NMR講義資料 - 東北大学大学院薬学研究科・薬学部
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オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
核 磁 気 共 鳴 (NMR)スペクトル 講 義 資 料 (2009.4.22 改 訂 版 )<br />
田 中 好 幸 ( 東 北 大 学 大 学 院 薬 学 研 究 科 )<br />
○はじめに<br />
核 磁 気 共 鳴 (NMR: Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルは 有 機 化 合 物 の 化 学 構 造 を 決<br />
定 するのに 必 須 のスペクトルである。しかし 初 めて 聞 く 人 には 核 磁 気 共 鳴 スペクトルある<br />
いは NMR スペクトルと 言 われてもピンとこないものと 思 われる。そこで NMR スペクト<br />
ルが 有 機 化 学 にどのように 役 に 立 つのか、その 御 利 益 について 最 初 に 説 明 する。 学 ぶだけ<br />
の 意 義 があるものであることが 解 った 上 で 核 磁 気 共 鳴 (NMR)スペクトルとは 何 である<br />
かについて 説 明 し、 具 体 的 な 有 機 化 学 における 使 用 法 について 説 明 を 加 える。<br />
NMR スペクトルの 御 利 益 ( 何 の 役 に 立 つのか)<br />
有 機 化 学 の 教 科 書 : 反 応 原 料 化 合 物 + 反 応 試 薬 反 応 生 成 物 ( 理 想 的 状 況 を 記 述 )<br />
実 際 の 反 応 : 反 応 原 料 化 合 物 + 反 応 試 薬<br />
反 応 生 成 物 + 未 反 応 原 料 + 副 生 成 物<br />
即 ち 目 的 とする 生 成 物 が 得 られているかどうかは 生 成 物 の 化 学 構 造 を 何 らかの 手 法 で 決 定<br />
しなければ 判 らない!<br />
有 機 化 合 物 の NMR スペクトルを 測 定 すると 化 合 物 の 化 学 構 造 が 決 定 できる。a<br />
NMR って 何 ?<br />
化 学 者 は 皆 、NMR という 言 葉 を 多 義 的 に 使 用 するので、 初 学 者 にはその 点 が 非 常 に 不 可<br />
解 に 聞 こえる。そこでまず、NMR という 言 葉 の 定 義 と、NMR という 言 葉 が 化 学 の 現 場 で<br />
どのような 使 われ 方 をするのかを 解 説 する。<br />
言 葉 の 定 義 :<br />
【NMR】:Nuclear Magnetic Resonance の 略 語 であり、 厳 密 には Nuclear Magnetic Resonance<br />
(NMR) 現 象 ( 日 本 語 では 核 磁 気 共 鳴 現 象 )という 物 理 現 象 の 名 前 。 広 義 には NMR 分 光<br />
法 、NMR スペクトル、NMR 分 光 装 置 をさす 言 葉 としても 使 用 される。<br />
【NMR 分 光 法 】:NMR 現 象 を 利 用 した 分 光 法 。 紫 外 吸 収 スペクトルが 紫 外 光 ( 電 磁 波 )<br />
の 吸 収 を 取 り 扱 う 分 光 法 であるの 対 して、NMR 分 光 法 はラジオ 波 (マイクロ 波 ) 領 域 の<br />
電 磁 波 の 吸 収 を 扱 う 分 光 法 である。<br />
【NMR スペクトル】:NMR 分 光 法 から 得 られるスペクトル。<br />
【NMR 分 光 装 置 】:NMR スペクトルを 測 定 するための 装 置 一 式 。 磁 気 共 鳴 を 起 こすため<br />
の 超 伝 導 マグネットと NMR スペクトルを 取 り 込 むための 分 光 計 からなる。<br />
1
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NMR スペクトルで 何 が 見 えるのか( 解 るのか)?<br />
通 常 の NMR のテキストでは 最 初 に NMR 分 光 法 の 原 理 の 説 明 から 入 るが、この 資 料 は NMR<br />
の 初 学 者 がいかにして NMR スペクトルを 読 むかという 点 に 絞 って 解 説 をしている 異 色 の<br />
テキストである。なので 原 理 はとばして、 実 例 を 用 いて NMR スペクトルの 性 質 ( 癖 )を<br />
学 ぶ。<br />
特 に 有 機 化 学 においては 1 H NMR スペクトル( 1 H NMR と 書 いてプロトン・エヌ・エム・<br />
アールと 読 む)を 頻 繁 に 用 いるので 1 H NMR スペクトルから 説 明 する。 名 前 から 解 るよう<br />
に 水 素 原 子 (の 原 子 核 )に 由 来 したシグナルを 検 出 する NMR 分 光 法 である。<br />
下 記 の 1 H NMR スペクトルはスペクトル 中 に 書 き 込 んだ 化 合 物 の 1 H NMR スペクトルであ<br />
る。スペクトル 例 2の 化 合 物 の 各 プロトンには a、b と 記 号 をふった。<br />
スペクトル 例 1 スペクトル 例 2<br />
a<br />
b<br />
出 典 : 産 業 技 術 総 合 研 究 所 SDBS<br />
スペクトル 例 1から 判 るように 図 中 の 化 合 物 (クロロホルム)の 1 H NMR スペクトルでは<br />
シグナルが1 本 しか 観 測 されない。これはクロロホルムにプロトンが1 種 類 しか 存 在 しな<br />
いためである。<br />
一 方 、スペクトル 例 2の 化 合 物 の 1 H NMR スペクトルでは2 本 のシグナルが 観 測 されてい<br />
る。これは 対 応 する 化 合 物 にプロトンが2 種 類 (フェノール 性 水 酸 基 のプロトン& 芳 香 環<br />
プロトン)あるためである。ここまでまとめると 以 下 のようになる。<br />
1.<br />
1 H NMR スペクトルではプロトン( 水 素 原 子 の 核 )がシグナルを 出 す。<br />
2. 1 種 類 のプロトン 当 たり1 本 の 1 H NMR シグナルをだす。<br />
この NMR スペクトルの 特 性 から 化 学 構 造 決 定 に 重 要 なプロトンの 種 類 数 ( 化 学 的 に 環 境<br />
の 異 なるプロトンの 種 類 の 数 )を 決 定 できる。<br />
2
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NMR スペクトルの 解 釈 &シグナル 帰 属 法<br />
ここからは NMR シグナルがどのプロトンに 由 来 したシグナルであるかを 帰 属 する 方 法 に<br />
