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報文 教材としての原生動物(3)―ゾウリムシⅡ

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Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005)115報 文教 材 としての 原 生 動 物 (3)―ゾウリムシⅡ丸 岡 禎*香 川 県 立 丸 亀 高 等 学 校〒763-8512 香 川 県 丸 亀 市 六 番 丁 1 番 地はじめに原 生 動 物 は、 高 等 学 校 「 生 物 」の 教 科 書 において、ごく 限 られた 種 がごく 限 られた 単 元 で 扱 われているのみである( 丸 岡 2003)。そのなかで、ゾウリムシはさまざまな 項 目 でたびたび 登 場 する 点 において 特 異な 存 在 である。「 生 物 Ⅰ」では、 高 度 に 分 化 した 細 胞小 器 官 、 二 分 裂 、 収 縮 胞 による 浸 透 圧 調 節 、 重 力 走 性 、回 避 反 応 、 繊 毛 運 動 などの 項 目 で、「 生 物 Ⅱ」では、ガウゼの 実 験 を 引 用 した 種 間 競 争 、 捕 食 者 ― 被 食 者 関係 、また、 系 統 分 類 の 原 生 生 物 界 の 代 表 種 などの 項 目で 記 載 されている。また、 教 科 書 に「 生 徒 の 実 験 教 材 」として 取 り 上 げられている 原 生 動 物 は、ゾウリムシただ 1 種 である(アメーバさえ 実 験 教 材 として 扱 われていない 現 状 を少 しさびしく 思 う)。そのゾウリムシの 実 験 項 目 として、「 生 物 Ⅰ」では、「 収 縮 胞 による 浸 透 圧 調 節 」が非 常 に 多 くの 教 科 書 で 採 用 されているのに 対 し、 行 動( 泳 ぎ 方 )、 重 力 走 性 、 化 学 走 性 、 細 胞 の 構 造 、 食 胞 形成 、 採 集 、 培 養 については 少 数 の 教 科 書 で 扱 われているだけである。「 生 物 Ⅱ」では、1 社 の 教 科 書 が 課 題研 究 の 一 例 として「ゾウリムシを 用 いたさまざまな 研究 」を 取 り 上 げている。その 内 容 は、 採 集 、 培 養 ( 条件 )、 観 察 法 、 行 動 、 浸 透 圧 調 節 、 消 化 、 接 合 、トリトンモデルによる 繊 毛 運 動 などで、ゾウリムシを 多 目的 な 教 材 生 物 として 扱 っているのが 特 徴 的 である。実 験 教 材 としてのゾウリムシの 取 り 扱 い 方 について、 前 報 ( 丸 岡 2004)では「 採 集 ・ 培 養 ・ 観 察 の 工 夫 」*Corresponding authorTel: +81-877-23-5248Fax: +81-877-23-6013E-mail: nt-maru@mail2.netwave.or.jp(Received: 18 May 2005)および 核 、 食 胞 、トリコシスト、 収 縮 胞 など 種 々の「 細胞 小 器 官 の 観 察 ・ 実 験 」を 中 心 にまとめた。そこで 今回 はその 続 編 として「 行 動 」、「 生 殖 ・ 増 殖 」の 項 目について、その 現 状 と 課 題 を 考 えていきたいと 思 う。なお、ゾウリムシについては 多 くのすぐれた 総 説 、 実験 書 や 報 告 がある。 詳 細 についてはそれらも 参 考 にしてほしい。行 動 の 観 察経 験 から 言 うと、 生 徒 がはじめてゾウリムシを 目にするときは、 想 像 以 上 に 興 味 や 期 待 を 膨 らませているものである。この 気 持 ちを 大 切 にするには、まずは、 活 発 に 動 いているゾウリムシを 見 せるのが 効果 的 である。 最 初 は 肉 眼 で、 大 きさや 形 、 泳 いでいることなどを 確 認 させることで、ゾウリムシがぐっと 身 近 で 現 実 的 な 存 在 になる。 続 いて、すばやく 泳ぎ 回 るゾウリムシの 行 動 を 低 倍 率 でじっくりと 観 察させたい。 回 転 方 向 、 泳 ぐ 軌 跡 、 回 避 反 応 など、 観察 する 視 点 を 与 えることがポイントである。これによって 科 学 的 な 見 方 に 気 づくとともに、 生 きものとしてのゾウリムシへの 興 味 がますます 高 まる。この興 味 づけに 成 功 すれば、 動 きを 抑 制 した 材 料 での 繊毛 運 動 、 収 縮 胞 などの 観 察 にも 意 欲 的 に 取 り 組 むことができるようになる。さて、 現 行 の 教 科 書 では、2~3 社 のものに、 泳ぎ 方 や 障 害 物 の 避 け 方 ( 回 避 反 応 )、 繊 毛 運 動 の 観察 を 取 り 上 げたものがあり、その 観 察 法 についてはすでに 紹 介 した( 丸 岡 2004)。ここでは、 単 なる 観察 から 一 歩 進 めて、 定 性 的 あるいは 定 量 的 な 観 察 ・実 験 を 中 心 に 紹 介 したい。なお、この 分 野 の 総 説 として「 単 細 胞 動 物 の 行 動 」( 内 藤 1990)を 一 読 されることをお 薦 めする。(1) 繊 毛 運 動 と 遊 泳模 式 図 で 見 るゾウリムシは、 平 面 的 で 細 胞 の 周 囲


116 原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 1 繊 毛 打 方 向 と 遊 泳 行 動ゾウリムシの 前 端 を 時 計 の 12 時 方 向 、 後 端 を 6 時 方向 に 定 位 させたとした 場 合 、ふつうの 速 さで 遊 泳 するときは、 繊 毛 打 の 方 向 は 4 時 半 ( 実 線 矢 印 )、 反 対 面は 7 時 半 ( 破 線 矢 印 )となり、 左 回 転 をしながら 前 進遊 泳 し(A)、 全 体 としての 遊 泳 軌 跡 は 左 螺 旋 を 描 くようになる(a)。 容 器 に 機 械 的 なショックを 与 えたり、天 敵 に 追 われたりすると、 繊 毛 打 の 方 向 は 6 時 に 近 くなるとともに(B) 繊 毛 打 頻 度 も 高 くなり、 螺 旋 のピッチが 大 きくなって 速 く 泳 ぐようになる(b)。 細 胞 膜 の脱 分 極 により 繊 毛 打 方 向 が 逆 転 し 12 時 近 くになると、左 回 転 しながら 後 退 遊 泳 し(C)、 全 体 としては 右 螺 旋の 遊 泳 軌 跡 を 描 く(c)。ほとんど 前 後 に 動 くことなく、 後 端 を 支 点 に 大 きく 前 端 を 右 回 転 させる、いわゆる“ 首 振 り 運 動 ”(d)は、 障 害 物 をさけるときなどにしばしば 観 察 される 行 動 で、このとき 繊 毛 打 はちょうど 3 時 方 向 であるため、 前 後 への 推 進 力 はなく 回 転 力のみ 生 じている(D)。表 11/60M CaCl2 1/40M KCl ゾウリムシの 行 動 (22℃)1( 滴 ) 15( 滴 )約 40 秒 間 直 線 的 に 後 退 → 停 止 して、 後 端 を 支 点 に 約 20 秒 間 時 計 回 りに 大 きく首 振 り 回 転 → 大 きく 首 を 振 りながらゆっくり 前 進 し、やがて 普 通 の 前 進 遊 泳に 戻 る2 14約 15~20 秒 間 少 し 首 を 振 りながらであるが 直 線 的 に 後 退 → 停 止 して、 約 10秒 間 大 きく 首 振 り 運 動 →40~60 秒 後 に 普 通 の 前 進 遊 泳 に 戻 る4 12約 7~8 秒 間 後 退 → 停 止 して3~5 秒 間 大 きく 首 振 り 運 動 →15~20 秒 後 に 普 通の 遊 泳 に 戻 る8 8 1~2 秒 間 、 停 止 した 状 態 で 少 し 大 きく 首 を 振 る→ 普 通 の 前 進 遊 泳 に 戻 る12 4 対 照 と 見 かけ 上 同 じ 前 進 遊 泳 、 障 害 物 に 当 たると 普 通 に 回 避 反 応 も 起 こる16 0 同 上表 21/60M CaCl2 1/40M BaCl2 ゾウリムシの 行 動 (22℃)12( 滴 ) 4( 滴 )自 発 性 方 向 変 換 が 頻 繁 (1~2 秒 ごと)におこるが、 後 退 遊 泳 の 継 続 時 間 は 短く、 前 進 と 後 退 のピストン 運 動 を 行 う8 8試 験 液 に 移 した 直 後 は 少 し 後 退 するが、 前 進 遊 泳 をはじめ、 比 較 的 高 い 頻 度で 自 発 性 方 向 転 換 ( 約 10 秒 の 直 線 的 後 退 遊 泳 )をする4 12 ほぼ 同 上2 140 16かなり 長 時 間 (20~60 秒 間 ) 後 退 遊 泳 を 継 続 後 、 自 発 的 方 向 変 換 は 少 なく、普 通 の 前 進 遊 泳 に 戻 る試 験 液 に 移 した 瞬 間 はゆっくりと 首 振 り 運 動 をするが、15~30 秒 後 に 運 動 を停 止 する


