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国際協定_ja

それゆえ、全世界、いや、一つの国やかなりの人数の人々の上にキリスト教の共同 政府が存在することは問題外である。悪人は善人よりも常に数が多いから。ですか ら、あえて福音で国全体や世界を治めようとする人は、狼、ライオン、鷲、羊を一 つの群れに入れて、互いに自由に交わらせる羊飼いのようなもので、こう言います。 折り目は開いていて、食べ物もたくさんあります。犬や棒を恐れる必要はありませ ん」。羊たちは間違いなく平和を守り、自分たちに食べ物を与え、平和的に統治す ることを許すだろうが、彼らは長くは生きられず、一匹の獣が他の獣を存続させる こともないだろう。

それゆえ、全世界、いや、一つの国やかなりの人数の人々の上にキリスト教の共同 政府が存在することは問題外である。悪人は善人よりも常に数が多いから。ですか ら、あえて福音で国全体や世界を治めようとする人は、狼、ライオン、鷲、羊を一 つの群れに入れて、互いに自由に交わらせる羊飼いのようなもので、こう言います。 折り目は開いていて、食べ物もたくさんあります。犬や棒を恐れる必要はありませ ん」。羊たちは間違いなく平和を守り、自分たちに食べ物を与え、平和的に統治す ることを許すだろうが、彼らは長くは生きられず、一匹の獣が他の獣を存続させる こともないだろう。

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エレン・G・ホワイト


New Covenant Publications International Ltd. Japanese<br />

版 権 ©2020. 国 際 新 しい 契 約 の 出 版 物 。<br />

無 断 で 複 写 転 載 することを 禁 じます。 本 書 のいかなる 部 分 も 弊 社 の 許 諾 なく 検 索 システ<br />

ムへ 保 存 したり、 電 子 データ、 紙 媒 体 、または 録 音 などの 方 法 で 複 写 ・ 転 送 するこ<br />

とを 禁 じます。<br />

この 文 書 は、 国 際 著 作 権 法 によって 保 護 されています。この 文 書 のいかなる 部 分 も、い<br />

かなる 形 式 でも 複 製 、 配 布 、 翻 訳 、または 送 信 することはできません。 または、 電 子<br />

的 または 機 械 的 、コピー、 記 録 、または 保 存 を 含 む 任 意 の 手 段 あらゆる 情 報 の 保 存 お<br />

よび 検 索 システム。<br />

式 や 手 段 によって。ISBN:359-2-85933-609-1<br />

データカタログ<br />

編 集 とデザイン: 国 際 新 しい 契 約 の 出 版 物 。<br />

イギリスで 印 刷 。<br />

初 版 2020 年 5 月 26 日<br />

New Covenant Publications International Ltd.,<br />

Kemp House, 160 City Road, London, EC1V 2NX<br />

ウェブサイトをご 覧 ください:www.newcovenant.co.uk


国 際 協 定<br />

エレン G.ホワイト


それゆえ、 全 世 界 、いや、 一 つの 国 やかなりの 人 数 の 人 々の 上 にキリスト 教 の 共 同<br />

政 府 が 存 在 することは 問 題 外 である。 悪 人 は 善 人 よりも 常 に 数 が 多 いから。ですか<br />

ら、あえて 福 音 で 国 全 体 や 世 界 を 治 めようとする 人 は、 狼 、ライオン、 鷲 、 羊 を 一<br />

つの 群 れに 入 れて、 互 いに 自 由 に 交 わらせる 羊 飼 いのようなもので、こう 言 います。<br />

折 り 目 は 開 いていて、 食 べ 物 もたくさんあります。 犬 や 棒 を 恐 れる 必 要 はありませ<br />

ん」。 羊 たちは 間 違 いなく 平 和 を 守 り、 自 分 たちに 食 べ 物 を 与 え、 平 和 的 に 統 治 す<br />

ることを 許 すだろうが、 彼 らは 長 くは 生 きられず、 一 匹 の 獣 が 他 の 獣 を 存 続 させる<br />

こともないだろう。<br />

第 4 部<br />

世 俗 的 な 権 威 と 服 従 の 限 界 について, 1523<br />

マルチン・ルーサー.


このページは 意 図 的 に 空 白 になっています。


New Covenant Publications<br />

International Ltd.<br />

改 革 ブック、 変 換 された 心 は<br />

New Covenant Publications International Ltd.,<br />

Kemp House, 160 City Road, London, EC1V 2NX<br />

Email: newcovenantpublicationsintl@gmail.com


謝 辞<br />

この 本 を 天 の 神 にささげる


序 文<br />

新 しい 契 約 出 版 物 国 際 は、 天 と 地 を 結 合 し、 愛 の 律 法 の 永 続 性 を 強 化 する 神 の 計 画 を<br />

読 者 に 再 接 続 します. ロゴ、 契 約 の 箱 は、キリスト イエスと 彼 の 人 々と 神 の 律 法 の 中<br />

心 性 との 間 の 親 密 さを 表 しています. 新 しい 契 約 とはこうだ - の 書 にあるとおりです<br />

"わたしは、わたしのおきてを 彼 らの 心 に 刻 みつける。そのため 彼 らは、わたしをあ<br />

がめたいという 気 持 ちになる。こうして、 彼 らは 文 字 どおりわたしの 民 となり、わた<br />

しは 彼 らの 神 となる。" (エレミヤ 書 31:31-33) 確 かに、 新 しい 契 約 は 償 還 を 証 明 し<br />

、 衰 えのない 闘 争 によって 生 まれ、 血 によって 封 印 されます.<br />

数 え 切 れないほどの 世 紀 のために、 多 くは 真 実 を 消 し 去 るために 計 算 され、かじり 苦<br />

悩 と 不 可 解 な 弾 圧 を 耐 えてきました.<br />

特 に 暗 黒 時 代 に,この 光 は 非 常 に 四 面 楚 歌 と 人<br />

間 の 伝 統 と 人 気 の 無 知 によって 隠 されていました, 世 界 の 住 民 は 知 恵 を 軽 蔑 し、 契 約<br />

を 犯 していたの<br />

増 殖 する 悪 との 妥 協 の 疫 病 は、 多 くの 人 生 が 不 当 に 犠 牲 にされ、 良<br />

心 の 自 由 を 放 棄 することを 拒 否 した、 放 逸 な 退 化 と 悪 魔 的 な 非 人 道 的 な 惨 状 を 引<br />

そ<br />

れにもかかわらず、 失 われた 知 識 は、 特 に 改 革 の 時 に 復 活 した.<br />

16 世 紀 の 改 革 の 時 代 は、 反 改 革 に 反 映 されるように、 真 実 、 根 本 的 な 変 化 とその 結<br />

果 としての 乱 流 の 瞬 間 を 巻 き 起 こしました. しかし、この 巻 を 通 じて、 改 革 者 や 他 の<br />

勇 敢 な 開 拓 者 の 視 点 から、この 特 異 な 革 命 の 否 定 できない 意 義 を 再 発 見 する. 彼 らの<br />

説 明 から、 荒 廃 した 戦 い、そのような 驚 異 的 な 抵 抗 と 超 自 然 的 な 介 入 の 根 底 にある 理<br />

由 を 理 解 することができます.<br />

私 たちのモットー:" 改 革 ブック、 変 換 された 心 は、" 重 要 な 時 代 とその 影 響 で 構 成 さ<br />

れる 文 学 の 明 確 なジャンルを、 強 調 する. それはまた 個 人 的 な 改 革 、 再 生 および 変 形<br />

の 緊 急 を 共 鳴 させる. 翻 訳 の 代 理 店 によって 結 合 されたグーテンベルク 印 刷 機 として<br />

、 改 革 信 仰 の 原 則 を 広 め、 約 500 年 前 に、デジタル 化 されたプレスとオンラインメデ<br />

ィア.


国 際 協 定


国 際 協 定<br />

2


国 際 協 定<br />

目 次<br />

第 1 章 世 界 の 運 命 の 預 言 .............................................................................................................. 6<br />

第 2 章 迫 害 の 火 ............................................................................................................................ 22<br />

第 3 章 暗 黒 時 代 ............................................................................................................................ 30<br />

第 4 章 ライトベアラー ................................................................................................................ 39<br />

第 5 章 真 実 のチャンピオン ........................................................................................................ 52<br />

第 6 章 2 人 のヒーロー ..................................................................................................................... 65<br />

第 7 章 革 命 の 始 まり .................................................................................................................... 82<br />

第 8 章 裁 判 所 の 前 に .................................................................................................................. 100<br />

第 9 章 スイスにおける 改 革 運 動 .............................................................................................. 120<br />

第 10 章 ドイツ 宗 教 改 革 の 進 展 ................................................................................................ 130<br />

第 11 章 信 教 の 自 由 のための 戦 い ............................................................................................ 139<br />

第 12 章 フランスの 改 革 ............................................................................................................ 150<br />

第 13 章 北 欧 諸 国 の 宗 教 改 革 .................................................................................................... 169<br />

第 14 章 イングランドの 宗 教 改 革 ............................................................................................... 175<br />

第 15 章 フランス 革 命 ................................................................................................................ 190<br />

第 16 章 自 由 の 地 ........................................................................................................................ 207<br />

第 17 章 最 大 の 希 望 .................................................................................................................... 215<br />

第 18 章 最 も 重 要 な 預 言 ............................................................................................................ 228<br />

第 19 章 光 と 真 理 の 証 を ............................................................................................................ 249<br />

第 20 章 世 界 目 覚 め .................................................................................................................... 258<br />

第 21 章 真 理 の 拒 否 .................................................................................................................... 273<br />

第 22 章 預 言 の 成 就 .................................................................................................................... 285<br />

第 23 章 聖 所 とは 何 か ................................................................................................................ 300<br />

第 24 章 天 の 至 聖 所 における .................................................................................................... 311<br />

3


国 際 協 定<br />

第 25 章 成 就 した 予 言 ................................................................................................................ 318<br />

第 26 章 改 革 の 仕 事 .................................................................................................................... 332<br />

第 27 章 変 容 した 人 生 ................................................................................................................ 340<br />

第 28 章 天 における 調 査 審 判 .................................................................................................... 354<br />

第 29 章 罪 悪 の 起 源 .................................................................................................................... 364<br />

第 30 章 地 獄 の 敵 意 .................................................................................................................... 374<br />

第 31 章 天 使 と 精 神 .................................................................................................................... 379<br />

第 32 章 悪 質 な 欺 瞞 .................................................................................................................... 384<br />

第 33 章 人 は 死 んだらどうなるか ............................................................................................ 394<br />

第 34 章 悪 霊 ................................................................................................................................ 410<br />

第 35 章 良 心 の 自 由 の 危 機 ........................................................................................................ 419<br />

第 36 章 困 った 時 の .................................................................................................................... 433<br />

第 37 章 ただ 1 つの 牙 城 —— 聖 書 ............................................................................................. 441<br />

第 38 章 最 終 警 告 ........................................................................................................................ 449<br />

第 39 章 アナーキー .................................................................................................................... 456<br />

第 40 章 大 きな 救 い .................................................................................................................... 473<br />

第 41 章 地 球 の 荒 廃 .................................................................................................................... 487<br />

第 42 章 大 争 闘 の 終 結 ................................................................................................................ 494<br />

4


国 際 協 定<br />

5


国 際 協 定<br />

第 1 章 世 界 の 運 命 の 預 言<br />

「もしおまえも、この 日 に、 平 和 をもたらす 道 を 知 ってさえいたら……しかし、そ<br />

れは 今 おまえの 目 に 隠 されている。いつかは、 敵 が 周 囲 に 塁 を 築 き、おまえを 取 りか<br />

こんで、 四 方 から 押 し 迫 り、おまえとその 内 にいる 子 らとを 地 に 打 ち 倒 し、 城 内 の 1<br />

つの 石 も 他 の 石 の 上 に 残 して 置 かない 日 が 来 るであろう。それは、おまえが 神 のおと<br />

ずれの 時 を 知 らないでいたからである」[ルカ 19:42~。<br />

イエスは、オリブ 山 の 上 からエルサレムを 見 られた。 美 しい 平 和 な 光 景 が 彼 の 前 に<br />

ひろがっていた。それは、 過 越 の 祭 りの 時 であった。ヤコブの 子 孫 たちは、この 国 民<br />

的 大 祭 を 祝 うために 各 地 から 集 まっていた。 巡 礼 者 たちの 天 幕 が、 庭 園 にも、ぶどう<br />

園 にも、 緑 の 斜 面 にも 散 在 していた。そしてそのまん 中 に、 段 々に 高 くなった 小 山 が<br />

あって、そこに 壮 麗 な 宮 殿 とイスラエルの 首 都 の 巨 大 な 城 壁 があった。シオンの 娘 は、<br />

誇 らかに、わたしは 女 王 の 位 についている 者 であって 悲 しみを 知 らない、と 言 ってい<br />

るようであった。 幾 世 紀 も 前 に、 詩 人 ダビデ 王 が、「シオンの 山 は……うるわしく、<br />

全 地 の 喜 びであり、 大 いなる 王 の 都 である」と 歌 った 時 と 同 様 に、この 時 もエルサレ<br />

ムは、 神 の 恵 みに 浴 していることを 確 信 しているかのように 思 われた[ 詩 篇 48:。そ<br />

こには 壮 麗 な 神 殿 の 建 物 が 一 目 で 見 渡 せた。 沈 んでいく 太 陽 の 光 が 純 白 の 大 理 石 の 壁<br />

を 照 らし 出 し、 黄 金 の 門 とやぐらと 尖 塔 に 輝 いていた。それは、「 麗 しさのきわみ」<br />

であり、ユダヤ 民 族 の 誇 りであった。イスラエル 人 であれば、この 光 景 をながめて、<br />

喜 びと 賛 美 に 心 を 震 わせないものがあるであろうか。しかし、イエスは、それとは 全<br />

くかけ 離 れたことを 考 えておられた。「いよいよ 都 の 近 くにきて、それが 見 えたとき、<br />

そのために 泣 」かれた[ルカ 19:。すべての 者 が 勝 利 の 入 城 を 祝 って、しゅろの 葉 を<br />

振 り、 喜 ばしいホサナの 声 を 山 々に 響 かせ、 大 群 衆 が 彼 を 王 と 呼 んでいるその 時 に、<br />

世 界 の 贖 い 主 は、 突 然 、 不 思 議 な 悲 しみに 打 ちひしがれた。 神 の 子 であり、イスラエ<br />

ルの 約 束 のすえであり、 死 を 征 服 して 墓 から 死 者 を 呼 び 出 されたお 方 が、ただ 単 なる<br />

悲 しみのためではなくて、 抑 制 しきれぬ 激 しい 苦 悩 のために、 涙 を 流 されたのであ<br />

る。<br />

彼 は、ご 自 分 がどこに 向 かって 歩 まれつつあるのかをよく 知 っておられたが、しか<br />

しこの 涙 は、ご 自 分 のためではなかった。 彼 の 前 には、 近 づきつつある 苦 悩 の 場 、ゲ<br />

ッセマネが 横 たわっていた。 幾 世 紀 もの 間 、 犠 牲 としてささげられる 動 物 が 通 った 羊<br />

の 門 も 見 えていた。そしてこれは、 彼 が「ほふり 場 にひかれて 行 く 小 羊 のように」ひ<br />

かれて 行 く 時 に、 彼 のために 開 かれるのであった[イザヤ 53:。 彼 が 十 字 架 につけら<br />

6


国 際 協 定<br />

れる 場 所 であるカルバリーも、あまり 遠 くはなかった。まもなくキリストが、ご 自 分<br />

をとがの 供 え 物 として 歩 まれる 道 は、 大 きな 暗 黒 の 恐 怖 におおわれなければならなか<br />

った。しかしこの 喜 ばしい 時 に 彼 の 心 を 暗 くしたのは、こうした 光 景 を 思 われたため<br />

ではなかった。 彼 の 無 我 の 心 は、ご 自 分 の 超 人 的 苦 悩 を 予 測 して 曇 ることはなかった。<br />

彼 が 泣 かれたのは、 滅 亡 の 運 命 にあるエルサレムの 多 くの 人 々のためであった。 彼 が<br />

祝 し 救 うために 来 られた 人 々の 盲 目 と 強 情 のためであった。<br />

神 の 特 別 の 恵 みと 保 護 を 受 けた 選 民 の、1000 年 以 上 にわたる 歴 史 が、イエスの 眼<br />

前 に 展 開 された。 約 束 の 子 イサクが、なんの 抵 抗 もせずに 犠 牲 として 祭 壇 にしばられ<br />

た——それは、 神 のみ 子 の 供 え 物 の 象 徴 であった——モリヤの 山 がそこにあった。そ<br />

こで 信 仰 の 父 アブラハムに 祝 福 の 契 約 、 輝 かしいメシヤの 約 束 が 確 認 された[ 創 世 記<br />

22:9、16~18 参 照 ]。ここは、オルナンの 打 ち 場 から 犠 牲 の 炎 が 天 にのぼり、 滅 び<br />

の 天 使 のつるぎをそらせたところであった[ 歴 代 志 上 21 章 参 照 ]が、それは 罪 人 のた<br />

めの 救 い 主 の 犠 牲 ととりなしの 適 切 な 象 徴 であった。エルサレムは、 全 地 のどこより<br />

も、 神 の 栄 誉 を 受 けてい た。「 主 はシオンを 選 び、それをご 自 分 のすみかにしようと<br />

望 」まれた[ 詩 篇 132:。<br />

そこは、 各 時 代 にわたって、 聖 預 言 者 たちが 警 告 の 使 命 を 発 したところであった。<br />

そこで、 祭 司 たちは、 香 炉 をゆり 動 かし、そして 礼 拝 者 の 祈 りと 共 に、 薫 香 のけむり<br />

が 神 の 前 にのぼっていった。そこで、 日 ごとに、ほふられた 小 羊 の 血 がささげられて、<br />

神 の 小 羊 を 指 し 示 していた。そこで、 主 は、 贖 罪 所 の 上 の 栄 光 の 雲 の 中 にご 自 分 の 臨<br />

在 をあらわされた。そこに 天 と 地 を 結 ぶ 不 思 議 なはしごか 立 ち、その 上 を 神 の 使 いた<br />

ちが 上 り 下 りしていた。そして、それは、 最 も 即 なるところへの 道 を 世 界 に 開 いたの<br />

である[ 創 世 記 28:12、ヨハネ 1:51 参 照 ]。もしイスラエルが 国 家 として、 天 の 神<br />

に 忠 誠 をつくしたならば、エルサレムは、 神 に 選 ばれたものとして、 永 遠 に 立 ったこ<br />

とであろう[エレミヤ 17:21~25 参 照 ]。しかし、あの 恵 まれた 民 の 歴 史 は、 背 信 と<br />

反 逆 の 記 録 であった。 彼 らは、 天 の 神 の 恵 みに 反 抗 し、 自 分 たちの 特 権 を 乱 用 し、 機<br />

会 を 軽 んじたのであった。<br />

イスラエルは「 神 の 使 者 たちをあざけり、その 言 葉 を 軽 んじ、その 預 言 者 たちをの<br />

のしった」けれども、 神 はなおもご 自 分 を、「 主 、 主 、あわれみあり、 恵 みあり、 怒<br />

ることおそく、いつくしみと、まこととの 豊 かなる 神 」として 彼 らにあらわされた[ 歴<br />

代 志 下 36:16、 出 エジプト 34:。 彼 らが 何 度 も 拒 んだにもかかわらず、 神 は、 恵 み<br />

深 く 彼 らに 訴 えつづけられた。 父 が、その 息 子 を 憐 れむ 以 上 の 愛 をもって、「 主 はそ<br />

の 民 と、すみかをあわれむがゆえに、しきりに、その 使 者 を 彼 らにつかわされた」[ 歴<br />

代 志 下 36:。 勧 告 と 懇 願 と 譴 責 がむだであることが 明 らかになると、 神 は、 大 の 最 上<br />

7


国 際 協 定<br />

の 賜 物 をお 与 えになった。いやそれだけではない。 神 は、その 1 つの 賜 物 によって、<br />

全 天 を 注 ぎ 出 されたのである。 神 のみ 子 ご 自 身 が、かたくなな 町 に 訴 えるために 送 ら<br />

れた。エジプトからイスラエルをよいぶどうの 本 として 携 え 出 されたのは、キリスト<br />

であった[ 詩 篇 80:。 彼 は、ご 自 身 の 手 で、その 前 から 異 邦 人 を 追 い 払 われた。 彼 は、<br />

それを「 土 肥 えた 小 山 の 上 に」 植 え、それを 保 護 するために、そのまわりに 垣 をつく<br />

られた。また、 彼 のしもべたちが、それを 育 てるためにつかわされた。「わたしが、<br />

ぶどう 畑 になした 事 のほかに、 何 かなすべきことがあるか」と 彼 はおおせられるので<br />

ある[イザヤ 5:1~。 彼 はよいふどうの 結 ぶのを 待 ち 望 んだのに、 結 んだものは 野 ぶ<br />

どうであった。それでもなお、 実 を 結 ぶのを 熱 望 して、なんとかしてこれを 滅 びから<br />

救 おうと、 彼 ご 自 身 がぶどう 畑 においでになった。 彼 は、ぶどうの 回 りを 掘 り、はさ<br />

みを 入 れ、たいせつに 育 てられた。 彼 はご 自 分 が 植 えたぶどうを 救 うためには、あら<br />

ゆる 努 力 をおしまれなかった。<br />

こうして、3 年 の 間 、 光 と 栄 光 の 主 は、 彼 の 民 と 共 に 過 ごされた。 彼 は、「よい 働<br />

きをしながら、また 悪 魔 に 押 えつけられている 人 々をことごとくいやしながら、 巡 回<br />

され」た。 彼 は、 心 のいためる 者 をいやし、 捕 われている 者 に 解 放 を 告 げ、 見 えない<br />

人 の 目 を 開 き、 足 の 不 自 由 な 人 を 歩 かせ、 聞 こえない 人 に 聞 かせ、ハンセン 病 人 をき<br />

よめ、 死 人 を 生 きかえらせ、 貧 しい 人 々に 福 音 を 伝 えられた[ 使 徒 行 伝 10:38、ルカ<br />

4:18、マタイ 11:5 参 照 ]。「すべて 重 荷 を 負 うて 苦 労 している 者 は、わたしのも<br />

とにきなさい。あなたがたを 休 ませてあげよう」という 恵 み 深 い 招 きが、すべての 階<br />

級 の 人 々に 同 様 に 発 せられたのである[マタイ 11:。<br />

善 に 報 いるに 悪 をもってされ、 愛 に 報 いるに 恨 みをもってあしらわれても、 彼 は、<br />

たゆまず 慈 悲 深 い 働 きを 続 けられた[ 詩 篇 109:5 参 照 ]。 彼 の 恵 みを 求 めた 者 で、 拒<br />

まれた 者 は 1 人 もなかった。 彼 は 家 なき 旅 人 として、 屈 辱 と 窮 乏 の 生 活 を 送 られたが、<br />

彼 の 生 きる 目 的 は、 困 窮 者 に 奉 仕 し、 人 々の 苦 しみを 和 らげ、 彼 らに 生 命 の 賜 物 を 受<br />

けるように 訴 えることであった。 恵 みの 波 は、かたくなな 心 によって 押 しかえされて<br />

も、 言 葉 では 表 現 できない 慈 悲 深 い 愛 の 大 きな 潮 となって、また 返 っていった。それ<br />

にもかかわらず、イスラエルは、その 最 上 の 友 であり 唯 一 の 援 助 者 で あるお 方 に 背 を<br />

向 けた。 彼 の 愛 の 訴 えはさげすまれ、 彼 の 勧 告 は 退 けられ、 彼 の 警 告 はちょう 笑 され<br />

た。<br />

希 望 と 赦 しの 時 は、 急 速 に 過 ぎ 去 りつつあった。 長 く 延 ばされていた 神 の 怒 りの 杯<br />

は、 今 にも 満 ちようとしていた。 各 時 代 の 背 信 と 反 逆 によって、 暗 雲 は 無 気 味 にその<br />

濃 さを 増 し、 罪 深 い 民 に 向 かって 今 にも 破 裂 しようとしていた。しかも、 彼 らの 上 に<br />

さし 迫 った 運 命 から 彼 らを 救 うことのできる 唯 一 のお 方 が、 軽 べつされ、 虐 待 され、<br />

8


国 際 協 定<br />

拒 否 されて、まもなく 十 字 架 につけられようとしておられた。キリストがカルバリー<br />

の 十 字 架 につかれるならば、 神 に 恵 まれ、 祝 福 された 国 としてのイスラエルの 日 は 終<br />

わるのであった。ただ 1 人 の 魂 を 失 うことであっても、 世 界 じゅうの 富 と 財 宝 を 失 う<br />

ことよりはるかに 大 きな 不 幸 である。しかしキリストがエルサレムをごらんになった<br />

時 、 滅 亡 にひんした 都 市 全 体 と 国 家 全 体 が、 彼 の 前 に 横 たわっていた。それは、かつ<br />

ては 神 に 選 ばれ、 神 の 特 別 の 宝 であった 都 市 であり、 国 家 であった。<br />

昔 の 預 言 者 たちは、イスラエルの 背 信 と 彼 らの 罪 の 罰 として 下 る 恐 るべき 荒 廃 とを<br />

嘆 いたのであった。エレミヤは、 彼 の 目 が 涙 の 泉 となり、 民 の 娘 の 殺 された 者 のため<br />

と 主 の 群 れのかすめられた 者 のために、 昼 も 夜 も 嘆 くことができるようにと 願 った[エ<br />

レミヤ 9:1、13:17 参 照 ]。それでは、 数 年 ではなくて、 幾 時 代 もの 先 を 預 言 的 眼<br />

光 でごらんになった 方 の 悲 しみは、どんなてあったことだろう。 彼 は、 滅 びの 天 使 が、<br />

長 く 主 の 住 居 であった 都 に 向 かって 剣 を 上 げているのを 見 られた。 彼 は、 後 年 ティト<br />

ゥスとその 軍 隊 が 占 領 したオリブ 山 上 の 同 じ 場 所 から、 谷 の 向 こうの 神 殿 の 庭 と 柱 廊<br />

とをごらんになった。そして、 涙 にかすむ 目 で、 外 国 の 軍 隊 か 城 壁 を 包 囲 する 恐 ろし<br />

い 光 景 をごらんになった。 彼 は、 進 軍 する 軍 隊 の 足 音 を 聞 かれた。 彼 は、 籠 城 中 の 婦<br />

女 子 が 食 物 を 求 める 叫 び 声 を 聞 かれた。 彼 は 美 を 極 めた 聖 なる 神 殿 や 王 宮 や 塔 が、 炎<br />

に 包 まれ、あとかたもなく 廃 墟 と 化 してしまうのをごらんになった。<br />

彼 は、はるか 未 来 に 目 を 注 ぎ、 契 約 の 民 が、「さばくに 散 らばる 破 片 のように」、<br />

各 地 に 離 散 するのを 見 られた。エルサレムの 子 らの 上 に 下 ろうとしていたこの 世 の 応<br />

報 は、 最 後 の 審 判 の 時 に 彼 らが 1 滴 もあまさず 飲 みほさなければならない 怒 りの 杯 の、<br />

ほんの 一 口 に 過 ぎないことを 彼 はごらんになった。こうして、 神 の 憐 れみと 熱 烈 な 愛<br />

は、 悲 しい 言 葉 となってみ 口 からもれたのである。「ああ、エルサレム、エルサレム、<br />

預 言 者 たちを 殺 し、おまえにつかわされた 人 たちを 石 で 打 ち 殺 す 者 よ。ちょうど、め<br />

んどりが 翼 の 下 にそのひなを 集 めるように、わたしはおまえの 子 らを 幾 たび 集 めよう<br />

としたことであろう。それだのに、おまえたちは 応 じようとしなかった」。ああ、 他<br />

のすべての 国 にまさって 恵 まれた 国 よ、もし、おまえが、おまえの 神 のおとずれの 時<br />

を 知 り、 平 和 をもたらす 道 を 知 ってさえいたら。わたしは、 刑 罰 の 天 使 をとどめて、<br />

おまえに 悔 い 改 めをうながしたが、むだであった。おまえが 拒 み 退 けたのは、 単 にし<br />

もべや 代 理 人 、 預 言 者 たちではなくて、おまえの 贖 い 主 、イスラエルの 聖 者 なのだ。<br />

もし、おまえか 滅 びるならば、それは、おまえだけの 責 任 である。「しかも、あなた<br />

がたは、 命 を 得 るためにわたしのもとにこようともしない」[マタイ 23:37、ヨハネ<br />

5:<br />

9


国 際 協 定<br />

キリストは、 不 信 と 反 逆 によってかたくなになり、 急 速 に 神 の 刑 罰 を 受 けようとし<br />

ていた 世 界 を、エルサレムが 象 徴 しているのを 見 られた。 堕 落 した 人 類 の 不 幸 に、キ<br />

リストは 深 く 心 を 痛 め、あのように 激 しい 苦 悶 の 叫 びをあげられたのであった。 彼 は、<br />

人 間 の 悲 惨 と 涙 と 流 血 とが 物 語 る 罪 の 記 録 を 見 られた。 彼 の 心 は、 地 上 で 悩 み 苦 しむ<br />

者 のために、 無 限 の 憐 れみを 感 じられた。 彼 はなんとかしてこうしたすべての 人 々を<br />

救 いたいと 熱 望 されたのである。しかし、 彼 のみ 手 をもってしても、 人 間 の 不 幸 の 潮<br />

は 止 めかねるように 思 われた。 彼 らの 唯 一 の 援 助 者 であるキリストを 求 める 者 が、 少<br />

ないからであった。 彼 は、 人 々に 救 いをもたらすために、 死 に 至 るまで 自 分 の 魂 を 注<br />

ぎ 出 そうとしておられたのに、 生 命 を 得 るために 彼 のところに 来 る 者 は 少 ないのであ<br />

った。<br />

天 の 君 主 が 涙 を 流 しておられる。 無 限 の 神 のみ 子 が、み 心 を 悩 まし、 悲 嘆 にくれて<br />

打 ち 伏 された。この 光 景 に 全 天 は 目 を 見 はった。この 光 景 は、 罪 がどんなに 恐 ろしい<br />

ものであるかをわれわれに 示 し、また、 無 限 の 力 を 持 たれた 神 でも、 神 の 律 法 を 破 っ<br />

た 結 果 から 罪 人 を 救 うことがどんなに 困 難 であるかを 示 している。イエスは、はるか<br />

最 後 の 時 代 までをながめ、エルサレムの 滅 亡 を 招 いたのと 同 様 の 欺 瞞 に、 世 界 が 陥 っ<br />

ているのを 見 られた。ユダヤ 人 の 大 きな 罪 は、 彼 らがキリストを 拒 んだことであった。<br />

キリスト 教 会 の 大 きな 罪 は、 天 地 を 支 配 する 神 の 統 治 の 基 礎 である 神 の 律 法 の 拒 否 と<br />

いうことである。 主 の 戒 めは、 軽 べつされ、 無 視 されるのであった。 罪 に 束 縛 され、<br />

サタンの 奴 隷 となり、 第 二 の 死 に 定 められた 無 数 の 者 が、 神 のおとずれの 時 に、 真 理<br />

の 言 葉 を 聞 こうとしないのである。それは、なんと 恐 ろしい 盲 目 、なんと 不 思 議 な 愚<br />

かさであろう。<br />

過 越 の 祭 りの 2 日 前 、キリストは、ユダヤの 指 導 者 たちの 偽 善 を 非 難 したあと、 神<br />

殿 に 最 後 の 別 れを 告 げてから、もう 1 度 弟 子 たちと 共 に、オリブ 山 に 行 き、 都 を 見 お<br />

ろす 傾 斜 面 の 青 草 の 上 におすわりになった。 彼 は、もう 1 度 、 都 の 城 壁 と 塔 と 王 宮 と<br />

をごらんになった。もう 1 度 、 聖 なる 山 を 飾 る 美 しい 王 冠 のような、まぶしく 輝 く 神<br />

殿 をごらんになった。 その 時 から 1000 年 ほど 前 に、 詩 篇 記 者 は、イスラエルの 型 な<br />

る 家 をご 自 分 の 住 居 となさった 神 の 恵 みをほめたたえた。「その 幕 屋 はサレムにあり、<br />

そのすまいはシオンにある。」 神 は、「ユダの 部 族 を 選 び、 神 の 愛 するシオンの 山 を<br />

選 ばれた。 神 はその 聖 所 を 高 い 天 のように 建 て」られた[ 詩 篇 76:2、78:68、。 最<br />

初 の 神 殿 は、イスラエルが 暦 史 1 最 も 隆 盛 をきわめた 時 代 に 建 てられた。ダビデ 王 は、<br />

このために、 莫 大 な 財 宝 を 集 めた。そして、その 設 計 は、 神 の 霊 感 によってなされた<br />

[ 歴 代 志 上 28:12、19 参 照 ]。<br />

10


国 際 協 定<br />

イスラエルの 王 の 中 で 最 も 賢 明 であったソロモンが、その 工 事 を 完 成 した。この 神<br />

殿 は、 世 界 で 最 も 壮 麗 な 建 物 であった。しかし、 主 は、 預 言 者 ハガイによって、 第 二<br />

の 神 殿 について、 次 のように 言 われた。「 主 の 家 の 後 の 栄 光 は、 前 の 栄 光 よりも 大 き<br />

い。」「わたしはまた 万 国 民 を 震 う。 万 国 民 の 財 宝 は、はいって 来 て、わたしは 栄 光<br />

をこの 家 に 満 たすと、 万 軍 の 主 は 言 われる」[ハガイ 2:9、。 神 殿 は、ネブカデネザ<br />

ルに 破 壊 されたあとで、キリスト 誕 生 の 約 500 年 前 に、 長 年 にわたった 捕 囚 生 活 から、<br />

荒 廃 した 故 郷 に 帰 ってきた 人 々によって 再 建 された。その 時 、 人 々の 中 には、ソロモ<br />

ンの 神 殿 の 栄 光 を 見 た 老 人 たちがいて、 新 しい 建 物 の 基 礎 が 以 前 のものと 比 べてはる<br />

かに 劣 っているのを 嘆 いた。こうした 人 々の 気 持 ちを 預 言 者 は、「あなたかた 残 りの<br />

者 のうち、 以 前 の 栄 光 に 輝 く 主 の 家 を 見 た 者 はだれか。あなたがたは 今 、この 状 態 を<br />

どう 思 うか。これはあなたがたの 目 には、 無 にひとしいではないか」と、 力 をこめて<br />

言 っている[ハガイ 2:3、エズラ 3:12 参 照 ]。この 時 、この 後 の 家 の 栄 光 は、 前 の<br />

家 の 栄 光 より 大 きいという 約 束 が 与 えられた。<br />

しかし、 第 二 の 神 殿 は、 荘 厳 さにおいて、 第 一 の 神 殿 の 比 ではなかった。また、 第<br />

一 の 神 殿 に 与 えられていた 神 の 臨 在 の 目 に 見 えるしるしはなかった。その 献 堂 を 記 念<br />

する 超 自 然 的 力 の 現 れもなかった。 栄 光 の 雲 が 新 築 の 聖 所 を 満 たすのも 見 られなかっ<br />

た。 祭 壇 の 上 の 犠 牲 を 焼 きつくす 天 からの 火 もなかった。 至 聖 所 のケルビムの 間 に、<br />

シェキーナーは、もう 宿 っていなかった。そこには、 契 約 の 箱 も 贖 罪 所 もあかしの 板<br />

もなかった。 神 に 問 う 祭 司 に、 主 のみこころを 告 げる 天 からの 声 はなかった。<br />

何 世 紀 もの 問 、ユダヤ 人 は、ハガイによって 与 えられた 神 の 約 束 の 成 就 を 示 そうと<br />

努 めてきたが、むだであった。しかし、 誇 りと 不 信 が 彼 らの 心 を 旨 目 にし、 預 言 者 の<br />

言 葉 の 真 の 意 味 を 理 解 させなかった。 第 二 の 神 殿 は、 主 の 栄 光 の 雲 ではなくて、 肉 体<br />

をとって 現 れた 神 ご 自 身 、 満 ちみちているいっさいの 神 の 徳 が 宿 っている 方 の 生 きた<br />

臨 在 によって、あがめられるのであった。ナザレの 人 イエスが 神 殿 の 庭 で、 教 え、い<br />

やされた 時 、「 万 国 民 の 財 宝 [ 万 国 の 願 うところのもの・ 文 語 訳 ]」が、ほんとうに 彼<br />

の 神 殿 に 来 られたのである。キリストが 来 られたこと、ただそのことだけで 第 二 の 神<br />

殿 は、 第 一 の 神 殿 の 栄 光 をしのいだ。 しかし、イスラエルは、 天 から 与 えられた 贈 り<br />

物 を 退 けてしまった。その 日 、けんそんな 教 師 イエスが、 黄 金 の 門 から 出 られた 時 に、<br />

栄 光 は、 永 久 に 神 殿 から 去 ったのである。「 見 よ、おまえたちの 家 は 児 捨 てられてし<br />

まう」という 救 い 主 の 言 葉 は、すでに 成 就 したのであった[マタイ 23:。<br />

弟 子 たちは、 神 殿 の 破 壊 に 関 するキリストの 予 告 を 聞 いて、 恐 れと 驚 きに 満 たされ、<br />

彼 の 言 葉 の 意 味 をもっとよく 知 りたいと 願 った。 神 殿 の 壮 麗 さを 増 すために、 財 宝 と<br />

労 力 と 建 築 上 の 技 術 とが、40 年 以 上 にわたって 注 ぎこまれていた。ヘロデ 大 王 も、ロ<br />

11


国 際 協 定<br />

ーマとユダヤ 両 国 の 財 宝 を 惜 しみなく 費 やし、ローマ 皇 帝 さえも 贈 り 物 をささげて 神<br />

殿 を 壮 麗 にした。 信 じられないような 巨 大 な 白 い 大 理 石 が、この 目 的 のためにローマ<br />

から 回 送 され、 建 物 の 一 部 に 用 いられた。そして 弟 子 たちは、これらの 石 に 主 の 注 意<br />

をひいて、「 先 生 、ごらんなさい。なんという 見 事 な 石 、なんという 立 派 な 建 物 でし<br />

ょう」と 言 った[マルコ 13:。<br />

ところが、これに 対 して、イエスは 厳 粛 で 驚 くべき 答 えをされた。「よく 言 ってお<br />

く。その 石 一 つでもくずされずに、そこに 他 の 石 の 上 に 残 ることもなくなるであろう」<br />

[マタイ 24:。<br />

エルサレムの 滅 亡 というと、 弟 子 たちは、キリストが 世 界 国 家 の 王 座 につき、かた<br />

くななユダヤ 人 を 罰 し、 国 家 をローマのくびきから 解 放 するために、この 世 の 栄 光 の<br />

うちに 来 られる 時 のできごとを 連 想 した。 主 は 彼 らに、ご 自 分 がもう 1 度 こられるこ<br />

とを 語 っておられたから、 彼 がエルサレムの 滅 亡 のことを 言 われた 時 、 彼 らはその 再<br />

臨 のことを 思 った。そこで、 彼 らがオリブ 山 上 で 救 い 主 のそばに 集 まった 時 に、「い<br />

つ、そんなことが 起 るのでしょうか。あなたがまたおいでになる 時 や、 世 の 終 りには、<br />

どんな 前 兆 がありますか」と 彼 らは 聞 いた[マタイ 24:。<br />

未 来 のことは、 憐 れみのうちに、 弟 子 たちから 隠 された。もしも、 彼 らがこの 時 、<br />

贖 い 主 の 苦 難 と 死 、そして 都 と 神 殿 の 破 壊 という 2 つの 恐 ろしいできごとを 全 部 知 っ<br />

たならば、 彼 らは 恐 怖 にうちひしがれたことであろう。キリストは、 終 末 の 前 に 起 こ<br />

る 主 要 事 件 のあらましを 彼 らに 示 された。その 時 、 彼 の 言 葉 は 十 分 に 理 解 されなかっ<br />

た。しかし、その 意 味 は、 神 の 民 がそこに 与 えられている 教 訓 を 必 要 とする 時 に 明 ら<br />

かにされるのであった。 彼 が 言 われた 預 言 には、 二 重 の 意 味 があった。それは、エル<br />

サレムの 滅 亡 を 予 告 するとともに、 最 後 の 大 いなる 日 の 恐 怖 をも 予 表 していた。<br />

イエスは、 耳 を 傾 けている 弟 子 たちに、 背 信 したイスラエルに 下 る 刑 罰 、 特 に、メ<br />

シヤを 拒 んで 十 字 架 につけることに 対 して 下 る 懲 罰 報 復 を 明 らかにされた。 恐 るべき<br />

頂 点 に 達 する 前 に 明 白 なしるしが 現 れる。 恐 怖 すべき 時 が、 突 然 、 急 速 にやってくる。<br />

救 い 主 は、 弟 子 たちに 次 のように 警 告 を 発 せられた。「 預 言 者 ダニエルによって 言 わ<br />

れた 荒 らす 憎 むべき 者 が、 聖 なる 場 所 に 立 つのを 見 たならば[ 読 者 よ、 悟 れ]、そのと<br />

き、ユダヤにいる 人 々は 山 へ 逃 げよ」[マタイ 24:15、16、ルカ 21:20、21 参 照 ]。<br />

エルサレムの 城 外 、 数 マイルにわたる 期 地 に、ローマ 人 の 異 教 の 軍 旗 が 立 てられる 時 、<br />

キリストに 従 う 者 たちは、 安 全 をもとめて 逃 げなければならなかった。 警 報 が 見 えた<br />

ならば、のがれることを 望 むものはためらってはならなかった。 避 難 警 報 は、エルサ<br />

レム 城 内 と 同 様 に、ユダヤ 全 土 において、 直 ちに 従 うべきものであった。 屋 上 にいる<br />

12


国 際 協 定<br />

者 は、どんなに 大 切 な 宝 物 であっても、それを 取 りに 家 の 中 に 入 ってはならなかった。<br />

畠 やぶどう 畑 で 働 いていたものは、 日 中 働 いていた 時 に 脱 いでおいた 上 衣 を 取 りに 帰<br />

ってはならなかった。 彼 らは、 一 瞬 でもためらってはならなかった。さもないと 一 般<br />

の 人 々と 共 に 滅 びにまき 込 まれてしまうのであった。<br />

エルサレムは、ヘロデ 王 の 治 世 に 大 いに 美 化 され たばかりでなく、 塔 、 城 壁 、 要 害<br />

などが 建 てられ、それに 地 形 が 自 然 の 要 害 となっていたので、 難 攻 不 落 の 城 と 思 われ<br />

ていた。 こうした 時 に、エルサレムの 滅 亡 を 公 に 予 告 するものは、 洪 水 前 のノアのよ<br />

うに 狂 気 じみた 杞 憂 家 と 呼 ばれたことであろう。しかし、キリストは、「 天 地 は 滅 び<br />

るであろう。しかしわたしの 言 葉 は 滅 びることがない」と 言 われた[マタイ 24:。エ<br />

ルサレムは、その 罪 のために 刑 罰 の 宣 告 を 受 けていたが、そのかたくなな 不 信 によっ<br />

て 滅 亡 を 決 定 的 にしたのであった。<br />

主 は、 預 言 者 ミカによって、 次 のように 言 われた。「ヤコブの 家 のかしらたち、イ<br />

スラエルの 家 のつかさたちよ、すなわち 公 義 を 憎 み、すべての 正 しい 事 を 曲 げる 者 よ、<br />

これを 聞 け。あなたがたは 血 をもってシオンを 建 て、 不 義 をもってエルサレムを 建 て<br />

た。そのかしらたちは、まいないをとってさばき、その 祭 司 たちは 価 をとって 教 え、<br />

その 預 言 者 たちは 金 をとって 占 う。しかもなお 彼 らは 主 に 寄 り 頼 んで、『 主 はわれわ<br />

れの 中 におられるではないか、だから 災 はわれわれに 臨 むことがない』と 言 う」[ミカ<br />

3:9~。<br />

このみ 言 葉 は、 腐 敗 に 陥 り 自 分 を 義 とするエルサレムの 住 民 を、 正 確 に 描 写 してい<br />

た。 彼 らは、 神 の 律 法 の 教 えを 厳 格 に 守 っていると 言 いながら、そのすべての 原 則 を<br />

犯 していた。 彼 らは、キリストの 純 潔 と 聖 潔 とが 彼 らの 罪 悪 を 暴 露 したために 彼 を 憎<br />

んだ。そして、 自 分 たちの 罪 のためにふりかかってきた 苦 難 について、その 原 因 は 彼<br />

にあると 言 って 非 難 した。 彼 らは、キリストが 無 罪 であることを 承 知 の 上 で、 国 家 の<br />

安 全 を 保 つためには 彼 の 死 が 必 要 であると 宣 言 した。「もしこのままにしておけば、<br />

みんなが 彼 を 信 じるようになるだろう。そのうえ、ローマ 人 がやってきて、わたした<br />

ちの 土 地 も 人 民 も 奪 ってしまうであろう」とユダヤの 指 導 者 たちは 言 った[ヨハネ<br />

11:。もしキリストを 犠 牲 にしてしまえば、 彼 らは、もう 1 度 強 力 な 統 一 国 家 になる<br />

ことができる。このように 考 えて 彼 らは、 全 国 民 か 滅 びるよりは 1 人 の 人 が 人 民 に 代<br />

わって 死 ぬほうがよいという 大 祭 司 の 決 定 に、 同 意 したのであった。<br />

このようにして、ユダヤ 人 の 指 導 者 たちは、「 血 をもってシオンを 建 て、 不 義 をも<br />

ってエルサレムを 建 てた」[ミカ 3:。 彼 らは、 救 い 主 が 彼 らの 罪 を 譴 責 されたために、<br />

彼 を 殺 しておきながら、なお 自 分 たちは 神 に 恵 まれていると 考 え、 神 が 彼 らを 敵 の 手<br />

13


国 際 協 定<br />

から 救 ってくださると 期 待 するほどに 自 分 を 義 としていた。「それゆえ、シオンはあ<br />

なたがたのゆえに 田 畑 となって 耕 され、エルサレムは 石 塚 となり、 宮 の 山 は 木 のおい<br />

茂 る 高 い 所 となる」と 預 言 者 は 言 った[ 同 3:。<br />

神 は、エルサレムの 運 命 かキリストご 自 身 の 口 から 宣 言 されてから 40 年 近 くも、<br />

都 と 国 家 に 対 する 刑 罰 を 延 ばされた。 福 音 を 拒 否 し、 神 のみ 子 を 殺 害 した 者 に 対 する<br />

神 の 寛 容 は 驚 くべきものであった。 神 がユダヤ 国 民 を 扱 われる 方 法 が、 実 を 結 ばない<br />

木 の 譬 によくあらわされている。「その 木 を 切 り 倒 してしまえ。なんのために、 土 地<br />

をむだにふさがせて 置 くのか」という 命 令 がすでに 出 されていた[ルカ 13:。しかし、<br />

神 の 憐 れみは、なおしばらくの 間 、それを 猶 予 しておられた。ユダヤ 人 の 中 には、キ<br />

リストの 品 性 と 働 きについて 無 知 なものがまだ 多 くあった。 子 供 たちは、 彼 らの 親 が<br />

拒 否 した 光 に 接 する 機 会 も、それを 受 ける 機 会 もなかった。 神 は 使 徒 たちやその 仲 間<br />

たちによって、 彼 らに 光 を 輝 かそうと 望 まれた。 彼 らは、キリストの 誕 生 と 生 涯 だけ<br />

でなく、その 死 と 復 活 についても、 預 言 がどのように 成 就 したかを 見 せられるのであ<br />

った。 子 供 たちは 親 の 罪 の 罰 を 受 けるのではなかった。しかし、 子 供 たちが、 親 にう<br />

えられたすべての 光 を 知 った 上 で、さらに 自 分 たちに 与 えられた 光 を 拒 む 時 、 彼 らは<br />

親 の 罪 にあずかる 者 となり、 彼 らの 悪 の 升 目 を 満 たすのであった。<br />

エルサレムに 対 する 神 の 忍 耐 は、ただユダヤ 人 をかたくなな 不 信 に 陥 れるだけであ<br />

った。 彼 らは、イエスの 弟 子 たちを 憎 み、 虐 待 して、 最 後 の 憐 れみの 招 き を 拒 んでし<br />

まった。その 時 、 神 は、 彼 らから 保 護 の 手 を 引 き、サタンとその 使 いたちに 対 する 神<br />

の 抑 制 力 を 除 去 された。そして 国 家 は、その 選 んだ 指 導 者 のなすままになった。 イス<br />

ラエルの 人 々は、 邪 悪 な 衝 動 をしずめる 力 を 彼 らに 与 えることのできるキリストの 恵<br />

みを、 退 けてしまった。そこで、 今 度 は、こうした 衝 動 が 優 位 を 占 めた。サタンは、<br />

人 間 の 心 の 中 の 最 も 激 烈 で 卑 しい 感 情 をよびおこした。 人 々は、 道 理 をわきまえなか<br />

った。 彼 らは 理 性 を 越 えた 衝 動 と 盲 目 的 な 激 しい 怒 りに 支 配 された。 彼 らは、 悪 魔 的<br />

残 酷 さをあらわしてきた。 家 庭 においても 国 家 においても、 上 流 階 級 においても 下 層<br />

階 級 においても 一 様 に、 疑 い、ねたみ、 憎 しみ、 争 闘 、 反 逆 、 殺 人 などが 行 われた。<br />

どこも 安 全 ではなかった。 友 人 も 親 族 も、 互 いに 裏 切 り 合 った。 親 は 子 供 を 殺 し、 子<br />

供 は 親 を 殺 した。 国 民 の 指 導 者 たちは、 自 分 自 身 を 統 御 する 力 がなかった。 押 えきれ<br />

ない 感 情 が 彼 らを 暴 君 にした。ユダヤ 人 は、 神 の 罪 なきみ 子 を 罪 に 定 めるために、 偽<br />

証 を 受 け 入 れたのであった。そして 今 、 偽 証 が、 彼 ら 自 身 の 生 命 を 脅 かしていた。 彼<br />

らは、その 行 動 によって、 長 い 間 、「われらが 前 にイスラエルの 聖 者 をあらしむるな<br />

かれ」と 言 ってきた[イザヤ 30:11 文 語 訳 ]。 今 、 彼 らの 願 いはかなえられた。 彼 ら<br />

14


国 際 協 定<br />

はもう 神 を 恐 れなくなった。サタンが、 国 家 のかしらとなった。そして 政 治 と 宗 教 の<br />

最 高 の 権 威 者 たちは、 彼 の 支 配 下 にあった。<br />

対 立 する 諸 党 派 の 指 導 者 たちは、 時 には 結 束 して、 哀 れな 犠 牲 者 たちを 襲 って 苦 し<br />

めるかと 思 うと、 今 度 は 互 いに 攻 め 合 い 無 慈 悲 に 殺 害 し 合 った。 神 聖 な 神 殿 でさえ、<br />

彼 らの 恐 ろしい 残 忍 さをとどめることができなかった。 礼 拝 者 が 祭 壇 の 前 で 殺 され、<br />

聖 所 は 死 体 によって 汚 された。しかし、この 凶 悪 な 行 為 の 扇 動 者 たちは、その 盲 目 で<br />

神 をないがしろにした 思 い 上 がりから、エルサレムは 神 ご 自 身 の 都 であるから、 滅 亡<br />

する 恐 れはないと 公 言 していた。 彼 らは 権 力 を 確 保 するために、にせ 預 言 者 を 買 収 し<br />

て、ローマの 軍 隊 が 神 殿 を 包 囲 している 時 でさえ、 神 の 救 いを 待 つべきであると 人 々<br />

に 言 わせた。 群 衆 は、 至 高 者 であられる 神 が 敵 を 滅 ぼすために 介 入 なさることを、 最<br />

後 まで 信 じていた。しかし、イスラエルは、 神 の 保 護 を 退 けてしまっていたから、 今 、<br />

なんの 防 備 もなかった。 不 幸 なエルサレムよ。 内 紛 に 裂 かれ、 同 志 の 手 で 殺 害 された<br />

子 らの 血 が、 都 の 通 りを 赤 く 染 め、その 上 異 邦 人 の 軍 隊 が 要 塞 を 破 壊 し、 兵 士 たちを<br />

殺 害 したのである。<br />

エルサレムの 滅 亡 に 関 するキリストの 預 言 はみな、 文 字 どおり 成 就 した。ユダヤ 人<br />

は、「あなたがたの 量 るそのはかりで、 自 分 にも 量 り 与 えられるであろう」というキ<br />

リストの 警 告 の 言 葉 が 事 実 であることを、 身 をもって 知 った[マタイ 7:。 災 害 と 滅<br />

亡 を 予 告 するしるしと 不 思 議 があらわれた。 真 夜 中 に、 神 殿 と 祭 壇 の 上 に 異 様 な 光 が<br />

輝 いた。 戦 いのために 戦 車 や 勇 士 たちが 集 結 するのが、 日 没 の 時 雲 の 上 に 描 き 出 され<br />

た。 夜 間 、 聖 所 で 奉 仕 する 祭 司 たちは、 不 思 議 な 物 音 に 驚 かされた。 地 が 震 え、「わ<br />

れわれはここを 去 ろう」 1 と 大 勢 の 声 が 叫 ぶのが 聞 こえた。20 人 がかりでもしめられ<br />

ないほど 重 く、しかも 堅 い 敷 石 に 深 く 打 ち 込 まれた 鉄 のかんぬきで 閉 じられた 東 の 門<br />

の 扉 が、だれもいないのに、 夜 半 に 開 かれた。<br />

また、7 年 の 間 、1 人 の 男 がエルサレムの 町 をあちこちとめぐって、 都 に 下 る 災 い<br />

について 叫 びつづけた。 彼 は、 昼 も 夜 も、 激 しい 悲 しみの 歌 をうたった。「 東 からの<br />

声 。 西 からの 声 。 四 方 からの 声 。エルサレムを 責 め、 神 殿 を 責 める 声 。 新 郎 と 新 婦 を<br />

責 める 声 。 全 国 民 を 責 める 声 。」 2 この 不 思 議 な 男 は 投 獄 されて、きびしく 罰 せられた<br />

が、 一 言 もつぶやきの 言 葉 をもらさなかった。 彼 は、 侮 辱 とののしりに 対 して、「エ<br />

ルサレムは、わざわいだ、わざわいだ。」「エルサレムの 住 民 はわざわいだ、わざわ<br />

いだ」と 答 えるだけであった。 彼 の 警 告 の 叫 びは、 彼 が 自 分 の 予 告 したその 包 囲 の 中<br />

で 殺 されるまでやまなかった。<br />

15


国 際 協 定<br />

エルサレムが 滅 亡 した 時 、キリスト 者 は 1 人 も 死 ななかった。キリストが 弟 子 たち<br />

に 警 告 を 発 しておら れたので、 彼 のみ 言 葉 を 信 じたものは、みな、 約 束 のしるしに 注<br />

意 していた。「エルサレムが 軍 隊 に 包 囲 されるのを 見 たならば、そのときは、その 滅<br />

亡 が 近 づいたとさとりなさい。そのとき、ユダヤにいる 人 々は 山 へ 逃 げよ。 市 中 にい<br />

る 者 は、そこから 出 て 行 くがよい」とイエスは 言 われた[ルカ 21:20、。ローマ 軍 は、<br />

ケスティウスの 指 揮 のもとに 都 を 包 囲 したが、すべてが 即 時 攻 撃 に 好 都 合 であると 思<br />

われたにもかかわらず、 不 意 に 撤 退 してしまった。 籠 城 していた 側 では 包 囲 に 耐 えか<br />

ねて、 今 にも 降 伏 するばかりになっていた 時 に、ローマの 将 軍 は、 一 見 、なんの 理 山<br />

もないのに、 軍 隊 を 撤 退 させたのである。しかしこれは、 神 が 神 の 民 のために 事 件 の<br />

なりゆきを 導 かれる 憐 れみに 満 ちた 摂 理 であった。すでに 約 束 のしるしは、 待 ってい<br />

るキリスト 者 に 与 えられていた。そして、 今 、 救 い 主 の 警 告 に 従 おうとするすべての<br />

者 に 機 会 が 与 えられた。 事 件 は、 神 の 支 配 下 にあったので、ユダヤ 人 もローマ 人 も、<br />

キリスト 者 の 避 難 を 止 めなかった。ケスティウスの 退 却 を 見 たユダヤ 人 は、エルサレ<br />

ムを 飛 び 出 して 敵 軍 のあとを 追 った。 両 軍 の 交 戦 中 に、キリスト 者 は 都 を 去 ることか<br />

できた。この 時 、 彼 らの 避 難 の 妨 害 になったかもしれない 敵 の 軍 勢 も、 国 内 から 追 い<br />

払 われていた。 包 囲 された 時 、ユダヤ 人 は 仮 庵 の 祭 りを 祝 うためにエルサレムに 集 ま<br />

っていた。したがって 全 国 のキリスト 者 は、 無 事 のがれることができた。 彼 らは 直 ち<br />

に 安 全 な 場 所 へ、ヨルダンの 向 こうにあるペレアの 地 のペラの 町 に 避 難 した。<br />

ケスティウスとその 軍 隊 を 追 跡 したユダヤ 軍 は、これを 全 滅 させうかと 思 われる 勢<br />

いで 後 方 から 攻 めたてた。ローマ 軍 は、 非 常 な 困 難 のなかでやっと 退 却 した。ユダヤ<br />

軍 は、ほとんど 損 失 をこうむらずにすみ、 戦 利 品 を 携 えて、 意 気 揚 々とエルサレムに<br />

引 きあげた。しかし、この 勝 利 と 思 われたことは、ただ 彼 らを 不 幸 にしただけであっ<br />

た。これは、ローマ 人 に 対 する 頑 強 な 抵 抗 心 を 彼 らにいだかせ、 滅 亡 にひんした 都 を<br />

言 語 に 絶 する 苦 難 に 陥 れた。 ティトゥスがふたたび 包 囲 した 時 、エルサレムに 起 こっ<br />

た 災 難 は 悲 惨 なものであった。 都 の 包 囲 は、 城 内 に 幾 百 万 のユダヤ 人 が 集 まっていた<br />

過 越 の 祭 りの 時 に 起 こった。 注 意 深 く 保 存 すれば、 数 年 は 住 民 を 養 うことができたは<br />

ずの 食 糧 の 蓄 えは、 相 争 う 党 派 のしっとやふくしゅうのためにすでになくなり、 人 々<br />

は、 今 や 飢 餓 の 恐 怖 にさらされていた。<br />

小 麦 1 升 の 価 は 1 タラントであった。 人 々は、 非 前 な 飢 えのために、 帯 皮 やサンダ<br />

ル、また 盾 のおおいをかんだりした。 多 くの 者 は、 夜 間 城 外 に 忍 び 出 て、 城 壁 の 外 に<br />

生 えている 野 草 を 取 ろうとしたが、その 多 くは 捕 らえられて 惨 殺 された。また、 無 事<br />

帰 ってきた 者 も、 非 常 な 危 険 を 冒 して 集 めたものを 他 の 人 に 奪 われてしまうのであっ<br />

た。 権 力 者 が、 窮 乏 に 陥 った 者 から、 隠 しているわずかの 食 物 を 奪 い 取 るために 加 え<br />

16


国 際 協 定<br />

た 拷 問 は、 実 に 残 忍 なものであった。こうした 残 忍 なことは、 十 分 に 食 物 を 持 ってい<br />

ながら、ただ 将 来 のために 蓄 えておこうとする 人 々によって、しばしば 行 われたので<br />

あった。<br />

無 数 の 者 が、 飢 えと 病 気 で 倒 れた。 人 間 本 来 の 自 然 な 愛 情 は 失 われてしまったよう<br />

に 思 われた。 夫 は 妻 から、 妻 は 夫 から 奪 った。 子 供 は、 老 いた 親 の 口 から 食 物 をもぎ<br />

取 った。「 女 がその 乳 のみ 子 を 忘 れて、その 腹 の 子 を、あわれまないようなことがあ<br />

ろりか」という 預 言 者 の 問 いに 対 して、 滅 亡 にひんした 城 内 から 次 のような 答 えがあ<br />

った。「わが 民 の 娘 の 滅 びる 時 には 情 深 い 女 たちさえも、 手 ずから 自 分 の 子 どもを 煮<br />

て、それを 食 物 とした」[イザヤ 49:15、 哀 歌 4:。また、それより 1400 年 前 に 与<br />

えられた 警 告 の 預 言 が 成 就 した。「またあなたがたのうちのやさしい、 柔 和 な 女 、す<br />

なわち 柔 和 で、やさしく、 足 の 裏 を 土 に 付 けようともしない 者 でも、 自 分 のふところ<br />

の 夫 や、むすこ、 娘 にもかくして、…… 自 分 の 産 む 子 をひそかに 食 べるであろう。 敵<br />

があなたの 町 々を 囲 み、 激 しく 攻 めなやまして、すべての 物 が 欠 乏 するからである」<br />

[ 申 命 記 28:56、。 ]<br />

ローマの 将 軍 たちは、ユダヤ 人 を 脅 かして、 彼 らを 降 伏 させようとした。 彼 らは 抵<br />

抗 した 捕 虜 をむちで 打 って 苦 しめ、 都 の 城 壁 の 前 で 十 字 架 にかけた。こうして、 殺 さ<br />

れる 者 が 毎 日 何 百 人 とあった。そして、この 恐 ろしいことは、ヨシャパテの 谷 一 帯 と<br />

カルバリーに 無 数 の 十 字 架 が 立 てられ、その 間 を 歩 くことさえ 困 難 になるまで 続 い<br />

た。 ピラトの 法 廷 で 叫 ばれた「その 血 の 責 任 は、われわれとわれわれの 子 孫 の 上 にか<br />

かってもよい」という 恐 ろしいのろいの 言 葉 は、このように 悲 惨 な 罰 となった[マタイ<br />

27:。<br />

しかし、ティトゥスは、なんとかしてこの 恐 るべき 状 態 をやめさせ、エルサレムを<br />

全 滅 から 救 いたいと 思 った。 彼 は、 谷 間 に 積 まれた 死 体 を 見 て 戦 慄 した。 彼 は、オリ<br />

ブ 山 の 上 から 壮 麗 な 神 殿 をながめて、 非 常 に 心 を 打 たれ、その 石 1 つにでも 触 れては<br />

ならないと 命 令 した。ティトゥスはこの 要 害 を 占 領 するに 先 だって、ユダヤの 指 導 者<br />

に 熱 心 に 訴 え、 彼 がこの 神 聖 な 場 所 を 血 で 汚 さなくてもよいようにしてほしいと 言 っ<br />

た。もし 彼 らが 出 てきて、 他 の 場 所 で 戦 うことを 望 むならば、ローマ 人 はだれも 神 殿<br />

を 汚 すことはしないと 言 った。ヨセフス 自 身 も 大 いに 熱 弁 をふるって、ユダヤ 人 に 降<br />

伏 をすすめ、 自 分 たちを 救 うと 共 に 都 と 神 殿 とを 救 うように 訴 えた。しかし、こうし<br />

た 言 葉 に 対 して、 彼 は 激 しいのろいの 声 を 浴 びせられた。 最 後 の 調 停 者 として 訴 える<br />

彼 に、 投 げやりが 投 げられた。ユダヤ 人 は、 神 のみ 子 の 懇 願 を 退 けてしまったが、 今<br />

では 忠 告 も 懇 願 もただ 彼 らの 心 をかたくなにしてあくまで 抵 抗 させるだけであった。<br />

神 殿 を 滅 ぼすまいとしたティトゥスの 努 力 はむだであった。 彼 より 偉 大 なお 方 が、そ<br />

17


国 際 協 定<br />

の 石 1 つでもくずされずに、 他 の 石 の 上 に 残 ることはないと 宣 言 されていたのであ<br />

る。<br />

ユダヤの 指 導 者 たちの 盲 目 的 頑 強 さと、 城 内 で 行 われた 憎 むべき 犯 罪 とが、ローマ<br />

人 の 恐 怖 と 激 怒 をあおり、ティトウスはついに、 神 殿 を 襲 ってこれを 占 領 することを<br />

きめた。しかし 彼 は、できることならば 神 殿 を 破 壊 から 守 ろうとした。けれども 彼 の<br />

命 令 は 無 視 された。 彼 が 夜 、 天 幕 に 帰 ったあとで、ユダヤ 人 は、 神 殿 から 城 外 に 出 て、<br />

敵 の 兵 隊 を 攻 撃 した。 交 戦 中 、1 人 の 兵 士 が 柱 廊 のすきまから 中 へたいまつを 投 げ 込<br />

んだ。たちまち、 神 殿 の 周 りの 杉 材 のへやは 火 に 包 まれた。ティトゥスは 将 軍 や 兵 隊<br />

をつれてその 場 に 行 き、 火 を 消 すように 兵 隊 たちに 命 じた。しかし、その 命 令 は 顧 み<br />

られなかった。 怒 り 狂 った 兵 隊 たちは、 神 殿 に 隣 接 したへやにたいまつを 投 げ 込 み、<br />

そこに 避 難 していた 多 くの 者 を 剣 にかけて 殺 した。 血 が 神 殿 の 階 段 を 川 のように 流 れ<br />

た。 幾 千 というユダヤ 人 が 死 んだ。 戦 いの 物 音 に 混 じって、「イカボデ」—— 栄 光 は<br />

去 ったと 叫 ぶ 声 が 聞 こえた。<br />

ティトゥスは、 兵 隊 たちの 激 しい 怒 りをしずめることが 不 可 能 であることを 知 って、<br />

将 校 たちと 共 に 中 に 入 り、 神 殿 の 内 部 を 調 査 した。 彼 らはその 壮 麗 さに 目 を 見 張 った。<br />

そして、 火 はまだ 聖 所 まで 回 っていなかったので、 必 死 になってこれを 守 ろうとし、<br />

飛 び 出 して 行 って、ふたたび 兵 隊 たちに 火 の 進 行 を 止 めるように 訴 えた。 百 卒 長 リベ<br />

ラリスは、その 職 権 によって、 服 従 をしいようと 試 みた。しかし、 皇 帝 への 尊 敬 でさ<br />

え、ユダヤ 人 に 対 する 激 しい 敵 意 と 戦 いの 恐 ろしい 興 奮 と 略 奪 に 対 する 飽 くことを 知<br />

らない 欲 望 の 前 には、どうする 力 もなかった。 兵 隊 たちは、 金 色 に 輝 く 周 囲 のものが<br />

みな、 燃 えさかる 炎 に 照 りはえるのを 見 て、 聖 所 の 中 には 無 数 の 宝 物 がたくわえられ<br />

ていると 考 えた。だれも 気 づかないうちに、1 兵 卒 が、とびらのちょうつがいの 間 か<br />

ら 火 のついたたいまつを 中 に 投 げ 入 れた。 建 物 全 体 は、 一 瞬 のうちに 炎 に 包 まれた。<br />

立 ちこめる 煙 と 火 のために、 将 校 たちは、 避 難 するほかなかった。そして、 広 大 な 建<br />

物 は、 焼 失 するままになってしまった。<br />

「それは、ローマ 軍 にとって 恐 るべき 光 景 であった。では、ユダヤ 人 にとってはど<br />

うであったか。 全 市 を 見 おろす 山 頂 全 体 が 噴 火 山 のように 燃 え 上 がった。 建 造 物 は 次<br />

々と 大 音 響 を 立 てて 倒 れ、 火 の 海 にのまれた。 杉 ぶきの 屋 根 は 一 面 の 火 と 変 わり、 金<br />

色 の 尖 塔 は 赤 い 火 の 柱 のように 輝 いた。 門 塔 は 炎 と 煙 を 高 く 吹 き 上 げた。 近 くの 山 々<br />

は 火 に 照 りはえ、 黒 い 人 影 が 恐 怖 と 不 安 にかられつつ、 滅 亡 のさまをながめていた。<br />

都 の 城 壁 と 高 台 のほうにも、 絶 望 に 青 ざめた 人 々や、 無 益 なふくしゅうの 念 に 顔 をし<br />

かめた 人 々が 群 がっていた。 走 り 回 るローマの 兵 隊 の 叫 び 声 や、 炎 の 中 で 倒 れる 反 乱<br />

兵 たちのうめき 声 が、 猛 火 のうなりと 材 木 の 落 下 する 大 音 響 に 混 って 聞 こえた。 高 台<br />

18


国 際 協 定<br />

の 人 々の 叫 び 声 が 山 々にこだまし、 城 壁 の 周 り 一 面 に、 泣 き 叫 ぶ 声 と 嘆 き 悲 しむ 声 が<br />

満 ちた。 飢 えて 死 にひんしている 人 々は、わずかに 残 った 力 をふりしぼって、 苦 悩 と<br />

悲 痛 の 叫 びをあげた。<br />

「 城 内 の 殺 害 は、 城 外 の 光 景 よりいっそう 悲 惨 なものであった。 男 も 女 も、 老 いも<br />

若 きも、 反 乱 兵 も 祭 司 も、 戦 った 者 もあわれみを 請 うた 者 も、みな 差 別 なく 殺 害 され<br />

た。 殺 された 者 の 数 は、 殺 害 者 の 数 を 上 回 った。 軍 隊 は 死 者 の 山 をよじのぼって、 絶<br />

滅 の 仕 事 を 続 けねばならなかった。」 神 殿 が 破 壊 された 後 、まもなく、 全 市 がローマ<br />

軍 の 手 に 落 ちた。ユダヤの 将 軍 たちは 難 攻 不 落 の 要 塞 を 放 棄 したので、ティトゥスが<br />

そこに 来 た 時 には、だれも 残 っていなかった。 彼 はそれを 見 て 驚 き、これを 彼 の 手 に<br />

与 えたのは 神 であると 言 った。というのは、どんなに 強 力 な 兵 器 でも、この 巨 大 な 要<br />

塞 の 胸 壁 を 打 ち 破 ることはできなかったからである。 都 も 神 殿 もともに 完 全 に 破 壊 さ<br />

れ、 神 殿 の 跡 は、「 畑 のように 耕 され」た[エレミヤ 26:。 包 囲 とその 後 の 虐 殺 によ<br />

って 死 んだ 者 は 百 万 人 以 上 であった。 生 存 者 は、 捕 虜 として 連 れていかれたり、 奴 隷<br />

に 売 られたり、 勝 利 者 の 凱 旋 を 飾 るためにローマへ 引 かれて 行 ったりした。また 円 形<br />

劇 場 で 野 獣 の 餌 食 になった 者 もあれば、 流 浪 の 民 として 世 界 中 にちらばった 者 たちも<br />

いた。<br />

ユダヤ 人 は、 自 分 で 自 分 の 足 かせをつくり、 自 分 でふくしゅうの 杯 を 満 たしたのであ<br />

る。 国 家 としての 全 滅 の 中 で、そしてそれに 続 いて 起 こったあらゆる 災 いの 中 で、 彼<br />

らは 彼 ら 自 身 がまいたその 収 穫 を 刈 り 取 っているにすぎなかった。「イスラエルよ、<br />

あなたはあなた 自 身 を 滅 ぼす」「あなたは 自 分 の 不 義 によって、つまずいたからだ」<br />

と 預 言 者 は 言 っている[ホセア 13:9・ 英 語 訳 、14:。 彼 らの 苦 難 は、 神 の 直 接 の 命<br />

令 によって 下 った 刑 罰 のように 言 われることがよくある。こうして 大 欺 瞞 者 は、 自 分<br />

自 身 の 行 為 をかくそうとしているのである。ユダヤ 人 は、 神 の 愛 と 憐 れみを 頑 強 に 拒<br />

否 して、 神 の 保 護 を 彼 らから 退 け、サタンが 思 いのままに 彼 らを 支 配 するにまかせた<br />

のであった。エルサレムの 滅 亡 の 時 に 行 われた 残 虐 行 為 は、サタンの 支 配 に 応 じる 者<br />

にサタンがどんな 執 念 深 い 力 をあらわすかを 示 している。<br />

われわれは、 自 分 たちの 享 受 している 平 和 と 保 護 が、どんなに 多 くキリストに 負 う<br />

ものであるかを、 知 ることができない。 人 類 が 全 くサタンの 支 配 下 に 陥 らないように<br />

しているのは、 神 の 抑 制 力 である。 神 が 慈 悲 と 忍 耐 をもって、 悪 魔 の 残 酷 で 悪 意 に 満<br />

ちた 力 を 止 めておられることを、 不 従 順 で 恩 を 知 らない 者 たちは、 大 いに 感 謝 しなけ<br />

ればならないのである。しかし、 人 間 が 神 の 忍 耐 の 限 度 を 越 える 時 、この 抑 制 は 取 り<br />

除 かれる。 神 は、 罪 に 対 する 宣 告 の 執 行 者 として 罪 人 の 前 に 立 たれるわけではない。<br />

しかし 神 は、 神 の 憐 れみを 拒 んだ 者 をそのなすがままにされるのである。 彼 らは、 自<br />

19


国 際 協 定<br />

分 たちがまいたものを 刈 り 取 らなければならない。 退 けた 光 、 軽 んじ、 無 視 した 警 告 、<br />

ほしいままにした 欲 情 、 神 の 律 法 にそむいたことなどはすべて、まかれた 種 であって、<br />

それは 必 ずその 収 穫 をもたらすのである。 神 の 霊 は、 頑 強 にそれを 拒 んでいると、つ<br />

いには、 罪 人 から 離 れてしまう。すると、もはや 心 の 邪 悪 な 感 情 を 抑 制 する 力 がなく<br />

なり、サタンの 悪 意 と 敵 意 から 彼 らを 保 護 するものがなくなってしまう。エルサレム<br />

の 滅 亡 は、 神 の 恵 みの 招 きを 軽 んじ、 神 の 憐 れみの 訴 えを 拒 む 者 に 対 する 恐 ろしい、<br />

そして 厳 粛 な 警 告 である。 罪 に 対 する 神 の 憎 しみと、 罪 人 に 下 る 刑 罰 の 確 実 性 に 関 す<br />

る、これ 以 上 の 決 定 的 証 拠 はない。<br />

しかし、エルサレムに 下 った 刑 罰 に 関 する 救 い 主 の 預 言 は、もう 1 つの 成 就 を 見 な<br />

ければならない。あの 恐 ろしいエルサレム 滅 亡 も、そのできごとのほんのかすかな 影<br />

にしかすぎないのである。すなわち、われわれは、 選 ばれた 都 の 滅 亡 のなかに、 神 の<br />

憐 れみを 拒 み、 神 の 律 法 をふみにじってきた 世 界 の 運 命 を 見 るのである。この 地 上 で、<br />

幾 世 紀 の 永 きにわたって 罪 を 犯 し 続 けてきた 悲 惨 な 人 類 の 歴 史 は、まことに 暗 いもの<br />

である。それを 考 える 時 、だれしも 心 痛 み、 気 はなえてしまう。 神 の 権 威 を 拒 否 する<br />

結 果 は、 実 に 恐 ろしいことである。 しかし、さらに 暗 い 光 景 が 未 来 に 関 する 啓 示 のな<br />

かに 示 されている。すなわち、 混 乱 、 争 闘 、 革 命 、「 騒 々しい 声 と 血 まみれの 衣 を 持<br />

った 戦 士 の 戦 い」[イザヤ 9:5・ 英 語 訳 ]といった 過 去 の 歴 史 も、 神 の 霊 の 抑 制 力 が 悪<br />

人 たちから 全 く 取 り 除 かれ、 人 間 の 欲 情 とサタンの 怒 りを 止 めるものが 何 もなくなる<br />

その 日 の 恐 怖 と 比 べる 時 、ものの 数 ではないのである。その 時 、 世 界 は、これまでか<br />

ってなかったほどに、サタンの 支 配 の 結 果 を 見 るのである。<br />

しかし、その 日 、エルサレムの 滅 亡 の 時 と 同 じように、 生 命 の 書 に 記 されたすべて<br />

の 神 の 民 は 救 われる[イザヤ 4:3、4 参 照 ]。キリストは、 忠 実 な 者 を 集 めるためにも<br />

う 1 度 来 ると 言 われた。「そのとき、 人 の 子 のしるしが 天 に 現 れるであろう。またそ<br />

のとき、 地 のすべての 民 族 は 嘆 き、そして 力 と 大 いなる 栄 光 とをもって、 人 の 子 が 天<br />

の 雲 に 乗 って 来 るのを、 人 々は 見 るであろう。また、 彼 は 大 いなるラッパの 音 と 共 に<br />

御 使 たちをつかわして、 天 のはてからはてに 至 るまで、 四 方 からその 選 民 を 呼 び 集 め<br />

るであろう」[マタイ 24:30、。その 時 、 福 音 に 従 わない 者 は、 彼 の 口 の 息 をもって<br />

殺 され、その 来 臨 の 輝 きによって 滅 ぼされる[Ⅱテサロニケ 2:8 参 照 ]。 昔 のイスラ<br />

エルと 同 様 に、 悪 人 は、 自 分 自 身 を 滅 ぼし、 自 分 の 不 義 のために 倒 れる。 彼 らは 罪 の<br />

生 活 によって、 神 と 一 致 した 生 活 から 遠 く 離 れ、 彼 らの 性 質 は 悪 に 染 まってしまった。<br />

そのため、 神 の 栄 光 のあらわれは、 彼 らにとって 焼 き 尽 くす 火 となるのである。<br />

われわれは、キリストの 言 葉 に 示 された 教 訓 をなおざりにしないように 注 意 しなけ<br />

ればならない。キリストは、エルサレムの 滅 亡 について 弟 子 たちに 警 告 を 与 え、 彼 ら<br />

20


国 際 協 定<br />

が 逃 れることができるように、 滅 亡 の 近 いことを 示 すしるしをお 与 えになった。その<br />

ように、 彼 は、 最 後 の 滅 亡 の 日 について 世 界 に 警 告 を 発 し、すべてのものが 来 たるべ<br />

き 怒 りから 逃 れるように、その 近 いことを 示 すしるしをお 与 えになった。「また 日 と<br />

月 と 星 とに、しるしが 現 れるであろう。そして、 地 上 では、 諸 国 民 が 悩 み」とイエス<br />

は 言 われた[ルカ 2:25、マタイ 24:29、マルコ 13:24~26、 黙 示 録 6:12~17<br />

参 照 ]。 キリストの 再 臨 に 関 するこうしたしるしを 見 る 者 は、「そのことが 戸 口 まで<br />

近 づいている」ことを 知 らなければならない[マタイ 24:33・ 英 語 訳 ]。「 目 をさま<br />

していなさい」と 彼 は 勧 めておられる[マルコ 13:。<br />

この 警 告 を 心 にとめている 者 は、 暗 黒 のうちに 取 り 残 され、その 日 が 不 意 に 彼 らを<br />

襲 うことはない。しかし、 目 をさましていない 者 にとっては、「 主 の 日 は 盗 人 が 夜 く<br />

るように 来 る」のである[Ⅰテサロニケ 5:2、3~5 参 照 ]。 今 、 世 界 は、ユダヤ 人 が<br />

エルサレムに 関 する 救 い 主 の 警 告 を 受 け 入 れなかったのと 同 様 に、 現 代 のためのメッ<br />

セージを 信 じようとしないのである。しかし、いずれにしても、 神 の 日 は、 神 を 信 じ<br />

ない 者 に 不 意 にやって 来 る。 生 活 はいつもと 変 わりなく 続 き、 人 々は 快 楽 にふけり、<br />

事 業 や 商 売 や 金 もうけに 熱 中 し、 宗 教 家 が、 世 界 の 進 歩 と 知 識 の 増 加 を 賞 賛 し、 人 々<br />

が 偽 りの 安 定 に 眠 りをむさぼっている 時 、その 時 に、 真 夜 中 の 盗 人 が 不 用 意 な 家 に 忍<br />

び 込 むように、 突 然 、 滅 亡 が 軽 率 で 神 を 信 じない 人 々に 臨 む。「そして、それからの<br />

がれることは 決 してできない」[Ⅰテサロニケ 5:。<br />

21


国 際 協 定<br />

第 2 章 迫 害 の 火<br />

イエスは、エルサレムの 運 命 と 再 臨 の 光 景 を 弟 子 たちに 示 された 時 、 彼 が 弟 子 たち<br />

から 取 り 去 られてから、 彼 らを 救 うために 力 と 栄 光 のうちに 再 臨 される 時 までの、 神<br />

の 民 の 経 験 をも 予 告 された。オリブ 山 上 から 救 い 主 は、 使 徒 時 代 の 教 会 にふりかかろ<br />

うとしていた 嵐 を 見 られた。そして、さらに 遠 い 未 来 を 貫 いて、 来 たるべき 暗 黒 と 迫<br />

害 の 時 代 において、 彼 に 従 う 者 たちを 襲 う 激 烈 で 破 壊 的 な 嵐 をごらんになった。 彼 は<br />

ここで、 簡 単 ではあるがきわめて 重 大 な 発 言 によって、この 世 の 支 配 者 が 神 の 教 会 を<br />

どう 扱 うかを 予 告 された[マタイ 24:9、21、22 参 照 ]。キリストに 従 う 者 たちは、<br />

彼 らの 主 が 歩 かれたのと 同 じ 屈 辱 と 非 難 と 苦 しみの 道 を 歩 かなければならない。 世 界<br />

の 贖 い 主 に 向 けられた 敵 意 は、 彼 の 名 を 信 じるすべての 者 に 対 してあらわされるので<br />

あった。<br />

初 代 教 会 の 歴 史 は、 救 い 主 のみ 言 葉 の 成 就 を 立 証 した。 地 と 黄 泉 [よみ]の 力 は、 信<br />

徒 たちに 立 ち 向 かうことによって、キリストに 対 抗 した。 異 教 は、もし 福 音 が 勝 利 を<br />

収 めるならば、 自 分 たちの 神 殿 と 祭 壇 は 一 掃 されてしまうと 予 想 し、そのために 全 力<br />

を 挙 げてキリスト 教 を 撲 滅 しようとした。 迫 害 の 火 が 点 じられた。キリスト 者 たちは<br />

持 ち 物 を 奪 われ、 家 から 追 われた。 彼 らは、「 苦 しい 大 きな 戦 いによく 耐 えた」[ヘブ<br />

ル 10:。 彼 らは、「あざけられ、むち 打 たれ、しばり 上 げられ、 投 獄 されるほどのめ<br />

に 会 った」[ 同 11:。 多 くの 者 は、 彼 らのあかしに 血 の 印 をおした。 貴 族 も 奴 隷 も、<br />

金 持 ちも 貧 しい 人 も、 知 者 も 無 知 なものも 一 様 に 容 赦 なく 殺 された。 ネロのもとで、<br />

パウロが 殉 教 したころに 始 まったこのような 迫 害 は、その 激 しさに 多 少 の 差 はあった<br />

が、 数 世 紀 間 続 いた。キリスト 者 は、 極 悪 非 道 な 犯 罪 を 犯 したものとして 偽 って 訴 え<br />

られ、 飢 饉 、 疫 病 、 地 震 などの 災 害 の 原 因 であるとされた。 彼 らが、 一 般 社 会 の 憎 悪<br />

と 嫌 疑 の 的 となると、 密 告 者 たちは 利 益 のために、 罪 のない 者 を 裏 切 った。 彼 らは、<br />

ローマ 帝 国 の 反 逆 者 、 宗 教 の 敵 、 社 会 の 害 毒 であると 非 難 された。 数 多 くの 者 が 円 形<br />

劇 場 で、 野 獣 の 餌 食 になり、 生 きながら 火 で 焼 かれた。 十 字 架 に 架 けられた 者 たちも<br />

あれば、 野 獣 の 皮 を 着 せられて 闘 技 場 に 投 げ 込 まれ、 犬 にかみ 裂 かれた 者 たちもあっ<br />

た。こうした 刑 罰 は、しばしば、 祝 祭 日 の 主 な 催 し 物 にされた。 大 群 衆 が 集 まってき<br />

て、その 光 景 をながめて 楽 しみ、 彼 らの 死 の 苦 しみを 笑 い、 喝 釆 した。<br />

キリストに 従 う 者 たちは、どこに 避 難 しても、 野 獣 のように 狩 り 出 された。 彼 らは<br />

荒 涼 として 人 跡 まれなところにかくれがを 求 めなければならなかった。「 無 一 物 にな<br />

り、 悩 まされ、 苦 しめられ、[この 世 は 彼 らの 住 む 所 ではなかった]、 荒 野 と 山 の 中 と<br />

22


国 際 協 定<br />

岩 の 穴 と 土 の 穴 とを、さまよい 続 けた」[ヘブル 11:37、。カタコンベ[ 地 下 墓 所 ]は、<br />

幾 千 の 人 々の 避 難 所 となった。ローマ 市 外 の 丘 の 下 には、 土 や 岩 を 掘 って 造 った 長 い<br />

地 下 道 が 網 状 に 交 錯 して、 城 外 に 幾 マイルも 広 がっていた。キリストに 従 う 者 たちは、<br />

この 地 下 のかくれがに 死 者 を 葬 った。また、 彼 らが 嫌 疑 をかけられ、 追 放 された 時 に<br />

は、ここをすみかとした。 善 き 戦 いを 戦 った 者 たちを 生 命 の 君 が 呼 びさまされる 時 、<br />

これらの 暗 いほら 穴 の 中 から、キリストのために 殉 教 した 多 くの 者 たちが 出 てくるの<br />

である。<br />

もっとも 激 烈 な 迫 害 の 中 にあって、イエスの 証 人 たちは、 自 分 たちの 信 仰 を 清 く 保<br />

った。 彼 らは、あらゆる 慰 安 を 奪 われ、 太 陽 の 光 を 見 ることもできず、 暗 いが 親 しみ<br />

のある 地 のふところを 家 として、つぶやきを 口 にしなかった。 彼 らは、 信 仰 と 忍 耐 と<br />

希 望 に 満 ちた 言 葉 で、 互 いに 励 まし 合 い、 欠 乏 と 苦 難 に 耐 えた。この 世 のあらゆる 幸<br />

福 が 失 われたにもかかわらず、 彼 らにキリストを 信 じる 信 仰 を 捨 てさせることはでき<br />

なかった。 試 練 と 迫 害 は、 彼 らを 休 息 と 報 賞 とに 近 づける 歩 みに 過 ぎなかった。<br />

昔 の 神 のしもべたちのように、 多 くの 者 は、「 更 に まさったいのちによみがえるた<br />

めに、 拷 問 の 苦 しみに 甘 んじ、 放 免 されることを 願 わなかった」[ヘブル 11:。 彼 ら<br />

は、キリストのために 苦 しみを 受 ける 時 には 喜 び、 喜 べ、 天 においてあなたがたの 受<br />

ける 報 いは 大 きい、あなたがたより 前 の 預 言 者 たちも、 同 じように 迫 害 されたのであ<br />

る、という 主 の 言 葉 を 思 い 出 した。 彼 らは 真 理 のために 苦 しむに 足 る 者 とされたこと<br />

を 喜 び、 燃 えさかる 炎 のまっただ 中 から 勝 利 の 歌 声 があがったのであった。 彼 らは 信<br />

仰 によって 上 を 仰 ぎ、キリストと 天 使 たちが 天 の 胸 壁 から 深 い 関 心 をもって 彼 らを 見<br />

つめ、 彼 らの 堅 い 信 仰 をよしとされるのを 見 た。 神 のみ 座 から、 彼 らに 声 が 聞 こえた。<br />

「 死 に 至 るまで 忠 実 であれ。そうすれば、いのちの 冠 を 与 えよう」[ 黙 示 録 2:。<br />

キリストの 教 会 を 暴 力 で 滅 ぼそうとしたサタンの 努 力 はむだであった。イエスの 弟<br />

子 たちがその 生 命 をささげた 大 争 闘 は、これらの 忠 実 な 旗 手 たちがその 持 ち 場 で 倒 れ<br />

た 時 にもやむことはなかった。 敗 北 によって 彼 らは 勝 利 した。 神 の 働 き 人 たちは 殺 さ<br />

れたが、 神 の 働 きは 着 実 に 前 進 した。 福 音 は 進 展 し 続 け、それを 信 じる 者 の 数 は 増 加<br />

した。それは、 近 づきがたいような 地 域 にも 入 りこみ、ローマの 軍 隊 にまで 及 んだ。<br />

迫 害 を 推 し 進 めようとする 異 教 徒 の 支 配 者 たちをいさめて、あるキリスト 者 はこう 言<br />

った。あなたがたは、「われわれを 殺 し、 苦 しめ、 罪 に 定 めることができよう。……<br />

あなたがたの 不 正 行 為 は、われわれの 無 実 の 証 拠 である。……また、あなたがたの 残<br />

酷 さも……あなたがたの 益 とはならない。」 迫 害 は、 他 の 人 々をキリスト 教 に 導 くさ<br />

らに 強 力 な 招 きとなったに 過 ぎなかった。「われわれはあなたがたに 刈 り 倒 されるた<br />

23


国 際 協 定<br />

びに、 数 が 増 加 する。キリスト 者 の 血 は、 種 である」[テルトゥリアヌス『 護 教 論 』<br />

50 節 ]。<br />

幾 千 の 者 が 投 獄 され、 殺 されたが、すぐに 他 の 者 が 現 れてその 場 所 を 埋 めた。そし<br />

て、 信 仰 のために 殉 教 した 者 は、キリストのものとして 確 保 され、 彼 に 勝 利 者 として<br />

認 められた。 彼 らはりっぱに 戦 いぬいたのであり、キリストが 来 られる 時 に、 栄 光 の<br />

冠 を 受 けるのであった。 彼 らが 耐 え 忍 んだ 苦 しみは、キリスト 者 たちを 互 いに 近 づけ、<br />

また 彼 らの 贖 い 主 へと 近 づけた。 彼 らの 生 きた 模 範 と 死 ぬ 時 の 証 言 は、 真 理 に 対 する<br />

絶 えざるあかしであった。そして、 最 も 予 期 していないところで、サタンの 部 下 がそ<br />

の 務 めを 去 って、キリストの 旗 の 下 に 加 わった。<br />

そこでサタンは、 彼 の 旗 をキリスト 教 会 内 に 立 てることによって、 神 の 政 府 をもっ<br />

と 効 果 的 に 攻 撃 しようと 計 画 した。もし、キリストの 弟 子 たちを 欺 き、 神 のみこころ<br />

を 損 わせることができるならば、 彼 らの 力 と 忍 耐 と 堅 固 さは 失 われて、たやすく 彼 の<br />

餌 食 になるのであった。<br />

大 いなる 敵 、 悪 魔 は、 暴 力 でできなかったことを、 今 や 策 略 によって 得 ようと 努 め<br />

た。 迫 害 はやんだ。そして、その 代 わりに、この 世 の 繁 栄 と 世 俗 の 栄 誉 という 危 険 な<br />

誘 惑 物 がおかれた。 偶 像 教 徒 は、 他 の 重 要 な 真 理 を 拒 否 しながらも、キリスト 教 の 信<br />

仰 の 一 部 を 受 け 入 れるように 導 かれた。 彼 らは、イエスを 神 の 子 として 受 け 入 れ、 彼<br />

の 死 と 復 活 を 信 じると 言 いながら、 罪 の 自 覚 もなく、 悔 い 改 めや 心 の 変 化 の 必 要 を 感<br />

じなかった。 彼 らは、 自 分 たちも 譲 歩 したのだから、キリスト 者 も 譲 歩 して、すべて<br />

の 者 がキリストを 信 じる 原 則 において 一 致 するようにしようと 提 案 した。<br />

今 や 教 会 は 恐 るべき 危 機 に 陥 った。これと 比 べるならば、 牢 獄 や 拷 問 、 火 や 剣 は 祝<br />

福 であった。キリスト 者 のある 者 たちは 堅 く 立 って、 妥 協 することはできないと 宣 言<br />

した。しかし、ある 者 たちは、 彼 らの 信 仰 のいくっかの 特 徴 を 捨 てたり 変 更 したりす<br />

ることに、そしてキリスト 教 を 部 分 的 に 受 け 入 れていた 者 たちと 結 合 することに 賛 成<br />

して、これは、 彼 らを 完 全 な 改 宗 に 導 く 手 段 になるであろうと 言 った。それは、キリ<br />

ストに 忠 実 に 従 う 者 たちにとって、 深 刻 な 苦 悩 の 時 であった。 サタンは、 見 せかけの<br />

キリスト 教 という 上 衣 をまとって、 教 会 内 に 侵 入 し、 信 者 たちの 信 仰 を 腐 敗 させ、 彼<br />

らの 心 を 真 理 の 言 葉 から 離 れさせた。<br />

ついに、キリスト 者 の 多 くは、 標 準 を 下 げることに 同 意 し、キリスト 教 と 異 教 との<br />

間 の 結 合 が 成 立 した。 偶 像 礼 拝 者 たちは、 改 宗 したと 言 って 教 会 に 加 わったものの、<br />

依 然 として 偶 像 礼 拝 を 続 けており、 礼 拝 の 対 象 をイエスの 像 や、マリヤ、 聖 人 たちの<br />

像 に 変 えたにすぎなかった。こうして 教 会 内 に 侵 入 したいまわしい 偶 像 礼 拝 のパン 種<br />

24


国 際 協 定<br />

は、その 害 を 及 ぼしていった。 不 健 全 な 教 義 、 迷 信 的 礼 典 や 偶 像 礼 拝 的 儀 式 が、 教 会<br />

の 信 条 と 礼 拝 の 中 に 取 り 入 れられた。キリスト 者 たちが 偶 像 礼 拝 者 たちと 結 合 したこ<br />

とによって、キリスト 教 は 腐 敗 し、 教 会 はその 純 潔 と 力 を 失 った。しかしながら、こ<br />

うした 惑 わしに 欺 かれない 者 たちもいくらかはいた。 彼 らは、 真 理 の 本 源 であられる<br />

神 に 依 然 として 忠 誠 をつくし、ただ 神 だけを 礼 拝 した。<br />

キリストの 弟 子 であると 自 称 する 人 々の 中 に、 常 に 2 種 類 の 人 々がある。 一 方 の 人<br />

々は、 救 い 主 の 生 涯 を 研 究 して、 自 分 の 欠 点 を 正 し、 模 範 に 倣 おうと 熱 心 に 求 めるが、<br />

もう 一 方 の 人 々は、 彼 らの 誤 りを 指 摘 する 明 白 で 実 際 的 な 真 理 を 避 けるのである。 教<br />

会 は、その 最 善 の 状 態 にあった 時 でさえ、 真 実 で 純 潔 で 誠 実 な 人 々だけで 成 り 立 って<br />

いたのではなかった。 救 い 主 は、 故 意 に 罪 にふける 人 々を 教 会 に 受 け 入 れてはならな<br />

いと 教 えられた。しかし 彼 は、 品 性 に 欠 点 のある 人 々をご 自 分 に 結 びつけ、 彼 の 教 え<br />

と 模 範 の 利 益 を 受 けることを 許 された。それは 彼 らに、 自 分 たちの 誤 りを 認 めてそれ<br />

を 正 す 機 会 を 与 えるためであった。12 使 徒 の 中 には 裏 切 り 者 がいた。ユダは、 彼 の 品<br />

性 の 欠 陥 のためではなくて、 欠 陥 にもかかわらず 受 け 入 れられた。ユダが 弟 子 たちの<br />

仲 間 に 加 えられたのは、 彼 がキリストの 教 訓 と 模 範 によって、キリスト 者 の 品 性 がど<br />

のようなものであるかを 知 り、 自 分 の 過 ちを 認 めて 悔 い 改 め、 神 の 恵 みの 助 けと、<br />

「 真 理 に 従 うことによって」 魂 を 清 めるためであった。しかしユダは、このように 恵<br />

み 深 く 彼 を 照 らした 光 の 中 を 歩 かなかった。 罪 にふけることによって、 彼 はサタンの<br />

誘 惑 を 招 いた。 彼 の 品 性 の 悪 い 特 徴 が、 主 導 権 を 握 った。<br />

彼 は、 自 分 の 心 を 暗 黒 の 力 の 支 配 に 従 わせ、 自 分 の 欠 点 が 譴 責 されると 怒 るように<br />

なり、こうして、 主 を 裏 切 るという 恐 ろしい 罪 を 犯 すようになった。これと 同 じく、<br />

信 心 深 いことを 言 いながら 心 に 罪 をいだいている 者 はみな、 自 分 たちの 罪 の 歩 みを 指<br />

摘 して、 心 の 平 和 をみだす 者 を 憎 むのである。 彼 らは、よい 機 会 が 来 るならば、ユダ<br />

のように、 彼 らのためを 思 って 彼 らを 譴 責 した 者 を 裏 切 るのである。<br />

使 徒 たちも 教 会 内 で、 信 心 深 い 様 子 をしながらひそかに 罪 をいだいている 人 々に 出<br />

会 った。アナニヤとサッピラは、 人 を 欺 いた。 彼 らは、 神 のためにすべてを 犠 牲 にし<br />

ているように 見 せかけながら、 欲 のためにその 一 部 を 自 分 たちで 保 留 していた。しか<br />

し 真 理 のみ 霊 がこうした 偽 り 者 の 本 性 を 使 徒 たちに 暴 露 し、 神 の 刑 罰 が 下 って、 教 会<br />

の 純 潔 を 損 うこうした 汚 点 を 教 会 から 取 り 除 いた。 教 会 には 真 偽 を 見 分 けるキリスト<br />

の 霊 があるというこの 顕 著 な 証 拠 は、 偽 善 者 たちや 悪 事 を 行 う 者 たちに 恐 怖 を 与 えた。<br />

彼 らは、その 習 慣 や 品 性 が 常 にキリストを 代 表 している 者 たちと、 長 くつながってい<br />

ることはできなかった。ひとたびキリストの 弟 子 たちに、 試 練 と 迫 害 が 来 た 時 、 真 理<br />

のためにすべてを 喜 んで 捨 てる 者 だけが、 弟 子 になることを 望 んだのである。こうし<br />

25


国 際 協 定<br />

て、 迫 害 が 続 くかぎり、 教 会 は 比 較 的 純 潔 を 保 つことができた。しかし、 迫 害 がやむ<br />

と、それほど 真 剣 でもなくそれほど 献 身 もしていない 改 宗 者 たちが 加 わってきて、サ<br />

タンが 足 場 を 得 る 道 が 開 かれた。<br />

しかし、 光 の 君 と 暗 黒 の 君 との 間 に 一 致 はない。そして、その 弟 子 たちの 間 にも 一<br />

致 はあり 得 ない。キリスト 者 たちが、 異 教 から 半 分 だけ 改 宗 した 人 々と 1 つになるこ<br />

とに 同 意 した 時 、 彼 らは 真 理 からますます 遠 ざかる 道 に 足 を 踏 み 入 れたのであった。<br />

サタンは、 多 くのキリストの 弟 子 たちを 欺 くことができたことを 喜 んだ。そして 彼 は、<br />

この 人 々をさらに 十 分 に 自 分 の 支 配 下 に 治 めて、 彼 らによって、 神 に 忠 誠 を 保 つ 人 々<br />

を 迫 害 させようとした。<br />

かつてキリスト 教 信 仰 の 擁 護 者 であった 人 々ほど、どのようにして 真 のキリスト 教<br />

信 仰 を 圧 迫 すべきかを 知 っているものはない。これら 背 教 的 なキリスト 者 たちは、 半<br />

ば 異 教 的 な 仲 間 たちと 結 合 して、キリストの 教 理 の 最 も 重 要 な 特 徴 を 攻 撃 したのであ<br />

る。<br />

忠 誠 を 保 とうとする 人 々は、 司 祭 服 にかくれて 教 会 のなかに 導 入 された 欺 瞞 と 憎 む<br />

べきこととに 対 抗 して、 必 死 に 戦 わねばならなかった。 聖 書 は、 信 仰 の 規 準 として 受<br />

け 入 れられなかった。 信 仰 の 自 由 という 教 義 は 異 端 視 され、その 支 持 者 は 憎 まれ 追 放<br />

された。<br />

長 期 にわたった 激 しい 戦 いの 後 、 忠 実 なわずかの 者 たちは、 教 会 が 虚 偽 と 偶 像 礼 拝<br />

とを 捨 てることをなお 拒 否 するならば、 背 信 した 教 会 との 一 致 をすべて 絶 つ 決 心 をし<br />

た。 彼 らは、 神 のみ 言 葉 に 従 おうとするならば、 分 離 することが 絶 対 に 必 要 なことを<br />

認 めた。 彼 らは、 自 分 たちの 魂 を 危 険 に 陥 れる 誤 りを 黙 認 したり、 自 分 たちの 子 孫 の<br />

信 仰 を 危 うくするような 例 を 残 したりすることはしたくなかった。 彼 らは、 神 に 対 す<br />

る 忠 誠 と 矛 盾 しないかぎり、どんな 譲 歩 でもして、 平 和 と 一 致 を 保 とうとした。しか<br />

し、 平 和 のために 原 則 を 犠 牲 にすることは、あまりにも 大 きな 代 価 であった。 真 理 と<br />

正 義 を 曲 げなければ 得 られない 一 致 であるならば、 彼 らはむしろ 不 和 をも、そして 戦<br />

争 をもいとわなかった。<br />

これらの 人 々を 堅 く 立 たせた 諸 原 則 が、 神 の 民 と 称 している 人 々の 心 の 中 によみが<br />

えるならば、 教 会 と 世 界 にとってどんなにかよいことであろう。キリスト 教 信 仰 の 柱<br />

である 教 理 が、 驚 くほど 無 視 されている。 結 局 こうしたことは 重 大 なものではない、<br />

という 意 見 が 強 くなっている。この 堕 落 は、サタンの 配 下 たちの 手 を 強 めるものであ<br />

って、そのために、 各 時 代 の 忠 実 な 者 たちが、 生 命 をかけて 反 対 し 摘 発 してきた 偽 り<br />

26


国 際 協 定<br />

の 説 や 致 命 的 な 欺 瞞 が、 今 やキリストに 従 っていると 称 する 多 くの 人 々に 歓 迎 される<br />

ようになってきた。<br />

初 代 のキリスト 者 たちは、 実 際 、 特 殊 な 民 であった。 彼 らの 非 難 するところのない<br />

行 状 と 確 固 たる 信 仰 とは、 絶 えず 罪 人 の 心 を 責 めるものであった。 彼 らは 数 が 少 なく、<br />

富 も 地 位 も 名 誉 ある 称 号 もなかったけれども、その 品 性 と 教 義 とが 知 られているとこ<br />

ろではどこでも、 悪 を 行 う 者 たちにとって 恐 怖 であった。それゆえに 彼 らは、アベル<br />

が 神 を 恐 れないカインに 憎 まれたように、 悪 人 たちに 憎 まれた。カインがアベルを 殺<br />

したのと 同 じ 理 由 から、 聖 霊 の 抑 制 を 拒 む 人 々は 神 の 民 を 殺 した。ユダヤ 人 が 救 い 主<br />

を 拒 んで 十 字 架 につけたのも、 同 じ 理 由 からであった。すなわち 彼 の 品 性 の 純 潔 と 神<br />

聖 さとが、 絶 えず 彼 らの 利 己 心 と 堕 落 とを 責 めたからであった。キリストの 時 代 から<br />

今 に 至 るまで、 彼 の 忠 実 な 弟 子 たちは、 罪 を 愛 してその 道 を 歩 む 者 たちの 憎 しみと 反<br />

対 とを 引 き 起 こしてきたのである。<br />

それならば、どうして 福 音 を、 平 和 のメッセージと 呼 ぶことができるのであろうか。<br />

イザヤはメシヤの 誕 生 を 預 言 して、 彼 を「 平 和 の 君 」と 呼 んだ。また 天 使 たちは、キ<br />

リストの 誕 生 を 羊 飼 いたちに 告 げた 時 、「いと 高 きところでは、 神 に 栄 光 があるよう<br />

に、 地 の 上 では、み 心 にかなう 人 々に 平 和 があるように」とベツレヘムの 平 原 の 上 で<br />

歌 った[ルカ 2:。これらの 預 言 の 言 葉 と、「 平 和 ではなく、つるぎを 投 げ 込 むために<br />

きた」というキリストの 言 葉 との 間 には、 一 見 、 矛 盾 があるように 思 われる[マタイ<br />

10:。しかし、 正 しく 理 解 されるならば、この 2 つは 完 全 に 一 致 している。 福 音 は 平<br />

和 のメッセージである。キリスト 教 は、それを 受 け 入 れて 従 うならば、 全 地 を 平 和 と<br />

一 致 と 幸 福 で 満 たすものである。キリストの 宗 教 は、その 教 えを 受 け 入 れるすべての<br />

者 を 親 しい 兄 弟 関 係 に 入 れる。イエスの 使 命 は、 人 々を 神 と 和 解 させ、そしてお 互 い<br />

に 和 解 させることであった。しかし 世 界 は 一 般 に、キリストの 大 敵 サタンの 支 配 下 に<br />

ある。<br />

福 音 が 彼 らに、 彼 らの 習 慣 や 欲 望 と 全 く 異 なった 生 活 の 原 則 を 示 すために、 彼 らは<br />

それに 反 逆 する。 彼 らは 自 分 たちの 罪 を 指 摘 し 非 難 する 純 潔 を 憎 む。そして、その 公<br />

正 で 神 聖 な 要 求 を 守 るように 勧 める 人 々を、 彼 らは 迫 害 し 滅 ぼすのである。 福 音 のも<br />

たらす 崇 高 な 真 理 は、 憎 しみや 争 いを 引 き 起 こすもとになるために、この 意 味 におい<br />

て、 福 音 は 剣 であると 言 われているのである。<br />

神 が 不 思 議 な 摂 理 のうちに、 義 人 が 悪 人 に 迫 害 されることを 許 されることは、 信 仰<br />

の 薄 い 多 くの 者 を 大 いに 困 惑 させてきた 問 題 である。 神 が、 極 悪 人 たちを 栄 えるがま<br />

まにしておかれ、 一 方 最 も 善 良 で 純 潔 な 人 々が、 彼 らの 残 酷 な 力 によって 悩 まされ 苦<br />

27


国 際 協 定<br />

しめられるのを 見 て、 神 に 対 する 信 頼 を 捨 て 去 ろうとする 者 さえいる。 正 義 にして 憐<br />

れみ 深 く、 無 限 の 力 を 持 った 方 が、どうしてこのような 不 正 と 圧 迫 を 黙 認 しておられ<br />

るのか、と 人 々は 問 う。しかしこれは、われわれの 関 知 すべき 問 題 ではない。 神 はそ<br />

の 愛 について 十 分 な 証 拠 を 与 えておられるのだから、われわれは 神 の 摂 理 の 働 きが 理<br />

解 できないからと 言 って、 神 の 慈 愛 を 疑 ってはならない。 救 い 主 は、 試 練 と 暗 黒 の 日<br />

々に 弟 子 たちの 心 を 苦 しめる 疑 惑 を 予 見 して、「わたしがあなたがたに『 僕 はその 主<br />

人 にまさるものではない』と 言 ったことを、おぼえていなさい。もし 人 々がわたしを<br />

迫 害 したなら、あなたがたをも 迫 害 するであろう」と 彼 らに 言 われた[ヨハネ 15:。<br />

イエスはわれわれのために、 彼 のどの 弟 子 が 悪 人 の 残 虐 によって 苦 しめられるよりも<br />

激 しい 苦 しみを 受 けられた。 苦 しみに 耐 え、 殉 教 するために 召 された 者 は、 神 の 愛 す<br />

るみ 子 の 足 跡 をふみ 従 うに 過 ぎないのである。<br />

「 主 は 約 束 の 実 行 をおそくしておられるのではない」[Ⅱペテロ 3:。 主 は、ご 自 分<br />

の 子 供 たちを 忘 れたり、おろそかにしたりなさらない。ただ、 主 のみこころを 行 おう<br />

とする 者 がだれも 悪 人 に 欺 かれることがないように、 悪 人 の 本 性 があらわされること<br />

をお 許 しになるのである。<br />

また、 義 人 たちが 苦 難 の 炉 に 入 れられるのは、 彼 ら 自 身 が 清 められるためであり、<br />

彼 らの 模 範 によって、 他 の 人 々が 信 仰 と 敬 虔 な 生 活 の 実 際 をよく 理 解 するためである。<br />

そして、 彼 らの 終 始 一 貫 した 行 為 によって、 神 を 信 じ 敬 うことをしない 人 々を 責 めも<br />

するのである。<br />

神 は、 悪 人 が 栄 え、 悪 人 が 神 に 対 する 敵 意 を 表 すことをお 許 しになる。それは、 彼<br />

らの 罪 悪 の 升 目 が 満 ちた 時 、 彼 らが 全 く 滅 ぼされることが 神 の 正 義 と 憐 れみによるも<br />

のであることをすべての 者 が 知 るためである。 神 の 報 復 の 日 が 迫 っている。その 時 に<br />

は、 神 の 律 法 を 破 り 神 の 民 を 圧 迫 した 者 がみな、その 行 為 に 対 する 正 当 な 報 いを 受 け<br />

る。その 時 には、 神 に 忠 実 に 仕 える 者 に 対 して 行 われたすべての 残 酷 な、また 不 正 な<br />

行 為 が、キリストご 自 身 に 対 してなされたかのように 罰 せられる。<br />

ところで、 今 日 の 教 会 が 注 意 すべきもう 1 つのさらに 重 大 な 問 題 がある。 使 徒 パウ<br />

ロは、「キリスト・イエスにあって 信 心 深 く 生 きようとする 者 は、みな、 迫 害 を 受 け<br />

る」と 言 っている[Ⅱテモテ 3:。それでは、 迫 害 の 火 が 消 えているように 思 われるの<br />

は、なぜであろうか。その 唯 一 の 理 由 は、 教 会 が 世 俗 の 標 準 に 妥 協 したために、 反 対<br />

を 引 き 起 こさないということにある。 今 日 、 世 に 迎 えられている 宗 教 は、キリストと<br />

その 弟 子 たちの 時 代 の 信 仰 のように 純 潔 で 聖 なるものではない。キリスト 教 が 世 の 中<br />

から 迎 えられているように 見 えるのは、 罪 と 妥 協 する 精 神 、 神 のみ 言 葉 の 偉 大 な 真 理<br />

28


国 際 協 定<br />

に 対 する 無 関 心 、 教 会 内 における 生 きた 敬 神 の 念 の 欠 乏 のゆえにほかならない。 初 代<br />

教 会 の 信 仰 と 力 が 復 興 するならば、 迫 害 の 精 神 もまた 復 興 し、 迫 害 の 火 は 再 び 点 じら<br />

れるのである。<br />

29


国 際 協 定<br />

第 3 章 暗 黒 時 代<br />

使 徒 パウロは、テサロニケ 人 への 第 2 の 手 紙 のなかで、 法 王 権 の 樹 立 をもたらす 大<br />

背 教 のことを 預 言 した。 彼 は、キリストの 日 が 来 る 前 に、「まず 背 教 のことが 起 り、<br />

不 法 の 者 、すなわち、 滅 びの 子 が 現 れるにちがいない。 彼 は、すべて 神 と 呼 ばれたり<br />

拝 まれたりするものに 反 抗 して 立 ち 上 がり、 自 ら 神 の 宮 に 座 して、 自 分 は 神 だと 宣 言<br />

する」と 言 った。パウロは、さらに、「 不 法 の 秘 密 の 力 が、すでに 働 いている」と 信<br />

者 たちに 警 告 している[Ⅱテサロニケ 2:3、4、7 参 照 ]。 早 くも 彼 は 誤 りが 教 会 に 侵<br />

入 し、 法 王 権 の 発 展 に 道 を 備 えるのを 見 たのであった。<br />

徐 々に、 最 初 はこっそりと 静 かに、そしてそれから 勢 力 を 増 し、 人 心 を 支 配 するよ<br />

うになるにつれて、もっと 公 然 と、「 不 法 の 秘 密 」はその 欺 瞞 的 冒 瀆 的 な 働 きを 進 め<br />

ていった。 異 教 の 習 慣 は、 目 につかないほど 少 しずつキリスト 教 会 の 中 に 入 ってきた。<br />

教 会 が 異 教 から 激 しく 迫 害 を 受 けていた 間 は、 一 時 妥 協 と 迎 合 の 精 神 は 抑 えられてい<br />

た。しかし 迫 害 がやんで、キリスト 教 が 王 侯 の 宮 廷 や 宮 殿 に 入 った 時 、 教 会 はキリス<br />

トと 使 徒 たちのつつましやかな 単 純 さを 捨 て、 異 教 の 司 祭 や 王 侯 たちの 虚 飾 と 華 美 に<br />

倣 った。そして 神 のご 要 求 のかわりに、 人 間 の 理 論 や 伝 説 を 取 り 入 れた。4 世 紀 の 初<br />

期 に、コンスタンティヌス 帝 が 名 ばかりの 改 宗 をして、 一 般 から 大 いに 歓 迎 された。<br />

そして、 世 俗 が 信 心 深 い 様 子 をして 教 会 内 に 入 ってきた。 今 や、 堕 落 は 急 速 に 進 んだ。<br />

異 教 は 征 服 されたように 見 えながら、 勝 利 者 となった。 異 教 の 精 神 が 教 会 を 支 配 した。<br />

その 教 義 と 礼 典 と 迷 信 とが、キリストの 弟 子 であると 公 言 する 人 々の 信 仰 と 礼 拝 に 織<br />

りこまれた。<br />

この 異 教 とキリスト 教 の 妥 協 が、 神 に 反 抗 して 立 ち 上 がると 預 言 された「 不 法 の 者 」<br />

を 出 現 させることになった。 偽 りの 宗 教 のあの 巨 大 な 組 織 は、サタンの 権 力 が 生 んだ<br />

一 大 傑 作 であって、 自 分 の 意 のままにこの 地 上 を 支 配 しようとする 彼 の 努 力 の 記 念 碑<br />

である。サタンは 前 にも 1 度 、キリストと 妥 協 しようと 努 めたことがあった。 彼 は 試<br />

みの 荒 野 で、 神 のみ 子 のところに 来 て、この 世 のすべての 国 々とその 栄 華 とを 見 せ、<br />

もしキリストが 暗 黒 の 君 の 主 権 を 認 めさえすれば、すべてを 彼 の 手 に 与 えようと 言 っ<br />

た。キリストは 僣 越 な 誘 惑 者 を 譴 責 し、 追 い 払 われた。しかしサタンは 同 じ 誘 惑 を 人<br />

間 の 前 に 差 し 出 して、 大 きな 成 功 を 収 めている。 教 会 はこの 世 の 利 益 と 栄 誉 を 手 に 入<br />

れるために、 地 上 の 有 力 者 たちの 賛 成 と 支 持 を 求 めるようになった。そして、このよ<br />

うにしてキリストを 拒 否 したことによって、 教 会 はサタンの 代 表 者 であるローマの 司<br />

教 に 忠 誠 をつくすに 至 った。<br />

30


国 際 協 定<br />

法 王 は 全 世 界 のキリストの 教 会 の 目 に 見 える 頭 であって、 世 界 各 地 の 司 教 と 牧 師 に<br />

対 する 至 上 権 が 与 えられている、というのがローマ・カトリック 教 会 の 主 要 教 義 の 1<br />

つである。そればかりではない。 法 王 には、 神 の 称 号 そのものが 与 えられている。 彼<br />

は「 主 なる 神 、 法 王 」と 呼 ばれ、 誤 ることがないとされてきた。 彼 はすべての 人 間 が<br />

彼 を 尊 敬 することを 要 求 する。サタンは 試 みの 荒 野 において 主 張 したのと 同 じことを、<br />

今 日 もなおローマ 教 会 を 通 じて 主 張 している。そして 無 数 の 人 々が、 心 から 彼 に 尊 敬<br />

を 払 っている。<br />

しかし、 神 を 恐 れ 敬 うものは、キリストが、 狡 猾 な 敵 の 誘 惑 に 対 抗 されたように<br />

「 主 なるあなたの 神 を 拝 し、ただ 神 にのみ 仕 えよ」と 言 って、 神 に 逆 らうこうした 主<br />

張 に 立 ち 向 かうのである[ルカ 4:。 神 はみ 言 葉 の 中 で、だれか 人 間 を 教 会 の 頭 にした<br />

などという 暗 示 すら 与 えておられない。 法 王 至 上 権 説 は、 聖 書 の 教 えと 全 く 相 反 する<br />

ものである。 法 王 は、 横 領 による 以 外 に、キリストの 教 会 の 上 に 権 力 を 振 うことはで<br />

きない。 カトリック 教 徒 は、プロテスタントを 異 端 視 しつづけ、 真 の 教 会 から 故 意 に<br />

分 離 したものであると 言 って きた。しかしこうした 非 難 は、むしろ 彼 らにこそ 当 ては<br />

まるのである。キリストの 旗 を 捨 てて、「 聖 徒 たちによって、ひとたび 伝 えられた 信<br />

仰 」から 離 れたのは、 彼 らであった[ユダ。<br />

サタンは、 聖 書 が 人 々に、 彼 の 欺 瞞 を 見 分 け、 彼 の 力 に 対 抗 できるようにさせるこ<br />

とをよく 知 っていた。 世 の 救 い 主 でさえ、み 言 葉 によって、 彼 の 攻 撃 を 退 けられた。<br />

キリストは 攻 撃 されるたびに、 永 遠 の 真 理 の 盾 を 用 いて、「……と 書 いてある」と 言<br />

われた。サタンのあらゆる 誘 惑 に 対 し、キリストはみ 言 葉 の 知 恵 と 力 をもって 対 抗 さ<br />

れた。サタンが 人 々の 上 に 権 力 をふるい、 横 領 者 的 な 法 王 権 をうちたてるには、 彼 ら<br />

を 聖 書 について 無 知 にしておかねばならなかった。 聖 書 は 神 を 高 め、 有 限 な 人 間 の 真<br />

の 立 場 を 明 らかにする。それゆえに、その 聖 なる 真 理 を 隠 し、 抑 圧 しなければならな<br />

い。ローマ 教 会 はこの 論 法 をとった。 数 百 年 にわたって、 聖 書 の 配 布 が 禁 止 された。<br />

人 々は 聖 書 を 読 むことも、それを 家 に 持 つことも 禁 じられた。そして 節 操 のない 司 祭<br />

たちや 司 教 たちが、 自 分 たちの 主 張 を 支 持 するためにその 教 えを 解 釈 した。こうして<br />

法 王 は、 地 上 における 神 の 代 表 者 、 教 会 と 国 家 に 対 する 権 威 を 与 えられた 者 として、<br />

広 く 認 められるようになった。<br />

誤 りを 指 摘 するものが 除 かれたので、サタンは、 思 う 存 分 に 活 躍 した。 法 王 権 は<br />

「 時 と 律 法 とを 変 えようと 望 む」と 預 言 されていた[ダニエル 7:。このことは、さっ<br />

そく 実 行 に 移 された。 異 教 から 改 宗 した 人 々に、 偶 像 礼 拝 の 代 わりになるものを 与 え、<br />

こうして 彼 らの 名 ばかりのキリスト 教 受 容 を 促 進 するために、 聖 画 像 や 聖 遺 物 崇 拝 が、<br />

キリスト 教 の 礼 拝 のなかに 徐 々に 取 り 入 れられた。ついに 公 会 議 の 布 告 によって、こ<br />

31


国 際 協 定<br />

の 偶 像 礼 拝 制 度 が 確 立 した。ローマ 教 会 は、 神 を 汚 す 活 動 の 結 びとして、 僣 越 にも、<br />

偶 像 礼 拝 を 禁 じる 第 2 条 を 神 の 律 法 から 削 除 し、その 欠 けたところを 補 うために 第<br />

10 条 を 2 つに 分 けたのである。<br />

異 教 に 譲 歩 する 精 神 は、なおいっそう 神 の 権 威 を 無 視 する 道 を 開 いた。サタンは、<br />

教 会 の 清 められていない 指 導 者 たちによって、 第 4 条 をも 変 更 し、 神 が 祝 福 し 聖 別 さ<br />

れた 昔 からの 安 息 日 [ 創 世 記 2:2、3 参 照 ]を 廃 そうとした。そしてその 代 わりに、 異<br />

教 徒 が「 太 陽 の 神 聖 な 日 」として 守 っていた 祭 日 を 高 めようとした。 この 変 更 は 初 め<br />

から 公 然 と 行 われたのではなかった。 最 初 の 2、3 世 紀 の 間 、すべてのキリスト 者 た<br />

ちは 真 の 安 息 日 を 守 っていた。 彼 らは 熱 心 に 神 をあがめ、 神 の 律 法 は 不 変 であると 信<br />

じていたから、その 戒 めを 熱 心 に 清 く 守 った。しかしサタンは、 彼 の 代 理 者 たちを 用<br />

いて 非 常 に 巧 妙 に 働 き、その 目 的 の 達 成 をはかった。 人 々の 注 目 を 日 曜 日 にひくため<br />

に、それはキリストの 復 活 を 記 念 する 祝 日 とされた。 宗 教 的 礼 拝 が 日 曜 日 に 行 われた。<br />

しかし、その 日 は 娯 楽 の 日 とみなされており、 安 息 日 が 従 来 どおり 清 く 守 られてい<br />

た。<br />

サタンは、 自 分 がなしとげようとしている 仕 事 に 道 を 備 えるために、キリストの 来<br />

臨 に 先 だって、ユダヤ 人 たちが 安 息 日 に 苛 酷 な 要 求 を 増 し 加 え、それを 守 ることを 重<br />

荷 にするようにさせていた。そしてサタンは、 自 分 がそのようにして 人 々に 安 息 日 を<br />

誤 解 させておきながら、 今 度 はそれを 利 用 し、 安 息 日 はユダヤ 人 の 制 度 だとしてそれ<br />

を 軽 べつした。キリスト 者 たちが、 日 曜 日 を 楽 しい 祝 祭 日 として 祝 う 一 方 、サタンは<br />

彼 らがユダヤ 教 に 対 する 憎 しみの 表 現 として、 安 息 日 を 断 食 の 日 、ゆううつな 悲 しみ<br />

の 日 とするようにしむけた。<br />

4 世 紀 の 初 期 、コンスタンティヌス 帝 は、 日 曜 日 をローマ 帝 国 全 土 の 公 の 祝 日 にす<br />

るという 布 告 を 出 した。 太 陽 の 日 は、 異 教 徒 の 国 民 に 尊 ばれ、またキリスト 者 たちか<br />

らもあがめられた。それは、 異 教 とキリスト 教 との 相 反 する 点 を 一 致 させようとする<br />

皇 帝 の 政 策 であった。 彼 は、 教 会 の 司 教 たちから、こうするように 勧 められたのであ<br />

る。 彼 らは 権 力 を 渇 望 していたから、もしキリスト 者 と 異 教 徒 とが 両 方 とも 同 じ 日 を<br />

守 るならば、 異 教 徒 が 名 目 だけでもキリスト 教 を 信 じる のを 助 長 し、 教 会 の 権 力 と 栄<br />

光 を 推 し 進 めるものと 考 えた。しかし 多 くの 敬 虔 なキリスト 者 たちは、 次 第 に、 日 曜<br />

日 にはいくぶんか 神 聖 さがあると 見 なすようになったものの、なお 真 の 安 息 日 を 主 の<br />

聖 なる 日 とし、 第 4 条 の 戒 めに 従 って 守 っていた。<br />

大 欺 瞞 者 は、まだ 十 分 にはその 目 的 を 達 成 していなかった。 彼 は、キリスト 教 世 界<br />

を 彼 の 旗 の 下 に 集 め、 彼 の 代 理 人 、すなわち、キリストの 代 表 者 であると 主 張 する 高<br />

32


国 際 協 定<br />

慢 な 法 王 によって、 力 を 振 おうと 決 心 した。 半 分 しか 改 宗 していない 異 教 徒 たち、 野<br />

心 満 々の 司 教 たち、そして 世 俗 を 愛 する 教 会 人 たちによって、 彼 は 自 分 の 目 的 をなし<br />

とげた。いくたびか 公 会 議 が 開 かれて、 教 会 の 指 導 者 たちが 全 世 界 から 集 められた。<br />

そのほとんどの 会 議 において、 神 が 制 定 された 安 息 日 が 少 しずつ 低 められると 共 に、<br />

日 曜 日 はそれに 応 じて 局 められていった。こうして 異 教 の 祝 祭 日 が、ついには 神 聖 な<br />

制 度 としてあがめられるようになり、その 反 面 、 聖 書 の 安 息 日 はユダヤ 教 の 遺 物 であ<br />

ると 宣 言 され、それを 守 る 者 たちはのろわるべきであると 言 われた。<br />

大 背 信 者 は、「すべて 神 と 呼 ばれたり 拝 まれたりするものに 反 抗 して」 自 らをその<br />

上 に 高 く 上 げることに 成 功 した[Ⅱテサロニケ 2:。 彼 は、 全 人 類 を 生 きた 真 の 神 へと<br />

誤 ることなく 向 ける、 神 の 律 法 の 唯 一 の 戒 めをあえて 変 更 した。 神 は、 第 4 条 の 戒 め<br />

のなかで、 天 と 地 の 創 造 主 として 示 されており、それによってすべての 偽 りの 神 々と<br />

の 区 別 が 明 らかにされている。 第 7 日 が、 人 間 の 休 息 の 日 として 聖 別 されたのは、 創<br />

造 の 業 の 記 念 としてであった。それは 人 間 が、 生 ける 神 を、 存 在 の 根 源 、 尊 崇 と 礼 拝<br />

の 対 象 として、 常 に 心 に 留 めておくためであった。サタンは 人 々に、 神 への 忠 誠 をつ<br />

くさせず、 神 の 律 法 に 従 わせまいと 努 力 している。それゆえに 彼 は、 神 が 創 造 主 であ<br />

ることを 指 し 示 す 戒 めを、 特 に 攻 撃 するのである。<br />

今 、プロテスタントの 側 では、キリストが 日 曜 日 に 復 活 されたから 日 曜 日 がキリス<br />

ト 教 徒 の 安 息 日 になったと 主 張 している。しかし、その 聖 書 的 証 拠 はない。キリスト<br />

や 使 徒 たちも、この 日 をそのように 尊 んではいない。 日 曜 日 をキリスト 教 の 制 度 とし<br />

て 遵 守 することは、すでにパウロの 時 代 に 活 動 しはじめた「 不 法 の 秘 密 の 力 」にその<br />

起 源 をもつ[Ⅱテサロニケ 2:。しかし 主 は、いっどこで、この 法 王 権 の 子 とも 言 うべ<br />

き 日 曜 日 の 制 度 を 迎 え 入 れられたのであろうか。 聖 書 が 認 めていない 変 更 に 対 して、<br />

どのような 確 かな 理 由 をあげ 得 るであろうか。<br />

第 6 世 紀 に 至 って、 法 王 権 は 確 立 した。その 権 力 の 座 はローマに 置 かれ、ローマの<br />

司 教 が 全 教 会 の 首 長 であると 宣 言 された。 異 教 は 法 王 権 に 地 位 を 譲 った。 龍 は 獣 に、<br />

「 自 分 の 力 と 位 と 大 いなる 権 威 とを」 与 えた[ 黙 示 録 13:。こうして、ダニエル 書 と<br />

黙 示 録 に 預 言 されたところの、1260 年 間 に 及 ぶ 法 王 権 の 迫 害 が 始 まった[ダニエル 7:<br />

25、 黙 示 録 13:5~7 参 照 ]。キリスト 者 たちは、 神 に 対 する 忠 誠 を 放 棄 して 法 王 教<br />

の 儀 式 と 礼 拝 を 受 け 入 れるか、それとも、 地 下 の 牢 獄 に 幽 閉 され、 拷 問 や 火 刑 、また<br />

斬 首 吏 のおので 生 命 を 失 うか、そのどちらかを 選 ばねばならなくなった。「しかし、<br />

あなたがたは 両 親 、 兄 弟 、 親 族 、 友 人 にさえ 裏 切 られるであろう。また、あなたがた<br />

の 中 で 殺 されるものもあろう。また、わたしの 名 のゆえにすべての 人 に 憎 まれるであ<br />

ろう」というイエスの 言 葉 が、ここで 成 就 した[ルカ 21:16、。 迫 害 は、これまで 以<br />

33


国 際 協 定<br />

上 に 激 しく 忠 実 な 人 々に 向 けられ、 世 界 は 一 大 戦 場 となった。 何 百 年 もの 間 、キリス<br />

トの 教 会 は 人 里 離 れた 場 所 に 難 をのがれた。 預 言 者 はこのように 言 っている。「 女 は<br />

荒 野 へ 逃 げて 行 った。そこには、 彼 女 が 1260 日 のあいだ 養 われるように、 神 の 用 意<br />

された 場 所 があった」[ 黙 示 録 12:。<br />

ローマ 教 会 が 権 力 を 握 ったことは、 暗 黒 時 代 の 始 まりを 意 味 した。 教 会 の 権 力 が 増<br />

すにつれて 暗 黒 は 深 まった。 信 仰 は、 真 の 基 礎 であるキリストから、ローマ 法 王 へと<br />

移 された。 人 々は、 罪 の 赦 しと 永 遠 の 救 いを 求 めて 神 の 子 によりたのむかわりに、 法<br />

王 や、 法 王 が 権 力 をゆだねた 司 祭 や 司 教 たちにたよった。 彼 らは、 法 王 はこの 地 上 に<br />

おける 彼 らの 仲 保 者 であって、 法 王 によらなければだれも 神 に 近 づくことができない、<br />

と 教 えられた。さらに、 法 王 は 神 に 代 わって 彼 らの 前 に 立 つ 者 であるから、 絶 対 に 服<br />

従 すべきであると 教 えられた。 彼 の 要 求 に 従 わない 者 が、 最 も 厳 しい 罰 をその 心 身 に<br />

受 けるのは、 当 然 のこととされた。<br />

こうして 人 々の 心 は 神 から 引 き 離 されて、 誤 りの 多 い 残 酷 な 人 々に、いや、 彼 らを<br />

通 して 力 を 振 うところの 暗 黒 の 君 自 身 に 向 けられた。<br />

罪 は 聖 潔 の 仮 面 をかぶった。 聖 書 が 圧 迫 され、 人 間 が 自 分 を 最 高 のものと 見 なすよ<br />

うになる 時 、そこには、 欺 瞞 と 惑 わし、 汚 れた 罪 悪 しか 期 待 できない。 人 間 の 律 法 と<br />

言 い 伝 えとが 高 められるにつれて、 神 の 律 法 を 放 棄 する 時 常 に 起 こる 腐 敗 があらわれ<br />

てきた。 キリストの 教 会 にとって 危 機 の 時 代 であった。 忠 実 な 旗 手 はまことに 少 なか<br />

った。 真 理 の 証 人 たちもいなかったわけではないが、 誤 りと 迷 信 が 完 全 に 勝 利 して、<br />

真 の 宗 教 は 地 上 からぬぐい 去 られたように 思 われた 時 もあった。 福 音 は 見 失 われてし<br />

まった。しかし 宗 教 の 形 式 は 増 大 し、 人 々は 厳 しい 要 求 に 苦 しんだ。<br />

彼 らは、 法 王 を 彼 らの 仲 保 者 として 仰 ぐだけでなく、 罪 を 贖 うために 自 分 自 身 の 行<br />

いに 頼 らねばならないと 教 えられた。 長 い 巡 礼 の 旅 、 難 行 苦 行 、 聖 遺 物 崇 拝 、 教 会 堂<br />

・ 寺 院 そして 祭 壇 の 建 築 、 教 会 への 大 金 納 入 ——これらの 行 為 、またそれに 類 した 多<br />

くの 行 為 が、 神 の 怒 りを 和 らげ、 神 の 恵 みにあずかるために 要 求 された。あたかも 神<br />

が 人 間 のように、ささいなことに 怒 り、あるいは 贈 り 物 や 苦 行 によってなだめられる<br />

かのように。<br />

罪 悪 が 一 般 に 広 く 行 われ、ローマ 教 会 の 指 導 者 たちの 中 にさえ 及 んでいたが、しか<br />

し 教 会 の 勢 力 は 着 実 に 増 加 していくように 見 えた。8 世 紀 の 終 わりごろ、カトリック<br />

教 徒 たちは、 初 期 の 教 会 においてもローマの 司 教 は、 現 在 有 しているのと 同 じ 宗 教 上<br />

の 権 力 を 持 っていたと 主 張 した。この 主 張 を 確 立 するためには、 何 かの 手 段 を 講 じて<br />

それを 権 威 づける 必 要 があった。そしてそれには、 偽 りの 父 が 直 ちに 示 唆 を 与 えた。<br />

34


国 際 協 定<br />

古 文 書 が、 修 道 士 たちによって 偽 造 された。これまで 聞 いたこともないような 会 議 の<br />

布 告 が 発 見 されて、 法 王 が 最 も 初 期 の 時 代 から 普 遍 的 な 至 上 権 を 持 っていたことが 確<br />

立 された。そして、 真 理 を 拒 否 した 教 会 は、これらの 欺 瞞 をすぐさま 承 認 した。<br />

真 の 土 台 の 上 に 築 いていたところの、ごく 少 数 の 忠 実 な 建 設 者 たちは、このような<br />

くずに 等 しい 偽 りの 教 義 が 働 きを 妨 害 するために、 困 惑 し 妨 げられた[Ⅰコリント 3:<br />

10、11 参 照 ]。ネヘミヤの 時 代 にエルサレムの 城 壁 を 築 いた 者 たちのように、ある 者<br />

たちは、「 荷 を 負 う 者 の 力 は 衰 え、そのうえ、 灰 土 がおびただしいので、われわれは<br />

城 壁 を 築 くことができない」と 言 うばかりになった[ネヘミヤ 4:。 迫 害 、 不 正 、 罪 悪 、<br />

その 他 サタンが、 彼 らの 働 きの 前 進 を 妨 げるために 考 案 したさまざまな 妨 害 との 絶 え<br />

間 ない 闘 いに 疲 れて、さすがの 忠 実 な 建 設 者 たちの 中 にも 失 望 に 陥 る 者 があった。そ<br />

して 自 分 たちの 財 産 と 生 命 を 守 るために、 彼 らは 真 の 土 台 から 離 れていった。しかし、<br />

敵 の 攻 撃 にもくじけずに、「あなたがたは 彼 らを 恐 れてはならない。 大 いなる 恐 るべ<br />

き 主 を 覚 え」よと 大 胆 に 宣 言 する 者 もあった[ 同 4:。そして 彼 らは 各 自 が 腰 に 剣 を 帯<br />

びながら 働 きを 推 し 進 めたのであった[エペソ 6:7 参 照 ]。<br />

真 理 に 対 する 同 じ 憎 しみと 反 対 の 精 神 が、 各 時 代 の 神 の 敵 の 心 を 満 たしてきた。そ<br />

して 同 じ 警 戒 心 と 忠 実 さが 神 のしもべたちに 要 求 されてきた。 最 初 の 弟 子 たちに 言 わ<br />

れたキリストの 言 葉 は、 終 末 に 至 るまでの 弟 子 たちに 言 われたのである。「 目 をさま<br />

していなさい。わたしがあなたがたに 言 うこの 言 葉 は、すべての 人 々に 言 うのである」<br />

[マルコ 13:。<br />

暗 黒 はますますその 濃 さを 増 していくように 見 えた。 聖 像 崇 拝 はいっそう 広 く 行 わ<br />

れるようになった。 像 の 前 に 燈 明 があげられて、 祈 りがささげられた。 最 もばかげた<br />

迷 信 的 な 習 慣 が 広 まった。 人 々の 心 は 迷 信 によって 完 全 に 支 配 されたので、 理 性 その<br />

ものが 失 われてしまったかのように 思 われた。 司 祭 や 司 教 たち 自 身 が 享 楽 を 愛 し、 肉<br />

欲 にふけり、 腐 敗 していたのだから、 彼 らの 指 導 を 仰 いでいた 民 衆 が 無 知 と 不 道 徳 に<br />

陥 るのは、 当 然 のことであった。<br />

さらに 法 王 は、もう 1 つの 僣 越 なことをした。すなわち 11 世 紀 に 法 王 グレゴリー<br />

7 世 は、ローマ 教 会 は 完 全 であると 宣 言 したのである。その 主 張 の 中 で 彼 は、 聖 書 に<br />

よれば 教 会 はこれまで 誤 ったことはないし、これからも 誤 ることがないと 言 明 した。<br />

しかし 聖 書 には、このような 主 張 を 裏 付 ける 証 拠 はないのである。 高 慢 な 法 王 はまた、<br />

皇 帝 を 退 位 させる 権 力 があると 主 張 し、 自 分 が 布 告 した 宣 言 を 破 棄 し 得 る 者 はだれも<br />

なく、 一 方 他 のすべての 者 の 決 定 を 取 り 消 す 権 力 が 自 分 にはあると 断 言 した。<br />

35


国 際 協 定<br />

こうした 絶 対 無 謬 を 唱 えた 法 王 の 暴 君 的 性 格 を 示 す 顕 著 な 実 例 は、ドイツ 皇 帝 ハイ<br />

ンリヒ 4 世 [ヘンリー4 世 ]に 対 する 処 置 である。ハインリヒ 4 世 は、 法 王 の 権 威 をあ<br />

えて 無 視 したために、 破 門 と 廃 位 の 宣 告 を 受 けた。 法 王 の 命 令 に 力 を 得 て 彼 に 反 逆 し<br />

た 諸 侯 たちの、 離 反 と 威 嚇 に 驚 いたハインリヒは、 法 王 と 和 解 する 必 要 を 感 じた。 彼<br />

は 王 妃 と 忠 実 な 従 者 とを 伴 って、 法 王 の 前 に 身 を 低 めるため、 真 冬 のアルプスを 越 え<br />

た。グレゴリーが 留 まっていた 城 に 到 着 すると、 王 は 護 衛 もなく 外 庭 に 案 内 され、そ<br />

の 厳 しい 冬 の 寒 さの 中 で、みすぼらしい 衣 を 着 、 頭 には 何 もかぶらず、はだしのまま、<br />

法 王 の 前 に 出 る 許 可 を 待 った。 彼 が 3 日 間 断 食 とざんげを 続 けた 後 、ようやく 法 王 は<br />

彼 に 赦 免 を 与 えた。そしてそれさえも、 皇 帝 が 位 に 復 して 王 権 を 行 使 する 前 に、 法 王<br />

の 認 可 を 仰 がねばならないという 条 件 つきのものであった。こうしてグレゴリーは、<br />

自 分 の 勝 利 に 意 気 揚 々となり、 王 たちの 誇 りをはぐことが 自 分 の 義 務 であると 誇 っ<br />

た。<br />

このこうまんな 法 王 の 横 暴 な 態 度 と、キリスト——ゆるしと 平 和 をもたらすために、<br />

心 の 戸 の 外 に 立 って、 入 ることを 求 めておられるキリスト、また 弟 子 たちに、「あな<br />

たがたの 間 でかしらになりたいと 思 う 者 は、 僕 とならねばならない」[マタイ 20:と<br />

教 えられたキリスト——の 柔 和 と 優 しさとは、なんと 異 なっていることであろう。<br />

時 代 が 進 むにつれて、 誤 った 教 義 がローマからやむことなく 送 り 出 されていった。<br />

法 王 制 が 確 立 する 以 前 でさえ、 異 教 の 哲 学 者 たちの 教 えが 教 会 の 中 で 注 目 され、 影 響<br />

を 与 えていた。 改 宗 したという 人 々の 多 くは、 依 然 として 彼 らの 異 教 の 哲 学 の 教 えに<br />

執 着 し、それを 自 分 で 研 究 するばかりでなく、 異 教 徒 の 中 で 勢 力 を 広 げる 手 段 として、<br />

他 の 人 々にもそれを 勧 めた。こうして 重 大 な 誤 りがキリスト 教 信 仰 の 中 にもちこまれ<br />

た。それらのうちで 特 に 目 立 つものは、 人 間 は 生 来 不 死 であって、 死 んでも 意 識 があ<br />

るという 信 仰 であった。この 教 義 を 基 礎 にして、ローマ 教 会 は、 諸 聖 人 に 祈 りをささ<br />

げることや、 聖 母 マリヤを 崇 拝 することを 確 立 した。また 早 くから 法 王 教 の 中 に 織 り<br />

こまれていたところの、 最 後 まで 悔 い 改 めない 者 は 永 遠 の 責 苦 にあうという 異 端 的 な<br />

教 えも、ここから 起 こったのである。<br />

これに 伴 ってもう 1 つ 異 教 のつくりごとが 取 り 入 れられることになった。ローマ 教<br />

会 はそれを 煉 獄 と 呼 び、だまされやすく 迷 信 的 な 民 衆 を 脅 すのに 用 いた。この 異 端 的<br />

な 教 えによれば、 永 遠 の 滅 びを 受 けるほどでない 魂 がその 罪 の 罰 を 受 けるべき 苦 しみ<br />

の 場 所 が 存 在 し、そこで 不 純 な 状 態 から 清 められた 時 天 国 に 入 ることを 許 される、と<br />

いうのである。<br />

36


国 際 協 定<br />

ローマ 教 会 が、その 信 者 たちの 恐 怖 と 悪 行 とを 利 用 して 益 を 得 るためには、さらに<br />

もう 1 つのつくりごとが、 必 要 であった。この 必 要 は、 免 罪 の 教 義 によって 満 たされ<br />

た。 法 王 の 戦 い—— 世 俗 的 な 主 権 を 拡 大 し、 敵 を 懲 らしめ、 法 王 の 霊 的 至 上 権 を 否 定<br />

する 者 たちを 撲 滅 するための 戦 い——に 参 加 するすべての 者 に、 過 去 ・ 現 在 ・ 未 来 の<br />

罪 の 完 全 な 赦 免 と、 受 けるべきすべての 苦 痛 と 罰 の 免 除 が 約 束 された。また、 教 会 に<br />

金 を 払 うことによって 罪 から 解 放 されること、そしてまた、 苦 しみの 火 の 中 にいる 死<br />

んだ 友 人 たちの 魂 をも 解 放 することができること、これらのことを 人 々は 教 えられた。<br />

このような 方 法 によって、ローマ 教 会 はその 懐 を 肥 やし、キリスト——まくらする 所<br />

さえ 持 たれなかったお 方 ——の 代 表 者 と 称 する 者 の 豪 華 とぜいたくと 悪 徳 とを 支 えた<br />

のであった。<br />

聖 書 的 礼 典 である 主 の 晩 餐 は、ミサという 偶 像 崇 拝 的 犠 牲 にとって 代 わられた。カ<br />

トリックの 司 祭 たちは、その 無 意 味 な 儀 式 によって、ただのパンとぶどう 酒 を 実 際 の<br />

「キリストの 体 と 血 」に 変 えると 主 張 した。 1 彼 らは、 神 を 汚 す 僣 越 さをもって、 万 物<br />

の 創 造 主 であられる 神 を 創 造 する 力 があると 公 言 した。キリスト 者 たちはこの 恐 ろし<br />

い 神 的 邪 説 を 信 じるように 要 求 され、さもないと 死 刑 に 処 せられるのであった。これ<br />

を 拒 んだために 火 刑 に 処 せられた 者 が 無 数 にあった。<br />

13 世 紀 に、 法 王 制 の 機 関 中 で 最 も 恐 ろしいもの、すなわち 宗 教 裁 判 所 [ 異 端 審 問 所 ]<br />

が 設 けられた。 暗 黒 の 君 は、 法 王 制 の 指 導 者 たちと 共 に 働 いた。 彼 らの 秘 密 会 議 にお<br />

いてサタンとその 天 使 たちが、 悪 人 たちの 心 を 支 配 した。しかしそれと 同 時 に、 人 の<br />

目 にこそ 見 えなかったが、 神 の 天 使 がそのただ 中 に 立 ち、 彼 らの 不 法 な 命 令 の 恐 るべ<br />

き 記 録 をとり、とうてい 人 間 の 目 が 見 るに 耐 えない 恐 ろしい 行 為 の 記 録 を 記 していた<br />

のであった。「 大 いなるバビロン」は「 聖 徒 の 血 に 酔 いしれた」。 無 数 の 殉 教 者 たち<br />

の 寸 断 された 体 は、この 背 信 した 権 力 に 対 する 神 のふくしゅうを 叫 び 求 めた。<br />

法 王 教 は 世 界 の 専 制 君 主 となった。 王 も 皇 帝 もローマ 法 王 の 命 令 に 服 した。 人 々の<br />

運 命 は、 現 世 のものも 来 世 のものも、 彼 の 支 配 下 にあるように 思 われた。 数 百 年 にわ<br />

たってローマの 教 義 は、 絶 対 的 なものとして 広 く 受 け 入 れられ、その 儀 式 は 厳 粛 にと<br />

り 行 われ、その 祝 祭 はあまねく 遵 奉 された。 聖 職 者 たちは 尊 敬 され、 豊 かにささえら<br />

れた。この 時 ほど、ローマ 教 会 が 大 きな 威 厳 と 壮 大 さと 権 力 を 誇 った 時 代 はなかっ<br />

た。 = しかし、「 法 王 制 の 真 昼 は、 世 界 の 真 夜 中 であった。」 2 聖 書 は、 民 衆 だけで<br />

なく、 司 祭 たちにさえほとんど 知 られていなかった。 昔 のパリサイ 人 たちと 同 様 に、<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 彼 らの 罪 を 明 らかにする 光 を 憎 んだ。 義 の 標 準 である 神 の 律<br />

法 を 放 棄 してしまったので、 彼 らは 無 制 限 に 権 力 を 行 使 し、 自 由 に 悪 事 を 働 いた。 詐<br />

37


国 際 協 定<br />

欺 、 貧 欲 、 放 とうが 広 く 行 われた。 人 々は、 富 と 地 位 を 得 るためにはどんな 罪 でも 犯<br />

した。<br />

法 王 や 高 位 聖 職 者 たちの 宮 殿 は、 最 も 罪 深 い 放 とうの 現 場 であった。 何 人 かの 法 王<br />

たちはあまりにも 非 道 な 犯 罪 を 犯 したために、 世 俗 の 支 配 者 たちが 彼 らを、 赦 すこと<br />

のできない 極 悪 な 人 物 としてその 地 位 から 退 かせようとしたほどであった。ヨーロッ<br />

パは、 幾 世 紀 もの 間 、 学 問 、 芸 術 、また 文 化 の 面 で 何 の 進 歩 もなかった。キリスト 教<br />

世 界 は、 道 徳 的 、 知 的 マヒ 状 態 に 陥 っていた。 ローマ 教 会 の 権 力 下 にあった 世 界 の 状<br />

態 は、 預 言 者 ホセアの 言 葉 の 恐 ろしくも 的 確 な 成 就 である。「わたしの 民 は 知 識 がな<br />

いために 滅 ぼされる。あなたは 知 識 を 捨 てたゆえに、わたしもあなたを 捨 て、……あ<br />

なたはあなたの 神 の 律 法 を 忘 れたゆえに、わたしもまたあなたの 子 らを 忘 れる」「こ<br />

の 地 には 真 実 がなく、 愛 情 がなく、また 神 を 知 ることもないからである。ただのろい<br />

と、 偽 りと、 人 殺 しと、 盗 みと、 姦 淫 することのみで、 人 々は 皆 荒 れ 狂 い、 殺 害 に 殺<br />

害 が 続 いている」[ホセア 4:6、1、。これが 神 の 言 葉 を 捨 てた 結 果 であった。<br />

38


国 際 協 定<br />

第 4 章 ライトベアラー<br />

法 王 が 長 期 間 にわたって 至 上 権 を 握 っていた 時 、 地 上 は 暗 黒 におおわれたが、しか<br />

し、その 中 にあって、 真 理 の 光 が 全 く 消 えてしまったわけではなかった。どの 時 代 に<br />

も 神 の 証 人 がいた。キリストを 神 と 人 間 との 間 の 唯 一 の 仲 保 者 として 信 じ、 人 生 の 唯<br />

一 の 規 準 として 聖 書 を 受 け 入 れ、そして 真 の 安 息 日 を 尊 んだ 人 々がいたのである。こ<br />

うした 人 々に 世 界 が 負 うところいかに 大 であるか、 後 世 の 人 々にはけっしてわからな<br />

いであろう。 彼 らは 異 端 者 の 烙 印 を 押 され、その 動 機 は 非 難 され、その 品 性 は 中 傷 さ<br />

れ、そして 彼 らの 書 き 物 は 禁 圧 され、 誤 り 伝 えられ、 骨 抜 きにされた。しかし 彼 らは<br />

堅 く 立 った。そして、 来 たるべき 時 代 のための 神 聖 な 遺 産 として、 彼 らの 信 仰 を、 代<br />

々、 純 潔 に 保 ったのである。<br />

ローマが 至 上 権 を 握 ってからの、 暗 黒 時 代 における 神 の 民 の 歴 史 は、 天 に 記 録 され<br />

ているが、 人 間 の 手 になる 記 録 には、あまり 記 されていない。 彼 らを 迫 害 した 者 たち<br />

による 非 難 以 外 には、 彼 らの 存 在 の 形 跡 はほとんどない。 教 義 や 命 令 に 異 議 を 唱 える<br />

ものは、あとかたもなく 抹 殺 してしまうことが、ローマの 政 策 であった。 教 会 は、 人<br />

間 であろうが 書 物 であろうが、 異 端 的 なものはすべて 滅 ぼそうとした。 法 王 の 教 義 の<br />

権 威 に 対 する 疑 惑 や 質 問 を 表 明 するだけで、 貧 富 、 貴 賎 の 別 なく、 生 命 を 奪 われるの<br />

に 十 分 であった。またローマは、 反 対 者 に 対 する 教 会 の 残 酷 な 行 為 の 記 録 を、すべて<br />

消 滅 させようとした。 法 王 による 宗 教 会 議 は、こうした 記 事 がのっている 書 物 や 文 書<br />

を 焼 却 することを 命 じた。 印 刷 機 が 発 明 される 前 は、 書 物 の 数 も 少 なく、その 形 も 保<br />

存 には 向 いていなかったので、 彼 らの 目 的 の 遂 行 を 妨 げるものはほとんどなかった。<br />

ローマの 管 轄 内 にあるどの 教 会 も、 良 心 の 自 由 をいつまでも 保 つことはできなかっ<br />

た。 法 王 権 は、 権 力 を 握 るとすぐ、その 支 配 を 認 めない 者 をみな 粉 砕 するために、 手<br />

を 伸 ばした。こうして 諸 教 会 は、 次 々とその 支 配 下 に 陥 った。<br />

大 ブリテンでは、 原 始 キリスト 教 が 早 くから 根 をおろしていた。 最 初 の 2、3 世 紀<br />

にブリトン 人 たちが 受 けた 福 音 は、まだローマの 背 教 によって 腐 敗 してはいなかった。<br />

この 遠 方 の 国 にまで 及 んだ 異 教 の 皇 帝 たちによる 迫 害 は、ブリテンの 初 期 の 教 会 がロ<br />

ーマから 受 けた 唯 一 の 贈 り 物 であった。すなわち、 多 くのキリスト 者 たちは、イング<br />

ランドでの 迫 害 をのがれてスコットランドに 避 難 し、これによって 真 理 は、アイルラ<br />

ンドにも 伝 えられた。そしてこれらの 国 々では、どこでも 歓 迎 されたのであった。 と<br />

ころが、サクソン 人 がブリテンに 侵 入 した 時 、 異 教 が 支 配 権 を 握 った。 征 服 者 たちは、<br />

自 分 たちの 奴 隷 から 教 えられることを 好 まなかったので、キリスト 者 たちは、 山 や 荒<br />

39


国 際 協 定<br />

野 に 避 難 しなければならなかった。しかし、 光 は、 一 時 隠 されたにしても、 常 に 燃 え<br />

つづけた。1 世 紀 の 後 、スコットランドでは、その 光 は 明 るく 輝 き 出 て 遠 くの 国 々に<br />

まで 及 んだ。アイルランドからは、 敬 虔 なコルンバとその 共 労 者 たちがあらわれ、 各<br />

地 に 離 散 した 信 者 をアイオナの 孤 島 に 集 めて、そこを 彼 らの 伝 道 活 動 の 中 心 にした。<br />

これらの 伝 道 者 の 中 には、 聖 書 に 示 された 安 息 日 を 守 る 者 もいて、こころしてこの 真<br />

理 が 人 々に 伝 えられた。また、アイオナ 島 に 学 校 が 設 立 され、ここから、スコットラ<br />

ンド、イングランドだけでなく、ドイツやスペインやイタリアにまで、 伝 道 者 が 送 ら<br />

れた。<br />

しかし、ローマはブリテンに 目 をつけ、これを 自 分 の 支 配 下 におこうと 決 心 した。<br />

6 世 紀 に、ローマ 教 会 の 宣 教 師 たちは、 異 教 のサクソン 人 を 改 宗 させようと 企 てた。<br />

彼 らは 誇 り 高 き 異 教 徒 たちから 歓 迎 され、 幾 千 という 人 々をローマ 教 に 改 宗 させた。<br />

働 きが 進 展 するにつれて、 法 王 教 の 指 導 者 たちと 改 宗 者 たちは、 初 代 教 会 の 流 れをく<br />

むキリスト 者 たちに 出 会 った。そこには 著 しい 相 違 があった。 前 者 が 法 王 教 のもつ 迷<br />

信 的 で 華 美 で 尊 大 な 性 格 をあらわしていたのに 対 し、 後 者 は、 単 純 で 謙 そんで、 品 性<br />

においても 教 義 においても 態 度 においても、 聖 書 的 であった。<br />

ローマの 使 節 たちは、これらのキリスト 教 会 に、 法 王 の 至 上 権 を 認 めることを 要 求<br />

した。ブリトン 人 は、 自 分 たちはすべての 人 を 愛 したいと 思 う、しかし 法 王 は 教 会 に<br />

おける 至 上 権 を 与 えられたわけではないのだから、 自 分 たちとしては、すべてのキリ<br />

スト 者 たちに 対 してすべき 服 従 を、 法 王 に 対 してもなすことができるだけであると、<br />

柔 和 に 答 えたのであった。 彼 らがローマに 対 して 忠 誠 を 尽 くすようにさせようとする<br />

試 みがくり 返 された。しかし、これらの 謙 そんなキリスト 者 たちは、ローマ 教 会 の 使<br />

節 たちのこうまんな 態 度 に 驚 き、 自 分 たちはキリスト 以 外 のだれをも 主 として 認 めな<br />

いと、 断 固 として 答 えた。ここにおいて、 法 王 制 の 真 の 精 神 があらわされた。すなわ<br />

ちローマの 指 導 者 は、 次 のように 言 ったのである。「 平 和 をもたらす 兄 弟 たちを 受 け<br />

入 れないなら、 戦 いをもたらす 敵 を 迎 えることになろう。われわれと 一 致 してサクソ<br />

ン 人 に 生 命 の 道 を 示 さないなら、 彼 らから 死 の 打 撃 を 受 けるであろう。」 1 これは 口 先<br />

だけのおどしではなかった。 戦 争 と 陰 謀 と 欺 瞞 とが、 聖 書 の 信 仰 の 証 人 たちに 向 けら<br />

れ、ついにブリトン 人 の 諸 教 会 は 破 壊 され、あるいは 法 王 の 権 威 に 余 儀 なく 屈 した。<br />

ローマの 管 轄 外 にあった 国 々には、 幾 世 紀 もの 間 、 法 王 教 の 腐 敗 にほとんど 染 まる<br />

ことなく 存 在 したキリスト 者 たちの 諸 団 体 があった。 彼 らは 異 教 に 囲 まれていたため<br />

に、 時 の 経 過 につれて、その 誤 りに 感 化 された。しかし 彼 らは 聖 書 を 信 仰 の 唯 一 の 規<br />

準 とし、その 真 理 の 多 くを 固 守 し 続 けていた。これらのキリスト 者 たちは、 神 の 律 法<br />

40


国 際 協 定<br />

の 永 続 性 を 信 じ、 第 4 条 の 安 息 日 を 守 っていた。この 信 仰 と 習 慣 を 保 っていた 諸 教 会<br />

は、 中 央 アフリカに、そしてアジアのアルメニア 人 の 中 にあった。<br />

しかし 法 王 権 の 侵 入 に 抵 抗 した 人 々の 中 で、 最 も 著 しいのがワルド 派 [ワルデンセ<br />

ス、ワルドウス 派 ]であった。 法 王 庁 が 存 在 しているまさにその 国 家 において、その 虚<br />

偽 と 腐 敗 は 最 も 激 しい 抵 抗 にあった。 数 世 紀 にわたって、ピエモンテの 諸 教 会 は 独 立<br />

を 保 っていた。 しかし、ついにローマが 彼 らに 屈 服 を 迫 る 時 がきた。ローマの 圧 制 に<br />

対 して 無 益 な 抵 抗 を 試 みたあとで、これらの 教 会 の 指 導 者 たちは、 全 世 界 が 敬 意 を 表<br />

しているように 思 われるこの 権 力 の 至 高 性 を、しぶしぶ 認 めた。しかしながら、 法 王<br />

や 司 教 たちの 権 威 に 対 する 服 従 を 拒 否 した 者 たちもあった。 彼 らは、あくまでも 神 に<br />

忠 誠 を 尽 くし、 信 仰 の 単 純 さと 純 潔 とを 保 とうとした。こうして 分 離 が 起 きた。 古 く<br />

からの 信 仰 を 固 守 する 者 たちは、 今 や 身 を 引 いて、ある 者 たちは 故 郷 のアルプスを 去<br />

って 外 国 で 真 理 の 旗 をかかげ、また 他 の 人 々は、 人 里 離 れた 谷 間 や 岩 角 けわしい 山 岳<br />

地 帯 に 逃 れて、そこで 自 由 に 神 を 礼 拝 した。<br />

幾 世 紀 にもわたってワルド 派 のキリスト 者 たちが 信 じ、 教 えてきた 信 仰 は、ローマ<br />

から 出 た 偽 りの 教 義 と 著 しい 対 照 をなしていた。 彼 らの 宗 教 的 信 念 は、キリスト 教 の<br />

真 の 体 系 である 書 かれた 神 の 言 葉 に 基 づいていた。しかし、 世 から 隔 離 された 寂 しい<br />

隠 れがに 住 み、 家 畜 の 世 話 や 果 樹 の 栽 培 に 労 苦 の 日 々を 送 っていたそぼくな 農 民 たち<br />

は、 自 分 自 身 の 力 で、 背 信 した 教 会 の 教 義 や 邪 説 に 反 対 する 真 理 に 到 達 したのではな<br />

かった。 彼 らの 信 仰 は、 新 たに 受 けた 信 仰 ではなかった。 彼 らの 宗 教 的 信 念 は、 彼 ら<br />

の 先 祖 から 受 け 継 いだものであった。 彼 らは、 使 徒 時 代 の 教 会 の 信 仰 、すなわち、<br />

「ひとたび 伝 えられた 信 仰 」を 強 く 主 張 した[ユダ。 世 界 的 な 大 都 市 に 王 座 をかまえた<br />

高 慢 な 法 王 制 ではなくて、この「 荒 野 の 教 会 」がキリストの 真 の 教 会 であり、 世 界 に<br />

伝 えるために 神 がご 自 分 の 民 にゆだねられた 真 理 の 宝 の 保 管 者 であった。<br />

真 の 教 会 がローマから 分 離 しなければならなかった 主 な 理 由 の 中 に、 聖 書 的 安 息 日<br />

に 対 するローマの 憎 しみということがあった。 預 言 されていたとおり、 法 王 権 はこの<br />

真 理 を 地 に 投 げ 捨 てた。 人 間 の 言 い 伝 えや 習 慣 が 尊 ばれる 一 方 、 神 の 律 法 は 踏 みにじ<br />

ら れた。 法 王 権 の 支 配 下 にあった 諸 教 会 は、 早 くから、 日 曜 日 を 聖 日 としてあがめる<br />

よう 強 要 された。 誤 りと 迷 信 が 広 くゆきわたっているさなかにあって、 多 くの 者 が—<br />

— 神 の 真 の 民 でさえも—— 当 惑 し、 真 の 安 息 日 を 守 りながらも、 日 曜 日 にも 仕 事 を 休<br />

むほどであった。しかし 法 王 教 の 指 導 者 たちは、それでは 満 足 しなかった。<br />

彼 らは、 日 曜 日 を 尊 ぶばかりでなく、 安 息 日 を 汚 すことを 要 求 した。そして、 安 息<br />

日 を 尊 ぼうとする 人 々を、 最 も 激 しい 口 調 で 非 難 した。だれでも 神 の 律 法 を 平 安 のう<br />

41


国 際 協 定<br />

ちに 守 ろうとするならば、どうしても、ローマの 権 力 外 に 逃 れるほかはなかった。 ワ<br />

ルド 派 の 人 々は、ヨーロッパにおいて 最 初 に 聖 書 の 翻 訳 を 手 にした 人 々の 1 つであっ<br />

た。 宗 教 改 革 の 数 百 年 も 前 から、 彼 らは、 自 国 語 で 書 かれた 聖 書 の 写 本 を 持 っていた。<br />

彼 らは 混 ぜ 物 のない 真 理 を 持 っており、そのために、 特 に 憎 しみと 迫 害 とを 受 けたの<br />

であった。 彼 らは、ローマの 教 会 は 黙 示 録 の 背 教 したバビロンであると 宣 言 し、 生 命<br />

の 危 険 をもかえりみず、その 腐 敗 に 抵 抗 するために 立 ち 上 がった。 長 期 にわたる 迫 害<br />

のために、 信 仰 の 妥 協 をしたり、 独 特 の 主 義 を 少 しずつ 放 棄 したりする 者 もあったが、<br />

真 理 に 堅 く 立 った 人 々もいた。 暗 黒 と 背 教 の 全 時 代 を 通 じて、ローマの 至 上 権 を 否 定<br />

し、 聖 画 像 崇 敬 を 偶 像 礼 拝 だとして 拒 み、 真 の 安 息 日 を 守 ったところのワルド 派 の 人<br />

々がいた。 最 も 激 しい 弾 圧 のさなかで、 彼 らはその 信 仰 を 保 った。サボア 人 たちのや<br />

りに 深 手 を 負 い、ローマの 火 刑 柱 で 焦 がされようとも、 彼 らは 神 の 言 葉 と 神 の 栄 光 の<br />

ために、ひるまず 堅 く 立 ったのである。<br />

そびえ 立 つ 山 々のかげに——それはいつの 時 代 においても、 迫 害 され 圧 迫 された 人<br />

々の 避 難 所 であったが——ワルド 派 は 隠 れ 場 を 見 いだした。そしてここで 真 理 の 光 が、<br />

中 世 の 暗 黒 のただ 中 にあって 燃 え 続 けた。ここで、1000 年 以 上 もの 間 、 真 理 の 証 人<br />

たちは 昔 ながらの 信 仰 を 保 持 したのであった。 神 は、ご 自 分 の 民 におゆだねになった<br />

力 強 い 真 理 にふさわしい、 極 めて 荘 厳 な 避 難 所 を、 彼 らのために 備 えておられた。 忠<br />

実 な 避 難 者 たちにとって、 山 々は 主 の 不 変 の 義 の 象 徴 であった。 彼 らは 子 供 たちに 堂<br />

々たる 威 厳 をもって 彼 らの 前 にそびえ 立 つ 山 々を 指 さし、 変 化 も 回 転 の 影 もないお 方 、<br />

そのみ 言 葉 が 永 久 の 丘 のように 持 続 するお 方 について 語 った。<br />

神 は、 山 々を 堅 くすえ、それに 力 をお 与 えになった。 無 限 の 力 を 持 たれた 神 の 腕 以<br />

外 のどんな 腕 も、 山 々をその 場 所 から 動 かすことはできなかった。 同 様 に 神 は、 天 と<br />

地 における 神 の 統 治 の 基 礎 である 律 法 を、 堅 くすえられた。 人 間 は、 手 を 伸 ばして 同<br />

胞 の 生 命 を 奪 うことはできよう。しかし、 主 の 律 法 の 1 つでも 変 えることができるな<br />

らば、あるいは、 神 のみこころを 行 う 者 に 対 する 神 の 約 束 を 1 つでも 消 し 去 ることが<br />

できるならば、 山 々をその 土 台 から 根 こそぎにして、 海 の 中 にやすやすと 投 げ 込 むこ<br />

とができるであろう。 神 のしもべたちは、 不 動 の 山 々のように、 断 固 として 神 の 律 法<br />

に 忠 誠 を 尽 くさなければならない。<br />

低 い 谷 間 を 取 り 巻 く 山 々は、 神 の 創 造 の 力 を 絶 えずあかしするとともに、 神 の 保 護<br />

の 絶 えざる 保 証 であった。 信 仰 のゆえに 故 郷 を 後 にした 人 々は、 主 の 臨 在 を 無 言 のう<br />

ちに 表 している 大 自 然 を 愛 するようになった。 彼 らは 自 分 たちの 境 遇 の 苦 しさをつぶ<br />

やかなかった。ひっそりした 山 の 中 にあっても、 彼 らは 寂 しさを 感 じなかった。 人 間<br />

の 怒 りと 残 酷 さからの 避 難 所 を 備 えていてくださったことを 彼 らは 神 に 感 謝 した。 彼<br />

42


国 際 協 定<br />

らは、 神 の 前 で 自 由 に 礼 拝 ができることを 喜 んだ。 時 おり、 敵 の 追 撃 を 受 けたときに<br />

は、 強 固 な 山 々が 確 実 な 防 御 となった。 彼 らは 多 くの 高 い 断 崖 から、 神 を 賛 美 する 歌<br />

をうたった。そしてローマの 軍 隊 は、 彼 らの 歌 う 感 謝 の 歌 を 沈 黙 させることができな<br />

かった。<br />

純 潔 、 単 純 、 熱 心 が、キリストに 従 うこれらの 人 々の 信 条 であった。 彼 らは、 真 理<br />

の 原 則 を、 家 屋 、 土 地 、 友 人 、 親 戚 はいうに 及 ばず 生 命 そのもの 以 上 に 大 切 なものと<br />

見 なした。 彼 らは、これらの 原 則 を 若 い 人 々の 心 に 植 えつけようと 熱 心 に 努 めた。 青<br />

年 たちは 幼 い 時 から、 聖 書 を 教 えられ、 神 の 律 法 の 要 求 を 神 聖 なものと 見 なすよう 教<br />

えられた。 聖 書 の 部 数 は 極 めて 少 なかったので、その 尊 いみ 言 葉 を 彼 らは 暗 記 した。<br />

多 くの 者 が、 旧 新 約 聖 書 両 方 のかなりの 部 分 を 暗 唱 できた。 神 を 思 う 思 いが、 自 然 の<br />

荘 厳 な 光 景 からも、また、 日 常 生 活 のささやかな 祝 福 からも、 同 じように 連 想 された。<br />

幼 い 子 供 たちは、 神 を、すべての 恵 みとすべての 慰 めを 与 えてくださるお 方 として、<br />

感 謝 をもって 仰 ぐよう 教 えられた。<br />

両 親 たちは、 慈 愛 と 愛 情 に 満 ちていたが、 同 時 に 非 常 に 賢 明 であって、 子 供 たちを<br />

わがままにさせたりはしなかった。 彼 らの 前 途 には、 試 練 と 困 難 の 生 涯 が、そしてお<br />

そらくは 殉 教 者 としての 死 が 待 っていた。それだから 彼 らは、 子 供 のころから、 困 難<br />

に 耐 え、 統 制 に 服 し、しかも 自 ら 思 考 し 行 動 するように 教 えられていた。 幼 い 時 から<br />

彼 らは 責 任 を 負 い、 言 葉 を 慎 み、 沈 黙 の 賢 明 さを 理 解 するように 教 えられた。 敵 に 聞<br />

こえた 軽 率 な 一 言 が、それを 言 った 者 だけでなく、 多 くの 同 信 者 の 生 命 を 危 険 に 陥 れ<br />

る 恐 れがあった。 真 理 の 敵 は、 餌 食 をさがしまわるおおかみのように、 信 仰 の 自 由 を<br />

求 める 者 たちをつけねらっていたからである。<br />

ワルド 派 の 人 々は、 真 理 のために、 世 俗 的 な 繁 栄 を 犠 牲 にし、 忍 耐 強 く、 自 分 たち<br />

の 糧 のために 労 苦 した。 山 岳 地 帯 の 中 の 耕 せる 土 地 はすべて、ていねいに 開 墾 された。<br />

谷 間 も、あまり 肥 えていない 山 の 中 腹 も 耕 されて、 作 物 を 実 らせるようになった。 節<br />

約 と 厳 しい 克 己 とが、 子 供 たちの 受 ける 唯 一 の 遺 産 としての 教 育 の 中 に 含 まれていた。<br />

子 供 たちは、 人 生 が 訓 練 となるよう 神 は 計 画 しておられること、そして 自 分 たちの 必<br />

要 は、 自 分 自 身 の 労 働 と 生 活 設 計 、 配 慮 と 信 仰 によってのみ 満 たせるということを 教<br />

えられた。その 過 程 は、 労 苦 に 満 ち、 疲 れさせるものではあったが、しかし 健 康 的 な<br />

ものであった。そしてこれは、 堕 落 した 状 態 にある 人 間 にちょうど 必 要 なことであっ<br />

て、 神 が 人 間 の 訓 練 と 発 達 のために 備 えられた 学 校 であった。 青 年 たちは、ほねおり<br />

と 困 難 に 慣 れる 一 方 、 知 性 の 開 発 も 怠 らなかった。 彼 らは、 自 分 たちのすべての 能 力<br />

が 神 のものであって、そのすべてを 神 の 奉 仕 のために 開 発 し 活 用 しなければならない<br />

ことを 教 えられた。<br />

43


国 際 協 定<br />

ワルド 派 の 教 会 は、その 純 潔 と 単 純 さにおいて、 使 徒 時 代 の 教 会 に 似 ていた。 彼 ら<br />

は、 法 王 や 大 司 教 の 至 上 権 を 拒 み、 聖 書 を 唯 一 最 高 で 誤 りのない 権 威 として 主 張 した。<br />

彼 らの 牧 師 たちは、ローマの 尊 大 な 司 祭 たちと 異 なって、「 仕 えられるためではなく、<br />

仕 えるため」に 来 られた 彼 らの 主 の 模 範 に 従 っていた。 彼 らは 神 の 民 を、 神 の 聖 なる<br />

言 葉 という 緑 の 牧 場 、 生 きた 泉 に 導 いて、 彼 らを 養 った。<br />

彼 らは、 人 間 の 虚 栄 と 誇 りの 記 念 物 から 遠 く 離 れ、 華 麗 な 会 堂 や 大 寺 院 ではなくて<br />

山 々のかげに、アルプスの 谷 に、あるいは 危 険 な 場 合 には、 岩 のとりでの 中 に 集 まっ<br />

て、キリストのしもべたちから 真 理 の 言 葉 を 聞 いた。 牧 師 たちは 福 音 を 説 くだけでな<br />

くて、 病 人 を 見 舞 い、 子 供 たちを 教 え、 誤 った 者 をさとし、 争 いをしずめて 一 致 と 兄<br />

弟 愛 を 育 てるように 努 めた。 彼 らは、 平 和 な 時 には 人 々の 自 発 的 なささげ 物 によって<br />

支 えられていたが、テント 作 りのパウロのように、 各 自 は 何 かの 職 業 を 身 につけてい<br />

て、 必 要 な 場 合 には 自 分 で 生 活 できるようにしていた。<br />

青 年 たちは 牧 師 たちから 教 育 を 受 けた。 普 通 の 学 問 の 諸 分 野 に 注 意 が 向 けられる 一<br />

方 、 聖 書 が 主 要 な 科 目 であった。マタイやヨハネによる 福 音 書 は、 多 くの 使 徒 書 簡 と<br />

ともに、 暗 記 された。 彼 らはまた、 聖 書 の 写 本 に 従 事 した。 聖 書 全 体 の 写 本 もあれば、<br />

短 い 部 分 的 なものもあり、それには、 聖 書 の 解 説 ができる 人 々による 簡 単 な 聖 句 の 説<br />

明 がついていた。こうして、 神 よりも 自 分 たちを 高 めようとする 人 々によって 長 く 隠<br />

されていた 真 理 の 宝 が 明 らかにされた。<br />

忍 耐 強 くたゆまぬ 努 力 によって、 時 には 暗 い 洞 窟 の 奥 深 くで、たいまつの 光 をたよ<br />

りに、 聖 書 は 1 節 ずつ、また 1 章 ずつ 書 き 写 されていった。こうして 働 きは 続 けられ、<br />

あらわされた 神 のみ 旨 は 純 金 のように 輝 き 出 た。 試 練 を 経 たために、 神 のみ 旨 がどん<br />

なにか いっそう 輝 かしく、 明 らかで 強 力 なものとなったかは、その 働 きに 携 わった 者<br />

たちにしかわからない。そして 天 使 たちが、これらの 忠 実 な 働 き 人 たちを 取 り 囲 んで<br />

いた。 サタンは 法 王 教 の 司 祭 や 司 教 たちを 促 して、 真 理 のみ 言 葉 を 誤 謬 や 邪 説 、 迷 信<br />

などのつまらないものの 下 に 隠 しておこうとした。しかし、それは、 暗 黒 時 代 の 全 期<br />

間 を 通 じて、 驚 くべき 方 法 で 純 粋 に 保 たれた。それは、 人 間 の 印 ではなくて、 神 の 刻<br />

印 を 帯 びている。 人 間 は、 聖 書 の 簡 単 、 明 瞭 な 意 味 をあいまいにし、それ 自 体 が 矛 盾<br />

しているものであるかのように 思 わせようとして、たゆまず 努 力 してきた。<br />

しかし 神 のみ 言 葉 は、 荒 れ 狂 う 大 海 に 浮 かぶ 箱 舟 のように、それをくつがえそうと<br />

する 嵐 にも 動 じないのである。 金 や 銀 の 鉱 脈 は、 鉱 山 の 地 中 深 くにあって、 宝 を 発 見<br />

しようとする 者 たちはみな 掘 らなければならないように、 聖 書 にも 真 理 の 宝 が 隠 され<br />

ていて、それは 心 ひくく 熱 心 に 祈 りつつ 探 究 する 者 にだけあらわされる。 神 は 聖 書 を、<br />

44


国 際 協 定<br />

全 人 類 にとって、 幼 年 時 代 、 青 年 時 代 、 壮 年 時 代 の 教 科 書 となり、 全 生 涯 にわたって<br />

研 究 すべきものとなるよう 意 図 された。 神 は 聖 書 を、ご 自 分 の 啓 示 として 人 間 にお 与<br />

えになった。 新 しい 真 理 が 明 らかになるたびに、その 真 理 の 本 源 であられる 神 の 品 性<br />

が 新 たにあらわされる。 聖 書 を 研 究 することは、 人 間 を 創 造 主 とのいっそう 密 接 な 関<br />

係 に 入 れ、 神 のみこころをいっそう 明 瞭 に 知 らせるために、 神 がお 定 めになった 方 法<br />

である。それは、 神 と 人 間 とが 交 わる 手 段 である。<br />

ワルド 派 の 人 々は、 主 を 恐 れることが 知 恵 の 初 めであることを 認 めていたが、それ<br />

とともに、 世 界 と 接 触 して 人 間 と 実 生 活 の 知 識 を 得 ることが、 心 を 広 くし、 知 覚 を 鋭<br />

くするのに 重 要 であることを 知 っていた。 青 年 たちのある 者 は、 山 の 中 の 学 校 から、<br />

フランスやイタリアの 諸 都 市 にある 学 校 に 送 られた。そこには 郷 里 のアルプスにおけ<br />

るよりはいっそう 広 範 な、 研 究 と 思 索 と 観 察 の 領 域 があった。こうして 送 り 出 された<br />

青 年 たちは、 誘 惑 にさらされ、 罪 悪 をまのあたりに 見 、 最 も 巧 妙 な 邪 説 と 最 も 危 険 な<br />

欺 瞞 を 主 張 する、サタンの 狡 猾 な 手 下 たちに 出 会 った。しかし 彼 らが 子 供 の 時 から 受<br />

けた 教 育 は、こうしたすべてのことに 対 する 準 備 となる 性 質 のものであった。<br />

彼 らは、どこの 学 校 に 行 っても、 心 を 打 ち 明 けるような 友 をつくってはならなかっ<br />

た。 彼 らの 衣 服 は、 最 大 の 宝 すなわち 聖 書 の 貴 重 な 写 本 を 隠 せるように 作 られていた。<br />

長 年 の 苦 心 の 結 晶 であるこれらの 写 本 を、 彼 らはいつも 身 につけていて、 怪 しまれな<br />

い 時 にはいっでも、 真 理 を 受 け 入 れそうな 人 々に、その 一 部 を 注 意 深 く 手 渡 した。ワ<br />

ルド 派 の 青 年 は、 母 親 のひざもとで、このような 目 的 のために 訓 育 されたのであった。<br />

そして 彼 らは、 自 分 たちの 働 きを 理 解 し、それを 忠 実 に 実 行 した。 真 の 信 仰 に 改 宗 す<br />

る 者 たちが、これらの 大 学 内 に 出 てきて、その 主 義 が 学 校 全 体 にみなぎることもよく<br />

あった。 しかし 法 王 教 の 指 導 者 たちは、どんなに 厳 密 に 調 べても、いわゆる 異 端 邪 説<br />

の 出 所 をつかむことができなかった。<br />

キリストの 精 神 は、 伝 道 の 精 神 である。 心 が 新 たにされた 人 のまず 最 初 の 衝 動 は、<br />

他 の 人 をも 救 い 主 に 導 こうとすることである。これが、ワルド 派 キリスト 教 徒 の 精 神<br />

であった。 彼 らは、 単 に 自 分 たちの 教 会 内 において 真 理 を 純 潔 に 保 つだけでなくて、<br />

それ 以 上 のことを 神 が 要 求 しておられると 感 じた。 彼 らは、 暗 黒 の 中 にいる 人 々に 光<br />

を 輝 かす 厳 粛 な 責 任 が 自 分 たちに 負 わされているのを 感 じた。こうして 彼 らは、 神 の<br />

み 言 葉 の 偉 大 な 力 によって、ローマが 人 々に 負 わせたくびきを 砕 こうと 努 めた。ワル<br />

ド 派 の 牧 師 たちは 宣 教 師 としての 訓 練 を 受 け、 牧 師 の 職 務 にたずさわる 者 はみな、ま<br />

ず 伝 道 者 としての 経 験 を 持 たなければならなかった。 各 自 は、 本 国 の 教 会 の 責 任 を 負<br />

うに 先 だって、どこかの 伝 道 地 で 3 年 間 奉 仕 しなければならなかった。この 奉 仕 には、<br />

まず 克 己 と 犠 牲 とが 要 求 されたが、 困 難 をきわめた 時 代 に 牧 師 の 生 活 をする 者 にとっ<br />

45


国 際 協 定<br />

て、まことにふさわしい 出 発 であった。 聖 職 に 任 じられた 青 年 たちは 自 分 たちの 前 途<br />

に、 世 俗 の 富 と 栄 光 ではなくて、 労 苦 と 危 険 の 生 活 、あるいは 殉 教 者 の 運 命 を 見 た。<br />

宣 教 師 たちは、イエスが 弟 子 たちをつかわされたように、2 人 ずつで 出 かけた。 青 年<br />

たち 一 人 一 人 に、たいていの 場 合 、 年 長 で 経 験 に 富 んだ 人 が 組 み 合 わせられ、 青 年 た<br />

ちは、 彼 を 訓 練 する 責 任 を 負 った 同 伴 者 の 指 導 の 下 でその 教 えに 従 わねばならなかっ<br />

た。こうした 同 労 者 たちは、いつもいっしょにいたわけではなかったが、たびたび 祈<br />

りと 相 談 のために 集 まって、 互 いに 信 仰 を 強 めあった。<br />

彼 らの 任 務 の 目 的 を 明 かすことは、 不 利 を 招 くにきまっていた。それゆえ 彼 らは 注<br />

意 深 くその 身 分 をかくした。どの 牧 師 も、 何 かの 技 術 か 職 業 をわきまえており、 伝 道<br />

者 たちも、 世 俗 の 職 業 に 従 事 しながら 自 分 たちの 働 きを 行 った。 通 常 彼 らは、 行 商 の<br />

働 きを 選 んだ。 「 彼 らは、 当 時 遠 い 市 場 でなければ、たやすく 入 手 できなかった 絹 、<br />

宝 石 、その 他 の 品 を 扱 った。そして、 宣 教 師 として 訪 れるならはねつけられるところ<br />

に、 商 人 として 歓 迎 された。」 2 彼 らの 心 は 常 に、 金 や 宝 石 よりも 尊 い 宝 を 人 々に 示 す<br />

知 恵 を、 神 に 仰 ぎ 求 めて、いた。 彼 らはひそかに、 聖 書 の 全 部 、またはその 一 部 を 幾<br />

冊 か 携 えていた。そして 機 会 あるたびに、これらの 写 本 に 客 の 注 意 を 引 いた。こうし<br />

てしばしば、 神 のみ 言 葉 を 読 もうとする 興 味 が 呼 び 起 こされ、み 言 葉 の 一 部 が、それ<br />

を 受 け 入 れたいと 願 う 人 々のところに 喜 んで 置 いていかれた。<br />

これらの 伝 道 者 たちの 働 きは、 彼 らの 住 んでいた 山 々のふもとの 平 野 や 谷 間 から 始<br />

まったが、しかしそうした 近 辺 だけではなく、はるか 遠 くまで 広 がった。 彼 らは、 彼<br />

らの 主 イエスのように、 旅 によごれたそまつな 衣 服 を 着 、はだしで、 大 きな 町 々を 巡<br />

り、 遠 方 の 地 方 にまで 進 んでいった。 至 る 所 で 彼 らは、 尊 い 種 をまいた。 彼 らが 通 っ<br />

たところには 教 会 が 起 こり、 殉 教 者 の 血 が 真 理 のあかしを 立 てた。これら 忠 実 な 人 々<br />

の 働 きによって 集 められた、 豊 かな 魂 の 収 穫 は、 主 の 大 いなる 日 にあらわされること<br />

であろう。ひそかに、そして 静 かに、 神 のみ 言 葉 はキリスト 教 世 界 の 中 を 進 んでいき、<br />

人 々の 家 庭 と 心 の 中 に 喜 び 迎 えられていった。<br />

ワルド 派 にとって、 聖 書 は、 過 去 の 人 間 を 神 がどのように 扱 われたかという 記 録 と、<br />

現 在 の 責 任 と 義 務 の 啓 示 であるだけではなくて、 将 来 の 危 険 と 栄 光 を 開 き 示 すもので<br />

あった。 彼 らは、 万 物 の 終 わりが 遠 い 先 のことではないことを 信 じた。そして、 祈 り<br />

と 涙 をもって 聖 書 を 研 究 した 時 、ますますその 尊 い 言 葉 に 深 く 心 を 動 かされ、その 救<br />

いの 真 理 を 他 の 人 々に 伝 える 義 務 を 感 じた。 彼 らは、 救 いの 計 画 が 聖 書 のページに 明<br />

らかにあらわされているのを 見 、イエスを 信 じることの 中 に 慰 めと 希 望 と 平 和 を 見 い<br />

だした。こうして 光 に 照 らされて 明 らかな 理 解 を 得 、 心 の 喜 びを 感 じた 時 に、 彼 らは、<br />

法 王 教 の 誤 謬 という 暗 黒 の 中 にいる 人 々に、その 光 を 注 ぎたいと 熱 望 した。<br />

46


国 際 協 定<br />

彼 らは、 多 くの 人 々が 法 王 と 司 祭 の 指 導 のもとに、 自 分 たちの 魂 の 罪 の 償 いとして<br />

苦 行 をし、 罪 の 赦 しを 得 ようとむだな 努 力 をしているのを 見 た。 人 々は、 善 行 に 頼 っ<br />

て 救 いを 得 るように 教 えられていたので、たえず 自 分 自 身 に 目 を 向 け、 自 分 たちの 罪<br />

深 さを 考 え、 自 分 たちが 神 の 怒 りにさらされているのを 見 、 心 と 体 を 苦 しめたのであ<br />

るが、しかしなんの 安 心 も 得 られないのであった。こうして、 良 心 的 な 人 々はローマ<br />

の 教 義 に 縛 られていた。 幾 千 という 人 々が 友 人 や 親 戚 を 捨 て、その 一 生 を 修 道 院 の 小<br />

部 屋 で 過 ごした。たび 重 なる 断 食 、 残 酷 なむち 打 ち、 夜 半 の 勤 行 、 荒 涼 とした 住 まい<br />

の 冷 たくしめった 石 の 上 での 数 時 間 の 平 伏 、 長 途 の 巡 礼 、 屈 辱 的 苦 行 や 恐 ろしい 拷<br />

問 ——こうしたものによって、 幾 千 という 人 々が、 良 心 の 安 らぎを 得 ようとしたがむ<br />

だであった。 罪 の 意 識 に 圧 倒 され、 神 の 報 復 の 怒 りを 恐 れて、 多 くの 者 は 悩 みつづけ、<br />

ついには 精 根 つき 果 てて、 一 条 の 光 も 希 望 も 得 ずに 墓 に 入 ってしまうのであった。<br />

ワルド 派 の 人 々は、これらの 飢 えた 魂 に 生 命 のパンを 与 え、 神 の 約 束 の 中 にある 平<br />

和 のメッセージを 示 し、 救 いの 唯 一 の 望 みとしてキリストをさし 示 したいと 切 望 した。<br />

善 行 によって、 神 の 律 法 を 犯 した 罪 を 贖 うことができるという 教 義 は、 虚 偽 に 基 づく<br />

ものであると 彼 らは 主 張 した。 人 間 の 功 績 に 頼 ることは、キリストの 無 限 の 愛 を 見 る<br />

ことを 妨 げてしまう。 堕 落 した 人 類 は 神 の 前 に、 何 1 つとして 自 分 を 推 奨 しうるもの<br />

がないために、イエスが 人 間 の 犠 牲 としてなくなられたのである。 十 字 架 に 架 けられ、<br />

復 活 された 救 い 主 の 功 績 が、キリスト 者 の 信 仰 の 基 礎 である。 人 がキリストによりす<br />

がり、キリストにつながるということは、 手 足 が 体 につながり、 枝 が 幹 につながるの<br />

と 同 様 に、 現 実 で 密 接 なものでなければならない。<br />

法 王 や 司 祭 たちの 教 えは、 神 の 品 性 またキリストの 品 性 でさえも、 厳 格 で、 暗 く、<br />

近 づきにくいものという 考 えを 人 々にいだかせていた。また 救 い 主 は、 司 祭 や 聖 人 の<br />

仲 保 がなければならないほど、 堕 落 した 人 間 に 対 する 同 情 心 に 欠 けたお 方 として 提 示<br />

された。 しかし、 神 のみ 言 葉 によって 目 を 開 かれた 者 たちは、 罪 の 重 荷 と 心 配 や 苦 労<br />

を 持 ったままご 自 分 のもとに 来 るようにと、 立 って 両 手 をひろげ、すべてのものを 招<br />

いておられる 愛 と 憐 れみに 満 ちた 救 い 主 イエスを、これらの 魂 に 示 したいと 熱 望 した。<br />

また、 人 々が 神 の 約 束 を 認 めて、 直 接 神 に 来 て、 罪 を 告 白 し、 赦 しと 平 和 を 受 けるこ<br />

とがないようにするためにサタンが 積 み 上 げた 妨 害 物 —— 人 々が 神 の 約 束 を 悟 らない<br />

ようにするために、そして、 直 接 神 のもとにきて 罪 を 告 白 し、 赦 しと 平 和 を 得 ること<br />

がないようにするために、サタンが 積 み 上 げた 妨 害 物 ——を、 一 掃 したいと 切 望 し<br />

た。<br />

ワルド 派 の 伝 道 者 は、 興 味 をもった 人 々に、 福 音 の 尊 い 真 理 を 熱 心 に 伝 えた。 彼 ら<br />

は、 注 意 深 く 書 かれた 聖 書 の 一 部 を、 用 心 深 く 取 り 出 した。 刑 罰 の 執 行 を 待 ち 構 えて<br />

47


国 際 協 定<br />

いる 報 復 の 神 しか 知 らなかったところの、 罪 に 苦 しむ 良 心 的 な 魂 に、 希 望 を 与 えるこ<br />

とは、 彼 の 最 大 の 喜 びであった。くちびるを 震 わせ、 目 に 涙 を 浮 かべながら、そして<br />

しばしばひざまずいて、 彼 は、 罪 人 の 唯 一 の 希 望 を 告 げる 尊 い 約 束 を 彼 の 同 胞 に 読 ん<br />

で 聞 かせた。こうして 真 理 の 光 は、 暗 黒 に 閉 ざされていた 多 くの 心 を 照 らし、 黒 雲 を<br />

追 い 払 い、そしてついには 義 の 太 陽 が、その 光 にいやしの 力 をもって、 心 の 中 にさし<br />

込 むようになった。しばしば 聖 書 のある 部 分 は、くり 返 し 何 度 も 何 度 も 読 むことを 相<br />

手 から 望 まれた。 相 手 は、それが 聞 きちがいではないということを、 確 かめているか<br />

のようであった。 特 に 次 の 聖 句 は、 何 度 もくり 返 すよう 熱 心 に 求 められた。「 御 子 イ<br />

エスの 血 が、すべての 罪 からわたしたちをきよめるのである」[Ⅰヨハネ 1:。「そし<br />

て、ちょうどモーセが 荒 野 でへびを 上 げたように、 人 の 子 もまた 上 げられなければな<br />

らない。それは 彼 を 信 じる 者 が、すべて 永 遠 の 命 を 得 るためである」[ヨハネ 3:<br />

14、。<br />

多 くの 者 が、ローマの 主 張 に 関 して 目 をさまされた。 彼 らは、 罪 人 のための 人 間 や<br />

天 使 のとりなしが、どんなに 無 益 であるかを 知 った。 彼 らの 心 に 真 理 の 光 が 射 し 込 ん<br />

だ 時 、 彼 らは 喜 びをもって 叫 んだ。「キリストがわたしの 祭 司 、 彼 の 血 がわたしの 犠<br />

牲 、そして 彼 の 祭 壇 がわたしの 告 白 室 である」と。 彼 らは、イエスの 功 績 に 全 く 依 り<br />

頼 んで 次 のみ 言 葉 を 繰 りかえした。「 信 仰 がなくては、 神 に 喜 ばれることはできない」<br />

[ヘブル 11:。「わたしたちを 救 いうる 名 は、これを 別 にしては、 天 下 のだれにも 与<br />

えられていないからである」[ 使 徒 行 伝 4:。 嵐 になやむ 哀 れな 魂 にとって、 救 い 主<br />

の 愛 の 保 証 は、 実 感 できないほど 大 いなるものに 思 われた。 大 きな 安 心 が 与 えられ、<br />

あふれるばかりの 光 が 彼 らの 上 に 注 がれたので、 彼 らは 天 に 移 されたかのように 感 じ<br />

たほどであった。 彼 らの 手 は、キリストをしっかりと 握 り、 彼 らの 足 は 永 遠 の 岩 の 上<br />

に 立 っていた。 死 の 恐 怖 はすべて 消 え 去 った。 今 や 彼 らにとって、 救 い 主 のみ 名 の 栄<br />

光 のためであるならば、 牢 獄 であれ 火 刑 であれ、あえて 切 望 するところとなった。<br />

こうして、 人 目 を 避 けたところで、 神 のみ 言 葉 が 持 ち 出 され、 読 まれたのであった。<br />

時 には、ただ 1 人 のた めに、そして 時 には、 光 と 真 理 を 渇 望 する 小 さい 群 れのために。<br />

このようにして 徹 夜 することもよくあった。 聴 衆 があまりにも 驚 き、 感 嘆 するので、<br />

彼 らが 救 いのおとずれを 十 分 に 理 解 するまで、 憐 れみの 使 者 は 朗 読 を 中 断 せざるをえ<br />

ないこともまれではなかった。また、しばしば、「 神 は、ほんとうにわたしの 献 げ 物<br />

を 受 け 入 れられるであろうか。 神 は、わたしに 恵 みをお 与 えになるであろうか。 神 は、<br />

わたしをお 赦 しになるであろうか」という 言 葉 が 発 せられた。そしてその 答 えとして、<br />

「すべて 重 荷 を 負 うて 苦 労 している 者 は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを 休<br />

ませてあげよう」というみ 言 葉 が 読 み 上 げられた[マタイ 11:。<br />

48


国 際 協 定<br />

人 々は 信 仰 によって 約 束 をしっかりと 捉 え、 喜 びをもって 応 答 した。「もう 長 い 巡<br />

礼 の 旅 に 出 ることはない。もう 苦 労 して 宮 詣 りをしなくてもよいのだ。 罪 深 く 汚 れた<br />

まま、わたしはイエスのもとに 行 っていいのだ。そして 彼 は、 悔 い 改 めた 者 の 祈 りを<br />

退 けられない。『あなたの 罪 は 赦 された』。わたしの 罪 、わたしの 罪 でさえ、 赦 され<br />

るのだ!」。<br />

きよい 喜 びが 心 に 満 ち、 賛 美 と 感 謝 によってイエスのみ 名 があがめられるのであっ<br />

た。 喜 びに 満 たされたこれらの 人 々は、 真 の 生 ける「 道 」を 発 見 したという 自 分 たち<br />

の 新 しい 経 験 を、できるだけ 十 分 に 他 の 人 々に 語 り、 光 を 伝 えるために、 家 路 を 急 い<br />

だ。 真 理 を 求 めていた 人 々の 心 に 直 接 語 った 聖 書 の 言 葉 には、 不 思 議 で 厳 粛 な 力 が 伴<br />

っていた。それは 神 の 声 であった。そしてそれは、それを 聞 いた 者 たちの 心 を 強 く 動<br />

かした。<br />

真 理 の 使 者 は、また 旅 に 出 てしまう。しかし、 彼 の 謙 そんな 態 度 、 誠 実 さ、そして<br />

真 剣 で 熱 意 にあふれていたことなどが、たびたび 話 題 となった。 多 くの 場 合 聴 衆 は 彼<br />

がどこから 来 てどこへ 行 くのかをたずねていなかった。 彼 らは、 最 初 は 驚 きに 圧 倒 さ<br />

れ、そのあとでは 感 謝 と 喜 びに 圧 倒 されて、 彼 にたずねることなど 考 えもしなかった<br />

のである。 彼 らが、 自 分 たちの 家 までいっしょに 行 くよう 勧 めると、 彼 は、 自 分 は 群<br />

れの 失 われた 羊 をたずねなければならないと 答 えるのであった。もしかすると 彼 は 天<br />

からのみ 使 いだったのではなかろうか、と 人 々は 不 審 がった。 たいていの 場 合 、 真 理<br />

の 使 者 は 2 度 と 現 れなかった。 彼 は、 他 の 地 方 へ 行 ってしまったのか、それとも 人 知<br />

れぬ 牢 獄 の 中 で 苦 しんでいるのか、または、 真 理 のあかしを 立 てたその 場 所 で、 骨 を<br />

さらしているのかもしれなかった。しかし、 彼 が 後 に 残 していった 言 葉 は、 滅 ぼすこ<br />

とができなかった。それは 人 々の 心 の 中 で 働 いていた。その 祝 福 された 結 果 は、 審 判<br />

の 時 になってはじめて 明 らかになることであろう。<br />

ワルド 派 の 伝 道 者 たちは、サタンの 王 国 に 侵 入 しつつあったので、 暗 黒 の 勢 力 も 厳<br />

重 な 警 戒 を 始 めた。 悪 の 君 は、 真 理 を 前 進 させようとするあらゆる 努 力 を 監 視 し、 自<br />

分 の 代 理 者 たちの 恐 怖 心 をあおった。 法 王 教 の 指 導 者 たちは、これらの 素 朴 な 旅 商 人<br />

たちの 活 動 が、 彼 らの 側 を 危 険 に 陥 れる 兆 であることに 気 づいた。もし 真 理 の 光 が、<br />

なんの 妨 げもなしに 輝 くならば、それは、 人 々を 閉 じこめている 誤 りの 厚 い 雲 を 一 掃<br />

してしまうことであろう。それは、 人 々の 心 をただ 神 だけに 向 けて、ついにはローマ<br />

の 至 上 権 を 打 破 してしまうことであろう。<br />

初 代 教 会 の 信 仰 を 保 っているこの 人 々の 存 在 そのものが、ローマの 背 教 に 対 する 絶<br />

えざるあかしであり、それゆえに、 最 も 激 しい 憎 悪 と 迫 害 をひき 起 こした。 彼 らが 聖<br />

49


国 際 協 定<br />

書 の 引 き 渡 しを 拒 否 したことも、ローマにとっては 許 せないことであった。ローマは<br />

彼 らを 地 上 から 一 掃 しようとした。こうして、 最 も 恐 るべき 戦 いが、 山 の 中 に 住 む 神<br />

の 民 に 向 かって 始 められた。また、 宗 教 裁 判 官 [ 異 端 審 問 官 ]が、 彼 らの 後 を 追 い、 罪<br />

なきアベルが 残 忍 なカインに 殺 されるという 光 景 がしばしばくり 返 された。<br />

何 度 となく、 彼 らの 肥 沃 な 土 地 は 荒 らされ、 住 まいや 礼 拝 堂 は 破 壊 され、なんの 罪<br />

もない 勤 勉 な 人 々の、 実 り 豊 かな 田 園 と 家 庭 であったところが、 見 渡 すかぎりの 荒 れ<br />

地 となってしまった。 飢 えた 猛 獣 が 血 をなめて、ますますたけり 狂 うように、 法 王 教<br />

徒 たちは 犠 牲 者 たちの 苦 難 を 見 て、ますます 激 しく 怒 りを 燃 やした。これら 純 粋 な 信<br />

仰 の 証 人 たちの 多 くは、 隠 れていた 山 々から 追 われ、 谷 間 から 狩 り 出 され、 深 い 森 林<br />

や 岩 山 の 峰 々に 避 難 した。<br />

こうして 追 放 された 人 々の 品 性 には、なんのおちどもなかった。 彼 らの 敵 でさえ 彼<br />

らのことを、 平 和 を 愛 し、 穏 やかで、 敬 虔 な 人 々であると 言 明 している。 彼 らの 主 要<br />

な 罪 は、 彼 らが 法 王 の 意 志 通 りには 神 を 礼 拝 しないということであった。この 罪 のた<br />

めに、 人 間 または 悪 魔 が 考 え 出 すことのできるあらゆる 屈 辱 と 侮 辱 と 拷 問 が、 彼 らに<br />

加 えられたのである。 ローマが、 憎 むべき 教 派 を 全 滅 させようと 決 意 した 時 、 彼 らを<br />

異 端 として 非 難 し、 滅 ぼすよう 命 じた 教 書 が、 法 王 によって 出 された。 彼 らは、 怠 け<br />

者 であるとか 不 正 直 であるとか、 秩 序 を 乱 すとかと 言 って 訴 えられたのではなかった。<br />

そうではなくて、 信 心 深 く 神 聖 な 外 観 を 装 いながら、「 真 の 羊 の 群 」を 欺 く 者 である<br />

と 宣 言 されたのである。それゆえに 法 王 は、「そのような 悪 人 たちの、 有 害 で 忌 まわ<br />

しい 宗 派 は」、もし 彼 らが「それを 放 棄 しないならば、 毒 蛇 のように 撲 滅 せよ」と 命<br />

じた。 3 この 高 慢 な 権 力 者 は、この 言 葉 をふたたび 聞 くことを 予 期 したであろうか。 彼<br />

は、この 言 葉 が 天 の 書 に 記 されて、 審 判 の 時 に 彼 はそれに 直 面 するのだということを、<br />

知 っていたであろうか。「わたしの 兄 弟 であるこれらの 最 も 小 さい 者 のひとりにした<br />

のは、すなわち、わたしにしたのである」とイエスは 言 われた[マタイ 25:。<br />

この 教 書 は、 異 端 に 対 する 戦 いに 教 会 の 全 員 が 参 加 するよう 呼 びかけた。この 残 酷<br />

な 仕 事 に 従 事 させるための 刺 激 として、それは、「 一 般 または 特 定 を 問 わず、すべて<br />

の 宗 教 的 苦 行 と 罰 からの 赦 免 を 与 えた。 戦 いに 加 わる 者 すべてに、どんな 宣 誓 の 不 履<br />

行 をも 許 した。どんな 不 正 によって 得 た 物 でも 合 法 と 認 めた。そして、 異 端 者 を 殺 す<br />

ものは、すべての 罪 が 赦 されると 約 束 した。また、ワルド 派 の 人 々に 有 利 な 契 約 はす<br />

べて 破 棄 し、 彼 らの 使 用 人 たちに 家 を 去 るよう 命 じ、すべての 者 に 対 して、どんな 援<br />

助 をも 彼 らに 与 えることを 禁 じ、そして、すべての 者 に 彼 らの 財 産 を 奪 う 権 利 を 与 え<br />

た。」 4 こうした 文 書 は 明 らかに、その 背 後 で 働 く 悪 の 霊 を 示 している。ここに 聞 こえ<br />

るのは、キリストの 声 ではなくて、 龍 のほえる 声 である。<br />

50


国 際 協 定<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 彼 らの 品 性 を 神 の 律 法 という 偉 大 な 標 準 に 合 わせようとは<br />

せず、 自 分 たちに 都 合 のよい 別 の 標 準 を 設 けた。そして、ローマがそう 命 じるという<br />

理 由 のもとにすべての 者 をそれに 従 わせようと 決 めた。 最 も 恐 ろしい 悲 劇 が 演 じられ<br />

た。 堕 落 して 神 をけがしても 恐 れない 司 祭 や 法 王 たちは、サタンが 彼 らに 命 じたこと<br />

を 行 っていた。 彼 らには、 憐 れみなど 少 しも 見 られなかった。キリストを 十 字 架 にか<br />

け、 使 徒 たちを 殺 したのと 同 じ 精 神 、また、 残 忍 なネロが 彼 の 時 代 の 忠 実 な 者 たちを<br />

迫 害 したのと 同 じ 精 神 が、 神 に 愛 された 人 々を 地 上 から 除 き 去 ろうとして 働 いてい<br />

た。 神 を 恐 れる 民 、ワルド 派 の 人 々は、 数 世 紀 にわたって 受 けた 迫 害 にも 忍 耐 強 く 耐<br />

えて、 贖 い 主 をあがめた。 彼 らにはしばしば 十 字 軍 が 向 けられて、 残 忍 な 虐 殺 を 受 け<br />

たにもかかわらず、 彼 らは 貴 重 な 真 理 をあちこちに 伝 えるために、 伝 道 者 を 派 遣 しつ<br />

づけた。 彼 らは 狩 り 出 され 殺 された。しかし、その 血 は、まかれた 種 に 水 を 注 ぎ、 必<br />

ず 実 を 結 ばせた。 こうしてワルド 派 の 人 々は、ルターが 生 まれる 幾 世 紀 も 前 に、 神 の<br />

ためにあかしを 立 てた。 彼 らは 多 くの 国 々に 散 らばって、 宗 教 改 革 の 種 をまいた。 宗<br />

教 改 革 は、ウィクリフの 時 代 に 始 まり、ルターの 時 代 に 広 く 深 く 成 長 した。そしてそ<br />

れは、「 神 の 言 とイエスのあかしとのゆえに」 喜 んですべての 苦 難 を 忍 ぶ 人 々によっ<br />

て、 世 の 終 わりまで 続 けられるのである[ 黙 示 録 1:。<br />

51


国 際 協 定<br />

第 5 章 真 実 のチャンピオン<br />

宗 教 改 革 以 前 には、ほんの 少 ししか 聖 書 がなかった 時 があったが、 神 は、 神 のみ 言<br />

葉 が 全 く 滅 び 失 せることをお 許 しにならなかった。 聖 書 の 真 理 は、 永 遠 に 隠 しておか<br />

れるべきではなかった。 神 は、 牢 獄 の 扉 を 開 き、 鉄 の 門 のかんぬきをはずして、 神 の<br />

しもべたちを 自 由 にすることができたのと 同 様 に、 生 命 の 言 葉 を 解 放 することも、た<br />

やすいことであった。ヨーロッパ 各 国 において、 人 々は 聖 霊 に 動 かされて、 隠 れた 宝<br />

をさがすように 真 理 を 研 究 した。 彼 らは、 摂 理 的 に 聖 書 に 導 かれて、 非 常 な 興 味 をも<br />

ってそれを 研 究 した。 彼 らは、どんな 犠 牲 を 払 ってでも、 光 を 受 けようとしていた。<br />

彼 らは、すべてのことをはっきりと 認 めたわけではなかったけれども、 久 しくうずも<br />

れていた 多 くの 真 理 を 見 いだすことができた。 天 からの 使 者 として 彼 らは 出 て 行 き、<br />

誤 りと 迷 信 の 鎖 を 砕 き、 長 い 間 縛 られていた 人 々に、 立 ち 上 がって 自 由 を 主 張 するよ<br />

うに 呼 びかけた。<br />

ワルド 派 の 人 々を 除 いては、 神 の 言 葉 は 長 い 間 、 知 識 階 級 だけが 読 める 言 語 の 中 に<br />

閉 じ 込 められていた。しかし、 聖 書 が 翻 訳 されて、 各 国 の 人 々に 自 国 語 で 与 えられる<br />

時 が 来 た。 世 界 はその 真 夜 中 を 過 ぎた。 暗 黒 の 時 は 過 ぎようとしていた。そして 各 国<br />

に、 夜 明 けのしるしが 現 れつつあった。 14 世 紀 、 英 国 に、「 宗 教 改 革 の 明 星 」が 現<br />

れた。ジョン・ウィクリフは、 英 国 だけでなくて、 全 キリスト 教 国 にとっての、 改 革<br />

の 先 駆 者 であった。 彼 が 語 ることを 許 されたローマに 対 する 一 大 抗 議 は、 決 して 沈 黙<br />

させることができなかった。その 抗 議 は 紛 争 のきっかけとなって、ついに 個 人 、 教 会 、<br />

国 家 の 解 放 が 起 こったのである。<br />

ウィクリフは、 高 等 教 育 を 受 けた。 彼 にとって、 神 を 恐 れることは 知 恵 のはじめで<br />

あった。 彼 は 大 学 時 代 に、 驚 くべき 才 能 と 学 識 の 持 ち 主 であると 共 に、 熱 心 な 信 仰 の<br />

持 ち 主 として 知 られていた。 彼 は 知 識 欲 にもえて、あらゆる 学 問 を 身 につけようとし<br />

た。 彼 は、スコラ 哲 学 、 教 会 法 、 民 法 特 に 自 国 の 法 律 を 学 んだ。こうした 青 年 時 代 の<br />

教 育 は、 後 年 の 彼 の 活 動 に 大 いに 役 立 った。 彼 はその 時 代 の 思 弁 哲 学 に 通 じていたか<br />

ら、その 誤 りを 指 摘 することができた。そして、 国 の 法 律 や 教 会 の 法 規 の 研 究 によっ<br />

て、 彼 は、 市 民 的 自 由 と 宗 教 的 自 由 のための 大 いなる 戦 いにたずさわる 準 備 ができた。<br />

彼 は、 神 のみ 言 葉 から 得 た 武 器 をふるうことができたと 同 時 に、 学 校 における 知 的 訓<br />

練 を 受 けていたから、 哲 学 者 たちのかけひきをも 知 っていた。 彼 のすぐれた 資 質 と 深<br />

遠 な 学 識 には、 敵 も 味 方 も 尊 敬 を 払 った。 彼 の 支 持 者 たちは、 自 分 たちの 戦 士 が 国 家<br />

52


国 際 協 定<br />

の 指 導 者 たちの 中 でも 第 一 級 の 人 物 であることを 誇 りとした。そして 彼 の 敵 たちは、<br />

改 革 事 業 の 支 持 者 の 無 知 と 弱 点 を 暴 露 して 軽 べつすろということができなかった。<br />

ウィクリフは、まだ 学 生 であった 時 から、 聖 書 の 研 究 を 始 めた。まだ 古 代 語 で 書 か<br />

れた 聖 書 しかなかったその 時 代 において、 学 者 たちは 真 理 の 泉 への 道 を 見 いだすこと<br />

ができたが、 無 学 な 者 たちにはそれは 閉 ざされていた。こうして、ウィクリフの 改 革<br />

者 としての 将 来 の 働 きへの 道 は、すでに 備 えられていた。 学 者 たちは 神 の 言 葉 を 研 究<br />

し、そこに 示 されている 豊 かな 神 の 恵 みという 大 真 理 を 見 いだしていた。 彼 らは、そ<br />

の 教 えにおいて、この 真 理 の 知 識 をひろめ、 他 の 人 々を 生 きたみ 言 葉 に 導 いていた。<br />

ウィクリフの 注 意 が 聖 書 に 向 けられた 時 、 彼 は、 学 業 の 修 得 に 当 たったのと 同 じく<br />

徹 底 的 に、その 研 究 に 当 たった。これまで 彼 は、スコラ 哲 学 にも、 教 会 の 教 えにも 満<br />

足 することができず、 非 常 な 物 足 りなさを 感 じていた。そして 神 のみ 言 葉 の 中 に、 彼<br />

はこれまで 求 めても 得 られなかったものを 発 見 した。ここに 彼 は、 救 いの 計 画 が 啓 示<br />

され、キリストが 人 類 の 唯 一 の 仲 保 者 として 示 されているのを 見 た。 彼 は、キリスト<br />

の 御 用 に 自 分 自 身 を 献 げ、 自 分 が 発 見 した 真 理 を 人 々 に 宣 布 しようと 決 心 した。<br />

その 後 の 改 革 者 たちと 同 様 にウィクリフも、 働 きを 始 めたころは、 自 分 がどこに 導<br />

かれるか 知 らなかった。 彼 は、 故 意 にローマに 反 抗 したわけではなかった。しかし、<br />

真 理 に 献 身 した 時 、 必 然 的 に 虚 偽 と 戦 わなければならなくなった。 彼 は、 法 王 制 の 誤<br />

りがはっきりすればするほど、 熱 心 に 聖 書 の 教 えを 説 いた。 彼 は、ローマが 神 のみ 言<br />

葉 を 捨 てて 人 間 の 伝 説 を 取 り 入 れたのを 見 た。 彼 は、 聖 書 を 退 けた 司 祭 たちを 大 胆 に<br />

非 難 して、 聖 書 をもう 1 度 人 々の 手 に 回 復 することを、そしてその 権 威 を 教 会 内 でも<br />

う 1 度 確 立 することを 要 求 した。<br />

彼 は 熱 心 で 有 能 な 教 師 であり、 雄 弁 な 説 教 者 であった。そして 彼 の 日 常 生 活 は、 彼<br />

が 宣 べ 伝 えている 真 理 の 実 証 であった。 聖 書 に 関 する 彼 の 知 識 、 強 力 な 論 証 、 彼 の 純<br />

潔 な 生 活 、 確 固 とした 勇 気 と 誠 実 さとは、 一 般 の 人 々の 尊 敬 と 信 頼 をかちえた。 多 く<br />

の 者 は、ローマ 教 会 にみなぎる 罪 悪 を 見 て、これまでの 信 仰 に 不 満 を 抱 くようになっ<br />

ていたから、ウィクリフが 示 した 真 理 を 非 常 な 喜 びをもって 迎 えた。しかし、 法 王 教<br />

の 指 導 者 たちは、この 改 革 者 が 自 分 たちよりも 大 きな 勢 力 を 得 つつあるのを 見 て、 激<br />

しい 怒 りに 満 たされた。<br />

ウィクリフは 誤 りを 鋭 く 看 破 する 人 であって、ローマの 権 威 によって 認 められてい<br />

た 多 くの 悪 習 を 恐 れず 攻 撃 した。 彼 は 王 室 付 牧 師 として 活 躍 していたが、 法 王 が 英 国<br />

国 王 に 課 した 税 の 支 払 いに 勇 敢 に 反 対 した。そして、 法 王 が 世 俗 の 王 たちの 上 に 権 力<br />

をふるうことは、 道 理 にも 啓 示 にも 反 することを 指 摘 した。 法 王 の 要 求 は 人 々を 大 い<br />

53


国 際 協 定<br />

に 憤 慨 させていたので、ウィクリフの 教 えは 国 家 の 指 導 階 級 に 影 響 を 及 ぼした。 王 と<br />

貴 族 達 は、 結 束 して 法 王 の 俗 権 に 対 する 要 求 を 拒 絶 し、 税 の 支 払 いを 拒 んだ。こうし<br />

て 英 国 における 法 王 の 至 ヒ 権 に 対 して 大 きな 打 撃 が 加 えられた。<br />

ウィクリフが、 長 年 にわたって 断 固 たる 戦 いをいどんだもう 1 つの 悪 習 は、たくは<br />

つ 修 道 会 の 制 度 であった。これらの 修 道 土 たちは、 英 国 に 群 がり、 国 家 の 偉 大 と 繁 栄<br />

にとっての 障 害 となっていた。 産 業 ・ 教 育 ・ 道 徳 ヒに 衰 退 的 影 響 を 及 ぼしていた。 修<br />

道 士 たちの 怠 惰 な 物 ごい 生 活 は、 財 政 的 に 人 民 の 重 い 負 担 となったばかりでなく、 有<br />

用 な 労 働 を 軽 べつするに 至 らせた。 青 年 たちは 堕 落 し 腐 敗 した。 修 道 士 たちの 影 響 を<br />

受 けて、 修 道 院 に 入 り、 隠 遁 生 活 をする 者 が 多 くいた。しかもこのことは、 親 の 同 意<br />

を 得 ないばかりか、 彼 らには 知 らせず、また 彼 らの 命 令 に 反 してまで 行 われた。<br />

ローマ 教 会 初 期 の 教 父 の 1 人 は、 子 としての 愛 と 義 務 の 要 求 以 上 に 修 道 院 生 活 の 要<br />

求 を 重 要 視 して、 次 のように 宣 言 していた。「たとえ、なんじの 父 が 戸 口 に 倒 れて 嘆<br />

き 悲 しみ、なんじの 母 が、なんじを 抱 きし 身 をあらわし、なんじに 乳 ふくませし 胸 を<br />

あらわそうとも、なんじこれを 足 下 にふみにじり、まっすぐキリストへと 進 み 行 くべ<br />

し。」 後 にルターが 言 っているように、 親 に 対 して 無 情 無 感 覚 になった 子 供 たちの 心<br />

は、こうした「ぞっとするような 冷 酷 さ」のゆえに「キリスト 者 や 人 間 というよりは、<br />

おおかみや 暴 君 のような 感 じがする。」 1 こうして 法 王 教 の 指 導 者 たちは、 昔 のパリサ<br />

イ 人 たちのように、 自 分 たちの 言 い 伝 えによって 神 の 戒 めを 廃 した。こうして、 家 庭<br />

は 荒 廃 し、 親 は 息 子 や 娘 たちとの 交 わりを 奪 われた。<br />

大 学 の 学 生 たちでさえ、 修 道 土 たちの 偽 りの 言 葉 に 欺 かれて、その 団 体 に 誘 いこま<br />

れた。 多 くの 者 が、 後 になって、 自 分 たちの 一 生 を 破 滅 させ 親 を 悲 しませたことに 気<br />

づき、 後 悔 したが、しかし、ひとたびわなにかかるや、そこから 抜 け 出 ることはでき<br />

なかった。 修 道 士 たちの 影 響 を 恐 れて、 息 子 たちを 大 学 に 送 ろうとしなかった 親 も 多<br />

くいた。 学 問 の 中 心 である 各 地 の 最 高 学 府 の 学 生 の 数 は 目 立 って 減 少 した。 学 校 は 衰<br />

微 し、 無 学 な 人 が 多 くなった。<br />

法 王 はこれらの 修 道 士 たちに、 告 白 を 聞 いて 赦 しを 与 える 権 威 を 授 けた。これが 一<br />

大 罪 悪 の 原 因 と なった。 修 道 士 たちは 利 益 の 増 人 を 図 って、たやすく 免 罪 を 与 えたの<br />

で、あらゆる 種 類 の 犯 罪 人 が 彼 らのもとにやってきて 赦 しを 得 るようになり、その 結<br />

果 、 最 もはなはだしい 罪 悪 が 急 激 に 増 加 した。 病 人 と 貧 者 はかえりみられず、 彼 らの<br />

困 窮 を 救 うはずであった 贈 与 物 は 修 道 士 たちの 手 にわたった。 修 道 士 たちは、 人 々を<br />

脅 して 施 し 物 を 要 求 し、 彼 らの 団 体 に 寄 付 しない 者 を 不 信 心 であると 非 難 した。 表 面<br />

では 清 貧 を 口 にしながら、 修 道 士 たちの 富 は 殖 える 一 方 であった。そして、 彼 らの 壮<br />

54


国 際 協 定<br />

大 な 建 造 物 とぜいたくな 食 卓 とが 国 民 をますます 貧 困 に 陥 れることは 明 らかであった。<br />

彼 らはぜいたくと 快 楽 にふける 一 方 、 自 分 たちの 代 理 として 無 知 な 者 たちを 派 遣 した。<br />

この 者 たちは 不 思 議 な 物 諸 や 伝 説 、たわごとしか 話 すことができず、こうしたもので<br />

人 々を 喜 ばせて、ますます 人 々を 修 道 士 たちにとってだましやすいものとした、 修 道<br />

士 たちは 依 然 として、 迷 信 深 い 大 衆 を 支 配 し、すべての 宗 教 的 義 務 は、 法 王 の 至 上 権<br />

を 認 め、 聖 人 たちをあがめ、 修 道 士 に 施 し 物 をすることの 中 に 含 まれていると 信 じこ<br />

ませていた。そして、 天 国 に 入 るにはこれで 十 分 であると 思 わせていた。<br />

学 識 ある、 信 心 深 い 人 々は、このような 修 道 院 制 度 を 改 革 しようとしたがむだであ<br />

った。しかし、いっそうはっきりと 洞 察 していたウィクリフは、 悪 の 根 源 をつき、 制<br />

度 そのものが 偽 りであって、それは 廃 止 すべきであると 宣 言 した。それについて、 種<br />

々の 議 論 と 研 究 がわき 起 こった。 修 道 土 たちが 法 王 の 免 罪 符 を 売 りながら 国 内 を 巡 歴<br />

する 時 、 多 くの 者 が、 金 で 赦 しを 買 うことができるかどうか 疑 うようになった。 彼 ら<br />

は、ローマの 法 王 の 赦 しよりも、 神 の 赦 しを 求 めるべきではなかろうかと、 質 問 した<br />

のである。 修 道 士 たちの、 飽 くことを 知 らない 貪 欲 を 見 て 驚 いた 者 も 少 なくなかった。<br />

「ローマの 修 道 上 と 司 祭 たちは、ガンのように、われわれをむしばんでいる。 神 がわ<br />

れわれを 救 ってくださらなければ、 人 民 は 死 んでしまう」と 彼 らは 言 った。 2 托 鉢 僧 た<br />

ちは 自 分 たちの 貪 欲 をおおいかくすために、 自 分 たちは 救 い 主 の 模 範 に 従 っているの<br />

であって、イエスと 弟 子 たちは 人 々の 施 し 物 によって 生 活 したのであると 言 った。と<br />

ころがこの 主 張 は、 彼 らに 不 利 な 結 果 となった。<br />

というのは 多 くの 人 々が、 自 分 で 真 理 を 学 ぼうと 聖 書 の 研 究 を 始 めたのである。こ<br />

れはローマがほかの 何 よりも 望 んでいなかったことであった。 人 々の 心 は、 真 理 の 源<br />

泉 へと 向 けられた。それを 隠 すことが、ローマの 目 的 であったのであるが。 ウィクリ<br />

フは、 修 道 士 たちに 反 対 するパンフレソトを 書 いて 発 行 しはじめた。しかしそれは、<br />

彼 らと 論 争 するためではなくて、 人 々の 心 を 聖 書 の 教 えとその 著 者 てある 神 に 向 ける<br />

ためであった。 彼 は、 法 王 が 持 っている 免 罪 や 破 門 の 権 能 は、 一 般 の 司 祭 の 権 能 以 上<br />

のものではなく、だれでも 先 ず 神 から 罪 の 宣 告 を 受 けることなくして、 破 門 されるこ<br />

とはあり 得 ない、と 断 言 した。 法 王 が 築 き、 無 数 の 人 々の 心 と 体 とをとりこにしてい<br />

たこの 霊 ・ 俗 両 界 にわたる 巨 人 な 組 織 の 倒 壊 に、これ 以 上 効 果 的 な 力 法 はなかった。<br />

再 びウィクリフは、ローマの 侵 略 に 対 して 英 国 王 の 権 利 を 擁 護 するために 召 された。<br />

彼 は 国 王 の 大 使 に 任 命 されてオランダに 2 年 間 滞 在 し、 法 王 の 使 節 たちと 会 談 した。<br />

ここで 彼 は、フランス、イタリア、スペインの 聖 職 者 たちと 交 わり、 事 件 の 背 後 にあ<br />

るものを 見 、 英 国 では 知 ることができなかった 多 くのことに 関 する 知 識 を 得 ることが<br />

できた。 彼 は 後 年 の 働 きに 役 立 つことを 多 く 学 んだ。 法 王 庁 から 遣 わされた 代 表 者 た<br />

55


国 際 協 定<br />

ちを 見 て、 彼 は 法 王 制 の 真 の 性 格 と 目 的 とを 見 抜 いた。 彼 は 英 国 に 帰 り、 以 前 からの<br />

主 張 をさらに 公 然 と、そして 熱 心 にくり 返 し、 貪 欲 と 高 慢 と 欺 瞞 とがローマの 神 であ<br />

ると 宣 言 した。<br />

彼 は 自 分 の 書 いたパンフレットの 中 で、 法 王 とその 集 金 人 たちについて 次 のように<br />

言 った。「 彼 らは、わが 国 の 貧 者 の 糧 を 奪 い、 秘 蹟 やその 他 の 霊 的 事 物 のために、 年<br />

々 王 から 数 千 マルクを 奪 い 取 っている。これは 聖 職 売 買 というのろうべき 異 端 てある。<br />

しかも 全 キリスト 教 界 をこの 異 端 に 同 意 させ 支 持 させている。<br />

たしかに、わが 国 には 山 のように 財 宝 があるが、この 高 慢 な 世 俗 的 司 祭 である 集 金<br />

人 のほかには、だれもそれを 取 ったものはないのだ。そして 彼 のためにやがて、 山 の<br />

ような 宝 はなくなってしまうであろう。なぜなら 彼 はわが 国 から 常 に 金 を 奪 い 去 り、<br />

その 代 わりに 与 えるものといっては、 聖 職 売 買 に 対 する 神 ののろいの 他 、 何 もないの<br />

だから。」 3<br />

英 国 に 帰 ると 間 もなく、ウィクリフは 王 から、ラタワースの 教 区 牧 師 に 任 じられた。<br />

このことは 王 が 彼 の 率 直 な 発 言 を、 少 なくとも 不 快 に 思 っていなかった 証 拠 であった。<br />

ウィクリフの 感 化 は、 国 民 の 信 仰 を 形 成 するのと 同 様 に、 宮 廷 の 活 動 の 方 向 をも 決 定<br />

するものとなった。 法 王 の 怒 りはすぐに 彼 に 向 けられた、 大 学 と 王 と 高 位 聖 職 者 たち<br />

とにあてられた 3 つの 教 書 が 英 国 に 送 られ、 異 端 の 教 師 を 沈 黙 させるために 迅 速 かつ<br />

断 固 たる 処 置 を 取 るよう 命 じた。 4<br />

しかし 司 教 たちは 熱 心 のあまり、 教 書 の 到 着 に 先 だって、 審 理 のためにウィクリフ<br />

を 呼 び 出 していた。けれども 王 国 内 で 最 も 勢 力 のある 2 人 の 王 子 が、 彼 に 同 伴 して 法<br />

廷 に 行 った。そして 人 々は、 建 物 を 取 り 巻 いたり 内 部 に 乱 入 したりして 裁 判 官 たちを<br />

威 嚇 したので、 裁 判 は 一 時 中 止 され、 彼 は 安 全 にそこを 去 ることを 許 された。その 後<br />

しばらくして、 高 位 聖 職 者 たちがウィクリフを 退 けるために 動 かそうとしていた 老 齢<br />

のエドワード 3 世 が 死 去 し、ウィクリフのかつての 保 護 者 が 王 国 を 統 治 することにな<br />

った。<br />

しかし 教 書 の 到 着 によって、 異 端 者 を 捕 らえて 投 獄 せよという 厳 命 が 全 英 国 に 出 さ<br />

れた。こうした 処 置 は、 直 接 処 刑 台 につながっていた。ウィクリフかすぐにローマの<br />

ふくしゅうの 犠 牲 になることは 確 かだと 思 われた。しかし、 昔 の 人 に「 恐 れてはなら<br />

ない。わたしはあなたの 盾 である」[ 創 世 記 15:と 言 われた 神 は、ご 自 分 のしもべを<br />

保 護 するために、もう 1 度 手 を 伸 べられた。 改 革 者 ではなくて、 彼 の 死 を 命 じた 法 王<br />

か 死 んだのである。グレゴリー11 世 は 死 んだ。そしてウィクリフ 裁 判 のために 集 まっ<br />

ていた 聖 職 者 たちは 解 散 した。<br />

56


国 際 協 定<br />

神 の 摂 琿 はさらに 事 件 の 動 向 を 支 配 して、 改 革 事 業 が 進 展 するための 機 会 を 与 えた。<br />

グレゴリーの 死 後 、2 人 の 対 ヴする 法 王 が 同 時 に 選 ばれた。2 つの 対 立 勢 力 が、それ<br />

ぞれ 絶 対 無 謬 を 主 張 して、 人 々の 服 従 を 要 求 した。おのおのが 忠 実 な 者 たちの 援 助 を<br />

求 めて 相 手 に 戦 いをいどみ、 敵 対 者 には 恐 ろしい 破 門 の 宣 告 をもって、また 支 持 者 に<br />

は 天 国 の 報 賞 を 約 束 して、 自 分 の 要 求 を 押 しつけた。このような 事 態 は、 法 王 権 を 大<br />

いに 弱 めた。 敵 対 する 両 派 は 互 いに 他 の 攻 撃 に 全 力 をあけていたので、ウィクリフに<br />

はしばらくの 休 息 が 与 えられた。 両 方 の 法 王 は、 互 いに 破 門 と 非 難 の 応 酬 をし、 各 自<br />

の 相 反 する 主 張 を 支 持 するために 多 くの 血 が 流 された。 犯 罪 と 醜 聞 が、 教 会 内 に 氾 濫<br />

した。その 間 に 改 革 者 ウィクリフは、 彼 の 教 区 ラタワースの 閑 居 で、 人 々の 心 を、 相<br />

争 う 法 王 たちではなくて、 平 和 の 君 イエスに 向 けるために、 熱 心 に 働 いていた。<br />

分 裂 とそれに 伴 うあらゆる 闘 争 と 腐 敗 とは、 人 々に 法 王 制 の 真 相 を 暴 露 して、 宗 教<br />

改 革 のために 道 を 開 いた。ウィクリフは、 彼 が 出 版 した『 法 王 の 分 裂 について』とい<br />

うパンフレットの 中 で、これら 2 人 の 聖 職 者 たちが 互 いに 他 を 反 キリストと 非 難 して<br />

いるのは、 真 実 を 語 っているのではないか 考 えるように、 人 々に 訴 えた。「 神 は、 悪<br />

魔 がこのような 1 人 の 聖 職 者 によって 統 治 することを 許 さず……それを 2 つに 分 けて、<br />

人 々がキリストの 名 によって、その 両 方 にたやすく 打 ち 勝 てるようになさった」と 彼<br />

は 言 った。 5<br />

ウィクリフは 主 イエスのように、 貧 しい 人 々に 福 音 を 宣 べ 伝 えた。 彼 は、 自 分 のラ<br />

タワース 教 区 内 の 質 素 な 家 々に 光 を 伝 えるだけでなくて、 英 国 全 土 に 伝 えようと 決 心<br />

した。このことを 成 し 遂 げるために 彼 は、 単 純 で 信 心 深 く、 真 理 を 愛 し、それを 伝 え<br />

るためには 何 も 惜 しまないという 説 教 者 の 1 団 を 組 織 した。 彼 らは 至 るところへ 行 き、<br />

市 場 で、 大 都 会 の 街 頭 で、そして 田 舎 の 小 道 で 説 教 した。 彼 らは、 老 人 や 病 める 者 、<br />

貧 しい 人 たちをたずね、 彼 らに 神 の 恵 みの 福 音 を 伝 えた。<br />

ウィクリフは、オクスフォードの 神 学 教 授 として、 大 学 の 講 堂 て 神 のみ 言 葉 を 説 い<br />

た。 彼 は 彼 のもとにある 学 生 たちに 真 理 を 忠 実 に 提 示 したので、「 福 音 博 士 」と 呼 ば<br />

れた。しかし、 彼 の 生 涯 の 最 大 の 事 業 は、 聖 書 を 英 語 に 翻 訳 することであった。『 聖<br />

書 の 真 理 と 意 味 について』という 著 作 のなかで、 彼 は、 英 国 のすべての 人 が、 神 の 驚<br />

くべき 書 を 自 国 語 で 読 むことができるようにするために、 聖 書 の 翻 訳 を 意 図 している<br />

ことを 語 っている。<br />

ところが 突 然 、 彼 の 活 動 は 中 断 された。 彼 は、まだ 60 歳 にもなっていなかったの<br />

に、 絶 え 間 ない 苦 労 と 研 究 と 敵 の 攻 撃 が 体 にこたえて、 早 くもふけこんだ。 彼 は 重 病<br />

にかかった。この 知 らせは、 修 道 士 たちを 大 いに 喜 ばせた。 彼 らは、 今 こそ、 彼 が 教<br />

57


国 際 協 定<br />

会 に 対 して 行 った 悪 をいたく 悔 いるものと 思 って、 彼 の 告 白 を 聞 くために 彼 の 部 屋 へ<br />

と 急 いだ。4 つの 修 道 会 からの 代 表 者 たちが、4 人 の 政 府 の 役 人 たちとともに、 今 に<br />

も 死 にそうだと 思 われた 者 の 周 りに 集 まった。「あなたは 今 、 死 にひんしている。 自<br />

分 の 過 ちを 認 め、われわれを 非 難 して 言 ったすべてのことを、われわれの 前 で 取 り 消<br />

せ」と 彼 らは 言 った。ウィクリフは 黙 って 聞 いていた。それから 付 き 添 いの 者 に、 自<br />

分 をベッドの 上 に 起 き 上 がらせるよう 命 じ、 彼 の 取 り 消 しの 言 葉 を 待 って 立 っている<br />

彼 らをじっと 見 つめて、これまで 何 度 も 彼 らを 戦 慄 させた 強 いしっかりした 声 で、<br />

「わたしは 死 なない。 生 きるのだ。そして、もう 1 度 、 修 道 士 たちの 悪 行 を 糾 弾 する」<br />

と 言 った。 6 修 道 士 たちは 驚 き 恥 入 り、 急 ぎ 足 で 部 屋 を 出 ていった。<br />

ウィクリフの 言 菓 は 成 就 した。 彼 は 生 きのびて、 彼 の 同 胞 の 手 に、ローマに 対 す<br />

るあらゆる 武 器 のうちで 最 も 強 力 なものを 与 えた。すなわち 彼 は、 聖 書 を 彼 らに 与 え<br />

た。それは、 人 々を 解 放 し 啓 発 し 教 化 するために、 神 がお 与 えになったものであった。<br />

この 事 業 を 完 成 するためには、 多 くの 大 きな 障 害 を 越 えなければならなかった。ウィ<br />

クリフは 健 康 を 害 していた。 彼 は、 自 分 があと 数 年 しか 働 くことができないことを 知<br />

っていた。 反 対 に 直 面 しなけれはならないことも 知 っていた。<br />

しかし 彼 は、 神 のみ 言 葉 の 約 束 に 励 まされて、 恐 れることなく 前 進 した。これまで<br />

彼 は、 旺 盛 な 知 力 と 豊 かな 経 験 のうちに、 彼 の 仕 事 の 中 でも 最 大 の 事 業 のために、 神<br />

の 特 別 の 摂 理 によって 守 られ 準 備 させられてきた。キリスト 教 国 全 体 が 混 乱 に 満 ちて<br />

いる 時 に、 改 革 者 ウィクリフはラタワースの 牧 師 館 で、 外 部 のすさまじいあらしをよ<br />

そに、 彼 が 選 んた 仕 事 に 没 頭 した。<br />

ついに 仕 事 は 完 成 した。これは 最 初 の 英 語 訳 の 聖 書 であった。 神 の 言 葉 か 英 国 に 開<br />

かれた。 改 革 者 は、もう 牢 獄 も 死 も 恐 れなかった。 彼 は 英 国 民 の 手 に、 消 すことかて<br />

きない 光 を 渡 したのである。 同 胞 の 手 に 型 書 を 与 えることによって、 彼 は、 無 知 と 悪<br />

徳 のかせを 破 壊 して 自 国 を 解 放 し 高 めるうえで、 戦 場 におけるどんな 輝 かしい 勝 利 が<br />

もたらしたものよりも、さらに 大 いなることを 成 し 遂 げたのである。<br />

まだ 印 刷 術 が 知 られていなかったので、 聖 書 は、 遅 々としたうんざりするような 労<br />

苦 によって、 増 やすより 他 はなかった。 聖 書 を 手 に 入 れたいという 希 望 は 非 常 に 強 く、<br />

聖 書 を 写 す 仕 事 に 喜 んで 従 事 する 者 も 多 かったけれども、 筆 記 者 たちは、なかなか 要<br />

求 を 満 たすことができなかった。 金 持 ちのなかには、 聖 書 全 巻 を 希 望 するものもあっ<br />

た。 他 の 人 々は、 一 部 分 だけを 買 った。 何 家 族 かがいっしょになって 1 冊 を 買 うとい<br />

う 場 合 も 多 かった。こうして、ウィクリフの 聖 書 は、 間 もなく 人 々の 家 庭 へと 入 って<br />

いった。 人 間 の 理 性 に 対 するこうした 訴 えによって、 人 々は、 法 王 の 教 義 にただ 黙 従<br />

58


国 際 協 定<br />

することからめざめた。ウィクリフは、ここにおいて、 新 教 主 義 の 独 特 の 教 理 、すな<br />

わち、キリストを 信 じる 信 仰 による 救 いと、 聖 書 が 唯 一 の 無 謬 なものであることとを<br />

教 えた。また 彼 が 派 遣 した 説 教 者 たちは、ウィクリフの 文 書 とともに 聖 書 を 配 布 し、<br />

英 国 民 の 半 数 近 くがこの 新 しい 信 仰 を 受 け 入 れるという 成 功 を 収 めた。<br />

型 書 の 出 現 は、 教 会 の 権 威 者 たちをうろたえさせ た。 今 や 彼 らは、ウィクリフより<br />

も 強 力 な 力 、 彼 らの 武 器 も 歯 が 立 たない 力 と 対 決 しなければならなかった。 当 時 、 英<br />

国 には、 聖 書 を 禁 止 する 法 律 がなかった。まだ 聖 書 が、 民 衆 の 言 語 で 出 版 されたこと<br />

がなかったからである。 後 になってそうした 法 令 が 発 布 され、 厳 重 に 実 施 された。そ<br />

の 間 、 司 祭 たちの 反 対 はあったが、しはし 神 のみ 言 葉 を 配 布 する 機 会 があったのであ<br />

る。<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、ふたたひ、 改 革 者 の 戸 声 を 沈 黙 させようと 謀 った。 彼 は 続<br />

