 6 章 関 連 写 真注 : 引 用 明 記 ない 写 真 は 筆 者 提 供写 6.1a:ビデオシアター(シネマックス) b:ビデオシアター 場 内 (パンフレット)写 6.2a:ハイビジョン・ビッグバン;1b: 劇 場 に 掲 げられた 看 板写 6.3:ハイビジョン・シンポジウム写 6.4: 川 崎 市 産 業 振 興 会 館写 6.5: 北 九 州 国 際 会 議 場 の 多 目 的 ホール 写 6.6:ロイヤルホテルハイビジョンホール13


写 6.7a:ハイビジョン・ギャラリー;2b: 表 示 コンテンツ 例写 6.8a: 西 部 セゾン 美 術 館写 6.8b: 東 京 国 際 美 術 館写 6.9:カナダケベック 州 博 物 館 でのプレゼンテーション(NHK 前 技 師 長 と 筆 者 )写 6.10a:NAB'91 で 技 研 公 開14b:HDTV ギャラリーの 展 示


写 6.11a:ブリスベーン 国 際 伝 送 b: 現 地 送 受 信 設 備 ( 左 端 筆 者 )写 6.12a:ソウルオリンピック 高 感 度 カメラ b:IBC センターのハイビジョン 送 出 室c: 現 地 送 受 信 設 備 d:ハイビジョン 街 頭 テレビの 情 景e:ソウル・ハイアットホテルでの 公 開f: 現 地 に 設 置 した HV シアター15


写 6.13a: 仮 設 の 受 信 アンテナb: 名 古 屋 ヘラルドのシネチカ 劇 場 での 公 開c:タラリアと 35mm 映 写 機 写 6.14: 日 米 共 同 伝 送 実 験 ( 地 球 局 );3写 6.15:カナダコロキアム( 二 人 目 筆 者 )b: 日 本 からの 伝 送 映 像 の 表 示c:テレサットカナダ 地 上 設 備16


写 6.16a: 花 の 万 博 情 景 ;4b: 花 の 万 博 号c:6 面 HV マルチディスプレイ d:ハイビジョングラフ写 6.17:HV によるスポーツ 衛 星 ;5写 6.18 レストランシアターの 試 み写 6.19:パルコパート 3 でのハイビジョンシアターの 試 み;617


写 6.20:CTN の HDTV シアターと HDTV システム;7写 真 引 用 : 引 用 明 記 ない 写 真 は 筆 者 提 供1: 本 編 文 献 102: 本 編 文 献 183: HVC ニュース No.74: 本 編 文 献 375: 本 編 文 献 426: 本 編 文 献 447: 本 編 文 献 4718


付 録 4第 7 章 関 連 写 真写 7.1:C-Reality(シンテル)写 7.2:Sprit 4K(トムソン)写 7.3:ARRISCAN(ARRI 東 京 現 像 所 ) 写 7.4:ARRILaser (ARRI 東 京 現 像 所 )写 7.5:バラクーダ(NAC、 東 京 現 像 所 )写 7.6:IMAGICA レコーダ(イマジカ)写 7.7:シネアルタ(ソニー)19写 7.8:バリカム(パナソニック)


写 7.9:"Phantom"シリーズ(VISION RESEARCH) 写 7.10:"ORIGIN"(DALSA)写 7.11:"RED ONE"(RED Digital)写 7.12:"ALEXA"(ARRI)写 7.13: 高 度 制 作 システム(クオンテル) 写 7.14:コンテンツ 制 作 系 (オートデスク)写 7,15:バーチャルスタジオ( 朋 栄 )バーチャルスタジオシステム20


写 7.16 小 形 HDD( 東 芝 ) 写 7.17: SHV 用 大 容 量 HDD( 愛 知 博 )写 7.18:BD 準 拠 の 大 容 量 光 ディスク(BDA) 写 7.19: 薄 型 化 による 大 容 量 化 (NHK 技 研 )写 7.20: 半 導 体 メモリーカムコーダ( 池 上 ) 写 7.21: 半 導 体 メモリーサーバ( 東 芝 )写 7.22:ホログラムメモリー 成 長 7.23:ホログラム 試 作 機 ( 技 研 )21


