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本邦産陽生低木種の種子発芽および芽生え定着過 ... - 河川環境管理財団

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本 邦 産 陽 生 低 木 種 の 種 子 発 芽 および 芽 生 え 定 着 過<br />

程 における 土 壌 環 境 ストレス 反 応 の 遺 伝 的 差 異 の<br />

解 明 - 河 岸 急 傾 斜 地 の 植 生 工 技 術 の 改 善 -<br />

要 旨<br />

1.はじめに<br />

2. 試 験 の 設 計<br />

2.1 種 子 採 取 と 発 芽 試 験<br />

2.2 野 外 における 播 種 試 験<br />

3. 種 子 発 芽 と 実 生 の 成 長<br />

3.1 環 境 制 御 下 での 種 子 発 芽 特 性<br />

3.2 実 生 の 初 期 成 長<br />

3.3 実 生 の 成 長 持 続 性<br />

3.4 実 生 の 枝 分 岐<br />

4. 土 壌 条 件 に 対 する 実 生 の 成 長 反 応 の 樹 種 間 変 異<br />

4.1 葉 の 光 合 成 関 連 特 性<br />

4.2 実 生 の 成 長 量<br />

4.3 地 上 部 および 地 下 部 の 現 存 量 構 成 の 樹 種 間 差<br />

5.タニウツギの 利 用 における 基 礎 的 要 件<br />

5.1 種 子 の 採 取 と 発 芽 試 験<br />

5.2 種 子 発 芽 に 影 響 する 諸 要 因<br />

6. 総 合 考 察<br />

6.1 種 子 発 芽 特 性 と 播 種 工<br />

6.2 実 生 の 初 期 成 長 と 播 種 工 における 早 期 地 表 被 覆 能 力<br />

6.3 土 壌 条 件 に 対 する 実 生 の 成 長 反 応 の 重 要 性<br />

6.4 タニウツギ 実 生 の 特 異 な 成 長 特 性<br />

6.5 タニウツギの 種 子 採 取 と 播 種 にあたって<br />

6.6 タニウツギ 株 の 更 新<br />

引 用 文 献<br />

国 立 大 学 法 人 岩 手 大 学 農 学 部<br />

橋 本 良 二


要 旨<br />

河 岸 やその 周 辺 では 急 傾 斜 地 が 生 じ 斜 面 緑 化 が 求 められるが、その 際 有 用 と 見 られる、 本 邦 自<br />

生 の 低 木 種 について、 種 子 発 芽 特 性 、 発 芽 当 年 の 実 生 の 成 長 発 達 特 性 、 土 壌 条 件 に 対 する 成 長 反<br />

応 、 地 上 部 地 下 部 の 器 官 成 長 などの 樹 種 間 変 異 を、 室 内 発 芽 試 験 や 野 外 播 種 試 験 により 調 べ、 一<br />

部 樹 種 について 緑 化 利 用 場 面 での 重 要 事 項 について 検 討 した。 供 試 した 樹 種 は、ヤマハギ、ヌル<br />

デ、ノイバラ、ムラサキシキブ、リョウブ、タニウツギである。<br />

1. 室 内 発 芽 試 験 と 野 外 での 播 種 試 験 の 結 果 は 発 芽 力 の 面 で 概 ね 一 致 したが、 反 面 、 室 内 で 高 い<br />

発 芽 力 を 示 したにもかかわらず、 野 外 ではまったく 発 芽 しない 樹 種 が 認 められた。この 原 因 につ<br />

いては、 播 種 直 後 に 生 じる 種 子 乾 燥 による 発 芽 力 喪 失 や 休 眠 誘 導 が 関 係 していると 考 えた。<br />

2. 播 種 後 の 初 期 の 地 表 被 覆 能 力 について、 発 芽 曲 線 と 発 芽 実 生 主 軸 における 開 葉 曲 線 の 経 時 的<br />

変 化 の 面 から 樹 種 評 価 をおこなった。 発 芽 曲 線 については 発 芽 の 開 始 と 発 芽 勢 が、 開 葉 曲 線 につ<br />

いては 開 葉 速 度 が 重 要 な 意 味 をもち、 総 合 評 価 ではヤマハギが 最 も 優 れており、 次 いでノイバラ<br />

であった。<br />

3. 各 樹 種 の 発 芽 当 年 の 実 生 成 長 量 は、 種 子 重 が 決 定 的 に 働 くが、 加 えて 実 生 主 軸 における 開 葉<br />

の 停 止 時 期 の 早 晩 が、 形 成 される 葉 の 量 を 通 して、 大 きく 関 与 していた。 秋 遅 くまで 開 葉 を 続 け<br />

る 樹 種 は、ヤマハギ、ヌルデであった。<br />

4. 発 芽 当 年 の 実 生 において、 実 生 主 軸 からの 一 次 枝 の 分 岐 さらに 一 次 枝 からの 二 次 枝 の 分 岐 に<br />

ついては、 分 岐 の 有 無 や 分 岐 の 程 度 の 面 で 樹 種 により 大 きく 異 なっていた。 最 もよく 分 岐 するの<br />

はヤマハギで、 次 いでノイバラであり、ヌルデでは 分 岐 は 見 られず、タニウツギではきわめてわ<br />

ずかであった。<br />

5. 発 芽 当 年 の 実 生 の 根 系 については、 主 根 型 、 分 根 型 が 見 られたが、 両 タイプの 出 現 傾 向 は 樹<br />

種 により 異 なっていた。ヤマハギでは 主 根 型 と 分 根 型 が 均 衡 していたが、ヌルデでは 主 根 型 のみ<br />

であり、ノイバラでは 主 根 型 が 多 くを 占 めた。 無 性 繁 殖 をおこなうための 特 殊 な 地 下 器 官 につい<br />

ては、いずれの 樹 種 においても 今 回 の 試 験 では 認 められなかった。<br />

5. 発 芽 当 年 の 実 生 の、 土 壌 条 件 に 対 する 成 長 反 応 は、 樹 種 により 明 らかに 異 なっていた。ヤマ<br />

ハギでは、 給 水 により 成 長 が 促 進 されたが、 施 肥 の 効 果 はなかった。 給 水 や 施 肥 に 最 も 敏 感 に 反<br />

応 したのはヌルデあり、タニウツギも 比 較 的 よく 反 応 した。<br />

6. 発 芽 当 年 の 実 生 の 地 下 部 器 官 重 の 比 率 は、 樹 種 によりきわめて 特 徴 的 であり、 個 体 サイズと<br />

の 関 係 では、サイズが 大 きくなるにつれてヤマハギでは 明 らかな 低 下 を 示 し、ヌルデ、ノイバラ<br />

では 一 定 の 変 化 はなかったのに 対 し、タニウツギでは 明 らかに 増 大 した。これらの 結 果 を 反 映 し<br />

て、ヤマハギなどでは 地 上 部 現 存 量 に 比 べ 地 下 部 現 存 量 は 小 さかったが、タニウツギでは 地 下 部<br />

現 存 量 が 地 上 部 を 上 回 った。<br />

7.タニウツギが 植 生 地 表 面 や 土 壌 表 層 の 侵 食 安 定 に 優 れた 性 質 をもつと 期 待 されたことから、<br />

利 用 面 で 求 められる、 基 礎 的 要 件 の 検 討 をおこなった。 採 取 時 期 は 10 月 以 降 、 採 取 株 は 主 幹 の<br />

地 際 直 径 で 3cm 以 上 、 主 幹 の 長 さで 2m ないし 2.5m 以 上 のものが 適 当 である。 播 種 前 の 低 温 処<br />

理 は 必 要 なく、 播 種 に 際 しては、 光 発 芽 種 子 であることから、 厚 い 被 覆 が 起 こらない 十 分 配 慮 す<br />

る 必 要 がある。また、 埋 土 種 子 利 用 による 株 の 更 新 は、 大 いに 期 待 できる。


1.はじめに<br />

近 年 , 河 川 やその 周 辺 で、 環 境 修 復 を 意 図 して 実 施 される 斜 面 緑 化 においては, 従 来 の 外 来 草<br />

本 種 に 代 わって 地 域 自 生 種 をもちいた 生 物 多 様 性 に 配 慮 した 播 種 工 が 求 められている( 吉 田 ,<br />

2009)。こうした 事 情 から, 地 域 自 生 の 先 駆 性 低 木 種 への 期 待 が 高 まっており,それらを 導 入 し<br />

て 施 工 した 後 の 定 着 ・ 発 達 過 程 について 地 表 被 覆 状 態 や 本 数 密 度 , 成 長 量 など,かなり 詳 細 な 調<br />

査 がおこなわれている( 小 畑 ら, 2007; 野 口 ら, 2008; 細 木 ら, 2008)。<br />

樹 木 の 育 成 に 関 する 試 験 研 究 は,これまで 高 木 種 を 中 心 におこなわれてきたことから, 低 木 種<br />

個 別 の 育 成 法 については 不 明 な 点 が 尐 なくない( 関 西 地 区 林 業 試 験 研 究 機 関 連 絡 協 議 会 育 苗 部 会 ,<br />

