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RIETI Policy Discussion Paper Series 15-P-018


RIETI Policy Discussion Paper Series 15-P-018<br />

2015 年 11 月<br />

グローバル 経 済 における 企 業 と 貿 易 政 策<br />

若 杉 隆 平 ( 新 潟 県 立 大 学 、 京 都 大 学 、 経 済 産 業 研 究 所 )<br />

要 旨<br />

世 界 経 済 が 発 展 する 中 で 日 本 企 業 は 製 造 業 だけでなく 非 製 造 業 に 至 るまで 多 様 に 国 際 化<br />

している。 企 業 がどのように 国 際 化 し、それが 雇 用 やイノベーションにどんな 影 響 を 与 え<br />

ただろうか。 貿 易 政 策 や 知 的 財 産 権 制 度 は 企 業 の 輸 出 ・ 投 資 やイノベーション、 消 費 者 利<br />

益 に 複 雑 な 影 響 を 与 える。 各 国 の 貿 易 政 策 や 制 度 の 変 化 は 相 互 に 企 業 や 消 費 者 にどんな 影<br />

響 を 与 えるだろうか。WTOの 貿 易 自 由 化 交 渉 が 停 滞 する 一 方 、 数 多 くの 地 域 経 済 協 定 が 締<br />

結 された。 協 定 の 参 加 国 が 増 え、 対 象 範 囲 が 拡 大 すると、 貿 易 、 投 資 、 賃 金 、 雇 用 、 所 得<br />

水 準 にどんな 影 響 を 与 えるだろうか。 貿 易 自 由 化 が 望 ましいと 思 われている 反 面 、 現 実 の<br />

自 由 化 には 困 難 を 伴 うのはなぜだろうか、そうした 困 難 を 克 服 するには 何 が 必 要 だろうか。<br />

研 究 期 間 直 前 に 起 きた 東 日 本 大 震 災 は 日 本 社 会 に 甚 大 な 被 害 をもたらしたが、 企 業 は 着 実<br />

に 復 興 への 道 を 歩 んだ。その 過 程 で、 何 が 震 災 復 旧 の 妨 げとなり、また、 助 けとなっただ<br />

ろうか。 企 業 の 繋 がりは 復 興 の 助 けとなっただろうか。 企 業 のネットワークの 発 展 は 貿 易<br />

投 資 にどんな 影 響 をもたらすだろうか。 国 際 貿 易 ・ 投 資 が 拡 大 する 中 国 には 特 に 注 目 すべ<br />

きである。 中 国 企 業 はどのように 国 際 化 し、 市 場 改 革 、 国 有 企 業 改 革 、 政 府 の 産 業 政 策 は、<br />

企 業 の 生 産 性 や 貿 易 投 資 にどんな 影 響 を 与 えただろうか。さらに、 国 境 を 越 える 貿 易 ・ 投<br />

資 の 取 引 にとって、 貿 易 投 資 に 関 する 法 制 度 は 重 要 である。WTOの 下 で 投 資 保 護 や 文 化 財<br />

保 護 に 関 する 法 的 枠 組 、 独 占 禁 止 法 などを 国 際 間 で 矛 盾 なく 運 用 するには 何 が 必 要 だろう<br />

か。 本 稿 では、こうした 課 題 に 理 論 ・ 実 証 面 から 取 り 組 み、エビデンスと 政 策 処 方 箋 を 提<br />

供 する。<br />

RIETI ポリシー・ディスカッション・ペーパーは、RIETI の 研 究 に 関 連 して 作 成 され、 政 策<br />

をめぐる 議 論 にタイムリーに 貢 献 することを 目 的 としています。 論 文 に 述 べられている 見 解 は<br />

執 筆 者 個 人 の 責 任 で 発 表 するものであり、 所 属 する 組 織 及 び( 独 ) 経 済 産 業 研 究 所 としての 見<br />

解 を 示 すものではありません。<br />

1


1 はじめに<br />

貿 易 投 資 プログラムの 研 究 が 行 われた 期 間 (2011 年 度 ~2015 年 度 において, 貿 易 ・ 投 資<br />

は 大 きく 変 化 した. 日 本 企 業 はそれまで 以 上 に 活 発 に 国 際 化 ( 輸 出 や 海 外 生 産 )しており,<br />

その 範 囲 は 製 造 業 だけでなく 卸 売 業 ・サービス 業 , 大 都 市 に 立 地 する 企 業 だけでなく 地 方<br />

に 立 地 する 企 業 , 大 企 業 だけでなく 中 小 企 業 にまで 及 んでいる. 日 本 企 業 の 国 際 化 はどの<br />

ように 変 化 しつつあるだろうか. 拡 大 する 企 業 の 国 際 化 が, 賃 金 や 雇 用 構 造 , 特 に 正 規 と<br />

非 正 規 の 雇 用 構 造 , 研 究 開 発 のグローバル 化 にどのような 影 響 を 与 えているだろうか.ま<br />

た,グローバルな 市 場 での 国 ごとの 政 策 や 制 度 の 違 いは 貿 易 , 企 業 の 直 接 投 資 やイノベー<br />

ション, 消 費 者 利 益 に 複 雑 な 影 響 を 与 える. 知 的 財 産 権 の 保 護 が 国 ごとに 異 なることはそ<br />

の 例 であろう. 貿 易 ・ 産 業 政 策 を 実 施 する 際 には, 政 策 や 制 度 の 変 化 が 企 業 や 市 場 に 与 え<br />

る 複 雑 な 効 果 をあらかじめ 予 測 しておくことが 必 要 である.<br />

第 三 期 中 期 計 画 期 間 において,WTOにおける 貿 易 自 由 化 交 渉 が 停 滞 したことを 背 景 に,<br />

数 多 くの 自 由 貿 易 協 定 ・ 地 域 経 済 連 携 協 定 が 締 結 された. 日 本 はその 交 渉 に 積 極 的 に 参 加<br />

した. 自 由 貿 易 協 定 への 参 加 国 が 拡 大 し, 自 由 化 の 対 象 範 囲 が 拡 大 することは, 貿 易 だけ<br />

でなく, 直 接 投 資 , 賃 金 , 労 働 条 件 , 所 得 水 準 にどのような 利 益 ・ 不 利 益 をもたらすだろ<br />

うか,また, 一 般 に 貿 易 自 由 化 が 望 ましいことに 多 くの 人 々が 賛 同 するにもかかわらず,<br />

実 際 の 自 由 化 の 決 定 をするとなると, 合 意 形 成 に 大 きな 困 難 を 伴 うのはどうしてだろうか.<br />

そうした 困 難 を 乗 り 越 えるには 何 が 求 められるだろうか.こうしたことを 明 らかにしてお<br />

くことは 貿 易 政 策 を 形 成 する 上 で 不 可 欠 である.<br />

2011 年 3 月 の 東 日 本 大 震 災 が 日 本 の 社 会 や 経 済 に 与 えたダメージは 大 きかった.そうした<br />

中 にあって, 日 本 企 業 は 果 敢 に 復 興 への 道 を 歩 んでいる. 電 力 供 給 ,サプライ・チェーン<br />

の 寸 断 など 震 災 復 旧 の 妨 げとなった 要 因 ,また,その 後 の 復 興 に 助 けとなった 要 因 は 何 だ<br />

ったろうか. 人 と 人 との 繋 がりが 重 要 であったのと 同 じように, 企 業 間 のつながり(ネッ<br />

ト―ワーク)が 復 興 にどのように 助 けとなっただろうか. 震 災 復 興 の 過 程 で 注 目 された 企 業<br />

ネット―ワークの 存 在 に 研 究 の 関 心 が 集 まっている.ネットワークの 存 在 は 企 業 の 貿 易 投 資<br />

の 発 展 にどのような 影 響 をもたらしているだろうか.<br />

リーマンショックから 立 ち 直 り, 世 界 の 貿 易 ・ 投 資 は 拡 大 してきたが, 中 国 の 貿 易 ・ 投<br />

資 の 拡 大 はとりわけ 注 目 すべきである. 貿 易 額 で 世 界 第 1 位 , 米 国 に 次 ぐ 経 済 規 模 となった<br />

中 国 経 済 の 変 化 は 日 本 の 貿 易 投 資 に 直 接 的 に 関 係 する. 中 国 企 業 はどのように 国 際 化 しつ<br />

つあるだろうか,WTO 加 盟 後 の 中 国 の 市 場 改 革 , 国 有 企 業 改 革 ,イノベーションを 促 そう<br />

とする 中 央 ・ 地 方 政 府 の 産 業 政 策 は, 中 国 企 業 の 生 産 性 や 貿 易 投 資 にどのような 影 響 を 与<br />

えているだろうか.<br />

2


いかなる 経 済 取 引 にもルールが 必 要 であるが, 貿 易 ・ 投 資 は 異 なる 国 と 国 との 間 での 取<br />

引 であるため, 共 通 のルールは 特 に 重 要 である.さらに 国 際 取 引 で 紛 争 が 生 じた 場 合 の 解<br />

決 は, 一 国 内 よりも 遙 かに 解 決 しにくく, 決 着 は 国 際 法 にゆだられる.このため, 貿 易 投<br />

資 に 関 する 国 際 法 は 特 に 重 要 である.WTOはその 中 で 基 盤 をなすものであるが,その 他 に<br />

も 投 資 保 護 や 文 化 財 保 護 に 関 する 法 的 枠 組 ,さらには 独 占 禁 止 法 の 競 争 ルールがある.そ<br />

れぞれの 分 野 の 法 的 枠 組 と 運 用 が,WTOの 規 定 と 矛 盾 なく, 国 際 的 に 調 和 あるものとする<br />

にはどのようなことが 求 められるだろうか.<br />

貿 易 ・ 投 資 プログラムは, 以 上 のような 極 めて 幅 広 い 課 題 を 対 象 として, 理 論 ・ 実 証 ・<br />

政 策 分 析 の 側 面 から 取 り 組 み, 分 析 によって 明 らかになった 内 容 を 提 示 するとともに, 政<br />

策 への 処 方 箋 とそのためのエビデンスを 提 供 することを 目 的 として 行 われた. 得 られた 研<br />

究 成 果 のすべてを 紹 介 することは 紙 幅 の 制 約 から 不 可 能 であるが, 以 下 では2015 年 夏 まで<br />

の 間 にまとめられた 研 究 成 果 のうちで 注 目 すべきものをできる 限 り 数 多 く 紹 介 したい.<br />

2 企 業 の 国 際 化 と 成 長<br />

2.1 企 業 の 国 際 化 と 多 様 性<br />

日 本 企 業 の 国 際 化 ( 輸 出 ・ 海 外 直 接 投 資 )は,RIETI 第 二 期 中 期 計 画 (2006~2010 年 度 )<br />

における 貿 易 ・ 直 接 投 資 プロジェクトの 主 要 研 究 テーマの 一 つであり, 理 論 分 析 と 企 業 レ<br />

ベルデータを 用 いた 実 証 分 析 を 通 じて 多 くの 知 見 が 蓄 積 されてきた 1 .ただし,これまでの<br />

研 究 においては, 一 定 規 模 以 上 の 製 造 業 企 業 を 対 象 に 分 析 が 行 われてきたが 非 製 造 業 や 中<br />

小 企 業 に 関 する 分 析 は 十 分 ではなく, 広 範 な 産 業 ・ 企 業 の 国 際 化 に 関 する 研 究 が 求 められ<br />

てきた.<br />

企 業 の 国 際 化 は 他 の 条 件 が 等 しければ 生 産 性 の 差 異 によって 説 明 されることがよく 知 ら<br />

れているが, 産 業 間 の 異 質 性 も 無 視 することはできない.たとえば, 宣 伝 広 告 費 売 上 高 比<br />

率 や 販 促 費 ,マーケティングコストが 産 業 間 で 異 なれば, 輸 出 に 伴 う 費 用 は 産 業 により 大<br />

きく 異 なるからである.Akerman et al.(2013)は, 日 本 に 輸 出 するスウェーデン 企 業 の 生 産<br />

性 の 分 布 を, 広 告 宣 伝 集 約 度 や 販 売 促 進 費 集 約 度 の 高 いセクターと 低 いセクターとで 区 分<br />

し,これらの 集 約 度 の 高 い 産 業 の 生 産 性 分 布 が 低 い 産 業 の 生 産 性 分 布 を 有 意 に 上 回 ってい<br />

ることを 示 した.このことは, 企 業 の 輸 出 には 関 税 などの 貿 易 障 壁 だけでなく 広 告 宣 伝 や<br />

販 売 促 進 費 用 が 重 要 であることを 明 らかにしている. 海 外 市 場 に 浸 透 しにくい 産 業 には 多<br />

くの 宣 伝 広 告 や 販 売 促 進 費 を 要 するため,そのような 産 業 に 支 援 策 を 講 じても 企 業 の 輸 出<br />

には 結 びつきにくいことを 示 唆 している.<br />

1 概 略 は, 藤 田 ・ 若 杉 (2011)を 参 照 .<br />

3


総 合 商 社 をはじめとする 卸 売 企 業 が 貿 易 の 拡 大 に 大 きな 役 割 を 果 たすことが 広 く 認 識 さ<br />

れているにもかかわらず,これまで 卸 売 企 業 の 輸 出 行 動 の 分 析 は 十 分 に 行 われてこなかっ<br />

た.Tanaka(2013a)は,『 企 業 活 動 基 本 調 査 』の 企 業 レベルデータを 用 いた 分 析 から, 卸<br />

売 企 業 は 輸 出 総 額 の2 割 以 上 を 占 めること, 卸 売 業 では, 上 位 1%の 輸 出 企 業 が 輸 出 の3 分 の<br />

2を 占 め, 輸 出 企 業 が 非 輸 出 企 業 よりも 生 産 性 が 高 いこと, 海 外 子 会 社 を 持 つ 輸 出 企 業 の 方<br />

が,1 社 当 たりの 輸 出 額 , 輸 出 比 率 ともに 大 きいだけでなく, 輸 出 の 外 延 ( 輸 出 先 数 ・ 輸 出<br />

品 目 数 )が 大 きく, 生 産 性 が 高 い 傾 向 にあることを 明 らかにした. 海 外 子 会 社 のネットワ<br />

ークを 有 し, 輸 出 活 動 を 展 開 する 卸 売 企 業 が 日 本 の 貿 易 拡 大 にとって 依 然 として 重 要 であ<br />

る.<br />

輸 出 企 業 と 非 輸 出 企 業 とは 生 産 性 の 差 異 によって 区 分 されることが 知 られているが, 企<br />

業 が 立 地 する 地 域 によって 輸 出 企 業 の 生 産 性 プレミアムが 異 なることはないだろうか.<br />

Okubo・Tomiura(2013)は, 日 本 企 業 のミクロデータから 地 域 間 格 差 に 関 する 分 析 をし,<br />

東 京 や 大 阪 といった 大 都 市 圏 から 離 れれば 離 れるほど 輸 出 企 業 と 非 輸 出 企 業 との 生 産 性 分<br />

布 に 顕 著 な 開 きが 見 られること, 東 京 都 や 大 阪 府 では 輸 出 企 業 と 非 輸 出 企 業 の 間 で 生 産 性<br />

分 布 が 非 常 に 似 通 っており,さらには 東 京 23 区 内 や 大 阪 市 内 では 輸 出 企 業 と 非 輸 出 企 業 と<br />

の 間 で 生 産 性 分 布 にほとんど 差 がなくなることを 発 見 した.このことは, 物 流 が 整 備 され<br />

情 報 の 多 い 都 市 部 では 生 産 性 の 低 い 企 業 でも 容 易 に 輸 出 できるが,そうでない 地 方 では 生<br />

産 性 が 十 分 に 高 い 企 業 でしか 輸 出 できないことを 物 語 っている.このことは, 都 心 部 にお<br />

けるインフラ 改 良 や 整 備 や 物 流 網 の 整 備 , 情 報 サービスの 充 実 がそこに 立 地 する 中 小 企 業<br />

やポテンシャルのある 臥 龍 企 業 の 輸 出 を 後 押 しし, 新 規 参 入 を 促 進 し, 経 済 を 活 性 化 する<br />

ことを 意 味 する. 地 元 市 場 が 小 さく, 少 子 化 や 過 疎 化 が 進 んでいる 地 域 に 立 地 する 企 業 に<br />

とっては 海 外 市 場 への 展 開 はなおさら 重 要 である.この 地 域 での 企 業 の 国 際 化 を 支 援 する<br />

ために, 都 市 部 に 劣 らぬインフラや 物 流 システムの 構 築 , 情 報 へのアクセスの 整 備 が 政 策<br />

課 題 となる.<br />

近 年 , 企 業 の 海 外 直 接 投 資 は 輸 出 プラットフォーム, 垂 直 的 分 業 ,フラグメンテーショ<br />

ン,アウトソーシング,タスクトレードなどの 様 々な 形 態 に 変 容 している. 以 前 は, 直 接<br />

投 資 を 水 平 的 と 垂 直 的 に 区 分 して 捉 えた 研 究 がなされていたが, 近 年 の 多 様 な 直 接 投 資 を<br />

捉 えるには 十 分 ではない.Baldwin・Okubo(2012)は, 直 接 投 資 を 調 達 軸 ( 海 外 子 会 社<br />

が 現 地 調 達 するか 他 の 国 から 輸 入 するか)と 販 売 軸 ( 生 産 された 製 品 を 輸 出 するか 現 地 販<br />

売 するか)の2 軸 によって 統 合 的 に 理 解 しようとした.これにより, 日 本 の 直 接 投 資 は2000<br />

代 半 ばにはネットワークFDI( 本 国 と 直 接 投 資 先 のホスト 国 間 での 事 業 活 動 ではなく, 第 三<br />

国 ( 近 隣 諸 国 )をも 含 めた 直 接 投 資 による 事 業 活 動 ), 特 に, 機 械 産 業 におけるアジアや 欧 州<br />

4


でのネットワークFDIが 増 えていることが 明 らかになった.こうしたファインディングスは<br />

, 日 本 企 業 の 直 接 投 資 を2 国 間 の 視 点 でなくアジア 地 域 における 生 産 ネットワークのハブと<br />

なることを 想 定 して,それに 対 応 する 政 策 課 題 を 考 えることが 必 要 であることを 示 唆 する.<br />

企 業 が 国 際 化 するにつれて 海 外 での 事 業 収 益 に 対 する 課 税 がいかにあるべきかが 重 要 な<br />

課 題 となる. 日 本 の 法 人 所 得 に 関 する 国 際 課 税 制 度 は,2008 年 度 までは 全 世 界 所 得 課 税 方<br />

式 を 採 用 していたが,この 方 式 では, 日 本 の 多 国 籍 企 業 が 海 外 で 得 た 利 益 を 国 内 に 還 流 せ<br />

ずに, 国 外 に 蓄 積 する 傾 向 となることが 指 摘 されてきた. 実 際 , 海 外 現 地 法 人 の 内 部 留 保<br />

の 総 額 は 増 加 の 一 途 をたどっており,2006 年 時 点 で 約 17 兆 円 に 達 すると 推 計 された. 税 制<br />

により 生 ずる 収 益 の 海 外 滞 留 のバイアスを 取 り 除 くため,2009 年 度 税 制 改 正 において 内 国<br />

法 人 が 海 外 子 会 社 から 受 け 取 る 配 当 金 を 一 定 の 条 件 のもとで 非 課 税 ( 益 金 不 算 入 )とする<br />

国 外 所 得 免 除 方 式 を 導 入 した. 長 谷 川 ・ 清 田 (2015)は,こうした 税 制 の 変 更 が 海 外 子 会<br />

社 の 配 当 送 金 に 与 えた 影 響 を 分 析 し, 内 部 留 保 残 高 が 十 分 に 大 きい 子 会 社 は, 他 の 子 会 社<br />

