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国際協定_ja

それゆえ、全世界、いや、一つの国やかなりの人数の人々の上にキリスト教の共同 政府が存在することは問題外である。悪人は善人よりも常に数が多いから。ですか ら、あえて福音で国全体や世界を治めようとする人は、狼、ライオン、鷲、羊を一 つの群れに入れて、互いに自由に交わらせる羊飼いのようなもので、こう言います。 折り目は開いていて、食べ物もたくさんあります。犬や棒を恐れる必要はありませ ん」。羊たちは間違いなく平和を守り、自分たちに食べ物を与え、平和的に統治す ることを許すだろうが、彼らは長くは生きられず、一匹の獣が他の獣を存続させる こともないだろう。

それゆえ、全世界、いや、一つの国やかなりの人数の人々の上にキリスト教の共同 政府が存在することは問題外である。悪人は善人よりも常に数が多いから。ですか ら、あえて福音で国全体や世界を治めようとする人は、狼、ライオン、鷲、羊を一 つの群れに入れて、互いに自由に交わらせる羊飼いのようなもので、こう言います。 折り目は開いていて、食べ物もたくさんあります。犬や棒を恐れる必要はありませ ん」。羊たちは間違いなく平和を守り、自分たちに食べ物を与え、平和的に統治す ることを許すだろうが、彼らは長くは生きられず、一匹の獣が他の獣を存続させる こともないだろう。

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エレン・G・ホワイト


New Covenant Publications International Ltd. Japanese<br />

版 権 ©2020. 国 際 新 しい 契 約 の 出 版 物 。<br />

無 断 で 複 写 転 載 することを 禁 じます。 本 書 のいかなる 部 分 も 弊 社 の 許 諾 なく 検 索 システ<br />

ムへ 保 存 したり、 電 子 データ、 紙 媒 体 、または 録 音 などの 方 法 で 複 写 ・ 転 送 するこ<br />

とを 禁 じます。<br />

この 文 書 は、 国 際 著 作 権 法 によって 保 護 されています。この 文 書 のいかなる 部 分 も、い<br />

かなる 形 式 でも 複 製 、 配 布 、 翻 訳 、または 送 信 することはできません。 または、 電 子<br />

的 または 機 械 的 、コピー、 記 録 、または 保 存 を 含 む 任 意 の 手 段 あらゆる 情 報 の 保 存 お<br />

よび 検 索 システム。<br />

式 や 手 段 によって。ISBN:359-2-85933-609-1<br />

データカタログ<br />

編 集 とデザイン: 国 際 新 しい 契 約 の 出 版 物 。<br />

イギリスで 印 刷 。<br />

初 版 2020 年 5 月 26 日<br />

New Covenant Publications International Ltd.,<br />

Kemp House, 160 City Road, London, EC1V 2NX<br />

ウェブサイトをご 覧 ください:www.newcovenant.co.uk


国 際 協 定<br />

エレン G.ホワイト


それゆえ、 全 世 界 、いや、 一 つの 国 やかなりの 人 数 の 人 々の 上 にキリスト 教 の 共 同<br />

政 府 が 存 在 することは 問 題 外 である。 悪 人 は 善 人 よりも 常 に 数 が 多 いから。ですか<br />

ら、あえて 福 音 で 国 全 体 や 世 界 を 治 めようとする 人 は、 狼 、ライオン、 鷲 、 羊 を 一<br />

つの 群 れに 入 れて、 互 いに 自 由 に 交 わらせる 羊 飼 いのようなもので、こう 言 います。<br />

折 り 目 は 開 いていて、 食 べ 物 もたくさんあります。 犬 や 棒 を 恐 れる 必 要 はありませ<br />

ん」。 羊 たちは 間 違 いなく 平 和 を 守 り、 自 分 たちに 食 べ 物 を 与 え、 平 和 的 に 統 治 す<br />

ることを 許 すだろうが、 彼 らは 長 くは 生 きられず、 一 匹 の 獣 が 他 の 獣 を 存 続 させる<br />

こともないだろう。<br />

第 4 部<br />

世 俗 的 な 権 威 と 服 従 の 限 界 について, 1523<br />

マルチン・ルーサー.


このページは 意 図 的 に 空 白 になっています。


New Covenant Publications<br />

International Ltd.<br />

改 革 ブック、 変 換 された 心 は<br />

New Covenant Publications International Ltd.,<br />

Kemp House, 160 City Road, London, EC1V 2NX<br />

Email: newcovenantpublicationsintl@gmail.com


謝 辞<br />

この 本 を 天 の 神 にささげる


序 文<br />

新 しい 契 約 出 版 物 国 際 は、 天 と 地 を 結 合 し、 愛 の 律 法 の 永 続 性 を 強 化 する 神 の 計 画 を<br />

読 者 に 再 接 続 します. ロゴ、 契 約 の 箱 は、キリスト イエスと 彼 の 人 々と 神 の 律 法 の 中<br />

心 性 との 間 の 親 密 さを 表 しています. 新 しい 契 約 とはこうだ - の 書 にあるとおりです<br />

"わたしは、わたしのおきてを 彼 らの 心 に 刻 みつける。そのため 彼 らは、わたしをあ<br />

がめたいという 気 持 ちになる。こうして、 彼 らは 文 字 どおりわたしの 民 となり、わた<br />

しは 彼 らの 神 となる。" (エレミヤ 書 31:31-33) 確 かに、 新 しい 契 約 は 償 還 を 証 明 し<br />

、 衰 えのない 闘 争 によって 生 まれ、 血 によって 封 印 されます.<br />

数 え 切 れないほどの 世 紀 のために、 多 くは 真 実 を 消 し 去 るために 計 算 され、かじり 苦<br />

悩 と 不 可 解 な 弾 圧 を 耐 えてきました.<br />

特 に 暗 黒 時 代 に,この 光 は 非 常 に 四 面 楚 歌 と 人<br />

間 の 伝 統 と 人 気 の 無 知 によって 隠 されていました, 世 界 の 住 民 は 知 恵 を 軽 蔑 し、 契 約<br />

を 犯 していたの<br />

増 殖 する 悪 との 妥 協 の 疫 病 は、 多 くの 人 生 が 不 当 に 犠 牲 にされ、 良<br />

心 の 自 由 を 放 棄 することを 拒 否 した、 放 逸 な 退 化 と 悪 魔 的 な 非 人 道 的 な 惨 状 を 引<br />

そ<br />

れにもかかわらず、 失 われた 知 識 は、 特 に 改 革 の 時 に 復 活 した.<br />

16 世 紀 の 改 革 の 時 代 は、 反 改 革 に 反 映 されるように、 真 実 、 根 本 的 な 変 化 とその 結<br />

果 としての 乱 流 の 瞬 間 を 巻 き 起 こしました. しかし、この 巻 を 通 じて、 改 革 者 や 他 の<br />

勇 敢 な 開 拓 者 の 視 点 から、この 特 異 な 革 命 の 否 定 できない 意 義 を 再 発 見 する. 彼 らの<br />

説 明 から、 荒 廃 した 戦 い、そのような 驚 異 的 な 抵 抗 と 超 自 然 的 な 介 入 の 根 底 にある 理<br />

由 を 理 解 することができます.<br />

私 たちのモットー:" 改 革 ブック、 変 換 された 心 は、" 重 要 な 時 代 とその 影 響 で 構 成 さ<br />

れる 文 学 の 明 確 なジャンルを、 強 調 する. それはまた 個 人 的 な 改 革 、 再 生 および 変 形<br />

の 緊 急 を 共 鳴 させる. 翻 訳 の 代 理 店 によって 結 合 されたグーテンベルク 印 刷 機 として<br />

、 改 革 信 仰 の 原 則 を 広 め、 約 500 年 前 に、デジタル 化 されたプレスとオンラインメデ<br />

ィア.


国 際 協 定


国 際 協 定<br />

2


国 際 協 定<br />

目 次<br />

第 1 章 世 界 の 運 命 の 預 言 .............................................................................................................. 6<br />

第 2 章 迫 害 の 火 ............................................................................................................................ 22<br />

第 3 章 暗 黒 時 代 ............................................................................................................................ 30<br />

第 4 章 ライトベアラー ................................................................................................................ 39<br />

第 5 章 真 実 のチャンピオン ........................................................................................................ 52<br />

第 6 章 2 人 のヒーロー ..................................................................................................................... 65<br />

第 7 章 革 命 の 始 まり .................................................................................................................... 82<br />

第 8 章 裁 判 所 の 前 に .................................................................................................................. 100<br />

第 9 章 スイスにおける 改 革 運 動 .............................................................................................. 120<br />

第 10 章 ドイツ 宗 教 改 革 の 進 展 ................................................................................................ 130<br />

第 11 章 信 教 の 自 由 のための 戦 い ............................................................................................ 139<br />

第 12 章 フランスの 改 革 ............................................................................................................ 150<br />

第 13 章 北 欧 諸 国 の 宗 教 改 革 .................................................................................................... 169<br />

第 14 章 イングランドの 宗 教 改 革 ............................................................................................... 175<br />

第 15 章 フランス 革 命 ................................................................................................................ 190<br />

第 16 章 自 由 の 地 ........................................................................................................................ 207<br />

第 17 章 最 大 の 希 望 .................................................................................................................... 215<br />

第 18 章 最 も 重 要 な 預 言 ............................................................................................................ 228<br />

第 19 章 光 と 真 理 の 証 を ............................................................................................................ 249<br />

第 20 章 世 界 目 覚 め .................................................................................................................... 258<br />

第 21 章 真 理 の 拒 否 .................................................................................................................... 273<br />

第 22 章 預 言 の 成 就 .................................................................................................................... 285<br />

第 23 章 聖 所 とは 何 か ................................................................................................................ 300<br />

第 24 章 天 の 至 聖 所 における .................................................................................................... 311<br />

3


国 際 協 定<br />

第 25 章 成 就 した 予 言 ................................................................................................................ 318<br />

第 26 章 改 革 の 仕 事 .................................................................................................................... 332<br />

第 27 章 変 容 した 人 生 ................................................................................................................ 340<br />

第 28 章 天 における 調 査 審 判 .................................................................................................... 354<br />

第 29 章 罪 悪 の 起 源 .................................................................................................................... 364<br />

第 30 章 地 獄 の 敵 意 .................................................................................................................... 374<br />

第 31 章 天 使 と 精 神 .................................................................................................................... 379<br />

第 32 章 悪 質 な 欺 瞞 .................................................................................................................... 384<br />

第 33 章 人 は 死 んだらどうなるか ............................................................................................ 394<br />

第 34 章 悪 霊 ................................................................................................................................ 410<br />

第 35 章 良 心 の 自 由 の 危 機 ........................................................................................................ 419<br />

第 36 章 困 った 時 の .................................................................................................................... 433<br />

第 37 章 ただ 1 つの 牙 城 —— 聖 書 ............................................................................................. 441<br />

第 38 章 最 終 警 告 ........................................................................................................................ 449<br />

第 39 章 アナーキー .................................................................................................................... 456<br />

第 40 章 大 きな 救 い .................................................................................................................... 473<br />

第 41 章 地 球 の 荒 廃 .................................................................................................................... 487<br />

第 42 章 大 争 闘 の 終 結 ................................................................................................................ 494<br />

