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我が国におけるウェブアーカイブ構築の意義および諸課題 - 日本学術会議

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記 録文 書 番 号SCJ 第 20 期 200904-20530800-011委 員 会 等 名標 題日 本 学 術 会 議 情 報 学 委 員 会ウェブ・メディア 社 会 基 盤 分 科 会我 が 国 におけるウェブアーカイブ 構 築 の意 義 および 諸 課 題作 成 日平 成 20 年 (2008 年 )9 月 4 日※ 本 資 料 は、 日 本 学 術 会 議 会 則 第 二 条 に 定 める 意 思 の 表 出 ではない。 掲 載 されたデータ 等 には、 確 認 を 要 するものが 含 まれる 可 能 性 がある。


この 記 録 は、 日 本 学 術 会 議 情 報 学 委 員 会 ウェブ・メディア 社 会 基 盤 分 科 会における 審 議 の 結 果 をとりまとめ、 記 録 として 公 表 するものである。日 本 学 術 会 議 情 報 学 委 員 会 ウェブ・メディア 社 会 基 盤 分 科 会委 員 長 喜 連 川 優 ( 連 携 会 員 ) 東 京 大 学 教 授幹 事 辻 ゆかり( 連 携 会 員 ) 日 本 電 信 電 話 株 式 会 社 主 幹 研 究 員委 員 石 塚 満 ( 連 携 会 員 ) 東 京 大 学 教 授酒 井 善 則 ( 連 携 会 員 ) 東 京 工 業 大 学 教 授坂 内 正 夫 ( 会 員 ) 国 立 情 報 学 研 究 所 所 長高 野 明 彦 ( 連 携 会 員 ) 国 立 情 報 学 研 究 所 教 授田 中 克 己 ( 連 携 会 員 ) 京 都 大 学 教 授所 眞 理 雄 ( 連 携 会 員 ) ( 株 )ソニーコンピュータサイエンス 研究 所 代 表 取 締 役 社 長長 尾 真 ( 連 携 会 員 ) 国 立 国 会 図 書 館 長古 井 貞 熙 ( 連 携 会 員 ) 東 京 工 業 大 学 教 授松 田 晃 一 ( 連 携 会 員 ) 情 報 処 理 推 進 機 構 IT 人 材 育 成 本 部 長報 告 書 及 び 参 考 資 料 の 作 成 にあたり、 以 下 の 方 々に 御 協 力 いただきました。岡 本 真 ヤフー 株 式 会 社 検 索 事 業 部 企 画 部 リーダー角 谷 和 俊 兵 庫 県 立 大 学 環 境 人 間 学 部 教 授瀬 高 隆 裕 内 閣 府 参 事 官 補 佐 ( 前 総 務 省 情 報 通 信 政 策 局 課 長 補 佐 )田 中 久 徳 国 立 国 会 図 書 館 総 務 部 企 画 課 電 子 情 報 企 画 室 長豊 田 正 史 東 京 大 学 生 産 技 術 研 究 所 准 教 授


目次1.はじめに ······················································· 12.ウェブアーカイブの 動 向 ········································· 22.1 各 国 国 立 図 書 館 による 取 り 組 み ······························ 22.2 学 術 的 取 り 組 み ············································ 32.3 我 が 国 における 企 業 等 における 取 り 組 み ······················ 33.ウェブアーカイブの 意 義 ········································· 43.1 国 家 としての 意 義 ·········································· 43.2 文 化 ・ 社 会 ・ 生 活 面 からの 意 義 ······························ 53.3 学 術 としての 意 義 ·········································· 73.4 経 済 的 意 義 ················································ 84.ウェブアーカイブ 構 築 に 関 する 諸 側 面 ····························· 94.1 国 によるアーカイブ ········································ 94.2 法 制 度 面 について ·········································· 94.3 ウェブ 情 報 の 収 集 蓄 積 の 技 術 的 側 面 ·························· 94.4 文 化 ・ 社 会 ・ 生 活 面 の 側 面 ································ 104.5 学 術 的 利 用 に 関 して ······································ 104.6 経 済 ・ビジネス 利 活 用 に 関 して ···························· 105.おわりに ····················································· 11


日 本 学 術 会 議 情 報 学 委 員 会ウェブ・メディア 社 会 基 盤 分 科 会 「 記 録 」我 が 国 におけるウェブアーカイブ 構 築 の 意 義 および 諸 課 題1.はじめに1997 年 に 生 まれたウェブ 技 術 は、 大 きな 発 展 を 遂 げ、 現 在 、 人 類 にとって、 日 常 生 活においても、また、ビジネスにおいても 不 可 欠 なメディアと 進 化 しつつある。ウェブはいわゆるサーチエンジンに 関 して 目 覚 ましい 技 術 革 新 がなされ、 極 めて 容 易 にアクセス可 能 な 情 報 源 としての 地 位 を 確 立 し、 今 日 、ウェブを 利 用 しない 日 は 無 い 程 の 社 会 情 報基 盤 となりつつある。また、CGM (Consumer Generated Media)、 UGC (User GeneratedContents)とも 呼 ばれるブログ 情 報 は 多 様 な 目 線 を 記 する 容 易 なメディアとして 広 く 受け 入 れられ、 社 会 コミュニティの 形 成 に 大 きな 役 割 を 果 たしつつある。このようなウェブ 情 報 は 時 代 時 代 を 民 意 の 表 出 としての 文 化 ともみなすことが 出 来 、 極 めて 重 要 なメディアであるにも 関 らず、とりわけボーンデジタルなメディアの 特 性 としてその 脆 弱 性 から 極 めて 失 われやすく、ユネスコは、2003 年 、Charter on the preservation of thedigital heritage(デジタル 遺 産 の 保 存 に 関 する 憲 章 )を 採 択 し、その 保 存 の 重 要 性 を訴 えている。ウェブは 学 術 研 究 の 基 盤 としても 極 めて 重 要 な 意 義 を 有 する。 欧 米 においても、ウェブアーカイブの 取 り 組 みが 開 始 されており、 我 が 国 においても 本 格 的 な 取 り組 みが 強 く 望 まれる。このような 状 況 を 背 景 とし、「 日 本 学 術 会 議 情 報 学 委 員 会 ウェブ・メディア 社 会 基 盤分 科 会 」 第 20 期 においては、ウェブ 上 で 発 信 されるボーンデジタルな 情 報 のアーカイブ( 以 下 、ウェブアーカイブと 呼 ぶ)に 関 して 世 界 での 諸 活 動 を 俯 瞰 するともに、その推 進 の 方 策 について 検 討 し、 提 言 をしていくことを 目 指 している。 即 ち、ウェブアーカイブを 取 り 上 げ、 本 分 科 会 委 員 、あるいはオブザーバーからの 話 題 提 供 、 調 査 および 現状 報 告 などをもとに、その 構 築 に 関 する 諸 課 題 についての 議 論 を 行 ってきた。今 後 の 学 術 の 新 たな 情 報 基 盤 となりうるウェブアーカイブの 構 築 に 関 し、その 重 要性 を 明 らかにするとともに、その 実 現 に 向 けた 具 体 的 な 課 題 を 提 示 することは 日 本 学術 会 議 が 果 たすべき 非 常 に 重 要 な 事 項 であり、 日 本 の 学 術 のレベルを 高 め、 長 期 的 な発 展 に 大 きく 資 するものと 考 える 次 第 である。1


