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総 合 車 両 製 作 所 技 報 第 5 号 2016 年 12 月<br />
<strong>特</strong> <strong>集</strong> <strong>【sustinaシリーズ</strong> <strong>S13</strong> *1 /<strong>S23</strong> *2 /<strong>HYBRID</strong> *3 】<br />
目<br />
次<br />
<br />
「モジュール 構 造 とオープンアーキテクチャ」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3<br />
< 常 務 取 締 役 生 産 本 部 副 本 部 長 長 谷 川 裕 ><br />
<br />
・「sustina シリーズ」の 概 要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4<br />
< 常 務 取 締 役 生 産 本 部 長 前 田 秀 幸 ><br />
・「sustina <strong>S13</strong>」 静 岡 鉄 道 A3000 形 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6<br />
< 杉 山 隆 幸 , 茂 木 正 綱 , 金 子 晃 大 , 横 山 大 雅 ><br />
・「sustina <strong>S23</strong>」 JR 東 日 本 E129 系 一 般 形 直 流 電 車 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12<br />
< 吉 村 雅 和 , 安 在 恵 一 郎 , 三 井 健 司 , 澤 井 啓 太 , 西 川 信 明 ><br />
・「sustina <strong>HYBRID</strong>」 JR 東 日 本 EV-E301 系 一 般 形 直 流 電 車 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16<br />
< 麻 生 和 夫 , 関 根 眞 一 , 堀 口 健 一 郎 , 平 井 明 正 ><br />
・「sustina <strong>HYBRID</strong>」 JR 東 日 本 HB-E210 系 一 般 形 ハイブリッド 車 両 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20<br />
< 藤 澤 朝 岐 , 半 田 直 一 , 横 山 大 雅 , 堀 口 健 一 郎 ><br />
・「sustina <strong>HYBRID</strong>」 JR 東 日 本 HB-E300 系 橅 編 成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24<br />
< 府 馬 竜 也 , 木 元 裕 勝 , 横 山 大 雅 , 森 田 康 平 , 深 澤 悦 史 ><br />
sustina シリーズ 名 称 について<br />
*1:「sustina <strong>S13</strong>」 車 体 長 さ18m, 扉 数 3 扉<br />
*2:「sustina <strong>S23</strong>」 車 体 長 さ20m, 扉 数 3 扉<br />
*3:「sustina <strong>HYBRID</strong>」<br />
EV-E301: 架 線 <strong>集</strong> 電 方 式 +リチウムイオン 蓄 電 池 駆 動 電 車<br />
HB-E210,HB-E300:ディーゼルハイブリッド 方 式 ( 蓄 電 池 併 用 電 気 式 )<br />
2016 年 12 月
SEA 法 を 用 いた 高 速 車 両 の 車 内 騒 音 解 析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34<br />
< 橋 本 克 史 , 谷 口 宏 次 ><br />
高 速 車 両 用 サイクロン 式 <strong>集</strong> 塵 装 置 の 開 発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38<br />
< 橋 本 克 史 , 小 泉 貴 洋 , 大 須 賀 晋 , 太 野 明 ><br />
鉄 道 車 両 用 遠 隔 操 作 型 ボールコックの 開 発 と 省 配 管 化 の 検 討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42<br />
< 今 岡 憲 彦 , 長 本 昌 樹 , 半 田 直 一 , 川 上 清 温 , 松 岡 茂 樹 ><br />
<br />
フリージアコンソール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48<br />
< 半 田 直 一 , 斉 藤 和 彦 , 天 沼 秀 章 , 藤 谷 晃 , 三 原 啓 輔 , 池 田 大 樹 , 上 関 仁 護 , 川 上 清 温 ><br />
ステンレス 鋼 板 の 表 面 状 態 と 耐 食 性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52<br />
< 福 元 誠 一 , 鈴 木 一 宏 ><br />
sustina 車 両 側 構 体 の 量 産 化 について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58<br />
< 側 垣 正 , 室 橋 強 , 門 脇 文 俊 , 越 川 純 , 大 塚 広 貴 ><br />
マグネシウム 合 金 のレーザ 溶 接 技 術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62<br />
< 吉 澤 正 皓 ><br />
国 内 と 海 外 の 溶 接 技 術 検 定 の 比 較 検 討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66<br />
< 大 塚 陽 介 ><br />
抵 抗 スポット 溶 接 品 質 の 安 定 化 に 向 けた 取 り 組 み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70<br />
< 渥 美 健 太 郎 , 河 田 直 樹 , 大 塚 陽 介 , 石 川 武 ><br />
レーザブレージングを 用 いた 異 材 接 合 の 検 討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76<br />
< 遠 藤 翔 太 , 河 田 直 樹 , 吉 澤 正 皓 ><br />
非 接 触 式 車 体 通 り 測 定 機 構 の 開 発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82<br />
< 磯 部 光 一 , 金 子 貴 史 ><br />
<br />
塗 装 品 質 向 上 に 向 けた 取 り 組 み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86<br />
バンコクパープルライン- 開 業 までの 現 地 作 業 -・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90<br />
<br />
京 浜 急 行 電 鉄 新 1000 形 1800 番 台 (15 次 車 )( 正 面 中 央 貫 通 車 )・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96<br />
京 王 電 鉄 事 業 用 車 両 デヤ901・902 形 ,サヤ912 形 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102<br />
西 武 鉄 道 4000 系 改 造 観 光 電 車 -「 西 武 ・ 旅 するレストラン・52 席 の 至 福 」-・・・・・・・・・・・・・・ 108<br />
改 良 型 転 てつ 棒 について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112<br />
28ft 級 蓄 電 池 搭 載 設 置 型 コンテナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114<br />
あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116<br />
お 問 合 せ 先 本 社 , 事 業 所 , 事 務 所 , 支 店 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117
- 巻 頭 言 -<br />
<br />
今 回 はsustinaの 新 ラインナップとして<strong>S13</strong>,<strong>S23</strong>シリーズと,さらに 動 力 モジュールの 新 顔 であるハイ<br />
ブリッドシリーズ, 蓄 電 池 駆 動 (EV)シリーズをご 紹 介 できることになりました.<br />
ソフトウェアの 世 界 から 始 まった「モジュール 構 造 とオープンアーキテクチャ」の 動 きは, 様 々な 分 野<br />
で 技 術 革 新 を 生 み,それによって 周 辺 の 産 業 構 造 も 大 きく 変 化 させてきました.<br />
ここでは,システムを 構 成 するモジュール 間 の 繋 がりが 密 なものを「 摺 り 合 わせ 型 アーキテクチャ」,<br />
それに 対 して 疎 な 繋 がりのものを「オープンアーキテクチャ」と 呼 びます.<br />
常 務 取 締 役<br />
長 谷 川 ・・・ 裕<br />
通 信 やモバイル 端 末 の 世 界 で 起 きた「モジュール 構 造 とオープンアーキテクチャ」は, 人 々の 日 常 生 活<br />
を 大 変 便 利 なものに 変 えました.その 成 果 は 鉄 道 の 世 界 にも 組 み 込 まれて 多 くの 新 しい 価 値 を 提 供 して<br />
います.<br />
ユーザから 見 た「モジュール 構 造 とオープンアーキテクチャ」の 価 値 は 単 なるコストダウンの 手 段 に 止<br />
まらず, 新 たな 価 値 を 容 易 に 手 に 入 れる 土 俵 作 りの 意 義 が 大 きいと 思 います.<br />
鉄 道 車 両 と 相 似 な 一 面 を 持 つ 自 動 車 の 世 界 では,ご 承 知 のとおり 地 球 環 境 保 護 の 要 請 に 応 えてエンジン<br />
駆 動 から「バッテリ+モータ 駆 動 」へ,あるいは「 燃 料 電 池 +モータ 駆 動 」への 移 行 が 始 まっています.<br />
この 過 程 で 動 力 システムモジュールのアーキテクチャのオープン 度 は 一 気 に 上 がり,その 結 果 Tesla・<br />
Motorsなどの 新 規 参 入 者 が 生 まれて, 高 性 能 大 容 量 バッテリなどの 技 術 革 新 を 加 速 させています.<br />
制 御 システムモジュールではアンドロイドで 成 功 したGoogleが 自 動 車 を 含 めた 広 義 のロボット 制 御 用<br />
OSへの 参 入 を 目 指 しており, 自 動 車 メーカとの 主 導 権 争 いが 耳 目 を <strong>集</strong> めているところです.この 延 長 線<br />
上 にある 自 動 運 転 技 術 の 実 用 化 は,ライドシェアサービス 等 の 新 ビジネスの 動 向 とも 相 まって,いずれ<br />
公 共 輸 送 としての 鉄 道 事 業 を 巻 き 込 んだ 構 造 変 革 に 繋 がるかも 知 れません.<br />
当 社 のsustinaシリーズでは, 車 体 構 造 ・ 駆 動 システム・ 車 両 制 御 システムなどあらゆる 観 点 で, 擦 り<br />
合 わせ 型 のアーキテクチャからオープンアーキテクチャへの 構 造 転 換 と,それに 基 づく 新 技 術 の 取 込 み・<br />
を 志 向 しています.<br />
明 治 の 汽 笛 一 声 以 来 ,「 電 化 ( 地 上 電 力 輸 送 網 + 車 上 モータ 駆 動 システム)」が 鉄 道 の 動 力 近 代 化 の 象 徴<br />
でありましたが,バッテリモジュールのエネルギ 密 度 が 飛 躍 的 に 向 上 する 中 で, 鉄 道 車 両 の 世 界 でもハ<br />
イブリッド 車 両 や 蓄 電 池 駆 動 車 (EV)の 選 択 枝 が 現 実 のものとなりました. 今 回 sustinaシリーズのライ<br />
ンナップにこの2シリーズが 加 わりましたが,さらに 今 後 鉄 道 で 燃 料 電 池 が 真 価 を 発 揮 できる 環 境 が 整 え<br />
ば,この 方 向 の 進 化 も 考 えられます.<br />
輸 送 密 度 によっては, 既 設 の 電 化 区 間 においてもこうしたシステムが 地 上 側 電 力 輸 送 網 の 維 持 コストを<br />
含 めたトータルコストで 有 利 になることが 考 えられます. 新 世 代 ソリューションの 登 場 で,「 非 電 化 」が<br />
動 力 近 代 化 の 終 着 点 になるかも 知 れません.<br />
sustinaはオープンアーキテクチャの 環 境 の 中 で,この 他 にもI・o・Tによる 保 守 業 務 の 近 代 化 , 新 しい 出<br />
力 技 術 (ウェアラブル,VR,MR)による 情 報 伝 達 ,などの 新 しい 価 値 を 取 込 みながら 今 後 も 進 化 する<br />
ことを 目 指 します.<br />
総 合 車 両 製 作 所 は,14000 両 の 鉄 道 車 両 を 運 用 する 鉄 道 グループの 目 線 で 車 両 の 進 化 の 行 く 末 を 見 極 め,<br />
ユーザの 皆 様 に 新 しい 価 値 を 提 供 していきたいと 考 えています.<br />
3<br />
2016 年 12 月
前 田 秀 幸 Hideyuki MAEDA<br />
sustina ブランド 車 両 のシリーズ 中 で, 生 産 ロットが 比 較 的 小 規 模 となるタイプの 車 両 を 開 発 し, 落 成 するこ<br />
とが 出 来 た. 車 両 が 使 用 される 環 境 に 対 する 最 適 化 と 顧 客 の 思 いを 取 り 入 れながら,コストパフォーマンスの<br />
高 い 車 両 として 開 発 することを 目 指 してきたものが 製 品 となり, 客 先 に 納 入 されたのでその 概 要 を 紹 介 する.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
当 社 はステンレス 構 体 車 両 のパイオニアとして, 前 身<br />
の 東 急 車 輛 製 造 の 時 代 に 日 本 で 最 初 にセミステンレス 電<br />
車 ( 東 急 5200 系 ;1958 年 ),およびオールステンレス 車 両<br />
( 東 急 7000 系 ;1962 年 )を 製 造 した 歴 史 を 持 っている.<br />
オールステンレス 車 両 はステンレス 材 の 持 つ 優 れた 耐<br />
食 性 , 耐 熱 性 ,リサイクル 性 などが 評 価 されて 今 日 まで<br />
通 勤 車 両 の 多 くに 採 用 されており, <strong>特</strong> に 耐 食 性 の 良 さは<br />
無 塗 装 化 につながり, 環 境 への 負 荷 軽 減 ,メンテナンス<br />
の 軽 減 に 大 きく 寄 与 して,ライフサイクルコストの 低 減<br />
にもつながっている.<br />
初 代 オールステンレス 車 両 7000 系 は 製 造 されて 以 来<br />
50 年 を 超 えているが, 首 都 圏 で 活 躍 したのち, 地 方 鉄 道<br />
で 今 なお 現 役 で 活 躍 している 車 両 が 多 数 あり,その 耐 久<br />
性 の 高 さが 証 明 されている.<br />
その 後 オールステンレス 車 両 はいくつかの 段 階 を 経 て<br />
進 化 を 続 けているが,2012 年 に 当 社 がJR 東 日 本 グルー<br />
プ 入 りしたことを 契 機 として, 再 度 の 技 術 的 ステップア<br />
ップを 推 進 しており,そのコンセプトから 導 き 出 した 新<br />
基 軸 の 技 術 を 取 り 入 れた 車 両 には“sustina”の 称 号 を 与<br />
えている.そのsustina・コンセプトを 図 で 表 したものを<br />
図 1に 示 す.“sustina”の 第 1 号 車 両 は 東 急 電 鉄 5050 系<br />
5576 号 車 ( 図 2)である.この 車 両 の 構 造 および <strong>特</strong> 徴 等<br />
の 詳 細 については, 総 合 車 両 製 作 所 技 報 第 2 号 で「 <strong>特</strong><br />
<strong>集</strong> 寄 稿 」として 掲 載 しているので,そちらをご 参 照 いた<br />
だきたい.<br />
日 本 国 内 における 鉄 道 車 両 の 新 形 式 車 生 産 は, 鉄 道 事<br />
業 者 ごとに 基 本 設 計 から 始 める, 多 品 種 少 量 生 産 が 主 流<br />
となっているが, 車 両 の 機 能 が 高 度 化 するに 従 いその 設<br />
計 に 必 要 とされる 期 間 やマンパワーが 増 大 し,リードタ<br />
イムおよびそのコストに 大 きな 影 響 を 与 えている.<br />
<br />
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<br />
<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
4
sustina シリーズの 概 要<br />
sustinaでは, 同 じような 性 能 をもしくは 運 用 方 法 を 車<br />
両 に 期 待 されている 複 数 の 鉄 道 事 業 者 に 採 用 頂 けるよ<br />
う, 共 通 プラットフォーム 化 を 推 進 して, 基 本 構 体 , 台<br />
車 およびそれに 使 用 される 装 置 , 部 品 などをタイプに 応<br />
じて 共 通 化 し, 開 発 コストと 装 置 / 部 品 コストを 下 げる<br />
と 共 に, 鉄 道 事 業 者 の 思 いを 取 り 入 れることができるオ<br />
プションを 組 み 合 わせることで, 運 用 される 地 域 の 人 々<br />
になじみ,その 地 方 の 文 化 にも 溶 けこむことが 出 来 るこ<br />
とを 目 指 している.<br />
今 回 この 技 報 で 紹 介 するタイプの 車 両 については, 冒<br />
頭 に 述 べたとおり 生 産 ロットが 比 較 的 小 規 模 であるた<br />
め,その 開 発 コストが 車 両 全 体 のコストに 大 きな 割 合 を<br />
占 めることになっていたが,プラットフォームを 共 通 化<br />
することでQCDを 高 めていけると 考 えている.<br />
今 回 開 発 されたsustina 車 両 は,<br />
・・ 車 体 長 18mで2 両 編 成 ながら 運 転 間 隔 は6 分 程 度 と 乗<br />
客 の 利 便 性 が 高 い 静 岡 鉄 道 向 けA3000 形 電 車<br />
・・ 車 体 長 20mで2 両 編 成 もしくは4 両 編 成 を 単 独 運 用 は<br />
もちろん, 自 由 に 編 成 の 組 み 合 わせをすることで 様 々<br />
な 運 用 に 対 応 できる 新 潟 地 域 向 けE129 系 電 車<br />
・・ 車 体 長 20mで,2 両 編 成 の 複 数 編 成 が 連 結 可 能 であり,<br />
環 境 負 荷 への 負 担 が 低 いこと, 電 化 ・ 非 電 化 を 問 わ<br />
ずに 直 通 運 転 ができること 等 の <strong>特</strong> 徴 を 活 かし, 仙 台<br />
- 石 巻 間 の 通 勤 時 間 を 大 幅 に 短 縮 することに 寄 与 し<br />
ている,ディーゼルハイブリッドHB-E210 系 車 両<br />
・・ 車 体 長 20mで,4 両 編 成 ,HB-E210 系 車 両 同 様 その<br />
環 境 負 荷 への 負 担 の 低 さを 活 かして, 秋 田 ・ 青 森 地<br />
区 の 観 光 路 線 を 快 適 に 走 行 し, 地 域 観 光 活 性 のため<br />
に 役 立 てていただいている,HB-E300 系 車 両<br />
・・ 車 体 長 20mで,2 両 編 成 , 電 化 区 間 から 非 電 化 区 間<br />
を 直 通 運 転 し, 車 両 自 体 からはCO 2 をまったく 排 出<br />
する 事 がないことで 世 界 からも 注 目 を 浴 び, 烏 山 線<br />
で 運 用 されているEV-E301 系 蓄 電 池 駆 動 電 車<br />
以 上 である.それぞれの 車 両 形 式 の 持 つ <strong>特</strong> 徴 が, 車 両 運<br />
用 上 のニーズと 合 致 する,もしくはこれに 近 い 鉄 道 事 業<br />
者 に 採 用 頂 くことができると 思 っている.<br />
<br />
(1)・ 浅 賀 哲 也 , 他 :「「sustina」 国 内 第 1 号 車 両 の 開 発 」,<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報 ・ 第 2 号 ,4-11,(2013),( 株 )<br />
総 合 車 両 製 作 所<br />
<br />
前 田 秀 幸<br />
常 務 取 締 役<br />
生 産 本 部 長<br />
<br />
<br />
<strong>特</strong> に 世 界 的 に 関 心 が 高 まっている, 環 境 にやさしい<br />
Hybrid 車 両 については, 世 界 に 向 けてその 運 用 実 績 を 基<br />
にした 優 秀 性 を 伝 え, 認 知 頂 くことも 大 切 である.<br />
車 両 の 共 通 プラットフォームとなる 部 分 をさらにレベ<br />
ルアップすると 共 に,お 客 様 の 思 いを 取 り 入 れるオプシ<br />
ョン 部 分 への 対 応 の 迅 速 さを 磨 き 上 げることで, 車 両 が<br />
運 用 される 地 域 に 貢 献 をしていきたいと 考 えている.<br />
5<br />
2016 年 12 月
静 岡 鉄 道 では, 約 40 年 前 から 使 用 されてきた 静 岡 清 水<br />
線 の1000 形 車 両 ( 以 下 , 既 存 車 と 記 す)の 老 朽 化 に 伴 う<br />
置 き 換 え 用 として, 新 型 式 A3000 形 を 新 造 することとな<br />
った. 車 両 形 式 の 頭 文 字 である「A」には,「Activate( 活<br />
性 化 する= 沿 線 の 活 性 化 )」 「Amuse( 楽 しませる= 乗 っ<br />
て 眺 めて 人 を 楽 しませる)」「Axis( 軸 = 静 岡 市 が 目 指 す<br />
コンパクトシティの 軸 となる)」 の 思 いが 込 められてい<br />
る.<br />
A3000 形 は, 当 社 で 提 案 するステンレス 車 両 のブラン<br />
ド 名 である「sustina<strong>S13</strong>」に 位 置 付 けている.<br />
以 下 に,A3000 形 の 概 要 を 紹 介 する.<br />
<br />
<br />
<br />
編 成 はMc+Tcの2 両 固 定 である. 側 出 入 口 の 位 置 は<br />
ホームでの 乗 車 位 置 ,ホーム 柵 を 考 慮 して 既 存 車 と 同 一<br />
とした 片 側 3 扉 の 配 置 である.<br />
車 体 は 軽 量 ステンレス 構 体 とし, 台 枠 等 の 一 部 を 除 き<br />
ステンレス 鋼 を 使 用 している. 外 板 表 面 処 理 はBG(ベ<br />
ルトグラインダ) 仕 上 としている.<br />
前 頭 構 体 は 踏 切 事 故 対 策 として 前 面 強 化 を 図 った. 側<br />
面 からの 衝 撃 に 対 する 安 全 向 上 策 として 側 構 体 の 柱 の 位<br />
置 に 屋 根 構 体 の 垂 木 の 位 置 を 合 わせる 構 造 を 採 用 した.<br />
連 妻 構 体 はオフセット 衝 突 対 策 として, 隅 柱 の 断 面 形 状<br />
の 一 辺 を 斜 め45°にし, 衝 突 した 車 両 同 士 が 離 反 する 機<br />
能 を 盛 り 込 んでいる.<br />
車 体 のカラーリングは 静 岡 が 誇 る「1 番 」をモチーフ<br />
とし, 編 成 ごとに 異 なる 色 を 選 定 した. 第 1 編 成 は 富 士<br />
山 をモチーフとしたクリアブルーで, 静 岡 鉄 道 の 創 立<br />
100 周 年 となる2019 年 度 までに7 色 すべてが 揃 う 計 画 と<br />
している.なお, 第 8 編 成 以 降 はステンレスの 地 肌 を 活<br />
かした 外 観 になる 予 定 である.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
6
静 岡 鉄 道 A3000 形<br />
<br />
室 内 は 出 入 口 間 が9 人 掛 , 車 端 が3 人 掛 の 座 席 配 置 と<br />
し, 車 いすスペースに 隣 接 する 箇 所 のみ6 人 掛 としてい<br />
る. 座 席 は 一 人 ずつの 座 席 位 置 を 明 確 にしたバケット 形<br />
にするとともに, 一 人 当 たりの 座 席 幅 は460mmとし, 既<br />
存 車 よりも45mm 広 げ, 快 適 性 を 向 上 させている.そで<br />
仕 切 部 と9 人 掛 の 中 間 2 箇 所 および6 人 掛 の 中 間 1 箇 所 に,<br />
車 体 中 心 に 向 かって 湾 曲 したユニバーサルデザインの 握<br />
り 棒 を 設 けた.<br />
室 内 灯 については 昨 今 , 標 準 となっているLED 照 明<br />
としており, 従 来 の 蛍 光 灯 と 同 等 の 明 るさを 確 保 すると<br />
ともに 消 費 電 力 を 抑 制 している.<br />
荷 物 棚 は 出 入 口 間 の 中 心 部 に3 人 掛 座 席 幅 相 当 のもの<br />
を4 箇 所 に 設 置 した. 棚 板 はガラス 製 で, 床 上 面 からの<br />
高 さを1730mmとし, 既 存 車 に 比 べて75mm 低 くすること<br />
で 小 柄 なお 客 様 へ 配 慮 した. 吊 手 の 高 さは2 種 類 とし,<br />
低 い 方 の 吊 手 は 新 たに 二 段 式 のものを 開 発 した.この 吊<br />
手 は 床 上 面 から1640mmと1530mmの2 箇 所 を 握 ることが<br />
でき, 身 長 に 合 わせて 高 さを 選 べる 形 状 となっている.<br />
高 い 方 の 吊 手 は 一 般 的 な 三 角 形 で, 床 上 面 からの 高 さは<br />
1800mmである. 吊 手 の 正 面 はすべて 車 両 の 側 面 に 向 け<br />
てあり,とっさの 時 に 吊 手 を 認 識 しやすくすることで 安<br />
全 性 の 向 上 を 意 図 している.<br />
大 形 液 晶 ディスプレイの 車 内 案 内 表 示 器 を,1 両 当 たり3<br />
台 , 千 鳥 配 置 となるよう 設 置 した.<br />
先 頭 寄 車 掌 側 には 車 いすスペースを 設 けた. 側 面 には<br />
二 段 式 の 手 すりを 設 置 し, 車 いすでの 使 用 のほか, 立 席<br />
客 が 寄 り 掛 かることもできるよう 配 慮 している.<br />
<br />
<br />
McとTcの 両 先 頭 2 両 編 成 で, 新 静 岡 寄 の 先 頭 車 Mcに<br />
は, 主 回 路 機 器 であるVVVFインバータ 装 置 ,フィルタ<br />
リアクトル, 断 流 器 を 搭 載 している.また, 非 常 用 の 電<br />
源 装 置 である 充 放 電 装 置 と 非 常 走 行 装 置 バッテリを 取 り<br />
付 けるスペースを 確 保 している. 第 1 編 成 には 塗 油 装 置<br />
を 搭 載 している. 新 清 水 寄 先 頭 車 TcにはSIV 装 置 ,トラ<br />
ンスフィルタ, 整 流 装 置 , 電 動 空 気 圧 縮 機 , 蓄 電 池 箱 を<br />
搭 載 している. 電 動 空 気 圧 縮 機 はオイルフリーとしてお<br />
り 保 守 低 減 を 図 っている.Mc,Tcともに, 床 下 機 器 の<br />
スペースを 確 保 するため, 供 給 空 気 タンク, 制 御 空 気 タ<br />
ンク, 保 安 空 気 タンクは 縦 型 を 採 用 した. 主 電 動 機 は 内<br />
扇 全 閉 形 を 採 用 した 誘 導 電 動 機 とし, 電 動 空 気 圧 縮 機 と<br />
同 様 に 保 守 低 減 を 図 っている.<br />
<br />
パンタグラフはMc 車 の 連 妻 寄 に1 台 搭 載 している.ま<br />
た, 車 外 からでもパンタグラフを 上 げることができるよ<br />
うに 手 動 の 鍵 外 し 装 置 を 設 置 している.また,Tc 車 の 連<br />
妻 寄 には 列 車 無 線 用 のアンテナを 設 けている.<br />
<br />
戸 閉 装 置 は 民 鉄 各 社 で 実 績 のある 空 気 式 を 採 用 してい<br />
る.また, 防 犯 対 策 として, 室 内 天 井 に 監 視 カメラを 設<br />
置 している.<br />
<br />
側 窓 は 下 降 窓 と 固 定 窓 を 組 み 合 わせた 配 置 とし,UV<br />
カット 仕 様 の 強 化 ガラスを 採 用 している.<br />
側 引 戸 は 車 内 外 ともにステンレス 鋼 板 を 使 用 し, 車 内<br />
側 戸 先 部 には, 開 閉 時 の 安 全 性 向 上 を 目 的 に, 警 戒 色 で<br />
ある 黄 色 帯 を 設 置 した. 側 引 戸 窓 ガラスは 引 戸 内 板 との<br />
段 差 をなくし, 戸 袋 への 指 巻 き 込 みに 対 する 安 全 性 を 向<br />
上 している.<br />
側 出 入 口 上 部 のかもい 部 には, 開 閉 動 作 を 表 すチャイ<br />
ムと 表 示 灯 を 設 けるとともに,32インチハーフサイズの<br />
<br />
7<br />
2016 年 12 月
このほかには 空 調 関 係 の 機 器 として 空 両 接 触 器 と 横 流<br />
送 風 機 を 設 置 している.<br />
連 妻 かもい 部 においてはMc,Tcともに 空 調 制 御 器 ,<br />
サービス 機 器 配 電 盤 を 設 置 し,Tcのみ 列 車 無 線 用 の 制 御<br />
器 と 電 源 装 置 を 設 置 している.<br />
<br />
客 先 からの 要 求 を 満 足 するため,なるべくテーブル 面<br />
には 機 器 を 取 り 付 けない 構 造 とした.テーブルの 前 寄 り<br />
には 走 行 の 画 像 を 記 録 する 前 方 カメラを 搭 載 している.<br />
<br />
<br />
<br />
運 転 士 腰 掛 はワンマン 運 転 により 各 駅 の 停 車 ごとに 折<br />
り 畳 むので, 座 布 団 の 擦 り 切 れを 防 止 するため,カバー<br />
を 設 けている( 図 6 矢 印 部 ).<br />
乗 務 員 室 に 各 2 個 設 置 しているサンバイザのうち, 運<br />
転 士 寄 のものは 通 常 の 前 後 回 転 だけでなく, 上 下 移 動 と<br />
左 右 回 転 機 構 を 兼 ね 備 えたものを 採 用 している.<br />
運 転 操 作 に 必 要 なスイッチ・ 表 示 灯 , 計 器 類 を 運 転 位<br />
置 およびその 手 元 に 整 理 して 配 置 することにより, 運 転<br />
士 の 視 認 性 および 操 作 性 の 向 上 を 図 っている.<br />
ワイパのメンテナンスを 考 慮 し, 運 転 台 ユニット 内 に<br />
空 間 を 確 保 し, 正 面 に 点 検 フタを 設 けている.<br />
主 幹 制 御 器 は 両 手 操 作 のT 形 ワンハンドルであり 主 ハ<br />
ンドルの 位 置 検 知 をアブソリュートロータリエンコーダ<br />
により 検 出 しているため, 有 接 点 マスコンの 既 存 車 にく<br />
らべ 信 頼 性 が 向 上 した. 制 御 部 に 故 障 診 断 機 能 を 設 ける<br />
とともに, 待 機 二 重 系 として 冗 長 性 の 向 上 を 図 った.<br />
列 車 衝 突 時 に 安 全 対 策 として 緊 急 防 護 (TE)スイッ<br />
チを 設 けた.スイッチが 押 されると, 警 笛 鳴 動 , 非 常 制<br />
動 , 列 車 無 線 発 報 , 発 炎 信 号 動 作 ,パンタグラフ 降 下 が<br />
同 時 に 行 われる.<br />
運 転 士 異 常 時 列 車 停 止 装 置 は 既 存 車 と 同 じ, 主 ハンド<br />
ルの 握 りの 有 無 により 動 作 するデッドマン 装 置 とした.<br />
車 掌 スイッチユニットには, 車 掌 スイッチのみならず<br />
中 扉 締 切 スイッチ, 全 開 スイッチ, 車 外 放 送 スイッチ,<br />
ハンドマイク, 車 外 警 報 スイッチ 等 を <strong>集</strong> 約 して 配 置 して,<br />
お 客 様 の 動 向 を 把 握 しながら 操 作 できるようにした.ま<br />
た, 多 客 時 等 での 後 方 乗 務 員 室 の 補 助 係 員 が 乗 務 し 列 車<br />
監 視 をする 際 ,この 係 員 が 直 ちに 列 車 を 停 止 できるよう<br />
に, 車 掌 スイッチユニットに 非 常 ブレーキスイッチを 設<br />
けている.<br />
警 笛 は 二 段 式 とし, 軽 く 踏 むと 電 子 警 報 が 鳴 動 , 強 く<br />
踏 むと 空 気 式 警 笛 が 鳴 動 するようにして 非 常 用 と 注 意 喚<br />
起 用 を 区 別 した.<br />
その 他 , 発 炎 信 号 , 扉 開 放 コック, 列 車 防 護 用 具 箱 ,<br />
合 図 灯 , 手 旗 等 も 既 存 車 と 同 様 に 設 置 している.<br />
消 火 器 は 運 転 室 仕 切 り 部 に 埋 め 込 み, 運 転 室 , 客 室 双<br />
方 から 取 り 出 せる 構 造 とした.<br />
客 室 内 と 同 様 に 室 内 灯 ( 乗 務 員 室 灯 )はLEDとし,<br />
前 照 灯 , 種 別 標 識 灯 , 尾 灯 の 各 灯 具 についてもLEDとし<br />
た. 前 部 灯 については 高 輝 度 LED 灯 とし, 配 光 を 広 くと<br />
っている.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
8
静 岡 鉄 道 A3000 形<br />
左 側 面 には 計 器 類 ( 電 圧 計 , 電 流 計 )とEBリセット<br />
SW,i-ATS 復 帰 SWを 設 置 した.<br />
<br />
形 式 をTS-840 形 (Mc 台 車 ),TS-841 形 (Tc 台 車 )と<br />
称 する. 全 閉 型 主 電 動 機 のような 最 新 機 器 を 取 付 け 可 能<br />
な 構 造 とする 一 方 で, 既 存 車 との 部 品 互 換 性 を 考 慮 し,<br />
既 存 車 の 構 造 を 極 力 変 えない 事 により 信 頼 性 の 維 持 と 容<br />
易 な 保 守 性 および 点 検 整 備 の 統 一 化 を 考 慮 した 設 計 を 行<br />
っている.これにより 客 先 からの 要 求 とコスト 低 減 を 両<br />
立 させている.<br />
基 本 的 な 構 造 は 既 存 車 を 踏 襲 して 設 計 されたダイレク<br />
トマウント 式 のまくらはり 付 き 台 車 である. 従 来 と 同 様 ,<br />
空 気 ばねの 横 剛 性 を 利 用 する 方 式 を 採 用 している.・<br />
まくらばねはφ550の 空 気 ばねを 使 用 し, 垂 直 , 水 平<br />
方 向 の <strong>特</strong> 性 を 利 用 している.また 上 面 板 とベローズとの<br />
間 にポリエチレン 製 カバーを 入 れることにより,ベロー<br />
ズの 耐 久 性 が 増 すよう 考 慮 している.<br />
まくらはりは 台 車 枠 上 に 側 受 すり 板 を 介 して 載 ってお<br />
り,まくらはりと 車 体 との 間 に 空 気 ばねを 取 り 付 け, 空<br />
気 ばねの 横 たわみによって 車 体 の 横 揺 れを 許 容 できる 構<br />
造 である. 空 気 ばねを 直 接 車 体 に 取 り 付 けたことにより<br />
給 気 は 車 体 配 管 により 行 われ, 台 車 側 の 配 管 は 省 略 して<br />
いる. 車 体 とまくらはりの 間 には 空 気 ばねの 異 常 上 昇 止<br />
めを 兼 ねた 台 車 吊 り 上 げ 金 具 を 備 えてあり,まくらはり<br />
と 台 車 枠 の 間 には 吊 り 上 げ 機 能 を 備 えた 中 心 ピンを 設<br />
け, 車 体 と 台 車 を 同 時 に 持 ち 上 げることが 出 来 る.また<br />
車 体 側 にまくらはりを 残 し 台 車 を 抜 き 取 ることもでき<br />
る.まくらはりは 空 気 ばねの 補 助 空 気 室 としても 利 用 し,<br />
左 右 の 空 気 ばねそれぞれに 対 応 して 空 気 室 が 二 つ 用 意 さ<br />
れている.また,レールへの 追 従 性 を 良 くするため 片 台<br />
車 の 左 右 の 空 気 室 は 繋 がった 構 造 にしている.<br />
側 受 は 車 体 荷 重 を 全 側 受 支 持 とし, 蛇 行 動 防 止 のため<br />
台 車 の 回 転 抵 抗 を 適 切 に 与 えている.<br />
自 動 高 さ 調 整 装 置 はLV-3 形 調 整 弁 を 車 体 側 に 取 付 け<br />
た 構 造 である.<br />
台 車 枠 は 既 存 車 の 構 造 を 踏 襲 した 鋼 板 溶 接 構 造 であ<br />
る.<br />
車 輪 には 丸 リング 付 圧 延 車 輪 を 採 用 し, 防 音 性 能 を 備<br />
えている.ゴムを 巻 いたリングが 車 輪 に 嵌 められ, 振 動<br />
を 減 衰 させることで 高 周 波 音 , <strong>特</strong> にきしり 音 の 低 減 に 効<br />
果 がある.<br />
軸 受 は120 複 列 円 筒 密 封 ころ 軸 受 を 使 用 し,グリスが<br />
外 に 漏 れず, 保 守 性 も 高 い 構 造 となっている. 軸 ばねは<br />
既 存 車 と 同 じばね 定 数 で, 軸 箱 の 上 に 防 振 ゴム, 軸 ばね<br />
を 直 列 に 配 する 既 存 車 と 同 じ 構 造 とした.<br />
ブレーキ 装 置 も 既 存 車 を 踏 襲 した 片 押 し 式 踏 面 ブレー<br />
キを 採 用 している.ブレーキシリンダはφ120mmのゴム<br />
シリンダを 使 用 し,ストローク 調 整 は 横 ばりに 設 けた 隙<br />
間 調 整 装 置 により 行 える 構 造 とした.ブシュはポリウレ<br />
タンを 使 用 し 騒 音 防 止 と 保 守 の 容 易 化 を 図 った.また<br />
Mc 車 の 後 位 台 車 にはフランジ 塗 油 器 を 設 けている.<br />
<br />
<br />
A3000 形 は2016 年 3 月 24 日 に 営 業 運 転 を 開 始 した. 今<br />
後 は 年 間 1 ~ 2 編 成 のペースで 新 造 を 行 い,8 年 後 にはす<br />
べての 車 両 がA3000 形 に 置 き 換 えられる 予 定 である.<br />
( 杉 山 ・ 隆 幸 , 茂 木 ・ 正 綱 , 金 子 ・ 晃 大 , 横 山 ・ 大 雅 記 )<br />
9<br />
2016 年 12 月
車 種 電 動 制 御 客 車 (MC) 制 御 客 車 (TC)<br />
形 式 クモハA3000 形 クハA3500 形<br />
定 員 ( 座 席 ) 119(39) 119(39)<br />
車 体 寸 法 18000×2742×4050(パンタ 折 たたみ) 18000×2742×4015<br />
自 重 34.3t 29.5t<br />
台 車<br />
主 電 送 機<br />
駆 動 装 置 ( 歯 車 比 )<br />
<strong>集</strong> 電 装 置<br />
ボルスタ 付 空 気 ばね<br />
TS-840<br />
全 閉 内 扇 式 三 相 かご 型 誘 導 電 動 機<br />
120kW<br />
中 実 軸 平 行 カルダンTD 継 手<br />
(7.07)<br />
ばね 上 昇 式 シングルアーム<br />
パンタグラフ( 手 動 下 降 装 置 付 )<br />
ボルスタ 付 空 気 ばね<br />
TS-841<br />
制 御 装 置 IGBT VVVF 制 御 (2M 制 御 ×2)<br />
補 助 電 源 装 置 静 止 形 IGBTインバ-タ 装 置 100kVA<br />
電 動 空 気 圧 縮 機 スクロール 式 オイルフリ-400L/min×3 台<br />
蓄 電 池 焼 結 式 アルカリ 蓄 電 池 50Ah<br />
ブレーキ 装 置<br />
全 電 気 指 令 式 電 磁 直 通 ブレーキ 方 式 電 力 回 生 ブレーキ(MC)<br />
保 安 ブレーキ 滑 走 再 粘 着 制 御<br />
戸 閉 装 置 両 開 きベルト 連 動 式 戸 挟 制 御 付 6 台<br />
冷 房 装 置 52.3kW (45000kcal) 1 台<br />
暖 房 装 置<br />
放 送 装 置<br />
車 両 情 報 統 合<br />
システム<br />
客 室 シーズ 線 式 750W×13 台 (MC)・12 台 (TC)<br />
乗 務 員 室 温 風 ヒ-タ 1700W/850W<br />
乗 務 員 室 マイクロホン2 台 ・スタンドマイク1 台<br />
車 内 スピ-カ4 台 車 外 スピ-カ2 台<br />
タッチパネルLCD 表 示 モニタ・ 自 動 放 送 装 置 ・ 車 内 案 内 表 示 器 ・<br />
車 外 表 示 器 制 御 機 能 ( 運 転 状 況 記 録 装 置 内 蔵 )<br />
車 内 案 内 表 示 器 32インチ LCD 表 示 器 3 台<br />
車 内 灯 ・ 前 照 灯 LED 車 内 灯 31W×20 個 LED 前 照 灯 31W/15W×2 個<br />
自 動 列 車 停 止 装 置 変 周 式 ATS( 点 制 御 速 度 照 査 式 )i-ATS( 変 調 方 式 (MSK)・ 車 上 パタ-ン 制 御 方 式 )<br />
列 車 無 線 装 置 アナログ1 波 単 信 400MHz 無 線 機 1 台 / 編 成 操 作 器 1 台 / 両<br />
その 他 ドライブレコ-ダ( 乗 務 員 室 )1 台 防 犯 カメラ( 客 室 )4 台<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
10
静 岡 鉄 道 A3000 形<br />
<br />
11<br />
2016 年 12 月
今 号 の <strong>特</strong> <strong>集</strong> 「sustina・・シリーズ」として「sustina・・<strong>S23</strong>」<br />
である,JR 東 日 本 E129 系 一 般 形 直 流 電 車 を 紹 介 する.<br />
E129 系 ( 図 1)は, 新 潟 地 区 の 普 通 電 車 の 主 力 として<br />
使 用 されてきた115 系 直 流 電 車 の 老 朽 取 替 ,および 北 陸<br />
新 幹 線 開 業 に 伴 った「えちごトキめき 鉄 道 株 式 会 社 」へ<br />
のE127 系 車 両 譲 渡 による 不 足 車 両 の 補 填 のために 新 造<br />
された.この 車 両 は 現 在 首 都 圏 の 主 力 形 式 であるE233<br />
系 の 技 術 に, 仙 台 地 区 で 活 躍 するE721 系 の 地 方 線 区 向<br />
け 短 編 成 設 備 を 追 加 し,さらに 新 潟 地 区 での 使 用 実 績 や<br />
新 技 術 も 投 入 して 開 発 している.<br />
なお, 車 両 の 構 造 および <strong>特</strong> 徴 等 の 詳 細 については,す<br />
でに 総 合 車 両 製 作 所 技 報 第 4 号 で「 製 品 紹 介 」として<br />
掲 載 しており,そちらをご 参 照 いただきたい.<br />
E129 系 は 新 潟 地 区 の 通 勤 通 学 時 間 を 快 適 なものとす<br />
るだけでなく,グループ 旅 行 などの 長 時 間 乗 車 の 場 合 で<br />
も 快 適 に 過 ごせる 車 両 を 目 指 して 設 計 , 製 造 を 行 った.<br />
登 場 から2 年 が 経 ち,すでに100 両 以 上 が 地 域 の 主 力 とし<br />
てお 客 さまのもとで 日 々 活 躍 している. 新 たに 長 岡 駅 -<br />
直 江 津 駅 間 , 長 岡 駅 - 越 後 中 里 駅 間 でワンマン 運 転 も 行<br />
われており, 都 市 部 を 含 めた 地 方 線 区 の 輸 送 ニーズに 合<br />
わせ,きめ 細 かな 運 用 がされている.また, 一 部 の 編 成<br />
において 側 引 戸 かもい 部 に「 車 内 ビジョン」を 追 加 設 置<br />
するなど,より 高 い 情 報 サービスを 提 供 している.<br />
今 後 , 新 潟 地 区 のシンボルだけでなく, 地 方 線 区 向 け<br />
一 般 形 直 流 電 車 のスタンダードとして 期 待 している.<br />
<br />
(1)・ 吉 村 ・ 雅 和 , 他 :「JR 東 日 本 E129 系 一 般 形 直 流<br />
電 車 」, 総 合 車 両 製 作 所 技 報 ・ 第 4 号 ,88-93,(2015),<br />
( 株 ) 総 合 車 両 製 作 所<br />
( 吉 村 ・ 雅 和 , 安 在 ・ 恵 一 郎 , 三 井 ・ 健 司 ,<br />
澤 井 ・ 啓 太 , 西 川 ・ 信 明 ・ 記 )<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
12
JR 東 日 本 E129 系 一 般 形 直 流 電 車<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
13<br />
2016 年 12 月
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
14
JR 東 日 本 E129 系 一 般 形 直 流 電 車<br />
<br />
15<br />
2016 年 12 月
今 号 の <strong>特</strong> <strong>集</strong> 「sustina シリーズ」として,「sustina・<br />
<strong>HYBRID</strong>」であるJR 東 日 本 EV-E301 系 一 般 形 直 流 電 車<br />
を 紹 介 する.<br />
EV-E301 系 ( 図 1)は, 蓄 電 池 駆 動 システムを 搭 載 し<br />
た 直 流 電 車 である.この 電 車 は, 電 化 区 間 ではパンタグ<br />
ラフを 上 昇 して, 架 線 からの 電 力 により 走 行 する.その<br />
際 に 蓄 電 池 の 充 電 率 が 低 い 場 合 は, 架 線 からの 電 力 やブ<br />
レーキ 時 の 回 生 電 力 で 充 電 を 行 う. 一 方 , 非 電 化 区 間 で<br />
は,パンタグラフを 降 下 して, 充 電 された 蓄 電 池 の 電 力<br />
にて 走 行 する( 図 2).この 時 , 非 電 化 区 間 でも,ブレー<br />
キの 回 生 電 力 で 充 電 出 来 るため,エネルギ 効 率 の 上 昇 に<br />
も 寄 与 している.<br />
なお, 車 両 の 構 造 および <strong>特</strong> 徴 等 の 詳 細 については,す<br />
でに 総 合 車 両 製 作 所 技 報 第 3 号 で「 製 品 紹 介 」として<br />
掲 載 しており,そちらをご 参 照 いただきたい.<br />
ローレル 賞 に 選 定 した 鉄 道 友 の 会 は,「 架 線 と 大 容 量 蓄<br />
電 池 のハイブリッド 方 式 により, 非 電 化 路 線 鉄 道 の 新 し<br />
い 動 力 方 式 を 具 現 化 した 点 で,EV-E301 系 は 意 義 の 大 き<br />
な 車 両 である」と 同 車 両 を 高 く 評 価 している.<br />
<br />
(1)・ 藤 澤 ・ 朝 岐 , 他 :「JR 東 日 本 EV-E301 系 蓄 電 池<br />
駆 動 電 車 」, 総 合 車 両 製 作 所 技 報 ・ 第 3 号 ,64-69,<br />
(2014),( 株 ) 総 合 車 両 製 作 所<br />
( 麻 生 和 夫 , 関 根 眞 一 , 堀 口 健 一 郎 , 平 井 明 正 記 )<br />
EV-E301 系 は,2014 年 3 月 15 日 より 営 業 運 転 に 投 入 さ<br />
れ, 現 在 は1 編 成 2 両 が 東 北 本 線 ( 宇 都 宮 ~ 宝 積 寺 )およ<br />
び 烏 山 線 ( 宝 積 寺 ~ 烏 山 )の 普 通 列 車 として 運 用 されて<br />
いる. 今 後 は, 烏 山 線 の 気 動 車 全 車 両 を 同 車 両 に 置 き 換<br />
える(※1) 計 画 が 進 んでいる.(※1:2012 年 11 月 JR 東<br />
日 本 プレスリリースより)<br />
なお,EV-E301 系 は2015 年 にローレル 賞 を 受 賞 した.<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
16
