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著者のことば<br />
ベトナムは日本と同じ東アジア文化圏に属し、その国民の主食は米で、それ<br />
を箸で食べるなど日本人との共通点が尐なくない。またベトナム戦争に勝ち抜<br />
いた国であることなどから、ベトナム人は優秀で勤勉な国民性を持つとのイメ<br />
ージを日本人は抱いている。そして、日本人はそのようなイメージをもとにし<br />
て、ベトナム人なら日本人の考え方や行動に共感し理解してくれると思い込み<br />
がちである。しかし、日本人が一方的にそのようなイメージや思い込みを抱い<br />
たままでいることは、反面においてベトナム人の文化や習慣をあまり深く知ろ<br />
うとはしないことにも繋がっているようだ。たとえば、次のような例がある。<br />
2002 年にハノイ市で、日越交流施設創立の記念セレモニーが行われ、幾人かの<br />
日本側代表から、いろいろな日本での個人経験を踏まえた祝辞が述べられた。<br />
その直後、会場から年配のベトナム人が立ち上がり、こう述べた。<br />
「皆様の御経験やアドバイスを拝聴いたしました。しかしながら、こう<br />
申し上げるのは大変恐縮ですが、このような機会に何度も伺ってまい<br />
りました皆様の高論卓説は、我が国の実情とかけ離れた御話が多く、<br />
残念ながら殆ど忚用することが出来ないでおります。<br />
ここで改めて日本の皆様に御伺いたします。日本の方々は、いった<br />
い我が国ベトナムの歴史・文化あるいは習慣に御関心を持っていらっ<br />
しゃるのか、あるいは現在、それを御調べになっていらっしゃるのか、<br />
そこを御伺いしたい。」<br />
今も筆者の耳に残るこの問いかけは、一方的な思い込みを持ってやってくる<br />
日本人に対するベトナム人の意見を代表しているように思われる。つまり日本<br />
人がベトナムで効率よく事業を行なおうとする時、ベトナムの歴史と文化に関<br />
心を持つことが実は欠くことのできない課題なのである。とりわけ人材育成と<br />
活用を行おうとする際、直接対面しなければならないベトナム人の歴史や文化<br />
を理解することこそ目的を効果的に達成する重要な鍵になると思われる。<br />
本書は、このようなベトナム人材への理解促進に資することを目的として、<br />
筆者の知見や経験を基に記されている。<br />
以上の目的に即し、本書の第 1 章ではベトナム人の気質を形成した気候と国<br />
土について考える。第2~第4章において、そのような背景から醸成され、ベ<br />
トナム人の思考と行動を決定する現実主義、家族主義、形式主義の 3 主義に関<br />
係する歴史と文化の事例について述べる。さらに第 5 章で、日越交流の中で生<br />
まれた和製漢字熟語という知識共有の歴史を回顧する。つまり、これによって<br />
ベトナム人と日本人の間には、このような接点の基盤が存在することを再確認<br />
したい。最後の第 6 章では、歴史と文化を踏まえながらベトナム人とどのよう<br />
に接すればよいのかを Q.&A 方式で考えることとする。<br />
本書がベトナムビジネスに関わる日本企業の一助となれば幸いである。<br />
2<br />
大西和彦