2.ウェブアーカイブの 動 向2.1 各 国 国 立 図 書 館 による 取 り 組 み欧 米 諸 国 では、 国 立 図 書 館 が 中 心 になってウェブアーカイブへの 取 り 組 みを 進 めている。欧 州 では、1996 年 にスウェーデン 王 立 図 書 館 が Kuitura3 プロジェクトを 開 始 したのを 嚆 矢 として、 翌 年 には 欧 州 8ヶ 国 による NEDLIB(Networked European DepositLibrary)プロジェクトが 行 われた。その 後 、デンマーク 王 立 図 書 館 (1997 年 )、フランス 国 立 図 書 館 (1999 年 )、ノルウェー 国 立 図 書 館 (2000 年 )、 英 国 図 書 館 (2001 年 )等 で、 実 験 的 アーカイブの 取 組 みが 続 き、 方 法 についても、 選 択 的 収 集 から、クローラーによる 自 国 内 ドメインの 包 括 的 自 動 収 集 へと 展 開 した。また、 欧 州 各 国 では、 国 立 図 書 館 の 法 定 納 本 の 枠 組 みによって、ウェブサイトの 包 括的 収 集 を 実 施 することを 規 定 する 法 律 の 整 備 も 進 んでいる。(1988 年 ノルウェー、2002年 スウェーデン、2003 年 英 国 、2004 年 デンマーク、2006 年 ドイツ、フランス)。米 国 では、1996 年 に NPO 法 人 ( 現 在 はカリフォルニア 州 認 可 図 書 館 )インターネット・アーカイブ(IA)が 設 立 され、 全 世 界 のインターネット 情 報 を 対 象 とした 包 括 的 アーカイブを 開 始 し、アーカイブしたサイトを 公 開 している。 一 方 、 電 子 情 報 の 消 滅 を 懸念 する 連 邦 議 会 が 主 導 して、ボーンデジタルのコンテンツを 保 存 するための 国 家 戦 略 、「 全 米 デジタル 情 報 基 盤 ・ 保 存 プログラム(NDIIPP:National Digital InformationInfrastructure and Preservation Program)」が 2000 年 に 立 法 化 され、 米 国 議 会 図 書館 が、その 中 心 機 関 として 活 動 している。 議 会 図 書 館 は、IA が 収 集 したウェブ 情 報 をもとに 大 統 領 選 挙 や 各 種 イベント、9・11 同 時 多 発 テロ 関 係 等 のテーマによって 編 集 する、 選 択 的 アーカイブのプロジェクト、MINERVA を 2000 年 に 開 始 した。 個 別 に 著 作 権者 の 許 諾 を 得 ることで、 現 在 、37,000 以 上 のウェブサイトが 公 開 されている。このほか、2003 年 には、IA とフランス 国 立 図 書 館 が 主 導 して、 主 要 国 の 国 立 図 書 館によるインターネット 保 存 のための 国 際 組 織 である IIPC(International InternetPreservation Consortium)が 設 立 され、 共 通 技 術 課 題 への 対 応 、 標 準 化 の 推 進 、ガイドラインの 策 定 等 の 連 携 活 動 を 行 っている。我 が 国 では、 国 立 国 会 図 書 館 が、2002 年 から「インターネット 情 報 資 源 選 択 的 蓄 積実 験 事 業 (WARP)」を 開 始 している。この 事 業 は、 同 館 が 選 択 したウェブサイト 及 び 電子 雑 誌 について、 個 別 に 著 作 権 許 諾 契 約 を 結 び、 収 集 、 保 存 、 提 供 を 実 施 するもので、2006 年 に 実 験 事 業 から 本 格 事 業 に 移 行 した。 現 在 、 国 、 地 方 自 治 体 、 大 学 、 法 人 等 の公 的 機 関 、イベント 事 業 等 のサイト 約 2,000、 電 子 雑 誌 約 1,500 が 継 続 的 に 収 集 されている。2


2.2 学 術 的 取 り 組 みウェブアーカイブの 構 築 には、 膨 大 なウェブ 情 報 の 収 集 ・ 蓄 積 技 術 が 必 要 なことから、計 算 機 科 学 ・ 工 学 の 分 野 において 先 進 的 な 研 究 開 発 が 行 われてきた。 膨 大 な 情 報 を 効 率的 に 収 集 するには、 多 数 の 計 算 機 による 協 調 作 業 が 必 要 であり、 大 規 模 なデータの 蓄 積には 高 度 なストレージ 技 術 を 要 する。また、 蓄 積 した 大 規 模 ウェブ 情 報 の 利 活 用 には、高 速 かつスケーラブルなデータマイニング 技 術 が 必 須 である。米 国 スタンフォード 大 学 においては WebBase なるプロジェクトにおいて、 大 規 模 ウェブ 情 報 の 収 集 技 術 、 索 引 技 術 、および 蓄 積 技 術 の 研 究 が 行 われており、 米 国 検 索 エンジンのグーグルは 本 プロジェクトからのスピンアウトである。 比 較 的 大 規 模 なウェブ 情 報を 蓄 積 しており、 他 大 学 の 研 究 プロジェクトへのデータ 提 供 等 も 行 われている。我 が 国 においても、 早 稲 田 大 学 、 東 京 大 学 等 において、 大 規 模 なウェブ 情 報 の 収 集 ・利 活 用 に 関 する 研 究 開 発 が 実 施 されている。 早 稲 田 大 学 においては、ウェブ 情 報 の 瞬 時収 集 技 術 が 開 発 されており、これを 用 いて 144.5 億 ページを 収 集 し、 言 語 分 布 等 の 分 析が 行 われている。 東 京 大 学 においては 1999 年 から 時 系 列 的 な 日 本 語 ウェブ 情 報 収 集 に取 り 組 み、 可 変 周 期 収 集 技 術 により 100 億 ページ 規 模 のウェブアーカイブを 構 築 した。また、アーカイブのデータを 社 会 学 、マーケティング 等 へ 利 用 するための 実 証 実 験 も 行われている。また、 文 部 科 学 省 特 定 領 域 研 究 「 情 報 爆 発 時 代 に 向 けた 新 しい IT 基 盤 技 術 の 研 究 ( 平成 17~ 平 成 22 年 度 )」においては、ウェブ 情 報 をはじめとした 爆 発 的 に 増 大 する 情 報の 利 活 用 研 究 が 行 われている。 大 量 かつ 多 様 な 情 報 から 真 に 必 要 とする 情 報 を 効 率 良 くかつ 偏 りなく 安 心 して 取 り 出 すことを 可 能 とする 技 術 、 大 量 の 情 報 を 管 理 する 大 規 模 な情 報 システムを 安 定 ・ 安 全 に 運 用 するための 新 しいサステナブルな 技 術 等 を 目 指 しており、ウェブ 情 報 技 術 に 関 しては 京 都 大 学 、 国 立 情 報 学 研 究 所 、 東 京 大 学 を 中 心 として 研究 開 発 が 推 進 されている。2.2 我 が 国 における 企 業 等 における 取 り 組 み経 済 ・ビジネス 利 活 用 におけるウェブアーカイブの 目 的 としては、 内 部 統 制 強 化 、 及び 企 業 活 動 への 活 用 の2つがあげられる。平 成 18 年 (2006 年 )6 月 7 日 、 金 融 商 品 取 引 法 1 が 成 立 し、 新 たな 内 部 統 制 のルールとして「J-SOX( 日 本 版 SOX 法 )」が 実 施 されることになって 以 来 、 管 理 責 任 の 観 点 から、 各 企 業 内 で 内 部 統 制 の 仕 組 みを 構 築 する 必 要 が 生 じ、 様 々な 企 業 情 報 の 蓄 積 が 必 須となった。 蓄 積 する 情 報 としては、 会 議 文 書 などドキュメント 類 や 電 子 メール、インターネットを 通 じた 社 外 への 公 開 情 報 などが 含 まれる。これは、 特 に 企 業 に 対 して 何 か 問題 や 疑 念 が 生 じたときに、その 疑 念 を 晴 らすために 必 要 となる 証 拠 を 保 持 しておかねば1 金 融 商 品 取 引 法 : http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO025.html3


