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〈全生園の森〉の文献(2) 全生園内雑誌掲載の詩

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〈 全 生 園 の 森 〉の 文 献 (2)全 生 園 内 雑 誌 掲 載 の 詩柴 田 隆 行 、 編田 所 靖 二 「みどり」(『 山 桜 』1948 年 4/5 月 )このさくらが 柳 が 楓 がやがてみんなの心 のふるさとになる寄 辺 ない 旅 愁 の果 しない 病 苦 の窓 から――解 き 放 たれた清 いうたが 詩 がうまれるそこには――ちちの――ははの愛 情 がしたたい杳 い 日 のゆりかごのうたが静 かないこひの 心 にかへって 来 る戦 に 敗 れた 荒 廃 の 地 にふつふつと 芽 生 へたさくらの 柳 の 楓 の戦 に 疲 れ きづついた 僕 等 の 園 へさあみんあで 植 ゑよう僕 等 の 新 しい 息 吹 きをこめてみどりは若 い 心 のふるさとみんなの 忘 れてゐた 夢 が うたが静 かに 抱 擁 されてゐる------石 川 清 澄 「 初 夏 」(『 山 桜 』1948 年 4/5 月 )このみどりしたゝる 山 野 はたれのものあのはてしない 海 原 はたれのもの全 世 界 を 一 瞬 に花 と 化 し緑 と 化 す 神 の 力人 よ あなたの 嘆 きもさることながら神 はこんなにも人 々を 愛 してくれる- 1 -


ゆるやかに 転 る 地 球 をにつこりみつめ太 陽 は 今 没 しようとしてゐる------氷 上 恵 介 「 青 桐 」(『 山 桜 』1950 年 8 月 )疲 れると 池 を 前 に 立 つた 一 木 の 青 桐 に視 線 を 置 いて 憩 ふのが 何 時 か 習 慣 となったこの 寮 舎 に 移 り 住 むことになった 時青 桐 は 芽 をふき 一 点 の 雲 が 雲 を 呼 ぶ 遑 さで成 長 したがその 旺 盛 さは 私 を 悲 しくさせた天 鵞 絨 に 似 た 重 い 葉 は 炎 天 にも 萎 れなかった私 はそれを 限 りなく 憎 しみ肅 肅 と 鳴 る 秋 風 の 洗 礼 に 葉 を 吹 き 飛 ばされた裸 木 をこよなく 愛 した池 の 水 は 青 く 染 りその 中 で 金 魚 が 踊 子 のように 乱 舞 し一 日 それを 猫 が 狙 つて 動 かぬ 日 もあつたたゞ 交 尾 期 の 黄 色 い 空 気 には私 の 神 経 はひどく 疲 れたかさかさに 乾 いた 風 景 の 中 に青 桐 は 針 金 に 似 た 枝 をびゆうびゆうと木 枯 に 悲 鳴 を 上 げる 昨 日 だった今 春 雨 にしとど 濡 れてグリンの 木 の 肌 は 日 にやわらかい微 熱 の 体 温 がその 肌 の 中 に徐 々に 溶 解 されて人 の 詩 がふとそこに 生 れてくるのをじっと 私 は 聞 いている------小 6 伊 藤 芳 明 「つきやま」(『 多 磨 』1954 年 3 月 )朝 つきやまにのぼると、くうきがいい富 士 が 見 えるとなおくうきがいいようだ朝 早 くおきるととくに。------浅 岡 次 郎 「 杉 樹 」(『 多 磨 』1956 年 1 月 )そうですあなたはなにもないくせに、いらだちなど 少 しもないそれでいて、かたときも、 目 を 空 からはなさない、そうです。- 2 -