1980; 林 業 科 学 振 興 所 , 1985)。 樹 木 の 育 成 利 用 においては,まずはそれぞれの 樹 種 の 特 性 をよく<br />

理 解 しておく 必 要 があり(Kramer and Kozlowski, 1979), 種 子 を 播 いて 実 生 を 育 てるケースで<br />

は,とくに 種 子 の 発 芽 や 芽 生 えの 成 長 に 関 する 性 質 が 重 要 である。<br />

低 木 種 については、 繁 殖 特 性 とかかわって、 種 子 生 産 、 発 芽 、 実 生 の 定 着 、 初 期 の 競 合 など、<br />

群 落 生 態 の 面 からアプローチがなされてきたが( 丸 山 ら、1984; 西 脇 ら、1993; 新 庄 ら;2004)、<br />

実 生 の 成 長 や 発 達 における 環 境 生 理 的 な 面 からの 研 究 は 限 られている( 橋 本 ら、2011)。 緑 化 の 場<br />

面 では、 事 前 の 基 盤 づくりや 事 後 のサイト 管 理 において、とくに 土 壌 条 件 に 対 する 低 木 種 それぞ<br />

れの 成 長 反 応 を 環 境 生 理 学 ベースで 把 握 しておくことは、 樹 種 特 性 を 活 かした 植 生 誘 導 をおこな<br />

ううえで 重 要 である。また、 緑 化 の 当 面 の 目 標 が、 短 期 間 のうちに 安 定 した 植 生 の 発 達 を 促 す 点<br />

にあることから、 種 子 発 芽 力 、 初 期 成 長 能 力 、 到 達 樹 高 などにこれまで 注 目 してきたが、 土 壌 の<br />

水 分 や 栄 養 塩 類 などに 対 する 成 長 反 応 についてはほとんど 知 見 はないようである。また、 低 木 種<br />

の 地 下 部 の 研 究 については、 根 系 の 形 態 や 発 達 特 性 、 光 合 成 生 産 物 質 の 配 分 傾 向 など、ほとんど<br />

手 つかずの 分 野 となっている( 松 田 ・ 橋 本 、2001)。<br />

本 研 究 では、 低 木 種 の 発 芽 当 年 の 実 生 の 成 長 について、 樹 種 間 差 をもたらす 要 因 、また 土 壌 環<br />

境 に 対 する 成 長 反 応 のちがいの 有 無 と 程 度 に 注 目 した。そして、 有 用 樹 種 の 選 択 基 準 として、 地<br />

下 部 の 発 達 ・ 維 持 能 力 が 重 要 であるとする 視 点 から、そうした 樹 種 に 着 目 し、 実 際 の 利 用 につな<br />

がるべく 種 子 の 取 扱 いについて 検 討 することとした。<br />

第 一 に、 斜 面 緑 化 に 有 用 と 見 られる,わが 国 自 生 の 低 木 種 6 種 を 選 び, 種 子 発 芽 試 験 をおこな<br />

うとともに, 野 外 に 播 種 し, 発 芽 後 の 芽 生 えの 成 長 経 過 を 追 跡 し, 発 芽 当 年 の 幹 枝 系 の 発 達 や 成<br />

長 量 について 調 査 した( 第 3 章 )。 第 二 に、 低 木 種 の 葉 の 光 合 成 能 力 についてクロロフィル 含 有 量 、<br />

光 化 学 系 Ⅱ 電 子 伝 達 速 度 などを 通 して 検 討 するとともに、 給 水 試 験 および 施 肥 試 験 を 実 施 し、 土<br />

壌 条 件 に 対 する 地 上 部 地 下 部 の 成 長 反 応 の 樹 種 間 差 について 分 析 した( 第 4 章 )。 以 上 の 試 験 結 果<br />

より、 供 試 した 低 木 種 のうちスイカズラ 科 タニウツギが、 土 壌 条 件 に 対 する 成 長 反 応 や 根 系 発 達<br />

の 面 で 有 用 と 見 られたことから、 種 子 採 取 の 時 期 、 採 取 株 、 発 芽 促 進 要 因 など、 利 用 にあたって<br />

の 重 要 事 項 について 精 査 をおこなった( 第 5 章 )。 最 後 に、 種 子 発 芽 や 芽 生 え 成 長 における 樹 種 間<br />

の 変 異 に 注 目 し, 発 芽 当 年 の 成 長 量 と 結 びつけ 総 合 的 に 考 察 をおこなった( 第 6 章 )。<br />

2. 試 験 の 設 計<br />

2.1 種 子 採 取 と 発 芽 試 験<br />

2.1.1 種 子 採 取<br />

2009 年 の 秋 , 長 野 県 伊 那 地 方 および 近 隣 各 県 の 二 次 林 地 帯 で, 自 生 する 低 木 種 の 種 子 採 取 をお<br />

1


こなった。そのうち, 本 研 究 では,ヤマハギ(Lespedeza bicolor for. acutifolia),ヌルデ(Rhus<br />

chinensis),ノイバラ(Rosa multiflora),ムラサキシキブ(Callicarpa japonica),リョウブ<br />

(Clethra barbinervis),タニウツギ(Weigela hortensis)を 供 試 材 料 とした。 採 取 した 種 子 は,<br />

持 ち 帰 って 精 選 し,ポリ 塩 化 ビニル 製 の 袋 に 入 れ,4~5℃に 設 定 した 低 温 貯 蔵 庫 に 貯 蔵 した。<br />

2.1.2 発 芽 試 験<br />

2010 年 6 月 , 温 度 制 御 した 実 験 室 で 発 芽 試 験 を 開 始 した。 試 験 では, 市 販 の 園 芸 用 プラスチッ<br />

ク 製 角 型 プランター(23×46×17( 深 さ)cm)に, 市 販 の 園 芸 用 鹿 沼 土 ( 中 粒 )を 入 れ 培 地 とし<br />

た。なお,リョウブとタニウツギでは, 同 形 で 小 型 のプランター(15×27×12( 深 さ)cm)を 用<br />

いた。ヤマハギとノイバラは 3 つのプランターに, 他 の 樹 種 は 1 つのプランターに 播 いた。<br />

播 種 後 ,プランターは, 植 物 育 成 用 ラック(Plant Master, ( 株 )BMS, 東 京 )の 棚 に 置 き,<br />

近 赤 外 蛍 光 ランプ(バイオルックス A, 40W, NEC)を 光 源 とする 人 工 光 を 1 日 14 時 間 照 射 した<br />

( 図 2.1)。 給 水 は,プランター 専 用 のトレイに 水 を 張 り 上 方 への 毛 管 水 移 動 によりおこない,<br />

培 地 表 面 が 適 度 に 湿 った 状 態 に 保 った。 播 種 後 は, 数 日 から 1 週 間 の 間 隔 で 発 根 の 観 察 をおこな<br />

い, 発 芽 数 をカウントした。 発 芽 試 験 は, 開 始 後 137 日 で 観 察 を 締 め 切 った。<br />

図 2.1 実 験 室 での 発 芽 試 験<br />

培 地 表 面 の 光 強 度 ( 光 合 成 有 効 光 量 子 束 密 度 )は 60~70μmol<br />

q. m-2 s-1。 試 験 期 間 中 の 実 験 室 の 気 温 , 相 対 湿 度 はそれぞれ<br />

23.2±1.5℃,50.3±4.5%。<br />

2.2 野 外 における 播 種 試 験<br />

2.2.1 試 験 区 の 設 定 と 播 種<br />

2010 年 4 月 , 農 学 部 キャンパス 内 の 附 属 寒 冷 フィールドサイエンス 教 育 研 究 センターの 実 験 苗<br />

圃 に 試 験 区 をつくった( 図 2.2)。 耕 運 , 整 地 の 後 ,1m×10m の 床 を 6 列 つくり, 各 列 を 各 供<br />

試 樹 種 に 割 り 当 てた。 各 列 に,1m×2m の 播 種 区 画 を 3 区 画 つくり, 試 験 区 (A,B,C 区 )と<br />

した。 列 の 間 隔 は 0.75m, 各 列 における 試 験 区 の 間 隔 は 1m とした。<br />

A<br />

処 理<br />

B<br />

C<br />

ヤマハギ<br />

ヌルデ<br />

ノイバラ<br />

ムラサキシキブ<br />

リョウブ<br />

タニウツギ<br />

図 2.2 試 験 区 の 設 定<br />

河 岸 台 地 で 土 壌 は 浅 く 有 機 物 含 有 量 は 低 く 乾 燥 しやすい。<br />

2


土 壌 体 積 含 水 率 (%)<br />

播 種 前 日 に 種 子 を 貯 蔵 庫 から 取 り 出 し, 実 験 室 の 流 し 場 で 浸 漬 処 理 を 一 晩 おこなった 後 , 播 種<br />

をおこなった。 試 験 区 あたりの 播 種 量 は,ヤマハギ,ヌルデ,ノイバラで 100g,ムラサキシキブ<br />

で 13g,リョウブ,タニウツギで 14g とした。 播 種 後 は, 種 子 乾 燥 や 鳥 などによる 摂 食 被 害 を 回<br />

避 するため, 稲 わらを 敷 きつめた。<br />

試 験 区 A,B,C は, 土 壌 の 水 分 と 養 分 に 対 する 成 長 反 応 をみるためのもので, 試 験 区 A は 無<br />

給 水 無 施 肥 であり, 試 験 区 B では 給 水 , 試 験 区 C では 給 水 と 施 肥 をおこなった。なお, 各 試 験 区<br />

とも, 降 水 による 自 然 給 水 はなされた。 給 水 は、8 月 初 旬 より 実 施 し、9 月 下 旬 までおこなった。<br />

地 表 面 がつねに 湿 った 状 態 に 保 たれるよう、こまめにおこなった。 土 壌 の 水 分 状 態 は、ヌルデ 試<br />

験 区 A、B、C に、 土 壌 水 分 センサー(ML2x, Delta-T Devices Ltd, Cambridge, UK)を 埋 め 込<br />

み、 毎 日 夕 方 読 み 取 りをおこなった( 図 2.3)。 施 肥 は、6 月 中 旬 より 実 施 し、 葉 群 の 発 生 や 葉<br />

色 等 を 観 察 しながら1 週 間 あるいは2 週 間 の 間 隔 で、9 月 中 旬 までおこなった。 肥 料 は、 市 販 の<br />

化 学 肥 料 ( 白 ばら 化 成 肥 料 8 号 、ときわ 化 研 ( 株 )、 福 島 )を 用 い、 各 樹 種 1 試 験 区 あたり1 回 に<br />

