Aspergillus 由来のユニークな酵素に関する触媒化学的研究
Aspergillus 由来のユニークな酵素に関する触媒化学的研究
Aspergillus 由来のユニークな酵素に関する触媒化学的研究
You also want an ePaper? Increase the reach of your titles
YUMPU automatically turns print PDFs into web optimized ePapers that Google loves.
Aspergilus 由 来 のユニークな 酵 素 に 関 する 触 媒 化 学 的 研 究<br />
Molecular and enzymatic studies of unique enzymes from <strong>Aspergillus</strong><br />
03D5502 多 田 羅 洋 太<br />
指 導 教 員 一 島 英 治<br />
SYNOPSIS<br />
A. oryzae pro-tyrosinase (pro-TY) has a unique feature that the proenzyme is activated under condition of pH<br />
3.0. It was indicated that the homotetramer of pro-TY irreversibly dissociates to dimers at pH 3.0, and then the<br />
binuclear copper active center is exposed. It was suggested that the intermolecular disulfide bridge was formed<br />
between the subunits of the acid-activated tyrosinase (acid-TY). Cys108 residue was indicated to be involved in<br />
the disulfide bond. The retention of the dimer of the acid-TY by the disulfide bridge was essential for the<br />
activity. To investigate the catalytic mechanism of A. saitoi 1,2--mannosidase, the seven conserved acidic<br />
amino acids were studied. Glu124 was estimated to be an acid catalyst. Negative charges at position Asp269 and<br />
Glu411 were essential for the activity. It was suggested that each of Glu273, Glu414 and Glu474 is a binding<br />
site of a substrate. Ca 2+ is not required for the activity. The catalytic mechanism of Ca 2+ -independent<br />
1,2--mannosidase may deviate from the typical glycosyl hydrolases. A. saitoi 1,2--mannosidase contains<br />
three conserved cysteines. Cys334 and Cys363 were involved in a disulfide bond, and Cys443 contained a free<br />
thiol group. The cysteines were not essential for the activity. It was demonstrated that Cys334 and Cys363<br />
formed a disulfide bond and the Cys443 was involved in a hydrophobic interaction to stabilize the enzyme.<br />
Key words: <strong>Aspergillus</strong> oryzae, tyrosinase, acid activation, quaternary structure, A. saitoi, 1,2--mannosidase,<br />
catalytic mechanism, calcium, disulfide bond, thiol group, hydrophobic interaction, site-directed mutagenesis.<br />
1. 緒 言<br />