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005)117図 2 回 避 行 動1 前 端 が 障 害 物 に 触 れると 繊 毛 打 が 逆 転 して 後 退 する。2 停 止 して“ 首 振 り 運 動 ”を 行 い 方 向 転 換 する。3 再 び 前 進 遊 泳 をする。にだけ 繊 毛 が 描 かれているので、ゾウリムシは 扁 平でその 周 りにだけ 繊 毛 が 生 えているという 印 象 を持 っている 高 校 生 も 少 なくない。しかし、 実 際 のゾウリムシは 立 体 的 で、その 表 面 にはほぼ 一 様 に 約 1万 ~ 1 万 5000 本 の 繊 毛 が 生 えている。1 本 の 繊 毛 は、 推 進 力 を 生 み 出 す「 有 効 打 」と 有 効打 開 始 の 位 置 に 戻 るための「 回 復 打 」とを 繰 り 返す。 繊 毛 運 動 を 生 徒 に 顕 微 鏡 観 察 させる 場 合 は、スライドガラス 上 に 粘 性 の 高 いメチルセルロース 400の 2% 溶 液 を 1 滴 落 とし、その 中 央 にできるだけ 少 ない 液 とともにゾウリムシを 入 れ、カバーガラスをかけて 検 鏡 する。この 場 合 、 絞 りなどの 照 明 を 工 夫 しながら 繊 毛 運 動 が 見 やすいようにする。 繊 毛 1 本 1本 は 非 常 に 細 く 短 いので 観 察 しにくいが、 隣 接 する繊 毛 の 位 相 が 少 しずつずれている(ちょうど 風 になびく 稲 穂 のように)ので、 繊 毛 の 先 端 の 描 く 波 形( 繊 毛 波 )はよく 観 察 できる。遊 泳 行 動 を 観 察 するには、たとえば、スライドガラス 上 に 脱 脂 綿 の 繊 維 をごく 少 量 載 せてゾウリムシを 含 む 培 養 液 を 1 ~ 2 滴 加 え、40 ~ 100 倍 の 低 倍 率で 行 う。 観 察 のポイントは、1 細 胞 の 回 転 方 向 、2遊 泳 軌 跡 、3 回 避 反 応 などである。 普 通 の 速 さ(1~ 1.5 mm/s 程 度 )で 前 進 遊 泳 をしているゾウリムシの 有 効 打 は、 仮 にゾウリムシの 前 端 を 時 計 の 12 時 、後 端 を 6 時 に 定 位 させたとき、おおよそ4 時 半 ( 反対 面 は 7 時 半 )の 方 向 である。このため、 前 進 する力 とともにトルクが 生 じるので 後 端 側 から 見 ると 左回 転 をしながら 前 進 する( 図 1 - A)。さらに、 細胞 が 左 右 非 対 称 であることや 細 胞 口 の 繊 毛 が 生 み 出す 力 などが 作 用 して、 全 体 としての 遊 泳 軌 跡 は、 後方 から 見 た 場 合 、ゆるやかな 左 螺 旋 (ピッチ 約 2mm、 幅 約 0.5 mm)を 描 くようになる( 図 1 - a)。また、ゾウリムシを 入 れた 器 に 軽 く 機 械 的 ショックを 与 えると、ゾウリムシの 泳 ぐ 速 度 は 一 斉 に 増 加し、 螺 旋 のピッチは 大 きく、 幅 は 小 さくなる( 図1 - B, b)。これは 細 胞 後 端 が 極 めて 機 械 的 刺 激 に 敏感 で、 細 胞 膜 の 過 分 極 を 引 き 起 こし、 繊 毛 打 方 向 が6 時 に 近 くなるとともに 繊 毛 打 頻 度 も 高 くなって、前 進 遊 泳 速 度 が 大 きくなるからである。これを“ 逃走 反 応 ”といい、ディディニウムなどの 天 敵 に 襲 われたときに 役 立 つと 考 えられている。 障 害 物 にぶつかったときは、“ 回 避 反 応 ”と 呼 ばれる 行 動 を 示 す( 図 2)。これは、 先 端 が 障 害 物 に 触 れたときの 機 械的 刺 激 によって 細 胞 膜 の 脱 分 極 が 引 き 起 こされ、そのため 繊 毛 打 が 逆 転 して 後 退 遊 泳 を 行 い( 図 1 - C,c、 図 2 -1)、 細 胞 膜 の 活 動 電 位 がしだいに 静 止 電位 に 戻 るにつれて、 後 退 を 停 止 させて 細 胞 後 端 を 支点 に 首 を 大 きく 右 回 転 させて( 図 1 - D, d、 図 2 -2) 方 向 を 転 換 し、ついには 元 どおり 前 進 遊 泳 する( 図 2 -3)というものである。なお、 後 退 遊 泳 は、特 に 障 害 物 にぶつからなくても、 前 進 遊 泳 の 最 中 にときどき 自 発 的 におこり、これは“ 自 発 性 方 向 変換 ”と 呼 ばれている。(2) 外 液 組 成 による 繊 毛 逆 転 反 応ゾウリムシは“ 泳 ぐ 神 経 細 胞 ”と 比 喩 されるように、 細 胞 膜 の 興 奮 ( 活 動 電 位 )が 繊 毛 逆 転 ( 有 効 打の 方 向 が 12 時 に 近 くなる)を 引 き 起 こす。すなわち、 細 胞 膜 が 何 らかの 原 因 で 脱 分 極 をおこすと、 脱分 極 感 受 性 Ca 2+ チャネルが 開 いて Ca 2+ イオンの 細 胞内 への 流 入 が 起 こり、それが 繊 毛 打 の 逆 転 を 生 じさせ、 結 果 として、ゾウリムシの 後 退 遊 泳 や 回 避 反 応あるいは 走 性 などの 行 動 となる。 神 経 細 胞 とゾウリムシでは、 活 動 電 位 の 生 じる 原 因 が Na + イオンの 流入 によるか、Ca 2+ イオンの 流 入 によるかという 相 違点 はあるが、 基 本 的 に 同 じ 原 理 である。そこで、 外液 のイオン 組 成 を 変 えることにより、 脱 分 極 を 引 き起 こしたり、Ca 2+ チャネルに 影 響 を 与 えたりするこ


118原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 3 手 回 し 遠 心 器 による 洗 浄 方 法培 養 器 からゾウリムシを 遠 心 管 に 移 し、 手 回 し 遠 心 器 で 細 胞 を 沈 めてから 上 澄 みを 捨 てる。実 験 液 を 加 え、 前 述 の 操 作 を 3 回 ほど 繰 り 返 す。とができるので、 遊 泳 行 動 の 変 化 が 観 察 できる( 見上 ・ 小 泉 1977、 丸 岡 1980、 石 原 ・ 山 上 1983、 大 阪大 学 および 小 倉 明 彦 のホームページ )。外 液 の Ca 2+ /K + 比 を 変 化 させると、 低 濃 度 の Ca 2+ 、高 濃 度 の K + 存 在 下 で 後 退 遊 泳 が 起 こることがわかる。 実 験 としては、まず、ゾウリムシを 手 回 し 遠 心器 を 用 いて 対 照 液 で 3 度 洗 い( 図 3)、その 液 に 10分 以 上 順 応 させておいた。 対 照 液 にはミネラルウォータ“ 六 甲 のおいしい 水 ”(0.74mM Na + 、0.21mM Mg 2+ 、0.63mM Ca 2+ 、0.01mM K + 、pH7.4)を用 いた。 実 験 液 としては、1/60 M CaCl 2 、1/40 M KClを 用 意 した。 生 徒 実 験 では、 試 験 液 の 調 整 に 際 し、正 確 さに 難 はあるものの、 手 間 を 省 くことができる次 の 方 法 によった。すなわち、 前 述 の Ca 液 と K 液を 市 販 のパスツールピペットでそれぞれ 吸 い 取 り、いろいろな 比 で 時 計 皿 に 滴 下 した 後 、 時 計 皿 をよく回 転 して 液 を 十 分 に 撹 拌 した。 実 体 顕 微 鏡 下 で、この 試 験 液 にできるだけ 少 ない 液 とともにゾウリムシを 添 加 し、 直 に 行 動 を 観 察 した。そして、1 後 退 継続 時 間 、2 首 振 り 運 動 継 続 時 間 、3 元 の 前 進 遊 泳 に戻 るまでの 経 過 時 間 などをストップウォッチで 測 定するとともに 気 のついたことを 記 録 させた。その 結果 ( 表 1)から、 外 液 の Ca 2+ /K + 比 によって 膜 電 位 が段 階 的 に 変 化 したため、それが 行 動 の 変 化 となって現 れていることを 明 瞭 に 推 察 できた。次 に 発 展 的 に、Ca 2+ チャネルの 阻 害 剤 である Co + イオンの 効 果 を 確 かめるため、 上 記 実 験 の Ca 2+ /K + =4/12 液 に 1/20 M CoCl 2 を 1 ~ 2 滴 添 加 し 試 験 液 とした。すると、 後 退 遊 泳 をせずに 1 ~ 3 秒 間 の 首 振 り運 動 をし、やがて 正 常 な 前 進 遊 泳 に 戻 るのが 観 察 された。これは Ca 2+ /K + = 8/8 試 験 液 での 反 応 と 同 程 度である。このことから、Co + イオンの Ca 2+ チャネル 阻害 効 果 が 確 認 できたと 考 えている。また、ゾウリムシを Ba 2+ を 含 む 液 に 入 れると、 周期 的 に 繊 毛 逆 転 を 起 こして 前 進 と 後 退 を 繰 り 返 す“バリウム・ダンス”をすることが 知 られている。これは Ba 2+ イオンは Ca 2+ チャネル 活 性 剤 で、Ca 2+ イオンよりも Ca 2+ チャネルを 通 りやすいため、 正 常 では 段 階 的 な 活 動 電 位 を 生 じる 細 胞 膜 が「 全 か 無 かの法 則 」に 従 うようになることが 原 因 で 起 こる。そこで、 前 述 方 法 で Ca 2+ / Ba 2+ 比 の 異 なる 試 験 液 における行 動 を 調 べてみた( 表 2)。 生 徒 にバリウム・ダンスのおこるしくみを 理 解 させるのはなかなか 難 しいことではあるが、イオン・チャネルに 興 味 をもたせる 現 象 として 利 用 できそうである。