4


国 際 協 定<br />

5


国 際 協 定<br />

第 1 章 世 界 の 運 命 の 預 言<br />

「もしおまえも、この 日 に、 平 和 をもたらす 道 を 知 ってさえいたら……しかし、そ<br />

れは 今 おまえの 目 に 隠 されている。いつかは、 敵 が 周 囲 に 塁 を 築 き、おまえを 取 りか<br />

こんで、 四 方 から 押 し 迫 り、おまえとその 内 にいる 子 らとを 地 に 打 ち 倒 し、 城 内 の 1<br />

つの 石 も 他 の 石 の 上 に 残 して 置 かない 日 が 来 るであろう。それは、おまえが 神 のおと<br />

ずれの 時 を 知 らないでいたからである」[ルカ 19:42~。<br />

イエスは、オリブ 山 の 上 からエルサレムを 見 られた。 美 しい 平 和 な 光 景 が 彼 の 前 に<br />

ひろがっていた。それは、 過 越 の 祭 りの 時 であった。ヤコブの 子 孫 たちは、この 国 民<br />

的 大 祭 を 祝 うために 各 地 から 集 まっていた。 巡 礼 者 たちの 天 幕 が、 庭 園 にも、ぶどう<br />

園 にも、 緑 の 斜 面 にも 散 在 していた。そしてそのまん 中 に、 段 々に 高 くなった 小 山 が<br />

あって、そこに 壮 麗 な 宮 殿 とイスラエルの 首 都 の 巨 大 な 城 壁 があった。シオンの 娘 は、<br />

誇 らかに、わたしは 女 王 の 位 についている 者 であって 悲 しみを 知 らない、と 言 ってい<br />

るようであった。 幾 世 紀 も 前 に、 詩 人 ダビデ 王 が、「シオンの 山 は……うるわしく、<br />

全 地 の 喜 びであり、 大 いなる 王 の 都 である」と 歌 った 時 と 同 様 に、この 時 もエルサレ<br />

ムは、 神 の 恵 みに 浴 していることを 確 信 しているかのように 思 われた[ 詩 篇 48:。そ<br />

こには 壮 麗 な 神 殿 の 建 物 が 一 目 で 見 渡 せた。 沈 んでいく 太 陽 の 光 が 純 白 の 大 理 石 の 壁<br />

を 照 らし 出 し、 黄 金 の 門 とやぐらと 尖 塔 に 輝 いていた。それは、「 麗 しさのきわみ」<br />

であり、ユダヤ 民 族 の 誇 りであった。イスラエル 人 であれば、この 光 景 をながめて、<br />

喜 びと 賛 美 に 心 を 震 わせないものがあるであろうか。しかし、イエスは、それとは 全<br />

くかけ 離 れたことを 考 えておられた。「いよいよ 都 の 近 くにきて、それが 見 えたとき、<br />

そのために 泣 」かれた[ルカ 19:。すべての 者 が 勝 利 の 入 城 を 祝 って、しゅろの 葉 を<br />

振 り、 喜 ばしいホサナの 声 を 山 々に 響 かせ、 大 群 衆 が 彼 を 王 と 呼 んでいるその 時 に、<br />

世 界 の 贖 い 主 は、 突 然 、 不 思 議 な 悲 しみに 打 ちひしがれた。 神 の 子 であり、イスラエ<br />

ルの 約 束 のすえであり、 死 を 征 服 して 墓 から 死 者 を 呼 び 出 されたお 方 が、ただ 単 なる<br />

悲 しみのためではなくて、 抑 制 しきれぬ 激 しい 苦 悩 のために、 涙 を 流 されたのであ<br />

る。<br />

彼 は、ご 自 分 がどこに 向 かって 歩 まれつつあるのかをよく 知 っておられたが、しか<br />

しこの 涙 は、ご 自 分 のためではなかった。 彼 の 前 には、 近 づきつつある 苦 悩 の 場 、ゲ<br />

ッセマネが 横 たわっていた。 幾 世 紀 もの 間 、 犠 牲 としてささげられる 動 物 が 通 った 羊<br />

の 門 も 見 えていた。そしてこれは、 彼 が「ほふり 場 にひかれて 行 く 小 羊 のように」ひ<br />

かれて 行 く 時 に、 彼 のために 開 かれるのであった[イザヤ 53:。 彼 が 十 字 架 につけら<br />

6


国 際 協 定<br />

れる 場 所 であるカルバリーも、あまり 遠 くはなかった。まもなくキリストが、ご 自 分<br />

をとがの 供 え 物 として 歩 まれる 道 は、 大 きな 暗 黒 の 恐 怖 におおわれなければならなか<br />

った。しかしこの 喜 ばしい 時 に 彼 の 心 を 暗 くしたのは、こうした 光 景 を 思 われたため<br />

ではなかった。 彼 の 無 我 の 心 は、ご 自 分 の 超 人 的 苦 悩 を 予 測 して 曇 ることはなかった。<br />

彼 が 泣 かれたのは、 滅 亡 の 運 命 にあるエルサレムの 多 くの 人 々のためであった。 彼 が<br />

祝 し 救 うために 来 られた 人 々の 盲 目 と 強 情 のためであった。<br />

神 の 特 別 の 恵 みと 保 護 を 受 けた 選 民 の、1000 年 以 上 にわたる 歴 史 が、イエスの 眼<br />

前 に 展 開 された。 約 束 の 子 イサクが、なんの 抵 抗 もせずに 犠 牲 として 祭 壇 にしばられ<br />

た——それは、 神 のみ 子 の 供 え 物 の 象 徴 であった——モリヤの 山 がそこにあった。そ<br />

こで 信 仰 の 父 アブラハムに 祝 福 の 契 約 、 輝 かしいメシヤの 約 束 が 確 認 された[ 創 世 記<br />

22:9、16~18 参 照 ]。ここは、オルナンの 打 ち 場 から 犠 牲 の 炎 が 天 にのぼり、 滅 び<br />

の 天 使 のつるぎをそらせたところであった[ 歴 代 志 上 21 章 参 照 ]が、それは 罪 人 のた<br />

めの 救 い 主 の 犠 牲 ととりなしの 適 切 な 象 徴 であった。エルサレムは、 全 地 のどこより<br />

も、 神 の 栄 誉 を 受 けてい た。「 主 はシオンを 選 び、それをご 自 分 のすみかにしようと<br />

望 」まれた[ 詩 篇 132:。<br />

そこは、 各 時 代 にわたって、 聖 預 言 者 たちが 警 告 の 使 命 を 発 したところであった。<br />

そこで、 祭 司 たちは、 香 炉 をゆり 動 かし、そして 礼 拝 者 の 祈 りと 共 に、 薫 香 のけむり<br />

が 神 の 前 にのぼっていった。そこで、 日 ごとに、ほふられた 小 羊 の 血 がささげられて、<br />

神 の 小 羊 を 指 し 示 していた。そこで、 主 は、 贖 罪 所 の 上 の 栄 光 の 雲 の 中 にご 自 分 の 臨<br />

在 をあらわされた。そこに 天 と 地 を 結 ぶ 不 思 議 なはしごか 立 ち、その 上 を 神 の 使 いた<br />

ちが 上 り 下 りしていた。そして、それは、 最 も 即 なるところへの 道 を 世 界 に 開 いたの<br />

である[ 創 世 記 28:12、ヨハネ 1:51 参 照 ]。もしイスラエルが 国 家 として、 天 の 神<br />

に 忠 誠 をつくしたならば、エルサレムは、 神 に 選 ばれたものとして、 永 遠 に 立 ったこ<br />

とであろう[エレミヤ 17:21~25 参 照 ]。しかし、あの 恵 まれた 民 の 歴 史 は、 背 信 と<br />

反 逆 の 記 録 であった。 彼 らは、 天 の 神 の 恵 みに 反 抗 し、 自 分 たちの 特 権 を 乱 用 し、 機<br />

会 を 軽 んじたのであった。<br />

イスラエルは「 神 の 使 者 たちをあざけり、その 言 葉 を 軽 んじ、その 預 言 者 たちをの<br />

のしった」けれども、 神 はなおもご 自 分 を、「 主 、 主 、あわれみあり、 恵 みあり、 怒<br />

ることおそく、いつくしみと、まこととの 豊 かなる 神 」として 彼 らにあらわされた[ 歴<br />

代 志 下 36:16、 出 エジプト 34:。 彼 らが 何 度 も 拒 んだにもかかわらず、 神 は、 恵 み<br />

深 く 彼 らに 訴 えつづけられた。 父 が、その 息 子 を 憐 れむ 以 上 の 愛 をもって、「 主 はそ<br />

の 民 と、すみかをあわれむがゆえに、しきりに、その 使 者 を 彼 らにつかわされた」[ 歴<br />

代 志 下 36:。 勧 告 と 懇 願 と 譴 責 がむだであることが 明 らかになると、 神 は、 大 の 最 上<br />

7


国 際 協 定<br />

の 賜 物 をお 与 えになった。いやそれだけではない。 神 は、その 1 つの 賜 物 によって、<br />

全 天 を 注 ぎ 出 されたのである。 神 のみ 子 ご 自 身 が、かたくなな 町 に 訴 えるために 送 ら<br />

れた。エジプトからイスラエルをよいぶどうの 本 として 携 え 出 されたのは、キリスト<br />

であった[ 詩 篇 80:。 彼 は、ご 自 身 の 手 で、その 前 から 異 邦 人 を 追 い 払 われた。 彼 は、<br />

それを「 土 肥 えた 小 山 の 上 に」 植 え、それを 保 護 するために、そのまわりに 垣 をつく<br />

られた。また、 彼 のしもべたちが、それを 育 てるためにつかわされた。「わたしが、<br />

ぶどう 畑 になした 事 のほかに、 何 かなすべきことがあるか」と 彼 はおおせられるので<br />

ある[イザヤ 5:1~。 彼 はよいふどうの 結 ぶのを 待 ち 望 んだのに、 結 んだものは 野 ぶ<br />

どうであった。それでもなお、 実 を 結 ぶのを 熱 望 して、なんとかしてこれを 滅 びから<br />

救 おうと、 彼 ご 自 身 がぶどう 畑 においでになった。 彼 は、ぶどうの 回 りを 掘 り、はさ<br />

みを 入 れ、たいせつに 育 てられた。 彼 はご 自 分 が 植 えたぶどうを 救 うためには、あら<br />

ゆる 努 力 をおしまれなかった。<br />

こうして、3 年 の 間 、 光 と 栄 光 の 主 は、 彼 の 民 と 共 に 過 ごされた。 彼 は、「よい 働<br />

きをしながら、また 悪 魔 に 押 えつけられている 人 々をことごとくいやしながら、 巡 回<br />

され」た。 彼 は、 心 のいためる 者 をいやし、 捕 われている 者 に 解 放 を 告 げ、 見 えない<br />

人 の 目 を 開 き、 足 の 不 自 由 な 人 を 歩 かせ、 聞 こえない 人 に 聞 かせ、ハンセン 病 人 をき<br />

よめ、 死 人 を 生 きかえらせ、 貧 しい 人 々に 福 音 を 伝 えられた[ 使 徒 行 伝 10:38、ルカ<br />

4:18、マタイ 11:5 参 照 ]。「すべて 重 荷 を 負 うて 苦 労 している 者 は、わたしのも<br />

とにきなさい。あなたがたを 休 ませてあげよう」という 恵 み 深 い 招 きが、すべての 階<br />

級 の 人 々に 同 様 に 発 せられたのである[マタイ 11:。<br />

善 に 報 いるに 悪 をもってされ、 愛 に 報 いるに 恨 みをもってあしらわれても、 彼 は、<br />

たゆまず 慈 悲 深 い 働 きを 続 けられた[ 詩 篇 109:5 参 照 ]。 彼 の 恵 みを 求 めた 者 で、 拒<br />

まれた 者 は 1 人 もなかった。 彼 は 家 なき 旅 人 として、 屈 辱 と 窮 乏 の 生 活 を 送 られたが、<br />

彼 の 生 きる 目 的 は、 困 窮 者 に 奉 仕 し、 人 々の 苦 しみを 和 らげ、 彼 らに 生 命 の 賜 物 を 受<br />

けるように 訴 えることであった。 恵 みの 波 は、かたくなな 心 によって 押 しかえされて<br />

も、 言 葉 では 表 現 できない 慈 悲 深 い 愛 の 大 きな 潮 となって、また 返 っていった。それ<br />

にもかかわらず、イスラエルは、その 最 上 の 友 であり 唯 一 の 援 助 者 で あるお 方 に 背 を<br />

向 けた。 彼 の 愛 の 訴 えはさげすまれ、 彼 の 勧 告 は 退 けられ、 彼 の 警 告 はちょう 笑 され<br />

た。<br />

希 望 と 赦 しの 時 は、 急 速 に 過 ぎ 去 りつつあった。 長 く 延 ばされていた 神 の 怒 りの 杯<br />

は、 今 にも 満 ちようとしていた。 各 時 代 の 背 信 と 反 逆 によって、 暗 雲 は 無 気 味 にその<br />

濃 さを 増 し、 罪 深 い 民 に 向 かって 今 にも 破 裂 しようとしていた。しかも、 彼 らの 上 に<br />

さし 迫 った 運 命 から 彼 らを 救 うことのできる 唯 一 のお 方 が、 軽 べつされ、 虐 待 され、<br />

8


国 際 協 定<br />

拒 否 されて、まもなく 十 字 架 につけられようとしておられた。キリストがカルバリー<br />

の 十 字 架 につかれるならば、 神 に 恵 まれ、 祝 福 された 国 としてのイスラエルの 日 は 終<br />

わるのであった。ただ 1 人 の 魂 を 失 うことであっても、 世 界 じゅうの 富 と 財 宝 を 失 う<br />

ことよりはるかに 大 きな 不 幸 である。しかしキリストがエルサレムをごらんになった<br />

時 、 滅 亡 にひんした 都 市 全 体 と 国 家 全 体 が、 彼 の 前 に 横 たわっていた。それは、かつ<br />

ては 神 に 選 ばれ、 神 の 特 別 の 宝 であった 都 市 であり、 国 家 であった。<br />

昔 の 預 言 者 たちは、イスラエルの 背 信 と 彼 らの 罪 の 罰 として 下 る 恐 るべき 荒 廃 とを<br />

嘆 いたのであった。エレミヤは、 彼 の 目 が 涙 の 泉 となり、 民 の 娘 の 殺 された 者 のため<br />

と 主 の 群 れのかすめられた 者 のために、 昼 も 夜 も 嘆 くことができるようにと 願 った[エ<br />

レミヤ 9:1、13:17 参 照 ]。それでは、 数 年 ではなくて、 幾 時 代 もの 先 を 預 言 的 眼<br />

光 でごらんになった 方 の 悲 しみは、どんなてあったことだろう。 彼 は、 滅 びの 天 使 が、<br />

長 く 主 の 住 居 であった 都 に 向 かって 剣 を 上 げているのを 見 られた。 彼 は、 後 年 ティト<br />

ゥスとその 軍 隊 が 占 領 したオリブ 山 上 の 同 じ 場 所 から、 谷 の 向 こうの 神 殿 の 庭 と 柱 廊<br />

とをごらんになった。そして、 涙 にかすむ 目 で、 外 国 の 軍 隊 か 城 壁 を 包 囲 する 恐 ろし<br />

い 光 景 をごらんになった。 彼 は、 進 軍 する 軍 隊 の 足 音 を 聞 かれた。 彼 は、 籠 城 中 の 婦<br />

女 子 が 食 物 を 求 める 叫 び 声 を 聞 かれた。 彼 は 美 を 極 めた 聖 なる 神 殿 や 王 宮 や 塔 が、 炎<br />

に 包 まれ、あとかたもなく 廃 墟 と 化 してしまうのをごらんになった。<br />

彼 は、はるか 未 来 に 目 を 注 ぎ、 契 約 の 民 が、「さばくに 散 らばる 破 片 のように」、<br />

各 地 に 離 散 するのを 見 られた。エルサレムの 子 らの 上 に 下 ろうとしていたこの 世 の 応<br />

報 は、 最 後 の 審 判 の 時 に 彼 らが 1 滴 もあまさず 飲 みほさなければならない 怒 りの 杯 の、<br />

ほんの 一 口 に 過 ぎないことを 彼 はごらんになった。こうして、 神 の 憐 れみと 熱 烈 な 愛<br />

は、 悲 しい 言 葉 となってみ 口 からもれたのである。「ああ、エルサレム、エルサレム、<br />

預 言 者 たちを 殺 し、おまえにつかわされた 人 たちを 石 で 打 ち 殺 す 者 よ。ちょうど、め<br />

んどりが 翼 の 下 にそのひなを 集 めるように、わたしはおまえの 子 らを 幾 たび 集 めよう<br />

としたことであろう。それだのに、おまえたちは 応 じようとしなかった」。ああ、 他<br />

のすべての 国 にまさって 恵 まれた 国 よ、もし、おまえが、おまえの 神 のおとずれの 時<br />

を 知 り、 平 和 をもたらす 道 を 知 ってさえいたら。わたしは、 刑 罰 の 天 使 をとどめて、<br />

おまえに 悔 い 改 めをうながしたが、むだであった。おまえが 拒 み 退 けたのは、 単 にし<br />

もべや 代 理 人 、 預 言 者 たちではなくて、おまえの 贖 い 主 、イスラエルの 聖 者 なのだ。<br />

もし、おまえか 滅 びるならば、それは、おまえだけの 責 任 である。「しかも、あなた<br />

がたは、 命 を 得 るためにわたしのもとにこようともしない」[マタイ 23:37、ヨハネ<br />

5:<br />

9


国 際 協 定<br />

キリストは、 不 信 と 反 逆 によってかたくなになり、 急 速 に 神 の 刑 罰 を 受 けようとし<br />

ていた 世 界 を、エルサレムが 象 徴 しているのを 見 られた。 堕 落 した 人 類 の 不 幸 に、キ<br />

リストは 深 く 心 を 痛 め、あのように 激 しい 苦 悶 の 叫 びをあげられたのであった。 彼 は、<br />

人 間 の 悲 惨 と 涙 と 流 血 とが 物 語 る 罪 の 記 録 を 見 られた。 彼 の 心 は、 地 上 で 悩 み 苦 しむ<br />

者 のために、 無 限 の 憐 れみを 感 じられた。 彼 はなんとかしてこうしたすべての 人 々を<br />

救 いたいと 熱 望 されたのである。しかし、 彼 のみ 手 をもってしても、 人 間 の 不 幸 の 潮<br />

は 止 めかねるように 思 われた。 彼 らの 唯 一 の 援 助 者 であるキリストを 求 める 者 が、 少<br />

ないからであった。 彼 は、 人 々に 救 いをもたらすために、 死 に 至 るまで 自 分 の 魂 を 注<br />

ぎ 出 そうとしておられたのに、 生 命 を 得 るために 彼 のところに 来 る 者 は 少 ないのであ<br />

った。<br />

天 の 君 主 が 涙 を 流 しておられる。 無 限 の 神 のみ 子 が、み 心 を 悩 まし、 悲 嘆 にくれて<br />

打 ち 伏 された。この 光 景 に 全 天 は 目 を 見 はった。この 光 景 は、 罪 がどんなに 恐 ろしい<br />

ものであるかをわれわれに 示 し、また、 無 限 の 力 を 持 たれた 神 でも、 神 の 律 法 を 破 っ<br />

た 結 果 から 罪 人 を 救 うことがどんなに 困 難 であるかを 示 している。イエスは、はるか<br />

最 後 の 時 代 までをながめ、エルサレムの 滅 亡 を 招 いたのと 同 様 の 欺 瞞 に、 世 界 が 陥 っ<br />

ているのを 見 られた。ユダヤ 人 の 大 きな 罪 は、 彼 らがキリストを 拒 んだことであった。<br />

キリスト 教 会 の 大 きな 罪 は、 天 地 を 支 配 する 神 の 統 治 の 基 礎 である 神 の 律 法 の 拒 否 と<br />

いうことである。 主 の 戒 めは、 軽 べつされ、 無 視 されるのであった。 罪 に 束 縛 され、<br />

サタンの 奴 隷 となり、 第 二 の 死 に 定 められた 無 数 の 者 が、 神 のおとずれの 時 に、 真 理<br />

の 言 葉 を 聞 こうとしないのである。それは、なんと 恐 ろしい 盲 目 、なんと 不 思 議 な 愚<br />

かさであろう。<br />

過 越 の 祭 りの 2 日 前 、キリストは、ユダヤの 指 導 者 たちの 偽 善 を 非 難 したあと、 神<br />

殿 に 最 後 の 別 れを 告 げてから、もう 1 度 弟 子 たちと 共 に、オリブ 山 に 行 き、 都 を 見 お<br />

ろす 傾 斜 面 の 青 草 の 上 におすわりになった。 彼 は、もう 1 度 、 都 の 城 壁 と 塔 と 王 宮 と<br />

をごらんになった。もう 1 度 、 聖 なる 山 を 飾 る 美 しい 王 冠 のような、まぶしく 輝 く 神<br />

殿 をごらんになった。 その 時 から 1000 年 ほど 前 に、 詩 篇 記 者 は、イスラエルの 型 な<br />

る 家 をご 自 分 の 住 居 となさった 神 の 恵 みをほめたたえた。「その 幕 屋 はサレムにあり、<br />

そのすまいはシオンにある。」 神 は、「ユダの 部 族 を 選 び、 神 の 愛 するシオンの 山 を<br />

選 ばれた。 神 はその 聖 所 を 高 い 天 のように 建 て」られた[ 詩 篇 76:2、78:68、。 最<br />

初 の 神 殿 は、イスラエルが 暦 史 1 最 も 隆 盛 をきわめた 時 代 に 建 てられた。ダビデ 王 は、<br />

このために、 莫 大 な 財 宝 を 集 めた。そして、その 設 計 は、 神 の 霊 感 によってなされた<br />

[ 歴 代 志 上 28:12、19 参 照 ]。<br />

10


国 際 協 定<br />

イスラエルの 王 の 中 で 最 も 賢 明 であったソロモンが、その 工 事 を 完 成 した。この 神<br />

殿 は、 世 界 で 最 も 壮 麗 な 建 物 であった。しかし、 主 は、 預 言 者 ハガイによって、 第 二<br />

の 神 殿 について、 次 のように 言 われた。「 主 の 家 の 後 の 栄 光 は、 前 の 栄 光 よりも 大 き<br />

い。」「わたしはまた 万 国 民 を 震 う。 万 国 民 の 財 宝 は、はいって 来 て、わたしは 栄 光<br />

をこの 家 に 満 たすと、 万 軍 の 主 は 言 われる」[ハガイ 2:9、。 神 殿 は、ネブカデネザ<br />

ルに 破 壊 されたあとで、キリスト 誕 生 の 約 500 年 前 に、 長 年 にわたった 捕 囚 生 活 から、<br />

荒 廃 した 故 郷 に 帰 ってきた 人 々によって 再 建 された。その 時 、 人 々の 中 には、ソロモ<br />

ンの 神 殿 の 栄 光 を 見 た 老 人 たちがいて、 新 しい 建 物 の 基 礎 が 以 前 のものと 比 べてはる<br />

かに 劣 っているのを 嘆 いた。こうした 人 々の 気 持 ちを 預 言 者 は、「あなたかた 残 りの<br />

者 のうち、 以 前 の 栄 光 に 輝 く 主 の 家 を 見 た 者 はだれか。あなたがたは 今 、この 状 態 を<br />

どう 思 うか。これはあなたがたの 目 には、 無 にひとしいではないか」と、 力 をこめて<br />

言 っている[ハガイ 2:3、エズラ 3:12 参 照 ]。この 時 、この 後 の 家 の 栄 光 は、 前 の<br />

家 の 栄 光 より 大 きいという 約 束 が 与 えられた。<br />

しかし、 第 二 の 神 殿 は、 荘 厳 さにおいて、 第 一 の 神 殿 の 比 ではなかった。また、 第<br />

一 の 神 殿 に 与 えられていた 神 の 臨 在 の 目 に 見 えるしるしはなかった。その 献 堂 を 記 念<br />

する 超 自 然 的 力 の 現 れもなかった。 栄 光 の 雲 が 新 築 の 聖 所 を 満 たすのも 見 られなかっ<br />

た。 祭 壇 の 上 の 犠 牲 を 焼 きつくす 天 からの 火 もなかった。 至 聖 所 のケルビムの 間 に、<br />

シェキーナーは、もう 宿 っていなかった。そこには、 契 約 の 箱 も 贖 罪 所 もあかしの 板<br />

もなかった。 神 に 問 う 祭 司 に、 主 のみこころを 告 げる 天 からの 声 はなかった。<br />

何 世 紀 もの 問 、ユダヤ 人 は、ハガイによって 与 えられた 神 の 約 束 の 成 就 を 示 そうと<br />

努 めてきたが、むだであった。しかし、 誇 りと 不 信 が 彼 らの 心 を 旨 目 にし、 預 言 者 の<br />

言 葉 の 真 の 意 味 を 理 解 させなかった。 第 二 の 神 殿 は、 主 の 栄 光 の 雲 ではなくて、 肉 体<br />

をとって 現 れた 神 ご 自 身 、 満 ちみちているいっさいの 神 の 徳 が 宿 っている 方 の 生 きた<br />

臨 在 によって、あがめられるのであった。ナザレの 人 イエスが 神 殿 の 庭 で、 教 え、い<br />

やされた 時 、「 万 国 民 の 財 宝 [ 万 国 の 願 うところのもの・ 文 語 訳 ]」が、ほんとうに 彼<br />

の 神 殿 に 来 られたのである。キリストが 来 られたこと、ただそのことだけで 第 二 の 神<br />

殿 は、 第 一 の 神 殿 の 栄 光 をしのいだ。 しかし、イスラエルは、 天 から 与 えられた 贈 り<br />

物 を 退 けてしまった。その 日 、けんそんな 教 師 イエスが、 黄 金 の 門 から 出 られた 時 に、<br />

栄 光 は、 永 久 に 神 殿 から 去 ったのである。「 見 よ、おまえたちの 家 は 児 捨 てられてし<br />

まう」という 救 い 主 の 言 葉 は、すでに 成 就 したのであった[マタイ 23:。<br />

弟 子 たちは、 神 殿 の 破 壊 に 関 するキリストの 予 告 を 聞 いて、 恐 れと 驚 きに 満 たされ、<br />

彼 の 言 葉 の 意 味 をもっとよく 知 りたいと 願 った。 神 殿 の 壮 麗 さを 増 すために、 財 宝 と<br />

労 力 と 建 築 上 の 技 術 とが、40 年 以 上 にわたって 注 ぎこまれていた。ヘロデ 大 王 も、ロ<br />

11


国 際 協 定<br />

ーマとユダヤ 両 国 の 財 宝 を 惜 しみなく 費 やし、ローマ 皇 帝 さえも 贈 り 物 をささげて 神<br />

殿 を 壮 麗 にした。 信 じられないような 巨 大 な 白 い 大 理 石 が、この 目 的 のためにローマ<br />

から 回 送 され、 建 物 の 一 部 に 用 いられた。そして 弟 子 たちは、これらの 石 に 主 の 注 意<br />

をひいて、「 先 生 、ごらんなさい。なんという 見 事 な 石 、なんという 立 派 な 建 物 でし<br />

ょう」と 言 った[マルコ 13:。<br />

ところが、これに 対 して、イエスは 厳 粛 で 驚 くべき 答 えをされた。「よく 言 ってお<br />

く。その 石 一 つでもくずされずに、そこに 他 の 石 の 上 に 残 ることもなくなるであろう」<br />

[マタイ 24:。<br />

エルサレムの 滅 亡 というと、 弟 子 たちは、キリストが 世 界 国 家 の 王 座 につき、かた<br />

くななユダヤ 人 を 罰 し、 国 家 をローマのくびきから 解 放 するために、この 世 の 栄 光 の<br />

うちに 来 られる 時 のできごとを 連 想 した。 主 は 彼 らに、ご 自 分 がもう 1 度 こられるこ<br />

とを 語 っておられたから、 彼 がエルサレムの 滅 亡 のことを 言 われた 時 、 彼 らはその 再<br />

臨 のことを 思 った。そこで、 彼 らがオリブ 山 上 で 救 い 主 のそばに 集 まった 時 に、「い<br />

つ、そんなことが 起 るのでしょうか。あなたがまたおいでになる 時 や、 世 の 終 りには、<br />

どんな 前 兆 がありますか」と 彼 らは 聞 いた[マタイ 24:。<br />

未 来 のことは、 憐 れみのうちに、 弟 子 たちから 隠 された。もしも、 彼 らがこの 時 、<br />

贖 い 主 の 苦 難 と 死 、そして 都 と 神 殿 の 破 壊 という 2 つの 恐 ろしいできごとを 全 部 知 っ<br />

たならば、 彼 らは 恐 怖 にうちひしがれたことであろう。キリストは、 終 末 の 前 に 起 こ<br />

る 主 要 事 件 のあらましを 彼 らに 示 された。その 時 、 彼 の 言 葉 は 十 分 に 理 解 されなかっ<br />

た。しかし、その 意 味 は、 神 の 民 がそこに 与 えられている 教 訓 を 必 要 とする 時 に 明 ら<br />

かにされるのであった。 彼 が 言 われた 預 言 には、 二 重 の 意 味 があった。それは、エル<br />

サレムの 滅 亡 を 予 告 するとともに、 最 後 の 大 いなる 日 の 恐 怖 をも 予 表 していた。<br />

イエスは、 耳 を 傾 けている 弟 子 たちに、 背 信 したイスラエルに 下 る 刑 罰 、 特 に、メ<br />

シヤを 拒 んで 十 字 架 につけることに 対 して 下 る 懲 罰 報 復 を 明 らかにされた。 恐 るべき<br />

頂 点 に 達 する 前 に 明 白 なしるしが 現 れる。 恐 怖 すべき 時 が、 突 然 、 急 速 にやってくる。<br />

救 い 主 は、 弟 子 たちに 次 のように 警 告 を 発 せられた。「 預 言 者 ダニエルによって 言 わ<br />

れた 荒 らす 憎 むべき 者 が、 聖 なる 場 所 に 立 つのを 見 たならば[ 読 者 よ、 悟 れ]、そのと<br />

き、ユダヤにいる 人 々は 山 へ 逃 げよ」[マタイ 24:15、16、ルカ 21:20、21 参 照 ]。<br />

エルサレムの 城 外 、 数 マイルにわたる 期 地 に、ローマ 人 の 異 教 の 軍 旗 が 立 てられる 時 、<br />

キリストに 従 う 者 たちは、 安 全 をもとめて 逃 げなければならなかった。 警 報 が 見 えた<br />

ならば、のがれることを 望 むものはためらってはならなかった。 避 難 警 報 は、エルサ<br />

レム 城 内 と 同 様 に、ユダヤ 全 土 において、 直 ちに 従 うべきものであった。 屋 上 にいる<br />

12


国 際 協 定<br />

者 は、どんなに 大 切 な 宝 物 であっても、それを 取 りに 家 の 中 に 入 ってはならなかった。<br />

畠 やぶどう 畑 で 働 いていたものは、 日 中 働 いていた 時 に 脱 いでおいた 上 衣 を 取 りに 帰<br />

ってはならなかった。 彼 らは、 一 瞬 でもためらってはならなかった。さもないと 一 般<br />

の 人 々と 共 に 滅 びにまき 込 まれてしまうのであった。<br />

エルサレムは、ヘロデ 王 の 治 世 に 大 いに 美 化 され たばかりでなく、 塔 、 城 壁 、 要 害<br />

などが 建 てられ、それに 地 形 が 自 然 の 要 害 となっていたので、 難 攻 不 落 の 城 と 思 われ<br />

ていた。 こうした 時 に、エルサレムの 滅 亡 を 公 に 予 告 するものは、 洪 水 前 のノアのよ<br />

うに 狂 気 じみた 杞 憂 家 と 呼 ばれたことであろう。しかし、キリストは、「 天 地 は 滅 び<br />

るであろう。しかしわたしの 言 葉 は 滅 びることがない」と 言 われた[マタイ 24:。エ<br />

ルサレムは、その 罪 のために 刑 罰 の 宣 告 を 受 けていたが、そのかたくなな 不 信 によっ<br />

て 滅 亡 を 決 定 的 にしたのであった。<br />

主 は、 預 言 者 ミカによって、 次 のように 言 われた。「ヤコブの 家 のかしらたち、イ<br />

スラエルの 家 のつかさたちよ、すなわち 公 義 を 憎 み、すべての 正 しい 事 を 曲 げる 者 よ、<br />

これを 聞 け。あなたがたは 血 をもってシオンを 建 て、 不 義 をもってエルサレムを 建 て<br />

た。そのかしらたちは、まいないをとってさばき、その 祭 司 たちは 価 をとって 教 え、<br />

その 預 言 者 たちは 金 をとって 占 う。しかもなお 彼 らは 主 に 寄 り 頼 んで、『 主 はわれわ<br />

れの 中 におられるではないか、だから 災 はわれわれに 臨 むことがない』と 言 う」[ミカ<br />

3:9~。<br />

このみ 言 葉 は、 腐 敗 に 陥 り 自 分 を 義 とするエルサレムの 住 民 を、 正 確 に 描 写 してい<br />

た。 彼 らは、 神 の 律 法 の 教 えを 厳 格 に 守 っていると 言 いながら、そのすべての 原 則 を<br />

犯 していた。 彼 らは、キリストの 純 潔 と 聖 潔 とが 彼 らの 罪 悪 を 暴 露 したために 彼 を 憎<br />

んだ。そして、 自 分 たちの 罪 のためにふりかかってきた 苦 難 について、その 原 因 は 彼<br />

にあると 言 って 非 難 した。 彼 らは、キリストが 無 罪 であることを 承 知 の 上 で、 国 家 の<br />

安 全 を 保 つためには 彼 の 死 が 必 要 であると 宣 言 した。「もしこのままにしておけば、<br />

みんなが 彼 を 信 じるようになるだろう。そのうえ、ローマ 人 がやってきて、わたした<br />

ちの 土 地 も 人 民 も 奪 ってしまうであろう」とユダヤの 指 導 者 たちは 言 った[ヨハネ<br />

11:。もしキリストを 犠 牲 にしてしまえば、 彼 らは、もう 1 度 強 力 な 統 一 国 家 になる<br />

ことができる。このように 考 えて 彼 らは、 全 国 民 か 滅 びるよりは 1 人 の 人 が 人 民 に 代<br />

わって 死 ぬほうがよいという 大 祭 司 の 決 定 に、 同 意 したのであった。<br />

このようにして、ユダヤ 人 の 指 導 者 たちは、「 血 をもってシオンを 建 て、 不 義 をも<br />

ってエルサレムを 建 てた」[ミカ 3:。 彼 らは、 救 い 主 が 彼 らの 罪 を 譴 責 されたために、<br />

彼 を 殺 しておきながら、なお 自 分 たちは 神 に 恵 まれていると 考 え、 神 が 彼 らを 敵 の 手<br />

13


国 際 協 定<br />

から 救 ってくださると 期 待 するほどに 自 分 を 義 としていた。「それゆえ、シオンはあ<br />

なたがたのゆえに 田 畑 となって 耕 され、エルサレムは 石 塚 となり、 宮 の 山 は 木 のおい<br />

茂 る 高 い 所 となる」と 預 言 者 は 言 った[ 同 3:。<br />

神 は、エルサレムの 運 命 かキリストご 自 身 の 口 から 宣 言 されてから 40 年 近 くも、<br />

都 と 国 家 に 対 する 刑 罰 を 延 ばされた。 福 音 を 拒 否 し、 神 のみ 子 を 殺 害 した 者 に 対 する<br />

神 の 寛 容 は 驚 くべきものであった。 神 がユダヤ 国 民 を 扱 われる 方 法 が、 実 を 結 ばない<br />

木 の 譬 によくあらわされている。「その 木 を 切 り 倒 してしまえ。なんのために、 土 地<br />

をむだにふさがせて 置 くのか」という 命 令 がすでに 出 されていた[ルカ 13:。しかし、<br />

神 の 憐 れみは、なおしばらくの 間 、それを 猶 予 しておられた。ユダヤ 人 の 中 には、キ<br />

リストの 品 性 と 働 きについて 無 知 なものがまだ 多 くあった。 子 供 たちは、 彼 らの 親 が<br />

拒 否 した 光 に 接 する 機 会 も、それを 受 ける 機 会 もなかった。 神 は 使 徒 たちやその 仲 間<br />

たちによって、 彼 らに 光 を 輝 かそうと 望 まれた。 彼 らは、キリストの 誕 生 と 生 涯 だけ<br />

でなく、その 死 と 復 活 についても、 預 言 がどのように 成 就 したかを 見 せられるのであ<br />

った。 子 供 たちは 親 の 罪 の 罰 を 受 けるのではなかった。しかし、 子 供 たちが、 親 にう<br />

えられたすべての 光 を 知 った 上 で、さらに 自 分 たちに 与 えられた 光 を 拒 む 時 、 彼 らは<br />

親 の 罪 にあずかる 者 となり、 彼 らの 悪 の 升 目 を 満 たすのであった。<br />

エルサレムに 対 する 神 の 忍 耐 は、ただユダヤ 人 をかたくなな 不 信 に 陥 れるだけであ<br />

った。 彼 らは、イエスの 弟 子 たちを 憎 み、 虐 待 して、 最 後 の 憐 れみの 招 き を 拒 んでし<br />

まった。その 時 、 神 は、 彼 らから 保 護 の 手 を 引 き、サタンとその 使 いたちに 対 する 神<br />

の 抑 制 力 を 除 去 された。そして 国 家 は、その 選 んだ 指 導 者 のなすままになった。 イス<br />

ラエルの 人 々は、 邪 悪 な 衝 動 をしずめる 力 を 彼 らに 与 えることのできるキリストの 恵<br />

みを、 退 けてしまった。そこで、 今 度 は、こうした 衝 動 が 優 位 を 占 めた。サタンは、<br />

人 間 の 心 の 中 の 最 も 激 烈 で 卑 しい 感 情 をよびおこした。 人 々は、 道 理 をわきまえなか<br />

った。 彼 らは 理 性 を 越 えた 衝 動 と 盲 目 的 な 激 しい 怒 りに 支 配 された。 彼 らは、 悪 魔 的<br />

残 酷 さをあらわしてきた。 家 庭 においても 国 家 においても、 上 流 階 級 においても 下 層<br />

階 級 においても 一 様 に、 疑 い、ねたみ、 憎 しみ、 争 闘 、 反 逆 、 殺 人 などが 行 われた。<br />

どこも 安 全 ではなかった。 友 人 も 親 族 も、 互 いに 裏 切 り 合 った。 親 は 子 供 を 殺 し、 子<br />

供 は 親 を 殺 した。 国 民 の 指 導 者 たちは、 自 分 自 身 を 統 御 する 力 がなかった。 押 えきれ<br />

ない 感 情 が 彼 らを 暴 君 にした。ユダヤ 人 は、 神 の 罪 なきみ 子 を 罪 に 定 めるために、 偽<br />

証 を 受 け 入 れたのであった。そして 今 、 偽 証 が、 彼 ら 自 身 の 生 命 を 脅 かしていた。 彼<br />

らは、その 行 動 によって、 長 い 間 、「われらが 前 にイスラエルの 聖 者 をあらしむるな<br />

かれ」と 言 ってきた[イザヤ 30:11 文 語 訳 ]。 今 、 彼 らの 願 いはかなえられた。 彼 ら<br />

14


国 際 協 定<br />

はもう 神 を 恐 れなくなった。サタンが、 国 家 のかしらとなった。そして 政 治 と 宗 教 の<br />

最 高 の 権 威 者 たちは、 彼 の 支 配 下 にあった。<br />

対 立 する 諸 党 派 の 指 導 者 たちは、 時 には 結 束 して、 哀 れな 犠 牲 者 たちを 襲 って 苦 し<br />

めるかと 思 うと、 今 度 は 互 いに 攻 め 合 い 無 慈 悲 に 殺 害 し 合 った。 神 聖 な 神 殿 でさえ、<br />

彼 らの 恐 ろしい 残 忍 さをとどめることができなかった。 礼 拝 者 が 祭 壇 の 前 で 殺 され、<br />

聖 所 は 死 体 によって 汚 された。しかし、この 凶 悪 な 行 為 の 扇 動 者 たちは、その 盲 目 で<br />

神 をないがしろにした 思 い 上 がりから、エルサレムは 神 ご 自 身 の 都 であるから、 滅 亡<br />

する 恐 れはないと 公 言 していた。 彼 らは 権 力 を 確 保 するために、にせ 預 言 者 を 買 収 し<br />

て、ローマの 軍 隊 が 神 殿 を 包 囲 している 時 でさえ、 神 の 救 いを 待 つべきであると 人 々<br />

に 言 わせた。 群 衆 は、 至 高 者 であられる 神 が 敵 を 滅 ぼすために 介 入 なさることを、 最<br />

後 まで 信 じていた。しかし、イスラエルは、 神 の 保 護 を 退 けてしまっていたから、 今 、<br />

なんの 防 備 もなかった。 不 幸 なエルサレムよ。 内 紛 に 裂 かれ、 同 志 の 手 で 殺 害 された<br />

子 らの 血 が、 都 の 通 りを 赤 く 染 め、その 上 異 邦 人 の 軍 隊 が 要 塞 を 破 壊 し、 兵 士 たちを<br />

殺 害 したのである。<br />

エルサレムの 滅 亡 に 関 するキリストの 預 言 はみな、 文 字 どおり 成 就 した。ユダヤ 人<br />

は、「あなたがたの 量 るそのはかりで、 自 分 にも 量 り 与 えられるであろう」というキ<br />

リストの 警 告 の 言 葉 が 事 実 であることを、 身 をもって 知 った[マタイ 7:。 災 害 と 滅<br />

亡 を 予 告 するしるしと 不 思 議 があらわれた。 真 夜 中 に、 神 殿 と 祭 壇 の 上 に 異 様 な 光 が<br />

輝 いた。 戦 いのために 戦 車 や 勇 士 たちが 集 結 するのが、 日 没 の 時 雲 の 上 に 描 き 出 され<br />

た。 夜 間 、 聖 所 で 奉 仕 する 祭 司 たちは、 不 思 議 な 物 音 に 驚 かされた。 地 が 震 え、「わ<br />

れわれはここを 去 ろう」 1 と 大 勢 の 声 が 叫 ぶのが 聞 こえた。20 人 がかりでもしめられ<br />

ないほど 重 く、しかも 堅 い 敷 石 に 深 く 打 ち 込 まれた 鉄 のかんぬきで 閉 じられた 東 の 門<br />

の 扉 が、だれもいないのに、 夜 半 に 開 かれた。<br />

また、7 年 の 間 、1 人 の 男 がエルサレムの 町 をあちこちとめぐって、 都 に 下 る 災 い<br />

について 叫 びつづけた。 彼 は、 昼 も 夜 も、 激 しい 悲 しみの 歌 をうたった。「 東 からの<br />

声 。 西 からの 声 。 四 方 からの 声 。エルサレムを 責 め、 神 殿 を 責 める 声 。 新 郎 と 新 婦 を<br />

責 める 声 。 全 国 民 を 責 める 声 。」 2 この 不 思 議 な 男 は 投 獄 されて、きびしく 罰 せられた<br />

が、 一 言 もつぶやきの 言 葉 をもらさなかった。 彼 は、 侮 辱 とののしりに 対 して、「エ<br />

ルサレムは、わざわいだ、わざわいだ。」「エルサレムの 住 民 はわざわいだ、わざわ<br />

いだ」と 答 えるだけであった。 彼 の 警 告 の 叫 びは、 彼 が 自 分 の 予 告 したその 包 囲 の 中<br />

で 殺 されるまでやまなかった。<br />

15


国 際 協 定<br />

エルサレムが 滅 亡 した 時 、キリスト 者 は 1 人 も 死 ななかった。キリストが 弟 子 たち<br />

に 警 告 を 発 しておら れたので、 彼 のみ 言 葉 を 信 じたものは、みな、 約 束 のしるしに 注<br />

意 していた。「エルサレムが 軍 隊 に 包 囲 されるのを 見 たならば、そのときは、その 滅<br />

亡 が 近 づいたとさとりなさい。そのとき、ユダヤにいる 人 々は 山 へ 逃 げよ。 市 中 にい<br />

る 者 は、そこから 出 て 行 くがよい」とイエスは 言 われた[ルカ 21:20、。ローマ 軍 は、<br />

ケスティウスの 指 揮 のもとに 都 を 包 囲 したが、すべてが 即 時 攻 撃 に 好 都 合 であると 思<br />

われたにもかかわらず、 不 意 に 撤 退 してしまった。 籠 城 していた 側 では 包 囲 に 耐 えか<br />

ねて、 今 にも 降 伏 するばかりになっていた 時 に、ローマの 将 軍 は、 一 見 、なんの 理 山<br />

もないのに、 軍 隊 を 撤 退 させたのである。しかしこれは、 神 が 神 の 民 のために 事 件 の<br />

なりゆきを 導 かれる 憐 れみに 満 ちた 摂 理 であった。すでに 約 束 のしるしは、 待 ってい<br />

るキリスト 者 に 与 えられていた。そして、 今 、 救 い 主 の 警 告 に 従 おうとするすべての<br />

者 に 機 会 が 与 えられた。 事 件 は、 神 の 支 配 下 にあったので、ユダヤ 人 もローマ 人 も、<br />

キリスト 者 の 避 難 を 止 めなかった。ケスティウスの 退 却 を 見 たユダヤ 人 は、エルサレ<br />

ムを 飛 び 出 して 敵 軍 のあとを 追 った。 両 軍 の 交 戦 中 に、キリスト 者 は 都 を 去 ることか<br />

できた。この 時 、 彼 らの 避 難 の 妨 害 になったかもしれない 敵 の 軍 勢 も、 国 内 から 追 い<br />

払 われていた。 包 囲 された 時 、ユダヤ 人 は 仮 庵 の 祭 りを 祝 うためにエルサレムに 集 ま<br />

っていた。したがって 全 国 のキリスト 者 は、 無 事 のがれることができた。 彼 らは 直 ち<br />

に 安 全 な 場 所 へ、ヨルダンの 向 こうにあるペレアの 地 のペラの 町 に 避 難 した。<br />

ケスティウスとその 軍 隊 を 追 跡 したユダヤ 軍 は、これを 全 滅 させうかと 思 われる 勢<br />

いで 後 方 から 攻 めたてた。ローマ 軍 は、 非 常 な 困 難 のなかでやっと 退 却 した。ユダヤ<br />

軍 は、ほとんど 損 失 をこうむらずにすみ、 戦 利 品 を 携 えて、 意 気 揚 々とエルサレムに<br />

引 きあげた。しかし、この 勝 利 と 思 われたことは、ただ 彼 らを 不 幸 にしただけであっ<br />

た。これは、ローマ 人 に 対 する 頑 強 な 抵 抗 心 を 彼 らにいだかせ、 滅 亡 にひんした 都 を<br />

言 語 に 絶 する 苦 難 に 陥 れた。 ティトゥスがふたたび 包 囲 した 時 、エルサレムに 起 こっ<br />

た 災 難 は 悲 惨 なものであった。 都 の 包 囲 は、 城 内 に 幾 百 万 のユダヤ 人 が 集 まっていた<br />

過 越 の 祭 りの 時 に 起 こった。 注 意 深 く 保 存 すれば、 数 年 は 住 民 を 養 うことができたは<br />

ずの 食 糧 の 蓄 えは、 相 争 う 党 派 のしっとやふくしゅうのためにすでになくなり、 人 々<br />

は、 今 や 飢 餓 の 恐 怖 にさらされていた。<br />

小 麦 1 升 の 価 は 1 タラントであった。 人 々は、 非 前 な 飢 えのために、 帯 皮 やサンダ<br />

ル、また 盾 のおおいをかんだりした。 多 くの 者 は、 夜 間 城 外 に 忍 び 出 て、 城 壁 の 外 に<br />

生 えている 野 草 を 取 ろうとしたが、その 多 くは 捕 らえられて 惨 殺 された。また、 無 事<br />

帰 ってきた 者 も、 非 常 な 危 険 を 冒 して 集 めたものを 他 の 人 に 奪 われてしまうのであっ<br />

た。 権 力 者 が、 窮 乏 に 陥 った 者 から、 隠 しているわずかの 食 物 を 奪 い 取 るために 加 え<br />

16


国 際 協 定<br />

た 拷 問 は、 実 に 残 忍 なものであった。こうした 残 忍 なことは、 十 分 に 食 物 を 持 ってい<br />

ながら、ただ 将 来 のために 蓄 えておこうとする 人 々によって、しばしば 行 われたので<br />

あった。<br />

無 数 の 者 が、 飢 えと 病 気 で 倒 れた。 人 間 本 来 の 自 然 な 愛 情 は 失 われてしまったよう<br />

に 思 われた。 夫 は 妻 から、 妻 は 夫 から 奪 った。 子 供 は、 老 いた 親 の 口 から 食 物 をもぎ<br />

取 った。「 女 がその 乳 のみ 子 を 忘 れて、その 腹 の 子 を、あわれまないようなことがあ<br />

ろりか」という 預 言 者 の 問 いに 対 して、 滅 亡 にひんした 城 内 から 次 のような 答 えがあ<br />

った。「わが 民 の 娘 の 滅 びる 時 には 情 深 い 女 たちさえも、 手 ずから 自 分 の 子 どもを 煮<br />

て、それを 食 物 とした」[イザヤ 49:15、 哀 歌 4:。また、それより 1400 年 前 に 与<br />

えられた 警 告 の 預 言 が 成 就 した。「またあなたがたのうちのやさしい、 柔 和 な 女 、す<br />

なわち 柔 和 で、やさしく、 足 の 裏 を 土 に 付 けようともしない 者 でも、 自 分 のふところ<br />

の 夫 や、むすこ、 娘 にもかくして、…… 自 分 の 産 む 子 をひそかに 食 べるであろう。 敵<br />

があなたの 町 々を 囲 み、 激 しく 攻 めなやまして、すべての 物 が 欠 乏 するからである」<br />

[ 申 命 記 28:56、。 ]<br />

ローマの 将 軍 たちは、ユダヤ 人 を 脅 かして、 彼 らを 降 伏 させようとした。 彼 らは 抵<br />

抗 した 捕 虜 をむちで 打 って 苦 しめ、 都 の 城 壁 の 前 で 十 字 架 にかけた。こうして、 殺 さ<br />

れる 者 が 毎 日 何 百 人 とあった。そして、この 恐 ろしいことは、ヨシャパテの 谷 一 帯 と<br />

カルバリーに 無 数 の 十 字 架 が 立 てられ、その 間 を 歩 くことさえ 困 難 になるまで 続 い<br />

た。 ピラトの 法 廷 で 叫 ばれた「その 血 の 責 任 は、われわれとわれわれの 子 孫 の 上 にか<br />

かってもよい」という 恐 ろしいのろいの 言 葉 は、このように 悲 惨 な 罰 となった[マタイ<br />

27:。<br />

しかし、ティトゥスは、なんとかしてこの 恐 るべき 状 態 をやめさせ、エルサレムを<br />

全 滅 から 救 いたいと 思 った。 彼 は、 谷 間 に 積 まれた 死 体 を 見 て 戦 慄 した。 彼 は、オリ<br />

ブ 山 の 上 から 壮 麗 な 神 殿 をながめて、 非 常 に 心 を 打 たれ、その 石 1 つにでも 触 れては<br />

ならないと 命 令 した。ティトゥスはこの 要 害 を 占 領 するに 先 だって、ユダヤの 指 導 者<br />

に 熱 心 に 訴 え、 彼 がこの 神 聖 な 場 所 を 血 で 汚 さなくてもよいようにしてほしいと 言 っ<br />

た。もし 彼 らが 出 てきて、 他 の 場 所 で 戦 うことを 望 むならば、ローマ 人 はだれも 神 殿<br />

を 汚 すことはしないと 言 った。ヨセフス 自 身 も 大 いに 熱 弁 をふるって、ユダヤ 人 に 降<br />

伏 をすすめ、 自 分 たちを 救 うと 共 に 都 と 神 殿 とを 救 うように 訴 えた。しかし、こうし<br />

た 言 葉 に 対 して、 彼 は 激 しいのろいの 声 を 浴 びせられた。 最 後 の 調 停 者 として 訴 える<br />

彼 に、 投 げやりが 投 げられた。ユダヤ 人 は、 神 のみ 子 の 懇 願 を 退 けてしまったが、 今<br />

では 忠 告 も 懇 願 もただ 彼 らの 心 をかたくなにしてあくまで 抵 抗 させるだけであった。<br />

神 殿 を 滅 ぼすまいとしたティトゥスの 努 力 はむだであった。 彼 より 偉 大 なお 方 が、そ<br />

17


国 際 協 定<br />

の 石 1 つでもくずされずに、 他 の 石 の 上 に 残 ることはないと 宣 言 されていたのであ<br />

る。<br />

ユダヤの 指 導 者 たちの 盲 目 的 頑 強 さと、 城 内 で 行 われた 憎 むべき 犯 罪 とが、ローマ<br />

人 の 恐 怖 と 激 怒 をあおり、ティトウスはついに、 神 殿 を 襲 ってこれを 占 領 することを<br />

きめた。しかし 彼 は、できることならば 神 殿 を 破 壊 から 守 ろうとした。けれども 彼 の<br />

命 令 は 無 視 された。 彼 が 夜 、 天 幕 に 帰 ったあとで、ユダヤ 人 は、 神 殿 から 城 外 に 出 て、<br />

敵 の 兵 隊 を 攻 撃 した。 交 戦 中 、1 人 の 兵 士 が 柱 廊 のすきまから 中 へたいまつを 投 げ 込<br />

んだ。たちまち、 神 殿 の 周 りの 杉 材 のへやは 火 に 包 まれた。ティトゥスは 将 軍 や 兵 隊<br />

をつれてその 場 に 行 き、 火 を 消 すように 兵 隊 たちに 命 じた。しかし、その 命 令 は 顧 み<br />

られなかった。 怒 り 狂 った 兵 隊 たちは、 神 殿 に 隣 接 したへやにたいまつを 投 げ 込 み、<br />

そこに 避 難 していた 多 くの 者 を 剣 にかけて 殺 した。 血 が 神 殿 の 階 段 を 川 のように 流 れ<br />

た。 幾 千 というユダヤ 人 が 死 んだ。 戦 いの 物 音 に 混 じって、「イカボデ」—— 栄 光 は<br />

去 ったと 叫 ぶ 声 が 聞 こえた。<br />

ティトゥスは、 兵 隊 たちの 激 しい 怒 りをしずめることが 不 可 能 であることを 知 って、<br />

将 校 たちと 共 に 中 に 入 り、 神 殿 の 内 部 を 調 査 した。 彼 らはその 壮 麗 さに 目 を 見 張 った。<br />

そして、 火 はまだ 聖 所 まで 回 っていなかったので、 必 死 になってこれを 守 ろうとし、<br />

飛 び 出 して 行 って、ふたたび 兵 隊 たちに 火 の 進 行 を 止 めるように 訴 えた。 百 卒 長 リベ<br />

ラリスは、その 職 権 によって、 服 従 をしいようと 試 みた。しかし、 皇 帝 への 尊 敬 でさ<br />

え、ユダヤ 人 に 対 する 激 しい 敵 意 と 戦 いの 恐 ろしい 興 奮 と 略 奪 に 対 する 飽 くことを 知<br />

らない 欲 望 の 前 には、どうする 力 もなかった。 兵 隊 たちは、 金 色 に 輝 く 周 囲 のものが<br />

みな、 燃 えさかる 炎 に 照 りはえるのを 見 て、 聖 所 の 中 には 無 数 の 宝 物 がたくわえられ<br />

ていると 考 えた。だれも 気 づかないうちに、1 兵 卒 が、とびらのちょうつがいの 間 か<br />

ら 火 のついたたいまつを 中 に 投 げ 入 れた。 建 物 全 体 は、 一 瞬 のうちに 炎 に 包 まれた。<br />

立 ちこめる 煙 と 火 のために、 将 校 たちは、 避 難 するほかなかった。そして、 広 大 な 建<br />

物 は、 焼 失 するままになってしまった。<br />

「それは、ローマ 軍 にとって 恐 るべき 光 景 であった。では、ユダヤ 人 にとってはど<br />

うであったか。 全 市 を 見 おろす 山 頂 全 体 が 噴 火 山 のように 燃 え 上 がった。 建 造 物 は 次<br />

々と 大 音 響 を 立 てて 倒 れ、 火 の 海 にのまれた。 杉 ぶきの 屋 根 は 一 面 の 火 と 変 わり、 金<br />

色 の 尖 塔 は 赤 い 火 の 柱 のように 輝 いた。 門 塔 は 炎 と 煙 を 高 く 吹 き 上 げた。 近 くの 山 々<br />

は 火 に 照 りはえ、 黒 い 人 影 が 恐 怖 と 不 安 にかられつつ、 滅 亡 のさまをながめていた。<br />

都 の 城 壁 と 高 台 のほうにも、 絶 望 に 青 ざめた 人 々や、 無 益 なふくしゅうの 念 に 顔 をし<br />

かめた 人 々が 群 がっていた。 走 り 回 るローマの 兵 隊 の 叫 び 声 や、 炎 の 中 で 倒 れる 反 乱<br />

兵 たちのうめき 声 が、 猛 火 のうなりと 材 木 の 落 下 する 大 音 響 に 混 って 聞 こえた。 高 台<br />

18


国 際 協 定<br />

の 人 々の 叫 び 声 が 山 々にこだまし、 城 壁 の 周 り 一 面 に、 泣 き 叫 ぶ 声 と 嘆 き 悲 しむ 声 が<br />

満 ちた。 飢 えて 死 にひんしている 人 々は、わずかに 残 った 力 をふりしぼって、 苦 悩 と<br />

悲 痛 の 叫 びをあげた。<br />

「 城 内 の 殺 害 は、 城 外 の 光 景 よりいっそう 悲 惨 なものであった。 男 も 女 も、 老 いも<br />

若 きも、 反 乱 兵 も 祭 司 も、 戦 った 者 もあわれみを 請 うた 者 も、みな 差 別 なく 殺 害 され<br />

た。 殺 された 者 の 数 は、 殺 害 者 の 数 を 上 回 った。 軍 隊 は 死 者 の 山 をよじのぼって、 絶<br />

滅 の 仕 事 を 続 けねばならなかった。」 神 殿 が 破 壊 された 後 、まもなく、 全 市 がローマ<br />

軍 の 手 に 落 ちた。ユダヤの 将 軍 たちは 難 攻 不 落 の 要 塞 を 放 棄 したので、ティトゥスが<br />

そこに 来 た 時 には、だれも 残 っていなかった。 彼 はそれを 見 て 驚 き、これを 彼 の 手 に<br />

与 えたのは 神 であると 言 った。というのは、どんなに 強 力 な 兵 器 でも、この 巨 大 な 要<br />

塞 の 胸 壁 を 打 ち 破 ることはできなかったからである。 都 も 神 殿 もともに 完 全 に 破 壊 さ<br />

れ、 神 殿 の 跡 は、「 畑 のように 耕 され」た[エレミヤ 26:。 包 囲 とその 後 の 虐 殺 によ<br />

って 死 んだ 者 は 百 万 人 以 上 であった。 生 存 者 は、 捕 虜 として 連 れていかれたり、 奴 隷<br />

に 売 られたり、 勝 利 者 の 凱 旋 を 飾 るためにローマへ 引 かれて 行 ったりした。また 円 形<br />

劇 場 で 野 獣 の 餌 食 になった 者 もあれば、 流 浪 の 民 として 世 界 中 にちらばった 者 たちも<br />

いた。<br />

ユダヤ 人 は、 自 分 で 自 分 の 足 かせをつくり、 自 分 でふくしゅうの 杯 を 満 たしたのであ<br />

る。 国 家 としての 全 滅 の 中 で、そしてそれに 続 いて 起 こったあらゆる 災 いの 中 で、 彼<br />

らは 彼 ら 自 身 がまいたその 収 穫 を 刈 り 取 っているにすぎなかった。「イスラエルよ、<br />

あなたはあなた 自 身 を 滅 ぼす」「あなたは 自 分 の 不 義 によって、つまずいたからだ」<br />

と 預 言 者 は 言 っている[ホセア 13:9・ 英 語 訳 、14:。 彼 らの 苦 難 は、 神 の 直 接 の 命<br />

令 によって 下 った 刑 罰 のように 言 われることがよくある。こうして 大 欺 瞞 者 は、 自 分<br />

自 身 の 行 為 をかくそうとしているのである。ユダヤ 人 は、 神 の 愛 と 憐 れみを 頑 強 に 拒<br />

否 して、 神 の 保 護 を 彼 らから 退 け、サタンが 思 いのままに 彼 らを 支 配 するにまかせた<br />

のであった。エルサレムの 滅 亡 の 時 に 行 われた 残 虐 行 為 は、サタンの 支 配 に 応 じる 者<br />

にサタンがどんな 執 念 深 い 力 をあらわすかを 示 している。<br />

われわれは、 自 分 たちの 享 受 している 平 和 と 保 護 が、どんなに 多 くキリストに 負 う<br />

ものであるかを、 知 ることができない。 人 類 が 全 くサタンの 支 配 下 に 陥 らないように<br />

しているのは、 神 の 抑 制 力 である。 神 が 慈 悲 と 忍 耐 をもって、 悪 魔 の 残 酷 で 悪 意 に 満<br />

ちた 力 を 止 めておられることを、 不 従 順 で 恩 を 知 らない 者 たちは、 大 いに 感 謝 しなけ<br />

ればならないのである。しかし、 人 間 が 神 の 忍 耐 の 限 度 を 越 える 時 、この 抑 制 は 取 り<br />

除 かれる。 神 は、 罪 に 対 する 宣 告 の 執 行 者 として 罪 人 の 前 に 立 たれるわけではない。<br />

しかし 神 は、 神 の 憐 れみを 拒 んだ 者 をそのなすがままにされるのである。 彼 らは、 自<br />

19


国 際 協 定<br />

分 たちがまいたものを 刈 り 取 らなければならない。 退 けた 光 、 軽 んじ、 無 視 した 警 告 、<br />

ほしいままにした 欲 情 、 神 の 律 法 にそむいたことなどはすべて、まかれた 種 であって、<br />

それは 必 ずその 収 穫 をもたらすのである。 神 の 霊 は、 頑 強 にそれを 拒 んでいると、つ<br />

いには、 罪 人 から 離 れてしまう。すると、もはや 心 の 邪 悪 な 感 情 を 抑 制 する 力 がなく<br />

なり、サタンの 悪 意 と 敵 意 から 彼 らを 保 護 するものがなくなってしまう。エルサレム<br />

の 滅 亡 は、 神 の 恵 みの 招 きを 軽 んじ、 神 の 憐 れみの 訴 えを 拒 む 者 に 対 する 恐 ろしい、<br />

そして 厳 粛 な 警 告 である。 罪 に 対 する 神 の 憎 しみと、 罪 人 に 下 る 刑 罰 の 確 実 性 に 関 す<br />

る、これ 以 上 の 決 定 的 証 拠 はない。<br />

しかし、エルサレムに 下 った 刑 罰 に 関 する 救 い 主 の 預 言 は、もう 1 つの 成 就 を 見 な<br />

ければならない。あの 恐 ろしいエルサレム 滅 亡 も、そのできごとのほんのかすかな 影<br />

にしかすぎないのである。すなわち、われわれは、 選 ばれた 都 の 滅 亡 のなかに、 神 の<br />

憐 れみを 拒 み、 神 の 律 法 をふみにじってきた 世 界 の 運 命 を 見 るのである。この 地 上 で、<br />

幾 世 紀 の 永 きにわたって 罪 を 犯 し 続 けてきた 悲 惨 な 人 類 の 歴 史 は、まことに 暗 いもの<br />

である。それを 考 える 時 、だれしも 心 痛 み、 気 はなえてしまう。 神 の 権 威 を 拒 否 する<br />

結 果 は、 実 に 恐 ろしいことである。 しかし、さらに 暗 い 光 景 が 未 来 に 関 する 啓 示 のな<br />

かに 示 されている。すなわち、 混 乱 、 争 闘 、 革 命 、「 騒 々しい 声 と 血 まみれの 衣 を 持<br />

った 戦 士 の 戦 い」[イザヤ 9:5・ 英 語 訳 ]といった 過 去 の 歴 史 も、 神 の 霊 の 抑 制 力 が 悪<br />

人 たちから 全 く 取 り 除 かれ、 人 間 の 欲 情 とサタンの 怒 りを 止 めるものが 何 もなくなる<br />

その 日 の 恐 怖 と 比 べる 時 、ものの 数 ではないのである。その 時 、 世 界 は、これまでか<br />

ってなかったほどに、サタンの 支 配 の 結 果 を 見 るのである。<br />

しかし、その 日 、エルサレムの 滅 亡 の 時 と 同 じように、 生 命 の 書 に 記 されたすべて<br />

の 神 の 民 は 救 われる[イザヤ 4:3、4 参 照 ]。キリストは、 忠 実 な 者 を 集 めるためにも<br />

う 1 度 来 ると 言 われた。「そのとき、 人 の 子 のしるしが 天 に 現 れるであろう。またそ<br />

のとき、 地 のすべての 民 族 は 嘆 き、そして 力 と 大 いなる 栄 光 とをもって、 人 の 子 が 天<br />

の 雲 に 乗 って 来 るのを、 人 々は 見 るであろう。また、 彼 は 大 いなるラッパの 音 と 共 に<br />

御 使 たちをつかわして、 天 のはてからはてに 至 るまで、 四 方 からその 選 民 を 呼 び 集 め<br />

るであろう」[マタイ 24:30、。その 時 、 福 音 に 従 わない 者 は、 彼 の 口 の 息 をもって<br />

殺 され、その 来 臨 の 輝 きによって 滅 ぼされる[Ⅱテサロニケ 2:8 参 照 ]。 昔 のイスラ<br />

エルと 同 様 に、 悪 人 は、 自 分 自 身 を 滅 ぼし、 自 分 の 不 義 のために 倒 れる。 彼 らは 罪 の<br />

生 活 によって、 神 と 一 致 した 生 活 から 遠 く 離 れ、 彼 らの 性 質 は 悪 に 染 まってしまった。<br />

そのため、 神 の 栄 光 のあらわれは、 彼 らにとって 焼 き 尽 くす 火 となるのである。<br />

われわれは、キリストの 言 葉 に 示 された 教 訓 をなおざりにしないように 注 意 しなけ<br />

ればならない。キリストは、エルサレムの 滅 亡 について 弟 子 たちに 警 告 を 与 え、 彼 ら<br />

20


国 際 協 定<br />

が 逃 れることができるように、 滅 亡 の 近 いことを 示 すしるしをお 与 えになった。その<br />

ように、 彼 は、 最 後 の 滅 亡 の 日 について 世 界 に 警 告 を 発 し、すべてのものが 来 たるべ<br />

き 怒 りから 逃 れるように、その 近 いことを 示 すしるしをお 与 えになった。「また 日 と<br />

月 と 星 とに、しるしが 現 れるであろう。そして、 地 上 では、 諸 国 民 が 悩 み」とイエス<br />

は 言 われた[ルカ 2:25、マタイ 24:29、マルコ 13:24~26、 黙 示 録 6:12~17<br />

参 照 ]。 キリストの 再 臨 に 関 するこうしたしるしを 見 る 者 は、「そのことが 戸 口 まで<br />

近 づいている」ことを 知 らなければならない[マタイ 24:33・ 英 語 訳 ]。「 目 をさま<br />

していなさい」と 彼 は 勧 めておられる[マルコ 13:。<br />

この 警 告 を 心 にとめている 者 は、 暗 黒 のうちに 取 り 残 され、その 日 が 不 意 に 彼 らを<br />

襲 うことはない。しかし、 目 をさましていない 者 にとっては、「 主 の 日 は 盗 人 が 夜 く<br />

るように 来 る」のである[Ⅰテサロニケ 5:2、3~5 参 照 ]。 今 、 世 界 は、ユダヤ 人 が<br />

エルサレムに 関 する 救 い 主 の 警 告 を 受 け 入 れなかったのと 同 様 に、 現 代 のためのメッ<br />

セージを 信 じようとしないのである。しかし、いずれにしても、 神 の 日 は、 神 を 信 じ<br />

ない 者 に 不 意 にやって 来 る。 生 活 はいつもと 変 わりなく 続 き、 人 々は 快 楽 にふけり、<br />

事 業 や 商 売 や 金 もうけに 熱 中 し、 宗 教 家 が、 世 界 の 進 歩 と 知 識 の 増 加 を 賞 賛 し、 人 々<br />

が 偽 りの 安 定 に 眠 りをむさぼっている 時 、その 時 に、 真 夜 中 の 盗 人 が 不 用 意 な 家 に 忍<br />

び 込 むように、 突 然 、 滅 亡 が 軽 率 で 神 を 信 じない 人 々に 臨 む。「そして、それからの<br />

がれることは 決 してできない」[Ⅰテサロニケ 5:。<br />

21


国 際 協 定<br />

第 2 章 迫 害 の 火<br />

イエスは、エルサレムの 運 命 と 再 臨 の 光 景 を 弟 子 たちに 示 された 時 、 彼 が 弟 子 たち<br />

から 取 り 去 られてから、 彼 らを 救 うために 力 と 栄 光 のうちに 再 臨 される 時 までの、 神<br />

の 民 の 経 験 をも 予 告 された。オリブ 山 上 から 救 い 主 は、 使 徒 時 代 の 教 会 にふりかかろ<br />

うとしていた 嵐 を 見 られた。そして、さらに 遠 い 未 来 を 貫 いて、 来 たるべき 暗 黒 と 迫<br />

害 の 時 代 において、 彼 に 従 う 者 たちを 襲 う 激 烈 で 破 壊 的 な 嵐 をごらんになった。 彼 は<br />

ここで、 簡 単 ではあるがきわめて 重 大 な 発 言 によって、この 世 の 支 配 者 が 神 の 教 会 を<br />

どう 扱 うかを 予 告 された[マタイ 24:9、21、22 参 照 ]。キリストに 従 う 者 たちは、<br />

彼 らの 主 が 歩 かれたのと 同 じ 屈 辱 と 非 難 と 苦 しみの 道 を 歩 かなければならない。 世 界<br />

の 贖 い 主 に 向 けられた 敵 意 は、 彼 の 名 を 信 じるすべての 者 に 対 してあらわされるので<br />

あった。<br />

初 代 教 会 の 歴 史 は、 救 い 主 のみ 言 葉 の 成 就 を 立 証 した。 地 と 黄 泉 [よみ]の 力 は、 信<br />

徒 たちに 立 ち 向 かうことによって、キリストに 対 抗 した。 異 教 は、もし 福 音 が 勝 利 を<br />

収 めるならば、 自 分 たちの 神 殿 と 祭 壇 は 一 掃 されてしまうと 予 想 し、そのために 全 力<br />

を 挙 げてキリスト 教 を 撲 滅 しようとした。 迫 害 の 火 が 点 じられた。キリスト 者 たちは<br />

持 ち 物 を 奪 われ、 家 から 追 われた。 彼 らは、「 苦 しい 大 きな 戦 いによく 耐 えた」[ヘブ<br />

ル 10:。 彼 らは、「あざけられ、むち 打 たれ、しばり 上 げられ、 投 獄 されるほどのめ<br />

に 会 った」[ 同 11:。 多 くの 者 は、 彼 らのあかしに 血 の 印 をおした。 貴 族 も 奴 隷 も、<br />

金 持 ちも 貧 しい 人 も、 知 者 も 無 知 なものも 一 様 に 容 赦 なく 殺 された。 ネロのもとで、<br />

パウロが 殉 教 したころに 始 まったこのような 迫 害 は、その 激 しさに 多 少 の 差 はあった<br />

が、 数 世 紀 間 続 いた。キリスト 者 は、 極 悪 非 道 な 犯 罪 を 犯 したものとして 偽 って 訴 え<br />

られ、 飢 饉 、 疫 病 、 地 震 などの 災 害 の 原 因 であるとされた。 彼 らが、 一 般 社 会 の 憎 悪<br />

と 嫌 疑 の 的 となると、 密 告 者 たちは 利 益 のために、 罪 のない 者 を 裏 切 った。 彼 らは、<br />

ローマ 帝 国 の 反 逆 者 、 宗 教 の 敵 、 社 会 の 害 毒 であると 非 難 された。 数 多 くの 者 が 円 形<br />

劇 場 で、 野 獣 の 餌 食 になり、 生 きながら 火 で 焼 かれた。 十 字 架 に 架 けられた 者 たちも<br />

あれば、 野 獣 の 皮 を 着 せられて 闘 技 場 に 投 げ 込 まれ、 犬 にかみ 裂 かれた 者 たちもあっ<br />

た。こうした 刑 罰 は、しばしば、 祝 祭 日 の 主 な 催 し 物 にされた。 大 群 衆 が 集 まってき<br />

て、その 光 景 をながめて 楽 しみ、 彼 らの 死 の 苦 しみを 笑 い、 喝 釆 した。<br />

キリストに 従 う 者 たちは、どこに 避 難 しても、 野 獣 のように 狩 り 出 された。 彼 らは<br />

荒 涼 として 人 跡 まれなところにかくれがを 求 めなければならなかった。「 無 一 物 にな<br />

り、 悩 まされ、 苦 しめられ、[この 世 は 彼 らの 住 む 所 ではなかった]、 荒 野 と 山 の 中 と<br />

22


国 際 協 定<br />

岩 の 穴 と 土 の 穴 とを、さまよい 続 けた」[ヘブル 11:37、。カタコンベ[ 地 下 墓 所 ]は、<br />

幾 千 の 人 々の 避 難 所 となった。ローマ 市 外 の 丘 の 下 には、 土 や 岩 を 掘 って 造 った 長 い<br />

地 下 道 が 網 状 に 交 錯 して、 城 外 に 幾 マイルも 広 がっていた。キリストに 従 う 者 たちは、<br />

この 地 下 のかくれがに 死 者 を 葬 った。また、 彼 らが 嫌 疑 をかけられ、 追 放 された 時 に<br />

は、ここをすみかとした。 善 き 戦 いを 戦 った 者 たちを 生 命 の 君 が 呼 びさまされる 時 、<br />

これらの 暗 いほら 穴 の 中 から、キリストのために 殉 教 した 多 くの 者 たちが 出 てくるの<br />

である。<br />

もっとも 激 烈 な 迫 害 の 中 にあって、イエスの 証 人 たちは、 自 分 たちの 信 仰 を 清 く 保<br />

った。 彼 らは、あらゆる 慰 安 を 奪 われ、 太 陽 の 光 を 見 ることもできず、 暗 いが 親 しみ<br />

のある 地 のふところを 家 として、つぶやきを 口 にしなかった。 彼 らは、 信 仰 と 忍 耐 と<br />

希 望 に 満 ちた 言 葉 で、 互 いに 励 まし 合 い、 欠 乏 と 苦 難 に 耐 えた。この 世 のあらゆる 幸<br />

福 が 失 われたにもかかわらず、 彼 らにキリストを 信 じる 信 仰 を 捨 てさせることはでき<br />

なかった。 試 練 と 迫 害 は、 彼 らを 休 息 と 報 賞 とに 近 づける 歩 みに 過 ぎなかった。<br />

昔 の 神 のしもべたちのように、 多 くの 者 は、「 更 に まさったいのちによみがえるた<br />

めに、 拷 問 の 苦 しみに 甘 んじ、 放 免 されることを 願 わなかった」[ヘブル 11:。 彼 ら<br />

は、キリストのために 苦 しみを 受 ける 時 には 喜 び、 喜 べ、 天 においてあなたがたの 受<br />

ける 報 いは 大 きい、あなたがたより 前 の 預 言 者 たちも、 同 じように 迫 害 されたのであ<br />

る、という 主 の 言 葉 を 思 い 出 した。 彼 らは 真 理 のために 苦 しむに 足 る 者 とされたこと<br />

を 喜 び、 燃 えさかる 炎 のまっただ 中 から 勝 利 の 歌 声 があがったのであった。 彼 らは 信<br />

仰 によって 上 を 仰 ぎ、キリストと 天 使 たちが 天 の 胸 壁 から 深 い 関 心 をもって 彼 らを 見<br />

つめ、 彼 らの 堅 い 信 仰 をよしとされるのを 見 た。 神 のみ 座 から、 彼 らに 声 が 聞 こえた。<br />

「 死 に 至 るまで 忠 実 であれ。そうすれば、いのちの 冠 を 与 えよう」[ 黙 示 録 2:。<br />

キリストの 教 会 を 暴 力 で 滅 ぼそうとしたサタンの 努 力 はむだであった。イエスの 弟<br />

子 たちがその 生 命 をささげた 大 争 闘 は、これらの 忠 実 な 旗 手 たちがその 持 ち 場 で 倒 れ<br />

た 時 にもやむことはなかった。 敗 北 によって 彼 らは 勝 利 した。 神 の 働 き 人 たちは 殺 さ<br />

れたが、 神 の 働 きは 着 実 に 前 進 した。 福 音 は 進 展 し 続 け、それを 信 じる 者 の 数 は 増 加<br />

した。それは、 近 づきがたいような 地 域 にも 入 りこみ、ローマの 軍 隊 にまで 及 んだ。<br />

迫 害 を 推 し 進 めようとする 異 教 徒 の 支 配 者 たちをいさめて、あるキリスト 者 はこう 言<br />

った。あなたがたは、「われわれを 殺 し、 苦 しめ、 罪 に 定 めることができよう。……<br />

あなたがたの 不 正 行 為 は、われわれの 無 実 の 証 拠 である。……また、あなたがたの 残<br />

酷 さも……あなたがたの 益 とはならない。」 迫 害 は、 他 の 人 々をキリスト 教 に 導 くさ<br />

らに 強 力 な 招 きとなったに 過 ぎなかった。「われわれはあなたがたに 刈 り 倒 されるた<br />

23


国 際 協 定<br />

びに、 数 が 増 加 する。キリスト 者 の 血 は、 種 である」[テルトゥリアヌス『 護 教 論 』<br />

50 節 ]。<br />

幾 千 の 者 が 投 獄 され、 殺 されたが、すぐに 他 の 者 が 現 れてその 場 所 を 埋 めた。そし<br />

て、 信 仰 のために 殉 教 した 者 は、キリストのものとして 確 保 され、 彼 に 勝 利 者 として<br />

認 められた。 彼 らはりっぱに 戦 いぬいたのであり、キリストが 来 られる 時 に、 栄 光 の<br />

冠 を 受 けるのであった。 彼 らが 耐 え 忍 んだ 苦 しみは、キリスト 者 たちを 互 いに 近 づけ、<br />

また 彼 らの 贖 い 主 へと 近 づけた。 彼 らの 生 きた 模 範 と 死 ぬ 時 の 証 言 は、 真 理 に 対 する<br />

絶 えざるあかしであった。そして、 最 も 予 期 していないところで、サタンの 部 下 がそ<br />

の 務 めを 去 って、キリストの 旗 の 下 に 加 わった。<br />

そこでサタンは、 彼 の 旗 をキリスト 教 会 内 に 立 てることによって、 神 の 政 府 をもっ<br />

と 効 果 的 に 攻 撃 しようと 計 画 した。もし、キリストの 弟 子 たちを 欺 き、 神 のみこころ<br />

を 損 わせることができるならば、 彼 らの 力 と 忍 耐 と 堅 固 さは 失 われて、たやすく 彼 の<br />

餌 食 になるのであった。<br />

大 いなる 敵 、 悪 魔 は、 暴 力 でできなかったことを、 今 や 策 略 によって 得 ようと 努 め<br />

た。 迫 害 はやんだ。そして、その 代 わりに、この 世 の 繁 栄 と 世 俗 の 栄 誉 という 危 険 な<br />

誘 惑 物 がおかれた。 偶 像 教 徒 は、 他 の 重 要 な 真 理 を 拒 否 しながらも、キリスト 教 の 信<br />

仰 の 一 部 を 受 け 入 れるように 導 かれた。 彼 らは、イエスを 神 の 子 として 受 け 入 れ、 彼<br />

の 死 と 復 活 を 信 じると 言 いながら、 罪 の 自 覚 もなく、 悔 い 改 めや 心 の 変 化 の 必 要 を 感<br />

じなかった。 彼 らは、 自 分 たちも 譲 歩 したのだから、キリスト 者 も 譲 歩 して、すべて<br />

の 者 がキリストを 信 じる 原 則 において 一 致 するようにしようと 提 案 した。<br />

今 や 教 会 は 恐 るべき 危 機 に 陥 った。これと 比 べるならば、 牢 獄 や 拷 問 、 火 や 剣 は 祝<br />

福 であった。キリスト 者 のある 者 たちは 堅 く 立 って、 妥 協 することはできないと 宣 言<br />

した。しかし、ある 者 たちは、 彼 らの 信 仰 のいくっかの 特 徴 を 捨 てたり 変 更 したりす<br />

ることに、そしてキリスト 教 を 部 分 的 に 受 け 入 れていた 者 たちと 結 合 することに 賛 成<br />

して、これは、 彼 らを 完 全 な 改 宗 に 導 く 手 段 になるであろうと 言 った。それは、キリ<br />

ストに 忠 実 に 従 う 者 たちにとって、 深 刻 な 苦 悩 の 時 であった。 サタンは、 見 せかけの<br />

キリスト 教 という 上 衣 をまとって、 教 会 内 に 侵 入 し、 信 者 たちの 信 仰 を 腐 敗 させ、 彼<br />

らの 心 を 真 理 の 言 葉 から 離 れさせた。<br />

ついに、キリスト 者 の 多 くは、 標 準 を 下 げることに 同 意 し、キリスト 教 と 異 教 との<br />

間 の 結 合 が 成 立 した。 偶 像 礼 拝 者 たちは、 改 宗 したと 言 って 教 会 に 加 わったものの、<br />

依 然 として 偶 像 礼 拝 を 続 けており、 礼 拝 の 対 象 をイエスの 像 や、マリヤ、 聖 人 たちの<br />

像 に 変 えたにすぎなかった。こうして 教 会 内 に 侵 入 したいまわしい 偶 像 礼 拝 のパン 種<br />

24


国 際 協 定<br />

は、その 害 を 及 ぼしていった。 不 健 全 な 教 義 、 迷 信 的 礼 典 や 偶 像 礼 拝 的 儀 式 が、 教 会<br />

の 信 条 と 礼 拝 の 中 に 取 り 入 れられた。キリスト 者 たちが 偶 像 礼 拝 者 たちと 結 合 したこ<br />

とによって、キリスト 教 は 腐 敗 し、 教 会 はその 純 潔 と 力 を 失 った。しかしながら、こ<br />

うした 惑 わしに 欺 かれない 者 たちもいくらかはいた。 彼 らは、 真 理 の 本 源 であられる<br />

神 に 依 然 として 忠 誠 をつくし、ただ 神 だけを 礼 拝 した。<br />

キリストの 弟 子 であると 自 称 する 人 々の 中 に、 常 に 2 種 類 の 人 々がある。 一 方 の 人<br />

々は、 救 い 主 の 生 涯 を 研 究 して、 自 分 の 欠 点 を 正 し、 模 範 に 倣 おうと 熱 心 に 求 めるが、<br />

もう 一 方 の 人 々は、 彼 らの 誤 りを 指 摘 する 明 白 で 実 際 的 な 真 理 を 避 けるのである。 教<br />

会 は、その 最 善 の 状 態 にあった 時 でさえ、 真 実 で 純 潔 で 誠 実 な 人 々だけで 成 り 立 って<br />

いたのではなかった。 救 い 主 は、 故 意 に 罪 にふける 人 々を 教 会 に 受 け 入 れてはならな<br />

いと 教 えられた。しかし 彼 は、 品 性 に 欠 点 のある 人 々をご 自 分 に 結 びつけ、 彼 の 教 え<br />

と 模 範 の 利 益 を 受 けることを 許 された。それは 彼 らに、 自 分 たちの 誤 りを 認 めてそれ<br />

を 正 す 機 会 を 与 えるためであった。12 使 徒 の 中 には 裏 切 り 者 がいた。ユダは、 彼 の 品<br />

性 の 欠 陥 のためではなくて、 欠 陥 にもかかわらず 受 け 入 れられた。ユダが 弟 子 たちの<br />

仲 間 に 加 えられたのは、 彼 がキリストの 教 訓 と 模 範 によって、キリスト 者 の 品 性 がど<br />

のようなものであるかを 知 り、 自 分 の 過 ちを 認 めて 悔 い 改 め、 神 の 恵 みの 助 けと、<br />

「 真 理 に 従 うことによって」 魂 を 清 めるためであった。しかしユダは、このように 恵<br />

み 深 く 彼 を 照 らした 光 の 中 を 歩 かなかった。 罪 にふけることによって、 彼 はサタンの<br />

誘 惑 を 招 いた。 彼 の 品 性 の 悪 い 特 徴 が、 主 導 権 を 握 った。<br />

彼 は、 自 分 の 心 を 暗 黒 の 力 の 支 配 に 従 わせ、 自 分 の 欠 点 が 譴 責 されると 怒 るように<br />

なり、こうして、 主 を 裏 切 るという 恐 ろしい 罪 を 犯 すようになった。これと 同 じく、<br />

信 心 深 いことを 言 いながら 心 に 罪 をいだいている 者 はみな、 自 分 たちの 罪 の 歩 みを 指<br />

摘 して、 心 の 平 和 をみだす 者 を 憎 むのである。 彼 らは、よい 機 会 が 来 るならば、ユダ<br />

のように、 彼 らのためを 思 って 彼 らを 譴 責 した 者 を 裏 切 るのである。<br />

使 徒 たちも 教 会 内 で、 信 心 深 い 様 子 をしながらひそかに 罪 をいだいている 人 々に 出<br />

会 った。アナニヤとサッピラは、 人 を 欺 いた。 彼 らは、 神 のためにすべてを 犠 牲 にし<br />

ているように 見 せかけながら、 欲 のためにその 一 部 を 自 分 たちで 保 留 していた。しか<br />

し 真 理 のみ 霊 がこうした 偽 り 者 の 本 性 を 使 徒 たちに 暴 露 し、 神 の 刑 罰 が 下 って、 教 会<br />

の 純 潔 を 損 うこうした 汚 点 を 教 会 から 取 り 除 いた。 教 会 には 真 偽 を 見 分 けるキリスト<br />

の 霊 があるというこの 顕 著 な 証 拠 は、 偽 善 者 たちや 悪 事 を 行 う 者 たちに 恐 怖 を 与 えた。<br />

彼 らは、その 習 慣 や 品 性 が 常 にキリストを 代 表 している 者 たちと、 長 くつながってい<br />

ることはできなかった。ひとたびキリストの 弟 子 たちに、 試 練 と 迫 害 が 来 た 時 、 真 理<br />

のためにすべてを 喜 んで 捨 てる 者 だけが、 弟 子 になることを 望 んだのである。こうし<br />

25


国 際 協 定<br />

て、 迫 害 が 続 くかぎり、 教 会 は 比 較 的 純 潔 を 保 つことができた。しかし、 迫 害 がやむ<br />

と、それほど 真 剣 でもなくそれほど 献 身 もしていない 改 宗 者 たちが 加 わってきて、サ<br />

タンが 足 場 を 得 る 道 が 開 かれた。<br />

しかし、 光 の 君 と 暗 黒 の 君 との 間 に 一 致 はない。そして、その 弟 子 たちの 間 にも 一<br />

致 はあり 得 ない。キリスト 者 たちが、 異 教 から 半 分 だけ 改 宗 した 人 々と 1 つになるこ<br />

とに 同 意 した 時 、 彼 らは 真 理 からますます 遠 ざかる 道 に 足 を 踏 み 入 れたのであった。<br />

サタンは、 多 くのキリストの 弟 子 たちを 欺 くことができたことを 喜 んだ。そして 彼 は、<br />

この 人 々をさらに 十 分 に 自 分 の 支 配 下 に 治 めて、 彼 らによって、 神 に 忠 誠 を 保 つ 人 々<br />

を 迫 害 させようとした。<br />

かつてキリスト 教 信 仰 の 擁 護 者 であった 人 々ほど、どのようにして 真 のキリスト 教<br />

信 仰 を 圧 迫 すべきかを 知 っているものはない。これら 背 教 的 なキリスト 者 たちは、 半<br />

ば 異 教 的 な 仲 間 たちと 結 合 して、キリストの 教 理 の 最 も 重 要 な 特 徴 を 攻 撃 したのであ<br />

る。<br />

忠 誠 を 保 とうとする 人 々は、 司 祭 服 にかくれて 教 会 のなかに 導 入 された 欺 瞞 と 憎 む<br />

べきこととに 対 抗 して、 必 死 に 戦 わねばならなかった。 聖 書 は、 信 仰 の 規 準 として 受<br />

け 入 れられなかった。 信 仰 の 自 由 という 教 義 は 異 端 視 され、その 支 持 者 は 憎 まれ 追 放<br />

された。<br />

長 期 にわたった 激 しい 戦 いの 後 、 忠 実 なわずかの 者 たちは、 教 会 が 虚 偽 と 偶 像 礼 拝<br />

とを 捨 てることをなお 拒 否 するならば、 背 信 した 教 会 との 一 致 をすべて 絶 つ 決 心 をし<br />

た。 彼 らは、 神 のみ 言 葉 に 従 おうとするならば、 分 離 することが 絶 対 に 必 要 なことを<br />

認 めた。 彼 らは、 自 分 たちの 魂 を 危 険 に 陥 れる 誤 りを 黙 認 したり、 自 分 たちの 子 孫 の<br />

信 仰 を 危 うくするような 例 を 残 したりすることはしたくなかった。 彼 らは、 神 に 対 す<br />

る 忠 誠 と 矛 盾 しないかぎり、どんな 譲 歩 でもして、 平 和 と 一 致 を 保 とうとした。しか<br />

し、 平 和 のために 原 則 を 犠 牲 にすることは、あまりにも 大 きな 代 価 であった。 真 理 と<br />

正 義 を 曲 げなければ 得 られない 一 致 であるならば、 彼 らはむしろ 不 和 をも、そして 戦<br />

争 をもいとわなかった。<br />

これらの 人 々を 堅 く 立 たせた 諸 原 則 が、 神 の 民 と 称 している 人 々の 心 の 中 によみが<br />

えるならば、 教 会 と 世 界 にとってどんなにかよいことであろう。キリスト 教 信 仰 の 柱<br />

である 教 理 が、 驚 くほど 無 視 されている。 結 局 こうしたことは 重 大 なものではない、<br />

という 意 見 が 強 くなっている。この 堕 落 は、サタンの 配 下 たちの 手 を 強 めるものであ<br />

って、そのために、 各 時 代 の 忠 実 な 者 たちが、 生 命 をかけて 反 対 し 摘 発 してきた 偽 り<br />

26


国 際 協 定<br />

の 説 や 致 命 的 な 欺 瞞 が、 今 やキリストに 従 っていると 称 する 多 くの 人 々に 歓 迎 される<br />

ようになってきた。<br />

初 代 のキリスト 者 たちは、 実 際 、 特 殊 な 民 であった。 彼 らの 非 難 するところのない<br />

行 状 と 確 固 たる 信 仰 とは、 絶 えず 罪 人 の 心 を 責 めるものであった。 彼 らは 数 が 少 なく、<br />

富 も 地 位 も 名 誉 ある 称 号 もなかったけれども、その 品 性 と 教 義 とが 知 られているとこ<br />

ろではどこでも、 悪 を 行 う 者 たちにとって 恐 怖 であった。それゆえに 彼 らは、アベル<br />

が 神 を 恐 れないカインに 憎 まれたように、 悪 人 たちに 憎 まれた。カインがアベルを 殺<br />

したのと 同 じ 理 由 から、 聖 霊 の 抑 制 を 拒 む 人 々は 神 の 民 を 殺 した。ユダヤ 人 が 救 い 主<br />

を 拒 んで 十 字 架 につけたのも、 同 じ 理 由 からであった。すなわち 彼 の 品 性 の 純 潔 と 神<br />

聖 さとが、 絶 えず 彼 らの 利 己 心 と 堕 落 とを 責 めたからであった。キリストの 時 代 から<br />

今 に 至 るまで、 彼 の 忠 実 な 弟 子 たちは、 罪 を 愛 してその 道 を 歩 む 者 たちの 憎 しみと 反<br />

対 とを 引 き 起 こしてきたのである。<br />

それならば、どうして 福 音 を、 平 和 のメッセージと 呼 ぶことができるのであろうか。<br />

イザヤはメシヤの 誕 生 を 預 言 して、 彼 を「 平 和 の 君 」と 呼 んだ。また 天 使 たちは、キ<br />

リストの 誕 生 を 羊 飼 いたちに 告 げた 時 、「いと 高 きところでは、 神 に 栄 光 があるよう<br />

に、 地 の 上 では、み 心 にかなう 人 々に 平 和 があるように」とベツレヘムの 平 原 の 上 で<br />

歌 った[ルカ 2:。これらの 預 言 の 言 葉 と、「 平 和 ではなく、つるぎを 投 げ 込 むために<br />

きた」というキリストの 言 葉 との 間 には、 一 見 、 矛 盾 があるように 思 われる[マタイ<br />

10:。しかし、 正 しく 理 解 されるならば、この 2 つは 完 全 に 一 致 している。 福 音 は 平<br />

和 のメッセージである。キリスト 教 は、それを 受 け 入 れて 従 うならば、 全 地 を 平 和 と<br />

一 致 と 幸 福 で 満 たすものである。キリストの 宗 教 は、その 教 えを 受 け 入 れるすべての<br />

者 を 親 しい 兄 弟 関 係 に 入 れる。イエスの 使 命 は、 人 々を 神 と 和 解 させ、そしてお 互 い<br />

に 和 解 させることであった。しかし 世 界 は 一 般 に、キリストの 大 敵 サタンの 支 配 下 に<br />

ある。<br />

福 音 が 彼 らに、 彼 らの 習 慣 や 欲 望 と 全 く 異 なった 生 活 の 原 則 を 示 すために、 彼 らは<br />

それに 反 逆 する。 彼 らは 自 分 たちの 罪 を 指 摘 し 非 難 する 純 潔 を 憎 む。そして、その 公<br />

正 で 神 聖 な 要 求 を 守 るように 勧 める 人 々を、 彼 らは 迫 害 し 滅 ぼすのである。 福 音 のも<br />

たらす 崇 高 な 真 理 は、 憎 しみや 争 いを 引 き 起 こすもとになるために、この 意 味 におい<br />

て、 福 音 は 剣 であると 言 われているのである。<br />

神 が 不 思 議 な 摂 理 のうちに、 義 人 が 悪 人 に 迫 害 されることを 許 されることは、 信 仰<br />

の 薄 い 多 くの 者 を 大 いに 困 惑 させてきた 問 題 である。 神 が、 極 悪 人 たちを 栄 えるがま<br />

まにしておかれ、 一 方 最 も 善 良 で 純 潔 な 人 々が、 彼 らの 残 酷 な 力 によって 悩 まされ 苦<br />

27


国 際 協 定<br />

しめられるのを 見 て、 神 に 対 する 信 頼 を 捨 て 去 ろうとする 者 さえいる。 正 義 にして 憐<br />

れみ 深 く、 無 限 の 力 を 持 った 方 が、どうしてこのような 不 正 と 圧 迫 を 黙 認 しておられ<br />

るのか、と 人 々は 問 う。しかしこれは、われわれの 関 知 すべき 問 題 ではない。 神 はそ<br />

の 愛 について 十 分 な 証 拠 を 与 えておられるのだから、われわれは 神 の 摂 理 の 働 きが 理<br />

解 できないからと 言 って、 神 の 慈 愛 を 疑 ってはならない。 救 い 主 は、 試 練 と 暗 黒 の 日<br />

々に 弟 子 たちの 心 を 苦 しめる 疑 惑 を 予 見 して、「わたしがあなたがたに『 僕 はその 主<br />

人 にまさるものではない』と 言 ったことを、おぼえていなさい。もし 人 々がわたしを<br />

迫 害 したなら、あなたがたをも 迫 害 するであろう」と 彼 らに 言 われた[ヨハネ 15:。<br />

イエスはわれわれのために、 彼 のどの 弟 子 が 悪 人 の 残 虐 によって 苦 しめられるよりも<br />

激 しい 苦 しみを 受 けられた。 苦 しみに 耐 え、 殉 教 するために 召 された 者 は、 神 の 愛 す<br />

るみ 子 の 足 跡 をふみ 従 うに 過 ぎないのである。<br />

「 主 は 約 束 の 実 行 をおそくしておられるのではない」[Ⅱペテロ 3:。 主 は、ご 自 分<br />

の 子 供 たちを 忘 れたり、おろそかにしたりなさらない。ただ、 主 のみこころを 行 おう<br />

とする 者 がだれも 悪 人 に 欺 かれることがないように、 悪 人 の 本 性 があらわされること<br />

をお 許 しになるのである。<br />

また、 義 人 たちが 苦 難 の 炉 に 入 れられるのは、 彼 ら 自 身 が 清 められるためであり、<br />

彼 らの 模 範 によって、 他 の 人 々が 信 仰 と 敬 虔 な 生 活 の 実 際 をよく 理 解 するためである。<br />

そして、 彼 らの 終 始 一 貫 した 行 為 によって、 神 を 信 じ 敬 うことをしない 人 々を 責 めも<br />

するのである。<br />

神 は、 悪 人 が 栄 え、 悪 人 が 神 に 対 する 敵 意 を 表 すことをお 許 しになる。それは、 彼<br />

らの 罪 悪 の 升 目 が 満 ちた 時 、 彼 らが 全 く 滅 ぼされることが 神 の 正 義 と 憐 れみによるも<br />

のであることをすべての 者 が 知 るためである。 神 の 報 復 の 日 が 迫 っている。その 時 に<br />

は、 神 の 律 法 を 破 り 神 の 民 を 圧 迫 した 者 がみな、その 行 為 に 対 する 正 当 な 報 いを 受 け<br />

る。その 時 には、 神 に 忠 実 に 仕 える 者 に 対 して 行 われたすべての 残 酷 な、また 不 正 な<br />

行 為 が、キリストご 自 身 に 対 してなされたかのように 罰 せられる。<br />

ところで、 今 日 の 教 会 が 注 意 すべきもう 1 つのさらに 重 大 な 問 題 がある。 使 徒 パウ<br />

ロは、「キリスト・イエスにあって 信 心 深 く 生 きようとする 者 は、みな、 迫 害 を 受 け<br />

る」と 言 っている[Ⅱテモテ 3:。それでは、 迫 害 の 火 が 消 えているように 思 われるの<br />

は、なぜであろうか。その 唯 一 の 理 由 は、 教 会 が 世 俗 の 標 準 に 妥 協 したために、 反 対<br />

を 引 き 起 こさないということにある。 今 日 、 世 に 迎 えられている 宗 教 は、キリストと<br />

その 弟 子 たちの 時 代 の 信 仰 のように 純 潔 で 聖 なるものではない。キリスト 教 が 世 の 中<br />

から 迎 えられているように 見 えるのは、 罪 と 妥 協 する 精 神 、 神 のみ 言 葉 の 偉 大 な 真 理<br />

28


国 際 協 定<br />

に 対 する 無 関 心 、 教 会 内 における 生 きた 敬 神 の 念 の 欠 乏 のゆえにほかならない。 初 代<br />

教 会 の 信 仰 と 力 が 復 興 するならば、 迫 害 の 精 神 もまた 復 興 し、 迫 害 の 火 は 再 び 点 じら<br />

れるのである。<br />

29


国 際 協 定<br />

第 3 章 暗 黒 時 代<br />

使 徒 パウロは、テサロニケ 人 への 第 2 の 手 紙 のなかで、 法 王 権 の 樹 立 をもたらす 大<br />

背 教 のことを 預 言 した。 彼 は、キリストの 日 が 来 る 前 に、「まず 背 教 のことが 起 り、<br />

不 法 の 者 、すなわち、 滅 びの 子 が 現 れるにちがいない。 彼 は、すべて 神 と 呼 ばれたり<br />

拝 まれたりするものに 反 抗 して 立 ち 上 がり、 自 ら 神 の 宮 に 座 して、 自 分 は 神 だと 宣 言<br />

する」と 言 った。パウロは、さらに、「 不 法 の 秘 密 の 力 が、すでに 働 いている」と 信<br />

者 たちに 警 告 している[Ⅱテサロニケ 2:3、4、7 参 照 ]。 早 くも 彼 は 誤 りが 教 会 に 侵<br />

入 し、 法 王 権 の 発 展 に 道 を 備 えるのを 見 たのであった。<br />

徐 々に、 最 初 はこっそりと 静 かに、そしてそれから 勢 力 を 増 し、 人 心 を 支 配 するよ<br />

うになるにつれて、もっと 公 然 と、「 不 法 の 秘 密 」はその 欺 瞞 的 冒 瀆 的 な 働 きを 進 め<br />

ていった。 異 教 の 習 慣 は、 目 につかないほど 少 しずつキリスト 教 会 の 中 に 入 ってきた。<br />

教 会 が 異 教 から 激 しく 迫 害 を 受 けていた 間 は、 一 時 妥 協 と 迎 合 の 精 神 は 抑 えられてい<br />

た。しかし 迫 害 がやんで、キリスト 教 が 王 侯 の 宮 廷 や 宮 殿 に 入 った 時 、 教 会 はキリス<br />

トと 使 徒 たちのつつましやかな 単 純 さを 捨 て、 異 教 の 司 祭 や 王 侯 たちの 虚 飾 と 華 美 に<br />

倣 った。そして 神 のご 要 求 のかわりに、 人 間 の 理 論 や 伝 説 を 取 り 入 れた。4 世 紀 の 初<br />

期 に、コンスタンティヌス 帝 が 名 ばかりの 改 宗 をして、 一 般 から 大 いに 歓 迎 された。<br />

そして、 世 俗 が 信 心 深 い 様 子 をして 教 会 内 に 入 ってきた。 今 や、 堕 落 は 急 速 に 進 んだ。<br />

異 教 は 征 服 されたように 見 えながら、 勝 利 者 となった。 異 教 の 精 神 が 教 会 を 支 配 した。<br />

その 教 義 と 礼 典 と 迷 信 とが、キリストの 弟 子 であると 公 言 する 人 々の 信 仰 と 礼 拝 に 織<br />

りこまれた。<br />

この 異 教 とキリスト 教 の 妥 協 が、 神 に 反 抗 して 立 ち 上 がると 預 言 された「 不 法 の 者 」<br />

を 出 現 させることになった。 偽 りの 宗 教 のあの 巨 大 な 組 織 は、サタンの 権 力 が 生 んだ<br />

一 大 傑 作 であって、 自 分 の 意 のままにこの 地 上 を 支 配 しようとする 彼 の 努 力 の 記 念 碑<br />

である。サタンは 前 にも 1 度 、キリストと 妥 協 しようと 努 めたことがあった。 彼 は 試<br />

みの 荒 野 で、 神 のみ 子 のところに 来 て、この 世 のすべての 国 々とその 栄 華 とを 見 せ、<br />

もしキリストが 暗 黒 の 君 の 主 権 を 認 めさえすれば、すべてを 彼 の 手 に 与 えようと 言 っ<br />

た。キリストは 僣 越 な 誘 惑 者 を 譴 責 し、 追 い 払 われた。しかしサタンは 同 じ 誘 惑 を 人<br />

間 の 前 に 差 し 出 して、 大 きな 成 功 を 収 めている。 教 会 はこの 世 の 利 益 と 栄 誉 を 手 に 入<br />

れるために、 地 上 の 有 力 者 たちの 賛 成 と 支 持 を 求 めるようになった。そして、このよ<br />

うにしてキリストを 拒 否 したことによって、 教 会 はサタンの 代 表 者 であるローマの 司<br />

教 に 忠 誠 をつくすに 至 った。<br />

30


国 際 協 定<br />

法 王 は 全 世 界 のキリストの 教 会 の 目 に 見 える 頭 であって、 世 界 各 地 の 司 教 と 牧 師 に<br />

対 する 至 上 権 が 与 えられている、というのがローマ・カトリック 教 会 の 主 要 教 義 の 1<br />

つである。そればかりではない。 法 王 には、 神 の 称 号 そのものが 与 えられている。 彼<br />

は「 主 なる 神 、 法 王 」と 呼 ばれ、 誤 ることがないとされてきた。 彼 はすべての 人 間 が<br />

彼 を 尊 敬 することを 要 求 する。サタンは 試 みの 荒 野 において 主 張 したのと 同 じことを、<br />

今 日 もなおローマ 教 会 を 通 じて 主 張 している。そして 無 数 の 人 々が、 心 から 彼 に 尊 敬<br />

を 払 っている。<br />

しかし、 神 を 恐 れ 敬 うものは、キリストが、 狡 猾 な 敵 の 誘 惑 に 対 抗 されたように<br />

「 主 なるあなたの 神 を 拝 し、ただ 神 にのみ 仕 えよ」と 言 って、 神 に 逆 らうこうした 主<br />

張 に 立 ち 向 かうのである[ルカ 4:。 神 はみ 言 葉 の 中 で、だれか 人 間 を 教 会 の 頭 にした<br />

などという 暗 示 すら 与 えておられない。 法 王 至 上 権 説 は、 聖 書 の 教 えと 全 く 相 反 する<br />

ものである。 法 王 は、 横 領 による 以 外 に、キリストの 教 会 の 上 に 権 力 を 振 うことはで<br />

きない。 カトリック 教 徒 は、プロテスタントを 異 端 視 しつづけ、 真 の 教 会 から 故 意 に<br />

分 離 したものであると 言 って きた。しかしこうした 非 難 は、むしろ 彼 らにこそ 当 ては<br />

まるのである。キリストの 旗 を 捨 てて、「 聖 徒 たちによって、ひとたび 伝 えられた 信<br />

仰 」から 離 れたのは、 彼 らであった[ユダ。<br />

サタンは、 聖 書 が 人 々に、 彼 の 欺 瞞 を 見 分 け、 彼 の 力 に 対 抗 できるようにさせるこ<br />

とをよく 知 っていた。 世 の 救 い 主 でさえ、み 言 葉 によって、 彼 の 攻 撃 を 退 けられた。<br />

キリストは 攻 撃 されるたびに、 永 遠 の 真 理 の 盾 を 用 いて、「……と 書 いてある」と 言<br />

われた。サタンのあらゆる 誘 惑 に 対 し、キリストはみ 言 葉 の 知 恵 と 力 をもって 対 抗 さ<br />

れた。サタンが 人 々の 上 に 権 力 をふるい、 横 領 者 的 な 法 王 権 をうちたてるには、 彼 ら<br />

を 聖 書 について 無 知 にしておかねばならなかった。 聖 書 は 神 を 高 め、 有 限 な 人 間 の 真<br />

の 立 場 を 明 らかにする。それゆえに、その 聖 なる 真 理 を 隠 し、 抑 圧 しなければならな<br />

い。ローマ 教 会 はこの 論 法 をとった。 数 百 年 にわたって、 聖 書 の 配 布 が 禁 止 された。<br />

人 々は 聖 書 を 読 むことも、それを 家 に 持 つことも 禁 じられた。そして 節 操 のない 司 祭<br />

たちや 司 教 たちが、 自 分 たちの 主 張 を 支 持 するためにその 教 えを 解 釈 した。こうして<br />

法 王 は、 地 上 における 神 の 代 表 者 、 教 会 と 国 家 に 対 する 権 威 を 与 えられた 者 として、<br />

広 く 認 められるようになった。<br />

誤 りを 指 摘 するものが 除 かれたので、サタンは、 思 う 存 分 に 活 躍 した。 法 王 権 は<br />

「 時 と 律 法 とを 変 えようと 望 む」と 預 言 されていた[ダニエル 7:。このことは、さっ<br />

そく 実 行 に 移 された。 異 教 から 改 宗 した 人 々に、 偶 像 礼 拝 の 代 わりになるものを 与 え、<br />

こうして 彼 らの 名 ばかりのキリスト 教 受 容 を 促 進 するために、 聖 画 像 や 聖 遺 物 崇 拝 が、<br />

キリスト 教 の 礼 拝 のなかに 徐 々に 取 り 入 れられた。ついに 公 会 議 の 布 告 によって、こ<br />

31


国 際 協 定<br />

の 偶 像 礼 拝 制 度 が 確 立 した。ローマ 教 会 は、 神 を 汚 す 活 動 の 結 びとして、 僣 越 にも、<br />

偶 像 礼 拝 を 禁 じる 第 2 条 を 神 の 律 法 から 削 除 し、その 欠 けたところを 補 うために 第<br />

10 条 を 2 つに 分 けたのである。<br />

異 教 に 譲 歩 する 精 神 は、なおいっそう 神 の 権 威 を 無 視 する 道 を 開 いた。サタンは、<br />

教 会 の 清 められていない 指 導 者 たちによって、 第 4 条 をも 変 更 し、 神 が 祝 福 し 聖 別 さ<br />

れた 昔 からの 安 息 日 [ 創 世 記 2:2、3 参 照 ]を 廃 そうとした。そしてその 代 わりに、 異<br />

教 徒 が「 太 陽 の 神 聖 な 日 」として 守 っていた 祭 日 を 高 めようとした。 この 変 更 は 初 め<br />

から 公 然 と 行 われたのではなかった。 最 初 の 2、3 世 紀 の 間 、すべてのキリスト 者 た<br />

ちは 真 の 安 息 日 を 守 っていた。 彼 らは 熱 心 に 神 をあがめ、 神 の 律 法 は 不 変 であると 信<br />

じていたから、その 戒 めを 熱 心 に 清 く 守 った。しかしサタンは、 彼 の 代 理 者 たちを 用<br />

いて 非 常 に 巧 妙 に 働 き、その 目 的 の 達 成 をはかった。 人 々の 注 目 を 日 曜 日 にひくため<br />

に、それはキリストの 復 活 を 記 念 する 祝 日 とされた。 宗 教 的 礼 拝 が 日 曜 日 に 行 われた。<br />

しかし、その 日 は 娯 楽 の 日 とみなされており、 安 息 日 が 従 来 どおり 清 く 守 られてい<br />

た。<br />

サタンは、 自 分 がなしとげようとしている 仕 事 に 道 を 備 えるために、キリストの 来<br />

臨 に 先 だって、ユダヤ 人 たちが 安 息 日 に 苛 酷 な 要 求 を 増 し 加 え、それを 守 ることを 重<br />

荷 にするようにさせていた。そしてサタンは、 自 分 がそのようにして 人 々に 安 息 日 を<br />

誤 解 させておきながら、 今 度 はそれを 利 用 し、 安 息 日 はユダヤ 人 の 制 度 だとしてそれ<br />

を 軽 べつした。キリスト 者 たちが、 日 曜 日 を 楽 しい 祝 祭 日 として 祝 う 一 方 、サタンは<br />

彼 らがユダヤ 教 に 対 する 憎 しみの 表 現 として、 安 息 日 を 断 食 の 日 、ゆううつな 悲 しみ<br />

の 日 とするようにしむけた。<br />

4 世 紀 の 初 期 、コンスタンティヌス 帝 は、 日 曜 日 をローマ 帝 国 全 土 の 公 の 祝 日 にす<br />

るという 布 告 を 出 した。 太 陽 の 日 は、 異 教 徒 の 国 民 に 尊 ばれ、またキリスト 者 たちか<br />

らもあがめられた。それは、 異 教 とキリスト 教 との 相 反 する 点 を 一 致 させようとする<br />

皇 帝 の 政 策 であった。 彼 は、 教 会 の 司 教 たちから、こうするように 勧 められたのであ<br />

る。 彼 らは 権 力 を 渇 望 していたから、もしキリスト 者 と 異 教 徒 とが 両 方 とも 同 じ 日 を<br />

守 るならば、 異 教 徒 が 名 目 だけでもキリスト 教 を 信 じる のを 助 長 し、 教 会 の 権 力 と 栄<br />

光 を 推 し 進 めるものと 考 えた。しかし 多 くの 敬 虔 なキリスト 者 たちは、 次 第 に、 日 曜<br />

日 にはいくぶんか 神 聖 さがあると 見 なすようになったものの、なお 真 の 安 息 日 を 主 の<br />

聖 なる 日 とし、 第 4 条 の 戒 めに 従 って 守 っていた。<br />

大 欺 瞞 者 は、まだ 十 分 にはその 目 的 を 達 成 していなかった。 彼 は、キリスト 教 世 界<br />

を 彼 の 旗 の 下 に 集 め、 彼 の 代 理 人 、すなわち、キリストの 代 表 者 であると 主 張 する 高<br />

32


国 際 協 定<br />

慢 な 法 王 によって、 力 を 振 おうと 決 心 した。 半 分 しか 改 宗 していない 異 教 徒 たち、 野<br />

心 満 々の 司 教 たち、そして 世 俗 を 愛 する 教 会 人 たちによって、 彼 は 自 分 の 目 的 をなし<br />

とげた。いくたびか 公 会 議 が 開 かれて、 教 会 の 指 導 者 たちが 全 世 界 から 集 められた。<br />

そのほとんどの 会 議 において、 神 が 制 定 された 安 息 日 が 少 しずつ 低 められると 共 に、<br />

日 曜 日 はそれに 応 じて 局 められていった。こうして 異 教 の 祝 祭 日 が、ついには 神 聖 な<br />

制 度 としてあがめられるようになり、その 反 面 、 聖 書 の 安 息 日 はユダヤ 教 の 遺 物 であ<br />

ると 宣 言 され、それを 守 る 者 たちはのろわるべきであると 言 われた。<br />

大 背 信 者 は、「すべて 神 と 呼 ばれたり 拝 まれたりするものに 反 抗 して」 自 らをその<br />

上 に 高 く 上 げることに 成 功 した[Ⅱテサロニケ 2:。 彼 は、 全 人 類 を 生 きた 真 の 神 へと<br />

誤 ることなく 向 ける、 神 の 律 法 の 唯 一 の 戒 めをあえて 変 更 した。 神 は、 第 4 条 の 戒 め<br />

のなかで、 天 と 地 の 創 造 主 として 示 されており、それによってすべての 偽 りの 神 々と<br />

の 区 別 が 明 らかにされている。 第 7 日 が、 人 間 の 休 息 の 日 として 聖 別 されたのは、 創<br />

造 の 業 の 記 念 としてであった。それは 人 間 が、 生 ける 神 を、 存 在 の 根 源 、 尊 崇 と 礼 拝<br />

の 対 象 として、 常 に 心 に 留 めておくためであった。サタンは 人 々に、 神 への 忠 誠 をつ<br />

くさせず、 神 の 律 法 に 従 わせまいと 努 力 している。それゆえに 彼 は、 神 が 創 造 主 であ<br />

ることを 指 し 示 す 戒 めを、 特 に 攻 撃 するのである。<br />

今 、プロテスタントの 側 では、キリストが 日 曜 日 に 復 活 されたから 日 曜 日 がキリス<br />

ト 教 徒 の 安 息 日 になったと 主 張 している。しかし、その 聖 書 的 証 拠 はない。キリスト<br />

や 使 徒 たちも、この 日 をそのように 尊 んではいない。 日 曜 日 をキリスト 教 の 制 度 とし<br />

て 遵 守 することは、すでにパウロの 時 代 に 活 動 しはじめた「 不 法 の 秘 密 の 力 」にその<br />

起 源 をもつ[Ⅱテサロニケ 2:。しかし 主 は、いっどこで、この 法 王 権 の 子 とも 言 うべ<br />

き 日 曜 日 の 制 度 を 迎 え 入 れられたのであろうか。 聖 書 が 認 めていない 変 更 に 対 して、<br />

どのような 確 かな 理 由 をあげ 得 るであろうか。<br />

第 6 世 紀 に 至 って、 法 王 権 は 確 立 した。その 権 力 の 座 はローマに 置 かれ、ローマの<br />

司 教 が 全 教 会 の 首 長 であると 宣 言 された。 異 教 は 法 王 権 に 地 位 を 譲 った。 龍 は 獣 に、<br />

「 自 分 の 力 と 位 と 大 いなる 権 威 とを」 与 えた[ 黙 示 録 13:。こうして、ダニエル 書 と<br />

黙 示 録 に 預 言 されたところの、1260 年 間 に 及 ぶ 法 王 権 の 迫 害 が 始 まった[ダニエル 7:<br />

25、 黙 示 録 13:5~7 参 照 ]。キリスト 者 たちは、 神 に 対 する 忠 誠 を 放 棄 して 法 王 教<br />

の 儀 式 と 礼 拝 を 受 け 入 れるか、それとも、 地 下 の 牢 獄 に 幽 閉 され、 拷 問 や 火 刑 、また<br />

斬 首 吏 のおので 生 命 を 失 うか、そのどちらかを 選 ばねばならなくなった。「しかし、<br />

あなたがたは 両 親 、 兄 弟 、 親 族 、 友 人 にさえ 裏 切 られるであろう。また、あなたがた<br />

の 中 で 殺 されるものもあろう。また、わたしの 名 のゆえにすべての 人 に 憎 まれるであ<br />

ろう」というイエスの 言 葉 が、ここで 成 就 した[ルカ 21:16、。 迫 害 は、これまで 以<br />

33


国 際 協 定<br />

上 に 激 しく 忠 実 な 人 々に 向 けられ、 世 界 は 一 大 戦 場 となった。 何 百 年 もの 間 、キリス<br />

トの 教 会 は 人 里 離 れた 場 所 に 難 をのがれた。 預 言 者 はこのように 言 っている。「 女 は<br />

荒 野 へ 逃 げて 行 った。そこには、 彼 女 が 1260 日 のあいだ 養 われるように、 神 の 用 意<br />

された 場 所 があった」[ 黙 示 録 12:。<br />

ローマ 教 会 が 権 力 を 握 ったことは、 暗 黒 時 代 の 始 まりを 意 味 した。 教 会 の 権 力 が 増<br />

すにつれて 暗 黒 は 深 まった。 信 仰 は、 真 の 基 礎 であるキリストから、ローマ 法 王 へと<br />

移 された。 人 々は、 罪 の 赦 しと 永 遠 の 救 いを 求 めて 神 の 子 によりたのむかわりに、 法<br />

王 や、 法 王 が 権 力 をゆだねた 司 祭 や 司 教 たちにたよった。 彼 らは、 法 王 はこの 地 上 に<br />

おける 彼 らの 仲 保 者 であって、 法 王 によらなければだれも 神 に 近 づくことができない、<br />

と 教 えられた。さらに、 法 王 は 神 に 代 わって 彼 らの 前 に 立 つ 者 であるから、 絶 対 に 服<br />

従 すべきであると 教 えられた。 彼 の 要 求 に 従 わない 者 が、 最 も 厳 しい 罰 をその 心 身 に<br />

受 けるのは、 当 然 のこととされた。<br />

こうして 人 々の 心 は 神 から 引 き 離 されて、 誤 りの 多 い 残 酷 な 人 々に、いや、 彼 らを<br />

通 して 力 を 振 うところの 暗 黒 の 君 自 身 に 向 けられた。<br />

罪 は 聖 潔 の 仮 面 をかぶった。 聖 書 が 圧 迫 され、 人 間 が 自 分 を 最 高 のものと 見 なすよ<br />

うになる 時 、そこには、 欺 瞞 と 惑 わし、 汚 れた 罪 悪 しか 期 待 できない。 人 間 の 律 法 と<br />

言 い 伝 えとが 高 められるにつれて、 神 の 律 法 を 放 棄 する 時 常 に 起 こる 腐 敗 があらわれ<br />

てきた。 キリストの 教 会 にとって 危 機 の 時 代 であった。 忠 実 な 旗 手 はまことに 少 なか<br />

った。 真 理 の 証 人 たちもいなかったわけではないが、 誤 りと 迷 信 が 完 全 に 勝 利 して、<br />

真 の 宗 教 は 地 上 からぬぐい 去 られたように 思 われた 時 もあった。 福 音 は 見 失 われてし<br />

まった。しかし 宗 教 の 形 式 は 増 大 し、 人 々は 厳 しい 要 求 に 苦 しんだ。<br />

彼 らは、 法 王 を 彼 らの 仲 保 者 として 仰 ぐだけでなく、 罪 を 贖 うために 自 分 自 身 の 行<br />

いに 頼 らねばならないと 教 えられた。 長 い 巡 礼 の 旅 、 難 行 苦 行 、 聖 遺 物 崇 拝 、 教 会 堂<br />

・ 寺 院 そして 祭 壇 の 建 築 、 教 会 への 大 金 納 入 ——これらの 行 為 、またそれに 類 した 多<br />

くの 行 為 が、 神 の 怒 りを 和 らげ、 神 の 恵 みにあずかるために 要 求 された。あたかも 神<br />

が 人 間 のように、ささいなことに 怒 り、あるいは 贈 り 物 や 苦 行 によってなだめられる<br />

かのように。<br />

罪 悪 が 一 般 に 広 く 行 われ、ローマ 教 会 の 指 導 者 たちの 中 にさえ 及 んでいたが、しか<br />

し 教 会 の 勢 力 は 着 実 に 増 加 していくように 見 えた。8 世 紀 の 終 わりごろ、カトリック<br />

教 徒 たちは、 初 期 の 教 会 においてもローマの 司 教 は、 現 在 有 しているのと 同 じ 宗 教 上<br />

の 権 力 を 持 っていたと 主 張 した。この 主 張 を 確 立 するためには、 何 かの 手 段 を 講 じて<br />

それを 権 威 づける 必 要 があった。そしてそれには、 偽 りの 父 が 直 ちに 示 唆 を 与 えた。<br />

34


国 際 協 定<br />

古 文 書 が、 修 道 士 たちによって 偽 造 された。これまで 聞 いたこともないような 会 議 の<br />

布 告 が 発 見 されて、 法 王 が 最 も 初 期 の 時 代 から 普 遍 的 な 至 上 権 を 持 っていたことが 確<br />

立 された。そして、 真 理 を 拒 否 した 教 会 は、これらの 欺 瞞 をすぐさま 承 認 した。<br />

真 の 土 台 の 上 に 築 いていたところの、ごく 少 数 の 忠 実 な 建 設 者 たちは、このような<br />

くずに 等 しい 偽 りの 教 義 が 働 きを 妨 害 するために、 困 惑 し 妨 げられた[Ⅰコリント 3:<br />

10、11 参 照 ]。ネヘミヤの 時 代 にエルサレムの 城 壁 を 築 いた 者 たちのように、ある 者<br />

たちは、「 荷 を 負 う 者 の 力 は 衰 え、そのうえ、 灰 土 がおびただしいので、われわれは<br />

城 壁 を 築 くことができない」と 言 うばかりになった[ネヘミヤ 4:。 迫 害 、 不 正 、 罪 悪 、<br />

その 他 サタンが、 彼 らの 働 きの 前 進 を 妨 げるために 考 案 したさまざまな 妨 害 との 絶 え<br />

間 ない 闘 いに 疲 れて、さすがの 忠 実 な 建 設 者 たちの 中 にも 失 望 に 陥 る 者 があった。そ<br />

して 自 分 たちの 財 産 と 生 命 を 守 るために、 彼 らは 真 の 土 台 から 離 れていった。しかし、<br />

敵 の 攻 撃 にもくじけずに、「あなたがたは 彼 らを 恐 れてはならない。 大 いなる 恐 るべ<br />

き 主 を 覚 え」よと 大 胆 に 宣 言 する 者 もあった[ 同 4:。そして 彼 らは 各 自 が 腰 に 剣 を 帯<br />

びながら 働 きを 推 し 進 めたのであった[エペソ 6:7 参 照 ]。<br />

真 理 に 対 する 同 じ 憎 しみと 反 対 の 精 神 が、 各 時 代 の 神 の 敵 の 心 を 満 たしてきた。そ<br />

して 同 じ 警 戒 心 と 忠 実 さが 神 のしもべたちに 要 求 されてきた。 最 初 の 弟 子 たちに 言 わ<br />

れたキリストの 言 葉 は、 終 末 に 至 るまでの 弟 子 たちに 言 われたのである。「 目 をさま<br />

していなさい。わたしがあなたがたに 言 うこの 言 葉 は、すべての 人 々に 言 うのである」<br />

[マルコ 13:。<br />

暗 黒 はますますその 濃 さを 増 していくように 見 えた。 聖 像 崇 拝 はいっそう 広 く 行 わ<br />

れるようになった。 像 の 前 に 燈 明 があげられて、 祈 りがささげられた。 最 もばかげた<br />

迷 信 的 な 習 慣 が 広 まった。 人 々の 心 は 迷 信 によって 完 全 に 支 配 されたので、 理 性 その<br />

ものが 失 われてしまったかのように 思 われた。 司 祭 や 司 教 たち 自 身 が 享 楽 を 愛 し、 肉<br />

欲 にふけり、 腐 敗 していたのだから、 彼 らの 指 導 を 仰 いでいた 民 衆 が 無 知 と 不 道 徳 に<br />

陥 るのは、 当 然 のことであった。<br />

さらに 法 王 は、もう 1 つの 僣 越 なことをした。すなわち 11 世 紀 に 法 王 グレゴリー<br />

7 世 は、ローマ 教 会 は 完 全 であると 宣 言 したのである。その 主 張 の 中 で 彼 は、 聖 書 に<br />

よれば 教 会 はこれまで 誤 ったことはないし、これからも 誤 ることがないと 言 明 した。<br />

しかし 聖 書 には、このような 主 張 を 裏 付 ける 証 拠 はないのである。 高 慢 な 法 王 はまた、<br />

皇 帝 を 退 位 させる 権 力 があると 主 張 し、 自 分 が 布 告 した 宣 言 を 破 棄 し 得 る 者 はだれも<br />

なく、 一 方 他 のすべての 者 の 決 定 を 取 り 消 す 権 力 が 自 分 にはあると 断 言 した。<br />

35


国 際 協 定<br />

こうした 絶 対 無 謬 を 唱 えた 法 王 の 暴 君 的 性 格 を 示 す 顕 著 な 実 例 は、ドイツ 皇 帝 ハイ<br />

ンリヒ 4 世 [ヘンリー4 世 ]に 対 する 処 置 である。ハインリヒ 4 世 は、 法 王 の 権 威 をあ<br />

えて 無 視 したために、 破 門 と 廃 位 の 宣 告 を 受 けた。 法 王 の 命 令 に 力 を 得 て 彼 に 反 逆 し<br />

た 諸 侯 たちの、 離 反 と 威 嚇 に 驚 いたハインリヒは、 法 王 と 和 解 する 必 要 を 感 じた。 彼<br />

は 王 妃 と 忠 実 な 従 者 とを 伴 って、 法 王 の 前 に 身 を 低 めるため、 真 冬 のアルプスを 越 え<br />

た。グレゴリーが 留 まっていた 城 に 到 着 すると、 王 は 護 衛 もなく 外 庭 に 案 内 され、そ<br />

の 厳 しい 冬 の 寒 さの 中 で、みすぼらしい 衣 を 着 、 頭 には 何 もかぶらず、はだしのまま、<br />

法 王 の 前 に 出 る 許 可 を 待 った。 彼 が 3 日 間 断 食 とざんげを 続 けた 後 、ようやく 法 王 は<br />

彼 に 赦 免 を 与 えた。そしてそれさえも、 皇 帝 が 位 に 復 して 王 権 を 行 使 する 前 に、 法 王<br />

の 認 可 を 仰 がねばならないという 条 件 つきのものであった。こうしてグレゴリーは、<br />

自 分 の 勝 利 に 意 気 揚 々となり、 王 たちの 誇 りをはぐことが 自 分 の 義 務 であると 誇 っ<br />

た。<br />

このこうまんな 法 王 の 横 暴 な 態 度 と、キリスト——ゆるしと 平 和 をもたらすために、<br />

心 の 戸 の 外 に 立 って、 入 ることを 求 めておられるキリスト、また 弟 子 たちに、「あな<br />

たがたの 間 でかしらになりたいと 思 う 者 は、 僕 とならねばならない」[マタイ 20:と<br />

教 えられたキリスト——の 柔 和 と 優 しさとは、なんと 異 なっていることであろう。<br />

時 代 が 進 むにつれて、 誤 った 教 義 がローマからやむことなく 送 り 出 されていった。<br />

法 王 制 が 確 立 する 以 前 でさえ、 異 教 の 哲 学 者 たちの 教 えが 教 会 の 中 で 注 目 され、 影 響<br />

を 与 えていた。 改 宗 したという 人 々の 多 くは、 依 然 として 彼 らの 異 教 の 哲 学 の 教 えに<br />

執 着 し、それを 自 分 で 研 究 するばかりでなく、 異 教 徒 の 中 で 勢 力 を 広 げる 手 段 として、<br />

他 の 人 々にもそれを 勧 めた。こうして 重 大 な 誤 りがキリスト 教 信 仰 の 中 にもちこまれ<br />

た。それらのうちで 特 に 目 立 つものは、 人 間 は 生 来 不 死 であって、 死 んでも 意 識 があ<br />

るという 信 仰 であった。この 教 義 を 基 礎 にして、ローマ 教 会 は、 諸 聖 人 に 祈 りをささ<br />

げることや、 聖 母 マリヤを 崇 拝 することを 確 立 した。また 早 くから 法 王 教 の 中 に 織 り<br />

こまれていたところの、 最 後 まで 悔 い 改 めない 者 は 永 遠 の 責 苦 にあうという 異 端 的 な<br />

教 えも、ここから 起 こったのである。<br />

これに 伴 ってもう 1 つ 異 教 のつくりごとが 取 り 入 れられることになった。ローマ 教<br />

会 はそれを 煉 獄 と 呼 び、だまされやすく 迷 信 的 な 民 衆 を 脅 すのに 用 いた。この 異 端 的<br />

な 教 えによれば、 永 遠 の 滅 びを 受 けるほどでない 魂 がその 罪 の 罰 を 受 けるべき 苦 しみ<br />

の 場 所 が 存 在 し、そこで 不 純 な 状 態 から 清 められた 時 天 国 に 入 ることを 許 される、と<br />

いうのである。<br />

36


国 際 協 定<br />

ローマ 教 会 が、その 信 者 たちの 恐 怖 と 悪 行 とを 利 用 して 益 を 得 るためには、さらに<br />

もう 1 つのつくりごとが、 必 要 であった。この 必 要 は、 免 罪 の 教 義 によって 満 たされ<br />

た。 法 王 の 戦 い—— 世 俗 的 な 主 権 を 拡 大 し、 敵 を 懲 らしめ、 法 王 の 霊 的 至 上 権 を 否 定<br />

する 者 たちを 撲 滅 するための 戦 い——に 参 加 するすべての 者 に、 過 去 ・ 現 在 ・ 未 来 の<br />

罪 の 完 全 な 赦 免 と、 受 けるべきすべての 苦 痛 と 罰 の 免 除 が 約 束 された。また、 教 会 に<br />

金 を 払 うことによって 罪 から 解 放 されること、そしてまた、 苦 しみの 火 の 中 にいる 死<br />

んだ 友 人 たちの 魂 をも 解 放 することができること、これらのことを 人 々は 教 えられた。<br />

このような 方 法 によって、ローマ 教 会 はその 懐 を 肥 やし、キリスト——まくらする 所<br />

さえ 持 たれなかったお 方 ——の 代 表 者 と 称 する 者 の 豪 華 とぜいたくと 悪 徳 とを 支 えた<br />

のであった。<br />

聖 書 的 礼 典 である 主 の 晩 餐 は、ミサという 偶 像 崇 拝 的 犠 牲 にとって 代 わられた。カ<br />

トリックの 司 祭 たちは、その 無 意 味 な 儀 式 によって、ただのパンとぶどう 酒 を 実 際 の<br />

「キリストの 体 と 血 」に 変 えると 主 張 した。 1 彼 らは、 神 を 汚 す 僣 越 さをもって、 万 物<br />

の 創 造 主 であられる 神 を 創 造 する 力 があると 公 言 した。キリスト 者 たちはこの 恐 ろし<br />

い 神 的 邪 説 を 信 じるように 要 求 され、さもないと 死 刑 に 処 せられるのであった。これ<br />

を 拒 んだために 火 刑 に 処 せられた 者 が 無 数 にあった。<br />

13 世 紀 に、 法 王 制 の 機 関 中 で 最 も 恐 ろしいもの、すなわち 宗 教 裁 判 所 [ 異 端 審 問 所 ]<br />

が 設 けられた。 暗 黒 の 君 は、 法 王 制 の 指 導 者 たちと 共 に 働 いた。 彼 らの 秘 密 会 議 にお<br />

いてサタンとその 天 使 たちが、 悪 人 たちの 心 を 支 配 した。しかしそれと 同 時 に、 人 の<br />

目 にこそ 見 えなかったが、 神 の 天 使 がそのただ 中 に 立 ち、 彼 らの 不 法 な 命 令 の 恐 るべ<br />

き 記 録 をとり、とうてい 人 間 の 目 が 見 るに 耐 えない 恐 ろしい 行 為 の 記 録 を 記 していた<br />

のであった。「 大 いなるバビロン」は「 聖 徒 の 血 に 酔 いしれた」。 無 数 の 殉 教 者 たち<br />

の 寸 断 された 体 は、この 背 信 した 権 力 に 対 する 神 のふくしゅうを 叫 び 求 めた。<br />

法 王 教 は 世 界 の 専 制 君 主 となった。 王 も 皇 帝 もローマ 法 王 の 命 令 に 服 した。 人 々の<br />

運 命 は、 現 世 のものも 来 世 のものも、 彼 の 支 配 下 にあるように 思 われた。 数 百 年 にわ<br />

たってローマの 教 義 は、 絶 対 的 なものとして 広 く 受 け 入 れられ、その 儀 式 は 厳 粛 にと<br />

り 行 われ、その 祝 祭 はあまねく 遵 奉 された。 聖 職 者 たちは 尊 敬 され、 豊 かにささえら<br />

れた。この 時 ほど、ローマ 教 会 が 大 きな 威 厳 と 壮 大 さと 権 力 を 誇 った 時 代 はなかっ<br />

た。 = しかし、「 法 王 制 の 真 昼 は、 世 界 の 真 夜 中 であった。」 2 聖 書 は、 民 衆 だけで<br />

なく、 司 祭 たちにさえほとんど 知 られていなかった。 昔 のパリサイ 人 たちと 同 様 に、<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 彼 らの 罪 を 明 らかにする 光 を 憎 んだ。 義 の 標 準 である 神 の 律<br />