ならないためである。 例 えば、 電 子 メール・アーカイブを 民 事 訴 訟 の 際 に 証 拠 提 示 するのは 代 表 的 な 適 用 事 例 である。企 業 活 動 にウェブアーカイブを 使 う 流 れとしては、 一 つには、 蓄 積 情 報 の 分 析 をマーケティングや 社 内 情 報 共 有 に 活 用 する 事 例 がある。 例 えば、きざしカンパニー2は、毎日 15~20 万 のブログエントリをランダムに 収 集 し、この 情 報 をもとに、 旬 な 話 題 ランキングや、 話 題 検 索 ・ブログ 検 索 機 能 を 提 供 している。さらに、ブログの 書 き 込 み 内 容を 解 析 し、 書 き 手 の 感 情 や 話 題 の 属 性 を 判 定 し、 感 情 の 変 化 をグラフで 表 示 する 仕 組 みなども 有 している。また、NTT の BLOGRANGER(ブログレンジャー) 3 は、ブログの 記 事を 分 析 し、 仮 想 の 地 形 で 話 題 やトピックスの 分 布 を 可 視 化 する。これらの 分 析 情 報 は、次 の 商 品 企 画 に 用 いられたり、 顧 客 対 応 の 注 意 点 として 顧 客 窓 口 のオペレータが 共 有 するなど、 社 内 情 報 共 有 基 盤 として 利 用 されたりする。もう 一 つ、インターネット 上 の 情報 を 蓄 積 し、 集 団 の 力 を 業 務 委 託 の 領 域 で 活 用 しようとする 動 きとして、クラウドソーシングがある。クラウドソーシングとは、 企 業 や 団 体 が 不 特 定 多 数 のネットワーク 上 の人 々に 対 して 業 務 を 委 託 することをいう。 従 来 であれば、 自 社 の 従 業 員 や 外 部 にアウトソースして 実 施 していた 業 務 のうち、 例 えば、 製 品 設 計 用 のソフトウェア 開 発 や 映 像 編集 などにおいて、 不 特 定 多 数 の 参 加 者 からの 膨 大 なアイディアや 知 識 が 蓄 積 され、 整 理され、 淘 汰 されることにより、 巨 大 な 成 果 が 生 み 出 される。ウェブ 上 での 作 業 過 程 で 発生 した 中 間 生 成 物 や 参 加 者 間 のメールのやりとりがアーカイブされることにより、 参 加者 はそれらを 検 索 して、 作 業 過 程 の 振 り 返 りをおこなったり、 情 報 を 再 利 用 することが可 能 となるため、より 効 率 的 な 作 業 が 期 待 できる。3.ウェブアーカイブの 意 義3.1 国 家 としての 意 義国 ( 政 府 )として、ウェブアーカイブの 意 義 を 考 えると、 大 きく3つの 観 点 から、その 必 要 性 を 指 摘 することができる。 具 体 的 には、1 政 府 の 活 動 記 録 の 保 存 と 国 民 への 情報 公 開 、2 事 実 確 認 のための 公 的 証 拠 の 担 保 機 能 、3 民 意 の 補 足 と 国 政 活 動 での 活 用 といった 方 策 である。政 府 ・ 自 治 体 の 活 動 記 録 としては、これまでは 冊 子 の 出 版 物 として 刊 行 されてきた 行政 府 省 、 国 会 、 裁 判 所 等 の 公 的 記 録 の、 電 子 政 府 の 推 進 がはかられ、 電 子 形 態 で 広 く 公開 されるようになり、 速 報 性 の 観 点 も 含 めて 国 民 のアクセスの 利 便 性 が 向 上 している。一 方 、 情 報 の 永 続 性 の 観 点 から 見 れば 多 くの 課 題 が 残 っており、 原 則 として、 情 報 の発 信 主 体 とは 異 なる 機 関 により、 公 開 された 記 録 の 包 括 的 保 存 と 長 期 利 用 の 保 証 が 図 られる 必 要 がある。 国 、 独 立 行 政 法 人 、 地 方 自 治 体 、 国 立 大 学 等 の 機 関 の 活 動 や 政 策 審 議2 きざしカンパニー: http://www.niche-ad.com/kuchikomi/kizasi.php3 ブログレンジャー: http://ranger.labs.goo.ne.jp/4