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005)119図 4 化 学 走 性 の 方 法 と 酢 酸 溶 液 での 結 果A : 上 から 試 験 液 を 滴 下 する 方 法 B :カバーガラスの 間 からミクロピペットの 先 を 挿 入 する 方 法C : 中 央 に 試 験 液 を 染 み 込 ませた 丸 いろ 紙 を 置 く 方法 A ~ C : 左 0.2%、 右 0.02%。図 5 0.2% 酢 酸 溶 液 のまわりに 集 合 するしくみ中 央 に 0.2% 酢 酸 をおくと 周 辺 に 拡 散 し 濃 度 勾 配 が生 じる。ゾウリムシは、 飼 育 水 から 周 辺 の 希 薄 な 領域 に 侵 入 するときは 回 避 反 応 を 起 こさないが、ある程 度 の 濃 い 領 域 に 接 すると 回 避 反 応 を 起 こし、 次 には 希 薄 な 領 域 と 飼 育 水 の 境 界 でも 回 避 反 応 を 起 こすため、 結 果 として 周 辺 の 狭 い 領 域 に 閉 じ 込 められることになる。(3) 走 性一 般 に、「 走 性 」(タキシス、taxis)とは、 動 物が 刺 激 源 に 対 して 定 位 しながら 移 動 することをいう。しかし、ゾウリムシの 場 合 、 異 なる 環 境 条 件 下( 化 学 組 成 、 照 度 、 温 度 、pH など)やその 境 界 で 起こる 回 避 反 応 や 逃 走 反 応 、 定 常 的 な 前 進 遊 泳 速 度 や自 発 性 方 向 変 換 頻 度 の 変 化 が 原 因 で、 分 布 に 片 寄 りが 起 こる「 集 合 」(カイネシス、kinesis)を 含 め、広 い 意 味 で 走 性 として 扱 っている。そのうち、 高 校 生 物 教 科 書 の 実 験 項 目 としては、酢 酸 を 刺 激 源 とする“ 化 学 走 性 ”と 培 養 液 の 上 層 に集 合 する“ 重 力 走 性 ”が、 数 社 によって 取 り 上 げられている。生 理 実 験 を 行 う 場 合 、 試 料 の 条 件 を 一 定 にするため、 研 究 者 は 対 照 液 として 標 準 塩 溶 液 を 用 いる( 楠元 ・ 内 藤 1981)が、 学 校 に 普 及 している“ 稲 わら 培養 液 ”(10 g わら/1 lミネラルウォーター)はこれよりもかなり 低 張 なため、 培 養 液 から 直 にこの 液 に 移すと 細 胞 が 大 きくダメージを 受 ける。したがって、筆 者 は 標 準 液 を 必 要 とする 場 合 は、 培 養 用 ミネラルウォーターを 用 いている。また、 生 徒 実 験 であまり厳 密 性 を 問 わない 場 合 は、 培 養 液 をそのまま 用 いることも 多 い。なお、 標 準 液 で 洗 う 場 合 や 細 胞 密 度 の高 い 試 料 を 用 意 する 場 合 は、 手 回 し 遠 心 器 を 利 用 すると 便 利 である( 図 3)。化 学 走 性実 験 方 法 としては、1スライドガラス 上 にゾウリムシ 培 養 液 をうすく 広 げ、その 中 央 にミクロピペットで 試 験 液 を 滴 下 する 方 法 ( 図 4 - A)、2ビニルテープを 4 枚 ほど 張 り 重 ねたもので 両 端 に 枕 を 作 ってカバーガラスをかけ、その 隙 間 からミクロピペットの 先 端 を 挿 入 し 中 央 付 近 に 試 験 液 を 注 入 する 方 法( 図 4 - B)、3 事 務 用 パンチでろ 紙 に 穴 を 開 け、 打ち 抜 いた 丸 いろ 紙 に 試 験 液 を 染 み 込 ませて 中 央 におき、カバーガラスをかけて 観 察 する 方 法 ( 図4 - C)などがある。教 科 書 や 簡 単 な 実 験 書 には、 試 験 液 として 希 薄 な酢 酸 溶 液 を 用 いているものが 多 い。0.2% 酢 酸 溶 液 では、 液 をおいた 場 所 から 少 しはなれたところにリング 状 に 集 まり、0.02%では 酢 酸 溶 液 の 中 に 集 合 する( 図 4 - A ~ C いずれも 左 0.2%、 右 0.02%)。このような 分 布 の 片 寄 りの 原 因 としては、1 境 界 で 回避 反 応 が 起 こるかどうか、2 液 中 での 遊 泳 速 度 が 速いかどうか( 遅 い 液 のほうに 存 在 する 確 率 が 高 くなる)、3 自 発 性 方 向 変 換 頻 度 の3つが 考 えられるが( 楠 元 ・ 内 藤 1981)、 酢 酸 溶 液 の 場 合 は 液 の 境 界 面で 起 こる 回 避 反 応 が 主 な 理 由 である。たとえば、


120 原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 6 旧 生 物 教 科 書 に 記 載 されていた 電 気 走 性 の 観 察 装 置 の 例0.2% 酢 酸 溶 液 を 中 央 におくと 周 辺 への 拡 散 のために濃 度 勾 配 が 生 じるが、ゾウリムシは 周 辺 部 の 飼 育 水から 酢 酸 の 薄 い 領 域 に 侵 入 するときには 回 避 反 応 を示 さない。ところが、ある 程 度 濃 い 領 域 に 接 するとその 境 界 で 回 避 反 応 を 示 し、また、 薄 い 領 域 から 飼育 水 に 接 する 境 界 付 近 でも 回 避 反 応 を 起 こす。このため、 結 果 としてその 狭 い 領 域 から 出 られなくなり、 周 辺 にリング 状 に 集 まるように 観 察 されるのである( 図 5)。観 察 は 10 ~ 40 倍 程 度 の 低 倍 率 で 行 うのが 普 通 であるが、 光 の 加 減 を 工 夫 したり、 黒 い 下 敷 きなどを下 に 敷 くことで 肉 眼 でもはっきりと 観 察 できる。 結果 をはっきりと 識 別 するには、 細 胞 を 濃 縮 させるなどして 密 度 の 高 い 試 料 を 用 意 するのがコツである。また、 図 5 に 示 したような 化 学 組 成 の 異 なる 液 の 境界 における 回 避 反 応 を 詳 しく 観 察 するには、 図4 - B, C のようにカバーガラスをかけた 方 がよい。他 の 実 験 報 告 例 としては、0.1% NaCl 溶 液 ( 負 の 走性 )やカリウムイオン 濃 度 の 異 なる 液 についての 比較 データ、カルシウム、ナトリウム、 砂 糖 水 などを用 いることを 示 唆 したもの( 石 田 ・ 佐 藤 1958、 楠元 ・ 内 藤 1981)、また、ガラス 細 管 の 毛 細 管 現 象 を利 用 し、まず 一 端 を 浸 して 高 密 度 のゾウリムシが入 った 培 養 液 を 半 分 まで 入 れ、 続 いて 同 じ 端 を 酢 酸溶 液 などの 試 験 液 につけて 残 り 半 分 を 満 たし、10 分ほど 静 置 してどちらに 集 まるかを 観 察 する 方 法 ( 石原 ・ 山 上 1983)がある。篠 原 (1975)は、 走 性 と 実 験 液 の 種 類 ・pH との 関係 を 詳 細 に 調 べ、 発 展 的 な 内 容 を 報 告 している。すなわち、0.2% 酢 酸 にコンゴーレッドを 添 加 したものでは、 中 心 の 青 い 部 分 と 周 辺 の 赤 い 部 分 の 境 界 にゾウリムシが 集 まった(この 場 合 、コンゴーレッドの変 色 域 から pH を 知 ることができる)。また、 化 学 走性 が 反 対 になる 濃 度 境 界 を 調 べたところ、0.1 ~0.06% 酢 酸 (pH 3.38 ~ 3.90)で 負 、0.04 ~ 0.01%(pH 3.91 ~ 4.05)で 正 の 走 性 を 示 した。 炭 酸 ナトリウム 0.1 ~ 0.04%(pH 11.48 ~ 11.29)は 負 、0.02 ~0.01%(pH 11.01 ~ 10.2)では 正 の 走 性 を 示 した。 塩化 ナトリウム 0.1%(pH 5.60)は 負 、0.05%(pH6.08)では 正 、0.025%(pH 6.08)では 化 学 走 性 の 反応 はほとんど 見 られなかった。このことから、 単 にpH に 対 して 反 応 が 起 こっているのではなく、 化 学 成分 が 影 響 していることを 指 摘 している。また、ゾウリムシは 酢 酸 を 用 いたとき、pH 5.4 ~ 6.4 に 正 の 化 学走 性 を 示 すという 報 告 もある( 小 幡 ・ 桧 垣 1979)。電 気 走 性ゾウリムシは 直 流 電 圧 をかけると 陰 極 に 向 かう。


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005)121図 9 生 徒 による 電 気 走 性 の 定 量 的 実 験 のようす図 7 電 気 走 性 のしくみ直 流 電 圧 がかかると 陰 極 側 の 繊 毛 打 方 向 は 逆 転し、 陽 極 側 の 繊 毛 打 は 強 められる。1 のように 陽極 側 に 向 いていても、 次 の 瞬 間 には 破 線 矢 印 のどちらかの 方 向 に 体 が 振 れることになる。 仮 に 上 方向 に 振 れた 場 合 (2 ~ 4)、 体 の 左 右 の 推 進 力 ( 実線 矢 印 )の 差 により 陰 極 に 向 かう 回 転 トルクが 生じ、ついには 陰 極 に 向 く。5 では 前 半 の 繊 毛 は 逆転 するが、 後 半 の 繊 毛 の 推 進 力 が 勝 るので 陰 極 に向 かって 前 進 する。図 8 自 作 した 電 気 走 性 の 実 験 装 置そこで、これを 負 の 電 気 走 性 というが、 他 の 走 性 とは 概 念 が 異 なっていることに 留 意 する 必 要 がある。かつては、 定 性 的 あるいは 定 量 的 実 験 のための 装 置がいくつかの 教 科 書 に 紹 介 されていたが( 図 6)、現 行 「 生 物 Ⅰ」 教 科 書 ではまったく 扱 われていない。電 気 走 性 のしくみは 次 のように 説 明 できる。 細 胞膜 が 陰 極 側 で 脱 分 極 、 陽 極 側 で 過 分 極 するため、 陰極 に 面 している 繊 毛 は 繊 毛 打 が 逆 転 し、 陽 極 に 面 している 繊 毛 は 繊 毛 打 の 頻 度 が 増 す。そのため、 細 胞の 左 側 と 右 側 で 生 じる 推 進 力 に 差 ができ、 回 転 トルクを 生 じて 陰 極 に 向 く。 陰 極 側 に 向 いたゾウリムシは、 陰 極 側 の 繊 毛 逆 転 による 後 進 力 よりも 後 半 部 の繊 毛 による 前 進 力 が 勝 るため、ついには 陰 極 に 向かって 泳 ぐことになる( 図 7)。このように、 生 徒に 細 胞 膜 の 電 気 興 奮 性 から 電 気 走 性 のしくみを 説 明することで、 単 なる 現 象 の 面 白 さに 留 まらず、より知 的 な 関 心 を 引 き 出 すことができると 考 える。筆 者 ( 丸 岡 1984)は 電 気 走 性 の 実 験 のため、スライドガラスにリード 線 をはんだ 付 けした 白 金 線 電 極(0.3mm 径 、 電 極 間 距 離 は 3cm)とアクリルの 細 い 棒枠 をエポキシ 系 接 着 剤 で 取 り 付 けプール 状 にしたもの、およびスチロール 樹 脂 の 箱 に 3V 電 池 、ON - OFF および 電 極 リバース・スイッチを 組 み 込んだ 電 源 装 置 を 作 製 した( 図 8)。この 装 置 では、定 性 的 実 験 は 肉 眼 ( 黒 い 下 敷 きを 敷 くと 見 やすい)で、 定 性 的 及 び 定 量 的 実 験 は 光 学 顕 微 鏡 下 で 観 察 が可 能 である。 定 量 的 実 験 では、 直 流 電 源 装 置 ( 乾 電池 を 6 ~ 8 個 でもよい)を 用 意 し、 電 圧 を 変 化 させたときの 遊 泳 速 度 とリバース・スイッチを 切 りかえたときの 方 向 転 換 に 要 する 時 間 がどのように 変 化 するかを 生 徒 に 調 べさせた( 図 9)。 遊 泳 速 度 の 測 定では、スライドガラスの 下 に OHP 用 透 明 方 眼 紙 を 敷