ついて 述 べる。ここでも 1 H NMR スペクトルの 例 をあげて 説 明 する。なお、メチルプロト<br />
ン、メチレンプロトン、 水 酸 基 プロトンに a、b、c と 記 号 をふった。<br />
NMR スペクトル 例 3<br />
シグナル<br />
面 積 積 分<br />
値 :2<br />
b<br />
シグナル<br />
面 積 積 分<br />
値 :1<br />
c<br />
a<br />
シグナル<br />
面 積 積 分<br />
値 :3<br />
出 典 : 産 業 技 術 総 合 研 究 所 SDBS<br />
化 合 物 中 のプロトンの 種 類 :メチルプロトン、メチレンプロトン、 水 酸 基 プロトンの3 種<br />
1 H NMR スペクトルのシグナル 本 数 :3 本 → プロトンの 種 類 の 数 に 対 応<br />
(より 正 確 には 化 学 構 造 上 非 等 価 なプロトンの 種 類 の 数 )<br />
各 NMR シグナルの 面 積 積 分 値 ( 整 数 比 ): a: 3 b: 2 c: 1<br />
3. シグナルを 出 すプロトン 数 の 整 数 比 に 一 致<br />
( 例 えば、a のメチルプロトンでは 積 分 値 整 数 比 は3、b のメチレンプロトンでは<br />
積 分 値 整 数 比 は2、c の 水 酸 基 プロトンでは 積 分 値 整 数 比 は1)<br />
メチルプロトン、メチレンプロトンは( 化 学 構 造 上 等 価 な 限 り)1 本 のシグナル<br />
C-C 結 合 間 の 回 転 のため 等 価 になる。<br />
何 故 メチル 基 の3つのプロトンは1 本 のシグナルとなるのか?<br />
下 図 のような C-C 結 合 間 の 回 転 により H a 、H b 、H c の 区 別 ができなくなるため。<br />
3
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NMR スペクトル 例 4<br />
b<br />
シグナル 面 積<br />
積 分 値 ( 整 数<br />
比 ):1<br />
a<br />
シグナル 面 積<br />
積 分 値 ( 整 数<br />
比 ):1<br />
( 註 :プロトン 数 が3:3な<br />
ので 整 数 比 は1:1)<br />
出 典 : 産 業 技 術 総 合 研 究 所 SDBS<br />
メチルプロトンでも 環 境 が 異 なるものは 別 々のシグナルとして 観 測 される( 異 なる 官 能 基<br />
に 含 まれるプロトンも 勿 論 、 別 シグナルを 与 える)。<br />
ただし 同 一 メチル 基 内 の3つのプロトンはここでも1 本 のシグナルになる( 回 転 のため 化<br />
学 的 に 等 価 なプロトンとなる)<br />
NMR シグナルとプロトンの 対 応 付 け(シグナル 帰 属 )1(J-coupling の 利 用 )<br />
上 述 のように NMR においてはメチルプロトンでも 環 境 が 異 なれば 別 々の NMR シグナル<br />
を 与 えるため、 化 学 構 造 を 決 める 上 で 便 利 である(メチレンプロトンでも 同 様 )。ただし<br />
これは 両 刃 の 剣 で、NMR スペクトルを 見 ただけではいずれのシグナルがいずれのメチル<br />
プロトンに 由 来 するかを 帰 属 するには 更 なる 追 加 情 報 が 必 要 なことを 意 味 する。ただし、<br />
この 問 題 のかなりの 部 分 は NMR スペクトル 中 で 観 測 される J-coupling を 利 用 することで<br />
解 決 できる。 以 下 にその 例 を 示 す。<br />
出 典 : 産 業 技 術 総 合 研 究 所 SDBS<br />
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スペクトル 中 に 各 NMR シグナルがどのプロトンに 由 来 するシグナルか 帰 属 が 書 かれてい<br />
る。 注 目 してほしいのは b と c のシグナルである。それぞれシグナル b が4 本 、c が3 本<br />
に 分 裂 していることが 判 る(3 本 または4 本 の 個 別 シグナルが 集 まって 見 えているわけで<br />
はない 点 に 注 意 )。なお 積 分 値 ( 整 数 比 )は a:b:c = 3:2:3である(a に 関 しては<br />
4 本 分 の 共 鳴 線 の 面 積 合 計 値 、c も 同 様 に3 本 分 の 合 計 値 )。<br />
どのような 時 にシグナルが 分 裂 するのかが 判 れば 帰 属 に 利 用 できる!!!<br />
結 論 から 言 って 以 下 の 図 のような 関 係 にあるプロトンにシグナルの 分 裂 (J-coupling)が<br />
観 測 される。<br />
上 記 スペクトルの 化 合 物 ( 酢 酸 エチル)ではエチル 基 の b のメチレンプロトンと c のメチ<br />
ルプロトンが 上 図 左 のような 位 置 関 係 (この 位 置 関 係 をビシナルの 関 係 と 言 う)にある。<br />
J-coupling を 起 こしたシグナルのほうがエチル 基 末 端 のメチルプロトンと 帰 属 できる<br />
( 積 分 値 から a と c がメチルプロトンシグナルと 判 るが、 本 化 合 物 で J-coupling を 起 こす<br />
のはエチル 基 末 端 のメチルプロトンのみ)。<br />
何 故 c のメチルプロトンは3 本 に 分 裂 するか?<br />
結 論 から 言 ってメチル 基 の 隣 の 炭 素 原 子 (ここではメチレン 炭 素 )に 結 合 しているプロト<br />
ン 数 と 関 係 がある。<br />
分 裂 数 = ビシナル 水 素 の 数 + 1(これを“n+1ルール”と 呼 ぶ)<br />
逆 にメチレンプロトンの 分 裂 数 は4 本 であるが、ビシナル 位 の 水 素 は3 個 (メチル<br />
プロトン)のため、 上 式 から3+1=4となり、 確 かに4 本 に 分 裂 することが 判 る。<br />
注 意 :ただしn+1ルールが 適 用 できるのは C-C 結 合 間 に 自 由 回 転 が 許 されてい<br />
る 場 合 のみ。 環 状 化 合 物 等 のビシナル 水 素 が 非 等 価 になる 場 合 には 適 用 不 可<br />
さらに J-coupling しているプロトン 同 士 ではその 分 裂 幅 (Hz 単 位 )が 全 く 同 じにな<br />
る。<br />
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J-coupling のより 詳 しい 内 容 は 本 講 義 資 料 でも 後 述 するが、ここで 強 調 しておきたいこと<br />
