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アイヌ政策のあり方と国民的理解 - 日本学術会議

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報<br />

告<br />

アイヌ 政 策 のあり 方 と 国 民 的 理 解<br />

平 成 23 年 (2011 年 )9 月 15 日<br />

日 本 学 術 会 議<br />

地 域 研 究 委 員 会<br />

人 類 学 分 科 会


この 報 告 は、 日 本 学 術 会 議 地 域 研 究 委 員 会 人 類 学 分 科 会 の 審 議 結 果 をとりまとめ 公 表 す<br />

るものである。<br />

日 本 学 術 会 議 地 域 研 究 委 員 会 人 類 学 分 科 会 委 員 会<br />

委 員 長 山 本 眞 鳥 ( 第 一 部 会 員 ) 法 政 大 学 経 済 学 部 教 授<br />

副 委 員 長 小 長 谷 有 紀 ( 連 携 会 員 ) 国 立 民 族 学 博 物 館 教 授 研 究 戦 略 センター 教 授<br />

幹 事 窪 田 幸 子 ( 連 携 会 員 ) 神 戸 大 学 大 学 院 国 際 文 化 研 究 科 教 授<br />

幹 事 竹 沢 泰 子 ( 連 携 会 員 ) 京 都 大 学 人 文 科 学 研 究 所 教 授<br />

斎 藤 成 也 ( 第 二 部 会 員 ) 国 立 遺 伝 学 研 究 所 集 団 遺 伝 研 究 部 門 教 授<br />

内 堀 基 光 ( 連 携 会 員 ) 放 送 大 学 教 授<br />

加 藤 泰 建 ( 連 携 会 員 ) 埼 玉 大 学 理 事 ・ 副 学 長<br />

栗 本 英 世 ( 連 携 会 員 ) 大 阪 大 学 大 学 院 人 間 科 学 研 究 科 教 授<br />

小 泉 潤 二 ( 連 携 会 員 ) 大 阪 大 学 理 事 ・ 副 学 長 ・ 附 属 図 書 館 長<br />

佐 野 賢 治 ( 連 携 会 員 ) 神 奈 川 大 学 日 本 常 民 研 究 所 長 ・ 神 奈 川 大 学 教 授<br />

關 雄 二 ( 連 携 会 員 ) 国 立 民 族 学 博 物 館 研 究 戦 略 センター 教 授<br />

長 野 泰 彦 ( 連 携 会 員 ) 国 立 民 族 学 博 物 館 教 授<br />

馬 場 悠 男 ( 連 携 会 員 ) 国 立 科 学 博 物 館 名 誉 研 究 員<br />

原 ひろ 子 ( 連 携 会 員 ) 城 西 国 際 大 学 大 学 院 国 際 人 文 学 研 究 科 客 員 教 授<br />

お 茶 の 水 女 子 大 学 名 誉 教 授<br />

本 多 俊 和 ( 連 携 会 員 ) 放 送 大 学 教 授<br />

宮 家 準 ( 連 携 会 員 ) 慶 應 義 塾 大 学 文 学 部 名 誉 教 授<br />

山 極 壽 一 ( 連 携 会 員 ) 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 教 授<br />

i


要<br />

旨<br />

1 作 成 の 背 景<br />

アイヌの 人 々の 抱 えている 問 題 について、 我 が 国 の 対 応 はこれまで 決 して 十 分 であった<br />

とはいえない。 一 般 社 会 では 日 本 は 単 一 民 族 国 家 であるという 考 え 方 が 戦 後 長 らく 保 持 さ<br />

れ、ことさら 国 内 の「 異 文 化 」に 目 を 向 けてこなかった。しかし、 海 外 では 1950 年 代 半 ば<br />

( 昭 和 30 年 代 )より、 先 住 民 族 の 権 利 主 張 がアメリカ 合 衆 国 などで 始 まり、 先 住 民 族 の 権<br />

利 の 問 題 がとりあげられるようになる。 最 初 に 取 り 組 んだ 国 際 機 関 は ILO であるが、やが<br />

て 国 連 でも 1982 年 ( 昭 和 57 年 )には 先 住 民 族 に 関 する 作 業 部 会 を 立 ち 上 げて 検 討 を 行 い、<br />

「 先 住 民 族 の 国 際 年 」や、「 世 界 の 先 住 民 族 の 国 際 の 十 年 」を 定 めるなどし、2007 年 ( 平<br />

成 19 年 )には「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」を 採 択 した。<br />

こうした 海 外 の 動 きに 呼 応 して、 日 本 でもアイヌの 人 々の 権 利 回 復 運 動 が 行 われるよう<br />

になったが、いわゆる「アイヌ 文 化 振 興 法 」( 平 成 9 年 )では、もっぱらアイヌ 語 や 芸 能 ・<br />

工 芸 などの 文 化 的 な 取 り 組 みが 北 海 道 地 域 だけに 限 定 して 行 われ、アイヌ 民 族 が 先 住 民 族<br />

であるという 明 確 な 規 定 はなされなかった。さらに 10 年 を 経 過 して、もう 一 歩 踏 み 込 んだ<br />

立 法 が 求 められるようになる。 国 連 宣 言 の 翌 年 、 平 成 20 年 には 国 会 で「アイヌ 民 族 を 先 住<br />

民 族 とすることを 求 める 決 議 」が 全 会 一 致 でなされた。これを 受 けて「アイヌ 政 策 のあり<br />

方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」が 発 足 し、 平 成 21 年 に 報 告 書 が 提 出 された。さらにこの 報 告 書<br />

に 基 づき 内 閣 官 房 にアイヌ 総 合 政 策 室 が 設 けられ、アイヌ 政 策 推 進 会 議 (アイヌの 人 々を<br />

含 めた 組 織 )で 政 策 の 具 体 化 に 向 けた 検 討 が 行 われている。<br />

政 府 はアイヌ 民 族 が 先 住 民 族 であるとの 認 識 の 下 にこの 問 題 への 取 組 を 始 めているも<br />

のの、 一 般 の 国 民 にあってはこの 問 題 への 関 心 が 薄 い。 日 本 の 近 代 化 の 過 程 において 不 利<br />

益 を 蒙 ったアイヌの 人 々への 対 策 や 保 障 は 本 来 全 国 民 の 理 解 のもとに 進 められる 必 要 があ<br />

る。 一 層 の 国 民 的 理 解 に 取 り 組 むために、 地 域 研 究 委 員 会 人 類 学 分 科 会 では、 平 成 23 年 3<br />

月 6 日 に 公 開 シンポジウム「 今 、アイヌであること― 共 に 生 きる 政 策 をめざして」を 実 施<br />

した。このシンポジウムには3 名 のアイヌの 人 々が 参 加 して9 月 号 の「 学 術 の 動 向 」にも<br />

寄 稿 している。さらに 人 類 学 分 科 会 としてもこの『 報 告 』を 提 出 することとなった。<br />

2 現 状 及 び 問 題 点<br />

アイヌのもつ 形 態 的 特 徴 や 遺 伝 的 特 徴 には、 縄 文 時 代 まで 遡 るものがある 一 方 、オホー<br />

ツク 文 化 の 影 響 も 受 けていることがわかっている。 北 海 道 では 農 耕 はほとんど 行 われず、<br />

狩 猟 、 漁 撈 、 採 集 を 中 心 とした 生 活 が 営 まれてきた。 鎌 倉 時 代 には 交 易 が 始 まっていたが、<br />

江 戸 期 になると 松 前 藩 が 交 易 を 独 占 し、 次 第 にアイヌの 人 々はその 統 制 下 で 強 制 労 働 など<br />

に 従 事 させられるようになる。 明 治 に 入 り 北 海 道 の 内 国 化 が 図 られ 大 規 模 移 住 により 北 海<br />

道 開 拓 が 始 まると、 近 代 的 な 土 地 所 有 制 度 が 持 ち 込 まれ、 入 植 者 に 取 得 され、アイヌの 人 々<br />

の 狩 猟 、 漁 撈 の 場 は 次 第 に 奪 われていった。なれない 農 業 への 転 換 を 勧 められるが 転 換 は<br />

難 しく、やがて 伝 統 的 な 狩 猟 ・ 漁 撈 は 禁 ぜられ、アイヌの 人 々は 貧 窮 していく。 宗 教 儀 礼<br />

は 禁 止 され、 学 校 では 日 本 語 で 授 業 が 行 われ、 文 化 的 にも 同 化 を 強 いられることとなった。<br />

ii


圧 倒 的 多 数 の 和 人 移 住 者 の 間 で、 被 支 配 的 立 場 に 追 い 込 まれ 差 別 の 対 象 となった。アイヌ<br />

の 人 々は、 土 地 を 奪 われ、 固 有 の 生 活 様 式 を 否 定 されるという 少 数 者 としての 不 利 益 を 蒙<br />

った。またアイヌの 遺 骨 が 研 究 目 的 で 収 集 されたが、 中 には 無 断 で 持 ち 出 されたものもあ<br />

る。 現 在 、 大 学 などに 保 管 されているそれらの 遺 骨 の 適 正 な 保 管 や 返 還 を 求 める 声 がある。<br />

平 成 18 年 現 在 、 北 海 道 のアイヌ 民 族 は 北 海 道 庁 の 調 査 によれば 約 2 万 4 千 人 である。<br />

第 一 次 産 業 従 事 者 が 多 く、 生 活 保 護 率 は 道 民 全 体 平 均 の 1.5 倍 を 超 え、 高 校 進 学 率 は 道 民<br />

全 体 より 5 ポイント 近 く 低 く、 大 学 進 学 率 は 道 民 全 体 の 半 分 以 下 である。7 年 毎 の 調 査 で<br />

見 る 限 り、ある 程 度 改 善 されてはいるものの、 依 然 として 道 民 全 体 より 困 窮 している。ア<br />

イヌであることによる 差 別 経 験 を 持 つ 人 は 約 17%であり、 差 別 を 受 けた 人 を 知 っている 人<br />

は 約 20%に 上 る。アイヌの 人 々の 中 のかなりの 数 が、 北 海 道 における 差 別 を 逃 れ、 道 外 で<br />

暮 らしを 営 むようになっている。これらの 人 々の 統 計 データはほとんどなく、その 生 活 実<br />

態 などは 正 確 にはわかっていないが、 道 外 でも 差 別 の 問 題 が 指 摘 されている。<br />

ほとんどのアイヌの 人 々は、 現 在 日 常 的 な 衣 食 住 の 生 活 様 式 のうえで、 他 の 日 本 人 と 似<br />

たような 生 活 を 送 っているが、 経 済 格 差 は 存 在 している。 一 方 で、アイヌ 文 化 振 興 法 以 来 、<br />

アイヌ 語 学 習 や 海 外 の 先 住 民 族 との 交 流 が 積 極 的 に 行 われるようになり、 若 者 の 行 事 への<br />

参 画 は 増 加 している。<br />

3 報 告 の 内 容<br />

(1) 先 住 民 族 という 認 識 とアイデンティティの 尊 重<br />

まずはアイヌ 民 族 が 先 住 民 族 であるという 認 識 をもつことが 重 要 である。アイヌの<br />

人 々のアイデンティティにはさまざまなレベルがあるが、それらの 幅 を 理 解 し、 配 慮 す<br />

る 必 要 がある。<br />

(2) 国 が 主 体 となった 政 策 の 全 国 的 実 施<br />

国 家 的 事 業 として 行 われた 北 海 道 開 拓 ( 開 発 )のために 不 利 益 を 蒙 ったアイヌ 民 族 に<br />

ついては 国 が 主 体 となって 政 策 を 展 開 する 必 要 があり、 現 在 アイヌの 人 々の 居 住 域 が 全<br />

国 に 広 がっている 以 上 、 全 国 にこれを 及 ぼす 必 要 がある。<br />

(3) アイヌ 文 化 研 究 の 促 進 と 展 示<br />

アイヌ 研 究 の 制 度 作 りが 必 要 である。またアイヌ 研 究 が 多 くの 分 野 で 行 われる 必 要 が<br />

あり、アイヌ 研 究 者 の 養 成 、とりわけアイヌ 自 身 の 研 究 者 や 学 芸 員 の 養 成 が 急 務 である。<br />

(4) 国 民 の 理 解 の 促 進<br />

あらゆる 方 法 で 国 民 的 理 解 を 得 る 努 力 をすべきであるが、その 中 心 課 題 に 教 育 がある。<br />

小 ・ 中 ・ 高 校 のすべてのレベルの 教 育 において、アイヌの 文 化 と 民 族 の 歴 史 の 理 解 の 促<br />

進 を 図 るべきである。 大 学 においても、 関 連 する 科 目 担 当 者 の 自 主 性 において、アイヌ<br />

民 族 に 関 する 教 育 が 行 われることを 希 望 する。<br />

(5) 多 様 な 文 化 の 共 存 と 共 生<br />

現 代 においては、 異 なる 文 化 を 互 いに 理 解 し、 多 様 性 を 保 持 しつつ 共 生 する 社 会 を 築<br />

き 上 げることがますます 必 要 となってきているが、その 第 一 歩 として、アイヌ 民 族 を 先<br />

住 民 族 として 理 解 し、その 声 を 聴 き、 共 に 考 えていくことが 重 要 である。<br />

iii


目<br />

次<br />

1 はじめに ·························································· 1<br />

2 歴 史 的 経 緯 ······························································ 2<br />

(1) 江 戸 時 代 まで ························································· 2<br />

(2) 明 治 以 後 ····························································· 3<br />

3 アイヌ 民 族 をめぐる 近 年 の 動 き ············································ 5<br />

(1) アイヌ 民 族 の 現 状 ····················································· 5<br />

(2) 国 の 施 策 の 現 状 ······················································· 6<br />

4 先 住 民 族 運 動 と 国 際 的 な 先 住 民 族 政 策 の 動 向 ································ 8<br />

(1) 先 住 民 族 とは ························································· 8<br />

(2) 先 住 民 族 運 動 ························································· 8<br />

1 文 化 活 動 ・ 言 語 等 の 復 興 とアイデンティティの 回 復 ······················ 8<br />

2 失 われた 土 地 の 回 復 ·················································· 8<br />

3 土 地 喪 失 において 蒙 った 不 利 益 の 代 償 ·································· 9<br />

4 聖 地 ・ 祖 先 の 遺 骨 の 回 復 ·············································· 9<br />

5 大 規 模 開 発 事 業 の 中 止 ················································ 9<br />

6 公 式 の 謝 罪 ·························································· 9<br />

7 遺 伝 資 源 ・ 知 的 財 産 の 利 用 における 利 益 還 元 ···························· 9<br />

(3) 国 際 的 な 先 住 民 族 政 策 ················································· 9<br />

5 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 とアイヌ 政 策 推 進 会 議 ··· 11<br />

(1) 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 の 考 え 方 ············ 11<br />

(2) 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 の 政 策 提 言 ·········· 11<br />

1 国 民 の 理 解 の 促 進 ················································· 11<br />

2 広 義 の 文 化 に 係 る 政 策 ············································· 12<br />

3 推 進 体 制 等 の 整 備 ················································· 12<br />

(3) アイヌ 政 策 推 進 会 議 と 当 面 の 計 画 ······································ 13<br />

6 新 たな 政 策 展 開 に 向 けて ················································· 14<br />

(1) 先 住 民 族 という 認 識 とアイデンティティの 尊 重 ·························· 14<br />

(2) 国 が 主 体 となった 政 策 の 全 国 的 実 施 ···································· 14<br />

(3) アイヌ 文 化 研 究 の 促 進 と 展 示 ·········································· 15<br />

(4) 国 民 の 理 解 の 促 進 ···················································· 15<br />

(5) 多 様 な 文 化 の 共 存 と 共 生 ·············································· 16<br />

参 照 文 献 ··································································· 17<br />

参 考 資 料 ··································································· 17<br />

iv


添 付 資 料<br />

1 「アイヌの 人 々について」(アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者<br />

懇 談 会 第 一 回 会 合 配 布 資 料 3) ········································· 18<br />

2 「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」の 概 要 (アイヌ 政 策 の<br />

あり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 第 一 回 会 合 配 布 資 料 4) ····················· 21<br />

3 「これまでのアイヌ 政 策 の 経 緯 」(アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する<br />

有 識 者 懇 談 会 第 一 回 会 合 配 布 参 考 資 料 1) ······························· 26<br />

4 「アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 」(アイヌ 政 策 の<br />

あり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 第 一 回 会 合 配 布 参 考 資 料 2) ················· 27<br />