麴 菌 (<strong>Aspergillus</strong> oryzae)は 日 本 酒 や 醤 油 、 味 噌 、 味 醂 と<br />
いった 日 本 のバイオ 産 業 の 主 役 となる 微 生 物 である[1]。 麴<br />
菌 と 近 縁 種 である 黒 麴 菌 (A. saitoi)は 焼 酎 や 酢 の 醸 造 に<br />
用 いられている。これらの 菌 の 安 全 性 と 食 に 与 える 高 い 機<br />
能 性 、 嗜 好 性 は、 日 本 のみならず 世 界 で 注 目 されている。<br />
麴 菌 は 日 本 人 が 古 来 より 親 しんでいる 菌 であり、まさに 日 本<br />
の「 国 菌 」と 言 える[2]。<br />
チロシナーゼは 生 体 防 御 に 関 わるメラニンを 生 合 成 する<br />
鍵 酵 素 である。 糸 状 菌 におけるメラニンの 役 割 としては、 器<br />
官 の 分 化 や 胞 子 形 成 、 病 原 性 糸 状 菌 の 毒 性 、 組 織 の 損 傷<br />
に 対 する 防 御 があげられる。チロシナーゼは 日 本 酒 の 醸 造<br />
において、 日 本 酒 を 褐 色 化 してしまうため 嫌 われている 酵<br />
素 である[3]。A. oryzae チロシナーゼは pH 3.0 において 酵<br />
素 が 活 性 化 するという 特 異 的 な 性 質 を 持 つ[4]。 本 酵 素 の 四<br />
次 構 造 はホモ 四 量 体 であり、 活 性 中 心 はサブユニットあたり<br />
2 つの 銅 原 子 である。このような 複 雑 な 構 造 をした 麴 菌 チロ<br />
シナーゼの 活 性 化 機 構 の 解 明 を 目 指 した。<br />
糖 タンパク 質 のアスパラギン 結 合 型 糖 鎖 は 細 胞 内 の 情 報<br />
伝 達 機 能 を 持 つ[5]。1,2--マンノシダーゼは、 糖 タンパク 質<br />
の 糖 鎖 プロセシングに 関 与 している 酵 素 である。 黒 麴 菌 A.<br />
saitoi 由 来 1,2--マンノシダーゼのバイオテクノロジーにお<br />
ける 利 用 としては 2 つ 挙 げられる[6]。 一 つは 高 マンノース 型<br />
糖 鎖 の 構 造 解 析 における 利 用 であり[7]、もう 一 つは 糖 鎖 構<br />
造 の 分 子 設 計 への 利 用 である[8]。<br />
近 年 、 糸 状 菌 P. citrinum 1,2--mannosidase と 阻 害 剤 が 複<br />
合 体 を 形 成 した X 線 結 晶 構 造 が 解 析 された[9]。 阻 害 剤 /<br />
基 質 との 位 置 関 係 から、Glu122 (A. saitoi の 酵 素 では<br />
Glu124)とAsp267 (Asp269)あるいは Glu409 (Glu411)の 2<br />
残 基 が 触 媒 反 応 に 直 接 関 与 しうるアミノ 酸 残 基 であると 推 定<br />
された。しかし、 詳 細 な 酵 素 化 学 的 解 析 は 行 われておらず、<br />
それらの 残 基 の 役 割 は 実 験 的 に 明 らかとなっていない。ま<br />
た Ca 2+ は 1,2--マンノシダーゼ 活 性 に 必 須 であることから、<br />
Ca 2+ は 触 媒 反 応 に 関 与 している 可 能 性 があるとされている。<br />
本 研 究 においては A. saitoi 1,2-α-マンノシダーゼに 保 存<br />
されている 7 つの 酸 性 アミノ 酸 残 基 について 部 位 特 異 的 変<br />
異 を 導 入 し、 変 異 酵 素 の 動 力 学 的 パラメーターの 測 定 から<br />
酵 素 の 触 媒 アミノ 酸 残 基 の 同 定 を 行 う。<br />
システインの 硫 黄 原 子 は 様 々な 酸 化 状 態 をとる。これによ<br />
り、タンパク 質 の 安 定 性 や 金 属 結 合 、 触 媒 活 性 、 求 核 性 な<br />
どといった 広 範 囲 にわたる 化 学 的 、 生 物 化 学 的 性 質 が 見 ら<br />
れる[10]。システインはしばしばジスルフィド 結 合 を 形 成 する。<br />
ジスルフィド 結 合 の 役 割 としては、 酵 素 活 性 や 酸 化 ダメージ<br />
に 対 する 防 御 、タンパク 質 のフォールディングと 安 定 化 、 生<br />
物 学 的 反 応 の 制 御 といったことがあげられる[11]。A. saitoi<br />
1,2--マンノシダーゼは 3 つの 保 存 されたシステイン 残 基 を<br />
持 つ(Csy334, Cys363, Cys443)。これらのシステイン 残 基 の<br />
役 割 を 解 明 するために 部 位 特 異 的 変 異 と 熱 安 定 性 につい<br />
