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1 導入<br />
1<br />
Robert I. Binnick, "Aspect <strong>and</strong> <strong>aspect</strong>uality,"<br />
The H<strong>and</strong>book of English Linguistics, Blackwell, <strong>2006</strong>, pp.244-268<br />
アスペクトという用語が指しているのは,状牮況沬アスペクト(第 2 節),視点ア<br />
スペクト(第 3 節),そして局面アスペクト(第 4 節)だ.研究者によっては (e.g.,<br />
Verkuyl 1996) アスペクトの現象をひとまとめにアスペクト性勯と呼んで,アス<br />
ペクトと区別する.アスペクトとは個別のアスペクト範疇のことだ.ときと<br />
して,状牮況沬アスペクトと視点アスペクトのカバータームとして「アスペクト<br />
性」を用いることもある (Dik 1997).<br />
2 状況アスペクト<br />
2.1 事象のタイプ<br />
状叔況アスペクト (Smith 1983, 1986, 1991),語彙的アスペクト,あるいは動作单相す<br />
なわち「動作の種類」は,事象 (Bach 1981, 1986) または状叔況 (Mourelatos 1978) の<br />
分類に関わる.すなわち,事態や生起をその時間特牐性によって分類すること<br />
に関わり,また二義的には個別言語でそれらを表す表現のタイプを分類する<br />
ことに関わる.<br />
アスペクトとアスペクト性<br />
ロバート・ビニック<br />
状叔態は動詞の exist のような状牮態表現によって明示される.これに対比さ<br />
れるのが出来勵事で,こちらは arrive のような出来事表現で明示される.多<br />
くの研究者は,さらに 3 つ目の種類があるとみている.それが過厢程 (Mourelatos<br />
� アスペクト性:<br />
<strong>aspect</strong>uality<br />
アクチオンスアルト<br />
� 動 作单 相 :<br />
aktionsart<br />
� 事象: eventualities<br />
� 状叔況: situation<br />
� 状叔態: state<br />
� 出来勵事: event<br />
� 過厢程: process
1978) または活卹動 (Vendler 1957) で,run のような過程表現によって明示される.<br />
Vendler (1957) はさらに区別を立てて,瞬間の出来事である到達を明示する<br />
表現 (e.g., win a race) と時間の長さをもつ出来事である達成勱の表現 (e.g., draw<br />
a picture) を分けている.同様に,一度まばたきすることのような,点勷 (Miller<br />
<strong>and</strong> Johnson-Laird 1976) または一回相 (Smith 1991) の過程は,走ることのような<br />
時間の長さがある過程から区別できる.連続表現 (例 (1) の whimper) が明<br />
示するのは連続勸すなわち同一タイプの事象の繰り返し生起だ.<br />
2<br />
(1) The puppy whimpered all night.<br />
(うちの子犬牦が一晩中クンクン鳴いた.)<br />
有名な Vendler (1957) の分類スキーマは動詞や句 (reach the top) を分類す<br />
る.これに対して,Verkuyl (1972) は問題とすべき言語表現の水準は節また<br />
は命題だということを示している.アスペクト分類は,動詞を取り巻く主語<br />
などの表現によって左右されるからだ (Dowty 1979; Platzack 1979; Carlson 1981).<br />
たとえば swam は過程で swam across the pool は出来事だが,(2) は出来<br />
事を指示し (3) は連続を指示する.<br />
(2) One of the applicants swam across the pool.〔出来事〕<br />
(出場者のひとりがプールを端から端まで泳泔いだ.)<br />
(3) All of the applicants swam across the pool.〔連続〕 1<br />
(出場者全員がプールを端から端まで泳泔いだ.)<br />
状牮態は時間の特牐性であるのに対し,出来事と過程はある時において起こる<br />
(Davidson 1967; Parsons 1990).ところが,出来事とちがって過程は指示できる可<br />
算の個体ではない (Bach 1981; Krifka 1989).しかし,ある有界の期間,閉じた期<br />
間(または時間 (period))にわたって過程や状牮態が起こるエピソードは,(4) の<br />
ように出来事に似ている.<br />
(4) I was ex<strong>tr</strong>emely ill only once, but it lasted for weeks.<br />
(大病を患ったのは一度だけだが,そのときは何週間も続いた.)<br />
属するアスペクト分類がちがうと,表現の意味的・文法治的な特牐性も異なって<br />
くる.たとえば,副詞類との相互作用(2.2 節)や視点アスペクトとの相互作<br />
用(3.4 節)が異なってくる.<br />
これまでに,さまざまなタイプの表現の文法治的・意味的特牐性にはその表現<br />
1 訳註:ここで考えているのは,出場者全員が次々と順番に泳泔いだということです.ヨー<br />
イドンで一斉に泳泔いだという解釈ではありません.<br />
� 活動: activity<br />
� 到達迨: achievement<br />
� 達迨成:<br />
� 点: point<br />
accomplishment<br />
� 一回相: semelfactive<br />
� 連连続: a series
の意味構造が反映しているという仮説が立てられている.その意味構造を構<br />
成するのは,そうした表現を含む語彙的要素(形態素)の基底にある基本的<br />
意味要素とされる (Pustejovsky 1990; Tenny 1994; Jackendoff 1996; Levin <strong>and</strong> Rappaport<br />
Havov 1999).<br />
2.2 事象の時間特性<br />
事象のさまざまなクラスを区別する時間特牐性には状叔態性勯,限界化性勯,持匛続勸性勯が<br />
あり,また,累積性勯と分割厎性勯に関してもちがいがある.<br />
3<br />
状牮態は状牮態的だ:状牮態は均質で内部構造がなく展開もない.状牮態以外は,<br />
異なる部分すなわち局面からなりたっていて(2.3 節),時間とともに展開する.<br />
状牮態は長くつづく傾向があり,そのため通常は持続的で,ある期間にわた<br />
って成立する.出来事と過程は持続的なこともあれば瞬間的で非持続的なこ<br />
ともある.山を登るといった完成や加齢のような過程は持続的なのに対し,<br />
路上のコインをみつけるといった到達や一度だけまばたきするといった点的<br />
過程は瞬間的だ.連続はその性質により持続的だ.<br />
出来事は始発状牮態から結果または帰結状牮態への移行なので終厖端がある<br />
(Garey 1957) 2.つまり,内在的な終端または終了限界という成勱就の時点勷がそこ<br />
に含まれている (Moens <strong>and</strong> Steedman 1987).この限界をこえて出来事が進展する<br />
ことはありえない.状牮態,過程,連続には終厖端がない.<br />
しかし,(5) のように,出来事が不完全なものとして表象されるケースは<br />
ある.つまり,その終了点に達しておらず,それに伴って終端または終了限<br />
界を欠いているように表象されるということだ.他方で,(6) のように,出<br />
来事以外の状牮況沬が終了限界を付与されるケースもある.<br />
(5) John was reading Hamlet (when Susan came in).<br />
((スーザンが入ってきたとき)ジョンは『ハムレット』を読んでいた.)<br />
(6) The puppy {was lonely / dozed / barked repeatedly} until his<br />
owners returned.<br />
(飼い主たちが戻ってくるまで子犬牦は{ひとりぼっちだった/うたた寝して<br />
いた/繰り返し吠え続けた}.)<br />
時間特牐性が異なるので,事象のタイプがちがうと共起できる副詞類のタイプ<br />
が異なってくる (Dowty 1979).通常,フレーム副詞類 (in a minute) は出来事表<br />
2 通例,telic/atelic には「限界」「非限界」の訳語が当てられますが,ここでは「終端が<br />
ある」「終端がない」と意訳を当てています.<br />
� 状態性: stativity<br />
� 限逶界性: telicity<br />
� 持続性: durativity<br />
� 累積性: cumulativity<br />
� 分割性: partitivity<br />
� 終端あり: teilc<br />
� 成就の時点:<br />
point of culmination<br />
� 終端なし: ateilc<br />
� フレーム副詞類遲:<br />
frame adverbial<br />
� 起動相:<br />
ingressive/inchoative
現と結びつく.これが出来事以外の状牮況沬と結びつくと,(7) のように起動相<br />
の解釈が惹起され,当該の過程または状牮態の開始が表される.逆に,持匛続勸の<br />
副詞類 (for a while) は通常は境界なしの表現と結びつく.これが (8) のよう<br />
に〔境界のある〕出来事表現と結びつくと,過程としての解釈が惹起される.<br />
4<br />
(7) In a minute, John saw what he had to do. 3<br />
(ほどなくしてジョンは自分のなすべきことを理解した.)<br />
(8) Susan read the book for a while. 4<br />
(スーザンはしばらくその本を読んだ.)<br />
出来事以外の状牮況沬〔状牮態・過程・連続〕は累積的だ (Krifka 1989):すなわち,2<br />
つの連続する事象をあわせると同一タイプの事象が構成される.このため,<br />
(9) と (10) をあわせると (11) が伴立される.また,こうした事象は分割厎可參<br />
能印でもある (Carlson 1981):つまり,こうした事象がある期間にわたって成立<br />
しているとき,その部分もまた同一タイプの事象となる.このため,(11) は<br />
(9) と (10) の両方を伴立する.状牮態には部分期勡間特厣性勯がある:ある表現 e が<br />
あらわす状牮態 s が期間 I にわたって成立しているとき,I 内部の任意の期<br />
間 I’ または時点においても s が成立する (Bennett <strong>and</strong> Partee 1978).<br />
