アフリカにおける暴力的紛争の予防 - JICA Research Institute

http://jica-ri.jica.go.jp/ja
newsletter
August 2012
No. 38
IN THIS ISSUE:
Hot Issue
『アフリカにおける 民 族 多 様 性 と 経 済 的 不 安 定 』
書 籍 発 刊 記 念 シンポジウム 開 催
JICA 研 究 所 と 神 戸 大 学 は、 共 同 研 究 の 成 果 をまとめた 書 籍 、『Ethnic
Diversity and Economic Instability in Africa: Interdisciplinary
P e r s p e c t i v e s (アフリカにおける 民 族 の 多 様 性 と 経 済 的 不 安 定 ―
学 際 的 アプ ロ ー チ からの 発 見 ) 』の 発 刊 を 記 念 し た 公 開 シン ポ ジ
ウムを 共 催 しました。
READ MORE
Review
「アフリカにおける 暴 力 的 紛 争 の 予 防 」 研 究 の 最 終
成 果 を 発 表
東 京 国 際 文 化 会 館 にて 開 催
今 日 アフリカ に お い て 暴 力 的 紛 争 が 減 少 して い る 一 方 で 、
依 然 として 紛 争 のリスクを 抱 えて い る 国 で は そ の 再 発 が 懸
念 さ れ て い ま す。J I C A 研 究 所 で は「アフリカ に お ける 暴 力 的
紛 争 の 予 防 」 研 究 プ ロジェクトを 2 0 0 8 年 に 立 ち 上 げ、そ の 最
終 成 果 を 発 表 する 目 的 で 公 開 シ ン ポ ジ ウ ム を 行 い まし た 。
READ MORE
Special
東 アフリカ 共 同 体 の 経 済 統 合 と、 開 発 途 上 国 の 農 村
地 域 における 集 団 規 模 と 集 団 行 動 の 因 果 関 係 につ
いてのワーキングペーパーを 発 表
6 月 に 刊 行 されたワーキングペーパー
JICA 研 究 所 は2012 年 6 月 に、『Regional Integration in East Africa:
Diversity or Economic Conformity ( 東 アフリカ 共 同 体 の 地 域 統 合 :
多 様 性 か 経 済 適 合 性 か)』、8 月 には『Modes of Collective Action in
Village Economics: Evidence from Natural and Artefactual Field
Experiments in a Developing Country ( 村 落 経 済 における 集 合 行 為
の 諸 形 態 : 開 発 途 上 国 における 自 然 実 験 ・フィールド 実 験 からのエビデ
ンス)』と 題 するワーキングペーパーを 刊 行 しました。
READ MORE
Copyright © 2012 Japan International Cooperation Agency Research Institute
All rights reserved
JICA 研 究 所
〒162-8433 東 京 都 新 宿 区 市 谷 本 村 町 10-5 • Tel: 03-3269-2911 • dritpl@jica.go.jp

Hot Issue
『アフリカにおける 民 族 多 様 性 と 経 済 的 不 安 定 』の
書 籍 発 刊 記 念 シンポジウムを 開 催
J I C A 研 究 所 と 神 戸 大 学 は 、 共 同 研 究 の 成
果 をまとめた 書 籍 、『Ethnic Diversity and
Economic Instability in Africa: Interdisciplinary
Perspectives (アフリカにおける 民 族 の 多 様 性 と
経 済 的 不 安 定 ― 学 際 的 アプローチからの 発 見 )』
の 発 刊 を 記 念 した 公 開 シンポジウムを7 月 25 日 に
東 京 の 国 際 文 化 会 館 にて 共 催 しました。
今 世 紀 に 入 って 年 平 均 5%を 超 える 成 長 を 続 け
ているアフリカ 経 済 の 特 徴 の 一 つに、その 多 様 な
民 族 構 成 があります。その 民 族 多 様 性 と 経 済 成 長
との 間 には 負 の 相 関 関 係 があると 多 くの 開 発 経
済 学 の 文 献 で 指 摘 されてきましたが、この 両 者 を