つき 75g を 施 用 した。 成 分 比 は、アンモニア 性 窒 素 、 可 溶 性 りん 酸 、 水 溶 性 加 里 それぞれ 8%で<br />

あった。<br />

50<br />

40<br />

乾 燥 期<br />

30<br />

20<br />

10<br />

0<br />

Aug.<br />

Month<br />

Sep.<br />

図 2.3 試 験 区 A,B における 土 壌 体 積 含 水 率 の 経 過<br />

A<br />

B<br />

2.2.2 実 生 の 成 長 経 過<br />

播 種 後 , 発 生 した 実 生 のなかから 3 個 体 を 選 び, 実 生 地 上 部 の 主 軸 の 長 さを 定 期 的 に 測 定 する<br />

とともに, 主 軸 における 開 葉 数 ( 子 葉 は 除 く)を 数 えた。 成 長 経 過 の 調 査 は,1 から 2 週 間 の 間<br />

隔 で 10 月 中 旬 までおこなった。<br />

2.2.3 実 生 の 幹 枝 系 の 発 達 と 成 長 諸 量<br />

(1) 幹 枝 系 の 発 達<br />

2010 年 10 月 上 旬 に, 各 試 験 区 でサイズ 構 成 を 考 慮 して 8 本 の 実 生 を 選 び, 主 軸 地 際 部 で 切 断<br />

し, 地 上 部 を 実 験 室 に 持 ち 帰 った。それぞれの 主 軸 について, 地 際 直 径 と 長 さを 測 定 した 後 , 主<br />

軸 から 分 岐 する 一 次 枝 について, 着 生 部 位 ( 主 軸 地 際 部 からの 距 離 )と 基 部 から 先 端 までの 長 さ<br />

を 測 定 した。さらに, 一 次 枝 から 分 岐 する 二 次 枝 について,それぞれの 長 さを 測 定 した。<br />

(2) 成 長 諸 量<br />

2010 年 11 月 に、ヤマハギ、タニウツギでは 試 験 区 の 一 部 区 画 (0.6×1m)、ヌルデ、ノイバラ<br />

では 全 区 画 の 実 生 を 地 際 部 で 切 断 し、 各 実 生 の 幹 の 地 際 直 径 、 主 軸 長 、 幹 枝 重 量 ( 乾 重 )を 測 定<br />

した。 次 いで、 各 樹 種 の B 区 の 一 部 区 画 (0.6×1m) 内 の 実 生 の 地 下 部 を 掘 り 取 り、 実 験 室 に 持<br />