法 を 放 棄 してしまったので、 彼 らは 無 制 限 に 権 力 を 行 使 し、 自 由 に 悪 事 を 働 いた。 詐<br />

37


国 際 協 定<br />

欺 、 貧 欲 、 放 とうが 広 く 行 われた。 人 々は、 富 と 地 位 を 得 るためにはどんな 罪 でも 犯<br />

した。<br />

法 王 や 高 位 聖 職 者 たちの 宮 殿 は、 最 も 罪 深 い 放 とうの 現 場 であった。 何 人 かの 法 王<br />

たちはあまりにも 非 道 な 犯 罪 を 犯 したために、 世 俗 の 支 配 者 たちが 彼 らを、 赦 すこと<br />

のできない 極 悪 な 人 物 としてその 地 位 から 退 かせようとしたほどであった。ヨーロッ<br />

パは、 幾 世 紀 もの 間 、 学 問 、 芸 術 、また 文 化 の 面 で 何 の 進 歩 もなかった。キリスト 教<br />

世 界 は、 道 徳 的 、 知 的 マヒ 状 態 に 陥 っていた。 ローマ 教 会 の 権 力 下 にあった 世 界 の 状<br />

態 は、 預 言 者 ホセアの 言 葉 の 恐 ろしくも 的 確 な 成 就 である。「わたしの 民 は 知 識 がな<br />

いために 滅 ぼされる。あなたは 知 識 を 捨 てたゆえに、わたしもあなたを 捨 て、……あ<br />

なたはあなたの 神 の 律 法 を 忘 れたゆえに、わたしもまたあなたの 子 らを 忘 れる」「こ<br />

の 地 には 真 実 がなく、 愛 情 がなく、また 神 を 知 ることもないからである。ただのろい<br />

と、 偽 りと、 人 殺 しと、 盗 みと、 姦 淫 することのみで、 人 々は 皆 荒 れ 狂 い、 殺 害 に 殺<br />

害 が 続 いている」[ホセア 4:6、1、。これが 神 の 言 葉 を 捨 てた 結 果 であった。<br />

38


国 際 協 定<br />

第 4 章 ライトベアラー<br />

法 王 が 長 期 間 にわたって 至 上 権 を 握 っていた 時 、 地 上 は 暗 黒 におおわれたが、しか<br />

し、その 中 にあって、 真 理 の 光 が 全 く 消 えてしまったわけではなかった。どの 時 代 に<br />

も 神 の 証 人 がいた。キリストを 神 と 人 間 との 間 の 唯 一 の 仲 保 者 として 信 じ、 人 生 の 唯<br />

一 の 規 準 として 聖 書 を 受 け 入 れ、そして 真 の 安 息 日 を 尊 んだ 人 々がいたのである。こ<br />

うした 人 々に 世 界 が 負 うところいかに 大 であるか、 後 世 の 人 々にはけっしてわからな<br />

いであろう。 彼 らは 異 端 者 の 烙 印 を 押 され、その 動 機 は 非 難 され、その 品 性 は 中 傷 さ<br />

れ、そして 彼 らの 書 き 物 は 禁 圧 され、 誤 り 伝 えられ、 骨 抜 きにされた。しかし 彼 らは<br />

堅 く 立 った。そして、 来 たるべき 時 代 のための 神 聖 な 遺 産 として、 彼 らの 信 仰 を、 代<br />

々、 純 潔 に 保 ったのである。<br />

ローマが 至 上 権 を 握 ってからの、 暗 黒 時 代 における 神 の 民 の 歴 史 は、 天 に 記 録 され<br />

ているが、 人 間 の 手 になる 記 録 には、あまり 記 されていない。 彼 らを 迫 害 した 者 たち<br />

による 非 難 以 外 には、 彼 らの 存 在 の 形 跡 はほとんどない。 教 義 や 命 令 に 異 議 を 唱 える<br />

ものは、あとかたもなく 抹 殺 してしまうことが、ローマの 政 策 であった。 教 会 は、 人<br />

間 であろうが 書 物 であろうが、 異 端 的 なものはすべて 滅 ぼそうとした。 法 王 の 教 義 の<br />

権 威 に 対 する 疑 惑 や 質 問 を 表 明 するだけで、 貧 富 、 貴 賎 の 別 なく、 生 命 を 奪 われるの<br />

に 十 分 であった。またローマは、 反 対 者 に 対 する 教 会 の 残 酷 な 行 為 の 記 録 を、すべて<br />

消 滅 させようとした。 法 王 による 宗 教 会 議 は、こうした 記 事 がのっている 書 物 や 文 書<br />

を 焼 却 することを 命 じた。 印 刷 機 が 発 明 される 前 は、 書 物 の 数 も 少 なく、その 形 も 保<br />

存 には 向 いていなかったので、 彼 らの 目 的 の 遂 行 を 妨 げるものはほとんどなかった。<br />

ローマの 管 轄 内 にあるどの 教 会 も、 良 心 の 自 由 をいつまでも 保 つことはできなかっ<br />

た。 法 王 権 は、 権 力 を 握 るとすぐ、その 支 配 を 認 めない 者 をみな 粉 砕 するために、 手<br />

を 伸 ばした。こうして 諸 教 会 は、 次 々とその 支 配 下 に 陥 った。<br />

大 ブリテンでは、 原 始 キリスト 教 が 早 くから 根 をおろしていた。 最 初 の 2、3 世 紀<br />

にブリトン 人 たちが 受 けた 福 音 は、まだローマの 背 教 によって 腐 敗 してはいなかった。<br />

この 遠 方 の 国 にまで 及 んだ 異 教 の 皇 帝 たちによる 迫 害 は、ブリテンの 初 期 の 教 会 がロ<br />

ーマから 受 けた 唯 一 の 贈 り 物 であった。すなわち、 多 くのキリスト 者 たちは、イング<br />

ランドでの 迫 害 をのがれてスコットランドに 避 難 し、これによって 真 理 は、アイルラ<br />

ンドにも 伝 えられた。そしてこれらの 国 々では、どこでも 歓 迎 されたのであった。 と<br />

ころが、サクソン 人 がブリテンに 侵 入 した 時 、 異 教 が 支 配 権 を 握 った。 征 服 者 たちは、<br />

自 分 たちの 奴 隷 から 教 えられることを 好 まなかったので、キリスト 者 たちは、 山 や 荒<br />

39


国 際 協 定<br />

野 に 避 難 しなければならなかった。しかし、 光 は、 一 時 隠 されたにしても、 常 に 燃 え<br />

つづけた。1 世 紀 の 後 、スコットランドでは、その 光 は 明 るく 輝 き 出 て 遠 くの 国 々に<br />

まで 及 んだ。アイルランドからは、 敬 虔 なコルンバとその 共 労 者 たちがあらわれ、 各<br />

地 に 離 散 した 信 者 をアイオナの 孤 島 に 集 めて、そこを 彼 らの 伝 道 活 動 の 中 心 にした。<br />

これらの 伝 道 者 の 中 には、 聖 書 に 示 された 安 息 日 を 守 る 者 もいて、こころしてこの 真<br />

理 が 人 々に 伝 えられた。また、アイオナ 島 に 学 校 が 設 立 され、ここから、スコットラ<br />

ンド、イングランドだけでなく、ドイツやスペインやイタリアにまで、 伝 道 者 が 送 ら<br />

れた。<br />

しかし、ローマはブリテンに 目 をつけ、これを 自 分 の 支 配 下 におこうと 決 心 した。<br />

6 世 紀 に、ローマ 教 会 の 宣 教 師 たちは、 異 教 のサクソン 人 を 改 宗 させようと 企 てた。<br />

彼 らは 誇 り 高 き 異 教 徒 たちから 歓 迎 され、 幾 千 という 人 々をローマ 教 に 改 宗 させた。<br />

働 きが 進 展 するにつれて、 法 王 教 の 指 導 者 たちと 改 宗 者 たちは、 初 代 教 会 の 流 れをく<br />

むキリスト 者 たちに 出 会 った。そこには 著 しい 相 違 があった。 前 者 が 法 王 教 のもつ 迷<br />

信 的 で 華 美 で 尊 大 な 性 格 をあらわしていたのに 対 し、 後 者 は、 単 純 で 謙 そんで、 品 性<br />

においても 教 義 においても 態 度 においても、 聖 書 的 であった。<br />

ローマの 使 節 たちは、これらのキリスト 教 会 に、 法 王 の 至 上 権 を 認 めることを 要 求<br />

した。ブリトン 人 は、 自 分 たちはすべての 人 を 愛 したいと 思 う、しかし 法 王 は 教 会 に<br />

おける 至 上 権 を 与 えられたわけではないのだから、 自 分 たちとしては、すべてのキリ<br />

スト 者 たちに 対 してすべき 服 従 を、 法 王 に 対 してもなすことができるだけであると、<br />

柔 和 に 答 えたのであった。 彼 らがローマに 対 して 忠 誠 を 尽 くすようにさせようとする<br />

試 みがくり 返 された。しかし、これらの 謙 そんなキリスト 者 たちは、ローマ 教 会 の 使<br />

節 たちのこうまんな 態 度 に 驚 き、 自 分 たちはキリスト 以 外 のだれをも 主 として 認 めな<br />

いと、 断 固 として 答 えた。ここにおいて、 法 王 制 の 真 の 精 神 があらわされた。すなわ<br />

ちローマの 指 導 者 は、 次 のように 言 ったのである。「 平 和 をもたらす 兄 弟 たちを 受 け<br />

入 れないなら、 戦 いをもたらす 敵 を 迎 えることになろう。われわれと 一 致 してサクソ<br />

ン 人 に 生 命 の 道 を 示 さないなら、 彼 らから 死 の 打 撃 を 受 けるであろう。」 1 これは 口 先<br />

だけのおどしではなかった。 戦 争 と 陰 謀 と 欺 瞞 とが、 聖 書 の 信 仰 の 証 人 たちに 向 けら<br />

れ、ついにブリトン 人 の 諸 教 会 は 破 壊 され、あるいは 法 王 の 権 威 に 余 儀 なく 屈 した。<br />

ローマの 管 轄 外 にあった 国 々には、 幾 世 紀 もの 間 、 法 王 教 の 腐 敗 にほとんど 染 まる<br />

ことなく 存 在 したキリスト 者 たちの 諸 団 体 があった。 彼 らは 異 教 に 囲 まれていたため<br />

に、 時 の 経 過 につれて、その 誤 りに 感 化 された。しかし 彼 らは 聖 書 を 信 仰 の 唯 一 の 規<br />

準 とし、その 真 理 の 多 くを 固 守 し 続 けていた。これらのキリスト 者 たちは、 神 の 律 法<br />

40


国 際 協 定<br />

の 永 続 性 を 信 じ、 第 4 条 の 安 息 日 を 守 っていた。この 信 仰 と 習 慣 を 保 っていた 諸 教 会<br />

は、 中 央 アフリカに、そしてアジアのアルメニア 人 の 中 にあった。<br />

しかし 法 王 権 の 侵 入 に 抵 抗 した 人 々の 中 で、 最 も 著 しいのがワルド 派 [ワルデンセ<br />

ス、ワルドウス 派 ]であった。 法 王 庁 が 存 在 しているまさにその 国 家 において、その 虚<br />

偽 と 腐 敗 は 最 も 激 しい 抵 抗 にあった。 数 世 紀 にわたって、ピエモンテの 諸 教 会 は 独 立<br />

を 保 っていた。 しかし、ついにローマが 彼 らに 屈 服 を 迫 る 時 がきた。ローマの 圧 制 に<br />

対 して 無 益 な 抵 抗 を 試 みたあとで、これらの 教 会 の 指 導 者 たちは、 全 世 界 が 敬 意 を 表<br />

しているように 思 われるこの 権 力 の 至 高 性 を、しぶしぶ 認 めた。しかしながら、 法 王<br />

や 司 教 たちの 権 威 に 対 する 服 従 を 拒 否 した 者 たちもあった。 彼 らは、あくまでも 神 に<br />

忠 誠 を 尽 くし、 信 仰 の 単 純 さと 純 潔 とを 保 とうとした。こうして 分 離 が 起 きた。 古 く<br />

からの 信 仰 を 固 守 する 者 たちは、 今 や 身 を 引 いて、ある 者 たちは 故 郷 のアルプスを 去<br />

って 外 国 で 真 理 の 旗 をかかげ、また 他 の 人 々は、 人 里 離 れた 谷 間 や 岩 角 けわしい 山 岳<br />

地 帯 に 逃 れて、そこで 自 由 に 神 を 礼 拝 した。<br />

幾 世 紀 にもわたってワルド 派 のキリスト 者 たちが 信 じ、 教 えてきた 信 仰 は、ローマ<br />

から 出 た 偽 りの 教 義 と 著 しい 対 照 をなしていた。 彼 らの 宗 教 的 信 念 は、キリスト 教 の<br />

真 の 体 系 である 書 かれた 神 の 言 葉 に 基 づいていた。しかし、 世 から 隔 離 された 寂 しい<br />

隠 れがに 住 み、 家 畜 の 世 話 や 果 樹 の 栽 培 に 労 苦 の 日 々を 送 っていたそぼくな 農 民 たち<br />

は、 自 分 自 身 の 力 で、 背 信 した 教 会 の 教 義 や 邪 説 に 反 対 する 真 理 に 到 達 したのではな<br />

かった。 彼 らの 信 仰 は、 新 たに 受 けた 信 仰 ではなかった。 彼 らの 宗 教 的 信 念 は、 彼 ら<br />

の 先 祖 から 受 け 継 いだものであった。 彼 らは、 使 徒 時 代 の 教 会 の 信 仰 、すなわち、<br />

「ひとたび 伝 えられた 信 仰 」を 強 く 主 張 した[ユダ。 世 界 的 な 大 都 市 に 王 座 をかまえた<br />

高 慢 な 法 王 制 ではなくて、この「 荒 野 の 教 会 」がキリストの 真 の 教 会 であり、 世 界 に<br />

伝 えるために 神 がご 自 分 の 民 にゆだねられた 真 理 の 宝 の 保 管 者 であった。<br />

真 の 教 会 がローマから 分 離 しなければならなかった 主 な 理 由 の 中 に、 聖 書 的 安 息 日<br />

に 対 するローマの 憎 しみということがあった。 預 言 されていたとおり、 法 王 権 はこの<br />

真 理 を 地 に 投 げ 捨 てた。 人 間 の 言 い 伝 えや 習 慣 が 尊 ばれる 一 方 、 神 の 律 法 は 踏 みにじ<br />

ら れた。 法 王 権 の 支 配 下 にあった 諸 教 会 は、 早 くから、 日 曜 日 を 聖 日 としてあがめる<br />

よう 強 要 された。 誤 りと 迷 信 が 広 くゆきわたっているさなかにあって、 多 くの 者 が—<br />

— 神 の 真 の 民 でさえも—— 当 惑 し、 真 の 安 息 日 を 守 りながらも、 日 曜 日 にも 仕 事 を 休<br />

むほどであった。しかし 法 王 教 の 指 導 者 たちは、それでは 満 足 しなかった。<br />

彼 らは、 日 曜 日 を 尊 ぶばかりでなく、 安 息 日 を 汚 すことを 要 求 した。そして、 安 息<br />

日 を 尊 ぼうとする 人 々を、 最 も 激 しい 口 調 で 非 難 した。だれでも 神 の 律 法 を 平 安 のう<br />

41


国 際 協 定<br />

ちに 守 ろうとするならば、どうしても、ローマの 権 力 外 に 逃 れるほかはなかった。 ワ<br />

ルド 派 の 人 々は、ヨーロッパにおいて 最 初 に 聖 書 の 翻 訳 を 手 にした 人 々の 1 つであっ<br />

た。 宗 教 改 革 の 数 百 年 も 前 から、 彼 らは、 自 国 語 で 書 かれた 聖 書 の 写 本 を 持 っていた。<br />

彼 らは 混 ぜ 物 のない 真 理 を 持 っており、そのために、 特 に 憎 しみと 迫 害 とを 受 けたの<br />

であった。 彼 らは、ローマの 教 会 は 黙 示 録 の 背 教 したバビロンであると 宣 言 し、 生 命<br />

の 危 険 をもかえりみず、その 腐 敗 に 抵 抗 するために 立 ち 上 がった。 長 期 にわたる 迫 害<br />

のために、 信 仰 の 妥 協 をしたり、 独 特 の 主 義 を 少 しずつ 放 棄 したりする 者 もあったが、<br />

真 理 に 堅 く 立 った 人 々もいた。 暗 黒 と 背 教 の 全 時 代 を 通 じて、ローマの 至 上 権 を 否 定<br />

し、 聖 画 像 崇 敬 を 偶 像 礼 拝 だとして 拒 み、 真 の 安 息 日 を 守 ったところのワルド 派 の 人<br />

々がいた。 最 も 激 しい 弾 圧 のさなかで、 彼 らはその 信 仰 を 保 った。サボア 人 たちのや<br />

りに 深 手 を 負 い、ローマの 火 刑 柱 で 焦 がされようとも、 彼 らは 神 の 言 葉 と 神 の 栄 光 の<br />

ために、ひるまず 堅 く 立 ったのである。<br />

そびえ 立 つ 山 々のかげに——それはいつの 時 代 においても、 迫 害 され 圧 迫 された 人<br />

々の 避 難 所 であったが——ワルド 派 は 隠 れ 場 を 見 いだした。そしてここで 真 理 の 光 が、<br />

中 世 の 暗 黒 のただ 中 にあって 燃 え 続 けた。ここで、1000 年 以 上 もの 間 、 真 理 の 証 人<br />

たちは 昔 ながらの 信 仰 を 保 持 したのであった。 神 は、ご 自 分 の 民 におゆだねになった<br />

力 強 い 真 理 にふさわしい、 極 めて 荘 厳 な 避 難 所 を、 彼 らのために 備 えておられた。 忠<br />

実 な 避 難 者 たちにとって、 山 々は 主 の 不 変 の 義 の 象 徴 であった。 彼 らは 子 供 たちに 堂<br />

々たる 威 厳 をもって 彼 らの 前 にそびえ 立 つ 山 々を 指 さし、 変 化 も 回 転 の 影 もないお 方 、<br />

そのみ 言 葉 が 永 久 の 丘 のように 持 続 するお 方 について 語 った。<br />

神 は、 山 々を 堅 くすえ、それに 力 をお 与 えになった。 無 限 の 力 を 持 たれた 神 の 腕 以<br />

外 のどんな 腕 も、 山 々をその 場 所 から 動 かすことはできなかった。 同 様 に 神 は、 天 と<br />

地 における 神 の 統 治 の 基 礎 である 律 法 を、 堅 くすえられた。 人 間 は、 手 を 伸 ばして 同<br />

胞 の 生 命 を 奪 うことはできよう。しかし、 主 の 律 法 の 1 つでも 変 えることができるな<br />

らば、あるいは、 神 のみこころを 行 う 者 に 対 する 神 の 約 束 を 1 つでも 消 し 去 ることが<br />

できるならば、 山 々をその 土 台 から 根 こそぎにして、 海 の 中 にやすやすと 投 げ 込 むこ<br />

とができるであろう。 神 のしもべたちは、 不 動 の 山 々のように、 断 固 として 神 の 律 法<br />

に 忠 誠 を 尽 くさなければならない。<br />

低 い 谷 間 を 取 り 巻 く 山 々は、 神 の 創 造 の 力 を 絶 えずあかしするとともに、 神 の 保 護<br />

の 絶 えざる 保 証 であった。 信 仰 のゆえに 故 郷 を 後 にした 人 々は、 主 の 臨 在 を 無 言 のう<br />

ちに 表 している 大 自 然 を 愛 するようになった。 彼 らは 自 分 たちの 境 遇 の 苦 しさをつぶ<br />

やかなかった。ひっそりした 山 の 中 にあっても、 彼 らは 寂 しさを 感 じなかった。 人 間<br />

の 怒 りと 残 酷 さからの 避 難 所 を 備 えていてくださったことを 彼 らは 神 に 感 謝 した。 彼<br />

42


国 際 協 定<br />

らは、 神 の 前 で 自 由 に 礼 拝 ができることを 喜 んだ。 時 おり、 敵 の 追 撃 を 受 けたときに<br />

は、 強 固 な 山 々が 確 実 な 防 御 となった。 彼 らは 多 くの 高 い 断 崖 から、 神 を 賛 美 する 歌<br />

をうたった。そしてローマの 軍 隊 は、 彼 らの 歌 う 感 謝 の 歌 を 沈 黙 させることができな<br />

かった。<br />

純 潔 、 単 純 、 熱 心 が、キリストに 従 うこれらの 人 々の 信 条 であった。 彼 らは、 真 理<br />

の 原 則 を、 家 屋 、 土 地 、 友 人 、 親 戚 はいうに 及 ばず 生 命 そのもの 以 上 に 大 切 なものと<br />

見 なした。 彼 らは、これらの 原 則 を 若 い 人 々の 心 に 植 えつけようと 熱 心 に 努 めた。 青<br />

年 たちは 幼 い 時 から、 聖 書 を 教 えられ、 神 の 律 法 の 要 求 を 神 聖 なものと 見 なすよう 教<br />

えられた。 聖 書 の 部 数 は 極 めて 少 なかったので、その 尊 いみ 言 葉 を 彼 らは 暗 記 した。<br />

多 くの 者 が、 旧 新 約 聖 書 両 方 のかなりの 部 分 を 暗 唱 できた。 神 を 思 う 思 いが、 自 然 の<br />

荘 厳 な 光 景 からも、また、 日 常 生 活 のささやかな 祝 福 からも、 同 じように 連 想 された。<br />

幼 い 子 供 たちは、 神 を、すべての 恵 みとすべての 慰 めを 与 えてくださるお 方 として、<br />

感 謝 をもって 仰 ぐよう 教 えられた。<br />

両 親 たちは、 慈 愛 と 愛 情 に 満 ちていたが、 同 時 に 非 常 に 賢 明 であって、 子 供 たちを<br />

わがままにさせたりはしなかった。 彼 らの 前 途 には、 試 練 と 困 難 の 生 涯 が、そしてお<br />

そらくは 殉 教 者 としての 死 が 待 っていた。それだから 彼 らは、 子 供 のころから、 困 難<br />

に 耐 え、 統 制 に 服 し、しかも 自 ら 思 考 し 行 動 するように 教 えられていた。 幼 い 時 から<br />

彼 らは 責 任 を 負 い、 言 葉 を 慎 み、 沈 黙 の 賢 明 さを 理 解 するように 教 えられた。 敵 に 聞<br />

こえた 軽 率 な 一 言 が、それを 言 った 者 だけでなく、 多 くの 同 信 者 の 生 命 を 危 険 に 陥 れ<br />

る 恐 れがあった。 真 理 の 敵 は、 餌 食 をさがしまわるおおかみのように、 信 仰 の 自 由 を<br />

求 める 者 たちをつけねらっていたからである。<br />

ワルド 派 の 人 々は、 真 理 のために、 世 俗 的 な 繁 栄 を 犠 牲 にし、 忍 耐 強 く、 自 分 たち<br />

の 糧 のために 労 苦 した。 山 岳 地 帯 の 中 の 耕 せる 土 地 はすべて、ていねいに 開 墾 された。<br />

谷 間 も、あまり 肥 えていない 山 の 中 腹 も 耕 されて、 作 物 を 実 らせるようになった。 節<br />

約 と 厳 しい 克 己 とが、 子 供 たちの 受 ける 唯 一 の 遺 産 としての 教 育 の 中 に 含 まれていた。<br />

子 供 たちは、 人 生 が 訓 練 となるよう 神 は 計 画 しておられること、そして 自 分 たちの 必<br />

要 は、 自 分 自 身 の 労 働 と 生 活 設 計 、 配 慮 と 信 仰 によってのみ 満 たせるということを 教<br />

えられた。その 過 程 は、 労 苦 に 満 ち、 疲 れさせるものではあったが、しかし 健 康 的 な<br />

ものであった。そしてこれは、 堕 落 した 状 態 にある 人 間 にちょうど 必 要 なことであっ<br />

て、 神 が 人 間 の 訓 練 と 発 達 のために 備 えられた 学 校 であった。 青 年 たちは、ほねおり<br />

と 困 難 に 慣 れる 一 方 、 知 性 の 開 発 も 怠 らなかった。 彼 らは、 自 分 たちのすべての 能 力<br />

が 神 のものであって、そのすべてを 神 の 奉 仕 のために 開 発 し 活 用 しなければならない<br />

ことを 教 えられた。<br />

43


国 際 協 定<br />

ワルド 派 の 教 会 は、その 純 潔 と 単 純 さにおいて、 使 徒 時 代 の 教 会 に 似 ていた。 彼 ら<br />

は、 法 王 や 大 司 教 の 至 上 権 を 拒 み、 聖 書 を 唯 一 最 高 で 誤 りのない 権 威 として 主 張 した。<br />

彼 らの 牧 師 たちは、ローマの 尊 大 な 司 祭 たちと 異 なって、「 仕 えられるためではなく、<br />

仕 えるため」に 来 られた 彼 らの 主 の 模 範 に 従 っていた。 彼 らは 神 の 民 を、 神 の 聖 なる<br />

言 葉 という 緑 の 牧 場 、 生 きた 泉 に 導 いて、 彼 らを 養 った。<br />

彼 らは、 人 間 の 虚 栄 と 誇 りの 記 念 物 から 遠 く 離 れ、 華 麗 な 会 堂 や 大 寺 院 ではなくて<br />

山 々のかげに、アルプスの 谷 に、あるいは 危 険 な 場 合 には、 岩 のとりでの 中 に 集 まっ<br />

て、キリストのしもべたちから 真 理 の 言 葉 を 聞 いた。 牧 師 たちは 福 音 を 説 くだけでな<br />

くて、 病 人 を 見 舞 い、 子 供 たちを 教 え、 誤 った 者 をさとし、 争 いをしずめて 一 致 と 兄<br />

弟 愛 を 育 てるように 努 めた。 彼 らは、 平 和 な 時 には 人 々の 自 発 的 なささげ 物 によって<br />

支 えられていたが、テント 作 りのパウロのように、 各 自 は 何 かの 職 業 を 身 につけてい<br />

て、 必 要 な 場 合 には 自 分 で 生 活 できるようにしていた。<br />

青 年 たちは 牧 師 たちから 教 育 を 受 けた。 普 通 の 学 問 の 諸 分 野 に 注 意 が 向 けられる 一<br />

方 、 聖 書 が 主 要 な 科 目 であった。マタイやヨハネによる 福 音 書 は、 多 くの 使 徒 書 簡 と<br />

ともに、 暗 記 された。 彼 らはまた、 聖 書 の 写 本 に 従 事 した。 聖 書 全 体 の 写 本 もあれば、<br />

短 い 部 分 的 なものもあり、それには、 聖 書 の 解 説 ができる 人 々による 簡 単 な 聖 句 の 説<br />

明 がついていた。こうして、 神 よりも 自 分 たちを 高 めようとする 人 々によって 長 く 隠<br />

されていた 真 理 の 宝 が 明 らかにされた。<br />

忍 耐 強 くたゆまぬ 努 力 によって、 時 には 暗 い 洞 窟 の 奥 深 くで、たいまつの 光 をたよ<br />

りに、 聖 書 は 1 節 ずつ、また 1 章 ずつ 書 き 写 されていった。こうして 働 きは 続 けられ、<br />

あらわされた 神 のみ 旨 は 純 金 のように 輝 き 出 た。 試 練 を 経 たために、 神 のみ 旨 がどん<br />

なにか いっそう 輝 かしく、 明 らかで 強 力 なものとなったかは、その 働 きに 携 わった 者<br />

たちにしかわからない。そして 天 使 たちが、これらの 忠 実 な 働 き 人 たちを 取 り 囲 んで<br />

いた。 サタンは 法 王 教 の 司 祭 や 司 教 たちを 促 して、 真 理 のみ 言 葉 を 誤 謬 や 邪 説 、 迷 信<br />

などのつまらないものの 下 に 隠 しておこうとした。しかし、それは、 暗 黒 時 代 の 全 期<br />

間 を 通 じて、 驚 くべき 方 法 で 純 粋 に 保 たれた。それは、 人 間 の 印 ではなくて、 神 の 刻<br />

印 を 帯 びている。 人 間 は、 聖 書 の 簡 単 、 明 瞭 な 意 味 をあいまいにし、それ 自 体 が 矛 盾<br />

しているものであるかのように 思 わせようとして、たゆまず 努 力 してきた。<br />

しかし 神 のみ 言 葉 は、 荒 れ 狂 う 大 海 に 浮 かぶ 箱 舟 のように、それをくつがえそうと<br />

する 嵐 にも 動 じないのである。 金 や 銀 の 鉱 脈 は、 鉱 山 の 地 中 深 くにあって、 宝 を 発 見<br />

しようとする 者 たちはみな 掘 らなければならないように、 聖 書 にも 真 理 の 宝 が 隠 され<br />

ていて、それは 心 ひくく 熱 心 に 祈 りつつ 探 究 する 者 にだけあらわされる。 神 は 聖 書 を、<br />

44


国 際 協 定<br />

全 人 類 にとって、 幼 年 時 代 、 青 年 時 代 、 壮 年 時 代 の 教 科 書 となり、 全 生 涯 にわたって<br />

研 究 すべきものとなるよう 意 図 された。 神 は 聖 書 を、ご 自 分 の 啓 示 として 人 間 にお 与<br />

えになった。 新 しい 真 理 が 明 らかになるたびに、その 真 理 の 本 源 であられる 神 の 品 性<br />

が 新 たにあらわされる。 聖 書 を 研 究 することは、 人 間 を 創 造 主 とのいっそう 密 接 な 関<br />

係 に 入 れ、 神 のみこころをいっそう 明 瞭 に 知 らせるために、 神 がお 定 めになった 方 法<br />

である。それは、 神 と 人 間 とが 交 わる 手 段 である。<br />

ワルド 派 の 人 々は、 主 を 恐 れることが 知 恵 の 初 めであることを 認 めていたが、それ<br />

とともに、 世 界 と 接 触 して 人 間 と 実 生 活 の 知 識 を 得 ることが、 心 を 広 くし、 知 覚 を 鋭<br />

くするのに 重 要 であることを 知 っていた。 青 年 たちのある 者 は、 山 の 中 の 学 校 から、<br />

フランスやイタリアの 諸 都 市 にある 学 校 に 送 られた。そこには 郷 里 のアルプスにおけ<br />

るよりはいっそう 広 範 な、 研 究 と 思 索 と 観 察 の 領 域 があった。こうして 送 り 出 された<br />

青 年 たちは、 誘 惑 にさらされ、 罪 悪 をまのあたりに 見 、 最 も 巧 妙 な 邪 説 と 最 も 危 険 な<br />

欺 瞞 を 主 張 する、サタンの 狡 猾 な 手 下 たちに 出 会 った。しかし 彼 らが 子 供 の 時 から 受<br />

けた 教 育 は、こうしたすべてのことに 対 する 準 備 となる 性 質 のものであった。<br />

彼 らは、どこの 学 校 に 行 っても、 心 を 打 ち 明 けるような 友 をつくってはならなかっ<br />

た。 彼 らの 衣 服 は、 最 大 の 宝 すなわち 聖 書 の 貴 重 な 写 本 を 隠 せるように 作 られていた。<br />

長 年 の 苦 心 の 結 晶 であるこれらの 写 本 を、 彼 らはいつも 身 につけていて、 怪 しまれな<br />

い 時 にはいっでも、 真 理 を 受 け 入 れそうな 人 々に、その 一 部 を 注 意 深 く 手 渡 した。ワ<br />

ルド 派 の 青 年 は、 母 親 のひざもとで、このような 目 的 のために 訓 育 されたのであった。<br />

そして 彼 らは、 自 分 たちの 働 きを 理 解 し、それを 忠 実 に 実 行 した。 真 の 信 仰 に 改 宗 す<br />

る 者 たちが、これらの 大 学 内 に 出 てきて、その 主 義 が 学 校 全 体 にみなぎることもよく<br />

あった。 しかし 法 王 教 の 指 導 者 たちは、どんなに 厳 密 に 調 べても、いわゆる 異 端 邪 説<br />

の 出 所 をつかむことができなかった。<br />

キリストの 精 神 は、 伝 道 の 精 神 である。 心 が 新 たにされた 人 のまず 最 初 の 衝 動 は、<br />

他 の 人 をも 救 い 主 に 導 こうとすることである。これが、ワルド 派 キリスト 教 徒 の 精 神<br />

であった。 彼 らは、 単 に 自 分 たちの 教 会 内 において 真 理 を 純 潔 に 保 つだけでなくて、<br />

それ 以 上 のことを 神 が 要 求 しておられると 感 じた。 彼 らは、 暗 黒 の 中 にいる 人 々に 光<br />

を 輝 かす 厳 粛 な 責 任 が 自 分 たちに 負 わされているのを 感 じた。こうして 彼 らは、 神 の<br />

み 言 葉 の 偉 大 な 力 によって、ローマが 人 々に 負 わせたくびきを 砕 こうと 努 めた。ワル<br />

ド 派 の 牧 師 たちは 宣 教 師 としての 訓 練 を 受 け、 牧 師 の 職 務 にたずさわる 者 はみな、ま<br />

ず 伝 道 者 としての 経 験 を 持 たなければならなかった。 各 自 は、 本 国 の 教 会 の 責 任 を 負<br />

うに 先 だって、どこかの 伝 道 地 で 3 年 間 奉 仕 しなければならなかった。この 奉 仕 には、<br />

まず 克 己 と 犠 牲 とが 要 求 されたが、 困 難 をきわめた 時 代 に 牧 師 の 生 活 をする 者 にとっ<br />

45


国 際 協 定<br />

て、まことにふさわしい 出 発 であった。 聖 職 に 任 じられた 青 年 たちは 自 分 たちの 前 途<br />

に、 世 俗 の 富 と 栄 光 ではなくて、 労 苦 と 危 険 の 生 活 、あるいは 殉 教 者 の 運 命 を 見 た。<br />

宣 教 師 たちは、イエスが 弟 子 たちをつかわされたように、2 人 ずつで 出 かけた。 青 年<br />

たち 一 人 一 人 に、たいていの 場 合 、 年 長 で 経 験 に 富 んだ 人 が 組 み 合 わせられ、 青 年 た<br />

ちは、 彼 を 訓 練 する 責 任 を 負 った 同 伴 者 の 指 導 の 下 でその 教 えに 従 わねばならなかっ<br />

た。こうした 同 労 者 たちは、いつもいっしょにいたわけではなかったが、たびたび 祈<br />

りと 相 談 のために 集 まって、 互 いに 信 仰 を 強 めあった。<br />

彼 らの 任 務 の 目 的 を 明 かすことは、 不 利 を 招 くにきまっていた。それゆえ 彼 らは 注<br />

意 深 くその 身 分 をかくした。どの 牧 師 も、 何 かの 技 術 か 職 業 をわきまえており、 伝 道<br />

者 たちも、 世 俗 の 職 業 に 従 事 しながら 自 分 たちの 働 きを 行 った。 通 常 彼 らは、 行 商 の<br />

働 きを 選 んだ。 「 彼 らは、 当 時 遠 い 市 場 でなければ、たやすく 入 手 できなかった 絹 、<br />

宝 石 、その 他 の 品 を 扱 った。そして、 宣 教 師 として 訪 れるならはねつけられるところ<br />

に、 商 人 として 歓 迎 された。」 2 彼 らの 心 は 常 に、 金 や 宝 石 よりも 尊 い 宝 を 人 々に 示 す<br />

知 恵 を、 神 に 仰 ぎ 求 めて、いた。 彼 らはひそかに、 聖 書 の 全 部 、またはその 一 部 を 幾<br />

冊 か 携 えていた。そして 機 会 あるたびに、これらの 写 本 に 客 の 注 意 を 引 いた。こうし<br />

てしばしば、 神 のみ 言 葉 を 読 もうとする 興 味 が 呼 び 起 こされ、み 言 葉 の 一 部 が、それ<br />

を 受 け 入 れたいと 願 う 人 々のところに 喜 んで 置 いていかれた。<br />

これらの 伝 道 者 たちの 働 きは、 彼 らの 住 んでいた 山 々のふもとの 平 野 や 谷 間 から 始<br />

まったが、しかしそうした 近 辺 だけではなく、はるか 遠 くまで 広 がった。 彼 らは、 彼<br />

らの 主 イエスのように、 旅 によごれたそまつな 衣 服 を 着 、はだしで、 大 きな 町 々を 巡<br />

り、 遠 方 の 地 方 にまで 進 んでいった。 至 る 所 で 彼 らは、 尊 い 種 をまいた。 彼 らが 通 っ<br />

たところには 教 会 が 起 こり、 殉 教 者 の 血 が 真 理 のあかしを 立 てた。これら 忠 実 な 人 々<br />

の 働 きによって 集 められた、 豊 かな 魂 の 収 穫 は、 主 の 大 いなる 日 にあらわされること<br />

であろう。ひそかに、そして 静 かに、 神 のみ 言 葉 はキリスト 教 世 界 の 中 を 進 んでいき、<br />

人 々の 家 庭 と 心 の 中 に 喜 び 迎 えられていった。<br />

ワルド 派 にとって、 聖 書 は、 過 去 の 人 間 を 神 がどのように 扱 われたかという 記 録 と、<br />

現 在 の 責 任 と 義 務 の 啓 示 であるだけではなくて、 将 来 の 危 険 と 栄 光 を 開 き 示 すもので<br />

あった。 彼 らは、 万 物 の 終 わりが 遠 い 先 のことではないことを 信 じた。そして、 祈 り<br />

と 涙 をもって 聖 書 を 研 究 した 時 、ますますその 尊 い 言 葉 に 深 く 心 を 動 かされ、その 救<br />

いの 真 理 を 他 の 人 々に 伝 える 義 務 を 感 じた。 彼 らは、 救 いの 計 画 が 聖 書 のページに 明<br />

らかにあらわされているのを 見 、イエスを 信 じることの 中 に 慰 めと 希 望 と 平 和 を 見 い<br />

だした。こうして 光 に 照 らされて 明 らかな 理 解 を 得 、 心 の 喜 びを 感 じた 時 に、 彼 らは、<br />

法 王 教 の 誤 謬 という 暗 黒 の 中 にいる 人 々に、その 光 を 注 ぎたいと 熱 望 した。<br />

46


国 際 協 定<br />

彼 らは、 多 くの 人 々が 法 王 と 司 祭 の 指 導 のもとに、 自 分 たちの 魂 の 罪 の 償 いとして<br />

苦 行 をし、 罪 の 赦 しを 得 ようとむだな 努 力 をしているのを 見 た。 人 々は、 善 行 に 頼 っ<br />

て 救 いを 得 るように 教 えられていたので、たえず 自 分 自 身 に 目 を 向 け、 自 分 たちの 罪<br />

深 さを 考 え、 自 分 たちが 神 の 怒 りにさらされているのを 見 、 心 と 体 を 苦 しめたのであ<br />

るが、しかしなんの 安 心 も 得 られないのであった。こうして、 良 心 的 な 人 々はローマ<br />

の 教 義 に 縛 られていた。 幾 千 という 人 々が 友 人 や 親 戚 を 捨 て、その 一 生 を 修 道 院 の 小<br />

部 屋 で 過 ごした。たび 重 なる 断 食 、 残 酷 なむち 打 ち、 夜 半 の 勤 行 、 荒 涼 とした 住 まい<br />

の 冷 たくしめった 石 の 上 での 数 時 間 の 平 伏 、 長 途 の 巡 礼 、 屈 辱 的 苦 行 や 恐 ろしい 拷<br />

問 ——こうしたものによって、 幾 千 という 人 々が、 良 心 の 安 らぎを 得 ようとしたがむ<br />

だであった。 罪 の 意 識 に 圧 倒 され、 神 の 報 復 の 怒 りを 恐 れて、 多 くの 者 は 悩 みつづけ、<br />

ついには 精 根 つき 果 てて、 一 条 の 光 も 希 望 も 得 ずに 墓 に 入 ってしまうのであった。<br />

ワルド 派 の 人 々は、これらの 飢 えた 魂 に 生 命 のパンを 与 え、 神 の 約 束 の 中 にある 平<br />

和 のメッセージを 示 し、 救 いの 唯 一 の 望 みとしてキリストをさし 示 したいと 切 望 した。<br />

善 行 によって、 神 の 律 法 を 犯 した 罪 を 贖 うことができるという 教 義 は、 虚 偽 に 基 づく<br />

ものであると 彼 らは 主 張 した。 人 間 の 功 績 に 頼 ることは、キリストの 無 限 の 愛 を 見 る<br />

ことを 妨 げてしまう。 堕 落 した 人 類 は 神 の 前 に、 何 1 つとして 自 分 を 推 奨 しうるもの<br />

がないために、イエスが 人 間 の 犠 牲 としてなくなられたのである。 十 字 架 に 架 けられ、<br />

復 活 された 救 い 主 の 功 績 が、キリスト 者 の 信 仰 の 基 礎 である。 人 がキリストによりす<br />

がり、キリストにつながるということは、 手 足 が 体 につながり、 枝 が 幹 につながるの<br />

と 同 様 に、 現 実 で 密 接 なものでなければならない。<br />

法 王 や 司 祭 たちの 教 えは、 神 の 品 性 またキリストの 品 性 でさえも、 厳 格 で、 暗 く、<br />

近 づきにくいものという 考 えを 人 々にいだかせていた。また 救 い 主 は、 司 祭 や 聖 人 の<br />

仲 保 がなければならないほど、 堕 落 した 人 間 に 対 する 同 情 心 に 欠 けたお 方 として 提 示<br />

された。 しかし、 神 のみ 言 葉 によって 目 を 開 かれた 者 たちは、 罪 の 重 荷 と 心 配 や 苦 労<br />

を 持 ったままご 自 分 のもとに 来 るようにと、 立 って 両 手 をひろげ、すべてのものを 招<br />

いておられる 愛 と 憐 れみに 満 ちた 救 い 主 イエスを、これらの 魂 に 示 したいと 熱 望 した。<br />

また、 人 々が 神 の 約 束 を 認 めて、 直 接 神 に 来 て、 罪 を 告 白 し、 赦 しと 平 和 を 受 けるこ<br />

とがないようにするためにサタンが 積 み 上 げた 妨 害 物 —— 人 々が 神 の 約 束 を 悟 らない<br />

ようにするために、そして、 直 接 神 のもとにきて 罪 を 告 白 し、 赦 しと 平 和 を 得 ること<br />

がないようにするために、サタンが 積 み 上 げた 妨 害 物 ——を、 一 掃 したいと 切 望 し<br />

た。<br />

ワルド 派 の 伝 道 者 は、 興 味 をもった 人 々に、 福 音 の 尊 い 真 理 を 熱 心 に 伝 えた。 彼 ら<br />

は、 注 意 深 く 書 かれた 聖 書 の 一 部 を、 用 心 深 く 取 り 出 した。 刑 罰 の 執 行 を 待 ち 構 えて<br />

47


国 際 協 定<br />

いる 報 復 の 神 しか 知 らなかったところの、 罪 に 苦 しむ 良 心 的 な 魂 に、 希 望 を 与 えるこ<br />

とは、 彼 の 最 大 の 喜 びであった。くちびるを 震 わせ、 目 に 涙 を 浮 かべながら、そして<br />

しばしばひざまずいて、 彼 は、 罪 人 の 唯 一 の 希 望 を 告 げる 尊 い 約 束 を 彼 の 同 胞 に 読 ん<br />

で 聞 かせた。こうして 真 理 の 光 は、 暗 黒 に 閉 ざされていた 多 くの 心 を 照 らし、 黒 雲 を<br />

追 い 払 い、そしてついには 義 の 太 陽 が、その 光 にいやしの 力 をもって、 心 の 中 にさし<br />

込 むようになった。しばしば 聖 書 のある 部 分 は、くり 返 し 何 度 も 何 度 も 読 むことを 相<br />

手 から 望 まれた。 相 手 は、それが 聞 きちがいではないということを、 確 かめているか<br />

のようであった。 特 に 次 の 聖 句 は、 何 度 もくり 返 すよう 熱 心 に 求 められた。「 御 子 イ<br />

エスの 血 が、すべての 罪 からわたしたちをきよめるのである」[Ⅰヨハネ 1:。「そし<br />

て、ちょうどモーセが 荒 野 でへびを 上 げたように、 人 の 子 もまた 上 げられなければな<br />

らない。それは 彼 を 信 じる 者 が、すべて 永 遠 の 命 を 得 るためである」[ヨハネ 3:<br />

14、。<br />

多 くの 者 が、ローマの 主 張 に 関 して 目 をさまされた。 彼 らは、 罪 人 のための 人 間 や<br />

天 使 のとりなしが、どんなに 無 益 であるかを 知 った。 彼 らの 心 に 真 理 の 光 が 射 し 込 ん<br />

だ 時 、 彼 らは 喜 びをもって 叫 んだ。「キリストがわたしの 祭 司 、 彼 の 血 がわたしの 犠<br />

牲 、そして 彼 の 祭 壇 がわたしの 告 白 室 である」と。 彼 らは、イエスの 功 績 に 全 く 依 り<br />

頼 んで 次 のみ 言 葉 を 繰 りかえした。「 信 仰 がなくては、 神 に 喜 ばれることはできない」<br />

[ヘブル 11:。「わたしたちを 救 いうる 名 は、これを 別 にしては、 天 下 のだれにも 与<br />

えられていないからである」[ 使 徒 行 伝 4:。 嵐 になやむ 哀 れな 魂 にとって、 救 い 主<br />

の 愛 の 保 証 は、 実 感 できないほど 大 いなるものに 思 われた。 大 きな 安 心 が 与 えられ、<br />

あふれるばかりの 光 が 彼 らの 上 に 注 がれたので、 彼 らは 天 に 移 されたかのように 感 じ<br />

たほどであった。 彼 らの 手 は、キリストをしっかりと 握 り、 彼 らの 足 は 永 遠 の 岩 の 上<br />

に 立 っていた。 死 の 恐 怖 はすべて 消 え 去 った。 今 や 彼 らにとって、 救 い 主 のみ 名 の 栄<br />

光 のためであるならば、 牢 獄 であれ 火 刑 であれ、あえて 切 望 するところとなった。<br />

こうして、 人 目 を 避 けたところで、 神 のみ 言 葉 が 持 ち 出 され、 読 まれたのであった。<br />

時 には、ただ 1 人 のた めに、そして 時 には、 光 と 真 理 を 渇 望 する 小 さい 群 れのために。<br />

このようにして 徹 夜 することもよくあった。 聴 衆 があまりにも 驚 き、 感 嘆 するので、<br />

彼 らが 救 いのおとずれを 十 分 に 理 解 するまで、 憐 れみの 使 者 は 朗 読 を 中 断 せざるをえ<br />

ないこともまれではなかった。また、しばしば、「 神 は、ほんとうにわたしの 献 げ 物<br />

を 受 け 入 れられるであろうか。 神 は、わたしに 恵 みをお 与 えになるであろうか。 神 は、<br />

わたしをお 赦 しになるであろうか」という 言 葉 が 発 せられた。そしてその 答 えとして、<br />

「すべて 重 荷 を 負 うて 苦 労 している 者 は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを 休<br />

ませてあげよう」というみ 言 葉 が 読 み 上 げられた[マタイ 11:。<br />

48


国 際 協 定<br />

人 々は 信 仰 によって 約 束 をしっかりと 捉 え、 喜 びをもって 応 答 した。「もう 長 い 巡<br />

礼 の 旅 に 出 ることはない。もう 苦 労 して 宮 詣 りをしなくてもよいのだ。 罪 深 く 汚 れた<br />

まま、わたしはイエスのもとに 行 っていいのだ。そして 彼 は、 悔 い 改 めた 者 の 祈 りを<br />

退 けられない。『あなたの 罪 は 赦 された』。わたしの 罪 、わたしの 罪 でさえ、 赦 され<br />

るのだ!」。<br />

きよい 喜 びが 心 に 満 ち、 賛 美 と 感 謝 によってイエスのみ 名 があがめられるのであっ<br />

た。 喜 びに 満 たされたこれらの 人 々は、 真 の 生 ける「 道 」を 発 見 したという 自 分 たち<br />

の 新 しい 経 験 を、できるだけ 十 分 に 他 の 人 々に 語 り、 光 を 伝 えるために、 家 路 を 急 い<br />

だ。 真 理 を 求 めていた 人 々の 心 に 直 接 語 った 聖 書 の 言 葉 には、 不 思 議 で 厳 粛 な 力 が 伴<br />

っていた。それは 神 の 声 であった。そしてそれは、それを 聞 いた 者 たちの 心 を 強 く 動<br />

かした。<br />

真 理 の 使 者 は、また 旅 に 出 てしまう。しかし、 彼 の 謙 そんな 態 度 、 誠 実 さ、そして<br />

真 剣 で 熱 意 にあふれていたことなどが、たびたび 話 題 となった。 多 くの 場 合 聴 衆 は 彼<br />

がどこから 来 てどこへ 行 くのかをたずねていなかった。 彼 らは、 最 初 は 驚 きに 圧 倒 さ<br />

れ、そのあとでは 感 謝 と 喜 びに 圧 倒 されて、 彼 にたずねることなど 考 えもしなかった<br />

のである。 彼 らが、 自 分 たちの 家 までいっしょに 行 くよう 勧 めると、 彼 は、 自 分 は 群<br />

れの 失 われた 羊 をたずねなければならないと 答 えるのであった。もしかすると 彼 は 天<br />

からのみ 使 いだったのではなかろうか、と 人 々は 不 審 がった。 たいていの 場 合 、 真 理<br />

の 使 者 は 2 度 と 現 れなかった。 彼 は、 他 の 地 方 へ 行 ってしまったのか、それとも 人 知<br />

れぬ 牢 獄 の 中 で 苦 しんでいるのか、または、 真 理 のあかしを 立 てたその 場 所 で、 骨 を<br />

さらしているのかもしれなかった。しかし、 彼 が 後 に 残 していった 言 葉 は、 滅 ぼすこ<br />

とができなかった。それは 人 々の 心 の 中 で 働 いていた。その 祝 福 された 結 果 は、 審 判<br />

の 時 になってはじめて 明 らかになることであろう。<br />

ワルド 派 の 伝 道 者 たちは、サタンの 王 国 に 侵 入 しつつあったので、 暗 黒 の 勢 力 も 厳<br />

重 な 警 戒 を 始 めた。 悪 の 君 は、 真 理 を 前 進 させようとするあらゆる 努 力 を 監 視 し、 自<br />

分 の 代 理 者 たちの 恐 怖 心 をあおった。 法 王 教 の 指 導 者 たちは、これらの 素 朴 な 旅 商 人<br />

たちの 活 動 が、 彼 らの 側 を 危 険 に 陥 れる 兆 であることに 気 づいた。もし 真 理 の 光 が、<br />

なんの 妨 げもなしに 輝 くならば、それは、 人 々を 閉 じこめている 誤 りの 厚 い 雲 を 一 掃<br />

してしまうことであろう。それは、 人 々の 心 をただ 神 だけに 向 けて、ついにはローマ<br />

の 至 上 権 を 打 破 してしまうことであろう。<br />

初 代 教 会 の 信 仰 を 保 っているこの 人 々の 存 在 そのものが、ローマの 背 教 に 対 する 絶<br />

えざるあかしであり、それゆえに、 最 も 激 しい 憎 悪 と 迫 害 をひき 起 こした。 彼 らが 聖<br />

49


国 際 協 定<br />

書 の 引 き 渡 しを 拒 否 したことも、ローマにとっては 許 せないことであった。ローマは<br />

彼 らを 地 上 から 一 掃 しようとした。こうして、 最 も 恐 るべき 戦 いが、 山 の 中 に 住 む 神<br />

の 民 に 向 かって 始 められた。また、 宗 教 裁 判 官 [ 異 端 審 問 官 ]が、 彼 らの 後 を 追 い、 罪<br />

なきアベルが 残 忍 なカインに 殺 されるという 光 景 がしばしばくり 返 された。<br />

何 度 となく、 彼 らの 肥 沃 な 土 地 は 荒 らされ、 住 まいや 礼 拝 堂 は 破 壊 され、なんの 罪<br />

もない 勤 勉 な 人 々の、 実 り 豊 かな 田 園 と 家 庭 であったところが、 見 渡 すかぎりの 荒 れ<br />

地 となってしまった。 飢 えた 猛 獣 が 血 をなめて、ますますたけり 狂 うように、 法 王 教<br />

徒 たちは 犠 牲 者 たちの 苦 難 を 見 て、ますます 激 しく 怒 りを 燃 やした。これら 純 粋 な 信<br />

仰 の 証 人 たちの 多 くは、 隠 れていた 山 々から 追 われ、 谷 間 から 狩 り 出 され、 深 い 森 林<br />

や 岩 山 の 峰 々に 避 難 した。<br />

こうして 追 放 された 人 々の 品 性 には、なんのおちどもなかった。 彼 らの 敵 でさえ 彼<br />

らのことを、 平 和 を 愛 し、 穏 やかで、 敬 虔 な 人 々であると 言 明 している。 彼 らの 主 要<br />

な 罪 は、 彼 らが 法 王 の 意 志 通 りには 神 を 礼 拝 しないということであった。この 罪 のた<br />

めに、 人 間 または 悪 魔 が 考 え 出 すことのできるあらゆる 屈 辱 と 侮 辱 と 拷 問 が、 彼 らに<br />

加 えられたのである。 ローマが、 憎 むべき 教 派 を 全 滅 させようと 決 意 した 時 、 彼 らを<br />

異 端 として 非 難 し、 滅 ぼすよう 命 じた 教 書 が、 法 王 によって 出 された。 彼 らは、 怠 け<br />

者 であるとか 不 正 直 であるとか、 秩 序 を 乱 すとかと 言 って 訴 えられたのではなかった。<br />

そうではなくて、 信 心 深 く 神 聖 な 外 観 を 装 いながら、「 真 の 羊 の 群 」を 欺 く 者 である<br />

と 宣 言 されたのである。それゆえに 法 王 は、「そのような 悪 人 たちの、 有 害 で 忌 まわ<br />

しい 宗 派 は」、もし 彼 らが「それを 放 棄 しないならば、 毒 蛇 のように 撲 滅 せよ」と 命<br />

じた。 3 この 高 慢 な 権 力 者 は、この 言 葉 をふたたび 聞 くことを 予 期 したであろうか。 彼<br />

は、この 言 葉 が 天 の 書 に 記 されて、 審 判 の 時 に 彼 はそれに 直 面 するのだということを、<br />

知 っていたであろうか。「わたしの 兄 弟 であるこれらの 最 も 小 さい 者 のひとりにした<br />

のは、すなわち、わたしにしたのである」とイエスは 言 われた[マタイ 25:。<br />

この 教 書 は、 異 端 に 対 する 戦 いに 教 会 の 全 員 が 参 加 するよう 呼 びかけた。この 残 酷<br />

な 仕 事 に 従 事 させるための 刺 激 として、それは、「 一 般 または 特 定 を 問 わず、すべて<br />

の 宗 教 的 苦 行 と 罰 からの 赦 免 を 与 えた。 戦 いに 加 わる 者 すべてに、どんな 宣 誓 の 不 履<br />

行 をも 許 した。どんな 不 正 によって 得 た 物 でも 合 法 と 認 めた。そして、 異 端 者 を 殺 す<br />

ものは、すべての 罪 が 赦 されると 約 束 した。また、ワルド 派 の 人 々に 有 利 な 契 約 はす<br />

べて 破 棄 し、 彼 らの 使 用 人 たちに 家 を 去 るよう 命 じ、すべての 者 に 対 して、どんな 援<br />

助 をも 彼 らに 与 えることを 禁 じ、そして、すべての 者 に 彼 らの 財 産 を 奪 う 権 利 を 与 え<br />

た。」 4 こうした 文 書 は 明 らかに、その 背 後 で 働 く 悪 の 霊 を 示 している。ここに 聞 こえ<br />

るのは、キリストの 声 ではなくて、 龍 のほえる 声 である。<br />

50


国 際 協 定<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 彼 らの 品 性 を 神 の 律 法 という 偉 大 な 標 準 に 合 わせようとは<br />

せず、 自 分 たちに 都 合 のよい 別 の 標 準 を 設 けた。そして、ローマがそう 命 じるという<br />

理 由 のもとにすべての 者 をそれに 従 わせようと 決 めた。 最 も 恐 ろしい 悲 劇 が 演 じられ<br />

た。 堕 落 して 神 をけがしても 恐 れない 司 祭 や 法 王 たちは、サタンが 彼 らに 命 じたこと<br />

を 行 っていた。 彼 らには、 憐 れみなど 少 しも 見 られなかった。キリストを 十 字 架 にか<br />

け、 使 徒 たちを 殺 したのと 同 じ 精 神 、また、 残 忍 なネロが 彼 の 時 代 の 忠 実 な 者 たちを<br />

迫 害 したのと 同 じ 精 神 が、 神 に 愛 された 人 々を 地 上 から 除 き 去 ろうとして 働 いてい<br />

た。 神 を 恐 れる 民 、ワルド 派 の 人 々は、 数 世 紀 にわたって 受 けた 迫 害 にも 忍 耐 強 く 耐<br />

えて、 贖 い 主 をあがめた。 彼 らにはしばしば 十 字 軍 が 向 けられて、 残 忍 な 虐 殺 を 受 け<br />

たにもかかわらず、 彼 らは 貴 重 な 真 理 をあちこちに 伝 えるために、 伝 道 者 を 派 遣 しつ<br />

づけた。 彼 らは 狩 り 出 され 殺 された。しかし、その 血 は、まかれた 種 に 水 を 注 ぎ、 必<br />

ず 実 を 結 ばせた。 こうしてワルド 派 の 人 々は、ルターが 生 まれる 幾 世 紀 も 前 に、 神 の<br />

ためにあかしを 立 てた。 彼 らは 多 くの 国 々に 散 らばって、 宗 教 改 革 の 種 をまいた。 宗<br />

教 改 革 は、ウィクリフの 時 代 に 始 まり、ルターの 時 代 に 広 く 深 く 成 長 した。そしてそ<br />

れは、「 神 の 言 とイエスのあかしとのゆえに」 喜 んですべての 苦 難 を 忍 ぶ 人 々によっ<br />

て、 世 の 終 わりまで 続 けられるのである[ 黙 示 録 1:。<br />

51


国 際 協 定<br />

第 5 章 真 実 のチャンピオン<br />

宗 教 改 革 以 前 には、ほんの 少 ししか 聖 書 がなかった 時 があったが、 神 は、 神 のみ 言<br />

葉 が 全 く 滅 び 失 せることをお 許 しにならなかった。 聖 書 の 真 理 は、 永 遠 に 隠 しておか<br />

れるべきではなかった。 神 は、 牢 獄 の 扉 を 開 き、 鉄 の 門 のかんぬきをはずして、 神 の<br />

しもべたちを 自 由 にすることができたのと 同 様 に、 生 命 の 言 葉 を 解 放 することも、た<br />

やすいことであった。ヨーロッパ 各 国 において、 人 々は 聖 霊 に 動 かされて、 隠 れた 宝<br />

をさがすように 真 理 を 研 究 した。 彼 らは、 摂 理 的 に 聖 書 に 導 かれて、 非 常 な 興 味 をも<br />

ってそれを 研 究 した。 彼 らは、どんな 犠 牲 を 払 ってでも、 光 を 受 けようとしていた。<br />

彼 らは、すべてのことをはっきりと 認 めたわけではなかったけれども、 久 しくうずも<br />

れていた 多 くの 真 理 を 見 いだすことができた。 天 からの 使 者 として 彼 らは 出 て 行 き、<br />

誤 りと 迷 信 の 鎖 を 砕 き、 長 い 間 縛 られていた 人 々に、 立 ち 上 がって 自 由 を 主 張 するよ<br />

うに 呼 びかけた。<br />

ワルド 派 の 人 々を 除 いては、 神 の 言 葉 は 長 い 間 、 知 識 階 級 だけが 読 める 言 語 の 中 に<br />

閉 じ 込 められていた。しかし、 聖 書 が 翻 訳 されて、 各 国 の 人 々に 自 国 語 で 与 えられる<br />

時 が 来 た。 世 界 はその 真 夜 中 を 過 ぎた。 暗 黒 の 時 は 過 ぎようとしていた。そして 各 国<br />

に、 夜 明 けのしるしが 現 れつつあった。 14 世 紀 、 英 国 に、「 宗 教 改 革 の 明 星 」が 現<br />

れた。ジョン・ウィクリフは、 英 国 だけでなくて、 全 キリスト 教 国 にとっての、 改 革<br />

の 先 駆 者 であった。 彼 が 語 ることを 許 されたローマに 対 する 一 大 抗 議 は、 決 して 沈 黙<br />

させることができなかった。その 抗 議 は 紛 争 のきっかけとなって、ついに 個 人 、 教 会 、<br />

国 家 の 解 放 が 起 こったのである。<br />

ウィクリフは、 高 等 教 育 を 受 けた。 彼 にとって、 神 を 恐 れることは 知 恵 のはじめで<br />

あった。 彼 は 大 学 時 代 に、 驚 くべき 才 能 と 学 識 の 持 ち 主 であると 共 に、 熱 心 な 信 仰 の<br />

持 ち 主 として 知 られていた。 彼 は 知 識 欲 にもえて、あらゆる 学 問 を 身 につけようとし<br />

た。 彼 は、スコラ 哲 学 、 教 会 法 、 民 法 特 に 自 国 の 法 律 を 学 んだ。こうした 青 年 時 代 の<br />

教 育 は、 後 年 の 彼 の 活 動 に 大 いに 役 立 った。 彼 はその 時 代 の 思 弁 哲 学 に 通 じていたか<br />

ら、その 誤 りを 指 摘 することができた。そして、 国 の 法 律 や 教 会 の 法 規 の 研 究 によっ<br />

て、 彼 は、 市 民 的 自 由 と 宗 教 的 自 由 のための 大 いなる 戦 いにたずさわる 準 備 ができた。<br />

彼 は、 神 のみ 言 葉 から 得 た 武 器 をふるうことができたと 同 時 に、 学 校 における 知 的 訓<br />

練 を 受 けていたから、 哲 学 者 たちのかけひきをも 知 っていた。 彼 のすぐれた 資 質 と 深<br />

遠 な 学 識 には、 敵 も 味 方 も 尊 敬 を 払 った。 彼 の 支 持 者 たちは、 自 分 たちの 戦 士 が 国 家<br />

52


国 際 協 定<br />

の 指 導 者 たちの 中 でも 第 一 級 の 人 物 であることを 誇 りとした。そして 彼 の 敵 たちは、<br />

改 革 事 業 の 支 持 者 の 無 知 と 弱 点 を 暴 露 して 軽 べつすろということができなかった。<br />

ウィクリフは、まだ 学 生 であった 時 から、 聖 書 の 研 究 を 始 めた。まだ 古 代 語 で 書 か<br />

れた 聖 書 しかなかったその 時 代 において、 学 者 たちは 真 理 の 泉 への 道 を 見 いだすこと<br />

ができたが、 無 学 な 者 たちにはそれは 閉 ざされていた。こうして、ウィクリフの 改 革<br />

者 としての 将 来 の 働 きへの 道 は、すでに 備 えられていた。 学 者 たちは 神 の 言 葉 を 研 究<br />

し、そこに 示 されている 豊 かな 神 の 恵 みという 大 真 理 を 見 いだしていた。 彼 らは、そ<br />

の 教 えにおいて、この 真 理 の 知 識 をひろめ、 他 の 人 々を 生 きたみ 言 葉 に 導 いていた。<br />

ウィクリフの 注 意 が 聖 書 に 向 けられた 時 、 彼 は、 学 業 の 修 得 に 当 たったのと 同 じく<br />

徹 底 的 に、その 研 究 に 当 たった。これまで 彼 は、スコラ 哲 学 にも、 教 会 の 教 えにも 満<br />

足 することができず、 非 常 な 物 足 りなさを 感 じていた。そして 神 のみ 言 葉 の 中 に、 彼<br />

はこれまで 求 めても 得 られなかったものを 発 見 した。ここに 彼 は、 救 いの 計 画 が 啓 示<br />

され、キリストが 人 類 の 唯 一 の 仲 保 者 として 示 されているのを 見 た。 彼 は、キリスト<br />

の 御 用 に 自 分 自 身 を 献 げ、 自 分 が 発 見 した 真 理 を 人 々 に 宣 布 しようと 決 心 した。<br />

その 後 の 改 革 者 たちと 同 様 にウィクリフも、 働 きを 始 めたころは、 自 分 がどこに 導<br />

かれるか 知 らなかった。 彼 は、 故 意 にローマに 反 抗 したわけではなかった。しかし、<br />

真 理 に 献 身 した 時 、 必 然 的 に 虚 偽 と 戦 わなければならなくなった。 彼 は、 法 王 制 の 誤<br />

りがはっきりすればするほど、 熱 心 に 聖 書 の 教 えを 説 いた。 彼 は、ローマが 神 のみ 言<br />

葉 を 捨 てて 人 間 の 伝 説 を 取 り 入 れたのを 見 た。 彼 は、 聖 書 を 退 けた 司 祭 たちを 大 胆 に<br />

非 難 して、 聖 書 をもう 1 度 人 々の 手 に 回 復 することを、そしてその 権 威 を 教 会 内 でも<br />

う 1 度 確 立 することを 要 求 した。<br />

彼 は 熱 心 で 有 能 な 教 師 であり、 雄 弁 な 説 教 者 であった。そして 彼 の 日 常 生 活 は、 彼<br />

が 宣 べ 伝 えている 真 理 の 実 証 であった。 聖 書 に 関 する 彼 の 知 識 、 強 力 な 論 証 、 彼 の 純<br />

潔 な 生 活 、 確 固 とした 勇 気 と 誠 実 さとは、 一 般 の 人 々の 尊 敬 と 信 頼 をかちえた。 多 く<br />

の 者 は、ローマ 教 会 にみなぎる 罪 悪 を 見 て、これまでの 信 仰 に 不 満 を 抱 くようになっ<br />

ていたから、ウィクリフが 示 した 真 理 を 非 常 な 喜 びをもって 迎 えた。しかし、 法 王 教<br />

の 指 導 者 たちは、この 改 革 者 が 自 分 たちよりも 大 きな 勢 力 を 得 つつあるのを 見 て、 激<br />

しい 怒 りに 満 たされた。<br />

ウィクリフは 誤 りを 鋭 く 看 破 する 人 であって、ローマの 権 威 によって 認 められてい<br />

た 多 くの 悪 習 を 恐 れず 攻 撃 した。 彼 は 王 室 付 牧 師 として 活 躍 していたが、 法 王 が 英 国<br />

国 王 に 課 した 税 の 支 払 いに 勇 敢 に 反 対 した。そして、 法 王 が 世 俗 の 王 たちの 上 に 権 力<br />

をふるうことは、 道 理 にも 啓 示 にも 反 することを 指 摘 した。 法 王 の 要 求 は 人 々を 大 い<br />

53


国 際 協 定<br />

に 憤 慨 させていたので、ウィクリフの 教 えは 国 家 の 指 導 階 級 に 影 響 を 及 ぼした。 王 と<br />

貴 族 達 は、 結 束 して 法 王 の 俗 権 に 対 する 要 求 を 拒 絶 し、 税 の 支 払 いを 拒 んだ。こうし<br />

て 英 国 における 法 王 の 至 ヒ 権 に 対 して 大 きな 打 撃 が 加 えられた。<br />

ウィクリフが、 長 年 にわたって 断 固 たる 戦 いをいどんだもう 1 つの 悪 習 は、たくは<br />

つ 修 道 会 の 制 度 であった。これらの 修 道 土 たちは、 英 国 に 群 がり、 国 家 の 偉 大 と 繁 栄<br />

にとっての 障 害 となっていた。 産 業 ・ 教 育 ・ 道 徳 ヒに 衰 退 的 影 響 を 及 ぼしていた。 修<br />

道 士 たちの 怠 惰 な 物 ごい 生 活 は、 財 政 的 に 人 民 の 重 い 負 担 となったばかりでなく、 有<br />

用 な 労 働 を 軽 べつするに 至 らせた。 青 年 たちは 堕 落 し 腐 敗 した。 修 道 士 たちの 影 響 を<br />

受 けて、 修 道 院 に 入 り、 隠 遁 生 活 をする 者 が 多 くいた。しかもこのことは、 親 の 同 意<br />

を 得 ないばかりか、 彼 らには 知 らせず、また 彼 らの 命 令 に 反 してまで 行 われた。<br />

ローマ 教 会 初 期 の 教 父 の 1 人 は、 子 としての 愛 と 義 務 の 要 求 以 上 に 修 道 院 生 活 の 要<br />

求 を 重 要 視 して、 次 のように 宣 言 していた。「たとえ、なんじの 父 が 戸 口 に 倒 れて 嘆<br />

き 悲 しみ、なんじの 母 が、なんじを 抱 きし 身 をあらわし、なんじに 乳 ふくませし 胸 を<br />

あらわそうとも、なんじこれを 足 下 にふみにじり、まっすぐキリストへと 進 み 行 くべ<br />

し。」 後 にルターが 言 っているように、 親 に 対 して 無 情 無 感 覚 になった 子 供 たちの 心<br />

は、こうした「ぞっとするような 冷 酷 さ」のゆえに「キリスト 者 や 人 間 というよりは、<br />

おおかみや 暴 君 のような 感 じがする。」 1 こうして 法 王 教 の 指 導 者 たちは、 昔 のパリサ<br />

イ 人 たちのように、 自 分 たちの 言 い 伝 えによって 神 の 戒 めを 廃 した。こうして、 家 庭<br />

は 荒 廃 し、 親 は 息 子 や 娘 たちとの 交 わりを 奪 われた。<br />

大 学 の 学 生 たちでさえ、 修 道 土 たちの 偽 りの 言 葉 に 欺 かれて、その 団 体 に 誘 いこま<br />

れた。 多 くの 者 が、 後 になって、 自 分 たちの 一 生 を 破 滅 させ 親 を 悲 しませたことに 気<br />

づき、 後 悔 したが、しかし、ひとたびわなにかかるや、そこから 抜 け 出 ることはでき<br />

なかった。 修 道 士 たちの 影 響 を 恐 れて、 息 子 たちを 大 学 に 送 ろうとしなかった 親 も 多<br />

くいた。 学 問 の 中 心 である 各 地 の 最 高 学 府 の 学 生 の 数 は 目 立 って 減 少 した。 学 校 は 衰<br />

微 し、 無 学 な 人 が 多 くなった。<br />

法 王 はこれらの 修 道 士 たちに、 告 白 を 聞 いて 赦 しを 与 える 権 威 を 授 けた。これが 一<br />

大 罪 悪 の 原 因 と なった。 修 道 士 たちは 利 益 の 増 人 を 図 って、たやすく 免 罪 を 与 えたの<br />

で、あらゆる 種 類 の 犯 罪 人 が 彼 らのもとにやってきて 赦 しを 得 るようになり、その 結<br />

果 、 最 もはなはだしい 罪 悪 が 急 激 に 増 加 した。 病 人 と 貧 者 はかえりみられず、 彼 らの<br />

困 窮 を 救 うはずであった 贈 与 物 は 修 道 士 たちの 手 にわたった。 修 道 士 たちは、 人 々を<br />

脅 して 施 し 物 を 要 求 し、 彼 らの 団 体 に 寄 付 しない 者 を 不 信 心 であると 非 難 した。 表 面<br />

では 清 貧 を 口 にしながら、 修 道 士 たちの 富 は 殖 える 一 方 であった。そして、 彼 らの 壮<br />

54


国 際 協 定<br />

大 な 建 造 物 とぜいたくな 食 卓 とが 国 民 をますます 貧 困 に 陥 れることは 明 らかであった。<br />

彼 らはぜいたくと 快 楽 にふける 一 方 、 自 分 たちの 代 理 として 無 知 な 者 たちを 派 遣 した。<br />

この 者 たちは 不 思 議 な 物 諸 や 伝 説 、たわごとしか 話 すことができず、こうしたもので<br />

人 々を 喜 ばせて、ますます 人 々を 修 道 士 たちにとってだましやすいものとした、 修 道<br />

士 たちは 依 然 として、 迷 信 深 い 大 衆 を 支 配 し、すべての 宗 教 的 義 務 は、 法 王 の 至 上 権<br />

を 認 め、 聖 人 たちをあがめ、 修 道 士 に 施 し 物 をすることの 中 に 含 まれていると 信 じこ<br />

ませていた。そして、 天 国 に 入 るにはこれで 十 分 であると 思 わせていた。<br />

学 識 ある、 信 心 深 い 人 々は、このような 修 道 院 制 度 を 改 革 しようとしたがむだであ<br />

った。しかし、いっそうはっきりと 洞 察 していたウィクリフは、 悪 の 根 源 をつき、 制<br />

度 そのものが 偽 りであって、それは 廃 止 すべきであると 宣 言 した。それについて、 種<br />

々の 議 論 と 研 究 がわき 起 こった。 修 道 土 たちが 法 王 の 免 罪 符 を 売 りながら 国 内 を 巡 歴<br />

する 時 、 多 くの 者 が、 金 で 赦 しを 買 うことができるかどうか 疑 うようになった。 彼 ら<br />

は、ローマの 法 王 の 赦 しよりも、 神 の 赦 しを 求 めるべきではなかろうかと、 質 問 した<br />

のである。 修 道 士 たちの、 飽 くことを 知 らない 貪 欲 を 見 て 驚 いた 者 も 少 なくなかった。<br />

「ローマの 修 道 上 と 司 祭 たちは、ガンのように、われわれをむしばんでいる。 神 がわ<br />

れわれを 救 ってくださらなければ、 人 民 は 死 んでしまう」と 彼 らは 言 った。 2 托 鉢 僧 た<br />

ちは 自 分 たちの 貪 欲 をおおいかくすために、 自 分 たちは 救 い 主 の 模 範 に 従 っているの<br />

であって、イエスと 弟 子 たちは 人 々の 施 し 物 によって 生 活 したのであると 言 った。と<br />

ころがこの 主 張 は、 彼 らに 不 利 な 結 果 となった。<br />

というのは 多 くの 人 々が、 自 分 で 真 理 を 学 ぼうと 聖 書 の 研 究 を 始 めたのである。こ<br />

れはローマがほかの 何 よりも 望 んでいなかったことであった。 人 々の 心 は、 真 理 の 源<br />

泉 へと 向 けられた。それを 隠 すことが、ローマの 目 的 であったのであるが。 ウィクリ<br />

フは、 修 道 士 たちに 反 対 するパンフレソトを 書 いて 発 行 しはじめた。しかしそれは、<br />

彼 らと 論 争 するためではなくて、 人 々の 心 を 聖 書 の 教 えとその 著 者 てある 神 に 向 ける<br />

ためであった。 彼 は、 法 王 が 持 っている 免 罪 や 破 門 の 権 能 は、 一 般 の 司 祭 の 権 能 以 上<br />

のものではなく、だれでも 先 ず 神 から 罪 の 宣 告 を 受 けることなくして、 破 門 されるこ<br />

とはあり 得 ない、と 断 言 した。 法 王 が 築 き、 無 数 の 人 々の 心 と 体 とをとりこにしてい<br />

たこの 霊 ・ 俗 両 界 にわたる 巨 人 な 組 織 の 倒 壊 に、これ 以 上 効 果 的 な 力 法 はなかった。<br />

再 びウィクリフは、ローマの 侵 略 に 対 して 英 国 王 の 権 利 を 擁 護 するために 召 された。<br />

彼 は 国 王 の 大 使 に 任 命 されてオランダに 2 年 間 滞 在 し、 法 王 の 使 節 たちと 会 談 した。<br />

ここで 彼 は、フランス、イタリア、スペインの 聖 職 者 たちと 交 わり、 事 件 の 背 後 にあ<br />

るものを 見 、 英 国 では 知 ることができなかった 多 くのことに 関 する 知 識 を 得 ることが<br />

できた。 彼 は 後 年 の 働 きに 役 立 つことを 多 く 学 んだ。 法 王 庁 から 遣 わされた 代 表 者 た<br />

55


国 際 協 定<br />

ちを 見 て、 彼 は 法 王 制 の 真 の 性 格 と 目 的 とを 見 抜 いた。 彼 は 英 国 に 帰 り、 以 前 からの<br />

主 張 をさらに 公 然 と、そして 熱 心 にくり 返 し、 貪 欲 と 高 慢 と 欺 瞞 とがローマの 神 であ<br />

ると 宣 言 した。<br />

彼 は 自 分 の 書 いたパンフレットの 中 で、 法 王 とその 集 金 人 たちについて 次 のように<br />

言 った。「 彼 らは、わが 国 の 貧 者 の 糧 を 奪 い、 秘 蹟 やその 他 の 霊 的 事 物 のために、 年<br />

々 王 から 数 千 マルクを 奪 い 取 っている。これは 聖 職 売 買 というのろうべき 異 端 てある。<br />

しかも 全 キリスト 教 界 をこの 異 端 に 同 意 させ 支 持 させている。<br />

たしかに、わが 国 には 山 のように 財 宝 があるが、この 高 慢 な 世 俗 的 司 祭 である 集 金<br />

人 のほかには、だれもそれを 取 ったものはないのだ。そして 彼 のためにやがて、 山 の<br />

ような 宝 はなくなってしまうであろう。なぜなら 彼 はわが 国 から 常 に 金 を 奪 い 去 り、<br />

その 代 わりに 与 えるものといっては、 聖 職 売 買 に 対 する 神 ののろいの 他 、 何 もないの<br />

だから。」 3<br />

英 国 に 帰 ると 間 もなく、ウィクリフは 王 から、ラタワースの 教 区 牧 師 に 任 じられた。<br />

このことは 王 が 彼 の 率 直 な 発 言 を、 少 なくとも 不 快 に 思 っていなかった 証 拠 であった。<br />

ウィクリフの 感 化 は、 国 民 の 信 仰 を 形 成 するのと 同 様 に、 宮 廷 の 活 動 の 方 向 をも 決 定<br />

するものとなった。 法 王 の 怒 りはすぐに 彼 に 向 けられた、 大 学 と 王 と 高 位 聖 職 者 たち<br />

とにあてられた 3 つの 教 書 が 英 国 に 送 られ、 異 端 の 教 師 を 沈 黙 させるために 迅 速 かつ<br />

断 固 たる 処 置 を 取 るよう 命 じた。 4<br />

しかし 司 教 たちは 熱 心 のあまり、 教 書 の 到 着 に 先 だって、 審 理 のためにウィクリフ<br />

を 呼 び 出 していた。けれども 王 国 内 で 最 も 勢 力 のある 2 人 の 王 子 が、 彼 に 同 伴 して 法<br />

廷 に 行 った。そして 人 々は、 建 物 を 取 り 巻 いたり 内 部 に 乱 入 したりして 裁 判 官 たちを<br />

威 嚇 したので、 裁 判 は 一 時 中 止 され、 彼 は 安 全 にそこを 去 ることを 許 された。その 後<br />

しばらくして、 高 位 聖 職 者 たちがウィクリフを 退 けるために 動 かそうとしていた 老 齢<br />

のエドワード 3 世 が 死 去 し、ウィクリフのかつての 保 護 者 が 王 国 を 統 治 することにな<br />

った。<br />

しかし 教 書 の 到 着 によって、 異 端 者 を 捕 らえて 投 獄 せよという 厳 命 が 全 英 国 に 出 さ<br />

れた。こうした 処 置 は、 直 接 処 刑 台 につながっていた。ウィクリフかすぐにローマの<br />

ふくしゅうの 犠 牲 になることは 確 かだと 思 われた。しかし、 昔 の 人 に「 恐 れてはなら<br />

ない。わたしはあなたの 盾 である」[ 創 世 記 15:と 言 われた 神 は、ご 自 分 のしもべを<br />

保 護 するために、もう 1 度 手 を 伸 べられた。 改 革 者 ではなくて、 彼 の 死 を 命 じた 法 王<br />

か 死 んだのである。グレゴリー11 世 は 死 んだ。そしてウィクリフ 裁 判 のために 集 まっ<br />

ていた 聖 職 者 たちは 解 散 した。<br />

56


国 際 協 定<br />

神 の 摂 琿 はさらに 事 件 の 動 向 を 支 配 して、 改 革 事 業 が 進 展 するための 機 会 を 与 えた。<br />

グレゴリーの 死 後 、2 人 の 対 ヴする 法 王 が 同 時 に 選 ばれた。2 つの 対 立 勢 力 が、それ<br />

ぞれ 絶 対 無 謬 を 主 張 して、 人 々の 服 従 を 要 求 した。おのおのが 忠 実 な 者 たちの 援 助 を<br />

求 めて 相 手 に 戦 いをいどみ、 敵 対 者 には 恐 ろしい 破 門 の 宣 告 をもって、また 支 持 者 に<br />

は 天 国 の 報 賞 を 約 束 して、 自 分 の 要 求 を 押 しつけた。このような 事 態 は、 法 王 権 を 大<br />

いに 弱 めた。 敵 対 する 両 派 は 互 いに 他 の 攻 撃 に 全 力 をあけていたので、ウィクリフに<br />

はしばらくの 休 息 が 与 えられた。 両 方 の 法 王 は、 互 いに 破 門 と 非 難 の 応 酬 をし、 各 自<br />

の 相 反 する 主 張 を 支 持 するために 多 くの 血 が 流 された。 犯 罪 と 醜 聞 が、 教 会 内 に 氾 濫<br />

した。その 間 に 改 革 者 ウィクリフは、 彼 の 教 区 ラタワースの 閑 居 で、 人 々の 心 を、 相<br />

争 う 法 王 たちではなくて、 平 和 の 君 イエスに 向 けるために、 熱 心 に 働 いていた。<br />

分 裂 とそれに 伴 うあらゆる 闘 争 と 腐 敗 とは、 人 々に 法 王 制 の 真 相 を 暴 露 して、 宗 教<br />

改 革 のために 道 を 開 いた。ウィクリフは、 彼 が 出 版 した『 法 王 の 分 裂 について』とい<br />

うパンフレットの 中 で、これら 2 人 の 聖 職 者 たちが 互 いに 他 を 反 キリストと 非 難 して<br />

いるのは、 真 実 を 語 っているのではないか 考 えるように、 人 々に 訴 えた。「 神 は、 悪<br />

魔 がこのような 1 人 の 聖 職 者 によって 統 治 することを 許 さず……それを 2 つに 分 けて、<br />

人 々がキリストの 名 によって、その 両 方 にたやすく 打 ち 勝 てるようになさった」と 彼<br />

は 言 った。 5<br />

ウィクリフは 主 イエスのように、 貧 しい 人 々に 福 音 を 宣 べ 伝 えた。 彼 は、 自 分 のラ<br />

タワース 教 区 内 の 質 素 な 家 々に 光 を 伝 えるだけでなくて、 英 国 全 土 に 伝 えようと 決 心<br />

した。このことを 成 し 遂 げるために 彼 は、 単 純 で 信 心 深 く、 真 理 を 愛 し、それを 伝 え<br />

るためには 何 も 惜 しまないという 説 教 者 の 1 団 を 組 織 した。 彼 らは 至 るところへ 行 き、<br />

市 場 で、 大 都 会 の 街 頭 で、そして 田 舎 の 小 道 で 説 教 した。 彼 らは、 老 人 や 病 める 者 、<br />

貧 しい 人 たちをたずね、 彼 らに 神 の 恵 みの 福 音 を 伝 えた。<br />

ウィクリフは、オクスフォードの 神 学 教 授 として、 大 学 の 講 堂 て 神 のみ 言 葉 を 説 い<br />

た。 彼 は 彼 のもとにある 学 生 たちに 真 理 を 忠 実 に 提 示 したので、「 福 音 博 士 」と 呼 ば<br />

れた。しかし、 彼 の 生 涯 の 最 大 の 事 業 は、 聖 書 を 英 語 に 翻 訳 することであった。『 聖<br />

書 の 真 理 と 意 味 について』という 著 作 のなかで、 彼 は、 英 国 のすべての 人 が、 神 の 驚<br />

くべき 書 を 自 国 語 で 読 むことができるようにするために、 聖 書 の 翻 訳 を 意 図 している<br />

ことを 語 っている。<br />

ところが 突 然 、 彼 の 活 動 は 中 断 された。 彼 は、まだ 60 歳 にもなっていなかったの<br />

に、 絶 え 間 ない 苦 労 と 研 究 と 敵 の 攻 撃 が 体 にこたえて、 早 くもふけこんだ。 彼 は 重 病<br />

にかかった。この 知 らせは、 修 道 士 たちを 大 いに 喜 ばせた。 彼 らは、 今 こそ、 彼 が 教<br />

57


国 際 協 定<br />

会 に 対 して 行 った 悪 をいたく 悔 いるものと 思 って、 彼 の 告 白 を 聞 くために 彼 の 部 屋 へ<br />

と 急 いだ。4 つの 修 道 会 からの 代 表 者 たちが、4 人 の 政 府 の 役 人 たちとともに、 今 に<br />

も 死 にそうだと 思 われた 者 の 周 りに 集 まった。「あなたは 今 、 死 にひんしている。 自<br />

分 の 過 ちを 認 め、われわれを 非 難 して 言 ったすべてのことを、われわれの 前 で 取 り 消<br />

せ」と 彼 らは 言 った。ウィクリフは 黙 って 聞 いていた。それから 付 き 添 いの 者 に、 自<br />

分 をベッドの 上 に 起 き 上 がらせるよう 命 じ、 彼 の 取 り 消 しの 言 葉 を 待 って 立 っている<br />

彼 らをじっと 見 つめて、これまで 何 度 も 彼 らを 戦 慄 させた 強 いしっかりした 声 で、<br />

「わたしは 死 なない。 生 きるのだ。そして、もう 1 度 、 修 道 士 たちの 悪 行 を 糾 弾 する」<br />

と 言 った。 6 修 道 士 たちは 驚 き 恥 入 り、 急 ぎ 足 で 部 屋 を 出 ていった。<br />

ウィクリフの 言 菓 は 成 就 した。 彼 は 生 きのびて、 彼 の 同 胞 の 手 に、ローマに 対 す<br />

るあらゆる 武 器 のうちで 最 も 強 力 なものを 与 えた。すなわち 彼 は、 聖 書 を 彼 らに 与 え<br />

た。それは、 人 々を 解 放 し 啓 発 し 教 化 するために、 神 がお 与 えになったものであった。<br />

この 事 業 を 完 成 するためには、 多 くの 大 きな 障 害 を 越 えなければならなかった。ウィ<br />

クリフは 健 康 を 害 していた。 彼 は、 自 分 があと 数 年 しか 働 くことができないことを 知<br />

っていた。 反 対 に 直 面 しなけれはならないことも 知 っていた。<br />

しかし 彼 は、 神 のみ 言 葉 の 約 束 に 励 まされて、 恐 れることなく 前 進 した。これまで<br />

彼 は、 旺 盛 な 知 力 と 豊 かな 経 験 のうちに、 彼 の 仕 事 の 中 でも 最 大 の 事 業 のために、 神<br />

の 特 別 の 摂 理 によって 守 られ 準 備 させられてきた。キリスト 教 国 全 体 が 混 乱 に 満 ちて<br />

いる 時 に、 改 革 者 ウィクリフはラタワースの 牧 師 館 で、 外 部 のすさまじいあらしをよ<br />

そに、 彼 が 選 んた 仕 事 に 没 頭 した。<br />

ついに 仕 事 は 完 成 した。これは 最 初 の 英 語 訳 の 聖 書 であった。 神 の 言 葉 か 英 国 に 開<br />

かれた。 改 革 者 は、もう 牢 獄 も 死 も 恐 れなかった。 彼 は 英 国 民 の 手 に、 消 すことかて<br />

きない 光 を 渡 したのである。 同 胞 の 手 に 型 書 を 与 えることによって、 彼 は、 無 知 と 悪<br />

徳 のかせを 破 壊 して 自 国 を 解 放 し 高 めるうえで、 戦 場 におけるどんな 輝 かしい 勝 利 が<br />

もたらしたものよりも、さらに 大 いなることを 成 し 遂 げたのである。<br />

まだ 印 刷 術 が 知 られていなかったので、 聖 書 は、 遅 々としたうんざりするような 労<br />

苦 によって、 増 やすより 他 はなかった。 聖 書 を 手 に 入 れたいという 希 望 は 非 常 に 強 く、<br />

聖 書 を 写 す 仕 事 に 喜 んで 従 事 する 者 も 多 かったけれども、 筆 記 者 たちは、なかなか 要<br />

求 を 満 たすことができなかった。 金 持 ちのなかには、 聖 書 全 巻 を 希 望 するものもあっ<br />

た。 他 の 人 々は、 一 部 分 だけを 買 った。 何 家 族 かがいっしょになって 1 冊 を 買 うとい<br />

う 場 合 も 多 かった。こうして、ウィクリフの 聖 書 は、 間 もなく 人 々の 家 庭 へと 入 って<br />

いった。 人 間 の 理 性 に 対 するこうした 訴 えによって、 人 々は、 法 王 の 教 義 にただ 黙 従<br />

58


国 際 協 定<br />

することからめざめた。ウィクリフは、ここにおいて、 新 教 主 義 の 独 特 の 教 理 、すな<br />

わち、キリストを 信 じる 信 仰 による 救 いと、 聖 書 が 唯 一 の 無 謬 なものであることとを<br />

教 えた。また 彼 が 派 遣 した 説 教 者 たちは、ウィクリフの 文 書 とともに 聖 書 を 配 布 し、<br />

英 国 民 の 半 数 近 くがこの 新 しい 信 仰 を 受 け 入 れるという 成 功 を 収 めた。<br />

型 書 の 出 現 は、 教 会 の 権 威 者 たちをうろたえさせ た。 今 や 彼 らは、ウィクリフより<br />

も 強 力 な 力 、 彼 らの 武 器 も 歯 が 立 たない 力 と 対 決 しなければならなかった。 当 時 、 英<br />

国 には、 聖 書 を 禁 止 する 法 律 がなかった。まだ 聖 書 が、 民 衆 の 言 語 で 出 版 されたこと<br />

がなかったからである。 後 になってそうした 法 令 が 発 布 され、 厳 重 に 実 施 された。そ<br />

の 間 、 司 祭 たちの 反 対 はあったが、しはし 神 のみ 言 葉 を 配 布 する 機 会 があったのであ<br />

る。<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、ふたたひ、 改 革 者 の 戸 声 を 沈 黙 させようと 謀 った。 彼 は 続<br />

