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シャルルマーニュの文書はどのように読まれていたのか ―

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16cognoscite に 注 目 すると、 初 期 カロリング 期 の 3 名 の 王 たち(ピピン 3 世 、カールマン、シャルルマーニュ)の 文 書 において、cognoscite が 用 いられている 文 言 は 全 部 で 65 例を 数 えることができるが、それらのうちの 1 例 を 除 いて、cognoscite の 前 には 必 ず 何 らかの 動 詞 の 完 了 不 定 法 が 用 いられている 12 。そしてその 完 了 不 定 法 が 用 いられていない唯 一 の 例 外 が ChLA., n o 673 なのである。つまり、cognoscite の 前 に 完 了 不 定 法 が 置 かれるというのは、 王 文 書 においては 定 形 文 であるとさえ 言 うことができると 思 われるのだが、この 文 書 の 書 記 はそのことをも 知 らなかったと 考 えられるのである。こうしてみるならば、ChLA., n o 673 の 書 記 のラテン 語 および 王 文 書 に 対 する 知 識 はかなり 貧 弱 なものであったと 言 うことができるであろう。しかし、より 大 きな 問 題 は、そのような 書 記 によって 書 かれ、 文 書 の 内 容 の 把 握 が 困 難 であると 思 われる ChLA., n o673 であっても、 法 的 な 有 効 性 には 問 題 がなかったのだということである。この 文 書は 有 効 な 文 書 としてミュルバク 修 道 院 に 保 管 され、 現 在 にまで 伝 来 してきているのである。この 点 をどのように 考 えればよいのだろうか。有 効 な 文 書 と 劣 悪 なラテン 語 との 間 の 架 橋ChLA., n o 673 が 抱 えている 全 ての 問 題 を 解 決 するための 答 えの 準 備 はまだないが、ここでは 1 点 、この 時 期 のラテン 語 の 発 音 の 問 題 を 指 摘 しておきたい。ラテン 語 の 発音 が 1 つの 答 えになると 考 えるのは、 前 節 で 見 た、2 つの 文 書 間 での 格 の 変 更 、 具 体的 には ChLA., n o 672 では 女 性 単 数 奪 格 ( 語 末 が e)と 考 えられていたものが ChLA., n o673 では 対 格 ( 語 末 が em)に 変 えられているにもかかわらず、 当 時 の 人 々の 間 では 文書 の 意 味 は 通 じていたと 考 えられること、そして、このことがこの 時 期 のラテン 語 の発 音 のあり 方 に 結 びつけることができると 思 われるからである。古 典 期 のラテン 語 の 発 音 はほぼ 復 元 されているが、これでも 社 会 階 層 間 での 発 音 の違 いがあったこと、そして、 単 語 の 最 後 がmで 終 わり、その 次 に 母 音 が 来 る 場 合 には、そのmは 弱 くしか 発 音 されなかったことは、 少 し 詳 しいラテン 語 の 文 法 書 にも 書 かれている。この 語 末 の m が 次 第 に 発 音 されなくなっていったことも 周 知 の 事 実 であり、例 えば 3 世 紀 ないし 4 世 紀 に 成 立 したとされる『プローブス 付 表 』Appendix Probi には、語 末 の m の 脱 落 に 対 して 注 意 を 喚 起 する 記 述 が 見 られ 13 、これは 書 かれる 際 にもmを落 として 書 かれていたのだと 言 われている。そしてカロリング 期 にも 語 末 のmの 発 音の 脱 落 はあったというのが、ロマンス 語 、ラテン 語 学 者 たちの 共 通 した 見 解 である。さらに 語 末 の m の 脱 落 にとどまらず、7 世 紀 のフランク 王 国 では、 例 えば virgo の 対 格 ・与 格 ・ 奪 格 である virgnem、virgini 、virgine の 発 音 は 皆 同 じであったと 言 う。難 である。12 それらは Monumenta Germaniae Historica で 与 えられている 文 書 の 一 連 番 号 では 以 下の 通 りである。5, 14, 17, 20, 27, 29, 30, 48, 57, 59, 61, 62, 64, 66, 75, 76, 778, 79, 91, 95, 97,98, 100, 109, 122, 124, 125, 128, 130, 131, 133, 135, 136, 141, 146, 150, 156, 161, 164, 171,174, 175, 176, 182, 186, 187, 188, 189, 190, 195, 196, 198, 199, 200, 201, 202, 205, 206, 208,209, 213, 218. このうち 66 に 2 度 用 いられている。ここで 検 討 している ChLA., n o 672と ChLA., n o 673 は、それぞれ 64 と 95 である。13例 えば、numquam non numqua, pridem non pride, olim non oli, idem non ide.(www.ling.upenn.edu/~kurisuto/germanic/appendix_probi.html)

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