写 7.24:JPEG 2K リアルタイム 符 号 化 (NTT) 写 7.25:デジタルシネマサーバ(Doremi)写 7.26:DLP(クリスティ)図 7.27:DILA(JVC)写 7.28:SXRD(ソニー)写 7.29:ワッフン 制 作 状 況 (NHK-MT);122写 7.30.3D 中 継 車 と 各 種 3D カメラ


写 7.31:コンテンツ・シンポジウム写 7.32: 小 型 3D カメラ写 7.33:3D ライブ 中 継写 7.34: 家 庭 用 3D テレビ写 7.35:3D の 産 業 分 野 への 応 用 例 左 ;デザイン 部 門 右 CAD 部 門写 7.36: 注 目 の 裸 眼 式 3D( 東 芝 ) 写 7.37:インテグラル 立 体 (NHK 技 研 )23


写 7.38:SHV 公 開 ; 愛 知 万 博 '2007写 7.39:SHV 海 外 での 公 開 ;NAB'2007写 7.40:フル 解 像 度 SHV プロジェクター写 7.41:フル 解 像 度 SHV カメラ写 7.42: 通 信 衛 星 による SHV ライブ 中 継写 7.43: 家 庭 用 SHV テレビを 目 指 して写 真 引 用 : 引 用 明 記 ない 写 真 は 筆 者 提 供1: 本 編 文 献 4924


付 録 5 ハイビジョン 技 術 史注 : 記 載 項 目 は 本 論 文 との 関 連 により 選 択1926 年・ 高 柳 健 次 郎 、テレビ 開 発ニプコウ 円 板 、ブラウン 管 式 、「イ」の 字 の 表 示 に 成 功1953 年・テレビ 本 放 送 開 始 ;NHK(3 月 )、 日 本 テレビ(8 月 )1964 年・ 東 京 オリンピック技 術 オリンピック; 初 の 衛 星 中 継 、カラー 生 中 継 実 施 、カラーテレビ 普 及 始 まる1965 年・ 次 世 代 テレビの 研 究 開 始 : 第 1 章大 画 面 、 高 精 細 度 テレビを 目 指 し、 次 世 代 テレビの 研 究 に 着 手1969 年・NHK 技 研 公 開 で 高 品 位 テレビ 初 公 開 : 第 3 章白 黒 ・ 静 止 画 像 、シミュレーション 画 像 を 公 開1972 年・HDTV 国 際 規 格 化 検 討 開 始 : 第 3 章CCIR に"High-Definition Television" 研 究 テーマに 提 案1973 年・ 高 品 位 テレビ 第 1 号 カメラ(1.5"-3V) 開 発 : 第 3 章低 感 度 、 低 S/N、 残 像 が 大 きく 動 画 撮 影 には 不 適・ 高 精 細 度 カラーモニター 開 発 : 第 3 章画 面 サイズ 22 型 、 高 密 度 ピッチのシャドーマスクタイプ1975 年・ 高 品 位 テレビ 第 2 号 カメラ(2"-3RBS) 開 発 : 第 3 章感 度 改 善 、S/N は 若 干 向 上 したが、 残 像 大 きく 動 画 撮 影 には 不 適・16mm レーザーフィルム 録 画 方 式 開 発 : 第 2 章16mm フィルム、 標 準 テレビ 用 に 利 用・ 高 品 位 テレビ 70mm3V テレシネ 開 発 : 第 3 章70mm 映 写 機 と 3V カメラを 組 み 合 わせ、25 コマ、50Hz、 高 精 細 動 画 像 を 初 公 開・ 高 精 細 度 カラーワイドディスプレイ 開 発 : 第 3 章 、 第 4 章3 台 の 26"CRT をハーフミラーで 合 成 し 縦 50cm、 横 幅 1m のワイド 大 画 面 を 実 現同 ディスプレイを 使 い 技 研 公 開 で 70mm 映 画 をデモ、 大 きなインパクト1977 年・ 高 品 位 テレビ 70mm レーザーテレシネ 開 発 : 第 3 章レーザー 走 査 、ラップディゾルブ 式 、 高 画 質 の 動 画 像 実 現 、SMPTE で 発 表1978 年・レーザー 光 学 録 音 方 式 開 発 : 第 2 章映 画 上 映 用 フィルムに 実 際 に 使 われた・BS による 高 品 位 テレビ 伝 送 実 験 : 第 3 章実 験 用 放 送 衛 星 (12GHz)により、Y/C 分 離 FM 伝 送 方 式 で 送 受 信 実 験 に 成 功1980 年25


