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冬の間に凍土を剥ぎ取れ! 自然凍土剥ぎ取り法による土壌 ... - 東京大学

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農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

速 報<br />

冬 の 間 に 凍 土 を 剥 ぎ 取 れ!<br />

自 然 凍 土 剥 ぎ 取 り 法 による 土 壌 除 染<br />

東 京 大 学 大 学 院 農 学 生 命 科 学 研 究 科<br />

溝 口 勝<br />

要 旨<br />

飯 舘 村 の 冬 は 厳 しい。 雪 が 少 なく 気 温 が 低 いために 冬 季 に 土 壌 が 凍 結 する。しかしそれ<br />

が 放 射 性 セシウムで 汚 染 された 土 壌 を 除 去 するのに 都 合 が 良 い。 現 場 実 験 により、 自 然 凍<br />

結 した 土 壌 ( 凍 土 )を 剥 ぎ 取 ることで 地 表 面 の 放 射 線 量 が 1.28μSv/h から 0.16μSv/h に<br />

低 下 することが 確 認 できた。 飯 舘 村 の 土 壌 除 染 は 冬 季 に 実 施 するのが 効 果 的 である。<br />

1.はじめに<br />

福 島 第 一 原 発 から 放 出 された 放 射 性 セシウムは 土 壌 表 層 に 蓄 積 されている。 福 島 県 郡 山<br />

市 内 における 未 攪 乱 の 水 田 土 壌 では、 表 層 5cm 以 内 に 90%の 放 射 性 セシウムが 残 存 してい<br />

るとの 報 告 がる。( 塩 沢 ら,2011)こうした 現 状 を 踏 まえ、これまでマグネシウム 系 固 化 剤<br />

を 土 壌 表 面 に 吹 き 付 け 表 土 を 剥 ぎ 取 る 農 地 除 染 技 術 が 提 案 されている。( 農 工 研 ,2011)し<br />

かしながら、 飯 舘 村 では 雪 が 少 なく 気 温 が 低 いために 冬 季 に 土 壌 が 凍 結 する。 自 然 凍 結 し<br />

た 土 壌 ( 凍 土 )はアスファルトのように 固 いために、 数 cm の 厚 みの 凍 土 であれば 地 元 の 農<br />

家 が 所 有 する 重 機 で 容 易 に 剥 がすことができる。 本 論 文 ではこの 方 法 による 現 地 実 験 の 結<br />

果 について 報 告 する。<br />

2. 方 法<br />

2012 年 1 月 8 日 10:00 から 約 1 時 間 、 福 島 県 相 馬 郡 飯 舘 村 佐 須 字 滑 の 水 田 土 壌 で 重 機 (バ<br />