「 在 る」ということが上 なるものに 責 任 をもつことなら人 の 言 葉 などを 気 にする愚 かな 心 をこそ、かなしめ。------〔 参 考 〕藤 本 松 夫 ( 熊 本 医 療 刑 務 所 )「 白 菊 によせて―― 死 刑 囚 のねがい」(『 多 磨 』1960 年 2 月 )もしも 世 界 の 終 りが明 日 だとしても――私 はこの 庭 の 片 隅 に白 く 咲 く 菊 に水 を 撒 くでしょう――この 菊 の 白 さは私 ――ひとりのものではなく誰 の 眼 にも 白 でありそれだから 私 は水 を 撒 くでしょう――水 を 撒 くと私 と 菊 の 間 には 虹 の 橋 ができその 虹 の 橋 を 渡 って人 は 私 のこの 庭 に 来 るし私 は 人 をたずねるでしょう――だから――私 の 最 大 の 願 いは私 の 白 菊 に 水 を 撒 き私 が―― 私 の 橋 を 渡 って私 のものではない 白 菊 の 為 にも水 を 撒 いてやりたいのです―― 世 界 の 終 りが 明 日 だとしても(34.11.3 文 化 の 日 )------無 名 〔 望 郷 台 から 寮 舎 群 を 見 下 す〕(『 多 磨 』1964 年 9 月 )望 郷 台 の 上 に 男 が 立 つている富 士 も 上 毛 の 山 々も 雲 に 消 されていたが僅 かに 秩 父 の 山 なみが 平 坦 な 眺 めを 救 つている男 は 古 里 の 方 に 視 線 をおくる見 えないことがわかつていながらその 行 為 をすることで残 してきた 妻 子 とのつながりを 確 め自 分 を 納 得 させようとする目 の 下 の 麦 畑 には 農 夫 が単 調 な 動 作 をくりかえしその 横 を 走 る 街 道 には 自 動 車 が 列 をつくり激 しく 動 いている 社 会- 3 -


大 竹 章 「ある 接 点 」(『 多 磨 』1965 年 12 月 )そのとき、オニごつこのオニに 追 われた 子 供 たちが 駈 けこんできて善 良 な 顔 に 驚 きあわてて 引 返 していつた。ここを 出 てバスに 乗 れば清 瀬 まで 五 分 。だが、 人 びとは 垣 根 があるから 出 ない、のではなく、あるいは出 口 がつくられたからでる、のでもない。なんどもなんども 破 られながら西 武 電 車 にのつても池 袋 で 買 い 物 をしても本 当 の 垣 根 はいつも 先 回 りしていて垣 根 を 破 るためにそこにある。------北 川 光 一 「 鳥 」(『 多 磨 』1967 年 5 月 )鳥 にはここ 以 外 に 住 む 場 所 はなかつた外 界 から 断 たれたここの 風 景 はすべて 絶 望 的 に頭 を 下 に 向 けて逆 さになつていただからここでは朝 の 太 陽 が 西 から 昇 つて 来 る夜 と 昼 のけじめがつかない 暮 らしの 中 で鳥 はいつしか飛 ぶ 習 性 を 忘 れて枝 から 枝 へしがみつくさみしい 業 を覚 えてしまつた頭 上 にはいつも湿 つた 線 香 くさい 地 面 があり鳥 はそれが 嫌 で 時 折流 れる 雲 を 蹴 つては位 置 をかえようとするが徒 労 におわるそんな 日 日 にふと 成 熟 した 記 憶 が- 5 -


骨 を 噛 み忘 れていた 歌 の 一 節 が湧 くこともあるがそれも 声 にはならず喉 で 消 えてゆく鳥 は自 分 の 哀 しい 宿 命 に 耐 えようといつもそのむかし罠 にかかつて 果 てた友 のことなどを 想 い 出 す------伊 東 秋 雄 「 四 角 な 部 屋 で」(『 多 磨 』1968 年 6 月 )常 緑 喬 木 の 一材 は 欅 に 似 て芳 香 を 放 つ木 より 樟 脳 を 採 ると詳 解 漢 和 字 典 にあるその 楠 の 幼 木 の 葉 が寒 さと 水 分 の 不 足 からかそれとも 浅 い 鉢 の 中 での窮 屈 なたたずまいの 故 か茶 褐 色 の 枯 々とした 気 配 に落 胆 もしたがそつとそのままにして春 を 待 つたやがてさくらの 莟 もそろそろ 膨 らんで来 ようという 三 月 末 頃枯 々の 楠 の 黄 葉 に一 つの 異 変 が 起 つた幾 筋 ものみどり 色 の 線 が 走 り葉 茎 が 赤 緑 色 に 息 吹 き脈 うつているのを眼 のあたりにして私 の 心 は 明 るさとよろこびと忘 れていた 自 然 のいとなみの偉 大 で 繊 細 なことを今 更 のように噛 みしめた四 角 な 部 屋 とストーブとテレビと 机 とスタンドと冷 たい 硝 子 窓 の 暮 らしの 中 で私 は私 を 失 ないかけていた――(1968・4)- 6 -


