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政策研究としての地域共創アプローチ - 政策科学部 - 立命館大学

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政 策 研 究 としての 地 域 共 創 アプローチ<br />

- 社 会 科 学 としての 政 策 科 学 の 構 築 のために-<br />

森 裕 之<br />

2009 年 3 月<br />

RPSPP Discussion Paper No.1


政 策 研 究 としての 地 域 共 創 アプローチ<br />

- 社 会 科 学 としての 政 策 科 学 の 構 築 のために-<br />

森 裕 之<br />

2009 年 3 月<br />

RPSPP Discussion Paper No.1<br />

地 域 共 創 シリーズ No.1


政 策 研 究 としての 地 域 共 創 アプローチ<br />

― 社 会 科 学 としての 政 策 科 学 の 構 築 のために―<br />

森 裕 之<br />

1. はじめに<br />

2. 「 総 合 政 策 学 」の 体 系 化 を 求 めて― 慶 応 義 塾 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 日<br />

本 ・アジアにおける 総 合 政 策 学 先 導 拠 点 」―<br />

3. 学 際 的 融 合 を 超 えて― 早 稲 田 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 開 かれた 政 治 経<br />

済 制 度 の 構 築 」―<br />

4. 政 策 研 究 としての 地 域 共 創 アプローチ<br />

5. むすび: 政 策 科 学 の 確 立 へ 向 けて<br />

1.はじめに<br />

「 共 創 」(Co-creation)という 言 葉 は 見 慣 れたもの、 言 い 換 えれば、 市 民 権 を 得 た 用 語 と<br />

は 決 していえないであろう。しかし、「 共 」と「 創 」という 文 字 の 組 み 合 わせによって 感 受<br />

される 範 囲 には 一 定 の 限 定 性 が 存 在 することも 間 違 いない。それは、「 共 同 で 創 り 出 す」、<br />

ないしは「 公 共 を 創 り 出 す」といった 意 味 合 いをもつものとして 認 識 されるものである。「 共<br />

創 」が、 近 年 盛 んに 言 われてきた「 公 民 協 働 」や「 新 しい 公 共 空 間 」など、「 公 」をめぐる<br />

行 動 主 体 や 政 策 領 域 をめぐる 状 況 変 化 を 捉 えたものである 点 は 了 解 されるといってよい。<br />

しかし 逆 にいえば、「 共 創 」とはこの 程 度 の 限 定 性 しかもちえない 曖 昧 な 概 念 であるのも 否<br />

定 できない。<br />

だが「 共 創 」はそれほど 突 飛 な 用 語 ともいえない。むしろ、「 共 創 」というアイデアの 下<br />

に、いくつもの 実 践 的 ・ 理 論 的 な 試 みが 行 われつつある。 地 方 自 治 体 についてみれば、 横<br />

浜 市 、 山 形 市 をはじめ、 人 口 規 模 の 大 きい 都 市 自 治 体 でも「 共 創 」を 積 極 的 に 用 いること<br />

によって 行 政 政 策 が 展 開 されはじめている。NPO や 市 民 団 体 などでも「 共 創 」は 多 くの 場<br />

面 で 使 われている。また 比 較 的 アカデミックな 領 域 では、 大 学 とまちづくりを 結 ぶキーワ<br />

ードとして「 共 創 」が 用 いられはじめている 1 。 大 学 でも、「 地 域 共 創 学 科 」( 浜 松 学 院 大 学 )、<br />

「 地 域 共 創 センター」( 下 関 市 立 大 学 、 東 北 公 益 文 科 大 学 )などが 設 置 されている。ヨーロ<br />

ッパ 都 市 再 生 ネットワーク(Urban Action Programme, URBACT)の 代 表 的 研 究 者 の 一<br />

人 であるクロード・ジャキエールは Co-production というタームを 用 いて、 都 市 政 策 にお<br />

1 小 林 英 嗣 、 地 域 ・ 大 学 連 携 まちづくり 研 究 会 編 著 『 地 域 と 大 学 の 共 創 まちづくり』 学 芸 出<br />

版 社 、2008 年 。なお、 同 書 の 中 でも 横 浜 市 における 共 創 の 取 り 組 みについては 詳 しく 紹 介<br />

されている。<br />

1


ける「 共 創 」の 意 義 を 主 張 している 2 。<br />

立 命 館 大 学 政 策 科 学 研 究 科 および 公 務 研 究 科 では、「 共 創 」をキーワードにした 政 策 研<br />

究 ・ 教 育 を 推 進 することを 目 的 に、2008 年 度 から「 平 成 20 年 度 大 学 院 教 育 改 革 支 援 プロ<br />

グラム」( 大 学 院 GP)の 事 業 として「 地 域 共 創 プロデューサー 育 成 プログラム」を 開 始 す<br />

ることになった。これは、 政 策 科 学 研 究 科 が 2006~2007 年 度 に 採 択 された 大 学 院 GP「ロ<br />

ーカル・ガバナンスの 政 策 実 践 研 究 」 3 で 得 られた 成 果 を 踏 まえ、さらに 発 展 させていく 試<br />

みである。<br />

もともと「 政 策 」という 表 現 は、 中 央 政 府 や 自 治 体 のような 政 府 部 門 による 公 共 政 策 を<br />

メイン・フィールドとして 位 置 づけているが、 前 大 学 院 GP において「ガバナンス」をテ<br />

ーマに 据 えたのは、 政 府 部 門 以 外 の 多 様 な 主 体 が 地 域 の 統 治 に 関 与 せざるをえない 実 態 を<br />

反 映 したものであった。 今 回 の 大 学 院 GP でそれを「 共 創 」という 表 現 に 改 めたのは、 各<br />

主 体 のガバナンスへの 関 与 にとどまらず、それらによる 共 同 業 務 を 通 じて 公 共 的 な 領 域 を<br />

創 出 していくという、より 踏 み 込 んだ 意 図 をあらわしている。<br />

以 上 の 点 からもわかるように、 地 域 共 創 は 政 策 研 究 の 一 領 域 として 位 置 づけられる。 立<br />

命 館 大 学 政 策 科 学 研 究 科 の 大 学 院 GP の 取 り 組 みにおいても、 地 域 共 創 は 同 様 の 視 座 から<br />

捉 えられるものである。 問 題 は、 大 学 院 GP のような 重 点 課 題 として、 地 域 共 創 がいかな<br />

る 意 味 で 政 策 研 究 の 柱 として 置 かれることに 妥 当 性 ないし 有 効 性 を 見 出 しうるのかという<br />

点 にある。<br />

以 上 のような 問 題 意 識 に 立 って 本 稿 では、これまで 我 が 国 で 進 められてきた 学 際 的 な 政<br />

策 研 究 の 到 達 点 とその 課 題 について 確 認 した 上 で、 政 策 研 究 の 素 材 としての「 地 域 」の 意<br />

義 を 検 証 する。<br />

2.「 総 合 政 策 学 」の 体 系 化 を 求 めて― 慶 応 義 塾 大 学 21 世 紀 COE プログラム<br />

「 日 本 ・アジアにおける 総 合 政 策 学 先 導 拠 点 」―<br />

経 済 政 策 、 公 共 政 策 、 福 祉 政 策 、 社 会 政 策 、 政 策 過 程 など、 政 策 に 関 する 研 究 はきわめ<br />

て 幅 広 く 行 われてきたが、 政 策 そのものをアカデミックな 土 俵 にのせ、 政 策 を 科 学 (science)、<br />

学 問 (discipline)、 方 法 論 (methodology)などとして 確 立 しようという 試 みは 少 ない。そ<br />

の 中 で、 慶 応 義 塾 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 日 本 ・アジアにおける 総 合 政 策 学 先 導 拠<br />

