Untitled - 東京大学 大学院薬学系研究科・薬学部
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3. 研究の概要<br />
(1)疾患領域別の医薬経済研究<br />
1)老人性痴呆症<br />
i) コスト推計<br />
高齢社会を迎えた我が国では、痴呆症への対応は大きな課題である。痴呆症患者は高齢者<br />
人口のおよそ 5%程度を占めるといわれている。痴呆症のなかでも主流であるアルツハイマー<br />
型痴呆に対しては治療薬が販売され、軽度および中等度の痴呆症の改善に役立っている。し<br />
かし根本的な治療法および治療薬の開発は今後の課題である。<br />
痴呆症の治療薬が開発されれば、経済的に大きなメリットがあると考えられる。痴呆症は<br />
病気の治療以外に介護の費用が多くかかる。また、痴呆症の患者本人およびケアをする家族<br />
等の労働損失としての間接費用も多いと思われる。<br />
そこで当講座では、痴呆症による費用負担を疾病費用(Cost of Illness: COI)の方法を用い<br />
て推計する研究を行っている。COI においては、費用を直接費用と間接費用とに分け、直接費<br />
用は痴呆症の患者のためにかかる医療費および介護費用、間接費用は労働損失として推計し<br />
ている。<br />
1999(平成 11)年度の患者調査と社会医療診療行為別調査、2000(平成 12)年度の介護サ<br />
ービス施設・事業所調査を用いて、痴呆の医療費用および介護費用の推計を行った。コスト<br />
の合計は約 2.5 兆円であることが明らかになった。また 2002(平成 14)年度の患者調査と社<br />
会医療診療行為別調査、2001(平成 13)年度の介護サービス施設・事業所調査を用いて、そ<br />
の経時変化を分析している(本報告書の表紙のグラフ参照)。<br />
本研究は、日本の疾病費用(Cost of Illness in Japan: CIJ)として、厚生労働省の傷病中分類<br />
(119 分類)単位への推計へと展開して、進行中である。<br />
ii) アルツハイマー治療薬による便益の推計方法<br />
アルツハイマー病に関しては現状で用いられている治療薬以外に、その発現に関連する遺<br />
伝子の探索から画期的な新規医薬品の開発が期待されている分野である。このような薬が実<br />
現した場合に得られるメリットを推計する方法を検討するために、アルツハイマー病の発生<br />
に関連する特別な遺伝子を仮定し、この遺伝子を有するかどうかの検査と、この遺伝子を有<br />
する場合に有効な仮想的薬剤に対する「支払い意思額」(Willingness to pay: WTP)の調査を、<br />
都内 A 大学病院の看護師 662 名に行い、結果を得た。発現前に特定の遺伝子を有しているか<br />
どうかを検査する方法に対する WTP の中央値は 4万円、遺伝子を有している場合に発現を抑<br />
える仮想的な薬を1ヶ月投与することに対する WTP の中央値は 20 万円だった。WTP の調査<br />
法の特性からこれらの負担は全額自己負担と仮定して質問したが、このような検査や薬が開<br />
発されれば保険で賄うべきという回答が 8 割以上であった。アルツハイマー病は QOL に影響<br />
し、医療費のみでなく介護や労働損失などの社会的負担が大きい。今回の調査から比較的高<br />
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