JR 東 日 本 EV-E301 系 一 般 形 直 流 電 車<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
17<br />
2016 年 12 月
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
18
JR 東 日 本 EV-E301 系 一 般 形 直 流 電 車<br />
<br />
19<br />
2016 年 12 月
今 号 の <strong>特</strong> <strong>集</strong> 「sustina シ リ ー ズ 」 と し て「sustina<br />
<strong>HYBRID</strong>」である,JR 東 日 本 HB-E210 系 一 般 形 ハイブ<br />
リッド 車 両 を 紹 介 する.<br />
HB-E210 系 ( 図 1)は,「 仙 石 東 北 ライン」を 走 行 する<br />
車 両 である.「 仙 石 東 北 ライン」を 走 行 する 車 両 には,<br />
仙 石 線 の 直 流 区 間 , 東 北 本 線 の 交 流 区 間 , 接 続 線 の 非 電<br />
化 区 間 を 走 行 できることが 求 められる.そのため,HB-<br />
E210 系 ではキハE200 形 やHB-E300 系 で 実 績 のあるディ<br />
ーゼルハイブリッドシステムを 搭 載 し, 回 生 エネルギの<br />
有 効 利 用 を 図 るとともに, 排 気 ガス 中 の 有 害 物 質 を 低 減<br />
するコモンレール 式 エンジンを 採 用 して, 環 境 負 荷 の 低<br />
減 を 図 った.<br />
なお, 車 両 の 構 造 および <strong>特</strong> 徴 等 の 詳 細 については,す<br />
でに 総 合 車 両 製 作 所 技 報 第 4 号 で「 製 品 紹 介 」として<br />
掲 載 しており,そちらをご 参 照 いただきたい.<br />
HB-E210 系 は2015 年 5 月 30 日 から 仙 石 東 北 ラインで 営<br />
業 運 転 を 開 始 している.<br />
また,2016 年 の 鉄 道 友 の 会 ローレル 賞 を 受 賞 した. 鉄<br />
道 友 の 会 によれば, 受 賞 理 由 は「HB-E210 系 は,ディー<br />
ゼルハイブリッドシステム,3 扉 車 の2 両 編 成 ,ステンレ<br />
ス 車 体 などにより, 環 境 性 能 向 上 , 旅 客 サービス 向 上 ,<br />
メンテナンスコスト 低 減 などを 具 現 化 し, 今 後 の 地 方 都<br />
市 近 郊 の 鉄 道 輸 送 に 大 きく 貢 献 する 優 れた 車 両 であるこ<br />
とから,ローレル 賞 に 選 定 いたしました.」とあり,<br />
HB-E210 系 が 改 めて 評 価 されたことを 喜 ばしく 思 う. 受<br />
賞 式 典 は,2016 年 ・8 月 6 日 , 仙 石 東 北 ラインの 女 川 延 伸<br />
の 出 発 式 に 合 わせて 行 われており,HB-E210 系 がなお 一<br />
層 , 震 災 復 興 および 地 域 に 貢 献 していくことを 願 う.<br />
<br />
(1)・ 藤 澤 ・ 朝 岐 , 他 :「JR 東 日 本 HB-E210 系 一 般 形<br />
ハイブリッド 車 両 」, 総 合 車 両 製 作 所 技 報 ・ 第 4 号 ,<br />
82-87,(2015),( 株 ) 総 合 車 両 製 作 所<br />
( 藤 澤 朝 岐 , 半 田 直 一 , 横 山 大 雅 , 堀 口 健 一 郎 記 )<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
20
JR 東 日 本 HB-E210 系 一 般 形 ハイブリッド 車 両<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
21<br />
2016 年 12 月
( )<br />
<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
22
JR 東 日 本 HB-E210 系 一 般 形 ハイブリッド 車 両<br />
<br />
<br />
形 式<br />
・ 記 事<br />
例 : 動 台 車 便 : 車 子 対 応 洋 式 トイレ<br />
-: 半 永 久 連 結 器 : 自 動 解 結 式 密 着 連 結 器 ( 電 連 付 )<br />
編 成 山 ・ 仙 台 石 巻 →<br />
運<br />
便<br />
運<br />
運 転 台 片 運 転 台 ( 貫 通 型 ) <br />
定 員 ( 人 )<br />
重 量 (t)<br />
最 高 運 転 速 度 (km/h)<br />
制 御 装 置<br />
ブレーキ 装 置<br />
保 安 装 置<br />
セミクロス (・) 内 座 席 定 員<br />
運 転 整 備 重 量<br />
加 速 度 :2.3km/h/sと1.8km/h/sを 切 替 可 能<br />
<br />
減 速 度 :3.5km/h/s<br />
コンバータ+VVVFインバータ 制 御<br />
回 生 ・ 発 電 ブレーキ 併 用 電 気 指 令 式 空 気 ブレーキ( 応 荷 重 ・ 滑 走 ・<br />
再 粘 着 機 能 付 )、 直 通 予 備 ブレーキ、 抑 速 ブレーキ、 耐 雪 ブ<br />
レーキ<br />
ATS-Ps 形 [ 統 合 形 ATS 車 上 装 置 (Ps 形 )を 編 成 に1 台 ]、<br />
ATS-P 形 車 上 子 取 付 準 備 工 事<br />
デジタル 列 車 無 線 (3 形 )、 防 護 無 線 、EB・TE 装 置<br />
側 出 入 口 ・ 間 口 寸 法 (mm)× 個 数 1300×3 高 さ:1850mm、ステップ 無 し<br />
車 体 長 (mm) 連 結 面 間 距 離 :20000mm<br />
主<br />
車 体 幅 (mm)<br />
<br />
要<br />
屋 根 高 (mm)<br />
寸<br />
<br />
法 台 車 中 心 間 距 離 (mm)<br />
<br />
床 面 高 (mm)<br />
<br />
台 車 形 式 ( 歯 車 比 )<br />
動 台 車 :DT75B(1:707)×1、 従 台 車 :TR260B×1<br />
ボルタレス 式 空 気 ばね 台 車 、 軸 はり 式 、1 本 リンク<br />
方 式<br />
直 噴 式 直 列 6 気 筒 横 型 ディーゼルエンジン×1<br />
機<br />
型 式 × 台 数<br />
DMF15HZB-G×1<br />
関<br />
出 力<br />
燃 料 タンク 容 量 × 台 数 550×1<br />
油 面 センサ・ 燃 料 漏 れ 検 知 装 置 付 き、 強 化 型<br />
主 発 電 機<br />
DM113 形 ×1 270kW<br />
主<br />
MB3 形 ・リチウムイオンバッテリ<br />
主 回 路 用 蓄 電 池<br />
回<br />
新 製 時 15.2kWh・2 群 構 成 ・ 電 圧 :680V<br />
路 主 電 動 機<br />
MT78 形 ×2 定 格 95kW<br />
主 制 御 装 置<br />
CI24 形 ×1<br />
主 回 路 用 非 常 蓄 電 池 内 蔵<br />
補 助 電 源 装 置 CI24 形 ×1 ( 三 相 440V・70KVA)<br />
主 制 御 装 置 と 一 体 化<br />
電 動 空 気 圧 縮 機 MH-3125-C600N 形 ×1 500N/min 以 上<br />
三 相 440V 駆 動<br />
冷 房 装 置<br />
AU732A 形 38.4kW(33000kcal/h)×1<br />
暖 房 装 置 客 室 10.7kW+ 空 調 ヒータ8kW 客 室 11.9kW+ 空 調 ヒータ8kW<br />
三 相 440V 駆 動<br />
便 所 車 子 対 応 洋 式 トイレ 無 電 動 車 子 対 応 、 真 空 式 汚 物 処 理 装 置<br />
ワンマン 設 備 準 備 工 事 <br />
モニタ 装 置 <br />
その 他<br />
軽 量 ステンレス 車 体 、 耐 寒 耐 雪 構 造 、 半 自 動 機 能 付 側 引 戸 ( 空 気 式 、め 制 御 、レールヒータ)、<br />
LED 式 行 先 表 示 器 、 車 内 案 内 表 示 器 ( 側 引 戸 上 部 )、 自 動 放 送 、 外 部 スピーカ、<br />
移 動 止 システム、 主 回 路 蓄 電 池 開 閉 器 、LED 式 客 室 照 明 、 車 子 スペース、<br />
密 着 式 連 結 器 ( 電 気 連 結 器 付 )、 転 落 防 止 放 送 装 置 ( 電 子 ホーン 共 用 )、<br />
燃 料 漏 れ 検 知 装 置 、 強 化 型 燃 料 タンク、 強 化 型 スノープラウ( 車 体 装 架 )<br />
23<br />
2016 年 12 月
JR 東 日 本 では,2016 年 7 月 から 開 催 された 全 国 大 型 観<br />
光 キャンペーン「 青 森 県 ・ 函 館 デスティネーションキャ<br />
ンペーン」にあわせて, 五 能 線 を 走 行 するハイブリッド<br />
システムを 搭 載 した 新 型 リゾートトレインHB-E300 系 4<br />
両 1 編 成 を 愛 称 名 「リゾートしらかみ 橅 」として 導 入 した.<br />
HB-E300 系 は,2007 年 7 月 から 小 海 線 にて 営 業 運 転 を<br />
開 始 した 世 界 初 のハイブリッド 営 業 車 両 キハE200 形 の<br />
後 続 となるハイブリッド 車 両 で,ハイブリッドシステム<br />
の 基 本 仕 様 を 踏 襲 , 一 部 の 機 器 の 改 良 を 図 った 上 で, 車<br />
窓 からの 風 景 を 楽 しんでいただく 等 のリゾート 列 車 とし<br />
てのサービス 面 のコンセプトを 付 加 することでその 期 待<br />
に 応 えた 車 両 である.<br />
このHB-E300 系 橅 編 成 は,「sustina・<strong>HYBRID</strong>」の1つで<br />
あり, 最 新 のハイブリッドシステムを 有 する 車 両 である.<br />
<br />
<br />
<br />
編 成 はHB-E301-5+HB-E300-105+HB-E300-5+<br />
HB-302-5の4 両 編 成 で, 形 式 は, 便 所 付 先 頭 車 をHB-<br />
E301-5 形 , 半 個 室 中 間 車 をHB-E300-105 形 , 便 所 付 中<br />
間 車 をHB-E300-5 形 , 便 所 なし 先 頭 車 をHB-E302-5 形<br />
としている. 車 体 寸 法 は, 連 結 面 間 距 離 :21100mm,<br />
車 体 長 :20600mm, 車 体 幅 :2920mmの 拡 幅 車 体 となり,<br />
主 要 寸 法 は 既 存 のHB-E300 系 リゾートしらかみ 青 池 編 成<br />
と 同 一 である. 床 面 高 さは,レール 面 から1130mm( 側<br />
出 入 口 ステップ 高 さは970mm)で,キハE200 形 および<br />
キハE130 系 列 と 同 等 としている.<br />
構 体 は,キハE200 形 と 同 様 の 軽 量 ステンレス 構 体 .<br />
また, 側 面 衝 突 に 対 する 安 全 性 向 上 対 策 として, 側 構 体<br />
の 柱 と 屋 根 構 体 の 垂 木 ピッチを 極 力 合 わせることで,<br />
構 体 にリング 構 造 を 構 成 している.さらに,これらの 骨<br />
部 材 同 士 の 継 手 結 合 強 度 を 向 上 させることによって,<br />
車 体 の 側 面 強 度 向 上 を 図 っている.<br />
ハイブリッド 車 は, 一 般 の 電 車 ・ 気 動 車 と 比 較 して 搭<br />
載 機 器 が 多 いため, 車 体 部 品 に 関 しては 随 所 に 軽 量 化<br />
対 策 を 図 っている. 構 体 部 品 については,・FEM 解 析 に<br />
よる 強 度 解 析 結 果 と 構 体 構 造 の 見 直 しを 繰 り 返 し 行 い,<br />
台 ワク・ 構 体 部 材 の 形 状 や 板 厚 の 最 適 化 を 図 ることで<br />
軽 量 化 を 実 現 している.また, 車 内 外 の 設 備 品 について<br />
も, 部 材 板 厚 の 見 直 しや, 可 能 な 限 りアルミ 製 部 品 を 多<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
24
JR 東 日 本 HB-E300 系 橅 編 成<br />
用 することで 軽 量 化 を 図 っている.<br />
エクステリアデザインは, 車 体 側 面 を 橅 の 木 立 をグリ<br />
ーンの 濃 淡 でグラデーションしたカラーフィルムで 構 成<br />
している.さらに,ハイブリッド 車 両 ということを 表 現<br />
するために,『RESORT・<strong>HYBRID</strong>・TRAIN』ロゴを 表 示<br />
している.<br />
デザインは,インテリア・エクステリアとも「KEN・<br />
OKUYAMA・DESIGN( 代 表 : 奥 山 清 行 氏 )」が 担 当 して<br />
いる.<br />
<br />
<br />
<br />
一 般 客 室 の 座 席 部 分 は, 窓 からの 眺 望 を 満 喫 できる<br />
よう 通 路 面 より137mm 高 い 高 床 構 造 としている. 高 床 周<br />
囲 は, 天 然 木 床 に 対 してダークブラウンの 縁 面 を 用 いる<br />
ことで, 段 差 を 明 示 している.<br />
側 窓 は 固 定 窓 とし, 換 気 量 確 保 のため, 屋 根 上 に 換 気<br />
扇 を 搭 載 している. 窓 寸 法 は, 展 望 室 部 分 を 幅 1800mm<br />
の 大 窓 とし, 一 般 客 室 部 は 幅 950mmとしている.また,<br />
高 さ 寸 法 を 極 力 大 きく 確 保 し,キハE200 形 ( 窓 高 さ<br />
940mm)に 対 し,1120mmまで 拡 大 している.ガラスは,<br />
熱 線 ・ 紫 外 線 吸 収 機 能 を 持 つグリーンの 複 層 ガラスを<br />
使 用 している. 窓 キセにはリサイクル 性 の 高 いFRPを 採<br />
用 して 環 境 への 配 慮 を 図 ったものとしている.<br />
照 明 は, 客 室 内 を 天 井 全 長 に 通 したアルミ 製 のキセ 内<br />
にLED 灯 を 配 した 間 接 照 明 とし,デッキ 部 にはダウンラ<br />
イトを 配 置 している.<br />
腰 掛 は,2+2 列 の 回 転 リクライニングシートを, 現<br />
行 のリゾートしらかみ 青 池 編 成 と 同 じ 前 後 ピッチ1200・<br />
mmで 配 置 している. 脚 台 は, 足 元 空 間 を 確 保 できるよ<br />
う 中 央 1 本 足 構 造 とし, 座 面 下 には,ヒータを 設 置 して<br />
いる. 背 ズリ 背 面 には, 収 納 式 のテーブルを 設 けたほか,<br />
座 席 を 向 い 合 せにして 使 用 する 場 合 を 考 慮 し,インアー<br />
ムテーブルも 内 蔵 している.HB-E301-5 形 の 出 入 台 寄<br />
には1+1 列 の 車 イススペースを 設 けている.<br />
HB-E301-5 形 ,HB-E302-5 形 の 運 転 室 と 一 般 客 室 と<br />
の 間 には, 既 存 のリゾートしらかみと 同 様 に 展 望 室 を 設<br />
け,シンボルツリーや 側 窓 からの 景 色 を 楽 しむための 秋<br />
田 ・ 青 森 県 産 の 木 製 の 固 定 スツールを 配 置 している.ま<br />
た, 天 井 にはイベントカメラを 設 置 している. 照 明 は,<br />
一 般 客 室 に 白 色 LED 灯 を 用 いているのに 対 し, 展 望 室<br />
エリアには 電 球 色 のLED 灯 を 用 いることで 空 間 の 違 い<br />
を 演 出 している.<br />
<br />
HB-E300-105 形 には 半 個 室 を 設 け, 一 部 の 個 室 には<br />
対 面 式 の 可 動 スライド 腰 掛 を 設 けている.ボックス 席 は<br />
既 存 の 青 池 編 成 よりも 眺 望 性 の 良 い, 開 放 感 のあるス<br />
ペースとしている.<br />
半 個 室 テーブルには, 青 森 県 ・ 秋 田 県 産 の 天 然 木 を,<br />
独 <strong>特</strong> な 製 法 で 加 工 した 照 明 が 備 え 付 けられており, 温 か<br />
みを 感 じられる 空 間 となっている.<br />
25<br />
2016 年 12 月
JR 東 日 本 秋 田 支 社 で 内 装 工 事 を 施 工 したHB-E300-5<br />
形 には, 新 たにORAHOカウンタとシンボルツリーを 設<br />
けている. 地 酒 やスイーツなど 沿 線 の <strong>特</strong> 産 品 を 販 売 し,<br />
車 窓 を 眺 めながら 飲 食 ができるスペースとしている.ま<br />
た, 車 窓 からの 景 色 を 楽 しむため, 側 窓 に 向 かって 回 転<br />
引 き 出 しのカウンタ 腰 掛 を 設 置 している.<br />
<br />
HB-E301-5 形 とHB-E300-5 形 の 出 入 台 には 車 イス 対 応<br />
洋 式 便 所 , 小 便 所 , 洗 面 所 を 設 置 している. 車 イス 対 応<br />
洋 式 便 所 は, 割 付 をE721 系 ・キハE200 形 ・E130 系 列 と<br />
同 等 とし, 電 動 ・ 手 動 車 イスで 使 用 可 能 な 空 間 を 確 保 し<br />
ている. 扉 はボタン 操 作 で 開 閉 できる 自 動 扉 としている.<br />
トイレ 入 口 付 近 には 手 荷 物 用 のカウンタを 設 け, 収 納 式<br />
のオムツ 交 換 台 や 炎 検 知 器 も 設 置 している. 小 便 所 は,<br />
車 体 軽 量 化 のために,FRP 製 の 小 便 器 を 採 用 している.<br />
汚 物 処 理 装 置 は 真 空 式 を 採 用 し 臭 気 対 策 を 図 っている.<br />
<br />
内 装 は 複 合 パネルを 主 とした 構 造 で, 内 部 骨 組 の 低 減<br />
により, 内 装 部 品 の 軽 量 化 を 図 っている. 客 室 内 は, 側<br />
壁 ・ 天 井 部 を 天 然 木 でまとめ, 妻 壁 , 荷 物 室 をシックな<br />
木 目 調 , 床 を 天 然 木 とすることで, 落 ち 着 きのある 空 間<br />
となっている.<br />
客 室 と 出 入 台 の 間 には 機 器 室 および 荷 物 スペースを 設<br />
けている.<br />
<br />
<br />
<br />
HB-E300 系 における 床 下 機 器 配 置 の 最 大 の <strong>特</strong> 徴 は,<br />
新 幹 線 電 車 で 見 られるような 同 方 位 同 機 器 配 置 であり,<br />
後 ろ 向 き 先 頭 車 HB-E302-5 形 の 車 体 構 造 の 方 転 に 対 し<br />
て 床 下 機 器 配 置 は 方 転 していないことにある( 図 13).<br />
このことは 床 下 機 器 配 置 を 先 行 のキハE200 形 に 準 ず<br />
る 配 置 をベースにHB-E300 系 に 方 転 しない 形 で 展 開 し<br />
たもので, 屋 根 上 の 排 気 管 の 位 置 も 同 じ 側 になることか<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
26
JR 東 日 本 HB-E300 系 橅 編 成<br />
ら 屋 根 上 搭 載 のリチウムイオン 電 池 の 煤 煙 対 策 に 大 きく<br />
寄 与 した.また, 台 車 間 の 機 器 配 置 を1 種 類 としている<br />
ことは 最 大 のコストパフォーマンスと 言 える.<br />
床 下 の 機 器 の 並 びは,HB-E301-5 形 ,HB-E300-105 形 ,<br />
およびHB-E300-5 形 は 前 位 より,HB-E302-5 形 は 後 位 よ<br />
り, 主 変 換 装 置 ,ラジエタ, 電 動 空 気 圧 縮 機 , 除 湿 装 置 ,<br />
550L 燃 料 タンク,ディーゼルエンジン・ 発 電 機 , 断 路<br />
器 箱 ,DC100V 蓄 電 池 , 冷 却 ファン,ブレーキ 制 御 装 置 ,<br />
消 音 器 , 供 給 空 気 タンクを 配 置 している. 汚 物 処 理 装 置<br />
は,HB-301-5 形 およびHB-E300-5 形 の 妻 下 部 に 配 置 した.<br />
発 電 セットは,コマツ 製 6 気 筒 450PSエンジンと 日 立<br />
製 270kW 発 電 機 の 組 み 合 わせで,エンジン 停 止 時 は 発 電<br />
機 に 電 気 的 な 制 御 を 掛 けエンジン 振 動 の 減 衰 を 速 めてい<br />
る.<br />
HB-E300 系 ではキハE200 形 より 冷 却 能 力 をアップし<br />
た 新 型 ラジエタを 採 用 したことで 燃 料 タンクの 形 状 を 含<br />
むラジエタ 周 辺 の 機 器 配 置 をキハE200 形 から 変 更 して<br />
いる.いずれにせよキハE200 形 同 等 の 高 密 度 実 装 の 要<br />
求 から, 冷 却 水 および 排 気 系 を 最 小 スペースに 留 め, 機<br />
関 関 連 の 実 装 面 積 を 床 下 面 積 の 半 分 以 下 で 実 現 した.ラ<br />
ジエタは 排 熱 熱 源 の 発 電 機 から 遠 ざける 対 角 配 置 とし,<br />
ヒートバランスを 最 大 限 に 考 慮 した 点 はキハE200 形 の<br />
実 績 から 成 る.また,システム 起 動 スイッチ 箱 をエンジ<br />
ン 近 傍 に 設 け, 気 動 車 のエンジン 始 動 と 同 様 の 立 ち 上 げ<br />
操 作 を 実 現 した.<br />
燃 料 タンクには 飛 石 などからの 影 響 を 防 ぐため,タン<br />
クの 下 半 分 にステンレス 板 を 追 加 し, 燃 料 タンクを 強 化<br />
している( 図 9).また,HB-E210 系 同 様 , 燃 料 タンクの<br />
吸 い 込 む 空 気 の 流 速 をみて 燃 料 漏 れを 判 断 する 燃 料 漏 れ<br />
検 知 装 置 用 のセンサを 床 下 に 配 備 している.<br />
主 回 路 蓄 電 池 から 主 断 路 器 の 間 の 回 路 位 置 には, 感 電<br />
事 故 防 止 のため 主 回 路 を 遮 断 する 主 回 路 蓄 電 池 用 NFB<br />
( 遮 断 器 ) 箱 をHB-E210 系 同 様 , 配 置 している.<br />
<br />
<br />
屋 根 上 機 器 は, 床 下 機 器 配 置 に 見 られる 同 方 位 同 機<br />
器 配 置 であり,HB-E301-5 形 ,HB-E300-105 形 ,および<br />
HB-E300-5 形 は 前 位 より,HB-E302-5 形 は 後 位 より, 主<br />
回 路 用 蓄 電 池 2 台 , 空 調 装 置 , 元 空 気 タンクと 排 気 管 の<br />
順 で 配 置 されている.HB-E300 系 では, 主 回 路 蓄 電 池 用<br />
リアクトルが 床 下 の 主 変 換 装 置 に 内 蔵 されたため 屋 根 上<br />
からリアクトル 箱 が 無 くなったこと,また 換 気 扇 が 展 望 室<br />
屋 根 上 に 追 加 されたことがキハE200 形 と 異 なる( 図 14).<br />
排 気 管 先 端 の 突 出 口 は, 絞 り 構 造 を 持 ちエンジンの 排<br />
気 をより 高 く 導 くことで 他 の 屋 根 上 機 器 への 煤 煙 の 影 響<br />
を 軽 減 している.<br />
<br />
客 室 天 井 にはLEDランプ40Wが 配 置 され, 展 望 室 天<br />
井 にはLEDランプ40WおよびLED 灯 が 配 置 されている.<br />
また, 客 室 の 前 後 妻 壁 にはLED 式 案 内 表 示 器 , 天 井 中 央<br />
部 および 端 部 には17インチワイド 画 面 の 液 晶 表 示 器 を 搭<br />
載 している. 液 晶 表 示 器 には, 運 転 室 前 方 のカメラ 映 像 ,<br />
展 望 室 のイベントカメラ 映 像 およびDVD 映 像 を 放 映 す<br />
ることができる.<br />
トイレ 内 にはHB-E210 系 同 様 , 炎 検 知 装 置 を 設 けたほ<br />
か, 非 常 通 話 装 置 も 設 置 している. 通 話 ボタンを 足 元<br />
にも 設 置 し, 転 倒 時 でも 通 話 可 能 にした.<br />
戸 閉 機 には,キハE200 形 と 同 様 に 空 気 式 戸 閉 機 が 採<br />
用 されている.<br />
機 器 室 には, 配 電 盤 ,ディーゼルエンジンおよびラジエ<br />
タの 制 御 装 置 , 直 通 予 備 ブレーキ 装 置 等 が 格 納 されている.<br />
<br />
運 転 室 機 器 配 置 は, 観 光 列 車 のイメージを 持 つ 先 頭<br />
部 傾 斜 角 24 度 の 前 面 に 非 貫 通 型 運 転 台 機 器 配 置 を 組 み<br />
合 わせている.<br />
運 転 台 はコンソール 高 さを1050mmとし, 一 般 的 な 通<br />
勤 車 における 低 運 転 台 と 高 運 転 台 の 中 間 高 さを 設 定 する<br />
ことで, 乗 務 員 の 前 方 視 界 と 展 望 室 からの 前 方 視 界 の 両<br />
立 を 図 っている( 図 15).<br />
衝 突 時 における 乗 務 員 の 保 護 のため, 車 体 前 頭 部 の 構<br />
造 強 化 を 図 っている. 運 転 室 と 客 室 との 仕 切 扉 は 運 転 士<br />
寄 りに 配 置 し 乗 客 の 前 面 眺 望 を 損 なわぬよう, 乗 務 員 室<br />
背 面 の 仕 切 窓 を 最 大 限 に 取 った 構 成 としている. 運 転 席 背<br />
面 の 仕 切 扉 は 客 室 側 にクラッカプレートを 配 置 している.<br />
非 常 時 にプレートを 割 り 施 錠 を 解 くことによって, 乗 客 を<br />
運 転 室 側 開 き 戸 から 車 外 へ 誘 導 可 能 としたほか, 事 故 障<br />
害 時 の 運 転 士 の 客 室 からの 救 出 作 業 を 可 能 としている.<br />
27<br />
2016 年 12 月
E233 系 直 流 電 車 と 同 様 に 運 転 席 側 に 予 備 ワイパを 設<br />
けている.ワイパブレードの 停 止 位 置 は 寒 地 向 け 積 雪 対<br />
応 としてブレードは 縦 方 向 で 停 止 する. 助 手 席 ワイパ 装<br />
置 は 運 転 席 ワイパ 装 置 とワイヤで 連 結 しているため,バ<br />
ランスの 良 い 視 界 が 得 られている.<br />
運 転 操 作 に 関 するスイッチ 類 の 配 置 は, 基 本 的 には 電<br />
車 と 同 等 のスイッチ 類 配 置 であるが,パン 上 げスイッチの<br />
位 置 にはシステム 起 動 スイッチを,パン 下 げスイッチの<br />
位 置 にはシステム 停 止 スイッチなどハイブリッドシステ<br />
ムで 必 要 な 機 器 を 装 備 したキハE200 形 を 踏 襲 するもの<br />
である.また, 主 幹 制 御 器 は 左 手 操 作 のワンハンドル 形<br />
とし, 右 手 手 掛 け 内 に 勾 配 起 動 スイッチを 設 置 している.<br />
光 線 除 けはフリーストップ 式 カーテンとしている. 運<br />
転 席 のみの 配 置 であり, 助 手 席 側 は 前 方 視 界 サービスの<br />
ため 設 置 していない.<br />
軸 箱 支 持 装 置 は 軸 梁 式 である. 台 車 枠 は, 横 梁 にシー<br />
ムレスパイプを 用 いた 鋼 板 溶 接 構 造 で, 横 梁 パイプは 空<br />
気 ばねの 補 助 空 気 室 を 兼 ねている.<br />
車 体 支 持 装 置 は, 車 体 直 結 式 空 気 ばねおよび1 本 リン<br />
ク 式 牽 引 装 置 から 成 る. 空 気 ばねは,キハE200 形 と 共<br />
通 である. 左 右 ダンパには 防 雪 カバーを 設 けている.<br />
基 礎 ブレーキ 装 置 は 踏 面 片 押 しのユニット 式 で, 各 台<br />
車 共 通 である. 制 動 時 の 滑 走 検 知 再 粘 着 は 軸 単 位 で 制 御<br />
される.<br />
各 車 両 4 軸 のうち,1ないし2 軸 に 滑 走 ・ 空 転 防 止 用 のセ<br />
ラミック 噴 射 装 置 を 装 備 している.・「sustina・<strong>HYBRID</strong>」<br />
車 両 用 台 車 として 客 先 からの 多 様 な 要 求 に 応 えられるよ<br />
うに, 追 加 で 装 置 を 取 付 け 可 能 な 座 も 準 備 工 事 として 設<br />
けている.<br />
また, 台 車 周 囲 の 空 間 が 確 保 された 車 両 へ 台 車 が 転 用<br />
された 時 には, 先 頭 台 車 にフラップ 付 きの 強 化 型 雪 かき<br />
を 取 り 付 けることが 出 来 る 構 造 となっている.<br />
先 頭 軸 には 液 体 タイプのフランジ 塗 油 装 置 を 装 備 して<br />
いる.<br />
<br />
<br />
<br />
・<br />
運 転 室 では, 運 転 台 コンソール, 背 面 機 器 ユニット 箱 ,<br />
その 他 の 機 器 取 付 部 材 の 全 てをアルミニウム 製 の 筐 体 と<br />
しておりこれまでの 通 勤 車 より 軽 量 化 を 図 っている.<br />
運 転 士 前 面 上 部 キセの 中 にはLED 式 後 部 標 識 灯 を 配<br />
置 している.LED 式 前 部 標 識 灯 は 運 転 台 ユニットの 左 右<br />
端 部 に 位 置 しているが 灯 具 ユニットの 交 換 は 外 部 アクセ<br />
スである.なお, 前 照 灯 ガラスは 曇 り 防 止 のため, 熱 線<br />
入 りにしている.<br />
保 安 装 置 は, 統 合 型 ATS 車 上 装 置 (Ps 形 ),デジタル<br />
列 車 無 線 装 置 (2 形 ),および 防 護 無 線 のほか,EB・TE<br />
装 置 を 設 置 している.<br />
<br />
台 車 は, 電 動 台 車 がDT75A, 付 随 台 車 がTR260Aと 称<br />
するボルスタレス 台 車 である. 主 な 構 成 は, 既 に 導 入 さ<br />
れているキハE200 形 ハイブリッド 車 両 用 のDT75/<br />
TR260 台 車 を 基 本 とし, 部 品 の 共 通 化 を 図 っている.<br />
<br />
JR 東 日 本 が 採 用 するハイブリッドシステムは,エン<br />
ジンの 機 械 的 動 力 をエンジンに 直 結 する 発 電 機 によって<br />
電 気 エネルギに 変 換 するシリーズハイブリッドシステム<br />
である. 従 来 の 気 動 車 に 見 られるエンジンの 機 械 的 動 力<br />
を,トルクコンバータを 介 して 車 輪 に 伝 達 する 系 は 無 く,<br />
このことはメンテナンス 面 では 優 位 と 言 える.<br />
HB-E300 系 のディーゼル 方 式 のシリーズハイブリッド<br />
システムは,ディーゼルエンジンとリチウムイオン 蓄 電<br />
池 を 組 み 合 わせ, 駆 動 力 に 台 車 内 の 電 動 機 を 使 用 する.<br />
発 車 時 は 蓄 電 池 充 電 電 力 を 使 用 し, 加 速 時 はディーゼル<br />
エンジンが 動 作 して 発 電 機 を 動 かし, 蓄 電 池 電 力 と 合 わ<br />
せて 電 動 機 を 回 転 させる. 減 速 時 は 台 車 内 の 電 動 機 を 発<br />
電 機 とし 利 用 し, 回 生 ・ 発 電 ブレーキエネルギを 電 気 に<br />
変 換 して 蓄 電 池 に 充 電 するシステムである.<br />
橅 編 成 のハイブリッドシステムは, 直 近 のハイブリッ<br />
ド 車 両 であるHB-E210 系 同 様 のシステムである. 基 本 構<br />
成 はキハE200 形 からの 流 れ( 上 述 の 通 り)を 踏 襲 して<br />
いる.HB-E210 系 以 降 , 主 変 換 装 置 内 の 非 常 バッテリに<br />
よる 主 変 換 装 置 の 再 始 動 が 可 能 となっているが, 今 回 新<br />
たに, 外 部 バッテリ 接 続 により 主 変 換 装 置 を 起 動 させる<br />
ことが 可 能 なシステムとしている.これは 万 が 一 主 変 換<br />
装 置 内 の 補 助 バッテリが 枯 渇 した 場 合 のためであり, 専<br />
用 の 操 作 盤 をHB-E301-5 形 の 機 器 室 内 に 搭 載 している.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
28
1<br />
JR 東 日 本 HB-E300 系 橅 編 成<br />
<br />
基 本 的 な 構 成 についてはHB-E300 系 青 池 編 成 を 踏 襲 す<br />
る. 客 室 設 備 として 青 池 編 成 同 様 のAVシステムを 搭 載<br />
し,イベントスペースの 様 子 や, 前 面 展 望 などを 客 室 内<br />
のモニタに 表 示 することができる. 変 化 点 として, 保 安<br />
装 置 はE129 系 と 同 様 の 統 合 型 ATS 車 上 装 置 (Ps 形 )を<br />
搭 載 する.また, 無 線 は 青 池 編 成 のC 型 列 車 無 線 に 対 し,<br />
橅 編 成 はデジタル 列 車 無 線 (2 型 )を 搭 載 する. 客 室 照 明 は<br />
すべて,LED 照 明 とし,より 環 境 に 配 慮 した 車 両 となっ<br />
ている. 前 照 灯 についても 同 様 にLED 照 明 を 採 用 し, 視<br />
界 の 確 保 と 消 費 電 力 の 軽 減 を 図 っている.<br />
( 府 馬 竜 也 , 木 元 裕 勝 , 横 山 大 雅 , 森 田 康 平 , 深 澤 悦 史 記 )<br />
<br />
HB-E301 HB-E300-100 HB-E300-0 HB-E302<br />
HB-E301-5 HB-E300-105 HB-E300-5 HB-E302-5<br />
1 2 3 4<br />
4<br />
( ) - - ( )<br />
34 36 28 44<br />
42.5t 40.7t 40.8t 41.9t<br />
100km/h<br />
VVVF<br />
(E301,E300-0)<br />
ATS , 2 , ,EB-TE<br />
1010mm 2<br />
20600mm<br />
2920mm<br />
3620mm<br />
14400mm<br />
1130mm 970mm<br />
DT75A 1 707 1 TR260A 1<br />
DMF15HZB-G 6 1<br />
331kW(450PS)/2100rpm<br />
550L 1<br />
DM113 1 270kW<br />
MB3<br />
15.2kWh<br />
MT78 2 95kW<br />
CI24 1<br />
CI24 1 3 440V 70kVA<br />
MH3125-C600N 1 500NL/min 3 440V<br />
AU732A 38.4kw (33000kcal) 1 11.8kW 8kW<br />
MON18A B<br />
LED<br />
2<br />
AV<br />
E200<br />
29<br />
2016 年 12 月
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
30
JR 東 日 本 HB-E300 系 橅 編 成<br />
<br />
31<br />
2016 年 12 月
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
32
JR 東 日 本 HB-E300 系 橅 編 成<br />
<br />
33<br />
2016 年 12 月
橋 本 克 史 Katsufumi HASHIMOTO<br />
谷 口 宏 次 Koji TANIGUCHI<br />
鉄 道 車 両 にとって, 車 内 静 粛 性 はお 客 様 に 快 適 にご 利 用 いただくための 重 要 な 要 素 である. <strong>特</strong> に 高 速 走 行 す<br />
る 新 幹 線 車 両 では, 車 内 騒 音 を 低 減 する 構 造 が 強 く 求 められる. 車 内 騒 音 低 減 策 の 開 発 に 向 け, 車 内 騒 音 の 現<br />
状 分 析 や 騒 音 低 減 策 の 効 果 の 予 測 が 重 要 であることから,SEA 法 を 用 いた 解 析 手 法 について 開 発 を 進 め, 実 際<br />
の 測 定 値 との 比 較 で 実 用 的 なレベルまで 精 度 を 上 げることができた. 今 後 は, 車 内 騒 音 低 減 策 の 開 発 に 使 用 す<br />
るとともに,さらなる 精 度 向 上 もすすめていく.<br />
Quietness・of・the・passenger・area・is・important,・for・the・railway・vehicle.・Particularly,・it・is・important・to・the・highspeed・vehicle.・Because・when・a・vehicle・runs・at・high・speed,・the・noise・increases.・It・is・important・that・we・can・analyze・thenoise,・to・develop・structure・to・reduce・the・noise.・So・we・develop・a・method・to・analyze・by・the・SEA・method.・The・SEAmodel・of・the・vehicle・which・we・built・collated・it・with・measurements・and・was・able・to・secure・analysis・precision.・Weanalyzed・using・this・model,・to・develop・・structure・to・reduce・the・noise.<br />
<br />
鉄 道 車 両 にとって, 車 内 静 粛 性 はお 客 様 に 快 適 にご<br />
利 用 いただくための 重 要 な 要 素 である. <strong>特</strong> に 新 幹 線 車<br />
両 は 高 速 走 行 するため 車 内 騒 音 が 大 きくなる 傾 向 にあ<br />
り, 車 内 騒 音 を 低 減 する 構 造 が 強 く 求 められる. 一 般 に,<br />
騒 音 低 減 策 は 質 量 が 増 加 する 方 向 になるが, 高 速 走 行<br />
のため 新 幹 線 車 両 には 軽 量 化 も 求 められている. 今 後<br />
の 新 幹 線 の 速 度 向 上 に 向 け, 相 反 するこれらの 性 能 を<br />
満 足 させるため, 軽 量 な 車 内 騒 音 低 減 策 の 開 発 が 必 要<br />
である.<br />
車 内 騒 音 低 減 策 の 開 発 にあたっては, 車 内 騒 音 の 現<br />
状 分 析 や 騒 音 低 減 策 の 効 果 の 予 測 が 重 要 である.その<br />
ため, 車 内 騒 音 解 析 手 法 の 確 立 が 必 要 と 考 え,SEA 法<br />
を 用 いた 解 析 手 法 について 開 発 を 進 めている.<br />
<br />
SEA 法 はStatistical・Energy・Analysis・Methodの 略 で,<br />
統 計 的 エネルギ 解 析 法 と 訳 されている.SEA 法 では,「 音<br />
響 」と「 音 の 元 となる 振 動 」を 統 一 してエネルギとし<br />
て 扱 い, 実 測 データなどを 用 いて 統 計 的 手 法 を 適 用 し<br />
てモデルを 作 成 し 解 析 を 実 施 する.<br />
従 来 , 音 響 , 振 動 の 解 析 はFEMを 用 いて 実 施 されて<br />
きたが, 鉄 道 車 両 のような 複 雑 で 規 模 が 大 きい 構 造 物<br />
の 場 合 , 計 算 負 荷 が 非 常 に 大 きくなり,200Hzを 超 え<br />
る 高 い 周 波 数 域 での 解 析 は 難 しい 状 況 である.SEA 法<br />
では 解 析 モデルの 要 素 数 が 少 なくできることから, 計<br />
算 負 荷 が 小 さく, 比 較 的 短 時 間 で 高 い 周 波 数 域 の 解 析<br />
ができ,これが 最 大 の <strong>特</strong> 長 となっている. 比 較 的 新 し<br />
い 解 析 手 法 であるが, 現 在 は 解 析 ソフトが 市 販 されて<br />
おり, 建 築 , 船 舶 , 自 動 車 などの 分 野 でも 利 用 されて<br />
いる.<br />
SEA 法 では, 解 析 対 象 物 を 幾 つかの 要 素 に 分 けて 解<br />
析 モデルを 構 築 し,パワーとエネルギを 用 いて 解 析 を<br />
行 う. 要 素 数 が2つの 場 合 の 概 念 を 図 1に 示 す.<br />
鉄 道 車 両 に 適 用 するには 構 体 , 内 装 , 断 熱 材 , 車 内<br />
外 空 間 などをそれぞれ 複 数 のサブシステムに 分 解 し,<br />
サブシステム 間 の 接 続 を 設 定 する. 各 サブシステムは,<br />
構 成 材 料 の 密 度 ,ヤング 率 ,ポアソン 比 , 吸 音 率 , 厚<br />
さなどを <strong>特</strong> 性 として 設 定 し,サブシステム 間 のパワー<br />
伝 達 係 数 (Coupling・Loss・Factor:CLF)とサブシステ<br />
ムの 内 部 損 失 係 数 (Internal・Loss・Factor:ILF)をパ<br />
ラメータとして 設 定 する. 構 造 が 複 雑 なサブシステム<br />
については, <strong>特</strong> 性 を 決 定 するために,FEモデルによる<br />
解 析 や 実 測 によるデータの 取 得 が 必 要 となる.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
34
SEA 法 を 用 いた 高 速 車 両 の 車 内 騒 音 解 析<br />
に 分 割 して 構 成 する. 車 両 全 体 のSEAパネル 構 成 を 図 4<br />
P1<br />
E1<br />
Subsystem1<br />
P12<br />
E2<br />
P2<br />
Subsystem2<br />
に 示 す.<br />
これらのSEAパネル 間 の 接 合 を 設 定 して, 車 両 の<br />
SEAモデルが 完 成 した. 車 両 全 体 で 要 素 数 は2269とな<br />
った.<br />
P21<br />
Pd1<br />
Pd2<br />
Ei・<br />
Pi・<br />
Pi・j<br />
:・・エネルギ<br />
:・・ 外 部 入 力 パワー<br />
:・・ 要 素 間 伝 達 パワー(i→j)<br />
Pdi :・・ 内 部 損 失 パワー<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
最 初 に 車 両 の 形 状 , 寸 法 , 使 用 材 料 などの <strong>特</strong> 性 を 元 に<br />
SEAモデルを 作 成 し, 仮 のパラメータ(CLF,ILF)を<br />
設 定 する.これと 並 行 して 実 際 の 車 両 での 音 響 ・ 振 動 測<br />
定 を 実 施 しデータを 取 得 し,コリレーション 分 析 により<br />
パラメータの 値 を 同 定 する. 開 発 手 順 を 図 2に 示 す.<br />
車 両 SEAモデル 作 成<br />
車 両 実 測 データ 取 得<br />
パラメータ 設 定<br />
<br />
<br />
コリレーション 分 析<br />
( 合 わせこみ)<br />
パラメータ 同 定<br />
<br />
図 3に 新 幹 線 車 両 の 構 造 を 示 す. 車 外 空 間 と 室 内 空 間<br />
の 間 には, 構 体 と 内 装 パネル, 床 があり,さらに,この<br />
間 には 断 熱 材 , 空 調 ダクト, 空 気 層 などが 設 置 されてい<br />
る.また 窓 部 は 構 体 がなくガラスが 車 内 外 を 隔 てている.<br />
これらの 全 ての 部 位 について,SEAパネルを 作 成 する.<br />
それぞれの 部 位 は 解 析 精 度 を 考 慮 して 複 数 のSEAパネル<br />
SEAパネルに 設 定 する <strong>特</strong> 性 は, 対 象 が 単 純 な 形 状 を<br />
している 場 合 は 計 算 が 可 能 で, 解 析 ソフト 内 に 用 意 され<br />
た 計 算 式 や 数 値 を 使 用 することができる.しかし, 新 幹<br />
線 車 両 の 構 体 はアルミ 中 空 押 出 形 材 で 構 成 されており,<br />
その 形 状 は 複 雑 であり, 計 算 でパラメータを 求 めること<br />
ができない.そこで, 構 体 については 先 行 してFEモデ<br />
ルを 作 成 し, 解 析 を 実 施 し,その 結 果 を 用 いてSEAパネ<br />
ルのパラメータを 設 定 した.その 他 の 部 位 については 解<br />
析 ソフトに 用 意 されている 計 算 式 や 数 値 を 使 用 してパラ<br />
メータを 設 定 した. 図 5にその 手 順 を 示 す.<br />
35<br />
2016 年 12 月
ダブルスキン 構 体 の SEAモデル 作 成<br />
ダブルスキン 構 体 の FE モデル 作 成<br />
FE モデルの 解 析<br />
SEA パネルのパラメータ 設 定<br />
構 体 以 外 の( 窓 ,ドア 等 )モデル 作 成<br />
車 内 の 吸 音 性 部 品 のモデル 作 成<br />
( 腰 掛 , カーペット 等 )<br />
車 内 空 間 のモデル 作 成<br />
SEA サブシステムの 結 合<br />
<br />
<br />
SEAモデルのパラメータの 同 定 に 使 用 するため, 実 際<br />
の 車 両 での 測 定 を 実 施 した. 加 振 条 件 はインパクト 加 振<br />
とスピーカ 加 振 の2 種 類 とし, 車 内 中 央 の 床 面 上 1.2mで<br />
音 圧 を 測 定 するとともに, 車 内 の 内 張 パネル, 床 , 窓 の<br />
振 動 を 測 定 した.<br />
(1)インパクト 加 振 試 験<br />
インパクトハンマにより 車 体 外 面 を 打 撃 して 加 振 .<br />
(2)スピーカ 加 振 試 験<br />
車 体 外 側 に 設 置 したスピーカからの 音 を 出 し 加 振 .<br />
<br />
車 両 での 測 定 データを 用 いて,コリレーション 分 析 を<br />
実 施 し, 各 パラメータを 同 定 した.その 結 果 , 実 用 可 能<br />
な 解 析 精 度 を 得 ることができた. 解 析 結 果 と 測 定 値 の 比<br />
較 例 を 図 7と 図 8に 示 す. 現 時 点 では, 入 力 部 位 によって<br />
は 精 度 が 十 分 でない 結 果 も 出 ており, 今 後 も 改 良 を 進 め<br />
ることが 必 要 である.<br />
解 析 結 果 が 測 定 値 と 一 致 せず, 検 討 により 改 善 するこ<br />
とができた 例 として 窓 ガラスについて 紹 介 する. 窓 ガラ<br />
スから 侵 入 する 音 の 車 内 騒 音 への 寄 与 は 比 較 的 高 く, 車<br />
内 騒 音 低 減 を 検 討 するうえで 重 要 な 部 位 である. 当 初 の<br />
解 析 結 果 と 実 測 値 の 比 較 を 図 9に 示 す. 現 状 の 窓 ガラス<br />
は <strong>特</strong> 定 の 周 波 数 にピークが 現 れる <strong>特</strong> 徴 があるが, 解 析 結<br />
果 ではこれが 再 現 できていなかった. 窓 ガラスは 車 外 側<br />
と 車 内 側 のガラスの 間 に 空 気 層 がある 複 層 構 造 である.<br />
当 初 はこれをSEAパネルでモデル 化 しパラメータ 設 定 を<br />
したが,SEAパネルは 単 純 な 平 板 が 基 本 であるため, 中<br />
間 の 空 気 層 の 再 現 ができていないと 考 えられた.そこで,<br />
窓 ガラスについては,FEモデルを 作 成 して 置 き 換 え,<br />
解 析 を 実 施 することとした. 解 析 結 果 を 図 10に 示 す. <strong>特</strong><br />
定 の 周 波 数 のピークが 再 現 され, 解 析 精 度 が 向 上 してい<br />
る.このようにFEモデルとSEAモデルを 混 合 したハイ<br />
ブリット 解 析 は, 精 度 向 上 に 有 効 であるが, 解 析 時 間 は<br />
増 加 するため 注 意 が 必 要 である.<br />
<br />
車 内 騒 音 低 減 策 の 開 発 に 向 け, 車 内 騒 音 の 現 状 分 析 や<br />
騒 音 低 減 策 の 効 果 の 予 測 が 重 要 であることから,SEA 法<br />
を 用 いた 解 析 手 法 について 開 発 を 進 め, 実 際 の 測 定 値 と<br />