は、 上 記 の 特 性 (J-coupling および 積 分 値 に 関 する 特 性 )はすべての 化 合 物 の NMR<br />
スペクトルについて 成 り 立 つ 普 遍 的 法 則 であると 言 うことである。 裏 を 返 せば 上 記 ルー<br />
ルと 矛 盾 するような 帰 属 を 行 ったとすると、その 帰 属 は 明 らかに 間 違 いであると 断 定<br />
できる。<br />
【 練 習 問 題 】シグナルの 記 号 脇 の 数 値 は 積 分 値 整 数 比 。<br />
出 典 : 産 業 技 術 総 合 研 究 所<br />
SDBS<br />
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NMR シグナルの 帰 属 には 上 記 普 遍 的 法 則 のみで 充 分 か?<br />
ここまで NMR スペクトルで 普 遍 的 に 成 り 立 つ 現 象 ・ 法 則 について 説 明 した。またこの 法<br />
則 にのっとり 多 くの 低 分 子 有 機 化 合 物 の NMR シグナルの 帰 属 が 可 能 なことを 見 てきた。<br />
しかし、 上 記 普 遍 的 法 則 のみでは 帰 属 が 不 可 能 な 化 合 物 も 存 在 する。スペクトル 例 4で 示<br />
した 酢 酸 メチルがその 典 型 である。 上 記 普 遍 的 法 則 のみからは、2つの NMR シグナルが<br />
いずれのメチル 基 に 由 来 するかを 帰 属 することができない。 積 分 値 から 両 シグナルがメチ<br />
ルプロトンに 由 来 することはわかるが、いずれのメチルプロトンも J-coupling していない<br />
ので 上 記 法 則 のみからは 二 つのメチル 基 を 識 別 できない。しかし、2つの NMR シグナル<br />
はスペクトル 上 の 位 置 ( 化 学 シフト 値 )が 異 なることを 見 てきた。もし 化 学 構 造 上 の 特 徴<br />
と NMR シグナルの 位 置 に 何 らかの 関 係 があれば 帰 属 の 役 に 立 つと 思 われる。この 点 も 答<br />
えから 言 うと 関 係 は 大 有 りである。プロトンが 含 まれている 官 能 基 あるいは 隣 接 する 官 能<br />
基 によってどのような 化 学 シフト 値 になるかがおよそ 決 まっている。<br />
酢 酸 メチルのプロトンシグナルの 帰 属 もこの 関 係 を 用 いることで 初 めて 可 能 となる。<br />
-OCH 3 となるメチルプロトンが 4 ppm 付 近 にシグナルを 出 すことから、3.7 ppm の NMR<br />
シグナルが-OCH 3 のメチルプロトンと 帰 属 がつく。また CH 3 -C=O のメチル 基 も 上 記 の 関<br />
係 と 矛 盾 無 い 値 (2.0 ppm)となっており、リーズナブルな 帰 属 である。<br />
このように 化 学 構 造 と 化 学 シフト 値 の 関 係 を 使 うと、より 簡 便 に 帰 属 を 行 うことができる<br />
ようになる。ただし 注 意 点 として、 化 学 シフト 値 と 化 学 構 造 の 関 係 は 絶 対 的 なものではな<br />
く、およその 経 験 値 であることを 肝 に 銘 じておいてほしい。 時 として 化 学 構 造 から 予 想 さ<br />
れる 値 から 大 きくずれた 値 をとることもある。<br />
化 学 シフト 値 と 化 学 構 造 の 関 係 を 用 いて 帰 属 を 行 った 場 合 は 必 ず 上 述 の 普 遍 法 則 に 反 しな<br />
いかどうかを 確 認 しなければならない。また 普 遍 法 則 に 反 した 結 果 となった 場 合 は、 残 念<br />
ながらその 帰 属 は 間 違 いであるのでやり 直 さなければならない。<br />
シグナルのスペクトル 上 での 位 置 ( 化 学 シフト 値 )は 何 をあらわしている?<br />
化 学 シフト(chemical shift) って 何 ?<br />
NMR スペクトルのシグナルの 位 置 のことを 化 学 シフト 値 ( 単 位 :ppm)という。ppm は%<br />
と 同 様 、 濃 度 の 単 位 である( 無 次 元 の 濃 度 単 位 )。 一 般 に 分 光 測 定 データ(スペクトル)<br />
では 横 軸 の 単 位 は 波 長 (nm、m)、 波 数 (cm -1 )、 周 波 数 (Hz = sec -1 )という 物 理 量 のいず<br />
れかであるのに、NMR 分 光 法 だけが 何 故 ppm か?、と 奇 妙 に 思 われる 方 もあろう。 結 論<br />
から 言 うと、 化 学 シフト 値 とは、 基 準 物 質 の NMR シグナルの 周 波 数 *とサンプルに 由 来<br />
するシグナルの 周 波 数 差 を ppm 単 位 で 表 したものである(* 正 確 には 共 鳴 周 波 数 :Hz( 桁<br />
数 の 関 係 で MHz で 表 すことが 多 い))。<br />
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オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
測 定 核 の 共 鳴 周 波 数 − 基 準 周 波 数<br />
化 学 シフト 値 (ppm) =<br />
基 準 周 波 数<br />
×10 6<br />
基 準 周 波 数 からの 周 波 数 差<br />
=<br />
基 準 周 波 数<br />
×10 6<br />
( 式 1)<br />
つまり NMR 分 光 法 も 他 の 分 光 法 と 同 様 、 周 波 数 の 単 位 を 有 している。<br />
前 置 きが 長 くなったが、 本 節 では NMR 化 学 シフト 値 と 化 学 構 造 の 間 に 関 係 があるかどう<br />
かが 主 題 である。<br />
化 学 シフト 値 はどうして ppm 単 位 にするのか?そのメリットは?<br />
NMR スペクトルは 化 合 物 を 磁 場 中 に 置 いて 初 めて 観 測 される。また 共 鳴 周 波 数 は 磁 場<br />
の 強 さに 比 例 する( 磁 場 の 強 さの 単 位 :T(テスラ)、G(ガウス)、1 T = 10 4 G)。<br />
基 準 周 波 数 ∝ 磁 場 の 強 さ ; 測 定 核 の 共 鳴 周 波 数 ∝ 磁 場 の 強 さ ( 式 2)<br />
つまり 磁 場 の 強 さがかわれば 共 鳴 周 波 数 が 変 わってしまう。 事 実 、NMR 分 光 器 に 使 われ<br />
ている 磁 石 には 様 々な 磁 場 の 強 さの 磁 石 が 使 われており、Hz 単 位 で 表 した 場 合 、NMR シ<br />
グナルの 共 鳴 周 波 数 を 磁 場 の 強 さとともに 表 さない 限 り 意 味 のない 数 値 となってしまう。<br />
