企業の情報倫理 情報倫理とは何か - 中央大学

企 業 の 情 報 倫 理情 報 セキュリティ 人 材 育 成 公 開 講 座「 情 報 システムのコンポーネントで 見 る 総 合 セキュリティ」2005 年 8 月 22 日中 央 大 学 後 楽 園 キャンパス 3 号 館 3 階村 田 潔明 治 大 学 商 学 部情 報 倫 理 とは 何 か• 情 報 通 信 技 術 (ICT:Information and CommunicationTechnology)の 開 発 ・ 利 用 ・ 普 及 がもたらす 社 会 的 影 響の 分 析 とコントロール– 倫 理 問 題 の 発 見 と 対 応 策 (ポリシー)の 検 討• 倫 理 問 題 = 価 値 の 対 立 状 況 (ディレンマ)– 多 様 な 価 値 観 の 存 在 を 前 提 とする 社 会 的 合 意 形 成• 発 言 (voice)– 「 情 報 社 会 の 虜 」: 退 出 は 困 難• 対 話 = 討 議 (deliberation)– 理 性 的 議 論– 知 的 謙 虚 さ1

情 報 倫 理 問 題• コンピュータ 犯 罪 (1960 年 代 半 ば~)– コンピュータ 専 門 家 による 犯 罪• プログラムの 書 き 換 えによる 詐 欺– ハッカー,クラッカー• システム,ネットワークへの 不 正 侵 入• ウィルスの 作 成 と 配 布• データ,プログラムの 盗 用 , 改 ざん– スクリプトキディー• 愉 快 犯– 一 般 ユーザ• ソフトウェア,ファイルの 不 正 コピー情 報 倫 理 問 題• コンピュータ 犯 罪– サイバー 犯 罪– 対 応 策• セキュリティ 技 術 , 法 律 , 教 育• PAPA (Mason, 1986)– Privacy– Accuracy– Property– Accessibility議 論 の 余 地 なく 悪 い 人 間 行為 は, 情 報 倫 理 の 議 論 の 対象 とはならない↓価 値 の 対 立 状 況 や, 人 によって 見 解 の 分 かれる 問 題状 況 が 議 論 のターゲット• 情 報 倫 理 問 題 の 拡 大– 情 報 システム 品 質 管 理 とICT 専 門 家 のプロフェッショナリズム– 労 働 環 境 の 変 化– グローバリゼーション ・・・2

ネットビジネスに 見 る 情 報 倫 理 問 題• ネットオークションへの 出 品 物– 腎 臓 :eBay,1999 年 8 月 ,570 万 ドルの 値 がつく– ナチス 関 連 品• Yahooのフランス 子 会 社 に 対 して,2000 年 5 月 にフランスの 裁 判 所がフランス 国 民 がナチス 関 連 品 のオークションにアクセスできなくなるよう 命 令– ドイツ 連 邦 最 高 裁 判 決 ,2000 年 12 月– グローバルリーチとローカルな 文 化 ・ 制 度• eBay,2001 年 5 月 から 販 売 禁 止 (KKK 関 連 品 も)– モデルの 卵 子 ・ 精 子• Auctionwatch( 現 Vendio)– ただ 乗 り 商 売 か、 消 費 者 の 権 利 を 守 るビジネスか?情 報 倫 理 の 諸 課 題3

なぜ 情 報 倫 理 に 関 する 議 論 が必 要 なのか?• ICT 依 存 社 会 の 出 現– ICTがもたらす 多 大 な 利 便 性• 「 便 益 はコストを 要 求 する」– 遍 在 するICT = ユビキタス 社 会• コンピュータの 論 理 的 順 応 性• マイクロプロセッサ– 組 み 込 み 型 コンピュータ 機 器• RFID– トレーサビリティ– ICT 依 存 社 会 の 脆 弱 性• 災 害 , 人 的 エラー, 悪 意 の 攻 撃– ICTがもたらす 社 会 変 容• 社 会 変 容 にかかわる 不 確 実 性– ICTの 功 罪 両 面 性 :「やれること」と「やってよいこと」は 違 う• 不 可 逆 的 変 化– 情 報 エンリッチメント情 報 倫 理 に 関 する 議 論 の 難 しさ• 問 題 認 識 の 困 難 さ– 新 規 技 術 の 導 入 による 新 しい 製 品 ・サービス• Tech hype• 価 値 の 対 立– 利 便 性 と 安 全 性 のディレンマ– 旧 来 の 価 値 観 への 挑 戦– 社 会 の 論 理 とビジネスの 論 理• ポリシーの 空 白– 前 例 に 倣 うことができない• 概 念 の 混 乱– 「 選 挙 」とは 何 か?– 「 支 払 い」とは 何 か?– 「 音 楽 鑑 賞 」とは 何 か?– 「 職 場 」とは 何 か?4