の 比 較 で 実 用 的 なレベルまで 精 度 を 上 げることができ<br />
た. 今 後 は, 車 内 騒 音 低 減 策 の 開 発 に 使 用 するとともに,<br />
さらなる 精 度 向 上 の 検 討 を 進 めていく.<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
36
SEA 法 を 用 いた 高 速 車 両 の 車 内 騒 音 解 析<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
橋 本 克 史<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 部 長 ( 高 速 車 両 )<br />
<br />
谷 口 宏 次<br />
技 術 士 ( 機 械 部 門 )<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 車 体 設 計 ) 主 任 技 師<br />
37<br />
2016 年 12 月
橋 本 克 史 Katsufumi HASHIMOTO<br />
小 泉 貴 洋 Takahiro KOIZUMI<br />
大 須 賀 晋 Susumu OOSUGA<br />
太 野 明 Akira FUTONO<br />
新 幹 線 車 両 は 車 内 の 空 気 の 清 浄 性 を 保 つため, 換 気 装 置 を 設 置 して 常 に 車 外 から 新 鮮 な 空 気 を 取 り 入 れてい<br />
る. 車 外 から 取 り 入 れる 空 気 には 塵 埃 が 含 まれるため, 換 気 装 置 の 吸 い 込 み 口 にフィルタを 設 置 している.フィ<br />
ルタに 塵 埃 が 多 く 付 着 すると 給 気 風 量 が 減 少 するため,メンテナンスの 際 に 定 期 的 なフィルタ 交 換 が 行 われて<br />
いる.フィルタ 交 換 作 業 を 軽 減 することを 目 的 に,サイクロン 方 式 の <strong>集</strong> 塵 装 置 の 開 発 を 進 めている. <strong>集</strong> 塵 装 置<br />
は 床 下 の 換 気 装 置 に 隣 接 して 設 置 可 能 な 寸 法 形 状 とし, <strong>集</strong> 塵 性 能 を 向 上 する 検 討 を 重 ね 試 作 機 を 製 作 した. 換<br />
気 装 置 を 模 擬 した 試 験 装 置 を 使 用 した 試 験 により 基 本 性 能 を 確 認 し, 営 業 車 両 での 実 用 化 に 向 け,さらに 改 良<br />
開 発 を 進 めている.<br />
Ventilation・equipment・to・keep・clean・air・in・passenger・area,・is・installed・in・the・Shinkansen・vehicle.・It・supplies・outsidefresh・air・into・the・passenger・area.・Since・the・outside・air・contains・dust,・in・order・to・remove・the・dust,・the・ventilationequipment・has・a・filter・to・the・inlet・port.・To・avoid・reduction・of・the・ventilation・volume・due・to・clogging・of・the・filter,・<br />
periodical・maintenance・of・filter・is・needed.・We・are・developing・cyclone・type・dust・collector,in・order・to・preventventilation・volume・decline・and・to・reduce・maintenance.・In・this・development,・we・confirmed・basic・performance・of・cyclonedust・collector.<br />
<br />
新 幹 線 車 両 は 車 内 の 空 気 の 清 浄 性 を 保 つため, 換 気 装<br />
置 を 設 置 して 常 に 車 外 から 新 鮮 な 空 気 を 取 り 入 れてい<br />
る.しかし, 走 行 する 線 路 の 周 囲 環 境 の 影 響 により, 車<br />
外 から 取 り 入 れる 新 鮮 空 気 には,さまざまな 塵 埃 が 含 ま<br />
れていることから, 換 気 装 置 の 吸 い 込 み 口 にフィルタを<br />
設 置 して,これらの 塵 埃 を 捕 <strong>集</strong> し 清 浄 な 空 気 のみを 取 り<br />
入 れる 構 造 としている.このフィルタに 塵 埃 が 多 く 付 着<br />
すると, 給 気 風 量 が 減 少 するため,メンテナンスの 際 に<br />
定 期 的 なフィルタ 交 換 が 行 われている.このフィルタ 交<br />
換 作 業 を 軽 減 することを 目 的 に, 新 たな <strong>集</strong> 塵 装 置 の 開 発<br />
を 進 めている.<br />
なお, 本 <strong>集</strong> 塵 装 置 の 開 発 はJR 東 日 本 からの 委 託 を 受<br />
け 実 施 しているものである.<br />
るため 車 体 を 気 密 構 造 とし, 換 気 装 置 には 高 い 静 圧 <strong>特</strong> 性<br />
を 持 つ 送 風 機 が 使 用 されている. 換 気 装 置 には 給 気 送 風<br />
機 と 排 気 送 風 機 があり, 給 気 ・ 排 気 の 風 量 を 調 整 し, 車<br />
内 圧 力 が 車 外 圧 力 より 僅 かに 高 くなるように 設 定 してい<br />
る.<br />
<br />
<br />
前 述 のとおり, 新 幹 線 車 両 は 車 内 の 空 気 の 清 浄 性 を 保<br />
つため 換 気 装 置 を 設 置 して 常 時 換 気 を 行 っている. 新 幹<br />
線 車 両 の 換 気 空 調 系 統 の 概 略 を 図 1に 示 す.<br />
新 幹 線 車 両 は 高 速 走 行 するため,トンネル 通 過 中 に 車<br />
外 の 圧 力 が 大 きく 変 動 する.この 圧 力 変 動 が 車 内 に 伝 わ<br />
ると, 耳 に 不 快 感 ( 耳 つん)が 発 生 する.これを 防 止 す<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
38
高 速 車 両 用 サイクロン 式 <strong>集</strong> 塵 装 置 の 開 発<br />
換 気 装 置 の 吸 い 込 み 口 に 設 置 したフィルタに 塵 埃 が 多<br />
く 付 着 すると, 給 気 量 が 減 少 するため, 車 内 空 気 の 清 浄<br />
性 が 低 下 するだけでなく, 車 内 圧 力 が 低 下 傾 向 になり 耳<br />
つんが 発 生 しやすくなるため,メンテナンス 作 業 の 際 ,<br />
フィルタを 定 期 的 に 新 品 に 交 換 している.このフィルタ<br />
購 入 と 交 換 作 業 がメンテナンス 上 の 負 担 となっているの<br />
が 現 状 である.<br />
量 が 減 った 空 気 を 供 給 する. 空 気 の 流 れの 発 生 源 は 換 気<br />
装 置 内 の 給 気 送 風 機 が 担 う.<br />
<br />
<br />
<br />
<strong>集</strong> 塵 装 置 の 方 式 を 比 較 検 討 し,メンテナンスの 軽 減 が<br />
見 込 め, 新 幹 線 車 両 の 換 気 方 式 に 適 した <strong>集</strong> 塵 方 式 を 選 定<br />
した.<br />
現 在 , 一 般 に 使 用 されている <strong>集</strong> 塵 装 置 は, 重 力 式 , 慣<br />
性 式 , 遠 心 式 , 洗 浄 式 ,ろ 過 式 , 電 気 式 の6 種 類 に 分 類<br />
され, 現 状 はろ 過 式 が 採 用 されている. 他 の 方 式 のうち,<br />
重 力 式 , 慣 性 式 , 洗 浄 式 , 電 気 式 については,その 性 能<br />
を 確 保 するためには, 塵 埃 を 含 んだ 空 気 の 流 速 を 比 較 的<br />
低 くする 必 要 があり, <strong>集</strong> 塵 装 置 が 大 きくなる. 一 方 , 新<br />
幹 線 車 両 の <strong>集</strong> 塵 装 置 設 置 可 能 スペースには 限 りがあり,<br />
寸 法 の 制 約 が 厳 しいことから,これらの 方 式 の 採 用 は 不<br />
可 能 であると 判 断 した.<br />
遠 心 式 (サイクロン 方 式 )は, 他 方 式 と 比 べ 圧 力 損 失<br />
が 高 めの 傾 向 にあるが, 一 般 的 には 現 状 のろ 過 式 と 大 差<br />
なく, <strong>集</strong> 塵 性 能 についても 遜 色 がない.また, <strong>集</strong> 塵 した<br />
塵 埃 の 回 収 は 必 要 であるが,フィルタの 交 換 は 不 要 とな<br />
ること,フィルタの 目 詰 まりによる 給 気 風 量 の 減 少 がな<br />
いことから,メンテナンスの 負 担 の 軽 減 が 可 能 な 方 式 と<br />
して, 開 発 を 進 める 方 式 として 選 定 した.サイクロン 方<br />
式 は, 近 年 , 家 庭 用 掃 除 機 としても 広 く 使 われているが,<br />
紙 パック(フィルタ)の 交 換 が 不 要 で, 吸 引 力 の 低 下 が<br />
ないことが 長 所 であり, 同 様 の 効 果 を 新 幹 線 車 両 に 期 待<br />
するものである.<br />
<br />
<br />
<br />
<strong>集</strong> 塵 装 置 の 排 出 口 を 換 気 装 置 の 給 気 口 に 接 続 する 必 要<br />
があることから, 換 気 装 置 に 隣 接 して 設 置 することとし<br />
た. 換 気 装 置 は 車 両 の 床 下 に 配 置 されている. 車 両 の 床<br />
下 には 多 くの 機 器 が 配 置 されており,それらの 機 器 との<br />
干 渉 を 避 けるほか,メンテナンス 作 業 の 障 害 にならない<br />
範 囲 に 収 める 必 要 がある. 一 方 , 換 気 装 置 の 給 気 性 能 を<br />
阻 害 しないためには, 極 力 圧 力 損 失 を 抑 えることが 必 要<br />
であり, 支 障 がない 範 囲 で 使 用 可 能 なスペースを 最 大 限<br />
に 使 用 して 構 成 することとした. 車 両 床 下 の 設 置 位 置 を<br />
図 3に 示 す.<br />
<br />
サイクロン <strong>集</strong> 塵 装 置 の 基 本 的 な 構 造 と 動 作 を 図 2に 示<br />
す. 上 部 が 円 筒 形 で 下 部 が 円 錐 形 をしており, 上 部 円 筒<br />
面 に 設 けた 吸 込 口 から 流 入 した 塵 埃 を 含 んだ 空 気 が, 筒<br />
内 を 旋 回 しながら 下 方 向 に 流 れる. 旋 回 により 遠 心 力 が<br />
働 き, 塵 埃 は 外 周 方 向 に 移 動 し 内 壁 に 衝 突 する. 内 壁 に<br />
衝 突 した 塵 埃 は 下 方 に 落 下 し 分 離 される. 塵 埃 量 が 減 っ<br />
た 空 気 はサイクロン 下 部 から 反 転 上 昇 して 上 部 の 排 出 口<br />
から 排 出 される.この 気 流 を 発 生 させるためには, 吸 込<br />
側 か 排 出 側 のいずれかに 送 風 機 が 必 要 である. 新 幹 線 車<br />
両 では, 上 部 の 排 出 口 を 換 気 装 置 の 給 気 口 に 接 続 し 塵 埃<br />
<br />
39<br />
2016 年 12 月
<strong>集</strong> 塵 装 置 は「 <strong>集</strong> 塵 装 置 本 体 」, <strong>集</strong> 塵 装 置 と 換 気 装 置 給<br />
気 口 をつなぐ「つなぎダクト」, 車 体 に 固 定 するための「 吊<br />
り 金 具 」から 構 成 することとした.<br />
機 能 上 ,「 <strong>集</strong> 塵 装 置 本 体 」 上 に「 排 気 口 ダクト」を 配<br />
置 する 必 要 があり,これらが 上 下 に 重 なった 構 成 になら<br />
ざるを 得 ないため, 高 さ 方 向 の 寸 法 制 約 が 厳 しく, 一 般<br />
的 なサイクロン 式 <strong>集</strong> 塵 装 置 と 比 べ, 高 さ 方 向 寸 法 が 短 い<br />
形 状 とした.<br />
<strong>集</strong> 塵 装 置 最 下 部 には, 捕 <strong>集</strong> した 塵 埃 を 蓄 積 するスペー<br />
スを 設 け 開 閉 可 能 な 蓋 を 設 置 した. 運 転 時 は 蓋 を 閉 め 塵<br />
埃 を 蓄 積 し,メンテナンス 時 に 蓋 を 開 けて 塵 埃 を 回 収 し<br />
廃 棄 する. 開 発 した <strong>集</strong> 塵 装 置 本 体 の 外 形 を 図 4に 示 す.<br />
を 考 案 した.また,この 方 式 ではスリット 内 に 捕 <strong>集</strong> した<br />
塵 埃 が 舞 い 上 がって 再 度 円 筒 内 に 戻 ることが 懸 念 された<br />
ため, 外 周 に 円 筒 を 追 加 する 方 式 も 考 案 した. 前 者 を「タ<br />
イプA」 後 者 を「タイプB」とし, 上 面 から 見 た 断 面 図<br />
を 図 5に 示 す.<br />
<br />
<br />
<br />
<strong>集</strong> 塵 の 対 象 となる 塵 埃 について, 実 際 の 車 両 で 使 用 済<br />
のフィルタを 回 収 して, 捕 <strong>集</strong> されている 塵 埃 を 採 取 し 成<br />
分 を 調 査 した. 分 析 の 結 果 ,ケイ 素 ,アルミニウム, 鉄<br />
が 多 く 含 まれていることが 判 明 した.これらの 成 分 は 鉄<br />
道 車 両 の 運 転 環 境 における <strong>特</strong> 有 のものと 考 えられ,これ<br />
らを 主 たる 対 象 塵 埃 として, 解 析 や 試 験 を 実 施 して 開 発<br />
を 進 めた.<br />
<br />
遠 心 力 を 利 用 して 塵 埃 を 分 離 する 方 式 であることか<br />
ら, 基 本 的 には 装 置 内 の 旋 回 流 の 速 度 を 向 上 することと,<br />
円 筒 部 ・ 円 錐 部 の 高 さを 十 分 確 保 することが <strong>集</strong> 塵 性 能 向<br />
上 に 繋 がる.しかし, 旋 回 流 速 の 向 上 は 圧 力 損 失 の 増 加<br />
に 繋 がる. 給 気 風 量 を 確 保 するため 圧 力 損 失 は 極 力 低 減<br />
させる 必 要 がある.また, 円 筒 部 ・ 円 錐 部 の 高 さは 車 両<br />
スペースの 制 約 から 拡 大 できない.このような 制 約 のも<br />
とで, <strong>集</strong> 塵 性 能 の 向 上 が 図 れないか 検 討 を 進 めた.いく<br />
つかの 改 良 案 について 検 討 した 結 果 , 円 筒 内 面 に 上 下 方<br />
向 のスリットと 衝 立 を 設 け, 円 筒 内 面 に 沿 って 旋 回 する<br />
塵 埃 を 強 制 的 に 減 速 させ, 下 部 の 塵 埃 蓄 積 部 に 導 く 方 法<br />
<br />
<strong>集</strong> 塵 性 能 の 評 価 には <strong>集</strong> 塵 率 を 用 いた. <strong>集</strong> 塵 率 は,「 <strong>集</strong><br />
塵 装 置 の <strong>集</strong> 塵 効 果 を 示 す 数 値 で, 装 置 が 捕 <strong>集</strong> したダスト<br />
及 びミストの 量 と, 処 理 前 の 量 との 比 を 百 分 率 で 表 した<br />
もの」(JIS・B・9909 <strong>集</strong> 塵 装 置 の 仕 様 の 表 し 方 )とされて<br />
いる. 解 析 , 試 験 において, <strong>集</strong> 塵 装 置 が 捕 <strong>集</strong> した 塵 埃 量<br />
と 投 入 した 塵 埃 量 との 比 を 百 分 率 で 表 し <strong>集</strong> 塵 率 を 算 出 し<br />
た.<br />
<br />
タイプA,Bの2 方 式 について, 流 体 解 析 を 実 施 して,<br />
<strong>集</strong> 塵 率 を 比 較 した. 換 気 装 置 は 車 両 の 走 行 状 態 によって,<br />
「 高 速 」「 中 速 」「 低 速 」の3 種 類 の 運 転 モードがあり, 風<br />
量 が 異 なる. 解 析 は3 種 類 の 運 転 モードについて 実 施 し,<br />
解 析 対 象 の 塵 埃 は「 鉄 粉 」「アルミ 粉 」「ケイ 砂 」とした.<br />
高 速 モードでの 解 析 結 果 を 表 1に 示 す. 中 速 , 低 速 モ<br />
ードでも 同 様 な 結 果 が 得 られた. 解 析 の 結 果 から,タイ<br />
プAの 構 造 を 選 定 し, 以 後 の 開 発 を 進 めた.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
40
高 速 車 両 用 サイクロン 式 <strong>集</strong> 塵 装 置 の 開 発<br />
<br />
<br />
塵 埃 を 用 いた <strong>集</strong> 塵 率 測 定 は 実 際 の 車 両 では 実 施 できな<br />
いことから, 模 擬 換 気 装 置 を 製 作 し 測 定 を 実 施 した.<br />
模 擬 換 気 装 置 は, 換 気 装 置 内 の 給 気 送 風 機 と 同 等 の 性<br />
能 を 持 つ 送 風 機 を 用 いて,インバータ 制 御 と 送 風 機 吸 い<br />
込 み 口 に 設 置 した 風 量 調 整 板 により, 換 気 装 置 の3 種 類<br />
の 運 転 モードに 合 わせた 風 量 が 設 定 できる 構 造 とした.<br />
模 擬 換 気 装 置 を 図 6に 示 す.<br />
また, 風 量 , 静 圧 の 測 定 結 果 から, <strong>集</strong> 塵 装 置 の 圧 力 損<br />
失 を 算 出 した.その 結 果 , 給 気 装 置 の 性 能 の 範 囲 内 であ<br />
り, 規 定 の 風 量 が 供 給 できることを 確 認 した.<br />
試 験 の 際 に <strong>集</strong> 塵 装 置 内 の 風 量 分 布 も 測 定 し,これまで<br />
に 実 施 した 解 析 結 果 との 比 較 も 行 い, 解 析 結 果 が 実 測 値<br />
と 一 致 することも 確 認 できた.<br />
<br />
高 速 車 両 の 換 気 装 置 のフィルタの 目 詰 まりによる 給 気<br />
風 量 低 下 の 防 止 と,メンテナンスの 軽 減 を 目 的 として,<br />
車 両 床 下 の 換 気 装 置 給 気 口 に 設 置 できるサイクロン 式 <strong>集</strong><br />
塵 装 置 の 開 発 を 実 施 した. <strong>集</strong> 塵 率 向 上 策 を 検 討 し, 結 果<br />
を 反 映 させた 試 作 機 を 製 作 し 模 擬 換 気 装 置 による 試 験 を<br />
実 施 した.その 結 果 , <strong>集</strong> 塵 率 , 給 気 風 量 , 圧 力 損 失 など<br />
の 基 本 性 能 を 確 認 することができた. 今 後 は, 実 際 の 車<br />
両 に 設 置 しての 試 験 などにより 実 環 境 でのデータを 取 <strong>集</strong><br />
し, 実 用 化 に 向 け 更 なる 改 良 を 進 めていく.<br />
<br />
模 擬 換 気 装 置 による 試 験 では, <strong>集</strong> 塵 装 置 の 吸 い 込 み 風<br />
量 , 静 圧 , <strong>集</strong> 塵 率 を 測 定 した. 試 験 粉 体 は, 鉄 粉 ,アル<br />
ミ 粉 ,ケイ 砂 を 使 用 し,それぞれについて3 種 類 の 換 気<br />
装 置 運 転 モードで 実 施 した. 試 験 用 粉 体 の 投 入 量 ( 重 量 )<br />
は 一 定 とし, 一 定 時 間 模 擬 換 気 装 置 を 稼 働 させた 後 , <strong>集</strong><br />
塵 装 置 内 の 塵 埃 を 回 収 して 重 量 を 測 定 し <strong>集</strong> 塵 率 を 算 出 し<br />
た.<br />
高 速 モードでの <strong>集</strong> 塵 率 算 出 結 果 を 表 2に 示 す. <strong>集</strong> 塵 率<br />
は 他 の 運 転 モードで、 全 ての 試 験 粉 体 について 良 好 な 結<br />
果 を 得 た.<br />
換 気 装 置 ・<br />
運 転 モード ・<br />
高 速<br />
<br />
<br />
対 象 塵 埃 ・ <strong>集</strong> 塵 率 (%) ・<br />
鉄 粉 ・<br />
アルミ 粉 ・<br />
ケイ 砂 ・<br />
<strong>集</strong> 塵 率 ・・ ・76~100%・<br />
・50~ 75%・<br />
・・・・・・・・・ ×・0 ~49%・<br />
<br />
(1)・ 齋 藤 寿 彦 , 他 :「 新 幹 線 車 両 用 サイクロン <strong>集</strong> 塵 装 置 の<br />
開 発 」, 日 本 機 械 学 会 第 24 回 交 通 ・ 物 流 部 門 大 会<br />
講 演 論 文 ,・(2015)<br />
<br />
橋 本 克 史<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 部 長 ( 高 速 車 両 )<br />
小 泉 貴 洋<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 車 体 設 計 ) 主 査<br />
大 須 賀 晋<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 技 術 解 析 ) 主 査<br />
太 野 明<br />
東 日 本 旅 客 鉄 道 ( 株 )<br />
新 幹 線 総 合 車 両 センター<br />
車 両 技 術 主 任<br />
41<br />
2016 年 12 月
今 岡 憲 彦<br />
長 本 昌 樹<br />
半 田 直 一<br />
川 上 清 温<br />
松 岡 茂 樹<br />
Norihiko IMAOKA<br />
Masaki NAGAMOTO<br />
Naoichi HANDA<br />
Kiyoharu KAWAKAMI<br />
Shigeki MATSUOKA<br />
鉄 道 車 両 の 床 下 空 気 配 管 に 設 置 したボールコックの 使 い 勝 手 を 向 上 させるため, 遠 隔 操 作 可 能 なボールコッ<br />
ク「Air・Lead」を 開 発 した. 遠 隔 操 作 方 式 を 3 種 類 設 定 することで,ボールコックと 操 作 ハンドルの 距 離 , 位<br />
置 関 係 に 合 わせた 使 い 分 けが 可 能 である.これらを 組 み 合 わせることで,ボールコックの 使 い 勝 手 を 良 くする<br />
他 に, 空 気 配 管 をシンプルにする( 省 配 管 化 )ことができ, 管 摩 擦 抵 抗 減 少 によるエネルギロス 低 下 , 機 器 ぎ<br />
装 自 由 度 の 向 上 などの 二 次 効 果 を 得 られる.さらに, 踏 切 事 故 時 の 配 管 ダメージ 回 避 , 複 数 位 置 からの 遠 隔 操<br />
作 も 可 能 となる.モデル 配 管 に 対 して 省 配 管 化 効 果 の 確 認 を 行 ったところ, 配 管 長 は 最 大 53% 減 , 管 摩 擦 抵 抗<br />
は 最 大 63% 減 となった.<br />
To・improve・ball・valve・operation・on・railcar,・we・developed・three・types・of・remote-operated・ball・valves.・These・ballvalves・are・variety・of・Air・Lead.・These・ball・valves,・different・in・transmission・of・operate・power,・exist・for・assigning・toseveral・situation;・relative・position・between・air・pipe・and・operate・handle.・Air・Lead・provide・good・benefit,・improvingusability・of・ball・valve,・simplifying・air・pipe,・reducing・energy・loss・on・air・supply,・and・improving・space・utilization.・Air・<br />
Lead・can・supply・multiple・operation・handles.・Furthermore,・Air・Lead・can・keep・air・pipe・away・from・collision・area・on・<br />
level・crossing・accident.・By・feasibility・study・of・simplification・for・air・pipe,・Air・Lead・can・reduce・53%・pipe・length,・and・<br />
63%・friction・resistance・in・pipe.<br />
<br />
鉄 道 車 両 用 空 気 配 管 には, 切 り 替 えおよび 締 め 切 りの<br />
ために 多 くのボールコックを 使 っている. 床 下 に 設 置 し<br />
ているボールコックの 大 半 は, 取 り 扱 いのしやすさを 考<br />
慮 して, 車 体 側 面 近 くや 車 端 部 近 くに 設 置 されているが,<br />
配 管 の 端 部 ではなく 配 管 途 中 に 設 ける 必 要 がある( 図 1<br />
参 照 ).それら 配 管 の 取 り 回 しの 関 係 から,ボールコッ<br />
ク 取 り 付 け 可 能 位 置 に 制 約 が 生 じ, 使 い 勝 手 向 上 の 余 地<br />
が 残 っている.<br />
<br />
<br />
当 社 では, 現 状 よりも 空 気 配 管 用 ボールコックの 使 い<br />
勝 手 を 向 上 させるため,Air・Lead( 読 み 方 :エアリード)<br />
という 名 称 の 鉄 道 車 両 用 遠 隔 操 作 型 ボールコックを 開 発<br />
した.Air・Leadは,ボールコック 本 体 と 操 作 ハンドル<br />
を 分 離 することで,ボールコック 前 後 の 配 管 の 取 り 回 し<br />
を 考 慮 しなくても, 取 扱 者 が 操 作 しやすい 位 置 に 操 作 ハ<br />
ンドルを 設 置 することができる.<br />
また,Air・Leadを 使 うことで, 操 作 ハンドルの 位 置<br />
をずらさずに, 空 気 配 管 を 最 短 距 離 で 設 置 することも 可<br />
能 となる.そこで, 既 存 の 鉄 道 車 両 の 空 気 配 管 に 対 する<br />
削 減 効 果 の 検 討 も 行 った. 併 せて 以 下 に 記 す.<br />
<br />
鉄 道 車 両 における 空 気 装 置 は, 鉄 道 車 両 に 真 空 ブレー<br />
キが 搭 載 されたころから100 年 以 上 にわたる 非 常 に 長 い<br />
歴 史 がある. 鉄 道 車 両 の 主 要 な 空 気 装 置 はブレーキであ<br />
り, 安 全 な 運 行 に 密 接 に 関 係 する 装 置 であることから,<br />
非 常 に 保 守 的 な 考 えに 基 づいて 設 計 されている.これま<br />
でも 大 小 さまざまな 改 善 ・ 改 良 案 が 各 方 面 から 提 案 され,<br />
ブレーキ 制 御 装 置 内 などの 限 られた 場 所 では 改 良 が 進 ん<br />
でいる (1) が, 車 両 全 体 で 見 ると 改 善 ・ 改 良 が 進 んでいる<br />
とは 言 い 難 い. 安 全 性 を 非 常 に 重 視 する 装 置 であるので,<br />
実 績 の 無 いものは 受 け 入 れられにくい 状 況 にあることが<br />
理 由 である.そのため, 戦 前 に 制 定 された 基 準 がそのま<br />
ま 使 われているケースもある.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
42
鉄 道 車 両 用 遠 隔 操 作 型 ボールコックの 開 発 と 省 配 管 化 の 検 討<br />
近 年 では, 空 気 ばね 車 両 が 一 般 的 となり,また, 高 度<br />
なブレーキ 制 御 や, 車 体 の 振 り 子 制 御 を 空 気 圧 で 行 う 車<br />
両 も 登 場 している. 複 雑 な 配 管 を 持 つ 車 両 が 出 てきてお<br />
り,またそのような 車 両 では 床 下 機 器 も 多 いため, 配 管<br />
取 り 回 しが 一 層 難 しくなる.このような 状 況 において,<br />
当 社 では, 次 世 代 ステンレス 車 両 sustinaの 量 産 車 開 発 に<br />
向 けて, 鉄 道 車 両 用 空 気 配 管 の 改 善 ・ 改 良 に 取 り 組 んだ.<br />
現 状 よりもボールコック 操 作 ハンドルの 使 い 勝 手 を 良 く<br />
することを 第 一 に 考 え,さらに, 現 状 よりも 自 由 に 敷 設<br />
できてシンプルな 経 路 にすることができる 空 気 配 管 を 目<br />
指 した. 空 気 配 管 はシンプルな 経 路 にすることにより,<br />
エネルギロスを 少 なくすることが 可 能 である.<br />
ボールコックは,ドレン 抜 き 用 などの 一 部 を 除 き, 配<br />
管 途 中 に 設 ける 必 要 がある.そのため,ボールコックの 前<br />
後 に 最 低 2 本 の 配 管 がつながっている.ボールコックの 設<br />
置 可 能 範 囲 は 比 較 的 限 られており, 操 作 ハンドルの 使 い 勝<br />
手 を 良 くするためには,ボールコック 本 体 と 操 作 ハンドル<br />
を 分 離 させることが 必 要 となる.そこで,ボールコック 本<br />
体 を 遠 隔 操 作 できる 操 作 ハンドルの 開 発 を 行 った.<br />
改 善 ・ 改 良 にあたっては, 実 績 を 非 常 に 重 視 する 状 況 を<br />
踏 まえ, 高 圧 空 気 の 接 する 部 分 は 実 績 豊 富 な 従 来 部 材 のみ<br />
を 使 用 することとした.そのようにして 改 善 ・ 改 良 した 成<br />
果 の 一 つが, 今 回 紹 介 する 新 開 発 品 のAir・Leadである.<br />
<br />
本 章 では,Air・Leadのコンセプト, 使 用 の 効 果 を 記 す.<br />
<br />
前 述 の 通 り,Air・Leadは 鉄 道 車 両 の 床 下 空 気 配 管 に<br />
あるボールコックの 使 い 勝 手 を 向 上 させるため,ボール<br />
コックを 遠 隔 操 作 可 能 にする 装 置 として 開 発 した.<br />
床 下 空 気 配 管 には, 元 空 気 ダメ 管 (MR 管 ),ブレーキ<br />
管 (BP 管 ), 空 気 ばね 用 の 圧 縮 空 気 供 給 管 などがある.<br />
いずれの 配 管 に 設 けられたボールコックも, 営 業 運 転 中<br />
に 車 上 から 操 作 する 必 要 がないものである.また, 異 常<br />
発 生 時 にのみ 使 うボールコックも 多 いので, 操 作 の 際 に<br />
は 外 部 からエネルギの 供 給 を 受 けられない 可 能 性 が 高<br />
い.それらの 状 況 を 踏 まえ,<br />
1 過 酷 な 環 境 下 でも 破 壊 ・ 故 障 しにくい 簡 便 な 構 造 .<br />
2エネルギ 供 給 が 無 い 状 態 でも 手 動 で 操 作 可 能 .<br />
3 空 気 管 路 部 分 は 従 来 の 部 品 で 構 成 可 能 .<br />
4 既 存 の 空 気 配 管 部 品 に 後 付 け 可 能 な 装 置 構 成 .<br />
となるコンセプトの 製 品 とすべく, 開 発 を 進 めた.<br />
Air・Leadは,これまであまり 考 えられてこなかった 形<br />
で 鉄 道 車 両 用 空 気 配 管 を 改 善 ・ 改 良 するアイテムである.<br />
そこで, 開 発 に 際 しては 関 連 する 技 術 の <strong>特</strong> 許 を 出 願 した.<br />
<br />
Air・Leadの 名 称 は, 空 気 配 管 の 装 置 であることを 示<br />
すAirと,「 引 く」,「 導 く」などの 意 味 を 持 つLeadを 組 み<br />
合 わせたものである.Leadには「 先 導 する」,「 先 進 の」<br />
という 意 味 もあり, 新 しい 考 えに 基 づいて 開 発 したAir・<br />
Leadの 持 つイメージも 表 現 している. 図 2にAir・Lead<br />
のロゴを 示 す.<br />
<br />
<br />
Air・Leadを 使 用 することにより, 現 時 点 では 以 下 の<br />
ような 効 果 が 得 られることがわかっている.<br />
1 配 管 のシンプル 化 による 配 管 長 の 縮 減 と 車 両 軽 量 化<br />
・ 配 管 取 り 回 しが 減 ることで 配 管 が 短 くなり, 車 両 軽 量<br />
化 を 図 れる.<br />
2 配 管 長 縮 減 による 管 摩 擦 抵 抗 減 少 とエネルギロス 低 下<br />
・ 配 管 長 が 短 くなることで 管 摩 擦 抵 抗 が 減 少 する. <strong>特</strong> に,<br />
取 り 回 しの 際 に 用 いる 多 くの 継 手 が 減 ることで 管 摩 擦 抵<br />
抗 が 大 きく 減 少 する. 管 摩 擦 抵 抗 の 減 少 はエネルギロス<br />
低 下 を 意 味 し, 空 気 圧 縮 機 の 容 量 低 減 や 運 転 効 率 化 によ<br />
る 負 荷 低 減 , 応 答 性 向 上 を 見 込 める.また, 配 管 径 をサ<br />
イズダウンすることによる 車 両 軽 量 化 も 可 能 となる.<br />
3 配 管 のシンプル 化 による 機 器 類 ぎ 装 位 置 自 由 度 向 上<br />
・ 配 管 取 り 回 しが 減 ることで, 従 来 まで 取 り 回 しのため<br />
に 確 保 していたスペースが 不 要 となり, 他 の 機 器 類 の<br />
ためのぎ 装 スペースが 増 える.これにより, 空 気 配 管<br />
以 外 の 機 器 類 のメンテナンス 性 向 上 や, 重 量 バランス<br />
の 最 適 化 を 図 れる.<br />
4 事 故 発 生 時 の 配 管 ダメージ 回 避<br />
・ 鉄 道 車 両 の 空 気 配 管 は, 平 常 時 の 取 り 扱 いのしやすさを<br />
考 慮 して 車 端 部 近 くにボールコックを 配 置 している.そ<br />
のため, 踏 切 事 故 のような 列 車 前 頭 部 を 破 壊 するアクシ<br />
デントが 発 生 した 場 合 , 壊 れる 可 能 性 が 非 常 に 高 くなる.<br />
仮 に 空 気 配 管 がダメージを 受 けると,ブレーキ 装 置 が 動<br />
作 しなくなることで 自 走 できなくなり, 復 旧 に 長 い 時 間<br />
を 要 することになる.Air・Leadを 使 い, 操 作 ハンドル<br />
だけを 車 端 部 に 設 け, 空 気 配 管 自 体 を 車 端 部 から 離 れた<br />
ところに 通 せば, 従 来 と 同 様 の 使 いやすさのままで, 事<br />
故 の 際 のダメージを 回 避 できる 可 能 性 が 高 まる.<br />
43<br />
2016 年 12 月
5ボールコック 操 作 ハンドルの <strong>集</strong> 約 が 可 能<br />
・ <strong>特</strong> 定 の 場 所 に 操 作 ハンドルを <strong>集</strong> 約 することで, 車 両 全<br />
体 のボールコック 開 閉 状 態 を 確 認 できる.これにより,<br />
ボールコック 切 り 替 え 時 の 操 作 ミスの 発 生 を 減 らせる<br />
可 能 性 がある.<br />
6 複 数 位 置 からの 遠 隔 操 作 ・ 状 態 確 認 が 可 能<br />
・1つのボールコックに 対 して 複 数 の 操 作 ハンドルを 設<br />
置 することで, 複 数 位 置 から 遠 隔 操 作 が 可 能 となる.<br />
その 際 , 全 ての 操 作 ハンドルはつながっているので,<br />
ある 操 作 ハンドルを 動 かせば, 他 の 操 作 ハンドルも 同<br />
期 して 動 き, 開 閉 状 態 の 確 認 も 行 えるようになる( 図<br />
3(b) 参 照 ). 従 来 の 空 気 配 管 では,ボールコックを<br />
配 管 に 直 列 ないしは 並 列 に 設 置 することで, 複 数 個 所<br />
で 操 作 できるようにしていたが, 各 ボールコックの 開<br />
閉 状 態 は,それぞれの 操 作 ハンドルを 直 接 的 に 確 認 す<br />
るしかなかった( 図 3(a) 参 照 ).<br />
<br />
本 体 と 剛 結 合 している.そのため, 通 常 のボールコック<br />
操 作 ハンドルとの 操 作 感 の 違 いはほとんど 無 い.また,<br />
部 品 点 数 が 格 段 に 少 ないのが <strong>特</strong> 徴 である.<br />
<br />
( a ) ( b ) Ar Li<br />
e ad<br />
<br />
<br />
Air・Leadは, 遠 隔 操 作 距 離 ,およびボールコックと<br />
操 作 ハンドルの 位 置 関 係 に 合 わせて3 種 類 設 定 した.い<br />
ずれのAir・Leadにおいても, 鉄 道 車 両 で 通 常 使 ってい<br />
る10G(3/8”)から25G(1”)のボールコックに 対 応 し<br />
ている. 以 下 ,それぞれの 概 要 を 記 す.<br />
<br />
ボールコックのステムを 延 長 する 形 でシャフトを 設<br />
け, 空 気 配 管 から 離 れたところに 操 作 ハンドルを 設 けら<br />
れるようにしたものである( 図 4 参 照 ).シャフトを 介 し<br />
てトルクを 伝 達 する.300mm 程 度 の 比 較 的 短 い 距 離 を 遠<br />
隔 操 作 する 場 合 に 用 いる.なお,Type・Sという 名 称 は,<br />
ステム(Stem)の 頭 文 字 から 取 ったものである.<br />
後 述 する2 種 類 のAir・Leadと 異 なり,ボールコック<br />
<br />
Type・Sでボールコックのステムを 延 長 しているシャ<br />
フト 部 分 を, 剛 体 のロッドからフレキシブルシャフトに<br />
変 更 したものである.フレキシブルシャフトを 介 してト<br />
ルクを 伝 達 する.Type・Sではボールコックの 回 転 軸 と 操<br />
作 ハンドルの 回 転 軸 が 同 一 線 上 に 並 んでいる 必 要 がある<br />
が,Type・Fでは 操 作 ハンドルの 設 置 位 置 に 若 干 の 自 由 度<br />
を 持 たせることができる.Type・Fでは500mm 程 度 の, 比<br />
較 的 短 い 距 離 を 延 長 する 場 合 に 用 いる.なお,Type・Fと<br />
いう 名 称 は, 主 要 構 成 要 素 であるフレキシブルシャフト<br />
(Flexible・Shaft)の 頭 文 字 から 取 っている.<br />
フレキシブルシャフトは,フレキシブルグラインダ,<br />
フレキシブルドライバ,チューブクリーナなどに 使 われ<br />
ている. 比 較 的 一 般 的 な 部 材 である.<br />
Type・Fでは,ねじり 剛 性 の 高 いものを 使 用 する.そ<br />
のため, 通 常 のボールコック 操 作 ハンドルとの 操 作 感 の<br />
違 いはあまり 無 い.<br />
<br />
他 の2 種 類 のAir・Leadとは 異 なり, 長 距 離 遠 隔 操 作<br />
を 目 的 として 開 発 したものである.ボールコックのステ<br />
ムにワイヤロープを 掛 け,ステムの 回 転 をワイヤロープ<br />
の 引 張 力 に 変 換 して 遠 隔 操 作 する( 図 5 参 照 ).Type・Rで<br />
は 標 準 的 な 遠 隔 操 作 距 離 を3mとしているが,15m 程 度 ま<br />
で 伸 ばしても 問 題 はない.なお,Type・Rという 名 称 は,<br />
ロープ(Rope)の 頭 文 字 から 取 っている.<br />
ワイヤロープは, 自 転 車 のブレーキに 使 われているも<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
44
鉄 道 車 両 用 遠 隔 操 作 型 ボールコックの 開 発 と 省 配 管 化 の 検 討<br />
のが 最 も 一 般 的 であるが,パワーウィンドウの 駆 動 部 分 ,<br />
内 視 鏡 などにも 使 われている. 鉄 道 車 両 でも, 電 気 式 ド<br />
アエンジンにおける 本 体 と 解 錠 ハンドルとの 間 の 荷 重 伝<br />
達 に 使 われており,ドアエンジンから 離 れた 位 置 でのド<br />
アロック 解 除 を 可 能 にしている.なお, 今 回 使 用 したワ<br />
イヤロープは, 過 去 に 鉄 道 車 両 での 使 用 例 の 無 い 樹 脂 皮<br />
膜 付 きのものなので, 鉄 道 車 両 用 材 料 の 燃 焼 性 試 験 ( 一<br />
般 に, 車 材 燃 試 と 呼 ばれる 試 験 )を 実 施 した. 難 燃 性 評<br />
価 を 得 ている.<br />
Type・Rのワイヤロープは 比 較 的 伸 びにくいタイプの<br />
ものを 選 定 している.また,ボールコックの 開 閉 動 作 そ<br />
れぞれのために 引 張 用 のワイヤロープを 設 けている(つ<br />
まり,ワイヤロープを 使 って 圧 縮 力 を 伝 えない)ので,<br />
通 常 のボールコック 操 作 ハンドルとの 操 作 感 の 違 いはあ<br />
まり 無 い.<br />
<br />
<br />
車 端 部 のボールコックは, 車 両 の 連 結 ・ 解 放 の 際 に 操<br />
作 するため, 車 体 隅 柱 の 直 下 付 近 にある.ピット 線 でも<br />
操 作 しやすくするため, 設 置 位 置 は 比 較 的 低 い( 図 6 参<br />
照 ).<br />
台 車 近 傍 の 空 気 配 管 は, 台 車 の 運 動 を 支 障 しないよう<br />
に 車 体 中 心 寄 りの 台 枠 内 を 通 している.そのため, 車 端<br />
部 の 空 気 配 管 は, 水 平 方 向 にも 垂 直 方 向 にも 大 きな 取 り<br />
回 しが 必 要 になっている( 図 7 参 照 ).<br />
そこで, 車 端 部 の 空 気 配 管 を 模 擬 した 一 般 的 な 配 管 モ<br />
デルを 基 準 にして,Air・Leadの 省 配 管 化 効 果 を 検 討 する.<br />
<br />
<br />
本 章 では,Air・Leadを 使 っての 省 配 管 化 効 果 の 検 討<br />
をおこなう.<br />
<br />
基 準 となる 車 端 部 空 気 配 管 図 を 図 8に 示 す.これは,<br />
通 勤 車 両 車 端 部 の 空 気 配 管 を 一 般 的 なモデルに 変 換 した<br />
ものである.<br />
図 中 の 配 管 は 全 て25G(1”)としている. 継 手 類 は 基<br />
準 どおりのものを 使 用 .ただし, 通 常 では 多 用 するユニ<br />
オンは, 検 討 を 簡 便 にするため 取 り 付 けていない 状 態 と<br />
する.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
45<br />
2016 年 12 月
ボールコックは 枕 木 方 向 の 配 管 の 途 中 に 取 り 付 けてい<br />
る. 車 体 床 上 面 から500mm 下 方 にある.<br />
台 車 直 上 の 配 管 は, 車 体 床 上 面 から59mm 下 方 にある.<br />
一 方 , 端 バリ 下 の 配 管 は, 端 バリをよけるために 車 体 床<br />
上 面 から246mm 下 方 にある.<br />
配 管 延 長 (ここでは, 継 手 部 分 を 直 角 と 見 なした 上 で<br />
の 配 管 中 心 線 の 総 延 長 と 定 義 )は1986mm. 継 手 個 数 は6<br />
個 となった.これ 以 降 , 配 管 延 長 の 低 減 量 を 省 配 管 化 効<br />
果 とみなす.<br />
Air・Lead・Type・Sを 使 った 場 合 の 配 管 図 を 図 9に 示 す.<br />
車 体 上 面 視 での 配 管 位 置 は 図 8の 基 準 とあまり 変 わら<br />
ないが, 車 体 下 方 への 配 管 取 り 回 しが 不 要 となり, 車 体 断<br />
面 視 での 配 管 配 置 は 図 8の 基 準 と 相 違 がある.<br />
配 管 延 長 は1476mm. 基 準 に 対 して-510mm( 基 準 比<br />
26% 減 )となる. 継 手 個 数 は5 個 . 基 準 に 対 して1 個 減 と<br />
なった.<br />
3 0 0<br />
3 0 0<br />
3 0 0<br />
1 25<br />
1 25<br />
4 41<br />
2 55<br />
1 40<br />
1 9 8 m6<br />
6<br />
<br />
m<br />
3 0 0<br />
3 0 0<br />
3 0 0<br />
1 25<br />
1 25<br />
1 86<br />
1 40<br />
1 4 7 m6<br />
5<br />
<br />
m<br />
3 0 0 1 25<br />
3 15<br />
1 93<br />
9 3 3m m<br />
2<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
46
鉄 道 車 両 用 遠 隔 操 作 型 ボールコックの 開 発 と 省 配 管 化 の 検 討<br />
Air・Lead・Type・Rを 使 った 場 合 の 配 管 図 を 図 10に 示<br />
す. 配 管 配 置 は 大 きく 変 わり, 配 管 取 り 回 しがほとんど<br />
無 い 状 態 になっている.<br />
配 管 延 長 は933mm. 基 準 に 対 して-1053mm( 基 準 比<br />
53% 減 )となり,ほぼ 半 減 となる. 継 手 個 数 は2 個 . 基<br />
準 に 対 して4 個 減 となった.<br />
次 に, 管 摩 擦 抵 抗 の 減 少 量 について 検 討 する.ここで<br />
は,25G(1”)90 度 エルボの 相 当 管 長 ( 継 手 の 管 摩 擦 抵<br />
抗 を, 直 管 で 同 じ 管 摩 擦 抵 抗 になる 時 の 長 さで 表 したも<br />
の)を900mmと 仮 定 する.<br />
基 準 の 配 管 図 の 管 摩 擦 抵 抗 を 直 管 の 配 管 長 さで 表 すと<br />
1986+900×6=7386mmとなる. 同 様 の 計 算 法 によれば,<br />
Air・Lead・Type・Sを 使 った 場 合 は5976mm( 基 準 比 19%<br />
減 ),Air・Lead・Type・Rを 使 った 場 合 は2733mm( 基 準 比<br />
63% 減 )となる. 省 配 管 化 検 討 範 囲 の 狭 い 範 囲 に 限 った<br />
話 ではあるが,Air・Lead 使 用 により 管 摩 擦 抵 抗 が 大 幅<br />
に 減 少 することがわかる.<br />
<br />
現 時 点 で, 南 海 電 気 鉄 道 の2000 系 一 部 編 成 に 試 験 搭 載<br />
している. 車 外 の 側 引 戸 一 斉 開 放 コックにAir・Lead・<br />
Type・Rを 取 り 付 け, 一 斉 開 放 コックの 操 作 性 向 上 を 図 っ<br />
ている.<br />
<br />
今 岡 憲 彦<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 商 品 開 発 ) 主 査<br />
長 本 昌 樹<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 商 品 開 発 ) 課 長<br />
半 田 直 一<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 ) 主 任 技 師<br />
川 上 清 温<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 )<br />
松 岡 茂 樹<br />
技 術 士 ( 機 械 部 門 ), 日 本 機 械 学 会 フェロー<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 部 長 ( 商 品 開 発 )<br />
