西ジャワ有機SRI 横山繁樹(JIRCAS) - 国際情報農学研究室

インドネシア 西 ジャワにおける 有 機 SRIの 普 及
― 農 家 、 行 政 、 民 間 の 社 会 ネットワークに 注 目 して―
横 山 繁 樹
( 国 際 農 林 水 産 業 研 究 センター)
研 究 会 J‐SRI 研 究 会
2011 年 7 月 28 日 、 東 大

背 景 ・ 目 的
SRI(System of Rice Intensification)は、 労 働 集 約 的 で 稠 密 な 肥 培 管 理
が 要 求 されるが、 種 籾 ・ 灌 漑 水 ・ 化 学 合 成 資 材 を 大 幅 に 節 約 し 高 収
量 が 期 待 できる 環 境 低 負 荷 型 でプロプアな 技 術 である。 乳 苗 、 疎 植 、
1‐2 本 植 、 間 断 灌 漑 もしくは 潤 土 状 態 の 維 持 、 中 耕 除 草 、 堆 肥 投 入
などを 基 本 原 則 とするが「 緑 の 革 命 」に 代 表 されるパッケージ 技 術
とは 異 なり、 農 家 は 圃 場 環 境 や 資 源 ( 土 地 、 家 畜 、 労 働 力 など)の
保 有 状 況 に 応 じて 独 自 の 工 夫 を 繰 り 返 しており 各 国 で 現 場 レベル
の 改 良 が 同 時 進 行 で 進 められている[1]。
インドネシアでは1997 年 に 紹 介 されて 以 来 、 国 際 機 関 、 行 政 、 国 内 外
の 民 間 企 業 、NGOなどの 多 様 なアクターが 普 及 に 取 り 組 んでいる。
特 に 西 ジャワでは 有 機 農 業 推 進 の 行 政 的 後 押 しもあり、NGO 主 導
による 有 機 SRIの 普 及 が 進 み、 民 間 企 業 のサポートと 指 導 によって
有 機 米 とフェアトレードの 国 際 認 証 を 取 得 してアメリカやEUへ 輸 出
する 農 民 組 合 も 登 場 した。 本 稿 はその 経 緯 を、 農 家 、 行 政 、 民 間 セ
クターの 関 係 性 と 役 割 に 焦 点 をあてて 紹 介 する。 各 関 係 機 関 への
聞 き 取 り 調 査 は2011 年 6 月 に 実 施 した。

Social Networking of Certified Organic Farmer Group in West Java,
Indonesia
当 初 の 仮 説
↓
Malaysian
要 修 正 Company
Nippon Koei
Intern’l
Lotus Foods
US
Dept. Ag.
ICRR
District i t ag. office
National
Public sector
Private sector
IPB
Extension center
NGO
Fair Trade
Certif. Authority
Bloom Agro
JKT
NOSC
ALIKSA
Organic
Certif. Authority
Farmer Group
Local

Survey Site
Kabupaten Tasikmalaya, Propinsi Jawa Barat, Indonesia
(190‐200km East of Jakarta)
Kb. Tasikmalaya

対 象 地 域 と 農 民 組 合 の 概 況
調 査 対 象 は 西 ジャワ 州 タシクマラヤ 県 のシンパティック 農 民 組 合 連 合
(GAPOKTAN)で、2008 年 設 立 、2011 年 6 月 現 在 で25 組 合 1,909 名 から 構 成
され、 地 域 的 には 同 県 全 39 郡 のうち 北 部 の8 郡 におよんでいる。 同 県 の 年
間 降 水 量 は 約 2600mm(2009 年 )、 降 雨 のパターンは 大 まかに、10 月 ‐3 月
を 雨 期 (250mm 以 上 / 月 )、4 月 ‐6 月 を 少 雨 期 (150mm/ 月 )、7 月 ‐9 月 を 乾 期
(50mm 以 下 / 月 )と 分 けることができる。 対 象 地 域 8 郡 の 水 田 稲 作 の 概 要
(2009 年 )を 県 統 計 によって 確 認 すると、 水 田 面 積 :11,397ha、 土 地 利 用
率 :196%、モミ 収 量 :6.4t/haである。
これに 対 して 対 象 組 合 は2010 年 実 績 で、 認 証 対 象 水 田 は292.24ha(1 24ha(1 戸 当 平
均 0.15ha、 最 小 0.05ha、 最 大 0.50ha)、 土 地 利 用 率 は258%(3 期 作 12 組 合 、
2 期 作 13 組 合 )である。 地 域 の 平 均 的 水 田 耕 作 面 積 が0.3haであることを
考 慮 すると、 水 利 条 件 の 良 い 圃 場 で 選 択 的 ・ 集 約 的 に 有 機 SRIが 採 用 され
ているといえる。また る 収 量 は 平 均 で6‐7t/haと 地 域 とほぼ 同 水 準 であるが、
農 家 ごとに 見 ると3t/haから10t/haまで 幅 が 大 きい(2010 年 、 組 合 提 供 資
料 )。 有 機 認 証 取 得 の 条 件 として 全 組 合 員 は 有 機 SRIの 基 本 原 則 を 励 行 し
ているはずなので、 同 技 術 が 圃 場 条 件 や 技 術 差 に 大 きく 影 響 されること
がうかがわれる。また 認 証 米 の 生 産 量 約 4,900tに 対 して 販 売 実 績 は 約
100t( 精 米 歩 留 は50‐60%)、9 割 が 輸 出 向 け。