点 」が 進 めてきた「 総 合 政 策 学 」に 関 する 一 連 の 研 究 は、このような 科 学 的 営 為 としての<br />

政 策 研 究 の 一 つの 成 果 であるといってよい。<br />

そこで 以 下 では、 慶 應 義 塾 大 学 の 総 合 政 策 学 の 研 究 成 果 を 概 観 し、それが 有 する 課 題 に<br />

ついてみていくことにしよう。<br />

2 クロード・ジャキエール「ヨーロッパ 都 市 再 生 ネットワークへの 招 待 」( 立 命 館 大 学 地 域<br />

共 創 セミナー 講 演 、2008 年 11 月 5 日 )。このときの 概 要 については、 立 命 館 大 学 ニューズ<br />

レターPOLICY and governance(vol.3 no.2, 2009)を 参 照 。<br />

3 この 大 学 院 GP プログラムの 詳 細 については、 重 森 臣 広 「ローカル・ガバナンスの 政 策 実<br />

践 研 究 」 立 命 館 大 学 『 立 命 館 高 等 教 育 研 究 』 第 8 号 、2008 年 を 参 照 。<br />

2


(1) 慶 応 義 塾 大 学 「 総 合 政 策 学 」の 構 造 と 特 徴<br />

慶 應 義 塾 大 学 の 総 合 政 策 学 の 一 つの 到 達 点 は、 大 江 守 之 ・ 岡 部 光 明 ・ 梅 垣 理 郎 編 『 総 合<br />

政 策 学 』( 慶 應 義 塾 大 学 出 版 会 、2006 年 ) 第 1 部 「 総 合 政 策 学 の 確 立 に 向 けて」( 岡 部 光 明<br />

「 伝 統 的 『 政 策 』から 社 会 プログラムへ」および 同 「 理 論 的 基 礎 ・ 研 究 手 法 ・ 今 後 の 課 題 」)<br />

において 確 認 することができる。ここでは、 慶 應 義 塾 大 学 のプロジェクトが 主 張 する「 従<br />

来 の 政 策 学 」とは 異 なる「 総 合 政 策 学 」の 枠 組 みについて 概 観 しておこう。<br />

同 プロジェクトによれば、「 従 来 の 政 策 学 」とはいわゆる 公 共 政 策 学 であり、それは 政 府<br />

= 主 体 、 民 間 = 客 体 として 位 置 づけられる。その 政 策 の 運 営 方 法 は「 法 律 ・ 行 政 権 限 」「 命<br />

令 と 統 制 」に 基 づいており、 政 策 行 動 は 一 方 向 的 ・ 静 態 的 である。また 政 策 の 有 効 性 は 政<br />

府 への 情 報 集 中 と 賢 人 政 府 思 想 (ハーベイロードの 前 提 )によって 担 保 されている。<br />

それに 対 して「 総 合 政 策 学 」は「 社 会 で 発 生 している 問 題 (ないし 発 生 する 可 能 性 のあ<br />

る 問 題 )の 解 決 ないし 社 会 状 況 の 改 善 を 図 るために 計 画 ( 立 案 、 設 計 、デザイン)された<br />

一 つのまとまりを 持 った 対 応 策 」としての「 社 会 プログラム」として 性 格 づけされ、 政 策<br />

主 体 は 政 府 に 加 え NPO/NGO が 不 可 欠 な 役 割 を 担 うとされる。また 政 策 運 営 においては、<br />

民 間 行 動 のインセンティブや 主 体 間 の 相 互 依 存 関 係 を 通 じたガバナンスの 視 点 が 導 入 され、<br />

そこから 政 策 行 動 も 双 方 向 的 ・ 反 復 的 ・ 動 態 的 なものへと 拡 張 されることになる。 政 策 の<br />

有 効 性 においては 政 府 の 情 報 優 位 性 が 後 退 し、 政 策 は 政 治 過 程 の 産 物 に 他 ならず、 行 政 に<br />

代 わって 市 場 の 圧 力 が 増 大 している 状 況 を 的 確 に 押 さえる 必 要 がある 4 。<br />

では、このような 総 合 政 策 学 の 理 論 はどのようなものとして 表 現 されるのか。 岡 部 光 明<br />

は 総 合 政 策 学 を「 各 種 学 問 領 域 を 有 機 的 に 利 用 しつつ、IT 革 新 の 影 響 下 にある 現 代 社 会 の<br />

問 題 の 発 見 、その 性 質 の 解 析 、 多 様 な 手 法 ならびに 多 様 な 関 係 者 の 活 用 、という 一 連 のプ<br />

ロセスを 扱 う『 問 題 発 見 ・ 解 決 型 』の 社 会 科 学 」と 定 義 している。それは 一 つの 学 問 分 野<br />

(discipline)というよりも、 社 会 科 学 における 一 つの 方 法 論 (methodology)であるとす<br />

る。つまり、 総 合 政 策 学 の 特 徴 はその 手 法 にあり、 具 体 的 には1メソッドの 統 合 ( 各 種 研<br />

究 方 法 の 総 合 的 利 用 )、2アクターの 統 合 ( 研 究 者 を 含 む 多 様 な 関 係 者 の 包 含 )、3プロセ<br />

スの 統 合 ( 問 題 解 決 過 程 の 全 体 的 把 握 )という、 三 側 面 の 統 合 によって 表 現 されるとして<br />

いる 5 。さらに、 総 合 政 策 学 の 構 造 は 各 学 問 領 域 のモジュール 的 集 合 にあるとし、 大 規 模 シ<br />

ステムの 部 品 ないし 複 合 部 品 としてのモジュール 概 念 は、 総 合 政 策 学 における 個 別 学 問 領<br />

域 に 該 当 し、このようなモジュール 構 造 を 持 つシステムとして 総 合 政 策 学 を 理 解 すること<br />

ができるとしている。このことは、 総 合 政 策 学 が 政 策 課 題 全 体 を 扱 いうる 大 理 論 や 包 含 的<br />

なメタ 理 論 の 構 築 を 可 能 である、ないし 望 ましいとする 見 解 をとっていないことを 意 味 し<br />

ている。 総 合 政 策 学 において 各 学 問 分 野 の 専 門 性 は 必 須 であり、それらを 統 合 ・ 活 用 する<br />

ことによって 社 会 プログラムに 取 り 組 むことが 可 能 となり、そのためには 現 場 (フィール<br />

4 岡 部 光 明 「 伝 統 的 『 政 策 』から 社 会 プログラムへ」 大 江 守 之 ・ 岡 部 光 明 ・ 梅 垣 理 郎 編 『 総<br />

合 政 策 学 』 慶 應 義 塾 大 学 出 版 会 、2006 年 、36~38 ページ。<br />

5 岡 部 光 明 「 理 論 的 基 礎 ・ 研 究 手 法 ・ 今 後 の 課 題 」 大 江 守 之 ・ 岡 部 光 明 ・ 梅 垣 理 郎 編 、 同 上 、<br />