て 調 べた。<br />
2. A. oryzae チロシナーゼの 酸 活 性 化 機 構 の 解 明<br />
pro-TY は pH 3.0 において 著 しい 活 性 化 がおこった。この<br />
酸 活 性 化 の 過 程 は 20 分 間 でほぼ 完 了 した。 他 の 試 薬 など<br />
による 活 性 化 の 有 無 を 調 べた 結 果 、SDS が 0.01%のとき 比<br />
活 性 が acid-TY の 19%となりわずかな 活 性 化 が 見 られたが、<br />
尿 素 やエタノール、アセトニトリル、NaCl、プロテアーゼ<br />
(trypsin とchymotrypsin)による 活 性 化 は 見 られなかった。
Table 1<br />
Determination of molecular mass by the gel-filtration chromatography.<br />
Condition Molecular mass Quaternary structure Relative activity<br />
(kDa) %<br />
Pro-TY 266 Tetramer <br />
Acid-TY 165 Dimer 100<br />
Reduced a 68 Monomer N.D.<br />
Oligo-C108A 380 Oligomer 1.3 b<br />
Mono-C108A 68 Monomer N.D. b<br />
a<br />
The gel-filtration chromatography was performed in the presence of 2% -mercaptoethanol at pH 7.0.<br />
b The mutant enzyme was acid-activated before the enzyme assay.<br />
Fluorescence Fluorescence intensity ( )<br />
( )<br />
0mM<br />
DTT<br />
Cys82<br />
☆<br />
10 20 30 0 40 50 60 70 80<br />
Time (min)<br />
A ( ----- )<br />
230<br />
Fluorescence intensity<br />
100<br />
80<br />
60<br />
40<br />
20<br />
339 nm<br />
346 nm<br />
Fluorescence Fluorescence intensity ( )<br />
( )<br />
1mM<br />
DTT<br />
Cys108<br />
☆<br />
Cys82<br />
☆<br />
A (-----)<br />
230<br />
0<br />
300 350 400 450<br />
Emission Emission wavelength (nm)<br />
(nm)<br />
Fig. 1.<br />
Fluorescence spectra of pro-TY ()<br />
and acid-TY (----) with an excitation<br />
wavelength of 295 nm.<br />
0 10 20 30 40 50 60 70 80<br />
Time (min)<br />
Fig. 2.<br />
The reverse-phase HPLC of trypsin-digested tyrosinase<br />
in the absence or presence of DTT.<br />
acid-TY の SDS-PAGE を 行 った 結 果 、pro-TY と 分 子 質 量<br />
に 変 化 は 見 られなかった。 混 入 したプロテアーゼによるプロ<br />
セシングなどは 酸 活 性 化 に 関 与 しないと 言 える。<br />
pro-TY とacid-TY をそれぞれ 0.1M EDTA で 処 理 し、 脱 塩<br />
した 後 、 原 子 吸 光 でタンパク 質 あたりの 銅 原 子 濃 度 を 測 定<br />
した。この 結 果 、pro-TY にはサブユニット1mol あたり2mol<br />
の 銅 原 子 が 確 認 され、acid-TY には 銅 原 子 は 含 まれていな<br />
かった。このことから 酸 活 性 化 により 構 造 が 変 化 して 活 性 中<br />
心 が 露 出 したと 考 えられる。<br />
ネイティヴ 状 態 におけるゲルろ 過 から、pro-TY と acid-TY<br />
の 分 子 質 量 はそれぞれ、266kDa と165kDa であった (Table<br />
1)。pro-TYは 四 量 体 で、acid-TYは 二 量 体 であることが 示 唆<br />