5 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 報 告 書 のポイント」 ············ 29<br />

v


1 はじめに<br />

アイヌの 人 々のかかえている 問 題 について、 我 が 国 の 対 応 はこれまで 決 して 十 分 であっ<br />

たとはいえない。そこには 国 民 的 理 解 が 進 んでいない、という 背 景 があるが、 一 方 で 行 政<br />

が 取 り 上 げないことが、さらに 国 民 の 理 解 を 進 めない 要 因 ともなっている。 一 般 社 会 では<br />

日 本 は 単 一 民 族 国 家 であるという 考 え 方 が 戦 後 長 らく 保 持 され、ことさら 国 内 の「 異 文 化 」<br />

について 目 を 向 けずに 来 た。<br />

近 年 になって、 在 日 の 人 々の 歴 史 や 蒙 っている 不 利 益 について 多 くが 語 られるようにな<br />

り、 国 内 に 決 して 少 なくない 外 国 人 研 修 生 や 日 系 ブラジル 人 、 農 村 の 外 国 人 花 嫁 の 存 在 が<br />

可 視 的 なものとなってきて、 単 一 民 族 国 家 の 神 話 は 崩 れてきている。それにもかかわらず、<br />

アイヌの 人 々にあまり 目 が 向 けられてこなかった 理 由 のひとつに、あまりに 少 数 者 である<br />

ことがあげられる。アイヌ 民 族 の 人 口 は 正 確 に 把 握 されているわけではないが、 平 成 18<br />

年 に 北 海 道 内 で 23,782 人 という 北 海 道 庁 のデータが 存 在 する[1]。また、 東 京 都 は 昭 和 63<br />

年 の 調 査 で、 東 京 都 に 2,700 人 の 住 人 を 推 計 している[2]。 最 近 では 首 都 圏 にも 1 万 人 は 居<br />

住 しているとも 言 われている。しかし、1 億 2000 万 人 を 抱 える 国 家 の 中 では、 日 本 各 地 に<br />

散 っている 人 々を 含 めても 極 小 集 団 であるといえよう。また、アイヌ 文 化 に 文 字 が 存 在 し<br />

なかったこと、 狩 猟 採 集 民 であったこと、などから、「 遅 れた」 存 在 であるとみなされて<br />

きたということがある。われわれが 研 究 する 人 類 学 の 分 野 では、それぞれの 文 化 を 遅 れて<br />

いるとか 進 んでいるとかいう 指 標 で 眺 めるのではなく、それぞれの 文 化 を 多 元 的 な 尺 度 で<br />

眺 めるべきであると 考 えられているが、それは 必 ずしも 世 間 一 般 に 受 け 入 れられている 思<br />

考 法 ではない。<br />

また 北 海 道 にあっても、 全 国 各 地 に 住 んでいても、アイヌであることを 明 らかにしない<br />

で 生 きている 人 が 少 なからず 存 在 する。もちろんアイヌであることを 誇 りに 思 い、 北 海 道<br />

アイヌ 協 会 ( 会 員 3 千 数 百 名 、 家 族 を 併 せると 1 万 人 を 超 える)などのアイヌ 民 族 関 連 の 団<br />

体 に 所 属 して 活 動 を 行 い、その 文 化 を 継 承 しようとしている 人 も 大 勢 いるが、 一 方 でアイ<br />

ヌであることが 世 間 一 般 にはマイナス・イメージと 結 びつけられているために、 進 んで 名<br />

乗 ることもできない 人 々が 少 なくない。しかし、そんなことがあってよいはずもない。<br />

既 に、 国 会 では 衆 参 ともに 全 会 一 致 で、 平 成 20 年 6 月 6 日 に「アイヌ 民 族 を 先 住 民 族<br />

とすることを 求 める 決 議 」がなされ、それを 受 けて 内 閣 官 房 長 官 談 話 が 発 表 され、さらに<br />

それに 基 づいて「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」が 設 置 され、21 年 7 月 に 懇<br />