過 程 の 公 的 記 録 、 各 種 統 計 、 予 算 、 法 案 審 議 、 調 査 研 究 報 告 、 選 挙 記 録 、 政 党 ・ 議 員 等の 政 治 活 動 記 録 といった 情 報 のアーカイブが 重 要 である。これらの 記 録 は、 国 民 に 対 する 情 報 開 示 の 観 点 に 加 えて、 新 たな 政 策 立 案 、 国 会 における 国 政 調 査 、 法 案 審 議 、 裁 判実 務 等 の 政 府 活 動 に 不 可 欠 な 情 報 基 盤 を 提 供 することにもなる。次 に、 事 実 確 認 のための「 証 拠 」としての 側 面 では、 政 府 機 関 のみならず、 企 業 や 民間 団 体 、 報 道 機 関 等 の 広 い 意 味 で 公 的 性 格 を 持 つ 組 織 ・ 機 関 がウェブに 発 信 した 記 録 の第 三 者 機 関 によるアーカイブが 必 要 である。 現 実 に、ウェブの 世 界 では、 事 件 や 問 題 の発 覚 後 に 発 信 されていた 情 報 の 消 去 、 改 ざんが 行 われている 現 実 があり 4 、 公 的 情 報 の隠 蔽 を 防 止 し、 事 実 証 拠 の 提 供 を 保 証 するための 社 会 的 機 能 として、 公 的 機 関 によるアーカイブの 検 討 が 望 まれる。最 後 に、ウェブ 上 では、CGM(Consumer Generated Media)やブログといった 新 規 のメディアが 機 能 することで、これまで 社 会 に 対 し 意 見 表 明 の 機 会 を 持 たなかった 広 範 な国 民 が 自 由 に 意 見 表 明 する 状 況 が 生 じている。こうした 多 数 の 多 様 な 意 見 をアーカイブし、 世 論 ( 社 会 ・ 市 民 )の 動 向 を 分 析 し、 新 しい 意 見 を 掘 り 起 こすことができれば、これまでは 把 握 困 難 な 深 いレベルでの 民 意 を 補 足 し、 国 や 地 方 自 治 体 における 政 策 立 案 に役 立 てる 可 能 性 が 期 待 される。3.2 文 化 ・ 社 会 ・ 生 活 面 からの 意 義日 本 の 歴 史 と 文 化 に 関 わる 文 化 遺 産 は、 現 在 、 博 物 館 ・ 美 術 館 、 図 書 館 ・ 公 文 書 館 、大 学 ・ 研 究 機 関 、 自 治 体 ・ 教 育 委 員 会 などにおいてデジタルアーカイブ 化 され、ウェブ情 報 として 収 集 ・ 蓄 積 され 発 信 されている。 文 化 遺 産 のデジタルアーカイブは、 古 来 より 継 承 ・ 蓄 積 されてきた 文 化 遺 産 を 劣 化 させることなく 後 世 に 正 確 に 伝 えることができるとともに、いつでも 再 生 ・ 復 元 することができるという 意 味 で、 大 きな 意 義 がある。また、デジタルアーカイブは、 我 が 国 や 各 地 域 のアイデンティティのための 情 報 基 盤 であり、 経 済 のグローバル 化 は 進 行 したが、 個 人 レベルのグローバル 化 のためには 国 際 的な 相 互 理 解 ・ 情 報 交 流 が 重 要 であり、その 基 盤 となる 我 が 国 の 歴 史 ・ 文 化 に 関 わる 情 報の 収 集 ・ 蓄 積 ・ 発 信 は 重 要 である。 我 が 国 における 文 化 遺 産 等 に 関 するデジタルアーカイブおよびウェブによる 情 報 発 信 については、 文 化 庁 による「 文 化 遺 産 オンライン」 5 や、デジタルアーカイブ 推 進 協 議 会 (JDAA)によるデジタルアーカイブWebサイト 事 例 集 6 、4 国 内 の 例 ではないが、 第 168 回 臨 時 国 会 のテロ 特 措 法 延 長 審 議 の 過 程 で、 江 田 衆 議 院 議 員 が 政 府 に 提 出した 質 問 趣 意 書 では、「 米 海 軍 中 央 司 令 部 & 第 五 艦 隊 (United States Naval Forces Central Command and5th Fleet)」の 公 式 ウェブサイトが、2007 年 9 月 3 日 から 完 全 に 削 除 された 事 例 が 問 題 となっている。5文 化 遺 産 オンライン(Cultural Heritage Online)(http://bunka.nii.ac.jp/Index.do)は、 文 化 庁 が運 営 する 我 が 国 の 文 化 遺 産 に 関 する 電 子 情 報 広 場 (ポータルサイト)である。6デジタルアーカイブ 推 進 協 議 会 (JDAA)(Web サイトは 2005 年 7 月 1 日 閉 鎖 )がまとめた、 我 が 国 の 博 物 館 ・美 術 館 、 図 書 館 ・ 公 文 書 館 、 大 学 ・ 研 究 機 関 、 自 治 体 ・ 教 育 委 員 会 等 のデジタルアーカイブの Web サイト事 例 集 であり、 同 協 議 会 のデジタルアーカイブ 白 書 2005 から 引 用 されたもの。http://www.dcaj.org/jdaa/web/index.html5


( 財 ) 京 都 国 際 文 化 交 流 財 団 7 による「 京 都 デジタルアーカイブ」などがある。社 会 面 からのウェブ 情 報 のアーカイビングは、 社 会 の 情 勢 を 敏 感 に 反 映 しうるブログやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のコンテンツを 蓄 積 ・ 分 析 することで、時 系 列 的 な 社 会 分 析 などに 活 用 可 能 である。テロや 犯 罪 行 為 の 兆 候 をリアルタイムで 監視 するという 公 安 活 動 の 基 礎 資 料 としても 利 用 可 能 であると 考 えられる。このような 場合 、 我 が 国 の 生 活 ・ 文 化 に 関 して 我 が 国 から 発 信 されるもの 以 外 に、 海 外 ニュースサイト、 特 にアジア 圏 での 日 本 に 関 わるニュースやブログ 等 の 報 道 コンテンツ 等 のアーカイビングや 分 析 も 重 要 である。 文 化 ・ 芸 能 分 野 では、 国 内 よりも 報 道 が 早 い 8 ことも 少 なくなく、 海 外 から 見 た 我 が 国 に 関 するウェブ 情 報 の 収 集 ・ 蓄 積 は、 海 外 からの 日 本 の 見え 方 を 分 析 し、 外 交 を 展 開 していく 上 でも、アーカイビングによる 動 態 把 握 は 重 要 不 可欠 であると 考 えられる。国 民 生 活 の 面 からは、ウェブアーカイブの「 利 活 用 」の 可 能 性 に 関 して 総 務 省 において、「ウェブ 情 報 アーカイブの 普 及 促 進 に 向 けた 利 活 用 シーン 等 に 関 する 調 査 研 究 」 9 が実 施 されている。この 調 査 は、ウェブ 情 報 アーカイブの 社 会 的 評 価 の 把 握 を 目 的 として、インターネットアンケート 調 査 の 実 施 と 分 析 、および、 企 業 ・ 団 体 等 ヒアリングの 実 施と 分 析 を 行 ったもので、ウェブ 情 報 アーカイブ 化 の 社 会 的 効 果 ( 利 活 用 シナリオ 別 などで、ユーザ 数 等 可 能 な 限 り 定 量 的 に 整 理 )について 言 及 している。インターネット 利 用上 の 課 題 として、ウェブ 情 報 アーカイブが 解 決 に 資 する「リンク 切 れ」「ページがなくなる」「 少 し 前 の 情 報 がない( 新 しい 情 報 ばかり)」との 声 があり、それに 応 える 形 で、以 下 のような 調 査 結 果 が 得 られている:• ウェブ 情 報 アーカイブの 利 活 用 シナリオとして 作 成 した9つのサービスタイプについて、1つでも「 関 心 がある」とする 回 答 ( 該 当 なし 以 外 )は、 職 場 では 約 5 割 、家 庭 では8 割 を 超 え、 高 いニーズが 確 認 できている。• 特 にニーズの 高 いものは、 職 場 では「 過 去 ニュース 提 供 」、「 過 去 製 品 情 報 提 供 」、「 企 業 活 動 」の 順 である。 一 方 、 家 庭 では「 料 理 レシピ 提 供 」、「 過 去 ニュース 提供 」、「 過 去 製 品 情 報 提 供 」であり、これらの 関 心 度 は2 割 を 超 えている。• さらに 利 活 用 シナリオを 閲 覧 後 に 利 用 意 向 を 尋 ねたところ、 概 ね7~8 割 が「 利 用してみたい」 以 上 の 高 い 利 用 意 向 を 示 している総 じて、 家 庭 における 属 性 別 の 利 活 用 への 関 心 は 男 女 ・ 年 齢 の 別 なく 高 い。また、ウェブへの 接 触 時 間 が 増 えつつあると 想 定 される60 代 以 上 で 高 いことが 特 徴 である。60 歳 代7( 財 ) 京 都 国 際 文 化 交 流 財 団 が、 京 都 デジタルアーカイブセンター 作 成 した 京 都 の 文 化 遺 産 に 関 するデジタルアーカイブコンテンツ 等 をウェブ 発 信 している(http://www.kyo-bunka.or.jp/)。8政 治 ・ 経 済 はもとより、 文 化 ・ 芸 能 の 分 野 においても 日 本 への 注 目 度 が 高 まっている(クールジャパン 等 )。特 にアジア 圏 においては、すでに 市 場 が 形 成 され、 国 内 より 報 道 が 早 いことも 少 なくない。 例 えば、「 浜崎 あゆみの 難 聴 告 白 」 報 道 は、 国 内 よりも 海 外 の 報 道 の 方 が 早 く、 香 港 - 蘋 果 日 報 ( 壹 蘋 果 網 絡 )http://www.atnext.com/や、 中 国 - 新 華 社 ( 新 華 網 )http://www.xinhuanet.com/から 報 道 されたが、 現在 、その 記 事 そのものはすでに 削 除 されている。9 ( 株 ) 三 菱 総 合 研 究 所 :ウェブ 情 報 アーカイブの 普 及 促 進 に 向 けた 利 活 用 シーン 等 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 、 平 成 17 年 度 総 務 省 委 託 調 査 、 平 成 18 年 3 月6