された。 四 量 体 の pro-TY が pH 7.0 からpH 3.0 になったとき<br />
二 量 体 に 解 離 し、 活 性 中 心 の 銅 原 子 が 露 出 すると 考 えられ<br />
る。この 酸 性 条 件 、または SDS により 解 離 する 二 量 体 間 の<br />
結 合 には 極 性 相 互 作 用 が 関 与 していると 考 えられる。<br />
CD スペクトルの 解 析 からpro-TY とacid-TY の 二 次 構 造 に<br />
大 きな 変 化 は 見 られなかったが、 三 次 構 造 に 大 きな 変 化 が<br />
あった。またトリプトファン 蛍 光 スペクトルでは 酸 活 性 化 によ<br />
りレッドシフト(339nm→346nm)と 蛍 光 強 度 の 減 少 が 見 られ<br />
た (Fig. 1)。 疎 水 性 アミノ 酸 残 基 に 結 合 する 蛍 光 試 薬<br />
8-anilino-1-naphthalene sulfonic acid (ANS)とpro-TY または<br />
acid-TY を 反 応 させたところ、pro-TY では ANS の 結 合 はほ<br />
とんど 見 られなかったが、acid-TY には ANS が 結 合 した。こ<br />
れらの 結 果 から、 酸 活 性 化 により 三 次 構 造 に 顕 著 な 変 化 が<br />
おき、これに 伴 って 疎 水 性 残 基 が 露 出 することが 示 された。<br />
還 元 状 態 におけるゲルろ 過 では pro-TY は 68kDa となり、<br />
単 量 体 であった (Table 1)。このことから、サブユニット 間 の<br />
結 合 にジスルフィド 結 合 が 関 与 していることが 示 唆 された。<br />
このジスルフィド 結 合 は 活 性 型 の acid-TY の 二 量 体 を 保 持<br />
していると 考 えられる。<br />
シ ス テ イ ン に 特 異 的 に 結 合 す る 蛍 光 試 薬<br />
4-fluoro-7-sulfamoylbenzofurazan (ABD-F) を 用 い て 、<br />
pro-TY のトリプシン 断 片 から 遊 離 システインを 含 むペプチド<br />
を 逆 相 HPLC により 分 取 した。このアミノ 酸 配 列 を 決 定 したと<br />
ころ、このペプチドは Cys82 を 含 む 配 列 であった。Cys82 の<br />
みが 遊 離 システインであることがわかった (Fig. 1)。1mM<br />
DTT 存 在 下 において 同 様 の 実 験 を 行 った 結 果 、Cys82 と<br />
Cys108 をそれぞれ 含 むペプチドが 同 定 された (Fig. 2)。<br />
Cys82 は 銅 原 子 の 配 位 子 の 1 つであることが 報 告 されてい<br />
る[12]。Cys108 とジスルフィド 結 合 の 対 となるシステインが 見<br />
られないことから、Cys108 は 他 のサブユニットのCys108 と 分<br />
子 間 のジスルフィド 結 合 を 形 成 していることが 示 唆 された。<br />
その 他 の6 つのシステイン 残 基 は 分 子 内 のジスルフィド 結 合<br />
に 関 与 していると 考 えられる。C108A 変 異 遺 伝 子 を 作 成 し、<br />
野 生 型 酵 素 と 同 様 に 大 腸 菌 により 発 現 を 行 ったところ、<br />
68kDa の 単 量 体 C108A (mono-C108A)と380kDa の 多 量 体<br />
C108A (oligo-C108A)が 生 産 された。mono-C108A には 酵<br />
素 活 性 がまったくなかったが、oligo-C108A は 酸 活 性 化 を 経<br />
て 活 性 をわずかに 示 した (Table 1)。これらのことからサブユ<br />
ニット 間 のジスルフィド 結 合 を 形 成 する Cys108 は、acid-TY<br />
が 二 量 体 を 保 持 するために 重 要 な 残 基 であり、 活 性 に 必 須<br />
のシステインであることが 示 唆 された。
Table 2<br />
Kinetic parameters of wild type and mutant 1,2--mannosidases.<br />
Table 3<br />
Comparison of kinetic parameters and T m of WT, C334A, C363A and C443A.<br />
Mutant<br />
K m<br />
k cat<br />
k cat<br />
/K m<br />
(mM) (s -1 ) (s -1 ・mM -1 ) (%)<br />
Enzyme K m k cat k cat /K m T m<br />