ち 帰 り、 形 態 発 達 を 調 べ、 地 下 部 重 量 を 測 定 した。<br />

3


発 芽 率 (%)<br />

3. 種 子 発 芽 と 実 生 の 成 長<br />

3.1 環 境 制 御 下 での 種 子 発 芽 特 性<br />

発 芽 試 験 開 始 後 の 発 芽 率 の 経 過 は、 樹 種 間 で 明 らかに 異 なっていた( 図 3.1)。 平 均 発 芽 日 数<br />

は,タニウツギで 10 日 以 下 ,リョウブとムラサキシキブで 20 日 以 下 であった( 表 3.1)。し<br />

かし,これら 3 樹 種 以 外 では 30 日 を 超 え,ヌルデでは 約 80 日 であった。 発 芽 率 は, 試 験 開 始 後<br />

28 日 でタニウツギ,ムラサキシキブ,リョウブでは 20%を 超 え,とくにタニウツギでは 70% 以<br />

上 におよんだ。これら 3 樹 種 以 外 では,ヤマハギでは 10%を 超 えたが,ノイバラとヌルデでは 2%<br />

以 下 で,とくにヌルデでは 1%に 満 たなかった。 最 終 発 芽 率 は,リョウブ,ムラサキシキブ,タニ<br />

ウツギでは 試 験 開 始 後 28 日 の 発 芽 率 とちがいはなかったが,ヤマハギ,ヌルデ,ノイバラでは 大<br />

きかった(z 検 定 , p


主 軸 長 (cm)<br />

開 葉 数 (leaves)<br />

開 葉 数 (leaves seedling -1 )<br />

発 芽 率 (%)<br />

3.2 実 生 の 初 期 成 長<br />

野 外 での 発 芽 は, 実 験 室 でおこなった 発 芽 試 験 のそれと 比 べ,どの 樹 種 でも 遅 くなるようであ<br />

った。おおよその 傾 向 として, 発 芽 はヤマハギで 早 く, 次 いでノイバラであり,ヌルデやタニウ<br />

ツギで 遅 かった。なお,ムラサキシキブとリョウブでは, 発 芽 は 認 められなかった。 供 試 4 種 の<br />

発 芽 曲 線 と 開 葉 曲 線 を 比 較 すると、 発 芽 曲 線 では、 発 芽 はヤマハギで 最 も 早 いようであり、 次 い<br />

でノイバラ、タニウツギであり、ヌルデが 最 も 遅 く、 発 芽 勢 と 発 芽 率 はノイバラで 最 も 高 く、 次<br />

いでタニウツギ、ヤマハギであり、ヌルデで 最 も 低 かった( 図 3.2)。 開 葉 曲 線 は、どの 樹 種 も、<br />

開 葉 開 始 後 、ある 期 間 停 滞 した 後 、 明 らかな 増 加 を 示 し、 増 加 の 程 度 は、ヤマハギで 最 も 大 きく、<br />

次 いでノイバラであり、タニウツギであり、ヌルデ 最 も 小 さかった。 以 上 の 結 果 より、 早 期 の 地<br />

表 被 覆 能 力 は、 発 芽 の 早 さ、 発 芽 率 と 発 芽 勢 、そして 開 葉 再 開 にともなう 開 葉 速 度 で 決 まり、4<br />

樹 種 の 間 では、ヤマハギ、ノイバラが 高 く、 次 いでタニウツギであり、ヌルデが 低 い。<br />

30<br />

ヤマハギ<br />

20 発 芽 率<br />

10<br />

6<br />

ヌルデ<br />

タニウツギ 5<br />

ノイバラ<br />

4<br />

3<br />

2<br />

開 葉 数<br />

1<br />

0<br />

0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0<br />

播 種 日 からの 日 数 (days)<br />

図 3.2 野 外 試 験 での 種 子 発 芽 率 と 開 葉 数 の 推 移<br />

3.3 実 生 の 成 長 持 続 性<br />

実 生 の 幹 主 軸 は、どの 樹 種 も,6 月 ~8 月 の 夏 場 にかけて 旺 盛 な 伸 びを 示 した( 図 3.3)。ヤ<br />

マハギとヌルデでは,8 月 に 伸 長 が 加 速 するようであり,こうした 傾 向 はノイバラやタニウツギ<br />

では 見 られなかった。9 月 以 降 の 伸 長 は,ヤマハギとヌルデでは 引 き 続 き 認 められたが,タニウ<br />

ツギではわずかになり,ノイバラではほとんど 認 められなかった。 主 軸 伸 長 と 開 葉 数 の 増 加 は、<br />

よく 一 致 していた。 各 樹 種 の 主 軸 長 について 開 葉 数 との 関 係 で 見 ると,ヤマハギやノイバラに 比<br />

べると,ヌルデでは 開 葉 数 のわりに 主 軸 長 が 長 いのに 対 し,タニウツギでは 反 対 に 短 いようであ<br />

った。<br />

200<br />

100<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

200<br />

100<br />

ヤマハギ<br />

Jun.1<br />

ノイバラ<br />

Aug.31<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

200<br />

100<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

200<br />

100<br />

ヌルデ<br />

タニウツギ<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

播 種 日 からの 日 数 (days)<br />

100<br />

80<br />

60<br />

40<br />

20<br />

ヤマハギ<br />

Jun.1<br />

Aug.31<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

100<br />

ノイバラ<br />

80<br />

60<br />

40<br />

20<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

100<br />

80<br />

60<br />

40<br />

20<br />

ヌルデ<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

100<br />

タニウツギ<br />

80<br />

60<br />

40<br />

20<br />

0<br />

0 50 100 150<br />

播 種 日 からの 日 数 (days)<br />

図 3.3 実 生 の 幹 主 軸 の 伸 長 成 長 と 開 葉 数 増 加 の 経 過<br />

5


一 次 枝 着 生 位 置 (cm)<br />

3.4 実 生 の 枝 分 岐<br />

一 次 枝 の 形 成 は,ヤマハギ,ノイバラ,タニウツギで 見 られたが,ヌルデでは 見 られなかった<br />

( 図 3.4、 表 3.2)。 一 次 枝 を 形 成 した 個 体 における, 個 体 あたりの 一 次 枝 の 本 数 は,ヤマハ<br />

ギで 多 く,ノイバラ,タニウツギで 尐 なかった(Scheffe, p


Chls a+b (mmol m -2 s -1 )<br />

Chls a/b (mmol m -2 s -1 )<br />

LSW (kg m -2 )<br />

ETR max (μ mol e - m-2 s -1 )<br />

4. 土 壌 条 件 に 対 する 成 長 反 応 の 樹 種 間 差<br />

4.1 葉 の 光 合 成 関 連 特 性<br />

4.1.1 無 給 水 無 施 肥 下 における 樹 種 間 差<br />

クロロフィル 含 有 量 (a+b)は、ヤマハギがタニウツギに 比 べ 高 かった( 図 4.1)。クロロフ<br />

ィル a/b 比 については、 樹 種 間 でちがいはなかった。 比 葉 面 積 重 (SLW)は、ヌルデがヤマハギ、<br />

ノイバラに 比 べ 低 かった。 光 飽 和 状 態 での 電 子 伝 達 速 度 (ETRmax)については、 樹 種 間 でちがい<br />

はなかった。<br />

A<br />

0.5<br />

0.4<br />

0.3<br />

0.2<br />

0.1<br />

a<br />

ab<br />

ab<br />

b<br />

5<br />

4<br />

3<br />

2<br />

1<br />

b a a<br />

a<br />

0.05<br />

0.04<br />

0.03<br />

0.02<br />

0.01<br />

a<br />

b<br />

a<br />

ab<br />

150<br />

100<br />

50<br />

a<br />

a<br />

a<br />

a<br />

0<br />

ヤマハギ ノイバラ<br />

ヌルデ タニウツギ<br />

0<br />

ヤマハギ ノイバラ<br />

ヌルデ タニウツギ<br />

0<br />

ヤマハギ ノイバラ<br />

ヌルデ タニウツギ<br />

0<br />

ヤマハギ ノイバラ<br />

ヌルデ タニウツギ<br />

図 4.1 供 試 4 樹 種 の 葉 の 光 合 成 関 連 特 性<br />

処 理 区 A から 試 料 葉 を 採 取 し 比 較 した。<br />

以 上 の 結 果 より、さまざまなレベルでこうした 光 合 成 関 連 特 性 を 比 べる 場 合 、ETRmax は 測 定 変<br />

動 が 大 きいことから、 適 当 ではないようである。また、クロロフィル a/b 比 は 樹 種 間 のちがいは<br />

小 さいようである。 樹 種 間 差 は、クロロフィル 含 有 量 や SLW に 出 やすいようである。タニウツ<br />

ギは 低 いクロロフィル 含 有 量 に、ヌルデは 低 い SLW に 特 徴 があった。ヤマハギとノイバラは、<br />

互 いに 似 た 性 質 をもつようである。<br />

4.1.2 給 水 および 施 肥 に 対 する 成 長 反 応<br />

SLW は、4 樹 種 いずれにおいても 処 理 間 にちがいはなかった( 表 4.1)。クロロフィル 含 有<br />

量 は、ヤマハギ、ノイバラでは 処 理 間 にちがいはなかったが、ヌルデでは A 区 で 最 も 低 く、 次 い<br />

で B 区 であり、C 区 で 高 かった。タニウツギでは、A 区 で 低 く、B、C 区 で 高 かった。クロルフ<br />

ィル a/b 比 は、ヤマハギ 以 外 の 3 樹 種 では 処 理 間 にちがいはなかったが、ヤマハギでは A 区 で 高<br />

く B、C 区 で 低 かった。ETRmax は、4 樹 種 いずれにおいても 処 理 間 にちがいはなかった。<br />

以 上 の 結 果 より、 処 理 間 のちがいは、SLW に 表 れにくく、クロロフィルについては a/b 比 に 比<br />

べ 含 有 量 (a+b)によく 表 れる。なお、ETRmax で 処 理 間 のちがいが 見 られないのは、 測 定 変 動 が<br />

大 きいことによると 見 られる。 処 理 間 のちがいをクロロフィル 含 有 量 で 見 た 場 合 、 処 理 の 影 響 を<br />

最 も 敏 感 に 反 応 するのはヌルデであり、 給 水 により、さらに 施 肥 により 含 有 量 を 高 める。タニウ<br />

ツギは、 給 水 による 含 有 量 の 上 昇 はないが、 施 肥 にはよく 反 応 する。これら 2 樹 種 に 対 して、ヤ<br />

マハギやノイバラは 給 水 に 対 しも 施 肥 に 対 しても 含 有 量 の 上 昇 を 示 さない。<br />

7


実 生 数 (seedlings plot -1 )<br />

表 4.1 供 試 4 樹 種 の 各 処 理 区 における 光 合 成 関 連 諸 量<br />

試 料 葉 葉 比 重 クロロフィル 含 有 量 電 子 伝 達 速 度<br />

n SLW a+b a/b ETR max<br />

処 理 (leaves) (g m -2 ) (mmol m -2 ) (cm) (μmol e - m -2 s-1 )<br />

ヤマハギ A 11 0.0423 a ±0.0070 0.296 a ±0.065 3.70 a ±0.37 91.4 a ±36.5<br />

B 11 0.0417 a ±0.0092 0.310 a ±0.080 2.95 ab ±0.89 93.3 a ±27.9<br />

C 11 0.0420 a ±0.0058 0.342 a ±0.055 2.82 b ±0.88 102.8 a ±34.7<br />

ヌルデ A 10 0.0336 a ±0.0031 0.247 c ±0.041 3.83 a ±0.32 97.3 a ±20.6<br />

B 10 0.0323 a ±0.0067 0.303 b ±0.036 3.72 a ±0.64 115.5 a ±17.8<br />

C 10 0.0331 a ±0.0049 0.359 a ±0.025 3.44 a ±0.49 115.6 a ±26.1<br />

ノイバラ A 10 0.0428 a ±0.0045 0.291 a ±0.074 3.66 a ±0.53 86.9 a ±23.29<br />

B 10 0.0380 a ±0.0051 0.308 a ±0.071 3.57 a ±0.41 89.8 a ±25.0<br />

C 10 0.0394 a ±0.0061 0.347 a ±0.062 3.79 a ±0.35 109.4 a ±22.1<br />

タニウツギ A 10 0.0414 a ±0.0099 0.221 b ±0.029 3.41 a ±0.40 77.5 a ±28.5<br />

B 10 0.0359 a ±0.0038 0.233 b ±0.034 3.60 a ±0.30 87.7 a ±18.9<br />

C 11 0.0355 a ±0.0029 0.294 a ±0.036 3.27 a ±0.31 97.7 a ±16.8<br />

n は 試 料 葉 数 。データは 平 均 値 と 標 準 偏 差 。<br />

樹 種 間 で 異 なるアルファベットは 有 意 なちがいを 示 す(Scheffe,p


主 軸 長 (cm)<br />

表 4-2 供 試 4 樹 種 の 各 処 理 区 における 幹 の 地 際 直 径 および 主 軸 長<br />

ヤマハギ ヌルデ ノイバラ タニウツギ<br />

処 理 n 直 径 主 軸 長 直 径 主 軸 長 直 径 主 軸 長 直 径 主 軸 長<br />

(cm) (cm) (cm) (cm) (cm) (cm) (cm) (cm)<br />

A 20 0.74 a ±0.23136.9 b ±22.5 1.25 b ±0.32113.5 c ±12.3 0.95 a ±0.22 95.1 b ± 9.9 0.44 b ±0.15 29.7 c ±3.2<br />

B 20 0.91 a ±0.32168.9 a ±34.2 1.54 b ±0.54134.4 b ±21.9 0.72 b ±0.16 88.5 b ±12.9 0.58 a ±0.16 43.7 b ±3.5<br />

C 20 0.93 a ±0.22180.2 a ±25.4 1.96 a ±0.68168.4 a ±33.9 0.95 a ±0.22 116.4 a ± 8.8 0.57 ab ±0.22 61.6 a ±4.7<br />