出来事は累積的でも分割可能でもない.このため,たとえば (12) は (13) を<br />
伴立するけれども (14) は (15) と矛盾する.<br />
(9) John {was ill / ran / coughed repeatedly} from noon to 3 in the<br />
afternoon.<br />
期間 I にわたる状牮態 s<br />
部分期間 I’ にわたる状牮態 s<br />
(ジョンは正午から午後 3 時まで{体調が悪かった/走った/繰り返し咳を<br />
3 訳註:see はデフォルトでは「わかっている」という状牮態を表しますが,ここでは,“そ<br />
の状牮態がはじまった”,“「わかっていない」から「わかっている」に移行した”と解釈さ<br />
れます.<br />
4 訳註:read the book はデフォルトでは完結的な状牮況沬(完成相)を表しますが,ここでは<br />
for a while と共起して非完結な過程として解釈されます.<br />
� 持続の副詞類遲:<br />
adverbial of duration<br />
� 累積的: cumulative<br />
� 分割可能: partitive<br />
� 部迲分期間逪特性:<br />
subinterval property
5<br />
しつづけた}.)<br />
(10) John {was ill / ran / coughed repeatedly} from 3 to 5 in the<br />
afternoon.<br />
(ジョンは午後 3 時から 5 時まで{体調が悪かった/走った/繰り返し咳を<br />
しつづけた}.<br />
(11) John {was ill / ran / coughed repeatedly} from noon to 5 in the<br />
afternoon.<br />
(ジョンは正午から午後 5 時まで{体調が悪かった/走った/繰り返し咳を<br />
しつづけた}.<br />
(12) Susan read for five hours.<br />
(スーザンは 5 時間 読書した.)<br />
(13) Susan read for five hours.<br />
(スーザンは 3 時間 読書した.)<br />
(14) Susan read the book within five hours.<br />
(スーザンは 5 時間でその本を読んだ.)<br />
(15) Susan read the book within three hours.<br />
2.3 事象の局面構造<br />
(スーザンは 3 時間でその本を読んだ.)<br />
一般に事象は部分の連続すなわち複数の局面卥から成り立っている.事象のタ<br />
イプがちがうと,含まれる局面もちがってくる.<br />
Moens <strong>and</strong> Steedman (1987, 1988) のモデルは,広く踏襲されているもの<br />
のひとつだ.状牮態と過程は均質な局面から成り立っている.<br />
到達相は,移⾏点勷のみで成立する;この移行点は,ある言外の過程の成就<br />
であることもあれば (arrive),ある状牮態への移行 (appear) や過程への移行<br />
(break into song) であることもある.完成相を構成するのは,準厜備厵局面卥,持続<br />
的過程(山を登っていく活泺動など),そして到達(山の頂上に到達する時点)の<br />
局面だ.これは出来事に固有のものだ.Moens <strong>and</strong> Steedman (1987, 1988) は,<br />
準備過程と成就点の他に結果状牮態も出来勵事核に含めている;これにより,語<br />
りの進勺展(第 6 節)が説明される.こうした局面のいずれも,それじたいが複<br />
合的であるケースがある (Steedman 2001: 11).<br />
� 局面遝: phase<br />
� 移行点:<br />
point of <strong>tr</strong>ansition<br />
� 準備局面遝:<br />
preparatory phase<br />
� 出来事核:<br />
event nucleus<br />
� 語りの進迠展:<br />
narrative advance
6<br />
準備局面は,(16) のように,進行アスペクトによって指示されることがあ<br />
る (§3.2).しかし,進行形は到達相といっしょに用いられもする (17).到達<br />
相には準備局面がない.こうした場合,指示されるのは準備局面に類似する<br />
先⾏局⾯となる (Freed 1979; Johnson 1981).Moens <strong>and</strong> Steedman (1987, 1988)<br />
は,この先行局面とは出来事に先行する初期状牮態だと述べている.(出来事表<br />
現と進行形に関してこれと異なる分析は,§5.3 を参照.)<br />
(16) Mr. Bl<strong>and</strong>ings was building his dream house.<br />
(ブランディングズ氏は夢のような家を建てていた.)<br />
(17) The <strong>tr</strong>ain was arriving at the station.<br />
(列車がまさに到着するところだった.)<br />
局面説において局面が果たす役割については§5.3 を参照.<br />
ある生起の開始や中盤といった段階も局面と呼ばれ,その標識を局面卥アス<br />
ペクトという(第 4 節).<br />
3 視点アスペクト<br />
3.1 視点アスペクトを定義する<br />
視点勷アスペクト (Smith 1983, 1986, 1991) は動詞アスペクトまたは文卽法アスペク<br />
トともいい,広くみられる文法治範疇だが,必ずしもすべての言語でみつかる<br />
わけではない (Dahl 2001).<br />
視点アスペクトには「状牮況沬の時間的な内部構成を見るいろんな方法治」が関<br />
わっている (Comrie 1976: 3).アスペクト標識は,時制標識とちがって,客観的<br />
なちがいを標示するわけではない.同じ事象であっても,(18, 19) のように<br />
表象するやり方を変えることができる.<br />
(18) Susan built kayaks.<br />
(スーザンはカヤックをつくった.)<br />
(19) Susan was building kayaks.<br />
(スーザンはカヤックをつくっていた.)<br />
多くの文法治家は Comrie (1976) を踏襲して完結医アスペクトと非完結医アス<br />
ペクトを区別する.前者は事象を単一の完全な全体としてみる“外的な”視<br />
� 先行局面遝:<br />
preliminary phase<br />
� 段階遁: stage<br />
� 局面遝アスペクト:<br />
phasic <strong>aspect</strong><br />
� 動詞アスペクト:<br />
verbal <strong>aspect</strong><br />
� 文法アスペクト:<br />
grammatical <strong>aspect</strong><br />
� 完結アスペクト:<br />
perfective <strong>aspect</strong><br />
� 非遜完結アスペクト:<br />
imperfective <strong>aspect</strong><br />
� 習慣アスペクト:<br />
habitual <strong>aspect</strong><br />
� 非遜完結アスペクト:<br />
continuous <strong>aspect</strong>
点を提示するのに対して,後者は部分を見る“内的な”視点を提示する;さ<br />
らに,非完結には 2 つの種類が識別される:それは,習慣アスペクトと継続勸<br />
アスペクトだ.前者は事象を連続として表象し,後者は進展中のものとして<br />
──したがって不完全なものとして──表象する.<br />
7<br />
はっきりしたアスペクト標識がないとき単純時制がアスペクトをあらわす<br />
のかどうかに関して,理論家の見解は異なっている.こうした文でとられる<br />
デフォルトのアスペクト解釈は,そのアスペクト・クラスに左右される.出<br />
来事表現は,通常,完全な事象を表象していると解釈される (20).他方,過<br />
程 (21) や状牮態 (22) のように境界なしの表現は不完全な事象を表象してい<br />
ると解釈される.<br />
(20) Mr. Bl<strong>and</strong>ings built his dream house.<br />
(ブランディングズ氏は夢見ていた家を建てた.)<br />
(21) The children played.<br />
(子どもたちは遊んだ.)<br />
(22) John was hungry.<br />
(ジョンは空腹だった.)<br />
このため,論者によっては時制はアスペクトのちがいに関わらないとみるこ<br />
ともある (Hatchher 1951; Comrie 1976: 25).これにともない,アスペクトの局面説<br />
(§5.3)では,アスペクトは随意的とみる.その一方で,アスペクトの有界<br />
性理論(§5.1)と関係理論(§5.2)では,アスペクトは義務的と考え,単純時<br />
制の標識は時制であると同時にアスペクトも標示しているとみる.Smith<br />
(1991) の提案によれば,単純時制は中⽴アスペクトを標示しており,これに<br />
は開始卿限界化とともに事象内部の少なくとも一部は含まれるのだという.これ<br />
に対し,そうではなくて〔単純〕時制は完結的だという見方もある.有界性理<br />
論によれば,それは実際の生起の開始限界と終了限界が両方ともふくまれる<br />
からであり,また,関係理論によれば,参照フレームいっぱいに事象が展が<br />
るからだ.<br />
習慣アスペクトは,used to であらわされること (23) もあれば,法治助動<br />
詞の will/would であらわされること (24) もある.used to と組み合わさる<br />
と状牮況沬はもはや成立していないことになるが,これはこの標識の意味ではな<br />
く取り消洡し可能な推意(文脈による解釈)で,これは "<strong>and</strong> he still does" を<br />
付け加えている例 (23) からわかるとおりだ.習慣アスペクトもまた,現在<br />
時制の非状牮態表現の解釈だ (25).習慣として解釈される表現は一般に (25)<br />
のように総称の解釈もとれる.このとき,ある期間が特牐徴づけられることに<br />
� 中立アスペクト:<br />
neu<strong>tr</strong>al <strong>aspect</strong><br />
� 開逩始限逶界:<br />
initial bound
なり,特牐定の生起や特牐定の主語が指示されることはない.このため,論者に<br />
よっては総匫称アスペクトと呼ぶこともある (Dahl 1985).<br />
8<br />
(23) John used to swim every day, <strong>and</strong> he still does.<br />
(ジョンは毎日泳泔いでいたものだった.いまもそうしている.)<br />