・ 高 品 位 テレビ 用 サチコンカメラ 開 発 : 第 3 章カメラの 小 型 化 への 道 、 低 残 像 で 動 画 撮 影 が 可 能 に1981 年・ 高 品 位 テレビフィールド 用 カメラ 開 発 : 第 3 章 、 第 5 章研 究 用 の 番 組 制 作 始 まる・ 高 品 位 VTR 実 験 機 開 発 : 第 3 章 、 第 5 章YC 分 離 線 順 次 式 、 高 校 野 球 の 収 録 、 黎 明 期 の 番 組 収 録 に 使 われた・HDTV を 海 外 で 初 公 開 : 第 3 章 、 第 5 章SMPTE(サンフランシスコ)、FCC(ワシントン)で 初 公 開 、コッポラ 監 督 見 学1982 年・HDTV をヨーロッパで 初 公 開 : 第 3 章 、 第 5 章EBU 総 会 (アイルランド)で 公 開・NHK 技 研 、ISDB を 提 唱統 合 デジタル 放 送 方 式 を 提 唱 、デジタル 放 送 に 向 けた 研 究 開 始1983 年・ 実 用 レベルのカメラ、VTR の 開 発 : 第 3 章 、 第 5 章カメラ(HDC-100)、VTR(HDV-1000)、ハイビジョン 番 組 制 作 が 活 発 に・ 高 品 位 テレビ 用 35mm レーザーフィルム 録 画 開 発 : 第 3 章これによりハイビジョン→フィルム 変 換 が 可 能 に・ 方 式 変 換 装 置 の 開 発 : 第 4 章ハイビジョン→NTSC 方 式 、 一 体 化 制 作 の 可 能 性1984 年・BS-2a 打 ち 上 げ衛 星 放 送 ( 標 準 テレビ) 試 験 放 送 開 始・ 高 品 位 テレビ 放 送 方 式 開 発 (ミューズ 方 式 ): 第 3 章BS1CH( 帯 域 27MHz)で 伝 送 可 能 な 帯 域 圧 縮 方 式・ロサンジェルス・オリンピックで 競 技 収 録 : 第 5 章 : 第 5 章初 めての 海 外 ロケ、1 カメラ/1VTR、 技 術 クルーだけで 収 録・35mm レーザーテレシネ( 実 験 機 ) 開 発 : 第 3 章実 用 性 重 視 し 35mm フィルム 採 用1985 年・つくば 科 学 博 覧 会 : 第 3 章「ハイビジョン」の 呼 称 決 まるハイビジョン 総 合 システムの 展 示 、 国 内 外 への 理 解 進 み 飛 躍 のスタート実 用 レベルの 機 器 開 発 :カメラ、VTR、スイッチャー、35mm レーザーテレシネ 等MUSE 方 式 12GHz 実 験 局 による 実 験 放 送・ハイビジョン-PAL 方 式 変 換 装 置 開 発 : 第 3 章日 米 と 欧 州 間 で 規 格 論 争 激 しい、 動 き 補 正 方 式 60→50 変 換 、EBU の HDTV 専 門 委 員 会 にて 展 示1986 年・HDTV(ハイビジョン 方 式 )を CCIR に 日 米 加 共 同 提 案勧 告 のための 提 案 として 記 載 された・BS-2b 打 ち 上 げBS2 波 (4CH)で 衛 星 試 験 放 送 ( 標 準 テレビ) 開 始ミューズ 方 式 によるハイビジョン 衛 星 放 送 実 験 ( 折 り 返 し)1988 年・ハイビジョン 用 デジタル VTR 開 発 : 第 3 章26