特 定 の 化 合 物 について 紫 外 可 視 吸 収 スペクトルを 測 定 した 場 合 は〜nm(Hz 単 位 に 換 算 可<br />
能 )に 吸 収 極 大 があるという 単 純 な 言 い 方 ができるのに 対 して、NMR 分 光 法 では 周 波 数<br />
のみではスペクトルを 記 述 したことにならない。 一 方 、 単 位 を ppm にした 場 合 、 磁 場 の<br />
強 さに 依 存 せず 個 々の 測 定 核 のシグナルの 位 置 が 一 定 になる( 式 1 および 式 2 より)。 従<br />
って、 磁 場 強 度 に 依 存 しない 定 数 として 扱 いたい 場 合 は ppm 単 位 のほうが 都 合 がよい。<br />
J-coupling 値 はどうして Hz 単 位 にするのか?そのメリットは?<br />
J-coupling によるシグナルの 分 裂 幅 (J-coupling 値 )の 場 合 は 化 学 シフト 値 とは 逆 に Hz 単<br />
位 にしたとき 磁 場 依 存 性 がなくなる( 定 数 となる)。 裏 を 返 せば J-coupling を ppm 単 位 で<br />
表 した 場 合 は 磁 場 の 強 さが 異 なる NMR 分 光 計 で 測 定 したスペクトルでは 異 なる 値 となる。<br />
従 って、 磁 場 強 度 に 依 存 しない 定 数 として 扱 いたい 場 合 は Hz 単 位 のほうが 都 合 がよい。<br />
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オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
ppm と Hz の 変 換<br />
NMR スペクトルの 化 学 シフト 値 (ppm)の 式 は 決 まった 長 さの 金 属 パイプを 切 り 出 そう<br />
とした 時 の 個 々のパイプの 切 り 出 し 長 の 誤 差 (ppm)を 求 める 式 と 同 じである!<br />
規 定 の 長 さの 金 属 パイプを 切 り 出 す 際 の 誤 差 の 定 義 式<br />
実 際 の 長 さ − 規 定 の 長 さ<br />
誤 差 (%) =<br />
規 定 の 長 さ<br />
×100<br />
残 差<br />
= ×100<br />
規 定 の 長 さ<br />
( 式 3)<br />
実 際 の 長 さ − 規 定 の 長 さ<br />
誤 差 (ppm) =<br />
規 定 の 長 さ<br />
×10 6<br />
残 差<br />
=<br />
規 定 の 長 さ<br />
×10 6<br />
( 式 4)<br />
( 金 属 パイプ 切 り 出 し 誤 差 )<br />
残 差 (0.000100 m)<br />
規 定 の 長 さ (1.000000 m)<br />
実 際 の 長 さ (1.000100 m)<br />
1.000100 − 1.000000<br />
0.000100<br />
誤 差 (ppm) = ×10 6 = ×10 6 =100 ppm<br />
1.000000<br />
1.000000<br />
NMR の 化 学 シフト 値 (δ) の 定 義 式<br />
測 定 核 の 共 鳴 周 波 数 − 基 準 周 波 数<br />
化 学 シフト 値 (ppm) =<br />
基 準 周 波 数<br />
×10 6<br />
基 準 周 波 数 からの 周 波 数 差<br />
=<br />
基 準 周 波 数<br />
×10 6<br />
( 式 5)<br />
つまり 化 学 シフト 値 は 基 準 周 波 数 からのズレ( 誤 差 )を ppm 単 位 で 表 したもの<br />
(プロトン NMR の 場 合 )<br />
測 定 核 の 共 鳴 周 波 数 ( 単 位 は Hz): 着 目 するプロトンの 共 鳴 周 波 数<br />
基 準 周 波 数 ( 単 位 は Hz): 一 般 に TMS のプロトン 共 鳴 周 波 数 を 基 準 周 波 数 とする<br />
500 MHz NMR は、TMS のプロトンが 500 MHz で 共 鳴<br />
する NMR 装 置<br />
CH 3<br />
H 3 C Si CH 3<br />
Tetramethysilane (TMS)<br />
CH 3<br />
9
オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
例 1)500 MHz NMR でベンゼンのプロトン ( 1 H) NMR を 測 定 した 場 合<br />
(Hz から ppm への 変 換 )<br />
周 波 数 差 = 相 対 周 波 数 (3635 Hz)<br />
基 準 周 波 数 (500.000000 MHz = 500000000 Hz)<br />
測 定 核 (ベンゼンプロトン) 共 鳴 周 波 数 (500003635 Hz)<br />
= ベンゼンプロトンの 絶 対 周 波 数 (500.003635 MHz)<br />
500003635 − 500000000<br />
ベンゼンプロトンの 化 学 シフト 値 (ppm) =<br />
×10 6<br />
500000000<br />
=<br />
3635<br />
500×10 6<br />
=7.27ppm<br />
×10 6<br />
=<br />
3635<br />
500<br />
例 2)300 MHz NMR でベンゼンのプロトン ( 1 H) NMR を 測 定 した 場 合<br />
(ppm から Hz への 変 換 )<br />
測 定 核 (ベンゼンプロトン)の 共 鳴 周 波 数 : X(これから 求 める 数 値 )<br />
300 MHz NMR の 基 準 周 波 数 : 300000000 Hz<br />
測 定 核 (ベンゼンプロトン)の 化 学 シフト 値 : 7.27 ppm<br />
X−300000000<br />
7.27 ppm =<br />
×10 6<br />
300000000<br />
=<br />
X−300000000<br />
300<br />
X = 7.27×300+300000000 = 300002181 Hz<br />
実 は、 例 1)のベンゼンプロトンの 絶 対 周 波 数 (Hz) は、 例 2)の 方 法 で、ベンゼン<br />
プロトンの 化 学 シフト 値 :7.27 ppm と 基 準 周 波 数 :500 MHz から 逆 算 したもの。<br />
また、 基 準 周 波 数 との 周 波 数 差 (ここでは 相 対 周 波 数 と 呼 ぶ)は<br />
X=300002181 - 300000000 = 2181 Hz (=7.27×300)<br />