n は 調 査 個 体 数 。 直 径 と 幹 長 のデーターは 平 均 値 と 標 準 偏 差 。<br />

処 理 間 で 異 なるアルファベットは 有 意 なちがいを 示 す(Scheffe, p


4.2.2 DL 関 係<br />

幹 の 地 際 直 径 (D)と 主 軸 長 (L)との 関 係 (DL 関 係 )は、 供 試 樹 種 いずれもべき 乗 式 でよく<br />

回 帰 されたが、 回 帰 曲 線 は 樹 種 により 大 きく 異 なっていた( 図 4.3)。 処 理 間 の 回 帰 曲 線 のちが<br />

いは、ヤマハギ、ヌルデではちがいはないようであったが、ノイバラ、タニウツギでは 施 肥 によ<br />

り 相 対 的 に 主 軸 長 の 成 長 が 優 勢 になるようであった。<br />

以 上 の 結 果 より、 給 水 処 理 はいずれの 樹 種 においても DL 関 係 に 影 響 しない。 一 方 、 施 肥 の DL<br />

関 係 への 影 響 は 影 響 する 樹 種 としない 樹 種 があり、 影 響 する 樹 種 では 幹 の 直 径 成 長 よりは 主 軸 伸<br />

長 成 長 が 大 きく 促 進 される。<br />

4.3 地 上 部 および 地 下 部 の 現 存 量 構 成 の 樹 種 間 差<br />

4.3.1 根 系 の 発 達<br />

根 系 の 発 達 は、 樹 種 により 異 なりそれぞれ 特 徴 があった( 図 4.4、5、6、7)。ヤマハギ、<br />

ノイバラ、タニウツギでは、 主 根 型 と 分 根 型 が 見 られたが、ノイバラでは 主 根 型 の 方 がほとんど<br />

であり、タニウツギでは 主 根 型 、 分 根 型 に 加 え、 主 根 の 先 端 部 近 くで 分 岐 する「 主 根 + 分 根 型 」<br />

のものも 見 られた( 表 4-3)。 根 の 伸 長 量 については、どの 樹 種 も 個 体 成 長 にみあった 下 方 への<br />

伸 長 を 示 したが、 側 方 への 伸 長 は 樹 種 で 異 なるようであり、ヤマハギ、ヌルデでは 旺 盛 なものが<br />

見 られたが、ノイバラ、タニウツギでほとんど 見 られなかった。 無 性 繁 殖 をもたらす 地 下 器 官 の<br />

発 達 は、いずれの 樹 種 でも 見 られなかった。<br />

4.3.2 実 生 の 地 下 部 重 比 率<br />

地 下 部 重 比 率 ( 地 下 部 重 / 地 上 部 地 下 部 重 )は、 個 体 が 大 きくなるにつれ、ヤマハギでは 低 下 、<br />

タニウツギでは 上 昇 を 示 したが、ヌルデ、ノイバラでは 変 化 は 小 さかった( 図 4.8)。 各 樹 種 で<br />

大 きな 個 体 グループに 注 目 し、 地 下 部 重 比 率 を 樹 種 間 で 比 べると、ヤマハギ、ヌルデ、ノイバラ<br />

では 0.3~0.4 であり 樹 種 間 に 大 きなちがいはないが、これら 3 樹 種 に 比 べるとタニウツギではお<br />

およそ 0.6 であり 明 らかに 高 かった。<br />

4.3.3 地 上 部 および 地 下 部 現 存 量<br />

処 理 区 A の 地 上 部 現 存 量 は、ヤマハギで 最 も 大 きく、 次 いでヌルデ、ノイバラであり、タニウ<br />

ツギで 最 も 小 さかった( 図 4.9)。 地 下 部 現 存 量 は、ヤマハギ、ヌルデ、ノイバラでは 地 上 部 現<br />

存 量 より 小 さかったが、タニウツギでは 対 照 的 に 大 きかった。その 結 果 、 地 下 部 現 存 量 は、ヤマ<br />

ハギに 次 いでタニウツギが 高 く、ヌルデ、ノイバラの 順 となった。<br />

給 水 効 果 は、どの 樹 種 でも 地 上 部 、 地 下 部 とも 認 められたが、ヤマハギで 最 も 大 きかった。 給<br />

水 効 果 は、ヤマハギ、タニウツギでは 地 上 部 で 大 きいのに 対 し、ヌルデ、ノイバラでは 地 上 部 地<br />

下 部 間 のちがいは 小 さかった。<br />

施 肥 効 果 は、 地 上 部 、 地 下 部 ともヌルデで 最 も 大 きく、ノイバラ、タニウツギでも 認 められた<br />

が、ヤマハギでは 認 められないようであった。 施 肥 効 果 は、ヌルデ、ノイバラでは 地 上 部 地 下 部<br />

間 でちがいは 小 さいが、タニウツギでは 明 らかに 地 上 部 で 大 きかった。<br />

以 上 の 結 果 より、 地 上 部 に 対 する 地 下 部 の 発 達 については、 樹 種 間 で 大 きく 異 なり、ヤマハギ、<br />

ヌルデ、ノイバラは 地 上 部 優 勢 型 であるのに 対 し、タニウツギは 対 照 的 に 地 下 部 優 勢 型 である。<br />

給 水 や 施 肥 による 成 長 促 進 の 効 果 は、 地 上 部 、 地 下 部 ともに 認 められるが、タニウツギでは 地 上<br />

部 への 効 果 が 際 立 っている。<br />

10


主 根 型<br />

垂 直 に 深 く 入 る<br />

分 根 型<br />

垂 直 に 深 く 入 る<br />

分 根 型<br />

下 方 伸 長 → 側 方 伸 長<br />

主 根 型<br />

側 根 の 発 達 が 顕 著<br />

図 4.4 ヤマハギ 発 芽 当 年 実 生 の 根 系<br />

主 根 型 , 垂 直 に 深 く 入 る<br />

主 根 型 ,なかには 分 根 型<br />

主 根 型 , 表 層 に 横 走 根<br />

主 根 型 , 表 層 に 横 走 根<br />

側 根 斜 め 下 方 によく 伸 長<br />

図 4.5 ヌルデ 発 芽 当 年 実 生 の 根 系<br />

11


主 根 型<br />

垂 直 に 深 く 入 る, 側 根 短 い<br />

分 根 型<br />

側 根 短 い<br />

図 4.6 ノイバラ 発 芽 当 年 実 生 の 根 系<br />

主 根 型 , 主 根 先 端 で 分 岐 ,<br />

細 根 多 い<br />

分 根 型<br />

小 個 体<br />

分 根 型 , 先 端 分 岐<br />

細 根 多 い<br />

「 主 根 + 分 根 」 型<br />

主 根 の 先 端 で 分 岐 ( 分 根 化 )<br />

細 根 多 い<br />

図 4.7 タニウツギ 発 芽 当 年 実 生 の 根 系<br />

12


根 重 / 幹 枝 根 重<br />

表 4.3 発 芽 当 年 実 生 の 根 系 発 達 分 類<br />

樹 種 発 達 型 伸 長 性 繁 殖 器 官<br />

下 方 側 方<br />

ヤマハギ 主 根 型 , 分 根 型 大 大 無<br />

ヌルデ 主 根 型 大 大 無<br />

ノイバラ 主 根 型 > 分 根 型 大 小 無<br />

タニウツギ 主 根 型 , 分 根 型 , 主 根 + 分 根 型 小 小 無<br />

1<br />

1<br />

0.8<br />

ヤマハギ<br />

0.8<br />

タニウツギ<br />

0.6<br />

0.6<br />

0.4<br />

0.4<br />

ノイバラ<br />

0.2<br />

ヌルデ<br />

0.2<br />

0<br />

10 -2 10 -1 10 0 10 1 10 2 0<br />

10 -2 10 -1 10 0 10 1 10 2<br />

幹 枝 根 重 (g)<br />

図 4.8 実 生 の 根 重 比 と 幹 枝 根 重 との 関 係<br />

図 中 の 直 線 は 回 帰 式 による(y=a+blnx)。 ヤマハギ:a=0.558, b=-0.0519, r=-0.628**、タニウツギ:a=0.570,<br />

b=0.0329, r=0.293**、**: p


5.タニウツギの 利 用 における 基 礎 的 要 件<br />

5.1 種 子 の 採 取 と 発 芽 試 験<br />

盛 岡 の 西 約 25km、 雫 石 川 支 流 赤 沢 川 中 流 域 の、 林 道 法 面 や 林 道 路 肩 に 自 然 発 生 したタニウツ<br />

ギから 種 子 採 取 をおこなった( 図 5.1,2)。 採 取 地 は、 岩 手 県 雫 石 町 御 明 神 地 区 に 位 置 し、 岩<br />

手 大 学 農 学 部 附 属 御 明 神 演 習 林 の 所 管 となっている。 種 子 採 取 は、 採 取 する 適 期 等 を 検 討 するた<br />

めのものと、 採 取 する 株 のサイズを 検 討 するための、 二 つに 分 けておこなった。 前 者 の 種 子 採 取<br />

は、 河 岸 に 沿 って 開 設 された 林 道 法 面 に 生 育 する 本 種 2 株 でおこなった。 後 者 の 種 子 採 取 は、 河<br />

岸 に 向 かう 林 道 の 路 肩 に 生 育 する 本 種 10 株 でおこなった。 採 取 した 株 の 生 育 場 所 は、いずれも 上<br />

方 がよく 開 けており 明 所 であった。 採 取 した 株 については、 株 から 出 ている 幹 の 地 際 部 の 直 径 と<br />

幹 の 長 さを 測 定 した( 図 5.3)。 複 数 の 幹 が 出 ている 株 では、 大 きなものを 1 本 あるいは 数 本 選<br />

び 測 定 をおこなった。これらの 測 定 と 並 行 して、 株 における 朔 果 の 着 生 状 態 ( 多 尐 )を 5 段 階 で<br />

評 価 した。<br />

図 5.1 雫 石 川 支 流 赤 沢 川 河 岸 急 傾 斜 地<br />

図 5.2 急 傾 斜 面 下 部 のタニウツギ 群 落<br />

図 5.3 タニウツギ 株 から 発 生 する 幹 図 5.4 タニウツギ 種 子 の 発 芽 試 験 ( 上 段 )<br />

14


種 子 採 取 の 適 期 を 検 討 する 試 験 は、2011 年 7 月 7 日 から 11 月 26 日 まで 計 6 回 採 取 しておこ<br />

なった( 表 5.1)。 播 種 前 の 低 温 処 理 の 影 響 を 調 べる 試 験 は、9 月 22 日 採 取 の 種 子 を 用 いてお<br />

こなった。 発 芽 培 地 の 光 条 件 を 調 べる 試 験 は、10 月 11 日 採 取 の 種 子 を 用 いておこなった。 株 サ<br />

イズの 影 響 を 調 べる 試 験 も、10 月 11 日 に 種 子 を 採 取 しておこなった。<br />

種 子 採 取 では、 大 きい 朔 果 を 着 ける 果 枝 を 1 株 から 数 本 選 び、 実 験 室 に 持 ち 帰 った。 発 芽 試 験<br />

をおこなう 各 培 地 に1 朔 果 をあてることとし、 各 朔 果 の 直 径 と 長 さを 調 べ、 朔 果 内 の 種 子 数 を 数<br />

え、 種 子 全 体 の 重 量 を 測 定 した。 各 朔 果 より 大 きめのものを 50~80 粒 を 選 び、シャーレ( 内 径<br />

85mm) 内 の 培 地 に 並 べた。シャーレ 内 には 水 で 湿 らせた 濾 紙 を 敷 き、 発 芽 培 地 とした。シャー<br />

レは、 実 験 室 内 に 設 置 した 植 物 育 成 用 ラック(Plant Master, ( 株 )BMS, 東 京 )の 棚 に 置 き,<br />

近 赤 外 蛍 光 ランプ(バイオルックス A, 40W, NEC)を 光 源 とする 人 工 光 を 1 日 14 時 間 照 射 した<br />

( 図 5.4)。 培 地 表 面 の 光 強 度 ( 光 合 成 有 効 光 量 子 束 密 度 )は,60~70μmol q. m -2 s -1 であった。<br />