談 会 報 告 書 が 公 表 されている。 現 在 、 内 閣 官 房 長 官 を 座 長 とする「アイヌ 政 策 推 進 会 議 」<br />

が 設 置 され、 政 府 も 新 たな 政 策 を 進 めようとしている。しかしながら、この 事 実 は 北 海 道<br />

ではともかく、 全 国 的 にはマスメディアに 載 ることも 少 ないまま 進 行 している。アイヌの<br />

人 々の 不 利 益 を 解 消 するためには、 是 非 とも 国 民 的 理 解 が 必 要 である。この 報 告 書 は、 一<br />

層 の 国 民 的 理 解 を 求 めるために、 政 府 の 政 策 努 力 を 少 しでも 推 進 する 一 助 となることをめ<br />

ざし、その 方 策 を 考 察 するものである。<br />

1


2 歴 史 的 経 緯<br />

(1) 江 戸 時 代 まで<br />

北 海 道 に 人 類 が 住 み 着 いたのは 旧 石 器 時 代 である。その 後 、1 万 5 千 年 前 に 縄 文 時 代<br />

に 入 るが、アイヌの 形 態 的 特 徴 や 遺 伝 的 特 徴 はアイヌ 民 族 が 縄 文 文 化 の 担 い 手 だった<br />

人 々と 直 接 的 な 関 係 を 持 つことを 示 している。その 後 、 日 本 列 島 の 他 の 島 々では 弥 生 文<br />

化 ( 農 耕 文 化 )が 始 まるが、 北 海 道 では 主 に 狩 猟 採 集 の 文 化 が 継 続 する。7 世 紀 になる<br />

と 擦 文 土 器 に 代 表 される 擦 文 文 化 が 北 海 道 で 始 まる。この 時 代 の 記 録 には「 蝦 夷 」とい<br />

う 中 央 政 府 に 帰 属 しない 人 々に 言 及 があるが、これにアイヌの 人 々が 含 まれていたかど<br />

うかは 現 在 も 議 論 となっている。しかし、 擦 文 文 化 およびオホーツク 文 化 にはアイヌ 文<br />

化 の 原 型 が 見 られる。その 後 、13~14 世 紀 になると、 狩 猟 、 漁 撈 、 採 集 を 中 心 に 一 部 に<br />

農 耕 を 行 い、 海 を 渡 っての 交 易 を 盛 んに 行 うアイヌの 文 化 的 特 色 が 形 成 された。<br />

いわゆる「 和 人 」( 日 本 の 文 化 と 社 会 を 担 う 主 流 社 会 の 人 々)はアイヌの 人 々との 交<br />

易 を 盛 んに 行 っていくが、 彼 らを「 蝦 夷 」と 呼 び、 通 じない 言 語 を 話 す 人 々として 記 録<br />

に 残 した。 当 時 の 和 人 の 認 識 では、アイヌの 人 々は 異 文 化 の 人 々であった。1457 年 には<br />

和 人 とアイヌの 人 々の 間 でコシャマインの 戦 いと 呼 ばれる 武 力 衝 突 が 生 じた。 連 続 する<br />

抗 争 をおさめた 蠣 崎 氏 は 次 第 に 台 頭 し、 蠣 崎 氏 を 祖 とする 松 前 藩 がアイヌの 人 々との 交<br />

易 に 独 占 権 を 与 えられることとなった。<br />

松 前 藩 は 1 万 石 であったが、 石 高 は 名 目 的 なものであり、この 藩 は、 経 済 的 にはアイ<br />

ヌの 人 々との 交 易 により 成 立 していた。 松 前 藩 は 和 人 の 居 住 する 和 人 地 ( 渡 島 半 島 南 部<br />

を 中 心 とした 地 域 )とその 他 の 蝦 夷 地 とに 分 け、 蝦 夷 地 はアイヌの 人 々の 生 活 区 域 とし、<br />

許 可 なく 和 人 が 出 入 りすることを 禁 じた。 藩 は 家 臣 には 知 行 の 代 わりとして 蝦 夷 地 の 海<br />

岸 をいくつかの 場 所 に 区 分 して、アイヌの 人 々との 交 易 の 独 占 権 を 与 えた。アイヌの<br />

人 々は 乾 燥 鮭 ・ニシン・ 獣 皮 ・ 鷹 羽 ・ 海 草 などを 和 人 に 供 給 し、 代 わりに 鉄 製 品 ・ 漆 器 ・<br />

米 ・ 木 綿 などを 受 け 取 っていた。アイヌの 人 々は 狩 猟 採 集 民 の 常 として、 強 力 な 政 治 組<br />

織 をもたず、 中 央 政 府 のようなものもアイヌ 社 会 には 存 在 していなかった。<br />

時 がたつにつれ、 和 人 側 は 次 第 にこの 交 易 圏 で 支 配 力 を 強 め、アイヌの 人 々は 和 人 と<br />

の 交 易 へますます 依 存 するようになった。1669 年 にはシャクシャインの 戦 いが 起 こるが、<br />

この 後 には 交 換 率 などますますアイヌの 人 々にとって 不 利 な 条 件 へと 向 かった。18 世 紀<br />

になると、 交 易 に 商 人 が 参 加 する 制 度 (「 場 所 請 負 制 」)が 一 般 的 となり、アイヌの 人 々<br />

は 漁 業 に 従 事 させられ、 労 働 を 搾 取 されるようになった。<br />

北 の 境 界 として、 幕 府 はロシアからの 軍 事 圧 力 に 対 抗 する 必 要 があり、また 開 国 圧 力<br />

や、 国 境 画 定 の 交 渉 にあたることとなる。 有 事 には 蝦 夷 地 を 幕 府 直 轄 地 として、 直 営 す<br />

ることもあった。ロシアとの 交 渉 にあたっては、アイヌの 人 々は 日 本 に 帰 属 する 人 民 で<br />

あるとし、アイヌの 人 々の 居 住 地 は 日 本 の 領 土 であることを 主 張 した。このころ「 蝦 夷 」<br />

から「 土 人 」と 呼 ぶように 改 めている 1 。<br />

江 戸 時 代 までの 経 緯 をまとめると 以 下 のようになる。アイヌ 文 化 の 原 型 は 12~13 世<br />

1 (1)のここまでの 部 分 は、 概 ね 懇 談 会 『 報 告 書 』[3]の 記 述 を 中 心 にまとめた。<br />

2


紀 頃 に 見 られるようになった。13~14 世 紀 には、 和 人 から 異 文 化 の 人 々と 見 られつつ、<br />

交 易 が 始 まる。16 世 紀 頃 から 蠣 崎 氏 ( 後 の 松 前 氏 )の 台 頭 により 交 易 の 諸 制 度 が 導 入 さ<br />

れると、アイヌの 人 々は 次 第 に 不 利 な 交 易 を 強 いられ、しまいには 労 働 を 搾 取 されるよ<br />

うになった。 対 ロシア 政 策 上 必 要 な 場 合 に、 幕 府 はアイヌの 人 々の 内 国 民 化 を 進 めた。<br />

(2) 明 治 以 後<br />

明 治 政 府 となって、2 年 目 (1869 年 、 明 治 2 年 )に 蝦 夷 地 は 北 海 道 と 改 称 され、 開 拓<br />

使 が 設 置 されると、 北 海 道 開 拓 ( 開 発 )が 本 格 的 に 開 始 される。 北 の 守 りを 固 めて 近 代<br />

国 家 としての 基 礎 固 めをしようとする 明 治 政 府 にとって、 北 海 道 開 拓 は 重 要 な 事 業 であ<br />

った。 屯 田 兵 も 含 め、 開 拓 のために 和 人 が 数 多 く 移 住 してきた。 明 治 時 代 になってます<br />

ます 内 国 民 化 は 進 行 し、アイヌの 人 々は、その 意 志 に 関 わらず「 平 民 」として 戸 籍 制 度<br />

の 中 に 組 み 入 れられた。しかし、 場 面 に 応 じて「 土 人 」・「 旧 土 人 」というカテゴリー<br />

も 設 けられていた。<br />

文 化 面 においては、アイヌ 民 族 独 特 の 慣 習 は「 陋 習 」とみなされ、 禁 止 されたり 制 限<br />

されたりした。 死 者 の 家 を 焼 くなどの 宗 教 儀 礼 、 成 人 女 性 の 入 墨 、 男 子 の 耳 環 も 禁 止 さ<br />

れた。アイヌ 語 が 禁 じられたわけではないが、 日 本 語 が 奨 励 され、 明 治 後 半 に 設 けられ<br />

た「 旧 土 人 学 校 」(アイヌ 学 校 とも 呼 ばれた)では、 教 育 はすべて 日 本 語 で 行 われた。<br />

教 化 の 一 貫 として 行 われたこれらの 政 策 は、 結 果 としてアイヌの 人 々の 同 化 を 招 き、 民<br />

族 の 文 化 存 続 には 大 きな 打 撃 となった。<br />

明 治 政 府 となってアイヌの 人 々は 強 制 労 働 から 解 放 されたが、 入 植 する 和 人 たちと 競<br />

争 をせねばならず、 経 済 的 に 大 きな 打 撃 を 受 けた。 明 治 政 府 は 地 租 改 正 により 全 国 的 に<br />

近 代 的 な 資 本 主 義 的 土 地 所 有 制 度 を 導 入 し、 北 海 道 にもこれを 適 用 した。アイヌの 人 々<br />

は 狩 猟 採 集 民 として、 集 団 的 な 土 地 利 用 を 行 っていたものの、 個 人 が 土 地 を 排 他 的 に 所<br />

有 し、 処 分 も 可 能 であるという 近 代 的 な 土 地 所 有 の 観 念 になじんではおらず、 地 券 を 獲<br />

得 する 人 はほとんどなく、 和 人 に 所 有 権 をとられて 移 住 をやむなくされる 人 もいた。<br />

人 口 増 加 によって 獲 物 が 減 り、 乱 獲 を 理 由 にアイヌの 人 々の 伝 統 的 な 生 業 である 狩 猟 、<br />

漁 撈 は、さまざまな 制 限 を 受 け、やがて 禁 止 されるようになる。アイヌの 人 々にとって、<br />

自 らのアイデンティティに 関 わる 生 活 様 式 が 継 続 できない 状 況 となり、 文 化 的 にも 大 き<br />

な 打 撃 を 受 けた。 明 治 政 府 はアイヌの 人 々に 対 し 勧 農 政 策 を 開 始 した。また、「 北 海 道<br />

旧 土 人 保 護 法 」という 法 律 を 定 め、 土 地 の 無 償 下 付 や 農 具 や 種 子 の 給 付 などの 優 遇 制 度<br />

を 作 った。しかし、 既 に 和 人 がいい 土 地 を 取 得 してしまったあとで 与 えられた 土 地 は 農<br />

地 に 適 していなかったり、 十 分 農 業 指 導 が 行 われなかったりで、アイヌの 人 々の 生 活 改<br />

善 には 効 果 がなかった 2 。<br />

以 下 のように 要 約 できる。 江 戸 時 代 には、 和 人 の 支 配 下 におさめられつつあったもの<br />

の、まだ 多 くの 土 地 はアイヌの 人 々のものであったが、 明 治 時 代 の 幕 開 けとともに、 多<br />

くの 和 人 が 移 住 してきて、 彼 らのことばや 生 活 様 式 を 押 しつけるようになり、アイヌの<br />

2 (2)の 部 分 のここまでは、 主 として 懇 談 会 『 報 告 書 』[3]を 中 心 にまとめた。<br />

3


人 々はその 固 有 の 文 化 や 生 活 様 式 までも 継 続 が 難 しくなった。 和 人 たちは 北 海 道 に 移 住<br />

してきて、 農 業 を 始 めたのであるが、アイヌの 人 々の 狩 猟 や 漁 撈 という 暮 らしが 農 業 と<br />

はそぐわず、 次 第 にアイヌの 人 々 自 身 も 農 業 を 選 択 すべく 追 い 込 まれていくのである。<br />

しかし、アイヌの 人 々は 農 業 になかなか 慣 れることができなかった。<br />

季 節 移 動 生 活 を 基 本 とする 狩 猟 採 集 民 や 遊 牧 民 が、 近 代 化 の 中 で 中 央 政 府 に 定 住 化 を<br />

強 制 されるケースは、 人 類 学 の 研 究 において 数 多 く 記 録 があるが、すぐには 成 功 しない<br />

のが 常 である。 定 住 化 に 成 功 しても、それらの 元 狩 猟 採 集 民 や 元 遊 牧 民 は、 社 会 の 周 辺<br />

部 に 位 置 づけられることが 多 い。<br />

4


3 アイヌ 民 族 をめぐる 近 年 の 動 き<br />

(1) アイヌ 民 族 の 現 状<br />

アイヌ 民 族 は、 平 成 18 年 の 北 海 道 が 実 施 した「アイヌ 生 活 実 態 調 査 」によれば、 道<br />

内 の 72 の 市 町 村 に 23,782 人 居 住 している 3 。そのうちの 60% 近 くは 日 高 支 庁 と 胆 振 支 庁<br />

4<br />

在 住 である。 働 いている 人 の 28.6%が 第 一 次 産 業 に 従 事 しており、 北 海 道 民 全 体 の 第 一<br />

次 産 業 従 事 者 が 5.5%であることと 比 べるとその 比 率 がとても 高 い。 生 活 保 護 を 受 ける 割<br />

合 は 3.83%で 道 民 全 体 の 2.46%に 比 べると 1.5 倍 を 超 える。また 高 校 の 進 学 率 は 93.5%<br />

で 道 民 全 体 より 5 ポイント 近 く 低 く、 大 学 進 学 率 は 17.4%であり、 道 民 全 体 の 半 分 以 下<br />

( 全 国 平 均 の 3 分 の 1 以 下 )である。 進 学 しないことに 経 済 的 理 由 をあげている 場 合 が<br />

多 い。また、かつて 差 別 を 受 けたことがあるかという 問 いに、はい、と 答 えた 人 が 16.8%、<br />

そのほかに 別 の 誰 かが 受 けたことを 知 っていると 答 えた 人 が、19.8%に 上 っている[1] 5 。<br />

現 在 北 海 道 外 に 住 んでいるアイヌ 民 族 の 数 はかなりに 上 っていると 言 われているが、<br />

あまり 実 態 調 査 は 進 んでいない。アイヌ 政 策 推 進 会 議 での 活 動 の 2 本 柱 のひとつは、 道<br />

外 アイヌ 民 族 の 生 活 実 態 調 査 であるが、 北 海 道 アイヌ 協 会 の 会 員 らに、 道 外 の 人 を 紹 介<br />

してほしいとの 呼 びかけたものの、 協 力 できると 答 える 返 信 は 2 割 程 度 にとどまり、そ<br />

の 結 果 調 査 を 平 成 22 年 10 月 に 開 始 する 予 定 が 延 期 となったりしている[4]。 北 海 道 で<br />

の 差 別 を 逃 れるために、 道 外 に 職 を 求 めることがしばしばあり、 道 外 で 非 アイヌの 配 偶<br />

者 と 暮 らすとき、 家 族 ・ 縁 者 にアイヌであることを 伏 せていることもしばしばある。<br />

アイヌであると 自 他 ともに 認 めている 人 から、アイヌであることを 周 囲 に 名 乗 ってい<br />

ない 人 、さらに、 家 系 にアイヌの 祖 先 がいることを 知 らされていない 人 、とさまざまな<br />

存 在 様 態 がある。 東 京 都 は 昭 和 63 年 の 調 査 [2]で、 東 京 都 において 2700 人 のアイヌ 民<br />

族 の 住 人 を 推 計 しているが、これは 20 年 以 上 前 のデータである。 現 在 首 都 圏 に 1 万 人<br />

が 居 住 するとも 言 われ、また 全 国 で 20 万 人 とする 推 計 [6] 6 、25 万 ~30 万 人 とする 推<br />

計 [7] 7 もあるが、いずれも 推 測 の 域 を 出 ないデータであり、 確 かではない。<br />

これまでの 同 化 政 策 の 結 果 として、ほとんどのアイヌの 人 々は 現 在 日 常 的 な 衣 食 住 の<br />

生 活 においてほぼ 和 人 と 変 わらない。 第 一 言 語 が 日 本 語 になっており、アイヌ 語 を 日 常<br />

的 に 用 いている 人 はほとんどいないが、アイヌ 語 の 単 語 を 会 話 の 中 で 用 いることはある<br />

8 。アイヌの 儀 礼 などの 文 化 活 動 も、 昭 和 50 年 頃 には 人 々の 間 で 復 活 の 機 運 が 増 し、イ<br />

3 ただし、「 地 域 社 会 でアイヌの 血 を 受 け 継 いでいると 思 われる 人 、また、 婚 姻 ・ 養 子 縁 組 等 によりそれらの<br />

方 と 同 一 の 生 計 を 営 んでいる 人 」と 定 義 し、 自 らが 表 明 する 人 のみを 調 査 対 象 としている。<br />

4 現 在 、 支 庁 は 改 廃 され、 総 合 振 興 局 および 振 興 局 となっている。<br />

5 北 海 道 庁 の 調 査 の 他 に、 平 成 20 年 に 北 海 道 大 学 アイヌ・ 先 住 民 研 究 センターが 行 った 北 海 道 内 でのアンケ<br />

ート 調 査 [8]がある。より 詳 細 で 包 括 的 なものとなっているが、ここでは 引 用 を 割 愛 した。<br />

6 Cultural Survival の 推 計 に 基 づく、としている。<br />

7 著 者 のインフォーマントのアイヌの 人 々の 推 測 。<br />

8 北 海 道 庁 の 調 査 によれば、アイヌ 語 を「 良 く 知 っていて 教 えることができる」が 4.6%、「 教 えることはで<br />

きないがある 程 度 知 っている」が 25.0%、「 体 験 や 本 で 少 しは 知 っている」が 70.4%となっている[1]。<br />

5


オマンテなどの 儀 礼 も 行 われるようになってきた。 平 成 9 年 のアイヌ 文 化 振 興 法 制 定 以<br />

来 、アイヌ 語 学 習 や 海 外 の 先 住 民 族 との 交 流 が 積 極 的 に 行 われるようになり、 若 い 人 々<br />

の 行 事 への 参 画 が 増 え、 文 化 伝 承 の 裾 野 が 広 がってきたといえる。しかしまだ、それら<br />

の 活 動 に 参 加 する 人 々は 限 られている。 参 加 するためには 生 活 に 余 裕 がないとできない<br />

ので、 現 在 のアイヌの 人 々の 経 済 的 な 状 況 では、 参 加 したくてもできない 場 合 が 数 々あ<br />

る[3]。<br />

(2) 国 の 施 策 の 現 状<br />

戦 後 長 い 間 、 日 本 は 単 一 民 族 の 国 家 であるという 見 方 が 通 用 してきた。 日 本 政 府 はア<br />

イヌ 民 族 が 先 住 民 族 であると 認 めては 来 なかったし、 国 連 が 問 題 とするような 権 利 を 剥<br />

奪 されたマイノリティ 9 ではないとしてきた。アイヌの 人 々は、 彼 らの 意 志 とは 関 わり<br />

なく 明 治 時 代 に 内 国 民 化 されており、 日 本 国 民 として 日 本 国 籍 を 付 与 され、 戸 籍 制 度 の<br />

中 に 組 み 込 まれている。また、 選 挙 権 ももち、 自 由 な「 平 民 」としての 地 位 を 与 えられ<br />

てきていた(しかし 別 な 局 面 では、「 旧 土 人 」としての 差 別 的 扱 いも 受 けてきているの<br />

だが)が、それが 和 人 と 本 当 に 平 等 かつ 対 等 な 関 係 を 築 いてきたわけではないことは 前<br />

章 で 検 討 している。<br />

これらの 政 策 に 転 換 点 が 訪 れるのは 国 際 的 な 先 住 民 族 政 策 の 流 れの 影 響 が 大 きい。 第<br />

二 次 大 戦 後 、 人 種 主 義 や 人 権 問 題 、 差 別 撤 廃 への 取 組 みは 盛 んに 行 われてきており、と<br />

りわけ、1980 年 代 ( 昭 和 55 年 以 降 )から、ILO や 国 連 を 中 心 に 先 住 民 族 問 題 に 関 心 が<br />

高 まり、 条 約 が 締 結 され 宣 言 が 採 択 されてきた。2007 年 ( 平 成 19 年 )には、「 先 住 民<br />

族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」が 国 連 で 採 択 され、 日 本 政 府 は 賛 成 の 票 を 投 じている。<br />

国 内 では、 昭 和 50 年 代 の 終 わり 頃 から、アイヌの 人 々の 人 権 に 対 する 意 識 が 高 まりを<br />

見 せるようになり、 北 海 道 ウタリ 協 会 ( 現 北 海 道 アイヌ 協 会 )は「アイヌ 民 族 に 関 する<br />

法 律 ( 案 )」の 制 定 を 求 めた。その 状 況 下 で、「 北 海 道 旧 土 人 保 護 法 」は 運 用 実 態 が 乏<br />

しく、 存 在 意 義 が 問 われ、また「 旧 土 人 」という 差 別 的 呼 称 も 問 題 視 されたため、 廃 止<br />

が 議 論 されるようになった。<br />

その 準 備 として「ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 10 が 平 成 7 年 に 内 閣 官<br />

房 長 官 の 私 的 諮 問 機 関 として 設 けられ、その 1 年 後 に 報 告 書 が 提 出 された。この 報 告 書<br />

では、アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 として 規 定 することはなかったが、アイヌの 民 族 性 と 先 住<br />

性 については 明 らかにした。アイヌ 文 化 の 振 興 に 関 わる 提 言 を 主 体 とし、アイヌ 以 外 の<br />

人 もアイヌ 文 化 を 享 受 する 仕 組 みを 考 案 している[9]。<br />

これに 沿 って、「アイヌ 文 化 の 振 興 並 びにアイヌの 伝 統 等 に 関 する 知 識 の 普 及 及 び 啓<br />

発 に 関 する 法 律 」(アイヌ 文 化 振 興 法 、アイヌ 新 法 と 呼 ばれることもある)が 平 成 9 年<br />

に 制 定 された。この 法 律 は、「アイヌの 人 々の 誇 りの 源 泉 であるアイヌの 伝 統 及 びアイ<br />

9 マイノリティとは、 少 数 者 集 団 のことで、 数 が 少 ないゆえに 大 集 団 の 中 で 権 利 上 不 利 な 立 場 に 追 いやられる<br />

ことがしばしばある。<br />

10 この 懇 談 会 のメンバーに、アイヌの 人 々は 1 人 も 含 まれていなかった。<br />

6


ヌ 文 化 が 置 かれている 状 況 にかんがみ、アイヌ 文 化 の 振 興 並 びにアイヌの 伝 統 等 に 関 す<br />

る 国 民 に 対 する 知 識 の 普 及 及 び 啓 発 を 図 るための 施 策 を 推 進 することにより、アイヌの<br />

人 々の 民 族 としての 誇 りが 尊 重 される 社 会 の 実 現 を 図 り、あわせて 我 が 国 の 多 様 な 文 化<br />

の 発 展 に 寄 与 することを 目 的 とする。」[10]と 第 一 条 にある。この 法 律 の 下 、アイヌ 文<br />

化 振 興 ・ 研 究 推 進 機 構 が 設 立 されたが、その 活 動 は 実 質 的 に 北 海 道 にのみ 限 定 された。<br />

アイヌ 文 化 振 興 法 により、 文 化 に 関 する 研 究 ・ 実 践 には 弾 みがついたものの、この 法 律<br />

では 実 現 しなかった 先 住 権 の 実 現 、 過 去 に 被 った 迫 害 や 差 別 に 対 する 補 償 や 賠 償 といっ<br />

た 対 策 を 望 む 声 がやがて 高 まるようになる。 平 成 20 年 5 月 に、 北 海 道 アイヌ 協 会 ( 北<br />

海 道 ウタリ 協 会 が 改 名 )を 主 とするアイヌの 人 々が「アイヌ 民 族 の 先 住 権 確 立 を 求 める<br />

国 会 請 願 アピール 行 進 」を 行 った。さらに 同 年 6 月 6 日 に 国 会 において「アイヌ 民 族 を<br />

先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 」[11]が 全 会 一 致 で 決 定 された。 決 議 文 の 中 では、1)<br />

国 連 で 採 択 された「 先 住 民 族 の 権 利 宣 言 」を 評 価 し、それにそった 具 体 的 行 動 が 求 めら<br />

れていること、2) 近 代 化 の 過 程 において、 多 数 のアイヌの 人 々が、 法 的 には 等 しく 国 民<br />

でありながらも 差 別 され、 貧 窮 を 余 儀 なくされたという 歴 史 的 事 実 を 認 めるべきこと、<br />

3) 全 ての 先 住 民 族 が、 名 誉 と 尊 厳 を 保 持 し、 文 化 を 次 世 代 に 継 承 すべきこと、4)その 上<br />

で、 一 、 宣 言 を 踏 まえ、アイヌ 民 族 が 先 住 民 族 であると 認 めること。 二 、アイヌ 政 策 を<br />

推 進 し、 総 合 的 施 策 の 確 立 に 取 り 組 むことを 政 府 に 求 めている。<br />

この 決 議 によって「アイヌ 民 族 が 先 住 民 族 である」と 認 められたかどうかについて、<br />

一 部 議 論 があるが、 同 日 発 表 された 内 閣 官 房 長 官 談 話 は、この 決 議 を 素 直 に 受 け 入 れる<br />

ものとなっており[11]、これをもって 政 府 がアイヌ 民 族 を 先 住 民 族 として 認 めるものと<br />

なった。また、 平 成 21 年 10 月 19 日 の 国 際 連 合 総 会 第 3 委 員 会 において、 政 府 代 表 は、<br />

「 我 が 国 の 国 会 は「アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 」を 全 会 一 致 で 採 択<br />

し、 同 決 議 の 採 択 を 受 け、 我 が 国 は、アイヌの 人 々が 日 本 列 島 北 部 周 辺 、とりわけ 北 海<br />

道 に 先 住 し、 独 自 の 言 語 、 宗 教 や 文 化 の 独 自 性 を 有 する 先 住 民 族 であるとの 認 識 を 示 し<br />

ました。」[12]と 公 式 発 言 している。<br />

官 房 長 官 談 話 に 基 づき、「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」が 同 年 に 設 置<br />

され、 翌 年 の 平 成 21 年 7 月 に 報 告 書 が 提 出 された。<br />

7


4 先 住 民 族 運 動 と 国 際 的 な 先 住 民 族 政 策 の 動 向<br />

この 章 では、アイヌ 政 策 を 議 論 するために、 海 外 の 先 住 民 族 運 動 と 先 住 民 族 政 策 の 動 向<br />

について 触 れる。 世 界 的 な 先 住 民 族 運 動 での 主 張 のすべてをアイヌ 民 族 が 主 張 していると<br />

いうわけではない。<br />

(1) 先 住 民 族 とは<br />

先 住 民 族 とは 誰 か この 問 いに 対 する 答 えは 実 は 難 しい。「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する<br />

国 際 連 合 宣 言 」においても 明 確 には 規 定 されていない。 先 住 であっても、 先 住 民 族 と 呼<br />

ばれない 民 族 も 多 い。おおむね 理 解 されているのは、<br />

1 先 住 性 植 民 地 経 営 当 初 、 居 住 域 の 原 住 者 の 集 団 とその 子 孫 の 特 性 。<br />

2 被 支 配 性 植 民 地 支 配 が 及 んだ 居 住 域 で 独 自 の 生 活 様 式 を 享 受 できない 劣 勢 な<br />

社 会 的 ・ 法 的 な 状 況 の 集 団 とその 子 孫 のもつ 特 性 。<br />

3 歴 史 の 共 有 歴 史 的 な 居 住 地 において、 植 民 地 経 営 開 始 当 時 の 原 住 者 の 子 孫 との<br />

歴 史 的 連 続 性 があること。<br />

4 自 認 自 ら 先 住 民 族 であると 認 識 する 集 団 とその 成 員 。<br />

といった 要 件 を 挙 げることがある。また 自 認 に 加 えて、 政 府 などによって 法 的 に 認 知 さ<br />

れたり 補 償 の 対 象 となったりすることに 大 きな 意 義 がでてくる。<br />

世 界 中 で 先 住 民 族 と 自 認 している 人 々は、 約 5000 の 集 団 に 及 び、 総 人 口 は 2 億 5000<br />

人 ~6 億 人 と 推 定 されている。 居 住 域 は 陸 地 の 20%を 占 め、70 カ 国 に 及 んでいる[13]。<br />

移 民 国 家 11 であるアメリカ 合 衆 国 、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、 中 南<br />

米 の 諸 国 家 等 で、 先 住 民 族 の 存 在 は 比 較 的 明 確 となっているが、ヨーロッパやアフリカ、<br />

アジアなどのように、 歴 史 の 上 では 長 く 人 々が 住 みつき、 移 住 を 繰 り 返 してきたところ<br />

での 先 住 性 は 容 易 に 判 断 しがたい[14]。しかし、 後 者 のようなところでも 先 住 性 の 主 張<br />

は 近 年 行 われるようになってきている。<br />

(2) 先 住 民 族 運 動<br />

1950 年 第 半 ば( 昭 和 30 年 代 )にアメリカ 合 衆 国 で 公 民 権 運 動 が 始 まった。これは 主<br />

にアフリカ 系 アメリカ 人 の 権 利 にかかわる 運 動 として 発 生 したが、その 後 さまざまなマ<br />

イノリティがアメリカで 権 利 主 張 を 始 めることとなった。それらの 一 連 の 運 動 の 中 にア<br />

メリカ 先 住 民 族 の 運 動 があり、この 後 、 世 界 中 で 先 住 民 族 の 運 動 が 活 発 化 していく。<br />

先 住 民 族 運 動 で 主 張 されたことは、それぞれの 国 の 事 情 に 合 わせて 多 岐 に 渡 っている<br />

ものの、それらにはいくつかの 共 通 点 がある。<br />

1 文 化 活 動 ・ 言 語 等 の 復 興 とアイデンティティの 回 復<br />

同 化 主 義 政 策 のために 失 われてしまった 自 分 たちの 文 化 や 言 語 を 復 興 させる 試 み<br />

である。 先 住 民 族 の 多 くが、 既 に 先 祖 が 話 していた 言 語 を 日 常 的 に 用 いなくなってお<br />

11 移 民 国 家 とは、ここでは、 近 代 の 植 民 地 主 義 下 で 多 くの 移 民 が 生 じ、 移 民 によって 建 国 された 国 家 をさす。<br />