65 ページ。<br />

3


ド)を 重 視 することが 必 要 である 6 。<br />

以 上 のような 総 合 政 策 学 と 従 来 の 社 会 科 学 とを 比 較 したものが 表 1である。<br />

従 来 の 社 会 科 学<br />

総 合 政 策 学<br />

研 究 動 機 ・ 学 術 的 な 真 理 追 究 ・ 現 代 社 会 の 問 題 ないし 課 題 の 発 見 と 解 決<br />

・ 研 究 参 加 は 広 範 囲 。 多 数 分 野 の 研 究 者 を 含<br />

研 究 参 加 者<br />

・ 基 本 的 には 研 究 者 。 異 分 野 の 研 究 者 を 含 む むだけでなく、 国 内 外 の 政 府 ・ 企 業 ・NPO・ 国<br />

場 合 もあるが 参 加 者 は 均 質 的<br />

際 機 関 など 多 様 なアクターが 参 画 。 非 均 質 的<br />

( 多 様 性 )。 研 究 参 加 は 開 放 的 ・ 協 働 的<br />

研 究 の 態 様<br />

実 践 性<br />

研 究 手 段<br />

研 究 方 法<br />

個 別 学 問 領 域 との 関 係<br />

研 究 成 果 の 評 価<br />

表 1 総 合 政 策 学 の 基 本 的 性 格 と 特 徴<br />

・ 個 人 研 究 または 研 究 者 同 士 の 共 同 研 究<br />

・ 知 的 生 産 は 基 本 的 に 研 究 施 設 内 で 実 施<br />

・ 社 会 的 実 践 (practice)を 必 ずしも 含 まない<br />

・ 研 究 者 同 士 のほか 多 様 な 参 加 者 間 コラボ<br />

レーションが 重 要<br />

・ 知 識 生 産 の 拠 点 は 研 究 施 設 外 にも 分 散<br />

・ 社 会 的 実 践 は 一 つの 重 要 かつ 不 可 欠 の 要<br />

素 。 実 践 ないし 実 証 実 験 との 緊 密 な 相 互 作 用<br />

によって 研 究 の 発 展 ・ 深 化 、そして 実 践 の 効<br />

果 増 強 が 可 能 。<br />

・ネットワーク(インターネット・ 人 的 ネットワー<br />

・フレームワーク( 概 念 )が 特 に 重 要 。 ク)、フィールドワーク( 現 地 調 査 )、フレーム<br />

・ネットワーク( 人 的 ネットワークならびに 情 報 ワーク( 新 概 念 の 構 築 等 )はいずれも 同 等 の<br />

ネットワーク)も 重 要 であるが、フィールドワーク 重 要 性<br />

の 重 要 性 は 研 究 分 野 次 第<br />

・ 新 しい 調 査 ・ 研 究 手 法 ( 特 にインターネット 利<br />

用 )の 開 発 も 重 要<br />

・ディシプリン( 個 別 学 問 領 域 )の 内 的 論 理 に ・ 問 題 解 決 が 出 発 点 であり、 問 題 の 性 質 を 解<br />

よって 研 究 の 方 向 や 進 め 方 を 決 定 (disciplinedriven)<br />

選 択<br />

明 し 解 決 するうえで 必 要 な 研 究 分 野 ・ 手 法 を<br />

(issue-driven)<br />

・ 個 別 ディシプリンが 基 礎 であり、そのアイデン<br />

ティティ(disciplinary identities)が 重 要<br />

・ 完 成 度 の 高 さ( 洗 練 性 ・ 一 般 性 )<br />

・ 研 究 者 相 互 間 ( 学 会 ) 評 価 が 中 心 。 比 較 的<br />

容 易<br />

・ 研 究 分 野 毎 に 学 会 が 存 在<br />

・ 個 別 ディシプリン( 既 存 の 各 種 社 会 科 学 等 )<br />

は、それを 母 体 として 活 用 するので 重 要 。ただ<br />

し、それは 利 用 可 能 性 ( 問 題 の 解 析 、 政 策 ・ 戦<br />

略 ・ 行 動 プランの 導 出 )がある 限 りにおいてそ<br />

うであり、そのディシプリンとしてのアイデン<br />

ティティは 重 視 されない。<br />

・ 各 種 ディシプリンは、そのインターフェイスを<br />

固 定 する( 政 策 的 ないし 戦 略 的 含 意 の 導 出 を<br />

必 須 化 する)かたちで「モジュール 化 」させて<br />

基 本 的 研 究 手 段 として 活 用 。これにより 分 業<br />

の 利 益 、 専 門 化 の 利 益 を 享 受 可 能<br />

・これは「インターディシプリナリ」や「トランス<br />

ディシプリナリ」とも 異 なる 発 想<br />

・ 多 次 元 的 ( 有 効 性 ・ 実 現 可 能 性 ・ 効 率 性 ・ 一<br />

般 性 )<br />

・ 社 会 的 な 評 価 やアカウンタビリティが 重 要<br />

・ 総 合 政 策 学 会 を 設 立 する 必 要 性<br />

出 所 ) 岡 部 光 明 「 理 論 的 基 礎 ・ 研 究 手 法 ・ 今 後 の 課 題 」 大 江 守 之 ・ 岡 部 光 明 ・ 梅 垣 理 郎 編 『 総 合 政 策 学 』 慶 応 義 塾 大 学 出 版<br />