(24) Every now <strong>and</strong> then, John {will/would} suddenly burst into<br />
song.<br />
(いつもジョンはいきなり歌い出す.)<br />
(25) Susan {swam / ate an apple / built kayaks} (regularly / once in a<br />
while).<br />
(スーザンは(きまって/ときおり){泳泔いだものだ/リンゴを食べたものだ<br />
/カヤックをつくったものだ}<br />
(26) The cat catches mice.<br />
(ネコはネズミをつかまえる.)<br />
継続アスペクトは事象を継続中のものとして──したがって不完全なものと<br />
して──表象する.助動詞 be と進行分詞からなる英語の進行形(27 の was<br />
sleeping)は,たんに継続アスペクトをしるしているのだとみる論者もいる一<br />
方で,他の論者 (e.g., Comrie 1976) は進行アスペクトを持続アスペクトの一種と<br />
して定義する.持続アスペクトでは,事象は非状牮態的または動的 (dynamic),<br />
すなわち進展の途中にあると表象される (28).(進行形の意味と用法治について<br />
は§3.2 を参照.)<br />
(27) Susan was sleeping.<br />
(スーザンは眠っていた.)<br />
(28) Mr. Bl<strong>and</strong>ings was building his dream house.<br />
(ブランディング氏は夢のような家を建てていた.)<br />
進行アスペクトに加えて,Dillon (1973) 以来,大半の文法治家は英語には完了<br />
アスペクトもあると考えている.完了アスペクトは完了形によってあらわさ<br />
れ,構造は進行形と似ており助動詞 (have) と完了分詞(29 の swum)からな<br />
りたつ.他方,Trager <strong>and</strong> Smith (1951),Joos (1964),Palmer (1987) は<br />
完了を局面卥と呼び,また Bauer (1970) はステータスと呼ぶ.しかし,Fenn<br />
(1987:247) は完了アスペクトに反論している.完了形はアスペクト標識であ<br />
る進行形と矛盾なく結合できるというのがその根拠だ.現在完了には,他の<br />
完了時制にはない独犉特牐な特牐徴がある.たとえば定の過去時をあらわす副詞と<br />
� 総称アスペクト:<br />
generic <strong>aspect</strong>
結合できない (31, 32) といった特牐徴だ.こうしたことから,現在完了はたん<br />
に現在時制と完了アスペクトが結合しているだけではないのだと論じられて<br />
きた (McCawley 1971; Michaelis 1994).(完了形の意味と用法治については§3.3 を参照.)<br />
9<br />
(29) John has swum across the pool.<br />
(ジョンはプールを泳泔ぎ切っている.)<br />
(30) John has been swimming all afternoon.<br />
(ジョンは午後いっぱいずっと泳泔いでいた.)<br />
(31) *John has swum yesterday.<br />
(ジョンは昨日泳泔いでいる.)<br />
(32) John had swum the day before.<br />
(ジョンはおとつい泳泔いでいた.)<br />
完了は,過去の事象を参照時からみられたものとして表象する(本書第 10<br />
章 Michaelis の第 2 節を参照).be to や be going to といった表現 (33) も同<br />
様に,未来の事象を参照時からみられたものとして表象する.このため,一<br />
部の文法治家によれば (Comrie 1976),こうした表現は前望アスペクトをしるして<br />
いるのだという.単純現在時制と現在進行の未来勵構文卽──相対的な未来──<br />
の解釈(33 の performs, is performing)も,前望アスペクトを構成しているの<br />
だと考える論者もある (Lewis 1986).こうしたさまざまな表現が未来の事象の<br />
予測をあらわすとき,その根拠となることは表現によって異なっている<br />
(Binnick 1974; Smith 1981; Goldsmith <strong>and</strong> Woisetschlaeger 1982; Prince 1982):相対未来時<br />
制と is to (33) は計画された事象,日程の決まった事象であり,is about to<br />
(34) は合理的な期待,そして is going to はこのいずれでもありうるし (33,<br />
34),また意図の場合もある (35).<br />
(33) Next Tuesday, Susan {performs / is performing / is to perform /<br />
is going to perform} before the Queen.<br />
(次の木曜に,スーザンは女王狫の前で演奏する.)<br />
(34) Watch out, it's {about to / going to} blow!<br />
(気をつけろ,爆発しそうだぞ!)<br />
(35) Susan says that she's going to run for public office.<br />
(スーザンが言うには,彼女は公職に立候補するつもりだそうだ)<br />
状牮況沬アスペクトと視点アスペクトの解釈については§3.4 を参照.<br />
� 前望アスペクト:<br />
prospective <strong>aspect</strong><br />
� 未来構文: futurate
3.2 進⾏アスペクト<br />
伝統的に,進行アスペクトは時間特牐性によって定義される.それは,持匛続勸性勯,<br />
非有卻界化性勯,動態性勯だ.<br />
10<br />
進行アスペクトは,事象を持続的なものとして表象するのに対し,完結は<br />
事象を持続のない原子として表象する.このため,時間上の点を指示する副<br />
詞類は完結では開始限界 (36) または終了限界 (37) に限定される.一方,<br />
進行形ではそうした副詞が事象内のどこかの時点を指示できる (38)──進<br />
行形では事象が非有界で終端がないものとして表象されるので,これはその<br />
ように制限されているのだ.<br />
(36) At noon, Susan ran out of the room.<br />
(正午にスーザンは部屋から飛び出した)<br />
(37) At noon, Susan won the marathon.<br />
(正午にスーザンはマラソンで優勝した)<br />
(38) At noon, Susan was {running out of the room / winning the<br />
marathon}.<br />
(正午にスーザンは{部屋から飛び出そうとしていた/マラソンで優勝しよ<br />
うとしていた})<br />
initial bound final bound<br />
(36) at noon (38) at noon<br />
(37) at noon<br />
進行形では,事象は動的で進展しているものとして表象される (March<strong>and</strong><br />
1955);完結では,事象は静的で不変のものとして表象される.このことによ<br />
って,進行形が静的=状牮態的な表現と相容れない理由が説明されるかもしれ<br />
ない (39) (Leech 1971: 20ff; Comrie 1976: 35).とはいえ,進行形は一時的な状牮態を<br />
あらわすのに使われることもあるし (40) (Leech 1971: 22ff),また,強度の変化<br />
がある状牮態 (41) や動作主の行動でもたらされる状牮態 (42) をあらわすのに<br />
使われることもある.<br />
(39) *Paris is being between London <strong>and</strong> Berlin.<br />
(パリはロンドンとベルリンの間にありつつある)<br />
� 非遜有界性:<br />
unboundedness<br />
� 動態性: dynamicity
11<br />
(40) I'm feeling tired.<br />
(だるい.)<br />
(41) They're believing in God more <strong>and</strong> more.<br />
(彼らはますます神への信仰を深浦めている.)<br />
(42) The children are being difficult.<br />
(子どもたちがだんだん扱いにくくなっている)<br />
(43-46) のように,進行形と完結で意味のちがいがあってもわずかでしかな<br />
いタイプの文がある.これは理論家にとって説明のむずかしい課題となって<br />
いる (Hatcher 1951; Comrie 1976: 37).<br />
(43) {You're looking / you look} good.<br />
(調子がいいみたいだね)<br />
(44) They {just said / were just saying} that ...<br />
(彼らが{言った/言っていた}のはたんに…)<br />
(45) {We hereby inform / we are hereby informing} you that ...<br />
(ここに我々はあなたに…と伝える)<br />
(46) {They have played / they have been playing} cards now for ten<br />
hours.<br />
(彼らはもう 10 時間もトランプをやっている)<br />
近年のアスペクト理論における進行アスペクトの分析については,§5.1-5.3<br />
を参照.<br />
3.3 完了アスペクト<br />
完了形には主要な用法治が 4 つある (Comrie 1976: 56ff).結医果卵,経験,継続勸の完了<br />
と,近卐い過厢去の完了だ.McCawley (1971) はこれらをそれぞれ状牮態,存在,<br />
普遍,そしてホット・ニュースの完了と呼んでいる.ホット・ニュースの完<br />
了を例外として,あとの 3 つはすべてさまざまな時制と共起する.ただ,こ<br />
こでは話をかんたんにするために現在時制の例だけをあげる.<br />
結果完了は,過去の出来事の結果としてある事態が生じていることをあら<br />
わす (47).この用法治では近い過去の副詞が使える (just, recently).<br />
� 結果完了:<br />
resultative perfect<br />
� 経験邅完了:<br />
experiential perfect<br />
� 継続完了:<br />
continuative perfect<br />
� 近い過迦去の完了:<br />
perfect of recent past<br />
� 不定過迦去時制:<br />
indefinite past tense
12<br />