実 験 室 の 気 温 , 相 対 湿 度 は,それぞれ 23.2±1.5℃,50.3±4.5%であった。 試 験 開 始 後 は、つね<br />

に 培 地 表 面 が 適 度 に 湿 った 状 態 を 保 つように、 給 水 した。 毎 日 あるいは 1 日 おきに 発 根 の 観 察 を<br />

おこない, 発 芽 種 子 数 をカウントした。 発 芽 試 験 は, 開 始 後 56 日 で 観 察 を 締 め 切 った。なお、 低<br />

温 処 理 では、4℃に 制 御 した 保 冷 庫 に 種 子 を 入 れ、 処 理 期 間 を1、2,3,4 週 間 とした。 光 条 件 の<br />

影 響 を 調 べる 試 験 では、 発 芽 試 験 の 際 に 種 子 に 光 をあてる 条 件 とともに、 光 を 遮 断 した 暗 条 件 を<br />

設 けた。<br />

表 5.1 種 子 採 取 と 発 芽 試 験 の 設 計<br />

採 取 日 採 取 場 所 株 数 試 験 内 容 培 地 試 験 内 容 培 地<br />

7 月 7 日 J 2 適 期 10<br />

7 月 29 日 J 2 適 期 10<br />

8 月 30 日 J 2 適 期<br />

9 月 22 日 J 2 適 期 低 温 処 理 8<br />

10 月 11 日 J 2 適 期 光 条 件 10<br />

10 月 11 日 K 10 株 主 幹 サイズ 30<br />

11 月 26 日 J 2 適 期 10<br />

各 培 地 には1 朔 果 内 の 種 子 を 用 いた。<br />

5.2 種 子 発 芽 に 影 響 する 諸 要 因<br />

7 月 7 日 および 7 月 29 日 に 採 取 した 種 子 では、 発 芽 は 認 められなかった( 図 5.5)。 発 芽 が<br />

見 られたのは、8 月 30 日 以 降 に 採 取 した 種 子 であった。 試 験 開 始 後 14 日 および 56 日 の 発 芽 率 は、<br />

ともに 採 取 時 期 が 遅 くなるにつれて 高 くなったが、10 月 11 日 採 取 種 子 と 11 月 26 日 採 取 種 子 で<br />

はちがいはなかった( 表 5.2)。8 月 30 日 および 9 月 23 日 採 取 種 子 では、14 日 発 芽 率 は 56 日<br />

発 芽 率 に 比 べ 低 かった(t 検 定 、p


発 芽 率 (% day -1 )<br />

有 意 な 相 関 が 認 められた(r=0.60, p


発 芽 率 (% day-1)<br />

20<br />

10<br />

0 week<br />

0<br />

20<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

10<br />

1 week<br />

0<br />

20<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

10<br />

2 weeks<br />

0<br />

20<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

10<br />

3 weeks<br />

0<br />

20<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

10<br />

4 weeks<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

試 験 開 始 日 からの 日 数 (days)<br />

図 5.6. 試 験 前 種 子 低 温 処 理 期 間 別 の 発 芽 試 験<br />

表 5.3 試 験 前 種 子 低 温 処 理 期 間 と 発 芽 率<br />

発 芽 率<br />

低 温 処 理 培 地 14 days 56 days<br />

(weeks) n (%) (%)<br />

0 10 7.1 a ± 6.6 37.1 a ±13.0<br />

1 2 13.2 a ± 6.9 41.3 a ± 0.5<br />

2 2 14.7 a ± 9.7 63.6 a ±15.1<br />

3 2 13.0 a ±11.5 44.9 a ± 3.7<br />

4 2 19.3 a ±10.5 40.1 a ± 0.9<br />

No.1、2の 株 の 種 子 を 供 試 。 発 芽 率 は 試 験 開 始 後 14 日 、56 日 の 値 。<br />

データは 平 均 値 と 標 準 偏 差 。 異 なるアルファベットは 有 意 差 を 表 す(Scheffe, p


発 芽 率 (% day -1 )<br />

40<br />

30<br />

20<br />

10<br />

Light No. 1 No. 2<br />

40<br />

30<br />

20<br />

10<br />

0<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60 0 10 20 30 40 50 60<br />

Dark<br />

40<br />

40<br />

30<br />

30<br />

20<br />

20<br />

10<br />

10<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50<br />

0<br />

60 0 10 20 30 40 50 60<br />

試 験 開 始 日 からの 日 数 (days)<br />

図 5.7 試 験 時 光 条 件 別 の 発 芽 試 験<br />

表 5.4 試 験 時 種 子 光 条 件 と 発 芽 率<br />

No.1 発 芽 率 No.2 発 芽 率<br />

光 条 件 培 地 14 days 56 days 培 地 14 days 56 days<br />

n (%) (%) n (%) (%)<br />

照 射 5 65.0 ** ±10.0 69.0 ** ±10.7 5 72.3 ** ±10.9 79.5 ** ±8.5<br />

遮 断 5 0.3 ± 0.7 3.0 ± 2.7 5 0.0 ±0.0 1.0 ±0.9<br />

No.1、No.2は 採 取 株 。 発 芽 率 は 試 験 開 始 後 14 日 、56 日 の 値 。<br />

データは 平 均 値 と 標 準 偏 差 。 処 理 間 で 分 散 分 析 ( ** : p


発 芽 率 (% day -1 )<br />

40<br />

20<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 3<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 4<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 5<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 6<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 7<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 8<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No. 9<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No.10<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No.11<br />

0<br />

40<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

20<br />

No.12<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

試 験 開 始 日 からの 日 数 (days)<br />

No.1<br />

No.2<br />

図 5.8 種 子 採 取 した 株 主 幹 のサイズ 別 の 発 芽 試 験<br />

表 5.5 種 子 採 取 した 株 主 幹 のサイズと 発 芽 率<br />

株 着 果 度 培 地 発 芽 率<br />

主 幹 直 径 主 幹 長 14 days 56 days<br />

No. (cm) (m) n (%) (%)<br />

1 3.0 2.1 Ⅱ 5 65.1 ±10.0 69.0 ±10.7<br />

2 1.9 1.7 Ⅳ 5 72.3 ±10.9 79.5 ± 8.5<br />

3 2.6 1.7 Ⅳ 3 44.3 ± 9.0 59.7 ±12.3<br />

4 3.1 2.6 Ⅱ 3 81.3 ± 2.1 81.7 ± 2.5<br />

5 2.5 2.2 Ⅲ 3 80.7 ± 4.9 81.0 ± 4.4<br />

6 2.2 2.1 Ⅰ 3 79.0 ± 6.9 83.0 ± 6.1<br />

7 3.9 3.4 Ⅲ 3 81.0 ± 4.4 85.7 ± 3.5<br />

8 1.2 1.5 Ⅰ 3 54.3 ± 5.9 70.0 ± 7.5<br />

9 1.8 1.4 Ⅰ 3 51.9 ± 9.3 61.4 ± 6.5<br />

10 5.0 3.1 Ⅲ 3 73.0 ±11.1 78.0 ± 9.0<br />

11 2.5 2.2 Ⅴ 3 60.3 ±11.9 79.7 ± 9.5<br />

12 2.4 2.3 Ⅳ 3 75.3 ± 8.3 87.3 ± 4.6<br />

発 芽 率 は 試 験 開 始 後 14 日 ,56 日 の 値 で、 株 間 で 分 散 分 析 をおこなった。14 日 発 芽 率 : p


発 芽 率 (%)<br />

発 芽 率 (%)<br />

発 芽 率 (%)<br />

100<br />

100<br />

80<br />

80<br />

60<br />

60<br />

40<br />

40<br />

20<br />

14 days<br />

56 days<br />

20<br />

14 days<br />

56 days<br />

0<br />

0 1 2 3 4 5 6<br />

地 際 直 径 (cm)<br />

0<br />

0 1 2 3 4<br />

主 軸 長 (m)<br />

図 5.9 種 子 採 取 した 株 主 幹 のサイズと 発 芽 率 との 関 係<br />

主 軸 長 との 間 に 有 意 な 相 関 が 認 められた。 回 帰 式 は ln y=a+bln x、14 日 発 芽 率 :a=3.80, b=0.540, r=0.699*、56<br />

日 発 芽 率 :a=4.08, b=0.327, r=0.681*、*: p


6. 総 合 考 察<br />

6.1 種 子 発 芽 特 性 と 播 種 工<br />

供 試 樹 種 の 室 内 発 芽 率 については、 既 往 の 報 告 等 から( 林 業 科 学 振 興 所 、1985)、ヤマハギで<br />

高 い 値 を 示 すと 見 られたが、 最 も 高 い 値 を 示 したのはタニウツギであり、ムラサキシキブやリョ<br />

ウブも 高 い 値 を 示 した( 表 3.1)。タニウツギが 高 い 発 芽 率 をもち、 発 芽 勢 ( 短 期 発 芽 力 )も 高<br />

く、 発 芽 力 の 面 で 優 れている 点 は 十 分 留 意 しておきたいところである( 丸 山 ら,1984)。ヌルデ<br />

の 発 芽 率 は、 種 子 の 種 皮 組 織 が 物 理 的 化 学 的 に 発 芽 を 抑 制 しているためであり( 鷲 谷 , 1993; 鈴 木 ,<br />