会 、2006 年 、83ページ。<br />

(2)「 総 合 政 策 学 」の 成 果 と 課 題<br />

以 上 のような 総 合 政 策 学 の 考 え 方 は、 学 問 ないし 方 法 論 としての 政 策 研 究 の 体 系 化 のあ<br />

り 方 としてはうまく 整 理 されたものだといえる。 一 つの 体 系 としての 政 策 研 究 のあり 方 を<br />

探 究 する 場 合 、ここで 示 された 総 合 政 策 学 の 構 造 へと 行 き 着 く 可 能 性 が 大 きいといってよ<br />

い。その 意 味 では、 慶 應 義 塾 大 学 による 総 合 政 策 学 の 体 系 化 が 一 定 の 成 果 をあげたことは<br />

間 違 いない。しかし、この 総 合 政 策 学 の 方 向 性 には 次 のような 課 題 がある。<br />

第 一 に、 経 済 学 や 政 治 学 といった 既 存 の 学 問 分 野 においても、その 内 部 では 様 々な 学 派<br />

が 存 在 しており、 個 別 学 問 領 域 によって 構 成 される「モジュール」そのものが 単 純 に 構 想<br />

6 同 上 、74~75 ページ。<br />

4


することが 困 難 であることである。 経 済 学 を 例 にとれば、 主 流 である 新 古 典 派 経 済 学 と 非<br />

主 流 派 経 済 学 ( 制 度 学 派 、マルクス 派 、レギュラシオン 派 、ラディカル 派 など)に 分 かれ<br />

ており、 新 古 典 派 経 済 学 の 中 でさえ 経 済 行 動 の 合 理 性 の 考 え 方 や「 制 度 」の 取 り 扱 い 方 が<br />

異 なっている。<br />

政 治 学 においても、 伝 統 的 な 政 治 文 化 論 や 政 治 社 会 論 から 合 理 的 選 択 理 論 までいくつも<br />

の 流 れが 存 在 しており、それらを 単 純 に 一 まとめとして 考 えることはできない。それどこ<br />

ろか、 政 治 学 のもつ 学 問 的 な 内 的 分 岐 の 度 合 いは 経 済 学 のそれをはるかに 超 えるといって<br />

よい。<br />

これらの 既 存 の 学 問 分 野 の 中 での 学 派 分 岐 の 状 況 を 前 提 に 考 えれば、それらの 総 合 によ<br />

る 政 策 研 究 のあり 方 は 恣 意 的 ・ 裁 量 的 なものになる 可 能 性 が 強 い。つまり、「 総 合 」といっ<br />

ても 恣 意 的 ・ 裁 量 的 に 各 学 問 分 野 の 議 論 がそのときどきの 研 究 者 、 研 究 対 象 、さらには 意<br />

図 するインプリケーションの 方 向 性 に 応 じて、 都 合 よく 導 入 されることにつながりかねな<br />

いという 問 題 がある。この 点 をどのように 克 服 していくのかについては、 総 合 政 策 学 の 議<br />

論 において 必 ずしも 明 らかではない。<br />

第 二 に、 総 合 政 策 学 においては、あくまでも 各 学 問 分 野 の 総 合 的 利 用 という 視 点 に 立 ち、<br />

独 自 の 学 問 分 野 としての 確 立 を 想 定 していない 点 である。たしかに、 一 つの 理 論 体 系 とし<br />

て 政 策 学 が 成 立 するか 否 か、 少 なくとも、 学 問 的 世 界 における 市 民 権 を 獲 得 するだけの 知<br />

的 枠 組 みを 持 ちうるかどうかについては、 即 断 することはできない。しかもそれは、 各 専<br />

門 分 野 の 学 問 の 発 展 に 絶 えず 影 響 を 受 けざるをえないことから、それら 既 存 の 学 問 以 上 に<br />

永 続 的 かつ 振 幅 の 大 きい 学 問 探 究 の 努 力 が 求 められるであろう。<br />

このような 独 自 の 学 問 分 野 としての 政 策 学 の 構 築 という 課 題 が 不 透 明 かつ 困 難 であるの<br />

は 明 瞭 であるが、モジュール 構 造 を 持 つシステムとして 総 合 政 策 学 を 規 定 した 途 端 に、 独<br />

自 の 学 問 分 野 を 追 究 するという 政 策 学 の 科 学 的 営 為 が 鈍 化 し、その 体 系 そのものが 瓦 解 す<br />

る 危 険 に 曝 されることになる。<br />

このような 政 策 学 のもつ 性 質 を 考 慮 すれば、 社 会 科 学 としての 政 策 学 の 体 系 化 を 志 向 す<br />

るためには、 学 問 分 野 としての 政 策 「 科 学 」を 求 める 知 的 集 合 的 営 みは 不 可 欠 であろう。<br />

総 合 政 策 学 の 現 時 点 における 到 達 点 には 上 記 のような 課 題 がみられるが、これらの 課 題<br />

を 乗 り 越 えて、 学 際 的 研 究 を 一 つの 学 問 として 構 築 しようとする 試 みも 行 われている。そ<br />

のための 代 表 的 な 取 り 組 みは、 早 稲 田 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 開 かれた 政 治 経 済 制<br />

度 の 構 築 」の 研 究 であろう。そこで 次 に、この 早 稲 田 大 学 の COE プログラムにおける「 政<br />

治 経 済 学 」の 探 究 について 概 観 し、その 到 達 点 と 課 題 について 検 討 してみたい。<br />

3. 学 際 的 融 合 を 超 えて― 早 稲 田 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 開 かれた 政 治<br />

経 済 制 度 の 構 築 」―<br />

(1)「 政 治 経 済 学 」をめぐる 混 沌<br />

「 政 治 経 済 学 」(political economy)という 言 葉 は 古 くから 用 いられてきた。 学 問 体 系 の<br />

分 化 ・ 精 緻 化 が 最 も 進 んでいる 経 済 学 を 例 にとっても、18~19 世 紀 までは 社 会 、 政 治 、 経<br />

5


済 、 国 家 など 近 代 社 会 を 形 づくる 諸 要 素 を 包 括 した 分 析 がアダム・スミス、デヴィッド・<br />

リカード、カール・マルクスをはじめとする 古 典 派 経 済 学 者 たちによって 試 みられていっ<br />

た。20 世 紀 以 降 の 経 済 学 は 市 場 機 構 を 軸 とした 経 済 システムの 分 析 へとシフトし、その 過<br />

程 において 純 粋 な 経 済 メカニズムの 解 析 が 進 められていく。 新 古 典 派 とよばれる 経 済 学<br />

(economics)の 進 歩 がみられた。1930 年 代 の 世 界 的 不 況 はケインズ 主 義 的 な 政 府 介 入 を<br />

容 認 する 経 済 システムを 生 み 出 し、 市 場 と 政 府 との 関 係 を 分 析 するマクロ 経 済 学 の 体 系 化<br />

が 進 められていく。「 混 合 経 済 」(mixed economy)という 用 語 は、 市 場 と 政 府 が 融 合 した<br />

経 済 システムの 特 徴 を 巧 妙 に 表 したものといってよい。その 後 、この 混 合 経 済 体 制 または<br />

ケインズ 主 義 的 福 祉 国 家 はスタグフレーションや 財 政 赤 字 の 増 大 が 問 題 とされ、ブキャナ<br />

ンらによる 公 共 選 択 理 論 が 政 治 に 対 する 経 済 学 的 分 析 を 適 用 し、ケインジアンのもつ 賢 人<br />

政 治 思 想 (ハーベイロードの 前 提 )のもつ 現 実 的 欠 陥 を 痛 烈 に 批 判 した。このような 手 法<br />

は 政 治 学 にも 影 響 を 与 え、 伝 統 的 な 政 治 文 化 論 や 政 治 過 程 論 とは 異 なる 合 理 的 選 択 理 論 を<br />

生 み 出 すことになった。 分 化 した 経 済 学 と 政 治 学 がこのような 合 理 的 選 択 という 分 析 手 法<br />

に 収 斂 する 可 能 性 も 大 きくなったが、このようなアプローチに 対 しては 経 済 学 ( 制 度 派 経<br />

済 学 、ラディカル 派 経 済 学 、マルクス 経 済 学 等 )および 政 治 学 ( 政 治 文 化 論 、 政 治 社 会 論<br />

等 )の 双 方 からの 批 判 も 強 い。<br />

我 が 国 の 経 済 学 者 をみても、 各 方 法 論 の 特 徴 を 適 切 に 表 現 するものとして「 政 治 経 済 学 」<br />

という 用 語 が 用 いられてきた。 都 留 重 人 はマルクス 経 済 学 のオリジナルな 解 釈 に 依 拠 しつ<br />

つ、「 素 材 」と「 体 制 」を 区 分 したうえで、それを 総 合 する 社 会 科 学 のアプローチを「 政 治<br />

経 済 学 」として 捉 えている 7 。また 神 野 直 彦 は 財 政 社 会 学 的 アプローチを「 政 治 経 済 学 」と<br />

ほぼ 同 義 に 用 いている 8 。 近 年 では、 新 古 典 派 経 済 学 との 対 比 からポスト・ケインズ 派 、マ<br />

ルクス 派 、 新 リカード 派 の 理 論 を 総 括 した「 社 会 経 済 学 」(= 政 治 経 済 学 , political economy)<br />

の 構 築 を 行 う 取 り 組 みも 進 められ、その 特 徴 として 表 1のような 整 理 が 行 われている。<br />

表 2 新 古 典 派 経 済 学 と 社 会 経 済 学 の 比 較<br />

新 古 典 派 経 済 学<br />

社 会 経 済 学<br />

理 論 と 現 実 との 関 係 をどう 考 えるか<br />

理 論 の 基 礎 仮 説 は 非 現 実 的 でも 理 論 の 基 礎 仮 説 にも 現 実 性 が 必<br />

よい( 道 具 主 義 )<br />

要 である( 実 在 論 )<br />

個 人 と 社 会 との 関 係 をどう 考 えるか<br />

社 会 は 個 人 の 総 和 である。 個 人<br />

から 出 発 して 社 会 を 説 明 できる<br />

( 個 人 )<br />

個 人 と 社 会 とは 相 互 に 依 存 してお<br />

り、 分 割 不 可 能 である( 社 会 有 機<br />

体 論 )<br />

合 理 性 をどう 捉 えるか 完 全 合 理 性 限 定 合 理 性 、 手 続 的 合 理 性<br />

分 析 の 主 要 な 課 題 は 何 か 希 少 な 資 源 の 効 率 的 配 分 と 均 衡 社 会 経 済 システムの 再 生 産<br />

分 析 の 焦 点 は 何 か 交 換 生 産 と 分 配<br />

出 所 ) 宇 仁 宏 幸 「 社 会 経 済 学 とは 何 か」 宇 仁 宏 幸 ほか『 入 門 社 会 経 済 学 』ナカニシヤ 出 版 、2004 年 、6ページ。<br />