高 ダビング 特 性 、 高 S/N・ハイビジョン 用 高 感 度 カメラ 開 発 : 第 3 章ハープ 管 による 高 感 度 化 、 小 型 化 、ソゥルオリンピックで 初 使 用・ソゥルオリンピック、ハイビジョン 飛 躍 : 第 6 章全 国 200 箇 所 でハイビジョン 公 開 、 開 閉 会 式 生 中 継 、ソウルで 公 開 展 示・ハイビジョンによる 映 画 配 信 テスト: 第 6 章映 テレ 協 会 、 映 画 業 界 、NHK、 民 放 、 衛 星 事 業 者 の 共 同 実 験 、 衛 星 経 由・ 日 豪 ハイビジョン 生 中 継 : 第 6 章シルクロード 博 ( 奈 良 )からレジャー 博 (ブリスベーン)へ 衛 星 3 段 中 継 で 生 伝 送・ハイビジョン 用 ユニハイ VTR 開 発 : 第 4 章NHK-ES 主 導 でカセット 型 VTR を 共 同 開 発 、3/4"カセット 型 、 展 示 展 博 用・ハイビジョン 多 目 的 ホール 開 設 : 第 6 章川 崎 市 産 業 振 興 開 館 に 大 規 模 なハイビジョン 設 備 導 入1989 年・ハイビジョンギャラリー 誕 生 : 第 6 章岐 阜 県 立 美 術 館 など 全 国 各 地 の 美 術 館 、 博 物 館 にハイビジョンギャラリー 開 設・BS 本 放 送 ( 標 準 テレビ) 開 始・ハイビジョン 定 時 実 験 放 送 開 始 : 第 3 章・ハイビジョン 専 用 スタジオ 運 用 開 始HV-510 スタジオ、ハイビジョンニュース 開 始・ 日 米 ハイビジョン 中 継 : 第 6 章映 テレ 協 会 と SMPTE の 合 同 によるインテルサット 経 由 HDTV 伝 送 実 験1990 年・「 花 と 緑 の 博 覧 会 」:: 第 6 章全 国 規 模 でハイビジョン 番 組 配 信 、 公 開 、ハイビジョン 電 子 出 版・ 北 九 州 国 際 会 議 場 ハイビジョン 導 入 : 第 6 章日 本 最 大 規 模 のハイビジョン 設 備 導 入 、 大 掛 かりな 映 像 多 目 的 ホール・ 青 森 ロイアルホテルハイビジョン 導 入 : 第 6 章リゾートホテルとして 始 めてハイビジョン 導 入・HDTV カナダコロキアム: 第 6 章HDTV 機 器 展 示 、シンポジウム、 日 加 双 方 向 生 中 継 実 施1991 年・ハイビジョン 試 験 放 送 開 始 : 第 3 章ハイビジョン 推 進 協 議 会 により 1 日 8 時 間 放 送・NAB で HDTV 初 公 開 : 第 6 章技 研 オープンハウス 会 場 で HDTV 公 開 、ハイビジョンギャラリー 展 示・ハイビジョン・ビッグバン'91: 第 6 章全 国 規 模 でハイビジョンシアター 配 信 実 験 実 施1992 年・ハイビジョン 素 材 伝 送 用 デジタル 伝 送 装 置 開 発・1125/60⇔1250/50 方 式 変 換 装 置 の 開 発・40"ハイビジョン PDP 開 発・2/3"ハイビジョン CCD カメラの 開 発 第 3 章バルセロナオリンピックで 使 用・ 小 型 立 体 ハイビジョンカメラの 開 発NHK-ES と 共 同 開 発 、NHK-TS でハイビジョン 3D コンテンツ 制 作 始 まる・ハイビジョン・ビッグバン'92: 第 6 章27