(47) Mother has just gone to the store.<br />
(母はさっき店にでかけたところだ)<br />
経験完了があらわすのは,ある事象の過去の生起が少なくとも一回あること<br />
(48) または反復されていること (49) だ (McCawley 1971; Leech 1971: 33).Leech<br />
(1971: 32) は現在完了を不勘定過厢去時制勧と呼ぶ.頻度 (often) や回数 (ever, never,<br />
twice) といった不定時の副詞と共起できるからだ (48).<br />
(48) Mother has been to a World's Fair twice.<br />
(母は World's Fair に 2 回行ったことがある)<br />
(49) Woody Allen has directed {#Annie Hall / an Oscar-winning<br />
film}.<br />
(ウッディ・アレンは{#『アニー・ホール』を/オスカー賞受賞作を}監督<br />
したことがある.<br />
継続完了が示すのは,過去に始まった事象が参照時まで継続しているという<br />
ことだ (50).この用法治は持続の副詞 (for an hour, since yesterday) と共起する.<br />
完了進行形が主に使われるのは継続完了の過程だが,完了そのものが使われ<br />
ることもある (51).<br />
(50) The children have been outside all morning.<br />
(子どもたちは午前中ずっと外にいる)<br />
(51) Susan has {walked / been walking} for three hours now.<br />
(スーザンは 3 時間にわたって{歩いている/歩き続けている}.<br />
近い過去の完了 (52) は少し前に起きたばかりとみなされる出来事を報告す<br />
る.これは近い過去の副詞といっしょに使える.<br />
(52) The council has just voted to raise taxes.<br />
(議会はさっき増税を決議した)<br />
アメリカ英語では過去時制のかわりに現在完了が使われることが多い<br />
(53=54).ただし,継続用法治には置き換えられない (55).<br />
(53) Mother went to the store (<strong>and</strong> is still there).<br />
(母はお店に出かけた(いまもそこにいる))<br />
(54) Mother has gone to the store (<strong>and</strong> is still there).<br />
(母はお店に行っている(いまもそこにいる))
13<br />
(55) *Susan {walked / was walking} for three hours now.<br />
(スーザンはもう 3 時間も{あるいた/あるいていた})<br />
こうした完了形のいろんな用法治は文脈から予測できる解釈であり,その解釈<br />
はさまざまなアスペクト・クラスと共起している副詞のタイプによって左右<br />
されるのであって,完了形がもつ多義ではないのだと考える論者もいる<br />
(Bauer 1970; McCoard 1978; Fenn 1987).ただし,Michaelis (1998) はそうでは<br />
ないと論じている.継続解釈は出来事以外の表現が明示的にであれ暗黙にで<br />
あれ持続の副詞と共起しているときに生じる (56).進行形をとると,出来事<br />
でも継続完了で使える.出来事表現が非出来事的になるからだ (57).進行形<br />
をとらないと,出来事表現は結果か経験として解釈される.結果の解釈を惹<br />
起するのは明示的・非明示的な近い過去の副詞で (58),経験の解釈を惹起す<br />
るのは明示的・非明示的な頻度または回数の副詞だ (59).近い過去の副詞は<br />
必ずしも文自体に含まれていなくてもよく,それどころか明示的でなくても<br />
かまわない.このため,完了形が 2 つ以上の解釈を受けることが可能となっ<br />
ている.文脈があってもそうなることがある(60 は結果と経験のどちらにも<br />
とれる).Michaelis (1998) は (61) を例にあげている.この冗談は,まさに<br />
そうした「あいまい性」を利用したものだ.<br />
(56) Susan has been at the fair for an hour.<br />
(スーザンは一時間にわたってフェアにいた.)〔継続〕<br />
(57) Susan has been reading Hamlet for an hour.<br />
(スーザンは一時間にわたって『ハムレット』を読んでいた.)〔継続〕<br />
(58) Susan has {just / recently} built a kayak in her garage.<br />
(スーザンはガレージで{ちょうど/さっき}カヤックを組み立てたところ<br />
だ.)〔結果〕<br />
(59) Susan has {never / only once / often} built a kayak in her<br />
garage.<br />
(スーザンはガレージで{一度も/一度しかカヤックを組み立てたことがな<br />
い}./スーザンはガレージで{よく}カヤックを組み立てている.)〔経験〕<br />
(60) Susan has built a kayak.<br />
(スーザンはカヤックを{組み立てている〔結果〕/組み立てたことがある〔経<br />
験〕.)
14<br />
(61) I've had a wonderful evening, but this wasn't it. (グルーチョ・マ<br />
ルクス (Groucho Marx))<br />
(すばらしい夕食でした──今晩のことじゃありませんがね)<br />
McCoard (1978) は,完了の理論には 4 つのタイプがあるとしている.「現勶在厪<br />
関連性勯説」によれば,完了は「[参照時における]現在関連性」を前提とする.<br />
これはいくつかの入り組んだ条件に従う.たとえば,現在関連性は主語が生<br />
きていることを要求する.これは一般的なことではあるが (62),常にそうだ<br />
というわけではない (63).「不勘定過厢去説」によれば,完了形はいつと特牐定さ<br />
れない時に過去の出来事が起きていることをあらわす.「拡張された“今”説」<br />
の主張によれば,完了形は参照時を上限とする期間の中で出来事が起きてい<br />
るのをあらわすのに使われる.このため,参照時そのものを含む期間を指示<br />
する副詞なら定の時間をあらわすものでも完了と共起できる (64).「埋め込匸<br />
み過厢去説」の見解では,完了形はたんに過去時制がべつの時制の作用域内に<br />
埋め込まれているのだと考えられる.たとえば (65) なら,これがあたかも<br />
「スーザンが市場に行ったというのは事実である」('it is the case that Susan<br />
went to the fair.') を意味しているかのように考えるのだ.こうした理論のいず<br />
れも,研究者の大多数の賛同を得るにはいたっていない.<br />
(62) {#Melville / Amy Tan} has never written a novel about voles.<br />
({#メルヴィルは/エイミー・タンは},ハタネズミについての小説を書いた<br />
ことがない.<br />
(63) Shakespear has never more highly regarded than today.<br />
(シェイクスピアが今日ほど高く評価されたことはない)<br />
(64) Susan has been to the store {today / this morning}.<br />
(スーザンは{今日/今朝}お店にいた.)<br />
(65) Susan has gone to the fair.<br />
(スーザンはフェアに行っている.)<br />
完了形は〔動詞があらわす事象よりも〕後の時間から事象の生起を見ることをあ<br />
らわし,事象それ自体の「内的な時間構成勱」の視野をとるわけではない.こ<br />
のため,完了形はアスペクトの有界性説(§5.1)にとっては説明上の困難とな<br />
っている.一方,アスペクトの関係説(§5.2)や局面アスペクト説(§5.3)はア<br />
スペクトを斉一に定義する.<br />
� 現在関逫連连性説:<br />
current relevance theory<br />
� 不定過迦去説:<br />
indefinite past theory<br />
� 拡張された“今”説:<br />
extended now theory<br />
� 埋め込み過迦去説:<br />
embedded past theory<br />
� 内的な時間逪構成:<br />
internal temporal<br />
constituency
3.4 視点アスペクトと状況アスペクトの関連<br />
状牮況沬アスペクトはあらゆる面で視点アスペクトと相互作用をみせる.<br />
15<br />
現在時制の文は一般に状牮態的な表現の場合にのみ現在の事象を指示してい<br />
ると解釈される.状牮態的な事象には進行形 (67) や完了形 (68) も含まれる.<br />
出来事や過程の表現では,現在時制は習慣 (69) か総称 (70) の解釈しかとら<br />
ない.ただし,例外もある.報告 (71) や遂行発話 (72) がそうだ.<br />
(66) John {was / is / will be} tall.<br />
(ジョンは背が{高かった/高い/高くなる}.)<br />
(67) Susan {was / is / will be} visiting her mother.<br />
(スーザンは母親に会いに{行っていた/行っている/行っているだろう}.)<br />
(68) Susan {had / has / will have} visited her mother.<br />
(スーザンは母親に会いに{行った/行っている/行っているだろう}.)<br />
(69) Susan visits her mother.<br />
(スーザンは母親に会いに行く.)<br />
(70) Lions eat meat.<br />
(ライオンは肉食だ.)<br />
(71) We now mix the ingredients together, like so.<br />
(ここで材料を混浬ぜ合わせます.こんなふうに.)<br />
(72) I agree.<br />
(賛成です.)<br />
参照時(本書収録の Michaelis 第 2 節)が瞬間的であったり (73) 文が言語行為<br />
(74) や思考 (75) を表す場合には,他の時制も同様にふるまう.<br />
(73) When John opened the door, Susan {#chewed gum / was<br />
chewing gum}.<br />
(ジョンがドアを開けたとき,スーザンは{#ガムを噛んだ/ガムを噛んでい<br />
た}.)<br />
(74) Susan denied that she {#chewed / was chewing} gum.<br />
(スーザンは{ガムを噛んだことを/ガムを噛んでいたことを}否定した.