では「トピックス」「 過 去 ニュース 提 供 」などの 情 報 を 深 堀 するサービスへのニーズが高 いことが、また30 代 の 子 育 て 世 代 で「キッズサイト」へのニーズが 高 くこの 世 代 を 通じて、 子 供 世 代 でのアーカイブの 利 活 用 が 進 む 可 能 性 を 示 している。3.3 学 術 としての 意 義ウェブ 上 には 様 々な 事 象 に 対 する 人 々の 経 験 、 感 想 、 意 見 、および 評 価 が 現 出 し、 変化 を 続 けている。ウェブアーカイブに 蓄 積 されるこれらの 情 報 は、 人 々の 意 識 の 歴 史 的変 遷 ともみなせることから、 言 語 学 、 社 会 学 、 政 治 学 等 、 多 様 な 学 術 分 野 においてこれまでにない 新 たな 研 究 調 査 の 対 象 および 情 報 源 として 幅 広 く 利 用 可 能 である。言 語 学 の 観 点 からは、 継 続 的 なウェブアーカイブは 貴 重 な 言 語 資 源 とみなせる。 例 えば、ブログ、 掲 示 板 等 のメディアに 既 存 の 辞 書 にはない 新 しい 造 語 が 頻 繁 に 用 いられることから、ウェブアーカイブを 用 いて 新 造 語 の 時 間 的 な 普 及 の 度 合 いを 調 査 し、 一 過 性の 流 行 で 終 わるか、 定 着 していくかなどを 観 測 することができる。また、 既 存 の 語 彙 に関 しても、 時 間 の 経 過 とともにその 使 われ 方 が 変 化 していくことから、 重 要 な 言 語 学 的調 査 の 対 象 となる。社 会 学 、 社 会 心 理 学 の 観 点 からは、ウェブアーカイブは 人 々の 社 会 活 動 、および 社 会的 概 念 に 関 する 意 識 の 履 歴 とみなせ、またウェブ 上 での 人 々の 活 動 そのものが 新 たな 社会 現 象 とも 捉 えられ、 調 査 対 象 として 注 目 を 集 めている。 米 国 コーネル 大 においては、2006 年 より 米 国 インターネット・アーカイブより 一 部 データの 提 供 を 受 けて、Web Labなる 社 会 科 学 への 応 用 を 目 的 としたウェブ 分 析 基 盤 が 構 築 されており、 社 会 科 学 者 との共 同 研 究 によりイノベーションの 普 及 過 程 等 の 調 査 が 行 われている。政 治 学 の 観 点 からは、ウェブアーカイブはその 時 々の 世 論 を 反 映 したものとみなせ、選 挙 、 政 府 の 施 策 、 政 治 家 の 発 言 等 に 対 する 人 々の 反 響 や 意 見 を 調 査 することが 可 能 となる。 近 年 、 政 治 家 および 政 党 はホームページや 動 画 サイト 等 で 情 報 発 信 を 行 っており、ウェブ 上 の 情 報 も 政 治 活 動 を 観 測 するうえで 重 要 な 情 報 源 となっている。 米 国 議 会 図 書館 のMINERVAプロジェクトにおいては、 大 統 領 選 挙 に 関 して、 候 補 者 、 政 党 、 評 論 家 等のホームページやブログ、および 関 連 する 情 報 を 選 別 して 収 集 、 蓄 積 しており、 同 様 に、米 国 政 府 、 上 院 、 議 会 に 関 係 するホームページや、 先 の 教 皇 選 挙 に 関 係 するホームページ 等 、 重 要 な 政 治 的 イベントに 関 するアーカイブを 作 成 して 研 究 者 に 提 供 を 行 っている。ウェブ 情 報 を 用 いた 政 治 学 的 研 究 としては、ブログネットワークの 構 造 を 用 いた 支 持 政党 による 意 見 対 立 分 析 などが 行 われている。こうした 様 々な 学 術 調 査 のみならず、 論 文 、 学 会 発 表 など 学 術 成 果 の 影 響 力 をいち 早く 知 るためにもウェブアーカイブを 利 用 することが 可 能 である。 通 常 、 論 文 の 影 響 力 の評 価 は 他 の 論 文 からどの 程 度 参 照 されたかを 基 準 とするインパクトファクタ―を 用 いて 行 われるが、 論 文 出 版 のスピードを 考 慮 すると 評 価 に 必 要 な 参 照 数 を 得 るまでには 数年 の 時 間 を 必 要 とする。しかし、ウェブ 上 では 論 文 が 発 表 された 直 後 からその 内 容 につ7