なぜ 企 業 において 情 報 倫 理 問 題 が問 われるのか?• 企 業 社 会– 社 会 において 流 通 する 製 品 ・サービスのほとんどを企 業 が 提 供• 小 さな 政 府 : 福 祉 国 家 からの 転 換 → 民 営 化– 多 くの 人 々が 企 業 に 職 を 得 て 生 計 を 立 てている– 企 業 行 動 の 社 会 に 対 する 影 響 力• 社 会 に 対 する 責 任 主 体 としての 企 業– CSR• 企 業 行 動 慣 習 価 値• 企 業 が 主 導 するICTの 開 発 と 利 用– ディレンマ 状 況 の 出 現 に 対 する 主 体 的 対 応– ベストエフォートの 一 翼 を 担 う 責 任なぜ 企 業 において 情 報 倫 理 問 題 が問 われるのか?• CSR: 企 業 の 社 会 責 任– 自 由 な 行 動 主 体 としての 企 業– モラルエージェント( 道 徳 的 行 動 主 体 )• 安 全 で 信 頼 性 の 高 い 製 品 ・サービスを, 適 時 ・ 的 確 に, 適 切 な方 法 で 顧 客 に 提 供 する• 安 全 性 ・ 信 頼 性 ・ 適 時 性 ・ 的 確 性 ・ 適 切 性 に 関 する 主 体 的 ・ 自 律的 判 断– ポリシーの 空 白 = リファレンスモデルの 不 在» 単 に 法 令 ・ 倫 理 綱 領 ・ 社 会 責 任 規 格 ・ 前 例 の 遵 守 を 追 求 する「 良 い 子 の 倫 理 」では 不 十 分• 一 貫 した 価 値 観 に 基 づく 行 動 = 誠 実 さ(integrity)– 価 値 多 様 体 としての 社 会 における 活 動 主 体• ステークホルダーとの 討 議 への 参 加– 独 善 の 排 除– 実 りある 対 話 解 釈 能 力5

企 業 事 例• Therac-25(1985~87 年 )– 情 報 システムの 信 頼 性 ,ソフトウェア 品 質• ロータス「マーケットプレイス: 家 計 版 」(1990 年 )– プライバシー 侵 害• ナップスター(1999 年 )– 知 的 財 産 権 侵 害• ボイコット・アマゾン(1999 年 )– eCommerceに 関 するビジネスモデル 特 許 の 是 非• みずほ 銀 行 のシステムトラブル(2002 年 )– 情 報 システム 品 質• ボイコット・ベネトン(2003 年 )– RFIDによるプライバシー 侵 害• P to Pファイル 交 換 ソフトウェアの 利 用 に 伴 う 情 報 流 出(2004 年 ~)– 情 報 管 理 体 制 ; 従 業 員 の 労 働 環 境– 個 人 情 報 保 護 ; 知 的 財 産 権 保 護企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点A) ICT 専 門 家 のプロフェッショナリズム– ICT 専 門 職 確 立 の 社 会 的 要 請• ICT 依 存 社 会• 情 報 システム 品 質 の 維 持– ソフトウェアエンジニア– システム 監 査 人• データベース 品 質 の 維 持– データベース 管 理 者– 「 真 実 がデータベースに 保 存 されているのではなく,データベースに 保 存 されているものが 真 実 」– プロフェッション: 専 門 職• 専 門 知 識 ・ 技 術• 自 律 性 ・ 独 立 性 と 責 任• 専 門 家 組 織 の 形 成• 公 共 への 奉 仕6

企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点A) ICT 専 門 家 のプロフェッショナリズム– ICT 専 門 家 の 活 動 環 境• 企 業 従 業 員 としてのICT 専 門 家– 自 律 性 ・ 独 立 性 の 確 保 の 困 難 さ» 専 門 職 組 織 は 存 在 しない → 低 い 交 渉 力• アウトソーシング– 市 場 経 済 の 論 理 の 中 での 活 動• ICTの 変 化 の 早 さ– 専 門 家 としての 標 準 的 な 知 識 ・ 技 術 が 流 動 的• ICT 専 門 家 の 社 会 的 ステータスの 低 さ– ビジネスの 論 理 をプロフェッショナルの 領 域 に 持 ち 込むことは 正 当 化 できるか?企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点A) ICT 専 門 家 のプロフェッショナリズム– 情 報 システム 品 質 をどのように 確 保 するのか• バグの 存 在 をどこまで 許 すのか• 安 全 性 ・ 信 頼 性 と 納 期 ・ 予 算• ICT 専 門 家 が 果 たすべき 専 門 家 責 任 とは※ 情 報 システムを 利 用 しないという 選 択 は 可 能 か?– データベース 品 質 をどのように 確 保 するのか• エラーデータの 存 在 をどこまで 許 すのか7