<br />
<br />
Air・Leadを 開 発 し, 省 配 管 化 効 果 を 確 認 した.<br />
一 般 的 な 通 勤 車 両 の 車 端 部 を 模 擬 したモデル 配 管 に 対<br />
する 省 配 管 化 効 果 は,Air・Lead・Type・Sで26% 減 ,Air・<br />
Lead・Type・Rで53% 減 となる. 継 手 個 数 の 減 少 も 伴 っ<br />
ているので, 管 摩 擦 抵 抗 はAir・Lead・Type・Sで19% 減 ,<br />
Air・Lead・Type・Rで63% 減 となった.<br />
今 後 ,ユーザの 意 見 を 聞 きながら,Air・Leadの 完 成<br />
度 を 高 めていきたいと 考 えている.<br />
<br />
(1)・ 三 菱 重 工 業 :「 新 接 合 技 術 の2 次 元 <strong>集</strong> 積 配 管<br />
「M-iPIS(ミピス)」を 開 発 」, 三 菱 重 工 ニュース・<br />
3926 号 ,・(2001)<br />
47<br />
2016 年 12 月
半 田 直 一 Naoichi HANDA<br />
斉 藤 和 彦 Kazuhiko SAITO<br />
天 沼 秀 章 Hideaki AMANUMA<br />
藤 谷 晃 Akira FUJITANI<br />
三 原 啓 輔 Keisuke MIHARA<br />
池 田 大 樹 Daiki IKEDA<br />
上 関 仁 護 Jingo UWAZEKI<br />
川 上 清 温 Kiyoharu KAWAKAMI<br />
従 来 , 運 転 台 の 機 器 配 置 は, 事 業 者 や 線 区 において 違 いが 発 生 する 部 位 であり, 車 種 ごとに 設 計 を 行 っていた.<br />
それを,モジュール 構 造 の 運 転 台 を 共 通 部 分 と 可 変 部 分 に 分 け, 共 通 部 分 は 1 度 の 設 計 で 流 用 を 可 能 とし, 可<br />
変 部 分 は 機 器 配 置 など, 客 先 の 仕 様 に 合 わせ 最 小 限 の 設 計 で 対 応 できる 構 造 とした. 本 稿 では 共 通 部 分 と 可 変<br />
部 分 の 導 入 により, 設 計 の 統 一 化 が 出 来 る 運 転 台 モジュールの 開 発 経 緯 について 紹 介 する.<br />
<br />
運 転 台 は, 運 転 台 ユニットとして 設 計 ・ 製 造 される.<br />
運 転 台 ユニットは,きせおよび 骨 組 に 機 器 を 取 り 付 けた<br />
大 型 部 品 である. 運 転 台 ユニットの 骨 組 はユニット 内 の<br />
機 器 配 置 にあわせて 設 計 されるため, 機 器 配 置 が 変 わる<br />
と 骨 組 も 変 える 必 要 がある.また, 乗 務 員 室 構 体 構 造 や<br />
貫 通 扉 の 有 無 も, 運 転 台 ユニット 外 形 に 大 きく 影 響 する.<br />
ユニット 骨 組 の 図 面 は 非 常 に 細 かい 図 面 であるため,<br />
乗 務 員 室 の 設 計 においても 設 計 時 間 の 掛 かる 面 倒 な 図 面<br />
の 一 つである.したがって 機 器 配 置 に 合 わせて,きせや<br />
骨 組 を 変 更 する 作 業 も 大 きな 設 計 ボリュームを 持 ってお<br />
り, 大 抵 の 場 合 は 新 しく 図 面 を 書 き 起 こさなくてはなら<br />
ない.これが 各 種 案 件 ごとに 毎 回 発 生 している.<br />
また, 機 器 配 置 が 決 まらないと,ユニットの 骨 組 が 確<br />
定 しないところも 問 題 の 一 つである. 骨 組 の 図 面 は 内 容<br />
が 細 かく 情 報 量 が 多 いため, 製 造 する 側 も 図 面 を 読 み,<br />
製 作 するのに 時 間 が 掛 かる.そのためユニット 骨 組 の 図<br />
面 は 早 い 段 階 で 仕 上 げたいというのが 設 計 ・ 製 造 の 思 い<br />
である.ところが 実 際 は 設 計 後 半 になって 機 器 の 外 形 や<br />
仕 様 が 変 わったり,スイッチ 類 の 追 加 が 必 要 になったり<br />
と 機 器 配 置 を 変 えなくてはならない 状 況 が 発 生 する. 機<br />
器 配 置 の 変 更 が 図 面 に 与 える 影 響 は 大 きく, 設 計 途 中 で<br />
の 機 器 の 追 加 や 配 置 の 変 更 は 設 計 の 大 きな 出 戻 りを 招 く<br />
ほか, 後 工 程 にも 影 響 を 与 えかねない.<br />
昨 今 の 鉄 道 ユーザが 求 める 車 両 は, 先 頭 形 状 における<br />
デザイン 性 が 重 要 視 されており,デザイン 確 定 から 乗 務<br />
員 室 構 体 構 造 が 確 定 するまで, 長 い 期 間 を 要 することも<br />
少 なくない.このことにより, 確 定 してから 運 転 台 設 計<br />
に 取 り 掛 かれる 時 間 は 少 なく, 設 計 者 は, 変 更 があるこ<br />
とを 前 提 に 運 転 台 設 計 を 進 めていかざるを 得 ない 状 況 に<br />
陥 っている.<br />
<br />
運 転 台 を 共 通 の 形 状 にすれば 設 計 の 手 間 は 大 きく 減 ら<br />
すことが 出 来 る.しかし 運 転 台 の 形 状 は 乗 務 員 室 に 合 せ<br />
て 最 適 化 されているため,どの 車 種 にも 搭 載 可 能 な 運 転<br />
台 の 形 状 となると 全 ての 運 転 台 の 論 理 積 を 取 ったよう<br />
な, 小 さい 運 転 台 になってしまう.しかも 運 転 台 の 形 状<br />
を 共 通 化 しても 機 器 配 置 が 変 わるたびに 図 面 を 書 き 起 こ<br />
さなくてはならない 問 題 は 解 決 しないままである. 製 造<br />
側 の 都 合 によりユーザの 意 向 を 反 映 できない 車 両 では,<br />
現 在 の 鉄 道 車 両 としては 成 立 しない.<br />
運 転 台 の 形 状 の 問 題 と 機 器 配 置 の 変 化 (=ユーザニー<br />
ズ)への 柔 軟 な 対 応 ,この2つの 問 題 をクリアする 必 要<br />
があった.<br />
課 題 を 克 服 するにあたっては 床 下 機 器 配 置 の 考 え 方 を<br />
参 考 にした.<br />
床 下 の 機 器 配 置 もまた 車 種 ごとに 異 なる.しかし, 機<br />
器 取 付 の 母 体 となる 床 下 の 骨 組 ( 台 枠 )の 設 計 は 機 器 配<br />
置 の 確 定 を 待 たずしてほぼ 完 了 する.ここに 着 目 した.<br />
なぜこのような 設 計 ができる 構 造 なのか.まず 床 下 の<br />
骨 組 は 取 り 付 けピッチがほぼ 決 まっており,それに 合 せ<br />
て 機 器 を 取 り 付 ける. 機 器 の 取 り 付 け 穴 ピッチと 骨 組 の<br />
ピッチが 合 わない 箇 所 は 取 付 金 を 作 成 し, 機 器 と 骨 組 の<br />
インタフェースをとる.これを 運 転 台 に 応 用 できないか<br />
と 考 えた.つまりベースとなる 運 転 台 には 取 り 付 け 用 の<br />
骨 を 設 け, 機 器 と 骨 組 のインタフェースとして 取 付 金 (モ<br />
ジュール)を 作 ることで 機 器 配 置 が 変 わってもモジュール<br />
の 変 更 のみで 対 応 できる 構 造 を 基 本 とした.このモジュ<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
48
フリージアコンソール<br />
ールの 考 え 方 をユニット 内 部 と 上 面 に 適 用 し,それぞれ<br />
内 部 モジュールと 上 部 モジュールとしてモックアップの<br />
作 成 を 行 った.<br />
<br />
機 器 取 付 のベースとなるユニットの 骨 組 はC 型 チャン<br />
ネル 材 の 骨 を 横 断 させ,そこに 機 器 取 付 盤 を 設 置 する 構<br />
造 とした. 機 器 取 付 盤 の 形 状 は 機 器 取 付 用 の 釘 鋲 を 逃 が<br />
すため, 骨 と 盤 面 は20・mmオフセットさせ,M6ボルトで<br />
盤 と 骨 組 を 締 結 する. 盤 の 板 厚 は2.3mm, 剛 性 を 上 げる<br />
ために4 辺 に 曲 げを 入 れている. 実 際 のユニット 機 器 取 付<br />
の 設 計 に 当 たってはこの 平 面 な 盤 から 機 器 取 付 骨 を 伸 ば<br />
すか, 機 器 を 盤 に 直 接 固 定 する. 不 要 なスペースは 切 欠<br />
穴 を 設 けることで 軽 量 化 と 配 線 ルートに 使 用 可 能 である.<br />
4.きせの 側 面 1 面 と 底 面 を 釘 鋲 固 定 する 方 式 . 底 面 の<br />
ビスまではガイドパイプを 用 いる.<br />
5.きせの 側 面 1 面 と 上 面 を 釘 鋲 固 定 する 方 式 . 上 面 に<br />
ビスが 露 出 する.<br />
きせの 上 面 形 状 を 自 由 にカスタマイズ 可 能 なのは2.~<br />
4.であり, 現 場 作 業 者 にどの 方 式 が 作 業 性 に 優 れてい<br />
るか 感 想 を 聞 いたところ,3.の 差 込 ばね 方 式 がもっと<br />
も 評 価 が 高 く,2.は 適 用 可 能 箇 所 が 限 定 される,5.<br />
は 釘 鋲 が 露 出 し, 盤 上 面 まで 固 定 用 の 受 けを 出 す 必 要 が<br />
あるなどのデメリットがあるものの, 作 業 性 としては 同<br />
等 であった.4.は 最 も 評 価 が 低 かった.よって 上 部 モ<br />
ジュールとしては3.の 差 込 ばね 方 式 を 基 本 とすること<br />
とした.<br />
併 せて 上 部 モジュールでは 皿 小 ねじを 廃 止 し, 代 わり<br />
にトラスビスを 使 用 している.これは 皿 小 ねじの 皿 穴 と<br />
皿 小 ねじのテーパ 部 が 合 わないと 片 あたりによりねじの<br />
弛 みに 繋 がる 場 合 があるため, 現 物 調 整 が 必 要 な 箇 所 の<br />
すり 合 わせの 調 整 工 数 ならびに 皿 きり 加 工 の 工 数 低 減 を<br />
狙 ったものである.<br />
<br />
<br />
運 転 台 上 面 にも 機 器 が 搭 載 されそのための 切 欠 穴 が 空<br />
いている. 運 転 台 上 面 に 搭 載 される 機 器 のモジュール 化<br />
にあたっては 複 数 の 方 式 をモックアップで 検 討 し, 実 際<br />
に 現 場 作 業 者 に 扱 ってもらい 採 否 の 検 討 を 行 った. 上 部<br />
モジュールの 候 補 は 以 下 の5 点 である.<br />
1. 切 欠 穴 を 大 きくあけておき, 機 器 を 取 り 付 けた 盤 ( 平<br />
板 )を 釘 鋲 で 固 定 する 方 式<br />
2.~4. 機 器 取 付 きせとして3 次 元 的 なきせを 作 成 ,<br />
それを 上 面 に 取 り 付 ける 方 式 .きせの 取 付 方 式 で4パタ<br />
ーン 検 討 した. 運 転 台 上 面 の 切 欠 穴 は 機 器 を 逃 がすため<br />
の 穴 もしくは 配 線 穴 として 使 用 する.2.~4.につい<br />
て 以 下 に 説 明 する.<br />
2.きせの4 面 ある 側 面 のうち2 面 を 釘 鋲 で 固 定 する 方 式 .<br />
3.きせの 側 面 1 面 を 釘 鋲 固 定 , 一 箇 所 を 上 下 拘 束 する<br />
差 込 ばねで 固 定 する 方 式<br />
<br />
<br />
運 転 台 を 取 り 付 ける 際 , 車 体 側 配 線 とユニット 配 線 を<br />
つなぐために 中 継 コネクタという 部 品 を 設 計 ・ 搭 載 して<br />
いる.これは 中 継 する 配 線 の 本 数 ・ 線 径 に 合 せてコネク<br />
タの 点 数 , 個 数 配 置 などをカスタマイズしている.その<br />
ためユニットによって 使 用 しているコネクタの 種 類 ・ 個<br />
数 がまちまちである.そして 中 継 コネクタの 取 付 先 がユ<br />
ニット 内 部 にある 場 合 ,ツナギ 図 配 線 図 が 決 まらないと<br />
中 継 コネクタの 詳 細 が 決 まらず, 骨 組 が 決 まらないとい<br />
う 悪 循 環 を 抱 えている.また, 新 しいコネクタ(コンタ<br />
クト)を 使 用 すると 現 場 作 業 における 圧 着 工 具 が 増 え,<br />
工 具 管 理 上 の 問 題 もある.この 問 題 を 解 決 すべく, 以 下<br />
の3つの 基 本 コンセプトを 設 定 し, 開 発 を 行 った.<br />
49<br />
2016 年 12 月
A.コネクタが 決 まらなくても 取 付 先 の 金 物 の 製 作 が<br />
可 能 なように 共 通 のフレームにコネクタを 入 れ 子 方 式 で<br />
組 み 換 えできること.<br />
B. 既 存 のピン・ソケットコンタクトが 使 用 できるこ<br />
と.<br />
C. 取 付 ピッチに 並 進 対 称 性 を 持 たせること.<br />
C 項 については, 取 付 面 の 上 下 左 右 に 取 付 ピッチ 分 等 間<br />
隔 であけた 取 付 穴 があればフレームを 増 設 可 能 なものに<br />
するための 条 件 となる.こうすることで 仮 にフレームの<br />
個 数 が 決 まらなくても 等 間 隔 で 取 付 穴 さえあけておけば<br />
フレームを 追 加 可 能 となる.<br />
・<br />
<br />
<br />
前 述 におけるモジュールとコネクタ 化 により, 機 器 取<br />
付 や 配 線 における 共 通 化 は 図 れたが, 依 然 として, 乗 務<br />
員 室 構 体 に 影 響 する 運 転 台 ユニットの 外 形 の 問 題 は 残 っ<br />
ている.どの 構 体 にも 少 量 の 変 更 のみで 対 応 できる 柔 軟<br />
な 運 転 台 ユニット,これを 考 えるにあたり,どの 運 転 台<br />
も 同 じような 構 造 をしている 運 転 台 左 側 のきせ 部 分 に 着<br />
目 した. 形 状 はそのままに, 寸 法 変 更 のみで 対 応 できな<br />
いかと.<br />
そこで, 構 造 運 転 台 ユニットを1つのユニットではな<br />
く, 左 部 分 , 正 面 部 分 , 右 部 分 等 といくつかのブロック<br />
構 造 にして 分 け,それらブロック 構 造 を 積 み 木 式 に 組 み<br />
合 わせて 運 転 台 ユニットとする 構 造 を 検 討 した. 共 通 で<br />
問 題 ないブロックはそのままに, 変 更 が 必 要 なブロック<br />
だけ 設 計 すればよいので,たとえ 仕 様 決 定 の 遅 れや, 戻<br />
りが 発 生 したとしても, 変 更 が 必 要 なブロックのみの 設<br />
計 となるため, 設 計 ボリュームは 大 幅 に 減 る.また, 共<br />
通 部 分 については 部 品 調 達 ・ 製 造 を 進 めることができる<br />
ので, 後 工 程 への 影 響 が 少 なく,また, 同 構 造 における<br />
量 産 が 可 能 なため, 品 質 ・ 単 価 の 向 上 が 期 待 できる.<br />
ほか, 新 造 時 だけでなく, 他 線 区 転 配 などによる 改 造<br />
が 必 要 な 場 合 や,メンテナンスでの 部 品 交 換 や 不 具 合 発<br />
生 時 の 調 査 時 においても 部 位 ごとでの 確 認 ・ 交 換 となり,<br />
現 地 での 作 業 時 間 の 短 縮 が 図 れる.<br />
ブロック 構 造 のプロトタイプとして,モックアップを<br />
製 作 した(モックアップは11 月 完 成 ).<br />
・<br />
<br />
コネクタには 日 圧 製 J300コネクタをベースにしたコネ<br />
クタ(18 極 , 適 用 電 線 :C-WL1-2.5sq 以 下 )4 種 別 とVL<br />
コネクタをベースにしたコネクタ(10 極 , 適 用 電 線 :<br />
C-WL1-3.5sq 以 下 )を1 種 別 開 発 し, 既 存 のコンタクト<br />
を 流 用 可 能 で 使 用 温 度 範 囲 も 従 来 のコネクタと 同 じであ<br />
る. 適 用 電 線 径 は 従 来 から 運 転 台 中 継 用 に 使 用 している<br />
電 線 径 を 基 本 にした.J300コネクタをベースにしたコネ<br />
クタは 色 とキーイングを1 対 1で 対 応 させた4 種 別 を 開 発<br />
し, 物 理 的 および 視 覚 的 に 誤 勘 合 防 止 を 図 っている.1<br />
つのフレームにはコネクタを5 個 まで 搭 載 可 能 である( 最<br />
大 180 極 /フレーム).<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
50
フリージアコンソール<br />
<br />
半 田 直 一<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 ) 主 任 技 師<br />
斉 藤 和 彦<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (デザインセンター) 主 任 技 師<br />
<br />
天 沼 秀 章<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 )<br />
<br />
<br />
問 題 としてきた 課 題 について, 解 決 する 方 法 を 模 索 ・<br />
検 討 してきた 結 果 , 設 計 者 ならば 誰 もが 夢 見 た「 構 体 構<br />
造 に 囚 われず, 鉄 道 ユーザの 要 望 に 柔 軟 に 応 えることが<br />
できる 運 転 台 ユニット」が 現 実 のものとして 見 えてきた.<br />
「 自 由 自 在 」(Free,Freely)に「 安 全 且 つ 迅 速 に 対 応 で<br />
きるスタイリッシュ」(safety,speedy,stylish)でかつ「 主<br />
体 性 」の 強 い“ 華 ”のある 運 転 台 の 開 発 を「 進 める」<br />
(advance)べく,それぞれの 英 語 と 頭 文 字 と,“ 華 ”と“ 花 ”<br />
を 掛 け, 当 社 開 発 の 運 転 台 「フリージアコンソール」と<br />
名 づけた( 商 標 登 録 出 願 済 み).<br />
フリージアの 花 言 葉 「 純 潔 」「 親 愛 の 情 」「 期 待 」から,<br />
設 計 ・ 製 造 にやさしく, 乗 務 員 ・メンテナンスにもやさ<br />
しい 当 社 独 自 の 運 転 台 の 開 発 を 目 指 す.<br />
藤 谷 晃<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 ) 主 査<br />
三 原 啓 輔<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 ) 主 査<br />
池 田 大 樹<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 ) 主 任<br />
上 関 仁 護<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 )<br />
川 上 清 温<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 (ぎ 装 設 計 )<br />
<br />
<br />
<br />
本 プロジェクトの 発 端 は 設 計 ・ 製 造 の 手 間 を 解 消 し,<br />
より 良 い 品 質 の 車 両 をより 低 コストに 造 るということに<br />
主 眼 を 置 きつつも,ユーザニーズに 柔 軟 に 対 応 可 能 した<br />
いという 思 いからきている.この 取 り 組 みが 拡 大 し, 鉄<br />
道 車 両 の 造 り 方 にイノベーションが 起 きる,そのきっか<br />
けになることを 祈 る.<br />
51<br />
2016 年 12 月
福 元 誠 一 Seiichi FUKUMOTO<br />
鈴 木 一 宏 Kazuhiro SUZUKI<br />
現 在 の 通 勤 車 両 で 幅 広 く 使 用 されている SUS301L 鋼 板 は, 無 塗 装 でも 高 耐 食 で 錆 びにくい 鋼 板 である.し<br />
かし,ステンレス 鋼 板 の 一 般 的 な <strong>特</strong> 徴 として, 塩 分 が 付 着 するような 厳 しい 環 境 に 長 時 間 さらされると, 実 用<br />
上 の 問 題 はないが 発 錆 する 場 合 がある.そこで,SUS301L 鋼 板 の 試 験 片 で 腐 食 促 進 試 験 を 実 施 したところ,ス<br />
テンレス 鋼 板 の 表 面 状 態 によっては, 耐 食 性 がさらに 向 上 することが 確 認 された.また,この 結 果 により, 次<br />
世 代 ステンレス 鋼 製 車 両 「sustina」の 付 加 価 値 向 上 に 寄 与 できる 可 能 性 を 得 たので 報 告 する.<br />
<br />
当 社 が 製 造 する 通 勤 車 両 の 構 体 は, 一 部 を 除 いて,ス<br />
テンレス 鋼 板 で 構 成 されている. 現 在 構 体 で 幅 広 く 使 用<br />
されているステンレス 鋼 板 は,オーステナイト 系 ステン<br />
レス 鋼 であるSUS301Lであり, 高 耐 食 , 高 剛 性 , 高 強<br />
度 であることが <strong>特</strong> 徴 である.これによって,ステンレス<br />
鋼 製 車 両 は 無 塗 装 においても 錆 びにくく,メンテナンス<br />
コストの 削 減 などに 寄 与 している.<br />
ステンレス 鋼 板 の 耐 食 性 評 価 に 関 する 研 究 報 告 につい<br />
ては, 一 般 的 に 幅 広 く 使 用 されているSUS304やSUS・<br />
316,SUS430などを 対 象 とした 報 告 はあるものの,SUS・<br />
301Lに <strong>特</strong> 化 した 報 告 は 非 常 に 少 ないのが 実 状 である.<br />
そこで, 本 報 告 では 現 在 の 車 両 に 使 用 しているステンレ<br />
ス 鋼 板 であるSUS301Lについて, 実 使 用 履 歴 や 表 面 仕<br />
上 げの 異 なる 試 験 片 を 準 備 して, 腐 食 促 進 試 験 により 耐<br />
食 性 の 差 異 を 評 価 した.<br />
<br />
試 験 片 は, 表 1に 示 す 未 使 用 で 表 面 仕 上 げの 異 なるス<br />
テンレス 鋼 板 ( 以 下 ,「 未 使 用 鋼 板 」)2 種 類 ( 試 験 片 1・<br />
試 験 片 2)と, 実 働 後 に 解 体 されたステンレス 車 両 ( 以<br />
下 ,「 実 働 後 車 両 」)「A」,「B」の 側 外 板 から 採 取 した,<br />
それぞれ 表 面 仕 上 げが 異 なる4 種 類 ( 試 験 片 3~ 試 験 片<br />
6)である.なお, 実 働 年 数 は「A」より「B」の 方 が<br />
長 い 車 両 である.また,2 種 類 の 表 面 仕 上 げについて,<br />
様 相 を 図 1に, 各 試 験 片 の 化 学 成 分 を 表 2に 示 す.<br />
<br />
・ 実 働 年 数 ・ 表 面 仕 上 げ・ 材 質 ( 寸 法 )・<br />
1・ 未 使 用 ・ #80BG・<br />
2・ 未 使 用 ・ DF・<br />
3・ A・ #80BG・ SUS301L-DLT・<br />
4・ A・ DF・ (70×150mm)・<br />
5・ B・ #80BG・<br />
6・ B・ DF・<br />
#80BG・ 研 磨 方 向<br />
・[#80BG 仕 上 げ] [DF 仕 上 げ]<br />
<br />
<br />
・ C・ Si・ Mn・ P・ S・ Ni・ Cr・ Mo・<br />
1・ 0.022・ 0.46・ 1.08・ 0.030・ 0.001・ 7.07・ 17.2・ 0.14・<br />
2・ 0.023・ 0.40・ 1.02・ 0.027・ 0.001・ 7.14・ 17.5・ 0.15・<br />
3・ 0.014・ 0.51・ 1.44・ 0.034・ 0.001・ 6.68・ 17.5・ 0.23・<br />
4・ 0.016・ 0.51・ 1.45・ 0.031・ 0.001・ 6.79・ 17.4・ 0.16・<br />
5・ 0.022・ 0.49・ 1.05・ 0.023・ 0.001・ 7.19・ 17.4・ 0.12・<br />
6・ 0.019・ 0.55・ 1.46・ 0.026・ 0.004・ 6.77・ 17.3・ 0.01・<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
52
ステンレス 鋼 板 の 表 面 状 態 と 耐 食 性<br />
・・<br />
<br />
<br />
<br />
腐 食 促 進 試 験 はJIS・H・8502(1999)-8.1[めっきの 耐 食<br />
性 試 験 方 法 ]に 基 づいた 複 合 サイクル 試 験 で 行 い, 耐 食<br />
性 の 差 異 を 評 価 した. 複 合 サイクル 試 験 は, 複 合 腐 食 試<br />
験 機 を 使 用 して, 図 2に 示 す 条 件 で, 塩 水 噴 霧 2 時 間 , 乾<br />
燥 4 時 間 , 湿 潤 2 時 間 を1サイクル(cyc)として,21cycを<br />
行 った. 耐 食 性 の 評 価 は 試 験 片 全 体 を 目 視 により 観 察 し,<br />
発 錆 の 有 無 を 確 認 した.なお, 観 察 は3cyc,6cyc,9cyc,<br />
12cyc,21cycにおいて 行 った.<br />
JIS・H・8502(1999)[めっきの 耐 食 性 試 験 ・・方 法 ]<br />
複 合 サイクル 試 験 (8 (8 時 間 /1サイクル)<br />
[1]・5% 中 性 塩 水 噴 霧 試 験 ・・<br />
351・2 時 間 ・・<br />
移 行 時 間 30 30 分 以 内 ・・<br />
[2]・ [2]・ 乾 燥 試 験 ・・<br />
移 行 時 間 ・・<br />
601・20~30%rh・4 時 間<br />
30 30 分 以 内 ・・<br />
移 行 時 間 15 15 分 以 内 ・・<br />
[3]・ [3]・ 湿 潤 試 験 ・・<br />
501・95%rh ・・ 以 上 ・・2 ・・2 時 間<br />
・・<br />
<br />
<br />
・・<br />
3cyc・<br />
6cyc・<br />
9cyc・<br />
12cyc・<br />
21cyc・<br />
拡 散 具 合<br />
(24h)・<br />
(48h)・<br />
(72h)・<br />
(96h)・<br />
(168h)・<br />
(21cyc)・<br />
1 発 → → → → 全 体 拡 散<br />
2 発 → → → → 軽 微<br />
3 発 錆 なし なし<br />
4 <br />
発 錆 なし なし<br />
5 発 軽 微<br />
6 発 軽 微<br />
*: *: 結 果 判 定 ・[: 発 なし,→: 進 行 ・ 拡 散 ] ]<br />
<br />
・・ 試 験 前 ・・ 3cyc 3cyc 後 ・・ 21cyc 後 ・・<br />
1・ 1・<br />
・・ ・・ ・・<br />
2・ 2・<br />
<br />
表 3および 表 4に 複 合 サイクル 試 験 の 結 果 を 示 す.<br />
未 使 用 鋼 板 から 採 取 した 試 験 片 1, 試 験 片 2は「3cyc」<br />
で 発 錆 が 認 められた. <strong>特</strong> に[#80BG 仕 上 げ]の 試 験 片 1は,<br />
発 錆 後 も 時 間 経 過 ごとに 錆 の 範 囲 が 拡 散 し,「21cyc」で<br />
は 試 験 片 全 体 にまで 拡 散 していた.[DF 仕 上 げ]の 試 験 片<br />
2は,「3cyc」で 発 錆 が 認 められたものの,その 後 の 進<br />
展 や 拡 散 は 軽 微 であり,「21cyc」においても, 発 錆 は 試<br />
験 片 全 体 に 対 してわずかであった.これに 対 して, 試 験<br />
片 3, 試 験 片 4は,「21cyc」では 発 錆 しなかった.また,<br />
試 験 片 5, 試 験 片 6は,「21cyc」でわずかに 発 錆 が 認 め<br />
られた.<br />
未 使 用 鋼 板 より 採 取 した 試 験 片 1と 試 験 片 2は, 実 働<br />
後 車 両 より 採 取 した 試 験 片 (3~6)よりも 早 期 に 発 錆<br />
しただけでなく, 表 面 仕 上 げの 違 いによる 耐 食 性 の 差 も<br />
認 められた.これに 対 して, 実 働 後 車 両 より 採 取 した 試<br />
験 片 はいずれも 耐 食 性 が 優 れており, 表 面 仕 上 げの 違 い<br />
による 差 も 認 められなかった.このことから, 耐 食 性 の<br />
優 劣 は, 実 働 の 有 無 が 大 きく 影 響 しており, 未 使 用 鋼 板<br />
と 実 働 後 車 両 とでは,この 不 動 態 皮 膜 の 状 態 に 差 があっ<br />
た 可 能 性 が 考 えられる.<br />
3・ 3・<br />
4・ 4・<br />
5・ 5・<br />
6・ 6・<br />
・・ ・・ ・・<br />
・・ ・・ ・・<br />
・・ ・・ ・・<br />
・・ ・・ ・・<br />
・・ ・・ ・・<br />
53<br />
2016 年 12 月
表 面 状 態 と 耐 食 性 については, 一 般 に 表 面 粗 さが 粗 い<br />
ほど 発 錆 しやすいとされている.そこで, 粗 さと 発 錆 時<br />
期 の 相 関 の 検 証 として,ステンレス 鋼 板 の 表 面 粗 さ 測 定<br />
による 加 工 目 の 山 の 最 大 高 さを 測 定 した. 測 定 は 走 査 電<br />
子 顕 微 鏡 で 行 った.<br />
( 表 面 )<br />
#80BG・ 研 磨 方 向<br />
・<br />
#80BG・ 研 磨 方 向<br />
・<br />
( 断 面 )<br />
<br />
( 断 面 )<br />
表 5および 図 3 ~ 4に 表 面 粗 さ 測 定 による 加 工 目 山 の 最<br />
大 高 さ 測 定 結 果 を 示 す.<br />
1 3 5・<br />
[#80BG 仕 上 げ]による 加 工 目 の 山 の 最 大 高 さは, 試 験<br />
<br />
片 1, 試 験 片 3, 試 験 片 5ともに 約 10.0µmであり, 耐 食<br />
1<br />
<br />
3<br />
<br />
5・<br />
性 の 差 に 影 響 するような 違 いは <strong>特</strong> に 認 められなかった.<br />
[DF 仕 上 げ]による 加 工 目 の 山 の 最 大 高 さは, 試 験 片 2<br />
では27.0µm, 試 験 片 4では17.5µm, 試 験 片 6では13.5µm ( 表 面 )<br />
であり, 未 使 用 品 の 方 が 高 い 傾 向 であった.しかし, 試<br />
験 片 4および 試 験 片 6の 山 形 状 は 崩 れていたことから, ( 表 面 )<br />
洗 浄 等 の 繰 返 しにより, 低 くなった 可 能 性 も 考 えられ,<br />
耐 食 性 の 差 に 影 響 するような 違 いは <strong>特</strong> 定 できなかった.<br />
#80BG 仕 上 げ・ DF 仕 上 げ・<br />
・ 1・<br />
2・<br />
( <br />
3(A) 5(B)<br />
4(A)・ 6(B)・<br />
未 使 用 )<br />
( 未 使 用 )<br />
加 工 目 ・#80BG 11.0・ 仕 上 10.0・ げ・ 10.0・ 27.0・ DF 仕 上 17.5・ げ・ 13.5・<br />
・ 山 高 さ・<br />
1・<br />
2・<br />
3(A) 5(B)<br />
4(A)・ 6(B)・<br />
( 未 使 用 )<br />
( 未 使 用 )<br />
加 工 目 ・<br />
11.0・ 10.0・ 10.0・ 27.0・ 17.5・ 13.5・<br />
山 高 さ・<br />
( 断 面 )<br />
( 断 面 )<br />
2 4 6・<br />
<br />
2 4 6・<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
54
ステンレス 鋼 板 の 表 面 状 態 と 耐 食 性<br />
<br />
<br />
孔 食 電 位 測 定 によって 得 られる 電 位 は, 値 が 高 いほど<br />
耐 食 性 に 優 れる 材 料 であるとされている.ステンレス 鋼<br />
板 は 鉄 に11% 以 上 のクロム(Cr)を 含 有 した 合 金 であり,<br />
表 面 には 不 動 態 皮 膜 と 呼 ばれるクロム(Cr)と 酸 素 (O)か<br />
らなる, 厚 さ 約 2 ~ 3nmの 薄 膜 状 の 水 和 オキシ 水 酸 化 ク<br />
ロム 層 が 形 成 されている.ステンレス 鋼 板 の 表 面 は,この<br />
不 動 態 皮 膜 によって 腐 食 環 境 から 保 護 されている( 図 5).<br />
そこで, 未 使 用 鋼 板 と 実 働 後 車 両 の 不 動 態 皮 膜 の 状 態<br />
の 比 較 として,JIS・G・0577(2005)[ステンレス 鋼 の 孔 食<br />
電 位 測 定 方 法 ]に 基 づいて 各 試 験 片 の 孔 食 電 位 測 定 を 行<br />
い, 電 位 値 およびアノード 分 極 曲 線 挙 動 と 発 錆 の 相 関 に<br />
ついて 評 価 した.<br />
厚 さ・<br />
酸 素 (O) 腐 食 環 境 ・ 腐 食 性 物 ・ 質 厚 さ・<br />
酸 素 (O) 腐 食 環 境 ・ 腐 食 性 物 ・ 質 約 2~3nm・<br />
約 2~3nm・<br />
<br />
・ 1( 未 使 用 )・ 3(A)・ 5(B)・<br />
・ 1( 未 使 用 )・ 3(A)・ 5(B)・<br />
孔 食 電 位 測 定 ・<br />
孔 食 電 位 測 定 ・ 0.232[V]・ 0.417[V]・ 0.225[V]・<br />
( 平 値 ) 0.232[V]・ 0.417[V]・ 0.225[V]・<br />
( 平 値 )<br />
電 流 密 度 ・<br />
電 流 密 度 ・<br />
0.01~100・ 0.01~1.0 0.01~1.0・<br />
0.01~100・<br />
の 推 移 * ・ [µAcm -2 0.01~1.0<br />
]・ [µAcm -2 0.01~1.0・<br />
]・ [µAcm -2 ]・<br />
の 推 移 * ・ [µAcm -2 ]・ [µAcm -2 ]・ [µAcm -2 ]・<br />
*:アノード 分 極 曲 線 において, 孔 食 電 位 値 に 到 達 する<br />
*:アノード 分 極 曲 線 において, 孔 食 電 位 値 に 到 達 する<br />
までの 電 流 密 度 の 推 ・移 範 囲<br />
までの 電 流 密 度 の 推 ・移 範 囲<br />
不 動 態 皮 膜 CrOx (OH) 2-x・nH2O・<br />
不 動 態 皮 膜 CrOx (OH) 2-x・nH2O・<br />
クロム(Cr)<br />
クロム(Cr)<br />
ステンレス Fe+Cr・<br />
ステンレス Fe+Cr・<br />
<br />
<br />
表 6に 孔 食 電 位 の 測 定 結 果 を 示 す.なお, 試 験 は 腐 食<br />
促 進 試 験 で 腐 食 度 合 いの 差 が 顕 著 であった,[#80BG 仕<br />
上 げ]の 試 験 片 3 種 類 ( 試 験 片 1, 試 験 片 3, 試 験 片 5)<br />
を 代 表 して 行 った.<br />
試 験 片 1と 試 験 片 5の 電 位 値 はほぼ 同 値 であったが,<br />
試 験 片 3の 電 位 値 は 試 験 片 1や 試 験 片 5よりも <strong>特</strong> 出 して<br />
高 い 値 である. 次 に, 図 6 ~ 8に 孔 食 電 位 測 定 時 に 得 ら<br />
れたアノード 分 極 曲 線 の 挙 動 を 示 す. 各 試 験 片 の 曲 線 挙<br />
動 を 比 較 すると, 試 験 片 1の 挙 動 は, 図 6に 黄 囲 みで 示<br />
したように, 孔 食 電 位 よりも 低 い 電 位 においても, 電 流<br />
密 度 10µAcm -2 を 超 える 電 位 域 が 認 められる.この 挙 動<br />
は, 孔 食 電 位 よりも 低 い 電 位 ではあるが, 試 験 片 表 面 で<br />
は 不 動 態 皮 膜 の 破 壊 が 起 こり 始 めていることを 示 してい<br />
る.これに 対 して, 試 験 片 3および 試 験 体 5は 孔 食 電 位<br />
に 達 するまで, 電 流 密 度 10µAcm -2 を 超 える 様 相 は 見 ら<br />
れなかった.<br />
このことから, 試 験 片 3と 試 験 片 5は 試 験 片 1に 比 べ<br />
て 安 定 した 不 動 態 皮 膜 が 形 成 された 状 態 であり, 孔 食 ,<br />
つまり 腐 食 が 起 こりにくい 表 面 状 態 であったということ<br />
を 示 している.したがって, 実 働 後 車 両 より 採 取 した 試<br />
験 片 3および 試 験 片 5は 耐 孔 食 性 を 高 め, 不 動 態 を 安 定<br />
にするための 処 理 が 施 されていた 可 能 性 が 考 えられる.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
55<br />
2016 年 12 月
不 動 態 皮 膜 は 一 般 にクロム(Cr) 量 が 高 いほど 安 定 し,<br />
耐 食 性 が 優 れるということが 知 られている.したがって,<br />
表 面 部 のCr 量 の 差 について 着 目 し,エックス 線 光 電 子 分<br />
光 法 (XPS)で 素 材 最 表 層 部 から 板 厚 ( 深 さ) 方 向 の 成 分 分<br />
析 を 行 い,Cr 量 と 発 錆 の 相 関 について 評 価 した. 試 験 は<br />
[#80BG 仕 上 げ]の 試 験 片 3 種 類 ( 試 験 片 1, 試 験 片 3, 試<br />
験 片 5)を 代 表 して 行 った.なお,ステンレス 鋼 板 そのも<br />
ののCr 量 については, 試 験 片 1, 試 験 片 3, 試 験 片 5とも<br />
に 約 17%であり, 大 きな 差 がないことは 確 認 済 みである.・<br />
<br />
表 7にXPSによる 最 表 層 部 のCr 量 測 定 結 果 を 示 す.ま<br />
た, 図 9 ~ 11にXPSによる 深 さ 方 向 分 析 結 果 を 示 す.<br />
なお, 横 軸 の「Sputter・time」は 板 厚 深 さ 方 向 へのエッ<br />
チング 時 間 を 示 しており,その 速 度 は1nm/minである.<br />
したがって, 本 報 告 では「Sputter・time(min)」≒「 板 厚<br />
方 向 深 さ(nm)」と 換 算 できる. 試 験 は[#80BG 仕 上 げ]<br />
の 試 験 片 3 種 類 ( 試 験 片 1, 試 験 片 3, 試 験 片 5)を 代<br />
表 して 行 った.なお,ステンレス 鋼 板 そのもののCr 量 に<br />
ついては, 試 験 片 1, 試 験 片 3, 試 験 片 5ともに 約 17%<br />
であり, 大 きな 差 がないことは 確 認 済 みである.<br />
最 表 層 部 のCr 量 は, 試 験 片 1が22%であるのに 対 して,<br />
試 験 片 3が42%, 試 験 片 5が45%であり, 約 20%の 差 が<br />
認 められる.ステンレス 鋼 板 の 表 面 にはCrを 主 体 とした<br />
不 動 態 皮 膜 が 形 成 されており, 表 面 のCr 量 が 高 くなるこ<br />
とが 知 られている.この 皮 膜 は 表 面 加 工 等 で 除 去 されて<br />
もすぐに 再 生 されるが, 試 験 片 3と 試 験 片 5は, 試 験 片<br />
1と 同 じ 表 面 仕 上 げが 施 されているにも 関 わらず, 最 表<br />
層 部 のCr 量 が 試 験 片 1よりも 高 く, <strong>特</strong> 異 な 状 態 であった.<br />
したがって, 試 験 片 3と 試 験 片 5は 不 動 態 皮 膜 を 強 化 す<br />
る 処 理 が 施 されていた 可 能 性 が 考 えられる.<br />
なお, 試 験 片 1, 試 験 片 3, 試 験 片 5ともに, 深 さ 約<br />
3nmの 位 置 で, 最 もCrの 濃 化 が 認 められ, 値 は42 ~ 50%<br />
であった.ステンレス 鋼 板 表 面 の 不 動 態 皮 膜 の 厚 さは 約<br />
2 ~ 3nmであるため,このような 傾 向 となることは 妥 当<br />
であると 考 えられる.<br />
<br />
・ 1( 未 使 用 )・ 3(A)・ 5(B)・<br />
最 表 層 部 ・<br />
Cr 量 ・<br />
最 大 ・<br />
濃 化 位 置 ・<br />
22%・ 42%・ 45%・<br />
深 さ3nm・<br />
(42%)・<br />
深 さ3nm・<br />
(47%)<br />
深 さ3nm・<br />
(50%)・<br />
<br />
<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
56
ステンレス 鋼 板 の 表 面 状 態 と 耐 食 性<br />
<br />
未 使 用 ステンレス 鋼 板 から 採 取 した 試 験 片 と 実 働 後 ス<br />
テンレス 車 両 から 採 取 した 試 験 片 について, 腐 食 促 進 試<br />
験 および 表 面 状 態 の 評 価 を 行 ったところ, 以 下 の 結 果 を<br />
得 た.<br />
1・ 未 使 用 鋼 板 試 験 片 と 実 働 後 車 両 試 験 片 とでは, 未 使 用<br />
鋼 板 の 方 が 早 期 に 発 錆 した.<br />
2・ 未 使 用 鋼 板 の 表 面 状 態 において,[#80BG 仕 上 げ] 試<br />
験 片 と[DF 仕 上 げ] 試 験 片 とでは,[DF 仕 上 げ] 試<br />
験 片 の 方 が, 錆 の 拡 散 具 合 は 軽 微 であった.このこと<br />
から,[DF 仕 上 げ]の 方 が[#80BG 仕 上 げ]よりも 耐<br />
食 性 に 優 れることが 明 らかとなった.<br />
3・ 実 働 後 車 両 においては,[#80BG 仕 上 げ] 試 験 片 と[DF<br />
仕 上 げ] 試 験 片 とでは, 発 錆 時 期 や 発 錆 具 合 に 明 確 な<br />
差 は 認 められなかった.<br />
4・ 孔 食 電 位 測 定 およびアノード 電 極 曲 線 の 挙 動 におい<br />
て, 実 働 後 車 両 試 験 片 は 未 使 用 鋼 板 試 験 片 よりも 腐 食<br />
が 起 こりにくい, 安 定 した 不 動 態 皮 膜 が 形 成 されてい<br />
たことが 明 らかとなった.<br />
5・XPSによる 成 分 分 析 により, 未 使 用 鋼 板 試 験 片 および<br />
実 働 後 車 両 試 験 片 ともに, 最 表 層 部 にはクロム(Cr)<br />
の 濃 化 が 認 められたが, 割 合 は 実 働 後 車 両 試 験 片 が 約<br />
20% 高 かった.<br />
<br />
(1)・ 根 本 力 男 :「ステンレス 鋼 の 基 礎 と 上 手 な 使 い 方 」,・<br />
6-10・54-55,(2011), 日 本 工 業 出 版 ( 株 )<br />
(2)・・JIS・H・8502:1999・めっきの 耐 食 性 試 験 方 法 :「JISハ<br />
ンドブック 41 金 属 表 面 処 理 」,493-495,(2010),( 財 )<br />
日 本 規 格 協 会<br />
(3)・・JIS・G・0577:2005・ステンレス 鋼 の 孔 食 電 位 測 定 方 法 :<br />
「JISハンドブック 1 鉄 鋼 Ⅰ」,1080-1085,(2014),( 一<br />
財 ) 日 本 規 格 協 会<br />
<br />
福 元 誠 一<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 材 料 センター) 主 任<br />
鈴 木 一 宏<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 材 料 センター) 課 長<br />
以 上 のことから, 未 使 用 鋼 板 試 験 片 と 実 働 後 車 両 試 験<br />
片 との 耐 食 性 の 差 は, 不 動 態 皮 膜 の 状 態 ,つまり 最 表 層<br />
部 のCr 量 の 差 であることが 明 らかとなった. 実 働 後 車 両<br />
については, 新 造 時 から 経 年 で 繰 返 し 洗 浄 されてきたた<br />
め, 最 表 層 部 のCrが 濃 化 され, 不 動 態 皮 膜 が 強 化 された<br />
ことで, 耐 食 性 がより 高 くなっていた 可 能 性 が 考 えられ<br />
る.<br />
したがって, 最 表 層 部 のCr 量 を 人 為 的 に 高 めること<br />
ができれば,より 高 耐 食 で 高 品 質 な 車 両 が 製 造 でき, 次<br />
世 代 ステンレス 鋼 製 車 両 「sustina」の 優 位 性 をさらに 高<br />
めることができると 考 えられる.このためには, 最 表 層<br />
部 のCr 量 を 高 める 方 法 を 確 立 し, 耐 食 性 向 上 効 果 につい<br />
て 検 証 した 後 , 車 両 構 体 へ 実 用 するための 最 適 条 件 を 構<br />
築 していくことが 課 題 である.<br />
57<br />
2016 年 12 月
側 垣 正 Tadashi SOBAGAKI<br />
室 橋 強 Tsuyoshi MUROHASHI<br />
門 脇 文 俊 Fumitoshi KADOWAKI<br />
越 川 純 Jun KOSHIKAWA<br />
大 塚 広 貴 Hirotaka OTSUKA<br />
sustina 車 両 は 外 板 を 繋 ぐセギリ, 窓 や 出 入 口 のフレーム 類 による 凹 凸 を 少 なくした 外 観 デザインが <strong>特</strong> 徴 であ<br />
る.2013 年 度 の 第 1 号 車 製 造 以 降 , 実 現 しなかった 平 滑 な 外 観 を 持 つ 側 構 体 の 製 造 ラインを 2015 年 度 に 設 置<br />
した.そこには sustina 第 1 号 車 で 得 た 知 見 や 技 術 を 生 かしている. 本 稿 では 側 構 体 における 各 製 造 工 程 に 沿 って,<br />
そこで 用 いる 設 備 や 工 法 について 解 説 する.<br />
<br />
<br />
2013 年 度 , 東 急 電 鉄 に 第 1 号 のsustina 車 両<br />
(1) を 納 入 し<br />
た.その 側 構 体 は 外 板 同 士 を 突 合 せ 溶 接 に 変 更 し, 出 入<br />
り 口 , 窓 周 囲 の 凹 凸 もなくした 平 滑 な 外 観 を 実 現 してい<br />
た.<br />
しかし,その 量 産 化 にあたっては 課 題 があり,その 後<br />
のsustina 車 両 では 平 滑 な 外 観 を 実 現 することができなか<br />
った.<br />
2015 年 度 , 構 造 と 製 造 手 順 の 見 直 しにより, 量 産 にお<br />
ける 課 題 を 解 決 し, 平 滑 な 外 観 を 実 現 できるsustina 車<br />
両 側 構 体 の 量 産 設 備 を 導 入 した.<br />
本 稿 ではsustina 側 構 体 における 各 製 造 工 程 に 沿 って,<br />
そこで 用 いる 設 備 や 工 法 について 解 説 する.<br />
側 構 体 の 組 立 手 順 は 以 下 の 通 りである.<br />
(1)レーザ 溶 接 を 用 いた 側 外 板 の 突 合 せ 溶 接 ( 出 入 口 上<br />
部 で 分 割 したブロック 単 位 )<br />
並 行 して 車 端 , 出 入 り 口 間 の 骨 組 みブロックを 製 作<br />
(2) 外 板 結 合 部 の 仕 上 げ<br />
(3) 抵 抗 スポット 溶 接 を 用 いた 骨 組 みブロックと 外 板 の<br />
接 合<br />
(4) 側 総 組 立 (ブロック 同 士 の 結 合 )<br />
(5)レーザ 溶 接 を 用 いて 出 入 り 口 や 窓 周 囲 の 隅 肉 溶 接<br />
当 社 はこれまで, 一 部 の 側 外 板 や 屋 根 板 の 接 合 に 対 し,<br />
レーザを 用 いた 突 合 わせ 溶 接 を 積 極 的 に 採 用 してきた.<br />
レーザ 溶 接 は, 従 来 のTIG 溶 接 や,MIG 溶 接 よりも 入 熱<br />
量 が 格 段 に 少 なく, 歪 みがほとんど 出 ないため, 外 観 品<br />
質 が 向 上 した.また, 施 工 後 の 修 正 作 業 も 不 要 であるた<br />
め, 生 産 性 向 上 と 工 数 低 減 ができた.さらに, 手 作 業 に<br />