政 治 学 においては、 経 済 に 対 する 政 治 の 役 割 への 関 心 の 高 まりと 福 祉 国 家 の 危 機 に 関 す<br />

7 都 留 重 人 『 経 済 の 論 理 と 現 実 』 岩 波 書 店 、1971 年 、および、 同 『 公 害 の 政 治 経 済 学 』 岩<br />

波 書 店 、1972 年 など。 宮 本 憲 一 も 社 会 資 本 論 や 都 市 経 済 論 の 方 法 論 として、 都 留 と 同 じく<br />

「 素 材 」と「 体 制 」の 区 分 に 基 づく 理 論 を 展 開 している。 宮 本 憲 一 『 社 会 資 本 論 』 有 斐 閣 、<br />

1967 年 、および、 同 『 都 市 経 済 論 』 筑 摩 書 房 、1980 年 など。<br />

8 神 野 直 彦 『システム 改 革 の 政 治 経 済 学 』 岩 波 書 店 、1998 年 。<br />

6


る 比 較 分 析 を 行 ううえで、「 比 較 政 治 経 済 学 」の 理 論 や 方 法 が 追 究 されている 9 。<br />

これらの 状 況 からもわかるように、「 政 治 経 済 学 」という 用 語 は 依 然 として 様 々な 社 会 科<br />

学 的 営 為 の 中 で 用 いられている。<br />

(2) 早 稲 田 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 開 かれた 政 治 経 済 制 度 の 構 築 」における「 政<br />

治 経 済 学 」の 規 定<br />

このような 経 済 学 および 政 治 学 をめぐる 状 況 の 中 で、 新 しい 独 自 のディシプリンとして<br />

の 政 治 経 済 学 を 確 立 しようとした 試 みが、 早 稲 田 大 学 21 世 紀 COE プログラム「 開 かれた<br />

政 治 経 済 制 度 の 構 築 」である。これは、 政 治 学 、 経 済 学 、 法 律 学 がそれぞれの 学 問 領 域 を<br />

超 えて 共 同 研 究 を 行 うことにより、 新 しい 理 念 と 分 析 アプローチを 生 み 出 そうとしている<br />

ものである 10 。その 代 表 的 な 研 究 成 果 として 挙 げられるのが 河 野 勝 「 政 治 経 済 学 とは 何 か」<br />

であろう。<br />

河 野 は 既 存 の 政 治 学 と 経 済 学 が 自 らのディシプリンの 延 長 線 上 に 政 治 経 済 学 を 構 築 しよ<br />

うとするかぎり、 両 者 の 間 の 方 法 論 上 の 不 一 致 が 解 消 されることはありえず、そのような<br />

学 問 的 融 合 は 不 毛 な 試 みに 終 わらざるをえないとして、それらを 超 える 独 自 のディシプリ<br />

ンとして 政 治 経 済 学 をつくりだすことが 必 要 だとする。つまり、 政 治 学 でも 経 済 学 でもな<br />

い 新 しいディシプリンとして 政 治 経 済 学 が 確 立 されなければならないとする。 河 野 はその<br />

ような 政 治 経 済 学 を「 政 治 経 済 的 帰 結 をもたらす 意 思 決 定 が 多 様 なアクターに 行 われるこ<br />

とを 前 提 として、そうした 多 様 なアクター 間 に 繰 り 広 げられる 戦 略 的 相 互 作 用 のパターン<br />

を 理 論 化 し 実 証 すること」と 定 義 している 11 。<br />

また、 早 稲 田 大 学 21 世 紀 COE プログラムによる 政 治 経 済 学 の 方 法 論 を 総 括 した『 入 門<br />

政 治 経 済 学 方 法 論 』においても、「 政 治 経 済 学 は 既 存 の 政 治 学 と 既 存 の 経 済 学 との 単 なる 学<br />

際 的 融 合 を 目 指 しているのではないのです。 水 平 的 関 係 を 経 済 の 場 として、 他 方 垂 直 的 な<br />

関 係 を 政 治 の 領 域 として 考 える 仕 切 り 方 、そうした 志 向 の 枠 組 み 自 体 を 組 み 替 えることが<br />

必 要 です。そうしてはじめて、 人 間 行 動 や、そこから 生 まれるルール、 制 度 、システムな<br />

どを 分 析 する 一 般 的 な 社 会 科 学 としての 政 治 経 済 学 の 構 築 が 可 能 になっていく」と 述 べら<br />

れている 12 。ただその 一 方 で、「 理 想 をいえばひとりひとりの 研 究 者 が 全 部 できるのがいい<br />

のだけれど、 現 実 には 分 業 になる・・・ 研 究 者 にも 得 手 不 得 手 があるのは 当 たり 前 。 重 要<br />

なのは、 分 業 したら 分 業 しっぱなしではなく、いつでも 共 通 の 問 題 解 決 のために 協 業 する<br />

っていう 研 究 態 度 」であるとされている 13 。<br />

(3)「 政 治 経 済 学 」の 成 果 と 課 題<br />

「 政 治 経 済 学 」の 取 り 組 みは、 政 治 学 、 経 済 学 、 法 律 学 といった 既 存 社 会 科 学 の 総 合 で<br />

9 新 川 敏 光 ほか『 比 較 政 治 経 済 学 』 有 斐 閣 、2004 年 。<br />

10 清 水 和 巳 ・ 河 野 勝 『 入 門 政 治 経 済 学 方 法 論 』 東 洋 経 済 新 報 社 、2008 年 。ⅲページ。<br />

11 河 野 勝 「 政 治 経 済 学 とは 何 か」 藪 下 史 郎 監 修 、 河 野 勝 ・ 清 野 一 治 編 著 『 制 度 と 秩 序 の 政<br />