けて 3 回 法 廷 に 呼 ばれたか、 事 なきを 得 た。 最 初 の 時 は、 司 教 たちの 宗 教 教 議 が、 彼<br />

の 著 書 を 異 端 であると 宣 言 した。 彼 らは、 若 い 王 リチャード 2 世 を 自 分 の 側 に 引 き 入<br />

れ、 禁 じられた 教 義 を 信 じる 者 はみな 投 獄 するという 勅 令 を 得 た。 そこでウィクリフ<br />

は、 宗 教 教 議 から 議 会 に 上 訴 した。 彼 は、 恐 れることなく 国 会 において 教 階 制 を 非 難<br />

し、 教 会 が 公 認 している 数 多 くの 悪 習 の 改 革 を 要 求 した。 強 い 説 得 力 をもって、 彼 は<br />

法 王 庁 の 侵 害 と 腐 敗 とを 描 き 出 した。 敵 は 混 乱 に 陥 った。ウィクリフの 友 人 たちや 支<br />

持 者 たちは、すでに 屈 服 させられていた。そして、 老 齢 のウィクリフ 自 身 も、ただ 1<br />

人 で 援 助 者 もない 以 上 、 国 王 と 法 王 の 合 同 権 力 の 前 に 屈 するものと 予 期 されていた。<br />

ところが、 逆 に 法 王 の 側 が 敗 北 してしまった。 議 会 はウィクリフの 力 強 い 訴 えを 聞 い<br />

てわき 立 ち、 迫 害 の 勅 令 を 取 り 消 し、 改 革 者 はふたたび 自 由 にされた。<br />

第 3 回 目 に、 彼 は、 国 家 の 最 高 宗 教 裁 判 所 で 裁 判 されることになった。ここは 異 端<br />

に 対 して 何 の 好 意 も 示 されないところであった。ローマはついに、ここにおいて 勝 利<br />

し、 改 革 者 の 活 動 は 中 断 されるであろうと 法 王 側 は 考 えた。もし 彼 らが 目 的 を 達 成 し<br />

さえすれば、ウィクリフは、その 教 義 を 放 棄 するか、それとも 火 刑 の 宣 告 を 受 けて 法<br />

廷 を 出 るかのどちらかであった。<br />

しかしウィクリフは、 信 仰 を 放 棄 せず、それを 隠 そうともしなかった。 彼 は、 恐 れ<br />

ることなく 自 分 の 教 えを 固 守 し、 迫 害 者 たちの 攻 撃 を 退 けた。 彼 は、 自 分 のことも、<br />

立 場 も、 場 所 も 忘 れて、 聴 衆 を 天 の 法 廷 に 集 め、 彼 らの 詭 弁 と 欺 瞞 を 永 遠 の 真 理 とい<br />

うはかりで 量 った。 聖 霊 の 力 が 法 廷 内 に 感 じられた。 聴 衆 は 神 に 魅 せられた。 彼 らは<br />

その 場 を 去 る 力 さえ 失 ったように 思 われた。 改 革 者 の 言 葉 は、 主 の 矢 筒 からの 矢 のよ<br />

うに、 彼 らの 心 を 射 た。ウィクリフは、 彼 らが 彼 に 浴 びせていた 異 端 の 告 訴 を、 強 い<br />

59


国 際 協 定<br />

説 得 力 をもって 彼 らに 投 げかえした。 彼 らはなにゆえに、あえて 誤 謬 をひろめようと<br />

するのか、それは 利 益 のためなのか、 神 の 恵 みを 商 品 化 するためなのか、と 彼 は 問 う<br />

た。 彼 は 最 後 にこう 言 った。「あなたがたは、だれと 戦 っていると 思 っているのか。<br />

今 にも 死 にそうな 老 人 とか。 否 ! 真 理 と 戦 っているのだ。あなたがたより 強 く、あ<br />

なたがたに 打 ち 勝 つ 真 理 となのだ。」 7 彼 はこう 言 って 法 廷 を 出 たが、 敵 はだれ 1 人<br />

としてそれを 止 めようとしなかった。<br />

ウィクリフの 仕 事 は、ほとんど 終 了 した。 彼 が 長 い 間 掲 げてきた 真 理 の 旗 は、まも<br />

なく 彼 の 手 から 落 ちようとしていた。しかしもう 1 度 、 彼 は 福 音 のためにあかしを 立<br />

てるのであった。 真 理 は、 誤 謬 の 王 国 の、まさにその 本 拠 において 宣 言 されねばなら<br />

なかった。ウィクリフは 審 理 のために、ローマにある 法 王 庁 の 法 廷 に 召 喚 された。そ<br />

こはこれまでにしばしば、 聖 徒 たちの 血 を 流 したところであった。 彼 は 身 の 危 険 を 知<br />

らないわけではなかったが、その 召 喚 に 応 じようとした。ところが 中 風 になって、 旅<br />

行 することができなくなった。しかし、ローマにおいて 自 ら 語 ることはできなくても、<br />

手 紙 によって 語 ることはできた。 彼 はそうすることに 決 めた。 改 革 者 は 自 分 の 牧 師 館<br />

から 法 王 に 手 紙 を 書 いた。それは、 敬 意 に 満 ちた 語 調 とキリスト 教 の 精 神 にあふれて<br />

いたが、 同 時 に 法 王 庁 の 豪 奢 と 誇 りとを 鋭 く 責 めたものであった。<br />

彼 は 次 のように 言 った。「わたしは 自 分 の 信 じる 信 仰 を、すべての 人 、 特 にローマ<br />

の 司 教 に 申 し 上 げることを 真 に 喜 びとするものである。わたしはこの 信 仰 を、 健 全 で<br />

真 実 であると 思 っているが、 彼 は、 快 くわたし のこの 信 仰 を 確 認 するか、あるいは、<br />

まちがっているならばそれを 正 して 下 さるであろう。 まず 第 一 に、わたしは、キリス<br />

トの 福 音 は 神 の 律 法 の 全 体 であると 考 える。……ローマの 司 教 は、この 地 上 における<br />

キリストの 代 理 者 であると 言 っているのであるから、だれにも 勝 ってこの 福 音 の 律 法<br />

に 従 わなければならないとわたしは 確 信 する。なぜならば、キリストの 弟 子 たちの 偉<br />

大 さは、 世 俗 的 威 厳 や 栄 誉 ではなくて、キリストの 生 涯 と 態 度 に、できるだけそのま<br />

ま 従 うことにあるからである。……キリストはこの 世 におられた 時 、きわめて 貧 しい<br />

生 活 を 送 り、すべての 世 俗 的 支 配 や 栄 誉 を 退 けられた。……<br />

忠 実 な 信 徒 たるものは、 法 王 自 身 であろうが、あるいはどんな 聖 人 であろうが、 彼<br />

が 主 イエス・キリストに 従 っているという 点 のほかは、 従 うべきでない。というのは、<br />

ペテロもゼベダイの 子 らも、キリストの 足 跡 に 従 わないで 世 俗 的 栄 誉 を 望 んだため、<br />

罪 を 犯 した。それゆえに、そのような 過 ちには、われわれは 従 わなくてもよいのであ<br />

る。 法 王 は、すべての 領 土 と 支 配 権 を 世 俗 の 権 力 に 一 任 し、そのすべての 聖 職 者 たち<br />

に 対 して、そのように 勧 め 実 行 させるべきである。なぜなら、キリストはそのように<br />

なさったのであり、 使 徒 たちも 特 にそのようにしたからである。そこで、これらの 点<br />

60


国 際 協 定<br />

のいずれかにまちがいがあるなら、わたしは 謙 虚 にそれを 正 したいと 思 う。もし 必 要<br />

とあれば、 死 をもいとわない。わたしが、 自 分 の 意 志 と 希 望 によって 行 動 することが<br />

許 されるならば、わたしはぜひともローマの 司 教 の 前 に 伺 候 することであろう。しか<br />

し 主 は、わたしに 病 をお 与 えになり、 人 よりは 神 に 従 うべきことをお 教 えになっ<br />

た。」<br />

最 後 に 彼 は 言 った。「われわれは、 神 が 法 王 ウルバン 6 世 の 心 を 動 かし、 彼 とその<br />

聖 職 者 たちが、 生 活 と 態 度 において 主 イエス・キリストに 従 い、また 人 々にもよくこ<br />

れを 教 えて、 彼 らも 忠 実 に 主 に 従 うようになることを、 祈 ってやまない。」 8 こうし<br />

てウィクリフは、 法 王 と 枢 機 卿 たちに、キリストの 柔 和 と 謙 そんを 示 し、ただ 彼 らに<br />

だけでなくて 全 キリスト 教 国 に、 彼 らと、 彼 らが 代 表 していると 主 張 する 主 との、 著<br />

しい 相 違 をあらわした。<br />

ウィクリフは、 神 に 忠 誠 を 尽 くすなら 自 分 の 生 命 は 危 険 になることを 覚 悟 していた。<br />

国 王 も 法 王 も 司 教 たちも、 力 を 合 わせて、 彼 をなきものにしようとしていた。そして、<br />

遅 くとも 数 か 月 後 には、 火 刑 になるに 違 いないと 思 われた。しかし 彼 の 勇 気 はくじけ<br />

なかった。「あなたがたは、なぜ、 殉 教 の 冠 を 遠 くに 求 めることを 語 るのか。キリス<br />

トの 福 音 を 高 慢 な 司 教 たちに 伝 えるがよい。そうすればあなたがたは 必 ず 殉 教 するこ<br />

ととなろう。なに? 生 きて 黙 っていよというのか?…… 断 じて 否 ! 弾 圧 が 来 るなら<br />

ば 来 るがよい。わたしはそれが 来 るのを 待 っている」と 彼 は 言 った。 9<br />

しかし 神 の 摂 理 は、なお 神 のしもべを 守 っていた。 日 々 危 険 に 身 をさらして、 一 生<br />

の 間 勇 敢 に 真 理 を 擁 護 した 者 が、 敵 の 憎 しみの 犠 牲 になってはならなかった。ウィク<br />

リフは、 自 分 で 身 を 守 ろうとしてきたのではなかったが、 神 が 彼 を 保 護 してこられた<br />

のであった。そして 今 、 敵 がその 餌 食 を 手 中 にしたと 思 った 時 に、 神 のみ 手 が 彼 を、<br />

彼 らの 手 のとどかないところに 移 された。 彼 がラタワースの 教 会 において、 聖 餐 式 を<br />

執 り 行 おうとしていた 時 、 突 然 中 風 の 発 作 が 起 きて 倒 れ、まもなく 息 が 絶 えたのであ<br />

る。 神 はウィクリフに、 彼 の 仕 事 を 与 えておられた。 神 は 彼 の 口 に 真 理 のみ 言 葉 を 授<br />

け、このみ 言 葉 が 人 々に 伝 えられるようにと 彼 を 守 られたのである。こうして、 彼 の<br />

生 命 は 保 護 され、 宗 教 改 革 の 大 事 業 の 基 礎 がすえられるまで、 彼 の 働 きは 延 ばされた<br />

のであった。<br />

ウィクリフは、 暗 黒 時 代 の 薄 暗 さのなかから 現 れた。 彼 の 改 革 事 業 の 基 礎 になるよ<br />

うな 仕 事 をしたものは、 彼 の 前 にはだれもいなかった。 彼 はバプテスマのヨハネのよ<br />

うに、 特 別 の 使 命 を 果 たすために 立 てられた、 新 時 代 の 先 駆 者 であった。しかも、 彼<br />

が 示 した 真 理 の 体 系 には、 彼 に 続 いて 起 こった 改 革 者 たちも 及 ばない 統 一 と 完 全 とが<br />

61


国 際 協 定<br />

あり、 百 年 後 の 人 でも 到 達 し 得 ないものもあった。その 基 礎 は 広 く 深 くすえられ、そ<br />

の 骨 組 みも 正 確 堅 固 にできていたから、 彼 の 後 にきた 人 々は、それを 建 てなおす 必 要<br />

がなかった。 [1632.<br />

ウィクリフが 創 始 した 一 大 運 動 —— 良 心 と 知 性 を 解 放 し、 長 くローマの 凱 旋 車 につ<br />

ながれていた 諸 国 民 を 自 由 にした 運 動 ——の 源 泉 は、 聖 書 であった。14 世 紀 以 来 、 生<br />

命 の 水 のように 各 時 代 を 流 れてきた 祝 福 の 流 れは、その 源 をここに 発 していた。ウィ<br />

クリフは、 聖 書 が 霊 感 による 神 のみこころの 啓 示 であって、 信 仰 と 行 為 の 十 分 な 規 準<br />

であることを 絶 対 的 に 信 じた。 彼 は、ローマの 教 会 を 神 の 絶 対 無 謬 の 権 威 として 認 め<br />

るように、そして 1000 年 間 にわたる 確 立 された 教 義 と 慣 習 を 尊 敬 するように 教 育 さ<br />

れてきた。しかし 彼 は、こうしたいっさいのものを 捨 てて、 神 のみ 言 葉 に 従 った。 彼<br />

が 人 々に 認 めるよう 促 したものは、この 権 威 であった。 法 王 によって 語 る 教 会 ではな<br />

くて、み 言 葉 によって 語 られる 神 のみ 声 が、 唯 一 の 真 の 権 威 であると 彼 は 宣 言 した。<br />

彼 は、 聖 書 が 神 のみこころの 完 全 な 啓 示 であることだけでなく、 聖 霊 がその 唯 一 の 解<br />

釈 者 であること、そして 各 自 は、その 教 えを 研 究 して、 自 分 でその 義 務 を 学 ぶべきで<br />

あることを 教 えた。こうして 彼 は 人 々の 心 を、 法 王 やローマの 教 会 から 神 の 言 葉 へと<br />

向 けたのである。<br />

ウィクリフは、 宗 教 改 革 者 の 中 でも 最 も 偉 大 な 人 物 の 1 人 であった。その 該 博 な 知<br />

識 、 明 晰 な 思 考 、そして 真 理 を 堅 く 保 持 し、 大 胆 に 擁 護 した 点 において、 彼 の 後 に 現<br />

れたもので 彼 に 匹 敵 するものは、 極 めてまれであった。 彼 の 純 潔 な 生 涯 、 研 究 と 活 動<br />

における 刻 苦 勉 励 、 清 廉 潔 白 、そして 奉 仕 におけるキリストのような 愛 と 忠 実 さが、<br />

この 最 初 の 宗 教 改 革 者 の 特 徴 であった。しかも 彼 は、 彼 が 現 れた 当 時 の、 知 的 暗 黒 と<br />

道 徳 的 腐 敗 の 時 代 において、そのように 生 きたのであった。 ウィクリフの 品 性 は、 聖<br />

書 が 人 を 教 え 改 変 する 力 を 持 っている 証 拠 である。 聖 書 が、 彼 をこのような 人 物 にし<br />

たのである。 啓 示 された 偉 大 な 真 理 を 把 握 しようとする 努 力 は、すべての 機 能 をはつ<br />

らつとさせ 活 気 づける、それは 知 性 を 広 げ 知 覚 を 鋭 くし、 判 断 力 を 円 熟 させる。 聖 書<br />

の 研 究 は、 他 のどんな 研 究 よりも、あらゆる 思 想 と 感 情 と 抱 負 とを 高 尚 にする。また、<br />

確 固 とした 目 的 と 忍 耐 、 勇 気 を 与 えるとともに、 品 性 を 洗 練 し、 魂 を 清 める。 畏 敬 の<br />

念 をもって 聖 書 を 熱 心 に 研 究 する 時 、 学 ぶ 者 の 心 は 直 接 神 の 無 限 の 心 と 接 触 すること<br />

ができ、どんな 人 間 的 哲 学 を 修 めても 達 することができないような 高 潔 な 原 則 を 持 つ<br />

とともに、 強 く 活 発 な 知 性 を 持 った 人 々を 世 に 提 供 することができる。「み 言 葉 が 開<br />

けると 光 を 放 って…… 知 恵 を 与 えます」と 詩 篇 記 者 は 言 っている[ 詩 篇 119:。<br />

ウィクリフが 教 えた 教 義 は、その 後 もしばらくの 間 人 々の 間 に 広 まっていった。ウ<br />

ィクリフ 派 、ロラード 派 として 知 られた 彼 の 信 奉 者 たちは、 英 国 をへめぐっただけで<br />

62


国 際 協 定<br />

なく、 他 の 国 々にも 散 っていって、 福 音 の 知 識 を 人 々に 伝 えた。 今 や 指 導 者 が 取 り 去<br />

られたからには、 説 教 者 たちはこれまで 以 上 の 熱 心 さで 活 動 した。そして 群 衆 は、 彼<br />

らの 教 えを 聞 くために 集 まってきた。 改 心 者 のなかには、 貴 族 もあれば、 王 妃 さえ 混<br />

じっていた。 多 くの 場 所 で、 人 々の 生 活 態 度 に 著 しい 改 革 が 行 われ、ローマ 教 の 偶 像<br />

的 な 象 徴 が 教 会 から 取 り 除 かれた。しかし、 聖 書 を 自 分 たちの 指 導 書 として 信 じる 人<br />

々の 上 に、 間 もなく、 残 酷 な 迫 害 のあらしが 吹 き 荒 れた。ローマの 支 援 を 受 けて 権 力<br />

を 強 化 しようとする 英 国 の 君 主 たちは、 改 革 者 たちを 犠 牲 にすることをためらわなか<br />

った。 英 国 の 歴 史 上 初 めて、 福 音 の 弟 子 たちに 対 して 火 刑 の 布 告 が 出 された。 殉 教 者<br />

があいついだ。 真 理 の 擁 護 者 たちは、 追 放 され、 拷 問 にかけられて、その 叫 びを 万 軍<br />

の 主 にあげることしかできなかった。 彼 らは、 教 会 の 敵 、 国 家 の 裏 切 り 者 として 狩 り<br />

立 てられながらも、ひそかに 説 教 をつづけ、 貧 しい 人 々のあばらやでもどこにでも 隠<br />

れ 家 を 見 つけ、しばしば 洞 穴 にさえ 隠 れたりした。<br />

激 しい 迫 害 にもかかわらず、 広 く 見 られた 信 仰 の 腐 敗 に 対 するところの、 冷 静 で 敬<br />

虔 、 熱 心 で 忍 耐 強 い 抗 議 が、 幾 世 紀 にもわたって 叫 ばれ 続 けた。 当 時 のキリスト 者 た<br />

ちは、 真 理 の 知 識 を 部 分 的 にしか 持 っていなかったが、 神 のみ 言 葉 を 愛 し 服 従 してい<br />

たので、そのための 苦 しみに 耐 えたのであった。 多 くの 者 は、 使 徒 時 代 の 弟 子 たちの<br />

ように、キリストのためにこの 世 の 財 産 を 犠 牲 にした。 家 に 住 むことを 許 された 者 た<br />

ちは、 追 放 された 兄 弟 たちを 喜 んでかくまい、そして、 自 分 たちも 追 放 されたならは、<br />

喜 んてその 運 命 に 目 んじた たしかに、おひたたしい 数 の 者 か、 迫 害 者 の 激 しい 怒 り<br />

を 恐 れて、 信 仰 を 犠 牲 にして 自 由 を 得 た そして、 自 説 撤 回 を 公 衣 するために 悔 悟 者<br />

の 衣 を 着 て、 牢 獄 から 出 たのであった。しかし、 牢 獄 の 独 房 や「ロラード 塔 」、そし<br />

て 拷 問 と 炎 のなかにあっても、「その 苦 難 にあずかる」に 足 るものとされたことを 喜<br />

び、 真 理 のために 恐 れずあかしを 立 てたものが 少 なからずあった。そしてその 中 には<br />

身 分 の 卑 しい 者 もいたが、 同 時 に 高 貴 な 生 まれの 人 々もあったのである。<br />

法 王 教 の 人 々は、ウィクリフの 生 存 中 には 自 分 たちの 目 的 を 果 たすことができなか<br />

った。そして 彼 らの 憎 しみは、 彼 の 遺 体 が 墓 に 静 かに 横 たわっていることを 許 さなか<br />

った。 彼 の 死 後 40 年 以 上 も 経 過 した 時 、コンスタンツ 宗 教 会 議 の 布 告 によって、 彼<br />

の 遺 体 は 掘 り 出 され、 公 衆 の 前 で 燃 やされた。そしてその 灰 は、 近 くの 小 川 に 投 げ 込<br />

まれた。 昔 のある 筆 者 は、 次 のように 言 っている。「この 小 川 は、 彼 の 灰 をアボン 川<br />

に 運 び、アボン 川 はセバーン 川 に、セバーン 川 は 近 くの 海 に、そして、 近 くの 海 は 大<br />

海 へと 運 んていった。このようにウィクリフの 灰 は、 彼 の 教 義 の 象 徴 である。それは<br />

今 や、 全 世 界 にまき 散 らされたのだ」 10 彼 の 敵 たちは、その 悪 意 から 出 た 行 為 がどん<br />

な 意 味 を 持 っていたか、 夢 想 だにしなかった。<br />

63


国 際 協 定<br />

ボヘミアのヨハン・フスが、ローマ 教 の 多 くの 誤 りを 放 棄 して、 改 革 に 着 手 するよ<br />

うになったのは、ウィクリフの 著 書 を 通 してであった。こうして、 遠 く 離 れた 二 か 国<br />

において、 真 理 の 稀 がまかれた。 働 きはボヘミアから 他 の 国 々に 波 及 していった。 人<br />

々の 心 は、 長 く 忘 れられていた 神 のみ 言 葉 に 向 けられた。 神 のみ 手 が、 大 宗 教 改 革 へ<br />

の 道 を 備 えていたのである。<br />

64


国 際 協 定<br />

第 6 章 2 人 のヒーロー<br />

福 音 は、すでに 9 世 紀 にボヘミアに 伝 えられていた。 聖 書 は 一 般 の 人 々の 言 語 に 翻<br />

訳 され、 礼 拝 も 人 々の 言 葉 で 豹 われていた。しかし、 法 王 の 権 力 が 増 大 するにつれて、<br />

神 のみ 言 葉 はおおいかくされた。 王 たちの 誇 りを 砕 くことを 自 分 の 任 務 と 考 えたグレ<br />

ゴリー7 世 は、 同 様 に、 人 々を 奴 隷 にすることに 意 を 注 いだ。そこで、ポヘミア 語 で<br />

礼 拝 を 行 うことを 禁 しる 教 書 が 発 布 された。「 全 能 の 神 は、 人 々が 知 らない 言 葉 で 神<br />

を 礼 拝 することを 宮 ばれう。そして 多 くの 悪 と 異 端 とは、この 規 則 に 従 わなかったた<br />

めに 起 こった」と 法 王 は 宣 言 した。 1 こうしてローマは、 神 のみ 言 葉 の 光 を 消 して 人 々<br />

を 暗 黒 に 閉 じ 込 める 布 告 を 出 した。しかし 神 は、 教 会 の 維 持 のために 他 の 方 法 を 設 け<br />

てお られた。 迫 害 によってフランスやイタリアの 故 郷 を 追 われたワルド 派 やアルビジ<br />

ョア 派 の 人 々の 多 くが、ボヘミアにやって 来 た。 彼 らは、 公 然 と 教 えはしなかったが、<br />

隠 れて 熱 心 に 働 いた。こうして、 真 の 信 仰 が 世 紀 から 世 紀 へと 保 持 されたのであ<br />

る。 [1634.<br />

ボヘミアでは、フスの 時 代 以 前 に、 立 ち 上 がって 公 然 と 教 会 の 腐 敗 と、 民 衆 の 不 品<br />

行 を 非 難 した 人 々かいた。 彼 らの 活 動 は、 広 く 一 般 の 関 心 を 呼 んだ。 聖 職 者 たちは 恐<br />

怖 を 感 じ、 福 音 を 信 じるものたちに 対 する 迫 害 が 始 まった。 彼 らは、 森 や 山 で 礼 拝 し<br />

なければならなくなり、 兵 隊 たちにかり 立 てられ、 殺 されたものも 多 かった。その 後<br />

しはらくして、ローマ 教 の 礼 拝 を 離 れたものは、みな 火 刑 にするという 布 告 が 出 され<br />

た。しかしキリスト 者 たちは、その 生 命 をささげながら、 彼 らの 運 動 の 勝 利 を 待 望 し<br />

たのであった「 救 いは 十 字 架 にかけられた 救 い 主 を 信 じることによってのみ 与 えられ<br />

る、と 教 えた」ものの 1 人 は、その 死 ぬ 時 に 次 のように 占 った。「 真 理 の 敵 たちの 怒<br />

りは、 今 われわれに 勝 っている。しかし、 永 久 にそうなのではない。 剣 や 権 威 によら<br />

ないで、 一 般 の 民 衆 の 中 から 1 人 の 人 が 立 ち 上 がる。そして 彼 に 対 して、 真 理 の 敵 た<br />

ちは 勝 っことかできない。」 2 ルターの 時 代 は、まだずっと 先 のことであった。しかし、<br />

すでに、ローマに 抗 議 して 諸 国 民 を 揺 り 動 かす 者 が 起 こりつっあった。<br />

ヨハン・フスは、 卑 しい 身 分 の 家 に 生 まれ、 幼 少 の 時 に 父 親 を 失 った。しかし、 彼<br />

の 信 心 深 い 母 親 は、 教 育 と 神 を 恐 れることとを 最 も 価 値 ある 財 産 とみなして、こうし<br />

た 遺 産 を 息 子 のために 確 保 しようとした。フスは、 地 力 の 学 校 で 学 んでから、 慈 善 学<br />

生 としてプラハの 大 学 に 入 学 を 許 された。 彼 は 母 に 付 き 添 われて、プラハへと 旅 立 っ<br />

た。 彼 女 は 貧 し 未 亡 人 であって、 息 子 に 与 えるようなこの 世 の 富 は 何 も 持 っていなか<br />

った。しかし 彼 らが 大 都 会 に 近 づくと、 彼 女 は、 父 親 のいない 息 子 のそばにひさまず<br />

65


国 際 協 定<br />

いて、 彼 の 上 に 天 の 父 の 祝 福 を 祈 り 求 めた。 自 分 の 祈 りがどのように 答 えられるか、<br />

この 母 親 は 知 るよしもなかった。<br />

大 学 においてフスは、たゆまぬ 熱 心 と 急 速 な 進 歩 によって、すぐに 頭 角 をあらわし<br />

た。また、 彼 の 非 難 されるところのない 生 活 、 穏 やかで 好 感 のもてる 態 度 は、だれか<br />

らも 尊 敬 された。 彼 は、ローマ 教 会 の 誠 実 な 信 者 で、 教 会 が 与 えると 主 張 している 霊<br />

的 祝 福 を 熱 心 に 求 めていた。 大 赦 のおりには 告 白 に 行 き、 乏 しいさいふをはたいてさ<br />

さげ、 罪 のゆるしを 受 けるために 行 列 に 加 わった。 彼 は、 大 学 を 終 えてから 聖 職 者 の<br />

道 に 進 み、どんどん 昇 近 して、 間 もなく 王 室 づきになった。 彼 はまた、 母 校 の 教 授 と<br />

なり、 後 には 総 長 になった。わずか 数 年 のうちに 1 人 の 卑 しい 慈 善 学 生 かボヘミアの<br />

誇 りとなり、 彼 の 名 はヨーロッパ 全 体 に 知 れわたった。<br />

しかし、フスが 改 革 の 事 業 を 始 めたのは、 別 の 分 野 においてであった。 彼 は 司 祭 に<br />

任 じられてから 数 年 後 に、ベツレヘム 礼 拝 堂 の 説 教 者 として 指 名 された。この 礼 拝 堂<br />

の 創 設 者 は、 聖 書 を 自 国 語 で 説 くことが 非 常 に 重 要 であると 主 張 したのであった。こ<br />

のことに 対 するローマの 反 対 にもかかわらず、ボヘミアでは、それが 完 全 に 中 止 され<br />

てはいなかった。しかし 聖 書 に 関 する 無 知 ははなはだしく、あらゆる 階 級 の 人 々の 間<br />

で、 最 もひどい 不 道 徳 が 有 われていた。フスは、こうした 悪 習 を 容 赦 なく 責 め、 神 の<br />

み 言 葉 を 引 用 することによって、 彼 の 説 く 真 理 と 純 潔 の 原 則 を 強 調 した。<br />

フラハの 一 市 民 、ヒエロニムス[ジェローム]—— 後 にフスの 親 友 になった 人 物 ——<br />

は、 英 国 からの 帰 国 に 際 して、ウィクリフの 著 書 を 持 ち 帰 っていた。ウィクリフの 教<br />

えに 改 宗 した 英 国 の 女 王 は、ボヘミアの 王 女 であったから、 彼 女 の 影 響 によって、 改<br />

革 者 の 著 書 が 広 くボヘミアに 配 布 された。フスは、これらの 著 書 を 興 味 深 く 読 んだ。<br />

彼 は、 著 者 がまじめなキリスト 者 であることを 信 じ、 彼 の 主 張 する 改 革 運 動 に 賛 成 す<br />

るようになった。フスは、 自 分 では 自 覚 していなかったが、もうすでに、ローマから<br />

遠 く 離 れることになる 道 を 歩 きはじめたのであった。<br />

ちょうどこのころ、ブラハに、 学 識 のある 2 人 の 旅 旅 人 が 英 国 から 到 着 した。 彼 ら<br />

は 光 を 受 け 入 れており、それを 伝 えるために 遠 くの 地 までやってきたのであった。 彼<br />

らは 初 めから 法 王 の 至 上 権 を 公 然 と 攻 撃 したので、すぐにその 筋 から 発 言 をとめられ<br />

てしまった。しかし 彼 らは、そのまま 引 き 下 がることを 好 まず、 他 の 方 法 を 用 いるこ<br />

とにした。 彼 らは、 説 教 者 であると 同 時 に 画 家 でもあったので、 自 分 たちの 技 術 を 活<br />

用 することにした。 人 々の 目 につくところに、 彼 らは 2 枚 の 絵 を 描 いた。1 枚 はキリ<br />

ストのエルサレム 入 城 をあしらっていた。キリストは「 柔 和 なおかたで、ろばに 乗 っ<br />

て」おられ、その 後 に、 旅 ですり 切 れた 衣 をまとった 弟 子 たちがはだしで 従 っていた<br />

66


国 際 協 定<br />

[マタイ 21:。もう 1 枚 の 絵 は、 法 王 の 行 列 を 描 いていた。 法 ははなやかな 衣 を 身 に<br />

つけ、 三 重 の 冠 をかぶって、りっぱに 飾 った 馬 に 乗 り、その 前 にはラッパを 吹 く 者 た<br />

ちが 行 き、 後 からは 枢 機 卿 や 高 位 聖 職 者 たちが 豪 華 に 着 飾 って 従 っていた。<br />

これは、あらゆる 階 級 の 人 々の 注 目 をひいた 説 教 であった。 群 衆 が 集 まって、 絵 を<br />

見 つめた。その 教 訓 がわからない 人 はいなかった。そして 多 くの 人 々は、 主 イエス・<br />

キリストの 柔 和 と 謙 そんと、そのしもべであると 称 する 法 王 の 高 慢 で 尊 大 な 態 度 との<br />

対 照 に、 深 い 印 象 を 受 けた。プラハでは 大 きな 騒 ぎが 起 き、しばらく 後 に 旅 人 たちは、<br />

身 の 安 全 のために 立 ち 去 らねばならなかった。しかし、 彼 らが 教 えた 教 訓 は 忘 れられ<br />

なかった。この 絵 はフスの 心 に 強 い 印 象 を 与 え、 聖 書 とウィクリフの 著 書 をもっと 詳<br />

しく 研 究 するようにしむけた。 彼 はまだ、ウィクリフが 主 張 する 改 革 のすべてを 受 け<br />

入 れる 準 備 はなかったが、 法 王 権 の 真 相 が 彼 にはいよいよ 明 らかとなって、 彼 はます<br />

ます 熱 心 に 教 権 制 度 の 高 慢 と 野 心 と 腐 敗 とを 非 難 した。<br />

光 はボヘミアからドイツへと 広 がった。プラハ 大 学 での 騒 動 のために、 何 百 人 とい<br />

うドイツの 学 生 たちが 退 学 したからである。 彼 らの 多 くは、フスから 初 めて 聖 書 の 知<br />

識 を 学 んだ 者 たちであって、 帰 国 してから 福 音 を 祖 国 に 広 めたのである。 プラハにお<br />

ける 働 きの 知 らせがローマに 伝 えられ、フスはすぐに 法 王 からの 呼 び 出 し 命 令 を 受 け<br />

た。これに 応 じることは、 自 ら 死 を 招 くことであった。そこで、ボヘミヤの 王 と 王 妃 、<br />

大 学 、 貴 族 たち、 政 府 の 役 人 たちは 団 結 して、フスがプラハに 留 まりローマでは 代 理<br />

者 によって 箸 えることを 許 されるように、 法 王 に 訴 えた。ところが 法 王 は、この 願 い<br />

を 許 すどころか、 裁 判 を 行 ってフスを 罪 に 定 め、プラバ 市 の 破 門 を 宣 言 した。<br />

その 時 代 において、この 宣 告 が 発 せられることは、 一 大 恐 慌 をひきおこした。それ<br />

に 伴 う 諸 儀 式 は、 法 王 を 神 ご 自 身 の 代 表 者 とみなし、 彼 が 天 国 と 地 獄 のカギを 持 ち、<br />

霊 的 罰 と 同 様 に 世 俗 の 罰 も 与 える 力 があると 考 えていた 人 々にとって、 恐 怖 を 抱 かせ<br />

ずにはおかぬものであった。 破 門 を 受 けた 地 方 には 天 の 門 が 閉 ざされ、 法 王 が 破 門 を<br />

解 くまでは 死 者 は 天 国 から 閉 め 出 されている、と 信 じられていた。この 恐 ろしい 災 い<br />

の 証 拠 として、すべての 宗 教 的 儀 式 は 停 止 された。 教 会 は 閉 鎖 された。 結 婚 式 は、 教<br />

会 の 庭 で 行 われた。 死 者 は、 聖 地 に 埋 葬 することが 許 されないので、 埋 葬 式 もせずに、<br />

みぞとか 野 原 に 埋 められた。こうして、 想 像 力 に 訴 えるような 方 法 で、ローマは 人 々<br />

の 良 心 を 支 配 しようとした。<br />

プラハ 市 は、 大 さわぎになった。 多 くの 者 は、こうした 災 いはみなフスによるもの<br />

であるとして 彼 を 非 難 し、 彼 をローマの 懲 罰 に 服 させるべきであると 主 張 した。さわ<br />

ぎを 静 めるために、フスはしばらくの 間 故 郷 の 村 に 退 いた。 彼 は、プラハに 残 した 友<br />

67


国 際 協 定<br />

人 に 次 のように 井 いた。「わたしが、こうして、あなたがたの 間 から 退 いたのは、イ<br />

エス・キリストの 教 えと 模 範 に 従 うためである。そしてそれは、 悪 意 を 抱 いている 人<br />

々が、 自 分 たちの 上 に 永 遠 の 断 罪 を 招 かないようにするとともに、 信 心 深 い 者 たちに<br />

苦 難 と 迫 害 を 引 き 起 こすことがないようにするためである。また、 不 敬 虔 な 司 祭 たち<br />

が、あなたがたの 間 で 神 のみ 言 葉 が 説 教 されることを 長 期 にわたって 禁 じ 続 けること<br />

を 恐 れたからで ある。わたしは 神 の 真 理 を 拒 んで、あなたがたを 去 去 ったのではない。<br />

神 の 真 理 のためには、わたしは 神 の 助 けによって、 喜 んで 命 をささげる。」 3 フスは、<br />

彼 の 活 動 をやめず、 周 囲 の 地 方 を 旅 行 して 熱 心 な 群 衆 に 説 教 した。こうして、 法 王 が<br />

福 音 を 抑 圧 しようとしてとった 手 段 が、かえってそれを 広 く 伝 える 結 果 となった。<br />

「わたしたちは、 真 理 に 逆 らっては 何 をする 力 もなく、 真 理 にしたがえば 力 がある」<br />

[Ⅱコリント 13:。<br />

「フスの 生 涯 のこの 時 期 において、 彼 の 心 中 では 苦 しい 争 闘 が 演 じられていたよう<br />

である。 教 会 は、その 威 嚇 によって 彼 を 圧 倒 しようとしたけれども、 彼 は、 教 会 の 権<br />

威 を 否 認 してはいなかった。 彼 にとって、ローマの 教 会 は、なおキリストの 花 嫁 であ<br />

り、 法 王 は 神 の 代 表 者 、 代 理 者 であった。フスが 争 っていたのは 権 威 の 乱 用 に 対 して<br />

であって、 原 則 そのものに 対 してではなかった。これは、 彼 の 理 解 に 基 づく 確 信 と 良<br />

心 の 要 求 との 間 に、 恐 ろしい 矛 盾 を 引 き 起 こした。<br />

もし 彼 が 信 じたように、その 権 威 が 正 当 で 無 謬 であるならば、なぜ、それに 従 い 得<br />

ないと 感 じるのであろうか。これに 従 うことは 罪 を 犯 すことであるのが 彼 にはわかっ<br />

た。しかし、 無 謬 教 会 に 従 うことが、なぜこうした 問 題 に 至 らせるのであろうか。こ<br />

れは 彼 には 解 決 できない 問 題 であった。これは 彼 を 常 に 苦 しめた 疑 惑 であった。 彼 が<br />

見 いだした 最 も 解 決 に 近 い 答 えは、かつて 救 い 主 の 時 代 に、 教 会 の 祭 司 たちがよこし<br />

まになり、 彼 らの 正 当 な 権 威 を 不 正 な 目 的 のために 用 いていたが、それと 同 じことが<br />

また 起 こったということであった。こうして 彼 は、よく 理 解 された 聖 書 の 教 えを 良 心<br />

の 導 きとすべきであるという 金 言 を、 自 分 自 身 のために 採 用 し、また 他 の 人 々にも 説<br />

き 勧 めるに 至 った。つまり、 神 は 聖 書 によって 語 られるのであって、 教 会 が 司 祭 によ<br />

って 語 るのではないことが、 誤 ることのない 手 引 きなのである。」 4<br />

しばらくして、プラハの 騒 動 がおさまったので、フスはベツレヘム 礼 拝 堂 に 帰 り、<br />

これまで 以 上 の 熱 心 と 勇 気 をもって 神 のみ 言 葉 を 説 きつづけた。 彼 の 敵 たちは 活 動 的<br />

で 強 力 であったが、 王 妃 や 多 くの 貴 族 たちは 彼 の 味 方 であった。そして、 多 くの 人 々<br />

が 彼 の 側 にっいた。 彼 の 純 粋 で 高 尚 な 教 えや 清 い 生 活 を、ローマ 教 会 司 祭 の 説 く 腐 敗<br />

した 教 義 や、 彼 らが 行 っている 貪 欲 や 放 蕩 と 比 較 して、 多 くの 者 はフスの 側 につくこ<br />

とを 名 誉 とした。<br />

68


国 際 協 定<br />

この 時 まで、フスは 単 独 で 働 いて 来 た。しかし 今 、 英 国 にいた 時 ウィクリフの 教 え<br />

を 受 け 入 れていたヒエロニムスが、 改 革 事 業 に 加 わった。それから 後 、2 人 は 1 つと<br />

なって 働 き、 死 ぬ 時 も 別 々でなかった。 輝 かしい 天 才 、 雄 弁 、 学 識 など、 人 々の 人 気<br />

を 呼 ぶ 賜 物 は、ヒエロニムスが 著 しく 所 有 していた。しかし、 品 性 の 真 の 力 を 構 成 す<br />

る 特 質 においては、フスの 方 がさらに 偉 大 であった。 彼 の 冷 静 な 判 断 は、ヒエロニム<br />

スの 衝 動 的 精 神 を 抑 える 役 を 果 たした。ヒエロニムスは、 謙 そんに、 彼 の 真 価 を 認 め<br />

て、その 勧 告 に 従 った。 彼 らの 一 致 した 働 きによって、 改 革 事 業 は 一 段 と 急 速 に 発 展<br />

した。<br />

神 は、これら 選 ばれた 人 々の 心 に 大 きな 光 を 与 え、ローマの 誤 りの 多 くをお 示 しに<br />

なった。しかし 彼 らは、 世 に 示 すべき 光 を 全 部 受 けたのではなかった。これらご 自 分<br />

のしもべたちによって、 神 は 人 々をローマ 教 の 暗 黒 から 導 き 出 しておられたのである。<br />

しかし、 彼 らは、さまざまの 大 きな 障 害 に 直 面 しなければならなかった。 神 は、 彼 ら<br />

が 耐 えられるだけ、1 歩 ずつ、お 導 きになった。 彼 らはすべての 光 を 一 時 に 受 ける 用<br />

意 がなかった。 長 い 間 暗 黒 の 中 にいたものが、 真 昼 の 太 陽 の 輝 きを 受 けるのと 同 じよ<br />

うに、もしすべての 光 が 一 度 に 示 されたならば 彼 らは 目 をそむけたに 違 いない。それ<br />

ゆえに 神 は、 人 々に 受 け 入 れられるだけの 程 度 に 従 って、 少 しずつ 光 を 指 導 者 たちに<br />

示 されたのである。 世 紀 を 追 って、 他 の 忠 実 な 働 き 人 たちが 現 れ、 人 々をなおいっそ<br />

う、 改 革 の 道 に 導 いた。<br />

教 会 内 の 分 裂 は、なお 続 いた。3 人 の 法 王 が 至 上 権 を 競 い、 彼 らの 闘 争 はキリスト<br />

教 界 を 犯 罪 と 暴 動 で 満 たした。 彼 らは 互 いに 破 門 しあうだけで 満 足 せ ず、 武 力 に 訴 え<br />

た。 各 自 は、 武 器 の 購 入 と 軍 隊 の 確 保 に 苦 心 した。もちろん、 金 もなければならなか<br />

った。こうしたものを 手 に 入 れるために、 教 会 の 賜 物 、 地 位 、 祝 福 などが 金 銭 で 売 ら<br />

れた。 司 祭 たちも 高 位 の 者 たちにならって、 聖 職 売 買 を 行 い、 競 争 者 を 倒 して 自 分 の<br />

勢 力 を 強 化 するために 戦 った。フスは、ますます 大 胆 に、 宗 教 の 名 のもとに 行 われて<br />

いる 憎 むべきことを 非 難 した。そして 人 々は、キリスト 教 界 をこのような 悲 惨 な 状 態<br />

に 陥 れたのはローマ 教 の 指 導 者 たちであると、 公 然 と 非 難 した。<br />

ふたたびプラハ 市 は、 流 血 の 惨 事 が 起 きそうに 見 えた。むかしと 同 様 に、 神 のしも<br />

べは、「イスラエルを 悩 ます 者 」と 非 難 された[ 列 王 王 紀 上 8:。プラハ 市 は、ふたた<br />

び 破 門 され、フスは 故 郷 の 村 に 退 いた。 彼 が 愛 したベッレヘム 礼 拝 堂 からの 忠 実 な 証<br />

言 は、ここに 終 わった。 彼 は、 真 理 の 証 人 として 生 命 をささげるに 先 だって、もっと<br />

広 い 舞 台 から、 全 キリスト 教 界 に 語 ることになったのである。 ヨーロッパを 混 乱 に 陥<br />

れていた 害 悪 を 正 すために、コンスタンツにおいて 公 会 議 が 召 集 された。この 会 議 は、<br />

ジギスムント 皇 帝 の 希 望 によって、 対 立 している 3 人 の 法 王 の 1 人 、ヨハネス 23 世<br />

69


国 際 協 定<br />

が 召 集 したものであった。ヨハネス 23 世 の 人 格 と 政 策 は、 当 時 の 一 般 聖 職 者 と 同 様<br />

に 道 徳 的 に 腐 敗 していた 高 位 聖 職 者 たちの 調 査 にさえ 耐 え 得 ないものであったので、<br />

彼 は、 会 議 を 歓 迎 するどころではなかった。しかし 彼 は、ジギスムントの 意 志 にさか<br />

らいかねたのである。<br />

会 議 の 主 要 目 的 は、 教 会 内 の 分 裂 を 和 解 させ、 異 端 を 根 絶 することであった。そこ<br />

で、2 人 の 対 立 法 王 たちも、 新 説 の 主 唱 者 であるヨハン・フスとともに、 会 議 に 召 集<br />

された。 前 者 はそれぞれ、 自 分 たちの 身 の 安 全 を 期 して、 自 分 は 出 て 来 ず、 代 表 を 送<br />

った。 法 王 ヨハネスは、 表 向 きは 会 議 の 召 集 者 ではあったが、 種 々の 不 安 を 抱 いて 臨<br />

んだ。 皇 帝 がひそかに 彼 を 退 位 させようとしていないかと 疑 い、また、 三 重 の 冠 を 手<br />

に 入 れるために 犯 した 罪 とともに、それを 辱 しめた 罪 悪 が 問 いただされるのではない<br />

かと 恐 れていた。それでも 彼 は、 最 高 位 の 聖 職 者 たちと 廷 臣 の 長 い 列 を 従 えて、 威 風<br />

堂 々とコンスタンツ 市 に 入 った。 市 のすべての 聖 職 者 や 高 官 たちは、 数 多 くの 市 民 た<br />

ちとともに、 彼 を 出 迎 えた。 彼 の 頭 上 には 金 色 の 天 蓋 がかかり、それを 4 人 の 長 官 た<br />

ちが 支 えていた。 彼 の 前 には 祭 餅 が 運 ばれ、 枢 機 卿 や 貴 族 たちのきらびやかな 服 装 は、<br />

実 に 印 象 的 であった。<br />

この 時 、もう 1 人 の 旅 人 がコンスタンツ 市 に 近 づいていた。フスは、 自 分 の 身 に 迫<br />

る 危 険 に 気 づいていた。 彼 は、もう 2 度 と 会 えないかのように、 友 人 たちに 別 れを 告<br />

げた。そして 火 刑 への 道 であることを 感 じつつ 旅 をつづけた。 彼 は、ボヘミアの 王 か<br />

ら 安 全 通 行 券 を 得 、またジギスムント 皇 帝 からも 同 様 のものを 得 てはいたが、 死 ぬこ<br />

ともあり 得 ると 考 えて、 万 事 その 用 意 をしていた。<br />

プラハの 友 人 あての 手 紙 の 中 で 彼 は 次 のように 言 っている。「わたしの 兄 弟 たち<br />

よ、……わたしは 王 からの 通 行 券 を 持 って、 多 くの 恐 ろしい 敵 に 立 ち 向 かうために 出<br />

かけようとしている。……わたしは、 全 能 の 神 、わたしの 救 い 主 に 全 く 信 頼 している。<br />

わたしは、 神 があなたがたの 熱 心 な 祈 りに 答 えて、わたしの 口 に 神 の 慎 しみと 神 の 知<br />

恵 を 賜 わり、 彼 らに 抵 抗 することができるようにしてくださると 信 じる。そして、 神<br />

はわたしに 聖 霊 を 与 えて 堅 く 真 理 に 立 たせ、 勇 敢 に、 試 練 と 牢 獄 、そしてもし 必 要 な<br />

ら 残 酷 な 死 にすら 立 ち 向 かえるようにしてくださると 信 じる。イエス・キリストは、<br />

彼 の 愛 する 者 のために 苦 しみにあわれた。それゆえにわれわれは、われわれが 自 分 自<br />

身 の 救 いのためにすべてのことを 根 気 よく 耐 え 忍 ぶよう、 彼 がわれわれのために 模 範<br />

を 残 されたことに 対 して 驚 いてよいであろうか。 彼 は、 神 である。そして、われわれ<br />

は、 彼 に 造 られたものである。 彼 は 主 であって、われわれは、 彼 のしもべたちである。<br />

彼 は 世 界 の 主 であられ、われわれは、 卑 しい 人 間 である。それにもかかわらず 彼 は 苦<br />

しまれた。とすれば、われわれもまた 苦 しむべきではなかろうか。 特 にそれがわれわ<br />

70


国 際 協 定<br />

れのきよめのためであるとすれば。それゆえに、 愛 する 人 々よ、も しわたしの 死 が 彼<br />

の 栄 光 となるものならば、それが 早 く 来 るように、そして、わたしにふりかかるすべ<br />

ての 災 いをわたしが 忠 実 に 耐 える 力 を 主 がお 与 えになるように 祈 ってほしい。しかし、<br />

もしわたしがあなたがたのところに 帰 るほうが 良 いのであれば、 何 の 汚 点 も 残 さずに<br />

帰 れるように 神 に 祈 ろう。すなわち、わたしが、 福 音 真 理 のどんな 点 でも 隠 すことな<br />

く、わたしの 兄 弟 たちがふみ 従 うりっぱな 模 範 を 残 すことができるように 祈 ろう。お<br />

そらく、プラハであなたがたと 会 うことはもはやないであろう。しかし、 全 能 の 神 の<br />

みこころによって、あなたがたのところに 帰 ることができれば、その 時 には、いよい<br />

よ 確 固 とした 信 念 をもって、 神 の 律 法 の 知 識 と 愛 のうちに 進 んでいきたい。」 5 フス<br />

は、 福 音 の 使 徒 となったある 司 祭 に 送 ったもう 1 つの 手 紙 の 中 で、きわめて 謙 虚 に 自<br />

分 自 身 の 誤 りについて 語 り、 自 分 は「 美 服 をまとうことに 喜 びを 感 じ、 軽 薄 なことに<br />

時 を 浪 費 していた」と 自 分 を 責 めている。<br />

そして、 次 のような 感 動 的 な 勧 告 をつけ 加 えた。「あなたは、 聖 職 禄 や 財 産 の 所 有<br />

ではなくて、 神 の 栄 光 と 魂 の 救 いを 考 えるようにせよ。 自 分 の 魂 以 上 にあなたの 家 を<br />

飾 らぬように 注 意 せよ。 何 よりも 徳 を 高 めることに 留 意 せよ。 貧 者 には、 敬 虔 と 謙 そ<br />

んをもって 接 し、あなたの 持 ち 物 を 饗 応 のために 消 費 してはならない。もしもあなた<br />

が 生 活 を 改 めず、ぜいたくをやめないならば、わたしが 今 懲 らしめられているように、<br />

きびしく 懲 らしめられることであろう。……あなたは、 幼 い 時 から、わたしの 教 えを<br />

受 けたから、わたしの 教 義 を 知 っている。それだから、これ 以 上 書 く 必 要 はない。し<br />

かし、わたしは、 主 の 憐 れみによって、あなたに 願 う。どうか、あなたは、わたしが<br />

陥 ったのを 見 たどんな 種 類 の 虚 栄 をもまねてはならない。」 手 紙 の 封 筒 には、「わが<br />

友 よ、わたしが 死 んだことを 確 かめるまでは、この 封 を 開 かないこと」 6 と 書 きそえて<br />

あった。 フスは、 旅 行 中 、 至 るところで、 彼 の 教 義 が 広 まり、 彼 の 運 動 が 歓 迎 されて<br />

いるのを 見 た。 群 衆 が 彼 を 出 迎 え、いくつかの 町 では 長 官 が 町 じゅう 彼 に 随 行 した。<br />

コンスタンツに 到 着 したフスは、 完 全 な 自 由 が 与 えられた。 皇 帝 の 通 行 券 には、 法<br />

王 の 個 人 的 な 保 護 の 保 証 もつけ 加 えられた。しかし、これら 厳 粛 な、またくり 返 し 保<br />

証 された 言 明 が 無 視 されて、フスは 間 もなく、 法 王 と 枢 機 卿 たちの 命 令 によって 逮 捕<br />

され、いまわしい 牢 獄 に 入 れられた。 後 に 彼 は、ライン 川 の 向 こうの 堅 固 な 城 に 移 さ<br />

れ、 囚 人 として 監 禁 された。 法 王 は、その 背 信 によって 益 するところなく、 間 もなく<br />

同 じ 牢 獄 にいれられた。 7 彼 は、 会 議 において、 殺 人 、 聖 職 売 買 、 姦 淫 のほかに、「 言<br />

うことさえ 恥 じるべき 罪 」、 最 も 下 劣 な 罪 を 犯 したことが 証 明 された。こうして、 会<br />

議 そのものの 宣 言 によって、 彼 はついに 三 重 冠 を 取 り 上 げられ、 投 獄 された。 彼 と 対<br />

立 していた 法 王 たちも 廃 されて、 新 しい 法 王 が 選 ばれた。<br />

71


国 際 協 定<br />

コンスタンツ 会 議 は、フスが 常 に 非 難 し 改 革 を 要 求 していた 司 祭 たちよりも 大 きな<br />

罪 を 犯 していた 法 王 自 身 を 退 位 させたにもかかわらず 改 革 者 フスをも 粉 砕 しようとし<br />

た。フスの 投 獄 は、ボヘミアの 人 々を 大 いに 怒 らせた。 有 力 な 貴 族 たちは、この 暴 挙<br />

に 対 して 激 しい 抗 議 を 会 議 に 申 し 入 れた。 通 行 券 の 侵 害 を 許 すことを 好 まなかった 皇<br />

帝 は、 彼 に 対 する 処 置 に 反 対 であった。しかし 改 革 者 の 敵 たちは、 激 しい 憎 しみと 堅<br />

い 決 意 を 抱 いていた。 彼 らは 皇 帝 の、 偏 見 と 恐 怖 と 教 会 に 対 する 熱 意 とに 訴 えた。<br />

「たとえ 皇 帝 や 王 たちから 通 行 券 を 交 付 されていたとしても、 異 端 および 異 端 の 嫌 疑<br />

を 受 けたものには、 約 束 を 守 るべきではない」ということを 証 明 するために、 彼 らは<br />

長 い 議 論 を 展 開 した。 8 こうして 彼 らは、その 主 張 を 通 した。<br />

牢 獄 内 の 湿 気 と 悪 い 空 気 のために、フスは 死 ぬほどの 熱 病 にかかった。 病 気 と 獄 中<br />

生 活 のために 衰 弱 したフスは、ついに 会 議 に 呼 び 出 された。 彼 は 鎖 につながれて、 彼<br />

を 保 護 することを 名 誉 と 誠 実 にかけて 誓 った 皇 帝 の 前 に 立 った。 長 期 にわたる 取 調 べ<br />

のあいだ、 彼 は 堅 く 真 理 を 主 張 した。そして、 教 会 と 国 家 の 高 位 高 官 たちのいならぶ<br />

前 で、 彼 は、 教 権 制 度 の 腐 敗 を、ありのままに 厳 かに 抗 議 した。 彼 の 教 義 を 取 り 消 す<br />

か、それとも 死 を 選 ぶか 求 められた 時 、 彼 は、 殉 教 者 の 運 命 を 受 け 入 れた。<br />

神 の 恵 みが 彼 を 支 えた。 最 後 の 宣 告 が 下 される 前 の 苦 難 の 数 週 間 にわたって、 天 か<br />

らの 平 安 が 彼 の 心 を 満 たした。 彼 は 友 人 にこう 書 いている。「わたしはこの 手 紙 を 牢<br />

獄 の 中 で、そしてつながれた 手 で 書 いている。 明 日 死 の 宣 告 を 受 けることを 予 期 しつ<br />

つ。……イエス・キリストの 助 けによって、われわれが、ふたたび、 来 世 の 快 い 平 和<br />

のうちに 再 士 会 するときに、 神 がどんなに 恵 み 深 く、ご 自 身 をわたしにあらわされた<br />

か、また、 誘 惑 と 試 練 のただ 中 にあって、どんなに 力 強 くわたしを 支 えてくたさった<br />

かを、あなたは 知 ることであろう。」 9<br />

彼 は、 陰 気 な 牢 獄 の 中 で、 真 の 信 仰 の 勝 利 を 予 見 した。 彼 は 夢 の 中 で、 自 分 が 福 音<br />

を 説 いていたプラハの 礼 拝 堂 に 帰 り、そこで、 自 分 が 壁 に 描 いたキリストの 絵 を、 法<br />

王 や 司 教 たちが 消 しているのを 見 た。「この 幻 は 彼 を 悩 ました。しかし 次 の 日 に、 彼<br />

はたくさんの 画 家 たちが、これらの 絵 をさらに 多 く、さらに 鮮 かな 色 彩 でもって、 回<br />

復 しているのを 見 た。その 仕 事 が 終 わるや 否 や、 画 家 たちは 集 まったおびただしい 群<br />

衆 に 叫 んだ。『さあ、 法 王 でも 司 教 でもくるがよい! 彼 らには、もう 決 して 消 し 去 る<br />

ことはできない』。」フスは 夢 の 話 をして、 次 のように 言 った。「わたしは、キリス<br />

トのみ 姿 は 消 し 去 ることができないことを 堅 く 信 じる。 彼 らはそれを 破 壊 しようとし<br />

たが、それは、わたしよりももっと 力 ある 説 教 者 たちによってすべての 人 の 心 に 鮮 か<br />

に 描 かれることであろう。」 10<br />

72


国 際 協 定<br />

さて、いよいよ 最 後 に、フスは 会 議 に 呼 び 出 された。それは、 皇 帝 、 諸 侯 、 使 臣 、<br />

枢 機 卿 、 司 教 、 司 祭 たちが 列 席 しているはなやかな 大 会 議 であった。また、その 成 り<br />

行 きを 見 ようとする 大 群 衆 が 集 まっていた。 良 心 の 自 由 を 確 保 するための 長 い 闘 争 に<br />

おける、この 最 初 の 偉 大 な 犠 牲 の 目 撃 者 たちが、キリスト 教 国 全 土 から 集 められてい<br />

たのである。 フスは 最 後 の 決 断 を 促 されたが、 取 り 消 すことを 拒 否 した。 彼 は、 恥 知<br />

らずにも 約 束 を 破 棄 した 王 を、するどい 目 でみつめて 言 った。「わたしは、ここにご<br />

臨 席 の 皇 帝 の 公 の 保 護 と 信 義 のもとに、 自 分 の 自 由 意 志 で、この 会 議 に 出 席 すること<br />

を 決 心 したものである。」 11 ジギスムントは、 会 衆 全 員 の 視 線 を 浴 びて、 顔 を 赤 くし<br />

た。<br />

宣 告 は 下 され、 聖 職 剥 奪 の 儀 式 が 開 始 された。 司 教 たちはフスに 僧 服 を 着 せた。フ<br />

スは 司 祭 の 服 を 着 た 時 、「われわれの 主 、イエス・キリストは、ヘロデからピラトの<br />

ところへ 送 られる 時 、 辱 しめのために 白 い 衣 を 着 せられた」と 言 った。 12 彼 はふたた<br />

び 取 り 消 すことを 勧 められたが、 人 々の 方 を 向 いて、こう 答 えた。「そういうことを<br />

すれば、わたしはどんな 顔 をして、 天 を 仰 ぐことができようか。わたしが 純 粋 な 福 音<br />

を 宣 べ 伝 えたたくさんの 人 々に、どのようにして 顔 をあわせることができようか。わ<br />

たしは 死 に 定 められたこの 哀 れな 体 よりも、 彼 らの 救 いをはるかに 重 大 視 する。」 彼<br />

の 祭 服 は 1 枚 ずつはずされていった。そして 司 教 たちは、 儀 式 におけるそれぞれの 役<br />

を 果 たしながら、 彼 をのろった。<br />

ついに、「 彼 らは、 恐 ろしい 悪 鬼 の 絵 が 描 かれ、 前 方 によく 目 立 つように『 大 異 端<br />

者 』という 字 が 書 かれたピラミッド 型 の 紙 の 冠 を、 彼 にかぶせた。『 主 イエスよ、わ<br />

たしは、 心 から 喜 んで、あなたのために 恥 辱 の 冠 をかぶります。あなたはわたしのた<br />

めにいばらの 冠 をかぶられました』とフスは 言 った。」<br />

彼 にこのような 装 いをさせた 後 、「 司 教 たちは、『 今 、われわれは、なんじの 魂 を<br />

悪 魔 にわたす』と 言 った。ヨハン・フスは、 天 を 仰 いで、『おお、 主 イエスよ、わた<br />

しは、わたしの 魂 をみ 手 にゆだねます。あなたはわたしを 贖 ってくださったからです』<br />

と 言 った。」 13 こうして 彼 は、 俗 権 の 手 に 渡 され、 刑 場 へと 引 かれていった。 彼 の 後<br />

には、 数 百 名 の 軍 人 たち、 美 衣 をまとった 司 祭 や 司 教 たち、コンスタンツの 住 民 など<br />

の 大 行 列 が 続 いた。 彼 が 火 刑 柱 に 縛 られ、 火 をつける 準 備 が 整 った 時 に、 殉 教 者 は、<br />

もう 1 度 、 誤 りを 捨 てて 死 を 免 れるよう 勧 告 された。しかしフスは 言 った。「いった<br />

いどんな 誤 りを 取 り 消 せと 言 うのか。わたしは、 何 も 悪 いことはしていない。わたし<br />

が 書 き 説 教 したことのすべては、 人 々を 罪 と 滅 びから 救 うためのものだったことは、<br />

神 があかしをしてくださる。したがって、わたしが 書 き 説 教 した 真 理 をわたしの 血 を<br />

もって 確 証 することは、わたしの 最 も 喜 びとするところである。」 14 彼 の 周 りに 火 が<br />

73


国 際 協 定<br />

点 じられた 時 、 彼 は、「ダビデの 子 、イエスよ、わたしをあわれんでください」と 歌<br />

い 出 した。そしてそれは、 彼 の 声 が 永 久 に 沈 黙 するまで 続 いた。<br />

彼 の 敵 たちでさえ、 彼 の 英 雄 的 な 態 度 に 強 く 心 を 打 たれた。ある 熱 心 な 法 王 教 徒 は、<br />

フスと、その 後 しばらくして 死 んだヒエロニムスとの 殉 教 を 描 写 して 言 った。「2 人<br />

とも、 最 後 の 時 が 近 づいた 時 、 忠 実 に 耐 えぬいた。 彼 らは、 婚 宴 に 行 くかのように 火<br />

刑 にのぞんだ。 彼 らは 苦 しみの 声 をあげなかった。 炎 が 上 った 時 に、 彼 らは 讃 美 歌 を<br />

歌 い 出 した。 激 しい 炎 も 彼 らの 歌 を 止 めることができなかった。」 15<br />

フスの 体 が 燃 えつきた 時 、 彼 の 灰 は、その 下 の 土 とともに 集 められて、ライン 川 に<br />

投 げ 捨 てられた。こうして、それは、 大 海 へと 運 ばれていった。 迫 害 者 たちは 彼 が 宣<br />

べ 伝 えた 真 理 を 根 絶 したものと 考 えたが、そうではなかった。 その 日 大 海 に 運 び 去 ら<br />

れた 灰 が、 地 のすべての 国 々にまかれた 種 のようになること、また、まだ 未 知 の 国 々<br />

において、それは 多 くの 実 を 結 び、 真 理 のあかしを 立 てるようになることに、 彼 らは<br />

考 え 及 ばなかった。コンスタンツの 会 議 場 で 叫 ばれた 声 は、その 後 の 各 時 代 を 通 じて<br />

鳴 りひびく 反 響 を 引 き 起 こした。フスはもはやいなかった。しかし、 彼 がそのために<br />

死 んだ 真 理 は、 決 して 滅 び 去 るものではなかった。 彼 の 信 仰 と 忠 誠 の 模 範 は、 拷 問 や<br />

死 に 面 しても、 真 理 のために 堅 く 立 つようにと、 多 くの 人 々を 励 ますのであった。 彼<br />

の 処 刑 は、ローマの 不 実 な 残 酷 さを 全 世 界 に 示 した。 真 理 の 敵 たちは、それとは 知 ら<br />

ずに、 彼 らが 撲 滅 しようとしていたその 運 動 を、 推 し 進 めていたのであった。<br />

しかし、もう 1 つの 火 刑 柱 が、コンスタンツに 立 てられねばならなかった。もう 1<br />

人 の 証 人 の 血 が、 真 理 のために 流 されねばならなかった。ヒエロニムスは、フスが 会<br />

議 に 行 くに 当 たり 別 れを 告 げて、 勇 敢 に 堅 く 立 つことを 勧 め、もし 彼 の 身 に 危 険 が 迫<br />

るならば、ヒエロニムス 自 身 がすぐに 援 助 に 行 くと 言 った。フスが 投 獄 されたことを<br />

聞 くや、この 忠 実 な 弟 子 は、 直 ちに 約 束 の 実 行 にとりかかった。 彼 は、 通 行 券 も 持 た<br />

ず、ただ 1 人 の 従 者 を 連 れて、コンスタンツに 向 かった。 到 着 してみると、ただ 自 分<br />

自 身 を 危 険 にさらすだけで、フスを 救 い 出 すなどということは 何 もできないことがわ<br />

かった。 彼 は 町 から 逃 れたが、 帰 途 捕 えられてかせをはめられ、 一 団 の 兵 隊 たちに 守<br />

られて 送 りかえされた。 彼 が 会 議 に 最 初 に 現 れて、 彼 に 対 する 訴 えの 答 弁 をしようと<br />

すると、「 火 刑 にせよ! 火 刑 にせよ!」という 叫 びがあがった。 16 彼 は 牢 獄 に 入 れら<br />

れ、 非 常 に 苦 しい 姿 勢 で 鎖 につながれて、パンと 水 しか 与 えられなかった。ヒエロニ<br />

ムスは、 獄 中 の 残 酷 な 取 り 扱 いのために、 数 か 月 後 に、 頻 死 の 病 気 になった。そこで<br />

敵 たちは、 彼 が 死 んでしまうことを 恐 れて、 幾 分 ゆるやかに 扱 ったが、それでも 彼 は<br />

1 年 間 、 牢 獄 に 閉 じ 込 められたままであった。<br />

74


国 際 協 定<br />

フスの 死 は、 法 王 教 徒 たちが 期 待 したような 結 果 をもたらさなかった。 彼 の 通 行 券<br />

に 対 する 侵 害 は、 人 々を 非 常 に 憤 慨 させた。そこで 会 議 は 安 全 策 をとり、ヒエロニム<br />

スを 火 刑 にせず、できれば 取 り 消 しを 強 要 しようとした。 彼 は、 会 議 場 にひき 出 され、<br />

取 り 消 すか、 火 刑 による 死 かのどちらかを 選 べと 言 われた。 投 獄 された 最 初 のころに<br />

死 に 処 せられたならば、その 後 に 受 けた 恐 ろしい 苦 難 と 比 較 して、まだしも 情 ある 処<br />

置 だったことであろう。しかし 今 、 獄 中 の 病 と 苦 しみ、 懸 念 と 不 安 の 苦 痛 、 友 人 たち<br />

との 離 別 、そしてフスの 死 による 失 望 のために、ヒエロニムスの 心 は 弱 り、 勇 気 はく<br />

じけた。そして 彼 は、 会 議 に 従 うことに 同 意 した。 彼 は、カトリックの 信 仰 を 固 守 す<br />

ることを 誓 った。そして、ウィクリフとフスが 教 えた 教 義 の 中 で、「 聖 い 真 理 」 以 外<br />

のものを 否 認 するという 会 議 の 決 議 を 承 認 した。 17<br />

ヒエロニムスはこうした 方 法 で、 良 心 の 声 をしずめ、 死 を 免 れようとした。しかし、<br />

1 人 牢 獄 のなかで 考 えた 時 、 彼 は、 自 分 が 何 をしたかをはっきりと 悟 った。 彼 はフス<br />

の 勇 気 と 忠 実 を 思 い、それにひきかえ、 自 分 が 真 理 を 拒 否 したことを 考 えた。 彼 は、<br />

自 分 が 仕 えることを 誓 った 主 、 自 分 のために 十 字 架 の 死 を 耐 え 忍 ばれた 主 のことを 考<br />

えた。 彼 が 信 仰 を 取 り 消 す 前 は、あらゆる 苦 難 のなかにあっても 慰 めと 神 の 恵 みの 確<br />

証 があった。しかし、 今 は、 後 梅 と 疑 惑 が 彼 の 心 を 苦 しめた。 彼 は、ローマと 和 解 す<br />

るには、なお 他 にも 取 り 消 さなければならないことがあるのを 知 っていた。 彼 が 踏 み<br />

込 んだ 道 は、 完 全 な 背 信 に 行 き 着 くしかないものであった。ここにおいて、 彼 は 決 心<br />

した。しばらくの 苦 難 を 逃 れるために、 自 分 の 主 を 拒 むようなことはすまいと 決 心 し<br />

たのである。<br />

まもなく 彼 は、ふたたび 会 議 に 引 き 出 された。 彼 の 服 従 は、まだ 裁 判 官 たちを 満 足<br />

させてはいなかった。 血 にかわいた 彼 らは、フスの 死 によって 刺 激 されて、 新 たな 犠<br />

牲 を 求 めてやまなかった。 ヒエロニムスは、 真 理 を 無 条 件 で 放 棄 するのでなければ、<br />

生 命 を 全 うすることはできなかった。しかし 彼 は、 信 仰 を 告 白 し、 殉 教 者 フスのあと<br />

に 続 いて 火 刑 になる 決 心 をしていた。<br />

彼 は 自 説 撤 回 を 取 り 消 した。そして、 死 を 前 にした 人 間 として、 弁 明 の 機 会 が 与 え<br />

られることを 厳 粛 に 要 求 した。しかし、 彼 の 言 葉 の 影 響 を 恐 れた 司 教 たちは、ただ 彼<br />

に 対 する 告 訴 に 対 して、それを 認 めるか 否 かだけを 答 えるようにと 言 い 張 った。ヒエ<br />

ロニムスは、そのような 残 酷 と 不 正 に 対 して 抗 議 した。「あなたがたはわたしを、 不<br />

潔 で 有 害 で 悪 臭 を 放 ち、 何 1 つない 恐 ろしい 牢 獄 に、340 日 も 閉 じ 込 めておいた。そ<br />

して 今 度 はわたしを 引 き 出 し、わたしの 憎 むべき 敵 には 耳 をかしながら、わたしの 言<br />

うことは 聞 こうともしない。……もしもあなたがたが、 真 に 賢 き 者 であり、 世 の 光 で<br />

あるならば、 正 義 に 対 して 罪 を 犯 さないように 気 をつけるべきである。わたしはとい<br />

75


国 際 協 定<br />

えば、1 人 の 弱 い 人 間 に 過 ぎない。わたしの 生 命 など、どうでもよいのだ。わたしが<br />

あなたがたに、 不 正 な 宣 告 を 下 さぬように 勧 めるのは、 自 分 のためよりも、あなたが<br />

たのためを 思 って 言 っているのだ」と 彼 は 言 った。 18<br />

彼 の 要 求 は、ついに 許 された。ヒエロニムスは、 彼 の 裁 判 官 たちの 前 でひざまずき、<br />

神 の 霊 が 彼 の 思 想 と 言 葉 とを 支 配 し、 真 理 に 反 することや、 主 にふさわしくないこと<br />

を 語 らないようにと 祈 った。 彼 にとって、この 日 、 最 初 の 弟 子 たちに 対 する 神 の 約 束<br />

が 成 就 したのである。「またあなたがたは、わたしのために 長 官 たちや 王 たちの 前 に<br />

引 き 出 されるであろう。…… 彼 らがあなたがたを 引 き 渡 したとき、 何 をどう 言 おうか<br />

と 心 配 しないがよい。 言 うべきことは、その 時 に 授 けられるからである。 語 る 者 は、<br />

あなたがたではなく、あなたがたの 中 にあって 語 る 父 の 霊 である」[マタイ 10:18<br />

~。<br />

ヒエロニムスの 言 葉 は、 彼 の 敵 たちの 中 にさえ、 驚 きと 賞 賛 を 引 き 起 こした。 彼 は、<br />

丸 1 年 の 間 牢 獄 に 監 禁 され、 読 むことも 見 ることさえもできずに、 非 常 な 肉 体 的 苦 痛<br />

と 精 神 的 不 安 のうちに 過 ごしたのであった。 しかし 彼 の 論 旨 は、なんの 妨 げもなく 研<br />

究 を 継 続 したもののように、 明 快 で 力 に 満 ちていた。 彼 は、 不 正 な 裁 判 官 たちによっ<br />

て 有 罪 の 宣 告 を 下 された 数 多 くの 聖 徒 たちを、 聴 衆 に 示 した。ほとんどどの 時 代 にお<br />

いても、その 時 代 の 人 々を 啓 蒙 しようとして、 恥 辱 をこうむって 追 放 され、そして 後<br />

年 になってあがめられた 人 々がいた。キリストご 自 身 も、 不 正 な 法 廷 において、 犯 罪<br />

人 として 有 罪 を 宣 告 された。<br />

ヒエロニムスは、 前 に 自 説 を 撤 回 した 時 に、フスの 有 罪 の 宣 告 は 正 当 であると 承 認<br />

したが、 悔 い 改 めを 宣 言 した 今 は、 殉 教 したフスの 無 罪 と 潔 白 を 証 言 した。「わたし<br />

は 子 供 の 時 から 彼 を 知 っている、 彼 は、ただしく 聖 く、 最 も 優 れた 人 物 である。 彼 は、<br />

罪 がないのに 有 罪 の 宣 告 を 受 けた。……そしてわたしも、また。——わたしは 死 ぬ 覚<br />

悟 でいる。わたしは、わたしの 敵 と 偽 りの 証 人 たちが 用 意 している 責 め 苦 に ひるまな<br />

い。 彼 らは、やがて、 欺 くことのできない 大 いなる 神 の 前 で、 自 分 たちの 欺 瞞 行 為 の<br />

申 し 開 きをしなければならないのだ。」 19<br />

ヒエロニムスは、 自 分 が 前 に 真 理 を 拒 否 したことに 心 を 責 められながら、 次 のよう<br />

に 続 けた。「わたしが 青 年 時 代 から 犯 したすべての 罪 のなかで、 最 もわたしの 心 を 悩<br />

まし、 激 しく 心 を 責 めたのは、この 重 大 な 場 所 で、ウィクリフに 対 して、また、わが<br />

師 、わが 友 である 聖 なる 殉 教 者 、ヨハン・フスに 対 してなされた 不 法 きわまる 宣 告 を<br />

承 認 したことである。しかり!わたしはそのことを 心 からざんげする。そしてわたし<br />

は、 不 名 誉 にも 死 を 恐 れて 彼 らの 教 義 を 否 認 したことを 告 白 する。それゆえに、 全 能<br />

76


国 際 協 定<br />

の 神 が、わたしの 罪 を 赦 し、 特 に 最 も 憎 むべきこの 罪 を 赦 してくださることを 嘆 願 す<br />

る。」 彼 は、 裁 判 官 たちを 指 し、 断 固 として 言 った。「あなたがたは、ウィクリフや<br />

ヨハン・フスを 罪 に 定 めたが、それは、 彼 らが 教 会 の 教 義 を 混 乱 させたからではなく<br />

て、ただ 彼 らが 聖 職 者 たちの 引 き 起 こす 醜 聞 —— 彼 らのぜいたく、 彼 らの 高 慢 、そし<br />

て 司 教 や 司 祭 たちのあらゆる 罪 悪 ——を、 非 難 攻 撃 したからである。 彼 らが 断 言 した<br />

ことは、 論 ばくすることのできないものであるが、わたしもまた 彼 らと 同 様 に 考 え、<br />

彼 らと 同 様 に 宣 言 する。」<br />

彼 の 言 葉 はさえぎられた。 司 教 たちは、 激 怒 にふるえて 叫 んだ。「これ 以 上 の 証 拠<br />

を 求 める 必 要 があろうか。 今 われわれは、われわれの 目 の 前 に、 最 も 頑 固 な 異 端 者 を<br />

見 ている!」<br />

この 騒 ぎにも 動 ぜず、ヒエロニムスは 叫 んだ。「なに!あなたがたは、わたしが 死<br />

を 恐 れていると 思 っているのか?あなたがたはこの 1 年 間 、わたしを 死 よりも 悲 惨 な<br />

恐 ろしい 牢 獄 に 監 禁 した。そして、トルコ 人 やユダヤ 人 、あるいは 異 教 徒 よりも 残 酷<br />

にわたしを 扱 った。わたしの 肉 は、 文 字 通 り、わたしの 骨 から 腐 って 落 ちた。それで<br />

もわたしは、つぶやきはしない。 悲 しむことは、 勇 気 ある 人 間 にふさわしくないから<br />

だ。しかし、キリスト 教 徒 に 対 して、かくも 野 蛮 な 行 為 が 行 われたことに、 驚 かざる<br />

を 得 ないのである。」 20<br />

ふたたび、 人 々が 怒 ってさわぎ 立 てたので、ヒエロニムスは 急 いで 牢 獄 に 送 りかえ<br />

された。しかし、そこに 集 まっていた 人 々の 中 には、 彼 の 言 葉 に 深 い 感 銘 を 受 けて、<br />

彼 の 生 命 を 救 おうとしたものもあった。 彼 は、 教 会 の 高 い 地 位 の 人 々の 訪 問 を 受 け、<br />

会 議 に 従 うように 勧 告 を 受 けた。ローマに 反 対 することをやめるならば、その 報 賞 と<br />

して、 輝 かしい 世 的 栄 誉 が 約 束 された。しかしヒエロニムスは、 世 の 栄 光 が 提 示 され<br />

た 時 の 主 イエスと 同 様 に、ゆるがず 堅 く 立 った。<br />

「わたしが 間 違 っていることを 聖 再 から 証 明 してもらいたい。そうすれば、わたし<br />

は、 取 り 消 そう」と 彼 は 言 った。 「 聖 書 !なんでも 聖 書 によって 判 断 すべきであると<br />

いうのか。 教 会 が 解 釈 しないで、いったいだれが 理 解 することができようか?」と 誘<br />

惑 者 の 1 人 は 叫 んだ。 ヒエロニムスは 答 えた。「われわれの 救 い 主 の 福 音 よりも、 人<br />

間 の 伝 説 のほうが 信 じる 価 値 があるというのか。パウロは、 彼 が 手 紙 を 書 き 送 った 人<br />

々に 人 間 の 伝 説 に 従 うのではなくて、『 聖 書 を 調 べ』よと 勧 めたのである。」<br />

「 異 端 だ!わたしはこれまで 長 い 間 あなたに 嘆 願 してきたことを 悔 いる。あなたは<br />

悪 魔 に 取 りつかれているということがわかった」というのが 答 えであった。 21 間 もな<br />

く、 彼 に 有 罪 の 宣 告 が 下 った。 彼 は、フスが 生 命 をささげたのと 同 じ 場 所 に 引 かれて<br />

77


国 際 協 定<br />

いった。 彼 の 顔 は 喜 びと 平 安 に 輝 き、 彼 は 歌 を 歌 いながら 進 んでいった。 彼 はキリス<br />

トをみつめていた。 彼 にとって、 死 は 恐 ろしいものではなかった。 刑 の 執 行 者 が 火 を<br />

つけるために 彼 の 後 ろにまわった 時 、 殉 教 者 は 叫 んだ。「かまわず 前 に 来 て、わたし<br />

の 目 の 前 で 火 をつけなさい。それがこわいくらいなら、わたしはここに 来 てはいな<br />

い。」<br />

炎 が 彼 を 包 んだ 時 、 彼 の 最 後 の 言 葉 は 祈 りであった。「 主 、 全 能 の 父 よ。どうか、<br />

わたしをあわれんでください。わたしの 罪 を 赦 してください。あなたは、わたしが 常<br />

にあなたの 真 理 を 愛 したことを 知 っておら れます。」 22 彼 の 声 はやんだ、しかし 彼 の<br />

くちびるは 祈 りつづけて 動 いていた。 全 部 か 燃 えつきた 時 、 殉 教 者 の 灰 は 土 と 共 に 集<br />

められて、フスの 時 と 同 じようにライン 川 に 投 げいれられた。 [1643.<br />

こうして、 神 の 忠 実 な 証 人 たちは 死 んだ。しかし、 彼 らが 宣 言 した 真 理 の 光 —— 彼<br />

らの 雄 々しい 模 範 の 光 ——は、 消 し 去 ることかできなかった。 当 時 すてに 世 界 に 臨 み<br />

つつあった 夜 明 けの 光 を 止 めようとすることは、 太 陽 をあともどりさせようとするの<br />

と 同 じことであった。<br />

フスの 処 刑 は、ボヘミアに 怒 りと 恐 怖 の 火 を 点 じた。 全 国 民 は、 彼 が 司 祭 たちの 悪<br />

息 と 皇 帝 の 変 節 によって 犠 牲 にされたことを 感 じた。 彼 は 忠 実 な 真 理 の 教 師 であった<br />

ことが 省 言 され、 彼 を 死 に 処 した 会 議 は 殺 人 罪 に 問 われた。 彼 の 教 義 は、 今 までにな<br />

かったほど 人 の 注 目 を 引 いた。 法 王 の 布 告 によって、ウィクリフの 著 書 は 火 で 焼 かれ<br />

ていた。しかし、 焼 かれなかったものがその 隠 されたところから 持 ち 出 されて、 聖 書<br />

や、あるいは 人 々が 手 に 入 れ 得 た 分 冊 と 関 連 させながら 研 究 された。こうして 多 くの<br />

人 々が 改 革 主 義 を 受 け 入 れるようになった。<br />

フスの 殺 害 者 たちは、 彼 の 運 動 の 勝 利 を 手 をこまねいて 見 てはいなかった。 法 王 と<br />

皇 帝 は 力 を 合 わせてこの 運 動 を 粉 砕 しようとし、ジギスムントの 軍 隊 がボヘミアに 送<br />

りこまれた。 しかし、1 人 の 救 済 者 があらわれた。ジシュカは、 戦 争 が 起 こると 間 も<br />

なく 失 明 してしまったが、しかし 当 時 の 最 もすぐれた 将 軍 の 1 人 て、ホヘミア 人 たち<br />

の 指 導 者 てあった。ボヘミア 人 たちは、 神 の 助 けと 自 分 たちの 運 動 の 正 しいことを 信<br />

じて、 自 分 たちを 攻 撃 する 最 強 の 軍 隊 に 対 抗 した。 皇 帝 は、 何 度 となく 軍 勢 を 召 集 し<br />

て、ボヘミアを 攻 略 しようとしたが、 無 残 な 敗 北 を 喫 するだけであった。フス 派 の 人<br />

々は 死 の 恐 怖 をのりこえていたので、 何 ものも 彼 らに 対 抗 できなかった。 戦 争 が 起 こ<br />

って 数 年 後 に、 勇 敢 なジシュカが 死 んだか、フロコピオスが 彼 のあとを 継 いだ。プロ<br />

コピオスは、ジシュカと 同 じく 勇 敢 で 老 巧 な 将 軍 であり、いくつかの 点 では、いっそ<br />

う 有 能 な 指 導 者 てあった。<br />

78


国 際 協 定<br />

ボヘミア 人 の 敵 は 盲 目 の 将 軍 の 死 を 知 って、 劣 勢 をばん 回 する 絶 好 の 機 会 がきたと<br />

思 った。 法 王 は、フス 派 に 対 する 十 字 軍 を 宣 言 し、ふたたびおびただしい 軍 勢 かボヘ<br />

ミアに 送 りこまれた。しかしそれは、 大 敗 北 に 終 わったに 過 ぎなかった。 再 度 の 十 字<br />

軍 が 布 告 された。ヨーロッパのすべての 法 王 教 国 において、 人 員 と 金 と 軍 需 品 が 徴 集<br />

された。 群 衆 が 法 王 の 旗 のもとに 集 合 し、フス 派 の 異 端 者 たちをついに 全 滅 させ 得 る<br />

と 考 えた。 大 軍 は、 必 勝 を 期 して、ボヘミアに 侵 入 した。 人 々は、これを 撃 退 するた<br />

めに 立 ち 上 かった。 両 軍 は、 川 を 隔 てて 向 かい 合 うまでに 接 近 した。「 十 字 軍 は、 数<br />

においてはるかに 優 勢 であった。しかし 彼 らは、はるばる 対 戦 するためにやって 来 た<br />

フス 派 に 対 し、 川 を 渡 って 突 撃 するのではなくて、 黙 って 相 手 の 軍 勢 を 見 ていた。」<br />

23 すると 突 然 、 軍 隊 は 不 思 議 な 恐 怖 におそわれた。あの 強 力 な 軍 隊 か、 一 撃 も 加 える<br />

ことなく、 目 に 見 えない 力 におい 散 らされるように 四 散 してしまった。フス 派 の 軍 隊<br />

によって、 多 くの 者 が 殺 された。 彼 らは 逃 亡 兵 を 追 跡 して、おびただしい 戦 利 品 を 手<br />

に 収 め、ボヘミア 人 は 戦 争 によって 衰 えるどころか 豊 かになったのであった。<br />

それから 数 年 後 、 新 しい 法 王 が 立 って、もう 1 度 別 の 十 字 軍 が 起 こされた。 以 前 と<br />

同 様 に、 人 員 も 資 金 もヨーロソパのすベての 法 下 教 国 から 徴 集 された。このような 危<br />

険 な 企 てに 加 わるものに 対 する 勧 誘 は、 非 常 なものであった。 十 字 軍 に 参 加 するもの<br />

は、どんな 極 悪 な 犯 罪 もみな 許 された。すへての 戦 死 者 には、 天 で 大 きな 報 賞 が 約 束<br />

され、 生 存 者 には 戦 場 での 栄 誉 と 富 が 約 束 された。 再 び 大 軍 か 召 集 され、 国 境 を 越 え<br />

てボヘミアに 侵 入 した。フス 派 の 軍 勢 は 彼 らの 前 から 退 却 し、 侵 入 軍 を 国 深 く 誘 い 入<br />

れて、 勝 利 をすでに 得 たかのように 彼 らに 思 わせた。やがてプロコピオスの 軍 隊 は 踏<br />

みとどまって 敵 に 向 きな おり、 反 撃 を 加 えた。 十 字 軍 は、 自 分 たちの 失 策 に 気 づき、<br />

陣 地 にとどまって 敵 の 襲 来 を 待 った。しかし、 軍 隊 の 進 軍 の 音 が 聞 こえてくると、フ<br />

ス 派 の 姿 かまだ 見 えないのに、 十 字 軍 はまた 恐 慌 状 態 に 陥 った。 諸 侯 も 将 軍 も、そし<br />

て 王 一 般 の 兵 隊 も、 武 器 を 投 げ 捨 てて 四 散 した。 侵 入 軍 の 指 揮 官 であった 法 王 の 使 節<br />

は、おびえて 混 乱 した 軍 勢 を 引 きもどそうと 努 力 したがむだであった。 必 死 の 努 力 に<br />

もかかわらず、 彼 自 身 も、 敗 走 者 の 群 れにまきこまれてしまった。 十 字 軍 は 完 全 に 敗<br />

北 し、ふたたび、おびただしい 戦 利 品 が 勝 利 者 の 手 に 入 った。<br />

こうして、 再 度 、ヨーロッパの 最 強 国 家 の 大 軍 、 戦 いの 訓 練 と 装 備 を 整 えた 勇 敢 な<br />

戦 士 たちの 軍 勢 が、 一 戦 をも 交 えずに、 弱 小 国 家 の 防 備 軍 の 前 に 敗 れ 去 った。これは、<br />

神 の 力 のあらわれであった。 侵 入 軍 は、 超 自 然 的 な 恐 怖 におそわれた。パロの 軍 勢 を<br />

紅 海 で 打 ち 破 り、ミデアンの 軍 勢 をギデオンと 彼 の 300 人 の 兵 隊 の 前 から 逃 走 させ、<br />

高 慢 なアソシリアの 軍 勢 を 一 晩 のうちに 倒 された 神 が、ふたたび 手 を 伸 べて、 圧 迫 者<br />

の 力 を 砕 かれたのである。「 彼 らは 恐 るべきことのない 時 に 大 いに 恐 れた。 神 はよこ<br />

79


国 際 協 定<br />

しまな 者 の 骨 を 散 らされるからである。 神 か 彼 らを 捨 てられるので、 彼 らは 恥 をこう<br />

むるであろう」[ 詩 篇 53:。<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 武 力 で 征 服 すろことができないのに 気 づいて、ついに 外 交<br />