けて 3 回 法 廷 に 呼 ばれたか、 事 なきを 得 た。 最 初 の 時 は、 司 教 たちの 宗 教 教 議 が、 彼<br />

の 著 書 を 異 端 であると 宣 言 した。 彼 らは、 若 い 王 リチャード 2 世 を 自 分 の 側 に 引 き 入<br />

れ、 禁 じられた 教 義 を 信 じる 者 はみな 投 獄 するという 勅 令 を 得 た。 そこでウィクリフ<br />

は、 宗 教 教 議 から 議 会 に 上 訴 した。 彼 は、 恐 れることなく 国 会 において 教 階 制 を 非 難<br />

し、 教 会 が 公 認 している 数 多 くの 悪 習 の 改 革 を 要 求 した。 強 い 説 得 力 をもって、 彼 は<br />

法 王 庁 の 侵 害 と 腐 敗 とを 描 き 出 した。 敵 は 混 乱 に 陥 った。ウィクリフの 友 人 たちや 支<br />

持 者 たちは、すでに 屈 服 させられていた。そして、 老 齢 のウィクリフ 自 身 も、ただ 1<br />

人 で 援 助 者 もない 以 上 、 国 王 と 法 王 の 合 同 権 力 の 前 に 屈 するものと 予 期 されていた。<br />

ところが、 逆 に 法 王 の 側 が 敗 北 してしまった。 議 会 はウィクリフの 力 強 い 訴 えを 聞 い<br />

てわき 立 ち、 迫 害 の 勅 令 を 取 り 消 し、 改 革 者 はふたたび 自 由 にされた。<br />

第 3 回 目 に、 彼 は、 国 家 の 最 高 宗 教 裁 判 所 で 裁 判 されることになった。ここは 異 端<br />

に 対 して 何 の 好 意 も 示 されないところであった。ローマはついに、ここにおいて 勝 利<br />

し、 改 革 者 の 活 動 は 中 断 されるであろうと 法 王 側 は 考 えた。もし 彼 らが 目 的 を 達 成 し<br />

さえすれば、ウィクリフは、その 教 義 を 放 棄 するか、それとも 火 刑 の 宣 告 を 受 けて 法<br />

廷 を 出 るかのどちらかであった。<br />

しかしウィクリフは、 信 仰 を 放 棄 せず、それを 隠 そうともしなかった。 彼 は、 恐 れ<br />

ることなく 自 分 の 教 えを 固 守 し、 迫 害 者 たちの 攻 撃 を 退 けた。 彼 は、 自 分 のことも、<br />

立 場 も、 場 所 も 忘 れて、 聴 衆 を 天 の 法 廷 に 集 め、 彼 らの 詭 弁 と 欺 瞞 を 永 遠 の 真 理 とい<br />

うはかりで 量 った。 聖 霊 の 力 が 法 廷 内 に 感 じられた。 聴 衆 は 神 に 魅 せられた。 彼 らは<br />

その 場 を 去 る 力 さえ 失 ったように 思 われた。 改 革 者 の 言 葉 は、 主 の 矢 筒 からの 矢 のよ<br />

うに、 彼 らの 心 を 射 た。ウィクリフは、 彼 らが 彼 に 浴 びせていた 異 端 の 告 訴 を、 強 い<br />

59


国 際 協 定<br />

説 得 力 をもって 彼 らに 投 げかえした。 彼 らはなにゆえに、あえて 誤 謬 をひろめようと<br />

するのか、それは 利 益 のためなのか、 神 の 恵 みを 商 品 化 するためなのか、と 彼 は 問 う<br />

た。 彼 は 最 後 にこう 言 った。「あなたがたは、だれと 戦 っていると 思 っているのか。<br />

今 にも 死 にそうな 老 人 とか。 否 ! 真 理 と 戦 っているのだ。あなたがたより 強 く、あ<br />

なたがたに 打 ち 勝 つ 真 理 となのだ。」 7 彼 はこう 言 って 法 廷 を 出 たが、 敵 はだれ 1 人<br />

としてそれを 止 めようとしなかった。<br />

ウィクリフの 仕 事 は、ほとんど 終 了 した。 彼 が 長 い 間 掲 げてきた 真 理 の 旗 は、まも<br />

なく 彼 の 手 から 落 ちようとしていた。しかしもう 1 度 、 彼 は 福 音 のためにあかしを 立<br />

てるのであった。 真 理 は、 誤 謬 の 王 国 の、まさにその 本 拠 において 宣 言 されねばなら<br />

なかった。ウィクリフは 審 理 のために、ローマにある 法 王 庁 の 法 廷 に 召 喚 された。そ<br />

こはこれまでにしばしば、 聖 徒 たちの 血 を 流 したところであった。 彼 は 身 の 危 険 を 知<br />

らないわけではなかったが、その 召 喚 に 応 じようとした。ところが 中 風 になって、 旅<br />

行 することができなくなった。しかし、ローマにおいて 自 ら 語 ることはできなくても、<br />

手 紙 によって 語 ることはできた。 彼 はそうすることに 決 めた。 改 革 者 は 自 分 の 牧 師 館<br />

から 法 王 に 手 紙 を 書 いた。それは、 敬 意 に 満 ちた 語 調 とキリスト 教 の 精 神 にあふれて<br />

いたが、 同 時 に 法 王 庁 の 豪 奢 と 誇 りとを 鋭 く 責 めたものであった。<br />

彼 は 次 のように 言 った。「わたしは 自 分 の 信 じる 信 仰 を、すべての 人 、 特 にローマ<br />

の 司 教 に 申 し 上 げることを 真 に 喜 びとするものである。わたしはこの 信 仰 を、 健 全 で<br />

真 実 であると 思 っているが、 彼 は、 快 くわたし のこの 信 仰 を 確 認 するか、あるいは、<br />

まちがっているならばそれを 正 して 下 さるであろう。 まず 第 一 に、わたしは、キリス<br />

トの 福 音 は 神 の 律 法 の 全 体 であると 考 える。……ローマの 司 教 は、この 地 上 における<br />

キリストの 代 理 者 であると 言 っているのであるから、だれにも 勝 ってこの 福 音 の 律 法<br />

に 従 わなければならないとわたしは 確 信 する。なぜならば、キリストの 弟 子 たちの 偉<br />

大 さは、 世 俗 的 威 厳 や 栄 誉 ではなくて、キリストの 生 涯 と 態 度 に、できるだけそのま<br />

ま 従 うことにあるからである。……キリストはこの 世 におられた 時 、きわめて 貧 しい<br />

生 活 を 送 り、すべての 世 俗 的 支 配 や 栄 誉 を 退 けられた。……<br />

忠 実 な 信 徒 たるものは、 法 王 自 身 であろうが、あるいはどんな 聖 人 であろうが、 彼<br />

が 主 イエス・キリストに 従 っているという 点 のほかは、 従 うべきでない。というのは、<br />

ペテロもゼベダイの 子 らも、キリストの 足 跡 に 従 わないで 世 俗 的 栄 誉 を 望 んだため、<br />

罪 を 犯 した。それゆえに、そのような 過 ちには、われわれは 従 わなくてもよいのであ<br />

る。 法 王 は、すべての 領 土 と 支 配 権 を 世 俗 の 権 力 に 一 任 し、そのすべての 聖 職 者 たち<br />

に 対 して、そのように 勧 め 実 行 させるべきである。なぜなら、キリストはそのように<br />

なさったのであり、 使 徒 たちも 特 にそのようにしたからである。そこで、これらの 点<br />

60


国 際 協 定<br />

のいずれかにまちがいがあるなら、わたしは 謙 虚 にそれを 正 したいと 思 う。もし 必 要<br />

とあれば、 死 をもいとわない。わたしが、 自 分 の 意 志 と 希 望 によって 行 動 することが<br />

許 されるならば、わたしはぜひともローマの 司 教 の 前 に 伺 候 することであろう。しか<br />

し 主 は、わたしに 病 をお 与 えになり、 人 よりは 神 に 従 うべきことをお 教 えになっ<br />

た。」<br />

最 後 に 彼 は 言 った。「われわれは、 神 が 法 王 ウルバン 6 世 の 心 を 動 かし、 彼 とその<br />

聖 職 者 たちが、 生 活 と 態 度 において 主 イエス・キリストに 従 い、また 人 々にもよくこ<br />

れを 教 えて、 彼 らも 忠 実 に 主 に 従 うようになることを、 祈 ってやまない。」 8 こうし<br />

てウィクリフは、 法 王 と 枢 機 卿 たちに、キリストの 柔 和 と 謙 そんを 示 し、ただ 彼 らに<br />

だけでなくて 全 キリスト 教 国 に、 彼 らと、 彼 らが 代 表 していると 主 張 する 主 との、 著<br />

しい 相 違 をあらわした。<br />

ウィクリフは、 神 に 忠 誠 を 尽 くすなら 自 分 の 生 命 は 危 険 になることを 覚 悟 していた。<br />

国 王 も 法 王 も 司 教 たちも、 力 を 合 わせて、 彼 をなきものにしようとしていた。そして、<br />

遅 くとも 数 か 月 後 には、 火 刑 になるに 違 いないと 思 われた。しかし 彼 の 勇 気 はくじけ<br />

なかった。「あなたがたは、なぜ、 殉 教 の 冠 を 遠 くに 求 めることを 語 るのか。キリス<br />

トの 福 音 を 高 慢 な 司 教 たちに 伝 えるがよい。そうすればあなたがたは 必 ず 殉 教 するこ<br />

ととなろう。なに? 生 きて 黙 っていよというのか?…… 断 じて 否 ! 弾 圧 が 来 るなら<br />

ば 来 るがよい。わたしはそれが 来 るのを 待 っている」と 彼 は 言 った。 9<br />

しかし 神 の 摂 理 は、なお 神 のしもべを 守 っていた。 日 々 危 険 に 身 をさらして、 一 生<br />

の 間 勇 敢 に 真 理 を 擁 護 した 者 が、 敵 の 憎 しみの 犠 牲 になってはならなかった。ウィク<br />

リフは、 自 分 で 身 を 守 ろうとしてきたのではなかったが、 神 が 彼 を 保 護 してこられた<br />

のであった。そして 今 、 敵 がその 餌 食 を 手 中 にしたと 思 った 時 に、 神 のみ 手 が 彼 を、<br />

彼 らの 手 のとどかないところに 移 された。 彼 がラタワースの 教 会 において、 聖 餐 式 を<br />

執 り 行 おうとしていた 時 、 突 然 中 風 の 発 作 が 起 きて 倒 れ、まもなく 息 が 絶 えたのであ<br />

る。 神 はウィクリフに、 彼 の 仕 事 を 与 えておられた。 神 は 彼 の 口 に 真 理 のみ 言 葉 を 授<br />

け、このみ 言 葉 が 人 々に 伝 えられるようにと 彼 を 守 られたのである。こうして、 彼 の<br />

生 命 は 保 護 され、 宗 教 改 革 の 大 事 業 の 基 礎 がすえられるまで、 彼 の 働 きは 延 ばされた<br />

のであった。<br />

ウィクリフは、 暗 黒 時 代 の 薄 暗 さのなかから 現 れた。 彼 の 改 革 事 業 の 基 礎 になるよ<br />

うな 仕 事 をしたものは、 彼 の 前 にはだれもいなかった。 彼 はバプテスマのヨハネのよ<br />

うに、 特 別 の 使 命 を 果 たすために 立 てられた、 新 時 代 の 先 駆 者 であった。しかも、 彼<br />

が 示 した 真 理 の 体 系 には、 彼 に 続 いて 起 こった 改 革 者 たちも 及 ばない 統 一 と 完 全 とが<br />

61


国 際 協 定<br />

あり、 百 年 後 の 人 でも 到 達 し 得 ないものもあった。その 基 礎 は 広 く 深 くすえられ、そ<br />

の 骨 組 みも 正 確 堅 固 にできていたから、 彼 の 後 にきた 人 々は、それを 建 てなおす 必 要<br />

がなかった。 [1632.<br />

ウィクリフが 創 始 した 一 大 運 動 —— 良 心 と 知 性 を 解 放 し、 長 くローマの 凱 旋 車 につ<br />

ながれていた 諸 国 民 を 自 由 にした 運 動 ——の 源 泉 は、 聖 書 であった。14 世 紀 以 来 、 生<br />

命 の 水 のように 各 時 代 を 流 れてきた 祝 福 の 流 れは、その 源 をここに 発 していた。ウィ<br />

クリフは、 聖 書 が 霊 感 による 神 のみこころの 啓 示 であって、 信 仰 と 行 為 の 十 分 な 規 準<br />

であることを 絶 対 的 に 信 じた。 彼 は、ローマの 教 会 を 神 の 絶 対 無 謬 の 権 威 として 認 め<br />

るように、そして 1000 年 間 にわたる 確 立 された 教 義 と 慣 習 を 尊 敬 するように 教 育 さ<br />

れてきた。しかし 彼 は、こうしたいっさいのものを 捨 てて、 神 のみ 言 葉 に 従 った。 彼<br />

が 人 々に 認 めるよう 促 したものは、この 権 威 であった。 法 王 によって 語 る 教 会 ではな<br />

くて、み 言 葉 によって 語 られる 神 のみ 声 が、 唯 一 の 真 の 権 威 であると 彼 は 宣 言 した。<br />

彼 は、 聖 書 が 神 のみこころの 完 全 な 啓 示 であることだけでなく、 聖 霊 がその 唯 一 の 解<br />

釈 者 であること、そして 各 自 は、その 教 えを 研 究 して、 自 分 でその 義 務 を 学 ぶべきで<br />

あることを 教 えた。こうして 彼 は 人 々の 心 を、 法 王 やローマの 教 会 から 神 の 言 葉 へと<br />

向 けたのである。<br />

ウィクリフは、 宗 教 改 革 者 の 中 でも 最 も 偉 大 な 人 物 の 1 人 であった。その 該 博 な 知<br />

識 、 明 晰 な 思 考 、そして 真 理 を 堅 く 保 持 し、 大 胆 に 擁 護 した 点 において、 彼 の 後 に 現<br />

れたもので 彼 に 匹 敵 するものは、 極 めてまれであった。 彼 の 純 潔 な 生 涯 、 研 究 と 活 動<br />

における 刻 苦 勉 励 、 清 廉 潔 白 、そして 奉 仕 におけるキリストのような 愛 と 忠 実 さが、<br />

この 最 初 の 宗 教 改 革 者 の 特 徴 であった。しかも 彼 は、 彼 が 現 れた 当 時 の、 知 的 暗 黒 と<br />

道 徳 的 腐 敗 の 時 代 において、そのように 生 きたのであった。 ウィクリフの 品 性 は、 聖<br />

書 が 人 を 教 え 改 変 する 力 を 持 っている 証 拠 である。 聖 書 が、 彼 をこのような 人 物 にし<br />

たのである。 啓 示 された 偉 大 な 真 理 を 把 握 しようとする 努 力 は、すべての 機 能 をはつ<br />

らつとさせ 活 気 づける、それは 知 性 を 広 げ 知 覚 を 鋭 くし、 判 断 力 を 円 熟 させる。 聖 書<br />

の 研 究 は、 他 のどんな 研 究 よりも、あらゆる 思 想 と 感 情 と 抱 負 とを 高 尚 にする。また、<br />

確 固 とした 目 的 と 忍 耐 、 勇 気 を 与 えるとともに、 品 性 を 洗 練 し、 魂 を 清 める。 畏 敬 の<br />

念 をもって 聖 書 を 熱 心 に 研 究 する 時 、 学 ぶ 者 の 心 は 直 接 神 の 無 限 の 心 と 接 触 すること<br />

ができ、どんな 人 間 的 哲 学 を 修 めても 達 することができないような 高 潔 な 原 則 を 持 つ<br />

とともに、 強 く 活 発 な 知 性 を 持 った 人 々を 世 に 提 供 することができる。「み 言 葉 が 開<br />

けると 光 を 放 って…… 知 恵 を 与 えます」と 詩 篇 記 者 は 言 っている[ 詩 篇 119:。<br />

ウィクリフが 教 えた 教 義 は、その 後 もしばらくの 間 人 々の 間 に 広 まっていった。ウ<br />

ィクリフ 派 、ロラード 派 として 知 られた 彼 の 信 奉 者 たちは、 英 国 をへめぐっただけで<br />

62


国 際 協 定<br />

なく、 他 の 国 々にも 散 っていって、 福 音 の 知 識 を 人 々に 伝 えた。 今 や 指 導 者 が 取 り 去<br />

られたからには、 説 教 者 たちはこれまで 以 上 の 熱 心 さで 活 動 した。そして 群 衆 は、 彼<br />

らの 教 えを 聞 くために 集 まってきた。 改 心 者 のなかには、 貴 族 もあれば、 王 妃 さえ 混<br />

じっていた。 多 くの 場 所 で、 人 々の 生 活 態 度 に 著 しい 改 革 が 行 われ、ローマ 教 の 偶 像<br />

的 な 象 徴 が 教 会 から 取 り 除 かれた。しかし、 聖 書 を 自 分 たちの 指 導 書 として 信 じる 人<br />

々の 上 に、 間 もなく、 残 酷 な 迫 害 のあらしが 吹 き 荒 れた。ローマの 支 援 を 受 けて 権 力<br />

を 強 化 しようとする 英 国 の 君 主 たちは、 改 革 者 たちを 犠 牲 にすることをためらわなか<br />

った。 英 国 の 歴 史 上 初 めて、 福 音 の 弟 子 たちに 対 して 火 刑 の 布 告 が 出 された。 殉 教 者<br />

があいついだ。 真 理 の 擁 護 者 たちは、 追 放 され、 拷 問 にかけられて、その 叫 びを 万 軍<br />

の 主 にあげることしかできなかった。 彼 らは、 教 会 の 敵 、 国 家 の 裏 切 り 者 として 狩 り<br />

立 てられながらも、ひそかに 説 教 をつづけ、 貧 しい 人 々のあばらやでもどこにでも 隠<br />

れ 家 を 見 つけ、しばしば 洞 穴 にさえ 隠 れたりした。<br />

激 しい 迫 害 にもかかわらず、 広 く 見 られた 信 仰 の 腐 敗 に 対 するところの、 冷 静 で 敬<br />

虔 、 熱 心 で 忍 耐 強 い 抗 議 が、 幾 世 紀 にもわたって 叫 ばれ 続 けた。 当 時 のキリスト 者 た<br />

ちは、 真 理 の 知 識 を 部 分 的 にしか 持 っていなかったが、 神 のみ 言 葉 を 愛 し 服 従 してい<br />

たので、そのための 苦 しみに 耐 えたのであった。 多 くの 者 は、 使 徒 時 代 の 弟 子 たちの<br />

ように、キリストのためにこの 世 の 財 産 を 犠 牲 にした。 家 に 住 むことを 許 された 者 た<br />

ちは、 追 放 された 兄 弟 たちを 喜 んでかくまい、そして、 自 分 たちも 追 放 されたならは、<br />

喜 んてその 運 命 に 目 んじた たしかに、おひたたしい 数 の 者 か、 迫 害 者 の 激 しい 怒 り<br />

を 恐 れて、 信 仰 を 犠 牲 にして 自 由 を 得 た そして、 自 説 撤 回 を 公 衣 するために 悔 悟 者<br />

の 衣 を 着 て、 牢 獄 から 出 たのであった。しかし、 牢 獄 の 独 房 や「ロラード 塔 」、そし<br />

て 拷 問 と 炎 のなかにあっても、「その 苦 難 にあずかる」に 足 るものとされたことを 喜<br />

び、 真 理 のために 恐 れずあかしを 立 てたものが 少 なからずあった。そしてその 中 には<br />

身 分 の 卑 しい 者 もいたが、 同 時 に 高 貴 な 生 まれの 人 々もあったのである。<br />

法 王 教 の 人 々は、ウィクリフの 生 存 中 には 自 分 たちの 目 的 を 果 たすことができなか<br />

った。そして 彼 らの 憎 しみは、 彼 の 遺 体 が 墓 に 静 かに 横 たわっていることを 許 さなか<br />

った。 彼 の 死 後 40 年 以 上 も 経 過 した 時 、コンスタンツ 宗 教 会 議 の 布 告 によって、 彼<br />

の 遺 体 は 掘 り 出 され、 公 衆 の 前 で 燃 やされた。そしてその 灰 は、 近 くの 小 川 に 投 げ 込<br />

まれた。 昔 のある 筆 者 は、 次 のように 言 っている。「この 小 川 は、 彼 の 灰 をアボン 川<br />

に 運 び、アボン 川 はセバーン 川 に、セバーン 川 は 近 くの 海 に、そして、 近 くの 海 は 大<br />

海 へと 運 んていった。このようにウィクリフの 灰 は、 彼 の 教 義 の 象 徴 である。それは<br />

今 や、 全 世 界 にまき 散 らされたのだ」 10 彼 の 敵 たちは、その 悪 意 から 出 た 行 為 がどん<br />

な 意 味 を 持 っていたか、 夢 想 だにしなかった。<br />

63


国 際 協 定<br />

ボヘミアのヨハン・フスが、ローマ 教 の 多 くの 誤 りを 放 棄 して、 改 革 に 着 手 するよ<br />

うになったのは、ウィクリフの 著 書 を 通 してであった。こうして、 遠 く 離 れた 二 か 国<br />

において、 真 理 の 稀 がまかれた。 働 きはボヘミアから 他 の 国 々に 波 及 していった。 人<br />

々の 心 は、 長 く 忘 れられていた 神 のみ 言 葉 に 向 けられた。 神 のみ 手 が、 大 宗 教 改 革 へ<br />

の 道 を 備 えていたのである。<br />

64


国 際 協 定<br />

第 6 章 2 人 のヒーロー<br />

福 音 は、すでに 9 世 紀 にボヘミアに 伝 えられていた。 聖 書 は 一 般 の 人 々の 言 語 に 翻<br />

訳 され、 礼 拝 も 人 々の 言 葉 で 豹 われていた。しかし、 法 王 の 権 力 が 増 大 するにつれて、<br />

神 のみ 言 葉 はおおいかくされた。 王 たちの 誇 りを 砕 くことを 自 分 の 任 務 と 考 えたグレ<br />

ゴリー7 世 は、 同 様 に、 人 々を 奴 隷 にすることに 意 を 注 いだ。そこで、ポヘミア 語 で<br />

礼 拝 を 行 うことを 禁 しる 教 書 が 発 布 された。「 全 能 の 神 は、 人 々が 知 らない 言 葉 で 神<br />

を 礼 拝 することを 宮 ばれう。そして 多 くの 悪 と 異 端 とは、この 規 則 に 従 わなかったた<br />

めに 起 こった」と 法 王 は 宣 言 した。 1 こうしてローマは、 神 のみ 言 葉 の 光 を 消 して 人 々<br />

を 暗 黒 に 閉 じ 込 める 布 告 を 出 した。しかし 神 は、 教 会 の 維 持 のために 他 の 方 法 を 設 け<br />

てお られた。 迫 害 によってフランスやイタリアの 故 郷 を 追 われたワルド 派 やアルビジ<br />

ョア 派 の 人 々の 多 くが、ボヘミアにやって 来 た。 彼 らは、 公 然 と 教 えはしなかったが、<br />

隠 れて 熱 心 に 働 いた。こうして、 真 の 信 仰 が 世 紀 から 世 紀 へと 保 持 されたのであ<br />

る。 [1634.<br />

ボヘミアでは、フスの 時 代 以 前 に、 立 ち 上 がって 公 然 と 教 会 の 腐 敗 と、 民 衆 の 不 品<br />

行 を 非 難 した 人 々かいた。 彼 らの 活 動 は、 広 く 一 般 の 関 心 を 呼 んだ。 聖 職 者 たちは 恐<br />

怖 を 感 じ、 福 音 を 信 じるものたちに 対 する 迫 害 が 始 まった。 彼 らは、 森 や 山 で 礼 拝 し<br />

なければならなくなり、 兵 隊 たちにかり 立 てられ、 殺 されたものも 多 かった。その 後<br />

しはらくして、ローマ 教 の 礼 拝 を 離 れたものは、みな 火 刑 にするという 布 告 が 出 され<br />

た。しかしキリスト 者 たちは、その 生 命 をささげながら、 彼 らの 運 動 の 勝 利 を 待 望 し<br />

たのであった「 救 いは 十 字 架 にかけられた 救 い 主 を 信 じることによってのみ 与 えられ<br />

る、と 教 えた」ものの 1 人 は、その 死 ぬ 時 に 次 のように 占 った。「 真 理 の 敵 たちの 怒<br />

りは、 今 われわれに 勝 っている。しかし、 永 久 にそうなのではない。 剣 や 権 威 によら<br />

ないで、 一 般 の 民 衆 の 中 から 1 人 の 人 が 立 ち 上 がる。そして 彼 に 対 して、 真 理 の 敵 た<br />

ちは 勝 っことかできない。」 2 ルターの 時 代 は、まだずっと 先 のことであった。しかし、<br />

すでに、ローマに 抗 議 して 諸 国 民 を 揺 り 動 かす 者 が 起 こりつっあった。<br />

ヨハン・フスは、 卑 しい 身 分 の 家 に 生 まれ、 幼 少 の 時 に 父 親 を 失 った。しかし、 彼<br />

の 信 心 深 い 母 親 は、 教 育 と 神 を 恐 れることとを 最 も 価 値 ある 財 産 とみなして、こうし<br />

た 遺 産 を 息 子 のために 確 保 しようとした。フスは、 地 力 の 学 校 で 学 んでから、 慈 善 学<br />

生 としてプラハの 大 学 に 入 学 を 許 された。 彼 は 母 に 付 き 添 われて、プラハへと 旅 立 っ<br />

た。 彼 女 は 貧 し 未 亡 人 であって、 息 子 に 与 えるようなこの 世 の 富 は 何 も 持 っていなか<br />

った。しかし 彼 らが 大 都 会 に 近 づくと、 彼 女 は、 父 親 のいない 息 子 のそばにひさまず<br />

65


国 際 協 定<br />

いて、 彼 の 上 に 天 の 父 の 祝 福 を 祈 り 求 めた。 自 分 の 祈 りがどのように 答 えられるか、<br />

この 母 親 は 知 るよしもなかった。<br />

大 学 においてフスは、たゆまぬ 熱 心 と 急 速 な 進 歩 によって、すぐに 頭 角 をあらわし<br />

た。また、 彼 の 非 難 されるところのない 生 活 、 穏 やかで 好 感 のもてる 態 度 は、だれか<br />

らも 尊 敬 された。 彼 は、ローマ 教 会 の 誠 実 な 信 者 で、 教 会 が 与 えると 主 張 している 霊<br />

的 祝 福 を 熱 心 に 求 めていた。 大 赦 のおりには 告 白 に 行 き、 乏 しいさいふをはたいてさ<br />

さげ、 罪 のゆるしを 受 けるために 行 列 に 加 わった。 彼 は、 大 学 を 終 えてから 聖 職 者 の<br />

道 に 進 み、どんどん 昇 近 して、 間 もなく 王 室 づきになった。 彼 はまた、 母 校 の 教 授 と<br />

なり、 後 には 総 長 になった。わずか 数 年 のうちに 1 人 の 卑 しい 慈 善 学 生 かボヘミアの<br />

誇 りとなり、 彼 の 名 はヨーロッパ 全 体 に 知 れわたった。<br />

しかし、フスが 改 革 の 事 業 を 始 めたのは、 別 の 分 野 においてであった。 彼 は 司 祭 に<br />

任 じられてから 数 年 後 に、ベツレヘム 礼 拝 堂 の 説 教 者 として 指 名 された。この 礼 拝 堂<br />

の 創 設 者 は、 聖 書 を 自 国 語 で 説 くことが 非 常 に 重 要 であると 主 張 したのであった。こ<br />

のことに 対 するローマの 反 対 にもかかわらず、ボヘミアでは、それが 完 全 に 中 止 され<br />

てはいなかった。しかし 聖 書 に 関 する 無 知 ははなはだしく、あらゆる 階 級 の 人 々の 間<br />

で、 最 もひどい 不 道 徳 が 有 われていた。フスは、こうした 悪 習 を 容 赦 なく 責 め、 神 の<br />

み 言 葉 を 引 用 することによって、 彼 の 説 く 真 理 と 純 潔 の 原 則 を 強 調 した。<br />

フラハの 一 市 民 、ヒエロニムス[ジェローム]—— 後 にフスの 親 友 になった 人 物 ——<br />

は、 英 国 からの 帰 国 に 際 して、ウィクリフの 著 書 を 持 ち 帰 っていた。ウィクリフの 教<br />

えに 改 宗 した 英 国 の 女 王 は、ボヘミアの 王 女 であったから、 彼 女 の 影 響 によって、 改<br />

革 者 の 著 書 が 広 くボヘミアに 配 布 された。フスは、これらの 著 書 を 興 味 深 く 読 んだ。<br />

彼 は、 著 者 がまじめなキリスト 者 であることを 信 じ、 彼 の 主 張 する 改 革 運 動 に 賛 成 す<br />

るようになった。フスは、 自 分 では 自 覚 していなかったが、もうすでに、ローマから<br />

遠 く 離 れることになる 道 を 歩 きはじめたのであった。<br />

ちょうどこのころ、ブラハに、 学 識 のある 2 人 の 旅 旅 人 が 英 国 から 到 着 した。 彼 ら<br />

は 光 を 受 け 入 れており、それを 伝 えるために 遠 くの 地 までやってきたのであった。 彼<br />

らは 初 めから 法 王 の 至 上 権 を 公 然 と 攻 撃 したので、すぐにその 筋 から 発 言 をとめられ<br />

てしまった。しかし 彼 らは、そのまま 引 き 下 がることを 好 まず、 他 の 方 法 を 用 いるこ<br />

とにした。 彼 らは、 説 教 者 であると 同 時 に 画 家 でもあったので、 自 分 たちの 技 術 を 活<br />

用 することにした。 人 々の 目 につくところに、 彼 らは 2 枚 の 絵 を 描 いた。1 枚 はキリ<br />

ストのエルサレム 入 城 をあしらっていた。キリストは「 柔 和 なおかたで、ろばに 乗 っ<br />

て」おられ、その 後 に、 旅 ですり 切 れた 衣 をまとった 弟 子 たちがはだしで 従 っていた<br />

66


国 際 協 定<br />

[マタイ 21:。もう 1 枚 の 絵 は、 法 王 の 行 列 を 描 いていた。 法 ははなやかな 衣 を 身 に<br />

つけ、 三 重 の 冠 をかぶって、りっぱに 飾 った 馬 に 乗 り、その 前 にはラッパを 吹 く 者 た<br />

ちが 行 き、 後 からは 枢 機 卿 や 高 位 聖 職 者 たちが 豪 華 に 着 飾 って 従 っていた。<br />

これは、あらゆる 階 級 の 人 々の 注 目 をひいた 説 教 であった。 群 衆 が 集 まって、 絵 を<br />

見 つめた。その 教 訓 がわからない 人 はいなかった。そして 多 くの 人 々は、 主 イエス・<br />

キリストの 柔 和 と 謙 そんと、そのしもべであると 称 する 法 王 の 高 慢 で 尊 大 な 態 度 との<br />

対 照 に、 深 い 印 象 を 受 けた。プラハでは 大 きな 騒 ぎが 起 き、しばらく 後 に 旅 人 たちは、<br />

身 の 安 全 のために 立 ち 去 らねばならなかった。しかし、 彼 らが 教 えた 教 訓 は 忘 れられ<br />

なかった。この 絵 はフスの 心 に 強 い 印 象 を 与 え、 聖 書 とウィクリフの 著 書 をもっと 詳<br />

しく 研 究 するようにしむけた。 彼 はまだ、ウィクリフが 主 張 する 改 革 のすべてを 受 け<br />

入 れる 準 備 はなかったが、 法 王 権 の 真 相 が 彼 にはいよいよ 明 らかとなって、 彼 はます<br />

ます 熱 心 に 教 権 制 度 の 高 慢 と 野 心 と 腐 敗 とを 非 難 した。<br />

光 はボヘミアからドイツへと 広 がった。プラハ 大 学 での 騒 動 のために、 何 百 人 とい<br />

うドイツの 学 生 たちが 退 学 したからである。 彼 らの 多 くは、フスから 初 めて 聖 書 の 知<br />

識 を 学 んだ 者 たちであって、 帰 国 してから 福 音 を 祖 国 に 広 めたのである。 プラハにお<br />

ける 働 きの 知 らせがローマに 伝 えられ、フスはすぐに 法 王 からの 呼 び 出 し 命 令 を 受 け<br />

た。これに 応 じることは、 自 ら 死 を 招 くことであった。そこで、ボヘミヤの 王 と 王 妃 、<br />

大 学 、 貴 族 たち、 政 府 の 役 人 たちは 団 結 して、フスがプラハに 留 まりローマでは 代 理<br />

者 によって 箸 えることを 許 されるように、 法 王 に 訴 えた。ところが 法 王 は、この 願 い<br />

を 許 すどころか、 裁 判 を 行 ってフスを 罪 に 定 め、プラバ 市 の 破 門 を 宣 言 した。<br />

その 時 代 において、この 宣 告 が 発 せられることは、 一 大 恐 慌 をひきおこした。それ<br />

に 伴 う 諸 儀 式 は、 法 王 を 神 ご 自 身 の 代 表 者 とみなし、 彼 が 天 国 と 地 獄 のカギを 持 ち、<br />

霊 的 罰 と 同 様 に 世 俗 の 罰 も 与 える 力 があると 考 えていた 人 々にとって、 恐 怖 を 抱 かせ<br />

ずにはおかぬものであった。 破 門 を 受 けた 地 方 には 天 の 門 が 閉 ざされ、 法 王 が 破 門 を<br />

解 くまでは 死 者 は 天 国 から 閉 め 出 されている、と 信 じられていた。この 恐 ろしい 災 い<br />

の 証 拠 として、すべての 宗 教 的 儀 式 は 停 止 された。 教 会 は 閉 鎖 された。 結 婚 式 は、 教<br />

会 の 庭 で 行 われた。 死 者 は、 聖 地 に 埋 葬 することが 許 されないので、 埋 葬 式 もせずに、<br />

みぞとか 野 原 に 埋 められた。こうして、 想 像 力 に 訴 えるような 方 法 で、ローマは 人 々<br />

の 良 心 を 支 配 しようとした。<br />

プラハ 市 は、 大 さわぎになった。 多 くの 者 は、こうした 災 いはみなフスによるもの<br />

であるとして 彼 を 非 難 し、 彼 をローマの 懲 罰 に 服 させるべきであると 主 張 した。さわ<br />

ぎを 静 めるために、フスはしばらくの 間 故 郷 の 村 に 退 いた。 彼 は、プラハに 残 した 友<br />

67


国 際 協 定<br />

人 に 次 のように 井 いた。「わたしが、こうして、あなたがたの 間 から 退 いたのは、イ<br />

エス・キリストの 教 えと 模 範 に 従 うためである。そしてそれは、 悪 意 を 抱 いている 人<br />

々が、 自 分 たちの 上 に 永 遠 の 断 罪 を 招 かないようにするとともに、 信 心 深 い 者 たちに<br />

苦 難 と 迫 害 を 引 き 起 こすことがないようにするためである。また、 不 敬 虔 な 司 祭 たち<br />

が、あなたがたの 間 で 神 のみ 言 葉 が 説 教 されることを 長 期 にわたって 禁 じ 続 けること<br />

を 恐 れたからで ある。わたしは 神 の 真 理 を 拒 んで、あなたがたを 去 去 ったのではない。<br />

神 の 真 理 のためには、わたしは 神 の 助 けによって、 喜 んで 命 をささげる。」 3 フスは、<br />

彼 の 活 動 をやめず、 周 囲 の 地 方 を 旅 行 して 熱 心 な 群 衆 に 説 教 した。こうして、 法 王 が<br />

福 音 を 抑 圧 しようとしてとった 手 段 が、かえってそれを 広 く 伝 える 結 果 となった。<br />

「わたしたちは、 真 理 に 逆 らっては 何 をする 力 もなく、 真 理 にしたがえば 力 がある」<br />

[Ⅱコリント 13:。<br />

「フスの 生 涯 のこの 時 期 において、 彼 の 心 中 では 苦 しい 争 闘 が 演 じられていたよう<br />

である。 教 会 は、その 威 嚇 によって 彼 を 圧 倒 しようとしたけれども、 彼 は、 教 会 の 権<br />

威 を 否 認 してはいなかった。 彼 にとって、ローマの 教 会 は、なおキリストの 花 嫁 であ<br />

り、 法 王 は 神 の 代 表 者 、 代 理 者 であった。フスが 争 っていたのは 権 威 の 乱 用 に 対 して<br />

であって、 原 則 そのものに 対 してではなかった。これは、 彼 の 理 解 に 基 づく 確 信 と 良<br />

心 の 要 求 との 間 に、 恐 ろしい 矛 盾 を 引 き 起 こした。<br />

もし 彼 が 信 じたように、その 権 威 が 正 当 で 無 謬 であるならば、なぜ、それに 従 い 得<br />

ないと 感 じるのであろうか。これに 従 うことは 罪 を 犯 すことであるのが 彼 にはわかっ<br />

た。しかし、 無 謬 教 会 に 従 うことが、なぜこうした 問 題 に 至 らせるのであろうか。こ<br />

れは 彼 には 解 決 できない 問 題 であった。これは 彼 を 常 に 苦 しめた 疑 惑 であった。 彼 が<br />

見 いだした 最 も 解 決 に 近 い 答 えは、かつて 救 い 主 の 時 代 に、 教 会 の 祭 司 たちがよこし<br />

まになり、 彼 らの 正 当 な 権 威 を 不 正 な 目 的 のために 用 いていたが、それと 同 じことが<br />

また 起 こったということであった。こうして 彼 は、よく 理 解 された 聖 書 の 教 えを 良 心<br />

の 導 きとすべきであるという 金 言 を、 自 分 自 身 のために 採 用 し、また 他 の 人 々にも 説<br />

き 勧 めるに 至 った。つまり、 神 は 聖 書 によって 語 られるのであって、 教 会 が 司 祭 によ<br />

って 語 るのではないことが、 誤 ることのない 手 引 きなのである。」 4<br />

しばらくして、プラハの 騒 動 がおさまったので、フスはベツレヘム 礼 拝 堂 に 帰 り、<br />

これまで 以 上 の 熱 心 と 勇 気 をもって 神 のみ 言 葉 を 説 きつづけた。 彼 の 敵 たちは 活 動 的<br />

で 強 力 であったが、 王 妃 や 多 くの 貴 族 たちは 彼 の 味 方 であった。そして、 多 くの 人 々<br />

が 彼 の 側 にっいた。 彼 の 純 粋 で 高 尚 な 教 えや 清 い 生 活 を、ローマ 教 会 司 祭 の 説 く 腐 敗<br />

した 教 義 や、 彼 らが 行 っている 貪 欲 や 放 蕩 と 比 較 して、 多 くの 者 はフスの 側 につくこ<br />

とを 名 誉 とした。<br />

68


国 際 協 定<br />

この 時 まで、フスは 単 独 で 働 いて 来 た。しかし 今 、 英 国 にいた 時 ウィクリフの 教 え<br />

を 受 け 入 れていたヒエロニムスが、 改 革 事 業 に 加 わった。それから 後 、2 人 は 1 つと<br />

なって 働 き、 死 ぬ 時 も 別 々でなかった。 輝 かしい 天 才 、 雄 弁 、 学 識 など、 人 々の 人 気<br />

を 呼 ぶ 賜 物 は、ヒエロニムスが 著 しく 所 有 していた。しかし、 品 性 の 真 の 力 を 構 成 す<br />

る 特 質 においては、フスの 方 がさらに 偉 大 であった。 彼 の 冷 静 な 判 断 は、ヒエロニム<br />

スの 衝 動 的 精 神 を 抑 える 役 を 果 たした。ヒエロニムスは、 謙 そんに、 彼 の 真 価 を 認 め<br />

て、その 勧 告 に 従 った。 彼 らの 一 致 した 働 きによって、 改 革 事 業 は 一 段 と 急 速 に 発 展<br />

した。<br />

神 は、これら 選 ばれた 人 々の 心 に 大 きな 光 を 与 え、ローマの 誤 りの 多 くをお 示 しに<br />

なった。しかし 彼 らは、 世 に 示 すべき 光 を 全 部 受 けたのではなかった。これらご 自 分<br />

のしもべたちによって、 神 は 人 々をローマ 教 の 暗 黒 から 導 き 出 しておられたのである。<br />

しかし、 彼 らは、さまざまの 大 きな 障 害 に 直 面 しなければならなかった。 神 は、 彼 ら<br />

が 耐 えられるだけ、1 歩 ずつ、お 導 きになった。 彼 らはすべての 光 を 一 時 に 受 ける 用<br />

意 がなかった。 長 い 間 暗 黒 の 中 にいたものが、 真 昼 の 太 陽 の 輝 きを 受 けるのと 同 じよ<br />

うに、もしすべての 光 が 一 度 に 示 されたならば 彼 らは 目 をそむけたに 違 いない。それ<br />

ゆえに 神 は、 人 々に 受 け 入 れられるだけの 程 度 に 従 って、 少 しずつ 光 を 指 導 者 たちに<br />

示 されたのである。 世 紀 を 追 って、 他 の 忠 実 な 働 き 人 たちが 現 れ、 人 々をなおいっそ<br />

う、 改 革 の 道 に 導 いた。<br />

教 会 内 の 分 裂 は、なお 続 いた。3 人 の 法 王 が 至 上 権 を 競 い、 彼 らの 闘 争 はキリスト<br />

教 界 を 犯 罪 と 暴 動 で 満 たした。 彼 らは 互 いに 破 門 しあうだけで 満 足 せ ず、 武 力 に 訴 え<br />

た。 各 自 は、 武 器 の 購 入 と 軍 隊 の 確 保 に 苦 心 した。もちろん、 金 もなければならなか<br />

った。こうしたものを 手 に 入 れるために、 教 会 の 賜 物 、 地 位 、 祝 福 などが 金 銭 で 売 ら<br />

れた。 司 祭 たちも 高 位 の 者 たちにならって、 聖 職 売 買 を 行 い、 競 争 者 を 倒 して 自 分 の<br />

勢 力 を 強 化 するために 戦 った。フスは、ますます 大 胆 に、 宗 教 の 名 のもとに 行 われて<br />

いる 憎 むべきことを 非 難 した。そして 人 々は、キリスト 教 界 をこのような 悲 惨 な 状 態<br />

に 陥 れたのはローマ 教 の 指 導 者 たちであると、 公 然 と 非 難 した。<br />

ふたたびプラハ 市 は、 流 血 の 惨 事 が 起 きそうに 見 えた。むかしと 同 様 に、 神 のしも<br />

べは、「イスラエルを 悩 ます 者 」と 非 難 された[ 列 王 王 紀 上 8:。プラハ 市 は、ふたた<br />

び 破 門 され、フスは 故 郷 の 村 に 退 いた。 彼 が 愛 したベッレヘム 礼 拝 堂 からの 忠 実 な 証<br />

言 は、ここに 終 わった。 彼 は、 真 理 の 証 人 として 生 命 をささげるに 先 だって、もっと<br />

広 い 舞 台 から、 全 キリスト 教 界 に 語 ることになったのである。 ヨーロッパを 混 乱 に 陥<br />

れていた 害 悪 を 正 すために、コンスタンツにおいて 公 会 議 が 召 集 された。この 会 議 は、<br />

ジギスムント 皇 帝 の 希 望 によって、 対 立 している 3 人 の 法 王 の 1 人 、ヨハネス 23 世<br />

69


国 際 協 定<br />

が 召 集 したものであった。ヨハネス 23 世 の 人 格 と 政 策 は、 当 時 の 一 般 聖 職 者 と 同 様<br />

に 道 徳 的 に 腐 敗 していた 高 位 聖 職 者 たちの 調 査 にさえ 耐 え 得 ないものであったので、<br />

彼 は、 会 議 を 歓 迎 するどころではなかった。しかし 彼 は、ジギスムントの 意 志 にさか<br />

らいかねたのである。<br />

会 議 の 主 要 目 的 は、 教 会 内 の 分 裂 を 和 解 させ、 異 端 を 根 絶 することであった。そこ<br />

で、2 人 の 対 立 法 王 たちも、 新 説 の 主 唱 者 であるヨハン・フスとともに、 会 議 に 召 集<br />

された。 前 者 はそれぞれ、 自 分 たちの 身 の 安 全 を 期 して、 自 分 は 出 て 来 ず、 代 表 を 送<br />

った。 法 王 ヨハネスは、 表 向 きは 会 議 の 召 集 者 ではあったが、 種 々の 不 安 を 抱 いて 臨<br />

んだ。 皇 帝 がひそかに 彼 を 退 位 させようとしていないかと 疑 い、また、 三 重 の 冠 を 手<br />

に 入 れるために 犯 した 罪 とともに、それを 辱 しめた 罪 悪 が 問 いただされるのではない<br />

かと 恐 れていた。それでも 彼 は、 最 高 位 の 聖 職 者 たちと 廷 臣 の 長 い 列 を 従 えて、 威 風<br />

堂 々とコンスタンツ 市 に 入 った。 市 のすべての 聖 職 者 や 高 官 たちは、 数 多 くの 市 民 た<br />

ちとともに、 彼 を 出 迎 えた。 彼 の 頭 上 には 金 色 の 天 蓋 がかかり、それを 4 人 の 長 官 た<br />

ちが 支 えていた。 彼 の 前 には 祭 餅 が 運 ばれ、 枢 機 卿 や 貴 族 たちのきらびやかな 服 装 は、<br />

実 に 印 象 的 であった。<br />

この 時 、もう 1 人 の 旅 人 がコンスタンツ 市 に 近 づいていた。フスは、 自 分 の 身 に 迫<br />

る 危 険 に 気 づいていた。 彼 は、もう 2 度 と 会 えないかのように、 友 人 たちに 別 れを 告<br />

げた。そして 火 刑 への 道 であることを 感 じつつ 旅 をつづけた。 彼 は、ボヘミアの 王 か<br />

ら 安 全 通 行 券 を 得 、またジギスムント 皇 帝 からも 同 様 のものを 得 てはいたが、 死 ぬこ<br />

ともあり 得 ると 考 えて、 万 事 その 用 意 をしていた。<br />

プラハの 友 人 あての 手 紙 の 中 で 彼 は 次 のように 言 っている。「わたしの 兄 弟 たち<br />

よ、……わたしは 王 からの 通 行 券 を 持 って、 多 くの 恐 ろしい 敵 に 立 ち 向 かうために 出<br />

かけようとしている。……わたしは、 全 能 の 神 、わたしの 救 い 主 に 全 く 信 頼 している。<br />

わたしは、 神 があなたがたの 熱 心 な 祈 りに 答 えて、わたしの 口 に 神 の 慎 しみと 神 の 知<br />

恵 を 賜 わり、 彼 らに 抵 抗 することができるようにしてくださると 信 じる。そして、 神<br />

はわたしに 聖 霊 を 与 えて 堅 く 真 理 に 立 たせ、 勇 敢 に、 試 練 と 牢 獄 、そしてもし 必 要 な<br />

ら 残 酷 な 死 にすら 立 ち 向 かえるようにしてくださると 信 じる。イエス・キリストは、<br />

彼 の 愛 する 者 のために 苦 しみにあわれた。それゆえにわれわれは、われわれが 自 分 自<br />

身 の 救 いのためにすべてのことを 根 気 よく 耐 え 忍 ぶよう、 彼 がわれわれのために 模 範<br />

を 残 されたことに 対 して 驚 いてよいであろうか。 彼 は、 神 である。そして、われわれ<br />

は、 彼 に 造 られたものである。 彼 は 主 であって、われわれは、 彼 のしもべたちである。<br />

彼 は 世 界 の 主 であられ、われわれは、 卑 しい 人 間 である。それにもかかわらず 彼 は 苦<br />

しまれた。とすれば、われわれもまた 苦 しむべきではなかろうか。 特 にそれがわれわ<br />

70


国 際 協 定<br />

れのきよめのためであるとすれば。それゆえに、 愛 する 人 々よ、も しわたしの 死 が 彼<br />

の 栄 光 となるものならば、それが 早 く 来 るように、そして、わたしにふりかかるすべ<br />

ての 災 いをわたしが 忠 実 に 耐 える 力 を 主 がお 与 えになるように 祈 ってほしい。しかし、<br />

もしわたしがあなたがたのところに 帰 るほうが 良 いのであれば、 何 の 汚 点 も 残 さずに<br />

帰 れるように 神 に 祈 ろう。すなわち、わたしが、 福 音 真 理 のどんな 点 でも 隠 すことな<br />

く、わたしの 兄 弟 たちがふみ 従 うりっぱな 模 範 を 残 すことができるように 祈 ろう。お<br />

そらく、プラハであなたがたと 会 うことはもはやないであろう。しかし、 全 能 の 神 の<br />

みこころによって、あなたがたのところに 帰 ることができれば、その 時 には、いよい<br />

よ 確 固 とした 信 念 をもって、 神 の 律 法 の 知 識 と 愛 のうちに 進 んでいきたい。」 5 フス<br />

は、 福 音 の 使 徒 となったある 司 祭 に 送 ったもう 1 つの 手 紙 の 中 で、きわめて 謙 虚 に 自<br />

分 自 身 の 誤 りについて 語 り、 自 分 は「 美 服 をまとうことに 喜 びを 感 じ、 軽 薄 なことに<br />

時 を 浪 費 していた」と 自 分 を 責 めている。<br />

そして、 次 のような 感 動 的 な 勧 告 をつけ 加 えた。「あなたは、 聖 職 禄 や 財 産 の 所 有<br />

ではなくて、 神 の 栄 光 と 魂 の 救 いを 考 えるようにせよ。 自 分 の 魂 以 上 にあなたの 家 を<br />

飾 らぬように 注 意 せよ。 何 よりも 徳 を 高 めることに 留 意 せよ。 貧 者 には、 敬 虔 と 謙 そ<br />

んをもって 接 し、あなたの 持 ち 物 を 饗 応 のために 消 費 してはならない。もしもあなた<br />

が 生 活 を 改 めず、ぜいたくをやめないならば、わたしが 今 懲 らしめられているように、<br />

きびしく 懲 らしめられることであろう。……あなたは、 幼 い 時 から、わたしの 教 えを<br />

受 けたから、わたしの 教 義 を 知 っている。それだから、これ 以 上 書 く 必 要 はない。し<br />

かし、わたしは、 主 の 憐 れみによって、あなたに 願 う。どうか、あなたは、わたしが<br />

陥 ったのを 見 たどんな 種 類 の 虚 栄 をもまねてはならない。」 手 紙 の 封 筒 には、「わが<br />

友 よ、わたしが 死 んだことを 確 かめるまでは、この 封 を 開 かないこと」 6 と 書 きそえて<br />

あった。 フスは、 旅 行 中 、 至 るところで、 彼 の 教 義 が 広 まり、 彼 の 運 動 が 歓 迎 されて<br />

いるのを 見 た。 群 衆 が 彼 を 出 迎 え、いくつかの 町 では 長 官 が 町 じゅう 彼 に 随 行 した。<br />

コンスタンツに 到 着 したフスは、 完 全 な 自 由 が 与 えられた。 皇 帝 の 通 行 券 には、 法<br />

王 の 個 人 的 な 保 護 の 保 証 もつけ 加 えられた。しかし、これら 厳 粛 な、またくり 返 し 保<br />

証 された 言 明 が 無 視 されて、フスは 間 もなく、 法 王 と 枢 機 卿 たちの 命 令 によって 逮 捕<br />

され、いまわしい 牢 獄 に 入 れられた。 後 に 彼 は、ライン 川 の 向 こうの 堅 固 な 城 に 移 さ<br />

れ、 囚 人 として 監 禁 された。 法 王 は、その 背 信 によって 益 するところなく、 間 もなく<br />

同 じ 牢 獄 にいれられた。 7 彼 は、 会 議 において、 殺 人 、 聖 職 売 買 、 姦 淫 のほかに、「 言<br />

うことさえ 恥 じるべき 罪 」、 最 も 下 劣 な 罪 を 犯 したことが 証 明 された。こうして、 会<br />

議 そのものの 宣 言 によって、 彼 はついに 三 重 冠 を 取 り 上 げられ、 投 獄 された。 彼 と 対<br />

立 していた 法 王 たちも 廃 されて、 新 しい 法 王 が 選 ばれた。<br />

71


国 際 協 定<br />

コンスタンツ 会 議 は、フスが 常 に 非 難 し 改 革 を 要 求 していた 司 祭 たちよりも 大 きな<br />

罪 を 犯 していた 法 王 自 身 を 退 位 させたにもかかわらず 改 革 者 フスをも 粉 砕 しようとし<br />

た。フスの 投 獄 は、ボヘミアの 人 々を 大 いに 怒 らせた。 有 力 な 貴 族 たちは、この 暴 挙<br />

に 対 して 激 しい 抗 議 を 会 議 に 申 し 入 れた。 通 行 券 の 侵 害 を 許 すことを 好 まなかった 皇<br />

帝 は、 彼 に 対 する 処 置 に 反 対 であった。しかし 改 革 者 の 敵 たちは、 激 しい 憎 しみと 堅<br />

い 決 意 を 抱 いていた。 彼 らは 皇 帝 の、 偏 見 と 恐 怖 と 教 会 に 対 する 熱 意 とに 訴 えた。<br />

「たとえ 皇 帝 や 王 たちから 通 行 券 を 交 付 されていたとしても、 異 端 および 異 端 の 嫌 疑<br />

を 受 けたものには、 約 束 を 守 るべきではない」ということを 証 明 するために、 彼 らは<br />

長 い 議 論 を 展 開 した。 8 こうして 彼 らは、その 主 張 を 通 した。<br />

牢 獄 内 の 湿 気 と 悪 い 空 気 のために、フスは 死 ぬほどの 熱 病 にかかった。 病 気 と 獄 中<br />

生 活 のために 衰 弱 したフスは、ついに 会 議 に 呼 び 出 された。 彼 は 鎖 につながれて、 彼<br />

を 保 護 することを 名 誉 と 誠 実 にかけて 誓 った 皇 帝 の 前 に 立 った。 長 期 にわたる 取 調 べ<br />

のあいだ、 彼 は 堅 く 真 理 を 主 張 した。そして、 教 会 と 国 家 の 高 位 高 官 たちのいならぶ<br />

前 で、 彼 は、 教 権 制 度 の 腐 敗 を、ありのままに 厳 かに 抗 議 した。 彼 の 教 義 を 取 り 消 す<br />

か、それとも 死 を 選 ぶか 求 められた 時 、 彼 は、 殉 教 者 の 運 命 を 受 け 入 れた。<br />

神 の 恵 みが 彼 を 支 えた。 最 後 の 宣 告 が 下 される 前 の 苦 難 の 数 週 間 にわたって、 天 か<br />

らの 平 安 が 彼 の 心 を 満 たした。 彼 は 友 人 にこう 書 いている。「わたしはこの 手 紙 を 牢<br />

獄 の 中 で、そしてつながれた 手 で 書 いている。 明 日 死 の 宣 告 を 受 けることを 予 期 しつ<br />

つ。……イエス・キリストの 助 けによって、われわれが、ふたたび、 来 世 の 快 い 平 和<br />

のうちに 再 士 会 するときに、 神 がどんなに 恵 み 深 く、ご 自 身 をわたしにあらわされた<br />

か、また、 誘 惑 と 試 練 のただ 中 にあって、どんなに 力 強 くわたしを 支 えてくたさった<br />

かを、あなたは 知 ることであろう。」 9<br />

彼 は、 陰 気 な 牢 獄 の 中 で、 真 の 信 仰 の 勝 利 を 予 見 した。 彼 は 夢 の 中 で、 自 分 が 福 音<br />

を 説 いていたプラハの 礼 拝 堂 に 帰 り、そこで、 自 分 が 壁 に 描 いたキリストの 絵 を、 法<br />

王 や 司 教 たちが 消 しているのを 見 た。「この 幻 は 彼 を 悩 ました。しかし 次 の 日 に、 彼<br />

はたくさんの 画 家 たちが、これらの 絵 をさらに 多 く、さらに 鮮 かな 色 彩 でもって、 回<br />

復 しているのを 見 た。その 仕 事 が 終 わるや 否 や、 画 家 たちは 集 まったおびただしい 群<br />

衆 に 叫 んだ。『さあ、 法 王 でも 司 教 でもくるがよい! 彼 らには、もう 決 して 消 し 去 る<br />

ことはできない』。」フスは 夢 の 話 をして、 次 のように 言 った。「わたしは、キリス<br />

トのみ 姿 は 消 し 去 ることができないことを 堅 く 信 じる。 彼 らはそれを 破 壊 しようとし<br />

たが、それは、わたしよりももっと 力 ある 説 教 者 たちによってすべての 人 の 心 に 鮮 か<br />

に 描 かれることであろう。」 10<br />

72


国 際 協 定<br />

さて、いよいよ 最 後 に、フスは 会 議 に 呼 び 出 された。それは、 皇 帝 、 諸 侯 、 使 臣 、<br />

枢 機 卿 、 司 教 、 司 祭 たちが 列 席 しているはなやかな 大 会 議 であった。また、その 成 り<br />

行 きを 見 ようとする 大 群 衆 が 集 まっていた。 良 心 の 自 由 を 確 保 するための 長 い 闘 争 に<br />

おける、この 最 初 の 偉 大 な 犠 牲 の 目 撃 者 たちが、キリスト 教 国 全 土 から 集 められてい<br />

たのである。 フスは 最 後 の 決 断 を 促 されたが、 取 り 消 すことを 拒 否 した。 彼 は、 恥 知<br />

らずにも 約 束 を 破 棄 した 王 を、するどい 目 でみつめて 言 った。「わたしは、ここにご<br />

臨 席 の 皇 帝 の 公 の 保 護 と 信 義 のもとに、 自 分 の 自 由 意 志 で、この 会 議 に 出 席 すること<br />

を 決 心 したものである。」 11 ジギスムントは、 会 衆 全 員 の 視 線 を 浴 びて、 顔 を 赤 くし<br />

た。<br />

宣 告 は 下 され、 聖 職 剥 奪 の 儀 式 が 開 始 された。 司 教 たちはフスに 僧 服 を 着 せた。フ<br />

スは 司 祭 の 服 を 着 た 時 、「われわれの 主 、イエス・キリストは、ヘロデからピラトの<br />

ところへ 送 られる 時 、 辱 しめのために 白 い 衣 を 着 せられた」と 言 った。 12 彼 はふたた<br />

び 取 り 消 すことを 勧 められたが、 人 々の 方 を 向 いて、こう 答 えた。「そういうことを<br />

すれば、わたしはどんな 顔 をして、 天 を 仰 ぐことができようか。わたしが 純 粋 な 福 音<br />

を 宣 べ 伝 えたたくさんの 人 々に、どのようにして 顔 をあわせることができようか。わ<br />

たしは 死 に 定 められたこの 哀 れな 体 よりも、 彼 らの 救 いをはるかに 重 大 視 する。」 彼<br />

の 祭 服 は 1 枚 ずつはずされていった。そして 司 教 たちは、 儀 式 におけるそれぞれの 役<br />

を 果 たしながら、 彼 をのろった。<br />

ついに、「 彼 らは、 恐 ろしい 悪 鬼 の 絵 が 描 かれ、 前 方 によく 目 立 つように『 大 異 端<br />

者 』という 字 が 書 かれたピラミッド 型 の 紙 の 冠 を、 彼 にかぶせた。『 主 イエスよ、わ<br />

たしは、 心 から 喜 んで、あなたのために 恥 辱 の 冠 をかぶります。あなたはわたしのた<br />

めにいばらの 冠 をかぶられました』とフスは 言 った。」<br />

彼 にこのような 装 いをさせた 後 、「 司 教 たちは、『 今 、われわれは、なんじの 魂 を<br />

悪 魔 にわたす』と 言 った。ヨハン・フスは、 天 を 仰 いで、『おお、 主 イエスよ、わた<br />

しは、わたしの 魂 をみ 手 にゆだねます。あなたはわたしを 贖 ってくださったからです』<br />

と 言 った。」 13 こうして 彼 は、 俗 権 の 手 に 渡 され、 刑 場 へと 引 かれていった。 彼 の 後<br />

には、 数 百 名 の 軍 人 たち、 美 衣 をまとった 司 祭 や 司 教 たち、コンスタンツの 住 民 など<br />

の 大 行 列 が 続 いた。 彼 が 火 刑 柱 に 縛 られ、 火 をつける 準 備 が 整 った 時 に、 殉 教 者 は、<br />

もう 1 度 、 誤 りを 捨 てて 死 を 免 れるよう 勧 告 された。しかしフスは 言 った。「いった<br />

いどんな 誤 りを 取 り 消 せと 言 うのか。わたしは、 何 も 悪 いことはしていない。わたし<br />

が 書 き 説 教 したことのすべては、 人 々を 罪 と 滅 びから 救 うためのものだったことは、<br />

神 があかしをしてくださる。したがって、わたしが 書 き 説 教 した 真 理 をわたしの 血 を<br />

もって 確 証 することは、わたしの 最 も 喜 びとするところである。」 14 彼 の 周 りに 火 が<br />

73


国 際 協 定<br />

点 じられた 時 、 彼 は、「ダビデの 子 、イエスよ、わたしをあわれんでください」と 歌<br />

い 出 した。そしてそれは、 彼 の 声 が 永 久 に 沈 黙 するまで 続 いた。<br />

彼 の 敵 たちでさえ、 彼 の 英 雄 的 な 態 度 に 強 く 心 を 打 たれた。ある 熱 心 な 法 王 教 徒 は、<br />

フスと、その 後 しばらくして 死 んだヒエロニムスとの 殉 教 を 描 写 して 言 った。「2 人<br />

とも、 最 後 の 時 が 近 づいた 時 、 忠 実 に 耐 えぬいた。 彼 らは、 婚 宴 に 行 くかのように 火<br />

刑 にのぞんだ。 彼 らは 苦 しみの 声 をあげなかった。 炎 が 上 った 時 に、 彼 らは 讃 美 歌 を<br />

歌 い 出 した。 激 しい 炎 も 彼 らの 歌 を 止 めることができなかった。」 15<br />

フスの 体 が 燃 えつきた 時 、 彼 の 灰 は、その 下 の 土 とともに 集 められて、ライン 川 に<br />

投 げ 捨 てられた。こうして、それは、 大 海 へと 運 ばれていった。 迫 害 者 たちは 彼 が 宣<br />

べ 伝 えた 真 理 を 根 絶 したものと 考 えたが、そうではなかった。 その 日 大 海 に 運 び 去 ら<br />

れた 灰 が、 地 のすべての 国 々にまかれた 種 のようになること、また、まだ 未 知 の 国 々<br />

において、それは 多 くの 実 を 結 び、 真 理 のあかしを 立 てるようになることに、 彼 らは<br />

考 え 及 ばなかった。コンスタンツの 会 議 場 で 叫 ばれた 声 は、その 後 の 各 時 代 を 通 じて<br />

鳴 りひびく 反 響 を 引 き 起 こした。フスはもはやいなかった。しかし、 彼 がそのために<br />

死 んだ 真 理 は、 決 して 滅 び 去 るものではなかった。 彼 の 信 仰 と 忠 誠 の 模 範 は、 拷 問 や<br />

死 に 面 しても、 真 理 のために 堅 く 立 つようにと、 多 くの 人 々を 励 ますのであった。 彼<br />

の 処 刑 は、ローマの 不 実 な 残 酷 さを 全 世 界 に 示 した。 真 理 の 敵 たちは、それとは 知 ら<br />

ずに、 彼 らが 撲 滅 しようとしていたその 運 動 を、 推 し 進 めていたのであった。<br />

しかし、もう 1 つの 火 刑 柱 が、コンスタンツに 立 てられねばならなかった。もう 1<br />

人 の 証 人 の 血 が、 真 理 のために 流 されねばならなかった。ヒエロニムスは、フスが 会<br />

議 に 行 くに 当 たり 別 れを 告 げて、 勇 敢 に 堅 く 立 つことを 勧 め、もし 彼 の 身 に 危 険 が 迫<br />

るならば、ヒエロニムス 自 身 がすぐに 援 助 に 行 くと 言 った。フスが 投 獄 されたことを<br />

聞 くや、この 忠 実 な 弟 子 は、 直 ちに 約 束 の 実 行 にとりかかった。 彼 は、 通 行 券 も 持 た<br />

ず、ただ 1 人 の 従 者 を 連 れて、コンスタンツに 向 かった。 到 着 してみると、ただ 自 分<br />

自 身 を 危 険 にさらすだけで、フスを 救 い 出 すなどということは 何 もできないことがわ<br />

かった。 彼 は 町 から 逃 れたが、 帰 途 捕 えられてかせをはめられ、 一 団 の 兵 隊 たちに 守<br />

られて 送 りかえされた。 彼 が 会 議 に 最 初 に 現 れて、 彼 に 対 する 訴 えの 答 弁 をしようと<br />

すると、「 火 刑 にせよ! 火 刑 にせよ!」という 叫 びがあがった。 16 彼 は 牢 獄 に 入 れら<br />

れ、 非 常 に 苦 しい 姿 勢 で 鎖 につながれて、パンと 水 しか 与 えられなかった。ヒエロニ<br />

ムスは、 獄 中 の 残 酷 な 取 り 扱 いのために、 数 か 月 後 に、 頻 死 の 病 気 になった。そこで<br />

敵 たちは、 彼 が 死 んでしまうことを 恐 れて、 幾 分 ゆるやかに 扱 ったが、それでも 彼 は<br />

1 年 間 、 牢 獄 に 閉 じ 込 められたままであった。<br />

74


国 際 協 定<br />

フスの 死 は、 法 王 教 徒 たちが 期 待 したような 結 果 をもたらさなかった。 彼 の 通 行 券<br />

に 対 する 侵 害 は、 人 々を 非 常 に 憤 慨 させた。そこで 会 議 は 安 全 策 をとり、ヒエロニム<br />

スを 火 刑 にせず、できれば 取 り 消 しを 強 要 しようとした。 彼 は、 会 議 場 にひき 出 され、<br />

取 り 消 すか、 火 刑 による 死 かのどちらかを 選 べと 言 われた。 投 獄 された 最 初 のころに<br />

死 に 処 せられたならば、その 後 に 受 けた 恐 ろしい 苦 難 と 比 較 して、まだしも 情 ある 処<br />

置 だったことであろう。しかし 今 、 獄 中 の 病 と 苦 しみ、 懸 念 と 不 安 の 苦 痛 、 友 人 たち<br />

との 離 別 、そしてフスの 死 による 失 望 のために、ヒエロニムスの 心 は 弱 り、 勇 気 はく<br />

じけた。そして 彼 は、 会 議 に 従 うことに 同 意 した。 彼 は、カトリックの 信 仰 を 固 守 す<br />

ることを 誓 った。そして、ウィクリフとフスが 教 えた 教 義 の 中 で、「 聖 い 真 理 」 以 外<br />

のものを 否 認 するという 会 議 の 決 議 を 承 認 した。 17<br />

ヒエロニムスはこうした 方 法 で、 良 心 の 声 をしずめ、 死 を 免 れようとした。しかし、<br />

1 人 牢 獄 のなかで 考 えた 時 、 彼 は、 自 分 が 何 をしたかをはっきりと 悟 った。 彼 はフス<br />

の 勇 気 と 忠 実 を 思 い、それにひきかえ、 自 分 が 真 理 を 拒 否 したことを 考 えた。 彼 は、<br />

自 分 が 仕 えることを 誓 った 主 、 自 分 のために 十 字 架 の 死 を 耐 え 忍 ばれた 主 のことを 考<br />

えた。 彼 が 信 仰 を 取 り 消 す 前 は、あらゆる 苦 難 のなかにあっても 慰 めと 神 の 恵 みの 確<br />

証 があった。しかし、 今 は、 後 梅 と 疑 惑 が 彼 の 心 を 苦 しめた。 彼 は、ローマと 和 解 す<br />

るには、なお 他 にも 取 り 消 さなければならないことがあるのを 知 っていた。 彼 が 踏 み<br />

込 んだ 道 は、 完 全 な 背 信 に 行 き 着 くしかないものであった。ここにおいて、 彼 は 決 心<br />

した。しばらくの 苦 難 を 逃 れるために、 自 分 の 主 を 拒 むようなことはすまいと 決 心 し<br />

たのである。<br />

まもなく 彼 は、ふたたび 会 議 に 引 き 出 された。 彼 の 服 従 は、まだ 裁 判 官 たちを 満 足<br />

させてはいなかった。 血 にかわいた 彼 らは、フスの 死 によって 刺 激 されて、 新 たな 犠<br />

牲 を 求 めてやまなかった。 ヒエロニムスは、 真 理 を 無 条 件 で 放 棄 するのでなければ、<br />

生 命 を 全 うすることはできなかった。しかし 彼 は、 信 仰 を 告 白 し、 殉 教 者 フスのあと<br />

に 続 いて 火 刑 になる 決 心 をしていた。<br />

彼 は 自 説 撤 回 を 取 り 消 した。そして、 死 を 前 にした 人 間 として、 弁 明 の 機 会 が 与 え<br />

られることを 厳 粛 に 要 求 した。しかし、 彼 の 言 葉 の 影 響 を 恐 れた 司 教 たちは、ただ 彼<br />

に 対 する 告 訴 に 対 して、それを 認 めるか 否 かだけを 答 えるようにと 言 い 張 った。ヒエ<br />

ロニムスは、そのような 残 酷 と 不 正 に 対 して 抗 議 した。「あなたがたはわたしを、 不<br />

潔 で 有 害 で 悪 臭 を 放 ち、 何 1 つない 恐 ろしい 牢 獄 に、340 日 も 閉 じ 込 めておいた。そ<br />

して 今 度 はわたしを 引 き 出 し、わたしの 憎 むべき 敵 には 耳 をかしながら、わたしの 言<br />

うことは 聞 こうともしない。……もしもあなたがたが、 真 に 賢 き 者 であり、 世 の 光 で<br />

あるならば、 正 義 に 対 して 罪 を 犯 さないように 気 をつけるべきである。わたしはとい<br />

75


国 際 協 定<br />

えば、1 人 の 弱 い 人 間 に 過 ぎない。わたしの 生 命 など、どうでもよいのだ。わたしが<br />

あなたがたに、 不 正 な 宣 告 を 下 さぬように 勧 めるのは、 自 分 のためよりも、あなたが<br />

たのためを 思 って 言 っているのだ」と 彼 は 言 った。 18<br />

彼 の 要 求 は、ついに 許 された。ヒエロニムスは、 彼 の 裁 判 官 たちの 前 でひざまずき、<br />

神 の 霊 が 彼 の 思 想 と 言 葉 とを 支 配 し、 真 理 に 反 することや、 主 にふさわしくないこと<br />

を 語 らないようにと 祈 った。 彼 にとって、この 日 、 最 初 の 弟 子 たちに 対 する 神 の 約 束<br />

が 成 就 したのである。「またあなたがたは、わたしのために 長 官 たちや 王 たちの 前 に<br />

引 き 出 されるであろう。…… 彼 らがあなたがたを 引 き 渡 したとき、 何 をどう 言 おうか<br />

と 心 配 しないがよい。 言 うべきことは、その 時 に 授 けられるからである。 語 る 者 は、<br />

あなたがたではなく、あなたがたの 中 にあって 語 る 父 の 霊 である」[マタイ 10:18<br />

~。<br />

ヒエロニムスの 言 葉 は、 彼 の 敵 たちの 中 にさえ、 驚 きと 賞 賛 を 引 き 起 こした。 彼 は、<br />

丸 1 年 の 間 牢 獄 に 監 禁 され、 読 むことも 見 ることさえもできずに、 非 常 な 肉 体 的 苦 痛<br />

と 精 神 的 不 安 のうちに 過 ごしたのであった。 しかし 彼 の 論 旨 は、なんの 妨 げもなく 研<br />

究 を 継 続 したもののように、 明 快 で 力 に 満 ちていた。 彼 は、 不 正 な 裁 判 官 たちによっ<br />

て 有 罪 の 宣 告 を 下 された 数 多 くの 聖 徒 たちを、 聴 衆 に 示 した。ほとんどどの 時 代 にお<br />

いても、その 時 代 の 人 々を 啓 蒙 しようとして、 恥 辱 をこうむって 追 放 され、そして 後<br />

年 になってあがめられた 人 々がいた。キリストご 自 身 も、 不 正 な 法 廷 において、 犯 罪<br />

人 として 有 罪 を 宣 告 された。<br />

ヒエロニムスは、 前 に 自 説 を 撤 回 した 時 に、フスの 有 罪 の 宣 告 は 正 当 であると 承 認<br />

したが、 悔 い 改 めを 宣 言 した 今 は、 殉 教 したフスの 無 罪 と 潔 白 を 証 言 した。「わたし<br />

は 子 供 の 時 から 彼 を 知 っている、 彼 は、ただしく 聖 く、 最 も 優 れた 人 物 である。 彼 は、<br />

罪 がないのに 有 罪 の 宣 告 を 受 けた。……そしてわたしも、また。——わたしは 死 ぬ 覚<br />

悟 でいる。わたしは、わたしの 敵 と 偽 りの 証 人 たちが 用 意 している 責 め 苦 に ひるまな<br />

い。 彼 らは、やがて、 欺 くことのできない 大 いなる 神 の 前 で、 自 分 たちの 欺 瞞 行 為 の<br />

申 し 開 きをしなければならないのだ。」 19<br />

ヒエロニムスは、 自 分 が 前 に 真 理 を 拒 否 したことに 心 を 責 められながら、 次 のよう<br />

に 続 けた。「わたしが 青 年 時 代 から 犯 したすべての 罪 のなかで、 最 もわたしの 心 を 悩<br />

まし、 激 しく 心 を 責 めたのは、この 重 大 な 場 所 で、ウィクリフに 対 して、また、わが<br />

師 、わが 友 である 聖 なる 殉 教 者 、ヨハン・フスに 対 してなされた 不 法 きわまる 宣 告 を<br />

承 認 したことである。しかり!わたしはそのことを 心 からざんげする。そしてわたし<br />

は、 不 名 誉 にも 死 を 恐 れて 彼 らの 教 義 を 否 認 したことを 告 白 する。それゆえに、 全 能<br />

76


国 際 協 定<br />

の 神 が、わたしの 罪 を 赦 し、 特 に 最 も 憎 むべきこの 罪 を 赦 してくださることを 嘆 願 す<br />

る。」 彼 は、 裁 判 官 たちを 指 し、 断 固 として 言 った。「あなたがたは、ウィクリフや<br />

ヨハン・フスを 罪 に 定 めたが、それは、 彼 らが 教 会 の 教 義 を 混 乱 させたからではなく<br />

て、ただ 彼 らが 聖 職 者 たちの 引 き 起 こす 醜 聞 —— 彼 らのぜいたく、 彼 らの 高 慢 、そし<br />

て 司 教 や 司 祭 たちのあらゆる 罪 悪 ——を、 非 難 攻 撃 したからである。 彼 らが 断 言 した<br />

ことは、 論 ばくすることのできないものであるが、わたしもまた 彼 らと 同 様 に 考 え、<br />

彼 らと 同 様 に 宣 言 する。」<br />

彼 の 言 葉 はさえぎられた。 司 教 たちは、 激 怒 にふるえて 叫 んだ。「これ 以 上 の 証 拠<br />

を 求 める 必 要 があろうか。 今 われわれは、われわれの 目 の 前 に、 最 も 頑 固 な 異 端 者 を<br />

見 ている!」<br />

この 騒 ぎにも 動 ぜず、ヒエロニムスは 叫 んだ。「なに!あなたがたは、わたしが 死<br />

を 恐 れていると 思 っているのか?あなたがたはこの 1 年 間 、わたしを 死 よりも 悲 惨 な<br />

恐 ろしい 牢 獄 に 監 禁 した。そして、トルコ 人 やユダヤ 人 、あるいは 異 教 徒 よりも 残 酷<br />

にわたしを 扱 った。わたしの 肉 は、 文 字 通 り、わたしの 骨 から 腐 って 落 ちた。それで<br />

もわたしは、つぶやきはしない。 悲 しむことは、 勇 気 ある 人 間 にふさわしくないから<br />

だ。しかし、キリスト 教 徒 に 対 して、かくも 野 蛮 な 行 為 が 行 われたことに、 驚 かざる<br />

を 得 ないのである。」 20<br />

ふたたび、 人 々が 怒 ってさわぎ 立 てたので、ヒエロニムスは 急 いで 牢 獄 に 送 りかえ<br />

された。しかし、そこに 集 まっていた 人 々の 中 には、 彼 の 言 葉 に 深 い 感 銘 を 受 けて、<br />

彼 の 生 命 を 救 おうとしたものもあった。 彼 は、 教 会 の 高 い 地 位 の 人 々の 訪 問 を 受 け、<br />

会 議 に 従 うように 勧 告 を 受 けた。ローマに 反 対 することをやめるならば、その 報 賞 と<br />

して、 輝 かしい 世 的 栄 誉 が 約 束 された。しかしヒエロニムスは、 世 の 栄 光 が 提 示 され<br />

た 時 の 主 イエスと 同 様 に、ゆるがず 堅 く 立 った。<br />

「わたしが 間 違 っていることを 聖 再 から 証 明 してもらいたい。そうすれば、わたし<br />

は、 取 り 消 そう」と 彼 は 言 った。 「 聖 書 !なんでも 聖 書 によって 判 断 すべきであると<br />

いうのか。 教 会 が 解 釈 しないで、いったいだれが 理 解 することができようか?」と 誘<br />

惑 者 の 1 人 は 叫 んだ。 ヒエロニムスは 答 えた。「われわれの 救 い 主 の 福 音 よりも、 人<br />

間 の 伝 説 のほうが 信 じる 価 値 があるというのか。パウロは、 彼 が 手 紙 を 書 き 送 った 人<br />

々に 人 間 の 伝 説 に 従 うのではなくて、『 聖 書 を 調 べ』よと 勧 めたのである。」<br />

「 異 端 だ!わたしはこれまで 長 い 間 あなたに 嘆 願 してきたことを 悔 いる。あなたは<br />

悪 魔 に 取 りつかれているということがわかった」というのが 答 えであった。 21 間 もな<br />

く、 彼 に 有 罪 の 宣 告 が 下 った。 彼 は、フスが 生 命 をささげたのと 同 じ 場 所 に 引 かれて<br />

77


国 際 協 定<br />

いった。 彼 の 顔 は 喜 びと 平 安 に 輝 き、 彼 は 歌 を 歌 いながら 進 んでいった。 彼 はキリス<br />

トをみつめていた。 彼 にとって、 死 は 恐 ろしいものではなかった。 刑 の 執 行 者 が 火 を<br />

つけるために 彼 の 後 ろにまわった 時 、 殉 教 者 は 叫 んだ。「かまわず 前 に 来 て、わたし<br />

の 目 の 前 で 火 をつけなさい。それがこわいくらいなら、わたしはここに 来 てはいな<br />

い。」<br />

炎 が 彼 を 包 んだ 時 、 彼 の 最 後 の 言 葉 は 祈 りであった。「 主 、 全 能 の 父 よ。どうか、<br />

わたしをあわれんでください。わたしの 罪 を 赦 してください。あなたは、わたしが 常<br />

にあなたの 真 理 を 愛 したことを 知 っておら れます。」 22 彼 の 声 はやんだ、しかし 彼 の<br />

くちびるは 祈 りつづけて 動 いていた。 全 部 か 燃 えつきた 時 、 殉 教 者 の 灰 は 土 と 共 に 集<br />

められて、フスの 時 と 同 じようにライン 川 に 投 げいれられた。 [1643.<br />

こうして、 神 の 忠 実 な 証 人 たちは 死 んだ。しかし、 彼 らが 宣 言 した 真 理 の 光 —— 彼<br />

らの 雄 々しい 模 範 の 光 ——は、 消 し 去 ることかできなかった。 当 時 すてに 世 界 に 臨 み<br />

つつあった 夜 明 けの 光 を 止 めようとすることは、 太 陽 をあともどりさせようとするの<br />

と 同 じことであった。<br />

フスの 処 刑 は、ボヘミアに 怒 りと 恐 怖 の 火 を 点 じた。 全 国 民 は、 彼 が 司 祭 たちの 悪<br />

息 と 皇 帝 の 変 節 によって 犠 牲 にされたことを 感 じた。 彼 は 忠 実 な 真 理 の 教 師 であった<br />

ことが 省 言 され、 彼 を 死 に 処 した 会 議 は 殺 人 罪 に 問 われた。 彼 の 教 義 は、 今 までにな<br />

かったほど 人 の 注 目 を 引 いた。 法 王 の 布 告 によって、ウィクリフの 著 書 は 火 で 焼 かれ<br />

ていた。しかし、 焼 かれなかったものがその 隠 されたところから 持 ち 出 されて、 聖 書<br />

や、あるいは 人 々が 手 に 入 れ 得 た 分 冊 と 関 連 させながら 研 究 された。こうして 多 くの<br />

人 々が 改 革 主 義 を 受 け 入 れるようになった。<br />

フスの 殺 害 者 たちは、 彼 の 運 動 の 勝 利 を 手 をこまねいて 見 てはいなかった。 法 王 と<br />

皇 帝 は 力 を 合 わせてこの 運 動 を 粉 砕 しようとし、ジギスムントの 軍 隊 がボヘミアに 送<br />

りこまれた。 しかし、1 人 の 救 済 者 があらわれた。ジシュカは、 戦 争 が 起 こると 間 も<br />

なく 失 明 してしまったが、しかし 当 時 の 最 もすぐれた 将 軍 の 1 人 て、ホヘミア 人 たち<br />

の 指 導 者 てあった。ボヘミア 人 たちは、 神 の 助 けと 自 分 たちの 運 動 の 正 しいことを 信<br />