よりも 税 制 改 正 に 強 く 反 応 し, 配 当 送 金 ( 売 上 高 比 )を 増 加 させたこと,また, 税 制 改 正<br />

後 の 配 当 送 金 が 投 資 先 国 の 配 当 源 泉 税 率 に 対 して 感 応 的 になったことを 示 した. 国 外 所 得<br />

免 除 方 式 の 導 入 に 際 して 移 転 価 格 を 利 用 した 租 税 回 避 行 動 が 増 加 することが 懸 念 されたが,<br />

低 税 率 国 への 所 得 移 転 が 拡 大 し, 低 税 率 国 の 子 会 社 がその 他 の 子 会 社 よりも 配 当 送 金 を 増<br />

加 させるという 傾 向 は 見 られなかった.こうしたことから, 税 制 改 正 には 海 外 に 蓄 積 され<br />

た 多 国 籍 企 業 の 利 益 還 流 を 促 進 するという 政 策 目 的 を 達 成 する 効 果 があったと 判 断 される.<br />

2.2 企 業 の 国 際 化 と 雇 用<br />

企 業 の 国 際 化 が 近 年 の 雇 用 構 造 の 変 化 ,とりわけ 正 規 雇 用 者 に 対 する 非 正 規 雇 用 者 の 増<br />

加 にどのような 影 響 を 与 えるかは, 注 目 すべき 研 究 課 題 である.2000 年 から2007 年 にかけ<br />

ての 非 正 規 従 業 者 は 年 平 均 3% 程 度 で 増 加 した.しかし,リーマンショック 後 , 輸 出 の 急 激<br />

な 減 少 とともに, 非 正 規 労 働 者 の 解 雇 が 相 次 ぎ, 工 業 統 計 ( 経 済 産 業 省 )の 従 業 員 4 人 以 上<br />

の 事 業 所 の 従 業 者 を 基 にすると10 万 人 近 い 非 正 規 従 業 者 が 離 職 している.こうした 製 造 業<br />

の 非 正 規 雇 用 者 の 増 減 パターンは, 輸 出 の 変 動 パターンと 連 動 していたため, 製 造 業 の 外<br />

需 依 存 の 高 まりが 非 正 規 雇 用 の 拡 大 を 通 じて, 雇 用 構 造 に 変 化 をもたらしたとの 意 見 が 述<br />

べられてきた.しかし,この 点 に 関 しては 十 分 なエビデンスが 必 要 であろう.<br />

Tanaka(2012a)は, 企 業 レベルミクロデータを 用 いて 日 本 企 業 の 輸 出 が 効 用 構 造 に 与 え<br />

た 効 果 を 分 析 した. 分 析 の 結 果 は, 輸 出 が 雇 用 を 増 加 する 効 果 は 製 造 業 において 確 認 され<br />

るが, 卸 売 業 においては 確 認 されないこと, 特 に, 製 造 業 の 輸 出 開 始 後 3 年 間 は 雇 用 成 長 率<br />

を4~6% 程 度 押 し 上 げること, 一 部 の 製 造 業 企 業 に 限 っては 輸 出 が 派 遣 労 働 者 の 比 率 を 高 め<br />

5


る 効 果 が 見 られるが,それ 以 外 の 製 造 業 ・ 卸 売 業 では 輸 出 が 非 正 規 雇 用 比 率 を 高 める 効 果<br />

はほとんどないことを 示 している.この 分 析 結 果 からは, 輸 出 が 非 正 規 労 働 者 の 拡 大 の 主<br />

たる 要 因 とは 言 い 切 れない.<br />

輸 出 が 非 正 規 雇 用 拡 大 の 原 因 でないとすれば,どのような 需 要 変 化 が 非 正 規 雇 用 を 拡 大<br />

したのだろうか.この 検 証 には, 輸 出 の 拡 大 が 需 要 の 不 確 実 性 ( 売 上 成 長 率 の 変 動 )を 拡 大 す<br />

ることを 通 じて 非 正 規 雇 用 を 拡 大 するのか 否 かを 明 らかにする 必 要 がある.Matsuura(<br />

2013)は, 日 本 企 業 データを 用 いた 実 証 分 析 から, 輸 出 シェアの 変 化 と 売 上 総 額 の 変 動 は<br />

非 線 形 の 関 係 を 有 し, 輸 出 シェアの 大 きな 企 業 でのみ 売 上 総 額 の 変 動 ( 需 要 の 不 確 実 性 )<br />

の 拡 大 がみられることを 明 らかにした.また, 輸 出 シェアの 拡 大 が 売 上 総 額 の 変 動 を 拡 大<br />

させ,それが 派 遣 従 業 者 比 率 を 拡 大 させるインパクトがどの 程 度 であったかを 計 測 した 結<br />

果 , 輸 出 シェアの 拡 大 で 説 明 される 売 上 変 動 の 変 化 は 実 際 の 変 化 幅 の12%, 売 上 変 動 の 変 化<br />

で 説 明 される 派 遣 従 業 者 比 率 の 変 化 は 実 際 の 変 化 幅 の0.4%と 極 めて 小 さいことが 明 らかと<br />

なった.ここからは, 輸 出 シェアの 拡 大 は, 売 上 総 額 の 変 動 の 拡 大 を 通 じて, 派 遣 従 業 者<br />

比 率 を 拡 大 させるというメカニズムは 存 在 するものの,そのインパクトは 小 さいことが 読<br />

み 取 れる. 非 正 規 雇 用 比 率 の 増 加 が 企 業 の 国 際 化 によるとするエビデンスは 乏 しいと 言 わ<br />

ねばならない.<br />

企 業 の 海 外 進 出 は 企 業 内 の 国 際 分 業 を 促 し, 生 産 性 を 改 善 し, 成 長 を 促 すことから, 海<br />

外 に 進 出 していない 企 業 と 比 べて 海 外 進 出 企 業 が 雇 用 を 大 きく 削 減 しているとはいえない<br />

ことが 近 年 の 研 究 で 明 らかになっている.ただし, 海 外 直 接 投 資 により 生 産 性 改 善 効 果 が<br />

見 込 め,「 空 洞 化 の 懸 念 」が 当 てはまらないとするならば,どのような 海 外 直 接 投 資 に 生 産<br />

性 改 善 効 果 がみられるのだろうか.こうした 海 外 直 接 投 資 と 企 業 パフォーマンスの 関 係 を<br />

正 確 に 分 析 するには, 海 外 直 接 投 資 を 行 う 企 業 の 多 くが 元 々 成 長 余 力 のある 企 業 である 可<br />

能 性 があるという 同 時 性 バイアスの 存 在 を 考 慮 した 上 で 分 析 を 行 わねばならない.<br />

Matsuura(2015)は, 自 動 車 部 品 製 造 業 企 業 の 海 外 直 接 投 資 が 企 業 パフォーマンスに 及 ぼ<br />

す 影 響 を, 直 接 投 資 の 外 延 ( 企 業 の 海 外 拠 点 の 開 設 ,あるいは 新 規 の 投 資 国 への 進 出 の 影<br />

響 )と, 内 延 ( 海 外 拠 点 における 生 産 規 模 拡 大 の 影 響 )に 分 けて 分 析 し, 新 規 の 海 外 投 資<br />

や 新 しい 投 資 国 における 生 産 拠 点 の 開 設 は, 国 内 における 売 上 成 長 率 や 雇 用 成 長 率 , 全 要<br />

素 生 産 性 (TFP) 変 化 率 を 下 支 えし, 改 善 させること, 特 に, 企 業 の 最 初 の 海 外 進 出 時 点<br />

においてパフォーマンスの 改 善 効 果 が 大 きいこと, 既 存 の 海 外 生 産 拠 点 の 規 模 の 拡 大 によ<br />

る 雇 用 や 生 産 性 への 改 善 効 果 は 明 瞭 ではないことを 明 らかにしている.こうした 結 果 は,<br />

企 業 の 海 外 進 出 を 促 進 する 政 策 により 国 内 の 生 産 活 動 が 縮 小 することに 必 ずしもつながら<br />

6


ず,むしろ, 新 規 の 海 外 拠 点 開 設 に 伴 って, 企 業 は 国 内 の 事 業 を 見 直 し,その 結 果 として<br />

企 業 パフォーマンスが 改 善 することを 示 唆 する.<br />

製 造 業 企 業 の 海 外 生 産 が 国 内 雇 用 を 減 らすことを 示 すエビデンスは 示 されなかったが,<br />

卸 売 業 ・サービス 業 の 海 外 事 業 展 開 は 雇 用 にどのような 影 響 をもたらすだろうか.この 点<br />

についてTanaka(2012b)は, 製 造 業 のみならず 卸 売 業 ・サービス 業 においても 海 外 展 開<br />

は, 売 上 高 を 増 加 し, 国 内 の 雇 用 成 長 率 を 高 めていることを 確 認 している.<br />

中 小 企 業 の 国 際 化 が 国 内 雇 用 の 減 少 や 経 済 の 空 洞 化 に 結 びついていると 懸 念 が 示 されて<br />

いることから, 中 小 企 業 国 際 化 の 影 響 については 特 に 注 目 を 要 する. 戸 堂 (2012)は, 中<br />

小 企 業 庁 のデータをもとに 分 析 し, 海 外 直 接 投 資 ・ 海 外 業 務 委 託 を 行 っている 中 小 零 細 企<br />

業 の 方 が, 国 内 にとどまっている 企 業 よりも 平 均 的 には 雇 用 を 伸 ばしており, 海 外 進 出 に<br />

よる 空 洞 化 は 生 じていないことを 指 摘 する. 海 外 進 出 することによって, 国 内 工 場 が 閉 鎖<br />

されるなどして 国 内 雇 用 が 減 る 可 能 性 はあるものの, 他 方 では, 技 能 集 約 的 な 業 務 ,たと<br />

えば 高 付 加 価 値 製 品 の 生 産 , 経 営 管 理 , 製 品 開 発 ,デザイン,マーケティングに 特 化 し,<br />

競 争 力 を 増 し,そのような 業 務 に 対 する 雇 用 も 増 えることで, 空 洞 化 が 起 こっていないと<br />

考 えられるからである. 実 際 に, 雇 用 量 全 体 は 海 外 進 出 によっては 変 化 しないが, 海 外 進<br />

出 することで 従 業 員 の 大 卒 比 率 は 格 段 に 増 えている. 中 小 企 業 が 国 際 化 することに 伴 って<br />

高 度 人 材 に 対 する 需 要 も 増 加 するので, 企 業 の 国 際 化 は 人 材 の 高 度 化 とセットで 進 める 必<br />

要 があることを 示 唆 している.<br />

2.3 企 業 の 国 際 化 と 研 究 開 発<br />

国 際 化 企 業 と 非 国 際 化 企 業 での 生 産 性 の 違 いは, 企 業 のR&D 戦 略 の 違 いに 起 因 するこ<br />

とはないであろうか.これまで 生 産 性 の 向 上 と 輸 出 の 関 係 をR&D 投 資 と 関 連 づける 研 究 は<br />

なされているが, 企 業 の 研 究 開 発 戦 略 にまで 立 ち 入 った 研 究 はまだ 見 られない.Ito・Tanaka<br />

(2012)は 企 業 のR&D 戦 略 を(1) 内 部 R&D,(2) 外 部 R&D,(3) 内 部 R&Dと 外 部 R&D<br />

の3つに 区 分 して,R&D 戦 略 の 違 いが 輸 出 の 可 能 性 に 与 える 効 果 を 分 析 した. 分 析 の 結 果 は<br />

, 非 輸 出 企 業 と 輸 出 企 業 ともにR&D 活 動 に 従 事 している 企 業 ほど 生 産 性 が 高 いことに 加 え,<br />

内 部 R&Dと 外 部 R&D 戦 略 を 同 時 に 採 用 している 企 業 の 生 産 性 が 最 も 高 いことを 明 らかに<br />

している.また, 外 部 のR&Dリソースを 活 用 したオープン・イノベーション 戦 略 は 自 社 内<br />

R&D 活 動 と 代 替 的 でなく, 補 完 的 な 関 係 にあり, 両 者 の 組 み 合 わせが 企 業 の 国 際 化 を 促 す<br />

上 で 重 要 な 役 割 を 果 たすことを 示 している.<br />

海 外 直 接 投 資 先 国 における 現 地 企 業 のイノベーションが 海 外 投 資 子 会 社 のホスト 国 内 で<br />

の 取 引 ・ 本 国 との 取 引 ・ 第 三 国 との 取 引 にどのような 影 響 を 与 えるであろうか.Jinji・Zhang<br />

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(2013)は, 日 系 海 外 現 地 法 人 のホスト 国 でのイノベーションが 海 外 現 地 法 人 による 取 引<br />

( 仕 入 れ・ 売 り 上 げ)に 与 える 影 響 を 分 析 し, 現 地 企 業 のイノベーションの 活 発 化 は,ホ<br />

スト 国 がアジアの 場 合 にはホスト 国 内 の 取 引 を 拡 大 するのに 対 して,ホスト 国 が 米 国 や 欧<br />

州 の 場 合 にはホスト 国 と 日 本 との 取 引 関 係 を 拡 大 する 傾 向 にあることを 明 らかにした.<br />

3 グローバル 企 業 のイノベーションと 貿 易 ・ 産 業 政 策<br />

3.1 イノベーションと 知 的 財 産 権 の 保 護<br />

特 許 制 度 をはじめとする 知 的 財 産 権 制 度 は, 発 明 や 新 技 術 の 開 発 に 基 づく 製 品 の 製 造 ・<br />

販 売 に 独 占 権 を 与 えることによって 金 銭 的 インセンティブを 与 え, 発 明 や 技 術 開 発 を 促 す<br />

効 果 と 特 許 に 登 録 された 技 術 を 広 く 公 開 することによって,さらなる 発 明 や 技 術 開 発 を 促<br />

進 する 効 果 がある. 特 許 制 度 をはじめとする 知 的 財 産 権 の 保 護 が 企 業 の 国 際 化 に 与 える 影<br />

響 は 様 々な 面 から 検 証 する 必 要 がある. 高 い 技 術 を 持 つ 企 業 が 低 い 技 術 水 準 の 国 に 直 接 投<br />

資 を 行 うべきかどうかは, 直 接 投 資 の 結 果 , 投 資 国 企 業 の 中 間 財 価 格 が 低 下 する 利 益 と 現<br />

地 企 業 に 優 れた 生 産 技 術 がスピルオーバーすることによって 生 ずる 不 利 益 とによって 影 響<br />

される.このようなことを 想 定 して,Ishikawa・Horiuchi(2012)は, 生 産 技 術 のスピル<br />

オーバーや 知 的 財 産 権 の 保 護 が 直 接 投 資 の 誘 因 にどのように 影 響 するかを 理 論 的 に 分 析 し<br />

た. 分 析 の 結 果 , 現 地 企 業 の 技 術 吸 収 能 力 があまり 高 くなければ, 投 資 国 企 業 は 直 接 投 資<br />

によって 利 益 を 得 ることがあり, 吸 収 能 力 如 何 によっては, 直 接 投 資 がすべての 企 業 と 消<br />

費 者 に 便 益 をもたらすこともあり 得 ることを 示 した. 通 常 , 直 接 投 資 は 生 産 技 術 のスピル<br />

オーバーを 伴 うので, 知 的 財 産 保 護 水 準 が 高 い 方 が 直 接 投 資 の 誘 因 を 高 めると 考 えられる<br />

が, 投 資 先 国 での 知 的 財 産 保 護 水 準 が 高 いと 投 資 先 での 企 業 の 参 入 が 妨 げられるので, 投<br />

資 元 企 業 は 直 接 投 資 による 便 益 を 受 けない.また, 知 的 財 産 保 護 水 準 が 低 いと 生 産 技 術 の<br />

大 幅 なスピルオーバーを 伴 うので, 投 資 元 企 業 に 不 利 益 をもたらす.こうしたことから,<br />

現 地 の 知 的 財 産 保 護 水 準 が 低 過 ぎても 高 過 ぎても 企 業 は 直 接 投 資 に 誘 因 を 持 たない.また,<br />

現 地 の 知 的 財 産 保 護 水 準 があまりにも 高 すぎると, 中 間 財 企 業 の 価 格 付 けによっては 現 地<br />

企 業 が 市 場 からの 退 出 を 余 儀 なくされるので, 直 接 投 資 によって 投 資 受 入 国 は 不 利 益 を 被<br />

る.このことは, 知 的 財 産 保 護 水 準 が 高 ければ 高 いほど 投 資 受 入 国 に 直 接 投 資 を 呼 び 込 み<br />

経 済 厚 生 を 高 め, 投 資 国 企 業 の 利 益 になるというわけではないことを 示 している.<br />

企 業 は, 新 技 術 を 取 り 入 れるコストを 小 さくする 上 では 新 技 術 の 採 用 をなるべく 遅 くし<br />

たい 一 方 , 新 技 術 による 財 の 販 売 から 得 られる 利 益 を 大 きくする 上 ではなるべく 早 く 技 術<br />

を 採 用 したいと 考 える. 企 業 が 新 技 術 を 取 り 入 れる 最 適 なタイミングは,グローバルな 市<br />

場 において 競 争 相 手 企 業 とどのような 条 件 で 競 争 するかによって 影 響 を 受 けるであろう.<br />

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Mukunoki(2013a)は, 直 接 投 資 の 自 由 化 が 現 地 生 産 する 企 業 の 新 技 術 を 取 り 入 れるタイ<br />