治 経 済 学 』 東 洋 経 済 新 報 社 、2006 年 、43 ページ。<br />

12 清 水 和 巳 ・ 河 野 勝 、 前 掲 、15 ページ。<br />

13 同 上 、36 ページ。<br />

7


はなく、それらの 枠 組 みを 超 えた 新 しいディシプリン、つまり、「 人 間 行 動 や、そこから 生<br />

まれるルール、 制 度 、システムなどを 分 析 する 一 般 的 な 社 会 科 学 としての 政 治 経 済 学 」を<br />

確 立 しようとしている 点 で、 同 じ 学 際 的 研 究 である「 総 合 政 策 学 」と 一 線 を 画 している。<br />

しかも、ここでいう 人 間 の「 行 動 」と「 制 度 」の 相 互 関 連 性 を 分 析 することの 必 要 性 は、<br />

制 度 分 析 に 遅 れをとってきた 経 済 学 においても 近 年 急 速 に 強 まってきた 14 。その 意 味 におい<br />

ては、「 政 治 経 済 学 」の 追 究 しようとする 新 しい 社 会 科 学 の 発 展 方 向 は、 既 存 の 社 会 科 学 の<br />

各 ディシプリンと 共 通 性 をもつものであり、かつ 妥 当 な 見 通 しに 立 ったものだと 評 価 でき<br />

るであろう。<br />

しかし、この 政 治 経 済 学 においても 依 然 として 次 のような 課 題 が 見 出 せる。<br />

第 一 に、 政 治 経 済 学 の 取 り 組 みにおいては、 既 存 の 政 治 学 や 経 済 学 の 内 部 における 方 法<br />

論 上 の 分 岐 状 況 についてはかなり 意 識 されているが、それらの 科 学 的 な 整 理 を 踏 まえた 上<br />

で、「 政 治 経 済 的 帰 結 をもたらす 意 思 決 定 が 多 様 なアクターに 行 われることを 前 提 として、<br />

そうした 多 様 なアクター 間 に 繰 り 広 げられる 戦 略 的 相 互 作 用 のパターンを 理 論 化 し 実 証 す<br />

る」という 政 治 経 済 学 の 構 想 が 描 かれているわけではない。この 点 では、 先 にみた「 総 合<br />

政 策 学 」と 同 じ 課 題 を 依 然 として 抱 えたままであるといってよい。<br />

第 二 に、 総 合 政 策 学 との 比 較 からうかがえるように、 政 治 経 済 学 は 社 会 科 学 の 一 般 理 論<br />

を 構 築 するという 志 向 が 強 いがために、 政 策 学 にみられる 実 践 性 、つまり、「『 問 題 発 見 ・<br />

解 決 型 』の 社 会 科 学 」という 側 面 が 希 薄 である。この 点 は、 政 治 経 済 学 のもつ 課 題 に 対 す<br />

る 内 在 的 な 指 摘 とはいえないが、 政 策 研 究 の 視 点 から 政 治 経 済 学 を 捉 えた 場 合 、それが 追<br />

究 する 社 会 科 学 の 一 般 理 論 の 構 築 とそこから 得 られる 政 策 的 インプリケーションを「 問 題<br />

発 見 ・ 解 決 」という 次 元 の 政 策 実 践 へと 結 びつけるという 学 問 的 課 題 が 見 えてくるであろ<br />

う。このような 政 治 経 済 学 のもつ 政 策 的 弱 点 は、 総 合 政 策 学 が 重 視 する 現 場 (フィールド)<br />

に 根 ざした 研 究 姿 勢 の 希 薄 さにもつながるものである。<br />

4. 政 策 研 究 としての 地 域 共 創 アプローチ<br />

(1)「 政 策 科 学 」の 探 究<br />

立 命 館 大 学 政 策 科 学 部 ・ 政 策 科 学 研 究 科 では 創 設 以 来 、 新 しい 学 問 領 域 としての「 政 策<br />

科 学 」(policy science)の 探 究 を 標 榜 してきた。それは、 慶 応 義 塾 大 学 の 総 合 政 策 学 のよう<br />

な 単 なる 方 法 論 の 総 合 ではない、 一 つのディシプリンの 確 立 を 目 指 すものである。その 意<br />

味 では、 早 稲 田 大 学 の 政 治 経 済 学 の 研 究 プロジェクトと 同 様 に、 単 なる 学 際 研 究 を 超 えた<br />

一 つの 新 しい 社 会 科 学 の 確 立 を 追 究 するものである。しかしその 一 方 で、 政 策 科 学 におい<br />

ては 政 策 的 課 題 の 発 見 と 有 効 な 解 決 手 段 の 設 計 という 実 践 性 を 重 視 しており、この 点 では<br />

14 「 政 府 の 失 敗 」を 前 提 として、 知 識 と 情 報 処 理 能 力 の 限 界 を 踏 まえた 制 度 ( 契 約 、 組 織<br />

構 造 等 )の 効 率 的 デザインを 目 指 す 新 制 度 派 経 済 学 、 資 本 主 義 経 済 の 蓄 積 体 制 を 規 定 する<br />

制 度 諸 形 態 に 着 目 するレギュラシオン 理 論 、 制 度 と 個 人 の 相 互 依 存 関 係 の 考 察 から 制 度 分<br />

析 の 決 定 的 重 要 性 と 旧 制 度 派 経 済 学 の 復 権 を 唱 える 現 代 制 度 派 経 済 学 などは、その 代 表 的<br />

な 潮 流 である。<br />

8


慶 応 義 塾 大 学 の「 総 合 政 策 学 」と 同 じ 性 格 をもっている。 換 言 すれば、 立 命 館 大 学 の「 政<br />

策 科 学 」はすでにみた「 総 合 政 策 学 」と「 政 治 経 済 学 」の 両 方 の 特 徴 をあわせ 持 っている。<br />

しかし、その 学 問 的 営 為 はいまだ 緒 についたばかりであり、 政 策 科 学 の 確 立 の 成 否 は 今<br />

後 の 課 題 として 残 されている。そのためには、 先 行 する 総 合 政 策 学 や 政 治 経 済 学 などの 学<br />

際 的 ないし 新 機 軸 的 な 新 しい 社 会 科 学 の 追 究 の 過 程 および 成 果 を 批 判 的 に 摂 取 しつつ、 適<br />

切 な 学 問 的 鍛 錬 の 場 を 設 定 しなければならない。<br />

立 命 館 大 学 政 策 科 学 部 ・ 政 策 科 学 研 究 科 では、とくに「 市 民 の 政 策 科 学 」を 重 要 なスロ<br />

ーガンとしてきたが、それはナショナルなレベルにおける 政 策 よりは、むしろローカルな<br />

レベルでの 政 策 的 課 題 とその 解 決 を 重 視 し、また 政 府 がつくる 政 策 という 視 点 に 加 え、 市<br />

民 から 発 信 する 政 策 をも 重 要 な 検 討 対 象 にするという 姿 勢 をあらわしている。「 公 共 政 策 」<br />

という 場 合 にも、 政 府 ・ 自 治 体 等 の「 公 共 部 門 」による 政 策 という 主 体 としての 意 味 だけ<br />

でなく、「 公 共 性 」を 有 する 課 題 という 対 象 にも 着 目 した 意 味 でも 捉 えられなければならな<br />

い。<br />

そのような 中 で、2008 年 度 から 3 ヵ 年 の 予 定 で 始 まった 大 学 院 GP「 地 域 共 創 プロデュ<br />

ーサー 育 成 プログラム」は、「 地 域 」をフィールドとして 設 定 し、そこで「 共 創 」をプロデ<br />

ュースできる 人 材 を 育 成 する 教 育 プログラムであると 同 時 に、 政 策 科 学 を 一 つの 学 問 領 域<br />

として 確 立 するための 研 究 素 材 として 位 置 づけられている。「 共 創 」のもつ 含 意 も、これま<br />

での 政 策 科 学 部 ・ 政 策 科 学 研 究 科 における 研 究 の 歴 史 的 営 みを 継 承 するものである。<br />

現 在 日 本 の 多 くの 大 学 ・ 研 究 機 関 では、「 地 域 協 働 」「 地 域 連 携 」「 地 域 貢 献 」など、 地 域<br />