16<br />
(75) Napoleon was thrilled. Grouchy {#arrived / was arriving}!<br />
(ナポレオンは歓喜した.グルシが{#来た/来る}!) 5<br />
これと対照的に,通常,進行形は状牮態表現といっしょに使えない.ただ,例<br />
外もある(§3.2).<br />
進行形の出来事表現から,非完結医のパラドクスが生じる (Dowty 1977, 1979).<br />
(76) のような文は,ついに起こらないかもしれない出来事や存在しないかも<br />
しれない物片体を指示している;(76) は (77) も (78) も伴立しない.<br />
(76) Susan was building a kayak.<br />
(スーザンはカヤックをつくっていた.)<br />
(77) Susan built a kayak.<br />
(スーザンはカヤックをつくった.)<br />
(78) There was a kayak, which Susan built.<br />
(あるカヤックが存在し,それはスーザンがつくったものだった.)<br />
Dowty (1979, 1986) は可參能印な未来勵の歴史分岐による解決を提案している.<br />
可能な成り行きと可能な物片体を考えるのだ.しかし,Parsons (1989, 1990)<br />
はこの提案を斥けて,部分的な出来事と部分的な物片体による解決を支持して<br />
いる (Vlach 1981; Hinrichs 1983; Cooper 1985; Ter Merlen 1985, 1987).一方,局面アスペ<br />
クト説(§5.3)では,(76) のような文は達成相を指示するのではなくて,そ<br />
の準備局面を指示するのだと考える.<br />
習慣アスペクト〔の表現〕の解釈はそのアスペクト・クラスによって異なる.<br />
状牮態表現で used to を使うと習慣解釈にならない (79).同様に,will/would<br />
や単純時制の場合,非有界の過程 (80) や状牮態 (81) をあらわす表現は起動<br />
相として解釈される.<br />
(79) John used to be {president of the club / ill / heavier than he is<br />
now}.<br />
(ジョンはかつて{クラブの会長だった/病気だった/いまより太っていた}.<br />
(80) Whenever Susan smiled, John {would frown / frowned}.<br />
(スーザンが笑うといつもジョンは{顔をしかめるのだった/顔をしかめた}.<br />
(81) Susan {would underst<strong>and</strong> / understood} complicated<br />
explanations in no time.<br />
(スーザンは複雑な説明をすぐさま{理解するのだった/理解した}.<br />
5 訳註:2 つ目の文は自由間接話法治でナポレオンの考えをあらわしています.<br />
� 非遜完結のパラドクス:<br />
imperfective paradox<br />
� 可能な未来の歴史分岐:<br />
possible future histories
17<br />
進行アスペクトでも,状牮態 (82) や非有界の過程 (83) をあらわす表現は<br />
起動相の解釈を受ける.<br />
(82) If it's the last thing I do, I'm going to be (='become') wealthy<br />
some day.<br />
(ぜったいにいつか金持ちになってやる.)<br />
(83) John's about to play (='start playing') with the other children.<br />
(ジョンは他の子どもたちと遊ぼうとしているところだ.)<br />
同じように,完了アスペクトの文もそれと組み合わさる表現のアスペクト・<br />
クラスによって解釈が異なる(§3.3).<br />
4 局面アスペクト<br />
局面アスペクトは,事象がもつ 1 つまたは複数の局面の指示に関わる.たと<br />
えば,開始 (84) や終了 (85) がそれだ.局面アスペクトは,(84) の begin や<br />
(85) の stop のようなアスペクト化標識(アスペクト化の動詞)によって明<br />
示的に示される場合もあれば,(86) の起動相のように文脈による解釈となる<br />
場合もある.<br />
(84) John began to run.<br />
(ジョンは走り始めた.)<br />
(85) John stopped running.<br />
(ジョンは走るのをやめた.)<br />
(86) At that instant, John finally understood what he had to do.<br />
(その瞬間,ジョンはついになすべきことを理解した.)<br />
事象は開始卿局面卥,中間局面卥,終厖了局面卥に分割される.それぞれ,アスペクト<br />
化 動 詞 ( ア ス ペ ク ト 化 標 識 ) の begin/start, continue/keep/keep on,<br />
stop/cease により定義される (Freed 1979).<br />
Freed (1979) の議論によれば,アスペクト化標識の finish は成就点に先<br />
立つ完遂局面卥を指示する.この局面は終了局面に後続するもので,stop はこ<br />
れを除外する.このため,たとえば (87) は (88) を伴立しないが (88) は<br />
(87) を伴立することとなる.<br />
� アスペクト化標識:<br />
<strong>aspect</strong>ualizer<br />
� 開逩始局面遝: initial phase<br />
� 中間逪局面遝: medial phase<br />
� 終了局面遝: final phase<br />
� 完遂迢局面遝: terminal phase
18<br />
(87) Mr. Bl<strong>and</strong>ings stopped building his dream house.<br />
(ブランディング氏は夢の家を建てるのをやめた.)<br />
(88) Mr. Bl<strong>and</strong>ings finished building his dream house.<br />
(ブランディング氏は夢の家を建て終わった.)<br />
5 アスペクトの諸理論<br />
5.1 アスペクトの有界性理論<br />
Comrie はアスペクトを定義して「ある事象の内的構成の見方」(§3.1) とした.<br />
これにはいくつかの解釈がなされてきた.Smith (1991) は,ある事象のうち<br />
どれだけの部分を含むかという観点からアスペクトを定義する.たとえば完<br />
結相には開始点と終了点とともに事象がまるごと含まれるのに対して非完結<br />
相では開始点・終了点は排除されて事象の一部だけが表象される,というよ<br />
うに考えるわけだ.このため,Smith の理論をアスペクトの有界性理論と呼<br />
ぶことができる.<br />
完了と進行は事象そのものに対する見方をあらわしているわけではなく,<br />
ある参照時から事象をみることをあらわしている(Reichenbach 1947; 本書第 10<br />
章 Michaelis の第 2 節を参照).このため,アスペクトの有界性理論に立つ研究<br />
者は一般に完了アスペクトと前望アスペクトを認めないか,あるいは<br />
Comrie (1976) を踏襲して,これらについては進行や完結とはかなり異なる<br />
定義を行う.<br />
Smith (1986, 1991) のような理論では,アスペクト・クラス(状牮況沬アスペ<br />
クト)と完結・非完結(という視点の)アスペクトとの相互作用が生じる理由<br />
は,アスペクトは開始・終了限界の一方または両方を排除したり包含したり<br />
する一方でさまざまなタイプの事象は有界性に関して異なるからだと考える.<br />
たとえば,進行形は両方の限界を除外することで事象を不完全なものと捉え<br />
る (Smith 1986, 1991) のに対して,完結相は両方の限界を包含するひとまとまり<br />
の全体として事象を表象する (Blansitt 1975).しかし,完了・前望アスペクト(§3.4)<br />
は有界性によって定義されるものではないから,これらとアスペクト・クラ<br />
スの相互作用は進行や完結の場合と同じやり方で説明できない.