ミングにどのような 影 響 を 与 えるかを 理 論 的 に 分 析 した. 分 析 の 結 果 から, 直 接 投 資 の 自<br />

由 化 は, 自 社 だけでなく 競 争 相 手 の 直 接 投 資 も 促 すため, 自 社 が 新 技 術 を 取 り 入 れること<br />

による 利 益 を 低 下 させ, 自 社 の 新 技 術 の 採 用 が 遅 れる 可 能 性 があること,ただし, 直 接 投<br />

資 の 自 由 化 が 直 接 投 資 コストをどの 程 度 低 下 させるかによって, 新 技 術 の 採 用 のタイミン<br />

グが 異 なることを 示 した.このことから, 輸 入 関 税 引 き 下 げや 対 内 直 接 投 資 の 自 由 化 を 通<br />

じた 市 場 アクセスの 改 善 は, 自 社 と 競 争 相 手 企 業 の 間 で 技 術 ギャップがある 時 には 先 進 企<br />

業 の 優 位 性 を 高 め, 後 進 企 業 の 技 術 採 用 のインセンティブを 低 下 させてしまうことが 示 さ<br />

れる. 後 進 企 業 が 新 技 術 を 採 用 するインセンティブを 高 めるには, 技 術 採 用 後 に 自 由 化 を<br />

行 うという 段 階 的 アプローチや 2 国 間 投 資 協 定 , 途 上 国 に 対 する 一 般 特 恵 関 税 の 適 用 や 自<br />

由 貿 易 協 定 や 関 税 同 盟 などの 特 恵 的 な 貿 易 自 由 化 が 効 果 的 であることを 示 唆 している.<br />

特 許 などの 知 的 財 産 権 (IPRs)の 法 的 保 護 は, 国 によって 大 きく 異 なる. 技 術 革 新 と 新<br />

商 品 創 出 が 活 発 で, 所 得 が 高 い 国 は, 日 用 品 ・ 雑 貨 などの 消 費 財 を 生 産 する 低 所 得 国 と 比<br />

較 して, 手 厚 い 知 的 財 産 権 の 保 護 を 選 好 する.しかし,WTO の TRIPS 協 定 が 成 立 した 1995<br />

年 以 降 は, 発 展 途 上 国 においても 特 許 保 護 の 強 化 が 求 められている.この 結 果 , 低 所 得 国<br />

と 中 所 得 国 のグループでも 特 許 保 護 が 進 んできた.Maskus・Yang(2013)は,こうした<br />

特 許 制 度 改 革 が 対 米 国 への 工 業 品 の 輸 出 に 有 効 であるか 否 かを 検 証 し, 特 許 権 の 強 化 が 特<br />

許 集 約 的 な 製 品 の 輸 出 の 増 加 に 対 して 有 意 に 正 の 影 響 を 与 え,TRIPS 前 と TRIPS 後 にサン<br />

プルの 期 間 を 分 けると, 特 許 権 と 輸 出 との 関 係 は TRIPS 後 に 急 激 に 高 まっていること, 発<br />

展 途 上 国 に 関 しては 特 許 権 の 強 化 が 輸 出 スタンスに 与 える 影 響 は 特 許 制 度 改 革 の 導 入 後 に<br />

見 られることを 示 した. 特 許 保 護 の 拡 充 は 新 技 術 の 採 用 ・ 開 発 への 投 資 を 促 進 させ, 途 上<br />

国 ・ 先 進 国 の 双 方 の 輸 出 の 増 加 にプラスの 影 響 を 及 ぼすことが 明 らかになりつつある.<br />

医 薬 品 の 供 給 は 知 的 財 産 権 の 保 護 と 特 に 密 接 な 関 係 にあるが, 知 的 財 産 権 の 保 護 を 強 化<br />

することは 医 薬 品 の 供 給 に 望 ましい 影 響 をもたらすであろうか.Takechi(2012)は, 日 本<br />

とアメリカの 大 規 模 医 薬 品 企 業 の 世 界 市 場 への 供 給 データを 用 いて 知 的 財 産 権 の 強 化 が 医<br />

薬 品 の 供 給 に 与 える 影 響 を 実 証 分 析 した.この 結 果 , 保 護 の 強 化 がライセンサーの 探 索 や<br />

交 渉 のコストを 上 昇 させ,また, 侵 害 リスクを 高 めることで, 経 済 取 引 を 阻 害 する 可 能 性<br />

があるため, 知 的 財 産 権 の 保 護 強 化 は 経 済 活 動 にとって 必 ずしも 望 ましいとは 限 らないこ<br />

とを 示 した. 知 的 財 産 権 の 保 護 を 強 化 する 際 には, 各 国 における 各 国 間 での 特 許 侵 害 に 関<br />

わる 手 続 きのハーモナイゼーションを 進 め, 侵 害 リスクと 権 利 者 保 護 のバランスを 取 った<br />

権 利 設 定 をすることが 必 要 であることを 示 唆 している.<br />

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企 業 は 新 たに 発 明 し, 開 発 した 技 術 を 秘 密 にしておくことが 可 能 であるが, 類 似 発 明 や<br />

技 術 開 発 の 成 果 が 特 許 出 願 され, 先 発 明 の 利 用 の 差 し 止 めが 要 求 されるとき, 先 発 明 であ<br />

ることを 証 明 することが 必 要 となる.このため, 多 くの 企 業 は 特 許 出 願 をすることによっ<br />

て 将 来 の 特 許 訴 訟 を 回 避 しようとする.しかし, 特 許 出 願 に 伴 う 公 開 は 技 術 の 模 倣 を 招 く<br />

リスクがある.Ichida(2013)は, 新 技 術 を 模 倣 する 費 用 とイノベーションを 生 む 費 用 に<br />

着 目 して, 特 許 政 策 の 変 化 が 発 明 者 のインセンティブや 追 随 者 の 模 倣 にいかなる 影 響 を 及<br />

ぼすのかを 理 論 的 に 分 析 した. 分 析 の 結 果 ,もし 発 明 内 容 を 非 公 開 のままで 特 許 庁 に 寄 託<br />

することにより 事 後 の 特 許 権 侵 害 訴 訟 から 免 れるが, 非 公 開 であるが 故 に 特 許 権 による 市<br />

場 独 占 は 与 えられないという 制 度 が 設 定 されるならば, 企 業 は 営 業 秘 密 を 採 用 する 傾 向 に<br />

あることが 明 らかになった. 営 業 秘 密 となって 生 まれる 新 技 術 が 経 済 厚 生 を 高 める 反 面 ,<br />

特 許 公 開 されないため, 新 技 術 を 基 礎 に 次 の 新 しい 発 明 を 生 みにくくなることに 留 意 して,<br />

最 適 な 知 的 財 産 権 の 保 護 制 度 を 見 いだすことが 必 要 である.<br />

特 許 制 度 は, 発 明 者 に 対 し 一 定 期 間 , 新 技 術 の 独 占 的 使 用 を 認 めることにより,R&D 投<br />

資 ・リスクに 見 合 う 保 障 を 確 約 し,またそれによって 発 明 の 保 護 及 び 利 用 を 図 ることによ<br />

り, 発 明 を 奨 励 し, 産 業 の 発 展 に 寄 与 するとされることから, 発 明 者 に 対 して 一 定 期 間 の<br />

独 占 権 を 与 えることは「 必 要 悪 」として 捉 えられて 来 た 面 があるが, 近 年 , 特 許 法 の 害 悪<br />

が 注 目 を 集 めている. 特 に, 不 況 等 で 資 金 繰 りのつかなくなった 企 業 や 発 明 家 から 特 許 を<br />

買 い 集 めるものの, 当 該 技 術 を 使 う 意 図 がなく, 特 許 侵 害 訴 訟 を 起 こし 賠 償 金 を 請 求 する,<br />

或 は 侵 害 訴 訟 の 脅 しを 利 用 して 高 額 なロイヤルティーを 請 求 する 新 しいビジネス―ノンプ<br />

ラクティシング・エンティティ ("NPE")―が 生 まれ,その 弊 害 が 指 摘 されている. 大 野 ( 2013)<br />

は, 企 業 が 製 品 に 組 み 込 む 新 技 術 の 範 囲 が 特 許 侵 害 訴 訟 と NPE によってどのように 影 響 さ<br />

れるかを 理 論 面 から 分 析 した. 分 析 の 結 果 , 特 許 侵 害 訴 訟 の 裁 判 費 用 が 低 い 場 合 はヒット<br />

商 品 に 対 して 常 に 訴 訟 が 起 こること, 裁 判 費 用 が 高 い 場 合 には, 特 許 侵 害 訴 訟 を 避 けるた<br />

めに 企 業 は 製 品 仕 様 を 引 き 下 げる 可 能 性 があり,その 結 果 , 消 費 者 余 剰 が 減 る 可 能 性 があ<br />

ること,NPE が 特 許 侵 害 訴 訟 を 起 こす 時 期 は, 製 品 の 導 入 期 でなく,プラクティシング・<br />

エンティティーより 遅 い 時 期 となる 可 能 性 があるため,NPE が 特 許 を 保 有 していることが<br />

かえって 製 品 の 技 術 仕 様 を 高 め, 消 費 者 余 剰 を 大 きくする 可 能 性 があることを 示 す.NPE<br />

が 特 許 を 保 有 することが 一 概 には 有 害 と 言 い 切 れない.<br />

財 市 場 で 競 争 的 な 企 業 であっても, 技 術 面 では 協 調 している 場 合 がある.そのような 企<br />

業 間 関 係 を 考 慮 したとき 望 ましい 貿 易 政 策 はどうあるべきだろうか.Ishikawa・Okubo<br />

(2013)は, 内 外 の 企 業 間 で 技 術 ライセンシングを 行 う 場 合 に 関 税 が 事 業 活 動 にもたらす<br />

影 響 を 取 り 上 げたて 分 析 した.その 結 果 , 関 税 引 き 下 げによって 外 国 企 業 の 最 終 財 生 産 が<br />

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減 ってしまうと, 外 国 企 業 が 自 国 企 業 から 購 入 する 部 品 が 減 ったり, 外 国 企 業 が 自 国 企 業<br />

に 支 払 っているライセンス 料 が 減 少 したりするので, 自 国 企 業 の 利 潤 が 最 終 的 に 減 少 して<br />

しまう 可 能 性 のあることを 示 す.どのような 関 税 が 自 国 にとって 望 ましいかは, 内 外 の 企<br />

業 がどのような 相 互 依 存 関 係 があるかによって 左 右 される.<br />

3.2 グローバル 企 業 と 貿 易 ・ 産 業 政 策<br />

自 由 貿 易 協 定 等 の 貿 易 政 策 が 貿 易 される 財 の 数 あるいは 割 合 ( 貿 易 財 の 外 延 )にどのよ<br />

うな 影 響 をもたらすだろうか.Naito(2012)は, 貿 易 の 自 由 化 が 時 間 を 通 じて 輸 出 と 経 済<br />

成 長 を 促 す 動 態 的 メカニズムを 理 論 面 から 明 らかにした.2 国 間 で 貿 易 費 用 が 低 下 すると,<br />

第 1 国 の 最 終 財 企 業 は 第 2 国 から 安 く 中 間 財 を 輸 入 できるようになり, 第 1 国 の 成 長 率 が<br />

上 がる.このことは 第 1 国 の 資 本 を 相 対 的 に 増 加 させ, 第 1 国 の 資 本 財 の 価 格 を 下 げる.<br />

その 結 果 , 第 1 国 以 外 の 全 ての 国 々は 第 1 国 の 財 を 安 く 輸 入 できるので,それらの 国 々の<br />

成 長 率 が 高 まり, 貿 易 自 由 化 が 世 界 の 経 済 成 長 を 促 すことになる.また, 第 1 国 が 第 2 国<br />

から 中 間 財 を 輸 入 する 際 の 貿 易 費 用 が 下 がると, 第 1 国 は 第 2 国 からより 多 種 類 の 財 を 輸<br />

入 することになるが,それに 加 えて, 第 1 国 の 成 長 率 が 上 がり, 資 本 の 価 格 が 下 がり, 第 1<br />

国 以 外 の 全 ての 国 々は 第 1 国 からより 多 種 類 の 財 を 輸 入 することになる.こうした 輸 入 の<br />

拡 大 は 外 延 における 輸 出 を 拡 大 することになる.<br />

発 展 途 上 国 に 対 する 貿 易 を 拡 大 するための 援 助 政 策 (Aid for Trade, AfT)が 効 果 を 発 揮 す<br />

れば, 援 助 受 入 国 は 供 給 能 力 を 拡 大 し, 経 済 成 長 を 実 現 することが 期 待 されているが,AfT<br />

は 援 助 受 入 国 および 供 与 国 の 成 長 率 に 果 たしてどのような 影 響 を 与 えるだろうか.Naito<br />

(2015)は, 現 実 の AfT の 多 くは 輸 送 インフラに 支 出 されていることに 注 目 し, 援 助 によ<br />

って 貿 易 の 輸 送 費 が 低 下 することが 貿 易 当 事 国 のグローバルな 成 長 率 に 与 える 影 響 を 理 論<br />

的 に 分 析 した. 分 析 から, 援 助 額 が 少 ない 段 階 では 輸 送 費 を 低 める 効 果 が 輸 送 費 を 高 める<br />

効 果 を 上 回 り,グローバルな 成 長 率 は 高 まるが, 援 助 を 増 やすにつれて 次 第 に 前 者 の 力 は<br />

弱 まる 一 方 後 者 の 力 が 強 まり,さらに 援 助 を 増 加 するとグローバルな 成 長 率 を 低 めてしま<br />

うことを 示 した. 援 助 と 成 長 の 逆 U 字 型 仮 説 は 実 証 研 究 で 支 持 されているが,このことを<br />

理 論 的 に 導 いたことに 他 ならない.ただし, 被 援 助 国 への 援 助 はまだ 低 いレベル(OECD<br />

諸 国 全 体 の 援 助 GDP 比 率 は 0.3% 程 度 )にとどまっている 現 実 を 見 ると, 援 助 がグローバ<br />

ルな 成 長 率 を 高 める 余 地 はあると 言 えよう.<br />

貿 易 コストの 変 化 が 国 際 貿 易 に 与 える 影 響 を 取 り 扱 う 分 析 の 多 くでは, 貿 易 コストを 財<br />

価 格 に 連 動 した 氷 塊 型 (iceberg-type) 貿 易 コストを 想 定 している.しかし, 財 価 格 に 依 存<br />

しない 重 量 型 のコストが 少 なからず 存 在 することも 事 実 である.また, 高 品 質 財 が 遠 くの<br />

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市 場 に 供 給 される 傾 向 にあることも 先 行 研 究 において 明 らかにされている.こうしたこと<br />

を 踏 まえ,Takechi(2015)は, 重 量 型 のコスト 構 造 を 想 定 し, 貿 易 コストを 低 下 させるこ<br />

とが 地 域 間 取 引 を 促 進 することを 示 した. 分 析 では, 従 量 型 のコストが 大 きいことは 輸 送<br />

コストが 製 品 の 品 質 ・ 価 格 に 依 存 しない 部 分 が 大 きいことであり,インフラ 整 備 により 輸<br />

送 システムが 効 率 的 となり, 重 量 型 コストが 低 下 すれば, 高 品 質 財 の 地 域 間 取 引 が 促 され,<br />

地 域 間 格 差 の 是 正 や 効 率 的 な 生 産 システムの 構 築 につながることを 示 した.<br />

実 際 に, 貿 易 コスト( 輸 送 コスト)が 高 いと 財 や 生 産 要 素 の 移 動 が 妨 げられ, 地 域 間 で<br />

の 経 済 活 動 が 阻 害 され, 地 域 間 経 済 格 差 が 解 消 されない.Kano et al.(2015)は, 財 の 地<br />

域 間 価 格 差 データに 注 目 し, 地 域 間 価 格 差 の 要 因 には, 市 場 におけるマークアップの 違 い<br />

を 差 し 引 いても, 輸 送 コストの 違 いが 大 きく 残 ることを 明 らかにした.この 分 析 は,マー<br />

クアップの 違 いを 生 む 非 効 率 な 市 場 を 競 争 的 なものにすることに 加 え,インフラを 整 備 し,<br />

輸 送 コストを 低 下 させることが 地 域 間 格 差 を 解 消 する 上 で 重 要 であることを 示 唆 する.<br />

耐 久 財 を 消 費 する 上 では, 修 理 ,メンテナンスといったようなさまざまなサービスが 必<br />

要 となる. 財 を 輸 出 する 生 産 者 が 輸 出 先 国 においてそのようなサービスを 提 供 するために,<br />

直 接 投 資 によりサービス 提 供 拠 点 を 構 築 する 場 合 がある.そのような 直 接 投 資 には,さま<br />

ざまな 費 用 がかかるが, 外 資 規 制 や 許 認 可 制 といった 規 制 もその 費 用 の 一 部 である.<br />

Ishikawa et al.(2014)は,アフターサービスを 供 給 する 拠 点 を 整 備 するための 直 接 投 資<br />

に 関 して 規 制 を 緩 和 することと 財 貿 易 の 自 由 化 とがどのような 関 連 をもつのかを 理 論 的 に<br />

分 析 した. 分 析 結 果 は, 財 貿 易 の 自 由 化 だけでなく,アフターサービス 拠 点 への 規 制 が 同<br />

時 に 緩 和 されなければ, 輸 入 国 の 消 費 者 や 輸 出 国 の 生 産 者 が 損 失 を 被 り, 世 界 全 体 の 経 済<br />

厚 生 も 下 げてしまう 可 能 性 があることを 明 らかにした.GATS のもとでサービス 貿 易 の 自<br />

由 化 が 進 んでいるものの, 財 貿 易 の 自 由 化 に 比 べてスピードは 遅 い.この 分 析 結 果 は 財 貿<br />

易 の 自 由 化 を 進 めると 同 時 にサービス 貿 易 の 自 由 化 も 積 極 的 に 進 めていく 必 要 があること<br />

を 示 唆 している.<br />

特 定 の 国 で 安 く 販 売 されている 商 品 を 購 入 し, 相 対 的 に 高 い 正 規 販 売 価 格 がついている<br />

国 で 再 販 売 する 並 行 輸 入 は, 商 品 の 製 造 者 が 各 国 市 場 で 異 なる 価 格 を 設 定 する「 価 格 差 別<br />

行 動 」を 抑 制 し, 製 造 者 の 利 潤 を 下 げる 一 方 , 価 格 の 下 落 により 輸 入 国 の 消 費 者 に 利 益 を<br />

もたらすと 考 えられている.ただし, 修 理 や 保 守 などのアフターサービスが 重 要 な 耐 久 消<br />

費 財 の 場 合 , 製 造 者 は, 並 行 輸 入 品 の 修 理 を 拒 否 したり, 保 証 を 適 用 せずに 高 い 修 理 代 金<br />

を 徴 収 したりすることで, 輸 入 時 点 では 正 規 品 と 並 行 輸 入 品 の 品 質 に 差 がなくても, 修 理<br />

差 別 を 通 じて 事 後 的 に 品 質 に 差 をつけ, 並 行 輸 入 による 価 格 裁 定 圧 力 を 弱 めることが 可 能<br />

である.Ishikawa et al.(2015)は,こうした 製 造 者 の 行 動 を 分 析 し, 並 行 輸 入 による 輸<br />

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入 国 の 消 費 者 利 益 は 修 理 差 別 がある 場 合 には 小 さくなること, 企 業 が 費 用 をかけて 財 の 耐<br />