結 ぶ 因 果 関 係 は 今 まで 明 らかにされてきていま
せん。
研 究 所 では、2008 年 の 設 立 以 来 取 り 組 んできた
研 究 領 域 の 一 つである「 成 長 と 貧 困 削 減 」の 一 環
として、 神 戸 大 学 経 済 経 営 研 究 所 とともに、「アフ
リカにおける 民 族 多 様 性 と 経 済 的 不 安 定 」と 題 し
た 研 究 を 進 め、そのなかで 相 関 関 係 を 説 明 する
メカニズムの 解 明 を 試 みてきました。
この 研 究 には、ケニア 首 相 府 経 済 アドバイザー
である 神 戸 大 学 の 日 野 博 之 特 命 教 授 を 代 表 に、
経 済 学 、 政 治 学 、 文 化 人 類 学 、 歴 史 学 などの 多 様
な 学 問 領 域 から 研 究 者 が 参 加 し、 多 様 な 民 族 を
抱 えたアフリカ 社 会 における 経 済 成 長 実 現 のた
めの 方 策 を 探 ってきました。 本 書 は、その 研 究 成
果 の 第 一 弾 として、ケンブリッジ 大 学 出 版 より7 月
12 日 に 発 刊 されました。
本 シンポジウムでは、 細 野 昭 雄 JICA 研 究 所 所 長
が 冒 頭 挨 拶 の 中 で、「アフリカの 民 族 多 様 性 を 否
定 的 に 捉 える 見 解 には 注 意 が 必 要 で、むしろその
多 様 性 が 民 族 間 の 取 引 などの 活 性 化 に、ひいて
は 経 済 の 安 定 化 に 寄 与 していることが 本 書 では
述 べられている。 来 年 の6 月 にTICAD Vを 控 えて
いることから、この 研 究 成 果 を 今 後 のアフリカに
おける 経 済 成 長 の 加 速 化 に 役 立 ててほしい」と 述
べました。
その 後 、 新 刊 書 の4 名 の 編 集 者 ― 神 戸 大 学 日 野
特 命 教 授 、イェール 大 学 グスタフ・ラニス 名 誉 教
授 、ケンブリッジ 大 学 ジョン・ロンズデール 名 誉 教
授 、オックスフォード 大 学 フランシス・スチュワート
名 誉 教 授 ―が、 書 籍 の 概 要 と 要 点 をそれぞれ 紹 介
しました。
日 野 特 命 教 授 ( 左 )、ラニス 名 誉 教 授 ( 中 央 )
ロンズデール 名 誉 教 授 ( 右 )
本 書 は、1. 経 済 と 関 連 付 けた 民 族 性 の 詳 細 な 説
明 、2. 民 族 多 様 性 がアフリカの 経 済 成 長 を 妨 げる
原 因 か 否 かの 検 証 、3. 民 族 性 と 経 済 安 定 性 の 総
合 的 な 相 互 関 係 、の3 部 構 成 となっています。 歴
史 学 や 経 済 学 など 異 なる 分 野 の 専 門 家 がアフリ
カの 民 族 性 の 実 態 を 探 求 し、 多 様 性 と 不 平 等 さを
測 定 する 新 しい 方 法 論 を 紹 介 したうえで、 民 族 間
の 多 様 性 を 考 慮 した 政 策 改 革 に 関 して、いくつか
の 仮 説 としての 結 論 を 導 いています。
左 から、 市 野 菜 穂 美 准 教 授 (ハーバード 大 学 )、
タンディカ・ムカンダウィレ 教 授 (ロンドン・スクール・オブ・エ
コノミクス)、ラウフ・ムスタファ 講 師 (オックスフォード 大 学 )、
スチュワート 名 誉 教 授 (オックスフォード 大 学 )
2
JICA Research Institute Newsletter No.38 • August 2012

「アフリカにおける 暴 力 的 紛 争 の 予 防 」 研 究 の
最 終 成 果 を 発 表
今 日 アフリカにおいて 暴 力 的 紛 争 が 減 少 してい
る 一 方 で、 依 然 として 紛 争 のリスクを 抱 えている
国 ではその 再 発 が 懸 念 されています。この 暴 力 的
紛 争 の 要 因 を「 構 造 」と「プロセス」に 着 目 し、 紛 争
の 解 明 と 予 防 を 探 求 する 目 的 で、JICA 研 究 所 では
2008 年 から「アフリカにおける 暴 力 的 紛 争 の 予
防 」プロジェクトを 立 ち 上 げ、 研 究 に 取 り 組 んでき
ました。
Review
本 プロジェクトでは、これまでも 様 々な 機 会 にそ
の 成 果 の 中 間 発 表 を 行 ってきましたが、このたび
政 策 的 含 意 を 含 めた 研 究 の 最 終 成 果 を 発 表 する
目 的 で、7 月 26 日 に 東 京 の 国 際 文 化 会 館 にて 公 開