2003), 熱 湯 処 理 などをおこなうことで 発 芽 率 が 向 上 する( 林 業 科 学 振 興 所 、1985)。ノイバラも<br />

発 芽 率 が 低 かったが,これについては, 不 発 芽 種 子 について 胚 の 有 無 を 検 査 するとともに, 種 子<br />

の 採 取 時 期 , 精 選 方 法 , 貯 蔵 方 法 などについても 検 討 する 必 要 がある。<br />

一 方 、 野 外 での 試 験 では,ムラサキシキブとリョウブは, 実 験 室 での 発 芽 試 験 が 比 較 的 好 成 績<br />

であるにもかかわらず, 発 芽 は 見 られなかった。ムラサキシキブについては、 経 験 者 によると、<br />

播 種 床 に 必 ずしも 敷 わらをする 必 要 はないが、 種 子 自 体 が 乾 燥 を 嫌 うことから、つねに 湿 った 状<br />

態 に 保 つことが 重 要 としているおり、 播 種 後 の 乾 燥 で 発 芽 能 力 を 失 ったのではないか 見 られる。<br />

一 方 、リョウブについては、 乾 燥 種 子 ( 低 含 水 率 )であることから、 播 種 後 の 乾 燥 によって 発 芽<br />

能 力 を 失 ったとは 考 えにくいので、 休 眠 が 誘 導 されたのではないかと 見 られる。ムラサキシキブ<br />

にしてもリョウブにしても、 花 や 果 実 あるいは 樹 形 や 樹 皮 に 特 徴 があり、 緑 化 で 積 極 的 に 活 用 し<br />

たい 樹 種 であるが、 通 常 の 播 種 工 には 向 かない。<br />

6.2 実 生 の 初 期 成 長 と 播 種 工 における 早 期 地 表 被 覆 能 力<br />

播 種 後 、 早 期 に 地 表 を 緑 で 覆 うことができるかどうかは、 播 種 後 の 種 子 発 芽 と 発 芽 後 の 実 生 の<br />

葉 群 形 成 が 直 接 関 係 する。 播 種 後 早 く 発 芽 し 発 芽 率 が 高 いほど、そして 子 葉 展 開 の 後 、 新 たな 葉<br />

群 形 成 が 早 く 進 むほど、 早 期 の 地 表 被 覆 力 は 高 い。 播 種 後 早 く 発 芽 するのは、ヤマハギ、ノイバ<br />

ラであり、 発 芽 率 も 高 いが、 葉 群 形 成 について 両 樹 種 をくらべると、 開 葉 曲 線 の 上 昇 はヤマハギ<br />

で 明 らかに 大 きかった( 図 3.2)。これらのことから、 播 種 工 をおこなった 場 合 、 早 期 地 表 被 覆<br />

能 力 はヤマハギで 最 も 高 く、これまで 東 北 地 方 に 限 ってもヤマハギが 広 く 斜 面 緑 化 に 導 入 されて<br />

きた 実 績 は 十 分 納 得 のいくところである。<br />

発 芽 後 の 実 生 の 幹 主 軸 の 伸 長 は,どの 樹 種 も 夏 の 間 に 進 むが,9 月 以 降 の 伸 長 は 樹 種 で 異 なり,<br />

引 き 続 き 活 発 に 伸 長 を 続 ける 樹 種 , 伸 長 が 衰 える 樹 種 、 伸 長 を 停 止 する 樹 種 があった( 図 3.3)。<br />

伸 長 を 停 止 する 時 期 の 早 晩 は, 成 長 期 間 と 密 接 に 結 びつく。 発 芽 当 年 の 成 長 期 末 の 幹 主 軸 成 長 量<br />

は, 直 径 , 長 さともに 樹 種 間 で 異 なっていたが,これには 成 長 期 間 の 長 短 が 大 きく 関 与 している。<br />

供 試 樹 種 のなかでは、ヤマハギが 最 も 遅 くまで 開 葉 を 続 ける 性 質 をもち、とくに 幹 主 軸 の 上 方 へ<br />

の 伸 長 量 は 大 きく、 成 長 力 の 面 で 優 れた 性 質 を 確 認 することができた。 低 木 種 の 成 長 特 性 評 価 に<br />

あたっては、これまで 春 先 の 開 葉 開 始 時 期 に 重 きが 置 かれていた 感 があるが、 秋 に 入 っていつま<br />

で 開 葉 を 続 けるのか、この 開 葉 停 止 時 期 は 開 葉 開 始 時 期 と 結 びついて 1 年 の 成 長 期 間 の 長 短 を 決<br />

定 するので、 樹 種 のさまざまな 成 長 特 性 のなかでも、とくに 重 要 である( 青 木 ・ 橋 本 , 1995)。<br />

発 芽 当 年 の 実 生 が、 幹 主 軸 の 伸 長 に 対 して 主 軸 からの 一 次 枝 分 岐 さらには 一 次 枝 からの 二 次<br />

枝 の 分 岐 をするかしないか、するとすればどの 程 度 活 発 にするか、こうした 幹 枝 系 の 発 達 特 性 は、<br />

植 生 の 内 部 構 造 と 密 接 にかかわるもので、 植 生 の 侵 食 防 止 の 機 能 や 気 象 害 抵 抗 性 との 絡 みで 重 要<br />

21


な 意 味 をもっている。 幹 主 軸 からの 枝 分 岐 については, 分 岐 の 有 無 や 分 岐 の 仕 方 などの 面 で 樹 種<br />

間 にちがいがあった( 図 3.4、 表 3.2)。 活 発 に 分 枝 する 樹 種 は、ヤマハギ、 次 いでノイバラ<br />

であり、 植 生 の 拡 大 や 内 部 構 造 に 関 して 一 定 の 影 響 をもっていると 見 られる。なお、 枝 分 岐 する<br />

樹 種 では,よく 分 岐 する 個 体 ほど、 大 きなサイズを 獲 得 している。<br />

6.3 土 壌 条 件 に 対 する 実 生 の 成 長 反 応 の 重 要 性<br />

発 芽 実 生 は、 個 体 全 器 官 のなかで 葉 の 割 合 が 高 いので、その 成 長 量 は 一 義 的 には 個 葉 の 光 合 成<br />

能 力 で 決 まり、 葉 の 光 合 成 能 力 が 高 い 樹 種 ほど、 活 発 な 成 長 をおこなうと 考 えられる。 葉 の 光 合<br />

成 関 係 因 子 のなかで、クロロフィル 含 有 量 に 樹 種 間 差 が 認 められ、ヤマハギで 高 い 値 、タニウツ<br />

ギで 低 い 値 を 示 した( 図 4.1、 表 4.1)。こうした 差 異 は、 実 生 の 幹 主 軸 の 伸 長 成 長 や 肥 大 成<br />

長 そして 実 生 の 重 量 成 長 を 決 めている。なお、クロロフィル a/b 比 や 比 葉 面 積 重 については、 有<br />

意 なちがいはなく、 電 子 伝 達 速 度 (ETRmax)も 同 様 で 差 異 は 認 められなかった。クロロフィル 含<br />

有 量 に 樹 種 間 差 があるのに、 電 子 伝 達 速 度 になかった 点 は、 理 論 的 には 考 えにくいので、おそら<br />

く 電 子 伝 達 速 度 の 測 定 誤 差 によるものと 見 られる。 個 体 の 成 長 とかかわって 葉 の 生 理 評 価 をおこ<br />

なうにあたっては、 測 定 法 の 問 題 として 留 意 しておく 必 要 があろう。ここで、クロロフィル 含 有<br />

量 が 有 用 な 生 理 指 標 となるようであったことから、 従 来 からおこなわれている 携 帯 型 の 葉 緑 素 計<br />

による 生 理 計 測 も 有 効 と 考 えられる。 本 研 究 でも、ここでは 報 告 していないが、 有 効 であること<br />

を 裏 付 けるデーターを 得 ており、 基 盤 づくりや 管 理 に 大 いに 活 用 したいところである。<br />

給 水 や 施 肥 をおこなった 場 合 の 成 長 量 促 進 の 効 果 は、 樹 種 間 で 明 らかに 異 なっていた( 図 4.<br />

2、 表 4.2)。ヤマハギでは、 給 水 効 果 はあったが、 施 肥 効 果 は 認 められなかった。 給 水 効 果 が<br />

認 められたのは、ヤマハギの 他 、ヌルデ、タニウツギであり、 施 肥 効 果 については、ヤマハギを<br />

除 く 全 樹 種 で 認 められた。 乾 燥 貧 栄 養 地 において、 無 給 水 無 施 肥 で 発 芽 実 生 の 成 長 量 を 大 きくし<br />

たいと 言 うのであれば、ヤマハギが 適 している。 一 方 、 土 壌 条 件 を 改 善 して 大 きな 実 生 を 育 てた<br />

いのであれば、ヌルデが 適 している。ヌルデは、 条 件 次 第 では、 発 芽 当 年 で 3m 近 くの 樹 高 成 長<br />

が 見 込 めるはずである。ノイバラでは 施 肥 による 成 長 促 進 が 期 待 されるし、タニウツギでは 給 水<br />

さらには 施 肥 により 大 きく 成 長 を 促 進 することが 可 能 である。こうした 樹 種 特 性 は、 緑 化 場 面 の<br />

樹 種 多 様 性 を 高 めるうえで 十 分 考 慮 に 入 れておきたい。<br />

6.4 タニウツギ 実 生 の 特 異 な 成 長 特 性<br />

陽 生 の 低 木 種 では、 発 芽 にともなう 実 生 の 葉 群 の 形 成 は、 他 種 との 競 合 状 態 のなかで、 定 着 を<br />

確 実 にするうえで 大 きな 役 割 を 担 っている。 厳 しい 種 間 競 合 条 件 の 下 では、 実 生 の 物 質 経 済 にお<br />

いて 葉 群 発 達 への 物 質 配 分 にウェイトをかけるのが、 定 着 を 確 実 にするうえで 有 利 であろう。 葉<br />

群 の 発 達 は 地 上 部 の 幹 枝 系 の 発 達 であり、 地 上 部 の 発 達 を 意 味 する。 発 芽 実 生 においては、より<br />

発 達 している 実 生 ほど 地 上 部 重 の 比 率 が 高 くなっている、すなわち 地 下 部 重 の 比 率 が 低 くなって<br />

いると 見 られる。<br />

しかしながら、こうした 器 官 形 成 は、タニウツギでは 見 られず、 実 生 の 地 下 部 重 の 比 率 と 実 生<br />

サイズとの 関 係 において、 発 達 した 実 生 ほど 地 下 部 重 の 比 率 は 大 きい( 図 4.8)。 他 の 樹 種 につ<br />

いては、 実 生 サイズが 大 きくなるにつれ、 地 下 部 重 の 比 率 は、ヤマハギでは 明 らかな 減 尐 、ヌル<br />

デ、ノイバラでは 一 定 の 関 係 がなかったことから、タニウツギの 増 大 はきわめて 特 徴 的 である。<br />

タニウツギが、 他 樹 種 と 比 較 して、 発 芽 実 生 の 成 長 量 が 小 さいのは、この 点 も 一 因 である。また、<br />

22


地 上 部 地 下 部 の 現 存 量 構 成 において、タニウツギは 他 の 樹 種 とは 対 照 的 に、 地 下 部 現 存 量 が 地 上<br />

部 を 上 回 っている 点 も 注 目 に 値 する( 図 4.9)。<br />

タニウツギの 実 生 が 他 樹 種 と 比 較 して 地 下 部 重 の 発 達 にウェイトをかけている 点 は、 実 生 成 長<br />

全 体 を 犠 牲 にするが、 反 面 、 環 境 ストレスに 対 する 耐 性 を 高 めていると 考 えられる。 実 生 個 体 に<br />

おいて、 相 対 的 によく 発 達 した 根 系 は、 水 分 や 無 機 養 分 が 制 限 される 環 境 下 で、 資 源 獲 得 と 個 体<br />

