オーラル・ヒストリーの可能性―仮説の発見と実証 - 慶應義塾大学湘南 ...

そうした 残 っていないデータを 得 るためにも、オーラル・ヒストリーを 行 う 意 味 、それに
よって 開 ける 可 能 性 があるわけです。
5.オーラル・ヒストリーの 特 性
5-1 オーラル・ヒストリーの 長 所 ―( 広 義 の) 質 的 データ 確 保
ではオーラル・ヒストリーの 長 所 と 短 所 についてお 話 していきたいと 思 います。 長 所 の
第 一 は、 至 極 当 たり 前 のことですが、 質 的 データを 確 保 できるということです。 口 述 記 録
そのものから 得 られることはもちろんですが、 前 述 したように、まず 入 手 可 能 な 文 字 資 料
があり、それを 補 い、 豊 かにするものとして 口 述 記 録 はとても 大 きな 効 果 を 発 揮 してくれ
ます。
これが 基 本 的 なところですが、この 先 にさらにプラスアルファの 部 分 があります。オー
ラル・ヒストリーをしていると、よく「そのことはこの 本 を 読 めばよくわかるよ」「そのこ
とについてはこの 資 料 があるから 貸 してあげるよ」というアドバイスを 頂 くことがありま
す。 人 によっては、せっかく 聞 きに 来 たのに 文 字 資 料 を 提 示 されて 終 わっては、と 残 念 が
られる 方 もありますが、 当 事 者 ならではの、 私 たちがリサーチでキャッチし 得 ないような
組 織 内 文 書 、 業 界 紙 などの 有 用 な 書 誌 情 報 は、 他 の 手 段 でカバーすることができない 貴 重
な 情 報 です。 同 様 に、より 詳 しい 人 物 を 紹 介 して 下 さることもあります。 私 たちのアプロ
ーチに 対 して 応 えてくださる 方 は、1 時 間 、2 時 間 という 時 間 をそのために 割 いて 下 さって
いるのですから、ベースとしては 好 意 的 であるはずです。 謙 遜 はされても、そのことにつ
いて 語 っておく 意 義 がある、とお 考 えいただいて 受 けて 下 さっているわけですから、この
好 意 には 十 分 に 応 える 必 要 があるはずです。
5-2 オーラル・ヒストリーの 長 所 ― 認 識 構 造 の 把 握 と 仮 説 の 発 見 と 構 築
一 つ 目 に 挙 げた 質 的 データの 確 保 、というのが 通 常 の 聞 き 取 りで 考 えられている 目 的 だ
と 思 いますが、いわゆるインタビューと 研 究 に 資 するオーラル・ヒストリーの 大 きな 違 い
として、 認 識 構 造 を 把 握 し、 仮 説 を 発 見 して 構 築 するきっかけが 得 られるという 点 が、オ
ーラル・ヒストリーの 一 番 大 きな 効 果 である、と 私 は 考 えています。
質 的 なデータが 欲 しいだけであれば、それは 手 紙 のやりとりでも 相 当 程 度 可 能 ですし、
その 方 が 圧 倒 的 にコストも 低 く 抑 えられるでしょう。イエスかノーかで 回 答 用 紙 を 出 せば
いいはずです。では 何 でわざわざ 時 間 を 取 っていただいて、こちらも 時 間 を 割 いて 聞 きに
伺 う 必 要 があるのでしょうか。それは 私 たちがイメージしている 政 治 家 、 官 僚 、 実 業 家 と
いった 人 々の 認 識 構 造 は、およそその 実 態 とはかけ 離 れているという 現 実 があります 23 。 考
厨 研 究 室 ・ 先 端 公 共 政 策 研 究 会 、2007 年 。これは 佐 脇 氏 が 中 心 となって 取 り 組 んだ『 石 炭
政 策 オーラル・ヒストリー』(GRIPS-COE、2003 年 )を 題 材 とした 同 氏 の 博 士 論 文 である。
23 このことについては、 森 道 哉 が「 偏 見 」と「 鏡 」という 表 現 を 用 いて 論 じている( 森 「『 鏡 』
を 合 わせるということ」 御 厨 貴 編 『オーラル・ヒストリー 入 門 』 岩 波 書 店 、2007 年 )。
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