いて 議 論 が 行 われるため、 論 文 の 参 照 よりも 早 く 様 々な 反 応 を 知 ることが 可 能 となる。以 上 述 べてきたように、ウェブアーカイブは 多 様 な 学 術 研 究 調 査 のための 貴 重 な 情 報源 として 今 後 重 要 な 役 割 を 果 たすものであり、これまでにない 新 たな 調 査 手 法 を 創 出 するものである。また 学 術 成 果 そのものの 影 響 力 を 調 査 するための 情 報 源 としても 期 待 される。3.4 経 済 的 意 義経 済 ・ビジネスにおけるウェブアーカイブの 効 用 については、3つの 側 面 、すなわち、商 品 ・サービス 売 買 の 側 面 、 企 業 情 報 の 側 面 、 市 場 を 取 り 巻 く 環 境 の 側 面 、が 考 えられる。企 業 は 商 品 やサービスの 売 買 により、 少 しでも 高 い 利 益 を 得 るため、 様 々なマーケティング 活 動 を 行 っている。 近 年 、CGM やブログの 普 及 により、 消 費 者 が 自 由 に 情 報 を 発信 し、 企 業 や 他 の 消 費 者 とのコミュニケーションを 深 めており、その 結 果 、 賢 くなった多 数 の 消 費 者 の 意 見 が「 集 合 知 」として、 少 数 のマーケティング 専 門 家 の 意 見 より 優 れたものが 出 てくるかもしれないという 状 況 になってきた。ジェームズ・スロウィッキー氏 が”The Wisdom of Crowds 10 ”の 中 で 述 べているように、 集 団 を 構 成 する 個 人 から 意見 が 発 せられていて( 独 立 性 )、 様 々な 分 野 からの 意 見 が 集 まり( 多 様 性 )、 各 自 の 意見 に 基 づいた 意 思 決 定 がなされており( 分 散 性 )、 分 散 された 情 報 が 集 約 される( 集 約性 )という 状 況 下 で、 集 合 知 は 発 揮 される。インターネットを 通 じて 発 信 されたブログの 蓄 積 情 報 を 活 用 したトレンド 分 析 は、まさに 集 合 知 の 代 表 事 例 といえる。ウェブ 上 から 収 集 し 蓄 積 したブログ 情 報 から、ユーザニーズのトレンド 分 析 を 行 うことにより、 効率 的 なマーケティング 活 動 ができ、 経 済 活 動 をより 活 性 化 することにつながる。企 業 情 報 の 側 面 についていえば、 現 在 、 各 企 業 は 自 社 内 に 散 在 する 様 々な 情 報 の 集約 ・ 蓄 積 ・ 分 析 をおこない、 戦 略 を 決 定 している。 内 部 統 制 強 化 の 観 点 からも、ウェブ上 での 公 開 情 報 を 含 む 様 々な 企 業 情 報 の 蓄 積 が 必 須 となっている。 蓄 積 された 情 報 は、社 内 情 報 基 盤 として 使 われるのみならず、 企 業 内 で 問 題 が 生 じた 際 の 証 拠 としても 保 持される。また、その 時 代 を 表 す 経 済 活 動 の 記 録 としての 意 味 ももつ。企 業 ・ 市 場 を 取 り 巻 く 環 境 の 側 面 からみた 場 合 には、グローバルな 企 業 活 動 が 活 発 化している 現 在 、リスクマネジメントの 観 点 から、 各 国 における 知 的 財 産 の 扱 いや 法 律 の変 遷 を 常 時 把 握 しておくことが 不 可 欠 である。 万 が 一 、 訴 訟 にいたった 場 合 、 迅 速 に 対応 しなければならず、そのためには、 時 系 列 で 変 化 情 報 を 蓄 積 しておき、 迅 速 にその 変化 分 を 含 めて 検 索 ・ 分 析 できるような 仕 組 みの 構 築 が 望 まれる。また、 我 が 国 の 国 際 競争 力 向 上 の 観 点 からは、 各 国 の 経 済 活 動 や 企 業 分 析 も 非 常 に 重 要 と 考 えられ、そのためには 各 国 の 経 済 情 報 アーカイブとの 連 携 を 整 えていく 必 要 があると 思 われる。10 The Wisdom of Crowds: http://www.randomhouse.com/features/wisdomofcrowds/8


4.ウェブアーカイブ 構 築 に 関 する 諸 側 面4.1 国 によるアーカイビング国 ( 政 府 )によるウェブアーカイブにおいては、インターネットの 世 界 への 国 家 権 力の 介 入 と 受 け 止 められることのないよう 配 慮 が 必 要 である。 紙 の 出 版 物 と 比 べて、 書 き換 えや 消 去 が 容 易 なメディアの 特 性 から、ウェブでの 情 報 発 信 は、これを 一 時 的 、 暫 定的 なものとして 行 っていることも 考 えられる。 国 の 機 関 がウェブ 情 報 を「 永 続 的 」なものとして 収 集 、 蓄 積 することが、 情 報 の 国 家 管 理 と 受 け 止 められることのないよう、ウェブアーカイブを 社 会 的 に 利 活 用 することについて、 発 信 者 を 含 めた 社 会 全 体 の 理 解 を啓 発 することが 肝 要 である。この 他 の 課 題 としては、ウェブ 上 では、 不 正 な 著 作 物 の 使 用 、 児 童 ポルノ 等 の 違 法 コンテンツの 発 信 、 公 序 良 俗 の 観 点 で 問 題 となる 有 害 情 報 の 氾 濫 といった 状 況 が 生 じており、 違 法 ・ 有 害 情 報 をアーカイブすることの 問 題 、また、アーカイブ 情 報 を 裁 判 係 争 ( 名誉 毀 損 、 権 利 侵 害 等 )の 証 拠 とすることへの 対 応 、 個 人 情 報 保 護 の 観 点 からの 収 集 及 び提 供 等 の 法 的 検 討 も 必 要 である。4.2 法 制 度 面 について法 制 度 面 では、アーカイブに 伴 う 知 的 財 産 権 との 抵 触 が 重 要 な 課 題 である。 著 作 権 については、 収 集 蓄 積 の 段 階 で 著 作 権 者 の 複 製 権 許 諾 が 必 要 であり、さらにネット 上 で 発信 を 行 うためには 公 衆 送 信 の 対 応 も 必 要 となる。 公 益 的 観 点 からの 権 利 バランスを 踏 まえた 制 度 の 実 現 が 必 要 となる。また、 諸 外 国 の 国 立 図 書 館 では、 出 版 物 の 納 本 法 制 の 枠 組 みの 中 で、ウェブアーカイブを 整 備 している 事 例 が 多 いが、 我 が 国 においても、 著 作 権 法 の 整 備 に 加 えて、 国 立 国会 図 書 館 法 の 改 正 により、 納 本 法 制 の 枠 組 みの 中 で、ウェブアーカイブの 制 度 的 実 現 をはかることが、 喫 緊 の 課 題 である。4.3 ウェブ 情 報 の 収 集 蓄 積 の 技 術 的 側 面ウェブ 上 の 情 報 は 現 在 も 爆 発 的 な 増 加 を 続 けており、 音 声 、 画 像 、 動 画 像 、 自 動 生 成コンテンツ、 対 話 的 コンテンツなど 多 様 なメディアへの 進 化 も 日 々 進 んでいることから、完 全 な 収 集 蓄 積 は 原 理 的 に 困 難 となってきている。 特 に、ウェブで 発 信 される 音 声 、 画像 、 動 画 像 等 のマルチメディア 情 報 のアーカイビングには、 経 済 的 にも 技 術 的 にも 課 題が 多 い。これまでに 述 べてきた 多 様 な 利 用 を 可 能 とするためにはできる 限 り 網 羅 的 な 収集 または 分 散 収 集 が 必 要 となるが、 必 要 かつ 十 分 な 収 集 範 囲 を 規 定 することが 重 要 な 課題 となる。さらに、 収 集 / 蓄 積 した 情 報 を 保 存 するだけでなく、 効 率 的 効 果 的 に 利 活 用 できるようにするための 検 索 技 術 やユーザインタフェース 技 術 の 開 発 も 重 要 である。また、 多 く9