よる 薄 板 の 突 合 せ 溶 接 には 高 い 技 能 が 必 要 だったが, 自<br />
動 化 の 実 現 により, 技 能 レスも 実 現 している.<br />
しかし,レーザ 溶 接 による 良 好 なビードを 得 るために<br />
は, 材 料 同 士 の 目 違 いや 隙 間 の 管 理 を 厳 しく 行 わなけれ<br />
ばならない. 鉄 道 車 両 の 側 外 板 の 溶 接 線 は 数 メートルに<br />
なるため, 全 長 に 渡 って 目 違 いや 隙 間 をなくすことは 非<br />
常 に 難 しい. 従 来 はそれらを 目 視 や 手 で 触 れた 感 触 によ<br />
り,その 状 態 を 人 手 で 修 正 しながら 施 工 していたため,<br />
1 枚 あたりの 施 工 にかなりの 時 間 を 費 やしていた.<br />
2015 年 度 , 外 板 突 合 せ 溶 接 専 用 の 設 備 を 導 入 した( 図 1<br />
参 照 ).この 設 備 は 溶 接 部 における 材 料 同 士 の 目 違 いや<br />
隙 間 をセンサによって 計 測 し, 良 否 判 定 を 行 う.その 結<br />
果 を 基 に 自 動 的 に 修 正 できるものは 設 備 が 修 正 し,でき<br />
ないものについては 人 が 修 正 を 行 ってから 施 工 を 行 うこ<br />
とにより, 生 産 性 が 向 上 し, 材 料 の 無 駄 も 最 少 にするこ<br />
とができた.<br />
<br />
<br />
<br />
sustina 車 両 の 側 外 板 は 戸 袋 部 で 上 下 2 分 割 になってい<br />
る.まず,レーザ 溶 接 を 用 いて 上 下 の 板 の 突 合 せ 溶 接 を<br />
行 う.<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
58
sustina 車 両 側 構 体 の 量 産 化 について<br />
<br />
レーザ 溶 接 により 外 板 を 突 合 せ 溶 接 した 後 , 外 板 を 正<br />
転 ( 車 外 側 が 上 )し, 溶 接 部 を 周 囲 の 母 材 の 外 観 に 近 い<br />
状 態 にするための 仕 上 げ 作 業 を 行 う.・<br />
従 来 , 突 合 せ 溶 接 部 の 仕 上 げ 作 業 は100% 手 作 業 で 行<br />
っていたが, 高 い 技 能 が 必 要 なうえ, 作 業 者 によるばら<br />
つきも 発 生 していた.そこで 技 能 レスと 品 質 の 安 定 化 を<br />
目 的 に 自 動 研 磨 設 備 を 導 入 した.<br />
本 装 置 は 外 板 に 対 する 加 圧 力 , 研 磨 ベルトの 回 転 速 度<br />
やその 送 り 速 度 等 を 任 意 に 変 更 できる.<br />
仕 上 げ 条 件 の 決 定 にあたっては,sustina 第 1 号 車 で 得<br />
た 知 見 を 深 度 化 し,そこに 現 場 作 業 者 のノウハウを 付 加<br />
した. 結 果 的 に 図 2のような 母 材 の 外 観 に 溶 け 込 むよう<br />
な 仕 上 げ 状 態 を 実 現 できた.<br />
さらに 自 動 化 と 作 業 手 順 の 統 一 により, 作 業 者 が 変<br />
わっても,ほぼ 同 じ 外 観 品 質 を 得 られるようになった.<br />
この 自 動 研 磨 設 備 による 外 観 品 質 と 仕 上 げ 作 業 時 間 は<br />
前 述 の 突 合 せ 溶 接 の 出 来 栄 えの 影 響 を 大 きく 受 ける. 突<br />
合 せ 溶 接 部 に 目 違 いがあると, 研 磨 ベルトが 外 板 に 対 し<br />
て 触 れない 部 分 が 出 るため,その 場 所 が 図 3のように 筋<br />
として 残 る.この 筋 を 消 すには 外 板 をさらに 削 り 込 む 必<br />
要 があるため,それだけの 追 加 作 業 が 加 わり,さらに 外<br />
板 の 強 度 低 下 も 招 く.したがって, 外 板 の 溶 接 工 程 では<br />
目 違 いに 対 して 細 心 の 注 意 を 払 う 必 要 がある.<br />
また, 加 圧 力 や 回 転 速 度 等 のパラメータを 統 一 しても,<br />
研 磨 材 の 磨 耗 状 態 によって, 外 観 が 変 わってしまう. 常<br />
に 同 じ 外 観 を 得 るためには, 使 用 時 間 や 距 離 等 で 研 磨 材<br />
の 管 理 をする 必 要 がある.<br />
仕 上 げの 良 否 に 対 する 判 断 については 当 面 の 間 , 限 度<br />
見 本 を 製 作 し,それと 比 較 する 官 能 検 査 に 依 ることにな<br />
るが,いずれ 自 動 的 に 判 定 する 機 能 を 付 加 したいと 考 え<br />
ている.<br />
<br />
<br />
外 板 を 結 合 し, 突 合 せ 溶 接 部 を 仕 上 げた 後 , 自 動 ス<br />
ポット 溶 接 設 備 を 用 いて, 銅 定 盤 の 上 で 外 板 と 骨 組 みブ<br />
ロックや 外 板 補 強 等 を 結 合 する( 図 4 参 照 ).・<br />
sustina 側 構 体 の 量 産 化 にあたり, 自 動 抵 抗 スポット 溶<br />
接 設 備 も 更 新 した( 図 5 参 照 ).この 設 備 はエアシリンダ<br />
による 加 圧 機 構 を 用 いて, 板 厚 組 合 せに 応 じた 適 切 な 加<br />
圧 力 を 与 えることができる.これにより 圧 痕 の 改 善 を 目<br />
指 している.<br />
図 6はSUS301L-1/4H 厚 さ1.5mmの 外 板 とSUS301L-H<br />
厚 さ0.8mmの 外 板 補 強 の 組 合 せにおける, 従 来 の 抵 抗 ス<br />
ポット 溶 接 部 の 圧 痕 と, 新 自 動 抵 抗 スポット 溶 接 設 備 に<br />
よる 溶 接 部 の 圧 痕 の 外 観 写 真 である. 新 設 備 の 圧 痕 の 方<br />
が 従 来 のものよりも 直 径 が 小 さいが,ナゲットの 溶 け 込<br />
み 深 さと 直 径 はJRISの 規 定 値 を 満 たしている.・<br />
しかし, 圧 痕 は 小 さくなったが, 焦 げ 付 きはなくなら<br />
ないため, 電 解 作 業 はなくなっていない.<br />
仕 上 げ 範 囲<br />
<br />
<br />
59<br />
2016 年 12 月
sustina 第 1 号 車 ではロボットの 先 端 にレーザ 加 工 ヘッ<br />
ドとセンサを 取 り 付 け, 隅 肉 溶 接 を 行 ったが,20mの 可<br />
動 範 囲 を 持 つ 設 備 は 場 所 を 取 るうえ, 全 開 口 部 のティー<br />
チング 作 業 ,あるいはその 修 正 作 業 は 非 常 に 手 間 のかか<br />
るため,ハンドトーチ 型<br />
(2) のものに 変 更 した.ハンド<br />
トーチ 型 のレーザはセットも 扱 いも 非 常 に 簡 単 だが, 隅<br />
肉 溶 接 部 ( 図 8 参 照 )に 対 する 狙 いは 非 常 にシビアであ<br />
るため,トーチの 角 度 を 一 定 に 保 つ 補 助 具 が 必 要 になる.<br />
課 題 は 外 板 とフレームをとめるための 抵 抗 スポット 溶<br />
接 の 歪 によって 発 生 する 隅 肉 溶 接 部 の 隙 間 である. 隙 間<br />
の 状 態 によっては 全 く 溶 接 できないことがあるため,そ<br />
の 管 理 は 非 常 に 重 要 である.・<br />
<br />
<br />
<br />
出 入 り 口 開 口 ごとに 組 み 立 てられた 側 ブロックは 組 立<br />
工 程 で 結 合 され, 側 構 体 になる.sustina 第 1 号 車 では,<br />
20mもの 銅 板 上 で 側 構 体 にしたが,1ステージにおける<br />
滞 留 時 間 が 長 くなってしまうため, 量 産 車 からは 従 来 通<br />
り, 出 入 口 間 のブロックごとに 製 造 し, 総 組 立 工 程 で 出<br />
入 口 上 部 で 結 合 することにした.<br />
<br />
最 後 に 出 入 口 部 と 窓 部 の 隅 肉 溶 接 を 行 う.sustina 側<br />
構 体 は, 平 滑 な 外 観 を 得 るために, 従 来 , 車 外 側 から 取<br />
り 付 けられている 出 入 り 口 フレームや 窓 フレームが 車 内<br />
側 に 入 っている.したがって, 雨 水 等 が 外 板 とフレーム<br />
の 隙 間 から 浸 入 したり, 剥 き 出 しになった 外 板 の 端 部 に<br />
お 客 様 が 手 で 触 れて 怪 我 をしたりといった 可 能 性 がある<br />
ため, 出 入 り 口 周 囲 , 窓 周 囲 に 対 し,レーザ 溶 接 で 隅 肉<br />
溶 接 施 工 する( 図 7 参 照 ).<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
60
sustina 車 両 側 構 体 の 量 産 化 について<br />
<br />
<br />
<br />
sustina 車 両 の 側 構 体 量 産 化 について, 製 造 工 程 順 に<br />
製 造 設 備 も 併 せて 紹 介 してきた.この 側 構 体 量 産 設 備 の<br />
構 築 にあたってはsustina 第 1 号 車 で 得 た 技 術 やノウハウ<br />
を 生 かし, 設 計 や, 工 順 , 工 法 の 見 直 しを 行 った.<br />
<strong>特</strong> に 外 板 の 突 合 せ 溶 接 工 程 と 外 板 仕 上 げ 工 程 について<br />
は, 外 観 品 質 だけでなく, 大 幅 な 生 産 性 向 上 を 実 現 でき<br />
た.これらの 工 程 を 量 産 に 乗 せることができたことは,<br />
他 社 との 差 別 化 をするうえで 大 きな 意 味 を 持 つ.<br />
今 後 は 量 産 ラインを 運 用 しながら,さらなる 安 定 化 と<br />
生 産 性 向 上 を 目 指 す.<br />
<br />
(1)・ 浅 賀 哲 也 , 他 :「sustina 国 内 第 1 号 車 両 の 開 発 」, 総<br />
合 車 両 製 作 所 技 報 第 2 号 ,4-11,(2013),( 株 ) 総<br />
合 車 両 製 作 所<br />
(2)・ 遠 藤 翔 太 , 他 :「ハンドトーチ 型 レーザによる 水 密<br />
溶 接 技 術 の 開 発 」, 総 合 車 両 製 作 所 技 報 ・ 第 4 号 ,46-<br />
51,(2015),( 株 ) 総 合 車 両 製 作 所<br />
側 垣 正<br />
生 産 本 部<br />
生 産 管 理 部 ( 生 産 技 術 ) 主 査<br />
室 橋 強<br />
生 産 本 部<br />
生 産 管 理 部 ( 生 産 技 術 ) 課 長<br />
門 脇 文 俊<br />
生 産 本 部<br />
生 産 管 理 部 ( 生 産 技 術 ) 課 長 代 理<br />
越 川 純<br />
生 産 本 部<br />
生 産 管 理 部 ( 生 産 技 術 )<br />
大 塚 広 貴<br />
生 産 本 部<br />
生 産 管 理 部 ( 生 産 技 術 )<br />
61<br />
2016 年 12 月
吉 澤 正 皓 Masaaki YOSHIZAWA<br />
マグネシウム 合 金 は, 既 存 の 実 用 金 属 の 中 でも 軽 量 かつ 高 強 度 である. 現 在 の 高 速 鉄 道 車 両 にはアルミニウ<br />
ム 合 金 が 使 用 されている. 将 来 においてアルミニウム 合 金 よりも 軽 量 であるマグネシウム 合 金 を 鉄 道 車 両 構 体<br />
に 用 いるための 研 究 が 各 所 で 行 われている. 鉄 道 車 両 製 造 には 溶 接 が 必 須 技 術 である.アーク 溶 接 , 抵 抗 スポッ<br />
ト 溶 接 が 鉄 道 車 両 製 造 における 溶 接 方 法 の 主 流 である.このほかに 近 年 ではレーザ 溶 接 や FSW も 広 く 使 用 さ<br />
れている. 当 解 説 ではマグネシウム 合 金 のレーザ 溶 接 について 解 説 する.<br />
<br />
当 社 の 製 造 する 鉄 道 車 両 の 大 半 はステンレス 鋼 製 であ<br />
る.これは 主 に 通 勤 車 両 として 使 用 されている. 対 して<br />
<strong>特</strong> 急 車 や 新 幹 線 車 両 においては 軽 量 なアルミニウム 合 金<br />
が 使 用 されている.<br />
車 体 が 軽 量 であることは 鉄 道 車 両 において 重 要 な 開 発<br />
目 標 の 一 つである. 近 年 ,アルミニウム 合 金 より 軽 量 な<br />
マグネシウム 合 金 を 鉄 道 車 両 用 の 材 料 として 使 用 する 動<br />
きがある.マグネシウム 合 金 は 密 度 がアルミニウム 合 金<br />
の 約 2/3であり, 大 幅 な 軽 量 化 が 見 込 まれる.<br />
マグネシウム 合 金 はアルミニウム 合 金 同 様 に 圧 延 材 ,<br />
押 出 形 材 の 製 作 が 可 能 である. 現 在 ,アルミニウム 合 金<br />
製 車 両 はダブルスキン 押 出 形 材 を 溶 接 により 組 み 立 てて<br />
いる.マグネシウム 合 金 製 車 両 についてはさまざまな 構<br />
造 を 検 討 中 である.<br />
マグネシウム 合 金 の 溶 接 については 種 々の 方 法 が 検 討<br />
されている. 具 体 的 にはアルミニウム 合 金 製 車 両 の 主 な<br />
溶 接 法 であるMIG 溶 接 ,TIG 溶 接 ,このほかにFSW,レ<br />
ーザ 溶 接 等 である.<br />
種 々の 溶 接 法 の 中 でレーザ 溶 接 には 施 工 上 の 利 点 とし<br />
て 低 ひずみ, 高 速 溶 接 がある.これらをマグネシウム 合<br />
金 製 車 両 の 製 造 で 実 現 するため,マグネシウム 合 金 の 溶<br />
接 性 の 確 認 実 験 を 実 施 した.この 結 果 を「マグネシウム<br />
合 金 のレーザ 溶 接 技 術 」として 解 説 する.<br />
<br />
鉄 道 車 両 構 体 を 構 成 する 材 料 の 熱 物 性 を 表 1に 示 す.<br />
ただし, 合 金 の 種 類 によって 物 性 値 が 異 なるため, 主 な<br />
構 成 元 素 で 示 した.<br />
表 1よりアルミニウムとマグネシウムでは,ほぼ 同 じ<br />
融 点 , 比 熱 であることがわかる.ただし,マグネシウム<br />
の 熱 伝 導 率 はアルミニウムの 約 2/3 程 度 である.マグネ<br />
シウムと 鉄 では 融 点 , 比 熱 , 熱 伝 導 率 に2 倍 以 上 の 差 が<br />
ある.マグネシウムは 熱 物 性 としてはアルミニウムに 近<br />
い 性 質 がある.<br />
<br />
材 融 点 点 比 熱 熱 伝 導 率 ・<br />
質 材 ・ ()・ 融 点 ()・ 点 (J/kg・)・ 比 熱 (W/m・)・ 熱 伝 導 率 ・<br />
Fe・ 質 ・ ()・ 1536・ ()・ 2860・ (J/kg・)・ 456・ (W/m・)・ 78・<br />
Al・<br />
Fe・ 1536・<br />
660・ 2520・<br />
2860・<br />
917・<br />
456・<br />
238・<br />
78・<br />
Mg・<br />
Al・<br />
649・<br />
660・<br />
1090・<br />
2520・<br />
1038・<br />
917・<br />
156・<br />
238・<br />
Mg・ 649・ 1090・ 1038・ 156・<br />
レーザ 溶 接 では 表 1の 熱 物 性 に 加 えて, 材 料 固 有 のレ<br />
ーザ 波 長 に 対 する 吸 収 率 という 性 質 が 重 要 である.これ<br />
は,レーザを 材 料 に 照 射 したとき,どれだけのエネルギ<br />
が 吸 収 されるかを 示 すものである.ここではYAGレー<br />
ザやファイバレーザ, 半 導 体 レーザの 波 長 に 近 い<br />
1000nm 付 近 のデータを 表 2に 示 した.<br />
表 2より,たとえば 鉄 の 場 合 は 吸 収 率 が 約 40%である<br />
から, 投 入 したレーザのエネルギの 約 40%が 熱 となり 加<br />
工 に 寄 与 する. 三 種 の 金 属 を 比 較 するとマグネシウムは<br />
鉄 とアルミの 中 間 に 位 置 する 吸 収 率 を 有 していることが<br />
わかる.<br />
材 質 ・ Fe・ Al・ Mg・<br />
<br />
吸 材 収 質 ・率 ・ 約 Fe・ 40%・ 約 Al・ 10%・ 約 Mg・ 25%・<br />
吸 収 率 ・ 約 40%・ 約 10%・ 約 25%・<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
62
マグネシウム 合 金 のレーザ 溶 接 技 術<br />
マグネシウムの 吸 収 率 はアルミニウムに 比 べて2 倍 以<br />
上 であり,なおかつ2つの 材 料 の 熱 物 性 は 同 程 度 である<br />
ことから,マグネシウムはアルミニウムよりレーザによ<br />
って 加 熱 が 容 易 であると 考 えられる.また,マグネシウ<br />
ムと 鉄 を 比 べた 場 合 , 熱 物 性 , 吸 収 率 に 大 きな 差 がある.<br />
次 章 においてはマグネシウム 合 金 と, 実 際 に 鉄 道 車 両<br />
構 体 に 使 用 されるステンレス 鋼 について 溶 接 性 の 比 較 を<br />
行 う. 両 合 金 の 諸 物 性 は 省 略 するが,マグネシウム 合 金<br />
とステンレス 鋼 の 物 性 の 関 係 はマグネシウムと 鉄 と 同 程<br />
度 である.<br />
<br />
<br />
<br />
レーザ 溶 接 におけるパラメータは 溶 接 時 に 容 易 に 変 更<br />
可 能 なレーザ 出 力 , 溶 接 速 度 , 加 工 ガス 流 量 や, 装 置 側<br />
の 構 成 を 変 更 する 必 要 があるビーム 径 ,ガスノズル 径 ・<br />
角 度 等 がある.・<br />
まず 初 めに 溶 接 速 度 とガスノズル 径 をパラメータとし<br />
た 時 のマグネシウム 合 金 の 溶 け 込 みについて 調 査 した.<br />
表 3に 結 果 の 断 面 マクロ 写 真 を 示 す. 材 料 は 板 厚 が3mm<br />
のマグネシウム 合 金 である. 継 手 はビードオンプレート<br />
とした. 溶 接 部 近 傍 は 溶 接 前 にワイヤブラシにより 酸 化<br />
被 膜 を 除 去 した. 使 用 したレーザは 波 長 940nmの 半 導 体<br />
レーザである.レーザ 出 力 は3kW,ガス 流 量 は 純 Ar・<br />
15L/minに 固 定 した.・<br />
溶 接 速 度 ・<br />
4.0・ ・<br />
4.0・ ・<br />
<br />
(m/min)・<br />
ガスノズル 径 φ4・ ガスノズル 径 φ12・<br />
溶 接 速 度 ・<br />
(m/min)・<br />
ガスノズル 径 φ4・ ガスノズル 径 φ12・<br />
5.0・<br />
6.0・<br />
8.0・<br />
5.0・<br />
6.0・<br />
8.0・<br />
・ ・<br />
・ ・<br />
・ ・<br />
・ ・<br />
・ ・<br />
・ ・<br />
・<br />
・<br />
表 3よりガスノズルが 細 いほうが, 比 較 的 に 溶 け 込 み<br />
が 深 い 傾 向 にあることがわかる.この 傾 向 はステンレス<br />
鋼 板 の 場 合 においても 同 様 である.3mm 板 を 貫 通 溶 接 す<br />
るには,およそ4.0m/min 未 満 の 溶 接 速 度 が 必 要 であると<br />
考 えられる.<br />
板 厚 3mmのステンレス 鋼 において, 同 様 にレーザ 出 力<br />
3kWで 溶 接 した 場 合 の 断 面 マクロ 写 真 を 表 4に 示 す.こ<br />
こでは 溶 接 速 度 をパラメータとしている.なお,ガス 流<br />
量 は 純 Ar・30L/minである.<br />
表 4の 中 で 最 も 速 い 溶 接 速 度 3.0m/minにおいては,お<br />
よそ1mm 程 度 しか 溶 け 込 み 深 さが 得 られていない.3mm<br />
の 厚 さを 貫 通 溶 接 するためには0.6m/minの 溶 接 速 度 が 必<br />
要 となっていることがわかる.<br />
<br />
溶 接 速 度 ・<br />
(m/min)・<br />
溶 接 速 度 ・<br />
(m/min)・<br />
ガスノズル 径 φ4・<br />
0.6・<br />
0.9・<br />
1.5・<br />
3.0・<br />
ガスノズル 径 φ4・<br />
0.6・<br />
0.9・<br />
1.5・<br />
3.0・<br />
これらの 断 面 マクロ 写 真 から 求 めた 溶 接 速 度 ごとの ・ 溶<br />
け 込 み 深 さの 比 較 を 図 1に 示 す.なお, 溶 込 み 深 さ3mm<br />
の 位 置 のステンレス 鋼 板 のプロットは, 貫 通 溶 接 されて<br />
いるため 参 考 の 点 である.グラフを 横 軸 方 向 に 見 ていく<br />
と,Mg 合 金 がある 溶 込 み 深 さを 得 ようとした 場 合 ,ステン<br />
・<br />
・<br />
・<br />
・<br />
・<br />
・<br />
・<br />
63<br />
2016 年 12 月
レス 鋼 板 に 比 べて5 倍 程 度 速 い 溶 接 速 度 でよいとわかる.<br />
表 2のレーザ 吸 収 率 ではマグネシウムは 鉄 の 半 分 程 の<br />
吸 収 率 であったが,マグネシウム 合 金 はステンレス 鋼 よ<br />
りも 高 速 で 溶 接 が 可 能 であることがわかった.<br />
いる. 後 半 の 酸 化 被 膜 を 除 去 していない 区 間 では, 溶 接<br />
ビードが 形 成 できていない.わずかに 板 の 表 面 の 一 部 と,<br />
ルート 面 が 若 干 溶 融 しただけである.レーザ 出 力 は 一 定<br />
のまま, 一 定 速 度 で 溶 接 を 行 っているわけであるから,<br />
この 差 異 は 酸 化 被 膜 の 有 無 が 原 因 にほかならない.<br />
酸 化 被 膜 を 除 去 していない 部 位 に 照 射 されたレーザは<br />
一 部 が 材 料 に 吸 収 されるが, 材 料 を 溶 融 させる 程 では 無<br />
い. 大 部 分 は 反 射 し 空 間 中 に 拡 散 していったと 考 えられ<br />
る. 酸 化 被 膜 の 除 去 はレーザ 溶 接 に 際 して 重 要 なことが<br />
わかる.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
アルミニウム 合 金 のレーザ 溶 接 では 母 材 に 比 べて 融 点<br />
の 高 い 酸 化 被 膜 が 溶 接 を 阻 害 する.またアーク 溶 接 にお<br />
いても 溶 接 欠 陥 を 発 生 させる 原 因 となる.マグネシウム<br />
合 金 の 表 面 に 存 在 する 酸 化 被 膜 も 同 様 に,レーザ 溶 接 に<br />
とって 有 害 である.しかし, 実 際 に 酸 化 被 膜 を 除 去 しな<br />
い 状 態 でレーザ 溶 接 を 行 った 例 は 少 ない.ここでは 引 き<br />
続 き 前 節 の 半 導 体 レーザを 用 いて,マグネシウム 合 金 表<br />
面 の 酸 化 被 膜 を 除 去 した 場 合 としない 場 合 でどのような<br />
結 果 となるかを 確 認 した.<br />
継 手 形 態 は 突 合 せとして, 溶 接 予 定 線 の 前 半 は 酸 化 被<br />
膜 をワイヤブラシにより 除 去 し, 後 半 は 材 料 のままとし<br />
た. 板 厚 は3mmである. 溶 接 条 件 はレーザ 出 力 3kW,<br />
溶 接 速 度 5.0m/min,ノズル 径 φ4である. 図 1によると 約<br />
3mmの 溶 込 みが 得 られる 条 件 である.<br />
図 3は 厚 さ3mmの 板 を 突 合 せ 溶 接 ( 裏 当 て 有 り)した<br />
断 面 マクロ 写 真 である.レーザ 装 置 は 半 導 体 レーザであ<br />
る. 第 3 章 で 述 べたようにマグネシウム 合 金 はステンレ<br />
ス 鋼 に 比 べて 高 速 で 溶 接 することが 可 能 である.その 反<br />
面 , 突 合 せ 溶 接 では 裏 波 や 一 部 母 材 の 蒸 発 等 により,ビ<br />
ード 表 面 が 落 ち 込 みやすい.<br />
溶 込 みは 裏 当 て 板 にまで 達 しており 十 分 であるが,ビ<br />
ード 表 面 に 若 干 のアンダカットが 発 生 している.このア<br />
ンダカットを 低 減 する 方 法 としては 溶 接 条 件 や 光 学 系 ,<br />
またはワイヤの 添 加 が 考 えられる.<br />
ここではワイヤを 添 加 する 方 法 について 述 べる.ワイヤ<br />
を 添 加 する 方 法 にも 種 々ある.レーザによる 溶 融 池 に 対<br />
して 常 温 のワイヤを 送 給 する 方 法 ,ワイヤに 電 流 を 流 し<br />
ジュール 発 熱 により 融 点 直 下 まで 加 熱 し, 送 給 するホッ<br />
トワイヤという 方 法 ,またはレーザとアークを 併 用 した<br />
レーザアークハイブリッド 等 である.<br />
<br />
レーザは 紙 面 右 から 左 に 向 かって 進 行 している. 初 め<br />
に 酸 化 被 膜 を 除 去 した 区 間 を 通 過 する.ここでは 溶 接 ビ<br />
ードが 形 成 されビード 止 端 の 周 囲 にヒュームが 付 着 して<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
64
マグネシウム 合 金 のレーザ 溶 接 技 術<br />
図 4に 半 導 体 レーザにおいて 常 温 のワイヤを 添 加 し 溶<br />
接 した 断 面 マクロ 写 真 を 示 す. 図 3に 比 べてカットは 減<br />
少 している. 余 盛 りが 低 いが, 現 在 溶 接 条 件 の 調 査 中 で<br />
あり 今 後 改 善 を 行 っていく 予 定 である.<br />
この 方 法 の 場 合 ,レーザのエネルギにより 母 材 および<br />
ワイヤを 溶 融 させなければならない.そのため, 入 熱 量<br />
が 増 加 してしまう.また,ワイヤの 狙 い 位 置 ,ビーム 径 ,<br />
溶 接 速 度 とワイヤ 送 給 速 度 の 関 係 等 , 通 常 のレーザ 溶 接<br />
に 比 べてパラメータが 増 える. 現 在 は, 溶 接 速 度 とワイ<br />
ヤ 送 給 速 度 の 比 であるワイヤ 送 給 比 を 主 なパラメータ 設<br />
定 し 実 験 を 継 続 して 行 っている.<br />
<br />
マグネシウム 合 金 とステンレス 鋼 との 溶 込 みの 比 較 ,<br />
およびワイヤを 添 加 したいくつかの 実 験 を 実 施 し, 基 礎<br />
的 なマグネシウム 合 金 の 溶 接 性 を 確 認 した.<br />
マグネシウム 合 金 はステンレス 鋼 よりも 高 速 で 溶 接 が<br />
可 能 な 合 金 であることがわかった.また, 酸 化 物 がレー<br />
ザ 溶 接 に 与 える 影 響 について 確 認 した.ワイヤを 添 加 し<br />
た 溶 接 試 験 ではホットワイヤの 有 効 性 を 確 認 した.<br />
今 後 は 溶 接 条 件 の 最 適 化 を 行 い,より 実 際 の 構 造 物 に<br />
近 い 試 験 体 での 実 験 を 行 いたいと 考 えている.<br />
<br />
(1)・( 一 社 )アルミニウム 協 会 :「アルミニウムハンドブック<br />
( 第 6 版 )」,29,(2001),( 株 ) 昭 栄 社 印 刷 所<br />
(2)・・ 中 田 一 博 :「マグネシウム 合 金 の 溶 接 」, 溶 接 技 術 ,・<br />
121,(2012), 産 報 出 版 ( 株 )<br />
<br />
図 4の 方 法 に 対 してホットワイヤ 法 では, 先 に 述 べた<br />
ようにジュール 熱 によりワイヤを 融 点 近 くまで 加 熱 させ<br />
るため,レーザはほとんど 母 材 を 溶 融 させるだけで 良 い.<br />
また, 通 常 のワイヤ 送 給 に 比 べて 溶 着 金 属 の 量 を 制 御 し<br />
やすいという 利 点 がある.ホットワイヤ 法 による 溶 接 部<br />
の 断 面 マクロ 写 真 を 図 5に 示 す. 使 用 したレーザはファ<br />
イバレーザである. 熱 影 響 の 範 囲 も 小 さく,なおかつ 非<br />
常 に 整 った 余 盛 りを 形 成 している.<br />
<br />
吉 澤 正 皓<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)<br />
<br />
65<br />
2016 年 12 月
大 塚 陽 介 Yosuke OTSUKA<br />
溶 接 作 業 においては, 溶 接 士 の 技 量 が 大 きく 品 質 に 影 響 する.そのため, 溶 接 技 術 検 定 による 技 量 管 理 が 必<br />
要 となる. 日 本 国 内 の 鉄 道 車 両 製 造 では,JIS 規 格 に 基 づいて 検 定 試 験 を 行 い, 公 的 機 関 や 各 事 業 者 によって<br />
その 認 証 が 行 われている. 海 外 においては ISO 規 格 や EN 規 格 等 で 同 様 の 規 格 が 発 行 されているが,その 内 容<br />
は 国 内 のものとは 異 なっている. 今 後 , 海 外 案 件 を 受 注 するにあたって,ISO 規 格 等 の 国 際 的 に 認 知 された 規<br />
格 の 適 用 が 要 求 されることが 想 定 される.ここでは, 従 来 実 施 している JIS 規 格 による 検 定 と ISO 規 格 による<br />
ものについて,その 内 容 を 比 較 し,ISO 規 格 の 検 定 を 行 う 上 での 課 題 について 述 べる.<br />
<br />
溶 接 作 業 においては, 溶 接 士 の 技 量 が 大 きく 品 質 に 影<br />
響 する.そのため, 溶 接 技 術 検 定 による 技 量 管 理 が 必 要<br />
となる. 日 本 国 内 の 鉄 道 車 両 製 造 では,JIS 規 格 に 基 づ<br />
いて 検 定 試 験 を 行 い, 公 的 機 関 や 各 事 業 者 によってその<br />
認 証 が 行 われている. 海 外 においてはISO 規 格 やEN 規<br />
格 等 で 同 様 の 規 格 が 発 行 されているが,その 内 容 は 国 内<br />
のものとは 異 なっている. 今 後 , 海 外 案 件 を 受 注 するに<br />
あたって,ISO 規 格 等 の 国 際 的 に 認 知 された 規 格 の 適 用<br />
が 要 求 されることが 想 定 される.ここでは, 従 来 実 施 し<br />
ているJIS 規 格 による 検 定 とISO 規 格 によるものについ<br />
て,その 内 容 を 比 較 し,ISO 規 格 の 検 定 を 行 う 上 での 課<br />
題 について 述 べる.<br />
<br />
溶 接 技 術 検 定 は, 検 定 試 験 と 資 格 認 証 の2つに 大 別 さ<br />
れる. 軟 鋼 の 半 自 動 溶 接 に 関 する 検 定 試 験 と 資 格 認 証<br />
における 国 内 のJIS 規 格 と 海 外 のISO 規 格 の 構 成 を 表 1<br />
に 示 す.これ 以 外 にもヨーロッパのEN 規 格 ,アメリカ<br />
のAWS 規 格 によるもの 等 がある (1) .ヨーロッパは, 以 前<br />
はEN・287シリーズの 独 自 の 規 格 であったが, 鋼 (steel)<br />
についてはEN・ISO・9606-1に 置 き 換 わり,ISO 規 格 を 参<br />
照 するようになっている.また,JIS 規 格 による 検 定 試<br />
験 の 資 格 認 証 は, 日 本 溶 接 協 会 規 格 のWES・8241によっ<br />
て 行 われているので,これも 参 照 する.<br />
<br />
JIS・Z・3841:1997お よ びWES・8241:2013と,ISO・<br />
9606-1:2013に 関 して,それぞれの 規 格 の 重 要 な 項 目 に<br />
ついて 詳 細 に 比 較 を 行 う.<br />
検 定 試 験 の 流 れは, 検 定 材 の 溶 接 および 学 科 試 験 → 外<br />
観 試 験 → 破 壊 試 験 または 非 破 壊 試 験 である.<br />
<br />
ISO・9606-1では 必 須 確 認 項 目 として 以 下 の8 項 目 を 規<br />
定 している.これら8 項 目 についてJIS 規 格 との 比 較 を 行<br />
う.<br />
1welding・process・【 溶 接 法 】<br />
2product・type(plate・or・pipe)・【 製 品 の 種 類 】<br />
3type・of・weld(butt・or・fillet)・【 溶 接 の 種 類 】<br />
4filler・material・group・【 溶 接 ワイヤのグループ】<br />
5filler・material・type・【 溶 接 ワイヤの 種 類 】<br />
6dimension(material・thickness・and・pipe・diameter)・【 寸 法 】<br />
<br />
項 目 国 内 (JISまたはWES) 海 外 (ISO)<br />
検 定 試 験 JIS・Z・3841 ISO・9606-1<br />
溶 接 施 工 要 領 書 - ISO・15609-1<br />
承 認 範 囲 鉄 道 車 両 の 場 合 JRIS・W・0121 ISO・9606-1<br />
資 格 認 証 WES・8241 ISO・9606-1<br />
外 観 判 定 基 準<br />
JIS・Z・3841 および<br />
外 観 試 験 の 合 否 判 定 指 針<br />
ISO・5817<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
66
国 内 と 海 外 の 溶 接 技 術 検 定 の 比 較 検 討<br />
加 材 のほかに, 別 の 種 類 の 溶 加 材 を 承 認 する 場 合 がある.<br />
JIS・Z・3841は 半 自 動 溶 接 に 関 する 規 格 のため 溶 接 ワイ<br />
ヤは 必 ず 使 用 する.ティグ 溶 接 に 関 する 規 格 はJIS・Z・<br />
3801であるが, <strong>特</strong> に 溶 加 材 の 使 用 の 有 無 については 規 定<br />
していない.<br />
<br />
ISO 規 格 は, 突 合 せではその 承 認 範 囲 に 関 して3 種 類<br />
の 板 厚 区 分 がある. 試 験 に 用 いる 材 料 の 板 厚 については<br />
受 験 者 が 自 由 に 選 択 できる. 板 厚 に 対 する 承 認 範 囲 は,<br />
突 合 せの 場 合 は 溶 接 金 属 の 厚 さs[mm]により,3・mm 未<br />
満 はs ~ 3,2sの 大 きいほう,3・mm 以 上 ,12・mm 未 満 は<br />
3 ~ 2s,12・mm 以 上 は3・mm 以 上 としている.すみ 肉 は<br />
板 厚 t[mm]により,3・mm 未 満 はt ~ 3,2tの 大 きいほう,<br />
3・mm 以 上 は3 以 上 となる.<br />
JIS 規 格 でも 板 は3 種 類 の 板 厚 区 分 となっているが,<br />
これは 試 験 に 用 いる 材 料 の 板 厚 の 種 類 である. 軟 鋼 の 場<br />
合 は3.2mm,9.0mm,19.0mmとなっている.また, 板<br />
厚 に 対 する 承 認 範 囲 はJRIS 規 格 では 規 定 されていない.<br />
WES 規 格 (WES7101)では 試 験 に 用 いた 母 材 板 厚 の<br />
1/2 ~ 2 倍 までという 規 定 があるが,あくまでも 目 安 と<br />
して 考 えるものである. 板 厚 に 関 する 承 認 範 囲 について<br />
は, 双 方 の 規 格 で 大 きく 異 なる 点 の 一 つである.<br />
<br />
溶 接 姿 勢 に 関 する 承 認 範 囲 を 比 較 したものを 表 2に 示<br />
す.ISO 規 格 では, 突 合 せでは 下 向 (PA), 横 向 (PC),<br />
立 向 上 進 (PF), 立 向 下 進 (PG), 上 向 (PE)の5 種 類<br />
がある. 下 向 が 一 番 難 易 度 は 低 く, 横 向 , 上 向 の 順 で 高<br />
くなる.そのため, 横 向 の 姿 勢 で 受 験 すれば, 下 向 も 承<br />
認 される. 上 向 きの 場 合 は 下 向 と 横 向 も 承 認 範 囲 となる.<br />
立 向 については, 上 進 の 場 合 は 下 向 も 承 認 されるが, 下<br />
進 ではその1 種 類 のみの 承 認 となり, 下 向 は 承 認 されな<br />
い. 基 本 的 な 考 え 方 は, 実 際 の 作 業 姿 勢 がその 承 認 範 囲<br />
に 入 らなければならないということである.<br />
JIS 規 格 では 下 向 , 横 向 , 立 向 , 上 向 の4 種 類 がある.<br />
JIS 規 格 では 立 向 の 溶 接 方 向 ( 上 進 , 下 進 )を 指 定 して<br />
いない. 作 業 の 承 認 範 囲 については 鉄 道 車 両 ではJRIS<br />
規 格 に 規 定 がある. 取 得 している 溶 接 姿 勢 によってそれ<br />
らを 級 別 に 分 けて, 実 際 の 溶 接 作 業 を 行 う 部 位 の 溶 接 等<br />
級 とリンクさせている. 台 車 のような 一 番 重 要 な 部 位 は<br />
A 級 となり, 溶 接 資 格 は 下 向 , 立 向 , 横 向 のすべてを 取<br />
得 した1 級 の 溶 接 士 でなければならない.ここでは 実 作<br />
業 での 溶 接 姿 勢 は 問 われない.<br />
7 welding・position・【 溶 接 姿 勢 】<br />
8 weld・detail・【 溶 接 の 詳 細 】(backing,single・side・welding,<br />
both・side・welding,single・layer,multi・layer,leftwardwelding,rightward・welding)<br />
また,ISO 規 格 では 承 認 の 範 囲 をこの 規 格 にて 規 定 し<br />
ている.JIS 規 格 では 規 定 していない. 団 体 規 格 である<br />
日 本 溶 接 協 会 規 格 (WES・7101)や 日 本 鉄 道 車 輌 工 業 会<br />
規 格 (JRIS・W・0121)にて 資 格 とその 作 業 範 囲 について<br />
規 定 がある.ここでは 鉄 道 車 両 の 溶 接 作 業 について 取 り<br />
扱 うため, 承 認 範 囲 についてはJRIS 規 格 との 比 較 を 行<br />
う.<br />
<br />
ISO 規 格 では 溶 接 法 ごとに 試 験 を 行 い, 承 認 すること<br />
になっている.JIS 規 格 では 溶 接 法 または 材 料 によって<br />
規 格 が 分 けられていて, 承 認 範 囲 も 同 様 である.<br />
<br />
ISO 規 格 では 板 - 板 , 管 - 管 , 板 - 管 (すみ 肉 )の 溶 接 の<br />
3 種 類 を 規 定 している.JIS 規 格 では 板 - 板 , 管 - 管 の2 種<br />
類 である.これは3.1.3 項 のとおり,JIS 規 格 ではすみ 肉<br />
がないためである.<br />
<br />
ISO 規 格 では 突 合 せとすみ 肉 の2 種 類 があり, 突 合 せ<br />
とすみ 肉 はそれぞれに 対 して 試 験 を 行 うことを 要 求 して<br />
いる.ただし, 追 加 のすみ 肉 試 験 を 実 施 すれば, 突 合 せ<br />
の 承 認 範 囲 ですみ 肉 も 承 認 される.<br />
一 方 でJIS 規 格 では 突 合 せのみとなっている. 突 合 せ<br />
溶 接 はすみ 肉 溶 接 と 比 べて 高 い 技 量 が 要 求 されるため,<br />
突 合 せだけで 十 分 とする 思 想 と 考 えられる.<br />
<br />
ISO 規 格 では 溶 接 ワイヤを 材 料 の 種 類 によってグルー<br />
プ 分 けしている. 試 験 に 用 いた 溶 接 ワイヤのグループに<br />
加 え, 他 のグループ 材 料 も 承 認 する 場 合 がある.<br />
JIS 規 格 では, 基 本 的 には 同 様 であるが, 試 験 に 用 い<br />
た 溶 接 ワイヤの 種 類 のみ 承 認 している.そのため, 材 料<br />
ごとにJIS 規 格 の 資 格 を 保 有 している.<br />
<br />
ISO9606-1は,ティグ 溶 接 も 含 んだ 規 格 となっている<br />
ため, 溶 加 材 の 使 用 の 有 無 について 規 定 がある. 溶 加 材<br />
を 使 用 した 場 合 , 溶 加 材 を 使 用 しない 溶 接 は 承 認 してい<br />
ない.これの 逆 も 同 様 である.また, 試 験 で 使 用 した 溶<br />
67<br />
2016 年 12 月
・<br />
<br />
項 目 ・ 国 内 ( 鉄 道 車 両 の 場 合 )・ ・ 項 目 ・ 海 外 (ISO)・<br />
規 格 ・<br />
JRIS 規 格 ( 検 定 試 験 に 関 するJIS 規 格<br />
では 承 認 範 囲 を 規 定 していない)・<br />
・<br />
規 格 ・<br />
ISO 規 格 ( 検 定 試 験 に 関 するISO 規<br />
格 の 中 で 承 認 範 囲 も 規 定 している) ・<br />
資 格 の 級 別 ・ 1 級 ・ 2 級 ・ 3 級 ・ ・ 試 験 姿 勢 ・ 下 向 ・ 横 向 ・ 上 向 ・<br />
下 向 ・<br />
・<br />
取 得 している・<br />
下 向 ・<br />
立 向 ・<br />
下 向 ・ 資 格 の 範 囲 ・<br />
下 向 ・<br />
溶 接 姿 勢 ・<br />
立 向 ・<br />
下 向 ・<br />
横 向 ・<br />
( 作 業 可 能 な・ 下 向 ・<br />
横 向 ・<br />
横 向 ・<br />
作 業 可 能 な・<br />
・ 溶 接 姿 勢 )・<br />
上 向 ・<br />
A 級 ・ B 級 ・ C 級 ・<br />
溶 接 等 級 ・<br />
<strong>特</strong> 徴 ・<br />
・<br />
高 い 難 易 度 の 試 験 姿 勢 であれば,そ<br />
取 得 している 溶 接 姿 勢 が 多 いほど,<br />
れより 低 いものも 資 格 の 範 囲 に 入 る.<br />
技 量 が 高 いと 判 断 している. 重 要 部 位<br />
<strong>特</strong> 徴 ・ 実 際 の 溶 接 作 業 は, 資 格 の 範 囲 に<br />
の 溶 接 は1 級 の 溶 接 士 が 行 う.・<br />
入 っていなければならない.<br />
その 際 の 溶 接 姿 勢 は 問 わない.・<br />
部 位 の 重 要 度 は 関 係 ない.・<br />
・<br />
<br />
<br />
ISO 規 格 では 裏 当 て 有 り, 無 しの2 種 類 がある. 裏 当<br />
て 無 しで 合 格 すれば 裏 当 て 有 りも 承 認 している.<br />
JIS 規 格 でもISO 規 格 と 同 様 に 裏 当 て 有 り, 無 しの2 種<br />
類 である.<br />
<br />
ISO 規 格 では 溶 接 施 工 要 領 書 (WPS【Welding・Procedure・<br />
Specification】)に 従 って 溶 接 を 行 う.また, 初 層 と 最 終<br />
層 で 少 なくとも1 回 アークを 中 断 して,つながなければ<br />
ならない. 途 中 ,ビードのグラインダでの 修 正 は 認 めら<br />
れているが, 最 終 層 で 外 観 として 残 る 部 分 は 修 正 しては<br />
ならない( 中 断 後 , 溶 接 でかぶせてしまうクレータ 部 は<br />
<br />
<br />
ISO 規 格 では 片 面 溶 接 と 両 面 溶 接 の2 種 類 がある. 片<br />
面 溶 接 に 合 格 すれば 両 面 溶 接 も 承 認 される.<br />
よい).<br />
JIS 規 格 では 規 定 は 無 く, 溶 接 士 が 自 分 で 溶 接 条 件 を<br />
考 えて 溶 接 を 行 う.また, 中 断 の 規 定 もない.この 点 も<br />
それぞれの 規 格 で 大 きく 異 なる 点 である.<br />
JIS 規 格 では 難 易 度 の 高 い 片 面 溶 接 のみである.<br />
<br />
ISO 規 格 では1 層 と 多 層 を 区 別 している.1 層 の 溶 接<br />
の 場 合 は1 層 のみ 承 認 し, 多 層 の 溶 接 の 場 合 は 両 方 を 承<br />
認 する.<br />
JIS 規 格 では 層 数 に 関 する 規 定 はない.<br />
<br />
ISO 規 格 では 外 観 試 験 と 破 壊 試 験 ( 曲 げ 試 験 , 放 射 線<br />
透 過 試 験 , 破 壊 試 験 のいずれか)を 要 求 している.<br />
JIS 規 格 では 外 観 試 験 と 破 壊 試 験 ( 曲 げ 試 験 )を 要 求<br />
しており, 同 等 である.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
ISO 規 格 では 左 進 溶 接 と 右 進 溶 接 の 規 定 をしている<br />
が, 承 認 範 囲 には 含 めていない(いずれでもよい).こ<br />
れはJIS 規 格 でも 同 様 である.<br />
<br />
<br />
ISO 規 格 では 突 合 せ 継 手 の 試 験 片 寸 法 は125×200を 最<br />
小 としている.この 寸 法 はJIS 規 格 のものと 同 一 である.<br />
<br />
ISO 規 格 ではISO・5817の 品 質 レベルB(またはC)を 合<br />
格 としている. 突 合 せ 継 手 では 確 認 項 目 は20 種 類 である.<br />
JIS 規 格 では 詳 細 な 内 容 は 規 定 されていない.そのた<br />
め 日 本 溶 接 協 会 が 発 行 する「 外 観 試 験 の 合 否 判 定 指 針 」<br />
により 補 完 されており,これにより 判 定 を 行 っている.<br />
突 合 せ 継 手 では 確 認 項 目 は19 種 類 である.<br />
外 観 試 験 の 判 定 基 準 についてISO 規 格 と 国 内 のものを<br />
比 べると,ISO 規 格 のほうが 国 内 の 基 準 よりも 厳 しいも<br />
のが 多 い.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
68
国 内 と 海 外 の 溶 接 技 術 検 定 の 比 較 検 討<br />
<br />
ISO 規 格 では3mm 以 上 の 割 れは 認 めないとしている.<br />
また,1mmを 超 え,3mm 未 満 の 割 れの 合 計 が10mm 以 上<br />
でも 不 合 格 となる.<br />
JIS 規 格 では 同 じく3mm 以 上 の 割 れは 認 めていない.<br />
さらに3mm 未 満 の 割 れの 合 計 が7mm 以 上 ,ブローホール<br />
や 割 れの 個 数 が10 個 以 上 も 認 めないとなっている.この<br />
点 はJIS 規 格 のほうが 厳 しい.<br />
ISO 規 格 とJIS 規 格 を 比 べると,JIS 規 格 は 外 観 試 験 の<br />
合 格 基 準 がISO 規 格 よりもやや 低 いが, 曲 げ 試 験 はISO<br />
規 格 よりも 厳 しい. 両 方 を 総 合 的 に 判 断 すると 同 等 である.<br />
<br />
ISO 規 格 では 学 科 試 験 は 任 意 である. 資 格 認 証 を 規 定<br />
しているWES 規 格 では 学 科 試 験 を 要 求 しており, 正 解<br />
率 60% 以 上 を 合 格 としている.<br />
<br />
ISO 規 格 では 証 明 書 の 有 効 期 間 は6 ヶ 月 となっている.<br />
以 降 , 作 業 内 容 を 証 明 することによって 延 長 が 可 能 とな<br />
っている. 再 評 価 は, 以 下 の3 種 類 の 方 法 のいずれかで<br />
行 う.<br />
13 年 経 過 した 時 点 で 再 試 験 する<br />
22 年 ごとに 溶 接 部 の 放 射 線 透 過 試 験 または 超 音 波 試 験<br />
の 記 録 を 検 証 して,2 年 延 長 する<br />
3 溶 接 士 が 同 一 事 業 所 に 所 属 し,ISO・3834の 品 質 マネジ<br />
メントの 下 で 作 業 していて,その 溶 接 品 質 が 合 格 してい<br />
ることを 記 録 されている 場 合 は,さらに6 ヶ 月 延 長 する<br />