じて、 自 分 たちを 攻 撃 する 最 強 の 軍 隊 に 対 抗 した。 皇 帝 は、 何 度 となく 軍 勢 を 召 集 し<br />

て、ボヘミアを 攻 略 しようとしたが、 無 残 な 敗 北 を 喫 するだけであった。フス 派 の 人<br />

々は 死 の 恐 怖 をのりこえていたので、 何 ものも 彼 らに 対 抗 できなかった。 戦 争 が 起 こ<br />

って 数 年 後 に、 勇 敢 なジシュカが 死 んだか、フロコピオスが 彼 のあとを 継 いだ。プロ<br />

コピオスは、ジシュカと 同 じく 勇 敢 で 老 巧 な 将 軍 であり、いくつかの 点 では、いっそ<br />

う 有 能 な 指 導 者 てあった。<br />

78


国 際 協 定<br />

ボヘミア 人 の 敵 は 盲 目 の 将 軍 の 死 を 知 って、 劣 勢 をばん 回 する 絶 好 の 機 会 がきたと<br />

思 った。 法 王 は、フス 派 に 対 する 十 字 軍 を 宣 言 し、ふたたびおびただしい 軍 勢 かボヘ<br />

ミアに 送 りこまれた。しかしそれは、 大 敗 北 に 終 わったに 過 ぎなかった。 再 度 の 十 字<br />

軍 が 布 告 された。ヨーロッパのすべての 法 王 教 国 において、 人 員 と 金 と 軍 需 品 が 徴 集<br />

された。 群 衆 が 法 王 の 旗 のもとに 集 合 し、フス 派 の 異 端 者 たちをついに 全 滅 させ 得 る<br />

と 考 えた。 大 軍 は、 必 勝 を 期 して、ボヘミアに 侵 入 した。 人 々は、これを 撃 退 するた<br />

めに 立 ち 上 かった。 両 軍 は、 川 を 隔 てて 向 かい 合 うまでに 接 近 した。「 十 字 軍 は、 数<br />

においてはるかに 優 勢 であった。しかし 彼 らは、はるばる 対 戦 するためにやって 来 た<br />

フス 派 に 対 し、 川 を 渡 って 突 撃 するのではなくて、 黙 って 相 手 の 軍 勢 を 見 ていた。」<br />

23 すると 突 然 、 軍 隊 は 不 思 議 な 恐 怖 におそわれた。あの 強 力 な 軍 隊 か、 一 撃 も 加 える<br />

ことなく、 目 に 見 えない 力 におい 散 らされるように 四 散 してしまった。フス 派 の 軍 隊<br />

によって、 多 くの 者 が 殺 された。 彼 らは 逃 亡 兵 を 追 跡 して、おびただしい 戦 利 品 を 手<br />

に 収 め、ボヘミア 人 は 戦 争 によって 衰 えるどころか 豊 かになったのであった。<br />

それから 数 年 後 、 新 しい 法 王 が 立 って、もう 1 度 別 の 十 字 軍 が 起 こされた。 以 前 と<br />

同 様 に、 人 員 も 資 金 もヨーロソパのすベての 法 下 教 国 から 徴 集 された。このような 危<br />

険 な 企 てに 加 わるものに 対 する 勧 誘 は、 非 常 なものであった。 十 字 軍 に 参 加 するもの<br />

は、どんな 極 悪 な 犯 罪 もみな 許 された。すへての 戦 死 者 には、 天 で 大 きな 報 賞 が 約 束<br />

され、 生 存 者 には 戦 場 での 栄 誉 と 富 が 約 束 された。 再 び 大 軍 か 召 集 され、 国 境 を 越 え<br />

てボヘミアに 侵 入 した。フス 派 の 軍 勢 は 彼 らの 前 から 退 却 し、 侵 入 軍 を 国 深 く 誘 い 入<br />

れて、 勝 利 をすでに 得 たかのように 彼 らに 思 わせた。やがてプロコピオスの 軍 隊 は 踏<br />

みとどまって 敵 に 向 きな おり、 反 撃 を 加 えた。 十 字 軍 は、 自 分 たちの 失 策 に 気 づき、<br />

陣 地 にとどまって 敵 の 襲 来 を 待 った。しかし、 軍 隊 の 進 軍 の 音 が 聞 こえてくると、フ<br />

ス 派 の 姿 かまだ 見 えないのに、 十 字 軍 はまた 恐 慌 状 態 に 陥 った。 諸 侯 も 将 軍 も、そし<br />

て 王 一 般 の 兵 隊 も、 武 器 を 投 げ 捨 てて 四 散 した。 侵 入 軍 の 指 揮 官 であった 法 王 の 使 節<br />

は、おびえて 混 乱 した 軍 勢 を 引 きもどそうと 努 力 したがむだであった。 必 死 の 努 力 に<br />

もかかわらず、 彼 自 身 も、 敗 走 者 の 群 れにまきこまれてしまった。 十 字 軍 は 完 全 に 敗<br />

北 し、ふたたび、おびただしい 戦 利 品 が 勝 利 者 の 手 に 入 った。<br />

こうして、 再 度 、ヨーロッパの 最 強 国 家 の 大 軍 、 戦 いの 訓 練 と 装 備 を 整 えた 勇 敢 な<br />

戦 士 たちの 軍 勢 が、 一 戦 をも 交 えずに、 弱 小 国 家 の 防 備 軍 の 前 に 敗 れ 去 った。これは、<br />

神 の 力 のあらわれであった。 侵 入 軍 は、 超 自 然 的 な 恐 怖 におそわれた。パロの 軍 勢 を<br />

紅 海 で 打 ち 破 り、ミデアンの 軍 勢 をギデオンと 彼 の 300 人 の 兵 隊 の 前 から 逃 走 させ、<br />

高 慢 なアソシリアの 軍 勢 を 一 晩 のうちに 倒 された 神 が、ふたたび 手 を 伸 べて、 圧 迫 者<br />

の 力 を 砕 かれたのである。「 彼 らは 恐 るべきことのない 時 に 大 いに 恐 れた。 神 はよこ<br />

79


国 際 協 定<br />

しまな 者 の 骨 を 散 らされるからである。 神 か 彼 らを 捨 てられるので、 彼 らは 恥 をこう<br />

むるであろう」[ 詩 篇 53:。<br />

法 王 教 の 指 導 者 たちは、 武 力 で 征 服 すろことができないのに 気 づいて、ついに 外 交<br />

手 段 を 用 いるようになった。つまり、これは 妥 協 であって、ボヘミア 人 に 良 心 の 自 由<br />

を 与 えると 言 いながら、 実 は 彼 らをローマの 権 力 に 引 き 渡 すものであった ボヘミア<br />

人 は、ローマとの 和 解 の 条 件 を 4 つあけた。 聖 書 の 自 由 説 教 、 教 会 全 体 が 聖 餐 のハン<br />

とぶどう 酒 の 両 方 にあずかる 権 利 と 礼 拝 における 自 国 語 のの 使 用 、 聖 職 者 をすべての<br />

公 職 公 権 から 除 外 すろこと、そして、 犯 罪 を 犯 した 場 合 、 聖 職 者 も 一 般 信 者 も 同 様 に<br />

司 法 権 に 問 われることであった。 法 王 側 はついに、「フス 派 の 4 項 目 を 受 け 入 れるこ<br />

とに 同 意 したか、その 解 釈 権 利 、ずなわち、その 正 確 な 意 味 の 決 定 権 は 会 議 に——―<br />

言 いかえると、 法 王 皇 帝 に—— 属 するとした。」 24 このような 条 件 に 基 づいて 条 約 が<br />

結 ばれ、ローマは、 戦 争 によって 得 ることができなかったことを 偽 りと 欺 瞞 によって<br />

得 たのである。なぜなら、ローマは、 聖 書 と 同 様 にフス 派 の 条 件 にも 自 分 かってな 解<br />

釈 を 下 して、 自 分 に 都 合 のよいようにその 意 味 を 曲 けることかできたからである。<br />

多 くのボヘミア 人 は、それが 自 分 たちの 自 由 を 裏 切 るものであるのを 見 て、 条 約 に<br />

同 意 することができなかった。 不 和 と 分 裂 が 起 こり、ついには 争 って 血 を 流 すまでに<br />

全 った。この 紛 争 のなかで、 高 潔 なプロコピオスは 倒 れ、ボヘミアの 自 由 は 失 われ<br />

た。 こうして、フスとヒエロニムスを 異 切 ったジギスムントは、ボヘミアの 王 となり、<br />

ボヘミア 人 の 権 利 を 確 保 する 誓 約 をしていたにもかかわらず、 法 王 権 を 確 立 しようと<br />

した。しかし、ローマに 屈 服 して 彼 の 得 たものはほとんどなかった。 彼 の 生 涯 は、 約<br />

20 年 にわたって、 労 苦 と 危 険 に 満 ちたものであった。 長 い 無 益 な 戦 争 のために、 軍 隊<br />

は 弱 くなり、 国 庫 はからになった そして、 今 、 王 にはなったが、1 年 で 死 んでしま<br />

った。 国 家 が、 今 にも 内 乱 が 起 こりそうになっている 中 で、 彼 は 悪 名 を 残 して 死 ん<br />

だ。<br />

暴 動 、 闘 争 、 流 血 が 相 次 いで 起 こった。ふたたび、 外 敵 がボヘミアに 侵 入 した。そ<br />

して 国 内 の 紛 争 は、 国 を 混 乱 に 陥 れ 続 けた。 福 音 のために 堅 く 立 った 者 たちは、 血 な<br />

まぐさい 迫 害 にあった。 かつての 仲 間 たちはローマと 契 約 を 結 んで、その 誤 りを 受 け<br />

入 れたので、 昔 からの 信 仰 を 固 守 する 人 々は 別 の 教 会 を 組 織 して、それを「 同 胞 一 致<br />

教 会 」〔ボヘミア 兄 弟 団 〕と 呼 んだ。このために 彼 らは、 各 方 面 から 悪 く 言 われた。<br />

しかし、 彼 らは 堅 く 立 ってゆるがなかった。 彼 らは 森 や 洞 穴 に 逃 れなけれはならなか<br />

ったが、それでも 集 まって 神 のみ 言 葉 を 読 み、 礼 拝 を 共 にした。 彼 らは、ひそかに 各<br />

国 に 派 遣 した 使 者 たちを 通 じて、ここかしこに、「 真 理 を 告 白 しているものが、この<br />

田 に 数 名 あの 町 に 数 名 と 孤 立 しており、 彼 らと 同 様 に 迫 害 の 対 象 になっていることを<br />

80


国 際 協 定<br />

知 った。また、アルプスの 山 の 中 には、 聖 書 を 基 礎 にした、 昔 からの 教 会 があって、<br />

ローマの 偶 像 的 腐 敗 に 抗 議 しているのを 知 った。」 25 この 知 らせは 非 常 な 喜 びをもっ<br />

て 迎 えられ、ワルド 派 キリスト 教 徒 との 通 信 が 開 始 された。<br />

ボヘミア 人 は 福 音 を 固 守 して 迫 害 の 夜 を 過 ごし、その 最 も 暗 黒 な 時 においてもなお、<br />

朝 を 待 つ 見 張 りのように、 彼 らの 目 を 地 平 線 に 向 けていた。「 彼 らは 不 運 な 境 遇 にあ<br />

った。しかし、…… 彼 らは、フスが 最 初 に 語 り、ヒエロニムスによって 繰 りかえされ<br />

た 言 葉 、すなわち、 夜 明 けまでには 1 世 経 なければならないという 言 葉 を 忘 れなかっ<br />

た。この 言 葉 は、タボル 派 〔フス 派 の 人 々〕にとって、 奴 隷 生 活 をしていたイスラエ<br />

ルの 部 族 に 対 して『わたしはやがて 死 にます。 神 は 必 ずあなたがたを 顧 みて、この 国<br />

から 連 れ 出 し[てくださるでしょう]』と 言 ったヨセフの 言 葉 のようなものであっ<br />

た。」 26 「15 世 紀 の 末 期 において、 兄 弟 団 の 教 会 は、 徐 々にではあったが 確 実 に 増<br />

加 していった。 彼 らは、 妨 害 などがなくなったわけではなかったが、 比 較 的 安 らかに<br />

過 ごすことができた。16 世 紀 の 初 めには、 彼 らの 教 会 は、ボヘミアとモラビアにおい<br />

て 200 を 数 えた。」 27 「 火 と 剣 という 破 壊 的 激 怒 を 逃 れて、フスが 予 告 した 夜 明 けを<br />

見 ることを 許 された 残 りの 者 たちは、 非 常 に 多 かった。」 28<br />

81


国 際 協 定<br />

第 7 章 革 命 の 始 まり<br />

教 会 を、 法 王 教 の 暗 黒 から、 純 粋 な 真 理 の 光 に 導 くために 召 された 人 々の 中 の 第 ・<br />

人 者 は、マルチン・ルターであった 熱 心 で、 献 身 的 て、 神 のほかなにも 恐 れること<br />

を 知 らず、 聖 書 以 外 のどんな 信 仰 の 基 準 をも 認 めなかったので、ルターは、 実 に、そ<br />

の 時 代 のための 人 物 であった 神 は 彼 を 用 いて、 教 会 の 改 革 と 田 界 の 啓 蒙 のために 大<br />

きな 働 きを 成 し 遂 げられた。 [1646.<br />

ルターは、 福 音 の 最 初 の 使 者 たちと 同 様 に、 貧 しい 階 級 の 出 であった。 彼 は 幼 年 時<br />

代 を、ドイツの 農 民 の 質 素 な 家 庭 で 過 ごした。 彼 の 父 は 鉱 夫 で、 毎 日 の 労 苦 によって<br />

彼 の 学 費 をかせいでいた。 父 親 は 彼 を 弁 護 士 にしようと 思 った。しかし 神 は、 彼 を、<br />

幾 世 紀 にもわたって 徐 々にではあったが、 建 設 されつつあった 大 神 殿 の 建 設 者 にしよ<br />

うとされた。 困 難 、 窮 乏 、 厳 しい 訓 練 は、 無 限 の 知 恵 の 神 が、ルツーにその 生 涯 の 重<br />

要 な 任 務 に 対 する 備 えをさせられたところの 学 校 であった。 [1646.<br />

ルターの 父 は、 強 固 で 活 発 な 精 神 と、 品 性 の 偉 大 な 力 の 持 ち 主 であって、 正 直 と 決<br />

断 と 率 直 さを 持 った 人 であった。 彼 は、 結 果 かどうなろうと、 義 務 を 忠 実 に 果 たす 人<br />

であった。 彼 の 確 かな 判 断 力 は、 修 道 院 制 度 に 対 する 不 信 感 をいだかせた。ルターが<br />

彼 の 許 可 を 得 ないで 修 道 士 院 に 入 った 時 、 彼 は 非 常 に 腹 を 立 てた。 父 と 子 の 和 解 には、<br />

2 年 かかったが、その 時 でも 彼 の 意 見 は 変 わらなかった。 ルターの 両 親 は、 子 供 たち<br />

の 教 育 と 訓 練 に 非 常 に 注 意 を 払 った。 彼 らは 子 供 たちに、 神 を 知 ることと、キリスト<br />

者 の 美 徳 を 実 実 行 することとを 教 えるように 努 めた。 父 親 は、 息 子 が 主 の 御 名 を 覚 え、<br />

いつかは 神 の 真 理 の 発 展 を 助 けるようになることを 祈 ったが、ルターはこれをたびた<br />

び 耳 にした。 両 親 は、その 労 苦 の 生 活 の 中 で 与 え 得 るあらゆる 道 徳 的 知 的 訓 練 の 機 会<br />

を、 熱 心 に 活 用 した。<br />

彼 らは、 子 供 たちが 信 心 深 く 有 用 な 生 活 を 送 るよう 準 備 させようと、 熱 心 に 忍 耐 強<br />

く 努 力 した。 彼 らが 厳 格 で 強 固 な 品 性 の 持 ち 主 であったために、 時 には 厳 しすぎるこ<br />

ともあった。しかしルター 自 身 、ある 点 においては 彼 らの 誤 りを 認 めながらも、 彼 ら<br />

のしつけは 非 難 するよりは 賛 成 すべきものであると 思 った。 ルターは、 年 少 の 時 に 送<br />

られた 学 校 で、 非 常 に 厳 しい、 乱 暴 なまでの 扱 いを 受 けた 彼 の 1 両 親 は 非 常 に 貧 し<br />

かったので、 彼 が 別 の 町 にある 学 校 へ 家 から 通 った 時 には、 一 時 、 家 々を 歌 を 歌 いな<br />

がらまわることによって 食 を 得 なければならず、 空 腹 に 苦 しんだこともしばしばであ<br />

った。 当 時 一 般 にゆきわたっていた、 陰 うつで 迷 信 的 宗 教 観 は、 彼 の 心 を 恐 怖 で 満 た<br />

した。 彼 は、 夜 、 悲 哀 におそわれて 床 につき、 暗 い 将 来 をながめておののいた。そし<br />

82


国 際 協 定<br />

て、 神 を、 慈 愛 に 満 ちた 天 父 としてではなく、 厳 格 で 容 赦 しない 裁 判 官 、 残 酷 な 暴 君<br />

のように 考 えて、 常 に 恐 怖 におびえていた。<br />

しかしルターは、 多 くの 大 きな 失 望 の 中 にありながらも、 彼 の 心 を 引 きつけた 道 徳<br />

的 知 的 卓 越 の 高 い 標 準 に 向 かって、 決 然 として 進 んていった。 彼 は、 知 識 を 渇 望 して<br />

いた。そして 彼 は、 熱 心 で 実 際 的 な 性 質 であったので、はでで 表 面 的 なものよりは、<br />

堅 実 で 有 用 なものを 望 んだ。<br />

18 歳 の 時 、 彼 はエルフルト 大 学 に 入 った。この 頃 には 彼 の 境 遇 は、 年 少 の 頃 より<br />

は 順 調 で、 将 来 に 明 るい 希 望 が 持 てた。 彼 の 両 親 は、 節 約 と 勤 勉 によって、 相 当 の 資<br />

産 を 得 ていたので、 必 要 な 援 助 を 全 部 支 給 することができた。そして、 彼 は、 賢 明 な<br />

友 人 たちの 感 化 を 受 けて、 前 に 受 けた 教 育 の 陰 うつな 感 化 を、いくぶんか 少 なくする<br />

ことができた。 彼 は、 第 一 流 の 著 者 たちの 研 究 に 専 念 し、 彼 らの 最 も 重 要 な 思 想 を 努<br />

めて 心 に 蓄 え、 賢 明 な 人 々の 思 想 を 自 分 のものにした。 彼 は、かつての 教 師 たちの 苛<br />

酷 な 訓 練 下 にあってさえ、 早 くから 頭 角 を 現 したが、ここではよい 環 境 に 恵 まれて、<br />

彼 の 知 力 は 急 速 に 発 達 した。<br />

彼 は、 記 憶 力 が 強 く、 想 像 力 に 富 み、 論 理 力 も 豊 かで、たゆまず 研 究 に 励 んたので、<br />

間 もなく 学 友 たちの 間 で 第 一 人 者 となった。 知 的 訓 練 は 彼 の 理 解 力 を 円 熟 させ、 知 力<br />

を 活 発 にし、 知 覚 を 鋭 敏 にして、 彼 を 彼 の 生 涯 の 闘 争 のために 準 備 させつつあっ<br />

た。 ルターの 心 に 宿 った 主 を 恐 れる 思 いは、 彼 を 目 的 堅 固 なものにするとともに、 神<br />

のみ 前 で 心 から 謙 遜 なものにした 彼 は、 自 分 か 神 の 助 けに 依 存 していることを 常 に<br />

感 じていた。そして、 毎 日 祈 りをもって 1 日 を 始 めることを 忘 れなかった。 彼 の 心 は、<br />

絶 えず、 導 きと 支 えとを 祈 り 求 めていた。「よく 祈 ることは、 勉 強 の 半 ば 以 上 を 成 し<br />

遂 けることだ」と 彼 はよく 言 った。 1<br />

ある 日 、ルターは、 大 学 の 図 書 館 で 本 を 調 べていた 時 に、ラテン 語 の 聖 書 を 発 見 し<br />

た。 彼 は、こうした 本 を 見 たことがなかった。そうしたものの 存 在 さえ 知 らなかった<br />

のである。 彼 は、 福 音 書 や 使 徒 書 簡 の 一 部 が、 公 の 礼 拝 の 時 に 朗 読 されるのを 聞 き、<br />

それが 聖 書 の 全 部 であると 思 っていた。ところが 彼 は、 今 初 めて、 神 の 言 葉 の 全 体 を<br />

見 たのである。 畏 敬 と 驚 さをもって、 彼 はその 神 聖 なペ 一 ジをくった。 彼 は、 胸 をと<br />

きときさせなから、 生 命 の 日 葉 を 自 分 で 読 み、 時 々 息 をついては「 神 がこのような 本<br />

をわたしに 下 さったなら!」と 叫 ぶのであった。 2 天 使 が 彼 のそばにいて、 神 のみ 座<br />

からの 光 が、 真 理 の 宝 を 彼 に 理 解 させた。 彼 は、 神 の 怒 りを 招 くことを 常 に 恐 れてい<br />

たが、 今 、これまでになく、 自 分 の 罪 人 としての 状 態 を 痛 感 した。<br />

83


国 際 協 定<br />

彼 は 罪 からの 解 放 と 神 との 平 和 を 熱 心 に 求 めて、ついに 修 道 院 に 入 り、 修 道 院 生 活<br />

に 身 をささげることになった。ここで 彼 は、 最 も 卑 しい 仕 事 をさせられ、 戸 ごとに 食<br />

を 乞 い 歩 かせられた。 彼 は、 人 々から 尊 敬 と 理 解 を 受 けることを 最 も 願 う 年 齢 であっ<br />

た。そして、このような 卑 しい 勤 めは、 彼 の 生 まれながらの 感 情 からすれは、 非 常 に<br />

苦 しいものであった。しかし 彼 は、それが 自 分 の 罪 のゆえに 必 要 なことであると 信 じ<br />

てこの 屈 辱 に 耐 えた。<br />

彼 は、 日 ごとの 勤 めから 寸 暇 を 見 いだしては、 眠 ろ 時 間 もそまつな 食 事 をとる 時 間<br />

も 惜 しんで、 研 究 に 励 んだ。 彼 は 何 よりも 神 のみ 言 葉 の 研 究 に 喜 びを 感 じた。 彼 は、<br />

修 道 院 の 壁 に 聖 書 が 鎖 でつながれているのをみつけたので、よくそこへ 行 った。 彼 は<br />

罪 の 自 覚 が 深 まるにつれて、 自 分 自 身 の 行 いによって、 赦 しと 平 和 を 得 ようとした。<br />

彼 は 非 常 に 厳 格 な 生 活 を 送 り、 断 食 や 夜 の 勤 行 、また 体 をむち 打 って、 生 まれながら<br />

の 悪 をおさえようとしたが、しかしこうした 修 道 院 生 活 によっては、なんの 解 放 も 得<br />

られなかった。 彼 は、 神 のみ 前 に 立 ち 得 るような 心 の 清 めを 得 るためには、どんな 犠<br />

牲 をも 恐 れなかった。「わたしは、 実 に 敬 虔 な 修 道 士 僧 であった。わたしは、 言 葉 で<br />

は 表 現 できないほど 厳 格 に、わたしの 修 道 会 の 規 則 に 従 った。もし 修 道 僧 が、 修 道 僧<br />

としての 働 きによって 天 国 に 行 くことができるならば、わたしは 間 違 いなくその 資 格<br />

があったであろう。……もしあれ 以 上 続 いたならばわたしは 苦 行 の 果 てに 死 んでしま<br />

ったことであろう」と 彼 は 後 に 言 っている。 3 こうした 厳 しい 苦 行 の 結 果 、 彼 は 衰 弱<br />

し、 失 神 の 発 作 を 起 こした。そして、 後 になっても、それから 完 全 に 回 復 することは<br />

てきなかった。しかし、これらすべての 努 力 にもかかわらず、 彼 は 心 の 悩 みから 救 わ<br />

れなかった。 彼 は、ついに、 絶 望 のふちに 追 いやられた。<br />

ルターが 万 事 休 すと 思 った 時 に、 神 は、 彼 のために 1 人 の 友 人 、 援 助 者 を 起 こされ<br />

た。 敬 虔 なシュタウピッッがルターに 神 のみ 言 葉 を 示 して、 自 分 から 目 をそらし、 神<br />

の 律 法 を 犯 したことに 対 する 永 遠 の 刑 罰 について 考 えることをやめ、 彼 の 罪 を 赦 す 救<br />

い 主 イエスを 仰 ぎ 見 るように 命 じた。「 罪 のために 自 分 を 苦 しめることをせず、 贖 い<br />

主 の 腕 の 中 に 自 分 自 身 を 投 げ 入 れよ。 彼 を 信 頼 せよ。 彼 の 生 涯 の 義 と 彼 の 死 による 贖<br />

罪 に 信 頼 し、…… 神 のみ 子 に 耳 を 傾 けよ、 彼 はあなたに 神 の 恵 みの 確 証 を 与 えるため<br />

に、 人 となられた。まずあなたを 愛 された 彼 を 愛 せよ。」 4 このように、この 憐 れみ<br />

の 使 者 は 語 った。 彼 の 言 葉 は、ルターの 心 に 深 い 感 銘 を 与 えた。 長 い 間 抱 いていた 誤<br />

りについての 多 くの 苦 闘 のあとで、 彼 は 真 理 をつかむことができ、 彼 の 悩 み 苦 しんだ<br />

心 に 平 和 が 与 られた。<br />

ルターは 司 祭 に 任 じられ、 修 道 院 から 召 されて、ウイッテンベルク 大 学 の 教 授 にな<br />

った。ここで、 彼 は、 原 語 による 聖 書 の 研 究 に 没 頭 した。 彼 は 聖 書 の 講 義 を 始 めた。<br />

84


国 際 協 定<br />

そして、 詩 篇 、 福 音 書 、 使 徒 書 簡 などは、 喜 んで 聞 く 多 くの 聴 衆 の 心 を 啓 発 した。 彼<br />

の 友 人 であり 先 輩 であったシュタウピッツは、 彼 に、 説 教 壇 に 上 って 神 のみ 言 葉 を 説<br />

くように 勧 めた。ルターは、 自 分 はキリストにかわって 人 々に 語 る 価 値 がないと 感 じ<br />

てためらった。 彼 は、 長 い 間 の 苦 悩 の 後 、 初 めて、 友 人 たちの 勧 めに 応 じた。すでに<br />

彼 は 聖 書 に 精 通 しており、 神 の 恵 みが 彼 に 宿 っていた。 彼 の 雄 弁 は 聴 衆 を 魅 了 し、 彼<br />

の 明 快 で 力 強 い 真 理 の 提 示 は、 彼 らの 知 性 を 納 得 させ、 彼 の 熱 情 は 彼 らの 心 を 感 動 さ<br />

せた。<br />

それでも、ルターは、カトリック 教 会 の 実 子 であり、それ 以 外 の 何 ものにもなる 考<br />

えはなかった。 神 の 摂 理 によって、 彼 はローマを 訪 問 することになった。 彼 は、 途 中<br />

国 修 道 院 に 泊 りながら、 歩 いて 旅 を 続 けた。 彼 はイタリアの 修 道 院 において、その 富<br />

と 壮 大 さとぜいたくを 見 、 非 常 に 驚 いた。 修 道 士 たちは、 王 侯 のような 歳 入 を 得 て、<br />

華 麗 な 部 屋 に 住 み、 高 価 な 美 服 を 着 て、ぜいたくな 食 卓 をかこんでいた。ルターは、<br />

このような 光 景 と 自 分 自 身 の 自 制 と 片 難 のり 活 とを 比 較 して、 疑 惑 に 心 を 痛 めた。 彼<br />

の 心 は 混 乱 してきた。<br />

ついに 彼 は、7 つの 丘 の 都 〔ローマ〕を 遠 方 に 望 み 見 た。 彼 は 感 きわまって 地 上 に<br />

ひれ 伏 し、「 聖 なるローマよ、わたしはあなたに 敬 意 を 表 す」と 叫 んだ。 5 彼 は 都 に<br />

入 り、 教 会 を 訪 問 し、 司 祭 や 修 道 士 たちがくりかえし 語 る 驚 くべき 物 語 を 聞 き、 求 め<br />

られるままにあらゆる 儀 式 を 行 った。 何 を 見 ても 彼 を 驚 きと 恐 怖 に 陥 れるものばかり<br />

であった。 彼 は、 罪 悪 があらゆる 階 級 の 聖 職 者 に 及 んでいるのを 見 た。 高 位 聖 職 者 た<br />

ちが 品 の 悪 い 冗 談 を 言 うのを 聞 いた。そして、ミサの 時 にさえ 見 られる、 彼 らの 恐 る<br />

べき 不 敬 そ 行 為 に 戦 慄 した。 修 道 士 や 市 民 と 交 わってみると、 放 蕩 や 乱 行 が 目 につい<br />

た。どこに 目 を 向 けても、 神 聖 であるへきところに 瀆 神 行 為 を 見 た。 彼 は、 次 のよう<br />

に 書 いている。 「ローマにおいて、どんな 罪 や 恥 ずべき 行 為 が 行 われているかは、 想<br />

像 もできない。 実 際 に 見 聞 きしなければ 信 じられないほどである。『もし 地 獄 がある<br />

ならば、ローマはその 上 に 建 っている。それはあらゆる 罪 が 生 じてくるところの、 底<br />

知 れぬ 穴 である』と 一 般 に 言 われているほどだ。」<br />

当 時 、 法 王 の 教 書 が 発 布 されて、「ピラトの 階 段 」をひざまずいて 上 るものにはみ<br />

な、 免 罪 が 約 束 されていた。この 階 段 は、 救 い 主 がローマの 法 廷 を 出 る 時 に 降 りられ<br />

たもので、 奇 跡 的 にエルサレムからローマに 移 されたものであるといわれていた。ル<br />

ターは、ある 日 、 敬 虔 な 思 いをもってこの 階 段 を 上 っていた。すると 突 然 、 雷 のよう<br />

な 声 が、「 信 仰 による 義 人 は 生 きる」と 言 ったように 思 われた[ローマ 1:。 彼 はすぐ<br />

に 立 ち 上 がり、 恥 と 恐 怖 の 念 にかられて、その 場 を 急 いで 去 った。この 聖 句 は、 彼 の<br />

一 生 を 通 じて、 彼 に 力 を 与 えた。その 時 以 来 、 彼 は、 人 間 行 為 によって 救 いを 得 よう<br />

85


国 際 協 定<br />

とすることの 誤 りと、キリストの 功 績 を 絶 えず 信 しろことの 必 要 を、これまてよりも<br />

っと 明 瞭 に 悟 った。 彼 の 目 は 開 かれた。そして、 法 王 制 の 惑 わしに 2 度 と 陥 ることが<br />

なかった。 彼 がローマに 背 を 向 けた 時 、 彼 の 心 もローマから 離 れ 去 っていた。そして<br />

この 時 から、 隔 たりは 大 きくなり、ついに 彼 は、 法 王 教 会 との 関 係 を 全 く 断 つに 全 っ<br />

た。<br />

ルターは、ローマからの 帰 国 後 、ウィッテンベルク 大 学 から 神 学 博 士 の 学 位 を 授 け<br />

られた。 今 、 彼 は、これまでなかったほどに、 自 由 に 彼 の 愛 する 聖 書 の 研 究 をするこ<br />

とができた。 彼 は 全 生 涯 を 通 じて、 法 王 たちの 言 葉 や 教 義 ではなく、 神 のみ 言 葉 を 注<br />

意 深 く 学 んて、 忠 実 に 説 教 する、という 厳 粛 な 誓 いを 立 てていた。 彼 はもはや、 単 な<br />

る 修 道 士 や 教 授 ではなくて、 正 式 の 聖 書 解 釈 者 であった。 彼 は、 真 理 に 飢 えかわいて<br />

いた 神 の 群 れを 養 う 牧 者 として 召 されたのであった。キリスト 者 は、 聖 書 の 権 威 に 基<br />

づいた 教 理 以 外 は 受 け 入 れてはならないと、 彼 は 断 言 した。この 言 葉 は、 法 王 至 上 権<br />

の、まさにその 根 底 を 危 うくすろものであった。この 言 葉 には、 宗 教 改 革 の 極 めて 重<br />

大 な 原 則 が 含 まれていたのである。<br />

ルターは、 人 間 の 理 論 を 神 のみ 言 葉 よりも 高 めることの 危 険 を 認 めた。 彼 は、 恐 れ<br />

ることなく、 学 者 たちの 思 弁 的 な 不 信 仰 を 攻 撃 し、 長 い 間 人 々を 支 配 してきた 哲 学 や<br />

神 学 に 反 対 した。 彼 は、そうした 研 究 は 無 価 値 であるばかりか 有 害 であると 公 然 と 非<br />

難 し、 聴 衆 の 心 を 哲 学 者 や 神 学 者 の 詭 弁 から 引 き 離 して、 預 言 者 と 使 徒 たちが 示 した<br />

永 遠 の 真 理 に 向 りようと 努 めた。 彼 の 言 葉 を 熱 心 に 聞 いていた 群 衆 にとって、 彼 の 伝<br />

えた 使 命 は 実 に 貴 いものであった。 彼 らは、 今 まで、このような 教 えを 聞 いたことが<br />

なかった。 救 い 主 の 愛 の 福 音 、 彼 の 贖 罪 の 血 による 赦 しと 平 和 の 確 証 は、 彼 らの 心 に<br />

喜 びを 与 え、 不 滅 の 希 望 を 持 たせた。ウィソテンベルクにおいて 点 じられた 光 は 全 地<br />

に 広 がり、 時 の 終 わりまで、その 輝 きを 増 すのであった。<br />

しかし、 光 とやみとは 調 和 することができない。 真 理 と 誤 謬 との 間 には、 抑 えるこ<br />

とのてきない 戦 いがある。その 一 方 を 支 持 して 擁 護 することは、もう 一 方 を 攻 撃 して<br />

打 ち 倒 すことである。 救 い 主 ご 自 身 も、 次 のように 言 われた。「 地 上 に 平 和 をもたら<br />

すために、わたしがきたと 思 うな。 平 和 ではなく、つるぎを 投 げ 込 むためにきたので<br />

ある」[マタイ 10:。ルターは、 宗 教 改 革 が 始 まってから 数 年 後 に、 次 のように 言<br />

っ た。「 神 は、わたしを 導 かれるのではなくて、わたしを 前 に 押 し 出 される。 神 はわ<br />

たしを 連 れ 去 られる。わたしは、 自 分 ではどうにもならない。わたしは 静 かに 暮 らし<br />

たいと 思 うのに、 騒 ぎと 革 命 のなかに 投 げこまれる。」 7 彼 は 今 まさに、 戦 いの 中 へ<br />

とかりたてられようとしていた。<br />

86


国 際 協 定<br />

ローマ 教 会 は 神 の 恵 みを 商 品 にしていた。 両 替 人 の 台 が 祭 壇 のそばにおかれた[マ<br />

タイ 21:12 参 照 ]。そして、 売 買 する 者 の 声 がやかましくひびいた。ローマに 聖 ペテ<br />

ロ 教 会 を 建 設 するための 資 金 募 集 という 名 目 のもとに、 法 王 の 権 威 によって 免 罪 符 [ 贖<br />

宥 状 ]が 公 然 と 売 り 出 された。 神 を 礼 拝 するための 会 堂 が、 犯 罪 の 代 価 をもって 建 てら<br />

れ、その 礎 石 が、 不 義 の 値 をもって 置 かれようとしていた。しかし、ローマの 勢 力 拡<br />

大 の 千 段 そのものが、ローマの 権 力 と 勢 力 に 対 して 致 命 的 打 撃 を 与 えるものとなった。<br />

そして、これが、 法 王 制 に 対 する 最 も 手 ごわい 強 敵 を 呼 び 起 こし、 法 王 の 座 を 動 揺 さ<br />

せてその 頭 上 から 三 重 冠 をつき 落 とすような 戦 いを 招 いたのであった。<br />

ドイツにおいて 免 罪 符 の 販 売 を 委 ねられたのは、テッツェルという 人 であった。 彼<br />

は、 社 会 と 神 の 律 法 に 対 して、 最 も 卑 劣 な 犯 罪 を 犯 した 人 物 であった。しかし 彼 は、<br />

その 犯 罪 の 刑 罰 を 免 除 されて、 法 王 の 金 銭 ずくで 無 節 操 な 企 てを 促 進 するために 雇 わ<br />

れたのである。 彼 は、 非 常 なずうずうしさで、 根 も 葉 もないことを 口 にし、 無 知 でだ<br />

まされやすい 迷 信 的 な 人 々を 欺 くために、 不 思 議 な 物 語 を 聞 かせた。もしも 人 々が 神<br />

の 言 葉 を 持 っていたならば、このように 欺 かれなかったことであろう。 型 書 か 人 々の<br />

手 に 与 えられていなかったのは、 彼 らを 法 王 権 の 支 配 下 において、その 野 心 的 な 指 導<br />

者 たちの 権 力 と 富 を 増 大 するためであった。 8<br />

テッツェルが 町 に 到 着 すると、 彼 の 前 に 使 いの 者 が 行 って、「 神 と 法 王 の 恵 みが、<br />

あなたの 門 口 に 来 た」と 告 げ 知 らせ。 9 そして 人 々は、 天 から 彼 らのところに 下 った<br />

神 ご 自 身 を 迎 えるかのように、この 冒 瀆 もはなはだしい 偽 り 者 を 歓 迎 したのであった。<br />

汚 らわしい 売 買 が 教 会 の 中 で 行 われ、テソツェルは 説 教 壇 に 上 って 免 罪 符 をほめ 上 け、<br />

これは 神 の 最 も 尊 い 賜 物 であると 言 った。 彼 は 免 罪 箱 の 功 徳 を 述 べて、これを 買 う 者<br />

は、これから 犯 そうと 思 う 罪 もみな 赦 される、しかも「 悔 い 改 めさえ 必 要 ではない」<br />

と 言 った。 10 そればかりではなくて、 彼 は 聴 衆 に、 免 罪 符 は 生 きている 者 だけでなく<br />

て、 死 者 をも 救 う 力 がある、 金 が 箱 の 底 に 当 たって 音 がした 瞬 間 に、それが 支 払 われ<br />

た 魂 は 煉 獄 を 逃 れて 天 国 に 行 くのである、と 保 証 した。 11<br />

魔 術 師 シモンが、 奇 跡 を 行 う 力 を、 使 徒 たちから 金 銭 で 買 おうとした 時 に、ペテロ<br />

は 彼 に 答 えて、「おまえの 金 は、おまえもろとも、うせてしまえ。 神 の 賜 物 が、 金 で<br />

得 られるなどと 思 っているのか」と 言 った[ 使 徒 行 伝 8:。しかしテッツェルの 申 し 出<br />

に 対 し、 多 くの 人 々は 熱 心 に 飛 びついた。 金 銀 が 彼 の 金 庫 に 流 れ 込 んだ。 悔 い 改 めと<br />

信 仰 、そして 熱 心 に 努 力 して 罪 に 抵 抗 し 勝 利 することによって 得 られる 救 いよりは、<br />

金 で 買 うことができる 救 いのほうが、たやすく 得 られるのであった。<br />

87


国 際 協 定<br />

免 罪 符 の 教 義 は、ローマ 教 会 の 学 識 ある 信 心 深 い 人 々から 反 対 されてきた。そして、<br />

理 性 と 啓 示 の 両 面 から 見 ても 非 常 に 矛 盾 したこの 主 張 を、 信 じない 人 々も 多 かった。<br />

この 邪 悪 な 売 買 に、あえて 反 対 の 声 をあげる 高 位 聖 職 者 はいなかった。しかし、 人 々<br />

の 心 は 混 乱 し、 不 安 になった。そして 多 くの 者 は、 神 がだれかを 起 こして、 教 会 のき<br />

よめのためにお 働 きにならないであろうかと 熱 心 にたずねた。 ルターは、 依 然 として<br />

最 も 厳 格 な 法 王 教 徒 であったが、 免 罪 符 を 扱 う 者 たちの 冒 瀆 的 な 僣 越 な 態 度 に 激 しい<br />

嫌 悪 をおほえた。 彼 自 身 の 会 衆 のなかに、 免 罪 符 を 買 ったものが 多 くいた。そしてま<br />

もなく、 彼 らは、 罪 を 悔 いて 改 革 したいという 理 由 からではなくて、 免 罪 符 を 理 由 に<br />

して、 司 祭 のところに 来 て 罪 を 告 白 し、 赦 しを 期 待 するようになった。ルターは、 彼<br />

らに 赦 しを 与 えることを 拒 んだ。そして、もしも 彼 らか 梅 い 改 めて 生 活 を 改 めるので<br />

なければ、その 罪 のために 滅 びなければならないと 警 告 した。 彼 らは 非 常 に 当 惑 し、<br />

テッツェルのところへ 行 って 彼 らの 聴 罪 師 が 免 罪 符 を 拒 否 したことを 訴 え、なかには<br />

大 胆 に 返 金 を 迫 る 者 もあった。テッツェルは 激 怒 した。 彼 は 恐 ろしいのろいの 言 葉 を<br />

はき、 町 の 広 場 に 火 をたかせて、「 自 分 は、この 最 も 神 聖 な 免 罪 符 に 反 対 する 異 端 者<br />

はみな 火 刑 にする 命 令 を、 法 王 から 受 けている」と 宣 言 した。 12<br />

今 やルターは、 真 理 の 闘 士 としての 彼 の 仕 事 に、 大 胆 に 乗 り 出 した。 彼 は 説 教 増 か<br />

ら、 熱 心 で 厳 粛 な 警 告 の 声 をあげた。 彼 は 人 々に、 罪 のいまわしい 性 質 を 告 げ、 人 間<br />

は 自 分 自 身 の 行 為 によっては、そのとがを 減 じることも 罰 を 避 けることもできないと<br />

教 えた。 神 に 対 する 悔 い 改 めと、キリストに 対 する 信 仰 以 外 に、 罪 人 を 救 うことがで<br />

きるものはない。キリストの 恵 みを 買 うことはできない。それは、 無 償 で 与 えられる<br />

賜 物 である。 彼 は 人 々に、 免 罪 符 を 買 ったりしないで、 十 字 架 につけられた 贖 い 主 を<br />

信 仰 をもって 見 つめることを 勧 めた。<br />

彼 は、 自 分 が 難 行 や 苦 行 によって 救 いを 得 ようとしたが 得 られなかった 苦 い 経 験 を<br />

語 り、 自 分 を 見 ないでキリストを 信 じることによって 平 和 と 喜 びを 得 たことを、 聴 衆<br />

にはっきり 述 べたのである。 テッツェルが 売 買 と 不 敬 慶 な 主 張 を 続 けたので、ルター<br />

はこのはなはだしい 悪 弊 に 対 して、もっと 効 果 的 な 抗 議 をする 決 心 をした。まもなく、<br />

その 機 会 がやって 来 た。ウィッテンベルクの 城 教 会 には 多 くの 遺 物 があって、 祝 祭 日<br />

には 一 般 に 公 開 され、その 時 に 教 会 に 出 席 して 告 白 をする 者 はみな、 罪 が 完 全 に 赦 さ<br />

れるのであった。そのようなわけで、そういう 祝 祭 日 には、 人 々がたくさん 集 まって<br />

きた。 祝 祭 日 のうちで 最 も 重 要 なものの 1 つで、 力 型 節 というのが 近 づついていた。<br />

その 前 日 、ルターは、すでに 教 会 へと 進 んで 行 く 群 衆 に 加 わって、 免 罪 符 の 教 義 に 反<br />

対 する 95 か 条 の 提 題 を 書 いた 紙 を 扉 にはった。 彼 は、この 提 題 に 反 対 するすべての<br />

人 に 対 して、 翌 日 大 学 において 喜 んで 答 弁 することを 宣 言 した。<br />

88


国 際 協 定<br />

彼 の 提 題 は 広 く 一 般 の 注 目 をひいた。 人 々はそれを 何 度 も 読 み、 各 方 面 に 伝 えた。<br />

大 学 や 町 全 体 に、 大 きな 興 奮 が 起 こった。これらの 論 題 は、 罪 を 赦 し、その 罰 を 免 除<br />

する 力 が、 法 王 にも 他 のどんな 人 にも 与 えられていないことを 爪 していた。そうした<br />

たくらみ 全 体 が、もともとまやかしごと—— 人 々の 迷 信 に 乗 じて 金 を 巻 き 上 げるため<br />

の 策 略 ——であって、その 偽 りの 主 張 に 信 頼 するすべての 名 を 滅 ぼそうとするサタン<br />

の 計 略 であった。 論 題 はまた、キリストの 福 音 は 教 会 の 最 も 価 値 のある 宝 であること、<br />

そしてそこにあらわされた 神 の 恵 みは、 悔 い 改 めと 信 仰 とによって 求 めるすべての 者<br />

に、 惜 しみなくうえられるものであることを 明 示 していた。<br />

ルターの 論 題 は 討 論 を 呼 びかけた。しかしだれもその 挑 戦 に 応 じなかった。 彼 が 提<br />

出 した 問 題 は、 数 口 のうちにドイツ 全 国 に 広 まり、 数 週 間 のうちには 全 キリスト 教 国<br />

に 伝 えられた。 教 会 内 で 一 般 に 行 われていた 罪 悪 を 見 て、それを 嘆 いていたが、その<br />

進 行 をどうやって 止 めるかを 知 らなかった 多 くのローマ 教 徒 たちは、 論 題 を 読 んて 非<br />

常 に 喜 び、そこに 神 の 声 を 認 めた。 彼 らは、 法 王 庁 から 発 する 堕 落 の 潮 流 を 阻 止 する<br />

ために、 神 が 恵 み 深 いみ 手 をのべられたと 感 じた。 諸 侯 や 長 官 たちも、 自 己 の 決 定 に<br />

対 しては 他 のだれの 訴 えをも 入 れないような 尊 大 な 権 力 が 阻 止 されることを、ひそか<br />

に 喜 んだ。<br />

ところが、 罪 を 愛 する 迷 信 的 な 群 衆 は、 彼 らの 恐 怖 を 和 らげていた 詭 弁 が 一 掃 され<br />

て 戦 標 した。 悪 賢 い 聖 職 者 たちは、 犯 罪 を 是 認 する 彼 らの 仕 事 が 妨 害 され、 彼 らの 利<br />

益 が 危 険 にひんしたのを 見 て、 大 いに 怒 り、その 欺 瞞 を 擁 護 するために 立 ち 上 がった。<br />

改 革 者 は 手 きびしい 告 発 にあった。ある 者 たちは、ルターが 軽 率 に 衝 動 的 な 行 動 を 起<br />

こしたと 言 って 非 難 した。 他 の 者 たちは、 彼 を 借 越 であると 非 難 し、 彼 は 神 に 導 かれ<br />

ているのではなくて、 高 慢 とでしゃばりから 行 動 したと 言 った。ルターは 答 えて 言 っ<br />

た。「だ れでも、 新 しい 急 見 を 発 表 する 時 には、いかにも 高 慢 に 見 え、 論 争 をひき 起<br />

こすかのように 非 難 されるのを 知 らない 人 があろうか。……なぜ、キリストとすべて<br />

の 殉 教 者 たちは 殺 されたのか? それは、 彼 らが、その 時 代 の 知 恵 を 高 慢 にも 軽 べつ<br />

するように 見 え、まず 昔 からの 神 託 を 謙 そんに 聞 くことをせずに、 自 分 たちの 新 しい<br />

説 を 主 張 したからであろ。」<br />

また、 彼 は、 面 った。「わたしのすろことは、 人 間 の 思 慮 分 別 ではなくて、 神 の 勧<br />

告 に 基 づいて 行 われる。この 働 きが 神 のものであれば、だれがそれを 止 め 得 ようか。<br />

もしそれが 神 のものでないならば、だれがそれを 押 し 進 め 得 ようか。わたしの 意 志 、<br />

彼 らの 意 志 、われわれの 意 志 ではない。 天 にいます、 聖 なる 父 よ、それは、あなたの<br />

意 志 であります。」 13<br />

89


国 際 協 定<br />

ルターは 聖 霊 に 動 かされて 彼 の 働 きを 開 始 したのであったが、それを 推 進 するため<br />

には 激 しく 闘 わなければならなかった。 敵 の 非 難 、 彼 の 目 的 に 対 する 誤 解 、 彼 の 品 性<br />

や 動 機 に 対 する 正 で 悪 意 に 満 ちた 非 難 などが、 洪 水 のように 彼 を 襲 い、 彼 はそれに 悩<br />

まされた。 彼 は、 教 会 においても 学 校 においても、 人 々の 指 導 者 たちは 喜 んで 彼 と 一<br />

致 して 改 革 のために 努 力 するものと 確 信 していた。 高 い 地 位 の 人 々から 受 けた 激 励 の<br />

言 葉 が、 彼 に 喜 びと 希 望 を 与 えた。すでに 彼 は、 教 会 の 輝 かしい 夜 明 けを 予 見 してい<br />

たのである。それだのに、 激 励 は 非 難 と 有 罪 の 宣 告 に 変 わった。 教 会 と 国 家 の 両 方 の<br />

高 官 たちの 多 くは、 彼 の 主 張 の 真 実 であることを 確 信 したけれども、これらの 真 理 を<br />

受 け 入 れるならば 大 変 化 が 起 こることに、すぐに 気 づいたのである。 人 々を 啓 蒙 し 改<br />

革 することは、 事 実 上 、ローマの 権 力 をくつがえすことであって、その 金 庫 に 流 れ 込<br />

んでいる 幾 千 の 流 れを 止 め、 法 王 制 の 指 者 たちの 浪 費 とぜいたくを 大 いに 削 減 するこ<br />

とになるのであった。そればかりか、 人 々に、キリストだけに 救 いを 仰 ぎつつ、 責 任<br />

あろ 人 間 として 思 考 し 行 動 するように 教 えることは、 法 王 の 座 をくつがえし、ひいて<br />

は、 彼 ら 自 身 の 権 威 をも 失 わせるのであった。このようなわけで、 彼 らは、 神 から 与<br />

えられた 知 識 を 拒 んだ。そして、 神 が 彼 らを 啓 蒙 するためにお 送 りになった 人 間 に 反<br />

対 することにより、キリストと 真 理 とに 対 抗 したのである。<br />

ルターは 自 分 自 身 を 見 た 時 震 えおののいた。ただ 1 人 の 人 間 が、 地 上 最 強 の 権 力 に<br />

反 対 しているのであった。 彼 は、 自 分 がほんとうに 神 に 導 かれて 教 会 の 権 威 に 対 抗 し<br />

ているのかどうか 疑 う 時 もあった。「 地 上 の 王 たちと 全 世 界 がおそれおののく 法 王 の<br />

威 光 に 反 対 するわたしは、いったいだれであろうか。…… 最 初 の 2 年 間 、わたしがど<br />

んなに 苦 しんだか、また、どんな 失 望 、いやどんな 絶 望 に 陥 ったかは、だれにもわか<br />

らない」と 彼 は 書 いている。 14 しかし 彼 は、 落 胆 したまま 放 置 されてはいなかった。<br />

人 間 の 支 持 を 失 った 時 、 彼 は、ただ 神 を 仰 いだ。そして、その 全 能 の 腕 にたよれば 絶<br />

対 に 安 全 であることを 学 んだ。<br />

ルターは、 宗 教 改 革 の 友 人 に 次 のように 書 いた。「われわれは 研 究 や、 知 力 によっ<br />

て 聖 書 を 理 解 することはできない。まず 第 一 になすべきは、 祈 って 始 めることである。<br />

主 が 大 きな 憐 れみによって、 主 のみ 言 葉 に 対 する 真 の 理 解 を 与 えてくださるよう 祈 り<br />

求 めねばならない。<br />

『 彼 らはみな 神 に 教 えられるであろう』と 神 ご 自 身 が 言 われたように、 神 のみ 言 葉<br />

の 解 釈 者 は、この 言 葉 の 著 者 以 外 にはないのである。 自 分 自 身 の 努 力 、 自 分 自 身 の 理<br />

解 にたよらず、 全 く 神 に 頼 り、 神 の 霊 の 感 化 に 頼 るべきである。これは、 体 験 した 者<br />

の 言 葉 として、 信 じてほしい。」 15 ここに、 神 は 自 分 たちに 現 代 に 対 する 厳 粛 な 真 理<br />

を 他 の 人 々に 伝 えるよう 求 めておられると 感 しる 者 への 重 大 な 教 訓 がある。この 真 理<br />

90


国 際 協 定<br />

は、サタンの 憎 しみと、 彼 かたくらんだ 作 り 話 を 愛 する 人 々の 憎 しみをかき 立 てる。<br />

悪 の 勢 力 との 闘 いにおいては、 知 力 や 人 間 の 知 恵 以 上 の 何 物 かが 必 要 なのである。<br />

敵 が、 習 慣 や 伝 説 、あるいは 法 王 の 主 張 や 権 威 に 訴 えた 時 に、ルターは、 聖 書 、し<br />

かも 聖 書 のみをもって 彼 らに 対 抗 した。 聖 書 には、 彼 らが 答 えろことの できない 論 証<br />

があった。そこで、 形 式 主 義 と 迷 信 の 奴 隷 たちは、ユダヤ 人 がキリストの 血 を 求 めた<br />

ように、 彼 の 血 を 叫 び 求 めた。ローマの 熱 心 党 は 叫 んだ。「 彼 は 異 端 だ。このような<br />

恐 ろしい 異 端 者 を 1 時 間 でも 生 かしておくことは 教 会 に 対 する 大 逆 罪 である。 直 ちに<br />

彼 の 処 刑 台 を 作 ろう。」 16 しかし、ルターは 彼 らの 怒 りの 犠 牲 にならなかった。 神 は、<br />

彼 がなすべき 仕 事 を 持 っておられた。そして、 彼 を 守 るために 天 使 が 送 られた。しか<br />

し、ルターから 尊 い 光 を 受 けた 多 くの 者 が、サタンの 怒 りの 目 標 となって、 真 理 のた<br />

めに 恐 れることなく 責 め 苦 にあい、 殺 された。<br />

ルターの 教 えは、ドイツ 全 国 の 識 者 の 注 意 を 引 いた。 彼 の 説 教 と 著 書 から 光 が 輝 き<br />

出 て、 幾 千 という 人 々を 目 覚 めさせ 啓 発 した。 生 きた 信 仰 が、 教 会 を 長 い 間 縛 ってい<br />

た 生 気 のない 形 式 主 義 に 取 って 氏 わりつつあった。 人 々は、 日 ごとに、ローマ 教 の 迷<br />

信 を 信 じなくなった。 偏 見 の 防 壁 がくずれつつあった。ルターがすべての 教 義 とすべ<br />

ての 主 張 を 吟 味 した 神 の 言 葉 は、 人 々の 心 をえぐるもろ 刃 の 剣 のようであった。 至 る<br />

所 で 霊 的 向 上 の 欲 求 が 起 こった。 長 年 起 こったこともないような、 義 に 対 する 飢 えと<br />

渇 きが 全 る 所 に 起 こった。 長 い 間 、 人 間 の 儀 式 と 地 上 の 仲 保 者 に 向 けられていた 人 々<br />

の 目 が、 今 や 悔 い 改 めと 信 仰 をもってキリストと 彼 の 十 字 架 とに 向 けられた。<br />

このような 関 心 が 広 く 行 きわたったことは、なおいつそう 法 王 側 の 当 局 者 たちを 恐<br />

れさせた。ルターは、 異 端 の 訴 えに 答 えるためにローマに 出 頭 せよという 命 令 を 受 け<br />

た。 彼 の 友 人 たちは、この 命 令 に 震 えおののいた。 彼 らは、すでにイエスの 殉 教 者 た<br />

ちの 血 を 飲 んだあの 腐 敗 した 都 において、どんな 危 険 が 彼 を 待 っているかをよく 知 っ<br />

ていた。 彼 らは、ルターがローマへ 行 くことに 反 対 し、 彼 がドイツにおいて 調 べを 受<br />

けるように 願 い 出 た。<br />

この 取 り 決 めは、ついに 実 現 することになり、 法 酷 の 使 節 が、 取 り 凋 へのために 仔<br />

命 された。 法 王 からこの 使 節 に 伝 えられた 指 示 によれは、ルターはすてに 異 端 者 とし<br />

て 宣 告 されていた。それゆえに 使 節 は、「 直 ちに 起 訴 して、 身 柄 を 拘 束 する」ように<br />

命 じられていた。もしも 彼 が 自 分 の 説 を 固 守 して 譲 らず、また 使 節 が 彼 を 逮 捕 しそこ<br />

ねた 時 には、「ドイツ 全 国 において、ルターから 法 律 の 保 護 を 奪 い、 彼 についた 者 を<br />

みな、 追 放 し、のろい、 破 門 する」 権 限 が 彼 に 与 えられていた。 17 そればかりでなく<br />

て、 法 王 は、この 危 険 な 異 端 を 根 絶 するために、ルターと 彼 の 支 持 者 たちを 捕 らえて<br />

91


国 際 協 定<br />

ローマの 裁 判 所 に 送 ろことを 怠 ったものは、 皇 帝 を 別 として、 教 会 や 国 家 のどんな 高<br />

官 であろうともすべての 者 を 破 門 するように、 使 節 に 命 じた。<br />

ここに 法 王 教 の 真 の 精 神 があらわれている。この 記 録 全 体 のなかに、キリスト 教 の<br />

原 則 の 痕 跡 どころか、 一 般 の 正 義 の 痕 跡 さえみられない。ルターは、ローマから 遠 く<br />

離 れており、 自 分 の 立 場 を 説 明 したり 弁 護 したりする 機 会 がなかった。にもかかわら<br />

ず、 彼 は、その 事 件 が 調 査 される 前 に、 即 刻 異 端 の 宣 告 を 受 け、しかもその 同 じ 日 に、<br />

戒 告 、 告 訴 、 裁 判 、 判 決 を 受 けている。そしてこうしたことはすべて、 教 会 あるいは<br />

国 家 において 唯 一 で 最 高 の 無 謬 の 権 威 をもっ 聖 なる 父 と 自 称 する 者 によって 行 われた<br />

のである。 ルターが 真 の 友 の 同 情 と 勧 告 を 大 いに 必 要 としていたこの 時 に、 神 は 摂 理<br />

のもとに、メランヒトンをウィッテンベルクに 送 られた。メランヒトンは、 年 は 若 く、<br />

謙 そんでひかえめな 態 度 の 人 であったが、 彼 の 公 正 な 判 断 、 該 博 な 知 識 、 人 を 引 きつ<br />

ける 雄 弁 は、 彼 の 高 潔 で 厳 正 な 品 性 とともに、 一 般 の 賞 賛 と 尊 敬 を 受 けた。 彼 は 優 れ<br />

た 才 能 に 恵 まれていたが、その 温 順 な 性 質 のほうが 目 立 っていた。 彼 はまもなく、 福<br />

音 の 熱 心 な 使 徒 となり、ルターの 最 も 信 頼 する 友 、 貴 重 なと 持 者 となった。 彼 の 温 順<br />

慎 重 できちょうめんな 活 動 は、ルターの 勇 敢 で 精 力 的 な 面 をよく 補 った。 彼 らが 協 力<br />

したことは 宗 教 改 革 に 力 をそえ、ルターにとって、 大 きな 励 ましの 源 であった。<br />

審 問 の 場 所 はアウグスブルクに 決 まり、 改 革 者 ルターは 徒 歩 でそこへ 出 発 した。 人<br />

々は、 彼 の 身 の 安 全 を 憂 慮 した。 途 中 で 彼 を 捕 らえて 殺 害 するという 脅 迫 が 公 然 と 行<br />

われていたので、 彼 の 友 人 たちは 行 かないようにたのんだ。 彼 らはルターに、しばら<br />

くウィッテンベルクを 離 れて、 彼 を 快 く 保 護 してくれる 者 のところに 避 難 するように<br />

勧 めさえした。しかし、 彼 は、 神 が 彼 を 置 かれた 場 所 を 離 れようとしなかった。どん<br />

なあらしが 吹 きよせようとも、 彼 は 忠 実 に 真 理 を 保 持 し 続 けなければならなかった。<br />

彼 は 次 のように 1 丁 った。「わたしは、 争 いと 闘 争 の 人 、エレミヤのようである。し<br />

かし、 彼 らが 激 しく 脅 迫 すればするほど、わたしの 喜 びは 増 し 加 わる。…… 彼 らはす<br />

でに、わたしの 名 誉 と 評 判 を 傷 つけた。ただ 1 つだけ 残 っている。それはわたしの 哀<br />

れな 体 である。これを 持 っていくがよい。こうして 彼 らは、わたしの 命 を 数 時 間 縮 め<br />

ることができよう。しかし 彼 らは、わたしの 魂 を 取 ることはできない。キリストの 言<br />

葉 を 世 界 に 宣 言 しようとするものは、いっでも 死 を 覚 悟 しなければならないの<br />

だ。」 18<br />

ルターがアウグスブルクに 到 着 したという 知 らせは、 法 王 の 使 節 を 大 いに 満 足 させ<br />

た。 全 世 界 の 注 目 を 集 めたやっかいな 異 端 者 が、 今 やローマの 権 力 のもとに 入 ったよ<br />

うに 思 われたので、 使 節 は 彼 を 逃 がすまいと 決 心 した。ルターは、 通 行 券 を 手 に 入 れ<br />

ていなかった。 彼 の 友 人 たちは、それを 持 たずに 使 節 の 前 に 出 ることがないように 強<br />

92


国 際 協 定<br />

く 勧 告 し、 彼 ら 自 身 が、それを 皇 帝 から 入 手 するようにした。 使 節 は、できればルタ<br />

ーを 強 いて 自 説 を 撤 回 させようとし、もしそれができない 場 合 には、 彼 をローマへ 送<br />

り、フスやヒエロニムスと 同 じ 運 命 に 陥 れようとしていた。そこで 彼 は、 彼 の 部 下 を<br />

用 いて、ルターを 通 行 券 なしで 出 頭 さぜ、 彼 の 手 中 に 身 をゆだねさせようとした。ル<br />

ターは、そうすることを 断 然 拒 否 した 彼 は、 皇 帝 の 保 護 を 保 証 する 文 書 を 受 け 取 る<br />

までは、 法 王 使 節 の 前 に 出 なかった。<br />

法 王 側 は 策 の 1 つとして、うわべの 穏 やかさでルターを 説 き 伏 せようとした。 使 節<br />

は 彼 との 会 談 において、 非 常 に 友 好 的 な 態 度 を 示 した。しかし、 彼 は、ルターが 教 会<br />

の 権 威 に 絶 対 的 に 服 従 すること、そして、 議 論 や 質 問 の 余 地 なくすべての 点 において<br />

服 従 することを 要 求 した。 彼 は、 自 分 が 相 手 にしなけれはならない 人 物 の 性 格 を、 止<br />

しく 評 価 していなかった。ルターは、それに 答 えて、 教 会 に 対 する 彼 の 関 心 、 真 理 に<br />

対 する 願 いを 述 べた。そして、 彼 が 教 えたことに 対 する 反 対 には、すべて 答 える 用 意<br />

があり、また、どこかの 有 力 な 大 学 に 彼 の 教 説 の 検 討 をゆだねる 用 意 があると 言 った。<br />

しかし 彼 はそれとともに、 彼 の 誤 りを 証 明 もせずに 取 り 消 しを 要 求 する 枢 機 卿 のやり<br />

り 方 に 講 義 した。<br />

唯 一 の 返 答 は、「 取 り 消 せ、 取 り 消 せ」というにとだけであった。ルターは、 彼 の<br />

主 張 が 聖 書 に 支 持 されたものであることを 示 し、 真 理 を 破 棄 できないことを 断 言 した。<br />

法 王 使 節 は、ルターの 議 論 に 反 諭 できなかった。そこで 彼 は、 言 い 伝 えや 教 父 たちの<br />

言 葉 を 引 用 しながら、 激 しく 責 め、あざ 笑 い、またへつらいなどして、ルターに 話 す<br />

機 会 を 与 えなかった。このような 状 態 で 会 議 を 続 けても 何 もならないので、ルターは、<br />

ついに、 彼 の 答 弁 を 文 書 によって 提 出 すろ 許 可 をやっとのことで 受 けることができ<br />

た。 「こうすることにより、 圧 迫 を 受 けている 者 は 二 重 の 利 益 を 受 ける。 第 一 に、 書<br />

いたものを 他 の 人 々の 判 断 に 訴 えることができる。 次 に、 高 慢 な 言 葉 によって 圧 倒 し<br />

ようとする 横 柄 で 多 弁 な 暴 君 の 良 心 に 訴 えないとしても 恐 怖 心 を 起 こさせ 得 る」とル<br />

ターは、 友 人 に 書 いて 言 った。 19<br />

次 の 会 見 において、ルターは、 数 多 くの 聖 句 の 引 用 によって 十 分 に 支 持 された、 彼<br />

の 主 張 の 簡 潔 明 瞭 で 力 強 い 説 明 を 提 示 した。 彼 は、この 論 文 を、 大 声 で 読 んだあとで、<br />

枢 機 卿 に 手 渡 した。しかし、 彼 は、それを 軽 べつして 投 げすて、むだな 言 葉 と 無 関 係<br />

な 引 用 を 集 めたものにすぎないと 宣 言 した。そこでルターは、 敢 然 と 立 ち、 高 慢 な 枢<br />

機 卿 自 身 の 立 場 ― 言 い 伝 えと 教 会 の 教 え——から 論 じて、 彼 の 憶 説 を 完 全 に 粉 砕 し<br />

た。 法 王 使 節 は、ルターの 論 法 に 勝 てないのを 見 て、 自 制 心 を 失 い、 激 怒 して 叫 ん<br />

だ。「 取 り 消 せ!さもないと、わたしはおまえをローマに 送 り、おまえの 件 を 審 理 す<br />

るように 命 じられた 裁 判 官 たちの 前 に 立 たせる。わたしは、おまえとおまえの 仲 間 、<br />

93


国 際 協 定<br />

そして、いつであろうとおまえを 支 持 する 者 はみな 破 門 し、 教 会 から 追 放 する。」そ<br />

して 最 後 に 彼 は、 怒 気 を 帯 びた 高 慢 な 大 声 をあけて、「 取 り 消 せ。さもないと 2 度 と<br />

帰 るな」と 宣 言 した 20 。<br />

ルターは 直 ちに、 友 人 たちと 退 場 し、 彼 か 取 り 消 す 意 志 のないことを 明 らかに 宣 言<br />

した。これは、 枢 機 卿 が 意 図 していたことではなかった。 彼 は、 累 力 に 訴 えてルター<br />

を 従 わせることかできると 安 易 に 考 えていた。こうして、 自 分 の 側 の 支 持 者 だけと 取<br />

り 残 された 彼 は、 自 分 の 計 画 の 予 期 しない 失 敗 をひどく 無 念 がって、みなの 顔 を 見 ま<br />

わした。 この 時 のルターの 奮 闘 は、 良 い 結 果 をもたらさずにはおかなかった。その 場<br />

にいた 多 くの 人 々は、2 人 の 人 間 を 比 較 する 機 会 が 与 えられ、 彼 らの 立 場 の 力 強 さと<br />

真 実 性 とともに、 彼 らのあらわした 精 神 を 自 分 たちで 判 断 することができたのである。<br />

それらは、なんと 著 しく 異 なっていたことであろう。ルターは、そぼくで 謙 そんで、<br />

神 の 力 によって 堅 く 立 ち、 真 理 の 側 にあった。 しかし、 法 王 の 使 節 は、 尊 大 で 横 柄 、<br />

高 慢 てで 無 分 別 で、 聖 書 に 基 づいた 議 論 は 1 つもせずに、ただ、 激 しく、「 取 り 消 せ、<br />

さもないとローマに 送 られて 罰 せられる」と 叫 んでいた。<br />

ルターは 通 行 券 を 得 ていたにもかかわらず、 法 王 側 は 彼 を 捕 らえて 投 獄 しよっとし<br />

ていた。 彼 の 友 人 たちは、これ 以 上 彼 がとどまっていても 無 益 なので、 直 ちにウィッ<br />

テンベルクに 帰 り、 彼 の 意 向 を 極 秘 にしておくために 細 心 の 注 意 を 払 うようにと 勧 め<br />

た。そこで 彼 は、 長 官 がつけてくれた 案 内 人 1 人 をつれて、 夜 明 け 前 に、アウグスブ<br />

ルクを 馬 に 乗 って 出 発 した。 彼 は、さまざまな 予 感 を 抱 きなから、 静 まりかえった 暗<br />

い 町 の 通 りをひそかに 急 いだ。 残 酷 で 油 断 のない 敵 は、 彼 をなきものにしようと 策 動<br />

していた。 果 たして 彼 は、 彼 らのわなを 逃 れることができるであろうか。この 時 こそ、<br />

非 常 な 心 配 と 熱 心 な 祈 りの 時 であった。 彼 は、 町 の 城 壁 の 小 さな 門 に 到 着 した。 門 は<br />

彼 のために 開 かれ、 彼 は 道 案 内 とともに、なんの 妨 げも 受 けずに 通 りぬけた。こうし<br />

て 安 全 に 外 に 出 るや、 彼 らは 急 いで 逃 げ 去 った。そして、 法 王 使 節 がルターの 出 発 を<br />

聞 く 前 に、 彼 は 迫 害 者 たちの 手 のとどかないところに 行 っていた。サタンと 彼 の 使 者<br />

たちは 敗 北 した。ちょうど、1 羽 の 鳥 が 捕 獲 者 のわなを 逃 れたように、 彼 らは 1 中 に<br />

おさめたと 思 った 者 を 逃 がしてしまったのである。<br />

ルターの 逃 亡 の 知 らせを 聞 いて、 法 王 使 節 は 驚 きと 怒 りに 度 を 失 った。 彼 は、 教 会<br />

を 騒 がせるこの 者 を、 賢 明 に、かつ 断 固 として 処 置 することによって、 大 きな 栄 誉 を<br />

受 けることを 期 待 していたのであった。しかし、 彼 の 希 望 はかなえられなかった。 彼<br />

は、ザクセン[サクソニア]の 選 挙 侯 フリードリヒに 手 紙 を 書 いて 憤 りをもらし、 激 し<br />

くルターを 非 難 し、フリードリヒがルターをローマに 送 るか、それともザクセンから<br />

追 放 することを 要 求 した。 ルターは、 自 分 を 弁 護 して、 使 節 または 法 王 が 聖 書 に 基 づ<br />

94


国 際 協 定<br />

いて 彼 の 誤 りを 示 すよう 求 め、もし 彼 の 教 義 が 神 のみ 言 葉 と 矛 盾 していることを 示 し<br />

得 るならば、 彼 はそれらを 放 棄 するときわめて 厳 粛 に 誓 った。そして、 彼 は、このよ<br />

うな 聖 なる 運 動 のために 苦 しむに 足 るものとされたことを 神 に 感 謝 した。 選 挙 侯 は、<br />

まだ 改 革 の 教 義 についての 知 識 はほとんどなかったが、ルターの 率 直 で 力 強 い 明 快 な<br />

言 葉 に 深 く 感 動 した。そして、ルターが 誤 っているということが 証 明 されるまで、フ<br />

リードリヒは 彼 の 保 護 者 となる 決 心 をした。 法 王 使 節 の 要 求 に 答 えて、 彼 は 次 のよう<br />

に 潟 いた。「『アウグスブルクにおいて、マルチン 博 士 があなたの 前 に 出 頭 したので<br />

あるから、それで 満 足 されるべきである。われわれは、あなたが 彼 の 誤 りを 説 得 せず<br />

に 取 り 消 しを 迫 るとは 考 えていなかった。わが 国 の 識 者 はだれ 1 人 として、マルチン<br />

博 士 の 教 義 が、 不 敬 、 反 キリスト 教 的 、あるいは 異 端 的 であるとは 言 っていない。』<br />

さらに、 選 挙 侯 は、ルターをローマに 送 ること、あるいは 彼 の 国 から 追 放 することを<br />

拒 否 した。」 21<br />

選 挙 侯 は、 社 会 の 遵 徳 的 抑 制 が 一 般 に 崩 れつつあるのを 見 た。 改 革 の 王 一 大 事 業 が<br />

必 要 てあった。もしも 人 々が 神 の 律 法 を 認 めて 従 い、 啓 発 された 良 心 の 命 令 に 従 うな<br />

らば、 複 雑 で 広 範 囲 に 及 ぶ 禁 令 や 罰 則 は 不 必 要 になるのであった。 彼 は、ルターがこ<br />

の 目 的 を 達 成 するために 活 動 しているのを 認 め、 教 会 内 に 良 い 感 化 か 及 んでいるのを<br />

心 ひそかに 喜 んだ。 彼 はまた、ルターが 大 学 の 教 授 として 大 いに 成 功 を 収 めているの<br />

を 認 めた。ルターが 城 教 会 に 彼 の 論 題 を 掲 示 してから 1 年 が 経 過 しただけであるが、<br />

すでに 万 聖 節 の 時 に 教 会 に 出 席 する 巡 礼 の 数 は、いちじるしく 減 少 した。ローマの 礼<br />

拝 者 と 献 金 は 減 少 したが、そのかわりに 別 の 階 層 の 人 々がウィッテンベルクにやって<br />

来 た。 彼 らは 聖 遺 物 を 崇 拝 する 巡 礼 者 たちではなくて、 大 学 の 教 室 を 満 たすところの<br />

学 生 たちであった。ルターの 著 書 は、 至 る 所 で、 聖 書 に 対 する 新 しい 興 味 をよび 起 こ<br />

し、ドイツ 全 国 からだけでなく、 他 の 国 々からも 学 生 が 大 学 に 群 がって 来 た。ウィッ<br />

テンベルクを 初 めて 望 み 見 た 青 年 たちは、「 彼 らの 手 を 天 にあげ、むかしのシオンか<br />

らのように、この 町 から 真 理 の 光 が 輝 き 出 るようになったことを 神 に 感 謝 した。その<br />

光 は、ここから、 最 も 遠 い 国 々にまで 広 がったのであった。」 22<br />

ルターは、またローマ 教 の 誤 りから 部 分 的 に 改 宗 したにすきなかった。しかし、 聖<br />

書 を 法 王 の 教 書 や 法 典 と 比 較 した 時 に、 彼 は、 驚 きに 満 たされた。「わたしは、 今 、<br />

法 王 の 教 書 を 読 んでいる。そして、…… 法 王 が 反 キリスト 自 身 であるのか、それとも<br />

彼 の 使 徒 であるのか、わたしは 知 らない。だがキリストは、 教 書 のなかで、はなはだ<br />

しく 誤 り 仏 えられ、 十 字 架 につけられている」と 彼 は 書 いた。 23 しかしルターは、こ<br />

の 時 はまたローマ 教 会 の 支 持 者 であって、その 教 会 の 交 わりから 分 離 することなど 考<br />

えてもいなかったのである。<br />

95


国 際 協 定<br />

ルターの 著 書 と 教 義 とは、 全 キリスト 教 国 に 広 がっていった。 運 動 は、スイスとオ<br />

ランダにも 広 が 自 た 彼 の 著 書 の 何 冊 かは、フランスとスペインにも 入 っていった。 英<br />

国 では、 彼 の 教 えは 生 命 の 言 葉 として 迎 えられた、 真 理 は、ベルギーやイタリアにも<br />

及 んた 幾 千 のものが、 死 んたような 眠 りから、 信 仰 生 活 の 喜 ひと 希 望 とに 目 覚 めつつ<br />

あった。 ルターの 攻 撃 によって、ローマはますます 激 怒 したそして、 彼 の 熱 狂 的 な 敵<br />

たちのあるもの、また、カトリックノ 大 学 の 博 士 たちでさえ、この 反 逆 的 修 道 士 を 殺<br />

しても 罪 にならないと 宣 言 した。ある 日 、1 人 の 見 知 らぬ 人 が、ピストルを 外 套 の 下<br />

に 隠 して、ルターに 近 つき、なぜこのように 1 人 で 歩 いているのかを 聞 いた。ルター<br />

は 答 えて、「わたしは、 神 の 手 の 中 にある。 神 はわたしの 力 、わたしの 盾 である。 人<br />

間 はわたしに 何 をすることができようか」と 言 った。 24 この 言 葉 を 聞 いて、 見 知 らぬ<br />

人 は 真 っ 青 になり、 天 使 の 前 から 逃 けるように、 去 っていった。<br />

ローマは、ルターをなきものにしようとしていた。しかし、 神 か 彼 の 防 御 であった。<br />

彼 の 教 義 は 至 る 所 の「 民 家 に、 修 道 院 に…… 貴 族 の 城 に、 大 学 に、そして 王 の 宮 殿 に」<br />

伝 えられた。そして、 貴 族 たちは、 彼 の 運 動 を 支 持 するために 立 ち 上 がってい<br />

た。 25 ちょうどこのころ、ルターはフスの 著 書 を 読 み、 彼 自 身 が 支 持 し 教 えていた 信<br />

仰 による 義 という 大 真 理 が、ボヘミアの 改 革 者 によって 唱 えられていたことを 知 った<br />

のである。 「パウロ、アウクスティヌス、そしてわたしは、 知 らずしてフベ 派 てあっ<br />

た」とルターは 言 った。「 真 理 は 1 世 紀 に 前 に 伝 えられ、しかも 焼 かれたことに 対 し<br />

て、 神 は 必 ず 世 界 を 裁 かれるであろう」と、 彼 は 紅 けた。 26<br />

キリスト 教 の 改 革 についてドイツの 皇 帝 と 貴 族 とに 訴 えた 中 で、ルターは、 法 王 の<br />

ことを 次 のように 書 いた。「キリストの 代 理 であると 自 分 で 主 張 する 人 間 が、 どんな<br />

皇 帝 も 及 ばないような 豪 華 さを 誇 示 するのを 見 るのは、 恐 るべきことである。この 者<br />

は、 貧 しいイエス、または 謙 そんなペテロに、 似 ているであろうか。 人 々は、 彼 が 世<br />

界 の 主 であると 言 っている。しかし、 彼 が、 代 理 者 であると 誇 っているキリストは、<br />

『わたしの 国 はこの 世 のものではない』と 言 われた。 代 理 者 の 国 は、 彼 の 主 の 国 より<br />

広 くてよいてあろうか。」 27 彼 は、 大 学 について、このように 書 いた。「 大 学 という<br />

ところは、 聖 書 を 説 明 し、それを 青 年 たちの 心 に 刻 みこむために 熱 心 に 努 力 するので<br />

なければ、 地 獄 の 大 きな 門 になってしまうのではないかと、わたしは 恐 れる。わたし<br />

は、だれも 聖 書 が 最 高 位 を 占 めていないところに 子 供 を 送 らないよう 勧 告 する。 人 々<br />

が 神 の 言 葉 を 絶 えず 研 究 していない 学 校 は、すベて 腐 敗 するにきまっている。」 28 こ<br />

うした 訴 えは、 速 やかにドイツ 全 国 に 配 布 され、 人 々に 強 力 な 影 響 を 及 ぼした。 全 国<br />

民 が 奮 い 立 ち、 群 衆 は 改 革 の 旗 のもとに 結 集 した。ルターの 敵 たちは、 復 讐 の 念 に 燃<br />

え、 彼 に 対 して 断 固 とした 処 置 をとるように、 法 王 に 迫 った。そこで、 彼 の 教 義 を 直<br />

96


国 際 協 定<br />

ちに 禁 止 する 命 令 か 出 された。ルターと 彼 の 支 持 者 たちには、60 日 間 の 猶 予 が 与 えら<br />

れた。そして、もしその 後 も 取 り 消 さないならば、 彼 らはみな 破 門 されるのであっ<br />

た。<br />

これは、 宗 教 改 革 にとって、 非 常 な 危 機 であった。 幾 世 紀 の 間 、ローマの 破 門 宣 告<br />

は、 有 力 な 君 主 たちを 震 えあがらせ、 強 力 な 帝 国 を 悲 嘆 と 荒 廃 に 陥 れてきた。 破 門 さ<br />

れた 人 々は、 一 般 の 人 々から 恐 怖 と 嫌 悪 の 情 をもって 見 られ、 仲 間 との 交 際 を 絶 たれ<br />

法 律 の 保 護 外 のものとされて、かり 出 されて 処 刑 されるのであった。ルターは、 彼 の<br />

まわりに 吹 き 荒 れる 暴 風 雨 に 気 づかないわけではなかった。しかし 彼 は 堅 く 立 って、<br />

キリストが 彼 の 支 持 者 てあり 盾 であろことを 信 じた。 殉 教 者 の 信 仰 と 勇 気 をもって、<br />

彼 は 次 のように 書 いた。「 何 が 今 起 ころうとしているか、わたしは 知 らない。また 知<br />

ろうとも 思 わない。……どこに 打 撃 が 加 えられようとも、わたしは 恐 れない。 木 の 葉<br />

1 枚 でも、 神 のみ 心 てなければ 落 ちないのだ。まして 神 は、われわれをどんなにみ 心<br />

にとめておられることであろう。 肉 体 をとって 来 られたみ 言 葉 イエスご 自 身 がなくな<br />

られたのであろから、み 言 葉 のために 死 ぬことは 何 でもない。もしわれわれが 彼 と 共<br />

に 死 ぬならば、 彼 と 共 に 生 きろのである。そして、 彼 がわれわれに 先 だって 通 られた<br />

ものをわれわれも 通 り、われわれは 彼 がおられうところへ 行 き、 彼 と 共 に 永 遠 に 住 む<br />

のであろ。」 29 法 王 の 教 書 がルターのところに 到 着 した 時 に、 彼 は 言 った。「わたし<br />

はこれを、 不 敬 で 虚 偽 のものとして 軽 べつし、 排 撃 する。……ここで 罪 に 定 められて<br />

いるのは、キリストご 自 身 である。……わたしは、 最 大 の 事 業 のためにこのような 苦<br />