シンポジウムを 開 催 しました。
研 究 所 からは、 研 究 代 表 者 として 峯 陽 一 客 員 研
究 員 ( 同 志 社 大 学 教 授 )、 研 究 分 担 者 として 武 内 進
一 客 員 研 究 員 (アジア 経 済 研 究 所 アフリカ 研 究 グ
ループ 長 )、 三 上 了 研 究 員 および 片 柳 真 理 研 究 員
が 出 席 しました。また、 海 外 からは 本 研 究 のアドバ
イザーであるフランシス・スチュワート 教 授 (オック
スフォード 大 学 CRISE< 不 平 等 ・ 人 間 の 安 全 保 障 ・
エスニシティ 研 究 センター> 所 長 )、 福 田 パー・ 咲
子 教 授 (ニュー・スクール)およびタンディカ・ムカ
ンダウィレ 教 授 (ロンドン・スクール・オブ・エコノミ
クス)、ならびに 研 究 分 担 者 の アーニム・ランガ―
氏 (ルーヴェン 大 学 平 和 ・ 開 発 研 究 所 所 長 )が 参 加
し、 研 究 の 成 果 発 表 やパネル・ディスカッションを
行 いました。
研 究 代 表 者 の 峯 客 員 研 究 員 は、まずこの 研 究 プ
ロジェクトの 背 景 および 概 要 を 説 明 し、この 研 究
を 構 成 する3つの 視 点 である、1) 水 平 的 不 平 等
左 から、 片 柳 研 究 員 、 三 上 研 究 員 、
ランガー 氏 、 峯 客 員 研 究 員
(Horizontal Inequality)―スチュワート 教 授 が 生 み
出 した 概 念 、2) 人 々の 主 観 的 な 意 識 、3) 政 治 制
度 の 選 択 を 紹 介 しました。
次 に 三 上 研 究 員 からは、アフリカ5か 国 におけ
る 住 民 の 意 識 調 査 の 統 計 分 析 結 果 の 発 表 があり、
「 民 族 間 の 水 平 的 不 平 等 感 は 存 在 し、その 原 因 は
構 造 的 であり、 政 治 的 民 族 格 差 は、 経 済 的 民 族 格
差 の 認 識 に 影 響 する」ことを 指 摘 しました。
調 査 研 究 の 成 果 に 基 づいた 政 策 的 含 意 、 提 言
(ポリシーブリーフNo.8)については 片 柳 研 究 員
が 発 表 し、 開 発 機 関 にとって「すべての 側 面 での 垂
直 的 、 水 平 的 不 平 等 の 状 況 と 要 因 をモニターし、 不
平 等 な 影 響 を 考 慮 するとともに 紛 争 予 防 との 関 連
においてプロジェクトおよび 政 策 を 評 価 する 必 要
性 」などを 提 起 しました。
ルワンダとブルンジの 比 較 研 究 を 担 当 してきた
武 内 客 員 研 究 員 は、 内 戦 終 結 後 の 政 治 体 制 にお
けるこの 隣 国 同 士 の 相 違 点 を 紹 介 したうえで、「パ
ワーシェアリングは 民 族 間 の 紛 争 を 防 ぐための 一
つの 選 択 肢 であるが、 万 能 薬 ではなく、インクルー
シブな 取 り 組 みによってのみ、 紛 争 予 防 が 可 能 と
なる」ことを 強 調 しました。
以 上 の 研 究 成 果 は、スチュワート 教 授 が 編 集 者
を 務 める、パルグレイヴ・マクミラン 社 の「 紛 争 、 不
平 等 、エスニシティ」シリーズの 一 冊 として、 本 年 度
中 に 書 籍 化 の 予 定 です。
武 内 客 員 研 究 員 ( 左 )、 福 田 パー・ 咲 子 教 授 ( 中 央 )、
峯 客 員 研 究 員 ( 右 )
3
JICA Research Institute Newsletter No.38 • August 2012

Special
東 アフリカ 共 同 体 の 経 済 統 合 と、 開 発 途 上 国 の
農 村 地 域 における 集 団 規 模 と 集 団 行 動 の 因 果
関 係 についてのワーキングペーパーを 発 表
J I C A 研 究 所 は 2 0 1 2 年 6 月 に 、『 R e g i o n a l
Integration in East Africa:Diversity or Economic
Conformity( 東 アフリカの 地 域 統 合 : 多 様 性 か 経
済 適 合 性 か)』と 題 するワーキングペーパー(WP)
を 発 刊 しました。
このWPは、 研 究 所 と 神 戸 大 学 共 同 研 究 「アフリ
カにおける 民 族 多 様 性 と 経 済 的 不 安 定 」の 一 環 と