JIS 規 格 では 有 効 期 限 は12 ヶ 月 で, 証 明 によって 延 長<br />
が 可 能 である.また,3 年 経 過 した 時 点 で 再 試 験 を 受 ける.<br />
<br />
溶 接 技 術 検 定 に 関 するJIS 規 格 とISO 規 格 において,<br />
その 内 容 が 異 なる 項 目 を 表 3に 示 す.それぞれの 規 格 の<br />
内 容 は, 大 きく 見 ればほぼ 同 等 と 考 えられるが,ISO 規<br />
格 は, 細 かいところまで 規 定 がなされている. 国 内 の<br />
JIS 規 格 についてはやや 大 らかといった 印 象 である. 現<br />
状 のJIS 規 格 による 検 定 を 合 格 できる 溶 接 士 であれば,<br />
ISO 規 格 によるものもクリアできると 思 われるが, 溶 接<br />
の 中 断 などの 溶 接 方 法 の 違 いや 外 観 試 験 の 基 準 の 違 いが<br />
あるため, 溶 接 士 に 対 して 十 分 な 教 育 が 必 要 である.<br />
<br />
JIS 規 格 による 溶 接 技 術 検 定 とISO 規 格 によるものに<br />
ついて,その 内 容 について 比 較 検 討 を 行 った. 現 状 , 国<br />
内 はJIS 規 格 による 検 定 が 主 体 であるが, 日 本 溶 接 協 会<br />
ではISO 規 格 による 資 格 認 証 も 始 まったところである.<br />
しかしながら, 両 方 の 認 証 をとるには 費 用 面 での 負 担 も<br />
大 きく, 使 用 者 として 最 も 望 まれるのは,それらの 規 格<br />
の 統 一 である.これも 非 常 にハードルが 高 く, 難 しいこ<br />
とである. 今 後 の 海 外 展 開 を 考 慮 するとISO 規 格 による<br />
資 格 認 証 の 重 要 性 が 増 すと 考 えられるため,その 動 向 に<br />
ついて 引 き 続 き 注 視 していく.<br />
<br />
<br />
(1)・ 日 本 工 業 標 準 調 査 会 標 準 部 会 :「 溶 接 技 術 検 定<br />
<br />
制 度 に 関 する 報 告 書 ( 案 )」, 溶 接 技 術 専 門 委 員 会<br />
第 4 回 溶 接 技 術 検 定 小 委 員 会 配 付 資 料 ,(2009),<br />
日 本 工 業 標 準 調 査 会<br />
大 塚 陽 介<br />
技 術 士 ( 金 属 部 門 ),IWE<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター) 主 査<br />
<br />
項 目 国 内 海 外<br />
板 厚 の WES 規 格 で 目 安 となるものはあるが, 詳 細 には 試 験 した 板 厚 に 対 して, 明 確 な 承 認 範 囲 が 規 定<br />
承 認 範 囲 規 定 していない.<br />
されている.<br />
溶 接 姿 勢 の<br />
承 認 範 囲<br />
溶 接 条 件<br />
鉄 道 車 両 業 界 では, 取 得 している 溶 接 姿 勢 によ<br />
り 溶 接 士 を 級 別 に 分 け,それを 部 位 の 重 要 度 ( 溶<br />
接 等 級 )とリンクさせている. 実 際 の 作 業 姿 勢<br />
は 問 われない.<br />
溶 接 士 自 身 が 溶 接 条 件 を 考 えて 行 う. 溶 接 の 中<br />
断 は 必 要 ない.<br />
試 験 した 溶 接 姿 勢 により, 作 業 可 能 な 溶 接 姿 勢<br />
の 承 認 範 囲 が 決 まっている. 難 易 度 の 高 い 溶 接<br />
姿 勢 では,それより 低 いものも 認 証 される. 溶<br />
接 品 の 重 要 度 とはリンクしていない.<br />
用 意 されたWPSに 従 って 溶 接 を 行 う.また, 溶<br />
接 の 中 断 と 再 スタートが 必 要 である.<br />
学 科 試 験 必 須 であり, 合 格 点 は60 点 以 上 である. 学 科 試 験 は 任 意 である.<br />
69<br />
2016 年 12 月
渥 美 健 太 郎 Kentaro ATSUMI<br />
河 田 直 樹 Naoki KAWADA<br />
大 塚 陽 介 Yosuke OTSUKA<br />
石 川 武 Takeshi ISHIKAWA<br />
一 般 的 に 溶 接 に 要 求 される 品 質 には 強 度 ,じん 性 , 延 性 などがあるが,それらの 諸 <strong>特</strong> 性 が 安 定 的 に 得 られる<br />
ことも 重 要 な 要 素 となる.ステンレス 鋼 製 車 両 で 使 用 する 抵 抗 スポット 溶 接 に 関 しても 同 様 に, 溶 接 部 (ナゲッ<br />
ト)が 安 定 的 に 得 られることが 求 められる. 抵 抗 スポット 溶 接 における 安 定 性 を 阻 害 する 要 因 の 一 つにギャッ<br />
プを 挙 げることができるが,このギャップに 対 する 安 定 性 (ロバスト 性 )を 向 上 するために 何 の 因 子 が 重 要 で<br />
あるのか 調 査 した 文 献 は 少 ない.そこで, 溶 接 条 件 の 各 要 素 がギャップに 対 するロバスト 性 にどの 程 度 寄 与 す<br />
るのかを 調 査 した.<br />
<br />
当 社 ではステンレス 鋼 製 車 両 を 主 に 車 両 製 造 を 行 って<br />
いるが,その 構 体 製 造 ではアーク 溶 接 , 抵 抗 スポット 溶<br />
接 およびレーザ 溶 接 を 用 いて 接 合 が 行 われている (1) .<br />
抵 抗 スポット 溶 接 は2 枚 以 上 重 ねられた 被 溶 接 材 を1 対<br />
の 電 極 で 加 圧 しつつ 電 流 を 流 し,その 接 触 面 に 発 生 する<br />
抵 抗 発 熱 によって 加 熱 し 接 合 する 溶 接 法 である.<br />
抵 抗 スポット 溶 接 では 良 好 な 溶 接 品 質 を 得 るためには<br />
適 切 な 溶 接 条 件 を 選 定 することが 重 要 であるが, 外 乱 に<br />
よって 溶 接 品 質 がばらつくことが 考 えられる. 抵 抗 スポ<br />
ット 溶 接 における 外 乱 のひとつとして, 図 1に 示 すよう<br />
な 被 溶 接 材 どうしのギャップなどが 挙 げられる.<br />
抵 抗 スポット 溶 接 における 溶 接 品 質 のばらつきとはナ<br />
ゲット 径 の 大 きさのばらつきや 溶 込 みのばらつきを 指<br />
す.また, 場 合 によっては 図 2に 示 すようなチリをとも<br />
なうことも 考 えられる.<br />
溶 接 品 質 が 良 好 な 溶 接 結 果 を 安 定 的 に 得 るためにはギ<br />
ャップを 抑 制 していくとともに,ギャップに 対 してロバ<br />
スト( 頑 健 )であるような 溶 接 条 件 を 選 択 していくこと<br />
が 重 要 となる.そこで 本 稿 では, 溶 接 条 件 の 各 因 子 がギ<br />
ャップに 対 するロバスト 性 に 与 える 影 響 を 調 査 した 内 容<br />
について 報 告 する.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
70
抵 抗 スポット 溶 接 品 質 の 安 定 化 に 向 けた 取 り 組 み<br />
<br />
<br />
実 験 にはパラメータ 設 計 を 導 入 した.パラメータ 設 計<br />
は, 品 質 工 学 (タグチメッソッド)による 最 適 化 手 法 で,<br />
具 体 的 には「SN 比 」,「 損 失 関 数 」および「 直 交 表 」の3<br />
要 素 を 用 いて, 研 究 開 発 した 技 術 や 製 品 が 市 場 または 製<br />
造 工 程 で 成 立 するか 否 かを 推 し 量 る 評 価 手 法 である (2) .<br />
設 計 対 象 の 基 本 的 な「 機 能 」を 定 義 し,SN 比 によって<br />
その「 機 能 」が 誤 差 や 外 乱 に 対 してロバスト( 頑 健 )で<br />
あるかどうかを 評 価 する.また,「 直 交 表 」によって,<br />
ロバスト 性 の 高 い 設 計 因 子 の 抽 出 と,パラメータの 決 定<br />
が 容 易 になるという <strong>特</strong> 徴 がある.SN 比 とはばらつきが<br />
小 さく,かつシステムの 働 きの 良 さを 示 す 尺 度 で, 以 下<br />
の 式 で 表 わされる. 本 稿 では 動 <strong>特</strong> 性 のSN 比 を 用 いてい<br />
る.<br />
SN 比 η= 有 効 な 情 報 β 2 / 有 害 な 情 報 ( 誤 差 )σ 2 ・・・・( 1 )<br />
分 母 にある 誤 差 (ばらつき)が 小 さいと,SN 比 が 大<br />
きくなり, 機 能 をばらつかせる 要 因 ( 今 回 はギャップ)<br />
に 対 してロバスト 性 が 高 いことを 示 している.<br />
<br />
抵 抗 スポット 溶 接 に 使 用 する 熱 エネルギの 収 支 をシス<br />
テムと 捉 え,その 入 出 力 関 係 を 基 本 機 能 とした. 入 力 に<br />
は 溶 接 に 必 要 なエネルギの 代 用 <strong>特</strong> 性 として, 溶 接 すべき<br />
量 に 比 例 する 総 板 厚 を 選 び, 出 力 には 溶 接 に 使 われた 熱<br />
エネルギの 代 用 <strong>特</strong> 性 として, 実 際 の 溶 接 断 面 から 得 られ<br />
るナゲット 径 と 溶 け 込 み 深 さを 選 んだ.<br />
よって, 信 号 因 子 は 板 厚 組 合 せとし, 表 1に 示 すもの<br />
とした. 信 号 因 子 とはコントロールすることはできるが,<br />
設 計 者 が 自 由 に 決 めることのできない 因 子 のことであ<br />
る.<br />
誤 差 因 子 は 被 溶 接 材 間 のギャップとし,その 値 を 表 2<br />
に 示 す 値 とした.ここでは,ギャップ 有 りの 場 合 の 値 を<br />
経 験 的 に 生 産 現 場 で 発 生 している1.0mmに 設 定 した.<br />
制 御 因 子 は 各 種 の 溶 接 条 件 とし,それらを 表 3に 示 す<br />
値 とした.そこで 用 いる 標 準 条 件 は, 信 号 因 子 である 板<br />
厚 組 合 せ(M1からM3)ごとに 表 4に 示 す 値 に 設 定 した.<br />
制 御 因 子 とは, 設 計 者 が 自 由 に 決 めることが 出 来 る 因 子<br />
のことで, 今 回 は 電 源 , 溶 接 ピッチ, 電 極 形 状 , 加 圧 力 ,<br />
電 流 値 , 通 電 時 間 およびスロープ 時 間 とした.<br />
なお, 標 準 条 件 は 信 号 因 子 ごとに 現 場 で 施 工 している<br />
溶 接 条 件 を 参 考 に 決 定 した.なお, 誤 差 因 子 , 信 号 因 子<br />
および 制 御 因 子 の 各 因 子 の 関 係 は 図 3に 示 す 通 りである.<br />
M1<br />
<br />
M2<br />
M3<br />
板 厚 組 合 せ<br />
SUS301L-H(HT)・t0.8<br />
SUS301L-1/4H(DLT)・t1.5<br />
・<br />
SUS301L-H(HT)・t1.5<br />
SUS301L-1/4H(DLT)・t1.5<br />
・<br />
SUS304・t4.0<br />
SUS301L-H(HT)・t1.5<br />
SUS301L-H(HT)・t2.0<br />
SUS301L-1/4H(DLT)・t1.5<br />
SUS301L-1/4H(DLT)t1.5<br />
<br />
N1<br />
N2<br />
ギャップ(mm) 密 着 ・<br />
1.0<br />
<br />
電 源<br />
ピッチ(mm)<br />
( 上 )<br />
電 極 形 状<br />
( 下 )<br />
加 圧 力 (kN)<br />
電 流 値 (kA)<br />
通 電 時 間 (cyc)<br />
スロープ(cyc)<br />
1<br />
2<br />
3<br />
直 流 インバータ 電 源<br />
交 流 ・ インバータ 電 源<br />
30 40 50<br />
12-100R 16-100R 16-100R<br />
銅 板 (Flat) 銅 板 (Flat) 16-100R<br />
標 準 条 件 ・-20% 標 準 条 件 標 準 条 件 ・+20%<br />
標 準 条 件 ・-20% 標 準 条 件 標 準 条 件 ・+20%<br />
標 準 条 件 ・-20% 標 準 条 件 標 準 条 件 ・+20%<br />
1 3 5<br />
71<br />
2016 年 12 月
加 圧 力 (kN)<br />
電 流 値 (kA)<br />
通 電 時 間 (cyc)<br />
<br />
M1 M2 M3<br />
8.0 ・ 7.5 8.0<br />
7.0 8.0 8.0<br />
15 30 50<br />
電 流<br />
E: 電 流 値<br />
G:スロープ<br />
F: 通 電 時 間<br />
時 間<br />
打 点 目 溶 接 部 ( 評 価 対 象 外 )<br />
C: 電 極 形 状<br />
A: 電 源<br />
D: 加 圧 力<br />
誤 差 因 子 (ギャップ)<br />
信 号 因 子 ( 板 厚 組 合 せ)<br />
打 点 目 溶 接 部 ( 評 価 対 象 )<br />
B:ピッチ<br />
・<br />
<br />
<br />
溶 接 部 断 面 におけるナゲット 径 ( 上 側 および 下 側 )と<br />
最 も 外 側 の 板 への 溶 込 み( 上 側 および 下 側 )を 測 定 し,<br />
それらの 値 を 計 算 のうえSN 比 で 評 価 した. 各 測 定 項 目<br />
の 位 置 関 係 は 図 4に 示 す 通 り.<br />
なお, 試 験 片 は 精 密 切 断 機 にて 溶 接 部 の 中 心 を 通 る 断<br />
面 で 切 断 ,その 後 に 準 備 研 磨 機 にて 切 断 した 断 面 を 研 磨<br />
し,シュウ 酸 水 溶 液 にて 断 面 を 腐 食 させて 観 察 を 行 った.<br />
<br />
断 面 測 定 の 結 果 から 得 られた 要 因 効 果 図 を 図 5, 寄 与<br />
率 を 表 5, 結 果 の 概 要 を 表 6に 示 す.ここでは 解 析 にSN<br />
比 を 用 いたが,SN 比 は 水 準 間 の 差 が 大 きい 場 合 に 値 が<br />
高 い 水 準 を 選 択 すると,ロバスト 性 が 高 いことを 示 して<br />
いる.<br />
・<br />
ナゲット 径 上 側<br />
ナゲット 径 下 側<br />
<br />
溶 込 み<br />
上 側<br />
溶 込 み<br />
下 側<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
72<br />
・
抵 抗 スポット 溶 接 品 質 の 安 定 化 に 向 けた 取 り 組 み<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
73<br />
2016 年 12 月
なお, 解 析 手 順 は 以 下 に 示 す 通 り.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
すべての 測 定 項 目 で2 水 準 ( 交 流 or 直 流 )の 差 は1dB<br />
程 度 であり, 寄 与 率 も 他 の 制 御 因 子 よりも 小 さい 値 とな<br />
った.このことから, 制 御 因 子 A[ 電 源 ]はギャップに<br />
対 する 優 位 性 がほぼ 無 いことを 示 している.<br />
<br />
すべての 測 定 項 目 でも3 水 準 (ピッチ30,40,50mm)<br />
のうちB1(ピッチ30mm)のSN 比 が 高 い 値 となった.こ<br />
のことから,ギャップに 対 して 制 御 因 子 B[ピッチ]は<br />
C1(30mm)にした 方 が 溶 接 結 果 は 安 定 することを 示 し<br />
ている.<br />
<br />
3つの 測 定 項 目 において 谷 型 となった.これは, 制 御<br />
因 子 Cには 交 互 作 用 があることを 示 している.<br />
<br />
すべての 測 定 項 目 で3 水 準 のうちD3( 標 準 条 件 +20%)<br />
でのSN 比 が 最 も 高 い 結 果 を 得 た.これはギャップに 対<br />
して, 制 御 因 子 DはD3( 標 準 条 件 +20%= 高 加 圧 力 )にし<br />
た 方 が 溶 接 結 果 は 安 定 することを 示 している.<br />
<br />
3つの 測 定 項 目 においてE1( 標 準 条 件 -20%)でのSN<br />
比 が 最 も 高 い 結 果 を 得 た.これはギャップに 対 して, 電<br />
流 値 はE1( 標 準 条 件 -20%= 低 めの 電 流 値 )にした 方 が 溶<br />
接 結 果 は 安 定 することを 示 している.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
74
抵 抗 スポット 溶 接 品 質 の 安 定 化 に 向 けた 取 り 組 み<br />
<br />
すべての 測 定 項 目 で3 水 準 の 差 は1dB 程 度 であり, 寄<br />
与 率 も 比 較 的 小 さい 値 となった.このことから, 制 御 因<br />
子 F[ 通 電 時 間 ]はギャップに 対 する 優 位 性 が 低 いこと<br />
を 示 している.<br />
<br />
すべての 測 定 項 目 で3 水 準 の 差 は1dB 程 度 であり 寄 与<br />
率 も 比 較 的 小 さい 値 となったが,G3(スロープ5cyc)に<br />
した 方 がSN 比 は 高 い 値 となった.<br />
力 の 順 であった.<br />
<br />
(1)・ 杉 山 隆 :「 東 急 車 輛 技 報 で 辿 るステンレス 車 両 の<br />
技 術 史 」, 東 急 車 輛 技 報 ・60 号 ,・2-11,(2010), 東 急<br />
車 輛 製 造 ( 株 )<br />
(2)・・ 河 田 直 樹 :「 研 究 開 発 における 品 質 工 学 の 活 用 」,<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報 ・1 号 ,・38-45,(2013),( 株 ) 総<br />
合 車 両 製 作 所<br />
<br />
<br />
<br />
今 回 の 実 験 ではギャップを 誤 差 因 子 Nに 設 定 している<br />
ため, 寄 与 率 は「ギャップがN1(ギャップ=なし)と<br />
N2(ギャップ=1.0mm)のどちらの 値 であっても 溶 接 品<br />
質 (ナゲット 径 ・ 溶 込 み)を 安 定 させたい 場 合 , 制 御 因<br />
子 AからGを 変 化 させることでどの 程 度 影 響 を 与 えるこ<br />
とができるのか」を 表 している. 制 御 因 子 A( 電 源 )の<br />
寄 与 率 は 最 大 でも3.9%であったことから,ギャップに 対<br />
する 溶 接 品 質 への 寄 与 は 低 いものと 考 えられる.<br />
一 方 で, 寄 与 率 が 高 かったのは 制 御 因 子 E( 電 流 値 )<br />
で50.26%であった.これは, 時 間 t[sec]の 間 に 発 生 す<br />
る 熱 量 をH[J], 抵 抗 をR[Ω], 制 御 因 子 E( 電 流 値 )<br />
をI[A]とすると,<br />
渥 美 健 太 郎<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)<br />
河 田 直 樹<br />
博 士 ( 工 学 )<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)・ 主 査<br />
大 塚 陽 介<br />
技 術 士 ( 金 属 部 門 ),・IWE<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター) 主 査<br />
H・=・I 2・ ×R×t・<br />
と 表 されることが 知 られている.<br />
…(2)<br />
石 川 武<br />
博 士 ( 工 学 )<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)・ 課 長<br />
溶 接 品 質 (ナゲット 径 ・ 溶 込 み)のロバスト 性 は, 発<br />
熱 量 Hの 安 定 性 と 言 い 換 えることができる.ギャップの<br />
有 無 は 抵 抗 Rの 大 きさに 影 響 を 与 えるが,その 際 に 制 御<br />
因 子 E( 電 流 値 )であるIは 式 (2)の 中 で2 乗 の 項 であるこ<br />
とから, 発 熱 量 への 寄 与 率 が 大 きいことが 分 かる.<br />
<br />
<br />
抵 抗 スポット 溶 接 におけるギャップへのロバスト 性<br />
に, 溶 接 条 件 の 各 因 子 が 与 える 影 響 について 調 査 した.<br />
得 られた 知 見 は 以 下 の 通 り.<br />
・・ロバスト 性 を 上 げるためには 低 めの 電 流 , 高 めの 加<br />
圧 力 , 長 めのスロープが 良 い 結 果 を 得 た.<br />
・・ 制 御 因 子 の 中 で 条 件 を 変 えると,ロバスト 性 の 寄 与<br />
率 で 高 いのは 電 流 値 , 電 極 , 溶 接 ピッチおよび 加 圧<br />
75<br />
2016 年 12 月
遠 藤 翔 太 Shota ENDO<br />
河 田 直 樹 Naoki KAWADA<br />
吉 澤 正 皓 Masaaki YOSHIZAWA<br />
鉄 道 車 両 や 自 動 車 の 業 界 では 車 体 の 軽 量 化 が 重 要 視 されている. 鉄 道 車 両 では 高 速 化 ( 運 転 速 度 の 向 上 )を<br />
実 現 する 上 で 軽 量 化 が 着 目 されている. 軽 量 化 を 達 成 する 上 で 部 位 ごとに 最 適 な 材 料 を 配 置 するマルチマテリ<br />
アル 化 が 進 められている.マルチマテリアル 化 を 実 現 する 方 法 の 一 つに 異 材 接 合 がある.<br />
異 材 接 合 には 機 械 締 結 , 構 造 用 接 着 材 ,クラッド 材 を 用 いた 接 合 がある.ここでは,レーザブレージング(レー<br />
ザによるろう 付 け)が 持 つ 金 属 間 化 合 物 の 抑 制 や 接 合 品 質 の 管 理 がしやすいといった 点 に 着 目 し,レーザブレー<br />
ジングによる 異 材 接 合 を 検 討 した.<br />
<br />
<br />
鉄 道 車 両 や 自 動 車 の 業 界 では 車 体 の 軽 量 化 が 重 要 視 さ<br />
れている. 鉄 道 車 両 では 高 速 化 ( 運 転 速 度 の 向 上 )を 実<br />
現 する 上 で 軽 量 化 が 着 目 されている.また, 自 動 車 では<br />
燃 費 や 運 動 性 能 の 向 上 のため, 例 えばボンネットのアル<br />
ミニウム 合 金 化 ,ルーフのマグネシウム 合 金 化 などが 着<br />
目 されている.<br />
軽 量 化 を 達 成 する 上 での 一 つの 方 法 が 部 位 ごとに 最 適<br />
な 材 料 を 配 置 するマルチマテリアル 化 であり,それを 実<br />
現 する 方 法 の 一 つに 異 材 接 合 がある. 自 動 車 では 異 材 接<br />
合 には 機 械 締 結 , 構 造 用 接 着 材 ,FSW,レーザ 溶 接 ,<br />
クラッド 材 を 用 いた 接 合 などの 工 法 がある.ここで 取 り<br />
上 げるレーザブレージングは 既 存 のレーザ 溶 接 システム<br />
を 使 用 することで 自 動 化 が 容 易 で 接 合 品 質 の 管 理 がしや<br />
すい <strong>特</strong> 徴 がある.さらに 接 合 条 件 の 最 適 化 により, 接 合<br />
時 の 温 度 を 極 力 抑 え 金 属 間 化 合 物 の 生 成 を 抑 えることに<br />
よって (1) , 剥 離 強 度 を 向 上 させることができる.このた<br />
(2)<br />
めレーザブレージングは 鉄 道 車 両 のハイブリッド 構 体<br />
へ 適 用 できる 可 能 性 がある.<br />
また,レーザブレージングはぬれ 性 が 良 いため, 図 1<br />
に 示 すように 在 来 工 法 のレーザによる 水 密 溶 接<br />
(3) に 比 べ<br />
ギャップ 裕 度 の 向 上 が 期 待 できる.<br />
例 えば, 在 来 工 法 である 抵 抗 スポット 溶 接 法 は,その<br />
形 態 が 点 接 合 であるために, 溶 接 部 間 の 隙 間 から 水 が 浸<br />
入 する 懸 念 がある.<br />
それゆえ, 樹 脂 シールなどで 水 密 性 を 確 保 する 必 要 が<br />
ある. 樹 脂 シールは 劣 化 するためメンテナンスが 必 要 で<br />
あり,この 部 分 に 後 述 するレーザブレージングを 適 用 で<br />
きる 期 待 がある.<br />
以 上 により,レーザブレージングを 用 いた 異 材 接 合 に<br />
ついて 検 討 する.<br />
<br />
<br />
レーザブレージングは 被 接 合 材 料 の 表 面 上 に,レーザ<br />
を 照 射 しフラックスを 活 性 化 させてろう 材 を 供 給 する 接<br />
合 方 法 である.ろう 付 けはぬれ 性 がよいため 確 実 に 面 を<br />
接 合 でき, 既 存 の 設 備 を 利 用 できるため, 比 較 的 安 価 に<br />
施 工 できる 方 法 である (4) .<br />
そのためレーザブレージングは 点 接 合 の 抵 抗 スポット<br />
溶 接 や 線 接 合 のレーザ 溶 接 やアーク 溶 接 と 比 較 して, 有<br />
利 である.<br />
<br />
<br />
<br />
現 在 , 当 社 で 使 用 している 異 材 接 合 用 のろう 材 はナイ<br />
ス㈱が 開 発 した 新 開 発 のフラックスコアードワイヤのレ<br />
ーザブレージング 用 (Alu・S4Le φ1.2)であり, 構 造<br />
はワイヤの 中 心 にフラックスを 配 置 してその 周 囲 を 皮 材<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
76
レーザブレージングを 用 いた 異 材 接 合 の 検 討<br />
(ろう 材 )でコーティングした2 層 構 造 になっている. <strong>特</strong><br />
徴 は, 内 部 のフラックスに <strong>特</strong> 殊 な 素 材 を 充 填 しており,<br />
皮 材 も <strong>特</strong> 殊 なAlで 構 成 されている 点 である.フラックス<br />
( 種 類 / 量 ), 成 分 条 件 および 接 合 条 件 を 最 適 化 すること<br />
によって 接 合 時 の 温 度 を 極 力 抑 え, 金 属 間 化 合 物 の 生 成<br />
を 抑 えている (1) . <strong>特</strong> に 剥 離 強 度 においてAl/GA 鋼 板 の 異<br />
材 接 合 の 場 合 , 従 来 の 技 術 では 接 合 界 面 の 破 断 となって<br />
いたものが 溶 着 金 属 等 での 破 断 となるデータが 示 されて<br />
いる (1) .<br />
従 来 のろう 付 けでは 活 性 化 させたフラックスとろう 材<br />
を 被 接 合 材 料 表 面 上 に 供 給 する 難 しさがある.さらに 自<br />
動 機 でろう 付 けを 行 うためには,フラックスの 塗 布 , 活<br />
性 化 の 制 御 ,およびろう 材 供 給 の 難 しさがある.<br />
一 例 を 挙 げるとフラックスが 十 分 に 活 性 化 しない 状 態<br />
でろう 材 を 供 給 するとフラックスの 持 っているぬれ 性 を<br />
促 進 する 作 用 が 得 られず,ろう 材 とワークが 馴 染 まずろ<br />
う 材 が 飛 散 することがある( 図 2).<br />
一 方 ,ナイス㈱のろう 材 はフラックスコアードワイヤ<br />
であるため,フラックスをあらかじめワークに 塗 布 する<br />
必 要 がない.そのため,フラックスと 皮 材 を 同 時 に 供 給<br />
することが 可 能 である.これによりフラックスが 活 性 化<br />
したと 同 時 に 皮 材 が 溶 着 金 属 となり,フラックスのぬれ<br />
性 を 促 進 する 効 果 が 十 分 に 発 揮 できると 考 えられる.<br />
以 上 により,フラックスコアードワイヤを 用 いること<br />
で 従 来 法 に 比 べフラックスの 活 性 化 とワイヤ 供 給 のタイ<br />
ミングの 制 御 が 容 易 にでき, 安 定 したビードを 形 成 でき<br />
ると 言 える.<br />
<br />
<br />
軟 鋼 ( 以 下 Fe)と/アルミニウム 合 金 ( 以 下 Al)の 異 材<br />
接 合 を 例 に 図 3で 説 明 する.レーザブレージングはFeを<br />
溶 かさず,Alにレーザを 当 てAlの 溶 融 池 にフラックスコ<br />
アードワイヤ( 以 下 ワイヤ)を 投 入 して 接 合 する 方 法 で<br />
ある.この 例 ではAlを 溶 融 させるために3kW 以 上 ( 推 奨<br />
4kW 以 上 )のCWレーザの 使 用 が 好 適 であると 報 告 され<br />
ている (5) .<br />
Ar<br />
Al<br />
Fe<br />
ワイヤをレーザ 照 射 部 に 供 給<br />
<br />
<br />
本 検 討 ではテストピースによる 異 材 接 合 の 基 礎 試 験 を<br />
実 施 した.また,レーザブレージングの <strong>特</strong> 徴 の 一 つであ<br />
る 面 接 合 はレーザ 溶 接 などの 線 接 合 に 比 べ 接 合 部 の 密 閉<br />
性 が 高 いため 塩 水 の 侵 入 を 防 ぎ, 応 力 腐 食 割 れや 粒 界 腐<br />
食 の 発 生 を 抑 制 できると 考 えられる.したがってその 優<br />
位 性 を 確 認 するため, 耐 食 性 試 験 を 合 わせて 実 施 した.・<br />
<br />
当 社 のレーザブレージングシステムを 使 用 した 試 験 方<br />
法 について 述 べる.レーザ 発 振 器 は 波 長 940nmで 出 力<br />
6.0kWの 半 導 体 レーザ(DDL)を 使 用 しており, 図 4と<br />
図 5に 示 すように 進 行 方 向 後 方 からガスノズルによりア<br />
シストガスを 吹 き 付 け, 進 行 方 向 前 方 からワイヤ 供 給 装<br />
置 によりワイヤを 供 給 する 装 置 構 成 としている. 本 試 験<br />
ではステンレス 鋼 ( 以 下 SUS)とAlの 異 材 接 合 について<br />
検 討 した. 継 手 の 形 態 は 図 5に 示 す 重 ね 隅 肉 継 手 である.<br />
なお,SUSはSUS304・t1.5で・AlはA6061-T6・t2.0を 用 い<br />
た.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
77<br />
2016 年 12 月
アシストガス:Ar<br />
レーザ<br />
AI<br />
SUS<br />
ワイヤ<br />
・ ・<br />
ワイヤをレーザ 照 射 部 に 供 給 ・ ・<br />
<br />
ここでのポイントは,Al 側 は 溶 融 させSUS 側 は 溶 融 さ<br />
せない 接 合 条 件 を 選 定 することと (1) ,レーザの 狙 い 位 置<br />
及 びワイヤの 供 給 角 度 である. 試 験 では 図 6に 示 すよう<br />
にAl 材 を 上 に 配 置 しレーザ 照 射 位 置 はAlの 端 面 とした.<br />
また,ワイヤの 狙 い 位 置 は 図 7に 示 すようにワイヤを<br />
レーザで 溶 かして 滴 下 する 方 法 と 図 8に 示 すようにAlを<br />
溶 かすことによって 発 生 する 溶 融 池 にワイヤを 供 給 する<br />
2 通 りのワイヤ 供 給 方 法 を 検 討 した.その 他 の 接 合 条 件<br />
を 共 通 条 件 として 次 に 示 す.<br />
共 通 条 件<br />
Al:A6061-T6・t2.0・・・・100×300<br />
SUS:SUS304・t1.5・・・100×300<br />
レーザ 照 射 位 置 :Al 端 面<br />
板 材 の 重 ねしろ:50mm<br />
<br />
試 験 の 結 果 からワイヤをレーザで 溶 かして 滴 下 する 方<br />
法 は 表 1に 示 す 通 りワイヤが 爆 ぜるもしくは 玉 状 に 固 ま<br />
ってしまい, 良 好 な 接 合 ができなかった.<br />
一 方 でAlを 溶 かした 溶 融 池 にワイヤを 供 給 する 方 法 は<br />
表 2に 示 すように 安 定 したビードを 形 成 する 接 合 が 可 能<br />
となった.<br />
この 結 果 からワイヤの 供 給 方 法 は 図 8に 示 すように・Al<br />
を 溶 かすことによって 発 生 する 溶 融 池 にワイヤを 供 給 す<br />
る 方 法 が 良 いことが 分 かった.また,レーザブレージン<br />
グにおいてはワイヤの 供 給 条 件 の 管 理 が 重 要 事 項 である<br />
ことが 分 かった.<br />
・<br />
により 重 ね 隅 肉 継 手 を 製 作 して, 接 合 部 の 耐 食 性 試 験 を<br />
実 施 した. 試 験 は 自 動 車 用 材 料 腐 食 試 験 方 法 である<br />
JASOの 複 合 サイクル 試 験 を 用 いた. 図 9に 複 合 サイクル<br />
試 験 の 概 要 を 示 すが, 複 合 サイクル 試 験 とは 塩 水 噴 霧 ,<br />
乾 燥 , 湿 潤 を1サイクル8 時 間 で 繰 り 返 すものであり, 通<br />
常 の 塩 水 噴 霧 試 験 に 比 べより 過 酷 な 試 験 である.この 複<br />
合 サイクル 試 験 を72 時 間 まで 実 施 し24 時 間 ごとに 外 観 を<br />
観 察 した.<br />
比 較 用 としてフィラワイヤ( 溶 加 材 )を 投 入 したSUS<br />
のレーザ 溶 接 サンプルも 併 せて 上 記 の 耐 食 性 試 験 を 実 施<br />
した.<br />
表 3に 示 す72 時 間 後 の 外 観 からSUS/AlのAl 母 材 と 接<br />
合 部 の 比 較 をした 場 合 にどちらも 発 錆 等 は 認 められなか<br />
った.この 結 果 から, 接 合 部 の 電 位 差 による 接 触 腐 食 は<br />
発 生 の 可 能 性 が 低 いと 考 えられる.さらに 錆 が 認 められ<br />
ないため 粒 界 腐 食 の 発 生 の 可 能 性 も 低 いと 考 えられる.<br />
同 様 に72 時 間 後 のSUSのレーザ 溶 接 サンプルも 錆 の<br />
発 生 は 認 められない.<br />
以 上 のことから72 時 間 まではSUSのレーザ 溶 接 サン<br />
プルと 同 等 の 耐 食 性 能 を 持 っていると 言 える.<br />
レーザ<br />
AI<br />
SUS<br />
50<br />
<br />
<br />
<br />
異 材 接 合 で 起 きる 問 題 として 電 位 差 による 腐 食 がある (1) .<br />
電 位 差 による 腐 食 を 確 認 するため,レーザブレージング<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
78
レーザブレージングを 用 いた 異 材 接 合 の 検 討<br />
溶 接 方 向<br />
溶 接 方 向<br />
レーザ<br />
レーザ<br />
ワイヤ<br />
供 給 角 度 15°<br />
ワイヤ<br />
供 給 角 度 15°<br />
ワーク<br />
<br />
ワーク<br />
<br />
<br />
<br />
79<br />
2016 年 12 月
0<br />
JAS 609−9 車 用 材 食 法 <br />
合 サイクル(81サイクル)<br />
中 性 <br />
351 2<br />
行 30 内<br />
<br />
6012030 4<br />
行 15 内<br />
<br />
50195 上 2<br />
行 30 内<br />
直 に 開 する<br />
<br />
<br />
7 2<br />
<br />
レーザブレージングによるSUS/Alの 異 材 接 合 試 験 を<br />
実 施 し, 安 定 したビードを 形 成 する 異 材 接 合 の 継 手 が 得<br />
られた.<br />
また, 試 験 の 結 果 から,ワイヤの 供 給 条 件 の 管 理 が 重<br />
要 であることが 分 かった.さらに 耐 食 性 試 験 の 結 果 から<br />
72 時 間 までSUS/SUSのレーザ 溶 接 サンプルと 同 等 の 耐<br />
食 性 能 を 持 つことが 分 かった.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
80
レーザブレージングを 用 いた 異 材 接 合 の 検 討<br />
以 上 より 鉄 道 車 両 へのレーザブレージングを 用 いた 異<br />
材 接 合 の 可 能 性 を 得 た.<br />
今 後 は 機 械 的 <strong>特</strong> 性 ( 静 的 強 度 , 疲 労 強 度 , 剥 離 試 験 な<br />
ど)を 中 心 に 評 価 を 進 める.<br />
さらに 当 社 は 過 去 にSUS/Alの 異 材 接 合 を 用 いたハイ<br />
ブ リッド 構 体<br />
(2) を 検 討 しており, 材 料 間 の 接 合 にはクラッド<br />
材 やボルト 等 を 使 用 していた.その 上 で 今 後 は 材 料 間 の<br />
接 合 にレーザブレージングを 用 いたハイブリッド 構 体 を<br />
検 討 する.<br />
最 後 に, 本 解 説 を 執 筆 するにあたり 多 大 なご 協 力 を 頂<br />
いたナイス 株 式 会 社 各 位 に 感 謝 の 意 を 述 べる.<br />
<br />
(1)・ 大 西 武 志 :「レーザ,ミグブレーズ 用 溶 接 材 料 に<br />
よる 鉄 鋼 とアルミニウム 合 金 の 異 材 金 属 接 合 」, 溶<br />
接 技 術 7 月 号 ,46-49,(2014), 産 報 出 版 ( 株 )<br />
(2)・・ 松 岡 茂 樹 :「 鉄 道 車 両 のハイブリッド 構 体 の 構 体<br />
結 合 構 造 」, 軽 金 属 溶 接 Vol27,No.10,17,(1989),<br />
( 一 社 ) 軽 金 属 溶 接 協 会<br />
(3)・・ 遠 藤 翔 太 , 他 :「sustinaステンレス 構 体 水 密 化 の<br />
ためのレーザすみ 肉 溶 接 技 術 の 開 発 」, 総 合 車 両 製<br />
作 所 技 報 ・ 第 2 号 ,12-17,(2013),( 株 ) 総 合 車 両<br />
製 作 所<br />
(4)・・ 宮 澤 靖 幸 :「 最 近 の 低 環 境 負 荷 へ 向 けたろう 付 け<br />
技 術 」, 溶 接 技 術 6 月 号 ,55,(2014), 産 報 出 版 ( 株 )<br />
(5)・・ 大 西 武 志 :「 鉄 鋼 とアルミニウム 合 金 の 異 種 金 属<br />
溶 接 用 フラックスコアードワイヤ」, 軽 金 属 溶 接 ,<br />
Vol.52,No.11,5,(2014),( 一 社 ) 軽 金 属 溶 接 協 会<br />
<br />
遠 藤 翔 太<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)<br />
河 田 直 樹<br />
博 士 ( 工 学 )<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)・ 主 査<br />
吉 澤 正 皓<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 接 合 技 術 センター)<br />
81<br />
2016 年 12 月
磯 部 光 一 Koichi ISOBE<br />
金 子 貴 史 Takashi KANEKO<br />
車 体 製 造 過 程 において 車 体 側 面 の 通 り( 歪 み)を 測 定 する 際 , 車 体 側 面 に 平 行 に 張 ったピアノ 線 を 基 準 とし<br />
て 車 体 とピアノ 線 との 距 離 を 直 尺 で 測 定 しているが,ピアノ 線 は 極 めて 細 いため 見 えにくく, 作 業 者 が 気 付 か<br />
ずに 引 っかかってしまうリスクがあった.そこで, 測 定 作 業 の 安 全 性 向 上 を 目 的 として,レーザ 距 離 計 を 活 用 し,<br />
その 測 定 値 から 演 算 によって 通 りを 求 めることにより,ピアノ 線 を 使 用 しない 測 定 方 法 を 開 発 した.<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
鉄 道 車 両 の 車 体 製 造 過 程 で, 幕 板 部 と 腰 板 部 における<br />
車 体 側 面 の 通 りを 測 定 している.その 方 法 は, 車 体 側 面<br />
の 前 位 と 後 位 を 両 端 として, 同 じ 寸 法 Aの 基 準 となる 駒 を<br />
挟 んでピアノ 線 を 張 り,ピアノ 線 と 車 体 との 距 離 を 直 尺<br />
で 測 定 している( 図 1).この 挟 み 込 んだ 駒 の 寸 法 Aが 基 準<br />
寸 法 であり, 張 られたピアノ 線 は 車 体 に 平 行 な 基 準 線 と<br />
なることから, 直 尺 による 測 定 値 と 基 準 寸 法 Aとの 差 が 車<br />
体 の 通 りということになる( 図 2).<br />
直 尺 ・<br />
直 尺 ・<br />
<br />
アルミフレームで 組 み 立 てた 測 定 スタンドにBluetooth ®<br />
通 信 機 能 付 きレーザ 距 離 計 ,タブレット 端 末 ,USBハブ<br />
を 取 り 付 けた 構 成 であり( 図 3),このほかに, 測 定 操 作<br />
を 行 うためのリモコンがある.USBハブにはリモコン 受<br />
信 器 とBluetooth ® アダプタを 装 着 しており,リモコンと<br />
タブレット 端 末 はRF(ラジオ 波 ) 方 式 による 無 線 通 信 ,<br />
タブレット 端 末 とレーザ 距 離 計 はBluetooth ® による 無 線<br />
通 信 を 行 っている. 測 定 スタンドは 幕 板 部 の 通 り 測 定 に<br />
も 対 応 できる 高 さとなっており( 図 4),レーザ 距 離 計 を<br />
装 着 する 位 置 によって 任 意 の 高 さでの 測 定 を 行 うことが<br />
できる.<br />
タブレット 端 末 には 通 り 測 定 専 用 に 関 発 したプログラ<br />
ムをインストールしているが, 各 機 器 は 汎 用 品 を 採 用 し<br />
ている.・<br />
ピアノ ・線<br />
ピアノ ・線<br />
<br />
演 算 部 ・ 表 示 部 ・<br />
演 算 部 ・ 表 示 部 ・<br />
(タブレット 端 末 )・<br />
(タブレット 端 末 )・<br />
測 定 スタンド・<br />
測 定 スタンド・<br />
通 信 部 ・<br />
通 信 部 ・<br />
(USBハブ)・<br />
(USBハブ)・<br />
車 体 ( 上 面 より) ・<br />
駒 ・ 駒 ・<br />
A・ A・<br />
ピアノ 線<br />
<br />
測 定 部 ・<br />
測 定 部 ・<br />
(レーザ 距 離 計 ・)<br />
(レーザ 距 離 計 ・)<br />
しかし,ピアノ 線 は 極 めて 細 いため 見 えにくく, 作 業 者<br />
が 腰 板 部 の 高 さに 張 ってあるピアノ 線 に 気 付 かずに 引 っかか<br />
ってしまうリスクがあった.そこで, 測 定 作 業 の 安 全 性 向 上<br />
を 図 るため,ピアノ 線 によらない 新 規 測 定 方 法 を 開 発 した.<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
82
非 接 触 式 車 体 通 り 測 定 機 構 の 開 発<br />
リモコン<br />
<br />
<br />
<br />
作 業 者 は,タブレット 端 末 の 画 面 で 測 定 を 行 う 車 種 と<br />
測 定 部 ( 腰 板 部 もしくは 幕 板 部 )を 選 択 する( 図 5). 測<br />
定 スタンドをプラットホームの 端 部 に 設 置 し, 手 元 のリ<br />
モコン 操 作 によってレーザ 距 離 計 で 車 体 までの 距 離 を 測<br />
定 する. 測 定 後 は 次 の 測 定 箇 所 へ 測 定 スタンドを 移 動 さ<br />
せ, 車 体 までの 距 離 を 測 定 する( 図 6).これを 繰 り 返 して,<br />
必 要 な 箇 所 の 測 定 を 行 う.<br />
測 定 操 作 をリモコンで 行 えるようにしたことで, 測 定<br />
実 行 時 にタブレット 端 末 の 画 面 へのタッチや,レーザ 距<br />
離 計 のボタン 操 作 を 必 要 とせず, 作 業 者 が 直 接 触 れるこ<br />
とによる 測 定 スタンドの 揺 動 を 未 然 に 防 いでいる.<br />
測 定 開 始 箇 所 と 測 定 終 了 箇 所 における 測 定 値 の 差 から,<br />
車 体 に 平 行 な 直 線 の 傾 きが 求 められる.この 直 線 をピア<br />
ノ 線 に 代 わる 仮 想 基 準 線 として, 各 測 定 箇 所 における 通<br />
りを 演 算 で 求 め, 結 果 をタブレット 端 末 に 表 示 する. 通<br />
りを 直 感 的 にイメージできるよう, 画 面 中 央 部 に 折 れ 線<br />
グラフ, 下 部 にその 値 を 表 示 させた( 図 7).<br />
<br />
<br />
<br />
各 測 定 箇 所 間 の 距 離 をあらかじめ 設 定 しておくことで,<br />
通 りの 値 は 仮 想 基 準 線 に 対 する 凹 凸 により+と-で 表<br />
され, 混 在 した 表 示 では 基 準 寸 法 内 に 収 まっているのか<br />
を 瞬 時 に 判 断 できない.そこで, 通 りが 基 準 値 内 かを 判<br />
定 する 機 能 をもたせ, 設 定 した 基 準 値 内 であればOK, 超<br />
えていればNGと 表 示 させた.<br />
さらに, 測 定 データはタブレット 端 末 内 に 保 存 される<br />
ため, 測 定 日 と 車 両 をリストから 選 択 することで 過 去 の<br />
測 定 結 果 を 表 示 することや, 測 定 データをCSV 形 式 に 変<br />
換 してパソコンに 取 り 込 むことも 可 能 とし, 簡 易 にデー<br />
タ 分 析 できるようにした.<br />
83<br />
2016 年 12 月
y・<br />
y・<br />
y・<br />
x・<br />
x・<br />
x・<br />
・<br />
・<br />
車 体 ・<br />
・<br />
車 体 ・<br />
d・<br />
車 体 ・<br />
d・<br />
c・<br />
d・<br />
c・<br />
c・<br />
a・ b・<br />
a・ プラットホーム・<br />
b・<br />
a・ プラットホーム・<br />
b・<br />
<br />
プラットホーム・<br />
図 8はプラットホームと 車 体 を 真 上 から 見 た 平 面 図 であ<br />
る. 車 体 は 必 ずしもプラットホームに 平 行 に 設 置 できな<br />
いため,その 傾 きを 求 めることで 車 体 に 平 行 な 仮 想 基 準<br />
線 を 設 定 する.ここでは,プラットホーム 上 のaからbま<br />
で 移 動 しながら 車 体 までの 距 離 を 測 定 していくものとし,<br />
ac 間 の 距 離 とbd 間 の 距 離 の 差 と,ab 間 の 距 離 から 直 線 cd<br />
の 傾 きを 算 出 する.この 直 線 cdが 仮 想 基 準 線 であり,cを<br />
原 点 とした 座 標 系 において 次 の 式 で 表 される.<br />
車 両 両 端 での 測 定 値 の 差<br />
= 車 両 両 端 での 測 定 値 の 差<br />
・・×・・ ・<br />
= 車 両 測 両 定 端 箇 での 所 間 測 の 定 距 値 離 の 差 ・・×・・ ・<br />
= 測 定 箇 所 間 の 距 離 ・・×・・ ・<br />
bd 測 -ac 定 箇 所 間 の 距 離<br />
= bd -ac・・×・・ ・<br />
= bd ab<br />
-ac ・・×・・ ・<br />
= ab ・・×・・ ・<br />
上 式 を 用 いて 求<br />
ab<br />
められるyにacを 加 算 した「 計 算 上 の 距 離<br />
の 値 」と,「 実 際 の 測 定 値 」との 差 が 通 りの 値 である.<br />