122原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 10 電 圧 と 遊 泳 速 度 の 関 係 ( 生 徒 実 験 の 例 )図 11 電 圧 と 方 向 転 換 に 要 する 時 間 の 関 係 ( 生 徒実 験 の 例 )いて 2 mm を 泳 ぐのに 要 する 時 間 を 測 定 した。 実 験に 際 して 厳 密 さを 要 求 するならば、1 組 成 のわかった 塩 類 溶 液 を 用 いる、2 長 時 間 通 電 すると“ 慣 れ”や 電 気 分 解 の 影 響 がでるので 通 電 時 間 を 短 くしたりゾウリムシを 途 中 で 取 り 替 えるなどの 配 慮 が 必 要 である。生 徒 実 験 の 結 果 を 図 10 及 び 11 に 示 した。 実 験 液として 0.01%クノップ 液 (0.24 mM Ca(NO 3 ) 2 , 0.14mM KNO 3 , 0.06 mM MgSO 4 , 0.08 mM K 2 HPO 4 )を 用い、 室 温 28℃で 行 った。 遊 泳 速 度 および 方 向 転 換 に要 する 時 間 の 測 定 を、 各 電 圧 7 個 体 ずつ 実 施 するのに 約 2 時 間 を 要 した。 遊 泳 速 度 は、 電 圧 を 次 第 に 高めていくとあるところまでは 遊 泳 速 度 が 増 すが、さらに 高 くすると 繊 毛 逆 転 領 域 が 広 くなっていくので首 を 大 きく 振 りながら 前 進 し、 結 果 としては 遊 泳 速度 が 遅 くなる。 生 徒 の 結 果 ( 図 10)でそのことが 明瞭 でないのは、 個 体 差 やばらつきが 多 いのが 原 因 であろう。したがって、データー 数 を 多 くするなどの工 夫 が 必 要 であると 同 時 に、 速 度 測 定 だけでなく、各 電 圧 での 泳 ぎの 様 態 も 詳 しく 観 察 し 記 録 するなどすると、さらに 考 察 が 深 まるものと 思 われる。それに 対 し、 方 向 転 換 に 要 する 時 間 は、 電 圧 とともに 短くなりばらつきも 少 ない 結 果 になっている( 図11)。これは、 回 転 トルクが 電 圧 に 比 例 して 大 きくなることを 表 していると 考 えられる。他 の 電 気 走 性 実 験 の 報 告 としては、ガラス 管 を 利用 した 装 置 によるもの( 石 原 ・ 山 上 1983)、スライドガラスを 2 枚 はり 合 わせて 水 槽 様 の 容 器 を 作 りスライド・プロジェクターで 全 員 で 観 察 する 装 置 を 工夫 したもの( 石 野 道 男 ほか 1972)、また、ミドリゾウリムシの 緑 色 に 注 目 し、 白 い 紙 を 下 に 敷 いて 陰 極に 移 動 する 様 子 や 電 極 付 近 が 緑 色 になることを 肉 眼で 直 接 観 察 するもの( 高 野 1986) がある。図 12 重 力 走 性 を 調 べるための 器 具 内 径 4 mmのガラス 管 の 一 端 を 閉 じて 試 験 管 様 にし、 正 立 したものと 倒 立 したものを 2 本 1 組 で 利 用 することで、 重 力 走 性 か 酸 素 に 対 する 化 学 走 性 かを 考 えさせる。スタンドは 針 金 を 曲 げて 作 製 した。重 力 走 性ゾウリムシの 走 性 実 験 が 少 ない 中 で、3 社 の 教 科 書が 重 力 走 性 を 取 り 上 げ、 探 究 的 に 考 察 させようとしているのは 特 徴 的 である。まず、「 培 養 器 ではどうして 上 層 に 集 まるか?」の 問 題 提 起 をし、1 酸 素 仮説 ( 酸 素 に 対 する 正 の 化 学 走 性 )、2 浮 力 仮 説 ( 比重 が 水 よりも 小 さいことによる)、3 重 力 走 性 仮 説などを 考 察 させる。1については、 試 験 管 に 空 気 が入 らないように 液 を 満 たしゴム 栓 をしても 上 方 に 集まること、2については、 手 回 し 遠 心 器 で 沈 むことや NiCl 2 、エタノールで 運 動 を 停 止 させると 下 方 に 沈むことの 検 証 実 験 から 可 能 性 を 否 定 し、 重 力 仮 説 は重 力 のない 宇 宙 空 間 やスペースシャトルなら 確 認 が可 能 であることが 述 べられている。また、ケーラーの 実 験 ( 鉄 粉 を 食 べさせ、 磁 石 でひきつけると 反 対


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005)123図 13 重 力 走 性 に 及 ぼす 培 養 日 数 の 影 響 A : 培養 4 ヶ 月 のもの B : 培 養 10 日 目 のもの( 黒 い 点はゾウリムシの 分 布 を 示 す)図 14 重 力 走 性 による 時 間 的 分 布 変 化 細 胞 密 度がやや 高 密 度 な 方 (A)は 分 布 状 態 が 平 衡 に 達 するのに 20 ~ 30 分 、やや 低 密 度 な 方 (B)では 10 ~15 分 を 要 した。方 向 へ 泳 ぐ)を 紹 介 したり、1でゴム 栓 をした 際 にゴムの 成 分 に 集 まる 可 能 性 や 光 走 性 の 関 与 などを 検討 させているものもある。同 様 に 生 徒 に 仮 説 を 立 てさせる 実 験 を、 石 野 ら(1972) は 次 のように 報 告 している。1 比 重 仮 説 の 検証 : 行 動 観 察 をすると、 浮 力 によってスーとはまっすぐに 浮 いてくることはなく、 再 び 下 まで 下 がることもある。また、 遠 心 分 離 機 で 沈 むし、ゾウリムシの 死 体 も 水 底 に 沈 む。2 空 気 ( 酸 素 ) 仮 説 の 検 証 :U 字 管 、 二 又 試 験 管 などの 使 用 で 検 証 できる。3“ 上 方 にえさがあるため”の 検 証 : 餌 を 含 まない 塩類 溶 液 を 利 用 する。4 水 圧 仮 説 の 検 証 : U 字 管 、 二又 試 験 管 を 用 いた 実 験 から 水 圧 の 可 能 性 は 残 る。重 力 走 性 のしくみは、まだ 十 分 には 解 明 されていない。もちろん 無 重 力 では 重 力 走 性 は 見 られず、その 閾 値 は 0.3 G(G : 重 力 加 速 度 )であることがわかっている。 重 力 走 性 の 要 因 の 一 つは、 物 理 モデルで 説 明 されている。すなわち、1 比 重 - 浮 力 モデルでは 重 心 が 細 胞 のやや 後 方 にあることにより、2 抵抗 モデルでは 細 胞 の 形 状 において 後 方 が 太 いために上 向 きトルクを 生 じるというものである。ニッケルイオンで 麻 酔 して 運 動 を 止 めたゾウリムシは、 通 常のゾウリムシよりも 比 重 の 小 さい 液 体 中 では 後 端 を下 に 沈 降 するが、パーコールという 薬 品 で 液 体 の 比重 をゾウリムシよりも 少 し 大 きくした 液 中 では、ゾウリムシは 前 端 を 下 にして 浮 上 する。 実 際 、 生 きたゾウリムシは 高 密 度 実 験 液 では 正 の 重 力 方 向 を 示す。この 現 象 は 比 重 - 浮 力 モデルでは 説 明 できないので 抵 抗 モデルを 支 持 していることになる。 重 力 走性 のもう 一 つの 要 因 は 生 理 学 モデルである。1 ~ 5 Gの 幅 で 重 力 を 変 化 させてゾウリムシの 遊 泳 速 度 を 調べると、 重 力 依 存 性 で 推 進 力 を 調 節 する 性 質(gravikinesis)を 持 つことがわかった。 実 際 の 観 察 でも、 上 向 きのときは 遊 泳 速 度 が 速 く、 下 向 きのときは 遊 泳 速 度 が 遅 い。また、 自 発 的 方 向 変 換 頻 度 も 下向 きのときのほうが 高 い。このことは 上 向 きでは 過分 極 、 下 向 きでは 脱 分 極 していることを 示 唆 している。ゾウリムシの 前 端 と 後 端 の 距 離 がせいぜい 250µm なので、この 原 因 を 静 水 圧 差 ( 通 常 の 機 械 刺 激の 1 万 分 の 1 程 度 )による 機 械 的 刺 激 受 容 電 位 としては 考 えにくく、 特 殊 な 総 合 メカニズムを 持 っている 可 能 性 がある( 最 上 ら 1995)。筆 者 は 生 徒 実 験 のために、 定 性 的 および 定 量 的 に重 力 走 性 を 調 べる 用 具 を 工 夫 した( 丸 岡 1990)。 酸素 に 対 する 正 の 化 学 走 性 の 可 能 性 を 検 証 するための方 法 としては、 空 気 が 入 らぬように 試 験 管 をゴム 栓で 密 閉 する 方 法 が 教 科 書 などに 紹 介 されているが、実 際 に 試 してみると、ゾウリムシ 培 養 液 がたくさん要 ることやゾウリムシが 肉 眼 で 観 察 しにくいこと、