5.2 アスペクトの関係理論<br />
Johnson (1981) のようなアスペクトの関係理論では,参照時 R (参照フレ<br />
ームや時間フレームともいう)と事象時 E のあいだに成り立つ関係でアスペ<br />
クトを定義し,事象そのものの時間特牐性では定義しない.Klein (1994) の主<br />
張によれば,非完結相では参照時は事象時の真卢部分期勡間であるとされる.つ<br />
まり,R が完全に E の内部におさまるということだ.これに対し,完結相<br />
では事態は逆になり,E が R の部分期間となるのだという.しかし,E は<br />
R の内部にすっかりおさまることもあれば (90),R と完全に重なってフレ<br />
ームを満たすこともある (91).この説にしたがえば,完結相は事象に対して<br />
外的な視点をとり非完結相は内的な視点をとっているという直観に説明がつ<br />
く.<br />
19<br />
(89) At noon, Susan was driving home.<br />
(正午にスーザンは車で自宅に向かっていた)<br />
(90) Yesterday, Susan saw a shooting star.<br />
(昨日,スーザンは流泿れ星を見た)<br />
(91) While Susan sat reading, John listened to the radio.<br />
(スーザンが座って読書している間,ジョンはラジオを聴いていた)<br />
アスペクトの関係理論により,アスペクトの統一的な説明がえられる.と<br />
いうのも,完了と前望も時間関係により定義できるからだ.ただし,その時<br />
間関係は包含関係ではなく前後関係となる.完了では,事象 E は参照時 R<br />
に先行し,前望ではその逆に R が E に先行する.こうしてアスペクトの関<br />
係理論により 4 つの可能なアスペクトが定義される.<br />
Klein のそれのような理論では完結性をフレームへの事象の包含で定義<br />
するので,状牮況沬アスペクトと視点アスペクトの相互作用に対してなされる説<br />
明は,有界性理論(§5.1)のそれに似たものとなる.よって,状牮況沬アスペクト<br />
がみせる完了や前望との相互作用(§3.4)については有界性理論と同様の困難<br />
を抱えることとなる.<br />
5.3 局面アスペクト理論<br />
他のタイプの理論とはちがって,アスペクトの局面理論 (Moens <strong>and</strong> Steedman<br />
1987, 1988; De Swart <strong>and</strong> Verkuyl 1999; De Swart 2004) は状牮況沬アスペクトと視点アス<br />
� 真部迲分期間逪:<br />
proper subinterval
ペクトを別物片だとみなさない.どちらも事象の時間構造に関わるからだ.状牮<br />
況沬アスペクトは事象そのものの類型(§2.1)にかかわり,他方,アスペクト標<br />
識はアスペクト化標識 (92) や for half an hour (93) のような限定表現 (De<br />
Swart 1998) と同じく,表現を修飾してアスペクト・クラスを転換するのをそ<br />
の役割としている (De Swart 2004).<br />
20<br />
(92) Susan finished {*being happy / !running / *driving <strong>tr</strong>ucks for a<br />
living / building the kayak?.<br />
(93) John swam for half an hour.<br />
この転換すなわちタイプ強勮制勧は明示的に標示されることもあれば,ある表現<br />
の期待されるタイプとじっさいのタイプとのミスマッチにより非明示的に強<br />
制されることもある.たとえば,結果完了と経験完了は通常,事象のあとの<br />
結果状牮態を指示する (94).状牮態や過程の表現 (95) の場合,ある事象につづ<br />
いて生じる状牮況沬はその事象の結果状牮態として解釈される.<br />
(94) Susan has eaten a worm.<br />
(スーザンは虫を食べてしまっている)<br />
(95) Susan has been a teaching assistant.<br />
(スーザンはずっとティーチング・アシスタントを務めている)<br />
進行形は事象の準備局面を指示する(§2.3)ので,状牮態表現には使えない.状牮<br />
態にはそうした局面がないからだ.進行形は達成表現を転換して過程にし,<br />
また,到達表現をタイプ強制によって達成に変える (97).到達には準備局面<br />
があるのだ.Moens <strong>and</strong> Steedman (1987) は,こうした過程を動的な状叔態<br />
とみている.<br />
(96) They were climbing the mountain.<br />
(彼らは山を登っていた.)<br />
(97) They were reaching the summit of the mountain.<br />
(彼らは山頂にたどり着こうとしている.)<br />
完結相にはアスペクト修飾がない.このため,事象のすべての局面が表象さ<br />
れる.有界な出来事 (98) では非有界な場合 (99) とちがって完成の意味が<br />
伝えられる理由はここにある.<br />
(98) They reached the summit of the mountain.<br />
(彼らは山の頂上に到着した.)<br />
� タイプ強制:<br />
type coercion<br />
� 動的な状態:<br />
dynamic state
21<br />
(99) Susan was asleep.<br />
(スーザンは寝ていた.)<br />
完了は状叔態化演算厊子と同様に出来事表現を転換して結果状牮態にする.このた<br />
め,(100) と (101) は相互に伴立する (Moens <strong>and</strong> Steedman 1987).これにとも<br />
ない,完了では((102) のような)境界なしの表現は強制によって起動相(継続<br />
完了)またはエピソード(存在完了)になる.このとき,事象の開始につづ<br />
く状牮況沬は結果状牮態となる.<br />
(100) The windows have broken.<br />
(窓が割られている)<br />
(101) The windows are broken.<br />
(窓が割れている)<br />
(102) John has run for over an hour.<br />
(ジョンは 1 時間以上も走り続けている)<br />
前望アスペクトもこれと同様に出来事表現を転換してその先行局面,すなわ<br />
ち開始局面にする (103).前望アスペクトが指示する事象も,これから継続し<br />
おそらく未来に終了するものではあるものの,未来時制のそれとちがうのは,<br />
なんらかの意味ですでに始まっているという点だ.完了の場合と同じく,終<br />
端なしの表現は強制によって出来事表現となる (104).(しかしながら,本書第<br />
10 章 Michaelis の第 4 節では,未来もまた完了の「鏡像」だと分析し,現在時<br />
制の未来用法治はタイプ強制によるものとしている.)<br />
(103) They're bringing out your puppy next.<br />
(彼らは次にうちの子犬牦を連れ出そうとしている)<br />
(104) They're playing (= 'starting to play') with your puppy next.<br />
(彼らは次はうちの子犬牦とあそぼうとしている(=「遊ぶのをはじめている」)<br />
De Swart と Verkuyl (De Swart <strong>and</strong> Verkuyl 1999: 116; De Swart 2004) は,単純時制<br />
の習慣文 (105) は出来事表現を終端なしへとタイプ強制した結果だと論じ<br />
て単純時制の習慣文 (105) の説明を試みている.「習慣」の will/would と<br />
used to もこれと同様のタイプ強制の標識となっていると理解するのがいち<br />
ばんよいのかもしれない.<br />
(105) Susan usually falls asleep while watching the telly.<br />
(スーザンは普段テレビを見ながら眠ってしまう)<br />
� 状態化演算子:<br />
stativiser
視点アスペクト標識は,アスペクト・クラスの基本タイプを転換して,異な<br />
る談話機能を果たす派泽生的なタイプにする効果がある.たとえば,語りの談<br />
話において前景の出来事に付随する補助的な「背景の」素材は,主として状牮<br />
態文であらわされる (106 の he was hungry) (Hopper 1979).進行アスペクトと完<br />
了アスペクトは,そうした機能を果たす状牮態的なものに文を転換する.たと<br />
えば (107) では出来事表現の slaughter his guards と escape や過程の<br />
march north が転換されて状牮態的な非完結表現となっている.談話における<br />
アスペクトの役割は第 6 節の主題にして論じる.<br />
22<br />
(106) John looked for a place to eat. He was hungry.<br />
(ジョンは食事できる場所を探した.空腹だったのだ.)<br />
(107) News came. Kornilov's faithful Tekhintsi had slaughtered his<br />
guards at Bykhov, <strong>and</strong> he had escaped. Kaledin was marching<br />
north ... (Reed, Ten Days that Shook the World)<br />
(ニュースが入ってきた.コルニロフの忠実な Thekhintsi は Bykhov で守<br />
衛を殺戮し,彼は逃亡したという.カレディンは北へと進軍していた.)(ジ<br />
ョン・リード『世界をゆるがした十日間』)<br />
5.4 アスペクト選択子としての時制<br />
アスペクトの局面理論(§5.3)では,視点アスペクトの機能は表現のアスペク<br />
