オーラル・ヒストリーの可能性―仮説の発見と実証 - 慶應義塾大学湘南 ...

当 数 があります 4 。
その 中 でも、 複 数 のオーラル・ヒストリーが 行 われている 政 治 家 が 何 名 かいます。その
代 表 例 が 岸 信 介 です。 岸 に 関 しては2つの 口 述 記 録 と1つの 回 想 録 が 刊 行 されています 5 。
口 述 記 録 の 第 一 は 伊 藤 隆 先 生 、 矢 次 一 夫 氏 を 聞 き 手 とした『 岸 信 介 の 回 想 』(1981 年 )です。
もうひとつは、 東 京 国 際 大 学 の 原 彬 久 先 生 が 採 られた『 岸 信 介 証 言 録 』(2003 年 )です 6 。
これら2つの 口 述 記 録 に 加 えて、 岸 自 身 の 名 前 で『 岸 信 介 回 顧 録 』(1983 年 )が 刊 行 されて
おり、さらに 最 近 、 岸 の 地 元 である 山 口 県 の 田 布 施 で 手 帳 が 発 見 されています。こうした
資 料 をクロスチェックしながら 使 っていくことで、 岸 という 人 物 とその 時 代 の 様 相 は、 随
分 と 掴 んでいくことができます。2つの 口 述 記 録 には、 伊 藤 先 生 は 歴 史 学 者 、 原 先 生 は 政
治 学 者 という 聞 き 手 の 属 性 の 違 いもありますから、 双 方 のオーラルを 比 べてみても、 聞 き
手 によってどのように 話 の 引 き 出 し 方 が、 得 られる 記 録 が 変 わってくるのかを 見 て 取 るこ
ともでき、オーラル・ヒストリーの 手 法 研 究 においてもよい 題 材 です。
同 様 のことは 宮 澤 喜 一 についてもいえます。 宮 澤 には、やはり2つのオーラル・ヒスト
リーとが2つ、 自 身 の 手 による2つの 回 顧 録 が 刊 行 されています 7 。とりわけ 御 厨 貴 先 生 ら
による 記 録 には、 商 業 出 版 されたものとは 別 に 科 研 費 報 告 書 の 冊 子 があり、こちらでは 出
版 の 際 にカットされた 冒 頭 、 終 了 後 の 談 話 部 分 が 残 されており、 聞 き 取 りが 行 われている
その 時 の 政 治 状 況 に 対 する 宮 澤 の 認 識 と、それを 受 けて 行 われるオーラル・ヒストリーの
内 容 の 対 照 を 見 ることができます 8 。
聞 き 手 が 入 ることの 意 味 を 教 えてくれるのが 中 曽 根 康 弘 首 相 の 事 例 です。 中 曽 根 には、
佐 藤 誠 三 郎 先 生 と 伊 藤 隆 先 生 が 聞 かれた『 天 地 有 情 』というオーラル・ヒストリーがあり
ます 9 。これに 加 えて、 数 種 の 自 伝 がありますし 10 、 複 数 の 日 記 を 用 途 に 応 じて 付 けている
ことが 知 られています。そうしたものとつき 合 わせていくことで、ここで 挙 げられている
回 想 上 の 事 実 はもちろんのこと、いつ、どのように 語 られたのかを 見 ることで、 一 人 の 政
治 家 の 認 識 が、 時 代 変 化 に 応 じてどのように 推 移 していくかも 知 ることが 可 能 でしょう。
4 商 業 出 版 以 外 では、『 海 部 俊 樹 ( 元 内 閣 総 理 大 臣 )オーラル・ヒストリー』 上 ・ 下 (GRIPS-COE、
2005 年 。 聞 き 手 : 伊 藤 隆 ほか)がある。
5 岸 信 介 ( 聞 き 手 : 伊 藤 隆 、 矢 次 一 夫 )『 岸 信 介 の 回 想 』 文 芸 春 秋 、1981 年 。 同 ( 聞 き 手 :
原 彬 久 )『 岸 信 介 証 言 録 』 毎 日 新 聞 社 、2003 年 。 同 『 岸 信 介 回 顧 録 』 廣 済 堂 出 版 、1983 年 。
6 原 の 聞 き 取 りについては、 原 、 大 嶽 秀 夫 、 御 厨 貴 「オーラル・ヒストリー 鼎 談 」( 日 本 政
治 学 会 編 『 年 報 政 治 学 2004 オーラル・ヒストリー』 岩 波 書 店 、2004 年 )に 詳 しい。
7 宮 澤 喜 一 ( 聞 き 手 : 御 厨 貴 ほか)『 聞 き 書 宮 澤 喜 一 回 顧 録 』 岩 波 書 店 、2005 年 。 同 ( 聞 き
手 : 五 百 旗 頭 眞 ほか)『90 年 代 の 証 言 宮 澤 喜 一 』 朝 日 新 聞 社 、2006 年 。 宮 澤 喜 一 『 戦 後
政 治 の 証 言 』 読 売 新 聞 社 、1991 年 。 同 『 東 京 ―ワシントンの 密 談 』 中 央 公 論 社 ( 中 公 文 庫 )、
1991 年 。
8 この 点 については、 牧 原 出 ・ 東 北 大 学 教 授 が「 第 3 回 オーラル・ヒストリー クリティー
クの 会 」における 報 告 で 指 摘 している。
9 中 曽 根 康 弘 ( 聞 き 手 : 佐 藤 誠 三 郎 、 伊 藤 隆 )『 天 地 有 情 』 文 芸 春 秋 、1996 年 。
10 中 曽 根 康 弘 『 戦 後 政 治 』 読 売 新 聞 東 京 本 社 、2005 年 。 同 『 自 省 録 』 新 潮 社 、2004 年 。
同 『 政 治 と 人 生 』 講 談 社 、1992 年 など。
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