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「 日 本 語 教 育 通 信 」エッセイ<br />

「 日 本 の 夫 のジレンマ」<br />

にほん おっと<br />

日 本 の 夫 のジレンマ<br />

つちや<br />

土 屋<br />

けんじ<br />

賢 二<br />

にほん かてい かね かんり つま しごと つま はたら<br />

ほとんどの 日 本 の 家 庭 では、お 金 の 管 理 は 妻 の 仕 事 である。 妻 が 働 いていてもいなくても、<br />

おっと ひつよう かね つま さいふ がいこくじん おとこ み<br />

夫 は 必 要 な 金 を 妻 からもらっている。 財 布 のひもをにぎっている 外 国 人 の 男 から 見 ると、<br />

じゅうよう けんり ほうき りかい じっさい にほん おとこ<br />

なぜこのような 重 要 な 権 利 を 放 棄 するのか、 理 解 できないだろう。 実 際 、 日 本 の 男 である<br />

わ<br />

わたしにも、よく 分 からないのだ。<br />

しゅうかん さいきんはじ むかし きゅうりょう び おとこ<br />

この 習 慣 は 最 近 始 まったことではない。 昔 は、 給 料 日 になると、 男 がもらってきた<br />

きゅうりょう<br />

給 料 を 給 料<br />

きゅうりょう<br />

ぶくろ ぜんがく つま わた つま かんしゃ き も<br />

袋 に 入 ったまま 全 額 、 妻 に 渡 し、 妻 は「ありがとう」と 感 謝 の 気 持 ちを 表<br />

あらら<br />

し<br />

ぎしき おっと いっか ささ じぶん ほこ<br />

ていた。この 儀 式 によって、 夫 は、 一 家 を 支 えているのは 自 分 だ、という 誇 りをもつことが<br />

ひつよう かね つま<br />

できたが、それとひきかえに、 必 要 な 金 は 妻 にもらわなくてはならなかった。<br />

さいきん きゅうりょう ぎんこう ふ こ ぎしき すがた け かけい かんり<br />

最 近 では、 給 料 は 銀 行 に 振 り 込 まれるようになったため、この 儀 式 は 姿 を 消 し、 家 計 を 管 理<br />

つま ぎんこう かね ひ だ そうとうすう おっと よきんつうちょう する 妻 は、 銀 行 からお 金 を 引 き 出 すだけでよくなった。 相 当 数 の 夫 は、 預 金 通 帳 がどこに<br />

し かね ひ だ おし<br />

あるかを 知 らず、ATMでお 金 を 引 き 出 すためのパスワードを 教 えられていない。<br />

けっか つま かね てん ふ おも おっと かね つま<br />

この 結 果 、 妻 は「 金 は 天 から 降 ってくるもの」と 思 うようになり、 夫 は「 金 は 妻 にもらう<br />

おも いま おっと つま ひつよう かね<br />

もの」と 思 うようになった。 今 では、 夫 が 妻 から 必 要 な 金 をもらうときに「ありがとう」と<br />

かんしゃ き も あらわ<br />

感 謝 の 気 持 ちを 表 すようになっている。<br />

にほん つま つよ<br />

こうして、 日 本 の 妻 は 強<br />

ぎんこう<br />

銀 行<br />

ふ<br />

に 振<br />

こ<br />

り 込<br />

せいど<br />

む 制 度<br />

よきんつうちょう<br />

わる<br />

が 悪<br />

おっと<br />

にほん<br />

くなり、 日 本<br />

かんが<br />

しても、 預 金 通 帳 を 夫 が 管 理<br />

きゅうりょう ぜんがくつま わた<br />

給 料 を 全 額 妻 に 渡 す 習 慣<br />

おとこ ほこ<br />

の 男 は 誇 りを 失<br />

あやま<br />

うしな<br />

にほん<br />

った。 日 本<br />

いと 考 えているが、それは 誤 りである。 銀 行 振<br />

かんり<br />

しゅうかん<br />

にある。<br />

じたい<br />

していればこのような 事 態<br />

おとこ<br />

の 男 たちは、 給 料<br />

ぎんこう ふ<br />

こ<br />

り 込<br />

きゅうりょう<br />

を<br />

みがあったと<br />

げんいん<br />

にはならなかっただろう。 原 因<br />

すいそく しゅうかん うら かね は<br />

わたしの 推 測 では、この 習 慣 の 裏 には、「お 金 にこだわるのは 恥 ずかしいことだ」という<br />

でんとうてき びいしき りっぱ じんぶつ かね こま<br />

伝 統 的 美 意 識 がある。たしかに、 立 派 な 人 物 ならお 金 に 細 かくこだわることはないだろう。<br />

は、<br />

Copyright The Japan Foundation


「 日 本 語 教 育 通 信 」エッセイ<br />

「 日 本 の 夫 のジレンマ」<br />

おとこ だいふごう かね ひつよう にんげん ほんとう かね むかんしん<br />

もし、 男 が、 大 富 豪 であるか、お 金 を 必 要 としない 人 間 であるか、 本 当 にお 金 に 無 関 心 であ<br />

りっぱ じんぶつ もんだい ざんねん<br />

るかであれば、 立 派 な 人 物 になるのに 問 題 はなかっただろう。しかし 残 念 なことに、ほとん<br />

にほん おっと だいふごう かね かね にんげん にんげん<br />

どの 日 本 の 夫 は、 大 富 豪 ではなく、お 金 がほしくてお 金 にこだわる 人 間 である。そういう 人 間<br />

りっぱ じんぶつ かね たいど にほん おっと くのう<br />

が 立 派 な 人 物 であろうとしてお 金 にこだわらない 態 度 をとるところに、 日 本 の 夫 の 苦 悩 があ<br />

りっぱ じんぶつ かね にほん おっと かか<br />

る。 立 派 な 人 物 でありたい、しかしお 金 もほしい。これが 日 本 の 夫 が 抱 えているジレンマで<br />

ある。<br />

ちゃ みず じょしだいがく<br />

(お 茶 の 水 女 子 大 学 教 授<br />

きょうじゅ<br />

)<br />

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