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企業におけるトイレ掃除活動の意味と効用について ... - 日本大学経済学部

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産 業 経 営 研 究 第 30 号 (2008)<br />

る. 長 く 掃 除 をし 続 けるためには, 無 形 のものを<br />

対 象 にした 楽 しみや 満 足 を 見 出 していくことが 必<br />

要 になるのである.<br />

2 番 目 の 変 化 としては, 何 のために,あるいは<br />

誰 のために 掃 除 をするのかという 目 的 にも 変 化 が<br />

生 じていたことである. 入 社 2 年 目 の 組 織 メン<br />

バーは, 自 分 を 磨 くため,すなわち 自 己 成 長 のた<br />

めに 掃 除 をしていた.また 彼 らは, 掃 除 の 行 為 自<br />

体 に 楽 しみを 感 じていた. 掃 除 によるフロー 体<br />

験<br />

9) である(Csikszentmihalyi, 1990). 掃 除 経 験<br />

の 比 較 的 短 い 組 織 メンバーは, 自 分 のために,す<br />

なわち 利 己 的 な 目 的 のために 掃 除 をしていたので<br />

ある.<br />

一 方 , 掃 除 活 動 の 回 数 を 積 み 重 ねていくと, 自<br />

分 のためではなく, 他 人 のためへと 目 的 が 変 化 し<br />

ていた. 例 えば, 次 にトイレを 使 う 人 のために 掃<br />

除 をする,ゆっくりと 落 ちついて 使 ってもらいた<br />

くて 掃 除 をするといったことが 該 当 する.つま<br />

り, 掃 除 活 動 の 経 験 を 重 ねていくほど, 他 人 のた<br />

めという 利 他 的 な 目 的 で 掃 除 をするようになって<br />

いくのである.<br />

さらに 掃 除 活 動 を 続 ける 組 織 メンバーは, 自 然<br />

体 ,あるいは 無 意 識 に 近 い 状 態 で 日 々の 掃 除 活 動<br />

を 実 践 していた. 少 しでも 評 価 されたいという 自<br />

分 のために 掃 除 をするのではない.また 会 社 のた<br />

めに 掃 除 するわけでもない. 誰 のためでもなく,<br />

ただただ 毎 朝 掃 除 をするのである. 損 得 や 見 返 り<br />

を 抜 きにして, 肩 の 力 を 抜 いて, 掃 除 に 励 んでい<br />

るのである.<br />

したがって, 掃 除 活 動 の 目 的 の 変 化 としては,<br />

掃 除 活 動 を 重 ねるにつれて, 自 分 のためから 他 人<br />

のためへとまず 変 化 する.さらには, 他 人 のため<br />

から 誰 のためでもない,もしくは 自 分 も 含 めた 不<br />

特 定 多 数 の 人 のためへと 目 的 が 変 化 していたとし<br />

て 整 理 できる.<br />

事 実 , 入 社 して 2 年 目 の 組 織 メンバーは, 掃 除<br />

活 動 に 対 する 積 極 度 よりも 楽 しさが 上 回 ってい<br />

た. 自 分 のために 掃 除 するから, 楽 しいのであ<br />

る.5 年 目 を 越 えたあたりから, 積 極 性 が 高 まっ<br />

ていた. 自 分 のための 掃 除 活 動 でないから, 懸 命<br />

にせざるを 得 ないである.さらに 長 年 に 渡 って 掃<br />

除 をし 続 ける 組 織 メンバーは, 特 定 の 誰 かのため<br />

でも, 特 定 の 何 かの 目 的 ためでもなく,ただ 自 然<br />

に 掃 除 をするために, 積 極 度 も 楽 しさも 高 い 状 態<br />

で 維 持 できていたのである.<br />

以 上 から, 掃 除 活 動 の 継 続 を 通 じて, 個 人 に 宿<br />

る 精 神 としては, 次 の 2 点 に 整 理 することができ<br />

る. 第 1 は, 有 形 なものではなくて, 無 形 なもの<br />

に 対 して 楽 しみや 満 足 を 覚 える 精 神 が 宿 ることで<br />

ある. 第 2 は, 利 己 および 自 力 を 重 んじる 精 神 か<br />

ら, 利 他 および 自 力 を 重 んじる 精 神 へと 展 開 し<br />

て, 最 終 的 には 利 他 および 他 力 を 重 んじる 精 神 が<br />

組 織 メンバーに 宿 ることである.<br />

ここで, 利 己 と 利 他 ,そして 自 力 と 他 力 につい<br />

ての 整 理 をしておく. 利 己 と 利 他 は, 誰 のため<br />

に, 何 のためにするのかについての 差 異 である.<br />

利 己 は 自 分 のためであり, 利 他 は 自 分 以 外 のため<br />

である. 利 他 にはさらに 2 つある.1 つが 他 人 の<br />

ためであり,もう 1 つが 誰 のためでもないという<br />

2 つである. 誰 のためでもないというのは, 同 僚<br />

や 顧 客 といった 特 定 の 他 人 のためではなくて, 不<br />

特 定 の 人 もしくは 全 ての 人 のために 掃 除 をすると<br />

いうことである. 誰 のためにやっているのか, 何<br />

のためにやっているのかが 本 人 でさえあまり 明 確<br />

に 認 識 していない 状 態 である. 損 得 勘 定 を 考 えず<br />

に, 特 定 の 目 的 なしに,ただただ 掃 除 をするとい<br />

う 状 態 である.<br />

自 力 と 他 力 は,どのように 掃 除 をするのかにつ<br />

いての 差 異 である. 利 己 と 利 他 が What について<br />

の 差 異 であるのに 対 して, 自 力 と 他 力 の 差 異 は<br />

How についての 差 異 であるとして 区 別 できる.<br />

自 力 は, 自 分 の 力 で 懸 命 に 頑 張 るという 状 態 であ<br />

る.そして 自 分 の 力 を 向 上 するために,さらに 懸<br />

命 に 頑 張 るという 循 環 が 生 まれる. 当 然 , 逆 の 循<br />

環 が 生 じる 危 険 性 もある. 向 上 しないから 頑 張 ら<br />

ない, 頑 張 らないから 向 上 しないという 悪 循 環 で<br />

ある.<br />

一 方 の 他 力 は, 他 人 まかせにするということで<br />

― 28 ―<br />

02_ 大 森 先 生 .indd 28 2008/03/04 19:31:08

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