ックホー)による 凍 土 の 剥 ぎ 取 り 実 験 を 実 施 した。( 写 真 1)このとき 水 田 土 壌 は 約 5cm 程<br />

度 凍 結 していた。 凍 土 の 剥 ぎ 取 り 前 後 の 地 表 面 のガンマ 線 量 を 鉛 コリメータ 付 のシンチレ<br />

ーションサーベイメータ(Aloka TCS-171)で 測 定 した。( 写 真 2)また、12 月 4 日 から 現<br />

地 の 気 温 と 5cm, 10cm ,15cm 深 さの 地 温 ・ 土 壌 水 分 量 をセンサー(EHT, 5TE;デカゴン 社<br />

製 )とデータロガーにより 1 時 間 間 隔 で 測 定 した。<br />

3. 結 果<br />

(1) 現 地 の 気 温 と 地 温 ・ 土 壌 水 分 量 の 変 化<br />

図 1は 12 月 4 日 から 1 月 7 日 までの 実 験 区 の 気 温 変 化 である。 図 中 には 初 めて 氷 点 下 を<br />

記 録 した 12 月 6 日 からの 積 算 寒 度 の 値 (F: 右 軸 )も 示 した。 図 2は 5cm, 10cm ,15cm の<br />

地 温 と 土 壌 水 分 量 ( 体 積 含 水 率 )の 変 化 である。センサーの 特 性 上 、 地 温 は±0.5cm の 範 囲


農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

の 温 度 を±0.1℃の 精 度 、 土 壌 水 分 は±2cm の 範 囲 を±0.03 程 度 の 精 度 で 測 定 される。5cm<br />

深 さの 地 温 が 1 月 1 日 の 2:00 頃 に 0℃に 達 し、 土 壌 水 分 量 は 同 日 の 6:00 には 0.2 程 度 に 低<br />