124 原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 16 ゾウリムシ 2 種 の 重 力 走 性図 17 光 走 性 の 実 験図 15 重 力 走 性 の 定 量 的 実 験 のための 装 置また、 空 気 を 入 れずにゴム 栓 をするのは 結 構 難 しいことなどの 欠 点 があることがわかった。そこで、 細いガラス 管 ( 内 径 4 mm、 長 さ 10 cm)の 一 端 を 加 熱して 封 じ、 試 験 管 様 のものを 作 って 2 本 1 組 で 使 用することとした(これより 細 いガラス 管 は 正 の 接 触走 性 のためか 重 力 走 性 を 示 さなくなり、これより 太くすると 逆 さにしたとき 液 がこぼれだす)。ガラス管 にゾウリムシ 培 養 液 を 入 れるときは、 管 が 細 いために 液 が 入 りにくい。そこで、ガラス 管 の 底 に 届 く程 度 に 先 端 を 長 く 引 き 伸 ばしたミクロピペットを 用意 すると 便 利 である。予 備 実 験 として、 培 養 日 数 の 影 響 を 見 るために、稲 わら 培 養 液 で 培 養 4 ヶ 月 目 のものと 10 日 目 のものでまず 比 較 した。 透 明 ビンを 利 用 して 培 養 をしている 経 験 では、 細 胞 は 培 養 10 日 目 では 培 養 器 上 層 に 多く、 培 養 4 ヶ 月 目 では 底 に 沈 んでいる。そのことから 予 想 したように、 培 養 4 ヶ 月 目 のゾウリムシはやはり 重 力 走 性 を 顕 著 に 示 さなかった( 図 13)。 両 方のゾウリムシをニュートラルレッドで 染 色 して 調 べたところ、 培 養 10 日 目 のものは 細 胞 内 に 多 く 食 胞 を形 成 し 細 胞 が 丸 みを 帯 びていたのに 対 し、4 ヶ 月 目のものは 食 胞 も 少 なくやせていた。 次 に、 重 力 走 性を 判 別 するにはどのくらい 時 間 を 要 するか 調 べた。培 養 10 日 目 のゾウリムシを 用 意 し、 細 胞 密 度 のことなる 条 件 で 比 較 した。その 結 果 、 細 胞 密 度 はあまり高 くないほうが、 肉 眼 で 観 察 したときは 短 時 間 (10~ 15 分 )で 負 の 重 力 走 性 を 示 すことをはっきりと 認識 できた( 図 14)。したがって、 重 力 走 性 実 験 では細 胞 密 度 が 高 すぎない 方 が 良 いことがわかった。なお、ガラス 管 内 のゾウリムシは、 暗 室 内 (または 黒い 紙 を 背 景 )で 横 から 懐 中 電 灯 で 照 らすと 白 い 点 に見 えるので 見 やすい。定 量 的 実 験 は、 次 のように 行 った。まず、 内 径 4mm、 長 さ 35 cm のガラス 管 を 用 意 し、 下 端 から 15cm と 30 cm のところに 目 印 の 線 を 入 れる。これをゴム 管 でディスポーザブル 注 射 器 (30ml)と 接 続 する。 注 射 器 のピストンを 定 位 置 で 固 定 するためには、ダブルクリップを 用 いた( 図 15)。 実 験 操 作は、1ガラス 管 の 上 線 まで 均 一 な 密 度 (10 ~ 20 細胞 / ml)の 細 胞 懸 濁 液 を 小 型 ビーカーから 吸 い 込 んでピストンを 固 定 し、このまま 定 温 で 放 置 する、2あらかじめ 計 画 された 一 定 時 間 が 経 過 したところで、ピストンを 下 げて 下 半 分 の 懸 濁 液 を 小 型 ペトリ皿 に 落 とし、 実 体 顕 微 鏡 下 で 一 匹 ずつ 数 を 数 えながら、ミクロピペットで 吸 い 取 る、3その 後 、 残 りの上 半 分 を 別 のペトリ 皿 に 取 り、 同 じようにその 中 のゾウリムシ 数 を 数 える、というものである。上 下 の 数 が 分 かったところで、 次 式 に 代 入 して 重力 走 性 係 数 (Gi)を 求 める( 重 中 1988)。Nl - (Nl + Nu)/2 Nl -NuGi= ――――――――――――― = ――――――(Nl + Nu)/2Nl + Nu


126 原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年洗 い、トリトンと EDTA を 洗 い 流 す。 実 験 に 用 いるまでに、 少 なくとも 30 分 間 この 溶 液 に 浸 しておく。4トリトンモデル 細 胞 100 ~ 500 を 含 む KCl 溶 液 0.1mlを 約 1 mlのテスト 溶 液 (50 mM KCl とその 影 響 をテストしたい 物 質 を 含 む)に 移 す。つぎに ATP とMg 2+ を 含 む 溶 液 にモデル 細 胞 を 移 すとモデル 細 胞 は動 き 出 す。4 mM ATP、4 mM MgCl 2 、3 mM EGTA、50 mM KCl、そして 10 mM トリス-マレイン 酸 を 含む 溶 液 中 でモデルは 最 も 活 発 に 動 く。この 溶 液 に10 -7 M 以 下 の Ca 2+ しか 含 まれない 場 合 モデル 細 胞 は前 進 し、10 -6 M 以 上 の Ca 2+ を 含 む 場 合 は 後 退 する。上 記 試 薬 と、 今 回 筆 者 が 知 り 得 た、 神 戸 大 ・ 洲 崎研 究 室 と 富 山 大 ・ 野 口 研 究 室 の 試 薬 等 を 比 較 してみると 少 し 違 いがある。たとえば、 神 戸 大 では、 緩 衝液 に Pipes や Hepes(pH 6.9)を 利 用 、 抽 出 液 はEGTA を 用 い、トリトンX- 100 も 0.02%として 処理 時 間 を 短 縮 、 洗 浄 液 は KCl ではなく MgSO 4 を 含み、 再 活 性 化 液 の ATP や MgSO 4 の 濃 度 は 10 mM 程度 と 高 い。また、 富 山 大 ・ 野 口 研 では、pH 7.0 に 調整 し、 再 活 性 化 液 では KCl ではなく 酢 酸 カリウム、そして 0.1 mM cAMP を 加 えたものを 調 整 している。神 戸 大 での 実 験 を 実 施 しての 感 想 の 第 一 は、この実 験 はコツを 知 らないと 意 外 と 難 しいということである。 前 述 の 研 究 室 による 違 いは、おそらくは 実 験の 成 功 実 績 からくる 経 験 的 なことも 少 なくないことを 物 語 っているように 思 える。さて、 実 験 プロトコルの 詳 細 は 別 の 実 験 書 などを 参 考 にしていただくとして、 気 のついたコツをまとめてみると、1 実 験 で準 備 する 細 胞 懸 濁 液 はかなり 密 度 の 高 いものを 用 意すること、2 抽 出 液 で 処 理 する 前 の 細 胞 懸 濁 液 は 氷の 中 で 10 分 以 上 よく 冷 やしておくこと、3トリトンでの 除 膜 処 理 は、 顕 微 鏡 で 見 てまだ 少 数 が 泳 いでいるくらいマイルドに 処 理 をすることである。モデル細 胞 はほとんどカルシウムを 含 まない 条 件 下 で ATPと Mg 2+ の 存 在 下 で 再 活 性 されるが、 生 きた 細 胞 ほどは 速 く 泳 がない。しかし、 生 きたものと 同 様 に 前 進し、 後 退 することを 目 の 当 たりにし、その 活 性 化 条件 を 理 解 することは、 高 校 生 にとっても 大 きな 興 味づけとなるに 違 いない。 今 後 、 高 大 連 携 や 文 部 科 学省 の SPP 事 業 の 動 きの 中 で、 高 校 生 対 象 の 実 験 として、 大 学 の 研 究 室 に 実 施 をお 願 いしたいものの 1 つである。分 裂 と 接 合 の 観 察ゾウリムシの 生 殖 法 には、 二 分 裂 による 無 性 生 殖と 接 合 など 遺 伝 子 の 新 しい 組 換 えを 伴 う 有 性 生 殖 が知 られている。(1) 分 裂分 裂 中 の 個 体 は、 盛 んに 増 殖 している 培 養 器 から容 易 に 見 つけ 出 すことができる。 分 裂 個 体 は 負 の 重力 走 性 を 示 さないので、 軽 く 遠 心 して 底 に 沈 んだものを 集 めると 効 率 がよいという 報 告 もある( 桧 垣1968)が、ピペッティングで 集 めるのが 普 通 である。 分 裂 期 に 入 った 細 胞 はやや 丸 みを 帯 びるので、観 察 になれると 分 裂 初 期 から 見 分 けることも 可 能 である。 増 殖 のよい 培 養 液 としては、レタスジュース培 養 液 ( 後 述 )にバクテリア(Enterobacter aerogenes)を前 日 に 接 種 したものを 用 いるとよい。 懸 滴法 ( 丸 岡 2003)やホールスライドで 観 察 すると、 細胞 中 央 がくびれ 始 めて 細 胞 質 が 二 分 されるまでを 15~ 20 分 ほどで 見 ることができる。 分 裂 期 に 入 った 細胞 の 核 を 酢 酸 オルセイン 染 色 やフォイルゲン 染 色 によって 染 めると、 小 核 はすでに 2 つに 分 かれて 前 後に 移 動 し、 大 核 は 餅 を 引 きちぎるように2つに 分 裂していくようすを 観 察 することができる( 石 原 ・ 山上 1983)。(2) 接 合ゾウリムシは、 二 分 裂 だけを 繰 り 返 した 場 合 、クローンとして 老 化 し、 数 百 回 の 分 裂 の 後 ついには 死滅 する。 接 合 などの 有 性 生 殖 は、このエイジングをリセットするので、いわゆる“ 若 返 り” 現 象 として知 られている。ところで、 微 小 重 力 環 境 下 ではゾウリムシの 分 裂 速 度 は 速 くなることが 知 られているので、 同 様 のクローン 寿 命 をもつと 考 えられているヒトの 場 合 も、 微 小 重 力 環 境 下 では 寿 命 が 短 くなるのだろうか?! 宇 宙 ステーション 時 代 を 迎 える 現 在において 興 味 深 い 問 題 である( 最 上 2003)。さて、 少 し 前 の 生 物 教 科 書 なら 必 ずといえるほど一 般 的 に 紹 介 されていたゾウリムシの 接 合 は、 今 は全 く 記 載 がない(ただし、「 生 物 Ⅱ」 教 科 書 で 1 社だけが 接 合 実 験 を 載 せている)。この 理 由 は、ゾウリムシの 接 合 過 程 が 二 核 性 のために 特 殊 で 複 雑 に 見えるためらしいが、これを 学 習 し 興 味 をもった 世 代の 人 間 としては 少 しさびしい。それにとって 代 わったのはクラミドモナスの 接 合 で、これはほとんどの教 科 書 に 記 載 されている。接 合 やその 実 験 方 法 については 多 くの 優 れた 総 説や 報 告 があり、それらについては 参 考 文 献 として 末尾 に 紹 介 した。ここでは、「 変 異 株 を 用 いた 接 合 実験 」( 見 上 1987)を 追 試 した 経 験 をもとに 接 合 実 験について 報 告 したい。高 校 の 生 物 教 員 であれば、 接 合 型 の 発 見 者 、ソネボーンは 知 らなくても、 接 合 型 とは 何 かくらいは知 っている。しかし、それ 以 外 の 接 合 条 件 を 知 らないために、 接 合 の 観 察 は 単 に 異 なる 接 合 型 を 混 ぜれ