と 何 らかのかかわりをもつ 動 きが 大 きな 潮 流 となっており、すでに 普 遍 的 な 状 況 にあると<br />

いっても 過 言 ではない。 地 域 を 研 究 対 象 として 位 置 づける 立 命 館 大 学 政 策 科 学 部 ・ 政 策 科<br />

学 研 究 科 の 取 り 組 みもその 点 ではユニークなものであるとはいえない。しかし、ひとたび<br />

政 策 科 学 の 構 築 という 目 的 から 地 域 を 研 究 対 象 とすることの 意 味 を 捉 えなおした 場 合 、そ<br />

こには 他 の 学 問 領 域 よりも 大 きな 優 位 性 が 存 在 するといってよい。<br />

(2) 地 域 と 政 策 研 究 ― 中 村 剛 治 郎 『 地 域 政 治 経 済 学 』を 足 がかりに―<br />

この 点 を 確 認 するために、「 地 域 」を 社 会 科 学 の 研 究 対 象 として 最 も 包 括 的 に 扱 っている<br />

中 村 剛 治 郎 『 地 域 政 治 経 済 学 』を 検 討 してみよう。 中 村 は、「 現 代 の 経 済 活 動 の 調 整 システ<br />

ムには、 市 場 の 作 用 だけでなく、 社 会 や 政 治 による 制 度 的 な 調 整 システムが 存 在 しており、<br />

経 済 分 析 を 市 場 経 済 の 分 析 だけにとどめず、 経 済 現 象 と 密 接 に 結 びついている 社 会 構 造 や<br />

政 治 、 歴 史 や 制 度 との 関 係 を 重 視 して 経 済 現 象 を 分 析 することが 重 要 になっている」とし<br />

て、それを 市 場 メカニズムの 問 題 に 限 定 して 経 済 をとらえる 経 済 学 ではなく、「 政 治 経 済 学 」<br />

として 探 究 することが 必 要 であるとする。そして、この 政 治 経 済 学 の 研 究 対 象 として 地 域<br />

を 据 えた「 地 域 政 治 経 済 学 」の 体 系 化 を 行 った 15 。<br />

中 村 は「 地 域 」を7つの 視 点 から 整 理 している。<br />

第 一 に、 地 域 は 自 然 環 境 、 経 済 、 文 化 ( 社 会 ・ 政 治 )という3つの 要 素 の 複 合 体 である<br />

15 中 村 剛 治 郎 『 地 域 政 治 経 済 学 』 有 斐 閣 、2004 年 。<br />

9


ということであり、 人 間 の 定 住 圏 という 範 囲 の 中 で 多 面 的 な 機 能 をもつ、まとまりのある<br />

生 活 圏 として 構 成 されなければならないということである。<br />

第 二 に、 地 域 は 総 合 性 の 視 点 を 不 可 欠 とし、 地 域 経 営 の 基 本 目 標 は 自 然 環 境 、 経 済 、 文<br />

化 ( 社 会 ・ 政 治 )の 総 合 的 発 展 にあるということである。それは、 経 済 的 利 害 という 関 心<br />

だけで 開 発 を 進 めた 結 果 として 地 域 の 破 壊 や 衰 退 を 招 いた 戦 後 日 本 の 地 域 開 発 の 経 験 に 対<br />

峙 されている。<br />

第 三 に、 地 域 は 独 自 性 をもつ 個 性 的 な 存 在 であるということである。 自 然 環 境 、 経 済 、<br />

文 化 ( 社 会 ・ 政 治 )という3つの 要 素 は 地 域 ごとに 異 なり、 複 合 の 仕 方 にも 地 域 ごとの 特<br />

徴 がある。<br />

第 四 に、 地 域 は 住 民 を 主 人 公 とする 自 律 的 で 主 体 的 な 存 在 であり、 自 治 の 単 位 であると<br />

いうことである。 地 域 の 運 命 は 地 域 の 人 々によって 決 定 されなければならず、そのために<br />

は 分 権 、 住 民 参 加 、NPO の 活 動 を 土 台 として、 自 治 体 や 民 間 企 業 との 協 力 を 基 礎 にした 地<br />

方 自 治 を 確 立 しなければならない。<br />

第 五 に、 地 域 は 開 かれた 存 在 であり、 地 域 間 の 交 流 と 連 帯 を 不 可 欠 とするということで<br />

ある。この 地 域 間 の 交 流 や 交 換 には、 相 互 補 完 的 なものもあれば、 地 域 間 の 不 平 等 を 拡 大<br />

したり、 支 配 従 属 関 係 を 生 むこともある。<br />

第 六 に、 地 域 は 重 層 的 に 捉 えられなければならないといことである。 地 域 視 点 において<br />

は、 自 然 環 境 、 経 済 、 文 化 の 複 合 体 としての 地 域 ( 基 本 的 生 活 圏 )があり、その 上 に 地 域<br />

間 の 広 域 的 調 整 システムとしての 広 域 経 営 、 国 土 経 営 があり、さらに 国 際 的 総 合 調 整 シス<br />

テムとしての 国 際 的 地 域 経 営 や 地 球 社 会 の 経 営 がある。このように、 地 域 は 重 層 的 な 空 間<br />

システムの 中 に 位 置 づけられる。<br />

第 七 に、 地 域 は 国 土 や 世 界 という 全 体 空 間 の 構 成 部 分 であり、 地 域 内 の 国 際 化 と 外 へ 向<br />

かう 国 際 化 という2 方 向 で 地 域 の 国 際 化 が 進 んでいる。そのため、 国 民 経 済 や 国 際 経 済 ・<br />

世 界 経 済 における 地 域 間 の 相 互 依 存 関 係 が 緊 密 化 しており、その 意 味 で 地 域 は 全 国 的 ・ 国<br />

際 的 ・ 世 界 的 な 存 在 といってよい。<br />

このような7つの 地 域 視 点 を 踏 まえて 地 域 の 経 済 を 考 察 しようとするのが、 中 村 の 地 域<br />

政 治 経 済 学 の 視 座 となっている。<br />

この 中 村 の「 地 域 」の 捉 え 方 は、 政 策 研 究 の 対 象 として 地 域 を 基 軸 に 据 えることの 意 義<br />

を 明 確 に 示 している。 地 域 を 自 然 環 境 、 経 済 、 文 化 ( 社 会 ・ 政 治 )の 複 合 体 として 把 握 す<br />

る 視 点 は、 経 済 学 、 政 治 学 、 法 学 といった 既 存 の 学 問 を 動 員 する 中 で 社 会 科 学 的 なアプロ<br />

ーチを 行 うことが 地 域 分 析 には 不 可 欠 であることを 物 語 っている。そして、 地 域 における<br />

政 策 設 計 を 行 ううえでも、これらの 諸 分 野 の 英 知 を 集 約 しなければならないことも 論 理 的<br />

必 然 である。さらに 地 域 がオンリー・ワンの 存 在 であることは、 地 域 内 在 型 の 研 究 が 必 要<br />

であることを 示 唆 している。 多 様 なアクターを 捉 えながら、 中 央 ― 地 方 関 係 さらにはグロ<br />

ーバル 化 をも 視 野 に 入 れた 分 析 が 求 められるという 点 に 関 しても、 研 究 者 間 でのコンセン<br />

サスになっているといってよい。<br />

(3)「 地 域 共 創 研 究 」の 意 義<br />

10


以 上 の 点 を 踏 まえれば、 立 命 館 大 学 政 策 科 学 研 究 科 が 新 たに 地 域 共 創 を 政 策 研 究 の 主 題<br />

として 位 置 づけたことの 意 義 が 明 らかとなる。「 地 域 共 創 プロデューサー 育 成 プログラム」<br />

では、 地 域 の 問 題 解 決 のために、1 地 域 の 行 政 、 企 業 、NPO、 住 民 といったさまざまなア<br />

クターと 協 働 できる( 地 域 を 共 に 創 る)、2 他 分 野 の 理 解 能 力 を 有 し、 多 様 な 研 究 者 と 共 同<br />

しながら 研 究 上 の 新 しい 課 題 を 開 拓 できる( 他 分 野 専 門 家 と 共 に 創 る)、3 実 践 的 研 究 を 通<br />

