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アイヌ政策のあり方と国民的理解 - 日本学術会議

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6 新 たな 政 策 展 開 に 向 けて<br />

以 下 は、 人 類 学 分 科 会 での 認 識 に 基 づく 考 え 方 と 提 案 である。アイヌ 政 策 のあり 方 に 関<br />

わる 有 識 者 懇 談 会 『 報 告 書 』の 流 れに 沿 うものであるが、 現 在 のアイヌ 政 策 推 進 会 議 で 当<br />

面 の 課 題 に 掲 げられていないものも 含 まれる。<br />

(1) 先 住 民 族 という 認 識 とアイデンティティの 尊 重<br />

アイヌがひとつの 民 族 であることは、 長 らく 学 界 ではほとんどの 研 究 者 の 一 致 すると<br />

ころの 認 識 であった。さらに、 少 なくとも 北 海 道 においては、 和 人 の 移 民 より 前 から 先<br />

住 していたことの 認 識 も 共 有 されている。 江 戸 時 代 から 既 に 松 前 藩 に 従 属 して、 交 易 の<br />

過 程 で 日 本 のさまざまな 物 資 を 生 活 に 用 いていたアイヌ 民 族 はもはや 別 個 の 民 族 では<br />

なく、 辺 境 に 暮 らす 日 本 人 だった、と 主 張 する 人 々もいる。しかし、 全 く 別 な 固 有 の 言<br />

語 を 話 し、 江 戸 時 代 までは、 和 人 の 側 も「 異 文 化 」の 人 という 認 識 を 持 っていた。 狩 猟<br />

採 集 という 生 活 様 式 を 営 んでいたアイヌ 民 族 は、 宗 教 観 念 においても 固 有 のものをもっ<br />

ており、 独 自 の 世 界 を 営 んでいた。 江 戸 期 ・ 明 治 期 を 経 てアイヌ 民 族 が 日 本 社 会 に 取 り<br />

込 まれ、 土 地 を 収 奪 されて、 支 配 下 におさめられていく 過 程 は、 人 類 学 者 がしばしば 海<br />

外 での 調 査 研 究 において 出 会 う 植 民 地 化 の 過 程 に 他 ならず、 本 州 以 南 の 日 本 は 移 民 国 家<br />

ではないが、 北 海 道 においてそうした 移 民 国 家 と 同 じ 体 験 をしたと 考 えてよい。そのよ<br />

うな 学 界 での 認 識 が 政 治 や 行 政 においても 認 められ、 国 民 の 間 でも 一 般 的 な 認 識 に 広 が<br />

ることをわれわれは 切 に 願 う。そしてアイヌの 人 々がアイヌであるというアイデンティ<br />

ティをもつことについても、それを 全 体 社 会 が 尊 重 するのは 大 事 なことであると 考 える。<br />

ただし、かなり 長 い 間 の 差 別 の 歴 史 があり、それによってアイヌの 人 々がさまざまの<br />

レベルのアイデンティティをもっていることについては、 十 分 配 慮 する 必 要 がある。 日<br />

本 人 とさしてかわらぬ 日 常 生 活 を 送 っていることも、アイヌ 語 をほとんど 知 らないこと<br />

もあるし、そのような 多 様 なアイデンティティのあり 方 も 理 解 することが 重 要 である。<br />

アイヌ 政 策 推 進 会 議 が 行 っている 道 外 アイヌの 調 査 においても、 差 別 を 避 けるために 該<br />

当 者 が 関 わりをもちたがらず、そのため 回 答 数 が 予 定 したほどに 集 まらず、 道 外 アイヌ<br />

の 人 々の 実 態 がなかなか 把 握 しにくいのである[4]が、 差 別 があるから 隠 れ、 隠 れるか<br />

ら 実 態 が 見 えにくくさらに 差 別 の 温 床 になる、という 悪 循 環 が 存 在 する 可 能 性 もあり、<br />

今 後 の 検 証 が 必 要 である。アイデンティティの 課 題 については、オーストラリアやカナ<br />

ダ、ニュージーランドなど 他 国 の 経 験 に 学 ぶところが 大 きいはずである。<br />

そして、 先 住 民 族 文 化 としての 認 識 とアイデンティティの 尊 重 を 受 けて、アイヌ 文 化<br />

の 振 興 や 象 徴 空 間 の 構 想 が 進 められる 必 要 がある。<br />

(2) 国 が 主 体 となった 政 策 の 全 国 的 実 施<br />

アイヌ 民 族 が 先 住 民 族 として 蒙 った 剥 奪 や 差 別 の 歴 史 は、 北 海 道 という 一 地 方 で 生 じ<br />

ていたことではあるが、それが 一 地 方 の 決 断 によってなされてきたわけではない。 明 治<br />

以 降 、 政 府 の 一 定 の 方 針 とともに 国 家 的 事 業 として 北 海 道 の 開 発 が 行 われてきた 経 緯 が<br />

ある。さらに、アイヌ 民 族 の 居 住 地 は 全 国 に 広 がっている。 国 が 主 体 となり 政 策 を 全 国<br />

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