一 般 に、NMR スペクトルに 表 示 されている Hz 数 は、この 相 対 周 波 数 である( 別 紙 問<br />
題 集 参 照 )。<br />
ppm Hz 変 換 は、 情 報 として 基 準 周 波 数 しか 与 えられていない 時 (Hz 目 盛 りが 打<br />
たれてない 時 )に、スペクトルから J-カップリングを 算 出 する 際 に 必 須 の 計 算 である<br />
ので、 必 ず 修 得 しておくべき 事 項 である。<br />
10
オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
もう 少 し、 裏 の 理 屈 を 知 りたい 方 、 或 いは、 上 記 の 説 明 ではピンと 来 なかった 方 は、<br />
資 料 末 尾 の“よもやま 話 ”と“ 閑 話 休 題 ”を 読 んでみて 下 さい。<br />
J-coupling パターンについて<br />
( 図 2) H a の 核 磁 化 ( 核 スピン)の 向 き<br />
H a H<br />
( 原 則 1)<br />
b<br />
S N<br />
H a の 核 磁 化 ( 核 スピン)の<br />
J 1 J 1<br />
J 1<br />
or<br />
向 きが2 種 類<br />
N S<br />
δ( 1 H) / ppm<br />
X<br />
Ha<br />
Hb<br />
Y<br />
X Y<br />
H b のシグナルが2 本 に 割 れる カップリング 相 手 同 士 は<br />
(J-カップリング)<br />
同 じJ 値 でカップリングする<br />
註 : 上 記 の 説 明 は 物 理 的 には 若 干 不 正 確 な 説 明 ですが、 有 機 化 合 物 の 構 造 解 析 上 は H a の<br />
磁 化 のみのモデルで 十 分 説 明 できるので、 簡 略 化 したモデルで 説 明 しています。<br />
( 図 3)<br />
J 1<br />
Ha H 1 b<br />
Ha Y 2 J 1<br />
X Y<br />
( 原 則 2 ) 等 価 なプロトン<br />
同 士 にはJ-カップリングは<br />
観 測 されない.<br />
2<br />
4 H b の 全 磁 化<br />
J 1<br />
H a1 とのカップリング<br />
H b H a<br />
J 1<br />
J J<br />
H b のスペクトル<br />
J 1<br />
1<br />
H a2 とのカップリング J 1<br />
J 1<br />
1<br />
1<br />
: 2<br />
1<br />
: 1 (triplet: t)<br />
δ( 1 H) / ppm<br />
J 1<br />
( 図 4)<br />
J 1 J 2 4<br />
Ha<br />
Hb<br />
Hc<br />
2<br />
X<br />
Z<br />
X Y Z<br />
( 原 則 3) 非 等 価 なプロトン J 2 J 2<br />
J 1 = J 2 の 場 合 J 1 ≈ J 2 の 場 合<br />
4<br />
1<br />
H a とのカップリング<br />
H b の 全 磁 化<br />
J 1<br />
J 2<br />
J 2<br />
H c とのカップリング<br />
H b のスペクトル<br />
2<br />
1 J 2<br />
J 2<br />
J 1 J 1<br />
のJ 値 は 原 則 的 に 異 なる J<br />
J 2 J 2<br />
1 J1 1 : 2 : 1<br />
1 : 1 :1 : 1 (double doublet: dd) ( 見 かけ 上 のtriplet: t)<br />
J 1<br />
( 図 5)<br />
J 1<br />
Ha 1<br />
Hb<br />
H<br />
H<br />
J 1<br />
a 2<br />
X<br />
Y Z<br />
J 2<br />
Z<br />
8<br />
J 1 J 1<br />
2 : 4 : 2<br />
H b の 全 磁 化<br />
H a1 、H a2 とのカップリング<br />
H a2 とのカップリング<br />
J 2 J 2 J 2<br />
J<br />
J 2 2 J2<br />
J 2 J 2 J 2 H b のスペクトル<br />
J 1 J 1 (double triplet: dt) J 1 J 1<br />
J 1 J 1 J 1 J 1<br />
1 : 1 : 2 : 2 : 1 : 1<br />
1 : 2: 1:<br />
1: 2 : 1<br />
8<br />
J 1 J 1<br />
2 : 4 : 2<br />
11
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0<br />
1<br />
( 原 則 4) 等 価 なn 個 のプロトンと<br />
J-カップリングしているプロトン<br />
はn+1 本 のシグナルに 分 かれ、そ<br />
の 積 分 比 はパスカルの 三 角 形 ( 教<br />
科 書 P159 図 4.29)に 従 う。<br />
カップリングする<br />
等 価 なプロトン 数<br />
1<br />
2<br />
3<br />
4<br />
5<br />
1 1<br />
1 2 1<br />
1 3 3 1<br />
1 4 6 4 1<br />
1 5 10 10 5 1<br />
相 対 強 度<br />
6<br />
1 6 15 20 15 6 1<br />
(J-カップリングの 算 出 )<br />
NMR スペクトルによっては 相 対 周 波 数 ( 基 準 周 波 数 からの 周 波 数 差 :Hz 目 盛 り)が<br />
与 えられていないものが 存 在 する。そのような 場 合 、 以 下 のようにして J-カップリン<br />
グを 求 めることができる。<br />
J-カップリングはシグナル1-2、2-3、3-4 間 いず<br />
れから 求 めてもよいが、1-4 間 の 周 波 数 差 (Hz) を<br />
求 めて、3 で 割 った 方 がより 正 確 に J-カップリングを<br />
求 めることができる。<br />
300 MHz NMR quartet signal<br />
J J J<br />
2 3<br />
1<br />
4<br />
式 3 より、シグナル1、4の 共 鳴 周 波 数 はそれぞれ<br />
下 記 の 通 り。 括 弧 内 は 相 対 周 波 数<br />
2.10 2.05<br />
δ( 1 H) / ppm<br />
図 1<br />
2.00<br />
シグナル 1:2.08×300 + 300000000 = 300000624 Hz (624 Hz)<br />