難 にあうことを 喜 びとする。わたしはすでに、 心 の 中 に 大 きな 自 由 を 感 じている。な<br />

ぜなら、わたしはついに、 法 王 が 反 キリストであって、 彼 の 座 はサタン 自 身 の 座 であ<br />

ることを 知 ったからてある」<br />

しかしローマの 命 令 は、 影 響 を 及 ぼさずにはいなかった。 投 獄 、 拷 問 、 剣 は、 服 従<br />

を 強 いる 有 力 な 武 器 であった。 弱 く 迷 信 的 な 人 々は、 法 王 の 教 書 の 前 で 震 えた。 概 し<br />

て 人 々はルターに 対 して 同 情 的 ではあったが、 生 命 を 改 革 事 業 にかけることはあまり<br />

にも 惜 しいと 思 う 者 が 多 かった。 万 事 は、ルターの 事 業 が、 今 にも 終 わろうとするこ<br />

とを 示 すように 思 われた。 しかしルターは、びくともしなかった。ローマは、 彼 を 破<br />

門 した。そして 世 界 は、 彼 が 死 ぬか、それとも 服 従 を 強 制 されるかするに 違 いない、<br />

と 思 って 見 ていた。しかし 彼 は、 恐 るベき 力 をもって、 教 会 に 有 罪 の 宣 告 を 投 げかえ<br />

し、 永 遠 に 教 会 と 分 離 する 決 意 を 公 然 と 宣 言 した。ルターは、 大 勢 の 学 生 たちや 博 士<br />

たち、そしてあらゆる 階 層 の 一 般 市 民 たちの 目 の 前 で、 法 王 の 教 書 を、 教 会 法 規 や 教<br />

令 集 、また 法 王 権 を 支 持 する 文 書 類 とともに 焼 き 捨 てた。「わたしの 敵 たちは、わた<br />

しの 著 書 を 焼 くことによって、 一 般 の 人 々の 心 の 中 での 真 理 の 働 きを 妨 げ、 彼 らの 魂<br />

97


国 際 協 定<br />

を 滅 ぼそうとした。それだから、わたしも 彼 らの 著 書 を 焼 く。 重 大 な 闘 いが、 今 始 ま<br />

ったのてある。これまで、わたしはただ 法 王 と 遊 戯 をしていたに 過 ぎなかった。わた<br />

しは、この 仕 事 を 神 の 名 によって 始 めた。それは、わたしがいなくても、 神 の 力 によ<br />

って 終 了 するてあろう。」 31<br />

ルターの 運 動 の 勢 力 の 弱 さをあざけった 敵 の 非 難 に 答 えて、ルターは 言 った。「 神<br />

の 選 びと 召 しがわたしになく、わたしを 軽 べつしても 神 ご 自 身 を 軽 べつすろことにな<br />

る 恐 れはないと、いったいだれか 知 り 得 ようか。エジプトを 去 ったモーセは、ただ 1<br />

大 であった。アハブ 王 の 治 世 において、エリヤは 1 人 であった。イザヤは、エルサレ<br />

ムで 1 人 であった。エゼキエルは、バビロンにおいて 1 人 であった。…… 神 は、 大 祭<br />

司 とか、 他 の 偉 大 な 人 物 を 預 言 者 に 選 ばれなかった。 神 は、たいてい、 身 分 の 低 い 卑<br />

しめられた 大 を 選 び、ある 時 は、 飼 いアモスをさえ 選 はれた。 各 時 代 において、 聖 徒<br />

たちは、 偉 大 な 人 々、 王 、 貴 族 、 祭 司 、 賢 者 などを、 命 がけで 譴 責 したのであ<br />

る。……わたしは、 自 分 が 預 言 者 であるとは 言 っていない。しかし、 彼 らは、わたし<br />

が 1 人 であり 彼 らが 多 数 であるというそのことを 恐 れるべきである。わたしは、 自 分<br />

の 側 に 神 の 言 葉 があり、 彼 らの 側 にはないことを 確 信 している。」 32 とは 言 うものの、<br />

ルターが 教 会 から 最 終 的 に 分 離 する 決 心 をするまでには、 激 しい 闘 いを 経 なければな<br />

らなかった。ちょうどこのころ、 彼 は 次 のように 書 いた。「わたしが 子 供 の 時 から 教<br />

えられたことを 捨 て 去 ることが、どんなに 困 難 なことであるかを、 毎 日 、いよいよ 強<br />

く 感 じろ。たとえ、わたしの 側 にわたしを 支 持 する 聖 書 があっても、わたしがあえて<br />

ただ 1 人 立 っ 生 って 法 王 に 反 対 し、 彼 を 反 キリストと 呼 ぶことは、なんとわたしを 苦<br />

しめたことであろう。わたしの 心 の 悩 みは、なんと 激 しかったことであろう。『お 前<br />

たけが 正 しいのか。 他 のすべての 者 は 間 違 っているのか。 結 局 間 違 っているのがおま<br />

え 自 身 で、 多 くの 魂 をおまえの 誤 りに 引 き 入 れているとすれば、どうするのか。 永 遠<br />

の 罰 を 受 けるのはだれか。』という 法 王 側 からたびたび 聞 かれた 質 問 を、わたしは 何<br />

度 くり 返 して 自 問 し、 心 を 痛 めたことであろう。こうして、わたしは 自 分 自 身 と 闘 い、<br />

サタンと 闘 った。そして、ついにキリストが、 彼 ご 自 身 の 誤 ることのない 言 葉 で、わ<br />

たしの 心 を 強 め、これらの 疑 念 に 勝 たせてくださったのである。」 33 法 王 は、ルター<br />

が 取 り 消 さなければ 破 門 すると 脅 していたが、それが 実 行 に 移 された。 新 しい 教 書 か<br />

出 され、ルターがローマ 教 会 から 分 離 したことを 宣 言 するとともに、 彼 が 天 ののろい<br />

を 受 けたものであると 非 難 した。そして、 彼 の 教 義 を 信 じる 者 はみな、 同 じ 宣 告 下 に<br />

置 かれるのであった。 大 いなる 闘 いは、いよいよ 本 格 的 に 始 業 った<br />

それぞれの 時 代 において、その 時 代 に 特 に 適 切 な 現 代 の 真 理 を 伝 えるために 神 に 用<br />

いられる 者 は、すべて、 反 対 にあわなければならない。ルターの 時 代 には、 現 代 の 真<br />

98


国 際 協 定<br />

理 、すなわち、その 時 代 において 特 別 重 要 な 真 理 があった。 今 日 の 教 会 のためにも 現<br />

代 の 真 理 がある。みこころのままに 万 事 を 行 われろ 神 は、 人 々をさまざまな 事 情 のも<br />

とにおいて、その 時 代 、また、 彼 らがおかれた 状 態 に 応 じた 特 殊 な 任 務 をお 命 じにな<br />

る。もし 彼 らが、 与 えられた 光 を 尊 重 するならば、 真 理 に 対 するいっそう 明 らかな 理<br />

解 が 与 えられる。しかし、 真 理 は、 法 王 教 徒 たちがルターに 反 対 したように、 今 日 も<br />

多 数 の 者 の 歓 迎 を 受 けないのである。 昔 と 同 様 に、 神 の 言 葉 の 代 わりに 人 間 の 理 論 や<br />

伝 説 を 受 け 入 れるという 同 じ 傾 向 がある。この 時 代 の 真 理 を 伝 える 者 は、 初 期 の 改 革<br />

者 たちより 歓 迎 されると 期 待 してはならない。 真 理 と 誤 謬 、キリストとサタンとの 間<br />

の 大 争 闘 は、この 世 界 の 歴 史 の 終 わりまで、 激 しさを 増 すのである。<br />

イエスは、 彼 の 弟 子 たちに 次 のように 言 われた。「もしあなたがたがこの 世 から 出<br />

たものであったなら、この 世 は、あなたがたを 自 分 のものとして 愛 したであろう。し<br />

かし、あなたがたはこの 世 紀 のものではない。かえって、わたしがあなたがたをこの<br />

世 から 選 び 出 したのである。だから、この 世 紀 はあなたがたを 憎 むのである。わたし<br />

があなたかたに『 僕 はその 主 人 にまさるものではない』と 言 ったことを、おぼえてい<br />

なさい。 もし 人 々がわたしを 迫 害 したなら、あなたがたをも 迫 害 するであろう。また、<br />

もし 彼 らがわたしの 言 葉 を 守 っていたなら、あなたがたの 言 葉 をも 守 るであろう」[ヨ<br />

ハネ 15:19、。また 一 方 、 主 は 次 のように 言 明 された。「 人 が 皆 あなたがたをほめ<br />

るときは、あなたがたはわざわいだ。 彼 らの 祖 先 も、にせ 預 言 者 たちに 対 して 同 じこ<br />

とをしたのである」[ルカ 6:この 世 の 精 神 は、 今 日 も 昔 と 同 様 に、 少 しもキリストの<br />

精 神 と 調 和 してはいない。そして、 神 のみ 言 葉 をそのまま 純 枠 に 説 く 者 は、 昔 以 上 の<br />

歓 迎 を 受 けることはない。 真 理 に 対 する 反 対 の 形 態 は 変 わり、 巧 妙 になって、 公 然 と<br />

敵 意 を 衣 すことはないかもしれない。しかし、 同 じ 敵 対 心 が 依 然 として 存 在 し、 時 の<br />

終 わりに 全 るまて 表 される。<br />

99


国 際 協 定<br />

第 8 章 裁 判 所 の 前 に<br />

新 皇 帝 カール 5 世 [チャールズ 5 世 ]がドイツの 帝 位 についた。するとローマの 使 節<br />

は、 急 いで 祝 いの 言 葉 を 述 べると 共 に、 彼 の 権 力 を 用 いて 宗 教 改 革 を 押 えつけるよう<br />

に 勧 めた。 他 方 、カールが 帝 付 につくに 当 たって 大 いに 力 があったザクセンの 選 挙 侯<br />

は、ルターに 発 言 の 機 会 を 与 えるまではどんな 処 置 もとらないように 嘆 願 した。こう<br />

して、 皇 帝 は、 非 常 な 当 惑 と 苦 境 に 立 たされた。 法 王 側 は、ルターに 死 刑 を 宣 告 する<br />

勅 令 が 出 なければ 満 足 しなかった。 選 挙 侯 は、「 皇 帝 もまた 他 のだれも、ルターの 著<br />

書 に 反 論 していない」と 断 固 として 言 明 し、それゆえに、「ルターは 通 行 券 を 与 えら<br />

れて、 学 識 のある、 敬 虔 で 公 平 な 裁 判 官 による 法 廷 に 出 頭 てきろようにすべきである」<br />

と 願 い 出 た。 1<br />

すべての 党 派 の 注 目 は、カールの 即 位 後 まもなくウォルムスで 開 かれたドイツ 国 会<br />

に 注 がれた。ドイツの 諸 侯 たちの 多 くは、 審 議 のために 初 めて 若 い 皇 帝 に 会 見 するの<br />

であり、この 国 会 において 審 議 すべき 重 要 な 政 治 問 題 やその 他 の 案 件 があった。 祖 国<br />

のあらゆる 地 方 から、 教 会 と 国 家 の 高 官 たちが 集 まった。 高 貴 の 生 まれて、 勢 力 を 持<br />

ち、 世 襲 の 権 利 を 主 張 して 譲 らない 領 主 たち、 階 級 と 権 力 における 優 越 感 に 意 気 揚 々<br />

としている 威 厳 ある 聖 職 者 たち、 優 雅 な 騎 士 たちとその 武 装 した 家 臣 たち、 外 国 や 遠<br />

国 の 大 使 たちなどが、みなウォルムスに 集 まった。しかし、この 大 会 議 において、 最<br />

も 興 味 深 い 問 題 は、ザクセンの 改 革 者 ルターの 件 であった。 カールはこれ 以 前 に、 選<br />

挙 侯 にむかって、ルターを 同 伴 して 国 会 に 来 るよう 指 示 し、 彼 に 対 する 保 護 と、 問 題<br />

点 に 関 し 資 格 ある 人 物 と 自 由 に 討 議 することとを 約 束 していたのであった。ルターは、<br />

皇 帝 の 前 に 出 ることを 切 望 していた。この 時 、 彼 の 健 康 は 非 常 に 損 なわれていたが、<br />

しかし 彼 は 選 挙 侯 に 次 のように 書 いた。<br />

「もしわたしが 健 康 な 体 でウォルムスに 行 くことができなければ、 病 気 のまま 運 ば<br />

れて 打 きたいと 思 います。というのは、もし 皇 帝 がわたしを 召 しておられるなら、そ<br />

れは 神 ご 自 身 の 召 しであることを、わたしは 疑 うことができないからです。もし 彼 ら<br />

かわたしに 暴 力 をふるうようなら、そしておそらくそうすることでしょうが[なぜなら<br />

彼 らがわたしに 出 頭 を 命 じるのは、わたしから 教 えを 受 けるためでないからです]、わ<br />

たしはこれを 主 のみ 丁 にゆだねます。 燃 える 炉 の 中 から 3 人 の 青 年 を 救 い 出 された 神<br />

は、なお 生 三 きて 支 配 しておられます。もし 神 がわたしをお 救 いにならなくても、わ<br />

たしの 命 など 取 るに 足 りないものです。ただ 福 音 がよこしまな 人 々のちょう 笑 を 受 け<br />

ることがないように 努 めましょう。 彼 らが 勝 利 を 得 ることのないように、わたしたち<br />

100


国 際 協 定<br />

は 福 音 のために 血 を 流 しましょう。すべての 大 の 救 いのために 最 も 貢 献 するのは、わ<br />

たしの 命 であるか、それとも 死 であるか、それを 決 定 するのはわたしではありませ<br />

ん。……あなたはわたしにどんなことでも 期 待 なさってけっこうです。……ただし、<br />

逃 げることと 信 仰 を 取 り 消 すこと 以 外 は。 逃 げることなど、わたしにはできませんし、<br />

まして、 取 り 消 すことなどできません。」 2<br />

ルターか 議 会 に 姿 を 現 すという 知 らせがウォルムスに 伝 わると、 各 方 面 で 大 騒 ぎと<br />

なった。 今 回 の 事 件 を 特 に 委 任 されていた 法 王 使 節 アレアンダー[アレアンドロ]は、<br />

驚 き、 憤 激 した。 彼 は、その 結 果 が、 法 王 側 にとっては 破 滅 的 であるのを 認 めた。 法<br />

王 がすてに 宣 告 を 下 した 件 について 取 り 調 べを 始 めることは、 法 王 の 権 威 を 軽 べつす<br />

ることであった。そればかりでなく、 彼 は、ルターの 雄 弁 で 強 力 な 議 論 によって、 諸<br />

侯 たちの 多 くが 法 王 側 から 引 き 離 されることを 懸 念 した。それゆえに、 彼 は、ルター<br />

がウォルムスに 来 ないように、 激 しくカールに 諫 言 した。このころ、ルターの 破 門 を<br />

宣 言 した 教 書 が 公 布 された。 使 節 の 申 し 入 れとともに、この 教 書 は、 皇 帝 を 屈 服 させ<br />

た。 皇 帝 は 選 挙 侯 に、もしルターが 取 り 消 さないならば、 彼 はウィッテンベルクにと<br />

とまっているべきであると 霞 き 送 った。<br />

アレアンダーは、この 勝 利 で 満 足 せず、ルターを 罪 に 定 めるために、ありとあらゆ<br />

る 権 力 と 策 略 を 用 いた。 彼 は、 非 常 なしつこさで、 諸 侯 や 高 位 聖 者 、そしてその 他 の<br />

十 義 員 たちの 注 意 をこの 問 題 に 引 き、ルタ 一 に、「 扇 動 、 反 逆 、 不 敬 、 冒 瀆 」の 罪 を<br />

きせた。しかし、 法 王 使 節 のあらわした 激 しい 感 情 は、 彼 がどんな 精 神 に 動 かされて<br />

いるかをあまりにも 明 らかにした。「 彼 は、 熱 意 と 敬 神 というよりは、 憎 しみとふく<br />

しゅうの 念 に 動 かされている」と 一 般 の 人 々は 言 った。 3 議 会 の 大 部 分 の 人 々は、こ<br />

れまてになくルターに 好 意 を 示 した。<br />

アレアンダは、ますます 熱 心 に、 法 王 の 布 告 を 実 打 すべきことを 皇 帝 に 迫 った。し<br />

かし、ドイツの 法 律 によれば、これは 諸 侯 たちの 同 意 を 得 ずにすることかできなかっ<br />

た。そこでカールは、 法 王 使 節 のしつこい 要 求 に 負 けて、 彼 にその 件 を 議 会 に 提 出 す<br />

ることを 命 じた。「それは 法 王 使 節 にとって 誇 らしい 日 であった。 大 会 衆 が 集 まって<br />

いたが、 事 件 はさらに 重 大 なものであった。アレアンダーは、すべての 教 会 の 母 であ<br />

り 女 主 人 であろローマのために、 訴 えろのであった。」 彼 は、 集 まったキリスト 教 諸<br />

国 の 前 で、ペテロ 首 位 権 を 擁 護 するのであった。「 彼 は 雄 弁 の 才 を 持 っていた。そし<br />

て、この 重 大 な 時 機 に 立 ちいたった。ローマが 罪 に 定 められるに 先 たって、 荘 厳 きわ<br />

まる 法 廷 において、ローマの 第 一 流 の 雄 弁 家 が 現 れて 訴 えることは、 神 の 摂 理 であっ<br />

た。」 4 ルターに 好 感 を 持 っていた 人 々は、アレアンダーの 演 説 の 結 果 にいくぶんか<br />

101


国 際 協 定<br />

不 安 を 抱 いた。ザクセンの 選 挙 侯 は 出 席 していなかったが、 顧 問 官 たちに 命 じて 出 席<br />

させ、 法 王 使 節 の 演 説 を 筆 記 させた。<br />

アレアンダーは、 学 識 と 雄 弁 のかぎりをもって、 真 理 をくつがえそうとした。 彼 は<br />

ルターを、 教 会 と 国 家 の 敵 、また、 生 三 ける 者 と 死 せる 者 との、 聖 職 者 と 信 徒 との、<br />

公 会 議 と 個 々のキリスト 者 との、 敵 であると 告 発 し 続 けた。「ルターの 誤 りは、10 万<br />

の 異 端 者 」を 焼 くに 匹 敵 するものであると 彼 は 宣 言 した。 最 後 に 彼 は、 改 革 主 義 の 信<br />

仰 印 を 支 持 する 人 々を 軽 べつしようとした。 「これらルター 派 とは、いったい 何 であ<br />

ろうか。 彼 らは 無 礼 な 教 師 、 腐 敗 した 司 祭 、 自 堕 落 な 修 道 士 、 無 知 な 弁 護 士 、 堕 落 し<br />

た 書 族 といった 連 中 と、 彼 らか 誤 らせ、 邪 道 に 導 いたところの 民 衆 である。 彼 らに 比<br />

べて 力 トリソクの 側 は、その 数 、 能 力 、 権 力 において、なんと 優 れていることであろ<br />

う。このはなはなしい 会 議 における 満 場 一 致 の 布 告 は、 愚 かな 者 の 目 を 開 き、 軽 率 な<br />

者 に 警 告 を 与 え、 迷 っている 者 に 決 心 を 与 え、 弱 い 者 に 力 を 与 える。」 5<br />

各 時 代 における 真 理 の 擁 護 者 たちは、こっした 武 器 によって 攻 撃 されてきたのであ<br />

る 確 立 された 誤 りに 反 対 して、 神 のみ 言 葉 の 明 白 で 直 接 的 な 教 訓 をあえて 提 示 する<br />

ものはみな、 今 でも 同 じ 議 論 に 迫 られる。「これらの 新 しい 教 義 の 説 教 者 たちは、い<br />

ったいだれであるか」と、 受 けのよい 宗 教 を 望 む 人 々は 叫 ぶ。「 彼 らは、 無 学 で 少 数<br />

の 貧 民 階 級 である。それだのに 彼 らは、 自 分 たちは 真 理 を 持 ち、 神 の 選 民 であると 主<br />

張 する。 彼 らは、 無 知 で 欺 かれているのだ。われわれの 教 会 は、 数 においても、 勢 力<br />

においても、なんとはるかに 優 れていることであろう。われわれの 中 には、なんと 多<br />

くの 偉 人 や 学 者 がいろことであろう。われれれの 側 には、なんと 大 きな 力 があること<br />

だろう。」このような 議 諭 は、 世 界 に 対 して 効 果 的 な 影 響 力 を 持 っている。しかしそ<br />

れは、ルターの 時 代 におけると 同 様 に 今 日 においても、 決 定 的 な 議 論 ではないのであ<br />

る。<br />

宗 教 改 革 は、 多 くの 者 が 考 えているように、ルタ 一 の 時 代 をもって 終 わったのでは<br />

ない。それはこの 世 界 の 歴 史 の 終 末 まで 続 くのである。ルターは、 神 が 彼 の 上 に 照 ら<br />

してくださった 光 を 他 に 反 映 して、 大 事 業 をしなければならなかった。しかし 彼 は、<br />

世 界 に 与 えられるはずの 光 を、 全 部 受 けたのではなかった。その 当 時 から 今 に 至 るま<br />

で、 新 しい 光 か 絶 えず 聖 書 を 照 らし、 新 しい 真 理 が 常 にあらわされてきたのである。<br />

法 王 使 節 の 演 説 は、 議 会 に 深 い 印 象 を 与 えた。そこには、 明 快 で 説 得 力 のあろ 神 の<br />

み 言 葉 の 真 理 を 提 示 して 法 王 側 の 闘 士 を 打 ち 負 かすルターはいなかった。ルターを 弁<br />

護 しようとする 者 もいなかった。ルターとその 教 義 を 罪 に 定 めるだけでなくて、でき<br />

れば 異 端 を 根 絶 しようという 一 般 的 な 傾 向 が 出 てきた。ローマは、その 主 張 を 弁 護 す<br />

102


国 際 協 定<br />

る 絶 好 の 機 会 を 得 たのであった。 自 己 を 擁 護 するために 言 うべきことは、すべて 言 っ<br />

てしまっていた。しかし、 一 見 勝 利 と 思 われたことが、 敗 北 のしるしであった。 今 後 、<br />

公 然 たる 戦 いの 場 において 争 われるときに、 真 理 と 誤 謬 の 対 照 はいっそう 明 らかに 見<br />

られるのであった。この 時 以 後 ローマは、 決 してこれまでのように 安 全 に、 立 つこと<br />

はできないのであった。<br />

国 会 の 議 員 たちの 大 部 分 は、ルターをローマの 報 復 の 手 に 引 き 渡 すことをためらわ<br />

なかったとはいえ、 多 数 の 者 は、 教 会 内 に 行 われる 堕 落 を 認 めて 嘆 き、 教 権 制 度 の 貧<br />

欲 と 腐 敗 のためにドイツ 国 民 がこうむってきた 虐 待 を 止 めたいと 望 んだ。 法 十 使 節 は<br />

法 王 の 支 配 を、 最 も 都 合 のよさそうな 見 地 から 提 示 していた。ここで 主 は、 国 会 の 1<br />

議 員 を 動 かして、 法 王 の 暴 政 の 結 果 をありのままに 描 かせられた。ザクセンのゲオル<br />

ク 公 爵 は、 集 まった 貴 族 たちの 前 で、 断 固 とした 気 高 い 態 度 で 立 ち 上 がり、 法 王 制 の<br />

欺 瞞 と 悪 虐 とその 悲 惨 な 結 果 とを、 恐 るべき 正 確 さで 指 摘 した。 彼 は、 最 後 に 次 のよ<br />

うに 言 った。<br />

「これらは、ローマがそのために 非 難 されているところの 悪 弊 の 一 部 てある。そこ<br />

には 恥 も 外 聞 もない。 彼 らの 唯 一 の 目 的 は、…… 金 、 金 、 金 である。したがって、 真<br />

理 を 語 るべき 説 教 者 たちは、 虚 偽 のほかは 何 も 語 らず、しかもそのことが 黙 認 されて<br />

いるだけ でなく、 報 賞 にあずかっている。それは、 彼 らの 虚 偽 が 大 きければ 大 きいほ<br />

ど、 彼 らの 利 益 も 大 きいからてある。この 汚 れた 泉 から、こうした 腐 敗 した 水 が 流 れ<br />

るのである。 放 蕩 は 貧 欲 と 結 びついた。……ああ、 多 くの 哀 れな 魂 を 永 遠 の 滅 びに 陥<br />

れているのは、 聖 職 者 たちの 背 徳 行 為 である。 一 大 改 革 が 打 われねばならない。」 6<br />

ルター 自 身 であっても、 法 王 制 の 害 悪 についてこれ 以 上 巧 みに 力 強 く 弾 劾 すること<br />

はできなかったであろう。しかも、 演 説 者 が、ルターに 断 固 として 反 対 していた 敵 で<br />

あったことが、 彼 の 言 ばに 大 きな 力 をそえた。 もし、 集 まった 人 々の 目 が 開 かれたな<br />

らば、 彼 らは、その 中 に 神 の 天 使 たちがいて、 誤 謬 の 暗 やみを 貫 いて 光 を 輝 かし、 彼<br />

らが 真 理 を 受 け 入 れるようにその 心 を 開 いていろのを 見 たことであろう。 宗 教 改 革 の<br />

敵 たちさえも 支 配 し、まさに 成 し 遂 げられようとすろ 大 事 業 への 道 を 備 えたのは、 真<br />

理 と 知 恵 の 神 の 力 であった。マルチン・ルターは、そこにいなかった。しかし、ルタ<br />

ーよりも 偉 大 なお 方 の 声 が、その 会 議 において 聞 かれたのであった。<br />

ドイツ 国 民 に 重 く 課 せられた 法 王 制 の 抑 圧 を 列 挙 するために 直 ちに 委 員 会 が 国 会 に<br />

よって 指 名 された。101 項 目 にわたる 一 覧 表 が、これらの 悪 弊 を 直 ちに 矯 正 すること<br />

を 要 求 した 嘆 願 書 と 共 に、 皇 帝 に 提 出 された。「キリスト 教 界 の 霊 的 頭 を 取 り 囲 んで<br />

いる 背 徳 行 為 のために、キリスト 者 の 魂 は、なんという 損 害 、なんという 破 壊 、なん<br />

103


国 際 協 定<br />

という 略 奪 をこうむっていることでしょう。わが 国 民 の 没 落 と 汚 辱 を 阻 止 することは、<br />

われわれの 義 務 であります。このような 理 由 から、われわれは、 陛 下 が 全 般 的 な 改 革<br />

をお 命 じになり、その 実 施 に 当 たられるよう、 切 に 嘆 願 するものであり 表 す」と 請 願<br />

者 たちは 述 べた。 7<br />

次 に 議 会 は、ルターが 彼 らの 前 に 出 頭 することを 要 求 した。アレアンダーの 嘆 願 、<br />

抗 議 、 威 書 嚇 にもかかわらず、 皇 帝 はついにこれに 同 意 し、ルターは 議 会 に 出 頭 する<br />

命 令 を 受 けた。 召 喚 状 とともに、 無 事 帰 国 することを 保 証 した 通 行 券 も 発 行 された。<br />

これらは、 彼 をウォルムスに 連 れてくる 命 令 を 受 けた 使 者 が、ウィッテンベルクに 持<br />

って 来 た。<br />

ルターの 友 人 たちは、 恐 れ 悲 しんだ。 彼 らは、ルターに 対 する 敵 の 偏 見 を 知 ってい<br />

たので、 彼 の 通 打 券 さえ 空 文 に 帰 すのではないかと 懸 念 し、 危 険 に 身 をさらさぬよう<br />

にと 願 った。ルターは、 次 のように 答 えた。「 法 王 教 徒 たちは、わたしがウォルムス<br />

に 来 ることを 望 まず、ただ、わたしの 断 罪 と 死 を 求 めている。それはかまわない。わ<br />

たしのためでなく、 神 のみ 言 葉 のために 祈 ってほしい。……キリストは、これら、 誤<br />

蓼 の 使 者 たちに 打 ち 勝 つように、み 塩 をわたしに 与 えられるであろう。わたしは 一 生<br />

彼 らを 軽 べつする。わたしは 死 によって 彼 らに 勝 利 するであろう。 彼 らはわたしに 取<br />

り 消 しを 強 いようとして、ウォルムスで 忙 しく 働 いている。そして、わたしの 取 り 消<br />

しは、こうである。わたしは 以 前 、 法 王 はキリストの 代 理 であると 言 った。 今 、わた<br />

しは、 法 王 はキリストの 敵 であり、 悪 魔 の 使 徒 であると 断 言 する。」 8<br />

ルターは、この 危 険 な 旅 に 1 大 で 出 なくてもよかった。 皇 帝 の 便 者 のほかに、 彼 の<br />

最 もしっかりした 3 人 の 友 人 たちが、 同 道 する 決 心 をした。メランヒトンも、 彼 らに<br />

加 わることを 熱 望 した。 彼 の 心 はルターの 心 と 結 ばれていたので、 彼 は 同 行 を 切 望 し、<br />

必 要 ならば 牢 獄 や 死 をも 共 にしたいと 望 んだ。しかし、 彼 の 願 いは 許 されなかった。<br />

もしルターがなくなれば、 改 革 の 希 望 は、この 年 若 い 共 労 者 を 中 心 としなければなら<br />

ないのであった。ルターは、メランヒトンと 別 れる 時 に、 次 のように 言 った。「もし、<br />

わたしが 帰 らず、 敵 がわたしを 殺 しても、 教 えつづけて、 真 理 に 堅 く 立 ってほしい。<br />

わたしの 代 わりに 働 きなさい。……きみが 生 き 残 るならば、わたしの 死 はたいしたこ<br />

とではないのだ。」 9 ルターの 出 発 を 見 るために 集 まった 学 生 や 市 民 は、 深 い 感 動 を<br />

受 けた。 福 音 に 心 を 動 かされた 群 衆 は、 涙 ながらにルターに 別 れを 告 げた。こうして、<br />

改 革 者 ルターとその 一 行 は、ウィッうテンベルクを 出 発 した。<br />

彼 らはその 途 中 で、 人 々が 悲 しい 予 感 に 心 を 重 くしているのを 見 た。ある 町 では、<br />

彼 らに 対 してなんの 敬 意 も 示 されなかった。 夜 、 泊 まったところでは、 同 情 的 な 一 司<br />

104


国 際 協 定<br />

祭 が、ルターの 前 に、 殉 教 したイタリアの 改 革 者 の 肖 像 世 画 をかかげて、 彼 の 憂 慮 を<br />

衣 した。 翌 言 、 彼 らは、ルターの 著 書 に 対 すろ 有 罪 の 宣 告 がウオルムスで 下 されたこ<br />

とを 知 った。<br />

皇 帝 の 使 者 たちが 皇 帝 の 命 令 を 布 告 し、 禁 じられた 書 籍 を 長 官 のところに 持 参 する<br />

ように、 人 々に 呼 びかけていた。 使 者 は、 会 議 におけるルターの 安 全 を 気 づかい、す<br />

でにルクーの 決 意 は 揺 らいでいるものと 考 えて、なお 彼 が 前 進 する 希 望 であるかどう<br />

かをたずねた。 彼 は、「すべての 町 で 妨 害 を 受 けようとも、わたしは 前 進 する」と 答<br />

えた。 10 エルフルトでは、ルターは 大 いに 歓 迎 された。 彼 は、 賞 賛 する 群 衆 にかこま<br />

れて、 前 によく 托 鉢 して 歩 いた 通 りを 過 ぎた。 彼 は、 彼 の 修 道 院 の 部 屋 を 訪 れ、 当 時<br />

の 苦 悩 ——その 苦 悩 を 通 して、 光 が 彼 の 魂 を 照 らし、そしてその 光 が、 今 ドイツにあ<br />

ふれているのであるが——を 思 った。 彼 は、 説 教 をするように 勧 められた。 彼 は、こ<br />

れを 禁 止 されていたのであるが、 使 者 の 許 しがあったので、かつては 修 道 院 の 卑 しい<br />

仕 事 をしていた 者 が、 壇 に 上 った。<br />

彼 は、 集 まった 群 衆 に、「 平 安 があなたがたにあるように」というキリストの 言 葉<br />

をもって 語 りかけた。「 哲 学 者 、 博 士 、 著 者 たちは、 永 遠 の 生 命 を 得 る 道 を 人 々に 教<br />

えてきたが、 成 功 しなかった。わたしが 今 それをお 伝 えしよう …… 神 は、 死 を 滅 ぼ<br />

し、 罪 を 根 絶 し、 陰 府 [よみ]の 門 を 閉 じるために、1 人 の 人 、4 すなわち、 主 イエス<br />

・キリストを 死 からよみがえらせられた。これが 救 いの 業 である。……キリストは 勝<br />

利 された。これは、 喜 ばしい 知 らせてある。そして、われわれは、 彼 の 業 によって 救<br />

われた。われわれ 自 身 の 行 為 によってではない。……われわれの 主 イエス・キリスト<br />

は、『 安 かれ、わたしの 千 を 見 なさい』と 言 われた。つまり、おお、 人 よ、 見 よ、あ<br />

なたの 罪 を 除 き、あなたを 贖 ったのは、わたし、わたしだけであろ。そしてあなたは<br />

平 和 を 得 た、と 主 は 言 われるのである。」<br />

彼 は、 引 き 続 いて、 真 の 信 仰 は 聖 い 生 活 によってあらわされることを 示 した。「 神<br />

は、われわれを 救 われたのであるから、われわれの 行 為 が、 神 に 受 け 入 れられるよう<br />

にしようではないか。あなたは 富 んでいるか。それならあなたの 財 産 を、 貧 者 の 必 要<br />

にささげよう。あなたは 貧 しいか。それならあなたの 奉 仕 が 富 んでいる 人 々に 喜 ばれ<br />

るようにしよう。もしあなたの 労 働 が、ただあなたのためだけに 役 立 つものであれば、<br />

神 につくしているように 見 せかけている 奉 仕 は、 偽 りてある。」 11 人 々は、あたかも<br />

魅 せられたかのように 聴 き 入 った。これらの 飢 えた 魂 に、 生 命 のパンか 裂 き 与 えられ<br />

た。 彼 らの 前 で、キリストは、 法 上 や 法 王 使 節 、 皇 帝 や 国 王 たちよりも 高 く 掲 げられ<br />

た。ルターは、 自 分 の 危 険 な 立 場 については 何 も 語 らなかった。 彼 は 人 々に、 自 分 の<br />

ことを 考 えさせたり、 同 情 させたりしようとはしなかった。 彼 はキリストを 瞑 想 して、<br />

105


国 際 協 定<br />

自 分 を 見 失 ってしまった。 彼 は、カルバリーの 人 なるイエスの 後 ろに 隠 れ、イエスを<br />

罪 人 の 贖 い 主 として 指 し 示 すことだけを 求 めていた。<br />

ルターが 旅 を 続 けていくと、 至 る 所 で 非 常 な 興 味 をもって 迎 えられた。 熱 心 な 群 衆<br />

が 彼 を 取 り 囲 み、 好 意 を 筒 せる 人 々が、ローマ 教 側 の 意 図 することについて、 彼 に 警<br />

告 した。「 彼 らは、あなたを 焼 き 殺 し、ヨハン・フスに 行 ったと 同 様 に、あなたの 体<br />

を 灰 にするでしょう」とある 者 は 言 った。ルターはそれに 答 えた。「たとえ 彼 らが、<br />

ウィッテンべルクからウォルムス 表 で 火 を 点 じ、 炎 が 天 にまでとどいたとしても、わ<br />

たしはその 中 を 主 の 名 によって 過 ぎ、 彼 らの 前 に 立 とう。わたしは、この 巨 獣 のあご<br />

に 入 り、その 歯 を 砕 いて、 主 イエス・キリストのあかしをしよう。」 12<br />

ルターがウォルムスに 近 づいたという 知 らせは、 大 きな 騒 動 を 引 き 起 こした。 彼 の<br />

友 人 たちは 彼 の 身 の 安 全 を 気 づかい、 彼 の 敵 たちは 自 分 たちの 側 の 成 功 をあやぶんだ。<br />

彼 が 町 に 入 るのを 断 念 させようと する 非 常 な 努 力 がなされた。 法 王 側 の 扇 動 によって、<br />

ルターは、 友 好 的 な 騎 士 の 城 へ 行 くようにと 勧 められた。そこではすべての 困 難 が 円<br />

満 に 解 決 されうる、というのであった。 友 人 たちは、さし 迫 った 危 険 を 述 べて、 彼 に<br />

恐 怖 心 を 起 こさせようとした。しかし、 彼 らの 努 力 は 無 に 帰 した。ルターは 少 しも 動<br />

ずることなく、「たとえ、ウォルムスに 屋 根 の 瓦 のように 多 くの 悪 魔 がいても、なお<br />

わたしはウォルムスへ 行 く」と 断 言 した。 13<br />

彼 かウォルムスに 到 着 した 時 、 大 群 衆 が 門 に 集 まって 彼 を 歓 迎 した。 面 皇 帝 を 出 迎<br />

える 時 でも、これほとの 群 衆 が 集 まったことはなかった。 激 しい 興 奮 が 起 こった そ<br />

して 群 衆 の 中 からかん 高 くもの 悲 しい 声 が 葬 送 歌 を 歌 い 出 して、ルターを 待 っている<br />

運 命 を 警 告 した。しかし 彼 は、 馬 車 から 降 りる 時 、「 神 はわたしの 高 きやぐらである」<br />

と 言 った。 法 王 側 は、ルターがほんとうにウォルムスに 姿 を 現 すとは 考 えていなかっ<br />

た。 彼 の 到 着 に 彼 らは 驚 いた。 皇 帝 は、 直 ちに 議 員 を 召 集 して、どうすべきかを 諮 っ<br />

た。 厳 格 な 法 [ 教 徒 である、1 人 の 司 教 は、 次 のように 言 った。「われわれはこの 問 題<br />

を 長 く 考 慮 してきました。どうか 阜 帝 は、この 男 を 直 ちに 処 分 してくださるように。<br />

ジギスムントはヨハン・フスを 火 刑 にしたではありませんか。われわれは、 異 端 者 に<br />

通 行 券 を 与 えることも、それに 束 縛 されることもありません」「いや、われわれは 約<br />

束 を 守 らねばならない」と 皇 帝 は 言 った。 14 こうしてルターは、 発 言 することにきま<br />

った。<br />

全 市 は、この 驚 くべき 人 物 を 見 ようとわきかえり、まもなく、 彼 の 宿 舎 には 訪 問 者<br />

が 殺 到 した。ルターは、 病 気 がなおったばかりであった。 彼 は、 丸 2 週 間 かかった 旅<br />

行 に 疲 れていた。そして、 翌 日 の 重 大 なできごとに 直 面 する 準 備 をしなければならな<br />

106


国 際 協 定<br />

かった。 彼 には 安 静 と 休 養 が 必 要 であった。しかし、 貴 族 、 騎 士 、 司 祭 、 市 民 など、<br />

彼 に 会 いたい 人 々が 続 々とつめかけて、 彼 はわずか 2、3 時 間 の 睡 眠 しかとれなかっ<br />

た。これら 訪 問 者 の 中 には、 聖 職 者 たちの 悪 弊 の 改 革 を 大 胆 に 皇 帝 に 要 求 していた 多<br />

くの 貴 族 たちがいた。ルターは、この 人 々は「みな、わたしの 福 音 によって 解 放 され<br />

た 人 たちだ」と 言 った。 15 友 人 たちだけでなく、 敵 もまた、この 不 屈 の 修 道 土 を 見 よ<br />

うとしてやってきた。しかし 彼 は、ゆるがぬ 冷 静 さをもって 彼 らに 面 会 し、だれにで<br />

も、 威 厳 と 知 恵 をもって 答 えた。 彼 の 態 度 はしっかりしていて、 勇 敢 であった。 彼 の<br />

青 ざめた、やせた 顔 には、 労 苦 と 病 気 のあとがあったが、 思 いやりと 喜 びの 表 情 さえ<br />

たたえていた。 厳 粛 で 真 剣 な 彼 の 言 葉 には、 敵 でさえ 全 くたちうちできない 力 があっ<br />

た。これには 敵 も 味 方 も 幣 いた。ある 者 たちは、 彼 の 上 に 神 の 力 が 加 わったと 信 じた<br />

が、キリストについてパリサイ 人 が 言 たように、「 彼 は 悪 霊 にとりつかれている」と<br />

言 う 者 たちもいた。<br />

ルターは、 翌 日 、 議 会 に 出 頭 するように 命 じられた。 式 部 官 が 彼 を 議 場 に 案 内 する<br />

ことになっていたが、そこまで 行 くのが 非 常 に 困 難 であった。どの 街 路 も、 法 士 の 権<br />

威 にあえて 抵 抗 した 修 道 士 を 見 ようとする 群 衆 でいっぱいだった。 彼 がまさに、 裁 判<br />

官 たちの 前 に 出 ようとした 時 、 幾 多 の 戦 いを 経 た 英 雄 である 老 将 軍 が、やさしく 彼 に<br />

言 った。「 哀 れな 修 道 士 、 哀 れな 修 道 士 よ。おまえは、わたしや、その 他 の 将 軍 たち<br />

のどのような 血 みどろの 激 戦 よりも、もっと 崇 高 な 戦 いをしようとしている。だが、<br />

おまえの 主 張 が 正 しく、おまえがそれを 確 信 しているならば、 神 の 名 によって 前 進 せ<br />

よ。 何 も 恐 れるな。 神 はおまえをお 見 捨 てにならないだろう」 16<br />

ついに、ルターは、 議 会 の 前 に 立 った。 皇 帝 が 玉 座 を 占 めていた。 彼 の 周 りには、<br />

帝 国 内 の 最 も 著 名 な 人 々が 並 んでいた。マルチン・ルターが 自 分 の 信 仰 の 弁 明 のため<br />

に、その 前 に 立 ったような、 堂 々たる 人 々の 前 に 立 った 者 は、これまでになかった。<br />

「このように 彼 が 現 れたこと 自 体 が、 法 王 制 に 対 する 著 しい 勝 利 であった。すでに 法<br />

王 は、この 人 間 を 罪 に 定 めた。しかるに 彼 は、 今 、 法 廷 に 立 っている。そしてこの 事<br />

実 そのものが、この 裁 判 の 場 が 法 王 以 上 のものであることを 示 していた。 法 王 は 彼 を、<br />

聖 務 禁 止 に 処 し、すべての 人 間 社 会 から 切 り 離 した。それにもか かわらず、 彼 は、 丁<br />

重 な 言 葉 で 召 喚 されて、 世 界 で 最 も 荘 重 な 議 会 に 迎 えられた。 法 王 は 彼 に 永 久 の 沈 黙<br />

を 課 したにもかかわらず、 今 、 彼 は、キリスト 教 国 の 最 も 遠 隔 の 地 から 集 まった、 幾<br />

千 という 深 い 関 心 を 持 った 聴 衆 の 前 で 語 ろうとしている。こうして、ルターという 器<br />

によって、 大 きな 改 革 が 起 きたのである。ローマは、すでに、その 王 座 から 降 りつつ<br />

あったが、この 屈 辱 をもたらしたのは、 一 修 道 士 の 声 であった。」 17<br />

107


国 際 協 定<br />

卑 しい 身 分 のルターは、この 権 力 をもった 有 爵 議 員 たちの 前 で、 恐 れ、 当 惑 してい<br />

るように 思 われた。 幾 人 かの 貴 族 は、 彼 の 心 中 を 察 して 彼 に 近 寄 り、その 中 の 1 人 が<br />

次 のようにささやいた。 「 体 を 殺 しても、 魂 を 殺 すことのできない 者 どもを 恐 れる<br />

な。」また、 他 の 者 は、「あなたがたが 会 堂 や 役 人 や 高 官 の 前 へ 引 っぱられて 行 った<br />

場 合 には、…… 言 うべきことは、 聖 霊 がその 時 に 教 えてくださる」と 言 った。こうし<br />

て、キリストの 言 葉 が、 世 の 偉 大 な 人 々によって 持 ち 出 され、 試 練 に 直 面 した 主 のし<br />

もべを 強 めたのである。 ルターは、 皇 帝 の 玉 座 のすぐ 前 の 位 置 に 案 内 された。 満 員 の<br />

議 会 が 静 粛 になった。そこで、 式 部 官 が 立 ち 上 がり、 積 み 重 ねられたルターの 著 書 を<br />

指 さして、ルターに 2 つの 質 問 に 答 えることを 要 求 した。すなわち、 彼 が、これを 彼<br />

の 著 書 と 認 めるかどうか、また、その 中 で 論 じた 主 張 を 取 り 消 すかどうか、というこ<br />

とであった。 彼 の 著 書 の 名 が 読 み 上 げられ、ルターは、 第 一 の 質 問 に 対 して、それら<br />

の 書 物 が 彼 のものであることを 認 めた。「 第 二 に 関 しては、それが 信 仰 と 魂 の 救 いに<br />

関 する 問 題 であり、 天 においても 地 においても、 最 大 で 最 も 尊 い 神 の 言 葉 を 含 むもの<br />

でありますから、よく 考 えずに 答 えることは 慎 重 を 欠 くことになります。わたくしは、<br />

事 情 の 要 求 に 1 分 答 えず、あるいは、 真 理 の 命 じること 以 上 を 述 べて、『 人 の 前 でわ<br />

たしを 拒 む 者 を、わたしも 天 にいますわたしの 父 の 前 で 拒 むであろう』というキリス<br />

トの 言 葉 に 対 して 罪 を 犯 すことになるかも 知 れません[マタイ 10:。このために、わ<br />

たくしは、 神 のみ 訂 葉 に 罪 を 犯 さずに 答 えることができますよう、 時 間 が 与 えられる<br />

ことを、 陛 下 に 伏 して 懇 願 いたします」と 彼 は 言 った。 18<br />

このように 願 い 出 ることによって、ルターは 賢 明 にふるまった。 彼 の 態 度 は、 彼 が<br />

感 情 や 衝 動 にかられて 行 動 しているのではないことを、 集 まった 人 々に 確 信 させた。<br />

この 沈 着 と 自 制 は、これまで 大 胆 で 妥 協 することのなかったルターには 期 待 できなか<br />

ったことで、これが 彼 に 力 を 増 し 加 え、 後 に、 彼 が 慎 重 、 決 断 、 知 恵 、 威 厳 をもって<br />

答 弁 する——そのことは 彼 の 敵 に 驚 きと 失 望 を 与 え、また 彼 らの 高 慢 と 不 遜 を 譴 責 す<br />

るものであったが——ことを 可 能 にしたのであった。 翌 言 、 彼 は 最 後 の 答 弁 をするた<br />

めに 現 れることになっていた。 一 時 、 彼 は、 真 理 に 対 抗 して 結 束 した 勢 力 のことを 考<br />

えて、 気 がめいった。 彼 の 信 仰 は 揺 らぎ、 彼 は 恐 怖 と 戦 慄 に 襲 われ、 恐 怖 感 に 圧 倒 さ<br />

れた。 彼 の 前 に 危 険 は 増 大 した。 彼 の 敵 は、まさに 勝 利 しようとしているように 見 え、<br />

暗 黒 の 勢 力 がまさに 勝 とうとしているように 思 われた。 彼 の 周 りには 暗 雲 がたれこめ、<br />

彼 を 神 から 引 き 離 すように 思 われた。 彼 は、 万 軍 の 主 が 彼 と 共 におられるという 確 証<br />

を 熱 望 した。 彼 は 苦 悶 のあまり、 地 の 上 に 突 伏 して、 神 のほかはだれにも 理 解 できな<br />

いところの、 切 れ 切 れの 悲 痛 な 叫 びをあげた。<br />

108


国 際 協 定<br />

彼 は 嘆 願 した。「ああ、 全 能 で 永 遠 の 神 よ、この 世 界 はなんと 恐 ろしいことでしょ<br />

うか。 世 は 言 を 開 いて、わたしをのみこもうとし、しかもあなたに 対 するわたしの 信<br />

仰 は、まことに 弱 いのです。……わたしがこの 世 の 力 だけに 信 頼 しなければならない<br />

のなら、 万 事 は 終 わりです。……わたしの 最 後 の 時 が 来 ました。わたしはすでに 有 罪<br />

の 宣 告 を 受 けました。……ああ、 神 よ、 世 紀 のすべての 知 恵 に 対 抗 してわたしを 助 け<br />

てください。……あなただけが……わたしをお 助 けください。これはわたしの 業 では<br />

なく、あなたの 業 だからです、わたしには 何 もできません。これら 世 の 偉 大 な 人 々と<br />

闘 うものは 何 もありません。……しかし、この 事 業 はあなたのものです。……しかも<br />

それは、 正 しくて 永 遠 の 事 業 です。ああ 主 よ、わたしをお 助 けくだ さい。 真 実 で 不 変<br />

の 神 よ、わたしは 人 には 信 頼 を 置 きません。…… 人 間 はすべて 不 確 かで、 人 間 のもの<br />

はみな 失 敗 に 終 わります。……あなたはわたしを、この 仕 事 のためにお 選 びになりま<br />

した。……わたしの 力 、 盾 、わたしの 高 きやぐらであられる 愛 するみ 子 イエス・キリ<br />

ストのゆえに、わたしのそばに 立 ってください。」 19 全 知 の 神 の 摂 理 は、ルターが 自<br />

分 の 力 に 頼 って 僣 越 に 危 険 の 中 に 飛 び 込 まないように、その 危 険 をルターに 自 覚 させ<br />

られた。しかしそれは、 目 前 に 迫 るように 思 われた 苦 灘 や、 死 の 拷 問 の 恐 怖 が、 彼 を<br />

圧 倒 したのではなかった。 彼 は 危 機 に 直 面 していた。そして 彼 は、それに 対 する 自 分<br />

の 無 力 さを 感 じたのであった。<br />

彼 の 弱 さのために、 真 理 の 運 動 が 敗 北 するかも 知 れなかった。 自 分 自 身 の 安 全 のた<br />

めではなく、 福 音 の 勝 利 のために、 彼 は 神 と 格 闘 した。 夜 、 寂 しい 川 のそばで 苦 闘 し<br />

たイスラエルのように、 彼 は 魂 を 注 ぎ 出 して 苦 しみ 闘 った。そして、イスラエルのよ<br />

うに、 彼 は 神 に 勝 った。 彼 は、 自 分 が 全 く 無 力 であることを 感 じ、 力 ある 贖 い 主 、キ<br />

リストをしっかりと 信 仰 によって 捕 らえた。 彼 は、 自 分 1 人 で 議 会 に 出 るのではない<br />

という 確 信 に 強 められた。 彼 の 魂 に 平 安 がかえってきた。そして 彼 は、 神 の 言 葉 を 国<br />

々の 王 たちの 前 で 高 めることが 許 されたのを 喜 んだ。<br />

ルターは、 神 に 心 を 置 きながら、 自 分 の 前 にある 闘 いの 準 備 をした。 彼 は、 答 弁 の<br />

方 法 を 考 え、 自 分 の 著 書 の 文 章 を 調 べ、 聖 書 から 彼 の 主 張 を 支 持 する 適 当 な 証 拠 を 引<br />

用 した。それから 彼 は、 自 分 の 前 に 開 かれた 聖 書 の 上 に 左 手 を 置 き、 右 手 を 天 に 向 け<br />

て 上 げ、「たとえ 証 言 のために 血 を 流 すことがあっても、 福 音 に 忠 誠 をつくし、なに<br />

ものにもとらわれずに 自 分 の 信 仰 を 告 白 する」ことを 誓 った。 20 彼 がふたたび 議 会 に<br />

入 ってきた 時 には、 彼 の 顔 に 恐 怖 や 動 揺 の 色 はなかった。 沈 着 で 穏 やかで、しかも 勇<br />

敢 で 気 高 い 態 度 で、 彼 は 神 の 証 人 として、 地 上 の 偉 大 な 人 々の 前 に 立 った。 式 部 官 は、<br />

ここで、 彼 に 教 義 を 取 り 消 すかどうかの 決 定 を 迫 った。ルターは、 激 しさや 感 情 をま<br />

109


国 際 協 定<br />

じえぬ 落 ちついたけんそんな 調 子 で 答 えた。 彼 の 態 度 は 遠 慮 がちで、 礼 儀 正 しかった。<br />

しかし 彼 は、 議 会 を 驚 かすほどの 確 信 と 喜 びにあふれていた。<br />

「いとも 高 き 皇 帝 陛 下 、いとも 高 名 なる 諸 侯 、いとも 優 渥 なる 諸 賢 」とルターは 言<br />

った。「 本 日 、わたくしは、 昨 日 わたくしに 与 えられましたご 命 令 に 従 って、ここに<br />

まいりました。そして、わたくしは、 神 の 憐 れみによって、 陛 下 および 殿 下 方 が、 正<br />

しく 真 実 であるとわたくしの 信 じております 運 動 に 関 する 弁 明 を、 慈 悲 深 く 聞 いてく<br />

ださるように 懇 願 いたします。もしわたくしが、 知 らずに 宮 廷 の 慣 例 や 作 法 に 背 くこ<br />

とがあれば、どうかお 赦 しください。わたくしは、 宮 廷 で 育 った 者 ではなく、 修 道 院<br />

の 隠 遁 生 活 をしていた 者 なのですから。」 21<br />

こうして、いよいよ 本 論 に 入 り、 彼 は、 自 分 の 著 書 は 全 部 が 同 じ 性 質 のものではな<br />

いと 述 べた。ある 著 書 の 中 では、 信 仰 と 善 行 を 扱 っていて、 彼 の 敵 たちでさえ、それ<br />

が 無 害 であるばかりでなくて 有 益 であると 言 明 している。したがって、これらを 取 り<br />

消 すことは、すべての 党 派 の 人 々が 告 白 している 真 理 を 否 認 することである。 第 二 の<br />

部 類 は、 法 王 制 の 腐 敗 と 悪 弊 とを 暴 露 した 著 書 である。こうした 著 書 を 取 り 消 すこと<br />

はローマの 圧 政 を 助 長 し、 多 くのはなはだしい 邪 悪 行 為 への 道 を、さらに 開 くことに<br />

なる。 彼 の 著 書 の 第 三 の 部 類 は、 現 存 する 害 悪 を 弁 護 した 諸 個 人 を 攻 撃 したものであ<br />

った。これについて 彼 は、 度 を 越 えて 激 しく 行 ったことを 率 直 に 告 白 した。 彼 は、 誤<br />

りがなかったとは 言 わなかった。しかし 彼 は、これらの 著 書 に 関 しても 取 り 消 すこと<br />

はできなかった。というのは、そりするならば、 真 理 の 敵 を 大 胆 にし、ますます 残 忍<br />

に 神 の 民 を 粉 砕 するおそれがあったからである。<br />

彼 は 言 葉 を 続 けた。「とはいえ、わたくしは 単 なる 1 個 の 人 間 にすぎず 神 ではあり<br />

ません。ですからわたくしは、キリストのように、『もしわたしが 何 か 悪 いことを 言<br />

ったのなら、その 悪 い 理 由 を 言 いなさい』と 弁 明 するものであります。…… 神 の 憐 れ<br />

みによってわたくしは、いと 高 き 皇 帝 陛 下 と 諸 侯 、そして、すべての 諸 賢 が、 預 言 者<br />

と 使 徒 たちの 書 によって、わたくし<br />

が 誤 っていることを 証 明 してくださるよう 懇 願 いたします。わたくしがこれを 納 得 い<br />

たしましたなら、ただちに、すべての 誤 りを 取 り 消 し、わたくしがまず 第 一 に、わた<br />

くしの 書 物 をとって 火 に 投 げ 込 みましょう。<br />

ただいまわたくしが 申 し 上 げましたことから、わたくしは 自 分 が 当 面 しております<br />

危 険 について 十 分 に 考 察 吟 味 したということが、おわかりいただけると 思 います。し<br />

かしわたくしは、 少 しも 落 胆 してはおりません。 福 音 が 昔 のように、 今 、 紛 争 と 議 論<br />

の 原 因 になったことを、わたくしは 喜 びます。これが、 神 のみ 言 葉 の 特 質 であり、 運<br />

110


国 際 協 定<br />

命 なのです。『 平 和 ではなく、つるぎを 投 げ 込 むためにきたのである』とイエス・キ<br />

リストは 言 われました。<br />

神 は、 驚 くべき、また 恐 るべきことを 仰 せになっています。 紛 争 を 鎮 めようとして、<br />

神 のみ 言 葉 に 逆 らい、 自 分 自 身 の 上 に 避 けることのできない 危 険 と 災 害 の 恐 るべき 大<br />

洪 水 を 招 き、 永 遠 の 破 滅 に 陥 ることのないよう、 注 意 いたさねばなりません。……わ<br />

たくしは、 神 のみ 言 葉 から 多 くの 実 例 を 挙 げることができます。たとえば、パロや、<br />

バビロンの 王 たち、イスラエルの 王 たちは、 一 見 最 も 賢 明 と 思 われた 方 法 である 会 議<br />

によって、 王 国 を 強 化 しようとしたのですが、 実 は、こうした 彼 らの 努 力 が、 他 の 何<br />

よりも 彼 らの 破 滅 を 早 めるのに 貢 献 したのでした。『 神 は 山 を 移 されるが、 彼 らはそ<br />

れを 知 らない』とあるとおりです。」 22<br />

以 上 のことを、ルターはドイツ 語 で 語 った。そして 今 度 は、 同 じ 言 葉 をラテン 語 で<br />

くり 返 すように 要 求 された。 彼 は、これまでの 奮 闘 によって 疲 れきっていたけれども、<br />

それに 応 じて、ふたたび、 最 初 と 同 様 の 明 快 さと 力 強 さをもって 演 説 した。これは 神<br />

の 摂 理 の 導 きであった。 多 くの 諸 侯 たちの 心 は、 誤 りと 迷 信 に 目 がくらんでいたので、<br />

最 初 の 演 説 では、ルターの 議 論 の 力 を 十 分 に 認 めることができなかった。しかし、ふ<br />

たたびくり 返 して 聞 いたために、 示 された 要 点 をはつきりと 理 解 することができた。<br />

光 に 対 してかたくなに 目 を 閉 じ、 真 理 に 説 得 されまいと 心 をきめていた 人 々は、ル<br />

ターの 力 強 い 言 葉 に 激 怒 した。 彼 が 語 り 終 えた 時 、 議 会 の 代 弁 者 は 怒 って 言 った。<br />

「あなたは 質 問 されたことに 答 弁 していない。……あなたには、 明 瞭 で 正 確 な 答 えが<br />

要 求 されている。……あなたは 取 り 消 すのか、 取 り 消 さないのか。」 改 革 者 は 答 えた。<br />

「 皇 帝 陛 下 と 殿 下 方 は、わたくしに 簡 単 で 明 瞭 で 正 確 な 答 えを 要 求 しておられますの<br />

で、ここにお 答 えいたします。それは 次 のとおりであります。わたくしはわたくしの<br />

信 仰 を、 法 王 にも 会 議 にも 従 わせることはできません。と 申 しますのは、 両 者 ともし<br />

ばしば 誤 りを 犯 し、また 互 いに 矛 盾 してきたということが 明 白 だからであります。<br />

それゆえ、わたくしは、 聖 書 からの 証 明 、あるいは 明 瞭 な 議 論 によって、 納 得 させ<br />

られないかぎり、また、わたくしが 引 用 した 聖 旬 によって 納 得 させられないかぎり、<br />

そして、このようにして、わたくしの 良 心 が 神 のみ 言 葉 によって 義 務 づけられないか<br />

ぎり、わたくしは 取 り 消 すことができませんし、 取 り 消 そうとも 思 いまりせん。なぜ<br />

なら、キリスト 者 が 良 心 に 背 いて 語 ることは、 危 険 だからであります。ここに、わた<br />

くしは 立 ちます。わたくしは、これ 以 外 に 何 もできません。 神 よ、わたくしを 助 けた<br />

まえ。アーメン。」 23<br />

111


国 際 協 定<br />

こうして、 義 人 ルターは、 神 のみ 言 葉 の 確 かな 土 台 の 上 に 立 った。 天 からの 光 が 彼<br />

の 顔 を 照 らした。 彼 の 偉 大 で 純 潔 な 品 性 、 彼 の 心 の 平 和 と 喜 びとが、すべての 者 に 明<br />

らかに 示 された。こうして、 彼 は、 誤 りの 力 に 対 抗 してあかしを 立 て、 世 に 勝 っ 信 仰<br />

がいかに 優 れたものであるかを 証 明 した。<br />

集 まった 者 はみな、しばらくの 間 、 驚 きのあまり 何 も 言 えなかった。ルターは、 最<br />

初 に 答 えた 時 に、 低 い 声 で、 敬 意 を 表 しながら、 従 順 な 態 度 で 話 した。 法 王 側 はこれ<br />

を、 彼 の 勇 気 がくじけ 始 めた 証 拠 であると 解 釈 した。 彼 らは、 延 期 の 願 い 出 を、 取 り<br />

消 しの 前 提 に 過 ぎないと 考 えた。カール 自 身 さえ、 修 道 士 の 疲 れた 様 子 、 彼 の 質 素 な<br />

衣 服 、そして、 彼 の 飾 り 気 のない 話 に 対 し、 半 ば 軽 べつ 的 に「この 修 道 士 は、わたし<br />

を 異 端 者 にすることは 決 してできない」と 言 った。しかるに 今 、 彼 の 議 論 の 力 と 明 瞭<br />

さと 共 に、 彼 が 表 し た 勇 気 と 堅 固 さとに、すべての 者 は 驚 き 入 った。 皇 帝 も 賛 嘆 して、<br />

「この 修 道 士 は、 大 胆 にゆるがぬ 勇 気 をもって 語 る」と 叫 んだ。ドイッの 諸 侯 たちの<br />

多 くは、 彼 らの 国 のこの 代 表 者 に 誇 りと 喜 びを 感 じたのである。<br />

ローマ 派 の 者 たちは 敗 北 した。 彼 らの 運 動 は 最 も 不 利 なぐ 匠 場 に 陥 ったように 見 え<br />

た。 彼 らは、 聖 書 に 訴 えることをせず、ローマの 常 套 手 段 である 脅 迫 によって、 彼 ら<br />

の 権 力 を 維 持 しようとした。 議 会 の 代 弁 者 は、「あなたが 取 り 消 さないならば、 皇 帝<br />

と 帝 国 内 の 諸 国 は、 頑 迷 な 異 端 者 に 何 をすべきかを 協 議 する」と 言 った。 ルターの 友<br />

人 たちは、 彼 の 堂 々とした 弁 護 を 非 常 に 喜 んで 聞 いていたが、この 言 葉 を 聞 いて 戦 慄<br />

した。しかしルター 自 身 は 冷 静 に、「 神 がわたくしの 援 助 者 となってくださるように。<br />

わたくしには 何 も 取 り 消 すことができないからです」と 言 った。 24<br />

彼 は、 諸 侯 たちが 協 議 する 間 、 議 会 から 出 るように 命 じられた。 一 大 危 機 がやって<br />

きたことが 感 じられた。ルターが 従 うことを 頑 強 に 拒 むことは、 幾 時 代 にもわたる 教<br />

会 の 歴 史 に 影 響 を 及 ぼすものであった。 彼 にもう 1 度 取 り 消 す 機 会 を 与 えることが 決<br />

定 された。 彼 は、いよいよ 最 終 的 に 議 会 に 連 れ 出 された。 彼 は、もう 1 度 、 彼 の 教 義<br />

を 放 棄 するかどうかを 聞 かれた。「わたくしは、すでに 申 し 上 げたこと 以 外 に、お 答<br />

えすることはございません」と 彼 は 言 った。どんな 約 束 や 脅 迫 によっても、 彼 をロー<br />

マの 命 令 に 屈 服 させることができないことは 明 らかであった。<br />

法 王 側 の 指 導 者 たちは、 王 たちや 貴 族 たちを 戦 標 させてきた 彼 らの 権 力 が、このよ<br />

うにして 卑 しい 修 道 王 によって 軽 べつされたことを 無 念 がり、 彼 に 拷 問 の 責 め 苦 を 加<br />

えて 殺 すことによって、 彼 らの 怒 りを 彼 に 思 い 知 らせたいと 望 んだ。しかしルターは、<br />

自 分 の 危 険 を 悟 って、すべての 者 にキリスト 者 の 威 厳 と 冷 静 さをもって 答 えた。 彼 の<br />

言 葉 には、 高 慢 や 激 しい 感 情 や 誤 り 偽 りなどは 1 つもなかった。 彼 は、 自 分 自 身 も、<br />

112


国 際 協 定<br />

自 分 の 周 りの 偉 大 な 人 物 たちのことも 忘 れ、ただ 自 分 が、 法 王 や 高 位 聖 職 者 や 王 や 皇<br />

帝 などよりも、 無 限 に 優 れておられるところの 神 の 面 前 にある、ということしか 考 え<br />

なかった。キリストが、ルターの 証 言 を 通 して 力 強 く 堂 々と 語 られたのであった。そ<br />

のために、 敵 も 味 方 も、 一 時 は 驚 嘆 し 敬 服 してしまった。その 議 会 には 神 の 霊 が 臨 在<br />

して、 帝 国 の 首 脳 者 たちの 心 に 感 銘 を 与 えられた。 諸 侯 たちの 幾 人 かは、ルターの 運<br />

動 の 正 当 性 を 大 胆 にも 認 めた。 多 くの 者 が 真 理 を 悟 った。しかし、 受 けた 印 象 が 長 続<br />

きしない 者 もあった。そのほかに、この 時 は 受 けた 感 銘 の 表 示 はしなかったものの、<br />

後 に 自 分 で 聖 書 を 研 究 して、 恐 れを 知 らぬ 宗 教 改 革 の 支 持 者 になったものもあった。<br />

選 挙 侯 フリードリヒは、ルターが 議 会 に 現 れるのを、 今 か 今 かと 待 っていた。そし<br />

て、 彼 の 演 説 を 聞 いて 深 く 感 動 した。 彼 は、 喜 びと 誇 りをもってルターの 勇 気 と 堅 固<br />

さと 沈 着 な 態 度 を 見 、ますます 断 固 として 彼 を 擁 護 する 決 心 をした。 彼 は、 論 争 にお<br />

ける 両 者 を 比 較 し、 法 王 や 王 たちや 高 位 聖 職 者 たちの 知 恵 が、 真 理 の 力 によって 打 ち<br />

こわされたのを 見 た。 法 王 制 は、 各 国 各 時 代 に 影 響 を 及 ぼす 敗 北 をこうむった。 法 王<br />

使 節 は、ルターの 演 説 が 引 き 起 こした 影 響 に 気 づいた 時 、これまでになかったほどロ<br />

ーマの 権 力 の 安 泰 を 心 配 し、 全 力 をあげて 改 革 者 ルターを 倒 そうと 決 意 した。 彼 は、<br />

その 優 れた 特 質 であった 雄 弁 と 外 交 的 手 腕 とをふるって、 名 もない 一 修 道 士 の 主 張 の<br />

ために、 強 力 なローマ 法 王 庁 の 友 交 と 支 持 を 犠 牲 にすることの 愚 かさと 危 険 とを、 若<br />

い 皇 帝 に 説 いた。<br />

彼 の 言 葉 は 影 響 を 及 ぼさずにはいなかった。ルターの 答 弁 が 行 われた 翌 日 、カール<br />

は、 先 祖 たちの 政 策 に 従 ってカトリック 教 を 擁 護 し 保 護 するという 決 意 を 伝 える 布 告<br />

を、 議 会 に 提 出 させた。ルターは 自 分 が 誤 っていることを 取 り 消 すのを 拒 んだのであ<br />

るから、 彼 と、 彼 の 唱 えた 異 端 に 対 しては、 断 固 とした 処 置 が 取 られるのであった。<br />

「 自 分 自 身 の 愚 かな 考 えに 道 を 誤 った 一 修 道 士 が、キリスト 教 の 信 仰 に 反 対 して 立 ち<br />

上 がった。このような 不 敬 慶 を 阻 止 するために、わたしは、わたしの 王 国 、わたしの<br />

宝 、わたしの 友 、わたしの 体 、わたしの 血 、わたしの 魂 、そして、わた しの 生 命 を 犠<br />

牲 にする。わたしは、アウグスチン 派 修 道 会 士 ルターを 追 放 し、 彼 が 国 民 の 間 で 少 し<br />

でも 秩 序 を 乱 すことを 禁 じる。そして、わたしは、ルターと 彼 の 支 持 者 たちを、 反 抗<br />

的 な 異 端 者 として 訴 え、 破 門 、 聖 務 禁 止 、そしてあらゆる 手 段 をもって 撲 滅 するであ<br />

ろう。わたしは、 議 員 たちが、 忠 実 なキリスト 者 として 行 動 することを 求 める。」 25<br />

しかしルターの 通 行 券 は 尊 重 すべきで、 彼 に 対 する 処 分 が 行 われる 前 に 彼 は 安 全 に 帰<br />

宅 を 許 されるべきであると 皇 帝 は 宣 した。<br />

ここで、 議 会 の 議 員 の 中 で、2 つの 相 反 する 意 見 が 主 張 された。 法 王 使 節 と 法 王 側<br />

の 代 表 者 たちは、 改 革 者 の 通 行 券 を 無 視 することを 再 び 主 張 した。「1 世 紀 前 のヨハ<br />

113


国 際 協 定<br />

ン・フスのように、 彼 の 灰 はライン 河 に 投 げられるべきである」と 彼 らは 言 った。 26<br />

しかしドイツの 諸 侯 は、 彼 ら 自 身 法 王 教 徒 でルターの 宿 敵 ではあったが、そのような<br />

一 般 の 信 頼 に 背 く 行 為 に 反 対 し、それは 国 家 の 名 誉 を 辱 しめる 汚 点 であるとして 異 議<br />

を 唱 えた。 彼 らは、フスの 死 後 に 起 きた 不 幸 なできごとを 指 して、これと 同 様 の 恐 ろ<br />

しい 災 いを、ドイツおよび 年 若 い 皇 帝 の 上 に 降 したくないと 言 明 した。<br />

カール 自 身 もその 卑 劣 な 提 案 に 答 えていった。「たとえ 全 世 界 から 名 誉 と 信 義 が 追<br />

放 されても、それらは、 諸 侯 の 心 の 中 に 隠 れ 家 を 見 いださなければならない。」 27 法<br />

王 側 の、ルターを 最 も 憎 んでいる 敵 は、ジギスムントがフスを 扱 ったように、 皇 帝 が<br />

ルターを 処 理 するよう、さらに 要 求 した。それは、 彼 を 教 会 の 手 中 に 一 任 することで<br />

あった。しかし、フスが 公 衆 の 面 前 で 自 分 の 鎖 を 指 し、 皇 帝 の 不 実 を 指 摘 したことを<br />

思 い 起 こして、カール 5 世 は、「わたしはジギスムントのように 赤 面 したくない」と<br />

言 った。 28<br />

しかし、カールは、ルターが 示 した 真 理 を 故 意 に 拒 絶 した。「わたしは 先 祖 たちの<br />

模 範 に 従 うことを 堅 く 決 心 した」と 王 は 書 いた。 29 。 彼 は、 慣 習 の 道 からは 1 歩 も 外<br />

に 出 ない 決 心 をし、 真 理 と 義 の 道 を 歩 こうとさえしなかった。 彼 は、 先 祖 たちが 支 持<br />

したゆえに、 残 酷 で 腐 敗 しているにもかかわらず 法 王 制 を 支 持 するのであった。こう<br />

して 彼 は、 先 祖 たちが 受 けた 光 よりも 進 んだ 光 を 受 けることを 拒 み、 彼 らが 行 わなか<br />

った 義 務 は、 何 1 つすまいとしたのである。<br />

今 日 でも、 先 祖 の 習 慣 や 伝 統 を 固 守 する 人 が 多 い。 主 が 彼 らに 新 しい 光 をお 与 えに<br />

なると、 彼 らは、それが 先 祖 に 与 えられておらず、 彼 らがそれを 受 け 入 れていなかっ<br />

たという 理 由 で 受 けることを 拒 む。われわれは、 先 祖 たちの 時 代 におかれてはいない。<br />

したがってわれわれの 義 務 と 責 任 は、 彼 らと 同 じではない。 自 分 で 真 理 の 言 葉 を 探 究<br />

せずに、 先 祖 の 模 範 によってわれわれの 義 務 を 決 定 しようとすることは、 神 に 喜 ばれ<br />

ない。われわれの 責 任 は、 先 祖 たちの 責 任 よりはいっそう 重 いのである。 われわれは、<br />

彼 らが 受 けた 光 、そして、われわれに 遺 産 として 伝 えられたものに 対 して 責 任 がある。<br />

そして、われわれは、 今 神 のみ 言 葉 からわれわれの 上 に 輝 いている 追 加 的 な 光 に 対 し<br />

てもまた 責 任 がある。<br />

キリストは、 不 信 仰 なユダヤ 人 について 言 われた。「もしわたしがきて 彼 らに 語 ら<br />

なかったならば、 彼 らは 罪 を 犯 さないですんだであろう。しかし 今 となっては、 彼 ら<br />

には、その 罪 について 言 いのがれる 道 がない」[ヨハネ 15:。 同 じ 神 の 力 が、ルター<br />

を 通 して、ドイツの 皇 帝 と 諸 侯 に 語 ったのである。そして、 光 が 神 のみ 言 葉 から 輝 い<br />

た 時 に、 神 の 霊 が、 議 会 内 の 多 くの 者 に 最 後 の 訴 えをした。 幾 世 紀 の 昔 、ピラトが 誇<br />

114


国 際 協 定<br />

りと 人 々の 歓 心 を 買 うために 世 界 の 贖 い 主 に 対 して 心 を 閉 じたように、また 戦 標 した<br />

ペリクスが「 今 日 はこれで 帰 るがよい。また、よい 機 会 を 得 たら、 呼 び 出 すことにす<br />

る」と 言 ったように、また、 高 慢 なアグリッパが「おまえは 少 し 説 いただけで、わた<br />

しをクリスチャンにしようとしている」と 言 いながら、 天 からのメッセージを 退 けた<br />

ように、そのようにカール 5 世 は、この 世 的 な 誇 りと 政 策 に 屈 して、 真 理 の 光 を 拒 否<br />

することになったのである[ 使 徒 行 伝 24:25、26:。<br />

ルターに 危 害 を 加 えようとする 陰 謀 のうわさが 広 く 伝 わり、 全 市 は 大 騒 ぎになった。<br />

改 革 者 ルターは、 多 くの 友 人 を 持 っていた。 彼 らは、ローマの 腐 敗 をあばくすべての<br />

者 に 対 するローマの 不 実 な 残 虐 行 為 を 知 っていたので、 彼 を 犠 牲 にしてはならないと<br />

決 意 した。 数 百 の 貴 族 が 彼 を 保 護 することを 契 約 した。ローマの 支 配 権 に 屈 したこと<br />

を 示 す 皇 帝 の 布 告 に 対 して、 公 然 と 反 対 するものも 少 なくなかった。 家 々の 門 や 公 の<br />

場 所 に、ポスターがはられ、ルターを 非 難 するものもあれば、 支 援 するものもあった。<br />

その 1 つには 次 のような、 賢 者 の 意 義 深 い 言 葉 だけが 書 かれていた。「あなたの 王 は<br />

わらべであって、……あなたはわざわいだ」[ 伝 道 の 書 10:。<br />

ルターの 人 気 は、ドイツ 全 土 において 非 常 なものであったので、もし 彼 に 対 する 不<br />

正 が 行 われるならば、 帝 国 の 平 和 は 破 られ、 王 位 さえ 安 定 があやぶまれることを、 皇<br />

帝 も 議 会 も 共 に 痛 感 したのである。 ザクセンのフリードリヒは、 改 革 者 に 対 する 本 心<br />

を 注 意 深 く 表 に 出 さず、 沈 黙 を 守 っていた。しかし 同 時 に、ルターを 厳 重 に 保 護 し、<br />

彼 のすべての 行 動 と 彼 の 敵 のあらゆる 動 きを 見 守 っていた。しかし、ルターに 対 する<br />

同 情 を 隠 そうとしないものも 多 かった。ルターは、 諸 侯 、 伯 爵 、 男 爵 、その 他 、 一 般<br />

と 聖 職 両 方 面 の 高 貴 な 人 々の 訪 問 を 受 けた。「ルター 博 士 の 小 さい 部 屋 は、 訪 問 して<br />

きた 人 々をみな 入 れることができなかった」とシュパラティンは 書 いている。 30 人 々<br />

は 彼 を、まるで 超 人 であるかのようにながめた。 彼 の 教 義 を 信 じなかった 人 々でさえ、<br />

自 分 の 良 心 にそむくよりは 死 をさえいとわぬ 彼 の 高 潔 さに 対 して、 賛 嘆 せずにはおれ<br />

なかった。<br />

ローマとの 妥 協 にルターを 同 意 させようとするけんめいの 努 力 がなされた。 貴 族 や<br />

諸 侯 たちは、もし 彼 が 自 説 に 固 執 して、 教 会 と 議 会 の 決 定 に 背 くならば、 彼 はすぐに<br />

帝 国 外 に 追 放 され、なんの 防 御 もなくなると 説 明 した。この 訴 えに 対 して、ルターは<br />

次 のように 答 えた。「キリストの 福 音 を 伝 えると 必 ず 攻 撃 を 受 けます。……しかしそ<br />

うだからといって 恐 怖 や 不 安 のために 主 から 離 れ、 唯 一 の 真 理 である 神 の 言 葉 から 離<br />

れてよいでしょうか。いいえ、わたしはむしろ、わたしの 体 、わたしの 血 、わたしの<br />

生 命 をささげたいのです。」 31<br />

115


国 際 協 定<br />

彼 は、ふたたび、 皇 帝 の 意 見 に 従 うように 勧 められた。そうすれば 彼 は、 何 も 恐 れ<br />

るものがなくなる。 彼 は、それに 答 えて 言 った。「わたしは、 皇 帝 、 諸 侯 、また、ど<br />

んなに 身 分 の 低 いキリスト 者 であっても、わたしの 著 書 を 吟 味 し、 判 断 することに 心<br />

から 同 意 する。この 場 合 、 唯 一 の 条 件 は、 彼 らが 神 の 言 葉 を 標 準 にすることである。<br />

人 間 は 服 従 することのほかは 何 もできない。わたしの 良 心 に 背 くことを 提 案 しないで<br />

ほしい。わたしの 良 心 は 聖 書 に 縛 られつながれている。」 32 また、 他 の 訴 えに 対 して<br />

彼 は、「わたしは、 自 分 の 通 行 券 を 放 棄 することに 同 意 する。わたしは、 自 分 の 身 と<br />

生 命 とを 皇 帝 の 手 に 渡 す。しかし、 神 の 言 葉 は、 決 して 渡 さない」と 言 った。 33 彼 は、<br />

自 分 は 喜 んで 議 会 の 決 定 に 服 すといったが、その 場 合 の 唯 一 の 条 件 は、 議 会 が 聖 書 に<br />

基 づいて 決 定 するということであった。「 神 の 言 葉 と 信 仰 に 関 して、 法 王 には 百 万 の<br />

会 議 の 支 持 があるにせよ、 各 キリスト 者 は 法 王 に 劣 らずりっぱな 裁 判 官 である」とつ<br />

け 加 えた。 34 敵 も 味 方 も 共 に、これ 以 上 妥 協 を 勧 めてもむだなことを 知 った。<br />

もしもルターが 1 つの 点 でも 妥 協 したならば、サタンとその 軍 勢 は 勝 利 をおさめた<br />

ことであろう。しかし、 彼 がゆるがず 堅 く 立 ったことが、 教 会 解 放 の 道 を 開 き、 新 し<br />

い、そしてよりよい 時 代 の 開 始 となった。 信 仰 問 題 について 自 ら 思 考 し 行 動 したこの<br />

一 人 物 の 影 響 は、 教 会 と 世 界 に 及 び、その 時 代 だけにとどまらずその 後 の 各 時 代 にま<br />

で 及 んだ。 彼 の 確 固 不 動 の 忠 誠 は、 時 の 終 わりに 至 るまで、 同 様 の 経 験 をたどるすべ<br />

ての 者 を 励 ますのである。 神 の 力 と 威 光 とが、 人 間 の 会 議 と、サタンの 大 きな 力 とを、<br />

超 越 したのであった。<br />

まもなくルターは、 皇 帝 の 方 から 帰 国 を 命 じられた。そして 彼 は、この 指 示 の 次 に<br />

は、すぐに 有 罪 の 宣 告 が 下 されることを 知 っていた。 彼 の 前 途 を 暗 雲 が 覆 った。しか<br />

し、ウォルムスを 去 る 時 、 彼 の 心 は 喜 びと 賛 美 に 満 たされた。「 悪 魔 自 身 が 法 王 のと<br />

りでを 守 った。しかしキリストはこれに 大 きな 破 損 を 与 え、サタンは、 主 が 彼 よりも<br />