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005) 127と、 培 養 液 が 白 濁 している 状 態 から 透 明 になるので容 易 に 判 別 できるが、 接 合 可 能 な 期 間 は 透 明 になって 2 ~ 3 日 の 間 である。図 18 分 裂 回 数 と 接 合 能 力 の 関 係ば 簡 単 にできると 思 っている 方 々も 多 いのではないか。 正 直 なところ、 今 から 15 年 ほど 前 にはじめて 接合 型 の 異 なる 株 を 山 口 大 学 の 藤 島 政 博 先 生 より 分 けていただき、 接 合 実 験 に 挑 戦 しようとしたとき、 筆者 はそのように 思 っていた。 先 生 からの 親 切 なアドバイスにもかかわらず、 株 の 維 持 や 接 合 実 験 に 失 敗したのは、 接 合 条 件 を 十 分 に 理 解 していなかったためだ。「 意 外 と 難 しいものだな」とそのとき 感 じた。その 後 、 宮 城 教 育 大 学 の 見 上 一 幸 先 生 から 再 びParamecium caudatum の 接 合 型 の 異 なる 野 生 株 と 接 合実 験 に 有 用 な 変 異 株 を 譲 り 受 けることができ、 失 敗を 繰 り 返 しながらも 何 とか 計 画 的 に 実 験 を 組 めるまでになったいきさつがある。接 合 実 験 を 経 験 して 思 ったのは、この 実 験 の 成 否は 培 養 にあるということである。なぜそうなのか、まずは、 接 合 がおこる 条 件 を 整 理 しておきたい。接 合 の 起 こる 条 件接 合 を 誘 導 するためには、1 互 いに 相 補 的 な 接 合型 の 2 株 であること、2それぞれの 株 が 性 的 に 成 熟期 にあること、3 数 日 間 さかんに 分 裂 ・ 増 殖 をした後 、 飢 餓 状 態 にあることの 3 つの 条 件 をすべて 満 たす 必 要 がある。1については、P. caudatum では 16 のシンジェン( 同 質 遺 伝 子 個 体 群 )が 知 られており、そのうち 研 究者 の 間 で 保 存 されているのはシンジェン 1、3、12、13 のみである。それぞれのシンジェン 内 の 相 補 的 な接 合 型 は O と E の 2 つで、たとえばシンジェン 1 の場 合 は O1、E1、シンジェン 3 の 場 合 は O3、E3 のように 示 され、O1 - E1 は 接 合 するが、O1 - E3 は 接合 しない。2については、 図 18 のように、 接 合 後50 回 以 上 分 裂 しないと 成 熟 しないので、いわばヒトの 青 年 期 や 成 人 期 にあたるゾウリムシを 用 意 する 必要 があるということである。また、3については、接 合 能 力 の 発 現 は 培 養 液 中 の 餌 の 有 無 と 密 接 な 関 係があり、 餌 を 摂 取 し 分 裂 でどんどんと 増 殖 している状 態 ( 対 数 期 または 対 数 増 殖 期 という)では 接 合 能力 がなく、 餌 を 食 べ 尽 くし 分 裂 をしなくなった 状 態( 定 常 期 という)になって 初 めて 接 合 能 力 を 発 揮 するのである。バクテリアを 食 べつくして 定 常 期 に 入 る株 の 入 手 と 培 養野 外 から 接 合 する 株 を 採 取 し 分 離 することは 可 能であるが、 単 離 操 作 や 無 菌 化 など 難 しい 作 業 もある。また、 通 年 にわたる 株 の 維 持 も、 年 に 1 度 や 2度 の 実 験 のためだけとなると 大 変 な 手 間 である。したがって、 実 験 をしようとする 少 し 前 から 余 裕 のある 計 画 を 立 て、 大 学 等 の 研 究 機 関 から 株 を 少 し 分 けてもらい、 培 養 してから 実 験 にかかるのが 現 実 的 である。 株 を 分 譲 してもらえる 情 報 は、ウェッブサイト「 原 生 生 物 情 報 サーバ」や「 見 上 研 究 室 」から 得ることができる。培 養研 究 機 関 などから 入 手 した 株 は、たいてい、ただ1 種 のバクテリアを 餌 として 与 え、それ 以 外 の 雑 菌が 混 入 しないようにして 維 持 されていたものである。 外 からの 雑 菌 のために 培 養 及 び 実 験 を 失 敗 することがあるので、 培 養 操 作 はクリーンベンチや 無 菌箱 、あるいは 空 気 の 落 ち 着 いた 室 内 で 素 早 く 行 う 必要 がある。学 校 でよく 用 いられる 稲 わら 培 養 液 は、 研 究 者 の間 では 生 理 実 験 でよく 利 用 するが、 遺 伝 実 験 ではレタスジュース 培 養 液 が 一 般 的 である。レタスジュース 培 養 液 の 作 り 方 については、 研 究用 の 方 法 もあるが( 樋 渡 ・ 茗 原 1982、 山 田 ・ 山 極1980、 見 上 ・ 小 泉 1977)、ここでは 簡 便 な 方 法 を 紹介 する( 見 上 1987)。まず、 家 庭 用 のジューサーでレタスジュースを 作 り(ミキサーの 場 合 は 8 枚 重 ねのガーゼでろ 過 )、 小 型 容 器 に 小 分 けしてフリーザーに 入 れ 凍 結 して 保 存 する。 使 用 の 際 にイオン 交換 水 ( 軟 水 の 市 販 ミネラルウォーターや 煮 沸 した 水道 水 でもよい)で 20 ~ 40 倍 に 希 釈 し、オートクレーブ 滅 菌 器 で 滅 菌 (121℃、20 ~ 30 分 )し、 冷 却後 、 白 金 耳 でバクテリアを 少 量 加 えて 1 日 置 いてから 使 用 する。オートクレーブ 滅 菌 器 がない 場 合 は、家 庭 用 圧 力 釜 を 利 用 するか、 水 浴 で 煮 沸 滅 菌 する。バクテリアを 接 種 した 培 養 液 は 1 ~ 2 日 以 内 に 使 用する。なお、バクテリアは 株 と 同 時 に 分 譲 してもらうと 好 都 合 だが、バクテリアを 接 種 しなくても、 送られてきた 試 料 のなかに 混 在 するバクテリアが 増 殖するので、 実 験 は 可 能 である( 増 殖 率 や 接 合 能 はやや 劣 る)。 猪 狩 (1992)は、これに 代 わる 簡 便 な 培養 液 として、 流 動 のカロリーメイト 缶 ( 大 塚 製 薬 )による 培 養 液 (カロリーメイトを“ 六 甲 のおいしい水 ”で 0.1%に 希 釈 ―これは 水 500 ml にカロリーメ


128原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 19 接 合 型 の 異 なる2 株 を 混 ぜてからの 接 合 過 程の 時 間 的 変 化 (25℃)A:2~3 分 後 B:45 分 後C:1 時 間 後 D: 約 15 時 間 後図 20 接 合 過 程 A: 細 胞 凝 集 反 応 (5 分 後 ) B:接 合 対 (5 時 間 後 )混 ぜると 直 ちに 細 胞 凝 集 反 応 が 起 こり、25℃では 40分 を 過 ぎる 頃 から 接 合 対 が 徐 々に 現 れ 始 める( 図 19,20)。1 時 間 の 授 業 ではそこまでしか 見 られないので、 実 験 の 2 ~ 3 時 間 前 にあらかじめ 2 株 を 混 合 したものを 用 意 しておくと 接 合 対 も 同 時 に 観 察 できる。 午 後 の 実 験 では、 午 前 中 から 準 備 ができるので好 都 合 であるが、 朝 の 早 い 時 間 帯 での 生 徒 実 験 でも、 前 日 の 帰 り 際 に 混 ぜておくとよい。ところで、 接 合 対 は 接 合 型 の 異 なる 個 体 間 でのみ形 成 されるのだろうか。この 疑 問 に 対 する 答 えは 株を 識 別 することで 得 られる。たとえば、 一 方 をナイルブルー、 他 方 をニュートラルレッドで 生 体 染 色 するアイデアもあるが、 識 別 するのに 有 効 な 突 然 変 異株 を 利 用 する 方 法 もある。 見 上 (1987) は、 接 合 型 の異 なる“ 野 生 株 ”と“トリコシストを 放 出 しない 突然 変 異 株 (27aG3 株 )”を 利 用 し、これについての教 材 化 を 試 みた。トリコシストは、ゾウリムシをピクリン 酸 飽 和 溶 液 (5%メチレンブルーや 1%タンニン 酸 でもよい)にさらすと 体 表 面 から 放 出 される 長い 糸 状 の 構 造 で、 低 倍 率 でも 容 易 に 確 認 できる。 実際 に 多 くの 接 合 対 をピクリン 酸 で 処 理 してみると、実 験 結 果 はたいへん 明 瞭 であった( 図 21, 22)。すなわち、 多 数 の 野 生 型 と 突 然 変 異 株 の 対 に 混 じって、 少 数 ながら 野 生 株 同 士 の 対 、 突 然 変 異 株 同 士 の対 が 見 つかった。 生 徒 実 験 では、クラスの 観 察 結 果を 集 計 し、それぞれの 対 が 何 % 形 成 されたかを 求 めるとよい。イトを 数 滴 添 加 する 割 合 )を 工 夫 し、 接 合 能 のある増 殖 率 の 高 い 細 胞 を 得 ている。カロリーメイト 缶 はいくつかの 種 類 があるがどれでもよく、 最 近 では 大型 薬 店 などの 健 康 食 品 コーナーで 入 手 できる。培 養 が 順 調 なときは、1 日 に 3 回 の 割 合 で 分 裂 が 起こる。3 ~ 4 日 後 にはバクテリアで 白 濁 した 培 養 液 がゾウリムシによる 摂 食 で 透 明 になり、 数 千 細 胞 /mlの 高 密 度 のゾウリムシが 得 られる。このときから 2~ 3 日 間 は 接 合 実 験 が 可 能 である。 培 養 液 がいつまでも 透 明 にならず、ゾウリムシの 増 殖 も 悪 いときは餌 として 不 適 なバクテリアが 混 入 しているので 始 めから 培 養 をやり 直 す。一 定 の 期 間 、 株 を 維 持 したいときは 低 温 (10℃)で 保 存 し 1 ヶ 月 ごとに 培 養 液 を 足 すか、 常 温 の 場 合は 1 ~ 2 週 間 ごとに 新 しい 培 養 液 に 植 え 継 ぐ。接 合 実 験 と 変 異 株 を 使 った 例前 述 のように、 実 験 材 料 は 4 ~ 5 日 前 に 培 養 を 始めると、ちょうど 実 験 日 には 接 合 能 のある 材 料 が 得られることになる。 準 備 した 接 合 型 の 異 なる 2 株 を核 の 観 察核 を 観 察 するにはフォイルゲン 染 色 が 適 している。この 染 色 法 は DNA との 特 異 性 も 高 く、DNA 量を 測 定 することもできる。また、フォイルゲン 染 色した 標 本 を、ファーストグリーンで 二 重 染 色 すると美 しい 永 久 標 本 を 作 製 することができる( 見 上 ・ 小泉 1977、 山 田 ・ 山 極 1980、 石 原 ・ 山 上 1983、 高 木ほか 1986、ウェッブサイト「 見 上 研 究 室 」)。しかし、 生 徒 実 験 では 標 本 作 製 の 十 分 な 時 間 を 確保 することが 難 しいので、 酢 酸 オルセイン 溶 液 や 酢酸 カーミン 溶 液 による 一 時 染 色 が 適 している。この方 法 では 小 核 や 大 核 原 基 の 染 色 がうまくいかないので、 大 核 の 変 化 を 見 ることになる。 特 に 接 合 後 十 数時 間 後 に 見 られる 大 核 崩 壊 は 興 味 深 く 観 察 できる( 図 23)。成 長 曲 線 の 作 成高 校 生 物 Ⅱの 単 元 「 生 物 の 集 団 ( 生 態 系 )」には「 個 体 群 とその 変 動 」を 扱 った 項 目 があり、その 中 で“ 成 長 曲 線 ”は 重 要 な 学 習 テーマになっている。 調べた 7 社 の 教 科 書 のうち、 成 長 曲 線 の 説 明 のために