手 段 を 用 いるようになった。つまり、これは 妥 協 であって、ボヘミア 人 に 良 心 の 自 由<br />

を 与 えると 言 いながら、 実 は 彼 らをローマの 権 力 に 引 き 渡 すものであった ボヘミア<br />

人 は、ローマとの 和 解 の 条 件 を 4 つあけた。 聖 書 の 自 由 説 教 、 教 会 全 体 が 聖 餐 のハン<br />

とぶどう 酒 の 両 方 にあずかる 権 利 と 礼 拝 における 自 国 語 のの 使 用 、 聖 職 者 をすべての<br />

公 職 公 権 から 除 外 すろこと、そして、 犯 罪 を 犯 した 場 合 、 聖 職 者 も 一 般 信 者 も 同 様 に<br />

司 法 権 に 問 われることであった。 法 王 側 はついに、「フス 派 の 4 項 目 を 受 け 入 れるこ<br />

とに 同 意 したか、その 解 釈 権 利 、ずなわち、その 正 確 な 意 味 の 決 定 権 は 会 議 に——―<br />

言 いかえると、 法 王 皇 帝 に—— 属 するとした。」 24 このような 条 件 に 基 づいて 条 約 が<br />

結 ばれ、ローマは、 戦 争 によって 得 ることができなかったことを 偽 りと 欺 瞞 によって<br />

得 たのである。なぜなら、ローマは、 聖 書 と 同 様 にフス 派 の 条 件 にも 自 分 かってな 解<br />

釈 を 下 して、 自 分 に 都 合 のよいようにその 意 味 を 曲 けることかできたからである。<br />

多 くのボヘミア 人 は、それが 自 分 たちの 自 由 を 裏 切 るものであるのを 見 て、 条 約 に<br />

同 意 することができなかった。 不 和 と 分 裂 が 起 こり、ついには 争 って 血 を 流 すまでに<br />

全 った。この 紛 争 のなかで、 高 潔 なプロコピオスは 倒 れ、ボヘミアの 自 由 は 失 われ<br />

た。 こうして、フスとヒエロニムスを 異 切 ったジギスムントは、ボヘミアの 王 となり、<br />

ボヘミア 人 の 権 利 を 確 保 する 誓 約 をしていたにもかかわらず、 法 王 権 を 確 立 しようと<br />

した。しかし、ローマに 屈 服 して 彼 の 得 たものはほとんどなかった。 彼 の 生 涯 は、 約<br />

20 年 にわたって、 労 苦 と 危 険 に 満 ちたものであった。 長 い 無 益 な 戦 争 のために、 軍 隊<br />

は 弱 くなり、 国 庫 はからになった そして、 今 、 王 にはなったが、1 年 で 死 んでしま<br />

った。 国 家 が、 今 にも 内 乱 が 起 こりそうになっている 中 で、 彼 は 悪 名 を 残 して 死 ん<br />

だ。<br />

暴 動 、 闘 争 、 流 血 が 相 次 いで 起 こった。ふたたび、 外 敵 がボヘミアに 侵 入 した。そ<br />

して 国 内 の 紛 争 は、 国 を 混 乱 に 陥 れ 続 けた。 福 音 のために 堅 く 立 った 者 たちは、 血 な<br />

まぐさい 迫 害 にあった。 かつての 仲 間 たちはローマと 契 約 を 結 んで、その 誤 りを 受 け<br />

入 れたので、 昔 からの 信 仰 を 固 守 する 人 々は 別 の 教 会 を 組 織 して、それを「 同 胞 一 致<br />

教 会 」〔ボヘミア 兄 弟 団 〕と 呼 んだ。このために 彼 らは、 各 方 面 から 悪 く 言 われた。<br />

しかし、 彼 らは 堅 く 立 ってゆるがなかった。 彼 らは 森 や 洞 穴 に 逃 れなけれはならなか<br />

ったが、それでも 集 まって 神 のみ 言 葉 を 読 み、 礼 拝 を 共 にした。 彼 らは、ひそかに 各<br />

国 に 派 遣 した 使 者 たちを 通 じて、ここかしこに、「 真 理 を 告 白 しているものが、この<br />

田 に 数 名 あの 町 に 数 名 と 孤 立 しており、 彼 らと 同 様 に 迫 害 の 対 象 になっていることを<br />

80


国 際 協 定<br />

知 った。また、アルプスの 山 の 中 には、 聖 書 を 基 礎 にした、 昔 からの 教 会 があって、<br />

ローマの 偶 像 的 腐 敗 に 抗 議 しているのを 知 った。」 25 この 知 らせは 非 常 な 喜 びをもっ<br />

て 迎 えられ、ワルド 派 キリスト 教 徒 との 通 信 が 開 始 された。<br />

ボヘミア 人 は 福 音 を 固 守 して 迫 害 の 夜 を 過 ごし、その 最 も 暗 黒 な 時 においてもなお、<br />

朝 を 待 つ 見 張 りのように、 彼 らの 目 を 地 平 線 に 向 けていた。「 彼 らは 不 運 な 境 遇 にあ<br />

った。しかし、…… 彼 らは、フスが 最 初 に 語 り、ヒエロニムスによって 繰 りかえされ<br />

た 言 葉 、すなわち、 夜 明 けまでには 1 世 経 なければならないという 言 葉 を 忘 れなかっ<br />

た。この 言 葉 は、タボル 派 〔フス 派 の 人 々〕にとって、 奴 隷 生 活 をしていたイスラエ<br />

ルの 部 族 に 対 して『わたしはやがて 死 にます。 神 は 必 ずあなたがたを 顧 みて、この 国<br />

から 連 れ 出 し[てくださるでしょう]』と 言 ったヨセフの 言 葉 のようなものであっ<br />

た。」 26 「15 世 紀 の 末 期 において、 兄 弟 団 の 教 会 は、 徐 々にではあったが 確 実 に 増<br />

加 していった。 彼 らは、 妨 害 などがなくなったわけではなかったが、 比 較 的 安 らかに<br />

過 ごすことができた。16 世 紀 の 初 めには、 彼 らの 教 会 は、ボヘミアとモラビアにおい<br />

て 200 を 数 えた。」 27 「 火 と 剣 という 破 壊 的 激 怒 を 逃 れて、フスが 予 告 した 夜 明 けを<br />

見 ることを 許 された 残 りの 者 たちは、 非 常 に 多 かった。」 28<br />

81


国 際 協 定<br />

第 7 章 革 命 の 始 まり<br />

教 会 を、 法 王 教 の 暗 黒 から、 純 粋 な 真 理 の 光 に 導 くために 召 された 人 々の 中 の 第 ・<br />

人 者 は、マルチン・ルターであった 熱 心 で、 献 身 的 て、 神 のほかなにも 恐 れること<br />

を 知 らず、 聖 書 以 外 のどんな 信 仰 の 基 準 をも 認 めなかったので、ルターは、 実 に、そ<br />

の 時 代 のための 人 物 であった 神 は 彼 を 用 いて、 教 会 の 改 革 と 田 界 の 啓 蒙 のために 大<br />

きな 働 きを 成 し 遂 げられた。 [1646.<br />

ルターは、 福 音 の 最 初 の 使 者 たちと 同 様 に、 貧 しい 階 級 の 出 であった。 彼 は 幼 年 時<br />

代 を、ドイツの 農 民 の 質 素 な 家 庭 で 過 ごした。 彼 の 父 は 鉱 夫 で、 毎 日 の 労 苦 によって<br />

彼 の 学 費 をかせいでいた。 父 親 は 彼 を 弁 護 士 にしようと 思 った。しかし 神 は、 彼 を、<br />

幾 世 紀 にもわたって 徐 々にではあったが、 建 設 されつつあった 大 神 殿 の 建 設 者 にしよ<br />

うとされた。 困 難 、 窮 乏 、 厳 しい 訓 練 は、 無 限 の 知 恵 の 神 が、ルツーにその 生 涯 の 重<br />

要 な 任 務 に 対 する 備 えをさせられたところの 学 校 であった。 [1646.<br />

ルターの 父 は、 強 固 で 活 発 な 精 神 と、 品 性 の 偉 大 な 力 の 持 ち 主 であって、 正 直 と 決<br />

断 と 率 直 さを 持 った 人 であった。 彼 は、 結 果 かどうなろうと、 義 務 を 忠 実 に 果 たす 人<br />

であった。 彼 の 確 かな 判 断 力 は、 修 道 院 制 度 に 対 する 不 信 感 をいだかせた。ルターが<br />

彼 の 許 可 を 得 ないで 修 道 士 院 に 入 った 時 、 彼 は 非 常 に 腹 を 立 てた。 父 と 子 の 和 解 には、<br />

2 年 かかったが、その 時 でも 彼 の 意 見 は 変 わらなかった。 ルターの 両 親 は、 子 供 たち<br />

の 教 育 と 訓 練 に 非 常 に 注 意 を 払 った。 彼 らは 子 供 たちに、 神 を 知 ることと、キリスト<br />

者 の 美 徳 を 実 実 行 することとを 教 えるように 努 めた。 父 親 は、 息 子 が 主 の 御 名 を 覚 え、<br />

いつかは 神 の 真 理 の 発 展 を 助 けるようになることを 祈 ったが、ルターはこれをたびた<br />

び 耳 にした。 両 親 は、その 労 苦 の 生 活 の 中 で 与 え 得 るあらゆる 道 徳 的 知 的 訓 練 の 機 会<br />

を、 熱 心 に 活 用 した。<br />

彼 らは、 子 供 たちが 信 心 深 く 有 用 な 生 活 を 送 るよう 準 備 させようと、 熱 心 に 忍 耐 強<br />

く 努 力 した。 彼 らが 厳 格 で 強 固 な 品 性 の 持 ち 主 であったために、 時 には 厳 しすぎるこ<br />

ともあった。しかしルター 自 身 、ある 点 においては 彼 らの 誤 りを 認 めながらも、 彼 ら<br />

のしつけは 非 難 するよりは 賛 成 すべきものであると 思 った。 ルターは、 年 少 の 時 に 送<br />

られた 学 校 で、 非 常 に 厳 しい、 乱 暴 なまでの 扱 いを 受 けた 彼 の 1 両 親 は 非 常 に 貧 し<br />

かったので、 彼 が 別 の 町 にある 学 校 へ 家 から 通 った 時 には、 一 時 、 家 々を 歌 を 歌 いな<br />

がらまわることによって 食 を 得 なければならず、 空 腹 に 苦 しんだこともしばしばであ<br />

った。 当 時 一 般 にゆきわたっていた、 陰 うつで 迷 信 的 宗 教 観 は、 彼 の 心 を 恐 怖 で 満 た<br />

した。 彼 は、 夜 、 悲 哀 におそわれて 床 につき、 暗 い 将 来 をながめておののいた。そし<br />

82


国 際 協 定<br />

て、 神 を、 慈 愛 に 満 ちた 天 父 としてではなく、 厳 格 で 容 赦 しない 裁 判 官 、 残 酷 な 暴 君<br />

のように 考 えて、 常 に 恐 怖 におびえていた。<br />

しかしルターは、 多 くの 大 きな 失 望 の 中 にありながらも、 彼 の 心 を 引 きつけた 道 徳<br />

的 知 的 卓 越 の 高 い 標 準 に 向 かって、 決 然 として 進 んていった。 彼 は、 知 識 を 渇 望 して<br />

いた。そして 彼 は、 熱 心 で 実 際 的 な 性 質 であったので、はでで 表 面 的 なものよりは、<br />

堅 実 で 有 用 なものを 望 んだ。<br />

18 歳 の 時 、 彼 はエルフルト 大 学 に 入 った。この 頃 には 彼 の 境 遇 は、 年 少 の 頃 より<br />

は 順 調 で、 将 来 に 明 るい 希 望 が 持 てた。 彼 の 両 親 は、 節 約 と 勤 勉 によって、 相 当 の 資<br />

産 を 得 ていたので、 必 要 な 援 助 を 全 部 支 給 することができた。そして、 彼 は、 賢 明 な<br />

友 人 たちの 感 化 を 受 けて、 前 に 受 けた 教 育 の 陰 うつな 感 化 を、いくぶんか 少 なくする<br />

ことができた。 彼 は、 第 一 流 の 著 者 たちの 研 究 に 専 念 し、 彼 らの 最 も 重 要 な 思 想 を 努<br />

めて 心 に 蓄 え、 賢 明 な 人 々の 思 想 を 自 分 のものにした。 彼 は、かつての 教 師 たちの 苛<br />

酷 な 訓 練 下 にあってさえ、 早 くから 頭 角 を 現 したが、ここではよい 環 境 に 恵 まれて、<br />

彼 の 知 力 は 急 速 に 発 達 した。<br />

彼 は、 記 憶 力 が 強 く、 想 像 力 に 富 み、 論 理 力 も 豊 かで、たゆまず 研 究 に 励 んたので、<br />

間 もなく 学 友 たちの 間 で 第 一 人 者 となった。 知 的 訓 練 は 彼 の 理 解 力 を 円 熟 させ、 知 力<br />

を 活 発 にし、 知 覚 を 鋭 敏 にして、 彼 を 彼 の 生 涯 の 闘 争 のために 準 備 させつつあっ<br />

た。 ルターの 心 に 宿 った 主 を 恐 れる 思 いは、 彼 を 目 的 堅 固 なものにするとともに、 神<br />

のみ 前 で 心 から 謙 遜 なものにした 彼 は、 自 分 か 神 の 助 けに 依 存 していることを 常 に<br />

感 じていた。そして、 毎 日 祈 りをもって 1 日 を 始 めることを 忘 れなかった。 彼 の 心 は、<br />

絶 えず、 導 きと 支 えとを 祈 り 求 めていた。「よく 祈 ることは、 勉 強 の 半 ば 以 上 を 成 し<br />

遂 けることだ」と 彼 はよく 言 った。 1<br />

ある 日 、ルターは、 大 学 の 図 書 館 で 本 を 調 べていた 時 に、ラテン 語 の 聖 書 を 発 見 し<br />

た。 彼 は、こうした 本 を 見 たことがなかった。そうしたものの 存 在 さえ 知 らなかった<br />

のである。 彼 は、 福 音 書 や 使 徒 書 簡 の 一 部 が、 公 の 礼 拝 の 時 に 朗 読 されるのを 聞 き、<br />

それが 聖 書 の 全 部 であると 思 っていた。ところが 彼 は、 今 初 めて、 神 の 言 葉 の 全 体 を<br />

見 たのである。 畏 敬 と 驚 さをもって、 彼 はその 神 聖 なペ 一 ジをくった。 彼 は、 胸 をと<br />

きときさせなから、 生 命 の 日 葉 を 自 分 で 読 み、 時 々 息 をついては「 神 がこのような 本<br />

をわたしに 下 さったなら!」と 叫 ぶのであった。 2 天 使 が 彼 のそばにいて、 神 のみ 座<br />

からの 光 が、 真 理 の 宝 を 彼 に 理 解 させた。 彼 は、 神 の 怒 りを 招 くことを 常 に 恐 れてい<br />

たが、 今 、これまでになく、 自 分 の 罪 人 としての 状 態 を 痛 感 した。<br />

83


国 際 協 定<br />

彼 は 罪 からの 解 放 と 神 との 平 和 を 熱 心 に 求 めて、ついに 修 道 院 に 入 り、 修 道 院 生 活<br />

に 身 をささげることになった。ここで 彼 は、 最 も 卑 しい 仕 事 をさせられ、 戸 ごとに 食<br />

を 乞 い 歩 かせられた。 彼 は、 人 々から 尊 敬 と 理 解 を 受 けることを 最 も 願 う 年 齢 であっ<br />

た。そして、このような 卑 しい 勤 めは、 彼 の 生 まれながらの 感 情 からすれは、 非 常 に<br />

苦 しいものであった。しかし 彼 は、それが 自 分 の 罪 のゆえに 必 要 なことであると 信 じ<br />

てこの 屈 辱 に 耐 えた。<br />

彼 は、 日 ごとの 勤 めから 寸 暇 を 見 いだしては、 眠 ろ 時 間 もそまつな 食 事 をとる 時 間<br />

も 惜 しんで、 研 究 に 励 んだ。 彼 は 何 よりも 神 のみ 言 葉 の 研 究 に 喜 びを 感 じた。 彼 は、<br />

修 道 院 の 壁 に 聖 書 が 鎖 でつながれているのをみつけたので、よくそこへ 行 った。 彼 は<br />

罪 の 自 覚 が 深 まるにつれて、 自 分 自 身 の 行 いによって、 赦 しと 平 和 を 得 ようとした。<br />

彼 は 非 常 に 厳 格 な 生 活 を 送 り、 断 食 や 夜 の 勤 行 、また 体 をむち 打 って、 生 まれながら<br />

の 悪 をおさえようとしたが、しかしこうした 修 道 院 生 活 によっては、なんの 解 放 も 得<br />

られなかった。 彼 は、 神 のみ 前 に 立 ち 得 るような 心 の 清 めを 得 るためには、どんな 犠<br />

牲 をも 恐 れなかった。「わたしは、 実 に 敬 虔 な 修 道 士 僧 であった。わたしは、 言 葉 で<br />

は 表 現 できないほど 厳 格 に、わたしの 修 道 会 の 規 則 に 従 った。もし 修 道 僧 が、 修 道 僧<br />

としての 働 きによって 天 国 に 行 くことができるならば、わたしは 間 違 いなくその 資 格<br />

があったであろう。……もしあれ 以 上 続 いたならばわたしは 苦 行 の 果 てに 死 んでしま<br />

ったことであろう」と 彼 は 後 に 言 っている。 3 こうした 厳 しい 苦 行 の 結 果 、 彼 は 衰 弱<br />

し、 失 神 の 発 作 を 起 こした。そして、 後 になっても、それから 完 全 に 回 復 することは<br />

てきなかった。しかし、これらすべての 努 力 にもかかわらず、 彼 は 心 の 悩 みから 救 わ<br />

れなかった。 彼 は、ついに、 絶 望 のふちに 追 いやられた。<br />

ルターが 万 事 休 すと 思 った 時 に、 神 は、 彼 のために 1 人 の 友 人 、 援 助 者 を 起 こされ<br />

た。 敬 虔 なシュタウピッッがルターに 神 のみ 言 葉 を 示 して、 自 分 から 目 をそらし、 神<br />

の 律 法 を 犯 したことに 対 する 永 遠 の 刑 罰 について 考 えることをやめ、 彼 の 罪 を 赦 す 救<br />

い 主 イエスを 仰 ぎ 見 るように 命 じた。「 罪 のために 自 分 を 苦 しめることをせず、 贖 い<br />

主 の 腕 の 中 に 自 分 自 身 を 投 げ 入 れよ。 彼 を 信 頼 せよ。 彼 の 生 涯 の 義 と 彼 の 死 による 贖<br />

罪 に 信 頼 し、…… 神 のみ 子 に 耳 を 傾 けよ、 彼 はあなたに 神 の 恵 みの 確 証 を 与 えるため<br />

に、 人 となられた。まずあなたを 愛 された 彼 を 愛 せよ。」 4 このように、この 憐 れみ<br />

の 使 者 は 語 った。 彼 の 言 葉 は、ルターの 心 に 深 い 感 銘 を 与 えた。 長 い 間 抱 いていた 誤<br />

りについての 多 くの 苦 闘 のあとで、 彼 は 真 理 をつかむことができ、 彼 の 悩 み 苦 しんだ<br />

心 に 平 和 が 与 られた。<br />

ルターは 司 祭 に 任 じられ、 修 道 院 から 召 されて、ウイッテンベルク 大 学 の 教 授 にな<br />

った。ここで、 彼 は、 原 語 による 聖 書 の 研 究 に 没 頭 した。 彼 は 聖 書 の 講 義 を 始 めた。<br />

84


国 際 協 定<br />

そして、 詩 篇 、 福 音 書 、 使 徒 書 簡 などは、 喜 んで 聞 く 多 くの 聴 衆 の 心 を 啓 発 した。 彼<br />

の 友 人 であり 先 輩 であったシュタウピッツは、 彼 に、 説 教 壇 に 上 って 神 のみ 言 葉 を 説<br />

くように 勧 めた。ルターは、 自 分 はキリストにかわって 人 々に 語 る 価 値 がないと 感 じ<br />

てためらった。 彼 は、 長 い 間 の 苦 悩 の 後 、 初 めて、 友 人 たちの 勧 めに 応 じた。すでに<br />

彼 は 聖 書 に 精 通 しており、 神 の 恵 みが 彼 に 宿 っていた。 彼 の 雄 弁 は 聴 衆 を 魅 了 し、 彼<br />

の 明 快 で 力 強 い 真 理 の 提 示 は、 彼 らの 知 性 を 納 得 させ、 彼 の 熱 情 は 彼 らの 心 を 感 動 さ<br />

せた。<br />

それでも、ルターは、カトリック 教 会 の 実 子 であり、それ 以 外 の 何 ものにもなる 考<br />

えはなかった。 神 の 摂 理 によって、 彼 はローマを 訪 問 することになった。 彼 は、 途 中<br />

国 修 道 院 に 泊 りながら、 歩 いて 旅 を 続 けた。 彼 はイタリアの 修 道 院 において、その 富<br />

と 壮 大 さとぜいたくを 見 、 非 常 に 驚 いた。 修 道 士 たちは、 王 侯 のような 歳 入 を 得 て、<br />

華 麗 な 部 屋 に 住 み、 高 価 な 美 服 を 着 て、ぜいたくな 食 卓 をかこんでいた。ルターは、<br />

このような 光 景 と 自 分 自 身 の 自 制 と 片 難 のり 活 とを 比 較 して、 疑 惑 に 心 を 痛 めた。 彼<br />

の 心 は 混 乱 してきた。<br />

ついに 彼 は、7 つの 丘 の 都 〔ローマ〕を 遠 方 に 望 み 見 た。 彼 は 感 きわまって 地 上 に<br />

ひれ 伏 し、「 聖 なるローマよ、わたしはあなたに 敬 意 を 表 す」と 叫 んだ。 5 彼 は 都 に<br />

入 り、 教 会 を 訪 問 し、 司 祭 や 修 道 士 たちがくりかえし 語 る 驚 くべき 物 語 を 聞 き、 求 め<br />

られるままにあらゆる 儀 式 を 行 った。 何 を 見 ても 彼 を 驚 きと 恐 怖 に 陥 れるものばかり<br />

であった。 彼 は、 罪 悪 があらゆる 階 級 の 聖 職 者 に 及 んでいるのを 見 た。 高 位 聖 職 者 た<br />

ちが 品 の 悪 い 冗 談 を 言 うのを 聞 いた。そして、ミサの 時 にさえ 見 られる、 彼 らの 恐 る<br />

べき 不 敬 そ 行 為 に 戦 慄 した。 修 道 士 や 市 民 と 交 わってみると、 放 蕩 や 乱 行 が 目 につい<br />

た。どこに 目 を 向 けても、 神 聖 であるへきところに 瀆 神 行 為 を 見 た。 彼 は、 次 のよう<br />

に 書 いている。 「ローマにおいて、どんな 罪 や 恥 ずべき 行 為 が 行 われているかは、 想<br />

像 もできない。 実 際 に 見 聞 きしなければ 信 じられないほどである。『もし 地 獄 がある<br />

ならば、ローマはその 上 に 建 っている。それはあらゆる 罪 が 生 じてくるところの、 底<br />

知 れぬ 穴 である』と 一 般 に 言 われているほどだ。」<br />

当 時 、 法 王 の 教 書 が 発 布 されて、「ピラトの 階 段 」をひざまずいて 上 るものにはみ<br />

な、 免 罪 が 約 束 されていた。この 階 段 は、 救 い 主 がローマの 法 廷 を 出 る 時 に 降 りられ<br />

たもので、 奇 跡 的 にエルサレムからローマに 移 されたものであるといわれていた。ル<br />

ターは、ある 日 、 敬 虔 な 思 いをもってこの 階 段 を 上 っていた。すると 突 然 、 雷 のよう<br />

な 声 が、「 信 仰 による 義 人 は 生 きる」と 言 ったように 思 われた[ローマ 1:。 彼 はすぐ<br />

に 立 ち 上 がり、 恥 と 恐 怖 の 念 にかられて、その 場 を 急 いで 去 った。この 聖 句 は、 彼 の<br />

一 生 を 通 じて、 彼 に 力 を 与 えた。その 時 以 来 、 彼 は、 人 間 行 為 によって 救 いを 得 よう<br />

85


国 際 協 定<br />

とすることの 誤 りと、キリストの 功 績 を 絶 えず 信 しろことの 必 要 を、これまてよりも<br />

っと 明 瞭 に 悟 った。 彼 の 目 は 開 かれた。そして、 法 王 制 の 惑 わしに 2 度 と 陥 ることが<br />

なかった。 彼 がローマに 背 を 向 けた 時 、 彼 の 心 もローマから 離 れ 去 っていた。そして<br />

この 時 から、 隔 たりは 大 きくなり、ついに 彼 は、 法 王 教 会 との 関 係 を 全 く 断 つに 全 っ<br />

た。<br />

ルターは、ローマからの 帰 国 後 、ウィッテンベルク 大 学 から 神 学 博 士 の 学 位 を 授 け<br />

られた。 今 、 彼 は、これまでなかったほどに、 自 由 に 彼 の 愛 する 聖 書 の 研 究 をするこ<br />

とができた。 彼 は 全 生 涯 を 通 じて、 法 王 たちの 言 葉 や 教 義 ではなく、 神 のみ 言 葉 を 注<br />

意 深 く 学 んて、 忠 実 に 説 教 する、という 厳 粛 な 誓 いを 立 てていた。 彼 はもはや、 単 な<br />

る 修 道 士 や 教 授 ではなくて、 正 式 の 聖 書 解 釈 者 であった。 彼 は、 真 理 に 飢 えかわいて<br />

いた 神 の 群 れを 養 う 牧 者 として 召 されたのであった。キリスト 者 は、 聖 書 の 権 威 に 基<br />

づいた 教 理 以 外 は 受 け 入 れてはならないと、 彼 は 断 言 した。この 言 葉 は、 法 王 至 上 権<br />

の、まさにその 根 底 を 危 うくすろものであった。この 言 葉 には、 宗 教 改 革 の 極 めて 重<br />

大 な 原 則 が 含 まれていたのである。<br />

ルターは、 人 間 の 理 論 を 神 のみ 言 葉 よりも 高 めることの 危 険 を 認 めた。 彼 は、 恐 れ<br />

ることなく、 学 者 たちの 思 弁 的 な 不 信 仰 を 攻 撃 し、 長 い 間 人 々を 支 配 してきた 哲 学 や<br />

神 学 に 反 対 した。 彼 は、そうした 研 究 は 無 価 値 であるばかりか 有 害 であると 公 然 と 非<br />

難 し、 聴 衆 の 心 を 哲 学 者 や 神 学 者 の 詭 弁 から 引 き 離 して、 預 言 者 と 使 徒 たちが 示 した<br />

永 遠 の 真 理 に 向 りようと 努 めた。 彼 の 言 葉 を 熱 心 に 聞 いていた 群 衆 にとって、 彼 の 伝<br />

えた 使 命 は 実 に 貴 いものであった。 彼 らは、 今 まで、このような 教 えを 聞 いたことが<br />

なかった。 救 い 主 の 愛 の 福 音 、 彼 の 贖 罪 の 血 による 赦 しと 平 和 の 確 証 は、 彼 らの 心 に<br />

喜 びを 与 え、 不 滅 の 希 望 を 持 たせた。ウィソテンベルクにおいて 点 じられた 光 は 全 地<br />

に 広 がり、 時 の 終 わりまで、その 輝 きを 増 すのであった。<br />

しかし、 光 とやみとは 調 和 することができない。 真 理 と 誤 謬 との 間 には、 抑 えるこ<br />

とのてきない 戦 いがある。その 一 方 を 支 持 して 擁 護 することは、もう 一 方 を 攻 撃 して<br />

打 ち 倒 すことである。 救 い 主 ご 自 身 も、 次 のように 言 われた。「 地 上 に 平 和 をもたら<br />

すために、わたしがきたと 思 うな。 平 和 ではなく、つるぎを 投 げ 込 むためにきたので<br />

ある」[マタイ 10:。ルターは、 宗 教 改 革 が 始 まってから 数 年 後 に、 次 のように 言<br />

っ た。「 神 は、わたしを 導 かれるのではなくて、わたしを 前 に 押 し 出 される。 神 はわ<br />

たしを 連 れ 去 られる。わたしは、 自 分 ではどうにもならない。わたしは 静 かに 暮 らし<br />

たいと 思 うのに、 騒 ぎと 革 命 のなかに 投 げこまれる。」 7 彼 は 今 まさに、 戦 いの 中 へ<br />

とかりたてられようとしていた。<br />

86


国 際 協 定<br />

ローマ 教 会 は 神 の 恵 みを 商 品 にしていた。 両 替 人 の 台 が 祭 壇 のそばにおかれた[マ<br />

タイ 21:12 参 照 ]。そして、 売 買 する 者 の 声 がやかましくひびいた。ローマに 聖 ペテ<br />

ロ 教 会 を 建 設 するための 資 金 募 集 という 名 目 のもとに、 法 王 の 権 威 によって 免 罪 符 [ 贖<br />

宥 状 ]が 公 然 と 売 り 出 された。 神 を 礼 拝 するための 会 堂 が、 犯 罪 の 代 価 をもって 建 てら<br />

れ、その 礎 石 が、 不 義 の 値 をもって 置 かれようとしていた。しかし、ローマの 勢 力 拡<br />

大 の 千 段 そのものが、ローマの 権 力 と 勢 力 に 対 して 致 命 的 打 撃 を 与 えるものとなった。<br />

そして、これが、 法 王 制 に 対 する 最 も 手 ごわい 強 敵 を 呼 び 起 こし、 法 王 の 座 を 動 揺 さ<br />

せてその 頭 上 から 三 重 冠 をつき 落 とすような 戦 いを 招 いたのであった。<br />

ドイツにおいて 免 罪 符 の 販 売 を 委 ねられたのは、テッツェルという 人 であった。 彼<br />

は、 社 会 と 神 の 律 法 に 対 して、 最 も 卑 劣 な 犯 罪 を 犯 した 人 物 であった。しかし 彼 は、<br />

その 犯 罪 の 刑 罰 を 免 除 されて、 法 王 の 金 銭 ずくで 無 節 操 な 企 てを 促 進 するために 雇 わ<br />

れたのである。 彼 は、 非 常 なずうずうしさで、 根 も 葉 もないことを 口 にし、 無 知 でだ<br />

まされやすい 迷 信 的 な 人 々を 欺 くために、 不 思 議 な 物 語 を 聞 かせた。もしも 人 々が 神<br />

の 言 葉 を 持 っていたならば、このように 欺 かれなかったことであろう。 型 書 か 人 々の<br />

手 に 与 えられていなかったのは、 彼 らを 法 王 権 の 支 配 下 において、その 野 心 的 な 指 導<br />

者 たちの 権 力 と 富 を 増 大 するためであった。 8<br />

テッツェルが 町 に 到 着 すると、 彼 の 前 に 使 いの 者 が 行 って、「 神 と 法 王 の 恵 みが、<br />

あなたの 門 口 に 来 た」と 告 げ 知 らせ。 9 そして 人 々は、 天 から 彼 らのところに 下 った<br />

神 ご 自 身 を 迎 えるかのように、この 冒 瀆 もはなはだしい 偽 り 者 を 歓 迎 したのであった。<br />

汚 らわしい 売 買 が 教 会 の 中 で 行 われ、テソツェルは 説 教 壇 に 上 って 免 罪 符 をほめ 上 け、<br />

これは 神 の 最 も 尊 い 賜 物 であると 言 った。 彼 は 免 罪 箱 の 功 徳 を 述 べて、これを 買 う 者<br />

は、これから 犯 そうと 思 う 罪 もみな 赦 される、しかも「 悔 い 改 めさえ 必 要 ではない」<br />

と 言 った。 10 そればかりではなくて、 彼 は 聴 衆 に、 免 罪 符 は 生 きている 者 だけでなく<br />

て、 死 者 をも 救 う 力 がある、 金 が 箱 の 底 に 当 たって 音 がした 瞬 間 に、それが 支 払 われ<br />

た 魂 は 煉 獄 を 逃 れて 天 国 に 行 くのである、と 保 証 した。 11<br />

魔 術 師 シモンが、 奇 跡 を 行 う 力 を、 使 徒 たちから 金 銭 で 買 おうとした 時 に、ペテロ<br />

は 彼 に 答 えて、「おまえの 金 は、おまえもろとも、うせてしまえ。 神 の 賜 物 が、 金 で<br />

得 られるなどと 思 っているのか」と 言 った[ 使 徒 行 伝 8:。しかしテッツェルの 申 し 出<br />

に 対 し、 多 くの 人 々は 熱 心 に 飛 びついた。 金 銀 が 彼 の 金 庫 に 流 れ 込 んだ。 悔 い 改 めと<br />

信 仰 、そして 熱 心 に 努 力 して 罪 に 抵 抗 し 勝 利 することによって 得 られる 救 いよりは、<br />

金 で 買 うことができる 救 いのほうが、たやすく 得 られるのであった。<br />

87


国 際 協 定<br />

免 罪 符 の 教 義 は、ローマ 教 会 の 学 識 ある 信 心 深 い 人 々から 反 対 されてきた。そして、<br />

理 性 と 啓 示 の 両 面 から 見 ても 非 常 に 矛 盾 したこの 主 張 を、 信 じない 人 々も 多 かった。<br />

この 邪 悪 な 売 買 に、あえて 反 対 の 声 をあげる 高 位 聖 職 者 はいなかった。しかし、 人 々<br />

の 心 は 混 乱 し、 不 安 になった。そして 多 くの 者 は、 神 がだれかを 起 こして、 教 会 のき<br />

よめのためにお 働 きにならないであろうかと 熱 心 にたずねた。 ルターは、 依 然 として<br />

最 も 厳 格 な 法 王 教 徒 であったが、 免 罪 符 を 扱 う 者 たちの 冒 瀆 的 な 僣 越 な 態 度 に 激 しい<br />

嫌 悪 をおほえた。 彼 自 身 の 会 衆 のなかに、 免 罪 符 を 買 ったものが 多 くいた。そしてま<br />

もなく、 彼 らは、 罪 を 悔 いて 改 革 したいという 理 由 からではなくて、 免 罪 符 を 理 由 に<br />

して、 司 祭 のところに 来 て 罪 を 告 白 し、 赦 しを 期 待 するようになった。ルターは、 彼<br />

らに 赦 しを 与 えることを 拒 んだ。そして、もしも 彼 らか 梅 い 改 めて 生 活 を 改 めるので<br />

なければ、その 罪 のために 滅 びなければならないと 警 告 した。 彼 らは 非 常 に 当 惑 し、<br />

テッツェルのところへ 行 って 彼 らの 聴 罪 師 が 免 罪 符 を 拒 否 したことを 訴 え、なかには<br />

大 胆 に 返 金 を 迫 る 者 もあった。テッツェルは 激 怒 した。 彼 は 恐 ろしいのろいの 言 葉 を<br />

はき、 町 の 広 場 に 火 をたかせて、「 自 分 は、この 最 も 神 聖 な 免 罪 符 に 反 対 する 異 端 者<br />

はみな 火 刑 にする 命 令 を、 法 王 から 受 けている」と 宣 言 した。 12<br />

今 やルターは、 真 理 の 闘 士 としての 彼 の 仕 事 に、 大 胆 に 乗 り 出 した。 彼 は 説 教 増 か<br />

ら、 熱 心 で 厳 粛 な 警 告 の 声 をあげた。 彼 は 人 々に、 罪 のいまわしい 性 質 を 告 げ、 人 間<br />

は 自 分 自 身 の 行 為 によっては、そのとがを 減 じることも 罰 を 避 けることもできないと<br />

教 えた。 神 に 対 する 悔 い 改 めと、キリストに 対 する 信 仰 以 外 に、 罪 人 を 救 うことがで<br />

きるものはない。キリストの 恵 みを 買 うことはできない。それは、 無 償 で 与 えられる<br />

賜 物 である。 彼 は 人 々に、 免 罪 符 を 買 ったりしないで、 十 字 架 につけられた 贖 い 主 を<br />

信 仰 をもって 見 つめることを 勧 めた。<br />

彼 は、 自 分 が 難 行 や 苦 行 によって 救 いを 得 ようとしたが 得 られなかった 苦 い 経 験 を<br />

語 り、 自 分 を 見 ないでキリストを 信 じることによって 平 和 と 喜 びを 得 たことを、 聴 衆<br />

にはっきり 述 べたのである。 テッツェルが 売 買 と 不 敬 慶 な 主 張 を 続 けたので、ルター<br />

はこのはなはだしい 悪 弊 に 対 して、もっと 効 果 的 な 抗 議 をする 決 心 をした。まもなく、<br />

その 機 会 がやって 来 た。ウィッテンベルクの 城 教 会 には 多 くの 遺 物 があって、 祝 祭 日<br />

には 一 般 に 公 開 され、その 時 に 教 会 に 出 席 して 告 白 をする 者 はみな、 罪 が 完 全 に 赦 さ<br />

れるのであった。そのようなわけで、そういう 祝 祭 日 には、 人 々がたくさん 集 まって<br />

きた。 祝 祭 日 のうちで 最 も 重 要 なものの 1 つで、 力 型 節 というのが 近 づついていた。<br />

その 前 日 、ルターは、すでに 教 会 へと 進 んで 行 く 群 衆 に 加 わって、 免 罪 符 の 教 義 に 反<br />

対 する 95 か 条 の 提 題 を 書 いた 紙 を 扉 にはった。 彼 は、この 提 題 に 反 対 するすべての<br />

人 に 対 して、 翌 日 大 学 において 喜 んで 答 弁 することを 宣 言 した。<br />

88


国 際 協 定<br />

彼 の 提 題 は 広 く 一 般 の 注 目 をひいた。 人 々はそれを 何 度 も 読 み、 各 方 面 に 伝 えた。<br />

大 学 や 町 全 体 に、 大 きな 興 奮 が 起 こった。これらの 論 題 は、 罪 を 赦 し、その 罰 を 免 除<br />

する 力 が、 法 王 にも 他 のどんな 人 にも 与 えられていないことを 爪 していた。そうした<br />

たくらみ 全 体 が、もともとまやかしごと—— 人 々の 迷 信 に 乗 じて 金 を 巻 き 上 げるため<br />

の 策 略 ——であって、その 偽 りの 主 張 に 信 頼 するすべての 名 を 滅 ぼそうとするサタン<br />

の 計 略 であった。 論 題 はまた、キリストの 福 音 は 教 会 の 最 も 価 値 のある 宝 であること、<br />

そしてそこにあらわされた 神 の 恵 みは、 悔 い 改 めと 信 仰 とによって 求 めるすべての 者<br />

に、 惜 しみなくうえられるものであることを 明 示 していた。<br />

ルターの 論 題 は 討 論 を 呼 びかけた。しかしだれもその 挑 戦 に 応 じなかった。 彼 が 提<br />

出 した 問 題 は、 数 口 のうちにドイツ 全 国 に 広 まり、 数 週 間 のうちには 全 キリスト 教 国<br />

に 伝 えられた。 教 会 内 で 一 般 に 行 われていた 罪 悪 を 見 て、それを 嘆 いていたが、その<br />

進 行 をどうやって 止 めるかを 知 らなかった 多 くのローマ 教 徒 たちは、 論 題 を 読 んて 非<br />

常 に 喜 び、そこに 神 の 声 を 認 めた。 彼 らは、 法 王 庁 から 発 する 堕 落 の 潮 流 を 阻 止 する<br />

ために、 神 が 恵 み 深 いみ 手 をのべられたと 感 じた。 諸 侯 や 長 官 たちも、 自 己 の 決 定 に<br />

対 しては 他 のだれの 訴 えをも 入 れないような 尊 大 な 権 力 が 阻 止 されることを、ひそか<br />

に 喜 んだ。<br />

ところが、 罪 を 愛 する 迷 信 的 な 群 衆 は、 彼 らの 恐 怖 を 和 らげていた 詭 弁 が 一 掃 され<br />

て 戦 標 した。 悪 賢 い 聖 職 者 たちは、 犯 罪 を 是 認 する 彼 らの 仕 事 が 妨 害 され、 彼 らの 利<br />

益 が 危 険 にひんしたのを 見 て、 大 いに 怒 り、その 欺 瞞 を 擁 護 するために 立 ち 上 がった。<br />

改 革 者 は 手 きびしい 告 発 にあった。ある 者 たちは、ルターが 軽 率 に 衝 動 的 な 行 動 を 起<br />

こしたと 言 って 非 難 した。 他 の 者 たちは、 彼 を 借 越 であると 非 難 し、 彼 は 神 に 導 かれ<br />

ているのではなくて、 高 慢 とでしゃばりから 行 動 したと 言 った。ルターは 答 えて 言 っ<br />

た。「だ れでも、 新 しい 急 見 を 発 表 する 時 には、いかにも 高 慢 に 見 え、 論 争 をひき 起<br />

こすかのように 非 難 されるのを 知 らない 人 があろうか。……なぜ、キリストとすべて<br />

の 殉 教 者 たちは 殺 されたのか? それは、 彼 らが、その 時 代 の 知 恵 を 高 慢 にも 軽 べつ<br />

するように 見 え、まず 昔 からの 神 託 を 謙 そんに 聞 くことをせずに、 自 分 たちの 新 しい<br />

説 を 主 張 したからであろ。」<br />

また、 彼 は、 面 った。「わたしのすろことは、 人 間 の 思 慮 分 別 ではなくて、 神 の 勧<br />

告 に 基 づいて 行 われる。この 働 きが 神 のものであれば、だれがそれを 止 め 得 ようか。<br />

もしそれが 神 のものでないならば、だれがそれを 押 し 進 め 得 ようか。わたしの 意 志 、<br />

彼 らの 意 志 、われわれの 意 志 ではない。 天 にいます、 聖 なる 父 よ、それは、あなたの<br />

意 志 であります。」 13<br />

89


国 際 協 定<br />

ルターは 聖 霊 に 動 かされて 彼 の 働 きを 開 始 したのであったが、それを 推 進 するため<br />

には 激 しく 闘 わなければならなかった。 敵 の 非 難 、 彼 の 目 的 に 対 する 誤 解 、 彼 の 品 性<br />

や 動 機 に 対 する 正 で 悪 意 に 満 ちた 非 難 などが、 洪 水 のように 彼 を 襲 い、 彼 はそれに 悩<br />

まされた。 彼 は、 教 会 においても 学 校 においても、 人 々の 指 導 者 たちは 喜 んで 彼 と 一<br />

致 して 改 革 のために 努 力 するものと 確 信 していた。 高 い 地 位 の 人 々から 受 けた 激 励 の<br />

言 葉 が、 彼 に 喜 びと 希 望 を 与 えた。すでに 彼 は、 教 会 の 輝 かしい 夜 明 けを 予 見 してい<br />

たのである。それだのに、 激 励 は 非 難 と 有 罪 の 宣 告 に 変 わった。 教 会 と 国 家 の 両 方 の<br />

高 官 たちの 多 くは、 彼 の 主 張 の 真 実 であることを 確 信 したけれども、これらの 真 理 を<br />

受 け 入 れるならば 大 変 化 が 起 こることに、すぐに 気 づいたのである。 人 々を 啓 蒙 し 改<br />

革 することは、 事 実 上 、ローマの 権 力 をくつがえすことであって、その 金 庫 に 流 れ 込<br />

んでいる 幾 千 の 流 れを 止 め、 法 王 制 の 指 者 たちの 浪 費 とぜいたくを 大 いに 削 減 するこ<br />

とになるのであった。そればかりか、 人 々に、キリストだけに 救 いを 仰 ぎつつ、 責 任<br />

あろ 人 間 として 思 考 し 行 動 するように 教 えることは、 法 王 の 座 をくつがえし、ひいて<br />

は、 彼 ら 自 身 の 権 威 をも 失 わせるのであった。このようなわけで、 彼 らは、 神 から 与<br />

えられた 知 識 を 拒 んだ。そして、 神 が 彼 らを 啓 蒙 するためにお 送 りになった 人 間 に 反<br />

対 することにより、キリストと 真 理 とに 対 抗 したのである。<br />

ルターは 自 分 自 身 を 見 た 時 震 えおののいた。ただ 1 人 の 人 間 が、 地 上 最 強 の 権 力 に<br />

反 対 しているのであった。 彼 は、 自 分 がほんとうに 神 に 導 かれて 教 会 の 権 威 に 対 抗 し<br />

ているのかどうか 疑 う 時 もあった。「 地 上 の 王 たちと 全 世 界 がおそれおののく 法 王 の<br />

威 光 に 反 対 するわたしは、いったいだれであろうか。…… 最 初 の 2 年 間 、わたしがど<br />

んなに 苦 しんだか、また、どんな 失 望 、いやどんな 絶 望 に 陥 ったかは、だれにもわか<br />

らない」と 彼 は 書 いている。 14 しかし 彼 は、 落 胆 したまま 放 置 されてはいなかった。<br />

人 間 の 支 持 を 失 った 時 、 彼 は、ただ 神 を 仰 いだ。そして、その 全 能 の 腕 にたよれば 絶<br />

対 に 安 全 であることを 学 んだ。<br />

ルターは、 宗 教 改 革 の 友 人 に 次 のように 書 いた。「われわれは 研 究 や、 知 力 によっ<br />

て 聖 書 を 理 解 することはできない。まず 第 一 になすべきは、 祈 って 始 めることである。<br />

主 が 大 きな 憐 れみによって、 主 のみ 言 葉 に 対 する 真 の 理 解 を 与 えてくださるよう 祈 り<br />

求 めねばならない。<br />

『 彼 らはみな 神 に 教 えられるであろう』と 神 ご 自 身 が 言 われたように、 神 のみ 言 葉<br />

の 解 釈 者 は、この 言 葉 の 著 者 以 外 にはないのである。 自 分 自 身 の 努 力 、 自 分 自 身 の 理<br />

解 にたよらず、 全 く 神 に 頼 り、 神 の 霊 の 感 化 に 頼 るべきである。これは、 体 験 した 者<br />

の 言 葉 として、 信 じてほしい。」 15 ここに、 神 は 自 分 たちに 現 代 に 対 する 厳 粛 な 真 理<br />

を 他 の 人 々に 伝 えるよう 求 めておられると 感 しる 者 への 重 大 な 教 訓 がある。この 真 理<br />

90


国 際 協 定<br />

は、サタンの 憎 しみと、 彼 かたくらんだ 作 り 話 を 愛 する 人 々の 憎 しみをかき 立 てる。<br />

悪 の 勢 力 との 闘 いにおいては、 知 力 や 人 間 の 知 恵 以 上 の 何 物 かが 必 要 なのである。<br />

敵 が、 習 慣 や 伝 説 、あるいは 法 王 の 主 張 や 権 威 に 訴 えた 時 に、ルターは、 聖 書 、し<br />

かも 聖 書 のみをもって 彼 らに 対 抗 した。 聖 書 には、 彼 らが 答 えろことの できない 論 証<br />

があった。そこで、 形 式 主 義 と 迷 信 の 奴 隷 たちは、ユダヤ 人 がキリストの 血 を 求 めた<br />

ように、 彼 の 血 を 叫 び 求 めた。ローマの 熱 心 党 は 叫 んだ。「 彼 は 異 端 だ。このような<br />

恐 ろしい 異 端 者 を 1 時 間 でも 生 かしておくことは 教 会 に 対 する 大 逆 罪 である。 直 ちに<br />

彼 の 処 刑 台 を 作 ろう。」 16 しかし、ルターは 彼 らの 怒 りの 犠 牲 にならなかった。 神 は、<br />

彼 がなすべき 仕 事 を 持 っておられた。そして、 彼 を 守 るために 天 使 が 送 られた。しか<br />

し、ルターから 尊 い 光 を 受 けた 多 くの 者 が、サタンの 怒 りの 目 標 となって、 真 理 のた<br />

めに 恐 れることなく 責 め 苦 にあい、 殺 された。<br />

ルターの 教 えは、ドイツ 全 国 の 識 者 の 注 意 を 引 いた。 彼 の 説 教 と 著 書 から 光 が 輝 き<br />

出 て、 幾 千 という 人 々を 目 覚 めさせ 啓 発 した。 生 きた 信 仰 が、 教 会 を 長 い 間 縛 ってい<br />

た 生 気 のない 形 式 主 義 に 取 って 氏 わりつつあった。 人 々は、 日 ごとに、ローマ 教 の 迷<br />

信 を 信 じなくなった。 偏 見 の 防 壁 がくずれつつあった。ルターがすべての 教 義 とすべ<br />

ての 主 張 を 吟 味 した 神 の 言 葉 は、 人 々の 心 をえぐるもろ 刃 の 剣 のようであった。 至 る<br />

所 で 霊 的 向 上 の 欲 求 が 起 こった。 長 年 起 こったこともないような、 義 に 対 する 飢 えと<br />

渇 きが 全 る 所 に 起 こった。 長 い 間 、 人 間 の 儀 式 と 地 上 の 仲 保 者 に 向 けられていた 人 々<br />

の 目 が、 今 や 悔 い 改 めと 信 仰 をもってキリストと 彼 の 十 字 架 とに 向 けられた。<br />

このような 関 心 が 広 く 行 きわたったことは、なおいつそう 法 王 側 の 当 局 者 たちを 恐<br />

れさせた。ルターは、 異 端 の 訴 えに 答 えるためにローマに 出 頭 せよという 命 令 を 受 け<br />

た。 彼 の 友 人 たちは、この 命 令 に 震 えおののいた。 彼 らは、すでにイエスの 殉 教 者 た<br />

ちの 血 を 飲 んだあの 腐 敗 した 都 において、どんな 危 険 が 彼 を 待 っているかをよく 知 っ<br />

ていた。 彼 らは、ルターがローマへ 行 くことに 反 対 し、 彼 がドイツにおいて 調 べを 受<br />

けるように 願 い 出 た。<br />

この 取 り 決 めは、ついに 実 現 することになり、 法 酷 の 使 節 が、 取 り 凋 へのために 仔<br />

命 された。 法 王 からこの 使 節 に 伝 えられた 指 示 によれは、ルターはすてに 異 端 者 とし<br />

て 宣 告 されていた。それゆえに 使 節 は、「 直 ちに 起 訴 して、 身 柄 を 拘 束 する」ように<br />

命 じられていた。もしも 彼 が 自 分 の 説 を 固 守 して 譲 らず、また 使 節 が 彼 を 逮 捕 しそこ<br />

ねた 時 には、「ドイツ 全 国 において、ルターから 法 律 の 保 護 を 奪 い、 彼 についた 者 を<br />

みな、 追 放 し、のろい、 破 門 する」 権 限 が 彼 に 与 えられていた。 17 そればかりでなく<br />

て、 法 王 は、この 危 険 な 異 端 を 根 絶 するために、ルターと 彼 の 支 持 者 たちを 捕 らえて<br />

91


国 際 協 定<br />

ローマの 裁 判 所 に 送 ろことを 怠 ったものは、 皇 帝 を 別 として、 教 会 や 国 家 のどんな 高<br />

官 であろうともすべての 者 を 破 門 するように、 使 節 に 命 じた。<br />

ここに 法 王 教 の 真 の 精 神 があらわれている。この 記 録 全 体 のなかに、キリスト 教 の<br />

原 則 の 痕 跡 どころか、 一 般 の 正 義 の 痕 跡 さえみられない。ルターは、ローマから 遠 く<br />

離 れており、 自 分 の 立 場 を 説 明 したり 弁 護 したりする 機 会 がなかった。にもかかわら<br />

ず、 彼 は、その 事 件 が 調 査 される 前 に、 即 刻 異 端 の 宣 告 を 受 け、しかもその 同 じ 日 に、<br />

戒 告 、 告 訴 、 裁 判 、 判 決 を 受 けている。そしてこうしたことはすべて、 教 会 あるいは<br />

国 家 において 唯 一 で 最 高 の 無 謬 の 権 威 をもっ 聖 なる 父 と 自 称 する 者 によって 行 われた<br />

のである。 ルターが 真 の 友 の 同 情 と 勧 告 を 大 いに 必 要 としていたこの 時 に、 神 は 摂 理<br />

のもとに、メランヒトンをウィッテンベルクに 送 られた。メランヒトンは、 年 は 若 く、<br />

謙 そんでひかえめな 態 度 の 人 であったが、 彼 の 公 正 な 判 断 、 該 博 な 知 識 、 人 を 引 きつ<br />

ける 雄 弁 は、 彼 の 高 潔 で 厳 正 な 品 性 とともに、 一 般 の 賞 賛 と 尊 敬 を 受 けた。 彼 は 優 れ<br />

た 才 能 に 恵 まれていたが、その 温 順 な 性 質 のほうが 目 立 っていた。 彼 はまもなく、 福<br />

音 の 熱 心 な 使 徒 となり、ルターの 最 も 信 頼 する 友 、 貴 重 なと 持 者 となった。 彼 の 温 順<br />

慎 重 できちょうめんな 活 動 は、ルターの 勇 敢 で 精 力 的 な 面 をよく 補 った。 彼 らが 協 力<br />

したことは 宗 教 改 革 に 力 をそえ、ルターにとって、 大 きな 励 ましの 源 であった。<br />

審 問 の 場 所 はアウグスブルクに 決 まり、 改 革 者 ルターは 徒 歩 でそこへ 出 発 した。 人<br />

々は、 彼 の 身 の 安 全 を 憂 慮 した。 途 中 で 彼 を 捕 らえて 殺 害 するという 脅 迫 が 公 然 と 行<br />

われていたので、 彼 の 友 人 たちは 行 かないようにたのんだ。 彼 らはルターに、しばら<br />

くウィッテンベルクを 離 れて、 彼 を 快 く 保 護 してくれる 者 のところに 避 難 するように<br />

勧 めさえした。しかし、 彼 は、 神 が 彼 を 置 かれた 場 所 を 離 れようとしなかった。どん<br />

なあらしが 吹 きよせようとも、 彼 は 忠 実 に 真 理 を 保 持 し 続 けなければならなかった。<br />

彼 は 次 のように 1 丁 った。「わたしは、 争 いと 闘 争 の 人 、エレミヤのようである。し<br />

かし、 彼 らが 激 しく 脅 迫 すればするほど、わたしの 喜 びは 増 し 加 わる。…… 彼 らはす<br />

でに、わたしの 名 誉 と 評 判 を 傷 つけた。ただ 1 つだけ 残 っている。それはわたしの 哀<br />

れな 体 である。これを 持 っていくがよい。こうして 彼 らは、わたしの 命 を 数 時 間 縮 め<br />

ることができよう。しかし 彼 らは、わたしの 魂 を 取 ることはできない。キリストの 言<br />

葉 を 世 界 に 宣 言 しようとするものは、いっでも 死 を 覚 悟 しなければならないの<br />

だ。」 18<br />

ルターがアウグスブルクに 到 着 したという 知 らせは、 法 王 の 使 節 を 大 いに 満 足 させ<br />

た。 全 世 界 の 注 目 を 集 めたやっかいな 異 端 者 が、 今 やローマの 権 力 のもとに 入 ったよ<br />

うに 思 われたので、 使 節 は 彼 を 逃 がすまいと 決 心 した。ルターは、 通 行 券 を 手 に 入 れ<br />

ていなかった。 彼 の 友 人 たちは、それを 持 たずに 使 節 の 前 に 出 ることがないように 強<br />

92


国 際 協 定<br />

く 勧 告 し、 彼 ら 自 身 が、それを 皇 帝 から 入 手 するようにした。 使 節 は、できればルタ<br />

ーを 強 いて 自 説 を 撤 回 させようとし、もしそれができない 場 合 には、 彼 をローマへ 送<br />

り、フスやヒエロニムスと 同 じ 運 命 に 陥 れようとしていた。そこで 彼 は、 彼 の 部 下 を<br />

用 いて、ルターを 通 行 券 なしで 出 頭 さぜ、 彼 の 手 中 に 身 をゆだねさせようとした。ル<br />

ターは、そうすることを 断 然 拒 否 した 彼 は、 皇 帝 の 保 護 を 保 証 する 文 書 を 受 け 取 る<br />

までは、 法 王 使 節 の 前 に 出 なかった。<br />

法 王 側 は 策 の 1 つとして、うわべの 穏 やかさでルターを 説 き 伏 せようとした。 使 節<br />

は 彼 との 会 談 において、 非 常 に 友 好 的 な 態 度 を 示 した。しかし、 彼 は、ルターが 教 会<br />

の 権 威 に 絶 対 的 に 服 従 すること、そして、 議 論 や 質 問 の 余 地 なくすべての 点 において<br />

服 従 することを 要 求 した。 彼 は、 自 分 が 相 手 にしなけれはならない 人 物 の 性 格 を、 止<br />

しく 評 価 していなかった。ルターは、それに 答 えて、 教 会 に 対 する 彼 の 関 心 、 真 理 に<br />

対 する 願 いを 述 べた。そして、 彼 が 教 えたことに 対 する 反 対 には、すべて 答 える 用 意<br />

があり、また、どこかの 有 力 な 大 学 に 彼 の 教 説 の 検 討 をゆだねる 用 意 があると 言 った。<br />

しかし 彼 はそれとともに、 彼 の 誤 りを 証 明 もせずに 取 り 消 しを 要 求 する 枢 機 卿 のやり<br />

り 方 に 講 義 した。<br />

唯 一 の 返 答 は、「 取 り 消 せ、 取 り 消 せ」というにとだけであった。ルターは、 彼 の<br />

主 張 が 聖 書 に 支 持 されたものであることを 示 し、 真 理 を 破 棄 できないことを 断 言 した。<br />

法 王 使 節 は、ルターの 議 論 に 反 諭 できなかった。そこで 彼 は、 言 い 伝 えや 教 父 たちの<br />

言 葉 を 引 用 しながら、 激 しく 責 め、あざ 笑 い、またへつらいなどして、ルターに 話 す<br />

機 会 を 与 えなかった。このような 状 態 で 会 議 を 続 けても 何 もならないので、ルターは、<br />

ついに、 彼 の 答 弁 を 文 書 によって 提 出 すろ 許 可 をやっとのことで 受 けることができ<br />

た。 「こうすることにより、 圧 迫 を 受 けている 者 は 二 重 の 利 益 を 受 ける。 第 一 に、 書<br />

いたものを 他 の 人 々の 判 断 に 訴 えることができる。 次 に、 高 慢 な 言 葉 によって 圧 倒 し<br />

ようとする 横 柄 で 多 弁 な 暴 君 の 良 心 に 訴 えないとしても 恐 怖 心 を 起 こさせ 得 る」とル<br />

ターは、 友 人 に 書 いて 言 った。 19<br />

次 の 会 見 において、ルターは、 数 多 くの 聖 句 の 引 用 によって 十 分 に 支 持 された、 彼<br />

の 主 張 の 簡 潔 明 瞭 で 力 強 い 説 明 を 提 示 した。 彼 は、この 論 文 を、 大 声 で 読 んだあとで、<br />

枢 機 卿 に 手 渡 した。しかし、 彼 は、それを 軽 べつして 投 げすて、むだな 言 葉 と 無 関 係<br />

な 引 用 を 集 めたものにすぎないと 宣 言 した。そこでルターは、 敢 然 と 立 ち、 高 慢 な 枢<br />

機 卿 自 身 の 立 場 ― 言 い 伝 えと 教 会 の 教 え——から 論 じて、 彼 の 憶 説 を 完 全 に 粉 砕 し<br />

た。 法 王 使 節 は、ルターの 論 法 に 勝 てないのを 見 て、 自 制 心 を 失 い、 激 怒 して 叫 ん<br />

だ。「 取 り 消 せ!さもないと、わたしはおまえをローマに 送 り、おまえの 件 を 審 理 す<br />

るように 命 じられた 裁 判 官 たちの 前 に 立 たせる。わたしは、おまえとおまえの 仲 間 、<br />

93


国 際 協 定<br />

そして、いつであろうとおまえを 支 持 する 者 はみな 破 門 し、 教 会 から 追 放 する。」そ<br />

して 最 後 に 彼 は、 怒 気 を 帯 びた 高 慢 な 大 声 をあけて、「 取 り 消 せ。さもないと 2 度 と<br />

帰 るな」と 宣 言 した 20 。<br />

ルターは 直 ちに、 友 人 たちと 退 場 し、 彼 か 取 り 消 す 意 志 のないことを 明 らかに 宣 言<br />

した。これは、 枢 機 卿 が 意 図 していたことではなかった。 彼 は、 累 力 に 訴 えてルター<br />

を 従 わせることかできると 安 易 に 考 えていた。こうして、 自 分 の 側 の 支 持 者 だけと 取<br />

り 残 された 彼 は、 自 分 の 計 画 の 予 期 しない 失 敗 をひどく 無 念 がって、みなの 顔 を 見 ま<br />

わした。 この 時 のルターの 奮 闘 は、 良 い 結 果 をもたらさずにはおかなかった。その 場<br />

にいた 多 くの 人 々は、2 人 の 人 間 を 比 較 する 機 会 が 与 えられ、 彼 らの 立 場 の 力 強 さと<br />

真 実 性 とともに、 彼 らのあらわした 精 神 を 自 分 たちで 判 断 することができたのである。<br />

それらは、なんと 著 しく 異 なっていたことであろう。ルターは、そぼくで 謙 そんで、<br />

神 の 力 によって 堅 く 立 ち、 真 理 の 側 にあった。 しかし、 法 王 の 使 節 は、 尊 大 で 横 柄 、<br />

高 慢 てで 無 分 別 で、 聖 書 に 基 づいた 議 論 は 1 つもせずに、ただ、 激 しく、「 取 り 消 せ、<br />

さもないとローマに 送 られて 罰 せられる」と 叫 んでいた。<br />

ルターは 通 行 券 を 得 ていたにもかかわらず、 法 王 側 は 彼 を 捕 らえて 投 獄 しよっとし<br />

ていた。 彼 の 友 人 たちは、これ 以 上 彼 がとどまっていても 無 益 なので、 直 ちにウィッ<br />

テンベルクに 帰 り、 彼 の 意 向 を 極 秘 にしておくために 細 心 の 注 意 を 払 うようにと 勧 め<br />

た。そこで 彼 は、 長 官 がつけてくれた 案 内 人 1 人 をつれて、 夜 明 け 前 に、アウグスブ<br />

ルクを 馬 に 乗 って 出 発 した。 彼 は、さまざまな 予 感 を 抱 きなから、 静 まりかえった 暗<br />

い 町 の 通 りをひそかに 急 いだ。 残 酷 で 油 断 のない 敵 は、 彼 をなきものにしようと 策 動<br />

していた。 果 たして 彼 は、 彼 らのわなを 逃 れることができるであろうか。この 時 こそ、<br />

非 常 な 心 配 と 熱 心 な 祈 りの 時 であった。 彼 は、 町 の 城 壁 の 小 さな 門 に 到 着 した。 門 は<br />

彼 のために 開 かれ、 彼 は 道 案 内 とともに、なんの 妨 げも 受 けずに 通 りぬけた。こうし<br />

て 安 全 に 外 に 出 るや、 彼 らは 急 いで 逃 げ 去 った。そして、 法 王 使 節 がルターの 出 発 を<br />

聞 く 前 に、 彼 は 迫 害 者 たちの 手 のとどかないところに 行 っていた。サタンと 彼 の 使 者<br />

たちは 敗 北 した。ちょうど、1 羽 の 鳥 が 捕 獲 者 のわなを 逃 れたように、 彼 らは 1 中 に<br />

おさめたと 思 った 者 を 逃 がしてしまったのである。<br />

ルターの 逃 亡 の 知 らせを 聞 いて、 法 王 使 節 は 驚 きと 怒 りに 度 を 失 った。 彼 は、 教 会<br />

を 騒 がせるこの 者 を、 賢 明 に、かつ 断 固 として 処 置 することによって、 大 きな 栄 誉 を<br />

受 けることを 期 待 していたのであった。しかし、 彼 の 希 望 はかなえられなかった。 彼<br />

は、ザクセン[サクソニア]の 選 挙 侯 フリードリヒに 手 紙 を 書 いて 憤 りをもらし、 激 し<br />

くルターを 非 難 し、フリードリヒがルターをローマに 送 るか、それともザクセンから<br />

追 放 することを 要 求 した。 ルターは、 自 分 を 弁 護 して、 使 節 または 法 王 が 聖 書 に 基 づ<br />

94


国 際 協 定<br />

いて 彼 の 誤 りを 示 すよう 求 め、もし 彼 の 教 義 が 神 のみ 言 葉 と 矛 盾 していることを 示 し<br />

得 るならば、 彼 はそれらを 放 棄 するときわめて 厳 粛 に 誓 った。そして、 彼 は、このよ<br />

うな 聖 なる 運 動 のために 苦 しむに 足 るものとされたことを 神 に 感 謝 した。 選 挙 侯 は、<br />

まだ 改 革 の 教 義 についての 知 識 はほとんどなかったが、ルターの 率 直 で 力 強 い 明 快 な<br />

言 葉 に 深 く 感 動 した。そして、ルターが 誤 っているということが 証 明 されるまで、フ<br />

リードリヒは 彼 の 保 護 者 となる 決 心 をした。 法 王 使 節 の 要 求 に 答 えて、 彼 は 次 のよう<br />

に 潟 いた。「『アウグスブルクにおいて、マルチン 博 士 があなたの 前 に 出 頭 したので<br />

あるから、それで 満 足 されるべきである。われわれは、あなたが 彼 の 誤 りを 説 得 せず<br />

に 取 り 消 しを 迫 るとは 考 えていなかった。わが 国 の 識 者 はだれ 1 人 として、マルチン<br />

博 士 の 教 義 が、 不 敬 、 反 キリスト 教 的 、あるいは 異 端 的 であるとは 言 っていない。』<br />

さらに、 選 挙 侯 は、ルターをローマに 送 ること、あるいは 彼 の 国 から 追 放 することを<br />

拒 否 した。」 21<br />

選 挙 侯 は、 社 会 の 遵 徳 的 抑 制 が 一 般 に 崩 れつつあるのを 見 た。 改 革 の 王 一 大 事 業 が<br />

必 要 てあった。もしも 人 々が 神 の 律 法 を 認 めて 従 い、 啓 発 された 良 心 の 命 令 に 従 うな<br />

らば、 複 雑 で 広 範 囲 に 及 ぶ 禁 令 や 罰 則 は 不 必 要 になるのであった。 彼 は、ルターがこ<br />

の 目 的 を 達 成 するために 活 動 しているのを 認 め、 教 会 内 に 良 い 感 化 か 及 んでいるのを<br />

心 ひそかに 喜 んだ。 彼 はまた、ルターが 大 学 の 教 授 として 大 いに 成 功 を 収 めているの<br />

を 認 めた。ルターが 城 教 会 に 彼 の 論 題 を 掲 示 してから 1 年 が 経 過 しただけであるが、<br />

すでに 万 聖 節 の 時 に 教 会 に 出 席 する 巡 礼 の 数 は、いちじるしく 減 少 した。ローマの 礼<br />

拝 者 と 献 金 は 減 少 したが、そのかわりに 別 の 階 層 の 人 々がウィッテンベルクにやって<br />

来 た。 彼 らは 聖 遺 物 を 崇 拝 する 巡 礼 者 たちではなくて、 大 学 の 教 室 を 満 たすところの<br />

学 生 たちであった。ルターの 著 書 は、 至 る 所 で、 聖 書 に 対 する 新 しい 興 味 をよび 起 こ<br />

し、ドイツ 全 国 からだけでなく、 他 の 国 々からも 学 生 が 大 学 に 群 がって 来 た。ウィッ<br />

テンベルクを 初 めて 望 み 見 た 青 年 たちは、「 彼 らの 手 を 天 にあげ、むかしのシオンか<br />

らのように、この 町 から 真 理 の 光 が 輝 き 出 るようになったことを 神 に 感 謝 した。その<br />

光 は、ここから、 最 も 遠 い 国 々にまで 広 がったのであった。」 22<br />

ルターは、またローマ 教 の 誤 りから 部 分 的 に 改 宗 したにすきなかった。しかし、 聖<br />

書 を 法 王 の 教 書 や 法 典 と 比 較 した 時 に、 彼 は、 驚 きに 満 たされた。「わたしは、 今 、<br />

法 王 の 教 書 を 読 んでいる。そして、…… 法 王 が 反 キリスト 自 身 であるのか、それとも<br />

彼 の 使 徒 であるのか、わたしは 知 らない。だがキリストは、 教 書 のなかで、はなはだ<br />

しく 誤 り 仏 えられ、 十 字 架 につけられている」と 彼 は 書 いた。 23 しかしルターは、こ<br />

の 時 はまたローマ 教 会 の 支 持 者 であって、その 教 会 の 交 わりから 分 離 することなど 考<br />

えてもいなかったのである。<br />

95


国 際 協 定<br />

ルターの 著 書 と 教 義 とは、 全 キリスト 教 国 に 広 がっていった。 運 動 は、スイスとオ<br />

ランダにも 広 が 自 た 彼 の 著 書 の 何 冊 かは、フランスとスペインにも 入 っていった。 英<br />

国 では、 彼 の 教 えは 生 命 の 言 葉 として 迎 えられた、 真 理 は、ベルギーやイタリアにも<br />

及 んた 幾 千 のものが、 死 んたような 眠 りから、 信 仰 生 活 の 喜 ひと 希 望 とに 目 覚 めつつ<br />

あった。 ルターの 攻 撃 によって、ローマはますます 激 怒 したそして、 彼 の 熱 狂 的 な 敵<br />

たちのあるもの、また、カトリックノ 大 学 の 博 士 たちでさえ、この 反 逆 的 修 道 士 を 殺<br />

しても 罪 にならないと 宣 言 した。ある 日 、1 人 の 見 知 らぬ 人 が、ピストルを 外 套 の 下<br />

に 隠 して、ルターに 近 つき、なぜこのように 1 人 で 歩 いているのかを 聞 いた。ルター<br />

は 答 えて、「わたしは、 神 の 手 の 中 にある。 神 はわたしの 力 、わたしの 盾 である。 人<br />

間 はわたしに 何 をすることができようか」と 言 った。 24 この 言 葉 を 聞 いて、 見 知 らぬ<br />

人 は 真 っ 青 になり、 天 使 の 前 から 逃 けるように、 去 っていった。<br />

ローマは、ルターをなきものにしようとしていた。しかし、 神 か 彼 の 防 御 であった。<br />

彼 の 教 義 は 至 る 所 の「 民 家 に、 修 道 院 に…… 貴 族 の 城 に、 大 学 に、そして 王 の 宮 殿 に」<br />

伝 えられた。そして、 貴 族 たちは、 彼 の 運 動 を 支 持 するために 立 ち 上 がってい<br />

た。 25 ちょうどこのころ、ルターはフスの 著 書 を 読 み、 彼 自 身 が 支 持 し 教 えていた 信<br />

仰 による 義 という 大 真 理 が、ボヘミアの 改 革 者 によって 唱 えられていたことを 知 った<br />

のである。 「パウロ、アウクスティヌス、そしてわたしは、 知 らずしてフベ 派 てあっ<br />

た」とルターは 言 った。「 真 理 は 1 世 紀 に 前 に 伝 えられ、しかも 焼 かれたことに 対 し<br />

て、 神 は 必 ず 世 界 を 裁 かれるであろう」と、 彼 は 紅 けた。 26<br />

キリスト 教 の 改 革 についてドイツの 皇 帝 と 貴 族 とに 訴 えた 中 で、ルターは、 法 王 の<br />

ことを 次 のように 書 いた。「キリストの 代 理 であると 自 分 で 主 張 する 人 間 が、 どんな<br />

皇 帝 も 及 ばないような 豪 華 さを 誇 示 するのを 見 るのは、 恐 るべきことである。この 者<br />

は、 貧 しいイエス、または 謙 そんなペテロに、 似 ているであろうか。 人 々は、 彼 が 世<br />

界 の 主 であると 言 っている。しかし、 彼 が、 代 理 者 であると 誇 っているキリストは、<br />

『わたしの 国 はこの 世 のものではない』と 言 われた。 代 理 者 の 国 は、 彼 の 主 の 国 より<br />

広 くてよいてあろうか。」 27 彼 は、 大 学 について、このように 書 いた。「 大 学 という<br />

ところは、 聖 書 を 説 明 し、それを 青 年 たちの 心 に 刻 みこむために 熱 心 に 努 力 するので<br />

なければ、 地 獄 の 大 きな 門 になってしまうのではないかと、わたしは 恐 れる。わたし<br />

は、だれも 聖 書 が 最 高 位 を 占 めていないところに 子 供 を 送 らないよう 勧 告 する。 人 々<br />

が 神 の 言 葉 を 絶 えず 研 究 していない 学 校 は、すベて 腐 敗 するにきまっている。」 28 こ<br />

うした 訴 えは、 速 やかにドイツ 全 国 に 配 布 され、 人 々に 強 力 な 影 響 を 及 ぼした。 全 国<br />

民 が 奮 い 立 ち、 群 衆 は 改 革 の 旗 のもとに 結 集 した。ルターの 敵 たちは、 復 讐 の 念 に 燃<br />

え、 彼 に 対 して 断 固 とした 処 置 をとるように、 法 王 に 迫 った。そこで、 彼 の 教 義 を 直<br />

96


国 際 協 定<br />

ちに 禁 止 する 命 令 か 出 された。ルターと 彼 の 支 持 者 たちには、60 日 間 の 猶 予 が 与 えら<br />

れた。そして、もしその 後 も 取 り 消 さないならば、 彼 らはみな 破 門 されるのであっ<br />

た。<br />

これは、 宗 教 改 革 にとって、 非 常 な 危 機 であった。 幾 世 紀 の 間 、ローマの 破 門 宣 告<br />

は、 有 力 な 君 主 たちを 震 えあがらせ、 強 力 な 帝 国 を 悲 嘆 と 荒 廃 に 陥 れてきた。 破 門 さ<br />

れた 人 々は、 一 般 の 人 々から 恐 怖 と 嫌 悪 の 情 をもって 見 られ、 仲 間 との 交 際 を 絶 たれ<br />

法 律 の 保 護 外 のものとされて、かり 出 されて 処 刑 されるのであった。ルターは、 彼 の<br />

まわりに 吹 き 荒 れる 暴 風 雨 に 気 づかないわけではなかった。しかし 彼 は 堅 く 立 って、<br />

キリストが 彼 の 支 持 者 てあり 盾 であろことを 信 じた。 殉 教 者 の 信 仰 と 勇 気 をもって、<br />

彼 は 次 のように 書 いた。「 何 が 今 起 ころうとしているか、わたしは 知 らない。また 知<br />

ろうとも 思 わない。……どこに 打 撃 が 加 えられようとも、わたしは 恐 れない。 木 の 葉<br />

1 枚 でも、 神 のみ 心 てなければ 落 ちないのだ。まして 神 は、われわれをどんなにみ 心<br />

にとめておられることであろう。 肉 体 をとって 来 られたみ 言 葉 イエスご 自 身 がなくな<br />

られたのであろから、み 言 葉 のために 死 ぬことは 何 でもない。もしわれわれが 彼 と 共<br />

に 死 ぬならば、 彼 と 共 に 生 きろのである。そして、 彼 がわれわれに 先 だって 通 られた<br />

ものをわれわれも 通 り、われわれは 彼 がおられうところへ 行 き、 彼 と 共 に 永 遠 に 住 む<br />

のであろ。」 29 法 王 の 教 書 がルターのところに 到 着 した 時 に、 彼 は 言 った。「わたし<br />

はこれを、 不 敬 で 虚 偽 のものとして 軽 べつし、 排 撃 する。……ここで 罪 に 定 められて<br />

いるのは、キリストご 自 身 である。……わたしは、 最 大 の 事 業 のためにこのような 苦<br />

難 にあうことを 喜 びとする。わたしはすでに、 心 の 中 に 大 きな 自 由 を 感 じている。な<br />

ぜなら、わたしはついに、 法 王 が 反 キリストであって、 彼 の 座 はサタン 自 身 の 座 であ<br />

ることを 知 ったからてある」<br />

しかしローマの 命 令 は、 影 響 を 及 ぼさずにはいなかった。 投 獄 、 拷 問 、 剣 は、 服 従<br />

を 強 いる 有 力 な 武 器 であった。 弱 く 迷 信 的 な 人 々は、 法 王 の 教 書 の 前 で 震 えた。 概 し<br />

て 人 々はルターに 対 して 同 情 的 ではあったが、 生 命 を 改 革 事 業 にかけることはあまり<br />

にも 惜 しいと 思 う 者 が 多 かった。 万 事 は、ルターの 事 業 が、 今 にも 終 わろうとするこ<br />

とを 示 すように 思 われた。 しかしルターは、びくともしなかった。ローマは、 彼 を 破<br />

門 した。そして 世 界 は、 彼 が 死 ぬか、それとも 服 従 を 強 制 されるかするに 違 いない、<br />

と 思 って 見 ていた。しかし 彼 は、 恐 るベき 力 をもって、 教 会 に 有 罪 の 宣 告 を 投 げかえ<br />

し、 永 遠 に 教 会 と 分 離 する 決 意 を 公 然 と 宣 言 した。ルターは、 大 勢 の 学 生 たちや 博 士<br />

たち、そしてあらゆる 階 層 の 一 般 市 民 たちの 目 の 前 で、 法 王 の 教 書 を、 教 会 法 規 や 教<br />

令 集 、また 法 王 権 を 支 持 する 文 書 類 とともに 焼 き 捨 てた。「わたしの 敵 たちは、わた<br />

しの 著 書 を 焼 くことによって、 一 般 の 人 々の 心 の 中 での 真 理 の 働 きを 妨 げ、 彼 らの 魂<br />

97


国 際 協 定<br />

を 滅 ぼそうとした。それだから、わたしも 彼 らの 著 書 を 焼 く。 重 大 な 闘 いが、 今 始 ま<br />

ったのてある。これまで、わたしはただ 法 王 と 遊 戯 をしていたに 過 ぎなかった。わた<br />

しは、この 仕 事 を 神 の 名 によって 始 めた。それは、わたしがいなくても、 神 の 力 によ<br />

って 終 了 するてあろう。」 31<br />

ルターの 運 動 の 勢 力 の 弱 さをあざけった 敵 の 非 難 に 答 えて、ルターは 言 った。「 神<br />

の 選 びと 召 しがわたしになく、わたしを 軽 べつしても 神 ご 自 身 を 軽 べつすろことにな<br />

る 恐 れはないと、いったいだれか 知 り 得 ようか。エジプトを 去 ったモーセは、ただ 1<br />

大 であった。アハブ 王 の 治 世 において、エリヤは 1 人 であった。イザヤは、エルサレ<br />

ムで 1 人 であった。エゼキエルは、バビロンにおいて 1 人 であった。…… 神 は、 大 祭<br />

司 とか、 他 の 偉 大 な 人 物 を 預 言 者 に 選 ばれなかった。 神 は、たいてい、 身 分 の 低 い 卑<br />

しめられた 大 を 選 び、ある 時 は、 飼 いアモスをさえ 選 はれた。 各 時 代 において、 聖 徒<br />

たちは、 偉 大 な 人 々、 王 、 貴 族 、 祭 司 、 賢 者 などを、 命 がけで 譴 責 したのであ<br />

る。……わたしは、 自 分 が 預 言 者 であるとは 言 っていない。しかし、 彼 らは、わたし<br />

が 1 人 であり 彼 らが 多 数 であるというそのことを 恐 れるべきである。わたしは、 自 分<br />

の 側 に 神 の 言 葉 があり、 彼 らの 側 にはないことを 確 信 している。」 32 とは 言 うものの、<br />

ルターが 教 会 から 最 終 的 に 分 離 する 決 心 をするまでには、 激 しい 闘 いを 経 なければな<br />

らなかった。ちょうどこのころ、 彼 は 次 のように 書 いた。「わたしが 子 供 の 時 から 教<br />

えられたことを 捨 て 去 ることが、どんなに 困 難 なことであるかを、 毎 日 、いよいよ 強<br />

く 感 じろ。たとえ、わたしの 側 にわたしを 支 持 する 聖 書 があっても、わたしがあえて<br />

ただ 1 人 立 っ 生 って 法 王 に 反 対 し、 彼 を 反 キリストと 呼 ぶことは、なんとわたしを 苦<br />

しめたことであろう。わたしの 心 の 悩 みは、なんと 激 しかったことであろう。『お 前<br />

たけが 正 しいのか。 他 のすべての 者 は 間 違 っているのか。 結 局 間 違 っているのがおま<br />

え 自 身 で、 多 くの 魂 をおまえの 誤 りに 引 き 入 れているとすれば、どうするのか。 永 遠<br />

の 罰 を 受 けるのはだれか。』という 法 王 側 からたびたび 聞 かれた 質 問 を、わたしは 何<br />

度 くり 返 して 自 問 し、 心 を 痛 めたことであろう。こうして、わたしは 自 分 自 身 と 闘 い、<br />

サタンと 闘 った。そして、ついにキリストが、 彼 ご 自 身 の 誤 ることのない 言 葉 で、わ<br />

たしの 心 を 強 め、これらの 疑 念 に 勝 たせてくださったのである。」 33 法 王 は、ルター<br />

が 取 り 消 さなければ 破 門 すると 脅 していたが、それが 実 行 に 移 された。 新 しい 教 書 か<br />

出 され、ルターがローマ 教 会 から 分 離 したことを 宣 言 するとともに、 彼 が 天 ののろい<br />

を 受 けたものであると 非 難 した。そして、 彼 の 教 義 を 信 じる 者 はみな、 同 じ 宣 告 下 に<br />

置 かれるのであった。 大 いなる 闘 いは、いよいよ 本 格 的 に 始 業 った<br />

それぞれの 時 代 において、その 時 代 に 特 に 適 切 な 現 代 の 真 理 を 伝 えるために 神 に 用<br />

いられる 者 は、すべて、 反 対 にあわなければならない。ルターの 時 代 には、 現 代 の 真<br />

98


国 際 協 定<br />

理 、すなわち、その 時 代 において 特 別 重 要 な 真 理 があった。 今 日 の 教 会 のためにも 現<br />

代 の 真 理 がある。みこころのままに 万 事 を 行 われろ 神 は、 人 々をさまざまな 事 情 のも<br />

とにおいて、その 時 代 、また、 彼 らがおかれた 状 態 に 応 じた 特 殊 な 任 務 をお 命 じにな<br />

る。もし 彼 らが、 与 えられた 光 を 尊 重 するならば、 真 理 に 対 するいっそう 明 らかな 理<br />

解 が 与 えられる。しかし、 真 理 は、 法 王 教 徒 たちがルターに 反 対 したように、 今 日 も<br />

多 数 の 者 の 歓 迎 を 受 けないのである。 昔 と 同 様 に、 神 の 言 葉 の 代 わりに 人 間 の 理 論 や<br />

伝 説 を 受 け 入 れるという 同 じ 傾 向 がある。この 時 代 の 真 理 を 伝 える 者 は、 初 期 の 改 革<br />

者 たちより 歓 迎 されると 期 待 してはならない。 真 理 と 誤 謬 、キリストとサタンとの 間<br />

の 大 争 闘 は、この 世 界 の 歴 史 の 終 わりまで、 激 しさを 増 すのである。<br />

イエスは、 彼 の 弟 子 たちに 次 のように 言 われた。「もしあなたがたがこの 世 から 出<br />

たものであったなら、この 世 は、あなたがたを 自 分 のものとして 愛 したであろう。し<br />

かし、あなたがたはこの 世 紀 のものではない。かえって、わたしがあなたがたをこの<br />

世 から 選 び 出 したのである。だから、この 世 紀 はあなたがたを 憎 むのである。わたし<br />

があなたかたに『 僕 はその 主 人 にまさるものではない』と 言 ったことを、おぼえてい<br />

なさい。 もし 人 々がわたしを 迫 害 したなら、あなたがたをも 迫 害 するであろう。また、<br />

もし 彼 らがわたしの 言 葉 を 守 っていたなら、あなたがたの 言 葉 をも 守 るであろう」[ヨ<br />

ハネ 15:19、。また 一 方 、 主 は 次 のように 言 明 された。「 人 が 皆 あなたがたをほめ<br />

るときは、あなたがたはわざわいだ。 彼 らの 祖 先 も、にせ 預 言 者 たちに 対 して 同 じこ<br />

とをしたのである」[ルカ 6:この 世 の 精 神 は、 今 日 も 昔 と 同 様 に、 少 しもキリストの<br />

精 神 と 調 和 してはいない。そして、 神 のみ 言 葉 をそのまま 純 枠 に 説 く 者 は、 昔 以 上 の<br />

歓 迎 を 受 けることはない。 真 理 に 対 する 反 対 の 形 態 は 変 わり、 巧 妙 になって、 公 然 と<br />

敵 意 を 衣 すことはないかもしれない。しかし、 同 じ 敵 対 心 が 依 然 として 存 在 し、 時 の<br />

終 わりに 全 るまて 表 される。<br />

99


国 際 協 定<br />

第 8 章 裁 判 所 の 前 に<br />

新 皇 帝 カール 5 世 [チャールズ 5 世 ]がドイツの 帝 位 についた。するとローマの 使 節<br />

は、 急 いで 祝 いの 言 葉 を 述 べると 共 に、 彼 の 権 力 を 用 いて 宗 教 改 革 を 押 えつけるよう<br />

に 勧 めた。 他 方 、カールが 帝 付 につくに 当 たって 大 いに 力 があったザクセンの 選 挙 侯<br />

は、ルターに 発 言 の 機 会 を 与 えるまではどんな 処 置 もとらないように 嘆 願 した。こう<br />

して、 皇 帝 は、 非 常 な 当 惑 と 苦 境 に 立 たされた。 法 王 側 は、ルターに 死 刑 を 宣 告 する<br />

勅 令 が 出 なければ 満 足 しなかった。 選 挙 侯 は、「 皇 帝 もまた 他 のだれも、ルターの 著<br />

書 に 反 論 していない」と 断 固 として 言 明 し、それゆえに、「ルターは 通 行 券 を 与 えら<br />

れて、 学 識 のある、 敬 虔 で 公 平 な 裁 判 官 による 法 廷 に 出 頭 てきろようにすべきである」<br />

と 願 い 出 た。 1<br />

すべての 党 派 の 注 目 は、カールの 即 位 後 まもなくウォルムスで 開 かれたドイツ 国 会<br />

に 注 がれた。ドイツの 諸 侯 たちの 多 くは、 審 議 のために 初 めて 若 い 皇 帝 に 会 見 するの<br />

であり、この 国 会 において 審 議 すべき 重 要 な 政 治 問 題 やその 他 の 案 件 があった。 祖 国<br />

のあらゆる 地 方 から、 教 会 と 国 家 の 高 官 たちが 集 まった。 高 貴 の 生 まれて、 勢 力 を 持<br />

ち、 世 襲 の 権 利 を 主 張 して 譲 らない 領 主 たち、 階 級 と 権 力 における 優 越 感 に 意 気 揚 々<br />

としている 威 厳 ある 聖 職 者 たち、 優 雅 な 騎 士 たちとその 武 装 した 家 臣 たち、 外 国 や 遠<br />

国 の 大 使 たちなどが、みなウォルムスに 集 まった。しかし、この 大 会 議 において、 最<br />

も 興 味 深 い 問 題 は、ザクセンの 改 革 者 ルターの 件 であった。 カールはこれ 以 前 に、 選<br />

挙 侯 にむかって、ルターを 同 伴 して 国 会 に 来 るよう 指 示 し、 彼 に 対 する 保 護 と、 問 題<br />

点 に 関 し 資 格 ある 人 物 と 自 由 に 討 議 することとを 約 束 していたのであった。ルターは、<br />

皇 帝 の 前 に 出 ることを 切 望 していた。この 時 、 彼 の 健 康 は 非 常 に 損 なわれていたが、<br />

しかし 彼 は 選 挙 侯 に 次 のように 書 いた。<br />

「もしわたしが 健 康 な 体 でウォルムスに 行 くことができなければ、 病 気 のまま 運 ば<br />

れて 打 きたいと 思 います。というのは、もし 皇 帝 がわたしを 召 しておられるなら、そ<br />

れは 神 ご 自 身 の 召 しであることを、わたしは 疑 うことができないからです。もし 彼 ら<br />

かわたしに 暴 力 をふるうようなら、そしておそらくそうすることでしょうが[なぜなら<br />

彼 らがわたしに 出 頭 を 命 じるのは、わたしから 教 えを 受 けるためでないからです]、わ<br />

たしはこれを 主 のみ 丁 にゆだねます。 燃 える 炉 の 中 から 3 人 の 青 年 を 救 い 出 された 神<br />

は、なお 生 三 きて 支 配 しておられます。もし 神 がわたしをお 救 いにならなくても、わ<br />

たしの 命 など 取 るに 足 りないものです。ただ 福 音 がよこしまな 人 々のちょう 笑 を 受 け<br />

ることがないように 努 めましょう。 彼 らが 勝 利 を 得 ることのないように、わたしたち<br />

100


国 際 協 定<br />

は 福 音 のために 血 を 流 しましょう。すべての 大 の 救 いのために 最 も 貢 献 するのは、わ<br />

たしの 命 であるか、それとも 死 であるか、それを 決 定 するのはわたしではありませ<br />

ん。……あなたはわたしにどんなことでも 期 待 なさってけっこうです。……ただし、<br />

逃 げることと 信 仰 を 取 り 消 すこと 以 外 は。 逃 げることなど、わたしにはできませんし、<br />

まして、 取 り 消 すことなどできません。」 2<br />

ルターか 議 会 に 姿 を 現 すという 知 らせがウォルムスに 伝 わると、 各 方 面 で 大 騒 ぎと<br />

なった。 今 回 の 事 件 を 特 に 委 任 されていた 法 王 使 節 アレアンダー[アレアンドロ]は、<br />

驚 き、 憤 激 した。 彼 は、その 結 果 が、 法 王 側 にとっては 破 滅 的 であるのを 認 めた。 法<br />

王 がすてに 宣 告 を 下 した 件 について 取 り 調 べを 始 めることは、 法 王 の 権 威 を 軽 べつす<br />

ることであった。そればかりでなく、 彼 は、ルターの 雄 弁 で 強 力 な 議 論 によって、 諸<br />

侯 たちの 多 くが 法 王 側 から 引 き 離 されることを 懸 念 した。それゆえに、 彼 は、ルター<br />

がウォルムスに 来 ないように、 激 しくカールに 諫 言 した。このころ、ルターの 破 門 を<br />

宣 言 した 教 書 が 公 布 された。 使 節 の 申 し 入 れとともに、この 教 書 は、 皇 帝 を 屈 服 させ<br />

た。 皇 帝 は 選 挙 侯 に、もしルターが 取 り 消 さないならば、 彼 はウィッテンベルクにと<br />

とまっているべきであると 霞 き 送 った。<br />

アレアンダーは、この 勝 利 で 満 足 せず、ルターを 罪 に 定 めるために、ありとあらゆ<br />

る 権 力 と 策 略 を 用 いた。 彼 は、 非 常 なしつこさで、 諸 侯 や 高 位 聖 者 、そしてその 他 の<br />

十 義 員 たちの 注 意 をこの 問 題 に 引 き、ルタ 一 に、「 扇 動 、 反 逆 、 不 敬 、 冒 瀆 」の 罪 を<br />

きせた。しかし、 法 王 使 節 のあらわした 激 しい 感 情 は、 彼 がどんな 精 神 に 動 かされて<br />

いるかをあまりにも 明 らかにした。「 彼 は、 熱 意 と 敬 神 というよりは、 憎 しみとふく<br />

しゅうの 念 に 動 かされている」と 一 般 の 人 々は 言 った。 3 議 会 の 大 部 分 の 人 々は、こ<br />

れまてになくルターに 好 意 を 示 した。<br />

アレアンダは、ますます 熱 心 に、 法 王 の 布 告 を 実 打 すべきことを 皇 帝 に 迫 った。し<br />

かし、ドイツの 法 律 によれば、これは 諸 侯 たちの 同 意 を 得 ずにすることかできなかっ<br />

た。そこでカールは、 法 王 使 節 のしつこい 要 求 に 負 けて、 彼 にその 件 を 議 会 に 提 出 す<br />

ることを 命 じた。「それは 法 王 使 節 にとって 誇 らしい 日 であった。 大 会 衆 が 集 まって<br />

いたが、 事 件 はさらに 重 大 なものであった。アレアンダーは、すべての 教 会 の 母 であ<br />

り 女 主 人 であろローマのために、 訴 えろのであった。」 彼 は、 集 まったキリスト 教 諸<br />

国 の 前 で、ペテロ 首 位 権 を 擁 護 するのであった。「 彼 は 雄 弁 の 才 を 持 っていた。そし<br />

て、この 重 大 な 時 機 に 立 ちいたった。ローマが 罪 に 定 められるに 先 たって、 荘 厳 きわ<br />

まる 法 廷 において、ローマの 第 一 流 の 雄 弁 家 が 現 れて 訴 えることは、 神 の 摂 理 であっ<br />

た。」 4 ルターに 好 感 を 持 っていた 人 々は、アレアンダーの 演 説 の 結 果 にいくぶんか<br />

101


国 際 協 定<br />

不 安 を 抱 いた。ザクセンの 選 挙 侯 は 出 席 していなかったが、 顧 問 官 たちに 命 じて 出 席<br />

させ、 法 王 使 節 の 演 説 を 筆 記 させた。<br />

アレアンダーは、 学 識 と 雄 弁 のかぎりをもって、 真 理 をくつがえそうとした。 彼 は<br />

ルターを、 教 会 と 国 家 の 敵 、また、 生 三 ける 者 と 死 せる 者 との、 聖 職 者 と 信 徒 との、<br />

公 会 議 と 個 々のキリスト 者 との、 敵 であると 告 発 し 続 けた。「ルターの 誤 りは、10 万<br />

の 異 端 者 」を 焼 くに 匹 敵 するものであると 彼 は 宣 言 した。 最 後 に 彼 は、 改 革 主 義 の 信<br />

仰 印 を 支 持 する 人 々を 軽 べつしようとした。 「これらルター 派 とは、いったい 何 であ<br />

ろうか。 彼 らは 無 礼 な 教 師 、 腐 敗 した 司 祭 、 自 堕 落 な 修 道 士 、 無 知 な 弁 護 士 、 堕 落 し<br />

た 書 族 といった 連 中 と、 彼 らか 誤 らせ、 邪 道 に 導 いたところの 民 衆 である。 彼 らに 比<br />

べて 力 トリソクの 側 は、その 数 、 能 力 、 権 力 において、なんと 優 れていることであろ<br />

う。このはなはなしい 会 議 における 満 場 一 致 の 布 告 は、 愚 かな 者 の 目 を 開 き、 軽 率 な<br />

者 に 警 告 を 与 え、 迷 っている 者 に 決 心 を 与 え、 弱 い 者 に 力 を 与 える。」 5<br />

各 時 代 における 真 理 の 擁 護 者 たちは、こっした 武 器 によって 攻 撃 されてきたのであ<br />

る 確 立 された 誤 りに 反 対 して、 神 のみ 言 葉 の 明 白 で 直 接 的 な 教 訓 をあえて 提 示 する<br />

ものはみな、 今 でも 同 じ 議 論 に 迫 られる。「これらの 新 しい 教 義 の 説 教 者 たちは、い<br />

ったいだれであるか」と、 受 けのよい 宗 教 を 望 む 人 々は 叫 ぶ。「 彼 らは、 無 学 で 少 数<br />

の 貧 民 階 級 である。それだのに 彼 らは、 自 分 たちは 真 理 を 持 ち、 神 の 選 民 であると 主<br />

張 する。 彼 らは、 無 知 で 欺 かれているのだ。われわれの 教 会 は、 数 においても、 勢 力<br />

においても、なんとはるかに 優 れていることであろう。われわれの 中 には、なんと 多<br />

くの 偉 人 や 学 者 がいろことであろう。われれれの 側 には、なんと 大 きな 力 があること<br />

だろう。」このような 議 諭 は、 世 界 に 対 して 効 果 的 な 影 響 力 を 持 っている。しかしそ<br />

れは、ルターの 時 代 におけると 同 様 に 今 日 においても、 決 定 的 な 議 論 ではないのであ<br />

る。<br />

宗 教 改 革 は、 多 くの 者 が 考 えているように、ルタ 一 の 時 代 をもって 終 わったのでは<br />

ない。それはこの 世 界 の 歴 史 の 終 末 まで 続 くのである。ルターは、 神 が 彼 の 上 に 照 ら<br />

してくださった 光 を 他 に 反 映 して、 大 事 業 をしなければならなかった。しかし 彼 は、<br />

世 界 に 与 えられるはずの 光 を、 全 部 受 けたのではなかった。その 当 時 から 今 に 至 るま<br />

で、 新 しい 光 か 絶 えず 聖 書 を 照 らし、 新 しい 真 理 が 常 にあらわされてきたのである。<br />

法 王 使 節 の 演 説 は、 議 会 に 深 い 印 象 を 与 えた。そこには、 明 快 で 説 得 力 のあろ 神 の<br />

み 言 葉 の 真 理 を 提 示 して 法 王 側 の 闘 士 を 打 ち 負 かすルターはいなかった。ルターを 弁<br />

護 しようとする 者 もいなかった。ルターとその 教 義 を 罪 に 定 めるだけでなくて、でき<br />

れば 異 端 を 根 絶 しようという 一 般 的 な 傾 向 が 出 てきた。ローマは、その 主 張 を 弁 護 す<br />

102


国 際 協 定<br />

る 絶 好 の 機 会 を 得 たのであった。 自 己 を 擁 護 するために 言 うべきことは、すべて 言 っ<br />

てしまっていた。しかし、 一 見 勝 利 と 思 われたことが、 敗 北 のしるしであった。 今 後 、<br />

公 然 たる 戦 いの 場 において 争 われるときに、 真 理 と 誤 謬 の 対 照 はいっそう 明 らかに 見<br />

られるのであった。この 時 以 後 ローマは、 決 してこれまでのように 安 全 に、 立 つこと<br />

はできないのであった。<br />

国 会 の 議 員 たちの 大 部 分 は、ルターをローマの 報 復 の 手 に 引 き 渡 すことをためらわ<br />

なかったとはいえ、 多 数 の 者 は、 教 会 内 に 行 われる 堕 落 を 認 めて 嘆 き、 教 権 制 度 の 貧<br />

欲 と 腐 敗 のためにドイツ 国 民 がこうむってきた 虐 待 を 止 めたいと 望 んだ。 法 十 使 節 は<br />

法 王 の 支 配 を、 最 も 都 合 のよさそうな 見 地 から 提 示 していた。ここで 主 は、 国 会 の 1<br />

議 員 を 動 かして、 法 王 の 暴 政 の 結 果 をありのままに 描 かせられた。ザクセンのゲオル<br />

ク 公 爵 は、 集 まった 貴 族 たちの 前 で、 断 固 とした 気 高 い 態 度 で 立 ち 上 がり、 法 王 制 の<br />

欺 瞞 と 悪 虐 とその 悲 惨 な 結 果 とを、 恐 るべき 正 確 さで 指 摘 した。 彼 は、 最 後 に 次 のよ<br />

うに 言 った。<br />

「これらは、ローマがそのために 非 難 されているところの 悪 弊 の 一 部 てある。そこ<br />

には 恥 も 外 聞 もない。 彼 らの 唯 一 の 目 的 は、…… 金 、 金 、 金 である。したがって、 真<br />

理 を 語 るべき 説 教 者 たちは、 虚 偽 のほかは 何 も 語 らず、しかもそのことが 黙 認 されて<br />

いるだけ でなく、 報 賞 にあずかっている。それは、 彼 らの 虚 偽 が 大 きければ 大 きいほ<br />

ど、 彼 らの 利 益 も 大 きいからてある。この 汚 れた 泉 から、こうした 腐 敗 した 水 が 流 れ<br />

るのである。 放 蕩 は 貧 欲 と 結 びついた。……ああ、 多 くの 哀 れな 魂 を 永 遠 の 滅 びに 陥<br />

れているのは、 聖 職 者 たちの 背 徳 行 為 である。 一 大 改 革 が 打 われねばならない。」 6<br />

ルター 自 身 であっても、 法 王 制 の 害 悪 についてこれ 以 上 巧 みに 力 強 く 弾 劾 すること<br />

はできなかったであろう。しかも、 演 説 者 が、ルターに 断 固 として 反 対 していた 敵 で<br />

あったことが、 彼 の 言 ばに 大 きな 力 をそえた。 もし、 集 まった 人 々の 目 が 開 かれたな<br />

らば、 彼 らは、その 中 に 神 の 天 使 たちがいて、 誤 謬 の 暗 やみを 貫 いて 光 を 輝 かし、 彼<br />

らが 真 理 を 受 け 入 れるようにその 心 を 開 いていろのを 見 たことであろう。 宗 教 改 革 の<br />

敵 たちさえも 支 配 し、まさに 成 し 遂 げられようとすろ 大 事 業 への 道 を 備 えたのは、 真<br />

理 と 知 恵 の 神 の 力 であった。マルチン・ルターは、そこにいなかった。しかし、ルタ<br />

ーよりも 偉 大 なお 方 の 声 が、その 会 議 において 聞 かれたのであった。<br />

ドイツ 国 民 に 重 く 課 せられた 法 王 制 の 抑 圧 を 列 挙 するために 直 ちに 委 員 会 が 国 会 に<br />

よって 指 名 された。101 項 目 にわたる 一 覧 表 が、これらの 悪 弊 を 直 ちに 矯 正 すること<br />

を 要 求 した 嘆 願 書 と 共 に、 皇 帝 に 提 出 された。「キリスト 教 界 の 霊 的 頭 を 取 り 囲 んで<br />

いる 背 徳 行 為 のために、キリスト 者 の 魂 は、なんという 損 害 、なんという 破 壊 、なん<br />

103


国 際 協 定<br />

という 略 奪 をこうむっていることでしょう。わが 国 民 の 没 落 と 汚 辱 を 阻 止 することは、<br />

われわれの 義 務 であります。このような 理 由 から、われわれは、 陛 下 が 全 般 的 な 改 革<br />

をお 命 じになり、その 実 施 に 当 たられるよう、 切 に 嘆 願 するものであり 表 す」と 請 願<br />

者 たちは 述 べた。 7<br />

次 に 議 会 は、ルターが 彼 らの 前 に 出 頭 することを 要 求 した。アレアンダーの 嘆 願 、<br />

抗 議 、 威 書 嚇 にもかかわらず、 皇 帝 はついにこれに 同 意 し、ルターは 議 会 に 出 頭 する<br />

命 令 を 受 けた。 召 喚 状 とともに、 無 事 帰 国 することを 保 証 した 通 行 券 も 発 行 された。<br />

これらは、 彼 をウォルムスに 連 れてくる 命 令 を 受 けた 使 者 が、ウィッテンベルクに 持<br />

って 来 た。<br />

ルターの 友 人 たちは、 恐 れ 悲 しんだ。 彼 らは、ルターに 対 する 敵 の 偏 見 を 知 ってい<br />

たので、 彼 の 通 打 券 さえ 空 文 に 帰 すのではないかと 懸 念 し、 危 険 に 身 をさらさぬよう<br />

にと 願 った。ルターは、 次 のように 答 えた。「 法 王 教 徒 たちは、わたしがウォルムス<br />

に 来 ることを 望 まず、ただ、わたしの 断 罪 と 死 を 求 めている。それはかまわない。わ<br />

たしのためでなく、 神 のみ 言 葉 のために 祈 ってほしい。……キリストは、これら、 誤<br />

蓼 の 使 者 たちに 打 ち 勝 つように、み 塩 をわたしに 与 えられるであろう。わたしは 一 生<br />

彼 らを 軽 べつする。わたしは 死 によって 彼 らに 勝 利 するであろう。 彼 らはわたしに 取<br />

り 消 しを 強 いようとして、ウォルムスで 忙 しく 働 いている。そして、わたしの 取 り 消<br />

しは、こうである。わたしは 以 前 、 法 王 はキリストの 代 理 であると 言 った。 今 、わた<br />

しは、 法 王 はキリストの 敵 であり、 悪 魔 の 使 徒 であると 断 言 する。」 8<br />

ルターは、この 危 険 な 旅 に 1 大 で 出 なくてもよかった。 皇 帝 の 便 者 のほかに、 彼 の<br />

最 もしっかりした 3 人 の 友 人 たちが、 同 道 する 決 心 をした。メランヒトンも、 彼 らに<br />

加 わることを 熱 望 した。 彼 の 心 はルターの 心 と 結 ばれていたので、 彼 は 同 行 を 切 望 し、<br />

必 要 ならば 牢 獄 や 死 をも 共 にしたいと 望 んだ。しかし、 彼 の 願 いは 許 されなかった。<br />

もしルターがなくなれば、 改 革 の 希 望 は、この 年 若 い 共 労 者 を 中 心 としなければなら<br />

ないのであった。ルターは、メランヒトンと 別 れる 時 に、 次 のように 言 った。「もし、<br />

わたしが 帰 らず、 敵 がわたしを 殺 しても、 教 えつづけて、 真 理 に 堅 く 立 ってほしい。<br />

わたしの 代 わりに 働 きなさい。……きみが 生 き 残 るならば、わたしの 死 はたいしたこ<br />

とではないのだ。」 9 ルターの 出 発 を 見 るために 集 まった 学 生 や 市 民 は、 深 い 感 動 を<br />

受 けた。 福 音 に 心 を 動 かされた 群 衆 は、 涙 ながらにルターに 別 れを 告 げた。こうして、<br />

改 革 者 ルターとその 一 行 は、ウィッうテンベルクを 出 発 した。<br />

彼 らはその 途 中 で、 人 々が 悲 しい 予 感 に 心 を 重 くしているのを 見 た。ある 町 では、<br />

彼 らに 対 してなんの 敬 意 も 示 されなかった。 夜 、 泊 まったところでは、 同 情 的 な 一 司<br />

104


国 際 協 定<br />

祭 が、ルターの 前 に、 殉 教 したイタリアの 改 革 者 の 肖 像 世 画 をかかげて、 彼 の 憂 慮 を<br />

衣 した。 翌 言 、 彼 らは、ルターの 著 書 に 対 すろ 有 罪 の 宣 告 がウオルムスで 下 されたこ<br />

とを 知 った。<br />

皇 帝 の 使 者 たちが 皇 帝 の 命 令 を 布 告 し、 禁 じられた 書 籍 を 長 官 のところに 持 参 する<br />

ように、 人 々に 呼 びかけていた。 使 者 は、 会 議 におけるルターの 安 全 を 気 づかい、す<br />

でにルクーの 決 意 は 揺 らいでいるものと 考 えて、なお 彼 が 前 進 する 希 望 であるかどう<br />

かをたずねた。 彼 は、「すべての 町 で 妨 害 を 受 けようとも、わたしは 前 進 する」と 答<br />

えた。 10 エルフルトでは、ルターは 大 いに 歓 迎 された。 彼 は、 賞 賛 する 群 衆 にかこま<br />

れて、 前 によく 托 鉢 して 歩 いた 通 りを 過 ぎた。 彼 は、 彼 の 修 道 院 の 部 屋 を 訪 れ、 当 時<br />

の 苦 悩 ——その 苦 悩 を 通 して、 光 が 彼 の 魂 を 照 らし、そしてその 光 が、 今 ドイツにあ<br />

ふれているのであるが——を 思 った。 彼 は、 説 教 をするように 勧 められた。 彼 は、こ<br />

れを 禁 止 されていたのであるが、 使 者 の 許 しがあったので、かつては 修 道 院 の 卑 しい<br />

仕 事 をしていた 者 が、 壇 に 上 った。<br />

彼 は、 集 まった 群 衆 に、「 平 安 があなたがたにあるように」というキリストの 言 葉<br />

をもって 語 りかけた。「 哲 学 者 、 博 士 、 著 者 たちは、 永 遠 の 生 命 を 得 る 道 を 人 々に 教<br />

えてきたが、 成 功 しなかった。わたしが 今 それをお 伝 えしよう …… 神 は、 死 を 滅 ぼ<br />

し、 罪 を 根 絶 し、 陰 府 [よみ]の 門 を 閉 じるために、1 人 の 人 、4 すなわち、 主 イエス<br />

・キリストを 死 からよみがえらせられた。これが 救 いの 業 である。……キリストは 勝<br />

利 された。これは、 喜 ばしい 知 らせてある。そして、われわれは、 彼 の 業 によって 救<br />

われた。われわれ 自 身 の 行 為 によってではない。……われわれの 主 イエス・キリスト<br />

は、『 安 かれ、わたしの 千 を 見 なさい』と 言 われた。つまり、おお、 人 よ、 見 よ、あ<br />

なたの 罪 を 除 き、あなたを 贖 ったのは、わたし、わたしだけであろ。そしてあなたは<br />

平 和 を 得 た、と 主 は 言 われるのである。」<br />

彼 は、 引 き 続 いて、 真 の 信 仰 は 聖 い 生 活 によってあらわされることを 示 した。「 神<br />

は、われわれを 救 われたのであるから、われわれの 行 為 が、 神 に 受 け 入 れられるよう<br />

にしようではないか。あなたは 富 んでいるか。それならあなたの 財 産 を、 貧 者 の 必 要<br />

にささげよう。あなたは 貧 しいか。それならあなたの 奉 仕 が 富 んでいる 人 々に 喜 ばれ<br />

るようにしよう。もしあなたの 労 働 が、ただあなたのためだけに 役 立 つものであれば、<br />

神 につくしているように 見 せかけている 奉 仕 は、 偽 りてある。」 11 人 々は、あたかも<br />

魅 せられたかのように 聴 き 入 った。これらの 飢 えた 魂 に、 生 命 のパンか 裂 き 与 えられ<br />

た。 彼 らの 前 で、キリストは、 法 上 や 法 王 使 節 、 皇 帝 や 国 王 たちよりも 高 く 掲 げられ<br />

た。ルターは、 自 分 の 危 険 な 立 場 については 何 も 語 らなかった。 彼 は 人 々に、 自 分 の<br />

ことを 考 えさせたり、 同 情 させたりしようとはしなかった。 彼 はキリストを 瞑 想 して、<br />

105


国 際 協 定<br />

自 分 を 見 失 ってしまった。 彼 は、カルバリーの 人 なるイエスの 後 ろに 隠 れ、イエスを<br />

罪 人 の 贖 い 主 として 指 し 示 すことだけを 求 めていた。<br />

ルターが 旅 を 続 けていくと、 至 る 所 で 非 常 な 興 味 をもって 迎 えられた。 熱 心 な 群 衆<br />

が 彼 を 取 り 囲 み、 好 意 を 筒 せる 人 々が、ローマ 教 側 の 意 図 することについて、 彼 に 警<br />

告 した。「 彼 らは、あなたを 焼 き 殺 し、ヨハン・フスに 行 ったと 同 様 に、あなたの 体<br />

を 灰 にするでしょう」とある 者 は 言 った。ルターはそれに 答 えた。「たとえ 彼 らが、<br />

ウィッテンべルクからウォルムス 表 で 火 を 点 じ、 炎 が 天 にまでとどいたとしても、わ<br />

たしはその 中 を 主 の 名 によって 過 ぎ、 彼 らの 前 に 立 とう。わたしは、この 巨 獣 のあご<br />

に 入 り、その 歯 を 砕 いて、 主 イエス・キリストのあかしをしよう。」 12<br />

ルターがウォルムスに 近 づいたという 知 らせは、 大 きな 騒 動 を 引 き 起 こした。 彼 の<br />

友 人 たちは 彼 の 身 の 安 全 を 気 づかい、 彼 の 敵 たちは 自 分 たちの 側 の 成 功 をあやぶんだ。<br />

彼 が 町 に 入 るのを 断 念 させようと する 非 常 な 努 力 がなされた。 法 王 側 の 扇 動 によって、<br />

ルターは、 友 好 的 な 騎 士 の 城 へ 行 くようにと 勧 められた。そこではすべての 困 難 が 円<br />

満 に 解 決 されうる、というのであった。 友 人 たちは、さし 迫 った 危 険 を 述 べて、 彼 に<br />

恐 怖 心 を 起 こさせようとした。しかし、 彼 らの 努 力 は 無 に 帰 した。ルターは 少 しも 動<br />

ずることなく、「たとえ、ウォルムスに 屋 根 の 瓦 のように 多 くの 悪 魔 がいても、なお<br />

わたしはウォルムスへ 行 く」と 断 言 した。 13<br />

彼 かウォルムスに 到 着 した 時 、 大 群 衆 が 門 に 集 まって 彼 を 歓 迎 した。 面 皇 帝 を 出 迎<br />

える 時 でも、これほとの 群 衆 が 集 まったことはなかった。 激 しい 興 奮 が 起 こった そ<br />

して 群 衆 の 中 からかん 高 くもの 悲 しい 声 が 葬 送 歌 を 歌 い 出 して、ルターを 待 っている<br />

運 命 を 警 告 した。しかし 彼 は、 馬 車 から 降 りる 時 、「 神 はわたしの 高 きやぐらである」<br />

と 言 った。 法 王 側 は、ルターがほんとうにウォルムスに 姿 を 現 すとは 考 えていなかっ<br />

た。 彼 の 到 着 に 彼 らは 驚 いた。 皇 帝 は、 直 ちに 議 員 を 召 集 して、どうすべきかを 諮 っ<br />

た。 厳 格 な 法 [ 教 徒 である、1 人 の 司 教 は、 次 のように 言 った。「われわれはこの 問 題<br />

を 長 く 考 慮 してきました。どうか 阜 帝 は、この 男 を 直 ちに 処 分 してくださるように。<br />

ジギスムントはヨハン・フスを 火 刑 にしたではありませんか。われわれは、 異 端 者 に<br />

通 行 券 を 与 えることも、それに 束 縛 されることもありません」「いや、われわれは 約<br />

束 を 守 らねばならない」と 皇 帝 は 言 った。 14 こうしてルターは、 発 言 することにきま<br />

った。<br />

全 市 は、この 驚 くべき 人 物 を 見 ようとわきかえり、まもなく、 彼 の 宿 舎 には 訪 問 者<br />

が 殺 到 した。ルターは、 病 気 がなおったばかりであった。 彼 は、 丸 2 週 間 かかった 旅<br />

行 に 疲 れていた。そして、 翌 日 の 重 大 なできごとに 直 面 する 準 備 をしなければならな<br />

106


国 際 協 定<br />

かった。 彼 には 安 静 と 休 養 が 必 要 であった。しかし、 貴 族 、 騎 士 、 司 祭 、 市 民 など、<br />

彼 に 会 いたい 人 々が 続 々とつめかけて、 彼 はわずか 2、3 時 間 の 睡 眠 しかとれなかっ<br />

た。これら 訪 問 者 の 中 には、 聖 職 者 たちの 悪 弊 の 改 革 を 大 胆 に 皇 帝 に 要 求 していた 多<br />

くの 貴 族 たちがいた。ルターは、この 人 々は「みな、わたしの 福 音 によって 解 放 され<br />

た 人 たちだ」と 言 った。 15 友 人 たちだけでなく、 敵 もまた、この 不 屈 の 修 道 土 を 見 よ<br />

うとしてやってきた。しかし 彼 は、ゆるがぬ 冷 静 さをもって 彼 らに 面 会 し、だれにで<br />

も、 威 厳 と 知 恵 をもって 答 えた。 彼 の 態 度 はしっかりしていて、 勇 敢 であった。 彼 の<br />

青 ざめた、やせた 顔 には、 労 苦 と 病 気 のあとがあったが、 思 いやりと 喜 びの 表 情 さえ<br />

たたえていた。 厳 粛 で 真 剣 な 彼 の 言 葉 には、 敵 でさえ 全 くたちうちできない 力 があっ<br />

た。これには 敵 も 味 方 も 幣 いた。ある 者 たちは、 彼 の 上 に 神 の 力 が 加 わったと 信 じた<br />

が、キリストについてパリサイ 人 が 言 たように、「 彼 は 悪 霊 にとりつかれている」と<br />

言 う 者 たちもいた。<br />

ルターは、 翌 日 、 議 会 に 出 頭 するように 命 じられた。 式 部 官 が 彼 を 議 場 に 案 内 する<br />

ことになっていたが、そこまで 行 くのが 非 常 に 困 難 であった。どの 街 路 も、 法 士 の 権<br />

威 にあえて 抵 抗 した 修 道 士 を 見 ようとする 群 衆 でいっぱいだった。 彼 がまさに、 裁 判<br />

官 たちの 前 に 出 ようとした 時 、 幾 多 の 戦 いを 経 た 英 雄 である 老 将 軍 が、やさしく 彼 に<br />

言 った。「 哀 れな 修 道 士 、 哀 れな 修 道 士 よ。おまえは、わたしや、その 他 の 将 軍 たち<br />

のどのような 血 みどろの 激 戦 よりも、もっと 崇 高 な 戦 いをしようとしている。だが、<br />

おまえの 主 張 が 正 しく、おまえがそれを 確 信 しているならば、 神 の 名 によって 前 進 せ<br />

よ。 何 も 恐 れるな。 神 はおまえをお 見 捨 てにならないだろう」 16<br />

ついに、ルターは、 議 会 の 前 に 立 った。 皇 帝 が 玉 座 を 占 めていた。 彼 の 周 りには、<br />

帝 国 内 の 最 も 著 名 な 人 々が 並 んでいた。マルチン・ルターが 自 分 の 信 仰 の 弁 明 のため<br />

に、その 前 に 立 ったような、 堂 々たる 人 々の 前 に 立 った 者 は、これまでになかった。<br />

「このように 彼 が 現 れたこと 自 体 が、 法 王 制 に 対 する 著 しい 勝 利 であった。すでに 法<br />

王 は、この 人 間 を 罪 に 定 めた。しかるに 彼 は、 今 、 法 廷 に 立 っている。そしてこの 事<br />

実 そのものが、この 裁 判 の 場 が 法 王 以 上 のものであることを 示 していた。 法 王 は 彼 を、<br />

聖 務 禁 止 に 処 し、すべての 人 間 社 会 から 切 り 離 した。それにもか かわらず、 彼 は、 丁<br />

重 な 言 葉 で 召 喚 されて、 世 界 で 最 も 荘 重 な 議 会 に 迎 えられた。 法 王 は 彼 に 永 久 の 沈 黙<br />

を 課 したにもかかわらず、 今 、 彼 は、キリスト 教 国 の 最 も 遠 隔 の 地 から 集 まった、 幾<br />

千 という 深 い 関 心 を 持 った 聴 衆 の 前 で 語 ろうとしている。こうして、ルターという 器<br />

によって、 大 きな 改 革 が 起 きたのである。ローマは、すでに、その 王 座 から 降 りつつ<br />

あったが、この 屈 辱 をもたらしたのは、 一 修 道 士 の 声 であった。」 17<br />

107


国 際 協 定<br />

卑 しい 身 分 のルターは、この 権 力 をもった 有 爵 議 員 たちの 前 で、 恐 れ、 当 惑 してい<br />

るように 思 われた。 幾 人 かの 貴 族 は、 彼 の 心 中 を 察 して 彼 に 近 寄 り、その 中 の 1 人 が<br />

次 のようにささやいた。 「 体 を 殺 しても、 魂 を 殺 すことのできない 者 どもを 恐 れる<br />

な。」また、 他 の 者 は、「あなたがたが 会 堂 や 役 人 や 高 官 の 前 へ 引 っぱられて 行 った<br />

場 合 には、…… 言 うべきことは、 聖 霊 がその 時 に 教 えてくださる」と 言 った。こうし<br />

て、キリストの 言 葉 が、 世 の 偉 大 な 人 々によって 持 ち 出 され、 試 練 に 直 面 した 主 のし<br />

もべを 強 めたのである。 ルターは、 皇 帝 の 玉 座 のすぐ 前 の 位 置 に 案 内 された。 満 員 の<br />

議 会 が 静 粛 になった。そこで、 式 部 官 が 立 ち 上 がり、 積 み 重 ねられたルターの 著 書 を<br />

指 さして、ルターに 2 つの 質 問 に 答 えることを 要 求 した。すなわち、 彼 が、これを 彼<br />

の 著 書 と 認 めるかどうか、また、その 中 で 論 じた 主 張 を 取 り 消 すかどうか、というこ<br />

とであった。 彼 の 著 書 の 名 が 読 み 上 げられ、ルターは、 第 一 の 質 問 に 対 して、それら<br />

の 書 物 が 彼 のものであることを 認 めた。「 第 二 に 関 しては、それが 信 仰 と 魂 の 救 いに<br />

関 する 問 題 であり、 天 においても 地 においても、 最 大 で 最 も 尊 い 神 の 言 葉 を 含 むもの<br />

でありますから、よく 考 えずに 答 えることは 慎 重 を 欠 くことになります。わたくしは、<br />

事 情 の 要 求 に 1 分 答 えず、あるいは、 真 理 の 命 じること 以 上 を 述 べて、『 人 の 前 でわ<br />

たしを 拒 む 者 を、わたしも 天 にいますわたしの 父 の 前 で 拒 むであろう』というキリス<br />

トの 言 葉 に 対 して 罪 を 犯 すことになるかも 知 れません[マタイ 10:。このために、わ<br />

たくしは、 神 のみ 訂 葉 に 罪 を 犯 さずに 答 えることができますよう、 時 間 が 与 えられる<br />

ことを、 陛 下 に 伏 して 懇 願 いたします」と 彼 は 言 った。 18<br />

このように 願 い 出 ることによって、ルターは 賢 明 にふるまった。 彼 の 態 度 は、 彼 が<br />

感 情 や 衝 動 にかられて 行 動 しているのではないことを、 集 まった 人 々に 確 信 させた。<br />

この 沈 着 と 自 制 は、これまで 大 胆 で 妥 協 することのなかったルターには 期 待 できなか<br />

ったことで、これが 彼 に 力 を 増 し 加 え、 後 に、 彼 が 慎 重 、 決 断 、 知 恵 、 威 厳 をもって<br />

答 弁 する——そのことは 彼 の 敵 に 驚 きと 失 望 を 与 え、また 彼 らの 高 慢 と 不 遜 を 譴 責 す<br />

るものであったが——ことを 可 能 にしたのであった。 翌 言 、 彼 は 最 後 の 答 弁 をするた<br />

めに 現 れることになっていた。 一 時 、 彼 は、 真 理 に 対 抗 して 結 束 した 勢 力 のことを 考<br />

えて、 気 がめいった。 彼 の 信 仰 は 揺 らぎ、 彼 は 恐 怖 と 戦 慄 に 襲 われ、 恐 怖 感 に 圧 倒 さ<br />

れた。 彼 の 前 に 危 険 は 増 大 した。 彼 の 敵 は、まさに 勝 利 しようとしているように 見 え、<br />

暗 黒 の 勢 力 がまさに 勝 とうとしているように 思 われた。 彼 の 周 りには 暗 雲 がたれこめ、<br />

彼 を 神 から 引 き 離 すように 思 われた。 彼 は、 万 軍 の 主 が 彼 と 共 におられるという 確 証<br />

を 熱 望 した。 彼 は 苦 悶 のあまり、 地 の 上 に 突 伏 して、 神 のほかはだれにも 理 解 できな<br />

いところの、 切 れ 切 れの 悲 痛 な 叫 びをあげた。<br />

108


国 際 協 定<br />

彼 は 嘆 願 した。「ああ、 全 能 で 永 遠 の 神 よ、この 世 界 はなんと 恐 ろしいことでしょ<br />

うか。 世 は 言 を 開 いて、わたしをのみこもうとし、しかもあなたに 対 するわたしの 信<br />

仰 は、まことに 弱 いのです。……わたしがこの 世 の 力 だけに 信 頼 しなければならない<br />

のなら、 万 事 は 終 わりです。……わたしの 最 後 の 時 が 来 ました。わたしはすでに 有 罪<br />

の 宣 告 を 受 けました。……ああ、 神 よ、 世 紀 のすべての 知 恵 に 対 抗 してわたしを 助 け<br />

てください。……あなただけが……わたしをお 助 けください。これはわたしの 業 では<br />

なく、あなたの 業 だからです、わたしには 何 もできません。これら 世 の 偉 大 な 人 々と<br />

闘 うものは 何 もありません。……しかし、この 事 業 はあなたのものです。……しかも<br />

それは、 正 しくて 永 遠 の 事 業 です。ああ 主 よ、わたしをお 助 けくだ さい。 真 実 で 不 変<br />

の 神 よ、わたしは 人 には 信 頼 を 置 きません。…… 人 間 はすべて 不 確 かで、 人 間 のもの<br />

はみな 失 敗 に 終 わります。……あなたはわたしを、この 仕 事 のためにお 選 びになりま<br />

した。……わたしの 力 、 盾 、わたしの 高 きやぐらであられる 愛 するみ 子 イエス・キリ<br />

ストのゆえに、わたしのそばに 立 ってください。」 19 全 知 の 神 の 摂 理 は、ルターが 自<br />

分 の 力 に 頼 って 僣 越 に 危 険 の 中 に 飛 び 込 まないように、その 危 険 をルターに 自 覚 させ<br />

られた。しかしそれは、 目 前 に 迫 るように 思 われた 苦 灘 や、 死 の 拷 問 の 恐 怖 が、 彼 を<br />

圧 倒 したのではなかった。 彼 は 危 機 に 直 面 していた。そして 彼 は、それに 対 する 自 分<br />

の 無 力 さを 感 じたのであった。<br />

彼 の 弱 さのために、 真 理 の 運 動 が 敗 北 するかも 知 れなかった。 自 分 自 身 の 安 全 のた<br />

めではなく、 福 音 の 勝 利 のために、 彼 は 神 と 格 闘 した。 夜 、 寂 しい 川 のそばで 苦 闘 し<br />

たイスラエルのように、 彼 は 魂 を 注 ぎ 出 して 苦 しみ 闘 った。そして、イスラエルのよ<br />

うに、 彼 は 神 に 勝 った。 彼 は、 自 分 が 全 く 無 力 であることを 感 じ、 力 ある 贖 い 主 、キ<br />

リストをしっかりと 信 仰 によって 捕 らえた。 彼 は、 自 分 1 人 で 議 会 に 出 るのではない<br />

という 確 信 に 強 められた。 彼 の 魂 に 平 安 がかえってきた。そして 彼 は、 神 の 言 葉 を 国<br />

々の 王 たちの 前 で 高 めることが 許 されたのを 喜 んだ。<br />

ルターは、 神 に 心 を 置 きながら、 自 分 の 前 にある 闘 いの 準 備 をした。 彼 は、 答 弁 の<br />

方 法 を 考 え、 自 分 の 著 書 の 文 章 を 調 べ、 聖 書 から 彼 の 主 張 を 支 持 する 適 当 な 証 拠 を 引<br />

用 した。それから 彼 は、 自 分 の 前 に 開 かれた 聖 書 の 上 に 左 手 を 置 き、 右 手 を 天 に 向 け<br />

て 上 げ、「たとえ 証 言 のために 血 を 流 すことがあっても、 福 音 に 忠 誠 をつくし、なに<br />

ものにもとらわれずに 自 分 の 信 仰 を 告 白 する」ことを 誓 った。 20 彼 がふたたび 議 会 に<br />

入 ってきた 時 には、 彼 の 顔 に 恐 怖 や 動 揺 の 色 はなかった。 沈 着 で 穏 やかで、しかも 勇<br />

敢 で 気 高 い 態 度 で、 彼 は 神 の 証 人 として、 地 上 の 偉 大 な 人 々の 前 に 立 った。 式 部 官 は、<br />

ここで、 彼 に 教 義 を 取 り 消 すかどうかの 決 定 を 迫 った。ルターは、 激 しさや 感 情 をま<br />

109


国 際 協 定<br />

じえぬ 落 ちついたけんそんな 調 子 で 答 えた。 彼 の 態 度 は 遠 慮 がちで、 礼 儀 正 しかった。<br />

しかし 彼 は、 議 会 を 驚 かすほどの 確 信 と 喜 びにあふれていた。<br />

「いとも 高 き 皇 帝 陛 下 、いとも 高 名 なる 諸 侯 、いとも 優 渥 なる 諸 賢 」とルターは 言<br />

った。「 本 日 、わたくしは、 昨 日 わたくしに 与 えられましたご 命 令 に 従 って、ここに<br />

まいりました。そして、わたくしは、 神 の 憐 れみによって、 陛 下 および 殿 下 方 が、 正<br />

しく 真 実 であるとわたくしの 信 じております 運 動 に 関 する 弁 明 を、 慈 悲 深 く 聞 いてく<br />

ださるように 懇 願 いたします。もしわたくしが、 知 らずに 宮 廷 の 慣 例 や 作 法 に 背 くこ<br />

とがあれば、どうかお 赦 しください。わたくしは、 宮 廷 で 育 った 者 ではなく、 修 道 院<br />

の 隠 遁 生 活 をしていた 者 なのですから。」 21<br />

こうして、いよいよ 本 論 に 入 り、 彼 は、 自 分 の 著 書 は 全 部 が 同 じ 性 質 のものではな<br />

いと 述 べた。ある 著 書 の 中 では、 信 仰 と 善 行 を 扱 っていて、 彼 の 敵 たちでさえ、それ<br />

が 無 害 であるばかりでなくて 有 益 であると 言 明 している。したがって、これらを 取 り<br />

消 すことは、すべての 党 派 の 人 々が 告 白 している 真 理 を 否 認 することである。 第 二 の<br />

部 類 は、 法 王 制 の 腐 敗 と 悪 弊 とを 暴 露 した 著 書 である。こうした 著 書 を 取 り 消 すこと<br />

はローマの 圧 政 を 助 長 し、 多 くのはなはだしい 邪 悪 行 為 への 道 を、さらに 開 くことに<br />

なる。 彼 の 著 書 の 第 三 の 部 類 は、 現 存 する 害 悪 を 弁 護 した 諸 個 人 を 攻 撃 したものであ<br />

った。これについて 彼 は、 度 を 越 えて 激 しく 行 ったことを 率 直 に 告 白 した。 彼 は、 誤<br />

りがなかったとは 言 わなかった。しかし 彼 は、これらの 著 書 に 関 しても 取 り 消 すこと<br />

はできなかった。というのは、そりするならば、 真 理 の 敵 を 大 胆 にし、ますます 残 忍<br />

に 神 の 民 を 粉 砕 するおそれがあったからである。<br />

彼 は 言 葉 を 続 けた。「とはいえ、わたくしは 単 なる 1 個 の 人 間 にすぎず 神 ではあり<br />

ません。ですからわたくしは、キリストのように、『もしわたしが 何 か 悪 いことを 言<br />

ったのなら、その 悪 い 理 由 を 言 いなさい』と 弁 明 するものであります。…… 神 の 憐 れ<br />

みによってわたくしは、いと 高 き 皇 帝 陛 下 と 諸 侯 、そして、すべての 諸 賢 が、 預 言 者<br />

と 使 徒 たちの 書 によって、わたくし<br />

が 誤 っていることを 証 明 してくださるよう 懇 願 いたします。わたくしがこれを 納 得 い<br />

たしましたなら、ただちに、すべての 誤 りを 取 り 消 し、わたくしがまず 第 一 に、わた<br />

くしの 書 物 をとって 火 に 投 げ 込 みましょう。<br />

ただいまわたくしが 申 し 上 げましたことから、わたくしは 自 分 が 当 面 しております<br />

危 険 について 十 分 に 考 察 吟 味 したということが、おわかりいただけると 思 います。し<br />

かしわたくしは、 少 しも 落 胆 してはおりません。 福 音 が 昔 のように、 今 、 紛 争 と 議 論<br />

の 原 因 になったことを、わたくしは 喜 びます。これが、 神 のみ 言 葉 の 特 質 であり、 運<br />

110


国 際 協 定<br />

命 なのです。『 平 和 ではなく、つるぎを 投 げ 込 むためにきたのである』とイエス・キ<br />

リストは 言 われました。<br />

神 は、 驚 くべき、また 恐 るべきことを 仰 せになっています。 紛 争 を 鎮 めようとして、<br />

神 のみ 言 葉 に 逆 らい、 自 分 自 身 の 上 に 避 けることのできない 危 険 と 災 害 の 恐 るべき 大<br />

洪 水 を 招 き、 永 遠 の 破 滅 に 陥 ることのないよう、 注 意 いたさねばなりません。……わ<br />

たくしは、 神 のみ 言 葉 から 多 くの 実 例 を 挙 げることができます。たとえば、パロや、<br />

バビロンの 王 たち、イスラエルの 王 たちは、 一 見 最 も 賢 明 と 思 われた 方 法 である 会 議<br />

によって、 王 国 を 強 化 しようとしたのですが、 実 は、こうした 彼 らの 努 力 が、 他 の 何<br />

よりも 彼 らの 破 滅 を 早 めるのに 貢 献 したのでした。『 神 は 山 を 移 されるが、 彼 らはそ<br />

れを 知 らない』とあるとおりです。」 22<br />

以 上 のことを、ルターはドイツ 語 で 語 った。そして 今 度 は、 同 じ 言 葉 をラテン 語 で<br />

くり 返 すように 要 求 された。 彼 は、これまでの 奮 闘 によって 疲 れきっていたけれども、<br />

それに 応 じて、ふたたび、 最 初 と 同 様 の 明 快 さと 力 強 さをもって 演 説 した。これは 神<br />

の 摂 理 の 導 きであった。 多 くの 諸 侯 たちの 心 は、 誤 りと 迷 信 に 目 がくらんでいたので、<br />

最 初 の 演 説 では、ルターの 議 論 の 力 を 十 分 に 認 めることができなかった。しかし、ふ<br />

たたびくり 返 して 聞 いたために、 示 された 要 点 をはつきりと 理 解 することができた。<br />

光 に 対 してかたくなに 目 を 閉 じ、 真 理 に 説 得 されまいと 心 をきめていた 人 々は、ル<br />

ターの 力 強 い 言 葉 に 激 怒 した。 彼 が 語 り 終 えた 時 、 議 会 の 代 弁 者 は 怒 って 言 った。<br />

「あなたは 質 問 されたことに 答 弁 していない。……あなたには、 明 瞭 で 正 確 な 答 えが<br />

要 求 されている。……あなたは 取 り 消 すのか、 取 り 消 さないのか。」 改 革 者 は 答 えた。<br />

「 皇 帝 陛 下 と 殿 下 方 は、わたくしに 簡 単 で 明 瞭 で 正 確 な 答 えを 要 求 しておられますの<br />

で、ここにお 答 えいたします。それは 次 のとおりであります。わたくしはわたくしの<br />

信 仰 を、 法 王 にも 会 議 にも 従 わせることはできません。と 申 しますのは、 両 者 ともし<br />

ばしば 誤 りを 犯 し、また 互 いに 矛 盾 してきたということが 明 白 だからであります。<br />

それゆえ、わたくしは、 聖 書 からの 証 明 、あるいは 明 瞭 な 議 論 によって、 納 得 させ<br />

られないかぎり、また、わたくしが 引 用 した 聖 旬 によって 納 得 させられないかぎり、<br />

そして、このようにして、わたくしの 良 心 が 神 のみ 言 葉 によって 義 務 づけられないか<br />

ぎり、わたくしは 取 り 消 すことができませんし、 取 り 消 そうとも 思 いまりせん。なぜ<br />

なら、キリスト 者 が 良 心 に 背 いて 語 ることは、 危 険 だからであります。ここに、わた<br />

くしは 立 ちます。わたくしは、これ 以 外 に 何 もできません。 神 よ、わたくしを 助 けた<br />

まえ。アーメン。」 23<br />

111


国 際 協 定<br />

こうして、 義 人 ルターは、 神 のみ 言 葉 の 確 かな 土 台 の 上 に 立 った。 天 からの 光 が 彼<br />

の 顔 を 照 らした。 彼 の 偉 大 で 純 潔 な 品 性 、 彼 の 心 の 平 和 と 喜 びとが、すべての 者 に 明<br />

らかに 示 された。こうして、 彼 は、 誤 りの 力 に 対 抗 してあかしを 立 て、 世 に 勝 っ 信 仰<br />

がいかに 優 れたものであるかを 証 明 した。<br />

集 まった 者 はみな、しばらくの 間 、 驚 きのあまり 何 も 言 えなかった。ルターは、 最<br />

初 に 答 えた 時 に、 低 い 声 で、 敬 意 を 表 しながら、 従 順 な 態 度 で 話 した。 法 王 側 はこれ<br />

を、 彼 の 勇 気 がくじけ 始 めた 証 拠 であると 解 釈 した。 彼 らは、 延 期 の 願 い 出 を、 取 り<br />

消 しの 前 提 に 過 ぎないと 考 えた。カール 自 身 さえ、 修 道 士 の 疲 れた 様 子 、 彼 の 質 素 な<br />

衣 服 、そして、 彼 の 飾 り 気 のない 話 に 対 し、 半 ば 軽 べつ 的 に「この 修 道 士 は、わたし<br />

を 異 端 者 にすることは 決 してできない」と 言 った。しかるに 今 、 彼 の 議 論 の 力 と 明 瞭<br />

さと 共 に、 彼 が 表 し た 勇 気 と 堅 固 さとに、すべての 者 は 驚 き 入 った。 皇 帝 も 賛 嘆 して、<br />

「この 修 道 士 は、 大 胆 にゆるがぬ 勇 気 をもって 語 る」と 叫 んだ。ドイッの 諸 侯 たちの<br />

多 くは、 彼 らの 国 のこの 代 表 者 に 誇 りと 喜 びを 感 じたのである。<br />

ローマ 派 の 者 たちは 敗 北 した。 彼 らの 運 動 は 最 も 不 利 なぐ 匠 場 に 陥 ったように 見 え<br />

た。 彼 らは、 聖 書 に 訴 えることをせず、ローマの 常 套 手 段 である 脅 迫 によって、 彼 ら<br />

の 権 力 を 維 持 しようとした。 議 会 の 代 弁 者 は、「あなたが 取 り 消 さないならば、 皇 帝<br />

と 帝 国 内 の 諸 国 は、 頑 迷 な 異 端 者 に 何 をすべきかを 協 議 する」と 言 った。 ルターの 友<br />

人 たちは、 彼 の 堂 々とした 弁 護 を 非 常 に 喜 んで 聞 いていたが、この 言 葉 を 聞 いて 戦 慄<br />

した。しかしルター 自 身 は 冷 静 に、「 神 がわたくしの 援 助 者 となってくださるように。<br />

わたくしには 何 も 取 り 消 すことができないからです」と 言 った。 24<br />

彼 は、 諸 侯 たちが 協 議 する 間 、 議 会 から 出 るように 命 じられた。 一 大 危 機 がやって<br />

きたことが 感 じられた。ルターが 従 うことを 頑 強 に 拒 むことは、 幾 時 代 にもわたる 教<br />

会 の 歴 史 に 影 響 を 及 ぼすものであった。 彼 にもう 1 度 取 り 消 す 機 会 を 与 えることが 決<br />

定 された。 彼 は、いよいよ 最 終 的 に 議 会 に 連 れ 出 された。 彼 は、もう 1 度 、 彼 の 教 義<br />

を 放 棄 するかどうかを 聞 かれた。「わたくしは、すでに 申 し 上 げたこと 以 外 に、お 答<br />

えすることはございません」と 彼 は 言 った。どんな 約 束 や 脅 迫 によっても、 彼 をロー<br />

マの 命 令 に 屈 服 させることができないことは 明 らかであった。<br />

法 王 側 の 指 導 者 たちは、 王 たちや 貴 族 たちを 戦 標 させてきた 彼 らの 権 力 が、このよ<br />

うにして 卑 しい 修 道 王 によって 軽 べつされたことを 無 念 がり、 彼 に 拷 問 の 責 め 苦 を 加<br />

えて 殺 すことによって、 彼 らの 怒 りを 彼 に 思 い 知 らせたいと 望 んだ。しかしルターは、<br />

自 分 の 危 険 を 悟 って、すべての 者 にキリスト 者 の 威 厳 と 冷 静 さをもって 答 えた。 彼 の<br />

言 葉 には、 高 慢 や 激 しい 感 情 や 誤 り 偽 りなどは 1 つもなかった。 彼 は、 自 分 自 身 も、<br />

112


国 際 協 定<br />

自 分 の 周 りの 偉 大 な 人 物 たちのことも 忘 れ、ただ 自 分 が、 法 王 や 高 位 聖 職 者 や 王 や 皇<br />

帝 などよりも、 無 限 に 優 れておられるところの 神 の 面 前 にある、ということしか 考 え<br />

なかった。キリストが、ルターの 証 言 を 通 して 力 強 く 堂 々と 語 られたのであった。そ<br />

のために、 敵 も 味 方 も、 一 時 は 驚 嘆 し 敬 服 してしまった。その 議 会 には 神 の 霊 が 臨 在<br />

して、 帝 国 の 首 脳 者 たちの 心 に 感 銘 を 与 えられた。 諸 侯 たちの 幾 人 かは、ルターの 運<br />

動 の 正 当 性 を 大 胆 にも 認 めた。 多 くの 者 が 真 理 を 悟 った。しかし、 受 けた 印 象 が 長 続<br />

きしない 者 もあった。そのほかに、この 時 は 受 けた 感 銘 の 表 示 はしなかったものの、<br />

後 に 自 分 で 聖 書 を 研 究 して、 恐 れを 知 らぬ 宗 教 改 革 の 支 持 者 になったものもあった。<br />

選 挙 侯 フリードリヒは、ルターが 議 会 に 現 れるのを、 今 か 今 かと 待 っていた。そし<br />

て、 彼 の 演 説 を 聞 いて 深 く 感 動 した。 彼 は、 喜 びと 誇 りをもってルターの 勇 気 と 堅 固<br />

さと 沈 着 な 態 度 を 見 、ますます 断 固 として 彼 を 擁 護 する 決 心 をした。 彼 は、 論 争 にお<br />

ける 両 者 を 比 較 し、 法 王 や 王 たちや 高 位 聖 職 者 たちの 知 恵 が、 真 理 の 力 によって 打 ち<br />

こわされたのを 見 た。 法 王 制 は、 各 国 各 時 代 に 影 響 を 及 ぼす 敗 北 をこうむった。 法 王<br />

使 節 は、ルターの 演 説 が 引 き 起 こした 影 響 に 気 づいた 時 、これまでになかったほどロ<br />

ーマの 権 力 の 安 泰 を 心 配 し、 全 力 をあげて 改 革 者 ルターを 倒 そうと 決 意 した。 彼 は、<br />

その 優 れた 特 質 であった 雄 弁 と 外 交 的 手 腕 とをふるって、 名 もない 一 修 道 士 の 主 張 の<br />

ために、 強 力 なローマ 法 王 庁 の 友 交 と 支 持 を 犠 牲 にすることの 愚 かさと 危 険 とを、 若<br />

い 皇 帝 に 説 いた。<br />

彼 の 言 葉 は 影 響 を 及 ぼさずにはいなかった。ルターの 答 弁 が 行 われた 翌 日 、カール<br />

は、 先 祖 たちの 政 策 に 従 ってカトリック 教 を 擁 護 し 保 護 するという 決 意 を 伝 える 布 告<br />

を、 議 会 に 提 出 させた。ルターは 自 分 が 誤 っていることを 取 り 消 すのを 拒 んだのであ<br />

るから、 彼 と、 彼 の 唱 えた 異 端 に 対 しては、 断 固 とした 処 置 が 取 られるのであった。<br />

「 自 分 自 身 の 愚 かな 考 えに 道 を 誤 った 一 修 道 士 が、キリスト 教 の 信 仰 に 反 対 して 立 ち<br />

上 がった。このような 不 敬 慶 を 阻 止 するために、わたしは、わたしの 王 国 、わたしの<br />

宝 、わたしの 友 、わたしの 体 、わたしの 血 、わたしの 魂 、そして、わた しの 生 命 を 犠<br />

牲 にする。わたしは、アウグスチン 派 修 道 会 士 ルターを 追 放 し、 彼 が 国 民 の 間 で 少 し<br />

でも 秩 序 を 乱 すことを 禁 じる。そして、わたしは、ルターと 彼 の 支 持 者 たちを、 反 抗<br />

的 な 異 端 者 として 訴 え、 破 門 、 聖 務 禁 止 、そしてあらゆる 手 段 をもって 撲 滅 するであ<br />

ろう。わたしは、 議 員 たちが、 忠 実 なキリスト 者 として 行 動 することを 求 める。」 25<br />

しかしルターの 通 行 券 は 尊 重 すべきで、 彼 に 対 する 処 分 が 行 われる 前 に 彼 は 安 全 に 帰<br />

宅 を 許 されるべきであると 皇 帝 は 宣 した。<br />

ここで、 議 会 の 議 員 の 中 で、2 つの 相 反 する 意 見 が 主 張 された。 法 王 使 節 と 法 王 側<br />

の 代 表 者 たちは、 改 革 者 の 通 行 券 を 無 視 することを 再 び 主 張 した。「1 世 紀 前 のヨハ<br />

113


国 際 協 定<br />

ン・フスのように、 彼 の 灰 はライン 河 に 投 げられるべきである」と 彼 らは 言 った。 26<br />

しかしドイツの 諸 侯 は、 彼 ら 自 身 法 王 教 徒 でルターの 宿 敵 ではあったが、そのような<br />

一 般 の 信 頼 に 背 く 行 為 に 反 対 し、それは 国 家 の 名 誉 を 辱 しめる 汚 点 であるとして 異 議<br />

を 唱 えた。 彼 らは、フスの 死 後 に 起 きた 不 幸 なできごとを 指 して、これと 同 様 の 恐 ろ<br />

しい 災 いを、ドイツおよび 年 若 い 皇 帝 の 上 に 降 したくないと 言 明 した。<br />

カール 自 身 もその 卑 劣 な 提 案 に 答 えていった。「たとえ 全 世 界 から 名 誉 と 信 義 が 追<br />

放 されても、それらは、 諸 侯 の 心 の 中 に 隠 れ 家 を 見 いださなければならない。」 27 法<br />

王 側 の、ルターを 最 も 憎 んでいる 敵 は、ジギスムントがフスを 扱 ったように、 皇 帝 が<br />

ルターを 処 理 するよう、さらに 要 求 した。それは、 彼 を 教 会 の 手 中 に 一 任 することで<br />

あった。しかし、フスが 公 衆 の 面 前 で 自 分 の 鎖 を 指 し、 皇 帝 の 不 実 を 指 摘 したことを<br />

思 い 起 こして、カール 5 世 は、「わたしはジギスムントのように 赤 面 したくない」と<br />

言 った。 28<br />

しかし、カールは、ルターが 示 した 真 理 を 故 意 に 拒 絶 した。「わたしは 先 祖 たちの<br />

模 範 に 従 うことを 堅 く 決 心 した」と 王 は 書 いた。 29 。 彼 は、 慣 習 の 道 からは 1 歩 も 外<br />

に 出 ない 決 心 をし、 真 理 と 義 の 道 を 歩 こうとさえしなかった。 彼 は、 先 祖 たちが 支 持<br />

したゆえに、 残 酷 で 腐 敗 しているにもかかわらず 法 王 制 を 支 持 するのであった。こう<br />

して 彼 は、 先 祖 たちが 受 けた 光 よりも 進 んだ 光 を 受 けることを 拒 み、 彼 らが 行 わなか<br />

った 義 務 は、 何 1 つすまいとしたのである。<br />

今 日 でも、 先 祖 の 習 慣 や 伝 統 を 固 守 する 人 が 多 い。 主 が 彼 らに 新 しい 光 をお 与 えに<br />

なると、 彼 らは、それが 先 祖 に 与 えられておらず、 彼 らがそれを 受 け 入 れていなかっ<br />

たという 理 由 で 受 けることを 拒 む。われわれは、 先 祖 たちの 時 代 におかれてはいない。<br />

したがってわれわれの 義 務 と 責 任 は、 彼 らと 同 じではない。 自 分 で 真 理 の 言 葉 を 探 究<br />

せずに、 先 祖 の 模 範 によってわれわれの 義 務 を 決 定 しようとすることは、 神 に 喜 ばれ<br />

ない。われわれの 責 任 は、 先 祖 たちの 責 任 よりはいっそう 重 いのである。 われわれは、<br />

彼 らが 受 けた 光 、そして、われわれに 遺 産 として 伝 えられたものに 対 して 責 任 がある。<br />

そして、われわれは、 今 神 のみ 言 葉 からわれわれの 上 に 輝 いている 追 加 的 な 光 に 対 し<br />

てもまた 責 任 がある。<br />

キリストは、 不 信 仰 なユダヤ 人 について 言 われた。「もしわたしがきて 彼 らに 語 ら<br />

なかったならば、 彼 らは 罪 を 犯 さないですんだであろう。しかし 今 となっては、 彼 ら<br />

には、その 罪 について 言 いのがれる 道 がない」[ヨハネ 15:。 同 じ 神 の 力 が、ルター<br />

を 通 して、ドイツの 皇 帝 と 諸 侯 に 語 ったのである。そして、 光 が 神 のみ 言 葉 から 輝 い<br />

た 時 に、 神 の 霊 が、 議 会 内 の 多 くの 者 に 最 後 の 訴 えをした。 幾 世 紀 の 昔 、ピラトが 誇<br />

114


国 際 協 定<br />

りと 人 々の 歓 心 を 買 うために 世 界 の 贖 い 主 に 対 して 心 を 閉 じたように、また 戦 標 した<br />

ペリクスが「 今 日 はこれで 帰 るがよい。また、よい 機 会 を 得 たら、 呼 び 出 すことにす<br />

る」と 言 ったように、また、 高 慢 なアグリッパが「おまえは 少 し 説 いただけで、わた<br />

しをクリスチャンにしようとしている」と 言 いながら、 天 からのメッセージを 退 けた<br />

ように、そのようにカール 5 世 は、この 世 的 な 誇 りと 政 策 に 屈 して、 真 理 の 光 を 拒 否<br />

することになったのである[ 使 徒 行 伝 24:25、26:。<br />

ルターに 危 害 を 加 えようとする 陰 謀 のうわさが 広 く 伝 わり、 全 市 は 大 騒 ぎになった。<br />

改 革 者 ルターは、 多 くの 友 人 を 持 っていた。 彼 らは、ローマの 腐 敗 をあばくすべての<br />

者 に 対 するローマの 不 実 な 残 虐 行 為 を 知 っていたので、 彼 を 犠 牲 にしてはならないと<br />

決 意 した。 数 百 の 貴 族 が 彼 を 保 護 することを 契 約 した。ローマの 支 配 権 に 屈 したこと<br />

を 示 す 皇 帝 の 布 告 に 対 して、 公 然 と 反 対 するものも 少 なくなかった。 家 々の 門 や 公 の<br />

場 所 に、ポスターがはられ、ルターを 非 難 するものもあれば、 支 援 するものもあった。<br />

その 1 つには 次 のような、 賢 者 の 意 義 深 い 言 葉 だけが 書 かれていた。「あなたの 王 は<br />

わらべであって、……あなたはわざわいだ」[ 伝 道 の 書 10:。<br />

ルターの 人 気 は、ドイツ 全 土 において 非 常 なものであったので、もし 彼 に 対 する 不<br />

正 が 行 われるならば、 帝 国 の 平 和 は 破 られ、 王 位 さえ 安 定 があやぶまれることを、 皇<br />

帝 も 議 会 も 共 に 痛 感 したのである。 ザクセンのフリードリヒは、 改 革 者 に 対 する 本 心<br />

を 注 意 深 く 表 に 出 さず、 沈 黙 を 守 っていた。しかし 同 時 に、ルターを 厳 重 に 保 護 し、<br />

彼 のすべての 行 動 と 彼 の 敵 のあらゆる 動 きを 見 守 っていた。しかし、ルターに 対 する<br />

同 情 を 隠 そうとしないものも 多 かった。ルターは、 諸 侯 、 伯 爵 、 男 爵 、その 他 、 一 般<br />

と 聖 職 両 方 面 の 高 貴 な 人 々の 訪 問 を 受 けた。「ルター 博 士 の 小 さい 部 屋 は、 訪 問 して<br />

きた 人 々をみな 入 れることができなかった」とシュパラティンは 書 いている。 30 人 々<br />

は 彼 を、まるで 超 人 であるかのようにながめた。 彼 の 教 義 を 信 じなかった 人 々でさえ、<br />

自 分 の 良 心 にそむくよりは 死 をさえいとわぬ 彼 の 高 潔 さに 対 して、 賛 嘆 せずにはおれ<br />

なかった。<br />

ローマとの 妥 協 にルターを 同 意 させようとするけんめいの 努 力 がなされた。 貴 族 や<br />

諸 侯 たちは、もし 彼 が 自 説 に 固 執 して、 教 会 と 議 会 の 決 定 に 背 くならば、 彼 はすぐに<br />

帝 国 外 に 追 放 され、なんの 防 御 もなくなると 説 明 した。この 訴 えに 対 して、ルターは<br />

次 のように 答 えた。「キリストの 福 音 を 伝 えると 必 ず 攻 撃 を 受 けます。……しかしそ<br />

うだからといって 恐 怖 や 不 安 のために 主 から 離 れ、 唯 一 の 真 理 である 神 の 言 葉 から 離<br />

れてよいでしょうか。いいえ、わたしはむしろ、わたしの 体 、わたしの 血 、わたしの<br />

生 命 をささげたいのです。」 31<br />

115


国 際 協 定<br />

彼 は、ふたたび、 皇 帝 の 意 見 に 従 うように 勧 められた。そうすれば 彼 は、 何 も 恐 れ<br />

るものがなくなる。 彼 は、それに 答 えて 言 った。「わたしは、 皇 帝 、 諸 侯 、また、ど<br />

んなに 身 分 の 低 いキリスト 者 であっても、わたしの 著 書 を 吟 味 し、 判 断 することに 心<br />

から 同 意 する。この 場 合 、 唯 一 の 条 件 は、 彼 らが 神 の 言 葉 を 標 準 にすることである。<br />

人 間 は 服 従 することのほかは 何 もできない。わたしの 良 心 に 背 くことを 提 案 しないで<br />

ほしい。わたしの 良 心 は 聖 書 に 縛 られつながれている。」 32 また、 他 の 訴 えに 対 して<br />

彼 は、「わたしは、 自 分 の 通 行 券 を 放 棄 することに 同 意 する。わたしは、 自 分 の 身 と<br />

生 命 とを 皇 帝 の 手 に 渡 す。しかし、 神 の 言 葉 は、 決 して 渡 さない」と 言 った。 33 彼 は、<br />

自 分 は 喜 んで 議 会 の 決 定 に 服 すといったが、その 場 合 の 唯 一 の 条 件 は、 議 会 が 聖 書 に<br />

基 づいて 決 定 するということであった。「 神 の 言 葉 と 信 仰 に 関 して、 法 王 には 百 万 の<br />

会 議 の 支 持 があるにせよ、 各 キリスト 者 は 法 王 に 劣 らずりっぱな 裁 判 官 である」とつ<br />

け 加 えた。 34 敵 も 味 方 も 共 に、これ 以 上 妥 協 を 勧 めてもむだなことを 知 った。<br />

もしもルターが 1 つの 点 でも 妥 協 したならば、サタンとその 軍 勢 は 勝 利 をおさめた<br />

ことであろう。しかし、 彼 がゆるがず 堅 く 立 ったことが、 教 会 解 放 の 道 を 開 き、 新 し<br />

い、そしてよりよい 時 代 の 開 始 となった。 信 仰 問 題 について 自 ら 思 考 し 行 動 したこの<br />

一 人 物 の 影 響 は、 教 会 と 世 界 に 及 び、その 時 代 だけにとどまらずその 後 の 各 時 代 にま<br />

で 及 んだ。 彼 の 確 固 不 動 の 忠 誠 は、 時 の 終 わりに 至 るまで、 同 様 の 経 験 をたどるすべ<br />

ての 者 を 励 ますのである。 神 の 力 と 威 光 とが、 人 間 の 会 議 と、サタンの 大 きな 力 とを、<br />

超 越 したのであった。<br />

まもなくルターは、 皇 帝 の 方 から 帰 国 を 命 じられた。そして 彼 は、この 指 示 の 次 に<br />

は、すぐに 有 罪 の 宣 告 が 下 されることを 知 っていた。 彼 の 前 途 を 暗 雲 が 覆 った。しか<br />

し、ウォルムスを 去 る 時 、 彼 の 心 は 喜 びと 賛 美 に 満 たされた。「 悪 魔 自 身 が 法 王 のと<br />

りでを 守 った。しかしキリストはこれに 大 きな 破 損 を 与 え、サタンは、 主 が 彼 よりも<br />

力 あることを 告 白 しなければなら なかった」と 彼 は 言 った。 35 ルターは、 出 発 した 後<br />

も、 彼 の 堅 い 決 意 が 反 逆 とまちがえられないために、 皇 帝 に 手 紙 を 書 いた。「 人 間 の<br />

生 命 が 依 存 している 神 の 言 葉 のこと 以 外 において、わたくしが、 名 誉 であれ 不 名 誉 で<br />

あれ、 生 であれ 死 であっても、 直 ちに 熱 誠 こめて 陛 下 にお 従 いしようとするものであ<br />

りますことは、 心 を 探 られる 神 が、わたくしの 証 人 であります。 現 世 のいっさいのこ<br />

とにおいて、わたくしの 忠 誠 に 動 揺 はございません。と 中 しますのは、ここで 得 るも<br />

失 うも、 救 いには 関 係 がないからであります。しかしながら、 永 遠 のことに 関 しまし<br />

ては、 人 間 が 人 間 に 従 うことは 神 のみ 旨 ではございません。なぜならば、 霊 的 事 柄 に<br />

おけるこのような 服 従 は、 事 実 上 の 礼 拝 であり、それはただ 創 造 主 にのみ 帰 すべきも<br />

のだからであります。」 36<br />

116


国 際 協 定<br />

ルターは、ウォルムスからの 帰 途 、 行 く 時 よりも 盛 大 な 歓 迎 を 受 けた。 高 位 の 聖 職<br />

者 たちが 破 門 された 修 道 士 を 歓 迎 し、 長 官 たちが、 皇 帝 に 譴 責 された 者 に 敬 意 を 表 し<br />

た。 彼 は、 禁 じられてはいたが、 勧 められるままに 説 教 壇 に 立 った。「わたしは 神 の<br />

言 葉 を 鎖 につなぐとは 誓 わなかったし、これからも 決 してそんなことはしない」と 彼<br />

は 言 った。 37 彼 がウォルムスを 去 ってまもなく、 法 王 側 は 皇 帝 に 迫 って、ルターに 対<br />

する 布 告 を 発 布 させた。この 布 告 の 中 で、ルターは、「 人 間 の 形 をとり 修 道 士 の 衣 を<br />

まとったサタン 自 身 である」と 告 発 された。 38 彼 の 通 行 券 の 期 限 が 終 わるとすぐに 彼<br />

の 運 動 をやめさせるよう、 命 じられていた。だれであっても、 彼 をかくまったり 飲 食<br />

を 与 えたり、 言 葉 であれ 行 為 であれ、 公 私 を 問 わず、 彼 を 支 援 し 助 けることが 禁 じら<br />

れた。 彼 は、 発 見 されたならば 直 ちに 逮 捕 され、 官 感 に 引 き 渡 されねばならなかった。<br />

彼 の 支 持 者 たちもまた、 投 獄 されて 財 産 を 没 収 されなければならなかった。 彼 の 著 書<br />

は 破 棄 されねばならなかった。そして、 最 後 に、この 布 告 に 反 抗 するものは、みな、<br />

同 様 の 宣 告 を 受 けなければならなかった。ザクセンの 選 挙 侯 と、ルターに 好 意 的 な 諸<br />

侯 たちは、ルターの 出 発 後 すぐにウォルムスを 去 っていたので、 皇 帝 の 命 令 は 議 会 の<br />

賛 成 を 得 た。こうして 法 王 側 は 喜 んだ。 彼 らは、 宗 教 改 革 の 運 命 はもう 決 まったと 考<br />

えた。<br />

この 危 機 においても、 神 は、ご 自 分 のしもべのために、 逃 れの 道 を 備 えておられた。<br />

ルターの 動 きを 片 時 も 目 を 離 さず 見 守 っていたものがあった。そして、 真 実 で 高 貴 な<br />

心 の 持 ち 主 が、 彼 を 救 援 する 決 心 をしていた。ローマはルターを 死 に 処 するまでは 満<br />

足 しないということは 明 らかであった。 彼 をライオンのきばから 救 うには、 彼 を 隠 す<br />

ほかなかった。 神 は、ルターを 庇 護 する 策 略 をたてるように、ザクセンのフリードリ<br />

ヒ 侯 に 知 恵 を 授 けられた。 選 挙 侯 は、 誠 実 な 同 志 の 協 力 によって 目 的 を 達 成 した。そ<br />

してルターは、 敵 からも 味 方 からもうまく 隠 されたのである。ルターは、 帰 る 途 中 捕<br />

らえられて、 従 者 たちから 引 き 離 され、 森 林 の 中 を 急 いで 通 過 し、 人 里 離 れた 山 のと<br />

りでであるワルトブルクの 城 に 連 れていかれた。 彼 の 逮 捕 と 潜 伏 とは 極 秘 のうちに 行<br />

われたために、フリードリヒ 自 身 でさえ、 彼 がどこに 連 れていかれたかを 長 い 間 知 ら<br />

なかった。これは、 計 画 的 に、 侯 には 知 らされなかったのであった。つまり、 実 際 に<br />

ルターの 居 場 所 を 知 らぬかぎり、 聞 かれても 答 えられなかったからである。 彼 は、ル<br />

ターが 安 全 であるということだけで 満 足 であった。<br />

春 、 夏 、 秋 が 過 ぎて 冬 になったが、ルターはまだ 捕 われの 身 であった。アレアンダ<br />

ーと 彼 の 徒 党 は、 福 音 の 光 が 消 えてしまったように 見 えたので 勝 ち 誇 った。しかし、<br />

そうではなくて、ルターは 真 理 の 宝 庫 で、 彼 の 燈 に 油 を 満 たしていた。そして、その<br />

光 はますます 明 るく 輝 き 出 るのであった。 ワルトブルクの 友 好 的 で 安 全 な 場 所 で、ル<br />

117


国 際 協 定<br />

ターは、 闘 いの 熱 と 混 乱 から 逃 れたことをしばらくは 喜 んだ。しかし 彼 は、 静 けさと<br />

休 息 の 中 で 長 く 満 足 していることはできなかった。 彼 は、 活 動 的 生 活 と 厳 しい 闘 いに<br />

なれていたので、 何 もしないでいることはできなかった。こうした 孤 独 の 時 に、 彼 は、<br />

教 会 の 状 態 を 思 い 浮 かべ、「ああこの 神 の 怒 りの 最 後 の 日 に、 主 の 前 に 城 壁 となって、<br />

イスラエルを 救 うものがいない」と 絶 望 の 叫 びをあげた。 39 彼 は、 再 びわれに 帰 って、<br />

自 分 が 争 闘 から 身 をひいておくびょう 呼 ばわりされることを 恐 れた。そして、 自 分 の<br />

怠 慢 と 放 縦 を 責 めた。しかし、それでも 彼 は、 毎 日 、1 人 の 人 の 仕 事 とは 思 われない<br />

ほど 多 くのことを 成 し 遂 げていた。 彼 は 休 みなくペンを 動 かしていた。 敵 は 彼 を 沈 黙<br />

させたと 楽 観 していた 時 に、 彼 がなお 活 動 しているという 具 体 的 な 証 拠 を 見 て 驚 きあ<br />

わてた。 彼 が 書 いた 多 くの 小 冊 子 が、ドイツ 全 王 に 配 布 された。 彼 はまた、 新 約 聖 書<br />

をドイツ 語 に 翻 訳 して、 彼 の 同 胞 のために 最 も 重 要 な 奉 仕 をした。 彼 は、パトモスと<br />

も 言 べきとりでから、 丸 1 年 近 くの 間 、 福 音 を 宣 布 し、その 時 代 の 罪 と 誤 りを 譴 責 し<br />

続 けたのである。<br />

神 がご 自 分 のしもべを 公 的 生 活 の 舞 台 から 退 かせられたのは、 単 にルターを 敵 の 怒<br />

りから 保 護 し、また、このような 重 大 な 仕 事 のために 静 かな 時 を 与 えるためだけでは<br />

なかった。これらよりもさらに 尊 い 経 験 が 与 えられた。 人 里 離 れた 寂 しい 山 の 隠 れ 家<br />

で、ルターは 地 上 の 援 助 と 人 間 の 賞 賛 から 切 り 離 された。こうして 彼 は、 成 功 にしば<br />

しば 伴 う 誇 りと 自 己 過 信 から 救 われた。 彼 は、 苦 難 と 屈 辱 によって、 彼 が 突 然 あげら<br />

れた 目 の 回 るような 高 い 所 をふたたび 安 全 に 歩 くことができるよう、 準 備 が 与 えられ<br />

たのである。 人 々は、 真 理 が 彼 らにもたらす 自 由 を 喜 ぶ 時 に、 誤 りと 迷 信 の 鎖 を 断 ち<br />

切 るために 神 が 用 いられる 人 々を 賞 賛 する 傾 向 がある。サタンは、 人 間 の 思 想 と 愛 情<br />

を 神 から 引 き 離 し、 人 間 的 器 に 向 けようとしている。 彼 は 人 々を、 単 なる 器 に 栄 誉 を<br />

帰 すように、そして、すべてのできごとを 摂 理 によって 導 かれる 神 の 御 手 を 無 視 する<br />

ようにとしむける。こうして 賞 賛 され、あがめられる 宗 教 的 指 導 者 たちは、しばしば、<br />

神 に 頼 ることを 忘 れて 自 分 に 頼 るようになる。その 結 果 彼 らは、 神 の 言 葉 に 頼 るかわ<br />

りに 彼 らの 指 導 を 仰 こうとする 人 々の、 心 と 良 心 とを 支 配 しようとするのである。 改<br />

革 事 業 は、 支 持 者 たちのこうした 精 神 のために、しばしば 阻 止 された。 神 は、 宗 教 改<br />

革 運 動 をこの 危 険 から 守 ろうとされたのである。 神 は、 運 動 が 人 間 の 刻 印 ではなくて、<br />

神 の 刻 印 を 受 けることを 望 まれた。 人 々の 目 は、 真 理 の 解 説 者 としてのルターに 向 け<br />

られていた。そこで 人 々の 目 が、 真 理 の 本 源 である 永 遠 の 神 に 向 けられるように、 彼<br />

は 引 き 離 されたのであった。<br />

118


国 際 協 定<br />

119


国 際 協 定<br />

第 9 章 スイスにおける 改 革 運 動<br />

教 会 を 改 革 する 器 を 選 ぶに 当 たっては、 教 会 を 設 立 する 際 と 同 様 の 神 のご 計 画 が 見<br />

られる。 天 からの 教 師 キリストは、 国 民 の 指 導 者 として 賞 賛 や 栄 誉 を 受 けることに 馴<br />

れた 地 士 の 偉 大 な 人 々、 肩 書 きや 富 を 持 った 人 々をお 用 いにならなかった。 彼 らは、<br />

非 常 に 高 慢 で、 自 分 に 自 信 を 持 ち、 優 越 を 誇 っていたために、 同 胞 に 同 情 し、 謙 そん<br />

なナザレ 人 イエスと 協 力 することができなかった。 無 学 で 苦 労 して 働 くガリラヤの 漁<br />

夫 士 たちに、「わたしについてきなさい。あなたがたを、 人 間 をとる 漁 師 にしてあげ<br />

よう」という 召 しが 与 えられた[マタイ 4:。この 弟 子 たちは、 謙 そんでよく 聞 き 従 う<br />

人 々であった。その 時 代 の 偽 りの 教 えに 影 響 されていなければいないほど、キリスト<br />

が 彼 らをご 用 のために 教 え 訓 練 することが 成 功 を 収 める。 大 宗 教 改 革 の 時 代 でもそう<br />

であった。 主 な 宗 教 改 革 者 たちは 低 い 身 分 の 出 で、その 時 代 の 地 位 の 誇 りや 頑 迷 さ、<br />

聖 職 者 たちの 政 策 などから 最 も 縁 遠 い 人 々であった。 卑 しい 器 を 用 いて 大 きな 業 績 を<br />

完 成 することが 神 のご 計 画 である。・そうするならば、 栄 光 は、 人 間 たちではなくて、<br />

彼 らに 願 いを 起 こさせてそれを 実 現 に 至 らせ、 神 のみこころを 行 わせられた 神 に 帰 せ<br />

られるのである。<br />

ルターがザクセンの 鉱 夫 小 屋 で 生 まれた 数 週 間 後 に、ウルリッヒ・ッウィングリが、<br />

アルプス 山 中 の 羊 飼 いの 小 屋 で 生 まれた。ツウィングリの 幼 少 時 代 の 環 境 と 教 育 は、<br />

彼 の 将 来 の 使 命 に 対 するよい 準 備 であった。 雄 大 で 美 しく 荘 厳 な 自 然 のなかで 育 った<br />

ので、 彼 の 心 には 早 くから、 神 の 偉 大 さと 力 と 威 厳 とが 刻 みこまれた。 彼 の 故 郷 の 山<br />

中 で 成 し 遂 げられた 勇 敢 な 行 為 の 歴 史 は、 彼 の 若 い 心 に 熱 望 の 火 を 燃 やした。そして<br />

彼 は、 信 心 深 い 祖 母 のかたわらで、 彼 女 が 教 会 の 言 い 伝 えや 伝 説 の 中 から 拾 い 集 めた<br />

貴 重 な 聖 書 の 物 語 に 耳 を 傾 けた。<br />

彼 は、 熱 心 に 興 味 深 く、 父 祖 たちや 預 言 者 たちの 偉 大 な 行 為 の 話 、パレスチナの 丘<br />

で 羊 を 飼 っていた 羊 飼 いに 天 使 があらわれた 話 、ベツレヘムの 赤 ん 坊 でありカルバリ<br />

ーの 人 であられたイエスの 話 を 聞 いた。 ハンス・ルターのように、ツウィングリの 父<br />

も、 息 子 に 教 育 を 受 けさせようと 望 み、 早 くから 少 年 を 郷 里 の 谷 間 から 送 り 出 してい<br />

た。ツウィングリの 知 能 の 発 達 は 早 く、やがて、 彼 を 教 えることのできる 教 師 を 見 つ<br />

けることが 問 題 になった。 彼 は 13 歳 の 時 に、スイスの 最 高 学 府 の 所 在 地 、ベルンに<br />

送 られた。しかし、ここで、 彼 の 前 途 をはばもうとする 危 険 が 迫 った。 修 道 士 たちが、<br />

何 とかして 彼 を 修 道 院 に 誘 い 入 れようとしたのである。 当 時 はドミニコ 会 士 とフラン<br />

シスコ 会 士 とが、 人 々の 人 気 を 得 ようとして 張 り 合 っていた。そのために 彼 らは、 教<br />

120


国 際 協 定<br />

会 を 華 麗 に 飾 り、 荘 厳 な 儀 式 を 行 い、 有 名 な 聖 遺 物 や 奇 跡 を 行 う 像 などで 人 を 引 きっ<br />

けようとした。<br />

ベルンのドミニカン 派 の 修 道 士 たちは、この 有 能 で 若 い 学 者 を 獲 得 することができ<br />

れば、 利 益 と 栄 誉 を 共 に 確 保 できると 考 えた。 彼 の 非 常 な 若 々しさ、 雄 弁 家 また 著 者<br />

としての 天 分 、 音 楽 と 詩 の 才 能 などは、あらゆる 誇 示 虚 飾 よりも 効 果 的 に 人 々を 集 会<br />

に 引 きつけ、 彼 らの 修 道 会 の 収 入 を 増 加 させるものであった。 彼 らは、 不 正 な 手 段 や<br />

こびへつらいによって、ッウィングリを 彼 らの 修 道 院 に 入 れさせようとした。ルター<br />

は 学 生 時 代 、 修 道 院 の 一 室 に 閉 じこもっていて、もし 神 の 摂 理 が 彼 を 解 放 しなければ、<br />

世 から 全 く 失 われてしまうところであった。ツウィングリは、 同 様 の 危 険 に 陥 ること<br />

を 免 れた。 摂 理 的 に 彼 の 父 が、 修 道 士 たちの 策 略 を 耳 にしたのである。 彼 は 息 子 に、<br />

修 道 士 の 怠 惰 で 無 価 値 な 生 活 を 送 らせる 気 はなかった。 彼 は、 息 子 の 有 用 な 将 来 が 危<br />

機 にひんしているのを 知 り、 彼 に 直 ちに 帰 宅 することを 命 じた。<br />

この 命 令 に 従 ったものの、 青 年 は 故 郷 の 谷 間 において 長 く 満 足 していることはでき<br />

ずしばらくしてバーゼルに 行 って 再 び 勉 学 を 始 めた。ツウィングリが、 神 の 恵 みによ<br />

って 救 われるという 福 音 に 初 めて 接 した のはここにおいてであった。 古 代 言 語 の 教 授<br />

ウィッテンバッハは、ギリシア 語 やヘブル 語 を 研 究 している 間 に 聖 書 を 知 るに 至 り、<br />

こうして 彼 の 教 育 を 受 けた 学 生 たちの 心 に 真 理 の 光 が 輝 いたのである。<br />

彼 は、 学 者 や 哲 学 者 が 説 く 理 論 よりもはるかに 古 くて 無 限 の 価 値 を 持 つ 真 理 がある<br />

と 断 言 した。この 古 くからの 真 理 とは、キリストの 死 が 罪 人 の 唯 一 の 贖 いであるとい<br />

うことであった。ツウィングリにとって、こうした 言 葉 は、 夜 明 けに 先 航 つ 最 初 の 光<br />

のようであった。<br />

まもなくツウィングリは、バーゼルから 呼 ばれて、 彼 の 一 生 の 仕 事 に 従 事 すること<br />

になった。 彼 の 最 初 の 任 地 は、 彼 の 郷 里 からそれほど 遠 くないアルプスの 教 区 であっ<br />

た。 司 祭 としての 按 手 を 受 けてから、「 彼 は、 全 力 をあげて、 神 の 真 理 の 探 究 に 専 念<br />

した。それは、キリストの 群 れを 託 された 者 は、どんなによく 聖 書 を 知 らねばならな<br />

いかを 痛 感 したからであった」 1 と、 彼 の 同 僚 である 王 一 改 革 者 は 語 っている。 彼 が 聖<br />

書 を 探 究 すればするほど、 聖 書 の 真 理 とローマの 邪 説 との 対 照 がいっそう 明 らかにな<br />

った。 彼 は、 聖 書 が 神 の 言 葉 であって、 完 全 で 誤 ることのない 唯 一 の 規 準 であること<br />

を 信 じた。 彼 は、 聖 書 が 聖 書 自 身 の 解 釈 者 でなければならないことを 認 めた。 彼 は、<br />

先 入 観 による 理 論 や 教 義 を 支 持 するために 聖 書 を 説 明 しようとはせずに、 聖 書 が 直 接<br />

はっきりと 教 えていることは 何 かを 学 ぶことを 彼 の 義 務 とした。 彼 は、その 意 味 を 完<br />

全 正 確 に 理 解 するために、あらゆる 助 けを 活 用 しようとした。そして、 彼 は 聖 霊 の 助<br />

121


国 際 協 定<br />

けを 祈 り 求 めた。 聖 霊 は、 真 剣 に 祈 り 求 めるすべての 者 に、その 真 意 をあらわすので<br />

あると、 彼 は 断 言 した。<br />

ツウィングリは 次 のように 言 った。「 聖 書 は、 人 間 からではなく、 神 から 来 ている。<br />

そして、 光 をお 与 えになる 神 が、み 言 葉 が 神 からのものであることを 理 解 させてくだ<br />

さる。 神 の 言 葉 は、…… 誤 ることがない。それは 輝 き、それ 自 身 を 教 え、それ 自 身 を<br />

啓 示 し、あらゆる 救 いと 恵 みとによって 魂 を 照 らし、 神 にあって 慰 めを 与 え、 謙 虚 に<br />

する。そこで 魂 は、 自 分 を 忘 れ 去 って、 神 を 受 け 入 れるのである。」ツウィングリは、<br />

こうした 言 葉 を 実 際 に 体 験 していた。 当 時 の 経 験 を、 彼 は 後 にこう 書 いた。<br />

「わたしが 聖 書 に 没 頭 し 始 めると、 哲 学 や 神 学 [スコラ 哲 学 ]が 常 にわたしに 反 論 す<br />

るのであった。そこでわたしは、ついに『それはそのままにしておいて、 神 ご 自 身 の<br />

単 純 な 言 葉 からだけ、 神 が 言 おうとなさっていることを 学 ばなければならない』とい<br />

う 結 論 に 達 した。それからわたしは、 神 の 光 を 求 めるようになり、 聖 書 はわたしにと<br />

って、たやすく 理 解 できるようになった。」 2 ツウィングリが 説 いた 教 義 は、ルター<br />

から 受 けたのではなかった。それは、キリストの 教 義 であった。「もしルターがキリ<br />

ストを 説 教 しているならば、 彼 はわたしと 同 じことをしている。 彼 がキリストに 導 い<br />

た 人 々は、わたしが 導 いた 者 よりは 数 が 多 い。しかしこれは 問 題 ではない。わたしは、<br />

キリストの 名 以 外 のどんな 名 も 帯 びない。わたしは 彼 の 兵 卒 であり、 彼 だけがわたし<br />

の 主 である。わたしはルターに… 言 も 書 かなかったし、 彼 もわたしに 書 いていない。<br />

それだのに、なぜ?……われわれが 何 1 つ 共 謀 しなかったのに、キリストの 教 義 をこ<br />

のように 王 ・ 様 に 教 えるということは、いかに 神 の 霊 ご 自 身 が 同 一 のものであるかを<br />

示 している」とツウィングリは 言 った。 3<br />

1516 年 、ツウィングリは、アインジーデルン 修 道 院 の 説 教 者 として 招 かれた。こ<br />

の 地 において、 彼 は、ローマの 腐 敗 をいっそうつぶさに 見 た。そして、 彼 の 故 郷 のア<br />

ルプスよりもはるか 遠 方 までも、 改 革 者 としての 影 響 を 及 ぼすことになった。アイン<br />

ジーデルンの 主 要 な 呼 び 物 の 1 つに、 奇 跡 を 行 う 力 があると 言 われているマリヤ 像 が<br />

あった。 修 道 院 の 入 り 言 の 上 には、「ここで 罪 の 大 赦 が 得 られる」と 井 き 記 されてい<br />

た。 4 マリヤ 像 の 聖 堂 には、 年 中 巡 礼 者 が 集 まった。しかも、 毎 年 行 われる 献 堂 の 大 祭<br />

には、スイス 全 国 は 言 うに 及 ぼず、フランスやドイツからも 群 衆 がやつ てきた。ツウ<br />

ィングリはこの 光 景 を 見 て 非 常 に 心 を 痛 め、この 機 会 を 捕 らえて、 迷 信 の 奴 隷 になっ<br />

ている 人 々に、 福 音 による 自 由 を 宣 言 したのである。<br />

「 世 界 の 他 のところにまさって 神 がこの 会 堂 におられると 思 ってはならない。どの<br />

国 に 住 んでいても、 神 はあなたの 周 りにおられて、 祈 りを 聞 かれる。…… 無 益 な 苦 行 、<br />

122


国 際 協 定<br />

長 い 巡 礼 、ささげ 物 、 聖 像 、 聖 母 マリヤや 諸 聖 人 の 祈 祷 によって、 神 の 恵 みにあずか<br />

ることができようか。……われわれの 祈 りの 言 葉 が 多 くてもなんの 役 に 立 とうか。ま<br />

た、 光 沢 のあるずきん、そった 頭 、 長 々と 垂 れる 衣 服 、 金 で 刺 繍 した 上 靴 に、なんの<br />

功 徳 があるのか。…… 神 は 心 を 見 られる。そして、われわれの 心 は、 神 から 遠 く 離 れ<br />

ている。」「1 度 十 字 架 に 架 けられたキリストは、 永 遠 にわたって、 信 じる 者 の 罪 を<br />

十 分 に 贖 う 犠 牲 でありいけにえであった。」 5<br />

多 くの 聴 衆 にとって、このような 教 えは 喜 ばしいものではなかった。 苦 しい 旅 をし<br />

てきたものが、 無 益 なことであったと 言 われることは、 苦 い 失 望 であった。 彼 らは、<br />

キリストによって 惜 しみなく 与 えられる 罪 のゆるしを 理 解 することができなかった。<br />

彼 らは、ローマが 指 示 した 天 国 への 古 い 道 で 満 足 していた。 彼 らは、さらによいもの<br />

を 探 究 する 労 をとりたくなかった。 心 のきよめを 求 めるよりは、 司 祭 や 法 王 に 頼 って<br />

救 いを 得 る 方 がやさしかった。<br />

しかし、 他 の 部 類 の 人 々は、キリストによる 贖 いの 知 らせを 喜 んで 受 け 入 れた。ロ<br />

ーマが 命 じる 儀 式 は、 心 の 平 和 を 与 えなかった。そこで 彼 らは、 信 仰 によって、 救 い<br />

主 の 血 を 彼 らの 贖 いの 供 え 物 として 受 け 入 れた。 彼 らは 帰 国 して、 自 分 たちの 受 けた<br />

貴 い 光 を 人 々に 伝 えた。こうして 真 理 は、 村 から 村 、 町 から 町 へと 広 がり、マリヤ 聖<br />

堂 に 来 る 巡 礼 の 数 は 大 幅 に 減 少 した。 献 金 額 も 減 り、その 結 果 そこから 支 給 されてい<br />

たツウィングリの 給 料 も 減 った。しかし 彼 は、 狂 信 と 迷 信 の 力 が 打 破 されたのを 見 て、<br />

かえって 喜 んだ。<br />

教 会 の 当 局 者 たちは、ツウィングリの 活 動 に 対 して 盲 目 でなかった。しかし 彼 らは<br />

その 当 座 は、 干 渉 をさしひかえた。 彼 らはなお、 彼 を 自 分 たちの 側 に 引 き 入 れようと<br />

して、 甘 言 によって 彼 を 確 保 しようとした。そしてこの 間 に、 真 理 が 人 々の 心 を 捕 ら<br />

えていったのであった。 アインジーデルンにおけるツウィングリの 活 動 は、もっと 広<br />

い 範 囲 の 働 きの 準 備 であって、 彼 はまもなくその 働 きに 入 った。すなわちここに 3 年<br />

いた 後 、 彼 はチューリヒ 大 聖 堂 の 説 教 者 として 召 された。チューリヒは、 当 時 スイス<br />

連 邦 の 重 要 な 都 市 で、ここでの 活 動 は、 遠 くまで 影 響 を 及 ぼすのであった。しかし、<br />

彼 をチューリヒに 招 いた 聖 職 者 たちは、 革 新 的 なものの 侵 入 を 防 止 しようとして、 彼<br />

の 務 めについて 次 のように 訓 示 を 与 えた。<br />

「あなたは、 小 額 の 献 金 でも 見 過 ごすことなく、 教 会 の 収 入 を 集 めるように 努 力 せ<br />

よ。 説 教 壇 と 告 解 聴 聞 席 の 両 方 において、 忠 実 な 信 徒 たちに、すべての 10 分 の 1 税<br />

や 教 会 税 を 納 め、 献 金 によって 彼 らの 教 会 に 対 する 愛 を 示 すように 勧 めよ。 病 める 者<br />

から、ミサから、そしてその 他 一 般 の 教 会 儀 式 から 生 ずる 収 入 を 増 加 するよう 熱 心 に<br />

123


国 際 協 定<br />

努 めよ。」「 秘 蹟 の 授 与 、 説 教 、 群 れの 世 話 などもまた、 司 祭 の 務 めである。しかし<br />

これらに 関 しては、 特 に 説 教 については、 代 理 人 を 用 いるがよい。あなたは 著 名 人 に<br />

だけ 秘 蹟 を 施 し、しかも、 依 頼 された 時 だけ 行 うべきである。だれかれの 区 別 なく 施<br />

してはならない。」 6<br />

ツウィングリは、 黙 ってこの 任 命 の 言 葉 を 聞 いた。そして、この 重 要 な 地 位 に 召 さ<br />

れた 栄 誉 を 感 謝 した 後 で、 彼 は、 自 分 が 採 用 しようとしている 方 針 について 説 明 した。<br />

「キリストの 生 涯 は、 長 い 間 人 々から 隠 されていた。わたしは、マタイによる 福 音 再<br />

全 体 について 説 教 する。……わたしは、 聖 書 の 泉 だけからくみ、その 深 さを 探 り、 聖<br />

句 を 聖 句 と 比 較 して、 熱 心 で 絶 えまない 祈 祷 によって 理 解 力 が 与 えられるように 求 め<br />

る。わたしは、 神 の 栄 光 と 神 の 独 り 子 の 賛 美 と、 魂 の 真 の 救 いと 真 の 信 仰 の 成 長 のた<br />

めに、 聖 職 に 献 身 する」と 彼 は 言 った。 7 聖 職 者 たちの 中 には 彼 の 計 画 に 反 対 し、そう<br />

させまいとする 者 もあったが、ツウィングリは 堅 く 立 って 動 かなかった。 何 も 新 しい<br />

方 法 で はなくて、 初 期 の 純 潔 であった 時 代 に 用 いられていた 古 い 方 法 を 採 り 入 れよう<br />

としているのだと 彼 は 言 明 した。<br />

すでに 彼 が 教 える 真 理 に 対 する 興 味 が 呼 び 起 こされ、 多 くの 人 々が 彼 の 説 教 を 聞 く<br />

ために 群 がって 来 た。 彼 の 聴 衆 の 中 には、 長 い 間 集 会 に 来 ていなかったものも 多 かっ<br />

た。 彼 は 福 音 書 を 開 き、キリストのご 生 涯 、 教 え、その 死 に 関 する 霊 感 の 記 述 を 読 ん<br />

で 説 明 することをもって、 彼 の 聖 職 の 開 始 とした。 彼 は、アインジーデルンにおける<br />

と 同 様 に、ここでも 神 の 言 葉 を 唯 一 不 変 の 権 威 あるものとし、キリストの 死 を 唯 一 の<br />

完 全 な 犠 牲 として 示 した。「わたしはあなたがたを、キリストへ、すなわち、 救 いの<br />

真 の 源 であるキリストへ 導 きたいと 願 っている」と 彼 は 言 った。 8 説 教 者 の 周 りには、<br />

政 治 家 や 学 者 から 職 人 、 農 民 にいたるまで、あらゆる 階 級 の 人 々が 押 し 寄 せた。 非 常<br />

な 興 味 をもって、 彼 らは 彼 の 言 葉 に 聞 き 入 った。 彼 は、 惜 しみなく 与 えられる 救 いが<br />

提 供 されていることを 宣 言 するだけでなく、 当 時 の 害 悪 と 腐 敗 を 恐 れることなく 誼 責<br />

した。 多 くの 者 は、 神 をあがめつつ 大 聖 堂 を 去 っていった。「この 人 は、 真 理 の 説 教<br />

者 である。この 人 は、われわれをエジプトの 暗 黒 から 救 い 出 すモーセである」と 彼 ら<br />

は 言 った。<br />

最 初 、 彼 の 働 きは 非 常 に 歓 迎 されたが、しばらくして 反 対 が 起 こった。 修 道 士 たち<br />

が 彼 の 働 きを 妨 害 し、 彼 の 教 えを 非 難 した。 多 くの 者 が、 彼 をあざけり 侮 べつした。<br />

無 礼 な 態 度 をとり、 威 嚇 する 者 もあった。しかし、ツウィングリはそれらをみな 忍 耐<br />

して、「もし、われわれが、 悪 人 をキリストに 導 こうとするならば、 多 くのことに 言<br />

を 閉 じなければならない」と 言 った。 10 ちょうどそのころ、 改 革 事 業 に 王 ・ 段 と 力 を<br />

添 えるものが 現 れた。ルシアンという 人 が、バーゼルにいる 改 革 を 信 じる 友 人 に 遣 わ<br />

124


国 際 協 定<br />

されて、ルターの 著 書 をたずさえてチューリヒに 来 たのである。その 友 人 は、これら<br />

の 書 籍 の 販 売 が、 光 をまき 散 らす 強 力 な 手 段 であろうと 言 った。<br />

「 本 人 が 慎 重 で 機 敏 であるかどうかを 確 かめた 上 で 彼 にルターの 著 書 、 特 に 主 の 祈<br />

りの 注 解 を、スイス 全 国 の 都 市 から 都 市 、 町 から 町 、 村 から 村 、そして 家 から 家 へ 配<br />

布 させられたい。 知 られれば 知 られるほど、 買 い 手 は 多 く 現 れるであろう」と 彼 はツ<br />

ウィングリに 書 いた。 11 こうして、 光 は 伝 えられていった。 神 が 無 知 と 迷 信 のかせを<br />

打 ち 砕 こうとしておられた 時 に、サタンは、 人 々を 暗 黒 に 閉 じこめ、いっそう 堅 く 束<br />

縛 しようとして、 全 力 をあげて 働 いていた。あちらこちらで 人 々が 立 ち 上 がり、キリ<br />

ストの 血 によるゆるしと 義 とを 説 いた 時 に、ローマはますます 強 力 に、キリスト 教 国<br />

全 王 に 販 路 を 広 げ、 金 銭 による 赦 しを 提 供 した。<br />

どの 罪 にも 値 段 がついていた。そして、 教 会 の 金 庫 が 満 たされてさえおれば、 人 々<br />

はどんな 犯 罪 でも 犯 すことが 許 されたのである。こうして、2 つの 運 動 が 進 められた。<br />

一 方 は、 金 銭 による 罪 の 赦 しであったが、 他 方 は、キリストによる 赦 しであった。ロ<br />

ーマは 罪 を 公 認 し、それを 教 会 の 財 源 にした。 改 革 者 たちは 罪 を 非 難 し、キリストを<br />

その 代 償 、また 救 出 者 として 指 し 示 した。<br />

ドイツにおける 免 罪 符 の 販 売 は、ドミニコ 会 修 道 士 たちにゆだねられ、 悪 名 高 きテ<br />

ッツェルによって 行 われていた。スイスでは、イタリアの 修 道 士 サムソンの 指 揮 のも<br />

とにフランシスコ 会 修 道 士 たちの 手 によって 販 売 されていた。サムソンは、すでにド<br />

イツとスイスから 莫 大 な 金 額 を 得 て、 法 王 の 金 庫 を 満 たし、 教 会 のためによく 働 いて<br />

いた。 今 や 彼 は、スイスを 巡 回 し、 多 くの 群 衆 を 引 きつけ、 貧 しい 農 民 のわずかな 収<br />

入 を 奪 い、 富 裕 な 階 級 からは 巨 額 の 献 金 を 搾 取 していた。しかし 改 革 の 影 響 は、 売 買<br />

を 止 めることはできなかったが、すでにその 収 入 を 減 少 させていた。サムソンが、ス<br />

イス 入 国 直 後 に、 免 罪 符 をもって 近 隣 の 町 に 到 着 したのは、ツウィングリがまだアイ<br />

ンジーデルンにいる 時 であった。 彼 の 任 務 について 知 らされたツウィングリは、さっ<br />

そく 彼 に 反 対 するために 出 かけた。この 2 人 は 相 会 さなかったが、ツウィングリは 巧<br />

みにこの 修 道 士 の 欺 隔 をあばいたので、サムソンは 他 の 地 方 に 去 らなければならなか<br />

った。<br />

ツウィングリはチューリヒにおいて、 免 罪 符 の 販 売 人 に 痛 烈 に 反 対 を 唱 えた。サム<br />

ソンが 町 に 近 づいた 時 、 議 会 からの 使 者 が、 彼 にそのまま 通 り 過 ぎるように 通 告 した。<br />

彼 は 結 局 、 策 略 を 用 いて 町 に 入 りはしたが、1 枚 の 免 罪 符 も 売 ることができずに 退 去<br />

させられた。やがて 彼 はスイスを 去 った。 1519 年 、スイス 全 国 に 流 行 した 大 疫 病 に<br />

よって、 改 革 事 業 に 大 きな 刺 激 が 与 えられた。すなわち、 人 々がこのために 死 に 直 面<br />

125


国 際 協 定<br />

した 時 、つい 先 ごろ 買 ったばかりの 免 罪 符 がどんなにむなしく 価 値 のないものである<br />

かを、 多 くの 者 は 感 じたのであった。そして 彼 らは、より 確 かな 信 仰 の 基 礎 を 得 たい<br />

と 熱 望 した。チューリヒにいたツウィングリも、 疫 病 に 倒 れた。 彼 は、 助 かる 望 みが<br />

なかったほど 衰 弱 し、 彼 は 死 んだといううわさが 広 く 伝 えられた。こうした 試 練 の 時<br />

にあっても、 彼 の 希 望 と 勇 気 はゆるがなかった。 彼 は 信 仰 をもって、カルバリーの 十<br />

字 架 を 見 つめ、 罪 に 対 する 十 分 な 贖 いの 供 え 物 に 信 頼 した。 彼 は 死 の 門 から 帰 ってく<br />

ると、 以 前 にまさる 大 きな 熱 情 をもって、 福 音 を 宣 べ 伝 えた。 彼 の 言 葉 には、 異 常 な<br />

力 があった。 人 々は、 瀕 死 の 床 から 立 ち 上 がってきた 敬 愛 する 牧 師 を、 喜 びをもって<br />

迎 えた。 彼 ら 自 身 も、 病 人 や 死 にそうな 人 々の 看 護 をしていたから、これまでになく<br />

福 音 の 価 値 を 感 じた。<br />

ツウィングリは、 福 音 の 真 理 をいっそう 明 らかに 理 解 し、 彼 自 身 が、その 新 生 の 力<br />

をより 士 分 に 経 験 したのであった。 彼 が 扱 った 問 題 は、 人 間 の 堕 落 と 贖 罪 の 計 画 であ<br />

った。「アダムにあって、われわれは、みな 死 んだもの、 堕 落 して、 罪 に 定 められた<br />

ものである」と 彼 は 言 った。 12 「キリストは、……われわれのために、 永 遠 の 贖 いを<br />

買 いとられた。…… 彼 の 受 難 は、…… 永 遠 の 犠 牲 で、 永 遠 にいやす 力 がある。それは、<br />

堅 くゆるがぬ 信 仰 をもって 信 頼 するすべてのもののために、 神 の 義 を 永 遠 に 満 足 させ<br />

る。」しかし 人 間 には、キリストの 恵 みにあずかったからといって、 罪 を 続 ける 自 由<br />

はないということを、 彼 ははっきりと 教 えた。<br />

「 神 に 対 する 信 仰 があるところはどこでも、 神 がおられる。そして、 神 が 宿 られる<br />

ところはどこでも、 人 々によきわざを 勧 め 促 す 熱 心 が 存 在 するのである。」 13 ツウィ<br />

ングリの 説 教 に 対 する 興 味 は、 非 常 なもので、 大 聖 堂 は、 彼 の 説 教 を 聞 きにやって 来<br />

た 群 衆 で 満 ちあふれた。 彼 は、 彼 らが 理 解 できる 程 度 に 従 って、 少 しずつ 真 理 を 語 っ<br />

た。 彼 らを 驚 かし 偏 見 を 抱 かせるような 点 については、 最 初 に 語 らないように 気 をつ<br />

けた。キリストの 教 えに 彼 らの 心 を 引 きつけ、キリストの 愛 によって 彼 らの 心 を 和 ら<br />

げ、 彼 らの 前 にキリストの 模 範 を 示 すことが、 彼 の 仕 事 であった。 彼 らが 福 音 の 原 則<br />

を 受 け 入 れるならば、 迷 信 的 信 仰 や 習 慣 は、 必 然 的 に 捨 て 去 られるのである。<br />

チューリヒにおける 宗 教 改 革 は、1 歩 1 歩 進 んでいった。 敵 は 驚 いて、 活 発 に 反 対<br />

運 動 を 起 こした。1 年 前 にウィッテンベルクの 修 道 士 が、ウォルムスにおいて 法 王 と<br />

皇 帝 に 対 して 否 と 言 い、 今 チューリヒにおいても、 法 王 の 命 令 に 対 して 同 様 の 抵 抗 が<br />

起 ころうとしていた。ツウィングリに 対 して、くり 返 し 攻 撃 が 向 けられた。 法 王 に 属<br />

する 州 においては、しばしば、 福 音 の 使 徒 たちは 火 刑 に 処 せられた。しかし、これで<br />

も 十 分 ではなかった。 異 端 を 唱 えた 教 師 を 沈 黙 させなければならなかった。そこで、<br />

コンスタンツの 司 教 は、3 人 の 使 節 をチューリヒの 議 会 に 派 遣 して、ツゥィングリは<br />

126


国 際 協 定<br />

人 々に 教 会 の 規 則 を 破 ることを 教 えており、 社 会 の 平 和 と 秩 序 を 乱 すものであると 非<br />

難 した。もしも 教 会 の 権 威 をくつがえすならば、 至 る 所 に、 無 政 府 状 態 が 起 こるであ<br />

ろう、と 彼 は 1 張 した。ツウィングリはそれに 答 えて、 自 分 は 4 年 間 、チューリヒお<br />

いて 福 音 を 教 えてきたが、「ここは、 連 邦 の 中 で、 他 のどんな 都 市 よりも、 平 穏 で 平<br />

和 であった。」「それだから、キリスト 教 は、 一 般 社 会 の 安 全 を 保 障 する 最 善 のもの<br />

ではないだろうか」と 言 った。 14<br />

教 会 以 外 に 救 いはないと 言 って、 使 節 たちは 議 員 たちに、 教 会 にとどまるよう 勧 告<br />

した。ツウィングリは 次 のように 答 えた。「このような 非 難 を 受 けても、 動 じてはな<br />

らない。 教 会 の 基 礎 は、ペテロが 忠 実 にキリストを 告 白 したゆえにペテロにその 名 を<br />

与 えられたその 同 じ 岩 、 同 じキリストである。どの 国 においても、イエス・キリスト<br />

を 心 から 信 じるものはみな、 神 に 受 け 入 れられる。まことに、ここに 教 会 がある。こ<br />

れ 以 外 においては、だれも 救 われることはできない。」 15 これらの 協 議 の 結 果 、 司 教<br />

の 使 節 の 1 人 は 改 革 派 の 信 仰 を 受 け 入 れた。<br />

議 会 はツウィングリに 不 利 な 決 言 議 をすることを 拒 んだ。そこでローマは、 新 しい<br />

攻 撃 の 用 意 をした。ツウィングリは、 敵 の 策 略 を 知 らされた 時 、このように 叫 んだ。<br />

「 攻 めてくるなら 来 い。 突 き 出 した 絶 壁 が、そのふもとに 打 ち 寄 せる 波 に 動 じないよ<br />

うに、わたしも 恐 れない。」 16 聖 職 者 たちのすることは、 彼 らがくつがえそうとした<br />

その 運 動 を、 促 進 するだけであった。 真 理 は 広 がり 続 けた。ドイツの 支 持 者 たちは、<br />

ルターが 行 方 不 明 になったために 失 望 したが、スイスにおける 福 音 の 進 展 をみて、 勇<br />

気 を 取 りもどした。チューリヒにおいて 宗 教 改 革 が 確 立 した 時 、その 結 果 は、 悪 徳 の<br />

鎮 圧 と、 秩 序 と 調 和 の 促 進 となって 著 しくあらわれた。「 平 和 がわれわれの 都 市 に 宿<br />

っている。 言 論 、 偽 善 、しっと、 争 闘 はない。 主 とわれわれの 教 義 を 除 いてほかのど<br />

こからこのような 一 致 が 与 えられるであろうか。これは、われわれを 平 和 と 敬 虔 の 実<br />

で 満 たすのである。」 17<br />

宗 教 改 革 が 勝 利 を 収 めたので、 法 王 派 はますます 堅 い 決 意 をもって、その 撲 滅 を 謀<br />

るようになった、 彼 らはドイツにおいて、ルターの 運 動 を 迫 害 によってはさほど 鎮 圧<br />

することができなかったのを 見 て、 改 革 それ 自 身 の 武 器 によって 改 革 を 迎 え 撃 とうと<br />

した。 彼 らは、ツウィングリと 討 論 を 行 う 手 はずを 定 め、ただその 場 所 だけでなくて、<br />

討 論 の 審 査 員 も 自 分 たちで 決 めて、 必 勝 を 期 した。 そして 彼 らは、ひとたびツウィン<br />

グリを 自 分 たちの 手 中 に 入 れてしまえば、 彼 を 逃 さないようにしようとしていた。 指<br />

導 者 を 沈 黙 させるならば、 運 動 は 速 やかに 弾 圧 することができるのであった。しかし、<br />

この 計 画 は、 極 秘 のうちに 行 われていた。 討 論 は、バーデンで 行 われることに 決 まっ<br />

た。しかし、ツウィングリは 現 れなかった。チューリヒの 議 会 は、 法 王 派 の 策 略 に 気<br />

127


国 際 協 定<br />

づくとともに、 法 王 派 の 州 において 福 音 を 信 じた 者 たちが 火 刑 に 処 せられたことに 危<br />

険 を 感 じ、 彼 らの 牧 師 がこうした 危 険 に 身 をさらすことを 禁 じたのである。 彼 は、チ<br />

ューリヒにおいてならば、ローマが 派 遣 するすべての 法 [ 三 派 と 会 見 するつもりであっ<br />

た。しかし、 真 理 のための 殉 教 者 の 血 が 流 されたばかりのバーデンへ 行 くことは、 明<br />

らかに 死 にに 行 くことであった。そこで、エコランパデウスとハラーが 改 革 派 の 代 表<br />

として 選 ばれた。 一 方 、 有 名 なエック 博 士 が、 博 学 な 学 者 や 司 教 たちの 支 援 を 受 けて、<br />

ローマを 代 表 することになった。<br />

ツウィングリは 会 議 に 出 席 していなかったが、 彼 の 感 化 はそこに 及 んでいた。 書 記<br />

はみな 法 王 派 によって 選 ばれ、 他 の 者 は 筆 記 することを 禁 じられて、それを 犯 すと 死<br />

刑 であった。それにもかかわらず、ツウィングリはバーデンで 論 じられたことを 毎 日<br />

詳 しく 知 らされた。 討 論 に 出 席 していた 学 生 が、 毎 晩 その 日 の 議 論 を 記 録 した。この<br />

記 録 を、 他 の 2 人 の 学 生 が、エコランパデウスの 毎 日 の 手 紙 とともに、チューリヒの<br />

ツウィングリのところに 届 けた。ツウィングリはそれに 答 えて、 助 言 や 指 示 を 与 えた。<br />

彼 の 手 紙 は 夜 書 かれ、 学 生 たちは、 朝 それを 携 えてバーデンにもどってきた。 町 の 門<br />

番 の 目 を 逃 れるために、 使 者 たちは 頭 に 鶏 のかごを 乗 せ、 何 のさまたげも 受 けずに 行<br />

き 来 できた。 こうしてツウィングリは、 狡 猾 な 敵 との 戦 いに 当 たることができた。<br />

「 彼 は、 瞑 想 、 眠 らぬ 夜 、また、バーブンに 送 った 助 言 によって、 敵 たちの 間 で 自 分<br />

が 討 論 するより、もっと 多 くのことを 行 った」とミコニウスは 言 っている。 18<br />

ローマ 側 の 人 々は、 勝 利 を 見 越 して、 宝 石 をちりば めた 美 服 をまとって 意 気 揚 々と<br />

バーデンに 乗 り 込 んでいた。 彼 らの 食 卓 には、ぜいたくのかぎりを 尽 くした 美 食 と 最<br />

高 の 酒 が 豊 富 に 並 べられていた。 彼 らは、こうして 陽 気 な 歓 楽 にふけって、 彼 らの 聖<br />

職 者 としての 義 務 を 軽 視 していた。 改 革 者 たちは、それとは 全 く 対 照 的 に、 乞 食 の 一<br />

行 よりはややましな 程 度 と 見 なされるほど 質 素 で、 彼 らの 食 事 はつましいものであり、<br />

長 く 食 卓 にとどまってなどいなかった。エコランパデウスの 宿 の 主 人 は、 彼 がいつも<br />

部 屋 で 研 究 をしているか、それとも 祈 っているかしているのを 見 て 非 常 に 驚 き、この<br />

異 端 者 はとにかく「 非 常 に 敬 虔 」であると 報 告 している。<br />

議 場 において、「エックは、りっぱに 飾 られた 講 壇 に、 高 慢 な 態 度 で 上 ったが、 謙<br />

虚 なエコランパデウスは、 質 素 な 衣 服 をまとっており、エックの 前 にあった 粗 末 な 造<br />

りの 腰 かけにすわらせられた。」 19 エックは、 大 声 で、 無 限 の 確 信 をもって 語 った。<br />

信 仰 の 擁 護 者 には 多 額 の 報 酬 が 与 えられることになっていたので、 彼 の 熱 心 は 名 誉 と<br />

ともに 金 銭 にも 刺 激 されていた。そして 議 論 に 失 敗 すると、 相 手 を 侮 辱 し、 口 ぎたな<br />

くののしりさえするのであった。<br />

128


国 際 協 定<br />

エコランパデウスは、 慎 み 深 く、 自 己 を 過 信 せず、 論 争 を 避 けていた。そして、<br />

「 私 は 神 の 言 葉 以 外 のどんな 審 判 の 標 準 も 認 めない」という 厳 粛 な 誓 いの 言 葉 をもっ<br />

て 議 論 に 応 じた。 20 エコランパデウスは、 柔 和 で 礼 儀 正 しかったが、 力 強 く、ひるむ<br />

ことなく 立 った。 法 王 側 がいつものように、 教 会 の 慣 習 に 関 する 権 威 を 主 張 した 時 に<br />

も、 改 革 者 は 聖 書 を 固 持 してゆるがなかった。「わがスイスにおいては、 憲 法 に 従 っ<br />

たものでないかぎり、 慣 習 は 無 効 である。こと 信 仰 に 関 しては、 型 書 がわれわれの 憲<br />

法 である」と 彼 は 言 った。 21 この 討 議 に 当 たった 両 者 の 対 照 は、 影 響 を 及 ぼさずには<br />

いなかった。 柔 和 で 慎 重 な 態 度 のうちに 提 示 された、 改 革 者 の 冷 静 で 明 快 な 理 論 は、<br />

エックの 高 慢 でそうそうしい 憶 説 をきらった 人 々の 心 に 訴 えた。 討 議 は 18 日 間 続 い<br />

た。その 最 後 に 当 たって、 法 王 側 は、 大 いなる 確 信 をもって 勝 利 を 宣 言 した。 議 員 た<br />

ちの 多 くも、 法 王 則 に 加 担 した。 議 会 は 改 革 者 たちの 敗 北 を 宣 し、 指 導 者 ツウィング<br />

リと 共 に 教 会 からの 除 名 を 布 告 した。しかし、 会 議 の 結 果 もたらされたものは、どち<br />

ら 側 が 有 利 であったかを 明 らかにした、すなわちこの 討 議 の 結 果 、プロテスタントの<br />

運 動 が 強 力 に 推 進 され、その 後 間 もなく、ベルンとバーゼルという 重 要 な 都 市 が、 改<br />

革 の 側 に 立 つことを 宣 言 したのであった。<br />

129


国 際 協 定<br />

第 10 章 ドイツ 宗 教 改 革 の 進 展<br />

ルターの 不 可 解 な 失 踪 は、ドイツ 全 国 を 非 常 に 驚 かせた。どこへ 行 っても、 人 々は、<br />

彼 のことを 尋 ねていた。 途 方 もないうわさが 広 がり、 彼 が 殺 されたと 思 い 込 む 者 も 多<br />

かった。 明 らかに 彼 の 友 人 であるとわかる 者 だけでなく、 公 然 と 宗 教 改 革 に 加 わっ<br />

て はいなかった 幾 千 の 者 までが、 深 い 悲 しみに 沈 んだ。 多 くの 者 は 結 束 して、 彼 の 死<br />

のふくしゅうを 厳 粛 に 誓 った。<br />

法 王 側 の 指 導 者 たちは、 彼 らに 対 する 反 感 の 高 まりを 見 て 恐 れた。 初 めはルターが<br />

死 んだものと 思 って 喜 んだが、すぐに 彼 らは、 人 々の 怒 りから 隠 れたいと 願 った。ル<br />

ターの 敵 は、 彼 が 彼 らの 中 にいてどんなに 大 胆 に 行 動 したにしても、いなくなった 今<br />

ほどには 困 らせられなかったのである。 激 しく 怒 って、 勇 敢 な 改 革 者 を 殺 そうとした<br />

者 も、 今 は、 彼 が 自 由 のきかない 捕 虜 になっていることに 恐 怖 を 抱 いた。「われわれ<br />

を 救 う 唯 一 の 方 法 は、たいまつを 点 じ、 令 世 界 を 回 ってルターを 尋 ね 出 して、 彼 を 1<br />

呼 び 求 めている 国 民 にかえすことだ」という 者 もあった。 1 皇 帝 の 布 告 も、その 威 力 を<br />

失 ったかに 見 えた。 法 王 の 使 節 たちは、 皇 帝 の 布 告 がルターの 運 命 ほどには 人 々の 注<br />

意 をひかないのを 見 て、 非 常 に 怒 った。<br />

ルターは 捕 われてはいるが 安 全 であるという 知 らせに、 人 々の 不 安 は 静 まったが、<br />

それとともに、 彼 を 支 持 する 熱 意 はさらに 高 まった。 彼 の 著 書 は、これまでにない 非<br />

常 な 熱 心 さで 読 まれた。 恐 ろしい 強 敵 に 立 ち 向 かって、 神 の 言 葉 を 擁 護 した 英 雄 の 事<br />

業 に、ますます 多 くの 者 が 参 加 した。 宗 教 改 革 は、 着 実 に 勢 力 を 増 しつつあった。ル<br />

ターのまいた 種 が、 至 る 所 で 芽 を 出 した。 彼 がいたのではできなかったような 働 きが、<br />

彼 がいないことによって 成 し 遂 げられた。 偉 大 な 指 導 者 が 取 り 去 られたために、 他 の<br />

働 き 人 たちが 新 たな 責 任 を 感 じた。 彼 らは、 新 たな 信 仰 と 熱 心 に 燃 えて 全 力 をあげて<br />

前 進 し、りっぱに 始 められた 働 きが 妨 げられないようにしたのである。 しかし、サタ<br />

ンも、 子 をこまぬいてはいなかった。 彼 は、 今 、 他 のあらゆる 改 革 運 動 において 試 み<br />

てきたことをしたのである。すなわち、 真 の 改 革 事 業 の 代 わりに 偽 物 をつかませて 人<br />

々を 欺 き、 滅 ぼそうとした。キリスト 教 会 の 第 1 世 紀 に 偽 キリストたちが 現 れたよう<br />

に、16 世 紀 こも 偽 預 言 者 たちが 現 れた。<br />

宗 教 界 の 騒 ぎに 強 く 刺 激 された 2、3 の 者 が、 自 分 たちは 天 からの 特 別 の 啓 示 を 受<br />

けたと 思 い 込 んだ。そして、 自 分 たちは、ルターが 細 々と 始 めた 改 革 を 完 成 させるよ<br />

う 神 の 任 命 を 受 けたと 主 張 した。しかし、 実 際 には、 彼 らはルターが 成 し 遂 げた 働 き<br />

そのものをくつがえしていた。 彼 らは、 改 革 の 根 底 そのものである 大 原 則 、すなわち、<br />

130


国 際 協 定<br />

神 の 言 葉 は 信 仰 と 行 為 の 完 全 な 規 準 であるということを 拒 んだ。そして、その 言 誤 る<br />

ことのない 指 導 に 代 えて、 彼 ら 自 身 の 感 情 と 印 象 という 変 わりやすい 不 確 実 な 標 準 を<br />

用 いた。 誤 りと 虚 偽 の 偉 大 な 検 出 器 である 神 の 言 葉 を 廃 棄 するこの 行 為 によって、サ<br />

タンが 思 うままに 人 間 の 心 を 支 配 する 道 が 開 かれた。<br />

これらの 預 言 者 たちの 1 人 は、 天 使 ガブリエルから 教 えを 受 けたと 主 張 した。 彼 と<br />

結 束 した 一 学 生 は、 自 分 の 勉 強 を 放 棄 し、 自 分 は 神 ご 自 身 から、 神 の 言 葉 を 説 明 する<br />

知 恵 が 与 えられたと 宣 言 した。 他 に、 生 来 狂 信 的 な 傾 向 の 者 たちが 彼 らに 加 わった。<br />

こうした 狂 信 家 の 行 動 によって、 少 なからず 騒 ぎが 起 こった。ルターの 説 教 によって、<br />

至 る 所 の 人 々は 改 革 の 必 要 を 感 じるようになっていたが、 今 、 真 にまじめな 人 々のな<br />

かには、 新 しい 預 言 者 たちの 主 張 に 惑 わされる 者 があった。<br />

この 運 動 の 指 導 者 たちは、ウィッテンベルクに 行 き、メランヒトンと 彼 の 同 労 者 た<br />

ちに、 彼 らの 主 張 を 訴 えた。「われわれは、 人 々を 教 育 するために 神 に 遣 わされた。<br />

われわれは、 親 しく 主 と 話 してきた。われわれは、 何 が 起 こるかを 知 っている。 一 言<br />

で 言 えば、われわれは 使 徒 であり、 預 言 者 である。そして、ルター 博 士 に 訴 える」と<br />

彼 らは 言 った。 2<br />

改 革 者 たちは、 驚 き 当 惑 した。こうしたことにはまだ 当 面 したことがなく、 彼 らは<br />

どうしてよいかわからなかった。メランヒトンは 次 のように 言 った。「 確 かにこの 人<br />

々には、 異 常 な 霊 が 働 いている。しかし、それはなんの 霊 であるか。…… 一 方 におい<br />

て、われわれは、 神 の 霊 を 消 さないように 気 をつけなければならない。そして、 他 方<br />

においては、サタンの 雷 に 惑 わされないようにしなければならない。」 3<br />

新 しい 教 えの 結 果 が、まもなく 明 らかになってきた。 人 々は 聖 書 を 軽 んじ、あるい<br />

はそれを 全 く 放 棄 するようになった。 学 校 は 混 乱 に 陥 った。 学 生 たちは、すべての 制<br />

限 を 無 視 して、 研 究 を 放 棄 し、 大 学 をやめてしまった。 改 革 事 業 を 復 興 して 支 配 する<br />

ことができると 考 えた 人 々は、それを 破 滅 の 渕 に 沈 め 得 ただけであった。ローマ 側 は<br />

自 信 をとりもどし、「あともう 1 戦 交 えれば、すべてはわれわれのものだ」と 勝 ち 誇<br />

って 叫 んだ。 4 ワルトブルクにいたルターは、 事 の 次 第 を 耳 にし、 憂 慮 して 言 った。<br />

「わたしは、サタンがこのような 災 いを 送 ってくることを 常 に 子 期 していた。」 5 彼 は、<br />

これらの 偽 預 言 者 たちの 本 性 を 見 抜 いた。そして、 真 理 の 運 動 が 危 険 にさらされてい<br />

るのを 見 た。 法 王 や 皇 帝 の 反 対 も、 今 彼 が 経 験 しているほど 大 きな 悩 みや 苦 しみでは<br />

なかった。 改 革 事 業 の 支 持 者 と 称 する 人 々の 中 から、 最 悪 の 敵 が 現 れたのであった。<br />

彼 に 大 きな 喜 びと 慰 めを 与 えた 真 理 そのものが、 教 会 の 中 に 争 闘 と 混 乱 を 起 こすため<br />

に、 用 いられていたのである。<br />

131


国 際 協 定<br />

改 革 の 働 きにおいて、ルターは 神 の 霊 によって 前 進 させられたのであり、 自 分 自 身<br />

を 越 えて 導 かれていた。 彼 は、そのような 立 場 をとろうとは 意 図 していなかったし、<br />

またあのような 急 激 な 変 化 を 起 こそうとは 考 えていなかった。 彼 は、ただ、 無 限 の 神<br />

の 手 中 の 器 に 過 ぎなかった。それにもかかわらず、 彼 は 自 分 の 働 きの 結 果 について、<br />

しばしば 悩 んだ。 彼 は、ある 時 次 のように 言 った。「もしわたしの 教 義 が、どんなに<br />

身 分 が 低 く 卑 しい 人 であっても、その 1 人 、ただ 1 人 でも 傷 つけたとわかったなら<br />

ば、——これは 福 音 そのものであるから、そのようなことはあり 得 ないのだが——わ<br />

たしはそれを 取 り 消 す。 取 り 消 さないくらいならば、10 回 死 んだほうがよい。」 6<br />

今 や、 宗 教 改 革 の 中 心 地 、ウィッテンベルクそれ 自 体 が、 狂 信 と 無 法 の 勢 力 下 に 急<br />

速 に 陥 っていた。この 恐 ろしい 状 態 は、ルターの 教 えの 結 果 ではなかった。しかし、<br />

ドイツ 全 国 の 彼 の 敵 が、それを 彼 のせいにした。 彼 は 非 常 に 心 を 痛 めて、 時 々、「そ<br />

れでは、この 宗 教 改 革 の 大 事 業 の 結 果 は、こんなものなのであろうか」と 問 うた。 7 彼<br />

は、 熱 心 に 神 に 祈 り 求 めて、ふたたび 心 に 平 安 が 与 えられた。「この 仕 事 は、わたし<br />

のものではなくあなた 自 身 のものである。あなたは、それが 迷 信 と 狂 信 に 腐 敗 される<br />

ことをお 許 しにならない。と 彼 は 言 った。 王 しかしこのような 危 機 にあって、 争 闘 か<br />

ら 長 く 離 れているということは、 耐 えられないことであった。 彼 は、ウィッテンベル<br />

クに 帰 る 決 心 をした。<br />

直 ちに、 彼 は 危 険 な 旅 に 出 た。 彼 は 帝 国 から 追 放 されていた。 敵 は 自 由 に 彼 の 生 命<br />

を 奪 うことができたし、 友 人 たちは 彼 を 助 けたりかくまったりすることを 禁 じられて<br />

いた。 帝 国 政 府 は、 彼 の 支 持 者 たちに 最 も 厳 しい 処 置 をとっていた。しかし 彼 は、 福<br />

音 事 業 が 危 機 にひんしているのを 見 た。そして 彼 は、 真 理 のために 恐 れることなく 闘<br />

うために、 主 の 名 によって 出 ていった。<br />

選 挙 侯 に 送 った 手 紙 の 中 で、ルターは、ワルトブルクを 去 る 目 的 を 述 べたあとで、<br />

次 のように 言 った。「わたしは、 諸 侯 や 選 挙 侯 よりも 強 力 な 保 護 のもとに、ウィッテ<br />

ンベルクに 行 こうとしていることを 殿 下 にお 知 らせいたします。わたしは、 殿 下 の 支<br />

持 を 求 めようとは 思 いません。あなたの 保 護 を 願 うよりは、わたしがあなたを 保 護 し<br />

たいと 思 います。もし 殿 下 がわたしを 保 護 することができ、あるいは 保 護 しようとな<br />

さることがわかっているならば、わたしはウィッテンベルクに 行 きたいとは 少 しも 思<br />

いません。この 運 動 は、 剣 によっては 推 進 できません。 人 間 の 援 助 や 同 意 によらず、<br />

ただ 神 だけが 万 事 をなさるべきです。 最 大 の 信 仰 を 持 っている 者 が、 最 も 保 護 する 力<br />

があるのです。」 8 ウィッテンベルクへの 途 中 で 書 いた 第 二 の 手 紙 の 中 で、ルターは<br />

次 のように 付 け 加 えた。「わたしは、 殿 下 のきげんをそこね、 全 世 界 の 怒 りを 招 くこ<br />

とを 覚 悟 しています。ウィッテンベルク 市 民 は、わたしの 羊 ではないのでしょうか?<br />

132


国 際 協 定<br />

神 は 彼 らを、わたしにおゆだねにならなかったのでしょうか?そしてわたしは、 必 要<br />

ならば、 彼 らのために 生 命 を 捨 てなくていいのでしょうか?さらに、わたしは、わが<br />

国 に 対 する 神 の 罰 として、ドイツに 恐 ろしい 暴 動 が 起 こることを 恐 れるのです。」 9<br />

彼 は、 非 常 な 慎 重 さと 謙 そんをもって、しかも 断 固 とした 決 意 のもとに、 彼 の 仕 事<br />

を 始 めた。「 暴 力 によって 立 てられたものを、われわれは、み 言 葉 によってくつがえ<br />

し 滅 ぼさなければならない。わたしは、 迷 信 深 い 人 々や 不 信 仰 な 人 々に 対 して、 暴 力<br />

を 用 いない。 人 を 強 いてはならない。 自 由 は 信 仰 の 本 質 そのものである。」 10<br />

ルターがすでにもどってきて、 説 教 をしようとしているということは、まもなくウ<br />

ィッテンベルク 中 に 知 れ 渡 った。 人 々は、 各 地 から 集 まってきて、 教 会 はあふれるば<br />

かりになった。 彼 は、 説 教 壇 に 上 り、 大 いなる 知 恵 と 柔 和 をもって、 教 え、 勧 め、 譴<br />

責 した。ミサを 廃 止 しようとして 暴 力 に 訴 えた 人 々の 行 動 について、 彼 は 次 のように<br />

言 った。 「ミサは、 悪 いものである。 神 は、それに 反 対 しておられる。それは 廃 され<br />

るべきである。わたしは、 全 世 界 において、 福 音 の 聖 餐 がそれに 代 わることを 望 んで<br />

いる。しかし、だれ 1 人 として、 暴 力 によってそれから 引 き 離 されてはならない。わ<br />

れわれは、その 事 を 神 の 手 にゆだねなければならない。み 言 葉 が 行 動 を 起 こすべきで、<br />

われわれではない。それはなにゆえか、とあなたがたはたずねるであろう。それは、<br />

陶 工 が 土 を 手 に 持 つように、 人 々の 心 がわたしの 手 中 にあるわけではないからである。<br />

われわれは 語 る 権 利 がある、だがわれわれに 行 動 する 権 利 はない。われわれは 宣 べ 伝<br />

えよう。だがそれ 以 上 は 神 に 属 する。<br />

わたしが 暴 力 に 訴 えたとしても、なんの 益 があろうか。しかめつら、 形 式 、 物 まね、<br />

人 間 の 儀 式 、そして 偽 善 である。……そして、 誠 実 さも 信 仰 も 愛 も、そこには 見 られ<br />

ないであろう。この 3 つが 欠 けていれば、すべてが 欠 けている。そのような 結 果 は、<br />

なんの 価 値 もない。 神 は、あなたとわたしと 全 世 界 とが、 力 を 合 わせて 行 う 以 上 のこ<br />

とを、み 言 葉 だけによってなされる。 神 は、 人 の 心 を 捕 らえられる。そして 心 が 捕 ら<br />

えられる 時 に、すべてが 得 られるのである。わたしは、 説 教 し、 討 論 し、 著 述 をする。<br />

しかし、わたしは、だれも 強 制 しない。なぜなら、 信 仰 は 自 発 的 な 行 為 だからである。<br />

わたしの 行 ったことを 見 てほしい。わたしは、 法 王 に、 免 罪 符 に、そして 法 王 の 支 持<br />

者 たちに 反 対 したが、 暴 力 を 用 いたり 騒 ぎを 起 こしたりはしなかった。わたしは 神 の<br />

言 葉 を 差 し 出 した。わたしは 説 教 し、 書 いた。これがわたしの 行 ったすべてである。<br />

それにもかかわらずわたしが 眠 っている 間 に、……わたしが 説 いたみ 言 葉 が 法 王 権 を<br />

くつがえしたのであって、 諸 侯 も 皇 帝 もこれほどの 損 害 を 与 えたことはなかった。し<br />

かし、わたしは 何 もしなかった。み 言 葉 だけがすべてを 行 った。もしわたしが 暴 力 に<br />

訴 えたならば、 恐 らくドイツ 全 国 に 血 の 雨 が 降 ったことであろう。そして、その 結 果<br />

133


国 際 協 定<br />

はどうであったろうか。 身 体 も 霊 魂 も 滅 び 失 せてしまったことであろう。それゆえに、<br />

わたしは 静 かにしていた。そして、み 言 葉 だけを、 世 界 にゆきわたらせておいたので<br />

ある。」 11<br />

ルターは、1 週 間 にわたって、 毎 日 、 熱 心 な 聴 衆 に 説 教 しつづけた。 神 の 言 葉 が、<br />

狂 信 的 な 騒 ぎを 静 めた。 福 音 の 力 が、 惑 わされた 人 々を 真 理 の 道 に 引 きもどした。ル<br />

ターは、 非 常 な 害 悪 を 及 ぼした 狂 信 家 たちと 会 うことを 望 まなかった。 彼 らは、 判 断<br />

力 が 健 全 でなく、 感 情 の 未 熟 な 人 々で、 天 からの 特 別 の 光 を 受 けたと 言 いながら、わ<br />

ずかの 反 論 、または 親 切 な 譴 責 や 勧 告 さえも 受 けつけない 人 々であることを、 彼 は 知<br />

っていた。 彼 らは、 最 高 の 権 威 を 持 ったものであると 称 して、いやおうなしに、すべ<br />

ての 者 に 彼 らの 主 張 を 認 めさせた。しかし、 彼 らがルターに 会 見 を 申 し 込 んできたの<br />

で、 彼 は、 彼 らに 会 うことに 同 意 した。そして 彼 は、 巧 みに 彼 らの 化 けの 皮 をはいだ<br />

ので、 偽 り 者 たちは 直 ちにウィッテンベルクを 退 散 してしまった。<br />

こうして、 狂 信 は 一 時 くいとめられた。しかし、それは 数 年 後 にさらに 激 しく 盛 り<br />

かえして、 恐 ろしい 結 果 をもたらした。この 運 動 の 指 導 者 について、ルターは 次 のよ<br />

うに 言 った。「 彼 らにとって、 聖 書 は 死 文 に 過 ぎない。そして 彼 らはみな、『 聖 霊 、<br />

聖 霊 』と 叫 び 出 した。しかし、わたしは 彼 らの 霊 の 導 く 所 には、もちろんついて 行 か<br />

ない。どうか、 憐 れみ 深 い 神 が、 自 称 聖 徒 だけしかいないような 教 会 から、わたしを<br />

守 ってくださるように。わたしは、 自 分 たちの 罪 を 痛 感 し、 神 の 慰 めと 支 えを 得 るた<br />

めに、 心 の 底 からたえずうめき、 叫 び 求 める 人 々、 謙 そんで 弱 く 病 んでいる 人 々と 共<br />

に 住 みたいと 思 う。」 12<br />

狂 信 家 の 中 で 最 も 活 動 的 なトマス・ミュンッァーは、 非 常 な 才 能 の 持 ち 主 であった。<br />

もし 彼 が 正 しく 指 導 されたならば、 世 を 益 するところが 多 かったであろう。しかし 彼<br />

は、 真 の 宗 教 の 根 本 原 則 を 知 っていなかった。「 彼 は、 世 界 を 改 革 しようと 望 んだ。<br />

そして、すべての 熱 狂 家 たちと 同 様 に、 改 革 はまず 自 分 から 始 まるべきであることを<br />

忘 れた。」 13 彼 は、 地 位 と 勢 力 への 野 望 を 抱 き、ルターに 次 ぐ 地 位 でも 満 足 しなかっ<br />

た。 改 革 者 たちが、 法 王 の 代 わりに 聖 書 の 権 威 を 認 めるならば、それは、ただ 別 の 形<br />

の 法 王 権 を 樹 立 するだけであると 彼 は 主 張 した。そして 彼 自 身 は、 自 分 は 真 の 改 革 を<br />

行 うために、 神 の 任 命 を 受 けたと 主 張 した。「この 精 神 を 持 つものは、 一 生 涯 聖 書 を<br />

見 なくても、 真 の 信 仰 を 持 つ」とミュンツァーは 言 った。 14<br />

狂 信 的 教 師 たちは、 感 情 のままに 支 配 され、すべての 思 いと 衝 動 を 神 の 声 であると<br />

考 えた。したがって、 彼 らは、 非 常 に 極 端 であった。「 文 字 は 人 を 殺 し、 霊 は 人 を 生<br />

三 かす」と 叫 んで、 聖 書 を 焼 く 者 さえあった。ミュンッァーの 教 えは、 奇 異 を 好 む 人<br />

134


国 際 協 定<br />

心 に 訴 えると 共 に、 事 実 上 、 人 間 の 思 想 や 意 見 を 神 の 言 葉 以 上 に 高 めて、 彼 らの 誇 り<br />

を 満 足 させた。 彼 の 教 義 は、 幾 千 のものに 迎 えられた。 彼 はまもなく、 公 の 礼 拝 のあ<br />

らゆる 秩 序 を 公 然 と 非 難 し、 諸 侯 に 服 従 することは 神 とベリァルの 両 方 に 仕 えようと<br />

するものである、と 宣 言 した。 すでに 法 王 権 の 拘 束 を 脱 し 始 めていた 人 々の 心 は、 国<br />

家 の 権 力 の 束 縛 にも 耐 えられなくなっていた。 神 の 是 認 によるものと 称 したミュンツ<br />

ァーの 改 革 的 教 義 は、 彼 らをあらゆる 抑 制 から 引 き 離 し、 彼 らの 偏 見 と 感 情 の 赴 くま<br />

まにさせた。 最 も 恐 ろしい 暴 動 と 争 闘 の 場 面 が 続 いて 起 き、ドイツの 国 土 に 血 の 雨 が<br />

降 った。<br />

狂 信 の 結 果 起 こったことが、 宗 教 改 革 のせいにされたのを 見 たルターは、ずっと 以<br />

前 にエルフルトで 経 験 した 苦 悩 に 倍 するほどの、 大 きな 苦 悩 を 味 わった。 法 王 側 の 諸<br />

侯 は、ルターの 教 義 は 当 然 反 逆 を 引 き 起 こすものであると 断 言 し、 多 くの 者 がそれを<br />

是 認 するありさまだった。こうした 非 難 は、なんの 根 拠 もないものであったが、 改 革<br />

者 ルターに 大 きな 悩 みを 与 えずにはいなかった。 真 理 の 事 業 が、 卑 劣 な 狂 信 と 同 一 視<br />

されて、このように 辱 しめられることは、 耐 えられないことに 思 われた。 他 方 、 反 逆<br />

の 指 導 者 たちは、ルターが 彼 らの 教 義 に 反 対 し、 神 の 霊 感 によるものであるという 彼<br />

らの 主 張 を 否 定 しただけでなく、 彼 らを 国 家 の 権 力 に 反 逆 する 者 であると 言 ったため<br />

に、ルターを 憎 んだ。その 報 復 として、 彼 らはルターを 卑 しい 欺 瞞 者 と 非 難 した。 彼<br />

は、 諸 侯 と 民 衆 の 両 方 の 敵 意 を 招 いたかのように 思 われた。<br />

宗 教 改 革 が 急 速 に 衰 えるのを 見 た 法 王 側 は、 大 いに 喜 んだ。そして 彼 らは、ルター<br />

がけんめいに 正 そうと 努 力 してきた 誤 りさえもルターの 責 任 にした。 狂 信 者 たちは、<br />

不 当 な 取 り 扱 いを 受 けたと 偽 って、 多 くの 民 衆 の 同 情 を 得 ることに 成 功 した。そして、<br />

誤 った 側 に 加 担 する 者 がしばしばそうみなされるように、 彼 らは 殉 教 者 とみなされた。<br />

こうして、 宗 教 改 革 に 全 力 をあげて 反 対 していた 者 たちが、 残 酷 と 圧 制 の 犠 牲 者 とし<br />

て、 同 情 と 賞 賛 を 受 けた。これはサタンの 働 きであって、 最 初 、 天 においてあらわさ<br />

れたのと 同 じ 反 逆 の 精 神 に 動 かされたものであった。<br />

サタンは、 常 に 人 々を 欺 き、 罪 を 義 と 呼 び、 義 を 罪 と 呼 ばせる。 彼 の 働 きはなんと<br />

成 功 していることであ ろう。 真 理 を 擁 護 して 堅 く 立 つために、 神 の 忠 実 なしもべたち<br />

がなんとしばしば 非 難 攻 撃 を 受 けることであろう。サタンの 代 理 に 過 ぎない 者 が、 賞<br />

賛 とへつらいを 受 けて、 殉 教 者 とさえみなされている。 他 方 、その 神 への 忠 誠 に 対 し<br />

て 尊 敬 と 支 持 を 受 けるべき 人 々が、 疑 惑 と 不 信 のもとに 孤 立 させられているのである、<br />

にせの 聖 潔 、 偽 りの 清 さが、 今 なお 欺 隔 の 活 動 を 行 っている。それは、ルターの 面 時<br />

代 のように、 種 々の 形 態 のもとにその 精 神 をあらわし、 人 々の 心 を 聖 書 から 引 き 離 し<br />

て、 神 の 律 法 に 服 従 するよりは 自 分 たちの 感 情 や 印 象 に 従 うようにさせる。これは、<br />

135


国 際 協 定<br />

純 潔 と 真 理 を 非 難 するサタンの 最 も 巧 妙 な 手 段 の 1 つである。ルターは 恐 れることな<br />

く、 四 方 からの 攻 撃 に 対 し 福 音 を 擁 護 した。 神 の 言 葉 は、あらゆる 争 いにおいて、 偉<br />

大 な 武 器 であった。その 言 葉 をもって、 彼 は、 法 王 が 僑 取 した 権 力 や、 学 者 の 思 弁 的<br />

な 哲 学 に 立 ち 向 かった。そして 他 方 、 彼 は、 宗 教 改 革 と 合 同 しようとした 狂 信 に 反 対<br />

して、 岩 のように 堅 く 立 ったのである。<br />

これら 相 対 立 する 諸 勢 力 は、そのいずれもが、 聖 書 を 捨 て 去 り、 人 間 の 知 恵 を、 宗<br />

教 的 真 理 と 知 識 の 根 源 として 高 めていた。 理 性 主 義 は、 理 性 を 偶 像 にして、それを 宗<br />

教 の 規 準 にする。ローマ 主 義 は、 法 王 は、 使 徒 伝 来 の、そして 全 時 代 を 通 じて 不 変 の<br />

霊 感 を 受 けていると 主 張 して、 使 徒 的 任 命 という 神 聖 な 名 目 のもとに、あらゆる 種 類<br />

のぜいたくと 腐 敗 をおおいかくしている。ミュンツァーとその 仲 間 が 主 張 した 霊 感 と<br />

は、 気 まぐれな 想 像 に 過 ぎず、 人 間 の、また 神 の、あらゆる 権 威 を 破 壊 するものであ<br />

った。しかし、 真 のキリスト 教 は、 神 の 言 葉 を、 霊 感 による 真 理 の 一 大 宝 庫 として、<br />

また、すべての 霊 感 の 試 金 石 として 受 け 入 れるのである。<br />

ルターは、ワルトブルクから 帰 るとすぐに、 新 約 聖 書 の 翻 訳 を 完 成 した。そしてま<br />

もなく、ドイツ 国 民 は、 福 音 を 自 国 語 で 手 にすることができた。この 翻 訳 は、 真 理 を<br />

愛 するすべての 人 々から、 非 常 な 喜 びをもって 迎 えられた。しかし、 人 間 の 伝 説 や 人<br />

間 の 律 法 を 選 ぶ 人 々からは、 軽 べつされ 拒 絶 された。 司 祭 たちは、これからは 一 般 の<br />

人 々が 神 の 言 葉 の 戒 めについて 自 分 たちと 討 論 することができ、こうして 自 分 たちの<br />

無 知 が 暴 露 されるのではないかと 考 えて 驚 愕 し、 不 安 になった。 彼 らの 肉 的 な 理 論 と<br />

いう 武 器 は、 霊 の 剣 の 前 には 無 力 であった。ローマは 全 力 をあげて、 聖 書 の 配 布 を 妨<br />

害 した。しかし、 教 書 も 破 門 も 拷 問 も、みなむだであった。 聖 書 を 非 難 し 禁 止 すれば<br />

するほど、 人 々は、 聖 書 の 教 えを 知 ろうと 欲 した。 読 むことができる 者 はみな、 自 分<br />

で 神 の 言 葉 を 熱 心 に 研 究 した。 彼 らはそれを、 持 ち 歩 いてくり 返 し 読 み、その 大 部 分<br />

を 暗 唱 するまでは 満 足 しなかった。ルターは、 新 約 聖 書 が 歓 迎 されたのを 見 て、 直 ち<br />

に 旧 約 聖 書 の 翻 訳 を 開 始 し、できしだい 分 冊 にして 発 行 した。<br />

ルターの 著 書 は、 都 市 でも 村 でも 歓 迎 された。「ルターと 彼 の 同 志 たちの 作 ったも<br />

のを、 他 の 者 たちが 配 布 した。 修 道 院 制 度 の 不 法 を 悟 って、 怠 慢 な 長 年 の 生 活 を 活 動<br />

的 なものに 一 変 しようと 望 んだが、しかし 神 の 言 葉 を 宣 言 するには 無 知 すぎた 修 道 上<br />

たちは、 各 地 を 旅 して 村 々や 戸 ごとを 訪 問 し、ルターとその 仲 間 の 著 書 を 売 った。ド<br />

イッはまもなく、こつした 勇 敢 な 文 書 伝 道 者 の 群 れであふれた。」 15 これらの 著 書 は、<br />

貧 富 や 学 識 の 有 無 を 問 わず 非 常 な 興 味 をもって 研 究 された。 村 の 学 校 の 教 師 たちは、<br />

夜 、 炉 辺 に 集 まった 小 さな 群 れに、それを 読 んで 聞 かせた。こうした 努 力 のたびに、<br />

幾 人 かの 魂 が 真 理 を 認 めて 喜 んで 言 葉 を 受 け 入 れ、 今 度 は 彼 らが 福 音 を 他 の 人 々に 伝<br />

136


国 際 協 定<br />

えた。 「み 言 葉 が 開 けると 光 を 放 って、 無 学 な 者 に 知 恵 を 与 えます」という 霊 感 の 言<br />

葉 が 実 証 された[ 詩 篇 119:。<br />

聖 書 の 研 究 は、 人 々の 心 に 大 きな 変 化 を 起 こしつつあった。これまで 法 王 権 は、そ<br />

の 支 配 下 にある 者 を 鉄 のくびきで 縛 り、 無 知 と 堕 落 に 陥 れていた。 形 式 の 迷 信 的 遵 守<br />

が 厳 格 に 継 続 されていたが、そのすべての 儀 式 において、 心 や 知 性 はなんのかかわり<br />

も 持 たなかった。しかしルターの 説 教 は、 神 のみ 言 葉 の 明 白 な 真 理 を 示 すとともに、<br />

み 言 葉 そのものが、 一 般 の 人 々の 手 に 渡 ったことによって、 彼 らの 眠 っていた 能 力 を<br />

呼 びさまし、 彼 らの 霊 性 を 清 めて 高 尚 にするだけでなく、 知 性 に 新 しい 力 と 活 気 を 与<br />

えたのである。<br />

あらゆる 階 級 の 人 々が、 聖 書 を 手 にして、 宗 教 改 革 の 教 義 を 擁 護 するのが 見 られた。<br />

聖 書 の 研 究 を 司 祭 や 修 道 士 にゆだねていた 法 王 E 教 徒 たちは、 彼 らが 出 て 来 て 新 しい<br />

教 義 に 反 論 することを 要 求 した。しかし、 聖 書 にも 神 の 力 にも 無 知 であった 司 祭 や 修<br />

道 士 たちは、 彼 らが 無 知 だ 異 端 だと 弾 劾 していた 人 々によって、 完 全 に 打 ち 負 かされ<br />

てしまった。「あいにくとルターは、 聖 書 以 外 のどんな 神 託 も 信 じてはならないと、<br />

彼 の 支 持 者 たちに 信 じ 込 ませてしまった」とあるカトリックの 著 者 は 言 った。 16 無 学<br />

な 人 々が 真 理 を 擁 護 し、また、 学 識 ある 雄 弁 な 神 学 者 と 彼 らが 討 論 するのを、 群 衆 が<br />

集 まって 聞 くのであった。これらの 大 家 たちは、その 議 論 が 神 のみ 言 葉 の 単 純 な 教 え<br />

によって 反 論 されて、 無 知 の 恥 を 暴 露 した。 労 働 者 、 兵 卒 、 婦 人 、そして 子 供 たちで<br />

さえ、 司 祭 や 学 識 のある 博 士 たちよりも、 聖 書 の 教 えをよく 知 っていたのである。<br />

福 音 を 信 じる 者 と 法 王 教 の 迷 信 を 信 じる 者 との 対 照 は、 知 識 階 級 のみならず 一 般 の<br />

人 々の 目 にも 明 らかであった。「 語 学 の 研 究 と 文 学 の 素 養 をなおざりにしてきた 法 王<br />

側 の 老 戦 士 たちに 対 して、…… 広 い 心 をもった 青 年 たちが、 研 究 に 没 頭 し、 聖 書 を 調<br />

べ、 古 代 の 傑 作 に 親 しんでいた。 活 発 な 頭 脳 、 高 貴 な 魂 、そして 勇 敢 な 心 を 持 ったこ<br />

れらの 青 年 たちは、やがて、 長 い 間 にわたってだれにもひけを 取 らない 知 識 の 持 ち 主<br />

になった。…… 従 って、これらの 若 い 改 革 擁 護 者 たちは、どのような 会 合 において 法<br />

王 側 の 博 士 たちと 相 対 しても、 非 常 なゆとりと 確 信 をもって 彼 らを 攻 撃 するので、 無<br />

知 な 彼 らはうろたえ、 当 惑 し、 衆 人 の 前 で 恥 をかくのであった。」 17 ローマ 側 の 司 祭<br />

たちは、 自 分 たちの 会 衆 が 減 少 するのを 見 て 当 局 の 援 助 を 求 め、 自 分 たちも 全 力 をあ<br />

げて 聴 衆 を 引 きもどそうと 努 めた。しかし 人 々は、 新 しい 教 えの 中 に 彼 らの 魂 の 必 要<br />

を 満 たすものを 見 いだした。そして、 長 い 間 迷 信 的 な 儀 式 と 人 間 の 伝 説 という 無 価 値<br />

な 豆 がらを 与 えてきた 者 からは、 顔 をそむけて 離 れていった。 真 理 の 教 師 たちに 迫 害<br />

の 火 の 手 があがった 時 、 彼 らは、「1 つの 町 で 迫 害 されたなら、 他 の 町 へ 逃 げなさい」<br />

というキリストの 言 葉 に 従 った[マタイ 10:。<br />

137


国 際 協 定<br />

光 は、 至 る 所 に 照 り 輝 いた。 逃 亡 者 たちは、どこかで 彼 らを 迎 えてくれる 家 を 見 つ<br />

け、そこに 泊 まって、ある 時 は 教 会 で、またそれが 許 されなければ 個 人 の 家 、または<br />

戸 外 で、キリストを 説 教 したのである。どこであろうと 聴 衆 がありさえすれば、そこ<br />

は 彼 らにとって 聖 い 神 殿 であった。このような 活 気 と 確 信 のもとに 宣 言 された 真 理 は、<br />

破 竹 の 勢 いで 広 まった。 教 会 当 局 と 政 府 当 局 の 両 方 が 異 端 を 撲 滅 しようとしたが、む<br />

だであった。 投 獄 、 拷 問 、 火 刑 、 剣 を 用 いてもむだであった。 幾 千 という 信 者 が 殉 教<br />

したが、 働 きは 前 進 していった。 迫 害 は、 真 理 の 進 展 を 促 すだけであった。そして、<br />

サタンがそれと 合 流 させようと 努 めた 狂 信 も、サタンの 働 きと 神 の 働 きの 区 別 をいよ<br />

いよ 明 らかにする 結 果 に 終 わったのである。<br />

138


国 際 協 定<br />

第 11 章 信 教 の 自 由 のための 戦 い<br />

宗 教 改 革 擁 護 のために 宣 言 された 最 も 高 潔 な 証 言 の 1 つは、1529 年 にシュパイエ<br />

ルの 国 会 で、ドイツのキリスト 教 諸 侯 が 提 出 した『 抗 議 書 』であった。これら 神 の 人<br />

々の 勇 気 と 信 仰 と 堅 固 な 態 度 は、その 後 の 幾 世 代 にわたって、 思 想 と 良 心 の 自 由 を 確<br />

保 した。 彼 らの『 抗 議 書 』が、 改 革 教 会 にプロテスタントという 名 称 を 与 えた。その<br />

原 則 は、「プロテスタント 主 義 の 真 髄 そのもの」である。 1<br />

宗 教 改 革 にとって、 暗 く 険 悪 な 時 代 が 到 来 していた。ウォルムスの 勅 令 によってル<br />

ターは 破 門 され、 彼 の 教 義 を 教 えたり 信 じたりすることは 禁 じられていたけれども、<br />

これまでのところ、ドイツにおいては、 宗 教 上 の 自 由 が 保 たれていた。 神 の 摂 理 によ<br />

って、 真 理 に 反 対 する 勢 力 が 抑 えられていた。カール 5 世 は、 宗 教 改 革 を 鎮 圧 しよう<br />

としたが、 打 撃 を 加 えようとすると、それを 他 へ 向 けねばならなくなることがしばし<br />

ばあった。 幾 度 となく、ローマに 反 抗 するすべてのものは、 直 ちに 打 ち 滅 ぼされるこ<br />

とが 不 可 避 に 思 われた。しかし、そうした 危 機 に、トルコの 軍 勢 が 東 の 国 境 に 現 れた<br />

り、あるいは、フランス 国 王 、または 法 王 自 身 でさえも、 皇 帝 の 勢 力 の 増 大 をねたん<br />

で、 戦 いをいどんできたのである。こうして、 諸 国 の 紛 争 と 騒 乱 の 中 で、 宗 教 改 革 は<br />

力 をつけ、 発 展 していくことができた。<br />

しかし、ついに 法 王 側 が 彼 らの 紛 争 をやめ、 力 を 合 わせて 改 革 者 たちに 当 たってき<br />

た。1526 年 のシュパイエルの 議 会 は、 一 般 教 会 会 議 が 開 かれるまでは 宗 教 に 関 して<br />

各 国 に 完 全 な 自 由 を 与 えていた。しかし、このような 譲 歩 を 必 要 としたところの 危 険<br />

が 過 ぎ 去 るやいなや、 皇 帝 は、 異 端 撲 滅 を 目 的 とした 第 2 回 シュパイエル 議 会 を<br />

1529 年 に 開 いた。 諸 侯 たちは、できるなら 平 和 的 な 方 法 で、 改 革 に 反 対 するように<br />

誘 われるのであった。しかし、それが 失 敗 すれば、カールは 剣 に 訴 える 用 意 をしてい<br />

た。<br />

法 王 側 は 勝 ち 誇 った。 彼 らは 大 ぜいでシュパイエルに 乗 り 込 み、 改 革 者 と 支 持 者 た<br />

ちのすべてに 対 して、 公 然 と 敵 意 をあらわした。メランヒトンは 言 った。「われわれ<br />

は、 世 ののろいを 受 け、ちりのように 思 われている。しかし、キリストは、 彼 のあわ<br />

れな 民 をながめ、 保 護 されるのである。」 2 議 会 に 出 席 中 の、 福 音 を 信 じる 諸 侯 は、<br />

彼 らの 邸 宅 において 福 音 の 説 教 をすることさえ 禁 じられた。しかし、シュパイエルの<br />

人 々は、 神 のみ 言 葉 にかわいていた。そこで、 禁 じられていたにもかかわらず、 幾 千<br />

という 人 々がザクセン 選 挙 侯 の 礼 拝 堂 で 開 かれた 集 会 に 集 まった。<br />

139


国 際 協 定<br />

これは 危 機 を 早 めた。 良 心 の 自 由 を 許 した 決 議 が 大 混 乱 を 引 き 起 こしたために、 皇<br />

帝 はそれを 撤 廃 する、という 勅 令 が 議 会 に 対 して 発 表 された。この 専 横 な 行 為 は、 福<br />

音 的 キリスト 者 たちの 憤 りと 驚 きを 引 き 起 こした。ある 人 は、「キリストは、ふたた<br />

び、カヤバとピラトの 手 に 落 ちた」と 言 った。ローマ 側 は、さらに 猛 威 をふるった。<br />

ある 頑 迷 な 法 王 教 徒 は 言 った。「トルコ 人 は、ルター 派 の 者 よりはよい。なぜならば、<br />

トルコ 人 は 断 食 を 守 っているが、ルター 派 はそれを 破 っている。われわれが、 神 の 聖<br />

書 か 教 会 の 昔 からの 誤 りかを 選 ばなければならないとすれば、われわれは、 前 者 を 拒<br />

否 する。」メランヒトンは、「フアーベルは、 毎 日 議 会 全 体 の 前 で、われわれ 福 音 を<br />

信 じる 者 に、 新 しい 石 を 投 げつける」と 言 った。 3<br />

宗 教 の 自 由 は、 法 的 に 確 立 されていた。そして、 福 音 主 義 に 立 つ 諸 州 は、 彼 らの 権<br />

利 の 侵 害 に 反 対 する 決 意 をした。ルターは、 依 然 としてウォルムスの 勅 令 によって 破<br />

門 されていたので、シュパイエルに 行 くことは 許 されなかった。しかし、 彼 の 同 労 者<br />

と、この 危 機 において 神 の 事 業 を 擁 護 するために 神 が 起 こされた 諸 侯 とが、 彼 の 代 理<br />

をつとめた。 前 にルターを 保 護 したザクセンの 高 潔 なフリードリヒ 選 挙 侯 は、もうこ<br />

の 世 の 人 ではなかった。しかし、 彼 の 兄 弟 で 後 継 者 のヨハン 公 も 喜 んで 改 革 を 歓 迎 し、<br />

平 和 の 愛 好 者 でありながら、 信 仰 に 関 するすべてのことについては 非 常 な 努 力 と 勇 気<br />

とを 示 した。<br />

司 祭 たちは、 宗 教 改 革 を 受 け 入 れていた 諸 州 が、ローマの 支 配 に 絶 対 的 に 従 うこと<br />

を 要 求 した。しかし 改 革 者 たちは、 以 前 に 許 されていた 自 由 を 主 張 した。 非 常 な 喜 び<br />

をもって 神 の 言 葉 を 受 け 入 れた 諸 州 を、ふたたびローマの 支 配 下 におくことに、 彼 ら<br />

は 同 意 することができなかった。<br />

そこで、ついに 妥 協 案 として、 宗 教 改 革 がまだ 確 立 されていないところにおいては、<br />

ウォルムスの 勅 令 を 施 行 すべきことが 提 案 された。そして、「その 勅 令 に 従 わない 州 、<br />

また、これに 従 おうとすれば 反 乱 が 起 こる 危 険 のあるところでは、 少 なくとも、 新 し<br />

い 改 革 をなさず、 論 争 点 には 触 れず、ミサを 行 うことに 反 対 せずローマ・カトリック<br />

信 者 にルター 主 義 を 受 け 入 れることを 許 さないようにする」ことが 提 案 された。 4 こ<br />

の 案 が 議 会 を 通 過 し、 法 王 側 の 司 祭 と 司 教 たちは、 大 いに 満 足 した。 もしこの 勅 令 が<br />

実 施 されるならば、「 宗 教 改 革 は、それがまだ 伝 わっていないところに…… 伝 えられ<br />

ることができずまた、それがすでに 伝 えられたところでは、 堅 固 な 基 礎 の 上 に 確 立 さ<br />

れることもできなかった。」 5 言 論 の 自 由 が 禁 止 され、 改 宗 することも 許 されなくな<br />

る。そして、このような 制 限 と 禁 止 に 改 革 支 持 者 たちは 直 ちに 服 さなければならなか<br />

った。 世 界 の 希 望 は、 消 え 去 るかと 思 われた。「ローマの 教 権 制 度 の 復 興 が…… 古 来<br />

の 悪 弊 を 再 びもたらすことは 確 かだった。」そして、 狂 言 と 紛 争 のために「すでに 激<br />

140


国 際 協 定<br />

しく 動 揺 している 事 業 を、 完 全 に 崩 壊 させる」 機 会 は、すぐに 見 いだされることであ<br />

ろう。 6<br />

福 音 派 の 会 議 が 開 かれた 時 に、お 互 いは 困 惑 した 顔 をしていた。 彼 らは、 次 々に<br />

「どうすればよいのか?」と 問 うた。 今 や、 世 界 の 運 命 を 決 定 する 大 問 題 が 持 ち 上 が<br />

っていた。「 改 革 派 の 首 脳 者 たちは、 屈 服 して、 勅 令 に 従 うであろうか。この 危 機 、<br />

真 に 恐 るべき 危 機 において、 誤 った 道 に 落 ちこんでしまうことは、 何 とやさしかった<br />

ことであろう。 屈 服 するためのまことしやかな 口 実 やもっともな 理 由 は、いくらでも<br />

あった。<br />

ルター 派 の 諸 侯 には、 信 教 の 自 由 が 与 えられていた。 同 じ 自 由 は、この 案 が 通 過 す<br />

る 前 に 改 革 派 の 信 仰 を 持 ったすべての 臣 下 にも、 与 えられていた。 彼 らは、これで 満<br />

足 すべきではなかったか。 服 従 すれば、どんなに 多 くの 危 機 を 避 けることができるで<br />

あろう。 反 対 するならば、どんなにはかり 知 れない 危 機 と 争 闘 に 巻 き 込 まれることで<br />

あろうか。 将 来 、どんな 機 会 があるかわからない。 平 和 を 結 ぼう。ローマが 差 し 出 す<br />

オリーブの 枝 をつかんで、ドイツの 傷 をつつもう。——のような 議 論 のもとに、 改 革<br />

者 たちは、 速 やかに 彼 らの 事 業 をくつがえしてしまう 道 に 進 むことを、 正 当 化 するこ<br />

ともできたであろう。<br />

しかし 幸 いにも 彼 らは、こうした 妥 協 の 根 底 にある 原 則 を 見 て、 信 仰 によって 行 動<br />

した。その 原 則 とは、なんであったろうか。それは、ローマは 良 心 を 強 制 し、 自 由 な<br />

研 究 を 禁 じる 権 利 を 持 つという 主 張 である。しかし、 彼 ら 自 身 とプロテスタントの 臣<br />

下 には、 宗 教 上 の 自 由 が 与 えられないのであろうか。いや、 与 えられはするが、それ<br />

は 妥 協 案 の 中 で 特 に 記 載 された 恩 恵 としてであって、 権 利 としてではない。その 措 置<br />

以 外 のあらゆる 点 においては、 権 威 の 大 原 則 が 支 配 するのであった。 良 心 は 無 視 され<br />

た。ローマは、 誤 ることのない 裁 判 官 で、 服 従 を 要 求 した。 妥 協 案 を 受 け 入 れること<br />

は、 改 革 主 義 を 受 け 入 れたザクセンだけに 宗 教 の 自 由 を 限 定 することを、 事 実 上 認 め<br />

たことになる。そして、その 他 のすべてのキリスト 教 国 においてては、 改 革 主 義 の 信<br />

仰 を 研 究 して 信 じることは 犯 罪 で、 投 獄 と 火 刑 の 罰 を 受 けなければならなかった。 彼<br />

らは、 宗 教 の 自 由 を 一 一 地 方 にとどめるということに、 同 意 できるであろうか。 宗 教<br />

改 革 の 改 心 者 はこれで 終 わり、 征 服 すべき 地 はこれまでであると 宣 言 するのであろう<br />

か。そして、 現 在 ローマが 支 配 しているところはどこであっても、 永 久 にその 主 権 が<br />

続 くのであろうか。 改 革 者 たちは、この 協 定 が 実 施 されることによって、 法 王 権 下 の<br />

地 方 において 生 命 をささげなけれ ばならなくなる 幾 百 幾 千 の 人 々の 血 に 対 して、 自 分<br />

たちの 無 罪 を 主 張 することができるであろうか。そうすることは、この 一 大 危 機 にお<br />

いて、 福 音 の 事 業 とキリスト 教 国 の 自 由 に 対 する 裏 切 りとなるのであった。」 7 そこで<br />

141


国 際 協 定<br />

彼 らは、むしろ、「すべてのものを、 国 や 王 位 や 生 命 さえも、 犠 牲 にしよう」とした<br />

のである。 8<br />

「われわれは、この 法 令 を 拒 否 しよう。 良 心 の 問 題 に 関 しては、 多 数 といえども 権<br />

力 を 有 しない」と 諸 侯 は 言 った。また 代 議 員 たちは 言 った、「 帝 国 の 平 和 が 保 たれて<br />

いるのは、1526 年 の 勅 令 のおかげである。それを 破 棄 すれば、 全 ドイツは 紛 争 と 分<br />

裂 に 陥 るであろう。 国 会 は、 会 議 が 開 かれるまで 宗 教 の 自 由 を 保 つより 他 に、 何 もす<br />

ることはできない。」 9 良 心 の 自 由 を 保 護 することは、 国 家 の 義 務 である。そして、 宗<br />

教 の 事 に 関 して、これが 国 家 の 権 力 の 限 界 である。 国 家 の 権 力 によって、 宗 教 的 行 事<br />

を 規 定 し、または 強 制 しようとする 政 府 はみな、 福 音 を 信 じるキリスト 者 が、そのた<br />

めにおおしく 闘 った 原 則 そのものを 犠 牲 にしているのである。<br />

法 王 側 は、 彼 らのいわゆる「 大 胆 な 強 情 」を 鎮 圧 しようと 決 意 した。 彼 らはまず、<br />

宗 教 改 革 の 支 持 者 間 に 分 裂 を 起 こさせ、またそれに 公 然 と 賛 成 していない 者 をみな 威<br />

嚇 しようとした。ついに、 自 由 都 市 の 代 表 者 たちは 議 会 に 召 喚 され、 提 案 の 条 項 に 同<br />

意 するかどうかを 宣 言 することを 要 求 された。 彼 らはしばらくの 猶 予 を 願 ったが、 許<br />

されなかった。 彼 らは 試 問 を 受 け、その 約 半 数 は 改 革 者 の 側 についた。 良 心 の 自 由 と<br />

各 自 の 判 断 の 権 利 を 犠 牲 にすることを 拒 んだ 者 は、そうした 立 場 をとったことが、 将<br />

来 批 判 や 非 難 や 迫 害 の 的 になることをよく 知 っていた。 代 議 員 の 1 人 は、「われわれ<br />

は、 神 の 言 葉 を 拒 否 するか、それとも 火 刑 になるかのどちらかである」と 言 った。 10<br />

議 会 における 皇 帝 の 代 理 者 、フェルディナント 王 は、 諸 侯 に 法 令 を 受 け 入 れさせ 支<br />

持 させるのでなければ、 重 大 な 分 裂 が 起 こるのに 気 づいた。そこで 彼 は、 彼 らに 対 し<br />

て 暴 力 を 用 いることは、ますます 彼 らの 決 意 を 固 めさせるだけであることを 悟 って、<br />

努 めて 彼 らを 説 得 することにした。 彼 は、「 諸 侯 に、 法 令 を 承 認 することを 請 い、 皇<br />

帝 はそれを 非 常 に 喜 ばれるであろうと 断 言 した。」しかし、 忠 実 な 諸 侯 は、 地 上 の 支<br />

配 者 以 上 の 権 力 を 認 めていた。そして、 彼 らは、 冷 静 に、「われわれは、 平 和 の 維 持<br />

と 神 の 栄 光 のためであるならば、 万 事 皇 帝 に 従 う」と 答 えた。 11<br />

ついに、 王 は、 議 会 において、 選 挙 侯 と 彼 の 支 持 者 たちに、 法 令 は「 皇 帝 の 勅 令 と<br />

して 発 布 されるばかりであり、」「 彼 らの 残 された 唯 一 の 道 は、 多 数 に 従 うだけであ<br />

る」と 伝 えた。 彼 は、こう 言 ってから 議 会 を 退 場 し、 改 革 者 たちに 討 議 や 返 答 の 機 会<br />

を 与 えなかった。「 彼 らは 使 者 を 派 遣 して、 王 が 議 会 にもどるよう 懇 請 したが、むだ<br />

であった。」 彼 らの 抗 議 に 対 して、 王 は、「これはすでに 決 定 している。 後 は 服 従 が<br />

あるのみである」と 答 えるだけであった。 12<br />

142


国 際 協 定<br />

皇 帝 側 は、キリスト 教 諸 侯 が 聖 書 を 人 間 の 教 義 や 規 則 以 上 のものとして 固 守 するこ<br />

とを 知 っていた。そして、この 原 則 が 受 け 入 れられているところはどこでも、 必 ず 法<br />

王 権 がくつがえされてしまうことを 知 っていた。しかし、 彼 らの 時 代 以 降 の 幾 多 の 者<br />

たちと 同 様 に、 彼 らは、ただ「 見 えるもの」だけを 見 て、 皇 帝 と 法 王 の 側 が 強 く、 改<br />

革 者 の 運 動 は 弱 いと 思 いこみ、 得 意 になったのであった。もし 改 革 者 たちが、 人 間 的<br />

な 助 けだけに 頼 っていたならば、 法 王 側 の 想 像 したとおり 無 力 であったことであろう。<br />

しかし、 数 は 少 なく、ローマに 敵 対 してはいても、 彼 らには 力 があった。 彼 らは、<br />

「 議 会 の 決 議 ではなくて、 神 の 言 葉 、カール 皇 帝 ではなくて、 王 の 王 、 主 の 主 であら<br />

れるイエス・キリストに」 訴 えたのである。 13<br />

諸 侯 は、フェルディナントが 彼 らの 良 心 の 確 信 を 認 めなかったので、 彼 の 退 席 を 意<br />

に 介 さず 直 ちに 議 会 に 彼 らの『 抗 議 書 』を 提 出 することにした。そこで、 厳 粛 な 宣 言<br />

が 作 成 されて、 議 会 に 提 出 された。 「われわれは、われわれの 唯 一 の 創 造 主 、 維 持 者 、<br />

贖 罪 主 、 救 い 主 、また、われわれの 審 判 者 となられる 神 、および、 全 人 類 と 全 被 造 物<br />

の 前 で、 抗 議 を 提 出 する。われわれは、われわれとしても 国 民 としても、その 法 令 の<br />

中 で、 神 に 反 し、 神 のみ 言 葉 、われわれの 正 しい 良 心 、われわれの 魂 の 救 いに 反 する<br />

ことには、 絶 対 に 同 意 支 持 することはできない。」<br />

「われわれがこの 勅 令 を 承 認 することなどできようか。 全 能 の 神 が、 人 間 に 神 の 知<br />

識 を 示 されるにもかかわらず、 人 間 は 神 の 知 識 を 受 けることはできないなどというこ<br />

とがあり 得 ようか。」「 神 の 言 葉 に 一 致 するもの 以 外 に、 確 かな 教 義 はない。…… 主<br />

は、その 他 の 教 義 の 宣 布 を 禁 じられる。…… 聖 書 は、 他 の、より 明 百 な 聖 句 によって<br />

説 明 されるべきである。……この 聖 書 は、すべての 事 においてキリスト 者 に 必 要 なも<br />

のであり、 理 解 しやすく、 暗 黒 を 撃 退 するためのものである。われわれは、 神 の 恵 み<br />

によって、 旧 新 約 聖 書 各 巻 に 含 まれている 神 の 言 葉 だけの 純 粋 独 特 の 説 教 を 維 持 し、<br />

それに 反 するどんなものをも 付 加 しないことを 決 意 している。この 言 葉 が 唯 一 の 真 理<br />

である。これが、すべての 教 義 と 人 生 全 般 の 確 かな 規 準 である。それは 決 してわれわ<br />

れを 失 望 させたり、 欺 いたりしない。この 基 礎 の 上 に 築 くものは、 黄 泉 [よみ]のすべ<br />

ての 力 に 立 ち 向 かうことができるし、 他 方 それに 対 抗 して 立 てられたあらゆる 人 間 的<br />

栄 華 は、 神 の 前 に 崩 れ 落 ちるのである。」<br />

「このような 理 由 のもとに、われわれは、 課 せられた 束 縛 を 拒 否 する。」「 同 時 に、<br />

われわれは、 皇 帝 が、 何 よりも 神 を 愛 するキリスト 者 君 主 として、われわれを 遇 され<br />

ることを 期 待 する。そうすればわれわれは、あなたがた 恵 み 深 き 諸 侯 に 対 すると 同 じ<br />

く、われわれの 正 当 当 然 の 務 めである 愛 情 と 服 従 のすべてを、 喜 んで 皇 帝 に 表 明 する<br />

ことを 宣 言 するものである。」 14<br />

143


国 際 協 定<br />

議 会 は、 深 い 感 動 を 受 けた。その 大 多 数 は、 抗 議 者 たちの 大 胆 さを 見 て、 驚 きと 恐<br />

れとに 満 たされた。 将 来 は、 波 乱 と 不 安 に 満 ちているように 思 われた。 不 和 、 争 闘 、<br />

流 血 は 不 可 避 に 思 われた。しかし 改 革 者 たちは、 彼 らの 運 動 が 正 しいことを 確 信 し、<br />

全 能 の 神 のみ 手 にすがり、「 勇 気 と 堅 い 決 意 に 満 ちて」いた。<br />

「この 有 名 な 抗 議 書 に 含 まれた 原 則 は、……プロテスタント 主 義 の 本 質 そのもので<br />

あった。この 抗 議 書 は、 信 仰 の 問 題 に 関 する 人 間 の 2 つの 害 悪 に 抗 議 している。その<br />

第 一 は、 為 政 者 の 侵 害 であり、 第 二 は、 教 会 の 独 断 的 権 力 であった。プロテスタント<br />

主 義 は、これらの 害 悪 の 代 わりに、 政 権 以 上 に 良 心 の 能 力 を 重 んじ、 目 に 見 える 教 会<br />

以 上 に 神 の 言 葉 の 権 威 を 認 める。それは、まず 第 一 に、 政 権 が 神 の 事 柄 に 関 与 するの<br />

を 拒 み、 預 言 者 や 使 徒 たちと 共 に、『 人 に 従 うよりは、 神 に 従 うべきである』と 言 う。<br />

それは、カール 5 世 の 王 冠 の 前 で、イエス・キリストの 王 冠 を 掲 げる。しかし、さら<br />

に 1 歩 進 めて、すべての 人 間 の 教 えは 神 の 言 葉 に 従 うべきである、という 原 則 を 規 定<br />

する。」 15 そればかりでなくて、 抗 議 者 たちは、 自 分 たちが 真 理 と 信 じることを 自 由<br />

に 語 る 権 利 を 主 張 した。 彼 らは、 信 じて 従 うだけでなくて、 神 の 言 葉 が 提 示 している<br />

ことを 教 えたいと 望 み、 司 祭 や 政 権 の 干 渉 権 を 拒 んだ。シュパイエルの 抗 議 書 は、 宗<br />

教 的 弾 圧 に 対 する 重 大 な 証 言 であった。そして、それは、 良 心 の 命 じるままに 神 を 礼<br />

拝 する 全 人 類 の 権 利 の 主 張 であった。<br />

宣 言 は 行 われた。それは、 幾 千 の 人 々の 記 憶 に 刻 まれると 共 に、だれも 消 すことが<br />

できない 天 の 書 に 記 録 された。ドイツの 福 音 派 は、すべて、この 抗 議 書 を 信 仰 の 表 明<br />

として 採 用 した。 各 地 において、 人 々は、この 宣 言 に、 新 しい、よりよい 時 代 の 希 望<br />

を 認 めた。 諸 侯 の 1 人 は、シュパイエルの 抗 議 者 たちに 次 のように 言 った。「どうか、<br />

力 強 く 百 由 に、 恐 れることなく 告 白 する 恵 みをあなたがたに 与 えられた 全 能 の 神 が、<br />

永 遠 の 日 まで、あなたがたにそのようなキリスト 者 の 堅 実 さを 持 たせられるように 祈<br />

る。」 16<br />

もし 宗 教 改 革 が、ある 程 度 成 功 を 収 めた 後 で、 世 俗 の 支 持 を 得 るために 世 と 妥 協 し<br />

たならば、それは 神 に 不 忠 誠 であるとともに、 運 動 そのものに 背 くことになり、つい<br />

には 自 滅 したことであろう。これらの 高 潔 な 改 革 者 たちの 経 験 は、その 後 のすべての<br />

時 代 の 人 々に 教 訓 を 与 えている。 神 と 神 の 言 葉 に 反 対 して 働 くサタンの 方 法 は 変 わっ<br />

ていない。 彼 は、16 世 紀 におけると 同 様 に、 今 もなお、 聖 書 を 生 活 の 規 準 にすること<br />

に 反 対 している。 現 代 においては、 改 革 者 たちの 教 義 や 信 条 からの 大 きな 逸 脱 が 見 ら<br />

れる。われわれは、 信 仰 と 行 為 の 基 準 は、 聖 書 、そして 聖 書 だけであるというプロテ<br />

スタントの 大 原 則 に、 帰 らねばならない。サタンは、 今 なお、あらゆる 手 段 を 用 いて、<br />

宗 教 の 自 由 を 粉 砕 しようとしている。シュパイエルの 抗 議 者 たちが 拒 否 したところの<br />

144


国 際 協 定<br />

反 キリスト 者 的 力 は、 今 新 たな 力 をもって、 失 った 主 権 を 回 復 しようとしている。あ<br />

の 宗 教 改 革 の 危 機 において 表 された、 神 のみ 言 葉 に 対 するゆるがぬ 信 仰 が、 今 日 の 改<br />

革 の 唯 一 の 希 望 である。<br />

改 革 者 たちに 危 険 が 迫 ったことを 示 すしるしがあらわれた。また、 忠 実 な 者 を 保 護<br />

するために 神 のみ 手 がのべられたことを 示 すしるしもあった。ちょうどこのころのこ<br />

とであった。「メランヒトンは、 彼 の 友 人 シモン・グリナエウスを 連 れて、 大 急 ぎで<br />

シュパイエルの 町 を 通 りぬけてライン 河 に 向 かい、 彼 をせきたてて 河 の 向 こう 側 に 渡<br />

らせた。そのときシモンは、なぜこうも 急 がせられるのかと 不 思 議 に 思 った。『 謹 厳<br />

な 風 采 をした 見 知 らぬ 1 人 の 老 人 が、わたしの 前 に 現 れて、フェルディナント 公 から<br />

派 遣 された 役 人 が、グリナエウスを 捕 らえにすぐやってくると 言 ったのだ』とメラン<br />

ヒトンは 言 った。」<br />

その 日 グリナエウスは、 法 王 側 の 大 博 士 ファーベルの 説 教 に 憤 慨 し、「まことに 憎<br />

むべき 誤 り」を 弁 護 しているとして、 彼 に 抗 議 したのであった。「ファーベルは、 怒<br />

りを 隠 していたが、その 後 直 ちに 王 のところへ 行 き、 王 から、このハイデルベルクの<br />

かたくなな 教 授 、グリナエウスの 逮 捕 命 令 を 得 たのである。メランヒトンは、 神 が、<br />

聖 天 使 の 1 人 を 送 って、 警 告 を 与 え、 彼 の 友 人 を 救 ってくださったことを 疑 わなかっ<br />

た。」「メランヒトンは、ライン 河 の 岸 辺 にじっと 立 って、 川 の 流 れが、 迫 害 者 の 手<br />

からグリナエウスを 救 うのをみつめていた。 彼 が 対 岸 に 到 着 すると、『やっと 彼 は、<br />

罪 なき 者 の 血 に 飢 えた 残 酷 なきばから 免 れた』とメランヒトンは 叫 んだ。 彼 が 家 に 帰<br />

ってみると、グリナエウスの 捜 索 隊 が、 家 の 中 を 隅 から 隅 まで 捜 し 回 ったことを 知 ら<br />

された。」 17<br />

宗 教 改 革 は、 地 上 の 偉 大 な 人 々の 前 に、 卓 越 した 存 在 として 現 れることになった。<br />

フェルディナント 王 は、 福 音 を 信 じた 諸 侯 の 訴 えを 拒 んだのであったが、 彼 らは、 皇<br />

帝 および 教 会 と 国 家 の 高 位 高 官 の 集 まった 面 前 で、 彼 らの 信 仰 について 述 べる 機 会 が<br />

与 えられた。カール 5 世 は、 国 内 を 騒 がせた 紛 争 を 静 めるために、シュパイエルの 抗<br />

議 の 翌 年 、アウグスブルクにおいて 議 会 を 開 き、 自 分 自 身 が 議 長 になると 発 表 した。<br />

そこへ、プロテスタントの 指 導 者 たちが 召 喚 された。<br />

宗 教 改 革 は、 大 きな 危 険 にさらされた。しかし、その 支 持 者 たちは、なお 彼 らの 運<br />

動 を 神 にゆだね、 福 音 のために 堅 く 立 っ 決 意 であった。ザクセンの 選 挙 侯 は、 議 会 に<br />

行 かないように 大 臣 たちから 勧 告 された。 皇 帝 は 諸 侯 をわなに 陥 れようとして、 彼 ら<br />

の 出 席 を 要 求 している、と 大 臣 たちは 言 った。「 強 力 な 敵 がいる 町 に 行 って、その 城<br />

内 に 自 分 を 閉 じこめることは、すべてを 危 険 にさらすことではありませんか。」しか<br />

145


国 際 協 定<br />

しおおしくも、「 諸 侯 はただ、 勇 気 をもって 身 を 処 せばよい。そうすれば、 神 の 事 業<br />

は 救 われる」と 断 言 する 人 々もいた。「 神 は 忠 実 な 方 である。 神 はわれわれを 捨 てら<br />

れない」とルターは 言 った。 18 選 挙 侯 は 従 者 たちを 連 れて、アウグスブルクに 向 かっ<br />

て 出 発 した。すべての 者 は、 彼 がさらされている 危 険 を 知 っていた。そして、 多 くの<br />

者 は 沈 うつな 顔 をして、 重 い 気 持 ちをもって 道 を 進 んだ。しかし、コーブルクまで 同<br />

道 したルターは、その 旅 行 中 に 作 った「 神 は、わがやぐら」という 讃 美 歌 を 歌 って、<br />

沈 みがちな 彼 らの 信 仰 を 奮 い 起 こさせた。 霊 感 のこもった 歌 声 を 聞 いて、 多 くの 者 の<br />

心 の 不 安 は 去 り、 重 い 心 は 軽 くされた。<br />

改 革 側 の 諸 侯 は、 自 分 たちの 見 解 に 聖 書 の 証 明 を 添 えて 組 織 立 てた 宣 言 書 を、 議 会<br />

に 提 出 することにした。そして、その 作 成 の 任 務 は、ルターとメランヒトンとその 同<br />

僚 たちにゆだねられた。この 信 仰 告 白 は、プロテスタントの 者 たちによって、 彼 らの<br />

信 仰 の 表 明 として 受 け 入 れられた。そして、 彼 らは、この 重 要 な 書 類 に 署 名 するため<br />

に 集 まった。それは、 厳 粛 な 試 練 の 時 であった。 改 革 者 たちは、この 運 動 が 政 治 問 題<br />

と 混 同 されることがないよう、 気 を 使 っていた。 彼 らは、 宗 教 改 革 が、 神 の 言 葉 から<br />

出 る 感 化 以 外 のどんな 力 をも 行 使 すべきでないと 感 じていた。<br />

キリスト 者 の 諸 侯 が 信 仰 告 白 に 署 名 しようと 進 み 出 た 時 、メランヒトンは 彼 らをさ<br />

えぎって、「これらのことは、 神 学 者 や 聖 職 者 が 提 議 すべきものです。 地 上 の 偉 大 な<br />

人 々の 権 力 は、 他 のことのために 保 留 しておかれたい」と 言 った。ザクセンのヨハン<br />

は、 次 のように 答 えた。「いや、わたしを 除 外 されては 困 る。わたしは、 自 分 の 王 冠<br />

のことなど 問 題 とせず、 正 しいと 思 ったことをする 決 意 である。わたしは、 主 を 告 白<br />

したい。わたしの 選 挙 侯 としての 王 冠 や 王 衣 は、わたしにとって、イエス・キリスト<br />

の 十 字 架 ほど 尊 くない。」 彼 は、こう 言 って 自 分 の 名 を 署 名 した。 諸 侯 の 1 人 は、ペ<br />

ンをとって 言 った。「わたしの 主 イエス・キリストのみ 栄 えのためであるなら<br />

ば、……わたしの 財 産 も 生 命 も 捨 てる 覚 悟 である。」さらに 次 のように 言 った。「こ<br />

の 信 仰 告 白 のなかに 含 まれている 教 義 以 外 のものを 受 け 入 れるよりは、むしろ、わた<br />

しの 国 民 と 国 家 を 捨 て、 無 一 物 で 父 祖 の 地 を 追 われることを 望 む。」 19 これら 神 の 人<br />

々は、このような 信 仰 と 勇 気 を 持 っていた。<br />

ついに 皇 帝 の 前 に 立 つ 時 が 来 た。カール 5 世 は、 選 挙 侯 や 諸 侯 に 囲 まれて 王 位 にっ<br />

き、プロテスタントの 改 革 者 たちの 言 葉 に 耳 を 傾 けた。 信 仰 の 告 白 が 読 み 上 げられた。<br />

この 華 麗 な 会 議 において、 福 音 の 真 理 が 明 らかに 宣 言 され、 法 王 の 教 会 の 誤 りが 指 摘<br />

された。この 日 を 称 して、「 宗 教 改 革 の 最 大 の 日 、キリスト 教 と 人 類 歴 史 の 最 も 輝 か<br />

しい 日 の 1 つ」であると 言 われるのは 当 然 である。 20 ウィッテンペルクの 修 道 士 がウ<br />

ォルムスの 国 会 でただ 1 人 で 立 った 時 から、まだ 数 年 しか 経 っていなかった。 今 、 彼<br />

146


国 際 協 定<br />

に 代 わって、 帝 国 内 の 最 も 高 貴 で 有 力 な 諸 侯 たちが 現 れた。ルターは、アウグスブル<br />

クに 姿 を 見 せることを 禁 じられていたが、 彼 の 言 葉 と 祈 りとによって 出 席 していた。<br />

「わたしは、この 時 まで 生 きてきたことを 非 常 に 喜 ぶ。 今 、キリストは、このような<br />

輝 かしい 会 合 において、このような 堂 々たる 告 白 者 たちによって、 公 然 とあがめられ<br />

たのである」と 彼 は 書 いた。 21 こうして、「わたしはまた 王 たちの 前 にあなたのあか<br />

しを 語 」ると 言 う 聖 書 の 預 言 が 成 就 した[ 詩 篇 119:。<br />

パウロの 時 代 において、パウロは 福 音 のために 投 獄 されたのであったが、そのため<br />

に 福 音 は、ローマ 市 の 王 侯 や 貴 族 に 伝 えられた。この 場 合 も 同 様 で、 皇 帝 が 説 教 壇 か<br />

ら 説 教 することを 禁 じたものが、 王 宮 から 宣 言 された。 召 使 いでさえ 聞 くべきもので<br />

ないと 言 われたものを、 帝 国 の 領 主 や 諸 侯 たちが、 驚 嘆 して 聞 いたのである。 王 侯 、<br />

貴 人 が 聴 衆 で、 諸 侯 が 説 教 者 で、 説 教 は、 神 の 尊 い 真 理 についてであった。「 使 徒 時<br />

代 以 来 、これほどの 大 きな 業 や 堂 々たる 告 白 が 行 われたことはなかった」とある 著 者<br />

は 言 っている。 22<br />

「ルター 派 の 言 ったことは、みな 真 実 である。われわれは、それを 否 定 することは<br />

できない」と 法 王 側 の 司 教 が 言 った。「 選 挙 侯 とその 支 持 者 たちが 作 成 した 告 白 を、<br />

あなたは 正 しい 理 由 のもとに 論 ばくできるか」と 他 の 者 がエック 博 士 に 尋 ねた。「 使<br />

徒 や 預 言 者 の 書 によるならばできない。しかし 教 父 や 会 議 の 書 によるならばできる」<br />

と 彼 は 答 えた。「わかった。あなたの 言 葉 によれば、ルター 派 は 聖 書 的 であり、われ<br />

われは 非 聖 書 的 なのだ」と 質 問 者 は 言 った。 23<br />

ドイツの 諸 侯 の 何 人 かは、 改 革 派 の 信 仰 に 導 かれた。 皇 帝 自 身 が、プロテスタント<br />

の 信 条 は 真 実 であると 宣 言 した。 信 仰 告 白 は、 多 くの 国 語 に 翻 訳 されて、 全 ヨーロッ<br />

パに 散 布 された。そしてそれは、その 後 、 各 時 代 の 幾 百 万 人 の 信 仰 の 告 白 として 用 い<br />

られ たのである。<br />

神 の 忠 実 なしもべたちは、ただ 1 人 で 苦 労 しているのではなかった。もろもろの 支<br />

配 と 権 威 と 天 上 にいる 悪 の 霊 がこぞって 彼 らに 対 抗 しても、 主 は 主 の 民 を 捨 てられな<br />

かった。もしも 彼 らの 目 が 開 かれたならば、 彼 らは、 昔 の 預 言 者 に 与 えられたのと 同<br />

じ 神 の 臨 在 と 助 けの 著 しい 証 拠 を 見 たことであろう。エリシャのしもべが、 自 分 たち<br />

は 敵 軍 に 包 囲 され、 逃 げる 機 会 が 全 くなくなったことをエリシャに 告 げた 時 に、エリ<br />

シャは、「 主 よ、どうぞ、 彼 の 目 を 開 いて 見 させてください」と 祈 った[ 列 王 紀 下 6:。<br />

彼 が 見 ると、 火 の 馬 と 火 の 戦 車 が 山 に 満 ちて、 天 の 軍 勢 が 神 の 人 を 保 護 するために 部<br />

署 についていた。このように、 天 使 たちが、 宗 教 改 革 における 働 き 人 たちを 保 護 した<br />

のであった。<br />

147


国 際 協 定<br />

ルターが 最 も 厳 格 に 守 った 原 則 の 1 つは、 宗 教 改 革 支 援 のために 世 俗 の 権 力 に 頼 っ<br />

たりせず、その 擁 護 のために 武 力 に 訴 えたりしない、ということであった。 彼 は、 福<br />

音 が、 帝 国 の 諸 侯 たちによって 告 白 されたことを 喜 んだ。しかし、 彼 らが 擁 護 連 盟 を<br />

結 成 することを 提 案 した 時 に、 彼 は 次 のように 言 った。「 福 音 の 教 義 は、ただ 神 だけ<br />

が 擁 護 すべきものである。…… 人 間 の 手 出 しが 少 なければ 少 ないほど、 福 音 のための<br />

神 の 介 入 はいっそう 著 しくあらわれるであろう。」「すべての 用 心 深 い 予 防 策 は、 彼<br />

の 意 見 によれば、 無 用 な 恐 怖 とはなはだしい 不 信 によるものであった。」 24 強 力 な 敵<br />

が、 合 同 して 改 革 派 の 信 仰 をくつがえそうとした 時 、そして、 無 数 の 剣 が 抜 き 放 たれ<br />

ようとした 時 ルターは 書 いた。「サタンは 怒 りに 燃 えている。 不 信 仰 な 司 教 たちは、<br />

策 を 練 っている。そしてわれわれは、 戦 争 に 脅 かされている。われわれは、 信 仰 と 祈<br />

りによって、 主 のみ 座 の 前 で 勇 敢 に 神 に 訴 えるように 人 々に 勧 め、 神 の 霊 に 征 服 され<br />

た 敵 が 平 和 を 求 めてくるようにしよう。われわれの 最 大 の 必 要 、 最 大 の 仕 事 は 祈 りで<br />

ある。 人 々に、 今 や 彼 らは 剣 の 刃 とサタンの 怒 りにさらされていることを 知 らせよう。<br />

そして 彼 らに 祈 らせよう。」 25<br />

後 日 ルターは、 改 革 派 の 諸 侯 たちが 連 盟 を 企 てたことについて 再 び 言 及 して、この<br />

戦 いにおける 唯 一 の 武 器 は、「 御 霊 の 剣 」でなければならないと 言 明 した。 彼 は、ザ<br />

クセンの 選 挙 侯 に 書 いた。「われわれは、 連 盟 の 提 案 には、 良 心 的 理 由 によって 賛 成<br />

できません。われわれは、 福 音 のために 1 滴 の 血 を 流 すよりは、むしろ 10 回 死 ぬほ<br />

うがよいのです。われわれの 側 は、ほふり 場 の 小 羊 のようなものです。キリストの 十<br />

字 架 を 負 わねばならないのです。 選 挙 侯 よ、 恐 れないでください。われわれは、 敵 が<br />

彼 らの 誇 りによってなすすべての 事 以 上 のことを、 祈 りによってなすのです。ただ、<br />

あなたの 手 を 兄 弟 の 血 で 汚 さないでいただきたい。もし、 皇 帝 がわれわれを 裁 判 官 に<br />

引 き 渡 すならば、われわれは 出 頭 する 覚 悟 です。あなたは、われわれの 信 仰 を 擁 護 す<br />

ることはできません。 各 自 が、 自 分 自 身 の 責 任 において、 信 じなければならないので<br />

す。」 26<br />

大 宗 教 改 革 によって 世 界 を 揺 り 動 かした 力 は、 密 室 の 祈 りから 出 たものであった。<br />

そこにおいて、 神 聖 な 静 けさのうちに、 主 のしもべたちは 神 の 約 束 の 岩 の 上 にしっか<br />

りと 立 った。アウグスブルクの 闘 争 の 間 中 、ルターは、「1 日 に 少 なくとも 3 時 間 は、<br />

祈 りに 時 を 費 やした。そして、それは、 研 究 のために 最 もよい 時 間 を 割 いたものであ<br />

った。」 彼 が 1 人 自 分 の 部 屋 の 中 で、「 崇 敬 と 恐 れと 希 望 に 満 ちて、 友 人 と 語 るかの<br />

ような」 言 葉 で、 神 の 前 に 彼 の 魂 を 注 ぎ 出 すのが 聞 こえた。「わたしは、あなたがわ<br />

たしたちの 父 であり、わたしたちの 神 であられることを 知 っています。そして、あな<br />

たが、あなたの 子 供 たちを 迫 害 するものを 散 らされることを 知 っています。それは、<br />

148


国 際 協 定<br />

あなたご 自 身 が、わたしたちと 共 に 危 険 に 陥 っておられるからです。この 事 は、こと<br />

ごとくあなたのものです。そして、わたしたちが、それに 着 手 したのも、あなたによ<br />

って、そうさせられたにすぎません。それですから、あ あ、 父 よ、わたしたちをお 守<br />

りください!」と 彼 は 言 うのだった。 27<br />

不 安 と 恐 怖 の 重 荷 にうちひしがれていたメランヒトンに、 彼 は、 次 のように 書 いた。<br />

「キリストにある 恵 みと 平 和 があるように。 世 ではなくて、キリストにあるのだ。ア<br />

ーメン。わたしは、あなたを 圧 倒 する 極 度 の 心 労 を 非 常 に 憎 んでいる。もし 改 革 事 業<br />

が 正 しくなければ、それをすてよ。もしそれが 正 しければ、 恐 れず 眠 れと 命 じられる<br />

主 の 約 束 をなぜ 信 じないのか。……キリストは 正 義 と 真 理 のわざに 欠 けるお 方 ではな<br />

い。 彼 は 生 きて 支 配 しておられる。それならば、われわれは、 何 を 恐 れることがあろ<br />

うか。」 28 神 は、 神 のしもべたちの 叫 びをお 聞 きになったのである。 神 は、 王 侯 たち<br />

や 牧 師 たちに、この 世 の 暗 黒 の 支 配 者 に 対 抗 して、 真 理 を 維 持 する 恵 みと 勇 気 をお 与<br />

えになった。「 見 よ、わたしはシオンに、 選 ばれた 尊 い 石 、 隅 のかしら 石 を 置 く。そ<br />

れにより 頼 む 者 は、 決 して、 失 望 に 終 ることがない」と 主 は 言 われる[Ⅰペテロ 2:。<br />

プロテスタントの 改 革 者 たちは、キリストの 上 に 築 いた。そして、 黄 泉 [よみ]の 門 は<br />

彼 らに 打 ち 勝 っことができなかった。<br />

149


国 際 協 定<br />

第 12 章 フランスの 改 革<br />

ドイツの 宗 教 改 革 の 勝 利 を 画 したシュパイエルの 抗 議 とアウグスブルクの 信 仰 告 白<br />

のあとには、 争 闘 と 暗 黒 の 年 月 が 続 いた。 内 部 の 分 裂 に 弱 められ、 強 力 な 敵 の 襲 撃 を<br />

受 けたために、プロテスタント 主 義 は 全 滅 するかと 思 われた。 幾 千 の 者 が、そのあか<br />

しに 血 の 印 を 押 した。 内 乱 が 起 きた。プロテスタント 運 動 は、その 指 導 者 たちの 1 人<br />

に 裏 切 られた。 改 革 派 の 諸 侯 たちの 気 高 い 人 々が 皇 帝 の 手 中 に 陥 り、 捕 虜 として 町 か<br />

ら 町 へ 引 き 回 された。しかし 皇 帝 は、 一 見 勝 利 と 思 われたその 瞬 間 に、 敗 北 した。 彼<br />

は、 餌 食 が 彼 の 手 から 逃 れるのを 見 た。そして、 滅 ぼすことを 自 分 の 生 涯 の 野 心 とし<br />

ていたその 教 義 を、ついに 承 認 しなければならなくなった。 彼 は、 異 端 粉 砕 のために、<br />

王 国 と 財 宝 と 生 命 さえかけた。ところが、 今 や、 彼 の 軍 隊 は 戦 いに 疲 れ、 国 庫 は 底 を<br />

つき、 多 くの 国 々は 革 命 に 脅 かされていた。 他 方 、 彼 が 弾 圧 しようとした 信 仰 が、 至<br />

るところで 発 展 していた。カール 5 世 は、 全 能 者 の 力 に 対 抗 して 戦 っていたのであっ<br />

た。 神 は、「 光 あれ」と 言 われた。しかし 皇 帝 は、 暗 黒 のままにしておこうとした。<br />

彼 のもくろみは 破 れた。 皇 帝 は、 長 い 戦 いに 疲 れ、 老 齢 でもないのに、 王 位 を 退 き、<br />

修 道 院 に 引 きこもった。<br />

スイスにおいてもドイツと 同 様 に、 宗 教 改 革 の 暗 黒 時 代 が 来 た。 多 くの 州 が 改 革 主<br />

義 を 信 じたが、その 他 は、ローマの 信 条 に 盲 目 的 に 固 執 した。 真 理 を 受 けようとする<br />

ものに 対 する 彼 らの 迫 害 は、ついに 内 乱 を 引 き 起 こした。ツウィングリと 彼 の 改 革 に<br />

参 加 した 多 くの 者 は、カッペルの 戦 場 で 倒 れた。エコランパデウスもこの 恐 ろしい 災<br />

いに 圧 倒 されて、その 後 まもなく 死 んだ。ローマは 勝 ち 誇 った。そして、 多 くの 場 所<br />

で、 失 ったものをみな 取 り 返 すかに 見 えた。しかし、 永 遠 の 昔 から 目 的 を 持 っておら<br />

れる 神 は、 神 の 事 業 と 神 の 民 とを 捨 てられなかった。 神 のみ 手 は、 彼 らに 救 いをもた<br />

らされるのであった。 神 は、 他 の 国 々で 改 革 を 推 進 する 働 き 人 を 起 こされたのであ<br />

る。<br />

フランスにおいては、 改 革 者 としてルターの 名 が 聞 かれる 以 前 に、すでに 夜 は 明 け<br />

ようとしていた。 光 を 捕 らえた 最 初 の 人 々の 1 人 は、パリ 大 学 の 教 授 、 博 学 で 誠 実 で<br />

熱 心 なカトリック 教 徒 、 老 ルフェーブルであった。 彼 は、 古 代 文 学 の 研 究 中 に 聖 書 に<br />

心 をひかれ、その 研 究 を 学 生 に 紹 介 した。 ルフェーブルは、 聖 人 たちを 崇 敬 する 念 が<br />

厚 く、 教 会 の 伝 説 の 中 に 出 ている 聖 人 や 殉 教 者 たちの 歴 史 を 著 そうとしていた。これ<br />

は、 非 常 な 労 力 を 要 する 働 きであった。しかし、 彼 は、すでに 相 当 のところまで 進 ん<br />

だところで、 聖 書 に 有 益 な 参 考 があるかもしれないと 考 えて、その 目 的 で 聖 書 の 研 究<br />

150


国 際 協 定<br />

を 始 めた。たしかに 聖 書 には、 聖 人 たちのことが 書 かれていたが、しかしそれは、ロ<br />

ーマの 教 会 暦 に 描 かれているようなものではなかった。 天 来 の 光 が、 洪 水 のように 彼<br />

の 心 に 流 れ 込 んできた。 驚 きと 嫌 悪 の 念 を 抱 いて、 彼 は 自 分 のしようとした 仕 事 をや<br />

め、 神 の 言 葉 の 研 究 に 没 頭 した。まもなく 彼 は、 自 分 が 聖 書 の 中 で 見 いだした 尊 い 真<br />

理 を 教 え 始 めた。<br />

1512 年 、まだ、ルターもツウィングリも 改 革 の 仕 事 を 始 めていなかった 時 に、ル<br />

フェーブルは 次 のように 書 いた。「 信 仰 によって、われわれに 義 ——ただ 恵 みによっ<br />

て 義 として 永 遠 の 命 に 至 らせる 義 ——をお 与 えになるのは、 神 である。」 1 彼 は、 贖 罪<br />

の 神 秘 を 瞑 想 して 叫 んだ。「ああ、これは、 言 葉 で 表 現 できない、なんと 大 きな 交 換<br />

であろう。 罪 なき 方 が 罪 せられ、 罪 人 が 自 由 にされる。 祝 福 された 者 がのろいを 受 け、<br />

のろわれた 者 が 祝 福 にいれられる。 生 命 の 君 が 死 なれ、 死 せる 者 が 生 きる。 栄 光 の 君<br />

が 暗 黒 に 圧 倒 され、 恥 のほか 何 も 知 らぬ 者 が、 栄 光 を 着 せられる。」 2 彼 は、 救 いは、<br />

ただ 神 だけにその 栄 光 を 帰 すべきであると 教 えるとともに、 人 間 は 服 従 すべきである<br />

ことをも 断 言 した。「もしあなたが、キリストの 教 会 の 一 員 であるならば、あなたは、<br />

彼 の 体 の 肢 体 である。 もしあなたが 彼 の 体 に 属 しているならば、 神 の 性 質 に 満 ちてい<br />

る。……ああ、もし 人 がこの 特 権 を 理 解 しさえすれば、 彼 らは、どんなに 純 潔 で 貞 潔<br />

で 聖 潔 な 生 活 を 送 ることであろう。また、 彼 らの 中 にある 栄 光 —— 肉 の 目 では 見 るこ<br />

とができない 栄 光 ——と 比 較 してみるなら、この 世 のすべての 栄 えはなんと 卑 しいも<br />

のに 思 えることであろう。」 3<br />

ルフェーブルの 学 生 たちの 中 には、 熱 心 に 彼 の 言 葉 に 耳 を 傾 ける 者 が 幾 人 かあった。<br />

そして、 教 師 の 声 が 沈 黙 したずっと 後 に、 真 理 を 宣 言 し 続 けるのであった。その 1 人<br />

は、ギヨーム・ファーレルであった。 敬 虔 な 両 親 に 育 てられ、 教 会 の 教 えを 絶 対 的 な<br />

信 仰 をもって 受 け 入 れるように 教 育 された 彼 は、 使 徒 パウロとともに、「わたしたち<br />

の 宗 教 の 最 も 厳 格 な 派 にしたがって、パリサイ 人 として 生 活 をしていた」と 言 うこと<br />

ができた[ 使 徒 行 伝 26:。 彼 は、 熱 心 なカトリック 教 徒 として、 教 会 に 反 対 するすべ<br />

てのものを 滅 ぼそうという 熱 意 に 燃 えていた。「 法 王 に 反 対 する 言 葉 を 発 する 者 には、<br />

わたしは 恐 ろしいおおかみのようにきばをむき 出 した」と、 後 に 彼 は、 当 時 を 回 顧 し<br />

て 言 った。 4 彼 は、 熱 心 な 聖 人 崇 拝 者 であったので、ルフエーブルに 従 って、パリの 教<br />

会 を 巡 り、 聖 壇 で 礼 拝 をし、 聖 堂 をささげもので 飾 った。しかし、こうしたことを 行<br />

っても、 心 に 平 和 をもたらすことはできなかった。 彼 は、 罪 の 意 識 を 逃 れることがで<br />

きなかった。それは、あらゆる 苦 行 によっても 消 えることがなかった。その 時 彼 は、<br />

天 からの 声 のように、 改 革 者 の、「 救 いは 恵 みである」という 言 葉 を 聞 いたのである。<br />

151


国 際 協 定<br />

「 罪 なきお 方 が 罪 せられて、 犯 罪 人 が 赦 される。」「 天 の 門 を 開 き、 黄 泉 [よみ]の 門<br />

を 閉 じるのは、キリストの 十 字 架 だけである。」 5<br />

ファーレルは、 喜 んで 真 理 を 受 け 入 れた。 彼 は、パウロのような 悔 い 改 めを 経 験 し<br />

て、 言 い 伝 えの 奴 隷 から 神 の 子 の 自 由 に 入 った。「 貪 欲 なおおかみのような 殺 気 立 っ<br />

た 心 は 去 り、 柔 和 で 無 邪 気 な 小 羊 のようになった。 心 は 全 く 法 王 から 去 って、イエス<br />

・キリストにささげられた」と 彼 は 言 っている。 6 ルフェーブルは、 学 生 間 に 光 を 広<br />

め 続 けたのであるが、ファーレルは、 法 王 の 事 業 のために 持 っていたのと 同 じ 熱 心 さ<br />

をキリストの 事 業 にあらわし、 公 衆 に 真 理 を 宣 言 するために 出 て 行 った。 教 会 の 高 い<br />

地 位 にある 人 物 、モーの 司 教 も、その 後 間 もなく 彼 らに 加 わった。ほかに、 才 能 と 学<br />

識 において 高 い 地 位 にあった 教 授 たちも、 福 音 の 宣 教 に 参 加 し、 職 人 や 農 民 の 家 庭 か<br />

ら 王 宮 に 至 るまで、あらゆる 階 級 の 中 から 支 持 者 があらわれた。 当 時 君 臨 していたフ<br />

ランソア[フランシス]1 世 の 皇 妹 も 改 革 主 義 を 受 け 入 れた。 王 自 身 と 母 后 も、 一 時 こ<br />

れに 好 感 を 示 した。そして、 改 革 者 たちは、 大 きな 希 望 をもって、フランスを 福 音 の<br />

側 に 勝 ちとる 日 を 待 望 した。<br />

しかし、 彼 らの 希 望 は 実 現 しなかった。 試 練 と 迫 害 がキリストの 弟 子 たちを 待 って<br />

いた。ところが、これは、 恵 みのうちに 彼 らの 目 から 隠 されていた。 彼 らがあらしに<br />

直 面 する 力 を 養 うために、 平 和 な 時 が 与 えられた。そして、 改 革 事 業 は 著 しく 進 展 し<br />

た。モーの 司 教 は、 彼 の 教 区 内 の 聖 職 者 と 人 々とを 教 えるために 熱 心 に 働 いた。 無 知<br />

で 不 道 徳 な 司 祭 は 除 かれ、できるだけ 学 識 と 敬 虔 の 念 に 富 む 人 と 交 替 した。 司 教 は、<br />

人 々が 神 の 言 葉 を 自 ら 手 にするようになることを 切 望 した。そして、これはまもなく<br />

実 現 した。ルフェーブルは、 新 約 聖 書 の 翻 訳 に 着 手 した。そして、ルターのドイツ 語<br />

聖 書 が、ウィッテンベルクの 出 版 所 から 発 行 されていた 時 に、フランス 語 の 新 約 聖 書<br />

が、モーで 出 版 された。 司 教 は、それを 彼 の 教 区 内 に 配 布 するために、 労 力 も 費 用 も<br />

惜 しまなかった。やがてモーの 農 民 たちは、 聖 書 を 持 つようになった。<br />

のどが 渇 いて 死 にそうな 旅 人 が、 清 水 の 泉 を 喜 んで 歓 迎 するように、これらの 人 々<br />

は 天 からの 使 命 を 受 け 入 れた。 畠 で 働 く 人 々、 仕 事 場 の 職 人 たちは、 聖 書 の 尊 い 真 理<br />

を 語 り 合 って 日 ごとの 仕 事 に 励 んだ。 夜 は、 酒 場 に 行 くかわりに、お 互 いの 家 に 集 ま<br />

って、 神 の 言 葉 を 読 み、 祈 りと 賛 美 に 加 わった。まもなく 一 大 変 化 がこれらの 町 々に<br />

起 こった。<br />

彼 らは、 卑 賎 な 階 級 に 属 する 無 学 な 労 働 者 農 民 であったが、 彼 らの 生 活 に、 神 の 改<br />

変 し 向 上 させる 神 の 恵 みの 力 があらわれた。 彼 らは、 謙 そんで 愛 と 聖 潔 の 人 となり、<br />

福 音 は 真 心 からそれを 受 け 入 れる 人 々をどのように 変 えるかの 証 人 となった。 モーで<br />

152


国 際 協 定<br />

点 じられた 光 は、 遠 くまで 輝 いた。 信 者 の 数 は 日 ごとに 増 加 した。 修 道 士 たちの 頑 迷<br />

さを 軽 べつしていた 王 によって、 高 位 聖 職 者 たちの 怒 りは、 一 時 けんせいされていた。<br />

しかし、ついに、 法 王 側 の 指 導 者 たちが 勝 利 した。 今 や、 火 刑 柱 が 立 てられた。モー<br />

の 司 教 は、 火 刑 か 取 り 消 しかを 選 ぶように 強 いられて、 安 易 な 道 を 選 んだ。しかし、<br />

指 導 者 が 倒 れたにもかかわらず、 彼 の 群 れは 堅 く 立 った。 多 くの 者 が、 火 炎 の 中 で 真<br />

理 のあかしを 立 てた。 火 刑 における 勇 気 と 忠 誠 とによって、これらの 卑 しいキリスト<br />

者 たちは、 平 和 な 時 代 には 彼 らのあかしを 聞 くこともなかった 幾 千 の 人 々に、 語 った<br />

のであった。<br />

苦 難 とちょう 笑 の 中 で、 勇 敢 にキリストのあかしを 立 てたのは、 卑 しい 貧 民 だけで<br />

はなかった。 城 や 王 宮 の 邸 宅 に、 真 理 を、 富 や 地 位 、あるいは 生 命 よりも 高 く 評 価 し<br />

た 気 高 い 人 々があった。 堂 々たる 武 装 の 下 に、 司 教 の 衣 や 冠 をいただいた 人 々よりも、<br />

高 尚 で 堅 実 な 精 神 が 隠 されていた。ルイ・ド・ベルカンは、 貴 族 の 出 であった。 彼 は、<br />

勇 敢 で、 上 品 な 騎 士 で、 学 問 に 熱 心 で、その 動 作 は 洗 練 され、 道 徳 的 に 潔 白 であった。<br />

ある 著 者 は 次 のように 言 っている。「 彼 は、 法 王 制 機 構 の 熱 心 な 支 持 者 で、ミサや 説<br />

教 を 熱 心 に 聞 いた。……そして、 彼 のすべての 他 の 美 徳 に 加 えて、ルター 派 に 対 して<br />

特 別 の 嫌 悪 を 持 っていた。」 しかし、 他 の 多 くの 者 と 同 様 に、 彼 は 摂 理 によって 聖 書<br />

に 導 かれ、そこに「ローマの 教 義 ではなくて、ルターの 教 義 」を 見 いだして 驚 いた。 7<br />

その 後 、 彼 は、 福 音 のためにすべてをささげたのである。<br />

「フランス 貴 族 中 の 最 も 博 学 な 者 」であった 彼 の 天 才 と 雄 弁 、 不 屈 の 勇 気 と 熱 心 、<br />

そして 宮 廷 における 影 響 力 [ 彼 は 国 王 から 愛 顧 を 受 けていた]、などの 理 由 で、 多 くの<br />

者 は、 彼 はフランスの 改 革 者 になる 運 命 にあると 思 った。「もしフランソア 1 世 が 第<br />

二 の 選 挙 侯 であったなら、ベルカンは 第 二 のルターになっていたことであろう」とベ<br />

ザは 言 った。「 彼 は、ルターより 始 末 におえない」と 法 王 側 は 叫 んだ。 8 実 際 、 彼 は、<br />

フランスの 法 王 側 の 人 々から、ルター 以 上 に 恐 れられた。 彼 らは、 彼 を 異 端 者 として<br />

投 獄 したが、 彼 は 王 に 釈 放 された。 争 闘 は、 長 年 続 いた。フランソアは、ローマと 改<br />

革 との 間 をぐらつき、 修 道 士 たちの 激 しい 熱 意 を 許 したり、 禁 じたりした。ベルカン<br />

は、 法 王 側 の 当 局 者 によって 3 度 投 獄 された。しかし、 日 ごろから 彼 の 天 才 と 高 潔 な<br />

品 性 を 賞 賛 していた 王 は、 彼 を 釈 放 し、 彼 が 教 権 の 敵 意 の 犠 牲 になることを 拒 んだ。<br />

ベルカンは、フランスにおいて 彼 の 身 に 迫 る 危 険 についてくり 返 し 警 告 を 受 け、 自<br />

発 的 に 逃 亡 して 身 の 安 全 を 確 保 した 人 々の 例 にならうよう、 勧 められた。おくびょう<br />

で、 迎 合 的 なエラスムスは、 学 問 的 には 非 常 に 優 れていたけれども、 真 理 のためには<br />

生 命 も 栄 誉 も 捨 てるというあの 道 徳 的 偉 大 さに 欠 けていて、ベルカンに 次 のように 書<br />

いた。「どこかの 国 の 大 使 として 送 られることを 求 めてはいかがであろう。ドイツに<br />

153


国 際 協 定<br />

行 って 旅 をされよ。あなたは、ベダを 知 っている。 彼 は、1000 の 頭 をもった 怪 物 の<br />

ように、 至 るところに 毒 気 を 放 っている。あなたの 敵 の 数 は 多 い。あなたの 主 張 がイ<br />

エス・キリストの 主 張 よりよいものであれは、 彼 らは、あなたを 無 残 に 殺 すまでは 手<br />

放 さないであろう。 王 の 保 護 に 頼 りすぎてはならない。とにかく、 神 学 の 教 授 間 にお<br />

いて、わたしに 累 を 及 ぼさないでほしし。」<br />

しかし、 危 険 が 増 すにつれて、ベルカンはますます 熱 心 になった。 彼 は、エラスム<br />

スの 政 略 的 で 自 己 本 位 の 勧 告 に 従 うどころか、かえって、いっそう 大 胆 な 手 段 に 出 る<br />

決 意 をした。 彼 は、 真 理 を 擁 護 するだけでなく、 誤 りを 攻 撃 するのであった。 法 王 側<br />

が 彼 に 向 けようとした 異 端 の 非 難 を、 彼 は 彼 らに 向 けたのである、 彼 の 最 も 激 烈 な 反<br />

対 者 たちは、 偉 大 なパリ 大 学 の 神 学 部 の、 学 識 ある 博 士 たちや 修 道 上 たちであっ<br />

た。 パリ 大 学 は、パリだけでなく、フランス 全 体 においても 最 高 の 宗 教 的 権 威 の 1 つ<br />

であった。ベルカンは、この 博 士 たちの 著 書 から、12 の 論 題 を 掲 げて、それが「 聖 書<br />

に 反 するもので、 異 端 である」ということを 公 然 と 宣 言 した。そして 彼 は、 王 にその<br />

論 争 の 審 判 官 になることを 請 うた。<br />

王 は、 両 方 の 対 立 した 弁 士 たちの 力 と 鋭 さとを 比 較 することをきらわず、また、こ<br />

れら 高 慢 な 修 道 士 たちの 自 尊 心 をくじくよい 機 会 と 考 えて、ローマ 側 に、 聖 書 に 基 づ<br />

いて、 彼 らの 主 張 を 擁 護 することを 命 じた。 彼 らは、この 武 器 では、 自 分 たちの 方 が<br />

不 利 であることをよく 知 っていた。 投 獄 や 拷 問 や 火 刑 のほうが、 彼 らの 使 い 慣 れた 武<br />

器 だったのである。 今 や 形 勢 は 逆 転 し、 彼 らはベルカンを 陥 れようと 望 んだ 穴 に、 自<br />

分 たちが 落 ちこもうとしているのに 気 づいた。 彼 らは 驚 いて、どこかに 逃 げ 道 はない<br />

かと 見 回 した。<br />

「ちょうどその 時 、 町 角 に 立 てられていた 聖 母 マリヤの 像 が、 傷 つけられた。」そ<br />

れで 町 中 が 大 騒 ぎになった。 群 衆 がその 場 所 に 集 まって、 悲 しみや 怒 りの 言 葉 をあげ<br />

た。 王 も、 非 常 に 心 を 動 かされた。これは 修 道 士 たちを 有 利 にするよい 機 会 であった。<br />

彼 らは、さっそくそれを 利 用 した。「こうしたことは、ペルカンの 教 義 の 実 である」<br />

と、 彼 らは 叫 んだ。「このルター 派 の 陰 謀 によって、 宗 教 も 法 律 も 王 位 までも、みな<br />

くつがえされそうになっている。」 10<br />

ベルカンは、ふたたび 捕 らえられた。 王 は、バリを 去 った。そこで 修 道 士 たちは 思<br />

うままに 活 動 することができた。 改 革 者 ベルカンは、 裁 判 によって 死 刑 の 宣 告 を 受 け<br />

た。そして、フランソアが 介 入 して 彼 を 救 わないようにと、 宣 告 が 行 われたその 当 日<br />

に 刑 が 執 行 された。ベルカンは、 正 午 に 刑 場 に 送 られた。 黒 山 のような 群 衆 が、これ<br />

を 見 るために 集 まった。そして、 受 刑 者 がフランスの 最 高 にして 最 も 勇 敢 な 貴 族 のな<br />

154


国 際 協 定<br />

かから 選 ばれたことに、 驚 きと 疑 念 をいだいたものが 多 くあった。 押 し 寄 せた 郡 衆 の<br />

顔 には、 驚 き、 怒 り、 軽 べつ、 憎 しみが 現 れていた。しかし、 暗 い 影 のない 顔 が 1 つ<br />

あった。 殉 教 者 の 思 いは、 騒 がしい 光 景 から 遠 く 離 れ、 主 の 臨 在 だけを 感 じていた。<br />

彼 を 乗 せたそまつな 護 送 車 、 迫 害 者 たちの 不 きけんな 顔 、 彼 が 向 かいつつある 恐 る<br />

べき 死 —— 彼 はこれらをなんとも 思 わなかった。 生 きて、 死 なれたことがあり、そし<br />

て 永 遠 に 生 きておられるお 方 、 死 と 黄 泉 [よみ]のカギをもっておられるお 方 が、 彼 の<br />

そばにおられた。ベルカンの 顔 は、 天 の 光 と 平 和 に 輝 いていた。ベルカンはりっぱな<br />

服 装 をしていた。 彼 は、「びろうどの 上 衣 、しゅすとダマスク 織 りの 胴 着 、 金 色 のく<br />

つ 下 」をまとっていた。 11 彼 は、 王 三 の 王 と、 見 守 る 宇 宙 との 前 で、 信 仰 のあかしを<br />

しようとしていた。 彼 の 喜 びを 隠 すような 悲 しみの 表 情 はなかった。<br />

行 列 が 混 雑 した 通 りをゆっくりと 進 んでいく 時 、 人 々は、 彼 の 顔 つきと 態 度 に、 少<br />

しの 曇 りもない 平 和 と 勝 利 の 喜 びとを 見 て 驚 いた。「この 人 は、 神 殿 に 座 して、 聖 な<br />

ることについて 瞑 想 する 人 のようだ」と 彼 らは 言 った。 12 火 刑 台 のところで、ベルカ<br />

ンは、 人 々に 少 し 語 ろうとした。しかし、 修 道 士 たちは、その 結 果 を 恐 れて 叫 び 声 を<br />

あげはじめ、また、 兵 士 たちは、 武 器 を 打 ち 合 わせて、 彼 らの 騒 がしい 音 によって 殉<br />

教 者 の 声 を 消 してしまった。こうして、1529 年 、 教 養 の 都 パリの 文 学 と 神 学 の 最 高<br />

の 権 威 者 たちは、「 処 刑 台 における 死 に 面 した 人 の 最 後 の 言 葉 をもみ 消 すという 卑 劣<br />

な 手 本 を、1793 年 の 民 衆 に 与 えた。」 13 ベルカンは 絞 殺 され、 彼 の 体 は 火 で 焼 かれ<br />

た。 彼 の 死 の 知 らせは、フランス 全 国 の 改 革 派 の 同 志 を 悲 しませた。しかし、 彼 の 死<br />

は、むだではなかった。「われわれもまた、 来 たるべき 生 命 に 目 を 向 け、 喜 んで 死 に<br />

つくつもりである」と 真 理 の 証 人 たちは 言 った。 14<br />

モーでの 迫 害 の 間 、 改 革 派 の 教 師 たちは、 説 教 の 免 許 状 を 取 り 上 げられたために、<br />

他 の 地 方 に 去 っていった。しばらくして、ルフェーブルはドイツに 向 かった。ファー<br />

レルは、 東 フランスの 故 郷 に 帰 り、 幼 少 のころの 地 に 光 を 輝 かした。モーにおけるで<br />

きごとがすでに 伝 えられていたので、 彼 が 恐 れることなく 熱 心 に 伝 える 真 理 に、 耳 を<br />

傾 ける 人 々があらわれた。まもなく、 当 局 者 が 彼 を 沈 黙 させようとして 立 ち 上 がり、<br />

町 から 追 い 出 してしまった。 彼 は、 公 然 と 働 くことはできなくなったが、 村 々をめぐ<br />

って 歩 き、 民 家 や 人 里 離 れた 牧 場 で 教 え、 少 年 時 代 の 遊 び 場 であった 森 や 岩 のほら 穴<br />

に 隠 れ 家 を 見 いだしていた。 神 は、さらに 大 きな 試 練 のために、 彼 に 準 備 をさせてお<br />

られたのである。「わたしが 予 告 を 受 けた 十 字 架 や 迫 害 やサタンの 陰 謀 は、わずかな<br />

ものではなかった。それらは、わたしが 耐 えられないほど 苛 酷 であった。しかし、 神<br />

はわたしの 父 である。 神 は、わたしに 必 要 な 力 を 備 えてくださったし、 常 に 備 えてく<br />

ださる。」 15 使 徒 時 代 と 同 様 に、 迫 害 は、「 福 音 の 前 進 に 役 立 つようになった」[ピリ<br />

155


国 際 協 定<br />

ピ 1:。 彼 らは、パリやモーから 追 われて、「 御 言 を 宣 べ 伝 えながら、めぐり 歩 いた」<br />

[ 使 徒 行 伝 。こうして、 光 は、 多 くのフランスの 遠 隔 の 地 方 にまで 伝 わった。<br />

神 は、ご 自 分 の 事 業 を 進 めていくために、なお 働 き 人 たちの 準 備 をしておられた。<br />

バリのある 学 校 に、 思 慮 深 く 物 静 かな 青 年 がいた。 彼 は、 頭 脳 明 晰 で、 知 的 情 熱 を 持<br />

ち、 宗 教 的 に 献 身 していたが、 彼 の 生 活 もまた 同 様 に 高 潔 なものであった。 彼 の 才 能<br />

と 勤 勉 さとは、まもなく 大 学 の 誇 りとなり、ジャン・カルバン[ジョン・カルビン]こ<br />

そ、 確 かに 教 会 の 最 も 有 力 で 栄 誉 ある 擁 護 者 になるであろうと 予 想 されていた。<br />

しかし、 神 の 光 は、カルバンを 閉 じ 込 めていたスコラ 哲 学 と 迷 信 の 壁 をさえ 貫 いた。<br />

彼 は、 新 しい 教 義 を 聞 いて 身 震 いし、 異 端 者 が 火 刑 に 処 せられるのは 当 然 であるとい<br />

うことになんの 疑 いも 持 たなかった。しかし、 彼 は、 全 く 意 識 しないうちに 異 端 と 顔<br />

を 合 わせ、プロテスタントの 教 えと 戦 うためにローマ 教 の 神 学 の 力 を 試 さざるをえな<br />

くなった。 改 革 派 に 加 わったカルバンのいとこが、パリにいたのである。この 2 人 は、<br />

たびたび 会 って、キリスト 教 国 を 混 乱 させている 問 題 について 話 し 合 った。「この 世<br />

の 中 に、2 つしか 信 仰 はない。1 つは、 人 間 が 考 え 出 したいろいろな 宗 教 であって、<br />

そこでは 人 間 は、 儀 式 や 善 行 によって 救 われる。もう 1 つは、 聖 書 に 啓 示 された 宗 教<br />

であって、それは、 価 なくして 与 えられる 神 の 恵 みによってのみ 救 われると 教 えるの<br />

だ」とプロテスタントのオリベタンは 言 った。<br />

「ぼくはきみの 新 しい 教 義 など 信 じない。ぼくがこれまでずっと 誤 謬 の 中 で 生 きて<br />

きたと、きみは 言 うのか!」とカルバンは 叫 んだ。 16 とは 言 うものの、 自 分 の 意 志 で<br />

は 消 し 去 ることのできない 思 想 が、カルバンの 心 に 起 こった。 彼 は、 自 分 の 部 屋 に 閉<br />

じこもって、いとこの 言 葉 を 思 いめぐらした。 彼 は、 罪 の 自 覚 に 襲 われた。 彼 は、き<br />

よく 正 しい 審 判 者 の 前 に、 仲 保 者 なしに 立 つ 自 分 を 感 じた。 諸 聖 人 の 仲 保 、 善 行 、 教<br />

会 の 儀 式 などはみな、 罪 をあがなうには 無 力 だった。 彼 の 前 には、 永 遠 の 絶 望 の 暗 黒<br />

があるだけであった。 教 会 の 博 士 たちが、 彼 の 悩 みを 和 らげようとしたができなかっ<br />

た。 告 白 も 苦 行 も 行 ってみたがだめであった。それらは、 魂 を 神 と 和 解 させることが<br />

できなかった。<br />

カルバンは、こうしたむなしい 苦 悩 をなおも 続 けているうちに、ある 日 、たまたま<br />

町 の 広 場 に 出 かけて、 異 端 者 の 火 刑 を 目 撃 した。 彼 は、 殉 教 者 の 顔 に 平 和 が 宿 ってい<br />

るのを 見 て、 驚 きに 満 たされた。 恐 ろしい 死 の 拷 問 のなかにあって、そして、それに<br />

も 勝 る 恐 ろしい 教 会 の 宣 告 を 受 けながら、 彼 は 信 仰 と 勇 気 をあらわしていた。それに<br />

引 きかえ、 若 い 学 生 のカルバンは、 厳 格 に 教 会 に 従 った 生 活 を 送 りながらも 失 望 と 暗<br />

黒 のうちにある 自 分 を 顧 みて、 心 を 痛 めた。 異 端 者 が 信 じているのは 聖 書 であること<br />

156


国 際 協 定<br />

を 彼 は 知 った。 彼 は、 聖 書 を 研 究 しよう、そしてできれば 彼 らの 喜 びの 秘 訣 をみきわ<br />

めようと 決 心 した。<br />

彼 は、 聖 書 の 中 にキリストを 発 見 した。「ああ 父 よ、 彼 の 犠 牲 は、あなたの 怒 りを<br />

しずめ、 彼 の 血 は、わたしの 汚 れを 洗 い 去 り、 彼 の 十 字 架 は、わたしののろいをにな<br />

いました。 彼 の 死 はわたしの 贖 いとなりました。わたしたちは、 自 分 たちのために、<br />

多 くの 無 用 な 愚 策 を 考 案 しましたが、あなたはわたしの 前 に、み 言 葉 を 燈 のようにか<br />

かげられました。そしてあなたは、わたしの 心 に 触 れて、イエスの 功 績 以 外 のすべて<br />

のものを、 忌 みきらうようにしてくださいました。」 17<br />

カルバンは、 司 祭 になる 教 育 を 受 けていた。 彼 は、わずか 12 歳 の 時 に、 小 さな 教<br />

会 の 説 教 者 に 任 じられ、 教 会 の 規 定 に 従 って、 司 教 に 頭 髪 をそってもらった。 彼 は 按<br />

手 の 礼 は 受 けず、 司 祭 の 務 めはしなかったけれども 聖 職 の 一 員 となって、 彼 の 務 めの<br />

称 号 を 持 ち、その 報 酬 を 受 けていた。 今 や、 彼 は、 司 祭 にはなることができないのを<br />

知 って、しばらく 法 律 の 研 究 に 当 たったが、ついにこの 目 的 をすてて、 一 生 を 福 音 の<br />

ためにささげる 決 心 をした。しかし 彼 は、 公 の 教 師 になることはためらった。 彼 は 生<br />

まれつきおくびょうだったので、そういう 地 位 の 責 任 を 重 荷 に 感 じた。そして 彼 は、<br />

さらに 研 究 を 持 続 することを 願 った。しかし、 友 人 たちが 熱 心 に 勧 めるので、 彼 もつ<br />

いに 同 意 した。「このように 卑 賎 な 生 まれの 者 が、このように 大 きな 栄 誉 ある 地 位 に<br />

高 められるとは、 不 思 議 なことだ」 18 と 彼 は 言 った。<br />

カルバンは 静 かに 彼 の 仕 事 を 始 めた。 彼 の 言 葉 は、あたかも 地 をうるおす 露 のよう<br />

なものであった。 彼 はすでにパリを 去 って、 今 は、 福 音 を 愛 し、その 弟 子 たちを 保 護<br />

していたマルグリット 王 女 の 保 護 下 にある、 田 舎 の 町 にいた。カルバンはまだ、 温 和<br />

でひかえめな 青 年 であった。 彼 の 働 きは、まず 郷 里 の 人 々から 開 始 された。 彼 は 家 族<br />

の 者 に 囲 まれて、 聖 書 を 読 み 救 いの 真 理 を 伝 えた。 福 音 を 聞 いた 者 は、それを 他 に 伝<br />

えたので、まもなく 教 師 は、 町 を 離 れて、その 周 囲 の 町 々 村 々に 行 った。 彼 は、 城 に<br />

も 貧 しい 家 にもはいって、 働 きをおし 進 め、 真 理 のためにおおしくあかしをすること<br />

になる 諸 教 会 の、その 基 礎 を 築 いた。<br />

数 か 月 後 、 彼 はふたたびパリに 来 た。 知 識 人 や 学 者 の 間 では、まれにみる 動 揺 が 起<br />

きていた。 古 代 言 語 の 研 究 が、 人 々の 心 を 聖 書 に 向 けるようになり、その 真 理 にまだ<br />

心 を 動 かされていない 多 くの 人 々が、 熱 心 にそれについて 論 議 し、ローマ 側 の 擁 護 者<br />

と 論 じ 合 いさえしていた。カルバンは、 神 学 的 論 争 の 分 野 においては、 有 能 な 闘 士 で<br />

あったけれども、これらのそうそうしい 学 者 たちよりは、さらに 大 切 な 使 命 を 帯 びて<br />

いた。 人 々の 関 心 が 高 まっていたので、 今 こそ 彼 らに 真 理 を 伝 える 時 であった。 大 学<br />

157


国 際 協 定<br />

の 講 堂 が、 神 学 の 論 争 でさわがしかった 時 に、カルバンは、 家 々を 訪 ねて、 人 々に 聖<br />

書 を 読 んで 聞 かせ、キリストと 彼 の 十 字 架 について 語 った。<br />

パリは、 神 の 摂 理 のもとに、 福 音 を 受 け 入 れるようにというもう 1 つの 招 きを 受 け<br />

ることになった。ルフェーブルとファーレルの 呼 びかけは 拒 否 された。しかし、 大 都<br />

市 のあらゆる 階 級 の 人 々は、もう 1 度 使 命 を 聞 くのであった。 王 は 政 治 的 理 由 によっ<br />

て、まだ 全 的 にローマ 側 について 改 革 運 動 に 反 対 しているわけではなかった。マルグ<br />

リットは、プロテスタント 主 義 がフランスにおいて 勝 利 することを、なお 希 望 してい<br />

た。 彼 女 は、 改 革 主 義 の 信 仰 をパリに 宣 布 せねばならぬと 決 意 した。そこで、 王 の 不<br />

在 中 に、 彼 女 は、パリの 教 会 で 説 教 するように、プロテスタントの 牧 師 に 命 令 した。<br />

これは、 法 王 側 当 局 者 から 禁 じられたので、マルグリットは 王 宮 を 開 放 した。 王 宮 の<br />

1 室 を 礼 拝 室 に 造 作 し、 毎 日 一 定 の 時 間 に 説 教 が 行 われ、あらゆる 階 級 や 地 位 の 人 々<br />

に、 出 席 するようにと 招 待 が 出 された。 集 会 には 多 くの 人 々が 集 まった。 礼 拝 堂 だけ<br />

でなく、 隣 接 した 部 屋 も 廊 下 も 人 でいっぱいになった。 貴 族 、 政 治 家 、 弁 護 士 、 商 人 、<br />

職 人 など、 幾 千 という 人 々が、 毎 日 集 まった。 王 も 集 会 を 禁 じるどころか、パリの 2<br />

つの 教 会 が 開 かれることを 命 じた。パリの 人 々が 神 のみ 言 葉 にこれほど 感 動 したこと<br />

はなかった。 天 からの 生 命 の 霊 が、 人 々に 吹 きこまれるように 思 われた。 泥 酔 、 放 蕩 、<br />

闘 争 、 怠 惰 にかわって、 節 制 、 純 潔 、 秩 序 、 勤 勉 が 見 られた。<br />

しかし、 法 王 側 も、 手 を 休 めてはいなかった。 王 は、 相 変 わらず 説 教 をやめさせよ<br />

うとはしなかったので、 彼 らは、 民 衆 に 向 かった。 無 知 で 迷 信 的 な 民 衆 の、 恐 怖 と 偏<br />

見 と 狂 信 をあおるためには、 手 段 が 選 ばれなかった。パリは、 偽 教 師 に 盲 従 し、 昔 の<br />

エルサレムのように、 神 のおとずれの 時 も、 平 和 をもたらす 道 も 知 らなかった。 神 の<br />

言 葉 は、2 年 の 間 、 都 で 宣 べ 伝 えられた。その 間 に、 福 音 を 受 け 入 れた 者 も 多 かった<br />

けれども、 大 半 の 人 々は、それを 拒 んだ。フランソアは、 信 教 の 自 由 を 許 したように<br />

思 われたが、それは、ただ 単 に 自 分 の 都 合 上 であって、 法 王 側 はふたたび 勢 力 をもり<br />

返 した。 教 会 は、また 閉 鎖 され、 火 刑 柱 が 立 てられた。<br />

カルバンはまだパリにいて、 研 究 と 瞑 想 と 祈 りとによって、 将 来 の 働 きの 準 備 をし<br />

ながら、 光 を 輝 かしていた。しかし、ついに、 彼 に 嫌 疑 がかかった。 当 局 者 たちは、<br />

彼 を 火 刑 にすることにきめた。 彼 は、 隠 れ 家 にいて 安 全 だと 思 っていたので、 危 険 を<br />

感 じなかった。とそのとき、 友 人 たちがあわてて 彼 の 部 屋 にやってきて、 役 人 たちが<br />

彼 を 捕 らえるためにやってくるということを 知 らせた。それと 同 時 に、 表 の 戸 をたた<br />

く 大 きな 音 が 聞 こえた。 今 や 一 刻 も 猶 予 はなかった。 友 人 たちが 扉 のところで 役 人 に<br />

応 対 している 間 に、 他 の 者 たちがカルバンを 助 けて、 窓 からつりおろした。 彼 は 急 い<br />

で 都 の 外 に 逃 れた。 改 革 主 義 に 好 意 を 持 った 労 働 者 の 家 に 隠 れ、そこで 主 人 の 着 物 を<br />

158


国 際 協 定<br />

着 て 変 装 し、くわを 肩 にして 旅 に 出 た。 彼 は 南 に 旅 をつづけ、マルグリットの 領 内 に<br />

入 って、ふたたび 隠 れ 家 を 見 つけた。 19<br />

ここで 彼 は、 有 力 な 友 人 たちの 保 護 のもとに 数 か 月 滞 在 し、 以 前 のように 研 究 に 従<br />

事 した。しかし、 彼 の 心 はフランスの 伝 道 のことを 考 えていたので、 長 く じっとして<br />

いることはできなかった。あらしがいくぶんおさまってくると、 彼 はボアチエに 新 し<br />

い 働 き 場 を 求 めた。 ここには 大 学 があって、 新 しい 主 張 が 喜 んで 迎 えられていた。 各<br />

階 級 の 人 々が 喜 んで 福 音 に 耳 を 傾 けた。カルバンは、 公 衆 に 説 教 はしなかったが、 長<br />

官 の 家 、 自 分 の 住 居 、また、 時 には 公 園 で、 聞 きたいと 思 う 人 々に 永 遠 の 生 命 の 言 葉<br />

を 語 った。しばらくして 聴 衆 の 数 が 増 加 したので、 市 外 で 集 まるのが 安 全 であろうと<br />

思 われた。 狭 く 深 い 峡 谷 の 洞 穴 が、 木 や 突 出 した 岩 におおわれて、 人 目 を 避 けるのに<br />

は 何 よりと 思 われたので、そこが 集 会 の 場 所 に 選 ばれた。 少 数 の 者 が 組 になって 町 を<br />

出 て、 別 々の 道 を 通 ってここに 集 まった。この 隠 れ 家 で、 聖 書 が 読 まれ、 説 き 明 かさ<br />

れた。ここでフランスのプロテスタントは、 初 めて 主 の 晩 餐 を 祝 った。この 小 さな 教<br />

会 から、 幾 人 かの 忠 実 な 伝 道 者 が、 世 に 送 り 出 された。<br />

カルバンは、もう 1 度 パリに 帰 った。 彼 は、フランスが 国 家 として 改 革 を 受 け 入 れ<br />

るという 希 望 を、まだ 捨 てることはできなかった。しかし、 働 きの 門 戸 はほとんど 閉<br />

ざされていることがわかった。 福 音 を 教 えることは、 直 接 、 火 刑 への 道 であった。そ<br />

こで 彼 は、ついにドイツへ 行 くことにした。 彼 がフランスを 脱 出 するやいなや、プロ<br />

テスタントに 対 するあらしがまき 起 こった。もし 彼 が 残 っていたならば、 全 面 的 な 破<br />

滅 にまき 込 まれたにちがいない。 さて、フランスの 改 革 者 たちは、 自 分 たちの 国 がド<br />

イツやスイスと 歩 調 を 合 わせるようにと 熱 望 し、 全 国 民 に 覚 醒 をうながすために、ロ<br />

ーマの 迷 信 に 大 打 撃 を 加 えることを 決 意 した。そこで、ミサを 攻 撃 したポスターが 一<br />

晩 のうちにフランス 国 内 中 にはられた。この 熱 心 ではあるが 無 分 別 な 運 動 は、 改 革 を<br />

促 進 するどころか、その 主 唱 者 だけでなく、フランス 全 国 の、 改 革 主 義 の 信 仰 に 好 意<br />

を 持 った 人 々に、 破 滅 をもたらした。これは、ローマ 側 が 長 く 欲 していたこと—— 異<br />

端 者 たちは 王 位 の 安 定 と 国 家 の 平 和 を 脅 かす 扇 動 者 であるとして 全 滅 を 要 求 する 口<br />

実 ——を 彼 らに 与 えた。<br />

不 謹 慎 な 同 志 であるか、それとも 悪 賢 い 敵 であるのかわからなかったが、1 枚 の 檄<br />

文 が、 王 の 寝 室 の 扉 にはられた。 王 は 恐 怖 に 襲 われた。この 紙 の 中 では、 長 年 尊 ばれ<br />

てきた 迷 信 が 手 厳 しく 攻 撃 されていた。こうした 率 直 で 驚 くべき 言 葉 が、 王 の 前 にっ<br />

きつけられたことは 前 例 がなかったので、 王 は 非 常 に 怒 った。 驚 きのあまり、 王 はし<br />

ばらくぼう 然 として、 何 も 言 えなかった。やがて 王 は、 怒 りに 満 ちて 恐 ろしい 言 葉 を<br />

159


国 際 協 定<br />

吐 いた。「ルター 派 と 疑 われるものはすべて 差 別 なく 捕 らえよ。わたしは 彼 らを 全 滅<br />

させる。」 20 さいは 投 げられた。 王 は、 全 的 にローマ 側 に 加 担 する 決 心 をした。<br />

パリのルター 派 をすべて 捕 らえる 手 はずが 直 ちにとられた。 改 革 派 の 信 者 で、 秘 密<br />

の 集 会 に 信 者 を 召 集 していた 貧 しい 職 人 が 捕 らえられた。 彼 は、 火 刑 によって 直 ちに<br />

殺 すと 脅 されて、 法 王 側 の 密 偵 をパリの 改 革 派 一 人 一 人 の 家 に 案 内 することを 命 じら<br />

れた。 彼 は、 卑 劣 な 申 し 出 に 恐 怖 で 縮 みあがったが、 火 刑 を 恐 れて、ついに 兄 弟 たち<br />

を 裏 切 ることに 同 意 した。 聖 体 を 持 つ 者 に 先 導 され、 司 祭 たち、 香 炉 を 持 った 者 たち、<br />

修 道 士 たち、 兵 士 たちの 行 列 に 囲 まれて、 王 の 密 偵 モランは 裏 切 り 者 を 連 れて、ゆっ<br />

くりと 静 かに 町 の 通 りを 過 ぎていった。 行 列 は 見 たところ「 秘 蹟 」のためのもの、す<br />

なわち、 改 革 派 によって 加 えられたミサへの 侮 辱 を 償 うためのものであった。しかし、<br />

この 行 列 のかげに 恐 ろしい 目 的 が 隠 されていた。ルター 派 の 家 の 前 に 来 ると、 裏 切 り<br />

者 は、 声 こそ 出 さなかったが 合 図 をした。 行 列 はとまり、その 家 に 入 って 家 族 の 者 を<br />

引 き 出 し、 鎖 につないだ。そして 次 の 獲 物 を 求 めて、 恐 ろしい 行 列 は 進 んだ。 彼 らは、<br />

「 大 きい 家 も 小 さい 家 も 見 過 ごさず、パリ 大 学 さえ 見 逃 さなかった。……モランは、<br />

全 市 を 戦 標 させた。……それは 恐 怖 の 時 代 であった。」 21<br />

捕 らえられた 人 々は、 残 酷 な 責 め 苦 で 殺 された。 火 刑 の 火 は、 苦 痛 を 長 びかせるた<br />

めに 弱 めるように 特 に 命 令 が 発 せられた。しかし、 彼 らは、 勝 利 者 として 死 んだ。 彼<br />

らの 忠 誠 はゆるがず、その 平 和 は 損 なわれなかった。 迫 害 者 たちは、 彼 らの 堅 い 決 意<br />

を 動 かすことができず、 敗 北 感 に 襲 われた。「 処 刑 台 は、パリの 至 る 所 に 立 てられ、<br />

火 刑 は 毎 日 行 われた。 処 刑 が 分 散 して 行 われたのは、 異 端 の 恐 怖 を 広 く 人 々に 知 らせ<br />

るためであった。しかし、 結 局 、それは、 福 音 の 側 に 有 利 であった。パリ 全 市 は、 改<br />

革 主 義 がどのような 人 物 をつくり 得 るかを 見 ることができた。 殉 教 者 を 焼 く 薪 の 山 の<br />

ような 説 教 壇 はほかにない。 刑 場 にひかれてゆく 時 の 彼 らの 顔 に 輝 く 静 かな 喜<br />

び、…… 激 しい 炎 の 中 に 立 つ 時 の 彼 らの 勇 気 、 迫 害 に 対 する 柔 和 と 赦 しは、 少 なから<br />

ぬ 人 々の、 怒 りを 同 情 に、 憎 しみを 愛 に 変 えて、 拒 むことのできない 雄 弁 をもって 福<br />

音 のために 訴 えたのである。」 22<br />

司 祭 たちは、 民 衆 の 激 しい 怒 りをあおることに 狂 奔 し、プロテスタントに 対 して、<br />

最 も 恐 ろしい 非 難 を 言 いふらした。 彼 らは、カトリック 教 徒 の 虐 殺 、 政 府 の 転 覆 、 王<br />

の 暗 殺 計 画 などの 罪 を 着 せられた。この 申 し 立 てに 対 して、 何 1 つとして 証 拠 はなか<br />

った。しかし、こうした 悪 いできごとの 予 告 は、 実 現 することになった。ただしそれ<br />

は、はるかにかけ 離 れた 状 況 下 において、しかも 逆 の 原 因 からであった。カトリック<br />

が 罪 のないプロテスタントに 与 えた 残 酷 な 仕 打 ちは、 報 復 の 重 さを 積 み 上 げていた。<br />

そして、 彼 らが 国 王 と 政 府 と 国 民 について 予 言 したとおりのことが、 後 世 において 行<br />

160


国 際 協 定<br />

われた。しかし、それは、 無 神 論 者 と 法 王 教 徒 自 身 によって 行 われた。300 年 後 にな<br />

って、フランスにこうした 不 幸 をもたらしたのは、プロテスタントの 樹 立 ではなくて、<br />

その 圧 迫 のゆえであった。<br />

今 や 疑 惑 、 不 信 、 恐 怖 が、 社 会 のすべての 階 級 に 広 がった。こうした 恐 慌 のただ 中<br />

にあって、 教 育 、 勢 力 、また 品 性 の 高 潔 さにおいて 最 高 位 に 立 つ 人 々の 間 に、ルター<br />

派 の 教 えがどんなに 深 く 根 を 下 したかが、 明 らかにされた。 信 任 と 名 誉 の 地 位 が、 突<br />

然 空 席 になった。 職 人 、 印 刷 者 、 学 者 、 大 学 教 授 、 著 述 家 、そして、 廷 臣 さえいなく<br />

なった。 多 くの 者 がパリを 逃 れ、 母 国 を 捨 てて 自 ら 放 浪 者 となった。こうして、 彼 ら<br />

が 改 革 主 義 に 好 意 をもっていたことを 初 めて 示 したものが 多 かった。 法 王 側 は、 自 分<br />

たちの 間 にあって 疑 いを 受 けずにすんでいた 異 端 者 たちのことを 考 えて、 驚 きの 目 を<br />

見 張 った。 彼 らの 怒 りは、 彼 らの 手 中 にある 多 くの 身 分 の 低 い 犠 牲 者 たちに 向 けられ<br />

た。 牢 獄 はあふれた。 福 音 を 信 じる 者 のために 点 じられた 火 刑 の 煙 で、 空 そのものも<br />

暗 くなったように 思 われた。<br />

フランソア 1 世 は、16 世 紀 の 初 めに 起 こった 学 問 の 大 復 興 運 動 の 指 導 者 であるこ<br />

とを 誇 っていた。 彼 は、 各 国 から 宮 廷 に 学 者 たちを 集 めることを 喜 んでいた。 彼 が 宗<br />

教 改 革 にある 程 度 の 自 由 を 許 したのは、 彼 が 学 問 を 愛 し、 修 道 士 たちの 無 知 と 迷 信 を<br />

軽 べつしたことが、 少 なくともその 動 機 の 一 部 であった。しかし、ついにこの 学 問 の<br />

後 援 者 も、 異 端 撲 滅 の 熱 に 燃 えて、フランス 全 国 で 印 刷 廃 止 の 勅 令 を 出 した。フラン<br />

ソア 1 世 は、 知 的 教 養 が 宗 教 的 狭 量 と 迫 害 に 対 する 安 全 弁 でないという 数 多 くの 実 例<br />

の 1 つを 示 している。フランスは、 厳 粛 な 公 の 儀 式 によって、プロテスタントの 撲 滅<br />

に 全 力 を 注 ぐことになった。 司 祭 たちは、 改 革 派 がミサを 非 難 することによって 天 の<br />

神 に 与 えた 侮 辱 は、 血 によって 贖 わなければならない、そして 王 は、 国 民 に 代 わって<br />

この 恐 ろしい 行 為 に 公 に 制 裁 を 加 えるべきであると 要 求 した。<br />

1535 年 、1 月 21 日 に、この 恐 ろしい 儀 式 が 行 われることになった。 全 国 民 の 迷 信<br />

的 恐 怖 とかたくなな 憎 しみがかきたてられた。パリは、 周 囲 の 田 舎 からやってきて 通<br />

りにあふれた 群 衆 で 雑 踏 していた。 当 日 は、 堂 々とした 行 列 が 行 われることになって<br />

いた。「 行 列 が 通 る 道 の 家 々では、 喪 章 をかかけ、 所 々に 祭 壇 が 設 けられた。」 家 々<br />

の 前 には、「 秘 蹟 」に 敬 意 を 表 するかがり 火 が 点 じられた。 夜 明 け 前 に、 王 宮 の 前 で<br />

行 列 が 勢 ぞろいした。「まず、 各 教 区 の 旗 と 十 字 架 、その 次 に 市 民 が 2 列 に 並 んで、<br />

たいまつを 持 っていた。」その 次 に、4 階 級 の 修 道 士 たちが、お のおの 特 有 の 衣 服 を<br />

まとって 続 いた。その 次 に、ありとあらゆる 有 名 な 遺 物 が 来 た。その 後 に、 紫 色 や 緋<br />

色 の 衣 をまとい、 宝 石 をちりばめた 飾 り 物 を 身 につけた、 威 風 堂 々とした 聖 職 者 たち<br />

が 続 いた。<br />

161


国 際 協 定<br />

「 聖 体 はパリの 司 教 によって 運 ばれ、その 上 を 4 人 の 王 子 たちが 支 える 豪 華 な 天 蓋<br />

がおおっていた。…… 聖 体 の 後 を 王 が 歩 いた。……フランソア 1 世 は、この 日 、 王 冠<br />

も 王 衣 もつけていなかった。」「 頭 には 何 もかぶらず、 彼 の 目 を 地 面 に 向 け、 手 には、<br />

火 を 点 じたたいまつを 持 っていた。」フランスの 王 は、「 悔 悟 者 の 姿 で」あらわれた。<br />

23 彼 は、 祭 壇 ごとにへりくだってひざまずいたが、それは 彼 の 心 を 汚 した 罪 のためで<br />

も、 彼 の 手 を 汚 した 罪 なき 人 の 血 のためでもなく、ミサを 汚 した 彼 の 臣 民 の 恐 ろしい<br />

罪 のためであった。 彼 の 後 ろには、 王 妃 と 国 家 の 高 官 たちが、これもおのおの 手 にた<br />

いまつを 持 って、2 列 で 続 いた。<br />

その 日 の 行 事 の 1 つとして、 王 は 自 ら 司 教 邸 の 大 広 間 において、 王 国 の 高 官 たちに<br />

演 説 した。 彼 は、 悲 痛 な 顔 をして 彼 らの 前 に 現 れ、 感 動 的 言 葉 で 雄 弁 に、 国 民 に 降 っ<br />

た「 犯 罪 、 冒 瀆 、 悲 しみと 恥 の 日 」について 嘆 いた。そして、 彼 は、フランスを 破 滅<br />

の 淵 に 陥 れる 有 害 な 異 端 の 全 滅 を、すべての 忠 実 な 国 民 に 訴 えた。「わたしが 王 であ<br />

ることが 事 実 であるように、もしわたしの 手 足 がこの 恐 ろしい 腐 敗 に 感 染 しているな<br />

らば、わたしはそれを 切 ってしまうであろう。……また、わたしの 子 供 の 1 人 がそれ<br />

で 汚 れているならば、わたしは 彼 を 許 さない。わたしは 自 分 で 彼 を 捕 らえ、 神 への 犠<br />

牲 とするであろう。」 王 の 言 葉 は 涙 でとぎれた。 全 会 衆 も 泣 き、 声 を 合 わせて「われ<br />

われは、カトリック 教 のために 生 き、また 死 ぬ」と 叫 んだ。 24<br />

真 理 の 光 を 拒 んだ 国 家 の 暗 黒 は、 恐 ろしいものになった。「 人 を 救 う」 恵 みがすで<br />

に 表 れた。しかしフランスは、その 力 と 神 聖 さを 見 、 幾 千 のものがその 天 来 の 美 に 心<br />

をひかれ、 町 々 村 々がその 光 に 照 らされたにもかかわらず、 光 よりも 暗 黒 を 選 んで 背<br />

いたのであった。 彼 らは、 神 の 賜 物 が 提 供 されたのにそれを 退 けた。 彼 らは 悪 を 善 と<br />

呼 び、 善 を 悪 と 呼 んで、ついに 自 ら 進 んで 自 己 欺 瞞 のとりこになった。そして 今 、 彼<br />

らは、 神 の 民 を 迫 害 することにより、 神 に 奉 仕 していると 実 際 に 信 じこんでいたが、<br />

その 真 剣 さが 彼 らを 罪 なしとするわけではなかった。 彼 らは、 彼 らを 欺 瞞 から 救 い、<br />

彼 らの 魂 を 血 で 汚 す 罪 から 救 うことができたはずの 光 を、 故 意 に 拒 んでしまったので<br />

あった。<br />

異 端 撲 滅 の 厳 粛 な 誓 いが、 大 聖 堂 において 行 われた。その 場 所 には、 約 300 年 後 に、<br />

生 きた 神 を 忘 れた 国 民 が 理 性 の 女 神 を 祭 るのであった。ふたたび、 行 列 が 整 えられ、<br />

フランスの 代 表 者 たちは、 誓 ったことの 実 行 に 取 りかかった。「 処 刑 台 が 少 しの 間 隔<br />

をおいて 立 てられ、プロテスタントのキリスト 者 が 生 きながら 焼 かれることになって<br />

いた。そして、 王 が 近 づいた 時 に、 薪 に 火 をつけ、 行 列 が 止 まって 処 刑 を 見 るように<br />

した。」 25 これらの 証 人 が、キリストのために 耐 えたさまざまの 責 め 苦 は、あまりに<br />

痛 ましくて 詳 述 できないほどである。しかしながら 彼 らは、 決 して 動 揺 しなかった。<br />

162


国 際 協 定<br />

取 り 消 しを 勧 められた 時 、1 人 は 次 のように 答 えた。「わたしは、 預 言 者 たちと 使 徒<br />

たちとがかつて 教 え、そしてすべての 聖 徒 たちが 信 じたことだけを 信 じる。わたしの<br />

信 仰 は 神 に 対 する 確 信 であって、 黄 泉 [よみ]のすべての 力 に 打 ち 勝 つものである。」<br />

26<br />

行 列 は 幾 たびとなく、 処 刑 の 場 に 立 ち 止 まった。やがて 王 宮 の 出 発 点 にもどると、<br />

群 衆 は 散 っていき、 王 と 高 位 聖 職 者 たちはその 日 の 行 動 に 満 足 し、 異 端 を 全 滅 するま<br />

で 継 続 すべき 仕 事 が 始 まったことを 祝 って 別 れた。 フランスが 拒 否 した 平 和 の 福 音 は、<br />

徹 底 的 に 根 絶 され、 恐 ろしい 結 果 を 招 いた。フランスが 全 力 を 挙 げて、 宗 教 改 革 者 た<br />

ちを 迫 害 しはじめた 日 から、258 年 後 の 1793 年 1 月 21 日 、 以 前 とは 全 く 異 なった<br />

目 的 のもとに、もう 1 つの 行 列 がパリ 市 中 を 通 った。「ふたたび、 王 が 主 要 な 人 物 で<br />

あった。ふたたび、 騒 ぎと 叫 び 声 があった。ふたたび、もっと 多 くの 犠 牲 者 を 求 める<br />

声 があがった。ふたたび、 黒 い 処 刑 台 が 立 てられた。ふたたび、その 日 のできごとは、<br />

恐 ろしい 処 刑 で 終 った。ルイ 16 世 は、 看 守 や 処 刑 者 たちに 押 さえられて、もがきな<br />

がら 処 刑 台 まで 引 きずられてきた。そして、そこで、 人 々に 力 いっぱい 押 さえられ、<br />

おのが 落 ち、 彼 の 首 は 処 刑 台 上 に 転 がった。」 27 犠 牲 になったのは 王 だけではなかっ<br />

た。 血 なまぐさい 恐 怖 時 代 に、そのあたりで 2800 人 がギロチンで 殺 されたのであ<br />

る。<br />

宗 教 改 革 は、 世 の 人 々に 聖 書 を 開 き、 神 の 律 法 の 教 えを 示 し、その 要 求 するところ<br />

を 人 々の 良 心 に 訴 えた。 無 限 の 愛 の 神 は、 人 々に 天 国 の 律 法 と 原 則 を 示 しておられた。<br />

神 は 言 われた。「あなたがたは、これを 守 って 行 わなければならない。これは、もろ<br />

もろの 民 にあなたがたの 知 恵 、また 知 識 を 示 す 事 である。 彼 らは、このもろもろの 定<br />

めを 聞 いて、『この 大 いなる 国 民 は、まことに 知 恵 あり、 知 識 ある 民 である』と 言 う<br />

であろう」[ 申 命 記 4:。フランスが 天 の 賜 物 を 拒 否 した 時 に、 無 政 府 と 破 滅 の 種 をま<br />

いた。そして、その 必 然 の 結 果 として、 革 命 と 恐 怖 政 治 が 起 こったのである。<br />

檄 文 事 件 によってひき 起 こされた 迫 害 のずっと 以 前 に、 勇 敢 で 熱 心 なファーレルは、<br />

彼 の 生 まれ 故 郷 を 去 らなければならなかった。 彼 はスイスに 行 って、ツウィングリの<br />

働 きを 援 助 し、 宗 教 改 革 を 有 利 に 導 いた。 彼 は、その 余 生 をここで 過 ごすことになる<br />

のであったが、それでもなお、フランスの 改 革 に 決 定 的 な 影 響 を 及 ぼしつづけた。 彼<br />

は、 亡 命 後 の 最 初 の 数 年 は、 故 郷 に 福 音 を 宣 布 することに 特 に 心 を 用 いた。 彼 は、 国<br />

境 近 くの 同 胞 に 説 教 することに 相 当 の 時 間 を 費 やし、この 場 所 から 絶 えず 注 意 深 く 見<br />

守 り、 励 ましと 勧 告 の 言 葉 を 送 って 助 けた。 彼 は、 他 の 逃 亡 者 たちの 援 助 を 得 て、ド<br />

イツの 改 革 者 たちの 著 書 をフランス 語 に 翻 訳 し、フランス 語 の 聖 書 とともに、 大 量 に<br />

印 刷 した。これらの 著 書 は、 文 書 伝 道 者 によって、フランス 国 内 で 広 く 販 売 された。<br />

163


国 際 協 定<br />

文 書 伝 道 者 にはこれが 安 価 に 提 供 されて、 彼 らはその 利 益 によって、 活 動 を 継 続 する<br />

ことができた。<br />

ファーレルは、つつましい 学 校 教 師 に 変 装 して、スイスにおける 活 動 を 始 めた。 彼<br />

は、 遠 く 離 れた 教 区 に 行 って、 子 供 たちの 教 育 に 専 念 した。 一 般 の 学 課 のほかに、 彼<br />

は 用 心 深 く 聖 書 の 真 理 を 教 え、 子 供 たちを 通 じて 親 たちに 伝 えようと 望 んだ。<br />

信 じる 者 もいくらか 現 れたが、 司 祭 たちが 彼 の 働 きを 妨 害 したので、 迷 信 的 な 田 舎<br />

の 人 々は、 彼 に 反 対 するようになった。「それを 宣 伝 すれば 平 和 でなくて 争 いを 起 こ<br />

すのを 見 ると、それはキリストの 福 音 ではあり 得 ない」と 司 祭 たちは 力 説 した。 28 そ<br />

こで、 初 期 の 弟 子 たちのように、1 つの 町 で 迫 害 されたなら 次 の 町 へ 逃 れた。 彼 は、<br />

飢 えと 寒 さと 疲 労 に 耐 えながら、そして 至 る 所 で 生 命 の 危 険 にさらされながら、 村 か<br />

ら 村 、 町 から 町 へと 歩 いて 旅 をした。 彼 は、 市 場 や 教 会 で、そして 時 には 大 聖 堂 の 説<br />

教 壇 から 説 教 した。 時 には 教 会 に 聴 衆 が 1 人 もいないこともあった。 時 には、 叫 びや<br />

ののしりの 声 に 妨 害 されることもあった。また、 乱 暴 に 説 教 壇 から 引 きずりおろされ<br />

たこともあった。やじうまたちに 襲 われて、なぐられ、 死 ぬばかりになったことも 何<br />

度 かあった。それでも 彼 は 前 進 していった。 何 度 撃 退 されても、たゆまず 攻 撃 をくり<br />

返 した。そうしているうちに、 法 王 側 の 要 塞 であった 町 や 都 市 が、 次 々に 福 音 に 門 を<br />

開 くようになるのを 彼 は 見 た。 彼 が 最 初 に 働 いた 小 さな 教 区 も、まもなく 改 革 の 信 仰<br />

を 受 け 入 れた。モラとヌーシャテルの 町 々も、ローマの 儀 式 を 廃 止 し、 教 会 から 偶 像<br />

を 取 り 除 いた。<br />

ファーレルは、かねてから、ジュネーブにプロテスタントの 旗 を 立 てたいと 願 って<br />

いた。もしこの 町 に 福 音 を 伝 えることができれば、フランス、スイス、イタリアの、<br />

宗 教 改 革 の 中 心 地 となるのであった。 彼 は、この 目 的 のもとに、 働 きを 継 続 し、その<br />

周 囲 の 多 くの 町 々 村 々に 福 音 を 伝 えた。それから 彼 は、ただ 1 人 の 同 伴 者 とともに、<br />

ジュネーブに 入 った。しかし 彼 は、ただ 2 回 の 説 教 が 許 されただけであった。 国 家 の<br />

権 力 によって 彼 を 罪 に 定 めようとしてできなかった 司 祭 たちは、 彼 を 教 会 会 議 に 呼 び<br />

出 した。 彼 らは、 衣 の 下 に 武 器 を 隠 し、 彼 の 生 命 を 奪 おうとしていた。 会 場 の 前 には、<br />

こん 棒 や 剣 を 持 った 群 衆 が、もし 彼 が 会 議 を 逃 れて 出 て 来 たら、 彼 を 殺 そうと 待 ちか<br />

まえていた。しかし、 長 官 や 軍 隊 がいたために、 彼 は 助 かった。 翌 朝 早 く、 彼 と 同 伴<br />

者 とは、 湖 水 の 向 こう 岸 の 安 全 な 地 へ 送 られた。こうして、ジュネーブの 最 初 の 伝 道<br />

は 終 わった。<br />

その 次 の 伝 道 に 選 ばれたのは、もっと 劣 った 器 であった。それは、 宗 教 改 革 の 同 志<br />

たちからさえ 冷 淡 に 扱 われたほどの、みかけの 貧 弱 な 青 年 であった。ファーレルが 拒<br />

164


国 際 協 定<br />

絶 された 町 で、このような 人 間 に、いったい 何 ができようか。 最 も 強 力 で 勇 敢 であっ<br />

た 者 が 逃 げなければならなかったようなあらしに、この 勇 気 も 経 験 も 乏 しい 男 がどう<br />

やって 耐 えられようか。「 万 軍 の 主 は 仰 せられる、これは 権 勢 によらず、 能 力 によら<br />

ず、わたしの 霊 によるのである」[ゼカリヤ 4:。「 強 い 者 をはずかしめるために、こ<br />

の 世 の 弱 い 者 を 選 」ばれた。「 神 の 愚 かさは 人 よりも 賢 く、 神 の 弱 さは 人 よりも 強 い<br />

からである」[1 コリント 1:27、。<br />

フロマンは、 教 師 として 活 動 を 始 めた。 彼 が 学 校 で 教 えた 真 理 を、 子 供 たちは 家 庭<br />

でくり 返 した。やがて、 親 たちが 聖 書 の 説 明 を 聞 きに 来 て、 教 室 は 熱 心 な 聴 衆 であふ<br />

れた。 新 約 聖 書 や 小 冊 子 が、 数 多 く 配 布 され、 新 しい 教 義 を 公 然 と 聞 きに 来 ない 多 く<br />

の 人 々の 手 にも 渡 った。しばらくして、この 伝 道 者 も 逃 げなければならなかった。し<br />

かし、 彼 が 教 えた 真 理 は、 人 々の 心 を 捕 らえてしまっていた。 宗 教 改 革 の 種 はまかれ、<br />

だんだん 力 を 得 て 広 がっていった。 説 教 者 たちが 帰 ってきて、 彼 らの 努 力 によって、<br />

ついにジュネーブにプロテスタントの 礼 拝 が 確 立 した。<br />

ジュネーブが 宗 教 改 革 の 宣 言 をしたころ、 各 地 を 放 浪 していろいろな 経 験 を 経 たカ<br />

ルバンが、ジュネーブに 来 た。 彼 は、 生 まれ 故 郷 に 最 後 の 訪 問 をして、バーゼルに 行<br />

く 途 中 であったが、そこへの 直 接 の 道 がカール 5 世 の 軍 隊 に 占 領 されているのを 知 っ<br />

て、ジュネーブ 経 由 で 遠 回 りをしなければならなかったのである。 この 訪 問 が 神 の 摂<br />

理 であることを、ファーレルは 認 めた。ジュネーブは、 改 革 主 義 の 信 仰 を 受 け 入 れた<br />

とは 言 っても、まだ、この 地 でしなければならない 大 事 業 が 残 っていた。 人 々は、 団<br />

体 としてでなく、 個 人 的 に 神 に 悔 い 改 めるのである。 新 生 の 働 きは、 会 議 の 法 令 では<br />

なくて、 聖 霊 の 力 が 心 と 良 心 に 働 くことによって 行 われなければならない。<br />

ジュネーブの 人 々は、ローマの 権 威 を 投 げ 捨 ててはいたが、ローマの 支 配 下 で 栄 え<br />

ていた 悪 習 を 捨 てようとはしていなかった。ここで 福 音 の 純 粋 な 原 則 を 確 立 し、 神 の<br />

摂 理 が 召 している 地 位 に 適 したものにこの 人 々を 準 備 することは、 容 易 なことではな<br />

かった。 ファーレルは、カルバンこそ、この 事 業 において 彼 と 協 力 できる 人 物 である<br />

と 確 信 した。そこで 彼 は、 神 の 名 によって、 青 年 伝 道 者 に、ここに 残 って 働 くように、<br />

厳 かに 懇 願 した。カルバンは、 驚 いて 辞 退 した。 彼 は、 気 が 弱 く、 平 和 を 愛 していた<br />

ので、 勇 敢 で 独 立 心 に 富 み、 激 しい 気 性 さえあるジュネーブの 人 々に 接 することを 恐<br />

れた。 彼 は、 体 が 弱 く、 勉 強 好 きでもあったので、 引 きこもりがちであった。 彼 は、<br />

文 筆 によって 改 革 事 業 に 最 上 の 奉 仕 ができると 信 じ、 研 究 のために 静 かな 場 所 を 見 つ<br />

けて、そこで 印 刷 物 によって 教 会 を 教 え、 築 き 上 げたいと 願 った。しかし、ファーレ<br />

ルの 厳 粛 な 勧 告 は、 彼 にとって 天 からの 召 しと 思 われ、 彼 は 拒 否 することができなか<br />

った。「 神 の 手 が 天 からのべられて 私 を 捕 らえ、 早 く 去 ろうと 考 えていた 場 所 にどう<br />

165


国 際 協 定<br />

してもいなければならなくされた」と 彼 には 思 われたのである。 29 この 時 、 改 革 事 業<br />

に 一 大 危 機 が 訪 れた。ジユネーブに 対 して 法 王 の 破 門 が 宣 言 され、 強 国 がこぞってジ<br />

ュネーブを 威 嚇 した。これまでしばしば 国 王 や 皇 帝 を 屈 服 させた 強 力 な 教 権 に、この<br />

小 さい 都 市 がど うして 対 抗 することができようか。 世 界 の 偉 大 な 征 服 者 たちの 軍 隊 に、<br />

どうして 対 抗 できようか。<br />

プロテスタント 主 義 は、 全 キリスト 教 国 において、 恐 るべき 敵 に 脅 かされた。 改 革<br />

事 業 の 最 初 の 勝 利 は 過 ぎ、ローマはその 全 滅 を 期 して 新 たな 勢 力 を 奮 い 起 こした。こ<br />

の 時 、 法 王 教 の 全 闘 士 中 、 最 も 残 酷 で 無 法 で 強 力 なイエズス 会 が 創 設 された。 彼 らは、<br />

世 俗 のきずなや 人 間 関 係 から 切 り 離 され、 人 情 も 理 性 も 良 心 もいっさいを 無 視 して、<br />

彼 らの 会 以 外 のどんな 規 則 もきずなも 認 めず、ただ、その 権 力 を 伸 張 することだけを<br />

義 務 とした。<br />

キリストの 福 音 は、その 信 者 たちに、 危 険 を 冒 し、 苦 難 に 耐 え、 寒 さ、 飢 え、 労 苦 、<br />

貧 困 にもめげず、 真 理 の 旗 をかかげ、 拷 問 も 投 獄 も 火 刑 も 恐 れない 力 を 与 えてきた。<br />

この 勢 力 に 対 抗 するために、イエズス 会 は、その 会 員 を 狂 信 的 にさせ、 同 様 の 危 険 に<br />

耐 えるように、またあらゆる 欺 瞞 の 武 器 をもって 真 理 の 力 に 対 抗 するようにさせた。<br />

彼 らは、どんな 犯 罪 を 犯 しても 罪 にならず、どんな 欺 瞞 を 行 ってもかまわず、どんな<br />

偽 装 もわけなくできた。 彼 らは、 一 生 の 間 貧 困 と 質 素 な 生 活 を 送 ることを 誓 ったが、<br />

その 目 的 とするところは、 富 と 権 力 の 獲 得 であり、プロデスタント 主 義 をくつがえし、<br />

法 王 至 上 権 を 復 興 することであった。<br />

彼 らは、 会 の 会 員 として 活 動 する 時 は 聖 衣 をまとい、 牢 獄 や 病 院 を 訪 ねて 病 人 や 貧<br />

者 に 奉 仕 し、 世 俗 を 捨 てたことを 公 言 し、よい 働 きをしながら 巡 回 されたイエスの 清<br />

い 名 を 帯 びていた。しかし、この 潔 白 な 外 観 のかげに、しばしば、 極 悪 非 道 な 目 的 が<br />

隠 されていた。 目 的 は 手 段 を 正 当 化 するというのが、 会 の 基 本 原 則 であった。この 規<br />

定 によって、 虚 偽 、 盗 み、 偽 証 、 暗 殺 などは、 教 会 のために 役 立 つならば 許 されるだ<br />

けでなく、 賞 賛 すべきものであった。さまざまな 偽 装 のもとに、イエズス 会 の 会 員 た<br />

ちは、 国 政 にまで 手 を 伸 ばし、 国 王 の 顧 問 の 地 位 について、 国 家 の 政 策 をまとめた。<br />