力 あることを 告 白 しなければなら なかった」と 彼 は 言 った。 35 ルターは、 出 発 した 後<br />

も、 彼 の 堅 い 決 意 が 反 逆 とまちがえられないために、 皇 帝 に 手 紙 を 書 いた。「 人 間 の<br />

生 命 が 依 存 している 神 の 言 葉 のこと 以 外 において、わたくしが、 名 誉 であれ 不 名 誉 で<br />

あれ、 生 であれ 死 であっても、 直 ちに 熱 誠 こめて 陛 下 にお 従 いしようとするものであ<br />

りますことは、 心 を 探 られる 神 が、わたくしの 証 人 であります。 現 世 のいっさいのこ<br />

とにおいて、わたくしの 忠 誠 に 動 揺 はございません。と 中 しますのは、ここで 得 るも<br />

失 うも、 救 いには 関 係 がないからであります。しかしながら、 永 遠 のことに 関 しまし<br />

ては、 人 間 が 人 間 に 従 うことは 神 のみ 旨 ではございません。なぜならば、 霊 的 事 柄 に<br />

おけるこのような 服 従 は、 事 実 上 の 礼 拝 であり、それはただ 創 造 主 にのみ 帰 すべきも<br />

のだからであります。」 36<br />

116


国 際 協 定<br />

ルターは、ウォルムスからの 帰 途 、 行 く 時 よりも 盛 大 な 歓 迎 を 受 けた。 高 位 の 聖 職<br />

者 たちが 破 門 された 修 道 士 を 歓 迎 し、 長 官 たちが、 皇 帝 に 譴 責 された 者 に 敬 意 を 表 し<br />

た。 彼 は、 禁 じられてはいたが、 勧 められるままに 説 教 壇 に 立 った。「わたしは 神 の<br />

言 葉 を 鎖 につなぐとは 誓 わなかったし、これからも 決 してそんなことはしない」と 彼<br />

は 言 った。 37 彼 がウォルムスを 去 ってまもなく、 法 王 側 は 皇 帝 に 迫 って、ルターに 対<br />

する 布 告 を 発 布 させた。この 布 告 の 中 で、ルターは、「 人 間 の 形 をとり 修 道 士 の 衣 を<br />

まとったサタン 自 身 である」と 告 発 された。 38 彼 の 通 行 券 の 期 限 が 終 わるとすぐに 彼<br />

の 運 動 をやめさせるよう、 命 じられていた。だれであっても、 彼 をかくまったり 飲 食<br />

を 与 えたり、 言 葉 であれ 行 為 であれ、 公 私 を 問 わず、 彼 を 支 援 し 助 けることが 禁 じら<br />

れた。 彼 は、 発 見 されたならば 直 ちに 逮 捕 され、 官 感 に 引 き 渡 されねばならなかった。<br />

彼 の 支 持 者 たちもまた、 投 獄 されて 財 産 を 没 収 されなければならなかった。 彼 の 著 書<br />

は 破 棄 されねばならなかった。そして、 最 後 に、この 布 告 に 反 抗 するものは、みな、<br />

同 様 の 宣 告 を 受 けなければならなかった。ザクセンの 選 挙 侯 と、ルターに 好 意 的 な 諸<br />

侯 たちは、ルターの 出 発 後 すぐにウォルムスを 去 っていたので、 皇 帝 の 命 令 は 議 会 の<br />

賛 成 を 得 た。こうして 法 王 側 は 喜 んだ。 彼 らは、 宗 教 改 革 の 運 命 はもう 決 まったと 考<br />

えた。<br />

この 危 機 においても、 神 は、ご 自 分 のしもべのために、 逃 れの 道 を 備 えておられた。<br />

ルターの 動 きを 片 時 も 目 を 離 さず 見 守 っていたものがあった。そして、 真 実 で 高 貴 な<br />

心 の 持 ち 主 が、 彼 を 救 援 する 決 心 をしていた。ローマはルターを 死 に 処 するまでは 満<br />

足 しないということは 明 らかであった。 彼 をライオンのきばから 救 うには、 彼 を 隠 す<br />

ほかなかった。 神 は、ルターを 庇 護 する 策 略 をたてるように、ザクセンのフリードリ<br />

ヒ 侯 に 知 恵 を 授 けられた。 選 挙 侯 は、 誠 実 な 同 志 の 協 力 によって 目 的 を 達 成 した。そ<br />

してルターは、 敵 からも 味 方 からもうまく 隠 されたのである。ルターは、 帰 る 途 中 捕<br />

らえられて、 従 者 たちから 引 き 離 され、 森 林 の 中 を 急 いで 通 過 し、 人 里 離 れた 山 のと<br />

りでであるワルトブルクの 城 に 連 れていかれた。 彼 の 逮 捕 と 潜 伏 とは 極 秘 のうちに 行<br />

われたために、フリードリヒ 自 身 でさえ、 彼 がどこに 連 れていかれたかを 長 い 間 知 ら<br />

なかった。これは、 計 画 的 に、 侯 には 知 らされなかったのであった。つまり、 実 際 に<br />

ルターの 居 場 所 を 知 らぬかぎり、 聞 かれても 答 えられなかったからである。 彼 は、ル<br />

ターが 安 全 であるということだけで 満 足 であった。<br />

春 、 夏 、 秋 が 過 ぎて 冬 になったが、ルターはまだ 捕 われの 身 であった。アレアンダ<br />

ーと 彼 の 徒 党 は、 福 音 の 光 が 消 えてしまったように 見 えたので 勝 ち 誇 った。しかし、<br />

そうではなくて、ルターは 真 理 の 宝 庫 で、 彼 の 燈 に 油 を 満 たしていた。そして、その<br />

光 はますます 明 るく 輝 き 出 るのであった。 ワルトブルクの 友 好 的 で 安 全 な 場 所 で、ル<br />

117


国 際 協 定<br />

ターは、 闘 いの 熱 と 混 乱 から 逃 れたことをしばらくは 喜 んだ。しかし 彼 は、 静 けさと<br />

休 息 の 中 で 長 く 満 足 していることはできなかった。 彼 は、 活 動 的 生 活 と 厳 しい 闘 いに<br />

なれていたので、 何 もしないでいることはできなかった。こうした 孤 独 の 時 に、 彼 は、<br />

教 会 の 状 態 を 思 い 浮 かべ、「ああこの 神 の 怒 りの 最 後 の 日 に、 主 の 前 に 城 壁 となって、<br />

イスラエルを 救 うものがいない」と 絶 望 の 叫 びをあげた。 39 彼 は、 再 びわれに 帰 って、<br />

自 分 が 争 闘 から 身 をひいておくびょう 呼 ばわりされることを 恐 れた。そして、 自 分 の<br />

怠 慢 と 放 縦 を 責 めた。しかし、それでも 彼 は、 毎 日 、1 人 の 人 の 仕 事 とは 思 われない<br />

ほど 多 くのことを 成 し 遂 げていた。 彼 は 休 みなくペンを 動 かしていた。 敵 は 彼 を 沈 黙<br />

させたと 楽 観 していた 時 に、 彼 がなお 活 動 しているという 具 体 的 な 証 拠 を 見 て 驚 きあ<br />

わてた。 彼 が 書 いた 多 くの 小 冊 子 が、ドイツ 全 王 に 配 布 された。 彼 はまた、 新 約 聖 書<br />

をドイツ 語 に 翻 訳 して、 彼 の 同 胞 のために 最 も 重 要 な 奉 仕 をした。 彼 は、パトモスと<br />

も 言 べきとりでから、 丸 1 年 近 くの 間 、 福 音 を 宣 布 し、その 時 代 の 罪 と 誤 りを 譴 責 し<br />

続 けたのである。<br />

神 がご 自 分 のしもべを 公 的 生 活 の 舞 台 から 退 かせられたのは、 単 にルターを 敵 の 怒<br />

りから 保 護 し、また、このような 重 大 な 仕 事 のために 静 かな 時 を 与 えるためだけでは<br />

なかった。これらよりもさらに 尊 い 経 験 が 与 えられた。 人 里 離 れた 寂 しい 山 の 隠 れ 家<br />

で、ルターは 地 上 の 援 助 と 人 間 の 賞 賛 から 切 り 離 された。こうして 彼 は、 成 功 にしば<br />

しば 伴 う 誇 りと 自 己 過 信 から 救 われた。 彼 は、 苦 難 と 屈 辱 によって、 彼 が 突 然 あげら<br />

れた 目 の 回 るような 高 い 所 をふたたび 安 全 に 歩 くことができるよう、 準 備 が 与 えられ<br />

たのである。 人 々は、 真 理 が 彼 らにもたらす 自 由 を 喜 ぶ 時 に、 誤 りと 迷 信 の 鎖 を 断 ち<br />

切 るために 神 が 用 いられる 人 々を 賞 賛 する 傾 向 がある。サタンは、 人 間 の 思 想 と 愛 情<br />

を 神 から 引 き 離 し、 人 間 的 器 に 向 けようとしている。 彼 は 人 々を、 単 なる 器 に 栄 誉 を<br />

帰 すように、そして、すべてのできごとを 摂 理 によって 導 かれる 神 の 御 手 を 無 視 する<br />

ようにとしむける。こうして 賞 賛 され、あがめられる 宗 教 的 指 導 者 たちは、しばしば、<br />

神 に 頼 ることを 忘 れて 自 分 に 頼 るようになる。その 結 果 彼 らは、 神 の 言 葉 に 頼 るかわ<br />

りに 彼 らの 指 導 を 仰 こうとする 人 々の、 心 と 良 心 とを 支 配 しようとするのである。 改<br />

革 事 業 は、 支 持 者 たちのこうした 精 神 のために、しばしば 阻 止 された。 神 は、 宗 教 改<br />

革 運 動 をこの 危 険 から 守 ろうとされたのである。 神 は、 運 動 が 人 間 の 刻 印 ではなくて、<br />

神 の 刻 印 を 受 けることを 望 まれた。 人 々の 目 は、 真 理 の 解 説 者 としてのルターに 向 け<br />

られていた。そこで 人 々の 目 が、 真 理 の 本 源 である 永 遠 の 神 に 向 けられるように、 彼<br />

は 引 き 離 されたのであった。<br />

118


国 際 協 定<br />

119


国 際 協 定<br />

第 9 章 スイスにおける 改 革 運 動<br />

教 会 を 改 革 する 器 を 選 ぶに 当 たっては、 教 会 を 設 立 する 際 と 同 様 の 神 のご 計 画 が 見<br />

られる。 天 からの 教 師 キリストは、 国 民 の 指 導 者 として 賞 賛 や 栄 誉 を 受 けることに 馴<br />

れた 地 士 の 偉 大 な 人 々、 肩 書 きや 富 を 持 った 人 々をお 用 いにならなかった。 彼 らは、<br />

非 常 に 高 慢 で、 自 分 に 自 信 を 持 ち、 優 越 を 誇 っていたために、 同 胞 に 同 情 し、 謙 そん<br />

なナザレ 人 イエスと 協 力 することができなかった。 無 学 で 苦 労 して 働 くガリラヤの 漁<br />

夫 士 たちに、「わたしについてきなさい。あなたがたを、 人 間 をとる 漁 師 にしてあげ<br />

よう」という 召 しが 与 えられた[マタイ 4:。この 弟 子 たちは、 謙 そんでよく 聞 き 従 う<br />

人 々であった。その 時 代 の 偽 りの 教 えに 影 響 されていなければいないほど、キリスト<br />

が 彼 らをご 用 のために 教 え 訓 練 することが 成 功 を 収 める。 大 宗 教 改 革 の 時 代 でもそう<br />

であった。 主 な 宗 教 改 革 者 たちは 低 い 身 分 の 出 で、その 時 代 の 地 位 の 誇 りや 頑 迷 さ、<br />

聖 職 者 たちの 政 策 などから 最 も 縁 遠 い 人 々であった。 卑 しい 器 を 用 いて 大 きな 業 績 を<br />

完 成 することが 神 のご 計 画 である。・そうするならば、 栄 光 は、 人 間 たちではなくて、<br />

彼 らに 願 いを 起 こさせてそれを 実 現 に 至 らせ、 神 のみこころを 行 わせられた 神 に 帰 せ<br />

られるのである。<br />

ルターがザクセンの 鉱 夫 小 屋 で 生 まれた 数 週 間 後 に、ウルリッヒ・ッウィングリが、<br />

アルプス 山 中 の 羊 飼 いの 小 屋 で 生 まれた。ツウィングリの 幼 少 時 代 の 環 境 と 教 育 は、<br />

彼 の 将 来 の 使 命 に 対 するよい 準 備 であった。 雄 大 で 美 しく 荘 厳 な 自 然 のなかで 育 った<br />

ので、 彼 の 心 には 早 くから、 神 の 偉 大 さと 力 と 威 厳 とが 刻 みこまれた。 彼 の 故 郷 の 山<br />

中 で 成 し 遂 げられた 勇 敢 な 行 為 の 歴 史 は、 彼 の 若 い 心 に 熱 望 の 火 を 燃 やした。そして<br />

彼 は、 信 心 深 い 祖 母 のかたわらで、 彼 女 が 教 会 の 言 い 伝 えや 伝 説 の 中 から 拾 い 集 めた<br />

貴 重 な 聖 書 の 物 語 に 耳 を 傾 けた。<br />

彼 は、 熱 心 に 興 味 深 く、 父 祖 たちや 預 言 者 たちの 偉 大 な 行 為 の 話 、パレスチナの 丘<br />

で 羊 を 飼 っていた 羊 飼 いに 天 使 があらわれた 話 、ベツレヘムの 赤 ん 坊 でありカルバリ<br />

ーの 人 であられたイエスの 話 を 聞 いた。 ハンス・ルターのように、ツウィングリの 父<br />

も、 息 子 に 教 育 を 受 けさせようと 望 み、 早 くから 少 年 を 郷 里 の 谷 間 から 送 り 出 してい<br />

た。ツウィングリの 知 能 の 発 達 は 早 く、やがて、 彼 を 教 えることのできる 教 師 を 見 つ<br />

けることが 問 題 になった。 彼 は 13 歳 の 時 に、スイスの 最 高 学 府 の 所 在 地 、ベルンに<br />

送 られた。しかし、ここで、 彼 の 前 途 をはばもうとする 危 険 が 迫 った。 修 道 士 たちが、<br />

何 とかして 彼 を 修 道 院 に 誘 い 入 れようとしたのである。 当 時 はドミニコ 会 士 とフラン<br />

シスコ 会 士 とが、 人 々の 人 気 を 得 ようとして 張 り 合 っていた。そのために 彼 らは、 教<br />

120


国 際 協 定<br />

会 を 華 麗 に 飾 り、 荘 厳 な 儀 式 を 行 い、 有 名 な 聖 遺 物 や 奇 跡 を 行 う 像 などで 人 を 引 きっ<br />

けようとした。<br />

ベルンのドミニカン 派 の 修 道 士 たちは、この 有 能 で 若 い 学 者 を 獲 得 することができ<br />

れば、 利 益 と 栄 誉 を 共 に 確 保 できると 考 えた。 彼 の 非 常 な 若 々しさ、 雄 弁 家 また 著 者<br />

としての 天 分 、 音 楽 と 詩 の 才 能 などは、あらゆる 誇 示 虚 飾 よりも 効 果 的 に 人 々を 集 会<br />

に 引 きつけ、 彼 らの 修 道 会 の 収 入 を 増 加 させるものであった。 彼 らは、 不 正 な 手 段 や<br />

こびへつらいによって、ッウィングリを 彼 らの 修 道 院 に 入 れさせようとした。ルター<br />

は 学 生 時 代 、 修 道 院 の 一 室 に 閉 じこもっていて、もし 神 の 摂 理 が 彼 を 解 放 しなければ、<br />

世 から 全 く 失 われてしまうところであった。ツウィングリは、 同 様 の 危 険 に 陥 ること<br />

を 免 れた。 摂 理 的 に 彼 の 父 が、 修 道 士 たちの 策 略 を 耳 にしたのである。 彼 は 息 子 に、<br />

修 道 士 の 怠 惰 で 無 価 値 な 生 活 を 送 らせる 気 はなかった。 彼 は、 息 子 の 有 用 な 将 来 が 危<br />

機 にひんしているのを 知 り、 彼 に 直 ちに 帰 宅 することを 命 じた。<br />

この 命 令 に 従 ったものの、 青 年 は 故 郷 の 谷 間 において 長 く 満 足 していることはでき<br />

ずしばらくしてバーゼルに 行 って 再 び 勉 学 を 始 めた。ツウィングリが、 神 の 恵 みによ<br />

って 救 われるという 福 音 に 初 めて 接 した のはここにおいてであった。 古 代 言 語 の 教 授<br />

ウィッテンバッハは、ギリシア 語 やヘブル 語 を 研 究 している 間 に 聖 書 を 知 るに 至 り、<br />

こうして 彼 の 教 育 を 受 けた 学 生 たちの 心 に 真 理 の 光 が 輝 いたのである。<br />

彼 は、 学 者 や 哲 学 者 が 説 く 理 論 よりもはるかに 古 くて 無 限 の 価 値 を 持 つ 真 理 がある<br />

と 断 言 した。この 古 くからの 真 理 とは、キリストの 死 が 罪 人 の 唯 一 の 贖 いであるとい<br />

うことであった。ツウィングリにとって、こうした 言 葉 は、 夜 明 けに 先 航 つ 最 初 の 光<br />

のようであった。<br />

まもなくツウィングリは、バーゼルから 呼 ばれて、 彼 の 一 生 の 仕 事 に 従 事 すること<br />

になった。 彼 の 最 初 の 任 地 は、 彼 の 郷 里 からそれほど 遠 くないアルプスの 教 区 であっ<br />

た。 司 祭 としての 按 手 を 受 けてから、「 彼 は、 全 力 をあげて、 神 の 真 理 の 探 究 に 専 念<br />

した。それは、キリストの 群 れを 託 された 者 は、どんなによく 聖 書 を 知 らねばならな<br />

いかを 痛 感 したからであった」 1 と、 彼 の 同 僚 である 王 一 改 革 者 は 語 っている。 彼 が 聖<br />

書 を 探 究 すればするほど、 聖 書 の 真 理 とローマの 邪 説 との 対 照 がいっそう 明 らかにな<br />

った。 彼 は、 聖 書 が 神 の 言 葉 であって、 完 全 で 誤 ることのない 唯 一 の 規 準 であること<br />

を 信 じた。 彼 は、 聖 書 が 聖 書 自 身 の 解 釈 者 でなければならないことを 認 めた。 彼 は、<br />

先 入 観 による 理 論 や 教 義 を 支 持 するために 聖 書 を 説 明 しようとはせずに、 聖 書 が 直 接<br />

はっきりと 教 えていることは 何 かを 学 ぶことを 彼 の 義 務 とした。 彼 は、その 意 味 を 完<br />

全 正 確 に 理 解 するために、あらゆる 助 けを 活 用 しようとした。そして、 彼 は 聖 霊 の 助<br />

121


国 際 協 定<br />

けを 祈 り 求 めた。 聖 霊 は、 真 剣 に 祈 り 求 めるすべての 者 に、その 真 意 をあらわすので<br />

あると、 彼 は 断 言 した。<br />

ツウィングリは 次 のように 言 った。「 聖 書 は、 人 間 からではなく、 神 から 来 ている。<br />

そして、 光 をお 与 えになる 神 が、み 言 葉 が 神 からのものであることを 理 解 させてくだ<br />

さる。 神 の 言 葉 は、…… 誤 ることがない。それは 輝 き、それ 自 身 を 教 え、それ 自 身 を<br />

啓 示 し、あらゆる 救 いと 恵 みとによって 魂 を 照 らし、 神 にあって 慰 めを 与 え、 謙 虚 に<br />

する。そこで 魂 は、 自 分 を 忘 れ 去 って、 神 を 受 け 入 れるのである。」ツウィングリは、<br />

こうした 言 葉 を 実 際 に 体 験 していた。 当 時 の 経 験 を、 彼 は 後 にこう 書 いた。<br />

「わたしが 聖 書 に 没 頭 し 始 めると、 哲 学 や 神 学 [スコラ 哲 学 ]が 常 にわたしに 反 論 す<br />

るのであった。そこでわたしは、ついに『それはそのままにしておいて、 神 ご 自 身 の<br />

単 純 な 言 葉 からだけ、 神 が 言 おうとなさっていることを 学 ばなければならない』とい<br />

う 結 論 に 達 した。それからわたしは、 神 の 光 を 求 めるようになり、 聖 書 はわたしにと<br />

って、たやすく 理 解 できるようになった。」 2 ツウィングリが 説 いた 教 義 は、ルター<br />

から 受 けたのではなかった。それは、キリストの 教 義 であった。「もしルターがキリ<br />

ストを 説 教 しているならば、 彼 はわたしと 同 じことをしている。 彼 がキリストに 導 い<br />

た 人 々は、わたしが 導 いた 者 よりは 数 が 多 い。しかしこれは 問 題 ではない。わたしは、<br />

キリストの 名 以 外 のどんな 名 も 帯 びない。わたしは 彼 の 兵 卒 であり、 彼 だけがわたし<br />

の 主 である。わたしはルターに… 言 も 書 かなかったし、 彼 もわたしに 書 いていない。<br />

それだのに、なぜ?……われわれが 何 1 つ 共 謀 しなかったのに、キリストの 教 義 をこ<br />

のように 王 ・ 様 に 教 えるということは、いかに 神 の 霊 ご 自 身 が 同 一 のものであるかを<br />

示 している」とツウィングリは 言 った。 3<br />

1516 年 、ツウィングリは、アインジーデルン 修 道 院 の 説 教 者 として 招 かれた。こ<br />

の 地 において、 彼 は、ローマの 腐 敗 をいっそうつぶさに 見 た。そして、 彼 の 故 郷 のア<br />

ルプスよりもはるか 遠 方 までも、 改 革 者 としての 影 響 を 及 ぼすことになった。アイン<br />

ジーデルンの 主 要 な 呼 び 物 の 1 つに、 奇 跡 を 行 う 力 があると 言 われているマリヤ 像 が<br />

あった。 修 道 院 の 入 り 言 の 上 には、「ここで 罪 の 大 赦 が 得 られる」と 井 き 記 されてい<br />

た。 4 マリヤ 像 の 聖 堂 には、 年 中 巡 礼 者 が 集 まった。しかも、 毎 年 行 われる 献 堂 の 大 祭<br />

には、スイス 全 国 は 言 うに 及 ぼず、フランスやドイツからも 群 衆 がやつ てきた。ツウ<br />

ィングリはこの 光 景 を 見 て 非 常 に 心 を 痛 め、この 機 会 を 捕 らえて、 迷 信 の 奴 隷 になっ<br />

ている 人 々に、 福 音 による 自 由 を 宣 言 したのである。<br />

「 世 界 の 他 のところにまさって 神 がこの 会 堂 におられると 思 ってはならない。どの<br />

国 に 住 んでいても、 神 はあなたの 周 りにおられて、 祈 りを 聞 かれる。…… 無 益 な 苦 行 、<br />

122


国 際 協 定<br />

長 い 巡 礼 、ささげ 物 、 聖 像 、 聖 母 マリヤや 諸 聖 人 の 祈 祷 によって、 神 の 恵 みにあずか<br />

ることができようか。……われわれの 祈 りの 言 葉 が 多 くてもなんの 役 に 立 とうか。ま<br />

た、 光 沢 のあるずきん、そった 頭 、 長 々と 垂 れる 衣 服 、 金 で 刺 繍 した 上 靴 に、なんの<br />

功 徳 があるのか。…… 神 は 心 を 見 られる。そして、われわれの 心 は、 神 から 遠 く 離 れ<br />

ている。」「1 度 十 字 架 に 架 けられたキリストは、 永 遠 にわたって、 信 じる 者 の 罪 を<br />

十 分 に 贖 う 犠 牲 でありいけにえであった。」 5<br />

多 くの 聴 衆 にとって、このような 教 えは 喜 ばしいものではなかった。 苦 しい 旅 をし<br />

てきたものが、 無 益 なことであったと 言 われることは、 苦 い 失 望 であった。 彼 らは、<br />

キリストによって 惜 しみなく 与 えられる 罪 のゆるしを 理 解 することができなかった。<br />

彼 らは、ローマが 指 示 した 天 国 への 古 い 道 で 満 足 していた。 彼 らは、さらによいもの<br />

を 探 究 する 労 をとりたくなかった。 心 のきよめを 求 めるよりは、 司 祭 や 法 王 に 頼 って<br />

救 いを 得 る 方 がやさしかった。<br />

しかし、 他 の 部 類 の 人 々は、キリストによる 贖 いの 知 らせを 喜 んで 受 け 入 れた。ロ<br />

ーマが 命 じる 儀 式 は、 心 の 平 和 を 与 えなかった。そこで 彼 らは、 信 仰 によって、 救 い<br />

主 の 血 を 彼 らの 贖 いの 供 え 物 として 受 け 入 れた。 彼 らは 帰 国 して、 自 分 たちの 受 けた<br />

貴 い 光 を 人 々に 伝 えた。こうして 真 理 は、 村 から 村 、 町 から 町 へと 広 がり、マリヤ 聖<br />

堂 に 来 る 巡 礼 の 数 は 大 幅 に 減 少 した。 献 金 額 も 減 り、その 結 果 そこから 支 給 されてい<br />

たツウィングリの 給 料 も 減 った。しかし 彼 は、 狂 信 と 迷 信 の 力 が 打 破 されたのを 見 て、<br />

かえって 喜 んだ。<br />

教 会 の 当 局 者 たちは、ツウィングリの 活 動 に 対 して 盲 目 でなかった。しかし 彼 らは<br />

その 当 座 は、 干 渉 をさしひかえた。 彼 らはなお、 彼 を 自 分 たちの 側 に 引 き 入 れようと<br />

して、 甘 言 によって 彼 を 確 保 しようとした。そしてこの 間 に、 真 理 が 人 々の 心 を 捕 ら<br />

えていったのであった。 アインジーデルンにおけるツウィングリの 活 動 は、もっと 広<br />

い 範 囲 の 働 きの 準 備 であって、 彼 はまもなくその 働 きに 入 った。すなわちここに 3 年<br />

いた 後 、 彼 はチューリヒ 大 聖 堂 の 説 教 者 として 召 された。チューリヒは、 当 時 スイス<br />

連 邦 の 重 要 な 都 市 で、ここでの 活 動 は、 遠 くまで 影 響 を 及 ぼすのであった。しかし、<br />

彼 をチューリヒに 招 いた 聖 職 者 たちは、 革 新 的 なものの 侵 入 を 防 止 しようとして、 彼<br />

の 務 めについて 次 のように 訓 示 を 与 えた。<br />

「あなたは、 小 額 の 献 金 でも 見 過 ごすことなく、 教 会 の 収 入 を 集 めるように 努 力 せ<br />

よ。 説 教 壇 と 告 解 聴 聞 席 の 両 方 において、 忠 実 な 信 徒 たちに、すべての 10 分 の 1 税<br />

や 教 会 税 を 納 め、 献 金 によって 彼 らの 教 会 に 対 する 愛 を 示 すように 勧 めよ。 病 める 者<br />

から、ミサから、そしてその 他 一 般 の 教 会 儀 式 から 生 ずる 収 入 を 増 加 するよう 熱 心 に<br />

123


国 際 協 定<br />

努 めよ。」「 秘 蹟 の 授 与 、 説 教 、 群 れの 世 話 などもまた、 司 祭 の 務 めである。しかし<br />

これらに 関 しては、 特 に 説 教 については、 代 理 人 を 用 いるがよい。あなたは 著 名 人 に<br />

だけ 秘 蹟 を 施 し、しかも、 依 頼 された 時 だけ 行 うべきである。だれかれの 区 別 なく 施<br />

してはならない。」 6<br />

ツウィングリは、 黙 ってこの 任 命 の 言 葉 を 聞 いた。そして、この 重 要 な 地 位 に 召 さ<br />

れた 栄 誉 を 感 謝 した 後 で、 彼 は、 自 分 が 採 用 しようとしている 方 針 について 説 明 した。<br />

「キリストの 生 涯 は、 長 い 間 人 々から 隠 されていた。わたしは、マタイによる 福 音 再<br />

全 体 について 説 教 する。……わたしは、 聖 書 の 泉 だけからくみ、その 深 さを 探 り、 聖<br />

句 を 聖 句 と 比 較 して、 熱 心 で 絶 えまない 祈 祷 によって 理 解 力 が 与 えられるように 求 め<br />

る。わたしは、 神 の 栄 光 と 神 の 独 り 子 の 賛 美 と、 魂 の 真 の 救 いと 真 の 信 仰 の 成 長 のた<br />

めに、 聖 職 に 献 身 する」と 彼 は 言 った。 7 聖 職 者 たちの 中 には 彼 の 計 画 に 反 対 し、そう<br />

させまいとする 者 もあったが、ツウィングリは 堅 く 立 って 動 かなかった。 何 も 新 しい<br />

方 法 で はなくて、 初 期 の 純 潔 であった 時 代 に 用 いられていた 古 い 方 法 を 採 り 入 れよう<br />

としているのだと 彼 は 言 明 した。<br />

すでに 彼 が 教 える 真 理 に 対 する 興 味 が 呼 び 起 こされ、 多 くの 人 々が 彼 の 説 教 を 聞 く<br />

ために 群 がって 来 た。 彼 の 聴 衆 の 中 には、 長 い 間 集 会 に 来 ていなかったものも 多 かっ<br />

た。 彼 は 福 音 書 を 開 き、キリストのご 生 涯 、 教 え、その 死 に 関 する 霊 感 の 記 述 を 読 ん<br />

で 説 明 することをもって、 彼 の 聖 職 の 開 始 とした。 彼 は、アインジーデルンにおける<br />

と 同 様 に、ここでも 神 の 言 葉 を 唯 一 不 変 の 権 威 あるものとし、キリストの 死 を 唯 一 の<br />

完 全 な 犠 牲 として 示 した。「わたしはあなたがたを、キリストへ、すなわち、 救 いの<br />

真 の 源 であるキリストへ 導 きたいと 願 っている」と 彼 は 言 った。 8 説 教 者 の 周 りには、<br />

政 治 家 や 学 者 から 職 人 、 農 民 にいたるまで、あらゆる 階 級 の 人 々が 押 し 寄 せた。 非 常<br />

な 興 味 をもって、 彼 らは 彼 の 言 葉 に 聞 き 入 った。 彼 は、 惜 しみなく 与 えられる 救 いが<br />

提 供 されていることを 宣 言 するだけでなく、 当 時 の 害 悪 と 腐 敗 を 恐 れることなく 誼 責<br />

した。 多 くの 者 は、 神 をあがめつつ 大 聖 堂 を 去 っていった。「この 人 は、 真 理 の 説 教<br />

者 である。この 人 は、われわれをエジプトの 暗 黒 から 救 い 出 すモーセである」と 彼 ら<br />

は 言 った。<br />

最 初 、 彼 の 働 きは 非 常 に 歓 迎 されたが、しばらくして 反 対 が 起 こった。 修 道 士 たち<br />

が 彼 の 働 きを 妨 害 し、 彼 の 教 えを 非 難 した。 多 くの 者 が、 彼 をあざけり 侮 べつした。<br />

無 礼 な 態 度 をとり、 威 嚇 する 者 もあった。しかし、ツウィングリはそれらをみな 忍 耐<br />

して、「もし、われわれが、 悪 人 をキリストに 導 こうとするならば、 多 くのことに 言<br />

を 閉 じなければならない」と 言 った。 10 ちょうどそのころ、 改 革 事 業 に 王 ・ 段 と 力 を<br />

添 えるものが 現 れた。ルシアンという 人 が、バーゼルにいる 改 革 を 信 じる 友 人 に 遣 わ<br />

124


国 際 協 定<br />

されて、ルターの 著 書 をたずさえてチューリヒに 来 たのである。その 友 人 は、これら<br />

の 書 籍 の 販 売 が、 光 をまき 散 らす 強 力 な 手 段 であろうと 言 った。<br />

「 本 人 が 慎 重 で 機 敏 であるかどうかを 確 かめた 上 で 彼 にルターの 著 書 、 特 に 主 の 祈<br />

りの 注 解 を、スイス 全 国 の 都 市 から 都 市 、 町 から 町 、 村 から 村 、そして 家 から 家 へ 配<br />

布 させられたい。 知 られれば 知 られるほど、 買 い 手 は 多 く 現 れるであろう」と 彼 はツ<br />

ウィングリに 書 いた。 11 こうして、 光 は 伝 えられていった。 神 が 無 知 と 迷 信 のかせを<br />

打 ち 砕 こうとしておられた 時 に、サタンは、 人 々を 暗 黒 に 閉 じこめ、いっそう 堅 く 束<br />

縛 しようとして、 全 力 をあげて 働 いていた。あちらこちらで 人 々が 立 ち 上 がり、キリ<br />

ストの 血 によるゆるしと 義 とを 説 いた 時 に、ローマはますます 強 力 に、キリスト 教 国<br />

全 王 に 販 路 を 広 げ、 金 銭 による 赦 しを 提 供 した。<br />

どの 罪 にも 値 段 がついていた。そして、 教 会 の 金 庫 が 満 たされてさえおれば、 人 々<br />

はどんな 犯 罪 でも 犯 すことが 許 されたのである。こうして、2 つの 運 動 が 進 められた。<br />

一 方 は、 金 銭 による 罪 の 赦 しであったが、 他 方 は、キリストによる 赦 しであった。ロ<br />

ーマは 罪 を 公 認 し、それを 教 会 の 財 源 にした。 改 革 者 たちは 罪 を 非 難 し、キリストを<br />

その 代 償 、また 救 出 者 として 指 し 示 した。<br />

ドイツにおける 免 罪 符 の 販 売 は、ドミニコ 会 修 道 士 たちにゆだねられ、 悪 名 高 きテ<br />

ッツェルによって 行 われていた。スイスでは、イタリアの 修 道 士 サムソンの 指 揮 のも<br />

とにフランシスコ 会 修 道 士 たちの 手 によって 販 売 されていた。サムソンは、すでにド<br />

イツとスイスから 莫 大 な 金 額 を 得 て、 法 王 の 金 庫 を 満 たし、 教 会 のためによく 働 いて<br />

いた。 今 や 彼 は、スイスを 巡 回 し、 多 くの 群 衆 を 引 きつけ、 貧 しい 農 民 のわずかな 収<br />

入 を 奪 い、 富 裕 な 階 級 からは 巨 額 の 献 金 を 搾 取 していた。しかし 改 革 の 影 響 は、 売 買<br />

を 止 めることはできなかったが、すでにその 収 入 を 減 少 させていた。サムソンが、ス<br />

イス 入 国 直 後 に、 免 罪 符 をもって 近 隣 の 町 に 到 着 したのは、ツウィングリがまだアイ<br />

ンジーデルンにいる 時 であった。 彼 の 任 務 について 知 らされたツウィングリは、さっ<br />

そく 彼 に 反 対 するために 出 かけた。この 2 人 は 相 会 さなかったが、ツウィングリは 巧<br />

みにこの 修 道 士 の 欺 隔 をあばいたので、サムソンは 他 の 地 方 に 去 らなければならなか<br />

った。<br />

ツウィングリはチューリヒにおいて、 免 罪 符 の 販 売 人 に 痛 烈 に 反 対 を 唱 えた。サム<br />

ソンが 町 に 近 づいた 時 、 議 会 からの 使 者 が、 彼 にそのまま 通 り 過 ぎるように 通 告 した。<br />

彼 は 結 局 、 策 略 を 用 いて 町 に 入 りはしたが、1 枚 の 免 罪 符 も 売 ることができずに 退 去<br />

させられた。やがて 彼 はスイスを 去 った。 1519 年 、スイス 全 国 に 流 行 した 大 疫 病 に<br />

よって、 改 革 事 業 に 大 きな 刺 激 が 与 えられた。すなわち、 人 々がこのために 死 に 直 面<br />

125


国 際 協 定<br />

した 時 、つい 先 ごろ 買 ったばかりの 免 罪 符 がどんなにむなしく 価 値 のないものである<br />

かを、 多 くの 者 は 感 じたのであった。そして 彼 らは、より 確 かな 信 仰 の 基 礎 を 得 たい<br />

と 熱 望 した。チューリヒにいたツウィングリも、 疫 病 に 倒 れた。 彼 は、 助 かる 望 みが<br />

なかったほど 衰 弱 し、 彼 は 死 んだといううわさが 広 く 伝 えられた。こうした 試 練 の 時<br />

にあっても、 彼 の 希 望 と 勇 気 はゆるがなかった。 彼 は 信 仰 をもって、カルバリーの 十<br />

字 架 を 見 つめ、 罪 に 対 する 十 分 な 贖 いの 供 え 物 に 信 頼 した。 彼 は 死 の 門 から 帰 ってく<br />

ると、 以 前 にまさる 大 きな 熱 情 をもって、 福 音 を 宣 べ 伝 えた。 彼 の 言 葉 には、 異 常 な<br />

力 があった。 人 々は、 瀕 死 の 床 から 立 ち 上 がってきた 敬 愛 する 牧 師 を、 喜 びをもって<br />

迎 えた。 彼 ら 自 身 も、 病 人 や 死 にそうな 人 々の 看 護 をしていたから、これまでになく<br />

福 音 の 価 値 を 感 じた。<br />

ツウィングリは、 福 音 の 真 理 をいっそう 明 らかに 理 解 し、 彼 自 身 が、その 新 生 の 力<br />

をより 士 分 に 経 験 したのであった。 彼 が 扱 った 問 題 は、 人 間 の 堕 落 と 贖 罪 の 計 画 であ<br />

った。「アダムにあって、われわれは、みな 死 んだもの、 堕 落 して、 罪 に 定 められた<br />

ものである」と 彼 は 言 った。 12 「キリストは、……われわれのために、 永 遠 の 贖 いを<br />

買 いとられた。…… 彼 の 受 難 は、…… 永 遠 の 犠 牲 で、 永 遠 にいやす 力 がある。それは、<br />

堅 くゆるがぬ 信 仰 をもって 信 頼 するすべてのもののために、 神 の 義 を 永 遠 に 満 足 させ<br />

る。」しかし 人 間 には、キリストの 恵 みにあずかったからといって、 罪 を 続 ける 自 由<br />

はないということを、 彼 ははっきりと 教 えた。<br />

「 神 に 対 する 信 仰 があるところはどこでも、 神 がおられる。そして、 神 が 宿 られる<br />

ところはどこでも、 人 々によきわざを 勧 め 促 す 熱 心 が 存 在 するのである。」 13 ツウィ<br />

ングリの 説 教 に 対 する 興 味 は、 非 常 なもので、 大 聖 堂 は、 彼 の 説 教 を 聞 きにやって 来<br />

た 群 衆 で 満 ちあふれた。 彼 は、 彼 らが 理 解 できる 程 度 に 従 って、 少 しずつ 真 理 を 語 っ<br />

た。 彼 らを 驚 かし 偏 見 を 抱 かせるような 点 については、 最 初 に 語 らないように 気 をつ<br />

けた。キリストの 教 えに 彼 らの 心 を 引 きつけ、キリストの 愛 によって 彼 らの 心 を 和 ら<br />

げ、 彼 らの 前 にキリストの 模 範 を 示 すことが、 彼 の 仕 事 であった。 彼 らが 福 音 の 原 則<br />

を 受 け 入 れるならば、 迷 信 的 信 仰 や 習 慣 は、 必 然 的 に 捨 て 去 られるのである。<br />

チューリヒにおける 宗 教 改 革 は、1 歩 1 歩 進 んでいった。 敵 は 驚 いて、 活 発 に 反 対<br />

運 動 を 起 こした。1 年 前 にウィッテンベルクの 修 道 士 が、ウォルムスにおいて 法 王 と<br />

皇 帝 に 対 して 否 と 言 い、 今 チューリヒにおいても、 法 王 の 命 令 に 対 して 同 様 の 抵 抗 が<br />

起 ころうとしていた。ツウィングリに 対 して、くり 返 し 攻 撃 が 向 けられた。 法 王 に 属<br />

する 州 においては、しばしば、 福 音 の 使 徒 たちは 火 刑 に 処 せられた。しかし、これで<br />

も 十 分 ではなかった。 異 端 を 唱 えた 教 師 を 沈 黙 させなければならなかった。そこで、<br />

コンスタンツの 司 教 は、3 人 の 使 節 をチューリヒの 議 会 に 派 遣 して、ツゥィングリは<br />

126


国 際 協 定<br />

人 々に 教 会 の 規 則 を 破 ることを 教 えており、 社 会 の 平 和 と 秩 序 を 乱 すものであると 非<br />

難 した。もしも 教 会 の 権 威 をくつがえすならば、 至 る 所 に、 無 政 府 状 態 が 起 こるであ<br />

ろう、と 彼 は 1 張 した。ツウィングリはそれに 答 えて、 自 分 は 4 年 間 、チューリヒお<br />

いて 福 音 を 教 えてきたが、「ここは、 連 邦 の 中 で、 他 のどんな 都 市 よりも、 平 穏 で 平<br />

和 であった。」「それだから、キリスト 教 は、 一 般 社 会 の 安 全 を 保 障 する 最 善 のもの<br />

ではないだろうか」と 言 った。 14<br />

教 会 以 外 に 救 いはないと 言 って、 使 節 たちは 議 員 たちに、 教 会 にとどまるよう 勧 告<br />

した。ツウィングリは 次 のように 答 えた。「このような 非 難 を 受 けても、 動 じてはな<br />

らない。 教 会 の 基 礎 は、ペテロが 忠 実 にキリストを 告 白 したゆえにペテロにその 名 を<br />

与 えられたその 同 じ 岩 、 同 じキリストである。どの 国 においても、イエス・キリスト<br />

を 心 から 信 じるものはみな、 神 に 受 け 入 れられる。まことに、ここに 教 会 がある。こ<br />

れ 以 外 においては、だれも 救 われることはできない。」 15 これらの 協 議 の 結 果 、 司 教<br />

の 使 節 の 1 人 は 改 革 派 の 信 仰 を 受 け 入 れた。<br />

議 会 はツウィングリに 不 利 な 決 言 議 をすることを 拒 んだ。そこでローマは、 新 しい<br />

攻 撃 の 用 意 をした。ツウィングリは、 敵 の 策 略 を 知 らされた 時 、このように 叫 んだ。<br />

「 攻 めてくるなら 来 い。 突 き 出 した 絶 壁 が、そのふもとに 打 ち 寄 せる 波 に 動 じないよ<br />

うに、わたしも 恐 れない。」 16 聖 職 者 たちのすることは、 彼 らがくつがえそうとした<br />

その 運 動 を、 促 進 するだけであった。 真 理 は 広 がり 続 けた。ドイツの 支 持 者 たちは、<br />

ルターが 行 方 不 明 になったために 失 望 したが、スイスにおける 福 音 の 進 展 をみて、 勇<br />

気 を 取 りもどした。チューリヒにおいて 宗 教 改 革 が 確 立 した 時 、その 結 果 は、 悪 徳 の<br />

鎮 圧 と、 秩 序 と 調 和 の 促 進 となって 著 しくあらわれた。「 平 和 がわれわれの 都 市 に 宿<br />

っている。 言 論 、 偽 善 、しっと、 争 闘 はない。 主 とわれわれの 教 義 を 除 いてほかのど<br />

こからこのような 一 致 が 与 えられるであろうか。これは、われわれを 平 和 と 敬 虔 の 実<br />

で 満 たすのである。」 17<br />

宗 教 改 革 が 勝 利 を 収 めたので、 法 王 派 はますます 堅 い 決 意 をもって、その 撲 滅 を 謀<br />

るようになった、 彼 らはドイツにおいて、ルターの 運 動 を 迫 害 によってはさほど 鎮 圧<br />

することができなかったのを 見 て、 改 革 それ 自 身 の 武 器 によって 改 革 を 迎 え 撃 とうと<br />

した。 彼 らは、ツウィングリと 討 論 を 行 う 手 はずを 定 め、ただその 場 所 だけでなくて、<br />

討 論 の 審 査 員 も 自 分 たちで 決 めて、 必 勝 を 期 した。 そして 彼 らは、ひとたびツウィン<br />

グリを 自 分 たちの 手 中 に 入 れてしまえば、 彼 を 逃 さないようにしようとしていた。 指<br />

導 者 を 沈 黙 させるならば、 運 動 は 速 やかに 弾 圧 することができるのであった。しかし、<br />

この 計 画 は、 極 秘 のうちに 行 われていた。 討 論 は、バーデンで 行 われることに 決 まっ<br />

た。しかし、ツウィングリは 現 れなかった。チューリヒの 議 会 は、 法 王 派 の 策 略 に 気<br />

127


国 際 協 定<br />

づくとともに、 法 王 派 の 州 において 福 音 を 信 じた 者 たちが 火 刑 に 処 せられたことに 危<br />

険 を 感 じ、 彼 らの 牧 師 がこうした 危 険 に 身 をさらすことを 禁 じたのである。 彼 は、チ<br />

ューリヒにおいてならば、ローマが 派 遣 するすべての 法 [ 三 派 と 会 見 するつもりであっ<br />

た。しかし、 真 理 のための 殉 教 者 の 血 が 流 されたばかりのバーデンへ 行 くことは、 明<br />

らかに 死 にに 行 くことであった。そこで、エコランパデウスとハラーが 改 革 派 の 代 表<br />

として 選 ばれた。 一 方 、 有 名 なエック 博 士 が、 博 学 な 学 者 や 司 教 たちの 支 援 を 受 けて、<br />

ローマを 代 表 することになった。<br />

ツウィングリは 会 議 に 出 席 していなかったが、 彼 の 感 化 はそこに 及 んでいた。 書 記<br />

はみな 法 王 派 によって 選 ばれ、 他 の 者 は 筆 記 することを 禁 じられて、それを 犯 すと 死<br />

刑 であった。それにもかかわらず、ツウィングリはバーデンで 論 じられたことを 毎 日<br />

詳 しく 知 らされた。 討 論 に 出 席 していた 学 生 が、 毎 晩 その 日 の 議 論 を 記 録 した。この<br />

記 録 を、 他 の 2 人 の 学 生 が、エコランパデウスの 毎 日 の 手 紙 とともに、チューリヒの<br />

ツウィングリのところに 届 けた。ツウィングリはそれに 答 えて、 助 言 や 指 示 を 与 えた。<br />

彼 の 手 紙 は 夜 書 かれ、 学 生 たちは、 朝 それを 携 えてバーデンにもどってきた。 町 の 門<br />

番 の 目 を 逃 れるために、 使 者 たちは 頭 に 鶏 のかごを 乗 せ、 何 のさまたげも 受 けずに 行<br />

き 来 できた。 こうしてツウィングリは、 狡 猾 な 敵 との 戦 いに 当 たることができた。<br />

「 彼 は、 瞑 想 、 眠 らぬ 夜 、また、バーブンに 送 った 助 言 によって、 敵 たちの 間 で 自 分<br />

が 討 論 するより、もっと 多 くのことを 行 った」とミコニウスは 言 っている。 18<br />

ローマ 側 の 人 々は、 勝 利 を 見 越 して、 宝 石 をちりば めた 美 服 をまとって 意 気 揚 々と<br />

バーデンに 乗 り 込 んでいた。 彼 らの 食 卓 には、ぜいたくのかぎりを 尽 くした 美 食 と 最<br />

高 の 酒 が 豊 富 に 並 べられていた。 彼 らは、こうして 陽 気 な 歓 楽 にふけって、 彼 らの 聖<br />

職 者 としての 義 務 を 軽 視 していた。 改 革 者 たちは、それとは 全 く 対 照 的 に、 乞 食 の 一<br />

行 よりはややましな 程 度 と 見 なされるほど 質 素 で、 彼 らの 食 事 はつましいものであり、<br />

長 く 食 卓 にとどまってなどいなかった。エコランパデウスの 宿 の 主 人 は、 彼 がいつも<br />

部 屋 で 研 究 をしているか、それとも 祈 っているかしているのを 見 て 非 常 に 驚 き、この<br />

異 端 者 はとにかく「 非 常 に 敬 虔 」であると 報 告 している。<br />

議 場 において、「エックは、りっぱに 飾 られた 講 壇 に、 高 慢 な 態 度 で 上 ったが、 謙<br />

虚 なエコランパデウスは、 質 素 な 衣 服 をまとっており、エックの 前 にあった 粗 末 な 造<br />

りの 腰 かけにすわらせられた。」 19 エックは、 大 声 で、 無 限 の 確 信 をもって 語 った。<br />

信 仰 の 擁 護 者 には 多 額 の 報 酬 が 与 えられることになっていたので、 彼 の 熱 心 は 名 誉 と<br />

ともに 金 銭 にも 刺 激 されていた。そして 議 論 に 失 敗 すると、 相 手 を 侮 辱 し、 口 ぎたな<br />

くののしりさえするのであった。<br />

128


国 際 協 定<br />

エコランパデウスは、 慎 み 深 く、 自 己 を 過 信 せず、 論 争 を 避 けていた。そして、<br />

「 私 は 神 の 言 葉 以 外 のどんな 審 判 の 標 準 も 認 めない」という 厳 粛 な 誓 いの 言 葉 をもっ<br />

て 議 論 に 応 じた。 20 エコランパデウスは、 柔 和 で 礼 儀 正 しかったが、 力 強 く、ひるむ<br />

ことなく 立 った。 法 王 側 がいつものように、 教 会 の 慣 習 に 関 する 権 威 を 主 張 した 時 に<br />

も、 改 革 者 は 聖 書 を 固 持 してゆるがなかった。「わがスイスにおいては、 憲 法 に 従 っ<br />

たものでないかぎり、 慣 習 は 無 効 である。こと 信 仰 に 関 しては、 型 書 がわれわれの 憲<br />

法 である」と 彼 は 言 った。 21 この 討 議 に 当 たった 両 者 の 対 照 は、 影 響 を 及 ぼさずには<br />

いなかった。 柔 和 で 慎 重 な 態 度 のうちに 提 示 された、 改 革 者 の 冷 静 で 明 快 な 理 論 は、<br />

エックの 高 慢 でそうそうしい 憶 説 をきらった 人 々の 心 に 訴 えた。 討 議 は 18 日 間 続 い<br />

た。その 最 後 に 当 たって、 法 王 側 は、 大 いなる 確 信 をもって 勝 利 を 宣 言 した。 議 員 た<br />

ちの 多 くも、 法 王 則 に 加 担 した。 議 会 は 改 革 者 たちの 敗 北 を 宣 し、 指 導 者 ツウィング<br />

リと 共 に 教 会 からの 除 名 を 布 告 した。しかし、 会 議 の 結 果 もたらされたものは、どち<br />

ら 側 が 有 利 であったかを 明 らかにした、すなわちこの 討 議 の 結 果 、プロテスタントの<br />

運 動 が 強 力 に 推 進 され、その 後 間 もなく、ベルンとバーゼルという 重 要 な 都 市 が、 改<br />

革 の 側 に 立 つことを 宣 言 したのであった。<br />

129


国 際 協 定<br />

第 10 章 ドイツ 宗 教 改 革 の 進 展<br />

ルターの 不 可 解 な 失 踪 は、ドイツ 全 国 を 非 常 に 驚 かせた。どこへ 行 っても、 人 々は、<br />

彼 のことを 尋 ねていた。 途 方 もないうわさが 広 がり、 彼 が 殺 されたと 思 い 込 む 者 も 多<br />

かった。 明 らかに 彼 の 友 人 であるとわかる 者 だけでなく、 公 然 と 宗 教 改 革 に 加 わっ<br />

て はいなかった 幾 千 の 者 までが、 深 い 悲 しみに 沈 んだ。 多 くの 者 は 結 束 して、 彼 の 死<br />

のふくしゅうを 厳 粛 に 誓 った。<br />

法 王 側 の 指 導 者 たちは、 彼 らに 対 する 反 感 の 高 まりを 見 て 恐 れた。 初 めはルターが<br />

死 んだものと 思 って 喜 んだが、すぐに 彼 らは、 人 々の 怒 りから 隠 れたいと 願 った。ル<br />

ターの 敵 は、 彼 が 彼 らの 中 にいてどんなに 大 胆 に 行 動 したにしても、いなくなった 今<br />

ほどには 困 らせられなかったのである。 激 しく 怒 って、 勇 敢 な 改 革 者 を 殺 そうとした<br />

者 も、 今 は、 彼 が 自 由 のきかない 捕 虜 になっていることに 恐 怖 を 抱 いた。「われわれ<br />

を 救 う 唯 一 の 方 法 は、たいまつを 点 じ、 令 世 界 を 回 ってルターを 尋 ね 出 して、 彼 を 1<br />

呼 び 求 めている 国 民 にかえすことだ」という 者 もあった。 1 皇 帝 の 布 告 も、その 威 力 を<br />

失 ったかに 見 えた。 法 王 の 使 節 たちは、 皇 帝 の 布 告 がルターの 運 命 ほどには 人 々の 注<br />

意 をひかないのを 見 て、 非 常 に 怒 った。<br />

ルターは 捕 われてはいるが 安 全 であるという 知 らせに、 人 々の 不 安 は 静 まったが、<br />

それとともに、 彼 を 支 持 する 熱 意 はさらに 高 まった。 彼 の 著 書 は、これまでにない 非<br />

常 な 熱 心 さで 読 まれた。 恐 ろしい 強 敵 に 立 ち 向 かって、 神 の 言 葉 を 擁 護 した 英 雄 の 事<br />

業 に、ますます 多 くの 者 が 参 加 した。 宗 教 改 革 は、 着 実 に 勢 力 を 増 しつつあった。ル<br />

ターのまいた 種 が、 至 る 所 で 芽 を 出 した。 彼 がいたのではできなかったような 働 きが、<br />

彼 がいないことによって 成 し 遂 げられた。 偉 大 な 指 導 者 が 取 り 去 られたために、 他 の<br />

働 き 人 たちが 新 たな 責 任 を 感 じた。 彼 らは、 新 たな 信 仰 と 熱 心 に 燃 えて 全 力 をあげて<br />

前 進 し、りっぱに 始 められた 働 きが 妨 げられないようにしたのである。 しかし、サタ<br />

ンも、 子 をこまぬいてはいなかった。 彼 は、 今 、 他 のあらゆる 改 革 運 動 において 試 み<br />

てきたことをしたのである。すなわち、 真 の 改 革 事 業 の 代 わりに 偽 物 をつかませて 人<br />

々を 欺 き、 滅 ぼそうとした。キリスト 教 会 の 第 1 世 紀 に 偽 キリストたちが 現 れたよう<br />

に、16 世 紀 こも 偽 預 言 者 たちが 現 れた。<br />

宗 教 界 の 騒 ぎに 強 く 刺 激 された 2、3 の 者 が、 自 分 たちは 天 からの 特 別 の 啓 示 を 受<br />

けたと 思 い 込 んだ。そして、 自 分 たちは、ルターが 細 々と 始 めた 改 革 を 完 成 させるよ<br />

う 神 の 任 命 を 受 けたと 主 張 した。しかし、 実 際 には、 彼 らはルターが 成 し 遂 げた 働 き<br />

そのものをくつがえしていた。 彼 らは、 改 革 の 根 底 そのものである 大 原 則 、すなわち、<br />

130


国 際 協 定<br />

神 の 言 葉 は 信 仰 と 行 為 の 完 全 な 規 準 であるということを 拒 んだ。そして、その 言 誤 る<br />

ことのない 指 導 に 代 えて、 彼 ら 自 身 の 感 情 と 印 象 という 変 わりやすい 不 確 実 な 標 準 を<br />

用 いた。 誤 りと 虚 偽 の 偉 大 な 検 出 器 である 神 の 言 葉 を 廃 棄 するこの 行 為 によって、サ<br />

タンが 思 うままに 人 間 の 心 を 支 配 する 道 が 開 かれた。<br />

これらの 預 言 者 たちの 1 人 は、 天 使 ガブリエルから 教 えを 受 けたと 主 張 した。 彼 と<br />

結 束 した 一 学 生 は、 自 分 の 勉 強 を 放 棄 し、 自 分 は 神 ご 自 身 から、 神 の 言 葉 を 説 明 する<br />

知 恵 が 与 えられたと 宣 言 した。 他 に、 生 来 狂 信 的 な 傾 向 の 者 たちが 彼 らに 加 わった。<br />

こうした 狂 信 家 の 行 動 によって、 少 なからず 騒 ぎが 起 こった。ルターの 説 教 によって、<br />

至 る 所 の 人 々は 改 革 の 必 要 を 感 じるようになっていたが、 今 、 真 にまじめな 人 々のな<br />

かには、 新 しい 預 言 者 たちの 主 張 に 惑 わされる 者 があった。<br />

この 運 動 の 指 導 者 たちは、ウィッテンベルクに 行 き、メランヒトンと 彼 の 同 労 者 た<br />

ちに、 彼 らの 主 張 を 訴 えた。「われわれは、 人 々を 教 育 するために 神 に 遣 わされた。<br />

われわれは、 親 しく 主 と 話 してきた。われわれは、 何 が 起 こるかを 知 っている。 一 言<br />

で 言 えば、われわれは 使 徒 であり、 預 言 者 である。そして、ルター 博 士 に 訴 える」と<br />

彼 らは 言 った。 2<br />

改 革 者 たちは、 驚 き 当 惑 した。こうしたことにはまだ 当 面 したことがなく、 彼 らは<br />

どうしてよいかわからなかった。メランヒトンは 次 のように 言 った。「 確 かにこの 人<br />

々には、 異 常 な 霊 が 働 いている。しかし、それはなんの 霊 であるか。…… 一 方 におい<br />

て、われわれは、 神 の 霊 を 消 さないように 気 をつけなければならない。そして、 他 方<br />

においては、サタンの 雷 に 惑 わされないようにしなければならない。」 3<br />

新 しい 教 えの 結 果 が、まもなく 明 らかになってきた。 人 々は 聖 書 を 軽 んじ、あるい<br />

はそれを 全 く 放 棄 するようになった。 学 校 は 混 乱 に 陥 った。 学 生 たちは、すべての 制<br />

限 を 無 視 して、 研 究 を 放 棄 し、 大 学 をやめてしまった。 改 革 事 業 を 復 興 して 支 配 する<br />

ことができると 考 えた 人 々は、それを 破 滅 の 渕 に 沈 め 得 ただけであった。ローマ 側 は<br />

自 信 をとりもどし、「あともう 1 戦 交 えれば、すべてはわれわれのものだ」と 勝 ち 誇<br />

って 叫 んだ。 4 ワルトブルクにいたルターは、 事 の 次 第 を 耳 にし、 憂 慮 して 言 った。<br />

「わたしは、サタンがこのような 災 いを 送 ってくることを 常 に 子 期 していた。」 5 彼 は、<br />

これらの 偽 預 言 者 たちの 本 性 を 見 抜 いた。そして、 真 理 の 運 動 が 危 険 にさらされてい<br />

るのを 見 た。 法 王 や 皇 帝 の 反 対 も、 今 彼 が 経 験 しているほど 大 きな 悩 みや 苦 しみでは<br />

なかった。 改 革 事 業 の 支 持 者 と 称 する 人 々の 中 から、 最 悪 の 敵 が 現 れたのであった。<br />

彼 に 大 きな 喜 びと 慰 めを 与 えた 真 理 そのものが、 教 会 の 中 に 争 闘 と 混 乱 を 起 こすため<br />

に、 用 いられていたのである。<br />

131


国 際 協 定<br />

改 革 の 働 きにおいて、ルターは 神 の 霊 によって 前 進 させられたのであり、 自 分 自 身<br />

を 越 えて 導 かれていた。 彼 は、そのような 立 場 をとろうとは 意 図 していなかったし、<br />

またあのような 急 激 な 変 化 を 起 こそうとは 考 えていなかった。 彼 は、ただ、 無 限 の 神<br />

の 手 中 の 器 に 過 ぎなかった。それにもかかわらず、 彼 は 自 分 の 働 きの 結 果 について、<br />

しばしば 悩 んだ。 彼 は、ある 時 次 のように 言 った。「もしわたしの 教 義 が、どんなに<br />

身 分 が 低 く 卑 しい 人 であっても、その 1 人 、ただ 1 人 でも 傷 つけたとわかったなら<br />

ば、——これは 福 音 そのものであるから、そのようなことはあり 得 ないのだが——わ<br />

たしはそれを 取 り 消 す。 取 り 消 さないくらいならば、10 回 死 んだほうがよい。」 6<br />

今 や、 宗 教 改 革 の 中 心 地 、ウィッテンベルクそれ 自 体 が、 狂 信 と 無 法 の 勢 力 下 に 急<br />

速 に 陥 っていた。この 恐 ろしい 状 態 は、ルターの 教 えの 結 果 ではなかった。しかし、<br />

ドイツ 全 国 の 彼 の 敵 が、それを 彼 のせいにした。 彼 は 非 常 に 心 を 痛 めて、 時 々、「そ<br />

れでは、この 宗 教 改 革 の 大 事 業 の 結 果 は、こんなものなのであろうか」と 問 うた。 7 彼<br />

は、 熱 心 に 神 に 祈 り 求 めて、ふたたび 心 に 平 安 が 与 えられた。「この 仕 事 は、わたし<br />

のものではなくあなた 自 身 のものである。あなたは、それが 迷 信 と 狂 信 に 腐 敗 される<br />

ことをお 許 しにならない。と 彼 は 言 った。 王 しかしこのような 危 機 にあって、 争 闘 か<br />

ら 長 く 離 れているということは、 耐 えられないことであった。 彼 は、ウィッテンベル<br />

クに 帰 る 決 心 をした。<br />

直 ちに、 彼 は 危 険 な 旅 に 出 た。 彼 は 帝 国 から 追 放 されていた。 敵 は 自 由 に 彼 の 生 命<br />

を 奪 うことができたし、 友 人 たちは 彼 を 助 けたりかくまったりすることを 禁 じられて<br />

いた。 帝 国 政 府 は、 彼 の 支 持 者 たちに 最 も 厳 しい 処 置 をとっていた。しかし 彼 は、 福<br />

音 事 業 が 危 機 にひんしているのを 見 た。そして 彼 は、 真 理 のために 恐 れることなく 闘<br />

うために、 主 の 名 によって 出 ていった。<br />

選 挙 侯 に 送 った 手 紙 の 中 で、ルターは、ワルトブルクを 去 る 目 的 を 述 べたあとで、<br />

次 のように 言 った。「わたしは、 諸 侯 や 選 挙 侯 よりも 強 力 な 保 護 のもとに、ウィッテ<br />

ンベルクに 行 こうとしていることを 殿 下 にお 知 らせいたします。わたしは、 殿 下 の 支<br />

持 を 求 めようとは 思 いません。あなたの 保 護 を 願 うよりは、わたしがあなたを 保 護 し<br />

たいと 思 います。もし 殿 下 がわたしを 保 護 することができ、あるいは 保 護 しようとな<br />

さることがわかっているならば、わたしはウィッテンベルクに 行 きたいとは 少 しも 思<br />

いません。この 運 動 は、 剣 によっては 推 進 できません。 人 間 の 援 助 や 同 意 によらず、<br />

ただ 神 だけが 万 事 をなさるべきです。 最 大 の 信 仰 を 持 っている 者 が、 最 も 保 護 する 力<br />

があるのです。」 8 ウィッテンベルクへの 途 中 で 書 いた 第 二 の 手 紙 の 中 で、ルターは<br />

次 のように 付 け 加 えた。「わたしは、 殿 下 のきげんをそこね、 全 世 界 の 怒 りを 招 くこ<br />

とを 覚 悟 しています。ウィッテンベルク 市 民 は、わたしの 羊 ではないのでしょうか?<br />

132


国 際 協 定<br />

神 は 彼 らを、わたしにおゆだねにならなかったのでしょうか?そしてわたしは、 必 要<br />

ならば、 彼 らのために 生 命 を 捨 てなくていいのでしょうか?さらに、わたしは、わが<br />

国 に 対 する 神 の 罰 として、ドイツに 恐 ろしい 暴 動 が 起 こることを 恐 れるのです。」 9<br />

彼 は、 非 常 な 慎 重 さと 謙 そんをもって、しかも 断 固 とした 決 意 のもとに、 彼 の 仕 事<br />

を 始 めた。「 暴 力 によって 立 てられたものを、われわれは、み 言 葉 によってくつがえ<br />

し 滅 ぼさなければならない。わたしは、 迷 信 深 い 人 々や 不 信 仰 な 人 々に 対 して、 暴 力<br />

を 用 いない。 人 を 強 いてはならない。 自 由 は 信 仰 の 本 質 そのものである。」 10<br />

ルターがすでにもどってきて、 説 教 をしようとしているということは、まもなくウ<br />

ィッテンベルク 中 に 知 れ 渡 った。 人 々は、 各 地 から 集 まってきて、 教 会 はあふれるば<br />

かりになった。 彼 は、 説 教 壇 に 上 り、 大 いなる 知 恵 と 柔 和 をもって、 教 え、 勧 め、 譴<br />

責 した。ミサを 廃 止 しようとして 暴 力 に 訴 えた 人 々の 行 動 について、 彼 は 次 のように<br />

言 った。 「ミサは、 悪 いものである。 神 は、それに 反 対 しておられる。それは 廃 され<br />

るべきである。わたしは、 全 世 界 において、 福 音 の 聖 餐 がそれに 代 わることを 望 んで<br />

いる。しかし、だれ 1 人 として、 暴 力 によってそれから 引 き 離 されてはならない。わ<br />

れわれは、その 事 を 神 の 手 にゆだねなければならない。み 言 葉 が 行 動 を 起 こすべきで、<br />

われわれではない。それはなにゆえか、とあなたがたはたずねるであろう。それは、<br />

陶 工 が 土 を 手 に 持 つように、 人 々の 心 がわたしの 手 中 にあるわけではないからである。<br />

われわれは 語 る 権 利 がある、だがわれわれに 行 動 する 権 利 はない。われわれは 宣 べ 伝<br />

えよう。だがそれ 以 上 は 神 に 属 する。<br />

わたしが 暴 力 に 訴 えたとしても、なんの 益 があろうか。しかめつら、 形 式 、 物 まね、<br />

人 間 の 儀 式 、そして 偽 善 である。……そして、 誠 実 さも 信 仰 も 愛 も、そこには 見 られ<br />

ないであろう。この 3 つが 欠 けていれば、すべてが 欠 けている。そのような 結 果 は、<br />

なんの 価 値 もない。 神 は、あなたとわたしと 全 世 界 とが、 力 を 合 わせて 行 う 以 上 のこ<br />

とを、み 言 葉 だけによってなされる。 神 は、 人 の 心 を 捕 らえられる。そして 心 が 捕 ら<br />

えられる 時 に、すべてが 得 られるのである。わたしは、 説 教 し、 討 論 し、 著 述 をする。<br />

しかし、わたしは、だれも 強 制 しない。なぜなら、 信 仰 は 自 発 的 な 行 為 だからである。<br />

わたしの 行 ったことを 見 てほしい。わたしは、 法 王 に、 免 罪 符 に、そして 法 王 の 支 持<br />

者 たちに 反 対 したが、 暴 力 を 用 いたり 騒 ぎを 起 こしたりはしなかった。わたしは 神 の<br />

言 葉 を 差 し 出 した。わたしは 説 教 し、 書 いた。これがわたしの 行 ったすべてである。<br />

それにもかかわらずわたしが 眠 っている 間 に、……わたしが 説 いたみ 言 葉 が 法 王 権 を<br />

くつがえしたのであって、 諸 侯 も 皇 帝 もこれほどの 損 害 を 与 えたことはなかった。し<br />

かし、わたしは 何 もしなかった。み 言 葉 だけがすべてを 行 った。もしわたしが 暴 力 に<br />

訴 えたならば、 恐 らくドイツ 全 国 に 血 の 雨 が 降 ったことであろう。そして、その 結 果<br />

133


国 際 協 定<br />

はどうであったろうか。 身 体 も 霊 魂 も 滅 び 失 せてしまったことであろう。それゆえに、<br />

わたしは 静 かにしていた。そして、み 言 葉 だけを、 世 界 にゆきわたらせておいたので<br />

ある。」 11<br />

ルターは、1 週 間 にわたって、 毎 日 、 熱 心 な 聴 衆 に 説 教 しつづけた。 神 の 言 葉 が、<br />

狂 信 的 な 騒 ぎを 静 めた。 福 音 の 力 が、 惑 わされた 人 々を 真 理 の 道 に 引 きもどした。ル<br />

ターは、 非 常 な 害 悪 を 及 ぼした 狂 信 家 たちと 会 うことを 望 まなかった。 彼 らは、 判 断<br />

力 が 健 全 でなく、 感 情 の 未 熟 な 人 々で、 天 からの 特 別 の 光 を 受 けたと 言 いながら、わ<br />

ずかの 反 論 、または 親 切 な 譴 責 や 勧 告 さえも 受 けつけない 人 々であることを、 彼 は 知<br />

っていた。 彼 らは、 最 高 の 権 威 を 持 ったものであると 称 して、いやおうなしに、すべ<br />

ての 者 に 彼 らの 主 張 を 認 めさせた。しかし、 彼 らがルターに 会 見 を 申 し 込 んできたの<br />

で、 彼 は、 彼 らに 会 うことに 同 意 した。そして 彼 は、 巧 みに 彼 らの 化 けの 皮 をはいだ<br />

ので、 偽 り 者 たちは 直 ちにウィッテンベルクを 退 散 してしまった。<br />

こうして、 狂 信 は 一 時 くいとめられた。しかし、それは 数 年 後 にさらに 激 しく 盛 り<br />

かえして、 恐 ろしい 結 果 をもたらした。この 運 動 の 指 導 者 について、ルターは 次 のよ<br />

うに 言 った。「 彼 らにとって、 聖 書 は 死 文 に 過 ぎない。そして 彼 らはみな、『 聖 霊 、<br />

聖 霊 』と 叫 び 出 した。しかし、わたしは 彼 らの 霊 の 導 く 所 には、もちろんついて 行 か<br />

ない。どうか、 憐 れみ 深 い 神 が、 自 称 聖 徒 だけしかいないような 教 会 から、わたしを<br />

守 ってくださるように。わたしは、 自 分 たちの 罪 を 痛 感 し、 神 の 慰 めと 支 えを 得 るた<br />

めに、 心 の 底 からたえずうめき、 叫 び 求 める 人 々、 謙 そんで 弱 く 病 んでいる 人 々と 共<br />

に 住 みたいと 思 う。」 12<br />

狂 信 家 の 中 で 最 も 活 動 的 なトマス・ミュンッァーは、 非 常 な 才 能 の 持 ち 主 であった。<br />

もし 彼 が 正 しく 指 導 されたならば、 世 を 益 するところが 多 かったであろう。しかし 彼<br />

は、 真 の 宗 教 の 根 本 原 則 を 知 っていなかった。「 彼 は、 世 界 を 改 革 しようと 望 んだ。<br />

そして、すべての 熱 狂 家 たちと 同 様 に、 改 革 はまず 自 分 から 始 まるべきであることを<br />

忘 れた。」 13 彼 は、 地 位 と 勢 力 への 野 望 を 抱 き、ルターに 次 ぐ 地 位 でも 満 足 しなかっ<br />

た。 改 革 者 たちが、 法 王 の 代 わりに 聖 書 の 権 威 を 認 めるならば、それは、ただ 別 の 形<br />

の 法 王 権 を 樹 立 するだけであると 彼 は 主 張 した。そして 彼 自 身 は、 自 分 は 真 の 改 革 を<br />

行 うために、 神 の 任 命 を 受 けたと 主 張 した。「この 精 神 を 持 つものは、 一 生 涯 聖 書 を<br />

見 なくても、 真 の 信 仰 を 持 つ」とミュンツァーは 言 った。 14<br />

狂 信 的 教 師 たちは、 感 情 のままに 支 配 され、すべての 思 いと 衝 動 を 神 の 声 であると<br />

考 えた。したがって、 彼 らは、 非 常 に 極 端 であった。「 文 字 は 人 を 殺 し、 霊 は 人 を 生<br />

三 かす」と 叫 んで、 聖 書 を 焼 く 者 さえあった。ミュンッァーの 教 えは、 奇 異 を 好 む 人<br />

134


国 際 協 定<br />

心 に 訴 えると 共 に、 事 実 上 、 人 間 の 思 想 や 意 見 を 神 の 言 葉 以 上 に 高 めて、 彼 らの 誇 り<br />

を 満 足 させた。 彼 の 教 義 は、 幾 千 のものに 迎 えられた。 彼 はまもなく、 公 の 礼 拝 のあ<br />

らゆる 秩 序 を 公 然 と 非 難 し、 諸 侯 に 服 従 することは 神 とベリァルの 両 方 に 仕 えようと<br />

するものである、と 宣 言 した。 すでに 法 王 権 の 拘 束 を 脱 し 始 めていた 人 々の 心 は、 国<br />

家 の 権 力 の 束 縛 にも 耐 えられなくなっていた。 神 の 是 認 によるものと 称 したミュンツ<br />

ァーの 改 革 的 教 義 は、 彼 らをあらゆる 抑 制 から 引 き 離 し、 彼 らの 偏 見 と 感 情 の 赴 くま<br />

まにさせた。 最 も 恐 ろしい 暴 動 と 争 闘 の 場 面 が 続 いて 起 き、ドイツの 国 土 に 血 の 雨 が<br />

降 った。<br />

狂 信 の 結 果 起 こったことが、 宗 教 改 革 のせいにされたのを 見 たルターは、ずっと 以<br />

前 にエルフルトで 経 験 した 苦 悩 に 倍 するほどの、 大 きな 苦 悩 を 味 わった。 法 王 側 の 諸<br />

侯 は、ルターの 教 義 は 当 然 反 逆 を 引 き 起 こすものであると 断 言 し、 多 くの 者 がそれを<br />

是 認 するありさまだった。こうした 非 難 は、なんの 根 拠 もないものであったが、 改 革<br />

者 ルターに 大 きな 悩 みを 与 えずにはいなかった。 真 理 の 事 業 が、 卑 劣 な 狂 信 と 同 一 視<br />

されて、このように 辱 しめられることは、 耐 えられないことに 思 われた。 他 方 、 反 逆<br />

の 指 導 者 たちは、ルターが 彼 らの 教 義 に 反 対 し、 神 の 霊 感 によるものであるという 彼<br />

らの 主 張 を 否 定 しただけでなく、 彼 らを 国 家 の 権 力 に 反 逆 する 者 であると 言 ったため<br />

に、ルターを 憎 んだ。その 報 復 として、 彼 らはルターを 卑 しい 欺 瞞 者 と 非 難 した。 彼<br />

は、 諸 侯 と 民 衆 の 両 方 の 敵 意 を 招 いたかのように 思 われた。<br />

宗 教 改 革 が 急 速 に 衰 えるのを 見 た 法 王 側 は、 大 いに 喜 んだ。そして 彼 らは、ルター<br />

がけんめいに 正 そうと 努 力 してきた 誤 りさえもルターの 責 任 にした。 狂 信 者 たちは、<br />

不 当 な 取 り 扱 いを 受 けたと 偽 って、 多 くの 民 衆 の 同 情 を 得 ることに 成 功 した。そして、<br />

誤 った 側 に 加 担 する 者 がしばしばそうみなされるように、 彼 らは 殉 教 者 とみなされた。<br />

こうして、 宗 教 改 革 に 全 力 をあげて 反 対 していた 者 たちが、 残 酷 と 圧 制 の 犠 牲 者 とし<br />

て、 同 情 と 賞 賛 を 受 けた。これはサタンの 働 きであって、 最 初 、 天 においてあらわさ<br />

れたのと 同 じ 反 逆 の 精 神 に 動 かされたものであった。<br />

サタンは、 常 に 人 々を 欺 き、 罪 を 義 と 呼 び、 義 を 罪 と 呼 ばせる。 彼 の 働 きはなんと<br />

成 功 していることであ ろう。 真 理 を 擁 護 して 堅 く 立 つために、 神 の 忠 実 なしもべたち<br />

がなんとしばしば 非 難 攻 撃 を 受 けることであろう。サタンの 代 理 に 過 ぎない 者 が、 賞<br />

賛 とへつらいを 受 けて、 殉 教 者 とさえみなされている。 他 方 、その 神 への 忠 誠 に 対 し<br />

て 尊 敬 と 支 持 を 受 けるべき 人 々が、 疑 惑 と 不 信 のもとに 孤 立 させられているのである、<br />

にせの 聖 潔 、 偽 りの 清 さが、 今 なお 欺 隔 の 活 動 を 行 っている。それは、ルターの 面 時<br />

代 のように、 種 々の 形 態 のもとにその 精 神 をあらわし、 人 々の 心 を 聖 書 から 引 き 離 し<br />

て、 神 の 律 法 に 服 従 するよりは 自 分 たちの 感 情 や 印 象 に 従 うようにさせる。これは、<br />

135


国 際 協 定<br />

純 潔 と 真 理 を 非 難 するサタンの 最 も 巧 妙 な 手 段 の 1 つである。ルターは 恐 れることな<br />

く、 四 方 からの 攻 撃 に 対 し 福 音 を 擁 護 した。 神 の 言 葉 は、あらゆる 争 いにおいて、 偉<br />

大 な 武 器 であった。その 言 葉 をもって、 彼 は、 法 王 が 僑 取 した 権 力 や、 学 者 の 思 弁 的<br />

な 哲 学 に 立 ち 向 かった。そして 他 方 、 彼 は、 宗 教 改 革 と 合 同 しようとした 狂 信 に 反 対<br />

して、 岩 のように 堅 く 立 ったのである。<br />

これら 相 対 立 する 諸 勢 力 は、そのいずれもが、 聖 書 を 捨 て 去 り、 人 間 の 知 恵 を、 宗<br />

教 的 真 理 と 知 識 の 根 源 として 高 めていた。 理 性 主 義 は、 理 性 を 偶 像 にして、それを 宗<br />

教 の 規 準 にする。ローマ 主 義 は、 法 王 は、 使 徒 伝 来 の、そして 全 時 代 を 通 じて 不 変 の<br />

霊 感 を 受 けていると 主 張 して、 使 徒 的 任 命 という 神 聖 な 名 目 のもとに、あらゆる 種 類<br />

のぜいたくと 腐 敗 をおおいかくしている。ミュンツァーとその 仲 間 が 主 張 した 霊 感 と<br />

は、 気 まぐれな 想 像 に 過 ぎず、 人 間 の、また 神 の、あらゆる 権 威 を 破 壊 するものであ<br />

った。しかし、 真 のキリスト 教 は、 神 の 言 葉 を、 霊 感 による 真 理 の 一 大 宝 庫 として、<br />

また、すべての 霊 感 の 試 金 石 として 受 け 入 れるのである。<br />

ルターは、ワルトブルクから 帰 るとすぐに、 新 約 聖 書 の 翻 訳 を 完 成 した。そしてま<br />

もなく、ドイツ 国 民 は、 福 音 を 自 国 語 で 手 にすることができた。この 翻 訳 は、 真 理 を<br />

愛 するすべての 人 々から、 非 常 な 喜 びをもって 迎 えられた。しかし、 人 間 の 伝 説 や 人<br />

間 の 律 法 を 選 ぶ 人 々からは、 軽 べつされ 拒 絶 された。 司 祭 たちは、これからは 一 般 の<br />

人 々が 神 の 言 葉 の 戒 めについて 自 分 たちと 討 論 することができ、こうして 自 分 たちの<br />

無 知 が 暴 露 されるのではないかと 考 えて 驚 愕 し、 不 安 になった。 彼 らの 肉 的 な 理 論 と<br />

いう 武 器 は、 霊 の 剣 の 前 には 無 力 であった。ローマは 全 力 をあげて、 聖 書 の 配 布 を 妨<br />

害 した。しかし、 教 書 も 破 門 も 拷 問 も、みなむだであった。 聖 書 を 非 難 し 禁 止 すれば<br />

するほど、 人 々は、 聖 書 の 教 えを 知 ろうと 欲 した。 読 むことができる 者 はみな、 自 分<br />

で 神 の 言 葉 を 熱 心 に 研 究 した。 彼 らはそれを、 持 ち 歩 いてくり 返 し 読 み、その 大 部 分<br />

を 暗 唱 するまでは 満 足 しなかった。ルターは、 新 約 聖 書 が 歓 迎 されたのを 見 て、 直 ち<br />

に 旧 約 聖 書 の 翻 訳 を 開 始 し、できしだい 分 冊 にして 発 行 した。<br />

ルターの 著 書 は、 都 市 でも 村 でも 歓 迎 された。「ルターと 彼 の 同 志 たちの 作 ったも<br />

のを、 他 の 者 たちが 配 布 した。 修 道 院 制 度 の 不 法 を 悟 って、 怠 慢 な 長 年 の 生 活 を 活 動<br />

的 なものに 一 変 しようと 望 んだが、しかし 神 の 言 葉 を 宣 言 するには 無 知 すぎた 修 道 上<br />

たちは、 各 地 を 旅 して 村 々や 戸 ごとを 訪 問 し、ルターとその 仲 間 の 著 書 を 売 った。ド<br />