じて 研 究 知 と 実 践 知 が 融 合 した 新 たな 参 与 型 調 査 ・ 問 題 解 決 方 法 を 構 築 ・ 駆 使 できる( 方<br />

法 を 共 に 創 る)という3つの 能 力 を 涵 養 することを 狙 いとしている。それは 教 育 にとどま<br />

らず、 政 策 科 学 を 構 築 するべき 方 向 と 手 段 をもあらわしたものである。 上 記 の3つの「 共<br />

に 創 る」と 表 現 した 要 素 のうち、 政 策 科 学 研 究 にユニークなものとして 挙 げられるのは3<br />

の 参 与 型 調 査 にある。「 地 域 共 創 プロデューサー 育 成 プログラム」が 大 学 院 生 の 自 治 体 等 に<br />

おける 参 与 型 政 策 研 究 ( 地 域 共 創 研 究 )を 最 重 要 視 している 理 由 はここにある 16 。その 背 景<br />

には、 地 域 がまさに 自 然 環 境 、 経 済 、 文 化 ( 社 会 ・ 政 治 )の 複 合 体 かつ 重 層 システムであ<br />

り、それらの 複 合 のあり 方 が 歴 史 性 を 帯 び 千 差 万 別 であるがゆえに 地 域 が 独 自 性 をもつた<br />

めに、いかなるディシプリンを 基 礎 に 据 えている 場 合 においても 地 域 内 在 型 ・ 参 与 型 研 究<br />

が 不 可 欠 な 方 法 となっているという 事 情 がある。これによって、 政 策 研 究 の 対 象 としての<br />

地 域 がはじめてその 意 義 を 十 全 に 発 揮 するといってよい。 立 命 館 大 学 では 複 数 かつ 多 様 な<br />

性 格 をもつ「 地 域 共 創 サイト」( 大 学 との 学 術 協 定 に 基 づき、 共 同 研 究 および 参 与 型 研 究 の<br />

受 け 入 れを 行 っている 諸 団 体 )を 設 定 している 意 味 も、まさに 独 自 性 という 地 域 視 点 を 重<br />

視 したものにほかならない。<br />

5.むすび: 政 策 科 学 の 確 立 へ 向 けて<br />

参 与 型 研 究 を 中 核 に 据 えた 地 域 共 創 研 究 が 政 策 科 学 を 構 築 していく 上 で 最 適 なシステム<br />

を 提 供 しているのは 間 違 いないといってよいであろう。しかし、そのようなフィールドが<br />

準 備 ・ 活 用 されることによって、 新 たな 社 会 科 学 としての 政 策 科 学 が 自 然 に 確 立 されるこ<br />

となどはありえない。それへ 向 けた 更 なる 知 的 ・ 実 践 的 営 為 が 必 要 であろう。 本 稿 のむす<br />

びとして、ここでは 政 策 科 学 の 構 築 に 求 められる 他 のポイントを 指 摘 しておきたい。<br />

第 一 は、 既 存 の 社 会 科 学 における 専 門 研 究 の 深 化 である。 政 治 学 や 法 律 学 ではもともと<br />

広 義 の 制 度 に 強 い 関 心 がおかれてきたが、 市 場 メカニズムに 焦 点 を 当 ててきた 経 済 学 にお<br />

いても 制 度 分 析 の 重 要 性 がいまや 共 通 の 認 識 となっている。 制 度 の 捉 え 方 はいまだ 一 致 点<br />

を 見 出 してはいないが、それは 今 後 の 経 済 学 としての 課 題 となるであろう。 逆 にまた、 経<br />

済 学 が 分 析 の 前 提 として 据 えてきたアクターの 合 理 的 行 動 は 政 治 学 へ 影 響 を 与 えている。<br />

行 動 と 制 度 の 相 互 関 係 をめぐる 研 究 は、 既 存 の 社 会 科 学 の 共 通 集 合 的 テーマとなっている。<br />

これを 深 化 させることができれば、 政 策 研 究 が 陥 りやすい 裁 量 的 な 学 問 利 用 という 問 題 を<br />

16 「 地 域 共 創 研 究 」は、 自 治 体 や NPO などで 参 与 調 査 を 行 うために、1~4ヶ 月 の 中 長<br />

期 間 実 際 に 当 該 機 関 で 就 業 実 習 を 行 うという 画 期 的 な 研 究 システムである。なお、「 地 域 共<br />

創 プロデューサー 育 成 プログラム」では、 他 の 科 目 群 として「 地 域 共 創 学 」「ケース 分 析 」<br />

「 政 策 ファイナンス」「 参 与 調 査 法 」を 設 置 している。<br />

11


避 けることができるであろう。このような 社 会 科 学 の 研 究 の 深 化 ・ 発 展 は、 新 しいディシ<br />

プリンとしての 政 策 科 学 を 構 築 するための 前 提 条 件 となるであろう。<br />

第 二 に、 参 与 型 研 究 によるケース 分 析 の 蓄 積 の 整 理 を 通 じた 地 域 研 究 の 総 括 である。 政<br />

策 研 究 のアプローチとしての 地 域 共 創 は、その 研 究 成 果 を 上 記 のような 社 会 科 学 の 理 論 的<br />

研 究 と 結 びつけることにより、ディシプリンとしての 政 策 科 学 の 研 究 を 進 展 させるであろ<br />

う。それは、「 総 合 政 策 学 」とも「 政 治 経 済 学 」とも 異 なるオリジナルな 社 会 科 学 としての<br />

「 政 策 科 学 」の 構 築 ・ 発 展 の 経 路 にほかならない。<br />

以 上 のような 課 題 を 見 据 えつつ 展 開 されていく 地 域 共 創 の 政 策 研 究 は、 政 策 科 学 の 社 会<br />

科 学 としての 成 否 の 試 金 石 であるといってよい。<br />

< 参 考 文 献 ><br />

宇 仁 宏 幸 ほか『 入 門 社 会 経 済 学 』ナカニシヤ 出 版 、2004 年<br />

大 江 守 之 ・ 岡 部 光 明 ・ 梅 垣 理 郎 編 『 総 合 政 策 学 』 慶 應 義 塾 大 学 出 版 会 、2006 年<br />

小 林 英 嗣 、 地 域 ・ 大 学 連 携 まちづくり 研 究 会 編 著 『 地 域 と 大 学 の 共 創 まちづくり』 学 芸 出<br />

版 社 、2008 年<br />

重 森 臣 広 「ローカル・ガバナンスの 政 策 実 践 研 究 」 立 命 館 大 学 『 立 命 館 高 等 教 育 研 究 』 第<br />

8 号 、2008 年<br />

清 水 和 巳 ・ 河 野 勝 『 入 門 政 治 経 済 学 方 法 論 』 東 洋 経 済 新 報 社 、2008 年<br />

新 川 敏 光 ほか『 比 較 政 治 経 済 学 』 有 斐 閣 、2004 年<br />

神 野 直 彦 『システム 改 革 の 政 治 経 済 学 』 岩 波 書 店 、1998 年<br />

都 留 重 人 『 経 済 の 論 理 と 現 実 』 岩 波 書 店 、1971 年<br />

都 留 重 人 『 公 害 の 政 治 経 済 学 』 岩 波 書 店 、1972 年<br />

中 村 剛 治 郎 『 地 域 政 治 経 済 学 』 有 斐 閣 、2004 年<br />

宮 本 憲 一 『 社 会 資 本 論 』 有 斐 閣 、1967 年<br />

宮 本 憲 一 『 都 市 経 済 論 』 筑 摩 書 房 、1980 年<br />

藪 下 史 郎 監 修 、 河 野 勝 ・ 清 野 一 治 編 著 『 制 度 と 秩 序 の 政 治 経 済 学 』 東 洋 経 済 新 報 社 、2006<br />

年<br />

Bowles, Samuel(2004)Microeconomics, Russell Sage, New York.<br />

Chavance, Bernard(2007)L’Economie institutionnelle La Decouverte, Paris,(シャ<br />

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