また、 人 々の 様 子 を 探 るために、そのしもべとなった。 彼 らは、 王 侯 、 貴 族 の 子 弟 の<br />

ための 大 学 を 設 立 し、 一 般 の 国 民 のための 学 校 を 建 てた。そして、プロテスタントの<br />

親 の 子 供 たちは、カトリックの 儀 式 を 守 るように 影 響 された。ローマ・カトリックの<br />

礼 拝 の 華 麗 な 様 子 は、 心 を 混 乱 させ、 想 像 力 を 眩 惑 し 魅 惑 した。こうして 子 供 たちは、<br />

彼 らの 父 たちが 苦 難 と 血 によって 得 た 自 由 を 売 り 渡 してしまった。イエズス 会 は、ヨ<br />

ーロッパに 急 速 にひろがった。そして、 彼 らの 行 ったところは、どこでも 法 王 権 が 勢<br />

力 を 回 復 した。<br />

166


国 際 協 定<br />

彼 らにさらに 大 きな 力 を 与 えるために、 宗 教 裁 判 所 再 建 の 教 書 が 出 された。この 恐<br />

ろしい 裁 判 所 はカトリック 国 においてさえ、 嫌 悪 の 念 をもって 見 られていたにもかか<br />

わらず、 法 王 教 の 支 配 者 たちによってふたたび 設 置 され、 白 日 の 下 では 行 いえないよ<br />

うな 残 忍 な 行 為 が、ひそかな 牢 獄 において 行 われた。 多 くの 国 々において、 国 家 の 花<br />

とも 言 うべき 幾 千 幾 万 の 純 潔 で 高 潔 な 人 、 最 も 知 的 で 高 い 教 養 を 持 った 人 、 敬 虔 で 献<br />

身 的 な 牧 師 、 勤 勉 で 愛 国 的 な 市 民 、 聡 明 な 学 者 、 才 能 ある 芸 術 家 、 技 量 ある 職 人 など<br />

が、 殺 され、あるいは 他 国 に 逃 れねばならなかった。<br />

ローマは、このような 方 法 で、 宗 教 改 革 の 光 を 消 し、 人 間 から 聖 書 を 取 り 去 り、 暗<br />

黒 時 代 の 無 知 と 迷 信 を 回 復 しようとした。しかし、 神 の 恵 みのもとに、そしてルター<br />

に 続 いて 神 が 起 こされた 高 潔 な 人 々の 努 力 によって、プロテスタント 主 義 はくつがえ<br />

されなかった。その 力 は、 諸 侯 の 好 意 や 武 力 にたよってはならなかった。 最 も 小 さい<br />

国 々、 最 もつつましく 力 ない 国 々が、その 要 塞 となった。それは、 滅 亡 をはかる 強 敵<br />

のただ 中 にあった 小 さなジュネーブであった。また、 北 海 の 沿 岸 にあって、 当 時 強 大<br />

さと 富 を 誇 ったスペインの 圧 政 に 対 抗 していたオランダであった。また、 宗 教 改 革 が<br />

勝 利 したのは、 荒 涼 とした 不 毛 のスウェーデンであった。<br />

カルバンは、30 年 近 くジュネーブで 働 いた。 最 初 は、 聖 書 の 道 徳 を 守 る 教 会 の 設<br />

立 のため、その 後 は、ヨーロッパ 全 体 に 宗 教 改 革 を 進 展 させるためであった。 彼 の 公<br />

の 指 導 者 としての 行 動 は、 無 傷 ではなく、 彼 の 教 義 にも 誤 りがなかったわけではない。<br />

しかし、 彼 は、その 当 時 特 に 重 要 であった 真 理 を 宣 布 する 器 で あった。 彼 は、 急 速 に<br />

回 復 しつつあった 法 王 権 に 対 抗 して、プロテスタント 主 義 の 原 則 を 維 持 した。また、<br />

ローマの 教 えのもとに 助 長 された 高 慢 や 腐 敗 のかわりに、 単 純 で 純 潔 な 生 活 を 改 革 教<br />

会 において 促 進 させた。<br />

ジュネーブから、 印 刷 物 や 教 師 が 出 ていって、 改 革 の 教 義 をひろめた。 各 地 の 迫 害 を<br />

受 けた 人 々が、この 地 点 に、 教 えと 勧 告 と 励 ましを 求 めた。カルバンの 都 市 ジュネー<br />

ブは、 西 ヨーロッパ 全 体 のかり 立 てられた 改 革 者 たちの 避 難 所 となった。 幾 世 紀 も 続<br />

いた 恐 ろしいあらしを 逃 れて、 避 難 者 たちがジュネーブの 門 に 来 た。 家 と 親 族 を 離 れ、<br />

飢 え、 傷 ついた 彼 らは、ここで 温 かく 迎 えられて 看 護 された。 彼 らは、ここに 住 みつ<br />

き、その 技 量 、 学 問 、 敬 虔 さによって、この 都 市 を 祝 福 した。ここに 避 難 した 者 の 多<br />

くは、ローマの 圧 政 に 対 抗 するために 自 国 に 帰 っていった。 勇 敢 なスコットランドの<br />

改 革 者 、ジョン・ノックス、 多 くの 英 国 の 清 教 徒 たち、オランダやスペインのプロテ<br />

167


国 際 協 定<br />

スタントたち、また、フランスのユグノーたちは、 彼 らの 故 国 の 暗 黒 を 照 らす 真 理 の<br />

たいまつを、ジュネーブから 持 っていったのである。<br />

168


国 際 協 定<br />

第 13 章 北 欧 諸 国 の 宗 教 改 革<br />

オランダにおいては、 非 常 に 早 くから、 法 王 の 圧 制 に 対 して 断 固 とした 抗 議 が 行 わ<br />

れた。ルターの 時 代 の 700 年 も 前 に、ローマに 使 節 として 遣 わされ、「 法 王 庁 」の 真<br />

相 を 知 った 2 人 の 司 教 が、 恐 れることなくローマ 法 王 を 非 難 した。 神 は、「その 女 王<br />

であり 配 偶 者 である 教 会 に、その 家 族 のための 貴 い 永 遠 の 備 えをなし、 衰 えることも<br />

滅 びることもない 婚 礼 の 贈 り 物 と、 永 遠 の 冠 と 笏 とを 与 えられた。……あなたは、そ<br />

れらの 祝 福 のすべてを、 盗 人 のように 横 取 りする。あなたは、 自 分 自 身 を 神 の 宮 にす<br />

える。あなたは 牧 者 ではなくて、 羊 に 対 するおおかみになっている。……あなたは、<br />

自 分 が 最 高 の 司 教 であるとわれわれに 信 じさせようとしているが、 暴 君 のようにふる<br />

まっている。……あなたは、 自 ら 称 するとおり、しもべのしもべでなければならない<br />

のに、 主 の 主 になろうとしている。……あなたは、 神 の 戒 めを 侮 辱 している。…… 地<br />

上 の 至 る 所 に 教 会 を 建 てるのは、 聖 霊 である。……われわれが 市 民 であるところの 神<br />

の 都 は、 諸 天 の 全 域 に 及 ぶものである。それは、 預 言 者 たちがバ ビロンと 呼 び、 自 分<br />

は 神 であって 天 に 達 し、 自 分 の 知 恵 は 不 滅 であると 誇 り、 不 当 にも 自 分 には 誤 りはな<br />

い、また 誤 つことはあり 得 ないと 主 張 している 都 よりは、はるかに 大 きい 都 である。」<br />

1<br />

その 後 各 時 代 を 通 じて、 他 の 者 たちが 起 こってこの 抗 議 をくり 返 した。いろいろな<br />

名 称 で 呼 ばれていたが、ワルド 派 の 宣 教 師 の 特 徴 をもったこれらの 初 期 の 教 師 たちは、<br />

各 地 を 巡 回 し、 至 る 所 に 福 音 の 知 識 をひろめて、オランダに 浸 透 した。 彼 らの 教 義 は<br />

速 やかにひろまった。 彼 らは、ワルド 派 の 聖 書 をオランダ 語 の 詩 に 翻 訳 した。 彼 らは<br />

宣 言 した。「これは、 非 常 に 有 利 であった。 冗 談 、 作 り 話 、 軽 薄 、 偽 りはなく、ただ<br />

真 理 の 言 葉 だけがあった。もちろん、ところどころに 難 しいところはあっても、 善 と<br />

聖 の 真 髄 と 美 味 とは、たやすくその 中 に 発 見 された。」 2 昔 からの 信 仰 を 支 持 する 者 た<br />

ちは、12 世 紀 にこのように 書 いた。<br />

さて、ローマの 迫 害 が 始 まった。しかし、 火 刑 と 拷 問 の 中 にあっても、 信 者 は 増 加<br />

しつづけ、 聖 書 が 宗 教 の 誤 つことのない 唯 一 の 権 威 であることを 断 固 として 宣 言 し、<br />

「 人 間 は、 信 じることを 強 いられるべきものでなく、 説 教 によって 導 くべきである」<br />

と 言 った。 3<br />

ルターの 教 えは、オランダでそれに 適 した 土 壌 を 見 いだし、 熱 心 で 忠 実 な 人 々が 福<br />

音 の 宣 教 に 立 ち 上 がった。オランダの 州 の 1 つから、メノー・シモンズが 現 れた。 彼<br />

は、ローマ・カトリック 教 徒 として 教 育 を 受 け、 司 祭 になったが、 聖 書 のことは 何 も<br />

169


国 際 協 定<br />

知 らなかった。そして、 異 端 に 欺 かれるといけないと 思 って、 読 もうとしなかった。<br />

彼 が 化 体 説 [ 全 質 変 化 ]について 疑 問 を 抱 いた 時 、 彼 はそれをサタンの 誘 惑 であると 考<br />

え、 祈 りと 告 白 によって、それからの 解 放 を 求 めた。しかし、それはむだであった。<br />

彼 は、 遊 興 の 場 に 行 って、 良 心 の 声 を 消 そうとしたが、それも 役 には 立 たなかった。<br />

その 後 しばらくして、 彼 は 新 約 聖 書 の 研 究 に 導 かれ、これと、ルターの 著 書 とが、 彼<br />

に 改 革 の 信 仰 を 受 け 入 れさせた。その 後 まもなく、 近 くの 村 で、 再 洗 礼 を 受 けたため<br />

に 死 刑 に 処 せられる 人 が、 首 を 切 られるのを 目 撃 した。このことから 彼 は、 幼 児 洗 礼<br />

に 関 して 聖 書 を 調 べてみた。 彼 は、それを 支 持 する 証 拠 を 聖 書 の 中 に 見 つけることは<br />

できなかった。かえって、バプテスマを 受 ける 条 件 として、 悔 い 改 めと 信 仰 が 至 る 所<br />

で 要 求 されているのを 見 た。<br />

メノーは、ローマ・カトリック 教 会 を 離 れて、 彼 が 信 じた 真 理 を 教 えるために 一 生<br />

をささげた。ドイツにもオランダにも、 狂 信 的 な 人 々が 起 こって、 途 方 もない 扇 動 的<br />

教 義 を 主 張 し、 秩 序 と 風 紀 を 乱 し、 暴 力 と 反 乱 を 引 き 起 こしていた。メノーは、この<br />

ような 運 動 が 必 然 的 にもたらす 恐 ろしい 結 果 を 見 て、 狂 信 家 たちの 誤 った 教 えと 無 暴<br />

な 方 法 とに 極 力 反 対 した。しかし、こうした 狂 信 家 たちに 迷 わされたが、やがてその<br />

有 害 な 教 義 を 捨 ててしまったものが 多 くいた。また、 昔 からのキリスト 者 たちの 子 孫<br />

たち、すなわち、ワルド 派 の 教 えの 実 である 人 々も 多 く 残 っていた。メノーは、こう<br />

した 人 々の 間 で、 熱 心 に 働 いて 成 功 を 収 めた。<br />

彼 は、 妻 と 子 供 たちを 連 れて 25 年 間 旅 を 続 け、 大 きな 困 難 と 欠 乏 に 耐 え、しばし<br />

ば 生 命 の 危 険 にさらされた。 彼 は、オランダと 北 ドイツを 巡 り、 主 として 下 層 階 級 の<br />

間 で 働 いたが、その 感 化 は 広 範 囲 に 及 んだ。 限 られた 教 育 しかなかったが、 生 まれつ<br />

き 雄 弁 であった 彼 は、ゆるがぬ 誠 実 さ、 謙 そんな 精 神 と 柔 和 な 態 度 、そして 真 実 で 熱<br />

心 な 信 仰 の 持 ち 主 であって、 自 分 が 教 えるところを 生 活 に 実 践 し、 人 々の 信 頼 を 受 け<br />

た。 彼 の 弟 子 たちは、 散 らされ、 迫 害 された。 彼 らは、 狂 信 的 なミュンスター 暴 徒 た<br />

ちと 混 同 されたために、 非 常 に 苦 しめられた。しかし、 彼 の 働 きによって、 多 数 の 者<br />

が 悔 い 改 めた。<br />

改 革 の 教 義 がオランダほどに 広 く 受 け 入 れられた 所 は 他 になかった。また、ここほ<br />

ど 改 革 主 義 を 信 じた 者 たちが 恐 ろしい 迫 害 を 受 けた 国 も 少 ない。ドイツでは、カール<br />

5 世 が 宗 教 改 革 を 禁 じ、その 信 者 たちをみな 火 刑 にしようとした。しかし、 諸 侯 たち<br />

が 立 ち 上 がってその 暴 虐 を 防 いだ。オランダにおいては、 彼 の 権 力 はさらに 大 きく、<br />

迫 害 の 命 令 が 次 々に 発 せ られた。 聖 書 を 読 むこと、 聖 書 を 聞 いたり 説 教 をしたりする<br />

こと、また、それについて 語 ることさえ、 火 刑 に 値 する 罪 であった。ひそかに 神 に 祈<br />

ること、 偶 像 を 拝 むのを 拒 否 すること、あるいは 詩 篇 を 歌 うことも 死 罪 に 値 した。 自<br />

170


国 際 協 定<br />

分 の 誤 りを 捨 てることを 誓 ってさえ、 男 子 は 剣 で 殺 され、 女 子 は 生 き 埋 めにされた。<br />

カールとフェリペ[フィリップ]2 世 の 時 代 に 殺 された 者 は、 幾 千 にのぼった。<br />

ある 時 、ミサに 出 ないで 家 庭 で 礼 拝 をしたという 理 由 で、1 家 族 全 員 が 宗 教 裁 判 官<br />

の 前 に 引 き 出 された。ひそかに 行 っていたことについての 取 り 調 べに 対 し、 一 番 下 の<br />

息 子 は 答 えた。「わたしたちはひざまずいて、 神 がわたしたちの 心 を 照 らし、わたし<br />

たちの 罪 を 赦 してくださるようにと 祈 ります。わたしたちは、わたしたちの 王 様 のた<br />

めに 祈 り、 王 様 の 治 世 が 栄 えてご 幸 福 であられるように 祈 ります。わたしたちは 長 官<br />

たちのために 祈 り、 神 が 彼 らを 守 ってくださるように 祈 ります。」 4 裁 判 官 の 中 には、<br />

非 常 に 感 動 した 者 たちもいた。しかし、 父 親 と、 息 子 たちの 1 人 は、 火 刑 の 宣 告 を 受<br />

けた。<br />

迫 害 が 激 しくなるにつれて、 殉 教 者 たちの 信 仰 も 熱 してきた。 男 子 だけでなくて、<br />

かよわい 女 性 や 年 若 い 少 女 たちも、 確 固 とした 勇 気 をあらわした。「 妻 たちは、 夫 の<br />

火 刑 柱 のそばに 立 って、 夫 が 火 に 耐 えている 間 、 慰 めの 言 葉 をささやき、 詩 篇 を 歌 っ<br />

て 夫 を 励 ました。」「 少 女 たちは、 夜 寝 床 に 入 るかのように、 生 きながら 墓 に 横 たわ<br />

り、あるいは 婚 礼 に 行 くかのように、 最 上 の 衣 裳 をまとって、 絞 首 台 や 火 刑 台 に 進 ん<br />

でいった。」 5<br />

多 神 教 が 福 音 を 撲 滅 しようとした 時 代 と 同 様 に、キリスト 者 の 血 は 種 であった[テ<br />

ルトゥリアヌス「 護 教 論 」50 節 ]。 迫 害 は、 真 理 の 証 人 たちの 数 を 増 加 させるだけで<br />

あった。 征 服 することのできない 人 民 の 決 意 に、たけり 狂 った 王 は、 年 々その 残 酷 な<br />

行 動 を 推 し 進 めていったが、しかしむだであった。そして、 高 貴 なオレンジ 公 ウィリ<br />

アムの 下 における 独 立 は、ついにオランダに、 神 を 礼 拝 する 自 由 をもたらしたのであ<br />

る。<br />

ピエモンテの 山 々で、フランスの 平 原 で、そしてオランダの 海 岸 で、 福 音 の 進 んで<br />

いった 所 は、その 弟 子 たちの 血 で 彩 られた。しかし、 北 欧 諸 国 には、 平 和 に 入 ってい<br />

った。ウィッテンベルクの 学 生 たちは、 故 郷 へ 帰 る 時 、 改 革 の 信 仰 をスカンジナビア<br />

に 伝 えた。ルターの 著 書 の 発 行 も、 光 を 広 めた。 単 純 で 強 健 な 北 欧 の 人 々は、ローマ<br />

の 腐 敗 、 華 美 、 迷 信 を 捨 てて、 純 潔 、 単 純 で 生 命 を 与 える 聖 書 の 真 理 を 歓 迎 した。<br />

「デンマークの 改 革 者 」タウセンは、 農 夫 の 息 子 であった。 彼 は、 幼 い 時 から、 知<br />

力 の 活 発 な 少 年 であった。 彼 は、 教 育 を 渇 望 した。しかし、 親 の 事 情 がそれを 許 さな<br />

かったので 修 道 院 に 入 った。ここで、 彼 の 勤 勉 と 誠 実 と 純 潔 な 生 活 が、 先 輩 の 好 意 を<br />

かち 得 た。 彼 は、 試 験 の 結 果 、 将 来 教 会 のためによい 奉 仕 をする 才 能 の 持 ち 主 である<br />

ことが 認 められた。そこで、ドイツかオランダの 大 学 で、 教 育 を 受 けさせることにき<br />

171


国 際 協 定<br />

まった。この 青 年 学 徒 は、ウィッテンベルクには 行 かないという 1 つの 条 件 のもとに、<br />

自 分 で 学 校 を 選 ぶ 自 由 が 与 えられた。 教 会 の 学 者 たるものは、 異 端 の 害 毒 にさらされ<br />

てはならない。このように 修 道 士 たちは 言 った。<br />

タウセンは、 今 日 同 様 当 時 においても、ローマ 教 の 本 拠 の 1 つであったケルン 大 学<br />

に 入 った。ここで 彼 はまもなく 学 者 たちの 神 秘 主 義 にあいそをつかした。ちょうどそ<br />

のころ、 彼 は、ルターの 著 書 を 手 に 入 れた。 彼 はこれを 読 んで 非 常 な 驚 きと 喜 びとを<br />

感 じ、ルターの 教 えを 直 接 受 けたいと 切 望 した。しかし、そうすることは、 修 道 院 の<br />

先 輩 を 怒 らせ、 彼 の 支 持 を 失 うことであった。 彼 はすぐに 決 心 した。そして、まもな<br />

くウィッテンベルク 大 学 に 入 学 した。<br />

彼 は、デンマークに 帰 ってから、ふたたび 修 道 院 にもどった。 彼 がルター 派 ではな<br />

いかと 疑 う 者 は、だれもまだいなかった。 彼 は、 自 分 の 秘 密 をあらわさなかったが、<br />

同 僚 の 偏 見 を 起 こさないようにして、 彼 らを 純 粋 な 信 仰 と 清 い 生 活 に 導 こうと 努 めた。<br />

彼 は、 聖 書 を 開 いてその 真 の 意 味 を 説 明 し、ついに 罪 人 の 義 、 救 いの 唯 一 の 希 望 とし<br />

て、キリストを 宣 べ 伝 えた。 修 道 院 長 の 怒 りは 大 きかった。 彼 はタウセンに、ローマ<br />

の 擁 護 者 としての 大 きな 期 待 をかけていたのであった。タウセンは 直 ちに、 彼 の 修 道<br />

院 から 別 の 修 直 院 に 送 られて、 厳 重 な 監 視 のもとに 個 室 に 閉 じ 込 められた。<br />

ところが、 彼 の 新 しい 監 視 人 たちが 驚 いたことには、まもなく 修 道 士 たちが 数 名 、<br />

プロテスタント 主 義 に 改 宗 したことを 宣 言 した。タウセンは、 独 房 のこうしの 間 から、<br />

彼 の 同 僚 たちに 真 理 を 教 えたのであった。もしデンマークの 修 道 院 長 たちが、 異 端 に<br />

対 する 教 会 の 処 置 に 通 じでいたならば、タウセンの 声 は 2 度 と 聞 かれなかったであろ<br />

う。しかし 彼 らは、どこかの 地 下 牢 で 彼 を 埋 葬 するかわりに、 修 道 院 から 彼 を 追 放 し<br />

た。これで、もう 彼 らには、どうすることもできなかった。ちょうどその 時 、 新 しい<br />

教 義 の 教 師 たちを 保 護 する 勅 令 が 発 せられた。タウセンは、 説 教 しはじめた。 諸 教 会<br />

は 彼 に 扉 を 開 いた。 多 くの 人 々が 集 まって 聞 いた。 他 にも 神 の 言 葉 を 伝 える 者 がいた。<br />

新 約 聖 書 がデンマーク 語 に 翻 訳 され、 広 く 配 布 された。この 働 きをくつがえそうとす<br />

る 法 王 側 の 努 力 は、かえってこれを 促 進 し、まもなく、デンマークは 改 革 主 義 の 承 認<br />

を 宣 言 した。<br />

スウェーデンにおいても、ウィッテンベルクの 井 戸 から 学 んだ 青 年 たちが、 生 命 の<br />

水 を 自 国 の 人 々に 伝 えた。スウェーデンの 宗 教 改 革 の 指 導 者 のうちの 2 人 、オラフ・<br />

ペトリとローレンティウス・ペトリは、オレブロの 鍛 冶 屋 の 息 子 たちで、ルターとメ<br />

ランヒトンの 下 で 学 び、こうして 学 んだ 真 理 を 熱 心 に 教 えた。オラフは、 偉 大 な 改 革<br />

者 ルターのように、 熱 と 雄 弁 によって、 人 々を 覚 醒 させた。 一 方 ローレンティウスは、<br />

172


国 際 協 定<br />

メランヒトンのように、 学 識 があり、 思 慮 深 く 静 かな 人 であった。 両 方 とも、 熱 心 に<br />

神 を 敬 う 人 たちで、 神 学 に 深 く 通 じ、 断 固 とした 勇 気 をもって 真 理 を 推 進 させた。 法<br />

王 側 の 反 対 はやまなかった。カトリックの 司 祭 たちは、 無 学 で 迷 信 的 な 人 々を 扇 動 し<br />

た。オラフ・ペトリは、しばしば 暴 徒 に 襲 われ、 命 からがら 逃 げたことも 何 度 かあっ<br />

た。しかし、これらの 改 革 者 たちは、 王 の 愛 顧 と 保 護 を 受 けていた。<br />

ローマ 教 会 の 支 配 の 下 で、 人 々は 貧 困 に 苦 しみ、 圧 迫 にあえいだ。 彼 らは、 聖 書 を<br />

持 っていなかった。そして 心 に 光 を 伝 えない 単 なるしるしと 儀 式 だけの 宗 教 を 持 って<br />

いたので、 彼 らは、 彼 らの 異 教 の 先 祖 たちの、 迷 信 的 信 仰 と 多 神 教 的 習 慣 にもどりつ<br />

つあった。 国 民 は 党 派 に 分 かれて 相 争 い、 絶 えまなく 続 く 争 いは、すべての 者 の 悲 惨<br />

を 増 した。 王 は、 国 家 と 教 会 の 改 革 を 決 意 し、ローマと 戦 うためにこれらの 有 能 な 援<br />

助 者 を 歓 迎 した。<br />

オラフ・ペトリは、スウェーデン 国 王 と 指 導 者 たちの 前 で、ローマ 側 の 支 持 者 に 対<br />

抗 して、 改 革 主 義 の 信 仰 の 教 義 をりっぱに 擁 護 した。 彼 は、 教 父 たちの 教 えは、 聖 書<br />

と 一 致 するものだけを 信 じるべきであると 言 った。また、 信 仰 上 の 重 要 な 教 義 は、 聖<br />

書 に 簡 単 明 瞭 に 示 されているから、すべての 者 が 理 解 できると 言 明 した。「わたしの<br />

教 はわたし 自 身 の 教 ではなく、わたしをつかわされたかたの 教 である」とキリストは<br />

言 われた[ヨハネ 7:。そして、パウロは、 彼 が 受 けた 福 音 以 外 のことを 宣 べ 伝 える 者<br />

は、のろわれるべきであると 言 った[ガラテヤ 1:8 参 照 ]。「それでは、いったいだ<br />

れがかってに 教 義 を 規 定 して、それが 救 いに 必 要 なものであると 強 制 することができ<br />

るでしょうか」と 改 革 者 は 語 った。 6<br />

彼 は、 教 会 の 法 令 が 神 の 命 令 に 反 する 時 は、 権 威 がないことを 示 し、プロテスタン<br />

トの「 聖 書 、そして 聖 書 のみ」という 大 原 則 が、 信 仰 と 行 為 の 規 則 であることを 主 張<br />

した。<br />

この 論 争 は、 割 合 目 立 たない 程 度 のものであったが、しかし「 宗 教 改 革 者 側 の 陣 営<br />

が、どのような 人 々によって 占 められていたかを」 示 してくれるものである。「 彼 ら<br />

は、 無 学 で 党 派 心 に 強 くそうそうしい 論 争 家 では、けっしてなかった。 彼 らは、 神 の<br />

言 葉 を 研 究 した 人 々であり、 聖 書 の 兵 器 庫 が 彼 らに 与 えた 武 器 を、 十 分 に 使 いこなせ<br />

る 人 々であった。 博 学 の 点 においては、 彼 らは、 彼 らの 時 代 に 先 んじていた。われわ<br />

れは、ウィッテンベルクやチューリヒのような 輝 かし い 中 心 地 、また、ルターやメラ<br />

ンヒトン、ツウィングリやエコランパデウスのような 著 名 な 人 物 に 注 目 する 時 、 当 然 、<br />

彼 らは 運 動 の 指 導 者 であって、 驚 くべき 能 力 と 学 識 の 持 ち 主 であったが、その 他 の 人<br />

々はそうではなかったように 考 えがちである。しかし、 遠 く 離 れたスウェーデンの 舞<br />

173


国 際 協 定<br />

台 に 目 を 転 じ、オラフとローレンティウス・ペトリというつっましい 名 前 に 目 を 向 け<br />

てみよう。 教 師 たちからその 弟 子 たちへと 目 を 転 じるのである。するとそこに、われ<br />

われは 何 を 見 いだすであろうか。…… 学 者 と 神 学 者 である。 福 音 の 真 理 の 全 体 系 を 完<br />

全 にこなして、 学 校 の 哲 学 者 やローマの 司 教 たちを 容 易 に 打 ち 負 かす 人 々である。」<br />

7 この 論 争 の 結 果 、スウェーデンの 王 は 改 革 主 義 を 受 け 入 れ、その 後 まもなく、 国 会<br />

が 賛 成 した。 新 約 聖 書 は、オラフ・ペトリによって、スウェーデン 語 に 翻 訳 され、 王<br />

の 希 望 によって、2 人 の 兄 弟 は 聖 書 全 体 の 翻 訳 にとりかかった。こうして、スウェー<br />

デン 人 は、 初 めて 神 の 言 葉 を 自 国 語 で 持 つことができた。また、 王 国 全 体 において、<br />

牧 師 は 聖 書 を 説 き 明 かすように、そして 学 校 において 子 供 たちに 聖 書 を 読 むことを 教<br />

えるように、 国 会 で 定 められた。<br />

無 知 と 迷 信 の 暗 黒 は、 徐 々にではあるが 確 実 に、 福 音 の 祝 福 された 光 によって 追 い<br />

払 われていった。ローマの 圧 迫 から 解 放 された 国 は、これまで 到 達 したことのない 力<br />

と 偉 大 さに 達 した。 スウェーデンは、プロテスタント 主 義 のとりでの 1 つとなった。<br />

1 世 紀 後 、 非 常 な 危 険 の 時 に、この 小 さく 弱 かった 国 ——ヨーロッパにおいて、 支 援<br />

の 手 をさしのべた 唯 一 の 国 ——が、30 年 戦 争 の 恐 ろしい 戦 いに 際 して、ドイツを 救 っ<br />

たのである。 北 欧 全 土 は、ふたたびローマの 圧 制 下 に 置 かれるかと 思 われた。ドイツ<br />

が 法 王 側 勝 利 の 形 勢 を 一 変 させて、ルター 派 同 様 にカルバン 派 のプロテスタント 主 義<br />

の 信 教 の 自 由 を 確 保 し、 宗 教 改 革 を 受 け 入 れたこれらの 国 々に、 良 心 の 自 由 を 回 復 す<br />

ることができたのは、スウェーデンの 軍 隊 のおかげであった。<br />

174


国 際 協 定<br />

第 14 章 イングランドの 宗 教 改 革<br />

ルターが、 封 じられた 聖 書 をドイツの 人 々に 開 いていた 時 に、ティンダルも 神 の 霊<br />

に 動 かされて、 英 国 [イングランド]のために 同 じことを 行 った。ウィクリフの 聖 書 は、<br />

多 くの 誤 りを 含 むラテン 語 訳 からの 翻 訳 であった。それは、 印 刷 されず、 写 本 の 価 格<br />

は 非 常 に 高 価 であったために、 金 持 ちか 貴 族 でなければ 手 に 入 れることができなかっ<br />

た。その 上 、 教 会 が 厳 しく 禁 じていたために、 比 較 的 小 範 囲 にしか 広 まっていなかっ<br />

た。1516 年 、すなわち、ルターの 95 か 条 の 論 題 が 公 にされる 前 年 、エラスムスは、<br />

ギリシア 語 とラテン 語 の 新 約 聖 書 を 出 版 した。 神 の 言 葉 が 原 語 で 印 刷 されたのは、こ<br />

れが 初 めてであった。この 事 業 によって、 以 前 の 訳 の 多 くの 誤 りが 正 され、 意 味 も 明<br />

瞭 になった。これによって、 多 くの 知 識 人 たちが 真 理 をよく 知 るようになり、 改 革 事<br />

業 に 新 たな 刺 激 を 与 えた。しかし、 一 般 の 人 々はまだ、その 大 部 分 が、 神 の 言 葉 から<br />

除 外 されていた。ティンダルは、ウィクリフの 事 業 を 完 成 して、 同 胞 に 聖 書 を 与 える<br />

のであった。<br />

勤 勉 で 熱 心 な 真 理 の 探 究 者 であった 彼 は、エラスムスのギリシア 語 新 約 聖 書 によっ<br />

て、 福 音 を 受 け 入 れた。 彼 は、 恐 れることなく 自 分 の 確 信 を 説 教 し、すべての 教 義 は<br />

聖 書 によってためすべきであると 主 張 した。 聖 書 を 与 えたのは 教 会 であって、 教 会 だ<br />

けが 聖 書 を 説 明 することができるという 法 王 側 の 主 張 に 対 して、ティンダルは 答 えた。<br />

「ワシにえさを 見 つける ことを 教 えたのがだれか、あなたは 知 っているか。その 同 じ<br />

神 が、 神 の 飢 えた 子 供 たちに、 聖 書 の 中 に 彼 らの 父 を 見 つけるよう 教 えておられる。<br />

あなたがたは、われわれに 聖 書 を 与 えるどころか、われわれから 聖 書 を 隠 してきた。<br />

聖 書 を 教 える 人 々を 焼 くのがあなたがただ。そしてあなたがたは、できることなら 聖<br />

書 そのものまで 焼 こうとしている。」 1 [1710.<br />

ティンダルの 説 教 は、 非 常 に 人 々の 興 味 をかきたてた。そして 多 くの 者 が 真 理 を 受<br />

け 入 れた。しかし、 司 祭 たちは 待 機 していて、 彼 が 伝 道 地 を 去 るやいなや、 脅 迫 や 偽<br />

りによって、 彼 の 働 きを 破 壊 しようとした。 彼 らが 成 功 することがしばしばであった。<br />

「どうしたらよいだろうか。 一 か 所 で 種 をまいていると、 敵 は、 今 わたしが 去 ったば<br />

かりの 所 を 荒 らしている。わたしは、 至 る 所 にいることはできない。そうだ! もし<br />

キリスト 者 たちが、 自 国 語 で 聖 書 を 持 つことができるならば、 彼 らはこれらの 詭 弁 家<br />

たちに 対 抗 できることであろう。 聖 書 がなければ、 信 徒 を 真 理 に 定 着 させることはで<br />

きない。」 2 彼 は、 新 しい 目 的 を 心 に 抱 いた。「イスラエルが 主 の 宮 で 詩 篇 を 歌 った<br />

のは、イスラエルの 国 語 によってであった。それではわれわれの 間 で、 福 音 が 英 語 で<br />

175


国 際 協 定<br />

語 られてはいけないであろうか。…… 教 会 では、 明 けがたよりも 真 昼 の 光 の 方 が 弱 く<br />

てよいであろうか。……キリスト 者 は、 母 国 語 で 新 約 聖 書 を 読 まなければならない」<br />

と 彼 は 言 った。 教 会 の 博 士 たちや 教 師 たちの 意 見 は、 互 いに 異 なっていた。 人 々は、<br />

ただ 聖 書 に 基 づいてのみ、 真 理 を 知 ることができる。「ある 者 は、この 博 上 を 信 じ、<br />

他 の 者 は、 別 の 博 士 を 信 じる。……これらの 著 者 たちは、 互 いに 他 を 否 定 する。それ<br />

では、 正 しいことを 言 う 人 と 誤 ったことを 言 う 人 とは、どのようにして 区 別 すること<br />

ができようか。……それは 真 に、 神 の 言 葉 によってである。」 3<br />

その 後 まもなく、 学 識 あるカトリックの 博 士 が、 彼 と 論 争 して 叫 んだ。「われわれ<br />

は、 法 王 の 法 律 を 廃 するよりは、 神 の 律 法 を 廃 したほうがよい。」ティンダルは 答 え<br />

た。「わたしは、 法 王 と 彼 のすべての 法 律 を 無 視 する。そして、もし 神 がわたしの 生<br />

命 を 長 らえさせてくださるならば、わたしは 幾 年 もたたぬうちに、 農 業 に 従 事 する 少<br />

年 が、あなたよりももっと 聖 書 のことを 知 るようにするであろう。」 4<br />

人 々に 自 国 語 の 新 約 聖 書 を 与 えるという、ティンダルが 心 に 抱 き 始 めた 計 画 は、 今<br />

や 確 固 たるものとなり、 彼 は 直 ちにその 仕 事 に 取 りかかった。 彼 は 迫 害 のために 家 を<br />

追 われ、ロンドンへ 行 って、そこでしばらくじゃまされずに 仕 事 に 従 事 した。しかし<br />

彼 は、ふたたび 法 王 側 の 人 々の 暴 行 によって、 逃 げなければならなかった。イギリス<br />

全 国 が、 彼 に 対 して 閉 じられたように 思 われたので、 彼 はドイツに 隠 れ 家 を 求 める 決<br />

心 をした。ここで 彼 は、 英 語 の 新 約 聖 書 を 印 刷 しはじめた。 仕 事 は 2 度 も 妨 害 された。<br />

しかし、1 つの 町 で 印 刷 を 禁 じられると、 彼 は 次 の 町 へ 行 った。ついに 彼 は、ウォル<br />

ムスに 向 かったが、ここは 数 年 前 に、ルターが 国 会 において 福 音 を 擁 護 した 所 であっ<br />

た。この 古 い 町 には、 宗 教 改 革 の 多 くの 支 持 者 たちがいたので、ティンダルはその 後<br />

なんの 妨 害 もなく、 仕 事 を 継 続 することができた。 間 もなくここで 3000 冊 の 新 約 聖<br />

書 が 完 成 し、 同 じ 年 に 第 2 版 も 発 行 された。<br />

彼 は、 非 常 な 熱 心 と 忍 耐 をもって、 仕 事 を 続 けた。 英 国 当 局 が 各 港 を 厳 重 に 監 視 し<br />

ていたにもかかわらず、 神 の 言 葉 は、さまざまな 方 法 で、ひそかにロンドンに 運 ばれ、<br />

そこから 全 国 に 配 布 された。 法 王 側 は 真 理 を 圧 迫 しようとしたが、むだであった。あ<br />

る 時 ダラムの 司 教 はティンダルの 友 人 であった 書 籍 販 売 人 から、 彼 が 持 っているだけ<br />

の 聖 書 を 買 い 取 った。これは 聖 書 を 焼 き 捨 てるためで、そうすれば、 改 革 事 業 を 大 い<br />

に 妨 害 することができると 考 えたからであった。ところが、こうして 得 た 金 で、 新 し<br />

いよりよい 版 のための 材 料 を 買 うことができた。もし、これがなければ、その 出 版 は<br />

できなかったのである。 後 に、ティンダルが 捕 らえられた 時 、 彼 は、 聖 書 の 印 刷 費 を<br />

援 助 した 人 々の 名 を 明 かせば、 自 由 にすると 言 われた。 彼 は、ダラムの 司 教 が、 他 の<br />

だれよりも 多 くの 援 助 をしたと 答 えた。それは、 司 教 が 手 もとに 残 っている 聖 書 を 高<br />

176


国 際 協 定<br />

い 値 段 で 買 ってくれたために、 彼 は、 勇 気 をもって 仕 事 を 継 続 することができたから<br />

であった。 ティンダルは、 裏 切 られて 敵 の 手 に 渡 され、 一 時 何 か 月 もの 間 牢 獄 に 入 れ<br />

られた。 彼 はついに、 殉 教 の 死 を 遂 げて 信 仰 のあかしを 立 てた。しかし、 彼 が 用 意 し<br />

た 武 器 は、 今 日 に 至 るまで 幾 世 紀 にわたって、 他 の 兵 士 たちの 戦 闘 を 可 能 にしたので<br />

ある。<br />

ラティマーは、 聖 書 は 自 国 語 で 読 むべきものであると、 説 教 壇 から 主 張 した。 聖 書<br />

の 著 者 は、「 神 ご 自 身 である。」そして、この 聖 書 は、その 著 者 の 力 と 永 遠 性 を 帯 び<br />

ている、と 彼 は 言 った。「 王 、 皇 帝 、 長 官 、 統 治 者 であっても、…… 神 の 聖 なる 言 葉<br />

に…… 従 う 義 務 のない 者 はいない。」「われわれは、 横 道 にそれず、 神 の 言 葉 に 導 か<br />

れるようにしよう。われわれは、 先 祖 たちの 道 を 歩 かず、 彼 らのしたことをしようと<br />

せず、 彼 らがすべきであったことをしよう。」 5<br />

ティンダルの 忠 実 な 友 人 たち、バーンズとプリスが、 真 理 を 擁 護 するために 立 ち 上<br />

がった。それに、リドリとクランマーが 続 いた。これら 英 国 の 宗 教 改 革 指 導 者 たちは<br />

学 識 ある 人 々で、たいていはカトリックの 社 会 で、その 熱 意 と 敬 虔 さを 高 く 評 価 され<br />

ていた 人 々であった。 彼 らが 法 王 権 に 反 対 したのは、「 法 王 庁 」の 誤 りを 認 めた 結 果<br />

であった。 彼 らがバビロンの 奥 義 をよく 知 っていたことは、 教 会 に 反 対 する 彼 らのあ<br />

かしをいっそう 力 強 いものにした。<br />

ラティマーは 言 った。「ここでわたしは、 奇 妙 な 質 問 をしようと 思 う。 英 国 全 体 の<br />

なかで、いったいだれが 最 も 勤 勉 な 司 教 であり 高 位 聖 職 者 であろうか。……みなさん<br />

は、わたしがだれの 名 前 を 言 うかと、 耳 をそばだてておられる。……それでは 申 し 上<br />

げよう。それは 悪 魔 である。…… 彼 は 自 分 の 教 区 からけっして 出 ない。 彼 を 訪 問 すれ<br />

ば、いつでも 家 にいる。…… 彼 はいつでも 仕 事 をしている。…… 請 け 合 ってもいいが、<br />

みなさんはけっして 彼 が 怠 けているのを 見 ることができない。…… 悪 魔 が 住 みついた<br />

ところは、…… 書 物 を 捨 て 去 って、ろうそくを 立 てる。 聖 書 は 捨 てて、じゅずを 取 り<br />

上 げる。 福 音 の 光 を 捨 てて、 白 昼 にろうそくの 光 を 掲 げる。……キリストの 十 字 架 を<br />

捨 てて、 煉 獄 という 搾 取 が 行 われる。…… 裸 の 者 、 貧 しい 者 、 力 ない 者 に 着 せること<br />

をせず、 偶 像 を 飾 り、さまざまな 像 をきらびやかに 飾 る。 人 間 の 言 い 伝 えと 律 法 をた<br />

いせつにして、 神 の 教 えと 最 も 神 聖 な 言 葉 を 捨 てる。……ああ、われわれの 高 位 聖 職<br />

者 たちが、サタンが 毒 麦 をまくような 熱 心 さで、 良 い 教 義 の 種 をまけばよいのだが!」<br />

6<br />

これらの 改 革 者 たちが 主 張 した 大 原 則 は、ワルド 派 、ウィクリフ、ヨハン・フス、<br />

ルター、カルバン、ツウィングリその 他 の 同 志 たちが 信 じた 原 則 と 同 じであって、 信<br />

177


国 際 協 定<br />

仰 と 行 為 の 規 則 としての 聖 書 の、 誤 ることのない 権 威 ということであった。 彼 らは、<br />

法 王 、 会 議 、 神 父 、 王 たちの、 宗 教 の 問 題 において 良 心 を 支 配 する 権 利 を 拒 んだ。 聖<br />

書 が 彼 らの 権 威 であった。そして 彼 らは、その 教 えによって、すべての 教 義 とすべて<br />

の 主 張 を 試 した。これらの 聖 徒 たちが 処 刑 台 の 露 と 消 えた 時 に、 彼 らを 支 えたのは、<br />

神 と 神 の 言 葉 に 対 する 信 仰 であった。ラティマーは、 炎 のために、 今 にも 声 が 沈 黙 さ<br />

せられそうになった 時 、 同 僚 の 殉 教 者 に 向 かって 叫 んだ。「 喜 べ。きょうわれわれは、<br />

神 の 恵 みによって、 英 国 にろうそくをともすのだ。その 火 は 決 して 消 えないであろ<br />

う。」 7<br />

スコットランドにおいて、 真 理 の 種 は、コルンバによってまかれた。そして 彼 の 同<br />

志 たちは、その 後 も 決 してなくならなかった。 英 国 の 教 会 がローマに 服 従 してから 数<br />

百 年 の 間 、スコットランドの 教 会 は 自 由 を 保 ち 続 けた。しかし、12 世 紀 に 至 って、 法<br />

王 権 がこの 地 に 打 ち 立 てられ、 他 国 では 見 られなかった 絶 対 的 支 配 が 行 われた。ここ<br />

ほど 暗 黒 なところは 他 になかった。それにもかかわらず、 光 が 輝 いて 暗 黒 をさし 貫 き、<br />

来 たるべき 日 の 約 束 を 与 えた。ロラード 派 の 人 々が、 英 国 から 聖 書 とウィクリフの 教<br />

えを 携 えて 来 て、 福 音 の 知 識 の 保 持 のために 大 いに 貢 献 した。また、 各 世 紀 に、 福 音<br />

の 証 人 と 殉 教 者 があらわれた。 大 宗 教 改 革 の 開 始 とともに、ルターの 著 書 が 紹 介 され、<br />

それに 続 いて、ティンダルの 英 語 の 新 約 聖 書 がはいってきた。これらの 書 物 は、 法 王<br />

側 の 目 を 逃 れて、 黙 々と 山 々や 谷 間 を 行 きめぐり、スコットランドで 今 にも 消 えそう<br />

になっていた 真 理 の 燈 に 新 たな 生 命 を 与 え、ローマが 4 世 紀 にわたって 行 ってきた 圧<br />

迫 から 人 々を 解 放 した。<br />

さらに、 殉 教 者 の 血 が、 運 動 に 新 たな 刺 激 を 与 えた。 法 王 側 の 指 導 者 たちは、 突 然 、<br />

彼 らの 働 きが 危 機 に 陥 ったのを 悟 って、スコットランドの 最 も 高 貴 で 栄 誉 ある 人 々を<br />

火 刑 にした。しかし、 彼 らは、 説 教 壇 を 立 てたにすぎなかった。そしてそこから、こ<br />

れらの 証 人 たちの 最 後 の 言 葉 が 全 国 に 響 き、ローマの 束 縛 を 打 破 するという 不 滅 の 目<br />

的 をもって、 人 々の 心 を 感 動 させたのであった。 ハミルトンとウィシャートは、 家 柄<br />

も 品 性 も 高 貴 であったが、 他 の 多 くの 質 朴 な 弟 子 たちと 共 に、 火 刑 にされて 死 んだ。<br />

しかし、ウィシャートの 火 刑 柱 から、 炎 も 沈 黙 させることができない 者 、 神 の 力 によ<br />

ってスコットランドの 法 王 権 の 没 落 を 来 たらせる 者 が 現 れた。<br />

ジョン・ノックスは、 教 会 の 伝 説 と 神 秘 主 義 を 捨 てて、 神 の 言 葉 の 真 理 を 研 究 した。<br />

そして、ウィシャートの 教 えが、 彼 に、ローマ・カトリック 教 会 を 出 て、 迫 害 されて<br />

いる 改 革 者 の 側 に 加 わる 決 心 を 固 めさせた。 彼 は、 仲 間 から 説 教 者 になるように 勧 め<br />

られた 時 、その 責 任 の 重 大 なことを 恐 れてしりごみした。そして、 数 日 間 閉 じ 込 もっ<br />

て 苦 悩 した 後 、 初 めてそれに 同 意 した。しかし、1 度 その 職 につくと、 断 固 とした 決<br />

178


国 際 協 定<br />

意 とひるむことなき 勇 気 をもって、 一 生 の 間 前 進 していった。この 誠 実 な 改 革 者 は、<br />

人 の 顔 を 恐 れなかった。 迫 害 の 炎 が 彼 を 取 り 囲 んだが、それはただ 彼 の 熱 をあおるだ<br />

けであった。 暴 君 のおのが 彼 の 頭 上 を 脅 かしていたが、 彼 は 自 分 の 立 場 を 貫 き、 偶 像<br />

を 破 壊 するために 右 や 左 に 強 力 な 打 撃 を 加 えた。<br />

スコットランドの 女 王 の 前 に 連 れ 出 されると、プロテスタントの 指 導 者 の 多 くは、<br />

熱 意 がさめてしまうのであるが、ジョン・ノックスは、 真 理 のためにゆるがぬあかし<br />

を 立 てた。 彼 は、 愛 顧 を 受 けても 譲 らず、 脅 かされてもひるまなかった。 女 王 は 彼 を<br />

異 端 者 扱 いした。 彼 は、 国 家 が 禁 じた 宗 教 を 信 じるように 人 々に 教 えたのであるから、<br />

国 民 は 君 主 に 服 従 することを 命 じる 神 の 命 令 に 背 いたと、 女 王 は 宣 言 した。ノックス<br />

は、 断 固 として 答 えた。<br />

「 正 しい 宗 教 は、 世 俗 の 君 主 からではなく、ただ 永 遠 の 神 から、その 本 来 の 力 と 権<br />

威 を 受 けています。それゆえに、 国 民 は、 君 主 の 嗜 好 のままに 宗 教 を 定 める 必 要 はあ<br />

りません。なぜなら、 君 主 は 他 のだれよりも、 神 の 真 の 宗 教 について 無 知 なことがあ<br />

るからです。……もしアブラハムの 子 孫 がみな、 彼 らの 長 く 隷 属 していたパロの 宗 教<br />

を 続 けていたならば、 世 界 には、どんな 宗 教 が 出 現 していたことでしょうか。あるい<br />

は、 使 徒 時 代 の 人 々がみな、ローマ 皇 帝 の 宗 教 を 信 じていたならば、この 地 上 には、<br />

どんな 宗 教 が 起 きたことでしょうか。……それゆえ、 女 王 よ、 国 民 は 君 主 に 服 従 すべ<br />

きではありますが、 宗 教 に 関 しては、 君 主 に 縛 られるべきではないということが、お<br />

わかりになるでしょう。」<br />

メァリ 女 王 は 言 った。「おまえが 聖 書 をこういう 意 味 に 解 釈 すれば、 彼 ら〔ローマ<br />

・カトリックの 教 師 たち〕は 別 の 解 釈 をする。わたしは、だれを 信 じたらよいのか、<br />

だれが 裁 判 官 になるのか。」 改 革 者 は 答 えた。「 聖 書 によって 明 瞭 に 語 られる 神 を 信<br />

じればよいのです。そして、み 言 葉 が 教 える 以 外 のものは、これもあれも 信 じなくて<br />

よいのです。 神 の 言 葉 は、それ 自 体 明 瞭 です。もしどこかに 不 明 瞭 なところがあれば、<br />

ご 自 身 に 矛 盾 することのない 聖 霊 が、それを 他 の 場 所 において 明 らかに 説 き 明 かして<br />

くださいます。それですから、かたくなに 知 ろうとしない 者 を 除 いては、なんの 疑 惑<br />

も 残 りえないのです。」 8 恐 れを 知 らぬ 改 革 者 は、 自 分 の 生 命 の 危 険 も 顧 みず、 女 王<br />

の 前 で、このような 真 理 を 語 った。 彼 は、この 同 じひるむことのない 勇 気 をもって、<br />

目 的 に 向 かって 進 み、ついにスコットランドが 法 王 権 から 解 放 されるまで、 祈 りつつ<br />

主 の 戦 いを 戦 った。<br />

イングランドでは、プロテスタント 主 義 が 国 教 になったので、 迫 害 は 減 ったけれど<br />

も、 全 くやんだわけではなかった。ローマの 教 義 が 多 く 破 棄 されたけれども、 形 式 は<br />

179


国 際 協 定<br />

少 なからず 残 っていた。 法 王 の 至 上 権 は 拒 否 されたけれども、その 代 わりに、 国 王 が<br />

教 会 の 頭 の 座 を 占 めた。 教 会 の 礼 拝 は、 福 音 の 純 粋 さと 単 純 さとからまだ 遠 く 離 れて<br />

いた。 宗 教 の 自 由 という 大 原 則 も、まだ 理 解 されていなかった。プロテスタントの 国<br />

王 たちは、ローマが 異 端 に 対 して 用 いた 恐 ろしい 残 酷 行 為 は 行 わなかったが、おのお<br />

のが 自 分 の 良 心 に 従 って 神 を 礼 拝 する 権 利 は 認 めていなかった。すべての 者 は、 国 教<br />

会 が 規 定 した 教 理 を 受 け 入 れ、 礼 拝 の 形 式 を 守 らなければならなかった。 国 教 反 対 者<br />

は、 幾 百 年 にわたって、 程 度 の 差 こそあれ 迫 害 に 苦 しんだ。<br />

17 世 紀 には、 幾 千 という 牧 師 がその 地 位 を 追 われた。 人 々は、 教 会 が 承 認 したも<br />

の 以 外 のどんな 宗 教 的 集 会 に 出 席 することをも 禁 じられ、 違 反 する 者 は 重 い 罰 金 、 投<br />

獄 、 追 放 にあわねばならなかった。そこで、 神 を 礼 拝 するために 集 まらずにはおれな<br />

い 忠 実 な 人 々は、やむをえず、 暗 い 路 地 、 薄 暗 い 屋 根 裏 、またある 季 節 には、 夜 中 に<br />

森 に 集 まった。 神 ご 自 身 がお 建 てになった 神 殿 である 森 の 奥 深 くに、これらの 散 らさ<br />

れ 迫 害 された 主 の 子 供 たちは 集 まり、 魂 を 注 ぎ 出 して 祈 り、 神 を 賛 美 した。このよう<br />

に 用 心 深 くしていてもなお、 信 仰 のために 苦 しむ 者 が 多 かった。 牢 獄 はあふれた。 家<br />

族 は 離 散 した。 外 国 に 追 放 された 者 も 多 かった。それでも 神 は、ご 自 分 の 民 と 共 にお<br />

られ、 迫 害 は、 彼 らのあかしを 沈 黙 させることができなかった。 海 のかなたのアメリ<br />

カに 追 われた 者 も 多 かった。そして 彼 らは、アメリカにおいて、 同 国 のとりでであり<br />

栄 光 である 政 治 と 宗 教 の 自 由 の 基 礎 を 築 いたのであった。<br />

また、 使 徒 時 代 のように、 迫 害 はかえって 福 音 を 進 展 させた。ジョン・バンヤンは、<br />

放 蕩 者 や 重 罪 犯 人 が 群 がっている 薄 気 味 悪 い 牢 獄 のなかで、 天 国 の 雰 囲 気 にひたり、<br />

そこで、 滅 亡 の 国 から 天 の 都 に 行 く 巡 礼 の 旅 のすばらしい 寓 話 を 著 した。それ 以 後<br />

200 年 以 上 にもわたって、ベッドフォードの 牢 獄 からの 声 は、 人 々の 心 に 感 動 的 な 力<br />

をもって 語 ってきた。バンヤンの『 天 路 歴 程 』と『 罪 人 の 頭 に 溢 るる 恩 寵 』は、 多 く<br />

の 人 を 生 命 の 道 に 導 いた。 バクスター、フレーベル、アリーン、その 他 、 才 能 と 教 育<br />

とキリスト 者 経 験 の 豊 かな 人 々が、 聖 徒 たちにひとたび 伝 えられた 信 仰 を 勇 敢 に 擁 護<br />

した。この 人 々の 成 し 遂 げた 仕 事 は、この 世 の 支 配 者 からは 厳 しく 禁 じられたもので<br />

あったが、けっして 滅 びることのないものである。<br />

フレーベルの『 生 命 の 泉 と 恵 みの 道 』は、 魂 をキリストにゆだねる 方 法 を 幾 千 の 人<br />

々に 教 えてきた。バクスターの『 改 革 牧 師 』は、 神 の 働 きの 復 興 を 望 む 多 くの 人 々に<br />

祝 福 を 与 え、『 聖 徒 の 永 遠 の 安 息 』は、 神 の 民 のために 存 続 している「 安 息 」に、 魂<br />

を 導 く 役 割 を 果 たしてきた。<br />

180


国 際 協 定<br />

それから 100 年 後 、 霊 的 大 暗 黒 の 時 代 に、ホイットフィールドとウェスレー 兄 弟 が、<br />

神 の 光 を 掲 げる 者 として 現 れた。 国 教 会 の 支 配 下 にあって、 英 国 の 人 々は、 異 教 と 見<br />

分 けがつかないほどの 宗 教 的 堕 落 状 態 に 陥 っていた。 牧 師 たちは、 自 然 宗 教 を 好 んで<br />

研 究 し、それが 彼 らの 神 学 の 大 半 であった。 上 流 階 級 は 信 心 を 冷 笑 し、 自 分 たちは、<br />

いわゆる 狂 信 よりすぐれていると 誇 っていた。 下 層 階 級 は 非 常 に 無 知 で、 悪 習 にふけ<br />

っていた。 一 方 、 教 会 は、ふみにじられた 真 理 の 運 動 を、 支 持 する 勇 気 も 信 仰 もなか<br />

った。<br />

ルターがあれほどはっきりと 教 えた、 信 仰 による 義 という 偉 大 な 教 理 は、ほとんど<br />

姿 を 消 してしまっていた。そして、 善 行 によって 救 いを 得 るというローマ 教 の 原 則 が、<br />

その 代 わりになっていた。ホイットフィールドとウェスレー 兄 弟 は、 国 教 会 の 信 者 で<br />

あった。 彼 らは、 神 の 恵 みを 真 剣 に 求 め、そしてそれは、 高 潔 な 生 活 と 宗 教 儀 式 の 遵<br />

守 とによって 与 えられると 教 えられていた。 ある 時 、チャールズ・ウェスレーが 病 気<br />

にかかり、 死 にそうになった。 彼 は、 永 遠 の 生 命 の 希 望 を 何 においているかという 質<br />

問 を 受 けた。 彼 は 答 えた。「わたしは、 神 に 仕 えるために 全 力 を 尽 くしてきた。」し<br />

かし、 質 問 した 友 人 は、この 答 えでは 満 足 しないらしかった。ウェスレーは 考 えた。<br />

「なんだって? わたしの 努 力 が、 希 望 の 十 分 な 根 拠 でないというのか。 彼 は、わた<br />

しから、わたしの 努 力 を 奪 おうとするのか。わたしは 他 に 何 も 頼 るものがない。」 9 教<br />

会 にはこうした 深 い 暗 黒 がおおいかぶさり、 贖 罪 を 隠 し、キリストからその 栄 光 を 奪<br />

っていた。そして、 人 々の 心 を、 救 いの 唯 一 の 希 望 —— 十 字 架 に 架 けられた 贖 い 主 の<br />

血 から 引 き 離 していた。<br />

ウェスレーと 彼 の 仲 間 は、 真 の 宗 教 は 心 に 根 ざすものであって、 神 の 律 法 は、 言 葉<br />

や 行 為 と 同 様 に 思 想 にまで 及 ぶものであることを 悟 った。 外 部 の 行 状 が 正 しいのと 同<br />

様 に、 心 の 聖 潔 の 必 要 を 確 信 して 新 しい 生 活 に 入 ろうと 熱 心 に 努 めた。 彼 らは、 非 常<br />

な 努 力 と 祈 りによって、 生 来 の 心 の 悪 を 抑 制 しようとした。 彼 らは、 自 己 犠 牲 、 愛 、<br />

謙 そんの 生 活 を 送 り、 彼 らが 何 よりも 望 んだもの——すなわち、 神 の 恵 みを 受 けるこ<br />

とができる 聖 潔 ——に 到 達 するために 役 立 つことはどんなことでも、 非 常 な 厳 格 さと<br />

正 確 さをもって 実 行 した。しかし、 彼 らは、 求 めたものを 得 ることはできなかった。<br />

罪 の 宣 告 や 罪 の 力 から 自 由 になろうとする 彼 らの 努 力 はむなしかった。これは、ルタ<br />

ーが、エルフルトの 小 部 屋 で 経 験 したのと 同 じ 悩 みであった。「 人 はどうして 神 の 前<br />

に 正 しくありえようか」という、 彼 の 魂 を 悩 ましたのと 同 じ 問 題 であった [ヨブ<br />

9:。<br />

プロテスタント 主 義 の 祭 壇 の 上 で、 今 にも 消 えそうになっていた 神 の 真 理 の 火 は、<br />

各 時 代 を 通 じてボヘミアのキリスト 者 たちによって 伝 えられてきた 古 いたいまつによ<br />

181


国 際 協 定<br />

って、 再 び 点 じられることになった。 宗 教 改 革 の 後 、ボヘミアのプロテスタント 主 義<br />

は、ローマの 軍 勢 によってふみにじられた。 真 理 を 放 棄 することを 拒 んだ 者 は、みな<br />

逃 亡 しなければならなかった。ある 者 はザクセンに 避 難 所 を 見 いだし、そこで 昔 なが<br />

らの 信 仰 を 保 った。ウェスレーと 彼 の 仲 間 が 光 を 受 けたのは、これらのキリスト 者 た<br />

ちの 子 孫 からであった。<br />

ジョン・ウェスレーとチャールズ・ウェスレーは、 牧 師 の 按 手 礼 を 受 けたあとで、<br />

米 国 の 伝 道 に 遣 わされた。 同 じ 船 に、モラビア 人 の 一 団 が 乗 っていた。 途 中 、 激 しい<br />

暴 風 雨 に 出 会 い、ジョン・ウェスレーは 死 に 直 面 して、まだ 自 分 が 神 との 平 和 の 確 証<br />

を 持 っていないのを 感 じた。ところが、このドイツ 人 たちは、 彼 が 味 わっていない 平<br />

静 さと 信 頼 をあらわしていた。<br />

彼 は、 次 のように 言 っている。「わたしは、ずっと 以 前 から、 彼 らの 非 常 にまじめ<br />

な 態 度 に 気 づいていた。 彼 らは、 英 国 人 がしようともしない 卑 しい 仕 事 を 他 の 船 客 の<br />

ために 行 って、 彼 らの 謙 そんを 常 に 実 証 した。 彼 らは、これに 対 する 報 酬 を 望 まず、<br />

また 受 けようともせず、これは 自 分 たちの 高 慢 な 心 に 益 であり、 自 分 たちの 愛 する 救<br />

い 主 は、 自 分 たちのためにもっと 多 くのことをされた、と 言 った。そして 毎 日 、 彼 ら<br />

は、どんな 害 を 受 けても 動 ぜず、 柔 和 であった。もし、 押 されたり、 打 たれたり、 投<br />

げ 倒 されたりしても、 立 ち 上 がって 行 ってしまう。 彼 らはつぶやいたりはしなかっ<br />

た。<br />

ところで 今 、 彼 らが、 誇 りや 怒 りやふくしゅうの 念 と 同 様 に、 恐 怖 からも 救 われて<br />

いるかどうかを 試 す 時 がやってきた。 彼 らの 礼 拝 は 詩 篇 で 始 まったのであるが、その<br />

詩 篇 を 読 んでいる 最 中 に、 海 が 大 荒 れになり、 主 帆 をずたずたに 引 き 裂 き、 水 は 船 に<br />

おおいかぶさって、まるで 大 海 がわれわれを 飲 んでしまったかのように、 甲 板 の 間 に<br />

流 れ 込 んだ。 英 国 人 の 間 からは 恐 ろしい 叫 び 声 が 起 こった。ドイツ 人 たちは 静 かに 歌<br />

い 続 けていた。わたしは 後 で、 彼 らの 1 人 に、『 恐 ろしくなかったですか』と 聞 いた。<br />

彼 は、『 神 様 のおかげで、 少 しも』と 答 えた。わたしは、『でも 婦 人 や 子 供 たちは 恐<br />

ろしくなかったですか』と 聞 いた。 彼 は 穏 やかに 答 えた。『いいえ、 私 たちの 婦 人 や<br />

子 供 たちは、 死 ぬことを 恐 れてはいません』。」 10<br />

サバナに 到 着 しても、ウェスレーはしばらくの 間 モラビア 人 といっしょに 住 んだ。<br />

そして、 彼 らのキリスト 者 的 な 行 状 に 強 く 心 を 打 たれた。 英 国 の 教 会 の 無 気 力 な 形 式<br />

主 義 とは 対 照 的 な、 彼 らの 礼 拝 について、 彼 は 次 のように 書 いた。「その 全 体 の 非 常<br />

な 厳 粛 さと 単 純 さとは、わたしに 1700 年 の 隔 たりを 忘 れさせ、 形 式 も 儀 礼 もない、<br />

あの 天 幕 作 りのパウロや 漁 師 のペテロの 司 会 する 集 会 にいるかのような 感 を 与 えた。<br />

182


国 際 協 定<br />

しかも、そこに 霊 と 力 のあらわれがあった。」 11 ウェスレーは、 英 国 に 帰 ってきて、<br />

モラビア 人 の 説 教 者 の 指 導 のもとに、 聖 書 の 信 仰 をはっきりと 理 解 することができた。<br />

彼 は、 救 いを 得 るために 自 分 自 身 の 行 為 に 頼 ることを 全 く 捨 てて、「 世 の 罪 を 取 り 除<br />

く 神 の 小 羊 」に 全 的 に 信 頼 しなければならないことを 悟 った。<br />

ロンドンのモラビア 人 の 集 会 で、 神 の 霊 が 信 じる 者 の 心 に 起 こす 変 化 について 述 べ<br />

たルターの 言 葉 が 読 まれた。これを 聞 いて、ウェスレーの 心 に 信 仰 の 火 が 点 じられた。<br />

「わたしは、 自 分 の 心 が 不 思 議 に 温 まるのを 感 じた。わたしは、 救 われるためにキリ<br />

ストに、ただキリストに 頼 る 自 分 を 感 じた。そして、キリストが、わたしの 罪 、わた<br />

しの 罪 さえ 取 り 去 って、わたしを 罪 と 死 との 法 則 から 救 ってくださった、という 確 証<br />

が 与 えられた」と 彼 は 言 っている。 12<br />

長 年 にわたる 重 苦 しく 慰 安 のない 苦 闘 —— 苛 酷 な 自 制 、 自 己 譴 責 、へりくだり——<br />

によって、ウェスレーは、 神 を 求 めるという 1 つの 目 的 をひたすら 追 求 してきた。そ<br />

して 今 、 彼 は、 神 を 見 いだした。 彼 は、 自 分 が 祈 祷 や 断 食 や 施 しや 自 己 否 定 によって<br />

得 ようとしてきた 恵 みは、「 金 を 出 さずに、ただで」 与 えられる 賜 物 であることを 知<br />

ったのである。<br />

ひとたびキリストを 信 じる 信 仰 に 堅 く 立 つと、 彼 の 心 は、 神 から 価 なくして 与 えら<br />

れる 恵 みという 輝 かしい 福 音 を、あまねく 人 々に 伝 えたいという 願 いに 燃 えた。「わ<br />

たしは 全 世 界 をわたしの 教 区 とみなす。そしてわたしは、 世 界 のどこにいようと、 喜<br />

んで 耳 を 傾 けるすべての 者 に 救 いの 福 音 を 宣 べ 伝 えることを、わたしの 当 然 なすべき<br />

正 当 な 義 務 と 考 える」と 彼 は 言 った。 13<br />

彼 は、 相 変 わらず、 厳 格 な 克 己 の 生 活 を 続 けた。しかし、 今 それは、 信 仰 の 根 拠 で<br />

はなくて、 結 果 であり、 聖 潔 の 根 ではなくて、 実 であった。キリストによって 与 えら<br />

れる 神 の 恵 みは、キリスト 者 の 希 望 の 基 礎 であり、この 恵 みは、 服 従 となって 現 れる。<br />

ウェスレーの 生 涯 は、 彼 が 受 けた 大 真 理 ——キリストの 贖 罪 の 血 を 信 じる 信 仰 による<br />

義 認 、 人 の 心 を 変 える 聖 霊 の 改 変 力 、そして、キリストの 模 範 と 一 致 した 生 活 となっ<br />

て 実 を 結 ぶこと——の 宣 教 のためにささげられた。<br />

ホイットフィールドとウェスレー 兄 弟 は、 自 分 自 身 の 望 みのない 失 われた 状 態 につ<br />

いて、 長 い 間 深 刻 に 自 覚 してきたことによって、 彼 らの 働 きの 準 備 ができていた。ま<br />

た 彼 らは、 大 学 時 代 にも、 牧 会 に 入 った 時 にも、 軽 べつやちょう 笑 や 迫 害 といった、<br />

激 しい 試 練 を 受 けていたので、キリストのよき 兵 卒 として 困 難 に 耐 えることができた。<br />

彼 らと、 彼 らに 共 鳴 した 少 数 の 人 々とは、 不 信 心 な 学 生 仲 間 から、 軽 べつ 的 に「メソ<br />

183


国 際 協 定<br />

ジスト」と 呼 ばれた。しかし、この 名 称 は、 現 在 、 英 国 とアメリカの 最 大 の 教 派 の 1<br />

つの 名 称 となって、 名 誉 あるものとなっている。<br />

彼 らは、 英 国 国 教 会 の 会 員 として、 教 会 の 礼 拝 形 式 に 強 い 愛 着 を 感 じていたが、 主<br />

は、 聖 書 によって 彼 らにさらに 高 い 標 準 を 示 された。 聖 霊 は 彼 らに、キリストと 彼 の<br />

十 字 架 を 宣 教 することを 迫 った。 至 高 者 の 力 が 彼 らの 運 動 に 伴 った。 幾 千 の 者 が 罪 を<br />

認 め、 真 に 悔 い 改 めた。これらの 羊 を、 貪 欲 なおおかみから 守 らなければならなかっ<br />

た。ウェスレーは、 新 しい 教 派 をつくろうという 考 えはなかったが、いわゆるメソジ<br />

スト 会 のもとに 人 々を 組 織 した。<br />

これらの 説 教 者 たちは、 国 教 会 から 理 解 に 苦 しむほどの 激 しい 迫 害 を 受 けた。しか<br />

し 神 は、 教 会 それ 自 体 の 内 部 に 改 革 が 起 こるように、 事 態 を 導 いておられたのであっ<br />

た。もしこれが、 全 く 外 部 からのものであれば、 最 も 必 要 なところまで 浸 透 しなかっ<br />

たことであろう。しかし、リバイバル[ 信 仰 復 興 ]の 説 教 者 が 教 会 内 の 人 で、 機 会 ある<br />

ごとに 教 会 内 において 活 動 したので、 真 理 は、さもなければ 閉 じられたままのところ<br />

にも、 入 っていくことができた。 聖 職 者 のあるも のは、 自 分 たちの 道 徳 的 無 感 覚 にめ<br />

ざめて、それぞれの 教 区 で 熱 心 に 宣 教 するようになった。 形 式 主 義 によってマヒして<br />

いた 教 会 が、 生 きかえったのである。<br />

教 会 歴 史 の 各 時 代 におけると 同 様 に、ウェスレーの 時 代 にも、 異 なった 賜 物 を 与 え<br />

られた 人 々が、それぞれに 定 められた 任 務 を 果 たした。 彼 らは、 教 義 のすべての 点 に<br />

おいて 一 致 しているわけではなかったが、すべての 者 は 聖 霊 に 動 かされており、 魂 を<br />

キリストに 導 くという 大 目 的 において 一 致 していた。ホイットフィールドとウェスレ<br />

ー 兄 弟 は、ある 時 、 見 解 の 相 違 から 仲 違 いが 起 こりそうになった。しかし 彼 らは、キ<br />

リストの 学 校 で 柔 和 を 学 んでいたので、お 互 いに 忍 耐 と 愛 をもって 和 解 した。 至 る 所<br />

に 誤 りと 悪 が 満 ち、 罪 人 が 滅 びに 沈 んでいる 時 に、 争 っている 暇 はなかった。<br />

神 のしもべたちは、 困 難 な 道 を 歩 いた。 有 力 者 や 学 者 たちは、その 力 を 振 って 彼 ら<br />

に 反 対 した。しばらくして、 聖 職 者 の 多 くは、 彼 らに 断 固 たる 敵 意 をあらわし、 純 粋<br />

な 信 仰 とその 宣 言 者 とに 対 して、 教 会 の 扉 はふたたび 閉 じられた。 彼 らに 対 する 聖 職<br />

者 たちの 説 教 壇 からの 非 難 は、 人 々の 間 に 暗 黒 と 無 知 と 不 法 を 引 き 起 こすものであっ<br />

た。ジョン・ウェスレーは、 何 度 となく 神 の 憐 れみ 深 い 奇 跡 によって 死 を 免 れた。 群<br />

衆 が 彼 に 対 して 激 しく 怒 って、もはや 逃 げられないように 思 われた 時 、 人 間 の 姿 をし<br />

た 天 使 が 彼 のそばに 来 て、 群 衆 が 後 退 したすきに、キリストのしもべは 危 険 な 場 所 か<br />

ら 安 全 なところに 行 くことができた。<br />

184


国 際 協 定<br />

このようにして 激 怒 した 群 衆 から 救 い 出 されたのであるが、そうした 経 験 の 1 つに<br />

ついて、ウェスレーは 次 のように 語 っている。「われわれが 町 へ 向 かって、すべりや<br />

すい 道 を 下 っていた 時 、 多 くの 者 がわたしを 倒 そうとした。もし 1 度 倒 れたならば、<br />

それきり 起 き 上 がれなかったことだろうと 思 う。しかしわたしは 1 度 も 転 ばず、すべ<br />

りもせずに、 彼 らの 手 から 完 全 に 逃 れた。…… 多 くの 者 がわたしのえりや 服 をつかん<br />

で 引 き 倒 そうとしたが、 彼 らは、しっかりつかむことができなかった。ただ 1 人 、わ<br />

たしのチョッキのポケットのたれぶたをつかんだが、それはすぐにちぎれてしまった。<br />

もう 一 方 の、 銀 行 の 小 切 手 の 入 っていたポケットのたれぶたもちぎれて、 半 分 だけ 残<br />

った。……わたしのすぐ 後 ろにいた 頑 丈 な 男 は、わたしを 大 きな 樫 の 棒 で 数 回 なぐっ<br />

た。もしも 彼 が、それでわたしの 後 頭 部 を 1 度 なぐったならば、もうわたしは、それ<br />

でおしまいだったであろう。しかし、そのたびに、 棒 はわきにそれた。どんなふうに<br />

かは 知 らない。なぜならわたしは、 右 にも 左 にも 動 くことができなかったのだか<br />

ら。……また、もう 1 人 の 男 が 群 衆 をかきわけて 近 づき、 手 を 上 げていきなり 打 ち 下<br />

ろしたが、わたしの 頭 をなでただけであった。<br />

『なんて 柔 らかい 髪 をしてるんだ!』と 彼 は 言 った。……1 番 最 初 に 悔 い 改 めたの<br />

は、 町 の 英 雄 たち、どんな 時 にでも 野 次 馬 たちの 先 頭 に 立 つ 男 たちで、その 中 の 1 人<br />

は、 娯 楽 場 の 拳 闘 選 手 だった 男 であった。…… 神 は、なんと 穏 やかにわれわれを 導 い<br />

て、み 心 を 行 わせられることであろう。2 年 前 に 1 個 のれんががわたしの 肩 をかすめ<br />

た。その 1 年 後 には、 石 がわたしの 両 眼 の 間 に 当 たった。 先 月 は 1 回 なぐられ、 今 夜<br />

は 町 に 入 る 前 に 1 回 と 町 を 出 てから 1 回 、 計 2 回 なぐられた。しかし、2 回 ともなん<br />

ともなかった。1 人 はわたしの 胸 を 力 いっぱい 打 ち、もう 1 人 は、 血 が 吹 き 出 るほど<br />

の 勢 いでわたしの 口 を 打 ったのだが、わたしは、どちらの 場 合 も、わらがさわったほ<br />

どの 痛 みも 感 じなかった。」 14<br />

こうした 初 期 のメソジストは、 説 教 者 も 一 般 信 徒 も、 国 教 会 の 会 員 と 彼 らの 偽 りの<br />

言 葉 によって 興 奮 した 一 般 の 不 信 心 な 人 々から、ちょう 笑 と 迫 害 を 受 けた。 彼 らは 裁<br />

判 所 に 引 き 出 された。しかし、 正 義 の 法 廷 とは 名 ばかりで、 当 時 、 法 廷 で 正 しい 裁 判<br />

はまれであった。 彼 らはしばしば、 迫 害 者 たちの 暴 行 を 受 けた。 暴 徒 が 家 々を 襲 って、<br />

家 財 道 具 を 破 壊 し、 手 当 たりしだいに 略 奪 し、 男 や 女 や 子 供 たちを 残 酷 に 扱 った。ま<br />

たある 時 には、メソジストの 家 の 破 壊 と 略 奪 を 手 伝 いたい 者 は、どこそこにいつ 集 ま<br />

れという 公 の 掲 示 が はられた。このような、 人 間 の 律 法 と 神 の 律 法 に 対 する 明 らかな<br />

違 反 が、なんのとがめもなく 許 されていた。 組 織 的 な 迫 害 が、この 人 々に 加 えられた<br />

のであるが、 彼 らの 唯 一 の 罪 状 は、 罪 人 の 足 を 滅 亡 の 道 から 聖 潔 の 道 へ 向 けようとす<br />

ることであった。<br />

185


国 際 協 定<br />

ジョン・ウェスレーは、 彼 自 身 と 彼 の 仲 間 とに 対 する 非 難 について、 次 のように 言<br />

っている。「ある 人 々はこう 言 う。この 人 々の 教 義 は 偽 りで、 誤 っていて、 狂 信 的 で<br />

ある。 新 しいもので 最 近 まで 聞 いたこともないものである。クエーカー 的 、 狂 信 的 、<br />

法 王 教 的 である。しかし、こうした 主 張 は、 全 く 根 拠 のないもので、この 教 義 のどの<br />

部 分 も、われわれの 教 会 によって 説 き 明 かされた、 聖 書 の 明 白 な 教 義 なのである。そ<br />

れだから、 聖 書 が 真 実 であるならば、これも 偽 りでも 誤 りでもあり 得 ない。」<br />

「 他 の 者 は、『 彼 らの 教 義 は、 厳 格 すぎる。 彼 らは 天 国 への 道 を 狭 くしすぎる』と<br />

言 った。 実 は、これが、そもそも 最 初 からの 反 対 理 由 であって[しばらくの 間 、これが<br />

ほとんど 唯 一 の 反 対 理 由 だったのだが]、いろいろな 形 で 現 れる 多 くの 反 対 の 根 底 にひ<br />

そんでいる。しかしわれわれは、 主 や 使 徒 たちよりも 天 国 の 道 を 狭 くしているであろ<br />

うか。われわれの 教 義 は、 聖 書 の 教 義 よりも 厳 格 であろうか。ほんの 2、3 のはっき<br />

りした 聖 句 を 考 えてみたい。『 心 をつくし、 精 神 をつくし、 力 をつくし、 思 いをつく<br />

して、 主 なるあなたの 神 を 愛 せよ。』『 審 判 の 日 には、 人 はその 語 る 無 益 な 言 葉 に 対<br />

して、 言 い 開 きをしなければならないであろう。』『だから、 飲 むにも 食 べるにも、<br />

また 何 事 をするにも、すべて 神 の 栄 光 のためにすべきである。』<br />

もしわれわれの 教 義 が、これよりも 厳 格 であれば、われわれにその 責 任 がある。し<br />

かし、そうでないことはあなたがたがその 良 心 において、よくごぞんじである。そし<br />

て、 一 点 においても 厳 格 さを 欠 きながら、 神 の 言 葉 を 汚 さないでおられるものがあろ<br />

うか。 神 の 奥 義 の 管 理 者 が、その 神 聖 な 委 託 をいくらかでも 変 えるならば、 彼 を 忠 実<br />

なしもべということができようか。いや、 管 理 者 は、 何 1 つ 減 らしても、 和 らげても<br />

ならない。 彼 は、すべての 人 に 向 かって、『わたしは、あなたの 好 みに 合 わせて 聖 書<br />

を 下 げることはできない。あなたがそこまで 上 って 来 なければならない。さもなけれ<br />

ば、 永 遠 の 滅 びである』と 言 わなければならない。よく『 彼 らには 愛 がない』という<br />

叫 びがきかれるが、それは 実 はこうしたことに 基 づいている。いったい、われわれに<br />

は 愛 がないのだろうか。どの 点 においてであろうか。われわれは、 飢 えた 者 に 食 べさ<br />

せず、 裸 の 者 に 着 せないのであろうか。『いや、そうではない。 彼 らはこの 点 では 欠<br />

けてはいない。しかし、 彼 らは、 人 を 裁 くことにおいて 愛 がない。 彼 らは、 自 分 たち<br />

のようにしなければ 救 われないと 考 えている』[と 反 対 者 たちは 言 うのだ]。」 15<br />

ウェスレーの 時 代 の 直 前 に、 英 国 に 起 こった 霊 的 衰 退 は、 律 法 廃 棄 論 の 教 えの 結 果<br />

であった。キリストは 道 徳 律 を 廃 棄 されたのであるから、キリスト 者 はそれを 守 る 必<br />

要 がない、また、 信 者 は「 善 行 のくびき」から 解 放 されている、と 多 くの 者 は 主 張 し<br />

た。また 他 の 者 は、 律 法 の 永 続 性 を 認 めながらも、 牧 師 が 人 々にその 戒 めに 従 うよう<br />

勧 めることは 無 用 であると 言 った。なぜならば、 神 が 救 いに 選 ばれた 人 々は、「 抵 抗<br />

186


国 際 協 定<br />

できない 神 の 恵 みの 衝 動 にかられて、 敬 虔 と 徳 の 実 行 へと 導 かれる」し、 他 方 、 永 遠<br />

の 滅 びの 運 命 にある 者 は、「 神 の 律 法 に 従 う 力 を 持 っていない」からである、という<br />

のであった。<br />

そのほかにも、「 選 ばれた 者 は、 恵 みを 失 い、 神 の 愛 顧 を 失 うことはあり 得 ない」<br />

と 主 張 し、「 彼 らが 犯 す 悪 行 は、 真 に 悪 いものではなく、 神 の 律 法 を 犯 すものと 考 え<br />

るべきではない。したがって、 彼 らの 罪 を 告 白 することも、 悔 い 改 めによって 罪 から<br />

離 れることも、 必 要 ではない」というさらに 恐 るべき 結 論 に 到 達 する 者 たちもいた。<br />

16 それゆえに、もしも 選 ばれた 者 の 1 人 の 罪 であれば、どんなに 恐 ろしい 罪 で「 一 般<br />

に 神 の 律 法 のはなはだしい 違 反 であると 思 われているものでも、 神 の 前 に 罪 ではない。<br />

なぜならば、 神 のみ 心 を 痛 めたり、 律 法 によって 禁 じられていたりするようなことは、<br />

何 1 つすることができないというのが 選 ばれた 者 の 本 質 的 な、そして 顕 著 な 特 徴 の 1<br />

つだからである」と 彼 らは 断 言 するのであった。<br />

このように 恐 ろしい 教 義 は、 後 世 の 人 気 のある 教 育 家 や 神 学 者 たちの 教 えと、 本 質<br />

的 に 同 じである。すなわち、 義 の 標 準 としての 不 変 の 神 の 律 法 はない。 道 徳 の 標 準 は、<br />

社 会 自 体 が 示 すものであって、 常 に 変 化 するものである、と 彼 らは 言 うのである。こ<br />

うした 考 えは、みな、 同 じサタンの 精 神 の 影 響 によるもので、 彼 は、 罪 のない 天 の 住<br />

民 たちの 間 にいた 時 でさえ、 神 の 律 法 の 正 当 な 抑 制 を 破 ろうとしたのである。<br />

人 間 の 品 性 を 動 かすことができぬように 決 めたという 神 の 定 めの 教 義 は、 多 くの 者<br />

に、 神 の 律 法 を 事 実 上 拒 否 させるに 至 った。ウェスレーは、この 律 法 廃 棄 論 者 たちの<br />

誤 りに 断 固 として 反 対 し、 律 法 廃 棄 論 に 至 らせるこの 教 義 は、 聖 書 に 反 するものであ<br />

ることを 示 した。「すべての 人 を 救 う 神 の 恵 みが 現 れた。」「これは、わたしたちの<br />

救 主 である 神 のみまえに 良 いことであり、また、みこころにかなうことである。 神 は、<br />

すべての 人 が 救 われて、 真 理 を 悟 るに 至 ることを 望 んでおられる。 神 は 唯 一 であり、<br />

神 と 人 との 間 の 仲 保 者 もただひとりであって、それは 人 なるキリスト・イエスである。<br />

彼 は、すべての 人 のあがないとしてご 自 身 をささげられた」[テトス 2:11、Ⅰテモテ<br />

2:3~。すべての 人 が 救 いの 道 を 悟 ることができるように、 神 の 霊 が 豊 かに 与 えられ<br />

ている。こうして「まことの 光 」であられるキリストは、「すべての 人 を 照 」らされ<br />

る[ヨハネ 1:。 人 は、 生 命 の 賜 物 を 故 意 に 拒 否 することによって、 救 いを 受 け 損 じる<br />

のである。<br />

キリストの 死 によって 十 戒 は 礼 典 律 と 共 に 廃 された、という 主 張 に 答 えて、ウェス<br />

レーは 言 った。「 十 戒 に 含 まれ、 預 言 者 が 強 調 した 道 徳 律 を、 主 は 廃 されなかった。<br />

彼 が 来 られたのは、そのどれをも 廃 止 するためではなかった。これは、 廃 することが<br />

187


国 際 協 定<br />

できない 律 法 で、『 天 の 証 人 として 堅 く 立 つ』ものである。……これは、 世 のはじめ<br />

から、『 石 の 板 にではなく』すべての 人 の 心 に、 創 造 主 の 手 によって 造 られた 時 に 書<br />

かれた。しかし、ひとたび 神 の 指 によって 書 かれた 文 字 は、 今 は 罪 のために 大 部 分 損<br />

なわれてはいるが、 善 悪 に 関 する 良 心 があるかぎり、 文 字 を 全 部 消 し 去 ることはでき<br />

ない。この 律 法 のすべての 部 分 は、 各 時 代 のすべての 人 類 が 守 るべきものとして 存 続<br />

すべきものであって、 時 や 場 所 や 環 境 などによって 左 右 されるものではなく、 神 のご<br />

性 質 と 人 間 の 性 質 及 びその 相 互 間 の 不 変 の 関 係 によっているのである。<br />

『 廃 するためではなく、 成 就 するためにきた』……このところの 意 味 は[その 前 後<br />

の 関 係 から 見 て]、 疑 いもなく、 次 のような 意 味 である。わたしは、 人 々のあらゆる 曲<br />

解 にもかかわらず、それを 完 全 に 成 就 するために 来 た。その 不 明 また 不 明 瞭 な 点 は、<br />

なんであれ 完 全 に 明 らかにするために 来 たのである。その 各 部 分 の 真 の 完 全 な 意 味 を<br />

宣 言 するために、そこに 含 まれているすべての 戒 めの 長 さと 広 さ、すなわちその 全 範<br />

囲 、そして、そのあらゆる 分 野 における 高 さと 深 さ、すなわち 人 間 の 思 いも 及 ぼぬ 純<br />

潔 と 霊 性 を 示 すために、わたしはきたのである。」 17<br />

ウェスレーは、 律 法 と 福 音 の 完 全 な 一 致 について、 次 のように 言 っている。「それ<br />

ゆえに、 律 法 と 福 音 の 間 には 深 い 関 係 がある。 一 方 において 律 法 は、たえずわれわれ<br />

を 福 音 へ 導 き、われわれに 福 音 を 指 し 示 す。また、 他 方 において、 福 音 はわれわれを<br />

導 いて、もっと 正 しく 律 法 を 成 就 させようとする。たとえば 律 法 は、 神 を 愛 し 隣 人 を<br />

愛 し、 柔 和 で 謙 そんで 聖 潔 であるようにと、われわれに 要 求 する。われわれは、こう<br />

したことにおいて、 不 十 分 であることを 感 じる。たしかに、『 人 にはそれはできな<br />

い。』しかし、その 愛 をわれわれに 与 え、われわれを 謙 そん、 柔 和 、 聖 潔 にするとい<br />

う 神 の 約 束 を 見 る。われわれは、この 福 音 、この 喜 ばしいおとずれをつかむ。それは、<br />

われわれの 信 仰 に 従 って 行 われるのである。そして、イエス・キリストを 信 じる 信 仰<br />

によって、『 律 法 の 要 求 が……わたしたちにおいて、 満 たされる』のである。」<br />

またウェスレーは、こう 言 った。「キリストの 福 音 の 最 大 の 敵 の 中 には、 公 然 とあ<br />

からさまに、『 律 法 をさばき』『 律 法 をそしる』 人 々があり、また、 律 法 の 中 の 1 つ<br />

[ 最 大 のものであれ 最 小 のものであれ]というのではなく、すべての 戒 めを、 一 撃 のも<br />

とに 破 壊 する[ 廃 止 する、 解 消 する、その 義 務 を 解 く]ことを 人 々に 教 える 者 があ<br />

る。……この 強 力 な 欺 瞞 に 伴 う 状 態 で 最 も 驚 くべきことは、それに 没 頭 している 人 々<br />

が、キリストの 律 法 をくつがえすことによって、キリストをあがめていると 信 じ、 彼<br />

の 教 義 を 廃 しながら、 彼 の 務 めを 大 いならしめていると 信 じこんでいることである。<br />

実 に 彼 らは、ちょうどユダが、『「 先 生 、いかがですか」と 言 って、イエスに 接 吻 し<br />

た』ようにして、 主 をあがめているのだ。<br />

188


国 際 協 定<br />

キリストは、このような 人 々に 対 して、 同 じく『あなたは 接 吻 をもって 人 の 子 を 裏<br />

切 るのか』と 言 われることであろう。 彼 の 血 について 語 りながら、 彼 の 冠 を 取 り 去 り、<br />

福 音 の 進 展 という 名 目 のもとに、 彼 の 律 法 のどの 部 分 であれ 軽 々しく 廃 することは、<br />

接 吻 をもって 彼 を 裏 切 ることにほかならない。 直 接 であれ 間 接 であれ、 服 従 のなんら<br />

かの 部 分 を 廃 するというやり 方 で 信 仰 を 説 こうとする 者 、また、 神 の 戒 めのどんなに<br />

小 さいものでも、それを 取 り 消 したり、または 少 しでも 弱 めたりして、キリストを 宣<br />

べ 伝 える 者 は、この 非 難 を 免 れることはできない。」 18<br />

「 福 音 を 宣 べ 伝 えれば、 律 法 の 目 的 はみな 達 せられる」と 主 張 する 人 々に、ウェス<br />

レーは 答 えた。「この 事 をわれわれは、 全 く 否 定 する。それは、 律 法 の 第 一 の 目 的 、<br />

すなわち、 人 々に 罪 を 自 覚 させること、まだ 黄 泉 [よみ]の 淵 で 眠 っている 者 を 覚 醒 さ<br />

せるということを 果 たしていない。」 使 徒 パウロは、「 律 法 によっては、 罪 の 自 覚 が<br />

生 じる」と 宣 言 している。「 人 間 は、 罪 を 自 覚 しないかぎり、キリストの 贖 罪 の 血 の<br />

必 要 をほんとうには 感 じない。……われわれの 主 ご 自 身 も、『 丈 夫 な 人 には 医 者 はい<br />

らない。いるのは 病 人 である』と 言 われた。それゆえに、 丈 夫 な 者 、または、 少 なく<br />

とも 自 分 は 丈 夫 であると 思 っている 者 に、 医 者 を 与 えても 意 味 がないのである。まず、<br />

彼 らが 病 人 であることを 自 覚 させなければならない。さもないと、 彼 らは、あなたが<br />

たの 労 力 に 感 謝 しないであろう。これと 同 様 に 心 が 丈 夫 で、まだ 砕 かれたことのない<br />

者 に、キリストを 示 すことも、 意 味 のないことである。」 19<br />

こうしてウェスレーは、 神 の 恵 みの 福 音 を 宣 べ 伝 えるとともに、 彼 の 主 と 同 様 に、<br />

「その 教 え[ 律 法 ]を 大 いなるものとし、かつ 光 栄 あるものとすることを」 努 めた。 彼<br />

は、 神 から 与 えられた 仕 事 を 忠 実 に 成 し 遂 げた。そして、 彼 が 見 ることを 許 された 結<br />

果 は、 輝 かしいものであった。 彼 の 80 歳 以 上 の 長 い 生 涯 と、 半 世 紀 を 越 えた 巡 回 伝<br />

道 の 終 わりにおいて、 公 然 と 彼 を 支 持 する 信 仰 が 50 万 人 を 超 えたのである。 しかし、<br />

彼 の 活 動 によって、 罪 の 破 滅 と 堕 落 から 高 潔 な 清 い 生 活 へと 高 められた 群 衆 、また、<br />

彼 の 教 えによって、 深 く 豊 かな 経 験 に 入 れられた 者 の 数 は、 贖 われた 者 の 全 家 族 が 神<br />

の 国 に 集 められるまでは、 知 ることができないであろう。 彼 の 生 涯 は、すべてのキリ<br />

スト 者 にとって、 非 常 に 価 値 ある 教 訓 を 示 している。この 神 のしもべの 信 仰 、 謙 そん、<br />

うむことを 知 らない 熱 意 、 自 己 犠 牲 、 献 身 が、 今 日 の 教 会 の 中 にあらわれることを 願<br />

うのである。<br />

189


国 際 協 定<br />

第 15 章 フランス 革 命<br />

宗 教 改 革 は、16 世 紀 に、 聖 書 を 人 々に 開 いてみせ、ヨーロッパのあらゆる 国 々に<br />

入 っていこうとした。ある 国 々では、それを 天 からの 使 者 として 喜 んで 迎 えた。 他 の<br />

国 々では、 法 王 権 が、その 侵 入 を 防 ぐのに 大 いに 成 功 し、 聖 書 の 知 識 の 光 とその 高 尚<br />

な 感 化 力 は、 全 くといっていいほど 締 め 出 された。ある 国 では、 光 が 入 ったにもかか<br />

わらず、 暗 黒 はそれを 理 解 しなかった。 何 世 紀 もの 間 、 真 理 と 誤 謬 とは 覇 を 競 った。<br />

ついに 悪 が 勝 利 し、 天 の 真 理 は 追 い 出 された。「そのさばきというのは、 光 がこの 世<br />

にきたのに、 人 々は…… 光 よりもやみの 方 を 愛 したことである」[ヨハネ 3:。その 国<br />

は、 自 ら 選 んだ 道 の 結 果 を 刈 りとることになった。 神 の 霊 の 抑 制 が、 神 の 恵 みの 賜 物<br />

を 軽 べつした 国 民 から 取 り 去 られた。 悪 は、 成 熟 するままにされた。 全 世 界 は、 故 意<br />

に 光 を 拒 むことの 結 果 を 見 た。<br />

フランスで 幾 世 紀 も 続 いた、 聖 書 に 対 する 闘 争 は、ついに 革 命 へと 発 展 した。この<br />

恐 ろしいできごとは、ローマが 聖 書 を 圧 迫 した 当 然 の 結 果 にほかならなかった。 革 命<br />

は、 世 界 がローマの 政 策 の 成 り 行 きについて 目 撃 したところの、 最 も 著 しい 例 であっ<br />

た。それは、ローマ 教 会 が 1000 年 以 上 にわたって 教 えてきたことの 結 果 の 実 例 であ<br />

った。<br />

法 王 至 上 権 時 代 における 聖 書 の 禁 止 については、 預 言 者 たちによって 預 言 されてい<br />

た。また、 黙 示 録 の 記 者 は、「 不 法 の 者 」の 支 配 のために、 特 にフランスに 起 こる 恐<br />

ろしい 結 果 をも 指 摘 している。 主 の 天 使 は、 次 のように 言 った。「『 彼 らは、42 か<br />

月 の 間 この 聖 なる 都 を 踏 みにじるであろう。そしてわたしは、わたしのふたりの 証 人<br />

に、 荒 布 を 着 て、1260 日 のあいだ 預 言 することを 許 そう。』……そして、 彼 らがそ<br />

のあかしを 終 えると、 底 知 れぬ 所 からのぼって 来 る 獣 が、 彼 らと 戦 って 打 ち 勝 ち、 彼<br />

らを 殺 す。 彼 らの 死 体 はソドムや、エジプトにたとえられている 大 いなる 都 の 大 通 り<br />

にさらされる。<br />

彼 らの 主 も、この 都 で 十 字 架 につけられたのである。…… 地 に 住 む 人 々は、 彼 らの<br />

ことで 喜 び 楽 しみ、 互 に 贈 り 物 をしあう。このふたりの 預 言 者 は、 地 に 住 む 者 たちを<br />

悩 ましたからである。3 日 半 の 後 、いのちの 息 が、 神 から 出 て 彼 らの 中 にはいり、そ<br />

して、 彼 らが 立 ち 上 がったので、それを 見 た 人 々は 非 常 な 恐 怖 に 襲 われた」[ 黙 示 録<br />

11:2-。ここに、「42 か 月 」と「1260 日 」という 2 つの 期 間 があげられているが、<br />

これは 同 じもので、キリストの 教 会 がローマの 圧 迫 を 受 ける 期 間 を 表 している。1260<br />

年 の 法 王 至 上 権 時 代 は、 紀 元 538 年 に 始 まったから、1798 年 に 終 わることになる。<br />

190


国 際 協 定<br />

この 時 、フランスの 軍 隊 がローマに 侵 入 し、 法 王 を 捕 虜 にした。そして 彼 は 配 所 で 死<br />

んだ。その 後 、すぐ 新 法 王 が 選 ばれたけれども、 法 王 制 度 は、もはや 以 前 のような 権<br />

力 を 振 うことはできなかった。<br />

教 会 の 迫 害 は、1260 年 の 全 期 間 を 通 じて 続 いたわけではなかった。 神 は、 神 の 民<br />

をあわれんで、 火 のような 試 練 の 期 間 を 短 縮 された。 救 い 主 は、 教 会 にふりかかる<br />

「 大 きな 患 難 」を 預 言 して 言 われた。「もしその 期 間 が 縮 められないなら、 救 われる<br />

者 はひとりもないであろう。しかし、 選 民 のためには、その 期 間 が 縮 められるであろ<br />

う」[マタイ 24:。 迫 害 は、 宗 教 改 革 の 影 響 を 受 けて、1798 年 より 前 に 終 わったの<br />

である。<br />

2 人 の 証 人 について、 預 言 者 は、 次 のように 言 っている。「 彼 らは、 全 地 の 主 のみ<br />

まえに 立 っている 2 本 のオリブの 木 、また、2 つの 燭 台 である。」また 詩 篇 記 者 は、<br />

「あなたのみ 言 葉 はわが 足 のともしび、わが 道 の 光 です」と 言 った[ 黙 示 録 11:4、 詩<br />

篇 119:。2 人 の 証 人 というのは、 旧 約 と 新 約 の 聖 書 を 表 している。 両 方 とも、 神 の<br />

律 法 の 起 源 とその 永 続 性 に 関 する 重 要 な 証 言 である。 両 者 はまた、 救 いの 計 画 の 証 人<br />

でもある。 旧 約 聖 書 の 型 、 犠 牲 、 預 言 は、 来 たるべき 救 い 主 をあらかじめ 示 している。<br />

新 約 聖 書 の 福 音 書 と 手 紙 とは、 型 と 預 言 に 示 されたとおりに 来 られた 救 い 主 について<br />

語 っている。<br />

「わたしは、わたしの 2 人 の 証 人 に、 荒 布 を 着 て、1260 日 のあいだ 預 言 すること<br />

を 許 そう。」この 期 間 の 大 部 分 の 間 、 神 の 証 人 は、 人 の 目 につかない 状 態 にあった。<br />

法 王 権 は、 真 理 の 言 葉 を 人 々から 隠 そうと 努 め、 彼 らの 前 に、その 証 言 に 反 ばくする<br />

ために 偽 りの 証 人 を 立 てた。 聖 書 が、 宗 教 界 と 俗 界 の 権 威 によって 禁 止 された 時 、そ<br />

の 証 言 が 曲 解 され、 人 々の 心 をそれから 引 き 離 すために、 人 間 と 悪 鬼 とが 考 え 出 すこ<br />

とのできるあらゆる 努 力 がなされた 時 、 聖 書 の 聖 なる 真 理 を 宣 言 する 者 たちがかり 立<br />

てられ、 裏 切 られ、 拷 問 され、 牢 獄 に 入 れられ、 信 仰 のために 殉 教 し、あるいは 山 の<br />

とりでや 地 の 洞 窟 に 逃 げなければならなかったとき、——そのとき 忠 実 な 証 人 たちは、<br />

荒 布 を 着 て 預 言 したのである。しかも 彼 らは、1260 年 の 全 期 間 を 通 じて、あかしを<br />

立 てつづけたのである。 最 も 暗 黒 な 時 においても、 神 の 言 葉 を 愛 し 神 の 御 名 をあがめ<br />

るのに 熱 心 な、 忠 実 な 人 々があった。これらの 忠 誠 なしもべたちに、この 全 期 間 を 通<br />

じて、 神 の 真 理 を 宣 言 する 知 恵 と 力 と 権 威 とが 与 えられた。<br />

「もし 彼 らに 害 を 加 えようとする 者 があれば、 彼 らの 口 から 火 が 出 て、その 敵 を 滅<br />

ぼすであろう。もし 彼 らに 害 を 加 えようとする 者 があれば、その 者 はこのように 殺 さ<br />

れねばならない」[ 黙 示 録 11:。 神 の 言 葉 をふみにじる 者 は、 罰 を 受 けずにはすまな<br />

191


国 際 協 定<br />

い。この 恐 ろしい 宣 告 の 意 味 は、 黙 示 録 の 最 後 の 章 に 示 されている。「この 書 の 預 言<br />

の 言 葉 を 聞 くすべての 人 々に 対 して、わたしは 警 告 する。もしこれに 書 き 加 える 者 が<br />

あれば、 神 はその 人 に、この 書 に 書 かれている 災 害 を 加 えられる。また、もしこの 預<br />

言 の 書 の 言 葉 をとり 除 く 者 があれば、 神 はその 人 の 受 くべき 分 を、この 書 に 書 かれて<br />

いるいのちの 木 と 聖 なる 都 から、とり 除 かれる」[ 黙 示 録 22:18、。<br />

神 が 啓 示 または 命 令 されたものを、 人 間 がどのような 方 法 によっても 変 更 すること<br />

がないようにと、 神 はこのような 警 告 をお 与 えになった。この 厳 粛 な 警 告 的 宣 言 は、<br />

人 々に 神 の 律 法 を 軽 視 する 影 響 を 及 ぼすすべての 人 に 当 てはまる。 神 の 律 法 に 従 って<br />

も 従 わなくてもたいした 問 題 でないと 軽 率 なことを 言 う 者 は、この 警 告 に 震 えおのの<br />

かねばならない。 神 の 啓 示 よりも 自 分 の 意 見 を 重 要 視 し、 自 分 に 都 合 のいいように、<br />

または 世 俗 と 妥 協 するために、 聖 書 の 明 白 な 意 味 を 変 更 しようとする 者 はみな、 恐 ろ<br />

しい 責 任 を 自 分 で 負 っているのである。 聖 書 と 神 の 律 法 は、すべての 人 の 品 性 をはか<br />

り、この 過 つことのないテストの 結 果 、 欠 けていると 宣 言 されるすべての 者 を、 罪 に<br />

定 めるのである。 「 彼 らがそのあかしを 終 えると。」2 人 の 証 人 が 荒 布 を 着 て 預 言 す<br />

る 期 間 は、1798 年 で 終 わった。 彼 らが 人 目 につかずに 働 く 期 間 が 終 わりに 近 づくと、<br />

「 底 知 れぬ 所 からのぼって 来 る 獣 」といわれている 権 力 が、 彼 らに 戦 いをいどむので<br />

あった。ヨーロッパの 多 くの 国 々において、 教 会 と 国 家 を 支 配 した 諸 権 力 は、 幾 世 紀<br />

にもわたって、 法 王 権 を 通 して、サタンに 支 配 されていた。しかし、ここに、 新 たな<br />

サタン 的 権 力 があらわれたのである。<br />

聖 書 を 崇 敬 すると 言 いながら、それを 人 々の 知 らない 言 語 のまましまい 込 んで、 人<br />

々から 隠 しておくことがローマの 政 策 であった。ローマの 統 治 下 において、 証 人 たち<br />

は、「 荒 布 を 着 て」 預 言 した。しかし、もう 1 つの 権 力 —— 底 知 れぬ 所 からのぼって<br />

来 る 獣 ——があらわれて、 神 の 言 葉 に 対 して 公 然 と 戦 いをいどむのであった。<br />

証 人 たちが 大 通 りで 殺 され、その 死 体 を 横 たえたという「 大 いなる 都 」は、エジプ<br />

トに「たとえられて」いる。 聖 書 歴 史 にあらわれているすべての 国 々の 中 で、エジプ<br />

トほど、 生 きた 神 の 存 在 を 大 胆 に 否 定 し、 神 の 命 令 に 抵 抗 した 国 はない。また、エジ<br />

プトの 王 ほど、 天 の 権 威 に 対 して、 公 然 たる 横 暴 な 反 逆 を 企 てた 王 はない。モーセが<br />

主 の 名 によって、 彼 に 使 命 を 伝 えた 時 、パロは 高 慢 に 答 えた。「 主 とはいったい 何 者<br />

か。わたしがその 声 に 聞 き 従 ってイスラエルを 去 らせなければならないのか。わたし<br />

は 主 を 知 らない。またイスラエルを 去 らせはしない」[ 出 エジプト 5:。これは 無 神 論<br />

である。<br />

192


国 際 協 定<br />

そして、エジプトにたとえられた 国 は、 同 様 に、 生 きた 神 の 要 求 を 拒 み、 同 じよう<br />

な 不 信 と 反 抗 の 精 神 をあらわすのである。「 大 いなる 都 」はまた、ソドムに「たとえ<br />

られて」いる。ソドムが 神 の 律 法 を 犯 して 腐 敗 したのは、 特 に 放 縦 の 点 で 著 しかった。<br />

そこで、この 聖 句 の 記 述 にあてはまる 国 においては、この 罪 もまた 著 しい 特 徴 となる<br />

のであった。 預 言 の 言 葉 に 従 うならば、1798 年 の 少 し 前 に、サタン 的 起 源 と 性 質 を<br />

もったある 種 の 権 力 が、 立 ち 上 がって 聖 書 に 戦 いをいどむのであった。そして、 神 の<br />

2 人 の 証 人 の 証 言 がこうして 沈 黙 させられるその 国 において、パロの 無 神 論 とソドム<br />

の 放 縦 とがあらわれるのであった。<br />

この 預 言 は、フランスの 歴 史 において、 最 も 正 確 に 最 も 著 しく 成 就 した。 革 命 のさ<br />

なか、1793 年 に、「 文 明 国 に 生 まれて 教 育 を 受 け、ヨーロッパ 諸 国 中 最 も 優 れた 国<br />

の 1 つを 統 治 する 権 利 を 有 する 人 々から 成 る 議 会 が、 人 の 心 が 抱 く 最 も 厳 粛 な 真 理 を、<br />

声 をそろえて 否 定 し、 神 に 対 する 信 仰 と 礼 拝 を 満 場 一 致 で 放 棄 するのを、 世 界 は 初 め<br />

て 聞 いたのである。」 1 「フランスは、 宇 宙 の 創 造 主 に 対 して 公 然 と 反 逆 の 手 をあげ<br />

た 国 として、 公 式 の 記 録 が 残 っている 世 界 でただ 1 つの 国 である。 英 国 、ドイツ、ス<br />

ペインその 他 の 国 にも、 多 くの 神 を 汚 す 者 、 多 くの 無 神 論 者 があらわれたし、これか<br />

らも 現 れるであろう。しかし、フランスは、 議 会 の 決 議 によって 無 神 論 を 宣 言 し、 首<br />

都 の 住 民 全 体 と 他 の 地 域 の 大 群 衆 とが、 男 も 女 もその 宣 言 を 喜 び、 歌 い 踊 ったという、<br />

世 界 史 上 唯 一 の 国 である。」 2<br />

またフランスは、 特 にソドムで 著 しかった 特 徴 をあらわした。 革 命 の 時 の 堕 落 と 腐<br />

敗 の 状 態 は、 平 原 の 町 々に 滅 亡 をもたらしたものと 似 ていた。そして 歴 史 家 は、 預 言<br />

のとおりに、フランスの 無 神 論 と 放 縦 な 生 活 をともにあげている。「 宗 教 に 影 響 を 及<br />

ぼすこれらの 法 律 と 密 接 な 関 係 があったのが、 結 婚 を 軽 視 した 法 律 であった。 結 婚 は<br />

人 間 が 結 ぶ 最 も 神 聖 な 契 約 であって、その 永 続 が 社 会 の 統 合 に 最 も 貢 献 するものであ<br />

るにもかかわらずこれを、2 人 の 人 間 が 随 意 に 結 んだり 解 いたりできる 単 なる 一 時 的<br />

な 民 事 契 約 にしてしまった。<br />

……もし 悪 魔 が、 家 庭 生 活 の 尊 ぶべきもの、 優 雅 なもの、また 永 続 的 なものを 最 も<br />

効 果 的 に 破 壊 し、それと 同 時 に、その 目 的 としている 害 毒 を、 世 々にわたって 引 き 続<br />

いて 及 ぼそうとするならば、 結 婚 の 堕 落 以 上 に 効 果 的 な 手 段 を 考 え 出 すことはできな<br />

かったであろう。…… 機 知 に 富 んだことを 言 うことで 有 名 な 女 優 、ソフィ・アルノー<br />

は、フランス 革 命 時 代 の 結 婚 を、『 姦 淫 の 秘 蹟 』と 評 した。」 3<br />

「 彼 らの 主 も、この 都 で 十 字 架 につけられたのである。」この 預 言 の 言 葉 もまた、<br />

フランスによって 成 就 した。キリストに 対 する 敵 意 が、この 国 以 上 に 著 しくあらわれ<br />

193


国 際 協 定<br />

たところはない。 真 理 が、これ 以 上 に 激 しく 残 酷 な 反 対 にあった 国 は 他 にない。フラ<br />

ンスは、 福 音 を 信 じる 者 に 迫 害 を 加 えることによって、 主 の 弟 子 たちを 通 してキリス<br />

トを 十 字 架 につけたのであった。<br />

聖 徒 の 血 は、 幾 世 紀 にわたって 流 された。ワルド 派 の 人 々は、「 神 の 言 葉 とイエス<br />

・キリストのあかしのために」、ピエモンテの 山 々で 彼 らの 生 命 を 捨 てた。 彼 らの 同<br />

信 の 仲 間 たち、フランスのアルビ 派 の 人 々も、 真 理 のための 同 様 のあかしを 立 てた。<br />

宗 教 改 革 時 代 には、その 支 持 者 たちは 恐 ろしい 拷 問 によって 殺 された。 国 王 や 貴 族 、<br />

上 流 の 婦 人 や 優 雅 な 少 女 、 国 家 の 誇 りである 騎 士 たちが、イエスの 殉 教 者 たちの 苦 悩<br />

を 見 て 楽 しんだ。 勇 敢 なユグノー 教 徒 たちは、 人 間 の 心 が 最 も 神 聖 視 するこれらの 権<br />

利 のために 闘 い、 多 くの 激 戦 地 で 彼 らの 血 を 流 した。プロテスタント 教 徒 は、 法 律 の<br />

保 護 外 の 者 とみなされ、 彼 らの 首 には 懸 賞 金 がつけられて、あたかも 野 獣 のようにか<br />

り 立 てられた。<br />

「 荒 野 の 集 会 」と 呼 ばれる、 昔 のキリスト 教 徒 の 子 孫 が、18 世 紀 のフランスにわ<br />

ずかながら 残 っており、 南 方 の 山 中 に 隠 れて、 先 祖 の 信 仰 を 依 然 として 守 っていた。<br />

彼 らが、 夜 、 山 腹 や 寂 しい 荒 れ 地 で 集 会 を 開 こうとすると、 竜 騎 兵 に 追 撃 され、 一 生<br />

ガレー 船 につながれる 奴 隷 として 引 き 立 てられるのであった。<br />

フランスの、 最 も 純 潔 で 最 も 洗 練 され、 最 も 知 的 な 人 々が、 強 盗 や 暗 殺 者 に 混 じっ<br />

て 鎖 につながれ、 恐 ろしい 拷 問 を 受 けた。 4 少 しは 情 けある 扱 いを 受 けた 他 の 者 たちは、<br />

武 装 もなく 無 力 なまま、ひざまずいて 祈 っているところを 射 殺 された。 彼 らの 集 会 の<br />

場 所 は、 何 百 人 という 年 老 いた 人 々、 無 防 備 な 婦 人 、 罪 のない 子 供 たちが、 彼 らが 集<br />

会 をもったその 場 所 で 殺 されて 地 上 に 捨 てておかれた。 彼 らがよく 集 会 を 開 いていた<br />

山 腹 や 森 林 を 通 る 時 、「 数 歩 行 くごとに、 草 原 に 死 体 が 散 在 するか、または 木 からた<br />

れ 下 がっている」のを 見 つけるのは、 珍 しいことではなかった。 彼 らの 地 方 は、 剣 と<br />

おのと 火 刑 のまき 束 で 荒 らされ、「 陰 うつな 一 大 荒 野 と 化 した」「こうした 残 虐 行 為<br />

は、…… 暗 黒 時 代 ではなくて、 輝 かしいルイ 14 世 の 時 代 に 行 われたのであった。そ<br />

の 当 時 、 科 学 は 発 達 し、 文 芸 は 栄 え、 宮 廷 や 首 都 の 聖 職 者 たちは 学 識 ある 雄 弁 家 たち<br />

で、 柔 和 と 愛 の 美 徳 を 大 いに 愛 好 する 人 々だったのである。」 5<br />

しかし、 陰 惨 な 犯 罪 の 歴 史 中 最 も 暗 黒 で、 各 世 紀 を 通 じて 行 われたあらゆる 極 悪 非<br />

道 な 行 為 中 、 最 も 恐 ろしいものは、 聖 バーソロミューの 虐 殺 であった。 世 界 は 今 でも、<br />

あの 最 もひきょうで 残 忍 な 殺 害 の 光 景 を 思 い 起 こして 身 震 いする。フランスの 王 は、<br />

ローマ 教 の 司 祭 や 高 位 聖 職 者 に 迫 られて、 恐 ろしい 行 為 に 彼 の 許 可 を 与 えた。 夜 の 静<br />

けさを 破 って 聞 こえる 鐘 の 音 が、 虐 殺 の 合 図 であった。 幾 千 のプロテスタントは、 王<br />

194


国 際 協 定<br />

の 名 誉 にかけての 約 束 に 信 頼 して、 自 分 たちの 家 で 眠 っていたが、 何 の 警 告 もなく 引<br />

きずり 出 されて、 冷 酷 に 殺 された。<br />

エジプトの 奴 隷 から 神 の 民 を 導 き 出 した 目 に 見 えない 指 導 者 がキリストであったよ<br />

うに、 殉 教 者 の 数 を 増 したこの 恐 ろしい 行 為 において、その 部 下 たちの 目 に 見 えない<br />

指 導 者 はサタンであった。 虐 殺 は、パリで 7 日 続 き、 特 にその 最 初 の 3 日 間 は 狂 暴 を<br />

極 めた。そしてそれはパリ 市 内 だけでなく、 王 の 特 別 な 命 令 によって、プロテスタン<br />

トのいるすべての 地 方 や 町 々にも 及 んだ。 老 若 男 女 の 差 別 はなかった。<br />

何 も 知 らぬ 赤 ん 坊 や 白 髪 の 老 人 にも 容 赦 はなかった。 貴 族 も 農 民 も、 老 いも 若 きも、<br />

母 も 子 もともに 切 り 殺 された。フランス 全 国 において、 虐 殺 は 2 か 月 間 続 いた。 国 民<br />

の 花 とも 言 うべき 7 万 人 が 殺 害 された。 「 虐 殺 の 知 らせがローマに 伝 わると、 聖 職 者<br />

たちの 喜 びは 非 常 なものであった。ロレーヌの 枢 機 卿 は、 使 者 に 1000 クラウンを 報<br />

賞 として 与 えた。 聖 アンジェロ 城 の 大 砲 は 祝 砲 を 放 った。そして、すべての 塔 から 鐘<br />

の 音 が 聞 こえ、かがり 火 は 夜 を 昼 のように 明 るくした。そして、グレゴリー13 世 は、<br />

枢 機 卿 やその 他 の 高 位 聖 職 者 を 従 えて、 長 い 行 列 を 作 って 聖 ルイ 教 会 へ 行 き、そこで<br />

ロレーヌの 枢 機 卿 は、『テ・デウム』を 詠 唱 した。…… 虐 殺 を 記 念 するメダルが 鋳 造<br />

され、バチカンでは 今 でも、バサーリの 3 つの 壁 画 を 見 ることができる。それは、 提<br />

督 襲 撃 の 場 面 、 王 が 虐 殺 を 計 画 しているところ、そして 虐 殺 そのものの 光 景 である。<br />

グレゴリーは、シャルルに 金 製 バラ 章 を 贈 った。そして、 虐 殺 があってから 4 か 月<br />

後 、……フランスの 司 祭 の 説 教 を 満 足 げに 聞 いた。……この 司 祭 は、『 幸 福 と 喜 びに<br />

満 ちた 日 、 法 王 が 知 らせを 受 けて、 神 と 聖 ルイとに 感 謝 するために、 威 儀 を 正 して 行<br />

かれたあの 日 』について、 語 ったのであった。」 6<br />

聖 バーソロミューの 虐 殺 を 引 き 起 こした 同 じ 精 神 が、 革 命 の 場 面 をも 導 いた。イエ<br />

ス・キリストは 詐 欺 師 であると 宣 言 され、フランスの 無 神 論 者 たちはこぞって「 卑 劣<br />

漢 をやっつけろ」と 叫 んだが、これはキリストのことであった。 天 を 恐 れない 冒 瀆 と<br />

言 語 道 断 の 罪 悪 とがともに 行 われ、 最 も 卑 劣 な 人 間 たち、 残 酷 悪 徳 のかぎりを 尽 くし<br />

た 無 頼 漢 たちが、 最 も 賞 賛 された。こうしたすべてのことにおいて、 最 高 の 栄 誉 がサ<br />

タンにささげられた。それに 反 して、 真 理 、 純 潔 、 無 我 の 愛 という 特 質 をもっておら<br />

れるキリストが、 十 字 架 につけられたのであった。<br />

「 底 知 れぬ 所 からのぼって 来 る 獣 が、 彼 らと 戦 って 打 ち 勝 ち、 彼 らを 殺 す。」 革 命<br />

と 恐 怖 政 治 の 時 代 にフランスを 支 配 した 無 神 論 的 権 力 は、これまで 世 界 になかったほ<br />

どの 戦 いを、 神 と 聖 書 に 対 していどんだ。 神 の 礼 拝 が、 国 会 によって 廃 止 された。 聖<br />

書 は 集 められて、あらゆる 軽 べつを 浴 びせられながら、 公 衆 の 前 で 焼 かれた。 神 の 律<br />

195


国 際 協 定<br />

法 はふみにじられた。 聖 書 的 な 諸 制 度 は 廃 止 された。 毎 週 の 休 日 は 廃 止 され、その 代<br />

わりに、10 日 目 が 歓 楽 と 冒 瀆 の 日 に 定 められた。バプテスマと 聖 餐 式 は 禁 止 された。<br />

そして 墓 地 には、 死 は 永 遠 の 眠 りであると 宣 言 する 掲 示 が、 目 立 つように 立 てられ<br />

た。<br />

神 を 恐 れることは、 知 恵 のはじめであるどころか、 愚 のはじめであると 言 われた。<br />

自 由 と 国 家 とに 対 するもの 以 外 のすべての 宗 教 的 礼 拝 は 禁 止 された。「パリの 憲 法 宣<br />

誓 司 教 は、 国 民 の 代 表 たちの 前 で、 最 も 恥 知 らずで 言 語 道 断 の 茶 番 劇 の 主 役 を 演 じさ<br />

せられた。…… 彼 は 行 列 を 従 えて 出 て 来 て、 彼 が 長 年 教 えてきた 宗 教 は、すべての 点<br />

において 聖 職 者 たちの 政 略 であって、 歴 史 にも 神 聖 な 真 理 にも 基 づいていないもので<br />

あると、 国 民 議 会 で 宣 言 させられた。 彼 は、 厳 粛 で 明 白 な 口 調 で、これまで 自 分 が 礼<br />

拝 のために 献 身 してきた 神 の 存 在 を 否 定 し、これからは、 自 由 、 平 等 、 徳 、 道 義 に 忠<br />

誠 を 誓 うと 言 った。それから 彼 は、 自 分 の 司 教 の 衣 服 を 脱 いで 卓 上 におき、 国 民 議 会<br />

の 議 長 から 友 愛 の 抱 擁 を 受 けた。 数 名 の 背 教 した 司 祭 が、この 高 位 聖 職 者 の 例 になら<br />

った。」 7<br />

「 地 に 住 む 人 々は、 彼 らのことで 喜 び 楽 しみ、 互 に 贈 り 物 をしあう。このふたりの<br />

預 言 者 は、 地 に 住 む 者 たちを 悩 ましたからである」[ 黙 示 録 11:。 不 信 のフランスは、<br />

神 の 2 人 の 証 人 の 譴 責 の 声 を 沈 黙 させた。 真 理 の 言 葉 は 殺 されて、 大 通 りに 横 たえら<br />

れた。そして、 神 の 律 法 の 制 限 や 要 求 を 憎 んだ 人 々は、 歓 声 をあげた。 人 々は、 公 然<br />

と 天 の 王 に 挑 戦 した。 昔 の 罪 人 たちのように、「 神 はどうして 知 り 得 ようか、いと 高<br />

き 者 に 知 識 があろうか」と 叫 んだ[ 詩 篇 73:。<br />

新 しい 秩 序 のもとでの 司 祭 の 1 人 は、 信 じられないような 大 胆 な 冒 瀆 さで 言 った。<br />

「 神 よ、もし 存 在 するならば、あなたの 傷 つけられた 名 のふくしゅうをせよ。わたし<br />

は 挑 戦 する。あなたは 黙 っている。 怒 ることはできまい。 今 後 、だれがあなたの 存 在<br />

を 信 じるであろうか。」 8 これはパロの 言 った、「 主 とはいったい 何 者 か。わたしがそ<br />

の 声 に 聞 き 従 わ……なければならないのか。」「わたしは 主 を 知 らない」という 言 葉<br />

と、なんとよく 似 ていることであろう。<br />

「 愚 かな 者 は 心 のうちに『 神 はない』と 言 う」[ 詩 篇 14:。そして、 主 は、 真 理 を<br />

曲 解 する 者 について、「 彼 らの 愚 かさは…… 多 くの 人 に 知 れて 来 るであろう」と 言 わ<br />

れた[Ⅱテモテ 3:。フランスは、「いと 高 く、いと 上 なる 者 、とこしえに 住 む 者 」で<br />

ある 生 きた 神 の 礼 拝 を 放 棄 して 間 もなく、 理 性 の 女 神 の 礼 拝 という 低 劣 な 偶 像 礼 拝 に<br />

陥 った。 不 品 行 な 一 女 性 が、この 理 性 の 女 神 に 仕 立 てられた。しかも、これが、 国 民<br />

を 代 表 する 議 会 において、そして、 行 政 と 立 法 の 最 高 の 権 威 者 たちによって、 行 われ<br />

196


国 際 協 定<br />

たのである。 歴 史 家 は、 次 のように 言 っている。「この 狂 気 の 時 代 の 儀 式 の 1 つは、<br />

不 合 理 と 不 敬 虔 とを 結 合 した 点 で、 他 に 類 を 見 ない。 議 会 の 扉 が 広 く 開 かれ、 音 楽 隊<br />

を 先 頭 に、 市 当 局 の 役 員 が 厳 粛 な 行 列 を 作 って、 自 由 の 賛 歌 を 歌 いながら 入 って 来 た。<br />

そして、これから 彼 らが 礼 拝 する 対 象 、すなわち、 彼 らが 理 性 の 女 神 と 称 するところ<br />

の、ベールをかけた 女 性 を 案 内 してきた。いよいよ 会 場 内 に 入 ると、 彼 らは 厳 かに 彼<br />

女 のベールを 脱 がせて、 議 長 の 右 側 にすわらせた。そしてその 時 人 々は、 彼 女 がオペ<br />

ラのダンサーであることに 気 づいた。……この 女 性 に 対 して、フランスの 国 会 は、 彼<br />

らの 礼 拝 する 理 性 に 最 もふさわしい 代 表 者 として 公 の 敬 意 を 表 したのである。<br />

この 不 敬 虔 で、 言 語 道 断 の 無 言 劇 は 流 行 した。 理 性 の 女 神 の 除 幕 式 は、 革 命 の 最 高<br />

潮 に 遅 れをとる まいとする 住 民 のいる、 国 内 の 至 る 所 でくり 返 され 模 倣 された。」 9<br />

理 性 の 女 神 の 礼 拝 を 提 案 した 演 説 者 は 言 った。「 代 議 士 諸 君 、 今 や 狂 信 は 理 性 に 敗<br />

れた。そのかすんだ 目 は、 輝 かしい 光 に 耐 えられなかった。 今 日 、 無 数 の 群 衆 がゴシ<br />

ックの 丸 天 井 の 下 に 集 まり、 初 めて 真 理 を 反 響 させたのである。フランス 人 は、ここ<br />

で 唯 一 の 真 の 礼 拝 、 自 由 と 理 性 の 礼 拝 を 行 った。ここでわれわれは、 共 和 国 の 軍 隊 の<br />

隆 盛 を 祈 った。ここでわれわれは、 生 命 のない 偶 像 を 捨 てて、 理 性 、 生 命 のある 像 、<br />

自 然 の 傑 作 を 礼 拝 したのである。」 10<br />

女 神 が 議 場 に 入 ってきた 時 、 演 説 者 は 彼 女 の 手 をとり、 会 衆 に 向 かって 言 った。<br />

「 人 間 たちよ。あなたがたの 恐 怖 が 造 り 出 した 神 の、 無 力 な 怒 りの 前 に 震 えるのをや<br />

めよ。これからは、 理 性 以 外 の 神 を 認 めるな。わたしは、その 最 も 高 貴 で 純 粋 な 像 を<br />

紹 介 する。もしあなたがたが 偶 像 を 持 たねばならぬのならば、このようなものにだけ<br />

犠 牲 をささげよ。…… 堂 々たる 自 由 の 殿 堂 の 前 で、 理 性 から 幕 を 除 こう!」<br />

「 女 神 は、 議 長 から 抱 擁 を 受 けたあとで、 豪 華 な 車 に 乗 せられ、 神 の 地 位 につくた<br />

めに、 大 群 衆 の 中 を 通 ってノートルダムの 聖 堂 へ 導 かれた。ここで 彼 女 は、 高 い 祭 壇<br />

にあげられて、 列 席 したすべての 者 の 礼 拝 を 受 けた。」 11 これに 続 いてまもなく、 公<br />

衆 の 前 で 聖 書 が 焼 かれた。ある 時 、「 民 間 博 物 館 協 会 」の 人 々が、「 理 性 万 歳 !」と<br />

叫 びながら 市 の 公 会 堂 に 入 った。 棒 の 先 には、 半 焼 けになった 何 冊 かの 本 を 突 き 刺 し<br />

ていたが、その 中 には、 祈 祷 書 、ミサ 典 書 、 旧 新 約 聖 書 などがあった。それらは「 人<br />

類 をして 犯 さしめたあらゆる 愚 行 を、 大 いなる 火 でもって 償 ったのである」と 会 長 は<br />

言 った。 12<br />

無 神 論 者 が 完 成 しつつあった 仕 事 を、 最 初 に 始 めたのは 法 王 権 であった。フランス<br />

をこのように 速 やかに 破 滅 に 陥 れた、 社 会 的 政 治 的 宗 教 的 状 勢 を 引 き 起 こしたのは、<br />

ローマの 政 策 であった。 著 作 家 たちは、 革 命 の 恐 怖 に 言 及 して、これらの 暴 挙 は 国 王<br />

197


国 際 協 定<br />

と 教 会 の 責 任 であると 述 べている。 厳 密 に 言 うならば、それらは 教 会 の 責 任 であっ<br />

た。<br />

法 王 側 は、 王 たちに、 宗 教 改 革 に 対 する 反 感 を 抱 かせ、それが 王 の 敵 であり、 国 家<br />

の 平 和 と 秩 序 を 破 壊 する 不 穏 な 分 子 であると 考 えさせた。こうして、 国 王 に 最 も 恐 ろ<br />

しい 残 酷 な 行 為 と 悲 惨 な 迫 害 を 行 わせるのが、ローマのやり 方 であった。<br />

自 由 の 精 神 は、 聖 書 と 共 に 伝 わった。 福 音 が 伝 えられたところはどこでも、 人 々の<br />

心 が 覚 醒 された。 彼 らは、 今 まで 自 分 たちを、 無 知 と 悪 習 と 迷 信 の 奴 隷 として 縛 って<br />

いた 拘 束 を 捨 て 始 めた。 彼 らは、 人 間 として 思 考 し 行 動 しはじめた。 国 王 たちはこれ<br />

を 見 て、 彼 らの 専 制 政 治 の 安 泰 を 気 づかった。<br />

ローマは、 彼 らのしっと 深 い 恐 怖 心 をたきつけるのに 後 れをとらなかった。1525<br />

年 、フランスの 摂 政 にあてて 法 王 は 言 った。「この 宗 教 狂 [プロテスタント 主 義 ]は、<br />

宗 教 を 混 乱 させ 破 壊 するだけでなくて、すべての 主 権 者 、 貴 族 、 法 律 、 秩 序 、 階 級 を<br />

も 破 壊 するものである。」 13 その 数 年 後 に、 法 王 の 使 節 は、 王 に 警 告 して 言 った。<br />

「 陛 下 、 欺 かれてはなりません。プロテスタントは、 宗 教 的 秩 序 とともにあらゆる 市<br />

民 的 秩 序 をもくつがえすでしょう。…… 祭 壇 と 同 様 に、 王 座 も 非 常 な 危 険 にさらされ<br />

ております。…… 新 しい 宗 教 をとり 入 れることは、 当 然 新 しい 政 府 をもたらすことに<br />

なります。」 14 また 神 学 者 たちは、プロテスタントの 教 義 は、「 人 々を 目 新 しい 愚 か<br />

なものに 誘 い、 国 民 の 王 に 対 する 敬 愛 を 失 わせ、 教 会 と 国 家 を 2 つとも 荒 廃 させる」<br />

と 言 って、 人 々の 偏 見 をあおった。こうして、ローマは、フランスをして 宗 教 改 革 に<br />

敵 対 させるのに 成 功 した。「フランスにおいて、 迫 害 の 剣 が 最 初 に 抜 かれたのは、 王<br />

位 を 安 全 にし、 貴 族 を 保 護 し、 法 律 を 維 持 するという 名 の 下 にであった。」 15<br />

国 の 支 配 者 たちは、この 致 命 的 政 策 の 結 果 を 予 見 することが、ほとんどできなかっ<br />

た。 聖 書 の 教 えは、 正 義 、 節 制 、 真 実 、 平 等 、 慈 愛 など、 国 家 の 繁 栄 の 基 礎 である 原<br />

則 を、 人 々の 心 と 思 いに 植 えつけたはずであった。「 正 義 は 国 を 高 く」し、 正 義 によ<br />

って、「その 位 が…… 堅 く 立 」つのである[ 箴 言 14:34、16:。<br />

「 正 義 は 平 和 を 生 じ、 正 義 の 結 ぶ 実 はとこしえの 平 安 と 信 頼 である」[イザヤ 32:。<br />

神 の 律 法 に 従 う 者 は、 真 心 から 自 分 の 国 の 法 律 を 重 んじて、 守 るのである。 神 を 恐 れ<br />

る 者 は、すベての 正 当 で 合 法 的 な 権 威 を 行 使 する 王 を、 尊 ぶのである。しかし、 不 幸<br />

なことに、フランスは 聖 書 を 禁 止 し、それを 信 じる 者 たちを 追 放 した。 幾 世 紀 にわた<br />

って、 原 則 に 堅 く 立 つ 誠 実 な 人 々、 知 的 鋭 さと 道 徳 的 強 靱 さを 持 った 人 々、 確 信 する<br />

ところを 公 言 する 勇 気 と、 真 理 のために 苦 しむ 信 念 を 持 った 人 々——こうした 人 々が<br />

幾 世 紀 にもわたって、ガレー 船 の 奴 隷 となって 苦 しみ、 火 刑 にされ、あるいは 牢 獄 で<br />

198


国 際 協 定<br />

やせ 衰 えていった。 幾 千 もの 人 々が 逃 亡 して、 安 全 な 地 に 行 った。そしてこれは、 宗<br />

教 改 革 が 始 まってから、250 年 間 も 続 いたのである。<br />

「その 長 期 間 のどの 時 代 においても、 追 害 者 の 狂 った 怒 りから 逃 亡 する 福 音 の 使 徒<br />

たちを 見 なかったフランスの 世 代 は、ほとんどなかった。そして 彼 らは 一 般 に、 著 し<br />

く 優 れた 知 能 、 技 術 、 工 芸 、 秩 序 を 持 っていて、 逃 亡 した 先 の 国 々を 富 ませた。そし<br />

て、 彼 らがこれらの 優 れた 才 能 によって、 他 の 国 々を 満 たしたのに 比 例 して、フラン<br />

ス 自 体 はからになっていった。 追 いやられた 人 々がみなフランスに 残 っていたならば、<br />

また、この 300 年 の 間 に、 逃 亡 者 たちの 産 業 的 技 術 が、 土 地 の 耕 作 に 向 けられていた<br />

ならば、そしてこの 300 年 の 間 に 彼 らの 芸 術 的 趣 向 が、フランスの 製 品 を 改 善 してい<br />

たならば、また、もしこの 300 年 の 間 に 彼 らの 創 造 的 才 能 と 分 析 的 能 力 とが、フラン<br />

スの 文 学 を 豊 富 にし、 科 学 を 発 展 させていたならば、また、もし 彼 らの 知 恵 がフラン<br />

スの 議 会 を 指 導 し、 彼 らの 勇 敢 さが 戦 場 で 戦 い、 彼 らの 公 正 が 法 律 を 制 定 し、 聖 書 の<br />

宗 教 がフランス 人 の 知 能 を 啓 発 し、 良 心 を 支 配 していたならば、 今 、フランスはどん<br />

なにか 栄 光 に 輝 いていたことであろう。フランスは、どんなにか 偉 大 な、 繁 栄 した 幸<br />

福 な 国 となり、 諸 国 の 模 範 となっていたことであろう。<br />

しかし、 盲 目 で 冷 酷 な 頑 迷 さのために、フランスは、その 国 土 からすべての 高 潔 な<br />

教 師 、すべての 秩 序 の 支 持 者 、すべての 真 実 な 王 位 擁 護 者 を 追 い 払 ってしまった。フ<br />

ランスは、 自 国 を「 名 声 と 栄 光 」の 国 としたはずの 人 々に、 火 刑 か 追 放 か、そのどち<br />

らかを 選 べと 言 ったのであった。<br />

ついに 国 家 は、 衰 退 の 極 に 達 した。もはや 禁 じるべき 良 心 はなくなり、 火 刑 に 引 き<br />

ずっていくべき 宗 教 はもうなくなった。かり 立 てて 追 放 すべき 愛 国 心 は、もはやなく<br />

なってしまった。」 16 そして、その 恐 るべき 結 果 として、 戦 標 すべき 革 命 が 起 きたの<br />

であった。<br />

「ユグノー 教 徒 の 逃 亡 によって、フランスは 全 般 的 に 衰 退 した。 製 造 業 の 繁 栄 して<br />

いた 都 市 が 衰 えた。 肥 沃 な 地 方 が 元 の 荒 れ 地 にもどった。まれな 進 歩 の 期 間 のあとに、<br />

知 的 沈 滞 と 道 徳 的 退 化 が 続 いた。パリは 巨 大 な 救 貧 院 のようになり、 革 命 が 起 こった<br />

当 時 は、20 万 の 貧 民 が 王 からの 施 しを 請 うていた。イエズス 会 だけが、 衰 微 していく<br />

国 内 にあって 繁 栄 し、 教 会 と 学 校 と 牢 獄 とガレー 船 の 上 に、 恐 ろしい 圧 政 を 行 ってい<br />

た。」<br />

福 音 は、フランスに、 政 治 的 社 会 的 諸 問 題 —— 聖 職 者 、 国 王 、 立 法 者 たちの 手 に 負<br />

えず、ついに 国 家 を 無 政 府 状 態 と 破 滅 に 陥 れたところの 諸 問 題 ——の 解 決 をもたらす<br />

はずであった。しかし 人 々は、ローマの 支 配 下 にあって、 自 己 犠 牲 と 無 我 の 愛 という、<br />

199


国 際 協 定<br />

救 い 主 のすばらしい 教 訓 を 忘 れていた。 彼 らは、 他 人 の 幸 福 のために 自 分 を 犠 牲 にす<br />

ることから、かけ 離 れてしまっていた。 金 持 ちが 貧 者 を 圧 迫 してもだれからも 譴 責 さ<br />

れず、 貧 者 は、その 苦 役 と 堕 落 からの 救 いを 与 えられなかった。 富 と 権 力 を 持 つ 者 の<br />

利 己 心 は、ますます 露 骨 で 圧 制 的 になった。 幾 世 紀 にわたって、 貴 族 の 貪 欲 と 放 蕩 は、<br />

農 民 に 対 する 苛 酷 な 搾 取 を 行 ってきた。 金 持 ちは 貧 者 をしいたげ、 貧 者 は 金 持 ちを 憎<br />

んだ。<br />

多 くの 地 方 において 地 所 は 貴 族 が 所 有 し、 労 働 者 階 級 は 小 作 人 に 過 ぎなかった。 彼<br />

らは 地 主 の 言 いなりであって、 彼 らの 法 外 な 要 求 に 従 わなければならなかった。 教 会<br />

と 国 家 をささえる 負 担 は、 中 流 と 下 層 階 級 に 負 わされ、 彼 らには 国 家 と 聖 職 者 から 重<br />

税 がかけられた。<br />

「 貴 族 は 快 楽 の 追 求 を 第 一 とし、 圧 迫 者 たちは 農 民 たちが 餓 死 しようといっこうに<br />

かまわなかった。…… 民 衆 はどんな 場 合 でも、 地 主 の 利 益 だけを 考 えなければならな<br />

かった。 農 業 労 働 者 の 生 活 は 労 働 の 連 続 で、 救 われる 道 のない 悲 惨 な 生 活 であった。<br />

彼 らの 苦 情 は、それを 訴 えることができたにしても、おうへいな 軽 べつ 的 態 度 で 扱 わ<br />

れた。 法 廷 は 常 に 貴 族 の 言 い 分 を 聞 いて、 農 民 の 言 い 分 を 聞 かなかった。 裁 判 官 がわ<br />

いろを 受 け 取 るのは、 公 然 の 秘 密 であった。このような 全 般 的 腐 敗 の 体 制 の 中 では、<br />

貴 族 のほんの 気 まぐれが 法 としての 力 を 持 った。 一 方 では 世 俗 の 権 力 が、そして 他 方<br />

では 聖 職 者 たちが、 庶 民 から 巻 き 上 げた 税 金 の、その 半 分 も 王 室 や 教 会 の 金 庫 には 入<br />

らなかった。 残 りは 遊 興 と 放 縦 のために 浪 費 されてしまった。こうして、 同 胞 を 窮 乏<br />

に 陥 れた 人 々 自 身 は 税 金 を 免 れ、 法 律 によって、あるいは 習 慣 に 従 って、 国 家 のすべ<br />

ての 要 職 を 占 めていた。 特 権 階 級 は、15 万 人 に 達 していた。そして、 彼 らを 満 ち 足 ら<br />

せるために、 幾 百 万 の 人 々が、 望 みのない 惨 めな 生 活 を 余 儀 なくされていた」。<br />

宮 廷 は、ぜいたくと 放 蕩 にふけっていた。 国 民 と 支 配 者 の 間 に 信 頼 はなかった。 政<br />

府 の 政 策 はみな、たくらみのある 我 欲 に 満 ちたものであると、 疑 惑 の 目 で 見 られた。<br />

革 命 が 起 こる 前 、50 年 以 上 にわたって、ルイ 15 世 が 王 位 を 占 めていたが、 彼 は、そ<br />

のような 堕 落 した 時 代 においてさえ、 怠 惰 で 軽 薄 、 淫 蕩 な 王 として 有 名 であった。 腐<br />

敗 し 残 酷 な 上 流 階 級 、 窮 乏 に 陥 り 無 知 な 下 層 階 級 、 国 家 の 財 政 困 難 、 国 民 の 憤 激 など<br />

を 見 れば、 預 言 者 でなくても、 恐 ろしい 暴 動 が 起 ころうとしていることは 予 想 できた。<br />

王 は、 顧 問 官 たちの 警 告 に 対 して、「わたしの 存 命 中 は、 現 状 のままで 継 続 せよ。わ<br />

たしの 死 後 は、どうなってもかまわない」と 答 えるのが 常 であった。 改 革 の 必 要 を 力<br />

説 してもむだであった。 王 は 弊 害 を 認 めてはいたが、それを 改 める 勇 気 も 力 もなかっ<br />

た。 彼 の 怠 惰 で 利 己 的 な「あとは 野 となれ 山 となれ」という 答 えは、 切 迫 したフラン<br />

スの 運 命 を、あまりにも 正 確 に 描 写 していた。<br />

200


国 際 協 定<br />

ローマは、 王 や 支 配 階 級 のしっと 心 に 訴 えて、 国 民 を 奴 隷 として 縛 っておくように<br />

彼 らを 動 かした。ローマはこうすれば 国 家 が 弱 くなり、この 方 法 で 支 配 者 と 国 民 を 両<br />

方 ともローマの 奴 隷 にしておけることをよく 知 っていた。ローマは、はるか 将 来 を 見<br />

通 して、 人 間 を 思 いのままに 奴 隷 にするには 心 を 束 縛 しなければならないこと、また、<br />

彼 らがその 束 縛 からどうしても 逃 れることができないようにするには、 自 由 を 与 えな<br />

いようにしなければならないことを 知 っていた。ローマの 政 策 がひき 起 こした 肉 体 的<br />

苦 痛 より 幾 千 倍 も 恐 ろしいことは、 道 徳 的 堕 落 であった。 人 々は 聖 書 を 奪 われ、 偏 狭<br />

で 利 己 的 な 教 えを 聞 かせられ、 無 知 と 迷 信 に 閉 ざされていた。そして 彼 らは、 悪 習 に<br />

陥 り、 全 く 自 制 ができなくなっていた。<br />

しかしこれらすべてのことの 結 果 は、ローマが 意 図 したものとは 非 常 に 異 なったも<br />

のであった。ローマの 行 ったことは、 大 衆 を 盲 目 的 にローマの 教 義 に 服 従 させる 代 わ<br />

りに、 彼 らを 無 神 論 者 と 革 命 論 者 にしてしまった。 彼 らはローマ・カトリック 教 を、<br />

僧 侶 の 策 略 であるとして 軽 べつした。 彼 らは、 聖 職 者 たちを、 彼 らを 圧 迫 するものの<br />

一 部 とみなした。 彼 らが 知 っている 唯 一 の 神 は、ローマの 神 であった。またその 教 え<br />

が、 彼 らの 唯 一 の 宗 教 であった。 彼 らは、ローマの 貪 欲 と 残 酷 は、 聖 書 が 結 ぶ 当 然 の<br />

実 であると 考 え、そのようなものはいらぬと 思 った。<br />

ローマは、 神 の 品 性 を 誤 って 伝 え、 神 の 要 求 をゆがめていた。そこで 人 々は、 聖 書<br />

もその 著 者 も、 共 に 拒 否 してしまった。ローマは、 聖 書 がそれを 認 めているかのよう<br />

に 装 いつつ、 自 分 の 教 義 に 盲 目 的 信 仰 を 要 求 してきた。その 反 動 として、ボルテール<br />

と 彼 の 仲 間 たちは、 聖 書 を 全 面 的 に 拒 否 し、 至 る 所 に 不 信 の 害 毒 を 広 めた。ローマは<br />

人 々を 弾 圧 し、 苦 しめてき た。そして 今 度 は、 堕 落 し 狂 暴 になった 大 衆 が、ローマの<br />

暴 虐 をはねのけて、すべての 束 縛 を 投 げ 捨 てた。 彼 らは、 自 分 たちが 長 い 間 尊 敬 を 払<br />

ってきた 華 麗 な 詐 欺 に 憤 激 して、 真 理 と 虚 偽 の 両 方 を 拒 絶 した。そして、 放 縦 を 自 由<br />

と 取 り 違 えて、 悪 徳 の 奴 隷 たちは 自 由 を 得 たものと 思 って 狂 喜 した。<br />

革 命 が 始 まった 時 、 人 々には 王 の 譲 歩 のもとに、 貴 族 と 聖 職 者 を 合 計 した 数 以 上 の<br />

代 表 数 が 与 えられた。こうして 彼 らは、 政 治 の 実 権 を 握 った。しかし 彼 らは、それを<br />

賢 明 に 適 度 に 用 いる 準 備 がなかった。 彼 らは、 自 分 たちが 苦 しんできた 圧 迫 を 除 くこ<br />

とに 熱 心 で、 社 会 の 改 造 を 断 行 しようとした。 長 い 間 虐 待 されてきた 苦 い 思 い 出 をも<br />

つところの 憤 激 した 群 衆 は、もはや 耐 えられないまでになった 悲 惨 な 状 態 を 変 革 し、<br />

このような 苦 境 に 彼 らを 陥 れたと 思 われる 者 たちにふくしゅうしようと 決 意 した。 圧<br />

迫 を 受 けた 者 たちは、 暴 政 の 下 で 学 んだことを 実 行 し、 彼 らを 圧 迫 した 者 たちの 圧 迫<br />

者 となった。<br />

201


国 際 協 定<br />

不 幸 なフランスは、 自 分 がまいた 種 の 収 穫 を、 血 で 刈 り 取 った。フランスがローマ<br />

の 支 配 力 に 従 った 結 果 は、 実 に 恐 ろしいものであった。フランスが、ローマ・カトリ<br />

ック 教 会 の 影 響 下 において、 宗 教 改 革 の 初 期 に 最 初 の 火 刑 柱 を 立 てたところに、 革 命<br />

は、その 最 初 のギロチンをすえた。16 世 紀 に、プロテスタントの 信 仰 のための 最 初 の<br />

殉 教 者 が 焼 かれたその 同 じ 場 所 で、18 世 紀 に、 最 初 の 犠 牲 者 がギロチンで 殺 された。<br />

フランスに 癒 しをもたらしたはずの 福 音 を 拒 んだために、フランスは、 不 信 と 破 滅 の<br />

門 を 開 いた。 神 の 律 法 の 抑 制 を 放 棄 してしまった 時 に、 人 間 の 法 律 では 人 間 の 激 情 の<br />

強 力 な 潮 流 を、 抑 止 できないことが 明 らかになった。そして 国 民 は、 反 乱 と 無 政 府 状<br />

態 に 陥 ってしまった。 聖 書 に 戦 いをいどんだことが、 世 界 史 において 恐 怖 政 治 の 時 代<br />

と 呼 ばれる 一 時 代 を 開 くことになった。 人 々の 家 庭 と 心 から、 平 和 と 幸 福 が 去 った。<br />

だれも 安 心 しておられなかった。 今 日 勝 ち 誇 っている 者 が、 明 日 は 嫌 疑 をかけられて<br />

罪 に 定 められた。 暴 力 と 欲 望 が、わがもの 顔 に 横 行 した。<br />

王 侯 、 聖 職 者 、 貴 族 たちは、 興 奮 して 熱 狂 した 人 々の 残 虐 行 為 に 服 するほかなかっ<br />

た。 彼 らのふくしゅう 欲 は、 王 の 処 刑 によって、いっそう 強 烈 になるばかりであった。<br />

そして、 王 の 処 刑 を 命 じた 人 々が、 間 もなく 引 き 続 いて 処 刑 台 に 上 った。 革 命 の 反 対<br />

者 であるという 嫌 疑 を 受 けた 者 たちは、 皆 殺 しにされた。<br />

牢 獄 は 満 ちあふれ、 一 時 は 囚 人 が 20 万 人 を 超 えた。 国 内 の 諸 都 市 は、 恐 ろしい 光<br />

景 で 満 ちた。 革 命 家 の 一 派 は 他 の 一 派 と 争 い、フランスは、 大 群 衆 の 激 情 のあらしの<br />

ままに 揺 れる 一 大 戦 場 と 化 した。「パリでは 暴 動 が 次 々に 起 こり、 市 民 たちは、さま<br />

ざまの 党 派 に 分 かれていたが、それは 互 いに 滅 ぼし 合 おうとしているとしか 思 えなか<br />

った。」 国 を 挙 げての 悲 惨 に 加 えて、 国 家 はヨーロッパ 大 同 盟 軍 との、 長 期 にわたる<br />

破 壊 的 な 戦 争 状 態 に 陥 った。「 国 家 は 破 綻 をきたし、 軍 隊 は 給 料 の 支 払 を 要 求 し、パ<br />

リっ 子 たちは 食 に 飢 え、 地 方 は 盗 賊 に 荒 らされ、 文 明 は、 無 政 府 と 放 縦 のために 絶 滅<br />

しそうになっていた。」<br />

ローマがたんねんに 教 えた 残 虐 と 拷 問 のやり 方 を、 人 々はあまりにもよく 覚 えてい<br />

た。ついに、 報 復 の 日 がやって 来 た。 今 度 、 牢 獄 に 入 れられ、 火 刑 柱 に 引 かれていく<br />

のは、イエスの 弟 子 たちではなかった。この 人 々は、ずっと 前 に 殺 されるか、あるい<br />

は 追 放 されるかしていた。 今 、 苛 酷 なローマは、 流 血 行 為 を 喜 ぶように 自 分 が 訓 練 し<br />

てきた 人 々の、 恐 ろしい 力 を 感 じた。「フランスの 聖 職 者 たちが 長 年 にわたって 演 じ<br />

て 来 た 迫 害 の 前 例 は、 今 彼 らに 手 厳 しくはね 返 って 来 た。 処 刑 台 は、 司 祭 の 血 で 赤 く<br />

染 まった。かつてユグノー 教 徒 で 充 満 したガレー 船 と 牢 獄 は、 今 、 彼 らの 迫 害 者 たち<br />

で 満 員 になった。ローマ・カトリックの 司 祭 たちは、 鎖 で 腰 掛 けにつながれてかいを<br />

202


国 際 協 定<br />

こぎ、 教 会 が 温 和 な 異 端 者 たちに 容 赦 なく 味 わわせた 苦 悩 を、あますところなくなめ<br />

たのであった」。<br />

「 最 も 凶 悪 な 裁 判 官 が 最 も 残 忍 な 法 典 を 執 行 する 時 、 極 刑 の 危 険 を 冒 さずには……<br />

隣 人 とのあいさつも 祈 りもできない 時 、 密 偵 が 至 る 所 に 潜 んでいる 時 、ギロチンが 毎<br />

朝 忙 しく 長 時 間 動 く 時 、 牢 獄 が 奴 隷 船 の 船 倉 のように 満 員 の 時 、 下 水 が 血 であわ 立 っ<br />

てセーヌ 川 に 流 れる 時 、このような 時 が 到 来 した。……パリでは 毎 日 、 処 刑 を 受 ける<br />

人 々を 満 載 した 護 送 車 が 通 りを 通 過 している 時 に、 最 高 委 員 会 によって 派 遣 された 地<br />

方 の 総 督 たちは、 首 都 パリでさえ 行 われたことのないような 残 虐 行 為 を 行 った。 彼 ら<br />

の 殺 人 のためには、 恐 ろしい 機 械 の 刃 が 上 り 下 りするのでは 遅 すぎた。 数 珠 つなぎに<br />

された 囚 人 たちが、ブドウ 弾 でなぎ 倒 された。<br />

満 員 のはしけの 底 に 穴 が 開 けられた。リヨンは 荒 れ 地 と 化 した。アラスでは、すぐ<br />

に 殺 すという 残 酷 な 憐 れみさえ 囚 人 たちに 与 えられなかった。ロアール 川 沿 岸 では、<br />

ソーミュールから 海 まで、2 人 ずついまわしい 抱 擁 をさせた 裸 の 死 体 を、カラスやト<br />

ビの 大 群 の 餌 食 にした。 女 も 年 寄 りも 容 赦 なく 殺 された。のろわしい 政 府 に 殺 された<br />

17 歳 の 少 年 少 女 の 数 は 数 百 もあった。 母 の 乳 ぶさからもぎ 取 られた 赤 ん 坊 は、ジャコ<br />

バン 党 員 のほこ 先 からほこ 先 へと 投 げ 渡 された」。わずか 10 年 の 間 に、おびただし<br />

い 数 の 人 間 が 殺 された。<br />

これはみな、サタンの 望 むところであった。これはサタンが、 幾 時 代 にわたって 確<br />

保 しようとしてきたことであった。 彼 の 策 略 は、 初 めから 終 わりまで 欺 瞞 であって、<br />

彼 の 不 動 の 目 的 は、 人 間 の 世 界 に 不 幸 と 悲 惨 をもたらし、 神 のみ 業 を 傷 つけ、 汚 し、<br />

神 の 慈 悲 と 愛 のみ 心 をだいなしにし、こうして 天 を 悲 しませようとするにある。こう<br />

してサタンは、その 欺 瞞 的 な 方 法 によって 人 の 心 を 盲 目 にし、これらすべての 不 幸 が<br />

創 造 主 の 計 画 の 結 果 であるかのように 考 えさせて、 彼 の 働 きを 神 のせいだと 思 わせよ<br />

うとするのである。 同 様 に、 彼 の 残 酷 な 力 によって 堕 落 し、 残 忍 になった 者 たちが 自<br />

由 を 得 ると、サタンは 彼 らに、 極 端 で 非 道 なことを 行 わせる。すると 暴 君 や 圧 制 者 は、<br />

この 無 軌 道 な 放 縦 を、 自 由 の 結 果 が 何 であるかを 示 す 好 例 であるというのである。<br />

サタンは、1 つの 扮 装 の 誤 りが 見 破 られると、また 別 の 仮 面 をかぶって 現 れ、 群 衆<br />

は 前 と 同 様 に 熱 狂 してこれを 迎 える。ローマ・カトリック 教 が 欺 瞞 であることが 人 々<br />

にわかり、これを 用 いて 人 々に 神 の 律 法 を 犯 させることができなくなると、サタンは、<br />

すべての 宗 教 は 人 をまどわすものであり、 聖 書 は 作 り 話 であると 主 張 した。そして 彼<br />

らは、 神 の 律 法 を 放 棄 して、 無 軌 道 な 罪 の 生 活 に 陥 った。<br />

203


国 際 協 定<br />

フランスの 国 民 をこのような 悲 惨 な 状 態 に 陥 れた 致 命 的 誤 りは、 真 の 自 由 は 神 の 律<br />

法 の 範 囲 内 にあるという 一 大 真 理 を 無 視 したためであった。「どうか、あなたはわた<br />

しの 戒 めに 聞 き 従 うように。そうすれば、あなたの 平 安 は 川 のように、あなたの 義 は<br />

海 の 波 のように」なる。「 主 は 言 われた、『 悪 い 者 には 平 安 がない』と」。「しかし、<br />

わたしに 聞 き 従 う 者 は 安 らかに 住 まい、 災 に 会 う 恐 れもなく、 安 全 である」[イザヤ<br />

48:18、22、 箴 言 1:。 無 神 論 者 、 不 信 仰 者 、 背 教 者 たちは、 神 の 律 法 に 反 対 し 非<br />

難 を 向 けるが、 彼 らのもたらす 結 果 を 見 るならば、 人 類 の 幸 福 は 神 の 律 法 に 服 従 する<br />

ことにあることがわかるのである。 神 の 書 から 教 訓 を 読 み 取 ろうとしない 者 は、 諸 国<br />

の 歴 史 の 中 にそれを 読 み 取 るように 命 じられている。<br />

サタンが、ローマ 教 会 を 通 じて 人 々を 神 に 背 かせた 時 、 彼 の 活 動 は 隠 されていた。<br />

そして、 彼 の 働 きは 巧 みに 偽 装 されていたので、その 結 果 起 こった 堕 落 と 不 幸 は、 罪<br />

を 犯 した 結 果 であるとは 思 われなかった。また、 彼 の 力 は、これまで 神 の 聖 霊 の 働 き<br />

によって 妨 げられ、 十 分 に 実 を 結 ぶに 至 っていなかった。 人 々は 原 因 を 探 ることをせ<br />

ず、 彼 らの 不 幸 の 源 を 見 出 さなかった。しかし、 革 命 が 起 こり、 議 会 は 公 然 と 神 の 律<br />

法 を 廃 した。そして、それに 続 いた 恐 怖 時 代 に、その 原 因 と 結 果 がすべての 者 に 明 ら<br />

かとなった。<br />

フランスが 公 然 と 神 を 拒 み、 聖 書 を 放 棄 した 時 、 悪 人 たちと 暗 黒 の 霊 とは、 彼 らが<br />

長 く 望 んでいた 目 的 を 達 成 して 喜 んだ。それは、 神 の 律 法 の 制 限 を 受 けな い 国 であっ<br />

た。 悪 の 行 為 に 対 する 判 決 が、 速 やかに 執 行 されないために、 人 の 子 らの 心 は「もっ<br />

ぱら 悪 を 行 うことに 傾 いている」[ 伝 道 の 書 8:。しかし、 公 正 で 義 である 律 法 を 犯 す<br />

ならば、その 結 果 は 必 然 的 に 不 幸 と 破 滅 である。 人 間 の 悪 事 は、 直 ちに 罰 が 与 えられ<br />

ないにしても、 必 ず 破 滅 をもたらすのである。 幾 世 紀 にもわたる 背 信 と 罪 悪 は、 報 復<br />

の 日 の 神 の 怒 りを 蓄 えてきた。そして、 彼 らの 罪 が 満 ちた 時 に、 神 を 軽 べつした 人 々<br />

は、 神 の 忍 耐 がつき 果 てることがどんなに 恐 ろしいことであるかを 知 ったのであるが、<br />

時 はすでに 遅 かった。<br />

サタンの 残 酷 な 力 を 抑 えていた 神 の 霊 の 抑 制 力 が、 大 半 取 り 除 かれた。そして、 人<br />

々を 不 幸 にすることだけを 喜 びとしているサタンのなすがままになった。 反 逆 に 荷 担<br />

した 者 は、その 実 を 刈 り 取 った。そして 地 はついに 筆 紙 に 尽 くし 得 ない 恐 ろしい 犯 罪<br />

で 満 たされた。 荒 廃 した 地 方 や 破 壊 された 都 市 から、 恐 ろしい 叫 び、 耐 えがたい 苦 悩<br />

の 叫 びがあがった。フランスは、 地 震 で 震 動 するかのように 揺 れ 動 いた。 宗 教 、 法 律 、<br />

社 会 秩 序 、 家 族 、 国 家 、そして 教 会 などすべてのものが、 神 の 律 法 に 反 抗 してあげら<br />

れた 邪 悪 な 手 で 打 ち 倒 された。 賢 者 は 実 にこう 語 った。「 悪 しき 者 は、その 悪 によっ<br />

て 倒 れる。」「 罪 びとで 百 度 悪 をなして、なお 長 生 きするものがあるけれども、 神 を<br />

204


国 際 協 定<br />

かしこみ、み 前 に 恐 れをいだく 者 には 幸 福 があることを、わたしは 知 っている。しか<br />

し 悪 人 には 幸 福 がない」[ 箴 言 11:5、 伝 道 の 書 8:12、。「 彼 らは 知 識 を 憎 み、 主<br />

を 恐 れることを 選 ばず、」「 自 分 の 行 いの 実 を 食 らい、 自 分 の 計 りごとに 飽 きる」[ 箴<br />

言 1:29、。<br />

「 底 知 れぬ 所 からのぼって 来 る」 神 を 汚 す 権 力 に 殺 された 神 の 忠 実 な 証 人 は、 長 く<br />

沈 黙 していなかった。「3 日 半 の 後 、いのちの 息 が、 神 から 出 て 彼 らの 中 にはいり、<br />

そして、 彼 らが 立 ち 上 がったので、それを 見 た 人 々は 非 常 な 恐 怖 に 襲 われた」[ 黙 示 録<br />

11:。キリスト 教 を 廃 し 聖 書 を 破 棄 する 法 令 が、フランスの 議 会 を 通 過 したのは、<br />

1793 年 であった。それから 3 年 半 後 にはこの 法 令 は 廃 止 され、 聖 書 を 読 むことを 許<br />

す 決 議 が、 同 じ 議 会 において 採 択 された。 聖 書 を 拒 否 した 結 果 起 こった 極 悪 非 道 さに、<br />

世 界 は 驚 きを 禁 じ 得 なかった。そして 人 々は、 神 に 対 する 信 仰 の 必 要 と、 神 の 言 葉 が、<br />

徳 と 道 徳 の 基 礎 であることを 認 めたのであった。 主 は 言 われた、「あなたはだれをそ<br />

しり、だれをののしったのか。あなたはだれにむかって 声 をあげ、 目 を 高 くあげたの<br />

か。イスラエルの 聖 者 にむかってだ」[イザヤ 37:。「それゆえ、 見 よ、わたしは 彼<br />

らに 知 らせよう。すなわち、この 際 わたしの 力 と、わたしの 勢 いとを 知 らせよう。 彼<br />

らはわたしの 名 が、 主 であることを 知 るようになる」[エレミヤ 16:。<br />

2 人 の 証 人 について、 預 言 者 はなお 次 のように 言 っている。「その 時 、 天 から 大 き<br />

な 声 がして、『ここに 上 ってきなさい』と 言 うのを、 彼 らは 聞 いた。そして、 彼 らは<br />

雲 に 乗 って 天 に 上 った。 彼 らの 敵 はそれを 見 た」[ 黙 示 録 11:。フランスが 神 の 2 人<br />

の 証 人 に 戦 いをいどんで 以 後 、かえって 彼 らは、それまでになかったほどあがめられ<br />

てきた。1804 年 に、 英 国 聖 書 協 会 が 組 織 された。これに 続 いてヨーロッパ 大 陸 に、<br />

多 くの 支 部 をもった 同 様 の 聖 書 協 会 が 設 立 された。1816 年 には、 米 国 聖 書 協 会 が 設<br />

立 された。 英 国 聖 書 協 会 が 設 立 されたとき、 聖 書 は 50 か 国 語 で 印 刷 配 布 された。そ<br />

してその 後 、 聖 書 は 幾 百 の 国 語 と 方 言 に 翻 訳 されてきた。<br />

1792 年 以 前 の 50 年 間 、 外 国 伝 道 事 業 についての 関 心 はなかった。 新 たな 伝 道 協<br />

会 は 設 立 されなかった。そして、 異 教 国 にキリスト 教 を 宣 べ 伝 えようと 努 力 する 教 会<br />

は、ほとんどなかった。しかし、18 世 紀 の 終 わりになって、 大 変 化 が 起 こった。 人 々<br />

は、 合 理 主 義 の 結 果 に 不 満 を 感 じ、 神 の 啓 示 と 体 験 的 宗 教 の 必 要 を 痛 感 したのである。<br />

この 時 から 外 国 伝 道 事 業 が、これまでにない 発 展 を 遂 げたのであった。<br />

印 刷 技 術 の 発 達 が、 聖 書 配 布 事 業 を 促 進 した。 諸 国 間 の 交 通 機 関 の 発 達 、 昔 ながら<br />

の 偏 見 の 壁 や 国 家 的 排 他 主 義 の 崩 壊 、ローマ 法 王 の 俗 権 の 喪 失 などが、 神 の 言 葉 が 入<br />

っていく 道 を 開 いた。 数 年 前 から 聖 書 は、ローマの 通 りにおいてさえ、 何 の 束 縛 も 受<br />

205


国 際 協 定<br />

けずに 販 売 されている。そしてそれは、 今 、 人 類 の 住 んでいるところはどこにでも、<br />

配 布 されるようになったのである。<br />

かつて 無 神 論 者 ボルテールは、 次 のように 自 慢 して 言 った。「12 人 がキリスト 教<br />

を 設 立 したということを、わたしはもう 聞 き 飽 きた。わたしは、それをくつがえすの<br />

にひとりで 十 分 であることを 証 明 しよう。」 彼 の 死 後 、 幾 世 代 が 過 ぎ 去 った。 幾 百 万<br />

の 者 が、 聖 書 に 対 する 戦 いに 加 わった。しかし 聖 書 は、 滅 びるどころか、ボルテール<br />

の 時 代 に 100 あったところには、1 万 、いや 10 万 の 神 の 書 があるのである。ある 初<br />

期 の 改 革 者 は、キリスト 教 会 に 関 して、「 聖 書 は 多 くの 金 づちをすりへらしたかなと<br />

このようなものである」と 言 った。<br />

「すべてあなたを 攻 めるために 造 られる 武 器 は、その 目 的 を 達 しない。すべてあな<br />

たに 逆 らい 立 って、 争 い 訴 える 舌 は、あなたに 説 き 破 られる」と 主 は 言 われた[イザヤ<br />

54:。 「われわれの 神 の 言 葉 はとこしえに 変 ることはない。」「すべてのさとしは 確<br />

かである。これらは 世 々かぎりなく 堅 く 立 ち、 真 実 と 正 直 とをもってなされた」[イザ<br />

ヤ 40:8、 詩 篇 111:7、。 人 間 の 権 威 の 上 に 建 てられたものはみな 崩 れる。しかし、<br />

神 の 不 変 の 言 葉 の 上 に 基 礎 をおいたものは、 永 遠 に 立 つのである。<br />

206


国 際 協 定<br />

第 16 章 自 由 の 地<br />

英 国 の 改 革 者 たちは、ローマ・カトリック 教 会 の 教 義 を 捨 てながらも、その 形 式 の<br />

多 くを 保 持 していた。こうして、ローマの 権 威 と 信 条 は 否 定 していながら、その 習 慣<br />

と 儀 式 が、 少 なからず 英 国 国 教 会 の 礼 拝 に 取 り 入 れられた。こうしたことは 良 心 の 問<br />

題 ではない、また、 聖 書 に 命 じられていないから 重 要 ではないが、それでも 禁 じられ<br />

ていないから 本 質 的 には 悪 ではない、という 主 張 が 行 われた。これらの 遵 守 は、ロー<br />

マと 改 革 教 会 との 間 の 隔 たりを 狭 めるものであった。そしてそれは、カトリック 教 徒<br />

がプロテスタントの 信 仰 を 受 け 入 れるのを 促 進 すると 力 説 された。<br />

保 守 的 で 妥 協 的 な 人 々にとっては、このような 議 論 は 決 定 的 なものに 思 われた。し<br />

かし、そう 判 断 しなかった 人 々もいた。こうした 習 慣 は、「ローマと 改 革 主 義 との 間<br />

の 深 い 割 れ 目 に 橋 を 架 けるものである」からこそ、それらの 保 持 には 断 固 として 反 対<br />

である、というのが 彼 らの 意 見 であった。 1 彼 らはそれらを、 奴 隷 状 態 —— 彼 らはそこ<br />

から 解 放 されたのであって、そこにもどる 気 持 ちなど 全 くないのであった——のしる<br />

しとみなした。 神 はみ 言 葉 の 中 で、 神 の 礼 拝 に 関 する 規 則 を 定 められたのであるから、<br />

人 間 が 自 由 にそれに 加 えたり 減 じたりすることはできないと、 彼 らは 論 じた。 大 背 教<br />

のまず 第 一 歩 は、 教 会 の 権 威 に よって 神 の 権 威 を 補 おうとしたことにあった。ローマ<br />

は、 神 が 禁 じられなかったことを 禁 じることから 始 めて、 神 が 明 らかに 命 じておられ<br />

ることを 禁 じるに 至 ったのであった。<br />

多 くの 者 は、 初 代 教 会 の 特 徴 であった 純 潔 と 単 純 にもどることを 熱 望 した。 彼 らは、<br />

英 国 国 教 会 に 根 をおろした 多 くの 習 慣 を 偶 像 礼 拝 の 遺 物 とみなし、 良 心 上 その 礼 拝 に<br />

参 加 することができなかった。 しかし 教 会 は、 国 家 の 権 力 によってささえられていて、<br />

その 儀 式 に 反 対 することを 許 さなかった。 教 会 の 礼 拝 に 出 席 することが 法 律 で 要 求 さ<br />

れ、 許 可 なくして 宗 教 的 集 会 を 開 くことは 禁 じられて、もしそれを 犯 せば、 投 獄 、 追<br />

放 、 死 刑 であった。<br />

17 世 紀 の 初 め、 王 位 についたばかりの 英 国 王 は、 清 教 徒 [ピューリタン]たちに、<br />

「 国 教 に 従 わせるか、……それとも 国 外 に 追 放 、または、それ 以 上 の 刑 に 処 す」とい<br />

う 決 意 を 明 らかにした。 2 彼 らは、かり 立 てられ、 迫 害 され、 投 獄 されて、 将 来 、 事 態<br />

の 好 転 を 望 むことができなくなった。そして、 良 心 の 命 じるところに 従 って 神 に 仕 え<br />

ようとするものにとって、「 英 国 は 永 久 に 住 むところではなくなった」と 考 える 者 が<br />

多 かった。 3 ある 者 は、 少 なくとも、オランダまで 避 難 しようと 決 心 した。 彼 らは、 困<br />

難 や 損 失 や 投 獄 のうきめにあった。 彼 らの 目 的 は 妨 げられ、 裏 切 られて 敵 の 手 に 渡 さ<br />

207


国 際 協 定<br />

れた。それでも 屈 せず 耐 え 忍 んで、ついに 彼 らは、オランダ 共 和 国 にあたたかく 迎 え<br />

られ、 避 難 することができた。<br />

彼 らは 逃 げる 際 、 家 も 財 産 も 生 計 の 手 段 をも 置 いてきた。 彼 らは 異 国 に 住 む 異 邦 人<br />

となり、 言 葉 も 習 慣 も 異 なる 人 々の 中 で 暮 らした。 彼 らは、 生 計 を 立 てるために、 新<br />

しい 不 慣 れな 職 業 につかなければならなかった。これまで 耕 作 に 従 事 していた 中 年 の<br />

男 が、 今 度 は 技 術 的 な 職 業 を 覚 えなければならなかった。しかし 彼 らは、そうした 事<br />

態 をも 快 活 に 受 け 入 れた。 怠 けたり 悔 やんだりして 時 間 を 浪 費 したりしなかった。 彼<br />

らはしばしば 貧 困 に 陥 ったけれども、なお 彼 らに 与 えられた 福 音 を 神 に 感 謝 し、 妨 げ<br />

られずに 霊 の 交 わりができることを 喜 んだ。「 彼 らは、 自 分 たちが 旅 人 であることを<br />

知 り、そのようなものに 心 を 奪 われることなく、 彼 らの 最 も 愛 する 国 、 天 国 に 目 を 向<br />

け、 心 安 んじていた。」 4<br />

流 浪 と 困 難 のただ 中 にあっても、 彼 らの 愛 と 信 仰 は 強 くなった。 彼 らは 主 の 約 束 に<br />

信 頼 した。そして 神 は、 必 要 な 時 に 必 ず 助 けを 与 えられた。 神 の 天 使 は 彼 らのそばに<br />

いて、 彼 らを 励 ましささえた。そして、 神 のみ 手 が、 海 の 向 こうの 土 地 ——そこで 彼<br />

らが 国 を 建 設 し、 宗 教 の 自 由 という 尊 い 遺 産 を 子 孫 に 残 すことのできるところ——を<br />

指 さした 時 、 彼 らは、ひるむことなく 摂 理 の 道 に 従 って 前 進 した。<br />

神 は、ご 自 分 の 民 に 対 する 恵 み 深 いみこころの 完 成 のために、 彼 らに 準 備 をさせる<br />

よう、 彼 らに 試 練 が 来 るのを 許 された。 教 会 が 衰 えたのは、また 高 められるためであ<br />

った。 神 は、 教 会 のために 力 をあらわし、 神 に 信 頼 する 者 を 捨 てないというもう 1 つ<br />

の 証 拠 を 世 界 に 示 そうとしておられた。 神 は、サタンの 怒 りと 悪 人 の 策 略 が、 神 に 栄<br />

光 を 帰 して 神 の 民 を 安 全 な 場 所 に 導 くことになるように、 諸 事 件 を 支 配 しておられた。<br />

迫 害 と 追 放 が 自 由 への 道 を 開 きつっあった。<br />

清 教 徒 たちは、 最 初 に 英 国 国 教 会 から 分 離 しなければならなかった 時 、 主 の 自 由 な<br />

民 として、「 彼 らに 知 らされた、あるいは、これから 知 らされるすべての 神 の 道 を 共<br />

に 歩 く」ことを、 一 致 団 結 して 厳 粛 に 誓 った。 5 ここに、 改 革 の 真 の 精 神 、プロテスタ<br />

ント 主 義 の 極 めて 重 大 な 原 則 があった。 清 教 徒 たちが、オランダを 去 って 新 世 界 に 移<br />

住 したのは、この 目 的 のためであった。 彼 らの 牧 師 、ジョン・ロビンソンは、 摂 理 に<br />

よって 彼 らに 同 行 できなかったが、 亡 命 者 たちへの 告 別 説 教 において 次 のように 言 っ<br />

た。<br />

「 兄 弟 たちよ、われわれは 今 、まもなく 別 れようとしている。わたしが 再 び、あな<br />

たがたの 顔 を 見 ることができるかどうかは、ただ 神 だけが 知 っておられる。しかし、<br />

主 がそうお 定 めになっていようといまいと、わた しは、 神 と 聖 天 使 たちの 前 で、わた<br />

208


国 際 協 定<br />

しがキリストに 従 ったように、あなたがたがわたしに 近 く 従 うように 命 じる。もし 神<br />

が、ご 自 分 の 他 の 器 を 用 いて、 何 かをあなたがたに 示 されるならば、わたしが 教 える<br />

真 理 を 受 けたように、 喜 んで 信 じてほしい。わたしは、 主 がみ 言 葉 のなかから、これ<br />

からももっと 真 理 と 光 を 輝 かせてくださると 確 信 している。」 6<br />

「わたしとしては、 宗 教 的 に 行 き 詰 まった 改 革 教 会 の 状 態 を、 嘆 かないではおられ<br />

ない。 教 会 は 現 在 、 改 革 運 動 を 起 こした 器 たちから 1 歩 も 進 んではいない。ルーテル<br />

教 会 員 は、ルターが 認 識 したこと 以 上 に 出 ていない。……そして、カルバン 派 の 人 々<br />

は、 神 の 偉 大 な 人 物 ではあったがすべてを 認 識 していたとは 言 えない 人 の 残 したこと<br />

を、 堅 く 守 っている。これは、 非 常 に 悲 しむべきことである。 彼 らは、その 時 代 にお<br />

いては、 燃 え 輝 く 光 ではあったが、 神 の 教 えをすべて 知 りつくしたのではなかった。<br />

彼 らは、もし 今 日 生 きていたならば、 彼 らが 初 めに 受 けた 光 と 同 様 に、それ 以 上 の 光<br />

も 喜 んで 受 けることであろう。」 7<br />

「すでに 示 され、またこれからも 示 されるすべての 主 の 道 を 歩 くことに 同 意 した、<br />

教 会 の 契 約 を 覚 えていてほしい。 神 のみ 言 葉 から 示 される 光 と 真 理 は、なんでも 受 け<br />

入 れるという 神 とお 互 いとの 約 束 と 契 約 とを、 覚 えていてほしい。さらに、 真 理 とし<br />

て 受 け 入 れる 場 合 に 注 意 してほしいことは、それを 受 け 入 れる 前 に、 他 の 聖 書 の 真 理<br />

と 比 較 してよく 検 討 することである。なぜならば、 非 キリスト 教 的 暗 黒 から 最 近 出 て<br />

来 たばかりのキリスト 教 会 に、 一 時 に 完 全 無 欠 の 知 識 が 輝 き 出 ることはあり 得 ないか<br />

らである。」 8<br />

この、いわゆる「 巡 礼 者 」[ピルグリム]たちが、 勇 敢 にも 長 途 の 航 海 の 危 険 を 冒 し、<br />

荒 野 の 種 々の 困 難 と 危 険 に 耐 え、そしてついに 神 の 恵 みによって、アメリカの 岸 に 偉<br />

大 な 国 家 の 基 礎 をすえたのは、 良 心 の 自 由 を 得 たいという 願 いからであった。しかし、<br />

これらの 清 教 徒 たちは、 誠 実 で 神 を 恐 れる 人 々ではあったけれども、まだ 宗 教 の 自 由<br />

の 大 原 則 を 理 解 していなかった。 彼 らは、 大 きな 犠 牲 を 払 って 獲 得 した 自 由 を、 等 し<br />

く 他 の 者 に 与 えようとはしなかった。「17 世 紀 の 最 も 進 歩 的 な 思 想 家 たちや 道 徳 家 た<br />

ちでさえ、 新 約 聖 書 より 発 している 大 原 則 、すなわち 神 以 外 にはだれも 人 間 の 信 仰 を<br />

さばくことはできないということを、 正 しく 認 識 したものはほとんどいなかった。」 9<br />

人 間 の 良 心 を 支 配 し、 異 端 を 定 義 し、 処 罰 する 権 を、 神 は 教 会 にゆだねられたという<br />

教 義 は、 法 王 教 の 誤 謬 に 最 も 深 く 根 ざす 誤 りの 1 つである。<br />

改 革 者 たちは、ローマの 教 義 を 否 定 はしたが、その 狭 量 な 精 神 から 完 全 にぬけきっ<br />

てはいなかった。 法 王 権 の 長 期 にわたる 支 配 下 において、キリスト 教 会 全 体 をおおっ<br />

た 濃 い 暗 黒 は、まだ 全 部 消 え 去 ってはいなかった。マサチューセッツ 湾 の 植 民 地 にお<br />

209


国 際 協 定<br />

ける 有 力 な 牧 師 の 1 人 は、 次 のように 言 った。「 寛 容 であったことが 世 界 を 反 キリス<br />

ト 教 的 にした。そして 教 会 は、 異 端 を 罰 しても 何 の 害 も 受 けなかった。」 10 植 民 地 開<br />

拓 者 たちは、 教 会 員 だけが 政 治 に 発 言 権 を 持 つべきであるという 規 則 を 採 用 した。 一<br />

種 の 国 教 が 制 定 され、すべての 住 民 は 聖 職 者 を 支 持 するために 献 金 することを 要 求 さ<br />

れた。そして、 長 官 には 異 端 を 鎮 圧 する 権 が 授 けられた。こうして、 世 俗 の 権 力 が 教<br />

会 の 手 中 にあった。やがて、こうした 方 法 は、その 必 然 的 な 結 果 である 迫 害 をひき 起<br />

こすことになった。<br />

植 民 地 が 創 設 されてから 11 年 後 に、ロージャー・ウィリアムスがアメリカに 来 た。<br />

初 期 の 清 教 徒 たちのように、 彼 も 宗 教 の 自 由 を 享 受 するために 来 た。しかし 彼 は、 彼<br />

らとは 異 なって、 当 時 まだ、ほとんどだれも 気 づいていなかったこと、すなわち、こ<br />

の 自 由 は、その 信 条 が 何 であろうと、すべての 者 にとって 譲 渡 できない 権 利 であるこ<br />

とを 認 識 していた。 彼 は、 熱 心 な 真 理 の 探 究 者 であった。そしてロビンソンと 共 に、<br />

神 のみ 言 葉 の 真 理 がすべて 与 えられてしまったとは 思 っていなかった。ウィリアムス<br />

は、「 近 代 のキリスト 教 世 界 において、 良 心 の 自 由 、 法 の 前 における 意 見 の 平 等 とい<br />

う 教 義 に 基 づいて 政 府 を 制 定 した、 最 初 の 人 物 であった。」 11 犯 罪 を 抑 止 することは<br />

行 政 長 官 の 義 務 であるが、 人 間 の 良 心 を 支 配 してはならないと、 彼 は 宣 言 した。 彼 は<br />

次 のように 言 った。「 公 衆 または 行 政 長 官 は、 人 間 と 人 間 との 間 の 義 務 を 決 定 するが、<br />

彼 らが 神 に 対 する 人 間 の 義 務 を 規 定 しようとするならば、それは 越 権 行 為 であって、<br />

安 全 ではあり 得 ない。なぜならば、もし 長 官 にその 権 威 があれば、 朝 令 暮 改 の 誤 りを<br />

犯 すことは 明 らかだからである。 英 国 において、さまざまな 国 王 や 女 王 が 行 ったよう<br />

に、また、さまざまな 法 王 やローマ 教 会 の 会 議 が 行 ったように、 信 仰 は、 非 常 な 混 乱<br />

に 陥 るであろう。」 12<br />

教 会 の 礼 拝 には 出 席 が 要 求 されていて、 行 かない 者 は、 罰 金 または 投 獄 の 罰 を 受 け<br />

た。「ウィリアムスは、この 法 律 に 反 対 した。 英 国 における 最 悪 の 法 令 は、 教 区 教 会<br />

に 出 席 を 強 要 したものであった。 異 なった 信 条 の 者 を 一 致 するように 強 制 することは、<br />

彼 らの 生 得 の 権 利 を 公 然 とふみにじることであると 彼 は 考 えた。 非 宗 教 的 で、 来 るこ<br />

とを 好 まない 人 々を、 公 の 礼 拝 に 引 きずってくることはただ 偽 善 を 要 求 しているよう<br />

に 思 われた。……『だれも 自 分 の 意 志 に 反 して、 礼 拝 や 教 会 維 持 を 強 制 されるべきで<br />

はない』と 彼 は 述 べた。 彼 の 反 対 者 たちは、 彼 の 主 義 に 驚 いて、『 働 き 人 がその 報 酬<br />

を 受 けるのは 当 然 ではないか』と 叫 んだ。すると 彼 は、『その 通 り。 彼 を 雇 った 者 た<br />

ちからである』と 答 えた。」 13<br />

ロージャー・ウィリアムスは 忠 実 な 牧 師 、そして、 非 凡 な 才 能 、 不 動 の 誠 実 さ、 真<br />

の 愛 の 持 ち 主 として 尊 敬 され 愛 された。しかし 彼 が、 行 政 長 官 が 教 会 の 上 に 権 をとる<br />

210


国 際 協 定<br />

ことを 断 固 として 拒 否 し、 宗 教 の 自 由 を 要 求 していることは、 許 しておくことができ<br />

なかった。この 新 しい 教 義 が 行 われるならば、「 国 家 の 基 礎 と 政 治 をくつがえす」で<br />

あろうと、 人 々は 主 張 した。 14 彼 は、 植 民 地 からの 追 放 の 宣 告 を 受 けた。そして、つ<br />

いに 彼 は、 逮 捕 を 免 れるために 寒 い 冬 の 吹 雪 の 中 を、まだ 開 かれていない 森 の 中 へと<br />

逃 げ 込 まなければならなかった。 「わたしは 14 週 間 の 間 、パンも 寝 るところもなく、<br />

厳 寒 の 季 節 をあちこちと 激 しく 逃 げ 回 った」と 彼 は 言 っている。しかし、「 荒 野 で、<br />

カラスがわたしを 養 ってくれ」、そしてしばしば、 木 の 幹 の 穴 が 彼 の 隠 れ 家 となった。<br />

15 こうして 彼 は、 雪 と 道 のない 森 の 中 を 苦 労 して 逃 げて 行 き、ついに、インデイアン<br />

の 部 族 にかくまわれた。ここで 彼 は、 彼 らに 福 音 の 真 理 を 教 えながら、 彼 らの 信 頼 と<br />

愛 をかち 得 たのである。<br />

彼 は、 数 か 月 にわたって 転 々と 流 浪 して、ついに、ナラガンセト 湾 の 岸 に 到 着 し、<br />

ここで、 宗 教 の 自 由 を 完 全 に 認 めた、 近 世 における 最 初 の 州 の 基 礎 を 築 いた。 ロージ<br />

ャー・ウィリアムスの 植 民 地 の 根 本 的 原 則 は、「 人 間 はだれでも、 自 分 の 良 心 に 従 っ<br />

て、 神 を 礼 拝 する 自 由 をもつべきである」ということであった。 16 彼 の 小 さなロード<br />

・アイランドという 州 は、 迫 害 に 苦 しむ 人 々の 避 難 所 となり、 次 第 に 人 口 が 増 加 して<br />

繁 栄 し、ついに、その 基 本 的 原 則 である 政 治 的 宗 教 的 自 由 が、アメリカ 共 和 国 の 礎 石<br />

となった。<br />

われわれの 先 祖 たちが、 基 本 的 人 権 の 宣 言 として 公 にした 偉 大 な 古 文 書 、すなわち<br />

「 独 立 宣 言 」のなかで、 次 のように 表 明 されている。「われわれは、これらが 自 明 の<br />

真 理 であると 考 える。すなわち、すべての 人 間 は 平 等 に 創 られ、 創 造 主 から、ある 譲<br />

渡 することのできない 権 利 を 授 けられていて、その 中 には、 生 命 、 自 由 、 幸 福 の 追 求<br />

が 含 まれている。」そして 憲 法 は、 良 心 は 侵 すことができないものであることを、 極<br />

めて 明 白 な 言 葉 で 保 証 している。「アメリカ 合 衆 国 のどんな 公 職 に 対 しても、その 資<br />

格 として、 宗 教 的 な 審 査 を 要 求 してはならない。」「 国 会 は、 宗 教 の 設 立 に 関 する 法<br />

律 や、その 自 由 な 活 動 を 禁 止 する 法 律 をつくってはならない。」<br />

「 憲 法 の 起 草 者 たちは、 人 間 と 神 との 関 係 は 人 間 の 法 律 以 上 のものであり、 人 間 の<br />

良 心 は 固 有 の 権 利 を 持 つという 永 遠 の 原 則 を 認 めていた。この 真 理 を 確 立 するのに、<br />

議 論 する 必 要 はなかった。われわれは 自 らの 胸 中 において、それを 意 識 しているので<br />

ある。 多 くの 殉 教 者 たちが、 人 間 の 法 律 を 無 視 して、 拷 問 や 炎 に 耐 えたのはこのこと<br />

を 自 覚 していたからであった。 彼 らは、 神 に 対 する 義 務 は 人 間 の 法 令 以 上 のものであ<br />

り、 人 間 は 良 心 にまで 権 力 を 及 ぼすことができないと 感 じていた。それは、 生 まれな<br />

がらに 備 わった 原 則 であって、なにものによっても 根 絶 されえないものなのである。」<br />

17<br />

211


国 際 協 定<br />

すべての 人 が 自 分 の 勤 労 の 実 を 享 受 し、 良 心 の 確 信 することに 従 うことができる 国<br />

についての 報 道 が、ヨーロッパの 国 々に 伝 わると、 幾 千 という 人 々が、 新 世 界 アメリ<br />

カの 岸 に 群 がった。 植 民 地 は 急 速 に 増 加 した。 「マサチューセッツ 州 は、 特 別 の 法 律<br />

を 設 けて、『 戦 争 、 飢 饉 あるいは 迫 害 者 の 圧 迫 を 逃 れて』 大 西 洋 を 越 えてやってくる<br />

キリスト 者 は 何 国 人 であっても、 公 費 によって、 無 償 の 歓 迎 と 援 助 を 提 供 した。こう<br />

して、 亡 命 者 や 圧 迫 された 者 たちが、 法 令 によって 州 の 客 となった。」 18 最 初 プリマ<br />

スに 上 陸 してから 20 年 後 には、 何 千 という 清 教 徒 たちが、ニュー・イングランド 地<br />

方 に 住 みついていた。<br />

その 求 める 目 的 を 達 するために、「 彼 らは、 倹 約 と 勤 労 の 生 活 によって、かろうじ<br />

て 生 きることに 満 足 した。 彼 らは、 自 分 たちが 耕 す 土 地 からも、その 労 苦 の 正 当 な 報<br />

酬 のほかは 何 も 求 めなかった。 一 攫 千 金 の 夢 も 見 なかった。…… 彼 らは、 自 分 たちの<br />

社 会 の 組 織 が、 徐 々にではあるが 着 実 に 進 歩 していくことに 満 足 であった。 彼 らは 荒<br />

野 の 苦 難 に 忍 耐 強 く 耐 え、 自 由 という 木 に 涙 で 水 を 注 ぎ、それが 土 に 深 く 根 をおろす<br />

まで、 額 に 汗 しつつ 育 てたのである。」<br />

聖 書 は、 信 仰 の 基 礎 、 知 恵 の 源 、 自 由 の 憲 章 として 重 んじられた。その 原 則 は、 家<br />

庭 、 学 校 、 教 会 において 忠 実 に 教 えられ、その 実 は、 勤 倹 、 聡 明 、 純 潔 、 節 制 となっ<br />

てあらわれた。 清 教 徒 の 植 民 地 に 長 年 住 んでも、「1 人 の 酒 飲 みも 見 ず、 一 言 ののの<br />

しりも 聞 かず、1 人 の 乞 食 にも 会 わない」のであった。 19 聖 書 の 原 則 は、 国 家 を 偉 大<br />

にする 最 も 確 かな 安 全 策 であることが、 明 らかにされた。 微 弱 で 孤 立 していた 植 民 地<br />

が、 強 力 な 合 衆 国 に 成 長 し、 世 界 は、「 法 王 のない 教 会 、 国 王 のない 国 家 」の、 平 和<br />

と 繁 栄 に 驚 きの 目 をみはった。 しかし、 最 初 の 清 教 徒 たちとは 全 く 目 的 を 異 にした 者<br />

が、 続 々とアメリカの 岸 にひかれてやって 来 た。 初 期 の 信 仰 と 純 潔 は、 広 く 感 化 力 を<br />

及 ぼしていたけれども、ただ 世 俗 の 利 益 だけを 求 める 者 の 数 が 増 加 するにつれて、そ<br />

の 影 響 は、 次 第 に 衰 えていった。<br />

初 期 の 移 住 者 が 採 用 した、 教 会 員 だけが 投 票 権 を 持 ち、あるいは 政 府 の 職 につくこ<br />

とができるという 規 則 は、 有 害 きわまる 結 果 を 生 じた。この 方 策 は、 州 の 純 潔 を 保 つ<br />

ために 採 用 されたのであったが、 教 会 を 腐 敗 させることになった。 信 仰 の 告 白 が、 投<br />

票 と 公 職 につく 条 件 であったために、 多 くの 者 が、 心 の 変 化 なしに、ただ 世 俗 的 目 的<br />

のために 教 会 に 加 わった。こうして 教 会 は、 多 くの 悔 い 改 めていない 人 々で 満 たされ<br />

るようになった。そして、 聖 職 者 の 中 にさえ、 誤 った 教 義 を 保 持 するだけでなく、 聖<br />

霊 の 改 新 の 力 を 知 らない 者 もいるようになった。こうして、コンスタンチヌスの 時 代<br />

から 現 代 に 至 るまで、 教 会 歴 史 にしばしば 見 られた 悪 い 結 果 が、ふたたびあらわれた<br />

のである。すなわち、 国 家 の 援 助 によって 教 会 を 盛 り 立 て、また、キリストの 福 音 を<br />

212


国 際 協 定<br />

支 持 するために 俗 権 に 訴 えようとすることである。しかし、そのキリストは、「わた<br />

しの 国 はこの 世 のものではない」と 宣 言 された[ヨハネ 18:。 教 会 と 国 家 との 結 合 は、<br />

たとえどんなにささいなものであっても、 世 俗 を 教 会 に 近 づけるように 見 えながら、<br />

実 際 は、 教 会 を 世 俗 に 近 づけることにほかならないのである。<br />

ロビンソンとロージャー・ウィリアムスが 堂 々と 主 張 した 大 原 則 、すなわち、 真 理<br />

は 漸 進 的 なものであって、キリスト 者 は 神 の 聖 書 から 輝 き 出 る 光 をみな、いつでも 信<br />

じる 用 意 をしているべきである、ということを 彼 らの 子 孫 たちは 忘 れていた。ヨーロ<br />

ッパの 教 会 も 同 様 であるが、アメリカのプロテスタント 教 会 は、 宗 教 改 革 の 恩 恵 をあ<br />

れほどまでに 受 けていながら、 改 革 を 推 し 進 めることに 失 敗 した。 時 おり、 忠 実 な 人<br />

々がわずかながら 立 ち 上 がって、 新 しい 真 理 を 宣 言 し、 旧 来 の 誤 りを 指 摘 したりした<br />

のであるが、 大 部 分 の 人 々はキリストの 時 代 のユダヤ 人 、あるいは、ルターの 時 代 の<br />

カトリック 教 会 の 人 々のように、 先 祖 たちが 信 じたように 信 じ、 彼 らが 生 活 したよう<br />

に 生 きることで 満 足 した。そのために、 宗 教 はふたたび 形 式 主 義 に 堕 してしまった。<br />

そして、 教 会 が 神 のみ 言 葉 の 光 の 中 を 歩 き 続 けたならば、 当 然 捨 て 去 ってしまったは<br />

ずの 誤 りや 迷 信 が、そのまま 残 存 し 固 守 された。こうして、 宗 教 改 革 によって 奮 い 立<br />

った 精 神 が 次 第 に 衰 えて、ルター 時 代 のカトリック 教 会 とほとんど 同 様 の 大 改 革 が、<br />

プロテスタント 教 会 に 必 要 となるまでになった。<br />

同 様 の 世 俗 化 と 霊 的 無 感 覚 、 人 間 の 意 見 に 対 する 同 様 の 尊 敬 、 神 のみ 言 葉 の 教 えの<br />

代 わりに、 人 間 の 説 の 代 用 が 見 られるのであった。 19 世 紀 の 初 期 において、 聖 書 が<br />

広 く 配 布 され、 大 いなる 光 が 世 界 に 輝 いたのであるが、 啓 示 された 真 理 の 知 識 に 対 応<br />

する 前 進 、あるいは、 体 験 的 宗 教 の 前 進 はなかった。サタンは、 以 前 のように 神 の 言<br />

葉 を 人 々から 隠 しておくことはできなかった。 聖 書 はだれでも 手 に 入 れられるように<br />

なった。しかしサタンは、なおその 目 的 を 達 成 するために、 多 くの 者 にそれを 低 く 評<br />

価 するようにさせた。 人 々は、 聖 書 の 研 究 を 怠 り、こうして、 相 変 わらず 誤 った 解 釈<br />

を 信 じ、 聖 書 に 根 拠 のない 教 義 を 固 守 するのであった。<br />

サタンは、 迫 害 によって 真 理 を 粉 砕 することができなかったのを 見 て、 大 背 教 とロ<br />

ーマ 教 会 の 出 現 の 原 因 となったところの 妥 協 策 を、ふたたび 採 用 した。サタンはクリ<br />

スチャンを、 今 度 は 異 教 徒 ではなくて、 世 俗 の 事 物 に 執 着 して、 刻 んだ 像 を 拝 むのと<br />

同 様 に 偶 像 礼 拝 者 となってしまった 者 たちと、 結 合 させようとした。こうした 結 合 の<br />

結 果 は、 昔 と 同 様 に 有 害 なものであった。 宗 教 の 仮 面 のもとに、 虚 栄 とぜいたくがほ<br />

しいままに 行 われて、 教 会 は 堕 落 した。サタンは 聖 書 の 教 義 をゆがめつづけ、 無 数 の<br />

者 を 滅 びに 陥 れるような 伝 説 が、 深 く 根 をおろしつつあった。 教 会 は、「 聖 徒 たちに<br />

よって、ひとたび 伝 えられた 信 仰 」を 主 張 するかわりに、こうした 伝 説 を 支 持 し、 擁<br />

213


国 際 協 定<br />

護 した。こうして、 宗 教 改 革 者 たちの 非 常 な 努 力 と 苦 難 によって 確 立 された 原 則 が、<br />

崩 壊 したのである。<br />

214


国 際 協 定<br />

第 17 章 最 大 の 希 望<br />

聖 書 に 啓 示 された 最 も 厳 粛 で、 最 も 輝 かしい 真 理 の 1 つは、キリストが、 贖 罪 の 大<br />

きな 業 を 完 成 するためにふたたび 来 られるという 真 理 である。 長 い 間 、「 死 の 地 、 死<br />

の 陰 」をたどってきた 神 の 旅 人 たちにとって、「よみがえりであり、 命 で」あり、<br />

「 追 放 されたものを 帰 らせ」られる 主 の 出 現 の 約 束 は、 尊 く 喜 びに 満 ちた 希 望 であっ<br />

た。キリストの 再 臨 という 教 義 は、 聖 書 の 基 調 そのものである。われわれの 祖 先 が、<br />

悲 しみながらエデンを 去 った 日 以 来 、 信 仰 の 子 供 たちは、 約 束 のみ 子 が 現 れて、 破 壊<br />

者 の 力 をこぼち、 失 われた 楽 園 に 彼 らをふたたび 連 れもどすのを 待 っていた。 昔 の 聖<br />

者 たちは、メシヤが 栄 光 のうちに 来 られて、 彼 らの 希 望 が 成 就 されるのを 待 ち 望 んだ。<br />

エデンに 住 んだ 者 からわずか 7 代 目 に 当 たるエノクは、この 地 上 において、300 年 の<br />

間 神 と 共 に 歩 み、 救 い 主 の 来 臨 をはるか 遠 くから 見 ることを 許 された。「 見 よ、 主 は<br />

無 数 の 聖 徒 たちを 率 いてこられた。それは、すべての 者 にさばきを 行 うため」である<br />

と 彼 は 言 った[ユダ 14、。また 家 長 ヨブは 苦 難 の 夜 、ゆるがぬ 信 仰 をもって 言 った。<br />

「わたしは 知 る、わたしをあがなう 者 は 生 きておられる、 後 の 日 に 彼 は 必 ず 地 の 上 に<br />

立 たれる。……わたしは 肉 にあって 神 を 見 るであろう。わたしはこのかたを、 自 分 自<br />

身 で 見 るであろう。そして、わたしの 目 がこれを 見 る。 他 の 者 の 目 ではない」[ヨブ<br />

19:25~27・ 英 語 訳 ]。<br />

正 義 の 時 代 の 到 来 を 告 げるキリストの 再 臨 は、 聖 書 記 者 たちに、 最 も 崇 高 で 熱 烈 な<br />

言 葉 を 言 わせたのである。 聖 書 の 詩 人 や 預 言 者 は、 天 来 の 火 に 燃 やされて、そのこと<br />

を 語 った。 詩 篇 の 記 者 は、イスラエルの 王 の 力 と 威 光 とを 歌 った。「 神 は 麗 しさのき<br />

わみであるシオンから 光 を 放 たれる。われらの 神 は 来 て、もだされない。…… 神 はそ<br />

の 民 をさばくために、 上 なる 天 および 地 に 呼 ばわれる」[ 詩 篇 50:2~。<br />

「 天 は 喜 び、 地 は 楽 しみ、…… 主 のみ 前 に 喜 び 歌 うであろう。 主 は 来 られる、 地 を<br />

さばくために 来 られる。 主 は 義 をもって 世 界 をさばき、まことをもってもろもろの 民<br />

をさばかれる」[ 詩 篇 96:11~。 預 言 者 イザヤも 次 のように 言 った。「ちりに 伏 す 者<br />

よ、さめて 喜 び 歌 え。あなたの 露 は 草 木 をうるおす 露 のごとく 地 はなきたまをいださ<br />

ん[ 後 半 文 語 訳 ]。」「あなたの 死 者 は 生 き、 彼 らのなきがらは 起 きる。」「 主 はとこ<br />

しえに 死 を 滅 ぼし、 主 なる 神 はすべての 顔 から 涙 をぬぐい、その 民 のはずかしめを 全<br />

地 の 上 から 除 かれる。これは 主 の 語 られたことである。その 日 、 人 は 言 う、『 見 よ、<br />

これはわれわれの 神 である。わたしたちは 彼 を 待 ち 望 んだ。 彼 はわたしたちを 救 われ<br />

215


国 際 協 定<br />

る。これは 主 である。わたしたちは 彼 を 待 ち 望 んだ。わたしたちはその 救 を 喜 び 楽 し<br />

もう』と」[イザヤ 26:19、25:8、。<br />

ハバククは、 神 からの 幻 を 与 えられて、 主 が 来 られるのを 見 た。「 神 はテマンから<br />

こられ、 聖 者 はバランの 山 からこられた。その 栄 光 は 天 をおおい、そのさんびは 地 に<br />

満 ちた。その 輝 きは 光 のようであり」、「 彼 は 立 って、 地 をはかり、 彼 は 見 て、 諸 国<br />

民 をおののかせられる。とこしえの 山 は 散 らされ、 永 遠 の 丘 は 沈 む。 彼 の 道 は 昔 のと<br />

おりである。」「 主 よ、あなたが 馬 に 乗 り、 勝 利 の 戦 車 に 乗 られる。」「 山 々はあな<br />

たを 見 て 震 い、…… 渕 は 声 を 出 して、その 手 を 高 くあげた。 飛 び 行 くあなたの 矢 の 光<br />

のために、 電 光 のようにきらめく、あなたのやりのために、 日 も 月 もそのすみかに 立<br />

ち 止 まった。」「あなたはあなたの 民 を 救 うため、あなたの 油 そそいだ 者 を 救 うため<br />

に 出 て 行 かれた」[ハバクク 3:3、4、6、8、10、11、。<br />

救 い 主 は、 弟 子 たちから 離 れていこうとするに 当 たり、また 来 るという 確 証 を 与 え<br />

て、 彼 らの 悲 しみを 慰 められた。「あなたがたは、 心 を 騒 がせないがよい。……わた<br />

しの 父 の 家 には、すまいがたくさんある。……あなたがたのために、 場 所 を 用 意 しに<br />

行 くのだから。そして、 行 って、 場 所 の 用 意 ができたならば、またきて、あなたがた<br />

をわたしのところに 迎 えよう」[ヨハネ 14:1~。「 人 の 子 が 栄 光 の 中 にすべての 御 使<br />

たちを 従 えて 来 るとき、 彼 はその 栄 光 の 座 につくであろう。そして、すべての 国 民 を<br />

その 前 に 集 め」る[マタイ 25:31、。<br />

キリストの 昇 天 後 、オリブ 山 にとどまっていた 天 使 たちは、キリスト 再 臨 の 約 束 を<br />

弟 子 たちにくり 返 した。「あなたがたを 離 れて 天 に 上 げられたこのイエスは、 天 に 上<br />

って 行 かれるのをあなたがたが 見 たのと 同 じ 有 様 で、またおいでになるであろう」[ 使<br />

徒 行 伝 1:。また、 使 徒 パウロは、 霊 感 に 動 かされて 次 のようにあかしした。「すな<br />

わち、 主 ご 自 身 が 天 使 のかしらの 声 と 神 のラッパの 鳴 り 響 くうちに、 合 図 の 声 で、 天<br />

から 下 ってこられる」[Ⅰテサロニケ 4:。バトモスの 預 言 者 も、「 見 よ、 彼 は、 雲 に<br />

乗 ってこられる。すべての 人 の 目 、ことに、 彼 を 刺 しとおした 者 たちは、 彼 を 仰 ぎ 見<br />

るであろう」と 言 っている[ 黙 示 録 1:。<br />

彼 の 再 臨 には、「 神 が 聖 なる 預 言 者 たちの 口 をとおして、 昔 から 預 言 しておられた<br />

万 物 更 新 の 時 」の 輝 かしい 光 景 が 関 連 している[ 使 徒 行 伝 3:。その 時 、 長 く 続 いた 悪<br />

の 支 配 が 砕 かれて、「この 世 の 国 は、われらの 主 とそのキリストとの 国 となった。 主<br />

は 世 々 限 りなく 支 配 なさるであろう」[ 黙 示 録 11:。「こうして 主 の 栄 光 があらわれ、<br />

人 は 皆 ともにこれを 見 る。」「 主 なる 神 は 義 と 誉 とを、もろもろの 国 の 前 に、 生 やさ<br />

216


国 際 協 定<br />

れる。」 主 は、「その 民 の 残 った 者 のために、 栄 えの 冠 となり、 麗 しい 冠 となられる」<br />

[イザヤ 40:5、61:11、28:。<br />

長 く 待 望 してきた 平 和 なメシヤの 王 国 が、 全 天 のもとで 建 設 されるのは、この 時 で<br />

ある。「 主 はシオンを 慰 め、またそのすべて 荒 れた 所 を 慰 めて、その 荒 野 をエデンの<br />

ように、そのさばくを 主 の 園 のようにされる。」「これにレバノンの 栄 えが 与 えられ、<br />

カルメルおよびシャロンの 麗 しさが 与 えられる。」「あなたはもはや、『 捨 てられた<br />

者 』と 言 われず、あなたの 地 はもはや『 荒 れた 者 』と 言 われず、あなたば『わが 喜 び<br />

は 彼 女 にある』ととなえられ、あなたの 地 は『 配 偶 ある 者 』ととなえられる。」「 花<br />

婿 が 花 嫁 を 喜 ぶようにあなたの 神 はあなたを 喜 ばれる」[イザヤ 51:3、35:2、62:<br />

4、。<br />

主 の 再 臨 は、 各 時 代 において、 神 の 真 の 弟 子 たちの 希 望 であった。また 来 るという、<br />

オリブ 山 上 での 救 い 主 の、 離 別 にあたっての 約 束 は、 弟 子 たちの 未 来 を 明 るく 照 らし、<br />

彼 らの 心 を 喜 びと 希 望 で 満 たし、どんな 悲 しみも 試 練 もこれを 消 し 去 ることはできな<br />

かった。 苦 難 と 迫 害 のただ 中 にあって、「 大 いなる 神 、わたしたちの 救 主 キリスト・<br />

イエスの 栄 光 の 出 現 」は、「 祝 福 に 満 ちた 望 み」であった。 生 きて 主 の 来 臨 を 見 たい<br />

と 望 んでいた 愛 する 者 たちを 葬 って、 悲 しみのうちにあったテサロニケの 人 々に、 彼<br />

らの 教 師 パウロは、 救 い 主 の 再 臨 の 時 に 起 こる 復 活 を 指 し 示 した。その 時 には、キリ<br />

ストにあって 死 んだ 人 々がよみがえり、 生 きている 人 々と 共 に 引 き 上 げられて、 空 中<br />

で 主 にお 目 にかかる。こうして、「いつも 主 と 共 にいるであろう。だから、あなたが<br />

たは、これらの 言 葉 をもって 互 に 慰 め 合 いなさい」と 彼 は 言 った[Ⅰテサロニケ 4:16<br />

~。<br />

岩 角 険 しいバトモス 島 において、 愛 する 弟 子 ヨハネは「しかり、わたしはすぐに 来<br />

る」という 約 束 を 聞 いた。そして、「 主 イエスよ、きたりませ」という 彼 の 切 実 な 応<br />

答 は、 流 浪 のうちにある 教 会 の 祈 りでもあった[ 黙 示 録 22:。<br />

聖 徒 や 殉 教 者 たちは、 牢 獄 、 火 刑 柱 、 処 刑 台 において、 真 理 のあかしを 立 てたが、<br />

彼 らの 信 仰 と 希 望 の 言 葉 が、 幾 世 紀 後 のわれわれに 伝 えられている。 彼 らは、「 主 の<br />

復 活 を 確 信 し、したがって 主 の 再 臨 の 時 に 彼 ら 自 身 も 復 活 することを 確 信 していたの<br />

で、 彼 らは 死 を 恐 れず、 死 を 超 越 していた」と、あるキリスト 者 は 言 っている。 1 彼 ら<br />

は、「 自 由 の 身 になって 復 活 する」ために、 喜 んで 墓 に 下 っていった。 2 彼 らは、「 主<br />

が、 父 の 栄 光 をもち、 天 の 雲 に 乗 って 来 られ、」「 義 人 たちに 王 国 の 時 代 をもたらさ<br />

れる」のを 待 望 した。ワルド 派 も 同 じ 信 仰 を 抱 いていた。 3 ウィクリフも、 贖 い 主 の 出<br />

現 を 教 会 の 希 望 として 待 望 していた。 4<br />

217


国 際 協 定<br />

ルターは 次 のように 言 った。「わたしは、 今 後 300 年 もすれば 必 ず、 審 判 の 日 が 来<br />

ると 確 信 する。 神 は、この 邪 悪 な 世 界 を 長 く 忍 ぶことはなさらないであろうし、また、<br />

おできにならないのである。」「 悪 虐 な 王 国 を 打 ち 砕 く 大 いなる 日 が 近 づいている。」<br />

5 「この 古 びた 世 界 は、 終 末 から 遠 くない」とメランヒトンは 言 った。カルバンは、<br />

「キリストの 再 臨 を、あらゆる 事 件 中 の 最 も 喜 ばしいものとして、ためらわず、 熱 心<br />

に 待 望 するよう」キリスト 者 に 命 じ、「 忠 実 なものの 家 族 全 員 が、その 日 を 待 望 する<br />

ように」 勧 めている。「われわれは、 主 がみ 国 の 栄 光 を 十 分 にあらわされる 大 いなる<br />

日 の 夜 明 けまで、 飢 えかわくようにキリストを 求 め、たずね、 瞑 想 しなければならな<br />

い」と 彼 は 言 っている。 6<br />

「われわれの 主 イエスは、われわれの 肉 体 を 天 にたずさえて 行 かれたのではなかっ<br />

たか。そして 彼 は、 帰 って 来 られないであろうか。われわれは、 彼 が 帰 って 来 られる<br />

こと、しかもそれが 速 やかであることを 知 っている」とスコットランドの 改 革 者 ノッ<br />

クスは 言 った。 真 理 のために 生 命 をささげたリドリとラチマーは、 主 の 再 臨 を 信 じて<br />

待 ち 望 んだ。「わたしは、この 事 を 信 じるから 言 うのであるが、この 世 界 は 疑 いもな<br />

く 終 末 に 近 づいている。われわれは、 神 のしもベヨハネと 共 に、 来 てください、 主 イ<br />

エスよ、 来 てくださいと、われわれの 救 い 主 キリストに 向 かって、 心 の 中 で 叫 ぼう」<br />

とリドリは 書 いた。 7<br />

「 主 の 再 臨 を 考 えることは、わたしには 最 も 楽 しく 喜 ばしいことである」とバクス<br />

ターは 言 った。 8 「 彼 の 出 現 を 愛 し、 祝 福 された 望 みを 待 ち 受 けることは、 信 仰 のわざ<br />

であり、 聖 徒 の 特 質 である。」「 死 が、 復 活 の 時 に 滅 ぼされる 最 後 の 敵 であるならば、<br />

この 最 後 の 完 全 な 勝 利 が 与 えられるキリストの 再 臨 を、 信 者 たちがどんなに 熱 心 に 待<br />

望 し、そのために 祈 るべきであるかがわかるのである。」 9 「この 日 こそ、すべて 信 ず<br />

る 者 の 贖 罪 のすべての 働 きと、 彼 らの 魂 の 願 望 と、 努 力 のすべてが 完 成 されるのであ<br />

るから、すべての 信 者 は、この 日 を 熱 望 し、 待 ちかまえていなければならない。」<br />

「 主 よ、この 祝 福 された 日 を 早 めてください。」 10 これが 使 徒 時 代 の 教 会 の 希 望 であ<br />

り、「 荒 野 の 教 会 」の 希 望 であり、また 改 革 者 たちの 希 望 であった。<br />

預 言 は、キリスト 再 臨 のようすと 目 的 を 予 告 するだけでなく、 人 々がその 近 づいた<br />

ことを 知 るように、しるしも 与 えている。イエスは、「また 日 と 月 と 星 とに、しるし<br />

が 現 れるであろう」と 言 われた[ルカ 21:。「 日 は 暗 くなり、 月 はその 光 を 放 つこと<br />

をやめ、 星 は 空 から 落 ち、 天 体 は 揺 り 動 かされるであろう。そのとき、 大 いなる 力 と<br />

栄 光 とをもって、 人 の 子 が 雲 に 乗 って 来 るのを、 人 々は 見 るであろう」[マルコ 13:<br />

24~。 黙 示 録 の 記 者 も、 再 臨 に 先 だつ 第 一 のしるしをこのように 描 写 している。「 大<br />

218


国 際 協 定<br />

地 震 が 起 って、 太 陽 は 毛 織 の 荒 布 のように 黒 くなり、 月 は 全 面 、 血 のようにな」った<br />

[ 黙 示 録 6:。<br />

こうしたしるしは、19 世 紀 の 開 始 前 に 起 こった。この 預 言 の 成 就 として、1755 年<br />

に、これまでの 記 録 を 破 る 恐 ろしい 地 震 が 起 きた。これは、 一 般 にリスボンの 地 震 と<br />

言 われているが、ヨーロッパの 大 部 分 、アフリカ、アメリカにも 及 んだ。グリーンラ<br />

ンド、 西 インド 諸 島 、マディラ 島 、ノルウェー、スウェーデン、 大 ブリテン[ 英 国 ]ア<br />

イルランドでも 感 じられた。その 範 囲 は、400 万 平 方 マイルに 及 んだ。アフリカでは、<br />

ヨーロッパと 同 様 の 激 震 であった。アルジェは 大 半 崩 壊 した。そしてモロッコ 付 近 の、<br />

8000 から 1 万 人 ぐらいの 人 口 をもっていた 村 が 陥 没 した。スペインとアフリカの 沿<br />

岸 には、 高 波 が 押 し 寄 せて 町 々をのみ 尽 くし、 大 きな 破 壊 をもたらした。 地 震 が 特 に<br />

激 しかったのは、スペインとポルトガルであった。カディスでは、 押 し 寄 せる 波 の 高<br />

さが、60 フィート[ 約 18 メートル]もあったという。「ポルトガルの 高 山 のいくつか<br />

は、あたかもその 根 底 から 覆 えされるかのように、 猛 烈 に 震 動 した。そのうちのいく<br />

つかは 頂 上 が 開 いて、 異 様 な 形 に 裂 けて 割 れ、 巨 大 な 塊 が 隣 接 した 谷 間 に 崩 れ 落 ちた。<br />

これらの 山 々がらは 炎 が 噴 き 出 たと 言 われている。」 11<br />

リスボンでは、「 雷 のような 音 が 地 下 で 聞 こえたかと 思 うと、その 直 後 に 激 しい 震<br />

動 が 起 こって、 市 の 大 部 分 が 倒 壊 した。6 分 ほどの 間 に 6 万 人 死 んだ。 海 は、 最 初 潮<br />

がひいて 砂 州 が 露 出 したが、 平 常 の 水 準 よりも 50 フィート[ 約 15 メートル] 以 上 も 高<br />

くなって、またもどってきた。」「この 災 害 のときに、リスボンで 起 こったと 伝 えら<br />

れる 異 常 なできごとの 1 つは、 巨 額 の 費 用 を 投 じて 造 られた 総 大 理 石 の 新 しい 埠 頭 が<br />

陥 没 したことであった。 大 群 衆 が、 倒 壊 物 を 避 ける 安 全 な 場 所 としてそこに 避 難 して<br />

いた。ところが、 埠 頭 は 突 然 人 々もろともに 陥 没 して、 遺 体 は 1 つも 表 面 に 浮 いて 来<br />

なかった。」 12<br />

「 震 動 後 直 ちに、すべての 教 会 や 修 道 院 、ほとんどすべての 大 建 造 物 と 家 屋 の 4 分<br />

の 1 以 上 が 倒 壊 した。 震 動 後 約 1 時 間 のうちに、 各 地 から 火 事 が 起 こり、3 日 近 くも<br />

非 常 な 激 しさで 燃 えつづけ、 都 市 は 全 滅 した。 地 震 は 聖 日 に 起 こり、 教 会 や 修 道 院 は<br />

人 々でいっぱいだったが、 逃 れた 者 はほとんどいなかった。」 13 「 人 々の 恐 怖 は、 言<br />

葉 では 表 現 できないほどだった。だれも 泣 かなかった。 泣 くどころではなかった。 彼<br />

らは 恐 怖 と 驚 きに 狂 乱 状 態 となって、あちこち 走 りまわり、 顔 や 胸 を 打 って、『あわ<br />

れみたまえ! 世 の 終 わりだ!』と 叫 んでいた。 母 親 は 子 供 たちを 忘 れて、 十 字 架 の 像<br />

を 背 負 って 走 り 回 った。 多 くの 者 が 教 会 に 避 難 したことが 悲 惨 を 招 いた。 聖 体 を 取 り<br />

出 してもむだであった。 哀 れにも 人 々は 祭 壇 にしがみついたが、むだであった。 聖 画<br />

219


国 際 協 定<br />

像 も 司 祭 も 人 々も、もろともに 埋 没 してしまった。」この 恐 るべき 日 に 生 命 を 失 った<br />

人 の 数 は、9 万 と 推 定 されている。<br />

日 と 月 が 暗 くなるという 預 言 の 次 のしるしは、その 25 年 後 にあらわれた。このし<br />

るしに 関 してさらに 驚 くべきことは、その 成 就 の 時 が 明 確 に 示 されていたことである。<br />

救 い 主 は、オリブ 山 上 で 弟 子 たちと 語 り、 教 会 の 長 い 試 練 の 期 間 、すなわち、1260<br />

年 間 にわたる 法 王 権 の 迫 害 について 述 べ、その 苦 難 は 短 くされると 約 束 された。 それ<br />

から、 再 臨 に 先 だって 起 こる 諸 事 件 をあげて、その 最 初 のものがいつ 起 こるかを 定 め<br />

られた。「その 日 には、この 患 難 の 後 、 日 は 暗 くなり、 月 はその 光 を 放 つことをやめ」<br />

[マルコ 13:。1260 日 、すなわち 1260 年 は、1798 年 に 終 わった。その 四 半 世 紀 前<br />

に、 迫 害 はほぼ 完 全 にやんでいた。キリストの 言 葉 によれば、この 迫 害 のあとで 日 が<br />

暗 くなるのであった。1780 年 5 月 19 日 に、この 預 言 は 成 就 した。<br />

「この 種 の 現 象 として、 他 に 類 例 がなく、 最 も 不 思 議 で 説 明 することができないも<br />

のは……1780 年 5 月 19 日 の 暗 黒 日 である。これは、ニュー・イングランド 地 方 の<br />

空 全 体 をおおった 不 可 解 な 暗 黒 である。」 14 マサチューセッツ 州 に 住 んでいた 目 撃 者<br />

は、そのできごとを 次 のように 語 っている。「 太 陽 は、 朝 晴 れやかに 昇 ったが、まも<br />

なく 雲 がかかった。 雲 は 荒 れ 模 様 となり、まもなく、 黒 く 無 気 味 な 雲 から 稲 光 りが 光<br />

り、 雷 が 鳴 り、 雨 も 少 し 降 った。9 時 ごろには 雲 が 薄 らぎ、 真 ちゅうか 銅 のような 色<br />

になり、 地 面 も、 岩 も、 木 も、 建 物 も、 水 も、 人 々も、この 不 思 議 な、この 世 のもの<br />

とは 思 われない 光 に 照 らされて 変 わってみえた。その 数 分 後 には、 地 平 線 に 細 い 一 線<br />

を 残 して、 全 天 を 黒 い 雲 がおおった。その 暗 さは 普 通 の 夏 の 夜 の 9 時 ごろの 暗 さであ<br />

った。……<br />

人 々の 心 は 徐 々に、 恐 怖 と 不 安 と 畏 怖 の 念 に 満 たされた。 女 たちは 戸 口 に 立 って、<br />

暗 いけしきをながめていた。 男 たちは 畑 の 仕 事 から 帰 って 来 た。 大 工 は 道 具 を、かじ<br />

やはふいごを、 商 人 は 売 り 場 を 離 れた。 学 校 は 授 業 を 取 りやめ、 子 供 たちはおびえな<br />

がら 家 に 帰 った。 旅 人 は 最 寄 りの 農 家 に 泊 まった。『いったい、どうなるのだろう?』<br />

とだれもが 心 に 思 い、 口 に 出 してたずねていた。それは、あたかも 大 あらしが 地 上 を<br />

襲 おうとするか、それとも 万 物 の 終 わりの 日 であるかのように 思 われた。<br />

ろうそくに 火 がつけられた。 炉 の 火 は、 月 の 出 ない 秋 の 夜 のようにあかあかと 燃 え<br />

た。…… 鶏 は 巣 に 帰 ってねた。 家 畜 は、 牧 場 の 柵 に 寄 ってきて 鳴 いた。カエルが 鳴 き、<br />

小 鳥 は 夜 の 歌 をうたい、こうもりは 飛 びかった。しかし、 人 間 は、 夜 がきたのではな<br />

いことを 知 っていた。…… セイレムのタバナクル 教 会 の 牧 師 、ナサニエル・ホイッテ<br />

カー 博 士 は、 集 会 所 で 伝 道 集 会 を 開 いて 説 教 し、その 中 で、この 暗 黒 は 超 自 然 的 なも<br />

220


国 際 協 定<br />

のであると 言 明 した。その 他 多 くの 場 所 で、 会 衆 が 集 まった。 即 座 に 行 われた 説 教 の<br />

聖 句 は、どれも、 暗 黒 が 聖 書 の 預 言 と 調 和 することを 示 すと 思 われるものであっ<br />

た。…… 暗 黒 は、11 時 を 少 し 過 ぎたころが 最 も 濃 かった。」 15 「 昼 間 であるにもかか<br />

わらず、その 地 方 一 帯 の 暗 黒 は 非 常 に 深 く、ろうそくをつけなければ、 時 計 や 柱 時 計<br />

を 見 て 時 間 を 知 ることも、 食 べることも 家 事 をすることもできなかった。……<br />

この 暗 黒 の 範 囲 は 非 常 なものであった。 東 は、ファルマスに 及 んだ。 西 は、コネク<br />

ティカットの 端 と、アルバニー 市 に 至 った。 南 は、 海 岸 地 方 一 帯 に 及 び、 北 は、アメ<br />

リカの 植 民 地 が 広 がっている 全 域 をおおった。」 16<br />

昼 間 の 濃 い 暗 黒 は、 夕 方 の 1、2 時 間 前 まで 続 き、まだ 暗 く 重 くるしい 霧 にさえぎ<br />

られてはいたが、 幾 分 か 晴 れた 空 のすきまから 太 陽 が 現 れた。「 日 没 後 、また 雲 がで<br />

てきて、 急 速 に 暗 黒 になった。」「その 夜 の 暗 黒 は、 昼 間 の 暗 黒 に 勝 るとも 劣 らぬ 異<br />

常 で 恐 ろしいものであった。 月 は、ほとんど 満 月 であったにもかかわらず、 灯 火 の 助<br />

けをかりなければ、 何 も 見 えなかった。その 灯 火 でも、 隣 の 家 々や 遠 方 から 見 たなら<br />

ば、 光 線 をほとんど 通 さないエジプトの 暗 黒 を 通 して 見 るようであった。」 17 この 光<br />

景 の 目 撃 者 は 言 った。「わたしはその 時 、 宇 宙 のすべての 発 光 体 が、なにものをも 通<br />

さないやみにつつまれるか、あるいは 消 え 去 るかしても、これ 以 上 の 暗 黒 はあり 得 な<br />

いのではないかと、 考 えずにはおれなかった。」 18 その 夜 9 時 に、 月 は 完 全 に 姿 を 現<br />

したが、「それには、 死 のようなやみを 消 す 力 はなかった。」 夜 半 後 になってやみは<br />

消 え、 月 が 見 えはじめたが、その 時 、それは 血 のようであった。<br />

1780 年 5 月 19 日 は、 歴 史 上 「 暗 黒 日 」となっている。モーセの 時 代 以 来 、これ<br />

ほどの 濃 さと 広 さと 時 間 的 長 さをもった 暗 黒 は、 記 録 されていない。 目 撃 者 によるこ<br />

の 事 件 の 描 写 は、その 成 就 の 2500 年 前 の 預 言 者 ヨエルが 記 録 した 主 の 言 葉 のくり 返<br />

しに 過 ぎない。「 主 の 大 いなる 恐 るべき 日 が 来 る 前 に、 日 は 暗 く、 月 は 血 に 変 る」[ヨ<br />

エル 2:。 キリストはご 自 分 の 民 に、 彼 の 再 臨 のしるしによく 注 意 し、 来 たるべき 王<br />

のしるしが 見 えたならば 喜 べとお 命 じになった。「これらの 事 が 起 りはじめたら、 身<br />

を 起 し 頭 をもたげなさい。あなたがたの 救 が 近 づいているのだから」と 主 は 言 われた。<br />

彼 は、 春 芽 を 出 す 木 々を 指 さして、 弟 子 たちに 言 われた。「はや 芽 を 出 せば、あなた<br />

がたはそれを 見 て、 夏 がすでに 近 いと、 自 分 で 気 づくのである。このようにあなたが<br />

たも、これらの 事 が 起 るのを 見 たなら、 神 の 国 が 近 いのだとさとりなさい」[ルカ 21:<br />

28、30、。<br />

しかし、 教 会 のなかの 謙 そんと 献 身 の 精 神 が、 高 慢 と 形 式 主 義 に 変 わった 時 、キリ<br />

ストに 対 する 愛 と 彼 の 再 臨 に 対 する 信 仰 が 冷 えていった。 世 俗 と 快 楽 の 追 求 に 熱 中 し<br />

221


国 際 協 定<br />

て、 神 の 民 と 自 称 する 人 々は、 再 臨 のしるしについての 救 い 主 の 教 えに、 盲 目 になっ<br />

た。 再 臨 の 教 義 は、ないがしろにされた。 再 臨 に 関 する 聖 句 は、 曲 解 されて 不 明 瞭 と<br />

なり、ついにはその 大 部 分 が 無 視 されて、 見 失 われてしまった。こうしたことは、 特<br />

に、アメリカの 諸 教 会 で 起 こった。 社 会 のすべての 階 層 が 自 由 と 安 楽 を 享 受 すること<br />

ができるので、 人 々は、 富 とぜいたくにあこがれ、 金 もうけに 熱 中 し、だれもが 手 に<br />

入 れられると 見 える 名 誉 と 権 力 を 追 求 し、この 世 の 事 物 に 関 心 と 希 望 を 集 中 させ、 現<br />

在 の 秩 序 が 崩 壊 するあの 厳 粛 な 日 を、はるか 将 来 に 押 しやってしまった。<br />

救 い 主 は、 再 臨 のしるしを 弟 子 たちに 示 された 時 に、 再 臨 の 直 前 における 背 教 の 状<br />

態 を 予 告 された。ちょうど、ノアの 時 代 のように、 世 俗 の 事 業 と 快 楽 の 追 求 に 忙 殺 さ<br />

れて、 売 り 買 い、 植 えつけ、 建 築 、とつぎ、めとりなどして、 神 と 来 世 のことを 忘 れ<br />

てしまうのである。このような 時 代 に 生 存 する 者 に、キリストは、 次 のように 勧 告 さ<br />

れる。「あなたがたが 放 縦 や、 泥 酔 や、 世 の 煩 いのために 心 が 鈍 っているうちに、 思<br />

いがけないとき、その 日 がわなのようにあなたがたを 捕 らえることがないように、よ<br />

く 注 意 していなさい。」「これらの 起 ろうとしているすべての 事 からのがれて、 人 の<br />

子 の 前 に 立 つことができるように、 絶 えず 目 をさまして 祈 っていなさい」[ルカ 21:<br />

34、。<br />

この 時 の 教 会 の 状 態 は、 黙 示 録 の 中 の「あなたは、 生 きているというのは 名 だけで、<br />

実 は 死 んでいる」という 救 い 主 の 言 葉 の 中 に 指 摘 されている。そして、その 軽 率 な 安<br />

心 感 からめざめようとしない 者 に、 次 のような 厳 粛 な 警 告 が 発 せられている。「もし<br />

目 をさましていないなら、わたしは 盗 人 のように 来 るであろう。どんな 時 にあなたの<br />

ところに 来 るか、あなたには 決 してわからない」[ 黙 示 録 3:1、。 人 々は、 自 分 たち<br />

の 危 険 にめざめなければならな い。 恩 恵 期 間 に 関 連 した 厳 粛 なできごとの 準 備 をする<br />

ために、 目 をさまさなければならない。 神 の 預 言 者 は、「 主 の 日 は 大 いにして、はな<br />

はだ 恐 ろしいゆえ、だれがこれに 耐 えることができよう」と 言 っている。「 目 が 清 く、<br />

悪 を 見 られない 者 、また 不 義 を 見 られない 者 」であられるお 方 が 現 われる 時 に、だれ<br />

が 立 つことができようか[ヨエル 2:11、ババクク 1:。「わが 神 よ、われわれは……<br />

あなたを 知 る」と 言 いながら、 神 の 契 約 を 破 り、ほかの 神 を 選 び、 心 に 悪 を 隠 し、 不<br />

義 の 道 を 愛 する 人 々には、 主 の 日 は、「 暗 くて、 光 がなく、 薄 暗 くて 輝 きがない」の<br />

である[ホセア 8:2、1、アモス 5:20、 詩 篇 16:4 参 照 ]。<br />

「その 時 、わたしはともしびをもって、エルサレムを 尋 ねる。そして 滓 [おり]の 上<br />

に 凝 り 固 まり、その 心 の 中 で、『 主 は 良 いことも、 悪 いこともしない』と 言 う 人 々を<br />

わたしは 罰 する」と 主 は 言 われる[ゼパニヤ 1:。「わたしはその 悪 のために 世 を 罰 し、<br />

その 不 義 のために 悪 い 者 を 罰 し、 高 ぶる 者 の 誇 をとどめ、あらぶる 者 の 高 慢 を 低 くす<br />

222


国 際 協 定<br />

る」[イザヤ 13:。「 彼 らの 銀 も 金 も、…… 彼 らを 救 うことができない。」「 彼 らの<br />

財 宝 はかすめられ、 彼 らの 家 は 荒 れはてる」[ゼパニヤ 1:18、。 預 言 者 エレミヤは、<br />

この 恐 るべき 時 を 予 見 して 叫 んだ。「わたしは 苦 しみにもだえる。……わたしは 沈 黙<br />

を 守 ることができない、ラッパの 声 と、 戦 いの 叫 びを 聞 くからである。 破 壊 に 次 ぐに<br />

破 壊 があ」る[エレミヤ 4:19、。 「その 日 は 怒 りの 日 、なやみと 苦 しみの 日 、 荒 れ、<br />

また 滅 びる 日 、 暗 く、 薄 暗 い 日 、 雲 と 黒 雲 の 日 、ラッパとときの 声 の 日 」[ゼパニヤ 1:<br />

15、。「 見 よ、 主 の 日 が 来 る。……この 地 を 荒 し、その 中 から 罪 びとを 断 ち 滅 ぼすた<br />

めに 来 る」[イザヤ 13:。<br />

この 大 いなる 日 に 関 して、 神 の 言 葉 は、 最 も 厳 粛 で、 印 象 深 い 言 葉 で、 神 の 民 に、<br />

霊 的 昏 睡 から 目 覚 めて、 悔 い 改 めとへりくだりによって 神 の 顔 を 求 めるよう 促 してい<br />

る。「あなたがたはシオンでラッパを 吹 け。わが 聖 なる 山 で 警 報 を 吹 きならせ。 国 の<br />

民 はみな、ふるいわななけ。 主 の 日 が 来 るからである。それは 近 い。」「 断 食 を 聖 別<br />

し、 聖 会 を 召 集 し、 民 を 集 め、 会 衆 を 聖 別 し、 老 人 たちを 集 め、 幼 な 子 ……を 集 め、<br />

花 婿 をその 家 から 呼 びだし、 花 嫁 をそのへやから 呼 びだせ。 主 に 仕 える 祭 司 たちは、<br />

廊 と 祭 壇 との 間 で 泣 」け。「『 今 からでも、あなたがたは 心 をつくし、 断 食 と 嘆 きと、<br />

悲 しみとをもってわたしに 帰 れ。あなたがたは 衣 服 ではなく、 心 を 裂 け』。あなたが<br />

たの 神 、 主 に 帰 れ。 主 は 恵 みあり、あわれみあり、 怒 ることがおそく、いつくしみが<br />

豊 かで」ある[ヨエル 2:1、15~17、12、。<br />

神 の 日 に 立 ち 得 る 民 を 準 備 するには、 改 革 の 大 いなる 働 きが 成 し 遂 げられねばなら<br />

なかった。 神 は、 神 の 民 と 称 する 人 々の 多 くが、 永 遠 のために 築 いていないのを 見 ら<br />

れ、 憐 れみのうちに 彼 らに 警 告 の 使 命 を 与 えて、 彼 らを 昏 睡 から 目 覚 めさせ、 主 の 再<br />

臨 の 準 備 をさせようとされた。 この 警 告 が、 黙 示 録 14 章 に 記 されている。ここには、<br />

天 使 が 宣 言 するといわれている 三 重 の 使 命 が 書 かれていて、すぐそれに 続 いて 人 の 子<br />

が 来 られ、「 地 の 穀 物 」を 刈 られる。 警 告 の 使 命 の 第 一 は、 審 判 の 切 迫 を 宣 言 する。<br />

預 言 者 は、 天 使 が「 中 空 を 飛 ぶのを 見 た。 彼 は 地 に 住 む 者 、すなわち、あらゆる 国 民 、<br />

部 族 、 国 語 、 民 族 に 宣 べ 伝 えるために、 永 遠 の 福 音 をたずさえてきて、 大 声 で 言 った。<br />

『 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せよ。 神 のさばきの 時 がきたからである。 天 と 地 と 海 と<br />

水 の 源 とを 造 られたかたを、 伏 し 拝 め』」[ 黙 示 録 14:6、。<br />

この 使 命 は、「 永 遠 の 福 音 」の 一 部 として 宣 言 されている。 福 音 宣 布 の 働 きは、 天<br />

使 にゆだねられたのではなく、 人 間 に 委 託 されているのである。 天 使 はこの 働 きを 指<br />

導 するために 用 いられ、 人 間 の 救 いのための 大 運 動 の 任 を 負 わせられている。しかし、<br />

福 音 の 実 際 の 宣 教 は、 地 上 のキリストのしもべたちによって 行 われるのである。<br />

223


国 際 協 定<br />

神 の 聖 霊 の 感 動 とみ 言 葉 の 教 えに 従 った 忠 実 な 人 々が、この 警 告 を 世 界 に 宣 言 する<br />

のであった。 彼 らは、「 夜 が 明 け、 明 星 がのぼる……まで、この 預 言 の 言 葉 を」 心 に<br />

とめていた 人 々であった[Ⅱペテロ 1:。 彼 らは、すべての 隠 された 宝 以 上 に 神 を 知 る<br />

ことを 求 め、それを、「 銀 によって 得 るものにまさり、その 利 益 は 精 金 よりも 良 い」<br />

とみなしたのであった[ 箴 言 3:。 主 は、 彼 らにみ 国 の 偉 大 な 事 物 を 啓 示 された。「 主<br />

の 親 しみは 主 をおそれる 者 のためにあり、 主 はその 契 約 を 彼 らに 知 らせられる」[ 詩 篇<br />

25:。<br />

この 真 理 を 理 解 し、その 宣 布 に 従 事 したのは、 博 学 な 神 学 者 たちではなかった。も<br />

しも 彼 らが、 祈 りつつ 勤 勉 に 聖 書 を 研 究 する 忠 実 な 夜 回 りであったならば、 夜 の 時 刻<br />

を 知 ったことであろう。 預 言 は、まさに 起 ころうとしていたできごとを、 彼 らに 示 し<br />

たことであろう。しかし 彼 らはそうでなかったために、 使 命 は、 彼 らより 劣 る 人 々に<br />

よって 伝 えられた。「 光 がある 間 に 歩 いて、やみに 追 いつかれないようにしなさい」<br />

とイエスは 言 われた[ヨハネ 12:。 神 から 与 えられた 光 に 背 をむけ、 手 近 にある 光 を<br />

求 めない 者 は、 暗 黒 のなかに 残 される。しかし、「わたしに 従 って 来 る 者 は、やみの<br />

うちを 歩 くことがなく、 命 の 光 をもつであろう」と 救 い 主 は 宣 言 された[ヨハネ 8:。<br />

ひたすら 神 のみこころを 行 おうと 願 い、すでに 与 えられた 光 を 熱 心 に 心 に 留 める 者 は<br />

だれでも、もっと 大 きな 光 を 受 ける。そのような 魂 には、 天 の 光 に 輝 く 星 が 送 られて、<br />

すべての 真 理 に 彼 を 導 くのである。<br />

キリストの 初 臨 の 時 、 神 の 言 葉 を 托 されていた 聖 都 の 祭 司 や 学 者 たちは、 時 のしる<br />

しを 見 わけて 約 束 されたお 方 の 来 臨 を 宣 布 することができたはずであった。ミカの 預<br />

言 は、 彼 の 誕 生 の 地 を 指 示 していた。ダニエルは、 彼 の 来 臨 の 時 をはっきり 示 した[ミ<br />

カ 5:2、ダニエル 9:25 参 照 ]。 神 はこうした 預 言 を、ユダヤの 指 導 者 たちに 托 され<br />

た。 彼 らがメシヤの 来 臨 が 近 づいたことを 知 らず、 人 々に 宣 布 しなかったことに 対 し<br />

て、 弁 解 はあり 得 ない。 彼 らの 無 知 は、 罪 深 い 怠 慢 の 結 果 であった。 ユダヤ 人 は、 殉<br />

教 した 神 の 預 言 者 たちの 記 念 碑 を 建 てていたが、その 一 方 では 地 上 の 偉 大 な 人 物 たち<br />

に 敬 意 を 払 うことによってサタンのしもべたちに 誉 れを 帰 していた。 彼 らは、 世 俗 の<br />

地 位 と 権 力 の 争 奪 に 心 を 奪 われて、 天 の 王 が 彼 らに 与 えようとされた 栄 誉 を 見 失 って<br />

しまった。 人 類 の 贖 罪 の 完 成 のために 神 のみ 子 が 来 られるという、 史 上 最 大 のできご<br />

との 場 所 、 時 、 状 況 などを、イスラエルの 長 老 たちは 心 からの 畏 敬 の 念 をもって 研 究<br />

していなければならないはずであった。すべての 人 々は、 世 の 贖 罪 主 をまっ 先 に 歓 迎<br />

する 者 の 中 に 入 ろうと、 目 をさまして 待 っているべきであった。ところが、 見 よ、ベ<br />

ツレヘムでは、ナザレの 山 地 から 来 た 2 人 の 疲 れた 旅 人 は、 一 夜 の 泊 まる 場 所 を 求 め<br />

て、 狭 く 長 い 通 りを 町 の 東 のはずれまで 歩 いているが 得 られない。 彼 らを 迎 えて 開 く<br />

224


国 際 協 定<br />

戸 はどこにもない。 彼 らはついに、 家 畜 を 入 れるみすぼらしい 小 屋 に 休 み 場 を 見 つけ<br />

る。そしてそこで、 世 の 救 い 主 がお 生 まれになる。<br />

み 子 が、 世 界 が 造 られる 前 から、 父 とともに 持 っておられた 栄 光 を 見 ていた 天 使 た<br />

ちは、 彼 が 地 上 に 現 れるのをすべての 人 々が、 大 きな 喜 びをもって 迎 えるであろうと、<br />

非 常 な 関 心 を 持 って 期 待 していた。 天 使 たちは 喜 びの 知 らせを、それを 受 ける 準 備 の<br />

できている 者 たちに、そして 喜 んでそれを 地 の 住 民 たちに 知 らせる 者 たちに 伝 達 する<br />

ようにという 任 命 を 受 けた。キリストは、 身 を 低 くして 人 性 をとられた。 彼 がご 自 分<br />

の 魂 をとがの 供 え 物 となす 時 、 苦 悩 の 無 限 の 重 荷 を 負 われるのであった。しかし 天 使<br />

たちは、 至 高 者 のみ 子 が、ご 自 分 を 低 くされたとはいえ、そのご 品 性 にふさわしい 威<br />

光 と 栄 光 とをもって 人 々の 前 にお 現 れになるよう 望 んだ。 地 上 の 偉 大 な 人 々が、イス<br />

ラエルの 首 都 に 集 まって、 彼 のおいでを 迎 えるであろうか。 天 使 の 大 軍 が、 待 ちうけ<br />

ている 群 衆 に、 彼 を 紹 介 するであろうか。<br />

天 使 が、イエスを 迎 える 準 備 のある 者 はだれかを 見 るために、 地 を 訪 れる。しかし、<br />

待 ち 受 けている 様 子 はどこにも 見 られない。メシヤ 到 来 の 時 が 近 づいたという 賛 美 と<br />

勝 利 の 声 は 聞 こえない。 天 使 は、しばらく、 選 ばれた 都 の 上 に、そして、 長 い 間 神 の<br />

臨 在 があらわされていた 神 殿 の 上 にとどまる。しかし、ここにも 同 じ 無 関 心 さがある。<br />

祭 司 たちは、 虚 飾 と 高 慢 に 満 ちて、 汚 れた 犠 牲 を 神 殿 でささげている。<br />

パリサイ 人 たちは、 大 声 で 人 々を 教 えているか、それとも、 町 角 で 高 慢 な 祈 りをさ<br />

さげているかである。 王 宮 も、 哲 学 者 の 会 合 も、ラビの 学 校 も、みな 全 天 を 歓 喜 と 賛<br />

美 で 満 たしている 驚 くべき 事 実 、すなわち、 人 類 の 贖 い 主 が 今 まさに 地 上 にあらわれ<br />

ようとしておられるということを、 知 らずにいるのである。<br />

キリストに 対 する 期 待 、 生 命 の 君 を 迎 える 準 備 は、どこにも 見 られない。 驚 いた 天<br />

使 は、この 恥 ずべき 報 告 をもって 天 に 帰 ろうとする。とその 時 、 夜 羊 の 番 をしながら<br />

星 空 を 仰 ぎ、メシヤが 地 上 に 来 られるという 預 言 を 瞑 想 し、 世 界 の 贖 い 主 の 来 臨 を 待<br />

望 している、 羊 飼 いの 一 群 を 見 つける。ここに、 天 来 の 知 らせを 受 ける 用 意 のできた<br />

一 団 がいるのである。そこで、 突 然 主 の 使 いが 現 れて、 大 いなる 喜 びの 福 音 を 宣 言 す<br />

る。 天 の 栄 光 が 平 原 に 満 ち、 数 えきれない 天 使 たちが 現 れる。あだかもこの 喜 びは、<br />

ただ 1 人 の 天 使 が 伝 えるにはあまりにも 大 きすぎるかのように、おおぜいの 声 が 高 ら<br />

かに、やがてすべての 国 々から 贖 われた 者 たちの 歌 う 賛 美 の 歌 を 歌 う。「いと 高 きと<br />

ころでは、 神 に 栄 光 があるように、 地 の 上 では、み 心 にかなう 人 々に 平 和 があるよう<br />

に」[ルカ 2:。<br />

225


国 際 協 定<br />

このベツレヘムの 驚 くべき 物 語 は、なんという 教 訓 を 教 えていることであろう。そ<br />

れはなんとわれわれの 不 信 、 高 慢 、うぬぼれを 譴 責 することであろう。それは、われ<br />

われもまた、 恐 るべき 無 関 心 に 陥 って、 時 のしるしを 見 分 けることができず、そのた<br />

めに 神 のおとずれの 日 を 知 らずに 過 ごすことがないように、 注 意 するようにとわれわ<br />

れに 警 告 を 与 えている。<br />

天 使 が、メシヤの 来 臨 を 待 望 している 人 々を 見 つけたのは、ユダヤの 丘 の 卑 しい 羊<br />

飼 いたちの 中 だけではなかった。 異 教 徒 の 国 でも、 彼 を 待 っている 人 々があった。 彼<br />

らは、 高 貴 で 富 裕 な 賢 者 、 東 方 の 哲 学 者 であった。この 賢 者 たちは、 自 然 の 探 究 者 で<br />

あり、 神 のみ 手 のわざの 中 に 神 を 認 めたのである。 ヘブルの 聖 書 から、 彼 らは、ヤコ<br />

ブから 星 が 現 れることを 学 び、「イスラエルの 慰 め」であるばかりでなく、「 異 邦 人<br />

を 照 す 啓 示 の 光 」であり、「 地 の 果 までも 救 をもたらす」おかたが 来 られるのを 熱 心<br />

に 待 望 していた[ルカ 2:25、32、 使 徒 行 伝 13:。 彼 らは 光 を 求 めていた。そして、<br />

神 のみ 座 からの 光 が 彼 らの 歩 く 道 を 照 らした。 真 理 の 擁 護 者 、また 解 説 者 として 任 じ<br />

られたエルサレムの 祭 司 や 教 師 たちが、 暗 黒 に 閉 ざされていた 時 に、 天 からの 星 はこ<br />

れら 異 邦 の 旅 人 を、 新 たにお 生 まれになった 王 の 誕 生 地 へと 導 いたのである。<br />

キリストが、「 罪 を 負 うためではなしに 2 度 目 に 現 われて、 救 を 与 えられる」のは、<br />

「 彼 を 待 ち 望 んでいる 人 々に」である[ヘブル 9:。 救 い 主 の 誕 生 の 知 らせと 同 様 に、<br />

キリストの 再 臨 の 知 らせも、 人 々の 宗 教 的 指 導 者 に 托 されなかった。 彼 らは、 神 との<br />

接 触 を 保 つことをせず、 天 からの 光 を 拒 んでしまった。それゆえに 彼 らは、 使 徒 パウ<br />

ロが 描 いた 人 々の 中 に 入 っていなかった。「しかし 兄 弟 たちよ。あなたがたは 暗 やみ<br />

の 中 にいないのだから、その 日 が、 盗 人 のようにあなたがたを 不 意 に 襲 うことはない<br />

であろう。あなたがたはみな 光 の 子 であり、 昼 の 子 なのである。わたしたちは、 夜 の<br />

者 でもやみの 者 でもない」[Ⅰテサロニケ 5:4、。<br />

シオンの 城 壁 の 上 の 見 張 り 人 たちは、 救 い 主 の 来 臨 の 知 らせを 最 初 に 認 め、 最 初 に<br />

声 をあげてその 近 いことを 宣 言 し、 人 々に、その 来 臨 のための 準 備 をするよう 最 初 に<br />

警 告 を 発 すべきであった。しかし 彼 らは、 安 易 な 気 持 ちで 平 穏 無 事 の 夢 をむさぼって<br />

いた。そして 人 々は、 罪 のなかで 眠 っていた。イエスは 彼 の 教 会 が、 葉 ばかり 数 多 く<br />

茂 っているが、 貴 い 実 のなっていない、 実 のない、いちじくの 木 のような 状 態 である<br />

のを 見 られた。 宗 教 の 形 式 は 遵 守 してそれを 誇 っていたが、 真 の 謙 そん、 悔 い 改 め、<br />

信 仰 の 精 神 は 欠 けていた。<br />

実 はこれらだけが、 神 に 喜 ばれる 礼 拝 であったのである。 聖 霊 の 実 の 代 わりに、 高<br />

慢 、 形 式 主 義 、 虚 栄 、 利 己 心 、 圧 迫 などがあらわれていた。 背 信 した 教 会 は、 時 のし<br />

226


国 際 協 定<br />

るしに 対 して 目 を 閉 じてしまった。 神 は、 彼 らを 捨 てたり、 誠 実 を 曲 げたりなさらな<br />

かった。しかし、 彼 らは 神 から 離 れ、 神 の 愛 から 離 反 したのである。 彼 らが 条 件 に 従<br />

うことを 拒 んだ 時 に、 神 の 約 束 は、 彼 らに 果 たされなかったのである。 神 がお 与 えに<br />

なる 光 と 特 権 を、 感 謝 して 受 けて 活 用 するようにしないならば、 必 ずこのようになる。<br />

教 会 が、すべての 光 を 受 け 入 れ、 啓 示 されるすべての 義 務 を 行 って、 神 の 摂 理 の 導 き<br />

に 従 っていかないならば、 宗 教 は 必 ず 形 式 化 して、 堕 落 し、 生 きた 敬 神 の 精 神 は 失 わ<br />

れるのである。このことは、 教 会 の 歴 史 において、くり 返 し 起 こった。 神 は、 受 けた<br />

祝 福 と 特 権 に 相 応 する 信 仰 と 服 従 の 行 為 を、 神 の 民 に 要 求 される。 服 従 は 犠 牲 を 要 求<br />

し、 十 字 架 を 伴 っている。 多 くの 自 称 キリスト 信 者 が、 天 からの 光 を 受 けることを 拒<br />

み、 昔 のユダヤ 人 のように、 神 のおとずれの 時 を 知 らなかったのは、このためである<br />

[ルカ 19:44 参 照 ]。 彼 らが 高 慢 不 信 であったために、 神 は 彼 らを 素 通 りして、ベツ<br />

レヘムの 羊 飼 いや 東 方 の 賢 者 たちのように、 示 されたすべての 光 に 心 を 留 めていた 人<br />

々に、 神 の 真 理 をあらわされたのである。<br />

227


国 際 協 定<br />

第 18 章 最 も 重 要 な 預 言<br />

聖 書 の 権 威 に 疑 惑 を 抱 きながらも、なお 真 理 を 知 りたいと 心 から 望 んでいた、 高 潔<br />

で 誠 実 な 一 農 夫 が、キリスト 再 臨 の 宣 布 において 指 導 的 な 役 割 を 果 たすために、 神 に<br />

よって 特 に 選 ばれた。 他 の 多 くの 宗 教 改 革 者 たちと 同 様 に、ウィリアム・ミラーは、<br />

年 少 のころから 貧 困 と 戦 い、 勤 勉 と 自 制 という 大 きな 教 訓 を 学 んでいた。 彼 の 家 族 は、<br />

独 立 心 、 自 由 を 愛 する 精 神 、 忍 耐 力 、そして 熱 烈 な 愛 国 心 に 燃 えた 人 々であって、 彼<br />

もまた、こうした 特 質 の 人 であった。 彼 の 父 は、 独 立 戦 争 当 時 の 大 尉 で、あの 波 乱 に<br />

富 んだ 時 代 の 奮 闘 と 苦 難 による 犠 牲 が、ミラーの 少 年 時 代 を 窮 乏 に 陥 れた。<br />

ミラーはじょうぶな 体 の 持 ち 主 で、 幼 少 のころから 非 凡 な 知 力 を 示 した。そしてそ<br />

れは、 彼 が 成 長 するにつれて、ますます 顕 著 になった。 彼 の 知 性 は、 活 発 でよく 発 達<br />

し、 知 識 を 渇 望 していた。 彼 は、 大 学 教 育 を 受 けなかったけれども、 研 究 に 対 する 愛<br />

着 や、 注 意 深 い 思 索 と 精 密 な 批 判 の 習 慣 は、 彼 を 健 全 な 判 断 と 理 解 力 に 富 んだ 人 にし<br />

た。 彼 は、 申 しぶんのない 道 徳 的 品 性 の 持 ち 主 で、 評 判 もうらやましいほど 良 く、 誠<br />

実 、 倹 約 、 慈 悲 深 い 心 などが、 人 々から 高 く 評 価 さ れていた。 彼 は、 勤 勉 努 力 の 結 果 、<br />

早 くから 相 当 の 財 産 を 作 ったが、しかし 相 変 わらず 研 究 の 習 慣 を 持 ちつづけた。 彼 は、<br />

いろいろな 政 治 的 、 軍 事 的 職 務 について 功 績 をあげ、 富 と 名 誉 への 道 が、 彼 の 前 に 広<br />

く 開 けているように 思 われた。<br />

彼 の 母 は、 真 に 敬 虔 な 婦 人 で、 彼 は 幼 少 の 時 に、 宗 教 的 な 感 化 を 受 けたのであった。<br />

しかし 早 くから 彼 は、 理 神 論 者 の 仲 間 に 引 き 入 れられた。この 人 々は、 概 して 善 良 な<br />

市 民 で、 人 情 味 暇 かで 慈 愛 深 い 人 々であったために、その 影 響 力 はいっそう 強 かった。<br />

彼 らは、キリスト 教 的 な 制 度 のただ 中 で 生 活 しており、 彼 らの 品 性 は、ある 程 度 まで、<br />

そうした 環 境 に 影 響 されていた。 彼 らが 人 々の 尊 敬 と 信 頼 をかち 得 たところの 美 点 は、<br />

聖 書 に 負 うところが 多 かった。<br />

ところが 彼 らは、こうしたすぐれた 賜 物 を 悪 用 して、 神 のみ 言 葉 に 敵 対 する 感 化 力<br />

を 及 ぼしたのである。ミラーは、こうした 人 々との 交 際 によって、 彼 らと 同 様 な 考 え<br />

を 持 つようになった。 当 時 の 聖 書 解 釈 は、 難 解 で、 彼 には、とうてい 理 解 できないよ<br />

うに 思 われた。しかし、 彼 の 新 しい 信 仰 は、 聖 書 を 放 棄 しながらも、それに 代 わるさ<br />

らによいものを 与 えなかったので、 彼 にはなんの 満 足 も 得 られないのであった。それ<br />

でも 彼 は、こうした 見 解 を 約 12 年 の 間 持 ち 続 けた。しかし、 彼 が 34 歳 の 時 、 聖 霊 は、<br />

彼 が 罪 人 であるということを 彼 の 心 に 印 象 づけた。 彼 は、 従 来 の 信 仰 によっては、 墓<br />

228


国 際 協 定<br />

のかなたに 幸 福 の 確 証 を 得 ることができなかった。 未 来 は 暗 く 陰 惨 であった。 後 日 、<br />

彼 は、この 時 の 感 じを 次 のように 言 っている。<br />

「 絶 滅 とは、 冷 たく 冷 え 冷 えした 思 想 であった。そしてわれわれは、 責 任 を 問 われ<br />

て、みな 死 滅 するのであった。 天 は、 頭 上 にある 真 ちゅうのようであり、 地 は、 足 の<br />

下 にある 鉄 のようであった。 永 遠 ——それはなんであろうか? そして 死 ——なぜ 死<br />

ぬのであろうか? 論 理 を 進 めれば 進 めるほど、わたしは 論 証 から 遠 ざかってしまっ<br />

た。 考 えれば 考 えるほど、 結 論 が 出 なくなってしまった。わたしは 考 えるのをやめよ<br />

うとした。だが、 思 いは 自 由 にならなかった。わたしはほんとうに 悲 惨 であった。し<br />

かし、その 理 由 がわからなかった。わたしはつぶやき、 不 平 を 言 った。しかし、だれ<br />

について 言 っているのか 知 らなかった。わたしは、 悪 が 存 在 していることを 知 ってい<br />

たが、 善 をどこでどうして 見 いだすかを 知 らなかった。わたしはもだえ 苦 しみ、なん<br />

の 希 望 も 持 てなかった。」<br />

彼 は、こうした 状 態 で 数 か 月 間 過 ごした。そして、 次 のように 言 っている。「 突 然 、<br />

救 い 主 の 品 性 が、わたしの 心 に 生 き 生 きと 印 象 づけられた。 恵 みと 憐 れみの 思 いに 満<br />

ち、ご 自 身 でわれわれの 罪 を 贖 い、 罪 の 罰 である 苦 難 からわれわれを 救 って 下 さる 方<br />

があるように 思 えた。わたしはその 時 すぐに、そのような 方 は、なんとうるわしい 方<br />

であろうと 考 えた。 そしてわたしは、そのかたの 腕 に 自 分 自 身 を 投 げかけ、その 憐 れ<br />

みに 頼 ることができると 想 像 したのである。しかし、 果 たして、そのような 方 がおら<br />

れることを 証 明 することができるであろうか、という 疑 問 が 起 こった。そうした 救 い<br />

主 、あるいは 来 世 についても、 聖 書 を 除 いては、その 存 在 の 証 拠 を 見 いだすことはで<br />

きなかった。……<br />

聖 書 は、ちょうどわたしが 必 要 としているような 救 い 主 を 示 していることがわかっ<br />

た。 堕 落 した 世 界 の 必 要 に、このように 完 全 に 適 合 した 原 則 を 展 開 している 書 物 が、<br />

霊 感 によらずに 与 えられるとは、わたしにはどうしても 考 えられなかった。わたしは、<br />

聖 書 が 神 の 啓 示 に 違 いないと 認 めないわけにいかなかった。 聖 書 は、わたしの 喜 びと<br />

なった。そして、わたしは、イエスという 友 を 見 いだした。 救 い 主 は、わたしにとっ<br />

て、 万 人 にぬきんでた 方 となられた。そして、 不 可 解 で 矛 盾 していると 思 われた 聖 書<br />

が、 今 度 は、わが 足 のともしび、わが 道 の 光 となったのである。わたしの 心 は 落 ち 着<br />

き、 満 たされた。わたしは、 主 なる 神 が、 人 生 の 大 海 のただ 中 にある 岩 であることが<br />

わかった。 今 や 聖 書 が、わたしの 主 要 な 研 究 書 となった。そしてわたしは、 自 分 は 大<br />

きな 喜 びをもってそれを 研 究 したと、 心 から 言 うことができる。わたしは、その 半 分<br />

も 知 らされていなかったことがわかった。わたしは、な ぜその 美 と 栄 光 とを、 以 前 に<br />

は 見 ることができなかったのであろうかといぶかり、それをどうして 拒 否 することが<br />

229


国 際 協 定<br />

できたのであろうかと 驚 いた。わたしは 自 分 の 心 の 願 いがすべて 啓 示 されているのを<br />

見 いだし、 心 のすべての 病 のいやしが 備 えられているのを 見 いだした。わたしは、 他<br />

の 読 書 を 全 くしたくなくなり、 神 から 知 恵 をいただくことに 心 を 集 中 した。」 1<br />

ミラーは、 彼 が 軽 べつしていた 宗 教 に 対 する 信 仰 を 公 に 告 白 した。しかし、 彼 の 無<br />

信 仰 な 友 人 たちは、 彼 自 身 がしばしば 聖 書 の 権 威 に 対 して 抱 いたあらゆる 議 論 を 吹 き<br />

かけてくるのに、 後 れをとらなかった。その 時 彼 は、それらに 答 えることができなか<br />

ったが、しかし、 聖 書 が 神 の 啓 示 であるならば、そこに 矛 盾 はないはずであると 考 え<br />

た。また、 聖 書 は 人 を 教 えるために 与 えられたものであるから、 人 間 の 理 解 にふさわ<br />

しいものであるに 違 いないと 考 えた。 彼 は、 自 分 で 聖 書 を 研 究 して、 一 見 矛 盾 と 思 わ<br />

れるものを 調 和 させることができないか、 確 かめようと 決 心 した。<br />

彼 は、すべての 先 入 観 を 捨 てようと 努 め、 注 解 書 を 用 いないで、 欄 外 の 引 照 とコン<br />

コーダンス[ 用 語 索 引 ]を 参 考 にして、 聖 句 と 聖 句 とを 比 較 した。 彼 は、 規 則 正 しく 組<br />

織 的 に 研 究 を 続 けた。まず 創 世 記 から、1 節 ずつ 読 んでいき、 数 節 の 意 味 が、なんの<br />

疑 念 もなくはっきり 理 解 されるまでは 先 に 進 まなかった。 何 か 不 明 瞭 なところがある<br />

と、 彼 は、その 問 題 点 に 関 係 があると 思 われる 他 の 聖 句 を 全 部 比 較 してみるのであっ<br />

た。すべての 言 葉 は、その 聖 句 の 主 題 に 対 して 適 正 な 意 味 を 持 つものとし、もし 彼 の<br />

見 解 が、すべての 関 連 した 聖 句 と 一 致 するならば、それで 問 題 は 解 決 するのであった。<br />

こうして 彼 は、 理 解 することが 困 難 な 聖 句 に 当 面 すると、 聖 書 の 他 のところにその 説<br />

明 を 見 いだした。 彼 が 神 の 光 を 求 めて、 熱 心 に 祈 りつつ 研 究 していった 時 に、これま<br />

で 不 可 解 と 思 われていたところが 明 らかにされた。 彼 は、 詩 篇 記 者 の 次 の 言 葉 が 真 実<br />

であることを 経 験 した。「み 言 葉 が 開 けると 光 を 放 って、 無 学 な 者 に 知 恵 を 与 えます」<br />

[ 詩 篇 119:。<br />

彼 は、 非 常 な 興 味 をもって、 他 の 聖 句 の 解 釈 と 同 様 の 原 則 を 用 いつつダニエル 書 と<br />

黙 示 録 を 研 究 し、 預 言 的 象 徴 が 理 解 できることを 発 見 して 大 いに 喜 んだ。 彼 は、その<br />

時 までの 預 言 が、 文 字 どおりに 成 就 したことを 知 った。また、さまざまな 比 喩 、 隠 喩 、<br />

たとえ、 類 似 などは、みな、その 前 後 関 係 で 説 明 されるか、それとも、そこで 表 現 さ<br />

れた 言 葉 が 他 の 聖 句 によって 定 義 づけられているかであることを 知 った。そして、こ<br />

のように 説 明 された 時 、それは 文 字 どおりに 理 解 すべきであった。「こうしてわたし<br />

は、 聖 書 が、 啓 示 された 真 理 の 体 系 であって、 道 を 行 く 者 が、たとえ 愚 かであっても、<br />

迷 う 必 要 がないほど、 明 らかに 単 純 に 与 えられているのに 満 足 した」と 彼 は 言 ってい<br />

る。 2 預 言 の 大 筋 を 1 歩 1 歩 たどっていった 時 に、 真 理 の 鎖 が 1 つずつ 明 らかにされ<br />

て、 彼 の 努 力 は 報 いられた。 天 使 が 彼 の 心 を 導 き、 聖 書 を 彼 に 理 解 させた。<br />

230


国 際 協 定<br />

過 去 において 成 就 した 預 言 を 規 準 にして、 将 来 に 関 する 預 言 を 判 断 するならば、キ<br />

リストの 霊 的 支 配 ——すなわち、 世 界 の 終 末 に 先 だつこの 世 の 千 年 期 ——という 一 般<br />

の 見 解 は、 神 のみ 言 葉 の 支 持 を 得 ていないことを 知 って、 彼 は 納 得 がいった。 主 がみ<br />

ずから 再 臨 されるに 先 だって 義 と 平 和 の 千 年 期 があるというこの 教 義 は、 神 の 日 の 恐<br />

怖 をはるか 先 へと 延 期 するものであった。しかし、どんなに 耳 ざわりの 良 いものであ<br />

っても、それは、 収 穫 すなわち 世 界 の 終 末 まで、 麦 と 毒 麦 とはともに 生 長 するという<br />

キリストと 使 徒 たちの 教 えに、 相 反 するのである。<br />

「 悪 人 と 詐 欺 師 とは、…… 悪 から 悪 へと 落 ちていく。」「 終 わりの 時 には、 苦 難 の<br />

時 代 が 来 る。」そして、 暗 黒 の 王 国 は 主 の 再 臨 まで 継 続 し、 主 の 口 の 息 によって 焼 き<br />

つくされ、 来 臨 の 輝 きによって 滅 ぼされる[マタイ 13:30、38~41、Ⅱテモテ 3:<br />

13、1、Ⅱテサロニケ 2:。<br />

全 世 界 が 改 心 しキリストの 霊 的 支 配 が 来 るという 教 義 は、 使 徒 時 代 の 教 会 が 支 持 し<br />

たものではなかった。それは、18 世 紀 の 初 期 になって 初 めて、 一 般 キリスト 教 会 が 受<br />

け 入 れたものであった。 他 のすべ ての 誤 りと 同 様 に、その 結 果 は 有 害 なものであっ<br />

た。 それは 人 々に、 主 の 再 臨 をはるか 遠 い 将 来 のことに 思 わせ、 主 が 近 づいておられ<br />

ることを 告 げるしるしに 人 々が 注 意 することを 妨 げた。それは、 根 拠 のない 自 信 と 安<br />

心 感 を 与 え、 主 に 会 うために 必 要 な 準 備 を 怠 らせたのである。<br />

ミラーは、キリストご 自 身 が 文 字 どおりに 来 られることが、 聖 書 に 明 らかに 教 えら<br />

れていることを 発 見 した。パウロは、 次 のように 言 っている。「 主 ご 自 身 が 天 使 のか<br />

しらの 声 と 神 のラッパの 鳴 り 響 くうちに、 合 図 の 声 で、 天 から 下 ってこられる」[Ⅰテ<br />

サロニケ 4:。「そして 力 と 大 いなる 栄 光 とをもって、 人 の 子 が 天 の 雲 に 乗 って 来 る<br />

のを、 人 々は 見 るであろう。」「ちょうど、いなずまが 東 から 西 にひらめき 渡 るよう<br />

に、 人 の 子 も 現 れるであろう」と 救 い 主 は 言 われた[マタイ 24:30、。 彼 には、 天 の<br />

全 軍 が 従 ってくるのである。 「 人 の 子 が 栄 光 の 中 にすべての 御 使 たちを 従 えて 来 る」<br />

[マタイ 25:。「また、 彼 は 大 いなるラッパの 音 と 共 に 御 使 たちをつかわして、……<br />

四 方 からその 選 民 を 呼 び 集 めるであろう」[マタイ 24:。<br />

キリストの 再 臨 の 時 に、 死 んだ 義 人 はよみがえらされ、 生 きている 義 人 は 変 えられ<br />

る。パウロは 次 のように 言 っている。「わたしたちすべては、 眠 り 続 けるのではない。<br />

終 りのラッパの 響 きと 共 に、またたく 間 に、 一 瞬 にして 変 えられる。というのは、ラ<br />

ッパが 響 いて、 死 人 は 朽 ちない 者 によみがえらされ、わたしたちは 変 えられるのであ<br />

る。なぜなら、この 朽 ちるものは 必 ず 朽 ちないものを 着 、この 死 ぬものは 必 ず 死 なな<br />

いものを 着 ることになるからである」[1 コリント 15:51~。また 彼 は、テサロニケ<br />

231


国 際 協 定<br />

人 への 手 紙 の 中 で、 主 の 再 臨 を 描 写 したあとで 次 のように 言 っている。「その 時 、キ<br />

リストにあって 死 んだ 人 々が、まず 最 初 によみがえり、それから 生 き 残 っているわた<br />

したちが、 彼 らと 共 に 雲 に 包 まれて 引 き 上 げられ、 空 中 で 主 に 会 い、こうして、いつ<br />

も 主 と 共 にいるであろう」[Ⅰテサロニケ 4:16、。<br />

キリストがご 自 身 で 来 られるまでは、 神 の 民 はみ 国 を 受 けることができないのであ<br />

る。 救 い 主 は 言 われた。「 人 の 子 が 栄 光 の 中 にすべての 御 使 たちを 従 えて 来 るとき、<br />

彼 はその 栄 光 の 座 につくであろう。そして、すべての 国 民 をその 前 に 集 めて、 羊 飼 が<br />

羊 とやぎとを 分 けるように、 彼 らをより 分 け、 羊 を 右 に、やぎを 左 におくであろう。<br />

そのとき、 王 は 右 にいる 人 々に 言 うであろう、『わたしの 父 に 祝 福 された 人 たちよ、<br />

さあ、 世 の 初 めからあなたがたのために 用 意 されている 御 国 を 受 けつぎなさい』」[マ<br />

タイ 25:31~。 今 ここに 引 用 した 聖 句 によって、 人 の 子 が 来 る 時 に、 死 者 はよみが<br />

えらせられて 朽 ちないものとなり、 生 きている 者 は 変 えられるということをわれわれ<br />

は 知 った。この 大 変 化 によって、 彼 らはみ 国 を 受 ける 準 備 ができるのである。パウロ<br />

は 次 のように 言 っている。「 肉 と 血 とは 神 の 国 を 継 ぐことができないし、 朽 ちるもの<br />

は 朽 ちないものを 継 ぐことがない」[Ⅰコリント 15:。 人 間 の 現 在 の 状 態 は、 死 ぬべ<br />

きものであり、 朽 ちるものである。しかし、 神 の 国 は、 朽 ちず 永 遠 に 続 くものである。<br />

それゆえに 人 間 は、 現 在 の 状 態 のままでは、 神 のみ 国 に 入 ることはできない。<br />

しかし、イエスが 来 られる 時 に、 彼 はご 自 分 の 民 に 不 死 をお 与 えになる。そして、<br />

これまではただ 相 続 人 でしかなかった 彼 らに、み 国 を 継 ぐようにと 言 われるのであ<br />

る。<br />

以 上 の 聖 句 と 他 の 聖 句 によって、キリスト 再 臨 前 に 起 こると 一 般 に 期 待 されていた<br />

世 界 的 な 平 和 の 治 世 、 地 上 における 神 の 国 の 樹 立 といったことは、 再 臨 に 続 いて 起 こ<br />

るものであることが、ミラーの 心 に 明 らかになった。さらに、すべての 時 のしるしと<br />

世 界 の 状 態 は、 最 後 の 時 代 についての 預 言 的 描 写 と 一 致 していた。 彼 は、 聖 書 だけの<br />

研 究 によって、 地 球 が 現 在 の 状 態 のままで 継 続 するように 定 められた 期 間 は、まさに<br />

終 わろうとしているという 結 論 に 達 せざるをえなかった。<br />

ミラーは、 次 のように 言 っている。「もう 1 つ 真 にわ たしの 心 に 感 動 を 与 えた 証<br />

拠 は、 聖 書 の 年 代 であった。…… 過 去 において 成 就 した 預 言 のできごとは、しばしば<br />

定 められた 期 間 内 に 成 就 したということを、わたしは 見 いだした。 洪 水 までには、<br />

120 年 [ 創 世 記 6:。 洪 水 に 先 だつ 7 日 間 、そして、 預 言 された 雨 が 40 日 間 [ 同 7:。<br />

アブラハムの 子 孫 の 400 年 の 寄 留 [ 同 15:。 給 仕 役 の 長 と 料 理 役 の 長 の 夢 のなかの 3<br />

日 [ 同 40:12~。パロの 夢 の 7 年 [ 同 41:28~。 荒 野 の 40 年 [ 民 数 記 14:、3 年 半<br />

232


国 際 協 定<br />

のききん[ 列 王 紀 上 17:〔ルカ 4:25 参 照 〕、……70 年 の 捕 囚 [エレミヤ 25:、ネ<br />

ブカデネザルの 7 つの 時 [ダニエル 4:13~、ユダヤ 人 のために 定 められた 7 週 と 62<br />

週 と 1 週 から 成 る 70 週 [ 同 9:24~。—— 時 に 区 切 られたできごとは、みな、かつて<br />

は 預 言 に 過 ぎなかったが、その 預 言 どおりに 成 就 したのである。」 3<br />

そこで 彼 は、 聖 書 の 研 究 において、さまざまな 年 代 的 期 間 が、 彼 の 理 解 によればキ<br />

リストの 再 臨 にまで 及 ぶものであることを 発 見 した 時 、それらは「その 時 代 に 先 だっ<br />

て」 神 がそのしもべたちにあらわされたものであると 考 えないわけにいかなかった。<br />

「 隠 れた 事 はわれわれの 神 、 主 に 属 するものである。しかし 表 わされたことは 長 くわ<br />

れわれとわれわれの 子 孫 に 属 し」とモーセは 言 っている。また、 主 は、 預 言 者 アモス<br />

によって、 主 は、「そのしもべである 預 言 者 にその 隠 れた 事 を 示 さないでは、 何 事 を<br />

もなされない」と 言 われた[ 申 命 記 29:29、アモス 3:。したがって、 神 のみ 言 葉 の<br />

研 究 者 は、 人 類 歴 史 における 最 も 重 大 な 事 件 が、 真 理 のみ 言 葉 の 中 に 明 示 されている<br />

ことを、 確 信 をもって 期 待 することができるのである。<br />

ミラーは 次 のように 言 っている。「わたしは、 聖 書 はすべて 神 の 霊 感 を 受 けて 書 か<br />

れたものであって…… 有 益 であること[Ⅱテモテ 3:、また、 預 言 は 決 して 人 間 の 意 志<br />

から 出 たものではなく、 人 々が 聖 霊 に 感 じ、 神 によって 書 いたものであること[Ⅱペテ<br />

ロ 1:、そして、それは『すべてわたしたちの 教 のために 書 かれたのであって、それ<br />

は 聖 書 の 与 える 忍 耐 と 慰 めとによって、 望 みをいだかせるためである』[ローマ 15:<br />

ことを 十 分 に 確 信 したので、 聖 書 の 年 代 的 部 分 も、 聖 書 の 他 の 部 分 と 同 様 に、 神 の 言<br />

葉 の 一 部 であり、まじめに 研 究 すべきものであると 考 えざるをえなかった。そこで、<br />

わたしは、 神 が 慈 悲 深 くもわれわれに 表 そうとされたことを 理 解 しようと 努 めるにあ<br />

たっては、 預 言 の 期 間 を 見 過 ごしてはならないと 感 じた。」 4<br />

キリストの 再 臨 の 時 を 最 も 明 らかに 示 していると 思 われる 預 言 は、ダニエル 8:14<br />

の「2300 の 夕 と 朝 の 間 である。そして 聖 所 は 清 められてその 正 しい 状 態 に 復 する」<br />

という 預 言 であった。ミラーは、 聖 書 を 聖 書 自 身 の 注 解 書 とするという 彼 の 規 則 に 従<br />

って、 象 徴 的 預 言 においては、1 日 が 1 年 を 表 すことを 知 った[ 民 数 記 14:34、エゼ<br />

キエル 4:。 彼 は、 預 言 の 2300 日 は 字 義 的 には 2300 年 であって、ユダヤ 時 代 の 終<br />

結 する 時 をはるかに 越 えているから、その 時 代 の 聖 所 を 指 すものではないということ<br />

を 悟 った。ミラーは、キリスト 教 時 代 においては、 地 上 が 聖 所 であるという 一 般 の 見<br />

解 を 受 け 入 れた。<br />

そこで 彼 は、ダニエル 8:14 に 預 言 されている 聖 所 の 清 めとは、キリストの 再 臨 の<br />

時 に、 地 上 が 火 で 清 められることであると 理 解 した。したがって、2300 日 の 正 確 な<br />

233


国 際 協 定<br />

起 算 点 を 発 見 することができれば、キリスト 再 臨 の 時 は 容 易 に 確 かめることができる<br />

と、 彼 は 結 論 した。こうして、 大 いなる 終 結 の 時 、すなわち 現 在 の 状 態 が「そのあら<br />

ゆる 高 慢 と 権 力 、 華 麗 と 虚 飾 、 罪 悪 と 圧 迫 とともに 終 わり」、のろいが「 地 から 除 か<br />

れ、 死 が 滅 ぼされ、 神 のしもべたち、 預 言 者 や 聖 徒 たち、また、 神 の 名 を 恐 れる 者 た<br />

ちに 報 いが 与 えられ、 地 を 滅 ぼすものが、 滅 ぼされる」 時 が、 明 らかにされるのであ<br />

った。 5<br />

ミラーは、 新 たな、そしていっそうの 熱 心 さをもって、 預 言 の 研 究 を 続 け、 今 や 驚<br />

嘆 すべき 重 要 性 と 尽 きない 興 味 にあふれていると 思 われる 問 題 の 研 究 に、 日 夜 没 頭 し<br />

た。 彼 は、2300 日 の 起 算 点 の 手 がかりを、ダニエル 8 章 には 見 つけることができな<br />

かった。 天 使 ガブリエルは、 幻 をダニエルに 理 解 させるように 命 令 されてはいたが、<br />

彼 に、 部 分 的 説 明 しか 与 えていなかった。 教 会 にふりかかる 恐 ろしい 迫 害 が、 預 言 者<br />

の 幻 に 展 開 された 時 に、ダニエルは 体 力 が 衰 えてしまった。 彼 は、もう 耐 えられなく<br />

なり、 天 使 は、しばらく 彼 を 離 れた。ダニエルは、「 疲 れはてて、 数 日 の 間 病 みわず<br />

らった。」「しかし、わたしはこの 幻 の 事 を 思 って 驚 いた。またこれを 悟 ることがで<br />

きなかった。」<br />

しかし 神 は、「この 幻 をその 人 に 悟 らせよ」と 天 使 に 命 じておられた。この 命 令 は<br />

遂 行 されねばならなかった。 天 使 は、それに 従 って、しばらくたった 時 に、ダニエル<br />

のところにもどって、「わたしは 今 あなたに、 知 恵 と 悟 りを 与 えるためにきました。」<br />

「ゆえに、このみ 言 葉 を 考 えて、この 幻 を 悟 りなさい」と 言 った[ダニエル 8:27、<br />

16、9:22、23、24~。8 章 の 幻 のなかで、 重 要 な 点 が 1 つ 説 明 されていなかった。<br />

それは、 時 、すなわち 2300 日 の 期 間 に 関 するものであった。それゆえに 天 使 は、 再<br />

び 説 明 を 始 めるにあたって、 主 に 時 の 問 題 に 関 して 述 べた。<br />

234


国 際 協 定<br />

2300 日 の 予 言<br />

預 言 的 な 日 = 1 つの 文 字 通 りの 年<br />

34-35<br />

偵 察 隊 が 四 十 日 間 カナンの 国 にいたように、 彼 らの 一 日 を 一 年 と 数 えて 四 十 年 間 、<br />

荒 野 にいて 罪 を 償 わなければならない。 神 に 背 けばどうなるか、よく 思 い 知 るだろう。<br />

それらの 者 は 一 人 残 らずこの 荒 野 で 死 ぬと、 主 が 言 われたのだ。』」[ 民 数 記 14:34-<br />

35] 6 次 に、ユダに 対 する 罰 の 期 間 を 示 すために 四 十 日 間 、 今 度 は 右 わきを 下 にして<br />

横 になりなさい。やはり 一 日 は 一 年 に 相 当 する。[エゼキエル 書 4:6]<br />

紀 元 前 457 年 – 西 暦 1844 年 = 2300 日 / 年 . 14 もう 一 人 が 答 えました。「 二 千 三 百<br />

日 が 過 ぎてからだ。」[ダニエル 書 8:14] 24 主 は、エルサレムとあなたの 同 胞 とに、さ<br />

らに 四 百 九 十 年 に 及 ぶさばきを 言 い 渡 した。そののち、ようやく 彼 らは 罪 から 離 れる<br />

ようになり、その 罪 のとがめから 解 き 放 たれる。それから、 永 遠 の 義 の 支 配 が 始 まり、<br />

預 言 者 たちが 告 げたように、 神 殿 の 至 聖 所 が 再 建 される。[ダニエル 書 9:24]<br />

紀 元 前 457 年 – エルサレムを 再 建 する 王 の 法 令 . 25 さあ、よく 聞 け。エルサレム 再<br />

建 の 命 令 が 出 てから 油 を 注 がれた 方 が 来 るまで、 四 十 九 年 に 加 えて 四 百 三 十 四 年 かか<br />

る。それは 苦 しい 時 代 だが、その 間 にエルサレムの 城 壁 も 町 も 再 建 される。[ダニエル<br />

書 9:25]<br />

紀 元 前 408 年 – エルサレムの 再 建<br />

235


国 際 協 定<br />

西 暦 27 年 – 27 この 王 は、 神 の 民 と 七 年 の 条 約 を 結 ぶが、その 期 限 の 半 ばで 約 束 を 破<br />

り、ユダヤ 人 がいけにえとささげ 物 をささげるのをすべてやめさせる。それから、そ<br />

の 恐 ろしい 行 為 の 絶 頂 として、この 敵 である 王 は 神 の 聖 所 を 徹 底 的 に 汚 す。だが、 神<br />

の 時 と 計 画 に 従 って、この 悪 者 に 断 固 たるさばきが 下 される。」[ダニエル 書 9:27]<br />

西 暦 31 年 –イエス・キリストの 磔 刑 と 死 -- その 期 限 の 半 ばで 約 束 を 破 り、ユダヤ 人<br />

がいけにえとささげ 物 をささげるのをすべてやめさせる[ダニエル 書 9:27]<br />

西 暦 34 年 –スティーブンの 石 投 げ. [ユダヤ 人 の 締 め 切 り-- . 異 邦 人 に 与 えられた 福<br />

音 ] 14 そして、 御 国 についてのすばらしい 知 らせが 全 世 界 に 宣 べ 伝 えられ、すべての 国<br />

民 がそれを 耳 にします。それから、ほんとうの 終 わりが 来 るのです。[マタイの 福 音 書<br />

24:14] 46 そこでパウロとバルナバは、はっきり 言 いました。「この 神 のことばは、ま<br />

ずあなたがたユダヤ 人 に 伝 えられるはずだった。だが、あなたがたはそれを 突 っぱね、<br />

永 遠 のいのちを 受 けるにふさわしくない 者 であることを、 自 分 から 証 明 したのだ。こ<br />

れからは、このすばらしい 知 らせは、 外 国 人 に 伝 えよう。[ 使 徒 の 働 き 13:46]<br />

1<br />

西 暦 70 年 – エルサレムの 破 壊 イエスが 神 殿 の 庭 から 出 ようとしておられると、 弟 子<br />

たちが 近 寄 って 来 て、「この 神 殿 は、たいそうりっぱですね」と 言 いました。 2 とこ<br />

ろが、イエスは 言 われました。「 今 、あなたがたが 目 を 見 張 っているこれらの 建 物 は、<br />

一 つの 石 もほかの 石 の 上 に 残 らないほど、あとかたもなく 壊 されてしまいます。」[マ<br />

タイの 福 音 書 24:1, 2] 15 ですから、 預 言 者 ダニエルが 語 った、あの 恐 るべきものが<br />

聖 所 に 立 つのを 見 たなら〔 読 者 よ、この 意 味 をよく 考 えなさい〕… 21 その 時 には、 歴<br />

史 上 、 類 を 見 ないような 大 迫 害 が 起 こるからです。[マタイの 福 音 書 24:15, 21]<br />

1810 日 / 年 – 大 祭 司 としてのイエス・キリストの 働 き, 天 国 の 聖 域 で.<br />

14<br />

しかし、 私 たちを 助 けるために 天 にのぼられた 偉 大 な 大 祭 司 、 神 の 子 イエスが 味 方<br />

になってくださるのですから、 私 たちの 告 白 する 信 仰 を 決 して 失 うことがないように<br />

しましょう。 15 この 大 祭 司 は 私 たちと 同 じ 試 練 に 会 われたので、 人 間 の 弱 さをよく 知<br />

っておられ、ただの 一 度 も、 誘 惑 に 負 けて 罪 を 犯 したことはありません。 16 ですから<br />

躊 躇 せず、 神 の 御 座 に 近 づいてあわれみを 受 け、 時 にかなって 与 えられる 恵 みをいた<br />

だこうではありませんか。[へブル 人 への 手 紙 4:14-16]<br />

「あなたの 民 と、あなたの 聖 なる 町 については、70 週 が 定 められています。……<br />

それゆえ、エルサレムを 建 て 直 せという 命 令 が 出 てから、メシヤなるひとりの 君 が 来<br />

るまで、7 週 と 62 週 あることを 知 り、かつ 悟 りなさい。その 間 に、しかも 不 安 な 時<br />

代 に、エルサレムは 広 場 と 街 路 とをもって、 建 て 直 されるでしょう。そ の 62 週 の 後<br />

236


国 際 協 定<br />

にメシヤは 断 たれるでしょう。ただし 自 分 のためにではありません。…… 彼 は 1 週 の<br />

間 多 くの 者 と、 堅 く 契 約 を 結 ぶでしょう。そして 彼 はその 週 の 半 ばに、 犠 牲 と 供 え 物<br />

とを 廃 するでしょう。」<br />

天 使 は、ダニエルが 8 章 の 幻 のなかで 理 解 しなかった 点 、すなわち、「2300 の 夕<br />

と 朝 の 間 である。そして 聖 所 は 清 められてその 正 しい 状 態 に 復 する」という、 時 に 関<br />

する 言 葉 を 説 明 するという 目 的 のために、 特 につかわされたのであった。「このみ 言<br />

葉 を 考 えて、この 幻 を 悟 りなさい」と 命 じたあとで、 天 使 が 最 初 に 語 った 言 葉 は、<br />

「あなたの 民 と、あなたの 聖 なる 町 については、70 週 が 定 められています」というこ<br />

とであった。<br />

ここで「 定 められています」と 訳 された 言 葉 は、 字 義 的 には、「 切 り 取 る」という<br />

意 味 である。70 週 、すなわち 490 年 は、 特 にユダヤ 人 のために 切 り 取 られていると<br />

天 使 は 宣 言 した。しかし、それは、 何 から 切 り 取 られたのであろうか。2300 日 がダ<br />

ニエル 8 章 において 述 べられている 唯 一 の 期 間 であるから、70 週 が 切 り 取 られたの<br />

は、それからに 違 いない。したがって 70 週 は、2300 日 の 一 部 であり、この 2 つの<br />

期 間 は、 同 時 に 始 まるものでなければならない。70 週 は、エルサレムを 建 て 直 せとい<br />

う 命 令 が 出 た 時 から 始 まると、 天 使 は 言 明 した。この 命 令 の 年 代 を 発 見 することがで<br />

きるなら、2300 日 という 長 い 期 間 の 起 算 点 も 確 かめることができる。<br />

この 命 令 は、エズラ 記 の 7 章 にしるされている[12~26 参 照 ]。それは 紀 元 前 457<br />

年 に、ペルシャ 王 アルタシャスタによって、 最 も 完 全 な 形 で 発 布 された。しかしエズ<br />

ラ 6:14 には、エルサレムにある 主 の 家 が、「クロス、ダリヨスおよびペルシャ 王 ア<br />

ルタシャスタの 命 によって」 建 てられたと 言 われている。<br />

勅 令 を 発 し、 確 認 し、 完 成 したこれら 3 人 の 王 によって、 預 言 が 2300 年 の 起 算 点<br />

として 要 求 していることが 成 し 遂 げられた。 勅 令 が 完 全 なものとされた 紀 元 前 457 年<br />

を 出 発 点 として、70 週 に 関 する 預 言 はすべて 成 就 されたことがわかった。<br />

「エルサレムを 建 て 直 せという 命 令 が 出 てから、メシヤなるひとりの 君 が 来 るまで、<br />

7 週 と 62 週 ある」——すなわち、69 週 、つまり 483 年 ある。アルタシャスタ 王 の 勅<br />

令 は、 紀 元 前 457 年 の 秋 に 実 施 された。その 時 から 483 年 がたっと、 紀 元 27 年 の 秋<br />

になる。その 時 、この 預 言 は 成 就 した。「メシヤ」とは、「 油 を 注 がれた 者 」という<br />

意 味 である。キリストは、 紀 元 27 年 の 秋 、ヨハネからバプテスマを 受 け、 聖 霊 の 油<br />

を 注 がれた。 使 徒 ペテロは、「 神 はナザレのイエスに 聖 霊 と 力 とを 注 がれました」と<br />

あかししている[ 使 徒 行 伝 10:。そして、 主 ご 自 身 も、「 主 の 御 霊 がわたしに 宿 って<br />

いる。 貧 しい 人 々に 福 音 を 宣 べ 伝 えさせるために、わたしを 聖 別 してくださったから<br />

237


国 際 協 定<br />

である」と 宣 言 された[ルカ 4:。 彼 は、バプテスマの 後 、ガリラヤに 行 き、「 神 の 福<br />

音 を 宣 べ 伝 えて 言 われた、『 時 は 満 ちた』」[マルコ 1:14、。<br />

「 彼 は 1 週 の 間 多 くの 者 と、 堅 く 契 約 を 結 ぶでしよう。」ここで 言 われている「1<br />

週 」は、70 週 の 最 後 の 週 のことである。それは、ユダヤ 人 のために 特 に 定 められた 期<br />

間 の 最 後 の 7 年 である。 紀 元 27 年 から 34 年 に 及 ぶこの 期 間 内 に、 最 初 はキリスト<br />

ご 自 身 によって、そしてその 後 は 彼 の 弟 子 たちによって、 福 音 の 招 きが 特 にユダヤ 人<br />

たちに 与 えられたのである。 使 徒 たちが、 天 国 の 喜 ばしい 福 音 を 宣 べ 伝 えるために 出<br />

て 行 った 時 に、 救 い 主 は「 異 邦 人 の 道 に 行 くな。またサマリヤ 人 の 町 にはいるな。む<br />

しろ、イスラエルの 家 の 失 われた 羊 のところに 行 け」とお 命 じになった[マタイ 10:<br />

5、。<br />

「 彼 はその 週 の 半 ばに、 犠 牲 と 供 え 物 とを 廃 するでしょう。」 紀 元 31 年 、われわ<br />

れの 救 い 主 は、そのバプテスマから 3 年 半 の 後 に 十 字 架 にかかられた。カルバリーに<br />

おいてささげられた 大 いなる 犠 牲 によって、4000 年 の 間 神 の 小 羊 を 指 し 示 してきた<br />

犠 牲 制 度 は 終 わった。 型 は 実 体 と 出 会 い、 儀 式 的 な 制 度 のあらゆる 犠 牲 と 供 え 物 は、<br />

そこで 終 わるのであった。<br />

ユダヤ 人 のために 特 に 定 められた 70 週 、すなわち 490 年 は、これまで 見 てきたよ<br />

うに、 紀 元 34 年 で 終 わった。ユダヤ 国 民 は、その 時 、サンヒドリンの 決 議 によって、<br />

ステパノを 殉 教 させ、そしてキリストの 弟 子 たちを 迫 害 することにより、 福 音 の 拒 否<br />

を 決 定 的 なものにしてしまった。それ 以 後 、 救 いのメッセージは、もはや 選 民 に 限 ら<br />

れることなく、 全 世 界 に 伝 えられた。 迫 害 のためにエルサレムを 逃 げなければならな<br />

くなった 弟 子 たちは、「 御 言 を 宣 べ 伝 えながら、めぐり 歩 いた。」「ピリポはサマリ<br />

ヤの 町 に 下 って 行 き、 人 々にキリストを 宣 べはじめた。」ペテロは、 神 に 導 かれて、<br />

カイザリヤの 百 卒 長 、 神 を 敬 うコルネリオに 福 音 を 伝 えた。また、キリストに 対 する<br />

信 仰 へと 導 かれた 熱 心 なパウロは、「 遠 く 異 邦 の 民 へ」 福 音 を 伝 える 任 命 を 受 けた[ 使<br />

徒 行 伝 8:4、5、22:。<br />

ここまで、 預 言 に 指 示 されたことはみな、 驚 くばかりに 成 就 した。そして 70 週 が<br />

紀 元 前 457 年 に 始 まり、 紀 元 34 年 に 終 わることが、 疑 いの 余 地 なく 確 定 した。この<br />

年 代 から 2300 日 の 終 わりを 見 いだすことは、 難 しいことではない。70 週 、すなわち<br />

490 日 が 2300 日 から 切 り 取 られると、あとに 1810 日 が 残 る。490 日 が 終 わったあ<br />

とで、1810 日 もまた 成 就 するはずであった。 紀 元 34 年 から 1810 年 たてば、1844<br />

年 になる。この 大 いなる 預 言 の 期 間 が 終 わったところで、「 聖 所 は 清 められる」と 神<br />

の 天 使 はあかししたのである。こうして、 聖 所 の 清 め——それはキリストの 再 臨 の 時<br />

238


国 際 協 定<br />

に 起 こるものと、ほとんどすべての 人 が 信 じていた——の 時 が、はっきりと 指 示 され<br />

た。<br />

ミラーとその 仲 間 たちは、 初 め、1844 年 の 春 に 230011 が 終 わると 信 じたが、 預<br />

言 では 同 年 の 秋 になっていた。この 点 についての 思 い 違 いは、 主 の 再 臨 の 時 として 早<br />

いほうの 時 期 を 定 めていた 人 々に、 失 望 と 困 惑 をもたらした。しかしこれは、2300<br />

日 が 1844 年 に 終 わって、その 時 聖 所 の 清 めということで 表 されている 大 事 件 が 起 こ<br />

る、という 議 論 の 確 かさについては、なんの 影 響 もなかった。 ミラーは、 聖 書 が 神 の<br />

啓 示 であることを 証 明 するために、 聖 書 の 研 究 を 始 めたのであって、 最 初 、このよう<br />

な 結 論 に 到 達 することは、 全 く 予 期 していなかった。 彼 自 身 、 自 分 の 研 究 の 結 果 を 信<br />

じることができないほどであった。しかし、 聖 書 の 証 拠 は、 非 常 に 明 白 で 力 強 いもの<br />

であったので、 無 視 することができなかった。<br />

彼 は、2 年 間 、 聖 書 の 研 究 に 没 頭 していたが、1818 年 に、あと 約 25 年 でキリスト<br />

が 神 の 民 を 贖 うために 出 現 される、という 厳 粛 な 確 信 を 抱 いた。ミラーは、 次 のよう<br />

に 言 っている。「このような 喜 ばしいできごとを 前 にしたわたしの 心 の 喜 び、また 贖<br />

われた 者 の 喜 びに 自 分 もあずかりたいというわたしの 心 の 熱 望 については、 語 る 必 要<br />

がないであろう。 聖 書 は、わたしにとって 新 しい 書 物 となった。 聖 書 は、 実 にすばら<br />

しい 論 理 的 な 書 物 であった。その 教 えの 中 で、 私 にとってわかりにくく、 神 秘 的 であ<br />

いまいであったものが、 今 やそのページから 輝 く 明 らかな 光 によって、みな 消 えうせ<br />

てしまった。そして、ああ、なんと 明 るく 輝 かしく、 真 理 はあらわれたことであろう。<br />

わたしが 前 にみ 言 葉 の 中 に 見 いだした 矛 盾 と 不 調 和 は 消 え 去 った。そして、 十 分 に 理<br />

解 したとは 思 わないところも 数 多 くあったが、しかしそれでも、 聖 書 から 多 くの 光 が<br />

出 て、かつては 暗 かったわたしの 心 を 照 らしたので、わたしは 今 まで 想 像 することも<br />

できなかった 喜 びを、 聖 書 の 研 究 から 感 じたのであった。」 6<br />

「このような 重 大 な 事 件 に 関 する 預 言 が 聖 書 に 記 され、それが、 短 期 間 のうちに 成<br />

就 するという 厳 粛 な 確 信 を 抱 いた 時 、 大 きな 力 でわたしに 迫 った 問 題 は、わたし 自 身<br />

の 心 を 動 かした 証 拠 を 前 にして、わたしが 世 界 に 対 して 負 っている 義 務 に 関 するもの<br />

であった。」 7<br />

彼 は、 受 けた 光 は 他 の 人 々に 伝 えなければならないと 感 じずにはおれなかった。 彼<br />

は、 不 信 仰 な 人 々の 反 対 を 受 けることは 予 期 したが、しかしすべてのクリスチャンは、<br />

自 分 たちが 愛 すると 公 言 している 救 い 主 に 会 うという 希 望 を、 喜 ぶに 違 いないと 彼 は<br />

確 信 した。 彼 が 恐 れたただ 1 つのことは、 多 くの 人 々が、 輝 かしい 救 済 がこんなに 早<br />

く 完 成 されることを 喜 ぶあまり、 真 理 の 表 明 に 際 し、 十 分 に 聖 書 を 調 べもせずに 教 理<br />

239


国 際 協 定<br />

を 受 け 入 れるのではないかということであった。そこで 彼 は、 自 分 が 誤 りに 陥 り、 他<br />

の 人 々をも 誤 らせはしないかと 恐 れて、 他 の 人 々に 伝 えることをためらった。こうし<br />

て 彼 は、 到 達 した 結 論 を 支 持 する 証 拠 をもう 1 度 検 討 し、 彼 の 心 に 浮 かぶあらゆる 反<br />

対 意 見 を 注 意 深 く 吟 味 した。ちょうど 太 陽 の 光 に 照 らされる 霧 のように、 反 対 意 見 は、<br />

神 の 言 葉 の 光 に 照 らされて 消 えるのであった。こうして 5 年 間 が 経 過 し、 彼 は、 自 分<br />

の 見 解 の 正 確 さについて 十 分 な 確 信 を 抱 いた。<br />

そして 今 や、 聖 書 に 明 らかに 教 えられていると 彼 が 信 じたことを、 他 の 人 々に 伝 え<br />

なければならないという 義 務 が、 新 たな 力 をもって 彼 に 迫 った。 彼 は 次 のように 言 っ<br />

た。「わたしが 自 分 の 仕 事 をしようとすると、『 行 って、 世 界 にその 危 険 を 告 げよ』<br />

という 声 が、 常 にわたしの 耳 にひびいた。わたしは、いつも 次 の 聖 句 を 思 い 出 した。<br />

『わたしが 悪 人 に 向 かって、 悪 人 よ、あなたは 必 ず 死 ぬと 言 う 時 、あなたが 悪 人 を 戒<br />

めて、その 道 から 離 れさせるように 語 らなかったら、 悪 人 は 自 分 の 罪 によって 死 ぬ。<br />

しかしわたしはその 血 を、あなたの 手 に 求 める。しかしあなたが 悪 人 に、その 道 を 離<br />

れるように 戒 めても、その 悪 人 がその 道 を 離 れないなら、 彼 は 自 分 の 罪 によって 死 ぬ。<br />

しかしあなたの 命 は 救 われる』[エゼキエル 33:8、。 悪 しき 人 々に 対 して 十 分 に 警 告<br />

を 発 するならば、 多 くの 者 は 悔 い 改 めるだろう、そして、もし 警 告 しないならば、 彼<br />

らの 血 がわたしの 手 に 求 められるだろう、とわたしは 感 じた。」 8<br />

彼 は、だれか 牧 師 がその 趣 旨 を 認 めて、 宣 教 のために 献 身 するように 祈 りながら、<br />

機 会 を 見 ては、 彼 の 見 解 を 個 人 的 に 語 り 始 めた。しかし、 自 分 で 警 告 を 発 する 義 務 が<br />

あるという 確 信 を、 払 いのけることはできなかった。「 行 って、それを 世 界 に 語 れ。<br />

わたしは、 彼 らの 血 をあなたの 手 に 求 める」という 言 葉 が、 彼 の 心 にくり 返 し 響 いた。<br />

9 年 間 彼 は 待 った。 彼 の 心 の 重 荷 はなおも 彼 に 迫 り、ついに 1831 年 、 彼 は 初 めて 公<br />

に 自 分 の 信 仰 を 説 明 した。 エリシャが、 畑 で 牛 を 前 に 行 かせて 耕 していたときに、 外<br />

套 をかけられて、 預 言 者 の 職 に 召 されたように、ウィリアム・ミラーは、 鋤 を 捨 てて、<br />

神 の 国 の 奥 義 を 人 々に 説 き 明 かすように 召 された。 彼 は、 震 えおののきながら、 彼 の<br />

働 きを 始 め、 聴 衆 に 預 言 の 期 間 を 1 歩 1 歩 説 明 し、キリストの 再 臨 にまで 及 んだ。 彼<br />

は、 自 分 の 語 った 言 葉 が 広 く 人 々の 興 味 をひき 起 こしたのを 見 て、 努 力 することに、<br />

力 と 勇 気 が 与 えられた。<br />

ミラーは、 兄 弟 たちの 勧 誘 を 神 の 声 と 認 めて、ついに 公 衆 の 前 で 彼 の 見 解 を 発 表 す<br />

ることに 同 意 した。 彼 はその 時 50 歳 で、 公 衆 の 前 で 話 すことに 慣 れておらず、 自 分<br />

がそうした 働 きに 不 適 任 であることを 感 じて 悩 んだ。しかし、 彼 の 働 きは、 最 初 から<br />

驚 くべき 祝 福 を 受 けて、 人 々を 救 いに 導 いた。 彼 の 最 初 の 講 演 の 結 果 、 信 仰 の 覚 醒 が<br />

起 こり、2 人 を 除 いて、13 家 族 の 全 員 が 悔 い 改 めたのである。 彼 はすぐに、 他 の 場 所<br />

240


国 際 協 定<br />

でも 話 すように 頼 まれた。そしてそのほとんどの 所 で、 彼 の 働 きの 結 果 、 神 のみわざ<br />

が 再 びあらわれた。 罪 人 は 悔 い 改 め、キリスト 者 は 献 身 を 新 たにし、 理 神 論 者 や 無 神<br />

論 者 は、 聖 書 の 真 理 とキリスト 教 の 信 仰 を 認 めるように 導 かれた。 彼 の 働 きに 接 した<br />

人 々は、 次 のように 証 言 した。「 彼 は、 他 の 人 々では 影 響 を 及 ぼすことができないよ<br />

うな 人 々の 心 をも 動 かした。」 9 彼 の 説 教 は、 一 般 の 人 々の 心 を、 宗 教 の 大 いなる 事 柄<br />

に 目 覚 めさせ、 当 時 の 俗 化 と 堕 落 を 阻 止 するものであった。<br />

ほとんどの 都 市 で、 何 十 人 という 人 々が 彼 の 説 教 の 結 果 悔 い 改 め、あるところでは、<br />

何 百 人 もの 者 が 悔 い 改 めた。 多 くの 所 で、プロテスタント 諸 教 会 のほとんどすべての<br />

教 派 が 彼 に 扉 を 開 き、いくつもの 教 派 の 牧 師 たちから 説 教 の 招 待 が 来 るのが 普 通 であ<br />

った。 彼 は、 招 かれたところでだけ 働 くことにしていたが、まもなく、 続 々と 来 る 招<br />

待 の 半 分 にも 応 じきれなくなった。 再 臨 の 正 確 な 時 期 に 関 する 彼 の 見 解 に 同 意 しない<br />

人 々も、キリストの 再 臨 が 確 実 なことであって、しかも 切 追 していること、そして 自<br />

分 たちの 準 備 が 必 要 なことについては、 納 得 したものが 多 かった。 大 都 市 のいくつか<br />

において、 彼 の 働 きは 著 しい 影 響 を 及 ぼした。 酒 類 の 販 売 業 者 が 商 売 をやめて、 店 を<br />

集 会 所 にした。 賭 博 場 が 廃 止 された。 無 神 論 者 、 理 神 論 者 、 普 遍 救 済 論 者 たち、また、<br />

最 も 身 持 ちの 悪 い 道 楽 者 までが 改 心 し、その 中 には、 長 年 教 会 に 来 ていなかった 者 た<br />

ちもいた。 種 々の 教 派 が 各 地 において、ほとんど 毎 時 間 祈 祷 会 を 持 ち、 実 業 家 たちは<br />

正 午 に、 祈 りと 賛 美 のために 集 まった。といっても 別 に、 狂 気 じみた 興 奮 などはなく、<br />

人 々の 心 にあったのは 厳 粛 な 思 いであった。 彼 の 働 きは、 初 期 の 宗 教 改 革 者 たちの 働<br />

きのように、 単 に 感 情 を 動 かすのではなくて 理 解 力 に 訴 えて 良 心 を 目 ざめさせるもの<br />

であった。<br />

ミラーは、1833 年 、 彼 の 属 していたバプテスト 教 会 から、 説 教 をする 許 可 証 を 受<br />

けた。 彼 の 教 派 の 多 数 の 牧 師 も 彼 の 働 きを 承 認 し、 彼 が 働 きを 継 続 することを 正 式 に<br />

認 めたのである。 彼 は、その 個 人 的 活 動 は 主 としてニュー・イングランド 地 方 と 中 部<br />

諸 州 に 限 られていたが、 絶 えず 旅 行 しては 説 教 した。 数 年 間 は、 彼 は 費 用 を 全 部 自 弁<br />

していた。また 後 になっても、 招 かれた 所 への 旅 費 を 決 して 十 分 には 受 けなかった。<br />

こうして、 彼 の 公 の 活 動 は、 金 銭 上 の 恩 恵 を 受 けることからは 程 遠 く、 彼 の 財 産 に 重<br />

い 負 担 となり、 彼 の 生 涯 のこの 時 期 にしだいに 減 少 した。 彼 は 大 家 族 の 父 であったが、<br />

彼 らはみな 質 素 で 勤 勉 であったので、 彼 の 農 園 は、 彼 と 彼 らを 十 分 支 えることができ<br />

たのである。<br />

ミラーが、キリストが 間 もなく 来 られるという 証 拠 を 公 に 語 り 始 めてから 2 年 後 の<br />

1833 年 に、 再 臨 のしるしとして 救 い 主 が 約 束 された 最 後 のしるしが 現 れた。イエス<br />

は、「 星 は 空 から 落 ち」ると 言 われた[マタイ 24:。ヨハネも 黙 示 録 の 中 で、 神 の 日<br />

241


国 際 協 定<br />

の 到 来 を 告 げる 光 景 を 幻 に 見 て、「 天 の 星 は、いちじくのまだ 青 い 実 が 大 風 に 揺 られ<br />

て 振 り 落 されるように、 地 に 落 ちた」と 言 った[ 黙 示 録 6:。この 預 言 は、1833 年 11<br />

月 13 日 の 大 流 星 雨 によって、 顕 著 にまた 印 象 的 に 成 就 した。これは、 有 史 以 来 の 最<br />

も 広 範 囲 に 及 ぶ 驚 くべき 落 星 の 光 景 であった。「その 時 、 全 米 の 空 全 体 が、 数 時 間 に<br />

わたって 燦 然 と 輝 いた。これは、この 国 に 最 初 の 植 民 地 が 毅 けられて 以 来 、 起 こった<br />

ことのない 天 体 の 異 変 であった。そして、ある 入 々は 熱 烈 な 賛 美 をもって 見 る 一 方 、<br />

他 の 者 たちは 非 常 な 恐 れと 不 安 をもって 見 ていた。」「その 崇 高 で 荘 厳 な 美 しさは、<br />

今 なお 多 くの 人 々の 心 から 消 えない。…… 雨 も 及 ばないような 激 しさで、 流 星 が 地 に<br />

降 った。 東 も 西 も、 北 も 南 もどこも 同 じであった。ひと 言 で 言 えば、 全 天 が 活 動 して<br />

いるように 見 えた。……シリマン 教 授 の 雑 誌 の 記 事 によると、この 現 象 は、 北 米 全 土<br />

で 見 られた。……1 時 から 夜 明 けまで、 空 は 1 片 の 雲 もなく 快 晴 であって、 絶 え 間 な<br />

い 流 星 のまばゆい 光 が、 全 天 を 照 らしていた。」 10<br />

「 実 に、その 壮 麗 な 光 景 は 言 葉 で 描 写 することができない。……それを 見 なかった<br />

者 は、その 輝 かしい 光 景 がどんなものであったかが、ほんとうにはわからない。それ<br />

は、ちょうど、 星 が 全 部 天 頂 近 くの 1 点 に 集 まって、 稲 光 りの 速 さで、 同 時 に 四 方 八<br />

方 に 降 るように 見 えた。それでも 星 は 尽 きなかった—— 幾 千 の 星 が、この 時 のために<br />

創 造 されたかのように、 幾 千 の 星 にすぐ 続 いて 降 った。」 11 「いちじくの 実 が 大 風 に<br />

揺 られて 振 り 落 とされるという 描 写 以 上 に 適 切 な 表 現 はなかった。」 12<br />

1833 年 11 月 14 日 付 ニューヨーク「 商 業 新 聞 」には、このふしぎな 現 象 について<br />

の 長 文 の 記 事 が 載 ったが、そこには 次 のようなことが 書 いてあった。「 昨 朝 のような<br />

できごとは、どんな 哲 学 者 や 学 者 も、 語 ったこともなければ 記 録 したこともなかった<br />

であろう。もしわれわれが、 星 が 落 ちるということを 流 星 と 解 釈 するならぼ、1800<br />

年 前 の 預 言 者 が、それを 正 確 に 預 言 したのである……これ 以 外 の 言 葉 では 表 現 できな<br />

いような 言 い 方 で。」 こうして、イエスが 弟 子 たちに 言 われた 再 臨 に 関 する 最 後 のし<br />

るしが、あらわされた。「そのように、すべてこれらのことを 見 たならば、 人 の 子 が<br />

戸 口 まで 近 づいていると 知 りなさい」[マタイ 24:。これらの しるしのあとで、ヨハ<br />

ネは、 天 は 巻 き 物 が 巻 かれるように 消 えていき、 地 は 震 い、 山 と 島 とはその 場 所 から<br />

移 され、 悪 人 は 恐 れて 人 の 子 の 前 から 逃 げるという、その 次 の 大 事 件 を 見 た[ 黙 示 録 6:<br />

12~17 参 照 ]。<br />

落 星 を 見 た 人 々の 多 くは、これを、 来 たるべき 審 判 の 先 ぶれ、「あの 恐 るべき 大 い<br />

なる 日 の 型 、 確 実 な 前 兆 、 憐 れみのしるし」であるとみなした。 13 こうして、 人 々の<br />

注 目 は、 預 言 の 成 就 にむけられ、 多 くの 者 が 再 臨 の 警 告 に 注 意 を 払 うようになった。<br />

242


国 際 協 定<br />

1840 年 に、 預 言 のもう 1 つの 顕 著 な 成 就 があって、 広 く 一 般 の 人 々の 興 味 をひき<br />

起 こした。その 2 年 前 に、 再 臨 を 説 く 有 力 な 牧 師 の 1 人 、ジョサイア・リッチは、 黙<br />

示 録 9 章 の 解 説 を 発 行 し、オスマン[オットマン] 帝 国 の 滅 亡 を 預 言 した。 彼 の 計 算 に<br />

よるならば、 同 帝 国 は、「 紀 元 1840 年 8 月 中 に」 倒 されるのであった。そして、そ<br />

の 預 言 が 成 就 するほんの 数 日 前 に、 彼 は 次 のように 書 いた。「 最 初 の 期 間 である 150<br />

年 が、トルコの 承 認 のもとに、デアコゼスが 即 位 する 前 に 正 確 に 成 就 したとするなら<br />

ば、 最 初 の 期 間 終 了 とともに 始 まった 391 年 15 日 という 期 間 は、1840 年 8 月 11<br />

日 に 終 了 する。その 時 に、コンスタンチノープルにあるオスマンの 権 力 は 失 墜 すると<br />

思 われる。そしてこのことは、 必 ずそうなるものと 私 は 信 じる。」 14<br />

定 められたまさにその 時 に、トルコは、 大 使 を 通 じて、ヨーロッパの 同 盟 諸 国 の 保<br />

護 を 受 けることを 承 諾 し、かくて 自 らをキリスト 教 諸 国 家 の 支 配 下 においた。<br />

この 事 件 は、 預 言 を 正 確 に 成 就 するものであった。このことが 人 々に 知 れわたると、<br />

多 数 の 者 が、ミラーとその 同 労 者 たちが 採 用 している 預 言 解 釈 の 原 則 の 正 確 さを 確 信<br />

し、 再 臨 運 動 が 一 段 と 促 進 されることになった。 学 識 や 地 位 のある 人 々がミラーに 協<br />

力 し、 彼 の 見 解 の 講 演 や 著 述 に 加 わったので、1840 年 から 1844 年 まで、 働 きは 急<br />

速 に 進 展 した。<br />

ウィリアム・ミラーは、 思 索 と 研 究 によって 訓 練 された 強 固 な 精 神 力 を 持 っていた。<br />

さらに 彼 は、 知 恵 の 源 である 神 と 結 合 することによって、 天 の 知 恵 をも 兼 ね 備 えてい<br />

た。 高 潔 な 品 性 、 道 徳 的 卓 越 などの 評 価 においては、 彼 は、 人 々の 尊 敬 と 敬 意 を 集 め<br />

ずにはおかぬりっぱな 人 物 であった。 彼 は、キリスト 者 の 謙 そんと 自 制 力 とともに、<br />

真 に 親 切 な 心 の 持 ち 主 であって、だれに 対 しても 思 いやりを 持 ち、 優 しくて、 喜 んで<br />

他 の 人 々の 意 見 に 耳 を 傾 け、 彼 らの 議 論 を 十 分 に 検 討 した。 彼 は 感 情 に 走 ったり 興 奮<br />

したりせずに、すべての 説 や 教 義 を 神 のみ 言 葉 によって 試 した。そして 彼 は、その 健<br />

全 な 推 理 力 と 聖 書 の 深 い 知 識 とによって 誤 りに 反 論 し、 虚 偽 を 摘 発 することができ<br />

た。<br />

それにもかかわらず、 彼 は 彼 の 働 きを、 激 しい 反 対 を 受 けずに 遂 行 することはでき<br />

なかった。 初 期 の 宗 教 改 革 者 の 場 合 のように、 彼 が 伝 えた 真 理 は、 一 般 の 宗 教 家 たち<br />

に 歓 迎 されなかった。 彼 らは、 聖 書 によって 自 分 たちの 立 場 を 支 持 することができな<br />

いので、 人 間 の 教 義 や 先 祖 たちの 言 い 伝 えに 頼 らなければならなかった。しかし、 再<br />

臨 の 真 理 の 説 教 者 たちが 受 け 入 れた 唯 一 のあかしは、 神 の 言 葉 であった。 彼 らの 標 語<br />

は、「 聖 書 、そして、ただ 聖 書 のみ」であった。 反 対 者 たちは、 聖 書 の 根 拠 がないの<br />

で、 嘲 笑 と 軽 べつの 態 度 に 出 た。 再 臨 を 伝 える 人 々を 中 傷 するために、 時 間 と 資 力 と<br />

243


国 際 協 定<br />

才 能 が 用 いられた。しかし、 彼 らの 唯 一 の 違 反 行 為 というのは、 彼 らが、 主 の 再 臨 を<br />

喜 びをもって 待 望 し、 清 い 生 活 を 送 り、 主 の 出 現 に 対 する 準 備 をするよう 人 々に 勧 め<br />

ているという、そのことであったのである。<br />

人 々の 心 を 再 臨 の 問 題 から 他 にそらせようとする 努 力 が 熱 心 に 行 われた。キリスト<br />

の 再 臨 と 世 界 の 終 末 に 関 する 預 言 を 研 究 することは 罪 で、 何 かはずかしいことでもあ<br />

るかのように 扱 われた。こうして 一 般 の 牧 師 は、 神 のみ 言 葉 に 対 する 信 仰 を 掘 り 崩 し<br />

た。 彼 らの 教 えは、 人 々を 無 神 論 者 にし、 多 くの 者 は、 彼 ら 自 身 の 不 信 仰 な 欲 情 のま<br />

まに、ほしいままな 生 活 をした。そうしておいて、 悪 の 張 本 人 たちは、それを みな 再<br />

臨 信 徒 のせいにしたのである。<br />

知 的 で 熱 心 な 多 数 の 聴 衆 を 引 きつけていたにもかかわらず、ミラーの 名 は、あざけ<br />

りや 非 難 の 的 になる 以 外 には、 宗 教 新 聞 で 触 れられることはほとんどなかった。 宗 教<br />

の 教 師 たちのとった 態 度 に 勢 いづいた、 軽 薄 で 不 信 仰 な 人 々は、 無 礼 なあだ 名 や、 下<br />

品 で 不 敬 な 悪 口 を 言 い、 彼 と 彼 の 働 きに 侮 辱 を 加 えようとした。 安 楽 な 家 庭 を 離 れて、<br />

都 市 から 都 市 、 町 から 町 へと 自 費 で 旅 をし、 切 迫 する 審 判 の 厳 粛 な 警 告 を 世 界 に 伝 え<br />

るために 絶 えず 労 している 白 髪 のミラーは、 狂 信 者 、うそつき、 山 師 と 言 われて 嘲 笑<br />

された。<br />

彼 に 浴 びせられた 嘲 笑 、 虚 言 、 悪 口 には、 世 俗 の 新 聞 すら 憤 慨 して 抗 議 するに 至 っ<br />

た。「このように 圧 倒 的 な 荘 重 さと 恐 るべき 結 果 を 伴 う 問 題 」を 軽 々しくののしるこ<br />

とは、「ただ 単 に、それを 宣 布 し 擁 護 する 者 の 心 を 愚 弄 するばかりでなくて、 審 判 の<br />

日 をあざ 笑 い、 神 ご 自 身 を 嘲 笑 し、 神 の 審 判 廷 の 恐 るべきことを 軽 べつするのである」<br />

と 世 の 人 々が 言 うほどであった。 15<br />

あらゆる 悪 の 煽 動 者 サタンは、 再 臨 使 命 の 影 響 を 無 に 帰 そうとしたばかりでなくて、<br />

使 命 者 自 身 の 生 命 を 取 ろうとした。ミラーは、 聖 書 の 真 理 を 彼 の 聴 衆 の 心 に 実 際 にあ<br />

てはめて 訴 え、 彼 らの 罪 を 責 め、 彼 らの 自 己 満 足 を 打 ち 破 った。そして、 彼 の 明 白 で<br />

鋭 い 言 葉 は、 人 々の 敵 意 を 引 き 起 こした。 教 会 員 が 彼 の 使 命 に 反 対 するのを 見 て、 低<br />

俗 な 人 々は、より 大 胆 な 行 動 へと 進 んだ。そして、 敵 たちは、 彼 が 集 会 場 を 出 ようと<br />

する 時 に 彼 を 殺 そうと 謀 った。しかし、 天 使 たちが 群 衆 の 中 にいた。 そして、 人 間 の<br />

姿 をした 1 人 の 天 使 が、 主 のしもべの 腕 をとって、 怒 った 群 衆 の 中 を 安 全 に 連 れ 出 し<br />

た。 彼 の 働 きは、まだ 終 わっていなかった。そしてサタンとサタンの 使 者 たちは、そ<br />

の 目 的 を 達 することができなかった。<br />

あらゆる 迫 害 にもかかわらず、 再 臨 運 動 に 対 する 関 心 は 高 まっていった。 最 初 は、<br />

数 十 、 数 百 であった 会 衆 が、 幾 千 にも 増 していった。 種 々の 教 会 に 多 くの 信 者 が 加 え<br />

244


国 際 協 定<br />

られたが、しばらくすると、こうした 改 心 者 に 対 してさえ 反 対 の 精 神 があらわされ、<br />

教 会 は、ミラーの 見 解 を 信 じる 者 に 対 して、 懲 罰 処 置 をとるようになった。こうした<br />

事 態 が 起 こったために、ミラーは、あらゆる 宗 派 のキリスト 者 に 対 する 訴 えを 書 き、<br />

もし 彼 の 教 義 が 誤 りであるならば、その 誤 りを 聖 書 によって 示 してもらいたいと 言 っ<br />

た。<br />

「われわれの 信 仰 と 行 為 の 規 準 、いや、 唯 一 の 規 準 であるとあなたがたが 認 めてい<br />

る 神 の 言 葉 が、 信 じよと 命 じていないどんなものを、われわれは 信 じたであろうか。<br />

われわれ〔アドベンチスト[ 再 臨 信 徒 ]〕は、 説 教 壇 からの、または 印 刷 物 によるこの<br />

ような 悪 意 に 満 ちた 非 難 を 受 け、また 教 会 の 交 わりから 除 外 されねばならぬような、<br />

どんなことをしたのであろうか。」「もしわれわれがまちがっているならば、 何 がま<br />

ちがいであるかを 示 していただきたい。われわれの 誤 りを、 神 の 言 葉 から 示 していた<br />

だきたい。われわれはもう 十 分 あざけりを 受 けた。あざけりは、われわれがまちがっ<br />

ていたことを 納 得 させ 得 ない。われわれの 見 解 を 変 えるのは、 神 の 言 葉 だけである。<br />

われわれの 結 論 は、 聖 書 の 証 拠 に 基 づいて、 慎 重 な 吟 味 と 祈 りによって 達 したものな<br />

のである。」 16<br />

どの 時 代 にあっても、 神 がそのしもべによって 世 界 に 伝 えられた 警 告 は、 疑 いと 不<br />

信 をもって 迎 えられた。 洪 水 前 の 人 々の 罪 悪 のゆえに、 地 が 洪 水 で 滅 ぼされることに<br />

なった 時 、 神 は、まず 彼 らに 悪 の 道 を 離 れる 機 会 を 与 えるために、ご 自 分 の 意 図 をお<br />

告 げになった。<br />

神 の 怒 りによって 彼 らが 滅 ぼされないように、120 年 の 間 、 悔 い 改 めの 警 告 が 彼 ら<br />

の 耳 に 発 せられた。しかし、 彼 らはその 警 告 を、たわごとと 考 えて 信 じなかった。 彼<br />

らは、 大 胆 に 罪 悪 にふけり、 神 の 使 者 を 嘲 笑 し、その 嘆 願 を 軽 んじ、 彼 を 僣 越 である<br />

とさえ 非 難 した。ただ 1 人 の 人 間 が、 地 のすべての 偉 大 な 人 物 たちに 対 抗 して 立 ちは<br />

だかるのか? もしノアの 言 うことが 真 実 であれば、なぜ 全 世 界 がそれを 認 めて 信 じ<br />

ないのか? 数 千 人 の 知 恵 に 対 抗 する、1 人 の 人 間 の 主 張 ! 彼 らは、 警 告 を 信 じよ<br />

うとせず、 箱 舟 の 中 に 避 難 しようとしなかったのである。<br />

あざける 者 たちは、 自 然 の 事 物 —— 相 も 変 わらぬ 季 節 の 推 移 、 雨 を 降 らせたことの<br />

ない 青 空 、 柔 らかな 夜 の 露 に 生 気 をとりもどした 緑 の 野 ——を 指 さして、「 彼 はたと<br />

え 話 を 語 っているのではないか?」と 叫 んだ。 彼 らは、 義 の 宣 伝 者 を 軽 べつして、 無<br />

謀 な 熱 狂 家 と 呼 んだ。そして 彼 らは、これまで 以 上 に 快 楽 の 追 求 に 走 り、 悪 の 道 に 進<br />

んでいった。しかし、 彼 らの 不 信 は、 予 告 されたできごとが 起 こるのを 妨 げはしなか<br />

った。 神 は、 彼 らの 悪 を 長 く 忍 ばれ、 彼 らに 悔 い 改 めの 機 会 を 十 分 にお 与 えになった。<br />

245


国 際 協 定<br />

しかし、 定 められた 時 が 来 た 時 に、 神 の 憐 れみを 拒 んだ 者 に 神 の 刑 罰 が 下 ったのであ<br />

る。<br />

キリストは、 再 臨 に 関 しても 同 様 の 不 信 があらわされるであろうと 言 われた。ノア<br />

の 時 代 の 人 々が、「 洪 水 が 襲 ってきて、いっさいのものをさらって 行 くまで、 彼 らは<br />

気 がつかなかった」ように、「 人 の 子 の 現 れるのも」、そのようであろうと 救 い 主 は<br />

言 われた[マタイ 24:。 神 の 民 と 称 する 人 々が、 世 と 結 合 し、 世 の 人 々のように 生 活<br />

し、 禁 じられた 快 楽 を 彼 らとともにしている 時 、 世 俗 のぜいたくが 教 会 のぜいたくと<br />

なり、 結 婚 の 鐘 が 鳴 りひびき、すべての 者 が、 世 俗 の 繁 栄 が 長 年 にわたって 続 くと 思<br />

っているその 時 に、 突 然 、いなずまが 天 からきらめくように、 彼 らの 輝 かしい 幻 とむ<br />

なしい 望 みとは、 消 えさるのである。<br />

神 は、 洪 水 が 来 ることを 世 界 に 警 告 するためにしもべを 送 られたように、 最 後 の 審<br />

判 の 切 迫 を 知 らせるために、 使 者 を 選 んでつかわされた。そして、ノアの 時 代 の 人 々<br />

が、 義 の 宣 伝 者 の 予 告 を 軽 べつしてあざ 笑 ったように、ミラーの 時 代 においても、 多<br />

くの 者 が、いや 神 の 民 と 称 する 人 々でさえ、 彼 の 警 告 の 言 葉 をあざ 笑 ったのである。<br />

では、なぜ 教 会 は、キリスト 再 臨 の 教 義 と 説 教 を、このように 歓 迎 しなかったので<br />

あろうか。 主 の 再 臨 は、 悪 人 に 災 いと 滅 びをもたらすが、 義 人 にとっては 喜 びと 希 望<br />

に 満 ちている。この 大 真 理 は、 各 時 代 にわたって、 神 の 忠 実 な 者 たちの 慰 めであった。<br />

それがなぜ、ユダヤ 人 たちにとってのイエスと 同 様 に、 神 の 民 と 称 する 人 々にとって<br />

「つまずきの 石 、さまたげの 岩 」となったのであろうか。「 行 って、 場 所 の 用 意 がで<br />

きたならば、またきて、あなたがたをわたしのところに 迎 えよう」と 弟 子 たちに 約 束<br />

されたのは、 主 ご 自 身 であった[ヨハネ 14:。<br />

弟 子 たちの 寂 しさと 悲 しさを 思 って、 天 使 たちに、 自 分 は 天 に 昇 っていったのと 同<br />

じありさまでまた 来 るという 保 証 を 与 えて 彼 らを 慰 めるよう 命 じられたのは、 憐 れみ<br />

深 い 救 い 主 であった。 弟 子 たちが、 愛 する 主 の 最 後 の 姿 を 見 ようとして、 天 をみつめ<br />

て 立 っていると、「ガリラヤの 人 たちよ、なぜ 天 を 仰 いで 立 っているのか。あなたが<br />

たを 離 れて 天 に 上 げられたこのイエスは、 天 に 上 って 行 かれるのをあなたがたが 見 た<br />

のと 同 じ 有 様 で、またおいでになるであろう」という 言 葉 に 注 意 をひかれた[ 使 徒 行 伝<br />

1:。 弟 子 たちは、 天 使 の 言 葉 によって、 新 たな 希 望 を 抱 いた。 彼 らは、「 非 常 な 喜<br />

びをもってエルサレムに 帰 り、 絶 えず 宮 にいて、 神 をほめたたえていた」[ルカ 24:<br />

52、。 彼 らが 喜 んだのは、イエスが 彼 らを 去 り、 残 された 彼 らが 世 の 試 練 や 誘 惑 と 戦<br />

わねばならなくなったからではなくて、 天 使 が 彼 らに、 主 はまた 来 られるという 保 証<br />

を 与 えたからであった。<br />

246


国 際 協 定<br />

今 日 、キリスト 再 臨 の 布 告 は、 天 使 たちがベツレヘムの 羊 飼 いたちに 告 げた 時 のよ<br />

うに、 大 きな 喜 びの 知 らせでなければならない。 救 い 主 を 真 に 慶 する 人 々は、 聖 書 に<br />

基 づいた 告 知 を、 喜 びをもって 叫 ばないではおられない。 永 遠 の 生 命 という 彼 らの 希<br />

望 の 中 心 であられる 主 が、 初 臨 の 時 のように 嘲 笑 され、 侮 辱 され、 拒 否 されるためで<br />

はなくて、 力 と 栄 光 のうちに 神 の 民 を 贖 うために、また 来 られるのである。 救 い 主 を<br />

遠 ざけておこうと 望 む 者 は、 彼 を 愛 さない 人 々である。この 天 からの 使 命 にいらだち<br />

を 感 じ、 悪 意 を 抱 くことほど、 教 会 が 神 から 離 反 したことの 決 定 的 証 拠 はないのであ<br />

る。<br />

再 臨 の 教 義 を 受 け 入 れたものは、 神 の 前 に 悔 い 改 めてへりくだることの 必 要 を 自 覚<br />

した。キリストと 世 との 間 をためらっていたものが 多 くいたが、 今 こそ 決 心 すべき 時<br />

であると 感 じた。「 彼 らには、 永 遠 に 関 することが、これまでになく 現 実 のものとな<br />

った。 天 は 近 くなり、 神 の 前 に 自 分 たちの 罪 深 さを 感 じた。」 17 キリスト 者 は、 新 し<br />

い 霊 的 生 命 に 活 気 づいた。 彼 らは、 時 が 短 いことを 感 じ、 同 胞 のためになすべきこと<br />

は、 速 やかにしなければならないと 感 じた。 地 は、 退 いていき、 永 遠 が 彼 らの 前 に 開<br />

かれるように 思 われた。そして、 魂 とその 永 遠 の 運 命 にかかわるすべてのことが、 地<br />

上 のすべてのものの 光 をあせさせるように 感 じられた。 神 の 霊 が 彼 らに 宿 り、 罪 人 に<br />

対 すると 同 様 に 同 信 者 たちに 対 しても、 神 の 日 の 準 備 をするように 熱 心 に 訴 える 力 を<br />

与 えた。 彼 らの 口 ごとの 生 活 の 無 言 のあかしは、 形 式 的 で 献 身 していない 教 会 員 に 対<br />

する 絶 えざる 譴 責 であった。この 人 々は、 自 分 たちの 快 楽 の 追 求 、 金 もうけへの 熱 意 、<br />

世 俗 の 栄 誉 欲 などが 妨 げられるのを 望 まなかった。そのために、 再 臨 の 信 仰 とそれを<br />

宣 布 する 者 に 対 して、 敵 意 と 反 対 が 起 こったのであった。<br />

反 対 者 たちは、 預 言 の 期 間 に 関 する 議 論 にはとうてい 打 ち 勝 てないので、 預 言 は 封<br />

じられたものであると 教 えることによって、この 問 題 の 研 究 を 妨 げようとした。こう<br />

してフロテスタントも、カトリック 教 会 がしたのと 同 じことをしたのである。ローマ<br />

・カトリック 教 会 は、 人 々に 聖 書 を 読 むことを 禁 じたが、プロテスタント 教 会 は、 聖<br />

書 の 重 要 な 部 分 ——それも、われわれの 時 代 に 特 に 適 用 される 真 理 を 示 している 部<br />

分 ——を、 理 解 することができないど 主 張 したのである。<br />

牧 師 と 信 徒 とは、ダニエル 書 と 黙 示 録 の 預 言 は、 不 可 解 な 神 秘 であると 言 った。し<br />

かし、キリストは、ご 自 分 の 弟 子 たちの 時 代 に 起 こるできごとに 関 する 預 言 者 ダニエ<br />

ルの 言 葉 を 示 して、「[ 読 者 よ、 悟 れ]」と 言 われた[マタイ 24:。また、 黙 示 録 が 神<br />

秘 であって 理 解 できないという 主 張 は、この 書 の 表 題 そのものと 矛 盾 している。 「イ<br />

エス・キリストの 黙 示 。この 黙 示 は、 神 が、すぐにも 起 るべきことをその 僕 たちに 示<br />

すためキリストに 与 え、……この 預 言 の 言 葉 を 朗 読 する 者 と、これを 聞 いて、その 中<br />

247


国 際 協 定<br />

に 書 かれていることを 守 る 者 たちとは、さいわいである。 時 が 近 づいているからであ<br />

る」[ 黙 示 録 1:1~。<br />

預 言 者 は 言 う、「 朗 読 する 者 はさいわいである。」 読 もうとしない 者 もあるであろ<br />

うが、そうした 人 々には 祝 福 は 与 えられない。「これを 聞 いて。」 預 言 のことは 何 1<br />

つ 聞 こうとしない 人 々もいる。この 人 々も 祝 福 を 受 けることができない。「その 中 に<br />

書 かれていることを 守 る 者 たち。」 黙 示 録 に 記 されている 警 告 や 教 えに 注 意 しようと<br />

しない 者 が 多 い。このような 人 々は、 約 束 された 祝 福 を 受 けることができない。 預 言<br />

の 諸 問 題 をあざ 笑 い、そこに 厳 粛 に 示 された 象 徴 を 潮 笑 する 者 、また、 生 活 を 改 めて<br />

人 の 子 の 再 臨 の 準 備 をすることを 拒 む 者 は、みな 祝 福 を 受 けることができない。この<br />

ような 聖 書 の 証 言 がある 以 上 、 黙 示 録 は 人 間 の 理 解 を 超 えた 神 秘 なものであるなどと、<br />

どうして 教 えることができよう。それは 啓 示 された 神 秘 であり、 開 かれた 書 である。<br />

黙 示 録 の 研 究 は、ダニエル 書 の 預 言 に 心 を 向 けさせる。この 両 書 は、 世 界 歴 史 の 終 末<br />

に 起 きる 諸 事 件 について、 神 からの 最 も 重 大 な 教 えを 与 えている。<br />

ヨハネは、 教 会 が 経 ていくさまざまの 興 味 深 い 場 面 を 見 せられた。 彼 は、 神 の 民 の<br />

立 場 、 危 険 、 争 闘 、そして 最 後 の 救 済 を 見 た。 彼 は、 地 の 収 穫 を 実 らせる 最 後 の 使 命<br />

を 記 録 している。 人 々は 天 の 倉 に 収 められる 穀 物 になるか、それとも、 滅 びの 火 で 焼<br />

かれる 束 になるかである。 非 常 に 重 大 な 問 題 が 彼 に 示 された。それは、 特 に 最 後 の 教<br />

会 に 対 するものであって、 誤 りを 捨 てて 真 理 を 信 じる 者 に、 彼 らが 出 会 う 危 険 と 闘 い<br />

に 関 して 教 えるためのものであった。 地 上 に 起 ころうとしている 事 件 について、だれ<br />

も 無 知 である 必 要 はないのである。<br />

それでは、 一 般 の 人 々はなぜ、 聖 書 の 重 要 な 部 分 に 対 して、このように 無 知 なので<br />

あろうか。なぜ、 人 々は 一 般 にその 教 えを 研 究 するのをいやがるのであろうか。 それ<br />

は、 暗 黒 の 君 が、 自 分 の 欺 瞞 を 暴 露 するものを、 人 々から 隠 そうとする 巧 妙 な 策 略 の<br />

結 果 である。そのために、 啓 示 者 であられるキリストは、 黙 示 録 の 研 究 に 対 する 戦 い<br />

を 予 見 して、 預 言 の 言 葉 を 読 み、 聞 き、 守 るすべての 者 に、 祝 福 を 宣 言 されたのであ<br />

った。<br />

248


国 際 協 定<br />

第 19 章 光 と 真 理 の 証 を<br />

各 時 代 にわたって、 地 上 で 行 われる 神 の 働 きには、どの 大 改 革 や 宗 教 運 動 を 見 ても、<br />

著 しい 共 通 性 がある。 神 が 人 間 を 扱 われる 原 則 は、 常 に 同 じである。 現 代 の 重 要 な 運<br />

動 は、 過 去 の 運 動 と 類 似 しており、 昔 の 教 会 の 経 験 は、われわれの 時 代 に 対 して 大 き<br />

な 価 値 のある 教 訓 を 与 えている。 救 いの 働 きを 前 進 させる 大 運 動 において、 神 が 聖 霊<br />

を 送 って 地 上 にいるご 自 分 のしもべたちを 特 に 指 導 されるということほど、 聖 書 の 中<br />

で 明 白 に 教 えられている 真 理 はほかにない。 人 間 は、 神 の 恵 みと 憐 れみの 御 目 的 を 遂<br />

行 するために 川 いられる、 神 のみ 手 の 中 の 器 である。おのおのに、その 果 たすべき 役<br />

割 がある。おのおのに、 神 が 彼 に 与 えられた 働 きを 成 し 遂 げるのに 十 分 な、そしてそ<br />

の 時 代 の 必 要 に 応 じた 光 が 与 えられる。しかし、どんなに 天 の 栄 誉 を 受 けたものでも、<br />

贖 罪 の 大 計 画 を 知 り 尽 くし、 彼 の 時 代 に 対 する 働 きにおける 神 のみ 心 を 全 部 悟 った 人<br />

はなかった。 人 間 は、 神 が 彼 らにお 与 えになる 働 きによって 何 を 遂 行 しようとしてお<br />

られるか、 十 分 に 理 解 することはできない。 彼 らは、 神 のみ 名 によって 語 る 使 命 をこ<br />

とごとく 理 解 するのではない。<br />

「あなたは 神 の 深 い 事 を 窮 めることができるか。 全 能 者 の 限 界 を 窮 めることができ<br />

るか。」「わが 思 いは、あなたがたの 思 いとは 異 なり、わが 道 は、あなたがたの 道 と<br />

は 異 なっていると 主 は 言 われる。 天 が 地 よりも 高 いように、わが 道 は、あなたがたの<br />

道 よりも 高 く、わが 思 いは、あなたがたの 思 いよりも 高 い。」「わたしは 神 である、<br />

わたしと 等 しい 者 はない。わたしは 終 りの 事 を 初 めから 告 げ、まだなされない 事 を 昔<br />

から 告 げて 言 う」[ヨブ 11:7、イザヤ 55:8、9、46:9、。<br />

聖 霊 の 特 別 の 光 に 浴 した 預 言 者 たちでさえ、 自 分 たちにゆだねられた 啓 示 の 意 味 を、<br />

完 全 に 理 解 してはいなかった。その 意 味 は、 神 の 民 が、そこに 含 まれている 教 えを 必<br />

要 とするにしたがって、 代 々にわたって 示 されるのであった。ペテロは、 福 音 によっ<br />

て 明 らかにされた 救 いについて、 次 のように 書 いた。「この 救 については、あなたが<br />

たに 対 する 恵 みのことを 預 言 した 預 言 者 たちも、たずね 求 め、かつ、つぎに 調 べた。<br />

彼 らは、 自 分 たちのつちにいますキリストの 霊 が、キリストの 苦 難 とそれに 続 く 栄 光<br />

とを、あらかじめあかしした 時 、それはいつの 時 、どんな 場 合 をさしたのかを、 調 べ<br />

たのである。そして、それらについて 調 べたのは 自 分 たらのためではなくて、あなた<br />

がたのための 奉 仕 であることを 示 された」[Ⅰペテロ 1:10~。<br />

預 言 者 たちは、 自 分 たちに 啓 示 されたことを 十 分 に 理 解 できなかったけれども、 神<br />

が 彼 らにあらわすことをよしとされた 光 はみな 把 握 しようと 熱 心 に 求 めた。 彼 らは、<br />

249


国 際 協 定<br />

「たずね 求 め、かつ、つぶさに 調 べた。」「 自 分 たちのうちにいますキリストの 霊<br />

が……いつの 時 、どんな 場 合 をさしたのかを、 調 べたのである。」こうした 預 言 が 神<br />

のしもべたちに 与 えられたのは、 新 約 時 代 のキリスト 者 のためであるとは、 神 の 民 に<br />

とって、なんという 教 訓 であろう。「 自 分 たちのためではなくて、あなたがたのため<br />

の 奉 仕 であることを 示 された。」まだ 生 まれてもいない 後 世 の 人 々に 与 えられた 啓 示<br />

を、これら 神 の 聖 者 たちが「たずね 求 め、かつ、つぶさに 調 べた」ことに 注 目 しよう。<br />

彼 らの 聖 なる 熱 心 さと、 後 世 の 恵 まれた 人 々がこの 天 の 贈 り 物 を 扱 う 無 気 力 な 冷 淡 さ<br />

とを、 比 較 してみよう。これは、 預 言 は 理 解 できないものであると 言 って 満 足 してい<br />

るような、 安 楽 を 愛 し 世 俗 を 愛 する 無 関 心 さに 対 しての、なんという 譴 責 であろう<br />

か。<br />

人 間 の 有 限 な 心 は、 無 限 の 神 のご 計 画 を 十 分 に 悟 ったり、そのみ 心 の 働 きを 完 全 に<br />

理 解 したりはできないけれども、しかし 神 のメッセージをほんのわずかしか 理 解 でき<br />

ないのは、 彼 らの 側 の 誤 りや 怠 慢 のゆえであるという 場 合 も、よくあるのである。 一<br />

般 の 人 々、そして 神 のしもべたちでさえ、 人 間 の 意 見 、 人 間 の 伝 説 や 偽 りの 教 えに 目<br />

がくらんで、 神 がみ 言 葉 の 中 に 啓 示 された 大 事 実 のほんの 一 部 しか 把 握 できない 場 合<br />

がよくある。 救 い 主 がこの 地 上 におられたときの 弟 子 たちでさえ、そうであった。 彼<br />

らは、メシヤはイスラエルを 世 界 的 王 国 とするこの 世 の 王 であるという 一 般 の 思 想 に<br />

染 まっていたために、 彼 の 苦 難 と 死 に 関 する 預 言 の 意 味 を 理 解 することができなかっ<br />

た。<br />

彼 らは、キリストご 自 身 から、「 時 は 満 ちた、 神 の 国 は 近 づいた。 悔 い 改 めて 福 音<br />

を 信 ぜよ」との 使 命 を 帯 びてっかわされた[マルコ 1:。この 使 命 は、ダニエル 9 章 の<br />

預 言 に 基 づいていた。「メシヤなるひとりの 君 」が 来 るまで、69 週 あると 天 使 は 言 っ<br />

た。そこで、 弟 子 たちは、 大 きな 希 望 と 喜 ばしい 期 待 をもって、 全 世 界 を 支 配 するメ<br />

シヤの 王 国 がエルサレムに 建 設 されるのを 待 望 した。<br />

彼 らは、キリストからゆだねられた 使 命 を 宣 べ 伝 えたのであるが、 彼 ら 自 身 その 意<br />

味 を 誤 って 理 解 していた。 彼 らの 宣 言 は、ダニエル 9:25 に 基 づいていたが、 彼 らは、<br />

同 じ 章 の 次 の 聖 句 に、メシヤは 断 たれるとあるのを 見 なかった。 彼 らは、 生 まれた 時<br />

から、 地 上 王 国 の 栄 光 を 待 望 するようにしつけられていたので、 預 言 の 明 細 な 点 も、<br />

キリストの 言 葉 も、 理 解 できなかったのである。 彼 らは、ユダヤの 国 民 に 恵 みの 招 待<br />

を 発 して、 彼 らの 義 務 を 遂 行 した。そして、 主 がダビデの 王 位 につかれると 彼 らが 思<br />

ったその 時 に、 彼 が 罪 人 として 捕 らえられ、むち 打 たれ、あざけられ、 罪 に 定 められ、<br />

カルバリーの 十 字 架 につけられるのを 彼 らは 見 た。 主 が 墓 の 中 で 眠 っておられる 間 、<br />

弟 子 たちは、どんなに 失 望 し、 苦 悩 したことであろう。<br />

250


国 際 協 定<br />

キリストは、 預 言 されたとおりの 時 に、 預 言 されたとおりの 様 子 で、おいでになっ<br />

たのであった。 聖 書 の 証 言 は、 彼 の 伝 道 の 細 かい 点 まで 成 就 した。 彼 は、 救 いの 使 命<br />

をお 伝 えになった。そして、「その 言 葉 に 権 威 があった。」 聴 衆 は、それが 神 からの<br />

ものであることを 証 言 した。み 言 葉 も、 聖 霊 も、み 子 が 神 の 任 命 を 受 けていることを<br />

あかしした。 弟 子 たちは、 彼 らの 愛 する 主 を、なお 敬 愛 してやまなかった。しかし、<br />

彼 らの 心 は、 不 安 と 疑 惑 に 閉 ざされていた。 彼 らは、その 苦 悩 のなかで、キリストが<br />

苦 難 と 死 について 予 告 された 言 葉 を 思 い 出 さなかった。もし、ナザレのイエスが 真 の<br />

メシヤであったならば、 自 分 たちはこうした 悲 しみと 失 望 に 陥 ったであろうか? 救<br />

い 主 が 墓 に 横 たわっておられた、 彼 の 死 と 復 活 の 間 のあの 安 息 日 の 絶 望 的 な 時 間 の 間 、<br />

弟 子 たちはこの 疑 問 に 心 を 苦 しめられていた。<br />

イエスの 弟 子 たちは、 悲 しみの 夜 に 閉 ざされてはいたが、 捨 てられてはいなかった。<br />

預 言 者 は 言 っている。「たといわたしが 暗 やみの 中 にすわるとも、 主 はわが 光 となら<br />

れる。…… 主 はわたしを 光 に 導 き 出 してくださる。わたしは 主 の 正 義 を 見 るであろ<br />

う。」「あなたには、やみも 暗 くはなく、 夜 も 昼 のように 輝 きます。あなたには、や<br />

みも 光 も 異 なることはありません。」 神 は 次 のように 言 われた。「 光 は 正 しい 者 のた<br />

めに 暗 黒 の 中 にもあらわれる。」「わたしは 見 えない 人 を 彼 らのまだ 知 らない 大 路 に<br />

行 かせ、まだ 知 らない 道 に 導 き、 暗 きをその 前 に 光 とし、 高 低 のある 所 を 平 らにする。<br />

わたしはこれらの 事 をおこなって 彼 らを 捨 てない」[ミカ 7:8、9、 詩 篇 139:12、<br />

112:4、イザヤ 42:。<br />

弟 子 たちが 主 の 名 によって 宣 べ 伝 えたものは、すべての 点 において 正 確 で、それが<br />

指 し 示 すできごとは、その 当 時 でさえ 起 こりつつあった。「 時 は 満 ちた、 神 の 国 は 近<br />

づいた」というのが、 彼 らのメッセージであった。「 時 」——メシヤすなわち「 油 注<br />

がれた 者 」にまでおよぶ、ダニエル 9 章 の 69 週 ——の 終 了 にあたって、キリストは、<br />

ヨルダン 川 でバプテスマのヨハネからバプテスマを 受 けられた 後 、 聖 霊 の 油 をお 受 け<br />

になった。そして、 彼 らが「 近 づいた」と 宣 言 した「 神 の 国 」は、キリストの 死 によ<br />

って 建 設 された。この 王 国 は、 彼 らが 信 じるように 教 えられていた 地 上 の 帝 国 ではな<br />

かった。また、「 国 と 主 権 と 全 天 下 の 国 々の 権 威 とは、いと 高 き 者 の 聖 徒 たる 民 に 与<br />

えられる」 時 に 建 設 される、 将 来 の 不 滅 の 王 国 、「 諸 国 の 者 はみな 彼 らに 仕 え、かつ<br />

従 う」 永 遠 の 王 国 でもなかった[ダニエル 7:。 聖 書 でよく 川 いられている「 神 の 国 」<br />

という 表 現 は、 恵 みの 王 国 と 栄 光 の 王 国 の 両 方 を 指 すのに 用 いられている。<br />

恵 みの 王 国 は、パウロによって、ヘブル 人 への 手 紙 の 中 で 述 べられている。キリス<br />

トが、「わたしたちの 弱 さを 思 いやる」ことのできる 情 け 深 い 仲 保 者 であることを 指<br />

摘 したあとで、 使 徒 は、「だから、わたしたちは、あわれみを 受 け、また、 恵 み……<br />

251


国 際 協 定<br />

を 受 けるために、はばかることなく 恵 みの 御 座 に 近 づこうではないか」と 言 っている<br />

[ヘブル 4:15、。 恵 みのみ 座 は、 恵 みの 王 国 を 代 表 している。なぜならばみ 座 の 存 在<br />

することは、 王 国 の 存 在 を 意 味 しているからである。キリストは、 多 くのたとえのな<br />

かで、 人 の 心 に 働 く 神 の 恵 みの 活 動 を 指 すのに、「 天 国 」という 表 現 を 用 いられた。<br />

そのように、 栄 光 のみ 座 は、 栄 光 の 王 国 を 指 すのである。 救 い 主 は、この 王 国 につ<br />

いて 次 のように 言 われた。「 人 の 子 が 栄 光 の 中 にすべての 御 使 たちを 従 えて 来 るとき、<br />

彼 はその 栄 光 の 座 につくであろう。そして、すべての 国 民 をその 前 に 集 め」る[マタイ<br />

25:31、。この 王 国 は、まだ 将 来 のものである。それは、キリストの 再 臨 の 時 まで 建<br />

設 されない。<br />

恵 みの 王 国 は、 人 類 の 堕 落 後 直 ちに、 罪 を 犯 した 人 類 の 贖 罪 の 計 画 がたてられた 時<br />

に、 設 立 された。それは、その 時 、 神 のみ 心 のうちに、そして 神 のお 約 束 のもとに 存<br />

在 していた。そして、 信 仰 によって、 人 々はその 国 民 となることができた。しかしそ<br />

れは、キリストが 亡 くなられるまでは、 実 際 に 築 かれなかった。 救 い 主 は、 地 上 の 伝<br />

道 開 始 後 においても、 人 類 の 強 情 さと 忘 恩 にうみ 疲 れて、カルバリーの 犠 牲 を 避 ける<br />

ことも 可 能 であった。ゲッセマネにおいて、 苦 悶 の 杯 は、 彼 の 手 の 中 で 震 えた。 彼 は、<br />

その 時 でも、 額 から 血 の 汗 をぬぐって、 罪 深 い 人 類 を、その 罪 悪 のうちに 滅 びるまま<br />

にしておくことがおできになった。もし 彼 がそうなさったならば、 堕 落 した 人 類 の 贖<br />

罪 はあり 得 なかったのである。しかし、 救 い 主 が、その 生 命 をささげ、「すべてが 終<br />

った」と 叫 んで 息 を 引 き 取 られた 時 、 贖 罪 の 計 画 の 完 成 が 確 保 された。エデンにおい<br />

て、 罪 を 犯 した 2 人 に 対 してなされた 救 いの 約 束 は、 批 准 された。これまで 神 の 約 束<br />

によって 存 在 していた 恵 みの 王 国 が、この 時 、 設 立 されたのである。<br />

こうして、キリストの 死 、すなわち、 弟 子 たちの 希 望 を 最 終 的 に 打 ち 砕 いたと 思 わ<br />

れた 事 件 そのものが、 それを 永 遠 に 確 かなものとした。それは、 彼 らにとって 悲 痛 な<br />

失 望 ではあったが、 彼 らの 信 仰 が 正 しかったという 証 明 のクライマックスであった。<br />

彼 らを 悲 嘆 と 失 望 に 陥 れた 事 件 は、アダムのすべての 子 孫 に 希 望 の 扉 を 開 くものであ<br />

り、あらゆる 時 代 の、 神 のすべての 忠 実 な 民 に、 来 世 と 永 遠 の 幸 福 をもたらす 中 心 事<br />

件 であった。<br />

弟 子 たちは 失 望 に 陥 ったけれども、 神 の 無 限 の 慈 悲 深 いみ 心 は、 成 就 しつつあった。<br />

彼 らの 心 は、「これまでだれも 語 ったことがないように 語 った」 彼 の 教 えの 恵 みと 力<br />

に 捕 らえられていながらも、イエスに 対 する 彼 らの 純 粋 な 愛 に、 世 俗 的 誇 りや 利 己 的<br />

野 心 がいり 混 じっていた。 彼 らの 主 が、まさにゲッセマネの 陰 に 入 ろうとしておられ<br />

た 厳 粛 な 時 、 過 越 の 食 事 のための 2 階 の 広 間 においてさえ、「 自 分 たちの 中 でだれが<br />

252


国 際 協 定<br />

いちばん 偉 いだろうかと 言 って、 争 論 が 彼 らの 間 に、 起 った」[ルカ 22:。 彼 らのす<br />

ぐ 前 には、ゲッセマネの 園 の 恥 辱 と 苦 悩 、 審 判 廷 、カルバリーの 十 字 架 が 待 っていた<br />

のに、 彼 らの 目 は、 王 座 と 冠 と 栄 光 だけを 見 ていた。 彼 らが 当 時 の 偽 りの 教 えに 固 執<br />

して、 彼 の 国 の 真 の 性 質 を 示 し、 彼 の 苦 難 と 死 を 予 告 する 救 い 主 の 言 葉 に 注 意 を 払 わ<br />

なかったのは、 彼 らの 心 が 高 慢 で、 世 俗 の 栄 誉 を 渇 望 していたからであった。こうし<br />

た 誤 りの 結 果 、 厳 しいがしかし 必 要 な 試 練 がやってきた。それは 彼 らを 正 すために、<br />

起 こることを 許 された。 弟 子 たちは、 彼 らのメッセージの 意 味 を 取 り 違 え、 期 待 した<br />

ものを 実 現 することはできなかったが、しかしそれでも、 神 から 与 えられた 警 告 を 伝<br />

えたのであって、 主 は、 彼 らの 信 仰 に 報 い、 彼 らの 服 従 に 栄 誉 を 与 えられるのであっ<br />

た。 彼 らには、 復 活 の 主 の 輝 かしい 福 音 を 全 世 界 に 伝 える 働 きが 託 されるのであった。<br />

彼 らにはあまりに 苛 酷 と 思 われるような 経 験 が 許 されたのは、この 働 きに 彼 らを 備 え<br />

させるためであった。<br />

復 活 後 、イエスは、エマオ 途 上 の 弟 子 たちに 現 れ、「モーセやすべての 預 言 者 から<br />

はじめて、 聖 書 全 体 にわたり、ご 自 身 についてしるしてある 事 どもを、 説 きあかされ<br />

た」[ルカ 24:。 弟 子 たちの 心 は 感 動 した。 信 仰 が 燃 えた。イエスがご 自 分 を 彼 らに<br />

現 される 前 から、 彼 らは、「 新 たに 生 れさせ」られ、「 生 ける 望 みをいだかせ」られ<br />

た。 彼 らの 理 解 を 明 らかにし、「 確 実 な 預 言 の 言 葉 」の 上 に 信 仰 を 確 立 させることが、<br />

イエスの 目 的 であった。 彼 は、 真 理 が、 単 にそれが 彼 ご 自 身 のあかしによって 裏 付 け<br />

られたからだけでなく、 型 としての 律 法 の 象 徴 と 影 、そして 旧 約 の 預 言 によって 提 示<br />

されたところの、 疑 う 余 地 のない 証 拠 のゆえに、 彼 らの 心 にしっかりと 根 をおろすよ<br />

う 望 まれた。キリストの 弟 子 たちは、 自 分 たちのためばかりでなく、キリストに 関 す<br />

る 知 識 を 世 界 に 伝 えるためにも、 正 しい 理 解 に 基 づいた 信 仰 を 持 たねばならなかった。<br />

イエスは、この 知 識 を 分 け 与 える 第 一 歩 として、「モーセやすべての 預 言 者 」を 弟 子<br />

たちに 示 された。 旧 約 聖 書 の 価 値 と 重 要 性 について、 復 活 の 救 い 主 がお 与 えになった<br />

のは、このような 証 言 であった。<br />

弟 子 たちが、 彼 らの 主 の 愛 に 満 ちたお 顔 をもう 1 度 見 た 時 に、 彼 らの 心 には、どん<br />

な 変 化 が 起 こったことであろう[ルカ 24:32 参 照 ]。 彼 らは、これまでにない 完 全 な<br />

意 味 において、「モーセが 律 法 の 中 にしるしており、 預 言 者 たちがしるしていた 人 」<br />

を 見 つけたのである。 不 安 、 苦 悩 、 絶 望 が、 完 全 な 確 信 と 曇 りのない 信 仰 にかわった。<br />

主 の 昇 天 後 、 彼 らは「 絶 えず 宮 にいて、 神 をほめたたえていた」とは、なんと 驚 くべ<br />

きことであろう。 救 い 主 の 不 面 目 な 死 しか 知 らなかった 人 々は、 弟 子 たちの 顔 に 悲 し<br />

みと 困 惑 と 敗 北 の 色 を 見 ると 思 った。しかし、そこには 喜 びと 勝 利 があふれていた。<br />

この 弟 子 たちは、その 前 途 に 横 たわる 働 きをなすために、なんという 準 備 を 受 けたこ<br />

253


国 際 協 定<br />

とであろうか。 彼 らは、 経 験 し 得 る 最 も 深 刻 な 試 練 を 越 えて、 人 間 的 見 地 からは 全 く<br />

敗 北 と 思 われた 時 に、 神 のみ 言 葉 が 勝 利 のうちに 成 し 遂 げられたのを 見 たのである。<br />

とすれば、いったい 何 が 彼 らの 信 仰 をくじき、 彼 らの 熱 烈 な 愛 を 冷 やすことができ<br />

たであろうか。 最 も 激 しい 悲 しみのなかで、 彼 らは「 力 強 い 励 まし」を 受 け、「たま<br />

しいを 安 全 にし 不 動 にする 錨 」である 望 みを 持 つことができた[ヘブル 6:18、。 彼 ら<br />

は、 神 の 知 恵 と 力 とを 目 撃 した。そして 彼 らは、「 死 も 生 も、 天 使 も 支 配 者 も、 現 在<br />

のものも 将 来 のものも、 力 あるものも、 高 いものも 深 いものも、その 他 どんな 被 造 物<br />

も、わたしたちの 主 キリスト・イエスにおける 神 の 愛 から、わたしたちを 引 き 離 すこ<br />

と」ができないことを 確 信 した。 彼 らは、「これらすべての 事 において 勝 ち 得 て 余 り<br />

がある」と 言 った[ローマ 8:38、39、。「 主 の 言 葉 は、とこしえに 残 る」[Ⅰペテロ<br />

1:。「だれが、わたしたちを 罪 に 定 めるのか。キリスト・イエスは、 死 んで、 否 、<br />

よみがえって、 神 の 右 に 座 し、また、わたしたちのためにとりなして 下 さるのである」<br />

[ローマ 8:。<br />

「わが 民 は 永 遠 にはずかしめられることがない」と 主 は 言 われる[ヨエル 2:。「 夜<br />

はよもすがら 泣 きかなしんでも、 朝 と 共 に 喜 びが 来 る」[ 詩 篇 30:。これらの 弟 子 た<br />

ちは、 復 活 の 朝 、 救 い 主 に 会 い、み 言 葉 を 聞 いて 心 が 内 に 燃 えた 時 、また、 自 分 たち<br />

のために 傷 つけられた 頭 と 手 と 足 を 見 た 時 、また、イエスが 昇 天 に 先 立 って、 彼 らを<br />

ベタニヤまで 連 れ 出 され、 手 を 天 にあげて 彼 らを 祝 福 し、「 全 世 界 に 出 て 行 って……<br />

福 音 を 宣 べ 伝 えよ」と 命 じられ、「 見 よ、わたしは……いつもあなたがたと 共 にいる<br />

のである」と 付 け 加 えられた 時 [マルコ 16:15、マタイ 28:、そして、ペンテコス<br />

テの 日 に、 約 束 された 助 け 主 がくだって 上 からの 力 が 授 けられ、 信 ずる 者 たちの 魂 が、<br />

昇 天 された 主 のこ 臨 在 を 感 じて 震 えた 時 ——その 時 彼 らは、たとえ 彼 らの 道 が、 主 の<br />

道 のように 犠 牲 殉 教 の 道 であっても、 彼 らが 最 初 に 弟 子 になったころ 望 んでいたよう<br />

な 地 上 の 王 国 の 栄 光 よりは、 主 の 恵 みの 福 音 の 伝 道 に 携 わって、 主 の 再 臨 の 時 に「 義<br />

の 冠 」を 受 けることの 方 を、 選 ばなかったであろうか。「わたしたちが 求 めまた 思 う<br />

ところのいっさいを、はるかに 越 えてかなえて 下 さることができるかた」が、その 苦<br />

難 にあずからせてくださるとともに、 彼 の 喜 び、すなわち、「 多 くの 子 らを 栄 光 に 導<br />

く」 喜 び、 言 葉 に 表 せない 喜 び、「 永 遠 の 重 い 栄 光 」にあずからせてくださる。それ<br />

「に 比 べると」、「このしばらくの 軽 い 患 難 は」「 言 うに 足 りない」と、パウロは 言<br />

うのである。<br />

キリストの 初 臨 の 時 に、「 天 国 の 福 音 」を 宣 べ 伝 えた 弟 子 たちの 経 験 は、 彼 の 再 臨<br />

の 使 命 を 宣 言 した 人 々の 経 験 とよく 似 ていた。 弟 子 たちが 出 て 行 って、「 時 は 満 ちた、<br />

神 の 国 は 近 づいた」と 宣 べ 伝 えたように、ミラーと 彼 の 仲 間 は、 聖 書 に 示 されている<br />

254


国 際 協 定<br />

最 長 にして 最 後 の 預 言 的 期 間 がまさに 終 了 しようとしていること、そして、 審 判 の 日<br />

が 近 づき、 永 遠 の 王 国 が 始 まろうとしていることを 宣 言 した。 時 に 関 する 弟 子 たちの<br />

宣 教 は、ダニエル 9 章 の 70 週 に 基 づいていた。ミラーと 彼 の 仲 間 が 伝 えた 使 命 は、<br />

70 週 を 含 んだダニエル 8:14 の 2300 日 の 終 結 を 告 げるものであった。おのおのが<br />

伝 えたことは、 同 じ 大 預 言 期 間 の 異 なった 部 分 の 成 就 に 基 づくものであった。<br />

ウィリアム・ミラーと 彼 の 仲 間 は、 初 期 の 弟 子 たちと 同 様 に、 自 分 たちが 伝 えてい<br />

るメッセージの 意 味 を、 十 分 に 理 解 してはいなかった。 長 い 間 、 教 会 内 で 確 立 されて<br />

きた 誤 りのために、 彼 らは 預 言 の 重 大 な 部 分 を 正 しく 解 釈 することができなかった。<br />

したがって、 彼 らは、 世 界 に 伝 えるために 神 からゆだねられた 使 命 を 宣 言 したけれど<br />

も、その 意 味 を 取 り 違 えて、 失 望 を 味 わうに 至 った。<br />

ミラーは、ダニエル 8:14 の「2300 の 夕 と 朝 の 間 である。そして 聖 所 は 清 められ<br />

てその 正 しい 状 態 に 復 する」という 言 葉 を 解 釈 する 際 、すでに 述 べたように、 地 上 が<br />

聖 所 であるという 一 般 の 見 解 を 採 用 し、 聖 所 の 清 めとは、 主 の 再 臨 の 時 に 地 上 が 火 で<br />

清 められることであると 信 じた。したがって、2300 日 の 終 結 が 明 確 に 預 言 されてい<br />

るのを 見 いだした 時 、これは 再 臨 の 時 を 示 しているものであると 結 論 を 下 した。 彼 の<br />

誤 りは、 聖 所 とは 何 かということに 関 する 一 般 の 見 解 を 受 け 入 れたためであった。<br />

キリストの 犠 牲 と 祭 司 職 の 影 であった、 型 としての 制 度 において、 聖 所 の 清 めは、<br />

年 ごとの 奉 仕 において 大 祭 司 が 行 う 最 後 の 務 めであった。それは、 贖 罪 の 最 後 の 働 き、<br />

すなわち、イスラエルから 罪 を 取 り 除 くことであった。それは、 天 の 記 録 に 記 されて<br />

いる 神 の 民 の 罪 を 除 く、あるいは 消 し 去 るという、 天 の 大 祭 司 の 奉 仕 における 最 後 の<br />

働 きを 予 表 していた。この 務 めには、 調 査 の 働 き、 審 判 の 働 きが 含 まれていた。そし<br />

て、それは、キリストが 力 と 大 きな 栄 光 のうちに 天 の 雲 に 乗 って 来 られる 直 前 に 起 こ<br />

る。なぜならば、 彼 が 来 られる 時 には、すべての 人 の 運 命 は 決 定 しているからである。<br />

イエスは、「 報 いを 携 えてきて、それぞれのしわざに 応 じて 報 いよう」と 言 われる[ 黙<br />

示 録 22:。 黙 示 録 14:7 の「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せよ。 神 のさばきの 時 がき<br />