近 年 、 移 民 を 多 く 迎 えている 国 をさして 移 民 国 家 ということがあるが、ここではそれらは 含 まない。<br />

8


り、それらをなんらかの 形 で 復 興 しようとしている。 芸 能 活 動 や 儀 礼 などを 復 活 し、<br />

伝 統 衣 装 などをこれらの 機 会 に 用 いる 動 きなどもある。これらのうち、 芸 能 活 動 や 伝<br />

統 工 芸 の 復 興 などは、 彼 らの 経 済 活 動 としても 復 活 中 である。<br />

2 失 われた 土 地 の 回 復<br />

マジョリティ 12 が 後 から 入 植 したときに、 先 住 民 族 が 近 代 的 な 土 地 所 有 観 念 ( 排 他<br />

的 個 人 所 有 ・ 土 地 の 商 品 化 )に 慣 れていなかったために、 土 地 が 失 われる 結 果 となっ<br />

たという 認 識 の 下 、もとの 土 地 所 有 を 回 復 する 動 きやその 代 償 としての 居 留 地 のよう<br />

な 内 国 として 自 治 権 を 認 めさせること、あるいは、 不 動 産 資 源 を 活 用 している 会 社 等<br />

に、 補 償 金 を 請 求 すること、などがある。<br />

3 土 地 喪 失 において 蒙 った 不 利 益 の 代 償<br />

回 復 不 能 な 権 利 の 代 償 として、 教 育 機 会 や 公 務 員 ポストなどの 優 遇 を 求 める。<br />

4 聖 地 ・ 祖 先 の 遺 骨 等 の 回 復<br />

民 族 のアイデンティティにかかわる 聖 地 を 回 復 する 動 きは、2とも 関 わり、 重 要<br />

な 活 動 となっている。また 過 去 において、 祖 先 の 墓 所 で 人 類 学 的 調 査 のために 発 掘 が<br />

行 われ、 遺 骨 を 収 集 されたり、 文 化 財 が 持 ち 去 られたりすることがしばしば 行 われた。<br />

学 術 資 料 として 大 学 や 博 物 館 に 収 集 されている 遺 骨 や 文 化 財 の 適 正 保 管 や 返 還 を 求<br />

める 活 動 が 行 われている。<br />

5 大 規 模 開 発 事 業 の 中 止<br />

国 家 が 建 設 を 計 画 する 大 規 模 開 発 がしばしば 国 家 全 体 として 歓 迎 すべきであって<br />

も、 環 境 破 壊 を 伴 うプロジェクトについては、 先 住 民 族 の 暮 らしを 直 撃 する 場 合 が<br />

多 々あり、それらの 大 規 模 開 発 に 反 対 する 動 きがある。 熱 帯 林 の 伐 採 、ダムや 灌 漑 プ<br />

ロジェクト 等 がそれにあたる。<br />

6 公 式 の 謝 罪<br />

土 地 などの 資 源 が 奪 われ、 伝 統 的 な 生 活 様 式 や 文 化 の 継 続 が 難 しくなったことに<br />

対 する 公 式 な 謝 罪 を 求 める。<br />

7 遺 伝 資 源 13 ・ 知 的 財 産 の 利 用 における 利 益 還 元<br />

先 祖 代 々 利 用 してきた 天 然 資 源 ・ 薬 品 などの 利 用 、 口 頭 伝 承 や 音 楽 ・ 舞 踊 などの<br />

文 化 表 現 の 利 用 に 対 する 利 益 還 元 を 求 める。 特 許 ・ 著 作 権 といった 権 利 の 観 念 がいず<br />

れも 個 人 に 帰 属 するものとなっており、 新 たな 権 利 概 念 が 必 要 となっている。<br />

(3) 国 際 的 な 先 住 民 族 政 策<br />

12 マジョリティとは 多 数 者 集 団 のこと。ここでは 入 植 者 が 先 住 民 族 を 凌 駕 する 人 数 に 達 した 時 、マジョリテ<br />

ィとなることをいっていている。 単 に 人 数 が 多 いだけでなく、 自 分 たちの 文 化 やルールを 社 会 全 体 のものと<br />

してしまう 力 をもつ。<br />

13 現 在 もしくは 潜 在 的 に 利 用 価 値 のある 遺 伝 素 材 。 生 物 起 源 の 資 源 であるが、 例 えば 先 住 民 族 が 先 祖 代 々 利<br />

用 してきた 薬 草 を 製 薬 会 社 が 成 分 分 析 をし、 科 学 的 に 合 成 した 医 薬 品 として 販 売 したとき、 先 住 民 族 には 全<br />

く 利 益 還 元 がされて 来 なかったことが、 近 年 問 題 となっている。<br />

9


第 二 次 大 戦 後 すぐに 成 立 した 世 界 人 権 宣 言 は 人 種 差 別 の 撤 廃 を 強 く 訴 えていたし、<br />

UNESCO からも 人 種 主 義 に 対 抗 する 人 類 学 者 によるパンフレットが 数 点 出 版 されている。<br />

先 住 民 族 の 労 働 搾 取 の 禁 止 といった 政 策 から 発 して、 先 住 民 族 問 題 にとりくんだ ILO( 国<br />

際 労 働 機 関 )は、107 号 条 約 を 1957 年 ( 昭 和 32 年 )に 制 定 して 先 住 民 族 保 護 に 取 り 組<br />

み、さらに 169 号 条 約 を 1989 年 ( 平 成 元 年 )に 定 め、107 号 条 約 と 置 き 換 えた。107 号<br />

条 約 では、 先 住 民 族 が 次 第 に 暮 らしている 国 の 中 に 統 合 されていくという 見 通 しで 作 成<br />

されていたが、169 号 条 約 では、 先 住 民 族 の 文 化 や 生 活 様 式 を 尊 重 する 姿 勢 をとってい<br />

る。また 後 者 では、 先 住 民 族 の 組 織 が 自 分 たちに 影 響 する 開 発 事 業 の 計 画 や 立 案 に 関 与<br />

すべきであるという 前 提 に 立 っている[15]。<br />

国 際 連 合 では、 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 世 界 宣 言 を 起 草 するとともに 先 住 民 族 の 人 権<br />

の 擁 護 のための 各 国 政 府 の 政 策 の 検 証 をする 場 として、「 先 住 民 に 関 する 作 業 部 会 」が<br />

1982 年 ( 昭 和 57 年 )に 設 置 された。 国 連 は 1983 年 を 世 界 の 先 住 民 族 の 国 際 年 と 定 め、<br />

1985 年 ( 昭 和 60 年 )より 10 年 間 を 世 界 の 先 住 民 族 の 国 際 の 10 年 、 引 き 続 きその 次 の<br />

10 年 も 第 二 回 目 の 世 界 の 先 住 民 族 の 国 際 の 10 年 となり、 先 住 民 族 の 権 利 擁 護 のための<br />

諸 活 動 を 行 ってきた。このような 国 連 の 活 動 を 契 機 として、 世 界 各 地 の 先 住 民 族 の 人 々<br />

は 互 いにネットワークで 結 ばれるようになり、 情 報 交 換 を 繰 り 返 しながら 先 住 民 族 とし<br />

ての 権 利 主 張 ばかりではなく、 環 境 問 題 や 地 球 温 暖 化 などの 問 題 にも 先 住 民 族 としての<br />

視 点 で 取 り 組 むようになってきている。<br />

1985 年 ( 昭 和 60 年 )に 取 り 組 みの 始 まった 宣 言 は、20 余 年 の 後 に 修 正 を 経 て 2007<br />

年 ( 平 成 19 年 )に「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」[16]として 国 際 連 合 総 会<br />

にて 可 決 された。アメリカ 合 衆 国 、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの 4 カ<br />

国 は 反 対 票 を 投 じ、 棄 権 が 11 カ 国 、33 カ 国 が 欠 席 、 賛 成 144 カ 国 であった。ちなみに<br />

日 本 は 賛 成 票 を 投 じている。<br />

国 連 のこの 宣 言 は、 先 住 民 族 の 権 利 回 復 に 関 する 最 も 新 しい 考 え 方 を 含 んだものとな<br />

っているが、とりわけ 第 3 条 にある「 先 住 民 族 は、 自 決 の 権 利 を 有 する。この 権 利 に 基<br />

づき、 先 住 民 族 は、その 政 治 的 地 位 を 自 由 に 決 定 し、 並 びにその 経 済 的 、 社 会 的 及 び 文<br />

化 的 発 展 を 自 由 に 追 求 する。」[16]という 箇 所 が、 自 決 権 を 認 めたものとして、 一 歩 踏<br />

み 込 んだ 記 述 となっている。また、 先 住 民 族 が 権 利 をもつ 資 源 を 土 地 などの 不 動 産 ばか<br />

りでなく、 文 化 財 や 伝 統 的 知 識 、 文 化 的 表 現 、 遺 伝 物 質 ( 遺 伝 資 源 )、 種 子 、 薬 品 等 々<br />

を 知 的 財 産 として、 先 住 民 族 自 身 の 管 理 ・ 保 護 ・ 発 展 させる 権 利 を 認 め、 踏 み 込 んだ 理<br />

解 を 示 している。<br />

反 対 した 4 国 は、 自 決 権 に 加 え、 土 地 、 領 域 、 資 源 などの 権 利 を 認 めていること、 先<br />

住 民 族 が 定 義 されていないことなどを 批 判 点 としてあげたが、 後 に 国 内 法 の 枠 内 で 承 認<br />

を 表 明 しており、 歩 み 寄 りが 見 られている。 一 方 で、これは 宣 言 であるので、 条 約 とは<br />

異 なり 各 国 政 府 を 法 的 に 拘 束 する 力 はもたない。<br />

10


14<br />

5 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 とアイヌ 政 策 推 進 会 議<br />

この 章 では、「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 の 考 え 方 と 提 言 のサ<br />

マリーを 紹 介 する。 当 分 科 会 は 報 告 書 の 基 本 理 念 を 支 持 するが、 個 別 に 提 案 されている 政<br />

策 実 現 についてはさらなる 検 討 が 必 要 であると 考 える。 懇 談 会 自 体 も 多 くの 提 案 を 行 って<br />

いるが 個 別 の 政 策 に 必 ずしも 踏 み 込 んだ 議 論 を 展 開 するには 至 っていない。<br />

(1) 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 の 考 え 方<br />

アイヌの 人 々のもつ 形 質 や 遺 伝 的 特 徴 は、 縄 文 時 代 にまでさかのぼるものがある 一<br />

方 で、オホーツク 文 化 の 強 い 影 響 もある。アイヌの 人 々は 狩 猟 、 漁 撈 、 採 集 中 心 の 生 活<br />

であったが、 早 くから 交 易 を 行 っていた。 室 町 時 代 の 日 本 人 には、 言 葉 の 通 じない「 異<br />

文 化 の 人 々」としてとらえられていた。 江 戸 時 代 には、 松 前 藩 を 通 じて 交 易 だけでなく<br />

過 酷 な 労 働 を 強 いられるといった 支 配 を 次 第 に 受 けるようになっていった。また 明 治 に<br />

なってからは、 多 くの 和 人 が 移 民 として 入 植 し、 狩 猟 や 漁 撈 の 場 が 狭 まり、 土 地 を 奪 わ<br />

れる 結 果 となった。また、 同 化 主 義 政 策 により 多 くの 文 化 も 失 われた。それらの 過 程 の<br />

中 で 多 くのアイヌの 遺 骨 が 大 学 や 博 物 館 の 学 術 資 料 として 収 集 され、その 中 にはアイヌ<br />

の 人 々の 意 に 関 わらず 収 集 されたものもあると 見 られる。 歴 史 的 経 緯 をふまえれば、ア<br />

イヌ 民 族 が 日 本 の 近 代 化 の 過 程 で 多 くの 不 利 益 を 蒙 ったことは 明 らかである。<br />

アイヌの 人 々は 多 くが 北 海 道 に 居 住 していると 考 えられているが、 道 外 のアイヌの<br />

人 々も 少 なからずいる。 日 常 的 衣 食 住 の 生 活 様 式 においては 他 の 多 くの 日 本 人 と 変 わら<br />

ないが、 格 差 や 学 校 ・ 就 職 の 差 別 は 根 深 い。 北 海 道 に 住 むアイヌの 人 々の 生 活 は、 北 海<br />

道 の 施 策 により 改 善 されてきているが、 道 外 のアイヌの 人 々には 何 の 対 策 もされていな<br />

い。<br />

アイヌ 文 化 振 興 法 により、アイヌ 語 や 伝 統 文 化 の 維 持 ・ 伝 承 の 裾 野 は 広 がってきて<br />

いる。アイヌの 人 々の 日 常 生 活 も 帰 属 意 識 もともに 尊 重 されるべきである。<br />

先 住 民 族 の 人 権 尊 重 の 国 際 的 な 動 きに 配 慮 しつつ、アイヌ 民 族 が 先 住 民 族 であると<br />

いう 認 識 に 基 づいた 政 策 展 開 がなされる 必 要 がある。 国 には 先 住 民 族 であるアイヌの 文<br />

化 の 復 興 に 配 慮 すべき 責 任 がある。 文 化 とは、 言 語 、 音 楽 、 舞 踊 、 工 芸 等 に 加 え、 土 地<br />

利 用 の 形 態 などを 含 む 民 族 固 有 の 生 活 様 式 の 総 体 と 考 えるべきである。さらにそれら 伝<br />

統 を 踏 まえた 復 興 に 加 えて、 新 たなアイヌ 文 化 を 創 造 する 視 点 が 必 要 である。<br />

国 際 連 合 が 2007 年 ( 平 成 19 年 )に 採 択 した「 先 住 民 族 の 権 利 宣 言 」は、 先 住 民 族<br />

に 係 る 政 策 のあり 方 の 国 際 指 針 としての 意 義 をもつものとして 尊 重 されるべきである。<br />

アイヌ 政 策 はこれを 尊 重 するとともに、 我 が 国 及 びアイヌの 人 々の 実 情 に 応 じたもので<br />

あることが 求 められる。 他 方 で 日 本 国 憲 法 を 踏 まえるべきことは 当 然 である。その 中 で、<br />

アイヌの 人 々のアイデンティティを 尊 重 し、 多 様 な 文 化 と 民 族 の 共 生 の 尊 重 の 下 、 国 が<br />

主 体 となった 政 策 の 全 国 展 開 が 必 要 である。<br />

14 有 識 者 懇 談 会 にも、 推 進 会 議 にも、アイヌの 人 々が 構 成 員 として 正 式 に 参 加 している。<br />

11


(2) 「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 の 政 策 提 言<br />

具 体 的 な 政 策 として 挙 げられているのは、 以 下 の 通 りである。<br />

1 国 民 の 理 解 の 促 進<br />

ア 教 育<br />

アイヌ 民 族 に 関 しての 教 育 がしっかりと 行 われるべきである。 児 童 ・ 生 徒 の 発<br />

達 段 階 に 応 じた 指 導 方 法 や 教 材 研 究 が 行 われるべきであるし、 教 員 への 指 導 者 研<br />

修 も 必 要 である。<br />

イ 啓 発<br />

アイヌ 文 化 に 関 する 啓 発 活 動 は 現 在 北 海 道 内 にとどまっているが、これを 全 国<br />

的 に 展 開 するべきであり、「アイヌ 民 族 の 日 ( 仮 称 )」の 制 定 を 含 めて、 啓 発 ・<br />

広 報 活 動 が 必 要 となっている。<br />

2 広 義 の 文 化 に 係 る 政 策<br />

ア 民 族 共 生 の 象 徴 となる 空 間 の 整 備<br />

アイヌの 文 化 ・ 歴 史 に 関 する 教 育 ・ 研 究 ・ 展 示 等 を 行 うことのできる 施 設 や 空<br />

間 を 確 保 する。そこには 併 せて 大 学 等 に 保 管 されている 遺 骨 の 尊 厳 ある 慰 霊 が 可<br />

能 となる 施 設 が 設 置 されることが 望 ましい。 先 住 民 族 の 尊 厳 を 尊 重 し、 多 様 な 文<br />

化 の 共 生 を 象 徴 するものであるべきである。<br />

イ 研 究 の 推 進<br />

一 部 の 大 学 や 研 究 機 関 が 研 究 を 行 っているが、それらの 連 携 を 図 り、アイヌの<br />

研 究 者 を 育 成 するためには、 総 合 的 かつ 実 践 的 な 研 究 の 推 進 体 制 へと 発 展 させる<br />

べきである。 中 核 となる 研 究 機 関 の 強 化 、 研 究 のネットワーク 化 が 求 められる。<br />

ウ アイヌ 語 をはじめとするアイヌ 文 化 の 振 興<br />

アイヌ 語 ・アイヌ 文 化 に 学 び 触 れる 機 会 の 拡 充 に 加 え、 地 名 をアイヌ 語 表 記 に<br />

するなどして 人 々がアイヌ 語 に 触 れる 機 会 を 増 やすことが 必 要 である。<br />

エ 土 地 ・ 資 源 の 利 活 用 の 促 進<br />

現 在 進 められているアイヌの 伝 統 的 生 活 空 間 (イオル) 15 再 生 事 業 を 拡 充 するこ<br />

となどをはじめ、 今 日 的 な 土 地 ・ 資 源 の 利 活 用 によりアイヌ 文 化 の 総 合 的 な 伝 承<br />

活 動 を 可 能 にすることが 必 要 である。<br />

オ 産 業 振 興<br />

工 芸 技 術 の 向 上 、 販 路 拡 大 、アイヌ・ブランドの 確 立 、 観 光 振 興 等 への 支 援 な<br />

どが 必 要 である。<br />

カ 生 活 向 上 関 連 施 策<br />

北 海 道 外 のアイヌの 人 々の 生 活 実 態 調 査 を 実 施 し、 必 要 な 施 策 の 全 国 展 開 の 検<br />

討 ・ 実 施 が 必 要 である。<br />

15 多 様 な 自 然 環 境 の 中 で、 衣 食 住 から 儀 礼 まですべてをまかなうアイヌの 生 活 空 間 のこと。 再 生 事 業 では、<br />