シグナル 4:2.02×300 + 300000000 = 300000606 Hz (606 Hz)<br />
従 って、J-カップリングは 以 下 の 通 り。<br />
J-カップリング = (624 - 606) / 3=6Hz<br />
12
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カップリングの 相 手 の 同 定 法<br />
(デカップリング 法 )<br />
NMR では、 特 定 のプロトンのシグナルのみにパルスを 照 射 してスペクトル 上 からそのシ<br />
グナルを 消 去 することができる(デカップリングという)。<br />
シグナル 消 去 = 測 定 中 の 化 合 物 から 仮 想 的 にプロトンが 無 くなった(スペクトル 上 )<br />
= J-カップリング 相 手 の 消 失<br />
= J-カップリングの 消 滅 ( 消 去 されたプロトンのカップリング 相 手 )<br />
= J-カップリングの 相 手 の 同 定<br />
J 1<br />
Ha H 1 b<br />
Ha Y<br />
2 J 1<br />
X Y<br />
J 1 J 2c<br />
Ha 1<br />
Hb<br />
H<br />
H<br />
J 1<br />
a 2<br />
X<br />
Y Z<br />
Z<br />
H b<br />
H a<br />
H b<br />
H c<br />
H a<br />
J 2<br />
J 1<br />
パルス<br />
照 射<br />
J 1 J 1<br />
パルス<br />
照 射<br />
J 1<br />
パルス<br />
照 射<br />
J 2<br />
パルス<br />
照 射<br />
J 2<br />
( 1 H) / ppm<br />
δ( 1 H) / ppm<br />
パルス<br />
照 射<br />
δ<br />
図 6<br />
13
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(2D 1 H- 1 H COSY 法 )<br />
二 次 元 NMR スペクトルの 一 種 。J-カップリングしているプロトンシグナルの 化 学 シ<br />
フト 値 の 交 点 に 交 差 ピーク(cross peak)が 観 測 されるスペクトル。<br />
異 核 相 関 (プロトン− 炭 素 間 、プロトン− 窒 素 間 等 の J-カップリング)<br />
本 来 はプロトンと 直 接 共 有 結 合 した 炭 素 核 はプロトンと J-カップリングしている( 註 )。<br />
しかし、 有 機 構 造 解 析 上 は 炭 素 核 の 化 学 シフト 値 をまず 知 りたいため、プロトンを 全<br />
てデカップルして、 炭 素 核 のシグナルを singlet にして 測 定 している。<br />
註 : 厳 密 には、より 多 くの 共 有 結 合 を 隔 てたプロトンと 炭 素 核 でも 共 有 結 合 4 つ 以 内 のもの 同 士 は J-<br />
カップリングしている。ただし、 共 有 結 合 を 2 つ 以 上 隔 てたプロトンと 炭 素 核 では J-カップリングの<br />
値 は 直 接 結 合 しているプロトン− 炭 素 核 の J-カップリングより 遙 かに 小 さくなる。<br />
(1D 1 3 C NMR spectrum without 1 H decoupling)<br />
プロトンをデカップルせずに 一 次 元<br />
13 CNMR スペクトルを 測 定 すると、 炭 素 核 のシグ<br />
ナルは 以 下 のようなカップリングパターンを 示 す(ここでは 共 有 結 合 を 2 つ 以 上 隔 てたプロ<br />
トンと 炭 素 核 間 の J-カップリングは 小 さいので 無 視 している)。<br />
四 級 炭 素 :singlet(プロトンが 結 合 していないので J-カップリングなし)<br />
メチン 炭 素 :doublet(プロトンが 1 個 結 合 しているので n+1 ルールより doublet)<br />
メチレン 炭 素 :triplet(プロトンが 2 個 結 合 しているので n+1 ルールより triplet)<br />
メチル 炭 素 :quartet(プロトンが 3 個 結 合 しているので n+1 ルールより quartet)<br />
(2D 1 H -1 3 C COSY, 2D 1 H -1 3 C HMQC spectra)<br />
2D 1 H- 1 H COSY では J-カップリングしているプロトン 同 士 が 交 差 ピーク(cross<br />
peak)を 出 すが、2D 1 H -13 CCOSY スペクトル 或 いは 2D 1 H -13 CHMQC スペクトルで<br />
は、カップリングしてるプロトンと 炭 素 核 ( 即 ち、 直 接 共 有 結 合 しているプロトンと<br />
炭 素 核 )の 間 に 交 差 ピーク(cross peak)が 観 測 される。<br />
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問 題<br />
1) 図 1 の quartet のシグナルの 1-4 間 の 差 は ppm 単 位 で 0.06 ppm (300 MHz NMR<br />
で)であるが、600 MHz NMR で 測 定 した 場 合 、シグナルの 1-4 間 の 差 は 何 ppm とな<br />
るか?<br />
2) 同 シグナルの 化 学 シフト 値 は 何 ppm であるか (600 MHz NMR で)?<br />
3) 同 シグナルの 共 鳴 周 波 数 は 何 Hz か (600 MHz NMR で)、また 0 ppm からの 周 波 数<br />
差 は 何 Hz か (600 MHz NMR で)?<br />
4) 例 にならって、 各 プロトンのカップリングパターンが 理 論 的 にどのようになるかを 予<br />
測 しなさい。<br />
例 ) a: (3H, s) 1)<br />
O<br />
Cl 2) 3)<br />
b b: (2H, q)<br />
X<br />
c<br />
a<br />
O<br />
c: (3H, t)<br />
O<br />
X<br />
5) 図 5 の 化 合 物 について、J 1 と J 2 の 値 が 偶 然 等 しいとき、カップリングパターンがど<br />
のようになるかを 図 示 しなさい。<br />
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赤 外 スペクトル 便 利 帳<br />
( 多 重 結 合 と 伸 縮 結 合 の 相 関 図 )<br />
3500 cm -1 3000 cm -1 2500 cm -1 2000 cm -1 1500 cm -1 1000 cm -1 500 cm -1<br />