------川 村 清 ( 全 生 分 教 室 6 年 )「さくら」(『 多 磨 』1970 年 2 月 )ぼくは、さくらの 木 にのぼって、おまえを 折 る。おまえはいたいか。動 けないので、 簡 単 に 取 られるから、くやしいか。おまえは、 花 をさかすから、女 じやないのかあ。おまえの 年 はいくつだ。きれいだから、 二 十 才 から 三 十 才くらいかなあ。おまえをかぐと、なんともいえない 甘 い 香 りがする。たべたらどんな 味 がするかなあ。とおくから 見 るときたないが、近 くで 見 るときれいだ。とおくから 見 てもきれいになれ。おまえは、 春 になると、国 民 にもてるなあ。------伊 藤 赤 人 「 鎮 魂 の 森 」(『 多 磨 』1986 年 8 月 )私 がいる 病 棟 の 窓 から「 徒 然 」の 御 歌 碑 のある森 の 一 隅 が 見 える其 処 は いま 晩 年 の安 らぎを 得 た 入 所 者 の静 かな 散 策 の 場 となっている新 緑 をつけた楓 銀 杏 欅 松 などが初 夏 の 太 陽 を 浴 び 風 に 揺 れ幻 想 的 な――光 りのさざめきをつくっているそんな 自 然 の 織 り 成 す光 のさまをじっと 見 ているとその 映 (まばゆ)い 光 景 の 向 こうに―― 伝 説 のように時 の 彼 方 に 過 ぎ 去 った消 えることのない 記 憶 の 中 の暗 い 一 つの 森 が 浮 んでくるかつて その 森 には 厳 しい 掟 があり入 った 者 は 森 から 出 ることを- 7 -


病 棟 の 窓 から 見 える梅 雨 入 り 前 の 六 月 の 森 は 明 るく真 向 いの 躑 躅 が 真 紅 の 花 をいっぱいにつけて 一 際 美 しい森 の 近 くに 巣 があるらしく鳩 笛 のような 声 をひびかせて郭 公 が 啼 いている窓 を 開 けるとグラウンドで 野 球 をしている若 者 たちの 白 い 影 が木 の 間 隠 れに 躍 び 交 っているのが 見 える緑 の 木 々に 溢 れた 光 りが今 は 亡 き 療 友 たちの鎮 魂 の 曲 を 奏 でるかのようにさざめきながら若 草 の 上 に 降 りそそいでいる------伊 藤 赤 人 「 銀 杏 」(『 多 磨 』1989 年 10 月 )落 葉 の季 節 になると銀 杏 の 樹 々が一 勢 に黄 色 い 葉 を落 し 初 める療 区 の 森 に公 園 の 中 に歩 道 の 上 に一 面 に 散 り 敷 き地 上 を 金 色 に埋 めつくす― 銀 杏これほどに 激 しくこれほど 華 麗 に 散 る落 葉 樹 も少 ないであろう晩 秋 の 声 に―急 がれるように晴 天 の 風 の 中 を澄 んだ大 気 の 中 を蕭 条 と 降 る雨 の 中 を- 9 -


蝶 のように舞 い 散 る― 銀 杏光 りと 影 の織 りなすその 光 景 はまさに―巧 まざる 自 然 の美 しさである「 黄 落 」と 云 う季 語 があるがそれは 銀 杏 の 名 に最 も 相 応 しい季 節 の形 容 詞 であろうあの 金 色 を纏 った無 数 の 葉 の屍 たちと沢 山 の小 さな 球 形 の命 の 実 が地 に 還 ってゆくそれはまた命 の 終 焉 と始 まりを 告 げる哀 しくも華 やかな回 帰 への儀 式 でもある一 つの季 節 の 中 で光 と 影 と生 と 死 の華 麗 なパホーマンスを演 じて 見 せてくれる晩 秋 の吟 詠 詩 人 ―それが 銀 杏 である------船 城 稔 美 「 木 々たち」(『 多 磨 』2001 年 6 月 )朝- 10 -


枝 を 伸 ばし わが 手 首 ほどの 木 になって緑 化 部 の 人 らが肥 をやり 水 をやりみるみるうちに 大 きくなって一 抱 えもある 桜 樹 となったやがて枝 々の 先 に 薄 紅 の 莟 を 持 つようになった大 きくなった 桜 の 木 は並 木 に 移 され他 の 桜 の 木 とともにますます 大 きくなっていったあの 頃 も桜 の 花 が 咲 くのを 楽 しみに 待 った薄 緑 の 葉 をつけた 桜 樹 の並 木 の 道 を 行 きつ 戻 りつし「 早 く 咲 いておくれ」わたしはひそかに 言 ったものだった枝 を 直 し 姿 を 整 え美 しく 振 り 仰 ぐほどになった 桜花 をつけた 桜 は 年 毎 にきれいになっていくだが私 は 盲 いとなり桜 の 花 もその 色 も目 底 に 淡 く 残 るだけとなったあの 幼 かった 桜 の 木その 美 しさは 広 く 知 られるようになり多 くの 人 達 が 集 う 名 所 となったまた 花 咲 く 季 節 がめぐってくる私 は 白 杖 をついて 並 木 道 を 歩 こう桜 よ私 とともにここで 生 きた 桜 よたくさんの 人 の 目 を 楽 しませておくれそして全 生 園 と 私 たちを 語 り 継 いでおくれ------長 谷 川 と 志 五 行 歌 (『 多 摩 』2003 年 11 月 )車 イスで久 しぶりの 外 出白 木 蓮 が花 を咲 かせていた病 棟 から車 イスでゆくセンターの庭 一 面 に青 い 花- 12 -