イッはまもなく、こつした 勇 敢 な 文 書 伝 道 者 の 群 れであふれた。」 15 これらの 著 書 は、<br />

貧 富 や 学 識 の 有 無 を 問 わず 非 常 な 興 味 をもって 研 究 された。 村 の 学 校 の 教 師 たちは、<br />

夜 、 炉 辺 に 集 まった 小 さな 群 れに、それを 読 んで 聞 かせた。こうした 努 力 のたびに、<br />

幾 人 かの 魂 が 真 理 を 認 めて 喜 んで 言 葉 を 受 け 入 れ、 今 度 は 彼 らが 福 音 を 他 の 人 々に 伝<br />

136


国 際 協 定<br />

えた。 「み 言 葉 が 開 けると 光 を 放 って、 無 学 な 者 に 知 恵 を 与 えます」という 霊 感 の 言<br />

葉 が 実 証 された[ 詩 篇 119:。<br />

聖 書 の 研 究 は、 人 々の 心 に 大 きな 変 化 を 起 こしつつあった。これまで 法 王 権 は、そ<br />

の 支 配 下 にある 者 を 鉄 のくびきで 縛 り、 無 知 と 堕 落 に 陥 れていた。 形 式 の 迷 信 的 遵 守<br />

が 厳 格 に 継 続 されていたが、そのすべての 儀 式 において、 心 や 知 性 はなんのかかわり<br />

も 持 たなかった。しかしルターの 説 教 は、 神 のみ 言 葉 の 明 白 な 真 理 を 示 すとともに、<br />

み 言 葉 そのものが、 一 般 の 人 々の 手 に 渡 ったことによって、 彼 らの 眠 っていた 能 力 を<br />

呼 びさまし、 彼 らの 霊 性 を 清 めて 高 尚 にするだけでなく、 知 性 に 新 しい 力 と 活 気 を 与<br />

えたのである。<br />

あらゆる 階 級 の 人 々が、 聖 書 を 手 にして、 宗 教 改 革 の 教 義 を 擁 護 するのが 見 られた。<br />

聖 書 の 研 究 を 司 祭 や 修 道 士 にゆだねていた 法 王 E 教 徒 たちは、 彼 らが 出 て 来 て 新 しい<br />

教 義 に 反 論 することを 要 求 した。しかし、 聖 書 にも 神 の 力 にも 無 知 であった 司 祭 や 修<br />

道 士 たちは、 彼 らが 無 知 だ 異 端 だと 弾 劾 していた 人 々によって、 完 全 に 打 ち 負 かされ<br />

てしまった。「あいにくとルターは、 聖 書 以 外 のどんな 神 託 も 信 じてはならないと、<br />

彼 の 支 持 者 たちに 信 じ 込 ませてしまった」とあるカトリックの 著 者 は 言 った。 16 無 学<br />

な 人 々が 真 理 を 擁 護 し、また、 学 識 ある 雄 弁 な 神 学 者 と 彼 らが 討 論 するのを、 群 衆 が<br />

集 まって 聞 くのであった。これらの 大 家 たちは、その 議 論 が 神 のみ 言 葉 の 単 純 な 教 え<br />

によって 反 論 されて、 無 知 の 恥 を 暴 露 した。 労 働 者 、 兵 卒 、 婦 人 、そして 子 供 たちで<br />

さえ、 司 祭 や 学 識 のある 博 士 たちよりも、 聖 書 の 教 えをよく 知 っていたのである。<br />

福 音 を 信 じる 者 と 法 王 教 の 迷 信 を 信 じる 者 との 対 照 は、 知 識 階 級 のみならず 一 般 の<br />

人 々の 目 にも 明 らかであった。「 語 学 の 研 究 と 文 学 の 素 養 をなおざりにしてきた 法 王<br />

側 の 老 戦 士 たちに 対 して、…… 広 い 心 をもった 青 年 たちが、 研 究 に 没 頭 し、 聖 書 を 調<br />

べ、 古 代 の 傑 作 に 親 しんでいた。 活 発 な 頭 脳 、 高 貴 な 魂 、そして 勇 敢 な 心 を 持 ったこ<br />

れらの 青 年 たちは、やがて、 長 い 間 にわたってだれにもひけを 取 らない 知 識 の 持 ち 主<br />

になった。…… 従 って、これらの 若 い 改 革 擁 護 者 たちは、どのような 会 合 において 法<br />

王 側 の 博 士 たちと 相 対 しても、 非 常 なゆとりと 確 信 をもって 彼 らを 攻 撃 するので、 無<br />

知 な 彼 らはうろたえ、 当 惑 し、 衆 人 の 前 で 恥 をかくのであった。」 17 ローマ 側 の 司 祭<br />

たちは、 自 分 たちの 会 衆 が 減 少 するのを 見 て 当 局 の 援 助 を 求 め、 自 分 たちも 全 力 をあ<br />

げて 聴 衆 を 引 きもどそうと 努 めた。しかし 人 々は、 新 しい 教 えの 中 に 彼 らの 魂 の 必 要<br />

を 満 たすものを 見 いだした。そして、 長 い 間 迷 信 的 な 儀 式 と 人 間 の 伝 説 という 無 価 値<br />

な 豆 がらを 与 えてきた 者 からは、 顔 をそむけて 離 れていった。 真 理 の 教 師 たちに 迫 害<br />

の 火 の 手 があがった 時 、 彼 らは、「1 つの 町 で 迫 害 されたなら、 他 の 町 へ 逃 げなさい」<br />

というキリストの 言 葉 に 従 った[マタイ 10:。<br />

137


国 際 協 定<br />

光 は、 至 る 所 に 照 り 輝 いた。 逃 亡 者 たちは、どこかで 彼 らを 迎 えてくれる 家 を 見 つ<br />

け、そこに 泊 まって、ある 時 は 教 会 で、またそれが 許 されなければ 個 人 の 家 、または<br />

戸 外 で、キリストを 説 教 したのである。どこであろうと 聴 衆 がありさえすれば、そこ<br />

は 彼 らにとって 聖 い 神 殿 であった。このような 活 気 と 確 信 のもとに 宣 言 された 真 理 は、<br />

破 竹 の 勢 いで 広 まった。 教 会 当 局 と 政 府 当 局 の 両 方 が 異 端 を 撲 滅 しようとしたが、む<br />

だであった。 投 獄 、 拷 問 、 火 刑 、 剣 を 用 いてもむだであった。 幾 千 という 信 者 が 殉 教<br />

したが、 働 きは 前 進 していった。 迫 害 は、 真 理 の 進 展 を 促 すだけであった。そして、<br />

サタンがそれと 合 流 させようと 努 めた 狂 信 も、サタンの 働 きと 神 の 働 きの 区 別 をいよ<br />

いよ 明 らかにする 結 果 に 終 わったのである。<br />

138


国 際 協 定<br />

第 11 章 信 教 の 自 由 のための 戦 い<br />

宗 教 改 革 擁 護 のために 宣 言 された 最 も 高 潔 な 証 言 の 1 つは、1529 年 にシュパイエ<br />

ルの 国 会 で、ドイツのキリスト 教 諸 侯 が 提 出 した『 抗 議 書 』であった。これら 神 の 人<br />

々の 勇 気 と 信 仰 と 堅 固 な 態 度 は、その 後 の 幾 世 代 にわたって、 思 想 と 良 心 の 自 由 を 確<br />

保 した。 彼 らの『 抗 議 書 』が、 改 革 教 会 にプロテスタントという 名 称 を 与 えた。その<br />

原 則 は、「プロテスタント 主 義 の 真 髄 そのもの」である。 1<br />

宗 教 改 革 にとって、 暗 く 険 悪 な 時 代 が 到 来 していた。ウォルムスの 勅 令 によってル<br />

ターは 破 門 され、 彼 の 教 義 を 教 えたり 信 じたりすることは 禁 じられていたけれども、<br />

これまでのところ、ドイツにおいては、 宗 教 上 の 自 由 が 保 たれていた。 神 の 摂 理 によ<br />

って、 真 理 に 反 対 する 勢 力 が 抑 えられていた。カール 5 世 は、 宗 教 改 革 を 鎮 圧 しよう<br />

としたが、 打 撃 を 加 えようとすると、それを 他 へ 向 けねばならなくなることがしばし<br />

ばあった。 幾 度 となく、ローマに 反 抗 するすべてのものは、 直 ちに 打 ち 滅 ぼされるこ<br />

とが 不 可 避 に 思 われた。しかし、そうした 危 機 に、トルコの 軍 勢 が 東 の 国 境 に 現 れた<br />

り、あるいは、フランス 国 王 、または 法 王 自 身 でさえも、 皇 帝 の 勢 力 の 増 大 をねたん<br />

で、 戦 いをいどんできたのである。こうして、 諸 国 の 紛 争 と 騒 乱 の 中 で、 宗 教 改 革 は<br />

力 をつけ、 発 展 していくことができた。<br />

しかし、ついに 法 王 側 が 彼 らの 紛 争 をやめ、 力 を 合 わせて 改 革 者 たちに 当 たってき<br />

た。1526 年 のシュパイエルの 議 会 は、 一 般 教 会 会 議 が 開 かれるまでは 宗 教 に 関 して<br />

各 国 に 完 全 な 自 由 を 与 えていた。しかし、このような 譲 歩 を 必 要 としたところの 危 険<br />

が 過 ぎ 去 るやいなや、 皇 帝 は、 異 端 撲 滅 を 目 的 とした 第 2 回 シュパイエル 議 会 を<br />

1529 年 に 開 いた。 諸 侯 たちは、できるなら 平 和 的 な 方 法 で、 改 革 に 反 対 するように<br />

誘 われるのであった。しかし、それが 失 敗 すれば、カールは 剣 に 訴 える 用 意 をしてい<br />

た。<br />

法 王 側 は 勝 ち 誇 った。 彼 らは 大 ぜいでシュパイエルに 乗 り 込 み、 改 革 者 と 支 持 者 た<br />

ちのすべてに 対 して、 公 然 と 敵 意 をあらわした。メランヒトンは 言 った。「われわれ<br />

は、 世 ののろいを 受 け、ちりのように 思 われている。しかし、キリストは、 彼 のあわ<br />

れな 民 をながめ、 保 護 されるのである。」 2 議 会 に 出 席 中 の、 福 音 を 信 じる 諸 侯 は、<br />

彼 らの 邸 宅 において 福 音 の 説 教 をすることさえ 禁 じられた。しかし、シュパイエルの<br />

人 々は、 神 のみ 言 葉 にかわいていた。そこで、 禁 じられていたにもかかわらず、 幾 千<br />

という 人 々がザクセン 選 挙 侯 の 礼 拝 堂 で 開 かれた 集 会 に 集 まった。<br />

139


国 際 協 定<br />

これは 危 機 を 早 めた。 良 心 の 自 由 を 許 した 決 議 が 大 混 乱 を 引 き 起 こしたために、 皇<br />

帝 はそれを 撤 廃 する、という 勅 令 が 議 会 に 対 して 発 表 された。この 専 横 な 行 為 は、 福<br />

音 的 キリスト 者 たちの 憤 りと 驚 きを 引 き 起 こした。ある 人 は、「キリストは、ふたた<br />

び、カヤバとピラトの 手 に 落 ちた」と 言 った。ローマ 側 は、さらに 猛 威 をふるった。<br />

ある 頑 迷 な 法 王 教 徒 は 言 った。「トルコ 人 は、ルター 派 の 者 よりはよい。なぜならば、<br />

トルコ 人 は 断 食 を 守 っているが、ルター 派 はそれを 破 っている。われわれが、 神 の 聖<br />

書 か 教 会 の 昔 からの 誤 りかを 選 ばなければならないとすれば、われわれは、 前 者 を 拒<br />

否 する。」メランヒトンは、「フアーベルは、 毎 日 議 会 全 体 の 前 で、われわれ 福 音 を<br />

信 じる 者 に、 新 しい 石 を 投 げつける」と 言 った。 3<br />

宗 教 の 自 由 は、 法 的 に 確 立 されていた。そして、 福 音 主 義 に 立 つ 諸 州 は、 彼 らの 権<br />

利 の 侵 害 に 反 対 する 決 意 をした。ルターは、 依 然 としてウォルムスの 勅 令 によって 破<br />

門 されていたので、シュパイエルに 行 くことは 許 されなかった。しかし、 彼 の 同 労 者<br />

と、この 危 機 において 神 の 事 業 を 擁 護 するために 神 が 起 こされた 諸 侯 とが、 彼 の 代 理<br />

をつとめた。 前 にルターを 保 護 したザクセンの 高 潔 なフリードリヒ 選 挙 侯 は、もうこ<br />

の 世 の 人 ではなかった。しかし、 彼 の 兄 弟 で 後 継 者 のヨハン 公 も 喜 んで 改 革 を 歓 迎 し、<br />

平 和 の 愛 好 者 でありながら、 信 仰 に 関 するすべてのことについては 非 常 な 努 力 と 勇 気<br />

とを 示 した。<br />

司 祭 たちは、 宗 教 改 革 を 受 け 入 れていた 諸 州 が、ローマの 支 配 に 絶 対 的 に 従 うこと<br />

を 要 求 した。しかし 改 革 者 たちは、 以 前 に 許 されていた 自 由 を 主 張 した。 非 常 な 喜 び<br />

をもって 神 の 言 葉 を 受 け 入 れた 諸 州 を、ふたたびローマの 支 配 下 におくことに、 彼 ら<br />

は 同 意 することができなかった。<br />

そこで、ついに 妥 協 案 として、 宗 教 改 革 がまだ 確 立 されていないところにおいては、<br />

ウォルムスの 勅 令 を 施 行 すべきことが 提 案 された。そして、「その 勅 令 に 従 わない 州 、<br />

また、これに 従 おうとすれば 反 乱 が 起 こる 危 険 のあるところでは、 少 なくとも、 新 し<br />

い 改 革 をなさず、 論 争 点 には 触 れず、ミサを 行 うことに 反 対 せずローマ・カトリック<br />

信 者 にルター 主 義 を 受 け 入 れることを 許 さないようにする」ことが 提 案 された。 4 こ<br />

の 案 が 議 会 を 通 過 し、 法 王 側 の 司 祭 と 司 教 たちは、 大 いに 満 足 した。 もしこの 勅 令 が<br />

実 施 されるならば、「 宗 教 改 革 は、それがまだ 伝 わっていないところに…… 伝 えられ<br />

ることができずまた、それがすでに 伝 えられたところでは、 堅 固 な 基 礎 の 上 に 確 立 さ<br />

れることもできなかった。」 5 言 論 の 自 由 が 禁 止 され、 改 宗 することも 許 されなくな<br />

る。そして、このような 制 限 と 禁 止 に 改 革 支 持 者 たちは 直 ちに 服 さなければならなか<br />

った。 世 界 の 希 望 は、 消 え 去 るかと 思 われた。「ローマの 教 権 制 度 の 復 興 が…… 古 来<br />

の 悪 弊 を 再 びもたらすことは 確 かだった。」そして、 狂 言 と 紛 争 のために「すでに 激<br />

140


国 際 協 定<br />

しく 動 揺 している 事 業 を、 完 全 に 崩 壊 させる」 機 会 は、すぐに 見 いだされることであ<br />

ろう。 6<br />

福 音 派 の 会 議 が 開 かれた 時 に、お 互 いは 困 惑 した 顔 をしていた。 彼 らは、 次 々に<br />

「どうすればよいのか?」と 問 うた。 今 や、 世 界 の 運 命 を 決 定 する 大 問 題 が 持 ち 上 が<br />

っていた。「 改 革 派 の 首 脳 者 たちは、 屈 服 して、 勅 令 に 従 うであろうか。この 危 機 、<br />

真 に 恐 るべき 危 機 において、 誤 った 道 に 落 ちこんでしまうことは、 何 とやさしかった<br />

ことであろう。 屈 服 するためのまことしやかな 口 実 やもっともな 理 由 は、いくらでも<br />

あった。<br />

ルター 派 の 諸 侯 には、 信 教 の 自 由 が 与 えられていた。 同 じ 自 由 は、この 案 が 通 過 す<br />

る 前 に 改 革 派 の 信 仰 を 持 ったすべての 臣 下 にも、 与 えられていた。 彼 らは、これで 満<br />

足 すべきではなかったか。 服 従 すれば、どんなに 多 くの 危 機 を 避 けることができるで<br />

あろう。 反 対 するならば、どんなにはかり 知 れない 危 機 と 争 闘 に 巻 き 込 まれることで<br />

あろうか。 将 来 、どんな 機 会 があるかわからない。 平 和 を 結 ぼう。ローマが 差 し 出 す<br />

オリーブの 枝 をつかんで、ドイツの 傷 をつつもう。——のような 議 論 のもとに、 改 革<br />

者 たちは、 速 やかに 彼 らの 事 業 をくつがえしてしまう 道 に 進 むことを、 正 当 化 するこ<br />

ともできたであろう。<br />

しかし 幸 いにも 彼 らは、こうした 妥 協 の 根 底 にある 原 則 を 見 て、 信 仰 によって 行 動<br />

した。その 原 則 とは、なんであったろうか。それは、ローマは 良 心 を 強 制 し、 自 由 な<br />

研 究 を 禁 じる 権 利 を 持 つという 主 張 である。しかし、 彼 ら 自 身 とプロテスタントの 臣<br />

下 には、 宗 教 上 の 自 由 が 与 えられないのであろうか。いや、 与 えられはするが、それ<br />

は 妥 協 案 の 中 で 特 に 記 載 された 恩 恵 としてであって、 権 利 としてではない。その 措 置<br />

以 外 のあらゆる 点 においては、 権 威 の 大 原 則 が 支 配 するのであった。 良 心 は 無 視 され<br />

た。ローマは、 誤 ることのない 裁 判 官 で、 服 従 を 要 求 した。 妥 協 案 を 受 け 入 れること<br />

は、 改 革 主 義 を 受 け 入 れたザクセンだけに 宗 教 の 自 由 を 限 定 することを、 事 実 上 認 め<br />

たことになる。そして、その 他 のすべてのキリスト 教 国 においてては、 改 革 主 義 の 信<br />

仰 を 研 究 して 信 じることは 犯 罪 で、 投 獄 と 火 刑 の 罰 を 受 けなければならなかった。 彼<br />

らは、 宗 教 の 自 由 を 一 一 地 方 にとどめるということに、 同 意 できるであろうか。 宗 教<br />

改 革 の 改 心 者 はこれで 終 わり、 征 服 すべき 地 はこれまでであると 宣 言 するのであろう<br />

か。そして、 現 在 ローマが 支 配 しているところはどこであっても、 永 久 にその 主 権 が<br />

続 くのであろうか。 改 革 者 たちは、この 協 定 が 実 施 されることによって、 法 王 権 下 の<br />

地 方 において 生 命 をささげなけれ ばならなくなる 幾 百 幾 千 の 人 々の 血 に 対 して、 自 分<br />

たちの 無 罪 を 主 張 することができるであろうか。そうすることは、この 一 大 危 機 にお<br />

いて、 福 音 の 事 業 とキリスト 教 国 の 自 由 に 対 する 裏 切 りとなるのであった。」 7 そこで<br />

141


国 際 協 定<br />

彼 らは、むしろ、「すべてのものを、 国 や 王 位 や 生 命 さえも、 犠 牲 にしよう」とした<br />

のである。 8<br />

「われわれは、この 法 令 を 拒 否 しよう。 良 心 の 問 題 に 関 しては、 多 数 といえども 権<br />

力 を 有 しない」と 諸 侯 は 言 った。また 代 議 員 たちは 言 った、「 帝 国 の 平 和 が 保 たれて<br />

いるのは、1526 年 の 勅 令 のおかげである。それを 破 棄 すれば、 全 ドイツは 紛 争 と 分<br />

裂 に 陥 るであろう。 国 会 は、 会 議 が 開 かれるまで 宗 教 の 自 由 を 保 つより 他 に、 何 もす<br />

ることはできない。」 9 良 心 の 自 由 を 保 護 することは、 国 家 の 義 務 である。そして、 宗<br />

教 の 事 に 関 して、これが 国 家 の 権 力 の 限 界 である。 国 家 の 権 力 によって、 宗 教 的 行 事<br />

を 規 定 し、または 強 制 しようとする 政 府 はみな、 福 音 を 信 じるキリスト 者 が、そのた<br />

めにおおしく 闘 った 原 則 そのものを 犠 牲 にしているのである。<br />

法 王 側 は、 彼 らのいわゆる「 大 胆 な 強 情 」を 鎮 圧 しようと 決 意 した。 彼 らはまず、<br />

宗 教 改 革 の 支 持 者 間 に 分 裂 を 起 こさせ、またそれに 公 然 と 賛 成 していない 者 をみな 威<br />

嚇 しようとした。ついに、 自 由 都 市 の 代 表 者 たちは 議 会 に 召 喚 され、 提 案 の 条 項 に 同<br />

意 するかどうかを 宣 言 することを 要 求 された。 彼 らはしばらくの 猶 予 を 願 ったが、 許<br />

されなかった。 彼 らは 試 問 を 受 け、その 約 半 数 は 改 革 者 の 側 についた。 良 心 の 自 由 と<br />

各 自 の 判 断 の 権 利 を 犠 牲 にすることを 拒 んだ 者 は、そうした 立 場 をとったことが、 将<br />

来 批 判 や 非 難 や 迫 害 の 的 になることをよく 知 っていた。 代 議 員 の 1 人 は、「われわれ<br />

は、 神 の 言 葉 を 拒 否 するか、それとも 火 刑 になるかのどちらかである」と 言 った。 10<br />

議 会 における 皇 帝 の 代 理 者 、フェルディナント 王 は、 諸 侯 に 法 令 を 受 け 入 れさせ 支<br />

持 させるのでなければ、 重 大 な 分 裂 が 起 こるのに 気 づいた。そこで 彼 は、 彼 らに 対 し<br />

て 暴 力 を 用 いることは、ますます 彼 らの 決 意 を 固 めさせるだけであることを 悟 って、<br />

努 めて 彼 らを 説 得 することにした。 彼 は、「 諸 侯 に、 法 令 を 承 認 することを 請 い、 皇<br />

帝 はそれを 非 常 に 喜 ばれるであろうと 断 言 した。」しかし、 忠 実 な 諸 侯 は、 地 上 の 支<br />

配 者 以 上 の 権 力 を 認 めていた。そして、 彼 らは、 冷 静 に、「われわれは、 平 和 の 維 持<br />

と 神 の 栄 光 のためであるならば、 万 事 皇 帝 に 従 う」と 答 えた。 11<br />

ついに、 王 は、 議 会 において、 選 挙 侯 と 彼 の 支 持 者 たちに、 法 令 は「 皇 帝 の 勅 令 と<br />

して 発 布 されるばかりであり、」「 彼 らの 残 された 唯 一 の 道 は、 多 数 に 従 うだけであ<br />

る」と 伝 えた。 彼 は、こう 言 ってから 議 会 を 退 場 し、 改 革 者 たちに 討 議 や 返 答 の 機 会<br />

を 与 えなかった。「 彼 らは 使 者 を 派 遣 して、 王 が 議 会 にもどるよう 懇 請 したが、むだ<br />

であった。」 彼 らの 抗 議 に 対 して、 王 は、「これはすでに 決 定 している。 後 は 服 従 が<br />

あるのみである」と 答 えるだけであった。 12<br />

142


国 際 協 定<br />

皇 帝 側 は、キリスト 教 諸 侯 が 聖 書 を 人 間 の 教 義 や 規 則 以 上 のものとして 固 守 するこ<br />

とを 知 っていた。そして、この 原 則 が 受 け 入 れられているところはどこでも、 必 ず 法<br />

王 権 がくつがえされてしまうことを 知 っていた。しかし、 彼 らの 時 代 以 降 の 幾 多 の 者<br />

たちと 同 様 に、 彼 らは、ただ「 見 えるもの」だけを 見 て、 皇 帝 と 法 王 の 側 が 強 く、 改<br />

革 者 の 運 動 は 弱 いと 思 いこみ、 得 意 になったのであった。もし 改 革 者 たちが、 人 間 的<br />

な 助 けだけに 頼 っていたならば、 法 王 側 の 想 像 したとおり 無 力 であったことであろう。<br />

しかし、 数 は 少 なく、ローマに 敵 対 してはいても、 彼 らには 力 があった。 彼 らは、<br />

「 議 会 の 決 議 ではなくて、 神 の 言 葉 、カール 皇 帝 ではなくて、 王 の 王 、 主 の 主 であら<br />

れるイエス・キリストに」 訴 えたのである。 13<br />

諸 侯 は、フェルディナントが 彼 らの 良 心 の 確 信 を 認 めなかったので、 彼 の 退 席 を 意<br />

に 介 さず 直 ちに 議 会 に 彼 らの『 抗 議 書 』を 提 出 することにした。そこで、 厳 粛 な 宣 言<br />

が 作 成 されて、 議 会 に 提 出 された。 「われわれは、われわれの 唯 一 の 創 造 主 、 維 持 者 、<br />

贖 罪 主 、 救 い 主 、また、われわれの 審 判 者 となられる 神 、および、 全 人 類 と 全 被 造 物<br />

の 前 で、 抗 議 を 提 出 する。われわれは、われわれとしても 国 民 としても、その 法 令 の<br />

中 で、 神 に 反 し、 神 のみ 言 葉 、われわれの 正 しい 良 心 、われわれの 魂 の 救 いに 反 する<br />

ことには、 絶 対 に 同 意 支 持 することはできない。」<br />

「われわれがこの 勅 令 を 承 認 することなどできようか。 全 能 の 神 が、 人 間 に 神 の 知<br />

識 を 示 されるにもかかわらず、 人 間 は 神 の 知 識 を 受 けることはできないなどというこ<br />

とがあり 得 ようか。」「 神 の 言 葉 に 一 致 するもの 以 外 に、 確 かな 教 義 はない。…… 主<br />

は、その 他 の 教 義 の 宣 布 を 禁 じられる。…… 聖 書 は、 他 の、より 明 百 な 聖 句 によって<br />

説 明 されるべきである。……この 聖 書 は、すべての 事 においてキリスト 者 に 必 要 なも<br />

のであり、 理 解 しやすく、 暗 黒 を 撃 退 するためのものである。われわれは、 神 の 恵 み<br />

によって、 旧 新 約 聖 書 各 巻 に 含 まれている 神 の 言 葉 だけの 純 粋 独 特 の 説 教 を 維 持 し、<br />

それに 反 するどんなものをも 付 加 しないことを 決 意 している。この 言 葉 が 唯 一 の 真 理<br />

である。これが、すべての 教 義 と 人 生 全 般 の 確 かな 規 準 である。それは 決 してわれわ<br />

れを 失 望 させたり、 欺 いたりしない。この 基 礎 の 上 に 築 くものは、 黄 泉 [よみ]のすべ<br />

ての 力 に 立 ち 向 かうことができるし、 他 方 それに 対 抗 して 立 てられたあらゆる 人 間 的<br />

栄 華 は、 神 の 前 に 崩 れ 落 ちるのである。」<br />

「このような 理 由 のもとに、われわれは、 課 せられた 束 縛 を 拒 否 する。」「 同 時 に、<br />

われわれは、 皇 帝 が、 何 よりも 神 を 愛 するキリスト 者 君 主 として、われわれを 遇 され<br />

ることを 期 待 する。そうすればわれわれは、あなたがた 恵 み 深 き 諸 侯 に 対 すると 同 じ<br />

く、われわれの 正 当 当 然 の 務 めである 愛 情 と 服 従 のすべてを、 喜 んで 皇 帝 に 表 明 する<br />

ことを 宣 言 するものである。」 14<br />

143


国 際 協 定<br />

議 会 は、 深 い 感 動 を 受 けた。その 大 多 数 は、 抗 議 者 たちの 大 胆 さを 見 て、 驚 きと 恐<br />

れとに 満 たされた。 将 来 は、 波 乱 と 不 安 に 満 ちているように 思 われた。 不 和 、 争 闘 、<br />

流 血 は 不 可 避 に 思 われた。しかし 改 革 者 たちは、 彼 らの 運 動 が 正 しいことを 確 信 し、<br />

全 能 の 神 のみ 手 にすがり、「 勇 気 と 堅 い 決 意 に 満 ちて」いた。<br />

「この 有 名 な 抗 議 書 に 含 まれた 原 則 は、……プロテスタント 主 義 の 本 質 そのもので<br />

あった。この 抗 議 書 は、 信 仰 の 問 題 に 関 する 人 間 の 2 つの 害 悪 に 抗 議 している。その<br />

第 一 は、 為 政 者 の 侵 害 であり、 第 二 は、 教 会 の 独 断 的 権 力 であった。プロテスタント<br />

主 義 は、これらの 害 悪 の 代 わりに、 政 権 以 上 に 良 心 の 能 力 を 重 んじ、 目 に 見 える 教 会<br />

以 上 に 神 の 言 葉 の 権 威 を 認 める。それは、まず 第 一 に、 政 権 が 神 の 事 柄 に 関 与 するの<br />

を 拒 み、 預 言 者 や 使 徒 たちと 共 に、『 人 に 従 うよりは、 神 に 従 うべきである』と 言 う。<br />

それは、カール 5 世 の 王 冠 の 前 で、イエス・キリストの 王 冠 を 掲 げる。しかし、さら<br />

に 1 歩 進 めて、すべての 人 間 の 教 えは 神 の 言 葉 に 従 うべきである、という 原 則 を 規 定<br />

する。」 15 そればかりでなくて、 抗 議 者 たちは、 自 分 たちが 真 理 と 信 じることを 自 由<br />

に 語 る 権 利 を 主 張 した。 彼 らは、 信 じて 従 うだけでなくて、 神 の 言 葉 が 提 示 している<br />

ことを 教 えたいと 望 み、 司 祭 や 政 権 の 干 渉 権 を 拒 んだ。シュパイエルの 抗 議 書 は、 宗<br />

教 的 弾 圧 に 対 する 重 大 な 証 言 であった。そして、それは、 良 心 の 命 じるままに 神 を 礼<br />

拝 する 全 人 類 の 権 利 の 主 張 であった。<br />

宣 言 は 行 われた。それは、 幾 千 の 人 々の 記 憶 に 刻 まれると 共 に、だれも 消 すことが<br />

できない 天 の 書 に 記 録 された。ドイツの 福 音 派 は、すべて、この 抗 議 書 を 信 仰 の 表 明<br />

として 採 用 した。 各 地 において、 人 々は、この 宣 言 に、 新 しい、よりよい 時 代 の 希 望<br />

を 認 めた。 諸 侯 の 1 人 は、シュパイエルの 抗 議 者 たちに 次 のように 言 った。「どうか、<br />

力 強 く 百 由 に、 恐 れることなく 告 白 する 恵 みをあなたがたに 与 えられた 全 能 の 神 が、<br />

永 遠 の 日 まで、あなたがたにそのようなキリスト 者 の 堅 実 さを 持 たせられるように 祈<br />

る。」 16<br />

もし 宗 教 改 革 が、ある 程 度 成 功 を 収 めた 後 で、 世 俗 の 支 持 を 得 るために 世 と 妥 協 し<br />

たならば、それは 神 に 不 忠 誠 であるとともに、 運 動 そのものに 背 くことになり、つい<br />

には 自 滅 したことであろう。これらの 高 潔 な 改 革 者 たちの 経 験 は、その 後 のすべての<br />

時 代 の 人 々に 教 訓 を 与 えている。 神 と 神 の 言 葉 に 反 対 して 働 くサタンの 方 法 は 変 わっ<br />

ていない。 彼 は、16 世 紀 におけると 同 様 に、 今 もなお、 聖 書 を 生 活 の 規 準 にすること<br />

に 反 対 している。 現 代 においては、 改 革 者 たちの 教 義 や 信 条 からの 大 きな 逸 脱 が 見 ら<br />

れる。われわれは、 信 仰 と 行 為 の 基 準 は、 聖 書 、そして 聖 書 だけであるというプロテ<br />

スタントの 大 原 則 に、 帰 らねばならない。サタンは、 今 なお、あらゆる 手 段 を 用 いて、<br />

宗 教 の 自 由 を 粉 砕 しようとしている。シュパイエルの 抗 議 者 たちが 拒 否 したところの<br />

144


国 際 協 定<br />

反 キリスト 者 的 力 は、 今 新 たな 力 をもって、 失 った 主 権 を 回 復 しようとしている。あ<br />

の 宗 教 改 革 の 危 機 において 表 された、 神 のみ 言 葉 に 対 するゆるがぬ 信 仰 が、 今 日 の 改<br />

革 の 唯 一 の 希 望 である。<br />

改 革 者 たちに 危 険 が 迫 ったことを 示 すしるしがあらわれた。また、 忠 実 な 者 を 保 護<br />

するために 神 のみ 手 がのべられたことを 示 すしるしもあった。ちょうどこのころのこ<br />

とであった。「メランヒトンは、 彼 の 友 人 シモン・グリナエウスを 連 れて、 大 急 ぎで<br />

シュパイエルの 町 を 通 りぬけてライン 河 に 向 かい、 彼 をせきたてて 河 の 向 こう 側 に 渡<br />

らせた。そのときシモンは、なぜこうも 急 がせられるのかと 不 思 議 に 思 った。『 謹 厳<br />

な 風 采 をした 見 知 らぬ 1 人 の 老 人 が、わたしの 前 に 現 れて、フェルディナント 公 から<br />

派 遣 された 役 人 が、グリナエウスを 捕 らえにすぐやってくると 言 ったのだ』とメラン<br />

ヒトンは 言 った。」<br />

その 日 グリナエウスは、 法 王 側 の 大 博 士 ファーベルの 説 教 に 憤 慨 し、「まことに 憎<br />

むべき 誤 り」を 弁 護 しているとして、 彼 に 抗 議 したのであった。「ファーベルは、 怒<br />

りを 隠 していたが、その 後 直 ちに 王 のところへ 行 き、 王 から、このハイデルベルクの<br />

かたくなな 教 授 、グリナエウスの 逮 捕 命 令 を 得 たのである。メランヒトンは、 神 が、<br />

聖 天 使 の 1 人 を 送 って、 警 告 を 与 え、 彼 の 友 人 を 救 ってくださったことを 疑 わなかっ<br />

た。」「メランヒトンは、ライン 河 の 岸 辺 にじっと 立 って、 川 の 流 れが、 迫 害 者 の 手<br />

からグリナエウスを 救 うのをみつめていた。 彼 が 対 岸 に 到 着 すると、『やっと 彼 は、<br />

罪 なき 者 の 血 に 飢 えた 残 酷 なきばから 免 れた』とメランヒトンは 叫 んだ。 彼 が 家 に 帰<br />

ってみると、グリナエウスの 捜 索 隊 が、 家 の 中 を 隅 から 隅 まで 捜 し 回 ったことを 知 ら<br />

された。」 17<br />

宗 教 改 革 は、 地 上 の 偉 大 な 人 々の 前 に、 卓 越 した 存 在 として 現 れることになった。<br />

フェルディナント 王 は、 福 音 を 信 じた 諸 侯 の 訴 えを 拒 んだのであったが、 彼 らは、 皇<br />

帝 および 教 会 と 国 家 の 高 位 高 官 の 集 まった 面 前 で、 彼 らの 信 仰 について 述 べる 機 会 が<br />

与 えられた。カール 5 世 は、 国 内 を 騒 がせた 紛 争 を 静 めるために、シュパイエルの 抗<br />

議 の 翌 年 、アウグスブルクにおいて 議 会 を 開 き、 自 分 自 身 が 議 長 になると 発 表 した。<br />

そこへ、プロテスタントの 指 導 者 たちが 召 喚 された。<br />

宗 教 改 革 は、 大 きな 危 険 にさらされた。しかし、その 支 持 者 たちは、なお 彼 らの 運<br />

動 を 神 にゆだね、 福 音 のために 堅 く 立 っ 決 意 であった。ザクセンの 選 挙 侯 は、 議 会 に<br />

行 かないように 大 臣 たちから 勧 告 された。 皇 帝 は 諸 侯 をわなに 陥 れようとして、 彼 ら<br />

の 出 席 を 要 求 している、と 大 臣 たちは 言 った。「 強 力 な 敵 がいる 町 に 行 って、その 城<br />

内 に 自 分 を 閉 じこめることは、すべてを 危 険 にさらすことではありませんか。」しか<br />

145


国 際 協 定<br />

しおおしくも、「 諸 侯 はただ、 勇 気 をもって 身 を 処 せばよい。そうすれば、 神 の 事 業<br />

は 救 われる」と 断 言 する 人 々もいた。「 神 は 忠 実 な 方 である。 神 はわれわれを 捨 てら<br />

れない」とルターは 言 った。 18 選 挙 侯 は 従 者 たちを 連 れて、アウグスブルクに 向 かっ<br />

て 出 発 した。すべての 者 は、 彼 がさらされている 危 険 を 知 っていた。そして、 多 くの<br />

者 は 沈 うつな 顔 をして、 重 い 気 持 ちをもって 道 を 進 んだ。しかし、コーブルクまで 同<br />

道 したルターは、その 旅 行 中 に 作 った「 神 は、わがやぐら」という 讃 美 歌 を 歌 って、<br />

沈 みがちな 彼 らの 信 仰 を 奮 い 起 こさせた。 霊 感 のこもった 歌 声 を 聞 いて、 多 くの 者 の<br />

心 の 不 安 は 去 り、 重 い 心 は 軽 くされた。<br />

改 革 側 の 諸 侯 は、 自 分 たちの 見 解 に 聖 書 の 証 明 を 添 えて 組 織 立 てた 宣 言 書 を、 議 会<br />

に 提 出 することにした。そして、その 作 成 の 任 務 は、ルターとメランヒトンとその 同<br />

僚 たちにゆだねられた。この 信 仰 告 白 は、プロテスタントの 者 たちによって、 彼 らの<br />

信 仰 の 表 明 として 受 け 入 れられた。そして、 彼 らは、この 重 要 な 書 類 に 署 名 するため<br />

に 集 まった。それは、 厳 粛 な 試 練 の 時 であった。 改 革 者 たちは、この 運 動 が 政 治 問 題<br />

と 混 同 されることがないよう、 気 を 使 っていた。 彼 らは、 宗 教 改 革 が、 神 の 言 葉 から<br />

出 る 感 化 以 外 のどんな 力 をも 行 使 すべきでないと 感 じていた。<br />

キリスト 者 の 諸 侯 が 信 仰 告 白 に 署 名 しようと 進 み 出 た 時 、メランヒトンは 彼 らをさ<br />

えぎって、「これらのことは、 神 学 者 や 聖 職 者 が 提 議 すべきものです。 地 上 の 偉 大 な<br />

人 々の 権 力 は、 他 のことのために 保 留 しておかれたい」と 言 った。ザクセンのヨハン<br />

は、 次 のように 答 えた。「いや、わたしを 除 外 されては 困 る。わたしは、 自 分 の 王 冠<br />

のことなど 問 題 とせず、 正 しいと 思 ったことをする 決 意 である。わたしは、 主 を 告 白<br />

したい。わたしの 選 挙 侯 としての 王 冠 や 王 衣 は、わたしにとって、イエス・キリスト<br />

の 十 字 架 ほど 尊 くない。」 彼 は、こう 言 って 自 分 の 名 を 署 名 した。 諸 侯 の 1 人 は、ペ<br />

ンをとって 言 った。「わたしの 主 イエス・キリストのみ 栄 えのためであるなら<br />

ば、……わたしの 財 産 も 生 命 も 捨 てる 覚 悟 である。」さらに 次 のように 言 った。「こ<br />

の 信 仰 告 白 のなかに 含 まれている 教 義 以 外 のものを 受 け 入 れるよりは、むしろ、わた<br />

しの 国 民 と 国 家 を 捨 て、 無 一 物 で 父 祖 の 地 を 追 われることを 望 む。」 19 これら 神 の 人<br />

々は、このような 信 仰 と 勇 気 を 持 っていた。<br />

ついに 皇 帝 の 前 に 立 つ 時 が 来 た。カール 5 世 は、 選 挙 侯 や 諸 侯 に 囲 まれて 王 位 にっ<br />

き、プロテスタントの 改 革 者 たちの 言 葉 に 耳 を 傾 けた。 信 仰 の 告 白 が 読 み 上 げられた。<br />

この 華 麗 な 会 議 において、 福 音 の 真 理 が 明 らかに 宣 言 され、 法 王 の 教 会 の 誤 りが 指 摘<br />

された。この 日 を 称 して、「 宗 教 改 革 の 最 大 の 日 、キリスト 教 と 人 類 歴 史 の 最 も 輝 か<br />

しい 日 の 1 つ」であると 言 われるのは 当 然 である。 20 ウィッテンペルクの 修 道 士 がウ<br />

ォルムスの 国 会 でただ 1 人 で 立 った 時 から、まだ 数 年 しか 経 っていなかった。 今 、 彼<br />

146


国 際 協 定<br />

に 代 わって、 帝 国 内 の 最 も 高 貴 で 有 力 な 諸 侯 たちが 現 れた。ルターは、アウグスブル<br />

クに 姿 を 見 せることを 禁 じられていたが、 彼 の 言 葉 と 祈 りとによって 出 席 していた。<br />

「わたしは、この 時 まで 生 きてきたことを 非 常 に 喜 ぶ。 今 、キリストは、このような<br />

輝 かしい 会 合 において、このような 堂 々たる 告 白 者 たちによって、 公 然 とあがめられ<br />

たのである」と 彼 は 書 いた。 21 こうして、「わたしはまた 王 たちの 前 にあなたのあか<br />

しを 語 」ると 言 う 聖 書 の 預 言 が 成 就 した[ 詩 篇 119:。<br />

パウロの 時 代 において、パウロは 福 音 のために 投 獄 されたのであったが、そのため<br />

に 福 音 は、ローマ 市 の 王 侯 や 貴 族 に 伝 えられた。この 場 合 も 同 様 で、 皇 帝 が 説 教 壇 か<br />

ら 説 教 することを 禁 じたものが、 王 宮 から 宣 言 された。 召 使 いでさえ 聞 くべきもので<br />

ないと 言 われたものを、 帝 国 の 領 主 や 諸 侯 たちが、 驚 嘆 して 聞 いたのである。 王 侯 、<br />

貴 人 が 聴 衆 で、 諸 侯 が 説 教 者 で、 説 教 は、 神 の 尊 い 真 理 についてであった。「 使 徒 時<br />

代 以 来 、これほどの 大 きな 業 や 堂 々たる 告 白 が 行 われたことはなかった」とある 著 者<br />

は 言 っている。 22<br />

「ルター 派 の 言 ったことは、みな 真 実 である。われわれは、それを 否 定 することは<br />

できない」と 法 王 側 の 司 教 が 言 った。「 選 挙 侯 とその 支 持 者 たちが 作 成 した 告 白 を、<br />

あなたは 正 しい 理 由 のもとに 論 ばくできるか」と 他 の 者 がエック 博 士 に 尋 ねた。「 使<br />

徒 や 預 言 者 の 書 によるならばできない。しかし 教 父 や 会 議 の 書 によるならばできる」<br />

と 彼 は 答 えた。「わかった。あなたの 言 葉 によれば、ルター 派 は 聖 書 的 であり、われ<br />

われは 非 聖 書 的 なのだ」と 質 問 者 は 言 った。 23<br />

ドイツの 諸 侯 の 何 人 かは、 改 革 派 の 信 仰 に 導 かれた。 皇 帝 自 身 が、プロテスタント<br />

の 信 条 は 真 実 であると 宣 言 した。 信 仰 告 白 は、 多 くの 国 語 に 翻 訳 されて、 全 ヨーロッ<br />

パに 散 布 された。そしてそれは、その 後 、 各 時 代 の 幾 百 万 人 の 信 仰 の 告 白 として 用 い<br />

られ たのである。<br />

神 の 忠 実 なしもべたちは、ただ 1 人 で 苦 労 しているのではなかった。もろもろの 支<br />

配 と 権 威 と 天 上 にいる 悪 の 霊 がこぞって 彼 らに 対 抗 しても、 主 は 主 の 民 を 捨 てられな<br />

かった。もしも 彼 らの 目 が 開 かれたならば、 彼 らは、 昔 の 預 言 者 に 与 えられたのと 同<br />

じ 神 の 臨 在 と 助 けの 著 しい 証 拠 を 見 たことであろう。エリシャのしもべが、 自 分 たち<br />

は 敵 軍 に 包 囲 され、 逃 げる 機 会 が 全 くなくなったことをエリシャに 告 げた 時 に、エリ<br />

シャは、「 主 よ、どうぞ、 彼 の 目 を 開 いて 見 させてください」と 祈 った[ 列 王 紀 下 6:。<br />

彼 が 見 ると、 火 の 馬 と 火 の 戦 車 が 山 に 満 ちて、 天 の 軍 勢 が 神 の 人 を 保 護 するために 部<br />

署 についていた。このように、 天 使 たちが、 宗 教 改 革 における 働 き 人 たちを 保 護 した<br />

のであった。<br />

147


国 際 協 定<br />

ルターが 最 も 厳 格 に 守 った 原 則 の 1 つは、 宗 教 改 革 支 援 のために 世 俗 の 権 力 に 頼 っ<br />

たりせず、その 擁 護 のために 武 力 に 訴 えたりしない、ということであった。 彼 は、 福<br />

音 が、 帝 国 の 諸 侯 たちによって 告 白 されたことを 喜 んだ。しかし、 彼 らが 擁 護 連 盟 を<br />

結 成 することを 提 案 した 時 に、 彼 は 次 のように 言 った。「 福 音 の 教 義 は、ただ 神 だけ<br />

が 擁 護 すべきものである。…… 人 間 の 手 出 しが 少 なければ 少 ないほど、 福 音 のための<br />

神 の 介 入 はいっそう 著 しくあらわれるであろう。」「すべての 用 心 深 い 予 防 策 は、 彼<br />

の 意 見 によれば、 無 用 な 恐 怖 とはなはだしい 不 信 によるものであった。」 24 強 力 な 敵<br />

が、 合 同 して 改 革 派 の 信 仰 をくつがえそうとした 時 、そして、 無 数 の 剣 が 抜 き 放 たれ<br />

ようとした 時 ルターは 書 いた。「サタンは 怒 りに 燃 えている。 不 信 仰 な 司 教 たちは、<br />

策 を 練 っている。そしてわれわれは、 戦 争 に 脅 かされている。われわれは、 信 仰 と 祈<br />

りによって、 主 のみ 座 の 前 で 勇 敢 に 神 に 訴 えるように 人 々に 勧 め、 神 の 霊 に 征 服 され<br />

た 敵 が 平 和 を 求 めてくるようにしよう。われわれの 最 大 の 必 要 、 最 大 の 仕 事 は 祈 りで<br />

ある。 人 々に、 今 や 彼 らは 剣 の 刃 とサタンの 怒 りにさらされていることを 知 らせよう。<br />

そして 彼 らに 祈 らせよう。」 25<br />

後 日 ルターは、 改 革 派 の 諸 侯 たちが 連 盟 を 企 てたことについて 再 び 言 及 して、この<br />

戦 いにおける 唯 一 の 武 器 は、「 御 霊 の 剣 」でなければならないと 言 明 した。 彼 は、ザ<br />

クセンの 選 挙 侯 に 書 いた。「われわれは、 連 盟 の 提 案 には、 良 心 的 理 由 によって 賛 成<br />

できません。われわれは、 福 音 のために 1 滴 の 血 を 流 すよりは、むしろ 10 回 死 ぬほ<br />

うがよいのです。われわれの 側 は、ほふり 場 の 小 羊 のようなものです。キリストの 十<br />

字 架 を 負 わねばならないのです。 選 挙 侯 よ、 恐 れないでください。われわれは、 敵 が<br />

彼 らの 誇 りによってなすすべての 事 以 上 のことを、 祈 りによってなすのです。ただ、<br />

あなたの 手 を 兄 弟 の 血 で 汚 さないでいただきたい。もし、 皇 帝 がわれわれを 裁 判 官 に<br />

引 き 渡 すならば、われわれは 出 頭 する 覚 悟 です。あなたは、われわれの 信 仰 を 擁 護 す<br />

ることはできません。 各 自 が、 自 分 自 身 の 責 任 において、 信 じなければならないので<br />

す。」 26<br />

大 宗 教 改 革 によって 世 界 を 揺 り 動 かした 力 は、 密 室 の 祈 りから 出 たものであった。<br />

そこにおいて、 神 聖 な 静 けさのうちに、 主 のしもべたちは 神 の 約 束 の 岩 の 上 にしっか<br />

りと 立 った。アウグスブルクの 闘 争 の 間 中 、ルターは、「1 日 に 少 なくとも 3 時 間 は、<br />

祈 りに 時 を 費 やした。そして、それは、 研 究 のために 最 もよい 時 間 を 割 いたものであ<br />

った。」 彼 が 1 人 自 分 の 部 屋 の 中 で、「 崇 敬 と 恐 れと 希 望 に 満 ちて、 友 人 と 語 るかの<br />

ような」 言 葉 で、 神 の 前 に 彼 の 魂 を 注 ぎ 出 すのが 聞 こえた。「わたしは、あなたがわ<br />

たしたちの 父 であり、わたしたちの 神 であられることを 知 っています。そして、あな<br />

たが、あなたの 子 供 たちを 迫 害 するものを 散 らされることを 知 っています。それは、<br />

148


国 際 協 定<br />

あなたご 自 身 が、わたしたちと 共 に 危 険 に 陥 っておられるからです。この 事 は、こと<br />

ごとくあなたのものです。そして、わたしたちが、それに 着 手 したのも、あなたによ<br />

って、そうさせられたにすぎません。それですから、あ あ、 父 よ、わたしたちをお 守<br />

りください!」と 彼 は 言 うのだった。 27<br />

不 安 と 恐 怖 の 重 荷 にうちひしがれていたメランヒトンに、 彼 は、 次 のように 書 いた。<br />

「キリストにある 恵 みと 平 和 があるように。 世 ではなくて、キリストにあるのだ。ア<br />

ーメン。わたしは、あなたを 圧 倒 する 極 度 の 心 労 を 非 常 に 憎 んでいる。もし 改 革 事 業<br />

が 正 しくなければ、それをすてよ。もしそれが 正 しければ、 恐 れず 眠 れと 命 じられる<br />

主 の 約 束 をなぜ 信 じないのか。……キリストは 正 義 と 真 理 のわざに 欠 けるお 方 ではな<br />

い。 彼 は 生 きて 支 配 しておられる。それならば、われわれは、 何 を 恐 れることがあろ<br />

うか。」 28 神 は、 神 のしもべたちの 叫 びをお 聞 きになったのである。 神 は、 王 侯 たち<br />

や 牧 師 たちに、この 世 の 暗 黒 の 支 配 者 に 対 抗 して、 真 理 を 維 持 する 恵 みと 勇 気 をお 与<br />

えになった。「 見 よ、わたしはシオンに、 選 ばれた 尊 い 石 、 隅 のかしら 石 を 置 く。そ<br />

れにより 頼 む 者 は、 決 して、 失 望 に 終 ることがない」と 主 は 言 われる[Ⅰペテロ 2:。<br />

プロテスタントの 改 革 者 たちは、キリストの 上 に 築 いた。そして、 黄 泉 [よみ]の 門 は<br />

彼 らに 打 ち 勝 っことができなかった。<br />

149


国 際 協 定<br />

第 12 章 フランスの 改 革<br />

ドイツの 宗 教 改 革 の 勝 利 を 画 したシュパイエルの 抗 議 とアウグスブルクの 信 仰 告 白<br />

のあとには、 争 闘 と 暗 黒 の 年 月 が 続 いた。 内 部 の 分 裂 に 弱 められ、 強 力 な 敵 の 襲 撃 を<br />

受 けたために、プロテスタント 主 義 は 全 滅 するかと 思 われた。 幾 千 の 者 が、そのあか<br />

しに 血 の 印 を 押 した。 内 乱 が 起 きた。プロテスタント 運 動 は、その 指 導 者 たちの 1 人<br />

に 裏 切 られた。 改 革 派 の 諸 侯 たちの 気 高 い 人 々が 皇 帝 の 手 中 に 陥 り、 捕 虜 として 町 か<br />

ら 町 へ 引 き 回 された。しかし 皇 帝 は、 一 見 勝 利 と 思 われたその 瞬 間 に、 敗 北 した。 彼<br />

は、 餌 食 が 彼 の 手 から 逃 れるのを 見 た。そして、 滅 ぼすことを 自 分 の 生 涯 の 野 心 とし<br />

ていたその 教 義 を、ついに 承 認 しなければならなくなった。 彼 は、 異 端 粉 砕 のために、<br />

王 国 と 財 宝 と 生 命 さえかけた。ところが、 今 や、 彼 の 軍 隊 は 戦 いに 疲 れ、 国 庫 は 底 を<br />

つき、 多 くの 国 々は 革 命 に 脅 かされていた。 他 方 、 彼 が 弾 圧 しようとした 信 仰 が、 至<br />

るところで 発 展 していた。カール 5 世 は、 全 能 者 の 力 に 対 抗 して 戦 っていたのであっ<br />

た。 神 は、「 光 あれ」と 言 われた。しかし 皇 帝 は、 暗 黒 のままにしておこうとした。<br />

彼 のもくろみは 破 れた。 皇 帝 は、 長 い 戦 いに 疲 れ、 老 齢 でもないのに、 王 位 を 退 き、<br />

修 道 院 に 引 きこもった。<br />

スイスにおいてもドイツと 同 様 に、 宗 教 改 革 の 暗 黒 時 代 が 来 た。 多 くの 州 が 改 革 主<br />

義 を 信 じたが、その 他 は、ローマの 信 条 に 盲 目 的 に 固 執 した。 真 理 を 受 けようとする<br />

ものに 対 する 彼 らの 迫 害 は、ついに 内 乱 を 引 き 起 こした。ツウィングリと 彼 の 改 革 に<br />

参 加 した 多 くの 者 は、カッペルの 戦 場 で 倒 れた。エコランパデウスもこの 恐 ろしい 災<br />

いに 圧 倒 されて、その 後 まもなく 死 んだ。ローマは 勝 ち 誇 った。そして、 多 くの 場 所<br />

で、 失 ったものをみな 取 り 返 すかに 見 えた。しかし、 永 遠 の 昔 から 目 的 を 持 っておら<br />

れる 神 は、 神 の 事 業 と 神 の 民 とを 捨 てられなかった。 神 のみ 手 は、 彼 らに 救 いをもた<br />

らされるのであった。 神 は、 他 の 国 々で 改 革 を 推 進 する 働 き 人 を 起 こされたのであ<br />

る。<br />

フランスにおいては、 改 革 者 としてルターの 名 が 聞 かれる 以 前 に、すでに 夜 は 明 け<br />

ようとしていた。 光 を 捕 らえた 最 初 の 人 々の 1 人 は、パリ 大 学 の 教 授 、 博 学 で 誠 実 で<br />

熱 心 なカトリック 教 徒 、 老 ルフェーブルであった。 彼 は、 古 代 文 学 の 研 究 中 に 聖 書 に<br />

心 をひかれ、その 研 究 を 学 生 に 紹 介 した。 ルフェーブルは、 聖 人 たちを 崇 敬 する 念 が<br />

厚 く、 教 会 の 伝 説 の 中 に 出 ている 聖 人 や 殉 教 者 たちの 歴 史 を 著 そうとしていた。これ<br />

は、 非 常 な 労 力 を 要 する 働 きであった。しかし、 彼 は、すでに 相 当 のところまで 進 ん<br />

だところで、 聖 書 に 有 益 な 参 考 があるかもしれないと 考 えて、その 目 的 で 聖 書 の 研 究<br />

150


国 際 協 定<br />

を 始 めた。たしかに 聖 書 には、 聖 人 たちのことが 書 かれていたが、しかしそれは、ロ<br />

ーマの 教 会 暦 に 描 かれているようなものではなかった。 天 来 の 光 が、 洪 水 のように 彼<br />

の 心 に 流 れ 込 んできた。 驚 きと 嫌 悪 の 念 を 抱 いて、 彼 は 自 分 のしようとした 仕 事 をや<br />

め、 神 の 言 葉 の 研 究 に 没 頭 した。まもなく 彼 は、 自 分 が 聖 書 の 中 で 見 いだした 尊 い 真<br />

理 を 教 え 始 めた。<br />

1512 年 、まだ、ルターもツウィングリも 改 革 の 仕 事 を 始 めていなかった 時 に、ル<br />

フェーブルは 次 のように 書 いた。「 信 仰 によって、われわれに 義 ——ただ 恵 みによっ<br />

て 義 として 永 遠 の 命 に 至 らせる 義 ——をお 与 えになるのは、 神 である。」 1 彼 は、 贖 罪<br />

の 神 秘 を 瞑 想 して 叫 んだ。「ああ、これは、 言 葉 で 表 現 できない、なんと 大 きな 交 換<br />

であろう。 罪 なき 方 が 罪 せられ、 罪 人 が 自 由 にされる。 祝 福 された 者 がのろいを 受 け、<br />

のろわれた 者 が 祝 福 にいれられる。 生 命 の 君 が 死 なれ、 死 せる 者 が 生 きる。 栄 光 の 君<br />

が 暗 黒 に 圧 倒 され、 恥 のほか 何 も 知 らぬ 者 が、 栄 光 を 着 せられる。」 2 彼 は、 救 いは、<br />

ただ 神 だけにその 栄 光 を 帰 すべきであると 教 えるとともに、 人 間 は 服 従 すべきである<br />

ことをも 断 言 した。「もしあなたが、キリストの 教 会 の 一 員 であるならば、あなたは、<br />

彼 の 体 の 肢 体 である。 もしあなたが 彼 の 体 に 属 しているならば、 神 の 性 質 に 満 ちてい<br />

る。……ああ、もし 人 がこの 特 権 を 理 解 しさえすれば、 彼 らは、どんなに 純 潔 で 貞 潔<br />

で 聖 潔 な 生 活 を 送 ることであろう。また、 彼 らの 中 にある 栄 光 —— 肉 の 目 では 見 るこ<br />

とができない 栄 光 ——と 比 較 してみるなら、この 世 のすべての 栄 えはなんと 卑 しいも<br />

のに 思 えることであろう。」 3<br />

ルフェーブルの 学 生 たちの 中 には、 熱 心 に 彼 の 言 葉 に 耳 を 傾 ける 者 が 幾 人 かあった。<br />

そして、 教 師 の 声 が 沈 黙 したずっと 後 に、 真 理 を 宣 言 し 続 けるのであった。その 1 人<br />

は、ギヨーム・ファーレルであった。 敬 虔 な 両 親 に 育 てられ、 教 会 の 教 えを 絶 対 的 な<br />

信 仰 をもって 受 け 入 れるように 教 育 された 彼 は、 使 徒 パウロとともに、「わたしたち<br />

の 宗 教 の 最 も 厳 格 な 派 にしたがって、パリサイ 人 として 生 活 をしていた」と 言 うこと<br />

ができた[ 使 徒 行 伝 26:。 彼 は、 熱 心 なカトリック 教 徒 として、 教 会 に 反 対 するすべ<br />

てのものを 滅 ぼそうという 熱 意 に 燃 えていた。「 法 王 に 反 対 する 言 葉 を 発 する 者 には、<br />

わたしは 恐 ろしいおおかみのようにきばをむき 出 した」と、 後 に 彼 は、 当 時 を 回 顧 し<br />

て 言 った。 4 彼 は、 熱 心 な 聖 人 崇 拝 者 であったので、ルフエーブルに 従 って、パリの 教<br />

会 を 巡 り、 聖 壇 で 礼 拝 をし、 聖 堂 をささげもので 飾 った。しかし、こうしたことを 行<br />

っても、 心 に 平 和 をもたらすことはできなかった。 彼 は、 罪 の 意 識 を 逃 れることがで<br />

きなかった。それは、あらゆる 苦 行 によっても 消 えることがなかった。その 時 彼 は、<br />

天 からの 声 のように、 改 革 者 の、「 救 いは 恵 みである」という 言 葉 を 聞 いたのである。<br />

151


国 際 協 定<br />

「 罪 なきお 方 が 罪 せられて、 犯 罪 人 が 赦 される。」「 天 の 門 を 開 き、 黄 泉 [よみ]の 門<br />

を 閉 じるのは、キリストの 十 字 架 だけである。」 5<br />

ファーレルは、 喜 んで 真 理 を 受 け 入 れた。 彼 は、パウロのような 悔 い 改 めを 経 験 し<br />

て、 言 い 伝 えの 奴 隷 から 神 の 子 の 自 由 に 入 った。「 貪 欲 なおおかみのような 殺 気 立 っ<br />

た 心 は 去 り、 柔 和 で 無 邪 気 な 小 羊 のようになった。 心 は 全 く 法 王 から 去 って、イエス<br />

・キリストにささげられた」と 彼 は 言 っている。 6 ルフェーブルは、 学 生 間 に 光 を 広<br />

め 続 けたのであるが、ファーレルは、 法 王 の 事 業 のために 持 っていたのと 同 じ 熱 心 さ<br />

をキリストの 事 業 にあらわし、 公 衆 に 真 理 を 宣 言 するために 出 て 行 った。 教 会 の 高 い<br />

地 位 にある 人 物 、モーの 司 教 も、その 後 間 もなく 彼 らに 加 わった。ほかに、 才 能 と 学<br />

識 において 高 い 地 位 にあった 教 授 たちも、 福 音 の 宣 教 に 参 加 し、 職 人 や 農 民 の 家 庭 か<br />

ら 王 宮 に 至 るまで、あらゆる 階 級 の 中 から 支 持 者 があらわれた。 当 時 君 臨 していたフ<br />

ランソア[フランシス]1 世 の 皇 妹 も 改 革 主 義 を 受 け 入 れた。 王 自 身 と 母 后 も、 一 時 こ<br />

れに 好 感 を 示 した。そして、 改 革 者 たちは、 大 きな 希 望 をもって、フランスを 福 音 の<br />

側 に 勝 ちとる 日 を 待 望 した。<br />

しかし、 彼 らの 希 望 は 実 現 しなかった。 試 練 と 迫 害 がキリストの 弟 子 たちを 待 って<br />

いた。ところが、これは、 恵 みのうちに 彼 らの 目 から 隠 されていた。 彼 らがあらしに<br />

直 面 する 力 を 養 うために、 平 和 な 時 が 与 えられた。そして、 改 革 事 業 は 著 しく 進 展 し<br />

た。モーの 司 教 は、 彼 の 教 区 内 の 聖 職 者 と 人 々とを 教 えるために 熱 心 に 働 いた。 無 知<br />

で 不 道 徳 な 司 祭 は 除 かれ、できるだけ 学 識 と 敬 虔 の 念 に 富 む 人 と 交 替 した。 司 教 は、<br />

人 々が 神 の 言 葉 を 自 ら 手 にするようになることを 切 望 した。そして、これはまもなく<br />

実 現 した。ルフェーブルは、 新 約 聖 書 の 翻 訳 に 着 手 した。そして、ルターのドイツ 語<br />

聖 書 が、ウィッテンベルクの 出 版 所 から 発 行 されていた 時 に、フランス 語 の 新 約 聖 書<br />

が、モーで 出 版 された。 司 教 は、それを 彼 の 教 区 内 に 配 布 するために、 労 力 も 費 用 も<br />

惜 しまなかった。やがてモーの 農 民 たちは、 聖 書 を 持 つようになった。<br />

のどが 渇 いて 死 にそうな 旅 人 が、 清 水 の 泉 を 喜 んで 歓 迎 するように、これらの 人 々<br />

は 天 からの 使 命 を 受 け 入 れた。 畠 で 働 く 人 々、 仕 事 場 の 職 人 たちは、 聖 書 の 尊 い 真 理<br />

を 語 り 合 って 日 ごとの 仕 事 に 励 んだ。 夜 は、 酒 場 に 行 くかわりに、お 互 いの 家 に 集 ま<br />

って、 神 の 言 葉 を 読 み、 祈 りと 賛 美 に 加 わった。まもなく 一 大 変 化 がこれらの 町 々に<br />

起 こった。<br />

彼 らは、 卑 賎 な 階 級 に 属 する 無 学 な 労 働 者 農 民 であったが、 彼 らの 生 活 に、 神 の 改<br />

変 し 向 上 させる 神 の 恵 みの 力 があらわれた。 彼 らは、 謙 そんで 愛 と 聖 潔 の 人 となり、<br />

福 音 は 真 心 からそれを 受 け 入 れる 人 々をどのように 変 えるかの 証 人 となった。 モーで<br />

152


国 際 協 定<br />

点 じられた 光 は、 遠 くまで 輝 いた。 信 者 の 数 は 日 ごとに 増 加 した。 修 道 士 たちの 頑 迷<br />

さを 軽 べつしていた 王 によって、 高 位 聖 職 者 たちの 怒 りは、 一 時 けんせいされていた。<br />

しかし、ついに、 法 王 側 の 指 導 者 たちが 勝 利 した。 今 や、 火 刑 柱 が 立 てられた。モー<br />

の 司 教 は、 火 刑 か 取 り 消 しかを 選 ぶように 強 いられて、 安 易 な 道 を 選 んだ。しかし、<br />

指 導 者 が 倒 れたにもかかわらず、 彼 の 群 れは 堅 く 立 った。 多 くの 者 が、 火 炎 の 中 で 真<br />

理 のあかしを 立 てた。 火 刑 における 勇 気 と 忠 誠 とによって、これらの 卑 しいキリスト<br />

者 たちは、 平 和 な 時 代 には 彼 らのあかしを 聞 くこともなかった 幾 千 の 人 々に、 語 った<br />

のであった。<br />

苦 難 とちょう 笑 の 中 で、 勇 敢 にキリストのあかしを 立 てたのは、 卑 しい 貧 民 だけで<br />

はなかった。 城 や 王 宮 の 邸 宅 に、 真 理 を、 富 や 地 位 、あるいは 生 命 よりも 高 く 評 価 し<br />

た 気 高 い 人 々があった。 堂 々たる 武 装 の 下 に、 司 教 の 衣 や 冠 をいただいた 人 々よりも、<br />

高 尚 で 堅 実 な 精 神 が 隠 されていた。ルイ・ド・ベルカンは、 貴 族 の 出 であった。 彼 は、<br />

勇 敢 で、 上 品 な 騎 士 で、 学 問 に 熱 心 で、その 動 作 は 洗 練 され、 道 徳 的 に 潔 白 であった。<br />

ある 著 者 は 次 のように 言 っている。「 彼 は、 法 王 制 機 構 の 熱 心 な 支 持 者 で、ミサや 説<br />

教 を 熱 心 に 聞 いた。……そして、 彼 のすべての 他 の 美 徳 に 加 えて、ルター 派 に 対 して<br />

特 別 の 嫌 悪 を 持 っていた。」 しかし、 他 の 多 くの 者 と 同 様 に、 彼 は 摂 理 によって 聖 書<br />

に 導 かれ、そこに「ローマの 教 義 ではなくて、ルターの 教 義 」を 見 いだして 驚 いた。 7<br />

その 後 、 彼 は、 福 音 のためにすべてをささげたのである。<br />

「フランス 貴 族 中 の 最 も 博 学 な 者 」であった 彼 の 天 才 と 雄 弁 、 不 屈 の 勇 気 と 熱 心 、<br />

そして 宮 廷 における 影 響 力 [ 彼 は 国 王 から 愛 顧 を 受 けていた]、などの 理 由 で、 多 くの<br />

者 は、 彼 はフランスの 改 革 者 になる 運 命 にあると 思 った。「もしフランソア 1 世 が 第<br />

二 の 選 挙 侯 であったなら、ベルカンは 第 二 のルターになっていたことであろう」とベ<br />

ザは 言 った。「 彼 は、ルターより 始 末 におえない」と 法 王 側 は 叫 んだ。 8 実 際 、 彼 は、<br />

フランスの 法 王 側 の 人 々から、ルター 以 上 に 恐 れられた。 彼 らは、 彼 を 異 端 者 として<br />

投 獄 したが、 彼 は 王 に 釈 放 された。 争 闘 は、 長 年 続 いた。フランソアは、ローマと 改<br />

革 との 間 をぐらつき、 修 道 士 たちの 激 しい 熱 意 を 許 したり、 禁 じたりした。ベルカン<br />

は、 法 王 側 の 当 局 者 によって 3 度 投 獄 された。しかし、 日 ごろから 彼 の 天 才 と 高 潔 な<br />

品 性 を 賞 賛 していた 王 は、 彼 を 釈 放 し、 彼 が 教 権 の 敵 意 の 犠 牲 になることを 拒 んだ。<br />

ベルカンは、フランスにおいて 彼 の 身 に 迫 る 危 険 についてくり 返 し 警 告 を 受 け、 自<br />

発 的 に 逃 亡 して 身 の 安 全 を 確 保 した 人 々の 例 にならうよう、 勧 められた。おくびょう<br />

で、 迎 合 的 なエラスムスは、 学 問 的 には 非 常 に 優 れていたけれども、 真 理 のためには<br />

生 命 も 栄 誉 も 捨 てるというあの 道 徳 的 偉 大 さに 欠 けていて、ベルカンに 次 のように 書<br />

いた。「どこかの 国 の 大 使 として 送 られることを 求 めてはいかがであろう。ドイツに<br />

153


国 際 協 定<br />

行 って 旅 をされよ。あなたは、ベダを 知 っている。 彼 は、1000 の 頭 をもった 怪 物 の<br />

ように、 至 るところに 毒 気 を 放 っている。あなたの 敵 の 数 は 多 い。あなたの 主 張 がイ<br />

エス・キリストの 主 張 よりよいものであれは、 彼 らは、あなたを 無 残 に 殺 すまでは 手<br />

放 さないであろう。 王 の 保 護 に 頼 りすぎてはならない。とにかく、 神 学 の 教 授 間 にお<br />

いて、わたしに 累 を 及 ぼさないでほしし。」<br />

しかし、 危 険 が 増 すにつれて、ベルカンはますます 熱 心 になった。 彼 は、エラスム<br />

スの 政 略 的 で 自 己 本 位 の 勧 告 に 従 うどころか、かえって、いっそう 大 胆 な 手 段 に 出 る<br />

決 意 をした。 彼 は、 真 理 を 擁 護 するだけでなく、 誤 りを 攻 撃 するのであった。 法 王 側<br />

が 彼 に 向 けようとした 異 端 の 非 難 を、 彼 は 彼 らに 向 けたのである、 彼 の 最 も 激 烈 な 反<br />

対 者 たちは、 偉 大 なパリ 大 学 の 神 学 部 の、 学 識 ある 博 士 たちや 修 道 上 たちであっ<br />

た。 パリ 大 学 は、パリだけでなく、フランス 全 体 においても 最 高 の 宗 教 的 権 威 の 1 つ<br />

であった。ベルカンは、この 博 士 たちの 著 書 から、12 の 論 題 を 掲 げて、それが「 聖 書<br />

に 反 するもので、 異 端 である」ということを 公 然 と 宣 言 した。そして 彼 は、 王 にその<br />

論 争 の 審 判 官 になることを 請 うた。<br />

王 は、 両 方 の 対 立 した 弁 士 たちの 力 と 鋭 さとを 比 較 することをきらわず、また、こ<br />

れら 高 慢 な 修 道 士 たちの 自 尊 心 をくじくよい 機 会 と 考 えて、ローマ 側 に、 聖 書 に 基 づ<br />

いて、 彼 らの 主 張 を 擁 護 することを 命 じた。 彼 らは、この 武 器 では、 自 分 たちの 方 が<br />

不 利 であることをよく 知 っていた。 投 獄 や 拷 問 や 火 刑 のほうが、 彼 らの 使 い 慣 れた 武<br />

器 だったのである。 今 や 形 勢 は 逆 転 し、 彼 らはベルカンを 陥 れようと 望 んだ 穴 に、 自<br />

分 たちが 落 ちこもうとしているのに 気 づいた。 彼 らは 驚 いて、どこかに 逃 げ 道 はない<br />

かと 見 回 した。<br />

「ちょうどその 時 、 町 角 に 立 てられていた 聖 母 マリヤの 像 が、 傷 つけられた。」そ<br />

れで 町 中 が 大 騒 ぎになった。 群 衆 がその 場 所 に 集 まって、 悲 しみや 怒 りの 言 葉 をあげ<br />

た。 王 も、 非 常 に 心 を 動 かされた。これは 修 道 士 たちを 有 利 にするよい 機 会 であった。<br />

彼 らは、さっそくそれを 利 用 した。「こうしたことは、ペルカンの 教 義 の 実 である」<br />

と、 彼 らは 叫 んだ。「このルター 派 の 陰 謀 によって、 宗 教 も 法 律 も 王 位 までも、みな<br />

くつがえされそうになっている。」 10<br />

ベルカンは、ふたたび 捕 らえられた。 王 は、バリを 去 った。そこで 修 道 士 たちは 思<br />

うままに 活 動 することができた。 改 革 者 ベルカンは、 裁 判 によって 死 刑 の 宣 告 を 受 け<br />

た。そして、フランソアが 介 入 して 彼 を 救 わないようにと、 宣 告 が 行 われたその 当 日<br />

に 刑 が 執 行 された。ベルカンは、 正 午 に 刑 場 に 送 られた。 黒 山 のような 群 衆 が、これ<br />

を 見 るために 集 まった。そして、 受 刑 者 がフランスの 最 高 にして 最 も 勇 敢 な 貴 族 のな<br />

154


国 際 協 定<br />

かから 選 ばれたことに、 驚 きと 疑 念 をいだいたものが 多 くあった。 押 し 寄 せた 郡 衆 の<br />

顔 には、 驚 き、 怒 り、 軽 べつ、 憎 しみが 現 れていた。しかし、 暗 い 影 のない 顔 が 1 つ<br />

あった。 殉 教 者 の 思 いは、 騒 がしい 光 景 から 遠 く 離 れ、 主 の 臨 在 だけを 感 じていた。<br />

彼 を 乗 せたそまつな 護 送 車 、 迫 害 者 たちの 不 きけんな 顔 、 彼 が 向 かいつつある 恐 る<br />

べき 死 —— 彼 はこれらをなんとも 思 わなかった。 生 きて、 死 なれたことがあり、そし<br />

て 永 遠 に 生 きておられるお 方 、 死 と 黄 泉 [よみ]のカギをもっておられるお 方 が、 彼 の<br />

そばにおられた。ベルカンの 顔 は、 天 の 光 と 平 和 に 輝 いていた。ベルカンはりっぱな<br />

服 装 をしていた。 彼 は、「びろうどの 上 衣 、しゅすとダマスク 織 りの 胴 着 、 金 色 のく<br />

つ 下 」をまとっていた。 11 彼 は、 王 三 の 王 と、 見 守 る 宇 宙 との 前 で、 信 仰 のあかしを<br />

しようとしていた。 彼 の 喜 びを 隠 すような 悲 しみの 表 情 はなかった。<br />

行 列 が 混 雑 した 通 りをゆっくりと 進 んでいく 時 、 人 々は、 彼 の 顔 つきと 態 度 に、 少<br />

しの 曇 りもない 平 和 と 勝 利 の 喜 びとを 見 て 驚 いた。「この 人 は、 神 殿 に 座 して、 聖 な<br />

ることについて 瞑 想 する 人 のようだ」と 彼 らは 言 った。 12 火 刑 台 のところで、ベルカ<br />

ンは、 人 々に 少 し 語 ろうとした。しかし、 修 道 士 たちは、その 結 果 を 恐 れて 叫 び 声 を<br />

あげはじめ、また、 兵 士 たちは、 武 器 を 打 ち 合 わせて、 彼 らの 騒 がしい 音 によって 殉<br />

教 者 の 声 を 消 してしまった。こうして、1529 年 、 教 養 の 都 パリの 文 学 と 神 学 の 最 高<br />

の 権 威 者 たちは、「 処 刑 台 における 死 に 面 した 人 の 最 後 の 言 葉 をもみ 消 すという 卑 劣<br />

な 手 本 を、1793 年 の 民 衆 に 与 えた。」 13 ベルカンは 絞 殺 され、 彼 の 体 は 火 で 焼 かれ<br />

た。 彼 の 死 の 知 らせは、フランス 全 国 の 改 革 派 の 同 志 を 悲 しませた。しかし、 彼 の 死<br />

は、むだではなかった。「われわれもまた、 来 たるべき 生 命 に 目 を 向 け、 喜 んで 死 に<br />

つくつもりである」と 真 理 の 証 人 たちは 言 った。 14<br />

モーでの 迫 害 の 間 、 改 革 派 の 教 師 たちは、 説 教 の 免 許 状 を 取 り 上 げられたために、<br />

他 の 地 方 に 去 っていった。しばらくして、ルフェーブルはドイツに 向 かった。ファー<br />

レルは、 東 フランスの 故 郷 に 帰 り、 幼 少 のころの 地 に 光 を 輝 かした。モーにおけるで<br />

きごとがすでに 伝 えられていたので、 彼 が 恐 れることなく 熱 心 に 伝 える 真 理 に、 耳 を<br />

傾 ける 人 々があらわれた。まもなく、 当 局 者 が 彼 を 沈 黙 させようとして 立 ち 上 がり、<br />

町 から 追 い 出 してしまった。 彼 は、 公 然 と 働 くことはできなくなったが、 村 々をめぐ<br />

って 歩 き、 民 家 や 人 里 離 れた 牧 場 で 教 え、 少 年 時 代 の 遊 び 場 であった 森 や 岩 のほら 穴<br />

に 隠 れ 家 を 見 いだしていた。 神 は、さらに 大 きな 試 練 のために、 彼 に 準 備 をさせてお<br />

られたのである。「わたしが 予 告 を 受 けた 十 字 架 や 迫 害 やサタンの 陰 謀 は、わずかな<br />

ものではなかった。それらは、わたしが 耐 えられないほど 苛 酷 であった。しかし、 神<br />

はわたしの 父 である。 神 は、わたしに 必 要 な 力 を 備 えてくださったし、 常 に 備 えてく<br />

ださる。」 15 使 徒 時 代 と 同 様 に、 迫 害 は、「 福 音 の 前 進 に 役 立 つようになった」[ピリ<br />

155


国 際 協 定<br />

ピ 1:。 彼 らは、パリやモーから 追 われて、「 御 言 を 宣 べ 伝 えながら、めぐり 歩 いた」<br />

[ 使 徒 行 伝 。こうして、 光 は、 多 くのフランスの 遠 隔 の 地 方 にまで 伝 わった。<br />

神 は、ご 自 分 の 事 業 を 進 めていくために、なお 働 き 人 たちの 準 備 をしておられた。<br />

バリのある 学 校 に、 思 慮 深 く 物 静 かな 青 年 がいた。 彼 は、 頭 脳 明 晰 で、 知 的 情 熱 を 持<br />

ち、 宗 教 的 に 献 身 していたが、 彼 の 生 活 もまた 同 様 に 高 潔 なものであった。 彼 の 才 能<br />

と 勤 勉 さとは、まもなく 大 学 の 誇 りとなり、ジャン・カルバン[ジョン・カルビン]こ<br />

そ、 確 かに 教 会 の 最 も 有 力 で 栄 誉 ある 擁 護 者 になるであろうと 予 想 されていた。<br />

しかし、 神 の 光 は、カルバンを 閉 じ 込 めていたスコラ 哲 学 と 迷 信 の 壁 をさえ 貫 いた。<br />

彼 は、 新 しい 教 義 を 聞 いて 身 震 いし、 異 端 者 が 火 刑 に 処 せられるのは 当 然 であるとい<br />

うことになんの 疑 いも 持 たなかった。しかし、 彼 は、 全 く 意 識 しないうちに 異 端 と 顔<br />

を 合 わせ、プロテスタントの 教 えと 戦 うためにローマ 教 の 神 学 の 力 を 試 さざるをえな<br />

くなった。 改 革 派 に 加 わったカルバンのいとこが、パリにいたのである。この 2 人 は、<br />

たびたび 会 って、キリスト 教 国 を 混 乱 させている 問 題 について 話 し 合 った。「この 世<br />

の 中 に、2 つしか 信 仰 はない。1 つは、 人 間 が 考 え 出 したいろいろな 宗 教 であって、<br />

そこでは 人 間 は、 儀 式 や 善 行 によって 救 われる。もう 1 つは、 聖 書 に 啓 示 された 宗 教<br />

であって、それは、 価 なくして 与 えられる 神 の 恵 みによってのみ 救 われると 教 えるの<br />

だ」とプロテスタントのオリベタンは 言 った。<br />

「ぼくはきみの 新 しい 教 義 など 信 じない。ぼくがこれまでずっと 誤 謬 の 中 で 生 きて<br />

きたと、きみは 言 うのか!」とカルバンは 叫 んだ。 16 とは 言 うものの、 自 分 の 意 志 で<br />

は 消 し 去 ることのできない 思 想 が、カルバンの 心 に 起 こった。 彼 は、 自 分 の 部 屋 に 閉<br />

じこもって、いとこの 言 葉 を 思 いめぐらした。 彼 は、 罪 の 自 覚 に 襲 われた。 彼 は、き<br />

よく 正 しい 審 判 者 の 前 に、 仲 保 者 なしに 立 つ 自 分 を 感 じた。 諸 聖 人 の 仲 保 、 善 行 、 教<br />

会 の 儀 式 などはみな、 罪 をあがなうには 無 力 だった。 彼 の 前 には、 永 遠 の 絶 望 の 暗 黒<br />

があるだけであった。