して、2010 年 1 月 16~17 日 にイェール 大 学 で 開 催 さ
れた 会 議 のために 準 備 された 論 文 が 基 になって
います。
執 筆 者 である 慶 応 大 学 後 藤 純 一 教 授 はこの 論
文 の 目 的 として、 東 アフリカ 共 同 体 (EAC)において
共 同 市 場 や 通 貨 同 盟 などの 地 域 経 済 統 合 を 進 め
ていくことの 妥 当 性 を 検 証 しています。
その 検 証 方 法 として、 貿 易 結 合 度 、 各 種 のマクロ
経 済 指 標 やISショックなどを 用 いて、 地 域 経 済 の 相
互 依 存 関 係 の 度 合 いを 分 析 しています。そこから
得 られた3つの 結 果 では、まずEAC 諸 国 において
は 貿 易 の 相 互 依 存 度 がアジア 諸 国 等 との 比 較 に
おいても 非 常 に 強 いことが 判 明 しました。 第 2に
主 成 分 分 析 の 結 果 、EAC 諸 国 ではインフレーショ
ン、 経 済 成 長 などのマクロ 経 済 指 標 の 同 期 性 が 大
変 高 いという 結 果 が 得 られました。3 番 目 として、マ
ンデルの 最 適 通 貨 圏 の 理 論 に 基 づきISショックの
同 期 性 を 検 討 した 結 果 、EAC 諸 国 では、その 同 期
性 が 非 常 に 強 く 最 適 通 貨 圏 の 基 準 を 満 たしている
ことが 証 明 されました。
これらの 結 果 から、EACは 共 同 市 場 および 通 貨
同 盟 を 形 成 していく 単 位 として 適 切 であるという
推 論 がなされています。
またこの8 月 、 研 究 所 は『Modes of Collective
Action in Village Economies: Evidence from
Natural and Artefactual Field Experiments in a
Developing Country ( 村 落 経 済 の 集 団 行 動 形 態 :
開 発 途 上 国 における 自 然 実 験 ・フィールド 実 験 か
らのエビデンス)』のタイトルで、WPを 刊 行 しまし
た。
このWPでは、 研 究 所 の 研 究 領 域 の 一 つである
「 成 長 と 貧 困 削 減 」におけるプロジェクト「 灌 漑 事
業 が 貧 困 削 減 に 与 える 影 響 :スリランカ 事 例 」の 研
究 成 果 の 一 部 を 発 表 しています。
澤 田 康 幸 JICA 研 究 所 客 員 研 究 員 ( 東 京 大 学 教
授 )をはじめとした5 名 の 研 究 者 は、 一 般 的 な 理 論
モデルを 構 築 したうえで、 集 団 規 模 と 集 合 行 動 の
因 果 関 係 をスリランカ 南 部 の 大 規 模 な 灌 漑 事 業 の
自 然 実 験 ・フィールド 実 験 データを 用 いながら 検 証
しています。
とりわけ、 集 合 行 為 の 異 質 性 について 把 握 する
ため、 二 つの 軸 によって 活 動 を 区 分 しています。 第
一 の 軸 は、 生 産 的 ・ 非 生 産 的 集 合 行 動 という 軸 、す
なわち 農 業 生 産 に 対 するものか、あるいは 冠 婚 葬
祭 などの 儀 式 に 対 するもので 直 接 には 生 産 に 関
係 しないものなのかという 軸 です。 他 方 、 第 二 の 軸
は、 金 銭 的 ・ 非 金 銭 的 集 合 行 為 、つまり 水 利 組 合 費
のような 集 団 への 金 銭 的 貢 献 なのか、あるいは 灌
漑 水 路 清 掃 への 労 働 力 の 貢 献 というような 非 金 銭
的 貢 献 なのかという 軸 です。
これら 二 つの 軸 によって、 人 々の 集 合 行 動 を 分 類
し、 集 合 行 動 と 集 団 規 模 の 関 係 についての 緻 密 な
実 証 分 析 を 行 いました。 結 果 として、 土 地 なし 農 民
が 集 合 行 為 に 参 加 しない 傾 向 を 持 つこと、 非 生 産
的 な 集 合 行 動 は、 生 産 に 係 わる 行 動 よりもフリー
ライダー 問 題 がより 深 刻 になっていること、 労 働 に
よる 集 団 行 為 への 非 金 銭 的 貢 献 は、 金 銭 による 貢
献 よりもフリーライダー 問 題 を 顕 在 化 させることな
ど 重 要 な 知 見 が 示 されています。
4
JICA Research Institute Newsletter No.38 • August 2012