のウェブサイトは 背 後 のデータベースから 動 的 にウェブ 情 報 を 検 索 ・ 生 成 する、いわゆる 深 層 ウェブ(deep Web)という 構 成 を 取 っており、このようなdeep Webのアーカイビングや、 既 存 の 検 索 エンジンが 生 成 した 索 引 情 報 のアーカイビングも 重 要 な 課 題 である。また、 博 物 館 ・ 美 術 館 などの 場 合 にはアーカイビングが 分 散 して 行 われることが 普 通 であるが、 利 用 者 の 立 場 からは、これらを 横 断 的 に 検 索 ・ 利 活 用 することができるような検 索 技 術 も 重 要 である。総 じて、ウェブ 上 の 情 報 メディアは 進 化 し 続 け、これに 伴 う 技 術 開 発 が 今 後 も 重 要 であることから、 中 核 的 ・ 永 続 的 保 存 機 関 と 最 先 端 の 収 集 ・ 検 索 ・ 分 析 技 術 を 有 する 大 学 ・研 究 機 関 との 連 携 11 が 重 要 である。4.4 文 化 ・ 社 会 ・ 生 活 の 側 面文 化 遺 産 のデジタルアーカイブ 化 については、まずは、 経 済 的 な 問 題 (コスト)が 大 きな 課 題 である。さらに、 現 状 では、デジタル 化 されていないコンテンツは 地 方 に 多 々あり、デジタルアーカイビングの 推 進 には 全 国 的 な 視 野 が 必 要 である。また、 各 機 関 それぞれがアーカイブ 化 したコンテンツ 相 互 を 連 携 した 利 活 用 が 可 能 となることが 重 要 である。デジタルアーカイブ 化 、および、ウェブアーカイブ 化 は、 保 存 という 観 点 から 国 家 主導 で 推 進 するという 視 点 に 加 えて、アーカイブされるコンテンツの 国 民 による 利 活 用 や国 民 に 対 する 説 明 責 任 という 視 点 や、 脱 工 業 社 会 における 生 産 手 段 としての 知 識 や 知 識の 循 環 に 基 づく 新 産 業 の 創 出 という 視 点 から 推 進 することもきわめて 重 要 である。4.5 学 術 的 利 用 に 関 して様 々な 学 術 利 用 に 対 応 するためには、 調 査 対 象 に 関 する 情 報 をウェブアーカイブから適 切 に 抽 出 可 能 とすることが 必 要 となる。コンピュータの 専 門 家 でなくとも 必 要 なデータ 抽 出 を 可 能 とするデータアクセス 機 構 を 構 築 することが 課 題 となる。また、 学 術 成 果の 影 響 力 を 観 測 する 際 には、 既 存 の 学 術 情 報 データベースとの 比 較 対 照 が 行 えるよう 柔軟 な 連 携 機 構 を 構 築 することが 課 題 となる。4.6 経 済 ・ビジネス 利 活 用 に 関 して経 済 ・ビジネスにおけるウェブアーカイブを 考 えるとき、その 主 目 的 が 経 済 活 動 、すなわち、 企 業 や 個 人 が 利 益 を 得 ることであることから、アーカイブをビジネスに 活 用 する 場 合 には、 企 業 側 がある 程 度 の 負 担 をする 必 要 があると 考 えられる。想 定 されるすみ 分 けとしては、 企 業 が 各 社 独 自 の 事 業 をおこなう 上 で 発 生 する 情 報 に関 しては、 各 社 が 自 社 責 任 で 情 報 蓄 積 し、 企 業 を 超 えた 取 り 組 みにより 日 本 の 国 際 競 争11 検 索 エンジン Google は、 米 国 の 国 家 プロジェクトである DLI (Digital LibraryInitiative)から 生 まれたことは 著 名 である。10


力 向 上 に 貢 献 できると 考 えられる 事 柄 や、 企 業 が 証 拠 として 第 三 者 による 保 存 を 希 望 する 情 報 に 関 しては、 国 やその 他 の 第 三 者 機 関 としての 対 応 が 望 まれる。例 えば、 経 済 分 野 のウェブアーカイブについて、 企 業 独 自 の 努 力 にのみ 頼 った 場 合 、次 にあげるような 問 題 が 発 生 すると 思 われる。• 企 業 や 国 家 組 織 が 存 続 している 間 は、 内 部 統 制 からもほぼ 確 実 に 自 社 組 織 内で 必 要 な 情 報 を 蓄 積 し 管 理 し 続 けられるが、 組 織 の 統 廃 合 にともない、 蓄 積主 体 が 消 えてしまうと、 企 業 情 報 の 継 承 ができない。 統 廃 合 の 変 遷 も 包 含 できるような 統 合 管 理 をおこなうことはできないか。• 意 義 の 項 で 述 べたように、 日 本 企 業 の 国 際 競 争 力 を 向 上 するため、 各 国 地 域の 法 律 や 知 的 財 産 権 の 扱 いなどの 時 系 列 変 化 を 蓄 積 し、 各 社 共 通 に 検 索 や 分析 ができるような、グローバル 経 済 活 動 を 下 支 えするインフラ 的 なシステム構 築 をできないものか。経 済 分 野 において、 国 やその 他 の 第 三 者 機 関 と 企 業 の 役 割 分 担 を 明 確 に 引 くことは 非常 に 難 しいことではある。いずれの 事 例 においても、 極 めて 限 られた 範 囲 であれば 企 業努 力 でカバーし 得 ると 考 えられる。しかしながら、 経 済 活 動 全 体 がグローバル 化 している 現 在 、まずは、 日 本 企 業 の 国 際 競 争 力 を 強 化 するという 観 点 から、 国 のインフラとして 持 つべきウェブアーカイブの 範 囲 や、 産 官 学 や 中 央 ・ 地 方 など、 各 種 組 織 間 でどう 連携 するかについて 議 論 することは、 非 常 に 意 味 のあることと 思 われる。5.おわりに本 記 録 では, 学 術 の 新 たな 情 報 基 盤 となりうるウェブアーカイブ 構 築 の 動 向 、ウェブアーカイブの 意 義 を 明 らかにするとともに、その 実 現 に 向 けた 具 体 的 な 課 題 についても取 りまとめた。ウェブは 新 しいメディアであるが、 急 速 に、かつ、 広 範 に 広 がりつつあり、 今 や、 重要 な 社 会 情 報 基 盤 の 位 置 を 占 めつつある。その 範 囲 は、 学 術 活 動 の 情 報 基 盤 のみならず、国 家 、 文 化 、 社 会 、 国 民 生 活 、 経 済 活 動 など 広 範 囲 に 及 び、 過 去 に 発 信 されたウェブ 情報 を、その 同 一 性 を 保 証 しつつ 収 集 ・ 保 存 するウェブアーカイブの 構 築 の 重 要 性 および緊 急 性 は 論 を 待 たない。ボーンデジタルな 情 報 を 発 信 するウェブは、ボーンデジタルであるが 故 に 利 活 用 が 容 易 である 反 面 、 過 去 のウェブ 情 報 は 消 滅 しやすいという 特 性 を 併せ 持 っているからである。ウェブアーカイブの 構 築 を 行 うことの 意 義 は 大 きいが、 一 方 、以 下 に 述 べるように 解 決 すべき 課 題 も 山 積 している。ウェブアーカイブに 関 する 学 術 的 な 観 点 からの 課 題 は、 学 術 分 野 においてはその 収 集保 存 範 囲 が 我 が 国 に 閉 じていないこと、 言 語 の 壁 、 国 立 研 究 機 関 や 学 会 などの 収 集 保 存主 体 の 連 携 をいかにして 行 うかなどである。また、ウェブというメディア 自 体 が 依 然 発展 途 上 にあるため、ウェブアーカイブの 構 築 およびその 検 索 ・ 利 活 用 のための 技 術 研 究開 発 が 重 要 であるが、これをどのように 推 進 するかも 最 重 要 課 題 の 一 つであろう。11


