SPECIALISTS AND SERVICES FOR THIS AUCTION

王 の 青 銅 器 を 探 して: 藤 田 美 術 館
所 蔵 商 王 朝 期 の 青 銅 器 に 関 する 一 考 察
蘇 榮 譽 ( 中 科 院 自 然 科 學 史 研 究 所 教 授 )
童 凌 驁 (クリスティーズニューヨーク 中 国 美 術 部 門 )
青 銅 の 冶 金 技 術 の 到 来 により、 中 国 では 二 里 頭 文 化 期 ( 紀 元 前 1700–1500 年 頃 )
に 青 銅 器 を 宗 教 的 儀 礼 のために 用 いるようになった。 青 銅 祭 器 の 美 学 と 技 術 は、
商 王 朝 初 期 ( 紀 元 前 1600–1400 年 頃 )から 中 期 ( 紀 元 前 1400-1250 年 頃 )に
かけていくつかの 注 目 すべき 段 階 を 経 て 発 展 し、 殷 墟 の 時 代 ( 紀 元 前 1250-1046
年 頃 )に 最 盛 期 を 迎 え た 。 1 藤 田 美 術 館 コレクションから 出 品 される 青 銅 器 の 方 尊 、
方 罍 、 瓿 、そして 羊 形 の 觥 は、 青 銅 器 の 美 と 製 造 技 術 がまさに 絶 頂 期 を 迎 えて
いた 時 代 の 作 品 である。 最 初 に 挙 げた 三 点 の 器 種 は 殷 墟 初 期 の 様 式 と 技 術 を 代
表 する 作 例 で、 商 王 朝 の 首 都 の 遺 構 、 殷 墟 ( 現 在 の 安 陽 市 )の 洗 練 された 美 的
感 性 と 技 術 力 を 反 映 している。 一 方 、 羊 形 の 觥 は 揚 子 江 流 域 にあった 鋳 造 所 の 極
めて 稀 少 な 作 例 だ。この 地 の 顧 客 は、 空 想 上 の 生 き 物 より 実 在 の 動 物 により 強 い
関 心 を 抱 いていたのである。
こうした 精 緻 な 装 飾 が 施 された 青 銅 器 は、 先 祖 / 神 々と 王 や 貴 族 の 間 を 媒 介 する
ものとしての 役 割 を 担 っていたばかりでなく、 所 有 者 の 富 と 権 力 を 象 徴 するもので
もあった。 商 王 朝 の 青 銅 祭 器 が 装 飾 を 精 緻 化 し、 面 取 りをした 形 体 や 稜 を 装 飾
に 取 り 入 れたことは、どれも 注 文 主 の 地 位 や 趣 味 を 物 語 っている。 2 古 本 竹 書 紀
年 によると、 殷 墟 では 十 二 人 の 王 が 即 位 し、273 年 にわたってその 地 を 治 めたと
いう。このことは 主 に 甲 骨 文 によって 裏 付 けられている。1934 年 から 1935 年 の
間 に、 考 古 学 者 が 安 陽 市 西 北 岡 で 11 万 平 方 メートルの 規 模 に 及 ぶ 商 の 王 陵 を 発
見 したが、この 巨 大 な 十 字 の 形 をした 墳 墓 からはほんの 数 点 の 青 銅 器 しか 見 つか
らなかった。 早 くも 紀 元 前 11 世 紀 後 半 には、 周 の 征 服 者 によって 中 身 が 空 にさ
れていたからだ。 幸 運 にも M1004 号 墓 から 見 つかった 二 点 の 青 銅 器 の 方 鼎 は、
王 の 青 銅 器 の 壮 麗 さを 伝 えて おり( Li Ji and Wan Jiabao, Yinxu chutu qingtong
dingxingqi zhi yanjiu [Research on the Bronze Ding Vessels Unearthed from
Yinxu], Taipei, 1970, pls. 25-31 を 参 照 )、 商 の 王 た ち が 紛 れ も な く 極 上 の 青 銅 祭
器 を 所 有 していた 証 左 となっている。
考 古 学 者 が 発 見 した 例 はごく 僅 かしかないが、 伝 わっている 他 の 作 品 の 中 に 王 の
青 銅 器 が 現 存 しているということはありえるだろうか? 藤 田 美 術 館 が 所 蔵 する 商
王 朝 の 青 銅 器 の 比 類 なき 洗 練 と 精 緻 さを 見 ると、いくつかの 回 答 が 得 られるかも
し れ な い 。 ま た 、 婦 好 の 墓 か ら 発 見 さ れ た 青 銅 祭 器 が 、 王 の 青 銅 器 を 探 す に あ た っ