たからである」という 第 一 天 使 の 使 命 の 宣 言 は、 再 臨 直 前 のこの 審 判 の 働 きを 言 った<br />

ものである。<br />

この 警 告 を 宣 言 した 人 々は、 正 しい 時 に 正 しい 使 命 を 伝 えたのである。しかし、 初<br />

期 の 弟 子 たちが、ダニエル 9 章 の 預 言 に 基 づいて「 時 は 満 ちた、 神 の 国 は 近 づいた」<br />

と 宣 言 したが、その 同 じ 聖 句 の 中 にメシヤの 死 が 預 言 されているのを 理 解 することが<br />

できなかったように、ミラーと 彼 の 仲 間 も、ダニエル 8:14 と 黙 示 録 15:7 に 基 づ<br />

いた 使 命 を 伝 えながら、 主 の 再 臨 前 に 伝 えなければならない 他 の 使 命 が、まだ 黙 示 録<br />

255


国 際 協 定<br />

14 章 に 示 されているのを 悟 ることができなかった。 弟 子 たちが、70 週 の 終 わりに 建<br />

設 される 王 国 について 誤 ったように、 再 臨 信 徒 たちは、2300 日 の 終 結 に 起 こるでき<br />

ごとについて 誤 っていたのである。 両 方 とも、 一 般 の 誤 りを 信 じ、あるいはそれに 固<br />

執 したことが、 真 理 に 対 して 心 を 盲 目 にした。 両 者 とも、 神 が 伝 えることを 望 まれた<br />

使 命 を 布 告 して 神 のみ 心 を 行 ったが、その 使 命 を 誤 って 解 釈 して、 失 望 を 味 わった。<br />

しかし、 神 は、 審 判 の 警 告 をそのまま 伝 えることをお 許 しになって、ご 自 分 の 恵 み<br />

深 い 御 目 的 を 果 たされた。 大 いなる 日 が 近 づいていた。そして 神 は 摂 理 のうちに、 人<br />

々に 彼 らの 心 の 状 態 を 示 すために、 特 定 の 時 に 関 する 試 験 をお 与 えになった。 使 命 は、<br />

教 会 を 試 し、 清 めるためのものであった。 彼 らは、 彼 らの 愛 着 がこの 世 にあるのか、<br />

それともキリストと 天 にあるのかを、 悟 らせられるのであった。 彼 らは 救 い 主 を 愛 す<br />

ると 言 っていた。その 愛 を、 今 、 証 明 しなければならなかった。 彼 らは、 快 く 世 俗 の<br />

希 望 と 野 心 を 捨 てて、 主 の 再 臨 を 歓 迎 したであろうか。この 使 命 は、 彼 らの 真 の 霊 的<br />

状 態 を 彼 らに 認 めさせるためであった。それは、 彼 らが 悔 い 改 めて 謙 そんに 主 を 求 め<br />

るようになるために、 恵 みのうちに 与 えられたのであった。<br />

失 望 は、 彼 らが 伝 えた 使 命 を 彼 ら 自 身 誤 って 解 釈 したことの 結 果 であったが、しか<br />

しそれもまた、 良 いように 変 えられた。それは、 警 告 を 信 じると 言 った 人 々の 心 を 試<br />

すものとなった。 失 望 に 陥 った 時 に、 彼 らは、 無 分 別 に 自 分 たちの 経 験 を 放 棄 し、 神<br />

の 言 葉 に 対 する 確 信 を 捨 てるであろうか。それとも 祈 りと 謙 そんな 心 をもって、 預 言<br />

のどういう 点 が 理 解 できていなかったかを 知 ろうと 努 めるであろうか。どれくらい 多<br />

くの 者 が、 恐 怖 や 衝 動 や 興 奮 にかられて 行 動 していたことであろうか。どれくらい 多<br />

くの 者 が、どっちつかずで 半 信 半 疑 であったことだろうか。 主 の 出 現 を 喜 ぶといった<br />

者 は、 非 常 に 多 かった。 世 の 嘲 笑 と 非 難 を 受 け、 遅 延 と 失 望 の 試 練 にあう 時 に、 彼 ら<br />

は、 信 仰 を 捨 てるであろうか。 彼 らは、 神 が 彼 らを 扱 われる 方 法 が、すぐに 理 解 でき<br />

ないからといって、 神 の 言 葉 の 明 白 な 証 言 に 支 持 された 真 理 を 捨 ててしまうであろう<br />

か。<br />

この 試 練 は、 真 の 信 仰 をもって、み 言 葉 と 神 の 霊 の 教 えであると 信 じている 事 柄 に<br />

従 っていた 人 々の、その 強 さを 明 らかにするのであった。 聖 書 を 聖 書 自 身 の 注 解 者 と<br />

せずに、 人 間 の 説 や 解 釈 を 信 じることの 危 険 が、この 経 験 によって、 初 めて 教 えられ<br />

るのであった。 信 仰 の 子 供 たちにとって、 彼 らの 誤 りからくる 困 惑 と 悲 嘆 は、 必 要 な<br />

矯 正 を 行 うのであった。 彼 らは、 預 言 の 言 葉 の、いっそう 厳 密 な 研 究 へと 導 かれ るの<br />

であった。 彼 らは、 自 分 たちの 信 仰 の 基 礎 をもっと 注 意 深 く 調 べ、 一 般 に 広 くキリス<br />

ト 教 界 において 受 け 入 れられたものであっても、 真 理 の 聖 書 に 基 礎 をおかないものは、<br />

みな 拒 否 するように 教 えられるのであった。<br />

256


国 際 協 定<br />

こうした 信 者 たちに、 最 初 の 弟 子 たちの 場 合 と 同 様 に、 試 練 の 時 には 理 解 できなか<br />

ったことが、 後 に 明 らかにされるのであった。 彼 らが、「 主 が 彼 になさったことの 結<br />

末 」を 見 る 時 、 彼 らは、 誤 りの 結 果 試 練 を 受 けたとはいえ、 神 の 彼 らに 対 する 愛 の 御<br />

目 的 は 着 実 に 成 就 していたことを 知 るのであった。 彼 らは、 神 が「いかに 慈 愛 とあわ<br />

れみとに 富 」んでおられるかということ、そして「 主 のすべての 道 はその 契 約 とあか<br />

しとを 守 る 者 にはいつくしみであり、まことである」ということを、 尊 い 体 験 によっ<br />

て 学 ぶのであった。<br />

257


国 際 協 定<br />

第 20 章 世 界 目 覚 め<br />

キリストの 再 臨 が 間 近 いという 宣 言 のもとに、 宗 教 的 大 覚 醒 運 動 が 起 こることが、<br />

黙 示 録 14 章 の 第 一 天 使 の 使 命 の 預 言 の 中 に 予 告 されている。「もうひとりの 御 使 が<br />

中 空 を 飛 ぶのを 見 た。 彼 は 地 に 住 む 者 、すなわち、あらゆる 国 民 、 部 族 、 国 語 、 民 族<br />

に 宣 べ 伝 えるために、 永 遠 の 福 音 をたずさえてきて、 大 声 で 言 った、『 神 をおそれ、<br />

神 に 栄 光 を 帰 せよ。 神 のさばきの 時 がきたからである。 天 と 地 と 海 と 水 の 源 とを 造 ら<br />

れたかたを、 伏 し 拝 め』」[ 同 14:6、。この 警 告 が、 天 使 によって 宣 布 されるといわ<br />

れていることは、 意 義 深 い。 神 、 天 使 の 純 潔 と 栄 光 と 力 とによって、この 使 命 の 果 た<br />

す 働 きの 高 尚 な 性 質 と、それに 付 随 した 力 と 栄 光 とを 象 徴 することをよしとされた。<br />

天 使 が、「 中 空 を 飛 び、」「 地 に 住 む 者 、すなわち、あらゆる 国 民 、 部 族 、 国 語 、 民<br />

族 に」 宣 布 するために、「 大 声 」で 言 ったということは、この 運 動 が 急 速 で 世 界 的 範<br />

囲 のものであることを 証 明 している。<br />

この 運 動 がいつ 起 こるものであるかについては、メッセージ 自 体 が 明 らかにしてい<br />

る。それは、「 永 遠 の 福 音 」の 一 部 であると 宣 言 されている。そして、 審 判 の 開 始 を<br />

告 知 している。 救 いのメッセージは、 各 時 代 において 宣 べ 伝 えられてきた。しかし、<br />

このメッセージは、 終 末 時 代 においてのみ 宣 布 される 福 音 の 一 部 分 である。というの<br />

は、その 時 において 初 めて、さばきの 時 が 来 たということができるからである。 預 言<br />

は、 審 判 が 始 まるまでに 相 次 いで 起 こる 種 々の 事 件 を 示 している。 特 にダニエル 書 が<br />

そうである、しかし、ダニエルは、 最 後 の 時 代 に 関 する 預 言 を、「 終 りの 時 まで」 秘<br />

し、 封 じておくように 命 じられた。この 時 が 来 るまで、これらの 預 言 の 成 就 に 基 づい<br />

て 審 判 に 関 するメッセージを 宣 布 することはできなかった。しかし、 終 わりの 時 に、<br />

「 多 くの 者 は、あちこちと 探 り 調 べ、そして 知 識 が 増 すでしょう」と 預 言 者 は 言 って<br />

いる[ダニエル 12:。<br />

使 徒 パウロは、 彼 の 時 代 にキリストが 来 られると 期 待 しないようにと、 教 会 に 警 告<br />

した。「まず 背 教 のことが 起 り、 不 法 の 者 ……が 現 れるにちがいない」と 彼 は 言 って<br />

いる[Ⅱテサロニケ 2:。 大 背 教 が 起 こり、「 不 法 の 者 」の 長 い 支 配 期 間 の 終 わったあ<br />

とで、 初 めてわれわれは、 主 の 再 臨 を 期 待 することができる。「 不 法 の 秘 密 の 力 」<br />

「 滅 びの 子 」とも 言 われている「 不 法 の 者 」とは、1260 年 の 間 、 至 上 権 をふるうと<br />

預 言 された 法 王 権 のことである。この 期 間 は、1798 年 に 終 結 した。キリストの 再 臨<br />

は、この 時 より 前 には 起 こり 得 ないのであった。パウロは、1798 年 までに 及 ぶキリ<br />

258


国 際 協 定<br />

スト 教 時 代 全 体 を、 彼 の 警 告 の 中 に 含 ませている。キリスト 再 臨 のメッセージが 宣 布<br />

されるのは、その 時 以 後 になるのである。<br />

過 去 において、このようなメッセージは 伝 えられたことがない。すでに 触 れたよう<br />

に、パウロもそのことを 宣 布 しなかった。 彼 は 主 の 来 臨 を、その 当 時 よりはるかに 先<br />

のこととして 同 信 の 人 々に 示 した。マルチン・ルターは、 審 判 を、 彼 の 時 代 から 約<br />

300 年 後 の ことであるとした。しかし、1798 年 以 来 、ダニエル 書 は 封 を 開 かれ、 預<br />

言 の 知 識 は 増 加 し、 審 判 の 切 迫 という 厳 粛 なメッセージを 多 くの 者 が 宣 言 したのであ<br />

る。<br />

16 世 紀 の 大 宗 教 改 革 と 同 様 に、 再 臨 運 動 は、キリスト 教 世 界 の 各 国 で 同 時 に 起 き<br />

た。ヨーロッパとアメリカの 両 方 で、 信 仰 と 祈 りの 人 々が、 預 言 を 学 び、 聖 書 を 研 究<br />

して、 万 物 の 終 末 が 近 いという 確 かな 証 拠 を 認 めた。 各 地 において、 孤 立 したキリス<br />

ト 者 の 諸 団 体 が、 聖 書 の 研 究 だけによって、 救 い 主 の 再 臨 が 近 いと 信 じるに 至 っ<br />

た。 ミラーが、 審 判 の 時 を 示 す 預 言 の 解 釈 に 到 達 してから 3 年 後 の 1821 年 に、「 世<br />

界 的 伝 道 者 」ジョセフ・ウォルフが、 主 の 再 臨 の 切 迫 を 宣 べ 伝 え 始 めた。ウォルフは、<br />

ドイツ 生 まれのユダヤ 人 で、 彼 の 父 はラビであった。 彼 は、 幼 少 の 時 に、キリスト 教<br />

の 真 理 を 信 じた。<br />

彼 は、 活 発 で 探 求 心 の 強 い 精 神 の 持 ち 主 で、 毎 日 彼 の 父 の 家 に 敬 虔 なユダヤ 人 たち<br />

が 集 まって、ユダヤ 民 族 の 希 望 と 期 待 を 語 りあい、 来 たるべきメシヤの 栄 光 とイスラ<br />

エルの 回 復 について 話 すのを、 熱 心 に 聞 いた。ある 日 、ナザレのイエスのことを 聞 い<br />

たので、 少 年 は、それがだれであるかをたずねた。「それは、 最 も 大 きな 才 能 をもっ<br />

たユダヤ 人 だ。しかし、 自 分 がメシヤだと 言 ったために、ユダヤの 法 廷 は 彼 に 死 を 宣<br />

告 した」というのが 答 えであった。「どうしてエルサレムは 滅 亡 し、ぼくたちは、と<br />

らわれの 身 になっているの?」と、さらにたずねた。 父 は 悲 しげに、「それはね、ユ<br />

ダヤ 人 が 預 言 者 たちを 殺 したからだよ」と 答 えた。 少 年 は、すぐに 考 えることがあっ<br />

た。「イエスも 預 言 者 だったのだ。そして、ユダヤ 人 は、 罪 がないのにその 人 を 殺 し<br />

たのだ。」 1 彼 はこのことを、 非 常 に 強 く 感 じたので、キリスト 教 会 に 入 ることは 禁 じ<br />

られていたけれども、しばしば 教 会 の 外 に 立 ち 止 まって、 説 教 を 聞 いた。<br />

彼 は、わずか 7 歳 の 時 のことであるが、 近 所 のキリスト 者 の 老 人 に、やがてメシヤ<br />

が 出 現 する 時 のイスラエルの 勝 利 について 誇 らしげに 語 っていた。しかしその 時 、こ<br />

の 老 人 は、 親 切 に 次 のように 言 った「 坊 や、ほんとうのメシヤはだれであるか、 教 え<br />

てあげよう。それは、ナザレのイエスだ。……その 方 を、きみたちの 先 祖 たちが、 預<br />

言 者 たちと 同 じように 十 字 架 に 架 けたのだ。 家 に 帰 って、イザヤ 書 の 53 章 を 読 んで<br />

259


国 際 協 定<br />

ごらん。そうすれば、イエス・キリストが 神 の 子 だということがよくわかるだろう。」<br />

2 彼 はすぐに 納 得 がいった。 家 に 帰 って、 聖 書 を 読 み、それがナザレのイエスにおいて<br />

完 全 に 成 就 しているのを 見 て 驚 いた。あのキリスト 者 の 言 葉 は、ほんとうだったのだ<br />

ろうか。 少 年 は、 父 親 に 預 言 の 説 明 を 求 めたけれども、 父 親 は 厳 しい 顔 をして 何 も 言<br />

わなかったので、2 度 とこの 問 題 についてたずねなかった。しかし、このことは、キ<br />

リスト 教 についてもっと 知 りたいという 彼 の 願 いを 増 すだけであった。 彼 が 知 ろうと<br />

したことは、このユダヤの 家 庭 では、 故 意 に 彼 に 知 らせないようにされていた。とこ<br />

ろが 彼 は、まだ 11 歳 の 時 に、 父 の 家 を 離 れて 世 の 中 に 出 て 行 き、 教 育 を 受 け、また<br />

自 分 の 宗 教 と 一 生 の 仕 事 とを 選 ぶことになった。<br />

彼 は 一 時 親 類 の 家 に 泊 まっていたが、 間 もなく、 背 教 者 であるというのでそこを 追<br />

われて、 寂 しく、 無 一 文 で、 見 ず 知 らずの 人 々の 間 で 生 活 しなければならなかった。<br />

彼 は 熱 心 に 研 究 を 続 け、ヘブル 語 を 教 えて 生 活 を 支 え、 転 々と 流 れ 歩 いた。 彼 は、カ<br />

トリックの 教 師 の 影 響 を 受 けて、カトリックの 教 えを 信 じ、 自 国 民 に 伝 道 する 宣 教 師<br />

になろうと 考 えた。 数 年 後 に 彼 は、この 目 的 のもとに、さらに 研 究 を 続 けるために、<br />

ローマのプロパガンダ 大 学 へ 行 った。ここにおいて 彼 は、その 独 立 的 思 想 と 率 直 な 発<br />

言 のために、 異 端 者 という 非 難 を 受 けた。 彼 は 公 然 と 教 会 の 悪 弊 を 攻 撃 し、 改 革 の 必<br />

要 を 説 いた。 彼 は、 初 めのうちはカトリック 教 会 の 高 位 者 たちから 特 別 に 扱 われてい<br />

たが、しばらくしてローマから 退 去 させられた。 彼 は、 教 会 の 監 視 のもとに、 各 地 を<br />

渡 り 歩 いたが、とうとう、 彼 はローマ 教 の 拘 束 に 服 従 することができないと いうこと<br />

が 明 らかになった。 彼 は、 矯 正 することができない 者 であるという 宣 告 を 受 けて、ど<br />

こへでも 自 由 に 行 ってよいことになった。そこで 彼 は、 英 国 へ 行 き、プロテスタント<br />

の 信 仰 を 表 明 して、 英 国 国 教 会 に 加 わった。 彼 は 2 か 年 の 研 究 の 後 、1821 年 に 伝 道<br />

を 開 始 した。<br />

ウォルフは、「 悲 しみの 人 で、 病 を 知 っていた」 人 としてのキリストの 初 臨 の 大 真<br />

理 を 受 け 入 れるとともに、 預 言 が 同 様 の 明 快 さをもって、 力 と 栄 光 を 伴 うキリストの<br />

再 臨 を 示 していることをも 悟 った。 彼 は 人 々を、 約 束 されたお 方 としてのナザレのイ<br />

エスに 導 き、 人 々の 罪 の 犠 牲 として 身 を 低 くして 来 られた 初 臨 へと 向 けるとともに、<br />

王 また 救 い 主 として 来 られる 再 臨 のことをも 人 々に 教 えた。<br />

彼 は 次 のように 言 った。「 真 のメシヤ、ナザレのイエス、すなわち、 手 と 足 を 裂 か<br />

れ、ほふり 場 にひかれて 行 く 小 羊 のように 引 いて 行 かれ、 悲 しみの 人 で 病 を 知 ってお<br />

られ、つえがユダを 離 れ、 立 法 者 のつえが 足 の 間 を 離 れたあとで 初 臨 なさったお 方 は、<br />

天 使 のかしらのラッパとともに、 天 の 雲 に 乗 って 再 臨 なさる。」 3 「そして、オリブ 山<br />

上 に 立 たれる。そして、ひとたびアダムに 与 えられて、 彼 が 失 った 世 界 の 統 治 権 [ 創 世<br />

260


国 際 協 定<br />

記 1:26、3:17 参 照 ]が、イエスに 与 えられる。 彼 は 全 地 の 王 となる。 被 造 物 のう<br />

めきと 悲 しみはやみ、 賛 美 と 感 謝 の 声 が 聞 こえる。……イエスが 父 の 栄 光 をもって、<br />

天 使 たちと 来 られる 時 、…… 死 せる 信 徒 たちがまずよみがえる[Ⅰテサロニケ 4:16、<br />

Ⅰコリント 15:23 参 照 ]。これは、われわれキリスト 者 が 第 一 の 復 活 と 呼 ぶものであ<br />

る。それから 動 物 界 は、その 性 質 を 変 える[イザヤ 11:6~9 参 照 ]。そして、イエス<br />

に 従 う[ 詩 篇 8 篇 参 照 ]。ここに 全 世 界 の 平 和 が 訪 れる。」 4 「 主 はもう 1 度 地 をごらん<br />

になって、『それは、はなはだ 良 い』と 言 われる。」 5<br />

ウォルフは、 主 の 来 られるのが 間 近 いと 信 じ、 彼 の 預 言 期 間 の 解 釈 によれば、この<br />

大 いなる 成 就 の 日 は、ミラーが 指 示 した 時 期 の、まさにその 数 年 以 内 におかれていた。<br />

「その 日 、その 時 は、だれも 知 らない」という 聖 句 を 引 用 して、 人 間 は 再 臨 の 切 迫 に<br />

ついて 何 も 知 るべきではないと 主 張 する 人 々に 対 し、ウォルフは 答 えた。「 主 は、そ<br />

の 日 、その 時 は、 決 してわからないと 言 われたであろうか。いちじくの 葉 が 出 ると 夏<br />

が 近 いことがわかるように、 少 なくとも 彼 の 再 臨 の 接 近 をわれわれが 知 ることができ<br />

るように、 時 のしるしをお 与 えにならなかったであろうか[マタイ 24:32 参 照 ]。 彼<br />

ご 自 身 が、 預 言 者 ダニエルの 書 を 読 むだけでなく、それを 悟 れと 勧 告 されたのに、わ<br />

れわれは、その 期 間 について、 決 して 知 るべきではないのであろうか。そして、その<br />

ダニエル 書 自 体 の 中 に、この 言 葉 は 終 わりの 時 まで 封 じておくように 言 われており[ 彼<br />

の 時 代 には 封 じられていたわけである]、また『 多 くの 者 は、あちこちと 探 り 調 べ[ 時<br />

について 観 察 し 思 考 するというヘブルの 表 現 ]、そして 知 識 [ 時 に 関 する]が 増 すでしょ<br />

う』[ダニエル 12:と 言 われている。さらに、 主 はこれによって、 時 の 接 近 がわから<br />

ないというのではなくて、 正 確 な『その 日 その 時 が、あなたがたにはわからないから<br />

である』と 言 われたのである。ノアが 箱 舟 を 用 意 したように、われわれに 主 の 再 臨 の<br />

準 備 をさせるだけの 十 分 な 時 のしるしが 与 えられると、 主 は 言 われるのである。」 6<br />

一 般 に 行 われていた 聖 書 の 解 釈 法 、あるいは 誤 った 解 釈 法 について、ウォルフは 次<br />

のように 書 いた。「キリスト 教 会 の 大 部 分 は、 聖 書 の 明 白 な 意 味 からそれて、 人 類 の<br />

将 来 の 幸 福 は 空 中 を 動 き 回 ることにあると 信 じる 仏 教 徒 の 空 想 的 な 解 釈 のほうに 向 か<br />

い、ユダヤ 人 とあるところは 異 邦 人 と 解 釈 し、エルサレムとあるのは 教 会 と 解 釈 して<br />

いる。また、 地 といえば 空 のことであり、 主 の 来 られることは 伝 道 団 体 の 発 展 、 主 の<br />

家 の 山 にのぼるといえば、メソジスト 信 者 の 大 会 合 であると 解 釈 している。」 7<br />

ウォルフは、1821 年 から 1845 年 の 24 年 間 に、 広 く 各 地 を 旅 行 した。アフリカ<br />

では、エジプトとアビシニアを 訪 問 した。アジアでは、パレスチナ、シリア、ぺ ルシ<br />

ア、ブハラ、インドを 歴 訪 した。また、アメリカへも 行 き、その 途 中 で、セント・ヘ<br />

レナ 島 で 説 教 した。 彼 は、1837 年 8 月 にニューヨークに 到 着 し、 同 市 で 説 教 したあ<br />

261


国 際 協 定<br />

とで、フィラデルフィア、ボルチモアで 説 教 し、そして 最 後 にワシントンに 向 かった。<br />

彼 は 言 っている。「ここで、 前 大 統 領 ジョン・クィンシー・アダムスは、 国 会 におい<br />

て 動 議 の 提 出 をなし、 国 会 は 満 場 一 致 で、 議 場 をわたしの 講 演 のために 提 供 すること<br />

を 可 決 した。そこでわたしは、 土 曜 日 に 講 演 を 行 い、 国 会 議 員 全 員 の 出 席 とともに、<br />

バージニアの 監 督 、ワシントン 市 の 聖 職 者 や 市 民 などの 出 席 を 得 るという 光 栄 に 浴 し<br />

た。ニュージャージー 州 、ペンシルバニア 州 においても、 同 様 の 光 栄 が 議 会 から 与 え<br />

られ、その 前 で、わたしは、アジアにおけるわたしの 研 究 と、イエス・キリストの 個<br />

人 的 支 配 についても 語 った。」 8<br />

ウォルフ 博 士 は、ヨーロッパのいかなる 権 威 の 保 護 もなしに、 最 も 未 開 の 国 々を 旅<br />

行 し、 多 くの 苦 難 に 耐 え、 数 知 れぬ 危 険 に 取 りかこまれた。 彼 は、むち 打 たれ、 飢 え<br />

に 苦 しみ、 奴 隷 として 売 られ、3 度 も 死 刑 の 宣 告 を 受 けた。 盗 賊 に 襲 われたこともあ<br />

り、 渇 きのために 死 にそうになったこともあった。ある 時 には、 持 ち 物 を 全 部 奪 われ<br />

て、 山 の 中 を 歩 いて 何 百 マイルも 旅 し、 激 しい 吹 雪 が 顔 面 を 打 ち、 素 足 は 凍 った 地 に<br />

ふれて 感 覚 を 失 ってしまったこともあった。<br />

野 蛮 で 敵 意 を 抱 いた 部 族 の 中 に 武 装 なしで 行 くものではないという 警 告 に 対 して、<br />

彼 は、 自 分 には、「 祈 り、キリストに 対 する 熱 心 、キリストの 助 けに 対 する 確 信 」と<br />

いう「 武 装 が 備 わっている」ど 言 明 した。「わたしは、 神 の 愛 と 隣 人 愛 を 心 に 抱 いて<br />

おり、 手 には 聖 書 を 持 っている」とも 言 った。 9 彼 は、どこへ 行 くにも、 英 語 とヘブル<br />

語 の 聖 書 を 持 って 行 った。 後 年 のある 旅 行 について、 彼 は 次 のように 言 っている。<br />

「わたしは、…… 聖 書 を 開 いたまま 手 に 持 っていた。わたしは、 聖 書 の 中 にわたしの<br />

力 があり、その 力 がわたしを 支 えてくれるのを 感 じた。」 10<br />

こうして 彼 は 働 き 続 け、 審 判 のメッセージは、 地 球 上 人 間 の 住 んでいるところの 大<br />

部 分 に 伝 えられた。ユダヤ 人 、トルコ 人 、ゾロアスター 教 徒 、ヒンズー 教 徒 、その 他<br />

多 くの 国 民 や 人 種 の 間 で、 彼 は、それらさまざまな 国 語 で 神 の 言 葉 を 伝 え、 至 るとこ<br />

ろで、メシヤの 王 国 の 接 近 を 伝 えた。<br />

ブハラを 旅 行 中 に、 彼 は 僻 地 の 孤 立 した 人 々が、まもなく 主 が 来 られるという 教 義<br />

を 信 じているのを 発 見 した。イエメンのアラブ 人 は、「シーラという 書 物 を 持 ってい<br />

て、それにキリスト 再 臨 と 彼 の 栄 光 の 支 配 のことが 書 かれている。 彼 らは、1840 年<br />

に 大 事 件 が 起 こると 予 期 している」と 彼 は 言 っている。 11 「イエメンで、……わたし<br />

はレカブの 子 孫 たちと 6 日 間 過 ごした。 彼 らは、 酒 を 飲 まず、ぶどう 畑 を 作 らず、 種<br />

をまかない。 彼 らは 天 幕 に 住 み、レカブの 子 、 善 きヨナダブ 老 人 をおぼえている。 彼<br />

らの 間 に、ダンの 部 族 のイスラエルの 子 孫 がいて、……レカブの 子 孫 とともに、メシ<br />

262


国 際 協 定<br />

ヤが 天 の 雲 に 乗 ってまもなく 来 られることを 待 望 しているのを、わたしは 見 いだし<br />

た。」 12<br />

同 様 の 信 仰 が、 他 の 宣 教 師 によって、タタール 人 たちの 中 にも 見 いだされた。タタ<br />

ール 人 の 祭 司 が、 宣 教 師 に、キリストの 再 臨 はいつかと 質 問 した。 宣 教 師 が、それに<br />

ついては 何 も 知 らないと 答 えると、 祭 司 は、 聖 書 の 教 師 と 称 する 人 がそのように 無 知<br />

であるとは、と 非 常 に 驚 いた 様 子 であった。そして、キリストは 1844 年 ごろに 来 ら<br />

れるという、 預 言 に 基 づいた 彼 自 身 の 信 仰 を 表 明 した。<br />

再 臨 使 命 は、 英 国 においては、 早 くも 1826 年 から 伝 えられ 始 めた。ここの 運 動 は、<br />

米 国 のようにはっきりとした 形 をとらなかった。 再 臨 の 正 確 な 時 は、それほど 一 般 に<br />

は 伝 えられなかったが、しかしキリストが 力 と 栄 光 をもってまもなく 来 られるという<br />

大 真 理 は、 広 く 宣 言 された。そして、これは、 単 に 非 国 教 徒 たちの 間 だけではなかっ<br />

た。 英 国 の 著 作 家 モーラント・ブロックの 言 うところによれば、 英 国 国 教 会 の 牧 師 約<br />

700 人 が、「この、 御 国 の 福 音 」の 宣 布 に 従 事 したということである。1844 年 が 主<br />

の 再 臨 の 時 であるというメッセージも、 英 国 で 伝 えられた。 再 臨 に 関 する 出 版 物 が 米<br />

国 から 来 て 広 く 配 布 された。 書 籍 や 雑 誌 が 英 国 で 再 発 行 された。そして、1842 年 に、<br />

米 国 で 再 臨 信 仰 を 受 け 入 れた 英 国 人 ロバート・ウィンターが 帰 国 して、 主 の 来 臨 を 宣<br />

布 した。 彼 の 事 業 に 協 力 する 者 が 多 くあらわれ、 審 判 のメッセージは 英 国 各 地 で 宣 布<br />

された。<br />

未 開 と 聖 職 者 たちの 政 略 とのただ 中 にあった 南 米 において、スペイン 人 でイエズス<br />

会 のラクンザは、 聖 書 を 知 って、キリストが 速 やかに 来 られるという 真 理 を 受 け 入 れ<br />

た。 彼 は、 世 に 警 告 を 発 したいと 思 ったが、ローマの 譴 責 を 免 れるために、 改 宗 した<br />

ユダヤ 人 をよそおって「ラビ・ベンエズラ」という 偽 名 で、 彼 の 見 解 を 発 表 した。ラ<br />

クンザは 18 世 紀 の 人 であったが、1825 年 ごろに 彼 の 本 はロンドンに 渡 り、 英 訳 され<br />

た。この 書 物 の 発 行 は、 英 国 においてすでに 起 こっていた 再 臨 問 題 に 関 する 興 味 を、<br />

深 めることになった。<br />

ドイツにおいてこの 教 義 は、18 世 紀 に、ルーテル 教 会 の 牧 師 で、 聖 書 学 者 ・ 批 評<br />

家 として 有 名 なベンゲルによって 唱 えられた。 教 育 を 終 了 したベンゲルは、「 神 学 の<br />

研 究 に 没 頭 した。 若 い 時 からの 教 育 と 訓 練 によって 深 められた、 彼 のまじめで 宗 教 的<br />

な 性 格 は、 自 然 と 彼 をそのほうへ 向 けたのであった。 古 今 の 思 慮 深 い 青 年 たちと 同 様<br />

に、 彼 も、 宗 教 的 な 疑 惑 や 困 難 と 戦 わなければならなかった。そして 彼 は、『 彼 の 哀<br />

れな 心 を 刺 し 通 して、 彼 の 青 春 を 耐 え 難 いものにした 多 くの 矢 』について、 感 慨 深 く<br />

語 っている。」ビュルテンベルクの 宗 教 法 院 の 一 員 となってから、 彼 は 宗 教 の 自 由 を<br />

263


国 際 協 定<br />

提 唱 した。「 彼 は、 教 会 の 義 務 と 特 権 を 維 持 しながらも、 良 心 的 理 山 のもとに 教 会 の<br />

交 わりから 去 らねばならないと 考 える 者 には、あらゆる 正 当 な 自 由 を 与 えるべきこと<br />

を 主 張 した。」 13 この 方 針 の 好 結 果 は、 今 でも 彼 の 故 郷 に 残 っている。<br />

降 誕 節 の 日 曜 日 の 説 教 を 黙 示 録 21 章 から 準 備 していた 時 に、キリスト 再 臨 の 光 が<br />

ベンゲルの 心 に 差 し 込 んだ。 黙 示 録 の 預 言 が、これまでになくはっきりと 理 解 できた。<br />

彼 は、 預 言 者 に 示 された 光 景 の 驚 くべき 重 要 性 とすばらしい 栄 光 とに 圧 倒 されて、 一<br />

時 は、この 問 題 の 瞑 想 を 差 し 控 えなければならなかった。 彼 が 講 壇 にあった 時 に、そ<br />

れが 再 び、そのまま 生 き 生 きと 力 強 く 彼 に 示 された。その 時 以 来 彼 は、 預 言 、 特 に 黙<br />

示 録 の 預 言 の 研 究 に 没 頭 し、まもなく、 預 言 はキリストの 再 臨 が 近 いことを 示 してい<br />

るという 信 仰 に 到 達 した。 彼 が 再 臨 の 時 として 定 めた 時 は、 後 にミラーが 定 めた 時 と<br />

2、3 年 しか 離 れていなかった。<br />

ベンゲルの 著 書 は、キリスト 教 国 に 広 く 伝 わった。 預 言 に 対 する 彼 の 見 解 は、 彼 の<br />

故 郷 のビュルテンベルクにおいて、 一 般 に 受 け 入 れられ、ドイツの 他 の 地 方 にもある<br />

程 度 波 及 した。この 運 動 は 彼 の 死 後 も 続 けられ、 再 臨 使 命 は、 他 の 国 々において 人 々<br />

の 注 目 をひいたのと 時 を 同 じくして、ドイツでも 聞 かれた。 初 期 のころにロシアに 行<br />

き、そこで 植 民 地 を 開 いた 信 者 もあった。 今 日 においても、 同 国 のドイツ 教 会 では、<br />

キリストがまもなく 来 られるという 信 仰 を 保 っている。<br />

光 は、フランスやスイスにも 輝 いた。ファーレルやカルバンが 宗 教 改 革 の 真 理 を 広<br />

めたジュネーブでは、ゴーセンが 再 臨 使 命 を 伝 えた。ゴーセンは、 学 生 時 代 に、18 世<br />

紀 末 から 19 世 紀 の 初 めにかけて 全 ヨーロッパに 普 及 した 合 理 主 義 の 精 神 に 出 会 った。<br />

そして 彼 は、 伝 道 を 始 めたころには、 真 の 信 仰 を 知 らなかったばかりか、 懐 疑 的 傾 向<br />

を 持 っていた。<br />

若 い 時 から 彼 は 預 言 の 研 究 に 興 味 を 持 っていた。 彼 は、ローリンの 著 した『 古 代 史 』<br />

を 読 んで、ダニエル 2 章 に 注 意 を 向 けるようになった。そして、 歴 史 家 の 記 録 に 見 る<br />

とおり、 預 言 が 驚 くばかり 正 確 に 成 就 していることに 心 を 打 たれた。これこそ、 聖 書<br />

が 霊 感 によるものであるという 証 拠 であった。これが 後 年 、 危 険 のただ 中 において 彼<br />

の 錨 となった。 彼 は 合 理 主 義 の 教 えに 満 足 することができなかった。そこで 彼 は、 聖<br />

書 を 研 究 し、さらに 明 らかな 光 を 探 究 することによって、やがて 積 極 的 な 信 仰 へと 導<br />

かれた。<br />

預 言 の 研 究 をしているうちに、 彼 は、 主 の 来 臨 は 近 いと 確 信 するに 至 った。 彼 は、<br />

この 大 真 理 の 厳 粛 さと 重 要 性 を 強 く 感 じ、それを 人 々に 伝 えたいと 願 った。しかし、<br />

ダニエル 書 の 預 言 は 神 秘 で 理 解 できないと いう 一 般 の 見 解 が、 彼 にとって 重 大 な 障 害<br />

264


国 際 協 定<br />

であった。そこで 彼 は、ついに、ファーレルがジュネーブ 伝 道 の 時 にしたように、ま<br />

ず 子 供 たちから 始 めて、 彼 らによって 親 たちの 興 味 を 起 こさせようとした。<br />

後 年 になって、この 企 ての 目 的 について、 彼 は 次 のように 言 った。「このことをよ<br />

く 理 解 してもらいたい。わたしが、こうした 親 しみやすい 方 法 で 真 理 を 提 示 したいと<br />

願 い、 子 供 たちに 語 ったのは、それが 重 要 でないからではなく、かえって、それが 非<br />

常 に 価 値 あるものだからなのである。わたしは 聞 いてもらいたかった。まず 大 人 に 話<br />

したなら、 聞 いてもらえないだろうと 思 った。」「だからわたしは、いちばん 小 さい<br />

者 のところへ 行 く 決 心 をした。わたしは 子 供 たちを 集 めた。もしこのグループが 増 加<br />

し、 彼 らが 耳 を 傾 けて、 喜 びと 興 味 をおぼえ、 問 題 を 理 解 して、それを 説 明 すること<br />

ができるようになれば、まもなく 次 の 仲 間 ができることは 確 かである。そして、それ<br />

に 代 わって 今 度 は 大 人 が、これは 腰 をすえて 研 究 する 価 値 があると 認 めるようになる。<br />

こうなった 時 に、 目 的 が 達 成 されたのである。」 14 この 努 力 は 成 功 を 収 めた。 彼 が 子<br />

供 たちに 語 っているうちに、 大 人 が 来 て 耳 を 傾 けた。 彼 の 教 会 の 座 席 は 熱 心 な 聴 衆 で<br />

あふれた。その 中 には、 地 位 や 学 識 のある 人 、ジュネーブを 訪 問 中 の 旅 行 者 や 外 国 人<br />

もいた。こうしてメッセージは、 他 の 地 方 にも 伝 わった。<br />

こうした 成 功 に 力 を 得 たゴーセンは、フランス 語 を 話 す 人 々の 教 会 において 預 言 書<br />

の 研 究 を 盛 んにしたいと 考 え、 教 科 書 を 発 行 した。「 子 供 たちに 教 えた 教 訓 を 出 版 す<br />

ることは、わかりにくいという 口 実 のもとにこうした 書 物 をなおざりにしがちな 大 人<br />

たちに 対 して、『あなたがたの 子 供 たちでさえ 理 解 できるのに、どうしてわかりにく<br />

いなどと 言 えるでしょうか?』と 言 うためであった」とゴーセンは 語 っている。 彼 は<br />

つけ 加 えて 言 う。「わたしは、できることならば、 預 言 の 知 識 を 教 会 員 に 広 く 与 えた<br />

いと 熱 望 した。」「 実 際 、 時 代 の 要 求 に 答 えるのに、この 研 究 以 上 のものはないよう<br />

に 思 われた。」「われわれが、 切 迫 している 患 難 に 備 え、 主 イエス・キリストを 待 ち<br />

望 むのは、これによってである。」<br />

ゴーセンは、フランス 語 の 説 教 者 中 、 最 も 著 名 で 愛 された 人 々の 1 人 であったが、<br />

しばらく 後 に、 聖 職 をやめさせられた。その 主 な 理 由 は、 教 会 の 教 理 問 答 —— 積 極 的<br />

信 仰 に 欠 けた、 単 調 で 合 理 主 義 的 な 指 針 ——を 用 いないで、 聖 書 を 用 いて 青 年 を 教 育<br />

したからであった。 彼 は 後 に、 神 学 校 の 教 師 になり、また 日 曜 日 には 伝 道 師 として 子<br />

供 たちに 話 し、 聖 書 を 教 え 続 けた。 預 言 についての 彼 の 著 書 も、 非 常 な 関 心 をひき 起<br />

こした。 彼 は、 教 授 として、また、 印 刷 物 によって、また、 子 供 の 教 師 という 彼 が 最<br />

も 愛 した 仕 事 によって、 長 年 の 間 、 広 汎 な 感 化 を 及 ぼした。そして 彼 は、 主 の 再 臨 が<br />

近 いことを 示 す 預 言 の 研 究 に 多 くの 人 の 注 意 を 引 く 器 となった。<br />

265


国 際 協 定<br />

再 臨 使 命 は、スカンジナビアにおいても 宣 布 され、 広 く 人 々の 興 味 を 引 き 起 こした。<br />

多 くの 者 は、 軽 率 な 安 心 感 から 覚 めて、 罪 を 告 白 して 放 棄 し、キリストの 名 による 赦<br />

しを 求 めた。しかし、 国 教 会 の 聖 職 者 たちはこの 運 動 に 反 対 し、そのために、 使 命 の<br />

宣 布 者 たちは 投 獄 された。 主 の 再 臨 の 説 教 者 たちがこうして 沈 黙 させられた 多 くの 場<br />

所 で、 神 は、 子 供 たちを 用 いて、 奇 跡 的 方 法 でメッセージをお 送 りになった。 彼 らは<br />

未 青 年 であったから、 国 の 法 律 は 彼 らを 禁 じることができず 彼 らはなんの 妨 げもなく<br />

語 ることを 許 された。<br />

運 動 は 主 として 下 層 階 級 の 人 々の 間 で 行 われ、 人 々が 警 告 を 聞 くために 集 まったの<br />

は、 労 働 者 たちのぞまつな 住 居 においてであった。 幼 い 説 教 者 自 身 も、たいていは 貧<br />

しい 家 の 子 であった。6 歳 や 8 歳 の 者 たちもいた。 彼 らは、 救 い 主 を 愛 することをそ<br />

の 生 活 にあかしし、 神 の 聖 なる 要 求 に 従 って 生 活 しようと 努 めていたが、 通 常 は 同 年<br />

配 の 子 供 たちの 普 通 の 知 性 と 能 力 をあらわしているにすぎなかった。しかし、 彼 らが<br />

人 々の 前 に 立 つと、 彼 らの 生 来 の 能 力 以 上 の 力 に 動 かされていることは 明 白 であった。<br />

声 も 態 度 も 一 変 し、 厳 粛 な 力 をもって 審 判 の 警 告 をなし、「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を<br />

帰 せよ。 神 のさばきの 時 がきたからである」という 聖 句 を 引 用 した。 彼 らは、 人 々の<br />

罪 を 譴 責 し、 不 道 徳 と 悪 徳 を 非 難 するだけでなく、 世 俗 と 背 教 を 責 め、 速 やかに 下 ろ<br />

うとしている 怒 りから 逃 れるように 聴 衆 に 警 告 した。<br />

人 々は、これを 聞 いて 震 えた。 力 ある 神 の 霊 が、 彼 らの 心 に 語 りかけた。 多 くの 者<br />

は、 新 たに 深 い 興 味 をもって、 聖 書 の 研 究 をするようになり、 不 節 制 で 不 道 徳 な 者 は<br />

生 活 を 改 革 し、 不 正 行 為 を 改 める 者 もあった。このように 著 しい 結 果 を 見 て、 国 教 会<br />

の 牧 師 でさえ、この 運 動 に 神 の 手 を 認 めないわけにはいかなかった。<br />

救 い 主 来 臨 の 知 らせがスカンジナビア 諸 国 に 伝 えられることは、 神 のみ 心 であった。<br />

そして、 神 のしもべたちの 声 が 沈 黙 させられた 時 に、 神 は、 働 きを 成 し 遂 げるために、<br />

子 供 たちに 聖 霊 を 注 がれた。イエスが 喜 びに 満 ちた 群 衆 を 従 えて、エルサレムに 近 づ<br />

かれた 時 、 彼 らは 勝 利 の 叫 びをあげ、しゅろの 枝 を 打 ち 振 って、イエスをダビデの 子<br />

と 宣 言 した。それを 聞 いたしっと 深 いパリサイ 人 たちは、 彼 らを 黙 らせるようにイエ<br />

スに 求 めた。しかしイエスは、こうしたことはみな 預 言 の 成 就 であって、もし 彼 らが<br />

黙 っているならば、 石 が 叫 ぶであろうと 言 われた。 人 々は、 祭 司 や 司 たちにおどされ<br />

て、エルサレムの 門 に 入 ると 喜 びの 叫 びをやめた。しかし、 神 殿 の 庭 の 子 供 たちは、<br />

その 後 でまた 歌 い 出 し、しゅろの 枝 を 振 って、「ダビデの 子 に、ホサナ」と 叫 んだ[マ<br />

タイ 21:8~16 参 照 ]。<br />

266


国 際 協 定<br />

パリサイ 人 が、ひどくきげんを 損 ねて、「あの 子 たちが 何 を 言 っているのか、お 聞<br />

きですか」とイエスに 言 った 時 、イエスは 答 えて、「そうだ、 聞 いている。あなたが<br />

たは『 幼 な 子 、 乳 のみ 子 たちの 口 にさんびを 備 えられた』とあるのを 読 んだことがな<br />

いのか」と 言 われた。 神 は、キリストの 初 臨 の 時 に 子 供 たちによって 働 かれたように、<br />

再 臨 使 命 の 宣 布 も 彼 らによってなされたのである。 救 い 主 の 再 臨 は、すべての 民 族 、<br />

国 語 、 国 民 に 宣 べ 伝 えられるという 神 の 言 葉 は、 成 就 されなければならない。<br />

ウィリアム・ミラーと 彼 の 仲 間 に、 米 国 に 警 告 を 発 する 務 めが 与 えられた。 米 国 は、<br />

大 再 臨 運 動 の 中 心 となった。 第 一 天 使 の 使 命 が 最 も 直 接 的 に 成 就 したのは 米 国 であっ<br />

た。ミラーと 彼 の 仲 間 の 著 書 は、 遠 くの 地 方 まで 広 まった。 世 界 じゅうで 宣 教 師 が 行<br />

っているところはどこでも、キリストがまもなく 来 られるという 喜 びの 知 らせが 伝 え<br />

られた。「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せよ。 神 のさばきの 時 がきたからである」とい<br />

う 永 遠 の 福 音 の 使 命 は、 遠 く 広 く 伝 えられた。<br />

1844 年 の 春 にキリストの 再 臨 があると 指 示 するように 思 われる 預 言 のあかしは、<br />

人 々の 心 を 強 くとらえた。 州 から 州 へと 使 命 が 伝 わるにつれて、 至 るところで 広 く 人<br />

々の 興 味 をわき 立 たせた。 多 くの 者 は 預 言 の 期 間 に 関 する 議 論 の 正 しいことを 認 め、<br />

自 分 たちの 意 見 を 捨 てて、 喜 んで 真 理 を 受 け 入 れた。ある 牧 師 たちは、 教 派 的 見 解 や<br />

感 情 を 捨 て、 給 料 や 教 会 も 捨 てて、イエスの 再 臨 を 宣 言 することに 参 加 した。しかし、<br />

この 使 命 を 信 じる 牧 師 は、 比 較 的 少 なかった。したがって、それは、 質 朴 な 一 般 信 徒<br />

たちに 大 部 分 ゆだねられた。 農 夫 は 畑 を 離 れ、 職 工 は 道 具 を、 商 人 は 商 品 を、 知 的 職<br />

業 の 者 はその 地 位 を 捨 てた。しかし、 働 き 人 の 数 は、 成 し 遂 げるべき 働 きに 比 して 少<br />

なかった。 神 を 敬 わない 教 会 や 罪 悪 の 中 にある 世 界 の 状 態 は、 真 の 見 張 人 たちの 心 を<br />

悩 ました。そして 彼 らは、 人 々を 悔 い 改 めと 救 いに 導 くために、 喜 んで 労 苦 と 窮 乏 と<br />

苦 難 に 耐 えた。 働 きは、サタンの 攻 撃 にあいながらも、 徐 々に 進 展 し、 幾 千 の 者 が 再<br />

臨 の 真 理 を 信 じるようになった。<br />

至 るところで、 人 々の 心 を 打 っあかしが 発 せられ、 世 俗 の 人 々も 教 会 員 も、 罪 人 は<br />

ともに 来 たるべき 怒 りから 逃 れるよう 警 告 が 発 せられた。キリストの 先 駆 者 、バプテ<br />

スマのヨハネのように、 説 教 者 たちは、 木 の 根 元 におのを 置 き、 悔 い 改 めにふさわし<br />

い 実 を 結 ぶようにとすべての 者 に 訴 えた。 彼 らの 感 動 的 な 訴 えは、 一 般 の 説 教 壇 から<br />

聞 かれる 平 和 と 無 事 の 保 証 とは 著 しく 異 なっていた。そして、 使 命 が 伝 えられたとこ<br />

ろではどこでも、 人 々の 心 を 動 かした。 聖 書 からの 単 純 で 直 接 的 な 証 言 が、 聖 霊 の 力<br />

によって 心 に 印 象 づけられた 時 に、その 強 い 確 信 を 拒 みきれるものはなかった。 信 仰<br />

を 表 明 していた 者 たちも、 自 分 たちが 危 険 を 知 らずに 安 心 していたことに 気 づいた。<br />

彼 らは、 自 分 たちの 背 教 、 世 俗 、 不 信 、 誇 り、 利 己 心 に 気 づいた。 多 くの 者 が 悔 い 改<br />

267


国 際 協 定<br />

めて、 謙 そんに 主 を 求 めた。 長 い 間 地 上 の 事 物 に 執 着 していた 愛 情 が、 今 や 天 に 向 け<br />

られた。 神 の 霊 が 彼 らの 上 に 宿 った。そして 彼 らの 心 は 和 らげられ、 静 められて、<br />

「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せよ。 神 のさばきの 時 がきたからである」という 叫 びに<br />

参 加 した。<br />

罪 人 は、 泣 いて、「わたしは 救 われるために、 何 をすべきでしょうか」とたずねた。<br />

不 正 直 であった 者 は、なんとかして 賠 償 しようとした。キリストのうちに 平 和 を 見 い<br />

だした 者 はみな、その 祝 福 を 人 々に 分 かちたいと 願 った。 親 の 心 は 子 に 向 けられ、 子<br />

の 心 は 親 に 向 けられた。 誇 りと 疎 遠 の 壁 は 払 いのけられた。 心 からの 告 白 がなされ、<br />

家 族 の 者 たちは、 最 も 近 く 最 も 愛 する 者 の 救 いのために 働 いた。 熱 心 なとりなしの 祈<br />

りの 声 が、しばしぼ 聞 かれた。どこでも、 苦 悩 にあえぐ 魂 が、 神 に 嘆 願 していた。 自<br />

分 自 身 の 罪 の 赦 しの 確 証 を 得 るために、あるいは 親 族 や 隣 人 の 改 心 のために、 一 晩 中<br />

熱 心 に 祈 る 者 も 多 かった。<br />

あらゆる 階 級 の 人 々が、 再 臨 信 徒 の 集 会 に 群 がり 集 まった。 金 持 ちも 貧 者 も、 地 位<br />

の 高 い 者 も 低 い 者 も、さまざまな 理 由 から、 再 臨 の 教 義 を 自 分 で 聞 きたいと 願 った。<br />

主 は、 主 のしもべたちがその 信 仰 の 理 由 を 説 明 するあいだ、 反 対 の 精 神 を 阻 止 され<br />

た。 時 には、 器 が 弱 いこともあった。しかし、 神 の 霊 が、ご 自 身 の 真 理 に 力 を 与 えた。<br />

これらの 集 会 では、 天 使 がその 場 にいることが 感 じられ、 日 ごとに 多 くの 者 が 信 者 の<br />

群 れに 加 えられた。キリスト 再 臨 切 迫 の 証 拠 がくり 返 される 時 、 大 群 衆 はかたずをの<br />

んで、 厳 粛 な 言 葉 に 聞 き 入 った。 天 と 地 は、 互 いに 接 近 したように 思 われた。 神 の 力<br />

が、 老 いた 者 にも 若 い 者 にも、 中 年 の 者 にも 感 じられた。 人 々は、 口 々に 賛 美 を 歌 い<br />

ながら 家 に 帰 り、 喜 ばしい 歌 声 が、 静 かな 夜 空 に 響 いた。こうした 集 会 に 出 席 した 者<br />

は、その 感 銘 深 い 光 景 を 忘 れることができなかった。<br />

キリスト 再 臨 の 時 として 特 定 の 時 を 宣 言 したことは、あらゆる 階 級 の 多 くの 者 、す<br />

なわち、 説 教 壇 に 立 つ 牧 師 から 神 を 恐 れぬ 無 暴 な 罪 人 に 至 るまでの、 大 反 対 を 受 けた。<br />

これは、 預 言 の 言 葉 の 成 就 であった。「 終 りの 時 にあざける 者 たちが、あざけりなが<br />

ら 出 てきて、 自 分 の 欲 情 のままに 生 活 し、『 主 の 来 臨 の 約 束 はどうなったのか。 先 祖<br />

たちが 眠 りについてから、すべてのものは 天 地 創 造 の 初 めからそのままであって、 変<br />

ってはいない』と 言 うであろう」[Ⅱペテロ 3:3、。 救 い 主 を 愛 すると 公 言 する 多 く<br />

の 者 は、 自 分 たちは 再 臨 の 教 義 に 反 対 しているのではない、ただ 日 を 定 めることに 反<br />

対 なのだと 言 った。しかし、すべてを 見 られる 神 は、 彼 らの 心 を 読 まれた。 彼 らは、<br />

キリストが 義 をもって 世 界 をさばくために 来 られるということを 聞 くことを 好 まなか<br />

った。 彼 らは、 不 忠 実 なしもべたちであった。 彼 らのわざは、 心 を 探 られる 神 の 審 査<br />

に 耐 えられなかったので、 彼 らは 主 に 会 うことを 恐 れた。キリスト 初 臨 の 際 のユダヤ<br />

268


国 際 協 定<br />

人 たちのように、 彼 らはイエスを 迎 える 準 備 がなかった。 彼 らは、 聖 書 からの 明 白 な<br />

議 論 に 耳 を 傾 けることを 拒 んだだけでなく、 主 を 待 望 している 人 々を 嘲 笑 した。サタ<br />

ンと 彼 の 天 使 たちは 喜 んだ。そして、 主 の 民 と 称 する 人 々でさえ、 主 に 対 する 愛 に 欠<br />

け、 主 の 再 臨 を 望 んでいないと 言 って、キリストと 天 使 たちの 前 で 嘲 笑 した。<br />

再 臨 の 信 仰 に 反 対 する 人 々が、 最 もひんぱんに 持 ち 出 した 議 論 は、「その 日 、その<br />

時 はだれも 知 らない」ということであった。 聖 書 にも、「その 日 、その 時 は、だれも<br />

知 らない。 天 の 御 使 たちも…… 知 らない、ただ 父 だけが 知 っておられる」とある[マタ<br />

イ 24:。この 聖 句 を 明 快 に 矛 盾 なく 説 明 したのは、 主 を 待 望 する 人 々であって、これ<br />

を 誤 って 解 釈 していたのは 反 対 者 であったことが、 明 らかに 示 された。この 言 葉 は、<br />

キリストが 神 殿 に 最 後 の 別 れを 告 げて 出 られた 後 、オリブ 山 上 での 弟 子 たちとの 記 念<br />

すべき 談 話 の 中 で 言 われたものである。 弟 子 たちは、「あなたがまた おいでになる 時<br />

や、 世 の 終 りには、どんな 前 兆 がありますか」とたずねた。イエスは、 彼 らにしるし<br />

を 与 えて、そして 言 われた。「そのように、すべてこれらのことを 見 たならば、 人 の<br />

子 が 戸 口 まで 近 づいていると 知 りなさい」[ 同 24:3、。 救 い 主 の 1 つの 言 葉 をもっ<br />

て、 他 の 言 葉 を 無 意 味 にしてはならない。 彼 が 来 られるその 日 、その 時 はだれも 知 ら<br />

ないが、われわれは、それが 近 づく 時 について 教 えられており、また、それを 知 るよ<br />

うに 求 められている。<br />

さらにまた、 神 の 警 告 を 無 視 し、 主 の 再 臨 が 近 いことを 知 ることを 拒 み、またおろ<br />

そかにすることは、ノアの 時 代 の 人 々が 洪 水 の 来 るのを 知 らなかったのと 同 様 に、わ<br />

れわれにとっても 致 命 的 であることが 教 えられている。また、 同 じ 章 のたとえでは、<br />

忠 実 なしもべと 不 忠 実 なしもべが 対 比 され、「 自 分 の 主 人 は 帰 りがおそい」と 心 の 中<br />

で 思 う 者 の 運 命 が 示 されて、キリストは、 何 によって、 目 をさましてキリストの 再 臨<br />

を 教 える 者 と、それを 拒 否 する 者 とを 見 分 けられ、 報 われるかが 教 えられている。<br />

「だから、 目 をさましていなさい。」「 主 人 が 帰 ってきたとき、そのようにつとめて<br />

いるのを 見 られる 僕 は、さいわいである」[ 同 24:42、。「もし 目 をさましていない<br />

なら、わたしは 盗 人 のように 来 るであろう。どんな 時 にあなたのところに 来 るか、あ<br />

なたには 決 してわからない」と 主 は 言 われる[ 黙 示 録 3:。<br />

パウロは、 主 の 再 臨 が 不 意 に 来 ることになる 人 々のことについて 語 っている。「 主<br />

の 日 は 盗 人 が 夜 くるように 来 る。 人 々が 平 和 だ 無 事 だと 言 っているその 矢 先 に…… 突<br />

如 として 滅 びが 彼 らをおそって 来 る。そして、それからのがれることは 決 してできな<br />

い。」しかし、 救 い 主 の 警 告 に 心 をとめた 人 々について、 次 のようにつけ 加 えている。<br />

「しかし 兄 弟 たちよ。あなたがたは 暗 やみの 中 にいないのだから、その 日 が、 盗 人 の<br />

ようにあなたがたを 不 意 に 襲 うことはないであろう。あなたがたはみな 光 の 子 であり、<br />

269


国 際 協 定<br />

昼 の 子 なのである。わたしたちは、 夜 の 者 でもやみの 者 でもない」[Ⅰテサロニケ 5:<br />

2~。<br />

こうして、 聖 書 は 人 々が、キリストの 再 臨 の 切 迫 について 何 も 知 らずにいてよいと<br />

は 認 めていないことが 明 らかにされた。しかし、 真 理 を 拒 否 する 口 実 だけを 求 めてい<br />

た 人 々は、この 説 明 に 耳 を 閉 ざし、 大 胆 にあざける 者 たちや、またキリストの 牧 師 と<br />

称 する 人 々さえも、「その 日 、その 時 は、だれも 知 らない」という 言 葉 を 叫 び 続 けた。<br />

人 々が 目 をさまして、 救 いの 道 を 求 め 始 めると、 宗 教 の 教 師 たちは、 彼 らと 真 理 の 間<br />

に 介 入 し、 神 の 言 葉 を 曲 解 することによって 彼 らの 恐 れをしずめようとした。 不 忠 実<br />

な 見 張 人 たちは、 一 致 して 大 欺 瞞 者 の 働 きをなし、 神 が 平 和 を 語 られないのに、 平 和<br />

だ 無 事 だと 叫 んだ。キリスト 時 代 のパリサイ 人 のように、 多 くの 者 は、 自 分 自 身 天 国<br />

に 入 ることを 拒 み、それに 入 ろうとする 者 を 妨 げたのであった。この 人 々の 血 の 責 任<br />

は、 彼 らの 手 に 求 められるのである。<br />

たいていの 場 合 、 教 会 内 の 最 も 謙 遜 で 献 身 した 人 々が、 最 初 にメッセージを 受 け 入<br />

れた。 聖 書 を 自 分 で 研 究 した 人 々は、 預 言 に 関 する 一 般 的 見 解 が 非 聖 書 的 であること<br />

を 見 ないわけにはいかなかった。そして、 人 々が 牧 師 たちの 支 配 下 にないところでは、<br />

また 人 々が 自 分 たちで 聖 書 を 研 究 したところでは、どこでも、 再 臨 の 教 義 が 神 の 権 威<br />

に 基 づくということは、ただ 聖 書 と 比 較 するだけで 明 らかとなった。<br />

多 くの 者 は、 不 信 仰 な 信 者 仲 間 たちから 迫 害 された。 教 会 での 地 位 を 保 つために、<br />

その 希 望 について 沈 黙 を 守 ることに 同 意 した 者 もあった。しかし、 神 に 忠 実 であれば<br />

神 がゆだねられた 真 理 を 隠 すことはできないと 感 ずる 者 もあった。キリスト 再 臨 の 信<br />

仰 を 表 明 しただけで 教 会 から 除 名 された 者 も、 少 なくなかった。 信 仰 のこうした 試 練<br />

に 耐 えた 者 にとって、「あなたがたの 兄 弟 たちはあなたがたを 憎 み、あなたがたをわ<br />

が 名 のために 追 い 出 して 言 った、『 願 わくは 主 がその 栄 光 をあらわして、われわれに<br />

あなたがたの 喜 びを 見 させよ』と。しかし 彼 らは 恥 を 受 ける」という 預 言 者 の 言 葉 は、<br />

ほんとうに 貴 いものであった[イザヤ 66:。<br />

神 の 天 使 たちは、 警 告 の 結 果 を 非 常 な 興 味 をもって 見 守 っていた。 教 会 が 全 般 的 に<br />

使 命 を 拒 否 すると、 天 使 たちは 悲 しみながら 去 って 行 った。しかし、 再 臨 の 真 理 につ<br />

いて、まだ 試 みられていない 人 々が 多 くいた。 夫 、 妻 、 両 親 、 子 供 たちなどに 迷 わさ<br />

れて、 再 臨 信 徒 が 説 く 異 端 は、 聞 くだけでも 罪 であると 思 った 者 が 多 くいた。 天 使 た<br />

ちは、このような 人 々をよく 見 守 るように 命 じられた。なぜならば、もう 1 つの 光 が、<br />

神 のみ 座 から 彼 らの 上 に 輝 くことになっていたからである。<br />

270


国 際 協 定<br />

使 命 を 信 じた 人 々は、 言 うに 言 われぬ 希 望 に 満 たされて、 救 い 主 の 来 られるのを 待<br />

った。 彼 らが 主 に 会 うことを 予 期 した 時 は 切 迫 した。 彼 らは、 冷 静 な 厳 粛 さをもって<br />

この 時 を 待 った。 彼 らは、 神 との 親 しい 交 わりの 中 で 安 んじていた。これは、 輝 かし<br />

い 来 世 において 与 えられる 平 和 の 先 ぶれであった。この 希 望 と 信 頼 を 経 験 したものは、<br />

あの 待 望 の 貴 重 な 時 のことを 忘 れることはできない。この 時 の 数 週 間 前 に、 世 俗 の 業<br />

務 の 大 部 分 は 片 づけてしまった。まじめな 信 者 たちは、あたかも 死 の 床 にあって、あ<br />

と 数 時 間 で 地 上 に 別 れを 告 げるかのように、 心 の 思 いと 感 情 を 注 意 深 く 吟 味 した。だ<br />

れも「 昇 天 衣 」など 作 らなかった。<br />

しかし、すべての 者 は、 救 い 主 を 迎 える 準 備 ができたという 内 的 証 拠 の 必 要 を 感 じ<br />

た。 彼 らの 白 衣 は、 魂 のきよめ、キリストの 贖 罪 の 血 によって 罪 からきよめられた 品<br />

性 であった。 今 でも 神 の 民 と 称 する 人 々の 間 に、これと 同 じ 自 分 を 吟 味 する 精 神 、 同<br />

じ 熱 誠 と 断 固 とした 信 仰 がほしいものである。もしも 彼 らが、こうして 主 の 前 に 心 を<br />

低 くし、 恵 みの 座 において、 彼 らの 嘆 願 を 訴 え 続 けたならば、 彼 らは、 今 よりははる<br />

かに 豊 かな 経 験 を 与 えられたことであろう。 祈 りがあまりにも 少 なく、 罪 に 対 する 真<br />

の 自 覚 があまりにも 少 ない。そして、 生 きた 信 仰 がないために、 多 くの 者 は、 贖 い 主<br />

が 豊 かに 与 えようとしておられる 恵 みを 受 けていないのである。<br />

神 はご 自 分 の 民 を 試 みようとされた。 神 のみ 手 は、 預 言 の 期 間 の 計 算 上 の 誤 りを 覆<br />

い 隠 された。 再 臨 信 徒 は、 誤 りを 見 つけなかった。また、 彼 らの 反 対 者 の 中 の 最 も 博<br />

学 な 人 々も、それを 発 見 しなかった。 学 者 たちは 言 った。「あなたがたの 預 言 期 間 の<br />

計 算 は 正 しい。 何 か 大 事 件 が 起 ころうとしている。しかし、それは、ミラー 氏 の 予 言<br />

するものではない。それは 世 界 の 改 心 である。キリストの 再 臨 ではない」。<br />

期 待 した 時 は 過 ぎた。しかし、キリストは、 民 を 救 うためにおいでにはならなかっ<br />

た。 真 実 の 愛 と 信 仰 をもって 救 い 主 を 待 望 していた 人 々は、 苦 い 失 望 を 味 わった。し<br />

かし、 神 のみ 心 は、なされつっあったのである。 神 は、 主 の 再 臨 を 待 つと 言 っていた<br />

人 々の 心 を 試 しておられた。 彼 らの 中 には、ただ 恐 怖 にかられていた 者 が 多 かった。<br />

彼 らの 信 仰 の 表 明 は、その 心 や 生 活 に 影 響 を 及 ぼしていなかった。 期 待 したできごと<br />

が 起 こらなかった 時 に、この 人 々は、 自 分 たちは 何 も 失 望 していないと 言 った。 彼 ら<br />

は、キリストが 来 られるとは 信 じていなかった。 真 の 信 者 の 悲 しみをあざけりだした<br />

のは、 彼 らであった。<br />

しかし、イエスと 天 の 全 軍 は、 試 練 を 受 け、 忠 実 でありながらも 失 望 に 陥 っている<br />

人 々を、 愛 と 同 情 をもって 見 つめていた。もし、 見 える 世 界 と 見 えない 世 界 を 隔 てる<br />

271


国 際 協 定<br />

幕 が 取 り 除 かれたならば、 天 使 たちがこれらのしっかりした 魂 に 近 づき、 彼 らをサタ<br />

ンの 矢 から 守 っているのが 見 えたことであろう。<br />

272


国 際 協 定<br />

第 21 章 真 理 の 拒 否<br />

ウィリアム・ミラーと 彼 の 仲 間 たちは、キリスト 再 臨 の 教 義 の 宣 布 を 通 して、 審 判<br />

に 対 する 準 備 を 人 々に 促 すというただ 1 つの 目 的 のために 働 いた。 彼 らは、 宗 教 を 信<br />

じると 公 言 する 者 たちに、 教 会 の 真 の 希 望 と、より 深 いキリスト 者 の 経 験 の 必 要 とを<br />

自 覚 させようとした。 彼 らはまた、 悔 い 改 めていない 人 々に、 直 ちに 悔 い 改 めて 神 に<br />

帰 る 義 務 があることを 自 覚 させようとした。「 彼 らは、 宗 教 上 の 一 派 や 一 団 体 に 人 々<br />

を 改 宗 させようとはしなかった。それで 彼 らは、それぞれの 組 織 や 規 則 に 干 渉 するこ<br />

となく、あらゆる 団 体 や 教 派 の 中 で 働 いた。」<br />

ミラーは、 次 のように 言 った。「わたしは、 自 分 のあらゆる 活 動 において、 今 ある<br />

教 派 を 離 れて 別 の 派 を 作 ろうとか、あるいは、 他 を 犠 牲 にしてだれかに 利 益 を 与 えよ<br />

うとか、そんなことは 願 いも 思 いもしなかった。わたしは、すべての 人 の 利 益 を 考 え<br />

た。キリスト 者 ならだれでも、キリストの 再 臨 を 喜 んで 期 待 し、わたしと 同 じように<br />

考 えない 人 でも、この 教 理 を 信 じる 人 々を 同 様 に 愛 するものと 考 えたので、 別 の 集 会<br />

を 開 く 必 要 を 感 じなかった。わたしの 目 的 とするところは、 人 々を 神 に 立 ち 帰 らせ、<br />

来 たるべき 審 判 のことを 世 界 に 知 らせ、 安 らかに 神 にお 目 にかかる 準 備 をするように、<br />

同 胞 に 訴 えることであった。わたしの 働 きによって 悔 い 改 めた 者 の 大 部 分 は、 既 存 の<br />

種 々の 教 会 に 加 わった。」 1<br />

彼 の 働 きは、 教 会 を 盛 んにするものであったから、しばらくの 間 は 喜 んで 迎 えられ<br />

た。しかし、 牧 師 や 教 会 の 指 導 者 たちが、 再 臨 の 教 義 に 反 対 することを 決 めて、その<br />

問 題 に 関 するいっさいの 運 動 を 圧 迫 するようになると、 彼 らは 説 教 壇 から 反 対 するば<br />

かりでなく、 教 会 員 が 再 臨 に 関 する 説 教 を 聞 くことや、 教 会 の 集 会 においてその 希 望<br />

を 語 ることさえも 拒 否 した。こうして 信 徒 たちは、 非 常 な 試 練 と 苦 しい 立 場 に 立 たさ<br />

れた。<br />

彼 らは 自 分 たちの 教 会 を 愛 しており、それから 離 れることをきらったが、 神 の 言 葉<br />

のあかしが 圧 迫 され、 預 言 を 研 究 する 権 利 が 拒 否 されるのを 見 た 時 に、 神 に 忠 誠 を 尽<br />

くそうとすれば、 服 従 することはできなかった。 彼 らは、 神 の 言 葉 のあかしを 閉 め 出<br />

そうとする 人 々を、キリストの 教 会 を 構 成 するもの、「 真 理 の 柱 であり 基 礎 」をなす<br />

ものと 見 なすことはできなかった。そこで 彼 らは、 従 来 の 関 係 から 分 離 することが 正<br />

しいと 考 えた。1844 年 の 夏 、 約 5 万 人 が 教 会 から 脱 会 した。<br />

このころ、 米 国 全 体 のほとんどの 教 会 に、 著 しい 変 化 があらわれた。 長 年 にわたっ<br />

て、 世 俗 の 風 俗 習 慣 への 適 合 が、 徐 々に、しかし 着 実 に 増 大 し、 真 の 霊 的 生 活 は 衰 退<br />

273


国 際 協 定<br />

する 一 方 であった。しかし、この 年 は、 全 国 のほとんどすべての 教 会 において、この<br />

衰 退 が 急 激 で 著 しかった。だれもその 原 因 を 明 らかにし 得 るものはなかったが、この<br />

事 実 そのものは、 広 く 一 般 の 認 めるところで、 新 聞 も 説 教 壇 もそれについて 語 った。<br />

フィラデルフィアの 長 老 教 会 の 集 会 において、 広 く 用 いられていた 注 解 書 の 著 者 で<br />

あり、 同 市 の 主 要 教 会 の 牧 師 であったバーンズは、「 自 分 は 20 年 間 、 牧 師 の 働 きを<br />

してきたが、この 前 までの 聖 餐 式 においては、 式 を 行 うごとに 必 ず、 多 少 にかかわら<br />

ず 教 会 に 加 わる 人 があった。しかし、 今 や、なんの 覚 醒 もなく、 悔 い 改 めもない。 信<br />

者 には 恵 みにおける 成 長 がなく、 魂 の 救 いについて 語 るために 私 の 書 斎 に 来 るものも<br />

いない。 商 売 が 盛 んになり、 商 業 と 工 業 が 隆 盛 するにつれて、 世 俗 の 精 神 が 旺 盛 にな<br />

った。こうして、すべての 教 派 がそうなったのだ、と 述 べた。」 2<br />

同 年 2 月 に、オベリン 大 学 のフィニー 教 授 は 次 のように 言 った。「わが 国 のプロテ<br />

スタント 教 会 は、 一 般 に、 現 代 の 道 徳 的 改 革 のほとんどすべてに 対 して、 無 関 心 であ<br />

るか、さもなければ 敵 対 心 を 抱 いているよつに 見 受 けられる。 一 部 の 例 外 はあるが、<br />

一 般 的 傾 向 を 覆 すほどに 十 分 なものではない。われわれは、も う 1 つ 確 かな 事 実 を 知<br />

っている。 教 会 内 には、ほとんど 全 般 的 にリバイバルの 精 神 が 欠 けている。 霊 的 無 関<br />

心 がほとんどすべてを 覆 い、 恐 ろしいまでに 深 刻 である。 全 国 の 宗 教 雑 誌 が、そう 証<br />

言 している。…… 流 行 の 追 求 が 広 く 教 会 員 の 間 に 行 なわれ、 歓 楽 のパーティーやダン<br />

スやお 祭 り 騒 ぎなどで、 神 を 敬 わない 人 々と 手 を 握 っている。……しかし、このよう<br />

な 痛 ましい 問 題 を 詳 しく 言 う 必 要 はない。 教 会 が 一 般 に 悲 しむべき 堕 落 に 陥 りつつあ<br />

ることを 示 す 証 拠 は、われわれの 周 りに 山 積 していることだけで 十 分 である。 教 会 は<br />

主 から 遠 く 離 れ、そして 主 は 教 会 から 退 去 された。」<br />

『 宗 教 展 望 』 誌 の 一 筆 者 は、 次 のように 証 言 した。「われわれは、 現 在 ほど 宗 教 が<br />

一 般 に 低 下 したのを 見 たことがない。 真 に、 教 会 はめざめて、この 悲 しむべき 状 態 の<br />

原 因 をつきとめなければならない。なぜなら、シオンを 愛 するすべての 者 が、 現 状 を<br />

まことに 悲 しむべき 状 態 と 見 ているに 相 違 ないからである。 真 に 悔 い 改 める 者 の 数 が、<br />

いかに『 少 なく、まれ』であるかを 考 え、また、 罪 人 がかってなかったほどに 神 を 恐<br />

れずかたくなであることを 思 う 時 に、われわれは、『 神 は 恵 み 深 くあることを 忘 れら<br />

れたのか。あるいは、 恵 みの 戸 は 閉 じられたのか』と、 思 わず 叫 ばずにはおられな<br />

い。」<br />

このような 状 態 は、 教 会 自 身 に 原 因 がなくして 起 こるものではない。 国 家 、 教 会 、<br />

また 個 人 が 陥 る 霊 的 暗 黒 は、 神 の 側 で 独 断 的 に 恵 みの 助 けを 取 り 除 かれるのではなく<br />

て、 人 間 の 側 で、 神 からの 光 をないがしろにしたり、 拒 否 したりすることによるので<br />

274


国 際 協 定<br />

ある。この 事 実 の 著 しい 例 は、キリストの 時 代 のユダヤ 人 の 歴 史 に 示 されている。 彼<br />

らは、 世 俗 に 従 い、 神 と 神 の 言 葉 を 忘 れたために、 彼 らの 理 解 力 は 暗 くなり、 彼 らの<br />

心 は、この 世 的 で 肉 欲 的 になった。こうして 彼 らは、メシヤの 来 臨 を 知 らず、 誇 りと<br />

不 信 によって、 贖 い 主 を 拒 否 した。それでも 神 は、ユダヤ 民 族 が 救 いの 祝 福 を 知 って、<br />

それにあずかることから 除 外 されなかった。しかし、 真 理 を 拒 否 したものは、 天 の 賜<br />

物 を 得 たいという 願 いを 全 く 失 ってしまった。 彼 らは、「 悪 を 呼 んで 善 といい、 善 を<br />

呼 んで 悪 といい」、ついに、 彼 らのうちにあった 光 も 暗 くなった。そして、その 暗 黒<br />

は、なんと 大 きかったことであろう。<br />

きわめて 重 要 な 敬 虔 の 精 神 さえ 欠 けていれば、 人 間 が 宗 教 の 形 式 を 保 つことは、サ<br />

タンの 策 略 には 都 合 がいいのである。ユダヤ 人 は、 福 音 を 拒 否 した 後 も、 相 変 わらず<br />

熱 心 に 昔 からの 儀 式 を 守 り、 厳 格 に 国 家 的 排 他 主 義 を 保 ってきたが、その 反 面 、 自 分<br />

たちの 間 に 神 の 臨 在 がもはや 現 れていないことを 認 めないわけにいかなかった。ダニ<br />

エルの 預 言 は、メシヤの 来 臨 の 時 を 明 白 に 示 し、 彼 の 死 をはっきりと 預 言 していたの<br />

で、 彼 らは、その 研 究 をやめさせ、ついにラビたちは、 時 を 計 算 しようとするすべて<br />

の 者 に、のろいを 宣 言 するに 至 った。イスラエルの 人 々は、 無 分 別 と 頑 迷 のうちに、<br />

その 後 の 歳 月 を 送 ってきた。 彼 らは、 救 いの 恵 み 深 い 招 待 に 無 関 心 であった。また、<br />

福 音 の 祝 福 と、 天 からの 光 を 拒 むことについての 厳 粛 で 恐 ろしい 警 告 とに、 心 をとめ<br />

なかった。<br />

原 因 のあるところには、 必 ずその 結 果 が 伴 う。 義 務 であると 知 りながらも、それが<br />

自 分 の 好 みに 合 わないからと 言 って、 故 意 にその 信 念 をもみ 消 すものは、ついに、 真<br />

理 と 誤 りの 区 別 をする 能 力 を 失 ってしまう。 理 解 力 はにぶり、 良 心 は 無 感 覚 になり、<br />

心 はかたくなになり、 魂 は 神 から 離 れてしまう。 神 からの 真 理 のメッセージが、 拒 絶<br />

または 軽 視 される 時 に、 教 会 は 暗 黒 に 覆 われる。 信 仰 と 愛 は 冷 え、 離 反 と 分 離 が 起 こ<br />

る。 教 会 員 は、 世 俗 の 追 求 に 興 味 と 精 力 を 集 中 し、 罪 人 は 心 をかたくなにして 悔 い 改<br />

めないのである。<br />

神 のさばきの 時 を 知 らせ、 神 をおそれ 礼 拝 するよう 人 々に 呼 びかけた、 黙 示 録 14<br />

章 の 第 一 天 使 の 使 命 は、 神 の 民 と 称 する 人 々を 世 俗 の 悪 影 響 から 引 き 離 し、 世 俗 化 と<br />

背 信 という 彼 らの 真 の 状 態 を 認 めさせるためのものであった。この 使 命 によって、 神<br />

は 教 会 に 1 つの 警 告 をお 与 えになった。もし 彼 らが、それを 受 け 入 れていたならば、<br />

彼 らを 神 から 閉 め 出 していた 害 悪 を 正 すことができたのであった。もしも 彼 らが、 天<br />

からの 使 命 を 受 け 入 れ、 主 の 前 に 心 を 低 くして、み 前 に 立 つ 準 備 を 真 心 から 求 めてい<br />

たならば、 聖 霊 と 神 の 力 が、 彼 らの 間 にあらわされていたことであろう。 教 会 は 再 び<br />

使 徒 時 代 の 時 のような、 一 致 と 信 仰 と 愛 の 幸 福 な 状 態 に 到 達 していたことであろう。<br />

275


国 際 協 定<br />

使 徒 時 代 には 信 者 たちは、「 心 を 1 つにし 思 いを 1 つにして、」「 大 胆 に 神 の 言 を<br />

語 り、」「 主 は、 救 われる 者 を 日 々 仲 間 に 加 えて 下 さったのである」[ 使 徒 行 伝 4:32、<br />

31、2:。<br />

もし 神 の 民 と 称 する 人 々が、み 言 葉 から 輝 く 光 を 受 け 入 れるならば、 彼 らは、キリ<br />

ストが 祈 られた 一 致 に 到 達 することであろう。それは、 使 徒 が「 平 和 のきずなで 結 ば<br />

れて、 聖 霊 による 一 致 を」と 言 ったところのものである。「からだは 1 つ、 御 霊 も 1<br />

つである。あなたがたが 召 されたのは、1 つの 望 みを 目 ざして 召 されたのと 同 様 であ<br />

る。 主 は 1 つ、 信 仰 は 1 つ、バプテスマは 1 つ」と 彼 は 言 っている[エペソ 4:3<br />

~。<br />

再 臨 使 命 を 受 け 入 れた 人 々は、このような 幸 福 を 経 験 した。 彼 らは、さまざまな 異<br />

なった 教 派 から 来 ていたが、そうした 教 派 的 障 害 は 打 ち 砕 かれた。 相 いれない 信 条 は、<br />

こなごなに 砕 かれた。この 世 の 至 福 千 年 期 という 非 聖 書 的 な 希 望 は、 放 棄 された。キ<br />

リスト 再 臨 に 関 する 誤 った 見 解 は 正 された。 誇 りと 世 俗 との 妥 協 は 一 掃 された。 悪 は<br />

正 された。 人 々の 心 は 親 しい 交 わりを 結 び、 愛 と 喜 びがみなぎった。もしこの 教 義 が、<br />

これを 信 じた 少 数 の 者 に、このようにしたのであれば、すべての 者 が 受 け 入 れていた<br />

なら、すべての 者 に 同 じような 影 響 を 及 ぼしたはずであった。<br />

しかし、 一 般 の 教 会 は、 警 告 を 受 け 入 れなかった。「イスラエルの 家 」を 見 守 る 者<br />

として、まず 最 初 にイエスの 再 臨 のしるしを 認 めるはずであった 牧 師 たちは、 預 言 の<br />

あかしからも、 時 のしるしからも、 真 理 を 学 ぶことができなかった。 彼 らの 心 は、 世<br />

俗 的 な 望 みと 野 心 に 満 ち、 神 に 対 する 愛 と 神 の 言 葉 に 対 する 信 仰 は、 冷 たくなってい<br />

た。そして、 再 臨 の 教 義 が 示 された 時 に、それはただ 偏 見 と 不 信 をかきたてるだけで<br />

あった。この 使 命 が、だいたいにおいて 一 般 信 徒 によって 説 教 されたことが、それに<br />

反 対 する 理 由 としてあげられた 昔 のように、 神 の 言 葉 の 明 白 なあかしは、「 役 人 たち<br />

やパリサイ 人 たちの 中 で、ひとりでも 信 じた 者 があっただろうか」と 問 われるのであ<br />

った。<br />

そして、 預 言 的 期 間 に 基 づく 議 論 に 反 論 することは 非 常 に 困 難 であるのに 気 づいた<br />

多 くの 者 は、 預 言 の 書 は 封 じられたものであって 理 解 できないと 教 えて、 預 言 の 研 究<br />

を 思 いとどまらせた。 多 くの 者 は、 牧 師 を 絶 対 的 に 信 頼 して、 警 告 に 耳 を 傾 けること<br />

を 拒 んだ。ほかの 者 たちは、 真 理 であると 自 覚 はしても、「 会 堂 から 追 い 出 」される<br />

ことを 恐 れて、 信 仰 を 告 白 しなかった。 神 が 教 会 を 試 み、 清 めるために 送 られた 使 命<br />

は、キリストよりはこの 世 を 愛 する 人 々の 数 がどんなに 多 いかということを、あまり<br />

にも 明 白 に 示 した。 彼 らを 地 に 結 びつけるきずなは、 彼 らを 天 にひきつけるものより<br />

276


国 際 協 定<br />

強 力 であった。 彼 らは、 世 俗 の 知 恵 の 声 に 耳 を 傾 けることを 選 び、 心 をさぐる 真 理 の<br />

使 命 に 背 を 向 けたのである。<br />

彼 らは、 第 一 天 使 の 使 命 を 拒 否 することにより、 神 が 彼 らの 回 復 のために 備 えられ<br />

た 手 段 を 拒 絶 した。 彼 らは、 彼 らを 神 から 隔 てている 悪 を 矯 正 したはずの 恵 みの 使 者<br />

をはねつけ、ますます 熱 心 に 世 との 交 わりを 求 めた。1844 年 の 教 会 内 における、 世<br />

俗 化 、 背 教 、 霊 的 死 という 恐 るべき 状 態 の 原 因 は、 実 にこれであった。<br />

黙 示 録 14 章 において、 第 一 天 使 に 続 いて、 第 二 天 使 が、「 倒 れた、 大 いなるバビ<br />

ロンは 倒 れた。その 不 品 行 に 対 する 激 しい 怒 りのぶどう 酒 を、あらゆる 国 民 に 飲 ませ<br />

た 者 」と 宣 言 している[ 黙 示 録 14:。「バビロン」という 言 葉 は、「バベル」からき<br />

たもので、 混 乱 を 意 味 している。この 言 葉 は、 聖 書 では、 種 々の 形 をとった 偽 りの、<br />

あるいは 背 教 的 な 宗 教 を 指 すのに 用 いられている。 黙 示 録 17 章 には、バビロンは 女<br />

であるといわれている。 女 は、 聖 書 では 教 会 の 象 徴 として 用 いられている。 純 潔 な 女<br />

は、 純 潔 な 教 会 であり、 汚 れた 女 は、 背 教 した 教 会 を 表 している。<br />

聖 書 では、キリストとキリストの 教 会 との 間 の 神 聖 で 永 続 的 な 関 係 を、 結 婚 の 契 り<br />

で 表 している。 主 は、 厳 粛 な 契 約 によって、ご 自 分 の 民 をご 自 分 に 結 びつけられ、ご<br />

自 分 が 彼 らの 神 になることを 約 束 された。 そして 彼 らは、 自 分 たちが 神 のものとなり、<br />

神 だけのものになることを 誓 ったのである。 神 はこう 言 われる。「わたしは 永 遠 にあ<br />

なたとちぎりを 結 ぶ。すなわち 正 義 と、 公 平 と、いっくしみと、あわれみとをもって<br />

ちぎりを 結 ぶ」[ホセア 2:。そしてまた、「わたしはあなたがたの 夫 だからである」<br />

と 言 っておられる[エレミヤ 3:。パウロも 新 約 聖 書 において、 同 じ 象 徴 を 用 いて、<br />

「あなたがたを、きよいおとめとして、ただひとりの 男 子 キリストにささげるために、<br />

婚 約 させたのである」と 言 っている[Ⅱコリント 11:。<br />

教 会 がキリストに 不 忠 実 であって、キリストに 対 する 信 頼 と 愛 情 を 失 い、 世 俗 の 事<br />

物 に 対 する 愛 を 心 に 抱 くことは、 結 婚 の 誓 いを 破 ることにたとえられている。 主 を 離<br />

れたイスラエルの 罪 が、この 象 徴 によって 語 られている。そして 彼 らが 軽 んじた、 神<br />

の 驚 くべき 愛 が、 次 のように 感 動 的 に 描 かれている。 「わたしは……あなたに 誓 い、<br />

あなたと 契 約 を 結 んだ。そしてあなたはわたしのものとなったと、 主 なる 神 は 言 われ<br />

る。」「あなたは 非 常 に 美 しくなって 王 の 地 位 に 進 み、あなたの 美 しさのために、あ<br />

なたの 名 声 は 国 々に 広 まった。これはわたしが、あなたに 施 した 飾 りによって 全 うさ<br />

れたからである。……ところが、あなたは 自 分 の 美 しさをたのみ、 自 分 の 名 声 によっ<br />

て 姦 淫 を 行 」った。「『イスラエルの 家 よ、 背 信 の 妻 が 夫 のもとを 去 るように、たし<br />

277


国 際 協 定<br />

かに、あなたがたはわたしにそむいた』と 主 は 言 われる。」「 自 分 の 夫 に 替 えて 他 人<br />

と 通 じる 姦 婦 よ」[エゼキエル 16:8、13~15、32、エレミヤ 3:。<br />

新 約 聖 書 にも、 神 の 恵 みより 世 俗 の 交 わりを 求 める 自 称 キリスト 者 たちに、これと<br />

同 様 の 言 葉 が 語 られている。 使 徒 ヤコブは 次 のように 言 っている。「 不 貞 のやからよ。<br />

世 を 友 とするのは、 神 への 敵 対 であることを、 知 らないか。おおよそ 世 の 友 となろう<br />

と 思 う 者 は、 自 らを 神 の 敵 とするのである」[ヤコブ 4:。 黙 示 録 17 章 の 女 [バビロ<br />

ン]は、 次 のように 描 写 されている。「この 女 は 紫 と 赤 の 衣 をまとい、 金 と 宝 石 と 真 珠<br />

とで 身 を 飾 り、 憎 むべきものと…… 汚 れとで 満 ちている 金 の 杯 を 手 に 持 ち、その 額 に<br />

は、1 つの 名 がしるされていた。それは 奥 義 であって、『 大 いなるバビロン、 淫 婦 ど<br />

もの 母 』というのであった。」<br />

「わたしは、この 女 が 聖 徒 の 血 とイエスの 証 人 の 血 に 酔 いしれているのを 見 た」と<br />

預 言 者 は 言 っている。バビロンは、さらに、「 地 の 王 たちを 支 配 する 大 いなる 都 のこ<br />

とである」と 言 われている[ 黙 示 録 17:4~6、。 幾 世 紀 にもわたって、キリスト 教 国<br />

の 君 主 たちの 上 に 独 裁 的 支 配 を 維 持 した 権 力 は、ローマである。 紫 と 赤 、 金 と 宝 石 と<br />

真 珠 は、 華 麗 な 王 権 にまさる 豪 華 さを 誇 ったローマ 法 王 権 を 鮮 やかに 描 写 している。<br />

また、キリストに 従 う 者 を 残 酷 に 迫 害 したこの 教 会 ほど、「イエスの 証 人 の 血 に 酔 い<br />

しれている」ということが 当 てはまる 権 力 はほかにない。またバビロンは、「 地 の 王<br />

たち」と 非 合 法 的 関 係 を 結 んだと 非 難 されている。ユダヤの 教 会 が 淫 婦 になったのは、<br />

主 を 離 れ、 異 邦 人 と 同 盟 を 結 んだためであったが、ローマも 同 様 に、 俗 権 の 支 持 を 求<br />

めて 堕 落 し、 同 様 の 非 難 を 受 けている。<br />

バビロンは、「 淫 婦 どもの 母 」であると 言 われている。その 娘 たちとは、 彼 女 の 教<br />

義 と 言 い 伝 えを 重 んじてその 例 にならい、 世 との 不 法 な 同 盟 を 結 ぶために、 真 理 と 神<br />

の 是 認 とを 犠 牲 にする 諸 教 会 の 象 徴 でなければならない。バビロンが 倒 れたことを 宣<br />

言 する 黙 示 録 14 章 のメッセージは、かつては 純 潔 であったが 腐 敗 するに 至 った 宗 教<br />

団 体 に 適 用 されねばならない。このメッセージは 審 判 の 警 告 に 続 くものであるから、<br />

最 後 の 時 代 に 発 せられるものでなければならない。したがって、これは、ローマ・カ<br />

トリック 教 会 だけに 当 てはまるものではない。なぜならば、この 教 会 は、 幾 世 紀 にわ<br />

たって 倒 れた 状 態 にあったか らである。さらに、 黙 示 録 18 章 では、 神 の 民 はバビロ<br />

ンから 離 れ 去 れと 呼 びかけられている。この 聖 句 によれば、 多 くの 神 の 民 がまだバビ<br />

ロンにいなければならない。 今 、キリストに 従 うものの 大 部 分 は、どの 宗 教 団 体 に 属<br />

しているであろうか。 言 うまでもなく、プロテスタント 各 派 の 諸 教 会 である。<br />

278


国 際 協 定<br />

これらの 諸 教 会 は、その 出 現 の 当 初 にあっては 神 と 真 理 のために 崇 高 な 態 度 をとり、<br />

神 の 祝 福 にあずかった。 不 信 仰 な 世 の 人 々でさえ、 福 音 の 原 則 を 信 じることに 伴 う 恵<br />

みを 認 めずにはおられなかった。 預 言 者 はイスラエルに 次 のように 言 った。「あなた<br />

の 美 しさのために、あなたの 名 声 は 国 々に 広 まった。これはわたしが、あなたに 施 し<br />

た 飾 りによって 全 うされたからであると、 主 なる 神 は 言 われる。」しかし、 彼 らも、<br />

イスラエルののろいであり 滅 びであったのと 同 じ 欲 望 —— 神 を 信 じない 人 々の 習 慣 に<br />

習 い、 彼 らとの 交 わりを 求 めようとする 欲 望 ——によって 堕 落 した。「あなたは 自 分<br />

の 美 しさをたのみ、 自 分 の 名 声 によって 姦 淫 を 行 」った[エゼキエル 16:14、。<br />

プロテスタント 教 会 の 多 くは、ローマの 例 にならって「 地 の 王 たち」と 不 法 な 関 係<br />

を 結 んでいる。 国 教 会 は 俗 権 と 提 携 することによって。また 他 の 教 派 は、 世 俗 の 歓 心<br />

を 求 めることによって。そこで、この「バビロン」[ 混 乱 ]という 言 葉 は、それぞれ 自<br />

分 たちの 教 義 は 聖 書 に 基 づいたものであるといいながら、ほとんど 無 数 の 教 派 に 分 か<br />

れ、 互 いに 衝 突 する 信 条 と 理 論 をもったこれらの 諸 団 体 に、まことによく 当 てはまる<br />

のである。<br />

諸 教 会 は、ローマから 分 離 していながら、 世 俗 との 罪 深 い 結 合 のほかにも、ローマ<br />

の 他 の 特 質 をあらわしている。ローマ・カトリックの 一 著 書 に、 次 のようにある。<br />

「もしローマの 教 会 が、 諸 聖 人 に 関 して 偶 像 礼 拝 の 罪 があるとするならば、その 娘 で<br />

ある 英 国 国 教 会 も 同 罪 である。 英 国 では、キリストにささげられた 教 会 1 つに 対 して、<br />

マリヤにささげられた 教 会 が 10 ある。」 3 …また、ホプキンス 博 士 は、『 千 年 期 に 関<br />

する 論 文 』の 中 で 次 のように 言 っている。「 反 キリスト 教 的 精 神 と 習 慣 が、 今 、ロー<br />

マ 教 会 と 呼 ばれているものに 限 られていると 見 なす 理 由 はない。プロテスタント 諸 教<br />

会 も、その 中 に 多 くの 反 キリスト 的 なものを 持 っており、 腐 敗 と 罪 悪 ……から 全 くぬ<br />

け 切 ったとは、とうてい 言 えない。」 4<br />

長 老 教 会 がローマから 分 離 したことに 関 して、ガスリー 博 士 は 次 のように 書 いてい<br />

る。「 今 から 300 年 前 、わが 教 会 は、 開 かれた 聖 書 を 旗 印 とし、『 聖 書 を 調 べよ』を<br />

その 標 語 として、ローマの 門 から 進 み 出 た。」そして 彼 は、 次 のような 意 味 深 長 な 質<br />

問 を 発 するのである。「 果 たして 彼 らは、 完 全 にバビロンから 出 たであろうか?」 5<br />

また、スポルジョンは 言 っている。「 英 国 国 教 会 は、 徹 頭 徹 尾 、 秘 蹟 重 視 主 義 に 陥<br />

っているように 思 われる。しかし、 非 国 教 徒 も 同 様 に、はなはだしく 哲 学 的 不 信 に 打<br />

ち 負 かされているように 思 われる。われわれが 望 みをかけていた 者 たちが、1 人 また<br />

1 人 と、 信 仰 の 根 本 から 離 れ 去 っていく。わたしは、 今 や 英 国 の 心 臓 部 そのものが、<br />

279


国 際 協 定<br />

のろうべき 無 神 思 想 に 食 いつくされていると 思 う。それは、おくめんもなくなお 説 教<br />

壇 に 上 がって 自 らをキリスト 教 と 称 しているのだ。」<br />

この 大 背 教 の 原 因 は、… 体 なんであったであろうか。 教 会 はどのようにして、 福 音<br />

の 単 純 さから 離 れたのであろうか。それはキリスト 教 が、 異 教 徒 に 受 け 入 れられやす<br />

いようにと、 多 神 教 の 習 慣 に 順 応 したからであった。 使 徒 パウロは、 彼 の 時 代 におい<br />

てさえ、「 不 法 の 秘 密 の 力 が、すでに 働 いているのである」と 言 った[Ⅱテサロニケ<br />

2:。 使 徒 たちの 生 きている 間 は、 教 会 は、 比 較 的 純 潔 を 保 っていた。しかし、「2 世<br />

紀 の 終 わりごろに、たいていの 教 会 は、 新 しい 形 式 を 取 り 入 れた。 最 初 の 単 純 さは 消<br />

えた。そして、 徐 々に、 年 老 いた 弟 子 たちが 墓 に 入 るにつれて、 彼 らの 子 供 たちが、<br />

新 しい 改 心 者 たちとともに…… 登 場 し、 運 動 の 形 態 を 新 たなものにした。」 6 改 宗 者 を<br />

得 るために、キリスト 教 の 高 い 標 準 は 下 げられ、その 結 果 、「 多 神 教 が 洪 水 のように<br />

教 会 内 に 流 れ 込 み、その 習 慣 、 風 俗 、 偶 像 を 持 ち 込 んだ。」 7 キリスト 教 が、 世 俗 の<br />

支 配 者 たちの 愛 顧 と 支 持 を 受 けるにつれて、 一 般 大 衆 も 名 目 上 はキリスト 教 を 信 じる<br />

ようになった。しかし、キリスト 者 らしく 見 えても、 多 くの 者 は「 実 質 上 は 多 神 教 で<br />

あって、 特 に、 隠 れて 彼 らの 偶 像 を 礼 拝 していた。」 8 プロテスタントであると 称 す<br />

るたいていの 教 会 は、これと 同 様 の 過 程 を 経 たのではなかろうか。 真 の 改 革 の 精 神 を<br />

もっていた 創 立 者 たちが 死 ぬと、その 子 孫 たちが 登 場 して「 運 動 の 形 態 を 新 たなもの<br />

にする。」 改 革 者 の 子 孫 たちは、 父 祖 たちの 信 条 に 盲 目 的 に 固 執 して、 彼 らが 認 めた<br />

こと 以 上 の 真 理 を 受 け 入 れようとはせず、その 一 方 では、 父 祖 たちの 謙 遜 、 自 己 犠 牲 、<br />

世 俗 の 放 棄 などの 模 範 から、 遠 く 離 れていった。こうして、「 最 初 の 単 純 さは 消 え<br />

る。」 世 俗 の 洪 水 が 教 会 に 流 れ 込 んで、「その 習 慣 、 風 俗 、 偶 像 」を 持 ち 込 んだ。<br />

ああ、「 神 への 敵 対 」である 世 を 友 とする 精 神 が、 今 日 、キリストの 弟 子 であると<br />

称 する 人 々の 間 に、なんと 恐 ろしいばかりに、 広 く 行 きわたっていることであろう。<br />

キリスト 教 国 の 一 般 の 教 会 は、 謙 遜 、 自 己 犠 牲 、 単 純 、 敬 虔 といった 聖 書 の 標 準 から、<br />

なんと 遠 くかけ 離 れてしまったことであろう。ジョン・ウェスレーは、 金 銭 の 正 しい<br />

用 い 方 について、 次 のように 語 った。「このように 貴 重 なタレントは、 不 必 要 で 高 価<br />

な 衣 服 や、あるいは 不 用 な 飾 りなど、 単 に 目 の 欲 を 満 足 させるものに、 少 しでも 浪 費<br />

してはならない。 自 分 の 家 を 妙 に 飾 り 立 てるために 浪 費 してはならない。 不 必 要 な、<br />

または、 高 価 な 家 具 、ぜいたくな 絵 画 、 飾 り 物 のために 浪 費 してはならない。…… 持<br />

ち 物 の 誇 りを 満 足 させ、 人 間 の 賞 賛 を 得 るために 金 を 使 ってはならない。……『みず<br />

から 幸 いな 時 に、 人 々から 賞 賛 』される。あなたが『 紫 の 布 や 細 布 を 着 て、』『 毎 日<br />

ぜいたくに』 遊 び 暮 らしているならば、 確 かに 多 くの 者 は、あなたの 趣 味 の 高 尚 なこ<br />

とと、あなたの 気 前 よさと、 歓 待 ぶりを 賞 賛 するであろう。しかし、そのように 高 価<br />

280


国 際 協 定<br />

な 賞 賛 を 買 ってはならない。それよりも、 神 から 受 ける 栄 誉 に 満 足 すべきである。」 9<br />

ところが、われわれの 時 代 の 多 くの 教 会 は、こうした 教 えを 無 視 している。<br />

宗 教 を 告 白 することは、 世 の 人 々に 歓 迎 されるようになった。 為 政 者 、 政 治 家 、 弁<br />

護 士 、 医 師 、 実 業 家 などは、 社 会 の 尊 敬 と 信 頼 を 確 保 し、 自 分 たちの 世 俗 的 な 利 益 を<br />

増 進 するために、 教 会 に 加 わる。 こうして 彼 らは、キリスト 教 を 公 言 しながら、その<br />

かげであらゆる 不 正 な 取 引 を 行 おうとする。こうして 教 会 に 加 わった 世 俗 の 人 々の、<br />

富 と 影 響 力 によって 補 強 された 種 々の 宗 教 団 体 は、なおいっそう、 世 の 人 気 と 愛 顧 を<br />

得 ようと 努 力 する。ぜいを 尽 くした 教 会 堂 が、 繁 華 な 通 りに 建 設 され、 礼 拝 者 たちは、<br />

高 価 な 流 行 の 衣 服 をまとっている。 人 々を 喜 ばせ 引 きつける 才 能 ある 牧 師 に、 高 給 が<br />

支 払 われる。 彼 の 説 教 は、 人 々の 罪 にふれてはならず、 上 流 社 会 の 人 々の 耳 に 楽 しい<br />

快 いものでなければならない。こうして、 上 流 社 会 の 罪 人 たちが 教 会 の 名 簿 にのせら<br />

れ、 社 交 界 の 罪 が 信 心 深 い 装 いのかげに 隠 されている。<br />

現 代 の 自 称 キリスト 者 たちの 世 俗 に 対 する 態 度 について、ある 有 力 な 一 般 雑 誌 は 次<br />

のように 言 っている。「 教 会 は、 知 らず 知 らずのうちに、 時 代 の 精 神 に 順 応 し、その<br />

礼 拝 の 形 式 も、 現 代 の 要 求 に 適 応 させてしまった。」「 実 際 、 教 会 は、 今 や 宗 教 を 魅<br />

力 的 にするのに 役 立 つものならなんでも、その 手 段 として 用 いている。」また、ニュ<br />

ーヨークの『インディペンデント』 誌 の 筆 者 は、メソジスト 教 会 について、 次 のよう<br />

に 言 っている。「 信 心 深 い 者 と 宗 教 的 でない 者 との 区 別 は、あいまいになり、 双 方 の<br />

側 の 熱 心 な 人 々は、 彼 らの 行 動 や 楽 しみの 差 異 を 全 部 取 り 去 ろうと 努 力 している。」<br />

「 宗 教 を 信 じることが 一 般 に 歓 迎 されるようになると、その 義 務 を 十 分 に 果 たすこと<br />

をせずしてその 恩 恵 にあずかろうとする 者 が、はなはだしく 増 加 するようになる。」<br />

ハワード・クロスビーは、 次 のように 言 っている。「キリスト 教 会 が、 主 の 意 図 さ<br />

れることをほとんど 果 たしていない 状 態 は、まことに 憂 慮 すべきことである。ち ょう<br />

ど 昔 のユダヤ 人 たちが、 偶 像 国 民 と 親 しく 交 わって、その 心 を 神 から 奪 い 去 られたよ<br />

うに、……イエスの 教 会 は 今 、 不 信 仰 な 世 界 と 不 実 の 提 携 をして、 神 から 与 えられた<br />

真 の 生 活 の 指 針 を 放 棄 し、キリストを 信 じない 社 会 の、もっともらしいが 危 険 な 習 慣<br />

に 順 応 し、 神 の 啓 示 とは 無 関 係 で、 恵 みにおけるあらゆる 成 長 とは 全 く 反 対 の 議 論 を<br />

行 っては、そうした 結 論 に 達 している。」 10<br />

この 世 俗 化 と 快 楽 追 求 の 潮 流 の 中 で、キリストのための 克 己 と 自 己 犠 牲 とは、ほと<br />

んど 全 面 的 に 忘 れ 去 られている。「 今 、 教 会 で 活 動 している 男 女 のあるものは、 子 供<br />

の 時 に、キリストのために 何 かをささげるか、または 何 かを 行 うために、 犠 牲 を 払 う<br />

ようにと 教 えられたのである。」しかし「 今 、 資 金 が 欠 乏 していても、……ささげる<br />

281


国 際 協 定<br />

ようにとの 呼 びかけはだれにもなされない。それよりも、 慈 善 市 、 演 劇 、 模 擬 裁 判 、<br />

古 物 収 集 夕 食 会 、あるいは 何 かの 会 食 など—— 人 々を 楽 しませることを 行 おうとす<br />

る。」<br />

ウィスコンシン 州 のウォシュバーン 知 事 は、1873 年 1 月 9 日 の 年 頭 報 告 の 中 で 次<br />

のように 言 った。「ばくち 打 ちが 出 てくるような 学 校 を 閉 鎖 する 法 律 が 必 要 であるよ<br />

うに 思 われる。そういう 学 校 が 至 るところにある。 教 会 でさえ[ 疑 いもなく、 知 らずに<br />

ではあろうが]、 悪 魔 の 仕 事 をしていることがある。 時 には 宗 教 的 または 慈 善 の 目 的 で<br />

開 かれる 景 品 付 き 音 楽 会 や 景 品 付 き 売 り 出 し、 富 くじなどは、しぼしば、 福 引 きや 懸<br />

賞 袋 など 低 級 な 目 的 のためにも 開 かれており、これらはみな、 射 幸 心 をそそる 手 段 で<br />

ある。 特 に 青 年 たちにとって、 労 せずして 金 や 物 を 手 に 入 れることほど、 心 を 堕 落 さ<br />

せ、まひさせるものはない。りっぱな 人 々が、こうした 投 機 的 な 催 しにたずさわり、<br />

その 金 銭 はよい 目 的 のために 使 われるのだと 考 えて 安 心 している 間 に、 州 の 青 年 たち<br />

がかけごとに 熱 中 する 習 慣 に 陥 ってしまっても、 不 思 議 ではない。」<br />

世 俗 との 妥 協 の 精 神 が、キリスト 教 国 の 至 るところの 教 会 に 侵 入 しつつある。ロバ<br />

ート・アトキンスは、ロンドンでの 説 教 の 中 で、 英 国 に 広 く 行 きわたっている 霊 的 堕<br />

落 の 暗 い 絵 を 描 いて 次 のように 言 っている。「 真 に 正 しい 人 々は、 地 上 から 減 りつつ<br />

ある。そしてだれもそのことを 気 にかけない。 今 日 、 各 教 会 における 信 者 たちは、 世<br />

俗 を 愛 し、 世 俗 と 妥 協 し、 肉 体 的 な 楽 しみを 愛 し、そして 人 々の 尊 敬 を 得 たいとあこ<br />

がれている。 彼 らは、キリストとともに 苦 しむように 召 されているのに、 非 難 を 受 け<br />

ることさえ 恐 れている。…… 背 教 、 背 教 、 背 教 が、 各 教 会 の 真 正 面 に 刻 印 されている。<br />

もし 彼 らがそれを 知 り、それを 感 じるならば、 望 みがあろう。ところが、 悲 しいこと<br />

に 彼 らは、『 自 分 は 富 んでいる、 豊 かになった。なんの 不 自 由 もない』と 叫 ぶ。」 11<br />

バビロンに 対 して 宣 告 された 大 罪 は、「その 不 品 行 に 対 する 激 しい 怒 りのぶどう 酒<br />

を、あらゆる 国 民 に 飲 ませた」ことである。バビロンが 世 界 に 提 供 するこの 杯 は、バ<br />

ビロンが 地 上 の 勢 力 者 たちと 不 法 な 関 係 を 結 んだ 結 果 受 け 入 れた、 偽 りの 教 義 を 表 し<br />

ている。 世 を 友 とすることは、その 信 仰 を 腐 敗 させる。そして 一 方 バビロンのほうは、<br />

聖 書 の 明 白 な 言 葉 に 反 対 する 教 義 を 教 えて、 世 に 腐 敗 的 影 響 を 及 ぼすのである。<br />

ローマは、 人 々から 聖 書 を 取 り 上 げて、そのかわりにローマの 教 えを 受 け 入 れるよ<br />

う、すべての 者 に 要 求 した。 神 の 言 葉 を 人 々に 取 りもどすことが、 宗 教 改 革 の 働 きで<br />

あった。しかし、 今 日 の 教 会 においては、 聖 書 よりはむしろ 教 会 の 信 条 や 教 義 を 信 じ<br />

るように 人 々に 教 えているのが、かくれもない 事 実 ではなかろうか。チャールズ・ビ<br />

ーチャーは、プロテスタント 教 会 についてこう 語 った。「かつて 父 祖 たちが、 自 分 た<br />

282


国 際 協 定<br />

ちが 助 長 していたところの 聖 人 や 殉 教 者 たちへの 崇 敬 の 念 の 高 まりに 対 して、それを<br />

非 難 する 言 葉 を 注 意 深 く 避 けたように、 今 日 の 新 教 教 会 は、 信 条 を 非 難 するどのよう<br />

な 言 葉 をも、 注 意 深 く 避 けている。……プロテスタントの 福 音 諸 教 派 は、 自 分 の 教 派<br />

はもちろんのこと、 他 の 教 派 とも 非 常 に 堅 く 互 いに 手 を 握 り 合 っているために、 聖 書<br />

以 外 に 何 かの 書 を 受 け 入 れるのでなければ、だれも 絶 対 に 牧 師 になること ができな<br />

い。…… 昔 、ローマが 聖 書 を 禁 じたと 同 様 に、 今 や 信 条 の 力 が、より 隠 微 な 方 法 によ<br />

ってではあるが、 聖 書 を 禁 じ 始 めていると 言 っても、 決 して 単 なる 想 像 ではないので<br />

ある。」 12 忠 実 な 教 師 が、 神 の 言 葉 を 説 明 すると、 学 者 や、 自 分 は 聖 書 を 理 解 してい<br />

ると 主 張 する 牧 師 たちが 現 れて、 健 全 な 教 理 を 異 端 であると 非 難 し、こうして 真 理 の<br />

探 究 者 を 追 い 返 すのである。 世 界 がバビロンの 酒 に 酔 いつぶれていさえしなければ、<br />

多 くの 者 は、 神 の 言 葉 の 明 白 で 鋭 い 真 理 によって 心 を 打 たれ、 改 心 することであろう。<br />

しかし、 宗 教 的 信 条 が 非 常 に 混 乱 し 矛 盾 しているように 思 えるので、 人 々は 何 を 真 理<br />

として 信 じてよいのかわからずにいる。 世 界 が 悔 い 改 めないのは、 教 会 の 責 任 であ<br />

る。<br />

黙 示 録 14 章 の 第 二 天 使 の 使 命 は、 最 初 、1844 年 の 夏 、 宣 べ 伝 えられた。そして、<br />

それは 当 時 の 米 国 の 諸 教 会 に 直 接 当 てはまるものであった。 米 国 においては、 審 判 の<br />

警 告 が 最 も 広 く 宣 言 されたにもかかわらず、 大 部 分 の 教 会 はそれを 拒 否 して、 急 速 に<br />

堕 落 してしまった。しかし、 第 二 天 使 の 使 命 は、1844 年 に 完 全 な 成 就 を 見 たのでは<br />

なかった。その 時 、 教 会 は、 再 臨 使 命 の 光 を 拒 否 したために、 道 徳 的 堕 落 を 経 験 した<br />

のであったが、しかしその 堕 落 は、 全 面 的 なものではなかった。 諸 教 会 は 現 代 に 対 す<br />

る 特 別 な 真 理 を 拒 否 しつづけてきたために、ますますひどく 堕 落 してしまった。しか<br />

し、「バビロンは 倒 れた。……その 不 品 行 に 対 する 激 しい 怒 りのぶどう 酒 を、あらゆ<br />

る 国 民 に 飲 ませた 者 」と 言 うまでには、まだなっていない。 彼 女 はまだあらゆる 国 民<br />

に 飲 ませてはいない。 世 俗 と 妥 協 する 精 神 と、われわれの 運 命 を 決 定 する 現 代 の 真 理<br />

に 対 する 無 関 心 とが、すべてのキリスト 教 国 のプロテスタント 諸 教 会 内 で 力 を 得 てい<br />

る。こうした 教 会 も、 第 二 天 使 の 厳 粛 で 恐 るべき 告 発 の 中 に 含 まれる。しかし、 背 教<br />

の 活 動 は、まだその 頂 点 に 達 していない。<br />

聖 書 は、 主 の 再 臨 の 前 に、サタンが「あらゆる 偽 りの 力 と、しるしと、 不 思 議 と、<br />

また、あらゆる 不 義 の 惑 わしとを」もって 働 き、「 自 分 らの 救 となるべき 真 理 に 対 す<br />

る 愛 を 受 けいれ」ない 者 は、「 偽 りを 信 じるように、 迷 わす 力 」を 受 けるに 至 る、と<br />

言 っている[Ⅱテサロニケ 2:9~。こうした 状 態 になって、 教 会 と 世 俗 との 結 合 がキ<br />

リスト 教 国 全 体 において 完 全 に 行 われる 時 に、 初 めてバビロンの 堕 落 は 完 全 なものと<br />

なる。この 変 化 は 徐 々に 行 われる。 黙 示 録 14:8 の 全 面 的 成 就 は、まだ 将 来 のことで<br />

283


国 際 協 定<br />

ある。 バビロンを 構 成 する 諸 教 会 は、 霊 的 暗 黒 と 神 からの 離 反 に 陥 っているにもかか<br />

わらず、その 中 にはまだ、 真 のキリスト 者 が 数 多 くいる。この 時 代 のための 特 別 な 使<br />

命 をまだ 悟 っていない 人 々が 多 くいる。 自 分 たちの 現 状 に 満 足 せず、もっと 明 らかな<br />

光 を 待 ち 望 んでいる 者 が、 少 なくない。 彼 らは 自 分 たちの 所 属 する 教 会 の 中 に、キリ<br />

ストの 姿 を 見 ようとしても 見 ることができない。 こうした 諸 教 会 が、 真 理 からますま<br />

す 遠 く 離 れ、 世 俗 といっそう 密 接 に 結 合 するにつれて、2 つのグループの 人 々の 相 違<br />

は 大 きくなり、ついには 分 離 しなければならなくなる。この 上 なく 神 を 愛 する 人 々は、<br />

「 神 よりも 快 楽 を 愛 する 者 、 信 心 深 い 様 子 をしながらその 実 を 捨 てる 者 」たちとは、<br />

もはや 関 係 を 保 っことができなくなる 時 が 来 る。<br />

黙 示 録 18 章 は、 教 会 が、 黙 示 録 14:6~12 の 三 重 の 使 命 を 拒 否 した 結 果 、 第 二 天<br />

使 の 使 命 が 預 言 した 状 態 に 完 全 に 陥 り、そして、まだバビロンにいる 神 の 民 が、その<br />

中 から 出 るようにと 求 められる 時 を 示 している。これは、 世 界 に 発 せられる 最 後 の 器<br />

である。そしてそれは、その 働 きを 成 し 遂 げる。「 真 理 を 信 じないで 議 を 喜 んでいた」<br />

人 々は、 偽 りを 信 じ、 迷 わす 力 に 陥 るままにされる[Ⅱテサロニケ 2:。その 時 真 理 の<br />

光 は、それを 受 けようと 心 を 開 くすべての 人 の 上 に 輝 き、バビロンに 残 っている 主 の<br />

子 供 たちはみな、「わたしの 民 よ。 彼 女 から 離 れ 去 」れという 招 きの 声 に 耳 を 傾 ける<br />

のである[ 黙 示 録 18:。 ]<br />

284


国 際 協 定<br />

第 22 章 預 言 の 成 就<br />

主 の 再 臨 を 最 初 に 期 待 していた 時 ——すなわち 1844 年 の 春 ——が 過 ぎた 時 、 主 の<br />

出 現 を 信 仰 をもって 待 望 していた 人 々は、しばらくの 間 、 疑 惑 と 不 安 に 閉 ざされた。<br />

世 は、 彼 らが 全 く 敗 北 し、 妄 想 にとりつかれていたことを 証 明 したと 考 えたが、しか<br />

し 彼 らの 慰 めの 源 は、なお 神 の 言 葉 であった。 多 くの 者 は、 聖 書 の 研 究 を 続 け、 自 分<br />

たちの 信 仰 の 証 拠 を 改 めて 吟 味 し、 注 意 深 く 預 言 を 学 んで、もっと 光 を 受 けようとし<br />

た。 彼 らのとった 立 場 を 支 持 する 聖 書 の 証 言 は、 明 白 で 決 定 的 であった。まちがう 余<br />

地 のないいくつかのしるしが、キリストの 再 臨 の 近 いことを 示 していた。 罪 人 の 悔 い<br />

改 めとキリスト 者 の 霊 的 生 命 のリバイバルという 両 面 における 主 の 特 別 な 祝 福 は、そ<br />

の 使 命 が 神 からのものであることをあかししていた。そして 信 徒 たちは、 自 分 たちの<br />

失 望 を 説 明 することはできなかったけれども、これまでの 経 験 において 神 の 導 きがあ<br />

ったことを 確 信 した。 [1784.<br />

彼 らが 再 臨 の 時 にあてはまると 考 えた 預 言 の 中 には、 彼 らの 不 安 と 気 がかりな 状 態<br />

に 対 して 特 にあてはまる 教 訓 があった。そしてそれは、 今 はわからないことでも、や<br />

がて 明 らかにされるという 信 仰 をもって 耐 え 忍 んで 待 つようにと、 彼 らを 励 ますもの<br />

であった。 これらの 預 言 の 中 に、ハバクク 2:1~4 の 預 言 があった。「わたしはわ<br />

たしの 見 張 所 に 立 ち、 物 見 やぐらに 身 を 置 き、 望 み 見 て、 彼 がわたしになんと 語 られ<br />

るかを 見 、またわたしの 訴 えについてわたし 自 らなんと 答 えたらよかろうかを 見 よう。<br />

主 はわたしに 答 えて 言 われた、『この 幻 を 書 き、これを 板 の 上 に 明 らかにしるし、 走<br />

りながらも、これを 読 みうるようにせよ。この 幻 はなお 定 められたときを 待 ち、 終 り<br />

をさして 急 いでいる。それは 偽 りではない。もしおそければ 待 っておれ。それは 必 ず<br />

臨 む。 滞 りはしない。 見 よ、その 魂 の 正 しくない 者 は 衰 える。しかし 義 人 はその 信 仰<br />

によって 生 きる』。」<br />

「この 幻 を 書 き、これを 板 の 上 に 明 らかにしるし、 走 りながらも、これを 読 みうる<br />

ようにせよ」というこの 預 言 の 指 示 は、 早 くも 1842 年 に、ダニエル 書 と 黙 示 録 の 幻<br />

を 説 明 する 図 表 の 作 製 をチャールズ・フィッチに 思 いつかせていた。この 図 表 の 発 表<br />

は、ババククによって 与 えられた 命 令 の 実 現 であると 考 えられた。しかし、 幻 の 成 就<br />

には 一 見 遅 延 —— 時 期 が 遅 れること——があるということが 同 じ 預 言 の 中 に 示 されて<br />

いることに、その 時 だれも 気 づかなかった。 失 望 後 、この 聖 句 は 非 常 に 意 味 深 く 思 わ<br />

れた。「この 幻 はなお 定 められたときを 待 ち、 終 りをさして 急 いでいる。それは 偽 り<br />

ではない。もしおそければ 待 っておれ。それは 必 ず 臨 む。 滞 りはしない。…… 義 人 は<br />

285


国 際 協 定<br />

その 信 仰 によって 生 きる。」また、エゼキエルの 預 言 の 一 部 が 信 徒 にとって 力 と 慰 め<br />

の 源 となった。「 主 の 言 葉 がわたしに 臨 んだ、『 人 の 子 よ、イスラエルの 地 について、<br />

あなたがたが「 日 は 延 び、すべての 幻 はむなしくなった」という、このことわざはな<br />

んであるか。それゆえ、 彼 らに 言 え、「 主 なる 神 はこう 言 われる、…… 日 とすべての<br />

幻 の 実 現 とは 近 づいた」と。……わたしは、わが 語 るべ きことを 語 り、それは 必 ず 成<br />

就 する。 決 して 延 びることはない。』」「イスラエルの 家 は 言 う、『 彼 の 見 る 幻 は、<br />

なお 多 くの 日 の 後 の 事 である。 彼 が 預 言 することは 遠 い 後 の 時 のことである』と。そ<br />

れゆえ、 彼 らに 言 え、 主 なる 神 はこう 言 われる、わたしの 言 葉 はもはや 延 びない。わ<br />

たしの 語 る 言 葉 は 成 就 すると、 主 なる 神 は 言 われる」[エゼキエル 12:2Ⅰ~25、<br />

27、。<br />

待 っていた 人 々は、 初 めから 終 わりのことを 知 っておられる 方 が、 各 時 代 を 見 通 し、<br />

彼 らの 失 望 を 予 見 して、 勇 気 と 希 望 の 言 葉 を 与 えておられたことを 信 じて、 喜 んだ。<br />

忍 耐 して 待 ち、 神 の 言 葉 を 堅 く 信 じることを 教 えるこうした 聖 書 の 言 葉 がなかったな<br />

らば、 彼 らの 信 仰 は、この 試 練 の 時 にくじけてしまったことであろう。<br />

マタイ 25 章 の、10 人 のおとめのたとえも、 再 臨 信 徒 の 経 験 を 説 明 している。マタ<br />

イ 24 章 において、キリストは、 再 臨 と 世 の 終 わりについての 弟 子 たちの 質 問 に 答 え<br />

て、 彼 の 初 臨 から 再 臨 までの 間 の 世 界 と 教 会 の 歴 史 における 重 要 なできごとをいくつ<br />

か 指 摘 された。すなわち、それらは、エルサレムの 滅 亡 、 異 教 および 法 王 権 の 迫 害 に<br />

よる 教 会 の 大 患 難 、 日 と 月 が 暗 くなること、 落 星 などであった。この 後 で、 彼 は、ご<br />

自 分 がみ 国 の 力 をもって 来 ることを 語 られ、 彼 の 出 現 を 待 つ 2 種 類 のしもべたちにつ<br />

いてのたとえを 話 された。25 章 は、「そこで 天 国 は、10 人 のおとめ……に 似 ている」<br />

という 言 葉 で 始 まっている。ここに、24 章 の 終 わりに 示 されているのと 同 様 の、 終 末<br />

時 代 に 存 在 する 教 会 が 描 かれている。このたとえにおいて、 彼 らの 経 験 は、 東 洋 の 婚<br />

礼 というできごとによって 説 明 されている。 「そこで 天 国 は、10 人 のおとめがそれ<br />

ぞれあかりを 手 にして、 花 婿 を 迎 えに 出 て 行 くのに 似 ている。その 中 の 5 人 は 思 慮 が<br />

浅 く、5 人 は 思 慮 深 い 者 であった。 思 慮 の 浅 い 者 たちは、あかりは 持 っていたが、 油<br />

を 用 意 していなかった。しかし、 思 慮 深 い 者 たちは、 自 分 たちのあかりと 一 緒 に、 入<br />

れものの 中 に 油 を 用 意 していた。 花 婿 の 来 るのがおくれたので、 彼 らはみな 居 眠 りを<br />

して、 寝 てしまった。 夜 中 に、『さあ、 花 婿 だ、 迎 えに 出 なさい』と 呼 ぶ 声 がし<br />

た。」<br />

第 一 天 使 の 使 命 が 布 告 したキリストの 再 臨 は、 花 婿 が 来 ることによって 表 示 されて<br />

いると 理 解 された。キリストの 再 臨 が 近 いという 布 告 を 聞 いて 広 く 改 革 が 行 われたこ<br />

とは、おとめたちが 出 迎 えたことに 相 当 するものであった。マタイ 24 章 と 同 じく、<br />

286


国 際 協 定<br />

このたとえにおいても、2 種 類 の 人 々が 表 されている。すべての 者 が、あかりである<br />

聖 書 を 手 にし、その 光 によって 花 婿 を 出 迎 えようとした。ところが、「 思 慮 の 浅 い 者<br />

たちは、あかりは 持 っていたが、 油 を 用 意 していなかった。」「 思 慮 深 い 者 たちは、<br />

自 分 たちのあかりと 一 緒 に、 入 れものの 中 に 油 を 用 意 していた。」 思 慮 深 い 者 たちは、<br />

神 の 恵 み、すなわち、 神 の 言 葉 を 足 のともしび、また 道 の 光 とするところの、 聖 霊 の<br />

再 生 と 啓 発 の 力 を 受 けていた。 彼 らは 神 を 恐 れ 敬 い、 真 理 を 学 ぶために 聖 書 を 研 究 し、<br />

心 と 生 活 の 清 めを 熱 心 に 求 めていた。この 人 々は、 自 分 自 身 の 体 験 を 持 ち、 神 とみ 言<br />

葉 に 対 する 信 仰 を 持 っていたから、 失 望 や 遅 延 にもくじけることはなかった。 他 の 者<br />

たちは、「あかりは 持 っていたが、 油 を 用 意 していなかった。」 彼 らは、 衝 動 に 動 か<br />

されたのであった。 彼 らは、 厳 粛 な 使 命 を 聞 いて 恐 れを 感 じはしたものの、 同 信 の 友<br />

だちの 信 仰 にたよって、 真 理 の 十 分 な 理 解 を 持 たず、また 心 に 恵 みの 真 の 働 きを 経 験<br />

せずに、 良 き 感 情 という 危 げな 光 に 満 足 していた。 彼 らは、すぐに 報 いが 与 えられる<br />

ものと 期 待 して、 主 を 迎 えに 出 た。しかし 彼 らには、 遅 延 や 失 望 に 対 する 用 意 がなか<br />

った。 試 練 が 来 た 時 に、 彼 らの 信 仰 はくじけ、 彼 らの 光 は 消 えそうになった。<br />

「 花 婿 の 来 るのがおくれたので、 彼 らはみな 居 眠 りをし」た。 花 婿 の 遅 延 は、 主 が<br />

来 られると 期 待 した 際 の 時 の 経 過 と、 失 望 と、そして 一 見 遅 延 と 思 われたこととを 表<br />

していた。この 不 安 な 時 において、 表 面 的 で 半 信 半 疑 の 人 々の 興 味 はすぐに 動 揺 し 始<br />

め、その 努 力 はゆるみ 始 めた。しかし、 自 分 で 得 た 聖 書 の 知 識 に 信 仰 の 基 礎 を 置 いた<br />

人 々は、 失 望 の 波 に 洗 い 去 られることのない 岩 の 上 に 立 っていた。「みな 居 眠 りをし<br />

て、 寝 てしまった。」 一 方 の 人 々は 自 分 たちの 信 仰 を 平 然 と 放 棄 して、そしてもう 一<br />

方 の 人 々は、より 明 らかな 光 が 与 えられるまで 忍 耐 して 待 ちながら。しかし、 試 練 の<br />

夜 、 後 者 は 彼 らの 熱 心 と 献 身 をいくぶんか 失 うかにみえた。 不 熱 心 で 表 面 的 な 人 々は、<br />

もはや 同 信 の 友 だちの 信 仰 に 頼 ることができなかった。 各 自 が、 自 分 で 立 つか、 倒 れ<br />

るかしなければならなかった。<br />

ちょうどこのころ、 狂 信 が 現 れ 始 めた。これまで 使 命 を 熱 心 に 信 じると 言 っていた<br />

人 々が、 誤 りのない 手 引 きとしての 神 の 言 葉 を 拒 否 して、 自 分 は 聖 霊 に 導 かれている<br />

と 称 し、 彼 ら 自 身 の 感 情 、 印 象 、 想 像 に 身 をゆだねた。 ある 者 たちは、 無 分 別 で 頑 迷<br />

な 熱 心 さをあらわして、 自 分 たちの 行 動 を 認 めない 者 をみな 非 難 した。 彼 らの 狂 信 的<br />

な 考 えと 行 動 は、 再 臨 信 徒 の 大 部 分 の 者 の 共 感 を 得 られなかったが、しかし、こうし<br />

た 者 たちのために、 真 理 の 運 動 そのものが 非 難 を 受 けたりした。 サタンは、こうした<br />

方 法 で 神 の 働 きに 反 対 し、それを 打 ちこわそうとしていた。 人 々は、 再 臨 運 動 によっ<br />

て 非 常 な 感 銘 を 受 け、 遅 延 の 期 間 中 でさえ、 幾 千 の 罪 人 が 悔 い 改 め、 忠 実 な 人 々が 真<br />

理 の 宣 布 のために 献 身 していた。 悪 の 君 は、 彼 の 部 下 たちを 失 いつつあった。そこで<br />

287


国 際 協 定<br />

彼 は、 神 の 働 きに 恥 辱 をもたらすために、 信 仰 を 表 明 している 人 々のある 者 たちを 欺<br />

いて、 極 端 に 走 らせようとした。そうしておいて、 彼 の 部 下 たちは、すぐにその 誤 り<br />

や 失 敗 や 見 苦 しい 行 為 をみな 取 り 上 げて、それをはなはだしく 誇 張 して 人 々に 示 し、<br />

再 臨 信 徒 とその 信 仰 を 憎 むべきものであると 思 わせようとした。こうして、 再 臨 信 仰<br />

を 公 言 していても 心 がサタンの 力 に 支 配 されている 者 が 多 ければ 多 いほど、 彼 らを 信<br />

者 全 体 の 代 表 であるとして 人 々の 注 目 を 引 くことによって、サタンはますます 有 利 に<br />

なるのである。<br />

サタンは、「われらの 兄 弟 らを 訴 える 者 」である。そして、 人 々に 主 の 民 の 誤 りや<br />

欠 点 を 見 つけさせ、それを 注 目 の 的 にする 一 方 、 彼 らの 善 行 は 何 も 言 わずに 見 過 ごし<br />

てしまわせることが、サタンの 精 神 である。サタンは、 神 が 救 霊 のために 活 動 される<br />

ときは、いつも 活 躍 する。 神 の 子 供 たちが 主 の 前 に 現 れる 時 、サタンも 彼 らの 中 にい<br />

る。すべてのリバイバル 集 会 において、 彼 は、 心 が 清 められず、 精 神 の 不 健 全 な 者 を<br />

参 加 させようとしている。この 人 々が、 真 理 のいくぶんかを 信 じて、 信 者 の 仲 間 に 入<br />

ると、サタンは、 彼 らを 通 して、 軽 率 な 人 々を 欺 く 説 を 持 ち 込 んでくる。 神 の 子 供 た<br />

ちの 仲 間 に 入 り、 礼 拝 の 家 にいて、 主 の 聖 餐 にあずかるからといって、その 人 が 真 の<br />

キリスト 者 であるとはかぎらない。サタンはしばしば、 彼 が 用 いることのできる 者 の<br />

姿 をかりて、 最 も 厳 粛 な 集 会 に 連 なっている。<br />

悪 の 君 は、 神 の 民 が 天 の 都 に 向 かって 進 む 旅 のその 1 歩 ごとに 妨 害 をする。 教 会 の<br />

全 歴 史 において、 改 革 が 行 われるときには 必 ず 重 大 な 障 害 があった。パウロの 時 代 に<br />

おいてもそうであった。 彼 が 教 会 を 起 こしたところではどこでも、 信 じると 言 いなが<br />

ら 異 端 をもたらす 者 たちがあった。そして、もしそれを 信 じるならば、ついには 真 理<br />

に 対 する 愛 が 失 われてしまうのであった。ルターもまた、 直 接 神 の 言 葉 に 接 したと 主<br />

張 して 自 分 の 考 えや 意 見 を 聖 書 の 証 言 以 上 に 重 要 視 する 狂 信 的 な 人 々に、 非 常 に 悩 ま<br />

され 苦 しめられた。 信 仰 と 経 験 に 欠 けていながら、 相 当 のうぬぼれを 持 ち、 新 奇 なこ<br />

とを 聞 いたり 話 したりすることが 好 きな 多 くの 人 々は、このような 新 しい 教 師 の 主 張<br />

に 欺 かれ、 神 がルターを 動 かして 打 ちたてようとなさったことを 破 壊 するサタンの 働<br />

きの、その 手 先 となった。また、ウェスレー 兄 弟 や、またその 感 化 力 と 信 仰 とによっ<br />

て 世 界 に 祝 福 をもたらした 他 の 人 々も、 過 激 で 不 健 全 で 清 められていない 人 々をあら<br />

ゆる 種 類 の 狂 信 に 陥 れるサタンの 策 略 に、 終 始 悩 まされたのである。<br />

ウィリアム・ミラーは、そうした 狂 信 的 傾 向 への 動 きには 共 鳴 しなかった。 彼 は、<br />

ルターと 同 様 に、すべての 霊 は 神 の 言 葉 によって 試 されるべきであると 断 言 した。ミ<br />

ラーは 言 った。「 悪 魔 は、 今 日 、ある 人 々の 心 に 大 きな 勢 力 を 持 っている。われわれ<br />

は、 彼 らがどのような 霊 を 持 っているかを、どうやって 知 ることができるであろうか。<br />

288


国 際 協 定<br />

聖 書 は、『あなたがたは、その 実 によって 彼 らを 見 わけるであろう』と 答 えてい<br />

る。……さまざまな 霊 が 世 に 現 れてきている。そしてわれわれは、 霊 を 試 すように 命<br />

じられている。この 世 の 中 にあって、われわれを 落 ち 着 いて 正 しく 信 仰 深 く 生 きるよ<br />

うにさせない 霊 は、キリストの 霊 ではない。このような 熱 狂 的 運 動 は、サタンによる<br />

ところ 大 であるとの 確 信 を、わたしはますます 強 くしている。……われわれの 中 には、<br />

全 く 清 められたと 主 張 する 者 が 多 くあるが、 彼 らは、 人 間 の 言 い 伝 えに 従 っているの<br />

であって、 真 理 を 信 じることを 表 明 しない 他 の 人 々と 同 様 に、 真 理 のことは 何 も 知 ら<br />

ないように 思 われる。」 1 「 誤 りの 霊 は、われわれを 真 理 から 離 れさせる。そして、 神<br />

の 霊 は、われわれを 真 理 に 導 くのである。しかし、あなたがたは 言 うであろう。 人 は<br />

誤 りの 中 にいながら 自 分 は 真 理 を 持 っていると 考 える 時 がある。その 場 合 はどうなの<br />

か、と。われわれはこう 答 える。 霊 と 言 葉 とは 一 致 する、と。もし 人 が、 神 の 言 葉 に<br />

よって 自 分 を 判 断 し、 神 の 言 葉 全 体 と 完 全 に 調 和 していることがわかれば、その 時 に<br />

は 自 分 は 真 理 を 持 っていると 信 じなければならない。しかし、もし 自 分 を 導 いている<br />

霊 が、 神 の 律 法 や 聖 書 の 全 体 の 主 旨 と 調 和 しないならば、 悪 魔 のわなに 捕 らえられる<br />

ことのないように、 注 意 して 歩 かなければならない。」 2 「わたしは、しばしば、キリ<br />

スト 教 国 全 体 の 雑 音 の 中 よりは、 輝 く 目 、 涙 にぬれたほお、とだえがちな 言 葉 の 中 に、<br />

内 的 敬 虔 さの 証 拠 をより 多 く 見 つけるのであった。」 3<br />

宗 教 改 革 の 時 代 に、 改 革 の 敵 たちは、 狂 信 の 害 悪 をすべて、 最 も 熱 心 に 狂 信 に 反 対<br />

して 働 いていた 人 々 自 身 のせいにした。 同 様 のことが、 再 臨 運 動 の 反 対 者 たちによっ<br />

て 行 われた。 極 端 な 人 々や 狂 信 的 な 人 々の 誤 りを、 偽 り 誇 張 して 伝 えるだけでは 満 足<br />

せずに、なんの 根 拠 もない 悪 評 を 言 いふらした。これらの 人 々は、 偏 見 と 憎 しみに 動<br />

かされていた。 彼 らは、キリストが 門 口 に 来 られたという 宣 言 を 聞 いて 心 の 平 和 を 破<br />

られた。 彼 らは、それが 真 実 かもしれないと 恐 れながら、そうでないことを 望 んだ。<br />

彼 らが 再 臨 信 徒 とその 信 仰 に 戦 いをいどんだ 秘 密 はこれであった。<br />

パウロやルターの 時 代 に、 教 会 に 狂 信 者 や 欺 瞞 者 がいたからといって、 彼 らの 働 き<br />

を 非 難 する 理 由 にはならないのと 同 様 に、 再 臨 信 徒 の 中 に 少 数 の 狂 信 者 がいたからと<br />

いって、それが 神 の 運 動 でなかったと 決 める 理 由 にはならない。 神 の 民 が、 眠 りから<br />

さめて、 悔 い 改 めと 改 革 の 業 に 熱 心 に 取 りかかるなら、また、イエスにある 真 理 を 学<br />

ぶために、 聖 書 を 探 るなら、そして、 神 に 対 して 全 的 な 献 身 をするなら、その 時 には、<br />

サタンが 今 なお 抜 け 目 なく 活 動 しているということが、よくわかるであろう。サタン<br />

は、できるかぎりの 欺 瞞 を 働 かせ、 彼 の 支 配 下 のすべての 堕 落 天 使 を 動 員 して、 彼 の<br />

力 をあらわすであろう。<br />

289


国 際 協 定<br />

再 臨 の 宣 布 が、 狂 信 と 分 裂 を 引 き 起 こしたのではなかった。これらのことは、 再 臨<br />

信 徒 たちが、 自 分 たちの 真 の 立 場 について 疑 惑 と 困 惑 の 状 態 にあった 1844 年 の 夏 に、<br />

起 きたのである。 第 一 天 使 の 使 命 と「 夜 中 の 叫 び」は、 直 接 、 狂 信 と 分 裂 をしずめる<br />

のに 役 立 った。この 厳 粛 な 運 動 に 参 加 した 人 々は 一 致 していた。 彼 らの 心 は、お 互 い<br />

に 対 する 愛 と、まもなくお 目 にかかると 待 望 していたイエスに 対 する 愛 に 満 ちていた。<br />

1 つの 信 仰 、1 つの 祝 福 された 望 みが、 彼 らを 高 めて、どんな 人 間 的 影 響 にも 左 右 さ<br />

れぬようにし、サタンの 攻 撃 から 彼 らを 守 ったのである。 「 花 婿 の 来 るのがおくれた<br />

ので、 彼 らはみな 居 眠 りをして、 寝 てしまった。 夜 中 に、『さあ、 花 婿 だ、 迎 えに 出<br />

なさい』と 呼 ぶ 声 がした。そのとき、おとめたちはみな 起 きて、それぞれあかりを 整<br />

えた」[マタイ 25:5~。 最 初 、2300 日 が 終 わると 考 えられた 時 と、 後 に、それが 延<br />

長 していると 考 えられた 同 年 の 秋 との、その 中 間 の 1844 年 の 夏 に、ちょうど 聖 書 の<br />

言 葉 どおり、「さあ 花 婿 だ、 迎 えに 出 なさい」という 使 命 が 伝 えられた。<br />

この 運 動 が 起 きたのは、2300 日 の 起 算 点 であるところの、エルサレムを 建 て 直 せ<br />

というアルタシャスタ 王 の 勅 令 は、 紀 元 前 457 年 の 秋 に 効 力 を 発 したのであって、 以<br />

前 に 信 じられていたように、その 年 の 初 めではなかったということが、 発 見 されたか<br />

らであった。457 年 の 秋 から 数 えれば、2300 年 は、1844 年 の 秋 に 完 了 する。 また、<br />

旧 約 聖 書 の 型 から 見 ても、「 聖 所 の 清 め」によって 表 わされている 事 件 が 起 こるのは、<br />

秋 であることが 示 されていた。これは、キリストの 初 臨 に 関 する 型 が 成 就 した 方 法 に<br />

注 目 した 時 、 非 常 に 明 瞭 となった。<br />

過 越 の 小 羊 をほふることは、キリストの 死 の 型 であった。パウロは 次 のように 言 っ<br />

ている。「わたしたちの 過 越 の 小 羊 であるキリストは、すでにほふられたのだ」[Ⅰコ<br />

リント 5:。 過 越 の 祭 りの 時 に 主 の 前 で 揺 り 動 かす 初 穂 の 束 は、キリストの 復 活 の 典<br />

型 であった。パウロは、 主 と 主 のすべての 民 との 復 活 について、こう 述 べてい<br />

る。 「 最 初 はキリスト、 次 に、 主 の 来 臨 に 際 してキリストに 属 する 者 たち」[Ⅰコリ<br />

ント 15:。 収 穫 に 先 だって 最 初 に 実 った 穀 物 が 揺 祭 としてささげられたように、キリ<br />

ストは、 将 来 復 活 の 時 に 神 の 倉 に 収 められる 贖 われた 人 々の、 永 遠 の 収 穫 の 初 穂 であ<br />

る。<br />

290


国 際 協 定<br />

2300 日 の 予 言<br />

預 言 的 な 日 = 1 つの 文 字 通 りの 年<br />

34-35<br />

偵 察 隊 が 四 十 日 間 カナンの 国 にいたように、 彼 らの 一 日 を 一 年 と 数 えて 四 十 年 間 、<br />

荒 野 にいて 罪 を 償 わなければならない。 神 に 背 けばどうなるか、よく 思 い 知 るだろう。<br />

それらの 者 は 一 人 残 らずこの 荒 野 で 死 ぬと、 主 が 言 われたのだ。』」[ 民 数 記 14:34-<br />

35] 6 次 に、ユダに 対 する 罰 の 期 間 を 示 すために 四 十 日 間 、 今 度 は 右 わきを 下 にして<br />

横 になりなさい。やはり 一 日 は 一 年 に 相 当 する。[エゼキエル 書 4:6]<br />

紀 元 前 457 年 – 西 暦 1844 年 = 2300 日 / 年 . 14 もう 一 人 が 答 えました。「 二 千 三 百<br />

日 が 過 ぎてからだ。」[ダニエル 書 8:14] 24 主 は、エルサレムとあなたの 同 胞 とに、さ<br />

らに 四 百 九 十 年 に 及 ぶさばきを 言 い 渡 した。そののち、ようやく 彼 らは 罪 から 離 れる<br />

ようになり、その 罪 のとがめから 解 き 放 たれる。それから、 永 遠 の 義 の 支 配 が 始 まり、<br />

預 言 者 たちが 告 げたように、 神 殿 の 至 聖 所 が 再 建 される。[ダニエル 書 9:24]<br />

紀 元 前 457 年 – エルサレムを 再 建 する 王 の 法 令 . 25 さあ、よく 聞 け。エルサレム 再<br />

建 の 命 令 が 出 てから 油 を 注 がれた 方 が 来 るまで、 四 十 九 年 に 加 えて 四 百 三 十 四 年 かか<br />

る。それは 苦 しい 時 代 だが、その 間 にエルサレムの 城 壁 も 町 も 再 建 される。[ダニエル<br />

書 9:25]<br />

291


国 際 協 定<br />

紀 元 前 408 年 – エルサレムの 再 建<br />

西 暦 27 年 – 27 この 王 は、 神 の 民 と 七 年 の 条 約 を 結 ぶが、その 期 限 の 半 ばで 約 束 を 破<br />

り、ユダヤ 人 がいけにえとささげ 物 をささげるのをすべてやめさせる。それから、そ<br />

の 恐 ろしい 行 為 の 絶 頂 として、この 敵 である 王 は 神 の 聖 所 を 徹 底 的 に 汚 す。だが、 神<br />

の 時 と 計 画 に 従 って、この 悪 者 に 断 固 たるさばきが 下 される。」[ダニエル 書 9:27]<br />

西 暦 31 年 –イエス・キリストの 磔 刑 と 死 -- その 期 限 の 半 ばで 約 束 を 破 り、ユダヤ 人<br />

がいけにえとささげ 物 をささげるのをすべてやめさせる[ダニエル 書 9:27]<br />

西 暦 34 年 –スティーブンの 石 投 げ. [ユダヤ 人 の 締 め 切 り-- . 異 邦 人 に 与 えられた 福<br />

音 ] 14 そして、 御 国 についてのすばらしい 知 らせが 全 世 界 に 宣 べ 伝 えられ、すべての 国<br />

民 がそれを 耳 にします。それから、ほんとうの 終 わりが 来 るのです。[マタイの 福 音 書<br />

24:14] 46 そこでパウロとバルナバは、はっきり 言 いました。「この 神 のことばは、ま<br />

ずあなたがたユダヤ 人 に 伝 えられるはずだった。だが、あなたがたはそれを 突 っぱね、<br />

永 遠 のいのちを 受 けるにふさわしくない 者 であることを、 自 分 から 証 明 したのだ。こ<br />

れからは、このすばらしい 知 らせは、 外 国 人 に 伝 えよう。[ 使 徒 の 働 き 13:46]<br />

1<br />

西 暦 70 年 – エルサレムの 破 壊 イエスが 神 殿 の 庭 から 出 ようとしておられると、 弟 子<br />

たちが 近 寄 って 来 て、「この 神 殿 は、たいそうりっぱですね」と 言 いました。 2 とこ<br />

ろが、イエスは 言 われました。「 今 、あなたがたが 目 を 見 張 っているこれらの 建 物 は、<br />

一 つの 石 もほかの 石 の 上 に 残 らないほど、あとかたもなく 壊 されてしまいます。」[マ<br />

タイの 福 音 書 24:1, 2] 15 ですから、 預 言 者 ダニエルが 語 った、あの 恐 るべきものが<br />

聖 所 に 立 つのを 見 たなら〔 読 者 よ、この 意 味 をよく 考 えなさい〕… 21 その 時 には、 歴<br />

史 上 、 類 を 見 ないような 大 迫 害 が 起 こるからです。[マタイの 福 音 書 24:15, 21]<br />

1810 日 / 年 – 大 祭 司 としてのイエス・キリストの 働 き, 天 国 の 聖 域 で.<br />

14<br />

しかし、 私 たちを 助 けるために 天 にのぼられた 偉 大 な 大 祭 司 、 神 の 子 イエスが 味 方<br />

になってくださるのですから、 私 たちの 告 白 する 信 仰 を 決 して 失 うことがないように<br />

しましょう。 15 この 大 祭 司 は 私 たちと 同 じ 試 練 に 会 われたので、 人 間 の 弱 さをよく 知<br />

っておられ、ただの 一 度 も、 誘 惑 に 負 けて 罪 を 犯 したことはありません。 16 ですから<br />

躊 躇 せず、 神 の 御 座 に 近 づいてあわれみを 受 け、 時 にかなって 与 えられる 恵 みをいた<br />

だこうではありませんか。[へブル 人 への 手 紙 4:14-16]<br />

こうした 型 は、そのできごとだけでなくて、その 時 に 関 しても 成 就 した。ユダヤ 暦<br />

の 1 月 14 日 、すなわち 1500 年 という 長 期 にわたって 過 越 の 小 羊 がほふられてきた<br />

その 月 その 日 に、キリストは、 弟 子 たちと 過 越 の 食 事 をともにし、「 世 の 罪 を 取 り 除<br />

292


国 際 協 定<br />

く 神 の 小 羊 」としてのご 自 身 の 死 を 記 念 する 式 典 を 制 定 された。その 夜 、 彼 は 悪 人 た<br />

ちの 手 に 捕 らえられ、そして 十 字 架 にかけられて 殺 されることになった。そして、わ<br />

れわれの 主 は、 揺 祭 の 束 の 実 体 として、3 日 目 に 死 からよみがえり、「 眠 っている 者<br />

の 初 穂 」となり、 贖 われたすべての 者 の「 卑 しいからだを、ご 自 身 の 栄 光 のからだと<br />

同 じかたちに 変 え」ることを 実 証 された[ 同 15:20、ピリピ 3:。<br />

これと 同 様 に、 再 臨 に 関 連 した 型 も、 象 徴 的 奉 仕 の 中 で 指 示 されたその 時 期 に 成 就<br />

しなければならない。モーセの 律 法 において、 聖 所 の 清 め、すなわち、 大 いなる 贖 罪<br />

の 日 は、ユダヤ 暦 の 7 月 10 日 に 行 われた[レビ 16:29~。その 日 に、 大 祭 司 は、 全<br />

イスラエル 人 の 罪 の 贖 いをなし、 彼 らの 罪 を 聖 所 から 除 き、 出 て 来 て、 民 を 祝 福 した。<br />

そのように、われわれの 大 祭 司 キリストが 現 れて、 罪 と 罪 人 を 滅 ぼし、 地 を 清 め、 待<br />

望 していた 神 の 民 に 永 遠 の 生 命 を 与 えるものと、 人 々は 信 じた。 聖 所 の 清 めの 時 であ<br />

る 大 いなる 贖 罪 の 日 の 7 月 10 日 は、1844 年 の 10 月 22 日 にあたり、その 日 が 主 の<br />

再 臨 の 時 であると 考 えられた。これは、2300 日 が 秋 に 終 結 するという 前 記 の 証 拠 と<br />

も 一 致 し、この 結 論 は 反 論 できないと 思 われた。 マタイ 25 章 のたとえでは、 待 機 と<br />

眠 りのあとに 花 婿 が 来 ることになっている。これは、 預 言 と 型 との 両 面 から 提 示 され<br />

た 今 の 議 論 とも 一 致 していた。 彼 らは、それらが 真 実 であることを 堅 く 信 じた。そし<br />

て、「 夜 中 の 叫 び」が、 幾 千 の 信 徒 たちによって 叫 ばれた。<br />

主 に 立 ち 返 れ<br />

この 運 動 は、 潮 流 のように 全 土 を 覆 った。 町 々、 村 々、そして 僻 地 にまで 伝 えられ<br />

て、 待 望 していた 神 の 民 は、 完 全 にめざめるに 至 った。 狂 信 は、 昇 る 太 陽 の 前 の 朝 霜<br />

のように、この 宣 言 の 前 に 消 えていった。 信 徒 たちは、 自 分 たちの 疑 いと 困 惑 とが 取<br />

り 除 かれたことを 知 り、 希 望 と 勇 気 が 彼 らの 心 を 活 気 づけた。この 運 動 には、 人 間 的<br />

興 奮 だけで 神 の 言 葉 と 霊 に 支 配 されていない 時 に 常 にあらわれるところの 極 端 さがな<br />

かった。それは、 古 代 のイスラエルが、 神 のしもべたちからの 譴 責 のメッセージを 受<br />

けて、 心 を 低 くし、 主 に 立 ち 返 る 時 の 様 子 に 似 ていた。それは、 各 時 代 における 神 の<br />

働 きのしるしであるところの 特 徴 を 帯 びていた。 彼 らは 無 我 夢 中 で 喜 ぶというこ とは<br />

せず、 深 く 心 を 探 り、 罪 を 告 白 し、 世 俗 を 捨 てるのであった。 主 に 会 う 準 備 をすると<br />

いうことが、 苦 悶 する 魂 の、 心 の 重 荷 であった。 彼 らは、たゆまず 祈 るとともに、 神<br />

に 全 的 に 献 身 した。<br />

ミラーは、その 働 きを 次 のように 述 べている。「 大 きな 喜 びの 表 現 などはない。そ<br />

れは、 天 と 地 のすべてが、 言 葉 に 尽 くせない 輝 きに 満 ちた 喜 びをもってともに 再 ぶ 将<br />

来 の 時 まで、 抑 えておくもののように 思 われた。 大 声 で 叫 ぶこともない。それもまた、<br />

293


国 際 協 定<br />

天 からの 叫 びがあるまで 取 っておかれる。 歌 う 者 たちもだまっている。 彼 らは、 天 使<br />

たち、 天 からの 聖 歌 隊 に 加 わるのを 待 っている。…… 感 情 の 衝 突 はない。すべての 者<br />

は、 心 を 1 つにし、 思 いを 1 つにしている。」 4<br />

この 運 動 に 参 加 した 他 の 者 は、 次 のように 証 言 した。「この 運 動 は、 至 るところで、<br />

人 々に 深 く 心 を 探 らせ、 天 の 神 の 前 に 心 を 低 くさせた。それは、この 世 の 事 物 に 対 す<br />

る 愛 着 を 捨 てさせ、 争 いと 敵 意 を 和 解 させ、 罪 の 告 白 と 神 の 前 での 屈 伏 を 行 わせ、 悔<br />

いくずおれて 神 に 赦 しと 嘉 納 を 求 めさせた。それは、これまでわれわれが 目 撃 したこ<br />

とがなかったほど、 人 々の 心 を 神 の 前 に 低 くし、ひれ 伏 させた。 神 がヨエルによって<br />

命 じられたように、 神 の 大 いなる 日 が 近 づいた 時 、 人 々は、 衣 服 ではなく 心 を 裂 いて、<br />

断 食 と 嘆 きと 悲 しみとをもって 主 に 帰 った。また、 神 がゼカリヤによって 言 われたよ<br />

うに、 神 の 子 供 たちに、 恵 みと 祈 りの 霊 とが 注 がれた。 彼 らは 自 分 だちが 刺 した 主 を<br />

見 、 全 地 に 大 きな 悲 しみが 起 きた。……そして、 主 を 待 ち 望 んでいた 者 たちは、その<br />

み 前 で 心 を 悩 ました。」 5<br />

使 徒 時 代 以 来 のすべての 大 宗 教 運 動 の 中 で、1844 年 秋 の 運 動 ほど、 人 間 の 不 完 全<br />

さとサタンの 策 略 に 妨 げられなかったものはない。それから 長 年 経 過 した 今 でさえ、<br />

その 運 動 に 参 加 し、 堅 く 真 理 に 立 った 者 はみな、 今 なおあの 祝 福 された 事 業 の 神 聖 な<br />

力 を 感 じ、それが 神 からのものであったことを 証 言 するのである。「さあ、 花 婿 だ、<br />

迎 えに 出 なさい」と 呼 ぶ 声 がして、 待 っていた 者 たちは「 起 きて、それぞれあかりを<br />

整 えた。」 彼 らは、これまでになかったほどの 非 常 な 興 味 をもって、 神 の 言 葉 を 研 究<br />

した。 失 望 しているものを 奮 起 させて、 使 命 を 受 け 入 れるようにさせるために、 天 か<br />

らみ 使 いたちが 送 られた。 働 きは、 人 間 の 知 恵 や 学 識 によるものではなくて、 神 の 力<br />

によるものであった。まず 最 初 に 召 しを 聞 いて 従 ったものは、 最 も 学 識 のある 人 々で<br />

はなくて、 最 も 謙 遜 で 献 身 的 な 人 々であった。 農 夫 は 畑 に 作 物 を 刈 り 残 したままで、<br />

そして、 職 人 は 道 具 を 捨 てて、 涙 と 喜 びをもって、 警 告 を 伝 えるために 出 て 行 った。<br />

以 前 、 運 動 の 指 導 者 であった 人 々は、この 運 動 では、いちばん 最 後 になってから 加 わ<br />

った。 一 般 の 教 会 は、この 使 命 に 対 して 戸 を 閉 ざした。そして、この 使 命 を 信 じた 多<br />

くの 人 々は、 教 会 から 脱 会 した。この 宣 言 は、 神 の 摂 理 のもとに 第 二 天 使 の 使 命 と 合<br />

流 し、その 運 動 に 力 をそえた。<br />

「さあ、 花 婿 だ」というメッセージは、 聖 書 的 証 拠 が 明 確 で 決 定 的 ではあったが、<br />

その 議 論 が 重 要 なのではなかった。それには、 人 の 心 を 動 かさずにはおかぬ 力 が 伴 っ<br />

ていた。それには 疑 惑 も 疑 問 もなかった。キリストがエルサレムに 勝 利 の 入 場 をなさ<br />

った 時 、 過 越 の 祭 りを 祝 うために 各 地 から 集 まって 来 た 人 々が、オリブ 山 に 集 まっ<br />

た。 そして、 彼 らがイエスに 従 っていた 群 衆 に 加 わった 時 、 彼 らはその 場 の 霊 感 に 打<br />

294


国 際 協 定<br />

たれて、「 主 の 御 名 によってきたる 者 に、 祝 福 あれ」という 叫 びに 加 わった[マタイ<br />

21:。そのように、 再 臨 信 徒 の 集 会 に 集 まった 未 信 者 たちも、ある 者 は 好 奇 心 から、<br />

ある 者 はただ 嘲 笑 するために 来 ていたが、「さあ、 花 婿 だ」というメッセージには、<br />

彼 らの 心 に 強 く 迫 るものがあった。<br />

当 時 、 人 々は、 祈 りが 答 えられずにはいないような 信 仰 、すなわち、 報 いが 与 えら<br />

れることを 心 にとめるところの 信 仰 を 持 っていた。 乾 いた 土 に 雨 が 降 るように、 恵 み<br />

の 霊 は、 熱 心 に 求 める 者 の 上 にくだった。まもなく 顔 と 顔 を 合 わせて 贖 い 主 に 会 うこ<br />

とを 期 待 した 人 々は、 言 葉 では 表 現 できない 厳 粛 な 喜 びを 感 じた。 忠 実 な 信 徒 たちの<br />

上 に、 神 の 祝 福 があふれるばかり に 注 がれて、 人 々の 心 は、 聖 霊 の 和 らげ 静 める 力 に<br />

とかされた。<br />

メッセージを 信 じた 人 々は、 注 意 深 く 厳 粛 に、 主 に 会 うと 期 待 しているその 時 を 待<br />

った。 彼 らは、 毎 朝 、 自 分 たちが 神 に 受 け 入 れられているという 確 証 を 得 ることを 第<br />

一 の 義 務 と 感 じた。 彼 らの 心 は 堅 く 結 ばれ、ともに、そしてお 互 いのために、 祈 り 合<br />

った。 彼 らはしばしば、 人 里 離 れたところに 集 まって、 神 と 交 わり、とりなしの 声 は<br />

野 や 林 から 天 にのぼった。 彼 らにとって、 救 い 主 に 受 け 入 れられたという 確 信 は、 日<br />

ごとの 糧 よりも 必 要 なものであった。もし 心 に 曇 りが 生 じた 場 合 には、それが 払 いの<br />

けられるまでは 安 んじなかった。 彼 らは、 赦 されたという 恵 みの 証 拠 を 感 じた 時 に、<br />

彼 らが 心 から 愛 している 主 を 仰 ぎ 見 たいと 熱 望 したのである。<br />

しかし、 彼 らは、 再 び 失 望 を 味 わわなければならなかった。 期 待 した 時 は 過 ぎ、 救<br />

い 主 はおいでにならな s かった。 彼 らは、ゆるぐことのない 確 信 をもって、 主 の 来 ら<br />

れるのを 待 望 したのであったが、しかし 今 は、マリヤが 救 い 主 の 墓 に 来 て、それがか<br />

らになっているのを 見 つけ、「だれかが、わたしの 主 を 取 り 去 りました。そして、ど<br />

こに 置 いたのか、わからないのです」と 泣 いて 叫 んだのと 同 じように 彼 らは 感 じた[ヨ<br />

ハネ 20:。<br />

使 命 が 真 実 かもしれないという 恐 怖 心 が、しはらくの 問 、 不 信 の 世 を 抑 制 していた。<br />

時 が 過 ぎ 去 っても、これは、すぐには 消 え 去 らなかった。 最 初 、 彼 らは、 失 望 した 人<br />

々に 勝 ち 誇 ることはなかった。しかし、 神 の 怒 りのしるしが 現 れないので、 彼 らは 恐<br />

怖 心 から 立 ち 直 り、ふたたび 非 難 と 嘲 笑 を 始 めた。 主 の 再 臨 が 間 近 いことを 信 じると<br />

公 言 していた 多 くの 者 が、 信 仰 を 捨 てた。 非 常 な 確 信 を 持 っていた 人 々の 中 には、 自<br />

尊 心 を 深 く 傷 つけられて、 世 から 逃 れたいと 思 う 者 もあった。 彼 らは、ヨナのように<br />

神 につぶやき、 生 きるよりは 死 ぬことを 願 った。 神 の 言 葉 でなくて、 他 人 の 意 見 に 信<br />

仰 の 基 礎 をおいていた 人 々は、 今 や、 再 び 自 分 たちの 見 解 を 変 えようとしていた。 嘲<br />

295


国 際 協 定<br />

笑 者 たちは、 弱 くおくびょうな 者 たちを 自 分 たちの 側 に 引 き 入 れた。そしてこのよう<br />

な 人 々はみな、もはや 恐 怖 も 期 待 もあり 得 ないのだと、 口 をそろえて 宣 言 した。 時 は<br />

過 ぎ、 主 は 来 られなかった。そして、 世 界 は 幾 千 年 もこのまま 続 くように 思 われた。<br />

熱 心 で 誠 実 な 信 徒 たちは、キリストのためにすべてをささげ、これまでになく 彼 の<br />

臨 在 を 感 じていたのであった。 彼 らは、 自 分 たちの 信 じたとおり、 最 後 の 警 告 を 世 界<br />

に 伝 えた。そして、まもなく 彼 らの 主 と 天 使 たちとの 交 わりに 入 れられるものと 期 待<br />

していたので、 使 命 を 受 け 入 れない 人 々との 交 わりはほとんどしていなかった。 彼 ら<br />

は、 切 なる 願 望 をもって、「 主 イエスよ、 来 たりませ。すぐ 来 たりませ」と 祈 ってい<br />

た。しかし、 彼 は 来 られなかった。そして、 今 再 び 人 生 の 心 労 と 労 苦 の 重 荷 を 負 い、<br />

あざ 笑 う 世 のののしりと 冷 笑 に 耐 えることは、 信 仰 と 忍 耐 の 恐 ろしい 試 練 であった。<br />

しかし、この 失 望 は、キリスト 初 臨 の 時 の 弟 子 たちの 失 望 ほど 大 きいものではなか<br />

った。イエスが、エルサレムに 勝 利 の 入 城 をなさった 時 、 彼 の 弟 子 たちは、 彼 が 今 に<br />

もダビデの 位 について、 圧 迫 者 からイスラエルを 救 済 されるものと 信 じた。 大 きな 希<br />

望 と 喜 ばしい 期 待 をもって、 彼 らは 競 って 彼 らの 王 に 敬 意 を 表 した。 多 くの 者 は、 自<br />

分 たちの 上 衣 を 彼 の 道 に 敷 き 物 として 敷 いたり、しゅろの 枝 を 彼 の 前 にまき 散 らした<br />

りした。 熱 狂 的 な 喜 びのうちに、 彼 らは、「ダビデの 子 に、ホサナ」といっせいに 歓<br />

呼 の 声 をあげた。パリサイ 人 がこの 喜 びの 叫 びを 聞 いて、きげんを 損 ね、 怒 って、イ<br />

エスに 弟 子 たちをしかるように 願 った 時 、 彼 は、「もしこの 人 たちが 黙 れば、 石 が 叫<br />

ぶであろう」と 答 えられた[ルカ 19:。 預 言 は 成 就 しなければならなかった。 弟 子 た<br />

ちは、 神 のみこころを 成 し 遂 げつつあった。そして 彼 らは、 苦 い 失 望 に 陥 ることにな<br />

っていた。ほんの 数 日 のうちに、 彼 らは、 救 い 主 の 苦 難 の 死 と 葬 りとを 見 なければな<br />

らなかつ た。 彼 らの 期 待 は、 何 1 つ 成 就 せず、 彼 らの 希 望 もイエスとともに 消 え 失 せ<br />

た。 主 が 勝 利 のうちに 墓 から 出 て 来 られるまで、 彼 らは、すべてのことが 預 言 されて<br />

いたのだということ、そして「キリストは 必 ず 苦 難 を 受 け、そして 死 人 の 中 からよみ<br />

がえるべきこと」を、 悟 ることができなかった[ 使 徒 行 伝 17:。<br />

主 は、500 年 前 、 預 言 者 ゼカリヤによって 次 のように 宣 言 しておられた。「シオン<br />

の 娘 よ、 大 いに 喜 べ、エルサレムの 娘 よ、 呼 ばわれ。 見 よ、あなたの 王 はあなたの 所<br />

に 来 る。 彼 は 義 なる 者 であって 勝 利 を 得 、 柔 和 であって、ろばに 乗 る。すなわち、ろ<br />

ばの 子 である 子 馬 に 乗 る」[ゼカリヤ 9:。もし 弟 子 たちが、キリストは 審 判 と 死 に 向<br />

かって 進 んでおられるのだと 知 っていたならば、 彼 らは、この 預 言 を 成 就 することは<br />

できなかったであろう。<br />

296


国 際 協 定<br />

同 様 に、ミラーと 彼 の 仲 間 たちは、 霊 感 が 世 界 に 伝 えるべきであると 預 言 したとこ<br />

ろの 使 命 を 伝 えて、 預 言 を 成 就 したのである。 しかし、もし 彼 らが、 自 分 たちの 失 望<br />

を 指 し 示 し、 主 の 再 臨 前 にもう 1 つの 使 命 が 全 世 界 に 伝 えられるべきことを 示 してい<br />

るところの、いくつかの 預 言 を 完 全 に 知 っていたならば、 彼 らは、あの 使 命 を 宣 布 す<br />

ることはできなかったであろう。 第 一 と 第 二 天 使 の 使 命 は、 正 しい 時 に 宣 布 されて、<br />

神 がそれらによってなそうと 計 画 されたその 働 きを 成 し 遂 げた。<br />

その 時 が 過 ぎてキリストか 現 れないなら、 再 臨 運 動 全 体 が 放 棄 されるであろうと 期<br />

待 しなから、 世 の 人 々は 見 守 っていた。しかし、 激 しい 試 練 のもとにあって、 信 仰 を<br />

捨 てた 者 も 多 かったが、 堅 く 立 った 者 もいくらかあった。 再 臨 運 動 の 実 であるところ<br />

のもの、すなわち、その 働 きに 伴 ったところの、 謙 遜 と 自 己 吟 味 の 精 神 、 世 俗 を 捨 て<br />

て 生 活 の 改 革 を 行 う 精 神 は、それが 神 にようものであることを 証 明 していた。 彼 らは、<br />

再 臨 の 宣 布 に 対 して 聖 霊 の 力 のあかしがあったことを 否 定 できなかった。また、 自 分<br />

たちの 預 言 の 期 間 の 計 算 にまちがいを 見 いだすことがてきなかった。 最 も 有 能 な 反 対<br />

者 でさえ、 彼 らの 預 言 の 解 釈 法 を 覆 すことができなかった。 彼 らは、 神 の 聖 霊 に 照 ら<br />

された 精 神 とその 生 きた 力 に 燃 やされた 心 とか、 熱 心 な 祈 りをもって 聖 書 を 研 究 して<br />

得 た 結 論 を、 聖 書 の 証 拠 がないかぎり、 放 棄 することはできなかった。 一 般 の 宗 教 家<br />

や 世 の 知 者 たちの 激 烈 な 批 評 に 耐 え、 学 識 と 雄 弁 による 攻 撃 にも、 上 層 下 層 の 人 々の<br />

ののしりと 冷 笑 とにも 堅 く 立 ってきた 結 論 を、 放 棄 することはできなかった。<br />

たしかに、 期 待 したできごとについてまちがいはあったが、それでさえ、 神 の 言 葉<br />

に 対 する 彼 らの 信 仰 をゆるがすことはできなかった。ヨナが、ニネベの 町 で、40 日 の<br />

うちに 町 が 滅 ぼされると 宣 言 した 時 、 主 はニネベの 住 民 の 悔 い 改 めを 受 け 入 れて、 彼<br />

らの 恩 恵 期 間 を 延 長 された。しかし、ヨナのメッセージは、 神 から 送 られたものであ<br />

った。そして、ニネベは、 神 のみこころに 従 って、 試 みられたのである。<br />

同 様 に 神 は、 再 臨 信 徒 を 導 いて、 審 判 の 警 告 を 宣 布 させられたのであると、 彼 らは<br />

信 じた。 彼 らはこう 言 った。「それは、それを 聞 いたすべての 者 の 心 を 試 し、 主 の 出<br />

現 を 愛 する 心 を 起 こさせるか、それとも 再 臨 に 対 する 嫌 悪 —— 程 度 の 差 はあろうが、<br />

しかし 神 はごぞんじである——を 起 こさせるかした。それは、 一 線 を 画 した。…… 自<br />

分 の 心 を 吟 味 する 者 は、 主 がその 時 来 られたならば、 自 分 たちはどちらの 側 にいた<br />

か——『 見 よ、これはわれわれの 神 である。わたしたちは 彼 を 待 ち 望 んだ。 彼 はわた<br />

したちを 救 われる』と 叫 んたか、それとも 山 と 岩 とに 向 かって、われわれを 覆 って、<br />

み 座 にいますかたのみ 顔 と 小 羊 の 怒 りとからかくまってくれと 叫 んだか——を 知 るこ<br />

とができる。こうして、 神 は、ご 自 分 の 民 を 試 み、 彼 らの 信 仰 をためして、 彼 らが 試<br />

練 の 時 に、 神 が 彼 らを 置 こうとされたその 場 所 からしりごみするかどうか、そして 彼<br />

297


国 際 協 定<br />

らがこの 世 を 捨 てて、 神 の 言 葉 を 絶 対 的 確 信 をもって 信 じるかどうかを、 見 られたの<br />

であるとわれわれは 信 じる。」 6<br />

過 去 の 経 験 において 神 の 導 きがあったことをなお 信 じた 人 々の 気 持 ちが、ウィリア<br />

ム・ミラーの 次 の 言 葉 に 表 現 されている。「あの 時 と 同 じ 証 拠 が 与 えられて、もう 1<br />

度 生 活 をし、 神 と 人 とに 対 して 正 直 であろうとすれば、わたしは、わたしがしたとお<br />

りのことをするであろう。」「わたしは、 自 分 の 衣 には 人 々の 魂 の 血 がついていない<br />

ことを 望 む。わたしは、 自 分 のなしえたかぎりにおいて、 人 々の 罪 の 宣 告 に 関 し 責 任<br />

を 問 われるものではないと 感 じる。」「わたしは 2 度 失 望 したけれども、 落 胆 や 絶 望<br />

はしていない。……キリストの 再 臨 に 対 するわたしの 希 望 は、これまでと 同 様 に 強 い。<br />

わたしは、 長 年 まじめに 研 究 したあとで、 自 分 の 厳 粛 な 義 務 と 感 じたことを 行 ったに<br />

すぎない。もしわたしがまちがっていたとしても、それは、 同 胞 を 愛 し、 神 への 義 務<br />

を 堅 く 信 じてのことであった。」「わたしが 知 っているただ 1 つのことは、わたしは<br />

自 分 の 信 じたこと 以 外 は 何 も 説 教 しなかったということである。そして、 神 はわたし<br />

とともにおられた。 神 の 力 が 働 きの 中 にあらわれ、 多 くのよい 結 果 が 生 じた。」<br />

「 再 臨 の 時 期 についての 説 教 の 結 果 、 幾 千 のものが、 聖 書 を 研 究 するようになった。<br />

そしてそれによって 彼 らは、 信 仰 とキリストの 血 の 注 ぎによって、 神 と 和 らいだ。」 7<br />

「わたしは、 高 慢 な 人 の 好 意 を 求 めず、 世 の 非 難 にもおじけなかった。わたしは 今 、<br />

彼 らにへつらって 好 意 を 得 ようとも、 分 を 越 えて 彼 らの 憎 しみを 買 おうとも 思 わない。<br />

わたしは、 彼 らに 命 乞 いしようなどとは 決 して 思 わないし、また、もし 神 のみこころ<br />

であるならば、 生 命 を 失 うこともあえて 恐 れてはいないつもりである。」 8<br />

神 は、ご 自 分 の 民 を 見 捨 てられなかった。 神 の 霊 は、 自 分 たちが 受 け 入 れていた 光<br />

を 軽 々しく 否 定 せず 再 臨 運 動 を 放 棄 しなかった 人 々と、なおともにおられた。ヘブル<br />

人 への 手 紙 の 中 に、この 危 機 において 試 みられていたところの 待 望 者 たちに 対 する 励<br />

ましの 言 葉 が 記 されている。「だから、あなたがたは 自 分 の 持 っている 確 信 を 放 棄 し<br />

てはいけない。その 確 信 には 大 きな 報 いが 伴 っているのである。 神 の 御 旨 を 行 って 約<br />

束 のものを 受 けるため、あなたがたに 必 要 なのは、 忍 耐 である。『もうしばらくすれ<br />

ば、きたるべきかたがお 見 えになる。 遅 くなることはない。わが 義 人 は、 信 仰 によっ<br />

て 生 きる。もし 信 仰 を 捨 てるなら、わたしのたましいはこれを 喜 ばない。』しかしわ<br />

たしたちは、 信 仰 を 捨 てて 滅 びる 者 ではなく、 信 仰 に 立 って、いのちを 得 る 者 である」<br />

[ヘブル 10:35~。<br />

この 勧 告 が 最 後 の 時 代 の 教 会 にあてられていることは、 主 の 再 臨 が 近 いことを 指 示<br />

している 言 葉 を 見 ても 明 らかである。「もうしばらくすれば、きたるべきかたがお 見<br />

298


国 際 協 定<br />

えになる。 遅 くなることはない。」そして、 見 たところ 遅 延 があり、 主 のこられるの<br />

が 遅 れるように 見 えることが、 明 らかに 示 されている。ここに 与 えられている 教 訓 は、<br />

特 にこの 時 の 再 臨 信 徒 の 経 験 に 当 てはまる。ここで 語 りかけられている 人 々は、 信 仰<br />

の 破 船 となるおそれがあった。 彼 らは、 聖 霊 と 神 の 言 葉 の 指 導 に 従 って、 神 のみここ<br />

ろを 行 った。<br />

しかし、 彼 らは、 過 去 の 経 験 における 神 のみこころを 理 解 することができず、また、<br />

彼 らの 前 にある 道 を 見 ることもできなかった。そして 彼 らは、 神 がほんとうに 自 分 た<br />

ちを 導 いておられるのかどうか 疑 うように 誘 惑 された。この 時 に、「わが 義 人 は、 信<br />

仰 によって 生 きる」という 言 葉 が 当 てはまった。「 夜 中 の 叫 び」という 輝 かしい 光 が<br />

彼 らの 道 を 照 らし、 預 言 の 封 が 開 かれ、キリストの 再 臨 が 近 いことを 告 げるしるしが<br />

急 速 に 成 就 するのを 見 た 時 、 彼 らは、いわば 目 で 見 つつ 歩 いたのであった。ところが<br />

今 、 失 望 に 打 ちひしがれて、 彼 らは 神 とみ 言 葉 に 対 する 信 仰 によってのみ 立 つことが<br />

できた。 世 の 嘲 笑 者 たちは、「あなたがたは 欺 かれたのだ。 信 仰 を 捨 て、 再 臨 運 動 は<br />

サタンのものであったと 言 いなさい」と 言 っていた。しかし、 神 の 言 葉 は、「もし 信<br />

仰 を 捨 てるなら、わたしのたましいはこれを 喜 ばない」と 宣 言 していた。 今 、 彼 らの<br />

信 仰 を 捨 て、 使 命 に 伴 っていた 聖 霊 の 力 を 拒 否 することは、 滅 びに 向 かって 後 退 する<br />

ことであった。 彼 らは、「あなたがたは 自 分 の 持 っている 確 信 を 放 棄 してはいけな<br />

い。」「あなたがたに 必 要 なのは、 忍 耐 である。」「もうしばらくすれば、きたるべ<br />

きかたがお 見 えになる。 遅 くなることはない」というパウロの 言 葉 によって 堅 く 立 つ<br />

ように 励 まされた。 彼 らにとって 唯 一 の 安 全 な 道 は、すでに 神 から 受 けた 光 をたいせ<br />

つにし、 神 の 約 束 を 堅 く 信 じ、 聖 書 を 探 りつづけ、さらにそれ 以 上 の 光 が 与 えられる<br />

のを 忍 耐 して 待 ち、 見 守 ることであった。<br />

299


国 際 協 定<br />

第 23 章 聖 所 とは 何 か<br />

聖 書 の 中 で、 他 のどの 聖 句 よりも、 再 臨 信 仰 の 基 礎 であり、 中 心 的 な 柱 であったも<br />

のは、「2300 の 夕 と 朝 の 間 である。そして 聖 所 は 清 められてその 正 しい 状 態 に 復 す<br />

る」という 宣 言 であった[ダニエル 8:。この 聖 句 は、 主 がまもなく 来 られることを 信<br />

じたすべての 信 徒 がよく 知 っていた 言 葉 であった。この 預 言 は、 信 仰 の 合 い 言 葉 とし<br />

て、 幾 千 もの 人 々のくちびるによってくりかえされた。すべての 者 は、ここに 預 言 さ<br />

れた 事 件 に、 彼 らの 最 も 輝 かしい 期 待 と 大 事 な 希 望 とがかけられているのを 感 じた。<br />

この 預 言 の 期 間 は、1844 年 の 秋 に 終 わることが 示 されていた。 当 時 再 臨 信 徒 たちは、<br />

キリスト 教 界 の 他 の 人 々と 同 様 に、 地 上 、あるいはその 一 部 が、 聖 所 であると 思 って<br />

いた。そして 聖 所 の 清 めとは、 最 後 の 大 いなる 日 の 火 によって 地 が 清 められることで<br />

あり、これはキリストの 再 臨 の 時 に 起 こると、 彼 らは 理 解 していた。そこで、1844<br />

年 にキリストが 地 上 に 帰 られると 結 論 したのであった。<br />

しかし、 定 められた 時 は 過 ぎ、 主 は 来 られなかった。 信 徒 たちは、 神 の 言 葉 に 誤 り<br />

がないことを 知 っていた。 自 分 たちの 預 言 の 解 釈 にまちがいがあったに 違 いない。し<br />

かし、それではどこがまちがっていたのであろうか。 多 くの 者 は、 軽 率 にも、2300<br />

日 が 1844 年 に 終 わることを 否 定 することによって、 難 問 を 解 決 しようとした。 期 待<br />

した 時 にキリストが 来 られなかったからということ 以 外 に、そうする 理 由 は 何 もなか<br />

った。もし 預 言 の 期 間 が 1844 年 に 終 わったならば、キリストは、 火 をもって 地 上 を<br />

清 めることによって 聖 所 を 清 めるために、 帰 って 来 られたはずである。ところが 彼 は<br />

来 られなかったのだから、 期 間 はまだ 終 わっていないのだ、と 彼 らは 主 張 した。<br />

このような 結 論 を 受 け 入 れることは、 預 言 的 期 間 のこれまでの 計 算 法 を 放 棄 するこ<br />

とであった。2300 日 は、 紀 元 前 457 年 の 秋 に、エルサレムを 建 て 直 せというアルタ<br />

シャスタの 命 令 が 実 施 された 時 に 始 まることになっていた。これを 起 算 点 にすれば、<br />

ダニエル 9:25~27 にある、この 期 間 についての 説 明 の 中 で 預 言 されたすべての 事<br />

件 の 適 用 が、 完 全 に 調 和 する。69 週 、すなわち、2300 年 の 最 初 の 483 年 がたっと、<br />

油 を 注 がれた 者 、メシヤが 現 れる。そして、キリストは、 紀 元 27 年 にバプテスマを<br />

受 けて 聖 霊 の 油 を 注 がれ、この 預 言 は 正 確 に 成 就 した。70 週 目 の 半 ばにメシヤは 絶 た<br />

れるのであった。キリストは、バプテスマから 3 年 半 の 後 、 紀 元 31 年 の 春 に、 十 字<br />

架 につけられた。70 週 、すなわち 490 年 は、 特 にユダヤ 人 にかかわるものであった。<br />

この 期 間 の 終 了 後 、ユダヤ 人 は、キリストの 弟 子 たちを 迫 害 することによって、キリ<br />

ストを 決 定 的 に 拒 否 し、 使 徒 たちは、 紀 元 34 年 、 異 邦 人 へと 向 かった。こうして<br />

300


国 際 協 定<br />

2300 年 の 最 初 の 490 年 が 終 わり、あと 1810 年 が 残 る。 紀 元 34 年 から 1810 年 た<br />

つと、1844 年 である。「そして 聖 所 は 清 められてその 正 しい 状 態 に 復 する」と 天 使<br />

は 言 った。これまで 預 言 に 指 定 されていたことは、みな、 定 められた 時 に、まちがい<br />

なく 成 就 した。[1793.<br />

この 計 算 に 関 しては、1844 年 に 聖 所 の 清 めに 符 合 するどんなできごとが 起 きたか<br />

がわからないということを 除 けば、すべては 明 瞭 で 調 和 していた。この 期 間 がこの 時<br />

に 終 了 したということを 否 定 することは、 問 題 全 体 を 混 乱 に 陥 れることであり、 預 言<br />

の 疑 う 余 地 のない 成 就 によって 確 立 されたところの 見 解 を、 放 棄 することであった。<br />

しかし、 神 は、この 大 再 臨 運 動 において、ご 自 分 の 民 を 導 いて 来 られた。 神 の 力 と<br />

栄 光 とが、この 働 きに 伴 っていた。 神 は、それが 暗 黒 と 失 望 に 終 わることを、 誤 った<br />

狂 信 的 な 騒 ぎであると 非 難 されることを、 許 してはおかれなかった。 神 は、ご 自 分 の<br />

言 葉 を、 疑 いと 不 確 かさの 中 にあるままにしてはおかれなかった。 多 くの 者 が、 預 言<br />

の 期 間 に 関 するこれまでの 計 算 法 を 捨 て、それに 根 拠 を 置 いていた 運 動 の 正 しさを 否<br />

定 したが、 中 には、 聖 書 と 神 の 霊 のあかしとに 支 持 された 信 仰 と 経 験 とを 放 棄 しよう<br />

としない 人 々もいた。 彼 らは、 自 分 たちの 預 言 研 究 の 解 釈 の 原 則 は 正 しかったことを<br />

信 じ、すでに 得 た 真 理 を 堅 く 保 って、 同 じ 聖 書 研 究 を 続 けることが 自 分 たちの 義 務 で<br />

あると 信 もじた。 熱 心 な 祈 りをもって、 彼 らは 自 分 たちの 立 場 島 を 再 検 討 し、 誤 りを<br />

発 見 するために 聖 書 を 研 究 した。 彼 らは、 預 言 の 期 間 の 計 算 に 誤 りを 見 つけることが<br />

できなかったので、 聖 所 の 問 題 をもっと 綿 密 に 吟 味 するようになった。<br />

研 究 の 結 果 、 彼 らは、 地 上 が 聖 所 であるという 一 般 の 見 解 を 支 持 する 証 拠 が、 聖 書<br />

にないことを 知 った。しかし、 聖 書 には、 聖 所 とその 本 質 、 場 所 、 奉 仕 などの 問 題 が<br />

十 分 に 説 明 されているのを 彼 らは 見 いだした。このことについての 聖 書 記 者 たちの 証<br />

言 は、 疑 問 の 余 地 がないほど 明 瞭 で 十 分 なものであった。 使 徒 パウロは、ヘブル 人 へ<br />

の 手 紙 の 中 で、 次 のように 言 っている。「さて、 初 めの 契 約 にも、 礼 拝 についてのさ<br />

まざまな 規 定 と、 地 上 の 聖 所 とがあった。すなわち、まず 幕 屋 が 設 けられ、その 前 の<br />

場 所 には 燭 台 と 机 と 供 えのパンとが 置 かれていた。これが、 聖 所 と 呼 ばれた。また 第<br />

二 の 幕 の 後 に、 別 の 場 所 があり、それは 至 聖 所 と 呼 ばれた。そこには 金 の 香 壇 と 全 面<br />

金 でおおわれた 契 約 の 箱 とが 置 かれ、その 中 にはマナのはいっている 金 のつぼと、 芽<br />

を 出 したアロンのつえと、 契 約 の 石 板 とが 入 れてあり、 箱 の 上 には 栄 光 に 輝 くケルビ<br />

ムがあって、 贖 罪 所 をおおっていた」[ヘブル 9:1~。<br />

パウロがここで 言 及 している 聖 所 は、いと 高 きお 方 の 地 上 の 住 居 として、モーセが<br />

神 の 命 令 によって 造 った 幕 屋 のことであった。モーセは、 神 とともに 山 にいた 時 に、<br />

301


国 際 協 定<br />

「 彼 らにわたしのために 聖 所 を 造 らせなさい。わたしが 彼 らのうちに 住 むためである」<br />

という 命 令 を 受 けた[ 出 エジプト 25:。イスラエル 人 は 荒 野 の 旅 をしていたので、 幕<br />

屋 は、 移 動 できるように 組 み 立 てられていた。しかしそれにしても、それは 非 常 に 壮<br />

麗 な 建 造 物 であった。<br />

その 壁 は、 金 で 覆 った 板 で 造 られ、 銀 の 座 にはめられていた。 屋 根 は、 数 枚 の 幕 か<br />

ら 成 り、 外 側 は 皮 で、いちばん 内 側 は、ケルビムの 姿 を 美 しく 織 り 出 した 亜 麻 布 であ<br />

った。 燔 祭 の 壇 は 外 庭 にあったが、 幕 屋 そのものは、 聖 所 、 至 聖 所 と 呼 ばれる 2 つの<br />

部 屋 から 成 り、 壮 麗 な 幕 でへだてられていた。また、 同 様 の 幕 が 第 一 の 部 屋 の 入 り 口<br />

にもかけられていた。 聖 所 には、 南 側 に 燭 台 があって、その 7 つのともし 火 が、 昼 も<br />

夜 も 聖 所 を 照 らしていた。 北 側 には 供 えのパンの 机 があった。そして 聖 所 と 至 聖 所 を<br />

へだてる 幕 の 前 に、 金 の 香 壇 があって、そこから 香 の 煙 がイスラエルの 祈 りとともに、<br />

毎 日 神 の 前 にのぼっていった。<br />

至 聖 所 には、 貴 い 木 で 造 られ、 金 で 覆 われた 箱 があって、その 中 に、 神 によって 刻<br />

まれた 十 戒 の 2 枚 の 石 の 板 が 入 れてあった。この 神 聖 な 箱 の 上 にあって、そのふたの<br />

役 目 を 果 たしているのが、 贖 罪 所 であった。これは、 実 に 巧 みに 仕 上 げられたりっぱ<br />

なもので、その 両 端 にケルビムが 置 かれ、 全 部 純 金 で 造 られていた。この 部 屋 におい<br />

て、 神 の 臨 在 が、ケルビムの 間 の 栄 光 の 雲 の 中 にあらわされたのであった。<br />

ヘブル 人 がカナンに 定 住 してから、 幕 屋 はソロモンの 神 殿 に 代 わり、 規 模 は 大 きく、<br />

建 築 も 永 久 的 なものとなったけれども、 同 様 の 比 率 で 造 られ、 同 じような 器 具 が 備 え<br />

つけられていた。こうして、 聖 所 は、ダニエルの 時 代 に 荒 廃 に 帰 した 時 を 別 として、<br />

紀 元 70 年 にエルサレムがローマに 滅 ぼされるまで 存 在 していた。 これが 地 上 に 存 在<br />

した 唯 一 の 聖 所 で、 聖 書 が 記 録 しているものである。パウロはこれを、 初 めの 契 約 の<br />

聖 所 と 言 った。しかし、 新 しい 契 約 に、 聖 所 はないのであろうか。<br />

真 理 の 探 究 者 たちは、 再 びヘブル 人 への 手 紙 にもどって、 第 二 の、すなわち 新 しい<br />

契 約 の 聖 所 の 存 在 が、すでに 引 用 した「 初 めの 契 約 にも、 礼 拝 についてのさまざまな<br />

規 定 と、 地 上 の 聖 所 とがあった」というパウロの 言 葉 に 暗 示 されていることを 発 見 し<br />

た。<br />

そして、「も」という 言 葉 が 用 いられていることは、パウロが 前 にこの 聖 所 につい<br />

て 述 べたということを 暗 示 している。 彼 らは、その 前 の 章 にもどって、 次 のところを<br />

読 んだ。「 以 上 述 べたことの 要 点 は、このような 大 祭 司 がわたしたちのためにおられ、<br />

天 にあって 大 能 者 の 御 座 の 右 に 座 し、 人 間 によらず 主 によって 設 けられた 真 の 幕 屋 な<br />

る 聖 所 で 仕 えておられる、ということである」[ヘブル 8:1、。<br />

302


国 際 協 定<br />

ここに、 新 しい 契 約 の 聖 所 が 明 らかにされている。 初 めの 契 約 の 聖 所 は、 人 によっ<br />

て 張 られ、モーセによって 建 てられたが、これは、 人 間 によらず 主 によって 張 られて<br />

いる。 初 めの 聖 所 では、 地 十 の 祭 司 たちが 務 めを 行 ったが、こちらの 聖 所 では、われ<br />

われの 大 祭 司 、キリストが、 神 の 右 で 仕 えておられる。 一 方 の 聖 所 は 地 上 にあったが、<br />

もう 一 方 は 天 にあるのである。<br />

さらに、モーセが 建 てた 幕 屋 は、ひな 型 に 従 って 造 られた。 主 は、 次 のように 指 示<br />

された。「すべてあなたに 示 す 幕 屋 の 型 および、そのもろもろの 器 の 型 に 従 って、こ<br />

れを 造 らなければならない。」また、 次 の 命 令 が 与 えられた。「そしてあなたが 山 で<br />

示 された 型 に 従 い、 注 意 してこれを 造 らなければならない」[ 出 エジプト 25:9、。パ<br />

ウロは、 最 初 の 幕 屋 は、「その 当 時 のための 象 徴 であり、そこで 供 え 物 やいけにえが<br />

ささげられた」[ 英 語 訳 ]と 言 っている。 続 いて 彼 は、その 聖 所 は「 天 にあるもののひ<br />

な 型 」であり、 律 法 に 従 って 供 え 物 をささげる 祭 司 たちは、「 天 にある 聖 所 のひな 型<br />

と 影 とに 仕 えている 者 」であり、「キリストは、ほんとうのものの 模 型 にすぎない、<br />

手 で 造 った 聖 所 にはいらないで、 上 なる 天 にはいり、 今 やわたしたちのために 神 のみ<br />

まえに 出 て 下 さったのである」と 言 っている[ヘブル 9:9、23、8:5、9:。<br />

イエスがわれわれのために 仕 えておられる 天 の 聖 所 は、 大 いなる 原 型 であって、モ<br />

ーセが 建 てた 聖 所 は、その 写 しであった。 神 は、 地 上 の 聖 所 の 建 設 者 たちに、 神 の 霊<br />

をお 与 えになった。その 建 設 に 当 たってあらわされた 芸 術 的 技 量 は、 神 の 知 恵 を 表 示<br />

していた。 壁 は、 全 体 が 巨 大 な 金 塊 のように 見 え、 金 の 燭 台 の 7 つのともし 火 の 光 が、<br />

四 方 に 反 射 していた。 供 えのパンの 机 と 香 壇 は、よくみがいた 金 のように 輝 いていた。<br />

天 井 になっていた 華 麗 な 幕 には、 青 、 紫 、 緋 色 で 天 使 が 織 り 出 されて、いっそうの 美<br />

しさを 添 えた。そして、 第 二 の 幕 の 向 こうには、 神 の 栄 光 の 目 に 見 える 現 れである 聖<br />

なるシェキーナーがあり、 大 祭 司 以 外 のだれ 1 人 、その 前 に 立 って 生 き 得 る 者 はいな<br />

かった。<br />

地 上 の 聖 所 の 比 類 のない 壮 麗 さは、われわれのさきがけであられるキリストが 神 の<br />

み 座 の 前 で 仕 えておられる 天 の 宮 の 栄 光 を、 人 間 の 目 に 映 すものであった。 王 の 王 の<br />

住 居 において、 彼 に 仕 える 者 は 千 々、 彼 の 前 にはべる 者 は 万 々[ダニエル 7:10 参 照 ]。<br />

輝 く 守 護 セラピムが、 崇 敬 のうちに 顔 を 覆 うところの、 永 遠 のみ 座 の 栄 光 に 輝 く 宮 に<br />

比 べるならば、 人 間 の 手 で 造 られた 建 造 物 は、たとえどんなにりっぱであっても、そ<br />

の 壮 大 さと 栄 光 のかすかな 反 映 にすぎない。しかし、そうはいっても、 天 の 聖 所 に 関<br />

する 重 大 な 真 理 と、 人 間 の 贖 罪 のために 行 われた 偉 大 な 働 きとは、 地 上 の 聖 所 とその<br />

奉 仕 によって 教 えられたのであっ た。<br />

303


国 際 協 定<br />

天 の 聖 所 の 聖 所 と 至 聖 所 は、 地 上 の 聖 所 の 2 つの 部 屋 によって 表 されている。 使 徒<br />

ヨハネは、 幻 のなかで、 天 にある 神 の 宮 を 見 ることを 許 された 時 、「7 つのともし 火<br />

が、 御 座 の 前 で 燃 えてい」るのを 見 た[ 黙 示 録 4:。 彼 は、1 人 の 天 使 が、「 金 の 香 炉<br />

を 手 に 持 って 祭 壇 の 前 に 立 った。たくさんの 香 が 彼 に 与 えられていたが、これは、す<br />

べての 聖 徒 の 祈 に 加 えて、 御 座 の 前 の 金 の 祭 壇 の 上 にささげるためのものであった」<br />

のを 見 た[ 黙 示 録 8:。ここで、 預 言 者 は、 天 の 聖 所 の 第 一 の 部 屋 を 見 ることを 許 され<br />

た。そして、そこに、 地 上 の 聖 所 の 金 の 燭 台 と 香 壇 によって 表 されていたところの、<br />

「7 つのともし 火 」と「 金 の 祭 壇 」を 見 た。 再 び、「 天 にある 神 の 聖 所 が 開 けて」[ 黙<br />

示 録 11:、 彼 は、 奥 の 幕 の 中 の、 至 聖 所 を 見 た。 彼 はここで、「 契 約 の 箱 」を 見 た。<br />

それは、 神 の 律 法 を 入 れるためにモーセが 作 った 聖 なる 箱 によって 表 されていたもの<br />

であった。<br />

こうして、この 問 題 を 研 究 していた 人 々は、 天 に 聖 所 があるという 疑 う 余 地 のない<br />

証 拠 をつかんだ。モーセは、 示 された 型 に 従 って、 地 上 の 聖 所 を 造 った。パウロはそ<br />

の 型 となった 天 の 聖 所 が、 真 の 聖 所 であると 教 えている。そしてヨハネは、それを 天<br />

に 見 たと 証 言 している。<br />

神 の 住 居 である 天 の 宮 において、そのみ 座 は、 義 と 公 正 に 基 づいている。 至 聖 所 に<br />

は、 正 義 の 規 準 である 神 の 律 法 があって、 全 人 類 がそれによって 審 査 されるのである。<br />

律 法 の 板 を 入 れた 箱 は、 贖 罪 所 で 覆 われていて、その 前 でキリストは、ご 自 分 の 血 に<br />

よって 罪 人 のためにとりなしをなさる。こうして、 人 類 の 贖 いの 計 画 における、 義 と<br />

いつくしみの 結 合 が 表 されている。この 結 合 は、 無 限 の 知 恵 のお 方 のみが 考 案 し、 無<br />

限 の 力 のお 方 のみが 成 し 遂 げることができた。この 結 合 は、 全 天 を、 驚 異 と 賛 美 で 満<br />

たすものである。うやうやしく 贖 罪 所 を 見 おろしている、 地 上 の 聖 所 のケルビムは、<br />

贖 罪 の 業 に 対 する 天 の 軍 勢 の 深 い 関 心 を 表 している。これは、 天 使 たちもうかがい 見<br />

たいと 願 っている、 憐 れみの 神 秘 である。すなわち、 悔 い 改 めた 罪 人 を 義 とし、 堕 落<br />

した 人 類 との 交 わりを 回 復 するとともに、 神 自 らが 義 となられること、また、キリス<br />

トが、ご 自 分 の 身 を 低 めて、 無 数 の 群 衆 を 滅 びの 淵 から 引 き 上 げ、 彼 ご 自 身 の 義 の 汚<br />

れない 衣 を 着 せて、 彼 らを 堕 落 しなかった 天 使 たちとの 交 わりに 入 れ、 神 の 前 に 永 遠<br />

に 住 まわせられること、このことである。<br />

人 類 の 仲 保 者 としてのキリストの 働 きは、「その 名 を 枝 という 人 」に 関 するゼカリ<br />

ヤの 美 しい 預 言 のなかに 示 されている。 預 言 者 は、 次 のように 言 っている。「 彼 は 主<br />

の 宮 を 建 て、 王 としての 光 栄 を 帯 び、その 位 〔 天 父 の〕に 座 して 治 める。その 位 のか<br />

たわらに、ひとりの 祭 司 がいて、このふたりの 間 に 平 和 の 一 致 がある」[ゼカリヤ 6:<br />

304


国 際 協 定<br />

12、。「 彼 は 主 の 宮 を 建 て」る。キリストは、 彼 の 犠 牲 と 仲 保 とによって、 神 の 教 会<br />

の 基 礎 であり、またその 建 設 者 でもあられる。<br />

使 徒 パウロは、 彼 を 指 して、「 隅 のかしら 石 である」と 言 っている。「このキリス<br />

トにあって、 建 物 全 体 が 組 み 合 わされ、 主 にある 聖 なる 宮 に 成 長 し、そしてあなたが<br />

たも、 主 にあって 共 に 建 てられて、 霊 なる 神 のすまいとなるのである」[エペソ 2:20<br />

~。 「 彼 は…… 王 としての 光 栄 を 帯 び」、 堕 落 した 人 類 のための 贖 いの 栄 光 は、キリ<br />

ストにのみ 帰 せられる。 贖 われたものは、 永 遠 にわたって、「わたしたちを 愛 し、そ<br />

の 血 によってわたしたちを 罪 から 解 放 し……て 下 さったかたに、 世 々 限 りなく 栄 光 と<br />

権 力 とがあるように」と 歌 う[ 黙 示 録 1:5、。<br />

「その 位 に 座 して 治 める。その 位 のかたわらに、ひとりの 祭 司 がい」る。 彼 は 今<br />

「その 栄 光 の 座 に」おられるのではない。 栄 光 の 王 国 は、まだ 始 まってはいない。 仲<br />

保 者 としての 彼 の 働 きが 終 わらなければ、 神 は、「 彼 に 父 ダビデの 王 座 を」、「 限 り<br />

なく 続 く」その 支 配 を、「お 与 えにな」らない[ルカ 1:32、。キリストは 今 、 祭 司 と<br />

して、 父 とともにみ 座 についておられる[ 黙 示 録 3:21 参 照 ]。 永 遠 の、 自 存 なさるお<br />

方 とともに、「われわれの 病 を 負 い、われわれ の 悲 しみをになった」 方 、「 罪 は 犯 さ<br />

れなかったが、すべてのことについて、わたしたちと 同 じように 試 練 に 会 われ」、<br />

「 試 練 の 中 にある 者 たちを 助 けることができる」 方 が、おられるのである。「もし、<br />

罪 を 犯 す 者 があれば、 父 のみもとには、わたしたちのために 助 け 主 ……がおられる」<br />

[イザヤ 53:4、ヘブル 4:15、2:18、Ⅰヨハネ 2:。 彼 の 仲 保 は、 刺 され 砕 かれた<br />

体 による 仲 保 、 罪 のない 生 涯 による 仲 保 である。 傷 ついた 手 、 刺 されたわき、 傷 つい<br />

た 足 が、 罪 に 陥 った 人 類 のために 嘆 願 しておられる。 人 間 の 贖 罪 のためには、このよ<br />

うに 無 限 の 価 が 払 われたのである。<br />

「このふたりの 間 に 平 和 の 一 致 がある。」み 子 の 愛 に 劣 ることのない 天 父 の 愛 が、<br />

失 われた 人 類 に 対 する 救 いの 基 礎 である。イエスは、 去 る 前 に 弟 子 たちに 次 のように<br />

言 われた。「わたしは、あなたがたのために 父 に 願 ってあげようとは 言 うまい。 父 ご<br />

自 身 があなたがたを 愛 しておいでになるからである」[ヨハネ 16:26、。 「 神 はキリ<br />

ストにおいて 世 をご 自 分 に 和 解 させ」られた[Ⅱコリント 5:。そして、 天 の 聖 所 の 奉<br />

仕 において、「このふたりの 間 に 平 和 の 一 致 がある。」「 神 はそのひとり 子 を 賜 わっ<br />

たほどに、この 世 を 愛 して 下 さった。それは 御 子 を 信 じる 者 がひとりも 滅 びないで、<br />

永 遠 の 命 を 得 るためである」[ヨハネ 3:。<br />

聖 所 とは 何 かという 質 問 に 対 して、 聖 書 ははっきりと 解 答 を 与 えている。 聖 書 に 用<br />

いられている「 聖 所 」という 言 葉 は、まず 第 一 に、 天 にあるもののひな 型 としてモー<br />

305


国 際 協 定<br />

セが 建 てた 幕 屋 をさし、そして 第 二 に、 地 上 の 聖 所 が 指 し 示 していたところの、 天 に<br />

ある「 真 の 幕 屋 をさしている。キリストの 死 によって、 型 としての 奉 仕 は 終 わった。<br />

天 にある「 真 の 幕 屋 」は、 新 しい 契 約 の 聖 所 である。そして、ダニエル 8:14 の 預 言<br />

は、この 時 代 に 成 就 されるのであるから、ここで 言 う 聖 所 は、 新 しい 契 約 の 聖 所 であ<br />

るに 違 いない。2300 日 が 1844 年 に 終 結 した 時 に、この 地 上 には 幾 世 紀 もの 間 、 聖<br />

所 はなかった。こうして、「2300 の 夕 と 朝 の 間 である。そして 聖 所 は 清 められてそ<br />

の 正 しい 状 態 に 復 する」という 預 言 は、 疑 いもなく 天 の 聖 所 をさすのである。<br />

しかし、 聖 所 の 清 めとは 何 かという、 最 も 重 要 な 問 題 が、 未 解 決 のまま 残 っている。<br />

地 上 の 聖 所 に 関 連 してこうした 儀 式 があったことは、 旧 約 聖 書 に 記 されている。しか<br />

し、 天 において、 清 められねばならないものが、あるのであろうか。ヘブル 人 への 手<br />

紙 9 章 には、 地 上 と 天 の 両 方 の 聖 所 の 清 めが 明 らかに 教 えられている。「こうして、<br />

ほとんどすべての 物 が、 律 法 に 従 い、 血 [によってきよめられたのである。 血 を 流 す<br />

ことなしには、 罪 のゆるしはあり 得 ない。このように、 天 にあるもののひな 型 は、こ<br />

れらのもの〔 動 物 の 血 〕できよめられる 必 要 があるが、 天 にあるものは、これらより<br />

更 にすぐれたいけにえで、きよめられねばならない」[ヘブル 9:22、。それは、キリ<br />

ストの 尊 い 血 である。<br />

この 清 めは、 型 としての 儀 式 においても 実 際 の 儀 式 においても、 血 によって 成 し 遂<br />

げられなければならない。 前 者 は、 動 物 の 血 によって 行 われ、 後 者 は、キリストの 血<br />

によって 行 われる。パウロは、なぜこの 清 めが 血 によって 行 われねばならないかとい<br />

うことの 理 由 として、 血 を 流 すことなしには、 罪 のゆるしがないからであると 述 べて<br />

いる。ゆるし、すなわち 罪 の 除 去 という 働 きが、 成 し 遂 げられなければならない。し<br />

かし、 罪 は、 天 や 地 上 の 聖 所 とどのような 関 係 にあるのであろうか。このことは、 象<br />

徴 的 儀 式 を 調 べることによって 学 ぶことができる。なぜなら、 地 上 で 奉 仕 した 祭 司 は、<br />

「 天 にある 聖 所 のひな 型 と 影 とに」 仕 えていたからである[ヘブル 8:。<br />

地 上 の 聖 所 の 務 めは、2 つの 部 分 から 成 っていた。すなわち、 祭 司 たちは 毎 日 聖 所<br />

で 務 めを 行 っていたが、 大 祭 司 は 1 年 に 1 度 、 聖 所 を 清 めるために、 至 聖 所 において<br />

贖 いの 特 別 な 働 きを 行 った。 毎 日 、 悔 い 改 めた 罪 人 が 幕 屋 の 入 り 口 に 供 え 物 を 持 って<br />

来 て、 手 を 犠 牲 の 頭 において 自 分 の 罪 を 告 白 し、こうして 自 分 の 罪 を 象 徴 的 に 自 分 自<br />

身 から 罪 のない 犠 牲 へと 移 した。それから 動 物 はほふられた。「 血 を 流 すことなしに<br />

は」 罪 の 赦 しはあり 得 ない、と 使 徒 は 言 っている。「 肉 の 命 は 血 にあるからである」<br />

[レビ 17:。 破 られた 神 の 律 法 は、 罪 人 の 生 命 を 要 求 した。 罪 人 の 失 われた 生 命 を 表<br />

す 血 、すなわち 犠 牲 が 彼 の 罪 を 負 って 流 したものが、 祭 司 によって 聖 所 の 中 に 運 ばれ、<br />

幕 の 前 に 注 がれた。 幕 の 後 ろには、 罪 人 が 犯 したその 律 法 を 入 れた 箱 があった。この<br />

306


国 際 協 定<br />

儀 式 において、 罪 は、 血 によって、 象 徴 的 に 聖 所 に 移 された。ある 場 合 には、 血 を 聖<br />

所 に 持 って 入 らず、モーセがアロンの 子 らに 命 じて「あなたがたが 会 衆 の 罪 を 負<br />

[う]……ため、あなたがたに 賜 わった 物 である」と 言 ったように、 祭 司 は、そこで 肉<br />

を 食 べなければならなかった[レビ 10:。どちらの 儀 式 も 同 様 に、 悔 い 改 めた 者 から<br />

聖 所 へと、 罪 が 移 されることを 象 徴 していた。<br />

こうした 務 めが 毎 日 、1 年 中 を 通 じて 行 われた。イスラエルの 罪 がこうして 聖 所 に<br />

移 され、そして、それを 取 り 除 くために 特 別 の 務 めが 必 要 であった。そこで、 神 は、<br />

聖 所 の 各 部 屋 のために 贖 いをすることをお 命 じになった。「イスラエルの 人 々の 汚 れ<br />

と、そのとが、すなわち、 彼 らのもろもろの 罪 のゆえに、 聖 所 のためにあがないをし<br />

なければならない。また 彼 らの 汚 れのうちに、 彼 らと 共 にある 会 見 の 幕 屋 のためにも、<br />

そのようにしなければならない。」また、 贖 罪 は、 祭 壇 にも 行 われるべきで、「イス<br />

ラエルの 人 々の 汚 れを 除 いてこれを 清 くし、 聖 別 しなければならない」[レビ 16:<br />

16、。<br />

1 年 に 1 度 、 大 いなる 贖 罪 の 日 に、 大 祭 司 は 聖 所 を 清 めるために 至 聖 所 に 入 った。<br />

そこで 行 われた 務 めによって、1 年 間 の 務 めが 完 了 した。 贖 罪 の 日 に、2 頭 のやぎが<br />

幕 屋 の 入 り 口 に 連 れてこられ、くじが 引 かれた。「1 つのくじは 主 のため、1 つのく<br />

じはアザゼルのため」[ 同 16:。 主 のためのくじに 当 たったやぎは、 民 のための 罪 祭<br />

としてほふられた。そして、 大 祭 司 は、その 血 を 幕 の 中 に 携 えていき、 贖 罪 所 の 上 と<br />

贖 罪 所 の 前 に 注 がなければならなかった。 血 は、 幕 の 前 の 香 壇 にも 注 がなければなら<br />

なかった。<br />

「そしてアロンは、その 生 きているやぎの 頭 に 両 手 をおき、イスラエルの 人 々のも<br />

ろもろの 悪 と、もろもろのとが、すなわち、 彼 らのもろもろの 罪 をその 上 に 告 白 して、<br />

これをやぎの 頭 にのせ、 定 めておいた 人 の 手 によって、これを 荒 野 に 送 らなければな<br />

らない。こうしてやぎは 彼 らのもろもろの 悪 をになって、 人 里 離 れた 地 に 行 くであろ<br />

う」[ 同 16:21、。アザゼルのやぎは、もはやイスラエルの 宿 営 に 帰 っては 来 なかっ<br />

た。そして、やぎを 連 れ 出 した 人 々は、 宿 営 に 帰 る 前 に、 水 で 身 をすすぎ、 衣 服 を 洗<br />

わなければならなかった。 この 儀 式 全 体 は、 神 が 聖 であられて、 罪 をいみきらわれる<br />

ことを、イスラエルの 人 々に 深 く 感 じさせるよう 意 図 されていた。そして、さらに、<br />

罪 に 触 れるならば 必 ず 汚 れることを、 彼 らに 示 すものであった。 贖 罪 の 業 が 進 行 して<br />

いる 間 、すべての 者 は、 身 を 悩 まさなければならなかった。 仕 事 をすべてやめて、イ<br />

スラエルの 全 会 衆 は、 厳 粛 に 神 の 前 にへりくだり、 祈 り、 断 食 し、 心 を 深 く 探 って 1<br />

日 を 過 ごさなければならなかった。<br />

307


国 際 協 定<br />

贖 罪 に 関 する 重 要 な 真 理 が、 型 としての 儀 式 によって 教 えられている。 罪 人 の 代 わ<br />

りに、その 身 代 わりとなるものが 受 け 入 れられた。しかし、 犠 牲 の 血 によって 罪 が 取<br />

り 消 されたわけではなかった。こうした 方 法 によって、 罪 が 聖 所 に 移 されたのであっ<br />

た。 罪 人 は、 血 のささげ 物 によって、 律 法 の 権 威 を 認 め、 犯 した 罪 を 告 白 し、 来 たる<br />

べき 贖 い 主 を 信 じる 信 仰 によって 赦 しを 願 っていることを 表 明 した。しかし 彼 は、 律<br />

法 の 宣 告 から 全 く 解 放 されたのではなかった。 大 祭 司 は、 贖 罪 の 日 に、 会 衆 からのさ<br />

さげ 物 をとって、その 血 をたずさえて 至 聖 所 に 入 り、 律 法 の 真 上 にある 贖 罪 所 の 上 に<br />

それを 注 いで、 律 法 の 要 求 を 満 たした。それから 彼 は、 仲 保 者 として、 罪 を 自 ら 負 っ<br />

て、 聖 所 から 持 ち 出 した。 彼 は、アザゼルのやぎの 頭 に 手 をおいて、すべての 罪 を 告<br />

白 し、こうして、 象 徴 的 に、 自 分 からアザゼルのやぎへと 罪 を 移 した。それからやぎ<br />

は、 罪 を 背 負 って 去 り、そして 罪 は 永 遠 に 民 から 切 り 離 されたものと 見 なされた。<br />

これが、「 天 にある 聖 所 のひな 型 と 影 」に 従 って 行 われた 儀 式 であった。そして、<br />

地 上 の 聖 所 の 務 めにおいて、 型 として 行 われたことが、 天 の 聖 所 の 務 めにおいて、 現<br />

実 に 行 われるのである。われわれの 救 い 主 は、 昇 天 ののち、われわれの 大 祭 司 として<br />

の 働 きを 始 められた。パウロは 次 のように 言 っている。「ところが、キリストは、ほ<br />

んとうのものの 模 型 にすぎない、 手 で 造 った 聖 所 にはいらないで、 上 なる 天 にはいり、<br />

今 やわたしたちのために 神 のみまえに 出 て 下 さったのである」[ヘブル 9:。<br />

戸 口 であり、 聖 所 を 中 庭 から 区 別 するものであった「 幕 の 内 」において、すなわち、<br />

聖 所 の 第 一 の 部 屋 において 1 年 を 通 じて 行 われる 祭 司 の 務 めは、キリストが 昇 天 の 時<br />

に 始 められた 務 めを 表 している。 神 の 前 に 罪 祭 の 血 をささげ、イスラエルの 祈 りとと<br />

もにたちのぼる 香 をたくことが、 日 ごとの 務 めにおける 祭 司 の 働 きであった。 同 様 に<br />

キリストは、 罪 人 のためにご 自 分 の 血 をもって 天 父 に 嘆 願 なさり、そのみ 前 に、ご 自<br />

身 の 義 の 尊 い 香 とともに、 悔 い 改 めた 信 者 の 祈 りを 差 し 出 された。これが、 天 の 聖 所<br />

の 第 一 の 部 屋 における 務 めであった。<br />

キリストが 弟 子 たちを 離 れて 昇 天 された 時 、 弟 子 たちは、 信 仰 によってここまで 彼<br />

についていった。ここに 彼 らの 希 望 は 集 中 した。パウロは 次 のように 言 った。「この<br />

望 みは、わたしたちにとって、いわば、たましいを 安 全 にし 不 動 にする 錨 であり、か<br />

つ『 幕 の 内 』にはいり 行 かせるものである。その 幕 の 内 に、イエスは、 永 遠 に…… 大<br />

祭 司 として、わたしたちのためにさきがけとなって、はいられたのである。」かつ、<br />

やぎと 子 牛 との 血 によらず、ご 自 身 の 血 によって、1 度 だけ 聖 所 に 入 られ、それによ<br />

って 永 遠 のあがないを 全 うされたのである」[ヘブル 6:19、20、9:。<br />

308


国 際 協 定<br />

1800 年 にわたって、 聖 所 の 第 一 の 部 屋 において、この 務 めが 続 けられた。キリス<br />

トの 血 は、 悔 い 改 めた 信 者 のために 嘆 願 し、 彼 らが 赦 され 天 父 に 受 け 入 れられるよう<br />

にしてきたが、しかし 彼 らの 罪 は、まだ 記 録 の 書 に 残 っていた。 型 としての 儀 式 にお<br />

いて、1 年 の 終 わりに 贖 罪 の 働 きがあったように、 人 類 の 贖 いのためのキリストの 働<br />

きが 終 わる 前 に、 聖 所 から 罪 を 取 り 除 く 贖 罪 の 働 きが 行 われるのである。これが、<br />

2300 日 が 終 了 した 時 に 始 まった 務 めであった。その 時 に、 預 言 者 ダニエルが 預 言 し<br />

たとおり、われわれの 大 祭 司 は、 彼 の 厳 粛 な 働 きの 最 後 の 部 分 を 行 うために、すなわ<br />

ち 聖 所 を 清 めるために、 至 聖 所 に 入 られたのであった。<br />

古 代 において、 民 の 罪 が、 信 仰 によって 罪 祭 の 上 におかれ、そしてその 血 によって、<br />

象 徴 的 に 地 上 の 聖 所 に 移 されたように、 新 しい 契 約 においては、 悔 い 改 めた 者 の 罪 は、<br />

信 仰 によってキリストの 上 におかれ、そして 実 際 に 天 の 聖 所 に 移 されるのである。<br />

そして、 地 上 の 聖 所 の 型 としての 清 めが、それを 汚 してきた 罪 を 取 り 除 くことによ<br />

って 成 し 遂 げられたように、 天 の 聖 所 の 実 際 の 清 めも、そこに 記 録 されている 罪 を 取<br />

り 除 くことによって、すなわち 消 し 去 ることによって、 成 し 遂 げられねばならない。<br />

しかし、これを 完 成 するためには、だれが 罪 の 悔 い 改 めとキリストを 信 じる 信 仰 によ<br />

って、 贖 いの 恵 みを 受 ける 資 格 があるかを 決 定 するために、 記 録 の 書 の 調 査 がなされ<br />

ねばならない。したがって、 聖 所 の 清 めには、 調 査 の 働 き、すなわち 審 判 の 働 きが 含<br />

まれるのである。この 働 きは、キリストがご 自 分 の 民 を 贖 うために 来 られる 前 に 行 わ<br />

れねばならない。なぜなら、 彼 が 来 られる 時 には、 彼 はすべての 者 に、それぞれの 行<br />

為 に 応 じて 報 いを 与 えられるからである[ 黙 示 録 22:12 参 照 ]。 こうして、 預 言 の 言<br />

葉 の 光 に 従 った 者 たちは、キリストは、2300 日 が 1844 年 に 終 了 した 時 に、この 地<br />

上 に 来 られるのではなくて、 再 臨 に 備 えて 贖 いの 最 後 の 働 きをするために、 天 の 聖 所<br />

の 至 聖 所 に 入 られたのだということを 知 った。<br />

また、 罪 祭 が 犠 牲 としてのキリストをさし、 大 祭 司 が 仲 保 者 としてのキリストを 表 す<br />

一 方 、アザゼルのやぎ は 罪 の 張 本 人 であるサタンを 象 徴 していて、 彼 の 上 に、 真 に 悔<br />

い 改 めた 者 たちの 罪 が 最 終 的 に 置 かれるのだ、ということもわかった。 大 祭 司 は、 罪<br />

祭 の 血 によって、 聖 所 から 罪 を 除 去 した 時 に、それをアザゼルのやぎの 上 においた。<br />

キリストが、 彼 の 務 めの 最 後 に、ご 自 身 の 血 によって、 天 の 聖 所 からご 自 分 の 民 の 罪<br />

を 除 去 される 時 、 彼 はそれをサタンの 上 におかれる。サタンは、 審 判 の 執 行 において、<br />

最 終 的 な 刑 罰 を 負 わねばならない。アザゼルのやぎは、 人 里 離 れた 地 へと 追 い 払 われ、<br />

309


国 際 協 定<br />

イスラエルの 宿 営 には 2 度 と 帰 って 来 なかった。そのように、サタンは、 神 と 神 の 民<br />

の 前 から 永 遠 に 追 放 される。そして、 罪 と 罪 人 の 最 終 的 な 滅 亡 の 時 に 消 し 去 られるの<br />

である。<br />

310


国 際 協 定<br />

第 24 章 天 の 至 聖 所 における<br />

聖 所 問 題 が、1844 年 の 失 望 の 秘 密 を 解 くかぎであった。それは、 互 いに 関 連 し 調<br />

和 する 真 理 の 全 体 系 を 明 らかにし、 神 のみ 手 が 大 再 臨 運 動 を 導 いてきたことを 示 し、<br />

そして、 神 の 民 の 立 場 と 働 きとをはっきりさせて、 今 なすべきことを 明 らかにした。<br />

イエスの 弟 子 たちが、 苦 悩 と 失 望 の 恐 ろしい 夜 を 過 ごした 後 で、「 主 を 見 て 喜 んだ」<br />

ように、 信 仰 をもって 主 の 再 臨 を 待 ち 望 んでいた 人 々は、 今 喜 びに 満 たされた。 彼 ら<br />

は、 主 が、しもべたちに 報 いを 与 えるために、 栄 光 のうちに 出 現 なさるものと 期 待 し<br />

ていたのであった。その 望 みが 失 望 に 終 わった 時 、 彼 らはイエスを 見 失 い、 墓 のそば<br />

のマリヤとともに、「だれかが、わたしの 主 を 取 り 去 りました。そして、どこに 置 い<br />

たのか、わからないのです」と 叫 んだのであった。 今 彼 らは、 至 聖 所 の 中 に、 再 び 主<br />

を 見 た。それは、 彼 らの 憐 れみに 満 ちた 大 祭 司 であり、まもなく 彼 らの 王 として、 救<br />

出 者 として 来 られる 方 であった。 聖 所 からの 光 が、 過 去 と 現 在 と 未 来 を 照 らした。 彼<br />

らは、 神 が、 誤 ることのない 摂 理 によって 自 分 たちを 導 いてこられたことを 知 った。<br />

彼 らは、 最 初 の 弟 子 たちと 同 様 に、 自 分 たちが 伝 えた 使 命 を 理 解 できなかったのであ<br />

ったが、しかしその 使 命 は、あらゆる 点 において、 正 しかったのであった。それを 宣<br />

言 することにおいて、 彼 らは 神 のみ 心 を 成 し 遂 げたのであって、 彼 らの 労 苦 は 主 にあ<br />

ってむだではなかった。 彼 らは、 新 たに 生 まれて、「 生 ける 望 みをいだかせ」られ、<br />

「 言 葉 につくせない、 輝 きにみちた 喜 びに」あふれたのである。<br />

「2300 の 夕 と 朝 の 間 である。そして 聖 所 は 清 められてその 正 しい 状 態 に 復 する」<br />

というダニエル 8:14 の 預 言 と、「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せよ。 神 のさばきの 時<br />

がきたからである」という 第 一 天 使 の 使 命 とは、ともに、 至 聖 所 におけるキリストの<br />

務 め、すなわち 調 査 審 判 をさすもので、 神 の 民 の 救 いと 悪 人 の 絶 滅 のためにキリスト<br />

が 来 られることをさすものではなかった。 まちがいは、 預 言 期 間 の 計 算 にではなくて、<br />

2300 日 の 終 わりに 起 きる 事 件 にあった。このまちがいのために、 信 徒 たちは 失 望 に<br />

陥 ったのであったが、しかし 預 言 の 中 で 予 告 されたすべてのこと、また、 聖 書 に 起 こ<br />

ると 保 証 されたできごとは、みな 成 就 した。 彼 らが、 自 分 たちの 希 望 がかなえられな<br />

かったことを 嘆 いていた、まさにその 時 に、 使 命 によって 予 告 されたこと、そして、<br />

主 がしもべたちに 報 いを 与 えるために 現 れる 前 に 成 就 されねばならないことが、 起 き<br />

たのであった。<br />

キリストは、 彼 らが 期 待 していた 地 上 にではなくて、 型 において 予 表 されていたよ<br />

うに、 天 にある 神 の 宮 の 至 聖 所 に 来 られたのであった。 預 言 者 ダニエルは、キリスト<br />

311


国 際 協 定<br />

はこの 時 、 日 の 老 いたる 者 のもとに 来 ると 表 現 している。「わたしはまた 夜 の 幻 のう<br />

ちに 見 ていると、 見 よ、 人 の 子 のような 者 が、 天 の 雲 に 乗 ってきて」、 地 上 ではなく<br />

て、「 日 の 老 いたる 者 のもとに 来 ると、その 前 に 導 かれた」[ダニエル 7:。この 来 ら<br />

れることについては 預 言 者 マラキも 預 言 している。「あなたがたが 求 める 所 の 主 は、<br />

たちまち〔 突 然 —— 英 語 訳 〕その 宮 に 来 る。 見 よ、あなたがたの 喜 ぶ 契 約 の 使 者 が 来<br />

ると、 万 軍 の 主 が 言 われる」[マラキ 3:。 主 がその 宮 に 来 られたのは 突 然 で、 彼 の 民<br />

は 予 期 していなかった。 彼 らは、 主 が、そこに 来 られるとは 考 えていなかった。 彼 ら<br />

は、 主 が、「 炎 の 中 で…… 神 を 認 めない 者 たちや、…… 福 音 に 聞 き 従 わない 者 たちに<br />

報 復 」するために、 地 上 に 来 られるものと 予 期 していた[Ⅱテサロニケ 1:7、。<br />

しかし、 人 々は、まだ 主 に 会 う 準 備 ができていなかった。まだ、 彼 らのためになさ<br />

れねばならぬ 準 備 の 働 きがあった。 彼 らは、まず 光 を 受 けて、 天 にある 神 の 宮 に 心 を<br />

向 けねばならなかった。そして 彼 らが、そこで 奉 仕 しておられる 彼 らの 大 祭 司 に、 信<br />

仰 によって 従 っていく 時 に、 新 しい 義 務 が 示 されるのであった。もう 1 つの 警 告 と 教<br />

えの 使 命 が、 教 会 に 与 えられるのであった。 預 言 者 は 語 っている。「その 来 る 日 には、<br />

だれが 耐 え 得 よう。そのあらわれる 時 には、だれが 立 ち 得 よう。 彼 は 金 をふきわける<br />

者 の 火 のようであり、 布 さらしの 灰 汁 のようである。 彼 は 銀 をふきわけて 清 める 者 の<br />

ように 座 して、レビの 子 孫 を 清 め、 金 銀 のように 彼 らを 清 める。そして 彼 らは 義 をも<br />

って、ささげ 物 を 主 にささげる」[マラキ 3:2、。 天 の 聖 所 におけるキリストのとり<br />

なしがやむ 時 、 地 上 に 住 んでいる 人 々は、 聖 なる 神 の 前 で、 仲 保 者 なしに 立 たなけれ<br />

ばならない。 彼 らの 着 物 は 汚 れがなく、 彼 らの 品 性 は、 血 をそそがれて 罪 から 清 まっ<br />

ていなければならない。キリストの 恵 みと、 彼 ら 自 身 の 熱 心 な 努 力 とによって、 彼 ら<br />

は 悪 との 戦 いの 勝 利 者 とならなければならない。 天 で 調 査 審 判 が 行 われ、 悔 い 改 めた<br />

罪 人 の 罪 が 聖 所 から 除 かれているその 間 に、 地 上 の 神 の 民 の 間 では、 清 めの 特 別 な 働<br />

き、すなわち 罪 の 除 去 が 行 われなければならない。この 働 きは、 黙 示 録 14 章 の 使 命<br />

の 中 にさらに 明 瞭 に 示 されている。<br />

この 働 きが 成 し 遂 げられると、キリストの 弟 子 たちは、 主 の 再 臨 を 迎 える 準 備 がで<br />

きるのである。「その 時 ユダとエルサレムとのささげ 物 は、 昔 の 日 のように、また 先<br />

の 年 のように 主 に 喜 ばれる」[マラキ 3:。その 時 、 主 が 再 臨 されてご 自 分 のもとに 受<br />

け 入 れられる 教 会 は、「しみも、しわも、そのたぐいのものがいっさいなく、…… 栄<br />

光 の 姿 の 教 会 」である[エペソ 5:。また、その 教 会 は、「しののめのように 見 え、 月<br />

のように 美 しく、 太 陽 のように 輝 き、 恐 るべき 事 、 旗 を 立 てた 軍 勢 のような 者 」であ<br />

る[ 雅 歌 6:。<br />

312


国 際 協 定<br />

マラキは、 主 がその 宮 に 来 られるということのほかに、 主 の 再 臨 、すなわち、 主 が<br />

さばきを 実 行 するために 来 られることについても、 次 のように 預 言 している。「そし<br />

てわたしはあなたがたに 近 づいて、さばきをなし、 占 い 者 、 姦 淫 を 行 う 者 、 偽 りの 誓<br />

いをなす 者 にむかい、 雇 人 の 賃 銀 をかすめ、やもめと、みなしごとをしえたげ、 寄 留<br />

の 他 国 人 を 押 しのけ、わたしを 恐 れない 者 どもにむかって、すみやかにあかしを 立 て<br />

ると、 万 軍 の 主 は 言 われる」[マラキ 3:。<br />

ユダは、この 同 じ 光 景 について、 次 のように 言 っている。「 見 よ、 主 は 無 数 の 聖 徒<br />

たちを 率 いてこられた。それは、すべての 者 にさばきを 行 うためであり、また、 不 信<br />

心 な 者 が、 信 仰 を 無 視 して 犯 したすべての 不 信 心 なしわざ……を 責 めるためである」<br />

[ユダ 14、。この 来 臨 と、 主 が 主 の 宮 に 来 られることとは、 全 く 別 のできごとであ<br />

る。 ダニエル 8:14 に 示 されているところの、キリストがわれわれの 大 祭 司 として、<br />

聖 所 を 清 めるために 至 聖 所 に 来 られるということ、ダニエル 7:13 に 提 示 されている、<br />

人 の 子 が 日 の 老 いたる 者 のもとに 来 るということ、そしてマラキが 預 言 した 主 がその<br />

宮 に 来 られるということ、これらはみな、 同 じできごとの 描 写 である。そして、これ<br />

はまた、キリストがマタイ 25 章 の 10 人 のおとめのたとえの 中 で 語 られた、 婚 宴 の 席<br />

への 花 婿 の 到 着 ということによっても 表 されている。<br />

1844 年 の 夏 から 秋 にかけて、「さあ、 花 婿 だ」という 宣 言 が 発 せられた。その 時<br />

に、 思 慮 深 いおとめたちと 思 慮 の 浅 いおとめたちによって 表 されている 2 種 類 の 人 々<br />

が 現 れた。すなわち、 主 の 出 現 を 喜 んで 待 ち、 主 に 会 う 準 備 にいそしんだ 人 々と、 恐<br />

怖 にかられて 衝 動 的 に 行 動 し、 真 理 の 理 論 だけに 満 足 して、 神 の 恵 みに 欠 けていた 人<br />

々とであった。たとえの 中 では、 花 婿 が 来 た 時 に「 用 意 のできていた 女 たちは、 花 婿<br />

と 一 緒 に 婚 宴 のへやにはい」った。ここで 示 されている、 花 婿 の 到 着 は、 婚 宴 の 前 に<br />

起 こる。 婚 宴 は、キリストがみ 国 をお 受 けになることを 意 味 している。み 国 の 首 都 で<br />

ありその 代 表 である 聖 なる 都 、 新 エルサレムは、「 小 羊 の 妻 なる 花 嫁 」と 呼 ばれてい<br />

る。 天 使 は、ヨハネに 言 った。「さあ、きなさい。 小 羊 の 妻 なる 花 嫁 を 見 せよう。」<br />

「この 御 使 は、わたしを 御 霊 に 感 じたまま、…… 連 れて 行 き、 聖 都 エルサレムが……<br />

神 のみもとを 出 て 天 から 下 って 来 るのを 見 せてくれた」とヨハネは 言 っている[ 黙 示 録<br />

21:9、。したがって、 明 らかに、 花 嫁 は 聖 都 を 表 し、 花 婿 を 迎 えに 出 るおとめたち<br />

は、 教 会 の 象 徴 である。 黙 示 録 によれば、 神 の 民 は、 婚 宴 に 招 かれた 客 であると 言 わ<br />

れている[ 黙 示 録 19:9 参 照 ]。もし 彼 らが 客 であれば、 花 嫁 をも 代 表 することはでき<br />

ない。<br />

キリストは、 預 言 者 ダニエルが 言 っているように、 天 の 日 の 老 いたる 者 から、「 主<br />

権 と 光 栄 と 国 」とを 賜 るのである。 彼 は、「 夫 のために 着 飾 った 花 嫁 のように 用 意 を<br />

313


国 際 協 定<br />

ととのえ」たみ 国 の 首 都 、 新 しいエルサレムをお 受 けになる[ダニエル 7:14、 黙 示 録<br />

21:。み 国 を 受 けたのちに、 彼 はご 自 分 の 民 を 救 うために、 王 の 王 、 主 の 主 として 栄<br />

光 のうちに 来 られる。そして 彼 らは、 天 国 で「アブラハム、イサク、ヤコブと 共 に 宴<br />

会 の 席 に」つき、 小 羊 の 婚 宴 にあずかるのである[マタイ 8:11、ルカ 22:30 参<br />

照 ]。<br />

1844 年 の 夏 の「さあ、 花 婿 だ」という 宣 言 は、 多 くの 者 に、 主 の 再 臨 はすぐだと<br />

期 待 させた。その 指 定 された 時 に、 花 婿 は、 人 々が 期 待 したように 地 上 にではなくて、<br />

婚 宴 のために、すなわちみ 国 を 受 けるために、 天 の 日 の 老 いたる 者 のもとに 来 たので<br />

ある。「 用 意 のできていた 女 たちは、 花 婿 と 一 緒 に 婚 宴 のへやに 入 り、そして 戸 がし<br />

められた。」 彼 らは、 婚 宴 の 席 に 列 することはできなかった。なぜなら、これは 天 に<br />

おいて 起 こり、 彼 らは 地 上 にいるからである。キリストの 弟 子 たちは、「 主 人 が 婚 宴<br />

から 帰 って」くるのを「 待 って」いなければならない[ルカ 12:。しかし、 彼 らは、<br />

室 の 働 きをよく 理 解 し、 彼 が 神 の 前 に 出 られるのに 信 仰 によって 従 っていかねばなら<br />

ない。この 意 味 において、 彼 らは、 婚 宴 の 部 屋 に 入 ったと 言 われているのである。<br />

たとえによると、 婚 宴 の 部 屋 に 入 ったのは、あかりとともに 器 に 油 を 持 っていた<br />

者 たちであった。 聖 書 から 真 理 の 知 識 を 得 るとともに、 聖 霊 と 神 の 恵 みとを 持 ってい<br />

た 人 々、 厳 しい 試 練 の 夜 も、 忍 耐 して 待 ち、より 明 らかな 光 を 求 めて 聖 書 を 研 究 した<br />

人 々、——これらの 人 々は、 天 の 聖 所 に 関 する 真 理 と、 救 い 主 の 務 めの 変 化 とを 認 め、<br />

信 仰 によって、 天 の 聖 所 における 彼 の 働 きに 従 っていった。そして、 聖 書 のあかしを<br />

とおして 同 じ 真 理 を 受 けいれ、キリストが 仲 保 の 最 後 の 働 きを 行 うために、そしてそ<br />

の 最 後 にはみ 国 を 受 けるために、 神 の 前 に 出 られるのに 信 仰 によって 従 っていく 者 た<br />

ちは、すべて、 婚 宴 の 部 屋 に 入 るものとして 表 されているのである。<br />

マタイ 22 章 のたとえにおいて、 同 じ 婚 宴 の 象 徴 が 用 いられ、 婚 宴 に 先 だって 調 査<br />

審 判 が 行 われることが 明 示 されている。 婚 宴 に 先 だって、 王 は、すべての 客 が、 礼 服 、<br />

すなわち、 小 羊 の 血 で 洗 って 白 くしたしみのない 品 性 の 衣 を 着 ているかを 見 るために<br />

入 ってくる[マタイ 22:11、 黙 示 録 7:14 参 照 ]。 欠 けていることを 発 見 された 者 は、<br />

追 い 出 されるが、 調 査 の 上 で 礼 服 を 着 ていることが 認 められたすべての 者 は、 神 に 受<br />

け 入 れられ、み 国 に 入 って 神 のみ 座 のもとに 座 るに 足 る 者 と 見 なされるのである。 品<br />

性 を 調 査 し、だれが 神 の 国 に 入 る 準 備 をしたかを 決 定 するこの 働 きが、 調 査 審 判 の 働<br />

きであり、 天 の 聖 所 における 最 後 の 働 きなのである。<br />

調 査 の 働 きが 終 わり、 各 時 代 においてキリストに 従 う 者 であると 称 してきた 人 々の<br />

調 査 と 決 定 がなされた 時 、その 時 初 めて、 恩 恵 期 間 が 終 わり、 恵 みの 扉 が 閉 じられる。<br />

314


国 際 協 定<br />

このように、「 用 意 のできていた 女 たちは、 花 婿 と 一 緒 に 婚 宴 のへやに 入 り、そして<br />

戸 が 閉 められた」という 短 い 1 節 の 中 に、 救 い 主 の 最 後 の 務 めが 終 わって、 人 間 の 救<br />

いの 大 事 業 が 完 成 される 時 までが、 示 されている。<br />

すでに 見 たように、 天 の 聖 所 の 型 である 地 上 の 聖 所 の 務 めにおいては、 贖 罪 の 日 に<br />

大 祭 司 が 聖 所 の 至 聖 所 に 入 った 時 に、 第 1 室 における 務 めはやんだのである。 神 は、<br />

次 のように 命 じられた。「 彼 が 聖 所 であがないをするために、はいった 時 は、…… 出<br />

るまで、だれも 会 見 の 幕 屋 の 内 にいてはならない」[レビ 16:。そのように、キリス<br />

トが、 贖 罪 の 最 後 の 務 めを 行 うために 至 聖 所 に 入 られた 時 、 彼 は、 第 1 室 の 務 めを 終<br />

えられた。しかし、 第 1 室 の 務 めが 終 わった 時 に、 第 2 室 の 務 めが 始 まった。 型 とし<br />

ての 奉 仕 において、 贖 罪 の 日 に 大 祭 司 は、 聖 所 を 去 って、 神 の 前 に 出 て、 真 に 罪 を 悔<br />

いるすべてのイスラエル 人 のために 罪 祭 の 血 をささげた。そのようにキリストは、 仲<br />

保 者 としての 働 きの 一 部 を 終 えて、そのみ 業 のもう 1 つの 部 分 を 開 始 され、そして、<br />

なお 天 父 の 前 で、ご 自 分 の 血 によって 罪 人 のために 嘆 願 なさるのであった。<br />

1844 年 には、 再 臨 信 徒 はこの 問 題 を 理 解 していなかった。 救 い 主 が 来 られると 期<br />

待 していたその 時 が 過 ぎたあとも、なお 彼 らは、 再 臨 は 近 いと 信 じていた。 彼 らは、<br />

今 や 重 大 危 機 にさしかかったと 考 え、 神 の 前 における 仲 保 者 としてのキリストの 働 き<br />

は 終 わったと 考 えた。 人 類 の 恩 恵 期 間 は、 主 が 天 の 雲 に 乗 って 実 際 に 来 られる 少 し 前<br />

に 終 わると 聖 書 に 教 えられているように、 彼 らには 思 われた。このことは、 人 々が 恵<br />

みの 扉 の 前 で 求 め、たたき、 叫 ぶけれども 開 かれないという 時 を 示 す 聖 旬 から 見 て、<br />

明 白 なように 思 われた。そして、 彼 らがキリストの 再 臨 を 待 望 していたその 期 日 が、<br />

キリスト 再 臨 直 前 のこの 期 間 の 開 始 を 意 味 するものなのかどうかということが、 彼 ら<br />

にとっての 疑 問 であった。 審 判 の 切 迫 の 警 告 を 発 した 彼 らは、 世 界 に 対 する 彼 らの 務<br />

めをなし 終 えたと 感 じ、 罪 人 の 救 いに 関 する 魂 の 重 荷 を 感 じなくなった。 他 方 、 神 を<br />

敬 わない 人 々の、 大 胆 で 冒 瀆 的 な 嘲 笑 は、 神 の 恵 みを 拒 んだ 人 々から 神 の 霊 が 取 り 去<br />

られたことを 示 す、もう 1 つの 証 拠 であるように 思 われた。こうしたことはみな、 恩<br />

恵 期 間 は 終 わった、すなわち、 彼 らの 表 現 によれば、「 恵 みの 扉 は 閉 ざされた」と、<br />

彼 らに 堅 く 信 じさせたのであった。<br />

しかし、 聖 所 の 問 題 を 研 究 するにつれて、より 明 白 な 光 が 与 えられた。 今 や 彼 らは、<br />

2300 日 が 終 わる 1844 年 は、 重 大 な 危 機 を 画 するものであると 信 じたことが 正 しか<br />

ったことを 知 った。しかし、 人 々が 1800 年 にわたって 神 に 近 づく 道 を 見 いだしてき<br />

たところの、 望 みと 憐 れみの 扉 が 閉 じられたことは 事 実 であったが、もう 1 つの 扉 が<br />

開 かれて、 至 聖 所 におけるキリストの 仲 保 によって、 人 々に 罪 の 赦 しが 与 えられるの<br />

であった。 彼 の 務 めの 1 部 は 終 わったが、それは、それに 代 わってもう 1 つの 働 きが<br />

315


国 際 協 定<br />

行 われるためにほかならなかった。 依 然 として 天 の 聖 所 には「 開 いた 門 」があり、そ<br />

こでキリストは、 罪 人 のために 奉 仕 しておられるのであった。<br />

まさにこの 時 代 の 教 会 にあてられた、 黙 示 録 の 中 のキリストの 言 葉 の 適 用 が、 今 わ<br />

かってきた。「 聖 なる 者 、まことなる 者 、ダビデのかぎを 持 つ 者 、 開 けばだれにも 閉<br />

じられることがなく、 閉 じればだれにも 開 かれることのない 者 が、 次 のように 言 われ<br />

る。わたしは、あなたのわざを 知 っている。 見 よ、わたしは、あなたの 前 に、だれも<br />

閉 じることのできない 門 を 開 いておいた」[ 黙 示 録 3:7、。 イエスの 仲 保 による 祝 福<br />

にあずかる 者 は、 贖 罪 の 大 事 業 をなさるイエスに、 信 仰 によって 従 っていく 人 々であ<br />

る。 一 方 、この 働 きに 関 する 光 を 拒 む 者 は、その 祝 福 にあずかることができない。キ<br />

リストの 初 臨 の 時 に 与 えられた 光 を 拒 み、 彼 を 世 の 救 い 主 として 信 じなかったユダヤ<br />

人 たちは、 彼 による 赦 しを 受 けることができなかった。イエスが 昇 天 して、ご 自 分 の<br />

血 によって 天 の 聖 所 に 入 り、 弟 子 たちにご 自 分 の 仲 保 による 祝 福 を 注 ごうとされた 時 、<br />

ユダヤ 人 たちは 全 くの 暗 黒 の 中 に 取 り 残 されて、 彼 らの 無 益 な 犠 牲 と 供 え 物 を 続 けた<br />

のであった。 型 と 影 の 奉 仕 は 終 わっていた。これまで 人 が 神 に 近 づいていた 扉 は、も<br />

はや 開 かれてはいなかった。ユダヤ 人 は、 彼 を 見 いだし 得 る 唯 一 の 道 、すなわち、 天<br />

の 聖 所 における 奉 仕 を 通 して 彼 を 求 めることを、 拒 んだのであった。したがって 彼 ら<br />

は、 神 との 交 わりを 見 いだすことができなかった。 彼 らに 対 して、 扉 は 閉 められた。<br />

彼 らは、キリストが 真 の 犠 牲 であり、 神 の 前 の 唯 一 の 仲 保 者 であることを 知 らなかっ<br />

た。そのために 彼 らは、 彼 の 仲 保 の 祝 福 にあずかることができなかった。<br />

不 信 のユダヤ 人 たちの 状 態 は、キリスト 者 と 称 しながら 恵 み 深 い 大 祭 司 の 働 きを 故<br />

意 に 知 らずにいる、 軽 率 で 不 信 の 人 々の 状 態 を 例 示 するものである。 型 としての 奉 仕<br />

において、 大 祭 司 が 至 聖 所 に 入 った 時 、 全 イスラエルは 聖 所 のまわりに 集 まり、 罪 の<br />

赦 しを 受 けて、 会 衆 の 中 から 絶 たれることがないようにと、この 上 なく 厳 粛 な 態 度 で、<br />

神 の 前 に 心 を 低 くしなければならなかった。 贖 罪 の 日 の 実 体 である 今 日 、われわれが、<br />

われわれの 大 祭 司 の 働 きを 理 解 し、どのような 義 務 がわれわれに 要 求 されているかを<br />

知 ることは、どんなにか 重 要 なことであろう。<br />

人 間 は、 神 が 憐 れみのうちにお 与 えになった 警 告 を 拒 否 して 無 事 ではあり 得 ない。<br />

ノアの 時 代 に 天 からの 使 命 が 世 に 送 られた。そして、 彼 らの 救 いは、 彼 らがその 使 命<br />

をどう 受 けるかにかかっていた。 彼 らが 警 告 を 拒 否 したために、 神 の 霊 は 罪 深 い 人 類<br />

から 退 き、 彼 らは 洪 水 によって 滅 びた。アブラハムの 時 代 に、 恵 みは、ソドムの 邪 悪<br />

な 住 民 に 訴 えることをやめた。そして、ロトと 彼 の 妻 と 2 人 の 娘 のほかは、みな、 天<br />

から 降 った 火 で 焼 き 尽 くされた。キリストの 時 代 でもそうであった。 神 のみ 子 は、そ<br />

の 時 代 の 不 信 なユダヤ 人 に、「おまえたちの 家 は 見 捨 てられてしまう」と 言 われた[マ<br />

316


国 際 協 定<br />

タイ 23:。 同 じ 無 限 の 力 のお 方 は、 最 後 の 時 代 をながめて、「 自 分 らの 救 となるべき<br />

真 理 に 対 する 愛 を 受 けいれなかった」 者 について、「そこで 神 は、 彼 らが 偽 りを 信 じ<br />

るように、 迷 わす 力 を 送 り、こうして、 真 理 を 信 じないで 不 義 を 喜 んでいたすべての<br />

人 を、さばくのである」と 宣 言 しておられる[Ⅱテサロニケ 2:10~。 彼 らが 神 の 言 葉<br />

の 教 えを 拒 否 する 時 に、 神 はみ 霊 を 取 り 去 って、 彼 らを、 彼 らが 好 む 惑 わしの 中 に 捨<br />

てておかれる。<br />

しかし、キリストは、なおも、 人 類 のためにとりなしておられ、 求 める 者 には 光 が<br />

与 えられる。このことは、 初 め 再 臨 信 徒 には 理 解 されなかったが、 彼 らの 真 の 立 場 を<br />

確 定 する 聖 句 が 示 されるにつれて、 後 には 明 瞭 になった。 1844 年 の 時 が 過 ぎて、そ<br />

の 次 に、まだ 再 臨 の 信 仰 を 持 っている 人 々には、 大 きな 試 練 の 時 期 が 来 た。 彼 らの 真<br />

の 立 場 を 確 かめることについて 唯 一 のたのみは、 天 の 聖 所 に 彼 らの 心 を 向 けた 光 であ<br />

った。 預 言 の 期 間 に 関 するこれまでの 計 算 に 対 しての 信 仰 を 放 棄 し、 再 臨 運 動 に 伴 っ<br />

た 聖 霊 の 強 力 な 力 を、 人 間 やサタンの 力 によるものであるとした 人 々もあった。また、<br />

過 去 の 経 験 は 主 の 導 きによるものであると、 堅 く 信 じた 人 々もあった。そして、 彼 ら<br />

が、 神 のみ 心 を 知 ろうとして、 待 ち、 見 守 り、 祈 った 時 に、 彼 らは、 彼 らの 大 祭 司 が、<br />

奉 仕 のもう 1 つの 業 を 始 められたのを 知 った。そして 彼 らは、 信 仰 によって 彼 に 従 っ<br />

ていき、 教 会 の 最 後 の 働 きをも 知 るに 至 った。 彼 らは、 第 一 と 第 二 天 使 の 使 命 を、い<br />

っそう 明 瞭 に 理 解 した。そして、 黙 示 録 14 章 の 第 三 天 使 の 厳 粛 な 警 告 を 受 けて、そ<br />

れを 世 に 伝 えるよう 準 備 させられた。<br />

317


国 際 協 定<br />

第 25 章 成 就 した 予 言<br />

「そして、 天 にある 神 の 聖 所 が 開 けて、 聖 所 の 中 に 契 約 の 箱 が 見 えた」[ 黙 示 録<br />

11:。 神 の 契 約 の 箱 は、 聖 所 の 第 二 の 部 屋 、 至 聖 所 にある。「 天 に ある 聖 所 のひな 型<br />

と 影 」であった 地 上 の 幕 屋 の 奉 仕 においては、この 部 屋 は、 大 いなる 贖 罪 の 口 に 聖 所<br />

の 清 めのために 開 かれるだけであった。したがって、 天 にある 聖 所 が 開 かれて、 契 約<br />

の 箱 が 見 えたという 告 知 は、1844 年 に 天 の 至 聖 所 が 開 かれて、キリストが 贖 罪 の 最<br />

後 の 働 きをするためにそこに 入 られたことを 示 している。 至 聖 所 において 奉 仕 を 始 め<br />

られた 大 祭 司 に、 信 仰 によって 従 っていった 人 々は、 彼 の 契 約 の 箱 を 見 た。 彼 らは、<br />

聖 所 の 問 題 を 研 究 して、 救 い 主 の 奉 仕 が 変 わったことを 理 解 するようになっていた。<br />

そして 彼 らは、 彼 が 今 、 神 の 箱 の 前 で 務 めをなし、ご 自 分 の 血 によって 罪 人 のために<br />

嘆 願 しておられるのを 見 たのであった。<br />

地 上 の 幕 屋 の 箱 には、 神 の 律 法 が 刻 まれた 2 枚 の 石 の 板 が 入 っていた。 箱 は、ただ<br />

律 法 の 板 の 容 器 にすぎなかったが、 神 の 律 法 が 入 っていたために、それに 価 値 と 神 聖<br />

さがあったのであった。 天 にある 神 の 聖 所 が 開 かれた 時 、 契 約 の 箱 が 見 えた。 天 の 聖<br />

所 の 至 聖 所 の 中 に、 神 の 律 法 がたいせつに 安 置 されている。それは、 神 ご 自 身 がシナ<br />

イの 雷 鳴 の 中 で 語 り、ご 自 分 の 手 で 石 の 板 に 書 かれた 律 法 であった。 天 の 聖 所 にある<br />

神 の 律 法 は、 大 いなる 実 体 であって、 石 の 板 に 刻 まれ、モーセによって 五 書 の 中 に 記<br />

録 された 戒 めは、その 正 確 な 写 しである。この 重 要 な 点 を 理 解 するに 至 った 人 々は、<br />

こうして、 神 の 律 法 の 神 聖 さと 不 変 性 を 知 るようになった。 彼 らは、「 天 地 が 滅 び 行<br />

くまでは、 律 法 の 一 点 、 一 画 もすたることはなく、ことごとく 全 うされるのである」<br />

という 救 い 主 の 言 葉 の 力 を、これまでになく 悟 った[マタイ 5:。<br />

神 の 律 法 は、 神 のみこころの 啓 示 であり、 神 の 品 性 の 写 しであるから、「 天 におけ<br />

る 忠 実 な 証 人 のように」[ 英 語 訳 ] 永 遠 に 続 かなければならない。1 つとして 廃 された<br />

戒 めはない。 一 点 、 一 画 も 変 更 されてはいない。「 主 よ、あなたのみ 言 葉 は 天 におい<br />

てとこしえに 堅 く 定 まり、」「すべてのさとしは 確 かである。これらは 世 々かぎりな<br />

く 堅 く 立 ち」と 詩 篇 記 者 は 言 っている[ 詩 篇 119:89、111:7、。<br />

最 初 に 布 告 された 時 と 同 様 に、 第 4 条 は、 十 戒 の 中 心 の 位 置 を 占 めている。「 安 息<br />

日 を 覚 えて、これを 聖 とせよ。6 日 のあいだ 働 いてあなたのすべてのわざをせよ。7<br />

日 目 はあなたの 神 、 主 の 安 息 であるから、なんのわざをもしてはならない。あなたも<br />

あなたのむすこ、 娘 、しもべ、はしため、 家 畜 、またあなたの 門 のうちにいる 他 国 の<br />

人 もそうである。 主 は 6 日 のうちに、 天 と 地 と 海 と、その 中 のすべてのものを 造 って、<br />

318


国 際 協 定<br />

7 日 目 に 休 まれたからである。それで 主 は 安 息 日 を 祝 福 して 聖 とされた」[ 出 エジプト<br />

20:8~。<br />

神 の 霊 が、これらみ 言 葉 の 研 究 者 たちの 心 に 感 動 を 与 えた。 彼 らは、 自 分 たちが 創<br />

造 主 の 休 みの 日 を 無 視 して、 知 らずにこの 戒 めを 犯 していたことを 悟 らせられた。 彼<br />

らは、 神 が 清 められた 日 の 代 わりに 週 の 第 1 日 を 守 るその 理 由 を 調 べ 始 めた。 彼 らは、<br />

第 4 条 が 廃 されたとか、 安 息 日 が 変 更 されたとかいう 証 拠 を、 聖 書 の 中 に 見 つけるこ<br />

とができなかった。 最 初 に 7 日 目 を 聖 別 した 祝 福 は、 取 り 除 かれてはいなかった。 彼<br />

らは 真 心 から、 神 のみこころを 知 り 実 行 しようとしていた。そして 今 、 彼 らは、 自 分<br />

たちが 神 の 律 法 の 違 反 者 であることを 知 って、 深 く 悲 しんだ。そして、 神 の 安 息 日 を<br />

清 く 守 ることによって、 神 への 忠 誠 を 表 した。<br />

彼 らの 信 仰 を 覆 そうとして、さまざまな 熱 心 な 働 きかけがなされた。 地 上 の 聖 所 が、<br />

天 の 聖 所 の 象 徴 であり、ひな 型 であるならば、 地 上 の 箱 の 中 の 律 法 は、 天 の 箱 の 中 の<br />

律 法 の 正 確 な 写 しであるということは、だれの 目 にも 明 白 なことであった。そして、<br />

天 の 聖 所 に 関 する 真 理 を 信 じることは、 神 の 律 法 の 要 求 を 認 め、 第 4 条 の 安 息 日 の 義<br />

務 を 認 めることを 必 然 的 に 伴 う、ということも 明 白 である。ここに、 天 の 聖 所 におけ<br />

るキリストの 奉 仕 を 明 らかにする、 調 和 のとれた 聖 書 解 釈 法 に 対 して、きびしく 断 固<br />

たる 反 対 が 起 こる 原 因 があった。 人 々は、 神 が 開 かれた 門 を 閉 ざし、 神 が 閉 じられた<br />

門 を 開 けようとした。しかし、「 開 けばだれにも 閉 じられることがなく、 閉 じればだ<br />

れにも 開 かれることのない 者 」が、「 見 よ、わ たしは、あなたの 前 に、だれも 閉 じる<br />

ことのできない 門 を 開 いておいた」と 宣 言 しておられた[ 黙 示 録 3:7、。キリストは、<br />

至 聖 所 の 門 を、つまり、その 務 めを、お 開 きになった。そして、 光 が、 天 の 聖 所 のそ<br />

の 開 かれた 門 から 輝 いていた。そして、そこに 置 かれた 律 法 の 中 に 第 4 条 の 戒 めが 含<br />

まれていることが 示 された。 神 が 確 立 されたものを、だれも 覆 すことはできなかっ<br />

た。<br />

キリストの 仲 保 と 神 の 律 法 の 永 遠 性 に 関 する 光 を 受 け 入 れた 人 々は、これらが 黙 示<br />

録 14 章 に 示 された 真 理 であることを 見 いだした。この 章 のメッセージは、 主 の 再 臨<br />

のために 地 上 の 住 民 に 準 備 をさせる 三 重 の 警 告 から 成 っている。「 神 のさばきの 時 が<br />

きた」という 告 知 は、 人 類 の 救 いのためのキリストの 務 めの 最 後 の 働 きを 指 している。<br />

それは、 救 い 主 のとりなしが 終 わり、 彼 がご 自 分 の 民 を 迎 えるために 地 上 に 帰 られる<br />

まで 宣 布 しなければならない 真 理 を 伝 えるものである。1844 年 に 始 まった 審 判 の 働<br />

きは、 生 きている 者 も 死 んだ 者 も、すべての 者 の 運 命 が 決 定 されるまで 継 続 しなけれ<br />

ばならない。したがって、これは、 人 類 の 恩 恵 期 間 の 終 わりまで 続 くのである。 人 々<br />

に 審 判 に 立 つ 準 備 をさせるために、メッセージは、「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せ<br />