例 として, 図 9のeにおける 通 りを 求 めてみる.まず,<br />
cからプラットホームに 平 行 な 直 線 を 設 け,efと 交 わる 点<br />
をgとする.<br />
・<br />
・<br />
車 体 ・<br />
・<br />
f・<br />
車 体 ・<br />
d・<br />
車 f・ 体 ・<br />
d・<br />
c・<br />
f・<br />
d・<br />
c・<br />
g・<br />
g・<br />
c・<br />
a・ e・ g・<br />
b・<br />
a・ e・ b・<br />
プラットホームa・<br />
プラットホーム・<br />
e・ b・<br />
プラットホーム・<br />
<br />
y・<br />
y・<br />
y・<br />
x・<br />
x・<br />
x・<br />
また, 演 算 によって 通 りの 値 を 求 めるには, 測 定 スタ<br />
ンドをレール 方 向 に 直 線 移 動 させなければならないが,<br />
実 際 のプラットホーム 端 部 は 直 線 とは 限 らないため, 対<br />
策 として,その 凹 凸 に 相 当 する 値 を 補 正 値 として 設 定 し<br />
ておくことで 測 定 スタンドの 直 線 移 動 を 模 擬 し, 影 響 を<br />
受 けないようにしている.・<br />
<br />
ここで,<br />
ac・=・eg・=・500<br />
ef・=・503<br />
bd・=・505<br />
ae・=・8000<br />
ab・=・20000<br />
であった 場 合 , 仮 想 基 準 線 は<br />
505 - 500<br />
= 505 - 500<br />
・・×・・ ・<br />
= 505 20000<br />
20000<br />
- 500 ・・×・・ ・<br />
= ・・×・・ ・<br />
20000<br />
で 表 され,<br />
5<br />
= gf = 5<br />
×8000 = 2・<br />
= gf =<br />
20000<br />
20000<br />
5 ×8000 = 2・<br />
= gf = ×8000 = 2・<br />
20000<br />
となる.つまり, 計 算 上 は<br />
ef・=・eg・+・gf・=・500・+・2・=・502<br />
であり,この 値 ( 計 算 上 のef)と 実 際 のeにおける 測 定 値<br />
efとの 差 が 通 りの 値 である.<br />
したがって, 通 りは<br />
503-502・=・1<br />
と 求 めることができる.<br />
<br />
本 開 発 品 の 精 度 は, 使 用 するレーザ 距 離 計 そのものの<br />
測 定 精 度 に 依 拠 するところが 大 きいが, 各 測 定 箇 所 にお<br />
ける 測 定 スタンドの 設 置 の 仕 方 も 誤 差 に 関 係 してくる.<br />
そのため,プラットホーム 上 に 測 定 スタンドを 設 置 する<br />
際 は 細 心 の 注 意 が 必 要 ではあるが, 検 証 の 結 果 , 従 来 の<br />
ピアノ 線 を 用 いて 測 定 した 通 りの 値 と 同 等 の 通 りの 値 を<br />
得 られることを 確 認 した.ピアノ 線 を 用 いずに 通 りを 測<br />
定 できることで, 当 初 の 目 的 である 安 全 性 向 上 につなが<br />
るものと 考 える.<br />
一 方 で, 今 回 の 開 発 の 範 囲 においては, 通 り 測 定 に 要<br />
する 工 数 の 低 減 について 課 題 が 残 る. 測 定 箇 所 に 作 業 者<br />
が 移 動 しつつそれぞれ 測 定 を 行 うという 作 業 の 流 れは,<br />
従 来 と 変 わらない.また, 測 定 装 置 の 軽 量 化 についても,<br />
移 動 をともなう 測 定 方 法 では 大 きなウエイトを 占 めるも<br />
のである. 今 後 の 工 数 低 減 に 向 けては, 幕 板 部 と 腰 板 部<br />
を 同 時 に 測 定 可 能 とすることや, 最 終 的 には 全 自 動 で 測<br />
定 を 行 えることが 理 想 であると 考 える.<br />
<br />
製 造 車 種 が 変 わる 場 合 , 測 定 箇 所 の 位 置 が 変 わること<br />
が 考 えられる.そのような 場 合 でも, 従 来 のピアノ 線 を<br />
張 って 直 尺 で 測 定 する 方 法 では <strong>特</strong> 別 な 準 備 作 業 などしな<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
84
非 接 触 式 車 体 通 り 測 定 機 構 の 開 発<br />
くてもフレキシブルに 対 応 できるが, 今 回 の 開 発 品 では<br />
測 定 箇 所 間 距 離 やその 位 置 に 応 じた 補 正 値 を 新 たに 設 定<br />
する 必 要 が 生 じる.この 間 ,ピアノ 線 を 不 要 とする 通 り<br />
測 定 についてさまざまな 方 法 を 検 討 してきたが, 長 年 続<br />
けられている 方 法 よりもさらに 優 れた 方 法 を 見 いだすと<br />
いうのは 容 易 なものではないと 実 感 した.・<br />
しかし 本 開 発 により, 測 定 器 を 直 線 移 動 させながら 対<br />
象 物 までの 距 離 を 測 定 することで, 演 算 によって 通 りを<br />
求 められると 実 証 できたことは, 新 たな 測 定 方 法 確 立 に<br />
向 けて 前 進 したものと 言 える.さらに, 車 体 の 通 りに 限<br />
らず,そのほかの 歪 み 測 定 にも 活 用 できるものであり,<br />
今 後 さらなる 発 展 の 可 能 性 をもっているものと 考 える.<br />
<br />
磯 部 光 一<br />
生 産 本 部<br />
新 津 製 造 部 構 体 課 係 長<br />
金 子 貴 史<br />
生 産 本 部<br />
技 術 部 ( 技 術 管 理 ) 新 津 技 術 管 理 ・<br />
85<br />
2016 年 12 月
当 社 では2014 年 2 月 に 自 動 塗 装 設 備 を 導 入 し, 全 塗 装<br />
車 体 への 適 用 ・ 運 用 を 開 始 した.<br />
多 くの 試 行 錯 誤 を 経 て 現 在 に 至 るが, 手 作 業 による 従<br />
来 の 塗 装 工 法 と 比 較 し, 様 々な 面 で 良 好 な 結 果 を 得 るこ<br />
とができた.<br />
本 稿 では, 当 社 における 自 動 塗 装 設 備 の 概 要 と, 塗 装<br />
品 質 を 左 右 する 塗 装 条 件 選 定 に 関 し,これまで 検 討 して<br />
きた 塗 装 試 験 の 事 例 を 交 え, 塗 装 品 質 向 上 に 向 けた 当 社<br />
の 取 り 組 みを 紹 介 する.・<br />
<br />
<br />
自 動 塗 装 設 備 は, 静 電 塗 装 装 置 とベル 回 転 霧 化 式 塗 装<br />
ガン( 以 下 , 塗 装 ガン)( 図 1)をアーム 先 端 に 装 着 した<br />
内 圧 防 爆 構 造 多 関 節 ロボット( 以 下 ,ロボット)( 図 3),<br />
それらを 移 動 させる 搬 送 台 車 , 主 制 御 装 置 ,その 他 補 機<br />
類 で 構 成 されている. 同 じ 構 成 の 設 備 が2 組 あり, 被 塗<br />
物 である 鉄 道 車 両 車 体 の 両 側 , 妻 構 体 の 他 ,1-3 位 ,2-4<br />
位 の 側 構 体 を 同 時 に 塗 装 が 可 能 である.<br />
<br />
これらロボットに 関 するティーチングプログラムの<br />
他 , 周 辺 機 器 の 動 作 プログラムを 統 合 し,マスタプログ<br />
ラムとして 一 連 の 塗 装 工 程 を 教 示 する.これにより, 同<br />
一 色 であれば 一 時 停 止 や 作 業 者 の 介 在 なくプログラムさ<br />
れた 塗 装 作 業 が 完 了 する.<br />
また,プッシュプル 型 塗 装 ブースとも 連 携 し, 複 雑 な<br />
操 作 を 必 要 とせず, 一 連 の 工 程 を 自 動 で 完 了 できる.<br />
プッシュプル 型 塗 装 ブースには 乾 燥 機 能 も 備 わってお<br />
り, 塗 装 後 ,ただちに 乾 燥 することにより, 時 間 短 縮 ,<br />
ならびに 品 質 の 安 定 に 寄 与 している.<br />
<br />
ロボットは, 被 塗 物 の3Dデータを 用 いることにより<br />
オフラインでのティーチング, 各 種 のシミュレーション,<br />
動 作 確 認 も 可 能 である. 実 際 のロボットアームが 被 塗 物<br />
へアプローチする 動 作 や 塗 装 軌 跡 , 曲 面 に 対 する 微 調 整 ・<br />
補 正 等 , 最 終 的 な 調 整 ・ 動 作 確 認 は 実 車 を 用 いてオペレ<br />
ータが 行 っている( 図 2).<br />
<br />
静 電 塗 装 とは, 被 塗 物 をプラス 極 (アース 状 態 )に 保<br />
ち, 塗 装 機 をマイナス 極 とし, 塗 装 機 に 高 電 圧 を 供 給 し<br />
て 両 極 間 に 静 電 界 を 形 成 し, 霧 化 した 塗 料 粒 子 にマイナ<br />
スの 電 荷 を 与 えることによって, 塗 料 粒 子 を 被 塗 物 に 塗<br />
着 させる 塗 装 技 術 である.<br />
この 塗 装 方 式 では, 被 塗 物 に 対 し 塗 料 を 吹 き 付 ける 正<br />
面 だけでなく, 側 面 あるいは 背 面 まで 回 りこんで 塗 着 す<br />
る 現 象 を 利 用 できるため, 複 雑 形 状 に 対 し,ロボットと<br />
組 合 せることにより, 一 定 方 向 , 速 度 で 動 作 させること<br />
ができるため, 手 作 業 を 上 回 る 仕 上 りが 期 待 できる 自 動<br />
塗 装 に 適 した 方 式 である.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
86
塗 装 品 質 向 上 に 向 けた 取 り 組 み<br />
<br />
塗 装 ガンを 機 械 的 に 自 動 で 移 動 動 作 させる 方 式 は 多 種<br />
に 渡 るが, 車 種 ごとに 異 なる 断 面 , 形 状 をもつ 鉄 道 車 両<br />
には 多 関 節 ロボットが 適 している. 車 体 形 状 を 忠 実 にト<br />
レースが 可 能 なうえ, 塗 装 ガンと 被 塗 物 との 距 離 や 角 度<br />
を 一 定 に 保 つことができ, 手 作 業 と 比 較 し, 確 実 性 と 品<br />
質 の 安 定 に 大 きく 寄 与 している.<br />
テストピースとして 用 いる 板 の 大 きさは, 使 用 する 塗<br />
料 や, 車 体 塗 装 面 積 などにより 適 宜 選 定 している.<br />
<br />
<br />
<br />
自 動 塗 装 を 行 うにあたり, 溶 接 機 での 電 流 , 電 圧 , 送<br />
り 速 度 などの 条 件 と 同 様 に, 塗 装 機 に 設 定 する 各 種 パラ<br />
メータを 決 定 し, 塗 装 条 件 とする 必 要 がある.<br />
塗 装 条 件 を 形 成 するパラメータには, 塗 料 に 関 するも<br />
の, 塗 料 粒 子 に 印 加 する 電 圧 などに 関 するもの, 塗 装 ガ<br />
ンの 被 塗 物 との 距 離 や, 送 り 速 度 , 塗 料 吐 出 量 , 塗 料 粒<br />
子 径 に 関 するものなど 多 岐 にわたる.<br />
それらを 決 定 するには,パラメータの 各 項 目 をそれぞ<br />
れ 調 整 し, 実 際 の 試 験 塗 装 の 結 果 をもって 微 調 整 , 再 試<br />
験 , 再 調 整 を 繰 り 返 して 行 い, 精 度 を 向 上 させる.<br />
最 初 に 使 用 する 大 まかな 塗 装 条 件 は, 過 去 の 実 績 から<br />
類 似 の 塗 料 , 塗 装 仕 様 , 色 彩 などで 決 定 し, 試 験 塗 装 を<br />
繰 り 返 しながら 各 パラメータの 調 整 を 行 い, 詳 細 を 決 定<br />
することが 多 い.<br />
試 験 塗 装 に 実 際 の 車 体 を 用 いて 行 うことが 困 難 である<br />
ため, 代 替 方 法 を 用 いて 試 験 し, 条 件 を 決 定 する 必 要 が<br />
ある.その 試 験 の 一 部 を 紹 介 する.<br />
<br />
被 塗 物 である 車 両 車 体 と 同 材 質 の 板 (テストピース)<br />
( 図 4)を 用 い, 実 際 と 同 様 の 下 地 処 理 を 行 った 後 , 試 験<br />
塗 装 により, 仕 上 り 状 態 を 確 認 する.<br />
<br />
3.1で 平 面 的 に 塗 装 したものの 評 価 で 良 好 だった 条 件<br />
であっても, 車 体 の 形 状 に 沿 った 塗 装 をした 際 に, 最 も<br />
重 要 である 視 覚 的 に 望 まれる 塗 装 状 態 には 仕 上 がらない<br />
場 合 がある.これは, 車 体 形 状 により, 光 の 反 射 等 に 影<br />
響 を 及 ぼすためと 考 えられる.<br />
形 状 に 起 因 すると 思 われる 最 終 仕 上 り 状 態 を 確 認 , 予<br />
測 する 方 法 として, 被 塗 物 である 車 両 形 状 の 一 部 を 忠 実<br />
に 模 した 試 験 板 ( 図 5),または 実 車 の 一 部 を 模 したモッ<br />
クアップを 使 用 し, 実 際 と 同 一 の 塗 装 を 実 施 し, 確 認 ,<br />
評 価 を 行 っている.・<br />
<br />
また,モックアップを 用 いた 塗 装 試 験 では, 車 体 形 状<br />
に 応 じた 多 関 節 ロボットの 動 作 範 囲 ( 塗 装 可 能 範 囲 ),<br />
干 渉 物 の 確 認 のほか, 塗 装 軌 跡 の 確 認 を 行 うことができ<br />
る( 図 6).<br />
87<br />
2016 年 12 月
これらの 評 価 により, 客 先 承 認 塗 装 見 本 板 との 差 異 が<br />
許 容 できる 範 囲 内 であることを 確 認 し, 塗 装 条 件 として<br />
決 定 するが, 数 値 には 表 れない 視 覚 的 要 素 が 存 在 するた<br />
め, 最 終 的 には 人 の 目 による 目 視 評 価 も 合 わせて 行 って<br />
いる.<br />
評 価 には 複 数 人 の 目 で 多 角 的 に 評 価 し, 選 定 された 塗<br />
装 条 件 を 確 定 する.この 最 終 目 視 評 価 は, 室 内 照 明 下 と<br />
太 陽 光 下 では 大 きく 異 なるため, 製 品 の 使 用 環 境 と 同 一<br />
である 太 陽 光 下 で 行 う. <strong>特</strong> にメタリック,パール 系 塗 装<br />
の 場 合 , 塗 膜 内 部 で 複 雑 な 光 の 反 射 , 屈 折 をする 光 輝 感<br />
は 太 陽 光 下 以 外 では 適 正 な 評 価 を 行 うことができないた<br />
めである( 図 8).<br />
モックアップを 用 いる 試 験 では, 養 生 方 法 の 選 定 にも<br />
一 役 かっている. 数 種 の 養 生 方 法 を 施 したもの( 図 7)<br />
に 塗 装 を 行 うことで, 塗 膜 付 着 後 の 重 量 が 増 した 養 生 材<br />
の 挙 動 の 確 認 や, 固 定 方 法 の 妥 当 性 確 認 , 養 生 材 による<br />
ブース 気 流 の 変 化 挙 動 の 確 認 が 行 えるなど, 塗 装 前 後 作<br />
業 の 確 認 にも 有 効 である.<br />
<br />
<br />
今 まで 当 該 設 備 を 用 い, 単 色 (ソリッド 色 )およびメ<br />
タリック 色 を 上 塗 り 塗 料 として, 静 電 塗 装 を 行 った 実 績<br />
があるが, 一 般 にパール 色 と 呼 ばれる2コートマイカ 塗<br />
料 を 上 塗 り 塗 料 として, 当 社 では 初 めてとなるステンレ<br />
ス 鋼 製 車 両 への 静 電 塗 装 適 用 検 討 を 行 った.<br />
<br />
<br />
仕 上 り 状 態 は 隠 ぺい 度 の 確 認 , 目 視 のほか, 膜 厚 , 光<br />
沢 , 色 彩 , 色 度 を 測 定 し, 客 先 承 認 塗 装 見 本 板 と 比 較 し,<br />
評 価 を 行 う.<br />
<strong>特</strong> にメタリック 系 色 やパール 系 色 の 場 合 は 単 色 (ソリ<br />
ッド 色 )と 異 なり, 塗 料 中 に 含 有 する 微 細 な 光 輝 材 (ア<br />
ルミフレークなど)が 一 様 な 方 向 に 並 んでいないと「ム<br />
ラ」となって 見 えるため, 当 社 では,メタリック,パー<br />
ル 系 塗 装 の 評 価 に 適 しているとされるマルチアングル 方<br />
式 の 計 測 器 を 用 いて, 目 視 以 外 の 定 量 的 な 評 価 を 行 って<br />
いる.・<br />
<br />
今 回 ステンレス 鋼 製 車 両 に 適 用 した2コートマイカ 塗<br />
料 は, 一 般 的 に 真 珠 のような 輝 きを 見 せる「パール 色 」<br />
が 採 用 された.<br />
パール 色 は 光 輝 材 として 微 細 なマイカ( 雲 母 )をソリ<br />
ッド 色 に 添 加 させたものであり, 光 が 当 たると 光 を 透 過<br />
しつつ, 塗 膜 内 部 で 複 雑 な 光 の 反 射 ・ 屈 折 により, 真 珠<br />
のような 独 <strong>特</strong> の 光 輝 感 を 生 みだす.<br />
メタリック 色 同 様 ,パール 色 も 塗 装 表 面 の 光 沢 を 出 す<br />
目 的 に 加 え, 塗 膜 表 面 の 保 護 のため, 上 塗 り 塗 装 後 , 無<br />
色 のクリア 塗 装 を 施 す.<br />
今 回 ,2コート 塗 装 と3コート 塗 装 (コートとは 塗 り 重<br />
ねる 回 数 )が 検 討 されたが, 将 来 にわたり 客 先 で 行 われ<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
88
塗 装 品 質 向 上 に 向 けた 取 り 組 み<br />
る, 補 修 性 ・ 施 工 性 を 考 慮 した 結 果 ,2コート 塗 装 が 採<br />
用 されるに 至 った.<br />
<br />
条 件 選 定 は,3 項 と 同 様 の 方 法 で 実 施 した.<br />
選 定 する 条 件 のベースは, 過 去 実 績 のあるメタリック<br />
色 の 塗 装 条 件 を 用 い, 前 述 のような 塗 装 試 験 を 繰 り 返 し,<br />
最 適 な 条 件 を 探 索 した.<br />
今 回 は 初 めてのパール 色 ということ, 車 体 塗 装 面 積 が<br />
広 く,ロボットの 動 作 軌 跡 に 工 夫 が 必 要 であることなど<br />
のほか,「ムラ」の 発 生 傾 向 と 最 適 な 塗 装 軌 跡 を 確 認 す<br />
るため,テストピース 板 は 通 常 当 社 で 使 用 していたもの<br />
よりも 大 きい 板 を 使 用 した( 図 9).<br />
<br />
今 回 2コート 塗 装 を 適 用 したステンレス 鋼 製 車 両 は,<br />
パール 色 が 車 体 全 体 におよび, 広 い 面 積 を 有 するため,<br />
車 体 そのものを 屋 外 に 出 し, 太 陽 光 下 にて 全 体 的 な 仕 上<br />
り 評 価 を 行 った( 図 11).<br />
<br />
また, 塗 装 したテストピース 塗 装 板 や 客 先 承 認 塗 装 見<br />
本 板 と, 塗 装 完 了 車 との 仕 上 り 状 態 を 比 較 し, 光 沢 , 色<br />
彩 など, 複 数 人 で 確 認 し, 視 覚 での 差 異 が 無 かったこと<br />
を 確 認 した( 図 12).<br />
<br />
今 回 、 実 際 の 車 体 の 一 部 を 模 した,モックアップを 製<br />
作 ・ 使 用 し,あらかじめ 試 験 で 選 定 していた 塗 装 条 件 の<br />
確 認 と,ロボット 軌 跡 の 妥 当 性 を 確 認 した.<br />
また, 車 体 形 状 に 起 因 して 発 生 する「ムラ」や 色 の 濃<br />
淡 , 塗 料 の 溜 まりや 流 れなどの 有 無 も 確 認 した( 図 10).<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
自 動 塗 装 設 備 の 導 入 により, 従 来 の 手 作 業 と 比 較 し,<br />
品 質 の 安 定 と, 作 業 者 が 高 所 作 業 などの 危 険 が 回 避 でき<br />
るなど, 品 質 面 と 安 全 面 で 良 い 効 果 が 得 られた. 今 後 ,<br />
研 究 , 実 績 を 重 ね, 更 に 設 備 の 適 用 範 囲 拡 大 に 取 り 組 ん<br />
でいく.<br />
( 門 脇 文 俊 , 及 川 則 久 , 佐 藤 信 幸 , 今 西 由 幸 ,<br />
高 梨 貴 広 , 毛 利 優 , 中 谷 まどか, 清 野 凌 ,<br />
本 間 邦 夫 , 佐 々 木 晨 , 山 崎 誠 記 )<br />
89<br />
2016 年 12 月
タイの 首 都 バンコクでは, 世 界 一 とも 称 される 交 通 渋<br />
滞 が 社 会 問 題 となっている. 解 消 する 方 策 として, 温 室<br />
ガスの 排 出 が 少 ない 環 境 に 優 しい 都 市 鉄 道 のプロジェク<br />
トが 進 められている.そのひとつであるパープルライン<br />
( 正 式 名 称 :チャローン・ラチャタム 線 ) (1)・ は,これまで<br />
鉄 道 の 恩 恵 のなかったバンコクの 西 ,チャオプラヤ 川 西<br />
岸 のノンタブリ 地 区 バンヤイと 都 心 を 結 ぶ,16 駅 , 全 長<br />
20.94kmの 第 3 軌 条 方 式 による 高 架 鉄 道 で,2016 年 8 月 6 日<br />
に 開 業 を 迎 えた.<br />
今 回 は, 同 線 向 けに 納 入 された 車 両 (21 編 成 63 両 )が<br />
現 地 に 納 入 されてから 開 業 までの 様 子 を 紹 介 する.<br />
<br />
<br />
国 内 での 製 造 が 進 む 中 , 現 地 への 搬 出 と 受 け 入 れ 態 勢<br />
が 議 論 された.その 結 果 , 海 外 事 業 本 部 が 主 体 の 下 , 現<br />
地 責 任 者 にコンサルタントのマーチン・ハント 氏 を 置 き,<br />
駐 在 の2 名 に 総 務 を 担 当 させ, 現 地 での 試 験 を 実 施 する<br />
検 査 グループと 現 地 での 工 事 を 遂 行 するグループを 置 く<br />
ことにした.<br />
また, 現 地 での 試 験 は, 形 式 を 代 表 して 行 われる「タ<br />
イプテスト」, 全 編 成 に 実 施 される「ルーチンテスト」<br />
の2つのほか, 横 浜 からの「 引 渡 し 前 試 験 」の3つに 分 類<br />
できる.ルーチンテストはTUV-ZUDジャパン 社 に 依 頼<br />
したため, 同 社 に 所 属 するタイ 人 スタッフのドアクモル<br />
氏 を 総 括 サポートとして 試 験 の 実 施 を 円 滑 に 行 う 体 制 と<br />
した.<br />
<br />
パープルライン 向 け 車 両 の 第 1ロットの3 編 成 9 両 は,<br />
第 2, 第 3 編 成 と 第 1 編 成 に 分 載 して2 隻 の 船 で 横 浜 港 を 出<br />
港 した. 到 着 したレムチャバン 港 は,バンコクから 南 東<br />
へ 約 100kmに 位 置 するインドシナ 半 島 で 最 大 規 模 の 港<br />
で, 横 浜 港 を 上 回 る 東 南 アジアで 一 番 のコンテナ 扱 い 量<br />
を 誇 る. 船 から 搬 出 された 車 両 はタイに3 両 しかないと<br />
いわれる 各 車 輪 に 操 舵 機 能 がついた <strong>特</strong> 殊 なトレーラに 積<br />
載 され, 一 時 保 管 の 管 理 用 地 に 移 動 された.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
90
バンコク パープルライン − 開 業 までの 現 地 作 業 −<br />
を 優 先 するため 利 用 できず,ピット 線 内 の 小 移 動 は 作 業<br />
者 の 人 力 によって 行 うという 困 難 なものであった.<br />
組 成 作 業 を 終 えた 編 成 は 着 後 の 整 備 が 進 められたもの<br />
の,スティンガによる 外 部 電 源 の 供 給 ができず,それに<br />
よりコンプレッサを 起 動 して 圧 縮 空 気 を 送 ることができ<br />
なかった.そのため 台 車 の 高 さ 調 整 等 の 作 業 は,スティ<br />
ンガ 加 圧 後 に 実 施 することになり, 作 業 者 の 滞 在 日 数 の<br />
調 整 もあって 再 度 訪 タイして 実 施 することになった.<br />
<br />
<br />
<br />
車 両 基 地 ( 以 下 デポ)への 搬 出 前 日 になって,タイ 側<br />
から 急 遽 , 運 輸 大 臣 も 出 席 する 車 両 のお 披 露 目 を 目 的 と<br />
したセレモニを 港 で 開 催 する 旨 の 通 知 があった. 当 社 か<br />
ら 現 地 駐 在 員 と 本 邦 から 現 地 作 業 対 応 として 派 遣 された<br />
製 造 ・ 検 査 の 関 係 者 3 名 がサポート 要 員 として 対 応 した.<br />
<br />
レムチャバン 港 を 夕 方 出 発 したトレーラは, 未 明 にバ<br />
ンヤイのデポに 到 着 した. 載 線 作 業 は 朝 3 時 に 召 <strong>集</strong> され,<br />
線 路 保 守 用 車 の 保 守 を 行 う 建 屋 で 行 われた. 車 両 をジャ<br />
ッキアップして 行 う 方 式 で,1 両 載 線 してはシャンター<br />
ビークルによるけん 引 でダブルピットのライトメンテナ<br />
ンスを 行 う 箇 所 に 移 動 され, 組 成 作 業 が 実 施 された.<br />
載 線 作 業 は1 日 に1 編 成 (3 両 )のペースで 実 施 され,<br />
ピット 線 へ 移 動 し 据 付 ける 前 に, 輸 送 のため 取 り 外 され<br />
ていたコレクタシューの 取 り 付 けと2 車 間 のホロの 接 続<br />
作 業 を 行 った.ただし,シャンタービークルは 移 動 作 業<br />
<br />
<br />
第 1ロットの3 編 成 は, 現 地 で 持 ち 越 し 試 験 を 行 うこと<br />
となり,・<br />
1)スティンガ 加 圧 前 までに 終 わらせておくべき 試 験<br />
2) 試 走 線 走 行 までに 終 わらせるべき 試 験<br />
3) 本 線 走 行 前 に 終 わらせるべき 試 験<br />
以 上 がマイルストンとして 設 定 された.<br />
現 地 に 派 遣 された 検 査 の 実 施 部 隊 は,このスティンガ<br />
加 圧 が9 月 末 日 と 予 定 されたため,それを 目 標 にして 接<br />
地 ・ 絶 縁 に 関 する 試 験 を 実 施 することにした. 持 ち 越 し<br />
試 験 の 実 施 にあたり,クライアント 等 が 立 ち 会 うことも<br />
あった.<br />
91<br />
2016 年 12 月
当 初 9 月 末 と 予 定 されたスティンガ 加 圧 は, 度 々 延 期<br />
され,10 月 19 日 にようやく 可 能 となった.さらにスティ<br />
ンガを 装 着 することが 可 能 であることを 実 証 するため,<br />
これまで 実 施 した 試 験 データおよび,スティンガを 取 り<br />
扱 う 手 順 書 の 提 出 が 求 められた.いずれも 当 初 の 計 画 に<br />
はなかったものである. 外 部 電 源 を 確 保 できたため, 持<br />
ち 越 し 試 験 の 消 化 も 順 次 進 められた.<br />
<br />
コレクタシューから 給 電 する 走 行 は,すでに 横 浜 事 業<br />
所 の 試 走 線 で 終 えているものの, 現 地 での 走 行 には 力 行<br />
ブレーキといった 制 御 系 の 機 能 が 正 確 に 動 作 するといっ<br />
た 安 全 性 に 関 する 試 験 の 実 施 と,ドキュメントの 提 出 が<br />
要 求 された.あわせて, 信 号 や 通 信 といった 他 のサブコ<br />
ンから 車 両 を 必 要 とする 試 験 の 実 施 を 求 められた.<br />
その 最 中 の11 月 4 日 に, 来 賓 を 招 いてのデポの 開 所 式<br />
が 実 施 された.その 準 備 として, 当 社 には 車 両 をあらか<br />
じめ 指 示 のあった 場 所 に 整 列 させるよう 指 示 があった.<br />
当 日 はデポ 内 のレセプションルームで, 初 めに 僧 侶 によ<br />
る 読 経 ,その 後 来 賓 挨 拶 と 続 き, 建 物 と 車 両 を 聖 水 によ<br />
って 清 め, 安 全 を 祈 願 した 金 箔 の 塗 布 と 呪 文 の 筆 書 きが<br />
行 われた.いかにも 仏 教 国 らしい 式 典 の 後 は,500 人 を<br />
超 える 来 訪 者 に 昼 食 がふるまわれた.<br />
式 典 は 滞 りなく 終 了 したものの,デポ 事 務 所 に 電 源 を<br />
供 給 する 発 電 機 の 軽 油 100リットル 以 上 が 前 夜 から 朝 ま<br />
での 間 に 何 者 かに 盗 出 され, 式 典 中 待 機 していた 者 が 灼<br />
熱 の 事 務 所 で 見 守 っていたという 事 態 もあった.<br />
メントとして 提 出 する 作 業 が 繰 り 返 された.6 日 14 時 に<br />
なっても 加 圧 を 開 始 した 連 絡 はなく, 空 振 りに 終 わると<br />
思 われたものの, 翌 日 , 早 朝 からの 最 終 確 認 の 後 ,11 時<br />
から 走 行 が 可 能 となった.この 日 , 約 700mの 試 走 線 を8<br />
往 復 し, 速 度 を5km/hから 試 走 線 の 許 容 速 度 である<br />
35km/hまで 順 次 上 げることができた.<br />
<br />
このプロジェクトでは, 車 両 の 保 守 も 車 両 メーカとし<br />
て 担 当 することになった. 整 備 途 上 の 車 両 でありながら,<br />
営 業 線 を 走 行 する 車 両 と 同 様 の 保 守 が 求 められた.すな<br />
わち, 構 内 を 走 行 した 日 を 起 算 日 として, 日 ごと, 週 ご<br />
と,3 週 間 ごとといった 周 期 に 応 じて, 車 両 の 動 作 確 認<br />
や 摩 耗 品 のチェックと 交 換 を 行 うというものである.<br />
<br />
<br />
次 のマイルストンであるデポ 構 内 と 試 走 線 の 加 圧 は,<br />
11 月 6 日 と 通 達 され,それをターゲットとして 現 地 では<br />
試 験 を 実 施 するとともに,その 結 果 を 横 浜 に 送 りドキュ<br />
検 査 周 期 とその 項 目 はユーザに 提 出 されるマニュアル<br />
に 基 付 いたものであるが, 実 施 要 領 とチェックリストは<br />
JR 東 日 本 からの 出 向 社 員 を 中 心 に 作 成 され, 実 施 され<br />
た( 後 に 施 工 両 数 が 増 えた 後 , 当 社 の 製 造 現 場 の 社 員 の<br />
協 力 も 必 要 となった).<br />
もうひとつ, 動 力 車 乗 務 員 の 育 成 があげられる. 当 社<br />
の 契 約 事 項 の 一 つであるため,コンサルタントによる 育<br />
成 で 準 備 を 進 めてきた.クアラルンプールから 派 遣 され<br />
た 現 役 運 転 士 4 名 の 育 成 を 当 社 が 担 当 することになった.<br />
現 役 の 運 転 士 であることから, 基 本 的 な 運 転 理 論 等 は 割<br />
愛 し,パープルラインの 車 両 に 慣 れてもらうことを 第 一<br />
として,マニュアルを 基 にした 車 両 の 説 明 と 試 走 線 での<br />
ハンドル 訓 練 を 実 施 した.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
92
バンコク パープルライン − 開 業 までの 現 地 作 業 −<br />
<br />
<br />
試 走 線 での 走 行 試 験 を 進 める 中 , 本 線 での80km/h 走<br />
行 に 向 けた 検 討 も 進 めてきた.これまで 信 号 の 保 護 によ<br />
って 走 行 することを 前 提 としてきたが, 信 号 担 当 のサブ<br />
コンの 進 捗 が 思 わしくなく,11 月 中 旬 を 過 ぎて2 週 間 に<br />
渡 るピット 線 での 調 整 作 業 と 試 走 線 を 使 った 走 行 試 験 を<br />
申 し 入 れてきた. 当 初 は 予 定 になかったものだが, 安 全<br />
に 関 する 信 号 保 安 装 置 の 完 成 がプロジェクトの 成 功 には<br />
最 も 重 要 と 判 断 し,サブコンへの 車 両 提 供 を 最 優 先 にデ<br />
ポでの 作 業 を 進 めることにした.あわせて 通 信 を 担 当 す<br />
る 別 のサブコンからも 現 車 作 業 の 申 入 れがあり, 車 両 の<br />
増 備 が 待 たれる 状 況 となった.<br />
このような 中 , 本 邦 では 残 りの 編 成 の 製 造 が 進 み, 第<br />
2ロット(3 編 成 9 両 )が11 月 末 からバンコクに 搬 入 され<br />
ることになった. 以 降 年 明 けの1 月 にかけて, 第 3, 第 4,<br />
第 5ロットとして5 編 成 15 両 ずつ 搬 入 されることになっ<br />
た.<br />
<br />
本 線 を 走 行 するにあたり, 車 両 の 救 援 に 関 する 機 能 の<br />
確 認 が 要 請 された. 救 援 時 に 連 結 した 状 態 でのけん 引 ・<br />
推 進 運 転 が 曲 線 を 走 行 できることや, 勾 配 での 起 動 が 可<br />
能 であることなどである.これらも 試 験 走 行 を 行 うとと<br />
もにPDFとして 編 成 ごとに 立 証 することになった.さら<br />
に, 本 線 走 行 が 可 能 な 区 間 での 携 帯 電 話 やトランシーバ<br />
の 連 絡 手 段 の 確 認 も 実 施 した. 本 線 の 列 車 無 線 が 使 用 開<br />
始 前 なので, 車 両 を 走 行 する 側 が 検 証 を 求 められたため<br />
である. 本 線 上 を100mごと 歩 いては 携 帯 電 話 とトラン<br />
シーバでデポ 事 務 所 に 連 絡 をとって 感 度 を 確 認 した.<br />
また, 現 地 での 工 事 は 夜 間 作 業 で 対 応 することになっ<br />
たが, 現 地 では 土 曜 日 も 作 業 日 であったため, 南 国 の 暑<br />
い 気 候 も 加 わり, 作 業 者 の 体 調 管 理 も 難 しい 日 々であっ<br />
た. 地 上 側 の 工 事 もサードレールの 離 隔 距 離 が 十 分 であ<br />
るかの 検 証 が 進 められた.<br />
そして,いよいよ12 月 3 日 から 本 線 走 行 が 可 能 となっ<br />
た. 信 号 設 備 は 未 完 のため, 最 高 30km/hという 制 限 走<br />
行 である.<br />
<br />
タイ 王 国 の 首 相 がデポを 訪 問 し,デポから 最 寄 り 駅 ま<br />
で 乗 車 されるというイベントが12 月 14 日 に 実 施 されるこ<br />
とになった. 当 社 は 開 催 当 日 の 車 両 配 置 と, 首 相 が 乗 車<br />
する 車 両 の 運 転 士 の 提 供 をすることになり,リハーサル<br />
も 実 施 することから,10 日 から 車 両 移 動 を 始 め, 関 係 者<br />
と 停 車 位 置 の 調 整 を 行 った. 当 日 首 相 が 乗 車 される 編 成<br />
は, 第 2 編 成 とすることにし, 現 地 での 整 備 作 業 を 中 心<br />
に 担 当 してきた 当 社 作 業 員 がハンドルを 握 ることになっ<br />
た.マレーシアの 運 転 士 もすでに 本 線 走 行 ができるまで<br />
に 習 熟 していたが,クライアントからの 強 い 要 望 もあっ<br />
て, 当 社 が 運 転 士 を 輩 出 することになったものである.<br />
当 日 は, 朝 5 時 にパスポートを 持 参 してデポに 召 <strong>集</strong> さ<br />
れ, 事 前 に 警 察 と 軍 により 各 所 のセキュリティチェック<br />
が 実 施 された.9 時 に 首 相 が 到 着 , 式 典 は 予 定 どおり 進<br />
行 し,11 時 までに 全 てが 終 了 . 日 本 のニュース,メディ<br />
ア 関 係 者 も 参 加 し,「タイで 初 めて 日 本 製 の 車 両 が 走 行<br />
した( 正 確 には, 国 鉄 向 けにディーゼル 動 車 が 既 に30 年<br />
前 に 納 入 され, 現 在 も 運 行 されている)」とTVでの 放 映<br />
や 動 画 配 信 サイトへ 投 稿 されることなった.<br />
<br />
本 線 走 行 が 可 能 となった 次 の 課 題 は, 要 求 仕 様 にある<br />
最 高 速 度 80km/h 走 行 を 実 現 することであった. 車 両 側<br />
の 力 行 と 制 動 性 能 を 確 立 するため, 各 種 制 御 パラメータ<br />
をチューニングするのが 目 的 である. 当 初 , 信 号 の 保 護<br />
の 下 で 走 行 することを 目 論 んでいたものの, 信 号 担 当 の<br />
サブコンの 進 捗 により, 車 両 側 のみで 実 現 する 方 策 を 模<br />
索 することになった.<br />
車 両 改 造 の 内 容 は, 横 浜 のシステム 設 計 で 検 討 し, 年<br />
明 け1 月 7 日 から 実 施 することをターゲットに 測 定 機 材 の<br />
仮 設 等 の 準 備 が 進 められた. 充 当 する 編 成 は,その 後 に<br />
予 定 されているエネルギ 効 率 の 測 定 と, 荷 重 を 積 載 した<br />
EMCの 測 定 試 験 を 考 慮 して 第 1 編 成 とし, 走 行 区 間 は 曲<br />
線 と 分 岐 器 のない 駅 間 が 選 ばれた.そして15 日 に80km/<br />
hでの 走 行 が 実 現 できた.<br />
<br />
最 高 速 度 での 走 行 ができたことで, 性 能 のチューニン<br />
グができた.そのため 第 1 編 成 は, 走 行 に 関 するタイプ<br />
テストを 進 めることになった.また 他 の 編 成 は,ルーチ<br />
ンテストを 実 施 できるものの,ここで 現 地 要 員 が 十 分 で<br />
ないため 実 施 できないという 壁 にぶつかった.<br />
このため, 横 浜 の 協 力 会 社 からの 派 遣 のほか 新 津 事 業<br />
所 からの 加 勢 を 含 めて, 約 90 名 の 出 張 者 がバンコクに 派<br />
遣 されることになった.あわせて 車 両 の 運 行 時 間 帯 を 従<br />
来 の8:00 ~ 20:00から7:00 ~ 23:00に 拡 張 し 対 応<br />
することとなった.これにより,これまでは 同 一 時 間 に<br />
ホテルへ 帰 着 してきたが, 担 当 する 作 業 により 出 勤 時 間<br />
を 変 更 することになった.その 概 要 は, 早 朝 デポ 内 が 加<br />
93<br />
2016 年 12 月
圧 される 前 に 当 日 走 行 する 予 定 の 車 両 の 出 区 前 検 査 を 終<br />
了 させるため, 保 守 要 員 を 増 加 して, 毎 週 , 毎 月 といっ<br />
た 他 の 保 守 業 務 は 別 のグループが 実 施 する. 車 両 の 入 換<br />
えと 試 験 走 行 のグループを 新 設 して, 通 常 検 査 の 要 員 か<br />
ら 完 全 に 分 離 する.また,ルーチンテストの 外 注 先 を 増<br />
加 し 複 数 編 成 を 並 行 できるようにしたうえに, 現 地 作 業<br />
は 遅 番 で 対 応 することにした.<br />
以 上 の 取 り 組 みによって,3 月 末 までに 当 社 が 実 施 す<br />
る 試 験 を 全 て 終 了 することができた.<br />
<br />
現 地 業 務 で 大 きなウェイトを 占 めたのが, 現 地 車 両 運<br />
用 者 に 対 する 訓 練 ・ 教 育 があげられる.これらは 車 両 の<br />
マニュアルに 基 づいて 実 施 されることになっていたが,<br />
車 両 の 取 り 扱 いだけでなく, 保 守 業 務 や 予 備 品 , <strong>特</strong> 殊 工<br />
具 や 各 種 部 品 といった 分 野 で 構 成 され,その 作 成 がボト<br />
ルネックとなった.マニュアルそのものは,コンサルタ<br />
ントの 協 力 を 得 て 整 備 されたが, 保 守 業 務 だけでもオー<br />
バーホールまで 包 含 しなければならず, 多 岐 に 渡 ること<br />
に 起 因 する.<br />
また,ドライバの 育 成 も 車 両 メーカが 担 当 する 契 約 で<br />
あったため, 車 両 の 提 供 に 加 え 講 習 の 準 備 とその 進 行 も<br />
当 社 で 担 当 することになった.さらに,デポの 検 査 ・ 試<br />
験 設 備 の 受 け 入 れ 試 験 へ 車 両 を 提 供 するほか,クライア<br />
ントを 対 象 にした 現 地 での 技 術 移 転 (TOT:Transfer・of・<br />
Technic)も 実 施 している.<br />
<br />
本 プロジェクトを 支 えた 関 係 者 は 数 多 いが, 海 外 営 業<br />
部 とその 下 に 置 かれたプロジェクトチームの 功 績 は 大 き<br />
なものがある.<br />
契 約 が 成 約 した 後 もクライアントを 相 手 に 緻 密 なデー<br />
タと 資 料 を 準 備 し, 時 には 現 地 に 出 向 いて 地 道 な 交 渉 を<br />
繰 り 返 してきた.また, 関 係 するサブコンとの 納 期 の 交<br />
渉 や 督 促 にもあたってきた.また, 海 外 出 張 者 の 航 空 券 ,<br />
宿 泊 先 の 手 配 もすべて 担 当 することになった.<br />
プロジェクトチームは 入 社 3 年 目 の 若 手 が 中 心 になり,<br />
横 浜 事 業 所 の 現 業 とクライアントのインタフェースとし<br />
て 機 能 し,ドキュメントの 取 り 纏 めに 大 いに 貢 献 した.<br />
また, 現 地 でも 裏 方 として, 検 査 業 務 をはじめとした 現<br />
地 作 業 の 進 捗 にはなくてはならない 存 在 であった.<br />
<br />
<br />
以 上 の 経 緯 を 経 て,6 月 1 日 をもってデポや 車 両 に 関 わ<br />
る 業 務 は, 車 両 運 行 を 担 当 する 現 地 企 業 (Bangkok・<br />
Expressway・and・Metro 社 , 以 下 BEM 社 )に 移 管 されるこ<br />
とになった.BEM 社 による“Trial・run”と 位 置 づけられ,<br />
これまでは, 本 線 運 転 の 車 両 の 充 当 , 基 地 内 の 車 両 移 動<br />
計 画 と 実 行 は 当 社 が 担 当 してきたが,BEM 社 によって<br />
計 画 ・ 実 行 されることになった. 車 両 保 守 業 務 はメンテ<br />
ナンスを 対 応 する 企 業 が 担 当 しているが, 実 務 では 当 社<br />
がサポートするものもあり, 当 面 の 期 間 は 一 緒 に 仕 事 を<br />
続 けることになる.<br />
メンテナンス 対 応 企 業 による 保 守 業 務 は, 消 耗 品 の 補<br />
充 といった 予 備 品 の 管 理 がなければ 遂 行 することができ<br />
ない.<br />
<br />
デポ 内 の 保 管 庫 が 十 分 に 機 能 するに 至 っていないの<br />
で, 横 浜 や 海 外 からの 調 達 品 は, 一 時 当 社 が 手 配 した 貸<br />
倉 庫 に 保 管 している.こうした 予 備 品 の 発 注 はもちろん,<br />
現 地 への 輸 送 ・ 搬 入 と 検 品 は, 海 外 営 業 部 が 担 当 した.<br />
<br />
開 業 が8 月 6 日 と 案 内 されてから, 開 業 前 の 一 般 試 乗 会<br />
というプロモーションが 開 催 された.これまでは 政 府 関<br />
係 者 といった 来 賓 を 対 象 にしたイベントだったが, 一 般<br />
のお 客 様 が 駅 を 利 用 して 乗 車 するというものである. 既<br />
に 車 両 は 引 き 渡 されているものの, 故 障 や 障 害 といった<br />
異 常 時 の 対 応 要 員 として 添 乗 するようBEM 社 から 要 請<br />
があった.このため, 早 朝 3 時 から 出 勤 する 変 則 勤 務 で<br />
対 応 した.<br />
<br />
8 月 6 日 ,いよいよ 本 線 開 業 の 日 である.・<br />
式 典 は,14:00にバンコク 側 の 始 発 駅 ,タオポーンに<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
94
バンコク パープルライン − 開 業 までの 現 地 作 業 −<br />
シリントン 王 女 をお 迎 えしての 開 催 となった.このパー<br />
プルラインの 紫 色 は, 王 女 ゆかりの 色 である.また 王 女<br />
は, 皇 太 子 に 次 ぐ 王 位 継 承 権 もあるため,タイ 国 民 から<br />
は 絶 大 な 敬 意 の 念 を 受 けておられる.<br />
14:20に 王 女 が 乗 車 した 列 車 がタオポーンの 駅 を 出 発 ,<br />
14:57にデポに 到 着 した. 同 列 車 には 当 社 社 長 と 専 務 も<br />
同 乗 した.15:09に 王 女 様 により 運 行 開 始 の 合 図 がされ<br />
たことで, 初 列 車 が15:30にクロン・バンパイの 駅 を 出<br />
発 し,これをもってパープルラインが 正 式 に 開 業 したこ<br />
とになった.<br />
開 業 後 ,デポではレセプションが 開 催 され, 日 本 政 府<br />
から 石 井 国 交 相 をはじめとする 面 々が 出 席 した.<br />
困 難 の 連 続 であったプロジェクトが, 実 を 結 んだ 日 で<br />
あった.<br />
待 したい.<br />
<br />
昨 今 , 日 本 のインフラ 技 術 の 輸 出 が 取 りざたされ, <strong>特</strong><br />
に 鉄 道 技 術 の 海 外 展 開 が 注 目 されている. 経 済 誌 でも 半<br />
年 に 一 度 は 鉄 道 <strong>特</strong> <strong>集</strong> が 掲 載 され, 本 プロジェクトもバン<br />
コクにて 取 材 された 経 緯 がある. 高 い 安 全 性 と 信 頼 性 を<br />
有 する 鉄 道 技 術 がありながら, 海 外 展 開 で 採 用 されたの<br />
は, 台 湾 新 幹 線 とドバイメトロ 等 と 希 少 な 例 しかない.<br />
事 実 ,バンコクの 都 市 鉄 道 では,バンコク・スカイトレ<br />
イン, 地 下 鉄 ブルーラインとエアポートリンクはドイツ<br />
のシーメンス 社 が 受 注 している.そうした 意 味 で, 本 プ<br />
ロジェクトで 日 本 の 車 両 が 採 用 されたのは, <strong>特</strong> 筆 すべき<br />
事 例 で, 今 後 の 評 価 が 注 目 される.<br />
<br />
開 業 から3 週 間 となった8 月 22 日 付 の 現 地 新 聞 には,パ<br />
ープルラインの 利 用 者 が2 万 人 程 度 で 当 初 見 込 みの10 万<br />
人 を 下 回 るという 記 事 が 掲 載 された. 都 心 側 の 終 端 駅 タ<br />
オポーンが 他 の 路 線 との 接 続 ができていないのが 一 番 の<br />
要 因 と 分 析 している. 同 駅 からは 地 下 鉄 ブルーラインと<br />
国 鉄 のバンスー 駅 まで700mほど 離 れているため,この<br />
区 間 にはシャトルバスが 運 行 されているが, 利 用 者 には<br />
理 解 を 得 られていないようである. 実 際 に 利 用 してみる<br />
と, 歩 いて 移 動 できる 距 離 ではなく,シャトルバスも 運<br />
賃 が 無 料 ということもあり, 想 像 していたよりひどい 混<br />
雑 である.このため,タイ 政 府 は 運 賃 の 値 下 げを 検 討 し<br />