アーカイブの 主 体 の 選 択 に 関 しては 多 様 な 考 えがあり、 結 論 を 得 るには 至 っていない。一 つの 組 織 が 全 ウェブ 空 間 のアーカイブを 実 施 することも 考 えられるが、コンテンツに応 じて 複 数 のステイクホルダーが 参 画 し、 互 いに 連 携 することも 考 えられる。 国 の 機 関がアーカイビングを 行 うことに 対 しては、プライバシーに 関 する 懸 念 や、 血 税 を 使 って構 築 することに 対 する 説 明 責 任 などに 課 題 がある。 反 面 、 国 家 や 地 域 のアイデンティティのための 情 報 基 盤 となること、 情 報 公 開 の 促 進 につながることなど 国 家 が 責 任 を 持 ってアーカイブすべきところも 大 きい。また、プライバシーに 関 する 懸 念 等 に 対 しては、「 永 久 保 存 は 行 うがアクセス 制 限 を 行 う」などの 技 術 と 社 会 制 度 によって 解 決 が 期 待 できるものも 多 いと 考 えられる。ウェブからの 情 報 発 信 の 影 響 力 が 著 しく 増 大 しつつある 今 日 、ウェブアーカイブは 膨大 な 個 人 の 情 報 発 信 に 基 づくデジタル 民 主 主 義 の 促 進 につながる 大 きな 力 を 有 しているが、それ 故 に 発 信 情 報 の 同 一 性 保 証 等 による 安 全 安 心 な 社 会 活 動 の 基 盤 を 構 築 することは、 重 要 な 課 題 となる。 経 済 的 な 側 面 だけではない 利 点 への 配 慮 が 必 要 であるが、 技術 的 な 課 題 や 妥 当 な 経 済 的 負 担 モデルについても 多 様 かつ 詳 細 な 方 策 検 討 が 不 可 欠 である。 即 ち、 一 般 に 時 間 の 経 過 とともに 多 くの 情 報 は 利 用 者 にとっての 価 値 が 減 少 する傾 向 にあり、アーカイブは 新 鮮 な 情 報 だけを 対 象 とする 現 行 のサーチエンジンとは 異 なる 収 益 モデルを 確 立 する 必 要 があり、 持 続 可 能 な 形 態 については 議 論 を 深 める 必 要 がある。ウェブアーカイブの 収 集 対 象 も 結 論 を 得 るに 至 っていない。 多 くの 有 害 なページ、スパムページも 存 在 するウェブ 空 間 の 中 で、 何 をアーカイブの 対 象 とすべきかは、 利 用 者によって 大 きく 異 なるところである。ウェブ 空 間 の 健 全 性 を 維 持 するためには、スパム構 造 の 解 析 は 不 可 欠 であり、 一 見 無 駄 にも 見 えるスパムの 保 存 は、スパムの 時 代 的 変 遷を 見 る 興 味 深 い 研 究 素 材 とも 捉 えられる。 多 様 なステイクホルダーが 独 自 の 空 間 を 保 持することが 考 えられるが、 収 集 対 象 を 効 率 的 に 分 別 することは 技 術 的 に 容 易 でないという 課 題 もある。知 財 財 産 推 進 計 画 2008 にも 著 作 権 の 制 限 について 触 れられているように、 今 後 の 著作 権 法 の 制 度 改 定 などの 議 論 はウェブアーカイブに 強 く 関 連 しており 重 要 である。ブログ 等 の 自 由 意 思 での 発 信 とともに、ウェブ 上 には 多 くの 有 料 コンテンツも 存 在 する。ウェブアーカイブの 構 築 にあたっては、 後 者 に 関 してはオリジナルサイトへの 流 動 を 担 保するなど、コンテンツホルダーへの 特 段 の 配 慮 が 必 要 であろう。 納 本 制 度 の 改 定 に 関 する 議 論 も 重 要 である。文 化 、 社 会 、 国 民 生 活 に 資 するウェブアーカイブの 構 築 という 視 点 からは、 単 なる 保存 収 集 のためのウェブアーカイブではなく、これをどのように 利 活 用 するかという 視 点が 重 要 である。アーカイブされるコンテンツの 国 民 による 利 活 用 や 国 民 に 対 する 説 明 責任 という 立 場 からの 構 築 ・ 運 営 が 重 要 であるとともに、 脱 工 業 社 会 における 生 産 手 段 としての 知 識 や 知 識 の 循 環 に 基 づく 新 産 業 の 創 出 という 経 済 的 視 点 から 推 進 することが12


重 要 である。経 済 的 な 観 点 からは、ウェブアーカイブ 構 築 に 関 しての 国 と 民 間 の 役 割 分 担 とともに、産 官 学 連 携 や 中 央 / 地 方 連 携 のもとにいかに 構 築 を 行 うかが 重 要 な 論 点 である。この 課題 については、 米 国 の 議 会 図 書 館 と 大 学 ・NPO 等 との 連 携 、 米 国 グーグル 社 と New YorkTimes 社 や Internet Archive (NPO)との 連 携 を 参 考 にしていくべきであろう。また、 我が 国 の 国 際 競 争 力 向 上 という 視 点 でウェブアーカイブを 論 じることもきわめて 重 要 である.この 様 にウェブなるメディアは 極 めて 大 きく 社 会 を 変 えつつある 新 しいメディアであり、そのアーカイブは 意 義 深 いものの、その 実 現 のためには 多 様 な 課 題 が 残 されており、 次 期 学 術 会 議 ウェブ・メディア 社 会 分 科 会 において 議 論 を 重 ねて 行 きたい。13

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