ハイビジョン・シンポジウム1993 年・ 皇 太 子 ご 成 婚 ハイビジョン 生 中 継大 規 模 な 生 中 継 実 施 、ハイビジョン 普 及 に 弾 み・ハイビジョンムービーマット 開 発1994 年・ハイビジョン 実 用 化 試 験 放 送 : 第 3 章1 日 11 時 間 に 拡 充・ 放 送 のデジタル 化 に 関 する 研 究 会 ( 郵 政 省 )わが 国 におけるデジタル 化 の 方 向 検 討 、デジアナ 論 争・ハイビジョンスーパーハープカメラ: 第 3 章超 高 感 度 カメラ、 産 業 応 用 の 可 能 性 広 がる・PDP 開 発 協 議 会 発 足PDP 共 同 開 発 、 実 用 化 目 指 す1996 年・1/2" 圧 縮 型 ハイビジョンデジタル VTR 開 発 : 第 3 章1997 年・ハイビジョン 伝 送 用 OFDM FPU 実 験 装 置 開 発・12GHz 帯 BS デジタル 伝 送 実 験1998 年・ハイビジョン 高 速 度 カメラ 開 発・ 長 野 オリンピック: 第 6 章ハイビジョン 高 速 度 カメラ 使 用 、ハイビジョン PDP 展 示 公 開 (PDP 開 発 協 議 会 )・BS デジタル 化 方 針 ( 規 格 決 定 )電 気 通 信 技 術 会 の 答 申 を 受 け、2000 年 開 始 を 決 定2000 年・HDTV スタジオ 規 格 が 世 界 標 準 化 : 第 3 章1125 本 /60i、16:9・BS デジタル 本 放 送2002 年・スーパーハイビジョン 初 公 開 : 第 7 章2003 年・ 地 上 波 デジタル 放 送 開 始東 京 、 大 阪 、 名 古 屋 地 区 でスタート、 次 第 に 拡 張2011 年・デジタル 化 完 全 移 行アナログ 放 送 の 終 了2020 年・スーパーハイビジョン 試 験 放 送 開 始 目 標 : 第 7 章BS 21GHz 帯参 考 文 献 :・NHK 放 送 技 術 研 究 所 「 研 究 史 」、1980~1989、1990~1999・NHK 放 送 技 術 研 究 所 「テレビは 進 化 する- 日 本 放 送 技 術 発 達 小 史 」・NHK「NHK は 何 を 伝 えてきたか」・NHK 技 術 研 究 所 「 放 送 技 術 のあゆみ」 他28


付 録 6 ハイビジョンコンテンツリスト注 :『タイトル 名 』: 制 作 年 、 監 督 ( 制 作 )、 本 論 文 との 関 連作 品 概 要 、 制 作 のポイント『ハイビジョンの 幾 つかのイメージ』:1982、 岡 崎 栄 、 第 5 章ハイビジョン 作 品 第 一 作 、 技 研 製 手 作 りのカメラと VTR により 全 国 ロケで 制 作『 日 本 の 美 』:1982、 岡 崎 栄上 記 作 品 の 素 材 を 編 集 し 直 し EBU 総 会 にて 公 開 、 大 きなインパクトを 与 えた『 伊 豆 ・ 箱 根 』:1983、 石 田 武 久 、 第 3 章ハイビジョン 実 験 ・ 評 価 用 ソフト、35mm フィルム、 筆 者 が 企 画 ・ 制 作 を 担 当『チロヌップの 狐 、 網 走 の 夏 』:1983、 岡 崎 栄 、 第 5 章技 研 製 2 号 カメラでロケ、RAI のクルーが 研 修 生 として 参 加『ロサンジェルス・オリンピック』:1984、 向 島 英 孝 、 第 5 章初 の 海 外 制 作 、1 カメ/1Vで 開 会 式 や 水 泳 競 技 収 録 、 技 術 クルーだけで 実 施『ハルニエよ 唄 え、 知 床 の 四 季 』:1984、 吉 沢 章 、 第 5 章つくば 博 仕 様 のハイビジョン 機 器 を 使 、いつくば 博 公 開 用 に 制 作『 鯉 の 夜 叉 が 池 』:1984、 前 川 英 樹TBS 制 作 初 のハイビジョン 作 品 、 梅 沢 劇 団 の 演 技 を 収 録 、 同 局 のハイビジョン制 作 の 原 点『アレイの 鏡 』:1985、 松 本 零 士 、 第 3 章 、 第 4 章35mm によるハイビジョンアニメメーション、レーザーテレシネで 変 換 、つくば 博 で 公 開"Oniricon":1985、エンゾラフィーニ・タルクィーニ、 第 5 章イタリア 放 送 協 会 (RAI)が 制 作 し、 評 価 の 高 いサスペンスタッチの 短 編 ドラマ『 秋 ・ 京 都 』:1985、 沼 野 芳 脩 、 第 5 章NHK 初 のエレクトロ・シネマを 指 向 したドラマ 作 品『 東 京 幻 夢 』:1986、 実 相 寺 昭 雄 、 第 5 章NVS 研 究 会 がハイビジョンの 映 画 応 用 として 実 験 的 に 制 作 した 作 品"Elle";1986、 藤 田 敏 八ハイビジョン 総 合 研 究 会 が 制 作 した 実 験 作 品『シリアの 壺 』:1986NHK 初 の 海 外 ロケ、 水 中 撮 影 挑 戦 、LBR の 録 画 実 験 に 利 用 、シルクロード 博 で 公 開"This is Hi-Vision":1986、NHK エンタープライズハイビジョンの 産 業 応 用 のプロモーション 用 コンテンツ『 名 園 シリーズ( 桂 離 宮 等 )』:1986、NHK、 第 5 章修 学 院 離 宮 、 金 閣 、 銀 閣 など 全 国 の 名 園 でロケ 収 録『 自 然 のアルバム( 富 士 山 等 )』:1986、NHK、 第 5 章南 アルプス、 十 和 田 ・ 八 幡 平 などハイビジョン 空 撮 に 挑 戦『ミツコ、 二 つの 世 紀 末 』:1986、 吉 田 直 哉ウイーンなどで 撮 影 、ロケとスタジオ 映 像 を 合 成 、 印 刷 ・ 出 版 への 応 用"Imagine":1986、バリー・リボ、 第 5 章手 動 のモーションコントロールと 合 成 技 術 を 活 用 、 高 い 評 価 の 短 編 作 品"Julia and Julia":1987、ピーター・デル・モンテ、 第 5 章RAI 制 作 のサスペンスタッチの 本 格 的 映 画 、ソニーPCL が 制 作 、EBR で FV 化 して 公 開『 帝 都 物 語 』:1987、 実 相 寺 昭 雄 、 第 5 章29