ていると 伝 えている.<br />
しかし,バンコク・スカイトレインや 地 下 鉄 ブルーラ<br />
インの 開 業 時 も, 利 用 者 の 多 くは 鉄 道 の 利 便 性 を 知 って<br />
いる 海 外 からの 旅 行 者 や 駐 在 員 であり, 現 地 の 人 々には,<br />
原 油 高 により 路 線 バス 運 賃 が 上 昇 し, 鉄 道 との 価 格 差 が<br />
なくなったことで 浸 透 し 始 めた 経 緯 もある.また, 全 線<br />
地 下 区 間 のブルーラインでは, 地 下 鉄 を 利 用 しない 理 由<br />
として「 窓 から 景 色 が 見 えないから」という 回 答 があっ<br />
たほどである.とりわけ 自 動 車 の 便 利 さを 知 った 人 々に<br />
鉄 道 の 利 便 性 を 理 解 してもらうには,もうしばらく 時 間<br />
が 必 要 であろう.また 列 車 に 乗 るだけでなく, 駅 を 利 用<br />
していただくための 取 り 組 みとして, 駅 周 辺 の 開 発 も 必<br />
要 と 思 われる.この 区 間 には,バンコクでも 渋 滞 が 最 も<br />
ひどいと 評 されるノンタブリ 地 区 ライ(Lai) 交 差 点 が<br />
ある.Google・mapには「 地 獄 の 交 差 点 (Hell・Junction)」<br />
といった 書 き 込 みもあるほどだ.これから 雨 季 の 終 わり<br />
にかけて,スコールによって 自 動 車 の 渋 滞 にはさらに 拍<br />
車 がかかる.その 時 に, 鉄 道 の 利 用 者 が 増 えることを 期<br />
<br />
(1)・ <strong>特</strong> <strong>集</strong> ・【 海 外 向 けsustina 出 場 記 念 】, 総 合 車 両 製 作<br />
所 技 報 ・ 第 4 号 ,3-29,(2015),( 株 ) 総 合 車 両 製 作 所<br />
(2)・Googleマップ<br />
・https://www.google.co.th/maps/@13.4926325,100.709<br />
・7233,10z?hl=ja<br />
( 五 十 嵐 ・ 英 晴 記 )<br />
95<br />
2016 年 12 月
今 回 製 作 した 京 急 電 鉄 ・ 新 1000 形 1800 番 台 (15 次 車 )は,<br />
正 面 中 央 貫 通 構 造 の 先 頭 車 で,4 両 編 成 単 独 での 運 用 と,<br />
4 両 編 成 を2 本 つないだ8 両 編 成 での 運 用 を 可 能 とするもの<br />
である.8 両 編 成 時 は, 幌 を 装 着 して 貫 通 構 造 とし, 都 営<br />
地 下 鉄 浅 草 線 および 京 成 線 等 への 乗 り 入 れができるため,<br />
広 範 囲 な 運 用 が 可 能 となる.<br />
<br />
<br />
<br />
先 頭 車 の 乗 務 員 室 構 体 は, 正 面 中 央 貫 通 構 造 のものを<br />
新 たに 設 計 した. 乗 務 員 室 の 構 体 構 造 は, 従 来 のステン<br />
レス 車 (6 ~ 14 次 車 )と 同 じく, 軟 鋼 製 構 体 とし, 正 面<br />
中 央 に 貫 通 路 を 設 けた 構 造 である.<br />
客 室 部 の 構 体 および 客 室 設 備 は, 既 存 車 と 同 一 であり,<br />
構 体 構 造 は, 軽 量 ステンレス 構 体 である.<br />
車 体 長 さは 先 頭 車 および 中 間 車 とも17500mm, 連 結 面<br />
間 距 離 は18000mmとなっている.また, 車 体 断 面 は 既 存<br />
のステンレス 車 と 同 一 であり, 床 面 高 さは1150mmである.<br />
<br />
先 頭 部 の 外 観 デザインは, 正 面 中 央 貫 通 構 造 とするも<br />
のの,これまでのステンレス 車 (6 ~ 14 次 車 )を 踏 襲 し<br />
たイメージとした. 幌 の 取 付 を 考 慮 して, 幌 取 付 面 は 垂<br />
直 形 状 とした. 周 囲 となじむよう 塗 装 仕 上 げとし, 従 来<br />
のステンレス 車 との 統 一 感 をもたせている.<br />
側 面 の 外 観 デザインは,アルミ 車 (1 ~ 5 次 車 )まで<br />
のイメージを 踏 襲 するため,ほぼ 全 側 面 にカラーフィル<br />
ムを 貼 り 付 けた. 窓 枠 やドア 枠 を 除 き, 窓 周 りはクリー<br />
ム 色 とし, 幕 板 部 と 腰 板 部 は, 赤 色 を 貼 り 付 けている.<br />
<br />
先 頭 車 同 士 を 連 結 したときに, 通 り 抜 けができるよう,<br />
サン 板 と 幌 が 装 着 できる 構 造 としている( 図 2). 連 結 に<br />
より, 貫 通 状 態 となったとき, 貫 通 路 から 乗 務 員 室 に 乗<br />
客 が 立 ち 入 れないよう, 貫 通 路 仕 切 を 設 けた( 図 3). 貫<br />
通 路 仕 切 は, 中 央 通 路 と 運 転 室 , 中 央 通 路 と 車 掌 室 を 仕<br />
切 るものである. 貫 通 路 は 直 線 とし,かつ 運 転 台 部 分 は<br />
これまでと 同 じ 配 置 とした.<br />
貫 通 路 として 構 成 するには, 正 面 貫 通 開 戸 を 開 き, 運<br />
転 士 側 の 仕 切 の 一 部 として 利 用 し, 折 りたたんである 貫<br />
通 路 仕 切 開 戸 を 閉 じることで, 運 転 士 側 を 仕 切 ることが<br />
できる( 図 4). 貫 通 路 仕 切 開 戸 の 手 掛 の 下 に 設 けた 小 フ<br />
タは, 背 面 仕 切 引 戸 の 取 手 をつかむためのスペースを 確<br />
保 するために 設 けたもので, 貫 通 路 として 仕 切 る 時 には<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
96
京 浜 急 行 電 鉄 新 1000 形 1800 番 台 (15 次 車 )( 正 面 中 央 貫 通 車 )<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
97<br />
2016 年 12 月
閉 じることにより, 平 滑 な 仕 切 となる. 車 掌 側 を 仕 切<br />
る 場 合 も 同 様 , 折 りたたんである 貫 通 路 仕 切 開 戸 を180<br />
度 回 転 して 閉 じ, 通 路 と 車 掌 室 を 仕 切 ることができる<br />
( 図 5).<br />
貫 通 路 として 使 用 しないときは, 運 転 士 側 および 車 掌<br />
側 共 , 貫 通 路 仕 切 開 戸 を180 度 回 転 して 仕 切 機 能 を 解 除<br />
し, 通 常 の 乗 務 員 室 として 使 用 できるものとなっている.<br />
貫 通 路 仕 切 には 窓 を 設 け, 右 側 前 方 の 運 転 視 界 の 影 響 が<br />
少 なくなる 配 置 としている.<br />
貫 通 路 仕 切 の 上 部 から 天 井 までの 間 には 垂 壁 を 設 け<br />
て, 通 路 と 乗 務 員 室 を 仕 切 っている( 図 6). 前 面 表 示 器<br />
部 は, 点 検 時 に 支 障 のないよう, 垂 壁 が 折 りたためる 構<br />
造 となっている.これにより, 前 面 表 示 器 フタを 外 すス<br />
ペースを 確 保 している.このような 仕 切 構 造 とすること<br />
で, 通 路 と 乗 務 員 室 を 完 全 に 仕 切 ることができた.<br />
<br />
<br />
<br />
客 室 部 については, 前 回 のステンレス 車 の 正 面 中 央<br />
貫 通 構 造 ではない14 次 車 と 同 一 である. 但 し, 乗 務 員<br />
室 背 面 仕 切 戸 は, 先 頭 車 同 士 を 連 結 した 際 , 隣 接 車 両<br />
の 客 室 間 を 自 動 で 閉 じることができる 構 造 とするため,<br />
開 戸 から 引 戸 に 変 更 となった.<br />
背 面 仕 切 を 引 戸 に 変 更 すると, 非 常 梯 子 の 収 納 スペ<br />
ースとして 利 用 していた 場 所 が, 引 戸 の 戸 袋 領 域 とな<br />
るため, 前 回 ステンレス 車 (14 次 車 )と 同 じように 非<br />
常 梯 子 を 収 納 することができなくなった.そのため,<br />
非 常 梯 子 収 納 箱 を 客 室 側 へ 張 り 出 して 設 けた( 図 9).<br />
このため, 立 席 スペースが 減 り, 定 員 は14 次 車 に 比 べ,<br />
1 名 減 の117 名 となっている. 中 間 車 については,14 次<br />
車 との 変 更 点 はなく, 定 員 は129 名 となっている.<br />
乗 務 員 室 内 に 設 けたカバン 置 台 は, 車 掌 側 の 貫 通 路 仕<br />
切 開 戸 に 取 り 付 けた( 図 7, 図 8). 貫 通 時 には, 仕 切 開<br />
戸 と 共 に 車 掌 室 内 に 回 転 移 動 するため, 乗 客 の 通 行 に 妨<br />
げにならない.<br />
<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
98
京 浜 急 行 電 鉄 新 1000 形 1800 番 台 (15 次 車 )( 正 面 中 央 貫 通 車 )<br />
<br />
先 頭 車 に 取 り 付 けるサン 板 は, 連 結 するときのみ 取<br />
り 付 けるボルト 結 合 式 としているため,すっきりした<br />
印 象 となっている.サン 板 上 面 は 乗 務 員 室 床 上 面 との<br />
段 差 があるため,スロープを 設 けた.スロープはサン<br />
板 と 一 体 化 しているので 装 着 しやすくなっている.<br />
先 頭 車 用 の 幌 についても 連 結 時 に 素 早 く 取 り 付 けら<br />
れるよう, 着 脱 性 と 機 能 性 を 考 慮 したものを 製 作 した.<br />
正 面 の 標 識 灯 は, 車 外 から 点 検 できる 構 造 に 変 更 した<br />
ため, 灯 具 を 取 り 出 すスペースが 必 要 となる.そのため,<br />
ガラスよりひと 回 り 大 きい 標 識 灯 枠 を 設 け, 脱 着 可 能 な<br />
構 造 のボルト 固 定 式 とした.<br />
正 面 表 示 器 ( 行 先 , 種 別 , 運 行 番 号 )は, 幌 取 付 に 必<br />
要 な 高 さを 確 保 するため, 前 回 までのステンレス 車 (6 ~<br />
14 次 車 )より 開 口 部 を40mm 上 昇 した 位 置 とし, 構 体 上 部<br />
の 塗 分 けラインの 赤 と 黒 の 境 界 内 に 収 まる 位 置 とした.<br />
<br />
<br />
これまでのステンレス 車 とは 異 なり, 側 面 は 新 1000<br />
形 アルミ 車 に 準 じた 配 色 のカラーフィルムを 貼 り 付 け<br />
た. 窓 枠 およびドア 枠 は 凸 部 形 状 となっているので,<br />
カラーフィルムを 貼 っておらず,ステンレスの 無 塗 装<br />
仕 上 げとなっている.この 結 果 ,1800 番 台 はアルミ 車<br />
に 準 じた 赤 とクリームの 配 色 となっているが, 窓 枠 お<br />
よびドア 枠 はステンレスが 輝 き,この 車 両 独 <strong>特</strong> のアク<br />
セントとなっている.<br />
<br />
<br />
主 回 路 は 従 来 の4 両 編 成 および6 両 編 成 と 同 じ 東 洋 電<br />
機 製 のシステムを 採 用 . 先 頭 車 に 電 動 空 気 圧 縮 機 , 補<br />
助 電 源 装 置 , 蓄 電 池 を 搭 載 している.<br />
<br />
<br />
パンタグラフは 編 成 で2 台 搭 載 .M1s1 車 には 準 備 工 事<br />
でもう1 台 追 加 できる 仕 様 となっている.6 両 化 した 際<br />
の <strong>集</strong> 電 効 果 向 上 を 考 慮 している.<br />
<br />
前 面 は 中 央 貫 通 車 で, 運 転 台 と 車 掌 台 に 別 れている.<br />
運 転 台 としては 従 来 より 縮 小 されたため, 一 部 の 機 器<br />
は, 操 作 性 も 考 慮 し, 乗 務 員 室 上 部 の 壁 に 配 置 した.<br />
運 転 士 側 に 電 動 ワイパ, 車 掌 側 には 手 動 ワイパを 搭 載<br />
している. 車 掌 台 の 点 検 ふたはスペースと 操 作 性 を 考<br />
慮 して,2 段 階 式 開 閉 機 構 とした.<br />
<br />
99<br />
2016 年 12 月
台 車 については, 前 回 車 までと 同 様 , 車 体 直 結 空 気<br />
ばね 方 式 で,ボルスタ 付 の 台 車 となっている. 軸 箱 支<br />
持 装 置 は 円 筒 案 内 方 式 を 採 用 している.<br />
<br />
<br />
新 1000 形 1800 番 台 は,2016 年 3 月 4 日 から 営 業 運 転 を<br />
開 始 した.3 月 27 日 にはデビュー 記 念 イベントが 開 催 さ<br />
れるなど, 多 くの 皆 様 に 迎 えられた.<br />
この1000 形 1800 番 台 が 京 急 電 鉄 の 沿 線 の 皆 様 に 永 く<br />
愛 され 活 躍 することを 心 より 願 っている.<br />
( 宮 田 陽 一 , 茂 木 正 綱 記 )<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
100
京 浜 急 行 電 鉄 新 1000 形 1800 番 台 (15 次 車 )( 正 面 中 央 貫 通 車 )<br />
<br />
101<br />
2016 年 12 月
京 王 電 鉄 では, 京 王 線 で 営 業 列 車 と 同 速 度 , 同 負 荷 条<br />
件 下 で 軌 道 ・ 架 線 検 測 が 可 能 なクヤ900 形 「 総 合 高 速 検 測<br />
車 (DAX)」を 有 している. 従 来 , 牽 引 車 両 としてデワ<br />
600 形 , 資 材 輸 送 を 行 うチキ290 形 を 運 用 していたが, 車<br />
両 寿 命 による 置 き 換 えと 降 雪 への 対 応 を 目 的 とした 後 継<br />
車 両 導 入 が 決 定 され, 受 注 , 製 造 した.<br />
以 下 に 新 しい 事 業 用 車 両 デヤ901・902 形 ,サヤ912 形<br />
の 概 要 を 紹 介 する.<br />
<br />
検 測 時 は4 両 編 成 で 運 用 されており, 降 雪 作 業 時 にはクヤ<br />
900 形 を 切 り 離 した3 両 編 成 での 運 用 を 想 定 している.<br />
<br />
正 面 デザインは, 営 業 列 車 との 差 別 化 および 夜 間 走 行<br />
時 の 視 認 性 を 考 慮 し, 塗 装 は 黄 色 とした.・ 編 成 での 一 体<br />
感 を 創 出 するため 側 面 には 帯 状 のラッピングを 施 した.<br />
<br />
車 体 は, 軽 量 ステンレス 構 体 で,20mの 片 側 4 扉 車 とした.<br />
<br />
デヤ901・902 形 およびサヤ912 形 は,デワ600 形 および<br />
チキ290 形 の 代 替 車 両 として 設 計 するものであり,その 構<br />
造 は 省 エネルギ 対 策 ・メンテナンスフリー 化 の 改 善 を 図<br />
っている.デヤ901・902 形 の 先 頭 台 車 には 排 雪 板 を 備 え,<br />
降 雪 時 に 運 行 させることで 線 路 上 の 除 雪 を 行 い, 列 車 運<br />
行 への 影 響 を 軽 減 させることを 可 能 としている.<br />
<br />
車 両 形 式 は,デヤ901 形 (Mc1)+クヤ900 形 (Tc)+サヤ<br />
912 形 (T)+デヤ902 形 (Mc2)の4 両 編 成 (2M2T)である.<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
102
京 王 電 鉄 事 業 用 車 両 デヤ 901・902 形 ,サヤ 912 形<br />
室 内 の 化 粧 板 は 白 系 で 統 一 し, 明 るく, 清 潔 感 のある<br />
色 調 とした.<br />
また, 作 業 員 の 待 機 用 として, 車 端 に4 人 掛 け 片 持 ち<br />
腰 掛 を2 ヶ 所 配 置 している.<br />
<br />
当 社 としては 初 の 無 蓋 貨 車 である. 台 枠 は 軟 鋼 製 で,<br />
床 板 は 腐 食 への 配 慮 からステンレス 製 縞 鋼 板 としてい<br />
る. 検 測 など 日 中 時 間 帯 でも 運 用 されるため,お 客 様 の<br />
誤 乗 車 防 止 柵 を 配 置 している. 荷 物 の 出 し 入 れを 容 易 に<br />
するため, 柵 は 取 り 外 しが 可 能 な 構 造 とし, 先 頭 構 体 同<br />
様 , 視 認 性 向 上 のため 黄 色 塗 装 が 施 されている.<br />
また, 車 端 部 には 転 落 防 止 ホロを 配 置 し,ホームから<br />
のお 客 様 の 転 落 防 止 を 図 っている.<br />
客 車 牽 引 も 考 慮 して, 先 頭 の 連 結 器 下 部 には 電 気 連 結<br />
器 を 備 えている.<br />
<br />
低 圧 つなぎ 箱 内 のWAGO 端 子 台 に 配 線 を 接 続 する 際<br />
にフェルール 端 子 を 使 用 し, 結 線 の 容 易 化 ・ 経 年 におけ<br />
る 不 具 合 を 低 減 させている.<br />
<br />
屋 根 上 は 車 両 中 央 に <strong>集</strong> 中 型 の 空 調 装 置 を 搭 載 し, 先 頭<br />
寄 りにSR 列 車 無 線 の 空 中 線 を 配 置 している.<br />
また <strong>集</strong> 電 装 置 は、 離 線 の 関 係 からデヤ901 形 は 連 結 妻 寄<br />
りに 配 置 し,デヤ902 形 は 先 頭 寄 りに 配 置 している.・<br />
<br />
両 先 頭 車 とも 基 本 的 には 共 通 の 機 器 配 置 となっており,<br />
京 王 電 鉄 のメンテナンスを 配 慮 して, 京 王 形 デジタル<br />
ATC 装 置 やブレーキ 制 御 装 置 , 蓄 電 池 箱 , 空 気 タンク,<br />
低 圧 つなぎ 箱 などの 機 器 が 機 器 ラック 構 造 で 室 内 に 搭 載<br />
されている.<br />
・<br />
<br />
<br />
<br />
床 下 ぎ 装 は 主 に 主 回 路 関 係 と 補 助 電 源 装 置 , 空 気 源 装<br />
置 を 京 王 電 鉄 のメンテナンスおよび 重 量 バランスに 配 慮<br />
し 配 置 している.<br />
主 制 御 器 としては, 主 回 路 素 子 にIGBTを 用 いた2レベ<br />
ルインバータ 方 式 の 応 荷 重 機 能 , 回 生 ブレーキ 付 き<br />
VVVFインバータ 制 御 装 置 を 搭 載 . 主 電 動 機 2 台 を 制 御<br />
する1C2M×2 群 構 成 で, 台 車 ごとに 群 開 放 を 行 なうこ<br />
とで 故 障 発 生 時 にも 加 速 性 能 を 確 保 できる.<br />
補 助 電 源 装 置 には,170kVAで 出 力 電 圧 は 三 相 交 流<br />
440V,60HzのIGBT 素 子 を 用 いた2レベルインバータ 方<br />
式 の 静 止 形 インバータ 装 置 を 採 用 している.<br />
空 気 源 装 置 としては, 低 騒 音 ・ 低 振 動 のスクロール 回<br />
転 式 交 流 コンプレッサを 採 用 している. 吐 出 量 は,1067・<br />
L / minである.<br />
ATC 受 電 器 は,9000 系 に 比 べ 台 車 先 頭 寄 りに 排 雪 板<br />
を 備 えている 関 係 から, 先 頭 寄 りへ 配 置 している.その<br />
ため 先 頭 下 部 覆 いの 一 部 が 受 電 器 の 金 属 離 隔 距 離 に 入 る<br />
ことから 形 状 を 変 更 している.<br />
<br />
蓄 電 池 箱 に 関 しては, 室 内 配 置 としていることから 万<br />
が 一 の 安 全 配 慮 のため 密 閉 箱 とし,・・ 防 爆 用 の 空 気 ダクトを<br />
左 右 の 側 引 戸 戸 袋 内 に 開 口 を 設 けることで,・・ 外 観 を 損 ねる<br />
ことなく 車 外 の 空 気 を 走 行 方 向 ごとに 強 制 的 に 給 排 気 で<br />
きる 構 造 としている.<br />
<br />
103<br />
2016 年 12 月
室 内 灯 は 蛍 光 灯 形 のLEDランプを 使 用 し, 千 鳥 配 置<br />
としている.<br />
非 常 通 話 装 置 は, 客 車 扱 いをしないため 非 設 置 となっ<br />
ている.<br />
<br />
乗 務 員 室 構 造 は, 都 営 新 宿 線 への 乗 り 入 れが 設 定 して<br />
いないため, 非 乗 り 入 れの9000 系 (8 両 編 成 )を 基 本 と<br />
している.<br />
<br />
<br />
台 車 は9000 系 用 台 車 の 基 本 構 造 を 踏 襲 したボルスタ<br />
レス 台 車 である. 台 車 形 式 は, 電 動 台 車 がTS-1017A( 先<br />
頭 台 車 )とTS-1017( 中 間 台 車 ), 付 随 台 車 がTS-1018A<br />
である.<br />
軸 箱 支 持 装 置 は9000 系 台 車 と 共 通 仕 様 の 軸 はり 式 で<br />
ある.ただし,TS-1018A 台 車 のみ 空 車 質 量 がベース 車<br />
より 軽 くなった 関 係 で 軸 ばね 荷 重 ~たわみ 線 図 を 三 段 階<br />
のばね <strong>特</strong> 性 を 持 つ 仕 様 へ 変 更 した.<br />
台 車 枠 は 横 はりにシームレスパイプを 用 いた 鋼 板 溶 接 構<br />
造 で, 横 はりパイプは 空 気 ばね 補 助 空 気 室 を 兼 ねている.<br />
車 体 支 持 装 置 は 車 体 直 結 式 空 気 ばねおよび 一 本 リンク<br />
式 牽 引 装 置 で 構 成 されている.<br />
ブレーキ 装 置 は 踏 面 片 押 し 式 で9000 系 と 同 一 仕 様 の<br />
ユニットブレーキと 制 輪 子 である.<br />
輪 軸 は9000 系 と 同 一 仕 様 である. 車 輪 はゴムリング 付<br />
き 防 音 波 打 車 輪 を 採 用 し 曲 線 通 過 時 のきしり 音 の 低 減 を<br />
図 っている.<br />
9000 系 用 台 車 と 異 なる 点 は 降 雪 時 に 運 行 させること<br />
で 線 路 上 の 除 雪 を 行 い, 列 車 運 行 への 影 響 を 低 減 させる<br />
ため 先 頭 台 車 に 排 雪 板 を 備 えている.<br />
・<br />
<br />
<br />
デヤ901・902 形 ,サヤ912 形 は 総 合 高 速 検 測 車 クヤ<br />
900 形 と 編 成 を 組 み2016 年 6 月 20 日 の 公 式 試 運 転 を 経 て<br />
運 用 に 就 いた.<br />
京 王 電 鉄 のご 指 導 ,ご 協 力 のもと, 竣 工 させることが<br />
できたことを 感 謝 申 し 上 げると 共 に, 今 後 長 きに 渡 り 活<br />
躍 されることを 心 から 願 う.・<br />
<br />
<br />
(1)・ 石 川 和 弘 , 他 :「 京 王 電 鉄 総 合 高 速 検 測 車 クヤ<br />
911」, 東 急 車 輛 技 報 ・58 号 ,82-85,(2008), 東 急 車<br />
輛 製 造 ( 株 )<br />
( 佐 藤 仁 , 佐 藤 祐 三 , 川 上 清 温 記 )<br />
<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
104
京 王 電 鉄 事 業 用 車 両 デヤ 901・902 形 ,サヤ 912 形<br />
<br />
<br />
105<br />
2016 年 12 月
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
106
京 王 電 鉄 事 業 用 車 両 デヤ 901・902 形 ,サヤ 912 形<br />
<br />
107<br />
2016 年 12 月
西 武 鉄 道 では,100 周 年 事 業 の 一 環 として 新 しいサービ<br />
スを 提 供 するために,1988 年 に 当 社 で 製 造 した4000 系 ・1<br />
編 成 4 両 を 観 光 用 に 客 室 設 備 を 改 め, 併 せてトイレや 座 席<br />
をバリアフリー 対 応 に 改 造 した.<br />
都 心 の 池 袋 駅 や 西 武 新 宿 駅 から 西 武 秩 父 駅 や 本 川 越 駅<br />
間 を 主 体 に2016 年 4 月 17 日 より 土 ・ 休 日 を 中 心 に 営 業 を 開<br />
始 した.<br />
飾 付 け 用 としてピクチャレールを 室 内 全 長 に 設 置 した.<br />
暖 房 は 温 風 ヒータ 式 に 変 更 し 側 窓 下 部 に 配 置 した.<br />
多 目 的 スペース 前 位 の 仕 切 から 運 転 室 まではバックス<br />
ペースとして, 車 掌 側 に 子 供 用 展 望 台 と 運 転 士 側 にカー<br />
テンで 仕 切 る 授 乳 スペースを 設 け, 後 位 の 仕 切 から 妻 ま<br />
ではエントランススペースとし 既 設 の 和 式 トイレを 大 型<br />
洋 式 トイレと 男 性 用 トイレに 改 めた.<br />
<br />
<br />
編 成 は4 両 編 成 (Tc1+M1+M2+Tc2)のままとし, 車 体<br />
外 部 は 空 色 を 基 調 に 秩 父 と 武 蔵 野 を 流 れる 荒 川 の 水 を 表<br />
現 したデザインをベースとしたフルラッピングを 行 い,1<br />
から4 号 車 で 秩 父 の 春 夏 秋 冬 をイメージした 風 景 を 配 置 し<br />
ている.<br />
<br />
1 号 車 ( 多 目 的 スペース 車 両 )は 出 入 口 前 後 に 仕 切 をた<br />
て, 仕 切 間 の 座 席 を 全 て 取 り 払 いイベント 等 に 使 用 する<br />
多 目 的 スペースとした. 大 型 スクリーンとプロジェクタ<br />
を 取 付 けることができるほか, 天 井 にはイベントなどの<br />
<br />
2 号 車 ( 座 席 車 両 )は 表 面 には 不 燃 処 理 をした 柿 渋 和 紙<br />
を 貼 付 けたアーチ 形 状 の 天 井 パネルを 長 手 に 通 した.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
108
西 武 鉄 道 4000 系 改 造 観 光 電 車 −「 西 武 旅 するレストラン 52 席 の 至 福 」−<br />
天 井 パネルの 隙 間 からは 既 設 空 調 の 冷 風 が 車 内 に 吹 き<br />
込 む 構 造 とした.<br />
また, 車 両 中 央 の 隙 間 にはダウンライトを 配 置 し 通 路<br />
照 明 とし, 側 窓 上 の 両 サイドに 間 接 照 明 を 設 け 柿 渋 和 紙<br />
のアーチ 天 井 を 照 らしている.<br />
腰 掛 は 新 たに,2 人 掛 け 用 テーブル5 組 と4 人 掛 け 用 テ<br />
ーブル4 組 を 配 置 し 座 席 定 員 26 人 とした. 腰 掛 の 表 地 は<br />
ダークブルー 系 の 生 地 を 使 いテーブル,タイルカーペッ<br />
ト, 壁 はダークブラウン 系 を 配 色 することで 落 ち 着 いた<br />
車 内 を 演 出 している.<br />
3 号 車 はキッチン 車 両 で2 号 車 の 方 からクローズドキッ<br />
チン, 中 央 部 分 にオープンキッチンとメインカウンタを<br />
配 置 している.4 号 車 方 の 出 入 口 から 妻 までを 立 席 のカウ<br />
ンタとしお 客 様 が 座 席 以 外 にもくつろげる 場 所 を 提 供 し<br />
ている.<br />
メインカウンタ, 立 席 カウンタの 天 板 には 人 口 大 理 石<br />
(コーリアン)を, 通 路 の 壁 やオープンキッチン 内 の 収 納<br />
棚 にはメタリック 調 木 目 のアートテックを 採 用 する 事 で<br />
上 質 で 高 級 感 のある 空 間 を 演 出 した.<br />
クローズドキッチンを 除 く 範 囲 の 天 井 には 杉 木 目 の 突<br />
板 平 面 材 を 段 々に 張 り 詰 めることで 開 放 感 のある 仕 上 が<br />
りとなり,オリジナリティの 高 いパーツが <strong>集</strong> まるキッチ<br />
ン 車 両 でも 一 番 の <strong>特</strong> 徴 となっている.<br />
4 号 車 ( 座 席 車 両 )は 西 武 線 沿 線 の 西 川 材 ( 杉 )を 不 燃<br />
処 理 して 天 井 のルーバとして 採 用 した.<br />
ルーバは,その 形 状 と 配 列 により, 波 打 つように 見 え<br />
荒 川 の 水 の 流 れを 表 現 している.<br />
ルーバの 隙 間 にはダウンライトを 配 置 して2 号 車 の 間 接<br />
照 明 とは 趣 の 異 なる 室 内 を 演 出 している.<br />
新 たに 配 置 した 腰 掛 は,2 号 車 と 同 様 に 配 置 し 座 席 定 員<br />
26 人 として 腰 掛 の 表 地 はダークブラウン 系 の 生 地 を 採 用<br />
し,テーブル,タイルカーペット, 壁 もブラウン 系 を 配<br />
色 することで2 号 車 に 比 べて 少 し 明 るめの 室 内 を 演 出 して<br />
いる.<br />
せる 演 出 をしている.<br />
SIVの 電 力 不 足 を 補 うため 電 力 制 御 回 路 を 設 けた.<br />
イベント 放 送 用 に 放 送 装 置 を 追 加 し, 映 像 サービス 用<br />
に1 号 車 に24 型 2 台 ,2 号 車 に32 型 2 台 ,4 号 車 に32 型 1 台 の<br />
液 晶 モニタを 設 置 した.<br />
<br />
<br />
<br />
3 号 車 をキッチン 車 両 とするために, 既 設 の 空 気 圧 縮 機<br />
と 調 圧 器 , 空 気 タンクを4 号 車 に 移 設 し, 空 いたスペース<br />
にキッチンで 使 用 する 清 水 ・ 汚 水 タンクと 変 圧 器 を 設 置<br />
した.<br />
<br />
照 明 設 備 は 既 設 の 客 室 蛍 光 灯 を 全 て 撤 去 し, 電 力 消 費<br />
量 削 減 のためLED 照 明 に 改 め, 色 温 度 を3000K(ケルビン)<br />
の 暖 色 系 として 室 内 の 雰 囲 気 を 高 め, 料 理 を 美 味 しく 見<br />
<br />
リニューアルした4000 系 で「52 席 の 至 福 」を 味 わう 一<br />
人 として 乗 車 してみてはいかがでしょうか.<br />
( 杉 山 隆 , 中 澤 義 郎 , 橋 本 伸 夫 , 河 内 昭 仁 記 )<br />
109<br />
2016 年 12 月
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
110
西 武 鉄 道 4000 系 改 造 観 光 電 車 −「 西 武 旅 するレストラン 52 席 の 至 福 」−<br />
<br />
111<br />
2016 年 12 月
当 社 はJR 西 日 本 が 主 催 する 分 岐 器 研 究 会 に 参 画 し,<br />
2006 年 より 本 テーマに 取 り 組 み 各 種 検 討 を 進 めてきた.<br />
一 部 では 実 績 も 出 来 たが,この 度 マイナーチェンジを 行<br />
い, 信 頼 性 の 向 上 とコストダウンを 実 現 したので 下 記 に<br />
紹 介 する.<br />
<br />
分 岐 器 ポイント 部 の 転 てつ 棒 は, 連 結 板 を 介 し 転 てつ<br />
棒 ボルトによりトングレールと 接 続 する 構 造 となってい<br />
る.このボルトは 転 てつ 棒 の 下 側 から 差 し 込 み, 上 から<br />
ナットで 締 める 構 造 のため 作 業 効 率 が 悪 い.また,ボル<br />
トが 折 損 した 場 合 に 大 事 故 を 招 く 恐 れがあることから,<br />
<br />
ボルトが 折 損 しても 脱 落 させないための 脱 落 防 止 金 具 を<br />
用 いるなど 部 品 点 数 が 多 くなっている( 図 2).<br />
<br />
<br />
転 てつ 棒 ボルトの 代 替 となる 連 結 構 造 を 開 発 するにあ<br />
たり,トングレールと 連 結 板 および 転 てつ 棒 とスイッチ<br />
アジャスタの 接 続 に 使 用 する 部 材 は 従 来 品 を 使 用 し, 転<br />
てつ 棒 と 連 結 板 の 接 続 部 に 構 造 改 良 を 施 すこととした.<br />
改 良 品 の 主 な <strong>特</strong> 徴 は 次 のとおりである.<br />
<br />
構 成 する 部 材 数 の 縮 減 を 図 り, 上 部 から 挿 入 できるも<br />
のとするため, 従 来 のカラーは 不 要 とし, 従 来 品 のカラー<br />
の 外 径 と 同 じφ38mmのピンを 転 てつ 棒 ボルトの 代 わりに<br />
適 用 した( 図 3).なお,ピンはカラーと 同 様 , 炭 素 鋼 の 熱<br />
処 理 品 である. 転 てつ 棒 は, 従 来 品 と 近 い 構 造 であるこ<br />
ととしたが, 前 述 のピンが 下 部 に 抜 けない 構 造 とするた<br />
め, 転 てつ 棒 本 体 には 水 抜 き 用 穴 (φ7)のみ 設 けた.また,<br />
ピンがφ38mmであるため,ピンを 差 込 む 鋼 板 (U 字 鋼 )の<br />
穴 径 を 従 来 の24.5mmから38.5mmへ 変 更 し,あわせて 鋼 板<br />
(U 字 鋼 )の 上 部 幅 を50mmから65mmへ 変 更 した( 図 4).<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
112
改 良 型 転 てつ 棒 について<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
ピンの 抜 け 防 止 として, 既 製 品 の 脱 落 防 止 金 具 を 流 用<br />
して 抜 け 止 めとした( 図 5).さらに 二 重 の 措 置 として,<br />
この 金 具 を 結 束 バンドあるいは 被 覆 番 線 により 固 定 する.<br />
ただし,この 金 具 は 本 来 , 転 てつ 棒 本 体 部 ( 板 厚 19mm)<br />
への 取 付 用 であり,U 字 鋼 が 通 常 の 板 厚 16mmのままであ<br />
ると,ガタを 生 じ,ピンの 押 えが 不 十 分 となることから,<br />
U 字 鋼 板 厚 を19mmとし, 下 部 溶 接 面 に3mmの 切 削 を 施 し<br />
ている( 図 6).<br />
本 改 良 型 転 てつ 棒 のお 客 様 の 受 け 取 る 印 象 として, 脱<br />
落 防 止 金 具 が 頼 りなく,また, 番 線 や 結 束 バンドを 使 用<br />
することも 難 色 を 示 される 場 合 が 多 い.よって 一 手 間 増<br />
えることになるが, 抜 け 止 め 金 具 をボルト 止 めとし,ハ<br />
ードロックナットを 使 用 することで 信 頼 性 を 向 上 した<br />
( 図 7).また, 従 来 の 脱 落 防 止 金 具 の 使 用 をやめることで,<br />
U 字 鋼 の 板 厚 を19mmとし,3mm 切 削 するという 不 経 済<br />
な 構 造 を 取 る 必 要 がなくなった.<br />
そして,ピン 形 状 は 取 り 外 し 時 の 作 業 性 向 上 のために,<br />
首 部 を 設 けることで 掴 みやすくした( 図 8).<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
この 改 良 型 転 てつ 棒 のラインナップとして50kgNレール<br />
用 と60kgレール 用 を 用 意 する 必 要 がある. 従 来 構 造 ではピ<br />
ンの 高 さ 違 いにより,2 種 類 用 意 する 必 要 があったが,こ<br />
のマイナーチェンジ 後 は,ピンは 共 通 とし 安 価 な 抜 け 止 め<br />
金 具 で 区 別 することとする( 図 9,10). 誤 使 用 の 懸 念 につ<br />
いては 塗 色 により 区 別 することとする.<br />
表 1に 本 改 良 型 転 てつ 棒 の 敷 設 実 績 を 表 す.いずれも 転<br />
換 回 数 が10 回 以 下 / 日 の 分 岐 器 である.JR 西 日 本 につい<br />
ては 敷 設 後 約 2 年 半 経 過 した2014 年 8 月 に 解 体 による 追 跡<br />
調 査 を 行 ったが, 目 立 った 摩 耗 , 傷 は 見 受 けられず, 現<br />
在 も 問 題 なく 稼 働 している.ただし,ピンの 取 り 外 しに<br />
苦 慮 することが 分 かった.<br />
<br />
・<br />
敷 設 年 月 期 間 備 考<br />
・JR 西 日 本 2012 年 1 月 4 年 8ヶ 月<br />
関 ・ 東 民 鉄 2014 年 10 月 1 年 11ヶ 月<br />
関 ・ 東 民 鉄 2015 年 2 月 1 年 7ヶ 月 金 具 形 状 が 若 干 異 なる<br />
<br />
2012 年 のJR 西 日 本 での 敷 設 後 は, 鉄 道 技 術 展 への 出<br />
展 や 各 鉄 道 会 社 へのプレゼンなどを 行 ってきた.その 中<br />
でお 客 様 から 得 られる 声 の 多 くが 以 下 の2 点 である.<br />
・ 脱 落 防 止 金 具 の 信 頼 性<br />
・コストアップ<br />
<br />
<br />
<br />
以 上 のマイナーチェンジにより, 信 頼 性 の 向 上 と 大 幅<br />
なコストダウンを 実 現 した. 今 後 も 顧 客 ニーズを 的 確 に<br />
捉 え, 新 製 品 開 発 および 既 存 製 品 の 改 良 に 取 り 組 んでい<br />
く 所 存 である. ( 松 川 周 平 記 )<br />
113<br />
2016 年 12 月
近 年 , 再 生 可 能 エネルギ 需 要 の 高 まりと 共 に 蓄 電 池 設<br />
備 やパワーコンディショナ 等 を 装 備 することを 目 的 とし<br />
た 設 置 型 コンテナの 需 要 が 増 えている. 太 陽 光 発 電 や 風<br />
力 発 電 などの 再 生 可 能 エネルギは, 時 間 や 天 候 の 影 響 に<br />
よる 発 電 量 の 変 動 が 大 きいことから 発 電 量 の 多 い 時 は 蓄<br />
電 池 に 貯 め, 少 ない 時 には 蓄 電 池 から 出 力 することで 電<br />
気 の 安 定 供 給 を 可 能 にし, 発 送 電 設 備 の 効 率 的 な 維 持 管<br />
理 が 可 能 となる.<br />
今 回 ,GSユアサから 受 注 製 作 した 蓄 電 池 搭 載 コンテ<br />
ナを 紹 介 する.<br />
まず,2014 年 度 にリチウムイオン 蓄 電 池 および 付 帯 設<br />
備 を 搭 載 , 運 用 することを 目 的 としたコンテナ(1 号 機 )<br />
を 受 注 した.このコンテナは,GSユアサ 京 都 本 社 敷 地<br />
内 に 設 置 し 現 在 も 展 示 , 試 験 運 用 を 行 っている.これに<br />
続 き2015 年 度 に2 号 機 ,3 号 機 を 受 注 した.この2 号 機 ,3<br />
号 機 は, 中 国 電 力 西 ノ 島 変 電 所 に 納 入 , 設 置 された.<br />
これまでも 海 上 輸 送 用 コンテナに 改 装 工 事 を 行 ったも<br />
のや 局 舎 と 呼 ばれる 製 品 は 存 在 したが, 今 回 当 社 が 製 作<br />
したコンテナは, 蓄 電 池 設 備 の 搭 載 を 目 的 に 専 用 設 計 を<br />
行 い 工 場 内 で 付 帯 設 備 を 取 り 付 け,その 状 態 での 輸 送 を<br />
可 能 とする 強 度 を 有 することで 現 地 での 工 事 を 大 幅 に 簡<br />
略 化 し 工 期 短 縮 を 実 現 した.<br />
1・コンテナ 外 法 寸 法 は, 蓄 電 池 設 備 , 付 帯 設 備 搭 載 に<br />
無 駄 のない 最 適 な 寸 法 に 設 定 している.<br />
2・ 現 地 での 配 線 作 業 ,メンテナンス 作 業 性 を 考 慮 し 床 に<br />
ケーブル 導 入 口 ,マンホールを 設 けている.<br />
3・コンテナには,2 箇 所 の 出 入 口 を 設 けている.また,<br />
出 入 口 に 設 けた 各 扉 には 高 い 耐 久 性 , 防 犯 性 を 備 えた<br />
鍵 を 備 える.<br />
4・コンテナ 壁 面 の 強 度 は, 風 速 40m/s, 地 震 力 ( 水 平 力 )<br />
1G, 積 雪 3mに 耐 えうる 構 造 である.<br />
5・ 現 地 搬 入 時 の 作 業 性 を 考 慮 しクレーンによる1 点 吊 り<br />
が 可 能 な 強 度 を 備 えている.<br />
6・ 付 帯 設 備 を 和 歌 山 事 業 所 内 で 設 置 することで, 現 地 で<br />
の 工 期 短 縮 を 実 現 している.<br />
7・ 静 電 気 による 蓄 電 池 設 備 の 破 損 防 止 を 目 的 に 帯 電 防<br />
止 床 材 を 装 備 している.<br />
8・リチウムイオン 蓄 電 池 に 最 適 な 庫 内 温 度 維 持 を 目 的<br />
に 空 調 設 備 , 吸 排 気 設 備 を 備 えている.<br />
9・ 空 調 設 備 , 吸 排 気 設 備 は 自 動 運 転 や 遠 隔 操 作 が 可 能 な<br />
システムとなっている.<br />
10・ 日 射 による 庫 内 温 度 上 昇 抑 制 のため 各 壁 面 ( 床 , 屋 根<br />
含 )に 断 熱 材 を 装 備 している.<br />
11・ 万 一 の 事 故 に 備 え 防 火 ダンパ, 避 圧 ダンパ, 煙 感 知 セ<br />
ンサ, 熱 感 知 センサ, 自 動 消 火 設 備 を 備 えている.<br />
12・ 海 浜 地 域 への 設 置 を 考 慮 し 塗 装 仕 様 は 重 防 食 仕 様 と<br />
している.<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
114
28ft 級 蓄 電 池 搭 載 設 置 型 コンテナ<br />
<br />
<br />
全 長 ・ 8550mm<br />
全 幅 ・ 2450mm<br />
全 高 ・ 2800mm<br />
内 ・・ 法 ・・ 長 ・・さ・<br />
8428mm<br />
内 ・ 法 ・ 幅 ・ 2328mm<br />
内 ・・ 法 ・・ 高 ・・さ・<br />
2489mm<br />
常 用 口 高 さ・<br />
2384mm<br />
常 ・・ 用 ・・ 口 ・・ 幅 ・<br />
1300mm<br />
非 常 口 高 さ・<br />
1800mm<br />
非 ・・ 常 ・・ 口 ・・ 幅 ・<br />
650mm<br />
床 ・ 面 ・ 積 ・ 19.62m 2<br />
コンテナ 自 量 ・<br />
5500kg<br />
積 ・・ 載 ・・ 質 ・・ 量 ・<br />
15500kg<br />
総 ・ 質 ・ 量 ・ 21000kg<br />
<br />
( 岡 成 豊 記 )<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
115<br />
2016 年 12 月
『 総 合 車 両 製 作 所 技 報 』 第 5 号 をお 届 けいたします.<br />
今 回 は 当 社 のブランド“sustina”(SUS+Sustainable)シリーズの 中 から,「<strong>S13</strong>」 車<br />
体 長 18m, 扉 数 3 扉 ,「<strong>S23</strong>」 車 体 長 20m, 扉 数 3 扉 ,および「sustina <strong>HYBRID</strong>」を <strong>特</strong> <strong>集</strong><br />
しました.<br />
今 回 ご 紹 介 した「<strong>S13</strong>」「<strong>S23</strong>」のほか,「S24]シリーズのJR 東 日 本 山 手 線 向 けE235<br />
系 量 産 車 は 現 在 製 作 中 で,いずれも 車 両 構 体 や 車 体 設 備 ,アコモデーション, 車 両 電<br />
機 品 等 の 共 通 プラットフォーム 化 を 図 り, 共 通 設 計 , 部 品 の 標 準 化 , 作 り 易 い 車 両 構 造<br />
等 で 品 質 向 上 ・ 安 定 化 ,コストダウン, 工 程 短 縮 等 を 目 指 しています.<br />
また,「sustina <strong>HYBRID</strong>」は2016 年 9 月 20 ~ 23 日 ,ドイツ・ベルリンで 開 催 された<br />
InnoTrans2016にJR 東 日 本 と 合 同 出 展 し, 鉄 道 のハイブリッド 技 術 と 車 両 を 中 心 に 世<br />
界 に 強 くアピールしました.<br />
前 号 でご 紹 介 した 初 の 海 外 版 “sustina”である「タイ,バンコクのパープルライン」<br />
は2016 年 8 月 6 日 に 営 業 開 始 し, 全 21 編 成 63 両 が 順 調 に 稼 働 しております.<br />
今 後 とも 国 内 外 顧 客 の 皆 様 のご 期 待 に 応 えられる 技 術 と 車 両 を 提 供 できるよう 努 力<br />
してまいります. 関 係 各 位 皆 様 のご 支 援 ご 鞭 撻 を 宜 しくお 願 い 致 します.<br />
取 締 役 生 産 本 部 技 術 部 長<br />
新 ・・ 井 ・・ 静 ・・ 男<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
116
MEMO<br />
<br />
委 員 長 ・ 新 井 静 男<br />
委 員 ・ ・ 小 笠 原 健 介 山 野 尚 男 滝 田 晴 之 江 上 茂 雄 荒 木 雅 之 遠 藤 知 幸 西 垣 昌 司<br />
・ 河 村 多 計 士 橋 本 克 史 長 谷 部 和 則 駒 形 敏 昭 樋 口 正 勝 久 保 田 寿 郎<br />
査 読 委 員 ・ 石 川 武 河 田 直 樹 金 原 弘 道<br />
校 正 委 員 ・ 大 塚 陽 介 加 藤 武 上 野 敦 史 金 子 貴 史 鈴 木 貴 之 石 上 圭 介<br />
表 紙 ・ 塩 野 太 郎 横 川 浩 大 斉 藤 和 彦<br />
事 務 局 長 ・ 松 岡 茂 樹<br />
事 務 局 ・ 中 島 庸 祐 西 脇 正 中 川 英 二 郎<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
2016 年 12 月<br />
株 式 会 社 総 合 車 両 製 作 所 生 産 本 部 技 術 部<br />
〒236-0043 横 浜 市 金 沢 区 大 川 3 番 1 号<br />
電 話 045(701)9753<br />
新 井 静 男<br />
技 報 第 5 号 編 <strong>集</strong> 委 員 会<br />
グランド 印 刷 株 式 会 社<br />
〒232-0044 横 浜 市 南 区 榎 町 2-55-2<br />
電 話 045(743)2201<br />
<br />
「sustina」「オクダケ」は 登 録 商 標 です。<br />
117<br />
2016 年 12 月
■ 本 社 ・ 横 浜 事 業 所 ・ 〒236-0043・ 横 浜 市 金 沢 区 大 川 3 番 1 号<br />
・ ・ TEL・045-701-5155<br />
■ 新 津 事 業 所 ・ 〒956-0032・ 新 潟 市 秋 葉 区 南 町 19 番 33 号<br />
・ ・ TEL・0250-23-4900<br />
■ 和 歌 山 事 業 所 ・ 〒649-6402・ 和 歌 山 県 紀 の 川 市 北 勢 田 770 番 地 8<br />
・ ・ TEL・0736-78-1101<br />
■ 東 京 事 務 所 ・ 〒108-0074・ 東 京 都 港 区 高 輪 二 丁 目 18 番 10 号 高 輪 泉 岳 寺 駅 前 ビル7 階<br />
・ ・ TEL・03-4334-6550<br />
■ 西 日 本 支 店 ・ 〒541-0048・ 大 阪 市 中 央 区 瓦 町 三 丁 目 4 番 15 号 瓦 町 SFビル8 階<br />
・ ・ TEL・06-6202-5424<br />
☆ホームページアドレス ㈱ 総 合 車 両 製 作 所 http://www.j-trec.co.jp/<br />
☆ 総 合 車 両 製 作 所 がお 贈 りする 鉄 道 グッズのインターネットショップ・<br />
【 電 車 市 場 楽 天 市 場 店 】 http://www.rakuten.co.jp/tetsu/<br />
総 合 車 両 製 作 所 技 報<br />
第 5 号<br />
118