Monthly rainfall, Kab. Tasikmalaya, 2009
(Dalam Angkat Tasikmalaya 2010)

Kc. Sukaresik
Kc. Sukahening
Kc. Cisayong
Kc. Cigalontang
Kc. Salawu
Kc. Sukaraja
Kc. Manonjaya
Kc. Cineam

1 準 備 段 階 (1992 年 ‐2000 年 )
SRI 普 及 の3 段 階
SRI 普 及 が 成 功 した 地 域 の 共 通 点 として 農 民 学 校 (Farmer Field School: FFS)
と 称 される 参 加 型 普 及 手 法 でIPMの 普 及 が 先 行 していること 指 摘 されて
いるが[1]、 対 象 地 域 も 例 外 ではない。
タシクマラヤ 県 にFAOプロジェクトの 一 環 としてIPMが 導 入 されたのは1992 年
である。 同 プロジェクトに 参 加 し、アグロエコロジカル・アプローチに ロジカル アプロ 感 銘
を 受 けこれまでの 肥 料 ・ 農 薬 多 投 型 の 技 術 指 導 によって 圃 場 生 態 系 が
危 機 に 瀕 しているとの 認 識 をもった3 名 の 技 術 系 職 員 (2 名 は 農 業 省 、1 名
は 県 農 業 部 )と1 名 の 農 家 が、 独 自 の 研 修 教 材 (Ekologi Tanah: Soil
Ecology)を 作 成 し 同 県 内 を 中 心 に 自 主 的 に 普 及 活 動 を 始 めた。FAOプロ
ジェクトは2000 年 に 終 了 しその 後 資 金 的 補 助 は 途 絶 えたが、この 活 動 は
2002 年 まで 続 けられた。

SRI 普 及 の3 段 階
2 導 入 期 (2000 年 ‐2005 年 )
農 業 省 職 員 の1 名 がNGOの 資 金 で2000 年 にアメリカで 技 術 研 修 を 受 ける
機 会 を 得 、コーネル 大 学 アポフ 教 授 からSRIについて 学 んだ。 同 時 期 に 他
のメンバーもSRIの 情 報 は 得 ていたので、 彼 の 帰 国 後 直 ちに 研 修 メニュー
にSRIを 取 り 入 れた。2003 年 には 農 家 メンバーが 全 国 優 良 農 漁 業 者 連 絡
会 (Keompok Kontak Tani Nelayan Andalan: KTNA)の 県 代 表 に 選 ばれた。
この 立 場 を 利 用 して、 県 の 全 39 郡 の 代 表 農 家 に3 日 間 のIPM‐SRI 研 修 を 招 待
した。 県 農 業 事 務 所 の 会 議 室 が 研 修 所 兼 宿 泊 所 として 提 供 され 食 事 は
自 前 というこの 招 待 に28 名 が 参 加 した。 農 民 学 校 でIPM 研 修 を 経 験 して
いた 農 家 も 多 く、アグロエコロジカル・アプローチとしてのSRIは 比 較 的 抵
抗 なく 受 け 入 れられた。この 研 修 を 契 機 に 県 内 広 域 にSRIの 情 報 は 伝 え
られた。

SRI 普 及 の3 段 階
3 定 着 期 (2006 年 ‐))
2006 年 に 他 の1 名 の 農 業 省 職 員 が 日 本 のコンサルタント 会 社 の 資 金 援 助
を 得 て、 有 機 SRI 研 修 ・ 普 及 を 目 的 としたNGOを 設 立 した。また 県 は 州 政
府 の 健 康 ・ 教 育 ・ 貧 困 削 減 政 策 の 一 環 として「 有 機 稲 作 振 興 」を 打 ち 出 し
有 機 SRIを 推 奨 技 術 に 採 用 、2006‐07 07 年 に 堆 肥 製 造 のためのチョッパー、
ミキサー、 堆 肥 舎 、 家 畜 ( 牛 、 山 羊 ) 等 の 補 助 を 行 った。 以 上 のような 普 及
活 動 、 政 策 支 援 の 結 果 、2008 年 に 農 家 メンバーが 代 表 となるシンパ
ティック 農 民 組 合 連 合 が 設 立 された。 設 立 当 初 は8 郡 28 農 民 組 合 、 全 組
合 員 数 は2,333 名 におよんだ。その 後 ジャカルタに 本 拠 を 置 く 食 品 流 通 業
者 の 強 力 な 指 導 と 支 援 によって2009 年 にIMO(スイスのオーガニック 認 証
機 関 )から 有 機 米 およびフェアトレードの 認 証 を 取 得 、アメリカのフェアト
レード 食 品 会 社 への 輸 出 が 実 現 し、その 後 EU、マレーシア、シンガポー
ルへも 取 引 が 広 がっている。