下 していることから、 少 なくとも 1 月 1 日 には 5cm まで 土 壌 が 凍 結 していたことがわかる。<br />

写 真 1 飯 舘 村 佐 須 字 滑 の 水 田 における 凍 土 剥 ぎ 取 り 実 証 実 験 (2012 年 1 月 8 日 )<br />

写 真 2 鉛 コリメータ 付 ガンマ 線 計 による 地 表 面 の 放 射 線 量 測 定


農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

図 1 実 験 区 の 気 温 と 積 算 寒 度 の 変 化<br />

図 2 実 験 区 の 地 温 と 土 壌 水 分 量 の 変 化


農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

(2) 凍 土 の 剥 ぎ 取 り 前 後 の 地 表 面 のガンマ 線 量 の 変 化<br />

バックホーにより 20 分 程 度 で 4m x 5m の 面 積 の 凍 土 を 効 率 的 に 剥 ぎ 取 ることができた。<br />

写 真 3は 板 状 の 塊 のまま 重 機 で 剥 ぎ 取 られた 凍 土 である。 地 表 面 のガンマ 線 量 は 凍 土 の 剥<br />

ぎ 取 り 前 後 で 1.28μSv/h から 0.16μSv/h に 低 下 した。 剥 ぎ 取 られた 凍 土 と 剥 ぎ 取 り 後 の<br />

地 表 面 の 未 凍 土 の 放 射 能 はそれぞれ 23760(Bq/kg)と 2670(Bq/kg)であった。( 暫 定 値 ;<br />

土 の 乾 燥 待 ち)<br />

写 真 3 板 状 の 塊 のまま 重 機 で 剥 ぎ 取 られた 凍 土<br />

4. 考 察<br />

(1) 凍 土 剥 ぎ 取 りの 効 果<br />

地 表 面 の 放 射 線 量 は 劇 的 な 低 下 は、 凍 土 の 剥 ぎ 取 りによって 土 壌 表 層 の 放 射 性 セシウム<br />

が 除 去 できたことを 意 味 する。この 方 法 はマグネシウム 固 化 剤 等 の 人 工 的 な 前 処 処 理 を 必<br />

要 とせず 自 然 の 寒 さに 任 せるだけで 良 いのが 特 徴 である。 前 処 理 に 伴 う 作 業 員 の 被 爆 リス<br />

クも 低 減 させることができきわめて 有 効 な 方 法 といえる。<br />

(2) 凍 土 剥 ぎ 取 りのタイミング<br />

問 題 は 凍 土 剥 ぎ 取 り 作 業 のタイミングである。 凍 土 が 厚 すぎると 肥 沃 な 表 土 を 剥 ぎ 取 り<br />

すぎることになる。そのため 現 地 で 最 適 な 凍 土 厚 を 知 る 必 要 がある。これには 簡 易 凍 結 深<br />

度 計 を 農 地 に 埋 設 することで 確 認 できる。 写 真 4はメチレンブルーや 食 紅 を 混 ぜた 水 溶 液


農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

入 りの 試 験 管 を 現 地 に 埋 設 した 試 験 例 である。 凍 土 の 厚 みは 透 明 な 氷 の 厚 みに 一 致 した。<br />

現 地 の 気 温 から 大 まかな 凍 土 厚 を 推 定 することも 可 能 である。ただし、この 推 定 法 はやや<br />

専 門 的 になるので 付 録 として 記 載 しておく。<br />

写 真 4 簡 易 土 壌 凍 結 深 度 計 による 凍 結 深 度 の 測 定 例<br />

(3) 攪 乱 した 農 地 土 壌 の 除 染<br />

飯 舘 村 には 耕 耘 してしまって 表 層 土 壌 の 放 射 性 セシウムが 下 層 土 と 混 ざってしまった 水<br />

田 もある。こうした 水 田 では 凍 土 剥 ぎ 取 りの 効 果 が 低 い。しかしながら、 春 から 夏 にかけ<br />

て 水 田 を 湛 水 し、 代 かきし、 水 を 自 然 に 下 方 浸 透 させれば 放 射 性 セシウムが 吸 着 した 粘 土<br />

粒 子 が 表 層 に 集 積 する。( 溝 口 ,2011)その 状 態 で 次 の 冬 を 待 って 凍 土 を 剥 ぎ 取 れば 効 率 的<br />

に 放 射 性 セシウムを 除 去 できるものと 思 われる。<br />

(4) 水 田 以 外 の 農 地 の 除 染<br />

畑 地 や 牧 草 地 に 関 しても 凍 土 の 剥 ぎ 取 り 法 は 有 効 であろう。ただし、 表 土 の 乾 燥 密 度 は


農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

水 田 に 比 べて 小 さいので 硬 い 凍 土 ができにくい。 冬 前 に 重 機 で 平 らに 転 圧 しておくと、 凍<br />

土 が 均 等 に 形 成 され、 冬 季 の 凍 土 剥 ぎ 取 りの 作 業 効 率 を 高 めることができる。 土 壌 の 凍 結<br />

過 程 では 地 中 の 土 壌 水 分 が 自 然 に 凍 土 中 に 集 積 するが、 土 壌 が 乾 燥 しすぎていると 適 度 な<br />

硬 さの 凍 土 ができない。その 場 合 に 冬 前 に 散 水 して 農 地 を 適 度 な 土 壌 水 分 にしておくこと<br />

良 い。<br />

5.おわりに<br />

自 然 の 寒 さを 利 用 した 凍 土 剥 ぎ 取 り 方 法 が 農 地 土 壌 の 除 染 に 有 効 であることを 現 場 実 験<br />

により 示 した。この 方 法 は 冬 季 にしか 実 施 できない。 春 になると 地 表 面 の 雪 や 凍 土 が 融 解<br />

し、 放 射 性 セシウムを 含 んだ 表 層 土 壌 がドロドロの 過 剰 な 土 壌 水 分 状 態 になる。この 水 分<br />

は 地 中 に 残 る 凍 土 に 行 く 手 を 阻 まれるために 春 先 の 降 雨 により 農 地 から 多 量 に 流 出 するリ<br />

スクがある。こうしたリスクを 回 避 するためにもこの 冬 の 間 における 一 刻 も 早 い 凍 土 剥 ぎ<br />

取 り 法 による 農 地 の 除 染 作 業 が 必 要 である。<br />

謝 辞<br />

本 実 証 実 験 は「ふくしま 再 生 の 会 ( 代 表 : 田 尾 陽 一 / 三 吉 譲 / 大 永 貴 規 )」のメンバーお<br />

よび 飯 舘 村 農 業 委 員 会 委 員 長 の 菅 野 宗 夫 氏 の 協 力 を 得 て 実 施 した。 観 測 機 器 の 設 置 は 東 京<br />