日 本 初 の 本 格 的 SFX 映 画 、ハイビジョン 合 成 を 多 用 、レストランシアターでトライ"The Orchestra":1987、ズビグニエフ・リプチンスキー、 第 5 章幻 想 的 な 映 像 世 界 を 表 現 し、ハイビジョンの 最 高 傑 作 と 評 価 、IECF'90 で 特 別 賞『 西 遊 記 』:1988、 内 田 健 太 郎 、 第 5 章松 竹 と NHK 共 同 制 作 の 子 供 向 SFX、フィルムとハイビジョンを 混 在 し 合 成 技 術 を 多 用『 出 発 (たびだち)』:1988、 沼 野 芳 脩 、 第 5 章NHK 初 のエレクトロ・シネマを 謳 った 長 編 ドラマ、ビデオマットを 使 い 多 重 合 成 多 用『まほろば』:1988、 安 藤 耕 平 、 前 川 英 樹森 鴎 外 の「 生 田 川 」 原 作 、TBS 制 作 ドラマ、ロケ 主 体 でモノトーン 調 、IECF でグランプリ『 舞 姫 』:1988、 篠 田 正 浩 、 第 5 章森 鴎 外 原 作 の 映 画 化 、 屋 外 でのハイビジョンブルーマット 合 成 を 多 用『 夢 』:1989、 黒 澤 明 、スピルバーグ、 第 5 章日 米 合 作 のハイビジョン 利 用 映 画 、 静 止 画 と 実 写 映 像 を 多 重 合 成『 赤 いカラスと 幽 霊 船 』:1989、 小 中 和 哉35mm 撮 影 、レーザーテレシネで HV 化 、LBR でフィルム 録 画 、 横 浜 博 で 公 開"Chasing Rainbow":1989、NHK と CBC( 加 )の 共 同 制 作連 続 ドラマ(14 回 )、カナダではダウンコンして 放 送 、 総 集 編 は FV 変 換 し 映 画 化"Ginger Tree":1989、NHK と BBC( 英 )の 共 同 制 作20 世 紀 初 頭 、 英 国 人 女 性 の 生 き 様 を 追 ったハイビジョンドラマ、ダウンコンし 放 送『 記 憶 の 海 、ハイビジョンによるクリムト 展 』:1989、 村 木 良 彦ツデイアンドツモロー(NVS 研 究 会 会 員 )、HV マガジン 第 1 作 、HV アオード 受 賞『 陰 翳 礼 讃 』:1990、 前 川 英 樹 、 宮 田 吉 雄谷 崎 原 作 のドラマ 化 、TBS 制 作 、HV 高 感 度 カメラ 使 用 、IECF'90 グランプリ 受 賞『 黒 い 太 陽 』:1991、 日 向 英 美ハワイで 皆 既 日 食 撮 影 、スーパーハープカメラ 使 用 、IECF'92 グランプリ 受 賞『 全 日 本 プロレス 中 継 』:1991、 渡 邊 忠 文 、 第 6 章NTV 制 作 、 武 道 館 の 競 技 を 衛 星 により 全 国 19 会 場 へ 生 中 継『8 月 の 狂 詩 曲 』:1991、 黒 澤 明 、 第 5 章「 夢 」の 経 験 をさらに 発 展 、 実 写 と CG を 多 重 合 成『プロセペローの 本 』:1991、ピーター・グリナウエイ、 第 5 章日 英 共 同 制 作 、ペイントボックス、ビデオマット 多 用 し 斬 新 な 映 像 表 、 高 い 評 価『 夢 の 涯 てまでも』:1991、ヴィム・ヴェンダース、 第 5 章日 独 米 仏 豪 5 カ 国 共 同 作 品 、デジタル VTR を 利 用 し 夢 のイメージをハイビジョンで 映 像 化『フェスティバル、エギイ』:1991、 河 口 洋 一 郎ハイビジョンと CG の 融 合 、ベネチア、シーグラフなどの 場 で 高 い 評 価『その 木 戸 を 通 って』:1992、 市 川 崑山 本 周 五 郎 原 作 、フジテレの HV ドラマ、ロケ 主 体 、 合 成 多 用 、LBR で FV 化 し劇 場 公 開『 鏡 花 狂 恋 』:1992、 服 部 光 則 、 第 6 章泉 鏡 花 原 作 、ライトビジョンと NHK 共 同 制 作 、 怪 奇 世 界 を 加 工 、 処 理 技 術 で 表 現"Dark Horizon":1992、Rod Findley、 西 村 与 志 木 、南 カリフォルニア 大 学 と NHK 共 同 制 作 、インディアン 伝 説 ドラマ 化 、 砂 漠 で HV ロケ"Vision of Light":1992、Rod Findley、 西 村 与 志 木 、 第 6 章AFI と NHK 共 同 制 作 、 映 画 の 歴 史 を 扱 ったドキュメンタリー、スチールや 35mm 多 用"KAFKA":1992、ズビグニエフ・リプチンスキー、 第 6 章30