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005)129図 21 細 胞 凝 集 反 応 と 接 合 対 の 形 成 黒 :O 白 :E図 22 野 生 株 とトリコシストを 放 出 しない 突 然 変 異株 を 混 ぜたときの 接 合 対 形 成 ほとんどは 野 生 株 と突 然 変 異 株 の 対 (B)であるが、 数 %の 少 ない 割 合で 野 生 株 同 士 (A)、 突 然 変 異 株 同 士 (C)の 対 も形 成 される。図 23 酢 酸 カーミンによる 核 の 一 時 染 色 A: 接 合前 B: 接 合 対 C: 接 合 対 から 離 れた 細 胞 ( 大 核崩 壊 )例 示 された 生 物 は、ショウジョウバエ 4 社 、バクテリア 2 社 、アズキゾウムシ1 社 であった。また、 関連 内 容 として、ゾウリムシ、ヒメゾウリムシ、ミドリゾウリムシの 単 独 培 養 および 混 合 培 養 の 成 長 曲 線から 種 間 競 争 や 共 存 について 言 及 したもの(ガウゼの 実 験 の 引 用 )が 6 社 、ケイソウについてのそれは1 社 であった。生 徒 実 験 「 成 長 曲 線 を 作 る」は 6 社 で 取 り 上 げられ、 生 物 別 では、ウキクサ 4 社 、キイロショウジョウバエ 1 社 、コウボ 菌 1 社 、ゾウリムシ 1 社 となっている。ウキクサの 例 示 が 多 いのは、 大 きくて 動 かないので 数 の 計 測 がしやすく、さらに 発 展 的 に 密 度や 水 質 の 違 いによる 増 殖 の 比 較 もできるからであろう。これに 対 し、キイロショウジョウバエは 世 代 時間 が 長 く、 数 えるためには 麻 酔 をしなければならないこと、また、ゾウリムシや 酵 母 菌 は 顕 微 鏡 サイズなので 個 体 数 計 測 が 生 徒 には 容 易 でないことが 採 用の 少 ない 理 由 として 推 察 できる。教 科 書 の 実 験 「ゾウリムシの 成 長 曲 線 」の 内 容は、1 1lの 稲 わら 培 養 液 に 10 mlのゾウリムシを 含む 培 養 液 を 加 え、 定 温 で 培 養 する、2 毎 日 決 まった時 刻 に 培 養 液 をよく 攪 拌 して 密 度 を 均 一 にしてから計 測 数 が 10 ~ 50 個 体 になる 程 度 の 一 定 量 の 培 養 液(0.1 ~ 10 ml)を 吸 い 取 り、ニッケルイオンで 動 きを 停 止 させてから 個 体 数 を 数 える、3 培 養 液 10 mlに 含 まれる 個 体 数 に 換 算 してからその 経 日 変 化 をグラフに 表 す、というものである。篠 原 (1967)の 方 法 もこれとほぼ 同 様 である。まず、いろいろな 種 類 の 培 養 液 を 用 意 し、300 mlビーカーや 腰 高 シャーレなどの 容 器 に 培 養 液 200 mlを 入れ、200 個 体 を 移 植 して 実 験 を 開 始 する(1 個 体 /1mlからスタートしたことになる)。つぎに、 容 器 内で 不 均 一 に 分 布 しているゾウリムシをまずは 充 分 に撹 拌 して 均 一 にし、 毎 日 一 定 時 刻 に 1 回 の 測 定 に0.05 mlずつをピペットで 吸 い 上 げてスライドガラス上 に 広 げ、ごく 少 量 のホルマリン 原 液 をミクロピペットで 加 えて 動 きを 止 め、 低 倍 率 で 全 個 体 数 を 数え、20 倍 して1ml 中 の 個 体 数 とする。ところで、ゾウリムシの 場 合 、1 生 徒 の 多 くは 動く 生 物 に 高 い 関 心 を 示 すこと、2 継 続 実 験 での 培 養器 の 管 理 空 間 が 少 しですむことなどの 利 点 もあるので、 個 体 数 を 数 え 易 くする 工 夫 ができれば 最 適 の 実験 材 料 になりうると 考 えられる。そこで、 筆 者 は、 自 分 が 大 学 時 代 に 実 習 した 方法 、すなわち、 一 端 を 封 じた 内 径 2 mm 長 さ 10 cm の細 いガラス 管 の 中 でゾウリムシを 飼 育 し、 毎 日 実 体顕 微 鏡 下 やルーペ( 生 徒 は 肉 眼 でも 見 る)で 個 体 数を 直 に 数 える 方 法 を 利 用 している。この 実 験 では、 生 徒 にガラス 管 の 一 端 を 封 じる 作業 やミクロピペットの 作 製 もさせる。ほとんどの 者は、ガラス 細 工 は 初 めての 体 験 なので 大 変 興 味 をもって 熱 心 に 作 業 をする。 熱 いガラスに 触 れて 手 をやけどしないこと、 机 の 上 を 焦 がさないこと、ガラスの 破 片 に 気 をつけることなどの 注 意 のもと、ガラス 管 を 溶 かしたり 伸 ばしたり 自 由 にさせる。もちろん、 作 業 の 手 本 はみせるが、なかなかうまくはいかない。でも、まずは 体 験 をすることに 意 味 があると考 えている。 軟 質 のガラスを 使 えば、ガスバーナーは 細 工 用 の 特 別 なものでなく、ふつうの 実 験 用 ガスバーナーで 十 分 である。


130原 生 動 物 学 雑 誌 第 38 巻 2005 年図 24 成 長 曲 線 の 模 式 図 1 誘 導 期 2 対 数 期 3定 常 期 4 死 滅 期図 26 成 長 曲 線 作 成 のための 用 具 一 端 を 封 じたガラス 管 、 先 端 の 長 いミクロピペット、ガラス 管 の 整理 と 区 別 のために 利 用 したダンボール 片図 25 実 験 例 A: 生 徒 A~Eのデータと 平 均 値(10 月 実 施 ) B: 温 度 による 違 い1 時 間 のガラス 細 工 のあと、いよいよガラス 管 に 培養 液 とゾウリムシを 入 れる。 先 の 長 いミクロピペットを 用 意 して“バクテリアの 繁 殖 した 培 養 液 ”を 吸引 した 後 、 一 端 を 封 じたガラス 管 の 奥 底 までその 先端 を 挿 入 し、 気 泡 が 入 らないように 注 意 しながらガラス 管 の 口 際 まで 培 養 液 を 静 かに 注 入 する。そこに、ゾウリムシを 1 個 体 移 植 する。1 個 体 だけを 入 れるのは 苦 労 するが、これも 工 夫させると 面 白 い。たとえば、 実 体 顕 微 鏡 下 で 普 通 にミクロピペットを 用 い1 個 体 を 吸 い 取 り 移 植 する( 意 外 とこれは 難 しい)、ゾウリムシをスライドガラスに 滴 下 し1 個 体 だけを 含 む 一 滴 を 見 つけてこれを移 植 する、ガラス 管 に 満 たす 培 養 液 にあらかじめ 低密 度 でゾウリムシを 加 えておくなどが 考 えられる。生 徒 には、 最 低 1 本 のガラス 管 を 自 分 のものとして 持 たせ、 毎 日 ほぼ 同 じ 時 刻 に 個 体 数 を 数 えて 記 録することを 課 す。“ 自 分 の”ゾウリムシを 持 たせるのである。 生 徒 は、 最 初 1 個 体 だった、いわばマイ・ゾウリムシの 成 長 を 他 の 友 人 のゾウリムシのそれと 比 べ、 一 喜 一 憂 して 見 守 る。 実 験 はせいぜい2週 間 ほどで 終 えるが、 生 徒 の 中 にはその 後 も 何 ヶ 月にもわたり 大 事 に 維 持 する 者 もいる。こうした 経 験に 重 きをおくため、 実 験 条 件 が 不 ぞろいになる 点 はある 程 度 犠 牲 にしている。まとめとして、 各 自 のデーターを 持 ち 寄 り、 各 グループで 日 ごとの 平 均 値を 求 め、 片 対 数 グラフ 成 長 曲 線 を 描 かせる。 一 般に、 成 長 曲 線 は、 誘 導 期 、 対 数 期 、 定 常 期 、 死 滅 期からなっている( 図 24)が、この 実 験 では 誘 導 期 は無 いようである( 図 25)。また、 世 代 時 間 はグラフの 対 数 期 から 読 み 取 らせることができる。 発 展 的 には、 培 養 温 度 や 培 養 液 の 種 類 などを 変 えて、 世 代 時間 や 最 大 個 体 数 (すなわち 密 度 )などを 比 較 すると面 白 いだろう。実 は、1 本 のガラス 管 の 中 で 何 個 体 まで 増 殖 するかは、ほとんど 注 入 する 培 養 液 中 のバクテリアの 密 度に 依 存 している。また、ガラス 管 中 の 個 体 数 は 50 個体 程 度 まではかなり 正 確 にカウントができるが、それ 以 上 になると 難 しい( 稲 わら 培 養 液 を 用 いた 生 徒実 験 では、 最 大 100 個 体 程 度 まで 増 殖 する)。した