319


国 際 協 定<br />

よ。」「 天 と 地 と 海 と 水 の 源 とを 造 られたかたを、 伏 し 拝 め」と 彼 らに 命 じている。<br />

これらのメッセージを 受 け 入 れる 結 果 は、「ここに、 神 の 戒 めを 守 り、イエスを 信 じ<br />

る 信 仰 を 持 ちつづける 聖 徒 の 忍 耐 がある」という 言 葉 で 表 されている。 審 判 に 対 する<br />

備 えをするためには、 人 は 神 の 律 法 を 守 らなければならない。その 律 法 が、 審 判 の 時<br />

の 品 性 の 規 準 となるのである。<br />

使 徒 パウロは、 次 のように 言 明 している。「 律 法 のもとで 罪 を 犯 した 者 は、 律 法 に<br />

よってさばかれる。…… 神 がキリスト・イエスによって 人 々の 隠 れた 事 がらをさばか<br />

れるその 日 に」、また、 彼 は、「 律 法 を 行 う 者 が、 義 とされる」と 言 っている[ローマ<br />

2:12~。 神 の 律 法 を 守 るためには、 信 仰 が 不 可 欠 である。「 信 仰 がなくては、 神 に<br />

喜 ばれることはできない。」「すべて 信 仰 によらないことは、 罪 である」[ヘブル 11:<br />

6、ローマ 14:。<br />

第 一 天 使 は、「 神 をおそれ、 神 に 栄 光 を 帰 せよ」、 神 を 天 地 の 創 造 主 として 礼 拝 せ<br />

よと、 人 々に 呼 びかけている。そうするためには、 神 の 律 法 に 従 わなければならない。<br />

賢 者 は、「 神 を 恐 れ、その 命 令 を 守 れ。これはすべての 人 の 本 分 である」と 言 ってい<br />

る[ 伝 道 の 書 12:。 神 の 戒 めに 対 する 服 従 がないならば、どんな 礼 拝 も 神 に 喜 ばれる<br />

ことはできない。「 神 を 愛 するとは、すなわち、その 戒 めを 守 ることである。」「 耳<br />

をそむけて 律 法 を 聞 かない 者 は、その 祈 でさえも 憎 まれる」[Ⅰヨハネ 5:3、 箴 言<br />

28:。<br />

神 を 礼 拝 する 義 務 は、 神 が 創 造 主 であり、 他 のすべてのものはその 存 在 を 神 に 依 存<br />

している、という 事 実 に 基 づいている。そして、 聖 書 の 中 で、 異 教 の 神 々にまさって<br />

神 が 崇 敬 と 礼 拝 を 受 けるべきであると 示 されている 時 は、 常 に、 神 の 創 造 の 力 がその<br />

実 証 としてあげられている。「もろもろの 民 のすべての 神 はむなしい。しかし 主 はも<br />

ろもろの 天 を 造 られた」[ 詩 篇 96:。「 聖 者 は 言 われる、『それで、あなたがたは、<br />

わたしをだれにくらべ、わたしは、だれにひとしいというのか。』 目 を 高 くあげて、<br />

だれが、これらのものを 創 造 したかを 見 よ。」「 天 を 創 造 された 主 、すなわち 神 であ<br />

って、…… 地 を…… 造 られた 主 はこう 言 われる、『わたしは 主 である、わたしのほか<br />

に 神 はない』」[イザヤ 40:25、26、45:。<br />

詩 篇 記 者 も 言 っている。「 主 こそ 神 であることを 知 れ、われらを 造 られたものは 主<br />

であって、われらは 主 のものである。」「さあ、われらは 拝 み、ひれ 伏 し、われらの<br />

造 り 主 、 主 のみ 前 にひざまずこう」[ 詩 篇 100:3、95:。また、 天 において 神 を 礼 拝<br />

する 聖 者 たちは、 神 をあがめるべきその 理 由 として、「あなたこそは、 栄 光 とほまれ<br />

320


国 際 協 定<br />

と 力 とを 受 けるにふさわしいかた。あなたは 万 物 を 造 られました」と 述 べている[ 黙 示<br />

録 4:。<br />

黙 示 録 14 章 には、 創 造 主 を 礼 拝 するようにという 呼 びかけが 人 々に 対 してなされ<br />

ている。そして、 三 重 の 使 命 の 結 果 として、 神 の 戒 めを 守 る 一 団 の 人 々が 起 こること<br />

を、 預 言 は 示 している。これらの 戒 めの 1 つは、 神 が 創 造 主 であることを 直 接 指 示 し<br />

ている。 第 4 条 は、 次 のように 宣 言 している。「7 日 目 はあなたの 神 、 主 の 安 息 であ<br />

る。…… 主 は 6 日 のうちに、 天 と 地 と 海 と、その 中 のすべてのものを 造 って、7 日 目<br />

に 休 まれたからである。それで 主 は 安 息 日 を 祝 福 して 聖 とされた」[ 出 エジフト 20:<br />

10、。 安 息 日 について、 主 は、さらに、それが「しるしとなって、 主 なるわたしがあ<br />

なたがたの 神 であることを、あなたがたに 知 らせるためである」と 言 われる[エゼキエ<br />

ル 20:。そしてその 理 由 は、「それは 主 が 6 日 のあいだに 天 地 を 造 り、7 日 目 に 休 み、<br />

かつ、いこわれたからである」と 言 われているのである[ 出 エジプト 31:。<br />

「 創 造 の 記 念 としての 安 息 日 の 重 要 さは、われわれがなぜ 神 を 礼 拝 すべきであるか<br />

という 真 の 理 由 を 常 に 考 えさせるところにある。」すなわち、 神 は 創 造 主 であって、<br />

われわれは 神 に 造 られたものだからである。「それゆえに、 安 息 日 は、 礼 拝 の 根 底 そ<br />

のものである。というのは、 安 息 日 が、 他 のどんな 制 度 よりも、 最 も 感 銘 深 い 方 法 で、<br />

この 大 真 理 を 教 えているからである。7 日 目 における 礼 拝 だけでなく、すべての 礼 拝<br />

の 真 の 根 拠 は、 創 造 主 と 造 られたものとの 区 別 にある。この 大 事 実 は、 決 して 廃 する<br />

ことのできるものではなく、また 決 して 忘 れてはならないものである。」 1 神 がエデン<br />

で 安 息 日 を 制 定 されたのは、この 真 理 を 常 に 人 々の 心 に 留 めておくためであった。<br />

そして 神 がわれわれの 創 造 主 であるという 事 実 が、 神 を 礼 拝 する 理 山 として 存 続 す<br />

るかぎり、 安 息 日 は、そのしるし、また 記 念 として、 存 続 するのである。 安 息 日 がす<br />

べての 人 に 守 られ、 人 間 の 思 いと 愛 情 が、 崇 敬 と 礼 拝 の 対 象 としての 創 造 主 に 向 けら<br />

れていたならば、 偶 像 礼 拝 者 や 無 神 論 者 や 不 信 心 者 は 決 してでてこなかったことであ<br />

ろう。 安 息 日 を 守 ることは、「 天 と 地 と 海 と 水 の 源 とを 造 られた」 真 の 神 に 対 する 忠<br />

誠 のしるしである。それゆえに、 神 を 礼 拝 し 神 の 戒 めを 守 ることを 命 じるメッセージ<br />

は、 特 に 第 4 条 の 戒 めを 守 るよう 人 々に 呼 びかけるのである。<br />

第 三 天 使 は、 神 の 戒 めを 守 り、イエスを 信 じる 信 仰 を 持 ち 続 ける 者 とは 対 照 的 に、<br />

別 の 一 団 を 指 摘 している。そして 彼 らの 誤 りに 対 して、 厳 粛 で 恐 ろしい 警 告 が 発 せら<br />

れている。「おおよそ、 獣 とその 像 とを 拝 み、 額 や 手 に 刻 印 を 受 ける 者 は、…… 神 の<br />

激 しい 怒 りのぶどう 酒 を 飲 」む[ 黙 示 録 14:9、。このメッセージを 理 解 するには、こ<br />

321


国 際 協 定<br />

こに 用 いられている 象 徴 を 正 しく 解 釈 することが 必 要 である。 獣 、 像 、 刻 印 とは、い<br />

ったい 何 を 表 しているのであろうか。<br />

これらの 象 徴 が 用 いられている 一 連 の 預 言 は、 黙 示 録 12 章 から、キリストを 誕 生<br />

の 時 に 滅 ぼそうとした 龍 から、 始 まっている。 龍 は、サタンであると 言 われている[ 同<br />

12:。 救 い 主 を 殺 すためにヘロデを 動 かしたのは、サタンであった。しかし、キリス<br />

ト 教 時 代 の 初 期 において、キリストと 彼 の 民 に 戦 いをいどんだサタンの 主 力 は、ロー<br />

マ 帝 国 であり、そこにおいて 最 も 有 力 な 宗 教 は、 異 教 であった。こうして、 龍 は、 第<br />

一 義 的 にはサタンを 表 すが、 第 二 義 的 には 異 教 ローマの 象 徴 である。<br />

第 13 章 [1~にはもう 1 つの 獣 が 描 かれていて、それは「ひょうに 似 ており」、 龍<br />

は、「 自 分 の 力 と 位 と 大 いなる 権 威 とを、この 獣 に 与 えた。」この 象 徴 は、たいてい<br />

のプロテスタントが 信 じてきたように、かつて 古 代 ローマ 帝 国 が 握 っていた 力 と 位 と<br />

権 威 とを 継 承 した 法 王 権 を 表 している。ひょうに 似 た 獣 について、 次 のように 言 われ<br />

ている。<br />

「この 獣 には、また、 大 言 を 吐 き、 汚 しごとを 語 る 口 が 与 えられ、……そこで、 彼<br />

は 口 を 開 いて 神 を 汚 し、 神 の 御 名 と、その 幕 屋 、すなわち、 天 に 住 む 者 たちとを 汚 し<br />

だ。そして 彼 は、 聖 徒 に 戦 いをいどんでこれに 勝 つことを 許 され、さらに、すべての<br />

部 族 、 民 族 、 国 語 、 国 民 を 支 配 する 権 威 を 与 えられた。」ダニエル 7 章 の 小 さい 角 の<br />

描 写 とほとんど 同 じであるこの 預 言 は、 疑 いもなく 法 王 権 を 指 している。<br />

「42 か 月 のあいだ 活 動 する 権 威 が 与 えられた。」 そして、「その 頭 の 1 つが、 死<br />

ぬほどの 傷 を 受 けた」と 預 言 者 は 言 っている。また、「とりこになるべき 者 は、とり<br />

こになっていく。つるぎで 殺 す 者 は、 自 らもつるぎで 殺 されねばならない」とある。<br />

42 か 月 は、ダニエル 7 章 の「ひと 時 と、ふた 時 と、 半 時 の 間 」、つまり 3 年 半 、す<br />

なわち 1260 日 と 同 じで、その 期 間 のあいだ、 法 王 権 は 神 の 民 を 圧 迫 するのであった。<br />

この 期 間 は、すでに 述 べたように、 法 王 権 が 至 上 権 を 握 った 紀 元 538 年 に 始 まり、<br />

1798 年 に 終 わった。この 時 、 法 王 はフランス 軍 の 捕 虜 になり、 法 王 権 は 致 命 的 な 傷<br />

を 受 けた。「とりこになるべき 者 は、とりこになっていく。」<br />

ここで、もう 1 つの 象 徴 が 紹 介 される。 預 言 者 は、 次 のように 言 っている。「わた<br />

しはまた、ほかの 獣 が 地 から 上 って 来 るのを 見 た。それには 小 羊 のような 角 が 2 つあ<br />

っ」た[ダニエル 7:。この 獣 の 外 見 と 出 現 の 模 様 はともに、それが 表 している 国 家 が、<br />

それに 先 だってさまざまな 象 徴 のもとに 表 された 国 々とは 異 なっているということを<br />

示 している。 世 界 を 支 配 してきた 強 国 は、「 天 の 四 方 からの 風 が 大 海 をかきたて」た<br />

時 に 現 れた 猛 獣 として、ダニエルに 示 された[ダニエル 7:。 黙 示 録 17 章 では、 天 使<br />

322


国 際 協 定<br />

が、 水 は「あらゆる 民 族 、 群 衆 、 国 民 、 国 語 」を 表 していると 説 明 した[ 黙 示 録 17:。<br />

風 は、 争 闘 を 象 徴 している。 天 の 四 方 からの 風 が 大 海 をかきたてるとは、 諸 国 が 権 力<br />

を 握 るために 起 こした 征 服 と 革 命 の 恐 るべき 光 景 を 表 している。<br />

しかし、 小 羊 のような 角 をもった 獣 は、「 地 から 上 って 来 る」のが 見 えたのであっ<br />

た。このように 表 される 国 は、 自 国 を 確 立 するために 他 の 諸 国 を 覆 すのではなくて、<br />

まだだれにも 占 有 されていない 領 上 に 起 こり、 徐 々にまた 平 和 のうちに 成 長 する 国 で<br />

なければならない。したがって、 旧 世 界 の 込 み 合 った 争 い 合 う 国 々の 中 、すなわち、<br />

あの「 民 族 、 群 衆 、 国 民 、 国 語 」の 荒 海 の 中 からは 起 こり 得 ないのである。それは、<br />

西 半 球 の 大 陸 に 求 められねばならない。<br />

1798 年 に、 新 世 界 のどんな 国 か、 勢 力 を 伸 ばし、 将 来 強 大 な 国 家 になる 可 能 性 を<br />

小 して、 世 界 の 注 日 を 集 めていたであろうか。この 象 徴 が、どの 国 に 適 用 されるかは、<br />

実 に 明 白 である。この 預 言 の 指 示 するところに 合 致 する 国 は、ただ 1 つしかない。そ<br />

れは、 疑 いもなく、アメリカ 合 衆 国 を 指 している。 弁 論 家 や 歴 史 家 は、この 国 の 起 源<br />

と 成 長 を 描 写 するのに、 無 意 識 のうちに、 聖 書 記 者 の 思 想 を、またほとんど 同 じ 言 葉<br />

を、くり 返 し 用 いてきた。 獣 は、「 地 から 上 って 来 る」のが 見 えた。そして、 翻 訳 者<br />

たちによれば、ここで「 上 って 来 る」と 訳 されている 言 葉 は、 字 義 どおりには、「 植<br />

物 のように 生 長 する、または、 生 える」という 意 味 である。そして、すでに 見 たよう<br />

に、その 国 は、どの 国 にも 占 有 されていない 領 七 に 起 こらなければならない。ある 有<br />

名 な 著 者 は、 米 国 の 出 現 を 描 写 して、「その 空 虚 からの 出 現 の 神 秘 」について 語 り、<br />

「 黙 した 種 子 のように、われわれは 成 長 して 帝 国 になった」と 述 べている。 2 1850 年<br />

にヨーロッパのある 雑 誌 は、 米 国 のことを、「 現 れ 出 て」、「 地 の 沈 黙 の 中 で 日 ごと<br />

にその 権 力 と 誇 りを 増 しつつある」 不 思 議 な 帝 国 、と 述 べた。 3<br />

また、エドワード・エベレットは、 同 国 の 建 設 者 である 清 教 徒 たちについての 演 説<br />

の 中 で、「 彼 らは、ライデンの 小 さな 教 会 が 良 心 の 自 由 を 享 受 することができるとこ<br />

ろを、 人 跡 まれで、 人 目 につかず、 安 全 な 遠 隔 の 地 に 求 めたのであろうか。 彼 らが、<br />

平 和 的 征 服 のうちに、…… 十 字 架 の 旗 をかかげた…… 巨 大 な 地 域 を 見 よ!」 4 と 言 っ<br />

た。<br />

「それには 小 羊 のような 角 が 2 つあっ」た。 小 羊 のような 角 は、 若 々しさと 無 垢 と<br />

温 順 さとを 示 すもので、1798 年 に「 上 って 来 る」のを 預 言 者 が 見 た 時 の 米 国 の 性 格<br />

をよく 表 している。 最 初 、 米 国 に 逃 れ、 王 の 圧 迫 と 司 祭 たちの 迫 害 からの 避 難 所 を 求<br />

めた 亡 命 キリスト 者 たちの 中 には、 政 治 的 自 由 と 宗 教 的 自 由 の 広 い 基 盤 の 上 に 政 府 を<br />

樹 立 しようと 決 意 したものが 多 くあった。 彼 らの 意 見 は、 独 立 官 言 の 中 に 織 り 込 まれ、<br />

323


国 際 協 定<br />

「すべての 人 は 平 等 に 造 られ、」「 生 命 、 自 由 、および 幸 福 の 追 求 」という 奪 うこと<br />

のできない 権 利 を 与 えられている、という 偉 大 な 真 理 の 表 明 となっている。そして、<br />

憲 法 は、 国 民 に 自 治 権 を 保 証 し、 一 般 投 票 によって 選 ばれた 代 議 員 が 法 律 の 制 定 と 執<br />

行 にあたるべきことを 規 定 している。 宗 教 の 自 由 も 保 証 され、すべての 人 は 良 心 の 命<br />

じるところに 従 って 神 を 礼 拝 することが 許 されている。 共 和 主 義 とプロテスタント 主<br />

義 が、 国 家 の 根 本 原 則 となった。これらの 原 則 が、その 権 力 と 繁 栄 の 秘 けつである。<br />

全 キリスト 教 国 の、 圧 迫 され 踏 みにじられた 人 々が、 関 心 と 希 望 を 抱 いてこの 国 に 目<br />

を 向 けた。 幾 百 万 という 人 々がその 岸 辺 にやって 来 て、 米 国 は、 世 界 で 最 も 強 い 国 の<br />

1 つに 数 えられるまでになった。<br />

しかし、 小 羊 のような 角 をもった 獣 は、「 龍 のように 物 を 言 った。そして、 先 の 獣<br />

の 持 つすべての 権 力 をその 前 で 働 かせた。また、 地 と 地 に 住 む 人 々に、 致 命 的 な 傷 が<br />

いやされた 先 の 獣 を 拝 ませた。…… 地 に 住 む 人 々を 惑 わし、かつ、つるぎの 傷 を 受 け<br />

てもなお 生 きている 先 の 獣 の 像 を 造 ることを、 地 に 住 む 人 々に 命 じた」[ 黙 示 録 13:<br />

11~。<br />

この 象 徴 の 持 つ、 小 羊 のような 角 と 龍 のような 声 は、ここで 表 されている 国 家 の 宣<br />

言 と 実 行 との 著 しい 矛 盾 を 示 すものである。 国 家 が「 物 を 言 う」とは、その 立 法 およ<br />

び 司 法 権 の 活 動 のことである。 米 国 は、そのような 行 為 によって、 国 家 の 方 針 の 基 礎<br />

として 宣 言 した 自 由 と 平 和 の 原 則 を 裏 切 るのであろ。それが「 龍 のように」 語 り、<br />

「 先 の 獣 の 持 っすべての 権 力 」を 働 かせるという 預 言 は、 明 らかに、それか、 龍 やひ<br />

ょうに 似 た 獣 によって 象 徴 される 国 々か 表 した 狭 量 と 迫 害 の 精 神 を 持 つようになると<br />

いうことを 予 告 している。 そして、2 つの 角 を 持 った 獣 が「 地 と 地 に 住 む 人 々<br />

に、…… 先 の 獣 を 拝 ませ」るという 言 葉 は、この 国 が 権 力 を 行 使 して、 法 王 権 に 対 す<br />

る 礼 拝 行 為 となるような 何 かの 遵 守 を 強 要 することを 示 している。<br />

このような 行 動 は、この 政 府 の 原 則 、 自 由 制 度 の 精 神 、 独 立 宣 言 の 率 直 厳 粛 な 言 明 、<br />

そして 憲 法 に、 全 く 相 反 するものである。 米 国 の 建 国 に 当 たった 人 々は、 世 俗 の 権 力<br />

が 教 会 のことに 用 いられて、その 当 然 の 結 果 として 狭 量 と 迫 害 が 起 こることを 避 けよ<br />

うと、 賢 明 にも 努 めた。 憲 法 には、「 国 会 は、 宗 教 の 設 立 に 関 する、もしくはその 自<br />

由 な 活 動 を 禁 ずる 法 律 を 制 定 してはならない」、また、「 合 衆 国 のいかなる 公 職 につ<br />

くに 当 たっても、その 資 格 として、 宗 教 的 条 件 を 課 してはならない」とある。 国 民 の<br />

自 由 を 擁 護 するこれらの 条 項 にはなはだしく 違 反 することなしには、 国 権 は、どんな<br />

宗 教 的 法 令 も 施 行 することはできない。しかし、そのような 矛 盾 した 行 動 をとること<br />

は、 象 徴 に 示 されているとおりである。 小 羊 のような 角 を 持 った 獣 は、 純 潔 柔 和 で 悪<br />

意 のないことを 公 言 しながら、 龍 のように 物 を 言 うのである。<br />

324


国 際 協 定<br />

「 地 に 住 む 人 々を 惑 わし……[ 彼 らに] 獣 の 像 を 造 ることを…… 命 じた。」ここに、<br />

立 法 権 が 国 民 にある 政 体 が 明 示 されている。これは、 合 衆 国 が 預 言 に 示 された 国 であ<br />

るというきわめて 顕 著 な 証 拠 である。 しかし、この「 獣 の 像 」とは 何 であろうか。そ<br />

して、それは、どのようにして 造 られるものなのであろうか。この 像 は、2 本 の 角 を<br />

もった 獣 によって 造 られるものであり、 先 の 獣 に 模 した 像 である。それは、また、 獣<br />

の 像 とも 呼 ばれている。したがって、 像 が 何 であり、どのようにして 造 られるかを 知<br />

るためには、 獣 そのもの、すなわち 法 王 権 の 特 徴 を 研 究 しなければならない。 初 代 教<br />

会 は、 福 音 の 単 純 さを 離 れて 堕 落 し、 異 教 の 儀 式 と 習 慣 を 受 け 入 れた 時 に、 聖 霊 と 神<br />

の 力 を 失 った。そして、 人 々の 良 心 を 支 配 するために、 世 俗 の 権 力 の 援 助 を 求 め<br />

た。 その 結 果 が、 法 王 権 であって、それは、 国 家 の 権 力 を 支 配 し、それを 教 会 自 身 の<br />

目 的 、 特 に「 異 端 」の 処 罰 のために 用 いた 教 会 であった。 米 国 が 獣 の 像 を 造 るために<br />

は、 宗 教 的 権 力 が 政 府 を 支 配 し、 教 会 が、 教 会 自 身 の 目 的 を 遂 行 するために、 国 家 の<br />

権 力 を 用 いるようにならなければならない。<br />

教 会 が 世 俗 の 権 力 を 握 った 場 合 は 常 に、 教 会 は それを 自 分 の 教 義 に 反 対 する 者 を 罰<br />

するために 用 いてきた。 世 俗 の 権 力 と 提 携 することによってローマの 範 に 従 ったプロ<br />

テスタント 諸 教 会 も、 良 心 の 自 由 を 束 縛 しようとする 同 様 の 欲 望 を 表 した。 英 国 の 国<br />

教 会 が、 長 年 にわたって 反 対 者 を 迫 害 したことは、そのよい 例 である。16 世 紀 と 17<br />

世 紀 にわたって、 幾 千 という 非 国 教 徒 の 牧 師 たちが、 教 会 を 去 らなければならなかっ<br />

た。そして、 牧 師 も 信 徒 も、 多 くの 者 が 罰 金 、 投 獄 、 拷 問 、 殉 教 の 憂 き 目 にあったの<br />

である。<br />

初 代 教 会 が 政 府 の 支 持 を 求 めるようになったのは、 背 教 のためであった。そして、<br />

これが、 法 王 権 —— 獣 ——の 発 展 する 道 を 開 いた。「まず 背 教 のことが 起 り、 不 法 の<br />

者 ……が 現 れる」とパウロは 言 った[Ⅱテサロニケ 2:。そのように、 教 会 内 の 背 教 が、<br />

獣 の 像 を 造 る 道 を 開 くのである。<br />

聖 書 は、 主 の 再 臨 に 先 だって、 初 期 の 時 代 の 状 態 に 似 た 宗 教 的 堕 落 の 状 態 が 起 こる<br />

と 言 っている。「 終 りの 時 には、 苦 難 の 時 代 が 来 る。その 時 、 人 々は 自 分 を 愛 する 者 、<br />

金 を 愛 する 者 、 大 言 壮 語 する 者 、 高 慢 な 者 、 神 をそしる 者 、 親 に 逆 らう 者 、 恩 を 知 ら<br />

ぬ 者 、 神 聖 を 汚 す 者 、 無 情 な 者 、 融 和 しない 者 、そしる 者 、 無 節 制 な 者 、 粗 暴 な 者 、<br />

善 を 好 まない 者 、 裏 切 り 者 、 乱 暴 者 、 高 言 をする 者 、 神 よりも 快 楽 を 愛 する 者 、 信 心<br />

深 い 様 子 をしながらその 実 を 捨 てる 者 となるであろう」[Ⅱテモテ 3:1~。<br />

「しかし、 御 霊 は 明 らかに 告 げて 言 う。 後 の 時 になると、ある 人 々は、 惑 わす 霊 と<br />

悪 霊 の 教 とに 気 をとられて、 信 仰 から 離 れ 去 るであろう」[Ⅰテモテ 4:。サタンは、<br />

325


国 際 協 定<br />

「あらゆる 偽 りの 力 と、しるしと、 不 思 議 と、また、あらゆる 不 義 の 惑 わしとを」も<br />

って 働 く。そして、「 自 分 らの 救 となるべき 真 理 に 対 する 愛 を 受 けいれな」い 者 はみ<br />

な、「 彼 らが 偽 りを 信 じるように、 迷 わす 力 」に 陥 ってしまうのである[Ⅱテサロニケ<br />

2:9~。こうした 不 信 の 状 態 に 達 した 時 に、 初 期 の 時 代 におけると 同 様 の 結 果 が 生 じ<br />

るのである。 プロテスタント 教 会 内 の 大 きな 信 仰 の 差 異 は、どんなに 努 力 しても 一 致<br />

を 図 ることはできないということの 決 定 的 証 拠 であると 考 える 人 が 多 い。しかし、こ<br />

こ 数 年 にわたって、プロテスタントの 諸 教 会 内 において 共 通 の 教 義 を 土 台 として 合 同<br />

しようとする 気 運 が 強 く 動 き 出 している。このような 合 同 を 達 成 するためには、たと<br />

い 聖 書 的 見 地 からどんなに 重 要 なものであっても、すべての 者 が 一 致 しない 問 題 点 は、<br />

必 然 的 に 放 棄 されねばならなくなる。<br />

1846 年 、チャールズ・ビーチャーは、ある 説 教 の 中 で 次 のように 言 明 した。「 福<br />

音 主 義 のプロテスタント 諸 派 の 牧 師 たちは、 単 なる 人 間 的 恐 怖 にはなはだしく 打 ちひ<br />

しがれているだけでなく、 根 本 的 に 腐 敗 した 状 態 のもとに 生 き、 動 き、 呼 吸 している。<br />

そして、 常 に、 自 分 たちの 性 質 のあらゆる 卑 しい 要 素 に 訴 えて、 真 理 については 沈 黙<br />

し、 背 教 の 勢 力 にはひざをかがめている。これは、ローマが 行 ったことではなかった<br />

か。われわれもまた、 同 じことをしているのではなかろうか。そして、われわれは、<br />

前 途 に 何 を 見 るであろうか。それは、もう 1 つの 全 体 会 議 、 世 界 大 会 、 伝 道 同 盟 、そ<br />

して 共 通 の 信 条 ということである。」 5 これが 達 成 されるならば、その 時 には、 完 全 な<br />

合 同 を 確 保 するには、ただ 1 歩 進 んで 暴 力 に 訴 えればよいのである。<br />

米 国 の 主 要 な 教 会 が、その 共 通 の 教 理 において 合 同 し、 国 家 を 動 かして 教 会 の 法 令<br />

を 施 行 させ、 教 会 の 制 度 を 支 持 させるようになるその 時 に、プロテスタント・アメリ<br />

カは、ローマ 法 王 制 の 像 を 造 り、その 必 然 の 結 果 として、 反 対 者 たちに 法 律 上 の 刑 罰<br />

を 加 えることになるのである。<br />

2 つの 角 を 持 った 獣 は、「また、 小 さき 者 にも、 大 いなる 者 にも、 富 める 者 にも、<br />

貧 しき 者 にも、 自 由 人 にも、 奴 隷 にも、すべての 人 々に、その 右 の 手 あるいは 額 に 刻<br />

印 を 押 させ、この 刻 印 のない 者 はみな、 物 を 買 うことも 売 ることもできないようにし<br />

た。この 刻 印 は、その 獣 の 名 、または、その 名 の 数 字 のことである」[ 黙 示 録 13:<br />

16、。 第 三 天 使 の 警 告 は、「おおよそ、 獣 とその 像 とを 拝 み、 額 や 手 に 刻 印 を 受 ける<br />

者 は、 神 の 怒 りの 杯 ……を 飲 」むと 告 げている。このメッセージの 中 にあげられてい<br />

る「 獣 」、それを 礼 拝 するようにと 2 つの 角 を 持 った 獣 が 強 制 するところの 獣 は、 黙<br />

示 録 13 章 の 最 初 の 獣 、すなわちひょうに 似 た 獣 —— 法 王 制 ——のことである。「 獣<br />

の 像 」は、プロテスタント 諸 教 会 が 百 分 たちの 教 義 を 強 制 するために 公 権 力 の 助 けを<br />

326


国 際 協 定<br />

求 める 時 に 起 きてくるところの、そうした 背 教 のプロテスタント 教 会 を 表 している。<br />

ここで、さらに、「 獣 の 刻 印 」が 明 らかにされなければならない。<br />

聖 書 の 十 戒<br />

出 エジプト 記 20:3~17<br />

Ⅰ. あなたはわたしのほかに、なにものをも 神 としてはならない。<br />

Ⅱ. あなたは 自 分 のために、 刻 んた 像 を 造 ってはならない。 上 は 天 にあるもの、 下 は<br />

地 にあるもの、また 地 の 下 の 水 のなかにあるものの、どんな 形 をも 造 ってはならない。<br />

それにひれ 伏 してはならない。それに 仕 えてはならない。あなたの 神 、 主 であるわた<br />

しは、ねたむ 神 であるから、わたしを 憎 むものには 父 の 罪 を 子 に 報 いて、 三 、 四 代 に<br />

及 ぼし、わたしを 愛 し、わたしの 戒 めを 守 るものには、 恵 みを 施 して、 千 代 に 至 るで<br />

あろう。<br />

Ⅲ. あなたは、あなたの 神 、 主 の 名 を、みだりに 唱 えてはならない。 主 は、み 名 をみ<br />

だりに 唱 えるものを、 罰 しないでは 置 かないであろう。<br />

Ⅳ. 安 息 日 を 覚 えて、これを 聖 とせよ。 六 日 のあいだ 働 いてあなたのすべてのわざを<br />

せよ。 七 日 目 はあなたの 神 、 主 の 安 息 であるから、なんのわざをもしてはならない。<br />

あなたもあなたのむすこ、 娘 、しもべ、はしため、 家 畜 、またあなたの 門 のうちにい<br />

る 他 国 の 人 もそうである。 主 は 六 日 のうちに、 天 と 地 と 海 と、その 中 のすべてのもの<br />

を 造 って、 七 日 目 に 休 まれたからである。それで 主 は 安 息 日 を 祝 福 して 聖 とざれた。<br />

Ⅴ. あなたの 父 と 母 を 敬 え。これは、あなたの 神 、 主 が 賜 わる 地 で、あなたが 長 く 生<br />

きるためである。<br />

Ⅵ. あなたは 殺 してはならない。<br />

Ⅶ. あなたは 姦 淫 してはならない。<br />

Ⅷ. あなたは 盗 んではならない。<br />

Ⅸ. あなたは 隣 人 について、 偽 証 してはならない。<br />

Ⅹ. あなたは 隣 人 の 家 をむさぼってはならない。 隣 人 の 妻 、しもへ、はしため、 牛 、<br />

ろば、またすべて 隣 人 のものをむさぼってはならない。<br />

ローマ・カトリックの 十 戒<br />

『カトリック 要 理 』より<br />

327


国 際 協 定<br />

Ⅰ. われはなんじの 主 なり、われのほか 何 者 をも 神 となすべからず。<br />

Ⅱ. なんじ、 神 の 名 をみだりに 呼 ぶなかれ。<br />

Ⅲ.なんじ、 安 息 日 を 聖 とすべきことを 覚 ゆべし。<br />

Ⅳ.なんじ、 父 母 を 敬 うべし。<br />

Ⅴ. なんじ、 殺 すなかれ。<br />

Ⅵ. なんじ、かんいんするなかれ。<br />

Ⅶ. なんじ、 盗 むなかれ。<br />

Ⅷ. なんじ、 偽 証 するなかれ。<br />

Ⅸ. なんじ、 人 の 妻 を 望 むなかれ。<br />

Ⅹ. なんじ、 人 の 持 ち 物 をみだりに 望 むなかれ。<br />

預 言 は、 獣 とその 像 とを 拝 することについて 警 告 したあとで、「ここに、 神 の 戒 め<br />

を 守 り、イエスを 信 じる 信 仰 を 持 ちつづける 聖 徒 ……がある」と 宣 言 する。 神 の 戒 め<br />

を 守 る 人 々が、 獣 とその 像 とを 拝 み、その 刻 印 を 受 ける 者 たちと、このように 対 照 さ<br />

れていることから 見 ると、 神 を 拝 む 者 と 獣 を 拝 む 者 との 間 の 区 別 は、 一 方 は 神 の 戒 め<br />

を 守 り、 他 方 はそれを 犯 すことにあるとわかる。<br />

獣 の 特 徴 、したがって、その 像 の 特 徴 は、 神 の 戒 めを 破 ることである。ダニエルは、<br />

小 さい 角 、すなわち 法 王 制 について、 次 のように 言 っている。「 彼 はまた 時 と 律 法 と<br />

を 変 えようと 望 む」[ダニエル 7:。そして、パウロは、この 同 じ 権 力 を、 神 よりも 自<br />

分 を 高 める「 不 法 の 者 」と 呼 んだ。1 つの 預 言 は 他 の 預 言 を 補 足 する。 法 王 制 は、 神<br />

の 律 法 を 変 更 することによってのみ、 自 らを 神 よりも 高 くすることができたのである。<br />

だれであっても、こうして 変 更 された 律 法 を、それと 知 りつつ 守 るならば、 律 法 を 変<br />

更 した 権 力 に 最 高 の 栄 誉 を 帰 していることになる。 法 王 制 の 律 法 に 従 うこのような 行<br />

為 は、 神 のかわりに 法 王 に 忠 誠 を 誓 うしるしとなるのである。<br />

法 王 制 は、 神 の 律 法 を 変 更 しようとした。 偶 像 礼 拝 を 禁 じる 第 2 条 を 律 法 から 除 去<br />

し、 第 4 条 は、7 日 目 のかわりに 第 1 日 を 安 息 日 として 守 ることを 公 認 するように 変<br />

更 された。しかし、 法 王 側 の 人 々は、 第 2 条 を 除 去 したことを、それは 第 1 条 に 含 ま<br />

れているから 不 必 要 であり、われわれは 神 がわれわれに 理 解 させたいと 望 んでおられ<br />

るとおりに 律 法 を 与 えたのであると 主 張 する。これは、 預 言 者 が 預 言 したところの 変<br />

更 ではない。 預 言 されたその 変 更 は、 計 画 的 で 故 意 の 変 更 である。すなわち「 彼 はま<br />

328


国 際 協 定<br />

た 時 と 律 法 とを 変 えようと 望 む。」 第 4 条 の 変 更 こそ、まさしくこの 預 言 の 成 就 であ<br />

る。これに 関 して 主 張 できる 権 威 は、ただ 教 会 の 権 威 のみである。ここにおいて、 法<br />

王 権 は、 公 然 と 自 らを 神 よりも 高 めているのである。<br />

神 を 拝 む 者 たちが、 第 4 条 を 尊 重 することによって 特 に 目 立 つ——なぜならこれは、<br />

神 の 創 造 の 力 のしるしであり、 神 が 人 間 に 崇 敬 と 服 従 を 要 求 なさるその 証 拠 だからで<br />

ある——のに 対 し、 獣 を 拝 む 人 々は、 創 造 主 の 記 念 を 踏 みにじり、ローマの 制 度 を 高<br />

めようと 努 めることによって 目 立 つものとなる。 法 王 制 が 最 初 にその 高 慢 な 主 張 をし<br />

たのは、 日 曜 日 のためであった。そして、 最 初 に 国 家 の 権 力 の 助 けを 求 めたのは、 日<br />

曜 日 を「 主 の 日 」として 守 ることを 強 制 するためであった。しかし 聖 書 は、 主 の 日 と<br />

して、 第 1 日 ではなくて 7 日 目 をさしている。キリストは、「 人 の 子 は、 安 息 日 にも<br />

また 主 なのである」と 言 われた。 第 4 条 の 戒 めには、「7 日 目 はあなたの 神 、 主 の 安<br />

息 である」と 言 われている。そして、 主 は、 預 言 者 イザヤによって、その 日 を「わが<br />

聖 日 」と 呼 ばれた[マルコ 2:28、イザヤ 58:。<br />

安 息 日 を 変 更 したのはキリストであるとよく 言 われるが、キリストご 自 身 の 言 葉 が、<br />

そうでないことを 証 明 している、、 彼 は、 山 上 の 垂 訓 の 中 で 次 のように 言 われた。<br />

「わたしが 律 法 や 預 言 者 を 廃 するためにきた、と 思 ってはならない。 廃 するためでは<br />

なく、 成 就 するためにきたのである。よく 言 っておく。 天 地 が 滅 び 行 くまでは、 律 法<br />

の 1 点 、1 画 もすたることはなく、ことごとく 全 うされるのである。それだから、こ<br />

れらの 最 も 小 さいいましめの 1 つでも 破 り、またそうするように 人 に 教 えたりする 者<br />

は、 天 国 で 最 も 小 さい 者 と 呼 ばれるであろう。しかし、これをおこないまたそう 教 え<br />

る 者 は、 天 国 で 大 いなる 者 と 呼 ばれるであろう」[マ タイ 5:17~。<br />

安 息 日 の 変 更 について 聖 書 的 根 拠 がないことは、プロテスタントが 一 般 に 認 めてい<br />

る 事 実 である。これは、 米 国 トラクト 協 会 と 米 国 日 曜 学 校 同 盟 が 発 行 した 出 版 物 の 中<br />

に 明 らかに 記 されている。これらの 書 物 の 1 つは、「 安 息 日 〔 週 の 第 1 日 、 日 曜 日 〕<br />

に 関 して、 新 約 聖 書 には、なんら 明 白 な 命 令 もなければ、その 遵 守 に 関 する 明 確 な 規<br />

則 も 記 されていない」と 認 めている。 6 他 の 者 は 次 のように 言 っている。「キリスト<br />

が 死 なれるまで、 日 の 変 更 はなかった。」そして「 記 録 によるかぎり、 彼 ら〔 使 徒 た<br />

ち〕は、……7 日 目 の 安 息 、 日 を 廃 止 して 週 の 第 1 日 を 守 るようにさせるような、ど<br />

んな 明 白 な 命 令 をも 与 えてはいない。」 7<br />

ローマ・カトリック 教 徒 は、 彼 らの 教 会 が 安 息 日 を 変 更 したことを 認 め、プロテス<br />

タントが 日 曜 日 を 守 るのはカトリック 教 会 の 権 威 を 認 めることであるという。カトリ<br />

ック 教 会 の 教 理 問 答 には、 第 4 条 の 戒 めに 従 って 守 るべき 日 についての 質 問 の 答 えと<br />

329


国 際 協 定<br />

して、 次 のように 書 いてある。「 古 い 律 法 の 時 代 には、 土 曜 日 が 聖 日 であった。しか<br />

し、 教 会 は、イエス・キリストの 教 えと 神 の 霊 の 指 導 の 下 に、 日 曜 日 を 土 曜 日 の 代 わ<br />

りにした。それゆえに 今 、われわれは、7 日 目 でなくて、 第 1 日 を 聖 なる 日 とする。<br />

日 曜 日 が、 今 では、 主 の 日 である。」 カトリックの 著 者 たちも、カトリック 教 会 の 権<br />

威 のしるしとして、「 安 息 日 を 日 曜 日 に 変 更 したという、まさにその 行 為 」を 挙 げ、<br />

それは「プロテスタントも 承 認 している。…… 彼 らは 日 曜 日 を 守 ることによって、 祝<br />

祭 日 を 制 定 し 人 々を 罪 に 定 める 教 会 の 権 威 を、 認 めているのである」と 言 っている。 8<br />

とするならば、 安 息 日 の 変 更 は、ローマ 教 会 の 権 威 のしるし、あるいは 刻 印 、すなわ<br />

ち「 獣 の 刻 印 」でなくて 何 であろうか。<br />

ローマ 教 会 は、その 至 上 権 の 主 張 を 撤 回 してはいない。そして、 世 界 とプロテスタ<br />

ント 諸 教 会 は、 聖 書 の 安 息 日 を 拒 否 して、ローマ 教 会 が 造 った 安 息 日 を 受 け 入 れる 時<br />

に、 事 実 上 この 主 張 を 認 めるのである。 彼 らは、その 変 更 は 伝 承 や 教 父 たちの 権 威 に<br />

よるものであると 主 張 するかもしれない。しかし、そうすることによって、 彼 らは、<br />

「 聖 書 、しかも 聖 書 のみが、プロテスタントの 宗 教 である」という、 彼 らをローマか<br />

ら 隔 てている 原 則 そのものを 無 視 するのである。 法 王 教 徒 は、 彼 らがこの 事 実 に 故 意<br />

に 目 を 閉 じて、 自 分 たちを 欺 いているのを 見 ることができる。 日 曜 休 業 運 動 が 世 に 迎<br />

えられるにつれて、 法 王 教 徒 は、やがては 全 プロテスタント 世 界 がローマの 旗 の 下 に<br />

くだることを 確 信 して 喜 ぶのである。<br />

ローマ 教 徒 は、「プロテスタントの 日 曜 日 遵 守 は、 彼 らが、それとは 気 づかずに、<br />

〔カトリック〕 教 会 の 権 威 に 従 っているのである」と 宣 言 している。 9 プロテスタント<br />

諸 教 会 が、 日 曜 日 遵 守 を 強 要 することは、 法 王 制 、すなわち 獣 を 拝 むことを 強 要 する<br />

ことである。 第 4 条 の 要 求 を 知 りながら、 真 の 安 息 日 の 代 わりに 偽 物 を 守 ることを 選<br />

ぶ 者 は、そうすることによって、それを 命 じた 唯 一 の 権 威 に 敬 意 を 表 しているのであ<br />

る。しかし、 宗 教 的 義 務 を 世 俗 の 権 力 によって 強 制 するという 行 為 そのものによって、<br />

教 会 自 身 が 獣 の 像 を 作 るに 至 る。それゆえに、 米 国 における 日 曜 日 遵 守 の 強 制 は、 獣<br />

とその 像 の 礼 拝 の 強 制 となるのである。<br />

しかし、 過 去 においては、 聖 書 の 安 息 日 を 守 っていると 信 じて、 日 曜 日 を 守 ってき<br />

たキリスト 者 たちがいた。また、 日 曜 日 は 神 が 定 められた 安 息 日 であると 心 から 信 じ<br />

ている 真 のキリスト 者 たちが、 今 も 各 教 会 におり、ローマ・カトリック 教 会 も 例 外 で<br />

はない。 神 は 彼 らの 真 剣 な 心 と 神 の 前 での 誠 実 さを 受 け 入 れられる。しかし、 日 曜 日<br />

遵 守 が 法 律 によって 強 いられ、 真 の 安 息 日 を 守 るべきことが 世 界 に 明 らかにされるそ<br />

の 時 に、 神 の 戒 めを 破 って、 単 にローマの 権 威 によるものにすぎないところの 戒 めに<br />

従 う 者 は、それによって、 神 よりも 法 王 教 をあがめるのである。そのような 人 は、ロ<br />

330


国 際 協 定<br />

ーマに 敬 意 を 払 い、ローマが 定 めた 制 度 を 強 制 する 権 力 に 敬 意 を 払 っている。 彼 は、<br />

獣 とその 像 を 拝 んでいる。こうして、 神 がご 自 分 の 権 威 のしるしであると 宣 言 された<br />

制 度 を 拒 んで、その 代 わりに、ローマがその 至 上 権 のしるしとして 選 んだものを 尊 重<br />

する 時 に、 人 々は、それによって、ローマに 対 する 忠 誠 のしるし、すなわち「 獣 の 刻<br />

印 」を 受 けるのである。こうして、この 問 題 が 人 々の 前 に 明 らかに 示 されて、 神 の 戒<br />

めと 人 間 の 戒 めのどちらかを 選 ばねばならなくなった 時 、それでも 神 の 戒 めを 犯 し 続<br />

ける 人 々が、「 獣 の 刻 印 」を 受 けるのである。<br />

これまで 人 類 に 与 えられたことのない 恐 ろしい 威 嚇 の 言 葉 が、 第 三 天 使 の 使 命 の 中<br />

に 含 まれている。 憐 れみを 混 じえない 神 の 怒 りをひき 起 こすものは、 恐 ろしい 罪 に 違<br />

いない。この 重 大 なことについて、 人 々は、 無 知 のままであってはならない。この 罪<br />

に 対 する 警 告 は、 神 の 罰 が 下 る 前 に 世 界 に 伝 えられなければならない。それはすべて<br />

の 者 が、 罰 を 受 ける 理 由 を 知 り、それを 逃 れる 機 会 が 与 えられるためである。 預 言 は、<br />

第 一 天 使 が「あらゆる 国 民 、 部 族 、 国 語 、 民 族 」に 布 告 すると 言 っている。 同 じ 三 重<br />

の 使 命 の 一 部 である 第 三 天 使 の 警 告 は、 同 じ 範 囲 に 及 ぶのである。 預 言 の 中 で、それ<br />

は、 中 空 を 飛 ぶ 天 使 によって 大 声 で 宣 言 されるものとして 表 されている。そして、そ<br />

れは 世 界 の 注 目 をひくのである。<br />

この 争 いの 結 果 、 全 キリスト 教 世 界 は 二 種 類 の 人 々に 分 けられる。すなわち、 神 の<br />

戒 めを 守 り、イエスを 信 じる 信 仰 を 持 つ 者 と、 獣 とその 像 とを 拝 み、その 刻 印 を 受 け<br />

る 者 とである。 教 会 と 国 家 とが 力 を 合 わせて、「 小 さき 者 にも、 大 いなる 者 にも、 富<br />

める 者 にも、 貧 しき 者 にも、 自 由 人 にも、 奴 隷 にも、すべての 人 々に」「 獣 の 刻 印 」<br />

を 受 けるように 強 制 しても[ 黙 示 録 13:、 神 の 民 は、それを 受 けない。パトモスの 預<br />

言 者 は、「このガラスの 海 のそばに、 獣 とその 像 とその 名 の 数 字 とにうち 勝 った 人 々<br />

が、 神 の 立 琴 を 手 にして 立 って」、「モーセの 歌 と 小 羊 の 歌 とを 歌 って」いるのを 見<br />

るのである[ 黙 示 録 15:2、。<br />

331


国 際 協 定<br />

第 26 章 改 革 の 仕 事<br />

最 後 の 時 代 に 安 息 日 の 改 革 の 働 きが 完 成 されることが、イザヤの 預 言 中 に 予 告 され<br />

ている。「 主 はこう 言 われる、『あなたがたは 公 平 を 守 って 正 義 を 行 え。わが 救 の 来<br />

るのは 近 く、わが 助 けのあらわれるのが 近 いからだ。 安 息 日 を 守 って、これを 汚 さず、<br />

その 手 をおさえて、 悪 しき 事 をせず、このように 行 う 人 、これを 堅 く 守 る 人 の 子 はさ<br />

いわいである。』」「また 主 に 連 なり、 主 に 仕 え、 主 の 名 を 愛 し、そのしもべとなり、<br />

すべて 安 息 日 を 守 って、これを 汚 さず、わが 契 約 を 堅 く 守 る 異 邦 人 は——わたしはこ<br />

れをわが 聖 なる 山 にこさせ、わが 祈 の 家 のうちで 楽 しませる」[イザヤ 56:1、2、<br />

6、。<br />

この 聖 句 が、キリスト 教 時 代 にあてはまることは、その 前 後 関 係 から 見 て 明 らかで<br />

ある。「イスラエルの 追 いやられた 者 を 集 められる 主 なる 神 はこう 言 われる、『わた<br />

しはさらに 人 を 集 めて、すでに 集 められた 者 に 加 えよう』と」[ 同 56:。ここに、 福<br />

音 によって 異 邦 人 が 集 められることが 予 告 されている。そして、その 時 安 息 日 を 尊 ぶ<br />

者 たちに、 祝 福 が 宣 言 されている。こうして、 第 4 条 を 守 る 義 務 は、キリストの 十 字<br />

架 と 復 活 と 昇 天 を 越 えて、 彼 のしもべたちが 福 音 の 使 命 をすべての 国 民 に 宣 べ 伝 える<br />

時 にまで 及 ぶのである。<br />

主 は、 同 じ 預 言 者 によって、「あかしをたばねよ。 律 法 をわが 弟 子 たちのうちに 印<br />

せよ」と 命 じておられる[イザヤ 8:16・ 英 語 訳 ]。 神 の 律 法 の 印 は、 第 4 条 の 戒 めの<br />

中 に 見 いだされる。 十 戒 の 中 で、 第 4 条 だけが、 律 法 を 与 えた 方 の 名 と 称 号 とを 2 つ<br />

とも 明 らかにしている。それは、 彼 が、 天 と 地 の 創 造 者 であることを 宣 言 し、したが<br />

って、 他 のすべてにまさって 崇 敬 と 礼 拝 を 受 くべき 方 であることを 示 している。この<br />

戒 めを 除 いては、だれの 権 威 によって 律 法 が 与 えられたかを 示 すものは、 十 戒 の 中 に<br />

何 もない。<br />

法 王 権 が 安 息 日 を 変 更 した 時 、 律 法 から 印 が 取 り 除 かれた。イエスの 弟 子 たちは、<br />

第 4 条 の 安 息 日 を、 創 造 主 の 記 念 と 彼 の 権 威 のしるしとしての 正 当 な 位 置 に 高 めるこ<br />

とによって、それを 回 復 するように 求 められている。 「ただ 律 法 と 証 とを 求 むべし。」<br />

種 々の 矛 盾 した 教 義 や 意 見 が 盛 んに 唱 えられているが、 神 の 律 法 は、あらゆる 意 見 、<br />

教 義 、 説 などを 吟 味 する 誤 つことのない 唯 一 の 規 準 である。「 彼 らのいうところ、こ<br />

の 言 葉 にかなわずば、しののめあらじ」[ 同 8:20・ 文 語 訳 ]。<br />

また、 次 のような 命 令 が 与 えられている。「 大 いに 呼 ばわって 声 を 惜 しむな。あな<br />

たの 声 をラッパのようにあげ、わが 民 にそのとがを 告 げ、ヤコブの 家 にその 罪 を 告 げ<br />

332


国 際 協 定<br />

示 せ。」 罪 の 譴 責 を 受 けなければならない 者 は、 邪 悪 な 世 ではなくて、 主 が「わが 民 」<br />

と 呼 ばれる 人 々である。 主 は、さらにこう 言 われる。「 彼 らは 日 々わたしを 尋 ね 求 め、<br />

義 を 行 い、 神 のおきてを 捨 てない 国 民 のように、わが 道 を 知 ることを 喜 ぶ」[イザヤ<br />

58:1、。ここには、 自 分 たちを 義 とし、 神 の 奉 仕 に 非 常 な 関 心 を 示 すかのように 思<br />

われる 一 団 の 人 々が 示 されている。しかし、 人 の 心 を 見 通 されるお 方 の、 手 きびしい<br />

厳 粛 な 譴 責 は、 彼 らが 神 の 律 法 を 踏 みにじっているということを 証 明 している。<br />

こうして 預 言 者 は、 見 捨 てられていた 戒 めを 指 摘 する。「あなたは 代 々やぶれた 基<br />

を 立 て、 人 はあなたを『 破 れを 繕 う 者 』と 呼 び、『 市 街 を 繕 って 住 むべき 所 となす 者 』<br />

と 呼 ぶようになる。もし 安 息 日 にあなたの 足 をとどめ、わが 聖 日 にあなたの 楽 しみを<br />

なさず、 安 息 日 を 喜 びの 日 と 呼 び、 主 の 聖 日 を 尊 ぶべき 日 ととなえ、これを 尊 んで、<br />

おのが 道 を 行 わず、おのが 楽 しみを 求 めず、むなしい 言 葉 を 語 らないならば、その 時<br />

あなたは 主 によって 喜 びを 得 」る[ 同 58:12~。この 預 言 もまた、われわれの 時 代 に<br />

当 てはまる。ローマの 権 力 によって 安 息 目 が 変 更 された 時 、 神 の 律 法 に 破 れができた。<br />

しかし、 神 の 制 度 が 回 復 される 時 が 来 た。 破 れは 修 繕 され、 代 々の 基 は 立 てられなけ<br />

ればならない。<br />

創 造 主 の 休 息 と 祝 福 とによって 聖 別 された 安 息 日 は、 罪 を 犯 さないアダムが 聖 なる<br />

エデンにおいて 守 ったものであり、また、 堕 落 したが 悔 い 改 めたアダムが、 楽 園 を 追<br />

放 された 後 も 守 ったものであった。 安 息 日 は、アベルから 義 人 ノア、アブラハム、ヤ<br />

コブに 至 るすべての 家 長 たちが 守 った。 選 民 がエジプトに 奴 隷 になった 時 、 多 くの 者<br />

は、 広 く 行 き 渡 っていた 偶 像 礼 拝 のただ 中 で、 神 の 律 法 の 知 識 を 忘 れた。しかし、 主<br />

は、イスラエルを 救 い 出 された 時 、 集 まった 群 衆 に、 大 いなる 威 光 の 中 で、ご 自 分 の<br />

律 法 を 宣 言 された。それは 彼 らが 神 のみこころを 知 り、 永 遠 に 神 を 畏 れ 神 に 従 うため<br />

であった。<br />

その 時 から 現 在 に 至 るまで、 神 の 律 法 に 関 する 知 識 は 地 上 で 保 たれ、 第 4 条 の 安 息<br />

日 は 守 られてきた。「 不 法 の 者 」が、 神 の 聖 日 を 踏 みにじりはしたが、その 至 上 権 時<br />

代 にあっても、ひそかなところに 隠 れて、 忠 実 な 人 々が 安 息 日 を 尊 んでいた。 宗 教 改<br />

革 以 後 、いつの 時 代 においても、だれかが 安 息 日 を 守 り 続 けていた。しばしば 非 難 と<br />

迫 害 のただ 中 にあっても、 神 の 律 法 の 不 変 性 と、 創 造 の 安 息 日 を 聖 く 守 るべきことと<br />

が、 絶 えずあかしされてきた。<br />

これらの 真 理 は、 黙 示 録 14 章 において「 永 遠 の 福 音 」と 関 連 して 示 されているよ<br />

うに、 再 臨 の 時 のキリストの 教 会 の 特 徴 である。なぜなら、 三 重 の 使 命 が 伝 えられる<br />

結 果 として、「ここに、 神 の 戒 めを 守 り、イエスを 信 じる 信 仰 を 持 ちつづける 聖 徒 の<br />

333


国 際 協 定<br />

忍 耐 がある」と 言 われているからである。そして、この 使 命 は、 主 の 再 臨 に 先 だって<br />

伝 えられる 最 後 のものである。これが 宣 布 されたあと、 直 ちに、 人 の 子 が 地 の 収 穫 を<br />

刈 るために 栄 光 のうちに 来 られるのを、 預 言 者 は 見 たのである。<br />

聖 所 と 神 の 律 法 の 不 変 性 とについての 光 を 受 けた 人 々は、 彼 らが 理 解 した 真 理 の 体<br />

系 の 美 と 調 和 を 見 て、 喜 びと 驚 きに 満 たされた。 彼 らは、 非 常 に 貴 重 なものに 思 われ<br />

たその 光 を、すべてのキリスト 者 たちに 伝 えたいと 願 った。そして、それが 喜 んで 迎<br />

えられるものと 信 じて 疑 わなかった。しかし、 人 々をして 世 と 異 なったものにする 真<br />

理 は、キリストの 弟 子 であると 称 する 多 くの 者 に、 歓 迎 されなかった。 第 4 条 への 服<br />

従 は 犠 牲 を 要 求 するものであり、 大 部 分 の 者 はこれに 背 を 向 けたのであった。<br />

安 息 日 の 義 務 が 示 された 時 、 多 くの 者 は、 世 俗 の 立 場 から 考 えて、 次 のように 言 う<br />

のであった。「われわれは、これまで 常 に 日 曜 日 を 守 ってきた。われわれの 先 祖 たち<br />

も 守 った。そして、 多 くの 善 良 で 敬 虔 な 人 々が、 日 曜 日 を 守 って 幸 福 に 死 んだ。もし<br />

彼 らが 正 しかったのであれば、われわれも 正 しい。この 新 しい 安 息 日 を 守 れば、 世 と<br />

の 調 和 から 外 れ、 彼 らに 感 化 を 及 ぼすことができない。7 日 目 を 守 る 小 さな 団 体 が、<br />

日 曜 日 を 守 る 全 世 界 に 対 抗 して、いったい 何 を 成 し 遂 げようというのか?」ユダヤ 人<br />

が、キリストを 拒 んだことを 正 当 化 しようとしたのは、 同 様 の 議 論 によってであった。<br />

われわれの 先 祖 たちは、 犠 牲 をささげることによって 神 に 受 け 入 れられてきたのだか<br />

ら、その 子 孫 であるわれわれも、 同 様 の 方 法 で 救 いを 受 けることのできないはずがあ<br />

ろうか、というのであった。 同 様 に、ルターの 時 代 において、 法 王 教 徒 たちは、 真 の<br />

キリスト 者 たちはカトリックの 信 仰 をもって 死 んだ、それゆえにこの 信 仰 は、 救 いを<br />

受 けるのに 十 分 である、と 論 じた。しかし、このような 論 理 は、 宗 教 的 信 仰 や 行 為 の<br />

あらゆる 発 達 を、はなはだしく 阻 害 するものである。<br />

日 曜 日 遵 守 は 確 立 された 教 義 で、 幾 世 紀 にもわたって 広 く 行 われてきた 教 会 の 慣 習<br />

である、と 論 じる 者 が 多 い。このような 議 論 に 対 し、 安 息 日 とその 遵 守 は、もっと 古<br />

くもっと 広 範 囲 のもの、 創 世 以 来 のものであり、 神 と 天 使 たちとの 認 めるものである<br />

ことが 示 された。 地 の 基 がすえられ、 明 けの 星 が 相 共 に 歌 い、 神 の 子 たちがみな 喜 び<br />

呼 ばわったその 時 、 安 息 日 の 基 礎 が 置 かれたのである[ 創 世 記 2:1~3、ヨブ 38:6、<br />

7 参 照 ]。この 制 度 がわれわれの 崇 敬 を 要 求 するのは 当 然 である。それは、 人 間 の 権 威<br />

によって 命 じられたものでも、 人 間 の 伝 承 によるものでもない。それは、 日 の 老 いた<br />

る 者 によって 制 定 され、その 永 遠 の 言 葉 によって 命 じられたものである。<br />

安 息 日 改 革 の 問 題 に 人 々の 注 意 が 喚 起 されると、 一 般 の 牧 師 たちは、 神 の 言 葉 を 曲<br />

げて、 人 々の 探 究 心 を 巧 みにしずめるような 解 釈 をほどこした。そして、 自 分 で 聖 書<br />

334


国 際 協 定<br />

を 探 究 しない 人 々は、 自 分 たちの 欲 求 に 合 った 結 論 を 受 け 入 れて 満 足 した。 議 論 、 詭<br />

弁 、 教 父 たちの 伝 承 、また 教 会 の 権 威 などによって、 真 理 を 覆 そうとした 者 が 多 くい<br />

た。 真 理 の 擁 護 者 たちは、 自 分 たちの 聖 書 を 頼 りにして、 第 4 条 の 戒 めの 正 当 性 を 擁<br />

護 した。 真 理 の 言 葉 だけで 武 装 した 謙 遜 な 人 々が、 学 者 たちの 攻 撃 に 対 抗 した。 学 者<br />

たちは、 自 分 たちの 巧 みな 詭 弁 が、 難 解 な 学 問 よりも 聖 書 によく 通 じた 人 々の、 単 純<br />

で 率 直 な 論 理 に 対 してなんの 力 もないのを 知 って、 驚 き 怒 った。<br />

多 くの 者 は、 自 分 たちに 有 利 な 聖 書 の 証 言 がないために、 同 じ 論 法 がキリストと 彼<br />

の 使 徒 たちに 反 対 して 用 いられたことを 忘 れて、 頑 固 に 次 のように 主 張 した。「われ<br />

われの 偉 大 な 人 々がこの 安 息 日 問 題 を 理 解 しないのはどういうわけか。あなたがたの<br />

ように 信 じている 者 はほんのわずかである。あなたがたが 正 しくて、 世 の 中 の 学 者 た<br />

ちがみなまちがっている、などということはあり 得 ない。」<br />

このような 議 論 に 反 論 するには、ただ 聖 書 の 教 えと、 各 時 代 において 主 がご 自 分 の<br />

民 を 扱 われた 歴 史 とを 引 用 すればよかった。 神 は、 神 の 声 を 聞 いて 従 う 者 、 必 要 なら<br />

ば 俗 受 けのしない 真 理 を 語 る 者 、 広 く 行 われている 罪 を 譴 責 することを 恐 れない 者 を<br />

用 いて 働 かれる。 神 が、 学 者 や 高 い 地 位 にある 人 々を 選 んで 改 革 運 動 の 指 導 者 になさ<br />

らないのは、 彼 らが、 自 分 たちの 信 条 、 理 論 、 神 学 体 系 などに 頼 って、 神 に 教 えられ<br />

ることの 必 要 を 感 じないからである。 知 恵 の 根 源 である 神 と 個 人 的 につながっている<br />

者 だけが、 聖 書 を 理 解 し 説 明 することができる。 学 校 教 育 をわずかしか 受 けていない<br />

人 々が、 真 理 を 宣 言 するために 召 されることがあるが、それは 彼 らが 無 学 であるため<br />

ではなくて、 自 分 に 頼 らずに 神 から 教 えを 受 けるからである。 彼 らは、キリストの 学<br />

校 で 学 び、その 謙 遜 と 服 従 が、 彼 らを 偉 大 にするのである。 神 は 彼 らに、 神 の 真 理 の<br />

知 識 をゆだねて、 彼 らに 栄 誉 をお 与 えになる。それに 比 べるならば、 地 上 の 栄 誉 や 人<br />

間 的 偉 大 さは、とるに 足 りないものなのである。<br />

再 臨 信 徒 の 大 部 分 は、 聖 所 と 神 の 律 法 に 関 する 真 理 を 拒 否 した。そして、 多 くの 者<br />

は、 再 臨 運 動 に 関 する 信 仰 をも 放 棄 して、この 働 きに 適 用 された 預 言 について、 不 健<br />

全 で 矛 盾 した 意 見 を 取 り 入 れた。ある 人 々は、キリスト 再 臨 のはっきりした 日 時 を 何<br />

度 も 定 めるという 誤 りに 陥 った。 今 や、 聖 所 問 題 の 上 に 輝 いている 光 は、どんな 預 言<br />

的 期 間 も 再 臨 までは 及 んでいないこと、そして、この 事 件 の 正 確 な 時 は 預 言 されてい<br />

ないことを、 彼 らに 示 したはずであった。しかし 彼 らは、 光 から 顔 をそむけて、 主 の<br />

来 られる 日 を 定 め 続 け、そのたびに 失 望 に 陥 っていた。<br />

テサロニケ 教 会 が、キリストの 再 臨 に 関 して 誤 った 見 解 を 抱 いた 時 、 使 徒 パウロは、<br />

彼 らの 希 望 と 期 待 とを 注 意 深 く 神 の 言 葉 によって 吟 味 するように、 彼 らに 勧 告 した。<br />

335


国 際 協 定<br />

彼 は、キリスト 再 臨 の 前 に 起 こる 事 件 を 示 している 預 言 を 引 用 して、 彼 らの 時 代 にキ<br />

リストがおいでになると 期 待 する 根 拠 がないことを 彼 らに 示 した。「だれがどんな 事<br />

をしても、それにだまされてはならない」と 彼 は 警 告 している[Ⅱテサロニケ 2:。も<br />

しも 彼 らが、 聖 書 の 承 認 しない 期 待 を 抱 くならば、 誤 った 行 動 に 走 り、 失 望 の 結 果 不<br />

信 心 な 者 たちの 笑 いものになり、 落 胆 して、 自 分 たちの 救 いに 不 可 欠 な 真 理 を 疑 うよ<br />

うな 誘 惑 に 陥 ってしまったであろう。テサロニケ 人 への 使 徒 の 勧 告 は、 終 末 時 代 に 生<br />

きている 者 たちに 対 しての、 重 大 な 教 訓 を 含 んでいる。 主 の 再 臨 の 明 確 な 日 時 の 上 に<br />

信 仰 を 置 くことができないなら、 熱 心 に 準 備 にいそしむことができないと 感 じている<br />

再 臨 信 徒 が 多 い。しかし、 彼 らの 希 望 が、 何 度 も 何 度 も 燃 え 上 がっては 崩 れ 去 るうち<br />

に、 彼 らの 信 仰 は 打 撃 を 受 けて、 預 言 の 大 真 理 をほとんど 感 じることができなくなっ<br />

てしまうのである。<br />

最 初 の 使 命 宣 布 に 当 たって、 審 判 の 明 確 な 時 を 伝 えることは、 神 の 命 令 であった。<br />

この 使 命 の 根 拠 をなす 預 言 期 間 の 計 算 が、2300 日 の 終 わりを 1844 年 の 秋 であると<br />

定 めたことは、 非 難 の 余 地 がない。 預 言 期 間 の 始 まりと 終 わりの 新 しい 年 代 を 発 見 し<br />

ようとくり 返 し 努 力 し、そうした 主 張 を 支 持 するのに 必 要 な 不 健 全 な 推 論 をすること<br />

は、 人 々の 心 を 現 代 の 真 理 から 引 き 離 すだけでなく、 預 言 の 解 説 に 対 するあらゆる 努<br />

力 を 軽 べつするものである。 再 臨 の 明 確 な 時 が、 何 度 も 定 められれば 定 められるほど、<br />

そしてそれが 広 く 伝 えられれば 伝 えられるほど、それだけいっそうサタンの 目 的 にか<br />

なうのである。 時 が 過 ぎ 去 ると、サタンはその 支 持 者 たちをあざけり 軽 べつして、<br />

1843 年 と 1844 年 の 大 再 臨 運 動 をも 非 難 するのである。このような 誤 りを 犯 し 続 け<br />

る 者 は、ついにはキリストの 再 臨 をはるか 遠 い 将 来 に 定 めるようになる。こうして 彼<br />

らは、 誤 った 安 心 感 を 抱 くに 至 り、 多 くの 者 がその 惑 わしに 気 づいた 時 には、すでに<br />

おそすぎるのである。<br />

むかしのイスラエルの 歴 史 は、 再 臨 信 徒 の 団 体 の 過 去 の 経 験 の、 顕 著 な 実 例 である。<br />

神 は、イスラエルの 人 々をエジプトから 導 き 出 されたように、ご 自 分 の 民 を 再 臨 運 動<br />

において 導 かれた。 大 失 望 のときに、 彼 らの 信 仰 は、ヘブル 人 が 紅 海 で 試 みられたよ<br />

うな 試 練 を 受 けた。もしも 彼 らが、 過 去 の 経 験 において 彼 らとともにあった 神 の 導 き<br />

の 手 に、なおも 信 頼 していたならば、 彼 らは 神 の 救 いを 見 たことであろう。もしも、<br />

1844 年 の 運 動 に 一 致 して 働 いた 者 がみな、 第 三 天 使 の 使 命 を 受 け 入 れ、 聖 霊 の 力 に<br />

よってそれを 宣 布 していたならば、 主 は 彼 らの 努 力 とともに 力 強 く 働 かれたことであ<br />

ろう。 輝 かしい 光 が、 洪 水 のように 世 界 を 覆 ったことであろう。 何 年 も 前 に、 地 の 住<br />

民 に 警 告 は 発 せられ、 最 後 の 働 きが 完 結 して、キリストはご 自 分 の 民 を 救 うためにお<br />

いでになっていたであろう。<br />

336


国 際 協 定<br />

イスラエル 人 が 荒 野 を 40 年 もさまようことは、 神 のみこころではなかった。 神 は、<br />

彼 らをまっすぐにカナンの 地 に 導 いて、 彼 らをそこで、 聖 く 幸 福 な 国 民 として 定 住 さ<br />

せようとしておられた。 しかし、「 彼 らがはいることのできなかったのは、 不 信 仰 の<br />

ゆえで」あった[ヘブル 3:。 堕 落 と 背 信 のために 彼 らは 荒 野 で 滅 び、 他 の 者 たちが 約<br />

束 の 国 に 入 るために 起 こされた。 同 じように、キリストの 再 臨 がこのように 遅 れ、 神<br />

の 民 がこのように 長 く、 罪 と 悲 しみのこの 世 にとどまることは、 神 のみこころではな<br />

かった。しかし、 不 信 が、 彼 らを 神 から 引 き 離 した。 彼 らが 神 に 命 じられた 働 きをす<br />

ることを 拒 んだ 時 に、 使 命 を 宣 言 するために 他 の 者 たちが 起 こされた。イエスは、 世<br />

界 をあわれんで、 彼 の 再 臨 を 延 ばしておられる。それは、 罪 人 に 警 告 を 聞 く 機 会 を 与<br />

え、 神 の 怒 りが 注 がれる 前 に、 主 のうちに 避 難 させるためである。<br />

昔 と 同 様 に 今 日 においても、 時 代 の 罪 と 誤 りを 指 摘 する 真 理 を 伝 えることは、 反 対<br />

を 引 き 起 こす。「 悪 を 行 っている 者 はみな 光 を 憎 む。そして、そのおこないが 明 るみ<br />

に 出 されるのを 恐 れて、 光 にこようとはしない」[ヨハネ 3:。 人 々は、 自 分 たちの 立<br />

場 を 聖 書 によって 支 持 することができないのがわかると、 多 くの 者 はなんとかしてそ<br />

れを 支 持 しようと 決 意 し、 一 般 受 けのしない 真 理 を 擁 護 して 立 つ 者 たちの 品 性 や 動 機<br />

を、 悪 意 をもって 攻 撃 するのである。 各 時 代 においてとられてきたのは、この 同 じ 方<br />

針 であった。エリヤはイスラエルを 悩 ます 者 と 言 われ、エレミヤは 裏 切 り 者 と 言 われ、<br />

パウロは 神 殿 を 汚 す 者 と 言 われた。その 当 時 から 今 日 に 至 るまで、 真 理 に 忠 誠 を 尽 く<br />

そうとする 者 は、 治 安 を 妨 害 する 者 、 異 端 者 、 分 離 者 と 非 難 されてきた。 預 言 の 確 実<br />

な 言 葉 をなかなか 信 じようとしない 群 衆 は、その 時 代 の 罪 を 大 胆 に 譴 責 する 者 への 非<br />

難 を、なんの 疑 いもなく 受 け 入 れる。この 精 神 は、ますます 増 大 している。そして 聖<br />

書 は、 国 家 の 法 律 が 神 の 律 法 と 激 しく 衝 突 するために、 神 のすべての 戒 めに 従 おうと<br />

する 者 は 悪 事 を 行 う 者 として 非 難 され 罰 せられるようになる、という 時 が 近 づきつつ<br />

あることをはっきりと 教 えている。<br />

こうしたことを 考 える 時 、 真 理 の 使 者 の 義 務 は 何 であろうか。 真 理 を 伝 えても、 人<br />

々はその 主 張 を 避 けるか、または 反 抗 するに 至 るだけの 場 合 がよくあるから、 真 理 は<br />

伝 えるべきではないと 結 論 すべきであろうか。そうではない。 反 対 を 引 き 起 こすから<br />

と 言 って、 神 の 言 葉 のあかしをさしひかえる 理 由 は、 初 期 の 改 革 者 たちになかったと<br />

同 様 に 今 もないのである。 聖 徒 や 殉 教 者 たちの 行 った 信 仰 の 告 白 は、 後 の 時 代 のため<br />

に 記 録 された。これらの 人 々の 聖 潔 とゆるがぬ 誠 実 の 生 きた 模 範 は、 今 日 神 のための<br />

証 人 として 立 つように 召 された 者 たちを 励 ますために、 語 りつがれてきた。 彼 らが 恵<br />

みと 真 理 を 受 けたのは、 自 分 たちのためだけでなく、 彼 らを 通 して、 神 の 知 識 が 地 を<br />

337


国 際 協 定<br />

輝 かすためであった。 神 は、この 時 代 の 神 のしもべたちに、 光 を 与 えておられるであ<br />

ろうか。それならば、 彼 らは 世 界 にそれを 輝 かさなければならない。<br />

主 は、 昔 、 主 の 名 によって 語 った 者 に 次 のように 月 われた。「イスラエルの 家 はあ<br />

なたに 聞 くのを 好 まない。 彼 らはわたしに 聞 くのを 好 まないからであろ!」にもかかわ<br />

らず、 主 はこう 言 われた。「 彼 らが 聞 いても、 拒 んでも、あなたはただわたしの 言 葉<br />

を 彼 らに 語 らなければならない」[エゼキエル 3:7、2:! 現 代 の 神 のしもべには、<br />

「 大 いに 呼 ばわって 声 を 惜 しむな。あなたの 声 をラッパのようにあげ、わが 民 にその<br />

とがを 告 げ?ヤコブの 家 にその 罪 を 告 げ 示 せ」という 命 令 が 与 えられている[イザヤ<br />

58:。<br />

真 理 の 光 を 受 けた 者 はみな、 機 会 があるかぎり、イ スラエルの 預 言 者 と 同 様 に 厳 粛<br />

で 恐 るべき 責 任 を 負 わせられている。 主 は 預 言 者 に 次 のように 言 われた。「それゆえ、<br />

人 の 子 よ、わたしはあなたを 立 てて、イスラエルの 家 を 見 守 る 者 とする。あなたはわ<br />

たしの 口 から 言 葉 を 聞 き、わたしに 代 って 彼 らを 戒 めよ。わたしが 悪 人 に 向 かって、<br />

悪 人 よ、あなたは 必 ず 死 ぬと 言 う 時 、あなたが 悪 人 を 戒 めて、その 道 から 離 れさせる<br />

ように 語 らなかったら、 悪 人 は 自 分 の 罪 によって 死 ぬ。しかしわたしはその 血 を、あ<br />

なたの 手 に 求 める。しかしあなたが 悪 人 に、その 道 を 離 れるように 戒 めても、その 悪<br />

人 がその 道 を 離 れないなら、 彼 は 自 分 の 罪 によって 死 ぬ。しかしあなたの 命 は 救 われ<br />

る」[エゼキエル 33:7~。<br />

真 理 を 受 け 入 れ、それを 伝 えるにあたっての 大 きな 障 害 は、そこに 不 都 合 と 恥 辱 が<br />

含 まれていることである。これは、 真 理 の 擁 護 者 たちが 反 論 できなかった 唯 一 の 真 理<br />

反 対 論 である。しかし、このことも、キリストの 真 の 弟 子 たちを 思 いとどまらせはし<br />

ない。 彼 らは、 真 理 の 受 けがよくなるまで 待 ったりなどしない。 彼 らは、 自 分 たちの<br />

義 務 を 確 信 して、 進 んで 十 字 架 を 負 い、 使 徒 パウロとともに、「このしばらくの 軽 い<br />

患 難 は 働 いて、 永 遠 の 重 い 栄 光 を、あふれるばかりにわたしたちに 得 させる」と 見 な<br />

し、 古 代 の 聖 徒 とともに、「キリストのゆえに 受 けるそしりを、エジプトの 宝 にまさ<br />

る 富 と 考 え」るのである[Ⅱコリント 4:17、ヘブル 11:。<br />

口 では 何 を 言 っていようとも、 宗 教 的 な 事 柄 において、 原 則 によらないで 策 を 弄 し<br />

て 行 動 する 者 は、 内 心 で 世 俗 に 仕 えているものにほかならない。われわれは、 正 しい<br />

ことを、それが 正 しいことであるがゆえに 選 び、 結 果 は 神 にゆだねなければならない。<br />

世 界 の 大 改 革 は、 原 則 と 信 仰 と 勇 気 の 人 々によって 行 われたのである。そのような 人<br />

々によって、この 時 代 の 改 革 も 推 進 されなければならない。<br />

338


国 際 協 定<br />

主 は、こう 言 われる。「 義 を 知 る 者 よ、 心 のうちにわが 律 法 をたもつ 者 よ、わたし<br />

に 聞 け。 人 のそしりを 恐 れてはならない、 彼 らのののしりに 驚 いてはならない。 彼 ら<br />

は 衣 のように、しみに 食 われ、 羊 の 毛 のように 虫 に 食 われるからだ。しかし、わが 義<br />

はとこしえにながらえ、わが 救 はよろず 代 に 及 ぶ」[イザヤ 51:7、。<br />

339


国 際 協 定<br />

第 27 章 変 容 した 人 生<br />

神 の 言 葉 が 忠 実 に 説 かれたところではどこでも、それが 神 から 出 たものであること<br />

を 証 明 する 結 果 が 伴 った。 神 の 霊 が、 神 のしもべたちのメッセージに 伴 い、その 言 葉<br />

には 力 があった。 罪 人 は、 良 心 が 目 覚 めるのを 感 じた。「すべての 人 を 照 すまことの<br />

光 があって、 世 にきた。」その 光 が、 彼 らの 心 の 密 室 を 照 らし、 隠 された 暗 黒 のこと<br />

をあらわした。 彼 らの 心 は、 深 い 感 動 を 受 けた。 彼 らは、 罪 と 義 と、 来 たるべきさば<br />

きとについて、 目 を 開 かれた。 彼 らは、 主 の 義 を 認 め、 自 分 たちの 罪 と 汚 れのまま、<br />

心 をさぐられる 方 の 前 に 出 ることを 恐 れた。 彼 らは、 苦 悶 の 声 をあげて、「だれが、<br />

この 死 のからだから、わたしを 救 ってくれるだろうか」と 叫 んだ。 人 間 の 罪 のために<br />

無 限 の 犠 牲 が 払 われたカルバリーの 十 字 架 が 示 された 時 、 彼 らは、 自 分 たちの 罪 を 贖<br />

い 得 るものは、キリストの 功 績 以 外 にないことを 悟 った。ただこれだけが、 人 間 を 神<br />

に 和 解 させることができるのであった。 信 仰 をもって 謙 遜 に、 彼 らは 世 の 罪 を 取 り 除<br />

く 神 の 小 羊 を 受 け 入 れた。イエスの 血 によって、 彼 らは、「 今 までに 犯 した 罪 のゆる<br />

し」を 得 た。<br />

この 人 々は、 悔 い 改 めにふさわしい 実 を 結 んだ。 彼 らは 信 じてバプテスマを 受 け、<br />

キリスト・イエスにあって 新 しく 造 られた 者 として、 新 しい 生 活 を 始 めた。 彼 らは 以<br />

前 の 欲 に 従 うことなく、 神 のみ 子 を 信 じる 信 仰 によって、み 足 の 跡 に 従 い、 主 の 品 性<br />

を 反 映 し、 主 が 清 くあられるように 自 分 たちも 清 くなろうとした。 彼 らは、かつて 憎<br />

んだものを 愛 し、 愛 したものを 憎 むようになった。 高 慢 で 自 負 心 の 強 い 者 は、 柔 和 で<br />

謙 遜 になった。 虚 栄 心 があっておうへいな 者 は、まじ めでひかえ 目 になった。 低 俗 な<br />

者 は 敬 虔 に、 酒 のみは 謹 直 に、そして 放 蕩 者 は 純 潔 になった。 世 俗 のむなしい 流 行 は、<br />

放 棄 された。<br />

キリスト 者 は、「 髪 を 編 み、 金 の 飾 りをつけ、 服 装 をととのえるような 外 面 の 飾 り<br />

ではなく、かくれた 内 なる 人 、 柔 和 で、しとやかな 霊 という 朽 ちることのない 飾 りを」<br />

求 めた。「これこそ、 神 のみまえに、きわめて 尊 いものである」[Ⅰペテロ 3:<br />

3、。 リバイバル[ 信 仰 復 興 ]は、 深 い 内 省 と 謙 遜 をもたらした。 罪 人 に 対 しては 厳 粛<br />

熱 心 に 訴 え、キリストの 血 による 贖 いに 対 しては 憐 れみを 求 めるのが、リバイバルの<br />

特 徴 であった。 男 も 女 も、 魂 の 救 いのために、 神 に 祈 り 神 と 格 闘 した。こうしたリバ<br />

イバルの 結 果 、 克 己 と 犠 牲 をもいとわず、むしろキリストのためにそしりと 試 練 を 受<br />

けるに 足 る 者 とされたことを 喜 ぶ 者 たちが 現 れた。 人 々は、イエスの 名 を 告 白 する 者<br />

340


国 際 協 定<br />

たちの 生 活 が 変 化 したことを 認 めた。 社 会 は、 彼 らの 感 化 によって 益 を 受 けた。 彼 ら<br />

は、キリストとともに 集 め、 永 遠 の 生 命 を 刈 り 取 るために 霊 にまいた。<br />

彼 らについては、「 悲 しんで 悔 い 改 めるに 至 った」と 言 うことができる。「 神 のみ<br />

こころに 添 うた 悲 しみは、 悔 いのない 救 を 得 させる 悔 改 めに 導 き、この 世 の 悲 しみは<br />

死 をきたらせる。 見 よ、 神 のみこころに 添 うたその 悲 しみが、どんなにか 熱 情 をあな<br />

たがたに 起 させたことか。また、 弁 明 、 義 憤 、 恐 れ、 愛 慕 、 熱 意 、それから 処 罰 に 至<br />

らせたことか。あなたがたはあの 問 題 については、すべての 点 において 潔 白 であるこ<br />

とを 証 明 したのである」[Ⅱコリント 7:9~。 これは、 神 の 霊 の 働 きの 結 果 である。<br />

改 革 が 行 われないようなら、 真 の 悔 い 改 めとは 言 えない。もし 罪 人 が、 質 物 を 返 し、<br />

奪 った 物 をもどし、 罪 を 告 白 し、 神 と 同 胞 を 愛 するならば、 彼 が 神 と 和 らいだことは<br />

確 かである。 昔 は、 宗 教 的 覚 醒 が 起 きた 時 には、それに 伴 って、このような 結 果 が 生<br />

じた。そうした 実 から 判 断 して、それらは、 人 々の 救 いと 人 類 の 向 上 のために 神 の 祝<br />

福 を 受 けたものであることが 明 らかになった。<br />

ところが、 現 代 のリバイバルの 多 くは、 初 期 の 時 代 において 神 のしもべたちの 働 き<br />

に 伴 った 神 の 恵 みのあらわれと、 著 しく 異 なっている。たしかに、 広 く 人 々の 関 心 を<br />

あおり、 多 くの 者 が 自 分 たちは 改 心 したと 言 い、 教 会 に 多 数 の 信 者 が 加 わっている。<br />

しかし、それに 伴 って 真 の 霊 的 生 命 が 向 上 したということを 保 証 するような 結 果 は、<br />

あらわれていない。 一 時 燃 え 立 った 火 は、すぐに 消 えて、 暗 黒 は 前 よりもいっそう 深<br />

刻 になる。<br />

一 般 のリバイバルは、ともすれば、 想 像 に 訴 え、 感 情 を 刺 激 し、 新 奇 なことに 対 す<br />

る 愛 好 心 を 満 足 させるようなやり 方 で 行 われている。こうして 得 た 改 心 者 は、 聖 書 の<br />

真 理 を 聞 くことを 望 まず、 預 言 者 や 使 徒 たちのあかしに 興 味 を 示 さない。 集 会 も 何 か<br />

感 情 をそそるようなものがないかぎり、 彼 らをひきつけることができない。 冷 静 な 理<br />

性 に 訴 えるメッセージは、なんの 反 応 も 起 こさない。 彼 らの 永 遠 の 幸 福 に 直 接 関 係 の<br />

ある、 神 の 言 葉 の 明 白 な 警 告 も、 注 意 を 払 われないのである。<br />

真 に 改 心 したすべての 魂 にとって、 神 と 永 遠 の 事 物 とに 対 する 関 係 は、 人 生 の 大 問<br />

題 である。しかし 今 日 、 一 般 の 教 会 のどこに、 神 への 献 身 の 精 神 があるであろうか。<br />

改 心 者 たちは、 誇 りと 世 俗 を 愛 する 心 を 捨 てていない。 彼 らが、 自 己 を 否 定 し、 十 字<br />

架 を 取 り 上 げて、 柔 和 で 謙 遜 なイエスに 従 っていこうとしないのは、 改 心 前 と 全 く 同<br />

様 である。 宗 教 は、 多 くの 者 が、その 名 をとなえながらその 原 則 に 無 知 であるために、<br />

無 神 論 者 や 懐 疑 論 者 の 物 笑 いとなってきた。 敬 虔 さの 持 つ 力 は、 多 くの 教 会 からほと<br />

んど 姿 を 消 している。 行 楽 、 演 劇 、バザー、りっぱな 建 物 、 信 徒 の 華 美 な 装 いなどが、<br />

341


国 際 協 定<br />

神 の 思 いを 遠 ざけてしまっている。 土 地 、 財 産 、 世 俗 の 職 業 が 心 を 奪 い、 永 遠 のこと<br />

に 気 を 配 るものはほとんどいない。<br />

しかし、 信 仰 と 敬 虔 さが 一 般 に 衰 微 したとはいっても、これらの 教 会 の 中 に、キリ<br />

ストの 真 の 弟 子 たちがいるのである。 地 上 に 神 の 最 後 のさばきが 下 るに 先 だって、 主<br />

の 民 の 間 に、 使 徒 時 代 以 来 かつて 見 られなかったような 初 代 の 敬 虔 なリバイバルが 起<br />

きる。 神 の 霊 と 力 が 神 の 子 供 たちの 上 に 注 がれる。その 時 、 多 くの 者 が、 神 と 神 の 言<br />

葉 の 代 わりにこの 世 を 愛 してきた 諸 教 会 から 離 れる。 牧 師 も 信 徒 も、 多 くの 者 が、 主<br />

の 再 臨 に 民 を 備 えさせるために 神 が 今 宣 布 させておられるこれらの 大 真 理 を、 喜 んで<br />

受 け 入 れる、 魂 の 敵 は、この 働 きを 妨 害 しようとする。そして、こうした 運 動 が 起 こ<br />

る 前 に、 偽 物 を 提 示 することによってそれを 妨 害 しようとする。 彼 は、 自 分 の 欺 瞞 の<br />

力 のもとに 置 くことのできる 諸 教 会 において、 神 の 特 別 な 祝 福 が 注 がれているかのよ<br />

うに 見 せかける。 大 いなる 宗 教 的 関 心 と 思 われるものが 現 れる。 多 くの 人 々は、 神 が<br />

彼 らのために 驚 くべきことをしておられると 喜 ぶが、それは、 別 の 霊 の 働 きなのであ<br />

る。 宗 教 的 装 いのもとに、サタンは、キリスト 教 世 界 に 自 分 の 勢 力 を 広 げようとす<br />

る。<br />

過 去 半 世 紀 の 間 に 起 こったリバイバルの 多 くには、 将 来 大 規 模 にあらわれるのと 同<br />

じ 勢 力 が、 多 少 とも 働 いていた。そこには 感 情 の 興 奮 と、 真 理 と 虚 偽 の 混 合 が 見 られ、<br />

それは 人 を 欺 くのに 好 適 なのである。しかし、だれも 欺 かれる 必 要 はない。 神 の 言 葉<br />

に 照 らしてみるならば、これらの 運 動 の 本 質 を 見 定 めることは、むずかしいことでは<br />

ない。 人 々が 聖 書 の 証 言 をおろそかにし、 克 己 と 世 俗 の 放 棄 とを 要 求 する 明 快 で 人 の<br />

心 を 試 す 真 理 から 顔 をそむけるならば、 神 の 祝 福 を 受 けることができないのは 確 かで<br />

ある。そして、「その 実 によって 彼 らを 見 わけるであろう」という、キリストご 自 身<br />

がお 与 えになった 規 準 によって、これらの 運 動 は 神 の 霊 の 働 きではないことが 明 らか<br />

なのである[マタイ 7:。<br />

神 は、み 言 葉 の 真 理 の 中 で、ご 自 身 についての 啓 示 を 人 間 にお 与 えになった。そし<br />

て、 真 理 を 受 け 入 れるすべての 者 にとって、 真 理 は、サタンの 欺 瞞 から 彼 らを 守 るた<br />

てである。 今 日 、 宗 教 界 に 広 く 行 きわたっている 害 悪 に 戸 を 開 いたものは、これらの<br />

真 理 の 軽 視 である。 神 の 律 法 の 性 質 と 重 要 性 が、ほとんど 見 失 われている。 神 の 律 法<br />

の 性 格 、 永 続 性 、 義 務 についての 誤 った 観 念 が、 改 心 と 清 めについての 誤 りをひき 起<br />

こし、その 結 果 教 会 内 の 敬 虔 さの 標 準 を 低 下 させるに 至 っている。ここに、 今 日 のリ<br />

バイバルにおいて 神 の 霊 と 力 が 欠 けている 理 由 を 見 いだすのである。<br />

342


国 際 協 定<br />

さまざまな 教 派 の 信 仰 深 い 人 々が、この 事 実 を 認 めて 嘆 いている。エドワード・A<br />

・パーク 教 授 は、 現 代 の 宗 教 的 危 機 を 指 摘 して、 次 のように 言 っている。「 危 険 の 原<br />

因 の 1 つは、 説 教 壇 から 神 の 律 法 を 強 く 主 張 しないことにある。かつては 説 教 壇 は、<br />

良 心 の 声 が 響 くところであった。……われわれの 最 も 著 名 な 説 教 者 たちは、 主 の 模 範<br />

にならって、 律 法 の 戒 めと 警 告 とを 強 調 することによって、 彼 らの 説 教 を 驚 くほど 威<br />

厳 のあるものにした。 彼 らは、 律 法 は 神 の 完 全 の 写 しであって、 律 法 を 愛 さない 者 は<br />

福 音 を 愛 していないという、 二 大 真 理 をくり 返 した。なぜなら 律 法 は、 福 音 と 同 様 に、<br />

神 の 真 の 品 性 を 反 映 する 鏡 だからである。この 危 険 は、さらに 次 へと 発 展 して、 罪 の<br />

害 悪 とその 範 囲 、その 恐 ろしさなどを 過 小 評 価 させるに 至 る。 戒 めが 義 であればある<br />

ほど、それに 服 従 しないことははなはだしい 悪 なのである。……<br />

上 述 の 危 険 と 密 接 に 関 係 しているのが、 神 の 義 を 軽 視 する 危 険 である。 現 代 の 説 教<br />

の 傾 向 は、 神 の 義 を 神 の 慈 愛 から 引 き 離 して、 慈 愛 を 原 則 として 高 めるよりむしろ 1<br />

つの 感 情 に 低 下 させている。 新 たな 神 学 は、 神 が 結 合 されたものを 分 裂 させた。 神 の<br />

律 法 は 善 か 悪 か。 善 である。それならば 正 義 は 善 である。なぜなら、 正 義 は 律 法 を 実<br />

施 するものだからである。 人 間 は、 神 の 律 法 と 正 義 を 軽 視 し、 人 間 の 不 服 従 の 程 度 と<br />

恐 ろしさを 軽 視 する 習 慣 から、 罪 の 贖 いのために 備 えられた 恵 みを 過 小 評 価 する 習 慣<br />

に 陥 りやすい。」こうして 人 々は、 福 音 の 価 値 と 重 要 性 を 忘 れ、そしてまもなく、 実<br />

質 的 に 聖 書 そのものを 放 棄 するようになる。<br />

多 くの 宗 教 教 師 たちは、キリストはご 自 分 の 死 によ って 律 法 を 廃 された、それゆえ<br />

に 人 はその 要 求 から 解 放 されている、と 主 張 する。なかには、 律 法 を 重 苦 しいくびき<br />

であると 言 い、 律 法 の 束 縛 とは 対 照 的 に、 福 音 の 下 において 自 由 が 享 受 できると 主 張<br />

する 人 々もいる。 しかし、 預 言 者 や 使 徒 たちは、 神 の 聖 なる 律 法 をそのようには 見 な<br />

さなかった。「わたしはあなたのさとしを 求 めたので、 自 由 に 歩 むことができます」<br />

[ 詩 篇 119:。キリストの 死 後 に 書 いた 使 徒 ヤコブは、 十 戒 を「 尊 い 律 法 」「 完 全 な 自<br />

由 の 律 法 」と 言 っている[ヤコブ 2:8、1:。そして、 十 字 架 から、 半 世 紀 の 後 に、ヨ<br />

ハネは、「いのちの 木 にあずかる 特 権 を 与 えられ、また 門 をとおって 都 にはいるため<br />

に、 神 の 律 法 を 行 う 者 」はさいわいであると 言 明 している[ 黙 示 録 22:14・ 英 語<br />

訳 ]。<br />

キリストがその 死 によって 天 父 の 律 法 を 廃 したという 主 張 には、なんの 根 拠 もない。<br />

もしも 律 法 を 変 えたり、 廃 止 したりすることができるのであれば、 人 間 を 罪 の 刑 罰 か<br />

ら 救 うためにキリストが 死 なれる 必 要 はなかった。キリストの 死 は、 律 法 を 廃 止 する<br />

どころか、それが 不 変 のものだということを 証 明 しているのである。 神 のみ 子 は、<br />

「 律 法 を 大 いなるものとし、かつ 光 栄 あるものとする」ために 来 られた[イザヤ 42:<br />

343


国 際 協 定<br />

21・ 英 語 訳 ]。「わたしが 律 法 や 預 言 者 を 廃 するためにきた、と 思 ってはならない。」<br />

「 天 地 が 滅 び 行 くまでは、 律 法 の 一 点 、 一 画 もすたることはな」いと 彼 は 言 われた[マ<br />

タイ 5:17、。また、ご 自 身 について、「わが 神 よ、わたしはみこころを 行 うことを<br />

喜 びます。あなたのおきてはわたしの 心 のうちにあります」と 宣 言 しておられる[ 詩 篇<br />

40:。<br />

神 の 律 法 は、その 性 質 そのものから 考 えても、 不 変 のものである。それは、その 制<br />

定 者 の 意 志 と 品 性 の 啓 示 である。 神 は 愛 である。そして、 神 の 律 法 は 愛 である。その<br />

二 大 原 則 は、 神 に 対 する 愛 と 人 間 に 対 する 愛 である。「 愛 は 律 法 を 完 成 するものであ<br />

る」[ローマ 13:。 神 の 品 性 は、 義 と 真 理 である。 神 の 律 法 の 性 質 もそうである。 詩<br />

篇 記 者 は 言 っている。「あなたのおきてはまことです。」「あなたのすべての 戒 めは<br />

正 しい」[ 詩 篇 119:142、。そして、 使 徒 パウロは、「 律 法 そのものは 聖 なるもので<br />

あり、 戒 めも 聖 であって、 正 しく、かつ 善 なるものである」と 宣 言 している[ローマ<br />

7:。 神 の 心 と 意 志 の 表 現 であるこのような 律 法 は、その 制 定 者 と 同 様 に 永 続 的 なも<br />

のでなければならない。<br />

人 間 を 神 の 律 法 の 原 則 に 調 和 させることによって 神 と 和 解 させるのは、 改 心 と 清 め<br />

の 働 きである。 初 めに、 人 間 は 神 のかたちに 創 造 された。 人 間 は、 神 の 性 質 と 神 の 律<br />

法 とに 完 全 に 調 和 していた。 義 の 原 則 が、 彼 の 心 に 書 かれていた。しかし、 罪 が、 彼<br />

を 創 造 主 から 引 き 離 した。 彼 は、もはや、 神 のかたちを 反 映 しなくなった。 彼 の 心 は、<br />

神 の 律 法 の 原 則 と 争 うようになった。「 肉 の 思 いは 神 に 敵 するからである。すなわち、<br />

それは 神 の 律 法 に 従 わず、 否 、 従 い 得 ないのである」[ローマ 8:。しかし、 神 は、 人<br />

間 が 神 と 和 解 することができるように、「そのひとり 子 を 賜 わったほどに、この 世 を<br />

愛 して 下 さった。」 人 間 は、キリストの 功 績 によって、 創 造 主 との 調 和 を 回 復 するこ<br />

とができるのである。 彼 の 心 は、 神 の 恵 みによって 新 しくされなければならない。 彼<br />

は、 上 からの 新 しい 生 命 を 受 けなければならない。この 変 化 が 新 生 であって、これが<br />

なければ「 神 の 国 を 見 ることはできない」とイエスは 言 われるのである。<br />

神 と 和 解 する 第 一 歩 は、 罪 を 認 めることである。「 罪 は 不 法 である」「 律 法 によっ<br />

ては、 罪 の 自 覚 が 生 じるのみである」[Ⅰヨハネ 3:4、ローマ 3:。 自 分 の 罪 を 悟 る<br />

ためには、 罪 人 は 自 分 の 品 性 を、 神 の 義 の 偉 大 な 標 準 によって 吟 味 しなければならな<br />

い。それは、 正 しい 品 性 の 完 全 さを 示 して、 罪 人 に 自 分 の 品 性 の 欠 陥 を 発 見 させる 鏡<br />

である。 律 法 は、 人 間 に 罪 を 示 すが、 救 いは 与 えない。 律 法 は、 服 従 する 者 には 生 命<br />

を 約 束 するが、 犯 す 者 には 死 を 宣 告 する。 人 間 を 罪 の 宣 告 や 罪 の 汚 れから 解 放 するこ<br />

とができるのは、キリストの 福 音 だけである。 人 間 は、 神 の 律 法 を 犯 したのであるか<br />

ら、 神 に 向 かって 悔 い 改 めなければならない。そして、キリストに 対 しては 信 じてそ<br />

344


国 際 協 定<br />

の 贖 いの 犠 牲 を 受 け 入 れなければならない。こうして 人 間 は、「 今 までに 犯 した 罪 の<br />

赦 し」を 受 け、 神 の 性 質 にあずかる 者 となる。 彼 は、 子 たる 身 分 の 霊 を 授 けられた 神<br />

の 子 であるから、「アバ、 父 よ」と 呼 ぶのである。<br />

さて、このような 人 は、 自 由 に 神 の 律 法 を 犯 してもよいであろうか。パウロは、 次<br />

のように 言 っている。「すると、 信 仰 のゆえに、わたしたちは 律 法 を 無 効 にするので<br />

あるか。 断 じてそうではない。かえって、それによって 律 法 を 確 立 するのである。」<br />

「 罪 に 対 して 死 んだわたしたちが、どうして、なお、その 中 に 生 きておれるだろう<br />

か。」そしてヨハネは 宣 言 する。「 神 を 愛 するとは、すなわち、その 戒 めを 守 ること<br />

である。そして、その 戒 めはむずかしいものではない」[ローマ 3:31、6:2、Ⅰヨ<br />

ハネ 5:。 人 の 心 は、 新 しく 生 まれることにより、 神 の 律 法 と 一 致 するとともに、 神<br />

と 調 和 するようになる。この 大 きな 変 化 が 罪 人 の 中 に 起 きたとき、 彼 は、 死 から 生 命<br />

へ、 罪 から 聖 潔 へ、 違 犯 と 反 逆 から 服 従 と 忠 誠 へと 移 ったのである。 神 から 離 反 して<br />

いた 古 い 生 活 は 終 わった。 和 解 の 生 活 、 信 仰 と 愛 の 新 しい 生 活 が 始 まった。こうして、<br />

「 律 法 の 要 求 が、 肉 によらず 霊 によって 歩 くわたしたちにおいて、 満 たされる」ので<br />

ある[ローマ 8:。その 時 、「いかにわたしはあなたのおきてを 愛 することでしょう。<br />

わたしはひねもすこれを 深 く 思 います」という 魂 の 言 葉 が 発 せられるのである[ 詩 篇<br />

119:。<br />

「 主 のおきては 完 全 であって、 魂 を 生 きかえらせ」る[ 詩 篇 19:。 人 間 は、 律 法 が<br />

なければ、 神 の 純 潔 と 神 聖 さ、あるいは 自 分 自 身 の 罪 と 汚 れについて、 正 しい 考 えを<br />

持 つことができない。 罪 についての 真 の 自 覚 もなく、 悔 い 改 めの 必 要 も 感 じない。 自<br />

分 たちが 神 の 律 法 の 違 反 者 であるという 失 われた 状 態 を 悟 らず、キリストの 贖 罪 の 血<br />

の 必 要 を 自 覚 しないのである。 心 の 根 本 的 変 化 も 生 活 の 改 変 もなしに、 救 いの 希 望 を<br />

受 け 入 れる。このような 表 面 的 改 心 が 広 く 行 われていて、キリストと 結 合 したことの<br />

ない 多 くの 者 が 教 会 に 加 えられているのである。<br />

また、 神 の 律 法 の 軽 視 や 拒 否 から 生 じるところの、 誤 った 聖 化 論 が、 今 日 の 宗 教 運<br />

動 において 顕 著 な 位 置 を 占 めている。これらの 理 論 は、 教 義 的 に 偽 りであり、 実 際 的<br />

結 果 においても 危 険 である。 そして、それらの 説 が 一 般 に 歓 迎 されているという 事 実<br />

を 見 る 時 、この 点 についての 聖 書 の 教 えをすべての 者 がはっきり 理 解 することが、な<br />

おいっそう 必 要 となる。 真 の 清 め[ 聖 化 ]は、 聖 書 が 教 えている 教 義 である。 使 徒 パウ<br />

ロは、テサロニケ 教 会 への 手 紙 の 中 で 次 のように 言 っている。「 神 のみこころは、あ<br />

なたがたが 清 くなることである。」そして、「どうか、 平 和 の 神 ご 自 身 が、あなたが<br />

たを 全 くきよめて 下 さるように」と 祈 っている[Ⅰテサロニケ 4:3、5:。 聖 書 は、 清<br />

めとは 何 であって、どのようにしてそれに 到 達 できるかを、はっきりと 教 えている。<br />

345


国 際 協 定<br />

救 い 主 は、 弟 子 たちのために 祈 って、「 真 理 によって 彼 らを 聖 別 して 下 さい。あなた<br />

の 御 言 は 真 理 であります」と 言 われた[ヨハネ 17:17、19 参 照 ]。 使 徒 パウロは、 信<br />

者 たちに、「 聖 霊 によってきよめられ」るようにと 教 えた[ローマ 15:。<br />

聖 霊 の 働 きは、 何 であろうか。イエスは、 弟 子 たちに 次 のように 言 われた。「けれ<br />

ども 真 理 の 御 霊 が 来 る 時 には、あなたがたをあらゆる 真 理 に 導 いてくれるであろう」<br />

[ヨハネ 16:。 詩 篇 記 者 も、「あなたのおきてはまことです」と 言 っている。 神 の 言<br />

葉 と 聖 霊 によって、 神 の 律 法 の 中 に 現 れている 義 の 大 原 則 が、 人 間 に 示 される。そし<br />

て、 神 の 律 法 は、「 聖 であって、 正 しく、かつ 善 なるものであ」り、 神 の 完 全 の 写 し<br />

であるから、その 律 法 に 従 って 形 造 られる 品 性 も、 清 いものとなる。キリストは、こ<br />

のような 品 性 の 完 全 な 模 範 である。「わたしがわたしの 父 のいましめを 守 った。」<br />

「わたしは、いつも 神 のみこころにかなうことをしている」と 主 は 言 われる[ヨハネ<br />

15:10、8:。キリストの 弟 子 たちは、 彼 のようにならなければならない。 神 の 恵 み<br />

によって、 神 の 聖 なる 律 法 の 原 則 に 調 和 した 品 性 を 形 成 しなければならない。こ れが<br />

聖 書 のいう 清 めである。<br />

この 働 きは、キリストを 信 じる 信 仰 によってのみ 達 成 されるもので、 神 の 霊 の 内 住<br />

の 力 によるのである。パウロは、 信 者 たちに 次 のように 勧 告 している。「 恐 れおのの<br />

いて 自 分 の 救 の 達 成 に 努 めなさい。あなたがたのうちに 働 きかけて、その 願 いを 起 さ<br />

せ、かつ 実 現 に 至 らせるのは 神 であって、それは 神 のよしとされるところだからであ<br />

る」[ピリビ 2:12、。 キリスト 者 も 罪 の 誘 惑 は 感 じるが、しかし 常 にそれと 戦 い 続<br />

ける。ここにおいて、キリストの 援 助 が 必 要 になる。 人 間 の 弱 さが 神 の 力 と 結 合 する。<br />

そして 信 仰 は、「 感 謝 すべきことには、 神 はわたしたちの 主 イエス・キリストによっ<br />

て、わたしたちに 勝 利 を 賜 わったのである」と 叫 ぶのである[Ⅰコリント 15:。<br />

聖 書 は、 清 めの 働 きが、 漸 進 的 なものであることをはっきりと 示 している。 罪 人 が<br />

悔 い 改 めて、 贖 罪 の 血 によって 神 と 和 解 する 時 、キリスト 者 の 生 活 ははじまったばか<br />

りである。 彼 は、「 完 全 を 目 ざして 進 」み、「キリストの 満 ちみちた 徳 の 高 さにまで」<br />

成 長 しなければならない。 使 徒 パウロは 言 っている。「ただこの 一 事 を 努 めている。<br />

すなわち、 後 のものを 忘 れ、 前 のものに 向 かってからだを 伸 ばしつつ、 目 標 を 目 ざし<br />

て 走 り、キリスト・イエスにおいて 上 に 召 して 下 さる 神 の 賞 与 を 得 ようと 努 めている<br />

のである」[ピリピ 3:13、。ペテロは、 聖 書 が 教 える 清 めへと 到 達 するための 段 階 を、<br />

われわれに 提 示 している。「それだから、あなたがたは、 力 の 限 りをつくして、あな<br />

たがたの 信 仰 に 徳 を 加 え、 徳 に 知 識 を、 知 識 に 節 制 を、 節 制 に 忍 耐 を、 忍 耐 に 信 心 を、<br />

信 心 に 兄 弟 愛 を、 兄 弟 愛 に 愛 を 加 えなさい。……そうすれば、 決 してあやまちに 陥 る<br />

ことはない」[Ⅱペテロ 1:5~。<br />

346


国 際 協 定<br />

聖 書 のいう 清 めを 経 験 する 者 は、 謙 遜 の 精 神 をあらわす。 彼 らは、モーセのように、<br />

聖 なるお 方 のおそるべき 威 光 をながめ、 無 限 のお 方 の 純 潔 と 崇 高 な 完 全 さと 比 べて 自<br />

分 たちの 無 価 値 なことを 認 めるのである。 預 言 者 ダニエルは、 真 の 清 めの 実 例 である。<br />

彼 の 長 い 一 生 は、 主 のための 気 高 い 奉 仕 に 満 ちていた。 彼 は、 神 に「 大 いに 愛 せられ<br />

る 人 」であった[ダニエル 10:。この 栄 誉 にあずかった 預 言 者 は、しかし 自 分 の 純 潔<br />

と 清 さを 主 張 しないで、 自 分 を 真 に 罪 深 いイスラエルの 1 人 とみなし、 自 国 民 のため<br />

に 神 の 前 で 懇 願 した。<br />

「われわれがあなたの 前 に 祈 をささげるのは、われわれの 義 によるのではなく、た<br />

だあなたの 大 いなるあわれみによるのです。」「われわれは 罪 を 犯 し、よこしまなふ<br />

るまいをしました。」ダニエルは「こう 言 って 祈 り、かつわが 罪 とわが 民 の 罪 をざん<br />

げ」したのである。そして、 後 に、 神 のみ 子 が 現 れて、 彼 に 教 えをさずけられた 時 、<br />

「わが 顔 の 輝 きは 恐 ろしく 変 って、 全 く 力 がなくなった」とダニエルは 言 っている[ダ<br />

ニエル 9:18、15、20、10:。<br />

ヨブは、つむじ 風 の 中 から 主 の 声 を 聞 いた 時 に、「それでわたしはみずから 恨 み、<br />

ちり 灰 の 中 で 悔 います」と 叫 んだ[ヨブ 42:。イザヤは、 主 の 栄 光 を 見 、ケルビムが<br />

「 聖 なるかな、 聖 なるかな、 聖 なるかな、 万 軍 の 主 」と 呼 ばわるのを 聞 いて、「わざ<br />

わいなるかな、わたしは 滅 びるばかりだ」と 叫 んだ[イザヤ 6:3、。パウロは、 第 三<br />

の 天 にまで 引 き 上 げられ、 人 間 には 語 ることのできない 言 葉 を 聞 いた 後 、 自 分 のこと<br />

を、「 聖 徒 たちのうちで 最 も 小 さい 者 である」と 言 っている[Ⅱコリント 12:2~4 参<br />

照 。エペソ 3:。また、かつてはイエスの 胸 によりかかった 愛 弟 子 ヨハネは、 主 の 栄<br />

光 に 接 した 時 、その 足 もとに 倒 れて 死 人 のようになった[ 黙 示 録 1:17 参 照 ]。<br />

カルバリーの 十 字 架 の 影 を 歩 くものには、 自 分 を 高 めたり、 自 分 はもはや 罪 を 犯 さ<br />

ないなどと 誇 ったりすることはあり 得 ない。 彼 らは、 自 分 たちの 罪 が、 神 のみ 子 の 心<br />

臓 を 破 裂 させるほどの 苦 悩 を 引 き 起 こしたことを 感 じる。そしてこの 思 いが、 彼 らを<br />

へりくだらせる。イエスに 最 も 近 く 生 活 する 者 が、 人 間 の 弱 さと 罪 深 さを 最 もはっき<br />

りと 認 める。そして 自 分 たちの 唯 一 の 希 望 を、 十 字 架 につけられ 復 活 された 救 い 主 の<br />

功 績 に 置 くのである。 現 在 、 宗 教 界 において 注 目 を 集 めている 清 めには、 自 己 賞 揚 の<br />

精 神 と 神 の 律 法 の 無 視 とが 伴 っており、このことは、それが 聖 書 の 宗 教 とは 異 なった<br />

ものであることを 示 している。その 主 唱 者 たちは、 清 めは 瞬 間 敵 な 業 で、 信 仰 だけに<br />

よって、 完 全 な 清 めに 到 達 すると 教 えるのである。 彼 らは、「ただ 信 じなさい。そう<br />

すれば、 祝 福 が 与 えられる」と 言 う。 これを 受 ける 者 はなんの 努 力 もしないでよいと<br />

思 っている。それとともに、 彼 らは、 神 の 律 法 の 権 威 を 拒 否 し、 自 分 たちは 戒 めを 守<br />

る 義 務 から 解 放 されたと 主 張 する。しかし、 神 の 性 質 とみ 旨 の 表 現 であり、 何 が 神 の<br />

347


国 際 協 定<br />

みこころにかなうかを 示 している 原 則 に 調 和 まずして、 人 間 は、 神 のみこころと 品 性<br />

とに 一 致 して 清 くなることができるであろうか。<br />

なんの 努 力 も 克 己 も、 世 俗 の 愚 かさからの 分 離 をも 要 求 しない 安 易 な 宗 教 を 望 む 心<br />

が、ただ 信 じさえすればよいという 一 般 うけのする 信 仰 の 教 義 をつくり 上 げた。 使 徒<br />

ヤコブは、 次 のように 言 っている。「わたしの 兄 弟 たちよ。ある 人 が 自 分 には 信 仰 が<br />

あると 称 していても、もし 行 いがなかったら、なんの 役 に 立 つか。その 信 仰 は 彼 を 救<br />

うことができるか。……ああ、 愚 かな 人 よ。 行 いを 伴 わない 信 仰 のむなしいことを 知<br />

りたいのか。わたしたちの 父 祖 アブラハムは、その 子 イサクを 祭 壇 にささげた 時 、 行<br />

いによって 義 とされたのではなかったか。あなたが 知 っているとおり、 彼 においては、<br />

信 仰 が 行 いと 共 に 働 き、その 行 いによって 信 仰 が 全 うされ……たのである。これでわ<br />

かるように、 人 が 義 とされるのは、 行 いによるのであって、 信 仰 だけによるのではな<br />

い」[ヤコブ 2:14~。<br />

神 の 言 葉 の 証 言 は、この、 行 いを 伴 わない 信 仰 という 人 を 惑 わす 教 義 に 反 対 してい<br />

る。 憐 れみを 受 ける 条 件 に 従 わずに 神 の 恵 みを 受 けることができると 主 張 することは、<br />

信 仰 ではなくて、 臆 断 である。なぜなら、 真 の 信 仰 は、 聖 書 の 約 束 と 規 定 とに 基 づく<br />

ものだからである。 神 の 要 求 を 1 つでも 故 意 に 犯 していながら、 清 くなれると 信 じて、<br />

自 分 を 欺 いてはならない。 罪 と 知 りながらそれを 犯 すことは、 聖 霊 のあかしの 声 を 沈<br />

黙 させ、 魂 を 神 から 引 き 離 すものである。「 罪 は 不 法 である。」そして、「すべて 罪<br />

を 犯 す 者 〔 律 法 を 犯 す 者 〕は、 彼 を 見 たこともなく、 知 ったこともない 者 である」[Ⅰ<br />

ヨハネ 3:。<br />

ヨハネは 彼 の 手 紙 の 中 で、 愛 についてくわしく 述 べたのであるが、しかしまた、 神<br />

の 律 法 を 犯 す 生 活 をしながら 清 められたと 主 張 している 人 々の 正 体 を、 摘 発 すること<br />

を 躊 躇 しなかった。「『 彼 を 知 っている』と 言 いながら、その 戒 めを 守 らない 者 は、<br />

偽 り 者 であって、 真 理 はその 人 のうちにない。しかし、 彼 の 御 言 を 守 る 者 があれば、<br />

その 人 のうちに、 神 の 愛 が 真 に 全 うされるのである」[Ⅰヨハネ 2:4、。ここに、す<br />

べての 人 の 信 仰 の 告 白 を 試 みる 試 金 石 がある。 天 においても 地 においても、 清 めに 関<br />

する 神 の 唯 一 の 標 準 によって 量 るのでなければ、だれひとり、 清 い 人 であるとはいえ<br />

ない。もし 人 々が、 道 徳 律 を 重 んじず、 神 の 教 えを 軽 んじ 無 視 し、これらの 最 も 小 さ<br />

い 戒 めの 1 つを 破 り、またそうするように 人 に 教 えるならば、そのような 人 々は、 神<br />

の 目 からは 評 価 されない。そしてわれわれは、 彼 らの 主 張 することにはなんの 根 拠 も<br />

ないことを 知 ることができるのである。また、 自 分 には 罪 がないと 主 張 する 者 は、そ<br />

う 主 張 すること 自 体 が、 清 めから 程 遠 い 証 拠 である。そのような 主 張 は、 彼 が、 神 の<br />

無 限 の 純 潔 と 神 聖 さとを 真 に 認 識 していないためである。あるいは、 神 の 品 性 と 調 和<br />

348


国 際 協 定<br />

するためにはどのようにならなければならないかを、 悟 らないためである。イエスの<br />

純 潔 と 気 高 い 美 しさを 知 らず、 罪 の 邪 悪 さと 害 悪 を 真 に 理 解 しないために、 人 は 自 分<br />

を 清 いものと 考 えるのである。 自 分 とキリストの 問 の 距 離 が、 遠 ければ 遠 いほど、ま<br />

た、 神 の 品 性 と 要 求 に 対 する 見 解 が 不 十 分 であればあるほど、 人 間 は、 自 分 自 身 の 目<br />

に 正 しく 思 われるのである。<br />

聖 書 に 示 されている 清 めとは、 全 存 在 —— 霊 と 魂 と 体 ——を 含 むものである。パウ<br />

ロは、 神 がテサロニケの 人 々の「 霊 と 心 とからだとを 完 全 に 守 って、わたしたちの 主<br />

イエス・キリストの 来 臨 のときに、 責 められるところのない 者 にして 下 さるように」<br />

と 祈 った[Ⅰテサロニケ 5:。 また、 信 者 たちに、「 兄 弟 たちよ。そういうわけで、<br />

神 のあわれみによってあなたがたに 勧 める。あなたがたのからだを、 神 に 喜 ばれる、<br />

生 きた、 聖 なる 供 え 物 としてささげなさい」と 彼 は 書 いた[ローマ 12:。 昔 のイスラ<br />

エルの 時 代 において、 神 に 犠 牲 として 献 げられるものは、みな、 注 意 深 く 調 べられた。<br />

その 動 物 にもし 1 つでも 欠 陥 があれば、それは 拒 否 された。なぜなら、 神 は、 供 え 物<br />

は「 傷 のないもの」でなければならないと 命 じられたからである。そのように、キリ<br />

スト 者 は、 自 分 たちの 体 を、「 神 に 喜 ばれる、 生 きた、 聖 なる 供 え 物 として」ささげ<br />

るように 命 じられている。そうするためには、 彼 らのすべての 能 力 を、なしうる 最 上<br />

の 状 態 に 保 たなければならない。 肉 体 的 、または 知 的 能 力 を 弱 める 習 慣 はすべて、 人<br />

間 を 創 造 主 に 奉 仕 するのにふさわしくない 者 にする。 神 は、われわれが、 自 分 たちの<br />

ささげうる 最 上 のものより 劣 るものをささげるとき、 喜 ばれるであろうか。キリスト<br />

は、「 心 をつくし……て、 主 なるあなたの 神 を 愛 せよ」と 言 われた。 心 をつくして 神<br />

を 愛 する 者 は、その 生 涯 をもって 最 上 の 奉 仕 をすることを 望 み、 神 のみこころを 行 う<br />

能 力 を 増 進 させる 法 則 に、 心 身 のすべての 能 力 を 調 和 させようと 常 に 努 力 する。 彼 ら<br />

は、 食 欲 や 情 欲 をほしいままにして、 彼 らの 天 の 父 にささげる 供 え 物 を 弱 めたり 汚 し<br />

たりしないのである。<br />

ペテロは、「たましいに 戦 いをいどむ 肉 の 欲 を 避 けなさい」と 言 っている[Ⅰペテ<br />

ロ 2:。すべての 罪 深 い 満 足 は、 機 能 をまひさせ、 知 的 霊 的 知 覚 力 を 鈍 らせる。そし<br />

て、 神 の 言 葉 や 聖 霊 も、 心 になんの 印 象 も 与 えることができなくなるのである。パウ<br />

ロは、コリント 人 に 次 のように 書 いている。「 肉 と 霊 とのいっさいの 汚 れから 自 分 を<br />

きよめ、 神 をおそれて 全 く 清 くなろうではないか」[Ⅱコリント 7:。そして 彼 は、<br />

「 愛 、 喜 び、 平 和 、 寛 容 、 慈 愛 、 善 意 、 忠 実 、 柔 和 」などみ 霊 の 実 に「 自 制 」も 加 え<br />

ている[ガラテヤ 5:22、。<br />

このような 霊 感 の 言 葉 があるにもかかわらず、 利 益 や 流 行 を 追 ってその 能 力 を 弱 め<br />

ている 百 称 キリスト 者 たちが、なんと 多 いことであろう。また、 暴 食 、 飲 酒 、 放 蕩 な<br />

349


国 際 協 定<br />

どによって、 神 のかたちである 人 性 を 堕 落 させているものが、なんと 多 いことであろ<br />

う。しかも 教 会 は、これを 譴 責 するどころか、かえって 食 欲 に 訴 え、 物 欲 や 快 楽 を 愛<br />

する 心 に 訴 えることによって、こうした 害 悪 を 助 長 し、キリストに 対 する 愛 が 弱 いた<br />

めに 供 給 できない 教 会 の 資 金 を、 補 充 しようとするのである。もしキリストが、 今 日<br />

の 教 会 に 入 ってこられ、 宗 教 の 名 のもとに 行 われている 飲 食 と 汚 れた 取 引 を 見 られる<br />

ならば、 昔 、 神 殿 から 両 替 人 たちを 追 い 出 されたように、これらの 神 を 汚 す 人 々をも<br />

追 い 出 されないであろうか。<br />

使 徒 ヤコブは、 上 からの 知 恵 は、「 第 一 に 清 く」と 言 っている。もしも 彼 が、たば<br />

こで 汚 れたくちびるでイエスの 尊 い 御 名 を 唱 える 人 々、その 息 も 体 も 悪 臭 に 染 まった<br />

人 々、そして、 大 気 を 汚 染 して 周 りのすべての 者 に 毒 を 吸 わせる 人 々に 出 会 ったなら<br />

ば、すなわち、もし 使 徒 が、 福 音 の 純 潔 とは 全 く 逆 の 習 慣 と 接 触 したならば、 彼 はそ<br />

れを、「 地 につくもの、 肉 に 属 するもの、 悪 魔 的 なもの」と 非 難 しないであろうか。<br />

たばこの 奴 隷 になっている 人 々は、 自 分 たちは 全 き 清 めの 祝 福 にあずかっていると 主<br />

張 して、 天 国 への 望 みについて 語 る。しかし、 神 の 言 葉 は、「 汚 れた 者 ……は、その<br />

中 に 決 してはいれない」と 言 明 しているのである[ 黙 示 録 21:。<br />

「あなたがたは 知 らないのか。 自 分 のからだは、 神 から 受 けて 自 分 の 内 に 宿 ってい<br />

る 聖 霊 の 宮 であって、あなたがたは、もはや 自 分 自 身 のものではないのである。あな<br />

たがたは、 代 価 を 払 って 買 いとられたのだ。それだから、 自 分 のからだをもって、 神<br />

の 栄 光 をあらわしなさい」[Ⅰコリント 6:19、。 自 分 の 体 が 聖 霊 の 宮 であるものは、<br />

有 害 な 習 慣 の 奴 隷 にはならない。 彼 の 能 力 は、 血 の 代 価 をもって 彼 を 買 い 取 ら れたキ<br />

リストに 属 している。 彼 の 持 ち 物 は 主 のものである。この 託 された 資 本 を 浪 費 するな<br />

らば、どうして 罪 を 免 れることができようか。 自 称 キリスト 者 たちが、 毎 年 、 無 用 で<br />

有 害 な 道 楽 のために 莫 大 な 額 を 消 費 している 一 方 で、 魂 は 生 命 の 言 葉 が 与 えられずに<br />

滅 びている。 彼 らは、 什 一 や 献 金 において 神 のものを 盗 み、 貧 しい 人 々の 救 援 や 福 音<br />

の 支 持 に 与 えるよりもっと 多 くのものを、 破 滅 的 な 欲 望 の 祭 壇 で 焼 き 尽 くしている。<br />

もしも、キリストの 弟 子 であると 公 言 する 者 がみな、 真 に 清 められるならば、 彼 ら<br />

の 財 産 は、 無 用 で 有 害 な 道 楽 のために 費 やされるかわりに、 主 の 金 庫 におさめられ、<br />

キリスト 者 は、 節 制 と 克 己 と 自 己 犠 牲 の 模 範 となるであろう。その 時 彼 らは、 世 の 光<br />

となるのである。 世 界 は、すべて 放 縦 に 陥 っている。「 肉 の 欲 、 目 の 欲 、 持 ち 物 の 誇 」<br />

が 大 多 数 の 人 々を 支 配 している。しかし、キリストの 弟 子 たちは、より 聖 なる 召 しを<br />

受 けている。「 彼 らの 間 から 出 て 行 き、 彼 らと 分 離 せよ、と 主 は 言 われる。そして、<br />

汚 れたものに 触 れてはならない。」 神 の 言 葉 に 照 らしてみても、 邪 悪 な 習 慣 や 世 俗 の<br />

350


国 際 協 定<br />

欲 望 の 満 足 を 全 く 放 棄 しない 清 めは 真 実 のものでないという、われわれの 主 張 は 正 し<br />

い。<br />

「 彼 らの 間 から 出 て 行 き、 彼 らと 分 離 せよ、……そして、 汚 れたものに 触 れてはな<br />

らない」という 条 件 に 従 うものに、 神 は、「わたしはあなたがたを 受 けいれよう。そ<br />

してわたしは、あなたがたの 父 となり、あなたがたは、わたしのむすこ、むすめとな<br />

るであろう。 全 能 の 主 が、こう 言 われる」と 約 束 なさるのである[Ⅱコリント 6:17、。<br />

神 の 事 柄 において 豊 富 な 体 験 を 持 つことは、すべてのキリスト 者 の 特 権 であり 義 務 で<br />

ある。「わたしは 世 の 光 である。わたしに 従 って 来 る 者 は、やみのうちを 歩 くことが<br />

なく、 命 の 光 をもつであろう」とイエスは 言 われた[ヨハネ 8:。「 正 しい 者 の 道 は、<br />

夜 明 けの 光 のようだ、いよいよ 輝 きを 増 して 真 昼 となる」[ 箴 言 4:。 信 仰 と 服 従 は、<br />

1 歩 ごとに、「 少 しの 暗 いところもない」 世 の 光 に、 魂 を 密 接 に 結 びつける。 義 の 太<br />

陽 の 輝 く 光 線 が、 神 のしもべたちの 上 に 照 り 輝 く。そして 彼 らは、その 光 を 反 射 しな<br />

ければならない。ちょうど 天 空 の 星 が、 天 には 大 いなる 光 があって、その 栄 光 によっ<br />

て 自 分 たちは 輝 いているのだということを、われわれに 告 げているように、キリスト<br />

者 は、 自 分 たちが 賛 美 し、 倣 うべき 品 性 をお 持 ちの 神 が、 宇 宙 の 王 座 におられるとい<br />

うことを、あらわさなければならない。 神 の 霊 の 恵 み、 神 の 品 性 の 純 潔 と 聖 潔 とが、<br />

神 の 証 人 たちによってあらわされるのである。<br />

パウロは、コロサイ 人 への 手 紙 の 中 で、 神 の 子 供 たちに 与 えられる 豊 かな 祝 福 につ<br />

いて 述 べている。 彼 は 言 う。わたしたちが「 絶 えずあなたがたのために 祈 り 求 めてい<br />

るのは、あなたがたがあらゆる 霊 的 な 知 恵 と 理 解 力 とをもって、 神 の 御 旨 を 深 く 知 り、<br />

主 のみこころにかなった 生 活 をして 真 に 主 を 喜 ばせ、あらゆる 良 いわざを 行 って 実 を<br />

結 び、 神 を 知 る 知 識 をいよいよ 増 し 加 えるに 至 ることである。 更 にまた 祈 るのは、あ<br />

なたがたが、 神 の 栄 光 の 勢 いにしたがって 賜 わるすべての 力 によって 強 くされ、 何 事<br />

も 喜 んで 耐 えかつ 忍 [ぶことである]」[コロサイ 1:9~。<br />

また 彼 は、エペソの 兄 弟 たちが、キリスト 者 の 特 権 の 高 さを 理 解 するに 至 ることを<br />

望 むと 書 いている。 彼 は、 至 高 者 のむすこ、むすめとして 彼 らが 持 つことのできる 驚<br />

くべき 力 と 知 識 を、 非 常 に 意 味 深 い 言 葉 で 示 している。 彼 らは、「 御 霊 により、 力 を<br />

もって…… 内 なる 人 」が 強 くされ、「 愛 に 根 ざし 愛 を 基 として 生 活 することにより、<br />

すべての 聖 徒 と 共 に、その 広 さ、 長 さ、 高 さ、 深 さを 理 解 することができ、また 人 知<br />

をはるかに 越 えたキリストの 愛 を 知 」ることができる。しかし、 使 徒 が、「 神 に 満 ち<br />

ているもののすべてをもって、あなたがたが 満 たされるように」と 祈 る 時 に、この 特<br />

権 は 最 高 潮 に 達 するのである[エペソ 3:16~。<br />

351


国 際 協 定<br />

ここに、われわれが 神 の 要 求 に 応 じる 時 に、われわれの 天 の 父 の 約 束 を 信 じる 信 仰<br />

によって 到 達 することのできる 最 高 点 が 示 されている。われわれは、キリストの 功 績<br />

によって、 無 限 の 力 を 持 たれるお 方 のみ 座 に 近 づくのである。「ご 自 身 の 御 子 をさえ<br />

惜 しまないで、わたしたちすべての 者 のために 死 に 渡 されたかたが、どうして、 御 子<br />

のみならず 万 物 をも 賜 わらないことがあろうか」[ローマ 8:。 父 なる 神 は、み 子 に 聖<br />

霊 をあふれるばかりにお 与 えになった。そして、われわれもまた、 霊 に 満 たされるこ<br />

とができるのである。イエスは 言 われる。「このように、あなたがたは 悪 い 者 であっ<br />

ても、 自 分 の 子 供 には、 良 い 贈 り 物 をすることを 知 っているとすれば、 天 の 父 はなお<br />

さら、 求 めて 来 る 者 に 聖 霊 を 下 さらないことがあろうか」[ルカ 11:。 「 何 事 でもわ<br />

たしの 名 によって 願 うならば、わたしはそれをかなえてあげよう。」「 求 めなさい、<br />

そうすれば、 与 えられるであろう。そして、あなたがたの 喜 びが 満 ちあふれるであろ<br />

う」[ヨハネ 14:14、16:。<br />

キリスト 者 の 生 涯 は、 謙 遜 がその 特 徴 であるが、 悲 しみや 自 己 を 卑 下 する 気 持 ちが<br />

あってはならない。 神 に 受 け 入 れられ 祝 福 されるような 生 活 をすることは、すべての<br />

者 の 特 権 である。われわれが、 常 に 罪 の 宣 告 と 暗 黒 のもとにあることは、われわれの<br />

天 の 父 のみこころではない。 頭 をうなだれて、 自 分 のことばかりを 考 えているのは、<br />

真 の 謙 遜 の 証 拠 ではない。われわれは、イエスのところへ 行 って、 清 められ、 律 法 の<br />

前 にはばかることなく 立 つことができるのである。「こういうわけで、 今 やキリスト<br />

・イエスにある 者 は 罪 に 定 められることがない」[ローマ 8:。 イエスによって、 堕<br />

落 したアダムの 子 供 たちは、「 神 の 子 」となる。「 実 に、きよめるかたも、きよめら<br />

れる 者 たちも、 皆 ひとりのかたから 出 ている。それゆえに 主 は、 彼 らを 兄 弟 と 呼 ぶこ<br />

とを 恥 とされない」[ヘブル 2:。キリスト 者 の 生 活 は、 信 仰 と、 勝 利 と、 神 にある 喜<br />

びとの 生 活 でなければならない。「なぜなら、すべて 神 から 生 れた 者 は、 世 に 勝 つか<br />

らである。そして、わたしたちの 信 仰 こそ、 世 に 勝 たしめた 勝 利 の 力 である」[Ⅰヨハ<br />

ネ 5:。 神 のしもべ、ネヘミヤが、「 主 を 喜 ぶことはあなたがたの 力 です」と 言 った<br />

のは 至 言 である[ネヘミヤ 8:。パウロも 言 っている。「あなたがたは、 主 にあってい<br />

つも 喜 びなさい。 繰 り 返 して 言 うが、 喜 びなさい。」「いつも 喜 んでいなさい。 絶 え<br />

ず 祈 りなさい。すべての 事 について、 感 謝 しなさい。これが、キリスト・イエスにあ<br />

って、 神 があなたがたに 求 めておられることである」[ピリピ 4:4、Ⅰテサロニケ 5:<br />

16~。<br />

これが、 聖 書 のいう 悔 い 改 めと 清 めの 実 である。しかし、 神 の 律 法 に 示 された 義 の<br />

大 原 則 が、キリスト 教 界 において 冷 淡 に 扱 われているために、こうした 実 はほとんど<br />

見 ることができない。これが、かつてのリバイバルにあらわれたような 神 の 霊 の 深 い<br />

352


国 際 協 定<br />

永 続 的 な 働 きが、ほとんど 見 られない 理 由 である。 われわれが 変 化 するのは、ながめ<br />

ることによってである。 神 がご 自 分 の 品 性 の 完 全 さと 神 聖 さを 示 されたこれらの 聖 な<br />

る 戒 めを、 人 々がなおざりにし、 人 間 の 教 えや 理 論 に 心 をひかれるならば、 教 会 内 で<br />

生 きた 敬 虔 の 念 が 低 下 しても 少 しも 不 思 議 ではないのである。 主 は 言 われる。 彼 らは、<br />

「 生 ける 水 の 源 であるわたしを 捨 てて、 自 分 で 水 ためを 掘 った、それは、こわれた 水<br />

ためで、 水 を 入 れておくことのできないものだ」[エレミヤ 2:。 「 悪 しき 者 のはか<br />

りごとに 歩 ま……ぬ 人 はさいわいである。このような 人 は 主 のおきてをよろこび、 昼<br />

も 夜 もそのおきてを 思 う。このような 人 は 流 れのほとりに 植 えられた 木 の 時 が 来 ると<br />

実 を 結 び、その 葉 もしぼまないように、そのなすところは 皆 栄 える」[ 詩 篇 1:1~。<br />

神 の 律 法 が、その 正 当 な 位 置 に 回 復 されて 初 めて、 神 の 民 と 称 する 人 々に、 初 代 教 会<br />

の 信 仰 と 敬 虔 のリバイバルが 起 こり 得 るのである。「 主 はこう 言 われる、『あなたが<br />

たはわかれ 道 に 立 って、よく 見 、いにしえの 道 につき、 良 い 道 がどれかを 尋 ねて、そ<br />

の 道 に 歩 み、そしてあなたがたの 魂 のために、 安 息 を 得 よ』」[エレミヤ 6:。<br />

353


国 際 協 定<br />

第 28 章 天 における 調 査 審 判<br />

預 言 者 ダニエルは 次 のように 言 っている。「わたしが 見 ていると、もろもろのみ 座<br />

が 設 けられて、 日 の 老 いたる 者 が 座 しておられた。その 衣 は 雪 のように 白 く、 頭 の 毛<br />

は 混 じりもののない 羊 の 毛 のようであった。そのみ 座 は 火 の 炎 であり、その 卓 輪 は 燃<br />

える 火 であった。 彼 の 前 から、ひと 筋 の 火 の 流 れが 出 てきた。 彼 に 仕 える 者 は 千 々、<br />

彼 の 前 にはべる 者 は 万 々、 審 判 を 行 う 者 はその 席 に 着 き、かずかずの 書 き 物 が 開 かれ<br />

た」[ダニエル 7:9、。<br />

こうして、 人 々の 品 性 と 生 活 が、 全 地 の 裁 判 官 であられる 神 の 前 で 調 査 され、 各 人<br />

がそのしわざに 応 じ」て 報 いられる 重 大 で 厳 粛 な 日 が、 預 言 者 の 幻 に 示 された。 日 の<br />

老 いたる 者 とは、 父 なる 神 のことである。 詩 篇 記 者 は、「 山 がまだ 生 れず、あなたが<br />

まだ 地 と 世 界 とを 造 られなかったとき、とこしえからとこしえまで、あなたは 神 でい<br />

らせられる」と 言 っている[ 詩 篇 90:。 万 物 の 根 源 であり、すべての 律 法 の 源 であら<br />

れるお 方 が、 審 判 をつかさどられる。そして、「 万 の 幾 万 倍 、 千 の 幾 千 倍 」の 聖 天 使<br />

たちが、 仕 える 者 、また 証 人 として、この 大 法 廷 に 列 席 するのである。<br />

「わたしはまた 夜 の 幻 のうちに 見 ていると、 見 よ、 人 の 子 のような 者 が、 天 の 雲 に<br />

乗 ってきて、 日 の 老 いたる 者 のもとに 来 ると、その 前 に 導 かれた。 彼 に 主 権 と 光 栄 と<br />

国 とを 賜 い、 諸 民 、 諸 族 、 諸 国 語 の 者 を 彼 に 仕 えさせた。その 主 権 は 永 遠 の 主 権 であ<br />

って、なくなることがなく、その 国 は 滅 びることがない」[ダニエル 7:13、。ここに<br />

描 かれているキリストの 来 臨 は、キリストが 地 上 に 再 臨 されることではない。キリス<br />

トは、 天 において 日 の 老 いたる 者 のもとに 来 られるのであって、それは、 彼 の 仲 保 者<br />

としての 働 きが 終 わるときに 与 えられる「 主 権 と 光 栄 と 国 」とをお 受 けになるためで<br />

ある。<br />

2300 日 の 終 わりである 1844 年 に 起 こると 預 言 されたのは、この 来 臨 のことであ<br />

って、キリストが 地 上 に 再 臨 されることではなかった。われわれの 大 祭 司 は、 天 使 た<br />

ちを 従 えて、 至 聖 所 に 入 り、 神 のみ 前 で、 人 類 のための 彼 の 最 後 の 務 めをなさる。そ<br />

れは、 調 査 審 判 の 働 きであり、 贖 罪 の 恵 みにあずかる 資 格 があることを 示 したすべて<br />

の 人 のために 贖 いをなさることである。<br />

象 徴 的 儀 式 においては、 告 白 と 悔 い 改 めによって 神 の 前 に 出 て、その 罪 が 罪 祭 の 血<br />

によって 聖 所 に 移 された 者 だけが、 贖 罪 の 日 の 儀 式 にあずかることができた。そのよ<br />

うに、 最 終 的 な 贖 罪 と 調 査 審 判 の 大 いなる 日 に、 審 査 されるのは、 神 の 民 と 称 する 人<br />

々だけである。 悪 人 の 審 判 は、これとは 全 く 別 の 働 きで、もっとあとで 行 われる。<br />

354


国 際 協 定<br />

「さばきが 神 の 家 から 始 められる 時 がきた。それが、わたしたちからまず 始 められる<br />

としたら、 神 の 福 音 に 従 わない 人 々の 行 く 末 は、どんなであろうか」[Ⅰペテロ 4:。<br />

天 には、 人 々の 名 と 行 為 を 記 録 した 書 物 があって、 審 判 の 決 定 は、それによってな<br />

される。 預 言 者 ダニエルは、「 審 判 を 行 う 者 はその 席 に 着 き、かずかずの 書 き 物 が 開<br />

かれた」と 言 っている。ヨハネも、この 同 じ 光 景 を 描 写 して、「かずかずの 書 物 が 開<br />

かれたが、もう 1 つの 書 物 が 開 かれた。これはいのちの 書 であった。 死 人 はそのしわ<br />

ざに 応 じ、この 書 物 に 書 かれていることにしたがって、さばかれた」と 言 っている[ 黙<br />

示 録 20:。 命 の 書 には、 神 の 働 きをしたすべての 人 の 名 が 記 されている。イエスは、<br />

弟 子 たちに「あなたがたの 名 が 天 にしるされていることを 喜 びなさい」と 言 われた[ル<br />

カ 10:。パウロは、 忠 実 な 同 労 者 の 名 が「『いのちの 書 』に…… 書 きとめられている」<br />

と 言 っている[ピリピ 4:。ダニエルは、「かつてなかったほどの 悩 みの 時 」を 予 見 し<br />

て、「あの 書 に 名 をしるされた」すべての 神 の 民 は 救 われると 言 っている。<br />

また、ヨハネは、 神 の 都 に「はいれる 者 は、 小 羊 のいのちの 書 に 名 をしるされてい<br />

る 者 だけである」と 言 っている[ダニエル 12:1、 黙 示 録 21:。 神 の 前 に、「 覚 え<br />

の 書 」が 記 されているが、それには、「 主 を 恐 れる 者 、およびその 名 を 心 に 留 めてい<br />

る 者 」の 善 行 が 記 録 されている[マラキ 3:。 彼 らの 信 仰 の 言 葉 、 彼 らの 愛 の 行 為 は、<br />

天 に 記 録 されている。ネヘミヤは、このことについて、 次 のように 言 っている。「わ<br />

が 神 よ、……わたしを 覚 えてください。…… 神 の 宮 ……のためにわたしが 行 った 良 き<br />

わざをぬぐい 去 らないでください」[ネヘミヤ 13:。 神 の 覚 えの 書 には、すべての 正<br />

しい 行 為 が 永 久 に 記 されている。 誘 惑 を 退 けたこと、 悪 に 打 ち 勝 ったこと、 憐 れみの<br />

言 葉 をかけたことなどが、 忠 実 に 記 録 されている。また、すべての 犠 牲 の 行 為 、キリ<br />

ストのために 耐 えたすべての 苦 しみや 悲 しみが 記 録 されている。「あなたはわたしの<br />

さすらいを 数 えられました。わたしの 涙 をあなたの 皮 袋 にたくわえてください。これ<br />

は 皆 あなたの 書 にしるされているではありませんか」と 詩 篇 記 者 は 言 っている[ 詩 篇<br />

56:。<br />

また、 人 々の 罪 の 記 録 もある。「 神 はすべてのわざ、ならびにすべての 隠 れた 事 を<br />

善 悪 ともにさばかれるからである」[ 伝 道 の 書 12:。 救 い 主 は 次 のように 言 われた。<br />

「 審 判 の 日 には、 人 はその 語 る 無 益 な 言 葉 に 対 して、 言 い 開 きをしなければならない<br />

であろう。あなたは、 自 分 の 言 葉 によって 正 しいとされ、また 自 分 の 言 葉 によって 罪<br />

ありとされるからである」[マタイ 12:36、。 隠 れた 目 的 や 動 機 もまちがいなく 記 録<br />

される。「 主 は 暗 い 中 に 隠 れていることを 明 るみに 出 し、 心 の 中 で 企 てられているこ<br />

とを、あらわにされるであろう」[Ⅰコリント 4:。「 見 よ、この 事 はわが 前 にしるさ<br />

355


国 際 協 定<br />

れた、……『 彼 らの 不 義 と、 彼 らの 先 祖 たちの 不 義 とを 共 に 報 い 返 す』と 主 は 言 われ<br />

る」[イザヤ 65:6、。<br />

すべての 人 の 行 為 は、 神 の 前 で 調 査 され、 忠 実 であったか 不 忠 実 であったかが 記 録<br />

されている。 天 の 書 物 の 中 の 各 自 の 名 の 向 かい 側 には、 恐 るべき 正 確 さで、すべての<br />

悪 い 言 葉 、 利 己 的 な 行 為 、 義 務 の 怠 慢 、 隠 れた 罪 、 巧 妙 な 偽 善 行 為 などが 記 入 されて<br />

いる。 天 からの 警 告 や 譴 責 をなおざりにしたこと、 時 間 を 浪 費 し、 機 会 を 活 用 しなか<br />

ったこと、 善 きにつけ 悪 しきにつけ、 及 ぼした 感 化 とその 広 範 囲 にわたる 結 果 などが<br />

みな、 記 録 天 使 によって 記 録 されている。 神 の 律 法 が、 審 判 の 時 に 人 々の 品 性 と 生 活<br />

を 吟 味 する 基 準 である。 賢 者 は「 神 を 恐 れ、その 命 令 を 守 れ。これはすべての 人 の 本<br />

分 である。 神 はすべてのわざ、ならびにすべての 隠 れた 事 を 善 悪 ともにさばかれるか<br />

らである」と 言 っている[ 伝 道 の 書 12:13、。 使 徒 ヤコブは、 兄 弟 たちに、「だから、<br />

自 由 の 律 法 によってさばかるべき 者 らしく 語 り、かつ 行 いなさい」と 勧 告 している[ヤ<br />

コブ 2:。<br />

審 判 において、「あずかるにふさわしい」とされた 者 は、 義 人 の 復 活 にあずかる。<br />

「かの 世 にはいって 死 人 からの 復 活 にあずかるにふさわしい 者 たちは、…… 天 使 に 等<br />

しいものであり、また 復 活 にあずかるゆえに、 神 の 子 でもあるので、もう 死 ぬことは<br />

あり 得 ない」とイエスは 言 われた[ルカ 20:35、。 彼 は、また、「 善 をおこなった 人<br />

々は、 生 命 を 受 けるためによみがえ」って 出 てくると 宣 言 しておられる[ヨハネ 5:。<br />

つまり、 死 んだ 義 人 は、 審 判 がすみ「 生 命 を 受 けるためによみがえ」るにふさわしい<br />

者 とされるまでは、 復 活 することはない。したがって、 彼 らの 記 録 が 調 査 され、 運 命<br />

が 決 定 される 時 に、 彼 ら 自 身 はその 法 廷 にはいないのである。<br />

イエスは 彼 らの 助 け 主 として、 神 の 前 で、 彼 らのためにとりなしをなさる。「もし、<br />

罪 を 犯 す 者 があれば、 父 のみもとには、わたしたちのために 助 け 主 、すなわち、 義 な<br />

るイエス・キリストがおられる」[Ⅰヨハネ 2:。 「ところが、キリストは、ほんと<br />

うのものの 模 型 にすぎない、 手 で 造 った 聖 所 にはいらないで、 上 なる 天 にはいり、 今<br />

やわたしたちのために 神 のみまえに 出 て 下 さったのである。」「そこでまた、 彼 は、<br />

いつも 生 きていて 彼 らのためにとりなしておられるので、 彼 によって 神 に 来 る 人 々を、<br />

いつも 救 うことができるのである」[ヘブル 9:24、7:。<br />

審 判 において、 記 録 の 書 が 開 かれる 時 に、イエスを 信 じたすべての 人 の 生 涯 が 神 の<br />

前 で 調 べられる。われわれの 助 け 主 であられるイエスは、この 地 上 に 最 初 に 生 存 した<br />

人 々から 始 めて、 各 時 代 の 人 々のためにとりなし、 現 在 生 きている 人 々で 終 わられる。<br />

すべての 名 があげられ、すべての 人 の 事 情 が 詳 しく 調 査 される。 受 け 入 れられる 名 も<br />

356


国 際 協 定<br />

あれば、 拒 まれる 名 もある。もしだれかが、 罪 を 悔 い 改 めず、 赦 されないまま、 記 録<br />

の 書 に 残 しておくならば、 彼 らの 名 は、いのちの 書 から 消 されて、 彼 らの 善 行 の 記 録<br />

も 神 の 覚 えの 書 から 消 される。「すべてわたしに 罪 を 犯 した 者 は、これをわたしのふ<br />

みから 消 し 去 るであろう」と 主 はモーセに 言 われた[ 出 エジプト 32:。また 預 言 者 エ<br />

ゼキエルも 言 っている。「しかし 義 人 がもしその 義 をはなれて 悪 を 行 い、 悪 人 のなす<br />

もろもろの 憎 むべき 事 を 行 うならば、 生 きるであろうか。 彼 が 行 ったもろもろの 正 し<br />

い 事 は 覚 えられない」[エゼキエル 18:。<br />

真 に 罪 を 悔 い 改 め、キリストの 血 が 自 分 たちの 贖 いの 犠 牲 であることを 信 じたもの<br />

は、みな、 天 の 書 物 の 彼 らの 名 のところに、 罪 の 赦 しが 書 き 込 まれる。 彼 らは、キリ<br />

ストの 義 にあずかる 者 となり、 彼 らの 品 性 は、 神 の 律 法 にかなったものとなったので、<br />

彼 らの 罪 は、ぬぐい 去 られ、 彼 ら 自 身 は、 永 遠 の 生 命 にあずかるにふさわしいものと<br />

されるのである。 主 は、 預 言 者 イザヤによって、こう 宣 言 しておられる。「わたしこ<br />

そ、わたし 自 身 のためにあなたのとがを 消 す 者 である。わたしは、あなたの 罪 を 心 に<br />

とめない」[イザヤ 43:。イエスは、 次 のように 言 われた。<br />

「 勝 利 を 得 る 者 は、このように 白 い 衣 を 着 せられるのである。わたしは、その 名 を<br />

いのちの 書 から 消 すようなことを、 決 してしない。また、わたしの 父 と 御 使 たちの 前<br />

で、その 名 を 言 いあらわそう。」「だから 人 の 前 でわたしを 受 けいれる 者 を、わたし<br />

もまた、 天 にいますわたしの 父 の 前 で 受 けいれるであろう。しかし、 人 の 前 でわたし<br />

を 拒 む 者 を、わたしも 天 にいますわたしの 父 の 前 で 拒 むであろう」[ 黙 示 録 3:5、マ<br />

タイ 10:32、。 人 々は、 地 上 の 法 廷 の 判 決 に 深 い 関 心 を 示 すのであるが、しかしそ<br />

れも、いのちの 書 にその 名 を 記 された 人 々が、 全 地 の 審 判 者 の 前 で 調 査 される 時 の 天<br />

の 法 廷 における 関 心 とは、とうてい 比 較 にならない。 仲 保 者 イエスは、 彼 の 血 を 信 じ<br />

る 信 仰 によって 勝 利 したものがみな、その 罪 を 赦 され、 再 びエデンの 家 郷 にもどって<br />

「 以 前 の 主 権 」を 彼 とともに 継 ぐ 者 となるように、 嘆 願 されるのである[ミカ 4:。サ<br />

タンは、 人 類 をあざむき、 誘 惑 することによって、 人 類 創 造 における 神 のご 計 画 を 挫<br />

折 させようと 考 えた。しかし、キリストは 今 、 人 間 が 堕 落 しなかったかのように、こ<br />

の 計 画 の 実 行 を 求 められるのである。キリストは、ご 自 分 の 民 のために、 完 全 で 十 分<br />

な 赦 しと 義 認 だけでなくて、 彼 らが、ご 自 分 の 栄 光 にあずかり、ともにみ 座 につくこ<br />

とを 求 められるのである。<br />

イエスが、 彼 の 恵 みに 浴 する 人 々のために 嘆 願 される 一 方 において、サタンは、 彼<br />

らを 罪 人 として 神 の 前 に 告 訴 する。 大 欺 瞞 者 サタンは、 彼 らに 疑 惑 を 抱 かせ、 神 に 対<br />

する 信 頼 を 失 わせ、 神 の 愛 から 彼 らを 引 き 離 し、 神 の 律 法 を 犯 させようとしてきた。<br />

そして 今 度 は、サタンは、 彼 らの 生 涯 の 記 録 を 指 摘 し、 品 性 の 欠 陥 、 贖 い 主 のみ 栄 え<br />

357


国 際 協 定<br />

を 汚 したところの、キリストに 似 ていない 点 、そして、 彼 が 誘 惑 して 彼 らに 犯 させた<br />

すべての 罪 を 指 摘 して、これらのことのゆえに 彼 らは 自 分 の 臣 下 であると 主 張 するの<br />

である。イエスは、 彼 らの 罪 の 弁 解 はなさらないが、 彼 らの 悔 い 改 めと 信 仰 を 示 して、<br />

彼 らの 赦 しを 主 張 なさり、 天 父 と 天 使 たちの 前 で、ご 自 分 の 傷 ついた 両 手 をあげ、わ<br />

たしは 彼 らの 名 を 知 っている、わたしは 彼 らを、わたしのたなごころに 彫 り 刻 んだ、<br />

と 言 われるのである。<br />

「 神 の 受 けられるいけにえは 砕 けた 魂 です。 神 よ、あなたは 砕 けた 悔 いた 心 をかろ<br />

しめられません」[ 詩 篇 51:。そして、ご 自 分 の 民 を 訴 える 者 にむかって、「サタン<br />

よ 主 はあなたを 責 めるのだ。すなわちエルサレムを 選 んだ 主 はあなたを 責 めるのだ。<br />

これは 火 の 中 から 取 り 出 した 燃 えさしではないか」と 宣 言 される[ゼカリヤ 3:。キリ<br />

ストは、 忠 実 な 人 々に、 ご 自 分 の 義 の 衣 を 着 せて、 父 なる 神 の 前 に「しみも、しわも、<br />

そのたぐいのものがいっさいなく、 清 くて 傷 のない 栄 光 の 姿 の 教 会 」として 立 たせて<br />

くださる[エペソ 5:。 彼 らの 名 は、いのちの 書 に 書 きとめられる。そして 彼 らについ<br />

て、「 彼 らは 白 い 衣 を 着 て、わたしと 共 に 歩 みを 続 けるであろう。 彼 らは、それにふ<br />

さわしい 者 である」と 記 されているのである[ 黙 示 録 3:。<br />

こうして、 新 しい 契 約 が 完 全 に 成 就 する。「わたしは 彼 らの 不 義 をゆるし、もはや<br />

その 罪 を 思 わない。」「 主 は 言 われる、その 日 その 時 には、イスラエルのとがを 探 し<br />

ても 見 当 らず、ユダの 罪 を 探 してもない」[エレミヤ 31:34、50:。「その 日 、 主 の<br />

枝 は 麗 しく 栄 え、 地 の 産 物 はイスラエルの 生 き 残 った 者 の 誇 、また 光 栄 となる。そし<br />

て……シオンに 残 るもの、エルサレムにとどまる 者 、すべてエルサレムにあって、 生<br />

命 の 書 にしるされた 者 は 聖 なる 者 ととなえられる」[イザヤ 4:2、。<br />

調 査 審 判 と 罪 をぬぐい 去 る 働 きは、 主 の 再 臨 の 前 に 完 了 しなければならない。 死 者<br />

は、 書 物 に 記 録 されたことによって 裁 かれるのであるから、 彼 らが 調 査 されるその 審<br />

判 が 終 わるまでは、 彼 らの 罪 はぬぐい 去 られることはできない。しかし、 使 徒 ペテロ<br />

は、はっきりと、 信 者 の 罪 は、「 主 のみ 前 から 慰 め〔 原 文 では refreshing[ 活 気 づけ、<br />

回 復 の 意 ]〕の 時 が」くる 時 にぬぐい 去 られる。そして、「キリストなるイエスを、 神<br />

がつかわして 下 さる」と 言 っている[ 使 徒 行 伝 3:19 参 照 、。 調 査 審 判 が 終 わると、<br />

キリストは 来 られる。そして、たずさえて 来 た 報 いを、それぞれの 人 の 行 いにしたが<br />

ってお 与 えになるのである。<br />

型 としての 奉 仕 において、 大 祭 司 は、イスラエルのために 贖 罪 をなし 終 えると、 外<br />

に 出 て 来 て、 会 衆 を 祝 福 した。そのように、キリストも、 仲 保 者 としての 働 きを 終 え<br />

られると、「 罪 を 負 うためではなしに…… 救 いを 与 える」ために 来 られて、 彼 を 待 っ<br />

358


国 際 協 定<br />

ている 人 々に 永 遠 の 生 命 をお 与 えになる[ヘブル 9:。 祭 司 が 聖 所 から 罪 を 除 去 した 時<br />

に、アザゼルの 山 羊 の 上 にそれを 告 白 したように、キリストは、 罪 の 創 始 者 であり 煽<br />

動 者 であるサタンの 上 に、これらの 罪 をすべて 置 かれるのである。アザゼルの 山 羊 は、<br />

イスラエルの 罪 を 負 って、「 人 里 離 れた 地 」に 送 られた[レビ 16:。そのように、サ<br />

タンは、 自 分 が 神 の 民 に 犯 させたすべての 罪 を 背 負 って、1000 年 の 間 、この 地 上 に<br />

監 禁 される。 地 上 はその 時 、 荒 れ 果 てて 住 む 者 もいない。そして 彼 は、ついに、すべ<br />

ての 悪 人 を 滅 ぼす 火 の 中 で、 罪 の 刑 罰 を 余 さず 受 ける。こうして、 罪 は 最 終 的 に 除 去<br />

され、 進 んで 悪 を 捨 て 去 った 人 々がすべて 救 われて、 贖 いの 大 計 画 は 完 成 するのであ<br />

る。<br />

審 判 が 指 定 されていた 時 、すなわち、2300 日 の 終 わる 1844 年 に、 調 査 と 罪 の 除<br />

去 の 働 きが 始 まった。これまでにキリストの 名 をとなえたことのある 者 はすべて、こ<br />

の 厳 密 な 審 査 を 受 けなければならない。 生 きている 者 も 死 んだ 者 もともに「そのしわ<br />

ざに 応 じ、この 書 物 に 書 かれていることにしたがって」 裁 かれる。<br />

悔 い 改 めず 棄 て 去 っていない 罪 は、 赦 されず、 記 録 の 書 からぬぐい 去 られない。そ<br />

れは、 神 の 大 いなる 日 に、 罪 人 に 不 利 な 証 言 をする。その 悪 行 は、 昼 の 明 るみで 行 わ<br />

れたものかもしれないし、あるいは 夜 の 暗 やみの 中 で 行 われたものかもしれない。し<br />

かし、いずれにしてもそれらは、われわれが 申 し 開 きをしなければならない 神 の 前 に<br />

は、そのままはっきりとあらわれていた。 神 の 天 使 たちが、1 つ 1 つの 罪 を 目 撃 し、<br />

それを 誤 りなく 記 録 した。 罪 は、 父 母 や 妻 子 、そして 同 僚 たちからは、 隠 し、 否 定 し、<br />

秘 密 にしておくことができるかもしれない。 罪 を 犯 した 者 たち 以 外 は、だれもその 罪<br />

悪 を 疑 ったりなどしないかもしれない。しかし、 天 の 知 的 存 在 者 たちの 前 には、それ<br />

はあらわにされている。<br />

どんなに 暗 い 夜 の 暗 黒 も、 極 秘 の 欺 瞞 的 手 段 も、 永 遠 の 神 から 1 つの 思 いすら 隠 す<br />

ものとはならないのである。 神 は、すべての 不 正 な 計 算 、 不 正 な 取 引 を、 正 確 に 記 録<br />

しておられる。 神 は、 信 心 深 い 様 子 に 欺 かれることはない。 神 は 品 性 の 評 価 において、<br />

決 して 誤 られることはない。 人 間 は、 心 の 汚 れた 人 々に 欺 かれるかもしれないが、 神<br />

は、すべての 見 せかけを 見 破 り、 内 的 生 活 を 読 みとられる。<br />

これは、なんと 厳 粛 な 思 想 であろう。 毎 日 毎 日 が 永 遠 の 中 に 過 ぎ 去 り、その 日 のこ<br />

とが 天 の 書 に 記 録 される。1 度 口 に 出 した 言 葉 、1 度 行 った 行 為 は、2 度 と 取 り 返 す<br />

ことができない。 天 使 は、 善 悪 ともに 記 録 しているのである。この 世 のどんなに 偉 大<br />

な 征 服 者 でも、ただ 1 日 の 記 録 さえ 取 り 消 すことはできない。われわれの 行 動 、 言 葉 、<br />

そして 極 秘 の 動 機 でさえも、みな、われわれの 運 命 を 禍 福 いずれかに 決 定 する 重 要 な<br />

359


国 際 協 定<br />

役 割 を 持 っている。たとえわれわれが 忘 れていても、それらは、 義 とするかそれとも<br />

罪 に 定 めるかの、 証 言 を 立 てるのである。<br />

芸 術 家 のよく 磨 かれた 金 属 板 に、 人 間 の 顔 かたちが 正 確 に 反 映 されるように、 人 の<br />

品 性 も 天 の 書 物 に、そのまま 描 写 されている。にもかかわらず 人 々は、 天 の 存 在 者 た<br />

ちに 見 られねばならないその 記 録 について、 憂 慮 することのなんと 少 ないことであろ<br />

う。もし、 見 える 世 界 と 見 えない 世 界 とをへだてている 幕 が 取 り 除 かれて、 人 々が、<br />

審 判 において 再 び 直 面 しなければならないすべての 言 行 を、 天 使 たちが 記 録 している<br />

のを 見 ることができるならば、 日 ごとに 語 られるどれだけ 多 くの 言 葉 が、 語 られずに<br />

すみ、どれだけ 多 くの 行 為 が、なされずにすむことであろう。<br />

審 判 の 時 には、すべての 才 能 の 用 途 がくわしく 調 べられる。われわれは、 天 から 貸<br />

し 与 えられた 資 本 をどのように 用 いたであろうか。 主 は、 来 られる 時 に、ご 自 分 のも<br />

のを 利 子 とともにお 受 けになるであろうか。 われわれは、 肉 体 的 、 精 神 的 、 知 的 に 託<br />

された 力 を 活 用 して、 神 に 栄 光 を 帰 し、 世 界 に 祝 福 をもたらしたであろうか。われわ<br />

れは、 時 間 、 筆 、 声 、 金 銭 、 影 響 力 などを、どのように 用 いたであろうか。 貧 しい 人 、<br />

苦 しんでいる 人 、 孤 児 や 寡 婦 を 助 けて、キリストのために 何 をしてきたであろうか。<br />

神 はわれわれを、 神 のみ 言 葉 の 保 管 者 となさった。そしてわれわれは、 救 いに 至 る 知<br />

識 を 人 々に 伝 えるために、われわれに 与 えられた 光 と 真 理 を、どのようにしてきたで<br />

あろうか。キリストを 信 じるとただ 表 明 するだけではなんの 価 値 もない。 行 為 にあら<br />

わされた 愛 だけが、 本 物 とみなされる。 神 の 目 の 前 で、 行 為 を 価 値 あるものにするの<br />

は、 愛 だけである。 愛 によって 行 われたことは、 人 間 がどんなに 低 く 評 価 しようとも、<br />

神 に 受 け 入 れられ、 報 われるのである。 人 々の 隠 れた 利 己 心 が、 天 の 書 の 中 であらわ<br />

にされている。 同 胞 に 対 して 義 務 を 怠 ったことが 記 録 され、 救 い 主 の 要 求 を 忘 れたこ<br />

とが 記 録 されている。キリストに 属 する 時 間 、 思 想 、 能 力 を、なんとたびたびサタン<br />

に 与 えたかを、 彼 らはそこに 見 るのである。 天 使 が 天 にたずさえて 行 く 記 録 は、 実 に<br />

悲 しいものである。キリストの 弟 子 であると 称 する 英 知 ある 人 間 が、 世 的 財 産 の 蓄 積<br />

や、 地 上 の 快 楽 の 追 求 に 没 頭 している。 金 銭 、 時 間 、 能 力 は、 虚 飾 と 放 縦 の 犠 牲 にな<br />

っている。しかし、 祈 りや 聖 書 研 究 にあてられる 時 間 、 魂 のへりくだりと 罪 の 告 白 に<br />

あてられる 時 間 は、ほとんどないのである。<br />

サタンは、 数 えきれないほど 多 くの 策 略 を 考 え 出 してわれわれの 心 を 捕 らえ、われ<br />

われが 最 もよく 知 っていなければならない 働 きそのものについて、われわれに 考 えさ<br />

せまいとしている。 大 欺 瞞 者 サタンは、 贖 罪 の 犠 牲 と 全 能 の 仲 保 者 を 明 らかにする 大<br />

真 理 を 憎 んでいる。イエスと 彼 の 真 理 から 人 々の 心 をそらすことに、 万 事 がかかって<br />

いることを、 彼 は 知 っているのである。<br />

360


国 際 協 定<br />

救 い 主 の 仲 保 の 恵 みにあずかりたいと 思 うものは、 神 を 畏 れつつ 聖 潔 を 完 成 してい<br />

くというその 義 務 を、 何 ものにも 妨 げられてはならない。 貴 重 な 時 間 は、 快 楽 や 虚 飾 、<br />

または 利 益 の 追 求 に 費 やすのではなくて、 真 理 の 言 葉 を 熱 心 に、 祈 りとともに 研 究 す<br />

るために 用 いなければならない。 聖 所 と 調 査 審 判 の 問 題 は、 神 の 民 によってはっきり<br />

と 理 解 されねばならない。すべての 者 は、 自 分 たちの 大 いなる 大 祭 司 キリストの 立 場<br />

と 働 きについて、 自 分 で 知 っている 必 要 がある。そうしなければ、この 時 代 にあって<br />

必 要 な 信 仰 を 働 かせることも、 神 が 彼 らのために 計 画 しておられる 立 場 を 占 めること<br />

もできなくなる。 一 人 一 人 の 魂 は、 救 われるか、 滅 びるか、そのどちらかなのである。<br />

各 自 は、 今 、 神 に 裁 かれようとしている。 各 自 は 大 いなる 審 判 者 と 顔 を 合 わせなけれ<br />

ばならない。とするならば、 審 判 が 始 まり、かずかずの 書 物 が 開 かれる 厳 粛 な 時 のこ<br />

とを、ダニエルとともに、 定 められた 日 の 終 わりに 立 って、 自 分 たちの 分 を 受 けねば<br />

ならない 厳 粛 な 時 のことを、たびたび 瞑 想 することは、すべての 者 にとってどんなに<br />

か 重 要 なことであろう。<br />

こうした 問 題 について 光 を 受 けた 者 はみな、 神 が 彼 らにゆだねられた 大 いなる 真 理<br />

について 証 言 しなければならない。 天 の 聖 所 は、 人 類 のためのキリストのお 働 きの 中<br />

心 そのものである。それは、 地 上 に 生 存 するすべての 者 に 関 係 している。それは、 贖<br />

罪 の 計 画 を 明 らかにし、われわれをまさに 時 の 終 わりへと 至 らせて、 義 と 罪 との 戦 い<br />

の 最 後 の 勝 利 を 示 してくれる。すべての 者 が、これらの 問 題 を 徹 底 的 に 研 究 し、 彼 ら<br />

のうちにある 望 みについて 説 明 を 求 める 人 に 答 えることができるようにすることは、<br />

何 よりも 重 要 なことである。<br />

天 の 聖 所 における、 人 類 のためのキリストのとりなしは、キリストの 十 字 架 上 の 死<br />

と 同 様 に、 救 いの 計 画 にとって 欠 くことのできないものである。キリストは、ご 自 分<br />

の 死 によって 開 始 された 働 きを、 復 活 後 、 天 において 完 成 するために 昇 天 されたので<br />

ある。われわれは、 信 仰 によって、「わたしたちのためにさきがけとなって、はいら<br />

れた」 幕 の 内 に 入 らなければならない[ヘブル 6:。 そこには、カルバリーの 十 字 架<br />

からの 光 が 反 映 している。そこにおいて、われわれは、 贖 罪 の 奥 義 について、もっと<br />

はっきりした 理 解 を 持 つことができる。 人 間 の 救 済 は、 天 が 無 限 の 価 を 払 うことによ<br />

って 達 成 された。 払 われた 犠 牲 は、 破 られた 神 の 律 法 の 最 大 限 の 要 求 に 相 当 するもの<br />

である。イエスは、 父 なる 神 のみ 座 への 道 を 開 かれた。そして、 信 仰 によって 彼 に 来<br />

るすべての 者 の 心 からの 願 いは、 彼 のとりなしによって、 神 の 前 にささげられるので<br />

ある。<br />

「その 罪 を 隠 す 者 は 栄 えることがない、 言 い 表 してこれを 離 れる 者 は、あわれみを<br />

うける」[ 箴 言 28:。 自 分 たちの 過 ちを 隠 し、 言 いわけをする 人 々が、もし、サタン<br />

361


国 際 協 定<br />

が 彼 らのことでどんなに 喜 び、そうした 彼 らの 行 為 のゆえにキリストと 聖 天 使 たちを<br />

どんなに 嘲 笑 するかを 見 ることができるならば、 彼 らは、 急 いでその 罪 を 告 白 し、 捨<br />

て 去 ることであろう。 品 性 の 欠 陥 を 通 して、サタンはその 人 の 心 全 体 を 支 配 しようと<br />

働 きかける。 彼 は、 人 がこれらの 欠 陥 に 固 執 するならば、 自 分 が 成 功 を 収 めることを<br />

知 っている。それだから 彼 は、 欠 陥 に 打 ち 勝 つことは 不 可 能 であるという 致 命 的 な 詭<br />

弁 をもって、キリストに 従 う 人 々を 欺 こうと、いつもけんめいになっている。しかし<br />

イエスは、 彼 の 傷 ついた 手 と 砕 かれた 体 をもって、 彼 らのために 嘆 願 される。そして、<br />

彼 に 従 ってくるすべての 者 に「わたしの 恵 みはあなたに 対 して 十 分 である」と 宣 言 さ<br />

れるのである[Ⅱコリント 12:。「わたしは 柔 和 で 心 のへりくだった 者 であるから、<br />

わたしのくびきを 負 うて、わたしに 学 びなさい。そうすれば、あなたがたの 魂 に 休 み<br />

が 与 えられるであろう。わたしのくびきは 負 いやすく、わたしの 荷 は 軽 いからである」<br />

[マタイ 11:29、。それだから、だれでも、 自 分 たちの 欠 陥 は 不 治 のものであると 思<br />

ってはならない。 神 は、それらに 打 ち 勝 つ 信 仰 と 恵 みをお 与 えになるのである。<br />

われわれは、 今 、 大 いなる 贖 罪 の 日 に 生 存 している。 型 としての 儀 式 においては、<br />

大 祭 司 がイスラエルのために 贖 罪 をなしている 間 、すべての 者 は、 主 の 前 に 罪 を 悔 い<br />

改 め、 心 を 低 くすることによって、 身 を 悩 まさなければならなかった。もしそうしな<br />

ければ、 彼 らは、 民 の 中 から 絶 たれるのであった。それと 同 様 に、 自 分 たちの 名 がい<br />

のちの 書 にとどめられることを 願 うものはみな、 今 、 残 り 少 ない 恩 恵 期 間 のうちに、<br />

罪 を 悲 しみ、 真 に 悔 い 改 めて、 神 の 前 に 身 を 悩 まさなければならない。われわれは、<br />

心 を 深 く 忠 実 に 探 らなければならない。 多 くの 自 称 キリスト 者 がいだいている 軽 薄 な<br />

精 神 は、 捨 て 去 らねばならない。われわれを 打 ち 負 かそうとする 悪 癖 に 勝 利 しようと<br />

する 者 は、みな、はげしく 戦 わなければならない。 準 備 は、 一 人 一 人 がしなければな<br />

らない。われわれは、 団 体 として 救 われるのではない。1 人 の 者 の 純 潔 と 献 身 は、こ<br />

れらの 資 格 を 欠 く 他 の 人 の 埋 め 合 わせにはならない。すべての 国 民 が 神 の 前 で 審 判 を<br />

受 けるのであるが、しかし 神 は、あたかもこの 地 上 にその 人 1 人 しかいないかのよう<br />

に、 厳 密 に 一 人 一 人 を 審 査 されるのである。すべての 者 が 調 べられねばならない。そ<br />

して、しみもしわもそのたぐいのものがいっさいあってはならないのである。<br />

贖 罪 の 働 きが 終 結 しようとする 時 の 光 景 は、 実 に 厳 粛 である。そこには、 実 に 重 大<br />

な 意 義 が 含 まれている。 審 判 は 今 、 天 の 聖 所 において 進 行 中 である。 長 年 にわたって、<br />

この 働 きは 続 けられてきた。 間 もなく——その 時 がいつかはだれも 知 らないが—— 生<br />

きている 人 々の 番 になる。 神 のおそるべき 御 前 で、われわれの 生 涯 が 調 査 されねばな<br />

らない。 今 は、 他 のどんな 時 にもまさって、すべての 者 が 救 い 主 の 勧 告 に 心 をとめる<br />

べき 時 である。「 気 をつけて、 目 をさましていなさい。その 時 がいっであるか、あな<br />

362


国 際 協 定<br />

たがたにはわからないからである」[マルコ 13:。「もし 目 をさましていないなら、<br />

わたしは 盗 人 のように 来 るであろう。どんな 時 にあなたのところに 来 るか、あなたに<br />

は 決 してわからない」[ 黙 示 録 3:。<br />

調 査 審 判 の 働 きが 終 わる 時 、すべての 人 の 運 命 は、 生 か 死 かに 決 定 されてしまって<br />

いる。 恩 恵 期 間 は、 主 が 天 の 雲 に 乗 って 来 られる 少 し 前 に 終 了 する。キリストは、そ<br />

の 時 を 予 見 して、 黙 示 録 の 中 で 次 のように 宣 言 しておられる。「 不 義 な 者 はさらに 不<br />

義 を 行 い、 汚 れた 者 はさらに 汚 れたことを 行 い、 義 なる 者 はさらに 義 を 行 い、 聖 なる<br />

者 はさらに 聖 なることを 行 うままにさせよ。 見 よ、わたしはすぐに 来 る。 報 いを 携 え<br />

てきて、それぞれのしわざに 応 じて 報 いよう」[ 黙 示 録 22:11、。 その 時 が 来 ても、<br />

義 人 と 悪 人 は、その 死 ぬべき 肉 体 のままで、 地 上 で 生 活 をしている。 天 の 聖 所 では、<br />

最 終 的 で 取 り 消 すことのできない 決 定 が 宣 告 されたことも 知 らずに、 人 々は、 植 えた<br />

り、 建 てたり、 飲 んだり、 食 べたりしている。 洪 水 の 前 に、ノアが 箱 舟 に 入 ったあと<br />

で、 神 は 彼 を 舟 の 中 に 閉 じ 込 め、 神 を 恐 れない 人 々を 外 に 閉 め 出 されたのである。し<br />

かし、 人 々は、7 日 の 間 、 彼 らの 運 命 が 決 定 されたことも 知 らずに、 不 注 意 な 放 縦 の<br />

生 活 を 続 け、 差 し 迫 った 審 判 の 警 告 をあざけったのであった。「 人 の 子 の 現 れるのも、<br />

そのようであろう」と 救 い 主 は 言 われる[マタイ 24:。 真 夜 中 の 盗 人 のように 静 かに、<br />

人 に 気 づかれずに、すべての 人 の 運 命 が 定 まる 決 定 的 な 時 、 罪 人 に 対 する 恵 みの 招 き<br />

が 最 終 的 に 取 り 去 られる 時 がやって 来 る。<br />

「だから、 目 をさましていなさい。……あるいは 急 に 帰 ってきて、あなたがたの 眠<br />

っているところを 見 つけるかもしれない」[マルコ 13:35、。 目 をさまして 待 っこと<br />

にうみ 疲 れ、 世 俗 の 魅 力 に 心 を 向 ける 人 々の 状 態 は、 実 に 危 険 である。 実 業 家 が 利 益<br />

の 追 求 に 心 を 奪 われ、 快 楽 の 愛 好 家 が 楽 しみにふけり、 流 行 を 追 う 女 性 が 身 を 飾 って<br />

いるそのときに、 全 地 の 審 判 者 が、「あなたがはかりで 量 られて、その 量 の 足 りない<br />

ことがあらわれた」という 宣 言 をなさるかもしれないのである[ダニエル 5:。<br />

363


国 際 協 定<br />

第 29 章 罪 悪 の 起 源<br />

どうして 罪 というものが 起 こったのか、なぜ 罪 があるのかということは、 多 くの 人<br />

々の 心 を 苦 しめる 問 題 である。 人 々は、 悪 の 働 き、その 恐 るべき 結 果 である 不 幸 と 悲<br />

しみを 見 て、いったいなぜ 限 りない 知 恵 と 力 と 愛 であられる 神 の 主 権 の 下 にこうした<br />

すべてのことが 存 在 するのかと 疑 問 をいだく。 人 間 の 説 明 できない 神 秘 がここにある。<br />

人 々は、 半 信 半 疑 でいるために、 神 のみ 言 葉 の 中 にはっきりあらわされていて 救 いに<br />

不 可 欠 な 真 理 を、 悟 ることができないのである。な ぜ 罪 というものがあるのかという<br />

ことを 調 べるために、 神 が 啓 示 されたことのない 点 まで 追 求 する 人 たちがいる。その<br />

ため 彼 らは、この 困 難 な 問 題 を 解 決 することができない。 疑 ったり、あらさがしをし<br />

たりするような 気 持 ちに 動 かされる 人 は、これを 口 実 にして 聖 書 のみ 言 葉 を 拒 否 して<br />

しまう。 中 にはまた、 言 い 伝 えや 誤 った 解 釈 のために、 神 のご 品 性 、 神 の 統 治 の 性 質 、<br />

罪 に 対 する 神 の 取 り 扱 いの 原 則 などについての 聖 書 の 教 えに 暗 くなり、 悪 という 大 問<br />

題 について 満 足 な 理 解 を 得 ることができない 者 もある。<br />

罪 の 存 在 を 理 由 づけようとして 罪 の 起 源 を 説 明 することは、 不 可 能 である。しかし、<br />

罪 の 起 源 についてもその 処 分 についても、 悪 に 対 する 神 のすべての 取 り 扱 いの 中 に、<br />

神 の 公 義 と 憐 れみが 完 全 にあらわされているということに 関 しては、 十 分 に 理 解 でき<br />

るのである。 聖 書 の 中 に 何 よりもはっきり 教 えられていることは、 罪 が 入 ってきたこ<br />

とに 対 して 神 にはなんの 責 任 もないということ、すなわち 神 の 恵 みが 独 断 的 にとり 去<br />

られたり、 神 の 統 治 に 欠 陥 があったりしてそれが 反 逆 の 発 生 のきっかけになったので<br />

はないということである。 罪 は 侵 入 者 であって、その 存 在 については 理 由 をあげるこ<br />

とができない。それは 神 秘 的 であり、 不 可 解 であって、その 言 いわけをすることは、<br />

それを 弁 護 することになる。 もし 罪 の 言 いわけがあったり、その 存 在 の 原 因 を 示 すこ<br />

とができたら、それはもはや 罪 ではなくなる。 罪 についての 唯 一 の 定 義 は、 神 のみ 言<br />

葉 のうちに 与 えられている 定 義 である。それは「 罪 は 不 法 である」ということである。<br />

すなわち 罪 は、 神 の 統 治 の 基 礎 である 愛 という 大 法 則 と 戦 っている 原 則 が、 外 にあら<br />

われた 結 果 である。<br />

悪 が 入 る 前 には、 全 宇 宙 には 平 和 と 喜 びがあった。すべては 創 造 主 のみこころと 完<br />

全 に 調 和 していた。 神 に 対 する 愛 が 最 高 の 位 置 を 占 め、お 互 いの 間 の 愛 はかたよって<br />

いなかった。 神 の 独 り 子 で、 言 葉 であられるキリストは、 永 遠 の 父 と 1 つであられた。<br />

すなわち、その 性 質 において、 品 性 において、 目 的 において 1 つであり、この 宇 宙 全<br />

体 で、 神 の 計 画 と 相 談 にあずかることのできるただ 1 人 のお 方 であった。 天 の 父 は、<br />

364


国 際 協 定<br />

キリストによって、 天 の 全 住 民 を 創 造 する 働 きをされた。「 万 物 は、 天 にあるものも<br />

地 にあるものも…… 位 も 主 権 も、 支 配 も 権 威 も、みな 御 子 にあって 造 られた」[コロサ<br />

イ 1:。こうして 全 天 は、キリストに 対 して、 天 父 に 対 するのと 同 じ 忠 順 をあらわし<br />

た。<br />

愛 の 律 法 は 神 の 統 治 の 基 礎 であるから、すべての 被 造 物 の 幸 福 は、この 偉 大 な 義 の<br />

原 則 に 完 全 に 一 致 することにあった。 神 は、すべての 被 造 物 の 愛 の 奉 仕 、すなわち、<br />

神 のご 品 性 に 対 する 賢 明 な 理 解 から 生 ずる 尊 敬 をお 望 みになる。 神 は、 強 制 的 な 忠 誠<br />

をお 喜 びにならないで、だれでも 神 に 自 発 的 な 奉 仕 をささげるように、すべてのもの<br />

に 意 志 の 自 由 を 与 えておられる。 しかし、この 自 由 を 悪 用 した 者 があった。キリスト<br />

に 次 いで 最 も 神 から 栄 誉 を 受 け、 天 の 住 民 の 中 で 最 高 の 権 威 と 栄 光 を 与 えられていた<br />

者 から 罪 が 始 まった。<br />

ルシファーは、 堕 落 する 前 は、 清 く 汚 れのない、おおうことをなすケルビムの 中 の<br />

第 1 位 の 者 であった。「 主 なる 神 はこう 言 われる、あなたは 知 恵 に 満 ち、 美 のきわみ<br />

である 完 全 な 印 である。あなたは 神 の 園 エデンにあって、もろもろの 宝 石 が、あなた<br />

をおおっていた。……わたしはあなたを 油 そそがれた 守 護 のケルブと 一 緒 に 置 いた。<br />

あなたは 神 の 聖 なる 山 にいて、 火 の 石 の 間 を 歩 いた。あなたは 造 られた 日 から、あな<br />

たの 中 に 悪 が 見 いだされた 日 まではそのおこないが 完 全 であった」[エゼキエル 28:<br />

12~。<br />

ルシファーは、 神 の 恵 みのうちにとどまって、 全 天 使 の 愛 と 尊 敬 を 受 け、ほかの 者<br />

たちの 祝 福 となり 創 造 主 の 栄 えをあらわすために、その 高 貴 な 能 力 を 働 かせることが<br />

できたのである。しかし 預 言 者 は、「あなたは 自 分 の 美 しさのために 心 高 ぶり、その<br />

輝 きのために 自 分 の 知 恵 を 汚 した」と 言 っている[エゼキエル 28:。しだいにルシフ<br />

ァーは、 自 分 を 高 めたいという 思 いをほしいままにするようになった。「あなたは 自<br />

分 を 神 のように 賢 いと 思 っている」[ 同 28:。「あなたはさきに 心 のうちに 言 った、<br />

『わたしは 天 にのぼり、わたしの 王 座 を 高 く 神 の 星 の 上 におき、 北 の 果 なる 集 会 の 山<br />

に 座 し、 雲 のいただきにのぼり、いと 高 き 者 のようになろう』」[イザヤ 14:13、。<br />

ルシファーは、 被 造 物 の 最 高 の 愛 情 と 忠 誠 心 を 神 にささげさせようとしないで、 彼 ら<br />

の 奉 仕 と 服 従 とを 自 分 に 向 けさせようと 努 力 した。この 天 使 たちの 君 は、 無 限 なるお<br />

方 であられる 神 がみ 子 にお 与 えになっていた 栄 誉 をほしがって、キリストだけがお 用<br />

いになれる 大 権 である 権 力 にあこがれた。<br />

全 天 は、 創 造 主 の 栄 光 を 反 映 し、 神 を 賛 美 することを 喜 びとしていた。そして 神 が<br />

このようにあがめられている 間 は、すべては 平 和 であり、 喜 びであった。しかしいま、<br />

365


国 際 協 定<br />

不 協 和 音 が 天 のハーモニーをそこなった。 創 造 主 のご 計 画 とは 逆 の、 自 分 に 仕 え 自 分<br />

を 高 める 思 いが、 神 の 栄 光 を 第 一 としていた 者 たちの 心 に、 悪 の 予 感 を 感 じさせた。<br />

天 の 会 議 は、ルシファーに 嘆 願 した。 神 のみ 子 は、 創 造 主 が 偉 大 であられ、 恵 み 深 く、<br />

公 義 の 神 であられること、そして 神 の 律 法 は 聖 にして 不 変 の 性 質 のものであることを、<br />

彼 に 示 された。 神 ご 自 身 が 天 の 秩 序 をお 定 めになったのであるから、ルシファーがそ<br />

れを 無 視 することは、 創 造 主 のみ 名 をけがし、 自 分 自 身 を 破 滅 させることになるので<br />

あった。<br />

しかし、 無 限 の 愛 と 憐 れみをもって 与 えられた 警 告 は、 反 抗 の 精 神 をひき 起 こした<br />

だけであった。ルシファーはキリストに 対 するしっとの 念 にかられ、ますます 決 意 を<br />

固 めた。 自 分 自 身 の 栄 光 に 対 する 誇 りは、 主 権 を 求 める 欲 望 を 助 長 した。ルシファー<br />

は 自 分 に 与 えられた 高 い 栄 誉 を 神 の 賜 物 として 認 めず、 創 造 主 に 対 して 感 謝 の 念 を 起<br />

こさなかった。 彼 は 自 分 の 聡 明 さと 高 い 地 位 を 誇 り、 神 と 同 等 になることを 熱 望 した。<br />

彼 は 天 の 住 民 から 愛 され、 尊 敬 されていた。 天 使 たちは 彼 の 命 令 を 実 行 することを 喜<br />

び、 彼 はすべての 天 使 たちにまさる 知 恵 と 栄 光 を 身 につけていた。しかし 神 のみ 子 は、<br />

天 の 君 主 として、すなわち 天 の 父 と 同 じ 権 力 と 権 威 をもっておられるお 方 として 認 め<br />

られていた。キリストは、 神 のすべての 相 談 に 参 加 しておられたが、ルシファーはキ<br />

リストのように 神 の 目 的 を 知 ることを 許 されていなかった。「なぜキリストが 主 権 を<br />

もっておられるのか。なぜキリストがこのようにルシファーよりもあがめられるのか」<br />

と、この 強 力 な 天 使 は 疑 った。<br />

ルシファーは、 神 のみ 座 のすぐ 近 くにある 自 分 の 座 を 離 れて、 天 使 たちの 間 に 不 満<br />

の 精 神 をひろめるために 出 て 行 った。 彼 は 神 秘 的 な 秘 密 をもって 働 き、 一 時 は 神 に 対<br />

する 尊 敬 をよそおって 自 分 の 真 意 をかくし、 天 の 住 民 を 支 配 している 律 法 によって 不<br />

必 要 な 束 縛 が 加 えられているとほのめかしながら、 律 法 に 対 する 不 満 の 念 を 引 き 起 こ<br />

そうと 努 力 した。 天 使 たちの 性 質 は 聖 なのだから、 彼 らは 自 分 自 身 の 意 志 の 命 令 に 従<br />

うべきであると 彼 は 説 いた。 神 がキリストに 最 高 の 栄 誉 をお 与 えになったことは、 自<br />

分 に 対 する 不 当 な 待 遇 であると 言 って、 彼 は 自 分 自 身 に 対 する 同 情 を 引 き 起 こそうと<br />

努 めた。 彼 は、 自 分 がもっと 大 きな 権 力 と 栄 誉 とを 求 めるのは、 決 して 自 分 を 高 める<br />

ためではなく、 天 のすべての 住 民 のために 自 由 を 確 保 するためであって、こうするこ<br />

とによって 彼 らはもっと 高 い 身 分 になれるのだと 主 張 した。<br />

神 は、 大 いなる 憐 れみをもって、 長 い 間 ルシファーに 対 して 忍 耐 された。 彼 は、 最<br />

初 不 満 の 念 にかられた 時 も、あるいは 忠 誠 な 天 使 たちの 前 で 虚 偽 の 主 張 をしはじめた<br />

時 でさえ、その 高 い 地 位 からすぐに 追 い 出 されるようなことはなかった。 彼 は 長 い 間<br />

天 にとどまっていた。 何 度 も 何 度 も 彼 には、 悔 い 改 めと 服 従 の 条 件 のもとに 赦 しが 提<br />

366


国 際 協 定<br />

供 された。 彼 にそのまちがいを 自 覚 させるために、 無 限 の 愛 と 知 恵 であられる 神 だけ<br />

が 考 えだすことがおできになるような 努 力 が 払 われた。 不 満 の 精 神 というものは、そ<br />

れまで 天 で 見 られたことがなかった。ルシファー 自 身 も、 最 初 は、 自 分 がど ちらへ 押<br />

し 流 されているのかがわからず、 自 分 の 感 情 のほんとうの 姿 がわかっていなかった。<br />

しかしルシファーは、 自 分 の 不 満 が 理 由 のないものであることがわかると、 彼 は、 自<br />

分 が 誤 っていたこと、 神 の 主 張 が 正 当 であること、また 事 実 を 全 天 の 前 に 明 らかにす<br />

べきであることを 自 覚 した。もし 彼 がそうしていたら、 彼 は 自 分 自 身 と 多 くの 天 使 た<br />

ちとを 救 っていたかもしれなかった。この 時 、 彼 は、 神 に 対 する 忠 誠 を 完 全 に 放 棄 し<br />

ていたわけではなかった。 彼 は 守 護 のケルブとしての 地 位 を 捨 てたけれども、もし 彼<br />

が 創 造 主 の 知 恵 を 認 めて 自 分 から 進 んで 神 のみもとに 帰 り、 神 の 大 いなるご 計 画 のう<br />

ちに 定 められた 地 位 を 占 めることに 満 足 したら、 彼 はその 地 位 に 復 帰 させられていた<br />

のである。しかし 高 慢 心 に 妨 げられて、 彼 は 服 従 しようとしなかった。 彼 はあくまで<br />

も 自 分 の 行 動 を 弁 護 し、 悔 い 改 めの 必 要 はないと 言 い 張 り、 創 造 主 に 対 する 大 争 闘 に<br />

完 全 に 身 を 投 じてしまった。<br />

今 や 彼 は、 部 下 の 天 使 たちの 同 情 を 得 るために、その 偉 大 な 知 能 の 全 能 力 をもって<br />

欺 瞞 の 業 に 打 ち 込 んだ。キリストが 彼 に 警 告 と 勧 告 をお 与 えになったことさえ 曲 解 さ<br />

れて、 彼 の 反 逆 的 な 計 画 に 利 用 された。 彼 は 自 分 を 親 しく 信 頼 し、かたく 結 び 合 って<br />

いた 者 たちに 向 かって、 自 分 は 神 からまちがった 判 断 をされている、 自 分 の 地 位 は 尊<br />

敬 してもらえない、また 自 分 の 自 由 は 制 限 されようとしていると 語 った。<br />

彼 はキリストの 言 葉 をまちがったふうに 伝 えただけでなく、キリストは 天 の 住 民 の<br />

前 で 彼 に 屈 辱 を 与 えようとしていると 言 って、ごまかしと 露 骨 な 虚 偽 をもって 神 のみ<br />

子 を 非 難 した。 彼 はまた、 自 分 と 忠 実 な 天 使 たちとの 間 に、ありもしない 問 題 を 引 き<br />

起 こそうとした。 彼 は、 忠 誠 心 を 失 わせて 自 分 の 側 に 完 全 に 引 き 入 れることのできな<br />

かった 者 たちに 向 かって、 天 の 住 民 の 利 益 に 対 して 冷 淡 であると 言 って 非 難 した。 彼<br />

は 自 分 自 身 のしている 行 為 を、 神 に 忠 誠 を 保 っている 者 たちのせいにした。また 彼 は、<br />

神 が 自 分 に 対 して 不 公 正 であるという 彼 の 非 難 を 裏 づけるために、 創 造 主 のみ 言 葉 と<br />

行 為 をまちがったふうに 伝 えるという 手 を 用 いた。 神 の 御 目 的 について 巧 妙 な 議 論 を<br />

することによって 天 使 たちを 困 惑 させるのが、 彼 の 政 策 であった。 彼 は 単 純 なことの<br />

1 つ 1 つに 神 秘 の 衣 を 着 せ、また 巧 妙 に 曲 解 して、 神 の 最 も 明 白 なみ 言 葉 に 対 して 疑<br />

いを 投 げかけた。 彼 は 神 の 統 治 と 密 接 に 関 連 した 高 い 地 位 を 占 めていたので、 彼 の 言<br />

うことにはいっそう 大 きな 力 が 加 わり、 多 くの 者 が 引 きずられて 彼 に 加 担 し、 神 の 権<br />

威 に 対 する 反 逆 に 加 わった。<br />

367


国 際 協 定<br />

賢 明 な 神 は、このような 不 満 の 精 神 が 積 極 的 な 反 乱 に 発 展 するまで、サタンがその<br />

行 為 を 進 めるのを 赦 された。すべての 者 が、サタンの 計 画 の 真 相 と 傾 向 とを 知 るよう<br />

になるためには、 彼 の 計 画 を 十 分 に 発 展 させる 必 要 があった。ルシファーは 油 をそそ<br />

がれたケルブとして、 非 常 にあがめられていた。 彼 は 天 の 住 民 から 非 常 に 愛 されてい<br />

たので、 彼 らに 対 する 影 響 力 は 大 きかった。 神 の 統 治 には 天 の 住 民 だけでなく、 神 が<br />

お 造 りになったすべての 世 界 が 含 まれていたので、サタンは、 天 使 たちを 反 逆 に 加 わ<br />

らせることができるならば、 他 世 界 もまきこむことができると 考 えた。サタンは、 自<br />

分 の 目 的 を 達 するために、 詭 弁 と 虚 偽 とを 用 いて、 巧 妙 に 彼 の 疑 問 点 をもちだした。<br />

彼 の 欺 瞞 の 能 力 は 大 したものであり、また 虚 偽 の 仮 面 で 変 装 することによって、 彼 は<br />

有 利 な 立 場 を 得 ていた。 忠 誠 な 天 使 たちでさえ、 彼 の 本 性 を 十 分 に 見 分 けたり、また<br />

彼 の 行 為 がどこに 向 けられているかを 見 たりすることができなかった。<br />

サタンはもともと 非 常 な 栄 誉 を 受 けていたのであり、またその 行 為 のいっさいが 神<br />

秘 に 包 まれていたので、 彼 の 行 為 の 真 相 を 天 使 たちの 前 にあばくことは 困 難 であった。<br />

罪 は、 完 全 に 姿 を 現 すまでは、それがどんなに 邪 悪 なものであるかがわからない。そ<br />

れまで 神 の 宇 宙 には 罪 というものがなかったので、 天 の 住 民 は 罪 の 性 質 と 邪 悪 さにつ<br />

いてなんの 概 念 も 持 っていなかった。 彼 らは、 神 の 律 法 を 無 視 することから 生 じる 恐<br />

るべき 結 果 を、 見 分 けることができなかった。サタンは、 最 初 は 神 に 対 する 忠 誠 をも<br />

っともらしく 告 白 することによって、 自 分 の 行 為 をかくして いた。 彼 は、 神 のみ 栄 え、<br />

神 の 統 治 の 安 定 、 天 の 全 住 民 の 幸 福 を 増 進 しようとしているのだと 主 張 した。 部 下 の<br />

天 使 たちの 心 に 不 満 を 吹 き 込 みながら、 彼 は、 不 満 を 取 り 除 こうとしているかのよう<br />

にたくみに 見 せかけた。 彼 が 神 の 統 治 の 秩 序 と 律 法 の 変 更 を 強 調 した 時 も、 天 の 調 和<br />

を 保 つためにはそうすることが 必 要 であるというふうに 見 せかけた。<br />

罪 を 取 り 扱 われるにあたって、 神 は 義 と 真 実 だけをお 用 いになることができた。サ<br />

タンは、 神 がお 用 いになることのできないもの、すなわち 追 従 と 欺 瞞 とを 用 いること<br />

ができた。 彼 は 神 のみ 言 葉 を 偽 り、 神 の 統 治 の 計 画 を 天 使 たちの 前 にまちがって 伝 え、<br />

神 が 天 の 住 民 のために 律 法 と 規 則 を 定 められたのは 正 しくない、また 神 が 被 造 物 から<br />

服 従 と 従 順 とを 要 求 されるのは、ただ 神 がご 自 身 を 高 めるためであると 主 張 した。そ<br />

こで、すべての 世 界 の 住 民 はもちろん、 天 の 住 民 の 前 に、 神 の 統 治 が 正 しく、 神 の 律<br />

法 が 完 全 であることが 実 証 されねばならなかった。サタンは、 自 分 こそ 宇 宙 の 幸 福 を<br />

増 進 しようとしているのだと 見 せかけていた。この 横 領 者 の 本 性 、 彼 の 真 の 目 的 を、<br />

すべての 者 にわからせねばならなかった。 彼 がその 邪 悪 な 業 によって 本 性 を 暴 露 する<br />

まで、 時 間 を 与 えねばならなかった。<br />

368


国 際 協 定<br />

サタンは、 彼 自 身 が 天 に 引 き 起 こした 不 和 を、 神 の 律 法 と 統 治 のせいにした。すべ<br />

ての 悪 は、 神 の 政 治 の 結 果 であると 彼 は 断 言 した。 彼 は、 神 の 法 令 を 改 正 するのが 自<br />

分 の 目 的 であると 主 張 した。そこで 彼 に、 自 分 の 主 張 の 内 容 を 証 明 させ、 彼 がもくろ<br />

んでいる 神 の 律 法 の 変 更 の 結 果 がどうなるかを 示 させる 必 要 があった。 彼 自 身 の 行 為<br />

が 彼 を 罪 に 定 めるのでなければならなかった。サタンは 初 めから、 自 分 は 反 逆 してい<br />

るのではないと 主 張 していた。 全 宇 宙 はこの 欺 瞞 者 の 仮 面 がはがれるのを 見 なければ<br />

ならないのであった。 サタンをこれ 以 上 天 にとどめておくべきではないと 決 定 された<br />

時 でさえ、 無 限 の 知 恵 にいます 神 は、サタンを 滅 ぼされなかった。ただ 愛 の 奉 仕 だけ<br />

が 神 に 受 け 入 れられるのであるから、 神 に 対 する 被 造 物 の 忠 誠 は、 神 の 公 義 と 慈 愛 と<br />

に 対 する 確 信 に 基 づかねばならない。<br />

天 と 他 世 界 の 住 民 たちは、まだ 罪 の 本 性 とその 結 果 を 理 解 する 用 意 ができていなか<br />

ったので、サタンを 滅 ぼしてしまったら、 神 の 正 義 と 憐 れみとを 認 めることができな<br />

かったであろう。もしサタンの 存 在 がたちまち 抹 殺 されてしまったら、 彼 らは 愛 より<br />

もむしろ 恐 怖 から 神 に 仕 えたであろう。 欺 瞞 者 の 感 化 を 完 全 に 滅 ぼすことも、 反 逆 の<br />

精 神 を 根 絶 することもできなかったであろう。 悪 は 十 分 に 成 熟 させねばならなかった。<br />

永 遠 にわたる 全 宇 宙 の 幸 福 のために、サタンの 原 則 を 十 分 に 発 揮 させてみる 必 要 があ<br />

った。それは、すべての 被 造 物 が、 神 の 統 治 に 対 するサタンの 非 難 の 真 相 を 知 り、 神<br />

の 公 義 と 憐 れみ、また 神 の 律 法 の 不 変 性 が、 永 遠 に 疑 問 の 余 地 なきものとなるためで<br />

あった。<br />

サタンの 反 逆 は、きたるべきすべての 時 代 にわたって、 全 宇 宙 にとって 1 つの 教 訓 、<br />

すなわち 罪 の 本 性 とその 恐 ろしい 結 果 についての 永 久 的 なあかしとなるのであった。<br />

サタンの 支 配 がもたらすもの、 人 と 天 使 たちに 及 ぼすその 影 響 は、 神 の 権 威 を 無 視 す<br />

ることがどんな 結 果 になるかを 示 すのであった。それはまた、 神 のお 造 りになったす<br />

べての 被 造 物 の 幸 福 は、 神 の 統 治 及 びその 律 法 の 存 在 と 切 っても 切 れない 関 係 にある<br />

ということを 証 明 するのであった。 このようにして、この 恐 るべき 反 逆 の 実 験 の 歴 史<br />

は、すべての 聖 なる 知 者 たちにとっての 永 久 的 な 保 障 となり、 彼 らが 不 法 の 性 質 につ<br />

いてだまされることがないようにし、 彼 らが 罪 を 犯 してその 刑 罰 を 受 けるようなこと<br />

がないようにするのであった。<br />

天 における 争 闘 が 終 わるそのまぎわまで、この 横 領 者 サタンは、 自 分 が 正 しいと 主<br />

張 し 続 けた。この 反 逆 の 指 導 者 は、すべての 共 鳴 者 たちとともに 幸 福 な 住 み 家 から 追<br />

放 されなければならないことが 布 告 された 時 、 大 胆 にも 創 造 主 の 律 法 に 対 する 軽 べつ<br />

を 口 に 出 した。 彼 は、 天 使 たちは 支 配 される 必 要 はなく、 自 分 自 身 の 意 志 に 従 うべき<br />

で、この 意 志 こそ、いつでも 彼 らを 正 しく 導 くものであるという 主 張 をくり 返 した。<br />

369


国 際 協 定<br />

彼 は、 神 の 律 法 は 彼 らの 自 由 を 束 縛 するものであると 言 って 攻 撃 し、このような 律 法<br />

を 廃 止 することが 自 分 の 目 的 である、 天 の 万 軍 はこの 束 縛 から 解 放 されて、もっと 高<br />

貴 なもっとすばらしい 身 分 になるのだと 断 言 した。<br />

サタンとその 軍 勢 は、 口 をそろえて、 自 分 たちの 反 逆 のとがをすべてキリストのせ<br />

いにし、もし 自 分 たちが 譴 責 されなかったら 反 逆 はしなかったのだと 言 明 した。この<br />

ようにして 反 逆 のかしらサタンとそのすべての 共 鳴 者 たちは、 神 の 統 治 を 倒 そうとむ<br />

だな 努 力 をし、しかも、 自 分 たちは 圧 制 的 な 権 力 の、 罪 のない 犠 牲 者 であると 言 い 張<br />

って、かたくなに、 大 胆 に 不 服 従 を 続 けたため、ついに 天 から 追 放 された。<br />

天 で 反 逆 を 起 こしたのと 同 じ 精 神 が、 今 もなお 地 上 で 反 逆 を 起 こさせている。サタ<br />

ンは 天 使 たちに 対 して 用 いたのと 同 じ 政 策 を、 人 類 に 対 して 用 いてきた。 彼 の 精 神 は、<br />

今 、 不 従 順 の 子 らを 支 配 している。サタンと 同 じように、 彼 らは 神 の 律 法 の 拘 束 を 打<br />

破 しようとし、 律 法 に 違 反 することによって 人 々に 自 由 を 約 束 する。 罪 に 対 する 譴 責<br />

は、 依 然 として 憎 悪 と 抵 抗 の 精 神 を 呼 び 起 こす。 神 の 警 告 の 言 葉 が 良 心 に 訴 えられる<br />

と、サタンは、 人 々に 自 分 は 正 しいのだと 思 わせ、 彼 らの 罪 の 行 為 に 他 人 の 共 鳴 を 求<br />

めさせる。 彼 らは 自 分 の 誤 りを 直 さないで、かえって 譴 責 者 が 問 題 の 唯 一 の 原 因 でも<br />

あるかのように、その 譴 責 者 に 対 して 憤 慨 する。 これが 義 人 アベルの 時 代 から 今 日 に<br />

至 るまで、 罪 をあえて 責 める 者 に 対 して 示 されてきた 精 神 である。<br />

サタンは、 天 において 行 ったように、 神 のご 品 性 をまちがって 伝 えることによって、<br />

神 を 苛 酷 で 圧 制 的 なお 方 であると 思 わせ、 人 類 を 罪 にさそった。そしてそれが 成 功 す<br />

ると、サタンは、 神 の 不 当 な 束 縛 が、 彼 自 身 の 反 逆 を 引 き 起 こしたように、 人 類 の 堕<br />

落 を 引 き 起 こしたのだと 宣 言 した。 しかし 永 遠 なる 神 は、ご 自 分 の 品 性 について 自 ら<br />

こう 宣 言 しておられる。「 主 、 主 、あわれみあり、 恵 みあり、 怒 ることおそく、いつ<br />

くしみと、まこととの 豊 かなる 神 、いつくしみを 千 代 までも 施 し、 悪 と、とがと、 罪<br />

とをゆるす 者 、しかし、 罰 すべき 者 をば 決 してゆるさず」[ 出 エジプト 34:6、。<br />

神 は、サタンを 天 から 追 放 することによって、ご 自 分 の 公 義 を 宣 言 し、み 座 の 栄 え<br />

を 保 たれた。しかし、 人 類 がこの 背 信 的 な 精 神 の 欺 瞞 に 負 けて 罪 を 犯 したとき、 神 は<br />

堕 落 した 人 類 のためにご 自 分 の 独 り 子 を 死 なせることによって、 神 の 愛 の 証 拠 をお 与<br />

えになった。この 贖 罪 のうちに、 神 のご 品 性 があらわされている。 十 字 架 という 力 強<br />

い 証 拠 は、ルシファーが 選 んだ 罪 の 道 は 決 して 神 の 統 治 の 責 任 ではないことを、 全 宇<br />

宙 に 証 明 している。<br />

救 い 主 の 地 上 でのご 生 涯 の 間 、キリスト 対 サタンの 戦 いにおいて、この 大 欺 瞞 者 の<br />

品 性 が 暴 露 された。 世 の 救 い 主 に 対 するサタンの 残 酷 な 戦 いほど、サタンに 対 する 天<br />

370


国 際 協 定<br />

使 たちと 忠 実 な 全 宇 宙 との 同 情 を 失 わせるのに 効 果 のあったものはなかった。キリス<br />

トに 対 して 屈 服 を 要 求 したあの 大 胆 な 冒 瀆 、キリストを 山 の 頂 と 宮 の 頂 上 に 連 れて 行<br />

った 彼 の 潜 越 な 大 胆 さ、 目 がくらむような 高 い 所 から 身 を 投 げるようキリストにすす<br />

めることによって 暴 露 された 悪 意 ある 計 画 、あちらからこちらへとキリストを 追 い 回<br />

した 絶 えざる 敵 意 、 祭 司 や 民 たちの 心 をあおりたててキリストの 愛 を 拒 否 させ、つい<br />

には「 十 字 架 につけよ、 彼 を 十 字 架 につけよ」と 叫 ばせたことなど——こうしたすべ<br />

てのことが 全 宇 宙 を 驚 かせ、 憤 慨 させた。<br />

世 の 人 々をしてキリストを 拒 むようにさせたのは、サタンであった。 悪 の 君 はイエ<br />

スを 滅 ぼすために、 彼 のあらゆる 力 と 悪 知 恵 を 傾 けた。というのは 彼 は、 救 い 主 の 憐<br />

れみと 愛 、 同 情 とやさしさが、 神 のご 品 性 を 世 の 人 々にあらわしているのを 見 たから<br />

であった。サタンは 神 のみ 子 が 口 にされる 1 つ 1 つの 主 張 と 論 争 し、 人 間 を 手 先 に 使<br />

って 救 い 主 の 生 涯 を 苦 しみと 悲 しみで 満 たした。イエスの 働 きを 妨 げようとして 彼 が<br />

用 いた 詭 弁 と 虚 偽 、 不 従 順 の 子 らによってあらわされた 憎 悪 、 比 類 のない 善 良 な 一 生<br />

を 送 られた 神 のみ 子 に 対 するサタンの 残 忍 な 非 難 、こうしたことはすべて 根 深 い 報 復<br />

の 念 から 出 たのであった。 閉 じ 込 められていたしっと、うらみ、 憎 悪 、ふくしゅうの<br />

炎 は、 神 のみ 子 に 対 してカルバリーで 爆 発 し、 一 方 全 天 は 恐 怖 のうちに 沈 黙 してこの<br />

光 景 を 見 つめた。 大 いなる 犠 牲 が 完 結 された 時 、キリストは 昇 天 されたが、 彼 は「 父<br />

よ、あなたがわたしに 賜 わった 人 々が、わたしのいる 所 に 一 緒 にいるようにして 下 さ<br />

い」との 懇 願 をささげるまでは、 天 使 たちの 賛 美 を 受 けようとされなかった[ヨハネ<br />

17:。そのとき 天 の 父 のみ 座 から、 言 い 表 しようのない 愛 と 力 とをもって、「 神 の 御<br />

使 たちはことごとく、 彼 を 拝 すべきである」との 答 えが 与 えられた[ヘブル 1:。イエ<br />

スには 少 しの 汚 れもなかった。イエスの 屈 辱 は 終 わり、その 犠 牲 は 完 結 し、すべての<br />

名 にまさる 名 がイエスに 与 えられた。<br />

今 やサタンの 不 義 は 言 いわけの 余 地 がなくなった。 彼 は、 偽 り 者 、 人 殺 しとしての<br />

彼 の 本 性 を 暴 露 してしまった。もしサタンが 天 の 住 民 を 支 配 することを 許 されたら、<br />

自 分 の 権 力 の 下 にあった 人 の 子 らを 支 配 したのと 同 じ 精 神 で 支 配 しただろうというこ<br />

とが、 明 らかになった。 彼 は 神 の 律 法 を 破 ることによって 自 由 と 高 い 身 分 が 得 られる<br />

と 主 張 していたが、その 結 果 は 束 縛 と 堕 落 であることが 明 らかになった。 神 のご 品 性<br />

とその 統 治 に 対 するサタンの 偽 りの 攻 撃 は、その 真 相 をさらけ 出 した。 彼 は、 神 が 被<br />

造 物 に 服 従 を 要 求 されるのは、ただ 神 ご 自 身 を 高 めるためにすぎないと 非 難 し、 創 造<br />

主 はすべての 者 に 自 己 犠 牲 を 強 制 しながらご 自 分 は 克 己 も 犠 牲 もしておられないと 主<br />

張 してきた。<br />

371


国 際 協 定<br />

今 や、 堕 落 した 罪 深 い 人 類 の 救 いのために、 宇 宙 の 支 配 者 であられる 神 が、その 愛<br />

によってのみなし 得 られる 最 大 の 犠 牲 をお 払 いになったことが 明 らかになった。なぜ<br />

なら「 神 はキリストにおいて 世 をご 自 分 に 和 解 させ」られたからである[Ⅱコリント<br />

5:。また、ルシファーは 栄 誉 と 主 権 とを 望 んだために 罪 の 門 戸 を 開 いたが、 一 方 キ<br />

リストは 罪 を 滅 ぼすために 身 をいやしくして 死 に 至 るまで 従 順 であられたことが 明 ら<br />

かになった。<br />

神 は 反 逆 の 原 則 に 嫌 悪 を 示 しておられた。 全 天 は、サタンが 罪 に 定 められたことに<br />

も、 人 類 が 贖 われたことにも、 神 の 公 義 があらわされたのを 見 た。ルシファーは、 神<br />

の 律 法 が 不 変 なものであり、その 刑 罰 は 免 れることができないものであるならば、こ<br />

れを 犯 す 者 はみな 永 久 に 創 造 主 の 恩 恵 から 除 外 されると 言 明 していた。 彼 は、 罪 深 い<br />

人 類 は 贖 われる 見 込 みがなく、したがって 彼 の 当 然 のえじきであると 言 っていた。と<br />

ころがキリストの 死 は、 人 類 のための 覆 すことのできない 証 拠 であった。 律 法 の 刑 罰<br />

は、 神 と 等 しいお 方 であられるキリストに 負 わされた。そして 人 は、 自 由 にキリスト<br />

の 義 を 受 け 入 れることができ、 謙 遜 と 悔 い 改 めの 生 活 を 送 ることによって、 神 のみ 子<br />

が 勝 利 されたように、サタンの 力 に 勝 利 することができるのであった。このように、<br />

神 は 正 しいお 方 であって、しかも、イエスを 信 じるすべての 者 を 義 とされるお 方 なの<br />

である。<br />

しかし、キリストが 地 上 にくだって 苦 難 と 死 を 受 けられたのは、ただ 人 類 の 贖 いを<br />

成 し 遂 げるためだけではなかった。キリストは「 律 法 を 大 いなるものとし」[ 英 語 訳 ]<br />

これを「 光 栄 あるものとする」ために 来 られたのである。 この 世 界 の 住 民 が 律 法 を 正<br />

しく 認 識 するようにするだけでなく、 神 の 律 法 が 不 変 なものであることを、 宇 宙 の 全<br />

世 界 に 対 して 証 明 するためであった。 律 法 の 要 求 が 廃 止 できるものであったら、 神 の<br />

み 子 は 罪 を 贖 うためにご 自 分 の 生 命 をささげられる 必 要 はなかったのである。キリス<br />

トの 死 は、 律 法 が 不 変 であることを 証 明 している。 罪 人 を 救 うために、 父 とみ 子 が 限<br />

りない 愛 に 迫 られて 払 われた 犠 牲 ——この 贖 いの 計 画 以 外 に 方 法 はなかった——は、<br />

公 義 と 憐 れみが 神 の 律 法 と 統 治 の 基 礎 であることを 全 宇 宙 の 前 に 証 明 している。<br />

審 判 が 最 終 的 に 執 行 される 時 、 罪 の 理 由 は 存 在 しないことが 明 らかになる。 全 地 の<br />

審 判 者 が、サタンに 向 かって「あなたはなぜわたしにそむき、わたしの 国 の 民 を 奪 っ<br />

たのか」と 聞 きただされる 時 、 悪 の 創 始 者 であるサタンはなんの 言 いわけもできない。<br />

どの 口 も 閉 じられ、 反 逆 者 の 全 軍 は 言 葉 もないのである。 カルバリーの 十 字 架 は、 律<br />

法 が 不 変 なものであることを 宣 言 しているとともに、 罪 の 価 は 死 であることを 宇 宙 に<br />

宣 言 している。「すべてが 終 わった」との 救 い 主 の 臨 終 の 叫 びによって、サタンに 対<br />

するとむらいの 鐘 が 鳴 らされた。 長 い 間 継 続 されてきた 大 争 闘 はここに 決 定 し、 悪 の<br />

372


国 際 協 定<br />

最 終 的 な 根 絶 が 確 実 となった。 神 のみ 子 は、「 死 の 力 を 持 つ 者 、すなわち 悪 魔 を、ご<br />

自 分 の 死 によって 滅 ぼ」すため、 自 ら 墓 の 門 をくぐられた[ヘブル 2:。ルシファーは<br />

自 分 が 高 い 地 位 にのぼりたいとの 望 みから、「わたしは 天 にのぼり、わたしの 王 座 を<br />

高 く 神 の 星 の 上 におき、……いと 高 き 者 のようになろう」と 言 ったのであったが、 神<br />

はこう 宣 言 しておられる。「わたしは……あなたを 地 の 上 の 灰 とした。……あなた<br />

は…… 永 遠 にうせはてる。」「 万 軍 の 主 は 言 われる、 見 よ、 炉 のように 燃 える 日 が 来<br />

る。その 時 すべて 高 ぶる 者 と、 悪 を 行 う 者 とは、わらのようになる。その 来 る 日 は、<br />

彼 らを 焼 き 尽 して、 根 も 枝 も 残 さない」[イザヤ 14:13、14、エゼキエル 28:18、<br />

19、マラキ 4:。<br />

全 宇 宙 は、 罪 の 性 質 とその 結 果 について 証 人 となるであろう。 罪 を 徹 底 的 に 根 絶 す<br />

ることは、 世 の 初 めだったら 天 使 を 恐 れさせ、 神 の 栄 えを 汚 したであろうが、いまで<br />

は、 神 のみこころを 行 うことを 喜 び、 心 のうちに 神 のおきてをもっている 宇 宙 の 全 住<br />

民 の 前 に、 神 の 愛 を 立 証 し、そのみ 栄 えを 確 立 するものとなる。もはや 悪 は 再 び 現 れ<br />

てこない。「 患 難 かさねて 起 こらじ」と 聖 書 には 言 われている[ナホム 1:9・ 文 語 訳 ]。<br />

サタンが 束 縛 のくびきであると 非 難 してきた 神 の 律 法 は、 自 由 の 律 法 として 尊 ばれる。<br />

試 練 を 通 り 越 してきた 被 造 物 は、はかりしれない 愛 と 限 りない 知 恵 のお 方 としてその<br />

ご 品 性 が 自 分 たちの 前 に 十 分 にあらわされた 神 に 対 し、 忠 誠 をひるがえすようなこと<br />

はもはや 2 度 とないのである。<br />

373


国 際 協 定<br />

第 30 章 地 獄 の 敵 意<br />

「わたしは 恨 みをおく、おまえと 女 とのあいだに、おまえのすえと 女 のすえとの 間<br />

に。 彼 はおまえのかしらを 砕 き、おまえは 彼 のかかとを 砕 くであろう」[ 創 世 記 3:。<br />

人 類 の 堕 落 後 、サタンに 対 して 下 された 神 の 宣 告 は、 終 末 に 至 るまでの 各 時 代 にわた<br />

る 預 言 でもあった。そしてそれは、 地 上 に 生 存 するすべての 人 類 が 参 加 する 大 争 闘 を<br />

予 表 していた。 神 は、「わたしは 恨 み〔 敵 意 —— 英 語 訳 〕をおく」と 宣 言 された。こ<br />

の 恨 みは、 人 間 が 生 まれながらに 持 っているものではない。 人 間 は、 神 の 律 法 を 犯 し<br />

た 時 に、その 性 質 は 邪 悪 となり、サタンに 敵 対 するのでなく、 協 調 するようになった。<br />

罪 人 と 罪 の 張 本 人 との 間 には、 当 然 、なんの 恨 み[ 敵 意 ]もない。 両 方 とも、 背 信 によ<br />

って、 邪 悪 になった。 背 信 者 は、 他 の 人 々を 自 分 の 模 範 に 従 うよう 勧 誘 して、 同 情 と<br />

支 持 を 得 るまでは 安 んじない。こういうわけで、 堕 落 した 天 使 たちと 悪 人 たちとは、<br />

絶 望 的 なつながりで 結 ばれた。もしも 神 が 特 別 に 介 入 されなかったならば、サタンと<br />

人 間 は、 天 に 対 抗 して 同 盟 を 結 んだことであろう。そして、 人 類 家 族 全 体 は、サタン<br />

に 恨 みをいだくのではなくて、 彼 と 結 束 して 神 に 反 抗 したことであろう。<br />

サタンは、 天 使 たちを 反 逆 させたように、 人 間 を 罪 に 誘 惑 し、こうして、 天 に 対 す<br />

る 彼 の 戦 いにおける 協 力 を 得 ようとした。キリストを 憎 むことに 関 しては、サタンと<br />

堕 落 した 天 使 たちとの 間 に 意 見 の 相 違 はなかった。その 他 のあらゆる 点 に 関 しては、<br />

一 致 がなかったが、 宇 宙 の 支 配 者 の 権 威 に 反 対 することについては、 固 く 結 束 してい<br />

た。しかし、サタンは、 彼 と 女 とのあいだ、 彼 のすえと 女 のすえとの 間 に 恨 みが 存<br />

在 するという 宣 言 を 聞 いたとき、 人 間 の 性 質 を 堕 落 させようとする 彼 の 努 力 が 阻 止 さ<br />

れることを 知 った。また、 人 間 はなんらかの 方 法 によって、 彼 の 力 に 抵 抗 することが<br />

できるようになることを 知 った。<br />

人 類 が、キリストを 通 して、 神 の 愛 と 憐 れみの 対 象 となっているために、 人 類 に 対<br />

するサタンの 敵 意 が 燃 え 上 がっている。 彼 は、 人 類 を 贖 おうとする 神 の 計 画 を 妨 害 し<br />

ようと 望 み、 神 のみ 手 のわざを 傷 つけ 汚 すことによって、 神 のみ 栄 えを 汚 そうと 望 ん<br />

でいる。 彼 は、 天 を 悲 しませ、 地 を 苦 悩 と 荒 廃 で 満 たそうと 望 んでいるのである。そ<br />

して 彼 は、こうした 害 悪 はみな、 神 が 人 間 を 創 造 したために 起 こったと 指 摘 する。 人<br />

間 のうちに、サタンに 対 する 敵 意 を 起 こさせるのは、キリストが 心 の 中 に 植 え 付 けら<br />

れる 恵 みである。この 改 変 の 恵 みと 更 生 の 力 とがなければ、 人 間 は 引 き 続 きサタンの<br />

捕 虜 であり、 常 に 彼 の 命 令 に 従 うしもべであるしかない。しかし、 心 の 中 の 新 しい 原<br />

則 が、これまで 平 和 であったところに 争 闘 を 起 こすのである。キリストがお 与 えにな<br />

374


国 際 協 定<br />

る 力 によって、 人 間 は、 暴 君 であり、 横 領 者 であるサタンに 抵 抗 する 力 を 得 る。だれ<br />

でも、 罪 を 愛 するかわりに 罪 を 憎 み、これまで 心 の 中 を 支 配 していた 欲 望 に 抵 抗 して、<br />

それに 打 ち 勝 つならば、それは、 全 く 上 からの 原 則 が 働 いていることを 示 している。<br />

キリストの 精 神 とサタンの 精 神 との 間 の 敵 意 は、 世 がイエスをどのように 受 け 入 れ<br />

たかということにおいて、 最 も 著 しくあらわされた。イエスが 世 の 富 や 華 麗 さ、 威 光<br />

を 持 って 来 られなかったためにユダヤ 人 が 彼 を 拒 んだというのではなかった。 彼 らは、<br />

イエスが、こうした 外 面 的 利 点 の 不 足 を 補 って 余 りある 力 を 持 っておられるのを 見 た。<br />

しかし、キリストの 純 潔 と 聖 潔 が、 不 信 心 な 人 々の 彼 に 対 する 憎 しみを 引 き 起 こした。<br />

彼 の、 克 己 と 罪 なき 献 身 の 生 涯 は、 高 慢 で 肉 欲 をほしいままにする 人 々への、 絶 えざ<br />

る 譴 責 であった。 神 のみ 子 に 対 する 敵 意 を 引 き 起 こしたのは、これであった。サタン<br />

と 悪 天 使 たちが 悪 人 たちに 加 わった。 背 信 の 全 勢 力 が、 真 理 の 君 を 倒 そうと 謀 ったの<br />

であった。 キリストの 弟 子 たちには、 彼 らの 主 にあらわされたのと 同 じ 敵 意 があらわ<br />

される。 罪 のいとわしい 性 質 を 認 めて、 上 からの 力 によって 誘 惑 に 抵 抗 するものはだ<br />

れでも、 必 ずサタンとその 部 下 たちの 激 怒 を 引 き 起 こす。 真 理 の 純 潔 な 原 則 への 憎 し<br />

みと、その 擁 護 者 たちに 対 する 非 難 と 迫 害 は、 罪 と 罪 人 が 存 在 するかぎり 続 くのであ<br />

る。キリストに 従 う 者 たちとサタンのしもべたちは、 一 致 することができない。 十 字<br />

架 のつまずきは、なくなってはいない。「いったい、キリスト・イエスにあって 信 心<br />

深 く 生 きようとする 者 は、みな、 迫 害 を 受 ける」[Ⅱテモテ 3:。<br />

サタンの 部 下 たちは、 彼 の 指 揮 のもとに 常 に 活 動 して、 彼 の 権 威 を 確 立 し、 神 の 政<br />

府 に 対 抗 して 彼 の 王 国 を 建 設 しようとしている。このために、 彼 らは、キリストに 従<br />

う 人 々を 欺 き、その 忠 誠 を 失 わせようと 誘 惑 する。 彼 らは、 指 導 者 サタンと 同 様 に、<br />

目 的 を 達 成 するためには 聖 書 を 誤 解 し 曲 解 する。サタンが 神 を 非 難 しようとしたよう<br />

に、その 手 下 たちも 神 の 民 を 中 傷 しようとする。キリストを 死 刑 に 処 した 精 神 が、 悪<br />

人 たちを 動 かして、 彼 に 従 う 人 々を 滅 ぼそうとする。このことは、すべて、「わたし<br />

は 恨 みをおく、おまえと 女 とのあいだに、おまえのすえと 女 のすえとの 間 に」という<br />

あの 最 初 の 預 言 に、 予 表 されている。そして、これは 終 末 まで 続 くのである。<br />

サタンは、 彼 の 全 軍 を 動 員 して、 戦 闘 に 全 力 を 傾 けている。 彼 が、 大 きな 抵 抗 にあ<br />

わないのは、なぜであろうか。キリストの 兵 卒 たちが、このように 眠 りをむさぼり、<br />

冷 淡 なのは、なぜであろうか。それは 彼 らが、キリストとの 真 のつながりをほとんど<br />

持 っていないからである。キリストの 霊 に 欠 けているからである。 彼 らの 主 にとって、<br />

罪 はいまわしく 嫌 悪 すべきものであったが、 彼 らにとってはそうではないのである。<br />

彼 らは、それに 対 して、キリストのように 決 然 と 抵 抗 をしない。 彼 らは、 罪 のはなは<br />

だしい 邪 悪 さといまわしさを 悟 っていない。<br />

375


国 際 協 定<br />

そして、 暗 黒 の 君 の 性 質 についても 権 力 についても、 無 感 覚 である。 彼 らには、サ<br />

タンとその 働 きに 対 する 敵 意 はない。というのは、 彼 の 権 力 と 悪 意 、また、キリスト<br />

とその 教 会 に 対 する 彼 の 広 範 囲 に 及 ぶ 戦 闘 について、 彼 らはきわめて 無 知 だからであ<br />

る。 多 くの 人 々はここで 欺 かれる。 彼 らは、 自 分 たちの 敵 が、 悪 天 使 たちの 心 を 支 配<br />

する 大 指 揮 官 であって、よく 練 った 計 画 と 巧 妙 な 活 動 をもってキリストに 対 抗 して 戦<br />

い、 魂 の 救 いを 妨 害 しようとしていることを 知 らない。キリスト 者 と 称 する 人 々、い<br />

や 牧 師 たちの 間 でさえ、サタンについて 語 るのは、 講 壇 から 何 かのついでに 触 れるく<br />

らいのことで、 非 常 にまれである。 彼 らは、サタンの 絶 えざる 活 動 と 成 功 の 証 拠 を 見<br />

落 としている。 彼 らは、サタンの 狡 猾 さについてたびたび 警 告 を 受 けるが、それに 気<br />

をとめない。 彼 らは、サタンの 存 在 そのものを 無 視 しているように 見 える。<br />

人 々が 彼 の 策 略 を 知 らずにいる 間 に、この 油 断 のない 敵 は、 彼 らのあとを 絶 えずね<br />

らっている。 彼 は、 家 の 中 のすべてのところ、われわれの 都 市 のすべての 通 り、 教 会<br />

の 中 、 議 会 の 中 、 裁 判 所 の 中 などに 入 り 込 み、 人 を 惑 わし、 欺 き、だまし、 至 るとこ<br />

ろで、 老 若 男 女 を 問 わずその 心 と 体 を 破 滅 させ、 家 庭 を 破 壊 し、 憎 しみや 競 争 、 争 闘<br />

や 暴 動 や 殺 人 の 種 をまき 散 らす。そして、キリスト 教 界 一 般 は、こうしたことを、あ<br />

たかも 神 が 定 められたもので、 当 然 存 在 するものであるかのように 思 っているのであ<br />

る。<br />

サタンは、 神 の 民 と 世 俗 とをへだてている 壁 を 取 りこわすことによって、 神 の 民 に<br />

打 ち 勝 とうと 絶 えず 努 めている。 古 代 イスラエル 人 は、 禁 じられていた 異 邦 人 との 交<br />

際 に 足 を 踏 み 入 れた 時 に、 罪 に 誘 惑 された。 同 じようにして 現 代 のイスラエルも 道 か<br />

ら 外 れて 行 く。「この 世 の 神 が 不 信 の 者 たちの 思 いをくらませて、 神 のかたちである<br />

キリストの 栄 光 の 福 音 の 輝 きを、 見 えなくしているのである」[Ⅱコリント 4:。 断 固<br />

としてキリストに 従 う 決 心 をしていないものは、サタンのしもべである。 生 まれ 変 わ<br />

っていない 者 の 心 には、 罪 を 愛 する 思 いがあり、 罪 を 抱 いてその 言 いわけをする 傾 向<br />

がある。 生 まれ 変 わった 心 には、 罪 に 対 する 憎 しみと、それに 対 する 断 固 とした 抵 抗<br />

がある。キリスト 者 が、 神 を 恐 れない 不 信 仰 な 人 々と 交 わることは、 誘 惑 に 身 をさら<br />

すことである。サタンは 姿 をかくして、ひそかに 彼 らの 目 に、 彼 の 欺 瞞 のおおいをか<br />

ける。 彼 らは、このような 連 れがいて 彼 らに 害 を 与 えようとしているとは 気 づかず、<br />

品 性 、 言 葉 、 行 動 において、 常 に 世 俗 に 同 化 していき、ますます 無 分 別 になってしま<br />

うのである。<br />

世 俗 の 習 慣 に 従 うならば、 教 会 が 世 俗 化 する。それは 決 して 世 俗 をキリストに 改 宗<br />

させることにはならない。 罪 になれてくると、 必 然 的 に、それがいとわしくなくなっ<br />

てくる。サタンのしもべたちと 交 わるものは、やがて、 彼 らの 主 人 をも 恐 れなくなる。<br />

376


国 際 協 定<br />

宮 廷 におけるダニエルのように、われわれも、 義 務 を 遂 行 するにあたって 試 練 にあう<br />

時 には、 神 の 保 護 を 受 けることを 確 信 してよいのであるが、しかし 自 分 で 誘 惑 に 身 を<br />

さらすならば、おそかれ 早 かれ、 倒 れることになるのである。<br />

サタンはしばしば、われわれが、 彼 の 支 配 下 にある 人 物 だとは 思 いもしないような<br />

人 々を 用 いて、 実 に 巧 妙 に 働 きかける。 才 能 や 教 育 がある 人 々は、 神 を 恐 れる 心 がな<br />

くても、これらの 特 質 がそれを 補 い、 神 の 恵 みに 浴 させるかのように、 賞 賛 され、 栄<br />

誉 を 帰 せられている。 才 能 と 教 養 は、それ 自 体 、 神 の 賜 物 である。しかしそれらが、<br />

信 心 の 代 用 にされるならば、そして、 魂 を 神 に 近 づけるかわりに 神 から 引 き 離 すなら<br />

ば、その 時 それらはのろいとなり、わなとなるのである。 礼 儀 正 しく 見 えることや 洗<br />

練 された 感 じを 与 えることはみな、 何 かの 意 味 でキリストに 関 係 するものである、と<br />

考 えている 人 が 多 い。しかし、これほど 大 きなまちがいはない。こうした 特 質 は、 真<br />

の 宗 教 のために 強 力 な 影 響 を 及 ぼすものであるから、すべてのキリスト 者 の 品 性 の 美<br />

点 でなければならない。しかし、それらは、 神 にささげられねばならない。さもない<br />

と、それらもまた、 悪 のための 力 となってしまう。 一 般 に 不 道 徳 と 見 なされている 行<br />

為 はあえてしないところの、 知 的 で 教 養 があり、 礼 儀 正 しい 人 が 多 くいるが、このよ<br />

うな 人 々は、サタンの 手 にある 洗 練 された 器 にすぎない。 彼 の 狡 猾 で 欺 瞞 的 な 影 響 と<br />

模 範 は、キリストの 働 きにとって、 無 知 で 教 養 のない 人 々よりはるかに 危 険 である。<br />

ソロモンは、 熱 心 な 祈 りと 神 への 依 存 によって、 世 界 の 驚 きと 賞 賛 を 引 き 起 こした<br />

ところの 知 恵 の 持 ち 主 になった。ところが、 彼 が 力 の 源 である 神 から 離 れて、 自 分 の<br />

力 に 頼 って 進 んだ 時 に、 彼 は 誘 惑 のとりことなった。その 時 、この 最 も 賢 い 王 に 授 け<br />

られていた 驚 くべき 能 力 は、 彼 を、 魂 の 敵 サタンの 最 も 強 力 な 手 先 としたにすぎなか<br />

った。<br />

サタンは、この 事 実 に 対 して 人 々の 心 を 無 感 覚 にしようと 常 に 努 めている。そこで<br />

キリスト 者 は、 自 分 たちの 戦 いは、「 血 肉 に 対 するものではなく、もろもろの 支 配 と、<br />

権 威 と、やみの 世 の 主 権 者 、また 天 上 にいる 悪 の 霊 に 対 する 戦 い」であることを、 決<br />

して 忘 れてはならない[エペソ 6:。 霊 感 による 次 のような 警 告 が、 幾 世 紀 の 昔 からわ<br />

れわれの 時 代 にまで 鳴 りひびいている。「 身 を 慎 み、 目 をさましていなさい。あなた<br />

がたの 敵 である 悪 魔 が、ほえたけるししのように、 食 いつくすべきものを 求 めて 歩 き<br />

回 っている」[Ⅰペテロ 5:。「 悪 魔 の 策 略 に 対 抗 して 立 ちうるために、 神 の 武 具 で 身<br />

を 固 めなさい」[エペソ 6:。<br />

われわれの 大 いなる 敵 サタンは、アダムの 時 代 から 今 日 に 至 るまで、 圧 迫 と 破 壊 の<br />

ために 力 をふるってきた。そして 今 、 彼 は、 教 会 に 対 する 最 後 の 戦 闘 の 準 備 をしてい<br />

377


国 際 協 定<br />

る。イエスに 従 おうとする 者 はみな、この 残 忍 な 敵 と 戦 わねばならない。キリスト 者<br />

が、 模 範 であられるイエスにならえばならうほど、サタンの 攻 撃 の 的 になることは 確<br />

実 である。 神 の 事 業 に 活 発 に 従 事 し、 悪 魔 の 欺 瞞 をあばき、 人 々の 前 にキリストを 紹<br />

介 しようとする 者 はみな、パウロと 同 じあかし—— 謙 遜 の 限 りを 尽 くし、 多 くの 涙 と<br />

数 々の 試 練 の 中 にあって、 主 に 仕 えてきたというあかし——をすることができるので<br />

ある。 サタンは、 最 も 激 烈 で 狡 猾 な 誘 惑 をもってキリストを 攻 撃 したが、そのたびに<br />

撃 退 された。それらの 戦 いは、われわれのための 戦 いであった。そしてそれらの 勝 利<br />

は、われわれにも 勝 利 を 得 させるのである。 キリストは、 求 めるすべての 者 に 力 をお<br />

与 えになる。だれでも、 自 分 が 同 意 せずにサタンに 敗 北 することはない。 誘 惑 者 サタ<br />

ンは、 人 の 意 志 を 支 配 したり、 強 制 して 罪 を 犯 させたりすることはできない。 彼 は、<br />

われわれを 悩 ますことはできるが、 汚 すことはできない。 苦 悩 を 与 えることはできて<br />

も、 汚 辱 することはできないのである。キリストが 勝 利 されたという 事 実 は、 彼 に 従<br />

う 者 たちに、 罪 とサタンに 対 して 雄 々しく 戦 う 勇 気 を 与 えるものである。<br />

378


国 際 協 定<br />

第 31 章 天 使 と 精 神<br />

目 に 見 える 世 界 と 目 に 見 えない 世 界 との 関 係 、 神 の 天 使 の 奉 仕 、そして 悪 霊 の 働 き<br />

などは、 聖 書 の 中 にはっきりと 示 されており、 人 類 歴 史 と 不 可 分 に 織 り 混 ざっている。<br />

一 般 に、 悪 霊 の 存 在 に 関 しては、 信 じない 傾 向 が 強 まっており、 他 方 、「 救 を 受 け 継<br />

ぐべき 人 々に 奉 仕 する」 聖 天 使 たちは、 死 者 の 霊 であると 考 えている 人 が 多 い[ヘブル<br />

1:。しかし、 聖 書 は、 善 天 使 と 悪 天 使 は 両 方 とも 存 在 することを 教 えているばかり<br />

でなく、これらは 肉 体 を 離 れた 死 者 の 霊 ではないという、 疑 うことのできない 証 拠 を<br />

提 示 している。<br />

人 類 が 創 造 される 前 に、 天 使 は 存 在 していた。それは、 地 の 基 がすえられた 時 、<br />

「 明 けの 星 は 相 共 に 歌 い、 神 の 子 たちはみな 喜 び 呼 ばわった」とあることからもわか<br />

る[ヨブ 38:。また、 人 類 の 堕 落 後 、 命 の 木 を 守 るために 天 使 が 送 られたが、この 時<br />

には、まだだれも 人 間 は 死 んではいなかった。 天 使 は、 人 間 よりは 優 れた 性 質 のもの<br />

で、 人 は、「ただ 少 しく 天 使 よりも 低 く」 造 られたと、 詩 篇 記 者 は 言 っている[ 詩 篇<br />

8:5・ 英 語 訳 ]。<br />

聖 書 には、 天 の 存 在 者 の 数 、またその 力 と 栄 光 が 書 かれている。また、 彼 らと 神 の<br />

統 治 との 関 係 、そして 贖 罪 の 働 きとの 関 連 についても 記 されている。「 主 はその 玉 座<br />

を 天 に 堅 くすえられ、そのまつりごとはすべての 物 を 統 べ 治 める。」「 御 座 ……のま<br />

わりに、 多 くの 御 使 たちの 声 が 上 がるのを 聞 いた」と 預 言 者 は 言 っている。 彼 らは、<br />

王 の 王 の 面 前 にはべる「 勇 士 たち」、「そのみこころを 行 うしもべたち」、「そのみ<br />

言 葉 の 声 を 聞 」く「 使 たち」である[ 詩 篇 103:19~21、 黙 示 録 5:。 預 言 者 ダニエ<br />

ルは、 千 々、 万 々の 天 使 たちを 見 た。 使 徒 パウロは、「 無 数 の 天 使 の 祝 会 」と 言 った<br />

[ダニエル 7:10 参 照 、ヘブル 12:。<br />

彼 らは、 神 の 使 者 として、「いなずまのひらめきのように 速 く」 行 き 来 する[エゼ<br />

キエル 1:。 栄 光 に 輝 き、 迅 速 に 飛 ぶ。 救 い 主 の 墓 に 現 れた 天 使 の 姿 は、「いなずま<br />

のように 輝 き、その 衣 は 雪 のように 真 白 であった」ので、 見 張 りたちは 恐 ろしさのあ<br />

まり 震 えあがって、「 死 人 のようになった」[マタイ 28:3、。 高 慢 なアッスリヤ 人 、<br />

セナケリブが、 神 をののしり、 冒 瀆 した 時 、「その 夜 、 主 の 使 が 出 て、アッスリヤの<br />

陣 営 で 18 万 5 千 人 を 撃 ち 殺 した。」セナケリブの 軍 隊 の「すべての 大 勇 士 と 将 官 、<br />

軍 長 ら」が 滅 ぼされた。「それで 王 は 赤 面 して 自 分 の 国 に 帰 った」[ 列 王 紀 下 19:35、<br />

歴 代 志 下 32:。<br />

379


国 際 協 定<br />

天 使 たちは、 神 の 子 供 たちに 恵 みを 与 えるために 遣 わされる。アブラハムには、 祝<br />

福 の 約 束 を 伝 えるため、ソドムの 門 には、 火 の 破 壊 から 義 人 ロトを 救 い 出 すため、ま<br />

た、 荒 野 で 疲 労 と 飢 えのために 死 ぬばかりになっていたエリヤを 救 うため、 敵 軍 に 包<br />

囲 された 小 さい 町 のまわりに 火 の 馬 と 火 の 戦 車 を 送 ってエリシャを 救 うため、 異 教 の<br />

王 の 宮 廷 で 神 の 知 恵 を 求 め、また、ししの 穴 にえじきとして 投 げ 込 まれたダニエルを<br />

救 うため、ヘロデの 牢 獄 で 死 の 宣 告 を 受 けたペテロを 救 うため、ピリピの 牢 獄 の 囚 人<br />

たちを 救 うため、 夜 、 海 上 で 暴 風 にあったパウロとその 仲 間 を 救 うため、 福 音 を 信 じ<br />

るようにコルネリオの 心 を 開 くため、そして、この 未 知 の 異 邦 人 に 救 いの 使 命 を 伝 え<br />

にペテロを 送 るため、こうしたことのために 天 使 たちは、 各 時 代 において、 神 の 民 の<br />

ために 奉 仕 してきたのである。<br />

キリストに 従 うすべての 者 に 保 護 天 使 がつけられている。これら 天 からの 守 護 者 が、<br />

悪 い 者 の 力 から 義 人 を 守 るのである。このことは、サタン 自 身 も 認 めて、「ヨブはい<br />

たずらに 神 を 恐 れましょうか。あなたは 彼 とその 家 およびすべての 所 有 物 のまわりに<br />

くまなく、まがきを 設 けられたではありませんか」と 言 った[ヨブ 1:9、。 神 がご 自<br />

分 の 民 を 守 られる 方 法 について、 詩 篇 記 者 は、「 主 の 使 は 主 を 恐 れる 者 のまわりに 陣<br />

をしいて 彼 らを 助 けられる」と 言 っている[ 詩 篇 34:。<br />

救 い 主 は、 彼 を 信 じる 者 たちについて、「あなたがたは、これらの 小 さい 者 のひと<br />

りをも 軽 んじないように、 気 をつけなさい。あなたがたに 言 うが、 彼 らの 御 使 たちは<br />

天 にあって、 天 にいますわたしの 父 のみ 顔 をいつも 仰 いでいるのである」と 言 われた<br />

[マタイ 18:。 神 の 子 供 たちに 奉 仕 することを 命 じられた 天 使 たちは、 常 に 神 のみ 前<br />

に 行 くことができるのである。<br />

こうして 神 の 民 は、 暗 黒 の 君 の 欺 瞞 の 力 と 絶 え 間 ない 悪 意 にさらされ、 悪 のあらゆ<br />

る 勢 力 と 戦 う 時 にも 天 使 たちの 絶 えざる 保 護 が 保 証 されている。 必 要 がなければ、こ<br />

のような 保 証 は 与 えられはしない。 神 がご 自 分 の 子 供 たちに、 恵 みと 保 護 の 約 束 をお<br />

与 えになったということは、 当 面 すべき 強 力 な 悪 の 勢 力 —— 無 数 の、 断 固 たる、 疲 れ<br />

を 知 らぬ 勢 力 であって、その 悪 意 と 力 について 無 知 であったり 無 関 心 でいては、だれ<br />

1 人 安 全 ではありえない——があるからである。<br />

悪 霊 たちは、 最 初 、 罪 のないものとして 創 造 され、その 性 質 と 力 と 栄 光 において、<br />

今 神 の 使 いをしている 聖 なる 存 在 者 たちと 同 等 であった。しかし、 罪 のために 堕 落 し<br />

て、 彼 らは、 神 のみ 名 を 汚 し 人 間 を 破 滅 さ せるために 団 結 しているのである。 彼 らは<br />

サタンの 反 逆 に 加 担 し、 彼 とともに 天 から 追 放 され、 各 時 代 を 通 じて、 彼 と 協 力 して<br />

神 の 権 威 に 逆 らって 戦 ってきた。 聖 書 には、 彼 らの 同 盟 と 政 府 、 種 々の 階 級 、その 知<br />

380


国 際 協 定<br />

性 と 陰 険 さ、 人 間 の 平 和 と 幸 福 を 破 壊 しようとする 悪 だくみのことが 記 されてい<br />

る。 旧 約 歴 史 にも、 彼 らの 存 在 と 活 動 についての 言 及 が 時 々 見 られる。しかし、 悪 霊<br />

がその 力 を 最 も 著 しくあらわしたのは、キリストがこの 地 上 におられた 時 であった。<br />

キリストは、 人 間 を 贖 うために 考 え 出 された 計 画 を 実 行 するために 来 られた。そして<br />

サタンは、 世 界 の 支 配 権 は 自 分 にあるということを 断 固 として 主 張 することに 決 め<br />

た。<br />

彼 は、パレスチナを 除 く 全 地 に、 偶 像 礼 拝 を 確 立 することに 成 功 していた。キリス<br />

トは、 誘 惑 者 の 支 配 に 完 全 には 服 していない 唯 一 の 国 に、 天 の 光 を 人 々の 上 に 輝 かす<br />

ために 来 られた。ここで、2 つの 対 立 した 勢 力 が、 覇 権 を 争 うことになった。イエス<br />

は、 彼 の 愛 の 手 を 広 げて、 彼 から 赦 しと 平 和 を 受 けるようにと、すべての 者 を 招 かれ<br />

た。 暗 黒 の 軍 勢 は、 自 分 たちの 支 配 には 限 度 があることを 認 め、もしキリストの 任 務<br />

が 成 功 するならば、すぐに 自 分 たちの 支 配 は 終 わることを 知 った。そこでサタンは、<br />

鎖 につながれたししのように、ほえたけり、 人 びとの 心 にも 体 にも、 猛 然 と 力 をふる<br />

った。<br />

人 間 が 悪 霊 につかれるということは、 新 約 聖 書 の 中 にはっきりと 述 べられている。<br />

これに 悩 まされた 人 々は、ただ 単 に 普 通 の 原 因 で 起 きる 病 気 に 苦 しんでいたのではな<br />

かった。キリストは、ご 自 分 が 扱 っておられる 事 態 を 完 全 に 理 解 し、そこに 悪 霊 が 実<br />

際 に 存 在 し 働 いていることを 認 めておられた。 彼 らの 数 と 力 と 凶 悪 さの 顕 著 な 実 例 、<br />

そして 同 時 にキリストの 力 と 恵 みの 顕 著 な 実 例 は、ガダラでの、 悪 霊 につかれた 人 々<br />

のいやしに 関 する 聖 書 の 記 録 に 示 されている。 悪 霊 につかれたこれらの 哀 れな 人 々は、<br />

あらゆる 鎖 を 絶 ち 切 って、もがき 苦 しみ、あわをふいて、 怒 り 狂 い、 大 声 で 叫 びなが<br />

ら、 自 分 たちの 身 を 傷 つけ、 近 づいてくる 人 にはだれにでも 飛 びかかりそうであった。<br />

彼 らの 傷 ついた 血 みどろの 体 と 錯 乱 した 精 神 は、 暗 黒 の 君 が 喜 ぶ 光 景 であった。 彼 ら<br />

にとりついていた 悪 霊 のひとりは、「レギオンと 言 います。 大 ぜいなのですから」と<br />

言 った[マルコ 5:。ローマの 軍 隊 では、レギオンというのは、3000 から 5000 の 人<br />

員 で 構 成 されていた。サタンの 軍 勢 もまた、 隊 を 組 んで 進 軍 し、これらの 悪 霊 の 属 し<br />

ていた 一 隊 は、レギオンほどの 大 きなものであった。<br />

イエスのご 命 令 によって、 悪 霊 は 今 までとりついていた 人 々から 離 れ、 彼 らは 平 静<br />

と 知 性 と 温 順 さを 取 りもどして、 救 い 主 の 足 もとに 静 かに 座 っていた。しかし、 悪 霊<br />

たちは、 豚 の 一 群 を 海 へと 駆 け 下 らせることを 許 された。そして、ガダラの 住 民 たち<br />

は、キリストがお 与 えになった 祝 福 よりこの 損 失 のほうが 重 大 だったので、 天 来 の 医<br />

師 に 退 去 することを 願 った。これは、サタンが 引 き 起 こそうと 企 てたことであった。<br />

彼 らの 損 失 をイエスのせいにして、 人 々に 利 己 的 恐 怖 心 を 起 こさせ、 彼 の 言 葉 を 聞 か<br />

381


国 際 協 定<br />

せまいとしたのである。サタンは、 損 失 や 不 幸 や 苦 難 を、 自 分 と 自 分 の 手 下 たちで 引<br />

き 起 こしておきながら、その 当 然 の 責 めを 負 わず、 常 にそれをキリスト 者 のせいにし<br />

て 非 難 するのである。<br />

しかし、キリストの 目 的 は 妨 害 されなかった。 彼 は、 利 益 のためにこれらの 汚 れた<br />

獣 を 飼 育 していたユダヤ 人 たちへの 譴 責 として、 悪 霊 が 豚 の 群 れを 滅 ぼすことを 許 さ<br />

れた。もしキリストが、 悪 霊 を 抑 制 されなかったならば、 彼 らは、 豚 ばかりでなく、<br />

飼 い 主 たちや 持 ち 主 たちをも 海 に 投 げこんだことであろう。 飼 い 主 たちと 持 ち 主 たち<br />

とがともに 保 護 されたことは、キリストの 力 が 彼 らの 救 いのために、 恵 みのうちに 働<br />

いたからにほかならなかった。さらに、この 事 件 は、 人 間 と 動 物 の 両 方 に 対 するサタ<br />

ンの 残 酷 な 力 を 弟 子 たちに 目 撃 させるために、 起 こることを 許 されたのであった。 救<br />

い 主 は、 彼 の 弟 子 たちが、 彼 らの 当 面 しなければならない 敵 をよく 知 って、その 悪 だ<br />

くみに 欺 かれたり、 敗 北 したりすることがないようにと 望 まれた。 それとともに、そ<br />

の 地 方 の 人 々が、サタンの 束 縛 を 砕 いてその 捕 虜 を 解 放 なさるキリストの 力 を 見 るこ<br />

とが、 彼 のみこころであった。そして、イエスご 自 身 は 去 られたけれども、 驚 くべき<br />

救 いにあずかった 人 々は 残 り、 彼 らに 恵 みをほどこされたイエスの 憐 れみを 宣 べ 伝 え<br />

たのである。<br />

同 様 の 例 が、ほかにも 聖 書 に 記 されている。スロ・フェニキヤの 女 の 娘 は、 悪 霊 に<br />

つかれて 非 常 に 苦 しんでいたが、イエスはみ 言 葉 によって 悪 霊 を 追 い 出 された[マルコ<br />

7:26~30 参 照 ]。「 悪 霊 につかれた 盲 人 で 口 のきけない 人 」[マタイ 12:。たびた<br />

び「 火 の 中 、 水 の 中 に 投 げ 入 れて、 殺 そうと」する 口 をきけなくする 霊 につかれた 子<br />

供 [マルコ 9:17~。 安 息 日 にカペナウムの 会 堂 の 静 けさを 破 った「 汚 れた 悪 霊 につか<br />

れた 人 」[ルカ 4:33~。これらの 人 はみな、 憐 れみ 深 い 救 い 主 にいやされたのである。<br />

ほとんどすべての 場 合 、キリストは、 一 個 の 知 性 をもった 実 在 としての 悪 霊 に 語 りか<br />

けて、とりついている 人 から 出 て、 今 後 苦 しめないようにと 命 じられたのである。カ<br />

ペナウムで 礼 拝 していた 人 々は、 彼 の 偉 大 な 力 を 見 て、「 驚 いて、 互 に 語 り 合 って 言<br />

った、『これは、いったい、なんという 言 葉 だろう。 権 威 と 力 とをもって 汚 れた 霊 に<br />

命 じられると、 彼 らは 出 て 行 くのだ』」[ルカ 4:。<br />

普 通 、 悪 霊 につかれた 者 は 非 常 に 苦 しむものとされているが、その 例 外 もあった。<br />

超 自 然 の 力 を 得 るために、サタンの 影 響 力 を 歓 迎 するものがある。このような 人 々に<br />

は、 悪 霊 との 戦 いはもちろんない。この 種 の 人 々に、 占 いの 霊 につかれた 者 たち、す<br />

なわち、 魔 術 師 シモンや 魔 術 師 エルマ、また、ピリピでパウロとシラスのあとを 追 っ<br />

てきた 娘 などがある。<br />

382


国 際 協 定<br />

聖 書 に 直 接 的 な 多 数 の 証 拠 があるにもかかわらず、 悪 魔 と 悪 天 使 たちの 存 在 と 働 き<br />

を 否 定 する 人 々ほど、 悪 霊 の 力 に 動 かされる 大 きな 危 険 の 中 にある 人 たちはいない。<br />

われわれが 彼 らの 策 略 に 無 知 であるかぎり、 彼 らは、われわれには 想 像 もつかないほ<br />

ど 優 位 にある。 多 くの 者 は、 彼 らの 暗 示 に 耳 をかし、それでいて、 自 分 自 身 の 知 恵 の<br />

命 じるところに 従 っていると 考 える。このために、サタンは、 人 々を 欺 き 滅 ぼすため<br />

に 全 力 で 働 く 世 の 終 末 が 近 づくにつれて、サタンは 存 在 しないという 考 えを 至 る 所 に<br />

広 めるのである。 自 分 と 自 分 のやり 方 とを 隠 すのが、サタンの 手 である。<br />

この 大 欺 瞞 者 が 最 も 恐 れていることは、われわれが 彼 の 策 略 を 見 破 ることである。<br />

彼 は 自 分 の 正 体 と 目 的 を 巧 みに 隠 すために、 嘲 笑 、あるいは 軽 べつぐらいはよいが、<br />

それ 以 上 の 激 しい 感 情 を 人 々に 抱 かせないように、 自 分 を 描 写 させている。 彼 は 自 分<br />

が、こっけいな、あるいは 胸 の 悪 くなるようなもの、ぶかっこうな 半 獣 人 として 描 か<br />

れることを 好 む。またサタンは、 知 力 と 世 知 にたけていると 自 認 する 人 々が 彼 の 名 を<br />

嘲 笑 し 冷 やかすのを 聞 いて、 喜 ぶのである。<br />

「そんなものが 実 際 にいるのか」という 疑 問 が 広 く 発 せられるのは、サタンが 非 常<br />

に 巧 妙 な 仮 面 をかぶってきたためである。また、 宗 教 界 においても、 聖 書 の 明 白 な 証<br />

言 に 矛 盾 する 説 が 一 般 に 受 け 入 れられていることは、 彼 の 成 功 を 証 拠 だてている。そ<br />

して 神 のみ 言 葉 が、 彼 の 悪 意 に 満 ちた 働 きの 例 を 多 数 挙 げて、 彼 のかくれた 力 を 暴 露<br />

し、その 攻 撃 に 対 してわれわれに 警 戒 させているのは、サタンの 力 を 知 らない 者 の 心<br />

は 実 にたやすくサタンに 支 配 されるからである。<br />

もしわれわれが、サタン 以 上 の 贖 い 主 の 力 のうちに、かくれがと 救 いを 得 ていない<br />

ならば、サタンとその 軍 勢 の 力 と 悪 意 とに 恐 怖 を 抱 くのは 当 然 であろう。われわれは、<br />

錠 をかけて 家 の 戸 締 まりをよくし、 生 命 と 財 産 を 悪 人 の 手 から 守 ろうと 気 をつける。<br />

しかしわれわれは、 常 にわれわれに 近 づこうとしている 悪 天 使 のことは、ほとんど 考<br />

えない。われわれはその 攻 撃 に 対 して、 自 分 では 防 御 する 方 法 がないのである。もし<br />

許 されるならば、 彼 らはわれわれの 心 を 狂 わせ、 体 に 変 調 を 起 こさせて 苦 しめ、 財 産<br />

を 破 壊 し 生 命 を 奪 うのである。 彼 らの 唯 一 の 喜 びは、 悲 惨 と 破 壊 である。 神 の 要 求 を<br />

拒 み、サタンの 誘 惑 に 負 ける 者 の 状 態 は、 実 に 恐 ろしく、 神 もついには 彼 らを、 悪 霊<br />

の 支 配 にわたされるようなことになるのである。しかし、 キリストに 従 う 者 は、 常 に<br />

彼 の 保 護 のもとにあって 安 全 である。 力 強 い 天 使 が 天 から 送 られて 彼 らを 守 る。 悪 人<br />

たちは、 神 が 神 の 民 の 周 りに 配 置 された 警 護 を 破 ることができないのである。<br />

383


国 際 協 定<br />

第 32 章 悪 質 な 欺 瞞<br />

約 6000 年 近 くも 続 けられてきたキリストとサタンとの 間 の 大 争 闘 は、まもなく 終<br />

わる。そこでサタンは、キリストが 人 間 のためにしておられる 働 きを 妨 げる 努 力 を 倍<br />

加 し、 魂 を 彼 のわなの 中 に 捕 らえておこうとする。 救 い 主 の 仲 保 のお 働 きが 終 わり、<br />

もはや 罪 のための 犠 牲 がなくなってしまうその 時 まで、 人 々を 悔 い 改 めさせず、 暗 黒<br />

の 中 に 閉 じこめておくことが、サタンのめざすところである。<br />

サタンの 権 力 に 抵 抗 しようとする 特 別 の 努 力 もなく、 教 会 と 世 の 中 に 無 関 心 の 状 態<br />

がみなぎっていれば、サタンは 別 に 気 にとめないのである。というのは、 彼 は 自 分 が<br />

その 意 のままに 捕 らえている 者 たちを 失 う 危 険 がないからである。ところが、 人 の 心<br />

が 永 遠 の 事 柄 に 向 けられ、「わたしは、 救 われるために、 何 をすべきでしょうか」と<br />

魂 が 叫 ぶ 時 、サタンはキリストの 力 に 抵 抗 し、 聖 霊 の 感 化 を 妨 害 しようと 動 き 始 め<br />

る。<br />

ある 時 、 神 の 天 使 たちが 主 のみ 前 に 立 った 時 、サタンもその 中 に 現 れたと 聖 書 に 記<br />

されている[ヨブ 1:6 参 照 ]。それは、 永 遠 の 神 のみ 前 にひざまずくためではなく、<br />

義 人 に 対 する 悪 意 あるたくらみを 進 めるためであった。 同 じ 目 的 をもってサタンは、<br />

人 々が 神 の 礼 拝 のために 集 まる 時 にその 場 に 現 れるのである。 目 にこそ 見 えないが、<br />

サタンは 礼 拝 者 たちの 心 を 支 配 するため、 一 生 懸 命 に 働 いている。サタンは、 老 練 な<br />

将 軍 のように、 前 もって 計 画 をたてる。 神 の 使 命 者 が 聖 書 を 調 べているのを 見 ると、<br />

どのような 使 命 が 人 々に 語 られるかに 注 意 する。そして、その 点 について 彼 が 欺 いて<br />

いる 人 々に、その 使 命 を 聞 かせないように、あらゆる 巧 妙 な 策 略 を 用 いて、 事 情 を 支<br />

配 しようとする。ぜひともその 警 告 を 聞 かねばならない 人 々が、 何 かの 重 要 な 商 用 の<br />

ために 出 向 かなければならないようにしたり、あるいは、 何 かほかの 方 法 で、いのち<br />

からいのちに 至 らせるかおりとなるみ 言 葉 を 聞 くのを 妨 げるのである。<br />

またサタンは、 神 のしもべたちが 人 々の 霊 的 暗 黒 に 心 を 悩 ましているのを 見 る。そ<br />

して 彼 らが、 冷 淡 、 不 注 意 、 怠 惰 などの 魔 力 から 逃 れられるように、 神 の 恵 みと 力 と<br />

を 熱 心 に 祈 り 求 めているのを 聞 く。すると 彼 は、 熱 心 さをもりかえして 策 動 する。す<br />

なわち、 人 々に 食 欲 をほしいままにさせたり、または、 何 かほかのことで 放 縦 な 生 活<br />

をさせたりして 知 覚 をまひさせ、 彼 らが 最 も 学 ばなければならないことを 聞 かせない<br />

ようにしてしまうのである。<br />

人 々に 祈 りを 怠 るようにさせ、 聖 書 の 研 究 もなおざりにするようにさせておけば、<br />

だれでも 彼 の 攻 撃 に 打 ち 負 かされてしまうことを、 彼 はよく 知 っている。そのため、<br />

384


国 際 協 定<br />

彼 は、あらゆる 策 略 をめぐらして、 人 心 を 夢 中 にさせるものを 考 案 する。 神 を 信 じる<br />

と 言 いながら、 真 理 の 研 究 を 続 けないで、 自 分 と 意 見 の 合 わない 人 々の 人 格 の 欠 点 と<br />

か 信 仰 上 の 誤 りとかを 指 摘 することを 自 分 の 義 務 であるかのように 思 っている 人 々が、<br />

いつもいるものである。こうした 人 々は、サタンの 右 腕 ともいうべきである。 兄 弟 を<br />

訴 える 者 たちは、 決 して 少 なくはない。 神 が 働 いておられ、 神 のしもべたちが 真 心 か<br />

ら 神 をあがめている 時 、 彼 らも 休 みなく 活 動 している。 彼 らは、 真 理 を 愛 し 真 理 に 従<br />

っている 者 の 言 行 を、 全 くそうでないかのように 誤 り 伝 え、どんなに 熱 心 でまじめな、<br />

自 己 犠 牲 的 なキリストのしもべたちをも、 欺 かれた 者 であるとか、 人 を 欺 く 者 である<br />

とかいうのである。どんなに 誠 実 で 気 高 い 行 為 の 動 機 も、 真 実 を 曲 げて 非 難 し、 未 経<br />

験 な 者 の 心 に 疑 惑 の 念 を 起 こさせる。 彼 らは、あらゆる 策 を 用 いて、 純 潔 で 正 しい 者<br />

を、 不 潔 で 欺 瞞 的 な 者 であると 思 わせる。<br />

しかし、 彼 らについてだれも 欺 かれる 必 要 はない。 彼 らが、だれの 子 らであって、<br />

だれの 模 範 に 従 い、だれの 業 をしているかは、すぐにわかるのである。「あなたがた<br />

は、その 実 によって 彼 らを 見 わけるであろう」[マタイ 7:。 彼 らの 行 為 は、 毒 舌 をも<br />

って「 兄 弟 らを 訴 える 者 」であるサタンの 態 度 と 似 ている[ 黙 示 録 12:。 大 欺 瞞 者 サ<br />

タンは、 魂 をわなに 落 ち 込 ませるために、あらゆる 種 類 の 誤 りを 伝 えるように 多 くの<br />

手 下 をもっている。すなわち、 滅 びに 陥 れようとしている 人 々のそれぞれの 好 みや 能<br />

力 に 適 した 種 々の 異 端 を 用 意 している。サタンは、 教 会 の 中 に 不 まじめで 悔 い 改 めて<br />

いない 分 子 を 入 りこませて、 疑 惑 と 不 信 の 念 を 助 長 させ、 神 の 働 きの 進 展 を 見 たいと<br />

望 み 自 らもともに 進 歩 したいと 望 む 者 たちのじゃまをする。 神 と 神 のみ 言 葉 に 対 する<br />

真 の 信 仰 はないのに、 真 理 のいくつかの 原 則 に 同 意 し、クリスチャンとして 通 用 して<br />

いる 人 が 多 い。こうして 彼 らは、 彼 らの 誤 りを 聖 書 の 教 理 として 人 々に 伝 えるのであ<br />

る。<br />

人 が 何 を 信 じても、それはさほど 重 要 なことではないという 態 度 は、サタンが 最 も<br />

成 功 を 収 めている 欺 瞞 の 1 つである。 人 が 真 理 を 愛 して、 受 け 入 れる 時 、 真 理 はそれ<br />

を 受 け 入 れた 人 の 魂 を 清 めることをサタンは 知 っている。そのために、 彼 は 絶 えず 偽<br />

教 理 、 作 り 話 、 別 の 福 音 などを 真 理 の 代 わりにしようとしている。 神 のしもべたちは、<br />

最 初 から 偽 りの 教 師 たちと 戦 ってきた。それは 彼 らが 悪 徳 の 人 々であるというだけで<br />

はなくて、 魂 を 危 険 に 陥 れる 偽 りを 説 く 人 々であったからである。エリヤ、エレミヤ、<br />

パウロなどは、 断 固 としてはばかるところなく、 神 のみ 言 葉 から 人 々を 引 き 離 す 者 た<br />

ちと 戦 ったのである。これら 真 理 の 擁 護 者 たちは、 厳 正 な 信 仰 を 軽 視 する 自 由 主 義 に<br />

賛 成 しなかった。<br />

385


国 際 協 定<br />

聖 書 についてあいまいな、 変 わった 解 釈 をしたり、またキリスト 教 界 において、 宗<br />

教 的 信 仰 に 関 して 多 くの 矛 盾 した 説 があったりすることは、 人 心 を 混 乱 させて 真 理 を<br />

見 分 けられないようにするための 大 敵 サタンのしわざである。キリスト 教 会 内 にある<br />

不 和 、 分 裂 は、 自 分 の 気 に 入 った 理 論 を 裏 づけるために 聖 書 を 歪 曲 するという 一 般 的<br />

な 風 習 のせいであることが 非 常 に 多 い。 神 のみこころを 知 ろうとして 謙 遜 に 注 意 深 く<br />

聖 書 を 研 究 しないで、 何 か 変 わった 独 創 的 なものを 発 見 しようとする 者 が 多 い。<br />

誤 った 教 理 や 非 キリスト 教 的 習 慣 を 支 持 するために、 聖 書 の 前 後 関 係 を 考 えずに 1<br />

節 の 半 分 だけを 引 き 離 して 引 用 する 人 々がいるが、その 残 りの 半 分 を 見 れば、 全 く 反<br />

対 の 意 味 になることもある。 彼 らは、 自 分 の 肉 の 欲 をほしいままにするために、へび<br />

のような 狡 猾 さで、 曲 解 された 無 関 係 ないくつかの 聖 句 のかげに、 自 分 の 立 場 を 守 る<br />

のである。このようにして、 神 のみ 言 葉 を 故 意 に 曲 解 する 者 が 多 い 他 方 、 聖 書 の 型 や<br />

象 徴 について 想 像 をたくましくする 者 もある。そのような 人 々は、 聖 書 が 聖 書 自 らの<br />

解 釈 をしているその 証 言 も 無 視 して、 思 いのままに 解 釈 を 下 し、 自 分 たちの 臆 測 を 聖<br />

書 の 教 えであるかのように 説 くのである。<br />

聖 書 の 研 究 は、 祈 りの 精 神 に 満 たされ、 謙 遜 に 教 えを 聞 く 精 神 で 行 われないならば、<br />

難 解 な 聖 旬 はもちろん、やさしいところでも、その 意 味 を 取 り 違 えて 曲 解 してしまう。<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 彼 らの 目 的 に 最 も 役 立 つ 聖 句 を 選 び、 彼 ら 自 身 に 都 合 のよい<br />