カフカの 日 記 をドラマ 化 、モーションコントロールを 使 い 制 作 、IECF でグランプリ『 青 春 牡 丹 灯 篭 』:1993、 三 枝 健 起フィルムルックを 狙 った HV ドラマ、オールロケ、 擬 似 夜 景 技 法 、 実 写 と CG 合 成『 水 の 旅 人 』:1993、 大 林 宣 彦 、 第 5 章フジテレとイマジカ 共 同 制 作 、フィルムと HV 合 成 、LBR で F 変 換 、日 本 アカデミー 特 別 賞 受 賞『 驚 異 の 小 宇 宙 ~ 人 体 Ⅱ 脳 と 心 』:1993、 林 勝 彦 、 第 5 章ハイビジョン 版 バーチャルセット、CG と HV の 合 成 、モーションコントロールカメラ 多 用"Ten Second After":1993、 中 沢 英 夫 、 第 5 章モーションコントロールシステム、 多 重 合 成 で 斬 新 な 映 像 表 現 、IECF グランプリ"Screw and Wall":1994、 中 沢 英 夫 、 第 5 章前 作 をさらに 発 展 、 一 層 斬 新 な 映 像 表 現 、IECF でグランプリ 連 続 受 賞参 考 文 献 :・ 日 経 ニューメディア「ハイビジョン 最 前 線 レポート」 日 経 BP 社・ 志 賀 信 夫 、 沼 野 芳 脩 編 著 「ハイビジョンソフト 入 門 」NHK 出 版 協 会・NHK「ハイビジョンのすべて」NHK 出 版 協 会・その 他 の 引 用 文 献31

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