久 性 を 上 昇 させるイノベーション 活 動 を 行 っている 場 合 , 並 行 輸 入 は 企 業 のイノベーショ<br />

ン 活 動 を 抑 制 し, 財 の 耐 久 性 の 低 下 を 招 くため, 輸 入 国 の 消 費 者 が 並 行 輸 入 により 損 失 を<br />

被 る 可 能 性 があること, 貿 易 自 由 化 が 進 んでいるほど, 財 の 耐 久 性 を 低 く 抑 えて 価 格 裁 定<br />

圧 力 を 緩 和 させようとする 誘 因 が 企 業 に 生 じるため, 並 行 輸 入 が 輸 入 国 の 消 費 者 に 損 失 を<br />

与 える 可 能 性 が 増 すことを 明 らかにした.こうした 分 析 結 果 は, 並 行 輸 入 と 併 せて 修 理 サ<br />

ービスの 差 別 を 防 ぐための 政 策 が 必 要 であることを 示 す.<br />

貿 易 自 由 化 は 経 済 全 体 にとっては 利 益 をもたらすが, 所 得 分 配 に 影 響 を 与 える( 勝 ち 組<br />

と 負 け 組 を 作 り 出 す)ため, 政 府 が 自 由 化 後 の 負 け 組 を 補 償 するような 制 度 が 作 られるこ<br />

とが 必 要 である.そうした 制 度 はうまく 作 れるのであろうか,あるいは, 補 償 制 度 を 作 る<br />

際 に 政 策 的 なトレードオフがないだろうか.Ichida(2015)は, 貿 易 自 由 化 によって 負 け<br />

組 の 失 われた 経 済 厚 生 を 補 償 する 制 度 がもつ 政 策 上 のトレードオフを 理 論 的 に 分 析 し, 補<br />

償 制 度 が 事 前 に 想 定 されず, 貿 易 自 由 化 が 導 入 された 後 に 補 償 が 行 われるケースと, 補 償<br />

制 度 が 事 前 に 想 定 された 上 で 貿 易 自 由 化 が 行 われるケースとでは, 個 人 の 持 つ 能 力 が 多 次<br />

元 ・ 多 様 である 場 合 には, 補 償 政 策 が 直 面 するトレードオフの 種 類 が 異 なることを 明 らか<br />

にした. 前 者 のケースでは,パレート 改 善 を 徹 底 しようとすると 過 剰 補 償 金 額 が 増 え, 政<br />

府 の 補 償 制 度 予 算 が 大 幅 に 赤 字 になるため 補 償 制 度 自 体 が 導 入 されにくくなる. 他 方 , 後<br />

者 のケースでは, 過 剰 補 償 金 額 を 少 なくすることはできるが, 充 分 なセクター 間 の 資 源 配<br />

分 が 起 こらず, 生 産 効 率 は 下 がるというトレードオフが 発 生 する.ただし, 補 償 額 をコン<br />

トロールできれば, 補 償 制 度 自 体 を 導 入 し 易 くなる.こうした 分 析 結 果 は, 補 償 制 度 をア<br />

ナウンスせずに 貿 易 を 自 由 化 するよりは, 事 前 に 補 償 制 度 を 導 入 することを 国 民 に 知 らせ<br />

た 上 で 貿 易 の 自 由 化 を 進 めるほうが, 政 策 の 自 由 度 をより 高 め, 望 ましい 結 果 をもたらす<br />

ことを 示 唆 している.<br />

4 貿 易 政 策 の 形 成 と 評 価<br />

4.1 自 由 貿 易 協 定 の 経 済 効 果<br />

WTO における 貿 易 自 由 化 交 渉 が 停 滞 するに 伴 い, 特 定 国 ・ 地 域 において 貿 易 自 由 化 ・ 経<br />

済 連 携 を 進 めようとする 動 きが 高 まっている.こうした 地 域 経 済 連 携 が 経 済 全 体 に 与 える<br />

マクロ 的 な 経 済 効 果 を 数 量 的 に 分 析 する 上 で, 応 用 一 般 均 衡 (CGE) 世 界 貿 易 モデルが 用<br />

いられることがあるが,Kawasaki(2014)は , 標 準 的 な 世 界 貿 易 分 析 プロジェクト(GTAP)<br />

のモデルを 改 良 し, 資 本 蓄 積 , 生 産 性 の 向 上 といった 動 態 的 な 側 面 を 折 り 込 むことによっ<br />

て,TPP,RCEP,アジア 太 平 洋 自 由 貿 易 圏 (FTAAP)の 各 経 済 連 携 における 関 税 の 撤 廃<br />

13


と 非 関 税 措 置 の 削 減 による 経 済 効 果 を 比 較 分 析 した. 分 析 の 結 果 ,APEC 経 済 全 体 にとっ<br />

て,FTAAP による 所 得 の 増 加 は GDP の 4.3%に 相 当 し,TPP(1.2%),RCEP(2.1%)<br />

の 何 れより 大 きくなること, 最 も 大 きな 所 得 の 増 加 をもたらすのは 中 国 による 関 税 撤 廃 ,<br />

非 関 税 措 置 削 減 であり,ロシア, 米 国 がそれに 続 くこと, 非 関 税 措 置 の 削 減 を 加 えると 所<br />

得 の 増 加 がさらに 大 きくなること, 日 本 にとっては 非 関 税 措 置 の 削 減 による 所 得 の 増 加 が<br />

特 に 大 きいことを 示 した.ただし, 関 税 撤 廃 や 非 関 税 措 置 削 減 の 合 意 水 準 によっては,TPP<br />

と RCEP の 何 れの 経 済 効 果 が 大 きくなるかは 予 断 を 許 さない.TPP と RCEP の 双 方 を 推 進<br />

し,FTAAP を 構 築 することがより 大 きな 経 済 効 果 をもたらすことが 示 されている.<br />

日 本 は 2000 年 代 に 入 り 自 由 貿 易 協 定 (FTA)を 活 発 に 締 結 しており,2015 年 3 月 末 時<br />

点 で 14 の FTA を 発 効 させている. 東 アジアなどの 発 展 途 上 国 においては 直 接 投 資 に 対 す<br />

る 厳 しい 規 制 や 不 透 明 な 投 資 政 策 など 直 接 投 資 を 阻 害 するような 障 害 がまだ 存 在 している<br />

ため,FTA に 含 まれる 項 目 の 中 で, 直 接 投 資 の 自 由 化 ・ 円 滑 化 が 重 要 であるといわれてい<br />

る.また, 以 前 は 投 資 を 保 護 する 目 的 で 二 国 間 投 資 協 定 (BIT)が 締 結 されてきたが, 近 年<br />

では 投 資 自 由 化 を 目 的 とした BIT が 締 結 されるようになった.これに 注 目 して,Urata<br />

(2015)は,FTA や BIT の 締 結 ・ 発 効 が 日 本 企 業 による 直 接 投 資 に 与 える 影 響 を 分 析 した.<br />

実 証 分 析 の 結 果 , 日 本 企 業 は 直 接 投 資 先 として FTA および BIT を 締 結 した 国 々を 選 択 する<br />

傾 向 が 強 いこと,BIT に 関 しては 投 資 保 護 だけではなく 投 資 自 由 化 を 含 む BIT を 締 結 した<br />

国 々が 選 択 される 傾 向 が 強 いことが 確 認 された.こうした 傾 向 は, 発 展 途 上 国 への 製 造 業<br />

企 業 による 直 接 投 資 において 特 に 顕 著 である.ただし,FTA に 含 まれる 貿 易 自 由 化 は 投 資<br />

を 抑 制 する 可 能 性 が 見 られ, 直 接 投 資 と 日 本 の 輸 出 は 代 替 的 であることに 留 意 する 必 要 が<br />

ある. 直 接 投 資 の 拡 大 ・ 活 発 化 のためには, 直 接 投 資 を 抑 制 するような 規 制 を 削 減 ・ 撤 廃<br />

すると 共 に, 透 明 性 が 高 く 安 定 的 な 投 資 市 場 の 設 立 ・ 維 持 が 必 要 であり,WTO での 投 資 協<br />

定 に 対 する 次 善 の 政 策 として 投 資 自 由 化 を 含 む FTA や BIT の 役 割 は 大 きい.<br />

サービスの 提 供 は 経 済 のサービス 化 の 拡 大 にともなって 重 要 となっている.Ishido(2015)<br />

は,サービス 部 門 ごとの 貿 易 自 由 化 度 指 数 (ホクマン 指 数 )を 用 いて,サービス 貿 易 の 自<br />

由 化 とサービスを 提 供 する 商 業 拠 点 設 立 の 投 資 件 数 との 関 係 を 分 析 した.この 結 果 , 日 系<br />

企 業 によるサービス 企 業 の 新 規 事 業 所 設 立 件 数 とサービスの 自 由 化 との 間 には 正 の 相 関 が<br />

あること,サービス 企 業 の 新 規 事 業 所 設 立 には 集 積 効 果 があることを 確 認 した.FTA にお<br />

けるサービス 自 由 化 がサービス 企 業 の 新 規 事 業 所 の 設 立 を 促 す 上 で, 望 ましい 効 果 を 有 し<br />

ている.<br />

14


4.2 通 商 協 定 の 経 済 的 評 価<br />

FTA では, 域 外 国 の 生 産 者 が 域 外 国 に 対 する 関 税 率 (= 域 外 関 税 率 )の 低 い 国 を 通 じて<br />

域 外 関 税 率 の 高 い 国 へ 迂 回 輸 出 をするのを 防 ぐために,「 優 遇 関 税 を 適 用 されるのは 域 内 が<br />

原 産 国 であるもののみ」という 条 件 をつけている. 域 内 で 貿 易 される 製 品 が 域 内 を 原 産 地<br />

とするか 否 かを 判 定 する 基 準 が 原 産 地 規 則 であるが,この 規 則 により,FTA の 優 遇 税 率 を<br />

利 用 して 域 内 で 輸 出 するために,たとえ 域 外 から 調 達 するよりも 価 格 が 高 かったり, 質 が<br />

劣 っていたりしても, 域 内 で 生 産 された 財 を 調 達 することが 求 められると, 海 外 直 接 投 資<br />

や 海 外 アウトソーシングを 通 じて 効 率 的 な 生 産 ネットワークを 構 築 している 企 業 により 大<br />

きなダメージを 与 える 可 能 性 がある.Mukunoki(2013b)は,この 問 題 を 理 論 的 に 取 り 上<br />

げ, 原 産 地 規 則 の 要 求 が 厳 しくなると, 生 産 コストが 比 較 的 高 い 企 業 が 域 内 に 新 規 に 工 場<br />

を 設 立 する 一 方 , 効 率 的 な 生 産 ネットワークを 構 築 していた 企 業 が 競 争 激 化 によって 現 地<br />

工 場 を 閉 鎖 してしまうという 直 接 投 資 転 換 効 果 (FDI Diversion Effect)が 発 生 する 可 能 性<br />

があることを 明 らかにした.これは FTA によって 生 ずる「 貿 易 転 換 効 果 」と 類 似 の 効 果 が<br />

直 接 投 資 においても 発 生 することを 示 したものである.この 分 析 結 果 は, 原 産 地 規 則 を 設<br />

定 する 際 には, 過 度 に 厳 しいものとせず, 広 域 にわたって 原 産 地 と 認 定 することにより,<br />

直 接 投 資 転 換 効 果 の 誘 発 を 回 避 することが 必 要 であることを 示 す.<br />

地 域 貿 易 協 定 には 投 資 自 由 化 によって 域 内 の 海 外 直 接 投 資 を 促 進 する 効 果 があるが, 地<br />

域 的 な 投 資 コストの 削 減 が 多 国 籍 企 業 の 行 動 に 与 える 影 響 や, 経 済 厚 生 に 対 する 効 果 は 必<br />

ずしも 明 らかではない.Arita・Tanaka(2013)は, 日 本 の 多 国 籍 製 造 業 企 業 のデータを<br />

用 いて, 地 域 レベルの 投 資 自 由 化 によって 複 数 国 の 間 で 投 資 コストが 下 がった 場 合 の 多 国<br />

籍 企 業 の 経 済 活 動 を 仮 想 的 にシミュレーションした 政 策 実 験 を 行 った.その 結 果 , 世 界 経<br />

済 を 高 所 得 国 と 低 所 得 国 の 2 つに 区 分 すると, 投 資 自 由 化 により 日 本 と 高 所 得 国 との 間 で<br />

投 資 コストが 下 がる 場 合 には, 高 所 得 国 の 実 質 賃 金 は 増 え, 低 所 得 国 の 実 質 賃 金 に 影 響 が<br />

なく, 日 本 と 低 所 得 国 との 間 で 投 資 コストが 下 がる 場 合 には, 低 所 得 国 の 実 質 賃 金 が 増 え<br />

ているが, 高 所 得 国 の 実 質 賃 金 には 影 響 がないこと,さらに, 日 本 が 両 国 と 統 合 して 投 資<br />

コストが 下 がる 場 合 には, 高 所 得 国 と 低 所 得 国 のどちらも 実 質 賃 金 が 増 えることが 明 らか<br />

になった. 投 資 協 定 交 渉 では, 交 渉 が 進 めやすい 少 数 国 間 での 地 域 貿 易 協 定 が 数 多 く 締 結<br />

されてきたが,より 高 い 経 済 効 果 を 目 指 すためには 地 域 貿 易 協 定 の 広 域 化 が 重 要 であるこ<br />

とを 示 唆 している.<br />

自 由 貿 易 協 定 では, 貿 易 自 由 化 だけでなく 様 々な 分 野 での 自 由 化 が 取 り 上 げられている<br />

が,Komoriya(2014)は, 自 然 人 ( 法 人 でない)の 移 動 の 自 由 化 が 貿 易 の 自 由 化 を 補 完 す<br />

る 役 割 を 果 たすか 否 かを 理 論 的 に 分 析 した.この 結 果 , 貿 易 自 由 化 とともに 商 用 目 的 の 自<br />

15


然 人 の 移 動 が 円 滑 化 すると, 自 国 と 外 国 の 経 済 厚 生 がともに 増 加 するだけでなく, 自 国 企<br />

業 の 利 潤 も 増 加 することが 示 され, 単 独 では 実 現 不 可 能 な 貿 易 自 由 化 も, 自 然 人 の 移 動 の<br />

円 滑 化 を 伴 うことで 実 現 可 能 であることが 明 らかにされた.<br />

近 年 , 二 国 間 あるいは 複 数 国 間 での 通 商 協 定 において,「 労 働 条 項 」―― 協 定 加 盟 各 国 に<br />

一 定 の 労 働 基 準 の 維 持 ・ 遵 守 を 求 める,あるいは 輸 出 促 進 のために 労 働 基 準 を“ 不 当 に” 抑 制<br />

している 国 に 対 する 貿 易 上 の 制 裁 措 置 を 認 める 条 項 ――の 導 入 を 図 るケースが 増 えている.<br />

こうした 通 商 協 定 に「 労 働 条 項 」を 含 むことが 加 盟 国 の 国 内 労 働 基 準 ・ 労 働 条 件 の 維 持 や<br />

改 善 に 有 効 か,「 労 働 条 項 」を 含 む 通 商 協 定 は( 条 項 を 含 まない 通 商 協 定 に 比 べて) 貿 易 促<br />

進 効 果 に 負 の 影 響 を 与 えないかの 検 討 が 必 要 とされている.Kamata(2014)は, 労 働 条 項<br />

を 含 む 通 商 協 定 の 締 結 が 国 内 労 働 基 準 ・ 条 件 に 及 ぼす 影 響 , 貿 易 相 手 国 との 貿 易 の 拡 大 に<br />

及 ぼす 影 響 を 分 析 した. 分 析 の 結 果 は, 労 働 条 項 を 含 む 通 商 協 定 を 締 結 する 相 手 国 との 貿<br />

易 が 増 加 するほど, 中 所 得 国 においては 実 収 賃 金 が 高 くなる 傾 向 が 見 られるが, 労 働 時 間 ,<br />

労 働 災 害 発 生 率 に 関 する ILO 基 本 8 条 約 の 批 准 に 関 しては 影 響 が 見 られないこと, 労 働 条<br />

項 を 含 む 通 商 協 定 の 締 結 国 の 一 方 が 高 所 得 国 , 他 方 が 中 所 得 国 である 場 合 を 除 けば, 協 定<br />

締 結 が 相 手 国 との 貿 易 促 進 効 果 を 鈍 らせる 傾 向 があるとは 言 えないことを 示 した.<br />

1997 年 に 成 立 した 情 報 技 術 協 定 (the Information Technology Agreement, 以 下 ITA)<br />

は,コンピュータや 通 信 機 器 などの 情 報 技 術 関 連 製 品 の 関 税 撤 廃 を 目 的 として 成 立 した<br />

WTO 協 定 の 一 つであり, 停 滞 している 多 角 的 貿 易 交 渉 の 中 で,ウルグアイ・ラウンド 以 後<br />

の 希 有 な 成 功 例 と 評 価 されている.しかし,WTO 協 定 の 一 部 である ITA は MFN 原 則 を 適<br />

用 しており, 参 加 せずともゼロ 関 税 の 恩 恵 を 受 けられるという「ただ 乗 り(フリーライド)」<br />

が 懸 念 されるため,このような 外 部 性 は WTO 加 盟 国 の 貿 易 自 由 化 の 意 欲 を 挫 くおそれがあ<br />

り, 仕 組 みとして 難 しいのではないかとも 考 えられる.Sato(2014)は,ITA の 貿 易 拡 大<br />

効 果 と MFN へのただ 乗 りの 有 無 とその 程 度 を 実 証 分 析 した. 分 析 の 結 果 では,ITA の 輸 入<br />

拡 大 効 果 ( 貿 易 創 造 効 果 )は 必 ずしも 明 らかではなく, 貿 易 創 造 効 果 が 観 察 される 場 合 で<br />

も,MFN へのただ 乗 りは 観 察 されなかったことが 示 されている.ITA の 貿 易 拡 大 に 果 たし<br />

た 役 割 は 限 定 的 であった 可 能 性 がある.<br />

4.3 貿 易 政 策 への 国 民 的 支 持<br />

世 界 的 な 貿 易 自 由 化 交 渉 が 困 難 に 直 面 する 中 で, 人 口 減 少 ・ 少 子 高 齢 化 が 進 む 我 が 国 に<br />

とって 貿 易 政 策 の 選 択 は 国 の 将 来 を 左 右 する 重 要 な 問 題 となっている. 自 由 貿 易 への 支 持<br />

は 経 済 学 者 の 間 ではほぼコンセンサスとなっているにも 関 わらず, 現 実 には 輸 入 制 限 など<br />

の 保 護 主 義 的 措 置 が 多 くの 国 々で 講 じられている. 輸 入 競 合 産 業 の 抵 抗 が 一 因 とも 考 えら<br />

16


れるが, 成 長 産 業 が 自 由 貿 易 を 求 める 動 きと 考 え 合 わせると, 自 由 貿 易 からの 逸 脱 が 何 故<br />

かくも 広 範 に 見 られるかは 自 明 のことではない.このため RIETI が 2011 年 に 行 った 日 本<br />

国 民 の 国 際 経 済 政 策 に 関 する 選 好 に 関 する「1 万 人 アンケート 調 査 」をもとにして, 冨 浦 他<br />

(2013)は, 貿 易 政 策 がどのように 国 民 に 支 持 されているかを 明 らかにした.この 結 果 か<br />

ら, 貿 易 政 策 の 選 好 には 多 様 な 個 人 特 性 が 関 係 しており, 業 種 別 では 農 林 水 産 業 に 従 事 す<br />

る 者 で 輸 入 自 由 化 の 選 好 が 顕 著 に 弱 いこと, 職 種 別 では 管 理 的 職 種 , 学 歴 別 では 大 卒 者 が,<br />