解 釈 をして 人 々に 教 える。 一 方 彼 らは、 人 々が 聖 書 を 研 究 して、 尊 い 真 理 を 自 分 で 理<br />

解 する 特 権 をゆるさない。しかし、 聖 書 全 体 は、 書 かれているそのまま 人 々に 与 えら<br />

れなければならない。 聖 書 の 教 えが、このようにはなはだしく 曲 解 されるくらいなら<br />

ば、 聖 書 の 教 えを 全 然 人 々に 与 えない 方 がましである。<br />

聖 書 は、 創 造 主 のみこころを 知 りたいと 願 うすべての 者 を 導 くために 与 えられたも<br />

のである。 神 は 人 々に 預 言 の 確 かな 言 葉 をお 与 えになった。 天 使 だけでなく、キリス<br />

トご 自 身 さえおいでになって、ダニエルとヨハネに、やがて 起 こるべき 事 柄 について<br />

お 知 ら せになった。われわれの 救 いに 関 する 重 要 な 事 柄 は、 神 秘 につつまれたままに<br />

しておかれなかった。それは、まじめに 真 理 を 求 める 者 を 惑 わせ 誤 らせるようには 示<br />

されていない。 預 言 者 ハバククは、 神 の 言 われたことを 次 のように 記 した。「この 幻<br />

を 書 き、これを…… 明 らかにしるし、 走 りながらも、これを 読 みうるようにせよ」[ハ<br />

バクク 2:。<br />

祈 りの 精 神 をもって 聖 書 を 学 ぶすべての 者 に、 神 のみ 言 葉 は 明 らかに 示 され、 真 に<br />

誠 実 な 者 はだれでも、 真 理 の 光 にくることができる。「 光 は 正 しい 人 のために 現<br />

れ……る」[ 詩 篇 97:。 教 会 員 が 隠 れた 宝 を 捜 すように 真 理 を 熱 心 に 探 究 しないなら<br />

386


国 際 協 定<br />

ば、どの 教 会 も 聖 潔 に 進 むことはできない。 人 類 の 敵 がその 目 的 を 達 成 するために 着<br />

々と 働 き 続 けているのに、 人 々は「 寛 大 」という 叫 びによって、サタンの 策 略 に 目 を<br />

くらまされている。サタンが、 聖 書 に 代 えて 人 間 の 思 想 を 置 くことに 成 功 する 時 、 神<br />

の 律 法 は 廃 され、 教 会 は、 自 由 であることを 主 張 しながら、 罪 に 縛 られているのであ<br />

る。<br />

多 くの 者 にとって、 科 学 の 研 究 はわざわいとなっている。 神 は、 科 学 と 技 術 方 面 の<br />

種 々な 発 見 によって 世 界 に 輝 かしい 光 が 注 がれるのをお 許 しになった。しかし、どん<br />

なに 偉 大 な 頭 脳 の 持 ち 主 であっても、その 研 究 が 神 のみ 言 葉 によって 導 かれないなら<br />

ば、 科 学 と 啓 示 の 関 係 を 探 究 するのに 困 難 を 感 じるのである。<br />

物 質 的 および 霊 的 な 面 における 人 間 の 知 識 は、 部 分 的 で、 不 完 全 なものである。だ<br />

から 多 くの 者 は、その 科 学 的 見 解 を、 聖 書 に 述 べられていることと 一 致 させることが<br />

できないのである。 単 なる 学 説 や 推 測 を 科 学 的 事 実 として 受 け 入 れる 者 が 多 い。そし<br />

て 彼 らは、 神 のみ 言 葉 が、いわゆる「 偽 りの『 知 識 』」によってためされなければな<br />

らないと 考 える[Ⅰテモテ 6:。 創 造 主 とそのみ 業 は、 彼 らの 理 解 を 越 えたものである。<br />

ところが 彼 らはそれを 自 然 の 法 則 によって 説 明 できないために、 聖 書 の 歴 史 は 信 頼 で<br />

きないと 考 える。 旧 新 約 聖 書 の 記 録 が 信 頼 に 値 するものであることを 疑 う 者 は、さら<br />

に 1 歩 進 んで、 神 の 存 在 に 関 して 疑 惑 を 抱 き、 無 限 の 力 を 自 然 界 のせいにしてしまう。<br />

彼 らは 錨 を 捨 ててしまった 以 上 、 無 信 仰 という 暗 礁 にのり 上 げてしまうよりほかはな<br />

いのである。<br />

このようにして、 信 仰 から 離 れ、 悪 魔 に 欺 かれる 者 が 多 い 人 間 は、その 創 造 主 より<br />

も 賢 くなろうと 努 めてきた。 人 間 の 哲 学 は、 永 遠 に 啓 示 されることのない 神 秘 を 探 り<br />

出 して 説 明 しようと 試 みてきた。もし 人 々が、 神 がご 自 身 とその 御 目 的 に 関 して 人 間<br />

にあらわされたことだけを 探 り、 理 解 するならば、 彼 らは 主 の 栄 光 と 威 光 と 権 力 とを<br />

知 るとともに、 自 分 自 身 の 小 さなことを 認 め、 自 分 たちと 自 分 たちの 子 らのために 啓<br />

示 されたことに 満 足 するであろう。<br />

神 が 啓 示 しておられないことや、われわれが 理 解 するよう 計 画 してはおられないこ<br />

とを、 人 が 探 り、 推 測 をたくましくするようにすることは、サタンの 欺 瞞 中 の 傑 作 で<br />

ある。ルシファーが 天 上 の 地 位 を 失 ったのも、こうしたことからであった。 彼 は、 神<br />

の 御 目 的 の 秘 密 がすべて 自 分 に 示 されなかったことに 不 満 を 抱 き、 自 分 に 与 えられて<br />

いた 高 い 地 位 の 職 務 に 関 して 示 されたことなどは 全 く 顧 みなかった。 彼 は、 部 下 の 天<br />

使 たちにも 同 じ 不 満 の 念 を 抱 かせて、 堕 落 させてしまった。 今 度 は、 人 の 心 にも 同 じ<br />

精 神 を 吹 き 込 んで、 神 の 直 接 のご 命 令 を 無 視 させようとするのである。<br />

387


国 際 協 定<br />

聖 書 の 明 らかで 率 直 な 真 理 を 受 け 入 れたくない 人 たちは、 自 分 の 良 心 を 鎮 静 するの<br />

に 都 合 のよい 作 り 話 を 絶 えず 求 めるようになる。 霊 的 でなく、へりくだって 自 己 を 犠<br />

牲 にする 必 要 のないような 教 理 であればあるだけ、ますます 一 般 からの 受 けはよいの<br />

である。こうした 人 たちは、 自 分 の 肉 欲 をほしいままにするために、その 知 的 能 力 を<br />

低 下 させているのである。 彼 らは 自 分 が 知 者 だと 思 いあがって、 砕 けた 心 をもって 聖<br />

書 を 探 ることをせず、また 神 の 導 きを 熱 心 に 祈 り 求 めもしないので、ぐ 欺 瞞 に 対 する<br />

防 備 は 何 もない。サタンは、 彼 らの 心 の 欲 求 にいつでも 応 じ、 真 理 の 代 わりに 偽 物 を<br />

つかませる。 法 王 制 が 人 心 を 支 配 した 秘 けつは、ここにあった。そして、 真 理 には 苦<br />

難 の 十 字 架 があるからといってこれを 拒 否 することによって、 新 教 徒 もまた 同 じ 道 を<br />

踏 んでいる。<br />

世 俗 と 歩 調 を 合 わせるために、 便 宜 的 な 都 合 主 義 をとって 神 のみ 言 葉 の 研 究 を 怠 る<br />

者 はみな、 宗 教 的 真 理 の 代 わりにいまわしい 異 端 を 信 じてしまうのである。 故 意 に 真<br />

理 を 拒 む 者 は、ついには、あらゆる 種 類 の 誤 りを 受 け 入 れるようになる。ある 種 の 欺<br />

瞞 は 嫌 悪 する 人 が、 他 の 欺 瞞 は 簡 単 に 受 け 入 れるのである。 使 徒 パウロは、「 自 分 ら<br />

の 救 となるべき 真 理 に 対 する 愛 を 受 けいれな」い 種 類 の 人 々について 次 のように 言 っ<br />

ている。「そこで 神 は、 彼 らが 偽 りを 信 じるように、 迷 わす 力 を 送 り、こうして、 真<br />

理 を 信 じないで 不 義 を 喜 んでいたすべての 人 を、さばくのである」[Ⅱテサロニケ 2:<br />

10~。このような 警 告 は、われわれがどのような 真 理 を 受 け 入 れるかを 十 分 注 意 する<br />

必 要 があることを 示 している。<br />

大 欺 瞞 者 サタンの 働 きの 中 で 最 も 成 功 しているものの 1 つは、 心 霊 術 [ 降 神 術 ]の 欺<br />

瞞 的 な 教 えと 偽 りの 奇 跡 である。 彼 は、 光 の 天 使 を 装 って、 人 が 全 く 予 期 していない<br />

ところに 網 を 張 っている。もし 人 々が、 神 の 書 を 理 解 できるようにと 熱 心 に 祈 りなが<br />

らみ 言 葉 を 研 究 しさえすれば、 彼 らは 暗 黒 の 中 に 放 置 されて 偽 りの 教 理 を 信 じるよう<br />

なことはない。しかし 真 理 を 拒 否 する 時 、 彼 らは 惑 わしの 餌 食 になるのである。<br />

もう 1 つの 危 険 な 誤 りは、キリストの 神 性 を 否 定 する 教 理 である。すなわち、キリ<br />

ストはこの 世 においでになる 前 には 存 在 されなかったという 主 張 である。この 説 は、<br />

聖 書 を 信 じると 表 明 する 多 くの 者 によって 信 じられている。しかしこれは、 救 い 主 が、<br />

ご 自 分 と 天 父 との 関 係 について、またご 自 分 の 神 性 と 先 在 について、 明 言 されたこと<br />

と 全 く 相 反 するものである。これは、 聖 書 を 不 当 に 曲 解 しなければ 受 け 入 れられない<br />

説 である。これは、 贖 いの 業 についての 人 間 の 観 念 を 低 下 させるだけでなく、 聖 書 が<br />

神 の 啓 示 であるという 信 仰 を 危 くするものである。このことによってこの 説 は 一 層 危<br />

険 なものとなり、これに 対 抗 することはますます 困 難 になる。キリストの 神 性 に 関 し<br />

388


国 際 協 定<br />

て 霊 感 によって 書 かれた 聖 書 のあかしを 拒 むならば、その 点 についていくら 議 論 して<br />

もむだである。<br />

なぜなら、どんな 決 定 的 な 議 論 も、 彼 らを 説 得 することはできないからである。<br />

「 生 れながらの 人 は、 神 の 御 霊 の 賜 物 を 受 け 入 れない。それは 彼 には 愚 かなものだか<br />

らである。また、 御 霊 によって 判 断 されるべきであるから、 彼 はそれを 理 解 すること<br />

ができない」[Ⅰコリント 2:。このような 誤 った 考 えを 抱 いている 者 は、キリストの<br />

ご 品 性 とその 働 き、あるいは 人 類 の 贖 罪 という 大 計 画 を、 真 に 理 解 することはできな<br />

い。<br />

さらにまた、 巧 妙 で 有 害 な 誤 りは、サタンとは、 個 性 をもった 者 として 存 在 してい<br />

るのではなくて、 聖 書 の 中 に 彼 の 名 が 用 いられているのは、ただ 人 間 の 邪 悪 な 思 いや<br />

欲 望 をあらわしたものにすぎないという 説 である。キリストの 再 臨 とは 人 が 死 ぬ 時 に<br />

来 られることであると、 一 般 の 講 壇 から 広 く 説 かれているが、これは、キリストが 天<br />

の 雲 に 乗 って 来 られることから 人 の 心 をそらす 策 略 である。「 見 よ、へやの 中 にいる」<br />

とサタンは 長 い 間 言 い 続 けてきた[マタイ 24:23~。そして 多 くの 者 が、こうした 欺<br />

瞞 を 受 け 入 れて 滅 びに 陥 ったのである。<br />

また、この 世 の 知 恵 は、 祈 りは 無 用 であると 教 える。 祈 りに 応 答 などはないと、 科<br />

学 者 たちは 主 張 する。そんなことは、 自 然 の 法 則 に 反 することであって、 奇 跡 である、<br />

そして 奇 跡 などはないというのである。 宇 宙 は 一 定 の 法 則 に 支 配 されていて、 神 ご 自<br />

身 、そうした 法 則 に 反 することは 何 事 もなさらないというのである。このようにして、<br />

神 はご 自 分 の 法 則 に 縛 られていて、その 法 則 を 自 由 に 支 配 することがおできにならな<br />

いかのように 彼 らは 言 う。このような 教 えは、 聖 書 の 証 言 に 反 している。キリストと<br />

その 弟 子 たちによって、 奇 跡 が 行 われなかったであろうか。その 同 じ 憐 れみ 深 い 救 い<br />

主 が、 今 日 も 生 きておられて、ご 在 世 のころと 同 様 に 信 仰 の 祈 りに 喜 んで 耳 を 傾 けて<br />

くださるのである。 自 然 が 超 自 然 と 協 力 するのである。われわれがこのようにして 求<br />

めなければ 与 えられないものが、 信 仰 の 祈 りにこたえて、われわれにさずけられるこ<br />

とが、 神 のご 計 画 の 一 部 である。<br />

キリスト 教 会 の 中 にある 誤 った 教 理 や 奇 怪 な 考 え 方 は 数 えきれないほどである。 神<br />

のみ 言 葉 によって 建 てられた 道 標 の 1 つを 動 かすことによって 生 じる 有 害 な 結 果 は、<br />

計 り 知 れないものがある。あえてこうしたことをする 人 々の 中 で、 真 理 を 1 つだけ 拒<br />

むにとどまるという 例 はほとんどない。 大 多 数 の 者 は 真 理 の 原 則 を 次 々に 覆 していき、<br />

ついには、 事 実 上 無 神 論 者 になってしまうのである。<br />

389


国 際 協 定<br />

俗 受 けのする 神 学 の 誤 りが、 多 くの 者 を 懐 疑 論 者 にしてしまった。これらの 人 々は、<br />

そのようなことがなければ、 聖 書 を 信 じていた 人 々なのである。 人 は 自 分 の 抱 いてい<br />

る 正 義 感 、 慈 悲 、 博 愛 の 精 神 などを 踏 みにじるような 教 理 は、 受 け 入 れることができ<br />

ない。しかも、それが 聖 書 の 教 えであると 説 かれるために、 聖 書 を 神 のみ 言 葉 として<br />

受 け 入 れようとしないのである。<br />

これこそ、サタンが 達 成 しようとねらっている 目 的 である。サタンは 何 よりも、 神<br />

と 神 のみ 言 葉 に 対 する 信 頼 感 を 失 わせようと 望 んでいる。サタンは 懐 疑 主 義 者 の 大 軍<br />

の 首 領 であって、 人 々を 欺 いて 自 分 の 味 方 にしようと 全 力 を 尽 くしている。 疑 うこと<br />

が 流 行 になっている。 聖 書 が、その 著 者 であられる 神 と 同 様 に、 罪 を 責 め、 人 々を 罪<br />

に 定 めるので、 多 くの 者 は、 神 のみ 言 葉 を 不 信 の 念 をもって 見 る。 聖 書 の 要 求 に 服 従<br />

しようとしない 者 は、その 権 威 を 覆 そうとはかる。 彼 らが 聖 書 を 読 み、 説 教 を 聞 くの<br />

は、 聖 書 や 説 教 の 中 に 欠 点 を 見 つけようとするためである。 自 らを 義 とするために、<br />

または、 果 たすべき 義 務 を 怠 った 言 いわけのために、 無 神 論 者 になる 者 も 少 なくない。<br />

高 慢 と 怠 慢 から 懐 疑 的 になる 者 もいる。 彼 らは 安 逸 を 好 むために、 努 力 と 克 己 を 要 す<br />

る 何 か 価 値 のある 働 きを 達 成 することによって 抜 きんでようとはしない。そこで、 聖<br />

書 を 批 評 することによって、すぐれた 知 恵 の 持 ち 主 であるという 名 声 を 得 たいと 思 う<br />

のである。<br />

天 からの 知 恵 によって 光 が 与 えられなければ、 限 りある 人 間 にはわからないことが<br />

多 い。そこに 彼 らは、 批 評 の 機 会 を 見 いだす。 不 信 、 懐 疑 、 無 神 論 の 側 に 立 つことが、<br />

何 か 名 誉 ででもあるかのように 思 っている 者 が 多 い。 彼 らは、いかにも 率 直 をよそお<br />

っているが、 実 は、 自 負 心 高 慢 心 に 駆 られているのである。 他 の 人 の 頭 を 悩 ますよう<br />

な 聖 句 を 見 いだすことに 興 味 を 感 じている 者 が 多 い。 初 めはただの 議 論 好 きから、 反<br />

対 の 側 に 立 って 批 評 したり 理 屈 を 言 ったりする 者 もある。 彼 らはこのようにして 捕 獲<br />

者 の 網 にかかってしまうことを 知 らない。 彼 らは、すでに 公 然 と 不 信 を 表 明 した 以 上 、<br />

あくまでもその 立 場 を 守 らなければならないと 考 える。こうして、 彼 らは 不 信 仰 な 者<br />

と 一 致 し、 自 分 から 天 国 の 門 を 閉 ざしてしまうのである。<br />

神 は、み 言 葉 の 中 に、み 言 葉 が 神 からのものであるという 証 拠 を 十 分 にお 与 えにな<br />

った。われわれの 贖 いに 関 する 大 真 理 は、はっきりと 示 されている。 心 から 求 めるす<br />

べての 者 に 約 束 されている 聖 霊 の 助 けによって、だれでも 自 分 で 理 解 することができ<br />

るのである。 神 は、 人 が 信 仰 をおくことのできる 固 い 基 礎 をお 与 えになっている。<br />

それにしても、 限 りある 人 間 の 知 力 は、 無 限 の 神 のご 計 画 と 御 目 的 とを 十 分 に 悟 る<br />

ことはできない。われわれは、 神 の 深 いことを 窮 め 尽 くすことはできない。 神 がご 自<br />

390


国 際 協 定<br />

身 の 威 光 をおおっておられる 幕 を、 僣 越 にも 引 き 上 げようとしてはならない。 使 徒 は<br />

こう 言 っている。「ああ 深 いかな、 神 の 知 恵 と 知 識 との 富 は、そのさばきは 窮 めがた<br />

く、その 道 は 測 りがたい」[ローマ 11:。われわれは、 限 りない 愛 と 憐 れみが 無 限 の<br />

力 と 結 合 していることを 認 識 できる 程 度 には、 神 が 人 間 を 救 われる 方 法 や 神 の 行 動 の<br />

動 機 について 理 解 することができる。 天 の 父 は、すべてのことを 知 恵 と 義 とによって<br />

行 われるのであるから、われわれは、 不 満 に 思 ったり、 不 信 を 抱 いたりしないで、う<br />

やうやしく 服 従 すべきである。<br />

神 は、われわれが 知 ってよいことだったら、 何 でもご 自 分 の 目 的 を 示 してくださる<br />

であろう。それ 以 上 のことは、 全 能 のみ 手 と、 愛 に 満 ちたみこころにおまかせしなけ<br />

ればならない。 神 は、われわれが 信 ずるに 足 る 十 分 な 証 拠 をお 与 えになっているが、<br />

一 方 また 不 信 に 対 する 口 実 を 全 部 取 り 除 かれるわけではない。 疑 おうと 思 うなら、そ<br />

の 余 地 はいくらでもある。そして、すべての 反 論 が 一 掃 されて 疑 う 余 地 がなくなるま<br />

で 神 の 言 葉 を 受 け 入 れず 従 わないというなら、 決 して 光 にくることはできないのであ<br />

る。 神 への 不 信 は、 新 生 を 経 験 していない 神 に 逆 らう 心 の 当 然 の 結 果 である。しかし、<br />

信 仰 は、 聖 霊 によって 与 えられるものであり、それをたいせつに 育 てるときにのみ 栄<br />

えるものである。だれも 固 い 決 意 をもって 努 力 するのでなければ、 強 い 信 仰 を 持 つこ<br />

とはできない。 不 信 は、 助 長 すれば 深 まっていく。そして 人 々が、 彼 らの 信 仰 を 支 え<br />

るために 神 がお 与 えになった 証 拠 に 思 いをめぐらさずに、 疑 惑 を 抱 き、とがめだてを<br />

するならば、 彼 らの 疑 惑 はますます 深 まっていくのである。<br />

神 の 約 束 を 疑 い、 神 の 恵 みの 確 証 を 信 じない 者 は、 神 のみ 名 を 汚 しているのである。<br />

そして 彼 らは、 人 々をキリストに 引 きつけるのでなくて、 人 々をキリストから 離 反 さ<br />

せがちである。 彼 らは、 広 々と 黒 い 枝 を 広 げて、 他 の 植 物 の 上 に 射 す 日 光 をさえぎり、<br />

その 冷 たい 影 の 中 で 彼 らをしおれて 枯 死 させるところの、 実 を 結 ばぬ 木 のようなもの<br />

である。このような 人 々の 一 生 の 働 きは、 彼 らに 不 利 な 証 言 を 立 て 続 けることであろ<br />

う。 彼 らは、 必 ず 収 穫 をもたらすところの、 疑 惑 と 懐 疑 の 種 をまいているのである。<br />

疑 惑 から 解 放 されることを 心 から 願 う 者 の 取 るべき 道 は、1 つしかない。わからな<br />

いことに 反 問 してつぶやくのをやめて、すでに 自 分 たちの 上 に 輝 いている 光 に 注 意 を<br />

向 けるならば、さらに 大 きな 光 に 浴 することができる。すでに 明 らかにされた 義 務 を<br />

すべて 行 うがよい。そうすれば、 現 在 疑 問 に 思 っていることも 理 解 し、 行 うことがで<br />

きるようになる。<br />

サタンは、 全 く 真 理 としか 思 えないような 偽 物 を 示 すことによって、 真 理 が 要 求 す<br />

る 克 己 と 犠 牲 を 好 まず、 欺 かれることをいとわない 者 たちを、 欺 くことができる。と<br />

391


国 際 協 定<br />

ころが、どんな 犠 牲 を 払 っても 真 理 を 知 りたいと 心 から 願 っている 者 を、たとえ 1 人<br />

といえどもサタンは 自 己 の 権 力 下 におくことはできない。キリストは、 真 理 であり、<br />

「すべての 人 を 照 すまことの 光 があって、 世 にきた」と 言 われている 光 であられる[ヨ<br />

ハネ 1:。 真 理 のみ 霊 が、 人 をすべての 真 理 に 導 くためにつかわされたのである。そ<br />

して、 神 のみ 子 の 権 威 によって 次 のように 宣 言 されている。「 求 めよ、そうすれば、<br />

与 えられるであろう。」「 神 のみこころを 行 おうと 思 う 者 であれば、だれでも、……<br />

この 教 えが……わかるであろう」[マタイ 7:7、ヨハネ 7:。<br />

キリストに 従 う 者 たちは、サタンとサタンの 部 下 たちが、 彼 らに 対 して 何 を 企 てて<br />

いるかをほとんど 知 っていない。しかし、 天 にいます 神 は、これらの 策 略 を 覆 して、<br />

ご 自 分 の 深 遠 なご 計 画 を 完 成 される。 神 は、ご 自 分 の 民 が 火 のような 試 練 にあうこと<br />

をお 許 しになるが、それは、 彼 らの 苦 しみを 見 て 喜 ばれるためではなくて、この 試 練<br />

を 経 ることが、 彼 らの 最 後 の 勝 利 のために 必 要 であるからである。 神 はご 自 分 の 栄 光<br />

のために、 彼 らを 誘 惑 から 守 ることがおできにならないというのは、 彼 らがどんな 悪<br />

のそそのかしにも 耐 えられるようにすることこそ、 試 練 の 目 的 だからである。<br />

神 の 民 が、 心 からへりくだり、 悔 い 改 めた 心 をもって、 彼 らの 罪 を 告 白 して 捨 て 去<br />

り、 信 仰 によって 神 のお 約 束 を 求 めるならば、どのような 悪 人 も 悪 天 使 も、 神 のお 働<br />

きを 妨 げたり、 神 のご 臨 在 をさえぎったりすることはできない。すべての 誘 惑 、すべ<br />

ての 反 対 の 勢 力 は、 公 然 とくるものであろうと、 隠 れたものであろうと、 必 ず 撃 退 す<br />

ることができる。 「これは 権 勢 によらず、 能 力 によらず、わたしの 霊 によるのである」<br />

と「 万 軍 の 主 は 仰 せられる」のである[ゼカリヤ 4:。<br />

「 主 の 目 は 義 人 たちに 注 がれ、 主 の 耳 は 彼 らの 祈 にかたむく。……そこで、もしあ<br />

なたがたが 善 に 熱 心 であれば、だれが、あなたがたに 危 害 を 加 えようか」[Ⅰペテロ 3:<br />

12、。バラムが、 莫 大 な 報 酬 の 約 束 に 誘 われて、イスラエルに 不 利 な 魔 術 を 行 い、 主<br />

に 犠 牲 をささげて 神 の 民 にのろいをかけようとした 時 に、 神 の 霊 は、 彼 が 言 おうとし<br />

ていた 災 いを 言 うことを 許 さなかった。そして、バラムは、 次 のように 言 わなければ<br />

ならなかった。「 神 ののろわない 者 を、わたしがどうしてのろえよう。 主 ののろわな<br />

い 者 を、わたしがどうしてのろえよう。」「わたしは 義 人 のように 死 に、わたしの 終<br />

りは 彼 らの 終 りのようでありたい。」 犠 牲 が 再 びささげられた 時 、この 神 を 敬 わない<br />

預 言 者 は 宣 言 した。「 祝 福 せよとの 命 をわたしはうけた、すでに 神 が 祝 福 されたもの<br />

を、わたしは 変 えることができない。だれもヤコブのうちに 災 のあるのを 見 ない、ま<br />

たイスラエルのうちに 悩 みのあるのを 見 ない。 彼 らの 神 、 主 が 共 にいまし、 王 をたた<br />

える 声 がその 中 に 聞 える。」「ヤコブには 魔 術 がなく、イスラエルには 占 いがない。<br />

神 がそのなすところを 時 に 応 じてヤコブに 告 げ、イスラエルに 示 されるからだ。」そ<br />

392


国 際 協 定<br />

れでも 3 度 祭 壇 が 設 けられて、バラムはもう 1 度 、のろいを 言 おうと 試 みた。しかし<br />

神 の 霊 は、 預 言 者 の、 自 らは 望 まないくちびるを 通 して、 神 の 選 民 の 繁 栄 を 告 げ、そ<br />

の 敵 の 愚 かさと 悪 意 を 譴 責 したのである。「あなたを 祝 福 する 者 は 祝 福 され、あなた<br />

をのろう 者 はのろわれるであろう」[ 民 数 記 23:8、10、20、21、23、24:。<br />

この 時 、イスラエルの 人 々は、 神 に 忠 誠 であった。そして、 彼 らが 神 の 律 法 に 服 従<br />

しているかぎり、 地 上 や 陰 府 [よみ]のどんな 力 も、 彼 らに 打 ち 勝 つことはできなかっ<br />

た。しかし、バラムは、 神 の 民 に 対 して 宣 言 することを 許 されなかったのろいを、 彼<br />

らを 罪 に 誘 惑 することによって、ついに 彼 らの 上 にもたらすことができた。 彼 らが 神<br />

の 戒 めを 破 り、 神 から 離 反 していった 時 に、 彼 らは、 破 壊 者 サタンの 圧 迫 を 受 けるま<br />

まに 放 置 されたのである。<br />

サタンは、キリストのうちに 住 んでいるどんなに 弱 い 魂 でさえも、 暗 黒 の 軍 勢 より<br />

はるかに 強 力 であることをよく 知 っている。 彼 は、もし 自 分 が 公 然 とその 正 体 を 現 し<br />

たりすれば、すぐに 撃 退 されてしまうことをよく 知 っている。そこで、 彼 は、このよ<br />

うな 十 字 架 の 戦 士 たちをその 堅 固 な 要 塞 からさそい 出 すとともに、 伏 兵 を 設 けておい<br />

て、 自 分 の 陣 地 に 入 ってくる 者 をすべて 滅 ぼそうと 待 ちかまえている。へりくだった<br />

心 で 神 によりたのみ、 神 のすべての 戒 めに 服 従 する 者 だけが 安 全 なのである。<br />

祈 りを 怠 っては、1 日 、1 時 間 たりとも 安 全 ではない。 特 にわれわれは 神 のみ 言 葉<br />

を 理 解 する 知 恵 を 祈 り 求 めなければならない。 聖 書 の 中 に、サタンの 策 略 が 示 されて<br />

いる。またそれに 対 抗 する 手 段 も 教 えられている。サタンは 巧 みに 聖 書 を 引 用 し、 彼<br />

自 身 の 解 釈 をほどこして、われわれをつまずかせようとする。われわれは、 謙 遜 な 態<br />

度 で 聖 書 を 学 び、どんな 場 合 にも 神 に 依 存 していることを 忘 れてはならない。こうし<br />

て 常 にサタンの 策 略 に 注 意 する 一 方 、たえず、「わたしたちを 試 みに 会 わせない<br />

で……ください」と 信 仰 をもって 祈 らなければならない。<br />

393


国 際 協 定<br />

第 33 章 人 は 死 んだらどうなるか<br />

人 間 の 歴 史 の 最 初 から、サタンは 人 類 を 欺 こうとする 働 きを 始 めた。 天 で 反 逆 を 起<br />

こしたサタンは、この 世 界 の 住 民 を、 神 の 政 府 に 反 抗 する 彼 の 戦 いに 参 加 させようと<br />

望 んだ。アダムとエバは、 神 の 律 法 に 服 従 して、 完 全 に 幸 福 な 生 活 を 送 っていた。と<br />

ころがそのことは、 神 の 律 法 は 圧 制 的 であるとか、 神 の 被 造 物 の 幸 福 に 反 するもので<br />

あるとか 言 って、サタンが 天 で 主 張 してきたことに 対 して、たえず 不 利 な 証 言 となっ<br />

ていた。そればかりではなく、この 罪 のない 2 人 のために 備 えられた 美 しいホームを<br />

ながめて、サタンはしっと 心 をかきたてられた。 彼 は 人 間 を 堕 落 させようと 決 心 した。<br />

彼 らを 神 から 引 き 離 して、 自 分 の 権 力 下 におき、この 地 球 を 手 に 入 れて、ここに 至 高<br />

者 なる 神 に 反 対 する 王 国 を 建 設 しようとした。<br />

アダムとエバには、この 危 険 な 敵 について 警 告 が 与 えられていたから、サタンがそ<br />

の 本 性 そのままの 姿 を 現 したなら、たちまち 撃 退 されてしまったであろう。だが、 彼<br />

は 効 果 的 に 目 的 を 達 成 するために、 真 意 を 隠 して 秘 密 のうちに 働 いた。 当 時 魅 惑 的 な<br />

姿 をしていたへびを 媒 介 者 に 用 いて、サタンは、「 園 にあるどの 木 からも 取 って 食 べ<br />

るなと、ほんとうに 神 が 言 われたのですか」とエバに 話 しかけた[ 創 世 記 3:。エバが<br />

この 誘 惑 者 と 言 葉 をかわしさえしなかったら、 彼 女 は 安 全 であっただろう。だが 彼 女<br />

は、サタンにかかわり 合 ったために、 彼 の 策 略 に 落 ちてしまった。 今 でも 多 くの 者 が<br />

打 ち 負 かされるのは、このようにしてである。 彼 らは、 神 のご 要 求 について 疑 いを 抱<br />

き、 議 論 する。 彼 らは、 神 のご 命 令 に 従 わないで 人 間 の 説 を 受 け 入 れるが、それは、<br />

偽 装 されたサタンの 策 略 にすぎない。<br />

「 女 はへびに 言 った、『わたしたちは 園 の 木 の 実 を 食 べることは 許 されていますが、<br />

ただ 園 の 中 央 にある 木 の 実 については、これを 取 って 食 べるな、これに 触 れるな、 死<br />

んではいけないからと、 神 は 言 われました。』へびは 女 に 言 った、『あなたがたは 決<br />

して 死 ぬことはないでしょう。それを 食 べると、あなたがたの 目 が 開 け、 神 のように<br />

善 悪 を 知 る 者 となることを、 神 は 知 っておられるのです』」[ 同 3:2~。あなたがた<br />

は 神 のようになって、これまでよりももっとすばらしい 知 恵 をもち、これまでよりも<br />

もっと 高 い 身 分 になることができるだろうと、サタンは 言 明 した。エバは 誘 惑 に 負 け<br />

た。そしてエバに 感 化 されて、アダムも 罪 に 陥 った。 神 の 言 葉 はそのまま 信 じるべき<br />

でないというへびの 言 葉 を、 彼 らは 受 け 入 れた。 彼 らは、 創 造 主 を 信 じないで、 神 が<br />

彼 らの 自 由 を 束 縛 しておられるものと 考 え、 神 の 律 法 を 犯 すことによって、 大 きな 知<br />

恵 と 高 い 地 位 を 得 ようとしたのである。<br />

394


国 際 協 定<br />

しかしアダムは、 罪 を 犯 した 後 、「それを 取 って 食 べると、きっと 死 ぬであろう」<br />

という 言 葉 の 意 味 をどのように 悟 ったであろうか。それは、サタンが 彼 に 信 じさせよ<br />

うとしていたように、もっと 高 い 身 分 に 導 き 入 れられるということであったろうか。<br />

そうだとすれば、 罪 を 犯 すことによって 大 きな 利 益 が 得 られ、サタンは、 人 類 の 恩 人<br />

になったわけである。しかしアダムは、 神 のみ 言 葉 がそういう 意 味 ではなかったこと<br />

を 知 った。 罪 の 刑 罰 として 人 間 はその 取 られたところの 土 へもどらなければならない<br />

と、 神 は 宣 告 された。「あなたは、ちりだから、ちりに 帰 る」[ 同 3:。「あなたがた<br />

の 目 が 開 け」るというサタンの 言 葉 は、 次 のような 意 味 においてのみ 真 実 であった。<br />

すなわち、アダムとエバは、 神 にそむいたあとで、 目 が 開 かれて、 自 分 たちの 愚 かさ<br />

を 悟 った。 彼 らは 悪 を 知 り、 戒 めを 犯 した 苦 い 結 果 を 味 わったのであった。<br />

エデンの 中 央 にいのちの 木 が 生 えていて、その 実 には、 生 命 を 永 続 させる 力 があっ<br />

た。もしアダムが 神 に 従 っていたなら、この 木 に 自 由 に 近 づくことができて、 永 遠 に<br />

生 きたのである。しかし 罪 を 犯 した 時 に、 彼 は、いのちの 木 の 実 を 食 べることができ<br />

なくなり、 死 ぬべきものとなった。「あなたは、ちりだから、ちりに 帰 る」との 神 の<br />

宣 告 は、 生 命 が 完 全 に 断 たれることを 示 している。<br />

服 従 することを 条 件 として 人 間 に 約 束 された 不 死 は、 戒 めにそむいたために 失 われ<br />

た。アダムは、 自 分 が 持 っていないものを 子 孫 に 伝 えることはできなかった。もし 神<br />

が、み 子 の 犠 牲 によって、 不 死 を 与 えてくださらなかったら、 堕 落 した 人 類 に 生 きる<br />

望 みはなかったのである。「すべての 人 が 罪 を 犯 したので、 死 が 全 人 類 にはいり 込 ん<br />

だのである」が、キリストは、「 福 音 によっていのちと 不 死 とを 明 らかに 示 されたの<br />

である」[ローマ 5:12、Ⅱテモテ 1:。しかも 不 死 はキリストによってのみ 獲 得 する<br />

こどができるのである。「 御 子 を 信 じる 者 は 永 遠 の 命 をもつ。 御 子 に 従 わない 者 は、<br />

命 にあずかることがない」とイエスは 言 われた[ヨハネ 3:。だれでも 条 件 に 応 じさえ<br />

すれば、この 貴 重 な 祝 福 を 手 に 入 れることができる。「 耐 え 忍 んで 善 を 行 って、 光 栄<br />

とほまれと 朽 ちぬものとを 求 める 人 に、 永 遠 のいのちが 与 えられ」るのである[ローマ<br />

2:。<br />

アダムに 向 かって、 服 従 することなしに 生 命 を 約 束 したのは、 大 欺 瞞 者 サタンだけ<br />

であった。そして、エデンの 園 でへびがエバに 言 った「あなたは 決 して 死 ぬことはな<br />

いでしょう」という 言 葉 は、 霊 魂 の 不 滅 について 語 られた 最 初 の 説 教 であった。しか<br />

も、サタンの 権 威 だけに 基 づくこの 宣 言 が、キリスト 教 界 の 講 壇 からくり 返 して 叫 ば<br />

れ、そして、われわれの 祖 先 が 受 け 入 れたように、 人 類 の 大 部 分 は、 簡 単 にそれを 受<br />

け 入 れているのである。「 罪 を 犯 す 魂 は 死 ぬ」という 神 の 宣 言 が、 罪 を 犯 す 魂 は 死 な<br />

ないで 永 遠 に 生 きるという 意 味 に 解 されている[エゼキエル 18:。サタンの 言 葉 は 軽<br />

395


国 際 協 定<br />

々しく 信 じながら、 神 のみ 言 葉 はなかなか 信 じようとしない 人 々の 不 思 議 な 迷 妄 には、<br />

驚 かずにはいられないのである。<br />

もし 人 間 が、 堕 落 後 もいのちの 木 に 近 づくことが 許 されたとすれば、 人 間 は 永 遠 に<br />

生 きることになり、こうして 罪 は 永 遠 に 続 いたであろう。しかし、ケルビムと 炎 のつ<br />

るぎが、「 命 の 木 の 道 」を 守 っていたので、アダムの 家 族 の 者 はだれ 1 人 、そのさく<br />

を 越 えて、いのちを 与 える 実 を 食 べることができなかった[ 創 世 記 3:。だから 永 遠 に<br />

生 きる 罪 人 はいないのである。<br />

しかしサタンは、 人 類 の 堕 落 後 、 部 下 の 天 使 たちに 命 じて、 人 間 は 生 まれながらに<br />

不 死 であると 信 じこませるように 努 力 させた。まずこうしたまちがった 考 えを 受 け 入<br />

れさせておいて、 罪 人 は 永 遠 の 不 幸 の 中 に 生 きなければならないものであると 思 い 込<br />

ませるのである。そして 今 度 は、 暗 黒 の 君 は、その 部 下 を 使 って、 神 は 執 念 深 い 暴 君<br />

であるかのようにみせかけ、 神 のみこころを 喜 ばせない 者 はすべて 地 獄 に 投 げ 込 まれ、<br />

永 遠 に 神 の 怒 りを 受 けねばならないのだと 断 言 し、またこのように 彼 らが 永 遠 の 炎 の<br />

中 で、 口 に 言 い 表 せないほどの 苦 しみにもだえているのに、 創 造 主 は 彼 らをながめて<br />

満 足 なさるのだと 断 言 する。<br />

このようにしてサタンは、 自 分 自 身 の 性 質 を、 人 類 の 創 造 主 であり 恵 み 深 い 主 であ<br />

られる 神 の 性 質 であるかのように 思 わせる。 残 酷 さはサタンのものである。 神 は 愛 で<br />

ある。 最 初 の 反 逆 者 によって 罪 が 生 じるまでは、 神 の 創 造 されたものは、すべて 純 潔<br />

で 清 く 美 しかった。 人 間 を 罪 に 誘 惑 し、できれば 滅 ぼしてしまおうとする 敵 はサタン<br />

自 身 である。そして 犠 牲 者 を 確 実 に 手 に 入 れてしまうと、 自 分 が 生 じさせた 滅 びに 狂<br />

喜 する。 彼 はもし 許 されるなら、 全 人 類 をその 網 の 中 に 捕 らえるであろう。もし 神 の<br />

力 が 介 入 しなければ、アダムの 子 らは 1 人 も 逃 れることはできないであろう。<br />

創 造 主 に 対 する 信 頼 感 をゆるがせ、 神 の 統 治 の 賢 明 さと 神 の 律 法 の 正 当 さとを 疑 わ<br />

せて、われわれの 祖 先 に 打 ち 勝 ったサタンは、 今 日 も 同 じようにして、 人 間 を 打 ち 負<br />

かそうとしている。サタンとその 部 下 たちは、 自 分 たちの 悪 意 と 反 逆 を 正 当 化 するた<br />

めに、 神 を 自 分 たち 以 上 に 悪 いお 方 であるかのように 言 う。 大 欺 瞞 者 サタンは、 自 分<br />

の 恐 ろしい 残 酷 さを 天 父 になすりつけて、このような 不 正 な 統 治 者 に 従 おうとしなか<br />

ったために 天 から 追 放 されたことは 非 常 に 不 当 な 扱 いであったと、 見 せかけようとし<br />

ている。 彼 は、 主 の 厳 格 な 命 令 の 下 に 課 せられる 束 縛 と 対 照 的 に、 自 分 の 寛 大 な 支 配<br />

下 で 持 つことのできる 自 由 を 世 の 人 々の 前 に 示 す。こうして 彼 は、 人 々の 心 が 神 に 忠<br />

誠 を 尽 くさないように 誘 惑 することに 成 功 する。<br />

396


国 際 協 定<br />

悪 人 が 死 ぬと 永 遠 の 焦 熱 地 獄 において 火 と 硫 黄 をもって 苦 しめられるという 教 理 や、<br />

この 短 い 地 上 の 生 涯 において 犯 した 罪 のために、 神 が 生 きておられるかぎり 責 め 苦 を<br />

受 けるという 教 理 は、 愛 と 憐 れみの 感 情 や 正 義 感 から 見 て、 実 にいまわしいかぎりで<br />

ある。それにもかかわらずこの 教 理 は 広 く 教 えられて、 今 なお、 多 くのキリスト 教 会<br />

の 信 条 の 中 に 含 まれている。 博 学 なある 神 学 博 士 は、 次 のように 言 った。「 地 獄 の 責<br />

め 苦 の 光 景 は、 永 遠 に 聖 徒 たちの 幸 福 を 増 進 するのである。 同 じ 性 質 を 持 ち、 同 じ 環<br />

境 のもとに 生 まれた 他 の 者 たちが、こうした 悲 惨 な 状 態 に 陥 っているにもかかわらず、<br />

自 分 たちは 特 別 な 恵 みにあずかっているということを 自 覚 する 時 、 彼 らは 自 分 たちが<br />

どんなに 幸 福 であるかを 感 じるのである。」 他 の 者 は、また 次 のように 言 った。「 滅<br />

亡 の 命 令 が、 怒 りの 器 たちの 上 に 永 遠 に 執 行 され、その 苦 しみの 煙 は、 憐 れみの 器 た<br />

ちの 目 の 前 で 永 遠 に 立 ちのぼる。 憐 れみの 器 たちは、こうした 悲 惨 な 者 たちの 運 命 に<br />

陥 ることを 免 れて、アーメン、ハレルヤ! 主 を 賛 美 せよ!というのである。」<br />

神 の 言 葉 のどこに、そのような 教 えが 見 いだされるであろうか。 贖 われて 天 にある<br />

者 たちは、あらゆる 憐 れみと 同 情 の 念 を 失 い、 普 通 の 人 間 の 感 情 さえ 持 たなくなるの<br />

であろうか。 彼 らは、 禁 欲 主 義 者 のように 無 関 心 になり、 未 開 人 のように 残 酷 になる<br />

のであろうか。いや、そうではない。こうしたことは、 神 の 書 の 教 えではない。ここ<br />

に 引 用 したような 意 見 を 表 明 する 人 々は、 学 識 があり、まじめな 人 々であろうが、し<br />

かし、サタンの 詭 弁 にまどわされているのである。<br />

サタンは、 聖 書 の 強 烈 な 表 現 を 彼 らに 曲 解 させ、その 言 葉 を、 創 造 主 ではなくて、<br />

彼 自 身 の 恨 みと 悪 意 で 彩 るのである。「 主 なる 神 は 言 われる、わたしは 生 きている。<br />

わたしは 悪 人 の 死 を 喜 ばない。むしろ 悪 人 が、その 道 を 離 れて 生 きるのを 喜 ぶ。あな<br />

たがたは 心 を 翻 せ、 心 を 翻 してその 悪 しき 道 を 離 れよ。……あなたはどうして 死 んで<br />

よかろうか」[エゼキエル 33:。<br />

もし 仮 に、 神 が 絶 え 間 ない 責 め 苦 を 見 て 喜 びとし、 地 獄 の 炎 の 中 に 閉 じ 込 められて<br />

いる 者 たちの 苦 しみの 叫 びや 悲 鳴 やのろいの 声 を 楽 しみとされるとしたところで、そ<br />

れはいったい 神 にとってなんの 益 になるであろうか。このような 恐 ろしい 叫 びが、 無<br />

限 の 愛 の 神 の 耳 に 音 楽 となるであろうか。 悪 人 が 永 遠 の 責 め 苦 を 受 けることは、 神 が<br />

罪 を、 宇 宙 の 平 和 と 秩 序 を 乱 す 悪 として 憎 悪 されることを 示 すものであると、 主 張 さ<br />

れている。ああ、これはなんという 冒 瀆 であろう。 罪 に 対 する 神 の 憎 悪 が、それを 永<br />

続 させる 理 由 であるかのように 言 われている。これらの 神 学 者 の 教 えによるならば、<br />

憐 れみを 受 ける 望 みもなく 永 遠 の 責 め 苦 にあうことは、その 哀 れな 苦 悩 者 たちを 狂 気<br />

に 陥 れ、そして 彼 らが 怒 り 狂 ってのろいと 冒 瀆 の 言 葉 を 吐 く 時 、 彼 らは 自 分 たちの 罪<br />

397


国 際 協 定<br />

の 量 を 永 遠 に 増 し 加 えているのである。しかし、このようにして 永 遠 にわたって 罪 を<br />

増 し 加 えていっても、 神 の 栄 光 は 決 して 高 揚 されるものではない。<br />

永 遠 の 責 め 苦 という 邪 説 が 及 ぼした 害 悪 は、とうてい 人 間 の 知 力 でははかり 知 るこ<br />

とができない。 愛 と 恵 みに 満 ち、 憐 れみに 富 んだ 聖 書 の 宗 教 が、 迷 信 によって 暗 くさ<br />

れ、 恐 怖 でおおわれている。サタンが、 神 の 品 性 をどんなに 誤 った 色 彩 で 彩 ってきた<br />

かを 考 えるとき、 人 々が 恵 み 深 い 創 造 主 を 恐 れ、 憎 みさえするのも、 不 思 議 ではない<br />

のである。 教 会 の 説 教 壇 から 説 かれて、 今 日 全 世 界 に 広 がっている 神 に 関 する 恐 ろし<br />

い 見 解 は、 幾 千 、いや 幾 百 万 の 人 々を、 懐 疑 論 者 や 無 神 論 者 にしたのである。<br />

この 永 遠 責 め 苦 説 は、バビロンがすべての 国 民 に 飲 ませる 憎 むべき 酒 といわれてい<br />

る 偽 りの 教 理 の 1 つである[ 黙 示 録 14:8、17:2 参 照 ]。キリストの 牧 師 たちが、こ<br />

の 邪 説 を 受 け 入 れて、 説 教 壇 から 語 るということは、ほんとうに 不 思 議 である。 彼 ら<br />

はこれを、 偽 りの 安 息 日 と 同 様 に、ローマから 受 け 継 いだのである。<br />

確 かに、これは、 偉 大 で 善 良 な 人 々によって 教 えられてきた。しかし 彼 らには、こ<br />

の 問 題 について、われわれに 与 えられたような 光 が 与 えられてはいなかったのである。<br />

彼 らは、その 時 代 に 輝 いた 光 にだけ 責 任 があった。そしてわれわれは、われわれの 時<br />

代 に 輝 く 光 に 責 任 がある。もしわれわれが、 神 の 言 葉 のあかしを 離 れ、 先 祖 たちが 教<br />

えたものであるからとい う 理 由 で 偽 りの 教 理 を 受 け 入 れるならば、われわれは、バビ<br />

ロンにくだされた 罪 の 宣 告 を 受 ける。われわれはその 憎 むべき 酒 を 飲 んでいることに<br />

なるのである。<br />

永 遠 の 責 め 苦 の 教 理 を 嫌 悪 する 多 くの 人 々は、これと 反 対 の 誤 りに 追 い 込 まれる。<br />

聖 書 に 神 は 愛 と 憐 れみに 満 ちたお 方 として 示 されているので、 被 造 物 を 永 遠 の 焦 熱 地<br />

獄 に 投 げ 込 むとは 信 じることができないのである。しかし、 魂 はもともと 不 死 である<br />

と 信 じられているので、 全 人 類 はついには 救 われると 結 論 するほかはないのである。<br />

聖 書 に 恐 ろしいことが 記 されていても、それは 単 に 人 を 服 従 させるためのおどしであ<br />

って、 文 字 どおりに 実 現 はしないと 思 っている 人 が 多 い。こうして、 罪 人 は 利 己 的 な<br />

快 楽 を 楽 しみ、 神 の 律 法 を 無 視 しても、ついには 神 の 恵 みにあずかることができると<br />

いうことになる。 神 の 恵 みにつけ 込 んだこのような 教 理 は、 神 の 正 義 を 無 視 し、 肉 の<br />

心 を 喜 ばせ、 大 胆 に 罪 を 犯 させるようになる。<br />

万 人 は 救 われると 信 じる 人 々が、 魂 を 破 滅 に 陥 れるこの 教 理 を 支 持 するために、 聖<br />

書 をどのように 曲 解 するかを 示 すためには、 彼 ら 自 身 が 言 っていることを 引 用 すれば<br />

十 分 であろう。 事 故 のために 即 死 したところの、 神 を 信 じていなかった 一 青 年 の 葬 式<br />

において、 普 遍 救 済 論 者 [ユニバーサリスト]の 牧 師 は、ダビデに 関 する 次 の 聖 句 を 引<br />

398


国 際 協 定<br />

用 した。「 彼 は、アムノンが 死 んだのを 見 て、アムノンに 関 しては 気 持 ちが 落 ち 着 い<br />

た」[サムエル 下 13:39・ 英 語 訳 ]。 説 教 者 は 次 のように 言 った。「わたしは、 罪 の<br />

うちにこの 世 を 去 る 人 々、 酩 酊 状 態 のまま 死 ぬ 人 、その 着 物 に 罪 の 赤 いしみを 残 した<br />

ままで 死 ぬ 人 、または、この 青 年 のように、 信 仰 を 告 白 せず、 宗 教 生 活 の 経 験 を 持 た<br />

ないで 死 ぬ 人 の 運 命 について、よく 質 問 を 受 ける。われわれは 聖 書 でもって 満 足 して<br />

いる。 聖 書 の 解 答 が、 恐 ろしい 問 題 に 解 決 を 与 える。アムノンは、 非 常 に 罪 深 かった。<br />

彼 は 悔 い 改 めなかった。そして、 酒 に 酔 い、 酩 酊 状 態 のまま 殺 された。ダビデは、 神<br />

の 預 言 者 であった。 彼 は、アムノンが 来 世 において、 幸 福 になるか 不 幸 になるかを 知<br />

っていたにちがいない。 彼 の 心 境 についてなんと 言 われているであろうか。『 王 は 心<br />

に、アブサロムに 会 うことを、せつに 望 んだ。 彼 はアムノンが 死 んだのを 見 て、アム<br />

ノンに 関 しては 気 持 ちが 落 ち 着 いたからである。』<br />

この 言 葉 から、どんな 結 論 が 得 られるであろうか。ダビデは 永 遠 の 苦 しみを 信 じて<br />

いなかったのではなかろうか。われわれはそう 考 える。そして、 最 後 には 普 遍 的 な 純<br />

潔 と 平 和 が 来 るという、さらに 喜 ばしくさらに 高 尚 で 慈 愛 にあふれた 仮 説 を 支 持 する<br />

ところの、 輝 かしい 論 証 をここに 発 見 するのである。 彼 は、 自 分 の 息 子 が 死 んだのを<br />

見 て、 気 持 ちが 落 ち 着 いた。それは、なぜであるか。それは、 彼 が 予 言 的 眼 をもって、<br />

輝 かしい 将 来 をながめ、 息 子 がすべての 誘 惑 から 遠 く 引 き 離 され、 束 縛 から 解 放 され<br />

て、 罪 の 汚 れから 清 められ、そして、 十 分 に 清 めと 光 を 与 えられた 後 で、 昇 天 して、<br />

天 の 喜 びにあずかっている 霊 魂 の 群 れに 入 れられるのを 見 ることができたからである。<br />

彼 の 唯 一 の 慰 めは、 彼 の 愛 する 息 子 が、 現 在 の 罪 と 苦 悩 の 状 態 から 取 り 去 られて、 聖<br />

霊 の 高 貴 ないぶきが 彼 の 暗 くなった 心 にそそがれるところに 行 き、 彼 の 心 が 天 の 知 恵<br />

と 永 遠 の 愛 の 喜 びに 対 して 開 かれて、こうして、 清 い 性 質 を 与 えられて、 天 の 嗣 業 の<br />

休 息 と 交 わりに 入 ることであった。<br />

こう 考 える 時 に、 天 国 の 救 いは、 人 間 がこの 地 上 でなし 得 ることや、 今 心 を 変 化 さ<br />

せること、あるいは、 今 何 を 信 じ、どんな 信 仰 を 告 白 するかなどによらないと、われ<br />

われが 信 じていることも、 理 解 してもらえるであろう。」 こうして、キリストの 牧 師<br />

と 称 している 人 が、エデンでへびが 言 った「あなたがたは 決 して 死 ぬことはないでし<br />

ょう。」「それを 食 べると、あなたがたの 目 が 開 け、 神 のように 善 悪 を 知 る 者 となる」<br />

という 偽 りをくり 返 している。 彼 は、 極 悪 の 罪 人 たち、すなわち、 人 を 殺 し、 盗 み、<br />

姦 淫 を 行 う 人 々が、 死 後 、 永 遠 の 祝 福 にあずかる 準 備 をすることができるというので<br />

ある。<br />

この 聖 書 の 曲 解 者 は、 何 を 根 拠 にして、こういう 結 論 に 達 するのであろうか。それ<br />

は、 神 の 摂 理 に 対 するダビデの 服 従 をあらわしている 1 つの 文 章 からである。「 王 は<br />

399


国 際 協 定<br />

心 に、アブサロムに 会 うことを、せつに 望 んだ。 彼 はアムノンが 死 んだのを 見 て、ア<br />

ムノンに 関 しては 気 持 ちが 落 ち 着 いたからである。」 彼 の 激 しい 悲 哀 は、 時 がたつに<br />

つれて、やわらげられ、その 思 いは、 死 んだ 息 子 から、 生 きている 息 子 に、すなわち、<br />

自 分 の 犯 罪 の 当 然 の 罰 を 恐 れて 逃 亡 した 息 子 に 向 けられたのであった。ところが、こ<br />

れが、 近 親 相 姦 の 罪 を 犯 し、 酒 に 酔 ったアムノンが、 死 んだ 時 に 直 ちに 幸 福 な 住 居 に<br />

移 され、そこで 清 められて、 罪 のない 天 使 たちとの 交 わりに 入 る 準 備 をするというこ<br />

との、 証 拠 だというのである。これは、まことに、 肉 の 心 を 満 足 させるのに 都 合 のよ<br />

い 快 い 作 り 話 である。これは、サタン 自 身 が 作 り 出 した 教 義 であって、 効 果 的 にサタ<br />

ンの 働 きをしている。こういう 教 えがあるのであるから、 罪 悪 が 満 ちても 驚 くにはあ<br />

たらないのである。<br />

この 1 人 の 偽 教 師 の 行 ったことは、 他 の 多 くの 人 々のしていることの 一 例 である。<br />

多 くの 場 合 、 聖 書 本 来 の 解 釈 とは 全 く 正 反 対 の 意 味 となるような 数 語 を、 文 脈 を 無 視<br />

して 聖 書 から 切 り 離 す。そして、このようにして 切 り 離 された 聖 句 が 曲 解 されて、 神<br />

の 言 葉 に 基 づかない 教 理 の 証 拠 に 用 いられる。 酒 に 酔 ったアムノンが、 天 国 にいる 証<br />

拠 として 引 用 された 証 言 は、 酒 に 酔 う 者 は 神 の 国 をつぐことはないという、 明 確 で 否<br />

定 することのできない 聖 書 の 言 葉 に 全 く 相 反 する 推 論 にすぎない[Ⅰコリント 6:10<br />

参 照 ]。このようにして、 疑 う 人 々、 信 じない 人 々、 懐 疑 論 者 たちは、 真 理 を 偽 りにし<br />

てしまうのである。そして、 多 くの 人 々が、 彼 らの 詭 弁 に 欺 かれて、 肉 の 生 活 に 安 ん<br />

じ、 惰 眠 をむさぼっている。<br />

もしだれでも、 死 ねばすぐその 魂 が 天 に 行 くのなら、 生 きているよりは、 死 んだほ<br />

うが 望 ましく 思 われることであろう。こうしたことを 信 じた 結 果 、 自 分 の 生 命 を 断 っ<br />

たものも 多 いのである。 困 難 や 悩 みや 失 望 に 陥 った 場 合 、もろい 生 命 の 糸 を 断 ち 切 っ<br />

て、 永 遠 の 世 界 の 幸 福 へと 舞 いあがることが、いかにもやさしいことのように 思 われ<br />

るのである。<br />

神 の 律 法 を 犯 す 者 は 必 ず 罰 を 受 けるということは、 神 がみ 言 葉 の 中 にはっきりと 証<br />

拠 を 与 えておられる。 神 は 恵 み 深 いお 方 であるから、 罪 人 を 罰 するようなことはなさ<br />

らないと 思 い 込 んでいる 者 は、ただカルバリーの 十 字 架 をながめて 見 るとよい。 汚 れ<br />

のない 神 のみ 子 の 死 が、「 罪 の 支 払 う 報 酬 は 死 である」ことと、 神 の 律 法 を 犯 せばそ<br />

れに 相 当 する 報 いがあることとの、 証 拠 である。 罪 のないキリストが、 人 のために 罪<br />

となられた。 罪 を 負 い、 天 父 のみ 顔 をかくされて 見 ることができず、ついに、キリス<br />

トの 心 臓 は 破 裂 し、その 生 命 は 砕 かれたのである。こうした 犠 牲 は、すべて、 罪 人 が<br />

贖 われるために 払 われたのである。 他 のどんな 方 法 によっても、 人 は 罪 の 刑 罰 から 救<br />

400


国 際 協 定<br />

われることはできない。このような 価 を 払 って 備 えられた 贖 いにあずかることを 拒 否<br />

する 者 は、 犯 した 罪 の 刑 罰 を 自 分 の 身 に 負 わなければならない。<br />

普 遍 救 済 論 者 [ユニバーサリスト]が、 幸 福 な 聖 天 使 として 天 国 に 入 れている、 不 信<br />

仰 の 者 や 悔 い 改 めない 人 々について、 聖 書 はさらになんと 教 えているかを 考 えてみよ<br />

う。 「かわいている 者 には、いのちの 水 の 泉 から 価 なしに 飲 ませよう」[ 黙 示 録 21:。<br />

この 約 束 は、かわく 者 にだけ 与 えられている。 命 の 水 の 必 要 を 感 じ、 他 のすべてのも<br />

のを 失 ってもそれを 求 める 者 だけが、 満 たされるのである。「 勝 利 を 得 る 者 は、これ<br />

らのものを 受 け 継 ぐであろう。わたしは 彼 の 神 となり、 彼 はわたしの 子 となる」[ 同<br />

21:。ここにも、 条 件 が 明 示 されている。すべてのものを 受 け 継 ぐためには、 罪 に 抵<br />

抗 して 勝 利 しなければならないのである。<br />

主 は、 預 言 者 イザヤによって、こう 言 われる。「 正 しい 人 に 言 え、 彼 らはさいわい<br />

であると。 彼 らはその 行 いの 実 を 食 べるからである。」「 悪 しき 者 はわざわいだ、 彼<br />

は 災 をうける。その 手 のなした 事 が 彼 に 報 いられるからである」[イザヤ 3:10、。<br />

また、「 罪 びとで 100 度 悪 をなして、なお 長 生 きするものがあるけれども、 神 をかし<br />

こみ、み 前 に 恐 れを いだく 者 には 幸 福 があることを、わたしは 知 っている。しかし 罪<br />

人 には 幸 福 がない」と 賢 者 は 言 っている[ 伝 道 の 書 8:12、。そしてパウロも、 次 のよ<br />

うに 証 言 している。 罪 人 は、「 神 の 正 しいさばきの 現 れる 怒 りの 日 のために 神 の 怒 り<br />

を、 自 分 の 身 に 積 んでいるのである。」「 神 は、おのおのに、そのわざにしたがって<br />

報 いられる。」「 悪 を 行 うすべての 人 には、…… 患 難 と 苦 悩 とが 与 えられ[る]」[ロー<br />

マ 21:5、6、。<br />

「すべて 不 品 行 な 者 、 汚 れたことをする 者 、 貪 欲 な 者 、すなわち、 偶 像 を 礼 拝 する<br />

者 は、キリストと 神 との 国 をつぐことができない」[エペソ 5;。「すべての 人 と 相 和<br />

し、また、 自 らきよくなるように 努 めなさい。きよくならなければ、だれも 主 を 見 る<br />

ことはできない」[ヘブル 12:。「いのちの 木 にあずかる 特 権 を 与 えられ、また 門 を<br />

とおって 都 にはいるために、 自 分 の 着 物 を 洗 う 者 たちは、さいわいである。 犬 ども、<br />

まじないをする 者 、 姦 淫 を 行 う 者 、 人 殺 し、 偶 像 を 拝 む 者 、また、 偽 りを 好 みかつこ<br />

れを 行 う 者 はみな、 外 に 出 されている」[ 黙 示 録 22:14、。<br />

神 は、 神 の 品 性 と 神 が 罪 を 処 理 される 方 法 とを、 人 間 に 宣 言 された。「 主 、 主 、あ<br />

われみあり、 恵 みあり、 怒 ることおそく、いつくしみと、まこととの 豊 かなる 神 、い<br />

つくしみを 千 代 までも 施 し、 悪 と、とがと、 罪 とをゆるす 者 、しかし、 罰 すべき 者 を<br />

ば 決 してゆるさず」[ 出 エジプト 34:6、。「 主 は…… 悪 しき 者 をことごとく 滅 ぼされ<br />

ます。」「 罪 を 犯 す 者 どもは 共 に 滅 ぼされ、 悪 しき 者 の 子 孫 は 断 たれる」[ 詩 篇 145:<br />

401


国 際 協 定<br />

20、37:。 神 の 政 府 の 権 力 と 権 威 とが、 反 逆 を 鎮 圧 するために 用 いられる。しかし、<br />

あらゆる 応 報 ・ 処 罰 の 執 行 は、 恵 み 深 く 忍 耐 強 い、 慈 悲 に 富 んだお 方 としての 神 の 品<br />

性 と 完 全 に 調 和 するのである。<br />

神 は、どんな 人 の 意 志 または 判 断 をも 強 制 なさらない。 神 は、 奴 隷 的 服 従 をお 喜 び<br />

にならない。 神 は、 神 のみ 手 に 造 られたものたちが、 愛 するにふさわしいお 方 として<br />

神 を 愛 するよう 望 まれる。 神 は、 彼 らが、 神 の 知 恵 と 正 義 と 慈 愛 とをよく 悟 った 上 で、<br />

神 に 従 うことを 望 まれる。そして、 神 のこうした 性 質 について 正 しい 理 解 を 持 つもの<br />

はみな、 神 の 特 性 に 感 嘆 して 神 に 引 きつけられ、 神 を 愛 するようになるのである。<br />

救 い 主 が 教 え、 模 範 を 示 された、 思 いやりと 憐 れみと 愛 の 原 則 は、 神 のみこころと<br />

品 性 の 写 しである。キリストは、ご 自 分 は 天 父 から 受 けたもののほかは 何 も 教 えない<br />

と 宣 言 された。 神 の 政 府 の 原 則 は、「あなたの 敵 を 愛 せ」という 救 い 主 の 教 えと 完 全<br />

に 調 和 している。 神 は 悪 人 を 処 罰 されるが、それは 宇 宙 の 幸 福 のためであり、 刑 罰 が<br />

下 される 本 人 たちの 幸 福 のためでさえあるのである。 神 は、 神 の 政 府 の 律 法 と 神 の 品<br />

性 の 正 しさとに 調 和 させることができるなら、 彼 らを 幸 福 にしたいと 望 まれる。 神 は<br />

彼 らを、ご 自 分 の 愛 のしるしで 取 り 巻 き、 神 の 律 法 の 知 識 を 彼 らに 与 え、 憐 れみの 招<br />

きを 発 して 彼 らを 追 われる。しかし、 彼 らは、 神 の 愛 を 軽 んじ、 神 の 律 法 を 無 効 にし、<br />

神 の 憐 れみを 拒 むのである。 彼 らは、 絶 えず 神 の 賜 物 を 受 けながら、 与 え 主 である 神<br />

のみ 名 を 汚 す。 彼 らは、 神 が 彼 らの 罪 を 憎 まれることを 知 って、 神 を 憎 むのである。<br />

神 は、 彼 らの 強 情 を 長 く 忍 ばれる。しかし、ついに、 彼 らの 運 命 が 決 まる 決 定 的 な 時<br />

が 来 る。その 時 、 神 は、このような 反 逆 者 たちをご 自 分 の 側 に 縛 りつけられるであろ<br />

うか。 彼 らに、 神 のみこころを 行 うように 強 制 されるであろうか。<br />

サタンを 指 導 者 とし、その 力 に 支 配 されてきた 者 は、 神 の 前 に 出 る 用 意 がない。 高<br />

慢 、 欺 瞞 、 放 蕩 、 残 酷 が、 彼 らの 性 質 になってしまった。 彼 らは、 天 国 に 入 って、こ<br />

の 地 上 で 軽 べつし 憎 んでいた 人 々と、 永 遠 に 住 むことができるであろうか。 真 理 は、<br />

偽 りを 言 う 人 には 決 して 好 まれない。 柔 和 は、 自 尊 心 や 誇 りを 満 足 させない。 純 潔 は、<br />

腐 敗 した 人 には 受 け 入 れられない。 無 我 の 愛 は、 利 己 的 な 者 には、 魅 力 あるものと 思<br />

われない。この 地 上 の 利 己 的 利 益 に 全 く 心 を 奪 われている 者 に、 天 は、どんな 楽 しみ<br />

を 与 えることができるであろうか。<br />

一 生 神 に 反 逆 していた 者 が、 仮 に 急 に 天 国 に 移 さ れて、そこにいつもみなぎってい<br />

る 高 尚 な 清 い 完 全 な 状 態 を 目 撃 したとしよう。どの 人 の 心 も 愛 に 満 たされ、どの 顔 も<br />

喜 びに 輝 き、 神 と 小 羊 をほめたたえる 美 しい 音 楽 が 聞 こえ、み 座 に 座 しておられるお<br />

方 の 顔 からは、 贖 われた 者 たちの 上 に 絶 えず 光 が 照 り 輝 いている。 神 に 対 して 憎 しみ<br />

402


国 際 協 定<br />

を 抱 き、 真 理 と 聖 潔 を 憎 んでいた 者 たちが、ここで、 天 の 群 れに 加 わって 賛 美 の 歌 を<br />

歌 うことができるであろうか。 果 たして 彼 らは、 神 と 小 羊 の 栄 光 に 耐 え 得 るであろう<br />

か。いや、それはできないのである。 彼 らには、 天 国 のために 準 備 をするように 幾 年<br />

もの 恵 みの 期 間 が 与 えられていた。にもかかわらず、 彼 らは 純 潔 を 愛 するように 心 の<br />

訓 練 をしなかった。 彼 らは、 天 国 の 言 語 を 学 ばなかったので、 今 となってはもうおそ<br />

すぎるのである。 神 に 反 逆 した 生 活 が、 彼 らを 天 にふさわしくない 者 にしてしまった。<br />

天 の 純 潔 と 聖 潔 と 平 和 とは、 彼 らにとっては 責 め 苦 となるであろう。 神 の 栄 光 は、 焼<br />

き 尽 くす 火 となるであろう。 彼 らはその 清 い 場 所 から 逃 れたいと 願 うであろう。 彼 ら<br />

を 贖 うために 死 なれたお 方 の 顔 を 避 けるために、 滅 亡 を 歓 迎 するであろう。 悪 人 の 運<br />

命 は、 彼 ら 自 身 の 選 択 によってきまるのである。 彼 らが 天 から 除 外 されるのは、 彼 ら<br />

が 自 ら 進 んでそうするのであり、 神 の 正 義 と 憐 れみによるのである。<br />

大 いなる 日 の 炎 は、ノアの 洪 水 の 水 のように、 悪 人 たちは 直 すことができないとい<br />

う、 神 の 裁 断 を 宣 言 する。 彼 らには、 神 の 権 威 に 服 従 する 気 持 ちがない。 彼 らの 意 志<br />

は 反 逆 に 用 いられてきた。そのために、 死 に 臨 んで、 彼 らの 思 想 の 流 れを 反 対 の 方 向<br />

にむけ、 背 反 から 服 従 へ、 憎 しみから 愛 へと 変 えるには、もはやおそ 過 ぎるのであ<br />

る。 神 は、 殺 人 者 カインの 生 命 を 助 けることによって、 罪 人 を 生 かしてかってきまま<br />

な 罪 の 生 活 を 続 けさせる 結 果 がどうなるかという 実 例 を、 世 界 に 示 された。カインの<br />

教 えと 模 範 の 影 響 によって、 彼 の 子 孫 の 大 群 衆 は 罪 に 誘 われ、ついに「 人 の 悪 が 地 に<br />

はびこり、すべてその 心 に 思 いはかることが、いつも 悪 い 事 ばかり」になった。「 時<br />

に 世 は 神 の 前 に 乱 れて、 暴 虐 が 地 に 満 ちた」[ 創 世 記 6:5、。<br />

神 は、 世 界 を 憐 れんで、ノアの 時 代 の 悪 い 住 民 たちを 一 掃 された。 神 は、 憐 れみの<br />

うちに、ソドムの 堕 落 した 住 民 たちを 滅 ぼされた。 悪 を 行 う 人 々は、サタンの 欺 瞞 の<br />

力 によって、 共 鳴 と 賞 賛 をかちえ、こうして 常 に 他 の 人 々を 反 逆 に 引 き 入 れている。<br />

カインの 時 代 、ノアの 時 代 、そして、アブラハムとロトの 時 代 においてそうであった。<br />

われわれの 時 代 においても 同 様 である。 神 が、 神 の 恵 みを 拒 否 する 人 々を 最 終 的 に 滅<br />

ぼされるのは、 宇 宙 に 対 する 憐 れみからである。<br />

「 罪 の 支 払 う 報 酬 は 死 である。しかし 神 の 賜 物 は、わたしたちの 主 キリスト・イエ<br />

スにおける 永 遠 のいのちである」[ローマ 6:。 義 人 の 嗣 業 は 生 命 であるが、 悪 人 が 受<br />

けるものは 死 である。モーセは、イスラエルに 次 のように 宣 言 した。「 見 よ、わたし<br />

は、きょう、 命 とさいわい、および 死 と 災 をあなたの 前 においた」[ 申 命 記 30:。こ<br />

の 聖 句 の 中 で 言 われている 死 は、アダムに 宣 告 された 死 ではない。なぜなら、 全 人 類<br />

が 彼 の 罪 の 報 いを 受 けているからである。 永 遠 の 生 命 と 対 照 されているのは、「 第 二<br />

の 死 」である。<br />

403


国 際 協 定<br />

アダムの 罪 のために、 死 は 全 人 類 に 及 んだ。だれでも 同 じように 墓 に 下 って 行 く。<br />

そして、 救 いの 計 画 が 設 けられたことによって、すべての 者 が、 墓 からよみがえらせ<br />

られるのである。「 正 しい 者 も 正 しくない 者 も、やがてよみがえる。」「アダムにあ<br />

ってすべての 人 が 死 んでいるのと 同 じように、キリストにあってすべての 人 が 生 かさ<br />

れるのである」[ 使 徒 行 伝 24:15、Ⅰコリント 15:。しかし、よみがえらせられる 2<br />

種 類 の 人 々は、はっきりと 区 別 されている。「 墓 の 中 にいる 者 たちがみな 神 の 子 の 声<br />

を 聞 き、 善 をおこなった 人 々は、 生 命 を 受 けるためによみがえり、 悪 をおこなった 人<br />

々は、さばきを 受 けるためによみがえって、それぞれ 出 てくる 時 が 来 るであろう」[ヨ<br />

ハネ 5:28、。 復 活 に「あずかるにふさわしい」 者 たちは、「さいわいな 者 であり、<br />

また 聖 なる 者 である。」「この 人 たちに 対 しては、 第 二 の 死 はなんの 力 もない」[ 黙 示<br />

録 20:。しかし、 悔 い 改 めと 信 仰 によって 許 しを 受 けなかった 人 々は、 罪 の 刑 罰 すな<br />

わち、「 罪 の 支 払 う 報 酬 」を 受 けなければならない。<br />

彼 らは、「そのしわざに 応 じて」 長 さと 激 しさの 異 なる 刑 罰 を 受 けるが、ついには、<br />

第 二 の 死 に 終 わる。 罪 のうちにある 罪 人 を 救 うことは、 神 の 正 義 と 憐 れみからいって<br />

不 可 能 なために、 神 は 罪 人 からその 存 在 を 剥 奪 される。 彼 は 罪 のゆえに、 生 きる 権 利<br />

を 喪 失 し、 生 きるにふさわしくないことを 証 明 したのである。 霊 感 を 受 けた 筆 者 は 言<br />

っている。「 悪 しき 者 はただしばらくで、うせ 去 る。あなたは 彼 の 所 をつぶさに 尋 ね<br />

ても 彼 はいない。」また 別 の 筆 者 は 宣 言 する。 彼 らは「かつてなかったようになる」<br />

[ 詩 篇 37:10、オバデヤ。 彼 らは、 辱 めを 受 けて、 希 望 のない 永 遠 の 滅 びに 沈 むので<br />

ある。<br />

こうして、 罪 と 罪 の 結 果 であるあらゆる 災 いと 破 滅 が 終 わりを 告 げる。 詩 篇 記 者 は、<br />

「あなたは、…… 悪 しき 者 を 滅 ぼし、 永 久 に 彼 らの 名 を 消 し 去 られました。 敵 は 絶 え<br />

はてて、とこしえに 滅 び」と 言 っている[ 詩 篇 9:5、。 黙 示 録 の 中 で、ヨハネは、 永<br />

遠 の 世 界 を 予 見 し、 不 調 和 な 音 が 1 つもない 全 宇 宙 の 賛 美 の 歌 を 聞 いている。 天 地 の<br />

すべての 被 造 物 が、 神 に 栄 光 を 帰 していた[ 黙 示 録 5:13 参 照 ]。その 時 には、 永 遠 の<br />

刑 罰 を 受 けて 苦 しみながら 神 を 汚 す 失 われた 魂 などいないのである。 地 獄 の 哀 れな 魂<br />

の 叫 びが、 救 われた 者 の 歌 に 混 じることなどないのである。<br />

死 者 に 意 識 があるという 教 理 は、 霊 魂 不 滅 という 根 本 的 な 誤 りに 基 づくものである。<br />

そしてこの 教 理 は、 永 遠 の 責 め 苦 という 教 えと 同 様 、 聖 書 の 教 えに 反 するものであり、<br />

理 性 の 命 じるところにも、 人 間 の 慈 悲 の 心 にも、 相 反 するものである。 一 般 に 信 じら<br />

れているところによれば、 贖 われて 天 にある 者 たちは、 地 上 で 起 きるすべてのことを、<br />

そして 特 に、 彼 らがあとに 残 してきた 友 人 たちの 生 活 を、よく 知 っているというので<br />

ある。しかし、 死 者 が、 生 きている 人 々の 悩 みを 知 り、 自 分 の 愛 する 者 たちの 罪 を 目<br />

404


国 際 協 定<br />

撃 し、 彼 らが 人 生 のあらゆる 悲 哀 、 失 望 、 苦 悩 に 耐 えるのを 見 ることが、どうして 幸<br />

福 の 源 となり 得 ようか。 地 上 の 友 人 たちの 上 をさまよう 者 に、 天 国 の 喜 びがどれだけ<br />

味 わえようか。<br />

また、 息 が 絶 えるとすぐに、 悔 い 改 めなかった 者 の 魂 は 地 獄 の 炎 の 中 に 投 げ 込 まれ<br />

るという 考 えは、なんと 嫌 悪 すべきものであろうか。 自 分 たちの 友 人 が、 不 用 意 のま<br />

ま 墓 にくだり、 永 遠 の 苦 悩 に 陥 るのを 見 る 人 々は、どんなに 激 しい 苦 しみを 味 わうこ<br />

とであろうか。このような 悲 惨 なことを 考 えて、 気 が 狂 ったものも 多 いのである。 こ<br />

うしたことについて、 聖 書 はなんと 言 っているであろうか。ダビデは、 人 間 が 死 んだ<br />

ならば、 意 識 はないと 言 明 している。「その 息 が 出 ていけば 彼 は 土 に 帰 る。その 日 に<br />

は 彼 のもろもろの 計 画 は 滅 びる」[ 詩 篇 146:。ソロモンも 同 じ 証 言 をしている。「 生<br />

きている 者 は 死 ぬべき 事 を 知 っている。しかし 死 者 は 何 事 をも 知 らない。」「その 愛<br />

も、 憎 しみも、ねたみも、すでに 消 えうせて、 彼 らはもはや 日 の 下 に 行 われるすべて<br />

の 事 に、 永 久 にかかわることがない。」「あなたの 行 く 陰 府 [よみ]には、わざも、 計<br />

略 も、 知 識 も、 知 恵 もないからである」[ 伝 道 の 書 9:5、6、。<br />

ヒゼキヤの 祈 りに 答 えて、 彼 の 生 命 が 15 年 延 ばされた 時 、 感 謝 にあふれた 王 は、<br />

神 の 大 いなる 憐 れみに 対 して 賛 美 の 言 葉 をささげた。 彼 は、この 歌 の 中 で、 彼 の 大 き<br />

な 喜 びの 理 由 を 挙 げている。「 陰 府 は、あなたに 感 謝 することはできない。 死 はあな<br />

たをさんびすることはできない。 墓 にくだる 者 は、あなたのまことを 望 むことはでき<br />

ない。ただ 生 ける 者 、 生 ける 者 のみ、きょう、わたしがするように、あなたに 感 謝 す<br />

る」[イザヤ 38:18、。 一 般 にゆきわたっている 神 学 は、 死 んだ 義 人 は 天 国 の 喜 びに<br />

あずかり、 朽 ちることのない 舌 で 神 を 賛 美 していると 言 うのである。しかし、ヒゼキ<br />

ヤは 死 にあたって、そのような 輝 かしい 期 待 を 持 つことはできなかった。 彼 の 言 葉 と<br />

詩 篇 記 者 の 証 言 は 一 致 している。「 死 においては、あなたを 覚 えるものはなく、 陰 府<br />

においては、だれがあなたをほめたたえることができましょうか。」「 死 んだ 者 も、<br />

音 なき 所 に 下 る 者 も、 主 をほめたたえることはない」[ 詩 篇 6:5、115:。<br />

ペテロは、ペンテコステの 日 に、ダビデについて、「 彼 は 死 んで 葬 られ、 現 にその<br />

墓 が 今 日 に 至 るまで、わたしたちの 間 に 残 っている。」「ダビデが 天 に 上 ったのでは<br />

ない」と 言 明 した[ 使 徒 行 伝 2:29、。ダビデが 復 活 の 時 まで 墓 の 中 にとどまっている<br />

という 事 実 は、 義 人 は 死 んだ 時 に 天 に 行 くのではないということを 証 明 している。 復<br />

活 を 経 ることによってはじめて、そしてキリストの 復 活 の 事 実 の 功 績 によって、ダビ<br />

デは、ついに 神 の 右 に 座 すことができるのである。<br />

405


国 際 協 定<br />

パウロも 言 っている。「もし 死 人 がよみがえらないなら、キリストもよみがえらな<br />

かったであろう。もしキリストがよみがえらなかったとすれば、あなたがたの 信 仰 は<br />

空 虚 なものとなり、あなたがたは、いまなお 罪 の 中 にいることになろう。そうだとす<br />

ると、キリストにあって 眠 った 者 たちは、 滅 んでしまったのである」[Ⅰコリント 15:<br />

16~。もしも、4000 年 にわたって、 義 人 が 死 ぬと 直 接 天 国 に 行 っていたとするなら<br />

ば、パウロはどうして、もし 復 活 がないならば「キリストにあって 眠 った 者 たちは、<br />

滅 んでしまった」ということができたのであろうか。もしも、 義 人 が 死 ぬとすぐに 天<br />

国 に 行 ったのであれば、 復 活 は 必 要 ないはずである。<br />

殉 教 者 ティンダルは、 死 者 の 状 態 について 次 のように 言 明 した。「わたしは、 彼 ら<br />

がすでにキリストのような、あるいは、 神 に 選 ばれた 天 使 たちのような、 完 全 な 栄 光<br />

に 入 っているとは 考 えていないことを、はっきり 申 し 上 げる。わたしは 信 仰 の 上 から、<br />

そうは 思 わないのである。なぜならば、もしそうであるとすると、 肉 体 の 復 活 を 説 く<br />

ことはむだであるとしか 思 われないからである。」 1 死 ねば 不 死 の 祝 福 にあずかると<br />

いう 希 望 のために、 聖 書 の 復 活 の 教 理 が 一 般 に 軽 視 されるようになったということは、<br />

否 定 できない 事 実 である。アダム・クラーク 博 士 は、この 傾 向 について、 次 のように<br />

言 った。<br />

「 復 活 の 教 義 は、 現 代 よりは 初 期 のキリスト 者 たちの 間 で、はるかに 重 要 視 されて<br />

いたように 思 われる。これはどうしてであろうか。 使 徒 たちは 絶 えずそれを 力 説 し、<br />

それによって、 熱 心 、 従 順 、 快 活 であるようにと、 信 者 たちを 激 励 していた。それだ<br />

のに、 今 日 の 彼 らの 後 継 者 たちは、そのことをほとんど 言 わない。 使 徒 たちが 説 教 し<br />

たことを 信 者 たちは 信 じた。われわれが 説 教 することを、われわれの 聴 衆 は 信 じるの<br />

である。 福 音 の 教 義 の 中 で、これほど 強 調 されているものはない。しかるに、 現 代 の<br />

説 教 のやり 方 の 中 で、これほど 軽 々しく 扱 われている 教 理 は、ほかにないのである。」<br />

2<br />

このような 状 態 が 続 いて、ついに、 復 活 の 輝 かしい 真 理 はほとんど 隠 され、キリス<br />

ト 教 世 界 から 見 失 われてしまった。こうして、ある 指 導 的 な 宗 教 的 著 作 家 は、Ⅰテサ<br />

ロニケ 4:13~18 のパウロの 言 葉 を 注 解 して、 次 のように 言 うのである。「 主 の 再<br />

臨 という 疑 わしい 教 理 の 代 わりに、 義 人 は 祝 福 された 不 死 が 与 えられるという 教 理 が、<br />

実 際 にわれわれに 慰 めを 与 える。われわれが 死 ぬ 時 に 主 が 来 られるのである。われわ<br />

れはそれを 待 ち 望 み、 見 守 っていなければならない。 死 者 は、すでに 栄 光 に 入 ってい<br />

る。 彼 らは、 審 判 と 祝 福 を 受 けるためにラッパが 鳴 るのを 待 たないのである。」<br />

406


国 際 協 定<br />

しかし、イエスは、 弟 子 たちのもとを 去 るにあたって、 彼 らがすぐにご 自 分 のとこ<br />

ろに 来 るであろうとは 言 われなかった。「あなたがたのために、 場 所 を 用 意 しに 行<br />

く。」「そして、 行 って、 場 所 の 用 意 ができたならば、またきて、あなたがたをわた<br />

しのところに 迎 えよう」と 彼 は 言 われた[ヨハネ 14:2、。パウロはさらに 次 のように<br />

言 っている。「すなわち、 主 ご 自 身 が 天 使 のかしらの 声 と 神 のラッパの 鳴 り 響 くうち<br />

に、 合 図 の 声 で、 天 から 下 ってこられる。その 時 、キリストにあって 死 んだ 人 々が、<br />

まず 最 初 によみがえり、それから 生 き 残 っているわたしたちが、 彼 らと 共 に 雲 に 包 ま<br />

れて 引 き 上 げられ、 空 中 で 主 に 会 い、こうして、いつも 主 と 共 にいるであろう。」そ<br />

して、 彼 は、「これらの 言 葉 をもって 互 に 慰 め 合 いなさい」とつけ 加 えている[Ⅰ<br />

テ サロニケ 4:16~。<br />

こうした 慰 めの 言 葉 と、 前 に 引 用 した 普 遍 救 済 論 者 の 牧 師 の 言 葉 とは、なんと 大 き<br />

な 相 違 があることであろう。 後 者 は、 死 者 がどんなに 罪 深 くあっても、 地 上 で 息 を 引<br />

き 取 った 時 天 使 たちの 間 に 迎 え 入 れられたと 言 って、 友 を 失 って 悲 しむ 人 々を 慰 めた。<br />

しかし、パウロは、 兄 弟 たちに、 来 たるべき 主 の 再 臨 を 示 し、その 時 に、 墓 の 束 縛 が<br />

解 かれて、「キリストにあって 死 んだ 人 々」が 永 遠 の 生 命 によみがえると 言 ってい<br />

る。<br />

だれでも、 祝 福 された 者 の 住 居 に 入 り 得 る 前 に、 調 査 され、その 品 性 と 行 為 が、 神<br />

の 前 で 吟 味 されねばならない。すべての 者 は、 天 の 書 物 に 記 されたことに 従 ってさば<br />

かれ、その 行 為 に 従 って 報 いを 受 ける。この 審 判 は、 死 ぬ 時 に 行 われるのではない。<br />

パウロの 次 の 言 葉 に 注 意 したい。「 神 は、 義 をもってこの 世 界 をさばくためにその 日<br />

を 定 め、お 選 びになったかたによってそれをなし 遂 げようとされている。すなわち、<br />

このかたを 死 人 の 中 からよみがえらせ、その 確 証 をすべての 人 に 示 されたのである」<br />

[ 使 徒 行 伝 17:。 使 徒 パウロは、ここで、ある 一 定 の 時 ——その 当 時 にあっては、ま<br />

だ 将 来 のことであったが——が、この 世 の 審 判 の 時 として 定 められていることを、は<br />

っきりと 述 べた。<br />

ユダは、その 同 じ 時 のことについて、 次 のように 言 っている。「 主 は、 自 分 たちの<br />

地 位 を 守 ろうとはせず、そのおるべき 所 を 捨 て 去 った 御 使 たちを、 大 いなる 日 のさば<br />

きのために、 永 久 にしばりつけたまま、 暗 やみの 中 に 閉 じ 込 めておかれた。」そして<br />

また、 彼 はエノクの 言 葉 を 引 用 している。「 見 よ、 主 は 無 数 の 聖 徒 たちを 率 いてこら<br />

れた。それは、すべての 者 にさばきを 行 うためで」ある[ユダ 6、14、。また、ヨハネ<br />

は 言 っている。「 死 んでいた 者 が、…… 御 座 の 前 に 立 っているのが 見 えた。かずかず<br />

の 書 物 が 開 かれた。…… 死 人 は……この 書 物 に 書 かれていることにしたがって、さば<br />

かれた」[ 黙 示 録 20:。<br />

407


国 際 協 定<br />

しかし、もし 死 者 がすでに 天 国 の 祝 福 にあずかっているのであれば、あるいは 地 獄<br />

の 炎 に 苦 しめられているのであれば、 将 来 の 審 判 は 何 のために 必 要 なのであろうか。<br />

これらの 重 大 な 点 に 関 する 神 の 言 葉 の 教 えは、あいまいでもなければ 矛 盾 してもいな<br />

い。それは 普 通 の 人 の 頭 で 理 解 できるのである。 率 直 な 心 の 持 ち 主 であれば、こうし<br />

た 一 般 の 説 に、 知 恵 と 正 当 性 を 認 めることができるであろうか。 義 人 は、 長 期 間 にわ<br />

たって 神 のみ 前 に 住 みながら、 審 判 の 時 に 調 査 を 受 けて、そのあとで、「 宜 [よ]いか<br />

な、 善 かつ 忠 なる 僕 、…… 汝 の 主 人 の 歓 喜 に 入 れ」[ 文 語 訳 ]と 賞 賛 されるのであろう<br />

か。 悪 人 は、 刑 罰 の 場 から 引 き 出 されて、 全 地 の 審 判 主 から、「のろわれた 者 どもよ、<br />

わたしを 離 れて、 悪 魔 とその 使 たちとのために 用 意 されている 永 遠 の 火 にはいってし<br />

まえ」という 宣 告 を 受 けるのであろうか[マタイ 25:21、。ああ、なんというあざけ<br />

り、 神 の 知 恵 と 正 義 に 対 するなんと 恥 ずべき 非 難 であろう。<br />

霊 魂 不 滅 説 は、ローマが 異 教 から 借 りてきて、キリスト 教 の 中 に 織 り 込 んだ 偽 りの<br />

教 理 の 1 つである。マルチン・ルターは、これを「ローマ 法 王 の 教 書 というはきだめ<br />

の 一 部 をなす、 奇 怪 な 作 り 話 」であると 言 っている。 3 伝 道 の 書 の 中 にある「 死 者 は 何<br />

事 をも 知 らない」というソロモンの 言 葉 に 注 を 加 えて、ルターはこう 言 っている。<br />

「これは、 死 者 には 感 覚 がないというもう 1 つの 証 拠 である。 義 務 もなければ、 科 学<br />

も、 知 識 も、 知 恵 もないとソロモンは 言 っている。 死 者 は 全 く 何 も 感 じないで 眠 って<br />

いると、ソロモンは 判 断 している。 死 者 は、 日 も 年 も 数 えることなく 横 たわっている。<br />

しかし 目 がさめる 時 には、ほんの 一 瞬 眠 ったか 眠 らなかったか、というほどにしか 思<br />

わないであろう。」 4<br />

死 ねば、 義 人 は 天 に 行 き、 悪 人 は 罰 せられるというようなことは、 聖 書 のどこにも<br />

書 いてない。 父 祖 たちや 預 言 者 たちは、そめような 確 証 を 残 さなかった。キリストと<br />

弟 子 たちは、そのような 暗 示 は 何 も 与 えなか った。 死 人 は、すぐに 天 に 行 くものでは<br />

ないと、 聖 書 に 明 らかに 教 えられている。 彼 らは 復 活 まで 眠 っていると 記 されている<br />

[Ⅰテサロニケ 4:14、ヨブ 14:10~12 参 照 ]。 銀 のひもが 切 れ、 金 の 皿 が 砕 ける 時<br />

に、 人 の 思 いはなくなるのである[ 伝 道 の 書 12:6 参 照 ]。 墓 に 下 る 者 は、 何 も 言 わな<br />

い。 日 の 下 に 行 われることは 何 事 も 知 らない[ヨブ 14:21 参 照 ]。 疲 れた 義 人 たちに<br />

とって、それは 幸 福 な 休 息 である。 時 は、 長 かろうと 短 かろうと、 彼 らにとってはほ<br />

んの 一 瞬 間 にすぎない。 彼 らは 眠 っているのである。そして、 神 のラッパによって 呼<br />

び 起 こされて、 輝 く 不 死 が 与 えられるのである。「ラッパが 響 いて、 死 人 は 朽 ちない<br />

者 によみがえらされ、……この 朽 ちるものが 朽 ちないものを 着 、この 死 ぬものが 死 な<br />

ないものを 着 るとき、 聖 書 に 書 いてある 言 葉 が 成 就 するのである。『 死 は 勝 利 にのま<br />

れてしまった』」[Ⅰコリント 15:52~。 深 い 眠 りから 目 ざめた 時 に、 彼 らは、 考 え<br />

408


国 際 協 定<br />

ることをやめたそのところから 考 え 始 める。 最 後 の 感 覚 は 死 の 苦 痛 であった。 最 後 の<br />

思 いは、 自 分 は 死 の 力 に 屈 するのだ、ということであった。しかし、 彼 らが、 墓 から<br />

起 きあがる 時 に、 彼 らの 最 初 の 喜 ばしい 思 いは、「 死 よ、おまえの 勝 利 は、どこにあ<br />

るのか。 死 よ、おまえのとげは、どこにあるのか」という 勝 利 の 叫 び 声 となってひび<br />

くのである[ 同 15:。<br />

409


国 際 協 定<br />

第 34 章 悪 霊<br />

聖 書 に 示 されている 聖 天 使 たちの 奉 仕 は、キリストに 従 うすべての 者 にとって、 最<br />

も 大 きな 慰 めとなる 貴 重 な 真 理 である。しかし、この 点 に 関 する 聖 書 の 教 えは、 一 般<br />

の 神 学 の 誤 りによって 不 明 瞭 にされ、 曲 解 されてきた。 最 初 は 異 教 の 哲 学 からの 借 り<br />

物 で、 大 背 教 の 暗 黒 の 間 にキリスト 教 の 信 仰 の 中 に 混 入 した 霊 魂 不 滅 の 教 えが、 聖 書<br />

にはっきり 教 えられている「 死 者 は 何 事 をも 知 らない」という 真 理 に、 取 って 代 わっ<br />

た。「 仕 える 霊 であって、 救 いを 受 け 継 ぐべき 人 々に 奉 仕 するため、つかわされた」<br />

のは、 死 んだ 者 の 霊 であると、 多 くの 人 々は 信 じるようになった。しかも、 人 間 界 に<br />

死 が 入 る 前 から 天 使 たちは 存 在 し、 人 間 の 歴 史 と 関 係 があったという 聖 書 のあかしが<br />

あるにもかかわらず、 人 々はそう 信 じているのである。<br />

死 んでも 人 には 意 識 があるという 教 え、 特 に、 死 んだ 者 の 霊 が 生 きている 者 に 仕 え<br />

るためにもどってくるという 信 仰 は、 近 代 心 霊 術 [ 降 神 術 ]への 道 を 備 えた。もし 死 ん<br />

だ 者 が、 神 と 聖 天 使 たちとの 前 に 出 ることを 許 され、また 彼 らが 前 に 持 っていたもの<br />

よりはるかに 優 れた 知 識 を 持 つ 特 権 が 与 えられるなら、 彼 らは 生 きている 者 を 啓 発 し<br />

教 えるために、 地 上 に 帰 って 来 ないはずがないのではないか。 一 般 の 神 学 者 たちが 教<br />

えるように、もし 死 んだ 者 の 霊 が 地 上 の 友 人 たちの 周 りをさまよっているなら、 彼 ら<br />

はその 友 人 たちと 連 絡 を 取 り、 悪 事 を 戒 め、あるいは 悲 しみを 慰 めないはずがないの<br />

ではないか。 死 んでも 人 には 意 識 があると 信 ずる 者 は、 栄 化 した 霊 によって 伝 えられ<br />

る 天 来 の 光 として 彼 らに 与 えられるものを、どうして 拒 むことができようか。ここに、<br />

神 聖 なものとみなされている 経 路 [チャンネル]があって、サタンはこの 経 路 を 通 じて<br />

目 的 を 達 成 するために 働 いているのである。<br />

サタンの 命 令 を 行 う 堕 落 天 使 たちが、 霊 界 からの 使 者 として 現 れる。 生 きている 者<br />

が 死 んだ 者 と 連 絡 できるようにすると 公 言 しながら、 悪 の 君 は、 生 きている 者 の 精 神<br />

にその 魅 惑 的 な 感 化 力 を 働 かすのであ る。 サタンは 人 々の 前 に、 彼 らの 死 んだ 友 人<br />

たちの 姿 を 現 す 力 を 持 っている。その 偽 者 は 完 全 である。 見 なれた 表 情 や 言 葉 や 声 の<br />

調 子 などが、 信 じられないほどの 正 確 さをもって 再 現 される。 多 くの 者 は、 自 分 たち<br />

の 愛 する 者 が 天 の 無 上 の 幸 福 を 味 わっていると 信 じて 慰 められる。そして 危 険 を 少 し<br />

も 感 じないで、「 惑 わす 霊 と 悪 霊 の 教 え」に 耳 を 傾 けるのである。<br />

死 んだ 者 が 実 際 に 自 分 たちと 交 わるためにもどって 来 ると 人 々が 信 じるようになる<br />

と、サタンは、 備 えのないまま 墓 にくだった 者 たちを 出 現 させる。 彼 らは、 自 分 たち<br />

は 天 では 幸 福 であり、 高 い 地 位 さえ 占 めていると 公 言 する。そしてこのようにして、<br />

410


国 際 協 定<br />

正 しい 者 と 悪 い 者 との 間 に 違 いはないという 誤 謬 が 広 く 教 えられる。 霊 界 から 来 たと<br />

称 する 者 たちは、 時 には 注 意 や 警 告 を 語 って、それがそのとおりになることがある。<br />

そこで 信 頼 を 得 ると、 彼 らは 聖 書 の 信 仰 を 直 接 侵 害 するような 教 えを 持 ち 出 す。 地 上<br />

にある 友 人 たちの 幸 福 に 対 する 深 い 関 心 を 装 いながら、 彼 らは 最 も 危 険 な 誤 謬 をそれ<br />

となくほのめかす。 彼 らが 幾 つかの 真 理 を 語 り、また 時 には 未 来 のできごとを 預 言 す<br />

ることができるという 事 実 から、 彼 らの 言 葉 には 信 ぴょう 性 があるように 見 える。そ<br />

して 彼 らの 偽 りの 教 えは、あたかも 聖 書 の 最 も 神 聖 な 真 理 であるかのように、 大 衆 に<br />

よってたやすく 承 認 され、 盲 目 的 に 信 じられる。 神 の 律 法 は 退 けられ、 恵 みのみ 霊 は<br />

軽 べつされ、 契 約 の 血 は 清 くないものとみなされる。 霊 たちはキリストの 神 性 を 否 定<br />

し、 創 造 主 さえ 自 分 たちと 同 じ 水 準 に 置 く。このように 新 しい 変 装 の 下 に、 大 反 逆 者<br />

サタンは、 天 において 始 まり、 地 上 において 6000 年 近 く 続 いている、 神 に 対 する 彼<br />

の 戦 いを、 依 然 として 続 けるのである。<br />

多 くの 者 は、 心 霊 現 象 を、 全 く 霊 媒 の 欺 きやからくりであると 説 明 しようと 努 める。<br />

しかし、ごまかしをほんものと 信 じさせた 場 合 がたびたびあったことは 事 実 だが、 一<br />

方 超 自 然 的 な 力 の 著 しい 現 れもまたあったのである。 近 代 心 霊 術 はコツコツたたく 不<br />

思 議 な 音 [ラッピング]から 始 まったのであるが、その 音 は 人 間 のごまかしや 欺 きによ<br />

るのではなく、 悪 天 使 たちの 直 接 の 働 きであった。 彼 らはこのようにして、 魂 を 滅 ぼ<br />

すのに 最 も 効 果 的 な 惑 わしの 1 つを 持 ち 込 んだのである。 多 くの 者 は、 心 霊 術 は 単 な<br />

る 人 間 のごまかしであるという 信 念 によってわなにかかる。というのは、 超 自 然 的 と<br />

思 わないではいられないような 現 象 に 直 面 した 場 合 、 彼 らは 欺 かれ、それを 神 の 偉 大<br />

な 力 として 承 認 するようになってしまうからである。<br />

こうした 人 たちは、サタンとその 代 理 者 たちとによって 行 われる 不 思 議 なことにつ<br />

いての、 聖 書 のあかしを 見 落 としているのである。パロの 魔 術 師 たちが 神 のみ 業 のま<br />

ねをすることができたのは、サタンの 助 けによってであった。パウロは、キリストの<br />

再 臨 の 前 には 同 じようなサタンの 力 の 現 れがあるであろうと 証 言 している。 主 の 来 臨<br />

に 先 だって、「あらゆる 偽 りの 力 と、しるしと、 不 思 議 と、また、あらゆる 不 義 の 惑<br />

わし」を 行 う「サタンの 働 き」がある[Ⅱテサロニケ 2:9、。また 使 徒 ヨハネは、 終<br />

わりの 時 代 に 現 れる、 奇 跡 を 行 う 権 力 を 描 写 して、「また、 大 いなるしるしを 行 って、<br />

人 々の 前 で 火 を 天 から 地 に 降 らせることさえした。さらに、 先 の 獣 の 前 で 行 うのを 許<br />

されたしるしで、 地 に 住 む 人 々を 惑 わした」と 述 べている[ 黙 示 録 13:13、。ここに<br />

されているのは 単 なる 詐 欺 ではない。サタンの 代 理 者 たちが 人 の 目 をごまかして 行 う<br />

ようなことによってではなく、 実 際 に 彼 らが 行 う 力 をもっているその 奇 跡 によって、<br />

人 々は 欺 かれるのである。<br />

411


国 際 協 定<br />

長 い 間 その 熟 達 した 能 力 を 欺 瞞 の 働 きに 注 いできた 暗 黒 の 君 は、あらゆる 階 層 あら<br />

ゆる 状 況 の 人 々に、 彼 の 誘 惑 を 巧 妙 に 当 てはめる。 彼 は、 教 養 のある 上 品 な 人 々に 向<br />

かっては、 心 霊 術 をいっそう 洗 練 された 知 的 なものとして 示 す。こうして 彼 は、 多 く<br />

の 人 々を 自 分 のわなに 引 き 込 むことに 成 功 する。 心 霊 術 が 与 える 知 恵 は、 使 徒 ヤコブ<br />

が「 上 から 下 ってきたもの ではなくて、 地 につくもの、 肉 に 属 するもの、 悪 魔 的 なも<br />

の」と 述 べたものである[ヤコブ 3:。しかし 大 欺 瞞 者 サタンは、 隠 すことが 最 もよく<br />

彼 の 目 的 にかなう 時 には、このことを 隠 すのである。 荒 野 の 試 みの 時 、キリストの 前<br />

に 天 の 使 いの 輝 きを 装 って 現 れることができたサタンは、 人 々の 前 に 光 の 天 使 として<br />

最 も 魅 惑 的 な 様 子 をもって 来 る。 彼 は 高 尚 なテーマを 示 すことによって 理 性 に 訴 える。<br />

また 彼 は、うっとりさせるような 光 景 をもって 空 想 力 を 楽 しませる。また 愛 と 慈 悲 と<br />

を 雄 弁 に 描 いて 愛 情 を 呼 び 起 こす。 彼 は 人 々の 空 想 を 高 く 飛 躍 させ、 人 々が 自 分 たち<br />

の 知 恵 に 大 きな 誇 りを 持 つように 導 き、そしてついには 心 の 中 で 永 遠 なるお 方 を 軽 べ<br />

つするようにさせる。 世 の 救 い 主 を 非 常 に 高 い 山 に 連 れて 行 き、そのお 方 の 前 に 地 上<br />

のすべての 国 々とその 栄 華 を 示 すことができたこの 力 ある 者 は、 神 の 力 によって 守 ら<br />

れていないすべての 者 の 感 覚 を 誤 らせるような 方 法 で、 人 々に 誘 惑 を 仕 掛 けるのであ<br />

る。<br />

サタンは、エデンでエバを 欺 いたように、へつらったり、 禁 じられた 知 識 への 欲 望<br />

をかき 立 てたり、 自 己 を 高 める 野 心 を 起 こさせたりして、 今 も 人 々を 欺 くのである。<br />

彼 が 堕 落 したのは、こうした 悪 を 心 に 抱 いたためであった。そして、 彼 は、これらに<br />

よって、 人 類 を 破 滅 させようとしている。「あなたがた[は]…… 神 のように 善 悪 を 知<br />

る 者 となる」と 彼 は 言 った[ 創 世 記 3:。 心 霊 術 は、「 人 間 は 進 歩 する 生 物 である。 人<br />

間 はその 誕 生 の 時 から、 永 遠 に 向 かい 神 に 向 かって 進 歩 するように 運 命 づけられてい<br />

る」と 教 える。また、「 心 を 判 断 する 者 は、 各 人 の 心 それ 自 身 であって、 他 の 何 者 で<br />

もない。」「その 判 断 は 正 しい。なぜならば、それは 自 己 の 判 断 だからである。……<br />

王 座 は、あなたの 内 にある」とも 言 う。ある 心 霊 術 の 教 師 は、 彼 のうちに「 霊 的 意 識 」<br />

が 起 きた 時 に、「 同 胞 よ、すべての 者 は、 堕 落 しない 半 神 半 人 であった」と 言 った。<br />

また 他 の 者 は、「 正 しく 完 全 な 人 間 は、だれでもキリストである」と 言 っている。<br />

こうしてサタンは、 崇 敬 の 真 の 対 象 である 無 限 の 神 の 義 と 完 全 、また、 人 間 の 到 達<br />

すべき 真 の 標 準 である 神 の 律 法 の 完 全 な 義 の 代 わりに、 罪 深 く 誤 りやすい 人 間 自 身 を、<br />

崇 敬 の 唯 一 の 対 象 とし、 判 断 の 唯 一 の 規 準 、 品 性 の 標 準 とした。これは、 進 歩 ではな<br />

くて、 退 歩 である。 ながめることによって 変 化 するということは、 知 的 方 面 において<br />

も 霊 的 方 面 においても 1 つの 法 則 である。 心 は、いつも 考 えていることに 次 第 に 順 応<br />

するものである。それは、 日 ごろから 愛 し 尊 敬 しているものに、 同 化 していくのであ<br />

412


国 際 協 定<br />

る。 人 は、 自 分 が 立 てた 純 潔 、 善 良 、または 真 理 の 標 準 よりも 高 きに 達 することは 決<br />

してない。もし 自 分 が 最 高 の 理 想 であれば、それ 以 上 の 高 尚 なものに 到 達 することは<br />

決 してできない。いや、かえって 常 に 下 へ 下 へと 落 ちていくのである。ただ 神 の 恵 み<br />

だけが、 人 間 を 高 める 力 を 持 っている。 人 間 は、そのままにしておけば、 必 然 的 に 堕<br />

落 していくのである。<br />

心 霊 術 は、 放 縦 で 快 楽 を 愛 好 し、 肉 欲 的 な 人 々には、 教 養 があって 知 的 な 人 々に 対<br />

するほど 巧 妙 に 偽 装 しなくてもよい。 彼 らは、その 低 劣 な 形 態 の 中 に、 彼 らの 好 みに<br />

合 ったものを 見 つける。サタンは、 人 間 の 性 質 のあらゆる 弱 さの 徴 候 をよく 調 べ、そ<br />

れぞれが 犯 しやすい 罪 に 注 目 し、 悪 の 傾 向 を 満 足 させる 機 会 に 欠 けることのないよう<br />

に 注 意 を 払 う。サタンは 人 々を、それ 自 身 は 正 当 であるものに 過 度 に 陥 らせ、 不 節 制<br />

によって、 彼 らの 肉 体 的 、 精 神 的 、 道 徳 的 能 力 を 低 下 させる。 彼 は、 人 々に 情 欲 をほ<br />

しいままにさせ、こうして 人 間 の 性 質 全 体 を 獣 的 なものにして、これまでに 幾 千 の 人<br />

々を 破 滅 させ、また 今 も 破 滅 に 陥 れつつあるのである。そして 彼 は、 彼 の 働 きを 完 成<br />

させるために、 霊 たちを 通 して、「 真 の 知 識 は、 人 間 をしてすべての 律 法 を 超 越 した<br />

ものとする」、「 存 在 するものは、すべて 正 しい」、「 神 は、 罪 に 定 めることはな<br />

い」、そして、「 犯 した 罪 はすべて 無 罪 である」と 言 うのである。<br />

このようにして、 欲 望 が 最 高 の 律 法 であって、 自 由 は 放 縦 であり、 人 間 はただ 自 分<br />

に 対 する 責 任 しかな いと、 人 々が 考 えるようになれば、 至 るところに 腐 敗 と 堕 落 がは<br />

びこっても 不 思 議 ではないのである。 多 くの 者 は、 肉 の 心 のおもむくままに 自 由 な 行<br />

動 をすることを 許 す 教 えを、 熱 心 に 受 け 入 れるのである。 彼 らは、 肉 の 欲 をほしいま<br />

まにし、 心 と 魂 の 能 力 は、 動 物 的 な 傾 向 に 従 属 するものとなる。そしてサタンは、キ<br />

リストの 弟 子 であると 称 する 幾 千 の 人 々を 彼 の 網 の 中 に 捕 らえて 勝 ち 誇 るのである。<br />

しかし、だれも 心 霊 術 の 偽 りの 主 張 に 欺 かれる 必 要 はない。 神 は、わなを 見 つける<br />

ことができるのに 十 分 な 光 を、 世 の 人 々に 与 えておられる。すでに 示 したように、 心<br />

霊 術 のいちばん 根 底 にある 教 えは、 聖 書 の 最 も 明 瞭 な 言 葉 に 相 反 するものである。 聖<br />

書 には、 死 者 は 何 事 も 知 らない、 彼 らの 思 いは 滅 びた、 彼 らは 日 の 下 に 行 われるどん<br />

なことにもかかわりがない、 彼 らは 地 上 にいる 愛 する 者 たちの 喜 びや 悲 しみを 知 るこ<br />

とはないと、はっきり 述 べられている。<br />

さらに 神 は、いわゆる 死 者 の 霊 との 交 通 と 称 するものを、すべてはっきりと 禁 じて<br />

おられる。ヘブル 人 の 時 代 にも、 今 日 の 心 霊 術 者 と 同 様 に、 死 者 と 交 通 すると 主 張 す<br />

るある 種 の 人 々がいた。しかし、 他 の 世 界 から 来 たといわれている「 口 よせの 霊 」が、<br />

聖 書 には「 悪 鬼 の 霊 」と 断 言 されている[ 民 数 記 25:1~3、 詩 篇 106:28、Ⅰコリン<br />

413


国 際 協 定<br />

ト 10:20、 黙 示 録 16:14 を 比 較 せよ]。 口 よせの 霊 を 呼 ぶことは 神 が 忌 みきらわれ<br />

るものと 明 言 され、 死 の 刑 罰 をもって 厳 しく 禁 じられていた[レビ 19:31、20:27<br />

参 照 ]。 口 よせという 名 称 そのものは、 今 日 では 軽 べつされている。 人 が 悪 霊 と 交 わる<br />

ことができるという 主 張 は、 暗 黒 時 代 の 作 り 話 と 考 えられている。しかし 心 霊 術 は、<br />

幾 十 万 、いや 幾 百 万 の 信 者 をもち、 科 学 者 たちの 仲 間 にも 入 り 込 み、 諸 教 会 に 侵 入 し、<br />

議 会 の 好 意 を 得 、 王 室 にまでも 侵 入 している。この 巨 大 な 欺 瞞 は、 昔 罪 とされ、 禁 じ<br />

られていた 口 よせが、 新 しく 変 装 して 復 活 したものにすぎないのである。<br />

もし 心 霊 術 の 真 の 性 質 についてほかの 証 拠 がないとしても、 霊 というものが 義 と 罪<br />

とを 区 別 せず、キリストの 最 も 気 高 く 純 潔 な 使 徒 たちとサタンの 最 も 堕 落 したしもべ<br />

たちとを 区 別 することをしないということだけで、キリスト 者 たちにとっては 十 分 で<br />

あろう。どんな 卑 劣 な 人 間 であっても、 天 にいて 非 常 にあがめられているということ<br />

を 示 して、サタンは 世 の 人 々に 向 かって 次 のように 言 うのである。「あなたがたがど<br />

んなに 悪 くても、かまわない。 神 と 聖 書 を 信 じようと 信 じまいと 問 題 ではない。あな<br />

たがたが 好 むように 生 活 しなさい。 天 はあなたがたの 家 なのだ。」 心 霊 術 者 たちは、<br />

事 実 上 次 のように 宣 言 しているのである。「すべて 悪 を 行 うものは 主 の 目 に 良 く 見 え、<br />

かつ 彼 に 喜 ばれる。また、さばきを 行 う 神 はどこにあるか」[マラキ 2:。 神 のみ 言 葉<br />

には、「わざわいなるかな、 彼 らは 悪 を 呼 んで 善 といい、 善 を 呼 んで 悪 といい、 暗 き<br />

を 光 とし、 光 を 暗 しとし」と 言 われている[イザヤ 5:。<br />

使 徒 たちの 姿 を 装 った 偽 りの 霊 は、 使 徒 たちが 地 上 にいる 時 聖 霊 のさしずのままに<br />

書 いたものと 矛 盾 することを 教 える。 彼 らは 聖 書 が 神 から 出 たものであることを 否 定<br />

し、こうしてキリスト 者 の 望 みの 土 台 を 破 壊 し、 天 への 道 を 照 らす 光 を 消 し 去 る。サ<br />

タンは、 聖 書 は 単 なる 作 り 話 であるとか、 少 なくとも 人 類 の 初 期 にはふさわしい 書 で<br />

あったが、 今 日 では 軽 く 見 過 ごすか、すたれたものとして 捨 ててしまってよい 本 だと、<br />

世 の 人 々に 信 じさせている。そして 彼 は 神 のみ 言 葉 の 代 わりに、 心 霊 現 象 を 持 ち 出 す。<br />

ここに 完 全 にサタンの 支 配 下 にある 経 路 がある。そして 彼 はこの 方 法 によって、 自 分<br />

の 思 うままに 世 の 人 々に 信 じさせることができる。サタンとその 従 者 たちをさばく 書<br />

を、 彼 は 自 分 の 思 いのままに 陰 に 隠 す。 彼 は 世 の 救 い 主 を、ただの 人 間 にしてしまう。<br />

ちょうど、イエスの 墓 の 番 をしていたローマの 番 兵 たちが、イエスの 復 活 を 否 認 する<br />

よう 祭 司 や 長 老 たちから 教 え 込 まれて、 偽 りの 報 告 を 言 い 広 めたように、 心 霊 術 の 信<br />

者 たちは、われわれの 救 い 主 イエスの 生 涯 にはなんの 奇 跡 もなかったかのように 見 せ<br />

かけようとする。こうして、イエスを 後 方 に 押 しのけて、 自 分 たち 自 身 の 奇 跡 に 注 意<br />

を 引 き、それがキリストの 業 よりもはるかに 優 れている と 宣 言 するのである。<br />

414


国 際 協 定<br />

心 霊 術 はたしかに 今 ではその 外 形 を 変 え、 不 都 合 な 点 を 隠 して、キリスト 教 の 装 い<br />

をとっている。しかしその 主 張 は、 長 年 にわたって、 講 壇 や 出 版 物 を 通 して 公 表 され、<br />

その 中 に 真 の 性 質 が 表 されてきた。これらの 教 えは、 否 定 することも 隠 すこともでき<br />

ない。 心 霊 術 は 現 在 の 形 においてさえ、 以 前 よりも 容 認 すべき 性 質 のものではないど<br />

ころか、 実 際 にはもっと 巧 妙 な 欺 瞞 であるためにいっそう 危 険 である。それは 以 前 に<br />

はキリストと 聖 書 を 非 難 していたが、 今 はこの 両 者 を 受 け 入 れると 公 言 している。し<br />

かし、 生 まれ 変 わっていない 心 を 喜 ばすような 方 法 で 聖 書 が 解 釈 され、 他 方 、 聖 書 の<br />

厳 粛 で 重 大 な 数 々の 真 理 が 力 ないものとされている。 愛 は 神 の 第 一 のご 性 質 としてく<br />

り 返 し 説 明 されてはいるが、 善 と 悪 をほとんど 区 別 しない 弱 々しい 感 傷 主 義 に 堕 して<br />

いる。 神 の 正 義 、 罪 に 対 する 神 の 非 難 、 神 の 聖 なる 律 法 の 諸 要 求 は、すべて 無 視 され<br />

ている。 人 々は 十 戒 は 死 文 であると 考 えるように 教 えられる。 喜 ばせ 魅 惑 するような<br />

作 り 話 が 人 々の 感 情 をとらえ、 聖 書 を 自 分 たちの 信 仰 の 基 盤 とするのを 拒 否 させよう<br />

とする。 以 前 と 同 じにキリストは 実 際 には 拒 まれているのであるが、サタンは 人 々を<br />

盲 目 にしてその 惑 わしが 見 分 けられないようにしているのである。<br />

心 霊 術 の 欺 瞞 的 な 力 と、その 影 響 を 受 けることの 危 険 性 を、 正 しく 認 めている 者 は<br />

ほとんどいない。 多 くの 者 は、 単 に 好 奇 心 を 満 足 させるために 心 霊 術 に 手 を 出 す。 彼<br />

らはそれをほんとうに 信 じているのではない。かえって 霊 の 支 配 に 服 することを 思 う<br />

と 恐 怖 で 満 たされる。しかし 彼 らは、 禁 じられた 地 に 危 険 を 顧 みないで 入 っていく。<br />

そして 強 大 な 破 壊 者 が、 彼 らの 意 志 に 反 して 彼 らの 上 にその 力 を 働 かすのである。 彼<br />

らが 1 度 でもその 心 をサタンの 命 令 に 従 わせる 気 になると、サタンは 彼 らをとりこに<br />

する。サタンの 魅 惑 的 な 魔 力 を、 自 分 の 力 で 断 ち 切 ることは 不 可 能 である。 信 仰 の 熱<br />

心 な 祈 りに 答 えて 与 えられる 神 の 力 だけが、これらの 捕 らえられた 魂 を 解 放 できるの<br />

である。<br />

罪 深 い 性 質 をほしいままにしたり、 知 っている 罪 を 故 意 に 抱 いている 者 はみな、サ<br />

タンの 誘 惑 を 招 く。 彼 らは 自 分 を 神 から、また 神 のみ 使 いの 守 護 から 引 き 離 している。<br />

悪 魔 が 彼 らを 惑 わす 時 に、 彼 らは、 守 ってくれるものもなく、 容 易 にそのえじきとな<br />

る。このようにしてサタンの 力 に 身 をゆだねる 者 は、 自 分 たちの 道 がどこで 終 わるか<br />

を 悟 らないのである。 彼 らを 征 服 してしまうと、 誘 惑 者 サタンは、ほかの 者 を 滅 びに<br />

おびきよせる 手 先 として 彼 らを 用 いる。 預 言 者 イザヤはこう 言 っている。「もし 人 な<br />

んじらにつげて 巫 女 および 魔 術 者 のさえずるがごとくささやくがごとき 者 にもとめよ<br />

といわば、 民 はおのれの 神 にもとむべきにあらずや。いかで 活 者 [いけるもの]のため<br />

に 死 者 にもとむることをせんといえ。ただ 律 法 [おきて]と 証 詞 [あかし]とを 求 むべし、<br />

彼 らの 言 うところこの 言 にかなわずば 晨 光 [しののめ]あらじ」[イザヤ 8:19、20・<br />

415


国 際 協 定<br />

文 語 訳 ]。もし 人 々が、 人 間 の 性 質 や 死 人 の 状 態 について 聖 書 の 中 に 明 らかに 述 べられ<br />

ている 真 理 を 喜 んで 受 け 入 れていたら、 心 霊 術 の 主 張 や 現 象 の 中 に、 力 としるしと 偽<br />

りの 不 思 議 とを 伴 ったサタンの 働 きを 認 めるであろう。しかし 多 くの 人 々は、 肉 の 思<br />

いに 都 合 のよい 自 由 を 放 棄 したり、 愛 好 している 罪 を 捨 てたりするよりはむしろ、 光<br />

に 目 を 閉 じ、 警 告 も 顧 みないで 突 き 進 んでいく。するとサタンは、 彼 らの 周 りにわな<br />

を 仕 掛 け、 彼 らを 捕 らえてしまうのである。 彼 らが「 自 分 らの 救 となるべき 真 理 に 対<br />

する 愛 を 受 けいれなかった」から、「そこで 神 は、 彼 らが 偽 りを 信 じるように、 迷 わ<br />

す 力 を 送 」られるのである[Ⅱテサロニケ 2:10、。<br />

心 霊 術 の 教 えに 反 対 する 者 は、ただ 人 間 だけではなくサタンと 悪 天 使 たちを 攻 撃 し<br />

ているのである。 彼 らは、もろもろの 支 配 と、 権 威 と、 天 上 にいる 悪 の 霊 との 戦 いに<br />

入 ったのである。サタンは、 天 の 使 いの 力 によって 撃 退 されないかぎり、 一 歩 も 退 却<br />

しようとはしない。 神 の 民 は、 救 い 主 がなさったように、「…… と 書 いてある」とい<br />

う 言 葉 をもってサタンに 対 抗 することができる。サタンは 今 もキリストの 時 と 同 様 に<br />

聖 書 を 引 用 できるので、 自 分 の 惑 わしを 支 持 するために、 聖 書 の 教 えを 悪 用 するであ<br />

ろう。この 危 険 な 時 に 立 とうとする 者 は、 聖 書 のあかしを 自 分 で 理 解 しなければなら<br />

ない。<br />

多 くの 者 は、 愛 する 肉 親 や 友 人 の 姿 をしてもっとも 危 険 な 異 端 の 説 を 唱 える 悪 霊 た<br />

ちに 直 面 するであろう。これらの 来 訪 者 たちは、われわれの 最 も 感 じやすい 同 情 に 訴<br />

え、 自 分 の 主 張 を 支 持 するために 奇 跡 を 行 う。われわれは、 死 んだ 者 は 何 事 をも 知 ら<br />

ない、このように 現 れる 者 は 悪 鬼 の 霊 である、という 聖 書 の 真 理 によって 彼 らに 抵 抗<br />

する 用 意 がなければならない。<br />

今 われわれの 前 には、「 地 上 に 住 む 者 たちをためすために、 全 世 界 に 臨 もうとして<br />

いる 試 練 の 時 」がある[ 黙 示 録 3:。 神 のみ 言 葉 の 上 に 信 仰 を 堅 く 打 ち 立 てていない 者<br />

はみな、 欺 かれて 敗 北 する。サタンは 人 の 子 らを 支 配 するために「あらゆる 不 義 の 惑<br />

わしを 行 い」、 彼 の 惑 わしは 絶 えず 増 大 する。しかしサタンは、ただ 人 々がその 誘 惑<br />

に 自 分 から 負 けるときだけその 相 手 を 獲 得 することができる。 真 理 の 知 識 を 熱 心 に 求<br />

め、 服 従 によって 魂 を 清 めるために 励 み、こうしてその 戦 いに 備 えて 自 分 にできると<br />

ころを 行 っている 者 は、 真 理 の 神 が 確 かな 保 護 者 であられることを 見 いだす。「 忍 耐<br />

についてのわたしの 言 葉 をあなたが 守 ったから、わたしも……あなたを 防 ぎ 守 ろう」<br />

と 救 い 主 は 約 束 しておられる[ 同 3:。 主 は、ご 自 分 に 頼 る 魂 が 1 人 でもサタンに 打 ち<br />

負 かされるままにしておくくらいなら、ご 自 分 の 民 を 守 るために 天 からすべての 天 使<br />

を 遣 わしたいと 思 っておられる。<br />

416


国 際 協 定<br />

預 言 者 イザヤは、 神 のさばきの 時 に 自 分 は 安 全 であると 考 えさせるような 恐 ろしい<br />

惑 わしが 悪 人 たちに 臨 むことについて、 次 のように 描 写 している。「われわれは 死 と<br />

契 約 をなし、 陰 府 [よみ]と 協 定 を 結 んだ。みなぎりあふれる 災 の 過 ぎる 時 にも、それ<br />

はわれわれに 来 ない。われわれはうそを 避 け 所 となし、 偽 りをもって 身 をかくしたか<br />

らである」[イザヤ 28:。ここに 描 写 されている 種 類 の 人 々の 中 には、かたくなな 悔<br />

い 改 めない 心 を 持 ち、 罪 人 に 刑 罰 はないと 信 じて 自 分 を 慰 めている 者 たちが 含 まれて<br />

いる。 すなわち 彼 らは、 人 間 はどんなに 堕 落 しようと 問 題 ではなく、すべて 天 にあげ<br />

られ、 神 の 使 いのようになるのだと 信 じているのである。 特 に、 死 と 契 約 をなし、 陰<br />

府 [よみ]と 協 定 を 結 んだ 者 とは、 天 が 悩 みの 時 に 義 人 のために 守 りとして 与 えた 真 理<br />

を 捨 て、サタンが 代 わりに 提 供 した 偽 りの 避 け 所 、すなわち 心 霊 術 の 惑 わしの 主 張 を<br />

受 け 入 れる 者 のことである。<br />

現 代 人 の 盲 目 は、 言 い 表 しようのないほど 驚 くべきものである。 幾 千 の 人 々が 神 の<br />

み 言 葉 を、 信 じる 価 値 がないものとして 拒 み、サタンの 惑 わしを 非 常 な 確 信 をもって<br />

受 け 入 れる。 懐 疑 主 義 者 や 嘲 笑 家 たちは、 預 言 者 たちと 使 徒 たちの 信 仰 を 強 く 主 張 す<br />

る 者 の 頑 固 さを 攻 撃 する。そして、キリストと 救 いの 計 画 について、また 真 理 を 拒 む<br />

者 の 上 に 臨 む 刑 罰 について、 聖 書 に 厳 粛 に 宣 言 されていることを、 公 然 と 嘲 笑 して 気<br />

をまぎらわす。 彼 らは、 神 のご 要 求 を 認 めてその 律 法 の 要 求 に 従 うような、 狭 く 弱 く<br />

迷 信 的 な 精 神 を 大 いにあわれんでいるかのような 態 度 を 取 る。 彼 らは 実 際 、あたかも<br />

死 と 契 約 をなし、 陰 府 [よみ]と 協 定 を 結 んだかのように、すなわち、あたかも 自 分 た<br />

ちと 神 の 刑 罰 との 間 に、 通 ることも 突 き 抜 けることもできない 壁 を 打 ち 立 ててしまっ<br />

たかのように、 大 いなる 確 信 を 示 す。 彼 らの 恐 怖 を 引 き 起 こすことができるものは 何<br />

もない。 彼 らは、 完 全 に 誘 惑 者 に 屈 服 し、それと 緊 密 に 結 合 し、その 精 神 をすっかり<br />

吹 き 込 まれているので、 誘 惑 者 のわなを 断 ち 切 る 力 も 気 力 もない。<br />

サタンは 世 界 を 惑 わす 最 後 の 努 力 をなすために、 長 い 間 準 備 してきた。 彼 の 働 きの<br />

基 礎 は、エデンにおいてエバに 与 えた 保 証 「あなたがたは 決 して 死 ぬことはないでし<br />

ょう。それを 食 べると、あなたがたの 目 が 開 け、 神 のように 善 悪 を 知 る 者 となること<br />

を、 神 は 知 っておられるのです」という 言 葉 におかれている[ 創 世 記 3:4、。サタン<br />

は、 心 霊 術 の 発 展 の 中 に、その 惑 わしの 傑 作 のための 道 を 少 しずつ 備 えてきた。 彼 は<br />

まだ 自 分 の 陰 謀 を 完 成 してはいない。<br />

それは 最 後 の 残 りの 時 に 達 成 されるのである。 預 言 者 はこう 言 っている。「また 見<br />

ると、……かえるのような 3 つの 汚 れた 霊 が 出 て 来 た。これらは、しるしを 行 う 悪 霊<br />

の 霊 であって、 全 世 界 の 王 たちのところに 行 き、 彼 らを 召 集 したが、それは、 全 能 な<br />

る 神 の 大 いなる 日 に、 戦 いをするためであった」[ 黙 示 録 16:13、。み 言 葉 を 信 じる<br />

417


国 際 協 定<br />

信 仰 によって、 神 の 力 に 守 られている 者 を 除 いて、 全 世 界 は、この 惑 わしの 隊 列 の 中<br />

にまきこまれる。 人 々は 致 命 的 な 安 心 感 へと 急 速 に 誘 い 込 まれているので、 神 の 怒 り<br />

が 降 下 して 初 めて 目 をさますのである。<br />

主 なる 神 は 言 われる。「『わたしは 公 平 を、 測 りなわとし、 正 義 を、 下 げ 振 りとす<br />

る。ひょうは 偽 りの 避 け 所 を 滅 ぼし、 水 は 隠 れ 場 を 押 し 倒 す。』その 時 あなたが 死 と<br />

たてた 契 約 は 取 り 消 され、 陰 府 [よみ]と 結 んだ 協 定 は 行 われない。みなぎりあふれる<br />

災 の 過 ぎるとき、あなたがたはこれによって 打 ち 倒 される」[イザヤ 28:17、。<br />

418


国 際 協 定<br />

第 35 章 良 心 の 自 由 の 危 機<br />

今 日 ローマ・カトリック 教 は、プロテスタントから、 過 去 の 時 代 よりもはるかに 好<br />

感 をもってみられている。カトリック 主 義 が 優 勢 ではなくて、カトリック 教 会 が 勢 力<br />

を 得 るために 融 和 的 な 態 度 をとっている 国 々においては、 改 革 主 義 の 教 会 を 法 王 教 か<br />

ら 区 別 する 教 理 に 対 して、ますます 関 心 が 薄 らいできている。 結 局 われわれは、 主 要<br />

な 点 では 今 まで 考 えられてきたほど 広 く 隔 たってはいない、われわれの 側 のわずかな<br />

譲 歩 によってローマとのより 良 い 理 解 がもたらされるであろう、という 意 見 が 有 力 に<br />

なってきている。 高 い 犠 牲 を 払 って 贈 った 良 心 の 自 由 に、プロテスタントが 高 い 価 値<br />

を 置 いた 時 代 があった。 彼 らは 子 供 たちに 法 王 教 をきらうように 教 え、ローマと 一 致<br />

しようとすることは 神 に 対 して 不 忠 実 であると 主 張 した。しかし 今 日 表 明 される 意 見<br />

は、なんとはなはだしく 異 なっていることであろう。<br />

法 王 教 の 擁 護 者 たちは、この 教 会 が 中 傷 されてきたと 言 い、プロテスタント 側 はこ<br />

の 主 張 を 認 める 傾 向 がある。 多 くの 者 は、 無 知 と 暗 黒 の 時 代 に 教 会 の 統 治 の 特 徴 であ<br />

った 憎 むべき 行 為 や 不 合 理 をもって、 今 日 の 教 会 をさばくのは 正 しくない、と 主 張 す<br />

る。 彼 らは 法 王 制 の 恐 ろしい 残 酷 な 行 為 を、 野 蛮 な 時 代 の 結 果 であると 弁 解 し、 近 代<br />

文 明 の 影 響 がこの 教 会 の 考 えを 変 えたと 弁 護 する。これらの 人 々は、この 高 慢 な 権 力<br />

によって 800 年 の 間 無 謬 説 が 唱 えられたことを 忘 れてしまったのであろうか。この 主<br />

張 は 捨 てられるどころか、19 世 紀 に 入 って、 以 前 にもまして 積 極 的 に 主 張 されたので<br />

ある。ローマ 教 会 は、「 教 会 はこれまで 決 して 誤 ったことはなかった、また 聖 書 によ<br />

れば、これからも 決 して 誤 りを 犯 すことはないのである」と 主 張 しているのだから、<br />

過 去 にそのやり 方 を 支 配 していた 主 義 をどうして 放 棄 することがあるだろうか。 1<br />

カトリック 教 会 は 無 謬 の 主 張 を 決 してやめないであろう。この 教 会 は、その 教 義 に<br />

反 対 する 者 を 迫 害 するために 行 ったすべてのことを、 正 しいと 主 張 する。とすれば、<br />

機 会 があったら 同 じ 行 為 をくり 返 すのではなかろうか。 現 在 諸 国 家 の 政 府 によって 課<br />

せられている 数 々の 拘 束 が 取 り 除 かれ、ローマが 以 前 の 権 力 を 取 りもどす 時 、たちま<br />

ち 圧 制 と 迫 害 が 復 活 するであろう。 ある 有 名 な 著 述 家 は、 良 心 の 自 由 に 関 する 法 王 政<br />

治 の 態 度 について、またその 政 策 の 成 功 が 特 にアメリカ 合 衆 国 を 脅 かす 危 険 について、<br />

次 のように 語 っている。<br />

「アメリカ 合 衆 国 におけるローマ・カトリック 教 を 恐 れることは、 頑 迷 である、あ<br />

るいは 幼 稚 であると 見 なしがちな 者 が 多 い。このような 者 は、ローマ・カトリックの<br />

性 格 と 態 度 の 中 にわれわれの 自 由 な 制 度 に 敵 するものがあることを 全 然 見 ていないか、<br />

419


国 際 協 定<br />

それとも、この 教 会 の 発 展 の 中 に 不 吉 なものをなんら 見 いだしていないかである。そ<br />

こでまず、 米 国 政 府 の 基 本 的 な 原 則 のうちのいくつかを、カトリック 教 会 の 原 則 と 比<br />

較 してみたい。<br />

アメリカ 合 衆 国 の 憲 法 は、 良 心 の 自 由 を 保 証 している。これ 以 上 貴 重 で 根 本 的 なも<br />

のはない。 法 王 ピオ 9 世 は、1854 年 8 月 15 日 の 回 勅 の 中 で『 良 心 の 自 由 を 擁 護 す<br />

るという 不 合 理 で 誤 った 教 理 あるいはたわごとは、きわめて 有 害 な 誤 謬 、すなわち、<br />

国 家 にとってほかの 何 よりも 恐 れねばならない 病 毒 である』と 言 った。 同 じ 法 王 は、<br />

1864 年 12 月 8 日 の 回 勅 の 中 で、『 良 心 の 自 由 と、 宗 教 上 の 礼 拝 の 自 由 を 主 張 する<br />

者 』また『 教 会 は 暴 力 を 用 いてはならないと 主 張 するすべての 者 』をのろった。<br />

米 国 におけるローマの 穏 やかな 態 度 は、 心 の 変 化 を 意 味 するのではない。この 教 会<br />

は 自 分 が 無 力 であるところでは 寛 大 である。オコンナー 司 教 は、『カトリックの 世 界<br />

に 危 険 を 及 ぼすことなく 反 対 政 策 を 実 施 できるようになるまで、 信 教 の 自 由 をがまん<br />

しているにすぎない』と 言 っている。……セントルイスの 大 司 教 は、かつて 次 のよう<br />

に 語 った。<br />

『 異 端 や 不 信 仰 は 犯 罪 である。だから、たとえばイタリアやスペインのように、す<br />

べての 人 がカトリック 教 徒 であって、カトリック 教 がその 国 の 法 律 の 不 可 欠 な 一 部 と<br />

なっているキリスト 教 国 においては、こうしたことは 他 の 犯 罪 と 同 様 に 処 罰 される』。<br />

カトリック 教 会 のすべての 枢 機 卿 、 大 司 教 、 司 教 が、 法 王 に 対 して、 忠 誠 の 宣 誓 を 行<br />

うが、その 中 に 次 のような 言 葉 がある。『われわれの 上 記 の 主 [ 法 王 ]、またはその 後<br />

継 者 に 対 する 異 端 者 、 分 離 者 、 反 逆 者 たちは、 私 が 全 力 をあげて 迫 害 し 阻 止 する。』」<br />

2<br />

ローマ・カトリック 教 会 の 中 に 真 のキリスト 者 たちがいることは 事 実 である。この<br />

教 会 の 幾 千 の 者 は、 自 分 たちに 与 えられている 最 善 の 光 に 従 って 神 に 仕 えている。 彼<br />

らは、 神 の 言 葉 を 手 に 入 れることが 許 されていない。だから 彼 らは、 真 理 に 気 がつか<br />

ないのである。 彼 らは、 生 きた、 心 からの 奉 仕 と、 単 なる 形 式 や 儀 式 のくり 返 しとの<br />

間 の、 著 しい 相 違 に 気 づいたことがなかった。うわべだけの、 満 たされない 信 仰 の 中<br />

で 教 育 されたこれらの 人 々を、 神 はやさしい 憐 れみをもってごらんになる。 神 は、 彼<br />

らをとりまいている 濃 い 暗 黒 に 光 が 射 し 込 むようにされる。 神 がイエスのうちにある<br />

真 理 を 彼 らに 示 されるので、やがて 多 くの 者 が 神 の 民 とともに 立 つのである。<br />

しかし 1 つの 制 度 としてのローマ・カトリックは、この 教 会 の 歴 史 上 のどの 時 代 に<br />

おいてもそうであったように、 今 日 でもキリストの 福 音 と 調 和 するものではない。プ<br />

ロテスタント 教 会 は 大 いなる 暗 黒 の 中 にある。そうでなければ、 彼 らは 時 のしるしを<br />

420


国 際 協 定<br />

見 分 けるはずである。ローマ 教 会 の 計 画 や 運 営 方 式 には 遠 大 なものがある。この 教 会<br />

は、 再 び 世 界 を 支 配 するために、また 迫 害 を 復 活 させるために、またプロテスタント<br />

が 行 ったすべてのことを 無 効 にするために、 激 しい 決 定 的 な 戦 いの 準 備 として、その<br />

感 化 力 を 広 げ、その 勢 力 を 強 めようと、あらゆる 手 段 を 用 いている。カトリック 教 は<br />

至 るところに 地 歩 を 占 めつつある。プロテスタント 諸 国 において、カトリックの 教 会<br />

や 礼 拝 堂 が 数 をましているのを 見 られよ。 米 国 において、カトリック 教 の 大 学 や 神 学<br />

校 が 人 気 を 集 め、プロテスタントに 広 く 後 援 されているのを 見 られよ。 英 国 における<br />

儀 式 主 義 の 発 展 や、カトリック 教 会 へ 入 るために 新 教 から 脱 落 する 者 が 多 いことを 見<br />

られよ。こうした 事 柄 は、 福 音 の 純 粋 な 原 則 を 尊 ぶすべての 者 が 憂 慮 しなければなら<br />

ないことである。<br />

プロテスタントは 法 王 制 によけいな 手 出 しをし、 後 援 してきた。 彼 らは、 法 王 教 徒<br />

自 身 が 見 て 驚 き、 理 解 しかねるような 妥 協 と 譲 歩 をしてきた。 人 々は 法 王 制 の 真 の 性<br />

格 、またこの 教 会 が 支 配 権 を 得 た 時 心 配 される 危 険 に 対 して 目 を 閉 じている。 政 治 的<br />

また 宗 教 的 自 由 に 対 するこの 最 も 危 険 な 敵 の 進 出 に 反 対 するように、 人 々は 目 覚 める<br />

必 要 がある。<br />

多 くのプロテスタントは、カトリックの 宗 教 は 魅 力 がなく、その 礼 拝 は 退 屈 で、 無<br />

意 味 な 儀 式 のくり 返 しであると 思 っている。この 点 彼 らはまちがっている。ローマ・<br />

カトリック 教 は、 偽 りに 基 づいているとはいえ、 粗 野 で 見 苦 しい 欺 瞞 ではない。カト<br />

リック 教 会 の 礼 拝 は、きわめて 印 象 的 な 儀 式 である。その 豪 華 で 荘 厳 な 儀 式 は、 人 々<br />

の 感 覚 を 魅 了 し、 理 性 と 良 心 の 声 を 沈 黙 させるのである。 目 は 魅 せられる。 壮 麗 な 教<br />

会 堂 、 堂 々たる 行 列 、 金 色 の 祭 壇 、 宝 石 をちりばめた 聖 遺 物 の 箱 、えりぬきの 絵 画 、<br />

そして、 精 巧 な 彫 刻 などが、 美 を 愛 する 心 を 魅 了 する。 耳 もまた 恍 惚 とさせられる。<br />

その 音 楽 は 絶 妙 無 比 である。オルガンの 豊 かな 音 色 が、 聖 歌 隊 の 多 くの 歌 声 と 相 和 し<br />

て、 大 聖 堂 の 高 い 円 天 井 と 円 柱 の 立 ち 並 ぶ 通 廊 に 響 き 渡 り、 人 々の 心 に 畏 敬 と 尊 崇 の<br />

念 を 起 こさずにはいないのである。<br />

こうした 外 見 上 の 壮 麗 さと 虚 飾 と 儀 式 は、 罪 に 悩 む 魂 の 渇 望 を 満 たすように 見 せか<br />

けるものにすぎず、 内 面 の 腐 敗 を 示 すものである。キリストの 宗 教 は、 人 々の 受 けを<br />

よくするためのそういった 呼 びものを 必 要 としない。 真 のキリスト 教 は、 十 字 架 から<br />

輝 く 光 に 照 らされて、 実 に 純 潔 で 美 しく 見 えるので、その 真 価 を 高 めるためのなんの<br />

外 面 的 装 飾 も 必 要 ではないのである。 神 が 価 値 を 認 められるのは、 聖 潔 の 美 であり、<br />

柔 和 でおだやかな 精 神 の 美 である。すぐれた 文 体 は、 必 ずしも 純 粋 で 高 尚 な 思 想 を 示<br />

すものではない。 芸 術 上 の 高 尚 な 観 念 、 微 妙 に 洗 練 された 趣 味 は、 現 世 的 で 肉 欲 的 な<br />

心 の 中 にもよくある。これらはしばしばサタンに 用 いられて、 人 々に、 魂 の 必 要 を 忘<br />

421


国 際 協 定<br />

れさせ、 将 来 と 永 遠 の 生 命 を 見 失 わせ、 無 限 の 援 助 者 であられる 神 から 離 れさせ、 現<br />

世 のためだけに 生 きるようにさせるのである。<br />

形 式 的 な 宗 教 は、 生 まれ 変 わらない 心 にとって 魅 力 がある。カトリック 教 会 の 礼 拝<br />

の 虚 飾 や 儀 式 は、 魅 惑 的 な 力 を 持 っており、それによって 多 くの 者 が 欺 かれる。そし<br />

て 彼 らはローマ 教 会 をほんとうの 天 の 門 と 見 るようになる。その 足 を 真 理 の 土 台 の 上<br />

に 堅 く 置 いて、その 心 を 神 のみ 霊 によって 新 たにする 者 でなければ、 法 王 制 の 影 響 に<br />

耐 えることはできない。キリストについての 経 験 的 知 識 を 持 っていない 幾 千 の 者 は、<br />

力 のない 形 だけの 敬 虔 さを 受 け 入 れるようになる。そのような 宗 教 こそ 大 衆 が 望 むと<br />

ころのものなのである。カトリック 教 会 は 罪 を 赦 す 権 威 があると 主 張 しているために、<br />

信 者 たちは 罪 を 犯 してもかまわないと 思 うようになる。また、それなしには 教 会 の 赦<br />

しは 与 えられないという 告 解 の 儀 式 は、 悪 を 承 認 するのにも 役 立 っている。 堕 落 した<br />

人 間 の 前 にひざまずき、 心 の 中 の 隠 れた 思 想 や 思 いを 打 ち 明 けて 告 白 する 者 は、 自 分<br />

の 人 格 を 汚 し、その 魂 のあらゆる 気 高 い 性 質 を 堕 落 させているのである。 人 間 は、 自<br />

分 の 生 活 の 罪 を 司 祭 —— 誤 りがあり、 罪 深 く、 死 すべき 者 で、しばしば 酒 と 放 蕩 のた<br />

めに 腐 敗 した 人 間 ——に 告 白 することによって、 品 性 の 標 準 は 低 下 し、 彼 はそのため<br />

に 汚 されるのである。 神 に 関 する 彼 の 観 念 は、 堕 落 した 人 間 の 姿 に 下 落 する。なぜな<br />

ら、 司 祭 が 神 の 代 理 として 立 つからである。 人 間 が 人 間 に 行 うこの 下 劣 な 告 白 は、 世<br />

界 を 汚 して 最 後 の 破 滅 に 陥 れている 罪 悪 の 多 くが 流 れ 出 た 秘 密 の 泉 である。しかし、<br />

放 縦 を 愛 する 者 にとっては、 心 を 神 に 開 くよりは、 同 じ 人 間 に 告 白 するほうが 好 まし<br />

いのである。<br />

人 間 の 性 質 として、 罪 を 捨 てるよりは 苦 行 をするほうが、 好 みに 合 うのである。 肉<br />

の 欲 を 十 字 架 につけるよりは、 麻 布 といらくさと 皮 膚 をすりむく 鎖 によって 肉 体 を 苦<br />

しめるほうが、やさしいのである。 肉 の 心 は、キリストのくびきに 服 すよりはむしろ、<br />

重 いくびきであっても 自 分 から 進 んで 負 おうとするのである。 ローマ 教 会 とキリスト<br />

初 臨 当 時 のユダヤ 教 会 の 間 には、 著 しい 類 似 点 がある。ユダヤ 人 は、 神 の 律 法 のすべ<br />

ての 戒 めをひそかに 踏 みにじっていながら、 外 面 的 にはその 戒 めを 厳 格 に 守 り、それ<br />

に 苛 酷 な 要 求 と 言 い 伝 えを 付 け 加 えて、 服 従 することを 苦 痛 とし 重 苦 しいものとして<br />

いた。ユダヤ 人 たちが 律 法 をあがめると 公 言 したように、カトリック 教 徒 も、 十 字 架<br />

をあがめると 主 張 している。 彼 らは、キリストの 苦 悩 の 象 徴 を 高 める 一 方 において、<br />

それが 表 しているところの 主 を、その 生 活 において 拒 否 しているのである。<br />

カトリック 教 徒 は、その 教 会 、 祭 壇 、 衣 服 に 十 字 架 をつける。 至 るところに、 十 字<br />

架 のしるしが 見 られる。 至 るところで、それは、 外 面 的 に 崇 敬 され、 高 められている。<br />

しかし、キリストの 教 えは、 多 くの 無 意 味 な 伝 説 、 偽 りの 解 釈 、 厳 格 な 規 則 の 下 に 埋<br />

422


国 際 協 定<br />

もれている。 頑 迷 なユダヤ 人 に 関 する 救 い 主 の 言 葉 は、ローマ・カトリック 教 会 の 指<br />

導 者 たちに、いっそう 大 きな 迫 力 をもって 当 てはまる。「また、 重 い 荷 物 をくくって<br />

人 々の 肩 にのせるが、それを 動 かすために、 自 分 では 指 1 本 も 貸 そうとはしない」[マ<br />

タイ 23:。 良 心 的 な 人 々が、 怒 った 神 の 復 讐 に 絶 えずおののいているにもかかわらず、<br />

教 会 の 高 位 にある 者 たちの 多 くは、ぜいたくな 暮 らしをして、 享 楽 をほしいままにし<br />

ているのである。<br />

聖 画 像 や 聖 遺 物 の 崇 敬 、 聖 徒 たちへの 祈 り、また 法 王 崇 拝 は、 人 々の 心 を 神 と 神 の<br />

み 子 から 引 き 離 すサタンの 策 略 である。サタンは、 人 々を 滅 ぼしてしまうために、 救<br />

いを 見 いだすことのできる 唯 一 のお 方 から 彼 らの 関 心 をそらそうと 努 めている。 彼 は、<br />

「すべて 重 荷 を 負 うて 苦 労 している 者 は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを 休<br />