Jpn. J. Protozool. Vol. 38, No. 2. (2005) 131がって、 培 養 液 の 準 備 は 重 要 なポイントになる。 室温 にもよるが、 稲 わら 培 養 液 の 場 合 、 稲 わらの 煮 出し 液 (5 ~ 10 g/l)を 冷 ましたら、ろ 過 した 古 い 培養 液 か、 納 豆 の 糸 を 少 量 添 加 して3 日 ほど 置 く。すると、 培 養 液 が 餌 のバクテリアで 白 濁 してくるからこれを 用 いるとよい。 一 度 は 予 備 実 験 をしておきたい。なお、 正 確 な 実 験 データーを 得 るには、1つの 条件 における 測 定 は 定 温 下 、 最 低 5 本 のガラス 管 で 行い、その 平 均 値 を 求 めるのがよい。そのときの 工 夫の 一 つとして、ダンボール 片 をうまく 利 用 してガラス 管 の 区 別 をすると 便 利 である( 図 26)。また、 同様 の 実 験 方 法 は 藤 野 (1986) も 報 告 をしているので 参考 にされたい。おわりに―― 新 しい 手 法 ・アプローチの 導 入新 課 程 の 高 校 生 物 教 科 書 には、 表 計 算 ソフトを使 って、 実 験 データーをパソコン 処 理 したりグラフ化 する 例 が 多 く 見 られるようになった。 現 在 は、 教科 「 情 報 」が 必 修 となっているので、ハード 面 での学 校 間 格 差 はあるが、 積 極 的 に 活 用 する 方 向 に 進 むであろう。デジタルカメラは 接 眼 レンズに 当 てるだけで 顕 微 鏡 写 真 撮 影 が 可 能 であるし、 実 験 方 法 や 結果 について 記 録 しておくにも 最 適 である。CCDカメラでの 顕 微 鏡 映 像 の 利 用 は、 顕 微 鏡 下 では 気 づかなかったことを 見 せてくれる 場 合 もあるし、 画 面 上の 距 離 測 定 とストップウォッチとの 組 み 合 わせやコマ 送 りを 利 用 するとデーター 解 析 にも 威 力 を 発 揮 できる。ここに 紹 介 したゾウリムシの 実 験 の 中 にも、それらを 活 用 することで 新 たな 発 展 が 生 み 出 せるものがあるように 思 う。また、これらの 手 法 は、 高 校生 にプレゼンテーションをさせる 上 でも 有 効 に 機 能するであろう。さらに、これからは 突 然 変 異 株 などの 利 用 も 可 能性 を 広 げるだろう。 接 合 実 験 でトリコシストを 放 出しない 株 を 紹 介 したが、 繊 毛 逆 転 をしないCNR 株で 重 力 走 性 の 影 響 を 調 べても 面 白 い。ミドリゾウリムシの 教 材 化 はまだあまり 進 んでいないが、クロレラとの 共 生 関 係 、 行 動 との 関 係 、サーカディアンリズムなど、 野 生 株 と 白 色 個 体 を 比 較 して 考 えるのも興 味 深 い。今 後 とも、 多 くの 方 々の、ゾウリムシをめぐる 新しい 教 材 化 への 取 り 組 みを 期 待 したい。謝 辞ゾウリムシから 原 生 動 物 の 教 材 化 を 試 みて、30年 近 くが 過 ぎようとしている。 今 回 も、 今 までの 足跡 をたどりながらの 執 筆 であったが、 振 り 返 ってみると 多 くの 先 生 方 のお 世 話 になってきた。 繊 毛 運 動や 行 動 については、 高 知 大 学 の 種 田 耕 二 先 生 、お 茶の 水 大 学 の 最 上 善 広 先 生 、 神 戸 大 学 の 洲 崎 敏 伸 先生 、 富 山 大 学 の 野 口 宗 憲 先 生 に 多 くの 文 献 を 送 っていただいたり、 実 験 のアドバイスをいただいたりした。また、 接 合 については 山 口 大 学 の 藤 島 政 博 先生 、 宮 城 教 育 大 学 の 見 上 一 幸 先 生 に 文 献 や 株 の 提 供をしていただき、 貴 重 な 助 言 もしていただいた。 各先 生 方 のご 厚 意 に 心 より 感 謝 するとともに、こうした 出 会 いにも 感 謝 する 次 第 である。参 考 文 献 等【 参 考 にした 教 科 書 】平 成 15 ~ 17 年 度 文 部 科 学 省 検 定 教 科 書 「 生 物 Ⅰ」および「 生 物 Ⅱ」【 実 験 の 指 導 書 ・ 報 告 】Naitoh,Y. and Kaneko,H. (1973) Control of ciliary activitiesby adenosinetriphosphate and divalent cations inTriton-extracted models of Paramecium caudatum.J.Exp. Biol.,58,657-676石 田 寿 老 ・ 佐 藤 重 平 編 (1958) 生 物 の 実 験 法 。288-290, 裳 華 房石 野 道 男 ほか (1972) ゾウリムシの 行 動 観 察 。 科 学 の実 験 ,Vol.23,No.3,232-236, 共 立 出 版石 原 勝 敏 ・ 山 上 健 次 郎 監 修 (1983) 図 説 教 材 生 物上 ・ 下 。 科 学 と 実 験 別 冊 , 共 立 出 版小 幡 悦 子 ・ 桧 垣 守 宏 (1979) ゾウリムシとpHの 測 定― 培 養 ・ 遊 泳 速 度 ・ 走 化 性 ―。 科 学 の 実 験 ,Vol.30,No.12, 共 立 出 版楠 元 守 ・ 内 藤 豊 (1981) ゾウリムシの 走 性 。 遺伝 ,35,12,3-12小 泉 貞 明 (1975) ゾウリムシ。 特 集 / 教 材 生 物 の 確保 , 遺 伝 ,29,3,2-6小 林 徳 夫 ほか(1975)ゾウリムシの 培 養 。 教 材 生物 、216-217篠 原 尚 文 (1967) 生 物 デモ 実 験 の 新 しい 進 め 方 Ⅱ。 科学 の 実 験 ,Vol.18,No.11, 共 立 出 版篠 原 尚 文 (1975) 先 生 と 生 徒 のための 新 しい 生 物 実験 。 別 冊 科 学 の 実 験 , 共 立 出 版重 中 義 信 監 修 (1988) 原 生 動 物 の 観 察 と 実 験 法 。 共立 出 版高 野 忠 夫 (1986) ミドリゾウリムシの 教 材 化 。 身 近 な自 然 を 生 かした 生 物 教 材 の 研 究 ,74-75, 東 洋 館出 版野 沢 義 則 編 (1981) 原 生 動 物 細 胞 。 講 談 社桧 垣 守 宏 (1968) ゾウリムシの 実 験 。 科 学 の 実 験 ,Vol.19,No.4,392-395, 共 立 出 版


132Jpn. 原 J. 生 Protozool. 動 物 学 雑 誌 Vol. 第 38, 巻 No. 2. 2005 (2005) 年樋 渡 宏 一 ・ 茗 原 宏 爾 (1982) 7. 原 生 動 物 。 実 験 生 物学 講 座 1, 159-179, 丸 善藤 野 適 宏 (1986) ゾウリムシの 個 体 数 推 移 の 観 察 。 身近 な 自 然 を 生 かした 生 物 教 材 の 研 究 ,84-85, 東洋 館 出 版丸 岡 禎 (1980) ゾウリムシの 教 材 化 。 香 川 高 教 研 理化 ・ 生 地 部 会 会 誌 ,16,30-50丸 岡 禎 (1984) ゾウリムシの 走 電 性 実 験 とその 定 量化 の 試 み。 理 化 香 川 高 教 研 ・ 生 地 部 会 会 誌 ,20,33-42丸 岡 禎 (1990) ゾウリムシの 走 地 性 。 理 化 香 川 高 教研 ・ 生 地 部 会 会 誌 ,26,75-81丸 岡 禎 (1992) ゾウリムシの 接 合 実 験 。 理 化 香 川 高教 研 ・ 生 地 部 会 会 誌 ,28,47-54丸 岡 禎 (2003) 教 材 としての 原 生 動 物 (1)。Jpn.J.Protozool.Vol.36,No.2,113-122丸 岡 禎 (2004) 教 材 としての 原 生 動 物 (2)―ゾウリムシⅠ。Jpn.J.Protozool.Vol.37,No.1,19-30見 上 一 幸 (1987) 有 性 生 殖 を 考 えるための 教 材 ―ゾウリムシの 変 異 株 を 用 いた 接 合 実 験 。 宮 城 教 育 大学 理 科 教 育 施 設 年 報 ,23,15-20見 上 一 幸 ・ 小 泉 貞 明 (1977) ゾウリムシの 研 究 ―その基 礎 と 応 用 。 採 集 と 飼 育 ,39,331-346柳 生 亮 三 (1955) ゾウリムシ。 生 物 学 実 験 法 講 座 ,5巻 上 ,1-30, 中 山 書 店山 田 卓 三 ・ 山 極 隆 編 (1980) 新 しい 教 材 生 物 の 研究 ― 飼 育 培 養 から 観 察 実 験 まで。 講 談 社【 総 説 】神 谷 律 ・ 丸 山 工 作 (1992) 細 胞 の 運 動 。 培 風 館高 木 由 臣 (1993) 生 物 の 寿 命 と 細 胞 の 寿 命 ―ゾウリムシの 視 点 から。 平 凡 社高 木 由 臣 ほか (1986) 特 集 Ⅰ・ゾウリムシの 接 合 。 遺伝 ,40,4, 裳 華 房内 藤 豊 (1990) 単 細 胞 動 物 の 行 動 。UP バイオロジー 85, 東 京 大 学 出 版 会ハウスマン (1989) 原 生 動 物 学 入 門 。 扇 元 敬 司 訳 , 弘学 出 版樋 渡 宏 一 (1982) ゾウリムシの 性 と 遺 伝 。UP バイオロジー 49, 東 京 大 学 出 版 会樋 渡 宏 一 (1986) 性 の 源 をさぐる。 岩 波 新 書 , 岩 波 書店樋 渡 宏 一 編 (1999) ゾウリムシの 遺 伝 学 , 東 北 大 学出 版 会最 上 善 広 (2003) 宇 宙 生 物 学 ―これまで、そしてこれから。 生 物 工 学 会 誌 ,81,6,213-227最 上 善 広 ほか (1995) ゾウリムシは 重 力 を 感 じているのか―ゾウリムシの 重 力 走 性 のメカニズム。宇 宙 生 物 科 学 ,Vol.9,No.1,17-35【 参 考 にしたウェッブサイト】原 生 生 物 情 報 サーバhttp://protist.i.hosei.ac.jp/Protist_menu.html見 上 研 究 室 水 中 微 小 生 物 図 鑑 「Microbio-World」http://mikamilab.miyakyo-u.ac.jp/index.html大 阪 大 学 理 学 部 生 物 学 科 生 物 学 実 験 シラバスhttp://www.sci.osaka-u.ac.jp/students/syllabus2004/university/u234.html小 倉 明 彦 のホームページ「 学 務 関 連 アナウンス」http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/~oguraa/announce.htm富 山 大 学 野 口 宗 憲 研 究 室 ホームページhttp://www.sci.toyama-u.ac.jp/env/noguchi/noguchiJP.html

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