輸 入 自 由 化 への 選 好 が 強 いこと, 所 得 や 年 齢 が 上 がるほど, 輸 入 自 由 化 への 選 好 は 強 まる<br />

傾 向 にあること, 海 外 旅 行 や 外 国 人 の 友 人 などを 通 じた 外 国 との 交 流 がある 個 人 の 方 が 輸<br />

入 自 由 化 への 選 好 が 総 じて 強 いこと, 男 性 は 女 性 よりも 輸 入 自 由 化 に 賛 成 する 傾 向 が 強 い<br />

ことが 示 された.また, 業 種 や 職 種 だけでは 個 々 人 の 貿 易 政 策 への 支 持 を 説 明 し 尽 くすこ<br />

とはできず, 貿 易 自 由 化 への 支 持 を 拡 大 させる 方 策 を 考 えるに 当 たっては, 多 様 な 個 人 特<br />

性 の 影 響 を 幅 広 く 視 野 に 入 れる 必 要 があることを 示 した.また, 行 動 経 済 学 的 な 要 素 も 政<br />

策 の 選 好 に 一 部 関 係 しており,リスク 回 避 度 の 強 い 個 人 ほど 輸 入 自 由 化 に 反 対 する 傾 向 が<br />

強 いことを 明 らかにしている.こうした 結 果 は, 自 由 貿 易 への 支 持 の 拡 大 には, 所 得 補 償<br />

などの 直 接 的 な 経 済 インセンティブだけでは 十 分 でなく,より 幅 広 い 取 り 組 みが 必 要 であ<br />

ることを 示 す.<br />

個 々 人 の 貿 易 政 策 に 対 する 支 持 は,その 人 の 職 業 や 業 種 などの 労 働 市 場 的 特 性 では 説 明<br />

し 尽 くせないことが 確 認 されたが,Tomiura et al.(2013)は, 貿 易 自 由 化 に 賛 成 しないこ<br />

とが, 現 状 維 持 につながる「 保 有 効 果 」(endowment effect, 既 に 持 っているものを 売 る<br />

時 の 希 望 売 却 価 格 が 同 じものを 持 っていない 時 の 希 望 購 入 価 格 を 上 回 る 現 象 )によるもの<br />

か 否 かを1 万 人 アンケート 調 査 結 果 によるデータをもとにして 計 量 分 析 した.これによる<br />

と, 保 有 効 果 に 強 く 影 響 されている 個 人 ほど 輸 入 自 由 化 に 反 対 する 傾 向 があることが 明 ら<br />

かにされた.この 保 有 効 果 で 捉 えられた 現 状 維 持 バイアスが 輸 入 自 由 化 への 反 対 につなが<br />

るという 発 見 は, 所 得 補 償 や 保 険 の 仕 組 みの 導 入 ・ 拡 充 だけでは 自 由 貿 易 への 政 治 的 支 持<br />

が 高 まらないことを 示 唆 している.たとえば, 高 学 歴 層 ほど 保 有 効 果 に 左 右 されにくいと<br />

いう 傾 向 が 確 認 されることから, 個 々 人 の 理 解 を 促 進 する 教 育 の 役 割 も 無 視 できない.ま<br />

た,65 歳 を 超 えた 高 齢 者 ( 引 退 者 )に 輸 入 自 由 化 を 支 持 する 傾 向 があることは, 生 産 者 ・<br />

労 働 者 としてよりも 消 費 者 として 政 策 支 持 を 判 断 することと 解 釈 される.こうした 発 見 は,<br />

高 齢 化 する 日 本 社 会 において 貿 易 自 由 化 を 促 進 する 上 での 新 たな 知 見 を 提 供 する.<br />

貿 易 自 由 化 に 反 対 する 意 見 の 大 部 分 は 農 業 関 係 者 によるものと 解 釈 される 傾 向 にあるが,<br />

農 業 の 経 済 全 体 を 占 める 割 合 が 対 GDP 比 で 約 1%, 就 業 者 数 でも 全 体 の 3% 余 りに 過 ぎな<br />

いことを 考 慮 すると, 必 ずしも 農 業 従 事 者 だけが 反 対 しているわけではない.むしろ, 農<br />

17


業 の 衰 退 が 地 域 経 済 の 衰 退 につながることを 懸 念 して 貿 易 自 由 化 に 反 対 しているとも 考 え<br />

られる.Ito et al.(2014)は,「1 万 人 アンケート 調 査 」データに 基 づき 地 域 特 性 が 貿 易 政<br />

策 の 選 好 に 与 える 影 響 を 実 証 的 に 分 析 し, 農 業 就 業 者 比 率 が 高 い 地 域 ( 市 区 町 村 )に 住 む<br />

個 人 は, 自 分 が 農 業 に 従 事 していなくとも 保 護 貿 易 政 策 を 支 持 する 傾 向 にあること,この<br />

傾 向 は 転 居 の 意 向 がある 人 には 観 察 されないこと, 失 業 率 が 高 い 地 域 に 住 む 個 人 は 保 護 貿<br />

易 政 策 を 支 持 する 確 率 が 高 いことを 明 らかした.この 結 果 は, 農 業 のウエイトが 高 い 地 域<br />

では, 農 業 自 由 化 により 製 造 業 や 商 業 ・サービス 業 も 間 接 的 な 影 響 を 受 ける 可 能 性 があり,<br />

農 業 の 比 重 が 相 対 的 に 大 きい 地 域 の 個 人 が 産 業 連 関 的 な 影 響 を 考 慮 して 貿 易 政 策 の 選 好 を<br />

決 定 するのに 対 して, 貿 易 自 由 化 によって 地 域 経 済 が 影 響 を 受 けても, 転 居 が 可 能 な 個 人<br />

はその 影 響 を 回 避 できることを 反 映 しているものと 思 われる. 貿 易 自 由 化 への 国 民 のコン<br />

センサスを 形 成 するためには, 産 業 間 の 労 働 流 動 化 だけでは 十 分 でなく, 地 域 の 経 済 状 況<br />

へ 配 慮 した 政 策 を 同 時 に 検 討 する 必 要 があることを 示 唆 する.<br />

貿 易 自 由 化 のメリットについては 繰 り 返 し 強 調 されているにもかかわらず, 外 国 が 門 戸<br />

を 閉 ざしたままで 自 国 のみが 一 方 的 に 輸 入 を 自 由 化 する 政 策 には 国 内 で 抵 抗 が 強 い. 他 方 ,<br />

外 国 からバランスのとれた 譲 歩 が 得 られることを 条 件 として 自 国 も 輸 入 自 由 化 を 進 める 相<br />

互 主 義 ・ 互 恵 主 義 (reciprocity)は,GATT/WTO の 基 本 的 な 原 則 にも 取 り 入 れられ, 現 実<br />

の 貿 易 自 由 化 交 渉 に 強 い 影 響 を 与 えている.Tomiura et al.(2014)は, 自 国 が 一 方 的 に 輸<br />

入 を 自 由 化 しても 支 持 する 個 人 と 貿 易 自 由 化 は 相 互 的 ・ 互 恵 的 であることを 求 める 個 人 と<br />

にどのような 差 異 があるかを「1 万 人 アンケート 調 査 」データをもとに 分 析 した.この 結 果<br />

からは, 輸 入 自 由 化 には 賛 成 ではなく, 自 国 の 一 方 的 自 由 化 には 賛 成 しないとする 選 択 と<br />

農 業 への 従 事 とは 統 計 的 に 強 い 関 係 があること, 輸 入 自 由 化 には 賛 成 ではなく, 外 国 から<br />

互 恵 的 譲 歩 があっても 評 価 しない 絶 対 的 な 保 護 主 義 者 は, 農 業 従 事 とは 特 に 有 意 な 関 係 が<br />

ないこと, 更 に, 農 業 以 外 の 業 種 や 管 理 的 職 種 に 就 業 している 人 々では, 輸 入 自 由 化 に 賛<br />

成 であり, 輸 入 自 由 化 が 一 方 的 でも 支 持 する 傾 向 にあることが 明 らかにされた.こうした<br />

政 策 への 評 価 は, 現 実 の 貿 易 自 由 化 交 渉 において 我 が 国 が 一 方 的 に 輸 入 を 自 由 化 したと 受<br />

け 取 られる 結 果 は 農 業 従 事 者 から 強 く 反 発 を 受 ける 一 方 で, 外 国 から 十 分 な 譲 歩 が 得 られ<br />

れば 輸 入 自 由 化 への 反 対 が 和 らぐ 可 能 性 を 示 唆 しており, 貿 易 自 由 化 への 支 持 を 拡 大 する<br />

上 で 相 互 主 義 ・ 互 恵 主 義 を 考 慮 することが 重 要 であることを 示 している.<br />

貿 易 の 自 由 化 に 伴 って 生 ずる 経 済 的 ・ 非 経 済 的 な 不 利 益 は, 自 由 化 を 政 治 的 に 困 難 にし<br />

ている 根 幹 的 な 理 由 の 1 つである.こうした 有 権 者 の 経 済 的 不 利 益 に 対 処 するための 手 段<br />

としては, 米 国 の 貿 易 調 整 支 援 (Trade Adjustment Assistance:TAA)プログラムがあげ<br />

られる. 久 野 (2015)は, 日 本 の 有 権 者 2742 名 分 のサーベイ・データを 用 いて, 日 本 では<br />

18


如 何 なる 条 件 の 下 で TAA 型 の 救 済 制 度 に 対 して 支 持 を 表 明 するのかを 分 析 した. 分 析 では,<br />

TAA の 救 済 機 能 ( 経 済 的 支 援 )を 意 識 させた 回 答 者 ( 対 照 群 )と, 救 済 機 能 に 加 えて 政 治<br />

的 機 能 ( 貿 易 自 由 化 の 前 進 )も 意 識 させた 回 答 者 ( 処 理 群 )との 間 で,TAA に 対 する 支 持<br />

や 警 戒 心 がどのように 変 化 するのかを 取 り 上 げた.その 結 果 , 対 照 群 , 処 理 群 ,いずれの<br />

場 合 も 回 答 者 の 6 割 以 上 が 貿 易 自 由 化 に 起 因 する 失 業 者 に 対 して 金 銭 補 償 型 または 職 業 訓<br />