(mM) (s -1 ) (s -1 ・mM) (C)<br />
Wild type 0.28 2.5 9.04 100<br />
E124Q 0.13 0.0078 0.062 0.7<br />
E124D 0.49 0.022 0.044 0.49<br />
D269N N.D. a N.D. a N.D. a -<br />
D269E 4.8 0.51 0.11 1.2<br />
E273D 7.0 0.37 0.054 0.6<br />
E411Q N.D. a N.D. a N.D. a -<br />
E411D 8.0 1.4 0.18 2.0<br />
E414D 8.6 0.037 0.0043 0.05<br />
E474D 6.4 0.023 0.0036 0.04<br />
WT 0.719 0.013 8.51 0.09 11.8 55.8<br />
C334A 0.296 0.006 3.87 0.12 13.0 49.6<br />
C363A 0.780 0.007 9.48 0.03 12.2 49.6<br />
C443A 0.719 0.007 6.67 0.04 9.3 51.9<br />
a T m is a transition midpoint, which is an apparent value because the thermal denaturation is not reversible.<br />
Table 4 Specific activities, melting temperatures (T m<br />
) of Cys443<br />
variants and amino acid properties.<br />
Standard error in kinetic parameters: K m (±2.6-10.4 %) and k cat (± 1.8-4.8 %).<br />
a : N.D. = not detected.<br />
Relative activity ( (%)<br />
% )<br />
100<br />
80<br />
60<br />
40<br />
20<br />
0<br />
2 3 4 5 6 7 8<br />
pH<br />
Fig. 3. pH-activity profiles of wild type 1,2--mannosidase<br />
(─○─), E124D (- - -□- - -) and E124A (- - ▲ - - ) mutant<br />
enzymes represented as relative activities.<br />
The absolute activity value of the E124A mutant at pH 5.0 corresponds to<br />
about 0.015 % of the wild type enzyme activity.<br />
Amino acids<br />
at position 443<br />
Specific activity T m<br />
Van der Waals<br />
volume a<br />
(m katal / kg) (C) (Å 3 )<br />
Cys (WT) 47.4 55.8 86 +2.5<br />
Thr 44.9 52.8 93 - 0.7<br />
Ala 38.3 51.9 67 +1.8<br />
Gly 44.0 50.2 48 - 0.4<br />
Ser 47.1 50.0 73 - 0.8<br />
Asp 19.8 N.D. c 91 - 3.5<br />
Val 20.7 N.D. 105 +4.2<br />
Leu 11.7 N.D. 124 +3.8<br />
Met 14.5 N.D. 124 +1.9<br />
Asn d 96 - 3.5<br />
Ile 124 +4.5<br />
Phe 135 +2.8<br />
Tyr 141 - 1.3<br />
Hydrophobicity b<br />
a : The data are from: Richards, F. M. (1974) J. Mol. Biol., 82, 1-14.<br />
b : The data are from: Kyte, J. and Doolittle, R. F. (1982) J. Mol. Biol., 157, 105-132.<br />
c : T m values were not determined because the mutant enzymes were<br />
denatured structures.<br />
d : Mutant enzymes were not secreted to culture media.<br />
3. A. saitoi 1,2--マンノシダーゼの 触 媒 中 心 の 決 定 とCa 2+<br />