自 然 素 材 を 育 成 しそこでアイヌ 文 化 の 伝 承 や、 体 験 交 流 が 行 われている。<br />

12


3 推 進 体 制 等 の 整 備<br />

アイヌ 政 策 を 総 合 的 に 企 画 ・ 立 案 ・ 推 進 する 国 の 体 制 を 整 備 する 必 要 がある。ア<br />

イヌの 人 々の 意 見 等 を 踏 まえつつ、アイヌ 政 策 を 推 進 し、 施 策 のモニタリングをす<br />

る 協 議 の 場 を 設 置 することなどが 提 案 されている。 国 会 にアイヌ 民 族 のための 特 別<br />

議 席 を 付 与 するという 提 案 もなされているが、その 実 施 のためには 憲 法 改 正 が 必 要<br />

であり、 慎 重 に 検 討 されるべきである。アイヌの 総 意 をまとめる 体 制 作 りが 求 めら<br />

れる。<br />

(3) アイヌ 政 策 推 進 会 議 と 当 面 の 計 画<br />

現 在 、 前 項 3については、アイヌ 総 合 政 策 室 が 内 閣 官 房 に 設 置 され、 内 閣 官 房 長 官 を<br />

座 長 とするアイヌ 政 策 推 進 会 議 が 発 足 して、アイヌ 政 策 の 具 体 的 実 現 が 図 られている。<br />

アイヌ 文 化 振 興 法 や、それ 以 前 からあるアイヌ 振 興 策 は 実 施 が 北 海 道 内 に 限 定 されてい<br />

たが、ここで 国 が 主 体 となった 政 策 とすべきであると 報 告 書 で 述 べているのには 理 由 が<br />

ある。ひとつには、 先 住 民 族 の 不 利 益 が 一 地 方 の 問 題 ではなく、 日 本 の 近 代 化 という 国<br />

家 的 な 過 程 で 生 じたことであるという 認 識 があり、 国 家 がそれに 起 因 する 問 題 に 対 して<br />

強 い 責 任 を 負 うという 論 理 があるからだが、もう 一 方 で、アイヌの 人 々が 今 日 道 外 に 多<br />

く 居 住 しており、 道 外 での 政 策 展 開 も 同 時 に 必 要 とされるという 事 実 を 踏 まえているか<br />

らである。<br />

現 在 、アイヌ 政 策 推 進 会 議 では、 報 告 書 で 提 言 されている 政 策 の 実 現 を 目 指 している<br />

が、その 中 でも、<br />

1 民 族 共 生 の 象 徴 となる 空 間 の 整 備<br />

2 北 海 道 外 のアイヌの 人 々の 生 活 実 態 調 査 の 実 施<br />

の 2 項 目 の 事 業 を 中 心 課 題 としてそれぞれに 部 会 ができて 活 動 が 行 われている。<br />

13


6 新 たな 政 策 展 開 に 向 けて<br />

以 下 は、 人 類 学 分 科 会 での 認 識 に 基 づく 考 え 方 と 提 案 である。アイヌ 政 策 のあり 方 に 関<br />

わる 有 識 者 懇 談 会 『 報 告 書 』の 流 れに 沿 うものであるが、 現 在 のアイヌ 政 策 推 進 会 議 で 当<br />

面 の 課 題 に 掲 げられていないものも 含 まれる。<br />

(1) 先 住 民 族 という 認 識 とアイデンティティの 尊 重<br />

アイヌがひとつの 民 族 であることは、 長 らく 学 界 ではほとんどの 研 究 者 の 一 致 すると<br />

ころの 認 識 であった。さらに、 少 なくとも 北 海 道 においては、 和 人 の 移 民 より 前 から 先<br />

住 していたことの 認 識 も 共 有 されている。 江 戸 時 代 から 既 に 松 前 藩 に 従 属 して、 交 易 の<br />

過 程 で 日 本 のさまざまな 物 資 を 生 活 に 用 いていたアイヌ 民 族 はもはや 別 個 の 民 族 では<br />

なく、 辺 境 に 暮 らす 日 本 人 だった、と 主 張 する 人 々もいる。しかし、 全 く 別 な 固 有 の 言<br />

語 を 話 し、 江 戸 時 代 までは、 和 人 の 側 も「 異 文 化 」の 人 という 認 識 を 持 っていた。 狩 猟<br />

採 集 という 生 活 様 式 を 営 んでいたアイヌ 民 族 は、 宗 教 観 念 においても 固 有 のものをもっ<br />

ており、 独 自 の 世 界 を 営 んでいた。 江 戸 期 ・ 明 治 期 を 経 てアイヌ 民 族 が 日 本 社 会 に 取 り<br />

込 まれ、 土 地 を 収 奪 されて、 支 配 下 におさめられていく 過 程 は、 人 類 学 者 がしばしば 海<br />

外 での 調 査 研 究 において 出 会 う 植 民 地 化 の 過 程 に 他 ならず、 本 州 以 南 の 日 本 は 移 民 国 家<br />

ではないが、 北 海 道 においてそうした 移 民 国 家 と 同 じ 体 験 をしたと 考 えてよい。そのよ<br />

うな 学 界 での 認 識 が 政 治 や 行 政 においても 認 められ、 国 民 の 間 でも 一 般 的 な 認 識 に 広 が<br />

ることをわれわれは 切 に 願 う。そしてアイヌの 人 々がアイヌであるというアイデンティ<br />

ティをもつことについても、それを 全 体 社 会 が 尊 重 するのは 大 事 なことであると 考 える。<br />

ただし、かなり 長 い 間 の 差 別 の 歴 史 があり、それによってアイヌの 人 々がさまざまの<br />

レベルのアイデンティティをもっていることについては、 十 分 配 慮 する 必 要 がある。 日<br />

本 人 とさしてかわらぬ 日 常 生 活 を 送 っていることも、アイヌ 語 をほとんど 知 らないこと<br />

もあるし、そのような 多 様 なアイデンティティのあり 方 も 理 解 することが 重 要 である。<br />

アイヌ 政 策 推 進 会 議 が 行 っている 道 外 アイヌの 調 査 においても、 差 別 を 避 けるために 該<br />

当 者 が 関 わりをもちたがらず、そのため 回 答 数 が 予 定 したほどに 集 まらず、 道 外 アイヌ<br />

の 人 々の 実 態 がなかなか 把 握 しにくいのである[4]が、 差 別 があるから 隠 れ、 隠 れるか<br />

ら 実 態 が 見 えにくくさらに 差 別 の 温 床 になる、という 悪 循 環 が 存 在 する 可 能 性 もあり、<br />

今 後 の 検 証 が 必 要 である。アイデンティティの 課 題 については、オーストラリアやカナ<br />

ダ、ニュージーランドなど 他 国 の 経 験 に 学 ぶところが 大 きいはずである。<br />

そして、 先 住 民 族 文 化 としての 認 識 とアイデンティティの 尊 重 を 受 けて、アイヌ 文 化<br />

の 振 興 や 象 徴 空 間 の 構 想 が 進 められる 必 要 がある。<br />

(2) 国 が 主 体 となった 政 策 の 全 国 的 実 施<br />

アイヌ 民 族 が 先 住 民 族 として 蒙 った 剥 奪 や 差 別 の 歴 史 は、 北 海 道 という 一 地 方 で 生 じ<br />

ていたことではあるが、それが 一 地 方 の 決 断 によってなされてきたわけではない。 明 治<br />

以 降 、 政 府 の 一 定 の 方 針 とともに 国 家 的 事 業 として 北 海 道 の 開 発 が 行 われてきた 経 緯 が<br />

ある。さらに、アイヌ 民 族 の 居 住 地 は 全 国 に 広 がっている。 国 が 主 体 となり 政 策 を 全 国<br />

14


的 に 展 開 していく 必 要 性 がある。<br />

(3) アイヌ 文 化 研 究 の 促 進 と 展 示<br />

アイヌ 文 化 を 総 合 的 に 研 究 するためには 中 核 的 な 研 究 所 が 存 在 して、その 周 囲 にネッ<br />

トワークが 築 かれることが 重 要 である。そのための 制 度 つくりが 必 要 となっている。 現<br />

在 アイヌ 民 族 や 文 化 の 研 究 者 は 数 が 少 なく、そのことがアイヌ 文 化 の 知 識 普 及 にも 障 碍<br />

となっている。アイヌ 研 究 を 行 うポストを 全 国 の 大 学 や 研 究 所 で 増 やすことが 必 要 であ<br />

る。これまで 行 われてきた 人 類 学 ・ 文 化 人 類 学 、 社 会 学 、 文 学 、 歴 史 学 、 言 語 学 、 法 律<br />

学 、 音 楽 学 等 の 分 野 でのアイヌ 研 究 もさらに 振 興 される 必 要 があり、またその 他 の 分 野<br />

でもアイヌ 研 究 への 視 角 をもつべきである。 少 なくとも 日 本 研 究 を 行 う 研 究 所 は、アイ<br />

ヌ 研 究 部 門 をもつことが 望 ましく、 部 門 がなくてもアイヌ 研 究 が 行 われることが 奨 励 さ<br />

れるべきである。アイヌの 人 々の 中 からアイヌ 研 究 者 を 育 てることは 急 務 となっている。<br />

博 物 館 も 然 りである。 北 海 道 にはアイヌ 文 化 に 関 わる 展 示 が 数 箇 所 あるが、 道 外 でア<br />

イヌ 文 化 の 展 示 を 行 っているところは 少 ない。 日 本 文 化 の 展 示 を 行 うところには、アイ<br />

ヌ 文 化 の 展 示 もその 一 部 として 行 うことが 標 準 形 態 となることが 望 ましい(なぜなら、<br />

公 式 に 先 住 民 族 文 化 であると 認 められたアイヌ 文 化 も 広 義 の 日 本 の 一 部 であるからで<br />

ある)。アイヌ 文 化 の 展 示 には 是 非 ともアイヌ 自 身 が 関 わることが 必 要 であり、 展 示 に<br />

関 する 意 見 や 感 想 を 述 べる 委 員 にアイヌの 人 々を 含 めるべきだろうし、 将 来 的 にはアイ<br />

ヌの 人 々の 中 からより 多 くの 学 芸 員 が 育 ち、アイヌの 文 化 をどのように 展 示 するか、 彼<br />

らが 主 体 となって 考 えるべきである。<br />

(4) 国 民 の 理 解 の 促 進<br />

アイヌ 文 化 の 振 興 は、アイヌ 文 化 をアイヌだけのものとするのではなく、 国 民 全 体 が<br />

アイヌの 文 化 に 理 解 を 示 し、なんらかの 形 で 享 受 するという 多 文 化 共 生 の 理 念 の 下 で 行<br />

われる 必 要 がある。<br />

あらゆる 方 法 で 国 民 的 理 解 を 促 進 する 必 要 があるが、その 中 心 となるのは 教 育 にアイ<br />

ヌ 民 族 を 取 り 上 げることである。 小 ・ 中 ・ 高 校 のすべてのレベルの 教 育 において、アイ<br />

ヌの 文 化 と 民 族 の 歴 史 の 理 解 の 促 進 を 図 るべきである。 学 習 指 導 要 領 にそれが 明 記 され<br />

るべきであろう。それぞれのレベルにあったカリキュラムの 開 発 は、 特 に 生 活 科 や 社 会<br />

科 、 地 歴 科 目 に 限 る 必 要 はなく、 音 楽 や 体 育 、 文 学 などであってもよい。アイヌ 民 族 に<br />

ついて 教 える 際 に、 世 界 の 先 住 民 族 全 体 についての 理 解 の 中 で 行 うことが 必 要 である。<br />

そうすることで、アイヌの 人 々の 置 かれている 立 場 はいっそうわかりやすいものとなる。<br />

アイヌ 文 化 をどのように 教 えたらよいか、 現 場 の 教 員 の 多 くは 戸 惑 っているはず 16 なの<br />

で、 指 導 法 を 開 発 して、 教 員 の 指 導 にも 当 たるべきである。 国 民 的 理 解 の 促 進 において、<br />

教 育 の 果 たす 役 割 はきわめて 大 きく、 前 項 目 と 併 せ 文 部 科 学 省 の 果 たす 役 割 は 重 要 であ<br />

る。<br />

16 教 材 の 少 なさや、 現 場 の 戸 惑 いについて[3]に 詳 細 な 記 述 がある。<br />

15


また、 大 学 においても、 関 連 する 科 目 担 当 者 の 自 主 性 において、アイヌ 民 族 に 関 する<br />

教 育 が 行 われることを 希 望 する。<br />

(5) 多 様 な 文 化 の 共 存 と 共 生<br />

アイヌ 政 策 推 進 会 議 で 現 在 進 められている 民 族 共 生 の 象 徴 となる 空 間 の 整 備 の 事 業<br />

は、 教 育 ・ 研 究 ・ 文 化 伝 承 ・ 展 示 など 多 くの 機 能 を 併 せ 持 った 施 設 を 含 む 空 間 となる 予<br />

定 であり、それぞれの 機 能 はそれぞれに 評 価 されるべきであるが、これが 多 様 な 文 化 の<br />

共 存 と 共 生 の 象 徴 となることはきわめて 重 要 である。<br />

異 文 化 に 対 し 違 和 感 をもつのではなく、 異 なる 文 化 を 互 いに 理 解 する 努 力 をして、 文<br />

化 的 多 様 性 を 保 持 しつつ 共 生 する 社 会 を 築 き 上 げることは、21 世 紀 の 世 界 中 で 必 要 とな<br />

っていることである。 日 本 学 術 会 議 が 平 成 22 年 に 公 開 した『 日 本 の 展 望 』の 人 文 ・ 社<br />

会 科 学 からの 提 言 の 中 には、「 多 様 に 異 なる 文 化 を 相 互 に 理 解 するためには、 自 文 化 中<br />

心 主 義 を 克 服 しつつ 文 化 的 伝 統 を 継 承 しうる 柔 軟 な 思 考 とともに、 相 互 の 異 なるニーズ<br />

を 理 解 しあった 上 で 負 担 を 分 かち 合 う 姿 勢 が 不 可 欠 である。」[17]とある。そのような<br />

多 様 性 に 対 する 寛 容 さの 基 盤 は、 残 念 ながら 我 が 国 ではまだ 十 分 育 っていない。そのよ<br />

うな 多 様 性 を、 喜 び、 享 受 する 態 度 を 醸 成 する 第 一 歩 として、アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 と<br />

して 理 解 し、その 声 を 聴 き、 共 に 考 えていくことが 重 要 である。<br />

以 上<br />

< 参 考 文 献 ><br />

[1] 北 海 道 環 境 生 活 部 (2006)『 平 成 18 年 北 海 道 アイヌ 生 活 実 態 調 査 報 告 書 』<br />

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/grp/H18houkokusyo.pdf<br />

[2] 東 京 都 企 画 審 議 室 調 査 部 (1989)『 東 京 在 住 ウタリ 実 態 調 査 報 告 書 』<br />

[3] アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 (2009)『 報 告 書 』<br />

[4] 朝 日 新 聞 2010 年 10 月 30 日 朝 刊 31 ページ、 北 海 道 本 社 「アイヌ 道 外 調 査 足 踏 み」<br />

[5] アイヌ 政 策 推 進 会 議 、 第 6 回 「 北 海 道 外 アイヌの 生 活 実 態 調 査 部 会 」 議 事 概 要 。<br />

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/jittaichousa/dai6/gijigaiyou.pdf<br />

[6] Poisson, B. (2002), The Ainu of Japan, Lerner Publications, Minneapolis.<br />

[7] Sjöberg, K. (1993) The Return of the Ainu: Cultural Mobilisation and Practice<br />

of Ethnicity in Japan, p. 152. Amsterdam: Harwood Academic Publishers<br />

[8] 小 内 透 編 著 (2010)『 現 代 アイヌの 生 活 と 意 識 :2008 年 北 海 道 アイヌ 民 族 生 活 実 態 調<br />

査 報 告 書 』 北 海 道 大 学 アイヌ・ 先 住 民 研 究 センター<br />

[9] ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 (2000)『 報 告 書 』<br />

16


[10] 「アイヌ 文 化 の 振 興 並 びにアイヌの 伝 統 等 に 関 する 知 識 の 普 及 及 び 啓 発 に 関 する 法<br />

律 」( 平 成 九 年 五 月 十 四 日 法 律 第 五 十 二 号 )<br />

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO052.html<br />

[11] アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 」に 関 する 内 閣 官 房 長 官 談 話 」 首 相 官<br />

邸 公 式 ページより<br />

http://www.kantei.go.jp/jp/tyokan/hukuda/2008/060danwa.html<br />

[12] 2009 年 第 64 回 国 連 総 会 第 3 委 員 会 、 議 題 68:「 先 住 問 題 」(a)「 先 住 問 題 」 及 び(b)<br />

「 第 2 次 国 際 先 住 民 の 10 年 」 篠 原 政 府 代 表 代 理 によるステートメント( 仮 訳 )」<br />

外 務 省 公 式 ページより<br />

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/21/un_1019.html<br />

[13] McIntosh, Ian (2002) Defining oneself, and being defined as, indigenous.<br />