大 学 「 福 島 復 興 農 業 工 学 会 議 ( 代 表 : 久 保 成 隆 教 授 )」の 西 村 拓 氏 に 協 力 してもらった。ま<br />

た、 筆 者 の 飯 舘 村 調 査 旅 費 は 明 治 大 学 「 早 期 帰 村 プロジェクト( 代 表 : 登 尾 浩 助 教 授 )」か<br />

ら 支 援 を 受 けた。これらの 方 々に 記 して 謝 意 を 表 する。<br />

参 考 文 献<br />

塩 沢 昌 ら: 福 島 県 の 水 田 土 壌 における 放 射 性 セシウムの 深 度 別 濃 度 と 移 流 速 度 ,<br />

RADIOISOTOPES, 60, 323-328(2011)<br />

農 林 水 産 省 農 林 水 産 技 術 会 議 : 農 地 土 壌 の 放 射 性 物 質 除 去 技 術 ( 除 染 技 術 )について,<br />

http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/110914.htm (2011)<br />

溝 口 勝 :セシウム 汚 染 緩 和 に 泥 の 性 質 を 生 かせ- 飯 舘 村 で 考 える, 季 刊 地 域 , 7,<br />

pp.87-89(2011)<br />

付 録 : 気 温 を 用 いた 土 壌 凍 結 深 さの 推 定 式<br />

地 表 から 凍 結 前 線 までの 温 度 変 化 が 直 線 的 で、 凍 結 前 線 以 下 の 温 度 が 0℃の 一 定 温 度 に 保<br />

たれていると 仮 定 すると、 凍 結 前 線 における 熱 収 支 は 次 の 微 分 方 程 式 で 表 せる。<br />

θ


農 業 農 村 工 学 会 学 会 誌 「 水 土 の 知 」 投 稿 原 稿 ( 予 定 )<br />

2012 年 1 月 9 日<br />

ここで、: 地 表 面 温 度 ,: 凍 結 深 ,: 凍 土 の 熱 伝 導 率 ,θ: 凍 土 の 体 積 含 水 率 ,: 凍 結<br />

潜 熱 ,: 時 間 である。(ここで、θのないものは Stephan 式 として 知 られている)この 式<br />

は 変 数 分 離 で 簡 単 に 解 くことができる。<br />

<br />

θ 2<br />

したがって、 凍 結 深 は 次 式 で 表 せる。<br />

2<br />

θ <br />

ここで、 凍 結 指 数 ( 積 算 寒 度 )F を 導 入 すると、<br />

<br />

凍 結 深 は 次 式 となる。<br />

2<br />

θ <br />

とθは 凍 土 の 物 性 値 、は 定 数 なので、 凍 結 深 を 単 純 に 凍 結 指 数 の 平 方 根 だけで 推 定 でき<br />

ることになる。 理 論 的 には F は 地 表 面 温 度 から 求 める 必 要 があるが、の 測 定 は 難 しいの<br />

でこれを 気 温 で 代 用 し、ある 程 度 の 誤 差 を 許 容 するパラメータ( 凍 土 の 乾 燥 密 度 や 水 分 量 、<br />

地 表 面 の 熱 伝 達 係 数 に 依 存 )αを 導 入 すると、 凍 結 深 は 現 場 の 気 温 データのみから 推 定 でき<br />

る。すなわち、<br />

α√<br />

凍 結 後 の 剥 ぎ 取 り 作 業 では、 凍 土 と 未 凍 土 の 境 界 が 明 瞭 に 分 かれ、しかも 凍 土 は 適 度 に<br />

板 状 に 破 壊 できる 状 態 になっている 方 が 良 い。 通 常 、 土 壌 凍 結 が 進 行 する 過 程 では 未 凍 土<br />

部 の 土 壌 水 分 が 凍 土 部 に 移 動 し 凍 結 前 線 の 直 下 は 乾 燥 するので、 凍 土 だけを 剥 ぎ 取 り 際 に<br />

は 好 都 合 である。また、αの 定 義 から 考 えると、 凍 結 前 に 適 度 に 均 一 に 踏 み 固 めたり、 散 水<br />

したり、 地 表 面 の 状 態 を 制 御 すると 板 状 の 硬 い 凍 土 を 作 ることができる。

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