ませてあげよう」と 言 われたお 方 に 代 わることができる 何 かの 対 象 物 に、 人 々を 向 か<br />

わせるのである[マタイ 11:。<br />

サタンは、 神 のご 品 性 、 罪 の 性 質 、また 大 争 闘 において 問 題 となっている 真 の 論 争<br />

点 について、 誤 解 させようとたえず 努 力 している。サタンの 詭 弁 によって 神 の 律 法 に<br />

対 する 義 務 は 弱 められ、 人 々は 罪 を 犯 すことをなんとも 思 わなくなる。 同 時 にサタン<br />

は、 人 々が 愛 をもって 神 を 見 るより、 恐 れと 憎 しみをもって 見 るようにと、 神 に 関 し<br />

て 誤 った 考 えを 抱 かせようとする。サタンは 自 分 自 身 の 固 有 の 品 性 である 残 酷 さを 創<br />

造 主 におしつける。それは 宗 教 組 織 に 織 り 込 まれ、 礼 拝 の 様 式 の 中 に 表 現 されている。<br />

このようにして 人 々の 心 の 目 はとざされ、サタンは、 神 と 戦 うために 彼 らを 自 分 の 手<br />

先 として 獲 得 する。 神 の 属 性 についての 誤 った 考 え 方 によって、 異 教 の 国 民 は、 神 の<br />

恩 恵 を 得 るためには 人 間 の 犠 牲 が 必 要 であると 信 じるようになった。そしてさまざま<br />

な 形 の 偶 像 礼 拝 のもとに、 恐 るべき 残 酷 な 行 為 が 行 われてきた。<br />

ローマ・カトリック 教 会 は、 異 教 とキリスト 教 との 形 式 を 結 合 したものであり、 異<br />

教 と 同 じに 神 のご 品 性 をまちがって 伝 え、 異 教 におとらないほど 残 酷 でいまわしい 慣<br />

習 を 用 いてきた。ローマ 法 王 の 至 上 権 時 代 には、 教 会 の 教 理 に 対 する 同 意 を 強 制 する<br />

ために 拷 問 の 道 具 があった。 教 会 の 主 張 に 譲 歩 しない 者 のためには 火 刑 柱 があった。<br />

審 判 においてはっきりさせられるまでは 決 してわからないほどの 規 模 の 虐 殺 があった。<br />

教 会 の 高 僧 たちは、 彼 らの 主 人 であるサタンの 下 で、その 犠 牲 者 に 死 を 与 えることな<br />

く 最 大 の 苦 痛 を 与 える 方 法 を 発 明 しようと 苦 心 した。 多 くの 場 合 、 恐 ろしい 拷 問 は、<br />

人 間 の 耐 久 力 の 限 界 までくり 返 された。そして 犠 牲 者 は 力 がつき 果 てて、 死 を 快 い 解<br />

放 として 喜 んで 迎 えるのであった。<br />

423


国 際 協 定<br />

これがローマ 教 会 の 反 対 者 たちの 運 命 であった。また 教 会 の 信 者 に 対 しては、 考 え<br />

られるかぎりのあらゆる 悲 痛 な 形 において、むち 打 ちや 飢 餓 や 身 体 の 苦 行 などによる<br />

訓 練 をした。ざんげ 者 は、 天 の 神 の 恩 恵 を 得 るために 自 然 の 法 則 を 犯 すことによって、<br />

神 の 律 法 を 犯 していた。 彼 らは、 神 が 人 間 の 地 上 の 生 涯 を 祝 福 し 喜 ばせるために 作 ら<br />

れたきずなを、 断 ち 切 るように 教 えられた。 自 然 な 愛 情 を 抑 圧 し、 同 胞 に 対 するあら<br />

ゆる 同 情 の 思 いと 心 情 を、 神 に 敵 するものとしておさえつけようとむなしい 努 力 をし<br />

て 一 生 を 送 った 無 数 の 犠 牲 者 が、 墓 地 に 横 たわっている。 神 のことを 聞 いたことのな<br />

い 人 々の 間 でではなく、キリスト 教 世 界 の 中 心 とその 全 域 において、 幾 百 年 の 長 きに<br />

わたってあらわされたサタンの 徹 底 的 残 酷 さを 知 ろうと 思 えば、ローマ・カトリック<br />

教 会 の 歴 史 を 見 さえすればよいのである。この 巨 大 な 欺 瞞 の 組 織 を 通 して、 悪 の 君 サ<br />

タンは、 神 の 栄 えを 汚 し、 人 間 を 悲 惨 に 陥 れる 彼 の 計 画 を 成 し 遂 げる。そして、サタ<br />

ンが 姿 を 変 えて、 教 会 の 指 導 者 たちによって 自 分 の 目 的 を 達 成 するのを 見 るときに、<br />

われわれは、 彼 がなぜ 聖 書 を 非 常 にきらうかという 理 由 を、よく 理 解 できるのである。<br />

もし 聖 書 を 読 むならば、 神 の 慈 悲 と 愛 とがよく 理 解 される。 神 はこのような 重 荷 を 何<br />

1 つ 人 間 に 負 わせられないことがわかる。 神 がお 求 めになるものは、 砕 けた 悔 いた 心 、<br />

へりくだって 服 従 する 精 神 だけである。<br />

キリストは、 天 にふさわしくなるために 男 も 女 も 修 道 院 の 中 に 閉 じ 込 もるというよ<br />

うな 手 本 は、ご 自 分 の 一 生 をとおして 1 つもお 与 えになってはいない。キリストは、<br />

愛 と 同 情 が 抑 制 されなければならないとは 決 してお 教 えにならなかった。 救 い 主 の 心<br />

は 愛 にあふれていた。 人 は 道 徳 的 完 全 さに 近 づくにつれて、その 感 覚 は 鋭 くなり、 罪<br />

をいっそう 鋭 く 感 ずるようになり、 苦 しむ 者 に 対 する 同 情 がますます 深 くなる。 法 王<br />

はキリストの 代 理 者 であると 主 張 しているが、 彼 の 品 性 はわれらの 救 い 主 のご 品 性 と<br />

どのようにくらべることができるであろうか。 天 の 王 としての 尊 敬 を 自 分 に 示 さない<br />

からといって、キリストが 人 々を 牢 獄 や 拷 問 台 に 渡 されたということがあっただろう<br />

か。ご 自 分 を 受 け 入 れない 者 を 死 に 定 めるみ 声 が 聞 かれただろうか。 主 がサマリヤの<br />

村 で 人 々に 侮 辱 を 受 けられた 時 、 使 徒 ヨハネは 怒 りに 満 たされて、「 主 よ、いかがで<br />

しょう。 彼 らを 焼 き 払 ってしまうように、 天 から 火 をよび 求 めましょうか」とたずね<br />

た。イエスはこの 弟 子 を 憐 れみをもってごらんになり、「 人 の 子 は、 人 の 命 を 滅 ぼす<br />

ために 来 たのでなく、 救 うために 来 たのだ」と 言 われて、 彼 の 粗 暴 な 精 神 を 戒 められ<br />

た[ルカ 9:54、56 英 語 訳 参 照 ]。キリストによってあらわされた 精 神 と、その 自 称 代<br />

理 者 の 精 神 との 間 には、なんという 違 いがあることだろう。<br />

現 在 ローマ 教 会 は、その 恐 ろしい 残 虐 行 為 の 記 録 を 弁 解 しながら 隠 し、 世 界 にもっ<br />

ともらしい 顔 を 見 せている。この 教 会 はキリストのような 衣 を 装 っている。しかし 教<br />

424


国 際 協 定<br />

会 は 変 わっていない。 過 去 に 存 在 した 法 王 制 のあらゆる 原 則 は、 今 日 も 保 持 されてい<br />

る。 最 も 暗 い 時 代 に 案 出 された 数 々の 教 理 は、 今 もなお 支 持 されている。だれも 欺 か<br />

れてはならない。 今 日 プロテスタントが 尊 敬 しようとしている 法 王 制 は、 宗 教 改 革 の<br />

時 代 に 世 界 を 支 配 していたのと 同 じものである。その 時 神 の 民 は、 自 分 の 生 命 の 危 険<br />

をおかして、この 教 会 の 悪 を 暴 露 するために 立 ち 上 がったのであった。 教 会 は、かつ<br />

て 王 たちや 諸 侯 たちの 上 に 君 臨 し、 神 の 大 権 を 主 張 した 時 と 同 じ 誇 りと 尊 大 不 遜 な 心<br />

を 持 っている。 今 日 もこの 教 会 の 精 神 は、かつて 人 間 の 自 由 を 押 しつぶし、いと 高 き<br />

者 の 聖 徒 たちを 殺 した 時 と 同 じに 残 酷 であり、 専 横 である。<br />

法 王 制 はまさしく、 預 言 の 中 でこのようになると 言 われているとおりのもの、すな<br />

わち 終 末 時 代 の 背 教 である[Ⅱテサロニケ 2:3、4 参 照 ]。 自 分 の 目 的 を 達 成 するのに<br />

最 も 都 合 のよい 性 格 を 身 に 装 うことが、この 教 会 の 方 針 の 1 つである。しかしカメレ<br />

オンのように 変 わりやすい 外 見 の 下 に、この 教 会 はへびのような 不 変 の 毒 を 隠 してい<br />

る。「 異 端 者 もしくは 異 端 の 嫌 疑 ある 者 との 誓 約 は 守 ってはならない」と 教 会 は 明 言<br />

している。 3 1000 年 にわたるその 記 録 が、 聖 徒 の 血 によって 書 かれているこの 権 力 が、<br />

今 日 キリストの 教 会 の 一 部 として 承 認 されてよいであろうか。<br />

カトリック 教 は 以 前 ほどプロテスタントと 広 く 隔 たってはいないという 主 張 が、プ<br />

ロテスタントの 諸 国 において 唱 えられてきたことには、 理 由 がないわけではない。そ<br />

こには 変 化 があったのである。しかしその 変 化 は、 法 王 制 の 中 にあったのではない。<br />

なるほどカトリック 教 は、 今 日 存 在 しているプロテスタントによく 類 似 している。そ<br />

れはプロテスタントが、 宗 教 改 革 者 の 時 代 以 後 、ひどく 堕 落 してしまったからであ<br />

る。<br />

プロテスタント 諸 教 会 は 世 の 関 心 を 求 めたために、 誤 った 愛 がその 目 を 見 えなくし<br />

た。 彼 らはどんな 悪 の 中 にも 善 いものがあると 信 ずることは 正 しいことである、と 思<br />

い 込 んでいる。だからその 必 然 的 な 結 果 として、ついにはすべての 善 いものの 中 に 悪<br />

なるものを 信 ずるようになるのである。かつて 聖 徒 たちに 伝 えられた 信 仰 を 守 って 立<br />

とうとしないで、 彼 らは 今 や、いわばローマに 対 して 無 情 な 意 見 を 抱 いていたことを<br />

陳 謝 し、 自 分 たちがかたくなであったことに 対 して 赦 しを 求 めているのである。<br />

大 多 数 の 者 は、 法 王 制 に 対 して 好 意 をもっていない 人 たちでさえ、この 教 会 の 権 力<br />

と 影 響 からくる 危 険 をほとんど 理 解 していない。 多 くの 者 は、 中 世 をおおっていた 知<br />

的 道 徳 的 暗 黒 は、 法 王 制 の 教 義 、 迷 信 、 圧 制 を 広 げるのに 役 立 ったが、 現 代 のすぐれ<br />

た 知 性 や、 知 識 の 普 及 、また 宗 教 問 題 に 関 する 自 由 の 増 大 は、 不 寛 容 や 専 制 政 治 の 復<br />

興 を 押 しとどめている、と 主 張 する。この 文 明 の 時 代 にそのような 事 態 が 存 在 すると<br />

425


国 際 協 定<br />

いうような 考 え 方 は、 嘲 笑 される。 知 的 、 道 徳 的 、 宗 教 的 な 大 きな 光 がこの 時 代 に 輝<br />

いているということは 事 実 である。 神 の 聖 なるみ 言 葉 が 開 かれて、 天 よりの 光 が 世 界<br />

を 照 らしてきた。しかし、いっそう 大 きな 光 が 与 えられれば 与 えられるほど、それを<br />

曲 解 し、 拒 む 者 の 暗 黒 はますますひどくなるということを 忘 れてはならない。<br />

祈 りをもって 聖 書 を 研 究 する 時 、プロテスタントは 法 王 制 の 本 性 を 知 り、 法 王 制 を<br />

嫌 悪 し、それを 避 けるようになる。しかし 多 くの 者 は、 自 分 では 賢 いと 思 っているた<br />

めに、 真 理 に 導 かれるために 謙 遜 に 神 を 求 める 必 要 を 感 じていない。 彼 らは 自 分 たち<br />

の 進 歩 を 誇 っているが、 聖 書 も 神 の 力 も 知 らない。 彼 らは 自 分 たちの 良 心 を 沈 黙 させ<br />

る 何 かの 手 段 がどうしてもほしいので、 最 も 霊 的 ではないもの、 最 も 自 尊 心 を 傷 つけ<br />

ないものを 求 める。 彼 らが 願 うものは、 神 を 覚 える 方 法 として 通 用 して、その 実 は 神<br />

を 忘 れる 方 法 である。 法 王 制 はこれらすべての 欲 求 によくかなっている。それはほと<br />

んど 全 世 界 を 包 含 する 2 種 類 の 人 々—— 自 分 の 功 績 によって 救 われようとする 者 と、<br />

罪 の 中 にあって 救 われようとする 者 ——のために 用 意 されている。ここにその 権 力 の<br />

秘 けつがある。<br />

知 的 大 暗 黒 の 時 代 は 法 王 制 の 成 功 に 都 合 がよかったように 見 られてきた。しかし 大<br />

いなる 知 的 進 歩 の 時 代 もその 成 功 にとって 同 じく 都 合 がよいことが、 実 際 に 示 される<br />

であろう。 神 のみ 言 葉 もなく、 真 理 の 知 識 もなかった 過 去 の 時 代 には、 人 々の 目 は 欺<br />

かれ、 幾 千 の 者 は、 自 分 たちの 足 もとに 張 られた 網 が 見 えないでわなに 捕 らえられた。<br />

今 の 時 代 には、「 偽 りの 知 識 」である 人 間 的 思 索 のはなやかな 光 に 目 をくらまされて<br />

いる 人 が 多 い。 彼 らは 網 に 気 づかず、 目 隠 しされたようにたやすくそれに 入 り 込 んで<br />

しまう。 神 は、 人 間 の 知 的 能 力 がその 造 り 主 からの 賜 物 とみなされ、 真 理 と 義 の 奉 仕<br />

に 用 いられるよう 計 画 なさった。しかし、 人 々が 高 慢 と 野 望 を 抱 き、 神 のみ 言 葉 より<br />

も 自 分 自 身 の 説 を 高 める 時 、 知 識 は 無 知 よりも 大 きな 害 を 与 え 得 るのである。こうし<br />

て、 聖 書 の 信 仰 の 基 礎 を 覆 す 現 代 の 偽 りの 知 識 は、 知 識 の 抑 圧 が 暗 黒 時 代 に 法 王 制 拡<br />

大 強 化 の 道 を 開 くのに 成 功 したように、 人 々の 喜 ぶ 形 式 をもった 法 王 制 が 受 け 入 れら<br />

れる 道 を 備 えることに 成 功 するのである。<br />

教 会 の 制 度 と 慣 習 に 対 して 国 家 の 支 持 を 得 るために 目 下 米 国 で 進 行 している 運 動 に<br />

おいて、プロテスタントはカトリック 教 徒 の 例 にならっている。いやそればかりか、<br />

彼 らは 法 王 制 が 旧 世 界 において 失 った 至 上 権 を、プロテスタント・アメリカにおいて<br />

再 び 得 るための 戸 を 開 いているのである。そしてこの 運 動 にもっと 重 大 な 意 義 を 与 え<br />

るものは、そこに 企 図 されている 主 要 な 目 的 が 日 曜 日 遵 守 ——ローマ 法 王 制 に 始 まり、<br />

この 教 会 がその 権 威 のしるしとして 主 張 する 慣 習 ——の 強 制 であるという 事 実 である。<br />

プロテスタント 諸 教 会 にゆきわたり、 法 王 制 がかつて 行 った 日 曜 日 尊 重 の 働 きと 同 じ<br />

426


国 際 協 定<br />

ことをするようプロテスタント 教 会 を 導 いているものは、 法 王 制 の 精 神 、すなわち、<br />

世 俗 的 習 慣 への 一 致 の 精 神 、 神 の 戒 めよりも 人 間 の 言 い 伝 えを 尊 重 する 精 神 である。<br />

もし 読 者 が、まもなく 起 ころうとしている 戦 いにおいて 用 いられる 手 段 を 理 解 した<br />

ければ、 過 去 の 時 代 に 同 じ 目 的 のためにローマが 用 いた 手 段 の 記 録 をたどるだけでよ<br />

い。 法 王 制 とプロテスタントが 合 同 して、 彼 らの 教 義 を 拒 む 者 をどのように 扱 うかを<br />

知 りたいならば、ローマが 安 息 日 とその 擁 護 者 たちに 対 して 表 した 精 神 を 見 ればよ<br />

い。 世 俗 の 権 力 に 支 持 された 勅 令 、 宗 教 会 議 、 教 会 礼 典 などによって、 異 教 の 祭 日 が<br />

キリスト 教 界 に 高 い 地 位 を 獲 得 していった。 日 曜 日 遵 守 を 強 いる 最 初 の 法 令 は、コン<br />

スタンティヌスによって 制 定 された 法 律 であった[ 紀 元 321 年 ]。この 法 令 は、 町 の 住<br />

民 には「この 尊 ぶべき 太 陽 の 日 」に 休 むことを 要 求 したが、 農 民 には 農 業 に 従 事 する<br />

ことを 許 した。 実 質 的 には 異 教 の 法 令 であったけれども、それは 皇 帝 がキリスト 教 を<br />

名 目 上 受 け 入 れた 後 、 皇 帝 によって 施 行 されたのである。<br />

勅 令 は 神 の 権 威 に 十 分 に 代 わり 得 るものとならなかったので、 王 侯 の 寵 遇 を 求 めた<br />

司 教 で、コンスタンティヌスの 特 別 な 友 人 であり、 追 従 者 であったエウセビウスは、<br />

キリストが 安 息 日 を 日 曜 日 に 移 されたという 主 張 を 持 ち 出 した。この 新 しい 教 理 を 証<br />

明 するのに、 聖 書 のあかしは 1 つも 示 されなかった。エウセビウス 自 身 も 無 意 識 のう<br />

ちにその 誤 りを 認 め、この 変 更 の 真 の 創 始 者 を 指 摘 している。「 安 息 日 になすべき 義<br />

務 はどんなことでもすべて、われわれが 主 の 日 に 移 した」と 彼 は 言 っている。 4 しか<br />

し、 根 拠 がないにもかかわらず、 日 曜 日 についての 議 論 は、 人 々に 主 の 安 息 日 を 大 胆<br />

にふみにじらせた。 世 の 尊 敬 を 受 けたいと 願 う 者 はすべて、この 俗 受 けのする 祭 日 を<br />

受 け 入 れた。<br />

法 王 制 が 確 立 されるにつれて、 日 曜 日 尊 重 の 運 動 が 続 けられた。 一 時 は、 人 々は 教<br />

会 に 出 席 しない 時 には 畑 仕 事 に 従 事 し、 第 7 日 は 依 然 として 安 息 日 とみなされていた。<br />

しかし、 変 更 は 着 々と 成 し 遂 げられた。 聖 職 にある 者 は、 日 曜 日 にはどんな 民 事 紛 争<br />

の 判 決 をすることも 禁 じられた。その 後 まもなく、どんな 階 級 の 者 でも、すべての 人<br />

は、 自 由 人 は 罰 金 、 奴 隷 はむち 打 ちの 刑 罰 をもって、 通 常 の 労 働 をやめさせられた。<br />

後 に、 金 持 ちはその 財 産 の 半 分 の 没 収 をもって 罰 せられることが 命 令 された。そして<br />

ついには、なお 強 情 ならば、 彼 らを 奴 隷 にするという 法 令 がでた。 下 層 階 級 の 人 々は、<br />

一 生 の 間 追 放 の 刑 罰 を 受 けるのであった。<br />

奇 跡 も 利 用 された。いろいろな 不 思 議 な 話 の 1 つとして、ある 農 夫 が 日 曜 日 に 畑 を<br />

耕 そうとして、 鉄 片 ですきをみがいていたら、その 鉄 片 が 彼 の 手 にしっかりとくっつ<br />

いたので、2 年 の 間 彼 は「ひどい 痛 みと 恥 」をこらえて、それを 身 につけていたとい<br />

427


国 際 協 定<br />

うことが 伝 えられた。 5 のちに 法 王 は、 教 区 司 祭 に、 日 曜 日 を 犯 す 者 たちを 訓 戒 し、<br />

彼 らが 自 分 自 身 や 隣 人 の 上 に 大 きな 災 害 を 招 くことがないように 教 会 へ 行 って 祈 りを<br />

ささげるよう 勧 めることを 命 じた。 教 会 会 議 は、 日 曜 日 に 働 いていた 者 たちが 雷 に 打<br />

たれたから、この 日 は 安 息 日 に 違 いない、という 論 法 を 持 ち 出 した。これは、その 後<br />

も 広 く 用 いられ、 新 教 徒 さえ 採 用 したものである。 高 位 聖 職 者 たちは、「この 日 を 彼<br />

らがなおざりにすることを、 神 がどんなに 嫌 悪 されるか 明 らかである」と 言 った。さ<br />

らに、 司 祭 や 聖 職 者 たち、 王 侯 や 貴 族 たち、そしてすべての 忠 実 な 人 々は、「この 日<br />

の 栄 誉 を 回 復 し、キリスト 教 のために、 今 後 ますます 熱 心 に 遵 守 するよう、 彼 らは 全<br />

力 をあげて、 努 力 し 配 慮 すること」が 要 請 された。 6<br />

会 議 の 決 議 に 基 づく 布 告 では 不 十 分 なことがわかると、 教 会 は、 人 心 に 恐 怖 を 与 え<br />

て 日 曜 日 に 労 働 をやめるように 強 制 する 法 令 を 発 布 するよう、 政 府 当 局 に 懇 請 した。<br />

ローマで 開 かれた 宗 教 会 議 においては、 従 来 のすべての 決 定 について、さらに 大 きな<br />

強 制 力 と 厳 格 さが 再 確 認 された。それらはまた 教 会 法 の 中 に 加 えられ、ほとんど 全 キ<br />

リスト 教 国 にわたって 政 府 当 局 によって 施 行 された。 7 日 曜 日 遵 守 に 関 して 聖 書 上 の<br />

権 威 がないことはなお、 少 なからぬ 困 惑 を 引 き 起 こした。 人 々は、 太 陽 の 日 をあがめ<br />

るために「7 日 目 はあなたの 神 、 主 の 安 息 である」という 神 の 明 白 な 宣 言 を 退 ける 自<br />

分 たちの 教 師 の 権 威 に、 疑 問 を 抱 いた。 聖 書 の 証 言 がないのを 補 うために、ほかの 工<br />

夫 が 必 要 となった。12 世 紀 の 終 わりごろ 英 国 の 教 会 を 訪 れたある 熱 心 な 日 曜 日 擁 護 者<br />

は、 真 理 の 忠 実 な 証 人 たちの 抵 抗 を 受 けた。<br />

そしてその 働 きはほとんど 効 果 がなかったので、 彼 はしばらくその 国 を 離 れ、 自 分<br />

の 教 えを 強 要 するなんらかの 手 段 を 考 案 した。 彼 がもどってきた 時 、その 欠 陥 は 補 わ<br />

れ、その 後 の 働 きに 大 きな 成 功 をおさめた。 彼 は、 神 ご 自 身 からのものであると 称 す<br />

る 1 巻 の 巻 き 物 を 持 ってきた。それには 日 曜 日 遵 守 に 必 要 な 命 令 が 書 かれていて、そ<br />

れに 服 従 しない 者 を 恐 れさせるような 恐 ろしい 脅 しが 付 け 加 えられていた。この 貴 重<br />

な 文 書 ——それが 支 持 する 制 度 と 同 様 悪 質 な 偽 物 ——は、 天 から 降 下 したもので、エ<br />

ルサレムのゴルゴタの 聖 シメオン 寺 院 の 祭 壇 の 上 で 発 見 されたものであると 言 われた。<br />

しかし 実 際 は、ローマにある 法 王 の 宮 殿 が、それを 生 んだ 出 所 である。 教 会 の 勢 力 と<br />

繁 栄 を 進 展 させるための 詐 欺 や 偽 造 行 為 は、どの 時 代 においても、 法 王 制 によって 合<br />

法 とみなされてきたのである。<br />

この 巻 き 物 は、 土 曜 日 の 午 後 3 時 から 月 曜 日 の 日 の 出 まで、 労 働 を 禁 じていた。そ<br />

して、その 権 威 は、 多 くの 奇 跡 によって 確 証 されたと 言 われていた。 定 められた 時 間<br />

が 過 ぎても 働 いていた 人 は、 体 がまひしたと 言 い 伝 えられた。 粉 屋 が 穀 物 をひこうと<br />

したところ、 粉 の 代 わりに 血 が 吹 き 出 し、 水 は 勢 いよく 流 れているにもかかわらず、<br />

428


国 際 協 定<br />

水 車 は 動 かないのであった。また、 生 パンをオーブンに 入 れた 婦 人 は、オーブンは 非<br />

常 に 熱 かったにもかかわらず、それを 出 してみたら 生 であった。また、 別 の 婦 人 は、<br />

生 パンを 焼 くために 3 時 に 用 意 したが、それを 月 曜 日 までとっておくことにしたとこ<br />

ろ、 次 の 日 、それが 神 の 力 によって、パンの 形 にこねられ 焼 かれているのを 見 つけた。<br />

土 曜 日 の 午 後 3 時 以 後 にパンを 焼 いた 人 は、 翌 朝 パンをさいたところ、そこから 血 が<br />

流 れ 出 た。このような 途 方 もない 迷 信 的 な 作 りごとによって、 日 曜 日 の 擁 護 者 たちは、<br />

その 神 聖 さを 確 立 しようとしたのであった。 8<br />

英 国 におけると 同 様 に、スコットランドにおいても、 昔 からの 安 息 日 の 一 部 を 日 曜<br />

日 と 結 合 することによって、 日 曜 日 をもっと 尊 ぶことを 確 立 した。しかし、 聖 く 守 る<br />

べき 時 間 は、いろいろと 異 なっていた。スコットランド 王 の 勅 令 は、「 土 曜 日 は、 正<br />

午 から 神 聖 なものとする」ことを 宣 言 し、その 時 間 から 月 曜 日 の 朝 までは、だれも 世<br />

俗 の 仕 事 に 従 事 してはならなかった。 9 しかし、 日 曜 日 の 神 聖 を 確 立 するためにあら<br />

ゆる 努 力 をしているにもかかわらず、カトリックの 聖 職 者 たちは、 安 息 日 の 神 聖 な 権<br />

威 と、それに 取 って 代 わった 制 度 が 人 間 から 出 たものであることとを、 公 然 と 認 めた。<br />

16 世 紀 に、 法 王 庁 会 議 は 次 のように 明 白 に 宣 言 した。「すべてのキリスト 者 は、 第 7<br />

日 が 神 によって 聖 別 され、ユダヤ 人 のみならず、 神 を 礼 拝 するように 見 せかけるすべ<br />

ての 者 によって 受 け 入 れられ、 守 られてきたことを 覚 えねばならない。しかし、われ<br />

われキリスト 者 は、 彼 らの 安 息 日 を 主 の 日 に 変 えたのである。」 10 神 の 律 法 に 不 正 な<br />

変 更 を 加 えていた 者 たちは、 自 分 たちの 行 為 の 性 質 を 知 らなかったのではなかった。<br />

彼 らは 故 意 に 自 らを 神 の 上 に 置 いたのである。<br />

自 分 たちと 一 致 しないものに 対 するローマ 教 会 の 方 針 についての 著 しい 例 は、その<br />

ある 者 たちが 安 息 日 遵 守 者 であったワルド 派 [ワルデンセス]への 長 期 間 にわたる 残 忍<br />

な 迫 害 の 中 にみられた。ほかにも 第 4 条 の 戒 めに 対 する 忠 誠 のゆえに、 同 様 な 方 法 で<br />

苦 しみを 受 けた 者 たちがあった。エチオピアとアビシニアの 教 会 の 歴 史 は 特 に 意 義 が<br />

ある。 暗 黒 時 代 の 暗 やみの 中 で、 中 央 アフリカのキリスト 者 たちは 世 界 から 見 落 とさ<br />

れ 忘 れられて、 幾 世 紀 にもわたって 自 分 たちの 信 仰 を 実 践 する 自 由 を 享 受 した。しか<br />

し、ついにローマ 教 会 が 彼 らの 存 在 を 知 り、まもなくアビシニアの 皇 帝 はだまされて<br />

法 王 をキリストの 代 理 者 とし て 承 認 した。 続 いてその 他 の 譲 歩 が 行 われた。 最 もきび<br />

しい 刑 罰 の 下 に、 安 息 日 の 遵 守 を 禁 ずる 法 令 が 発 布 された。 11 しかし、まもなく 法 王<br />

の 暴 政 は 非 常 に 耐 えがたいくびきとなったので、アビシニア 人 は 自 分 たちの 首 からそ<br />

れを 断 ち 切 る 決 心 をした。 恐 ろしい 戦 いの 後 、ローマ 教 徒 たちは 国 外 に 追 放 され、 昔<br />

からの 信 仰 が 回 復 された。 教 会 は 自 分 たちの 自 由 を 喜 んだ。そしてローマの 惑 わしと<br />

429


国 際 協 定<br />

狂 信 と 専 制 権 力 に 関 して 学 んだ 教 訓 を 決 して 忘 れなかった。 彼 らはその 孤 立 した 地 域<br />

で、 他 のキリスト 教 国 に 知 られないでいることに 満 足 していた。<br />

アフリカの 教 会 は、カトリック 教 会 が 完 全 に 背 信 する 前 に 守 っていたように、 安 息<br />

日 を 守 っていた。 彼 らは、 神 の 戒 めに 従 って 7 日 目 を 守 っていたが、 教 会 の 習 慣 に 従<br />

って、 日 曜 日 に 仕 事 をすることを 避 けていた。ローマは、 至 上 権 を 獲 得 するに 及 んで、<br />

神 の 安 息 日 をふみにじって 教 会 自 身 の 日 を 高 めた。しかし、アフリカの 諸 教 会 は、<br />

1000 年 近 くの 間 隠 されていて、この 背 信 に 加 わらなかった。ローマの 権 力 下 に 陥 っ<br />

てからは、 彼 らは、 真 の 安 息 日 を 捨 てて 偽 りの 安 息 日 を 高 めるよう 強 制 された。しか<br />

し 彼 らは、 独 立 を 回 復 するや 否 や、 第 4 条 の 戒 めの 服 従 に 立 ちかえった。<br />

過 去 のこうした 記 録 は、 真 の 安 息 日 とその 擁 護 者 たちに 対 するローマ 教 会 の 敵 意 と、<br />

この 教 会 が 作 りあげた 制 度 に 尊 敬 を 払 わせるために 教 会 が 用 いた 数 々の 手 段 を、はっ<br />

きりあらわしている。 神 のみ 言 葉 には、ローマ・カトリックとプロテスタントが 日 曜<br />

日 を 高 めるために 協 力 する 時 、これらの 光 景 がくり 返 されるということが 教 えられて<br />

いる。 黙 示 録 13 章 の 預 言 には、 小 羊 のような 角 をもつ 獣 によって 象 徴 された 権 力 が、<br />

「 地 と 地 に 住 む 人 々」に、 法 王 権 ——そこでは「ひょうに 似 て」いる 獣 によって 象 徴<br />

されている——を 礼 拝 させるということが、はっきり 述 べられている。2 つの 角 を 持<br />

つその 獣 は、また「 獣 の 像 を 造 ることを、 地 に 住 む 人 々に」 語 る。さらにそれは、<br />

「 小 さき 者 にも、 大 いなる 者 にも、 富 める 者 にも、 貧 しき 者 にも、 自 由 人 にも、 奴 隷<br />

にも」すべての 人 々に、 獣 のしるしを 受 けるように 命 じる[ 黙 示 録 13:11~。 米 国 が<br />

小 羊 のような 角 をもつ 獣 によって 象 徴 された 権 力 であることと、ローマ 教 会 が 自 分 の<br />

至 上 権 を 特 に 承 認 するものであると 主 張 する 日 曜 日 遵 守 を 米 国 が 強 制 する 時 に、この<br />

預 言 が 成 就 するということとは、すでに 明 らかにされた。しかし、 法 王 制 に 忠 順 の 意<br />

を 表 すのは 米 国 だけではない。かつてローマ 教 会 の 支 配 を 承 認 した 国 々におけるロー<br />

マ 教 会 の 影 響 力 は、なお 破 壊 されずに 強 く 残 っている。そして 預 言 にはその 権 力 の 回<br />

復 が 予 告 されている。「その 頭 の 1 つが、 死 ぬほどの 傷 を 受 けたが、その 致 命 的 な 傷<br />

もなおってしまった。そこで 全 地 の 人 々は 驚 きおそれて、その 獣 に 従 」った[ 同<br />

13:。<br />

死 ぬほどの 傷 を 受 けたとは、1798 年 の 法 王 権 の 失 墜 をさしている。この 後 、「そ<br />

の 致 命 的 な 傷 もなおってしまった。そこで、 全 地 の 人 々は 驚 きおそれて、その 獣 に 従 」<br />

ったと 預 言 者 は 言 う。パウロは「 不 法 の 者 」が 再 臨 の 時 まで 存 続 するということをは<br />

っきり 述 べている[Ⅱテサロニケ 2:3~8 参 照 ]。 時 の 終 わりに 至 るまで、 彼 はその 惑<br />

わしの 働 きを 続 けるのである。また 黙 示 録 記 者 は 法 王 権 に 関 して、「 地 に 住 む 者 で、<br />

ほふられた 小 羊 のいのちの 書 に、その 名 ……をしるされていない 者 はみな、この 獣 を<br />

430


国 際 協 定<br />

拝 むであろう」と 述 べている[ 黙 示 録 13:。 旧 大 陸 においても 新 大 陸 においても、ロ<br />

ーマ 教 会 の 権 威 だけに 基 づいている 日 曜 日 制 度 をあがめることによって、 人 々は 法 王<br />

制 に 忠 順 の 意 を 表 明 するのである。<br />

19 世 紀 の 半 ば 以 来 、 米 国 の 預 言 研 究 者 たちは、このあかしを 世 に 発 表 してきた。<br />

今 日 起 こっている 数 々のできごとの 中 に、その 預 言 の 成 就 に 向 かっての 急 速 な 進 展 が<br />

見 られる。 神 からの 命 令 に 代 えてそこを 補 うために 奇 跡 を 捏 造 した 法 王 教 の 指 導 者 た<br />

ちと 同 じに、プロテスタントの 教 師 たちも、 日 曜 日 遵 守 には 神 の 権 威 があると 主 張 す<br />

るが、やはり 同 じように、 聖 書 上 の 証 拠 に 欠 けている。 日 曜 安 息 日 の 違 反 に 対 して 人<br />

々に 神 のさばきが 臨 むという 主 張 がくり 返 されるであろう。すでにそうした 主 張 が 始<br />

まっている。そ して 日 曜 日 遵 守 を 強 制 する 運 動 は 確 実 に 勢 力 を 得 てきている。<br />

ローマ 教 会 の 抜 け 目 なさと 狡 滑 さには 驚 くべきものがある。この 教 会 は、 何 が 起 こ<br />

るかを 読 みとることができる。 法 王 教 は、プロテスタント 教 会 が 偽 りの 安 息 日 を 承 認<br />

して 忠 順 を 表 していることや、 過 去 に 法 王 教 自 身 が 用 いたのと 同 じ 手 段 で、プロテス<br />

タント 教 会 がそれを 強 制 する 準 備 をしていることを 見 て、 時 機 を 待 っている。 真 理 の<br />

光 を 拒 む 者 たちが、ローマ 教 会 が 起 こした 1 つの 制 度 をあがめるために、この 無 謬 を<br />

自 称 する 権 力 の 助 けを 求 める 時 が 来 るであろう。ローマ 教 会 がこの 働 きにおいて、す<br />

ぐプロテスタント 教 会 に 助 けの 手 をさしのべるであろうことは、 想 像 にかたくない。<br />

教 会 に 服 従 しない 者 をどう 取 り 扱 うべきかを、 法 王 教 の 指 導 者 たち 以 上 によく 知 って<br />

いる 者 はいないであろう。<br />

ローマ・カトリック 教 会 は 全 世 界 にわたって 根 を 張 り、 法 王 庁 の 支 配 下 にあってそ<br />

の 利 害 に 役 立 つよう 計 画 されている 一 大 組 織 を 形 成 している。 全 世 界 のあらゆる 国 に<br />

おいて、 聖 餐 にあずかる 幾 千 万 の 者 たちは、 法 王 に 対 する 忠 誠 を 堅 く 保 つように 教 え<br />

られている。 国 籍 や 政 府 がどうであろうと、 彼 らは 教 会 の 権 威 をほかのいっさいのも<br />

のの 上 にあるものとみなさなければならない。 彼 らは 国 家 に 忠 誠 を 誓 うかもしれない<br />

が、その 背 後 には、ローマに 対 する 服 従 の 誓 約 があって、 教 会 の 利 益 に 反 する 場 合 に<br />

は、 国 家 に 対 するどんな 誓 いも 破 ってもよいことになっている。<br />

歴 史 は、 教 会 がたくみに 根 気 よく 国 事 に 入 り 込 む 努 力 を 続 け、1 度 足 場 を 得 てしま<br />

うと、 王 侯 や 人 民 を 破 滅 させてでも 教 会 自 身 の 目 的 を 進 めることを 証 明 している。<br />

1204 年 に、 法 王 インノセント 3 世 は、アラゴン 王 ペドロ 2 世 にむりやり 次 のような<br />

異 常 な 誓 約 を 強 制 した。「わたくしアラゴン 王 ペドロは、わが 主 なる 法 王 インノセン<br />

ト 及 びその 正 統 なる 後 継 者 並 びにローマ 教 会 に 対 して、 絶 えず 忠 実 かつ 従 順 であるこ<br />

と、また、カトリックの 信 仰 を 擁 護 し、 異 端 に 堕 落 した 者 を 迫 害 して、 法 王 に 対 する<br />

431


国 際 協 定<br />

わが 国 の 服 従 を 保 つことを、ここに 明 言 し、 約 束 する。」 12 このことは、「 法 王 が 皇<br />

帝 を 廃 することは 合 法 である」、「 法 王 は 不 正 な 統 治 者 の 臣 下 には、その 王 に 対 する<br />

忠 誠 を 免 ずることができる」、という 法 王 権 に 関 する 主 張 と 一 致 している。 13<br />

また、ローマ 教 会 は 決 して 変 わらないということがこの 教 会 の 自 慢 の 種 であること<br />

を 忘 れてはならない。グレゴリー7 世 やインノセント 3 世 の 主 義 は、 今 なおローマ・<br />

カトリック 教 の 主 義 である。そして 教 会 がもしひとたび 権 力 を 持 つならば、 過 去 の 場<br />

合 と 同 じ 勢 力 をもって、その 主 義 を 行 動 に 移 すであろう。プロテスタントが 日 曜 日 を<br />

あがめる 運 動 において、ローマ 教 会 の 助 けを 受 け 入 れようと 企 てる 時 、 彼 らは 自 分 た<br />

ちのしていることがわからないのである。 プロテスタントが 自 分 たちの 目 的 の 達 成 に<br />

夢 中 になっている 間 に、ローマ 教 会 は、その 権 力 を 再 び 確 立 して、 失 われた 至 上 権 を<br />

回 復 することをねらっているのである。 教 会 が 国 家 の 権 力 を 用 いたり、 支 配 したりす<br />

るような、また 宗 教 上 の 制 度 が 国 家 の 法 律 によって 強 制 されるような、すなわち、 教<br />

会 と 国 家 の 権 威 が 良 心 を 支 配 するような、そのような 原 則 が 米 国 にひとたび 確 立 され<br />

るならば、この 国 におけるローマ 教 会 の 勝 利 は 確 実 なものとなる。 神 のみ 言 葉 はこの<br />

さし 迫 った 危 険 について 警 告 を 与 えてきた。これが 顧 みられないならば、プロテスタ<br />

ントの 世 界 は、ローマ 教 会 の 目 的 が 実 際 に 何 であったかを 知 った 時 には、もはや 手 遅<br />

れになってそのわなを 逃 れることができないであろう。ローマ 教 会 は 黙 々としてその<br />

勢 力 をのばしつつある。その 教 えは 議 会 に、 教 会 に、また 人 々の 心 に 影 響 を 及 ぼして<br />

いる。 法 王 制 は 堂 々たる 大 建 造 物 を 築 き 上 げているが、その 奥 まった 部 屋 では 昔 の 迫<br />

害 がくり 返 されるであろう。 自 分 が 手 を 下 す 時 が 来 たら 自 分 自 身 の 目 的 を 押 し 進 める<br />

ために、 教 会 は、ひそかに、そしてあやしまれないように、 勢 力 をのばしつつある。<br />

この 教 会 が 何 よ りも 望 むものは、 有 利 な 立 場 である。そしてこれはすでに 教 会 に 与 え<br />

られつつある。われわれはローマ 教 会 の 真 の 目 的 が 何 であるかをまもなく 見 、かつ 感<br />

じるであろう。 神 のみ 言 葉 を 信 じ、それに 従 う 者 はだれでも、そのことによって 非 難<br />

と 迫 害 を 受 けるであろう。<br />

432


国 際 協 定<br />

第 36 章 困 った 時 の<br />

天 における 大 争 闘 のその 最 初 から、 神 の 律 法 を 覆 すことがサタンの 目 的 であった。<br />

彼 が 創 造 主 に 対 する 反 逆 を 始 めたのは、この 目 的 を 達 成 するためであった。そしてサ<br />

タンは、 天 から 追 放 されたけれども、この 地 上 で 同 じ 戦 いを 続 けてきた。 人 を 欺 き、<br />

それによって 神 の 律 法 を 犯 すようにさせることこそ、サタンが 着 々と 追 い 求 めてきた<br />

目 的 である。このことは、 律 法 全 体 を 廃 することによって 成 し 遂 げられても、あるい<br />

はまた、 戒 めの 1 つを 拒 むことによって 成 し 遂 げられても、 最 終 的 な 結 果 は 同 じであ<br />

る。「その 1 つの 点 」でも 犯 す 者 は、 律 法 全 体 に 対 する 軽 べつをあらわすのであり、<br />

その 影 響 と 手 本 は 罪 に 味 方 するものであって、「 全 体 を 犯 したことになる」のである<br />

[ヤコブ 2:。<br />

神 の 戒 めを 軽 べつするために、サタンは 聖 書 の 教 えを 曲 解 し、そうすることによっ<br />

て、 聖 書 を 信 ずると 告 白 する 幾 千 もの 人 たちの 信 仰 に 誤 謬 を 混 ぜてきた。 真 理 と 誤 謬<br />

の 最 後 の 大 争 闘 は、 長 い 間 続 いてきた 神 の 律 法 に 関 する 論 争 の 最 後 の 戦 いにほかなら<br />

ない。われわれは 今 や、この 戦 い、すなわち、 人 のおきてと 主 の 戒 めとの 間 の、また、<br />

聖 書 の 宗 教 と 作 り 話 や 言 い 伝 えの 宗 教 との 間 の、 戦 いに 入 っているのである。<br />

この 戦 いにおいて 真 理 と 正 義 に 対 抗 して 結 束 する 勢 力 が、 今 活 発 に 働 いている。 苦<br />

難 と 血 の 大 きな 犠 牲 を 払 ってわれわれに 伝 えられてきた 聖 なる 神 のみ 言 葉 は、ほとん<br />

ど 尊 重 されていない。 聖 書 はどんな 人 の 手 にも 入 るが、それを 真 に 人 生 の 道 しるべと<br />

して 受 け 入 れる 人 は 少 ない。 不 信 仰 は 単 に 世 の 中 ばかりでなく、 教 会 内 にも 驚 くほど<br />

広 くゆきわたっている。 多 くの 人 は、キリスト 教 信 仰 の 支 柱 そのものになっている 教<br />

理 を 否 定 するようにさえなっている。<br />

霊 感 を 受 けた 記 者 たちによって 書 かれている、 創 造 の 偉 大 な 事 実 、 人 類 の 堕 落 、 贖<br />

い、 神 の 律 法 の 永 遠 性 などの 大 真 理 が、 自 称 キリスト 教 界 の 大 部 分 の 人 たちによって、<br />

全 体 的 に、あるいは 部 分 的 に 受 け 入 れられなくなっている。 知 恵 と 自 主 性 を 誇 る 幾 千<br />

もの 人 々が、 聖 書 に 絶 対 的 信 頼 を 置 くことを 弱 さの 証 拠 と 考 え、 聖 書 の 揚 げ 足 を 取 っ<br />

たり、 最 も 重 要 な 真 理 を 抽 象 化 したり 言 い 抜 けたりすることを、 優 れた 才 能 や 学 識 の<br />

証 拠 だと 思 っている。 神 の 律 法 が 変 更 されたとか 廃 されたとかいうことを、 信 者 たち<br />

に 教 えている 牧 師 や、 学 生 たちに 教 えている 教 授 、 教 師 が 多 い。そして、 律 法 の 要 求<br />

がなお 有 効 であり、 字 義 通 りに 従 わなければならないものであるとみなす 人 々は、 嘲<br />

笑 と 侮 べつにしか 値 しないと 思 われている。<br />

433


国 際 協 定<br />

人 々は 真 理 を 否 定 することによって、その 著 者 であ られる 神 を 否 定 している。 彼 ら<br />

は 神 の 律 法 を 踏 みつけることによって、 律 法 の 制 定 者 であられる 神 の 権 威 を 否 定 して<br />

いる。 偽 りの 教 理 や 理 論 という 偶 像 を 刻 むことは、 木 や 石 の 偶 像 を 刻 むのと 同 じに 容<br />

易 である。サタンは、 神 の 属 性 を 誤 り 伝 えることによって、 人 々に 神 についての 誤 っ<br />

た 品 性 を 想 像 させるのである。 多 くの 人 々にとって、 主 の 代 わりに 哲 学 的 偶 像 が 王 位<br />

を 占 めている。 一 方 、み 言 葉 の 中 に、キリストの 中 に、そして 創 造 のみ 業 の 中 に 啓 示<br />

されている 生 ける 神 を 礼 拝 する 人 は、 少 数 にすぎない。 幾 千 もの 人 々は、 自 然 を 神 格<br />

化 していながら、 自 然 の 神 を 否 定 している。 形 こそ 違 うが、 偶 像 崇 拝 は、 今 日 のキリ<br />

スト 教 界 にも、 古 代 イスラエルのエリヤの 時 代 にあったのと 同 じように 存 在 している。<br />

自 ら 賢 人 と 称 する 多 くの 人 々、 哲 学 者 、 詩 人 、 政 治 家 、ジャーナリストたちの 神 、 洗<br />

練 された 上 流 社 会 、 多 くの 大 学 、はては 幾 つかの 神 学 校 などの 神 も、フェニキヤの 太<br />

陽 神 バアルとほとんど 変 わるところがない。<br />

キリスト 教 界 で 受 け 入 れられている 誤 謬 ほど、 天 の 神 の 権 威 に 大 胆 に 打 撃 を 与 える<br />

ものはなく、また、 神 の 律 法 はもはや 人 間 を 拘 束 しないという、 急 速 に 力 を 増 しつつ<br />

ある 近 代 的 教 理 ほど、 理 性 の 命 令 に 真 っ 向 から 反 しており、 結 果 の 有 害 なものはない。<br />

どの 国 もみな 法 律 があって、これを 尊 重 しこれに 服 従 することが 要 求 される。 法 律 が<br />

なければ 政 府 は 存 在 することができない。 天 地 の 創 造 主 に、 自 ら 造 られた 被 造 物 を 治<br />

める 律 法 がないなどということが、 想 像 できるであろうか。 国 を 統 治 し、 市 民 の 権 利<br />

を 擁 護 する 法 律 に、 従 う 義 務 がないとか、 法 律 は 人 民 の 自 由 を 制 限 するからそれに 従<br />

う 必 要 はないなどと、かりに 著 名 な 牧 師 たちが、 公 然 と 教 えるとしたらどうだろう。<br />

このような 人 たちはいつまで 講 壇 に 立 つことを 許 されるだろうか。しかし 州 や 国 家 の<br />

法 律 を 無 視 することは、あらゆる 政 府 の 基 礎 であるこれらの 聖 なる 戒 めをふみにじる<br />

よりも 重 い 罪 科 であろうか。<br />

国 々がその 法 律 を 廃 し、 人 民 の 好 きかってにさせるということはあり 得 ないが、ま<br />

して、 宇 宙 の 支 配 者 なる 神 が、その 戒 めを 無 効 にし、 不 義 な 者 を 罪 に 定 め 従 う 者 を 義<br />

とする 規 準 なしにこの 世 を 放 置 されるなどということは、 考 えられもしないことであ<br />

る。 神 の 律 法 を 無 にした 結 果 を 知 りたいだろうか。その 実 験 は 試 みられた。フランス<br />

において、 無 神 論 が 支 配 的 な 勢 力 となった 時 に 演 じられた 光 景 は、 恐 るべきものであ<br />

った。 神 が 課 せられた 拘 束 を 投 げ 捨 てることは、 最 も 残 酷 な 暴 君 サタンの 支 配 を 受 け<br />

入 れることであるということが、そのとき 世 界 に 証 明 された。 義 の 標 準 が 廃 される 時<br />

に、 悪 の 君 がこの 地 上 に 権 力 を 打 ち 立 てる 道 が 開 かれる。<br />

神 の 戒 めが 拒 絶 されるところではどこでも、 罪 がもはやいまわしく 思 えなくなり、<br />

義 は 慕 わしいものではなくなる。 神 の 統 治 に 服 従 することを 拒 む 者 は、 自 らを 治 める<br />

434


国 際 協 定<br />

のに 全 く 不 適 当 な 者 となる。 彼 らの 有 害 な 教 えを 通 して、 不 従 順 の 精 神 が、もともと<br />

支 配 されることを 喜 ばない 子 供 や 青 年 たちの 心 に 植 え 付 けられ、 無 法 で 放 縦 な 社 会 が<br />

生 じる。 多 くの 人 々は、 神 のご 要 求 に 従 う 人 たちの 信 心 深 さを 嘲 笑 しながら、サタン<br />

の 惑 わしを 熱 心 に 受 け 入 れる。 彼 らは 欲 情 をほしいままにし、かつて 異 教 徒 たちの 上<br />

にさばきを 招 いた 罪 にふける。<br />

人 々に 神 の 戒 めを 軽 んじるように 教 えるものは、 不 従 順 の 種 をまき、 不 従 順 を 刈 り<br />

入 れる。 神 の 律 法 によって 課 せられている 拘 束 を 全 部 取 り 去 るならば、 人 間 の 法 律 も<br />

まもなく 無 視 されるであろう。 神 は 不 正 な 慣 習 、 貪 欲 、 虚 偽 、 詐 取 を 禁 じておられる<br />

ので、 人 々は 自 分 たちが 世 俗 的 に 繁 栄 する 道 の 障 害 として、 神 の 戒 めをやすやすとふ<br />

みにじる。しかし、これらの 戒 めを 追 い 払 った 結 果 は、 彼 らの 予 期 しなかったものと<br />

なるであろう。もし 法 律 に 拘 束 されないならば、 違 反 を 恐 れる 必 要 があろうか。 財 産<br />

はもはや 安 全 ではなくなる。 人 々は 力 ずくで 隣 人 の 持 ち 物 を 手 に 入 れ、 最 も 強 い 者 が<br />

最 も 富 める 者 になる。 生 命 そのものが 尊 重 されなくなる。 結 婚 の 誓 約 は、もはや 家 族<br />

を 守 る 神 聖 なとりでとしての 用 をなさなくなる。 力 を 持 っている 者 が、もし 望 むなら、<br />

隣 人 の 妻 を 腕 ずくで 取 るようになる。 第 5 条 は 第 4 条 とともに 廃 される。 子 供 たちは、<br />

親 の 生 命 を 取 ることで 自 分 の 堕 落 した 心 の 願 いを 達 成 できるならば、そうすることを<br />

恐 れなくなる。 文 明 社 会 は 強 奪 者 、 暗 殺 者 の 大 群 と 化 し、 平 和 、 休 息 、 幸 福 は 地 上 か<br />

ら 消 滅 してしまう。<br />

人 間 は 神 のご 要 求 に 従 うことから 解 放 されているという 教 えが、すでに 道 徳 的 義 務<br />

の 力 を 弱 め、 世 に 不 法 の 水 門 を 開 いてしまった。 無 法 、 放 蕩 、 堕 落 が、 押 し 寄 せる 潮<br />

のように、われわれの 上 に 流 れ 込 んできている。 家 庭 においてもサタンは 働 いている。<br />

サタンの 旗 は、キリスト 者 と 称 する 家 庭 にもひるがえっている。ねたみ、 中 傷 、 偽 善 、<br />

不 和 、 競 争 、 争 い、 聖 なる 信 頼 に 対 する 裏 切 り、 肉 欲 の 放 縦 がある。 社 会 生 活 の 土 台<br />

であり 骨 組 みである 宗 教 的 原 則 と 教 理 の 全 体 系 が、ひとかたまりとなってよろめき、<br />

今 にも 崩 壊 しそうに 見 える。 凶 悪 きわまる 犯 罪 者 が、 投 獄 されたような 場 合 でも、 何<br />

かうらやまれるほどの 手 柄 を 立 てたかのように、 贈 り 物 を 受 けたり 注 目 を 集 めたりす<br />

ることがしばしばある。 彼 らの 性 格 と 犯 罪 行 為 が、 大 々 的 に 宣 伝 される。 新 聞 は 悪 徳<br />

の 詳 細 を 報 道 し、こうして 他 の 人 々に、 詐 欺 や 強 奪 や 殺 人 を 行 うことを 教 え 込 む。<br />

そしてサタンは、 自 分 の 邪 悪 な 計 略 が 成 功 したことに 狂 喜 するのである。 悪 徳 の 蔓<br />

延 、 理 由 のない 残 忍 な 殺 傷 、あらゆる 種 類 あらゆる 程 度 の 不 節 制 と 不 正 行 為 の 恐 るべ<br />

き 増 加 を 見 る 時 、 神 をおそれる 者 たちはみな 目 覚 めて、この 悪 の 潮 流 をとどめるには<br />

どうしたらよいかを 考 えてみなければならない。 裁 判 所 は 腐 敗 している。 支 配 者 たち<br />

は 利 益 と 享 楽 を 求 めて 行 動 している。 不 節 制 によって 多 くの 人 の 能 力 がくもらされ、<br />

435


国 際 協 定<br />

そのためサタンは 彼 らをほとんど 完 全 に 支 配 している。 法 曹 界 は 堕 落 し、 買 収 され、<br />

だまされている。 飲 酒 、 歓 楽 、 欲 情 、ねたみ、あらゆる 種 類 の 不 正 が、 為 政 者 たちの<br />

中 に 現 れている。「 公 平 はうしろに 退 けられ、 正 義 ははるかに 立 つ」[イザヤ 59:。<br />

ローマの 主 権 下 にゆきわたった 不 法 と 霊 的 暗 黒 は、 教 会 が 聖 書 を 抑 圧 したための 避<br />

けられぬ 結 果 であった。しかし、 宗 教 自 由 の 時 代 において 福 音 のあかあかとした 光 の<br />

もとで、 不 信 仰 が 広 がり、 神 の 律 法 が 退 けられ、その 結 果 堕 落 が 生 じた 原 因 は、どこ<br />

に 見 いだされるであろうか。サタンは、もはや 聖 書 を 遠 ざけておくことによって 世 界<br />

を 支 配 することができなくなったので、 同 じ 目 的 を 達 成 するために 違 った 手 段 に 訴 え<br />

ている。 聖 書 に 対 する 信 仰 を 破 壊 することは、 聖 書 そのものを 破 壊 するのと 同 様 に 彼<br />

の 目 的 に 役 立 つのである。 神 の 律 法 はもはや 拘 束 力 がないという 信 仰 を 導 入 すること<br />

によって、 彼 は、ちょうど 戒 めに 全 く 無 知 である 場 合 と 同 じほど 効 果 的 に 人 々を 導 い<br />

て 罪 を 犯 させるのである。そしてサタンは 現 在 も、 昔 の 時 代 と 同 様 に、 教 会 を 通 して<br />

自 分 の 計 画 を 進 めようと 働 いている。 今 日 の 宗 教 団 体 は、 聖 書 の 中 に 明 白 に 示 されて<br />

いる 俗 受 けのしない 真 理 に 耳 を 傾 けようとしない。そしてその 真 理 と 対 抗 するために、<br />

懐 疑 論 の 種 を 広 くまくことになった 解 釈 と 立 場 を 採 用 した。<br />

彼 らは、 人 間 は 本 来 不 死 であって 死 後 も 意 識 があるというカトリック 教 の 誤 謬 に 固<br />

執 して、 心 霊 術 の 惑 わしに 対 する 唯 一 の 防 備 を 拒 んできた。 永 遠 に 苦 しめられるとい<br />

う 教 えは、 多 くの 人 々に、 聖 書 に 対 する 信 仰 を 失 わせた。そしてまた、 第 4 条 の 要 求<br />

が 人 々に 示 される 時 、 第 7 日 安 息 日 の 遵 守 が 命 じられていることがわかる。すると 一<br />

般 の 多 くの 教 師 たちは、あまり 守 りたくない 義 務 から 逃 れる 唯 一 の 道 として、 神 の 律<br />

法 はもはや 拘 束 力 を 持 っていないと 宣 言 する。このようにして 彼 らは、 律 法 も 安 息 日<br />

もともに 捨 て 去 るのである。 安 息 日 の 改 革 の 運 動 が 広 がるにつれて、 第 4 条 の 要 求 を<br />

無 効 にするため 神 の 律 法 を 退 けることが、ほとんど 世 界 的 になる。 宗 教 界 の 指 導 者 た<br />

ちの 教 えは、 不 信 仰 への 道 、 心 霊 術 への 道 、そして 神 の 律 法 に 対 する 軽 べつへの 道 を<br />

開 いてきた。だから、 今 日 のキリスト 教 界 に 存 在 する 不 法 の 恐 るべき 責 任 は、これら<br />

の 指 導 者 たちにあるのである。<br />

ところがこの 階 層 の 人 たちは、 急 速 に 広 がっている 堕 落 は、 主 としていわゆる「キ<br />

リスト 教 的 安 息 日 」を 汚 すことにその 原 因 があるのだから、 日 曜 日 遵 守 を 強 制 するこ<br />

とが 社 会 道 徳 を 大 いに 向 上 させるであろうと 主 張 する。この 主 張 が 特 に 強 調 されるの<br />

は、 真 の 安 息 日 の 教 理 が 最 も 広 く 宣 べ 伝 えられてきたアメリカにおいてである。アメ<br />

リカにおいては、 最 も 目 だった 重 要 な 道 徳 的 改 革 の 1 つである 禁 酒 禁 煙 運 動 が、しば<br />

しば 日 曜 日 遵 守 運 動 と 結 びつけられる。 日 曜 日 遵 守 運 動 の 主 張 者 たちは、 自 分 たちは<br />

社 会 の 最 高 の 利 益 を 促 進 するためにほねおっていると 称 し、 彼 らとの 協 力 を 拒 む 者 は、<br />

436


国 際 協 定<br />

禁 酒 禁 煙 運 動 と 改 革 の 敵 であると 非 難 される。しかし、 誤 謬 を 助 長 する 運 動 が、それ<br />

自 体 は 善 である 働 きと 結 合 しているからといって、その 誤 謬 を 支 持 してよいというこ<br />

とにはならない。われわれは、 健 全 な 食 物 にまぜることによって 毒 を 隠 すことはでき<br />

ても、それが 毒 であることには 変 わりないのである。それどころか、 毒 と 気 づかれな<br />

いために、それだけいっそう 危 険 なものとなる。<br />

虚 偽 を、それをもっともらしく 見 えるようにさせるに 足 るだけの 真 理 と 結 合 させる<br />

ことが、サタンの 策 略 の 1 つである。 日 曜 日 遵 守 運 動 の 指 導 者 たちは、 人 々が 必 要 と<br />

している 改 革 を 提 唱 し、 聖 書 と 調 和 している 諸 原 則 を 提 唱 するかもしれない。しかし、<br />

その 中 に、 神 の 律 法 に 矛 盾 する 要 求 が 含 まれているかぎり、 主 のしもべたちは 彼 らと<br />

手 をつなぐことはできない。 彼 らが 神 の 戒 めを 捨 てて 人 間 の 戒 めを 置 いたことは、ど<br />

んな 理 由 によっても 正 当 化 できないのである。 サタンは、 霊 魂 不 滅 と 日 曜 日 の 神 聖 化<br />

という 2 つの 重 大 な 誤 りを 通 して、 人 々を 彼 の 欺 瞞 のもとに 引 き 入 れる。 前 者 は 心 霊<br />

術 の 基 礎 を 置 き、 後 者 はローマとの 親 交 のきずなを 作 り 出 す。 合 衆 国 の 新 教 徒 は、 率<br />

先 して、 心 霊 術 と 手 を 結 ぶために 淵 を 越 えて 手 を 差 しのべる。 彼 らはまた、ローマの<br />

権 力 と 握 手 するために 深 淵 を 越 えて 手 を 差 し 出 す。この 三 重 の 結 合 による 勢 力 下 に、<br />

アメリカはローマの 例 にならって 良 心 の 権 利 をふみにじるのである。<br />

心 霊 術 が 現 代 の 名 ばかりのキリスト 教 をますますそっくりまねるようになるにつれ<br />

て、それは 人 々をだまし、わなにかけるのに、いっそう 大 きな 力 を 持 つようになる。<br />

サタン 自 身 も、 近 代 的 な 形 態 に 応 じて 姿 を 変 える。 彼 は 光 の 天 使 を 装 って 現 れる。 心<br />

霊 術 を 通 して 奇 跡 が 行 われ、 病 人 はいやされ、 否 定 することのできない 多 くの 不 思 議<br />

なことが 行 われる。そして 悪 霊 が 聖 書 に 対 する 信 仰 を 告 白 し、 教 会 の 諸 制 度 に 敬 意 を<br />

あらわすので、そうした 霊 の 働 きは 神 の 力 の 現 れとして 受 け 入 れられる。<br />

現 在 は 自 称 キリスト 者 と 不 敬 虔 な 人 たちとの 間 の 区 別 がほとんどわからない。 教 会<br />

員 は 世 の 人 々が 愛 するものを 愛 し、すぐに 彼 らといっしょになるので、サタンはこの<br />

人 たちを 一 体 として 結 合 させ、すべての 人 を 心 霊 術 の 味 方 に 引 き 入 れることによって、<br />

自 分 の 立 場 を 強 化 しようと 決 意 している。カトリック 教 徒 は、 奇 跡 を 真 の 教 会 の 1 つ<br />

の 確 証 として 誇 っているので、 不 思 議 なことを 行 うこの 力 に 容 易 にだまされる。また<br />

新 教 徒 も、 真 理 のたてを 投 げ 捨 ててしまったので、 同 じように 惑 わされるであろう。<br />

旧 教 徒 、 新 教 徒 、それに 世 俗 の 人 たちもみな 同 じように、 力 のない 形 だけの 敬 虔 を 受<br />

け 入 れるであろう。そして 彼 らはこの 合 同 の 中 に、 全 世 界 を 改 心 させるための 一 大 運<br />

動 と、 長 く 待 ち 望 んでいた 福 千 年 期 の 先 触 れを 認 めるのである。<br />

437


国 際 協 定<br />

サタンは 心 霊 術 を 通 して 人 々の 病 気 をいやし、もっと 高 尚 な 新 しい 信 仰 を 提 供 する<br />

と 称 して、 人 類 の 恩 人 のように 見 せかける。だが 同 時 に 彼 は 破 壊 者 として 働 く。 彼 の<br />

誘 惑 は 多 くの 人 々を 破 滅 に 導 く。 不 節 制 が 理 性 を 王 座 から 追 い 出 し、 肉 欲 の 放 縦 、 争<br />

い、 流 血 が 続 く。サタンは 戦 争 を 喜 ぶ。なぜなら 戦 争 は、 魂 の 最 悪 の 激 情 をかきたて、<br />

悪 と 流 血 に 染 まった 犠 牲 者 たちを 永 遠 に 葬 り 去 ってしまうからである。 国 々が 互 いに<br />

戦 争 を 起 こすように 煽 動 するのがサタンの 目 的 である。なぜなら、そうすることによ<br />

って 人 々の 心 を、 神 の 日 に 立 つ 備 えの 働 きからそらすことができ るからである。<br />

サタンはまた、 備 えのできていない 魂 を 自 分 の 収 穫 として 取 り 入 れるために、 自 然<br />

力 を 通 しても 働 く。 彼 は 自 然 の 実 験 室 の 秘 密 を 研 究 してきたので、 神 が 許 される 範 囲<br />

内 で 自 然 を 支 配 するため 全 力 を 用 いる。 彼 がヨブを 試 みることを 許 された 時 、どんな<br />

に 速 やかに、 家 畜 の 群 れやしもべたちや 家 や 子 供 たちが 取 り 去 られ、またたく 間 に 事<br />

件 があいついで 起 こったことだろう。 被 造 物 を 保 護 し、 破 壊 者 の 力 から 守 られるのは<br />

神 である。しかし、キリスト 教 界 が 主 の 律 法 をないがしろにしてきたため、 主 は、な<br />

すと 仰 せになったことをそのとおりなさるであろう。すなわち、 主 は 地 上 から 祝 福 を<br />

取 り 去 り、 神 の 律 法 に 反 逆 している 者 たち、また 人 にそうするように 教 えたり 強 制 し<br />

たりしている 者 たちから、 保 護 のみ 手 を 取 り 除 かれるであろう。<br />

サタンは、 神 が 特 に 保 護 されないすべての 者 に 対 する 支 配 力 を 持 っている。 彼 は、<br />

自 分 のたくらみを 押 し 進 めるために、ある 者 たちには 恩 恵 と 繁 栄 を 与 える。そして、<br />

他 の 者 たちには 災 いをもたらして、 人 々に、 彼 らを 悩 ませているのは 神 だと 信 じさせ<br />

ようとする。<br />

サタンは 人 々に 対 し、あらゆる 病 気 をいやすことのできる 偉 大 な 医 師 のようにみせ<br />

かけながら、 他 方 では 病 気 や 災 害 を 生 じさせ、ついには 人 口 の 多 い 都 市 が 破 滅 して 荒<br />

廃 する。 彼 は 今 も 活 動 している。 海 や 陸 における 事 故 や 災 害 、 大 火 災 、 激 しい 突 風 、<br />

すさまじい 降 雹 、あらし、 洪 水 、たつまき、 津 波 、 地 震 など、あらゆる 場 所 に 幾 多 の<br />

形 でサタンは 力 をふるっている。 彼 は 取 り 入 れまぎわの 収 穫 を 全 滅 させ、ききんと 困<br />

窮 を 引 き 起 こす。 彼 は 空 気 を 恐 るべき 病 毒 で 汚 染 させ、 幾 千 人 もの 人 が 悪 疫 で 死 ぬ。<br />

これらのできごとはますますひんぱんになり、 悲 惨 なものになる。 破 滅 は 人 間 にも、<br />

動 物 にもおよぶ。「 地 は 悲 しみ、 衰 え、…… 天 も 地 と 共 にしおれはてる。 地 はその 住<br />

む 民 の 下 に 汚 された。これは 彼 らが 律 法 にそむき、 定 めを 犯 し、とこしえの 契 約 を 破<br />

ったからだ」[イザヤ 24:4、。<br />

しかもこの 大 欺 瞞 者 サタンは、 神 に 仕 える 者 たちがこれらの 災 害 を 引 き 起 こしてい<br />

るのだと、 人 々に 説 く。 天 の 神 の 不 興 を 引 き 起 こしてきた 人 たちは、すべての 災 いを、<br />

438


国 際 協 定<br />

神 の 戒 めに 服 従 することによって 絶 えず 違 反 者 たちへの 譴 責 となっている 人 たちのせ<br />

いにする。 日 曜 安 息 日 を 犯 すことは 神 を 怒 らせることであり、この 罪 が 災 害 をもたら<br />

すのであって、それは 日 曜 日 遵 守 がきびしく 実 施 されねばやまない、と 宣 言 される。<br />

また、 第 4 条 の 要 求 を 主 張 して 日 曜 日 尊 重 を 傷 つける 者 は 民 を 悩 ます 者 であって、 神<br />

の 恩 寵 とこの 世 における 繁 栄 とを 妨 げている、と 宣 言 される。このようにして、 昔 神<br />

のしもべに 向 けられた 非 難 が、 同 じようにもっともらしい 理 由 のもとにくり 返 される。<br />

「アハブはエリヤを 見 たとき、 彼 に 言 った、『イスラエルを 悩 ます 者 よ、あなたはこ<br />

こにいるのですか。』 彼 は 答 えた、『わたしがイスラエルを 悩 ますのではありません。<br />

あなたと、あなたの 父 の 家 が 悩 ましたのです。あなたがたが 主 の 命 令 を 捨 て、バアル<br />

に 従 ったためです』」[ 列 王 紀 上 18:17、。 民 衆 の 怒 りは 偽 りの 非 難 によってかきた<br />

てられるので、 彼 らは 神 の 使 者 たちに 対 して、 背 信 のイスラエルがエリヤに 対 してと<br />

ったのと 同 じような 態 度 をとるであろう。<br />

心 霊 術 を 通 して 現 される 奇 跡 の 力 は、 人 間 に 従 うよりは 神 に 従 うことを 選 ぶ 人 たち<br />

に 不 利 な 影 響 を 与 える。いろいろな 霊 からの 伝 達 は、 神 は 日 曜 日 を 拒 絶 する 者 たちに<br />

そのまちがいを 悟 らせるために 自 分 たちを 送 られたのだと 宣 言 し、 国 家 の 法 律 は 神 の<br />

律 法 と 同 様 に 遵 守 しなければならないと 断 言 する。 霊 たちはまた、 世 の 中 が 非 常 に 悪<br />

くなったことを 嘆 き、 道 徳 的 に 堕 落 している 状 態 は 日 曜 日 の 冒 涜 に 原 因 があるという<br />

宗 教 家 たちの 証 言 を 支 持 する。 彼 らのあかしを 信 じようとしないすべての 者 に 対 して、<br />

ますます 激 しい 怒 りが 引 き 起 こされる。<br />

サタンが 神 の 民 との 最 後 の 大 争 闘 に 用 いる 手 段 は、 天 において 大 争 闘 を 開 始 した 時<br />

に 用 いたものと 同 じである。 彼 は 神 の 統 治 の 安 定 を 推 進 しようとしているのだと 公 言<br />

しながら、 一 方 においてはこれを 転 覆 するためにひそかにあらゆる 努 力 を 傾 けた。そ<br />

して 自 分 が 達 成 しようとこのように 努 力 している 働 きを、 忠 実 な 天 使 たちのせいにし<br />

た。 同 じような 欺 瞞 の 手 段 が、ローマ 教 会 の 歴 史 の 特 徴 であった。 天 の 神 の 代 理 者 と<br />

して 行 動 していると 公 言 しながら、 自 らを 神 の 上 に 置 き、 神 の 律 法 を 変 えようと 望 ん<br />

だ。ローマの 支 配 下 にあって、 福 音 に 対 して 忠 誠 であったために 死 刑 にされた 人 たち<br />

は、 悪 を 行 う 者 と 宣 言 され、サタンの 味 方 とののしられた。そして 彼 らに 非 難 を 浴 び<br />

せ、 人 々にも 彼 ら 自 身 にも 最 悪 の 犯 罪 人 と 思 わせるために、あらゆる 手 段 がとられた。<br />

今 も 同 じである。サタンは、 神 の 戒 めを 守 る 者 たちを 滅 ぼそうとする 一 方 では、この<br />

人 たちが 律 法 の 違 反 者 として、また 神 を 汚 し 世 にさばきを 招 く 者 として 非 難 されるよ<br />

うに 計 る。<br />

神 は 決 して 意 志 や 良 心 を 強 制 されない。しかし、 他 の 方 法 で 誘 惑 できない 者 を 自 分<br />

の 自 由 にしようとするサタンの 常 套 手 段 は、 残 酷 な 強 制 である。サタンは、 脅 迫 と 強<br />

439


国 際 協 定<br />

制 によって 良 心 を 支 配 し、 自 分 に 服 従 させようと 努 める。それを 実 現 するためには、<br />

宗 教 と 政 治 の 当 局 を 通 じて 働 き、 神 の 律 法 に 反 抗 して 人 間 の 法 律 を 強 制 するよう 働 き<br />

かける。<br />

聖 書 の 安 息 日 をあがめる 者 は、 法 と 秩 序 の 敵 であり、 社 会 の 道 徳 的 抑 制 を 破 り、 無<br />

政 府 と 堕 落 とを 引 き 起 こし、 神 のさばきを 地 上 に 招 く 者 であるといって 攻 撃 される。<br />

彼 らの 良 心 的 な 信 念 は、 強 情 、 頑 迷 、 権 威 に 対 する 侮 べつであると 宣 告 される。 彼 ら<br />

は 政 府 に 対 して 忠 誠 を 尽 くさないといって 告 発 される。 神 の 律 法 への 義 務 を 否 定 する<br />

牧 師 たちは、 国 家 の 権 威 に 服 従 する 義 務 は 神 によって 定 められたものであると 講 壇 か<br />

ら 主 張 する。 立 法 府 や 裁 判 所 においては、 神 の 戒 めを 守 る 者 たちについて 虚 偽 の 訴 え<br />

がなされ、 有 罪 の 宣 告 がくだされる。 彼 らの 言 葉 は 誤 って 解 釈 され、 彼 らの 動 機 は 最<br />

も 悪 質 なものに 作 りあげられる。<br />

プロテスタントの 諸 教 会 が、 神 の 律 法 を 擁 護 している 明 白 な 聖 書 の 論 拠 を 退 ける 時 、<br />

彼 らは、 聖 書 によっては 覆 すことのできないような 信 仰 を 持 った 人 々を、 沈 黙 させた<br />

いと 望 むであろう。 彼 らは 目 をおおって 事 実 を 見 ようとしないが、 実 は、 彼 らはほと<br />

んどのキリスト 教 界 が 行 っていること、つまり 法 王 教 の 安 息 日 の 要 求 を 認 めることを、<br />

良 心 的 に 拒 否 する 人 々を 迫 害 するようになる 道 を 選 びつつあるのである。<br />

教 会 と 国 家 の 高 官 たちは、すべての 階 級 の 人 々に 日 曜 日 を 尊 重 させるために、 結 束<br />

して 買 収 や 説 得 や 強 制 を 行 うであろう。 神 の 権 威 の 欠 如 は、 圧 制 的 な 法 令 によって 補<br />

われる。 政 治 的 腐 敗 は、 正 義 を 愛 し 真 理 を 尊 ぶ 思 いを 破 壊 しつつある。そして 自 由 の<br />

国 アメリカにおいてさえ、 為 政 者 や 議 員 たちは 民 衆 の 歓 心 を 買 うために、 日 曜 日 遵 守<br />

を 強 制 する 法 律 を 求 める 大 衆 の 要 求 に 屈 服 する。 非 常 に 大 きな 犠 牲 を 払 って 得 られた<br />

良 心 の 自 由 は、もはや 尊 重 されなくなる。まもなく 起 ころうとしている 争 闘 において、<br />

われわれは 預 言 者 の 言 葉 の 成 就 を 見 るのである。「 龍 は、 女 に 対 して 怒 りを 発 し、 女<br />

の 残 りの 子 ら、すなわち、 神 の 戒 めを 守 り、イエスのあかしを 持 っている 者 たちに 対<br />

して、 戦 いをいどむために、 出 て 行 った」[ 黙 示 録 12:。<br />

440


国 際 協 定<br />

第 37 章 ただ 1 つの 牙 城 —— 聖 書<br />

「ただ 律 法 [おきて]と 証 詞 [あかし]とを 求 むべし、 彼 らの 言 うところこの 言 にかな<br />

わずば 晨 光 [しののめ]あらじ」[イザヤ 8:20・ 文 語 訳 ]。 神 の 民 には、 偽 りの 教 師 の<br />

感 化 と 暗 黒 の 霊 の 欺 瞞 的 な 力 に 対 する 防 壁 として、 聖 書 がさし 示 されている。サタン<br />

は、 人 が 聖 書 の 知 識 を 得 るのを 妨 げるためにはあらゆる 手 段 を 用 いる。なぜなら 聖 書<br />

の 明 白 な 言 葉 は 彼 の 欺 瞞 を 暴 露 するからである。 神 の 働 きが 復 興 されるたびに 悪 の 君<br />

は 奮 起 していっそう 激 しく 働 く。 彼 は 今 やキリストとその 信 徒 たちに 対 する 最 後 の 闘<br />

争 に 最 大 の 努 力 を 傾 けている。まもなく 最 後 の 大 いなる 欺 瞞 がわれわれの 前 に 展 開 さ<br />

れようとしている。 反 キリストがわれわれの 目 の 前 で 驚 くべき 業 を 行 うのである。 偽<br />

物 があまりにも 本 物 によく 似 ているために、 聖 書 による 以 外 には 両 者 の 見 分 けは 不 可<br />

能 である。すべての 言 説 や 奇 跡 は、 聖 書 のあかしによって 吟 味 されなければならな<br />

い。<br />

神 の 戒 めのすべてに 従 おうと 努 力 する 者 は、 反 対 と 嘲 笑 にあうであろう。 彼 らは 神<br />

のうちにある 時 にのみ 立 つことができる。 彼 らは 目 の 前 にある 試 練 に 耐 えるためには、<br />

み 言 葉 の 中 に 示 されている 神 のみこころを 理 解 しなければならない。 彼 らは、 神 のご<br />

品 性 、 統 治 、 御 目 的 について 正 しい 理 解 を 持 ち、それに 従 って 行 動 する 時 にのみ、 神<br />

をあがめることができる。 聖 書 の 真 理 によって 心 を 堅 固 にした 人 たち 以 外 には、だれ<br />

も 最 後 の 大 争 闘 に 耐 え 抜 くことはできない。わたしは 人 に 従 うより 神 に 従 うべきかと<br />

いう 鋭 い 質 問 が、 一 人 一 人 に 臨 むであろう。その 決 定 の 時 は 今 目 の 前 に 迫 っている。<br />

われわれの 足 は、 変 わることのない 神 のみ 言 葉 という 岩 の 上 に、しっかり 立 っている<br />

だろうか。われわれは、 神 の 戒 めとイエスを 信 じる 信 仰 をとりでとして、 堅 く 立 つ 用<br />

意 ができているだろうか。<br />

救 い 主 は 十 字 架 におかかりになる 前 に、 弟 子 たちに、ご 自 分 が 殺 され、 墓 からよみ<br />

がえられることを 説 明 された。そして 天 使 たちがその 場 にいて、 主 のみ 言 葉 を 頭 と 心<br />

に 深 く 印 象 づけた。しかし、 弟 子 たちは、この 世 においてローマのくびきから 解 放 さ<br />

れることを 期 待 していたので、 彼 らの 望 みの 中 心 である 主 が 不 名 誉 な 死 を 受 けられな<br />

ければならないという 思 いに 耐 えられなかった。 彼 らが 覚 えていなければならなかっ<br />

たみ 言 葉 は、その 心 から 消 えさり、 試 練 の 時 がやって 来 た 時 には 備 えができていなか<br />

った。イエスの 死 は、まるで 主 がなんの 予 告 もしておられなかったかのように、 彼 ら<br />

の 望 みを 徹 底 的 に 打 ち 砕 いたのであった。キリストのみ 言 葉 によって 弟 子 たちに 将 来<br />

がはっきり 示 されていたように、われわれにも 将 来 のことが 預 言 の 中 にはっきり 示 さ<br />

441


国 際 協 定<br />

れている。 恩 恵 期 間 の 終 わりに 関 係 のあるできごとと、 悩 みの 時 のために 備 える 働 き<br />

とが、はっきり 示 されている。しかし 多 くの 人 々は、 全 然 啓 示 を 受 けなかったかのよ<br />

うに、これらの 重 要 な 真 理 を 理 解 していない。サタンは、 彼 らに 救 いに 至 る 知 恵 を 与<br />

えるような 感 化 をことごとく 奪 い 去 ろうとうかがっているので、 彼 らは 悩 みの 時 に 備<br />

えができていない。<br />

非 常 に 重 大 であるために、 中 空 を 飛 ぶ 聖 天 使 たちによって 宣 べ 伝 えられたと 表 現 さ<br />

れているほど 重 要 な 警 告 を、 神 が 人 々にお 送 りになる 時 、 神 は 理 性 を 持 つ 者 がすべて<br />

このメッセージに 耳 を 傾 けるように 求 めておられる。 獣 とその 像 を 拝 むことに 対 して<br />

宣 告 されている 恐 るべきさばき[ 黙 示 録 14:9~11 参 照 ]について 知 る 時 、だれでもみ<br />

な、 獣 の 印 とは 何 か、それを 受 けないようにするにはどうすればよいかということを<br />

学 ぶために、 熱 心 に 預 言 を 研 究 するようになるはずである。しかし 大 部 分 の 人 々は、<br />

真 理 を 聞 くことから 耳 をそらし、 作 り 話 へと 向 かってしまう。 使 徒 パウロは 終 末 の 時<br />

代 を 予 見 して、「 人 々が 健 全 な 教 に 耐 えられなくな」ると 言 明 した[Ⅱテモテ 4:。そ<br />

の 時 がちょうど 到 来 している。 多 くの 人 々は 聖 書 の 真 理 を 好 まない。なぜなら 真 理 は、<br />

罪 深 い、 世 を 愛 する 心 の 欲 望 を、 妨 げるからである。そしてサタンは、 彼 らの 好 む 偽<br />

りを 提 供 するのである。<br />

しかし 神 はこの 地 上 に、 聖 書 、そしてただ 聖 書 だけをすべての 教 理 の 基 準 、すべて<br />

の 改 革 の 基 礎 として 保 持 する 1 つの 民 を、お 持 ちになるであろう。 学 識 者 の 意 見 、 科<br />

学 の 推 論 、 教 会 会 議 の 定 めた 信 条 や 決 議 [これらは、 教 会 の 数 が 多 くてその 主 張 も 違 う<br />

ように、おびただしい 数 にのぼって 内 容 も 千 差 万 別 である]、 大 衆 の 声 、——これらの<br />

うちの 1 つであれ 全 部 であれ、それをもって 信 仰 上 の 事 柄 に 関 する 賛 否 の 根 拠 と 見 な<br />

してはならない。どんな 教 理 や 戒 めでも、それを 受 け 入 れる 前 に、「 主 はこう 言 われ<br />

る」という 明 日 な 事 実 をその 裏 づけとして 要 求 すべきである。<br />

サタンはいつも、 神 の 代 わりに 人 間 に 注 意 を 向 けさせようと 努 力 している。 彼 は、<br />

人 々が 自 分 で 聖 書 を 探 って 自 分 の 義 務 を 学 ばないで、 監 督 や 牧 師 や 神 学 者 を 案 内 者 と<br />

するように 導 く。そうする 時 に、サタンはこれらの 指 導 者 たちの 心 を 支 配 することに<br />

よって、 大 衆 を 意 のままに 感 化 することができるのである。<br />

キリストがいのちのみ 言 葉 を 語 りにこられた 時 、 一 般 の 人 々は 喜 んでそれを 聞 いた。<br />

そして 多 くの 者 が、 祭 司 や 役 人 たちでさえ、 主 の 言 われることを 信 じた。しかし、 祭<br />

司 長 と 民 の 有 力 者 たちは、キリストの 教 えを 非 難 し 否 認 することを 決 心 していた。 彼<br />

らは、キリストに 対 する 言 いがかりを 見 つけようとする 努 力 がことごとく 失 敗 し、キ<br />

リストの 言 葉 に 伴 う 神 の 力 と 知 恵 の 感 化 を 感 じないではいられなかったにもかかわら<br />

442


国 際 協 定<br />

ず、なお 自 分 自 身 の 偏 見 の 中 に 閉 じこもった。 彼 らは、キリストの 弟 子 にならないで<br />

はいられなくなることをおそれて、キリストがメシヤであることの 最 も 明 白 な 証 拠 を<br />

退 けた。これらイエスの 反 対 者 たちは、 人 々が 子 供 の 時 から 尊 敬 するように 教 えられ、<br />

彼 らの 権 威 には 絶 対 に 従 うように 習 慣 づけられていた、その 者 たちであった。 人 々は、<br />

「なぜわれわれの 役 人 たちや 学 者 たちはイエスを 信 じないのだろうか。もしこの 人 が<br />

キリストであるなら、こうした 敬 虔 な 人 たちがこの 人 を 受 け 入 れないことがあろうか」<br />

と 問 うた。ユダヤ 民 族 に 彼 らの 贖 い 主 を 拒 否 させたのは、このような 教 師 たちの 影 響<br />

であった。 これらの 祭 司 や 役 人 たちを 動 かした 精 神 は、 今 日 もなお、 深 い 敬 虔 を 表 明<br />

する 多 くの 人 々に 見 られる。 彼 らは、 今 の 時 代 のための 特 別 な 真 理 について、 聖 書 の<br />

あかしを 調 べることを 拒 んでいる。 彼 らは 自 分 たちが 多 数 であることや、 富 や、 人 気<br />

を 指 摘 し、 真 理 の 擁 護 者 に 対 しては、 世 からかけ 離 れた 信 仰 を 持 つ 少 数 、 貧 困 、 不 人<br />

気 な 者 として、 軽 べつの 目 で 見 るのである。<br />

キリストは、 学 者 やパリサイ 人 たちがほしいままにした、 権 力 の 不 当 な 掌 握 が、ユ<br />

ダヤ 人 の 離 散 をもって 終 わるのではないことを 予 見 された。キリストは、 人 間 の 権 威<br />

があがめられて 良 心 を 支 配 し、それが 各 時 代 の 教 会 にとって 恐 るべき 災 いになること<br />

を、 預 言 の 眼 をもってごらんになった。そして 学 者 やパリサイ 人 に 対 して 向 けられた<br />

彼 の 恐 るべき 非 難 や、 盲 目 的 な 指 導 者 に 追 従 しないようにとの 民 たちに 対 する 彼 の 警<br />

告 は、 後 の 時 代 に 対 する 訓 戒 として 記 録 に 残 された。<br />

ローマ 教 会 は 聖 書 を 解 釈 する 権 利 を、 聖 職 者 のものとして 保 留 している。 神 の 言 葉<br />

は、 聖 職 者 だけが 説 明 することができるという 理 由 のもとに、 一 般 の 人 々には 与 えら<br />

れていない。 宗 教 改 革 によって 聖 書 は 万 人 のものとなったが、ローマが 主 張 したのと<br />

全 く 同 じ 原 則 が、プロテスタント 諸 教 会 の 多 くの 人 々が 自 分 で 聖 書 を 探 究 するのを 妨<br />

げている。 彼 らは、 教 会 によって 解 釈 されたものとして 聖 書 の 教 えを 受 け 入 れるよう<br />

に 教 えられる。そのために、どんなに 聖 書 の 中 にはっきり 示 されていても、 自 分 たち<br />

の 信 条 に 反 するものや、 自 分 たちの 教 会 によって 確 立 されている 教 えに 反 するものは、<br />

あえて 受 け 入 れようとしない 人 々が 何 千 といるのである。<br />

聖 書 には 偽 教 師 に 対 する 警 告 が 満 ちているにもかかわらず、 多 くの 人 たちはこのよ<br />

うにしてすぐに 自 分 たちの 魂 を 牧 師 に 預 けてしまう。 今 日 、 信 仰 を 告 白 する 幾 千 の 人<br />

たちは、 牧 師 からそう 教 えられたということ 以 外 には、 自 分 の 信 じる 信 仰 の 要 点 につ<br />

いて 理 由 を 説 明 することができない。 彼 らは 救 い 主 の 教 えにほとんど 注 意 を 払 わず、<br />

牧 師 たちの 言 葉 に 全 面 的 な 信 頼 を 置 いている。<br />

443


国 際 協 定<br />

しかし、 牧 師 は 絶 対 に 誤 りを 犯 さない 者 であろうか。われわれは、 彼 らが 光 を 掲 げ<br />

る 者 であるということを、 神 のみ 言 葉 によって 知 らないかぎり、 自 分 の 魂 を 彼 らの 指<br />

導 にゆだねることがどうしてできようか。 世 の 踏 みならされた 道 から 踏 み 出 す 精 神 的<br />

な 勇 気 が 欠 けているため、 多 くの 人 々は 学 識 者 の 道 に 従 い、 自 ら 調 べるのに 無 精 であ<br />

るため、 絶 望 的 なまでに 誤 謬 の 鎖 につながれている。 彼 らは、 今 の 時 代 のための 真 理<br />

が 聖 書 の 中 に 明 白 に 示 されていることを 認 め、み 言 葉 に 伴 う 聖 霊 の 力 を 感 じていなが<br />

ら、 牧 師 たちに 反 対 されるままに 光 にそむいてしまう。 理 性 と 良 心 では 確 信 していな<br />

がら、これらの 欺 かれた 人 たちは、あえて 牧 師 と 違 った 考 え 方 をしようとしないで、<br />

自 分 自 身 の 判 断 と、 自 分 たちの 永 遠 の 利 益 を、 他 人 の 不 信 仰 や 誇 りや 偏 見 の 犠 牲 にし<br />

てしまうのである。<br />

サタンが 人 間 の 影 響 力 を 通 してとりこを 縛 りつけようと 働 く 方 法 は、たくさんある。<br />

サタンは、 愛 情 という 絹 ひもで、 多 くの 人 々をキリストの 十 字 架 の 反 対 者 たちに 結 び<br />

つけることによって、 彼 らを 自 分 の 側 に 確 保 する。この 愛 着 が 親 子 の 間 であろうと、<br />

夫 婦 の 間 であろうと、 社 交 的 なものであろうと、 結 果 は 同 じである。 真 理 の 反 対 者 た<br />

ちが 良 心 を 支 配 しようと 影 響 力 を 及 ぼすので、 彼 らの 支 配 下 に 捕 らえられている 魂 は、<br />

義 務 に 関 する 自 分 自 身 の 確 信 に 従 うだけの 勇 気 や 独 立 心 をもっていない。<br />

真 理 と 神 の 栄 光 とは、 切 り 離 すことができない。われわれは、 手 近 に 聖 書 を 持 って<br />

いながら、 誤 った 見 解 をもって 神 をあがめることはできない。 多 くの 人 々は、 生 活 さ<br />

え 正 しければ、 何 を 信 じているかは 問 題 ではないと 主 張 する。しかし 生 活 は 信 仰 によ<br />

って 形 造 られる。 光 と 真 理 が 手 近 にありながら、それを 聞 き、それを 見 る 特 権 を 利 用<br />

するのを 怠 るなら、われわれは 事 実 上 それを 拒 絶 し、 光 よりもやみを 選 んでいること<br />

になる。<br />

「 人 が 見 て 自 分 で 正 しいとする 道 があり、その 終 りはついに 死 にいたる 道 となるも<br />

のがある」[ 箴 言 16:。 神 のみこころを 知 るあらゆる 機 会 がある 時 に、 知 らないとい<br />

うことは 誤 謬 や 罪 の 言 いわけにならない。 人 は 旅 をしていて、それぞれの 行 く 先 を 示<br />

す 道 標 のある 別 れ 道 にさしかかる。もし 彼 が 道 標 を 無 視 して、 自 分 に 正 しいと 見 える<br />

道 を 選 ぶなら、 彼 がどんなにまじめであっても、 自 分 がまちがった 道 を 歩 いているこ<br />

とにおそらく 気 づくであろう。<br />

神 は、われわれが 神 の 教 えに 通 じ、 神 が 求 めておられることを 自 分 で 知 ることがで<br />

きるようにと、み 言 葉 をわれわれにお 与 えになっている。 律 法 学 者 がイエスのところ<br />

に 来 て、「 何 をしたら 永 遠 の 生 命 が 受 けられましょうか」と 尋 ねた。 救 い 主 は 聖 書 を<br />

引 用 しながら、「 律 法 にはなんと 書 いてあるか。あなたはどう 読 むか」と 言 われた。<br />

444


国 際 協 定<br />

知 らなかったということは、 若 い 者 にも 年 寄 りにも 言 いわけにはならないし、また 神<br />

の 律 法 を 犯 した 当 然 の 刑 罰 から 免 れさせるものでもない。なぜなら 彼 らは、 律 法 とそ<br />

の 原 則 、その 要 求 について 忠 実 に 書 いているものを、 手 に 持 っているからである。 正<br />

しい 意 図 があったというだけでは 足 りない。 人 は 自 分 が 正 しいと 思 うことや 牧 師 が 正<br />

しいと 言 うことをするだけでは 不 十 分 である。 自 分 の 魂 の 救 いにかかわる 問 題 である<br />

以 上 、 人 は 自 分 で 聖 書 を 探 究 しなければならない。 彼 の 確 信 がどんなに 強 くても、 牧<br />

師 は 何 が 真 理 かを 知 っているといくら 彼 が 信 頼 していても、それは 彼 の 土 台 とはなら<br />

ない。 彼 は 天 への 旅 路 におけるすべての 道 標 を 示 す 地 図 を 持 っているのであるから、<br />

何 事 も 臆 測 によるべきではない。<br />

聖 書 から 真 理 を 学 び、その 光 に 歩 み、そして 他 人 にも 自 分 の 模 範 に 従 うように 励 ま<br />

すことは、すべて 理 性 のある 者 の 第 一 にして 最 高 の 義 務 である。われわれは 日 々 熱 心<br />

に 聖 書 を 研 究 し、すべての 思 想 を 熟 考 し、 聖 句 と 聖 句 を 対 照 すべきである。われわれ<br />

は 神 の 前 で 自 分 で 答 えるのであるから、 神 の 助 けによって 自 分 で 自 分 の 考 えを 定 めな<br />

ければならない。<br />

聖 書 の 中 に 最 も 明 白 に 示 されている 真 理 が、 学 者 たちによって 疑 いと 暗 黒 に 包 まれ<br />

てきた。 彼 らは、 偉 大 な 知 恵 を 持 っているように 見 せかけながら、 聖 書 にはそこに 用<br />

いられている 言 葉 に 現 れていない 神 秘 的 で 霊 的 な 隠 れた 意 味 があると 教 える。これら<br />

の 人 々は 偽 教 師 である。イエスが「あなたがた……は、 聖 書 も 神 の 力 も 知 らないから<br />

ではないか」と 言 われたのは、こういう 種 類 の 人 々に 向 かってであった[マルコ 12:。<br />

聖 書 の 言 葉 は、 象 徴 や 比 喩 が 用 いられていないかぎり、その 明 瞭 な 意 味 に 従 って 解 釈<br />

さるべきである。キリストは「 神 のみこころを 行 おうと 思 う 者 であれば、だれでも、<br />

わたしの 語 っているこの 教 えが……わかるであろう」と 約 束 された[ヨハネ 7:。もし<br />

人 々が、 聖 書 をその 書 いてあるとおりに 受 け 取 りさえすれば、もし 人 々を 誤 らせ、そ<br />

の 心 を 混 乱 させるような 偽 教 師 がいないならば、 現 在 誤 謬 の 中 に 迷 って いる 幾 千 もの<br />

人 々をキリストの 囲 いの 中 に 導 き、 天 使 たちを 喜 ばせるような 働 きが 成 し 遂 げられる<br />

であろう。<br />

われわれは 聖 書 の 研 究 に 知 能 の 全 力 を 注 ぎ、 人 間 として 及 ぶかぎり、 神 の 深 い 事 柄<br />

を 悟 るために 理 解 力 を 働 かせねばならない。しかし 幼 な 子 のような 従 順 と 服 従 が、 学<br />

ぶ 者 の 真 の 精 神 であることを 忘 れてはならない。 聖 書 の 難 解 なところは、 哲 学 上 の 問<br />

題 を 把 握 するのに 用 いるのと 同 じ 方 法 では 決 して 解 決 されない。 多 くの 人 々が 科 学 の<br />

領 域 に 入 る 時 に 抱 いているような、 自 分 を 頼 みとする 心 をもって 聖 書 の 研 究 にたずさ<br />

わるべきではなく、 祈 りのうちに 神 により 頼 む 思 いと、みこころを 知 りたいというま<br />

じめな 願 いをもってなすべきである。「わたしは 有 る」という 偉 大 なお 方 から 知 識 を<br />

445


国 際 協 定<br />

得 るために、 謙 遜 ですなおな 精 神 をもってみもとに 行 かねばならない。そうでないと、<br />

悪 天 使 たちはわれわれが 真 理 から 感 銘 を 受 けないように、われわれの 頭 をくもらせ、<br />

心 をかたくなにする。<br />

聖 書 の 中 で、 学 者 たちが 不 可 解 であると 断 言 し、また 重 要 でないものとして 見 のが<br />

している 多 くの 部 分 は、キリストの 学 校 で 教 えられた 者 にとっては 慰 めと 教 訓 に 満 ち<br />

ている。 多 くの 神 学 者 が 神 のみ 言 葉 について 明 快 な 理 解 を 持 っていない 1 つの 理 由 は、<br />

彼 らが 自 分 の 実 行 したくない 真 理 に 対 しては 目 を 閉 じてしまうからである。 聖 書 の 真<br />

理 に 対 する 理 解 は、 研 究 に 払 われる 知 力 によるよりは、むしろ 誠 実 な 意 図 と、 義 を 熱<br />

心 に 追 い 求 める 心 とにかかっているのである。<br />

聖 書 は 祈 りなしに 研 究 すべきではない。 聖 霊 だけが、 理 解 しやすい 事 柄 の 重 要 性 を<br />

感 じさせ、あるいは 理 解 の 困 難 なものを 曲 解 しないように 守 る。われわれがみ 言 葉 の<br />

美 しさに 心 をひかれ、その 警 告 に 戒 められ、み 約 束 によって 活 気 づけられ、 力 づけら<br />

れるように、 心 を 備 えさせて 神 のみ 言 葉 を 理 解 させるのが、 天 使 たちの 働 きである。<br />

われわれは 詩 篇 記 者 の「わたしの 目 を 開 いて、あなたのおきてのうちのくすしき 事 を<br />

見 させてください」という 訴 えを、 自 分 のものとしなければならない[ 詩 篇 119:。 試<br />

みがしばしば 抵 抗 できないもののように 見 えるのは、 祈 りと 聖 書 研 究 を 怠 っているた<br />

めに、 試 みられている 者 が 神 のみ 約 束 をすぐに 思 いだすことができず、 聖 書 という 武<br />

器 をもってサタンに 対 抗 することができないからである。しかし 天 使 たちは、 神 の 事<br />

柄 を 喜 んで 学 ぼうとする 人 々のまわりにいて、 緊 急 の 場 合 には 必 要 な 真 理 を 思 い 起 こ<br />

させる。こうして、「 敵 が 洪 水 のように 押 し 寄 せるときに、 主 の 霊 はそれに 向 かって<br />

旗 をあげられる」[イザヤ 59:19・ 英 語 訳 ]。<br />

イエスは、「 助 け 主 、すなわち、 父 がわたしの 名 によってつかわされる 聖 霊 は、あ<br />

なたがたにすべてのことを 教 え、またわたしが 話 しておいたことを、ことごとく 思 い<br />

起 させるであろう」と 弟 子 たちに 約 束 された[ヨハネ 14:。しかし、 危 機 の 時 に、 神<br />

のみ 霊 がわれわれにキリストの 教 えを 思 い 起 こさせてくださるためには、それをあら<br />

かじめ 心 の 中 にたくわえておかねばならない。ダビデは「わたしはあなたにむかって<br />

罪 を 犯 すことのないように、 心 のうちにみ 言 葉 をたくわえました」と 言 った[ 詩 篇<br />

119:。<br />

自 分 の 永 遠 の 利 益 を 重 んずる 者 はみな、 懐 疑 論 の 侵 入 に 対 して 警 戒 しなければなら<br />

ない。 真 理 の 柱 そのものが 攻 撃 されるであろう。 現 代 の 不 信 仰 の 風 刺 や 誰 弁 —— 狡 猾<br />

で 有 害 な 教 え——が 届 かないところに 身 を 置 くことは、 不 可 能 である。サタンはその<br />

誘 惑 をあらゆる 階 級 に 適 合 させる。 彼 は、 無 学 の 者 には 冗 談 と 嘲 笑 をもって 攻 撃 し、<br />

446


国 際 協 定<br />

教 育 ある 者 には 科 学 的 な 反 対 論 や 哲 学 的 な 推 論 をもって 対 抗 するが、どちらも 聖 書 に<br />

対 する 不 信 と 軽 べつ 心 をかきたてようとねらっている。 経 験 の 浅 い 青 年 でさえ、あえ<br />

てキリスト 教 の 根 本 原 理 に 関 して 懐 疑 をほのめかす。しかもこうした 青 年 の 不 信 仰 は、<br />

それ 自 体 は 浅 薄 なものであっても、 影 響 力 をもっている。 多 くの 者 はこのようにして<br />

父 祖 たちの 信 仰 をあざわらい、 恵 みのみ 霊 を 侮 るように 導 かれる。 神 の 誉 れとなり 世<br />

の 祝 福 となると 思 われた 多 くの 人 々の 生 涯 が、 不 信 仰 の 汚 れた 空 気 を 吸 うことによっ<br />

てそこな われてきた。 人 間 の 理 性 による 高 慢 な 結 論 に 頼 って、rl 分 たちは 神 の 知 恵 の<br />

助 けなしに 聖 なる 神 秘 を 説 明 し、 真 理 に 到 達 できると 思 う 者 はみな、サタンのわなに<br />

かかるのである。<br />

われわれは 世 界 歴 史 の 最 も 厳 粛 な 時 代 に 生 存 している。 地 上 のおびただしい 数 の 人<br />

々の 運 命 が、 決 定 されようとしている。われわれ 自 身 の 将 来 の 幸 福 も、 他 の 魂 の 救 い<br />

も、 今 われわれが 歩 いている 道 にかかっている。われわれは 真 理 のみ 霊 によって 導 か<br />

れる 必 要 がある。キリストに 従 う 者 はみな、「 主 よ、わたしは 何 をしたらよいでしょ<br />

うか」と 熱 心 にたずねるべきである。われわれは 祈 りと 断 食 をもって 主 の 前 にへりく<br />

だり、 主 のみ 言 葉 について、 特 にさばきの 光 景 について 瞑 想 する 必 要 がある。われわ<br />

れは 今 、 神 のことについて、 深 い、 生 きた 経 験 を 求 めなければならない。 一 刻 もむだ<br />

にはできない。われわれの 周 囲 には 重 大 な 事 件 が 起 こっており、われわれはサタンの<br />

魔 法 の 働 いている 場 にいるのである。 神 の 見 張 り 人 たちよ、 眠 ってはいけない。 敵 は<br />

近 くに 忍 び 込 んでいて、あなたが 気 をゆるめて 眠 気 を 催 すならば、いつでも 飛 びかか<br />

ってえじきにしようと 待 ち 構 えている。<br />

多 くの 者 は、 神 の 前 における 自 分 の 真 の 姿 について 欺 かれている。 彼 らは 自 分 たち<br />

は 悪 事 を 行 っていないと 喜 んでいるが、 神 が 彼 らに 要 求 され、しかも 彼 らが 実 行 する<br />

ことを 怠 った、 善 にして 高 潔 な 行 為 のことを 数 えるのを 忘 れている。 彼 らは 神 の 園 の<br />

木 であるだけでは 十 分 ではない。 彼 らは 実 を 結 ぶことによって 神 のご 期 待 に 答 えなけ<br />

ればならない。 自 分 を 力 づけてくれる 神 の 恵 みを 通 してなすことができたはずの 善 行<br />

をしなかった 責 任 を、 神 は 問 われる。 彼 らは 地 をふさぐものとして 天 の 書 に 記 録 され<br />

る。<br />

しかし、この 種 の 人 の 場 合 も、 全 く 絶 望 的 というわけではない。 神 の 恵 みを 軽 視 し、<br />

神 の 恵 みを 悪 用 したこれらの 人 々に、 忍 耐 深 い 愛 の 神 のみ 心 は、「『 眠 っている 者 よ、<br />

起 きなさい。 死 人 のなかから、 立 ち 上 がりなさい。そうすれば、キリストがあなたを<br />

照 すであろう。』そこで、あなたがたの 歩 きかたによく 注 意 して、…… 今 の 時 を 生 か<br />

して 用 いなさい。 今 は 悪 い 時 代 なのである」と 訴 えておられる[エペソ 5:14~。 試<br />

みの 時 が 来 ると、 神 のみ 言 葉 を 自 分 の 人 生 の 尺 度 としてきた 人 たちが、はっきりわか<br />

447


国 際 協 定<br />

るであろう。 夏 には 常 緑 樹 とほかの 木 々との 間 に 著 しい 違 いがないが、 冬 のこがらし<br />

が 吹 く 時 になると、 常 緑 樹 は 変 わらないが、ほかの 木 々は 葉 が 落 ちて 裸 になる。その<br />

ように、 現 在 は 心 に 偽 りのある 信 者 と 真 のキリスト 者 との 見 分 けがつかないが、しか<br />

しその 違 いが 明 らかになる 日 が、 今 まさにわれわれに 臨 もうとしている。 反 対 が 起 こ<br />

り、 頑 迷 と 偏 狭 が 再 び 吹 きまくり、 迫 害 の 火 が 燃 やされる 時 に、 二 心 の 偽 善 者 たちは<br />

動 揺 して 信 仰 を 放 棄 するであろう。しかし 真 のキリスト 者 は 岩 のように 堅 く 立 ち、 繁<br />

栄 の 日 よりも 信 仰 が 強 くなり、 望 みはいっそう 明 るくなるであろう。<br />

詩 篇 記 者 は、 次 のように 言 っている。「わたしはあなたのあかしを 深 く 思 う。」<br />

「わたしはあなたのさとしによって 知 恵 を 得 ました。それゆえ、わたしは 偽 りのすべ<br />

ての 道 を 憎 みます」[ 詩 篇 119:99、。「 知 恵 を 求 めて 得 る 人 、 悟 りを 得 る 人 はさい<br />

わいである。」「 彼 は 水 のほとりに 植 えた 木 のようで、その 根 を 川 にのばし、 暑 さに<br />

あっても 恐 れることはない。その 葉 は 常 に 青 く、ひでりの 年 にも 憂 えることなく、 絶<br />

えず 実 を 結 ぶ」[ 箴 言 3:13、エレミヤ 17:。<br />

448


国 際 協 定<br />

第 38 章 最 終 警 告<br />

「この 後 、わたしは、もうひとりの 御 使 が、 大 いなる 権 威 を 持 って、 天 から 降 りて<br />

来 るのを 見 た。 地 は 彼 の 栄 光 によって 明 るくされた。 彼 は 力 強 い 声 で 叫 んで 言 った、<br />

『 倒 れた、 大 いなるバビロンは 倒 れた。そして、それは 悪 魔 の 住 む 所 、あらゆる 汚 れ<br />

た 霊 の 巣 く つ、また、あらゆる 汚 れた 憎 むべき 鳥 の 巣 くつとなった。』」「わたしは<br />

また、もうひとつの 声 が 天 から 出 るのを 聞 いた、『わたしの 民 よ。 彼 女 から 離 れ 去 っ<br />

て、その 罪 にあずからないようにし、その 災 害 に 巻 き 込 まれないようにせよ』」[ 黙 示<br />

録 18:1、2、。<br />

この 聖 句 は、 黙 示 録 14 章 [8 節 ]の 第 二 天 使 によってなされたバビロンは 倒 れたと<br />

いう 宣 言 が、くり 返 して 行 われる 時 を 指 し 示 すものであり、それとともに、この 使 命<br />

が 1844 年 の 夏 に 最 初 に 宣 言 されて 以 来 、バビロンを 構 成 する 諸 団 体 に 入 り 込 んでき<br />

た 腐 敗 について 述 べている。ここに、 宗 教 界 の 恐 るべき 状 態 が 描 かれている。 真 理 を<br />

拒 否 するごとに、 人 々の 心 はますます 暗 く、ますますかたくなになり、ついには 不 信<br />

にこりかたまってしまう。 彼 らは、 神 がお 与 えになった 警 告 を 無 視 して、 十 戒 の 戒 め<br />

の 1 つをふみにじりつづけ、ついには、それをきよく 守 る 人 々を 迫 害 するようになる<br />

のである。キリストは、 彼 の 言 葉 と 彼 の 民 とに 浴 びせられた 侮 辱 によって、 無 視 され<br />

ている。 心 霊 術 の 教 えが 教 会 に 受 け 入 れられるに 従 って、 肉 の 心 の 抑 制 が 取 り 除 かれ、<br />

信 仰 の 表 明 は、 最 も 卑 しい 不 正 を 隠 すためのおおいとなるであろう。 霊 の 現 れを 信 じ<br />

ることは、 惑 わす 霊 と 悪 霊 の 教 えに 対 して 扉 を 開 くことになり、こうして、 悪 天 使 の<br />

影 響 が 教 会 内 に 及 んでくる。<br />

この 預 言 に 示 された 時 のバビロンについて、「 彼 女 の 罪 は 積 り 積 って 天 に 達 してお<br />

り、 神 はその 不 義 の 行 いを 覚 えておられる」と 宣 言 されている[ 黙 示 録 18:。バビロ<br />

ンはその 罪 のます 目 を 満 たし、 破 滅 するばかりになっている。 しかし 神 は、まだバビ<br />

ロンの 中 にご 自 分 の 民 を 持 っておられる。そして、 神 の 刑 罰 が 下 る 前 に、これらの 忠<br />

実 な 人 々を 呼 び 出 して、 彼 らがその 罪 にあずからず、「その 災 害 に 巻 き 込 まれないよ<br />

うに」しなければならないのである。そこで、この 天 使 —— 天 から 下 って 来 、 栄 光 を<br />

もって 地 を 照 らし、 力 強 い 声 でバビロンの 罪 を 知 らせる 天 使 ——によって 象 徴 されて<br />

いるところの 運 動 が 起 こる。この 天 使 のメッセージと 関 連 して、「わたしの 民 よ。 彼<br />

女 から 離 れ 去 れ」という 呼 びかけが 聞 かれる。これらの 布 告 は、 第 三 天 使 の 使 命 とと<br />

もに、 地 上 の 住 民 に 与 えられる 最 後 の 警 告 なのである。<br />

449


国 際 協 定<br />

世 界 は、 恐 ろしい 結 果 をもたらす 問 題 に 直 面 しようとしている。 地 の 権 力 者 たちは、<br />

合 同 して 神 の 戒 めに 逆 らって 戦 い、「 小 さき 者 にも、 大 いなる 者 にも、 富 める 者 にも、<br />

貧 しき 者 にも、 自 由 人 にも、 奴 隷 にも、すべての 人 々に」、 偽 りの 安 息 日 を 守 ること<br />

によって 教 会 の 習 慣 に 従 うよう 命 じるのである[ 黙 示 録 13:。これに 従 わない 者 はす<br />

べて、 法 律 上 の 刑 罰 を 受 ける。そして、ついには、 彼 らは 死 刑 に 値 する 者 であると 宣<br />

告 される。 他 方 、 創 造 主 の 安 息 日 を 守 ることを 命 じる 神 の 律 法 は、それに 対 する 服 従<br />

を 要 求 し、その 戒 めを 犯 すすべての 者 に 神 の 怒 りを 警 告 する。 こうして 問 題 点 が 明 ら<br />

かに 示 されるとともに、だれでも 神 の 律 法 をふみにじって 人 間 の 法 令 に 従 うものは、<br />

獣 の 刻 印 を 受 ける。 彼 は、 神 の 代 わりに 服 従 することを 選 んだその 権 力 に 対 する 忠 誠<br />

のしるしを 受 けるのである。 天 よりの 警 告 は 次 のとおりである。「おおよそ、 獣 とそ<br />

の 像 とを 拝 み、 額 や 手 に 刻 印 を 受 ける 者 は、 神 の 怒 りの 杯 に 混 ぜものなしに 盛 られた、<br />

神 の 激 しい 怒 りのぶどう 酒 を 飲 」む[ 黙 示 録 14:9、。<br />

しかし、 真 理 が 人 の 心 と 良 心 に 明 らかに 示 され、そしてそれが 拒 否 された 上 でなけ<br />

れば、だれ 1 人 として 神 の 怒 りを 受 けることはない。 現 代 に 対 する 特 別 な 真 理 を 聞 く<br />

機 会 がこれまでになかった 者 が 大 勢 いる。 第 4 条 の 戒 めに 従 うべきことの 真 の 意 味 が、<br />

まだ 彼 らに 示 されていない。 すべての 人 の 心 を 見 ぬき、あらゆる 動 機 を 探 られるお 方<br />

は、 真 理 を 知 りたいと 願 っている 者 をだれ 1 人 として、 争 闘 の 論 点 について 欺 かれる<br />

ままにしてはおかれない。 法 令 は、 盲 目 的 に 人 々に 強 制 されることはない。すべての<br />

者 は、 賢 明 な 決 断 を 下 すに 十 分 なだけの 光 が 与 えられるのである。 安 息 日 は、 特 に 論<br />

争 点 となっている 真 理 であるか ら、 忠 誠 の 大 試 金 石 となる。 最 後 の 試 練 が 人 々を 襲 う<br />

時 、 神 に 仕 える 者 と 神 に 仕 えない 者 の 区 別 が 明 らかになる。 第 4 条 の 戒 めに 反 して、<br />

国 家 の 法 律 に 従 って 偽 りの 安 息 日 を 守 ることは、 神 に 敵 対 する 権 力 に 忠 誠 を 尽 くすと<br />

いう 表 明 であり、 一 方 、 神 の 戒 めに 従 って 真 の 安 息 日 を 守 ることは、 創 造 主 に 対 する<br />

忠 誠 の 証 拠 である。 一 方 は、 地 上 の 権 力 に 服 従 するしるしを 受 け 入 れることによって、<br />

獣 の 刻 印 を 受 け、 他 方 は、 神 の 権 威 に 対 する 忠 誠 のしるしを 選 んで、 神 の 印 を 受 ける<br />

のである。<br />

これまで、 第 三 天 使 の 使 命 の 真 理 を 伝 えた 者 は、 単 に 人 騒 がせな 者 としか 思 われな<br />

いことがよくあった。 米 国 において 宗 教 的 不 寛 容 が 勢 いを 増 し、 教 会 と 国 家 が 結 束 し<br />

て、 神 の 戒 めを 守 る 者 を 迫 害 する、という 彼 らの 予 告 は、なんの 根 拠 もないばかげた<br />

ことであると 評 されてきた。この 国 は 宗 教 自 由 の 擁 護 者 であったのだから、これ 以 外<br />

の 何 ものにもなり 得 ない、と 確 信 をもって 宣 言 されてきた。しかし、 日 曜 日 遵 守 を 強<br />

制 する 問 題 が 広 く 論 じられるとき、 長 い 間 疑 われ 信 じられなかった 事 件 が 近 づいてく<br />

450


国 際 協 定<br />

るのがわかり、 第 三 天 使 の 使 命 は、 今 までになかったような 結 果 をもたらすことであ<br />

ろう。<br />

神 は、どの 時 代 においても、 世 俗 と 教 会 の 罪 を 責 めるために、ご 自 分 のしもべたち<br />

を 遣 わされた。しかし 人 々は、 自 分 たちに 対 し 耳 ざわりの 良 いことが 語 られることを<br />

望 み、 純 粋 な、ありのままの 真 理 は 受 け 入 れないのである。 多 くの 改 革 者 たちは、そ<br />

の 仕 事 を 始 めたときに、 教 会 と 国 家 の 罪 を 非 難 するのに、きわめて 慎 重 を 期 した。 彼<br />

らは、 真 のキリスト 者 の 生 活 の 模 範 を 示 すことによって、 人 々を 聖 書 の 教 理 に 引 きも<br />

どそうとした。しかし、 神 の 霊 がエリヤに 臨 み、 悪 王 と 背 信 の 民 を 譴 責 させられたの<br />

と 同 じように、 彼 らにも 神 の 霊 が 与 えられた。 彼 らは、 聖 書 の 明 白 な 言 葉 、すなわち、<br />

これまで 伝 えることを 躊 躇 していた 教 理 を、 伝 えずにはおれなくなった。 彼 らは、 真<br />

理 と、 魂 をおびやかす 危 険 とを、 熱 心 に 宣 言 せずにはおられなくなった。 彼 らは、そ<br />

の 結 果 がどうなろうと、 主 が 彼 らに 与 えられたその 言 葉 を 語 った。そして、 人 々はそ<br />

の 警 告 を 聞 かなければならなかった。<br />

第 三 天 使 の 使 命 も、このようにして 宣 布 される。それが 非 常 な 力 で 伝 えられる 時 が<br />

来 るならば、 主 は 謙 遜 な 器 を 通 して 働 かれ、 主 の 奉 仕 に 献 身 した 人 々の 心 を 導 かれる。<br />

働 き 人 は、 学 歴 ではなくて、 聖 霊 を 注 がれることによって 資 格 を 与 えられる。 信 仰 と<br />

祈 りの 人 は、 聖 なる 熱 意 に 燃 えて 出 て 行 き、 神 から 与 えられる 言 葉 を 宣 言 せざるをえ<br />

なくなる。バビロンの 罪 は 暴 露 される。 教 会 の 法 令 を 政 権 によって 強 制 することの 恐<br />

るべき 結 果 、 心 霊 術 の 侵 入 、 法 王 権 のひそかではあるが 急 速 な 発 展 などが、みな 暴 露<br />

される。これらの 厳 粛 な 警 告 によって、 人 々は 動 かされる。こうした 言 葉 を 聞 いたこ<br />

とのない 者 が、 幾 千 となく 耳 を 傾 ける。バビロンとは、その 誤 りと 罪 のために、また、<br />

天 からの 真 理 を 拒 んだために 倒 れた 教 会 である、ということを 聞 いて、 彼 らは 驚 くの<br />

である。 人 々が、 彼 らのかつての 教 師 たちのところへ 行 って、これらのことは 真 実 で<br />

あるかと、 熱 心 に 尋 ねるときに、 牧 師 たちは、 作 り 話 を 語 り、 耳 ざわりの 良 いことを<br />

予 言 し、 彼 らの 恐 怖 と 目 ざめた 良 心 をしずめようとする。しかし、 多 くの 人 々は、 単<br />

なる 人 間 の 権 威 に 満 足 せずに、はっきりした「 主 はこう 言 われる」という 言 葉 を 要 求<br />

するので、 一 般 教 会 の 牧 師 たちは、 昔 のパリサイ 人 のように、 自 分 たちの 権 威 が 疑 わ<br />

れたことを 怒 って、そのメッセージはサタンから 出 たものであると 非 難 し、 罪 を 愛 す<br />

る 群 衆 を 煽 動 して、その 宣 布 者 たちをあざけり、 迫 害 するのである。<br />

争 闘 が 新 しい 分 野 に 及 び、ふみにじられた 神 の 律 法 に 人 々の 心 が 向 けられる 時 、サ<br />

タンは 騒 ぎ 出 す。 使 命 に 伴 う 力 は、それに 反 抗 する 人 々を 怒 らせるだけである。 牧 師<br />

たちは、その 光 が 彼 らの 群 れの 上 に 輝 かないようにと、ほとんど 超 人 的 な 力 で、それ<br />

をさえぎろうとする。 彼 らは、あらゆる 手 段 に 訴 えて、これら の 重 大 な 問 題 に 関 する<br />

451


国 際 協 定<br />

討 論 を 圧 迫 しようとする。 教 会 は、 政 権 の 強 大 な 権 力 に 訴 える。そして、この 働 きに<br />

おいて、カトリックとプロテスタントは 提 携 する。 日 曜 休 業 運 動 が、ますます 大 胆 に、<br />

ますます 断 固 として 推 進 されるにつれて、 戒 めを 守 る 人 々に 対 して 法 令 が 発 布 される。<br />

彼 らは、 罰 金 や 投 獄 をもって 脅 かされる。そして、ある 者 は 有 力 な 地 位 によって、ま<br />

た 他 の 者 は 報 賞 や 便 宜 の 提 供 によって、 信 仰 を 放 棄 するよう 勧 誘 される。しかし 彼 ら<br />

は、 断 固 として、「われわれが 誤 っていることを 神 の 言 葉 によって 示 してほしい」と<br />

答 えるのである。これは、 同 様 の 状 況 の 下 でルターが 行 ったのと 同 じ 訴 えである。 法<br />

廷 に 呼 び 出 された 者 たちは、 真 理 の 力 強 い 弁 明 をする。そして、それを 聞 く 者 の 中 に<br />

は、 神 のすべての 戒 めを 守 るという 立 場 をとるように 導 かれる 者 が 出 てくる。こうし<br />

て、 他 の 方 法 ではこれらの 真 理 を 知 ることができない 幾 千 という 人 々の 前 に、 光 がも<br />

たらされるのである。<br />

神 の 言 葉 に 良 心 的 に 従 うことは、 反 逆 と 見 なされる。サタンに 目 をくらまされた 親<br />

は、 信 仰 を 持 つ 子 供 を 残 酷 無 情 に 扱 う。 主 人 や 女 主 人 は、 戒 めを 守 るしもべを 虐 げる。<br />

愛 情 は、 冷 ややかになる。 子 供 たちは 勘 当 されて、 家 から 追 い 出 される。パウロの 言<br />

葉 は、 文 字 通 り 成 就 する。「キリスト・イエスにあって 信 心 深 く 生 きようとする 者 は、<br />

みな、 迫 害 を 受 ける」[Ⅱテモテ 3:。 真 理 の 擁 護 者 たちが、 日 曜 安 息 日 を 尊 ぶことを<br />

拒 む 時 、 投 獄 される 者 もあれば、 追 放 される 者 もあり、また 奴 隷 として 扱 われる 者 も<br />

いる。 人 間 的 に 考 えて、 今 そうしたことはありえないように 思 われる。しかし、 神 の<br />

霊 の 抑 制 が 人 々から 除 かれ、 彼 らが 神 の 戒 めを 憎 むサタンの 支 配 下 に 陥 る 時 、 異 様 な<br />

事 態 が 展 開 するのである。 神 に 対 する 恐 れと 愛 が 取 り 除 かれる 時 、 人 の 心 は、はなは<br />

だ 残 酷 になりうるのである。<br />

あらしが 迫 って 来 る 時 、 第 三 天 使 の 使 命 を 信 じると 公 言 していながら、 真 理 に 従 う<br />

ことによって 清 められていなかった 多 くの 者 が、その 信 仰 を 棄 てて 反 対 の 側 に 加 わる。<br />

彼 らは、 世 俗 と 結 合 し、その 精 神 を 抱 くことによって、ほとんど 同 じ 見 方 で 物 事 を 見<br />

るようになっている。そして、 試 練 が 来 ると、 彼 らはすぐに、 安 易 で 一 般 うけのする<br />

側 を 選 ぶのである。かつては 真 理 を 喜 んだところの、 才 能 ある 雄 弁 な 人 々は、その 力<br />

を 用 いて 他 の 人 々を 欺 き 迷 わす。 彼 らは、 以 前 の 兄 弟 たちにとって、 最 も 苦 い 敵 とな<br />

る。 安 息 日 遵 守 者 が 法 廷 に 呼 び 出 されて、 信 仰 について 答 える 時 に、これらの 背 教 者<br />

たちは、サタンの 最 も 強 力 な 手 先 となって、 彼 らを 中 傷 し 非 難 する。そして、 偽 りの<br />

報 告 やあてこすりによって、 彼 らに 対 する 権 力 者 たちの 怒 りをかき 立 てる。<br />

この 迫 害 の 時 に、 主 のしもべたちの 信 仰 が 試 みられる。 彼 らは、 神 と 神 の 言 葉 だけ<br />

に 頼 って、 忠 実 に 警 告 を 発 してきた。 神 の 霊 が 彼 らの 心 を 動 かして、 彼 らに 語 らせた<br />

のである。 彼 らは、 聖 なる 熱 意 と 神 の 強 い 力 に 刺 激 されて、 主 が 彼 らに 与 えられた 言<br />

452


国 際 協 定<br />

葉 を 人 々に 語 ることの 結 果 などは 少 しも 考 えに 入 れずに、 彼 らの 義 務 の 遂 行 に 取 りか<br />

かった。 彼 らは、 現 世 の 利 益 を 考 えたり、 名 声 や 生 命 を 保 とうとしたりはしなかった。<br />

しかし、 反 対 と 非 難 のあらしが 彼 らに 襲 いかかる 時 、ある 者 は、 驚 きのあまり、「も<br />

しわれわれの 言 葉 の 結 果 を 予 知 していたら、われわれは 黙 っていたであろうに」と 叫<br />

ぶであろう。 彼 らは 困 難 に 取 り 囲 まれる。サタンは 激 しい 誘 惑 をもって 彼 らを 攻 撃 す<br />

る。 彼 らが 手 がけた 仕 事 は、とうてい 彼 らの 能 力 では 成 し 遂 げられないように 思 われ<br />

る。 彼 らは 滅 亡 に 脅 かされる。 彼 らを 活 気 づけた 熱 は 去 った。しかし 彼 らは 引 き 返 す<br />

ことができない。その 時 彼 らは、 自 分 たちの 全 くの 無 力 さを 悟 り、 全 能 者 のもとに 逃<br />

れて 力 を 求 める。 彼 らは、 自 分 たちが 語 った 言 葉 が、 自 分 たちの 言 葉 ではなくて、 警<br />

告 せよと 命 じられた 主 のものであったことを 思 い 出 す。 神 が 彼 らの 心 に 真 理 を 入 れら<br />

れた。そして 彼 らは、それを 宣 べ 伝 えざるをえなかったのである。<br />

過 去 の 時 代 の 神 の 人 々は、この 同 じ 試 練 にあった。ウィクリフ、フス、ルター、テ<br />

ィンダル、バクスター、ウェスレーたちは、すべての 教 理 は 聖 書 によって 吟 味 さ れる<br />

べきで、 聖 書 が 認 めないものはすべて 拒 否 すると 宣 言 した。 迫 害 はこれらの 人 々に 対<br />

して、 情 け 容 赦 なく 猛 威 をふるった。しかし 彼 らは、 真 理 を 伝 えることをやめなかっ<br />

た。 教 会 史 上 の 各 時 代 は、その 時 代 の 神 の 民 の 必 要 に 応 じた 特 別 な 真 理 の 展 開 によっ<br />

てそれぞれ 特 徴 づけられている。 新 しい 真 理 はみな、 憎 悪 と 圧 迫 を 押 しきって 進 んだ。<br />

真 理 の 光 を 受 けた 人 々は、 誘 惑 と 試 練 にあった。 主 は、 危 急 の 場 合 には、 人 々に 特 別<br />

な 真 理 をお 与 えになる。いったいだれが、それを 布 告 することを 拒 むことができよう<br />

か。 主 はこ 自 分 のしもべたちに、 最 後 の 憐 れみの 招 きを 世 に 提 示 するよう 命 じられる。<br />

彼 らは、 黙 っていることができない。もし 黙 っていれば、 彼 らの 魂 が 危 機 に 瀕 するの<br />

である。キリストの 使 者 たちは、 結 果 には 関 係 しない。 彼 らは 自 分 たちの 義 務 を 遂 行<br />

して、 結 果 は 神 にゆだねなければならない。<br />

反 対 がますます 激 しくなるにつれて、 神 のしもべたちは 再 び 困 惑 する。というのは、<br />

彼 らには、 自 分 たちが 危 機 をもたらしたように 思 われるからである。しかし、 良 心 と<br />

神 の 言 葉 は、 彼 らの 道 が 正 しいことを 保 証 してくれる。そして、 試 練 は 続 いても、 彼<br />

らにはそれに 耐 える 力 が 与 えられる。 争 いは、いよいよ 切 迫 し 激 化 する。しかし 彼 ら<br />

の 信 仰 と 勇 気 は、 危 機 とともに 高 揚 する。 彼 らのあかしはこうである。「われわれは、<br />

世 の 歓 心 を 買 うために 聖 なる 律 法 を 分 かち、ある 部 分 を 重 要 であるとし、 他 の 部 分 を<br />

重 要 でないとして、 神 の 言 葉 に 手 を 入 れるようなことはしない。われわれが 仕 える 主<br />

は、われわれを 救 うことがおできになる。キリストは 地 上 の 諸 権 力 を 征 服 された。だ<br />

からわれわれは、すでに 征 服 された 世 界 を 恐 れることがあろうか。」 さまざまな 形 の<br />

迫 害 は、サタンが 存 在 し、キリスト 教 が 生 きた 力 を 持 っているかぎり 存 続 する 原 則 の、<br />

453


国 際 協 定<br />

展 開 である。 暗 黒 の 軍 勢 の 反 対 を 受 けることなしに、 神 に 仕 えることができる 者 はい<br />

ない。 悪 天 使 たちは、 彼 の 影 響 によって 彼 らの 手 から 獲 物 が 奪 われることを 恐 れて、<br />

彼 を 攻 撃 する。 彼 の 模 範 によって 譴 責 を 受 けた 悪 人 たちは、 悪 天 使 たちと 力 を 合 わせ<br />

て、 魅 力 的 な 誘 惑 をもって 彼 を 神 から 引 き 離 そうとする。それでも 成 功 しなければ、<br />

今 度 は 強 制 的 な 力 を 用 いて 良 心 に 強 いるのである。<br />

しかし、 天 の 聖 所 において、イエスが 人 間 の 仲 保 者 としておられるかぎり、 聖 霊 の<br />

抑 制 力 が 支 配 者 と 国 民 に 及 んでいるのである。それは 今 なお、ある 程 度 国 家 の 法 律 を<br />

支 配 している。このような 法 律 がなかったならば、 世 界 の 状 態 は 現 在 よりはるかに 悪<br />

化 していたことであろう。この 世 の 支 配 者 の 多 くは、サタンの 有 力 な 手 下 であるが、<br />

神 もまた 国 家 の 指 導 者 たちの 中 に、ご 自 分 の 代 表 者 を 持 っておられる。 敵 はそのしも<br />

べたちを 動 かして、 神 の 働 きをはなはだしく 阻 止 するような 法 案 を 提 出 するが、 主 を<br />

恐 れる 政 治 家 たちは、 聖 天 使 に 動 かされて、このような 提 案 に 断 固 として 反 対 する。<br />

こうして、 数 名 の 者 が、 悪 の 強 力 な 潮 流 を 阻 止 するのである。 真 理 の 敵 たちの 反 対 は、<br />

第 三 天 使 の 使 命 がその 働 きを 遂 行 するために、 抑 制 される。 最 後 の 警 告 が 発 せられる<br />

時 、それは、 今 主 の 働 きの 器 になっているこれらの 有 力 者 たちの 注 意 をひく。そして、<br />

彼 らの 中 のある 者 は、それを 受 け 入 れ、 神 の 民 とともに 立 って、 悩 みの 時 を 通 過 する<br />

のである。<br />

第 三 天 使 の 使 命 の 宣 布 に 協 力 する 天 使 は、その 栄 光 で 全 地 を 照 らすのである。ここ<br />

に、 全 世 界 的 で 比 類 のない 力 を 持 った 働 きが 子 告 されている。1840 年 から 44 年 に 至<br />

る 再 臨 運 動 は、 神 の 力 の 輝 かしいあらわれであった。 第 一 天 使 の 使 命 は、 世 界 の 各 伝<br />

道 地 に 伝 えられた。そしてある 国 々においては、16 世 紀 の 宗 教 改 革 以 来 どの 国 にもな<br />

かったような 大 いなる 宗 教 的 関 心 が 引 き 起 こされた。しかし、 第 三 天 使 の 最 後 の 警 告<br />

下 における 大 運 動 は、これをはるかに 超 えるものとなるのである。<br />

その 働 きは、ペンテコステの 日 の 働 きに 似 ている。 福 音 の 開 始 にあたって、 貴 重 な<br />

種 を 発 芽 させるために、 聖 霊 が 注 がれて「 前 の 雨 」が 与 えられたように、その 終 わり<br />

において、 収 穫 を 実 らせるために、「 後 の 雨 」が 与 えられるのである。「この 故 にわ<br />

れらエホバをしるべし、 切 にエホバを 知 ることを 求 むべし。エホバはあしたの 光 のご<br />

とく 必 ずあらわれいで、 雨 のごとくわれらにのぞみ、 後 の 雨 のごとく 地 をうるおした<br />

もう」[ホセア 6:3・ 文 語 訳 ]。「シオンの 子 らよ、あなたがたの 神 、 主 によって 喜 び<br />

楽 しめ。 主 はあなたがたを 義 とするために 秋 の 雨 〔 前 の 雨 —— 英 語 訳 。 以 下 同 じ〕を<br />

賜 い、またあなたがたのために 豊 かに 雨 を 降 らせ、 前 のように、 秋 の 雨 〔 前 の 雨 〕と<br />

春 の 雨 〔 後 の 雨 〕とを 降 らせられる」[ヨエル 2:。「 神 がこう 仰 せになる。 終 りの 時<br />

454


国 際 協 定<br />

には、わたしの 霊 をすべての 人 に 注 こう。」「そのとき、 主 の 名 を 呼 び 求 める 者 は、<br />

みな 救 われるであろう」[ 使 徒 行 伝 2:17、。<br />

福 音 の 大 いなる 働 きは、その 開 始 を 示 した 神 の 力 のあらわれより 劣 るもので 終 わる<br />

ことはない。 福 音 の 開 始 にあたって 秋 の 雨 [ 前 の 雨 ]となって 成 就 した 預 言 は、その 終<br />

局 において、 春 の 雨 [ 後 の 雨 ]となって 再 び 成 就 するのである。これが、 使 徒 ペテロが<br />

待 望 した「 慰 め〔 原 文 では refeshing[ 活 気 づけ、 回 復 の 意 ]〕の 時 」である。 彼 は 次<br />

のように 言 った。「だから、 自 分 の 罪 をぬぐい 去 っていただくために、 悔 い 改 めて 本<br />

心 に 立 ちかえりなさい。それは、 主 のみ 前 から 慰 めの 時 がきて、……イエスを、 神 が<br />

つかわして 下 さるためである」[ 使 徒 行 伝 3:19、。<br />

神 のしもべたちは、きよい 献 身 の 喜 びに 顔 を 輝 かせ、 天 からの 使 命 を 伝 えるために、<br />

ここかしこと 奔 走 する。 全 世 界 の 幾 千 の 声 によって、 警 告 が 発 せられる。 奇 跡 が 行 わ<br />

れ、 病 人 はいやされ、しるしと 不 思 議 が 信 じる 者 に 伴 う。サタンもまた、 偽 りの 不 思<br />

議 を 行 い、 人 々の 前 で 天 から 火 を 降 らすことさえする[ 黙 示 録 13:13 参 照 ]。こうし<br />

て、 地 上 の 住 民 は、 立 場 を 明 らかにしなければならなくなる。 使 命 は、 議 論 によるよ<br />

りも、 神 の 霊 の 深 い 感 動 によって 伝 えられる。 論 拠 はすでに 示 された。 種 はまかれた。<br />

そして 今 、それが 生 えて、 実 を 結 ぶのである。 伝 道 者 によって 配 布 された 文 書 は、そ<br />

の 感 化 を 及 ぼした。 しかし、 感 動 を 受 けた 人 々の 多 くは、 真 理 を 十 分 に 理 解 して、そ<br />

れに 服 従 することを、 妨 げられていた。けれども、 今 、 光 は 至 るところにゆきわたり、<br />

真 理 は 明 らかにされ、 神 の 忠 実 な 子 供 たちは、 彼 らを 束 縛 していたかせを 絶 ち 切 るの<br />

である。 家 族 関 係 、 教 会 関 係 は、もはや 彼 らを 止 める 力 がない。 真 理 は 他 の 何 物 より<br />

も 尊 いのである。 諸 勢 力 が 力 を 結 集 して 真 理 に 反 対 するにもかかわらず、 多 くの 者 が<br />

主 の 側 に 立 つのである。<br />

455


国 際 協 定<br />

第 39 章 アナーキー<br />

「その 時 あなたの 民 を 守 っている 大 いなる 君 ミカエルが 立 ちあがります。また 国 が<br />

はじまってから、その 時 にいたるまで、かつてなかったほどの 悩 みの 時 があるでしょ<br />

う。しかし、その 時 あなたの 民 は 救 われます。すなわちあの 書 に 名 をしるされた 者 は<br />

皆 救 われます」[ダニエル 12:。<br />

第 三 天 使 の 使 命 が 閉 じられると、もはや 地 の 罪 深 い 住 民 のための 憐 れみの 嘆 願 はな<br />

されない。 神 の 民 はその 働 きを 成 し 遂 げたのである。 彼 らは「 後 の 雨 」と「 主 のみ 前<br />

から」 来 る「 慰 め」を 受 けて、 自 分 たちの 前 にある 試 みの 時 に 対 する 準 備 ができた。<br />

天 使 たちは、 天 をあちらこちらへと 急 ぎまわっている。1 人 の 天 使 が 地 から 戻 ってき<br />

て、 自 分 の 働 きが 終 わったことを 告 げる。すなわち、 最 後 の 試 みが 世 界 に 臨 み、 神 の<br />

戒 めに 忠 実 であることを 示 した 者 はみな、「 生 ける 神 の 印 」を 受 けたのである。その<br />

時 イエスは 天 の 聖 所 でのとりなしをやめられる。イエスはご 自 分 の 手 をあげて、 大 声<br />

で「 事 はすでに 成 った」と 仰 せになる。そして、イエスが「 不 義 な 者 はさらに 不 義 を<br />

行 い、 汚 れた 者 はさらに 汚 れたことを 行 い、 義 なる 者 はさらに 義 を 行 い、 聖 なる 者 は<br />

さらに 聖 なることを 行 うままにさせよ」と 厳 粛 に 宣 言 されると、 天 使 の 全 軍 はその 冠<br />

をぬぐ[ 黙 示 録 22:。どの 人 の 判 決 も、 生 か 死 かに 決 まった。キリストはご 自 分 の 民<br />

のために 贖 いをなさり、 彼 らの 罪 を 消 し 去 られた。キリストの 民 の 数 は 満 たされ、<br />

「 国 と 主 権 と 全 天 下 の 国 々の 権 威 」とは、 今 まさに 救 いを 相 続 する 者 に 与 えられよう<br />

としており、イエスは 王 の 王 、 主 の 主 として 統 治 されるのである。<br />

イエスが 聖 所 を 去 られると、 暗 黒 が 地 の 住 民 をおおう。その 恐 ろしい 時 に、 義 人 は<br />

仲 保 者 なしに 聖 なる 神 のみ 前 に 生 きなければならない。 悪 人 の 上 に 置 かれていた 抑 制<br />

が 取 り 除 かれ、サタンは 最 後 まで 悔 い 改 めない 者 を 完 全 に 支 配 する。 神 の 忍 耐 は 終 わ<br />

った。 世 は 神 の 憐 れみを 拒 み、その 愛 をさげすみ、その 律 法 をふみにじってきた。 悪<br />

人 は 恩 恵 期 間 の 限 界 を 越 えた。 頑 強 に 拒 まれてきた 神 のみ 霊 は、ついに 取 り 去 られた。<br />

彼 らは 神 の 恵 みの 守 りを 失 って、 悪 魔 に 対 する 防 備 が 全 くない。その 時 サタンは、 地<br />

の 住 民 を 大 いなる 最 後 の 悩 みに 投 げ 入 れる。 神 の 天 使 たちが 人 間 の 激 情 の 激 しい 風 を<br />

抑 えるのをやめると、 争 いの 諸 要 素 がことごとく 解 き 放 たれる。 全 世 界 は、 昔 のエル<br />

サレムを 襲 ったものよりもっと 恐 ろしい 破 滅 に 巻 き 込 まれる。<br />

ただ 1 人 の 天 使 が、エジプト 人 の 長 子 をみな 殺 しにして、 国 じゅうを 嘆 きで 満 たし<br />

た。ダビデが 民 を 数 えて、 神 にそむいた 時 、1 人 の 天 使 が 恐 ろしい 破 滅 を 引 き 起 こし<br />

て、 彼 の 罪 を 罰 した。 神 がお 命 じになる 時 に 聖 天 使 たちによって 行 使 されるのと 同 じ<br />

456


国 際 協 定<br />

破 壊 力 が、 神 のお 許 しになる 時 には 悪 天 使 たちによっても 行 使 される。 勢 力 はすでに<br />

ととのっていて、あらゆるところに 荒 廃 を 広 げようと、 神 の 許 しを 待 つばかりであ<br />

る。<br />

神 の 律 法 を 尊 ぶ 者 は、 世 に 災 いをもたらす 者 として 非 難 されてきた。そして 彼 らは、<br />

地 球 を 災 いで 満 たしているところの、 恐 ろしい 自 然 の 猛 威 と 人 間 どうしの 争 いと 流 血<br />

の 原 因 とみなされる。 最 後 の 警 告 に 伴 う 力 が、 悪 人 たちを 激 怒 させた。 彼 らの 怒 りは<br />

メッセージを 受 け 入 れたすべての 人 に 向 かって 燃 え 上 がり、サタンは 憎 悪 と 迫 害 の 精<br />

神 をいっそう 強 くあおりたてる。 神 のご 臨 在 が 最 後 的 にユダヤ 国 民 から 取 り 去 られた<br />

時 、 祭 司 と 民 はそれを 知 らなかった。サタンの 支 配 下 にあって、 最 も 恐 ろしい 悪 意 に<br />

満 ちた 激 情 に 支 配 されながら、 彼 らはなお 自 分 たちが 神 に 選 ばれた 者 であると 考 えて<br />

いた。 神 殿 の 奉 仕 は 続 けられ、 犠 牲 は 汚 れた 祭 壇 にささげられていた。 神 の 愛 された<br />

み 子 の 血 を 流 すという 罪 を 犯 し、そのしもべたちや 使 徒 たちを 殺 そうとする 民 に、 神<br />

の 祝 福 が 毎 日 求 められていた。<br />

同 じように、 聖 所 での、 取 り 消 すことのできない 判 決 が 発 表 され、 世 界 の 運 命 が 永<br />

遠 に 定 まっても、 地 上 の 住 民 はそれを 知 らないであろう。 宗 教 の 形 式 は、 神 のみ 霊 が<br />

最 後 的 に 取 り 去 られてしまった 民 によって 続 けられる。そして、 悪 の 君 が 自 分 の 悪 だ<br />

くみを 成 し 遂 げるために 彼 らに 吹 き 込 む 悪 魔 的 な 熱 心 さは、 神 に 対 する 熱 心 さと 似 て<br />

いるであろう。<br />

安 息 日 がキリスト 教 世 界 全 体 の 特 別 な 論 争 点 となり、 宗 教 と 政 治 の 当 局 者 が 結 束 し<br />

て 日 曜 日 遵 守 を 強 要 する 時 、 少 数 の 者 は、 世 間 の 要 求 に 屈 することを 断 固 として 拒 む<br />

ために、 全 世 界 ののろいの 的 となる。 教 会 の 制 度 と 国 家 の 法 律 に 反 対 の 立 場 をとる 少<br />

数 者 は 赦 すべからざる 者 であり、 全 世 界 が 混 乱 と 無 法 の 状 態 に 陥 るよりも、 彼 らが 苦<br />

しみを 受 けるほうがよいと 主 張 される。 同 じ 議 論 が 1800 年 前 〔 注 ・ 著 者 の 執 筆 当 時<br />

から〕に、「 民 の 役 人 たち」によってキリストに 対 してなされた。 陰 険 なカヤパは、<br />

「ひとりの 人 が 人 民 に 代 って 死 んで、 全 国 民 が 滅 びないようになるのがわたしたちに<br />

とって 得 だ」と 言 った[ヨハネ 11:。この 議 論 は 決 定 的 なものに 思 われ、ついに、 第<br />

4 条 の 戒 めにある 安 息 日 を 聖 とする 者 に 対 して 法 令 が 発 せられ、 彼 らは 最 も 重 い 刑 罰<br />

に 相 当 する 者 として 非 難 される。そして 人 々は、 一 定 期 間 ののちには 彼 らを 殺 しても<br />

よい 自 由 が 与 えられる。 旧 世 界 のカトリック 教 と 新 世 界 の 背 教 的 新 教 とは、 神 の 戒 め<br />

の 全 部 を 尊 ぶ 者 たちに 対 して、 同 じような 手 段 をとるであろう。<br />

その 時 神 の 民 は、ヤコブの 悩 みの 時 として 預 言 者 によって 描 かれている 悩 みと 苦 し<br />

みの 場 面 に 投 げ 入 れられる。「 主 はこう 仰 せられる、われわれはおののきの 声 を 聞 い<br />

457


国 際 協 定<br />

た。 恐 れがあり、 平 安 はない。……なぜ、どの 人 の 顔 色 も 青 く 変 っているのか。 悲 し<br />

いかな、その 日 は 大 いなる 日 であって、それに 比 べるべき 日 はない。それはヤコブの<br />

悩 みの 時 である。しかし 彼 はそれから 救 い 出 される」[エレミヤ 30:5~。 エサウの<br />

手 からの 救 出 を 熱 心 に 祈 り 求 めたヤコブの 苦 悶 の 夜 [ 創 世 記 32:24~30 参 照 ]は、 悩<br />

みの 時 の 神 の 民 の 経 験 をあらわしている。<br />

ヤコブは、エサウに 与 えられることになっていた 父 の 祝 福 を 欺 瞞 によって 得 たため<br />

に、 兄 の 恐 ろしい 脅 迫 におびえて、 命 からがら 逃 げ 出 したのであった。 彼 は、 長 年 の<br />

流 浪 の 生 活 のあとで、 神 の 命 令 によって、 妻 子 と 家 畜 を 連 れて 故 郷 へと 出 発 した。 国<br />

境 についた 時 、 彼 は、エサウが 勇 士 の 一 隊 を 率 いて 近 づいているという 知 らせを 受 け<br />

て、 恐 怖 に 満 たされた。エサウが 復 讐 の 念 に 燃 えていることは、 疑 う 余 地 がなかった。<br />

ヤコブの 一 族 は、 武 装 も 防 備 もないので、 今 にも 暴 力 と 虐 殺 の 無 力 な 犠 牲 になるかと<br />

思 われた。ヤコブは 不 安 と 恐 怖 に 襲 われた 上 に、 重 苦 しい 自 責 の 念 にかられた。とい<br />

うのは、このような 危 険 をもたらしたのは、 彼 自 身 の 罪 であったからである。 彼 の 唯<br />

一 の 希 望 は、 神 の 憐 れみにすがることであった。 彼 の 唯 一 の 防 備 は、 祈 りでなければ<br />

ならなかった。しかもなお、 彼 は、 兄 に 対 して 行 った 罪 悪 の 償 いのためと、 切 迫 した<br />

危 険 を 避 けるために、 自 分 としてできることはすべてなしたのである。そのように、<br />

キリスト 者 も、 悩 みの 時 に 近 づくにつれて、 人 々の 前 で 自 分 たちの 立 場 を 明 らかにし、<br />

偏 見 を 取 り 去 り、そして 良 心 の 自 由 を 脅 かす 危 険 を 避 けるために、 全 力 を 尽 くさなけ<br />

ればならない。<br />

ヤコブは、 家 族 の 者 が 彼 の 苦 悩 を 見 ないように、 彼 らを 送 り 出 してから、1 人 残<br />

って 神 に 懇 願 した。 彼 は 自 分 の 罪 を 告 白 し、 彼 に 対 する 神 の 憐 れみを 感 謝 するととも<br />

に、 深 くへりくだった 心 で、 彼 の 先 祖 に 与 えられた 契 約 と、ベテルにおける 夜 の 幻 の<br />

中 で、また 流 浪 の 地 において、 彼 に 与 えられた 約 束 とが、 行 われることを 嘆 願 した。<br />

彼 の 生 涯 の 危 機 がやってきていた。すべてが 危 うくなった。 暗 黒 と 孤 独 の 中 で、 彼 は<br />

祈 りつづけ、 神 の 前 に 身 を 低 くしつづけた。<br />

突 然 、1 つの 手 が 彼 の 肩 におかれた。 彼 は、 敵 が 彼 の 生 命 をねらっているのだと 考<br />

える。そして、 必 死 になって 敵 と 闘 う。 夜 が 明 けようとする 時 、この 見 知 らぬ 人 は 超<br />

人 的 な 力 をあらわす。 彼 が 触 れると、 頑 強 なヤコブはまひしたようになる。そしてヤ<br />

コブは 力 を 失 って 倒 れ、この 不 思 議 な 敵 の 首 にすがって、 涙 ながらに 懇 願 する。ヤコ<br />

ブは、 今 、 自 分 が 闘 っていたお 方 が、 契 約 の 天 使 であられることを 知 る。 彼 は 体 の 自<br />

由 を 失 い、 激 しい 痛 みを 感 じながらも、 彼 の 願 いを 放 棄 しない。 彼 は 自 分 の 罪 のため<br />

に、 長 い 聞 悩 み、 自 責 の 念 にかられ、 苦 しみに 耐 えてきた。 今 彼 は、それが 赦 された<br />

458


国 際 協 定<br />

という 確 証 を 得 なければならない。 天 からの 来 訪 者 は、 今 にも 立 ち 去 ろうとするよう<br />

に 見 える。しかしヤコブは、 彼 にすがって、 祝 福 を 求 める。<br />

天 使 は、「 夜 が 明 けるからわたしを 去 らせてください」と 言 うが、ヤコブは、「わ<br />

たしを 祝 福 してくださらないなら、あなたを 去 らせません」と 叫 ぶのである。なんと<br />

いう 確 信 、なんという 堅 忍 不 抜 の 精 神 が、ここにあらわされていることであろう。も<br />

しもこれが、 高 慢 で 僣 越 な 要 求 であったならば、ヤコブは 直 ちに 滅 ぼされたことであ<br />

ろう。しかし 彼 の 要 求 は、 自 分 の 弱 さと 無 価 値 なことを 告 白 しながらも、 契 約 を 果 た<br />

される 神 の 憐 れみに 信 頼 する 者 の 確 信 であった。<br />

「 彼 は 天 の 使 と 争 って 勝 」った[ホセア 12:。この 罪 深 く、 誤 りを 犯 した 人 間 は、<br />

へりくだりと 悔 い 改 めと 自 己 放 棄 とによって、 天 の 君 と 闘 って 勝 ったのである。 彼 は<br />

そのふるえる 手 で、 神 の 約 束 をしっかりとつかんだ。その 時 、 無 限 の 愛 のお 方 は、 罪<br />

人 の 願 いを 退 けることがおできにならなかった。 彼 の 勝 利 の 証 拠 、そして 彼 の 模 範 に<br />

ならう 他 の 人 々への 励 ましの 証 拠 として、 彼 の 名 が、 彼 の 罪 を 思 い 起 こさせるものか<br />

ら、 彼 の 勝 利 を 記 念 するものへと 変 えられた。 そして、ヤコブが 神 と 争 って 勝 ったと<br />

いうことは、 彼 が 人 にも 勝 つという 保 証 であった。 彼 はもはや 兄 の 怒 りに 直 面 するこ<br />

とを 恐 れなかった。なぜなら、 主 が 彼 の 防 御 だからであった。<br />

サタンは 神 の 天 使 たちの 前 でヤコブを 訴 え、 彼 は 罪 を 犯 したのであるから 自 分 には<br />

彼 を 滅 ぼす 権 利 があると 主 張 して、エサウに 働 きかけて 彼 のほうへと 向 かわせていた。<br />

そして、ヤコブの 長 い 苦 闘 の 夜 の 間 、サタンは、 彼 に 自 分 の 罪 を 思 い 起 こさせて、 失<br />

望 に 陥 れ、 彼 が 神 にすがっているその 手 を 引 き 離 そうとした。ヤコブはほとんど 絶 望<br />

しそうになった。しかし 彼 は、 天 からの 助 けがなければ 自 分 は 滅 びるしかないことを<br />

知 っていた。 彼 は、 自 分 の 大 きな 罪 を 心 から 悔 い 改 め、 神 の 憐 れみをこい 求 めた。 彼<br />

はその 目 的 をすてようとはせず、しっかりと 天 の 使 いを 捉 え、 苦 悶 の 叫 びをあげて 熱<br />

烈 に 懇 願 し、ついに 勝 利 したのであった。<br />

サタンは、エサウを 動 かしてヤコブに 立 ち 向 かわせたように、 悩 みの 時 に、 悪 人 た<br />

ちを 煽 動 して 神 の 民 を 滅 ぼそうとする。そして 彼 は、ヤコブを 訴 えたように、 神 の 民<br />

に 対 する 非 難 を 申 し 立 てる。 彼 は、 世 界 を 自 分 の 手 中 にあるものと 考 えている。しか<br />

し 神 の 戒 めを 守 る 小 さな 群 れが、 彼 の 主 権 に 反 抗 しているのである。もし 彼 が、 彼 ら<br />

を 地 上 から 一 掃 することができるなら、 彼 の 勝 利 は 完 全 なものとなる。 彼 は、 天 使 が<br />

彼 らを 守 っているのを 見 て、 彼 らの 罪 が 赦 されたことを 推 測 するが、 彼 らの 調 査 が 天<br />

の 聖 所 において 決 定 されたことは 知 らない。サタンは、 自 分 が 彼 らを 誘 惑 して 犯 させ<br />

た 罪 を 正 確 に 知 っている。そして 彼 は、それらを 神 の 前 に 大 きく 誇 張 して 示 し、この<br />

459


国 際 協 定<br />

人 々は 自 分 と 同 様 に 神 の 恵 みから 当 然 除 外 されるべきであると 主 張 する。 主 が、 彼 ら<br />

の 罪 を 赦 しながら、サタンとその 使 いたちを 滅 ぼすことは、 正 当 ではないと 彼 は 宣 言<br />

するのである。サタンは 彼 らを、 自 分 のえじきであると 主 張 し、 滅 ぼすために 自 分 の<br />

手 に 与 えられるべきであると 要 求 する。<br />

サタンが、 神 の 民 をその 罪 のゆえに 責 める 時 に、 主 はサタンが、 彼 らを 極 限 まで 試<br />

みることを 許 される。 神 に 対 する 彼 らの 信 頼 、 彼 らの 信 仰 と 堅 実 さとが、 激 しく 試 み<br />

られる。 彼 らは、 過 去 をふりかえると、 望 みを 失 ってしまう。なぜなら、その 全 生 涯<br />

の 中 に、よいところをほとんど 見 ることができないからである。 彼 らは、 自 分 たちの<br />

弱 さと 無 価 値 とを 十 分 に 自 覚 している。サタンは、 彼 らの 状 態 は 絶 望 的 で、 彼 らの 汚<br />

れたしみは 洗 い 去 ることができないと 思 わせて、 彼 らを 恐 怖 に 陥 れようとする。サタ<br />

ンは、 彼 らの 信 仰 をくじいて、 彼 らを 彼 の 誘 惑 に 負 けさせ、 神 に 対 する 忠 誠 を 放 棄 さ<br />

せようと 望 むのである。<br />

神 の 民 は、 彼 らを 滅 ぼそうとする 敵 に 取 り 囲 まれるが、しかし 彼 らの 味 わう 苦 悩 は、<br />

真 理 のために 受 ける 迫 害 を 恐 れてのものではない。 彼 らは、 自 分 たちがすべての 罪 を<br />

悔 い 改 めているかどうか、また、 自 分 たちの 中 の 何 かのあやまちによって、「 全 世 界<br />

に 臨 もうとしている 試 錬 の 時 に、あなたを 防 ぎ 守 ろう」という 救 い 主 の 約 束 の 成 就 を<br />

妨 げるのではないか、ということを 恐 れるのである[ 黙 示 録 3:。もし 彼 らが、 赦 しの<br />

確 証 を 持 つことができるならば、 拷 問 も 死 をもいとわないであろう。しかし 万 一 、 赦<br />

しに 値 しない 者 であることがわかって、 自 分 自 身 の 品 性 の 欠 陥 のゆえに 生 命 を 失 うよ<br />

うなことがあれば、それは 神 の 聖 なるみ 名 を 辱 しめることになってしまう。<br />

彼 らは、 至 るところに 反 逆 の 陰 謀 を 聞 き、 暴 動 が 活 発 に 起 きるのを 見 る。そして 彼<br />

らの 心 の 中 には、この 大 いなる 背 教 が 終 わるように、そして 悪 人 たちのよこしまが 終<br />

わるようにという、 強 烈 な 願 望 と 熱 望 が 起 こる。しかし、 彼 らが、 反 逆 の 活 動 をとど<br />

めるよう 神 に 祈 っていながらも、 自 分 自 身 には 悪 の 大 きな 潮 流 に 抵 抗 する 力 も 押 し 返<br />

す 力 もないことを 感 じて、 激 しい 自 責 の 念 にかられる。もし 彼 らが、 彼 らの 全 能 力 を<br />

常 にキリストの 奉 仕 に 用 いていたならば、そして 力 から 力 へと 進 んでいたならば、サ<br />

タンの 勢 力 はこれほど 優 勢 な 力 をもって 襲 ってはこないだろうと、 彼 らは 感 じるので<br />

ある。<br />

彼 らは、 彼 らの 多 くの 罪 をこれまで 悔 い 改 めたことを 指 し 示 して、 神 の 前 で 彼 らの<br />

心 を 悩 まし、「わたしの 保 護 にたよって、わたしと 和 らぎをなせ、わたしと 和 らぎを<br />

なせ」という 救 い 主 の 約 束 をこい 求 める[イザヤ 27:。 彼 らの 信 仰 は、 祈 りが 直 ちに<br />

答 えられないからと 言 って、なくなってしまわない。 激 しい 不 安 、 恐 怖 、 苦 悩 に 苦 し<br />

460


国 際 協 定<br />

みながらも、 彼 らは 祈 り 求 めることをやめない。 彼 らは、ヤコブが 天 使 をつかまえた<br />

ように、 神 の 力 を 捕 らえる。そして、「わたしを 祝 福 してくださらないなら、あなた<br />

を 去 らせません」と 彼 らは 心 の 中 で 叫 ぶのである。<br />

もしヤコブが、 欺 瞞 によって 長 子 の 特 権 を 得 た 罪 をあらかじめ 悔 い 改 めていなかっ<br />

たならば、 神 は、 彼 の 祈 りを 聞 き、 憐 れみ 深 く 彼 の 生 命 を 保 つことを、なさらなかっ<br />

たであろう。そのように、 悩 みの 時 においても、 神 の 民 は、 恐 怖 と 苦 悩 にさいなまれ<br />

ている 時 、まだ 告 白 していない 罪 を 思 い 出 すならば、 彼 らは 圧 倒 されてしまうことで<br />

あろう。 絶 望 が 彼 らの 信 仰 を 断 ち 切 り、 彼 らは 神 に 救 いを 求 める 確 信 が 持 てなくなる<br />

ことであろう。しかし、 彼 らは、 自 分 たちが 無 価 値 なことを 深 く 感 じてはいるが、 告<br />

白 すべき 罪 を 隠 してはいない。 彼 らの 罪 は、 前 もってさばかれて、 消 し 去 られている。<br />

彼 らは、 罪 を 思 い 出 すことができない。<br />

神 は 人 生 の 小 さなことにおける 不 忠 実 を 見 のがされると、サタンは 多 くの 者 に 思 い<br />

込 ませている。しかし、 主 は、ご 自 分 が、 悪 を 是 認 することも 大 目 に 見 ることもなさ<br />

らないかたであることを、ヤコブの 取 り 扱 いにおいて 示 された。 罪 の 言 いわけをした<br />

り、 隠 したりして、それを 告 白 せず、 赦 されないまま、 天 の 書 に 残 しておく 者 は、み<br />

なサタンに 負 けてしまうのである。 口 でりっぱなことを 言 い、 栄 誉 ある 地 位 にあれば<br />

あるほど、その 人 々の 行 動 は、 神 の 目 には 嘆 かわしいものであり、 大 いなる 敵 サタン<br />

の 勝 利 はいっそう 確 実 なのである。 神 の 日 のための 準 備 を 遅 らせる 者 は、 悩 みの 時 や<br />

それ 以 後 においては、 準 備 することができない。こうした 人 々は、すべて 絶 望 であ<br />

る。<br />

なんの 準 備 もせずに、 最 後 の 恐 るべき 争 闘 に 当 面 するこれらの 自 称 キリスト 者 たち<br />

は、 絶 望 して、 激 しい 苦 悶 の 叫 びをあげて 彼 らの 罪 を 告 白 する。そして 悪 人 たちは、<br />

彼 らの 苦 悩 をながめて 勝 ち 誇 るのである。このような 告 白 は、エサウやユダの 告 白 と<br />

同 じ 性 質 のものである。これをなすものは、 罪 そのものではなくて、 罪 の 結 果 を 悲 し<br />

むのである。 彼 らは 真 の 悔 い 改 めをしておらず、 悪 に 対 する 嫌 悪 感 がない。 彼 らは 刑<br />

罰 を 恐 れて 罪 を 認 めるのである。そして、 昔 のパロのように、 刑 罰 が 取 り 除 かれると<br />

また 天 に 反 抗 するのである。<br />

ヤコブの 生 涯 はまた、 欺 かれ、 試 みられ、 罪 に 陥 れられても、 真 に 悔 い 改 めて 神 に<br />

立 ちかえった 者 を、 神 は 見 捨 てられないという 保 証 でもある。サタンはこのような 人<br />

々を 滅 ぼそうとするが、 神 は 天 使 を 遣 わして、 危 機 の 時 に 彼 らを 慰 め、 保 護 されるの<br />

である。サタンの 攻 撃 は、 激 しく、 断 固 たるもので、 彼 の 欺 瞞 は 恐 るべきものである。<br />

しかし、 主 の 目 はご 自 分 の 民 に 向 けられ、その 耳 は 彼 らの 叫 びを 聞 かれる。 彼 らの 苦<br />

461


国 際 協 定<br />

悩 は 大 きく、 炉 の 火 は 彼 らを 焼 き 尽 くすように 思 われる。しかし、 金 を 吹 き 分 ける 者<br />

であられる 神 は、 彼 らを 火 で 練 った 金 として 取 り 出 される。この 最 も 激 しい 試 練 の 時<br />

における、 神 のその 子 供 たちに 対 する 愛 は、 彼 らの 最 も 輝 かしい 繁 栄 の 時 と 同 じよう<br />

に、 強 く、やさしいのである。しかし、 彼 らは、 火 の 炉 に 投 げ 入 れられる 必 要 がある。<br />

キリストの 姿 が 完 全 に 反 映 されるように、 彼 らの 世 俗 的 なところが 焼 きつくされねば<br />

ならない。<br />

われわれの 前 にある 苦 悩 と 苦 悶 の 時 は、 疲 労 と 遅 延 と 飢 えに 耐 えることのできる 信<br />

仰 、すなわち、 激 しく 試 みられても 落 胆 しない 信 仰 を 要 求 する。その 時 に 備 えるため<br />

に、すべての 者 に 恩 恵 期 間 が 与 えられている。ヤコブは、 断 固 として 屈 しなかったた<br />

めに 勝 利 した。 彼 の 勝 利 は、しきりに 願 い 求 める 祈 りに 力 があるということの 実 証 で<br />

ある。 彼 のように 神 の 約 束 をしっかりとつかみ、 彼 のように 熱 心 で 忍 耐 強 い 者 はみな、<br />

彼 が 勝 利 したように 勝 利 するのである。 自 分 をすて、 神 の 前 で 心 を 悩 まし、 神 の 祝 福<br />

を 求 めて 熱 心 に 祈 り 続 けようとしない 者 は、それを 受 けることができない。 祈 りによ<br />

る 神 との 格 闘 ——このことを 知 っている 人 がなんと 少 ないことであろう。 熱 烈 な 願 い<br />

をもって、 心 から 神 によりすがり、 全 力 を 注 ぎ 出 す 人 がなんと 少 ないことであろう。<br />

嘆 願 者 の 上 に、 言 葉 では 表 現 することのできない 絶 望 の 波 が 押 し 寄 せる 時 に、 確 固 不<br />

動 の 信 仰 をもって 神 の 約 束 にすがる 者 が、なんと 少 ないことであろう。<br />

今 、 少 ししか 信 仰 を 働 かせていない 者 は、サタンの 欺 瞞 の 力 と 良 心 を 強 制 する 法 令<br />

の 下 に 屈 してしまう 危 険 が 多 分 にある。そして、たとい 彼 らが 試 練 に 耐 え 得 ても、 常<br />

に 神 に 信 頼 する 習 慣 を 養 ってこなかったために、 悩 みの 時 には、さらに 大 きな 苦 難 と<br />

苦 悩 に 陥 ることであろう。 彼 らは、 自 分 たちが 学 ぶことを 怠 っていた 信 仰 の 教 訓 を、<br />

恐 るべき 失 望 のもとにあって 学 ばなければならなくなる。<br />

われわれは 今 、 神 の 約 束 を 試 すことによって、 神 をよく 知 らなければならない。 天<br />

使 は 心 からの 熱 心 な 祈 りをすべて 記 録 している。われわれは、 神 との 交 わりを 怠 るよ<br />

りも、 利 己 的 な 満 足 を 求 めることをやめるべきである。 神 の 是 認 の 下 にある 最 低 の 貧<br />

困 、 最 大 の 自 己 犠 牲 は、 是 認 のない 富 、 栄 誉 、 安 楽 、 友 情 にまさっている。われわれ<br />

は、 時 間 をかけて 祈 らなければならない。もしわれわれが 世 俗 のことに 心 を 奪 われて<br />

いるならば、 主 は、 金 、 家 屋 、 肥 えた 土 地 などの 偶 像 を、われわれから 取 り 去 ること<br />

によって、われわれに 時 間 をお 与 えになるかもしれない。<br />

もし 青 年 が、 神 の 祝 福 を 求 めることができる 道 のほかには、どんな 道 に 入 ることを<br />

も 拒 むならば、 罪 に 誘 われることはない。 世 界 に 最 後 の 厳 粛 な 警 告 を 伝 える 使 命 者 た<br />

ちが、 冷 淡 で 無 気 力 で 怠 惰 な 態 度 でなくて、ヤコブのように、 熱 烈 に、 信 仰 をもって<br />

462


国 際 協 定<br />

神 の 祝 福 を 祈 り 求 めるならば、「わたしは 顔 と 顔 をあわせて 神 を 見 たが、なお 生 きて<br />

いる」と 言 うことのできる 多 くの 場 所 を 見 いだすであろう[ 創 世 記 32:。 天 は 彼 らを、<br />

神 と 人 とに 勝 つ 力 をもった 王 子 たちとみなすのである。<br />

「かつてなかったほどの 悩 みの 時 」が、まもなくわれわれの 前 に 展 開 する。それだ<br />

からわれわれには、1 つの 経 験 —— 今 われわれが 持 っておらず、また 多 くの 者 が 怠 け<br />

て 持 とうとしない 経 験 ——が 必 要 なのである。 現 実 の 困 難 というものは、 予 想 したほ<br />

どではないということがしばしばある。しかし、われわれの 前 にある 危 機 の 場 合 は、<br />

そうではない。どんなに 生 々しく 描 写 しても、この 試 練 の 激 しさには、とうてい 及 ば<br />

ない。この 試 練 の 時 に、 人 間 は、みな、 自 分 で 神 の 前 に 立 たなければならない。「 主<br />

なる 神 は 言 われる、わたしは 生 きている、たといノア、ダニエル、ヨブがそこにいて<br />

も、 彼 らはそのむすこ 娘 を 救 うことができない。ただその 義 によって 自 分 の 命 を 救 い<br />

うるのみである」[エゼキエル 14:。<br />

今 、われわれの 大 祭 司 がわれわれのために 贖 いをしておられる 間 に、われわれは、<br />

キリストにあって 完 全 になることを 求 めなければならない。 救 い 主 は、その 思 いにお<br />

いてさえ、 誘 惑 の 力 に 屈 服 されなかった。サタンは、 人 々の 心 の 中 に、なんらかの 足<br />

場 を 見 つける。 心 の 中 に 罪 の 欲 望 があると、サタンはそれを 用 いて 誘 惑 の 力 を 現 す。<br />

しかし、キリストはご 自 身 について、「この 世 の 君 が 来 る……。だが、 彼 はわたしに<br />

対 して、なんの 力 もない」と 宣 言 された[ヨハネ 14:。サタンは、 神 の 子 の 中 に、 彼<br />

に 勝 利 を 得 させるなんのすきも 見 つけることができなかった。 神 のみ 子 は、 天 父 の 戒<br />

めを 守 られた。そして、サタンが 自 分 に 有 利 に 活 用 することのできる 罪 が、 彼 の 中 に<br />

はなかった。これが、 悩 みの 時 を 耐 えぬく 人 々のうちになければならない 状 態 なので<br />

ある。<br />

われわれが、キリストの 贖 罪 の 血 を 信 じることによって、 罪 を 捨 て 去 らなければな<br />

らないのは、 現 世 においてである。われわれの 尊 い 救 い 主 は、われわれが 彼 と 結 合 し<br />

て、われわれの 弱 さを 彼 の 力 に、われわれの 無 知 を 彼 の 知 恵 に、われわれの 無 価 値 さ<br />

を 彼 の 功 績 に 結 びつけるよう 招 いておられる。 神 の 摂 理 は、われわれがイエスの 柔 和<br />

と 謙 遜 を 学 ぶ 学 校 である。 主 はわれわれの 前 に、われわれが 選 ぶ 安 易 で 楽 しく 思 われ<br />

る 道 ではなくて、 人 生 の 真 の 目 的 を、 常 に 置 かれる。われわれの 品 性 を 天 の 型 に 形 造<br />

るために 神 が 用 いられる 手 段 に、われわれは 協 力 しなければならない。このことを 怠<br />

ったり、 遅 らせたりする 者 は、 必 ず 魂 を 最 も 恐 ろしい 危 険 にさらすことになるのであ<br />

る。<br />

463


国 際 協 定<br />

使 徒 ヨハネは 幻 の 中 で、 大 きな 声 が 天 でこう 叫 ぶのを 聞 いた。「 地 と 海 よ、おまえ<br />

たちはわざわいである。 悪 魔 が、 自 分 の 時 が 短 いのを 知 り、 激 しい 怒 りをもって、お<br />

まえたちのところに 下 ってきたからである」[ 黙 示 録 12:。 天 の 声 にこう 叫 ばせる 光<br />

景 は、 実 に 恐 ろしいものである。サタンの 怒 りは、 彼 の 時 が 短 くなるにつれて 増 し 加<br />

わり、 欺 瞞 と 破 壊 の 働 きは、 悩 みの 時 に 最 高 潮 に 達 する。<br />

まもなく、 超 自 然 的 な 恐 ろしい 光 景 が、 奇 跡 を 働 く 悪 鬼 たちの 力 のしるしとして 天<br />

に 現 れるであろう。 悪 霊 たちは 地 の 王 たちのところと 全 世 界 とに 出 て 行 って、 彼 らを<br />

欺 瞞 の 中 に 閉 じ 込 め、 天 の 統 治 に 対 するサタンの 最 後 の 闘 争 に 加 わるようにかり 立 て<br />

る。これらの 手 先 によって、 為 政 者 も 国 民 も 一 様 に 欺 かれる。 自 分 はキリストである<br />

と 称 する 者 たちが 現 れ、 世 の 贖 い 主 のものである 称 号 と 礼 拝 とを 要 求 する。 彼 らは 不<br />

思 議 ないやしの 奇 跡 を 行 い、 聖 書 のあかしとは 相 反 する 啓 示 を 天 から 受 けたと 公 言 す<br />

る。<br />

欺 瞞 の 一 大 ドラマの 最 後 を 飾 る 一 幕 として、サタンはキリストを 装 うであろう。 教<br />

会 は、 救 い 主 の 来 臨 を 教 会 の 望 みの 完 成 として 期 待 していると 長 い 間 公 言 してきた。<br />

今 や 大 欺 瞞 者 は、キリストがおいでになったように 見 せかける。 地 上 のあちらこちら<br />

で、サタンは、 黙 示 録 の 中 でヨハネが 述 べている 神 のみ 子 についての 描 写 に 似 た、ま<br />

ばゆく 輝 く 威 厳 ある 者 として 人 々の 中 に 現 れる[ 黙 示 録 1:13~15 参 照 ]。<br />

彼 をとりまいている 栄 光 は、これまで 人 間 の 目 が 見 たどんなものも 及 ばない「キリ<br />

ストがこられた、キリストがこられた」という 勝 利 の 叫 びが、 空 中 に 鳴 り 響 く。 人 々<br />

が 彼 をあがめてその 前 にひれ 伏 すと、 彼 は 両 手 をあげて、キリストが 地 上 におられた<br />

時 に 弟 子 たちを 祝 福 されたように、 彼 らに 祝 福 を 宣 言 する。 彼 の 声 は 柔 らかく 穏 やか<br />

で、しかも 美 しい 調 べに 満 ちている。やさしい 同 情 のこもった 調 子 で、 彼 は、 救 い 主<br />

が 語 られたのと 同 じ 祝 福 に 満 ちた 天 の 真 理 を 幾 つか 述 べる。 彼 は 人 々の 中 の 病 人 をい<br />

やし、それから、キリストらしくみせかけながら、 安 息 日 を 日 曜 日 に 変 えたことを 主<br />

張 し、すべての 人 に 対 して、 自 分 が 祝 福 した 日 を 聖 とするようにと 命 じる。 彼 は、あ<br />

くまでも 第 7 日 をきよく 守 り 続 ける 者 は、 光 と 真 理 とをもって 彼 らに 遣 わされたわた<br />

しの 天 使 たちの 言 うことを 聞 かないで、わたしの 名 を 冒 瀆 している 者 だと 宣 言 する。<br />

これは 強 力 な、ほとんど 圧 倒 的 な 惑 わしである。 魔 術 師 シモンに 欺 かれたサマリヤ 人<br />

のように、 多 くの 人 々は、 小 さい 者 から 大 きい 者 にいたるまで、これらの 魔 術 に 心 を<br />

奪 われて、この 人 こそは「『 大 能 』と 呼 ばれる 神 の 力 」であると 言 う[ 使 徒 行 伝<br />

8:。<br />

464


国 際 協 定<br />

しかし、 神 の 民 は 欺 かれない。このにせキリストの 教 えは 聖 書 と 一 致 していない。<br />

彼 の 祝 福 は、 獣 とその 像 を 拝 む 者 、すなわち、 神 のまじりけのない 怒 りがその 上 に 注<br />

がれると 聖 書 が 断 言 しているその 人 々に 対 して、 宣 言 されているからである。<br />

さらに、サタンにはキリストの 来 臨 のありさまをまねることは 許 されない。 救 い 主<br />

はこの 点 についての 惑 わしに 対 してご 自 分 の 民 に 警 告 し、 再 臨 のありさまをはっきり<br />

と 予 告 された。「にせキリストたちや、にせ 預 言 者 たちが 起 って、 大 いなるしるしと<br />

奇 跡 とを 行 い、できれば、 選 民 をも 惑 わそうとするであろう。……だから、 人 々が<br />

『 見 よ、 彼 は 荒 野 にいる』と 言 っても、 出 て 行 くな。また『 見 よ、へやの 中 にいる』<br />

と 言 っても、 信 じるな。ちょうど、いなずまが 東 から 西 にひらめき 渡 るように、 人 の<br />

子 も 現 れるであろう」[マタイ 24:24~27、31、25:31、 黙 示 録 1:7、Ⅰテサロ<br />

ニケ 4:16、17 参 照 ]。この 来 臨 はまねることが 不 可 能 である。それは 世 界 じゆうに<br />

知 られ、 全 世 界 の 人 々が 目 撃 するのである。<br />

聖 書 を 熱 心 に 研 究 し、 真 理 の 愛 を 受 けたものだ けが、 世 界 をとりこにする 強 力 な 惑<br />

わしから 守 られる。 聖 書 のあかしによって、これらの 者 は 欺 瞞 者 サタンの 変 装 を 見 破<br />

る。すべての 人 に 試 みの 時 がやってくる。 試 みのふるいによって、ほんもののキリス<br />

ト 者 が 明 らかにされる。 神 の 民 は、 自 分 の 感 覚 的 証 拠 に 屈 しないほど、 今 神 のみ 言 葉<br />

に 固 く 立 っているだろうか。こうした 危 機 においても、 彼 らは 聖 書 に、しかも 聖 書 だ<br />

けにすがりつくだろうか。サタンは、できることなら、 彼 らがその 日 に 立 つ 備 えをす<br />

るのを 妨 げようとする。サタンは 彼 らの 道 をふさぎ、この 世 の 宝 で 彼 らを 迷 わせ、 重<br />

くて 疲 れさせる 荷 を 負 わせて、その 心 をこの 世 の 煩 いでいっぱいに 満 たし、 試 みの 日<br />

が 盗 人 のように 彼 らを 襲 うようにと、 事 を 運 ぶであろう。<br />

キリスト 教 国 のさまざまな 為 政 者 たちが、 戒 めを 守 る 者 たちを 抑 圧 するために 出 し<br />

た 法 令 によって、 政 府 の 保 護 が 取 り 除 かれ、 彼 らが 彼 らの 滅 亡 を 願 う 者 たちの 手 にま<br />

かされると、 神 の 民 は 都 市 や 村 から 逃 れ、 群 れを 作 って 最 も 荒 れ 果 てた 寂 しい 場 所 に<br />

住 む。 多 くの 者 は 山 のとりでに 避 難 所 を 見 つける。ピエモンテの 谷 間 のキリスト 者 た<br />

ちのように、 彼 らは 地 の 高 い 所 を 隠 れ 家 とし、 岩 のとりでを 神 に 感 謝 する[イザヤ 33:<br />

16 参 照 ]。しかし、あらゆる 国 のあらゆる 階 級 の 人 々が、 身 分 の 高 い 者 も 低 い 者 も、<br />

富 んだ 者 も 貧 しい 者 も、 黒 人 も 白 人 も、 大 勢 の 者 が 最 も 不 当 で 残 酷 なとらわれの 身 に<br />

突 き 落 とされる。 神 に 愛 されている 者 たちが、 疲 れきった 日 々を 送 り、 鎖 につながれ、<br />

牢 獄 の 格 子 の 中 に 閉 じ 込 められ、 死 刑 の 宣 告 を 受 ける。ある 者 は 暗 くいまわしい 土 牢<br />

の 中 で、 餓 死 するままに 放 置 されているように 見 える。 彼 らのうめきを 聞 く 人 間 の 耳<br />

はなく、 彼 らを 助 けようとする 人 間 の 手 はない。<br />

465


国 際 協 定<br />

この 試 みの 時 に、 主 はご 自 分 の 民 をお 忘 れになるだろうか。 主 は、 洪 水 前 の 世 界 に<br />

刑 罰 がくだった 時 、 忠 実 なノアをお 忘 れになっただろうか。 平 地 の 町 を 焼 き 尽 くすた<br />

めに 火 が 天 からくだった 時 、ロトをお 忘 れになっただろうか。エジプトで 偶 像 礼 拝 者<br />

たちに 囲 まれていたヨセフをお 忘 れになっただろうか。イゼベルがエリヤをバアルの<br />

預 言 者 と 同 じ 運 命 にすると 誓 って 彼 を 脅 かした 時 、 主 はエリヤをお 忘 れになっただろ<br />

うか。<br />

牢 獄 の 暗 く 陰 うつな 穴 にあったエレミヤをお 忘 れになっただろうか。 火 の 炉 の 中 の<br />

3 人 の 人 物 を、あるいはライオンの 穴 の 中 のダニエルを、お 忘 れになっただろうか。<br />

「シオンは 言 った、『 主 はわたしを 捨 て、 主 はわたしを 忘 れられた』と。『 女 がそ<br />

の 乳 のみ 子 を 忘 れて、その 腹 の 子 を、あわれまないようなことがあろうか。たとい 彼<br />

らが 忘 れるようなことがあっても、わたしは、あなたを 忘 れることはない。 見 よ、わ<br />

たしは、たなごころにあなたを 彫 り 刻 んだ。……』」[イザヤ 49:14~。 万 軍 の 主 は<br />

言 われた、「あなたがたにさわる 者 は、 彼 の 目 の 玉 にさわるのである」[ゼカリヤ<br />

2:。<br />

敵 が 彼 らを 牢 獄 に 投 げ 入 れても、 土 牢 の 壁 は 彼 らの 魂 とキリストとの 交 わりを 断 ち<br />

切 ることはできない。 彼 らのあらゆる 弱 さを 見 、あらゆる 試 みを 知 っておられるお 方<br />

は、 地 上 のすべての 権 力 にまさっておられる。そして 天 使 は 寂 しい 独 房 に 彼 らを 訪 れ、<br />

天 よりの 光 と 平 安 を 伝 える。 牢 獄 は 宮 殿 のようになる。それは 信 仰 に 富 む 者 がそこに<br />

住 んでいて、パウロとシラスがピリピの 獄 屋 の 中 で 真 夜 中 に 祈 りをささげ 賛 美 の 歌 声<br />

をあげた 時 のように、 陰 うつな 壁 が 天 の 光 で 照 らされるからである。 神 の 民 を 抑 圧 し<br />

滅 ぼそうと 計 る 者 たちの 上 に、 神 の 刑 罰 がくだる。 悪 人 に 対 して 神 が 長 い 間 忍 耐 され<br />

たので、 人 々は 大 胆 に 罪 を 犯 している。しかし、 彼 らに 刑 罰 がくだるのが 長 い 間 延 ば<br />

されているということは、その 刑 罰 が 確 実 なものでないとか、 恐 るべきものでないと<br />

いう 理 由 には 決 してならない。<br />

「 主 はペラジム 山 で 立 たれたように 立 ちあがり、ギベオンの 谷 で 憤 られたように 憤<br />

られて、その 行 いをなさる。その 行 いは 類 のないものである。またそのわざをなされ<br />

る。そのわざは 異 なったものである」[イザヤ 28:。 憐 れみ 深 いわれらの 神 にとって、<br />

罰 するということは 異 なったわざである。「 主 なる 神 は 言 われる、わたしは 生 きてい<br />

る。わたしは 悪 人 の 死 を 喜 ばない」[エゼキエル 33:。 主 は「あわれみあり、 恵 みあ<br />

り、 怒 ることおそくいつくしみと、まこととの 豊 かなる 神 、…… 悪 と、とがと、 罪 と<br />

をゆるす 者 」である。しかし 主 は、「 罰 すべき 者 をば 決 してゆるさず」、「 主 は 怒 る<br />

466


国 際 協 定<br />

ことおそく、 力 強 き 者 、 主 は 罰 すべき 者 を 決 してゆるされない 者 」である[ 出 エジプト<br />

34:6、7、ナホム 1:。<br />

主 は、ふみにじられたご 自 分 の 律 法 の 権 威 を、 義 の 恐 るべきわざによって 擁 護 され<br />

る。 罪 人 を 待 ち 受 けている 報 復 がどんなに 厳 しいものであるかは、 主 が 刑 罰 の 執 行 に<br />

気 が 進 まれないことから 判 断 することができる。 主 が 長 く 忍 ばれ、 神 の 御 目 にその 罪<br />

悪 の 升 目 が 満 たされるまではお 打 ちにならない 国 民 も、ついには 憐 れみの 混 じらない<br />

怒 りの 杯 を 飲 むのである。<br />

キリストが 聖 所 における 彼 のとりなしをやめられる 時 、 獣 とその 像 を 拝 み、その 刻<br />

印 を 受 ける 者 たちに 警 告 された、 混 ぜもののない 怒 りが 注 がれる[ 黙 示 録 14:9、10<br />

参 照 ]。 神 がイスラエルを 救 い 出 そうとされた 時 に、エジプトにくだった 災 いは、 神 の<br />

民 の 最 後 の 救 出 の 直 前 に 世 界 にくだるもっと 恐 ろしくもっと 広 範 囲 に 及 ぶ 刑 罰 と 類 似<br />

した 性 格 のものであった。 黙 示 録 の 記 者 は、その 恐 ろしい 災 いを 描 写 して 次 のように<br />

言 っている。「 獣 の 刻 印 を 持 つ 人 々と、その 像 を 拝 む 人 々とのからだに、ひどい 悪 性<br />

のでき 物 ができた。」「 海 は 死 人 の 血 のようになって、その 中 の 生 き 物 がみな 死 んで<br />

しまった。」「 川 と 水 の 源 と[は]……みな 血 になった。」このような 刑 罰 は 恐 ろしい<br />

ものであるが、 神 の 正 義 は 完 全 に 擁 護 されるのである。 神 の 天 使 は、 次 のように 叫 ぶ。<br />

「このようにお 定 めになったあなたは、 正 しいかたであります。 聖 徒 と 預 言 者 との 血<br />

を 流 した 者 たちに、 血 をお 飲 ませになりましたが、それは 当 然 のことであります」[ 黙<br />

示 録 16:2~。 彼 らは、 神 の 民 を 死 に 定 めることによって、 彼 ら 自 身 の 手 で 血 を 流 し<br />

たのと 全 く 同 じ 罪 を 犯 したのである。 同 様 に、キリストは、 彼 の 時 代 のユダヤ 人 に、<br />

アベルの 時 代 からのすべての 聖 徒 たちの 血 を 流 した 罪 があると 言 われた。それは、 彼<br />

らが、 預 言 者 たちを 殺 した 人 々と 同 じ 精 神 を 持 ち、 同 じことをしようとしていたから<br />

である。<br />

それに 続 く 災 いにおいて、「 太 陽 は 火 で 人 々を 焼 くことを 許 された。 人 々は、 激 し<br />

い 炎 熱 で 焼 かれた」[ 同 16:8、。 預 言 者 たちは、この 恐 るべき 時 の 地 上 の 状 態 を 次 の<br />

ように 描 写 している。 「 地 は 悲 しむ。これは 穀 物 が 荒 れはて……るためである。……<br />

野 のすべての 木 はしぼんだ。それゆえ 楽 しみは 人 の 子 らからかれうせた。」「 種 は 土<br />

の 下 に 朽 ち、 倉 は 荒 れ……る。……いかに 家 畜 はうめき 鳴 くか。 牛 の 群 れはさまよう。<br />

彼 らには 牧 草 がないからだ。…… 水 の 流 れがかれはて、 火 が 荒 野 の 牧 草 を 焼 き 滅 ぼし<br />

たからである。」「『その 日 には 宮 の 歌 は 嘆 きに 変 り、しかばねがおびただしく、 人<br />

々は 無 言 でこれを 至 る 所 に 投 げ 捨 てる』と 主 なる 神 は 言 われる」[ヨエル 1:10~12、<br />

17~20、アモス 8:。<br />

467


国 際 協 定<br />

これらの 災 いは、 全 世 界 的 なものではない。さもないと、 地 上 の 住 民 は 全 く 滅 ぼさ<br />

れてしまうであろう。しかし、それでもこれは、 人 類 史 上 かつてなかった 恐 ろしい 災<br />

いである。 恩 恵 期 間 の 終 了 する 前 に 人 々の 上 にくだった 刑 罰 には、 憐 れみが 混 じって<br />

いた。キリストのとりなしの 血 によって、 罪 人 はその 罪 にふさわしい 罰 を 受 けずにす<br />

んだのである。しかし、 最 後 の 刑 罰 においては、 憐 れみを 混 じえずに 怒 りが 注 がれる<br />

のである。<br />

その 日 に、 多 くの 人 々は、 長 い 間 軽 べつしてきた 神 の 憐 れみの 保 護 を 受 けたいと 願<br />

う。「 主 なる 神 は 言 われる、『 見 よ、わたしがききんをこの 国 に 送 る 日 が 来 る、それ<br />

はパンのききんではない、 水 にかわくのでもない、 主 の 言 葉 を 聞 くことのききんであ<br />

る。 彼 らは 海 から 海 へさまよい 歩 き、 主 の 言 葉 を 求 めて、こなたかなたへはせまわる、<br />

しかしこれを 得 ないであろう』」[アモス 8:11、。<br />

神 の 民 は 苦 難 を 免 れるわけではない。 彼 らは 迫 害 と 苦 しみにあい、 窮 乏 に 耐 え、 食<br />

物 の 不 足 に 苦 しむのであるが、 滅 びるままにほうっておかれたりはしない。エリヤを<br />

養 われた 神 は、ご 自 分 の 献 身 的 な 子 供 たちを 1 人 も 見 捨 てられない。 彼 らの 頭 の 毛 ま<br />

でも 数 えられるお 方 が、 彼 らを 保 護 し、ききんの 時 にあって 満 ち 足 らせられる。 悪 人<br />

たちが 飢 えと 疫 病 のために 死 んでいく 時 に、 天 使 は 義 人 を 守 り、その 必 要 を 満 たすの<br />

である。「 正 しく 歩 む 者 」には、 次 のような 約 束 が 与 えられている。<br />

「そのパンは 与 えられ、その 水 は 絶 えることがない。」「 貧 しい 者 と 乏 しい 者 とは<br />

水 を 求 めても、 水 がなく、その 舌 がかわいて 焼 けているとき、 主 なるわたしは 彼 らに<br />

答 える、イスラエルの 神 なるわたしは 彼 らを 捨 てることがない」[イザヤ 33:15、16、<br />

41:。 「いちじくの 木 は 花 咲 かず、ぶどうの 木 は 実 らず、オリブの 木 の 産 はむなしく<br />

なり、 田 畑 は 食 物 を 生 ぜず、おりには 羊 が 絶 え、 牛 舎 には 牛 がいなくなる。」しかし、<br />

主 を 恐 れる 者 たちは、「 主 によって 楽 しみ、わが 救 いの 神 によって 喜 ぶ」[ハバクク 3:<br />

17、。<br />

「 主 はあなたを 守 る 者 、 主 はあなたの 右 の 手 をおおう 陰 である。 昼 は 太 陽 があなた<br />

を 撃 つことなく、 夜 は 月 があなたを 撃 つことはない。 主 はあなたを 守 って、すべての<br />

災 を 免 れさせ、またあなたの 命 を 守 られる。」「 主 はあなたをかりゅうどのわなと、<br />

恐 ろしい 疫 病 から 助 け 出 されるからである。 主 はその 羽 をもって、あなたをおおわれ<br />

る。あなたはその 翼 の 下 に 避 け 所 を 得 るであろう。そのまことは 大 盾 、また 小 盾 であ<br />

る。あなたは 夜 の 恐 ろしい 物 をも、 昼 に 飛 んでくる 矢 をも 恐 れることはない。また 暗<br />

やみに 歩 きまわる 疫 病 をも、 真 昼 に 荒 す 滅 びをも 恐 れることはない。たとい 1000 人<br />

はあなたのかたわらに 倒 れ、 万 人 はあなたの 右 に 倒 れても、その 災 はあなたに 近 づく<br />

468


国 際 協 定<br />

ことはない。あなたはただ、その 目 をもって 見 、 悪 しき 者 の 報 いを 見 るだけである。<br />

あなたは 主 を 避 け 所 とし、いと 高 き 者 をすまいとしたので、 災 はあなたに 臨 まず、 悩<br />

みはあなたの 天 幕 に 近 づくことはない」[ 詩 篇 121:5~7、91:3~。<br />

しかし、 人 間 の 目 から 見 るならば、 神 の 民 は、むかしの 殉 教 者 たちのように、まも<br />

なくその 血 をもってあかしに 印 を 押 さなければならないように 思 われる。 彼 ら 自 身 、<br />

主 が 彼 らを 離 れて、 彼 らを 敵 の 手 に 渡 されたのではないかと 恐 れ 始 める。それは、 恐<br />

ろしい 苦 悩 の 時 である。 彼 らは、 昼 も 夜 も 神 に 救 いを 叫 び 求 める。 悪 人 たちは 勝 ち 誇<br />

り、あざけりの 叫 びをあげて、「おまえたちの 信 仰 は、どうなったのか。もしおまえ<br />

たちが 神 の 民 であるならば、 神 はどうしてわれわれの 手 から、おまえたちを 助 け 出 さ<br />

ないのか」と 言 うのである。<br />

しかし、 待 ち 望 む 人 々は、カルバリーの 十 字 架 上 で 死 に 瀕 しておられるイエスを 思<br />

い 出 し、 祭 司 長 や 司 たちがあざけり 叫 んで、「 他 人 を 救 ったが、 自 分 自 身 を 救 うこと<br />

ができない。あれがイスラエルの 王 なのだ。いま 十 字 架 からおりてみよ。そうしたら<br />

信 じよう」と 言 うのを 思 い 出 すのである[マタイ 27:。すべての 者 はヤコブのように、<br />

祈 りのうちに 神 と 格 闘 している。 彼 らの 顔 は、 内 面 の 苦 闘 をあらわしている。どの 顔<br />

も 青 ざめている。それでも 彼 らは、 熱 烈 な 懇 願 をやめないのである。<br />

もし 人 々の 目 が 開 かれて、 天 の 幻 を 見 ることができたならば、 力 強 い 天 使 の 一 団 が、<br />

キリストの 忍 耐 の 言 葉 を 守 る 者 たちの 周 りに 駐 屯 しているのを 見 るであろう。 天 使 た<br />

ちは、 優 しい 同 情 の 念 をもって、 彼 らの 苦 悩 を 見 つめ、 彼 らの 祈 りを 聞 くのである。<br />

彼 らは、 人 々を 危 機 から 救 出 せよという 指 揮 官 の 言 葉 を 待 っている。しかし、 彼 らは、<br />

もう 少 し 待 たなければならない。 神 の 民 は、 杯 を 飲 み、バプテスマを 受 けなければな<br />

らない。 彼 らにとっては 非 常 な 苦 痛 である 遅 延 そのものが、 彼 らの 懇 願 に 対 する 最 上<br />

の 応 答 である。 彼 らが 主 に 信 頼 して、 主 がお 働 きになるのを 待 とうとする 時 、 彼 らは、<br />

これまで 彼 らの 宗 教 経 験 において、あまりにもわずかしか 働 かせてこなかった 信 仰 と<br />

希 望 と 忍 耐 を 働 かせるように 導 かれるのである。しかしそれでも、 選 民 のために、 悩<br />

みの 時 は 短 くされる。「まして 神 は、 日 夜 叫 び 求 める 選 民 のために、 正 しいさばきを<br />

してくださら……[ない]ことがあろうか。あなたがたに 言 っておくが、 神 はすみやか<br />

にさばいてくださるであろう」[ルカ 18:7、。 終 末 は、 人 々が 予 期 しているよりも 速<br />

く 来 る。 麦 は 集 められ、 東 にされて、 神 の 倉 におさめられる。 毒 麦 は 束 ねられて、 滅<br />

びの 火 で 焼 かれる。<br />

天 の 歩 哨 たちは、 忠 実 に 任 務 に 服 し、 警 戒 を 続 ける。 戒 めを 守 る 人 々を 死 刑 にする<br />

という 全 般 的 布 告 は、その 日 時 を 定 めているにもかかわらず、 敵 たちは、ある 場 合 に<br />

469


国 際 協 定<br />

は 法 令 の 時 期 を 早 めて、 定 められた 時 よりも 前 に 彼 らの 命 を 取 ろうとする。しかし、<br />

すべての 忠 実 な 人 々の 周 りに 駐 屯 している 力 強 い 警 護 者 たちを 通 り 過 ぎることは、だ<br />

れにもできない。 なかには、 町 や 村 から 逃 げる 途 中 に 襲 われる 者 たちもいる。しかし、<br />

彼 らに 向 かってあげられた 剣 は、 折 れてわらのように 力 なく 落 ちる。また 他 の 者 たち<br />

は、 軍 人 の 姿 をした 天 使 たちによって 守 られる。<br />

いつの 時 代 においても、 神 は、 聖 天 使 たちによって、 神 の 民 を 救 出 し 解 放 してこら<br />

れた。 天 使 たちは、 人 間 の 事 柄 に 活 発 に 関 与 してきたのである。 彼 らはいなずまのよ<br />

うに 輝 く 衣 を 着 て 現 れた。 彼 らは 旅 人 の 身 なりをした 人 間 としてやって 来 た。 天 使 た<br />

ちは 人 間 の 姿 をとって、 神 の 人 たちに 現 れた。 彼 らは、 疲 労 しているかのように、 昼<br />

ごろかしの 木 の 下 で 休 んだ。 彼 らは、 人 々の 家 庭 でもてなしを 受 けた。 彼 らは 行 き 暮<br />

れた 旅 人 の 案 内 をした。 彼 らは、 自 分 たちの 手 で、 祭 壇 に 火 を 点 じた。 彼 らは 牢 獄 の<br />

扉 を 開 いて、 主 のしもべたちを 自 由 にした。 彼 らは 天 の 武 具 を 身 につけて、 救 い 主 の<br />

墓 から 石 を 転 がすためにやって 来 た。<br />

天 使 たちは、しばしば、 人 間 の 姿 をとって、 義 人 たちの 集 まりの 中 にいる。また 彼<br />

らは、ソドムにやって 来 たように、 悪 人 たちの 集 まりを 訪 れて、 彼 らの 行 為 を 記 録 し、<br />

彼 らが 神 の 忍 耐 の 限 界 を 越 えたかどうかを 決 定 するのである。 主 は 憐 れみを 喜 ばれる。<br />

それゆえに、 真 心 から 主 に 仕 えるわずかの 者 のために、 災 害 を 抑 制 し、 多 くの 人 々の<br />

平 穏 な 生 活 を 引 き 延 ばしておられるのである。 神 にそむく 罪 人 たちは、 自 分 たちがあ<br />

ざけり 圧 迫 している 少 数 の 忠 実 な 人 々のおかげで、 自 分 たちは 生 きていられるのだと<br />

いうことに、 少 しも 気 づいてはいないのである。<br />

この 世 の 統 治 者 たちは 知 らないでいるが、 彼 らの 会 議 において、しばしば 天 使 が 演<br />

説 者 であった。 人 間 の 目 が 彼 らをながめ、 人 間 の 耳 が 彼 らの 訴 えを 聞 いた。 人 間 のく<br />

ちびるが 彼 らの 提 案 に 反 対 し、 彼 らの 勧 告 をあざけった。 人 間 の 手 が 彼 らを 侮 辱 し 乱<br />

暴 を 働 いた。 議 会 や 法 廷 において、これら 天 の 使 者 たちは、 人 類 歴 史 に 精 通 している<br />

ことを 示 した。 彼 らは、 最 も 有 能 で 最 も 雄 弁 な 弁 護 者 よりも 巧 みに、 圧 迫 された 人 々<br />

のために 訴 えることができたのである。 彼 らは、 神 の 働 きをはなはだしく 遅 延 させ 神<br />

の 民 を 非 常 な 苦 しみに 陥 れるような 策 略 を 挫 折 させ、 害 悪 を 阻 止 した。 危 機 と 苦 難 の<br />

時 に、「 主 の 使 は 主 を 恐 れる 者 のまわりに 陣 をしいて 彼 らを 助 けられる」のである[ 詩<br />

篇 34:。<br />

神 の 民 は、 熱 烈 な 渇 望 を 抱 いて、 来 たるべき 彼 らの 王 のしるしを 待 望 する。「 今 は<br />

夜 のなんどきですか」と、 夜 回 りが 問 われると、なんのためらいもなく「 朝 がきます、<br />

夜 もまたきます」と 答 える[イザヤ 21:11、。 山 頂 の 雲 間 に 光 がきらめいている。や<br />

470


国 際 協 定<br />

がて、 主 の 栄 光 があらわれる。 義 の 太 陽 がまさに 輝 き 出 ようとしている。 朝 と 夜 がと<br />

もに 近 づいている。それは、 義 人 には、 永 遠 の 昼 の 開 始 であり、 悪 人 には、 永 遠 の 夜<br />

の 幕 がおろされる。<br />

祈 りのうちに 神 と 格 闘 している 者 たちが、 神 の 前 に 嘆 願 していると、 見 えないもの<br />

から 彼 らをさえぎっていた 幕 が、ほとんど 除 かれたように 思 われる。 天 は、 永 遠 の 日<br />

のあけぼのに 輝 き、「あなたがたの 忠 誠 を 保 ち 続 けよ。 援 助 は 与 えられる」と 言 う 言<br />

葉 が、 天 使 の 歌 のメロディーのように 耳 に 聞 こえる。 全 能 の 勝 利 者 であられるキリス<br />

トは、ご 自 分 の 疲 れた 兵 士 たちに、 永 遠 の 栄 光 の 冠 をさし 出 される。そして、 彼 の 声<br />

が、 開 かれた 門 から 聞 こえてくる。「 見 よ、わたしはあなたがたと 共 にいる。 恐 れて<br />

はならない。わたしは、あなたがたのすべての 悲 しみを 知 っている。わたしは、あな<br />

たがたの 悲 しみをになった。あなたがたが 戦 っている 敵 は、わたしがすでに 戦 った 敵<br />

なのだ。わたし はあなたがたのために 戦 った。そして、あなたがたは、わたしの 名 に<br />

よって、 勝 ち 得 て 余 りあるのである。」<br />

尊 い 救 い 主 は、われわれが 助 けを 必 要 とするちょうどその 時 に、 助 けをお 送 りにな<br />

る。 天 への 道 は、 彼 の 足 跡 によって 清 められている。われわれの 足 を 傷 つけるとげは、<br />

どれも 彼 の 足 を 傷 つけたものである。われわれが 負 わせられる 十 字 架 は、すべて、わ<br />

れわれに 先 だって 彼 が 負 われたものである。 主 は、 魂 に 平 和 をもたらすための 準 備 と<br />

して、 争 闘 が 臨 むことを 許 されるのである。 悩 みの 時 は、 神 の 民 にとって 恐 ろしい 試<br />

練 である。しかしそれは、すべての 忠 実 な 信 者 にとって、 上 を 見 上 げ、 主 をとりまく<br />

約 束 のにじを 信 仰 によって 見 る 時 である。<br />

「 主 にあがなわれた 者 は、 歌 うたいつつ、シオンに 帰 ってきて、そのこうべに、と<br />

こしえの 喜 びをいただき、 彼 らは 喜 びと 楽 しみとを 得 、 悲 しみと 嘆 きとは 逃 げ 去 る。<br />

『わたしこそあなたを 慰 める 者 だ。あなたは 何 者 なれば、 死 ぬべき 人 を 恐 れ、 草 のよ<br />

うになるべき 人 の 子 を 恐 れるのか。……あなたの 造 り 主 、 主 を 忘 れて、なぜ、しえた<br />

げる 者 が 滅 ぼそうと 備 えをするとき、その 憤 りのゆえに 常 にひねもす 恐 れるのか。し<br />

えたげる 者 の 憤 りはどこにあるか。 身 をかがめている 捕 われ 人 は、すみやかに 解 かれ<br />

て、 死 ぬことなく、 穴 にくだることなく、その 食 物 はつきることがない。わたしは 海<br />

をふるわせ、その 波 をなりどよめかすあなたの 神 、 主 である。その 名 を 万 軍 の 主 とい<br />

う。わたしはわが 言 葉 をあなたの 口 におき、わが 手 の 陰 にあなたを 隠 した』」[イザヤ<br />

51:11~。<br />

「それゆえ、 苦 しめる 者 、 酒 にではなく 酔 っている 者 よ、これを 聞 け。あなたの 主 、<br />

おのが 民 の 訴 えを 弁 護 されるあなたの 神 、 主 はこう 言 われる、『 見 よ、わたしはよろ<br />

471


国 際 協 定<br />

めかす 杯 をあなたの 手 から 取 り 除 き、わが 憤 りの 大 杯 を 取 り 除 いた。あなたは 再 びこ<br />

れを 飲 むことはない。わたしはこれをあなたを 悩 ます 者 の 手 におく。 彼 らはさきにあ<br />

なたにむかって 言 った、「 身 をかがめよ、われわれは 越 えていこう」と。そしてあな<br />

たはその 背 を 地 のようにし、ちまたのようにして、 彼 らの 越 えていくにまかせた』」<br />

[ 同 51:21~。<br />

神 の 目 は、 各 時 代 を 見 通 して、 地 上 の 勢 力 の 総 攻 撃 が 起 こる 時 神 の 民 が 直 面 しなけ<br />

ればならない 危 機 に 注 がれる。 彼 らは、 捕 われた 流 浪 の 民 のように、 飢 えや 暴 力 によ<br />

って 死 ぬのではないかと 恐 れる。しかし、イスラエル 人 の 前 で 紅 海 を 分 けられた 聖 な<br />

る 神 は、その 大 いなる 力 をあらわして、 彼 らを 捕 われの 身 からもどされるのである。<br />

「 万 軍 の 主 は 言 われる、 彼 らはわたしが 手 を 下 して 事 を 行 う 日 に、わたしの 者 となり、<br />

わたしの 宝 となる。また 人 が 自 分 に 仕 える 子 をあわれむように、わたしは 彼 らをあわ<br />

れむ」[マラキ 3:。この 時 、キリストの 忠 実 な 証 人 たちの 血 が 流 されたとしても、そ<br />

れは、 殉 教 者 の 血 のように 神 のために 収 穫 をもたらすためにまかれる 種 とはならない<br />

のである。<br />

彼 らの 忠 誠 は、 他 の 人 々に 真 理 を 悟 らせるあかしとはならない。なぜなら、 強 情 な<br />

心 は、 寄 せてくる 憐 れみの 波 を 拒 み 続 けて、それらが 2 度 とかえって 来 ないようにし<br />

てしまったからである。 今 義 人 が、むざむざ 敵 の 餌 食 になるならば、それは 暗 黒 の 君<br />

の 勝 利 になってしまう。そこで 詩 篇 記 者 は「 主 [は] 悩 みの 日 に、その 仮 屋 のうちにわ<br />

たしを 潜 ませ、その 幕 屋 の 奥 にわたしを 隠 [される]」と 言 っている[ 詩 篇 27:。キリ<br />

ストも 言 われた。「さあ、わが 民 よ、あなたのへやにはいり、あなたのうしろの 戸 を<br />

閉 じて、 憤 りの 過 ぎ 去 るまで、しばらく 隠 れよ。 見 よ、 主 はそのおられる 所 を 出 て、<br />

地 に 住 む 者 の 不 義 を 罰 せられる」[イザヤ 26:20、。 彼 が 来 られるのを 忍 耐 して 待 つ<br />

者 たち、その 名 が 命 の 書 に 記 されている 者 たちの 救 出 は、 実 に 輝 かしいものとなる。<br />

472


国 際 協 定<br />

第 40 章 大 きな 救 い<br />

人 間 の 法 律 による 保 護 が、 神 の 律 法 を 尊 ぶ 者 たちから 取 り 去 られると、 彼 らを 滅 ぼ<br />

そうとする 運 動 が、あちこちの 国 で、いっせいに 起 こる。 法 令 に 定 められた 時 が 近 づ<br />

くにつれて、 人 々は、この 憎 い 教 派 を 根 こそぎにしようとたくらむ。 一 夜 のうちに 決<br />

定 的 な 打 撃 を 与 えて、 異 議 と 非 難 の 声 を、 全 く 沈 黙 させようということが 決 定 され<br />

る。<br />

神 の 民 は、 独 房 の 中 にいる 者 たちもあれば、 森 林 や 山 々の 寂 しい 隠 れ 家 にいる 者 た<br />

ちもあるが、なおも 神 の 保 護 を 求 めて 祈 っている。 一 方 、いたるところで、 武 装 した<br />

集 団 が 悪 天 使 の 軍 勢 にかりたてられて 殺 害 の 準 備 をしている。 絶 体 絶 命 の 今 こそ、イ<br />

スラエルの 神 が、ご 自 分 の 選 民 を 救 うために 手 を 下 されるのである。 主 は 言 われる。<br />

「あなたがたは、 聖 なる 祭 を 守 る 夜 のように 歌 をうたう。また…… 主 の 山 にきたり、<br />

イスラエルの 岩 なる 主 にまみえる 時 のように 心 に 喜 ぶ。 主 はその 威 厳 ある 声 を 聞 かせ、<br />

激 しい 怒 りと、 焼 きつくす 火 の 炎 と、 豪 雨 と、 暴 風 と、ひょうとをもってその 腕 の 下<br />

ることを 示 される」[イザヤ 30:29、。<br />

かちどきや、あざけりや、のろいの 声 をあげながら、 悪 人 たちの 群 れが、 今 にもそ<br />

のえじきに 飛 びかかろうとするその 時 、 見 よ、 夜 の 暗 黒 以 上 の 深 いやみが、 地 をおお<br />

うのである。 続 いて、 神 のみ 座 からの 栄 光 に 輝 くにじが 天 にかかり、 祈 っているどの<br />

群 れをも 取 り 囲 むように 見 える。 怒 り 狂 った 群 衆 が、 急 に 引 き 止 められる。 彼 らのあ<br />

ざ 笑 いの 叫 びが 消 える。なんのために 殺 気 だっていたのかも 忘 れられる。 彼 らは、 恐<br />

ろしい 予 感 におののきながら 神 の 契 約 の 象 徴 を 見 つめ、その 圧 倒 的 な 輝 きから 隠 れた<br />

いと 願 う。<br />

神 の 民 には、「 上 を 見 なさい」というはっきりした 音 楽 のような 声 が 聞 こえてくる。<br />

彼 らが 目 を 天 に 向 けると、 約 束 のにじが 見 える。 大 空 をおおっていた 黒 い、 怒 ったよ<br />

うな 雲 が 裂 けて、 彼 らは、ステパノのようにじっと 天 を 見 つめて、 神 の 栄 光 と、 人 の<br />

子 がそのみ 座 にすわっておられるのを 見 る。イエスのこうごうしいお 姿 の 中 に、 十 字<br />

架 の 恥 を 忍 ばれた 時 の 傷 跡 を、 彼 らは 認 める。そして、 主 が 天 父 と 聖 天 使 たちの 前 で、<br />

「あなたがわたしに 賜 わった 人 々が、わたしのいる 所 に 一 緒 にいるようにして 下 さい」<br />

と 願 われるのを、 主 のくちびるから 聞 くのである[ヨハネ 17:。「きよく、 傷 なく、<br />

汚 れのない 者 たちがやってくる。 彼 らは、わたしの 忍 耐 のことばを 守 った。 彼 らは、<br />

天 使 たちとともに 歩 くことができる」と 言 われる 音 楽 のような 勝 利 に 満 ちたみ 声 が、<br />

再 び 聞 こえてくる。すると、 信 仰 を 固 く 保 ってきた 者 たちの 青 ざめふるえていたくち<br />

473


国 際 協 定<br />

びるが、 勝 利 の 叫 びをあげる。 神 が、ご 自 分 の 民 を 救 うためにその 力 をあらわされる<br />

のは、 真 夜 中 である。 太 陽 がその 力 強 い 光 を 放 って 現 れる。しるしと 不 思 議 とがあと<br />

からあとから 現 れる。 悪 人 たちはこの 光 景 を、 恐 れと 驚 きとをもってながめる。 一 方<br />

義 人 たちは、 自 分 たちの 救 いの 前 兆 を 厳 粛 な 喜 びで 迎 える。 自 然 界 の 万 物 は、それぞ<br />

れの 軌 道 からはずれたように 見 える。 川 の 流 れは 止 まる。 黒 い 厚 い 雲 が 現 れて、 互 い<br />

に 衝 突 する。この 怒 ったような 天 の 真 ん 中 に、 一 か 所 言 うに 言 われぬ 栄 光 に 満 ちた 澄<br />

んだ 空 間 があって、そこから 神 のみ 声 が、 多 くの 水 の 音 のように 聞 こえてきて、「 事<br />

はすでに 成 った」と 告 げるのである[ 黙 示 録 16:。<br />

その 声 が 天 と 地 とを 震 動 させる。 大 地 震 が 起 こる。「それは 人 間 が 地 上 にあらわれ<br />

て 以 来 、かつてなかったようなもので、それほどに 激 しい 地 震 であった」[ 同 16:。<br />

大 空 は、 開 いたり、 閉 じたりするように 見 える。 神 のみ 座 からの 栄 光 が、ひらめき 渡<br />

るように 見 える。 山 々は、 風 にゆらぐ 葦 のように 揺 れ、ゴツゴツした 岩 があたり 一 面<br />

に 飛 び 散 る。 嵐 が 近 づいているようなうなり 声 がする。 海 は 荒 れ 狂 っている。 強 風 の<br />

かん 高 い 音 が、 破 壊 行 為 に 従 事 している 悪 鬼 らの 声 のように 聞 こえる。<br />

全 地 は 海 の 波 のように 隆 起 し 揺 れ 動 く。 地 の 表 面 は 砕 け 散 る。 地 の 基 そのものが 崩<br />

れつつあるように 見 える。 山 脈 は 沈 下 していく。 人 々の 住 んでいる 島 々が 消 えていく。<br />

罪 悪 に 満 ちてソドムのようになってしまった 海 港 は、 怒 った 水 にのまれてしまう。 神<br />

は 大 いなるバビロンを 思 い 起 こし、「これに 神 の 激 しい 怒 りのぶどう 酒 の 杯 を 与 えら<br />

れ」る。「1 タラントの 重 さほど」の 大 きな 雹 が、 破 壊 の 働 きをしている[ 同 16:<br />

19、。おごり 高 ぶっていた 地 上 の 諸 都 市 が 低 くされる。 世 の 偉 大 な 人 たちが、 自 分 た<br />

ちに 栄 光 を 帰 するために 巨 額 の 富 を 費 やして 建 てた 堂 々たる 宮 殿 が、 彼 らの 目 の 前 で<br />

崩 れ 去 る。 牢 獄 の 壁 は 砕 けて 落 ち、 信 仰 のためにつながれていた 神 の 民 が 解 放 され<br />

る。<br />

墓 が 開 かれる。「 地 のちりの 中 に 眠 っている 者 のうち、 多 くの 者 は 目 をさますでし<br />

ょう。そのうち 永 遠 の 生 命 にいたる 者 もあり、また 恥 と、 限 りなき 恥 辱 をうける 者 も<br />

あるでしょう」[ダニエル 12:。 第 三 天 使 の 使 命 を 信 じて 死 んだ 者 はみな、 栄 化 され<br />

て 墓 から 現 れ、 神 がご 自 分 の 律 法 を 守 った 者 たちと 結 ばれる 平 和 の 契 約 を 聞 くのであ<br />

る。「 彼 を 刺 しとおした 者 たち」[ 黙 示 録 1:、キリストの 死 の 苦 しみをあざ 笑 った 者<br />

たち、そして、キリストの 真 理 とその 民 とに 対 して 最 も 激 しく 反 対 した 者 たちは、 栄<br />

光 をまとわれたキリストをながめるために、また、 忠 実 で 従 順 な 者 たちに 与 えられる<br />

誉 れを 見 るために、よみがえらせられる。<br />

474


国 際 協 定<br />

重 苦 しい 雲 がなお 空 をおおっている。しかし、 時 おり 太 陽 がすきまから 現 れ、それ<br />

が 主 の 報 復 の 目 のようである。 恐 ろしいいなずまが 天 からひらめき、 地 球 を 一 面 の 炎<br />

で 包 むように 見 える。 恐 ろしい 雷 鳴 を 圧 して、 神 秘 的 なおそるべき 声 が、 悪 人 たちの<br />

運 命 を 宣 告 する。この 時 語 られる 言 葉 は、すべての 者 に 理 解 されるわけではないが、<br />

偽 教 師 たちには、それがはっきり 理 解 される。ついさっきまでは、 向 こう 見 ずで、 高<br />

慢 で、 反 抗 的 で、 神 の 戒 めを 守 る 民 を 残 酷 にあしらって 勝 ち 誇 っていた 者 たちが、 今<br />

はもうあわてふためき、 恐 れおののいている。 彼 らの 泣 き 叫 ぶ 声 は、 自 然 界 の 物 音 を<br />

越 えて 聞 こえてくる。 悪 鬼 たちは、キリストの 神 性 を 認 めて、キリストの 力 の 前 に 震<br />

えあがり、 一 方 人 々は、 憐 れみをこい 求 めて、 目 も 当 てられないような 恐 怖 のうちに<br />

はいつくばる。<br />

昔 の 預 言 者 たちは、 神 の 日 の 聖 なる 幻 を 見 て 言 った。「あなたがたは 泣 き 叫 べ。 主<br />

の 日 が 近 づき、 滅 びが 全 能 者 から 来 るからだ」[イザヤ 13:。「あなたは 岩 の 間 には<br />

いり、ちりの 中 にかくれて、 主 の 恐 るべきみ 前 と、その 威 光 の 輝 きとを 避 けよ。その<br />

日 には 目 をあげて 高 ぶる 者 は 低 くせられ、おごる 人 はかがめられ、 主 のみ 高 くあげら<br />

れる。これは、 万 軍 の 主 の 1 日 があって、すべて 誇 る 者 と 高 ぶる 者 、すべておのれを<br />

高 くする 者 と 得 意 な 者 とに 臨 むからである。」「その 日 、 人 々は 拝 むためにみずから<br />

造 ったしろがねの 偶 像 と、こがねの 偶 像 とを、もぐらもちと、こうもりに 投 げ 与 え、<br />

岩 のほら 穴 や、がけの 裂 け 目 にはいり、 主 が 立 って 地 を 脅 かされるとき、 主 の 恐 るべ<br />

きみ 前 と、その 威 光 の 輝 きとを 避 ける」[イザヤ 2:10~12、20、。<br />

雲 の 切 れ 目 から、 暗 黒 とは 対 照 的 に、4 倍 も 輝 きを 増 した 1 つの 星 が 光 る。この 星<br />

は、 忠 実 な 者 には、 望 みと 喜 びとを 語 るが、 神 の 律 法 を 犯 した 者 たちには、きびしさ<br />

と 怒 りとを 語 る。キリストのためにすべてを 犠 牲 にした 者 たちは、 主 の 仮 屋 の 奥 に 隠<br />

されているかのように、 今 は 安 全 である。すでに 彼 らは 試 みられ、 世 界 と 真 理 を 軽 べ<br />

つする 人 々との 前 で、 自 分 たちのために 死 なれたお 方 に 対 する 忠 誠 心 を 証 明 したので<br />

ある。 死 に 直 面 してもなお 忠 誠 心 を 固 く 保 ち 続 けた 者 たちの 上 に、 驚 くべき 変 化 が 起<br />

きた。 彼 らは、 悪 鬼 と 化 した 人 々の 暗 黒 と 恐 怖 の 圧 制 から、 突 然 救 い 出 された。さっ<br />

きまで 青 ざめ、 不 安 に 閉 ざされて、やつれはてていた 彼 らの 顔 が、 今 は 驚 嘆 と 信 仰 と<br />

愛 に 輝 いている。 彼 らの 声 は、 勝 利 の 歌 となってあがる。「 神 はわれらの 避 け 所 また<br />

力 である。 悩 める 時 のいと 近 き 助 けである。このゆえに、たとい 地 は 変 り、 山 は 海 の<br />

真 中 に 移 るとも、われらは 恐 れない。たといその 水 は 鳴 りとどろき、あわだつとも、<br />

そのさわぎによって 山 は 震 え 動 くとも、われらは 恐 れない」[ 詩 篇 46:1~。<br />

このような 聖 なる 信 頼 の 言 葉 が 神 のみもとにのぼって 行 く 間 に、 雲 は 退 き、 両 側 の<br />

暗 い 怒 ったような 大 空 とは 対 照 的 に、 言 うに 言 われぬ 栄 光 に 輝 く 星 空 が 見 えてくる。<br />

475


国 際 協 定<br />

天 の 都 の 栄 光 が、 開 かれた 門 から 流 れ 出 る。 そのとき、 折 りたたんだ 2 枚 の 石 の 板 を<br />

持 った 手 が、 空 中 に 現 れる。「 天 は 神 の 義 をあらわす、 神 はみずから、さばきぬしだ<br />

からである」と 預 言 者 は 言 っている[ 詩 篇 50:。シナイ 山 から 雷 鳴 と 炎 の 中 で、 人 生<br />

の 指 針 として 宣 言 された 神 の 義 であるあの 聖 なる 律 法 が、 今 やさばきの 規 準 として 人<br />

々に 示 される。その 手 が 石 の 板 を 開 くと、 火 のペンでしるされたかと 思 われる 十 戒 の<br />

言 葉 が 見 える。その 言 葉 は、はっきり 書 かれていて、だれでも 読 むことができる。 記<br />

憶 が 呼 びさまされ、すべての 人 の 心 から 迷 信 と 異 端 の 暗 黒 が 払 いのけられて、 簡 単 で<br />

理 解 しやすく、 権 威 に 満 ちた 神 の 10 の 言 葉 が、 地 上 の 全 住 民 の 前 に 示 される。<br />

神 の 聖 なる 要 求 をふみにじってきた 者 たちの 恐 怖 と 失 望 とは、 描 写 することができ<br />

ない。 主 は 彼 らに 神 の 律 法 をお 与 えになった。 彼 らは、 自 分 たちの 品 性 をそれと 比 較<br />

して、まだ 悔 い 改 めて 改 革 する 機 会 のあるうちに、 自 分 たちの 欠 点 を 知 ることができ<br />

たはずであった。しかし、 世 の 支 持 を 受 けたいために、 彼 らは 律 法 の 教 えを 捨 て 去 り、<br />

またほかの 者 にも、それを 犯 すように 教 えたのである。 彼 らは、 神 の 民 が 安 息 日 を 汚<br />

すように 強 制 してきた。 今 となっては、 彼 らは 自 ら 軽 べつした 律 法 によって 罪 に 定 め<br />

られるのである。 彼 らは、もはや 弁 解 の 余 地 はないことを、 恐 ろしいまでにはっきり<br />

と 知 る。 彼 らは、 自 分 たちが 仕 え 礼 拝 する 対 象 を 自 ら 選 んだのである。「その 時 あな<br />

たがたは、 再 び 義 人 と 悪 人 、 神 に 仕 える 者 と 仕 えない 者 との 区 別 を 知 るようになる」<br />

[マラキ 3:。<br />

神 の 律 法 の 反 対 者 たちは、 牧 師 からいちばん 小 さい 者 にいたるまで、 真 理 と 義 務 に<br />

ついて 新 たな 考 えを 抱 く。 彼 らは 第 4 条 の 安 息 日 が 生 ける 神 の 印 であることを 知 るが、<br />

しかしもう 遅 い。 彼 らは 偽 の 安 息 日 の 真 の 性 質 を 知 り、 自 分 たちがこれまで 砂 の 土 台<br />

の 上 に 築 いていたことを 知 るが、もう 遅 いのである。 彼 らは、 自 分 たちが 神 と 戦 って<br />

いたことに 気 づく。 牧 師 たちは 人 々を、 天 国 の 門 へ 導 くと 公 言 しながら、 滅 びに 導 い<br />

ていたのである。 聖 職 にある 者 の 責 任 がどんなに 恐 ろしいものであるか、また 彼 らの<br />

不 忠 実 の 結 果 がどんなに 恐 るべきものであるかは、 最 後 のさばきの 日 まで 知 ることが<br />

できない。たった 1 人 の 魂 の 損 失 でも、われわれがそれを 正 しく 評 価 できるのは、 永<br />

遠 においてのみである。 悪 いしもべよ、わたしから 離 れ 去 れと 神 から 言 われる 者 の 運<br />

命 は、 実 に 恐 ろしいものである。<br />

天 から 神 のみ 声 が 聞 こえて、イエスのこられる 日 と 時 とが 宣 言 され、 永 遠 の 契 約 が<br />

神 の 民 に 伝 えられる。どんな 雷 鳴 も 及 ぼぬとどろきをもって、 神 のみ 言 葉 が 地 上 にな<br />

りひびく。 神 のイスラエルは、 耳 を 傾 け、 目 を 上 方 に 注 いで 立 っている。 彼 らの 顔 は<br />

神 の 栄 光 に 照 らされて、シナイ 山 から 帰 ってきた 時 のモーセの 顔 のように 輝 いている。<br />

476


国 際 協 定<br />

悪 人 たちは、 彼 らを 見 つめることができない。 神 の 安 息 日 をきよく 守 ることによって<br />

神 をあがめてきた 者 たちに、 祝 福 が 宣 言 されると、 勝 利 の 力 強 い 叫 びが 起 こる。<br />

まもなく、 東 の 方 に、 人 の 手 の 半 分 くらいの 大 きさの 小 さい 黒 雲 が 現 れる。それは、<br />

救 い 主 を 囲 んでいる 雲 で、 遠 くからは、 暗 黒 に 包 まれているように 見 える。 神 の 民 は、<br />

これが 人 の 子 のしるしであることを 知 っている。 彼 らは、 厳 粛 な 沈 黙 のうちに、その<br />

雲 が 地 上 に 近 づくのを 見 つめる。それは 次 第 に 明 るさと 輝 かしさを 増 し、ついには 大<br />

きな 白 い 雲 となって、 下 のほうには 焼 き 尽 くす 火 のような 栄 光 が 輝 き、 上 のほうには<br />

契 約 のにじがかかっている。イエスは、 偉 大 な 勝 利 者 としておいでになる。 今 度 は、<br />

恥 辱 と 苦 悩 の 苦 い 杯 を 飲 む「 悲 しみの 人 」ではなくて、 天 地 の 勝 利 者 として、 生 きて<br />

いる 者 と 死 んだ 者 とをさばくためにこられる。「 忠 実 で 真 実 な 者 」「 義 によってさば<br />

き、また 戦 うかたである。」そして「 天 の 軍 勢 が」 彼 に 従 う[ 黙 示 録 19:11、。 数 え<br />

ることができないほどの 聖 天 使 の 群 れが、 天 の 聖 歌 を 歌 いながら 付 き 従 う。 大 空 は、<br />

「 万 の 幾 万 倍 、 千 の 幾 千 倍 」もの、 輝 く 天 使 たちで 満 たされたように 見 える。この 光<br />

景 は、 人 間 のどんな 筆 によっても 描 くことができない。その 輝 かしさは、どんな 人 間<br />

の 頭 でも 十 分 に 想 像 することはできない。「その 栄 光 は 天 をおおい、そのさんびは 地<br />

に 満 ちた。その 輝 きは 光 のようであ」る[ハバクク 3:3、。 生 きている 雲 が、さらに<br />

近 づくと、すべての 目 は、いのちの 君 をながめる。いまはその 聖 なる 頭 を 傷 つけるい<br />

ばらの 冠 はなく、その 聖 なる 額 には 栄 光 の 冠 がある。そのみ 顔 は、 真 昼 の 太 陽 よりも<br />

まぶしく 輝 く。「その 着 物 にも、そのももにも、『 王 の 王 、 主 の 主 』という 名 がしる<br />

されていた」[ 黙 示 録 19:。<br />

イエスを 前 にして、「どの 人 の 顔 色 も 青 く 変 っている。」 神 の 恵 みを 拒 んだ 者 に、<br />

永 遠 の 絶 望 の 恐 怖 がおそってくる。「 心 は 消 え、ひざは 震 え、……すべての 顔 は 色 を<br />

失 った」[エレミヤ 30:6、ナホム 2:。 義 人 たちは、 震 えながら、「だれが 立 つこと<br />

ができようか」と 叫 ぶ。 天 使 たちの 歌 はやみ、 恐 ろしい 沈 黙 のひと 時 がくる。すると、<br />

「わたしの 恵 みはあなたに 対 して 十 分 である」というイエスのみ 声 が 聞 こえる。 義 人<br />

たちの 顔 は 輝 き、どの 人 の 心 も 喜 びに 満 たされる。そして、 天 使 たちは、 前 よりも 調<br />

子 を 高 めて 歌 い 始 め、ますます 地 上 へと 近 づいてくる。<br />

王 の 王 は、 燃 える 炎 に 包 まれて、 雲 に 乗 って 降 りて 来 られる。 天 は 巻 物 が 巻 かれる<br />

ように 消 えていき、 地 は、 王 の 王 の 前 に 震 え、すべての 山 と 島 とは、その 場 所 から 移<br />

されてしまう。「われらの 神 は 来 て、もだされない。み 前 には 焼 きつくす 火 があり、<br />

そのまわりには、はげしい 暴 風 がある。 神 はその 民 をさばくために、 上 なる 天 および<br />

地 に 呼 ばわれる」[ 詩 篇 50:3、。 「 地 の 王 たち、 高 官 、 千 卒 長 、 富 める 者 、 勇 者 、<br />

奴 隷 、 自 由 人 らはみな、ほら 穴 や 山 の 岩 かげに、 身 をかくした。そして、 山 と 岩 とに<br />

477


国 際 協 定<br />

むかって 言 った、『さあ、われわれをおおって、 御 座 にいますかたの 御 顔 と 小 羊 の 怒<br />

りとから、かくまってくれ。 御 怒 りの 大 いなる 日 が、すでにきたのだ。だれが、その<br />

前 に 立 つことができようか』」[ 黙 示 録 6:15~。<br />

あざけり 笑 う 声 はやんだ。 偽 りのくちびるは 沈 黙 させられた。「 騒 々しい 声 と 血 ま<br />

みれの 衣 」で 相 戦 う 戦 いの 騒 ぎ、 武 器 の 鳴 り 響 く 音 は 静 まる[イザヤ 9:5・ 英 語 訳 ]。<br />

今 聞 こえてくるのは、 祈 りと 嘆 きと 悲 しみの 声 だけである。 少 し 前 まであざけり 笑 っ<br />

ていた 者 たちが、「 御 怒 りの 大 いなる 日 が、すでにきたのだ。だれが、その 前 に 立 つ<br />

ことができようか」と 叫 ぶ。 悪 人 たちは、 自 分 たちが 軽 べつし 拒 否 してきたおかたの<br />

顔 を 見 るよりは、 山 々の 岩 石 の 下 に 葬 られることを 願 う。<br />

死 者 の 耳 にも 通 るそのみ 声 を、 彼 らは 知 っている。その 優 しい 訴 えのみ 声 は、どん<br />

なにたびたび、 彼 らに 悔 い 改 めを 呼 びかけたことだろう。そのみ 声 は、 友 人 や 兄 弟 、<br />

そして 贖 い 主 の、 心 を 打 つ 訴 えのうちに、 幾 度 聞 かれたことだろう。その 恵 みを 拒 否<br />

した 者 にとって、「あなたがたは 心 を 翻 せ、 心 を 翻 してその 悪 しき 道 を 離 れよ。……<br />

あなたはどうして 死 んでよかろうか」と 長 い 間 訴 えてきたみ 声 ほど 非 難 に 満 ち、 心 を<br />

責 めるものはない[エゼキエル 33:。ああ、むしろ、それが 見 知 らぬ 人 の 声 であれば<br />

よいだろうに。「わたしは 呼 んだが、あなたがたは 聞 くことを 拒 み、 手 を 伸 べたが、<br />

顧 みる 者 はなく、かえって、あなたがたはわたしのすべての 勧 めを 捨 て、わたしの 戒<br />

めを 受 けなかった」とイエスは 言 われる[ 箴 言 1:24、。その 声 は、 彼 らが 消 し 去 って<br />

しまいたいと 思 う 記 憶 —— 警 告 をあざけり、 招 きを 拒 み、 特 権 を 軽 んじた 記 憶 ——を<br />

呼 び 起 こす。<br />

そこには、キリストが 十 字 架 の 辱 しめを 受 けられた 時 に、 彼 をあざけった 者 たちも<br />

いる。 大 祭 司 から 神 に 誓 って 答 えを 要 求 された 時 に、 苦 難 のうちにあられた 主 が、<br />

「あなたがたは、 間 もなく、 人 の 子 が 力 ある 者 の 右 に 座 し、 天 の 雲 に 乗 って 来 るのを<br />

見 るであろう」と 厳 粛 に 宣 言 された 言 葉 を 思 い 起 こして、 彼 らは 身 震 いする[マタイ<br />

26:。 彼 らは、 今 、 栄 光 のうちにあられる 人 の 子 をながめているが、これから、 人 の<br />

子 が 力 ある 者 の 右 に 座 られるのを 見 るのである。<br />

わたしは 神 の 子 であるとのキリストの 宣 言 をあざけった 者 たちは、 今 は 何 も 言 えな<br />

い。そこには、イエスの 王 の 称 号 をあざけって、あざ 笑 う 兵 士 たちに 命 じてイエスに<br />

冠 をかぶらせたヘロデもいる。 不 敬 な 手 で 紫 の 衣 を 着 せ、その 尊 い 額 にいばらの 冠 を<br />

かぶらせ、なんの 抵 抗 もなさらないみ 手 に 偽 の 笏 を 持 たせ、 嘲 笑 しながら 礼 拝 のまね<br />

をして 神 を 汚 した、その 当 人 たちがいる。いのちの 君 を 打 ち、つばをはきかけた 者 た<br />

ちは、 今 、キリストの 射 るような 視 線 から 顔 をそむけ、そのご 臨 在 の 圧 倒 的 な 栄 光 か<br />

478


国 際 協 定<br />

ら 逃 げようとする。イエスの 手 と 足 に 釘 を 打 った 者 たちや、その 脇 腹 を 刺 した 兵 士 は、<br />

恐 怖 と 後 悔 とに 打 ち 震 えてその 傷 跡 を 見 る。<br />

祭 司 たち、 為 政 者 たちは、 恐 ろしいばかりにはっきりと、カルバリーのできごとを<br />

思 い 起 こす。 悪 魔 のように 勝 ち 誇 った 気 持 ちで、 頭 を 振 りながら「 他 人 を 救 ったが、<br />

自 分 自 身 を 救 うことができない。あれがイスラエルの 王 なのだ。いま 十 字 架 からおり<br />

てみよ。そうしたら 信 じよう。 彼 は 神 にたよっているが、 神 のおぼしめしがあれば、<br />

今 、 救 ってもらうがよい」と 叫 んだことを 思 い 出 して、 彼 らは 震 えあがる[マタイ 27:<br />

42、。<br />

彼 らは、 主 人 のぶどう 園 の 実 を 納 めることを 拒 んで、 主 人 のしもべたちを 辱 しめ、<br />

主 人 の 子 を 殺 した 農 夫 たちについての 救 い 主 のたとえ 話 を、はっきり 思 い 起 こす。 彼<br />

らは、また、ぶどう 園 の 主 人 は「 悪 人 どもを 皆 殺 しに」するであろうと、 彼 ら 自 身 が<br />

言 い 放 った 宣 告 を 思 い 出 す。これらの 不 忠 実 な 人 々の 罪 と 刑 罰 の 中 に、 祭 司 や 長 老 た<br />

ちは、 自 分 たちの 歩 んだ 道 と、 自 分 たちの 受 けるべき 運 命 とを 認 める。そして 今 や、<br />

彼 らの 断 末 魔 の 苦 悩 の 叫 びがあがる。「 十 字 架 につけよ、 十 字 架 につけよ」とエルサ<br />

レムの 町 じゅうに 響 いた 叫 びよりも、さらに 大 きな 声 で、「 彼 は 神 のみ 子 だ! 彼 は 真<br />

のメシヤだ!」という 恐 ろしい、 絶 望 的 な 嘆 きの 声 があがる。 彼 らは 王 の 王 のみ 前 か<br />

ら 逃 げようとする。 自 然 界 の 変 動 のためにできた 地 のほら 穴 の 奥 深 くに 隠 れようとす<br />

るが、むだである。<br />

だれでも 真 理 を 拒 む 者 の 一 生 には、いつかは、 良 心 が 目 覚 め、 偽 善 的 な 生 活 をふり<br />

かえって 苦 しみ、 魂 がとりかえしのつかない 後 悔 に 悩 まされる 時 がある。けれども、<br />

そうしたことは、「 恐 慌 が、あらしのように…… 臨 」み、「 災 が、つむじ 風 のように<br />

臨 」むその 日 の 激 しい 後 悔 とは、とうていくらべられない[ 箴 言 1:。キリストとキリ<br />

ストの 忠 実 な 民 とを 殺 そうとした 人 々は、 今 、その 人 たちの 上 に 栄 光 が 宿 っているの<br />

を 見 る。 彼 らは、 自 分 たちが 恐 怖 に 襲 われている 最 中 に、 聖 徒 たちが 喜 ばしい 声 で、<br />

「 見 よ、これはわれわれの 神 である。わたしたちは 彼 を 待 ち 望 んだ。 彼 はわたしたち<br />

を 救 われる」と 叫 ぶのを 聞 く[イザヤ 25:。<br />

地 がよろめき、いなずまがひらめき、 雷 がとどろく 真 っただ 中 で、 神 のみ 子 の 声 が、<br />

眠 っている 聖 徒 たちを 呼 び 起 こす。イエスは 義 人 たちの 墓 をごらんになり、それから<br />

両 手 を 天 のほうへ 上 げて、「 目 ざめよ、 目 ざめよ、 目 ざめよ。ちりの 中 に 眠 る 者 たち<br />

よ、 起 きよ」と 呼 ばれる。 地 の 全 面 にわたって、 死 者 はその 声 を 聞 き、 聞 く 者 は 生 き<br />

る。そして、 全 地 に、あらゆる 国 民 、 部 族 、 国 語 、 民 族 からなる 大 群 の 足 音 が 鳴 り 響<br />

く。「 死 よ、おまえの 勝 利 は、どこにあるのか。 死 よ、おまえのとげは、どこにある<br />

479


国 際 協 定<br />

のか」と 叫 びながら、 彼 らは 死 の 獄 屋 から、 不 死 の 栄 光 をまとって 現 れる[Ⅰコリント<br />

15:。そして、 生 きていた 聖 徒 たちとよみがえった 聖 徒 たちとはともに 声 をあわせて、<br />

勝 利 の 長 い 喜 びの 叫 びをあげる。<br />

どの 人 もみな、 墓 に 入 った 時 と 同 じ 身 長 で 墓 から 現 れる。よみがえった 群 衆 の 中 に<br />

立 っているアダムは、 背 が 高 く 堂 々たる 容 姿 で、 神 のみ 子 より 少 し 低 いだけである。<br />

彼 は 後 世 の 人 々とは、 著 しい 対 照 を 示 している。この 点 からでも、 人 類 の 大 きな 退 化<br />

がわかる。しかし、どの 人 もみな、 永 遠 の 若 さの 新 鮮 さと 活 力 にあふれてよみがえる。<br />

世 の 初 めに、 人 は、 品 性 だけでなく、 容 貌 や 姿 も 神 のみかたちにかたどって 創 造 され<br />

た。 罪 のために 神 のかたちはそこなわれ、ほとんど 消 えてしまったが、キリストは、<br />

その 失 われたものを 回 復 するためにこられた。キリストは、わたしたちの 卑 しい 体 を<br />

造 り 変 えて、ご 自 身 の 栄 光 の 体 に 似<br />

たものとしてくださる。1 度 罪 に 汚 されてしまって 美 を 失 い、 死 ぬべき、 朽 ち 果 てる<br />

べきものとなった 体 が、 完 全 な、 美 しい、 不 死 のものとなる。すべての 傷 や 醜 さは、<br />

墓 の 中 に 残 される。 贖 われた 者 は、 長 い 間 失 われていたエデンのいのちの 木 に 再 び 近<br />

づくことを 許 され、 最 初 の 栄 光 に 輝 く 人 類 の 完 全 な 背 丈 に「 成 長 する」のである[マラ<br />

キ 4:2・ 英 語 訳 ]。 罪 ののろいの 最 後 の 痕 跡 が 取 り 除 かれ、キリストに 忠 実 に 仕 える<br />

者 たちは、 知 的 にも、 霊 的 にも、 身 体 的 にも、 主 の 完 全 な 姿 を 反 映 して、「われらの<br />

神 、 主 のうるわしさ」を 着 て 現 れる。ああ、なんというすばらしい 贖 いであろう。こ<br />

れこそ 長 い 間 、 語 り、 熱 望 し、 熱 心 な 期 待 をもって 瞑 想 してきたが、しかし 決 して 十<br />

分 には 理 解 できなかったことであった。<br />

生 きている 義 人 たちは、「またたく 間 に、 一 瞬 にして」 変 えられる。 彼 らは、 神 の<br />

み 声 によって 栄 化 された。 今 や 彼 らは 不 死 の 者 とされて、よみがえった 聖 徒 たちとと<br />

もに、 空 中 において 主 に 会 うために 引 き 上 げられる。 天 使 たちは、「 天 のはてからは<br />

てに 至 るまで、 四 方 からその 選 民 を 呼 び 集 める。」 小 さい 子 供 たちは、 天 使 たちに 抱<br />

かれてきて、 母 親 の 腕 に 返 される。 長 く 死 に 別 れていた 友 人 たちは 再 会 して、もう 永<br />

久 に 別 れることなく、 喜 びの 歌 をうたいながら、ともに 神 の 都 へと 上 っていく。<br />

雲 の 車 の 両 側 には 翼 があって、その 下 には、 生 きた 輪 がある。そして 車 が 上 に 進 む<br />

につれて、 輪 は「 聖 なるかな」と 叫 び、 翼 も、 動 きながら「 聖 なるかな」と 叫 ぶ。そ<br />

して、 付 き 従 う 天 使 たちは、「 聖 なるかな、 聖 なるかな、 聖 なるかな、 主 なる 全 能 の<br />

神 」と 叫 ぶ。 車 が、 新 エルサレムに 向 かって 進 むにつれて、 贖 われた 者 たちは「ハレ<br />

ルヤ!」と 叫 ぶ。 神 の 都 に 入 る 前 に、 救 い 主 は、ご 自 分 に 従 う 者 たちに、 勝 利 の 象 徴<br />

を 与 え、 王 族 のしるしを 授 けてくださる。 輝 く 行 列 は、 主 なるイエスの 周 りに 四 角 形<br />

480


国 際 協 定<br />

をつくる。イエスのお 姿 は、 聖 徒 たちや 天 使 たちよりも 高 く 堂 々としており、そのお<br />

顔 からは、 慈 悲 深 い 愛 の 輝 きが、 彼 らの 上 にあふれ 出 ている。 数 えきれないほど 多 く<br />

の、あがなわれた 者 たちの 視 線 は、すべてイエスの 上 にそそがれ、「 顔 だちは、そこ<br />

なわれて 人 と 異 なり、その 姿 は 人 の 子 と 異 なっていた」お 方 の 栄 光 を、すべての 目 が<br />

ながめる。 勝 利 者 の 頭 には、イエスご 自 身 が 右 の 手 で、 栄 光 の 冠 をかぶらせてくださ<br />

る。すべての 者 のために、その 人 の「 新 しい 名 」と「 主 に 聖 なる 者 」ということばが<br />

刻 まれた 冠 がある[ 黙 示 録 2:。すべての 者 の 手 には、 勝 利 者 のしゅろの 枝 と 輝 く 立 琴<br />

とが 授 けられる。そして、 指 揮 する 天 使 たちが 合 図 の 音 をかき 鳴 らすと、すべての 者<br />

の 手 はたくみに 立 琴 をかなで、すばらしい 音 楽 の 美 しい 調 べがわき 起 こる。すべての<br />

者 の 心 は、 言 葉 に 言 いあらわすことのできない 感 激 に 心 がふるえ、すべての 声 は、<br />

「わたしたちを 愛 し、その 血 によってわたしたちを 罪 から 解 放 し、わたしたちを、そ<br />

の 父 なる 神 のために、 御 国 の 民 とし、 祭 司 として 下 さったかたに、 世 々 限 りなく 栄 光<br />

と 権 力 とがあるように」と 感 謝 の 賛 美 をささげる[ 黙 示 録 1:5、。<br />

贖 われた 群 衆 の 前 には、 聖 都 がある。イエスは、 真 珠 の 門 を 広 くあけられる。そし<br />

て、 真 理 を 守 ってきた 諸 国 の 民 がその 中 へ 入 る。そこに 彼 らは、 神 のパラダイス、す<br />

なわちアダムが 罪 を 犯 す 前 のふるさとを 見 る。その 時 、 人 間 の 耳 が 今 まで 聞 いたどん<br />

な 音 楽 よりも 豊 かな 美 しいあの 声 が、「あなたがたの 戦 いは 終 わった。」「わたしの<br />

父 に 祝 福 された 人 たちよ、さあ、 世 の 初 めからあなたがたのために 用 意 されているみ<br />

国 を 受 けつぎなさい」と 言 われる。<br />

ここで、「あなたがわたしに 賜 わった 人 々が、わたしのいる 所 に 一 緒 にいるように<br />

して 下 さい」と 弟 子 たちのために 祈 られた 救 い 主 の 祈 りが 成 就 する。キリストは、ご<br />

自 分 の 血 によって 贖 われた 者 たちを、「その 栄 光 のまえに 傷 なき 者 として、 喜 びのう<br />

ちに」 父 の 前 に 示 し[ユダ、「わたしはここにおります。そして、あなたがわたしに 下<br />

さった 子 供 たちもおります。」「あなたがわたしに 下 さったものを、わたしは 守 りま<br />

した」 と 言 われる。ああ、なんという 驚 嘆 すべき 贖 いの 愛 であろう。 無 限 なるお 方 で<br />

あられる 天 父 が、 贖 われた 者 たちをごらんになって、 罪 による 不 調 和 が 消 え、 罪 のの<br />

ろいが 除 かれ、 人 性 が 再 び 神 性 と 調 和 して、そこに 神 のみかたちをごらんになる 時 の、<br />

その 喜 びはどんなであろう。<br />

ことばに 言 い 表 すことのできない 愛 をもって、イエスは 忠 実 な 者 たちを 主 の 喜 びに<br />

迎 え 入 れてくださる。 救 い 主 の 喜 びは、ご 自 身 の 苦 悩 と 屈 辱 とによって 救 われた 魂 を、<br />

栄 光 のみ 国 において 見 ることである。そして、 贖 われた 者 たちは、この 祝 福 された 人<br />

々の 中 に、 自 分 たちの 祈 りや 働 きや 愛 のこもった 犠 牲 によってキリストに 導 かれた 人<br />

々があるのを 見 て、 主 の 喜 びにともにあずかる 者 となる。 彼 らが 大 いなる 白 いみ 座 の<br />

481


国 際 協 定<br />

まわりに 集 まって、 自 分 がキリストに 導 いた 人 たちを 見 、そして、その 導 かれた 人 た<br />

ちがまたほかの 者 を 導 き、その 人 たちがさらにほかの 人 たちを 導 いて、すべての 者 が<br />

休 息 の 港 に 入 れられたことを 見 る 時 、 彼 らは 言 うに 言 われぬ 歓 喜 に 心 が 満 たされ、 自<br />

分 たちの 冠 をイエスの 足 もとに 投 げ 出 して、 永 遠 に 尽 きることのない 年 月 にわたって<br />

イエスを 賛 美 するのである。<br />

贖 われた 人 々が、 神 の 都 に 迎 え 入 れられる 時 に、 喜 ばしい 賛 美 の 叫 びが 空 に 響 きわ<br />

たる。 今 、2 人 のアダムが 会 おうとしているのである。 神 のみ 子 は、 立 って 手 を 広 げ、<br />

人 類 の 祖 先 を 抱 こうとしておられる。 神 のみ 子 が、この 人 を 創 造 された。その 彼 が 創<br />

造 主 に 罪 を 犯 した。そして、 彼 の 罪 のために、 救 い 主 の 体 に 十 字 架 の 傷 が 負 わされた<br />

のである。アダムは、 残 酷 な 釘 のあとを 見 て、 主 の 胸 にはよりかからず、 恥 じいって<br />

主 の 足 もとにひれ 伏 し、「ほふられた 小 羊 こそは……さんびを 受 けるにふさわしい」<br />

と 叫 ぶのである。 救 い 主 は、やさしく 彼 を 抱 き 起 こして、 彼 が 長 い 間 追 放 されていた<br />

エデンの 故 郷 をもう 1 度 見 るようにとお 命 じになる。<br />

エデンを 追 放 されてからの、アダムの 地 上 の 生 涯 は、 悲 しみに 満 ちたものであった。<br />

木 の 葉 が 落 ち、 犠 牲 の 動 物 がささげられるのを 見 、 自 然 の 美 が 傷 つけられ、 人 間 の 純<br />

潔 が 汚 されるのを 見 るたびに、 彼 は 自 分 の 罪 をまざまざと 思 い 出 した。 彼 は、 罪 悪 が<br />

ふえひろがるのを 目 撃 し、 警 告 の 声 をあげると、それに 答 えて、 罪 の 起 こりは 彼 自 身<br />

のせいであるとののしられて、 恐 ろしい 良 心 の 呵 責 に 悩 まされた。 彼 は 1000 年 近 く<br />

もの 間 、 身 を 低 くして、 罪 の 刑 罰 を 耐 え 忍 んだ。 彼 は、 心 から 自 分 の 罪 を 悔 い 改 めて、<br />

約 束 された 救 い 主 の 功 績 に 信 頼 し、 復 活 の 希 望 をもって 死 んだ。 神 のみ 子 は、 人 間 の<br />

失 敗 と 堕 落 とを 順 われた。そして 今 、 贖 罪 の 働 きによって、アダムに 最 初 の 主 権 が 返<br />

されたのである。<br />

彼 は、 喜 びのあまり 我 を 忘 れて、かつて 自 分 の 楽 しみであった 木 々、まだ 罪 を 犯 さ<br />

ず 喜 びに 満 ちていた 時 に、 自 分 で 実 を 集 めたその 木 々をながめる。 彼 は、 自 分 の 手 で<br />

整 えたぶどうの 木 、かつて 愛 し 育 てた 花 々を 見 る。 彼 の 心 は、この 光 景 が 現 実 である<br />

ことを 悟 る。これが 回 復 されたエデンであること、 彼 が 追 放 された 時 よりももっと 美<br />

しくなったエデンであることを 彼 は 悟 るのである。 救 い 主 は、 彼 を 命 の 木 に 導 き、そ<br />

の 輝 く 実 をとって、アダムに 食 べるようお 命 じになる。 彼 は 周 りを 見 渡 す。<br />

そして、 贖 われた 彼 の 家 族 の 大 群 集 が、 神 のパラダイスに 立 っているのを 見 る。そ<br />

の 時 、 彼 は、 自 分 の 輝 く 冠 をイエスの 足 もとに 投 げ 出 して、 彼 の 胸 によりすがり、 贖<br />

い 主 を 抱 きしめるのである。 彼 は 黄 金 の 立 琴 をかなでる。そして 天 の 丸 天 井 に、「ほ<br />

ふられ、よみがえられた 小 羊 は、さんびを 受 けるにふさわしい」という 勝 利 の 歌 がこ<br />

482


国 際 協 定<br />

だまする。アダムの 家 族 は、その 旋 律 に 合 わせて 声 をあげ、 彼 らの 冠 を 救 い 主 の 足 も<br />

とに 投 げ 出 し、 崇 敬 の 念 をもって 彼 の 前 にひざまずくのである。 アダムが 堕 落 した 時<br />

に 涙 を 流 し、イエスが 復 活 後 、み 名 を 信 じるすべての 者 のために 墓 を 開 いて、 天 に 昇<br />

られた 時 に 喜 んだ 天 使 たちが、この 再 会 を 目 撃 する。 今 彼 らは、 階 罪 の 働 きの 完 成 を<br />

目 撃 し、 賛 美 の 歌 に 彼 らの 声 を 合 わせるのである。<br />

み 座 の 前 の、 水 晶 のように 透 きとおった 海 、あの、 火 のまじったガラスの 海 —— 神<br />

の 栄 光 でまばゆく 輝 いているところ——の 上 に、「 獣 とその 像 とその 名 の 数 字 とにう<br />

ち 勝 った 人 々が」 集 まっている。シオンの 山 の 小 羊 とともに、 人 々の 間 から 贖 われた<br />

彼 ら、すなわち、14 万 4 千 が、「 神 の 立 琴 を 手 にして」 立 つのである。また、 大 水<br />

のとどろきのような、 激 しい 雷 鳴 のような、「 琴 をひく 人 が 立 琴 をひく 音 」のような<br />

ものが 聞 こえる。そして、 彼 らは、み 座 の 前 で 新 しい 歌 をうたう。この 歌 は、14 万 4<br />

千 以 外 のものは、だれも 学 ぶことができない。それは、モーセと 小 羊 の 歌 、すなわち、<br />

救 いの 歌 である。14 万 4 千 のほかは、だれもその 歌 を 学 ぶことができない。なぜな<br />

ら、それは 彼 らの 体 験 —— 他 のどの 群 れもしたことのない 体 験 ——の 歌 だからである。<br />

「 小 羊 の 行 く 所 へは、どこへでもついて 行 く。」 彼 らは、 地 上 から、 生 きている 者 の<br />

間 から、 天 に 移 された 者 たちで、「 神 と 小 羊 とにささげられる 初 穂 」とみなされる[ 黙<br />

示 録 15:2、3、14:1~。「 彼 らは 大 きな 患 難 をとおってきた 人 たちであって」、<br />

国 が 始 まって 以 来 かつてなかったほどの 悩 みの 時 を 通 ってきた。 彼 らは、ヤコブの 悩<br />

みの 時 の 苦 しみに 耐 えた。 彼 らは、 神 の 最 後 の 刑 罰 がくだる 中 を、 仲 保 者 なしで 立 っ<br />

た。<br />

しかし 彼 らは、「その 衣 を 小 羊 の 血 で 洗 い、それを 白 くした」ために、 救 われた。<br />

「 彼 らの 口 には 偽 りがなく、 彼 らは」 神 の 前 に、「 傷 のない 者 であった。」「それだ<br />

から 彼 らは、 神 の 御 座 の 前 におり、 昼 も 夜 もその 聖 所 で 神 に 仕 えているのである。 御<br />

座 にいますかたは、 彼 らの 上 に 幕 屋 を 張 って 共 に 住 まわれるであろう。」 彼 らは、 地<br />

上 が 飢 饉 と 疫 病 で 荒 廃 し、 太 陽 が 激 しい 熱 で 人 々を 焼 くのを 目 撃 した。そして、 彼 ら<br />

自 身 も、 苦 しみ、 飢 えかわいたのであった。しかし、「 彼 らは、もはや 飢 えることが<br />

なく、かわくこともない。 太 陽 も 炎 暑 も、 彼 らを 侵 すことはない。 御 座 の 正 面 にいま<br />

す 小 羊 は 彼 らの 牧 者 となって、いのちの 水 の 泉 に 導 いて 下 さるであろう。また 神 は、<br />

彼 らの 目 から 涙 をことごとくぬぐいとって 下 さるであろう」[ 黙 示 録 7:14~。<br />

各 時 代 において、 救 い 主 の 選 びを 受 けた 人 々は、 試 練 の 学 校 で 教 育 され、 訓 練 され<br />

た。 彼 らは、 地 上 ではせまい 道 を 歩 んだ。 彼 らは 苦 難 の 炉 で 清 められた。 彼 らは、イ<br />

エスのために、 反 対 、 憎 悪 、 中 傷 に 耐 えた。 彼 らは、 激 しい 争 闘 の 中 でイエスに 従 っ<br />

た。 彼 らは、 自 己 犠 牲 に 耐 え、 苦 い 失 望 をも 経 験 した。 彼 らは、 自 分 自 身 の 悲 痛 な 経<br />

483


国 際 協 定<br />

験 によって、 罪 の 邪 悪 さを 知 り、その 力 、そのとが、その 悲 惨 を 知 った。そして 彼 ら<br />

は、 罪 を 嫌 悪 する。 彼 らは、 自 分 たちが 罪 から 救 い 出 されるために 払 われた 無 限 の 犠<br />

牲 を 悟 る 時 に、おのずから 心 はへりくだり、 堕 落 したことのない 者 たちには 味 わうこ<br />

とのできない 感 謝 と 賛 美 に、 心 が 満 たされるのである。 彼 らは、 多 く 赦 されたゆえに、<br />

多 く 愛 するのである。 彼 らは、キリストの 苦 難 にともにあずかったことによって、 彼<br />

の 栄 光 にもともにあずかるにふさわしい 者 とされるのである。<br />

神 の 相 続 人 たちは、 屋 根 裏 、あばらや、 牢 獄 、 刑 場 、 山 々、 砂 漠 、 地 のほら 穴 、 海<br />

の 洞 窟 などから 出 て 来 た。 彼 らは、この 地 上 では、「 無 一 物 になり、 悩 まされ、 苦 し<br />

められた。」 幾 百 万 という 人 々が、サタンの 欺 瞞 的 主 張 に 服 することを 断 固 として 拒<br />

んだために、 汚 名 を 着 せられて 墓 にくだっていった。<br />

彼 らは、 人 間 の 法 廷 において、 最 悪 の 一 犯 罪 人 であると 宣 告 された。しかし 今 、<br />

「 神 はみずから、さばきぬし……である」[ 詩 篇 50:。 今 、 地 上 の 判 決 はくつがえさ<br />

れる。 神 は、「その 民 のはずかしめを…… 除 かれる」[イザヤ 25:。「 彼 らは『 聖 な<br />

る 民 、 主 にあがなわれた 者 』ととなえられ」る。 主 は「 灰 にかえて 冠 を 与 え、 悲 しみ<br />

にかえて 喜 びの 油 を 与 え、 憂 いの 心 にかえて、さんびの 衣 を 与 え」られる[ 同 62:12、<br />

61:。 彼 らは、もはや、 弱 く、 苦 しめられ、 追 い 散 らされ、 圧 迫 される 人 々ではない。<br />

これからは、 彼 らはいつまでも 主 とともにいるのである。 彼 らは、 地 上 のどんな 栄 誉<br />

ある 人 も 着 たことのない 美 しい 衣 を 着 て、み 座 の 前 に 立 つ。 彼 らは、 地 上 のどんな 王<br />

もかぶったことのない 輝 かしい 王 冠 をかぶる。 痛 みとなげきの 時 は、 永 遠 に 過 ぎ 去 っ<br />

た。 栄 光 の 王 が、すべての 者 の 顔 から 涙 をぬぐいとってくださった。 悲 しみの 原 因 は<br />

すべて 取 り 去 られた。 彼 らは、しゅろの 枝 を 振 りかざしながら、 美 しく 澄 んで 調 和 の<br />

とれた 賛 美 の 歌 を 歌 い 出 す。すべての 者 が、その 調 べに 和 して 歌 い、 賛 美 の 歌 は、 天<br />

の 丸 天 井 に 満 ちあふれるのである。「 救 は、 御 座 にいますわれらの 神 と 小 羊 からきた<br />

る。」 天 の 住 民 はみな、この 賛 美 の 言 葉 に 答 える。「アァメン、さんび、 栄 光 、 知 恵 、<br />

感 謝 、ほまれ、 力 、 勢 いが、 世 々 限 りなく、われらの 神 にあるように、アァメン」[ 黙<br />

示 録 7:10、。<br />

この 世 においては、われわれは、 贖 いという 驚 嘆 すべきテーマについてほんの 初 歩<br />

のことしか 理 解 できない。 辱 しめと 栄 光 、いのちと 死 、 公 平 と 憐 れみとが、 十 字 架 に<br />

おいて 出 会 ったことを、われわれの 有 限 な 理 解 力 でどんなに 熱 心 に 探 り 調 べてみても、<br />

そしてわれわれの 知 力 のかぎりを 尽 くしてみても、われわれはその 意 味 を 十 分 につか<br />

むことはできない。 贖 いの 愛 の 長 さ、 広 さ、 深 さ、 高 さは、かすかにしか 理 解 されな<br />

い。 贖 いの 計 画 は、 贖 われた 者 たちが、 見 られているように 見 、 知 られているように<br />

知 る 時 においてさえ、 十 分 には 理 解 されない。そして、 永 遠 にわたって、 新 しい 真 理<br />

484


国 際 協 定<br />

がたえず 示 されて、 心 は 驚 きと 喜 びに 満 たされるのである。 地 上 の 嘆 き、 痛 み、 誘 惑<br />

は 終 わり、その 原 因 は 除 かれても、 神 の 民 は、 自 分 たちの 救 いのためにどんな 価 が 払<br />

われたかということについて、はっきりした 理 解 を 持 ち 続 けるのである。<br />

キリストの 十 字 架 は、 永 遠 にわたって、 贖 われた 者 たちの 科 学 となり 歌 となる。 栄<br />

光 につつまれたキリストのうちに、 彼 らは、 十 字 架 につけられたキリストを 見 る。 広<br />

大 な 空 間 に、 数 えきれないほどの 諸 世 界 を、その 力 によって 創 造 し、 支 えておられる<br />

お 方 、 神 の 愛 するみ 子 、 天 の 大 君 、ケルビムや 輝 くセラピムが 喜 んであがめるお 方 、<br />

そのお 方 が、 堕 落 した 人 類 を 救 うために 身 を 卑 しくされたことは、 決 して 忘 れられる<br />

ことがない。また 彼 が、 罪 の 苦 痛 と 恥 とを 負 われ、 天 父 からはそのみ 顔 を 隠 されて、<br />

ついには 失 われた 世 界 の 苦 悩 がその 心 臓 を 破 裂 させて、カルバリーの 十 字 架 上 でその<br />

命 を 絶 たれたことは、 決 して 忘 れられることがない。 諸 世 界 の 創 造 者 、すべての 運 命<br />

の 決 定 者 が、 人 類 に 対 する 愛 から、ご 自 分 の 栄 光 を 捨 てて、ご 自 分 を 卑 しくされたこ<br />

とは、いつまでも 宇 宙 の 驚 嘆 と 称 賛 の 的 となる。 救 われた 諸 国 民 が、 贖 い 毛 を 見 て、<br />

そのみ 顔 に 天 父 の 永 遠 の 栄 光 が 輝 いているのをながめる 時 、また、 永 遠 から 永 遠 にい<br />

たるイエスのみ 座 をながめ、イエスのみ 国 には 終 わりがないことを 知 る 時 、 彼 らはど<br />

っと 歓 喜 の 歌 声 をあげて、「ほふられた 小 羊 、ご 自 身 の 尊 い 血 によって、わたしたち<br />

を 神 に 贖 って 下 さったおかたは、 賛 美 を 受 けるにふさわしい、 賛 美 を 受 けるにふさわ<br />

しい」と 叫 ぶのである。<br />

十 字 架 の 奥 義 は、 他 のすべての 奥 義 を 説 明 する。カルバリーから 流 れ 出 る 光 に 照 ら<br />

して 見 る 時 、われわれのうちに 恐 怖 と 畏 敬 の 念 を 満 たした 神 の 属 性 は、 美 しい、 人 を<br />

引 きつけるものに 見 える。 憐 れみ、やさしさ、 父 としての 愛 情 が、 聖 潔 、 公 平 、 力 と<br />

入 りまじって 見 える。われわれは、 高 くかかげられた 神 のみ 座 の 威 光 をながめる 一 方<br />

では、 神 のご 品 性 の 恵 み 深 い 憐 れみを 見 て、「われらの 父 よ」というあの 永 遠 に 続 く<br />

称 号 の 意 味 を、いままでになく 理 解 するのである。 限 りない 知 恵 を 持 っておられる 神<br />

は、われわれの 救 いのためには、み 子 の 死 よりほかに 方 法 を 考 え 出 すことがおできに<br />

ならなかった。この 犠 牲 に 対 する 報 いは、きよく 幸 福 で 不 死 の 身 となって 贖 われた 者<br />

たちを、 地 に 住 まわせるという 喜 びである。 救 い 主 が 悪 の 権 力 と 戦 われた 結 果 は、 贖<br />

われた 者 たちに 与 えられる 喜 びであり、 永 遠 にわたって 神 にみ 栄 えを 帰 することであ<br />

る。 魂 にはこのように 大 きな 価 値 があるので、 天 父 は、 払 われた 価 に 満 足 される。そ<br />

して、キリストご 自 身 も、その 大 きな 犠 牲 の 実 をごらんになって 満 足 されるのである。<br />

485


国 際 協 定<br />

486


国 際 協 定<br />

第 41 章 地 球 の 荒 廃<br />

「 彼 女 の 罪 は 積 り 積 って 天 に 達 しており、 神 はその 不 義 の 行 いを 覚 えておられ<br />

る。…… 彼 女 が 混 ぜて 入 れた 杯 の 中 に、その 倍 の 量 を、 入 れてやれ。 彼 女 が 自 ら 高 ぶ<br />

り、ぜいたくをほしいままにしたので、それに 対 して、 同 じほどの 苦 しみと 悲 しみと<br />

を 味 わわせてやれ。 彼 女 は 心 の 中 で『わたしは 女 王 の 位 についている 者 であって、や<br />

もめではないのだから、 悲 しみを 知 らない』と 言 っている。それゆえ、さまざまの 災<br />

害 が、 死 と 悲 しみとききんとが、1 日 のうちに 彼 女 を 襲 い、そして、 彼 女 は 火 で 焼 か<br />

れてしまう。 彼 女 をさばく 主 なる 神 は、 力 強 いかたなのである。 彼 女 と 姦 淫 を 行 い、<br />

ぜいたくをほしいままにしていた 地 の 王 たちは、…… 彼 女 のために 胸 を 打 って 泣 き 悲<br />

しみ、 …『ああ、わざわいだ、 大 いなる 都 、 不 落 の 都 、バビロンは、わざわいだ。<br />

おまえに 対 するさばきは、 一 瞬 にしてきた』」[ 黙 示 録 18:5~。<br />

「 彼 女 の 極 度 のぜいたくによって 富 を 得 た」 地 上 の 商 人 たちは、「 彼 女 の 苦 しみに<br />

恐 れをいだいて 遠 くに 立 ち、 泣 き 悲 しんで 言 う、『ああ、わざわいだ、 麻 布 と 紫 布 と<br />

緋 布 をまとい、 金 や 宝 石 や 真 珠 で 身 を 飾 っていた 大 いなる 都 は、わざわいだ。これほ<br />

どの 富 が、 一 瞬 にして 無 に 帰 してしまうとは』」[ 黙 示 録 18:3、15~。 これが、 神<br />

の 怒 りの 日 に、バビロンにくだる 刑 罰 である。バビロンの 悪 は 満 ちた。その 時 は 来 た。<br />

滅 亡 の 時 は 熟 した。<br />

神 のみ 声 が 神 の 民 を 捕 われの 身 からかえされる 時 に、 人 生 の 大 きな 争 闘 においてす<br />

べてを 失 った 人 々に、 恐 るべき 覚 醒 が 起 こる。 恵 みの 期 間 が 続 いていた 時 、 彼 らは、<br />

サタンの 欺 瞞 に 目 をくらまされ、 自 分 たちの 罪 の 行 為 を 正 当 化 していた。 金 持 ちは 自<br />

分 たちは 貧 しい 人 々に 優 越 していると 誇 っていた。しかし 彼 らは、 神 の 律 法 を 犯 して<br />

その 富 を 得 たのであった。 彼 らは、 飢 えた 者 に 食 べさせ、 裸 の 者 に 着 せ、 正 義 を 行 い、<br />

憐 れみを 愛 することを、 怠 っていた。<br />

彼 らは、 自 分 を 高 めることを、そして 人 々の 尊 敬 を 受 けることを 求 めていた。とこ<br />

ろが 今 、 彼 らは、 彼 らを 偉 大 にしていたすべてのものをはぎ 取 られて、 何 も 持 たず、<br />

なんの 防 備 もないのであった。 彼 らは、 自 分 たちが 創 造 主 よりも 好 んだ 偶 像 が 破 壊 さ<br />

れるのを 見 て、 恐 れおののく。 彼 らは、 地 上 の 富 と 快 楽 のためにその 魂 を 売 り 渡 して<br />

しまい、 神 に 対 して 富 もうとしなかった。そのために、 彼 らの 生 涯 は 失 敗 であった。<br />

彼 らの 快 楽 は、 今 、 苦 いものとなり、 彼 らの 財 宝 は 朽 ちる。 一 生 かかって 得 たものが、<br />

一 瞬 のうちに 吹 き 払 われる。 金 持 ちは、 自 分 たちの 豪 壮 な 邸 宅 が 破 壊 され、 金 銀 が 四<br />

487


国 際 協 定<br />

散 するのを 見 て 悲 しむ。しかし、 彼 らの 悲 しみは、 自 分 たちが 偶 像 とともに 滅 びると<br />

いう 恐 怖 のために、 沈 黙 にかわる。<br />

悪 人 たちは、 無 念 の 思 いに 満 たされる。それは、 彼 らが 神 と 同 胞 とを 無 視 した 罪 深<br />

さのためではなく、 神 が 彼 らに 勝 利 されたためである。 彼 らは、 結 果 がこうした 状 態<br />

であることを 悲 しむ、しかし、 彼 らは、その 罪 悪 を 悔 いるのではない。 彼 らは、でき<br />

れば 勝 利 を 収 めようとして、ありとあらゆる 手 段 を 講 じるのである。<br />

世 の 人 々は、 彼 らが 嘲 笑 、 愚 弄 し、 撲 滅 しようとしたその 当 人 たちが、 疫 病 、 嵐 、<br />

地 震 にも 耐 えてなんの 害 も 受 けないのを 見 る。 神 の 律 法 を 犯 す 者 には 焼 きつくす 火 で<br />

あられるかたが、 神 の 民 にとっては 安 全 な 隠 れ 場 なのである。 人 々の 歓 心 を 得 るため<br />

に 真 理 を 犠 牲 にした 牧 師 は、 今 、 自 分 の 教 えがどんな 性 質 のもので、どんな 影 響 を 及<br />

ぼしたかを 見 る。 彼 が 講 壇 に 立 った 時 も、 道 を 歩 いた 時 も、 人 生 のさまざまな 場 合 に<br />

人 々と 交 わった 時 も、 全 能 の 神 の 目 が 彼 とともにあったことが 明 らかになる。 人 々を<br />

偽 りの 避 難 所 に 休 ませるように 導 いたすべての 心 の 思 い、 書 いたすべての 文 字 、 語 っ<br />

たすべての 言 葉 、すべての 行 動 は、 種 まきであった。そして 今 、 哀 れな 失 われた 魂 に<br />

とりかこまれて、 彼 は その 収 穫 を 見 るのである。<br />

「 彼 らは 手 軽 に、わたしの 民 の 傷 をいやし、 平 安 がないのに、『 平 安 、 平 安 』と 言<br />

っている。」「あなたがたは 偽 りをもって 正 しい 者 の 心 を 悩 ました。わたしはこれを<br />

悩 まさなかった。またあなたがたは 悪 人 が、その 命 を 救 うために、その 悪 しき 道 から<br />

離 れようとする 時 、それをしないように 勧 める」と 主 は 言 われる[エレミヤ 8:11、エ<br />

ゼキエル 13:。<br />

「わが 牧 場 の 羊 を 滅 ぼし 散 らす 牧 者 はわざわいである。…… 見 よ、わたしはあなた<br />

がたの 悪 しき 行 いによってあなたがたに 報 いる。」「 牧 者 よ、 嘆 き 叫 べ、 群 れのかし<br />

らたちよ、 灰 の 中 にまろべ。あなたがたのほふられる 日 、 散 らされる 日 が 来 たから<br />

だ。…… 牧 者 には、のがれ 場 なく、 群 れのかしらたちは 逃 げる 所 がない」[エレミヤ<br />

23:1、2、25:34、。<br />

牧 師 たちと 人 々は、 自 分 たちが 神 との 正 しい 関 係 を 持 ってこなかったことを 悟 る。<br />

彼 らは、 自 分 たちが、すべて 公 正 で 義 である 律 法 の 創 始 者 に 反 逆 してきたことを 知 る。<br />

神 の 戒 めを 破 棄 したことが、 無 数 の 罪 悪 、 不 和 、 憎 悪 、 不 正 の 原 因 となり、ついに 地<br />

上 は 一 大 戦 場 、 腐 敗 の 巣 くつとなった。これが、 真 理 を 拒 み、 誤 りを 信 じることを 選<br />

んだ 者 の 目 に 写 る 光 景 である。 神 に 従 わず、 忠 誠 を 保 たなかった 人 々が、 永 遠 に 失 っ<br />

たもの、すなわち 永 遠 の 生 命 に 対 して 感 じる 渇 望 は、 言 葉 では 表 現 することができな<br />

い。 世 からその 才 能 と 雄 弁 をもてはやされて 崇 拝 された 人 々は、 今 、そうしたものの<br />

488


国 際 協 定<br />

真 相 を 見 る。 彼 らは、 罪 によって 何 を 失 ったかを 悟 る。そして 彼 らは、 自 分 たちが 軽<br />

べつし、あざ 笑 っていた 忠 実 な 人 々の 足 もとにひれ 伏 して、 彼 らが 神 に 愛 されていた<br />

ことを 認 める。<br />

人 々は、 今 まで 自 分 たちが 欺 かれていたことを 知 る。 彼 らは、 破 滅 に 陥 ったことを<br />

互 いに 責 め 合 う。しかし 彼 らはみな 一 致 して、 最 も 激 しい 非 難 を 牧 師 たちに 浴 びせる。<br />

不 忠 実 な 牧 師 たちは、 耳 ざわりの 良 いことを 言 ってきた。 彼 らは、 聴 衆 に、 神 の 律 法<br />

を 無 視 させ、 律 法 を 聖 く 守 る 人 々を 迫 害 させた。 今 、これらの 教 師 たちは、 絶 望 して、<br />

自 分 たちの 欺 瞞 行 為 を 世 の 前 に 告 白 する。 群 衆 は 激 しい 怒 りに 燃 える。「われわれは<br />

失 われてしまった!われわれの 滅 びの 原 因 はあなたがただ」と 彼 らは 叫 ぶ。 そして 彼<br />

らは、 偽 りの 教 師 たちにつめ 寄 る。かつて 彼 らを 最 も 賞 賛 していたその 人 々が、 最 も<br />

恐 ろしいのろいの 言 葉 を 浴 びせるのである。かつて 彼 らに 栄 冠 を 与 えたその 手 が、 彼<br />

らを 滅 ぼすためにあげられる。 神 の 民 を 滅 ぼすために 用 いられることになっていた 剣<br />

が、 今 、その 敵 を 滅 ぼすために 用 いられる。 至 るところに、 争 闘 と 流 血 が 起 こる。<br />

「 叫 びは 地 の 果 にまで 響 きわたる。 主 が 国 々と 争 い、すべての 肉 なる 者 をさばき、<br />

悪 人 をつるぎに 渡 すからである」[エレミヤ 25:。 大 争 闘 は、6000 年 にわたって 続<br />

いてきた。 神 のみ 子 と 天 使 たちは、 人 類 に 警 告 し、 啓 発 し、そして 救 いをもたらすた<br />

めに、 悪 魔 の 力 と 闘 ってきた。 今 や、すべての 者 が 決 定 を 下 した。すなわち、 悪 人 は、<br />

神 に 反 抗 するサタンの 戦 いに、 完 全 に 加 担 した。 神 が、ふみにじられたご 自 分 の 律 法<br />

の 権 威 を 擁 護 される 時 が 来 たのである。 今 や 争 闘 は、サタンとの 争 闘 だけでなく、 人<br />

間 との 争 闘 ともなる。「 主 が 国 々と 争 い」「 悪 人 をつるぎに 渡 すからである。」<br />

「その 中 で 行 われているすべての 憎 むべきことに 対 して 嘆 き 悲 しむ 人 々」に、 救 い<br />

のしるしがつけられた。 今 や、エゼキエルの 幻 の 中 で、その 手 に 滅 ぼす 武 器 を 持 った<br />

人 々に 命 令 が 与 えられたように、 死 の 天 使 が 出 て 行 く。「 老 若 男 女 をことごとく 殺 せ。<br />

しかし 身 にしるしのある 者 には 触 れるな。まずわたしの 聖 所 から 始 めよ。」「そこで、<br />

彼 らは 宮 の 前 にいた 老 人 から 始 めた」と 預 言 者 は 言 っている[エゼキエル 9:1~。 滅<br />

びの 働 きは、 人 々の 霊 的 保 護 者 と 称 してきた 人 々から 始 められる。 偽 りの 夜 回 りがま<br />

ず 第 一 に 倒 れる。あわれんだり 助 けたりする 者 はない。 老 若 男 女 がみな 滅 ぼされる。<br />

「 主 はそのおられる 所 を 出 て、 地 に 住 む 者 の 不 義 を 罰 せられる。 地 はその 上 に 流 さ<br />

れた 血 をあらわして、 殺 された 者 を、もはやおおうことがない」[イザヤ 26:。「エ<br />

ルサレムを 攻 撃 したもろもろの 民 を、 主 は 災 をもって 撃 たれる。すなわち 彼 らはなお<br />

足 で 立 っているうちに、その 肉 は 腐 れ、 目 はその 穴 の 中 で 腐 れ、 舌 はその 口 の 中 で 腐<br />

れる。その 日 には、 主 は 彼 らを 大 いにあわてさせられるので、 彼 らはおのおのその 隣<br />

489


国 際 協 定<br />

り 人 を 捕 らえ、 手 をあげてその 隣 り 人 を 攻 める」[ゼカリヤⅠ4:12、。 自 分 たち 自 身<br />

の 激 しい 怒 りによる 争 いと、 神 の、あわれみを 混 じえない 怒 りの 恐 るべき 降 下 によっ<br />

て、 地 の 悪 しき 住 民 たちは、 聖 職 者 も 為 政 者 も 民 衆 も、 金 持 ちも 貧 しい 人 も、 地 位 の<br />

高 い 者 も 低 い 者 も、 倒 れてしまう。「その 日 、 主 に 殺 される 人 々は、 地 のこの 果 から、<br />

かの 果 に 及 ぶ。 彼 らは 悲 しまれず、 集 められず、また 葬 られずに、 地 のおもてに 糞 土<br />

となる」[エレミヤ 25:。<br />

キリストがこられる 時 、 悪 人 は、 全 地 の 表 面 から 一 掃 される。すなわち、 主 イエス<br />

の 口 の 息 によって 殺 され、 来 臨 の 輝 きによって 滅 ぼされる。キリストはご 自 分 の 民 を<br />

神 の 都 へ 連 れて 行 かれ、 地 には 住 民 がいなくなる。「 見 よ、 主 はこの 地 をむなしくし、<br />

これを 荒 れすたれさせ、これをくつがえして、その 民 を 散 らされる。」「 地 は 全 くむ<br />

なしくされ、 全 くかすめられる。 主 がこの 言 葉 を 告 げられたからである。」「これは<br />

彼 らが 律 法 にそむき、 定 めを 犯 し、とこしえの 契 約 を 破 ったからだ。それゆえ、のろ<br />

いは 地 をのみつくし、そこに 住 む 者 はその 罪 に 苦 しみ、また 地 の 民 は 焼 かれ」る[イザ<br />

ヤ 24:1、3、5、。 全 地 は 荒 涼 たる 荒 野 のように 見 える。 地 震 によって 破 壊 された<br />

都 市 や 村 落 の 廃 墟 、 根 こそぎにされた 木 々、 海 から 投 げ 出 されたり、 地 中 から 引 き 裂<br />

かれたごつごつした 岩 石 が、 地 の 表 面 にちらばっている。 一 方 、 広 いほら 穴 は、 山 々<br />

がその 基 から 裂 けてしまった 跡 を 示 している。<br />

ここで、 贖 罪 の 日 の 最 後 の 厳 粛 な 務 めに 予 表 されていた 事 件 が 起 こる。 至 聖 所 にお<br />

ける 務 めが 完 了 して、イスラエルの 罪 が、 罪 祭 の 血 によって 聖 所 から 除 かれた 時 に、<br />

アザゼルの 山 羊 が 生 きたまま 主 の 前 に 連 れて 来 られた。そして、 大 祭 司 は、 会 衆 の 前<br />

で、「イスラエルの 人 々のもろもろの 悪 と、もろもろのとが、すなわち、 彼 らのもろ<br />

もろの 罪 をその 上 に 告 白 し」た[レビ 16:。それと 同 様 に、 天 の 聖 所 における 贖 罪 の<br />

働 きが 完 了 した 時 に、 神 と 天 使 たちと 贖 われた 人 々の 群 れとの 前 で、 神 の 民 の 罪 が、<br />

サタンの 上 におかれるのである。 彼 が 神 の 民 に 犯 させたすべての 罪 悪 の 責 任 が、 彼 に<br />

あることが 宣 言 される。<br />

アザゼルの 山 羊 が、 人 里 離 れた 地 に 送 り 出 されたように、サタンは、 住 む 者 もいな<br />

い 荒 涼 たる 荒 野 と 化 した 地 上 に 追 放 される。 黙 示 録 の 記 者 は、サタンが 追 放 されるこ<br />

とと、 地 が 混 乱 した 荒 廃 状 態 になることを 預 言 し、この 状 態 が 1000 年 続 くことを 宣<br />

言 している。 主 の 再 臨 の 光 景 と 悪 人 の 滅 亡 について 述 べたあとで、 預 言 には、 続 いて<br />

こう 言 われている。「またわたしが 見 ていると、ひとりの 御 使 が、 底 知 れぬ 所 のかぎ<br />

と 大 きな 鎖 とを 手 に 持 って、 天 から 降 りてきた。 彼 は、 悪 魔 でありサタンである 龍 、<br />

すなわち、かの 年 を 経 たへびを 捕 らえて 1000 年 の 間 つなぎおき、そして、 底 知 れぬ<br />

所 に 投 げ 込 み、 入 り 口 を 閉 じてその 上 に 封 印 し、1000 年 の 期 間 が 終 るまで、 諸 国 民<br />

490


国 際 協 定<br />

を 惑 わすことがないようにしておいた。その 後 、しばらくの 間 だけ 解 放 されることに<br />

なっていた」[ 黙 示 録 20:1~。<br />

「 底 知 れぬ 所 」という 言 葉 が、 混 乱 と 暗 黒 の 状 態 にある 地 球 を 象 徴 していることは、<br />

ほかの 聖 句 によって 明 らかである。 地 球 の「はじめ」の 状 態 について、 聖 書 には、<br />

「 地 は 形 なく、むなしく、やみが 淵 のおもてにあり」と 言 われている[ 創 世 記 1:2<br />

〔ここで「 淵 」と 訳 されている 言 葉 は、 黙 示 録 20:1~3 で「 底 知 れぬ 所 」と 訳 され<br />

ている 言 葉 と 同 じである〕]。 預 言 には、 地 が、 少 なくとも 部 分 的 に、この 状 態 にもど<br />

るということが 教 えられている。 預 言 者 エレミヤは、 神 の 大 いなる 日 を 待 ち 望 んでこ<br />

う 宣 言 している。「わたしは 地 を 見 たが、それは 形 がなく、またむなしかった。 天 を<br />

あおいだが、そこには 光 がなかった。わたしは 山 を 見 たが、みな 震 え、もろもろの 丘<br />

は 動 いていた。わたしは 見 たが、 人 はひとりもおらず、 空 の 鳥 はみな 飛 び 去 っていた。<br />

わたしは 見 たが、 豊 かな 地 は 荒 れ 地 となり、そのすべての 町 は、 主 の 前 に、その 激 し<br />

い 怒 りの 前 に、 破 壊 されていた」[エレミヤ 4:23~。<br />

ここが、サタンと 悪 天 使 たちが、1000 年 の 間 住 むところとなる。サタンは、 地 球<br />

に 制 限 されているから、 他 世 界 に 近 づいて、 決 して 堕 落 したことのない 者 たちを 試 み<br />

悩 ますことはできない。こういう 意 味 で、サタンはつながれるのである。 彼 が 働 きか<br />

けることのできる 者 が、だれもいなくなってしまうのである。 幾 世 紀 にもわたって 彼<br />

のただ 1 つの 楽 しみであった 欺 瞞 と 破 壊 の 行 為 が、 全 くできなくなるのである。<br />

預 言 者 イザヤは、サタンが 滅 びるときを 予 見 して、 次 のように 叫 んでいる。「 黎 明<br />

の 子 、 明 けの 明 星 よ、あなたは 天 から 落 ちてしまった。もろもろの 国 を 倒 した 者 よ、<br />

あなたは 切 られて 地 に 倒 れてしまった。あなたはさきに 心 のうちに 言 った、『わたし<br />

は 天 にのぼり、わたしの 王 座 を 高 く 神 の 星 の 上 におき、……いと 高 き 者 のようになろ<br />

う。』しかしあなたは 陰 府 [よみ]に 落 され、 穴 の 奥 底 に 入 れられる。あなたを 見 る 者<br />

はつくづくあなたを 見 、あなたに 目 をとめて 言 う、『この 人 は 地 を 震 わせ、 国 々を 動<br />

かし、 世 界 を 荒 野 のようにし、その 都 市 をこわし、 捕 らえた 者 をその 家 に 解 き 帰 さな<br />

かった 者 であるのか』」[イザヤ 14:12~。<br />

サタンの 反 逆 の 働 きは、6000 年 の 間 、「 地 を 震 わせ」た。 彼 は、「 世 界 を 荒 野 の<br />

ようにし、その 都 市 をこわし」た。 彼 は、「 捕 らえた 者 をその 家 に 解 き 帰 さなかっ<br />

た。」6000 年 の 間 、 神 の 民 は、 彼 の 牢 獄 に 入 れられてきた。そして 彼 は、 彼 らを 永<br />

久 に 捕 らえておこうとした。しかし、キリストは、 彼 の 鎖 を 断 ち 切 って、 補 われてい<br />

る 人 々を 解 放 されたのである。 今 となっては、 悪 人 たちでさえ、サタンの 力 の 及 ぼな<br />

いところにおかれている。サタンは 悪 天 使 たちとだけ 取 り 残 され、 罪 がもたらしたの<br />

491


国 際 協 定<br />

ろいの 結 果 を 悟 る。「もろもろの 国 の 王 たちは 皆 尊 いさまで、 自 分 の 墓 に 眠 る。しか<br />

しあなたは 忌 みきらわれる 月 足 らぬ 子 のように、 墓 のそとに 捨 てられ、……あなたは<br />

自 分 の 国 を 滅 ぼし、 自 分 の 民 を 殺 したために、 彼 らと 共 に 葬 られることはない」[イザ<br />

ヤ 14:18~。<br />

1000 年 の 間 、サタンは、 荒 れ 果 てた 地 上 をさまよい 歩 いて、 自 分 が 神 の 律 法 に 反<br />

逆 した 結 果 をながめる。この 間 のサタンの 苦 しみは 非 常 なものである。サタンは、 堕<br />

落 して 以 来 、たえず 働 き 続 けて、 反 省 するひまがなかった。ところが 今 は、 力 を 奪 わ<br />

れ、 最 初 に 天 の 政 府 に 反 逆 して 以 来 自 分 がどんな 事 をしてきたかを 熟 考 させられる。<br />

そして 彼 は、 恐 ろしい 将 来 を 思 ってふるえおののく。その 時 には 彼 は、 自 分 が 行 った<br />

すべての 悪 のために 苦 しまねばならず、また、 自 分 が 他 の 者 に 犯 させた 罪 に 対 して 罰<br />

を 受 けねばならないのである。<br />

第 一 と 第 二 の 復 活 の 間 の 1000 年 間 に、 悪 人 の 審 判 が 行 われる。 使 徒 パウロは、こ<br />

の 審 判 を、 再 臨 に 続 いて 起 こる 事 件 として 指 し 示 す。「だから、 主 がこられるまでは、<br />

何 事 についても、 先 走 りをしてさばいてはいけない。 主 は 暗 い 中 に 隠 れていることを<br />

明 るみに 出 し、 心 の 中 で 企 てられていることを、あらわにされるであろう」[Ⅰコリン<br />

ト 4:。ダニエルは、 日 の 老 いたる 者 がきて、「いと 高 き 者 の 聖 徒 のために 審 判 をお<br />

こなった」と 言 っている[ダニエル 7:。この 時 義 人 は、 王 、また 祭 司 として 支 配 する。<br />

ヨハネは、 黙 示 録 の 中 で 次 のように 言 っている。「また 見 ていると、 数 多 くの 座 があ<br />

り、その 上 に 人 々がすわっていた。そして、 彼 らにさばきの 権 が 与 えられていた。」<br />

「 彼 らは 神 とキリストとの 祭 司 となり、キリストと 共 に 1000 年 の 間 、 支 配 する」[ 黙<br />

示 録 20:4、。パウロが、「 聖 徒 は 世 をさばく」と 予 見 したのは、この 時 のことを 指<br />

しているのである[Ⅰコリント 6:。 彼 らはキリストと 共 に 悪 人 を 審 き、その 行 為 を 法<br />

規 の 書 すなわち 聖 書 と 照 らし 合 わせ、それぞれのなしたわざに 従 って、すべての 者 に<br />

判 決 を 下 す。その 時 、 悪 人 は、それぞれのわざに 応 じて、 受 けねばならない 苦 しみが<br />

定 められる。そして、それが、 死 の 書 の 彼 らの 名 のところに 記 録 される。<br />

サタンと 悪 天 使 たちも、キリストとその 民 によってさばかれる。パウロは、「あな<br />

たがたは 知 らないのか、わたしたちは 御 使 をさえさばく 者 である」と 言 っている[ 同<br />

6:。また、ユダは、「 主 は、 自 分 たちの 地 位 を 守 ろうとはせず、そのおるべき 所 を<br />

捨 て 去 った 御 使 たちを、 大 いなる 日 のさばきのために、 永 久 にしばりつけたまま、 暗<br />

やみの 中 に 閉 じ 込 めておかれた」と 言 っている[ユダ。<br />

1000 年 の 終 わりに 第 二 の 復 活 がある。その 時 に、 悪 人 はよみがえらせられる。そ<br />

して、「 記 された 審 判 」の 執 行 を 受 けるために、 神 の 前 に 現 れる。こうして、 黙 示 録<br />

492


国 際 協 定<br />

の 記 者 は、 義 人 の 復 活 を 描 写 したあとで、「それ 以 外 の 死 人 は、1000 年 の 期 間 が 終<br />

るまで 生 きかえらなかった」と 言 っている[ 黙 示 録 20:。そしてイザヤは、 悪 人 につ<br />

いて、「 彼 らは 囚 人 が 土 ろうの 中 に 集 められるように 集 められて、 獄 屋 の 中 に 閉 ざさ<br />

れ、 多 くの 日 を 経 て 後 、 罰 せられる」と 宣 言 しているのである[イザヤ 24:。<br />

493


国 際 協 定<br />

第 42 章 大 争 闘 の 終 結<br />

千 年 期 の 終 わりに、キリストは 再 び 地 上 に 帰 ってこられる。 主 は 贖 われた 大 群 衆 を<br />

伴 い、 天 使 たちを 従 えてこられる。 彼 は、 恐 るべき 威 光 をもっておくだりになる 時 、<br />

死 んだ 悪 人 たちに、さばきの 執 行 を 受 けるためによみがえるよう 命 じられる。 彼 らは、<br />

海 の 砂 のように、 無 数 の 大 群 となって 現 れる。 第 一 の 復 活 の 時 によみがえらせられた<br />

人 たちと 比 較 して、なんという 相 違 であろう。 義 人 たちは 朽 ちることのない 若 さと 美<br />

しさを 着 せられていた。ところがこの 悪 人 たちは 病 気 と 死 の 跡 を 帯 びている。<br />

この 大 群 衆 のすべての 眼 が、 神 のみ 子 の 栄 光 にそそがれる。 悪 人 たちはいっせいに、<br />

「 主 のみ 名 によってこられるおかたに、 祝 福 あれ」と 叫 ぶ。このような 言 葉 は、イエ<br />

スに 対 する 愛 から 出 るのではない。 彼 らは 真 理 の 力 に 迫 られて、この 言 葉 をしぶしぶ<br />

口 から 出 すのである。 悪 人 たちは、 墓 に 下 った 時 と 同 じように、キリストに 対 する 憎<br />

悪 と 反 逆 精 神 をもって 現 れてくる。 彼 らは、 過 去 の 生 涯 の 欠 点 を 除 くための 新 しい 恩<br />

恵 期 間 を 与 えられるのではない。たとえ 与 えられても、なんの 益 もないであろう。 罪<br />

の 一 生 は、 彼 らの 心 をやわらげなかった。たとえ 第 二 の 恩 恵 期 間 が 与 えられたとして<br />

も、 第 一 の 恩 恵 期 間 の 場 合 と 同 じように、 神 のご 要 求 を 回 避 し、 神 に 対 する 反 逆 を 引<br />

き 起 こすだけであろう。<br />

キリストはオリブ 山 におくだりになる。そこはキリストが 復 活 後 昇 天 された 場 所 で<br />

あり、また 天 使 たちが、 主 の 再 臨 について 約 束 をくりかえしたところである。 預 言 者<br />

はこう 言 っている。「あなたがたの 神 、 主 はこられる、もろもろの 聖 者 と 共 にこられ<br />

る。」「その 日 には 彼 の 足 が、 東 の 方 エルサレムの 前 にあるオリブ 山 の 上 に 立 つ。そ<br />

してオリブ 山 は、 非 常 に 広 い 1 つの 谷 によって、 東 から 西 に 2 つに 裂 け、」「 主 は 全<br />

地 の 王 となられる。その 日 には、 主 ひとり、その 名 1 つのみとなる」[ゼカリヤ 14:<br />

5、4、。<br />

新 エルサレムが、 目 もくらむばかりに 光 り 輝 いて 天 からくだり、きよめられて 受 け<br />

入 れ 準 備 の 整 った 場 所 に 落 ち 着 くと、キリストは、ご 自 分 の 民 や 天 使 たちとともに、<br />

その 聖 なる 都 にお 入 りになる。 今 やサタンは、 主 権 をめざして 最 後 の 大 いなる 戦 いの<br />

準 備 をする。 力 を 奪 われ、 欺 瞞 の 働 きができないようにされていた 間 は、 悪 の 君 は、<br />

みじめな、 意 気 消 沈 したありさまであった。しかし 今 、 悪 人 たちがよみがえり、しか<br />

もその 大 群 が 自 分 の 味 方 であることを 知 って、 彼 は 望 みをとりもどし、 大 争 闘 に 負 け<br />

てはならないと 決 心 する。 彼 は、 滅 びる 者 たちの 全 軍 を 自 分 の 旗 下 に 集 め、 彼 らを 通<br />

して 自 分 の 計 画 を 遂 行 しようとする。 悪 人 たちはサタンのとりこである。キリストを<br />

494


国 際 協 定<br />

拒 んだことによって、 彼 らは 反 逆 の 指 導 者 の 支 配 を 受 け 入 れたのである。 彼 らは 簡 単<br />

にサタンのそ そのかしを 受 け 入 れ、その 命 令 に 従 う。しかもサタンは、 昔 と 変 わらな<br />

いずるさで、 自 分 がサタンであるとは 認 めない。 彼 は、 自 分 がこの 世 界 の 正 当 な 君 で<br />

あるのに 無 法 にもその 継 承 権 を 奪 われたのだと 主 張 する。 彼 はその 欺 いた 部 下 に 対 し<br />

て、 自 分 が 贖 い 主 であると 主 張 し、 彼 らを 墓 からよみがえらせたのは 自 分 の 力 であっ<br />

て、 自 分 は 残 酷 な 暴 政 から 彼 らを 救 い 出 そうとしているのだと 言 う。キリストのお 姿<br />

が 見 えなくなると、サタンはこれらの 主 張 を 裏 書 きするために 不 思 議 な 業 を 行 う。 彼<br />

は、 弱 い 者 を 強 くし、すべての 者 に 彼 自 身 の 精 神 と 力 を 吹 き 込 む。サタンは、 彼 らを<br />

指 揮 して 聖 徒 たちの 陣 営 を 襲 い、 神 の 都 を 占 領 しようと 提 案 する。 彼 は 悪 魔 らしい 大<br />

満 悦 をもって、 死 からよみがえらされた 無 数 の 大 群 衆 を 指 さし、その 指 導 者 として、<br />

聖 都 を 破 壊 し 王 座 と 王 国 を 奪 還 することが 十 分 できると 宣 言 する。<br />

この 大 群 の 中 には、ノアの 洪 水 前 に 生 存 していた 長 寿 の 種 族 がいる。それはりっぱ<br />

な 体 格 と 偉 大 な 知 能 をもった 人 たちで、 堕 落 天 使 の 支 配 に 身 をゆだねて、あらゆる 技<br />

量 と 知 識 を 自 分 自 身 を 高 めるためにだけ 用 いてきた 人 たちである。それはまた、すば<br />

らしい 芸 術 の 作 品 によって、 世 の 人 々からその 天 才 を 偶 像 視 されながら、その 残 酷 さ<br />

と 邪 悪 な 発 明 が 地 上 を 汚 し、 神 のみかたちを 汚 したため、 神 によって 地 から 一 掃 され<br />

た 人 たちである。<br />

そこには、 諸 国 を 征 服 した 王 侯 や 将 軍 たち、 戦 場 においてかつて 敗 れたことのない<br />

勇 士 たち、 近 づいただけで 諸 国 を 戦 慄 させた 高 慢 で 野 心 満 々たる 戦 士 たちがいる。 死<br />

によっても 彼 らは 変 化 を 経 験 しなかった。 彼 らが 墓 から 出 て 来 た 時 、 彼 らの 考 えはそ<br />

の 停 止 していたところから 動 き 始 める。 彼 らは、 彼 らが 倒 れた 時 に 彼 らを 支 配 してい<br />

たのと 同 じ 征 服 欲 によって 行 動 する。<br />

サタンは 悪 天 使 たちと 相 談 し、それからさらに 王 侯 、 征 服 者 、 有 力 者 たちと 相 談 す<br />

る。 彼 らは、 味 方 の 勢 力 と 数 をながめて、これにくらべれば 聖 都 の 中 の 軍 勢 は 少 数 だ<br />

から 打 ち 負 かすことができると 断 言 する。 彼 らは 新 エルサレムの 富 と 栄 光 を 手 に 入 れ<br />

ようと 計 画 をたてる。 全 員 は 直 ちに 戦 闘 準 備 を 開 始 する。 熟 練 した 技 術 者 たちは 兵 器<br />

の 製 作 にとりかかる。 作 戦 成 功 で 有 名 な 軍 事 指 導 者 たちは、 好 戦 的 な 群 衆 を 指 揮 して<br />

いくつもの 軍 団 に 分 ける。<br />

ついに 進 軍 命 令 が 出 され、 無 数 の 大 軍 が 行 進 を 開 始 する。これは 地 上 のどんな 征 服<br />

者 によっても 召 集 されたことのない 大 軍 であり、この 地 上 で 戦 争 が 始 まって 以 来 各 時<br />

代 の 軍 勢 を 合 わせてもなお 比 較 することのできないほどの 大 軍 である。 最 も 強 力 な 戦<br />

士 であるサタンは 自 ら 先 頭 の 軍 を 率 い、 悪 天 使 たちもこの 最 後 の 戦 いに 勢 力 を 集 中 す<br />

495


国 際 協 定<br />

る。 王 侯 や 将 軍 がサタンにつづき、 群 衆 は 大 軍 団 となって 従 い、 各 軍 団 にはそれぞれ<br />

指 揮 官 が 任 命 されている。 密 集 した 部 隊 は、 軍 隊 らしく 秩 序 整 然 として、 破 壊 されて<br />

でこぼこになっている 地 上 を 神 の 都 に 向 かって 進 軍 する。イエスのご 命 令 によって 新<br />

エルサレムの 門 は 閉 じられ、サタンの 大 軍 は 都 を 包 囲 して、 突 撃 の 態 勢 をとる。 今 、<br />

キリストは、 再 び 敵 から 見 えるところに 姿 を 現 される。 聖 都 の 上 はるか 高 く、 光 り 輝<br />

く 純 金 の 基 の 上 にみ 座 がある。そのみ 座 の 上 に 神 のみ 子 が 座 し、その 周 りを 神 のみ 国<br />

の 民 がかこんでいる。キリストの 力 と 威 光 は、 言 葉 や 文 字 で 描 写 することができない。<br />

永 遠 にいます 父 なる 神 の 栄 光 が、み 子 をおおっている。その 臨 在 の 輝 きは 聖 都 に 満 ち、<br />

門 の 外 にあふれ、さらにまた 全 地 にあふれている。<br />

み 座 のいちばん 近 くには、かつてサタンの 業 に 熱 心 であったが、 火 の 中 からの 燃 え<br />

さしのように 取 り 出 されて、 深 い 熱 心 な 信 仰 をもって 救 い 主 に 従 ってきた 者 たちがい<br />

る。その 次 には、 虚 偽 と 不 信 仰 のただ 中 にあってキリスト 者 の 品 性 を 完 成 した 者 たち、<br />

キリスト 教 界 が 神 の 律 法 は 無 効 であると 宣 言 した 時 にも 律 法 を 尊 重 した 人 たち、さら<br />

に、 各 時 代 にわたり、 信 仰 のために 殉 教 した 無 数 の 人 たちがいる。そしてその 向 こう<br />

には、「あらゆる 国 民 、 部 族 、 民 族 、 国 語 のうちから、 数 えきれないほどの 大 ぜいの<br />

群 衆 が、 白 い 衣 を 身 にまとい、しゅろの 枝 を 手 に 持 って、 御 座 と 小 羊 との 前 に」 立 っ<br />

ている[ 黙 示 録 7:。 彼 らの 戦 いは 終 わり、 彼 らの 勝 利 は 獲 得 された。 彼 らは 走 るべき<br />

行 程 を 走 り、ほうびをもらった。 彼 らの 手 にあるしゅろの 葉 は 勝 利 の 象 徴 であり、 白<br />

い 衣 は、 今 は 彼 らのものとなっているキリストの 汚 れなき 義 を 示 している。<br />

贖 われた 者 たちは、「 救 は、 御 座 にいますわれらの 神 と 小 羊 からきたる」と 賛 美 の<br />

歌 声 をあげるが、それは 大 空 に 反 響 をくりかえす[ 黙 示 録 7:。 天 使 とセラピムとは 声<br />

を 合 わせて 賛 美 する。 贖 われた 者 たちは、サタンの 力 と 悪 意 を 見 たとき、キリストの<br />

力 以 外 のどんなものも 彼 らを 勝 利 者 にすることはできなかったことを、これまでにな<br />

かったほど 知 った。 輝 く 大 群 衆 の 中 には、だれ 1 人 、 自 分 自 身 の 力 と 善 行 で 勝 利 した<br />

かのように 救 いを 自 分 の 手 柄 にする 者 はいない。 自 分 のしたことや 苦 しんだことにつ<br />

いては 一 言 もふれないで、どの 歌 の 主 旨 もどの 賛 美 の 基 調 音 も、「 救 いはわれらの 神<br />

と、 小 羊 のものである」というのである。<br />

天 と 地 の 全 住 民 が 集 合 している 前 で、 神 のみ 子 の 最 終 的 な 戴 冠 式 が 行 われる。そし<br />

て 今 や、 王 の 王 なるイエスは、 最 高 の 威 厳 と 力 とをもって、 神 の 政 府 に 反 逆 した 者 に<br />

宣 告 をくだし、 神 の 律 法 を 犯 し、またその 民 を 迫 害 した 者 たちにさばきを 執 行 される。<br />

このことについて 神 の 預 言 者 はこう 言 っている。「また 見 ていると、 大 きな 白 い 御 座<br />

があり、そこにいますかたがあった。 天 も 地 も 御 顔 の 前 から 逃 げ 去 って、あとかたも<br />

なくなった。また、 死 んでいた 者 が、 大 いなる 者 も 小 さき 者 も 共 に、 御 座 の 前 に 立 っ<br />

496


国 際 協 定<br />

ているのが 見 えた。かずかずの 書 物 が 開 かれたが、もう 1 つの 書 物 が 開 かれた。これ<br />

はいのちの 書 であった。 死 人 はそのしわざに 応 じ、この 書 物 に 書 かれていることにし<br />

たがって、さばかれた」[ 黙 示 録 20:11、。<br />

記 録 の 書 が 開 かれ、イエスの 日 が 悪 人 たちの 上 にそそがれるやいなや、 彼 らはこれ<br />

までに 犯 した 罪 の 1 つ 1 つを 意 識 する。 彼 らは、 自 分 たちがどこで 純 潔 と 聖 潔 の 道 か<br />

ら 足 をふみはずしたか、 高 慢 と 反 逆 のためにどんなに 神 から 離 れてその 律 法 を 犯 した<br />

かということを 悟 る。 罪 にふけることによって 誘 惑 をますます 魅 力 的 にしたこと、 祝<br />

福 を 悪 用 したこと、 神 の 使 者 たちを 軽 べつしたこと、 警 告 を 拒 んだこと、 神 の 恩 恵 を、<br />

頑 固 な 悔 い 改 めない 心 で 拒 絶 したこと——すべてのことが、ちょうど 火 の 文 字 で 書 か<br />

れているかのように 現 される。<br />

み 座 の 上 に 十 字 架 が 現 される。そしてちょうどパノラマの 光 景 のように、アダムの<br />

誘 惑 と 堕 落 の 場 面 、 救 いの 大 いなる 計 画 における 1 歩 1 歩 が、 次 々に 示 される。 救 い<br />

主 がいやしい 身 分 としてお 生 まれになったこと、 質 素 で 従 順 なその 幼 年 時 代 、ヨルダ<br />

ン 川 でのバプテスマ、 断 食 と 荒 野 の 試 み、 天 の 最 も 尊 い 祝 福 を 人 々に 示 されたその 公<br />

生 涯 、 愛 と 恵 みの 行 為 に 満 ちた 日 々、 寂 しい 山 の 中 での 夜 通 しの 祈 り、 恵 みの 行 為 に<br />

対 してしっとと 憎 悪 と 悪 意 とによる 陰 謀 をもって 報 いられたこと、 全 世 界 の 罪 の 重 荷<br />

におしつぶされそうなゲッセマネにおける 恐 るべき 神 秘 的 な 苦 悩 、 残 忍 な 暴 徒 の 手 に<br />

売 り 渡 されたこと、あの 恐 怖 の 夜 の 恐 ろしい 諸 事 件 、すなわちいちばん 愛 された 弟 子<br />

たちにも 捨 てられ、 無 抵 抗 の 囚 人 として、 荒 々しくエルサレムの 通 りを 引 き 立 てられ<br />

て 行 ったこと、 神 のみ 子 がアンナスの 前 で 手 柄 顔 に 見 せ 物 にされ、 大 祭 司 の 邸 宅 とピ<br />

ラトの 法 廷 で 審 問 を 受 け、 卑 怯 で 残 酷 なヘロデの 前 で 嘲 笑 され、 侮 辱 され、 拷 問 を 受<br />

け、ついには 死 罪 の 宣 告 を 受 けられたこと、——こうしたすべてのことが、ありあり<br />

と 描 き 出 される。<br />

そして 今 、 動 揺 する 群 衆 の 前 に、 最 後 の 光 景 が 現 される。すなわち、 苦 難 を 耐 え 忍<br />

ばれる 主 が、カルバリーへの 道 をたどって 行 かれる 姿 、 天 の 大 君 が 十 字 架 につけられ、<br />

高 慢 な 祭 司 たちや 嘲 笑 している 暴 徒 たちが、 息 もたえだえの 神 のみ 子 の 苦 悩 をあざけ<br />

っている 光 景 、 超 自 然 的 な 暗 黒 、 世 の 救 い 主 が 息 を 引 き 取 られた 瞬 間 に、 地 が 揺 れ 動<br />

き、 岩 が 裂 け、 墓 が 開 いたことなど、そうした 最 後 の 光 景 が 示 されるのである。<br />

恐 るべき 光 景 が、 起 こったとおりにそのまま 示 される。サタンとその 悪 天 使 及 びそ<br />

の 民 たちは、 自 分 たちのしわざであるその 光 景 から 顔 をそむける 力 はない。 一 人 一 人<br />

が、 自 分 の 演 じた 役 割 を 思 い 出 す。イスラエルの 王 イエスを 殺 そうとして、ベツレヘ<br />

ムの 罪 なき 幼 児 たちを 殺 させたヘロデ、バプテスマのヨハネの 血 について 責 めを 負 う<br />

497


国 際 協 定<br />

べき 卑 劣 なヘロデヤ、 優 柔 不 断 で 無 節 操 なピラト、 嘲 弄 している 兵 士 たち、「その 血<br />

の 責 任 は、われわれとわれわれの 子 孫 の 上 にかかってもよい」と 叫 んだ 祭 司 たちや 役<br />

人 たちや 狂 気 のようになった 群 衆 ——こうした 人 々はみな、 自 分 たちの 罪 がどんなに<br />

凶 悪 なものであったかを 見 る。 彼 らは、 太 陽 よりも 強 い 光 を 放 つ 主 のみ 顔 の 威 光 から<br />

かくれようとするがむだである。 一 方 贖 われた 者 たちは、その 冠 を 救 い 主 の 足 もとに<br />

投 げ、「 主 はわれらのために 死 なれた」と 叫 ぶ。<br />

贖 われた 群 衆 の 中 には、 雄 々しいパウロや 熱 心 なペテロ、 愛 し 愛 されたヨハネなど<br />

キリストの 使 徒 たちや、 真 実 な 心 の 持 ち 主 であったその 兄 弟 たちがおり、 彼 らととも<br />

に 大 勢 の 殉 教 者 たちがいる。 一 方 城 壁 の 外 には、あらゆる 恥 ずべきもの 忌 むべきもの<br />

とともに、かつて 彼 らを 迫 害 し、 投 獄 し、 殺 した 者 たちがいる。かつて 聖 徒 たちを 責<br />

めさいなみ、 彼 らの 極 度 の 苦 悶 を 見 て 悪 魔 のような 喜 びを 味 わった 残 忍 非 道 なネロも<br />

いて、 自 分 がかつて 迫 害 した 人 々が 高 められ、 歓 喜 するありさまを 見 る。またネロの<br />

母 もそこにいて、 自 分 自 身 の 行 為 の 結 果 を 見 、 自 分 の 悪 い 品 性 がそのまま 息 子 に 遺 伝<br />

したこと、また 自 分 の 感 化 と 手 本 とによって 激 情 がますますひどくなり、 世 を 戦 慄 さ<br />

せるような 犯 罪 の 実 を 結 んだことを 知 る。<br />

そこにはまた、キリストの 大 使 であると 公 言 しながら、 神 の 民 の 良 心 を 支 配 しよう<br />

として、 拷 問 台 や 土 牢 や 火 刑 柱 を 使 用 した 法 王 教 の 司 祭 や 高 僧 たちがいる。 神 よりも<br />

自 分 を 高 くし、 僣 越 にもいと 高 きお 方 の 律 法 を 変 更 しようとした、 高 慢 な 法 王 たちも<br />

いる。 こうした 偽 りの 教 会 指 導 者 たちは、 神 に 対 して 申 し 開 きをしなければならない<br />

が、できることならそれを 免 れたいと 願 う。 彼 らは 全 知 全 能 の 神 が、ご 自 分 の 律 法 を<br />

非 常 に 大 事 になさるお 方 であり、また 罰 すべき 者 を 決 してお 赦 しにならない 方 である<br />

ことを 悟 るが、もう 手 遅 れである。 今 彼 らは、キリストが 苦 難 のうちにあるご 自 分 の<br />

民 と 利 害 を 1 つになさったことを 知 り、また、「わたしの 兄 弟 であるこれらの 最 も 小<br />

さい 者 のひとりにしたのは、すなわち、わたしにしたのである」との 主 ご 自 身 のみ 言<br />

葉 の 力 を 身 に 感 じるのである[マタイ 25:。<br />

全 世 界 の 悪 人 たちは、 天 の 政 府 に 対 する 大 反 逆 という 罪 名 のもとに 神 の 法 廷 に 告 訴<br />

される。 彼 らを 弁 護 する 者 もなければ、 言 いわけの 余 地 もない。こうして 永 遠 の 死 の<br />

宣 告 が 彼 らに 下 される。 罪 の 価 は 高 尚 な 独 立 や 永 遠 の 生 命 ではなくて、 奴 隷 状 態 、 滅<br />

亡 、 死 であることが、 今 すべての 人 に 明 らかになる。 悪 人 たちは、 自 分 たちの 反 逆 の<br />

生 涯 によって 何 を 失 ったかを 見 る。 彼 らは、 永 遠 の 重 い 栄 光 をあふれるばかりに 提 供<br />

された 時 にはそれを 軽 べつしたが、 今 はそれがなんと 望 ましいものにみえることだろ<br />

う。 失 われた 魂 は、「これはみなわたしのものになったかもしれなかったのに、わた<br />

しは 自 分 でそれを 遠 ざけてしまった。ああ、とんでもない 迷 いだった。わたしは 平 和<br />

498


国 際 協 定<br />

と 幸 福 と 名 誉 を、 不 幸 と 不 名 誉 と 絶 望 とにとりかえてしまった」と 叫 ぶ。どの 人 も 自<br />

分 が 天 から 除 外 されることが 正 しいことを 認 める。 彼 らは 自 らの 生 活 によって、「こ<br />

の 人 〔イエス〕が 王 になるのをわれわれは 望 んでいない」と 宣 言 したのであった。<br />

魅 せられたかのように、 悪 人 たちは 神 のみ 子 の 戴 冠 式 をながめた。 彼 らは、 神 のみ<br />

子 がそのみ 手 に、 自 分 たちが 今 まで 軽 べつし 違 反 してきた 神 の 律 法 の 板 を 持 っておら<br />

れるのを 見 る。また、 救 われた 者 たちがいっせいに 驚 嘆 と 喜 びと 賛 美 の 声 をあげるの<br />

を 見 る。そしてその 歌 声 の 波 が 城 外 の 群 衆 にまで 押 し 寄 せると、 全 部 の 者 が 異 口 同 音<br />

に、「 全 能 者 にして 主 なる 神 よ。あなたのみわざは、 大 いなる、また 驚 くべきもので<br />

あります。 万 民 の 王 よ、あなたの 道 は 正 しく、かつ 真 実 であります」と 絶 叫 し、ひれ<br />

伏 していのちの 君 を 拝 するのである[ 黙 示 録 15:。<br />

サタンはキリストの 栄 光 と 威 厳 とを 見 てまひしたようになる。かつては 守 護 のケル<br />

ブであった 彼 は、 自 分 がどこから 落 ちたかを 思 い 出 す。 光 り 輝 くセラフ、「 黎 明 の 子 、<br />

明 けの 明 星 」が、なんと 変 わり、なんと 堕 落 したことであろう。かつては 尊 敬 されて<br />

いた 会 議 から、 彼 は 永 遠 に 除 外 されてしまったのである。 彼 は、 今 は 別 の 天 使 が 神 の<br />

栄 光 をおおって 天 父 のそばに 立 っているのを 見 る。 彼 は、 背 が 高 く 威 厳 に 満 ちた 容 姿<br />

の 1 人 の 天 使 がキリストの 頭 に 冠 をのせるのを 見 、この 天 使 の 高 い 地 位 に 自 分 が 立 つ<br />

はずであったことを 知 る。<br />

サタンが 罪 を 抱 かず 純 潔 であった 時 のふるさと、 神 に 対 してつぶやき、キリストを<br />

ねたむようになるまでは 彼 のものであった 平 和 と 満 足 が、サタンの 記 憶 によみがえる。<br />

非 難 、 反 逆 、 天 使 たちの 同 情 と 支 持 を 得 るための 欺 瞞 、 神 が 赦 しをお 与 えになること<br />

ができた 時 に、あくまでも 心 をかたくなにして、もとの 状 態 に 立 ちかえる 努 力 をしな<br />

かったこと、すべてがまざまざと 目 の 前 に 浮 かぶ。 彼 は、 自 分 が 人 々の 中 でした 働 き<br />

とその 結 果 —— 人 と 人 との 間 の 敵 意 、 生 命 の 恐 るべき 破 壊 、 諸 王 国 の 興 亡 、 王 位 の 転<br />

覆 、 暴 動 と 闘 争 と 革 命 の 連 続 ——を 思 い 起 こす。 彼 はまた、 自 分 が 絶 えずキリストの<br />

み 業 に 反 対 し、 人 類 をますます 堕 落 させようと 努 めてきたことを 思 い 出 す。 彼 は、 自<br />

分 のどんな 悪 らつな 計 略 も、イエスに 信 頼 をおく 者 たちを 滅 ぼす 力 がなかったことを<br />

知 る。サタンは、その 労 苦 の 実 である 自 分 の 王 国 を 見 る 時 、ただ 失 敗 と 破 滅 だけを 見<br />

る。 彼 は 群 衆 に、 神 の 都 はやすやすと 奪 取 することができると 信 じさせてきた。しか<br />

し 彼 は、それが 偽 りであることを 知 っている。 大 争 闘 の 進 展 につれて、サタンは 何 度<br />

も 敗 北 し、 降 参 させられた。 彼 は 永 遠 なる 神 の 力 と 威 厳 とを、 身 にしみて 知 っている<br />

のである。<br />

499


国 際 協 定<br />

この 大 反 逆 者 のねらいは 常 に、 自 分 を 正 当 化 して、 反 逆 の 責 任 が 神 の 統 治 にあるこ<br />

とを 証 明 することであった。この 目 的 のために、サタンはその 絶 大 な 知 力 を 注 いでき<br />

た。 彼 は 慎 重 に、 組 織 的 に 行 動 し、 長 い 間 にわたって 進 展 してきた 大 争 闘 について、<br />

自 分 の 立 場 からの 説 明 を 驚 くほど 巧 みに 行 って、 多 くの 人 々に 信 じさせてきた。 幾 千<br />

年 にわたり、この 陰 謀 のかしらは、 偽 りを 真 理 にみせかけてきた。しかし、 反 逆 がつ<br />

いに 打 ち 破 られ、サタンの 経 歴 と 品 性 が 明 るみに 出 される 時 が、 今 きた。 大 欺 瞞 者 サ<br />

タンが、キリストを 王 位 から 退 け、 神 の 民 を 滅 ぼし、 神 の 都 を 占 領 しようと、 最 後 の<br />

努 力 をすることにおいて、 彼 の 正 体 が 完 全 に 暴 露 された。サタンと 協 力 してきた 者 た<br />

ちも、 彼 の 働 きが 全 く 失 敗 したことを 知 る。キリストに 従 う 者 たちと 忠 実 な 天 使 たち<br />

は、 神 の 統 治 に 対 するサタンの 陰 謀 の 全 容 を 見 る。サタンは 全 宇 宙 の 憎 悪 の 的 とな<br />

る。<br />

サタンは、 自 分 から 進 んで 反 逆 したことによって、 自 分 が 天 に 適 しない 者 になった<br />

ことを 知 る。 彼 は 神 と 戦 うために 自 分 の 能 力 を 訓 練 してきた。 彼 にとっては、 天 の 純<br />

潔 と 平 和 と 調 和 とはこの 上 ない 苦 痛 となるであろう。 神 の 憐 れみと 正 義 に 対 するサタ<br />

ンの 非 難 は、 今 こそ 沈 黙 させられた。 彼 が 主 に 浴 びせようと 努 めてきた 非 難 は、 全 部<br />

彼 自 身 に 向 けられる。そして 今 、サタンはひれふして、 自 分 の 上 にくだった 判 決 が 正<br />

しいことを 認 める。<br />

「 主 よ、あなたをおそれず、 御 名 をほめたたえない 者 が、ありましょうか。あなた<br />

だけが 聖 なるかたであり、あらゆる 国 民 はきて、あなたを 伏 し 拝 むでしょう。あなた<br />

の 正 しいさばきが、あらわれるに 至 ったからであります」[ 黙 示 録 15:。 長 年 にわた<br />

って 争 われてきた 真 理 と 誤 謬 のすべての 問 題 が、 今 明 らかにされた。 反 逆 の 結 果 、す<br />

なわち 神 の 律 法 を 廃 することの 結 果 が、すべての 知 的 被 造 物 の 目 の 前 で 明 らかになっ<br />

た。 神 の 統 治 と 対 照 的 なサタンの 支 配 が 行 われた 結 果 が、 全 宇 宙 の 前 に 公 開 された。<br />

サタン 自 身 の 行 為 が、 彼 を 罪 に 定 めたのである。 神 の 知 恵 と 正 義 といつくしみとが、<br />

完 全 に 擁 護 される。 大 争 闘 における 神 のすべての 処 置 は、ご 自 分 の 民 の 永 遠 の 幸 福 の<br />

ために、そして 神 の 創 造 されたすべての 世 界 の 幸 福 のために 行 われたものであること<br />

が 明 らかになる。<br />

「 主 よ、あなたのすべてのみわざはあなたに 感 謝 し、あなたの 聖 徒 はあなたをほめ<br />

まつるでしょう」[ 詩 篇 145:。 罪 の 歴 史 は、 神 が 創 造 されたすべての 者 の 幸 福 が 神 の<br />

律 法 の 存 在 と 結 びついていることを、 永 遠 にわたってあかしする。 大 争 闘 のいっさい<br />

の 事 実 が 明 らかになると、 全 宇 宙 は、 忠 誠 な 者 も 反 逆 者 も、 異 口 同 音 に、「 万 民 の 王<br />

よ、あなたの 道 は 正 しく、かつ 真 実 であります」と 言 明 する。<br />

500


国 際 協 定<br />

人 類 のために 天 父 とみ 子 によって 払 われた 大 犠 牲 が、 全 宇 宙 の 前 に 明 らかにされた。<br />

今 こそキリストがご 自 分 の 正 当 な 地 位 を 占 め、すべての 支 配 、 権 威 、また 唱 えられる<br />

あらゆる 名 にまさってあがめられる 時 が 来 た。キリストが 恥 をもいとわないで 十 字 架<br />

に 耐 えられたのは、ご 自 分 の 前 に 置 かれた 喜 びのため、すなわち、 多 くの 子 らを 栄 え<br />

に 入 らせるためであった。その 悲 しみと 恥 は 想 像 できないほど 大 きかったが、しかし<br />

喜 びと 栄 光 はそれよりも 大 きいのである。キリストは、 贖 われた 者 たちがご 自 分 のみ<br />

かたちに 回 復 され、そのおのおのの 心 に 神 の 完 全 なお 姿 を 宿 し、その 顔 に 王 なる 神 の<br />

みかたちを 反 映 するのを 見 られる。 主 は、ご 自 分 の 魂 の 苦 しみの 結 果 が、 彼 らの 上 に<br />

現 れているのをごらんになって 満 足 される。そして 主 は、 義 人 の 群 れにも 悪 人 の 群 れ<br />

にも 聞 こえる 声 で、「 見 よ、わたしの 血 をもって 贖 ったものを。わたしが 彼 らのため<br />

に 苦 難 を 受 け、 彼 らのために 死 んだのは、 永 遠 に 彼 らをわたしの 前 におらせるためで<br />

ある」と 主 は 宣 言 される。そして、み 座 の 周 囲 の 白 い 衣 をまとった 者 たちが、「ほふ<br />

られた 小 羊 こそは、 力 と、 富 と、 知 恵 と、 勢 いと、ほまれと、 栄 光 と、さんびとを 受<br />

けるにふさわしい」と 賛 美 する 歌 声 があがる[ 黙 示 録 5:。<br />

サタンは、 神 の 正 義 を 認 めて、キリストの 主 権 の 前 にひれふさずにはいられなかっ<br />

たにもかかわらず、 彼 の 品 性 はもとのままである。 反 逆 の 精 神 は、 奔 流 のように、 再<br />

び 爆 発 する。 狂 気 の 思 いに 満 たされて、 彼 は 大 争 闘 に 負 けまいと 決 心 する。 天 の 王 に<br />

対 して 最 後 の 必 死 の 戦 いをする 時 が 来 た。 彼 は 部 下 たちの 真 ん 中 にとび 込 んで 行 って、<br />

自 分 自 身 の 怒 りを 彼 らに 吹 き 込 み、 直 ちに 戦 いに 奮 起 させようとする。<br />

しかし、サタンが 反 逆 におびき 入 れた 無 数 の 群 衆 の 中 で、サタンの 主 権 を 承 認 する<br />

者 は 1 人 もいない。サタンの 権 力 は 終 わりを 告 げたのである。 悪 人 たちは、サタンを<br />

奮 起 させたのと 同 じ 神 に 対 する 憎 悪 の 念 に 燃 えているが、しかし 自 分 たちの 立 場 が 絶<br />

望 的 であることと、 主 に 勝 つことができないこととを 知 っている。 彼 らの 怒 りはサタ<br />

ンと、サタンの 欺 瞞 の 手 先 であった 者 たちとに 向 けられる。 彼 らは 悪 鬼 のような 怒 り<br />

に 満 たされて、 彼 らにとびかかる。<br />

主 はこう 言 われる、「あなたは 自 分 を 神 のように 賢 いと 思 っているゆえ、 見 よ、わ<br />

たしは、もろもろの 国 民 の 最 も 恐 れている 異 邦 人 をあなたに 攻 めこさせる。 彼 らはつ<br />

るぎを 抜 いて、あなたが 知 恵 をもって 得 た 麗 しいものに 向 かい、あなたの 輝 きを 汚 し、<br />

あなたを 穴 に 投 げ 入 れる。」「このゆえに、おおうことをなすところのケルブよ、わ<br />

れ…… 火 の 石 の 間 より 汝 を 滅 ぼし 去 るべし……われ 汝 を 地 になげうち 汝 を 王 たちの 前<br />

に 置 きて 観 物 とならしむべし…… 汝 を 見 る 者 の 目 の 前 にて 汝 を 地 に 灰 となさん…… 汝<br />

は 人 のおそれとなり、 限 りなくうせはてん」[エゼキエル 28:6~8、16~19・ 文 語<br />

訳 ]。<br />

501


国 際 協 定<br />

「すべて 戦 場 で、 歩 兵 のはいたくつと、 血 にまみれた 衣 とは、 火 の 燃 えくさとなっ<br />

て 焼 かれる。」「 主 はすべての 国 にむかって 怒 り、そのすべての 軍 勢 にむかって 憤 り、<br />

彼 らをことごとく 滅 ぼし、 彼 らをわたして、ほふらせられた。」「 主 は 悪 しき 者 の 上<br />

に 炭 火 と 硫 黄 とを 降 らせられる。 燃 える 風 は 彼 らがその 杯 にうくべきものである」[イ<br />

ザヤ 9:5、34:2、 詩 篇 11:。 火 が 天 の 神 のみもとからくだる。 地 はくずれる。 地<br />

の 深 いところに 隠 されていた 武 器 が 引 き 出 される。 焼 き 尽 くす 炎 が、 地 のすべての 裂<br />

け 目 から 吹 き 出 す。 岩 石 そのものが 火 になる。「 炉 のように 燃 える 日 」が 来 たのであ<br />

る。「 天 体 は 焼 けてくずれ、 地 とその 上 に 造 り 出 されたものも、みな 焼 きつくされる」<br />

[マラキ 4:1、Ⅱペテロ 3:。 地 の 表 面 は、ちょうど 溶 けたか たまり、 巨 大 な 沸 騰 す<br />

る 火 の 池 のように 見 える。それは 神 を 敬 わない 者 たちの、 刑 罰 と 滅 びの 時 である。<br />

「 主 はあだをかえす 日 をもち、シオンの 訴 えのために 報 いられる 年 をもたれる」[イザ<br />

ヤ 34:。<br />

悪 人 はこの 地 上 で 報 いを 受 ける。「 万 軍 の 主 は 言 われる、 見 よ、 炉 のように 燃 える<br />

日 が 来 る。……その 来 る 日 は、 彼 らを 焼 き 尽 して、 根 も 枝 も 残 さない」[マラキ 4:。<br />

一 瞬 のうちに 滅 ぼされる 者 もあり、 多 くの 日 の 間 苦 しむ 者 もある。みな「 彼 らの 行 い<br />

にしたがって」 罰 せられる。 義 人 の 罪 はサタンに 移 されたので、サタンは 自 分 自 身 の<br />

反 逆 の 罪 だけでなく、 神 の 民 に 犯 させたすべての 罪 のために 苦 しむ。 彼 の 受 ける 刑 罰<br />

は、 彼 がだました 者 たちの 刑 罰 よりずっと 重 い。サタンの 欺 きによって 堕 落 した 者 た<br />

ちがすべて 滅 びたのちも、 彼 はまだ 生 き 残 って 苦 しみを 受 ける。きよめの 火 によって、<br />

悪 人 たちは 根 も 枝 もついに 滅 ぼされた。サタンが 根 であり、サタンに 従 う 者 たちが 枝<br />

である。 律 法 の 刑 罰 は 全 部 くだり、 正 義 の 要 求 は 果 たされた。 天 と 地 はこれを 見 て、<br />

主 の 義 を 宣 言 する。<br />

サタンの 破 壊 の 働 きは、 永 久 に 終 わりを 告 げた。6000 年 の 間 、 彼 は 自 分 の 意 志 を<br />

実 行 し、 地 を 災 いで 満 たし、 全 宇 宙 を 悲 しませてきた。 被 造 物 全 体 が 共 にうめき、 共<br />

に 産 みの 苦 しみをしてきた。 今 や 神 の 被 造 物 は、サタンの 存 在 と 誘 惑 から 永 久 に 解 放<br />

された。「 全 地 はやすみを 得 、 穏 やかになり、ことごとく 声 をあげて 歌 う」[イザヤ<br />

14:。 賛 美 と 勝 利 の 歌 が、 忠 誠 な 全 宇 宙 からわき 起 こる。「 大 群 衆 の 声 、 多 くの 水 の<br />

音 、また 激 しい 雷 鳴 のようなもの」が、「ハレルヤ、 全 能 者 にして 主 なるわれらの 神<br />

は、 主 なる 支 配 者 であられる」というのが 聞 こえる[ 黙 示 録 19:。<br />

地 は 滅 亡 の 火 をもって 包 まれたが、 義 人 は 聖 都 の 中 に 安 全 にいた。 第 一 の 復 活 にあ<br />

ずかった 者 たちには、 第 二 の 死 はなんの 力 もない。 神 は 悪 人 たちにとっては 焼 き 尽 く<br />

す 火 であるが、 神 の 民 にとっては 日 であり、 盾 である[ 黙 示 録 20:6、 詩 篇 84:11 参<br />

照 ]。 「わたしはまた、 新 しい 天 と 新 しい 地 とを 見 た。 先 の 天 と 地 とは 消 え 去 り、 海<br />

502


国 際 協 定<br />

もなくなってしまった」[ 黙 示 録 21:。 悪 人 たちを 焼 き 尽 くす 火 が 地 をきよめる。あ<br />

らゆる 災 いの 跡 は 一 掃 される。 地 獄 の 火 が 永 遠 に 燃 え 続 けて、 贖 われた 者 たちの 前 に<br />

罪 のおそるべき 結 果 をいつまでも 示 す、などというようなことはないのである。<br />

思 い 出 させるものがただ 1 つある。われわれの 救 い 主 は、 永 遠 に 十 字 架 の 傷 跡 をと<br />

どめられるのである。 主 の 傷 ついたみ 頭 に、その 脇 腹 に、その 手 と 足 に、 罪 の 残 酷 な<br />

しわざの 唯 一 の 跡 がある。 預 言 者 ハバククは 栄 光 のキリストを 見 て、「その 光 は 彼 の<br />

手 〔 脇 腹 —— 英 語 訳 〕からほとばしる。かしこにその 力 を 隠 す」と 言 っている[ハバク<br />

ク 3:。 人 類 を 神 に 和 らがせる 真 紅 の 血 潮 がほとばしり 出 た、 主 の 突 き 通 された 脇<br />

腹 ——そこに 救 い 主 の 栄 光 があり、そこに 主 の 力 が 隠 されている。 主 は 贖 いの 犠 牲 に<br />

よって、「 救 いを 施 す 力 ある」おかたとなられたので、 神 のあわれみをあなどった 者<br />

たちに 対 しては、 強 い 態 度 でさばきを 執 行 されたのである。 救 い 主 の 屈 辱 のしるしこ<br />

そは、 救 い 主 の 最 高 の 栄 誉 である。カルバリーの 傷 跡 は 永 遠 にわたって、 主 への 賛 美<br />

を 示 し、 主 の 力 を 宣 言 する。<br />

「 羊 の 群 れのやぐら、シオンの 娘 の 山 よ、 以 前 の 主 権 はあなたに 帰 ってくる」[ミ<br />

カ 4:。 炎 の 剣 によってアダムとエバがエデンからしめ 出 されて 以 来 、 聖 徒 たちが 待<br />

ちこがれていたところの、「 神 につける 者 が 全 くあがなわれ」る 時 がきた[エペソ 1:。<br />

もともと 人 にその 王 国 として 与 えられたのに、サタンの 手 に 売 り 渡 され、 長 い 間 強 力<br />

な 敵 に 占 領 されてきた 地 が、 大 いなる 贖 いの 計 画 によって 再 びもどされたのである。<br />

罪 によって 失 われたいっさいのものは 回 復 された。「 天 を 創 造 された 主 、すなわち 神<br />

であってまた 地 をも 造 り 成 し、これを 堅 くし、いたずらにこれを 創 造 されず、これを<br />

人 のすみかに 造 られた 主 はこう 言 われる」[イザヤ 45:。 地 上 が 贖 われた 者 たちの 永<br />

遠 のすみかとなる 時 、 地 を 創 造 された 時 の 神 の 最 初 の 目 的 が 達 成 される。「 正 しい 者<br />

は 国 を 継 ぎ、とこしえにその 中 に 住 むことができる」[ 詩 篇 37:。<br />

未 来 の 嗣 業 をあまりにも 物 質 的 なものに 思 わせはしないかとの 恐 れから、それをわ<br />

れわれの 住 まいとして 見 るようにと 教 えられている 真 理 そのものを 霊 的 なものにして<br />

しまう 人 が 多 い。 キリストは 弟 子 たちに、わたしはあなたがたのために 父 の 家 に 住 む<br />

ところを 備 えに 行 くのだとはっきり 言 われた。 神 のみ 言 葉 の 教 えを 受 け 入 れる 者 は、<br />

天 の 住 まいについて 全 く 無 知 ではない。しかもなお、「 目 がまだ 見 ず、 耳 がまだ 聞 か<br />

ず、 人 の 心 に 思 い 浮 びもしなかったことを、 神 は、ご 自 分 を 愛 する 者 たちのために 備<br />

えられた」のである[Ⅰコリント 2:。 人 間 の 言 葉 では、 義 人 の 受 ける 報 いを 十 分 に 描<br />

写 することはできない。それは 見 るものだけがわかるであろう。 限 りある 人 知 では、<br />

神 のパラダイスの 栄 光 を 理 解 することができない。<br />

503


国 際 協 定<br />

聖 書 の 中 では、 救 われた 者 の 嗣 業 が「ふるさと」と 呼 ばれている[ヘブル 11:14~<br />

16 参 照 ]。そこでは 天 の 大 牧 者 イエスが、ご 自 分 の 群 れを 生 ける 水 の 源 に 連 れて 行 っ<br />

てくださる。いのちの 木 は 月 ごとにその 実 を 結 び、その 葉 は 万 民 のために 用 いられる。<br />

水 晶 のように 透 きとおった 川 が 永 遠 に 流 れ、そのそばにはゆれ 動 く 木 々が、 主 に 贖 わ<br />

れた 者 たちのために 備 えられた 道 の 上 に 影 を 投 げている。 広 々とひろがった 平 野 の 果<br />

ては、 美 しい 丘 となって 盛 りあがり、 神 の 山 々が 高 くそびえ 立 っている。この 平 和 な<br />

平 原 に、また 生 ける 流 れのほとりに、 久 しい 年 月 の 間 旅 人 であり 寄 留 者 であった 神 の<br />

民 が、その 住 まいを 見 いだすのである。<br />

「わが 民 は 平 和 の 家 におり、 安 らかなすみかにおり、 静 かな 休 み 所 におる。」「 暴<br />

虐 は、もはやあなたの 地 に 聞 かれず、 荒 廃 と 滅 亡 は、もはやあなたの 境 のうちに 聞 か<br />

れず、あなたはその 城 壁 を『 救 』ととなえ、その 門 を『 誉 』ととなえる。」「 彼 らは<br />

家 を 建 てて、それに 住 み、ぶどう 畑 を 作 って、その 実 を 食 べる。 彼 らが 建 てる 所 に、<br />

ほかの 人 は 住 まず、 彼 らが 植 えるものは、ほかの 人 が 食 べない……わが 選 んだ 者 は、<br />

その 手 のわざをながく 楽 しむからである」[イザヤ 32:18、60:18、65:21、。<br />

そこにおいて、「 荒 野 と、かわいた 地 とは 楽 しみ、さばくは 喜 びて 花 咲 き、」「い<br />

とすぎは、いばらに 代 って 生 え、ミルトスの 木 は、おどろに 代 って 生 える」[イザヤ<br />

35:1、55:。「おおかみは 小 羊 と 共 にやどり、ひょうは 子 やぎと 共 に 伏 し、…… 小<br />

さいわらべに 導 かれ、」「 彼 らはわが 聖 なる 山 のどこにおいても、そこなうことなく、<br />

やぶることがない」と 神 は 言 われる[イザヤ 11:6、。 天 のふんい 気 の 中 では、 苦 痛<br />

は 存 在 することができない。もはや 涙 はなく、 葬 式 の 行 列 も 喪 章 もない。「もはや、<br />

死 もなく、 悲 しみも、 叫 びも、 痛 みもない。 先 のものが、すでに 過 ぎ 去 ったからであ<br />

る」[ 黙 示 録 21:。「そこに 住 む 者 のうちには、『わたしは 病 気 だ』と 言 う 者 はなく、<br />

そこに 住 む 民 はその 罪 がゆるされる」[イザヤ 33:。<br />

そこには 栄 化 された 新 しい 地 の 首 都 、 新 エルサレムがある。それは「 王 の 手 にある<br />

麗 しい 冠 」「あなたの 神 の 手 にある 王 の 冠 」である[イザヤ 62:。「その 都 の 輝 きは、<br />

高 価 な 宝 石 のようであり、 透 明 な 碧 玉 のようであった。」「 諸 国 民 は 都 の 光 の 中 を 歩<br />

き、 地 の 王 たちは、 自 分 たちの 光 栄 をそこに 携 えて 来 る」[ 黙 示 録 21:11、。「わた<br />

しはエルサレムを 喜 び、わが 民 を 楽 しむ」と 主 は 言 われる[イザヤ 65:。「 見 よ、 神<br />

の 幕 屋 が 人 と 共 にあり、 神 が 人 と 共 にすみ、 人 は 神 の 民 となり、 神 自 ら 人 と 共 にいま」<br />

す[ 黙 示 録 21:。 神 の 都 には「 夜 は、もはやない。」 休 みの 必 要 な 者 や、 休 みをほし<br />

いと 思 う 者 はだれもいない。 神 のみこころを 行 い、そのみ 名 を 賛 美 するのに、 疲 れる<br />

ことがない。いつも 朝 のすがすがしさを 感 じ、それは 決 して 尽 きることがない。「あ<br />

かりも 太 陽 の 光 も、いらない。 主 なる 神 が 彼 らを 照 」らされるからである[ 黙 示 録<br />

504


国 際 協 定<br />

22:。 太 陽 の 光 線 の 代 わりに、 目 にまぶしくない 光 が 与 えられるが、その 明 るさは 今<br />

の 真 昼 の 輝 きよりもはるかにまさっている。 神 と 小 羊 の 栄 光 は、 衰 えることのない 光<br />

をもって 神 の 都 に 満 ちあふれる。 贖 われた 者 たちは、 太 陽 のない、しかもとこしえの<br />

昼 の 光 の 中 を 歩 むのである。 「わたしは、この 都 の 中 には 聖 所 を 見 なかった。 全 能 者<br />

にして 主 なる 神 と 小 羊 とが、その 聖 所 なのである」[ 黙 示 録 21:。 神 の 民 は 天 父 とみ<br />

子 とに 自 由 に 交 わる 特 権 がある。「わたしたちは、 今 は、 鏡 に 映 して 見 るようにおぼ<br />

ろげに 見 ている」[Ⅰコリント 13:。われわれは 神 のみ 姿 が、 自 然 界 のみ 業 と 人 間 に<br />

対 する 神 の 取 り 扱 いとに 反 映 しているのを、ちょうど 鏡 の 中 に 見 るように 見 ている。<br />

しかしその 時 には、 中 間 にうすぐらい 幕 をはさまずに、 顔 と 顔 とを 合 わせて 神 を 見 る。<br />

われわれは 神 のみ 前 に 立 ち、そのみ 顔 の 栄 光 を 見 るのである。そこでは 贖 われた 者 た<br />

ちは、「 完 全 に 知 られているように、 完 全 に 知 る」のである。 神 ご 自 身 が 魂 にうえつ<br />

けられた 愛 と 同 情 とは、そこで 最 も 真 実 な、 最 も 美 しいものとして 発 揮 される。 聖 者<br />

たちとのきよい 交 わり、 聖 なる 天 使 たち、 及 びその 衣 を 小 羊 の 血 で 洗 って 白 くした 各<br />

時 代 の 忠 実 な 者 たちとの、むつまじい 社 会 生 活 、「 天 と 地 の 全 家 族 」を 1 つに 結 びつ<br />

ける 聖 なるきずな——こうしたものが、 贖 われた 者 たちの 幸 福 となる[エペソ 3:15・<br />

英 語 訳 ]。<br />

そこでは、 不 死 の 者 たちが、 創 造 力 の 驚 異 、 贖 いの 愛 の 奥 義 を、 永 遠 に 尽 きない 喜<br />

びをもって 研 究 する。 人 を 誘 惑 して 神 を 忘 れさせるような、 残 酷 で 欺 瞞 的 な 敵 はもう<br />

いない。すべての 才 能 が 発 達 し、すべての 能 力 が 増 大 する。 知 識 を 獲 得 するのに、 頭<br />

脳 を 疲 れさせたり、 精 力 を 使 いきってしまったりするようなことはない。そこではど<br />

んな 大 きな 企 画 も 実 行 され、どんな 遠 大 な 抱 負 も 達 成 され、どんな 大 望 も 実 現 される。<br />

そしてそれでもなお、 越 えるべき 新 しい 高 いところ、 感 嘆 すべき 新 しい 驚 異 、 理 解 す<br />

べき 新 しい 真 理 、 頭 と 心 と 体 の 能 力 を 呼 び 起 こす 新 たな 対 象 が 現 れてくる。<br />

宇 宙 のすべての 宝 は、 贖 われた 神 の 民 が 研 究 するために 開 放 される。 死 ぬべき 人 間<br />

という 拘 束 をうけないで、 彼 らは、はるかに 遠 い 他 世 界 —— 人 間 の 悲 惨 な 光 景 を 見 て<br />

悲 しみに 身 を 震 わせ、1 人 の 魂 が 救 われた 知 らせに 歓 喜 の 歌 をひびかせた 他 世 界 ——<br />

へ、 疲 れも 覚 えず 飛 行 する。 言 葉 では 言 い 尽 くすことのできない 喜 びをもって、 地 上<br />

の 子 らは、 他 世 界 の 住 民 たちの 喜 びと 知 恵 にあずかる。 世 々にわたって 神 のみ 手 の 業<br />

を 熟 視 して 得 られた 知 識 と 悟 りの 宝 に、 彼 らは 共 にあずかる。くもりのない 目 をもっ<br />

て、 彼 らは 創 造 の 栄 光 を 見 つめる。すなわち、もろもろの 太 陽 や 星 や 天 体 が、おのお<br />

のその 定 められた 軌 道 を 通 って、 神 のみ 座 の 周 囲 を 運 行 しているのを 見 るのである。<br />

最 も 小 さなものから 最 も 大 きなものに 至 るまで、すべてのものの 上 に、 創 造 主 のみ 名<br />

が 書 きしるされ、すべてのものらの 中 に 神 の 力 の 富 が 示 されている。<br />

505


国 際 協 定<br />

永 遠 の 年 月 が 経 過 するにつれて、 神 とキリストについてますます 豊 かでますます 輝<br />

かしい 啓 示 がもたらされる。 知 識 が 進 歩 していくように、 愛 と 尊 敬 と 幸 福 も 増 してい<br />

く。 人 々は 神 について 学 べば 学 ぶほど、ますます 神 のご 品 性 に 感 嘆 するようになる。<br />

イエスが 彼 らの 前 に、 贖 いの 富 と、サタンとの 大 争 闘 における 驚 くべき 功 績 とをお 示<br />

しになると、 贖 われた 者 たちの 心 はいっそう 熱 烈 な 献 身 の 念 に 燃 え 立 ち、いよいよ 喜<br />

びに 満 たされて 黄 金 の 立 琴 をかき 鳴 らし、 万 の 幾 万 倍 、 千 の 幾 千 倍 の 声 が 1 つになり、<br />

賛 美 の 一 大 コーラスとなって 盛 りあがる。<br />

「また、わたしは、 天 と 地 、 地 の 下 と 海 の 中 にあるすべての 造 られたもの、そして、<br />

それらの 中 にあるすべてのものの 言 う 声 を 聞 いた、『 御 座 にいますかたと 小 羊 とに、<br />

さんびと、ほまれと、 栄 光 と、 権 力 とが、 世 々 限 りなくあるように』」[ 黙 示 録<br />

5:。 大 争 闘 は 終 わった。もはや 罪 はなく 罪 人 もいない。 全 宇 宙 はきよくなった。 調<br />

和 と 喜 びのただ 1 つの 脈 拍 が、 広 大 な 大 宇 宙 に 脈 打 つ。いっさいを 創 造 されたお 方 か<br />

ら、いのちと 光 と 喜 びとが、 無 限 に 広 がっている 空 間 に 流 れ 出 る。 最 も 微 細 な 原 子 か<br />

ら 最 大 の 世 界 に 至 るまで、 万 物 は、 生 物 も 無 生 物 も、かげりのない 美 しさと 完 全 な 喜<br />

びをもって、 神 は 愛 であると 告 げる。<br />

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終 わりを 見 越 して

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