練 型 の 救 済 措 置 を 支 持 すること, 救 済 機 能 を 意 識 させた 対 照 群 の 場 合 , 貿 易 自 由 化 から 損<br />

害 を 被 ることを 懸 念 する「 自 称 敗 者 」ほど 金 銭 補 償 型 の TAA を 支 持 する 傾 向 がみられるこ<br />

と,TAA の 政 治 的 機 能 を 意 識 させた 処 理 群 の 場 合 , 貿 易 自 由 化 の 自 称 敗 者 「 以 外 」の 人 々<br />

による TAA の 支 持 確 率 が 高 まる 一 方 , 自 称 敗 者 は, 政 治 的 機 能 を 意 識 させると( 対 照 群 の<br />

自 称 敗 者 との 比 較 で)TAA に 対 して 若 干 の「 拒 絶 反 応 」を 示 すこと, 救 済 の「 手 段 」に 関<br />

しては, 金 銭 補 償 をともなわない 職 業 訓 練 の 提 供 に 限 定 した TAA については, 救 済 機 能 の<br />

潜 在 的 な 受 益 者 であるはずの 自 称 敗 者 の 支 持 確 率 が 低 く, 政 治 的 機 能 を 意 識 させた 処 理 群<br />

固 有 の 影 響 ないことが 明 らかになった.こうした 結 果 は, 政 治 的 機 能 を 意 識 させると, 貿<br />

易 自 由 化 の「 自 称 勝 者 」による TAA への 支 持 が 高 まるが,あくまでも「TAA の 提 供 により<br />

貿 易 自 由 化 が 実 現 するならば」という 条 件 付 きの 支 持 であり, 補 償 メカニズムの 導 入 後 も<br />

自 由 化 が 不 十 分 である 場 合 , 政 治 的 機 能 に 期 待 した 有 権 者 による TAA への 支 持 はかえって<br />

失 われる 可 能 性 があることを 示 唆 する.<br />

5 震 災 復 興 と 企 業<br />

5.1 震 災 復 旧 とサプライ・チェーン<br />

東 日 本 大 震 災 がもたらした 被 災 企 業 への 損 傷 , 被 災 からの 回 復 のスピード, 日 本 全 体 の<br />

生 産 活 動 に 与 える 影 響 を 観 察 すると, 基 礎 素 材 型 産 業 と 加 工 組 立 型 産 業 との 間 では 違 いが<br />

見 られる. 沿 岸 に 立 地 する 基 礎 素 材 産 業 は 津 波 により 大 きな 打 撃 を 受 けたにもかかわらず,<br />

V 字 型 に 生 産 が 回 復 し, 日 本 経 済 全 体 への 影 響 は 大 きくなかった. 一 方 , 輸 送 機 械 , 電 子 部<br />

品 ・デバイス 工 業 では 津 波 による 打 撃 が 比 較 的 小 さかったが, 被 災 からの 回 復 は 長 期 化 し,<br />

経 済 全 体 への 影 響 は 大 きかった. 被 災 企 業 の 復 旧 に 障 害 となった 要 因 を 明 らかにすること<br />

は, 自 然 災 害 がもたらす 産 業 への 被 災 を 最 小 化 し, 迅 速 な 復 旧 を 実 現 する 上 で 重 要 な 課 題<br />

である. 若 杉 ・ 田 中 (2013)は,2011 年 12 月 にRIETIが 被 災 した 製 造 事 業 所 を 対 象 に 実 施<br />

した「 東 日 本 大 震 災 による 企 業 の 被 災 に 関 するアンケート 調 査 」に 基 づき 企 業 の 復 旧 過 程<br />

を 分 析 し, 電 力 ・ 工 業 用 水 ・ 輸 送 手 段 等 のインフラの 寸 断 が 事 業 を 中 断 する 要 因 となった<br />

が, 津 波 による 影 響 を 受 けることのなかった 企 業 であっても 取 引 先 とのサプライ・チェー<br />

ンの 寸 断 によって 事 業 の 中 断 が 長 期 化 したことを 明 らかにした.サプライ・チェーンの 寸<br />

19


断 が 被 災 の 影 響 を 拡 散 させたという 事 実 は, 産 業 , 特 に 加 工 組 立 産 業 が 自 然 災 害 から 受 け<br />

る 被 害 を 最 小 化 する 上 で『サプライ・チェーンの 複 線 化 』が 重 要 であることを 示 唆 してい<br />

る.<br />

東 日 本 大 震 災 ではサプライ・チェーンを 通 じて 非 常 に 大 きな 間 接 的 被 害 を 与 えたことが<br />

大 きな 問 題 となったが, 実 際 に 震 災 直 後 の 混 乱 の 中 ,サプライ・チェーン 復 旧 のために 企<br />

業 はどのようにして 新 規 取 引 先 を 開 拓 したのであろうか.また,その 際 に 開 拓 された 新 規<br />

取 引 先 は 以 前 の 取 引 先 と 比 べてどのような 特 徴 を 持 つのであろうか. 中 島 ・ 戸 堂 (2013)<br />

は,「 東 日 本 大 震 災 による 企 業 の 被 災 に 関 するアンケート 調 査 」を 用 いた 分 析 から, 震 災<br />

直 後 の 非 常 時 においては, 十 分 な 情 報 がなく,サーチコストが 平 時 より 高 かったことから,<br />

新 規 開 拓 された 企 業 への 満 足 度 は 既 存 の 取 引 先 と 比 べて 低 かったこと, 企 業 の 立 地 要 因 は<br />

新 規 企 業 との 取 引 先 選 択 に 影 響 をもたらさないこと, 企 業 の 競 争 優 位 性 が 取 引 先 選 択 につ<br />

いて 重 要 な 役 割 を 果 たすこと,さらには, 新 規 取 引 者 に 関 する 情 報 を 十 分 に 収 集 できてい<br />

ない 仲 介 者 が 介 在 した 場 合 , 新 規 取 引 先 に 関 する 評 価 が 下 がることを 示 した.こうした 結<br />

果 は,サプライ・チェーン 復 旧 のために 新 規 取 引 先 を 開 拓 する 上 では, 十 分 に 企 業 情 報 を<br />

持 っていない 仲 介 者 ではサーチコストを 下 げることができず, 適 切 な 相 手 とのマッチに 至<br />

らないことを 示 している. 適 切 なマッチングを 実 現 するには, 十 分 に 企 業 情 報 を 収 集 する<br />

ことができる 組 織 が 仲 介 者 となることがいかに 重 要 であるかが 分 かる.<br />

サプライ・チェーンの 寸 断 が 震 災 の 影 響 を 拡 散 した 面 がある 一 方 ,サプライ・チェーン<br />

を 通 じたネットワークによる 支 えが 被 災 企 業 の 復 興 を 支 援 する 効 果 を 有 することも 指 摘 さ<br />

れている.Todo et al.(2013)は,サプライチェーン・ネットワークが 企 業 の 経 済 的 強 靭<br />

性 にどのような 影 響 を 与 えるかについて 東 日 本 大 震 災 の 被 災 地 企 業 のデータを 用 いて 分 析<br />

した. 分 析 の 結 果 は, 被 災 地 域 内 に 取 引 先 が 多 くなればなるほど, 仕 入 先 からの 部 材 の 供<br />

給 が 途 絶 している 期 間 は 長 くなり, 被 災 地 企 業 の 操 業 の 再 開 が 遅 くなる 傾 向 にあるが, 中<br />

期 的 には 売 上 高 の 回 復 が 早 まること, 被 災 地 域 外 に 取 引 先 が 多 くなればなるほど, 復 旧 に<br />

対 する 支 援 を 受 ける 可 能 性 が 高 まり, 被 災 地 企 業 の 操 業 の 再 開 は 早 まり, 売 上 高 の 回 復 が<br />

早 くなる 傾 向 にあること, 取 引 先 企 業 数 が 多 くなればなるほど, 震 災 後 の 仕 入 先 からの 部<br />

材 供 給 の 途 絶 によって 取 引 先 を 変 更 しなければならない 時 ,より 適 切 な 取 引 先 を 見 出 すこ<br />

とが 容 易 になることを 明 らかにしている. 注 目 すべきなのは,サプライチェーン・ネット<br />

ワークを 深 化 することにより, 取 引 先 から 被 災 企 業 が 支 援 を 受 けたり, 企 業 ネットワーク<br />

を 利 用 して 被 災 した 取 引 企 業 を 代 替 したりすることが 企 業 の 経 済 的 強 靭 性 を 強 化 すること<br />

であろう. 被 災 地 域 内 のネットワークは 中 期 的 な 売 上 の 復 旧 に 有 効 で, 被 災 地 域 外 とのネ<br />

ットワークはより 短 期 的 な 生 産 の 再 開 に 有 効 であることから, 両 方 のネットワークを 兼 ね<br />

20


備 えることによって 企 業 は 強 靱 な 事 業 組 織 を 構 築 することができる. 今 後 予 想 される 東 海<br />

地 震 , 東 南 海 地 震 , 南 海 地 震 などの 大 災 害 に 備 えるには, 地 域 内 のみで 完 結 したサプライ<br />

チェーン・ネットワークではなく, 他 の 地 域 ともつながった 多 様 な 複 線 型 のネットワーク<br />

を 構 築 していくことが 必 要 であることを 示 唆 する.<br />

東 日 本 大 震 災 によって、サプライチェーンが 寸 断 されたことにより 震 災 の 影 響 が 拡 散 し,<br />

短 期 的 には 操 業 再 開 に 困 難 を 来 した 企 業 があったが,その 後 , 企 業 は 寸 断 したサプライ・<br />

チェーンの 再 構 築 に 取 りかかっている.Matous・Todo(2014)は, 東 京 商 工 リサーチによ<br />

る 企 業 取 引 データを 用 いて, 震 災 の 前 後 で 企 業 がどのように 既 存 の 相 手 との 取 引 を 解 消 し,<br />

新 しい 相 手 との 取 引 を 開 始 したかを 実 証 分 析 した. 分 析 結 果 は, 研 究 企 業 は 地 理 的 に 近 い<br />

企 業 との 取 引 を 新 しく 開 始 し, 遠 方 の 企 業 との 取 引 は 止 めてしまう 傾 向 にあり, 企 業 同 士<br />

の 地 理 的 な 近 接 性 が 新 たな 取 引 ネットワークの 形 成 に 大 きく 影 響 していること, 企 業 が 新<br />

たな 顧 客 企 業 として 選 ぶのは,すでに 自 社 が 顧 客 となっている 企 業 や, 別 の 企 業 を 介 して<br />

間 接 的 につながっている 企 業 ,また,すでに 多 くの 企 業 とつながっている 企 業 を 取 引 先 と<br />

して 選 ぶ 傾 向 があることを 明 らかにしている. 前 者 と 後 者 は 独 立 しているように 見 えるが,<br />

地 理 的 な 要 因 が 企 業 ネットワークを 形 成 する 要 因 であるとともに,いったんネットワーク<br />

の 集 積 が 形 成 されてしまえば, 既 存 の 取 引 ネットワークを 基 に 新 たなネットワークが 形 成<br />

されるので, 新 規 参 入 企 業 や 集 積 外 の 企 業 が 既 存 の 取 引 ネットワークに 入 り 込 むことは 比<br />

較 的 難 しいことを 示 している. 取 引 ネットワークへの 参 入 は 重 要 であるが, 必 ずしも 容 易<br />

ではないため, 参 入 を 支 援 するための 政 策 が 必 要 である.<br />

5.2 電 力 供 給 と 生 産 性<br />

東 日 本 大 震 災 が 及 ぼす 影 響 のうちで 最 も 懸 念 されたものは 電 力 供 給 構 造 の 変 化 が 日 本 企<br />

業 の 競 争 力 に 及 ぼす 影 響 であろう. 佐 藤 (2012)は, 電 力 供 給 能 力 が 製 造 業 の 生 産 と 貿 易<br />

にどのような 影 響 を 与 えるかを 計 測 し, 電 力 供 給 の 低 下 が, 電 気 機 器 , 輸 送 機 器 , 一 般 機<br />

器 産 業 の 日 本 の 比 較 優 位 を 弱 めるものの, 電 力 供 給 に 関 する 生 産 弾 力 性 はそれぞれの 産 業<br />

の 生 産 性 に 関 する 生 産 弾 力 性 の3 分 の1 以 下 であり,その 影 響 は 短 期 的 には 必 ずしも 大 きく<br />

ないことを 示 した.ただし, 資 本 や 労 働 といった 生 産 要 素 の 賦 存 量 の 変 化 と 同 様 , 発 電 供<br />

給 の 変 化 は 長 期 には 本 格 的 な 影 響 を 与 える 可 能 性 があることに 留 意 しなければならない.<br />

震 災 後 に 各 産 業 において 生 産 性 が 継 続 的 に 改 善 されれば, 電 力 供 給 制 約 の 負 の 影 響 が 顕 在<br />

化 しないまま 推 移 する 可 能 性 のあることを 示 唆 している.<br />

東 日 本 大 震 災 以 来 , 原 子 力 から 火 力 への 電 力 代 替 が 進 んだ 結 果 , 日 本 では 総 発 電 量 が 減<br />

少 し 電 力 価 格 が 上 昇 している.Sato (2013)は, 日 本 の 産 業 レベルの 長 期 データを 用 いて,<br />

21


電 力 供 給 制 約 が 技 術 革 新 の 方 向 にどのような 影 響 を 与 えるかを 計 測 した. 計 測 の 結 果 は,<br />

これまで 日 本 で 起 こった 技 術 変 化 は 多 くの 産 業 で 資 本 使 用 的 ・ 労 働 節 約 的 であったこと,<br />

また, 紙 製 品 ,ゴム・プラスチック, 窯 業 , 金 属 , 金 属 製 品 , 卸 小 売 , 運 輸 の 各 部 門 で(<br />

電 力 以 外 の)エネルギー 節 約 的 な 技 術 変 化 が 見 られたこと, 電 力 節 約 的 な 技 術 変 化 を 有 意<br />

に 示 す 産 業 がなかったことを 指 摘 している.こうした 結 果 は,まだ 電 力 節 約 的 な 技 術 変 化<br />

の 余 地 が 残 されていると 解 釈 することもできる. 東 日 本 大 震 災 以 降 , 産 業 活 動 においても<br />

節 電 の 取 り 組 みが 進 んだが,それが 費 用 構 造 や 技 術 変 化 にどのような 影 響 があったかにつ<br />

いては 今 後 の 分 析 によらなければならない.<br />

5.3 復 興 と 企 業 成 長 の 経 験<br />

東 日 本 大 震 災 から 経 済 復 興 のために, 被 災 地 ではグループ 補 助 金 による 企 業 の 再 建 支 援<br />

など 数 多 くの 政 策 が 実 施 されてきた. 災 害 によってむしろ 被 災 した 国 ・ 企 業 ・ 事 業 所 の 成<br />

長 が 促 進 されるという「 創 造 的 破 壊 仮 説 」を 唱 える 研 究 もあるが, 復 興 によって 地 域 や 企<br />

業 の 成 長 を 促 進 したとしても, 被 災 した 地 域 や 事 業 所 は 問 題 を 抱 えることもあるかも 知 れ<br />

ない. 大 規 模 災 害 の 被 災 地 の 企 業 ・ 事 業 所 をどのように 再 建 していくべきかに 関 する 知 見<br />

は 多 くない.その 中 で 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 からの 復 興 を 検 証 することが 一 つの 手 がかりとな<br />

る.Tanaka(2013b)は,『 工 業 統 計 』のデータを 用 いて, 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 で 被 災 した 神<br />

戸 市 の 事 業 所 を 全 国 の 事 業 所 と 比 較 することを 通 じて, 災 害 復 興 が 事 業 所 の 成 長 に 及 ぼす<br />

影 響 を 解 明 した. 分 析 の 結 果 , 震 災 復 興 の 過 程 で, 神 戸 市 の 事 業 所 では 資 本 成 長 率 を9.4%<br />

高 めた 一 方 , 雇 用 成 長 率 を7.4% 低 下 させ, 付 加 価 値 成 長 率 を10.6% 低 下 させたことを 示 し<br />

た. 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 による 創 造 的 破 壊 効 果 が, 資 本 の 増 加 として 現 れる 一 方 , 雇 用 は 減<br />

少 し, 付 加 価 値 も 減 少 となって 現 れた. 震 災 後 の 復 興 では 資 本 労 働 比 率 に 歪 みが 生 じ,そ<br />

の 結 果 , 事 業 所 の 生 産 性 が 低 迷 したものと 解 釈 される. 復 興 の 過 程 では, 建 物 や 機 械 など<br />

物 的 資 本 の 再 建 が 比 較 的 容 易 な 一 方 で, 人 的 資 源 の 確 保 は 困 難 である. 資 本 に 偏 った 復 興<br />

は, 資 本 労 働 比 率 の 歪 みを 通 じて, 生 産 性 の 低 下 をもたらす 可 能 性 があることに 留 意 しな<br />

ければならない.<br />

6 企 業 ネットワークと 経 済 発 展<br />

6.1 企 業 ネットワークの 形 成<br />

サプライ・チェーンは 取 引 を 通 じて 新 しい 技 術 や 知 識 を 取 り 入 れる 重 要 な 経 路 となる.<br />

トヨタがそのサプライヤーと 技 術 や 情 報 を 交 換 していることはよく 知 られているが,どの<br />

ようなサプライチェーン・ネットワークにおいて 活 発 に 技 術 が 伝 わるのであろうか.Todo et<br />

22


al.(2015)は, 東 京 商 工 リサーチデータから 抽 出 した 製 造 業 企 業 約 4 万 社 を 対 象 に 実 証 分 析<br />

した 結 果 , 同 じ 都 道 府 県 内 のサプライヤーの 数 が 増 えても 企 業 業 績 は 高 まらないが, 都 道<br />

府 県 外 のサプライヤーや 顧 客 企 業 が 増 えると 企 業 業 績 が 高 まること,ある 企 業 の 取 引 先 同<br />

士 が 互 いに 取 引 をしている 場 合 には, 取 引 先 同 士 が 互 いに 取 引 のない 場 合 に 比 べて, 企 業<br />

の 業 績 は 悪 いことを 明 らかにした.このことは, 地 域 内 で 閉 鎖 的 なネットワークを 形 成 す<br />

るだけでは 経 済 は 停 滞 してしまい, 遠 方 の「よそ 者 」とつながることでこそ, 新 たな 知 識<br />

を 取 り 入 れて 経 済 が 成 長 することを 示 している.「よそ 者 」には 海 外 企 業 も 含 まれよう. 企<br />

業 の 海 外 進 出 支 援 , 外 資 企 業 の 誘 致 などは 企 業 の 生 産 性 を 高 める 役 割 を 有 する.<br />

日 本 の 自 動 車 産 業 におけるメーカーと 部 品 供 給 企 業 とが 長 期 継 続 的 取 引 関 係 を 通 じて 高<br />

価 格 ながら 高 品 質 な 部 品 を 安 定 的 に 供 給 するシステムを 構 築 してきたことは 知 られている.<br />

一 方 , 世 界 市 場 では 部 品 の 共 通 化 (モジュール 化 )が 活 発 化 しており,また, 中 越 地 震 や<br />

東 日 本 大 震 災 時 に, 特 定 の 企 業 に 部 品 供 給 を 依 存 するサプライ・チェーンが 部 品 供 給 の 途<br />

絶 により 復 旧 の 障 害 となったことから, 系 列 関 係 を 再 検 討 する 必 要 が 指 摘 されている.<br />

Matous・Todo(2015)は, 東 京 商 工 リサーチのデータを 利 用 して, 自 動 車 産 業 におけるネ<br />

ットワークの 構 造 と 企 業 の 業 績 がどのように 関 連 するかを 分 析 した. 分 析 の 結 果 から,2000<br />

年 代 においては1 次 サプライヤーを 通 さず2 次 サプライヤーと 直 接 取 引 するような 取 引 関 係<br />

の 変 化 が 起 きていること,1 次 サプライヤーが 増 えれば 増 えるほど 顧 客 企 業 の 労 働 者 1 人 当<br />

たり 売 上 高 が 増 え, 生 産 性 が 高 くなること,1 次 サプライヤーの1 人 当 たり 売 上 高 が 大 きく,<br />

利 益 が 高 いほど 顧 客 企 業 の1 人 当 たり 売 上 高 が 減 る 傾 向 にあることを 明 らかにした. 系 列 関<br />

係 における 変 化 は,メーカーだけでなくサプライヤーにも 変 化 をもたらすことになる. 系<br />

列 関 係 に 依 存 して 高 い 利 益 を 得 てきたサプライヤー 企 業 は, 系 列 関 係 の 希 薄 化 に 伴 い,よ<br />

り 広 域 で 多 業 種 での 新 たな 取 引 相 手 を 模 索 することが 求 められている.<br />

生 産 工 程 間 の 国 際 分 業 が 著 しく 進 んでいる 近 年 , 半 製 品 , 部 品 などの 中 間 投 入 財 ( 以 下<br />

では 中 間 財 )の 貿 易 の 重 要 性 が 増 している. 日 本 の 製 造 業 においては,1990 年 代 以 降 , 東<br />

アジア 地 域 を 中 心 に 生 産 ネットワークの 国 際 展 開 を 積 極 的 に 進 めてきた 結 果 , 日 本 が 比 較<br />

優 位 を 持 つと 思 われる 産 業 ( 輸 送 機 械 , 電 気 機 器 など)においても, 比 較 優 位 を 持 たない<br />

と 思 われる 産 業 ( 繊 維 製 品 など)においても, 輸 入 中 間 財 の 利 用 度 が 上 昇 する 傾 向 にある.<br />

低 廉 な 中 間 財 や 高 品 質 の 中 間 財 を 輸 入 することは, 製 造 費 用 の 削 減 , 最 終 製 品 の 品 質 向 上<br />

をもたらす. 中 間 財 生 産 における 国 際 分 業 ( 特 化 )が 進 むことにより, 同 一 産 業 内 で 輸 入<br />

企 業 と 非 輸 入 企 業 間 で 生 産 要 素 が 再 配 分 され, 産 業 の 効 率 性 が 高 まるであろう. 自 らの 海<br />

外 生 産 拠 点 を 持 たない 企 業 であっても 外 国 企 業 から 中 間 財 を 輸 入 することで 企 業 パフォー<br />

マンスを 改 善 することができるだろう. 佐 藤 他 (2015)は, 輸 入 取 引 のもたらす 企 業 パフ<br />

23


ォーマンスへの 影 響 について 企 業 レベルデータを 用 いて 分 析 した.その 結 果 から, 企 業 の<br />

生 産 性 と 輸 入 財 志 向 とは 非 線 形 の 関 係 にあり, 生 産 性 の 高 い 企 業 は 海 外 から 中 間 財 を 輸 入<br />

する 傾 向 にあるが, 生 産 性 が 極 めて 高 い 企 業 では 輸 入 中 間 財 への 志 向 が 低 くなる 傾 向 があ<br />

ること, 輸 出 比 率 , 外 資 比 率 が 高 く, 多 国 籍 化 する 企 業 は 中 間 財 を 輸 入 する 可 能 性 が 高 い<br />

こと, 外 部 の 企 業 からの 中 間 財 輸 入 は 利 益 率 を 高 める 一 方 , 自 社 の 海 外 子 会 社 からの 中 間<br />

財 輸 入 は 必 ずしも 利 益 率 を 上 げないことを 示 した. 中 堅 ・ 中 小 企 業 は 必 ずしも 中 間 財 輸 入<br />

に 馴 染 みがないかも 知 れないが, 中 間 財 輸 入 の 開 始 は 利 益 率 や 生 産 性 を 改 善 し, 輸 出 など<br />

他 の 国 際 化 にも 道 を 開 く 可 能 性 があり, 海 外 取 引 に 関 する 情 報 が 伝 わるといった 外 部 経 済<br />

が 働 く 可 能 性 もある. 中 堅 ・ 中 小 企 業 に 対 して, 中 間 財 輸 入 に 関 する 情 報 提 供 , 人 材 育 成<br />

のための 政 策 的 支 援 を 行 うことは 重 要 と 考 えられる.<br />

6.2 企 業 ネットワークと 地 域 経 済<br />

企 業 間 ネットワークが 経 済 活 動 に 与 える 影 響 は 先 進 国 のみならず 発 展 途 上 国 経 済 におい<br />

ても 観 察 される. 最 貧 国 では 農 村 地 域 における 中 規 模 都 市 部 の 成 長 をいかに 実 現 するかが<br />

課 題 となっているが,この 地 域 での 産 業 集 積 は 機 能 していないのが 現 実 である.Ishiwata et<br />

al.(2014)は,エチオピアの 農 村 部 の 中 規 模 都 市 に 立 地 する 縫 製 企 業 を 対 象 として, 企 業<br />

間 のネットワークが 最 貧 国 の 農 村 部 都 市 における 企 業 規 模 や 技 術 水 準 の 高 まりに 与 える 影<br />

響 を 実 証 的 に 明 らかにした. 分 析 結 果 は, 研 究 ビジネス・ネットワークを 持 つ 企 業 ほど 技<br />

術 レベルが 高 く, 売 上 高 も 大 きいが, 技 術 レベルが 高 いからと 言 って 売 上 高 が 大 きいわけ<br />

ではないことを 明 らかにした.ここからは, 農 村 地 域 の 市 場 では 必 ずしも 高 品 質 の 製 品 が<br />

求 められるわけではないので, 高 い 技 術 によって 高 品 質 の 製 品 を 供 給 しても 必 ずしも 売 れ<br />

ないため, 企 業 が 技 術 レベルを 高 めるインセンティブに 乏 しいことが 窺 える. 企 業 が 高 い<br />

技 術 を 取 得 し 売 上 高 を 増 加 し, 成 長 する 上 では, 高 品 質 を 求 める 大 都 市 の 消 費 者 との 結 び<br />

つきが 重 要 である.この 分 析 は, 東 日 本 大 震 災 の 被 災 地 内 外 に 多 様 なサプライチェーン・<br />

ネットワークをもつ 企 業 が, 震 災 後 の 復 旧 が 比 較 的 早 かったことと 通 ずるところがある.<br />

企 業 のネットワークは, 取 引 に 関 わるものだけでなく, 人 的 ネットワークを 通 じて 政 治<br />

との 関 わりをもつ 場 合 も 少 なくない. 一 般 に, 企 業 と 政 治 とのつながりは 市 場 による 効 率<br />

的 な 資 源 配 分 を 歪 め, 経 済 の 成 長 を 阻 害 すると 考 えられるが, 政 治 との 結 びつきが 緊 密 な<br />

企 業 では 銀 行 からの 貸 し 付 けを 受 けやすく, 資 本 収 益 率 も 高 いとの 指 摘 もある. 市 場 の 未<br />

発 達 な 国 では 企 業 と 政 治 とのつながりが 市 場 機 能 を 補 完 していないとも 限 らない.Fu et al.<br />

(2015)は, 政 治 との 結 びつきが 賄 賂 を 生 み, 効 率 的 資 源 配 分 が 損 なわれていることが 指<br />

摘 されるインドネシアを 対 象 として 分 析 した 結 果 , 経 営 者 が 政 治 家 と 個 人 的 な 関 係 をもつ<br />

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中 小 零 細 企 業 は 政 府 系 銀 行 から 十 分 な 額 の 融 資 を 受 けやすい 傾 向 があるが,そうした 企 業<br />

の 生 産 性 が 低 いことを 明 らかにした.また,Shimamoto・Todo(2015)は,インドネシア<br />

における 企 業 と 政 治 とのつながりが 企 業 のグローバル 経 済 への 志 向 に 与 える 影 響 を 分 析 し,<br />

政 府 から 許 認 可 を 得 やすい 企 業 は 海 外 との 取 引 が 少 なく, 外 国 人 に 対 する 経 営 者 の 信 頼 感<br />

が 低 い 傾 向 にあること,さらに, 海 外 との 取 引 が 少 なく, 外 国 人 に 対 する 信 頼 感 が 低 い 経<br />

営 者 は, 自 由 貿 易 協 定 や 外 資 企 業 に 対 して 積 極 的 でない 傾 向 にあることを 明 らかにした.<br />

利 権 を 伴 う 企 業 と 政 治 とのつながりが 国 内 企 業 の 保 護 主 義 を 強 め, 保 護 主 義 的 政 策 が 実 行<br />

されることでますます 利 権 が 増 大 し, 企 業 と 政 治 とのつながりをさらに 強 めるという 悪 循<br />

環 は,ネットワークの 負 の 側 面 と 言 える.<br />

7 中 国 企 業 の 国 際 化 と 産 業 政 策<br />

7.1 中 国 企 業 の 国 際 化<br />

世 界 第 1 位 の 貿 易 国 であり 世 界 第 2 位 の 経 済 規 模 となった 中 国 は, 日 本 の 貿 易 ・ 投 資 に 密<br />

接 不 可 分 な 存 在 であり, 中 国 企 業 や 市 場 の 特 徴 を 知 ることは 貿 易 . 投 資 政 策 を 考 える 上 で<br />

極 めて 重 要 である. 企 業 の 国 際 化 に 関 する 標 準 的 な 理 論 と 実 証 分 析 は, 生 産 性 の 高 い 企 業<br />

が 輸 出 し, 更 に 生 産 性 の 高 い 企 業 が 直 接 投 資 をすることを 示 すが,こうしたことは 中 国 企<br />

業 においても 同 様 に 見 られる 現 象 であろうか.OECD 諸 国 と 異 なり 中 国 市 場 には 多 くの 国<br />

有 企 業 や 外 資 系 企 業 が 存 在 するが,こうしことが 中 国 企 業 の 国 際 化 にどのような 影 響 を 与<br />

えるだろうか.Wakasugi・Zhang(2012)は, 中 国 企 業 のミクロデータを 用 いて 分 析 し,<br />

2000 年 前 半 までは 生 産 性 において, 国 有 企 業 は 民 営 企 業 より 低 く, 外 資 系 企 業 が 最 も 高 い<br />

こと, 輸 出 企 業 に 限 ると, 民 間 企 業 , 国 有 企 業 の 生 産 性 は 外 資 系 企 業 よりも 高 いこと, 海<br />

外 直 接 投 資 を 行 う 国 有 企 業 , 民 間 企 業 の 生 産 性 が 高 いこと, 輸 出 経 験 は 企 業 の 直 接 投 資 の<br />

