03.04.2017 Views

-1-

L3K144

L3K144

SHOW MORE
SHOW LESS

You also want an ePaper? Increase the reach of your titles

YUMPU automatically turns print PDFs into web optimized ePapers that Google loves.

デガーの 系 譜 に 連 なることは 明 らかである 25 。だが、その 一 方 で、ナンシーはあくまでもキリスト 教 という 枠<br />

組 みを 自 らの 思 考 の 問 題 構 成 として 堅 持 している 点 も 忘 れてはなるまい。<br />

すでに 1987 年 「 神 的 な 様 々の 場 」 26 の 第 4 断 章 において、ナンシーは、ハイデガーの「 最 後 の 神 」(『 哲 学 へ<br />

の 寄 与 論 稿 』 所 収 )に 言 及 しながら、「 最 後 の 神 」とは、 時 系 列 に 最 後 に 位 置 し、 他 の 神 々の 系 譜 を 閉 じる 神<br />

ではない、とし、 到 来 すべき、あるいは 消 滅 すべき、 最 後 の 神 が 依 然 として 存 在 するということだ、と 指 摘 し<br />

た 上 で Wink に 着 目 して 考 察 を 展 開 している(DLD 23)。51 の 断 章 からなるこのテクストは、レヴィナスをハ<br />

イデガーと 結 びつけて 考 察 するくだりなどによっても、たいへん 興 味 深 いのだが、ここではハイデガーへの 言<br />

及 にのみ 絞 ることにする。<br />

Wink はフランス 語 には 適 切 な 訳 語 が 見 つからない 語 であるが、ナンシーはこれを faire signe(サインを 送 る、<br />

仕 草 をする、 記 号 をする)とパラフレーズする 27 。 到 来 するのであれ、 退 去 するのであれ、 神 の 通 過 、 束 の 間<br />

の 現 前 がシーニュをなす、とした 上 で、 次 のようにコメントする。<br />

神 はその 本 質 的 存 在 様 態 をウインクの 中 に 持 つ、 言 い 換 えれば、「サインを 送 り」、 呼 びかけ、 招 き、 導 き<br />

寄 せ、あるいは 誘 うためになされる 仕 草 の 中 、 目 配 せ、 手 振 りの 中 にある。DLD 24<br />

さらに 第 14 断 章 では、「 神 とは 何 か」という 問 いが、 祈 りを 欠 いた 人 間 、 神 的 な 名 を 欠 いた、さらに 言 えば、<br />

神 を 欠 いた 人 間 の 問 いであり、それこそがヘルダーリンの 問 いであり、ハイデガーはこの 詩 人 の 問 いを 省 察 し<br />

ようと 試 みた 上 で、それを 参 照 しつつ 述 べる 28 。<br />

ハイデガーはこう 書 いている「〈 不 可 視 なもの〉は、 自 らがそうである 未 知 のもののままに 留 まるために 贈<br />

り 与 えられる」と。 神 とは 何 か。 未 知 のままに 留 まろうとする 者 。 神 とは、「 我 々の 傍 らにあろうとする」<br />

ヘーゲル 的 な〈 絶 対 者 〉ではない。DLD45<br />

この 二 つの 例 にも 端 的 に 示 されるように、「キリスト 教 の 脱 構 築 」という 問 題 構 成 においてもハイデガーは 随<br />

所 で 参 照 されている。とりわけ、 神 なき 世 界 を 単 に 人 間 化 しようとする 思 想 への 反 論 としても、ハイデガーは<br />

召 喚 される。 人 間 中 心 主 義 は 存 在 -( 無 )- 神 論 の 構 築 をなんら 変 えなかったし、 人 間 性 という 原 理 にふさわし<br />

い 位 置 に 自 らを 高 めることもなかったと、ハイデガーを 援 用 しながら 断 じるのである 29 。<br />

もちろん、ここでも 全 面 的 な 賛 同 という 訳 ではなく、たとえば、 悪 や 罪 に 関 してはいくつもの 留 保 が 付 けられ<br />

る。たとえば、ナンシーによれば、 罪 に 関 する 条 件 の 真 理 は、 単 なる 過 失 の 償 いではなく、 贖 罪 rachat へと 通<br />

じる。 神 は 救 済 によって、 人 間 が 罪 と 共 に 負 ってきた 負 債 を 帳 消 しにするのだが、この 負 債 とは 自 己 それ 自 体<br />

の 負 債 に 他 ならない。その 意 味 で「 罪 とは、 実 存 そのものが 負 債 を 負 っていることだ」とナンシーはまとめ、<br />

25 ナンシー 自 身 の 次 のような 説 明 を 参 照 。「「 脱 構 築 」はその 起 源 を、この 語 が 登 場 する『 存 在 と 時 間 』のテクストのなかにもってい<br />

ることを 改 めて 考 慮 に 入 れるならば、「 脱 構 築 」には 次 のような 特 殊 な 点 があります、つまり、それは 伝 統 の 最 終 状 態 なのです---- 伝<br />

統 全 体 を 我 々へと、またわれわれを 介 して、あらためて 伝 達 することとしての 最 終 状 態 なのです。『 脱 閉 域 キリスト 教 の 脱 構 築 1』<br />

( 大 西 雅 一 郎 訳 、 現 代 企 画 室 、2009 年 ), p. 293. La Déclosion (Déconstruction du christianisme, 1), Galilée, 2005,p. 215. 以 下 DDC と 略<br />

記 。<br />

26 『 神 的 な 様 々の 場 』( 大 西 雅 一 郎 訳 、ちくま 学 芸 文 庫 、2008 年 )Des lieux divins, Mauvezin, TER, 1997. 以 下 、DLD と 略 記 。<br />

27 ナンシーは 同 じ 問 題 を「 神 的 なウインクについて」 « D’un Wink divin »(『 脱 閉 域 キリスト 教 の 脱 構 築 1』 所 収 )で 再 び 取 り 上 げて<br />

いる。<br />

28 ヘルダーリンを 論 じた「 詩 人 の 計 算 」では、ハイデガーによる 解 釈 にはあえて 触 れられない。その 理 由 をナンシーは 注 の 形 で<br />

記 している。『 神 的 な 様 々の 場 』( 大 西 雅 一 郎 訳 、ちくま 学 芸 文 庫 、2008 年 )p. 247 。<br />

29 「 無 神 論 と 一 神 教 」(『 脱 閉 域 キリスト 教 の 脱 構 築 1』 所 収 )DDC 41。<br />

-10-

Hooray! Your file is uploaded and ready to be published.

Saved successfully!

Ooh no, something went wrong!