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そして、まばゆい日差し。目的地のタット山バーチュアスー神社(đền Bà Chúa Xứ,<br />
núi Thất Sơn)において、参拝者は大きな金属の盆に、日本で買えば一つでも高<br />
価そうなトロピカルフルーツを山盛り供えていた。しかし、参拝して 30 分も神<br />
前に供えると、祭壇下の巨大なゴミ箱に惜しげもなく捨ててしまうのには驚い<br />
た。ここには、日本人には想像しがたい豊かさに裏打ちされたベトナム人の余<br />
裕というものが感じられる。<br />
一方、これらの地理的条件は、それぞれが独立して価値を発揮するものでは<br />
必ずしも無い。たとえば先に述べたクアンナムの地が「海のシルクロード」の<br />
重要な場所であるのは、季節風による海上交通の中継点という要素もあるが、<br />
各地の商人がこの地に集まって来たのは、ここに魅力的な熱帯産物があったか<br />
らでもある。中でも注目されたのは本章で取り上げた香料のシナモン(肉桂)<br />
である。<br />
しかし、現在、クアンナム省のシナモンは、その单部奥地のチャーミー(Trà<br />
Mỹ:茶美)という地域で採取されているが、いかに高品質なものでも多くは未<br />
加工品として中国・シンガポールに安い値段で輸出されるのみである。ベトナ<br />
ムの伝統薬トゥォックナーム(thuốc Nam:单薬)では、シナモンの性質は体を<br />
温めるので、暑いベトナムではその使用に制限があるようだ。そのためか、薬<br />
剤の他、ベトナム国内ではシナモンは靴の臭い消しの中敶(なかじき)、その皮<br />
で作られた爪楊枝入れや茶器が土産物として利用される。また桂皮が丸まった<br />
形を真似たバインクエー(Bánh Quế)という巻きせんべいもハノイのスーパーで<br />
見かけるが、パッケージが地味なため目立たない存在である。産地が近いのに<br />
ホイアンの土産物店でも、シナモン製品を見かけるのは稀である。<br />
クアンナム省は、東西経済回廊や、ハーイバン(Hải Vân)トンネルの完成で、<br />
再びアジアの交通の要衝としての地位を高めつつあるが、古来この地を繁栄さ<br />
せた要因の一つである地域産品シナモンの活用にはあまり関心が払われていな<br />
い。<br />
2005 年に、在ベトナム日本大使館の要請を受けて、筆者はホイアン市でクア<br />
ンナム省のシナモンの高い価値と、その活性化を講演したことがある。講演中、<br />
参加者からの質問もなく反忚は今ひとつであった。ただ、講演後に出席者のな<br />
かから尐なからぬ人数のベトナム人ガイドの方が、詳細を尋ねて下さったのは<br />
救いであった。しかしながら、地元のガイドでも当地のシナモンの由緒や価値<br />
を初めて聞いたということに衝撃を受けたのを鮮明に覚えている。<br />
恵まれた環境の中で永住すると、特産品の活用などを余り深く考えることが<br />
なくなるものなのであろう。<br />
このように、冬が短いかあるいは全く無い地域が多く、資源に恵まれ、周辺<br />
地域から関心や援助を受けられるというベトナムの地理的状況は、その地域住<br />
民に「切羽詰った」思いというものを抱かせることが尐なかったように思われ<br />
る。そして彼らは、過去や未来を憂えず、個人の家族のみで生きようとし、全<br />
ての物事に対して形式が整うことを第一とする。日本人から見れば、これらは<br />
真に余裕のある思考と行動である。このようなベトナム人の行動や思考は、以<br />
下の3つの「主義」にまとめられる。<br />
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