C≡C-H<br />
?<br />
X-H 伸 縮 三 重 結 合 伸 縮 二 重 結 合 伸 縮 単 結 合 伸 縮<br />
C≡C<br />
C=O<br />
C-OH<br />
C=C-H<br />
N≡C-<br />
C=C (alkene)<br />
C(=O)-OR<br />
C-C-H<br />
C=C (benzene)<br />
伸 縮 振 動 に 関 しては 結 合 の 多 重 度 と 振 動 数 に 顕 著 な 相 関 があるので、この 関 係 を 頭 に<br />
入 れておけば、 少 しでも 覚 えることを 少 なくできる。 炭 素 炭 素 結 合 を 例 に 取 ると、 炭<br />
素 炭 素 間 の 結 合 力 (バネ 定 数 )が 以 下 の 順 になることを 意 味 している。<br />
C≡C (sp) > C=C (sp 2 ) > C-C (sp 3 )<br />
註 : 上 図 は 多 重 結 合 と 伸 縮 振 動 の 相 関 のみを 記 したもので、ここに 網 羅 されていない<br />
重 要 なマーカーバンドがあることに 注 意 。<br />
( 書 式 )<br />
O<br />
O<br />
O<br />
H<br />
4000 3000 2000 1500 1000 500<br />
3200 cm -1 :OH 伸 縮 ( 広 幅 または broad)( 註 )<br />
1680 cm -1 :C=O 伸 縮<br />
(ベンゼン 環 との 共 役 と OH との 水 素 結 合 により 低 波 数 シフト。)<br />
1210 cm -1 : エステル C(=O)-O 伸 縮<br />
註 : 基 本 的 にはピークトップの 波 数 を 読 む。 広 幅 なピークの 場 合 は 上 述 のように 記 述 するのを 推 奨 する。<br />
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〜よもやま 話 〜<br />
ppm オーダーの 差 ( 誤 差 )を 地 図 上 の 距 離 に 置 き 換 えて 考 える。 仙 台 〜 東 京 間 ( 約 300 km)<br />
の 距 離 を 0.01 ppm 以 内 の 誤 差 で 測 定 する 場 合 、 許 される 距 離 の 誤 差 は 以 下 の 通 り。<br />
誤 差 最 大 値 = 300 km×0.01 ppm = 300,000 m×0.01×10 -6 =0.003m=3mm<br />
300 MHz のNMR 装 置 では 0.01 ppm を 容 易 に 見 分 けることができるが、これは 東 京 仙<br />
台 間 の 距 離 を mm オーダーの 誤 差 範 囲 で 測 定 することに 相 当 する。また 実 際 のプロトン<br />
NMR スペクトルではスペクトルの 中 心 から 20 ppm 程 度 (300 km の 20 ppm は 6 m)<br />
の 範 囲 を 見 ているので、 講 義 室 の 内 寸 を mm オーダーの 正 確 さで、 東 京 から 計 測 してい<br />
るようなものである。<br />
世 間 では 何 MHz の NMR 装 置 という 言 われ 方 がよくされ、 磁 場 の 強 度 の 単 位 が Hz で 表 さ<br />
れるという 誤 解 が 時 に 見 られる。これまでの 話 からも 自 明 なように 500 MHz NMR とい<br />
った 場 合 には Hz 数 はプロトンの 共 鳴 周 波 数 を 指 している。 磁 場 の 強 さの 単 位 は T(テス<br />
ラ)または G(ガウス)である(1T = 10 4 G)。 実 は NMR 分 光 法 においては、 磁 場 の 強<br />
さと、プロトンの 共 鳴 周 波 数 の 間 には 単 純 な 比 例 関 係 が 成 り 立 っている。<br />
ν H = a H *B 0 (ν H :プロトン 共 鳴 周 波 数 、B 0 : 磁 場 の 強 さ、a H : 比 例 定 数 )<br />
このように 磁 場 の 強 度 とプロトン 共 鳴 周 波 数 には 1:1 の 関 係 があるため、NMR 分 光 法 で<br />
はプロトン 共 鳴 周 波 数 を 用 いる 慣 習 がある。<br />
より 大 事 なこととして、NMR で 観 測 可 能 な 核 種 ( 炭 素 : 13 C、 窒 素 : 15 N、リン: 31 P、etc)<br />
はそれぞれ 固 有 の 比 例 定 数 を 有 していることがあげられる(プロトン:a H =42.57、 13 C:<br />
a C =10.70、 15 N:a N =4.314、 31 P:a P =17.23、etc)。つまり、300 MHz NMR( 磁 場<br />
強 度 7.0464 T)での 各 核 種 ごとの 共 鳴 周 波 数 は 1 H:300 MHz、 13 C: 約 75 MHz、 15 N:<br />
約 30MHz 等 となる。 従 ってプロトン NMR では 300 MHz 近 傍 (それも ppm オーダー)<br />
で 起 きている 現 象 をスペクトル 表 示 して、 化 学 構 造 の 解 析 に 用 いている。<br />
NMR 現 象 自 体 は 物 理 学 上 の 問 題 に 端 を 発 しており、 核 スピンの 実 在 の 証 明 に 深 く 関 わっ<br />
ている。 従 って 当 初 NMR 現 象 の 検 出 を 試 みていた 物 理 学 者 にとっては、 個 々のプロトン<br />
が 異 なる 化 学 シフト 値 を 示 すことは 視 野 の 外 にあったのではないかと 想 像 される。もし 化<br />
学 構 造 が 共 鳴 周 波 数 に 影 響 を 与 えないとしたら、プロトンや 炭 素 核 等 の 共 鳴 周 波 数 のとこ<br />
ろ( 一 点 )にシグナルがでるのみとなるだろう。これでは、まるで 輝 線 スペクトル( 註 1)<br />
のようなもので、 化 合 物 中 に 含 まれる 元 素 しか 知 り 得 ないことになる。しかし、 実 際 はそ<br />
17
オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
うではなく、 化 学 構 造 を 鋭 敏 に 反 映 する( 化 学 シフトが 存 在 する)スペクトルであったた<br />
め、 今 日 では 化 学 者 にとって 化 合 物 の 構 造 決 定 の 最 重 要 測 定 機 器 の 一 つとなっている。<br />
これを 地 図 の 話 に 再 度 置 き 換 えると、 1 H 核 の 測 定 では、 仙 台 ( 東 京 より 約 300 km)に<br />
いる 人 のまわり 3 m(10 ppm) 以 内 の 状 況 を mm オーダーで、 東 京 から 調 べている 事 に<br />