の 役 割<br />
E124Q、E124D において k cat 値 の 著 しい 減 少 が 見 られた<br />
(Table 2)。これは E124 の 位 置 に 部 位 特 異 的 変 異 によって、<br />
触 媒 反 応 が 大 きな 障 害 を 受 けていることを 意 味 している。<br />
E124Q、E124D の K m 値 は、 野 生 型 酵 素 と 比 較 して 本 質 的<br />
な 変 化 は 見 られなかった。このことから、E124 は 触 媒 反 応 に<br />
直 接 関 与 していると 結 論 できる。さらに、E124D 変 異 酵 素 の<br />
pH− 活 性 プロファイルでは、 至 適 pH が 5.0 から4.0 に 変 化<br />
した(Fig. 3)。この 結 果 は E124 が 直 接 触 媒 反 応 に 関 与 して<br />
いることを 支 持 している。E124A の 変 異 の 導 入 により、pH- 活<br />
性 プロファイルの 塩 基 性 側 の 活 性 が 特 に 大 きな 減 少 が 見 ら<br />
れた。 一 般 的 に 至 適 pH の 塩 基 性 側 の 活 性 は、 酸 触 媒 に 影<br />
響 を 受 ける。このことから、E124 は 触 媒 反 応 時 において、カ<br />
ルボキシル 基 の 状 態 で 存 在 しており、 酸 触 媒 であると 推 定 さ<br />
れる。<br />
通 常 、 糖 質 分 解 酵 素 の 触 媒 反 応 には 2 つの 酸 性 アミノ 酸<br />
残 基 が 関 与 する。P. citrinum の 結 晶 構 造 解 析 から、もう 一 方<br />
の 触 媒 アミノ 酸 残 基 として 最 も 有 力 な 候 補 は D269 と E411<br />
である。D269N とE411Q 変 異 酵 素 はそれぞれ 酵 素 活 性 を<br />
完 全 に 失 っていた(Table 2)。しかし、D269E とE411D 変 異<br />
酵 素 はどちらも 決 定 的 な k cat 値 の 減 少 が 見 られなかった。こ<br />
れらの 残 基 の 位 置 に 酸 性 アミノ 酸 残 基 があることが、 酵 素 の<br />
触 媒 反 応 に 必 須 であるようである。E269N、E411A 変 異 酵<br />
素 に 対 して、 外 来 性 の 求 核 基 NaN 3 は 酵 素 活 性 を 回 復 させ<br />
なかった(data not shown)。もしD269 とE411 のどちらかが 塩<br />
基 触 媒 であったとしたら、これらの 変 異 酵 素 は N 3 - などの 外<br />
来 性 の 求 核 基 により 酵 素 活 性 が 回 復 する 可 能 性 がある。し<br />
かし、 結 果 はそうならなかった。このことからD269 とE411 は<br />
一 般 的 な 意 味 での 塩 基 触 媒 ではないと 考 えられる。1,2-α-<br />
マンノシダーゼの 触 媒 反 応 機 構 は、 従 来 の 典 型 的 な 糖 質<br />
分 解 酵 素 とは 異 なることを 明 らかにした。<br />
E273D、E414D、E474D 変 異 酵 素 は k cat 値 の 減 少 と、K m<br />
値 の 増 加 が 同 時 に 見 られた(Table 2)。このことから E273、<br />
E414、E474 は 基 質 結 合 に 関 与 し、 基 質 をより 反 応 しやすい<br />
構 造 に 変 化 させていると 考 えられる。E273、E414、E474 は<br />
基 質 結 合 に 関 与 する 残 基 である。<br />
一 般 的 には 1,2-α-マンノシダーゼの 酵 素 活 性 には Ca 2+<br />
が 必 須 である。しかし、 原 子 吸 光 による 解 析 から、A. saitoi<br />
1,2-α-マンノシダーゼは Ca 2+ を 結 合 していなかった。EDTA<br />
による 阻 害 の 形 式 を 見 たところ、EDTA は 酵 素 活 性 を 拮 抗<br />
阻 害 することがわかった。 本 酵 素 は 二 価 の 金 属 イオンを 結<br />
合 していないと 言 える。 本 酵 素 に Ca 2+ 処 理 を 行 ったところ、<br />
タンパク 質 1mol 当 たり、およそ 1 mol の Ca 2 が 結 合 するこ<br />
とがわかった。しかし、Ca 2+ を 結 合 した 酵 素 と、Ca 2+ を 結 合 し<br />
ない 酵 素 では 動 力 学 的 パラメーターに 変 化 が 見 られなかっ
た(data not shown)。A. saitoi 1,2-α-マンノシダーゼに Ca 2+<br />
は 必 須 ではないと 言 える。 酵 素 活 性 に Ca 2+ を 要 求 しない<br />