決 定 にプラスの 効 果 を 有 し,その 効 果 は 民 間 企 業 , 国 有 企 業 において 大 きいことを 明 らか<br />

にした.このような 分 析 結 果 は, 中 国 市 場 における 民 営 企 業 , 国 有 企 業 , 外 資 系 企 業 では<br />

市 場 参 入 の 条 件 に 差 異 があることを 示 すものである. 国 有 企 業 は 生 産 性 が 低 くても 国 内 市<br />

場 への 参 入 が 可 能 であるが, 外 資 系 企 業 では 生 産 性 が 高 くなければ 参 入 が 出 来 ないこと,<br />

逆 に, 海 外 市 場 とのネットワークや 知 識 経 験 を 有 する 外 資 系 企 業 であれば 生 産 性 が 低 くて<br />

も 外 国 市 場 への 輸 出 や 直 接 投 資 が 可 能 であるが, 国 有 企 業 では 高 い 生 産 性 を 持 たない 限 り<br />

外 国 市 場 への 参 入 が 困 難 であることは, 市 場 参 入 の 条 件 が 企 業 の 所 有 形 態 によって 異 なる<br />

ことを 意 味 する.<br />

WTOへの 加 盟 後 の 中 国 にとって, 市 場 経 済 化 は 重 要 な 政 策 課 題 である.2000 年 以 降 , 中<br />

国 の 輸 出 は 極 めて 顕 著 に 増 加 してきたが,この 時 期 は, 中 国 がWTOに 加 盟 し, 輸 出 入 関 税<br />

25


の 削 減 , 貿 易 権 規 制 や 外 資 企 業 への 規 制 の 緩 和 といった 貿 易 投 資 の 自 由 化 とともに, 外 国<br />

市 場 への 中 国 企 業 の 市 場 アクセスが 改 善 した 時 期 である.また,WTO 議 定 書 に 沿 って 国 有<br />

企 業 改 革 を 求 められた.こうしたWTO 加 盟 による 中 国 経 済 の 自 由 化 ・ 開 放 化 が 中 国 企 業 の<br />

生 産 性 向 上 にもたらした 影 響 を 明 らかにした 研 究 はすでに 見 られるが, 輸 出 への 影 響 を 明<br />

らかにした 研 究 は 多 くない.Wakasugi・Zhang(2015)は, 中 国 の 電 気 機 械 産 業 ,エレク<br />

トロニクス 産 業 , 情 報 通 信 機 器 産 業 に 属 する 企 業 に 関 するパネルデータを 用 いて,WTO 加<br />

盟 が 中 国 企 業 の 生 産 性 と 輸 出 に 与 える 影 響 を 明 らかにした. 分 析 の 結 果 ,WTO 加 盟 の 前 後<br />

に 関 わらず, 所 有 形 態 を 問 わず 生 産 性 の 高 い 企 業 が 輸 出 する 傾 向 にあること,WTO 加 盟 後<br />

には, 民 営 企 業 や 国 有 企 業 では 生 産 性 が 輸 出 選 択 に 与 える 効 果 をより 強 める 傾 向 が 見 られ<br />

ること, 輸 出 性 向 において, 民 営 企 業 では 上 昇 し, 国 有 企 業 では 低 下 するという 非 対 称 な<br />

効 果 が 見 られることを 明 らかにした.WTO 加 盟 後 の 義 務 の 履 行 を 通 じて 中 国 市 場 の 開 放 は<br />

着 実 に 進 展 してきた.WTOへの 加 盟 によって, 中 国 では 輸 出 を 行 う 際 の 制 度 的 障 壁 が 減 り,<br />

生 産 性 の 上 昇 に 沿 って 企 業 が 輸 出 を 選 択 しやすい 環 境 となりつつあり,また, 加 盟 前 には<br />

国 有 企 業 にのみ 与 えられてきた 優 遇 条 件 と 民 営 企 業 に 与 えられてきた 制 限 的 条 件 が 撤 廃 さ<br />

れつつあることを 示 している.<br />

企 業 の 国 際 化 を 促 す 要 因 の 一 つに 地 域 の 産 業 集 積 の 効 果 が 上 げられる. 日 本 の 輸 出 企 業<br />

の 生 産 性 が 大 都 市 圏 に 立 地 する 企 業 の 方 が 地 方 に 立 地 する 企 業 よりも 低 いことが 示 されて<br />

いるが, 中 国 企 業 に 関 してはどのようなことが 言 えるであろうか.Ito et al.(2013)は,<br />

企 業 の 集 積 が 企 業 の 輸 出 を 促 すか 否 かを 中 国 の 企 業 レベルデータを 利 用 して 検 証 した. 検<br />

証 の 結 果 , 輸 出 企 業 が 集 積 するほどそこに 立 地 する 企 業 の 輸 出 参 入 を 促 すこと, 非 外 資 輸<br />

出 企 業 が 集 積 するほど 企 業 の 輸 出 参 入 を 促 すこと,しかし、 外 資 輸 出 企 業 の 集 積 は 外 資 の<br />

輸 出 参 入 を 促 すが, 非 外 資 企 業 の 輸 出 参 入 を 促 さないことが 明 らかになった. 中 国 では 改<br />

革 開 放 以 降 , 沿 岸 地 域 を 経 済 特 区 に 指 定 し,インフラの 整 備 や 優 遇 措 置 によって 積 極 的 な<br />

外 資 導 入 を 進 めた 経 緯 がある.その 結 果 , 環 渤 海 経 済 圏 や 長 江 デルタ, 珠 江 デルタといっ<br />

た 地 域 に 産 業 集 積 が 形 成 され, 経 済 発 展 を 促 進 する 要 因 となった.その 後 , 重 慶 ・ 成 都 ・<br />

西 安 といった 西 部 デルタ 地 域 にも 経 済 特 区 が 指 定 され, 内 陸 部 にも 投 資 が 活 発 に 行 われる<br />

ようになり, 沿 岸 部 に 限 らず 産 業 集 積 が 拡 大 する 傾 向 が 見 込 まれる.こうした 産 業 集 積 の<br />

形 成 は, 知 識 の 波 及 効 果 を 生 み, 輸 出 に 係 わる 固 定 費 用 を 引 き 下 げ, 国 内 企 業 の 国 際 化 を<br />

後 押 しする 効 果 を 有 したものと 考 えられる.<br />

26


7.2 中 国 企 業 のイノベーションと 産 業 政 策<br />

企 業 のイノベーションを 捉 える 指 標 は 多 様 である. 中 国 企 業 データには 新 製 品 の 導 入 と<br />

生 産 高 が 明 らかにされており,このデータは,プロダクト・イノベーションを 表 す 指 標 と<br />

してユニークである.Zhang(2014)は, 中 国 製 造 業 企 業 レベルのデータを 用 いて, 産 業<br />

集 積 が 企 業 のプロダクト・イノベーションに 与 える 効 果 を 計 測 した. 計 測 の 結 果 から, 地<br />

域 が 特 定 の 産 業 に 特 化 することは 新 製 品 を 生 み 出 す 上 で 効 果 はないこと, 都 市 の 規 模 拡 大<br />

と 産 業 多 様 性 が 新 製 品 導 入 の 確 率 を 高 めること, 市 場 競 争 は 生 産 性 の 高 い 外 資 企 業 の 新 製<br />

品 の 生 産 を 促 す 一 方 , 生 産 性 の 低 い 非 外 資 企 業 にはプラスの 効 果 を 及 ぼさないことを 示 し<br />

た.1995 年 以 降 , 中 国 の 中 央 政 府 ・ 地 方 政 府 は60を 超 える 都 市 100を 超 える 経 済 特 区 を 指<br />

定 してきたが,その 多 くは 産 業 の 多 様 性 を 確 保 したものとなっている.こうした 政 策 は,<br />

同 一 産 業 の 集 積 よりも 異 業 種 の 集 積 知 識 がスピルオーバー,アウトソーシングや 取 引 , 中<br />

間 財 の 調 達 を 活 発 化 し, 新 製 品 開 発 を 促 進 することと 整 合 的 であるように 思 われる.<br />

中 国 の 経 済 発 展 は 沿 岸 部 から 始 まり 内 陸 部 へと 波 及 している.こうした 波 及 の 過 程 では,<br />

労 働 集 約 的 産 業 が 沿 海 部 から 内 陸 に 移 転 していることから「 国 内 版 雁 行 形 態 」であるとの<br />

指 摘 がある. 確 かに 労 働 集 約 的 産 業 において 沿 海 部 のシェアの 低 下 傾 向 が 鮮 明 であるが,<br />

「 沿 海 から 内 陸 へ」という 一 方 向 で2010 年 代 の 中 国 産 業 の 立 地 変 化 を 理 解 して 良 いもので<br />

あろうか.Ito(2014)は, 中 国 の 産 業 データを 用 いた 分 析 により, 沿 海 部 では 資 本 集 約 的<br />

産 業 の 成 長 が 高 まる 傾 向 がある 一 方 で, 中 部 地 域 では 労 働 集 約 的 産 業 の 成 長 が 高 まるとい<br />

うメカニズムが 存 在 していること, 中 国 の 産 業 集 積 地 では, 規 模 の 大 きな 集 積 が, 更 に 成<br />

長 を 遂 げるという 規 模 効 果 が 存 在 することを 確 認 した.ただし, 河 南 省 鄭 州 市 , 広 西 省 南<br />

寧 市 , 四 川 省 成 都 市 ,そして 重 慶 市 といった 内 陸 都 市 の 輸 出 額 が 近 年 急 増 しているが,こ<br />

の 変 化 をもたらした 重 要 なファクターは,Foxconnを 筆 頭 とするEMSの 中 国 内 陸 への 進 出<br />

である. 中 国 国 内 の 産 業 立 地 は, 国 内 の 雁 行 形 態 型 変 化 ではなく,アジアにおける 生 産 ネ<br />

ットワークと 一 体 になって 変 化 していることに 注 目 しなければならない.<br />

中 国 企 業 は, 外 国 からの 技 術 習 得 による 段 階 から, 自 らの 研 究 開 発 投 資 によるイノベー<br />

ションの 実 現 の 段 階 に 入 っている. 実 際 に 中 国 の 研 究 開 発 支 出 総 額 は 急 増 しており,2009<br />

年 に 日 本 を 超 える 規 模 となっている.こうした 企 業 の 研 究 開 発 活 動 に 対 して, 中 央 政 府 ・<br />

地 方 政 府 は 様 々な 支 援 を 行 ってきたが,その 効 果 がどのようなものかは 必 ずしも 明 らかで<br />

はなかった.Ito et al.(2014)は, 企 業 レベルデータを 中 央 ・ 地 方 政 府 の 各 レベル・ 各 種<br />

政 策 カテゴリーと 組 み 合 わせることにより, 政 府 による 研 究 開 発 支 援 の 効 果 を 分 析 した.<br />

分 析 の 結 果 , 政 府 による 支 援 は 企 業 の 知 的 財 産 権 出 願 数 , 新 製 品 数 , 工 程 改 善 数 を 増 加 さ<br />

せるが, 中 央 政 府 よりもローカル 政 府 によって 実 施 されている 政 策 の 方 が 政 策 の 効 果 が 明<br />

27


快 に 現 れており, 税 制 や 金 融 上 の 優 遇 よりも 企 業 のイノベーション 活 動 自 体 を 直 接 的 にサ<br />

ポートする 政 策 が 効 果 的 であることを 示 した.また, 中 国 政 府 が 実 施 してきた 科 学 技 術 ・<br />

イノベーション 政 策 は,そのすべてが 効 率 的 に 機 能 しているとは 言 えず, 政 策 内 容 や 施 策<br />

を 実 施 する 政 府 のレベルの 違 いを 踏 まえた 検 証 が 必 要 であることを 分 析 は 示 している.<br />

8 貿 易 ・ 投 資 の 法 制 度<br />

8.1 国 際 投 資 の 法 的 保 護<br />

国 際 的 貿 易 ・ 投 資 ルールは, 法 的 枠 組 によって 担 保 されるため,その 枠 組 と 運 用 は 極 め<br />

て 重 要 な 意 味 を 持 つ. 特 に, 日 本 企 業 による 海 外 直 接 投 資 が 法 的 にどのように 保 護 されて<br />

いるかを 明 らかにすることは 喫 緊 の 課 題 である. 保 護 の 方 策 は, 第 1 に 国 際 投 資 協 定 を 締<br />

結 して 投 資 保 護 と 投 資 自 由 化 を 促 進 することであり(BIT,EPA,FTA,TPP), 第 2 に,<br />

各 種 協 定 において 外 国 投 資 家 が 投 資 受 入 国 を 相 手 に 訴 える 投 資 仲 裁 手 続 (ISDS:<br />

investor-State dispute settlement) 条 項 を 設 け,これを 根 拠 として 投 資 家 ( 投 資 企 業 ) 自<br />

身 が 投 資 受 入 国 を 相 手 取 って 投 資 協 定 仲 裁 に 事 件 を 付 託 することである. 近 年 , 世 界 中 で<br />

投 資 保 護 の 動 きが 強 まっており,それに 伴 って「 国 際 投 資 法 」が 急 速 に 変 化 している.<br />

投 資 家 が 海 外 投 資 を 開 始 ・ 継 続 する 際 に, 投 資 受 入 国 が 特 定 措 置 の 履 行 を 要 求 (たとえ<br />

ば,ローカルコンテント 使 用 要 求 , 輸 出 制 限 要 求 , 技 術 移 転 要 求 など)する 場 合 があるが,<br />

こうした 要 求 は 国 境 を 越 えた 貿 易 ・ 投 資 活 動 を 阻 害 ・ 歪 曲 させるため, 国 際 投 資 協 定 はこ<br />

れを 禁 止 する 条 項 (PR 禁 止 条 項 )を 設 けている. 玉 田 (2012)は,PR 禁 止 条 項 を 取 り 上<br />

げ, 規 定 方 式 が, 北 米 型 ( 具 体 的 な 禁 止 要 求 内 容 を 網 羅 的 に 列 挙 する 方 式 )と 欧 州 型 (PR<br />

禁 止 を 公 正 衡 平 待 遇 条 項 に 組 み 込 んで 抽 象 的 ・ 一 般 的 に 禁 止 する 方 式 )に 分 かれること,<br />

米 国 型 を 採 用 する 日 本 では 禁 止 のレベルが 低 いことを 指 摘 し,PR 禁 止 条 項 の 解 釈 ・ 適 用 が<br />

争 われた 投 資 仲 裁 例 に 基 づき,その 争 点 を 整 理 している.<br />

ISDS は FTA/EPA において 広 くも 採 用 されているが, 投 資 家 および 投 資 財 産 がどこまで<br />

保 護 されるのかが 一 つの 争 点 となっている. 玉 田 (2013)は, 投 資 仲 裁 における 精 神 的 損<br />

害 賠 償 (moral damages)を 取 り 上 げ, 精 神 的 損 害 賠 償 は, 通 常 は 賠 償 算 定 の 際 の 因 果 関<br />

係 において 処 理 されることになるが, 投 資 家 ( 特 に 自 然 人 )の 身 体 そのものや 精 神 的 安 寧<br />

の 保 護 を 目 指 すのであれば, 投 資 協 定 でこれを 保 護 対 象 とすることを 明 示 するのが 望 まし<br />

い 旨 を 指 摘 する. 投 資 家 側 から 見 た 場 合 , 投 資 仲 裁 においては, 精 神 的 損 害 賠 償 の 請 求 は<br />

賠 償 額 の 加 算 要 因 となり 得 るもので, 因 果 関 係 の 立 証 を 十 分 に 行 えば, 有 効 な 主 張 根 拠 と<br />

なり 得 るものであり, 精 神 的 損 害 賠 償 の 根 拠 としてホスト 国 の 主 観 的 要 素 ( 故 意 ・ 過 失 )<br />

を 主 張 するのが 有 効 であること, 投 資 受 入 国 側 から 見 た 場 合 , 投 資 仲 裁 において 精 神 的 損<br />

28


害 賠 償 が 請 求 されたとしても,これに 対 する 防 御 方 法 は 幾 つも 想 定 され, 仮 に 精 神 的 損 害<br />

が 認 められた 場 合 であっても, 賠 償 額 が 巨 額 なものとなる 可 能 性 は 低 いことなどを 指 摘 し<br />

ている.<br />

外 国 投 資 を 保 護 することが 国 際 投 資 保 護 協 定 の 主 要 な 役 割 であるが,そうした 外 国 投 資<br />

の 保 護 が 自 国 の(あるいは 相 手 国 の) 外 交 政 策 上 の 手 段 としての 対 抗 措 置 ( 外 国 人 の 受 入<br />

国 は, 当 該 外 国 人 の 本 国 とのあいだで 抱 えた 紛 争 の 有 利 な 解 決 をはかるために, 当 該 外 国<br />

人 の 資 産 ・ 財 産 を 凍 結 し, 場 合 によっては 収 奪 するなどの 措 置 に 訴 えること)の 利 用 可 能<br />

性 に 対 する 制 約 を 認 めるか 否 か,あるいはどのような 制 約 であれば 許 容 しうるものである<br />

のかは 検 討 すべき 課 題 である. 国 際 投 資 保 護 協 定 はこの 点 について 規 定 を 置 いていないた<br />

め, 国 際 投 資 仲 裁 では 異 なる 判 断 が 下 されている. 岩 月 (2013)は,こうした 現 状 を 踏 ま<br />

え, 対 抗 措 置 の 利 用 可 能 性 に 関 して 法 的 に 不 確 定 な 状 態 が 自 国 の 外 交 的 立 場 に 問 題 を 生 じ<br />

