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大阪大学学術情報庫 - Osaka University

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ボナヴェントゥラによれば、質料が形相と合体して新しい事物が生成するとき、この形<br />

相は、なんらかの被造的作用者(たとえば人間)によって外部から質料に導入されるので<br />

はなく、また逆に質料のうちに完全な形で潜在していた形相が、作用者の働きかけで顕在<br />

化するのでもないという。形相はいわば不完全な形で、可能性として質料のうちに潜在し<br />

ており、作用者はその働きかけを通じてこれを顕在化させ、完全な形へと導くのである。<br />

これをスコラ学の用語でいえば、質料のうちに「可能態」in potentia としてある形相を、<br />

作用者は「現実態」in actu へといたらしめるということになる。神は質料を創造した際、<br />

そのうちにあらかじめ形相を「可能態」として潜ませておいたのであり、この「可能態」<br />

を「現実態」に導く仕事は被造的作用者に委ねたのだと彼はいう。質料のうちに「可能態」<br />

としてある不完全な形相、これがボナヴェントゥラのいう「種子的性格」である。<br />

ここでいわれている質料はオリーヴィの貨幣と、「可能態」としての形相は「将来におい<br />

て得られる可能性のある利益」と、被造的作用者の働きかけは商人の「決意」や「能力」<br />

と、似てはいないだろうか。しかも一方は「可能態」から「現実態」への移行を、他方は<br />

貨幣が利益を生み出す過程を、ともに「種子的性格」という言葉で説明している。オリー<br />

ヴィがボナヴェントゥラの「種子的性格」を換骨奪胎して、彼独自の経済概念へと彫琢し<br />

ていった可能性は否定できない。たとえばオリーヴィの次の一文には、ボナヴェントゥラ<br />

の影響をみてとることができるように思われる。<br />

資本は、その蓋然的利益が売られた時点では、資本としての性格を欠いた単な<br />

・ ・<br />

る貨幣以上の価値を有している。とはいえ、……資本がこの二つの性格を同時 に<br />

・ ・ ・<br />

また現実態 として actu 有しているとは限らない 29。<br />

しかしさらに重要なのは、オリーヴィの種子的性格をボナヴェントゥラの用法によって<br />

とらえなおしてみるとき、資本としての貨幣の別の一面がみえてくる点である。ボナヴェ<br />

ントゥラの考えにしたがえば、種子的性格は作用者の働きかけ、オリーヴィ風にいえば商<br />

人の意図や能力とは無関係に、もともと貨幣のうちにそなわっているものとなる。貨幣は<br />

最初から「種子的」存在なのである。こうして貨幣が「固い決意」なしでも資本たりえる<br />

とすれば、これは今日の資本概念と変わらない。すなわちオリーヴィはすでに 700 年前、<br />

今日的意味での「資本」について語っていたことになる。<br />

もとより現時点でこう断言するのは行きすぎである。オリーヴィが貨幣の「種子的性格」<br />

をはっきりこのような意味で用いていたことを証する事例は、今のところない。この点を<br />

論証するにはオリーヴィとボナヴェントゥラの関係、またオリーヴィの膨大な著作中にみ<br />

える「種子的性格」の用法を丹念に調べる必要がある。最終的な判断は保留せざるをえな<br />

いが、以上の論も一つの仮説として述べることは許されよう。<br />

しかし最後に確認しておきたいのは、オリーヴィの語る「資本」は「固い決意」という<br />

29 Todeschini, Un trattato, p.111-112. 本論文巻末付録1、180 ページ。<br />

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