1,2-α-マンノシダーゼが 初 めて 見 出 された[13]。<br />
4. A. saitoi 1,2--マンノシダーゼのシステイン 残 基 の 役 割<br />
ABD-F を 用 いて A. saitoi 1,2--マンノシダーゼのトリプシ<br />
ン 断 片 から 遊 離 システインを 含 むペプチドを 逆 相 HPLC に<br />
より 分 取 した。このアミノ 酸 配 列 を 決 定 したところ、このペプ<br />
チドは Cys443 を 含 む 配 列 であった。Cys334 とCys363 はジ<br />
スルフィド 結 合 に 関 与 し、Cys443 は 遊 離 チオール 基 を 含 む<br />
ことが 明 らかとなった。<br />
C334A とC363A, C443A 変 異 酵 素 の 反 応 動 力 学 的 パラメ<br />
ーターは 野 生 型 酵 素 (WT)とほぼ 同 じであった (Table 3)。<br />
3 つのシステイン 残 基 は 酵 素 活 性 に 関 与 しない。<br />
C334A とC363A の 熱 融 解 温 度 T m はどちらも49.6℃となり<br />
WT より6.2℃ 低 かった。Cys334 とCys363 はジスルフィド 結<br />
合 を 形 成 することにより 酵 素 の 熱 安 定 性 に 大 きく 寄 与 してい<br />
ると 言 える。<br />
Cys443 について12 種 類 の 変 異 酵 素 を 作 成 し 熱 安 定 性 に<br />
ついて 検 討 した (Table 4)。C443I, C443F, C443Y といった<br />
側 鎖 が 大 きなアミノ 酸 のとき 変 異 酵 素 は 生 産 されなかった。<br />
443 の 位 置 の 大 きな 側 鎖 によりタンパク 質 のフォールディン<br />
グが 妨 げられ、 宿 主 の 品 質 管 理 機 構 によりミスフォールディ<br />
ングタンパク 質 として 認 識 され、 除 去 されたものと 考 えられ<br />
る。<br />
アスパラギン 残 基 の 側 鎖 は 比 較 的 小 さいにもかかわらず<br />
C443N も 生 産 されなかった。445 の 位 置 はトレオニンであり、<br />
443 がアスパラギンになったことでアスパラギン 結 合 型 糖 鎖<br />
の 潜 在 的 な 付 加 部 位 がうまれる。C443N の Asn443 はおそ<br />
らくグリコシル 化 を 受 けており、この 糖 鎖 が 酵 素 にとって 好 ま<br />
しくなかったと 考 えられる。<br />
C443D や C443M, C443L, C443V の 比 活 性 は WT の 50%<br />
以 下 であった。CD スペクトルの 解 析 から、これらの 変 異 酵<br />
素 は 部 分 的 に 変 性 した 構 造 をしていることが 示 唆 された。ア<br />
スパラギン 酸 とバリンはそれぞれ C とC に 分 岐 を 持 つ。この<br />
分 岐 の 側 鎖 が 酵 素 の 変 性 を 引 き 起 こしたと 考 えられる。ロイ<br />
シンとイソロイシンは 同 じvan der Waals 体 積 を 持 ち、それぞ<br />
れ C とC に 分 岐 を 持 つ。C443L は 分 泌 されたが C443I はさ<br />
れなかった。C に 分 岐 を 持 つイソロイシンの 側 鎖 は、タンパ<br />
ク 質 が 正 規 のフォールディングをするのにより 大 きな 立 体 障<br />
害 となったと 考 えられる。メチオニンはシステインと 同 じく 硫<br />
黄 を 含 んだアミノ 酸 である。C443M もまた 部 分 的 に 変 性 した<br />
構 造 であった。これはメチオニンの 大 きな van der Waals 体<br />
積 によるものであると 考 えられる。<br />
C443A や C443G, C443S, C443T といった 変 異 酵 素 は WT<br />
と 同 様 の 比 活 性 を 持 ち、CD スペクトルから 正 規 の 構 造 を 取<br />
っていることが 示 唆 された。C443T は 最 も 熱 安 定 性 の 高 い<br />
変 異 酵 素 であった。C443T の T m 値 の 減 少 はトレオニンの 低<br />
い 疎 水 性 度 によるものと 考 えられる。C443A は 2 番 目 に 熱<br />
安 定 性 な 変 異 酵 素 であった。その 次 が C443S であった。<br />
443 の 位 置 の 疎 水 性 度 が 酵 素 の 熱 安 定 性 に 重 要 であること<br />
が 示 唆 された。C443G は 熱 に 対 して 不 安 定 な 変 異 酵 素 であ<br />
った。システインがグリシンに 置 換 することにより 空 隙 がうま<br />