------飯 川 春 乃 「 全 生 の 森 」(『 多 磨 』2003 年 11 月 )まだ 明 けやらぬ 全 生 の森 に 聞 こえる 鳥 の 声細 く 優 しきその 声 を聞 きつ明 け 行 く空 を 仰 ぎぬ貞 明 皇 后 が 残 されたつれづれの 御 歌 を朝 な 朝 な心 静 かに 歌 うひとり 歌 う胸 の 中 で 歌 うその 御 歌 碑 の片 辺 に 小 さき 池 ありて目 高 あめんぼ 蝶 々 飛 んで夏 ははや 水 面 に 揺 れるこの 目 で 見 たし夏 を 見 たし------児 島 宗 子 「 花 に 寄 せて」(『 多 磨 』2005 年 4 月 )明 るく 暖 かい 陽 光 漲 る 中 にほころびはにかむように 微 笑 みかける 如 く 咲 くさくら楚 々とやさしく 清 らかに 汚 れを 知 らぬ 少 女 のように 咲 くさくら 花嫋 々 と 吹 く 風 に もお の のき 震 え て 一 片 二 片 三 片 〔 ひ と ひ ら ふ た ひ ら み ひ ら 〕 花 び らが 揺 れるその 風 情 可 憐 詩 心 と 抒 情 が 湧 く「 花 よ 摘 ま な いか ら 手 折 ら ない か ら 黙 って いな いで 心 あ れば 話 を しよ うよ 人 生 の 悩みを 生 きる 楽 しさを、 愛 と 美 と 夢 と 未 来 を 語 ろうよ」花 よ、しみじみと 語 ろうよ少 年 の 日 の 淡 い 初 恋 に も 似 て 心 が 弾 み 浮 き 浮 き と 胸 がと きめ く 切 々 なる 思 い 泡 沫のように、 降 ってはすぐ 消 える 春 雪 のように 儚 い 沓 い 日 の 初 恋 を 思 ふ絢 〔けん〕を 競 ふごとく 咲 き 匂 ふ 花 万 朶 〔ばんだ〕の 花 さくら短 い 命 の 生 を 楽 しみ 青 春 を 謳 歌 する 人 の 世 の 華 、 豪 華 絢 爛 と 咲 く、さくらの 花さ んさ んと 降 り 注 ぐ 光 の 中 静 か にと ばり の 下 りた 夜 、 昼 間 のよ うに 月 の 照 り 輝 く 夜静 かにほのかに 馥 郁 と 香 りを 漂 わせている 花高 貴 な 人 の 匂 ひにも 似 て 品 よく 無 限 の 愛 のごとき 花 よ香 水 の シャ ネ ルの よう に 人 を 陶 酔 さ せ 恍 惚 と して 桃 源 郷 に いざ なふ そ の 美 その 香りその 魅 力 幻 想 的 に 夢 を 追 ひ 遊 ぶ 私 は 花 の 虜 になる人 も 花 も 輝 く 時 は 美 しい私 を 包 むように 絶 え 間 なく 花 は 散 る- 13 -