の 維 持 に 有 利 に 働 くはずである。また、 緑 化 の 場 面 においては、 地 表 面 あるいは 土 壌 表 層 におけ<br />

る 侵 食 防 止 は 最 も 重 量 な 事 項 であることから、タニウツギのように、 地 上 部 の 発 達 を 抑 えて 地 下<br />

部 の 発 達 を 優 勢 にする 成 長 特 性 は、 地 表 下 の 浅 いところの 根 の 密 度 を 高 くすると 見 られることか<br />

ら、 地 表 面 や 土 壌 表 層 の 安 定 化 につながるのではないかと 見 られる。<br />

6.5 タニウツギの 種 子 採 取 と 播 種 にあたって<br />

タニウツギは、 北 海 道 、 本 州 の 主 に 日 本 海 側 に 広 く 分 布 し、 暖 温 帯 上 部 から 冷 温 帯 下 部 の 山 野<br />

でよく 目 にする。 本 種 は、 高 さ 2~3m の 陽 生 の 落 葉 低 木 で、 年 を 経 て 株 立 状 に 発 達 し、 林 道 切 土<br />

法 面 下 部 や 林 道 の 路 肩 などでよく 出 現 し、1 株 見 つければ、 近 傍 周 辺 に 多 数 見 られるのが 普 通 で<br />

ある。また、 東 北 地 方 では、 放 牧 地 にススキ 群 落 にまじって、よくタニウツギ 群 落 が 成 立 してい<br />

る( 西 脇 ら,1993)。 毎 年 多 くの 花 を 着 け、 種 子 生 産 に 凶 作 年 がないと 見 られることから、 種 子<br />

の 大 量 採 取 はきわめて 容 易 である。<br />

タニウツギの 種 子 採 取 は、10 月 以 降 におこなうのがよい( 図 5.5、 表 5.2)。ただし、11<br />

月 になると、 朔 果 が 裂 開 して 種 子 が 落 下 するので、 実 際 にはその 直 前 を 見 計 らって 採 取 するのが<br />

よい。11 月 下 旬 以 降 、 果 枝 上 に 裂 開 した 朔 果 が 多 数 見 られ、 大 半 の 種 子 は 落 ちているが、 子 房 基<br />

部 にはまだ 相 当 量 の 種 子 が 入 っており、 発 芽 力 のある 良 い 種 子 が 採 取 できる。どのような 株 から<br />

種 子 を 採 取 するのか、 気 になるところであるが、 株 の 大 きさよりは、 株 から 発 生 する 主 幹 のサイ<br />

ズに 注 目 にしたい。 主 幹 を 見 て、 基 部 直 径 で 3cm 以 上 、 主 幹 の 長 さで 2m ないし 2.5m 以 上 のも<br />

のから 採 取 するのがよい( 表 5.5、 図 5.9)。<br />

タニウツギの 播 種 に 際 しては、 播 種 前 の 低 温 処 理 は 必 要 としない( 図 5.6、 表 5.3)。した<br />

がって、 採 り 播 きが 可 能 であるが、 晩 秋 の 低 温 下 で 発 芽 するかどうか、また 冬 が 越 せるかどうか<br />

については 今 回 は 調 べていない。 採 取 後 低 温 貯 蔵 し、 翌 年 春 に 播 種 するのが、 無 難 であろう。 低<br />

木 種 のなかでは、きわめて 高 い 発 芽 力 をもち、 野 外 での 播 種 成 績 も 最 も 好 成 績 が 期 待 できる 樹 種<br />

の 一 つと 見 られる。ただ、 今 回 の 試 験 でも 明 らかなように、 暗 条 件 の 下 ではほとんど 発 芽 が 認 め<br />

られないことから、 典 型 的 な 光 発 芽 種 子 であり、 播 種 後 の 地 表 被 覆 については 十 分 注 意 しておく<br />

必 要 がある( 図 5.7、 表 5.4)。<br />

6.6 タニウツギ 株 の 更 新<br />

タニウツギは 陽 生 低 木 種 であり、 株 の 近 くに 高 木 種 等 が 発 達 してくると、 急 速 に 衰 退 するよう<br />

であるが、こうした 光 競 合 を 除 去 する 作 業 をおこなえば、タニウツギの 株 の 寿 命 は 数 十 年 以 上 あ<br />

り、 長 期 にわたってタニウツギ 低 木 群 落 を 維 持 することが 可 能 である。 株 の 下 には 埋 土 種 子 の 集<br />

団 が 形 成 されており、 堆 積 有 機 物 層 直 下 の 土 壌 表 層 をサンプルして 播 き 出 し 試 験 を 実 施 したとこ<br />

ろ、 容 易 に 発 芽 が 認 められたこと( 図 6.2)、 株 が 古 くなって 主 幹 の 発 達 が 衰 えた 場 合 は、 株 を<br />

伐 採 し、 堆 積 有 機 物 層 を 剥 ぎ 土 壌 表 層 を 撹 乱 すれば、 容 易 に 更 新 が 可 能 と 見 られる。<br />

低 木 種 の 樹 種 特 性 に 関 しては, 成 熟 枝 のフェノロジー, 幹 主 軸 の 交 代 パターン, 株 の 維 持 機 構<br />

23


などについて 調 べられている( 松 田 ・ 橋 本 , 2001; 八 田 ら, 2003; 若 山 ・ 八 田 , 2004)。しかし, 実<br />

際 の 緑 化 場 面 で、 植 生 導 入 し 年 月 を 経 て 発 達 した 株 の、 維 持 や 更 新 については、 試 験 例 に 乏 しく、<br />

今 後 の 課 題 となっている。 引 き 続 き 検 討 を 進 めることにしている。<br />

図 6.1 タニウツギの 果 枝 ( 左 :2011 年 7 月 29 日 、 右 :2011 年 9 月 22 日 )<br />

7 月 で 子 房 は 外 観 上 十 分 成 長 している。9 月 では 子 房 はまだ 緑 色 であるが、 葉 が 枯 れてきており、これが 種 子 成 熟<br />

の 一 応 の 目 安 になる。しかし、 採 取 は 10 月 まで 待 った 方 がよい。<br />

図 6.2 実 験 室 での 埋 土 種 子 播 き 出 し 試 験 (2011 年 12 月 )<br />

試 験 開 始 後 3 週 間 するとたくさんの 芽 生 えが 出 てくる。 種 子 がすぐに 必 要 な 場 合 は 株 下 の 堆 積 有 機 物 層 を 除 去 し、<br />

直 下 の 鉱 物 質 土 層 を 浅 く 採 ればよい。<br />

24


引 用 文 献<br />

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学 農 学 部 演 習 林 報 告 26: 29-41.<br />

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まで-. 340pp, 農 林 出 版 , 東 京 .<br />

Kramer, P.J. and Kozlowski, T.T. (1979) Physiology of Woody Plants. 811pp. Academic Press,<br />

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斜 面 緑 化 への 利 用 と 関 係 して-. 岩 手 大 学 農 学 部 演 習 林 報 告 42: 111-118.<br />

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459-465.<br />

25


助 成 事 業 者 紹 介<br />

橋 本 良 二 岩 手 大 学 農 学 部 教 授 ( 農 学 博 士 )<br />

主 な 著 書 都 市 の 自 然 再 生 プランニング( 地 域 環 境 再 生 研 究 会 、 平 成 20 年 )<br />

地 域 のための 環 境 再 生 読 本 - 県 境 廃 棄 物 投 棄 サイト-( 地 域 環 境 再 生 研 究 会 、 平 成 18<br />

年 )<br />

共 同 研 究 者<br />

小 山 浩 正 山 形 大 学 農 学 部 准 教 授 ( 博 士 ( 農 学 ))<br />

主 な 著 書 発 芽 生 物 学 - 種 子 発 芽 の 生 理 ・ 生 態 ・ 分 子 機 構 ( 文 一 総 合 出 版 、 平 成 21 年 )<br />

ニセアカシアの 生 態 学 ( 文 一 総 合 出 版 、 平 成 21 年 )<br />

杉 田 久 志 独 立 行 政 法 人 森 林 総 合 研 究 所 植 生 管 理 研 究 室 長 ( 農 学 博 士 )<br />

主 な 著 書 森 の 生 態 誌 : 北 上 山 地 の 景 観 とその 成 り 立 ち( 古 今 書 院 、 平 成 17 年 )<br />

雪 山 の 生 態 学 ( 東 海 大 学 出 版 会 、 平 成 14 年 )<br />

26

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