させることがないよう, 国 際 投 資 協 定 において 明 示 する 必 要 があることを 指 摘 する.<br />

日 本 が 締 結 してきた 国 際 投 資 協 定 には「 一 般 的 例 外 規 定 」と 呼 ばれるものが 含 まれてお<br />

り,それらは GATT や GATS の 一 般 的 例 外 規 定 をモデルとしている.これに 対 して 諸 外 国<br />

では,「 一 般 的 例 外 規 定 」を 国 際 投 資 協 定 上 の 義 務 全 体 に 係 る 例 外 という 意 味 で 用 いること<br />

が 多 い. 森 ・ 小 寺 (2014)は, 日 本 が「 一 般 的 例 外 規 定 」を GATT/GATS 型 一 般 的 例 外 規<br />

定 を 意 味 するものとして 用 い 続 けるのが 妥 当 か 否 かを 再 検 討 し,もし GATT/GATS 型 一 般<br />

的 例 外 規 定 を 残 す 場 合 には,それによって 違 反 を 正 当 化 しようとする 投 資 協 定 上 の 義 務 の<br />

規 定 内 容 について 十 分 に 精 査 することが 必 要 なことを 指 摘 する.<br />

投 資 家 が 投 資 受 入 国 たる 外 国 で 損 害 を 被 った 場 合 に 申 し 立 てる 投 資 協 定 仲 裁 においては,<br />

当 該 損 害 が 投 資 受 入 国 の 国 際 義 務 違 反 によることが 認 定 されれば, 専 ら 金 銭 賠 償 の 支 払 命<br />

令 によって 紛 争 が 処 理 されてきた.しかし, 場 合 によっては 国 家 予 算 を 逼 迫 するような 莫<br />

大 な 損 害 賠 償 が 請 求 される 例 が 増 えるにつれて, 投 資 仲 裁 が 高 額 な 賠 償 を 国 家 に 命 ずるこ<br />

とが,とりわけ 経 済 的 困 難 にある 国 家 の 政 策 策 定 に 対 して 萎 縮 効 果 をもたらすことの 正 当<br />

性 について 疑 問 が 呈 され, 近 年 においては, 賠 償 に 代 えて 措 置 の 取 消 等 の 非 金 銭 的 な 救 済<br />

手 段 が 選 ばれるべきではないかという 考 え 方 が 示 されている. 他 方 で, 国 際 投 資 仲 裁 が 国<br />

内 措 置 の 取 消 や 無 効 を 宣 言 したり, 特 定 の 国 内 措 置 を 命 ずることは 国 家 主 権 への 干 渉 に 当<br />

たるので 許 容 されないと 主 張 されたりすることも 多 い. 西 村 ・ 小 寺 (2014)は,こうした<br />

投 資 仲 裁 を 通 した 非 金 銭 的 救 済 の 可 能 性 をどのように 評 価 すればよいかを 検 討 し, 国 家 予<br />

算 に 影 響 するような 多 額 な 金 銭 賠 償 が 課 される 例 があることに 鑑 みれば, 国 内 措 置 の 是 正<br />

によって 違 法 性 を 払 拭 する 選 択 を 残 すことに 合 理 性 がある 一 方 , 原 状 回 復 によって 生 ずる<br />

損 失 が 生 ずる 利 益 に 比 して 著 しく 均 衡 を 欠 く 場 合 には, 原 状 回 復 に 代 えて 金 銭 賠 償 が 適 切<br />

29


であることを 指 摘 する.また, 日 本 が 締 結 する 二 国 間 投 資 協 定 や 経 済 連 携 協 定 では, 非 金<br />

銭 的 救 済 の 可 能 性 を 維 持 しつつ, 必 要 があれば 金 銭 賠 償 によって 代 替 する 権 利 を 国 家 に 留<br />

保 するという 救 済 規 定 を 設 けることが 望 ましいとの 指 摘 を 行 う.<br />

8.2 文 化 メディア 産 業 の 貿 易 と 法 的 枠 組<br />

グローバル 化 による 貿 易 ・ 投 資 の 拡 大 ,インターネットを 通 じた 国 際 的 な 大 容 量 情 報 通<br />

信 網 の 発 達 は, 文 化 コンテンツ 産 品 ( 映 画 等 の AV ソフト, 音 楽 ソフト, 書 籍 ・ 雑 誌 ・ 新 聞<br />

等 の 文 字 媒 体 )の 国 際 取 引 を 拡 大 したが, 一 方 では 各 国 のローカルな 文 化 が 脅 かされる 危<br />

機 感 が 指 摘 され,ユネスコでは 文 化 の 多 様 性 を 保 護 する 法 的 枠 組 みとして「 文 化 多 様 性 条<br />

約 」を 採 択 した.しかし, 文 化 多 様 性 条 約 に 基 づく 輸 入 コンテンツ 産 品 への 差 別 的 な 取 り<br />

扱 いは,WTO の 最 恵 国 待 遇 原 則 および 内 国 民 待 遇 原 則 と 必 ずしも 調 和 しないことが 懸 念 さ<br />

れる. 川 瀬 (2013)は,こうした WTO 協 定 における 文 化 多 様 性 概 念 に 関 し,WTO 協 定<br />

には 文 化 多 様 性 保 護 ・ 促 進 の 政 策 目 標 を 取 り 込 む 例 外 規 定 が 備 わっていないし, 文 化 多 様<br />

性 条 約 にも WTO をはじめ 通 商 条 約 レジームとの 調 整 を 定 める 規 定 がないことを 指 摘 する.<br />

その 上 で,コンテンツ 産 品 の 国 産 ・ 特 定 国 の 優 遇 は WTO 協 定 と 整 合 的 でないこと,WTO<br />

協 定 適 合 的 な 政 策 オプションとしては 補 助 金 が 有 効 であること, 文 化 多 様 性 条 約 が WTO 協<br />

定 との 適 用 関 係 において 優 位 に 立 ったり,WTO 協 定 の 規 律 を 修 正 したりすることはないこ<br />

と, 文 化 多 様 性 条 約 は 自 由 な 文 化 交 流 や 自 国 ・ 外 国 の 文 化 に 対 する 公 平 なアクセスの 重 要<br />

性 も 重 視 していることを 考 慮 すれば, 文 化 多 様 性 条 約 の 批 准 を 躊 躇 う 必 要 はないことを 指<br />

摘 する.さらに,WTO 協 定 と 整 合 的 な 国 内 コンテンツ 産 業 に 対 する 公 的 支 援 策 は, 輸 入 コ<br />

ンテンツを 差 別 的 に 制 限 するものであってはならず, 補 助 金 ・ 税 制 によることが 望 ましい<br />

旨 を 述 べる.<br />

音 響 ・ 映 像 (AV) 産 品 などの 文 化 的 財 に 対 する 輸 入 数 量 制 限 や 自 国 の 文 化 的 財 の 発 展 を 促<br />

進 するための 助 成 がどこまで 正 当 化 されるかが 議 論 されているが, 文 化 的 財 のデジタル 化<br />

およびオンライン 上 で「データ」として 流 通 ・ 取 引 されるという 環 境 の 下 では, 議 論 は 根<br />

本 的 な 転 換 を 迫 られている. 東 條 (2013)は, 文 化 的 財 のデジタル 化 に 伴 う 文 化 多 様 性 規<br />

制 の 変 容 可 能 性 を 取 り 上 げ,「データ」として 流 通 ・ 取 引 されるデジタル 文 化 的 財 への 自<br />

由 なアクセスに 対 して 深 刻 な 阻 害 要 因 となるのは,インターネット 政 策 およびネットフィ<br />

ルタリング 規 制 であることを 指 摘 する.ネットフィルタリング 規 制 は, 公 共 政 策 的 な 目 的<br />

( 例 : 公 序 良 俗 , 宗 教 ・ 政 治 , 刑 事 法 , 安 全 保 障 , 知 的 財 産 保 護 )に 基 づき, 多 くの 国 で<br />

実 施 されているが,このような 規 制 は, 競 争 政 策 規 制 に 優 先 適 用 される 場 合 がほとんどで<br />

あり,このためデジタル 文 化 的 財 へのユーザーのアクセスが 大 きな 制 約 を 受 けることにな<br />

30


る.このため,オンライン 上 で 流 通 ・ 取 引 されるデジタル 文 化 的 財 にかかる「 文 化 と 貿 易 」<br />

および 文 化 多 様 性 の 問 題 は 国 境 を 越 えるデータの 流 通 ・ 取 引 に 対 する 規 制 のあり 方 という<br />

問 題 と 重 複 していることを 指 摘 する.<br />

文 化 遺 産 を 保 護 する 政 府 の 権 限 が, 国 際 投 資 保 護 システムによって 侵 食 されることはな<br />

いだろうか. 伊 藤 (2013)は,これまで 投 資 保 護 ルールが 文 化 面 での 政 府 規 制 に 関 してど<br />

のように 適 用 され,いかなる 結 論 が 出 されているのかを 検 討 し, 投 資 保 護 条 約 が 定 める 投<br />

資 保 護 ルールは,あくまでも, 政 府 規 制 が 不 合 理 ないし 恣 意 的 な 形 で 実 施 された 場 合 に,<br />

不 当 な 損 害 を 被 った 企 業 等 を 救 済 するためのものであり, 文 化 財 を 保 護 する 政 府 の 規 制 が<br />

正 当 な 公 益 の 実 現 を 目 的 としており, 合 理 的 な 手 段 を 用 いて 実 施 されている 以 上 は,たと<br />

えそれが 外 国 投 資 に 損 失 を 与 えたとしても, 条 約 違 反 にはならないことを 指 摘 する.<br />

文 化 メディアは, 途 上 国 のみならず 先 進 国 にとってもセンシティブな 分 野 であるため,<br />

貿 易 ・ 投 資 の 自 由 化 が 進 展 していない.このため,WTO や FTA のサービス 自 由 化 交 渉 に<br />

おいて, 特 定 の 産 業 分 野 に 関 連 するサービス 分 野 を 一 括 りの「クラスター」と 位 置 付 け,<br />

その 自 由 化 を 目 指 す「クラスター・アプローチ」という 手 法 が WTO においても 提 案 されて<br />

いる. 国 松 (2013)は,このクラスター・アプローチを 取 り 上 げ,クラスター・アプロー<br />

チには, 既 存 の 国 際 約 束 を 損 なわずに 関 連 するサービスを 自 由 化 できること, 特 定 のビジ<br />

ネス・モデルに 関 連 する 規 制 が 明 らかになり 政 策 立 案 が 容 易 になること, 技 術 革 新 や 民 営<br />

化 , 規 制 緩 和 等 による 産 業 活 動 の 実 態 的 な 変 化 を 折 り 込 むことができることなどの 利 点 が<br />

あることから, 文 化 メディア 分 野 の 貿 易 協 定 交 渉 や, 二 国 間 FTA・ 複 数 国 との FTA(AJCEP,<br />

TPP 等 )におけるサービス 交 渉 や 見 直 し 等 の 作 業 において, 一 括 して 関 連 セクターの 自 由<br />

化 を 目 指 すクラスター・アプローチの 利 用 が 検 討 に 値 することを 指 摘 する.<br />

ユネスコが 2005 年 に 採 択 した「 文 化 多 様 性 条 約 」が 実 際 に 文 化 的 財 の 貿 易 にとって 障 害<br />

となっているか 否 かはエビデンスによって 明 らかにされるべきであろう. 神 事 ・ 田 中 (2013)<br />

は, 文 化 多 様 性 条 約 の 批 准 状 況 と 各 国 の 文 化 的 財 の 輸 出 および 輸 入 との 関 係 を 実 証 分 析 し,<br />

研 究 文 化 多 様 性 条 約 を 批 准 すると「 文 化 コア 財 」の 輸 出 額 が 増 加 する 傾 向 がみられ, 文 化<br />

コア 財 の 輸 入 に 関 しても 文 化 多 様 性 条 約 の 批 准 との 間 に 統 計 的 に 有 意 な 正 の 相 関 がみられ<br />

ることを 明 らかにした.この 分 析 結 果 は, 文 化 多 様 性 条 約 が 文 化 的 財 の 貿 易 を 阻 害 すると<br />

いう 懸 念 は 必 ずしも 現 実 のものではないことを 示 している.<br />

31


8.3 国 有 企 業 と 法 的 枠 組<br />

国 有 企 業 の 存 在 や 経 済 活 動 への 国 の 関 与 を 強 めることは,グローバル 企 業 に 対 して 差 別<br />

的 取 り 扱 いを 生 み, 市 場 に 歪 みをもたらすことが 懸 念 される.「 世 界 の 市 場 」として 存 在 感<br />

を 高 めている 中 国 での 独 禁 法 運 用 は 世 界 市 場 全 体 での 競 争 を 大 きく 左 右 しかねない.2008<br />

年 8 月 1 日 に 施 行 された 中 国 独 占 禁 止 法 が 施 行 6 周 年 を 迎 えた 2014 年 8 月 , 中 国 発 展 改 革<br />

委 員 会 は 日 本 の 自 動 車 部 品 製 造 業 者 8 社 およびベアリング 製 造 業 者 4 社 による 2 つの 価 格<br />

カルテル 事 件 に 対 する 処 分 を 公 表 したが,これに 関 して, 中 国 独 禁 法 の 運 用 が「 外 資 たた<br />

き」「 外 資 狙 い 撃 ち」ではないかとする 報 道 がなされた.また, 米 国 商 工 会 議 所 は 2014 年 9<br />

月 , 中 国 独 禁 法 に 関 する 報 告 書 を 公 表 し, 同 法 が 競 争 政 策 でなく「 中 国 の 産 業 政 策 の 道 具 」<br />

として 用 いられていることを 指 摘 した. 川 島 (2015)は,「 外 資 たたき」や「 産 業 政 策 の 道<br />

具 」といった 批 判 が 妥 当 するのかどうかについて, 法 執 行 を 分 担 する 商 務 部 ( 企 業 結 合 規<br />

制 ), 国 家 発 展 改 革 委 員 会 ( 価 格 独 占 行 為 規 制 ), 国 家 工 商 行 政 管 理 総 局 ( 非 価 格 独 占 行 為<br />

規 制 )の 執 行 を 検 証 した.この 結 果 から, 商 務 部 による 企 業 結 合 規 制 については, 企 業 結<br />

合 届 出 全 体 の 9 割 が 外 ・ 外 取 引 又 は 外 ・ 中 取 引 である 実 態 に 照 らして 考 えると, 直 ちに 内<br />

外 差 別 的 審 査 が 行 われていると 結 論 づけることはできないが, 重 視 する 技 術 が 関 係 する 市<br />

場 , 資 源 供 給 , 食 糧 供 給 など 外 国 依 存 度 の 高 い 市 場 , 国 有 企 業 間 の 結 合 案 件 においては,<br />

競 争 法 ・ 競 争 政 策 の 観 点 から 問 題 点 があることを 指 摘 する.また, 国 家 発 展 改 革 委 員 会 に<br />

よる 価 格 独 占 行 為 規 制 については, 処 分 対 象 のうち 外 資 企 業 は 10%にすぎず, 処 分 企 業 の<br />

中 には 国 有 企 業 が 少 なからず 含 まれていること,また, 国 家 工 商 行 政 管 理 総 局 による 非 価<br />

格 独 占 行 為 規 制 には 外 国 企 業 に 対 する 処 分 は 見 られないこと,さらに,「 外 資 たたき」とい<br />

うイメージが 形 成 された 原 因 に, 中 国 政 府 が 規 制 事 例 のすべてを 公 表 せずに, 比 較 的 規 模<br />

の 大 きな 事 例 を 選 択 的 に 公 表 したため, 結 果 として 外 資 企 業 に 対 する 処 分 が 露 出 すること<br />

になったことを 指 摘 している.<br />

TPP 交 渉 においては「 国 有 企 業 に 対 する 規 律 」が 大 きな 争 点 となっており, 国 有 企 業 な<br />

どに 対 する 優 遇 措 置 がもたらす 競 争 歪 曲 を 除 去 するための 規 律 ( 競 争 中 立 性 規 律 )が 求 め<br />

られている.この 規 律 ではオーストラリアが 先 進 国 である. 川 島 (2015)は,オーストラ<br />

リアが 同 規 律 を 導 入 するに 至 った 経 緯 , 同 規 律 の 内 容 , 具 体 的 事 例 を 検 証 し,TPP 交 渉 に<br />

おける「 国 有 企 業 に 対 する 規 律 」の 導 入 に 際 して 考 慮 すべき 要 素 , 国 内 実 施 のあるべき 姿 ,<br />

国 際 経 済 法 における「 競 争 中 立 性 規 律 」の 必 要 性 と 発 展 可 能 性 を 論 じている.オーストラ<br />

リアにおける 競 争 中 立 性 規 律 の 導 入 の 背 景 には, 政 府 事 業 と 民 間 企 業 が 同 一 市 場 において<br />

競 争 する 場 面 が 増 え, 前 者 に 対 する 優 遇 措 置 が 競 争 歪 曲 をもたらしているとの 危 機 意 識 が<br />

あったこと, 競 争 中 立 性 規 律 には, 国 有 企 業 に 対 する 優 遇 措 置 がその 価 格 設 定 に 反 映 され<br />

32


ないことを 確 保 する 事 前 規 律 や 苦 情 処 理 手 続 を 含 む 実 施 ・ 監 督 体 制 が 設 計 されていること,<br />

コミュニティ・サービス 又 はユニバーサル・サービス 義 務 などの 他 の 公 共 利 益 への 配 慮 が<br />

払 われていることを 明 らかし,TPP における 国 有 企 業 規 律 案 は WTO 補 助 金 協 定 と 規 律 の<br />

客 体 や 性 格 が 異 なるとしても,それを 補 完 するものであることを 指 摘 している.<br />

9 おわりに<br />

貿 易 投 資 プログラムでは,2011 年 度 から2015 年 度 までの 間 に14の 研 究 プロジェクトを 設<br />

定 し,プログラムディレクター( 若 杉 隆 平 )とプロジェクトリーダー( 石 川 城 太 , 浦 田 秀<br />

次 郎 , 川 瀬 剛 志 , 佐 藤 仁 志 , 神 事 直 人 , 冨 浦 英 一 , 戸 堂 康 之 , 中 富 道 雄 , 間 宮 勇 , 若 杉 隆<br />

平 ,そして、 数 多 くの 業 績 を 残 しつつ 研 究 なかばにして 他 界 された 故 小 寺 彰 氏 の 各 ファカ<br />

ルティフェロー)がとりまとめ 役 になって, 研 究 が 行 われてきた.2015 年 夏 時 点 でとりま<br />

とめられた 研 究 成 果 は110 論 文 (ディスカッションペーパー93 論 文 ,ポリシーディスカッシ<br />

ョンペーパー17 論 文 )に 上 る.このほかにも, 環 境 とエネルギーと 貿 易 ・ 投 資 に 関 する 研<br />

究 が 行 われており,ベトナムエアコン 市 場 を 取 り 上 げ,エネルギー 効 率 投 資 に 関 する 消 費<br />

者 評 価 を 計 測 した 研 究 ( 松 本 ・ 小 俣 ,2015), 米 国 と 中 国 の 間 の 太 陽 電 池 貿 易 紛 争 の 事 例 を<br />

取 り 上 げ, 再 生 可 能 エネルギー 補 助 金 と 相 殺 関 税 を 分 析 した 研 究 ( 蓬 田 ,2015)などがあ<br />

る.さらに, 紙 幅 の 制 約 からここでは 紹 介 できなかったが, 政 策 志 向 の 強 い 研 究 成 果 は,<br />

ポリシーディスカッションペーパーとしてまとめられ, 公 表 されている.ここで 紹 介 した<br />

研 究 成 果 は, 金 融 的 側 面 を 除 けば2010 年 代 前 半 における 国 際 貿 易 や 投 資 に 関 して 注 目 すべ<br />

き 論 点 を 幅 広 くカバーしている. 研 究 成 果 には, 国 際 コンファレンスやワークショップに<br />

おいて 報 告 されたものや 国 際 学 術 誌 に 掲 載 されたものが 少 なくない.また, 政 策 当 局 や 産<br />

業 界 が 注 目 する 内 容 もあると 考 えている.<br />

多 数 の 研 究 成 果 がまとめられてきたが, 現 在 , 貿 易 投 資 を 巡 る 世 界 の 環 境 は 依 然 として<br />

大 きく 変 化 しつつある. 残 されている 課 題 や 引 き 継 がれるべき 課 題 が 少 なからずある 上 に,<br />

新 たに 分 析 すべき 課 題 も 見 られる. 次 の 中 期 計 画 期 間 の 課 題 として 位 置 づけ,さらなる 研<br />

究 を 深 めることが 必 要 である.<br />

33


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