相 当 する。 一 方 、 13 C 核 ( 13 C 共 鳴 周 波 数 : 約 75 MHz)の 測 定 は 栃 木 県 小 山 市 付 近 、 15 N<br />
核 ( 15 N 共 鳴 周 波 数 : 約 30 MHz)の 測 定 は 東 京 と 他 県 の 境 界 あたりの 状 況 を、 東 京 から<br />
調 べていることに 相 当 する<br />
ここまでの 話 から、プロトン NMR スペクトル 上 には 炭 素 核 のシグナルが 何 故 現 れないか<br />
気 になる 人 がいるかもしれない。300 MHz NMR のプロトン・スペクトルでは 300 MHz<br />
近 傍 の 20 ppm 程 度 の 範 囲 内 を 表 示 しているだけなので、そのスペクトルの 中 に 炭 素 核<br />
のシグナル( 13 C 共 鳴 周 波 数 は 約 75 MHz)が 現 れることはない。このあたりの 状 況 は、FM<br />
ラジオで 多 数 の 放 送 局 があるにもかかわらず 互 いに 混 線 しないことと 類 似 している( 下 記<br />
の 閑 話 休 題 参 照 )。<br />
註 1: 電 離 あるいは 励 起 された 原 子 から 放 射 される 光 は 原 子 内 の 電 子 のエネルギー 準 位 が<br />
量 子 化 されているため、ある 特 定 の 波 長 だけに 限 られている。このような 光 はプリズムで<br />
分 光 すると 離 散 的 ないくつかの 光 の 線 となる。この 光 の 線 を 輝 線 といい、 輝 線 からなるス<br />
ペクトルを 輝 線 スペクトルという。この 輝 線 スペクトルのパターンは 元 素 固 有 のものであ<br />
り、 輝 線 スペクトルから 化 合 物 に 含 まれる 元 素 の 同 定 が 可 能 である。 因 みに 原 子 が 輝 線 ス<br />
ペクトルを 出 すような 条 件 では 有 機 化 合 物 は 個 々の 原 子 に 分 解 されているので、 元 々どの<br />
ような 化 合 物 に 含 まれていた 原 子 かを 同 定 することはできない。<br />
< 閑 話 休 題 ><br />
ラジオには AM 波 と FM 波 があるが、これら 二 つの 放 送 は 周 波 数 が 異 なるだけでなく、 信<br />
号 送 信 法 が 異 なる。AM 波 では 電 波 の 振 幅 ( 信 号 強 度 :amplitude) 変 化 に 音 の 情 報 をの<br />
せているため、Amplitude Modulation (AM)と 呼 ばれている。 一 方 、FM 波 では 電 波 の 周<br />
波 数 (frequency) 変 化 (これも 恐 らく ppm オーダー)に 音 の 情 報 をのせているため、<br />
Frequency Modulation (FM)と 呼 ばれている。 従 って、FM 放 送 局 の 周 波 数 はあくまでも<br />
中 心 ( 基 準 ) 周 波 数 であり、FM ラジオの 中 では、 送 られてきた 電 波 の 周 波 数 から 基 準 周<br />
波 数 を 引 き 算 して 周 波 数 差 を 検 出 するための 高 周 波 回 路 が 働 いて、 音 楽 等 の 音 源 を 伝 えて<br />
くれる。<br />
ラジオの 混 線 ( 炭 素 核 の NMR シグナルがプロトン NMR スペクトル 上 に 現 れない 理 由 )<br />
についての 話 が“よもやま 話 ”のところででたのでその 点 について 触 れておきたい。 上 述<br />
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オリジナルテキスト:http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~henkan/lab/tanaka/lecture/NMRlecture.pdf<br />
のように FM 放 送 では 基 準 周 波 数 を 中 心 に 周 波 数 に 変 調 を 加 えて 信 号 を 送 信 している。こ<br />
れは NMR において、 個 々のプロトンが 化 学 シフトを 有 していることと 似 ている(300 MHz<br />
NMR の 場 合 では 個 々のプロトンは 300 MHz 近 傍 に 化 学 構 造 に 由 来 した 複 数 の 共 鳴 周 波<br />
数 が 存 在 する)。また、それぞれの 放 送 局 は 固 有 の 基 準 周 波 数 で 電 波 を 送 信 している 点 は、<br />
プロトンや 炭 素 核 が 固 有 の 共 鳴 周 波 数 を 持 っていることとよく 似 ている。<br />
このようにラジオには 数 多 くの 放 送 局 が 存 在 しているが、 仙 台 FM を 聞 いているときに<br />
NHK FMが 同 時 に 聞 こえてくることはない。これは、 仙 台 FM と NHK FM の 周 波 数 が 十 分<br />
に 遠 いため、どちらか 一 方 にチューニングをあわせた 場 合 、 他 方 の 放 送 が 混 線 してくるこ<br />
とはない。 同 様 に、NMR においてはプロトンと 13 C 核 では 225 MHz(300 MHz NMR 装<br />
置 の 場 合 で)も 離 れているので、シグナルを 同 時 に 取 り 込 むことはないのである。<br />
近 年 、オーディオ 機 器 に 附 属 しているラジオの 大 部 分 が、ボタン 一 つで 放 送 局 を 選 択 でき<br />
るようになっているため、チューニングをとっているという 感 覚 を 持 つことは 少 なくなっ<br />
た。 昔 のラジオではダイアルをまわしてチューニングをあわせていたため、 目 盛 りが 徐 々<br />
に 目 的 の 放 送 局 に 近 づく 様 からチューニングをとっていることが 実 感 できた。ここまで 読<br />
んでいただいた 方 はお 判 りいただけると 思 うが、NMR においてもチューニング 操 作 があ<br />
る。NMR のチューニングでは 旧 来 のラジオと 同 様 、ネジを 回 しながらチューニングをと<br />
る。 何 億 円 とする 高 価 な 最 新 の NMR 装 置 ですらダイアル 式 である。 即 ち、ダイアル 式 ラ<br />
ジオは 最 先 端 のハイテク 機 器 といえる。( 最 後 の 一 文 には 論 理 的 に 問 題 がある。 問 題 点 に<br />
ついて 説 明 せよ。ただしこの 問 題 は 有 機 構 造 解 析 の 加 点 対 象 ではありません。)<br />
最 後 に 波 動 について 忘 れてしまった 方 と 波 動 の 物 理 をならっていない 方 のために、 波 動 に<br />
関 する 基 礎 知 識 を 示 しておいた。 参 考 にしていただきたい。<br />
波 長 (m)<br />
振 幅<br />
周 波 数 (Hz) = 光 速 (m/sec) / 波 長 (m)<br />
図 7<br />
19