Anthropology Today 18-3 23-24 Royal Anthropological Institute.<br />

[14] 窪 田 幸 子 ・ 野 林 厚 志 編 (2009)『「 先 住 民 」とはだれか』 世 界 思 想 社<br />

[15] ILO 駐 日 事 務 所 メールマガジン・トピック 解 説 (2006 年 8 月 31 日 付 51 号 )「 先 住 民 ・<br />

種 族 民 と ILO」<br />

http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/feature/2006-08.htm<br />

[16] United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, Adopted by<br />

General Assembly Resolution 61/295 on 13 September 2007<br />

http://www.un.org/esa/socdev/unpfii/en/drip.html<br />

仮 訳 は 以 下 の 通 り。<br />

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainu/dai3/3siryou.pdf<br />

この 概 要 は、 添 付 資 料 2<br />

[17] 日 本 学 術 会 議 第 1 部 (2010)『 日 本 の 展 望 ― 自 分 ・ 社 会 科 学 からの 提 言 』 日 本 の 展 望<br />

― 学 術 からの 提 案 2010<br />

< 参 考 資 料 ><br />

審 議 経 過<br />

第 1 回 会 議 21 年 1 月 7 日 ( 水 )<br />

第 2 回 会 議 21 年 4 月 14 日 ( 月 )<br />

第 3 回 会 議 21 年 7 月 6 日 ( 月 )<br />

第 4 回 会 議 22 年 1 月 11 日 ( 日 )<br />

第 5 回 会 議 22 年 10 月 7 日 ( 木 )<br />

第 6 回 会 議 22 年 11 月 22 日 ( 月 )<br />

第 7 回 会 議 23 年 3 月 6 日 ( 日 )<br />

東 日 本 大 震 災 の 影 響 で、 会 合 を 開 催 してのとりまとめが 大 変 難 しく、メール 会 議 にて 最 終<br />

的 なとりまとめに 至 った。<br />

第 8 回 会 議 23 年 6 月 7 日 ( 火 ) メール 会 議 にて 承 認<br />

17


アイヌの 人 々について<br />

1 これまでのアイヌ 政 策 の 主 な 経 緯<br />

(「ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 以 降 )<br />

H7 「ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 発 足<br />

H8 「ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 提 出<br />

H9 「アイヌ 文 化 の 振 興 並 びにアイヌの 伝 統 等 に 関 する 知 識 の<br />

普 及 及 び 啓 発 に 関 する 法 律 」(アイヌ 文 化 振 興 法 ) 制 定<br />

H19 「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」 採 択<br />

H20 「アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 」 衆 ・ 参 両 議<br />

院 本 会 議 において 採 択 (6 月 6 日 )<br />

( 参 考 資 料 1)これまでアイヌ 政 策 の 経 緯<br />

( 参 考 資 料 2)アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議<br />

2 アイヌの 人 々<br />

(1) 和 人 との 関 係 において 北 海 道 に 先 住 していた( 先 住 性 )<br />

(2) アイヌ 語 をはじめとする 固 有 の 文 化 を 発 展 させてきた 民 族 である<br />

( 民 族 性 )<br />

(3) 明 治 以 降 の 近 代 化 の 中 でアイヌの 社 会 や 文 化 の 破 壊 が 進 展<br />

( 参 考 資 料 3)ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 報 告 書 の 概 要<br />

18


3 人 口 ・ 生 活 実 態 など<br />

(1) 人 口<br />

・ 北 海 道 内 2 万 4 千 人 弱<br />

・ 東 京 都 内 約 2,700 人<br />

(2) 生 活 実 態 など<br />

1 北 海 道 (H18)<br />

アイヌの 人 々 アイヌ 居 住 市 町 村 全 体 格 差<br />

高 校 進 学 率 93.5% 98.3% 1.1 倍<br />

大 学 進 学 率 17.4% 38.5% 2.2 倍<br />

生 活 保 護 率 3.8% 2.5% 1.6 倍<br />

(%)<br />

< 生 活 保 護 率 ><br />

11.6<br />

6.9<br />

6.1<br />

1.8 1.9 2.2<br />

3.9 3.7 3.8<br />

1.6 1.8<br />

2.5<br />

昭 和 47 年 昭 和 54 年 昭 和 61 年 平 成 5 年 平 成 11 年 平 成 18 年<br />

( 調 査 年 度 )<br />

アイヌ アイヌの 人 々の 住 む 市 町 村<br />

2 東 京 都 (S63)<br />

アイヌの 人 々 都 民 一 般 格 差<br />

大 学 、 高 校 卒 業 者 33.3% 79.2% 2.4 倍<br />

就 業 状 況 ( 就 業 先 の 規 模 ) 64.4% 48.4% 1.3 倍<br />

中 小 零 細 企 業<br />

生 活 保 護 世 帯 率 2.3% 1.6% 1.4 倍<br />

( 参 考 資 料 4)・H18 年 北 海 道 アイヌ 生 活 実 態 調 査 ( 概 要 )<br />

・S63 年 東 京 在 住 ウタリ 実 態 調 査 ( 概 要 )<br />

19


4 施 策 の 概 要<br />

(1) アイヌ 文 化 振 興 関 連 施 策 (アイヌ 文 化 の 振 興 と 普 及 啓 発 )<br />

( 平 成 20 年 度 予 算 338 百 万 円 )<br />

アイヌ 文 化 振 興 法 (H9.7 施 行 )に 基 づく 施 策 を 推 進 するため、「 財<br />

団 法 人 アイヌ 文 化 振 興 ・ 研 究 推 進 機 構 (アイヌ 文 化 振 興 財 団 )」を 指 定 法 人<br />

とし、 補 助 金 を 交 付 。<br />

( 主 な 事 業 )<br />

・アイヌに 関 する 総 合 的 かつ 実 践 的 な 研 究 の 推 進 ( 研 究 費 の 助 成 など)<br />

・アイヌ 語 の 振 興 ( 弁 論 大 会 、ラジオ 講 座 など)<br />

・アイヌ 文 化 の 振 興 ( 伝 統 工 芸 品 展 、 工 芸 作 品 コンテストなど)<br />

・アイヌの 伝 統 等 に 関 する 普 及 啓 発 ( 副 読 本 など)<br />

・アイヌの 伝 統 的 生 活 空 間 (イオル)の 再 生<br />

(2) 北 海 道 アイヌ 生 活 向 上 関 連 施 策 (アイヌの 人 々の 生 活 向 上 )<br />

( 平 成 20 年 度 予 算 817 百 万 円 )<br />

昭 和 49 年 度 以 来 、アイヌの 人 々の 社 会 的 、 経 済 的 な 格 差 の 是 正 を<br />

図 るための 対 策 を 北 海 道 が 実 施 し、 国 ( 文 科 省 、 厚 労 省 など 関 係 5<br />

省 )が 補 助 金 等 により 支 援 。<br />

( 主 な 事 業 )<br />

・ 生 活 館 の 整 備 、 運 営<br />

・ 高 校 ・ 大 学 生 への 奨 学 金 等<br />

・ 常 用 就 職 者 への 貸 付<br />

・ 農 林 漁 業 の 生 産 基 盤 の 整 備 等<br />

( 参 考 資 料 5)アイヌ 関 連 施 策 の 体 系<br />

20


「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」の 概 要<br />

1. 宣 言 の 概 要<br />

本 宣 言 は、 先 住 民 族 が 集 団 又 は 個 人 として、 国 際 連 合 憲 章 、 世 界 人<br />

権 宣 言 及 び 国 際 人 権 法 において 認 められたすべての 人 権 及 び 基 本 的 自<br />

由 を 十 分 に 享 受 する 権 利 を 有 することを 始 め、 先 住 民 族 及 びその 個 人<br />

の 権 利 及 び 自 由 について 述 べたもの。<br />

2007 年 9 月 13 日 に 国 連 総 会 において、 賛 成 144 票 ( 我 が 国<br />

を 含 む )、 反 対 4 票 (アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージ<br />

ーランド )、 棄 権 11 票 (アゼルバイジャン、バングラデシュ、ブー<br />

タン、ブルンジ、コロンビア、グルジア、ケニア、ナイジェリア、ロ<br />

シア、サモア、ウクライナ)で 採 択 された。<br />

なお 、 宣 言 には 「 先 住 民 族 」 の 定 義 に 関 する 規 定 はおかれていない。<br />

また、 宣 言 には 法 的 拘 束 力 はない。<br />

2. 宣 言 採 択 までの 経 緯<br />

(1) 本 宣 言 については、1994 年 に 人 権 委 員 会 の 下 に 設 置 された<br />

先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 案 作 業 部 会 ( 以 下 「 作 業 部<br />

会 」という。)において10 年 以 上 にわたり 議 論 が 行 われた 後 、<br />

2006 年 6 月 の 第 1 回 人 権 理 事 会 において 採 択 された( 投 票 結<br />

果 : 賛 成 30 票 ( 我 が 国 を 含 む )、 棄 権 12 票 、 反 対 2 票 (カナ<br />

ダ、ロシア )) 。<br />

(2)その 後 、 第 61 回 総 会 会 期 末 の2007 年 9 月 13 日 、 国 連 総<br />

会 において 採 択 された。<br />

3. 宣 言 に 盛 り 込 まれている 先 住 民 族 の 権 利 等 の 例<br />

第 1 条 すべての 人 権 と 基 本 的 自 由 を 享 受 する 権 利<br />

第 2 条<br />

第 3 条<br />

自 由 であり、 他 の 民 族 と 平 等 であり、 差 別 されないこと。<br />

自 決 権 。この 権 利 により、 自 由 に 政 治 的 地 位 を 決 定 し、 自 由<br />

に 経 済 的 、 社 会 的 及 び 文 化 的 発 展 を 追 求 する。<br />

21


第 5 条<br />

第 7 条<br />

独 特 の 政 治 的 、 法 的 、 経 済 的 、 社 会 的 及 び 文 化 的 制 度 を 維 持<br />

・ 強 化 する 権 利<br />

集 団 殺 害 行 為 その 他 の 暴 力 行 為 を 受 けない 権 利<br />

第 8 条 1<br />

第 10 条<br />

第 11 条 1<br />

第 12 条 1<br />

第 13 条 1<br />

第 14 条 1<br />

強 制 的 な 同 化 又 は 文 化 の 破 壊 を 受 けない 権 利<br />

土 地 又 は 領 域 から 強 制 的 に 移 動 させられない 権 利<br />

文 化 的 伝 統 及 び 慣 習 を 実 践 ・ 再 活 性 化 する 権 利<br />

精 神 的 及 び 宗 教 的 な 伝 統 、 慣 習 及 び 儀 式 を 実 践 ・ 発 展 等<br />

する 権 利 、 宗 教 的 及 び 文 化 的 な 場 所 を 維 持 ・ 保 護 等 する<br />

権 利 、 並 びに 遺 骨 の 返 還 に 係 る 権 利<br />

歴 史 、 言 語 、 口 承 伝 統 、 哲 学 等 を 再 活 性 化 させ、 将 来 に<br />

伝 達 する 権 利<br />

自 らの 文 化 に 則 った 教 育 及 び 学 習 の 方 法 に 則 した 態 様<br />

によって、 自 身 の 言 語 で 教 育 を 提 供 する 教 育 制 度 及 び<br />

教 育 機 関 を 設 立 ・ 管 理 する 権 利<br />

2 国 内 で 差 別 なく 教 育 を 受 ける 権 利<br />

第 17 条 1<br />

国 際 労 働 法 や 国 内 労 働 法 により 定 められたすべての 権<br />

利 を 享 受 する 権 利<br />

第 18 条<br />

第 22 条<br />

自 身 の 手 続 に 基 づき、 自 身 によって 選 出 された 代 表 を 通 じ<br />

て、 自 身 の 権 利 に 影 響 を 及 ぼし 得 る 事 項 に 関 する 意 思 決 定<br />

に 参 加 し、 及 び 自 身 の 意 思 決 定 のための 制 度 を 維 持 ・ 発 展<br />

させる 権 利<br />

本 宣 言 の 履 行 に 当 たっては、 先 住 民 族 の 高 齢 者 、 女 子 、 青<br />

少 年 、 児 童 及 び 障 害 者 の 権 利 に 特 段 の 注 意 を 払 う。<br />

第 24 条 1<br />

伝 統 的 医 療 に 関 する 権 利 、 社 会 的 及 び 保 健 サービスを 差<br />

22


別 なく 受 ける 権 利<br />

第 26 条 1<br />

第 28 条 1<br />

第 29 条 1<br />

第 32 条 1<br />

第 33 条 1<br />

第 35 条<br />

伝 統 的 に 所 有 ・ 占 有 等 してきた 土 地 、 領 域 及 び 資 源 に 対<br />

する 権 利<br />

伝 統 的 に 所 有 ・ 占 有 等 してきた 土 地 、 領 域 及 び 資 源 であ<br />

って 、 同 意 なしに 没 収 等 されたものに 対 して 、 原 状 回 復 、<br />

衡 平 な 補 償 その 他 の 手 段 によって 救 済 を 受 ける 権 利<br />

環 境 並 びに 土 地 、 領 域 及 び 資 源 の 生 産 能 力 の 保 全 及 び 保<br />

護 に 関 する 権 利<br />

土 地 、 領 域 及 び 資 源 の 開 発 又 は 使 用 のための 優 先 順 位 や<br />

戦 略 を 決 定 ・ 策 定 する 権 利<br />

慣 習 及 び 伝 統 に 従 って 自 らの 帰 属 や 構 成 員 を 決 定 する 権<br />

利<br />

先 住 民 族 の 社 会 に 対 する 個 人 の 責 任 を 決 定 する 権 利<br />

第 39 条<br />

本 宣 言 の 権 利 を 享 受 するための 国 からの 及 び 国 際 協 力 を 通<br />

じた 資 金 上 及 び 技 術 上 の 援 助 を 受 ける 権 利<br />

第 46 条 1<br />

本 宣 言 のいかなる 記 述 も、 主 権 を 有 する 独 立 国 の 領 土 保<br />

全 又 は 政 治 的 な 統 合 を 分 割 し、 害 する 行 為 を 促 進 するも<br />

のと 解 釈 されてはならない。<br />

4. 宣 言 に 盛 り 込 まれている 国 に 対 する 義 務 等 の 例<br />

第 8 条 2 先 住 民 族 の 土 地 、 領 域 又 は 資 源 の 喪 失 、 先 住 民 族 の 権 利 侵<br />

害 となる 強 制 移 動 、 強 制 的 同 化 等 を 防 止 ・ 救 済 するための<br />

効 果 的 な 仕 組 みを 提 供 する。<br />

第 11 条 2 先 住 民 族 の 自 由 な 、 事 前 の、 かつ 情 報 に 基 づく 同 意 なく、<br />

又 は 先 住 民 族 の 法 や 伝 統 等 に 反 して 文 化 的 、 知 的 、 宗 教<br />

的 及 び 精 神 的 財 産 が 奪 われた 場 合 の 救 済 を 行 う。<br />

23


第 13 条 2<br />

第 15 条 2<br />

第 16 条 2<br />

第 13 条 1の 権 利 を 確 保 するため 、 効 果 的 な 措 置 をとる。<br />

先 住 民 族 と 協 議 ・ 協 力 しながら、 偏 見 と 闘 い、 差 別 を 撤<br />

廃 し、 寛 容 と 理 解 を 促 進 するための 措 置 をとる。<br />

国 有 の 報 道 機 関 が 先 住 民 族 の 文 化 的 多 様 性 を 正 当 に 反 映<br />

することを 確 保 するため、 効 果 的 な 措 置 をとる。<br />

第 19 条<br />

先 住 民 族 に 影 響 を 与 える 立 法 上 又 は 行 政 上 の 措 置 をとり、<br />

及 び 実 施 する 前 に、 先 住 民 族 から 事 前 に 同 意 を 得 るべく 先<br />

住 民 族 と 協 議 ・ 協 力 する。( 同 趣 旨 、 第 32 条 2)<br />

第 21 条 2<br />

第 26 条 3<br />

先 住 民 族 の 経 済 的 及 び 社 会 的 状 況 を 継 続 的 に 改 善 するこ<br />

とを 確 保 するため、 効 果 的 な 措 置 をとる。<br />

先 住 民 族 が 権 利 を 有 する 土 地 、 領 域 及 び 資 源 について、<br />

法 的 に 認 め、 及 び 保 護 する。<br />

5. 宣 言 採 択 に 際 しての 我 が 国 政 府 の 投 票 態 度 、 考 え 方 の 説 明<br />

(1) 投 票 態 度<br />

我 が 国 は、 宣 言 について、 基 本 的 には、 人 権 の 保 護 に 資 するもの<br />

として、 賛 成 票 を 投 じた。<br />

(2) 採 択 に 際 しての 我 が 国 政 府 の 考 え 方 の 説 明<br />

我 が 国 は、 宣 言 にいう 自 決 権 については、 宣 言 が 明 らかにしてい<br />

るように 、「 先 住 民 族 」に 対 して、 居 住 している 国 から 分 離 ・ 独 立<br />

する 権 利 を 付 与 するものではないこと、 宣 言 にいう 集 団 的 権 利 につ<br />

いては、 宣 言 に 記 述 された 権 利 は 個 人 が 享 有 するものであり、 各 個<br />

人 がその 有 する 権 利 を 同 じ 権 利 を 持 つ 他 の 個 人 と 共 に 行 使 すること<br />

ができるとの 趣 旨 であると 考 えること、 宣 言 に 記 述 された 権 利 は、<br />

他 者 の 権 利 を 害 するものであってはならず、 財 産 権 については、 各<br />

国 の 国 内 法 制 による 合 理 的 な 制 約 が 課 されるものであると 考 えてい<br />

ること 等 を 説 明 した。<br />

24


6. 宣 言 に 反 対 した 各 国 が 表 明 した 主 な 理 由<br />

・ 十 分 に 議 論 する 機 会 が 与 えられなかった。<br />

・ 多 数 の 先 住 民 族 人 口 を 抱 える 国 々の 賛 成 を 得 られず 、 実 効 的 でない。<br />

・ 先 住 民 族 、 国 家 及 び 第 三 者 の 権 利 と 義 務 の 適 切 なバランスを 達 成 す<br />

る 必 要 がある。<br />

・ 第 26 条 の 土 地 の 権 利 に 関 する 規 定 ( 土 地 の 範 囲 が 不 明 確 で、 幅 広<br />

い 解 釈 が 可 能 であることや 現 時 点 で 第 三 者 が 合 法 的 に 所 有 している<br />

土 地 への 権 利 を 認 めることが 求 められる 懸 念 がある 。) 、 第 19 条 及<br />

び 第 32 条 の 先 住 民 族 の 事 前 同 意 を 求 める 規 定 ( 国 内 の 法 令 や 資 源<br />

管 理 において 拒 否 権 を 有 することにつながる 。) 、 第 28 条 の 賠 償 の<br />

規 定 を 国 内 法 上 実 施 することが 困 難 であることに 対 する 懸 念 。<br />

( 了 )<br />

25


これまでのアイヌ 政 策 の 経 緯<br />

年 項 目<br />

明 治 32 年<br />

昭 和 9 年<br />

47 年<br />

49 年<br />

54 年<br />

56 年<br />

59 年<br />

61 年<br />

63 年<br />

平 成 元 年<br />

平 成 5 年<br />

7 年<br />

8 年<br />

9 年<br />

11 年<br />

14 年<br />

● 北 海 道 旧 土 人 保 護 法 制 定<br />

● 旭 川 市 旧 土 人 保 護 地 処 分 法 制 定<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 生 活 実 態 調 査 ( 第 1 回 )<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 福 祉 対 策 ( 第 1 次 )<br />