ト・クラスを転換することだと考える.近年は,こうしたタイプ転換子と並<br />
んでタイプ選択子もあると主張されている.タイプ選択子は特牐定のアスペク<br />
ト・クラスに感応し,これを選択する (de Swart 1998; de Swart <strong>and</strong> Verkuyl 1999).<br />
Michaelis(本書第 10 章第 3 節)の提案によれば,現在時制は状牮態選択子であ<br />
り,基本的な現在時制 (108) であれ,タイプ強制で派泽生されたもの (109) で<br />
あれ,状牮態文でのみ生起する.彼女によれば,出来事文の習慣解釈や総称解<br />
釈 (110) の場合,一連の下位出来事のあいだにある安定期間すなわち休止厙が<br />
現在時制により選択されるのだという.さらに彼女が言うには,未来用法治の<br />
現在時制 (111) には (112) のような文に見られるのと同種の継起性の強制<br />
が反映されている.これの反対に,(113) では状牮態的な述語により事象が同<br />
時だと解釈される.<br />
(108) Susan is tall.<br />
(スーザンは背が高い.)<br />
� アスペクト選迬択子:<br />
<strong>aspect</strong> selector<br />
� タイプ選迬択子:<br />
type selector<br />
� 休止: rest
23<br />
(109) John is eating.<br />
(ジョンは食べている.)<br />
(110) Susan swims.<br />
(スーザンは泳泔ぐ.)<br />
(111) John sings tomorrow.<br />
(スーザンは明日歌う.)<br />
(112) When Susan entered, John leapt up.<br />
(スーザンが入室すると,ジョンは飛び上がった)<br />
(113) When Susan entered, John was leaping up.<br />
(スーザンが入室したとき,ジョンは飛び跳ねていた)<br />
6 談話におけるアスペクト<br />
アスペクトを説明するには談話におけるアスペクトの機能を理解しなくては<br />
ならない.そのテクスト機務能印 (Fleischman 1990, 1991; Waugh 1991) は,全体構造と<br />
局所構造の両方の水準で談話の首匹尾一貫性勯を生み出し,これを維持する.<br />
全体構造は談話のジャンルに左右される.小説のような語りのジャンルは,<br />
会話やルポルタージュのような言説(ディスクール) (Benveniste 1959) や評言匟<br />
(commentary; Weinrich 1964) 構造に関しても時制・アスペクトの用法治に関しても<br />
異なる.語りには前景 (Hopper 1979) がある.通常,前景は出来事をあらわす<br />
単純過去時制の節が連なってできている (114).時制の用法治は照応的で,語<br />
りにおいてそれぞれの節の参照時は他の節が導入した特牐定の時間に連結され<br />
る.語りの背景 (Hopper 1979) は出来事以外の節(115 の2つ目の文)および/<br />
または非完結アスペクトの節(115 の3つ目の文)により成り立つ.<br />
(114) I came, I saw, I conquered. (Caesar, Gallic Wars)<br />
(来た,見た,勝った.)(シーザー『ガリア戦記』)<br />
(115) Tom looked for a restaurant. He was hungry. He hadn't eaten<br />
for hours.<br />
(トムはレストランを探した.空腹だったのだ.もう何時間も食べていなか<br />
った.)<br />
評言のジャンルは出来事以外の文と結びついている (116).時制の用法治は<br />
� テクスト機能:<br />
textual function<br />
� 首遾尾一貫性: coherence<br />
ディスクール<br />
� 言 説 : discours<br />
� 評言: commentary<br />
� 前景: foreground<br />
� 背景: background
直示的で,事象時は相互に関連せず直接に直示の中心に関連する.通常,直<br />
示の中心は発話時となっている.(117) には,(115) とちがい,文どうしの<br />
時間関係がない.<br />
24<br />
(116) Formic acid can be obtained from a colourless fluid secreted by<br />
ants ... It is a s<strong>tr</strong>ong irritant. Commercially it is obtained from<br />
sodium formate ... (Pears Cyclopaedia)<br />
(蟻酸はアリが分泌河する無職の液洷体からえられる.(…)蟻酸は強い刺激物片だ.<br />
市販用には蟻酸ナトリウムからえられる(…))<br />
(117) … before his name became widely known with the publication<br />
of Justine, Durrell had the support of a vigorous minority ...<br />
Henry Miller was the first to speak out for him. (Moore, The<br />
world of Lawrence Durrell)<br />
(Justice の出版爮によって広く名が知られるようになる以前,ロレンス・ダ<br />
レルは熱烈な少数グループの支持を受けていた.(…)ヘンリー・ミラーは,<br />
明瞭に彼の支持を述べた最初の人物片だった.)(ムーア,『ロレンス・ダレルの<br />
世界』)<br />
談話の局所構造においては,アスペクトは3つの水準で首尾一貫性を維持<br />
する役目を果たす.すなわち,言語の水準,意図の水準,注泉目の水準の3つ<br />
だ (Grosz et al. 1995).<br />
言語の水準では,談話の首尾一貫性は時間関係に関わる.それぞれの節の<br />
参照時を先行談話で指示された時によって束縛したりアンカーするのだ.束<br />
縛時は時の副詞 (118) や名詞句 (119) のような表現や節 (120) によって明<br />
示される.<br />
(118) For the next few days the temperature was pleasant.<br />
(その後数日にわたって気温は穏やかだった.)<br />
(119) The war years were hard on Tom's family.<br />
(戦争の数年はトム一家にとってつらいものだった.)<br />
(120) John entered the room. Jane was st<strong>and</strong>ing by the window.<br />
(ジョンは部屋に入った.ジェーンが窓辺に立っていた.)<br />
しかし,語りの談話では,相互に連結された節の参照時は同一ではなく,一<br />
連の節の後に行くほど少しずつ後の時間になるという特牐徴を示す (121);とこ<br />
ろが,出来事以外がつくる背景の節では,一般にこうした語りの進勺展は引き � 語りの進迠展:<br />
narrative advance
起こされない (Kamp 1979; Dry 1981, 1983; Kamp <strong>and</strong> Rohrer 1983; Partee 1984; Hinrichs<br />
1986).<br />
25<br />
(121) Tom came in. Sue held up the newspaper.<br />
(トムがやってきた.スーは新聞をひらいた.)<br />
(122) Tom came in. Sue was holding up the newspaper.<br />
(トムがやってきた.スーは新聞をひらいていた.)<br />
局面アスペクト理論(§5.3)は語りの進展を説明するのにこう仮定する:語<br />
りの連続において,前景の節は直前の節で導入された時間をその参照時にと<br />
る;これには結果状牮態も含まれるが,その時間はアンカー節の参照時より後<br />
のものとなる〔つまり,出来事→結果状牮態の時間差がアンカー節からその後続節までの<br />
語りの進行となる〕 (Moens <strong>and</strong> Steedman 1988).出来事以外がなす背景では,語り<br />
の進展は起こらない (123).そこには結果状牮態がないからだ.<br />
(123) Susan was unhappy. John decided to help her.<br />
(スーザンは不幸だった.ジョンは彼女の助けになろうと決めた.)<br />
文のアスペクト・クラスはアスペクト標識によって変更されることもある<br />
(Moens <strong>and</strong> Steedman 1987, 1988; Boogaart 1999: section 3.3).このため,視点アスペク<br />
トは言語水準の談話の首尾一貫性で中心的な役割を果たす.<br />
時間連続は出来事節の連続で表現される出来事どうしに成り立つ関係のひ<br />
とつにすぎない.出来事は先行する節の事象に先立つこともあるし (124),そ<br />
の一部をなすこともある.これと同様に,出来事以外の節の連続 (126, 127) も<br />
時間連続 (127) を含むさまざまな時間関係を定義する(例文の出典は De Swart<br />
<strong>and</strong> Verkuyl 1999: 157).<br />
(124) The ship sank on its maiden voyage. The crew ran it into an<br />
iceberg.<br />
(その船は処女航海洘で沈没沙した.船員が氷山にぶつけてしまったのだ.)〔※<br />
氷山にぶつかる>沈没沙するという順番〕<br />
(125) John wrote a roman a clef. He wrote Susan into chapter 4.<br />
(ジョンは実話小説を書いた.彼はスーザンを第 4 章に登場させている.)<br />
(126) Hilary entered the room. Phil was reading in his chair.<br />
(ヒラリーは部屋に入った.フィルはイスで読書していた.)