れ、 不 安 定 化 を 引 き 起 こしたと 考 えられる。<br />
以 上 からCys443 に 関 する12 種 類 の 変 異 酵 素 を3 つのグ<br />
ループに 分 類 することができる。 第 1 のグループは C443F と<br />
C443I, C443N, C443Y で、 変 異 酵 素 が 培 地 に 分 泌 されずに<br />
細 胞 内 で 除 去 される。 第 2 のグループは C443D とC443L,<br />
C443M, C443V で、 比 活 性 が WT の 50% 以 下 であり、 部 分<br />
的 に 変 性 した 構 造 を 持 つ。 第 3 のグループは C443A と<br />
C443G, C443S, C443T で、 比 活 性 がWT と 同 程 度 であり、 正<br />
常 にフォールディングしている。これらの 結 果 から、A. saitoi<br />
1,2--マンノシダーゼの Cys443 は 疎 水 性 パッキングを 増 加<br />
させることにより 酵 素 の 熱 安 定 性 を 高 くする 役 割 があること<br />
が 示 唆 された[14]。<br />
5. 参 考 文 献<br />
1. 一 島 英 治 (2002) 発 酵 食 品 への 招 待 − 食 文 明 から 新 展<br />
開 まで−, 裳 華 房 .<br />
2. 一 島 英 治 (2004) 日 本 の 国 菌 コウジキン, 日 本 醸 造 協 会<br />
会 誌 , 99 巻 2 号 , p. 83.<br />
3. Ohba, T., Murakami, H and Hara, S. (1971) J. Ferment.<br />
Technol. 35, 674-81.<br />
4. Ichishima, E., Maeba, H., Amikura, T., and Sakata, H.<br />
(1984) Biochim. Biophys. Acta 786, 25-31.<br />
5. Helenius, A. and Aebi, M. (2001) Science 291, 2364-2369<br />
6. 一 島 英 治 (2001) 酵 素 −ライフサイエンスとバイオテクノロ<br />
ジーの 基 礎 −, 東 海 大 出 版 会 , pp. 199-203.<br />
7. Chiba, Y., Yamagata, Y., Nakajima, T. and Ichishima, E.<br />
(1992) Biosci. Biotech. Biochem. 56, 1371-1372.<br />
8. Chiba, Y., Suzuki, M., Yoshida, S., Yoshida, A., Ikenaga,<br />
H., Takeuchi, M., Jigami, Y. and Ichishima, E. (1998) J.<br />
Biol. Chem. 273, 26298-26304.<br />
9. Lobsanov, Y. D., Vallee, F., Imberty, A., Yoshida, T., Yip,<br />
P., Herscovics, A. and Howell, P. L. (2002) J. Biol. Chem.<br />
277, 5620-5630.<br />
10. Giles, N. M., Giles, G. I., and Jacob, C. (2003) Biochem.<br />
Biophys. Res. Commun. 300, 1-4.<br />
11. Wedemeyer, W. J., Welker, E., Narayan, M., and<br />
Scheraga, H. A. (2000) Biochemistry 39, 4207-4216.<br />
12. Nakamura, M., Nakajima, T., Ohba, Y., Yamauchi,S. ,<br />
Lee, B. R., and Ichishima, E. (2000) Identification of<br />
copper ligands in <strong>Aspergillus</strong> oryzae tyrosinase by<br />
site-directed mutagenesis. Biochem. J. 350, 537-545.<br />
13. Tatara, Y., Lee, B. R., Yoshida, T., Takahashi, K., and<br />
Ichishima, E. (2003) J. Biol. Chem. 278, 25289-25294.<br />
14. Tatara, Y., Yoshida, T., and Ichishima, E. (2005) Biosci.<br />
Biotechnol. Biochem., 69, 2101-2108.