企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点B) 情 報 化 される 職 場 と 労 働 環 境– テレワーク/テレコミューティング• オフィスコストの 削 減• 通 勤 ラッシュからの 解 放• 個 人 のライフスタイルに 合 わせた 勤 務But …• 職 場 と 家 庭 の 境 界 の 消 失• 職 場 コミュニティの 衰 退– モバイル 機 器 の 浸 透• 24 時 間 ・365 日 勤 務・・・ QOL( 生 活 の 質 )の 低 下企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点B) 情 報 化 される 職 場 と 労 働 環 境– オフィスの 情 報 化• 従 業 員 の 生 産 性 向 上 による 時 短• 創 造 的 業 務 への 注 力But …• 従 業 員 の 減 少• 労 働 時 間 の 増 加– デスキリング– 雇 用 形 態 の 多 様 化 = 契 約 ・ 派 遣 ・パート・アルバイト– ハイテクモニタリング = 監 視 されるオフィス• 労 働 生 産 性 の 向 上• 情 報 流 出 の 防 止– 機 密 情 報 / 個 人 情 報– ログの 保 存 による 係 争 への 対 応※「 職 場 における 従 業 員 のプライバシー」は 成 立 するのか?8

企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点C) 消 費 者 個 人 情 報 の 収 集 と 利 用– データベースマーケティング• 個 人 の 嗜 好 にあわせた 適 時 ・ 的 確 な 情 報 提 供– カスタマイズドサービス• 個 人 の 嗜 好 をふまえた 製 品 ・サービスの 提 供ex. ホテルチェーンでの 顧 客 情 報 の 共 有– 個 人 情 報 の 共 有 を 通 じたビジネス 革 新 手 法• CRM• SCM– 企 業 間 での 個 人 情 報 共 有 を 通 じた 緩 やかな 連 携– サプライチェーン 全 体 の 最 適 化企 業 における 情 報 倫 理 の 論 点C) 消 費 者 個 人 情 報 の 収 集 と 利 用– パノプティックソート• データベースアイデンティティ– データベースに 記 録 されている 個 人 情 報 に 応 じて 個 人 が 受 け 取 ることのできる 情 報 , 製 品 ・サービスが 決 定 される 可 能 性※ 企 業 が 収 集 する 個 人 情 報 は 誰 のものか?• 自 己 情 報 コントロール 権– OECD8 原 則 … 個 人 情 報 保 護 法• 企 業 の 信 任 受 託 者 責 任– 企 業 は 基 本 的 なサービスを 顧 客 に 提 供 するために 個 人 情 報 を 収集 ・ 利 用 している– 自 己 情 報 コントロール 権 の 一 部 を 企 業 に 譲 渡 することは 可 能 か?9

企 業 における 情 報 倫 理 問 題 への 対 応• 情 報 倫 理 問 題 に 対 する 認 識 能 力– ICTの 開 発 と 利 用 は• 技 術 的 問 題• 組 織 的 問 題• 社 会 的 問 題 ICTの 功 罪 両 面 性– 情 報 倫 理 問 題 の 認 識 のためには ICTに 関 する 知 識 社 会 に 対 する 関 心 安 全 で 信 頼 できる 社 会 の 構 築 に 貢 献 することが 企 業 の 基 本 的な 社 会 責 任– 情 報 倫 理 問 題 の 発 生 に 対 する 高 いセンシティビティ• 新 規 な 問 題 状 況 に 対 する 予 測 能 力企 業 における 情 報 倫 理 問 題 への 対 応• 情 報 倫 理 問 題 解 決 のための 討 議 能 力– 情 報 公 開– 知 的 謙 虚 さ• 独 善 に 対 する 恐 れ• 企 業 組 織 の 認 知 限 界– 対 話 能 力 / 解 釈 能 力 / 共 感 能 力• 社 会 的 合 意 形 成 への 参 加• 説 得 ではなく, 討 議10