26<br />
(127) Hilary entered the room. Phil was happy to see her.<br />
(ヒラリーは部屋に入った.フィルは彼女に会って喜んだ.)<br />
談話における時間関係は修辞関係厂に左右される (Lascarides <strong>and</strong> Asher 1991, 1993;<br />
Lascarides <strong>and</strong> Oberl<strong>and</strong>er 1993).修辞関係は「首尾一貫性」または「談話匋関係厂」<br />
あるいは「話匋題匑関係厂」とも呼ばれる (Hobbs 1979, 1985; Polanyi 1985; Thompson <strong>and</strong><br />
Mann 1987; Mann <strong>and</strong> Thompson 1988; Scha <strong>and</strong> Polanyi 1988).これらは談話の部分間に<br />
成り立つ関係だ.こうした関係はいずれも時間関係を定義する.語りあるい<br />
は連続 (128) と帰結医 (129) は時間連続を定義する;説明は先匪⾏を,詳細説<br />
明は包含 (125) を,それぞれ定義する.こうした修辞関係が不在の場合<br />
(130),時間連続だけでは談話の首尾一貫性を保証できない (Caenepeel 1995).<br />
(128) A car came slowly down the s<strong>tr</strong>eet. It stopped in front of Harry's<br />
house.<br />
(車がゆっくりと通りを下ってきた.ハリーの家の前で停まった.)<br />
(129) A car stopped in the car park. A dog barked.<br />
(車が一台,駐車場で停まった.犬牦が吠えた.)<br />
(130) A car stopped in the car park. Anna sliced some radishes.<br />
(車が一台,駐車場で停まった.アンナが大根を切った.)<br />
意図の水準では,局所的な談話の首尾一貫性は談話の論理の問題であり,そ<br />
れを構成するのは,それぞれの節を先行する談話のいずれかの部分単位へと<br />
こうした修辞関係によって付加していくことに他ならない.<br />
注泉意の水準では,首尾一貫性とは話題の関連性の問題であり,談話の首尾<br />
一貫性はそれぞれの節を先行する談話の部分単位に結びつけることにより維<br />
持される.これは,語りの場合にはエピソードを出来事を束ねる筋に結びつ<br />
けるということであり,また,語り以外の場合にはスレッドに結びつけると<br />
いうことだ.スレッドとは,共通の話題をもつ言明の集合をさす (Grosz et at.<br />
1995).修辞関係は,先行する談話の部分単位の等位や従位に素材を位置づけ<br />
ることによって注泉意の水準で談話を構造化する (Hobbs 1985; Lascarides <strong>and</strong> Asher<br />
1993; Caenepeel <strong>and</strong> Moens 1994; Spejewsky 1996).これにより,修辞関係は現行の部<br />
分単位を維持したり,副次的な語りの筋をつくりだしたり (131),あるいはス<br />
レッドを従位に位置づけたりする (132).<br />
� 修辞関逫係:<br />
rhetorical relations<br />
� 談話関逫係:<br />
discourse relations<br />
� 話題遮関逫係:<br />
topical relations<br />
� 帰結: consequence<br />
� 先行: precedence<br />
� 詳細説明: elaboration
27<br />
(131) Tom got home late <strong>and</strong> was very tired. He had worked a long,<br />
hard day <strong>and</strong> had a frus<strong>tr</strong>ating drive home through dense<br />
<strong>tr</strong>affic.<br />
(トムは遅く帰宅して疲れていた.長時間の重労働に加え,帰り道の渋浹滞に<br />
イライラさせられていたのだ.)<br />
(132) I told Frank about my meeting with Ira. We had talked about<br />
ordering a Butterfly. (Webber 1988 にもとづく)<br />
(ぼくはイラと会ったことをフランクに話した.ぼくらは「バタフライ」の<br />
注泉文について相談していたのだ.)<br />
等位の修辞関係は典型的には完結アスペクトで標示され,物匵語り (133) や<br />
列挙 (134) といった関係がこれにあたる.従位の修辞関係には説明 (135),詳<br />
細説明 (136),帰結 (137) がある.<br />
(133) Bill sang a song. Jane thanked him on behalf of the audience.<br />
(ビルは歌をうたった.ジェーンは聴衆を代表して礼を述べた.)<br />
(134) Bill sang a song. Jane played the piano.<br />
(ビルは歌をうたった.ジェーンはピアノを伴奏した.)<br />
(135) The waste bin burst into flame. Someone threw a lighted match<br />
into it.<br />
(ゴミ箱から火がでた.誰かが火のついたマッチを投げ入れたのだ.)<br />
(136) Susan visited her aunt Martha. They had tea on the ver<strong>and</strong>ah.<br />
(スーザンは叔母のマーサに会った.2 人はベランダでお茶を飲んだ.)<br />
(137) The waste bin burst into flame. Someone grabbed the fire<br />
extinguisher.<br />
(ゴミ箱から火がでた.誰かが消洡化器をつかんだ.)<br />
完結アスペクトは部分単位を維持する傾向があるのに対し,非完結アスペク<br />
トはしばしば従位スレッドへの移行を標示する.このため,たとえば (138)<br />
にはあいまいさがある一方で (139) では過去完了は第二文が従属スレッド<br />
に属することをあいまいさの余地なく標示している (Webber 1988).<br />
(138) I told Frank about my meeting with Ira. We talked about<br />
ordering a Butterfly.<br />
� 物語り: narration<br />
� 列挙: listing
28<br />
(139) I told Frank about my meeting with Ira. We had talked about<br />
ordering a Butterfly.<br />
持続的なフラッシュバックなどのような副次的な語りの筋では,過去完了<br />
(140) のように通常は語りに結びつかない非完結の時制がみられることがあ<br />
る (Kamp <strong>and</strong> Rohrer 1983; Comrie 1986).<br />
(140) He had not been known to them as a boy; but ... Sir Walter had<br />
sought the acquaintance, <strong>and</strong> though his overtures had not<br />
been met with any warmth, he had persevered in seeking it.<br />
(Austin, Persuasion)<br />
(少年だった彼は,彼らに知られていなかった.しかし(…)ウォルター卿<br />
は知己を得ようとしたのだった.申し出が暖かく迎えられることがなかった<br />
ものの,彼は交際を求め続けた.)<br />
談話の従位接続はしばしば焦点勷化すなわち視座や視点の変化と結びついて<br />
いる.従位構造はしばしばこうした焦点化をあらわす.(141) (Kamp <strong>and</strong> Rohrer<br />
1983) では,過去完了の had eaten がマダム・デュポンの視座をあらわして<br />
いる一方,(142) の完結的な ate は語り手のそれをあらわしている.<br />
(141) The telephone rang. It was Mme Dupont. Her husb<strong>and</strong> had<br />
eaten too many oysters. The doctor recommended a change in<br />
lifestyle.<br />
(電話が鳴った.マダム・デュポンからだった.彼女の夫がオイスターを食<br />
べ過ぎたというのだ.医者はライフスタイルを改めるよう忠告した.)<br />
(142) The telephone rang. It was Mme Dupont. Her husb<strong>and</strong> ate too<br />
many oysters. The doctor recommended a change in lifestyle.<br />
(電話が鳴った.マダム・デュポンからだった.彼女の夫がオイスターを食<br />
べ過ぎたというのだ.医者はライフスタイルを改めるよう忠告した.)<br />
自由間接談話で従位の語りの筋やスレッドの一部がとる構造は,独犉立節の<br />
ような,独犉立の上位単位に特牐徴的なものとなる.自由間接談話は焦点化され<br />
ており,直示的要素がとる直示の中心はそのフレームの参照時となる(i.e., そ<br />
れが暗黙に埋め込まれている思考や発語の行為というフレームの参照時となる).<br />
通常なら直示的な時制が,照応的に用いられる;(143) で now が意味して<br />
いるのは 'then'(そのとき)であり,過去時制の was はそのフレームの参照<br />
時からみれば現在である.<br />
� 焦点化: focalization
要約<br />
29<br />
(143) As his foot touched the deck his will, his purpose he had been<br />
hurrying to save, died out within. It had been nothing less than<br />
getting the schooner under-way, letting her vanish silently in<br />
the night from amongst these sleeping ships. And now he was<br />
certain he could not do it. (Conrad, Within the tides)<br />
状牮況沬アスペクトは生起や状牮況沬をその内在的な時間構造を基準にして過程・状牮<br />
態・連続に分類する.視点アスペクトは事象の時間構造のいろいろな見方を<br />
明示的に標示する.局面アスペクトは生起や状牮況沬の段階をあらわす.状牮況沬ア<br />
スペクトは視点アスペクトと相互作用する.視点アスペクトの旧来の理論で<br />
は,アスペクトは生起や状牮況沬に含まれる終端(もしあるとしてだが)や状牮況沬や<br />
生起とその参照フレームに成り立つ時間関係によって定義されている.もっ<br />
と近年の理論では,視点アスペクトはあるタイプの生起や状牮況沬を転換してべ<br />
つのタイプにするものと分析する.談話でアスペクトがはたす機能には,談<br />
話の首尾一貫性を維持するというものがある.<br />
(※参照文献犰リストは省略)