てひとつの 基 準 を 提 供 してくれるだろう。 3
方 尊 (ロット 523)の 鋳 造 技 術 と 精 緻 な 装 飾 の 質 の 高 さは、 安 陽 様 式 盛 期 を 代 表
するものと 言 ってよい。 同 様 の 方 尊 が 三 点 、 婦 好 墓 から 出 土 しているが、ひとつ
は 婦 好 の 銘 のある、 上 から 押 しつぶされたような 形 の 方 尊 、 残 りの 二 点 はもっと
背 の 高 い 一 対 の 方 尊 で “ 司 Qiao 母 癸 ”(Qiao は、 冠 が “ 兔 ”、 脚 が “ 丂 ”)という
銘 が 刻 まれてい る( Tomb of Lady Hao at Yinxu in Anyang, Beijing, 1980, color
pl. 8 and pl. 20 を 参 照 ; 図 1・2)。 “ 婦 好 ” と “ 司 Qiao 母 癸 ” の 銘 のある 方 尊 は、
意 匠 の 配 置 がよく 似 ており、どちらも 大 きな 饕 餮 文 が 中 央 のセクションと 下 のセク
ションの 各 面 を 占 めている。ただし、 首 の 部 分 の 装 飾 の 処 理 は 異 なっていて、“ 婦
好 ” の 方 尊 の 首 の 部 分 の 装 飾 が 平 面 的 であるのに 対 し、“ 司 Qiao 母 癸 ” の 方 尊 の
首 には、レリーフ 状 の 装 飾 が 施 されている。 両 者 の 方 尊 の 間 の 最 も 大 きな 違 いは、
肩 の 部 分 に 見 られる 犠 首 装 飾 にある。“ 司 Qiao 母 癸 ” の 方 尊 には 四 面 の 肩 のそ
れぞれの 中 央 に 動 物 の 頭 部 があって、 二 つに 別 れた 龍 の 胴 体 とつながっている。
一 方 、“ 婦 好 ” の 方 尊 は 四 つの 面 それぞれの 中 央 に 動 物 の 頭 部 が、 各 コーナーに
鳥 に 似 た 形 の 犠 首 装 飾 が 見 られる。 藤 田 美 術 館 の 方 尊 はプロポーションの 点 では
“ 司 Qiao 母 癸 ” の 方 尊 に 近 いが、 犠 首 装 飾 の 点 で “ 婦 好 ” の 方 尊 とよく 似 ている。
藤 田 美 術 館 の 方 尊 が 婦 好 墓 から 見 つかった 三 つの 作 例 と 異 なっているのは、 中
央 のセクションと 脚 の 部 分 の 双 方 に 細 い 帯 状 装 飾 が 施 されている 点 で、それによ
り 装 飾 がいっそう 複 雑 で 調 和 のとれたものになっている。 同 様 の 形 で、 鳥 と 動 物
の 装 飾 が 施 されたその 他 の 方 尊 としては、 安 陽 の 花 園 荘 東 地 M54 号 墓 から 見 つ
1 Yang Xizhang, Gao Wei ed., Zhongguo kaoguxue: Xia and Shang (Archaeology in China: Xia
and Shang Dynasties), Beijing, 2003, pp. 188, 253, and 294.
2
Yue Hongbin, Yinxu qingtong liqi yanjiu (Research on the Yinxu Bronze Ritual Vessels),
Beijing, 2006, pp. 263-268.
3 婦 好 は 商 王 朝 の 王 武 丁 ( 在 位 紀 元 前 1250〜1192 年 頃 )の 妻 のひとりで、1976 年 に 考 古 学 者
によって 墓 が 発 見 された。 墓 の 規 模 は 彼 女 の 地 位 に 対 して 控 えめなものだったが、その 中 身 は 豪
華 であった。 偶 方 彝 、 三 連 甗 、 鴞 尊 、 司 母 辛 方 鼎 のような 重 要 な 作 品 を 含 め、 重 さ1.5トンに 及 ぶ
196 点 の 青 銅 祭 器 が 見 つかった。その 鋳 造 は 見 事 で、 質 の 高 い 素 材 が 用 いられている。 特 に 優 れ
た 作 品 の 中 には 中 国 南 部 から 移 住 してきた 職 人 によって 作 られたものもある。
174 IMPORTANT CHINESE ART FROM THE FUJITA MUSEUM