● 北 海 道 ウタリ 対 策 関 係 省 庁 連 絡 会 議 設 置<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 生 活 実 態 調 査 ( 第 2 回 )<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 福 祉 対 策 ( 第 2 次 )<br />

○( 社 ) 北 海 道 ウタリ 協 会 がアイヌ 民 族 に 関 する 法 律 ( 案 )を 決 議<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 生 活 実 態 調 査 ( 第 3 回 )<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 福 祉 対 策 ( 第 3 次 )<br />

◎ 北 海 道 がアイヌ 民 族 に 関 する 法 律 制 定 を 求 める 要 望 書 を 提 出<br />

●アイヌ 新 法 問 題 検 討 委 員 会 設 置<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 生 活 実 態 調 査 ( 第 4 回 )<br />

● 官 房 長 官 の 私 的 懇 談 会 としてウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 を 設 置<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 福 祉 対 策 ( 第 4 次 )<br />

●ウタリ 対 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 が 官 房 長 官 に 報 告 書 を 提 出<br />

●アイヌ 文 化 振 興 法 制 定<br />

●アイヌ 文 化 振 興 法 に 基 づき、アイヌ 文 化 の 振 興 並 びにアイヌの 伝 統 等 に 関 する<br />

国 民 に 対 する 知 識 の 普 及 及 び 啓 発 を 図 るための 施 策 に 関 する 基 本 方 針 を 策 定<br />

●アイヌ 文 化 振 興 法 に 基 づく 指 定 法 人 としてアイヌ 文 化 振 興 ・ 研 究 推 進 機 構 を 指 定<br />

◎ 北 海 道 がアイヌ 文 化 振 興 法 に 基 づき、アイヌ 文 化 の 振 興 等 を 図 るための 施 策 に 関 する<br />

基 本 計 画 を 策 定<br />

◎ 北 海 道 ウタリ 生 活 実 態 調 査 ( 第 5 回 )<br />

◎アイヌの 人 たちの 生 活 向 上 に 関 する 推 進 方 策 ( 第 1 次 )<br />

18 年<br />

19 年<br />

20 年<br />

◎ 北 海 道 アイヌ 生 活 実 態 調 査 ( 第 6 回 )<br />

○ 国 連 総 会 において 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 採 択<br />

国 連 宣 言 採 択 までの 経 緯<br />

平 成 6 年 に 人 権 委 員 会 の 下 に 設 置 された「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言<br />

案 作 業 部 会 」において 10 年 以 上 にわたり 議 論 が 行 われた。<br />

◎ 北 海 道 及 び( 社 ) 北 海 道 ウタリ 協 会 が 国 連 宣 言 におけるアイヌ 民 族 の 位 置 づけ 及 び<br />

権 利 を 審 議 する 機 関 の 設 置 、 総 合 的 な 施 策 の 確 立 を 求 める 要 望 書 を 提 出<br />

●アイヌ 民 族 の 権 利 確 立 を 考 える 議 員 の 会 設 立<br />

○アイヌ 民 族 団 体 が 国 連 宣 言 におけるアイヌ 民 族 の 位 置 づけ 及 び 権 利 を 審 議 する<br />

有 識 者 懇 談 会 の 設 置 、 法 的 措 置 による 総 合 的 な 施 策 の 確 立 を 求 め 国 会 に 請 願<br />

●アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 が 衆 ・ 参 両 院 において 採 択<br />

●アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 設 置<br />

注 ) 「●」: 国 における 動 き 「◎」: 北 海 道 における 動 き 「○」:その 他 の 動 き<br />

26


ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

民<br />

族<br />

を<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

と<br />

す<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

を<br />

求<br />

め<br />

る<br />

決<br />

議<br />

平<br />

成<br />

二<br />

十<br />

年<br />

六<br />

月<br />

六<br />

日<br />

衆<br />

議<br />

院<br />

本<br />

会<br />

議<br />

昨<br />

年<br />

九<br />

月<br />

、<br />

国<br />

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に<br />

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い<br />

て<br />

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族<br />

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権<br />

利<br />

に<br />

関<br />

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る<br />

国<br />

際<br />

連<br />

合<br />

宣<br />

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」<br />

が<br />

、<br />

我<br />

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賛<br />

成<br />

す<br />

る<br />

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採<br />

択<br />

さ<br />

れ<br />

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こ<br />

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ア<br />

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ヌ<br />

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族<br />

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長<br />

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も<br />

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時<br />

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、<br />

そ<br />

の<br />

趣<br />

旨<br />

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る<br />

こ<br />

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、<br />

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人<br />

権<br />

条<br />

約<br />

監<br />

視<br />

機<br />

関<br />

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ら<br />

我<br />

が<br />

国<br />

に<br />

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め<br />

ら<br />

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て<br />

い<br />

る<br />

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我<br />

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国<br />

が<br />

近<br />

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す<br />

る<br />

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に<br />

お<br />

い<br />

て<br />

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民<br />

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窮<br />

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た<br />

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い<br />

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歴<br />

史<br />

的<br />

事<br />

実<br />

を<br />

、<br />

私<br />

た<br />

ち<br />

は<br />

厳<br />

粛<br />

に<br />

受<br />

け<br />

止<br />

め<br />

な<br />

け<br />

れ<br />

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ら<br />

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の<br />

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住<br />

民<br />

族<br />

が<br />

、<br />

名<br />

誉<br />

と<br />

尊<br />

厳<br />

を<br />

保<br />

持<br />

し<br />

、<br />

そ<br />

の<br />

文<br />

化<br />

と<br />

誇<br />

り<br />

を<br />

次<br />

世<br />

代<br />

に<br />

継<br />

承<br />

し<br />

て<br />

い<br />

く<br />

こ<br />

と<br />

は<br />

、<br />

国<br />

際<br />

社<br />

会<br />

の<br />

潮<br />

流<br />

で<br />

あ<br />

り<br />

、<br />

ま<br />

た<br />

、<br />

こ<br />

う<br />

し<br />

た<br />

国<br />

際<br />

的<br />

な<br />

価<br />

値<br />

観<br />

を<br />

共<br />

有<br />

す<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

は<br />

、<br />

我<br />

が<br />

国<br />

が<br />

二<br />

十<br />

一<br />

世<br />

紀<br />

の<br />

国<br />

際<br />

社<br />

会<br />

を<br />

リ<br />

ー<br />

ド<br />

し<br />

て<br />

い<br />

く<br />

た<br />

め<br />

に<br />

も<br />

不<br />

可<br />

欠<br />

で<br />

あ<br />

る<br />

。<br />

特<br />

に<br />

、<br />

本<br />

年<br />

七<br />

月<br />

に<br />

、<br />

環<br />

境<br />

サ<br />

ミ<br />

ッ<br />

ト<br />

と<br />

も<br />

言<br />

わ<br />

れ<br />

る<br />

G<br />

8<br />

サ<br />

ミ<br />

ッ<br />

ト<br />

が<br />

、<br />

自<br />

然<br />

と<br />

の<br />

共<br />

生<br />

を<br />

根<br />

幹<br />

と<br />

す<br />

る<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

民<br />

族<br />

先<br />

住<br />

の<br />

地<br />

、<br />

北<br />

海<br />

道<br />

で<br />

開<br />

催<br />

さ<br />

れ<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

は<br />

、<br />

誠<br />

に<br />

意<br />

義<br />

深<br />

い<br />

。<br />

政<br />

府<br />

は<br />

、<br />

こ<br />

れ<br />

を<br />

機<br />

に<br />

次<br />

の<br />

施<br />

策<br />

を<br />

早<br />

急<br />

に<br />

講<br />

じ<br />

る<br />

べ<br />

き<br />

で<br />

あ<br />

る<br />

。<br />

一<br />

政<br />

府<br />

は<br />

、「<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

の<br />

権<br />

利<br />

に<br />

関<br />

す<br />

る<br />

国<br />

際<br />

連<br />

合<br />

宣<br />

言<br />

」<br />

を<br />

踏<br />

ま<br />

え<br />

、<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

の<br />

人<br />

々<br />

を<br />

日<br />

本<br />

列<br />

島<br />

北<br />

部<br />

周<br />

辺<br />

、<br />

と<br />

り<br />

わ<br />

け<br />

北<br />

海<br />

道<br />

に<br />

先<br />

住<br />

し<br />

、<br />

独<br />

自<br />

の<br />

言<br />

語<br />

、<br />

宗<br />

教<br />

や<br />

文<br />

化<br />

の<br />

独<br />

自<br />

性<br />

を<br />

有<br />

す<br />

る<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

と<br />

し<br />

て<br />

認<br />

め<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

。<br />

二<br />

政<br />

府<br />

は<br />

、「<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

の<br />

権<br />

利<br />

に<br />

関<br />

す<br />

る<br />

国<br />

際<br />

連<br />

合<br />

宣<br />

言<br />

」<br />

が<br />

採<br />

択<br />

さ<br />

れ<br />

た<br />

こ<br />

と<br />

を<br />

機<br />

に<br />

、<br />

同<br />

宣<br />

言<br />

に<br />

お<br />

け<br />

る<br />

関<br />

連<br />

条<br />

項<br />

を<br />

参<br />

照<br />

し<br />

つ<br />

つ<br />

、<br />

高<br />

い<br />

レ<br />

ベ<br />

ル<br />

で<br />

有<br />

識<br />

者<br />

の<br />

意<br />

見<br />

を<br />

聞<br />

き<br />

な<br />

が<br />

ら<br />

、<br />

こ<br />

れ<br />

ま<br />

で<br />

の<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

政<br />

策<br />

を<br />

さ<br />

ら<br />

に<br />

推<br />

進<br />

し<br />

、<br />

総<br />

合<br />

的<br />

な<br />

施<br />

策<br />

の<br />

確<br />

立<br />

に<br />

取<br />

り<br />

組<br />

む<br />

こ<br />

と<br />

。<br />

右<br />

決<br />

議<br />

す<br />

る<br />

。<br />

27


ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

民<br />

族<br />

を<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

と<br />

す<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

を<br />

求<br />

め<br />

る<br />

決<br />

議<br />

平<br />

成<br />

二<br />

十<br />

年<br />

六<br />

月<br />

六<br />

日<br />

参<br />

議<br />

院<br />

本<br />

会<br />

議<br />

昨<br />

年<br />

九<br />

月<br />

、<br />

国<br />

連<br />

に<br />

お<br />

い<br />

て<br />

「<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

の<br />

権<br />

利<br />

に<br />

関<br />

す<br />

る<br />

国<br />

際<br />

連<br />

合<br />

宣<br />

言<br />

」<br />

が<br />

、<br />

我<br />

が<br />

国<br />

も<br />

賛<br />

成<br />

す<br />

る<br />

中<br />

で<br />

採<br />

択<br />

さ<br />

れ<br />

た<br />

。<br />

こ<br />

れ<br />

は<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

民<br />

族<br />

の<br />

長<br />

年<br />

の<br />

悲<br />

願<br />

を<br />

映<br />

し<br />

た<br />

も<br />

の<br />

で<br />

あ<br />

り<br />

、<br />

同<br />

時<br />

に<br />

、<br />

そ<br />

の<br />

趣<br />

旨<br />

を<br />

体<br />

し<br />

て<br />

具<br />

体<br />

的<br />

な<br />

行<br />

動<br />

を<br />

と<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

が<br />

、<br />

国<br />

連<br />

人<br />

権<br />

条<br />

約<br />

監<br />

視<br />

機<br />

関<br />

か<br />

ら<br />

我<br />

が<br />

国<br />

に<br />

求<br />

め<br />

ら<br />

れ<br />

て<br />

い<br />

る<br />

。<br />

我<br />

が<br />

国<br />

が<br />

近<br />

代<br />

化<br />

す<br />

る<br />

過<br />

程<br />

に<br />

お<br />

い<br />

て<br />

、<br />

多<br />

数<br />

の<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

の<br />

人<br />

々<br />

が<br />

、<br />

法<br />

的<br />

に<br />

は<br />

等<br />

し<br />

く<br />

国<br />

民<br />

で<br />

あ<br />

り<br />

な<br />

が<br />

ら<br />

も<br />

差<br />

別<br />

さ<br />

れ<br />

、<br />

貧<br />

窮<br />

を<br />

余<br />

儀<br />

な<br />

く<br />

さ<br />

れ<br />

た<br />

と<br />

い<br />

う<br />

歴<br />

史<br />

的<br />

事<br />

実<br />

を<br />

、<br />

私<br />

た<br />

ち<br />

は<br />

厳<br />

粛<br />

に<br />

受<br />

け<br />

止<br />

め<br />

な<br />

け<br />

れ<br />

ば<br />

な<br />

ら<br />

な<br />

い<br />

。<br />

す<br />

べ<br />

て<br />

の<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

が<br />

、<br />

名<br />

誉<br />

と<br />

尊<br />

厳<br />

を<br />

保<br />

持<br />

し<br />

、<br />

そ<br />

の<br />

文<br />

化<br />

と<br />

誇<br />

り<br />

を<br />

次<br />

世<br />

代<br />

に<br />

継<br />

承<br />

し<br />

て<br />

い<br />

く<br />

こ<br />

と<br />

は<br />

、<br />

国<br />

際<br />

社<br />

会<br />

の<br />

潮<br />

流<br />

で<br />

あ<br />

り<br />

、<br />

ま<br />

た<br />

、<br />

こ<br />

う<br />

し<br />

た<br />

国<br />

際<br />

的<br />

な<br />

価<br />

値<br />

観<br />

を<br />

共<br />

有<br />

す<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

は<br />

、<br />

我<br />

が<br />

国<br />

が<br />

二<br />

十<br />

一<br />

世<br />

紀<br />

の<br />

国<br />

際<br />

社<br />

会<br />

を<br />

リ<br />

ー<br />

ド<br />

し<br />

て<br />

い<br />

く<br />

た<br />

め<br />

に<br />

も<br />

不<br />

可<br />

欠<br />

で<br />

あ<br />

る<br />

。<br />

特<br />

に<br />

、<br />

本<br />

年<br />

七<br />

月<br />

に<br />

、<br />

環<br />

境<br />

サ<br />

ミ<br />

ッ<br />

ト<br />

と<br />

も<br />

言<br />

わ<br />

れ<br />

る<br />

G<br />

8<br />

サ<br />

ミ<br />

ッ<br />

ト<br />

が<br />

、<br />

自<br />

然<br />

と<br />

の<br />

共<br />

生<br />

を<br />

根<br />

幹<br />

と<br />

す<br />

る<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

民<br />

族<br />

先<br />

住<br />

の<br />

地<br />

、<br />

北<br />

海<br />

道<br />

で<br />

開<br />

催<br />

さ<br />

れ<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

は<br />

、<br />

誠<br />

に<br />

意<br />

義<br />

深<br />

い<br />

。<br />

政<br />

府<br />

は<br />

、<br />

こ<br />

れ<br />

を<br />

機<br />

に<br />

次<br />

の<br />

施<br />

策<br />

を<br />

早<br />

急<br />

に<br />

講<br />

ず<br />

る<br />

べ<br />

き<br />

で<br />

あ<br />

る<br />

。<br />

一<br />

政<br />

府<br />

は<br />

、「<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

の<br />

権<br />

利<br />

に<br />

関<br />

す<br />

る<br />

国<br />

際<br />

連<br />

合<br />

宣<br />

言<br />

」<br />

を<br />

踏<br />

ま<br />

え<br />

、<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

の<br />

人<br />

々<br />

を<br />

日<br />

本<br />

列<br />

島<br />

北<br />

部<br />

周<br />

辺<br />

、<br />

と<br />

り<br />

わ<br />

け<br />

北<br />

海<br />

道<br />

に<br />

先<br />

住<br />

し<br />

、<br />

独<br />

自<br />

の<br />

言<br />

語<br />

、<br />

宗<br />

教<br />

や<br />

文<br />

化<br />

の<br />

独<br />

自<br />

性<br />

を<br />

有<br />

す<br />

る<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

と<br />

し<br />

て<br />

認<br />

め<br />

る<br />

こ<br />

と<br />

。<br />

二<br />

政<br />

府<br />

は<br />

、「<br />

先<br />

住<br />

民<br />

族<br />

の<br />

権<br />

利<br />

に<br />

関<br />

す<br />

る<br />

国<br />

際<br />

連<br />

合<br />

宣<br />

言<br />

」<br />

が<br />

採<br />

択<br />

さ<br />

れ<br />

た<br />

こ<br />

と<br />

を<br />

機<br />

に<br />

、<br />

同<br />

宣<br />

言<br />

に<br />

お<br />

け<br />

る<br />

関<br />

連<br />

条<br />

項<br />

を<br />

参<br />

照<br />

し<br />

つ<br />

つ<br />

、<br />

高<br />

い<br />

レ<br />

ベ<br />

ル<br />

で<br />

有<br />

識<br />

者<br />

の<br />

意<br />

見<br />

を<br />

聴<br />

き<br />

な<br />

が<br />

ら<br />

、<br />

こ<br />

れ<br />

ま<br />

で<br />

の<br />

ア<br />

イ<br />

ヌ<br />

政<br />

策<br />

を<br />

更<br />

に<br />

推<br />

進<br />

し<br />

、<br />

総<br />

合<br />

的<br />

な<br />

施<br />

策<br />

の<br />

確<br />

立<br />

に<br />

取<br />

り<br />

組<br />

む<br />

こ<br />

と<br />

。<br />

右<br />

決<br />

議<br />

す<br />

る<br />

。<br />

28


「アイヌ 政 策 のあり 方 に 関 する 有 識 者 懇 談 会 」 報 告 書 のポイント<br />

1. 今 に 至 る 歴 史 的 経 緯<br />

(1) アイヌの 人 々につながる 歴 史 と 文 化 ( 旧 石 器 ~ 中 世 )<br />

・ 北 海 道 に 人 類 が 住 み 始 めたのは 旧 石 器 時 代 であり、その 後 1 万 2 千 年 前 に 縄 文 文 化 に 入 った。<br />

人 類 学 的 研 究 によってアイヌの 持 つ 形 質 や 遺 伝 的 な 特 徴 の 中 には、 縄 文 まで 遡 るものがあるこ<br />

とが 明 らかになっている。<br />

・ 他 の 地 域 が 弥 生 文 化 の 時 代 であったころ、 寒 冷 な 北 海 道 では 稲 作 が 広 がらず、 独 自 の 続 縄 文 文<br />

化 が6 世 紀 ころまで 続 いた。<br />

・7 世 紀 に 入 ると 擦 文 文 化 が 始 まったが、この 時 期 に 現 在 に 認 識 されるかたちでのアイヌの 文 化<br />

の 原 型 がみられ、それに 続 く 13~14 世 紀 ころにかけ、 狩 猟 、 漁 撈 、 採 集 を 中 心 に 一 部 には 農 耕<br />

を 行 う 生 活 の 中 で 自 然 とのかかわりが 深 く、 海 を 渡 った 交 易 を 盛 んに 行 うアイヌの 文 化 の 特 色<br />

が 形 成 された。<br />

(2) 「 異 文 化 びと」と「 和 人 」の 接 触 ~ 交 易 ( 中 世 )<br />

・ 鎌 倉 時 代 以 降 和 人 が 北 海 道 との 交 易 を 盛 んに 行 うようになり、また、 室 町 時 代 の 書 物 の 中 に、<br />

言 葉 の 通 じない「 異 文 化 びと」としてアイヌの 人 々の 記 述 が 見 られる。<br />

・15 世 紀 半 ばには、 渡 島 半 島 の 沿 岸 に 和 人 が 拠 点 を 築 き、 先 住 していたアイヌの 人 々と 交 易 を<br />

行 った。 交 易 の 拡 大 に 伴 い 両 者 の 間 でコシャマインの 戦 いなど 抗 争 が 続 いたが、16 世 紀 半 ばに<br />

は 講 和 した。<br />

(3) 過 酷 な 労 働 生 産 の 場 ( 近 世 )<br />

・ 江 戸 時 代 に、 松 前 藩 がアイヌとの 交 易 の 独 占 権 を 家 臣 に 与 えるようになり( 商 場 知 行 制 )、ア<br />

イヌの 人 々の 交 易 は 制 限 された。<br />

・18 世 紀 に 入 ると 商 人 が 場 所 の 交 易 を 請 負 うようになったが( 場 所 請 負 制 )、 利 益 を 増 やすため<br />

に 商 人 自 ら 漁 場 を 経 営 し 始 めた。アイヌの 人 々は 漁 業 に 従 事 させられ 過 酷 な 労 働 を 強 いられた。<br />

・こうした 中 でも、 工 芸 、 文 芸 、 思 想 、 宗 教 的 儀 礼 等 独 自 の 文 化 の 伸 長 が 見 られた。<br />

(4) アイヌの 文 化 への 深 刻 な 打 撃 ( 近 代 )<br />

・ 明 治 に 入 って、 北 海 道 の 内 国 化 が 図 られ、 大 規 模 な 移 住 により 北 海 道 開 拓 が 進 展 した。<br />

・ 近 代 的 な 土 地 所 有 制 度 の 導 入 により、アイヌの 人 々は 狩 猟 、 漁 撈 ・ 採 集 などの 場 を 狭 められ、<br />

さらに 狩 猟 、 漁 撈 の 禁 止 も 加 わり 貧 窮 を 余 儀 なくされた。<br />

・ 民 族 独 自 の 文 化 の 制 限 ・ 禁 止 やアイヌ 語 を 話 す 機 会 の 減 少 は、アイヌの 人 々の 和 人 への 同 化 を<br />

進 め、その 文 化 は 失 われる 寸 前 になった。<br />

・また、 圧 倒 的 多 数 の 和 人 移 住 者 の 中 で、 被 支 配 的 な 立 場 に 追 い 込 まれ、 様 々な 局 面 で 差 別 の 対<br />

象 になった。<br />

・ 現 在 も 大 学 等 で 研 究 資 料 として 保 管 されているアイヌの 人 骨 の 中 にはその 意 に 関 わらず 収 集 さ<br />

れたものも 含 まれているとみられている。<br />

・ 明 治 32 年 (1899 年 )には 北 海 道 旧 土 人 保 護 法 が 施 行 されたが、アイヌの 人 々の 窮 状 を 十 分 改<br />

善 するには 至 らなかった。<br />

29


2.アイヌの 人 々の 現 状 とアイヌの 人 々をめぐる 最 近 の 動 き<br />

(1) アイヌの 人 々の 現 状<br />

・ 多 くが 北 海 道 に 居 住 と 考 えられる( 北 海 道 の 調 査 により 把 握 されている 数 は 約 2 万 4 千 人 )。<br />

・ 他 の 多 くの 日 本 人 とほぼ 変 わらない 様 式 で、 衣 食 住 などの 日 常 生 活 を 送 っている。<br />

・ 北 海 道 に 居 住 するアイヌの 人 々の 生 活 状 況 は 改 善 されてきているが、 道 民 ・ 国 民 全 体 との 格 差<br />

は 依 然 として 大 きい。 北 海 道 外 のアイヌの 人 々には 特 段 の 施 策 は 講 じられていない。<br />

・アイヌ 文 化 振 興 法 ( 平 成 9 年 ) 制 定 によりアイヌ 語 や 伝 統 文 化 の 維 持 ・ 伝 承 の 裾 野 が 広 がって<br />

いる。 一 方 、 継 承 や 発 展 にとって 十 分 に 機 能 していない 側 面 があるのでは 等 の 指 摘 もある。<br />

・アイヌの 人 々の 他 の 日 本 人 とほぼ 変 わらない 日 々の 生 活 とアイヌとしての 帰 属 意 識 を 感 じる 生<br />

活 はともに 尊 重 されるべき。<br />

(2) アイヌの 人 々をめぐる 最 近 の 動 き<br />

・ 平 成 19 年 9 月 「 先 住 民 族 の 権 利 に 関 する 国 際 連 合 宣 言 」 採 択 ( 我 が 国 も 賛 成 )<br />

・ 平 成 20 年 6 月 「アイヌ 民 族 を 先 住 民 族 とすることを 求 める 決 議 」 衆 ・ 参 両 院 で 可 決<br />

3. 今 後 のアイヌ 政 策 のあり 方<br />

(1) 今 後 のアイヌ 政 策 の 基 本 的 考 え 方<br />

1 先 住 民 族 という 認 識 に 基 づく 政 策 展 開<br />

・アイヌの 人 々は 日 本 列 島 北 部 周 辺 、とりわけ 北 海 道 の 先 住 民 族 であると 考 えることができる。<br />

・ 国 の 近 代 化 政 策 の 結 果 、その 文 化 に 深 刻 な 打 撃 を 与 えたという 経 緯 を 踏 まえ、 国 には 先 住 民<br />

族 であるアイヌの 文 化 の 復 興 に 配 慮 すべき 強 い 責 任 がある。<br />

・ここでいう 文 化 とは、 言 語 、 音 楽 、 舞 踊 、 工 芸 等 に 加 え、 土 地 利 用 の 形 態 等 の 民 族 固 有 の 生<br />

活 様 式 の 総 体 と 捉 えるべき。<br />

・ 伝 統 を 踏 まえた 復 興 とともに、それを 核 として 新 しいアイヌ 文 化 を 創 造 する 視 点 が 必 要 。<br />

・ 偏 見 や 差 別 の 解 消 、 新 しい 政 策 の 円 滑 な 推 進 のために、 国 民 の 正 しい 理 解 ・ 知 識 の 共 有 が 必<br />

要 。 次 の 世 代 が 夢 や 誇 りを 持 って 生 きられる 社 会 にしていく 心 がけが 大 切 。<br />

2 国 連 宣 言 の 意 義 等<br />

・ 宣 言 は 法 的 拘 束 力 はないものの、 先 住 民 族 に 係 る 政 策 のあり 方 の 一 般 的 な 国 際 指 針 としての<br />

意 義 は 大 きく 十 分 尊 重 されるべき。<br />

・ 参 照 するに 当 たっては、 各 々の 国 の 先 住 民 族 の 歴 史 や 現 状 を 踏 まえることが 必 要 。<br />

・アイヌ 政 策 の 根 拠 を 憲 法 の 関 連 規 定 に 求 め、 積 極 的 に 展 開 させる 可 能 性 を 探 ることが 重 要 。<br />

3 政 策 展 開 に 当 たっての 基 本 的 な 理 念<br />

ア アイヌのアイデンティティの 尊 重<br />

・アイヌとしてのアイデンティティを 持 って 生 きることを 積 極 的 に 選 択 し、かつ、その 選 択<br />

に 従 って 自 律 的 に 生 を 営 むことを 可 能 とする 政 策 が 必 要 。<br />

イ 多 様 な 文 化 と 民 族 の 共 生 の 尊 重<br />

・アイヌという 民 族 が 存 在 していることは 極 めて 意 義 深 い。 広 義 の 文 化 の 復 興 へ 配 慮 するこ<br />

とは、 多 様 でより 豊 かな 文 化 を 享 有 できるという 意 味 において 国 民 一 般 の 利 益 にもなる。<br />

ウ 国 が 主 体 となった 政 策 の 全 国 的 実 施<br />

・ 今 後 も、 地 方 公 共 団 体 や 企 業 などの 民 間 による 自 主 的 な 取 組 は 重 要 であるが、 従 来 以 上 に<br />

国 が 主 体 性 を 持 って 政 策 を 立 案 し 遂 行 すべき。 地 方 公 共 団 体 等 との 連 携 ・ 協 働 が 重 要 。<br />

・ 全 国 のアイヌの 人 々を 対 象 とする 政 策 展 開 が 必 要 。<br />

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(2) 具 体 的 政 策<br />

1 国 民 の 理 解 の 促 進<br />

ア 教 育<br />

・ 児 童 ・ 生 徒 の 発 達 段 階 に 応 じた 指 導 方 法 や 教 材 の 研 究 、 指 導 者 研 修 の 実 施 や 教 科 書 の 記 述<br />

の 充 実 など<br />

イ 啓 発<br />

・「アイヌ 民 族 の 日 ( 仮 称 )」の 制 定 による 全 国 的 に 期 間 を 集 中 した 啓 発 活 動 の 実 施 など<br />

2 広 義 の 文 化 に 係 る 政 策<br />

ア 民 族 共 生 の 象 徴 となる 空 間 の 整 備<br />

・アイヌの 文 化 ・ 歴 史 等 に 関 する 教 育 ・ 研 究 ・ 展 示 等 の 施 設 や 大 学 等 に 保 管 されている 遺 骨<br />

の 尊 厳 ある 慰 霊 が 可 能 となる 施 設 の 設 置 など<br />

・これらの 施 設 を 囲 む、 民 族 の 共 生 の 象 徴 となる 空 間 を 公 園 等 として 整 備 など<br />

イ 研 究 の 推 進<br />

・ 中 核 ・ 司 令 塔 的 な 役 割 を 担 う 研 究 機 関 の 整 備 による、 研 究 のネットワーク 化 や 研 究 者 の 育<br />

成 。 中 長 期 的 には 総 合 的 かつ 実 践 的 な 研 究 体 制 へと 発 展 など<br />

ウ アイヌ 語 をはじめとするアイヌ 文 化 の 振 興<br />

・アイヌ 語 ・ 文 化 に 学 び 触 れる 機 会 の 拡 充 、アイヌ 語 の 地 位 向 上 の 取 組 み( 地 名 表 記 等 )<br />

など<br />

エ 土 地 ・ 資 源 の 利 活 用 の 促 進<br />

・ 伝 統 的 生 活 空 間 (イオル)の 拡 充 や 自 然 素 材 の 利 用 に 関 する 調 整 の 場 の 設 置 など<br />

オ 産 業 振 興<br />

・ 工 芸 技 術 の 向 上 、 販 路 拡 大 、アイヌ・ブランドの 確 立 、 観 光 振 興 等 への 支 援 など<br />

カ 生 活 向 上 関 連 施 策<br />

・ 北 海 道 外 のアイヌの 人 々の 生 活 実 態 調 査 を 実 施 し、 必 要 施 策 の 全 国 展 開 の 検 討 ・ 実 施<br />

など<br />

3 推 進 体 制 等 の 整 備<br />

・アイヌ 政 策 を 総 合 的 に 企 画 ・ 立 案 ・ 推 進 する 国 の 体 制 の 整 備<br />

・アイヌの 人 々の 意 見 等 を 踏 まえつつ、アイヌ 政 策 を 推 進 し、 施 策 の 実 施 状 況 等 をモニタリン<br />

グする 協 議 の 場 の 設 置 など<br />

・ 国 会 等 におけるアイヌ 民 族 のための 特 別 議 席 の 付 与 については 憲 法 に 抵 触 すると 考 えられ、<br />

実 施 のためには 憲 法 改 正 が 必 要 となろう。 特 別 議 席 以 外 の 政 治 的 参 画 の 可 能 性 については、<br />

有 効 性 と 合 憲 性 を 慎 重 に 検 討 することが 必 要 な 中 長 期 的 な 課 題 。 同 時 に、アイヌの 総 意 をま<br />

とめる 体 制 づくりが 求 められる。 など<br />

おわりに<br />

・ 報 告 書 で 提 言 している 諸 政 策 を 一 体 的 に 捉 え、 継 続 的 かつ 着 実 に 取 り 組 むことが 強 く 期 待 される。<br />

・ 立 法 措 置 がアイヌ 政 策 を 確 実 に 推 進 していく 上 で 大 きな 意 義 を 有 するものと 考 える。 今 後 の 取 組<br />

を 進 める 中 で、この 点 についても、 検 討 を 求 めたい。<br />

・ 関 係 地 方 公 共 団 体 、 民 間 の 企 業 や 諸 団 体 、さらには 国 民 一 人 ひとりの 理 解 と 共 生 のための 努 力 が<br />

望 まれる。<br />

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