惜 しまれて 散 り 急 ぐ 花 大 地 に 落 ちて 花 の 絨 毯 になる真 白 く 薄 ピンク 色 に 地 を 染 め 道 を 覆 ふ花 の 絨 毯 踏 み 歩 くには 惜 しく 掌 に 掬 ひてはそっと 吹 く両 の 手 に 掬 ひては 撒 き 散 らす童 心 にかへり 花 にたわむれる 蝶 のように 私 も 蝶 になってたわむれる憂 ひ 多 く 孤 愁 の 私 人 生 に 打 ちひしがれた 孤 独 を 慰 めておくれよ さくら 花 よ人 生 の 負 け 犬 にな って 考 え 疲 れ 憂 愁 深 く 生 きる こと に 疲 れた 私 を 癒 す ごと 全 身 を 抱 容するごとく 静 かに 音 もなく 降 りそそぐ 花時 には 烈 しく 吹 雪 のごとく 風 に 舞 ひ 散 り 乱 舞 する非 情 なる 風無 惨 に も 冷 た い 雨 に 濡 れそ ぼち 泣 いて いる よう な 花 から 滴 り 落 ち る 雫 花 の 雫 ピンクの 花 の 涙 が 光 り 落 つ咲 くときも 散 るときも 花 は 美 しく 魅 力 的花 は 旬 とと も に 咲 き 散 り 時 の 流 れ のま まに 千 変 万 化 に 短 い 命 を 終 る世 〔うつつ よ〕は 非 情 ・ 諸 行 無 常 だ花 の 絨 毯 の 上 に 呆 然 と 佇 ちつくし 言 葉 なく 絶 句 する短 い 花 の 命 をしみじみと 哀 しむ花 の 儚 さ 哀 れさを 思 ふ人 に も 花 にも 現------児 島 宗 子 「いのち」(『 多 磨 』2007 年 2 月 )夜 の 明 けた 気 配 に 布 団 から 抜 け 出 して縁 側 の 玻 璃 戸 を 開 く静 かに 眩 しく 朝 日 〔が〕 上 がってゆく今 日 も 生 きていた 喜 びが今 日 も 生 きられる 嬉 しさに心 が 明 るく 弾 む生 きていることが 実 感 になって 命 が 躍 動 するそれなりに 小 さな 夢 と 目 的 があるから今 日 も 頑 張 れる一 回 限 りの 人 生 だから 頑 張 る菊 の 小 さい 芽 を 摘 んで用 意 した 鉢 の 砂 に 移 すいつか しっかり 根 を 張 り 葉 を 拡 げる小 さい 菊 の 命 を 培 ひ 育 てることは 楽 しい彩 〔いろ〕 鮮 やかに 繚 乱 と 咲 く 眼 を 見 張 るように 咲 く華 麗 を 競 ひ 合 ふように 香 り 咲 く命 ある 限 り 香 り 咲 き 匂 ふ 花 に 思 ひを 寄 せる花 の 命 は 短 いゆえに 美 しい美 しいゆえに 花 の 命 は 短 いのかも 知 れぬ武 蔵 野 の 雑 木 林 の 木 々は 葉 を 振 るい 落 とし裸 となり 立 っている長 い 冬 の 寒 さや 凍 〔い〕てにも 負 けず風 雪 に 耐 へ 春 を 待 つ真 っすぐに 伸 びた 幹 四 方 に 拡 がる 枝 々春 を 待 ち 侘 びて 命 を 育 て 養 ふ- 14 -


力 を 蓄 るその 強 さ 逞 しさに 拍 手 をおくる頑 張 れ 頑 張 れと春 の 息 吹 がする 足 音 がする明 日 の 日 のために 訪 れる 春 の 日 のために裸 木 は 命 を 養 い 力 を 蓄 る------神 山 守 児 「 自 由 を 得 た 花 園 」(『 多 磨 』2010 年 8 月 )都 会 の 片 隅 、 木 々の 間 に 小 さな 花 園 が 点 在 する隔 離 と 差 別 との はざまに 小 さな 花 園この 花 園 は 行 く 年 月 咲 き 誇 れるか個 々の 分 身 木 を 残 し 花 を 愛 し ねこを 愛 し人 を 愛 し 家 族 を 思 い 絶 望 しながら 五 十 年そして、 夢 を 見 ながら 五 十 年あと 十 年 は 持 たない 悲 しい 淋 しい 悔 しい 花 園老 い 行 く 人 々に 生 きる 喜 びと 希 望 を 与 えて 咲 き 誇 る人 は 言 う 雲 上 の 山 に 咲 く「 花 の 谷 」という 花 園 があると高 地 で 人 々の 目 に なかなか 触 れない 場 所 らしい私 は 園 の 花 園 を 全 部 持 って 花 の 谷 に 行 きたい亡 き 友 よ 花 の 谷 で 再 会 をたのしみに------相 田 淳 「 花 見 」(『 多 磨 』2012 年 7 月 )さくらの 花 の 見 せ 場 にて蝶 が 飛 ぶ 日 ののどかさの酒 のむ 人 の 集 まりに己 はさびし 何 故 か若 さはもはや 今 はなく過 ぎて 終 りの 事 なればいつ 死 の 時 の 花 びらの如 くむかえる 無 常 なりすべては 空 のうつし 世 の苦 楽 にありて 咲 けばこそ誰 をうらむもその 迷 い断 ち 切 るすべのいづこかなさくらの 花 の 絶 頂 のむしろにありてわらう 客ともに 老 いればいたずらなあらそいを 捨 てようもよし- 15 -

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